ミイラと出会った後も須賀京太郎は必死でもがいていた、この時に須賀京太郎が見たものと聞いたものについて書いていく。
それはあの奇妙な一瞬、ミイラによって視界を奪われどこかへと落とされた直後であった。
足場が失われて落下していることを察した須賀京太郎は視界を確保しようとした。顔にへばりついている何かを一番に剥ぎ取ったのだ。
鋭くとがった五感によって周囲の状況を把握できる須賀京太郎であるけれど、視覚が完全に塞がれているのは非常にまずかった。
超人的な腕力を持つ須賀京太郎である、一秒もかからずに顔にへばりついていたモノをはぎ取れた。しかしすぐに目を見開いた。
落下中の視界に奇妙なものが複数見えたのだ。落下している須賀京太郎はまず、真っ白な大地を見つけた。
落下中のことであるから大地に引き寄せられるのは当然だが、その大地が真っ白だったのだ。見渡す限りがすべて真っ白で、緑色の光に照らされていた。
月の光を反射する雪原のように見えた。次に須賀京太郎は真っ白な大地を一割ほどを占めている巨大な大樹を見た。
この大樹が緑色の淡い光を放つ正体で、白い大地を照らす太陽だった。
また尋常ではない巨大さで、幹の太さは一番太いところで直径十キロメートルを超えている。高さはわからない。
暗黒の空を突き破ってさらに上に伸びていたからだ。不思議なことで空に星はない。暗黒であった。
この奇妙な光景を見た須賀京太郎は驚きはしたがすぐに落ち着いた。どう見ても異界である。
現世では存在できない巨大な大樹。大樹から放たれる緑色の光。星のない暗黒の空。推理の必要はない。
異界の核になっている悪魔を始末すれば脱出可能と見極めた。しかし見極めた後ものすごく焦ることになった。
というのが落下する須賀京太郎のすぐ後から女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。須賀京太郎はすぐに悲鳴の方向を見上げた。
そうして見上げた先にあったのは
「まっしゅろしゅろすけ」
に身を包まれた姉帯豊音だった。須賀京太郎と姉帯豊音の距離から察するに、二秒ほど間をおいて姉帯豊音は落とされていた。
これを見て須賀京太郎はただ焦った。広大な真っ白い大地をほとんど把握できるほどの高度である。須賀京太郎の感覚からすると、高度八千メートルあたり。
すぐにスカイダイバーの様に両手両足を広げて姉帯豊音の距離を縮めた。
姉帯豊音を発見して接近した後須賀京太郎は彼女を抱きしめていた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音について書いていく。
それは姉帯豊音を見つけてすぐのことである。スカイダイバーのように両手両足をうまく使って風をとらえ、落下している姉帯豊音を捕まえた。
須賀京太郎が近づくと白い雲のような鉄壁の守り
「まっしゅろしゅろすけ」
が薄くなり、姉帯豊音と再会させた。雲が晴れて須賀京太郎の姿が見えると姉帯豊音はほっとしていた。
恐怖でゆがんでいた姉帯豊音の目に希望の光が見えた。不気味なサイレンの後、十秒ほどで高度八千メートル近くから落下しているのだ。
須賀京太郎がいてくれてよかった。須賀京太郎が近づいてくると姉帯豊音は彼の首に腕をまわした。須賀京太郎も姉帯豊音を抱きしめた。
そうしなければ離れ離れになってひどいことになるとお互いが理解していた。二人が固く抱き合ったところで真っ白い雲の加護
「まっしゅろしゅろすけ」
が二人の体を包み込んだ。高度八千メートルからの落下中、二人の姿を隠すためである。狙撃の可能性を「まっしゅろしゅろすけ」は考えていた。
そんな時だった。須賀京太郎は姉帯豊音にきいた。
「『まっしゅろしゅろすけ』は衝撃を完全に殺しきれますか!?」
随分あせった声を出していた。するとすぐに姉帯豊音が答えた。
「外からくる衝撃なら完璧に!」
須賀京太郎に負けないくらい姉帯豊音もあわてていた。しかしよく受け答えができていた。須賀京太郎の質問から須賀京太郎の言いたいことを理解したのだ。
須賀京太郎が心配しているのは着地の衝撃ではない。須賀京太郎が心配しているのは落下の勢いが殺せるかどうかである。慣性の法則が問題なのだ。
「高速で移動している電車や車が急停止したら中の人はどうなる?」
それはあの奇妙な一瞬、ミイラによって視界を奪われどこかへと落とされた直後であった。
足場が失われて落下していることを察した須賀京太郎は視界を確保しようとした。顔にへばりついている何かを一番に剥ぎ取ったのだ。
鋭くとがった五感によって周囲の状況を把握できる須賀京太郎であるけれど、視覚が完全に塞がれているのは非常にまずかった。
