キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」 不思議の国のアリス編1 前編 

キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」 不思議の国のアリス編1 中編

715: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 01:34:31 ID:Q7m 
回想 数日前・・・
裸の王様の世界 裸王の城 トレーニングルーム

司書「……」タッタッタッ

マッチョ兵士「グハハハハ~!逃がさんぞ~!俺は悪党だァ~!お前を捕まえて二度と筋トレ出来ない身体にしてやるぞォ~!」グイッ

司書「後ろから肩を掴まれた場合は…こうっ!」シュルッ

マッチョ兵士「ぬぅ、小癪なァ~!ならばこれでどうだァ~!」ガバッ

司書「正面から手首を握られた場合は…こうです!」グイッ

マッチョ兵士「ぐぐぅ…。おのれェ~…ならば正面から襲いかかってy」

司書「そして相手が少しでも隙を見せたらチャンス!この隙に…逃げますっ!」スタタタッ

マッチョ兵士「ぐぬぬ~!取り逃がしてしまったあァ~!おのれェ~!流石は裸王様直伝の護身術だァー……!」グヌヌ

裸王「そこまでっ!千代よ、どうやら基礎はしっかり身に着いているようだな!では少し休憩した後『裸王式護身術・応用編』をレクチャーするとしよう!」ハッハッハッ

司書「はい!ありがとうございます。兵士さんもお相手して頂きありがとうございました、見事な悪役でした」ペコッ

マッチョ兵士「いえ、私のような若輩筋肉者がお役に立てたのなら光栄です!」マッスル

裸王「御苦労だったマッチョ兵士よ。これは礼にもならぬが取っておくといい!私からの気持ちだ!」つ[スペシャル筋トレチケット]

マッチョ兵士「こ、これは裸王様が直々にトレーニングの指導をしてくださるという特別なチケット…!結果にコミットするという噂のこの逸品、頂いてもよろしいのですか!?」

裸王「うむっ!いつでも使ってくれたまえ!友の願いに協力してくれた礼だ、遠慮することは無いぞ!共に筋肉に磨きをかけようではないか!」マッスル

マッチョ兵士「ありがたき幸せ…!またいつでもお呼び下さい、喜んで馳せ参じます!!」マッチョ

716: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 01:39:55 ID:Q7m 
・・・

司書「んー……いーち、にっ、いーち、にっ」グッグッ

裸王「ハッハッハッ!休憩中だというのにストレッチかね?やる気に満ちているのは良い事だ、だが適度な休息をとる事もまた鍛錬の一部だぞ?」マッスル

司書「…裸王様の仰るとおりです。ですが、どうしても気持ちが焦ってしまって…本来、戦う力を持たない私が戦場に出向くなんて無謀だという事は理解しています」

司書「ですが、それでも私はヘンゼルの側に居たい。知識面で少しでも皆さんのお役に立ちたい。その為には最低限、自分の身体くらいは守れるようにしないといけないので…」

裸王「焦る気持ちは解る、だがオーバーワークは逆効果!鍛錬すべき時は鍛え、休息すべき時は休む!己が肉体を蔑ろにし酷使するような者に、筋肉は力を貸してはくれぬぞ?」マッチョ

司書「…ふふっ、そうかもしれませんね」

裸王「うむっ!それに案ずる事は無い、お主は裸王式護身術を着実に自分のものにしている。そして筋肉とも良好な関係を築けているように思える。心配する必要などないのだ!」

司書「裸王様がそう言って下さると、なんだか安心できます。ありがとうございます」

裸王「なんのなんの!お主が真面目に取り組んでいる成果が出ているだけの事!だが千代よ、これは何度も言っている事なのだが……」

裸王「護身術はその名の通り護りの術。攻撃も捕縛も捨て、護りと逃走に特化した体術だ。決して敵を倒せる類のものではないという事は決して忘れぬようにな?」

司書「はい、心得ています。それに攻めに関しては…私にはとても妹思いで凄く頼りになるナイトが居ますから。なんでも背負いこんじゃうところが珠に傷ですけど」ウフフ

裸王「ハッハッハッ!そうであったな!ではそろそろ裸王式護身術応用編のレクチャーを開始し……むっ?なんだか騒がしいな?」マッスル

ギャーギャー
717: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 01:41:25 ID:Q7m 
ヘンゼル「そんなこと許可できるわけがないじゃないか!僕は絶対に手を貸さないぞ、いくらグレーテルの頼みだからってそれだけは駄目だ!」

グレーテル「むぅ……お千代ちゃんがごしんじゅつ習うのは良いよって言ってたのに……私のお願いは聞いてくれないなんておかしいよ……さべつだよ……」ムスー

ヘンゼル「千代の護身術は彼女自身の身を守るためのものだからだ!グレーテルのそれとは違うじゃないか!」

グレーテル「違わない……魔法を使いたいっていう私のお願いだって、私や皆を守れる……悪い敵もみんなかまどできる……」

ヘンゼル「何を言っているんだ…!確かに君の強力な魔法があれば皆を守れる、敵を倒せる!でもその代償としてグレーテルの命を削る事になるんだぞ!?」

グレーテル「大丈夫だよ……きっと昔より魔力に強くなってると思うから……やりすぎなかったら大丈夫だよ……多分……」

ヘンゼル「『きっと』とか『思う』とか『多分』なんて曖昧な感覚で…大切な妹に危険な橋を渡らせられるもんか!」

グレーテル「じゃあ私が嘘をついてるって、お兄ちゃんは言うの……?信じてくれないの……?兄妹なのに……?」

ヘンゼル「そうじゃない!確かに僕はもう君を一人にしないって約束した。だからアリスの所に連れていく事だって不安だけど納得した。でも魔法だけは絶対に駄目だ!危険すぎる!」

グレーテル「私にはいっつもダメダメって……自分はいつだって無茶ばっかりするくせに……お兄ちゃんのわからずや……!」プクー

ヘンゼル「わからずやはグレーテルじゃないか!僕は君の身体の事を心配しているだけなのになんでわかってくれないんだ!」

グレーテル「そんなのお互い様だよ……お兄ちゃんだって私の気持ち解ってくれないくせに……」
718: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 01:47:03 ID:Q7m 
司書「もう二人ったら…!城内であんな風に騒いでごめんなさい裸王様、すぐに仲裁に入りますから…!」

裸王「ハッハッハッ!兄妹など喧嘩して当然、気にする事は無い!」ムキムキッ

司書「そうかもしれませんけど…でも私、やっぱり止めてきます」タッタッタッ

ヘンゼル「もういいよ、この話は終わりにしよう。どっちにしたって僕が魔力を渡さなかったら君は魔法を使えないんだ。これ以上話したって僕の気持ちは変わらない」プイッ

グレーテル「……」プクー

ヘンゼル「そんな風に膨れたって駄目なものは駄目だからね」

グレーテル「もういい……!お兄ちゃんなんか知らない……お兄ちゃんなんかキライだよ……!世界一キライ……!」

ヘンゼル「せ、世界一……!?そんな、馬鹿な……!」グサッ

グレーテル「ぅー……」ズキズキ

司書「二人ともそこまでっ!ヘンゼルは気にし過ぎだよ、本心じゃないの解ってるでしょ!グレーテルも自分で傷付くくらいなら最初から言わないのっ!」

司書「もー…ヘンゼルの気持ちもグレーテルの気持ちも解るけど、だからって喧嘩してもしょうがないでしょ?それにお城の中では静かに!まずは裸王様に謝る事、わかった?」

ヘングレ「「……ごめんなさい」」

裸王「ハッハッハッ!気にする事は無い!トレーニングが筋肉を強固なものにするように、喧嘩もまた互いの絆を深めるためには必要な事なのだからなっ!」マッスル
719: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 01:53:01 ID:Q7m 
裸王「とはいえ、喧嘩したままというのは良くないなっ!とはいえ…ヘンゼルとグレーテル、どちらも自分の考えを変えるつもりは無いようだなっ!」マッチョ

ヘンゼル「……僕は今まで散々無茶をして、グレーテルに寂しい思いをさせた。その事は反省してる。でも、魔法を使う事だけは駄目だ、グレーテルの命にかかわる」

グレーテル「……私も諦めるの、イヤ。もしも、また魔力の中毒なっちゃったらみんなに心配かけちゃう事もわかってる……でも、みんなの力になりたい……」

司書「うーん、こればっかりはどっちの味方も出来ないなぁ……」

ヘンゼル「……」

グレーテル「……」

裸王「お互いに譲る気無しというわけか…。このような状態では戦いなどとてもではない、何か解決策を考えねば…」

ピチチチチ

小夜啼鳥「やれやれ。どうやら私の出番のようですね」

ヘンゼル「小夜啼鳥…!いいから君は僕の鞄の中に身を隠してなよ、君になんとかできる問題じゃ――」

小夜啼鳥「……感心しませんね、ヘンゼル君。自分の意見を通すために隠し事をするなんて。その上、それを隠すために私を追い払うなんて…フェアではないですね」ジロリ

ヘンゼル「……」クッ

グレーテル「……小夜啼鳥さん、それってどういうこと?お兄ちゃん、また隠し事してる……?」

小夜啼鳥「まぁ、そうなるんですかね…。でも、あなたの事を思ってだという事は事実ですので責め立てないでください」
720: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 01:55:53 ID:Q7m 
小夜啼鳥「さて、私の『鳴き声』の事は御存じですか?とはいっても、ヘンゼル君と千代さんは御存じでしょうから、実質これはグレーテルさんへの質問ですね」

グレーテル「よく知らない……とっても綺麗な鳴き声……?」

小夜啼鳥「ありがとうございます。皆さんもそう言ってくださいます、でもそうではなく……千代さん、説明お願いできますか?」

司書「うん。あのねグレーテル、小夜啼鳥さんの鳴き声は――」

ヘンゼル「…いや、僕が説明するよ」

小夜啼鳥「そうですか、そのほうがいいですね。ではヘンゼル君、お願いします」

ヘンゼル「グレーテル。小夜啼鳥はね、ただの美しい鳥じゃないんだ。その鳴き声には……特別な力がある」

グレーテル「特別な力……?なにかな……?」

ヘンゼル「おとぎ話【小夜啼鳥】で、彼女の元の主人だった某国の皇帝は重い病にかかったんだ。挙句の果てに死神に魅入られてしまって……国民達は皆、皇帝の死を覚悟した」

ヘンゼル「でも皇帝は死ななかった。彼女の美しいさえずりは病を癒し、死神を祓う事に成功したんだ」

グレーテル「っていうことは……?」

ヘンゼル「小夜啼鳥の鳴き声にはね、死の宣告さえもはねのける程の…病を浄化する強い力があるんだ。だから……」

ヘンゼル「グレーテルが魔力で中毒を起こしたとしても、小夜啼鳥の鳴き声があれば……助かるんだ。そうだろう、小夜啼鳥?」

小夜啼鳥「えぇ、程度によるところはありますが…。多少の中毒症状ならば私のさえずりで浄化できるでしょうね」
721: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 02:01:55 ID:Q7m 
裸王「なんと…!それはつまり、小夜啼鳥は桃太郎と同様の能力を持っているという事かねっ?」マッスル

小夜啼鳥「いえ、少し違いますね。私のさえずりでは…桃太郎さんの様に疲労や肉体の損傷を回復させる事はできません。あくまで病自体の浄化ですから、死者の蘇生もできません」

小夜啼鳥「ですが私は彼よりも広範囲の病の浄化が可能ですし、他には幻覚幻聴の無力化も出来ます。それと呪いの浄化も。ただ、魔法そのものを打ち消す力は無いので――」

グレーテル「でも、私が魔力で中毒を起こしても……直せるんだよね?それは……本当だよね?」

小夜啼鳥「えぇ、グレーテルさんの魔力中毒は『魔法による効果』ではなく『体質による症状』ですから。私、魔法は打ち消せませんが病気は浄化できますからね」

グレーテル「むぅ……こんな大切な事知ってたのに、お千代ちゃんもお兄ちゃんも黙ってたの……?」ムッスー

司書「確かに小夜啼鳥さんの鳴き声の事は知ってたよ?でもそれがグレーテルの症状に有効かどうかの確信は無かったから言わなかったの……ごめんね?」

ヘンゼル「僕は、小夜啼鳥の鳴き声で中毒症状が消せるって知ったらグレーテルが絶対に無茶するって解ってたから黙ってた……ごめん」

グレーテル「……いいよ、許してあげる。でも、これで魔法を使っても私は大丈夫って解ったでしょ……?だから、魔法使うの許してくれるよね……?」

ヘンゼル「……」グヌヌ

グレーテル「黙ってちゃわかんない……ちゃんと返事しーてー……」プクー

小夜啼鳥「頑なですねぇ…今に始まった事ではないですけど」

司書「ねぇ、小夜啼鳥さん。あなたの鳴き声でグレーテルの中毒症状を治せる事、雪の女王様は当然知っていたんだよね?」
722: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 02:07:57 ID:Q7m 
小夜啼鳥「流石は千代さん。良い所に気がつきましたね。当然知っておられましたし実は女王様は私にこんな風に仰いました」

小夜啼鳥「『浄化の能力の事、子供たちが気付くまで黙っているように』と」

司書「グレーテルが小夜啼鳥さんの能力の事をすぐに知ってしまえばなんでも魔法に頼ってしまうって心配して下さったんだね……」

小夜啼鳥「でしょうね。ですが、絶対に魔法を使わせたくないのなら私を同行させなければいいはず。それなのにヘンゼル君のお目付け役に私を選んでくださったという事は……」

ヘンゼル「……いざという時、グレーテルが魔法を使えるようにするためだろうね」

小夜啼鳥「はい。私の能力が無ければ、あなたは絶対にグレーテルさんに魔法を使わせなかったでしょうから」

グレーテル「そんなところまで考えてくれたんだ……やっぱり雪の女王様はやさしい……」

小夜啼鳥「さてヘンゼル君…心配する君の気持ちはわかります。ですが察しの良い君の事ですから女王様や妹様方の気持ちも解っているでしょう?」

小夜啼鳥「グレーテルさんが魔法を使う事、認めてはくれませんか?必要以上に魔力の供給をしない事、そして私が常に側に居る事、この二つを守れば彼女の命が危険にさらされる事はありません」

ヘンゼル「……君が皇帝を誰よりも愛しているように、僕は誰よりもグレーテルを大切に思っているんだ」

小夜啼鳥「存じていますよ。だからこそ、私にお任せください。大切な人が苦しむ姿を目の当たりにする……そんな思いをするのはあの頃の私だけで十分です。必ずあなたの妹様を守ります」

ヘンゼル「……わかった。その言葉を信じるよ小夜啼鳥。グレーテルが魔法を使う事、認めるよ」
723: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 02:24:15 ID:Q7m 
現在
ハートの女王の城 

ボボボゥッ!!

「GYAAAAA!!」ボシュッ
「MASAKA KOREHODONO MAHOUWO TUKAERUTOHA…!!」ボジュウ
「ORE WA KAWAIKO CYAN NI YARARETE HONMOUDA…」ボボォ

白ウサギ「そ、そんな…!そんな馬鹿な…!あの大軍勢が…!女王様が誇るトランプ兵部隊が……!一瞬で壊滅状態に……!!」

ハートの女王「えぇい…!どうなっておる!どうなっておる!何一つ事前の情報と違うではないか!!おのれチェシャ猫ォォォ!!!」グヌヌヌッ

ヘンゼル「癇癪起こしてる余裕なんかあるの?気がついてる?おばさんを守ってくれるトランプは、もう居ないんだよ」

ハートの女王「おのれ小僧め…!小娘め…!まだ全滅したわけではない!残っている兵共!早急に集まり、我が盾となれ…!」ギリッ

グレーテル「……」ヒョイッ

トランプ兵達「「Yes my l……」」ボジュウッ

ハートの女王「なっ…!?」

グレーテル「おばさんのとこに集まるって解ってたら……かまどするの、すっごく簡単だよ……?」

ヘンゼル「子供でもそんな事すぐ解るのにね。どうやら千代の挑発が聞いてるみたいだね、あんたの判断力はもうズタズタじゃないか」

グレーテル「もう誰も盾にできないね……?かまど、いやだったら頑張って逃げてね……じゃなきゃ、手加減するの……むずかしい……」
724: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/05/29(月) 02:27:56 ID:Q7m 
ハートの女王「えぇい…!兵共を蹴散らした程度で調子に乗りおって…もうよい!私が直々にその首を刎ねる!」ギリッ

白ウサギ「む、無謀です女王様!どうやら連中は、チェシャ猫が情報を得たときから随分と成長している様子です!まだ隠し玉を持っている可能性があります!」

白ウサギ「対する我々は兵のほぼ全てを失っています!既にトランプ兵のストックも手元にはありません!ここは一度退いて体勢を立て直しましょう!」

ハートの女王「馬鹿を言うな!体勢を立て直すだと!?それでは負けを認め、このガキどもから逃げるという事ではないか!そんな事ができるか!」

白ウサギ「しかし、このままでは全滅の可能性もあります!ご決断を…!今は悔しくとも撤退を選択すべきです…女王様!!」

ハートの女王「ぐぬぬ…!」

ヘンゼル「たたみかけるよグレーテル!…まだ体調は平気だね?」

グレーテル「もっかいくらい大丈夫……いくよトランプおばさん……あつあつ火の玉……あたると熱くて、すんごく痛いよ……?」ヒュッ

ビュォォォ!!

ハートの女王「……っ!」グイッ

白ウサギ「えっ!?ちょ!?女王様!?なんで私を盾にしt…ぐああああああ!!」ボジュウッ

司書「白ウサギを盾に…!なんて人…!」

ハートの女王「王は…女王は…何よりも、そして誰よりも権力と!富と!名声を持つ!何人たりともその存在に逆らう事は許されない!」

ハートの女王「まして下賤な庶民に敗北するなど、あってはならぬ。こんな貧乏人のガキ共に背を向けて逃げるなど、王族のする事ではない!!敗走など、あり得ない!!」

ハートの女王「私が叫べば白であろうと赤となり!私が命じれば虚構さえ真実となる!私が勝利を望むのならば、運命はそれを差し出す義務があるのだ!」

ハートの女王「何故なら私は女王だからだ!全てが恐れひれ伏す、ハートの女王なのだからだ!!」ゴゴゴゴゴ

731: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 01:32:31 ID:vpx 
ハートの女王「いつまで寝ているつもりだ白ウサギ!遊びは終わりだ!連中に絶望を与え、そして私に勝利を捧げよ!!」

白ウサギ「うぅ…。女王様、私に薬草を……傷を癒す死神の薬草を……」ボロボロ

ハートの女王「小娘の魔法ごときで情けない…!従者には勿体ない代物だが恵んでやる、早急に持ち直し私の手足となって働け!」ベチッ

白ウサギ「あ、ありがたき幸せ…」モグモグ

ヘンゼル「……僕が口を出す事じゃないけどさ、あんたはもっと兵士や従者を大切にすべきなんじゃないの?」

ハートの女王「兵も従者も私の所有物だ。私の道具をどう使おうと他人に文句など言わせん!王族とはそういうものだガキ共!」

グレーテル「でも、裸王様は兵士さんやお城の人達にすっごく優しかったよ……私にもお菓子をくれたし……」

ハートの女王「それは裸の王が三流だという証拠だ。兵も従者も国を繁栄させるための駒に過ぎん、そんなモノに情を持つなど王としての資質が欠けているとしか思えん」

司書「裸王様はとても立派な方です。少なくとも…国民に慕われていないあなたに裸王様を侮辱する権利はありません」

ハートの女王「フンッ!もうお前の安い挑発には乗らんぞ!」フンッ

ハートの女王「私はガキ共を宮殿に住ませるような酔狂な女王とも、駒に情をもつ愚かな王とも違う!そして奥の手を隠し持っているのが自分達だけだと思わん事だガキ共!」

白ウサギ「ま、まさか女王様…!あ、アレを使うつもりでは…!?」

ハートの女王「当然だ!この魔法薬でこのガキ共を蹴散らし、私は勝利を確実なものとするのだ!!」スッ
732: ↓名無し:17/06/05(月) 01:33:03 ID:MyA 
!!
733: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 01:34:15 ID:vpx 
白ウサギ「お、おやめください…!それはあまりに危険な代物です!」

ハートの女王「そんな事は解っている!だが負うリスクが高い分、その効果は絶大だ!そう海底の魔女が言っていたのだから間違いあるまい!」

白ウサギ「考え直してください女王様!あなた様も帽子屋さん達も間違っています!アリスさんに内緒でそんな危険な魔法薬を作らせて……」

白ウサギ「アリスさんはあなた様方を特に大切に思っているのです、身を犠牲にして勝利を手にしてもアリスさんを悲しませるだけです」

ハートの女王「えぇい黙れ!そうだとしてもガキ共は始末せねばならん、こやつらは私を侮辱した!それに何より――」

ハートの女王「小娘の魔法は想像以上の脅威だ。こんな力を持つガキ共をアリスの元へ向かわせるわけにはいかぬのだ!」

白ウサギ「そ、それはそうですが…。やはり危険すぎます!そのようなものを口にされては女王様が……」

ハートの女王「何を勘違いしている?確かにこれは危険な魔法薬だ、だがこれを飲むのは私ではない」グイッ

白ウサギ「えっ、ちょっ、女王様!?なんで私を掴んで――」

ハートの女王様「支配者である女王が危険を冒してどうする。この魔法薬を口にし、連中を完膚なきまでに叩きのめすのは貴様の役割だ!」

白ウサギ「お、おやめ下さい女王様!それだけは勘弁してくださ……んぐぐ……!」グビグビ

ハートの女王「光栄に思う事だ白ウサギ、大した戦力にならん貴様に力を与えてやるのだから。さぁ戦え我が従者よ、そしてアリスに勝利を私に栄光を捧げろ!」
734: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 01:37:35 ID:vpx 
白ウサギ「うぅ……きもちわるい……うぅぅ……ううぅぅ……!!」ウググ…

ハートの女王「おぉ…見る見るうちに白ウサギの身体が変貌していく!流石は海底の魔女が作りし魔法具…!」

司書「…ヘンゼル!グレーテル!ここは一度距離をとって!始めからこの世界に存在する魔法具じゃないなら、どんなものなのか想像もつかない!」

グレーテル「でも……もうちょっと頑張ればあのおばさん、かまどにできるよ……?」トローン

小夜啼鳥「いえ、一度下がりましょう。グレーテルさん、明らかに眠そうな目をしてます。これ以上の魔法使用は危険でしょうね」

ヘンゼル「わかった。小夜啼鳥、グレーテルと一緒にお千代の所へ頼むよ」

小夜啼鳥「解りました。さぁグレーテルさん、私と一緒に行きましょう」ピチチ

グレーテル「でも……お兄ちゃんは……?」

ヘンゼル「僕はここで白ウサギを食い止める。二人で同時に逃げたらいい標的だからね」

グレーテル「……」ジトー

ヘンゼル「そんな顔をしないでよ、無理だって思ったらちゃんと逃げるよ。約束しちゃったからね、一人で背負わないって。それに僕一人じゃ、あいつらは倒せそうにない」

ヘンゼル「今は一度退いて、小夜啼鳥に回復してもらうんだ。魔法が使える状態まで体勢を立て直したら、そしたら今度こそ僕と一緒にあのおばさんを倒そう。いいね?」

グレーテル「わかった…。すぐに戻ってくるから……その間だけ、ちょっとだけお願いするね……」

736: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 01:44:17 ID:vpx 
ハートの女王「そうはさせんぞガキ共!その小娘に魔法を使われると厄介なのでな!」

ハートの女王「白ウサギ!変貌を遂げたお前の力であの小娘を捕えるのだ、準備は整っているな!?」

白ウサギ「ぐぐぐ……グゴォォォォォッ!!」ギロリ

ヘンゼル「…随分と可愛げが無くなったね、ウサギというより禍々しい魔獣だ」

ハートの女王「ホッホッホッ!外見が醜悪になっただけではないぞ?この魔法薬は以前あの魔女が生み出した【力太郎】の魔法薬をベースにした特注品なのでな!」

ハートの女王「今や白ウサギの身体能力は何十倍にも跳ね上がっているのだ!その代償として自我を失ってはいるが、主人である私に逆らう事は無い!その様に作らせたからな!」

ヘンゼル「ふーん…。どうでもいいけどさ、そこまで変貌しちゃったら元に戻れるかどうか怪しいもんだね」

ハートの女王「そんな事は私には関係の無い事だ!それとも何か?貴様、魔獣と化した我が従者が恐ろしいのか?」ニヤリ

ヘンゼル「別に?僕を手伝ってくれている魔獣達の方がよっぽど恐ろしくて頼りになると思うし怖くは無いよ。少し、同情はするけどね」

ハートの女王「フンッ、虚勢を張っていられるのも今のうちだ。妹を守るために残ったようだが、お前はここで無駄死にするのだ!」

ハートの女王「貴様のような小僧に、我が従者は止められん!一方的に蹂躙してくれるわ!さぁ行け白ウサギ!」

白ウサギ「グルル…!ラヴィィィィィィッットォォォ!!」シュバッ!
737: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 01:47:41 ID:vpx 
ヘンゼル(速い…!身体能力を向上させるって言う魔法具の一環なのか、身体も少し大きくなっているのにそれを感じさせない身軽さ…!)

ヘンゼル(そこはやっぱり元がウサギだからなのか、それとも脚力の強化で速度も向上しているのか…まぁどっちにしろ)

ヘンゼル「その程度の素早さだったら僕にだって止められる!妹の所には向かわせない!」バッ

ハートの女王「白ウサギ!速度を上げろ!小僧など蹴散らしてしまえ!!」

白ウサギ「グルルッ…バニィィィィィッ!!」バシュッ

ヘンゼル「なっ…!更に速度が上がった…!?」

司書「いけない…!ヘンゼル!避けて!」

グレーテル「お兄ちゃん……!」

小夜啼鳥「グレーテルさん、振り向いてはいけません!今は逃げましょう!」

白ウサギ「グルルゥゥ!!ガァァ!!」バシュッ

ドガッ

ヘンゼル「ぐっ…!」ドサッ

司書「ヘンゼル…!!」

グレーテル「……っ!」

ハートの女王「ホッホッホッ!良いぞ良いぞ!あの忌々しい小僧を刎ね飛ばしてやったぞ!凄まじい力だ白ウサギよ、その調子で小娘も食い殺してしまえ!」
738: ↓名無し:17/06/05(月) 01:52:26 ID:MyA 
ラヴィィィットォォォ!!!
739: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 01:53:23 ID:vpx 
白ウサギ「バニイイイィィィィッ!!」バシュッ

小夜啼鳥「くっ、このままでは追いつかれてしまうのは時間の問題か……!」

グレーテル「……許さない」クルッ スッ

司書「グレーテル!駄目だよ、速くこっちに来て!」

小夜啼鳥「正気ですかグレーテルさん!?魔法が使えない今、あなたはただの少女に過ぎない!あの魔獣を相手にするなど無茶です!無謀です!」

グレーテル「勝てなくても無謀でも関係無いよ……今逃げてちゃ、私はお兄ちゃんの妹でいられない……」グッ

小夜啼鳥「そんなショルダーポーチでどうするというんです!?私にも桃太郎さんにも死者を蘇生する力は無いんです!速く逃げましょう!」

ハートの女王「ホッホッホッ!兄妹揃って力の違いも測れぬ愚か者共め!白ウサギ、望むままに相手をしてやれ!」

白ウサギ「ガルルゥッ…ヘヤアアァァァァ!!」バッ

グレーテル「……かかってくるといいよ」ブンブン

小夜啼鳥「あぁ…こんな時非力な自分が恨めしい!お千代さん!彼女をなんとかしてください!!」

司書「グレーテルったらこんな時にもう…!お願い、間に合って…!」ダダッ

ハートの女王「ホッホッホッ!遅いわ遅いわ!我が従者の速度に追いつけるものか!」
740: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 01:59:08 ID:vpx 
ハートの女王「さぁ白ウサギよ!その小娘を噛み殺せ!!」

白ウサギ「ガァァ!!ラヴィィィィッッ!!」グアッ

グレーテル「……えいっ」ブンッ

白ウサギ「ガルッ…!!」バクッ

小夜啼鳥「あぁ…!ポーチを投げて怯ませるどころか食べられてしまいました!もうあなたには何一つ武器が無いんです!ここはもう諦めて逃げましょう!」

グレーテル「……うん、そうだね。あとは逃げるだけだね……」トテトテ

司書「……っ!」

ハートの女王「逃がすでないぞ白ウサギ!小僧の息の根を止めた今、残るは小娘と女のみ!殺してキモオタ共の戦意を削いでやるのだ!」

白ウサギ「グルルゥッ!バニィッ!」グアアアァ

ザッ

ヘンゼル「……あんたはあのおばさんに良いように使われてる可哀想な従者だ、なるべくなら攻撃したくは無かったけどさ」スッ

ドゴォ!!

白ウサギ「グゥゥッ…」ヨロッ

ヘンゼル「僕の妹に手を出すってなら……あんたも『かまど』だ」ギロリ
741: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:03:04 ID:vpx 
司書「ヘンゼル…!良かった、無事だったんだね!」

ヘンゼル「全然無事じゃないんだけどね、きっと何本か骨やられてるし」

グレーテル「でもよかった……お兄ちゃん死んじゃったかと思った……」トテトテ

ヘンゼル「グレーテルを残して死なないよ。というか君だって僕の事とやかく言えない無茶してるじゃないか」

グレーテル「それはそれ……ひつようこうどうだよ……」

小夜啼鳥「お二人とも、兄妹喧嘩は後にしましょう。グレーテルさんはすぐに私と安全な場所へ、回復を急ぎましょう。そしてヘンゼル君、もう少し戦えますか…?」

ヘンゼル「戦えなくても戦うさ。僕はグレーテルのお兄ちゃんだからね」スッ

小夜啼鳥「頼もしい限りです。さぁグレーテルさん、こちらへ」

グレーテル「お兄ちゃん……白ウサギさん、私のポーチ食べてる……だから、ねっ?」トテトテ

ヘンゼル「……あぁ、わかった。効果があればいいけどね」

ハートの女王「何をごちゃごちゃと…白ウサギ!相手は手負いの小僧一人!早々に殺して後の二人も始末しろ!」

白ウサギ「ラビィィィィッ!!」グガァ
742: ↓名無し:17/06/05(月) 02:03:45 ID:UES 
まさかスニッカーズか、、?笑
743: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:06:11 ID:vpx 
白ウサギ「グルァァ!!」ブンッ

ヘンゼル「さっきは油断してただけ…なんて情けない事言いたくないけどさ、実際油断はしてたかもね。我ながら情けないよ」サッ

白ウサギ「バニィィィッ!!」ガブッ

ヘンゼル「でももう二度と妹を守れないなんてのはごめんだ。骨が折れようが肉が割かれようが、もうあんな思いはしたくない」スッ

白ウサギ「グルルゥ……!」バシュッ

ヘンゼル「いい加減、お兄ちゃんとして妹達に良い所を見せないとね」スタッ

ハートの女王「えぇい!何をやっておる!?ことごとく攻撃が避けられているではないか!」

ハートの女王「あの小僧は魔力は持っていてもそれを扱うだけの力量は無い!そんなただの小僧に何を手こずっておる!?」

白ウサギ「バニィ……」ズキズキ

ヘンゼル「あんたはもう少し従者の事見てあげたら?ギャーギャー喚いてるだけじゃなくてさ」

ハートの女王「やかましい!小僧風情が何を言うか!」

ヘンゼル「聞く耳持たないならそれでもいいけどさ、彼の片足はもうほとんど役に立たないはずだよ。魔力が込められた一撃を受けたからね」

ヘンゼル「まぁ、それをした張本人が言うなって話になっちゃうけどさ」
744: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:10:35 ID:vpx 
ハートの女王「魔力の込められた一撃…?そんな物はデマカセだ!それをすればお前は腕一本使い物ならなくなると話は聞いているぞ!」

ヘンゼル「全力で殴ればね。でも威力を落とせば反動だって多少は抑えられる、多少はね。正直、痛いのは痛いよ」

ハートの女王「チィッ…白ウサギ!足を怪我していても攻撃には影響が無いだろう!手を抜かずに攻撃しろ!」

ヘンゼル「僕に特訓をしてくれてる時に裸王様が言っていたよ『どんなに筋肉を鍛えしものでも、足を痛めれば全身のバランスがとれなくなる』ってね」

ヘンゼル「片足使い物にならない状態じゃ、攻撃の威力だって落ちるさ」

ハートの女王「ぐぬぬ…姑息な真似を…!」

ヘンゼル「姑息なことだってするさ、妹を守るためならね。裸王さんは他にもいろいろと教えてくれたよ、何処の筋肉を使えなくすれば何が出来なくなるのか、とかさ」

ヘンゼル「姑息といいたければ言えばいい、正面からじゃ勝てない相手に小細工を使うのは当然だと僕は思ってるしね」

ハートの女王「ベラベラとやかましい小僧め…!白ウサギ!所詮は弱者の小細工だ、とにかく目の前のガキを殺すことに集中をしろ!」

白ウサギ「……」

ハートの女王「えぇい!何をボーッとしておる!私の声が聞こえんのか!?足の傷に耐えてでもそのガキを早急に――」

白ウサギ「……っ」グラッ

ドシーンッ

ハートの女王「な、何が起きたというのだ!?白ウサギが突然…倒れただと!?」
745: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:11:46 ID:vpx 
白ウサギ「……ウゥゥ」ブクブク

ハートの女王「あ、泡を吹いて倒れている…!?小僧ォ!!貴様、何をしたのだ!?そうか…目にも止まらぬ速さで立っていられない筋肉を攻撃したのだな!?」

ヘンゼル「出来ればいいけどね、怪我をしてても彼にそこまでの隙は無かったよ」

ハートの女王「なんだと…?えぇい、起きろ!起きぬか白ウサギ!!」

白ウサギ「」グッタリ

ハートの女王(完全に気を失っているだと…!一体何だ、何だというんだ!?)