超人的な腕力を持つ須賀京太郎である、一秒もかからずに顔にへばりついていたモノをはぎ取れた。しかしすぐに目を見開いた。
落下中の視界に奇妙なものが複数見えたのだ。落下している須賀京太郎はまず、真っ白な大地を見つけた。
落下中のことであるから大地に引き寄せられるのは当然だが、その大地が真っ白だったのだ。見渡す限りがすべて真っ白で、緑色の光に照らされていた。
月の光を反射する雪原のように見えた。次に須賀京太郎は真っ白な大地を一割ほどを占めている巨大な大樹を見た。
この大樹が緑色の淡い光を放つ正体で、白い大地を照らす太陽だった。
また尋常ではない巨大さで、幹の太さは一番太いところで直径十キロメートルを超えている。高さはわからない。
暗黒の空を突き破ってさらに上に伸びていたからだ。不思議なことで空に星はない。暗黒であった。
この奇妙な光景を見た須賀京太郎は驚きはしたがすぐに落ち着いた。どう見ても異界である。
現世では存在できない巨大な大樹。大樹から放たれる緑色の光。星のない暗黒の空。推理の必要はない。
異界の核になっている悪魔を始末すれば脱出可能と見極めた。しかし見極めた後ものすごく焦ることになった。
というのが落下する須賀京太郎のすぐ後から女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。須賀京太郎はすぐに悲鳴の方向を見上げた。
そうして見上げた先にあったのは
「まっしゅろしゅろすけ」
に身を包まれた姉帯豊音だった。須賀京太郎と姉帯豊音の距離から察するに、二秒ほど間をおいて姉帯豊音は落とされていた。
これを見て須賀京太郎はただ焦った。広大な真っ白い大地をほとんど把握できるほどの高度である。須賀京太郎の感覚からすると、高度八千メートルあたり。
すぐにスカイダイバーの様に両手両足を広げて姉帯豊音の距離を縮めた。
姉帯豊音を発見して接近した後須賀京太郎は彼女を抱きしめていた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音について書いていく。
それは姉帯豊音を見つけてすぐのことである。スカイダイバーのように両手両足をうまく使って風をとらえ、落下している姉帯豊音を捕まえた。
須賀京太郎が近づくと白い雲のような鉄壁の守り
「まっしゅろしゅろすけ」
が薄くなり、姉帯豊音と再会させた。雲が晴れて須賀京太郎の姿が見えると姉帯豊音はほっとしていた。
恐怖でゆがんでいた姉帯豊音の目に希望の光が見えた。不気味なサイレンの後、十秒ほどで高度八千メートル近くから落下しているのだ。
須賀京太郎がいてくれてよかった。須賀京太郎が近づいてくると姉帯豊音は彼の首に腕をまわした。須賀京太郎も姉帯豊音を抱きしめた。
そうしなければ離れ離れになってひどいことになるとお互いが理解していた。二人が固く抱き合ったところで真っ白い雲の加護
「まっしゅろしゅろすけ」
が二人の体を包み込んだ。高度八千メートルからの落下中、二人の姿を隠すためである。狙撃の可能性を「まっしゅろしゅろすけ」は考えていた。
そんな時だった。須賀京太郎は姉帯豊音にきいた。
「『まっしゅろしゅろすけ』は衝撃を完全に殺しきれますか!?」
随分あせった声を出していた。するとすぐに姉帯豊音が答えた。
「外からくる衝撃なら完璧に!」
須賀京太郎に負けないくらい姉帯豊音もあわてていた。しかしよく受け答えができていた。須賀京太郎の質問から須賀京太郎の言いたいことを理解したのだ。
須賀京太郎が心配しているのは着地の衝撃ではない。須賀京太郎が心配しているのは落下の勢いが殺せるかどうかである。慣性の法則が問題なのだ。
「高速で移動している電車や車が急停止したら中の人はどうなる?」
106: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/27(土) 23:56:44.50 ID:1Tajhx4k0
この問題に姉帯豊音は
「ふっとぶ。たとえ鉄壁の加護が地面との衝突を防いでも中にいる私たちの勢いは弱まらない」
と答えたのだ。しかし須賀京太郎はあきらめなかった。姉帯豊音の体をしっかりと抱いて、集中を始めた。
稲妻の魔法と体術を合わせて姉帯豊音の勢いを殺すつもりだった。自分のことはどうでもよかった。落下の衝撃は我慢できるからだ。
覚悟を決めると老人の声が聞こえてきた、この時の須賀京太郎と奇妙な声について書いていく。それは落下まであと数十秒というところである。
「まっしゅろしゅろすけ」
の中、姉帯豊音を抱きしめる須賀京太郎の背中から老人の声が聞こえてきた。かすれた声だった。
「ずいぶん、大変なことになっておるな……おい小僧。わしに協力せんか?