ハートの女王「えぇい答えよ!白ウサギは魔法薬の力で凄まじい力と身体能力を得ていた、魔力が宿っていようとお前のたんなる攻撃などでこのように倒れるわけがなかろう!」

ヘンゼル「僕としては返事に困る質問だよ、結局また…僕は妹に助けられたってわけだよ」

ハートの女王「妹…小娘の仕業か!?」

グレーテル「そうだよ……私の仕業だよ……」

ハートの女王「馬鹿な…それこそ何故だ!?魔力が無ければ小娘は魔法を使えぬはずだろう!」

グレーテル「おばさんはもの覚えが悪いね……ついさっきの事なのに、もう忘れちゃったの……?私が、白ウサギさんになにをしたのか……」

ハートの女王「ふざけるな!貴様がした事などポーチを投げつけて怯ませようとして失敗した事くらい…。はっ、まさか貴様…!」

グレーテル「そうだよ……。あれはただ投げたんじゃなくて食べさせるために投げたの……」
746: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:15:54 ID:vpx 
ハートの女王「そうか読めたぞ…毒薬だな!?鞄の中に毒薬を入れていて、それを悟られぬように鞄ごと食わせた!」

グレーテル「……」スッ

ハートの女王「図星のようだな!フンッ、種が割れてしまえばどうという事はない!同じ手は二度と食わん!」

司書「でも、どうやって戦うつもりですか?あなたにはもう兵隊も従者も居ないんですよ?」

ハートの女王「チィッ…おい白ウサギ!いつまで寝ている!!早急に目覚め、我を守れ!!」

白ウサギ「」グッタリ

ハートの女王「クッ…駄目か、使えぬ奴め!」

ヘンゼル「こうなったらもう逃げるしかないんじゃない?僕たちみたいな、庶民のガキ相手に尻尾を巻いてさ」

ハートの女王「えぇい、見くびるな!いざとなればお前達の様なガキなどねじ伏せられるわ!もう件の毒薬も無いのだ、何も恐れる事などありはせん!」

グレーテル「ねぇねぇお千代ちゃん……あれちょうだい……」

司書「うん、はいどうぞ。まだまだあるからね」ゴソッ スッ

ハートの女王「……小娘、まさかっ!」

グレーテル「残念でした…。白ウサギさんが食べた毒は、まだまだいっぱいあるよ……」ビリッ
747: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:21:35 ID:vpx 
グレーテル「白ウサギさんはこれを食べて気を失っちゃった……兵士さん達は居ない……次は、誰の番かな……?」

ハートの女王「……っ!」

グレーテル「おばさんにも分けてあげよう……」トテトテ

ハートの女王「えぇい寄るな…!来るな、来るでない!」

ハートの女王(落ち着け、落ち着くのだ!チェシャ猫や青い鳥が得た情報に小娘が毒薬を所持しているなどという情報は無かった!)

ハートの女王(魔法の力で強化された白ウサギを短時間で気絶させるほど強力な毒薬。所持していれば必ずわかるはず、故に小娘が毒薬を持つなどありえん、ハッタリだ!)

ハートの女王(……。ハッタリ、本当にそうなのか?)

ハートの女王(魔法の事も、小僧の策も、戦えぬはずの女も…チェシャ猫どもから得た情報とは異なっているものばかりだった、この毒薬もそうなのではないか…?)

ハートの女王(そうだ、そうに違いない。考えてみればこの小娘はあの酔狂な魔女のお気に入り、護身の為に毒や魔法具を持たせていたとしてもおかしくは無い…!)

ハートの女王(つまり、あれは雪の女王から託された凶悪な毒の魔法具…!)

ハートの女王「ぐっ…しかたあるまい、屈辱的だが命には代えられん!ここは逃げt」クルッ

ザッ

ヘンゼル「僕の妹がおばさんに特別なものをごちそうしようって言うんだ、遠慮せずに食べてあげなよ?」

ヘンゼル「例えその結果、あんたが死ぬことになってもさ」
748: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:26:16 ID:vpx 
グレーテル「そんなに遠慮しなくてもいいよ……一口食べただけで天国に行けるおいしさだよ……」トテトテ

ハートの女王「よ、寄せ…!えぇい、私を誰だと思っているのだ無礼者!」

ヘンゼル「僕達はあんたの配下でもこの国の国民でも無いからさ。それにあんたが恐れてる毒薬だけど、僕も持ってるんだ。ほら」ビリッ

ハートの女王「!?」

司書「もちろん私も持ってますよ?小夜啼鳥さんにも渡しておきますね」ビリッ

小夜啼鳥「おやおやフフフッ、これは美味しそうですねぇ。でもハートの女王は遠慮してるようなので、皆さんで食べさせてあげましょう」ピチチ

ハートの女王「馬鹿な!なぜこんなに…!あれほどの威力の魔法具を大量に生み出すなどありえん…!い、いや相手は雪の女王の……」ブツブツ

グレーテル「そんなことどうでもいいよ……さぁさぁ……おばさんも食べてよ……おいしいよ……」トテトテ

ヘンゼル「勧めておいて何だけど、食べてどうなっても知らないけどね…」ジリジリ

司書「さぁさぁ、遠慮なさらずに…」スタスタ

ハートの女王「~~~っ!」ババッ

小夜啼鳥「あっ、逃げましたよ!追いましょう!」ピチチ
749: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:27:11 ID:vpx 
タッタッタッ

ハートの女王「えぇい!これは逃走ではない!戦略的な撤退だ!故に、これは恥ではない!!」

ハートの女王「そもそもチェシャ猫どもの情報に不備があったのが悪いのだ!あのような強力な毒薬を持っていると知っていれば私は逃げる必要などな――」

銀貨の魔獣「ガルウゥゥゥゥッ!!!」ゴアッ

ハートの女王「……っ!!そうか、先に進めぬようにこやつを拘束していたのだった……!こやつの横を抜けていくのは困難、いや不可能か…!」ザッ

グレーテル「まってよトランプおばさん……なんで逃げるの……?」

ヘンゼル「よっぽど食べたくないみたいだね、まぁ食べてああなった白ウサギを見たら仕方ないか…」

ハートの女王「く、来るな…!その毒薬を私に近づけるな!!私は、私は女王陛下だぞ!!ハートの女王だぞ!!」

グレーテル「知ってる…。そんな事より……さぁさぁ……どうぞどうぞ……」スッ

ヘンゼル「女王ともあろう者が遠慮なんかしないでよ、ほら」スッ

ハートの女王「ひっ…!」ドンッ

グレーテル「もう逃げられないよ……さぁめしあがれ……」グイグイ

ハートの女王「~~~っっっ!!!」

ドサッ
750: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:29:18 ID:vpx 
ヘンゼル「……完全に気を失ってるね。恐怖のあまり気を失うなんて、よっぽど恐ろしかったんだろうね」

小夜啼鳥「目を覚まさないうちに拘束しておきましょう。ロープか何か持ってますか?」

ヘンゼル「必要無いんじゃない?このタールの中にぶち込んどけば動けないでしょ」ドチャッ

司書「ちょ、ちょっとひどい気もするけどね。でもとりあえず動けはしないからいいか…」

グレーテル「それにしてもトランプおばさんはおバカさんだね……この毒薬、こんなに美味しいのにね」モグモグ

ヘンゼル「まぁ、毒薬じゃなくてスニッカーズだからね、そりゃおいしいよ」モグッ

司書「犬や猫、ウサギみたいな動物にとってはチョコレートは致命的な中毒を引き起こす猛毒だからね……それにグレーテルのポーチにはスニッカーズしか入ってないから」

ヘンゼル「あんなポーチ食べたらそりゃ失神もするよね、スニッカーズしか入ってないし」

グレーテル「しつれいな……トッポとかも入ってるから……あとブラックサンダーとチロルチョコと裸王様チョコ(カード付き)……」

ヘンゼル「同じことでしょ。白ウサギが中毒で倒れるのはまぁ当然だけど、ハートの女王をうまくだませてよかったよ」

小夜啼鳥「まぁあれは騙されますよ。従者に興味の無い彼女がウサギにとってチョコレートが猛毒だなんて知らないでしょうしね」

司書「今だから言えるけど、うまくいって本当に良かったよ。もしも気づかれていたら……」

ヘンゼル「気づかれてたとしても何もできないでしょ、トランプ兵も白ウサギも居ないんじゃそれこそただのおばさんなんだし。それよりも僕はもっと別の事が恐ろしいよ」

小夜啼鳥「別の事?なにかありましたか?」

ヘンゼル「いや……チョコを毒だなんてブラフを投げたり演技したりさ、大切な妹の戦闘スタイルが明らかにキモオタお兄さんのそれなんだけど……悪い影響受けててグレーテルの将来が怖い」

グレーテル「勝てたんだからいいんですぞ……こぽぉー」

ヘンゼル「頼むから口調真似するの本当にやめて」
751: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/05(月) 02:31:06 ID:vpx 
今日はここまでです 不思議の国のアリス編次回に続きます

キモオタ「グレーテル殿とは毎週プリキュアの感想を言い合う仲でござるからなwww」コポォ

グレーテル「キモオタお兄ちゃんはスニッカーズ買ってくれるから好きですぞ……こぽぉ」

ヘンゼル「……」


755: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:10:57 ID:Xwz 
ヘングレお千代VSハートの女王戦 その後…

グレーテル「お千代ちゃん、どう……?トランプおばさん、何か持ってる……?」

司書「うーんと、ちょっと待ってね…。それにしても状況が状況とはいえ気を失っている相手の持ち物漁るなんて…。私悪いことしてるなぁ…」ゴソゴソ

グレーテル「気にしちゃ駄目…。普段はやっちゃいけない事だけど……今はきんきゅうじたいだから、誰も悪く言わないよ……」

司書「もしも魔法を打ち消せるような道具を持っていたら魔獣さんを助けられるし、白ウサギさんを元に戻すことだってできるかもしれないもんね…でもこれっきりね?」

グレーテル「そうだね…。でも、私はお兄ちゃんの怪我を早くなんとかしたいな……さっき白ウサギさんに渡してた薬草、もっと持ってないかな……?」

司書「えーっと……あっ、これかな?死神の薬草って言ってたから、きっとどんな怪我も病も治す【死神の名付け親】の薬草だね」スッ

グレーテル「やった……これでお兄ちゃんの怪我治せるね……」

司書「他には…特には持ってないかな。…ごめんなさい女王、少しだけ持ち物お借りしますね。それと暴言を吐いた事もごめんなさい」ペコッ

グレーテル「……トランプおばさんは気を失ってるから、謝ってもわかんないよ……?」

司書「私が謝っておきたいの。緊急事態だとしても勝手に持ち物を借りるなんて悪い事だし、それに……」

司書「理由があるとはいえ散々暴言も吐いちゃったしね。うぅ…さっきはつい熱くなっちゃったけど冷静に考えるととんでもなく失礼な事言っちゃってたな……反省しよう」ズーン

グレーテル「気にしなくて大丈夫だよ…。それにお千代ちゃんがおばさんを怒らせてくれたおかげで、兵士さん達をかまどするチャンスが出来たんだし……」

グレーテル「お千代ちゃんがチャンスを作って……お兄ちゃんの魔力と私の魔法で戦って……みんなが協力して手に入れた勝利だよ、きっと雪の女王様も褒めてくれるよ……」

司書「…うん、三人とも生きて乗り切れたんだからそれが一番だよね。女王様もカイも含めて、私たち家族は一人だって欠けちゃ駄目だもんね」
756: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:13:02 ID:Xwz 
グレーテル「そうだよ……。でもね、白ウサギさんに勝てたのは三人だけの力じゃないよ……?」

司書「そうだよね、小夜啼鳥さんの事忘れちゃ駄目だよね。彼女がいてくれるからグレーテルも安心して魔法が使えt」

グレーテル「違うよ、小夜啼鳥さんも手伝ってくれたけど……。もっと大事な『勝利の鍵』を忘れてる……」

司書「勝利の鍵……?」

グレーテル「スニッカーズだよ……」

司書「……」

グレーテル「私がいっぱいスニッカーズを持ってなかったらきっと負けてたよ……。だから私が一日に食べていいスニッカーズの数を増やそうよ……たとえば一日に三本n」

司書「あっ、ヘンゼル!ほらグレーテル、ヘンゼル達戻ってきたよっ」

ヘンゼル「今、スニッカーズとか聞こえたけど……一体何の話してるの?」

司書「ううん、全然大したことじゃないの。気にしなくていいよ」

グレーテル「うー……大事な話なんだよ……。ちゃんと聞いて……私にとっては『しかつもんだい』なの……」ポコポコ

司書「また大袈裟な事を言って…むしろグレーテルはお菓子食べすぎなの!もう…あっ、でも丁度いい機会だからもう今後はお菓子を持ち歩くの禁止にしy」

グレーテル「……お兄ちゃん、私達……おばさんの荷物から薬草見つけたよ……これ使って怪我を治してね……」スッ

ヘンゼル(うまく話をそらしたな……)
757: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:19:52 ID:Xwz 
パァァッ――

司書「どう、ヘンゼル?効果はありそう?まだ傷は痛む?」

ヘンゼル「いいや、もう平気だよ。流石は【死神の名付け親】の薬草だ、たちまち痛みが引いたよ」

グレーテル「おばさん、この薬草もっとたくさん持ってたら良かったのに……。そしたらキモオタお兄ちゃんとか、みんなに分けられるのに……あと一回分しかない……」

小夜啼鳥「強力すぎる故に、奪われた場合のリスクを考えて極力持ち歩かなかったのでしょう」

ヘンゼル「こんな便利な薬草、大量に奪われたら大変だもんね」

グレーテル「そっか……確かにそうだね……」

司書「ハートの女王の荷物を調べさせてもらったけど、私達が見つけたのはそれくらいだよ。残念だけど、他には特に持ってなかったの」

ヘンゼル「そっか…。ごめんね銀貨の魔獣、君をそのタールから解放できるのはもう少し先になりそうだ……」

銀貨の魔獣「ガルルゥ」

ヘンゼル「気にするなって?魔獣だっていうのに、君は本当に優しいな」ハハハ

司書「ということは、白ウサギさんの荷物にも魔法を打ち消すような道具は……?」

小夜啼鳥「残念ながらありませんでした。元々、捕えた敵を解放する意味なんて彼等にはありませんからね……」
758: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:25:34 ID:Xwz 
司書「でもそうなると、身動きもとれず火打ち箱にも戻せないんじゃあ、魔獣さんはここで待っててもらう事になっちゃうかな……」

グレーテル「一人ぼっちでお留守番……ごめんね魔獣ちゃん、もうちょっと頑張ってね……。絶対に助けに来るからね……」

銀貨の魔獣「ガルルッ!」

ヘンゼル「……ねぇ、小夜啼鳥。なんとかならないかな?気丈に振る舞う魔獣見てるとなんだか、いたたまれない。元々、僕の不注意が原因だし」

小夜啼鳥「と、言われましても…。私の歌声では魔法を打ち消せませんし、結構ベッタリいっちゃってますからねぇ……力ずくじゃ難しいでしょうね」

ヘンゼル「やっぱり、魔法を打ち消す様な道具を探すしかないか。どこかに魔法具をまとめて保管してある場所とかがあるはず……」

???「この城のどこを探そうと無駄だ。そのタールを剥がす方法なんかあるもんか……」ザッ

司書「あなたは…っ!」バッ

グレーテル「……白ウサギさん?あれ……いつの間にか元に戻ってる……?」

白ウサギ「魔力が宿っていようと薬は薬、効果時間が切れれば元に戻るに決まってる。そもそもあんな化物の姿、長い時間維持出来るもんか」ヨロヨロ

ヘンゼル「……やっぱり元の姿に戻ったね、彼」

小夜啼鳥「ですね、私達が調べている頃には既に予兆はありましたし。それにしても相手が女王様じゃなくなった途端、態度を一変させるとは少し感じ悪いですね」

白ウサギ「勝手な事を言うなよ、主人と敵を同列に見る馬鹿がどこにいるっていうんだ」ヨロヨロ
759: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:32:28 ID:Xwz 
グレーテル「ねぇ白ウサギさん……さっき言ってた、このタールをとる方法なんか無いって本当……?ホントはどこかにあるんじゃないの……?」

司書「考えてみれば味方にタールが付着しちゃう事故が無いとも限らないし、緊急時用にタールをはがせる魔法具を用意してあってもおかしくないもんね」

白ウサギ「疑り深い子供だな。そもそも女王様がそんな事を気にするもんか」

白ウサギ「僕やトランプ兵がタールに絡め取られたとしても、女王様は決して顔色一つ変えはしない。むしろ愚か者と僕達を罵るだろうな」

小夜啼鳥「まぁ、確かにあの女王はそんな感じがしますね」

ヘンゼル「それを解っていて、それでも君はあの人に着き従うんだね」

白ウサギ「僕は女王様の従者だ、当然だろう」

ヘンゼル「その女王様は気を失っている。それに目覚めたとしてタールに自由を奪われていて身動きもとれない……今逃げだせば、この独裁者から君は解放されるんだよ?」

白ウサギ「……」

ヘンゼル「逃げればいいじゃないか。こいつは君の事をモノのように扱っていた、あんなの不本意だろう?」

白ウサギ「僕の荷物を漁りに来た時、小夜啼鳥に命じて中毒から解放させたのも同情からか?」

ヘンゼル「同情もするさ。君が中毒で倒れたときだって、こいつは君を連れて逃げようなんてしなかった、一人で逃げようとした。君はこいつに利用されているだけだ」

ヘンゼル「僕とグレーテルも…悪い魔女に利用された経験がある。だから、同じ目に会ってる者を見捨てられない、それが例え敵でもだ」
760: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:40:10 ID:Xwz 
グレーテル「ねぇねぇ白ウサギさん……さっきは無理やりチョコ食べさせてごめんね……?でも、もしも、白ウサギさんがそれでもいいなら……」

グレーテル「私たちと一緒に行こう……?そっち側にいたって……おばさんに利用されちゃうだけなんでしょ……だったら私たちの仲間になろう……?」

小夜啼鳥「グレーテルさん、それはあまりにも無茶な提案ですよ…ほらヘンゼルくんも何か言ってあげてください」

ヘンゼル「僕の考えはグレーテルのそれと同じだ。女王が目覚めればきっと君は酷く罵倒される、そんな事になるのならもういっそのこと――」

白ウサギ「……僕に女王様やアリスさんを裏切れって言うのか?」

司書「裏切りなんて、そんな事は言っていません。ヘンゼル達はただ、あなたの事を不憫に思って……」

白ウサギ「確かに僕は弱い、薬を使わなきゃ戦力になりゃしない。それは事実だ、それでも…」

ビチャ ビチャ

小夜啼鳥「ば、馬鹿な…。自らタールに足を踏み入れたですって…!?」

白ウサギ「これで僕も身動きが取れない。ハートの女王様と同じように。君達を殺す事も出来ないが、この場から逃げる事だってしない」ビチャビチャ

ヘンゼル「……」

白ウサギ「良く聞けヘンゼル。弱くても、役に立たなくても、女王様にどんなに罵倒されようと僕は白ウサギ……【不思議の国のアリス】の住人だ」

白ウサギ「この世界の住人である以上、他の場所に居場所なんか求めない。僕達にとってアリスさんが唯一の正義。そして何よりも大切な、存在だ」

白ウサギ「そう考えてるのは僕だけじゃない。この世界に住む全ての生物は、この世界とアリスさんを愛している。だから決してアリスさんを裏切らない…!」
761: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:45:45 ID:Xwz 
白ウサギ「これで解っただろう、もう二度と僕を…僕達を仲間に引き入れようなんて愚かな真似はしない事だ」

白ウサギ「この世界にはお前達の味方をするような馬鹿な輩は、一人としていない。同情なんか、クソ喰らえだ」

ヘンゼル「……」

小夜啼鳥「……ヘンゼル君。目的を見失ってはいけませんよ?あなたの目的はアリスを倒す事、そしておとぎ話の世界の奪還です」

小夜啼鳥「利用されるものの苦しみがわかるあなたには酷な話でしょうが……これ以上の説得は意味を持ちません」

ヘンゼル「わかったよ、柄にもないことするもんじゃないね」サッ

ヘンゼル「ハートの女王がここにタールを撒かせたって事はこの道の先を進めばアリスが待ち構えているだろう王座の間に行きつくはずだ。千代、グレーテル、小夜啼鳥、先を急ごう」

グレーテル「がってんしょうち……」トテトテ

司書「…うーん、ねぇヘンゼル。この先にはヘンゼルとグレーテル、それと小夜啼鳥さんだけで行ってくれないかな?」

ヘンゼル「ちょっと待ってよ。それって、お千代はここに残るっていう意味だよね?」

司書「うん、そうなるね」

グレーテル「えー……お千代ちゃんも一緒に行こうよ、一人だけで残ると危ないよ……?」

ヘンゼル「お千代、理由を聞かせて。何故一人で残るなんて言い出すんだ?」
762: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:54:22 ID:Xwz 
司書「理由って…そんな事聞かなくたってヘンゼルも本当は誰かがここに残るべきだって思っているんじゃない?」

ヘンゼル「それは……」

グレーテル「そうなの……?誰かが残ったほうがいいの……?」

小夜啼鳥「いくら身動きが取れないとはいえ、あそこまでアリスに忠誠心を持っている者をほったらかすのは少し怖いですね。それに白ウサギの言葉が全て真実とは限らない」

小夜啼鳥「仲間の誰かがタールを剥がす道具を持っていて、私達が去ったら援護を呼ぶ…という可能性もありますしね、そうなれば挟み撃ちです。どちらにしろ放置はマズイですね」

司書「言い方は悪いけど、監視役は必要だよ。それで誰かが一人残るなら、それは私が一番適任でしょう?」

司書「二人の魔法はアリスとの戦いでとても重要な意味を持つと思うの。でも二人のうちのどっちかが欠けても魔法は使えなくなる、小夜啼鳥さんがいないとグレーテルが危ない」

司書「そうなると残るのは消去法で私。むしろそうなるって解ってたから、ヘンゼルは言い出さなかったんでしょ?」ウフフ

ヘンゼル「……君を一人だけ残すなんて、できないじゃないか」

司書「大丈夫だよヘンゼル。魔獣さんもいるし、いざとなったらキモオタさんに通信することだってできるから。安心してここは任せて、二人は先に進んで?」

ヘンゼル「……わかった、君がそういうなら。でも危なくなったらすぐにキモオタお兄さんに連絡してね、そうすれば一番近くにいる誰か君を助けに来てくれるはずだ」

司書「うん、でもそんなに心配しないでヘンゼル。あなたやグレーテルを残して、先に死んじゃったりしないって約束するから」ウフフ

ヘンゼル「縁起でもない事を……」

グレーテル「ブラックジョークってやつだね……」
763: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:55:46 ID:Xwz 
司書「ほらほら、ぼやいてないで二人とも先を急ごう!私のことばっかり言ってるけど、二人とも十分に気をつけてね?」

ヘンゼル「解ってるよ。アリスを倒して全ての件に決着をつける、そして消えてしまった【雪の女王】の世界を取り返す」

グレーテル「うん……がんばろう……。ちゃんと取り戻せたら女王様きっと褒めてくれる……。カイお兄ちゃんは……読書の邪魔するなって言いそう……」

小夜啼鳥「いいそうですねぇ。彼は本の虫ですから」

司書「全部終わって落ち着いたら、皆で女王様の宮殿に里帰りしようね。おみやげと戦いのお話をいっぱい持って帰ろう、それから家族揃ってご飯を食べるの」

ヘンゼル「いいね、家族揃ってなんかしばらくぶりだから」

グレーテル「それじゃおみやげ買いに高島屋行かなきゃだね……あとカイお兄ちゃんには世界で一番おいしいお菓子――」

司書「スニッカーズでしょ?ちゃんと買いに行こうね」

グレーテル「わーい……一ダースね……」

司書「じゃあ決まりね。ヘンゼル、約束したからね?お互い、破らないようにしなきゃね?家族揃って、だよ?」ウフフ

ヘンゼル「だから無茶して怪我するなって言いたいんでしょ?最近気づいたけどさ、千代って自分の考えを通す時って結構強引だよね?」

司書「ふふっ、私は昔から結構強引だよ?」

ヘンゼル「どうだったかな、もっと大人しい妹だった気がするけど……でも、この約束は守るよ。絶対ね」

司書「うん。約束だからね、ヘンゼル」フフッ
764: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/12(月) 01:57:20 ID:Xwz 
今日はここまでです 不思議の国のアリス編次回に続きます

玉龍「センパイセンパイ!次回は遂に玉龍ちゃんと悟空センパイの赤裸々な愛の軌跡にスポットライトが!」

悟空「当たらねぇよ!話の流れ考えろ!俺達ァ青い鳥との戦闘の真っ最中だろうが!」

玉龍「いや、そこは回想でなんとかするッスから!」

悟空「存在しねぇもん回想出来るわけねぇだろうが!」

玉龍「そこはねつ造してなんとかするッス!」

悟空「こいつ悪びれもせずねつ造とか言いやがった…!」

玉龍「次回!先輩のカッコイイ活躍に必見ッス!もちろん玉龍ちゃんも可愛くがんばるッスよー!……あー、あとなんか青い鳥がアリス側に着いた理由やるッス」

悟空「一番重要なところついでみてぇに言うんじゃねぇ!」ゴスッ



768: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/14(水) 23:49:42 ID:A5n 
ハートの女王の城 タールの撒かれた通路

キモオタの声『なるほどなるほどwwwつまり戦闘の末に拘束した敵方二名を見張るべく、司書殿&魔獣殿はそこに留まり――』

キモオタの声『ヘンゼル殿グレーテル殿&小夜啼鳥殿は別行動をとり、王座の間を目指して進んでいる……という事でござるな?』

司書「はい。それでですね、私の方は今のところ特に問題は無いんですけど……やはりヘンゼル達の事が少し心配で」

キモオタの声『そうでござろうな。なんだかんだ言っても二人とも子供でござるし、しかもここはアリス殿の本拠地でござるからなぁ……』

司書「はい…。ただヘンゼルも裸王様に鍛えていただいてますし、グレーテルも制限はありますが魔法を使えるのでトランプ兵が相手ならそこまで心配しなくていいと思ってます」

司書「ただ、城のどこかに待ち構えているはずの帽子屋さん、三月ウサギさん、チャシャ猫さん……そしてアリスさん。彼女達が相手となると、やはり不安です」

キモオタの声『確かに、手の内も完全に把握できているわけではないでござるし…』

司書「ただヘンゼルもそこまで無茶はしないと思うんですよ。グレーテルも居ますし小夜啼鳥さんも居ます、勝てる見込みの少ない相手に挑む程無謀じゃないと私は信じてます」

司書「とはいえ、逃げる事が出来ずにやむを得ず戦う事になる可能性が無いともいえません。なので、もしもヘンゼルやグレーテルから助けて欲しいと通信があった場合は……」

キモオタの声『もちろんwww我輩、最優先で手助けいたしますぞwwwおはなしウォッチの力で呼び出せば一瞬でエスケープもできますしなwww』コポォ

司書「ありがとうございます、キモオタさんが助けてくださるなら安心です」ウフフ

キモオタの声『お二人は我が友でござるし当然ですぞwwwおおっと、もちろん司書殿もピンチの際には一報をwwwマッハで手助けします故www』マッハッ

司書「はい、もしもの時はお願いしますね。私もお手伝いできる時はいくらでも知識をお貸ししますので。では私はこれで、キモオタさんも道中お気をつけてくださいね」
769: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/14(水) 23:55:43 ID:A5n 
司書「さて、と……キモオタさんに状況の報告はしておいたし、あとはヘンゼルが無茶しない事を祈って待つだけ。かな?」フゥ

白ウサギ「……」スッ

銀貨の魔獣「ガルルゥ…!」

司書「魔獣さん?どうかしたの?」

銀貨の魔獣「ウーッ……ガルルッ」ギロリ

白ウサギ「……そんなに唸らなくてもいいだろう、ただの時計だ。それとも僕には時計を見る権利も無いのか?」キッ

司書「大丈夫よ、魔獣さん。あれは武器じゃない、彼は私を攻撃しようとしたんじゃないの。でも、ありがとうね」

銀貨の魔獣「……ガルゥ」

司書「ごめんなさいね、白ウサギさん。彼は私を守ろうとしてくれただけなの」

白ウサギ「……フンッ」カチャッ

司書「素敵な懐中時計ね」

白ウサギ「当然だ、そこらに溢れる安物とは比べ物にならない上等な逸品なんだ。僕が持つには勿体ないくらいにね」

司書「そんな、とても似合っていると思うよ?白ウサギさんに懐中時計といえば【不思議の国のアリス】の定番だもの。大切そうにしているけど……もしかしてアリスさんに貰ったもの?」
770: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/14(水) 23:58:30 ID:A5n 
白ウサギ「いいや、違う。アリスさんでもルイスさんでもない。でも誰かに頂いたのは確かだ、でもそれが誰なのかはどうしても思いだせな……」ハッ

白ウサギ「それよりもお前は何故馴れ馴れしく話しかけてくるんだ。僕達は敵同士だ、これ以上の会話は必要無い。話しかけるな」フイッ

司書「私はもうあなたに危害を加えるつもりは無いし、あなたも私を攻撃できない。それならお話くらいしてもいいんじゃないかな?」

白ウサギ「お前はそれでいいかもしれないけど、そうすることで裏切り者だと思われたら僕は困るんだ」

司書「それは困るね。ごめんなさい、配慮が足らなかったね」

白ウサギ「……」

司書「……」

白ウサギ「……」

司書「ねぇ、白ウサギさん」

白ウサギ「僕は話しかけるなと言ったぞ」

司書「うん、そうなんだけどね。私、お水持ってるけど……飲む?」

白ウサギ「飲むわけないだろう!僕はお前達に食べさせられたチョコレートのせいでとんでもない目にあったんだぞ!?そんな提案をする神経が信じられない」ギロリ

司書「それ言われちゃうとその通りなんだけど…。でもあなたに危害を加えるつもりは無いって、さっきも言ったよ?」

司書「ただ、さっきまで中毒に苦しんでいたでしょ?だからお水が飲みたいんじゃないかなって思っただけだよ」
771: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/15(木) 00:00:10 ID:eRA 
白ウサギ「敵の施しを受けるつもりは無い、放っておいてくれ」フイッ

司書「お水を受け取ったくらいでアリスさんはあなたが裏切ったなんて思わないと思うよ?むしろ我慢してあなたが苦しんでいる事の方を良く思わないんじゃないかな?」

白ウサギ「どうしてお前にそんな事が……」

司書「白ウサギさんが飲んだ魔法薬、アリスさんには内緒で作らせたものなんでしょう?さっき、ハートの女王様にそう言っていたもんね?」

白ウサギ「……」

司書「それって、報告したら止められるから内緒なんでしょ?あなた達が危険な目に会うのを、アリスさんは良く思わない。そうも言っていたよね、白ウサギさん」

白ウサギ「そうだ。アリスさんは僕達の事を本当に大切に思ってくれてる。【不思議の国のアリス】の登場人物に過ぎない僕達をだ」

白ウサギ「……城の前でお前達を囲んだ動物たちが居ただろう?」

司書「うん、あなたの召使いや従者もいたね。トカゲのビルさんとか……」

白ウサギ「連中は【不思議の国のアリス】ではワキ役も同然だ。それでも力になりたいと戦う意思を示した時、アリスさんは最初首を縦には振らなかった」

白ウサギ「わかるか?消えたとしても物語にさして影響の出ないような脇役さえ、アリスさんは大切にしてくれるんだ」

白ウサギ「結局連中の熱意に負けて、アリスさんは戦闘への参加を許可した。でもこれでわかっただろう?アリスさんはこの世界の住人をわけ隔てなく愛している」

白ウサギ「だから裏切らない、裏切れない。それはさっきも似たような事を言ったはずだぞ。だからお前の施しなんかうけない」
772: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/15(木) 00:02:24 ID:eRA 
白ウサギ「解ったらもう僕に構うな」

司書「……最後に一つだけ、教えて貰ってもいいかな?」

白ウサギ「くどい奴だな…!敵に教えてやるような情報なんて…!」

司書「アリスさんの事がそんなに好きなら、あなた達はどうして彼女を止めなかったの?こんな事をすれば全ての世界から恨まれるって解りきっていたでしょ?」

白ウサギ「……」

司書「今更こんな事を言ってももう遅いかも知れない。でも、あなた達がアリスさんを止めていたらきっと彼女だって――」

白ウサギ「本当に今更だ。大昔、散々アリスさんを蔑み糾弾し、そして苦しめたのはお前達が住む現実世界の社会じゃないか。それをさもアリスさんが悪いように言うんだな…!」

白ウサギ「最初に『お譲様』を拒絶したのは現実世界だ!現実世界の連中だ!社会だ!それを今になって被害者ヅラするなんて虫唾が走る…!」

司書「お譲様……それってアリスさんの事?」

白ウサギ「……何を言っているんだ?僕はそんな事言っていないぞ?」

司書「えっ、でも、今確かに……」

白ウサギ「今度は訳のわからない事を言って撹乱するつもりか?今度こそ終わりだ。僕はもうお前に声をかけられようと一切応じない」プイッ

司書「あっ……」

司書(お譲様…。確かにアリスさんはそう呼ばれてもおかしくない立場だけど……なんだろう、少し気になる…)

司書(単なる言い間違い?私にはそうは思えないけれど…)

・・・
773: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/15(木) 00:04:09 ID:eRA 
ハートの女王の城 城前

ワーワー ワーワー ザシュッ

「ぐぬぅ…!無念……っ!」ドサッ

玉龍「んっふっふーっ、もっと本気でかかってこないとこの玉龍ちゃんには指一本触れる事は出来ないッスよ?」スタッ

「くっ…!小娘の姿をしてても龍は龍ってことか…!」
「孫悟空は無理でもこっちの小娘ならイケると思ったが、甘かったか」
「怯むな怯むな!まだまだ数ではこっちの方が有利なんだ、一斉に取り囲めばなんとかなる!今度こそ仕留めるぞ!」

ウォォォォォッ!!

玉龍「たはー!こんな大勢に一斉に襲い掛かられるなんて玉龍ちゃんモテモテッスねぇー!でーもっ、その熱い想いには応えてあげられないッスー!」

ヒュッ

「き、消えた…!龍の娘が消えたぞ!」
「警戒しろ!どこから攻撃がくるかわからねぇz…ぐあぁっ!」ドサッ
「くっ…!動きが素早過ぎて目で追う事ができn…ぬあぁっ!」ドサッ

ズバッ ザシュッ バシュッ

玉龍「残念ッスけど玉龍ちゃんは身も心も悟空センパイに捧げるって決めてるッスからね!他の男に触らせてやるわけにはいかないんッスよね~」ニヒヒ
774: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/15(木) 00:07:05 ID:eRA 
玉龍「センパイー!ウチの活躍見てくれたッスか~?玉龍ちゃんの純潔はしっかり守ってるッスからね~!約束通り先輩に捧げるッスよ~!」

孫悟空「うるせぇ!いらねぇよ!馬鹿な事言ってねぇで俺がこいつの相手してる間に敵の数減らせ!!」ガキン ガキーン

青い鳥(巨大化中)「戦闘中に浮ついた話をするなんて…僕を舐めているのか孫悟空!そんなふしだらな奴に僕は絶対に負けない…!」ガッ ガッ

孫悟空「俺じゃねぇよ!あいつだあいつ!クソッ…兵隊どもの相手しながら怪鳥退治ってなると少しばかりキチィか…」

孫悟空「玉龍!さっさと兵隊や獣共の数減らしてくれ!そうでなけりゃ時間食っちまってしょうがねぇぜ!」

玉龍「了解ッスー!そのかわりうまく連中を殲滅出来たら熱い抱擁&キッスを約束しt」

孫悟空「いいからやれっつってんだろ!唇引きちぎるぞ!!」

玉龍「も~っ先輩は恥ずかしがり屋ッスねぇ~!そんな心にもない事を――」

ビッ

玉龍「……っ!」ポタポタッ

メイド服のウサギ「色恋にうつつを抜かして油断ですか。龍という種族は、思ったよりも間抜けなのですね」スタッ

玉龍「……たはー、驚いたッスね。無駄口は叩いてたッスけど、油断はしてないつもりだったんスけどね。まさかウチに傷を付けられる猛者が居るとは思わなかったッスよ」スタッ

玉龍「それほどの相手ならあらためて名乗る必要ありッスか。ウチは【西遊記】の玉龍ッス。あんたの名も、ぜひ聞きたいッスね……」

メリーアン「メリーアン…。白ウサギの旦那様に仕えるメイドです、以後お見知りおきを」
775: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/15(木) 00:08:59 ID:eRA 
玉龍「メイド…西洋のお手伝いさんだったッスか?随分と可愛い服装じゃないッスか。まーなんにしろ……」

メリーアン「あなたこそ随分と扇情的な衣装ですね、チャイナドレスというのでしたか。どちらにしても……」

玉龍&メリーアン「戦う気があるのかって感じッスけどね!」「戦う気があるのですか、という感じですけどね」バビュッ

ガキィンッ!! バッ キィンッ!!

・・・

孫悟空「驚いたな…。有象無象の集まりだとばかり思ったが、あのウサギ……ただ者じゃねぇ。大丈夫か玉龍の奴…っとぉ!」ヒョイッ

青い鳥「もういい加減に観念したらどうだ?流石の孫悟空でもこの数の差は覆せないだろう」

孫悟空「そうでもねぇぜ?こんくらいの劣勢は【西遊記】の世界じゃあしょっちゅうだからよ」ヘヘッ

青い鳥「フン…口では強がっていても僕はまだピンピンしてるぞ!」

孫悟空「そりゃあお互い様だろ?お前さん巨大化までしてよぉ、この数の差相手にしてるってぇのに…俺はまだまだ戦えるぜ?」

青い鳥「減らず口を叩くなァ!!」ビュバッ

ガキィン!!

孫悟空「なぁ、青い鳥よ。俺ァ一つわかんねぇ事があるんだけどよ。お前、なんでアリスの味方なんかしてんだ?」ヒュバッ

青い鳥「うるさい…!お前に教えてやる必要なんかないだろう!」

孫悟空「まっ、そうかもしれねぇけどよ。あいつはお前の【青い鳥】の世界を消したんだろ?俺だったらそんな奴に従うなんてできねぇなと思ってな」

青い鳥「お前みたいに恵まれた主人公にはわからないさ。僕が、青い鳥がどれだけあの世界に苦しめられたかなんか…!わかってたまるもんか!」

778: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/18(日) 23:09:17 ID:rNI 

【僕と妹が捨てられた森にそっくりな場所】

現実世界 とあるお休みの日 驚安の殿堂ドン・キホーテ

\ドンドンドン ドンキー ドンキーホーテー/

グレーテル「ドンドンドン……ドーンキー……ドン・キホーテー……」ウキウキ

司書「ボリューム満点、激安ジャングル~」ウフフ

グレーテル「ジャングルだー……」ワクワク

ヘンゼル「……」

司書「ヘンゼル?さっきから黙ってるけどどうかしたの?お腹痛い?」

ヘンゼル「いや、そういうんじゃないけど…」

グレーテル「それじゃあなんで元気無いの……?せっかくのドン・キホーテなのに……おかしをお安く買えるチャンスだよ……」

ヘンゼル「いや…そもそも僕あんまりここ好きじゃないんだよ。通路狭いし、商品は山のように置いてあるし、順路はわかりにくいしさ。この感じ……」

ヘンゼル「『一度迷えば終わり』そんな雰囲気が漂ってる。僕にとってそんな雰囲気は……昔、グレーテルと一緒に捨てられた森を思い出させるんだ」
779: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/18(日) 23:11:35 ID:rNI 
グレーテル「大丈夫だよ……ここに悪い魔女はいない……いるのは優しい店員さんとドンペンだけだよ……」

司書「トラウマだね。気持ちは解るけど、昔の悪い思い出はちょっとずつでも克服していかなきゃって私は思うよ?」

司書「私もあれからしばらく赤飯も小豆も無理だったけど、頑張って少しずつ食べるようにしたから今はまた大好きになったしね」ニコリ

ヘンゼル「君のメンタルどうなってんの…努力は買うけど赤飯くらい別に避ければいいだけの様な気がするけどね」

グレーテル「不安になるのはお腹がすいてるからだよ……さぁさぁお菓子コーナーに急ごう……」トテトテトテ

司書「ちょ、一人でいっちゃ駄目グレーテルっ!なんでお菓子選びに行く時だけこんなに早いの…!?」スタタタ

ヘンゼル「ちょっと待ってよ。こんな森の奥地みたいな場所ではぐれたら取り返しがつかない事に――」

ドンッ

ドンキ好きなおっさん「おっとゴメンよ。驚くほど豊富な品揃えと安心する値段設定に目移りして、つい前を見ていなかったよ」ハハハ

ヘンゼル「いや、僕こそ。すいません」スクッ

ドンキ好きなおっさん「ハハッ、お互い様だね。それじゃあ私は引き続きドカンとあふれる夢を買うとするよ」シュタッ

ヘンゼル「……さて、と」

ポツーン

ヘンゼル「言ってる傍からはぐれた……」ズーン
780: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/18(日) 23:15:28 ID:rNI 
ヘンゼル「どうする…?二人と連絡する手段は当然無い。…あっ、小夜啼鳥だ!彼女の事だからいつものように僕の鞄とかその辺の陰に隠れてるに違いない。小夜啼鳥、助けて欲しいんだ。出てきてくれないか!」

シーン

ヘンゼル「なんでだ!いつもは勝手に鞄に潜んでるのになんでこんな日に限ってあいつ……!これでもう完全に積みじゃないか!」ギリッ

ヘンゼル「こうなったらリスクを伴う最後の手段、闇雲に探すしかない。とりあえずここをスタート地点として、迷わないように目印を残しながら……よし進むぞ!」ポトッ

キモオタ「ちょwwwヘンゼル殿wwwドン・キホーテの店内にほんのり光る石を置いていくのは迷惑ですぞwwwやめてくだされwww」コポォ

ヘンゼル「じゃあどうしろっていうんだ!?パン屑でも撒けっていうのか!?それじゃ食い意地が張ってるあんたみたいな輩に食われて――って、君達か。奇遇だね」グイッ ファサ

ティンカーベル「いやもう奇遇とかどうでもいいよ。メッチャ取り乱してるじゃん、普段のヘンゼルどこ行ったのさ!?」

ヘンゼル「……ごめん、道に迷うの正直トラウマなんだ。グレーテル達が居るとまだ大丈夫なんだけど、一人で迷うとどうしても取り乱しちゃうんだ」

キモオタ「そんな事では好感度下がりますぞwww主にドロシー殿からのwwwそれはさておきはぐれたのならば我輩が司書殿にメールしてみるでござるよ」ポチポチ

ヘンゼル「……」

キモオタ「っと、返信キタコレwwwどうやらお菓子売り場にいるようですなwww二人とも心配しているようでござるし、共に行くでござるwww」

ヘンゼル「うん、助かったよ。それにしてもキモオタお兄さんはこんなにも頼れる男だったんだね、見直した。優しいチャーシューくらいに思ってたけど、これからは評価を改めなきゃね……うん、すごく見直した」

キモオタ「こんなことで見直されてもwww今までどんだけ評価低かったでござるかwww」コポォ

ティンカーベル「まぁ好感度マイナススタートみたいなところあるからねキモオタは。っていうかキモオタじゃなくてスマホの手柄だからね、単なる文明の勝利だよ!」

キモオタ「ちょwwwお主はwww黙ってれば我輩の手柄だったというのにwww」コポォ


ヘンゼルの弱点その1 『道に迷うのがトラウマ。一人に時に迷うとポンコツ化する』

785: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/20(火) 01:24:30 ID:MEA 
ハートの女王の城 城前

ワーワー ワーワー

分身悟空第二弾「ウキッ、ウキキィィィッ!!」ビュバッ

「チョロチョロとすばしっこい猿め…!いつまでも分身の相手してるわけにゃいかないんだよ!」ズバッ

分身悟空第二弾「キキッ、ウキィ…」ドサッ

「よしっ!次だ、次!ドンドン蹴散らして行くぞっ!」
「おぉっ!あいつやるなぁ…よぉし、俺達も続くぞ!さっさと分身始末して本物倒さねぇと、アリスさんに合わせる顔が無いしな!」
「そうだね。アリスちゃんの為にもあいつらここで食い止めないとねっ!気合入れ直そう!」オォー!!

シュタッ

分身悟空第一弾「ったく、やっぱ分身出し過ぎっと精度も強さも下がっちまうな……あの程度の剣術にやられちまうなんて、情けねぇったらないぜ」

「出たぞ!まともな言葉話してるって事はアイツ強い分身だ!みんな気を付けろ!」
「あぁ!こいつには大勢で一気に仕掛けるぞ!そうでなきゃ勝てないぞ!」
「了解!近くにいる奴は手を貸せ!一気に叩いて動きを封じてやれ!!」

分身悟空第一弾「ヘヘッ、一気に叩くっつぅ判断は正しいけどよぉ……一つだけ間違ってんなぁお前ら」

ビュバッ

分身悟空第一弾「分身だっつっても俺ァ孫悟空だ!倒してぇってぇんならその倍の人数で襲ってこなけりゃ話になんねぇぜぇ!!」ブォン
786: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/20(火) 01:26:40 ID:MEA 
「ぐ、ぐあぁぁっ!さっきの猿っぽい分身より何倍も強い…!」ドサッ
「ま、まさか分身でこれ程に力の差があるとは……ぐふっ」ドサッ

分身悟空第一弾「ヘヘッ、俺の実力は本体と遜色ねぇからな!さぁ次はどいつだ?何匹束になってこようと俺は相手してやるぜぇ?」

ビル「フッ…分身如きが大口叩くじゃねぇか。いいぜ、今度はこのビル様が相手になってやろうじゃねぇか」スッ

分身悟空第一弾「お前…確かさっき赤ずきんに二度も撃たれてたトカゲだろ?やめとけ、お前の実力じゃ俺には敵わねぇからよぉ」

ビル「うるせェ!!俺の専門は接近戦なんだよォ!銃とかいう卑怯な武器でやられたってノーカンだあんなもん!今度こそ俺の実力思い知らせてやらァ!」オォン?

分身悟空第一弾「……」

ビル「ヘヘッ…どうやら俺の凄さを感じ取ったようだな?だが今更命乞いしたって遅いぜ!このビル様の妙技、余すことなく披露してやるぜぇ!」

分身悟空第一弾「いや、どうでもいいけどよぉ……お前後ろ気をつけた方が良いぜ?」

ビル「あぁん?後ろがどうかしたって言うのかy」クルッ

分身悟空第三弾「うっほほーい!!シンゴチャァァァン!」ウッチャン

ビル「べぶっ」ゴキッ ドサッ

分身悟空第一弾「あーあー…こいつ本当に口だけだったな…。つぅかよぉ、オメェはもうちょっと俺等と意思の疎通できねぇのかよ?動きも読めねぇし戦いにくいったらねぇぜ」

分身悟空第三弾「うほほーーっい!『孫悟空』デ ググルト サイヤジン ノ ホウバッカリ デテクルゥゥゥーー!!」ナットクイカナイ

分身悟空第一弾「何言ってんのかわかんねぇっての…。まぁ、言うだけ無駄か…しゃあねぇ、本体が青い鳥倒しちまうまで雑魚共は俺が食い止めてやるかぁ!」

・・・
787: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/20(火) 01:29:14 ID:MEA 
一方、玉龍VSメリーアン

バシュッ ババッ バッ シュババ

「なんてハイレベルな戦いなんだ…!龍の娘の方が上手に見えるがメリーアンも負けちゃいない!」
「あいつ元々やたら格闘に詳しかったし、今回更に力つけたみたいだしなぁ…多分タイマン勝負なら俺達の中で一番強いぜ」
「あんなに強いのになんでメイドなんかやってんだアイツ……」

玉龍「隙ありッス!玉龍ちゃんのとっておきっ!龍の爪!山さえ斬り裂く鋭利な刃、その身で味わうといいッス!」ズバッ

メリーアン「……」スタッ

玉龍「おっとっと、今のは決まったと思ったんスけどね。流石はウサギちゃん、身のこなし軽々ッスね…!」

メリーアン「……っ」スタッ ブンッ

玉龍「っとぉ…!間髪入れずに反撃ッスか!でも爪を使わなくったって接近戦はお手の物……なんて言ってる傍から捕えたッスよぉ!流石は玉龍ちゃんッス」ガシッ

メリーアン「……違う、捕えさせた」クルッ

玉龍「あん?何を強がりを言って……あだだだだ!ちぎれるちぎれるッスゥゥゥゥ!!」ビキビキ

メリーアン「……このまま左腕をネジ切る」ギギギッ

玉龍「くぅ…可愛い格好の割にえげつないッス!でも思い通りにはさせないッスよ…!」クルンッ

玉龍「おっ…らぁぁ!!玉龍ちゃんエスケープ!はー…しっかし今のはヤバかったッスね」ゼーゼー

メリーアン「……抜けだされるとは、不覚。しかし称賛に値する、あの状態から抜け出せる者はそう多くはない」
788: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/20(火) 01:31:56 ID:MEA 
玉龍「あんたの技、関節技…って奴ッスね?噂には聞いたことあるッスけど受けたのは初めてッスよ」

メリーアン「関節を極めれば、どんな相手でも沈められる。例え相手が龍の娘でも」

玉龍「テクニックでパワーを押さえつけるって感じッスかー。でもそういう小細工に頼るって事は、力押しに不安があるって事ッスー!」シュバッ

メリーアン「……」シュバッ

ババッ シュババッ ヒラッ ババッ シュバババ

「本来ならメリーアンの援護をすべきなんだろうが……思わず見入っちまう。何なんだこの激しい攻防は…目が離せねェ!」
「仕方ねぇよ、こいつ等は俺達の理解を越えた攻防を繰り広げてる。下手に援護なんかしちゃかえって邪魔になる」
「あぁ、でも仲間が頑張ってるんだ。目をそらさず見届けようぜ」
(戦闘で破れたメイド服が背徳的な感じでグッド…!チャイナドレスのスリットから見える生足がセクシーでグッド…!)

ババッ ビッ シュババッ

メリーアン「……」ゼーハー…

玉龍「どうやらスタミナにはいまひとつ自信無しって感じッスね…!メイドちゃんの弱点見抜いたりッス!」シュババ

メリーアン「……弱点、そんな物は関係無い。私はメイド、与えられた任務を遂行するのみ」ググッ

玉龍「弱点を見抜かれても戦おうって気概…そういうの嫌いじゃないッス!まっ、弱点を見抜いたところであんたは油断ならない相手ッスから…全力玉龍ちゃんッスよー!」バッ

メリーアン「望む所…。どちらにしてもあなたを先に行かせるわけにはいかない。それは――『アリスお譲様』の意思に、反する」バッ

・・・
789: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/20(火) 01:34:49 ID:MEA 
一方、孫悟空VS青い鳥(怪鳥形態)

青い鳥「ブルウウウウウォォォォォッ!!」グワッ

ガキィィン

孫悟空「おおっと、危ねぇ危ねぇ。そんなバカデケェくちばしで啄ばまれちまったらハラワタが取り返しのつかねぇ事になっちまう」シュタッ

青い鳥「ぐぅ…これだけ身体の大きさに差があるって言うのに、どうして攻撃が通らないんだ!?」グヌヌ…

孫悟空「そりゃあ、オメェ…図体がデカけりゃその分動きも鈍っちまうのが普通だからな。玉龍の奴だってそうだ、まぁあいつの場合はでかくても素早いけどな」ヘヘッ

青い鳥「ぐぬぬ…。さっさとこいつを倒さなきゃアリスさんに申し訳が立たない…!いつまでもモタモタしてちゃアリスさんに恩返しできない…!」

孫悟空「だからそれがわかんねぇんだよなぁ…。他の連中は【不思議の国のアリス】の住人だからまだ解るんだがよ」

孫悟空「お前は【青い鳥】の世界の住人だ。アリスを崇める理由も無けりゃ敬う理由だってねぇハズなんだがなぁ…?」

青い鳥「……アリスさんは僕を救ってくれたんだ。あの最悪で残酷な世界から、僕を助け出してくれたんだ」

孫悟空「ほう、お前を助けた…?アリスがか?」

青い鳥「あぁ、そうだ。だから僕はアリスさんに従うし恩を返したいんだ、だからお前をここで食い殺す…!」ガキンッ

孫悟空「そう殺気立つなってのに。さて如意棒、出番だぜ。ちょっくら奴の背中に飛ばしてくれよ……っとぉ!」ビュバッ

スタッ

青い鳥「なっ!?如意棒を利用して僕の背中に……!えぇい降りろ!降りろ!さもないと振り落とすぞ!!」

孫悟空「そう暴れんなって、俺は少しばかりお前と話がしてぇだけなんだからよ」
790: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/20(火) 01:39:22 ID:MEA 
青い鳥「そうやって僕を話術で懐柔しようって魂胆か!?見え透いた手だ!そんな手には――」

孫悟空「ちげぇよ。まぁ俺の説得でお前が退けば一番だがな」

青い鳥「誰が退くもんか!そんな事より早く降りろよ、不愉快だ!降りないって言うなら全速で飛んで振り落とすしか――」

孫悟空「よっこいせっと」ドカッ

青い鳥「なんで座った!?降りろって言ってるだろ!座るな!まぁいい…!すぐに振り落として――」

孫悟空「やめとけって。お前なら知ってんだろ?俺ァ龍の背にだって雲にだって乗りなれてんだ、今更デカイだけの鳥の背から落ちたりしねぇよ」

青い鳥「くっ…!何が目的だ!?」

孫悟空「だから言ってんだろ、オメェと話がしてぇと思ってな」

青い鳥「だから僕と話す事の目的を教えろって言ってるんだ!そうか、情報を聞き出すつもりか?そうだな!?」

孫悟空「お前、少しばかり思い込みが激しいタイプじゃねぇのか…?どうでもいいことだけどよ」

青い鳥「警戒するのは当然だろう!僕とお前は敵同士、急に話がしたいなんて何か裏があるに決まっている!だってさっきまでお互いの事を倒そうと打ち合っていたんだぞ!?」

孫悟空「だからこそだ、戦う前はお前の事なんざどうとも思っちゃいなかったが…。お前に殺気を向けられ、攻撃され、それを交わしてるうちになんか引っかかりを感じたんだよなぁ」

孫悟空「どうもお前の攻撃からは迷いっつぅか後悔っつぅか……そういうもんを感じるんだよな。戦う事に対する覚悟が固まってねぇっていやわかりやすいか?」
791: ↓名無し:17/06/20(火) 01:52:25 ID:9e4 
「お譲様」はお嬢様の打ち間違いか、、?
1
792: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/20(火) 01:53:55 ID:MEA 
青い鳥「馬鹿な…!僕はアリスさんの為に戦うと決めた!覚悟だってしてるんだ、あまり僕を侮辱するような真似をすると許さないぞ!」

孫悟空「なぁ青い鳥。お前……アリスに救われたって言ったよなぁ?」

青い鳥「……あぁ、言ったさ」

孫悟空「つぅ事は『何か』がお前を苦しめてたって訳だ。その『何か』ってのはよぉ……一体、なんなんだ?」

青い鳥「……言っただろ、お前に理解なんか出来やしない。だから話す必要だってない」

孫悟空「あぁそうかい。でも俺はお前の背から降りねぇぜ?っつぅか……このまま如意棒をお前の身体に突き刺すことだって、俺は出来るんだぜ?」

青い鳥「……。おとぎ話【青い鳥】だ」

孫悟空「あぁ、お前の生まれ育った世界だろう?それは知ってるぜ。そうじゃなくてよぉ、お前を苦しめたもんが何か話してみろって言ってんだよ」

青い鳥「察しが悪いな。だからそう言ってるだろう、僕を苦しめたのは【青い鳥】というおとぎ話、そして世界そのものだ」

青い鳥「この際だ、もっとわかりやすく言ってやろうか?僕はあの世界の主人公チルチルとミチルが嫌いだ」

青い鳥「あいつらに青い鳥を探して来いなんて言った老婆が嫌いだ。連中に協力した精霊が嫌いだ。そんな物語を紡いだ作者が嫌いだ」

孫悟空「そいつぁ…どうしてだ?理由が、何かあるんだろ?」

青い鳥「理由?あぁ、あたりまえじゃないか。連中は僕から家族を奪った、両親も兄弟も友人も連中のせいで死んだんだ」

青い鳥「そして連中は僕から未来を奪った。自由を奪った、自分達が幸福になるために――僕達を追いかけまわして、何もかも奪ったんだ」

1
796: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 01:06:21 ID:f8n 
ビュオォォォォ バサバサッ

「おぉっ、青い鳥の奴ものすごい高さまで飛び上がったぞ!」
「孫悟空に背中をとられた時はヤバいと思ったが杞憂だったな、あの高さじゃ相手もむやみに動けねぇ。さぁどうする?そのまま振り落とすつもりか?勢いよく叩きつけるつもりか?」
「どっちにしろ考えがあってのことだろうさ。孫悟空は奴に任せて俺達は分身を始末しようぜ、アリスさんの願いの為に!」シュババ

玉龍(先輩、青い鳥との打ち合いの中で何かを感じ取ったみたいッスけど…。今更、あいつと話なんかしてどうしようっていうんスか?それで何かが変わるなんてとても――)

ビッ

メリーアン「……心外。私の相手など余所見をしながらでも十分、そう言いたいのですか?」ハァハァ

玉龍「そんなことないッスよ。でもこればっかりは勘弁して欲しいッスね、恋する乙女はいつだって愛する人を目で追っちゃうもんなんスからっ!」シュバッ

玉龍(……余計な心配をしている余裕はないッスね。でも大丈夫ッス、先輩の事だから何か考えがあるに違いないッスよ)

・・・

青い鳥「……孫悟空。お前は知っているのか?【青い鳥】がどんな物語なのか、【青い鳥】が僕達に何をしたのか」

孫悟空「悪ィが詳しくは知らねぇ。チルチルとミチルって名の子供が青い鳥を探して旅する話だって事くらいしか、な」

青い鳥「まぁそうだろうね。あの【西遊記】の主人公、天下無双の孫悟空様には他のおとぎ話の筋書きなんて興味無いだろうしね?ましてや異国の貧乏人の物語なんか眼中にないか」

孫悟空「ぐっ、よく知らねぇのは事実だから言い返せねぇ…。にしても随分とトゲのある言い方しやがるなお前…」

青い鳥「……まぁいいさ、成り行きだ。話してやるよ、僕の事。【青い鳥】の事をね」
797: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 01:10:37 ID:f8n 
青い鳥「ある村にきこりの夫婦、そしてチルチルとミチルという兄妹が住んでいた。こいつらが【青い鳥】の主人公、そして僕はそいつらに飼われていたのさ」

青い鳥「まぁ、飼われてると言えば聞こえはいいけどさ…クリスマスの祝いもまともにできない貧乏な家だ。子供たちが寂しがらないようにカゴに繋がれてたって言う方が正しいかな」

孫悟空「しっかし、また貧しい子供の話か。おとぎ話の主人公の子供達ってのはどうもその手の境遇に置かれてる奴等が多いな…」

青い鳥「ある時、連中の前に老婆が現れた。そしてチルチルに魔法の帽子を渡してこう言うんだ『病気の娘を助けるために、幸せを呼ぶ青い鳥を探して欲しい』ってね」

青い鳥「青い鳥は幸福を運んでくる。そんな戯言を信じたお人好しの兄妹はあっさり了承して、青い鳥を探す旅に出かけたよ。世界を渡る事が出来るその魔法の帽子を使ってね」

孫悟空「ん…?ちょっと待ってくれ。青い鳥、お前はチルチルに飼われていたんだろ?」

孫悟空「だったらわざわざ余所に探しに行く必要なんかねぇだろ?すぐ手元にお前がいるんだからよ」

青い鳥「その頃の僕の翼は青くなかったのさ。白い羽だったか灰色の羽だったか忘れたけどさ」

孫悟空「そりゃあ…どういう事だ?」

青い鳥「……そんな事、僕が知りたいくらいだ」

孫悟空「あぁ?」

青い鳥「【青い鳥】の筋書きを最後まで聞けばわかるさ。というかわざわざ話してやっているんだ、話の腰を折るのはやめて欲しいもんだね」フンッ

孫悟空「そりゃ悪ぃ事したな。ほら、もう黙ってるから続けてくれ」
798: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 01:17:11 ID:f8n 
青い鳥「旅に出た二人は立ち寄った世界ですぐに青い鳥を見つけた。でもその鳥は捕まえた途端、羽の色が抜け落ちて『青い鳥』じゃなくなった」

青い鳥「それでも二人は諦めず、幸せを呼ぶ青い鳥を探し続けた。そして次の世界でも青い鳥を見つけたけれど……それも捕まえた途端に死んでしまった」

青い鳥「どこの世界へ行っても結果は同じだ。兄妹は青い鳥を追い続ける、けれど手にした途端に鳥達は本来の姿を失うか死んでしまう。その繰り返し――」

青い鳥「……そして結局、青い鳥を捕まえる事が出来ずに兄妹は老婆の元へ帰ってくる。そして青い鳥を捕えられなかった事を詫びるんだ」

青い鳥「そこで老婆は言うのさ。『そのカゴの中にいる、お前の鳥をおくれ』ってね」

孫悟空「そりゃあ、お前の事だな?」

青い鳥「あぁ、そうだよ。さっき話した通り……ただの小鳥だった僕は兄妹が気づかぬうちに青い鳥になっていた。二人が追い求めていた青い鳥は、すぐ近くにいた」

青い鳥「あとは僕を老婆に渡しておしまい。追い求めていた幸せはとても身近な場所にあった。そういうおとぎ話だ、【青い鳥】というのは」

孫悟空「なるほど、な…。大体理解したぜ【青い鳥】がどんなおとぎ話かって事はな。でもまだ話は終わっちゃいねぇ、そうだろう?」

青い鳥「あぁ、そうだよ。チルチルとミチルは大冒険の末に、老婆の願いを叶えて病の娘を救えた。そうなりゃお人好しのあいつらも幸せ。文句なしのハッピーエンドだ」

青い鳥「でも僕が話したいのはこんな事じゃない。この物語の筋書きを知った上で、始めっから物語を追ってみようか?今度は主人公であるチルチル達の視点じゃなく――」

青い鳥「生まれたときからおとぎ話の事情と、自分の運命を知っている僕の視点でね」
799: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 01:18:56 ID:f8n 
孫悟空「お前、知ってたってのか…?おとぎ話がどういうもんかって事を、生まれたときから」

青い鳥「あぁ。別に驚く事じゃないだろう?あんたの友人のかぐや姫だって師匠の三蔵法師だって知っていたんだ、僕も彼等と同じだ」

青い鳥「始めは特になにも思わなかったさ。チルチルもミチルも優しくしてくれたし、カゴの中の生活は快適では無かったけど安全ではあった、それに二人の事だって……」

青い鳥「……いや、よそう。僕は脇役だけど、重要な役柄だ。それはあの頃の僕にとって誇りでもあった。でも、チルチルに連れられて色々な世界を巡る事になってすぐに考えは変わった」