この窮地を乗り切るために、わしの協力が必要じゃろう? 今のまま地面に着地すれば間違いなくお嬢ちゃんが死ぬぞ……小僧はかすり傷も負わんじゃろうけどな。
協力するかしないのか、それだけ答えよ。時間はねぇぞ」
しわがれた老人の声に須賀京太郎と姉帯豊音が反応した。須賀京太郎も姉帯豊音も非常に驚いていた。
まったく気配を感じない存在に対して須賀京太郎は驚き、姉帯豊音は声の正体に驚いていた。姉帯豊音の視線は須賀京太郎の背中に向かっていた。
大きく鍛えられた須賀京太郎の背中、バトルスーツに同化するように干からびた皮のマントがへばりついているのを見ていた。
しかもこのマント、人面祖のようなものがあり、口をきいていた。そして観察を進めた姉帯豊音は震えあがった。
へばりついている革のマントの正体に行き当たったからである。へばり付いているマントは、人の皮を創って作られた呪物だった。
口をきく奇妙なマントの誘いから三秒後須賀京太郎はうなずいていた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音について書いていく。
それは背中にへばりついている人の皮で作られたマントが協力を提案してきた直後である。黙って考えている須賀京太郎を姉帯豊音が止めようとした。
「協力してはならない」
と、言うつもりであった。なぜならばどう考えてもまともではない。怪しいところがいくらでもある。
「絶対に飲んではならない」
と言いたかった。しかし、姉帯豊音がダメだというよりも前に須賀京太郎はこういった。
「わかった。手伝おう。
だが、姉帯さんを助けられないのなら、何もかもなかったことにする」
須賀京太郎の答えをきいて姉帯豊音が唇をかんだ。須賀京太郎の性格を把握しつつある姉帯豊音である。もっと大胆に動けばよかったと後悔した。
しかし姉帯豊音が注意したとしても須賀京太郎は提案をのんだだろう。今の須賀京太郎は姉帯豊音の護衛である。
目的を達成するためならこの程度なんてことなかった。
須賀京太郎がうなずいてすぐ奇妙なマントが動き出した、この時のマントの行動と問題について書いていく。
それは須賀京太郎が提案を飲んだ直後である。バトルスーツにへばりついたマントが大きな声でこう言った。
「よろしい! 実に良い! この智慧の完成者にしてロキであるワシがお嬢ちゃんと小僧を守ってやろう!
お嬢ちゃん! 『大慈悲の加護』を解いてくれ! わしが風を捕まえる!」
しわがれた声だった。しかし少し水分が戻ってきていた。
須賀京太郎がうなずいた瞬間から、バトルスーツの魔鋼を通じてマグネタイトが供給され始めたのだ。
カラカラになった革に血管のようなふくらみが生まれ、須賀京太郎の赤いエネルギー・マガツヒがマントを潤した。
同時に須賀京太郎の特性、強烈な酒のような性質でマントが赤く染まった。するとマントになっているロキが苦しんだ。強烈な浄化作用が痛めつけていた。
しかしすぐにおさまった。植物の様に発散することで苦しみから逃れたのだ。しかしその結果、マントの周囲に赤い火花が散った。
発散したエネルギーの残骸である。
「ふっとぶ。たとえ鉄壁の加護が地面との衝突を防いでも中にいる私たちの勢いは弱まらない」
と答えたのだ。しかし須賀京太郎はあきらめなかった。姉帯豊音の体をしっかりと抱いて、集中を始めた。
稲妻の魔法と体術を合わせて姉帯豊音の勢いを殺すつもりだった。自分のことはどうでもよかった。落下の衝撃は我慢できるからだ。
覚悟を決めると老人の声が聞こえてきた、この時の須賀京太郎と奇妙な声について書いていく。それは落下まであと数十秒というところである。
「まっしゅろしゅろすけ」
の中、姉帯豊音を抱きしめる須賀京太郎の背中から老人の声が聞こえてきた。かすれた声だった。
「ずいぶん、大変なことになっておるな……おい小僧。わしに協力せんか?
この窮地を乗り切るために、わしの協力が必要じゃろう? 今のまま地面に着地すれば間違いなくお嬢ちゃんが死ぬぞ……小僧はかすり傷も負わんじゃろうけどな。
協力するかしないのか、それだけ答えよ。時間はねぇぞ」
しわがれた老人の声に須賀京太郎と姉帯豊音が反応した。須賀京太郎も姉帯豊音も非常に驚いていた。
まったく気配を感じない存在に対して須賀京太郎は驚き、姉帯豊音は声の正体に驚いていた。姉帯豊音の視線は須賀京太郎の背中に向かっていた。
大きく鍛えられた須賀京太郎の背中、バトルスーツに同化するように干からびた皮のマントがへばりついているのを見ていた。
しかもこのマント、人面祖のようなものがあり、口をきいていた。そして観察を進めた姉帯豊音は震えあがった。
へばりついている革のマントの正体に行き当たったからである。へばり付いているマントは、人の皮を創って作られた呪物だった。
口をきく奇妙なマントの誘いから三秒後須賀京太郎はうなずいていた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音について書いていく。
それは背中にへばりついている人の皮で作られたマントが協力を提案してきた直後である。黙って考えている須賀京太郎を姉帯豊音が止めようとした。
「協力してはならない」
と、言うつもりであった。なぜならばどう考えてもまともではない。怪しいところがいくらでもある。
「絶対に飲んではならない」
と言いたかった。しかし、姉帯豊音がダメだというよりも前に須賀京太郎はこういった。
「わかった。手伝おう。
だが、姉帯さんを助けられないのなら、何もかもなかったことにする」
須賀京太郎の答えをきいて姉帯豊音が唇をかんだ。須賀京太郎の性格を把握しつつある姉帯豊音である。もっと大胆に動けばよかったと後悔した。
しかし姉帯豊音が注意したとしても須賀京太郎は提案をのんだだろう。今の須賀京太郎は姉帯豊音の護衛である。
目的を達成するためならこの程度なんてことなかった。
須賀京太郎がうなずいてすぐ奇妙なマントが動き出した、この時のマントの行動と問題について書いていく。
それは須賀京太郎が提案を飲んだ直後である。バトルスーツにへばりついたマントが大きな声でこう言った。
「よろしい! 実に良い! この智慧の完成者にしてロキであるワシがお嬢ちゃんと小僧を守ってやろう!
お嬢ちゃん! 『大慈悲の加護』を解いてくれ! わしが風を捕まえる!」
しわがれた声だった。しかし少し水分が戻ってきていた。
須賀京太郎がうなずいた瞬間から、バトルスーツの魔鋼を通じてマグネタイトが供給され始めたのだ。
カラカラになった革に血管のようなふくらみが生まれ、須賀京太郎の赤いエネルギー・マガツヒがマントを潤した。
同時に須賀京太郎の特性、強烈な酒のような性質でマントが赤く染まった。するとマントになっているロキが苦しんだ。強烈な浄化作用が痛めつけていた。
しかしすぐにおさまった。植物の様に発散することで苦しみから逃れたのだ。しかしその結果、マントの周囲に赤い火花が散った。
発散したエネルギーの残骸である。
107: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:02:05.60 ID:a4xFQg1Z0
マントになっているロキが大きな声で指示を出した後、須賀京太郎と姉帯豊音はつかの間の空中遊泳を楽しむことになった、この時の須賀京太郎と姉帯豊音の行動を書いていく。
それはマントになっているロキが加護を解けとお願いした時のこと。悪名高い悪神ロキからの指示を姉帯豊音が完全に無視した。
須賀京太郎の首に回している腕をぎゅっとしめて、須賀京太郎にこう言った。
「どうするの須賀君!」
須賀京太郎の耳に口を近づけて、大きな声で尋ねていた。まったくマントになっているロキを信頼していなかった。しかし当然である。
マントの正体がロキならば、信頼できるわけがない。そうして姉帯豊音が加護を解かないでいると須賀京太郎がこう言った。
「加護を解いてください、姉帯さん! ロキがやろうとしていることが俺にもわかる! こいつはパラシュートを作るつもりだ!」
この時姉帯豊音を須賀京太郎がぎゅっと抱きしめていた。しかし自信満々というわけではない。須賀京太郎の顔は不安でいっぱいだった。当然である。
マントになっているロキの提案に肯いた後から、お互いの思考がわずかに感じ取れるのだ。頭の中に別の存在がちらつく。思考の流れもわかる。