孫悟空「そうか、お前は……」

青い鳥「最初の世界で、チルチルが捕まえた鳥は僕の友人だった。兄妹に飼われる前に付き合いのあった親友、ってところかな」

青い鳥「彼は青い羽根を誰よりも誇りに思っていたよ、でもチルチルに捕まえられたばかりにそれを失った」

孫悟空「……」

青い鳥「次の世界でチルチルが捕まえたのは僕の母親だったかな。住んでいた場所が違ったから目を疑ったけれど、自分の母親を間違えたりしない」

青い鳥「当然、死んだよ。その場にいた仲間の青い鳥達も全て。次の世界でも、次の世界も、その次の世界でも同じだ」

孫悟空「チルチルが捕まえるたびにその青い鳥は姿が変わったり命を失う、そりゃあつまり……お前にとっちゃ同族の死ってことか」

青い鳥「想像できるか、孫悟空?カゴの中の僕はチルチルに話しかける事は許されない、カゴから出る事も出来ない、なにも出来ないんだ」

青い鳥「目の前で家族や友人が殺されている、山のようにだ!そうなってしまう事を僕は知っていた、でも自分には何もできない…!その苦しみがお前に解るか!?」
800: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 01:24:15 ID:f8n 
孫悟空「……俺も若い時ツレを余所の輩に殺された。その時の悔しさや哀しさ、どうしようもねぇ怒りってのは理解できるつもりだ」

孫悟空「しっかし……未来を知ってそれでも何もできねぇカゴの中でその現実を見せられ続けるってのは……辛ぇよなぁ」

青い鳥「お前の想像を超える苦痛だよ。彼等は何もしちゃいない、ただ青い鳥が幸せを呼ぶなんていう迷信のせいで狙われて殺された」

青い鳥「そのわけのわからない迷信のせいで…青い鳥達は殺された!幸福になりたいなんていう他人の欲望を満たす為だけに命を狙われた!」

青い鳥「挙句の果てに、ただの小鳥にされたボクをもう一度青い鳥に戻して『幸せは身近な所にいた』?なんだよそれ…馬鹿なのか!?」

青い鳥「そんなわけのわからない教訓を現実世界に広めるために僕は生み出されたのか!?そんな事の為に苦しめられた!そんなくだらない事の為に、仲間を失った!」

孫悟空「……」

青い鳥「僕はもう心底嫌になった。【青い鳥】の世界も、仲間を殺した兄妹も老婆も。恨んで恨んで気が狂いそうだったけど、それでもカゴの中の僕には何もできなかった」

青い鳥「でも、そのままおしまいとはならなかった。物語の終盤、チルチルが老婆の元に帰った時……本来現れる事無い登場人物がその世界に現れた」

孫悟空「それがアリス…って訳か」

青い鳥「偶然か必然か、とてもいいタイミングだった。チルチルは僕を老婆に渡すためにカゴの扉を開けていた。それが僕に与えられた最初で最後のチャンスだった。だから僕は――」

青い鳥「二人を見限った。迷わず逃げた。僕を縛るあのカゴを捨てて、アリスさんの元へと飛び立った」
801: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 01:27:45 ID:f8n 
孫悟空「……お前が老婆の手に渡らなけりゃ物語は進まねぇ、当然代役になるような青い鳥なんか存在しねぇってか」

青い鳥「そうすることで世界が消えてしまう事もわかった、目の前の少女……アリスさんが敵なのか味方なのか、その時は目的すら知らなかった」

青い鳥「でも、僕は迷わなかった。例え自分が死んでも、チルチルとミチルを殺せるのなら良いと思った。仲間の仇をうてるなら、世界さえ消えてしまえと思った」

孫悟空「世界が崩壊していく混乱の中、アリスはチルチルとミチルをさらっていったって訳か」

青い鳥「そんなところだ。アリスさんは自分が自由に動く為に、代役をさせる女の子を探していたからね」

青い鳥「ミチルは代役にはピッタリだったのさ。年の頃はアリスさんよりも幼いけどそこは問題ない、何よりチルチルを人質として捕えれば強制的に従わせられる」

孫悟空「なるほどな…。それで結局【不思議の国のアリス】が結末を迎えて用済みになっちまったから兄妹は幽閉されてるってところか」

青い鳥「そうだよ、僕には関係ない話だけどね」

青い鳥「これでお前も少しはわかっただろう?僕が何故【青い鳥】の世界を見限ったか、何故アリスさんに従うのか」

孫悟空「……あぁ、よくわかったぜ」

青い鳥「だろうね。さぁ、理解できたなら僕の背から降りて貰おうか。もうおしゃべりは終わりだ、今度こそ決着をつけようじゃないか」

孫悟空「そりゃあ、無理な話だぜ青い鳥。さっきも言っただろ?お前の攻撃には迷いを感じる、不安を感じる」

孫悟空「そんな奴とこれ以上戦うなんざ、俺にゃあできねぇな」
802: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 01:37:07 ID:f8n 
青い鳥「またそれか…!ふざけるな!また僕に迷いがあるって?覚悟が決まって無いって!?馬鹿を言うな!」

孫悟空「なぁ青い鳥、お前なんだかんだ言って俺に過去の事話してくれたじゃねぇか」

青い鳥「それはお前がしつこいから仕方なく話しただけだ!それに背中に居座られちゃ気分が悪い!」

孫悟空「だったらどうしてわざわざこんな上空まで飛んで話したんだ?」

青い鳥「それは……お前と話している姿を他の連中に見られたら、裏切ったと思われるかもしれないからだ!」

孫悟空「本当にそうか?お前、本当は誰かに聞いて欲しかったんじゃあねぇのか?」

青い鳥「馬鹿にするな…!僕はそんなに弱い奴じゃない!大体、少し戦ったくらいで僕の何をわかったつもりだ!?」

孫悟空「解っちまうんだよ、何度か攻撃を交わせばな。いいや、お師匠様に解るように努力しろって言われてなぁ、色々苦労して……ってそりゃどうでもいいか」

孫悟空「実際な、【西遊記】の世界で俺達に襲い掛かってくる妖怪の中にもほんの一つまみ程居たんだよ。迷いを心に抱えたまま襲ってくる輩が」

青い鳥「……」

孫悟空「俺としちゃあ倒しちまった方が楽でいいんだが、お師匠様がゆるさねぇンだよ。『迷いを持って戦いに臨んでいる者は、本当は戦いを望んでいないのかもしてない』」

孫悟空「『ですから、そういった者達は例え相手が妖怪だとしても。見逃し、改心の機会を与えるように』ってな。とんだあまちゃん僧侶でなぁ」
803: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 01:42:10 ID:f8n 
青い鳥「……僕も心に迷いを持っている、だから改心改心させよう。そういう考えなんだな、お前は?」

孫悟空「おうよ。これでも一応僧のはしくれなんでな。つぅか、お師匠の教えはしっかり守らねぇとコレがどうなっちまうかわからねぇしな」キンコジコンコン

青い鳥「……」

孫悟空「なぁ青い鳥。この高さじゃあ誰も聞いちゃいねぇぜ、下の連中はせいぜいお前が俺を倒すのに手こずってる程度にしか思っちゃいねぇさ」

青い鳥「……僕はアリスさんに感謝してる。それに不安も悩みも無い。お前に懐柔されるつもりだって毛頭無いんだ」

孫悟空「そうは言うがお前なぁ……」

青い鳥「……ただ」

孫悟空「あぁ?」

青い鳥「……」

孫悟空「何だよ、言いかけたんなら言っちまえよ」

青い鳥「ずっと前から気になっていた……納得がいかない事が、一つだけある」

孫悟空「なんだ、そりゃあ?」

青い鳥「……僕は敵として、密偵としてお前達の身の周りを見てきた。でも、どうしても理解できない事がある」

青い鳥「あのティンカーベルとかいう僕に散々突っかかってきた羽虫がいただろう?あいつはどうして……あんな豚を信用していたんだ?」
1
804: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 01:46:43 ID:f8n 
青い鳥「【ピーターパン】の世界を失って、それを取り戻そうって考えるのは解る。非力な妖精が他人の力を借りようってのも理解は出来る」

青い鳥「でもそれならもっと適任がいるだろう。あの羽虫は世界移動が出来たんだ、魔法や妖術使いに頼るとか……それこそお前の様な強いおとぎ話の住人に頼った方が効率的だ」

青い鳥「高名な魔女に頼むとか、もっと方法はあったはずだろ。現実世界の奴に頼むにしてももっと痩せてて身体能力の高い奴に頼む方がずっとスムーズだったはずだろ」

青い鳥「それなのにあいつはあの豚を選んだ。気持ち悪さに服を着せたようなあのどんくさい豚に自分の運命を託した。それが……理解できない」

孫悟空「お前、そんな事考えてたのか?」

青い鳥「そうさ、悪いか?でも当然だろう、あの羽虫はそれほどに効率の悪い事をしていたんだ」

青い鳥「どうしてあの羽虫はあの豚を信じられたんだ?自分の世界を取り戻してくれると、どうして願いを託せた?」

青い鳥「あんたもそうだ孫悟空。話の筋書きがそうなってるとはいえ、どうして三蔵法師に付き従うんだ?」

青い鳥「三蔵法師はただの人間、お前よりずっと体力が無くて妖術が使えるわけでもない、しかもその肉を食べると不老長寿になるとかで妖怪に狙われてる――」

青い鳥「そんな奴にどうして自分の運命を託そうなんて思えるんだ?マッチ売りの少女も、あの豚の仲間達だって同じだ。力も魔力も実績も無い、そんな奴をどうして信じられるんだ?」
805: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 02:00:51 ID:f8n 
孫悟空「俺とお師匠の場合は…なんつぅか最初は成り行きだったが、結局はこの人となら天竺だろうと何処だろうと行けるって思えたからだな」

青い鳥「なんだよ、それ。結局根拠の無い感情論って事じゃないか」

孫悟空「ティンカーベルも似たような理由だと思うぜ?確かにキモオタより強い奴や頼れるやつはいただろうが、何よりあいつにとってキモオタは他の誰より気があったんだろ」

孫悟空「だからすぐに仲良くなれた、だから信用できた。それだけの話だろ?」

青い鳥「……いくら仲が良くても、好きだった相手でも。ほんの少しのきっかけで、信じられなくなるもんだ。それを僕は良く知ってる」

青い鳥「実際、チルチルもミチルも……僕にとっては大切な友人で家族だった、きっと向こうもそう思っていたと思う。でも……今は見ての通りだ」

青い鳥「仲が良いとか、気が合うとか、信じられる相手だとかそんな感情は脆いもんだ。大事なのは真実の裏打ちがある情報じゃないか」

孫悟空「だから強さと実績があるアリスに従ってるってのか?」

青い鳥「もちろん恩があるからって言うのも本当だ。でもアリスさんなら実績もあるし強さも折紙付きだ、彼女と一緒にいれば……間違いが無い」

孫悟空「……でもそりゃあお前の本音じゃあねぇって訳だな?」

青い鳥「……」

孫悟空「後悔、しちまってんじゃねぇのか?チルチルとミチルを裏切っちまった事をよ」
806: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 02:03:33 ID:f8n 
青い鳥「……解らない。解るわけがないじゃないか」

青い鳥「あの時、僕が二人に向けた怒りの感情は確かなものだ。今だって許しているわけじゃないし、仲間を殺した二人を許す事は無いと思う。この恨みは消えない」

青い鳥「でも、どういう訳だろうな……あの羽虫と豚が仲良くしていたり、無礼なジョークを交わしたり、そういうのを見るたびに兄妹の笑顔を思い出したんだ」

青い鳥「まだ、僕達がただの貧乏な家族だった頃の姿を」

孫悟空「……俺はあんまり偉そうな事言えた立場じゃねぇけどよ。心残りだってぇんなら、やり直したらいいじゃねぇか」

青い鳥「馬鹿を言うなよ、僕を救ってくれたアリスさんだって裏切れない。それに今更やり直しなんて出来るわけがない」

孫悟空「成り行きでそうなっただけで、別にアリスはお前を助けたわけじゃねぇ。そんな事解ってんじゃねぇのか?」

青い鳥「……」

孫悟空「それにな、やり直すことに今更なんてことはねぇよ。間違いに気付いたりよぉ、心残りがあるってならいつだってひきかえしゃいいんだ」

孫悟空「なぁ青い鳥、これを機にやりなおしてみねぇか?今だったらかぐやもドロシーも償いの最中だしよぉ。何だったら俺と一緒に来るってのもありだぜ?」

青い鳥「あんたと一緒にって……天竺へか?」

孫悟空「おうよ。アリスの一件が終わったら旅も再開するからよ。お師匠様以外は償いの旅だからよぉ、お前もすぐに馴染めるぜ。なぁ、どうだ?チルチルとミチルだってよ、お前の話聞きゃあ許してくれるんじゃねぇか?」

青い鳥「……そう、かもしれないな」

ヒュヒュヒュヒュヒュッ

孫悟空「なんだ!?くっ…!あぶねぇ!?畜生、全部は防ぎきれねェ…!」ヒュッ キンキンッ
807: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/06/26(月) 02:06:25 ID:f8n 
青い鳥「ぐあ…っ!」ドスドスドス

孫悟空「こりゃあ投石部隊の攻撃…!?標的は俺か…いや、違う!なんだって青い鳥めがけて攻撃なんかしてんだ連中は…!」キンキンッ

青い鳥「僕の背から離れろ孫悟空…。きっと話したことを感づかれたんだ、そのうち僕を始末するための……次の攻撃が来る」ゼェゼェ

孫悟空「お前に話せって言ったのは俺だ、ここで見捨てられるわきゃあねぇだろうが!」

???「それならばお前もろとも地に叩き落とすまでだな。投石部隊、攻撃を開始せよ」

ヒュヒュヒュヒュヒュッ

青い鳥「ぐぅあ…!!」ドスドスドスッ

孫悟空「青い鳥…!畜生、今の声……誰だ!?姿を現しやがれ!」

チャシャ猫「まったく、様子を見に来てみればこれだ。だから私は反対したんだ、青い鳥はルイスが生み出した存在ではない。余所者は信用できない、必ず裏切るとな」スゥッ…

孫悟空「顔だけ…ってこたぁアリスのとこのチャシャ猫って奴か!?」

チャシャ猫「ご名答。孫悟空、青い鳥を懐柔しようとしたようだが残念だったな。こいつはもうじき墜落する、使い物にはならない」

孫悟空「懐柔なんかじゃねぇ、俺ァこいつが迷ってるみてぇだったから道を示してやっただけだ」ギロリ

チェシャ猫「どっちでも同じだ、この鳥の末路は決まっている。が…今まで尽くしてきた褒美だ、お前の態度次第では命までは奪いはしないが。青い鳥、どうだ?」

青い鳥「僕は……解りません。ただ、ただ……やり直しが、出来るというのなら――」フラフラ

チェシャ猫「もう結構、これ以上は聞く意味が無い。…つくづく選択を誤る無様な鳥め。投石部隊、攻撃に移れ。裏切り者を処分しろ」

821: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/03(月) 00:07:47 ID:mC2 
補足番外編『お師匠様の教え』

ずっとずっと昔 まだ孫悟空と三蔵法師が共に旅を始めた頃
西遊記の世界 とある村はずれ

タッタッタッ ザザッ

孫悟空「ヘヘッ、ようやく追いつめたぜぇ!ったく、下級の雑魚妖怪のクセして逃げ足だけは一人前だなぁ?おぉん?」

妖怪「ひっ、ひえぇぇ…!ど、どうか慈悲を…!命だけはお助けを…!」

孫悟空「あぁん?慈悲だぁ?先に手を出してきやがったのはテメェだろうが!都合のいい事抜かしてんじゃねぇぞオラァ!コラァ!!」

妖怪「ひ、ひぃぃ!すいませんすいません!三蔵法師っていう僧侶の肉を喰えばスゲェ妖力が得られるって話を聞いて、それでつい魔がさして…」

妖怪「も、申し訳ありませんでした!この通り反省しています!ほ、ほんの出来心だったんです!どうかどうかお許しを…!」ペコペコ

孫悟空「出来心だぁ?テメェの都合なんざ知った事じゃねぇ!俺ァ守護者としてお師匠に仇なす輩は残らずブチ殺す!一撃で冥土に送ってやっから感謝しなぁ!!」ビュオンビュオン

妖怪「ひ、ひぃぃ…!」ガタガタブルブル

孫悟空「ヒャーッハッハッハ!!下級妖怪の分際で調子に乗りやがった事、地獄で永遠に悔やんでやがれクソ雑魚g……アァァーーーッ!?」ビキビキビキ

ガッシャーン

妖怪「!?」ビクッ

三蔵法師「まったく…いい加減にしなさい悟空!完全にチンピラの立ち居振る舞いではないですか!仏様に仕える者としての自覚をしっかり持ちなさい愚か者!!」ナムナムナム
822: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/03(月) 00:08:48 ID:mC2 
孫悟空「痛い痛い痛いィィ!なんでこのクソ輪っかが締まりやがる!?俺の何が間違ってるってんだよお師匠オオオォォ!!守護者として真面目にそいつをブチ殺そうとしただr…アアアァァーー!!」ガシャーン

三蔵法師「戦意喪失している者を…しかも命乞いをしている相手を攻撃するなど許されません!恥を知りなさい!」

孫悟空「はあぁぁ!?こいつはアンタを殺そうとしたんだぞ!?自分の身も護れねぇ人間如きが甘ぇ事言ってんじゃねぇぞハゲコラァ!あっ、すまねぇ…ハゲは言い過ぎた悪かったっtアァァァーー!!」ドガシャーン

三蔵法師「……さて、あなた」

妖怪「は、はい…!」ビクッ

三蔵法師「早々にお逃げなさい、この暴れ猿がおとなしくしている間に」

妖怪「お、俺はあんたを殺そうとしたってのに…許してくれるんですかい?」

三蔵法師「反省しているというあなたの言葉を信じるだけです。次は無いと肝に銘じ、今後は邪な事を考えず真面目に生活するよう心掛けなさい」

妖怪「あ、ありがとうごぜぇます…!これからは真面目に暮らしていきます!そ、それじゃあ俺はこれで…!」タッタッタッ

三蔵法師「……さて、これで彼も心を入れ替えてくれることでしょう。あなたもそう思いますね、悟空?」

孫悟空「」

三蔵法師「いつまで横になっているのですか!シャキッとしなさいシャキッと!!」ドゴォ

孫悟空「おうふっ…!ハァー…ハァー…あまりの激痛に気絶しちまってたぜ…。天竺への旅、俺にとっちゃこの輪っかが一番の障害なんじゃねぇか…?」ゼハーゼハー
823: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/03(月) 00:18:27 ID:mC2 
・・・

孫悟空「キッチリ説明してもらうぜお師匠!どうしてあの妖怪を逃がしちまったんだ!?言っとくが戦意喪失してたとか命乞いしてきたとかいう甘い言いぶんじゃ俺ァ納得しねぇぞ!?」

三蔵法師「…悟空、私とあなたが旅を共にするようになってまだ数日です。ですが既に多くの妖怪が私の命を狙って来ていますね?」

孫悟空「あぁ、うんざりするくれぇにな…。まぁ仕方ねぇさ、お師匠の肉を食らえば不老長寿になれるだとかバカデケェ妖力が手に入るってぇ噂が流れてるらしいからよぉ」

孫悟空「弱っちぃ人間一人殺せばスゲェ力が手に入るってんだ、そんな好機逃す手はねぇよ。まっ、俺ァ既に不老不死だし他人食って強くなってもつまらねぇから興味ねぇけどな」

三蔵法師「まったくハタ迷惑な噂です。ただ火の無い所に煙は立ちません、もしかすると真実かもしれませんが…」

孫悟空「おいおい、それがどうしたってんだよ?んなもんあの妖怪を逃がした事とは関係ねぇだろ?」

三蔵法師「関係ありますよ。それよりも…悟空、先程の妖怪は強かったですか?」

孫悟空「いいや、妖力もねぇに等しい下級の妖怪だったぜ。まぁ、雑魚中の雑魚ってとこだ。だからこそアンタを殺して力を得ようってんだろうな」

三蔵法師「でしょうね。おそらくあの者はきっと自分自身の弱さを知っていた、だからこそ『三蔵法師を殺せば力が手に入る』…そう聞いて思わず出来心で私達を襲ったのでしょう、心に迷いを残したまま」

孫悟空「あぁ?迷ってたかどうかなんてわからねーだろ。それになんで出来心かどうかなんてわかるんだよ。あいつが言ってた事なんざデマカセかもしれねぇだろ」

三蔵法師「迷いなど無く心の底から私を殺そうというのなら、あなたがのたうちまわっていたあの状況で逃げたりせずに私を攻撃するはずでは?」

孫悟空「……そう言われてみりゃあ、確かにそうだ。雑魚とはいえ妖怪、人間相手に遅れなんかとらねぇしそんな事は解ってるはずだよな…」
824: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/03(月) 00:49:18 ID:mC2 
三蔵法師「魔がさした、出来心だったというあの者の言葉はおそらく真実。今後、彼は改心して真っ当な人生を送る事ができるです、それでも命を奪う必要がありますか?」

三蔵法師「迷いを持って戦いに臨んでいる者は本当は戦いを望んでいないのかもしれません、そういった者達に改心の機会を与える……必要な事なのですよ、これは」

孫悟空「……まぁ、そういう事だったら殺す必要はねぇよ。殺しちまったら償いも改心もできねぇからな」

三蔵法師「そういうことです。人も妖怪も生きている以上間違いを犯すものです、判断を誤ったり悩みや不安に弱い心を揺らされるものです。それを頭ごなしに否定して処罰してはなりません」

三蔵法師「いいですか悟空。私達は天竺へ向かっていますが…これは目的ではなく手段です。本来の目的は仏の教えを広め、そして世界を平和に導く事なのです」

三蔵法師「目の前に選択や判断を誤った者がいたならば、その者達を導き救うという行為もまた私の私達の役目なのです。わかりましたね?」

孫悟空「そりゃいいけどよぉ…。相手の頭ん中は当然見えやしねぇんだ、そいつが何かしらの悩みや不安を抱えてるなんてもんどうやって見抜くんだ?」

三蔵法師「悟空程の実力を持ってすれば拳を交えた相手の心のうち程度なら見破れるのでは?あなたは五百年以上生きてるんですから、出来ますよね?」

孫悟空「んなわけねぇだろ!無茶ぶりにも程があるってもんだ!つぅか何百年生きようとできねぇもんはできねぇっての!」

三蔵法師「そうでしたか。では出来るようになってください」ニッコリ

孫悟空「お師匠じゃなかったらぶん殴ってるとこだぜ……。まぁいいぜ、俺は守護者だ。お師匠がそうしろって言うなら従うまでだ」

三蔵法師「よろしい。それでこそ私の守護者です。改めて…共に天竺を目指しつつ世界を良いものに変えていきましょうね。長く困難な旅になるでしょうが、それでも笑顔がついて回るような旅にしたいですね」

孫悟空「おう、まかせときなお師匠。…っていうかよぉ、お師匠大丈夫か?」

三蔵法師「? 何がですか?」

孫悟空「いやな?命狙われて、天竺への旅もしてるってのに世直しみてぇな事にも手ぇだして…そんで敵にまで情けかけちまってよ。あれもこれも考えすぎなんじゃねぇか?あんまり頭使いすぎると、毛根が死滅しちまうんじゃねぇか?もうしてるって?ハハッ!」

三蔵法師「ハハハ、面白い事を言いますね悟空……毛根が、死滅ですか。ハハハ……」スッ ジャラッ

孫悟空「えっ…なんで数珠握りしめてんだよ?えっ、ちょっ!?今の冗談だからな!?お師匠が笑顔がついて回るような旅が良いって言うから俺なりの冗談で……やめろ、やめろぉぉぉ!!」


アァァァーーーー!! ガシャーン

829: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/04(火) 04:20:09 ID:3Zr 
「よしっ、攻撃命令が出たぞ!みんな準備を急げ急げ!マッハで準備して速攻で殺すぞ!」
「もちろん!今度こそ青い鳥を撃ち落とすぞ!まったく、仲間だと思ってたのに裏切るなんて…酷い奴だ!」
「そうだな。アリスさんに散々お世話になってたくせに孫悟空に何か言われたくらいでなびくなんて…許せねぇ!」
「青い鳥が裏切ろうとしてるって見抜いてくれたチェシャ猫には感謝しないとな!さぁ準備急げ急げ!俺達の団結を見せてやれ!裏切り者を許すなー!」

青い鳥「うぐぐ……」ヨロヨロ

孫悟空「耳を貸すな、好きに言わせとけ!それより避ける事を考えろ!とっとと逃げちまうかもっと高度上げるとか出来ねぇのか!?」

青い鳥「悪いけど無理だよ…最初の投石で僕の両翼はボロボロでね。飛び去るのも飛び上がるのも難しい…今、この高度を保っているのだって結構無理してるんだ」ゼェゼェ

孫悟空「となると、この場で石の雨を迎え撃つか投石部隊そのものを叩くか…ってところか。玉龍!そっから投石部隊叩けねぇか!?」

玉龍「もうとっくにやろうとしてるッスよ!でもこのメイドが案外粘るんスよぉ!ぐぬぬ…玉龍ちゃんの邪魔をするなッス!」シュバッ

メリーアン「……行かせない。投石部隊が連中を仕留めれば、私達の勝利は決定的。その為にも、あなたは私が食い止める」ギギッ

孫悟空「チィ…玉龍には頼れねぇか。だったら連中に如意棒ブチ込んで…いや駄目だリスクがデカ過ぎる。となるとどうにかして投石を全部はじき返すか?いや、現実的じゃねぇ……考えろ考えろ、何か打開策があるはずだ」ブツブツ

ラプンツェル「ねぇねぇ悟空ー、何をそんなに悩んでるのー?晩ごはんのメニューで悩んでるなら、私がアドバイスしてあげよっか?」ヘラヘラ

孫悟空「いらねぇよ!今は晩飯の事なんざどうだっていいんだよ!この危機をどう切り抜けるか考えてるに決まってんだろ!」

ラプンツェル「そっかー、ごめんごめんー。私なんだかお腹すいちゃっててー、だからついついご飯の事考えちゃってた。ねーっ、ロック鳥ー?」テヘペロ

ロック鳥「ルォォー」バッサバッサ

孫悟空「ったくよぉ、ラプ公……どうしてお前はそう緊張感ってもんが――」



孫悟空「!?」ニドミッ
830: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/04(火) 04:23:12 ID:3Zr 
孫悟空「ラプ公!?どうしてテメェがこんな所にいるんだよ!?」

ラプンツェル「どうしてって…私もみんなと同じ!アリスをやっつける為にここに来たんだよ!」フンスッ

ラプンツェル「でね、大きなお城が見えたからとりあえずロック鳥の背中に乗って飛んできたらー、なんか悟空が難しい顔してるの見えたから話しかけてみたの!そーだよねーっ?ロック鳥ー?」ナデナデ

ロック鳥「ロォック!」バッサバッサ

孫悟空「そんな事聞いてんじゃねぇんだよ!テメェ今の今までどこで何をしてやがったんだ!?キモオタ達はお前の事ずいぶん心配してたんだぞ!何があったか知らねぇがせめて一報入れるとか――」

青い鳥「孫悟空、今は説教している場合じゃあない。奴ら、ようやく準備が完了したみたいだ。来るぞ……無数の石の雨が!」

孫悟空「チィッ!そうだったぜ……説教は後だラプ公!こうなりゃお前にも手ぇ貸してもらうぜ!」

ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!

ラプンツェル「わーっ!見て見て悟空!下にいる動物たちが一斉に石を投げてきたよ!私あんなの初めて見るよー!」ワクワク

孫悟空「ワクワクしてんじゃねぇよ!いいか?この青い鳥はもうロクに飛べねぇんだ、当然あの攻撃を避けるなんてできねぇし見捨てるなんて事もできねぇ!」

孫悟空「あの数の投石だ、少し厳しいかもしれねぇが…俺とお前でなんとか全て防ぐしかねぇ!できるか?ラプ公!?」

ラプンツェル「んー…?ねぇねぇ悟空、よーするにあの石ころ全部なんとかしたらいいんだよね?」

孫悟空「あぁ、だからそう言って――」

ラプンツェル「じゃ二人もいらないね!あれくらいなら私だけでも簡単にできるよー!悟空、なんかちょっと怪我とかしてるし休んでても良いよっ!」フンスッ
831: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/04(火) 04:26:58 ID:3Zr 
孫悟空「あぁん!?テメェこりゃあ遊びじゃねぇんだぞ!?あの数の投石を一人でなんとかできるわけが――」

ラプンツェル「ふっふっふー……ところがどっこい私にならできるんだよー!悟空はそこで見てるといいよー!」バッ

シュルシュルシュルルッ

ラプンツェル「いくよー!私の魔法の髪の毛!急いで編もうっ、みぎひだりみぎひだりー!」アミアミアミアミ

孫悟空「長い長い髪の毛を交互に編み込んで……なるほど、そういうことか!」

ラプンツェル「ヘヘーン!ラプンツェル特製『髪の毛の網』だよー!これを使えば簡単に……石ころ全部キャーッチできるよねっ!」バッサー

ポスポスポスッ

青い鳥「おぉ…!投石が全部髪の毛の網に絡め取られていく…!」

孫悟空「たまげたぜ…!本当に一人でなんとかしちまいやがった…!」

ラプンツェル「じーびーきーあーみっ、とー!大漁大漁ー!どうどう?私の新しい技すんごいでしょ、悟空びっくりしたでしょー?褒めても良いんだよ~?」ドヤァァァァァ

孫悟空「褒めてやりてぇとこだがまだ戦いの最中だろうが!油断すんじゃねぇ!」

ラプンツェル「ちぇーっ…まぁいっか。さってとー…この大量の石ころどうしよっかなぁー……ずっと持ってても重くてロック鳥が可哀想だし、捨てちゃおっと」バッ

孫悟空「お、おい待て待て!いくら相手は敵だっていってもだな、こんな高さから石なんざ落としたら――」

ラプンツェル「えっ?もう捨てちゃったよ?」キョトーン

ドサドサドサー
832: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/04(火) 04:28:55 ID:3Zr 
ドスドスドスドスドス

「う、うわぁぁぁー!!殺される…石の雨に殺される…!これが因果応報って奴か!?逃げろ!逃げろぉぉー!」
「に、逃げろったってこんなもん避けようが……ぐえっ」ドサッ
「お、おい!大丈夫か!?……おぶっ」ドサッ
「さ、最悪だ…!地獄絵図じゃないかこんなもん……げぶっ」ドサッ

青い鳥「うわぁ…ひどいこれ…」

孫悟空「おーい!玉龍!お前大丈夫か!?まだ生きてるかー!?」

玉龍「生きてるッスけど…ふざけんなッスー!!あやうく死ぬところッスよ!?もっと良く考えて行動しろってそこの金髪ロングに言って欲しいッス!」プンスカ

孫悟空「わ、わりぃ…俺も油断してた……」

ラプンツェル「あははっ、戦いの最中に油断しちゃ駄目だよ悟空ー」ケラケラ

孫悟空「こいつ……」イラァ

ラプンツェル「でもでも、何はともあれ石ころ攻撃は全部なんとかできたし、石投げてくる動物も退治出来たからこれでよかったよね?バッチリ大成功ー!ロック鳥もがんばってくれてありがとねー」ナデナデ

ロック鳥「ルォォォー」テレテレ

孫悟空「戦果的には上出来なんだが…なんか喜べねェ…」
833: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/04(火) 04:31:35 ID:3Zr 
ギャーギャー ワーワー

チェシャ猫「ラプンツェル…。やはりあの魔法の髪の毛は厄介だ。それに馬鹿な奴には常識が通用しない、その点も脅威といえよう……」

チェシャ猫「豚共と合流し損ねたという情報は得ていたが、やはり来たか…。奴の髪の毛と馬鹿さ加減は警戒する必要がある、一応アリスに報告しておくか…」スゥゥ

「待ってくれチェシャ猫!あの馬鹿女のせいで投石部隊は壊滅状態だ!少しでもいい、増援をまわしちゃもらえねぇか!?」

チェシャ猫「難しい相談だ、これ以上ここの防衛に人員を割けば城内の守りが手薄になる」

「し、しかし…」

チェシャ猫「案ずる事など無いだろう。確かに投石部隊はもうまともに機能しないだろうが、数の理はまだこちらにある。やりようによってはいくらでも戦える」

チェシャ猫「それに…こちらに応援を向かわせれば必然的にアリスの負担が大きくなる。それは諸君らの望まぬ事だろう?」

「確かに自分達のミスをアリスさんに押しつける形になるのは避けたい…」

チェシャ猫「ならばこの場は諸君らで食い止めよ。アリスも諸君らの活躍を期待している事だろう、頼りにしているぞ」

「アリスさんが俺達に期待を…!わかりました!決死の覚悟でこの場は死守します、アリスさんの願いの為にも!」

チェシャ猫「頼もしい返事だ、アリスも喜ぶだろう。では私は持ち場へ戻る、後は諸君らに任せるとしよう」スゥッ…

チェシャ猫(返事だけは一人前な連中だ。まぁこんな連中でも利用価値がある以上は持ちあげてやるさ、利用価値があるうちだけはな)

チェシャ猫(やれやれ、まったくアリスは何故こんな雑魚共まで大切にするのやら…理解に苦しむ。雑兵は使い捨てが効く事が一番の利点だろうに…)

チェシャ猫(まぁいい、忠誠心の強い連中は便利だ。槍にでも盾にでもなる、生かして置いて損は無い)
834: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/04(火) 04:32:46 ID:3Zr 
孫悟空「まぁ、なんだ…多少納得いかねぇ部分はあるがお前のおかげで窮地を脱せたぜ、ありがとうなラプ公」

ラプンツェル「どういたしまして!」エッヘン

孫悟空「それでだな、ラプ公。もう一つ頼まれごとを引きうけちゃくれねぇか?」

ラプンツェル「んー?もちろん良いけど、なにすればいーの?」

孫悟空「こいつを…青い鳥をどこか安全な場所へ運んでやっちゃくれねぇか?ロック鳥ならこいつを背に乗せてもなんとか飛べるだろ?」

ラプンツェル「んっと、ちょっと待ってね?どうかなロック鳥、大丈夫そう?……うん、わかった!ギリイケるって言ってる!」テテーン

孫悟空「そうか!じゃあ悪ぃがこいつの事頼むな。俺はそろそろ下に降りて玉龍の助太刀してやらねぇといけねぇし」

ラプンツェル「わかった!おーぶねに乗ったつもりでラプンツェルさんに任せなさい!」フンスッ

孫悟空「さっきの有様見てるとイマイチまかせっきりにできねぇんだが……まぁ、頼んだぜ」

青い鳥「……待ってくれ、孫悟空」

孫悟空「あぁ?どうした?」

青い鳥「…あの様子じゃあ僕は遅かれ早かれチェシャ猫に始末されていただろう。だから助けてくれた事、感謝してる」

孫悟空「ヘヘッ、良いって事よ。礼を言ってもらう為に助けた訳じゃねぇし、お前が攻撃されちまった一因は俺にあるしな」

青い鳥「それで…なんだ、なんていうのかな。さっき、君が言っていた話。あれは信じても構わないのか…?この戦いが全て終わったら――」

孫悟空「天竺への旅に同行しねぇかって話か?おう、もちろん信じてくれて構わねぇぜ!あたりまえじゃねぇか」ニッ
835: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/04(火) 04:34:52 ID:3Zr 
青い鳥「そうか、そう言ってもらえると…嬉しいよ」

孫悟空「その代わりウチの連中はやかましいぜ?玉龍はあんなだし八戒は五分に一度飯の催促するんだ。悟浄は影薄いしお師匠は頭が薄いってな、なんつっても坊主だからよぉ」ハハハ

孫悟空「でもよぉ、あそこならきっとお前も変われるぜ。少なくともアリスの所にいるよりはお前自身が心の底で望んでる姿に近づけるはずだ」

青い鳥「そうか、そうだといいね。そしていつか、いつになるかわからないけれどチルチルとミチルと……もう一度話をしないとね」

孫悟空「まっ、それもこれもアリスをとっちめなきゃあ話にならねぇ。つぅわけだ、俺はそろそろ行くぜ?じゃあラプ公、あとは任せるぜ!んじゃあお前ら、また後でな!」

ラプンツェル「うんうん、わかったよー!じゃあ行こっか青い鳥っ!ロック鳥の背中に乗って乗ってー」

・・・

孫悟空「さぁて……少しばかり青い鳥と話し込みすぎちまったぜ。今までサボっちまった分、今から取り変えさねぇとなぁ」シュタッ

「孫悟空の奴が降りてきたぞ!警戒しろ!大勢で取り囲んで逃がすな!」
「おう!こっちも被害はあったが分身もいくらか始末できたからな、そのうえ孫悟空は消耗してる!さっさと倒しちまおうぜ!」
「これ以上好き勝手はさせられねぇ!一気に押し潰すぞ!」

孫悟空「テメェ等、なぁんか勘違いしてやがるなぁ…?俺達が苦戦してたのはあの投石部隊と馬鹿デカイ青い鳥の相手をしなきゃならなかったからだぜ?つまりよぉ……」

孫悟空「テメェ等だけに集中できるってぇんなら、何十人束になって掛ってこようが俺は微塵も負ける気がしねぇ!」

孫悟空「さぁて…最後になっちまうだろうがその目にしかと焼き付けな、【西遊記】の孫悟空の武勇って奴をよぉ!んじゃあ行くぜぇ!伸びやがれッ、如意棒オォォ!!」シュバッ
836: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/04(火) 04:40:54 ID:3Zr 
ハートの女王の城前 上空 ロック鳥の背中

ラプンツェル「ねぇねぇ、さっきから気になってたんだけど…すっごく顔青いよ?大丈夫?もしかしておなかいたい?」

青い鳥「……青いのは元々だ。身体はあちこち痛いけど、翼を動かさなくていいから少しは楽だよ」

ラプンツェル「そっかー、でもどうしよっかー?悟空は青い鳥をどっか安全な所に連れてったげてって言ってたけど、どこが安全かな?ロック鳥、わかるー?」

ロック鳥「ルォー…?」

青い鳥「ラプンツェル、君はハートの女王の城を目指しているんだよね?」

ラプンツェル「そうだよ!みんなと合流し損ねちゃってさ、遅刻しちゃったけど…多分みんなここにいるよね!」

ラプンツェル「それにね、前に友達と約束したの。その約束を守る時が今だから…私は絶対にお城に行かなきゃいけないの、そんでもってシンデレラを取り戻すの!」

青い鳥「だったら…僕も連れて行ってくれ。僕なら城の中も知ってるから道案内できるし、シンデレラが居るはずの場所も見当がつく」

ラプンツェル「道案内してくれるって事だ!やったね!あっ…でも、悟空との約束もあるしなぁ…」

青い鳥「いいよ、僕がそうしてくれって言ったらいい」

ラプンツェル「えー、ホントにいいの?結構ボロボロだけど、辛くない?」

青い鳥「平気だよ。それに今頃孫悟空はあの軍勢相手に戦ってるんだ、僕だけ安全な場所で時間が過ぎるのなんて待っていられないよ」
837: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/04(火) 04:41:33 ID:3Zr 
ラプンツェル「そっか、わかった!それじゃあお手伝いしてもらうね!」

青い鳥「といっても、僕にできる事といえば道案内だけだけど」

ラプンツェル「それだけでも十分だよー!それで、えっと…シンデレラが良そうな場所知ってるって言ってたよね?それって、どこなのかなー?」

青い鳥「今頃、シンデレラは桃太郎と戦っているはずだ。そしてその戦いの舞台はきっと、城にあるダンスホール」

ラプンツェル「あっ、それってぶとーかいとかする広いお部屋?」

青い鳥「そうだ、シンデレラが速度という武器を生かすにはあそこが一番適しているから」

ラプンツェル「なるほどー!んじゃあ私達はそのダンスホールに行けばいいんだね!ちなみにそれって、ここから見える?」

青い鳥「あぁ、丁度見える。ほら、あそこだ。広いテラスがある場所があるだろう?あそこがダンスホールだ」

ラプンツェル「りょーかい!それじゃあ早速あのお部屋に急ごうっ!早く桃太郎手伝ってあげなきゃだしシンデレラも助けてあげなきゃだよー!ねっ、ロック鳥?」

青い鳥「そうはいうけど、結構入り組んだ先にあるんだよあの部屋は。とりあえず、城門前に降りてくれるかい?そこから詳しい道順を説明するから」

ラプンツェル「? どうして?」キョトーン

青い鳥「えっ…どうしてって、何が?」

ラプンツェル「だってここからダンスホールは見えてるんだよ?だったらこっから行くのが一番早いでしょ?」

青い鳥「はっ…?あんた何言って――」

ラプンツェル「そんじゃあお願いね、ロック鳥!よーしっ、お友達の所までレッツゴー!」

ロック鳥「ルォォォッ!」バッ ビュバー

青い鳥「ちょ、ちょっと待って!あのテラスにおりようって事だよね?それにしちゃ速度出過ぎじゃないか!?まさか突っ込むつもりじゃないよな!?ちょ、ちょっと待ってって!待て!待てっつってるだろ!」

ビュバーッ

・・・

848: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/10(月) 02:24:12 ID:GV5 
ハートの女王の城 ダンスホール

アシェンプテル「ここはいつ来ても静かだな」カツンカツン

アシェンプテル(高い天井。豪奢な照明。この城内でも有数の広さを誇る女王自慢のダンスホール。非常に立派な造りだが、アリスが言うには本来の用途で使用される事は無いらしい)

アシェンプテル(なんでも女王は踊る事もそれを見る事もあまり好まないらしい。まぁ、あの性格ならばそれも納得だ。私が口出しすることではないが、少々もったいない気もする)

アシェンプテル「……」カツンカツン

アシェンプテル(ダンスホールは嫌いではない。私は踊る事もそれを見る事も好きだ、大勢の人々が集う賑やかなダンスホールでは自然と心まで踊りだす)

アシェンプテル(だがこうして静かなホールも嫌いではない、なんというか心が落ち着くのだ。特に常に賑やかなこの世界では貴重な独りになれる静かな場所。私のお気に入りの場所だ)

アシェンプテル「……いけないな」

アシェンプテル(ふと、愛した男の顔が頭をよぎる。我ながら情けない、あれはもう過去の男だ。今の私には必要の無い男だ)

アシェンプテル「この場所は好きだ。好きだが…どうしても余計な事を思い出す」

アシェンプテル(『未練など無い』私は自信をもってそう言いきれる。にもかかわらずふいに過去の事を思い出してしまう、それは主に愛した男であったり……かつての友人の事)

アシェンプテル「……まったく、不甲斐ない」フンッ

アシェンプテル(腹が立つ。私は…『アシェンプテル』は過去を捨てて歩んでいくことを決めた。それなのに『シンデレラ』は今も私の心にしがみついているのだ、往生際の悪い事に)

アシェンプテル「だがそれも時間の問題だ。私はこの戦いで過去を完全に断ち切る。『シンデレラ』もあの連中も、全てまとめて蹴り落とす…そう決めたのだからな」
849: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/10(月) 02:31:28 ID:GV5 
ハートの女王の城 廊下

ライオン「も、もうすぐだよ桃太郎さん!この先が女王様のダンスホールだよ!」ダッダッダッ

桃太郎「いよいよか…。キモオタの予想だとシンデレラはそこにいるんだよな…」

ライオン「う、うん!それで、あの、もうそのまま進んじゃっても大丈夫かな?た、戦いの準備はできてる…?」ダッダッダッ

桃太郎「……」スッ

桃太郎(拙者はこれまで幾度となく戦って来た。盗賊やチンピラの類、猛獣…それと悪鬼。実力が追い付いていない者、拙者よりはるかに強い相手、それこそ色々な相手と刃を交えてきた)

桃太郎(でも、仲間と戦った事は一度も無い。正直な気持ちを言うならシンデレラと戦うのは怖い、恐ろしい。…それは大悪鬼の様な今までの強敵相手に感じた恐怖とは少し違うもの)

ライオン「も、桃太郎さん?も、もしも準備できてないなら一旦ここで止まって…支度を整えた方が――」

桃太郎「いや、大丈夫。ちょっと他の事考えてた、ごめん。拙者は身も心も準備万端だから、そのまま進んでくれる?」

ライオン「わ、わかった!桃太郎さんがそう言うなら…!」ダッダッダッ

桃太郎(大丈夫、恐ろしい事なんか何もない。拙者はただ友達に会いに行くだけだ、心を蝕まれた友達を取り戻しに行くだけ)

桃太郎(大丈夫、大丈夫。舌切りも金太郎も食わず女房も…拙者を送り出してくれた。それに拙者がシンデレラの相手をすると言った時、キモオタも他の皆も誰一人反対しなかった)

桃太郎「皆、拙者の事を信じてくれた。拙者なら、シンデレラを…友を取り戻せると信じてくれた。それなら出来ない道理が無い」

桃太郎(それに拙者にはシンデレラを悪魔の鏡の破片から解放する策がある。拙者の治癒能力じゃ魔力は消せない、だったら魔法具に対抗するには――魔法具だ)

桃太郎(これが…この刃があれば、拙者はシンデレラに巣くう悪しき魔力と憎しみの心を斬り伏せる事が出来る)
850: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/10(月) 02:36:56 ID:GV5 
ハートの女王の城 ダンスホール前

ライオン「つ、着いたよ桃太郎さん…。こ、ここが目的の場所だよ」スッ

桃太郎「うん、ありがとうなライオン。お前のおかげでここまで迷うことなく来れた、拙者一人じゃこうはいかなかっただろうし…感謝してるぞ」モフモフ

ライオン「え、えへへ…。桃太郎さんの役に立てたなら、僕は嬉しいよぉ~。で、でも本当にシンデレラさんはここにいるのかな…?」

桃太郎「多分、この扉の向こうにシンデレラは居る。人の気配を感じるからな、それも一人だけ。それで……ライオンは、どうする?」

ライオン「えっ?ど、どうするって…?」

桃太郎「シンデレラは今、悪魔の鏡の破片に精神を侵されてる。この扉を開けば戦いは避けられない…もしもお前が戦いたく無かったり、ドロシーが心配でそっち行きたいっていうなら――」

ライオン「だ、大丈夫…!ドロシーちゃんにはキモオタさんがついてくれてるし…ここまで来たら僕も桃太郎さんと一緒に…た、戦うよ!」

桃太郎「そうか!一緒に戦ってくれるっていうなら心強い!いやー…実は一人で戦う事になったらどうしようかなってちょっと思ってた」ハハハ

ライオン「あはは…。あっ、でも僕、デカイ図体してるくせに見かけほど強くないしシンデレラさんより遅いしで役に立てないかもだし、むしろ足引っ張るかも…」

桃太郎「ちょ、ちょっとお前そう言う後ろ向きな事言うのやめろって!拙者までなんかつられちゃうだろ!」

ライオン「ご、ごめん…」

桃太郎「大丈夫だって、拙者もお前も数日前よりずっと戦えるようになってる。気持ちが後ろ向いちゃってたらさ、うまくいくもんもいまくいかないって」

桃太郎「戦う前から後ろ向いてちゃ斬るべきものも斬れないし斬らなくていいものまで斬っちゃうしさ。だからさ、こう…しっかり前向いて行こう!そうすりゃ結果もついてくるって!」
851: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/10(月) 02:41:43 ID:GV5 
ライオン「うん、うん…そうだよね!前向きに、ポジティブにいかなきゃだよね!」

桃太郎「そうそう!拙者達は見事シンデレラを救いだして、そんでアリスもなんとかして消えた世界も取り戻すんだ。そしたら一緒に舌切りのとこに報告に行こうな」

ライオン「うん、そうしよう。僕も舌切りさん達にいろいろとお礼もしたいから…」

桃太郎「その為にもまずはシンデレラを救わなきゃな。それじゃあ扉、開けるぞ…?」スッ

ライオン「う、うん…!」

ギィッ…バターン

アシェンプテル「……あぁ、ようやくの到着か。遅かったじゃあないか桃太郎?」

桃太郎「……随分と待たせてしまったみたいだな、シンデレラ」スッ

アシェンプテル「ああ、すっかり待ちくたびれてしまったよ。あまりに遅いものだから怖気づいて逃げだしたのかと思っていたところだ」フフッ

桃太郎「あいにく、友を見捨てて逃げだす程…拙者は落ちぶれてはいない」

アシェンプテル「まだそんな事を言っているのかお前は…。まぁいい、だが友を大切にするのならばそのライオンを連れてきたのは間違いだったな」

桃太郎「間違い?一体、何を言っ――」
852: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/10(月) 02:58:25 ID:GV5 
桃太郎「シンデレラが消えた…!攻撃が来るぞライオン…!十分に用心してくれ!」スチャッ

ライオン「わ、わかった…!」ジリジリ…

桃太郎(さぁ、どう出る…?シンデレラの狙いは当然拙者だ、だが先程の口ぶりから察するにライオンを攻撃する可能性も考えられる…!)

ヒュバッ ゴシュッ

ライオン「ぐうっ…!」ヨロッ

桃太郎「ライオン…!シンデレラ!お前の狙いは拙者だろう!?無関係のライオンを攻撃する必要がどこにある!」ヒュバ

ガキィィンッ

桃太郎(やはり厄介なのはガラスの靴…!硝子なんて脆いもんのハズなのに、宿った魔力のなせる技か…!)

アシェンプテル「無関係?あまり笑わせないでくれ桃太郎。戦う意思を持つ者が対峙した時点でここは既に戦場だ」スタッ

アシェンプテル「戦場に立っている以上、私の目の前にいる以上、そこにどんな理由があろうとも私の敵だ。殺意を向けるには十分な理由だ」

アシェンプテル「それとも『友達』の『シンデレラ』ならライオンを攻撃してこないとでも?それはあまりに甘い考えだな?」

桃太郎「クッ…!すまないライオン!今、傷を癒すからな!」ダッ

ガキィンッ

桃太郎「ぐっ…!邪魔をするなシンデレラ…!」ギギギ

アシェンプテル「だから笑わせるなと言っているだろう桃太郎?邪魔をするに決まっているじゃあないか。お前の治癒能力は厄介だからな」
853: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/10(月) 03:03:12 ID:GV5 
アシェンプテル「お前は手をかざすだけでどんな傷でも癒せる、例え肉裂け骨折れる程の大怪我だとしても。そしてその能力を行使する上で代償を必要としない」

ヒュバッ ゴシュッ

ライオン「ぐあっ…!」ヨロッ

桃太郎「……っ!」

桃太郎(速すぎる…!ライオンへの攻撃、拙者の妨害、それを一度にこなせる身軽さ…ガラスの靴、知っちゃいたけどなんて恐ろしい魔法具だ…)

アシェンプテル「お前のそれは治癒を行う能力としては非常に優れたものだ。敵に回しては非常に厄介、ただ攻略する方法が無いわけじゃない。お前の能力のも弱点はある」スタッ

ライオン「ぜぇぜぇ……だから、僕を…殺そうっていう考え……?」ヨロヨロ

アシェンプテル「そうだ、桃太郎の能力では死者を蘇生する事は出来ない。それならば殺してしまえばいい、ただそれだけの事だ。そう、こんな風に――」スッ

桃太郎「んな事おぉ…させるかぁぁぁ!!ライオンから離れろシンデレラァァ!!」シャキン

アシェンプテル「……っ!」ヒュッ

ライオン(な、なんで…?いままで桃太郎さんの攻撃を受けてたシンデレラさんが攻撃を避けた…?)

桃太郎「よし…!ごめんライオン!拙者が甘かった…すぐに治すからな!どっか特に痛いところあるか!?」パァァァァ

ライオン「そ、それは大丈夫だけど…。な、なんでシンデレラさんは桃太郎さんの攻撃を受けずにかわしたのかな…?」

桃太郎「きっと峰打ちじゃあ、なかったからだ。今までのシンデレラへの攻撃は全部、刀の刃がついて無い方でやってたけど。今の一撃は違う、刃のついている方で斬りつけた」

ライオン「そ、そうだったの…?」

アシェンプテル「あぁ、そいつは根性無しだからな。そんなヘタレに友人だと思っている相手を真剣で斬りつけるなんて出来るわけがないだろう」

アシェンプテル「思わずかわしてしまったが…真剣で攻撃をしてきたという事は、殺意を向けてきたという事は、お前は認めたという事だな桃太郎?」

アシェンプテル「私と、お前達の間にもう友情などという淡い絆は存在していないという事を」フンッ

桃太郎「……」

858: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/11(火) 02:22:53 ID:1RM 
アシェンプテル「これで理解しただろう?今、私とお前の間にあるのは殺意だけだ。『救う』だの『取り戻す』だのいくら口にしたところで、どちらかが死ぬまでこの戦いは終わらない」

ライオン「桃太郎さん…」

桃太郎「大丈夫だ、確かに下手を打っちゃったけども…ここから挽回すればいいんだ。ここからは常に相手の攻撃を警戒しよう、ライオン」チャキッ

ライオン「うん、わかった…。このままじゃあ僕、足引っ張ってるだけだ…。次こそ名誉挽回できるようにがんばらなきゃ…!」ガルルゥ…

アシェンプテル「…まだ心は折れていないという訳か。お前の事だからすぐに尻尾を巻いて逃げると思ったが…少し驚いたよ、桃太郎」

アシェンプテル(……実際のところは『少し』なんてものじゃない、私はこの男の行動に相当驚いている)

アシェンプテル(私が知っている桃太郎は剣術の腕は一級品だがそれを霞ませてしまう程に臆病で精神的に脆弱な男。そのくせ情に厚くて仲間を大切にする…甘い男だ)

アシェンプテル(だからこそ私はライオンを標的にした。先程自称していたように桃太郎は仲間を見捨てない見捨てられない、ライオンを手負いにするということは桃太郎の退路を遮断することと同義だ)

アシェンプテル(逃げるに逃げられない状況。自分が協力を要請したせいで手負いになった仲間。今もなお友だと思っている相手からの殺意。それらは桃太郎の脆弱な心をいとも容易く折る……と思っていた)

アシェンプテル(だがそれは違った。心が折れてしまうどころか、奴は私に対して刃を振るった。それは以前の桃太郎では考えられない事だ)

アシェンプテル(少なくとも私が知っている桃太郎ならば、容易く心が折れている。そして私に刃を向ける事など、決してできなかっただろう)

アシェンプテル(だというのに……少し会わなかった間に、随分と変わったようだ。特別な修業でも積んだか?あるいは何かしらの心境の変化か……)

アシェンプテル(どちらにしろ、目の前の侍は……私が思っているよりもずっと、一筋縄ではいかないのかもしれない)
859: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/11(火) 02:24:54 ID:1RM 
アシェンプテル(……だと、してもだ。私の目的はただ一つ、相手が少々変わっていようと成すべき事は変わらない)

アシェンプテル(目の前で、まっすぐな瞳を私に向けてくる侍を始末すること。ただ、それだけだ)

桃太郎「……」ジッ…

アシェンプテル「どうした?随分と慎重になっているようだが…私を斬るのならば今が好機だぞ?一度駆けだせばもう、お前に私を捕える事は出来ないのだから」スッ

アシェンプテル「それとも後悔でもしているのか?『シンデレラ』を救うだ取り戻すだの言っておきながら、結局お前は私に刃を向けたのだからな」

アシェンプテル「お前は自ら、自分自身の目的を否定したのだ。『シンデレラ』はもういない、今の私は既に仲間ではなく…殺意を向けるに値する敵であるという事を、お前は認めたんだ」

桃太郎「いや、拙者はそんなつもりは無いんだけど…」

アシェンプテル「言い訳とは見苦しい真似を…。ならばお前は何故私に刃を向けた?傷つけ殺すため、それ以外の理由があるのか?」

桃太郎「なんていうか…こんな言い方したらお前は怒るだろうけどさ。拙者がお前に刃を向けた理由、それはお前を信じていたからなんだよ」

アシェンプテル「……流石にその戯言は笑えないな。敵を、信じるだと?」

桃太郎「さっき城の前で、拙者はお前の蹴りを受け止めた。その時、お前の実力は油断ならないものだって確信したんだ。でも、流石にそれだけじゃ本当の実力までは測りきれなかった」

桃太郎「だから峰打ちで戦ってたんだ。お前の本当の実力がわからないうちから真剣で斬りつけちゃ、怪我させるかも知れなかったからな」

アシェンプテル「ということは、まさかお前は…手加減していたのか?」キッ

桃太郎「いやいやいや!そんなもん出来る程余裕ないから!手加減って言うんじゃなくて、戦ううちにお前がどの程度の実力なのか理解できたっていうほうが正しいかもな」

桃太郎「だから拙者はあの時、真剣を振るってもお前ならきっと避けるって思えた。いや、お前なら絶対に避けるって確信が持てた、信じれた。だから拙者はお前に対して真剣を向けたんだ」
860: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/11(火) 02:27:49 ID:1RM 
アシェンプテル「……私の力量も思考も、お前にはお見通しだったという訳か」

ライオン「す、少し戦っただけで相手の実力を測って次にとる行動まで予想しちゃうなんて…!やっぱり桃太郎さんはすごいや…!」

桃太郎「いやいや、凄くないって…本当ならお前がライオンを標的にする事の方を気づくべきだし。まだまだ未熟だって、拙者は」

アシェンプテル「そう謙遜するなよ桃太郎。敵の力量を見抜き行動を予測する…まるで本物の侍のようじゃないか」

桃太郎(えぇ…拙者も一応侍だけど…)

アシェンプテル「だが、それが出来たからといって勝てるわけじゃあない。そうだろう?」

桃太郎「あぁ。拙者だってこれでお前に勝ったつもりでいるわけじゃない、ただどうしても知っておいて欲しかったんだよ」

アシェンプテル「……」

桃太郎「拙者は、お前を…シンデレラを取り戻すのを諦めたから刃を向けたんじゃあない。例え友に刃を向けてでも、拙者はお前を取り戻す」

桃太郎「それにお前は知らないかもしれないけど、侍っていうのはな……目に見えないものだって斬っちまうんだよ」

桃太郎「心に潜む悪しき感情とか、恨み辛みとかさ…。心を縛って精神を蝕む――魔法の力とか、さ」

アシェンプテル「聞くまでも無く、お前はシンデレラの奪還を諦めていないんだな?」

桃太郎「諦めるくらいだったらここまで来ないし、自分から『必ず取り返すから行かせてくれ』なんて大口叩かないよ」

桃太郎「拙者にはお前をキモオタ達の所に連れて帰る、それ以外の未来は無いんだよ」
861: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/11(火) 02:30:10 ID:1RM 
アシェンプテル「それがお前の決意であり覚悟か、桃太郎。なるほど、良く解った――だが」

ヒュッ

アシェンプテルの声「私にだって決意も覚悟もある。そして私は、私自身の尊厳と意思を守る為にも……必ずそれを成す」

ライオン「し、シンデレラさんの姿が…!またどこから来るかわからない攻撃…!」

桃太郎「用心するぞライオン!あれだ、目で見ようとしたって駄目だ!空気の流れっていうか…肌で感じれば案外わかるぞ!」

ライオン「そ、そんな達人みたいな事言われても…。急には出来ないよぉ…」

桃太郎「そ、そうか…!じゃあとりあえず拙者の側に来てくれ!そうすりゃシンデレラの攻撃は絶対こっちに来るだろ!」

ライオン「い、いいけど…それじゃあ防御しきれなかったら二人まとめて倒されちゃうんじゃ…」

桃太郎「それは問題ない!こっちに攻撃が来るって解ってたら――」

ガキィィンッ

桃太郎「なんとか防ぎきれる…!」

アシェンプテル「……見事、と褒めてやろう。だが、身を守ってばかりじゃあ埒が明かないぞ」
862: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/11(火) 02:34:38 ID:1RM 
アシェンプテル「私もお前と戦ううちに一つ気がついた事がある。桃太郎、お前は……何かを狙っているな?」

桃太郎「ばれてるのか…。気づかれないつもりだったんだけどな…」

アシェンプテル「気づくさ、時折お前の意識が私では無い方に向いているからな。具体的に言うのならば――」

アシェンプテル「お前が背中に背負っている、布の撒かれた何か……何かしらの武器の類だろう、切り札といったところか?」

桃太郎「見抜かれてるなら隠す必要もないか…。そうだ、お前の予想通りこれは武器だよ、お前を正気に戻すための魔法具だ」

ライオン(……桃太郎さん、あの魔法具を本当に使うつもりなのかな……?)

ライオン(あれを使えば確かにシンデレラさんを正気に戻せるかもしれない。でも、一歩間違えればその命を奪ってしまうかも知れないのに……)

アシェンプテル「…隠すつもりは無し、か。余程自信があるようだな…?」

桃太郎「自信なんか、拙者はいつだって無いよ。ただ自信があろうとなかろうと…やるべき事はやり遂げる!いざ……!」チャキッ

アシェンプテル「いいさ、お前がそのつもりならば私も全力で相手をしてやる。この速さに、ついてこられるとは思えないがな。さぁ……!」カツン

ヒュバッ

桃太郎「参る…!」ザッ
アシェンプテルの声「行かせてもらう…!」ビュバッ

ヒュゥゥゥゥ…ガッシャーン!!!