これは非常に気持ちが悪かった。しかしマントになっているロキは間違いなく須賀京太郎と姉帯豊音を守るつもりで提案をしていた。
これだけは本当だと確信できた。そして須賀京太郎の言葉をきいた姉帯豊音は、迷いはしたが加護を解いた。
この状況で自分にできることはこれだけだと理解して須賀京太郎にすべてを任せたのだ。加護がとけるとマントになっているロキが変形した。
若干水分を取り戻したマントが大きく膨らんだのだ。リビングの床に広げたらちょうどいいサイズだった。そして火花を飛ばしながら、風を捕まえた。
風を捕まえたことで一気に落下スピードが弱まった。高速で落下していた二人だったが、離れ離れになることはなかった。
「まっしゅろしゅろすけ」
が二人をつないでいた。風を捕まえている時、ブツブツと老人のつぶやく声が須賀京太郎の背中から聞こえていた。ロキの呪文だった。
姉帯豊音には何を言っているのかわからなかったが、須賀京太郎には意味が分かった。ロキはこういっていた。
「『智慧の完成者にして求道者である私が命の理によって立つ』」
どのような効果があるのかさっぱりわからなかった。しかしわからないままでも問題はなかった。
落下の勢いは弱まり、つかの間の空中遊泳を楽しむことになったからだ。
そしてゆっくりと高度を下げていく中で、須賀京太郎たちは奇妙な建物を複数見つけることになった。
パラシュートでゆっくりと真っ白い大地に落ちていく間に須賀京太郎と姉帯豊音は複数の建物を見つけた、この時須賀京太郎たちが見たものについて書いていく。
それはバトルスーツに張り付いているロキが呪文を唱え続けパラシュートとして働いている時のことである。
ゆっくりと落下している須賀京太郎と姉帯豊音はじっと真っ白い大地を見つめていた。そして黙ってしまった。
これから向かう真っ白い大地がまともではないと理解した。それはたとえば足元。
今まで真っ白い大地しかないと思われていた大地には人工物が三つ発見できた。この時人工物の形と配置から、もう三つ同じものがあると二人は察した。
というのが人工物というのは砦である。そして砦の形が六芒星のイメージで作られていた。
そして砦の配置を見るとさらに巨大な六芒星を作る配置になっていると予想がついた。
砦の配置で創る六芒星の真ん中には宇宙へのびる大樹が据えられている。間違いないと思えた。また世界の果てが見えた。世界の果ては暗黒で何もなかった。
世界が平面だったころのイメージでこの異界は出来上がっていた。また世界の果てのふちには巨大な蛇の背骨が山脈のように一周していた。
蛇の頭蓋骨付近には、同じくらい大きな畜生の骨が山脈を創っていた。まともではない。
そうして周囲の状況を確認しつつゆっくりと落下していた二人は絶句した。ついに真っ白い大地の正体に気付いたのである。
真っ白い大地の正体とは大量の骨の大地だったのだ。骨骨骨。人間だけではなく悪魔から獣までありとあらゆるものの残骸が散らばっていた。
そしてこの大地を凝視すればさらにわかることがある。骨の下には亡霊となった彼らの恨みの念が今も生きていた。幸いうめき声は聞こえない。
白骨の大地が分厚いからだ。しかし目に映る景色全てがこの調子ならば、地獄で間違いなかった。
そうして二人はお互いをきつく抱きしめた。自分以外の温度が欲しかった。不思議なことで絶望はしなかった。
それはマントになっているロキが加護を解けとお願いした時のこと。悪名高い悪神ロキからの指示を姉帯豊音が完全に無視した。
須賀京太郎の首に回している腕をぎゅっとしめて、須賀京太郎にこう言った。
「どうするの須賀君!」
須賀京太郎の耳に口を近づけて、大きな声で尋ねていた。まったくマントになっているロキを信頼していなかった。しかし当然である。
マントの正体がロキならば、信頼できるわけがない。そうして姉帯豊音が加護を解かないでいると須賀京太郎がこう言った。
「加護を解いてください、姉帯さん! ロキがやろうとしていることが俺にもわかる! こいつはパラシュートを作るつもりだ!」
この時姉帯豊音を須賀京太郎がぎゅっと抱きしめていた。しかし自信満々というわけではない。須賀京太郎の顔は不安でいっぱいだった。当然である。
マントになっているロキの提案に肯いた後から、お互いの思考がわずかに感じ取れるのだ。頭の中に別の存在がちらつく。思考の流れもわかる。
これは非常に気持ちが悪かった。しかしマントになっているロキは間違いなく須賀京太郎と姉帯豊音を守るつもりで提案をしていた。
これだけは本当だと確信できた。そして須賀京太郎の言葉をきいた姉帯豊音は、迷いはしたが加護を解いた。