桃ンプテル「「!?」」バッ



ロック鳥「ルオッルォォォォォッ!!!」ガッシャーン

ラプンツェル「あははははははっ!ガシャーンだって!ガシャーンだって!あはははは!!」アハハ

青い鳥「あああぁぁぁーー!!本気で突っ込むとか馬鹿か…!馬鹿だお前はラプンツェアァァァ!!!」ウワアァァァ

873: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/14(金) 02:24:55 ID:UEH 
スタッ

ラプンツェル「よーしっ、ここが目的地のダンスホールだねっ!うんうん、無事にとーちゃくして良かったよ~!ロック鳥が頑張ってくれたおかげだねっ、ありがとっ!」ナデナデ

ロック鳥「ルォッ!」モフモフ

青い鳥「無事に到着したって!?ガラスと瓦礫をこんなにぶちまけておいてよくそんな事が言えるな!?大体あんたは――うぅ、ダメだ…大声出したら傷に響く……」ヨロヨロ

ラプンツェル「だいじょーぶ?あっ、私おくすり持ってるから青い鳥にあげるよ!これ飲んだら大丈夫!ほらほら飲んで飲んで、すぐ治っちゃうから!」スッ

青い鳥「(痛み止めかな…?)ありがとう、助かるよ。それじゃあ早速……なんだか飲み薬にしては妙にドロッとしてるけど、まぁいいか…」ゴクゴク

青い鳥「人間用の薬が効くかわからないけど少しは……ってこれ『塗り薬』って書いてあるじゃないか!?なんで飲ませたんだ!?」

ラプンツェル「あっ、ほんとだ!えへへ、なんか間違えちゃったー、ごめんね!でもこのおくすりはすんごく効くよ?こないだちょっと火傷した時もすぐ治った!」ドヤッ

青い鳥「痛み止めですらないとか…。ダメだ、怪我とは別の理由で目眩が…」フラフラ

ラプンツェル「あちゃー、だったら休んでた方が良いよ!ねぇねぇロック鳥!こっちは私だけで頑張ってみるからロック鳥はそこで青い鳥と一緒にいてあげてくれるー?」

ロック鳥「ルオォォッ!」バサッ

アシェンプテル「……」

桃太郎「おいいぃぃぃ!!ラプンツェルお前なにやってんだよぉぉぉぉ!!とりあえず無事でよかったけどさぁ!」タッタッタッ

ラプンツェル「あっ、桃太郎だ!ちょうど良かった!私お腹すいてるからきびだんごちょっと分けてー!」トテトテ

桃太郎「食ってる場合か!今まさに戦いの火ぶたが切って落とされるって雰囲気だったんだぞ!?まぁお前がブチ壊しちゃったけども!」
874: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/14(金) 02:30:43 ID:UEH 
ライオン「あ、あのぉ…すごい勢いでガラス突き破ってきたけど…ら、ラプンツェルさん達は怪我とかしてないのかな…?」

ラプンツェル「大丈夫!ロック鳥がいい感じに突っ込んでくれたからちょっとの怪我もしてないよ!」フンス

桃太郎「なんか色々といいたい事あるんだけども…っていうかまずなんで窓から入ってきたんだよ!」

ラプンツェル「えっ…?窓から入るのっておかしい?でも私がちっちゃい時からママは塔の出入りに窓使ってたよ?今は私もあの窓から下りたり入ったりするし…。だから普通でしょ?」

ライオン「そ、そっかぁ…ラプンツェルさんの塔には出入り口が窓しかないから、窓からの出入りが普通なんだねぇ。じゃ、じゃあ仕方ないね、桃太郎さん」

桃太郎「騙されるなライオン、全然仕方なくないから!ラプンツェルのペースに飲まれちゃ駄目だって!」

アシェンプテル「……相変わらず、お前の頭の中には花畑が広がっているようだな。ラプンツェル」フゥ…

ラプンツェル「えっと…?あれっ?シンデレラ……だよね?んー…でもなんだか雰囲気も喋り方も違うし……すんごく似てるけど別人だよね?」

桃太郎「…いいや、別人なんかじゃない。悪魔の鏡の影響を受けて性格も雰囲気も変わっちゃってるけど、こいつはまぎれもなくシンデレラ本人だ」

アシェンプテル「肉体的にはな。だがお前の友人だった『シンデレラ』はもう存在しない、目の前にいる女はお前とは縁の無い赤の他人の灰かぶり『アシェンプテル』だ」

ラプンツェル「そんな……そんなのって……私、信じられないよっ!」プルプル

桃太郎(ラプンツェル、随分と衝撃を受けてるみたいだな。無理もないか…魔法具の影響とはいえ仲良くしてた友達がここまで変わってしまったんだからな。衝撃を隠せないだろう…)

ラプンツェル「桃太郎、どうしよう…!シンデレラがなんだかすんごく   っぽいドレス着てる…!前はこんなの絶対着なかったのに…信じられないよっ!だってあの格好セクシー通り越してヒワイだよ!?捕まっちゃわない!?」ガビーン

桃太郎「そこはどうだっていいだろ!みんな気づいてるけどなんとなく黙ってるんだからわざわざ言うなって!」
875: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/14(金) 02:38:29 ID:UEH 
ラプンツェル「だって見てよあれ!すんごいスリット入ってるし、    のとこだってがばーって開いてて肩も背中もでてるし!あんなので走ったら絶対に    ぽr」

桃太郎「具体的に言うなよ!拙者も直視しづらいの耐えてんだぞ!」

ライオン「ふ、二人ともそんな事言ってる場合じゃないよぉ…」ワタワタ

ラプンツェル「でもさー、私が知ってるシンデレラはあんまり肌がでなくて可愛い感じの服の方が好きだったし、そっちのが似合ってたよ?」

アシェンプテル「私は自分が着たいものを着ているだけだ。あの時と違って…今はあれを着ろこれを着ろとやかましく言う王家の者はいないのでな」

ラプンツェル「でもー、魔法使いもシンデレラの旦那さんもきっと前の方が好きだって言うよー?」

アシェンプテル「だからどうした?今や連中と私の間につながりなど無い。それに他人の好みや主張に合わせて流されているとロクなことにならない」

アシェンプテル「それこそ流されるがままに舞踏会へ向かい、一切の努力をする事無く王族に成り上がり、しなくてもいい苦労をする羽目になるのだ」

ラプンツェル「苦労ー?」

アシェンプテル「能天気なお前にはわからないだろうがな、貧民の娘が一夜にして王家の仲間入りを果たしたとなれば相応の苦労がついて周る。お前達もその片鱗をあの日見たはずだが?」

ラプンツェル「えーっと、シンデレラが玉の輿に乗ったからおんなじようになろうとしてた女の人がいっぱい国にいたんだっけ?」

桃太郎「そんな事もあったな。まぁそれだけじゃなかったんだろう、目立つって事は良くも悪くもいろんなもんを引き寄せるからな…富や名声に妬みとか陰口、数え上げりゃキリがない」

桃太郎「拙者が悪鬼を征伐して帰った時もそうだった。称賛の声は大きく得たものは多かったけど……まぁ、いいもんだけじゃ無かったからな」

ラプンツェル「んー…?私にはよくわかんないなー…?」
876: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/14(金) 02:47:54 ID:UEH 
アシェンプテル「解る必要などないだろう。お前の頭でそれが出来るとは思えない、それに出来たところで先の短い命だ」

アシェンプテル「ラプンツェル、お前の能天気な雰囲気にあてられてしまったのか…長々と無駄な会話を続けてしまったが、それももう終わりだ」スッ

桃太郎「ラプンツェル…!用心しろ!『シンデレラ』だろうと『アシェンプテル』だろうとあのガラスの靴は姿さえ見えない程に戦場を駆ける!」

ラプンツェル「んー……」

桃太郎「ちょ、聞いてんの!?認めたくないけど今のあいつは拙者達の事を敵としてみてる油断してたらそれこそ――」

ラプンツェル「私はあんまり頭良くないからシンデレラが苦労したこととか、何か嫌なことがあったのかーとか、魔法具がどーとかよくわかんないけどさ」

ラプンツェル「悩んでる事があったら私に言ってくれたらよかったんだよー?っていうか今でもオッケーだよ!友達の相談にならどんなときだって乗ったげる!」フンス

アシェンプテル「要らない世話だな。それに言ったはずだ、私にとってお前は赤の他人。友人などではない」

ラプンツェル「またまたー!私は知ってるよー?それは魔法具に心がぎゅーってされてるからそんな事言ってるだけでしょー?」

アシェンプテル「……解らないというのならその身に刻んでやろうか。私とお前の間には、今や何もないという事を」

ラプンツェル「だったら私はその逆をやっちゃうからね!今だって私とシンデレラはおともだち!悪魔のナントカって魔法具のせいで見えにくくなってるだけで」

ラプンツェル「シンデレラと私達の間になんにもないなんて、そんな寂しい事はもう言わせないんだからねっ!」フンス
877: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/14(金) 02:52:58 ID:UEH 
アシェンプテル「好きに言っていればいい。もうじき解る、私の主張とお前の主張どちらが正しいのか――」スッ

ライオン「き、消えた…!標的はきっとラプンツェルさんだよ!早く逃げt」

ドゴォ!

ラプンツェル「んぐっ…!」ガッシャーン!!

桃太郎「くっ…拙者を警戒して速攻をしかけてきたか。大丈夫かラプンツェル!?」

アシェンプテル「あのアホ娘は戦士ではない。桃太郎のように避ける能力も身を守る手段も持ち合わせていない、場を散々掻き乱したわりにあっけの無い奴だっ――」

スクッ

ラプンツェル「いたた…ふっふっふーん!あんなヘナチョコキックじゃあラプちゃんとシンデレラの友情は切れないんだよっ!」フンス

桃太郎「マジか…!あの衝撃じゃあ骨の一本二本折れててもおかしくない感じだったのに!となると…髪の毛か!」

ラプンツェル「そのとーり!壁にぶつかる瞬間に髪の毛をもふもふってやってクッションのかわりにしたんだよ!」ドヤァァァァ

アシェンプテル「……忘れていたよ」

ラプンツェル「?」

アシェンプテル「桃太郎がそのヘタレな本性の底に真の力を持っている事も、ラプンツェルの髪の毛が自在に操れる万能なものだという事もよく知っていたはずなのに…過去をたち切るという事に気を取られ過ぎて、忘れていた」

アシェンプテル「認めたくはないがお前達は強い。お前達との関係を完全に断ちたいのならば、私は始めから全力を尽くすべきだったんだ」スッ

桃太郎「消えた…そしてどうやら拙者達はあいつを本気にさせちゃったみたいだな。そうなったなら、こっちも相応に相手するだけだけど…!」チャキッ

アシェンプテルの声「あぁ、幸いにも私には十分な時間がある。今回は十二時の鐘が鳴るまで…なんて面倒な事は言わない」

アシェンプテルの声「私とお前達、どちらかが倒れるまで踊り明かそうじゃあないか。なぁ、かつての友…桃太郎!ラプンツェル!」ヒュバッ
878: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/14(金) 02:55:58 ID:UEH 
ヒュバババババ

桃太郎「ラプンツェル…お前、シンデレラの事、目で追えるか?」

ラプンツェル「もちろん見えないよ!」フンス

桃太郎「だよなぁ…知ってた…。んじゃあさっきの髪の毛で身を守るってのはやっぱ受け身な技、そのうち対策されるだろうな…。あともう一つ聞くけど、シンデレラを正気に戻す作戦っていうか考えみたいなのって――」

ラプンツェル「ないよ!でもシンデレラが悪い子になっちゃったら私が元に戻すって約束したし、頑張るよ!そのためだったらなんだってやるよ!」ドヤァ

桃太郎「だよな、拙者もあいつを正気に戻せるってならなんだってやる覚悟だ」

ラプンツェル「っていうことは…桃太郎にはシンデレラを元に戻す作戦があるって事でいいんだよね?」

桃太郎「あぁ、拙者一人じゃちょっと不安なとこもあったけどお前がいるならぐっと成功する可能性上がるとおもう、ちょっと思いきった作戦になっちゃうけども」

ラプンツェル「それじゃ桃太郎の作戦に任せる!どんなことするつもり?教えて教えて!」

桃太郎「機会さえ見極められればやること自体は単純だ。でもこの状況だゆっくり説明してる余裕はない、だから一回しか言わないから、それで理解してくれよ?」

ラプンツェル「えっ、一回で理解しなきゃダメなのかぁ……できるかな」ボソッ

桃太郎「お、おいラプンt」

ラプンツェル「大丈夫!まかせて!そういうのとくいだから!」ドヤァ

桃太郎(不安すぎる)
879: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/14(金) 03:00:14 ID:UEH 
ダンスホールの隅 崩壊したテラス周辺

青い鳥「……理解できないよ、僕には」

ロック鳥「ルォ?」

青い鳥「だってそうだろう?あいつらの…キモオタ達の目的は消されたおとぎ話の世界の奪還だ。その為にはアリスさん…アリスを倒すか魔法のランプを奪取するのが近道だ」

青い鳥「シンデレラは強いけれどラプンツェルの髪の毛でとりあえず拘束だけしておくとかすればいいじゃないか。それなのにあの二人はどうして今、この場であいつを正気に戻そうとするんだろう?」

青い鳥「非効率じゃないかな?シンデレラを今すぐ正気に戻したって戦いに参加できるとは思えないし、だったら手早く捕縛だけして全てが終わってから正気に戻せばいいんじゃ…」

ロック鳥「ルォォ…」

◆ロック鳥は人語を喋れません。でもそれじゃわかりにくいからここからは翻訳バージョンをお楽しみください◆

ロック鳥「汝の主張は確かに合理的だ。だが人間という種族は、時として損得を勘定に入れずに行動する。今の桃太郎とラプちゃんがまさにそれだ」

青い鳥「うーん…やっぱり効率的じゃないよ。シンデレラを正気に戻せる保証も無いのにさ、もっと大局を見なきゃいけないとおもうよ僕は」

ロック鳥「人間という種族はそう単純にできていないのだ、青い鳥よ。……時に、満身創痍とはいえ目までは霞んではおるまい?」

青い鳥「えっ?目?まぁ、一応見えるけど?」

ロック鳥「ならばラプちゃんの瞳をよく見てみよ。彼女が何故ここまで友の開放にこだわるか、見えてくるだろう」

青い鳥「どういう事?まぁ見ろっていうなら見るけど……。……あれっ?なんかよく見たらあいつの目、赤くなってるしちょっと腫れてない?」

ロック鳥「泣き腫らしたのだ。全てのおとぎ話の世界が消え、この世界に降り立った我の背中でラプちゃんはしばらくの間声を殺して泣いていたのだ。友からの連絡にさえ応答出来ぬほどに」

ロック鳥「無理もあるまい。普段明るく振る舞っていようとも、まだ若き娘…。友や恩人、親衛隊。そして大切な母親と、死別したも同然だったのだからな……」

889: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/18(火) 02:08:44 ID:VHC 
青い鳥「……あんたの言葉を信じないわけじゃない、でも正直に言うと想像が出来ないよ。あいつが泣いている姿なんてさ」

青い鳥「城前での戦いに乱入したときだって、このホールに突っ込んだときだってあいつはヘラヘラ笑っていたじゃないか。桃太郎とアシェンプテルの間に流れる緊迫した空気を壊した時だってそうだ」

青い鳥「あいつはいつだって笑っていた。そこに殺意が渦巻こうと、危険が待ち構えていようと、息苦しいほど重い空気の時でさえあいつは能天気に笑っていたんだ。それなのに…」

ロック鳥「育った環境のせいかラプちゃんは世間知らずで実年齢よりもずっと子供っぽい、アホの娘などと揶揄される事も多いと聞く。だが彼女とて何も知らぬ訳ではない」

ロック鳥「現実世界の存在、おとぎ話の世界の存在はもとより、おとぎ話がそしてその世界が消滅するとどうなるか……人間が、生物が死ぬという事がどういう事かも、当然な」

青い鳥「……」

ロック鳥「【アラビアンナイト】に属する世界が崩壊を始めた時、我は相棒の頼みを受けラプちゃんがいる【アリババと四十人の盗賊】の世界へと向かい、彼女に状況を説明した」

ロック鳥「我が主が紡ぎし物語の消滅。そして他のおとぎ話が消滅を始めるのも時間の問題だという事、その事を聞いたラプちゃんが真っ先に心配したのは母親であるゴーテル殿だった」

青い鳥「確かラプンツェルとは別行動をしていたんだったね。【シンデレラ】の世界で魔法使いと共にアリスを止める手立てを考えていたんだっけ…」

ロック鳥「うむ。故に我はラプちゃんを背に乗せ【シンデレラ】の世界を目指す事にした。その時、ラプちゃんは親衛隊の面々にも行動を共にするよう声をかけたが彼等はそれを拒んだ」

ロック鳥「盗賊稼業から足を洗い、過去の清算をしようという時に散々迷惑を掛けてきた街の者達を見捨てるなど出来ぬというのが兄貴分の主張だった。同時に、我にならばラプちゃんを任せられるとも」

青い鳥「それでその…親衛隊?とかいう連中とは別れてあいつとあんたの二人でゴーテルの元に向かったのか」

ロック鳥「うむ。だが我々が【シンデレラ】の世界、魔法使いの屋敷にたどり着いた時、そこにはゴーテル殿どころか……誰一人いなかった」
890: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/18(火) 02:11:01 ID:VHC 
ロック鳥「半壊した屋敷、鮮血で汚れた床、燃え盛る瓦礫を見れば何が起きたのかは一目瞭然。笑顔を失ったラプちゃんに急かされ、我はその世界を後にし【ラプンツェル】に世界へ飛んだ」

ロック鳥「敵の襲撃を受けて別世界に逃げたのならばきっと母親はここに居るのだとラプちゃんは考えたようだが、ゴーテル殿は塔にも小屋にも居なかった」

青い鳥「ラプンツェルの読みは外れた、って事か」

ロック鳥「結果的にはそうなる。だが我はこう思った、ゴーテル殿はあえて【ラプンツェル】の世界に逃げなかったのだと」

青い鳥「どうしてだ?ゴーテルは魔法植物の扱いに長けているって聞いてる、小屋に戻れば怪我を治すような植物だってあるだろうに…」

ロック鳥「ゴーテル殿は魔女である前にラプちゃんの母親、緊急時に娘がどう行動するか予想する事は容易い」

ロック鳥「世界の崩壊が始まれば愛娘は必ず自分を心配して訪ねてくる。【シンデレラ】の世界に自分が居なければ必ず【ラプンツェル】の世界へ来る、とな」

青い鳥「それじゃあ、ゴーテルはもしかして…」

ロック鳥「解っていたのだ。世界が崩壊を始めた時、愛娘が自分を見捨てる事が出来ないという事を…。例え別世界に居ようと、娘は必ず自分を助けようとすると言う事を」

ロック鳥「しかし…その意を汲んで行動を共にしては、大切な愛娘の足を必ず引っ張ってしまうという事も解っていたのだろう。手負いの老婆が戦場で出来る事など…知れている」

青い鳥「……」

ロック鳥「ラプちゃんは呆然としていた。どこでもいいから別の世界へ飛んで母親を探してくれと叫んでいたが……既に時間は無かった」

ロック鳥「我は彼女の言葉を振り切るようにこの【不思議の国のアリス】の世界へ飛んだ。そして到着と同時に、もう二度と別世界に飛び立つ事は出来ないという事を悟ったのだ」
891: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/18(火) 02:12:23 ID:VHC 
青い鳥「それじゃあ結局、あいつは母親に会えなかったのか…」

ロック鳥「娘を危険に晒すくらいならば消滅する世界と運命を共にする…。そんなゴーテル殿の想いをラプちゃんが理解できたかどうかは解らん。だが彼女にも理解できたことはあった」

ロック鳥「血の繋がっていない自分を我が子のように大切に育ててくれた母親はもう世界中のどこにもいないという事を。そしてそれだけじゃない」

ロック鳥「学問指南をしてくれた我が主シェヘラザード、そしてその夫である国王。彼女が城に来るたび優しく接してくれた城の者たち、そして我が相棒シンドバッド――」

ロック鳥「母の友であった魔法使い、そして自分を慕い何かと協力をしてくれた親衛隊の面々……そういった彼女の大切な者達の殆どは既に命を失っていると」

青い鳥「……」

青い鳥(……それはアリスが世界の消滅をランプに願ったからだ。でも僕はその野望の片棒を担いだ。僕にも当然、責任はある……そう思うと、やはり申し訳ない気持ちになってしまう)

ロック鳥「もっともそれに関してはキモオタや他の仲間達も同じだ、彼等も同様に大切な人々や居場所を失った。だが…塔の中で暮らしていたラプちゃんは『別れ』に慣れていない」

ロック鳥「我々が想像する以上に、彼女が負った悲しみは深かっただろう。何しろ十数年の間知ることの無かった別れの悲しみを一度に経験してしまったのだから」

ロック鳥「故に彼女は我の背で声を殺して泣いた。声を上げれば、我に入らぬ心配をかけてしまうとでも思ったのだろう……」

青い鳥「何も考えていない能天気な馬鹿だと思っていたけど、そんな事は無かったんだね…」

ロック鳥「うむ。だがラプちゃんはやがて涙を拭いて我に言った『みんなの所につれてって。シンデレラはきっと、今の私よりもずっとずっと悲しくて…それで苦しい思いをしてるはずだから』と」

青い鳥「…それって、どういう意味だい?」

ロック鳥「そのままの意味だろう。ラプちゃんは精神を操られ感情を操作された者の苦しみを知っている。同じような目にあわされた者を彼女は知っているのだから」

・・・
892: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/18(火) 02:15:09 ID:VHC 
ハートの女王の城 ダンスホール

アシェンプテルの声「さぁ…まずはラプンツェルと踊ろうか、その厄介な髪の毛は早々に封じておきたい」スタッ

バッ

ライオン「グルルゥ…!」ババッ ザシュッ

アシェンプテル「……ッ。鋭い牙に強靭な顎、食らえば一大事だが…どこを狙っている?いや、そもそも私の攻撃を邪魔するとは、どういうつもりだ?」

ライオン「ぼ、僕が君の相手をするよ…!さ、さっきのようには行かないからね…!」

桃太郎「ラ、ライオン!?お前どうして…」

ライオン「あ、あんまり長く持たないかもしれないけど…僕が粘るよ、だから桃太郎さんは今のうちにラプンツェルさんに作戦を伝えて!」

桃太郎「お前…。わかった、すぐに助太刀するから少しだけ耐えてくれ!」

アシェンプテル「お前じゃあ私の相手は務まらない。目障りだ」

シュバッ

ライオン「ひゃあっ!あ、危なかった…お、同じ手を何度も食らう訳にはいかないよぉ!」ササッ

アシェンプテル「私の蹴りをかわすとは一応は百獣の王ということか。だが……甘い」シュッ

ドスッ

桃ラプ「ライオン…!」「ライオン!だいじょーぶ!?」

ライオン「うぐぅっ…!だ、大丈夫だから僕の事は気にしないで…!ま、まだだよ…僕はまだやれるんだ…!」グググッ
893: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/18(火) 02:19:17 ID:VHC 
アシェンプテル「お前は確か【オズの魔法使い】のライオンだったな…。随分としぶといが何故お前がここまでやる?」

アシェンプテル「桃太郎がラプンツェルに作戦を伝える間の時間稼ぎ、それは理解できるが……それに協力してお前に何の利があるんだ?」

ライオン「桃太郎さんは君を助けるためにすごく頑張っているんだ…。で、でも僕にできるのはこれくらい、だから僕はそれを出来る限り頑張るんだ…!」

ライオン「僕は一分でも一秒でも君の攻撃を耐えて…桃太郎さん達の作戦の成功につなげるんだ…!」

アシェンプテル「その意気を認めて相手をしてやる。だがどれだけ時間を稼ごうとどれだけ作戦を練ろうと無意味だ。私の意思は私のもの、他人に変えられたりはしない」

ザシュッ ヒュヒュヒュッ

ラプンツェル「シンデレラの事引き受けてくれるのは助かるけど、心配だよー。大丈夫かなライオン…」

桃太郎「俺も同じ気持ちだけど、今は作戦をしっかり聞いてくれ。少しでも早く作戦を伝えて、ライオンの助太刀に行きたいからな。いいか?よく聞いてくれよ」

・・・

桃太郎「――っと、これが拙者が用意したシンデレラを正気に戻すための策だ。危険は伴うけど現状じゃこれしか方法がないと思う…理解できたか、ラプンツェル?」

ラプンツェル「……?」

桃太郎「……と、とりあえずお前はシンデレラを拘束してくれればそれでいい。まぁ簡単にさせてくれないだろうけど…拘束さえできればあとはこっちでなんとかするから」

ラプンツェル「わかった!私にまかせて、すんごくがんばるよ!すんごくこーそくするよ!」フンス

桃太郎「お、おう…お前がそう言うなら大丈夫……だよな?」
894: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/18(火) 02:21:52 ID:VHC 
桃太郎「よ、よし!若干の不安は残るけどこれ以上ライオンに負担はかけらんない!さぁ助太刀するぞライオn」

ドシュ

ライオン「ぐぅ…ぐあぁっ!」ドサッ

桃「ライオン!」

アシェンプテル「良かったじゃあないかライオン。目的通りお前は十分に時間稼ぎを成功させた、だが私はこれ以上お前と踊るつもりはない。そろそろ眠っていろ」スッ

ドシュッ

ライオン「ぐあっ…!」ドサーッ

ロック鳥「ルオオォォッ!?」サッ

青い鳥「うわっ、なんだなんだ!?」

アシェンプテル「殺してやっても良かったが…気が変わった。せいぜいそこの役立たずの獣共と一緒に桃太郎の勝利を神にでも祈っているがいい」

桃太郎「クッ…ライオン、今行く!お前の傷も青い鳥の怪我も拙者がすぐに治してやるからな――」

ヒュバッ

桃太郎「シンデレラ…!そこをどけ!拙者は友の傷を癒さなければならないんだ!」

アシェンプテル「させない。これだけ時間を与えてやったんだもう十分だろう……さぁ、そろそろ私と踊ってもらうぞ?」
895: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/18(火) 02:37:53 ID:VHC 
ヒュバッ

桃太郎「また姿が…!見えないというのは厄介だ。標的は拙者か?ラプンツェルか?さっきはラプンツェルを先に始末するような事を口走っていたけど、その通りに動いて来るか?あるいは――」

ラプンツェル「よーしっ、見切った…!シンデレラはそこにいる!くるっとして捕まえちゃうラプちゃんの髪の毛を受けてみよー!」フンスッ

バサッヒュヒューッ

桃太郎「おぉっ!?まさかラプンツェルお前、早速シンデレラを捕えたっていうのk…ゲホォッ!!」ドスッ

アシェンプテル「……そのアホの娘を信じるお前が悪い。そいつに作戦など理解できるはずないだろう」

ラプンツェル「むーっ…避けられちゃったか…」グヌヌ

アシェンプテル「何を言っている、避けてすらいない。お前が勝手に虚空に髪の毛を放り投げただけだ」

ラプンツェル「あれー?でも私は諦めないよー!いーっぱい投げたら一回くらいはなんとなく当たるかも…!」ヒュヒュ ヒュヒュ

パサッ パサッパサッ

アシェンプテルの声「無駄だ、闇雲に投げてあたる程ノロノロと動いてはいないのでな。」

桃太郎「ラプンツェル!焦るのは解らんでも無いけどそんな闇雲にやってても仕方ないって!あいつの攻撃にあわせてもっと確実にだな…」

ラプンツェル「でもー、私はちょっとでも早くシンデレラの事助けてあげたい!だってシンデレラ、いまとっても悲しい気持ちのはずだもんそれにとっても辛いんだよね」

アシェンプテル「悲しいだの辛いだの、助けたいなど勝手な事をぬかすな」

ラプンツェル「強がらないでいいよ、私はママの時も見てるから知ってる…心を操られるってこ都がどれだけ湯よいか」

906: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:08:43 ID:srB 
ラプンツェル「二人も知ってるよね。アリスが【ラプンツェル】の世界を消しちゃおうとした時、抵抗するママにアリスが心を操る魔法具を使った事」

桃太郎「話には聞いている。確か、怒りの感情を植えつけるコショウを使われて……ゴーテル殿の性格は豹変したんだったか」

ラプンツェル「うん。それでママは、普段絶対に言わないような酷い事を私にいっぱい言ったよ。それでね――」

アシェンプテル「その話に興味は無い」ヒュッ

ドゴォ!

ラプンツェル「……んぐっ!」ズサーッ

桃太郎「ラプンツェル!」

アシェンプテル「確かに私は精神に干渉する魔法具を使われている、そしてお前の母親が感情を操る魔法具を使われた事も知っている。だが…それは今この場で話す必要のある話か?」

アシェンプテル「私はお前達を殺そうとしているんだぞ?そんな相手にする意味のある話か?答えは否だ、考えるまでも無い。……これだから馬鹿の相手は疲れる」

ラプンツェル「……シンデレラはね、私の事、バカだとかそんな風に言わないよ?」ヨロッ

アシェンプテル「当然だろう。私はアシェンプテルだ、シンデレラじゃあない」

ラプンツェル「違うよ、シンデレラだよ」

アシェンプテル「何も解っていないなお前は…そもそも私とお前の母親では使われた魔法具が違う。お前の母親が使われたコショウはありもしない怒りの感情を強制的に植えつける代物だ」

アシェンプテル「だが私の身体に突き刺さる悪魔の鏡の破片は違う、性格を捻じ曲げる代物だ。ありもしない感情を植えつけるような効果は無い」
907: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:14:14 ID:srB 
アシェンプテル「つまり…だ。シンデレラは少なからずあの継母や義姉に怒りを感じていたし、周囲に流されるがままの人生に疑問を感じていた。そしてお前の馬鹿さ加減に僅かながらうんざりしていた」

アシェンプテル「私が抱いている怒りや憎しみの感情は元々シンデレラが心の奥底で抱えていたものだ。悪魔の鏡の破片は、その感情を表に出す手伝いをしたに過ぎない」

アシェンプテル「これで理解できたか?感情を植えつけられたお前の母親と、元々存在する感情を引き上げられた私では状況が違う」

ラプンツェル「そんな事無いよ、違わない!同じだよ!」

アシェンプテル「馬鹿に何を言っても無駄か…」

ラプンツェル「だってそうでしょ!確かにシンデレラは悪いおかーさんやおねーちゃんのこと憎んでたかもしれないし、魔法使いのおかげで苦労せずにお姫様になった事悩んでたかもしれない」

ラプンツェル「私がいっつもめちゃくちゃな事しちゃうの、ちょっぴりうんざりしてたかもしれない。でも、シンデレラはそんなこと少しも言わなかったよ!」

アシェンプテル「シンデレラは他人を優先にする愚かな女だ。継母に復讐をすれば王子に迷惑がかかる、労せず王族になった事に疑問を抱けば魔法使いに失礼だ、友人のお前に暴言など吐きたくない…」

アシェンプテル「他人に迷惑をかけたり傷つけるくらいならば自分が耐えればいいという考えの女だ。だから言わない、自分の心内にしまい込む…そういう奴だというだけだ」

ラプンツェル「だったら…今、アシェンプテルがしてる事はシンデレラがやりたくないって思ってた事でしょ!」

ラプンツェル「魔法具のせいで…シンデレラはやりたくない事させられてる!言わないでおこうって思ってた事、言わされてる!それってとてもひどい事だよ!」

アシェンプテル「馬鹿女がわかったような口を…!」

ラプンツェル「シンデレラは愚かだから我慢してたんじゃない、とっても優しいからみんなの事傷つけたくなかったんだよ!」
908: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:21:02 ID:srB 
アシェンプテル「……馬鹿と会話をしたのが間違いだった」ヒュッ

ドゴシャ!!

ラプンツェル「……っ!ゲホッゲホッ!」ヨロヨロ

桃太郎「もういいラプンツェル!これ以上は危険だ、拙者の後ろに――」

ラプンツェル「あの時、コショウの効果が切れて正気に戻ったママはね、泣いていたんだよ。今まで、私の前で泣いたことなんかなかったのに……」

アシェンプテル「……」

ラプンツェル「何度も何度も謝ったんだよ!ごめんねって、娘じゃないなんて言ってごめんねって!キモオタ達が帰った後だってずっとずっと気にしてたんだよ……」

ラプンツェル「あれから随分経つけど…今だってママはあの時の事引きずってる。ううん、きっとこの先もずっと私にひどい事言っちゃったこと、ママは自分の事を責め続けるんだよ」

アシェンプテル「私とお前の母親は、違う」

ラプンツェル「シンデレラだって同じだよ!魔法具の効果が切れて正気に戻った時……絶対に悲しむよ!復讐しようとした事、キモオタや私達に攻撃したりひどい事言ったりした事…」

ラプンツェル「全部知って、すんごく後悔してずっと自分の事を責め続けるよ、それでずっと謝り続けるよ!私はそんなの嫌だよ!だから私はシンデレラを元に戻すんだよ、少しでも早く!」

ラプンツェル「ちょっとでもシンデレラの心の傷が少なくて済むように、私の友達が泣かなくてもいいようにしたいの!だから大人しく捕まってよね!」

アシェンプテル「断る。だが安心しろ、今ここでお前を殺してしまえば『シンデレラ』は傷つく事もこの事を知る事も無い、永久にな」ヒュバッ

ガキィンッ

桃太郎「お前の言うとおりだよなラプンツェル…。長引けば長引くほどあいつは辛い思いするんだ、それなのになにモタモタしてんだ拙者は!」

910: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:29:12 ID:srB 
アシェンプテル「……感心するよ、随分と速度を上げたつもりだったけれど、まだ刀で防ぐか」

桃太郎「あいにく攻撃よりも防御や回避の方が得意だからな」チャキッ

アシェンプテル「腰抜けのお前らしいな。だが…私の最高速度はこんなものじゃあないぞ?」カツンッ

スッ…

ラプンツェル「あっ、また姿が消えたよ!桃太郎気をつけt」

桃太郎「避けろラプンツェル!!」グイッ

ビッ

ラプンツェル「……っ!」

桃太郎「さっきまでとは段違いの速度…!拙者ですら完全に読み切れない…!」

ビッ

桃太郎「ぬぐぅ…!防御が追い付かない…!」ググッ

キィンッ

桃太郎「しまった!鬼屠りが…!」カラーン

アシェンプテル「その刀が無ければお前などただの男…。いや、まだ隠し玉があったか……だが何を引っ張り出そうと同じ事」

アシェンプテル「終いだ、桃太郎」ビッ

ゴシャアッ
911: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:32:34 ID:srB 
桃太郎「がはっ…!」ベキベキッ

アシェンプテル「全力の『ガラスの靴』直撃はなかなかの味だろう?さぁ治癒される前に次の――」

桃太郎「ゼェゼェ…。ラプンツェル…頼む…!」ガシッ

ラプンツェル「わかった!そのまま押さえてて!」シュシューッ

アシェンプテル「チィッ…!」ブンッ

ゴシャァ

桃太郎「ぐあっ…!」

ラプンツェル「あぁっ!もぉー、ギリギリ捕まえられなかったよ!もうちょっとだったのにー!」パサッ

アシェンプテル「気を失ってもおかしくない打撃だったはずだというのに、逆手をとって私を拘束しようとするとはな…」

アシェンプテル(なんという精神力…。これも友を救わんとする気持ちのなせる技か、それなら私はそれを踏みつぶすだけだ)

スッ…

ラプンツェル「桃太郎、ごめんね!捕まえるの失敗しちゃった、せっかくチャンス作ってくれたのにー」

桃太郎「いや…いい、できなかったもんは仕方ない。だがこりゃあいよいよ、長引かせられないぞ…」ゼェゼェ

ラプンツェル「どうしよう…ライオンと青い鳥は無理だと思うけど、ロック鳥なら動けるしお願いする?」

桃太郎「いや…天井が高いとは言っても室内だ、ロック鳥も身動きがとれないうちにやられるのが目に見えてる…」
912: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:34:54 ID:srB 
ラプンツェル「でも、それじゃあどうすr……んぐっ!」ドスッ

桃太郎「ラプンツェル!クソッ…容赦がない、本気だって言ってただけの事はある!とにかく、傷を治癒して次の動きに――」

ビッ

桃太郎「……っ!させないってか…!」

ラプンツェル「どうしよ、桃太郎。私、これ以上はちょっとダメかも…」ヨロヨロ

桃太郎「すまん…お前だけでも治癒出来ればいいんだg…ぐぁっ!」ドゴシャッ

アシェンプテル「不可能だ。おまえがどんなに素早く治癒に取りかかろうと、私の『ガラスの靴』のトップスピードには追いつけない」

桃太郎「……ゲホッゲホッ」ゼェゼェ

ラプンツェル「うー…あっちもこっちも痛いよ…」ゼェゼェ

桃太郎(どうする…どうすればいい?このままじゃシンデレラを救えないまま終わる…それだけはダメだ、それだけは絶対に…!)