この状況で自分にできることはこれだけだと理解して須賀京太郎にすべてを任せたのだ。加護がとけるとマントになっているロキが変形した。
若干水分を取り戻したマントが大きく膨らんだのだ。リビングの床に広げたらちょうどいいサイズだった。そして火花を飛ばしながら、風を捕まえた。
風を捕まえたことで一気に落下スピードが弱まった。高速で落下していた二人だったが、離れ離れになることはなかった。
「まっしゅろしゅろすけ」
が二人をつないでいた。風を捕まえている時、ブツブツと老人のつぶやく声が須賀京太郎の背中から聞こえていた。ロキの呪文だった。
姉帯豊音には何を言っているのかわからなかったが、須賀京太郎には意味が分かった。ロキはこういっていた。
「『智慧の完成者にして求道者である私が命の理によって立つ』」
どのような効果があるのかさっぱりわからなかった。しかしわからないままでも問題はなかった。
落下の勢いは弱まり、つかの間の空中遊泳を楽しむことになったからだ。
そしてゆっくりと高度を下げていく中で、須賀京太郎たちは奇妙な建物を複数見つけることになった。
パラシュートでゆっくりと真っ白い大地に落ちていく間に須賀京太郎と姉帯豊音は複数の建物を見つけた、この時須賀京太郎たちが見たものについて書いていく。
それはバトルスーツに張り付いているロキが呪文を唱え続けパラシュートとして働いている時のことである。
ゆっくりと落下している須賀京太郎と姉帯豊音はじっと真っ白い大地を見つめていた。そして黙ってしまった。
これから向かう真っ白い大地がまともではないと理解した。それはたとえば足元。
今まで真っ白い大地しかないと思われていた大地には人工物が三つ発見できた。この時人工物の形と配置から、もう三つ同じものがあると二人は察した。
というのが人工物というのは砦である。そして砦の形が六芒星のイメージで作られていた。
そして砦の配置を見るとさらに巨大な六芒星を作る配置になっていると予想がついた。
砦の配置で創る六芒星の真ん中には宇宙へのびる大樹が据えられている。間違いないと思えた。また世界の果てが見えた。世界の果ては暗黒で何もなかった。
世界が平面だったころのイメージでこの異界は出来上がっていた。また世界の果てのふちには巨大な蛇の背骨が山脈のように一周していた。
蛇の頭蓋骨付近には、同じくらい大きな畜生の骨が山脈を創っていた。まともではない。
そうして周囲の状況を確認しつつゆっくりと落下していた二人は絶句した。ついに真っ白い大地の正体に気付いたのである。
真っ白い大地の正体とは大量の骨の大地だったのだ。骨骨骨。人間だけではなく悪魔から獣までありとあらゆるものの残骸が散らばっていた。
そしてこの大地を凝視すればさらにわかることがある。骨の下には亡霊となった彼らの恨みの念が今も生きていた。幸いうめき声は聞こえない。
白骨の大地が分厚いからだ。しかし目に映る景色全てがこの調子ならば、地獄で間違いなかった。
そうして二人はお互いをきつく抱きしめた。自分以外の温度が欲しかった。不思議なことで絶望はしなかった。
108: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:05:00.70 ID:a4xFQg1Z0
地獄に着地を決めて約十秒後須賀京太郎に対してロキが正式な協力を要請した、この時の須賀京太郎とロキの会話について書いていく。
それは白骨の地獄に着地して直ぐのことである。きつく抱き合っている須賀京太郎と姉帯豊音に聞こえるようにロキが咳ばらいをした。
「ゴホッン!!」
するときつく抱き合っていた須賀京太郎と姉帯豊音が離れた。一メートルほど体を離して、恥ずかしそうにしていた。
ただ、よく見れば手をつないで離す気配がない。そんな二人に勘弁してくれという感じを出しながらロキがもう一度咳ばらいをした。
「ウオッホン!」
そしてこういった。
「あぁ、もうええかな? そろそろ大切な話に移りてぇんじゃけど」
すると白骨の大地を見つめながら須賀京太郎が答えた。
「さっきの話か? お前の……ロキの、何かしらの願いに協力するという話だったな」
須賀京太郎の応答に対してロキが少し喜んだ。須賀京太郎が約束を守ってくれると確信したのである。
これは須賀京太郎から供給されるエネルギーから、間違いないと言い切れた。するとマントになっているロキがこう言った。
「そうじゃ。しかし何に協力するのかはっきりと伝えておらんかったな?