桃太郎(でも…どうすればいい?拙者もラプンツェルも既に立っているのがやっと…。あれほどの速度で動けるなら、どうやってもラプンツェルの髪の毛だって当然のように避けるだろう…)

桃太郎(完全に詰んだか…?いや、諦めるな!ここで諦めたら拙者を信じてくれたキモオタや舌切りに申し訳が立たない、ライオンやここまで戦ってくれたラプンツェル…他の仲間達にもだ。だから諦めるな!)

桃太郎「せめてあの速度さえ……あの高速移動さえなんとかできれば……ほんの少しでも動きを制限出来れば……」ゼェゼェ
913: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:36:26 ID:srB 
桃太郎「しかし、どうやって…?どうすればあいつの動きを――」

ラプンツェル「シンデレラの動き止められたら……あんな風にすんごく速く走れなくしたら、まだシンデレラの事取り返せる…?」

桃太郎「あぁ…あの高速移動さえ封じればお前の髪の毛で拘束できるからな…。でも、拙者達にはその方法が無い…」

ラプンツェル「あんなに速く走れるんだから……シンデレラきっと避けるの得意だよね……」ゼェゼェ

桃太郎「ん…?まぁ、そうだろうけど……」

ラプンツェル「それで……桃太郎、避けるの得意だって言ってたよね?」ゼェゼェ

桃太郎「えっ?あっ、うん、言ったけど…まさか何か考えがあるのか?ラプンツェr」

シュルルルッ

ライオン「あ、あれっ?ラプンツェルさん…髪の毛を天井に飛ばしたりなんかしてどうするつもりなんだろう…」

ロック鳥(翻訳)「ラプちゃんと行動を共にした我にも解りかねる。だが彼女の事だ苦し紛れではない、何か考えがあっての行動だろう」

青い鳥「そうは言うけど、僕には苦し紛れにしか見えないよ。いくら髪の毛を飛ばしたところで天井にはシャンデリアがぶら下がっているくらいで、他には何も…」

シュルル ググッ

桃太郎「なっ……!」

青い鳥「嘘だろ…。あいつ髪の毛をシャンデリアに撒きつけたぞ!二人とも伏せろ、どうなるか目に見えてる!」

アシェンプテル「あの馬鹿女、まさか…!」

ラプンツェル「シンデレラ!桃太郎!ロック鳥と青い鳥にライオンも…みんなちゃんと避けてねーっ…!」

グイッ
914: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:39:49 ID:srB 
ガッシャァァン!!

ライオン「うわぁぁぁ…!ガラスの破片が飛んでくる!鉄の欠片が飛んでくるよぉー!」ピシピシピシ

青い鳥「何やっているんだあいつは…!勝てそうもないからってシャンデリアを落とすなんて苦し紛れにも程がある!」ピシピシピシ

ロック鳥(翻訳)「いや、苦し紛れではない。これは――」

桃太郎「……そうか、そう言う事か。ラプンツェル!」バッ

ラプンツェル「桃太郎!こっちこっち!落ちてきたシャンデリアの方に来て!早く早く!」タタタッ

アシェンプテル「……理解してやったのか?それとも苦し紛れか?」

ラプンツェル「わかっててやったに決まってるよ!これでシンデレラはもうすんごい早さで私達に近寄れないでしょ!」フンス

アシェンプテル「……」ギリッ

桃太郎(ガラスの靴はシンデレラの脚力を向上させる魔法具。西洋の馬車を軽々と追い越しどんな俊敏な獣さえも置き去りにする、その姿さえ見えない速度で駆ける事が可能な強力な魔法具)

桃太郎(とはいえ所詮は靴だ、地面を蹴らなければ走る事は出来ない。となると足場があまりにも荒れていてはその魔法具も真価を発揮する事は出来ない。要するに…)

桃太郎(ガラスと鉄片が散らかったこんな場所では満足に走れない。高速で駆けようというのならばなおさらだ)

桃太郎(あいつはそれを理解したうえで、ガラスの靴が最高の状態で扱える広くて床の整ったこの部屋を戦いの場に選んだ)

桃太郎(ラプンツェルは   っぽいなんて言っていたけれどあのドレスだって戦いを意識したものだろう。飾りや布地を極力少なくすれば何かに引っかかったり掴まれる心配も少なくて済む)

桃太郎(なんにしろ…形勢逆転だ、ここから一気にシンデレラを奪還するぞ!)
915: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:40:54 ID:srB 
アシェンプテル「馬鹿女め…この程度で私のガラスの靴が役立たずになると思うな。スピードは少し落ちるが、お前達をの相手をするには――」

桃太郎「ラプンツェル!この部屋のシャンデリアを全て落としてくれ!出来るだけ部屋の外側からだ!」

アシェンプテル「貴様…っ!」

ラプンツェル「わかった!任せてよー!シンデレラ、ちゃんと避けてねー!」シュルルルルルッ

ガッシャアアアァン!!

ガッシャァァァァン!!

ガッシャァァァァン!!

ラプンツェル「ひゃわー!思ってたよりずっとすごい事になってる!シンデレラちゃんと避けてくれたかなー…?」

桃太郎「シャンデリアが落ちる場所は予想がつく。それならあいつは大丈夫だ、ガラスの靴が使い物にならなかろうと必ず避ける」

スタッ

アシェンプテル「……考えられないな。テラスは破壊する、シャンデリアを落としてホールは使い物にならなくする、まともな人間ならば普通、躊躇してしまうものだが」

アシェンプテル「これだから馬鹿の相手は嫌になる、何をしだすか予想できない」
916: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:44:09 ID:srB 
桃太郎「ラプンツェル、シンデレラはもう走れない。今のうちに拘束してくれ…あっ、刃物持ってるかも知れないから厳重に頼む」

ラプンツェル「わかった!じゃあシンデレラ、ちょっぴりだけ我慢してねー!」ヒュルル

アシェンプテル「……」グルグルグルッ

桃太郎「随分と素直に拘束されたな。まぁこっちとしてはその方が助かるんだけども…」

アシェンプテル「ここまで足場が悪くては走れない。手負いとはいえお前とまともに戦って勝てるなど思っていない、悪足掻きはしない主義だ」

ラプンツェル「よかったー、それじゃあ大人しく元に戻ってくれるよね!」

アシェンプテル「さぁ、それはどうだろうな。私は逃走を諦めただけだ。そもそも自分の意思で悪魔の鏡の破片をどうにかできるわけじゃあない」

ラプンツェル「えーっ!?じゃあ悪魔の鏡の破片をどうにかしなきゃいけないの!?ねぇねぇ桃太郎、聞いてた?どーする?なにか作戦ある?」

桃太郎「拙者、その作戦お前に一回伝えたんだけど…」

ラプンツェル「えーっと、あっ、言ってた言ってた!アレでしょ?ほら、なんとか剣!」

桃太郎「お前がこの剣の名前忘れるのおかしいだろ…。まぁいいけども、よいしょっと…」ガチャッ

アシェンプテル「私の正気を取り戻すものだとか言っていたが、その武器、魔法具……剣か」

桃太郎「あぁ…拙者はこれを手に入れたとき、刀の扱いだけじゃなく剣も使えるようになろうって思ってハインリヒ殿に指南を受けたんだ。必ず戦いの役に立つって思ったからな」

桃太郎「でもまさか、友であるお前に使うとは思わなかったけども」
917: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/20(木) 02:46:23 ID:srB 
スラッ

桃太郎「七星剣…。それがこの魔法具の名だ」

ラプンツェル「この剣はね!私が前にアリスと戦った時に、お腹に刺されたんだよ!すんごく痛かった!」フンス

桃太郎「なんでちょっと誇らしげなんだよ…。まぁとにかくあの時お前の様子を見てもらったあとに魔法使い殿にこの剣の事を聞いて、拙者が譲り受けたって訳なんだけど」

アシェンプテル「……で、それをどうするつもりだ?」

桃太郎「七星剣は斬ったモノの魔力を弱める事が出来る剣だ。これを使ってお前に取りついている悪しき魔力を断ち切る」

アシェンプテル「言っておくが、私自身を斬ったところで意味は無いぞ?悪魔の鏡の破片は今のこの身体に突き刺さり、影響を及ぼし続けている」

アシェンプテル「それこそ悪魔の鏡の破片自体を貫きでもしない限り、そんな剣を振るったところでシンデレラを呼び戻す事など出来ない」

桃太郎「という事は、直接悪魔の鏡の破片を貫く事が出来れば……お前を正気にできるという事だな?」

アシェンプテル「あぁ、できるさ。だが…不可能だ」

ラプンツェル「えーっ?なんでー!?しちせーけんっていうので悪魔の鏡壊したらいいだけでしょー?」

アシェンプテル「鏡の破片は爪の先ほどの大きさしかない。その上、お前達はそれが私の身体のどこに突き刺さっているのか解らない。それでは手の出しようが無いだろう?」

アシェンプテル「まぁ場所さえ分かればあとは大した問題は無い。魔力を打ち消す剣で鏡の破片を砕き私を正気に戻す、その後に素早く治癒の力で傷を塞ぐ…完璧な作戦に見える、だが重大な欠点がある」

桃太郎「…お前が何を言いたいのか、拙者にはわかるよ」

アシェンプテル「だろうな、桃太郎。おまえが誰よりもわかっているはずだ……私を救うという事が目的だとしても、治癒の力があるとはいってもお前に私は刺せない」

アシェンプテル「他人の目を気にして生きているお前のような腰抜けに友人に刃を突き立てるなど出来るはずが無い。出来るわけがないのだ」

桃太郎「……」

927: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/24(月) 02:14:36 ID:g7R 
アシェンプテル(所詮、桃太郎という男はこの程度だ)

アシェンプテル(以前と比べると確かに変わった、多少の度胸を手に入れいくらかは強さに磨きをかけている。だが…生まれ持った性根というのはそうそう変えられない)

アシェンプテル(結局のところ、こいつは腰抜けのヘタレ侍だ。日ノ本一という称号、英雄という栄誉に縛られ自由に動けない。そして世間体という名の鎖が絡みつき、身動きが取れなくなる)

アシェンプテル(『友を救う為とはいえ、その身に刃を突き刺す行為…。まして鏡の破片が何処にあるかわからぬ状況で闇雲に剣を突き立てるという行為……それを見聞きした者はどう思うか?』)

アシェンプテル(『それは英雄らしからぬ行動ではないか…?』そう考えてしまえば、桃太郎はもう動けない。その身に絡みつく鎖が息も出来ぬ程に締め付けてくるからだ)

アシェンプテル(そして結局、鳥獣共や馬鹿女が身を賭して手に入れたこのチャンスさえも無駄にする。落としたシャンデリアの衝撃と轟音は別の場所に居る仲間も感づいただろう…)

桃太郎「……なぁ、シンデレラは日ノ本一って何だと思う?」

アシェンプテル「なんだ突然?自分の在り方に疑問でも感じたか?」

桃太郎「拙者は…ずっとこの称号に縛られてきたんだと思ってる。というか、縛られないと生きて来れなかった」

桃太郎「桃からなんて数奇な産まれでさ、しかも治癒とかいうワケわからん能力まで持ってる拙者はみんなにとって『化物』だ。化物に、化物とその家族に居場所なんか無い」

桃太郎「だけど人っていうのは現金なもんで『化物』って事実を塗りつぶす程の称号とか価値があれば、誰も拙者の事を『化物』としては見ない」

桃太郎「だから拙者にはどうしても必要だった、強者…『日ノ本一』って称号が。拙者と、じいちゃんばあちゃんの居場所を手に入れる為にも」
928: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/24(月) 02:17:56 ID:g7R 
アシェンプテル「そしてお前は日ノ本一という称号と栄光を手に入れた訳だ、だがそれがまやかしだという事はお前も自覚しているだろう?」

桃太郎「……否定はしない」

アシェンプテル「確かにお前の武勇は本物だったかもしれないが、その『日ノ本一の桃太郎』という存在を支えているモノはとても脆いものだ」

アシェンプテル「逃げ出したいという情けない本音、そして恐怖に支配され怯えきった心を演技と虚勢で塗り固めた、外見だけのハリボテの英雄だ。偽りにまみれた日ノ本一、それがお前だ」

桃太郎「拙者もずっとそう思ってた、最近までは」スッ

チャキッ

アシェンプテル「……何のつもりだ?」

桃太郎「悪魔の鏡の破片。それが埋まっている場所って、ここ…お前の胸元なんじゃないか?」

アシェンプテル「さぁ、どうだろうな。そう思うのなら試してみたらどうだ?」

ラプンツェル「桃太郎!本当にだいじょぶ?あくまの鏡の破片が刺さってるとこ、    のとこであってる?間違ったら大変だよ!?」グググッ

桃太郎「    って言うなよ…胸元だっての…」

アシェンプテル「虚勢を張るなよ桃太郎。いくら私に剣を突きつけようと、その刃がこの身を裂く事は決してない」

アシェンプテル「私の胸元に鏡の破片が刺さっているというのも根拠の無い推測。仮にも英雄と呼ばれるものがそのような当てずっぽうに頼るとは、お笑いだな」
929: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/24(月) 02:24:13 ID:g7R 
桃太郎「根拠ならあるさ、まぁ確証は無いけども…」

アシェンプテル「どちらにしろ推測の域を出ない、同じ事だろう」

ラプンツェル「ねぇねぇ、桃太郎はなんでシンデレラの    のとこに鏡の破片が刺さってるって思うのー?」

桃太郎「胸元な。シンデレラもさっき言ってたけどさ、悪魔の鏡って身体の中に残り続けてずっと魔力を発しているって事になるだろ?」

桃太郎「【雪の女王】の世界のカイって子も、瞳に刺さった破片が溶けることで正気に戻るって聞いたし。どうにかして身体の外に出すか消滅させれば破片の魔力からは解き放たれるって事で…」

桃太郎「そうなるとさ…手首とか足首とかに鏡の破片を刺したとは考えられないだろ。グロい話になるけど戦いの最中に腕を着られたらそこで正気に戻っちゃうわけだし」

ラプンツェル「……あーっ、なるほどね!」

桃太郎「……。だからさ、きっと鏡の破片は頭か胴体のどこかに刺したんだろうって事になるわけだ。でもシンデレラだって当然抵抗はするから頭に刺すには骨が折れる」

桃太郎「そしてシンデレラは肌を出す衣服を好まない。彼女が来ているドレスは肩も背も露わになっていない、せいぜい少しばかり胸元が見えるくらいのドレスだ」

アシェンプテル「だから消去法で胸元…か。一応筋は通っていないでもない、だがやはり単なる推測だ。アリスが裏をかいて関係の無い場所に刺した可能性だってある」

桃太郎「…いや、アリスだったら一番刺しやすい場所に刺すよ。あいつは拙者達とシンデレラの絆の深さを信じたからこそ、お前を手駒にしたんだ」

桃太郎「それなら拙者達は絶対にお前を傷つけられないって、刺せないって思ってるはずだ。だったらわざわざ裏をかいたりなんかしない、そんな事する必要がない」

アシェンプテル「御託はいい、そう思うなら七星剣で私の胸元を突き刺してみろ。そうすればハッキリする」

アシェンプテル「それとも長々と講釈を垂れていたのは恐れを隠すためか?結論を先延ばしにするためか?あるいは…私の仲間が援軍に来るのを待っているのか?そうなれば敗北した言い訳にできるからな」

アシェンプテル「桃太郎、結局お前は『日ノ本一』の称号を失うのが怖いんだ。失敗が怖い。自分への批判が怖い。ただの『化物』に戻ってしまうのが怖くて何もできない」
930: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/24(月) 02:34:21 ID:g7R 
桃太郎「……【桃太郎】の世界の人々が拙者に持っている印象は『強くて冷静沈着な英雄』あるいは『義と情に厚い正義の侍』ってところだ」

桃太郎「彼等の中に存在する英雄は、例え友を救う為だとしても刃を突き刺したりしない。何か別の、誰も傷つかない方法を探す。それが彼等の中の『桃太郎』だ」

アシェンプテル「そしてお前はそれを理解できているからこそ私を刺せない。彼等の印象に反する行動をとってしまえば、『日ノ本一』のメッキが剥げてしまうからだ」

桃太郎「拙者の価値を決めるのは周囲の者達。彼等に『英雄』だと思ってもらえなければ、『日ノ本一』だと認めてもらえなければ、拙者は単なる『化物』に戻ってしまう――」

アシェンプテル「だからお前は何も出来ない。彼等の英雄像から逸脱する行為はとれない、そうでなければ世界を取り戻したところで居場所を失うからだ」

桃太郎「……かつての拙者は確かにそう思っていた。だけど今は違う」

アシェンプテル「……」

桃太郎「拙者はここ数日…日ノ本を舞台にしたおとぎ話の世界をいくつか周ったんだ。そこのおとぎ話の主人公達に『日ノ本一』だって認めてもらう為に」

桃太郎「絶対に無理だって思った、しかもカッコつける事は一切禁止なんて無理難題を押し付けられてさ…。ありのままの素で初対面の奴に『日ノ本一』だって認めて貰えって無理だって…」

桃太郎「なんて思ってたけどさ、蓋を開けたらなんてことない。みんなが拙者の事、『日ノ本一』だって認めてくれたよ」

桃太郎「金太郎も食わず女房も雪女も聞き耳頭巾のじーさんも…。皆、拙者がヘタレで臆病者だって知ったのに、それでも拙者の事を認めてくれた」
931: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/24(月) 02:40:10 ID:g7R 
アシェンプテル「それを鵜呑みにして、お前はいい気になっているのか?馬鹿馬鹿しい、そんな物は社交辞令というものだろう」

桃太郎「拙者はそうは思わない。どっちにしても拙者には結構な衝撃だったよ。拙者の素の部分、ヘタレなとことか情けないとこは一番他人に見せちゃいけない場所だって思ってたから」

桃太郎「それは英雄とは一番程遠い姿だ。そんな姿、素を見られたら英雄になれない『日ノ本一』でいられないって思ってた。でもそれは違った」

桃太郎「拙者は…皆が描く理想の英雄像である必要なんかない。かつて存在した英雄の姿に自分を重ねる必要はない。誰かの評価や世間体の為に自分を偽る必要はない」

アシェンプテル「だからもう自分を偽るのをやめたというのか?馬鹿め、そんな事をすればお前はただの『化物』に戻るだけだ」

桃太郎「例えそうなったとしても、今の拙者にはありのままの姿を認めてくれる仲間が大勢いる。居場所だっていくつもある、じいちゃん達を守る力だってあるって思ってる」

桃太郎「強くて、冷静沈着で、何者をも恐れず、勇猛果敢に敵に立ち向かう英雄…そりゃあそういう奴はカッコいいと思うけど、拙者がそうである必要なんかなかったんだ」

桃太郎「元々自分と家族を守る為に欲した称号だ。強くなくてもいい、慌てて焦っててビビリでもいい、拙者は勇猛果敢じゃなくても……大切な場所や人々を守れるんだったら、それでいい」チャキッ

アシェンプテル「貴様ッ…!」ギッ

桃太郎「いいんだ、少しくらいヘタレでもちょっとくらい情けなくたっていい。お前を刺すことで誰かに後ろ指さされたって構わない、悪し様に言われようと知った事じゃない」

桃太郎「拙者は友であるシンデレラを救う!友達もじいちゃんもばあちゃんも【桃太郎】の世界の人々も、この心と体そして刃で…大切なモノを悪しき存在から護り通す!」

桃太郎「それが拙者にとっての『日ノ本一』だ…!!」グッ

ザシュッ…!!
932: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/24(月) 02:43:26 ID:g7R 
鳥獣ズ「「「……っ!」」」

ラプンツェル「はわー…すごいなぁ…。おっとっと、まだ緩まないようにしなきゃだ!」ググッ

アシェンプテル「ぐっ、かはっ……」ゴホッ

桃太郎(どうだ…!?この一撃で、悪魔の鏡の破片を貫く事が…出来たか!?)

アシェンプテル「まさか……本当に私に刃を突き刺すとは、思っていなかった、な……」ポタポタッ

桃太郎「……そうしてでも取り戻したかったんだ。もしもお前が拙者の事を恨むというのなら、それは受け入れるつもりだ」

アシェンプテル「……お前を恨むかどうかを決めるのは、私じゃあない」

桃太郎「という事は……っ」

アシェンプテル「幸運にだけは恵まれているようだな……お前もラプンツェルも……。そして、シンデレラも……」パキィィン

ドサッ

ラプンツェル「シンデレラが倒れた!桃太郎!もう髪の毛ほどいてもいい!?」

桃太郎「あぁ、大丈夫だ!よしっ、それじゃ剣を抜くと同時に傷口を塞いで治癒だ!」パァァァァァ

ラプンツェル「おぉーっ、傷が塞がってく…!ねぇねぇ、これでもうシンデレラは大丈夫だよね?私達、友達を取り返せたんだよね!」

桃太郎「あぁ、拙者達は成し遂げたんだ!…っていうか一発で鏡の破片砕けてマジで良かったぁぁぁぁ!!あんな事言ってミスったらどうしようかと思ったわ拙者ぁぁぁ!!もうこういうのコリゴリだから拙者!!」

・・・
933: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/24(月) 02:58:15 ID:g7R 
・・・しばらく後

ラプンツェル「じーっ……まだかな、まだかなー……」ジーッ

ロック鳥(翻訳)「ラプちゃん、その様にじっと見つめていてもシンデレラが目覚める訳では無い。目覚めを待つまでの間、少しでも休んでおいた方が良い」

ラプンツェル「でもー、目が覚めた時近くに居てあげたいから!」

シンデレラ「……っ」パチッ

ライオン「あっ…シ、シンデレラさんが目を覚ましたよっ!桃太郎さんっ!シンデレラさん、目を覚ましたよぉ!」

ラプンツェル「ホントだー!うわぁい!やったぁ!おはようっ、シンデレラっ!」ニコニコ

シンデレラ「あっ、ラプちゃん……。わ、私……!」ポタポタッ

ラプンツェル「んもーっ!泣いちゃ駄目だよー!」

シンデレラ「だ、だって私…!ラプちゃんにとてもヒドイ事をして…!ラプちゃんだけじゃない、桃太郎さんにも…他のおとぎ話の人達にも、許されないような事を……!」ポタポタ

ラプンツェル「大丈夫、大丈夫だよー。シンデレラー」ギューッ

シンデレラ「ラ、ラプちゃん…?」ギューッ

ラプンツェル「私がちっちゃいときねー、泣いちゃったときとかママがこーやってくれたの。こーしたら涙、とまるよー。大丈夫だから、シンデレラ泣かないでー」

ラプンツェル「シンデレラは操られてただけー、だから私は気にしないよー?」

シンデレラ「……うん、ごめんなさい。ラプちゃん……」グスングスン
934: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/24(月) 03:00:23 ID:g7R 
シンデレラ「そ、そうだ…桃太郎さんは!?私、桃太郎さんにもきちんと謝らないと…」

ザッ

桃太郎「シンデレラァァ!!悪かったああああぁぁぁ!!拙者の勝手な判断で胸元突き刺して本ッ当ッに悪かったああぁぁぁ!!!」ドゲザー

青い鳥「すごいな…。流れるように土下座の姿勢に移行したぞ…」

ロック鳥(翻訳)「これがジャパニーズドゲザというモノか…初めて見たぞ、我」

ライオン(も、桃太郎さんの土下座なんか見慣れてるなんて言えない…)

桃太郎「このとおりだぁぁぁぁ!!胸元の傷は完治したし傷跡も残らないからどうか許してもらえないだろうかあぁぁぁぁ!!」ドゲザー

シンデレラ「桃太郎さん!?頭を上げてください!ど、土下座なんかしないでください!」

桃太郎「一国の王妃を刃で突き刺すとか軍隊が動いても仕方ないと思うけども!!それはなんとか勘弁してもらえないだろうかぁぁぁ!!」ドゲザー

シンデレラ「そんなことさせませんから!本当にやめてください!むしろ私が土下座しなきゃいけないくらいで…!本当にごめんなさい…!」ペコペコ

ラプンツェル「あははー!二人とも気にしぃだなぁー。あっ、それじゃあみんなでドゲザしよっか!それで解決だー!」アハハ

キャイキャイ

青い鳥「桃太郎が成し遂げた事は大きいんだから堂々とすればいいのに。なんで土下座してんの」

ライオン「ぼ、僕はこれでいいと思うなぁ…なんだかんだか桃太郎さんらしいと思うから…」

ロック鳥(翻訳)「何にせよ桃太郎とラプちゃんは友の奪還に成功した。これ以上の喜びはあるまい」ルオオ

945: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/27(木) 01:55:56 ID:XJj 
・・・

おはなしウォッチにて通信中…

キモオタの声『いやはやwww流石は桃太郎殿ですなwwwシンデレラ殿の奪還を成功させたうえにラプンツェル殿との合流まで果たすとはwww』コポォ

キモオタの声『この朗報、皆には我輩がしっかり伝えておきますぞ!何はともあれこれで一安心でござるなwwwシンデレラ殿の奪還、お主に任せて良かったでござる。感謝しておりますぞwww』

桃太郎「いやいや、拙者はただ七星剣を振るっただけだから。シンデレラを救えたのはラプンツェルの型破りな発想と魔法の髪の毛のおかげなんだよ」

キモオタの声『まーたお主は謙遜などしてwww大手柄なんでござるからたまにはドヤ顔してもいいのではないですかなwww』ドゥフ

桃太郎「まぁ拙者は手柄が欲しかった訳じゃないしさ。シンデレラが戻って来て皆も無事、それで十分だよ拙者は。むしろラプンツェルの事褒めてやってくれ、今すっげぇドヤ顔してるから」

ラプンツェル「キモオター!聞いてるー?私、すんごい頑張った!シンデレラの事取り戻せたの、私のおかげだからねっ!今日のえむぶいぴーだからね!ふんすっ!」ドヤァァァ

キモオタの声『ちょwwwお主はもう少し謙遜してもいいのではwww』

ラプンツェル「けんそん…?」ハテ…?

キモオタの声『いやいやwwwこっちの話でござるwwwお主に謙遜など似合いませんでしたなwww』コポォ

シンデレラ「桃太郎さん、ラプちゃん…。少し、キモオタさんとお話させてもらっていいかな?」

ラプンツェル「うんっ!もちろんいいよー!キモオタもきっとそうしたいと思うよー」

桃太郎「あぁ、お前の元気な声を聞かせて安心させてやってくれ」
946: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/27(木) 02:03:35 ID:XJj 
シンデレラ「あのっ、キモオタさん。私です、シンデレラです…」

キモオタの声『おぉwwwシンデレラ殿www激しい戦いを繰り広げたとき居ましたがなwww声を聞く限りは元気そうでなによりでござるwww』

シンデレラ「戦いでの傷は桃太郎さんが癒してくれたので…。いえ、そんな事よりも私は謝らなければいけません……キモオタさん、本当にごめんなさいっ!」

シンデレラ「私が捕まったせいで皆さんに心配をかけました…!私が精神干渉する魔法具を使われたせいで皆さんに迷惑をかけました…!そのせいで皆さんを危険な目に…!」

シンデレラ「私は、もう謝っても謝りきれません…。言ってはいけない事もやってはいけない事も数え切れないほどやってしまいました……私、どう償っていいのか……」

キモオタの声『なーにを言っているでござるかwww気にする事は無いですぞwwwお主が悪いわけではないでござろうにwww』

キモオタの声『我輩も桃太郎殿もラプンツェル殿も、そして他の皆も…。誰一人お主を責めたりしませんぞ、むしろお主を危機から護る事が出来ず申し訳ないとさえ思っているでござる』

シンデレラ「で、ですけど…!」

キモオタの声『では聞くでござるがwww仮に我輩がアリス殿に捕まって精神操作をされたとするでござる、その結果皆に迷惑をかけたとして……お主は我輩を責めますかなwww』

シンデレラ「……決まってますよ、責めたりなんかしません。本心からの行動じゃないって、解っているんですから」

キモオタの声『我々がお主を責めない理由も、それと同じですぞwww今は精神的なダメージも大きいとは思うでござるが、少なくともお主の友人は皆、お主の味方のままでござる』

シンデレラ「……はいっ、ありがとうございます。ううん…ありがとう、キモオタさん」グスッ

キモオタの声『ドゥフフwww礼には及びませんぞwwwただどうしてもお主の気が済まないと言うのならば、全てが終わった後に豪華ディナーでも御馳走してもらうでござるかなwww』コポォ

シンデレラ「ふふっ、わかりました。全て解決したら…お城でお祝いのパーティーを開きましょう、お友達やお世話になった方を招待して」フフッ

キモオタの声『ドゥフフwwwそれは名案ですなwwwそれを実現させる為にも、もうひと頑張りしなければなりませんなwww』コポォ
947: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/27(木) 02:12:20 ID:XJj 
キモオタの声『さてwww積もる話もあるでござるが、一先ずはアリス殿との戦いに決着をつけねばなりませんからなwww』

キモオタの声『名残惜しいでござるが続きは打ち上げにするとして、今は目の前の戦いに集中するとしますかな』

シンデレラ「はいっ、それでは…また後ほど。キモオタさん、どうかお気をつけて」

キモオタの声『解りましたぞwwwお主もあまり気に病まぬようwwwでは後ほどwww』コポォ

ピッ

ラプンツェル「あっ、シンデレラ!キモオタとのお話終わったー?何か言ってたー?」

シンデレラ「うん…あまり気に病まないでって言ってくれて…。あぁ、私ってキモオタさんには救われてばかりだな…」

桃太郎「やはりか、あいつなら間違いなくそう言うと思ってた。さて、拙者達もそろそろ先を急ぐとしようか」

桃太郎「幸い、アリス一派は騒ぎに気がつかなかったのか手すきの者が居なかったか…拙者達の前には現れなかった。でもだからってゆっくりしているワケにもいかないからなぁ…」

ライオン「そ、そうだね…。桃太郎さんのおかげで皆の傷は癒えたんだし、あとは先に進まなきゃだね…」

ロック鳥(翻訳)「……ならば残念だが我と青い鳥は別行動になりそうだ。ラプちゃんと別れるのは名残惜しいが…致し方あるまい」

ラプンツェル「えっ!?なんでーっ!?一緒にアリスの所まで行こうよっ!ロック鳥も青い鳥もー!その方が心強いよー!!」

ロック鳥(翻訳)「そうしたいのは我とて同じ…だが我も青い鳥も見ての通りの巨躯、翼もまともに広げられない空間では戦果をあげる前に倒されてしまうだろう」

桃太郎(今まで流してたけどなんでラプンツェルにはロック鳥の言葉が理解できるんだ…。拙者には『ルオォォー』ってしか聞こえんけども)
948: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/27(木) 02:16:19 ID:XJj 
ロック鳥(翻訳)「故に、我と青い鳥は城の外…上空よりお前達の勝利を祈ろう。直接戦う事は出来ないが、城外からの攻撃などは防いだり見張りの様なことくらいならば、できよう」

ラプンツェル「むー……わかった!ワガママ言ってロック鳥が危険な目にあったら嫌だし、ここはロック鳥の言う通りにするよー」

ロック鳥(翻訳)「あぁ、そうしてくれ。本音を言うと我も悔しいのだ…もう少し小さな体を持っていれば共に闘えたというのに、たとえばこう…手のひらに載るような大きさでな」

ラプンツェル「あははっ、それはすんごく可愛いねー!手乗りロック鳥ー!あはははっ」

ロック鳥「うむっ。ラプちゃん…我は付いていけぬがしっかりな。桃太郎やシンデレラの言葉によく耳を傾け無理をせず、そして一人で勝手に何かを決めて進まないように……注意して欲しい。良いな?」

ラプンツェル「もーっ、わかってるよー!ロック鳥はしんぱいしょうだなー!大丈夫っ!絶対にまたシェヘラザードやシンドバッドと会えるようにしたげるからねっ!」ケラケラ

ロック鳥「うむ、ならば我はそれを期待しつつ上空からラプちゃん達を守護しよう。さぁ名残惜しいがそろそろ行こうか、青い鳥……では皆、さらばッ!」バササッ

青い鳥「あぁわかった。桃太郎、傷の治癒感謝してる。ラプンツェルも…連れだしてくれた事まぁ一応感謝はしてる、でもあまり無茶な事はしない方が良いと思うよ、少なくとも僕はもう巻き込まれるのはごめんだ。じゃあね」バササッ

ラプンツェル「あははっ、りょーかい!バイバーイ!また後でねーっ!」ブンブン

ライオン「行っちゃったねぇ…ここからは僕と桃太郎さん、ラプンツェルさんとシンデレラさんの四人だね…。が、がんばろうねっ」

ラプンツェル「うんっ、がんばろう!でも私お腹すいてるからなにか食べてからにしないー?」

桃太郎「おいぃ!何を悠長な事言ってんだお前!きびだんご分けてやるからそれ道中に食べて我慢しろっての!」

ラプンツェル「やったー!きびだんごだー!どんな味なのか楽しみー!」ワクワク

シンデレラ「」
949: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/27(木) 02:32:20 ID:XJj 
シンデレラ「……ラプちゃん、嬉しそうだなぁ」フフッ

シンデレラ(やっぱり、私はアリスやその仲間よりも桃太郎さんやラプちゃん、友達の側にいたい)

シンデレラ(私の事を大切にしてくれる友達と一緒に前に進みたい)

シンデレラ(でも……私の心を支配していた彼女、アシェンプテル。彼女の言葉もまるっきり嘘ではない)

シンデレラ(もう彼女は私の中にはいない、居ないけれど…)

シンデレラ(彼女の気持ちを蔑ろにしてもいいのだろうか……)


956: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/30(日) 23:44:33 ID:wvO 
番外編『決戦へ向かう桃太郎へ。友からの選別』

【金太郎】の世界 足柄山 アリスとの決戦前夜

桃太郎「明日は遂にアリスとの決戦か…。皆も協力してくれたしシンデレラの事取り戻せるとは思うけど、それでもやっぱり緊張するなぁ…」

金時「何を弱気になってんだ、お前はあちこちの『日ノ本のおとぎ話』から日ノ本一のお墨付きを貰ったんだぞ?お前はただそれを信じて、胸を張って行ってくりゃあいい!」ガハハ

桃太郎「うーん…なんて言うかな、皆のおかげで拙者は少しは変われた気がするし前よりも強くなれたとは思う。けどやっぱ戦いってさ…緊張するじゃん?」

舌切り「決戦前夜だってぇのにウダウダ言いやがって腐れ桃野郎が……!」イライラ

金時「ガッハッハ!まぁまぁおさえろ舌切りの!大勝負の前にはどんなに強い奴だろうと武者震いするもんだ!そんな桃太郎の緊張をほぐすための良いもんをやろう!」スッ

桃太郎「これは…飴か?」

金時「おうよ!緊張ほぐすにはうってつけだぞ!金太郎特製の金太郎飴ってな!」ガハハ

桃太郎「おぉ…!こういうの嬉しいなぁ…!ありがたく貰っとくな!」

舌切り「だんごと飴持って戦場に赴くたぁ締まらねぇ野郎だな!まぁもののついでだ、あっしからの選別も受け取れぃ。ほらよっ!」ポスッ

桃太郎「なにこれ…」

舌切り「障子紙貼るのに使うノリだ。こいつがうめぇんだ、テメェもテメェなりに頑張ったから特別な褒美だぜ」ヘヘッ

桃太郎「お、おう…。年末に障子貼る時までとっとくわ…」
957: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/07/30(日) 23:49:19 ID:wvO 
食わず女房「あらら…お二人に先を越されちゃいましたねぇ~」

桃太郎「食わず女房、ってことはもしかして…?」

食わず女房「はい、実は私も桃太郎さんに贈り物を用意していたんですぅ…。アリスと戦う前に力を付けて欲しいと思いましてぇ、どうぞ遠慮なく食べてくださいねぇ~、生肉です」ドンッ

桃太郎「えっ、生肉って…。っていうか一応は葉っぱでくるんであるけど…何の肉なのこれ?」

食わず女房「もちろん一番おいしくて元気が出るお肉ですよぉ…」

金時「具体的には何の肉なんだ?クマか?」

食わず女房「そんなケチなお肉じゃなくてですねぇ~…近くの村からさらって来た生娘のお肉、ちょうど一番おすすめの太ももあたりのお肉ですね…。ざっと5人分ですぅ…」

食わず女房「あっ、五人分っていうのは生娘五人分の太ももって意味でぇ~…食べる側としては一人前よりちょっと多いくらいなんで大丈夫ですぅ」ニッコリ…

桃太郎「おいぃぃ!そういう趣味の悪い冗談はマジでやめろって!!拙者だって流石に冗談だって事くらいわかるわ!」

食わず女房「流石は桃太郎さん、もうこの程度じゃあ驚いたりしませんねぇ~…。安心してください、山から取ってきたウサギのお肉ですから~」

金時「ガッハッハ!可愛い顔してお前の冗談はあいかわらず怖ぇなぁ!」

舌切り「しかも妙に演技がうめぇんだよなこいつぁ。一瞬だが本当に生娘の肉かと思っちまったぜ、あっしは」

食わず女房「うふふ。大切な桃太郎さんに不浄なお肉を食べさせたりしませんよぉ~……人肉なんて食べさせたら味が落ちちゃいますからねぇ」ボソッ

桃太郎「拙者の事だよね!?味が落ちちゃうって拙者の味が落ちるって意味だよね!?ボソッて言うのやめて怖いから!っていうか拙者食べるの諦めて本当に!」

おしまい 後頭部の大口が牙を剥むゆるふわ系女子、食わず女房

962: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 02:30:41 ID:9tl 
ハートの女王の城 王座の間へ続く廊下

ラプンツェル「桃太郎!きびだんご!お腹すいたからきびだんご早くー!」ペチペチ

桃太郎「ちゃんとやるからそう急かすなって!でもきっとお前驚くぞ、なんつってもアリスとの戦いに備えて用意したこのきびだんごは――」

ラプンツェル「知ってる!【シンデレラ】の世界で貰ったのとは違うんだよね!あれだよね『とくべつ製』ってやつ!」

桃太郎「お、おう。確かに前にあげたには拙者が作ってるいつもの奴で、今日持ってる奴はばあちゃんに作ってもらった特別な奴だけど……見ても無いのにわかるのか?」

ラプンツェル「だってこないだのとは入ってる袋が違うもん、おばあちゃんっぽいセンス!あと匂いも違うから違う味だなーって思った!」

桃太郎「マジか…女子の甘味に対する嗅覚すげぇ…」

ラプンツェル「そーいうのはいいから!早く食べようよ、いっぱい頑張ったらお腹すいたー」

桃太郎「そうだな、それじゃあこのきびだんごをやr」スッ

ラプンツェル「わーい!いただきまーす!」モチャモチャ…

桃太郎「あっ、お前そのまま食べても…」

ラプンツェル「……なんかおいしくない。甘みが足りなくない?」

桃太郎「ばあちゃんなぁ…最近やたらと犬猿キジの健康気遣っててな、そのままのだんごは甘さ控えめなんだよ。それでもお供達にとっちゃ十分な甘さらしいけど」

桃太郎「でも拙者達人間にとってはちょっと物足りないからな。そこでこれ!このばあちゃん特製の糖入りきな粉の出番ってわけだ!うまいぞー!」テテーン

ラプンツェル「おぉー!あとで甘い粉つけて食べるシステムだぁー!そういうのって楽しいよね!」ワクワク

ライオン・シンデレラ((なんだかすごく盛り上がってる…))
963: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 02:34:23 ID:9tl 
プンツェル「ねーねー、そのきな粉って奴どーするの?付けて食べるんだよねー?」

桃太郎「そうそう、きびだんごにきな粉をたーっぷりつけて…がぶっと食べる!これがうまいn…げーほげほげほ!ゲーッホゲホ!」

ライオン「桃太郎さん!?またきな粉が喉の変なとこに入ったのっ!?一気に食べるから…!」ワタワタ

ラプンツェル「ありゃー…日ノ本一の桃太郎もきな粉には勝てないのかー…」

桃太郎「ちょっと変なとこ入っただけだから!拙者がきな粉に負けてるみたいな物言いするのやめr…えーっほえほえほ!!」

ラプンツェル「あははは!これじゃ桃太郎は強から日ノ本二だね!」ケラケラ

桃太郎「!? きびだんごあげたのにこの言われよう…」ガーン

シンデレラ「……」

ライオン「シンデレラさん?どうかしたの…?」

シンデレラ「ううん?どうかした?ライオンさん?」

ライオン「い、いや…なんだか元気なさそうに見えたから…。あっ、なんていうかあんな事があって元気な訳ないとは思うんだけど…僕に何かできる事があったらいいなって…」

シンデレラ「ライオンさんは優しいですね。話に聞いていた通りです。桃太郎さんも、ラプちゃんも……みんな優しい」

シンデレラ(皆、私が余計な心配をしないように…あえて賑やかに振る舞ってくれている。そんな皆の気持ちはとても嬉しい)

シンデレラ(罪を償う必要はあるけれど、それでも仲間達の前では私はきっと『シンデレラ』のまま笑っていられるんだと思う。でも、それに甘えてばかりじゃいけない)

シンデレラ(私にはしなければいけない事がある。そう、彼女との…アシェンプテルとの決別だ)
964: ↓名無し:17/08/01(火) 02:37:00 ID:4Br 
ふむ
965: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 02:37:04 ID:9tl 
シンデレラ(彼女は…アシェンプテルは私にとって見知らぬ他人なんかじゃない)

シンデレラ(私が日常を過ごしていく中で心の奥深くにしまい込んだ憎しみの感情。あるいは気づいていながら眼を背けていた現状への不満……)

シンデレラ(私の心の奥底に沈んでいた負の感情。悪魔の鏡の破片のせいで浮上してきたその感情こそが……アシェンプテルなんだ)

シンデレラ(眼を背けて生きてきた今までは、それでよかったかもしれない。でも一度彼女の存在を知り、彼女の想いを知ってしまった以上私は……それをほったらかしにしてはいけない)

シンデレラ(私の中の負の感情…アシェンプテルと向き合い、そして決別をしなければいけない。いつまでも負の感情を抱えていては、皆と本当に笑い合う事は…きっとできない)

シンデレラ(でも、どうすればいいんだろう…?)

シンデレラ(アシェンプテルが特に気にしていた事は…継母への復讐。そして現状、王妃である事の不満…努力もせず運だけで手に入れた地位に対する疑問…)

シンデレラ(継母への憎しみは…確かにある、けれど復讐をしようとはやっぱり思えない。けれど…)

シンデレラ(関係をなぁなぁにしたままではやっぱりいけない。世界を取り戻して、国に帰ったら……はっきりと言おう)

シンデレラ(縁を切るんだと。王妃として処罰を与える事はしない、その代わりにもう二度と私の目の前に現れないで欲しいと……はっきりと伝えよう)

シンデレラ(継母との確執は…それでいいはず、私はそれで納得できる。けれど……運だけで王妃に成り上がったという現実は、変えられない)

シンデレラ(一体どうすべきなんだろう…。どうすれば、アシェンプテルは納得する?どうすれば私は…この心の底の不満を解消できるんだろう…?)
966: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 02:43:31 ID:9tl 
ラプンツェル「シーンデーレラッ?なんか難しい顔してるー?」

シンデレラ「えっ…?あっ…ごめんね、ちょっと考え事してた」

桃太郎「大丈夫か?きびだんご食べるか?他にも飴とかあるぞ?」

ラプンツェル「えっ!?キャンディあるの!?ちょうだいちょうだい!」

桃太郎「おいぃぃ!今シンデレラがなんか深刻な顔してたって話だろ!話の腰を折るんじゃないよ!あとでやるから!」

ラプンツェル「そうだった!何か悩みがあるんだったら私、聞くよー?だから話してよシンデレラ!」

シンデレラ「……えっとね、ラプちゃんと桃太郎さんにはとても感謝してる。私の事を救ってくれた事も、こうやって変わらず接してくれる事も。もちろんキモオタさんや皆にもね」

シンデレラ「それに友達が居なかった私にとって皆は大切な親友だよ。その気持ちに偽りはないの、だけど……」

シンデレラ「この悩みは……私が一人で決着をつけなきゃいけない事なの。だから…私の中で折り合いがついたら話す、だから今は…ごめん」

ラプンツェル「えーっ?でも皆で考えた方がきっとうまくいくよー?だから話しt」モガモガ

桃太郎「……わかった。お前がそうしたいって言うなら拙者達は何も言わない。でも拙者達に遠慮する必要なんかないからな、頼ってくれたらいつだって手を貸すから」

シンデレラ「…うん」

桃太郎「それと!一応見守るけどお前があまりにも苦しそうだったり辛そうだったら、例えお前が嫌がったとしても助けるから、その余計なお世話は勘弁な」

ラプンツェル「ぷはっ!そーいうことなら私も聞かない!でも無理したらあたまんなかうわーってなるから、それはダメだからね!わかった?」

シンデレラ「ううん、ありがとうね。桃太郎さん、ラプちゃん」フフッ
967: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 02:55:04 ID:9tl 
シンデレラ(二人に頼れば楽かもしれない、キモオタさん達に頼ればすぐに解決するかもしれない)

シンデレラ(でも、それじゃいけないと思う)

シンデレラ(私は、魔法使いさんやキモオタさんに出会って…舞踏会で王子様に出会って…何の苦労も無く王妃になった)

シンデレラ(幸せな生活を送っていると思う、それに疑問を持つなんておかしいって多くの人は言うと思う)

シンデレラ(それでも私は…アシェンプテルは…納得できていないんだ)

シンデレラ(王族が嫌な訳でもない。ましてや今の恵まれた生活が嫌な訳でも、国王様に愛想が尽きたなんて訳でも無い)

シンデレラ(それでもきっと私は……自分で決めたかったんだ。私だけの目標、私だけの夢、私だけの…なりたい私)

シンデレラ(苦労しても挫折してもいい、努力して努力して…自分だけの目標を掴みたかったんだ。誰かに与えられたものなんかじゃなく)

シンデレラ(それに気がつけたなら、きっと今からでも遅くは無い。王妃をやめるなんてことは出来ないけれど、でも夢や目標を持つ事は出来る)

シンデレラ(そしてそれは、私にだけしか決められない事だ。私の夢は、私にしか決められない事だから)

シンデレラ(私の夢、なりたいもの…今はまだ見つからないけれど、いつか必ず…見つける)

シンデレラ(その為にもアリスを倒さなければいけない、世界を取り戻す。まずはそこからだ)

・・・
968: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 02:58:10 ID:9tl 
少しだけ時間は遡り…キモオタサイド・シンデレラとの通話後
ハートの女王の城 廊下

キモオタ「解りましたぞwwwお主もあまり気に病まぬようwwwでは後ほどwww」コポォ

ピッ

キモオタ「ぶふぅ~www一時はどうなるかと思いましたがなwwwシンデレラ殿を奪還できたとなればまずは一安心でござるwww」コポォ

ドロシー「シ、シンデレラさん正気に戻れたんですね…。良かったですよぉ~…ほんどうによかっだでずぅ~…」ポロポロ

キモオタ「まーたお主はすぐに泣くwww無事に彼女を救いだす事ができたのでござるから、ここは涙を流すよりも喜ぶべきですぞwww」

ドロシー「そ、そうですね…。でもよかった…きっと皆さんも喜んですよね、赤ずきんちゃん達も、今は消えちゃってるけどティンクちゃんも……きっと喜んでます」

キモオタ「うむ、そうですなwwwあとはアリス殿からランプを取り戻し、消えてしまった世界を元通りにするだけでござるwww」

ドロシー「わ、私も出来る事は何だってやります…!だから頑張りましょうね、キモオタさんっ!」

キモオタ「モチのロンですぞwww」コポォ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『クックック…。アシェンプテルがやられたか…。だが奴はアリス配下最弱の存在……』カチャカチャ

キモオタ「出たwwwお主そういうの言いたいだけでござろうwww」コポォ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『フッ…戯れだ、奴の実力は相当なものだと聞いている。しかし『悪魔の鏡の破片』の呪縛を打ち破るとは…お前の仲間もまた、相当な実力を持つ能力者≪スキルホルダー≫のようだな』

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『†運命に抗いし豚†…そして†憤怒と嗚咽の同居人†。お前達の実力も、この俺が力を貸すに相応しいものだと期待している』

†憤怒と嗚咽の同居人†「深紅ちゃん…。あのっえっと、その呼び方なんとか……い、いや別にいいんだけど……」

†運命に抗いし豚†「ちょwww嫌ならばはきちんと断らなければお主の性格だとそのまま流されてしまいますぞwww」コポォ
969: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 03:01:17 ID:9tl 
†鮮血に染まりし深紅の鍵†『それよりもまだ目的の場所には辿り着かないのか?もう随分と歩かされているのだが…』

キモオタ「ちょwwwお主は微塵も歩いていないでござろうにwww」コポォ

ドロシー「ごめんなさい。でもルイスさんのお部屋までもう少しです、だからもうちょっとだけ頑張ってね、深紅ちゃん」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『まぁいいだろう…。行動を共にすると決断したのは俺自身、ならばお前が負うべき苦難を共に背負うもまた、俺に課せられた運命≪ディスティニー≫』

キモオタ「カッコイイ感じで言ってるでござるけどwwwお主ドロシー殿に運んでもらってるだけでござるからねwww」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『フッ…眼に見えるモノが必ずしも真実だとは限らない…。果たしてその瞳に映る俺の姿は真実か虚構か……』フッ…

ドロシー「わぁー…なんだか深紅ちゃんって難しい言葉をよく使うよね、哲学的って言うのかな?なんだかカッコイイね」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『おっ?おっ?そうか?――フッ、中々見る目があるじゃあないか。流石はこの俺が認めた能力者≪スキルホルダー≫…侮れんな』

キモオタ「ドロシー殿wwwあまり調子に乗らせると後が面倒ですぞwww」

ドロシー「そうなんですか…?あっ、それよりも見えてきましたよ!そのつきあたりの部屋がルイスさんのお部屋です!」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『ほう…確かに強力な魔力を感じる。まるで何かを護るする為に張られた強固な結界の様な守護の魔力を――』

キモオタ「ちょwwwドロシー殿wwwこの扉『第二書庫』って書いてあるでござるけどwww本当にルイス殿の部屋なのですかなwww」

ドロシー「あっ…ごめんなさい、私間違えちゃって…。その部屋じゃなくて二つ右隣の部屋がルイスさんのお部屋です。あっ、でも深紅ちゃんはここから魔力を感じるんだよね?それじゃあこの部屋も調べてみる…?」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『……そ、その必要はない。どうやら気のせいだったようだ』

キモオタ「ちょwwwこれはwww流石の我輩もwww大草原不可避wwwwwwwww」wwwwww
970: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 03:03:28 ID:9tl 
ハートの女王の部屋 ルイス・キャロルの部屋

ドロシー「さっきは間違えちゃってごめんなさい。今度こそ間違いなく、ここがルイスさんのお部屋です…!でもやっぱり、鍵はかかってますね…」ガチャガチャ

キモオタ「そのようですなwww時に鍵殿、この部屋から魔力は感じますかなwww」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『貴様…俺を侮辱するつもりか?もしも『YES』と答えるのならば、俺は貴様に力を貸さんぞ?』ゴゴゴゴゴ

キモオタ「ちょwwwそれは反則でござろうwww足元を見るとは卑怯ですぞwww」コポォ

ドロシー「なんだかよくわかんないけど…深紅ちゃん、あなたが力を貸してくれないと私はとても困るの。だからお願い、そんな事言わないで、ね?」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『……安心しろ、一度交わした約束を違える俺ではない。†憤怒と嗚咽の同居人†…いや、ドロシー。お前には望むままの力を貸してやる』

ドロシー「わぁっ、ありがとうね深紅ちゃんっ!それにキモオタさんも許してあげて?あんなの冗談だから、ね?」ナデナデ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『†愚かなる豚†よ、ドロシーに免じて今回はおおめに見てやる。ドロシーに感謝する事だ』

キモオタ「わかりましたぞwww少々からかいすぎましたな、申し訳ないwwwそれにしても†愚かなる豚†はあんまりでござろうwww」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『その名は貴様への戒めだ、恨むのならば己の軽口を恨むんだな†愚かなる豚†よ』

キモオタ「ちょwww言わなきゃよかったwww」コポォ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†「フン…いつまでも戯言を並べている暇は無い。ドロシー、早速だがこの部屋の鍵を解く。もう少し扉に近寄れ、そして俺を掲げろ』

ドロシー「あっ、はい!えっと、こうでいいのかな……?」スッ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†「上出来だ。そのままの状態を維持していろ、俺の能力≪スキル≫を魅せてやる……!』

パァァァァ…!
971: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 03:05:47 ID:9tl 
カチャッ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『……こんなものか。ドロシー、これでこの扉は開くはずだ。試してみろ』

ドロシー「う、うん…。えっと、えいっ!」ガチャッ

キィッ

キモオタ「おぉwww本当に扉が開きましたぞwww先程まで確かに鍵が閉まっていたというのにwww」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『フッ…他愛も無い。もっと複雑な錠前や守護の魔力を帯びた扉を期待していただけに、拍子抜けもいいところだ』

ドロシー「でもすごいよ、深紅ちゃんっ!ありがとうね、とっても助かったよ!」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『そうか?それは良かっt――お前が助かろうが俺には関係の無い事だがな、まぁ悪い気はしないな。お前が望むのならば今後も力を貸してやる』

ドロシー「私としてはそうしてくれると助かるけど…。でも深紅ちゃんはそれで良いの?」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『愚問だ。男に二言は無い。』

ドロシー「そっか、深紅ちゃんは男らしくてカッコイイね」ナデナデ

キモオタ「ドロシー殿wwwお主、すっかり鍵殿に気に入られておりますなwwwドロシー殿とゆかいな仲間達にまた一人異色のメンバーがwww」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『†愚か豚†何をボケっとしている?扉を開けてやったんだ、先ずは貴様が部屋の中へ入り危険が無いか調べろ。ドロシーはその後だ』

キモオタ「えぇぇwwwそれでは我輩、実験台ではござらんかwwwまぁドロシー殿に先陣切らせる訳にもいかない故に、我輩が行くでござるがwww」コポォ
972: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 03:10:37 ID:9tl 
ギギィ

キモオタ「ルイス殿、申し訳ないでござるが少々お邪魔しますぞ…」スッ

キモオタ「ふむ…どうやら罠や魔法などの心配はなさそうでござるし、ドロシー殿も入って来ても大丈夫そうですぞwww」

ドロシー「はい、失礼しまーす…」ヒョコ

キモオタ「それにしても…いかにも作家先生の書斎、といった感じでござるなぁwww」コポォ

ドロシー「そうですね、大きな机と立派な椅子…それに背の高い本棚には本がびっしり並んでます」

キモオタ「やはりというか当然というかwwwおとぎ話の本が多いように見えますなwww」

ドロシー「…というかよく見ると、有名なおとぎ話はほとんどありますよ。グリム童話集もイソップ寓話もありますし、アンデルセン童話なんかとても大切そうにガラス扉に入ってます」

キモオタ「そのようですな、消えてしまっているおとぎ話もあるところを見ると雪の女王殿の本棚と同じシステムのようでござる」

キモオタ(ルイス・キャロル殿…。【不思議の国のアリス】の作者であり、アリス殿が世界を崩壊させる動機となった人物……)

キモオタ(故に、ルイス殿の部屋もまた一風変わっているというか異彩を放っているものと思って居たでござるが、そういうわけでもなさそうですな)

ドロシー「えーっと…キモオタさん、この後どうしましょう…?」

キモオタ「そうですな…。この部屋はアリス殿でさえ足を踏み入れた事は無いらしいでござるし、アリス殿を説得する上で使えそうな『何か』が見つかるかもしれないでござる」

キモオタ「まずは手分けして、机や本棚を探してみますぞ。二人の思い出の品とか、ルイス殿の想いが伝わるような品があれば……アリス殿を止める事も叶うかもしれませんからな」
973: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 03:12:18 ID:9tl 
キモオタ「まず、我輩は机の方を調べて見るでござるよ。作家といえばやはり机でござろうしなwww」

ドロシー「そ、それじゃ私達は本棚を調べてみますね」

キモオタ「がってん承知wwwではそっちは任せましたぞwww」

ドロシー「は、はい。わかりました。えっと、ルイスさんごめんなさい、少しだけお部屋いじっちゃいます」ペコッ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『誰に頭を下げているんだ?いや、まぁルイスなんだろうが…奴は随分昔に死んだんだろう?意味があるのか、そのお辞儀は』

ドロシー「で、でも勝手に部屋を荒らすなんて悪い事だから…」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『まぁ、いい。それよりも捜索を開始すべきだ、あの豚に遅れをとってしまう。そうだな…そのカゴから捜索を開始するというのはどうだ?』

ドロシー「う、うん。えーっと…このカゴに入っているのは手紙、かな?」ゴソゴソ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『無数の差出人、異なる消印…察するに様々な地域からルイスに宛てて贈られたファンレターと言ったところだろうな』

ドロシー「そうだね…。でもここには私達が探しているようなものは無いかもしれないね」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『確かにな、アリスと繋がりがあるような手紙はないだろう。ならば棚に並ぶ無数のスケッチブックやアルバムに標的を変えてみるとするか』

ドロシー「そうだね、そっちなら何かアリスと関係があるモノが見つかるかもね!」
974: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 03:14:32 ID:9tl 
ドロシー「……どのスケッチブックを開いても幼い女の子のスケッチばっかりだ。アルバムの方も女の子の写真が大半だし……」

ドロシー「……でも、アリスのスケッチも写真も一枚も無いなぁ。でも流石に一枚も無いって事はありえないとおもうし、どこか別の場所にしまってるのかな?」

ドロシー「とりあえず、ここはもういいかな…?他には何も無さそうだし、スケッチブックとアルバムを棚に戻して別の場所を…」スッ

トサッ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『ドロシー、棚から何か落ちたぞ。これもスケッチブックのようだが、他のそれとは違って少し小さいな…まるで子供用n』

ドロシー「……あっ!これっ!スケッチブックに書かれてる名前を見てください、深紅ちゃん!」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『名前?ルイスのスケッチブックじゃないのか?だとしたら一体誰の…。なん…だと…!?この名は…!』

 『ありす・ぷれざんす・りでる』

ドロシー「この小さなスケッチブック、アリスの物だ…。それに名前、子供が書いた字みたいだし…きっとまだアリスが幼かったころのものだと思う…」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『ドロシー、中を見て見たらどうだ?何か掴めるかもしれない』

ドロシー「……うん、じゃ、じゃあ開くねっ」ペラペラッ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『…どうだ?』

ドロシー「えーっと…絵はやっぱり幼い子が描いたものに見えるんだけど、えっと…これはみてもらった方が早いかなぁ…?」
975: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 03:18:02 ID:9tl 
†鮮血に染まりし深紅の鍵†『どれどれ…。どうやら単なる子供のラクガキの様だな、残念だがお前達の役に立つとは……』

ドロシー「確かにほとんどのページがただのラクガキなんだけど、でも…例えばこのページ、見てくれる?」スッ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『あぁ…鳥の様な絵が描かれているな。だが他のページと違いがあるようには思えないが……んっ?』

≪ジャブジャブ鳥≫
一年中、常に発 している鳥類。その行動が厄介である事は発 期の猫を見れば明らかだろう

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『絵の隅に説明文の様なものが記されているな。これは大人の文字…いや恐らくはルイスが書いたものだろうな』

ドロシー「ですよね、私もそう思います。こんな感じのページは他にもあって…えっと、例えばこれとかも…」ペラペラ

≪バンダースナッチ≫
非常に獰猛な性格。強靭な顎と俊敏な動きを併せ持つ獣、首を自由自在に伸縮させて得物を追い詰める

ドロシー「きっと、幼い頃のアリスが描いた絵にルイスさんが設定を加えたんだと思う…。でも、何のために?おとぎ話に登場させるつもりだったのかな…?」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†「……」

ドロシー「深紅ちゃん?どうかした?」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『魔獣図鑑≪モンスターカタログ≫…!!これぞまさに古の魔獣を記録せし伝説の書物…!』

ドロシー「し、深紅ちゃん…?」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†「流石はプロの作家!イラストはともかく設定がカッコイイ…!他にはないのか!?漆黒で混沌で絶望で久遠みたいな最強の魔獣≪モンスター≫は…!」

ドロシー「はわわ…深紅ちゃんの変なスイッチが入っちゃった…」アワワ
976: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 03:20:39 ID:9tl 
†鮮血に染まりし深紅の鍵†『次のページを、早急に次のページをめくってくれ、ドロシー!』

ドロシー「あ、あのっ…深紅ちゃん?本来の目的を忘れちゃってるんじゃ……でも手伝ってもらってるしページめくるくらいはするけど…」ペラペラ

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『……見つけた!見つけたぞ、これぞまさしく魔獣を統べるモノ…!最強最悪の魔獣…!』

ドロシー「え、えーっと…?わっ、なんだろうこれ…ドラゴン…?魔獣?うまく表現できないけど、なんだか……強そうって言うのは解るけど……」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『ああ、一目で解る…この魔獣は只者ではない。それにこのページだけ、ルイスの説明文が妙に多いし詳細だ』

ドロシー「本当だ、何か意味があるのかな…?」

†鮮血に染まりし深紅の鍵†『どうだろうな…。だがアリスが姿を描き、ルイスが魂を吹き込んだものだ、お前達が探している『何か』の断片の可能性はある』

ドロシー「そ、そうかも…。ルイスさんの説明文になにか隠されているかも…。えーっと……」

・・・

決して、その魔獣に近寄ってはいけない。命が惜しいのならば。

食らい尽くすアギト それは何物をも容易く噛み砕き死に誘う

引き裂き掴む鉤爪 それは全てを引き裂き殺し

炯々と燃やす両の眼 それに捕らえられればもう逃げる事は叶わない

理解の及ばぬ言葉を喚き散らしながら 獣の姿をした『絶望』は怒めきずる

それは全てを滅ぼし絶やす、何よりも恐ろしき魔獣。人はその魔獣の名を――


ドロシー「……ジャバウォック。と呼ぶ――」
977: ↓◆oBwZbn5S8kKC:17/08/01(火) 03:23:42 ID:9tl 
・・・

キモオタ「……さぁて、どうしたもんでござるかな。しょっぱなからとんでもないもんが机の上に置いてあったでござるが」ピラッ

キモオタ「ルイス殿宛ての一枚の封筒…。中身は入っていないでござるけど、この差出人の名前…というかペンネーム…」

差出人 マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメー 『PN.ウィーダ』

キモオタ「確かかぐや殿がネロ殿と出会った世界【フランダースの犬】というおとぎ話の作者もウィーダという名だったはずでござる…」

キモオタ「ルイス殿もウィーダ殿も作家でござるから交流があってもおかしくは無いでござるが……かぐや殿の話では、ウィーダ殿はおとぎ話の世界の存在を知っている……」

キモオタ「そして当然ルイス殿も……うーむ、これは後ほど司書殿に話を聞いてみる必要がありそうですな」

キモオタ「となると封筒だけでなく中身の便せんも見つけたいところですな、引き出しの中に入っていたりしないでござろうか」ゴソゴソ

キモオタ「……むむっ?これは……?」

ドサッ

キモオタ「原稿の束、でござるな…。という事はこれはルイス殿が執筆した作品という事なのでござろう」

キモオタ「とはいえ我輩、ルイス殿が書いたおとぎ話は【不思議の国のアリス】しか知らないのでござるよね…。とりあえずタイトルを確認して司書殿に聞いてみるでござるか」

キモオタ「さてさて…このおとぎ話のタイトルは――」



【鏡の国のアリス】