今から小僧にわしのお願いを聞いてもらおう。
もしもわしの話を聞いて協力したくないと思うたのなら、断ってもええよ?」
この時だった。須賀京太郎の気配が鋭くなった。須賀京太郎の気配が鋭くなると、姉帯豊音の体を即座に
「まっしゅろしゅろすけ」
が包み込んだ。するとマントになっているロキが叫んだ。
「もう見つかったんか!」
あわてるロキの感情を受け取った須賀京太郎がこのように答えた。
「あぁ、みたいだな。上級悪魔が三つ四つ……数えるのが面倒くさいな……いっぱいだ。
なぁロキ。お前何か嫌われるようなことしたか? 姉帯さんと俺は品行方正だからな、恨まれる要素が全くない。きっとお前だろう」
するとマントになっているロキがこう言った。
「のんきなことを言うとる場合か! 来るぞ!」
そうなって須賀京太郎たちの前に上級悪魔の群れが現れた。並みの力量では決して相手にできない怪物、その群れだった。
上級悪魔の群れが現れた瞬間に須賀京太郎が蹂躙した、この時の須賀京太郎とロキについて書いていく。それはロキが敵の気配に感ずいてすぐのことである。
上級悪魔の群れが姿を現した。さすがに上級悪魔というだけあって登場の仕方も派手だった。歩いてくる者は一人もいなかった。
空間を捻じ曲げていつの間にか目の前に現れるといういかにも悪魔といった芸を見せている。また気品にあふれた姿をしている者が多かった。
これは人間の格好をしてブランド物の服を着て美形なのだ。男も女も多かった。ここが地獄でなければ彼らのルックスを楽しめただろう。
しかし見た目が美形であったとしても彼らは間違いなく上級悪魔だった。異界を生み出すポテンシャルを持つだけあって、迫力が桁違いだった。
上級悪魔を一人で退治できれば優秀な退魔士と呼ばれる現代にあって三十匹を超えてくると絶望的な光景であった。そのため、姉帯豊音を守る
「まっしゅろしゅろすけ」
が姉帯豊音を白い繭のように包むのも自然だった。一般人より少し強い程度の姉帯豊音にとって上級悪魔とぶつかり合うのは自殺行為である。
姉帯豊音しか守っていないのは須賀京太郎には必要ないからである。
109: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:16:53.37 ID:a4xFQg1Z0
「まっしゅろしゅろすけ」
はよくわかっていた。そうなってマントになっているロキが
「逃げろ! 小僧!」
と叫んだ。この瞬間である。三十匹の上級悪魔の首が飛んだ。そして叫びの残響が消えた時、肉体も滅び去った。
爛々と輝く赤い目の魔人・須賀京太郎が犯人である。後に残ったのは真っ白い繭に包まれた姉帯豊音と須賀京太郎だけだった。
須賀京太郎が三十体の悪魔を抹殺して一分後のこと白骨の大地が割れた、この時の須賀京太郎たちについて書いていく。
それは上級悪魔たちを始末した直後であった。姉帯豊音を守っていた
「まっしゅろしゅろすけ」
が薄くなった。真っ白な繭の状態を解除して湯気のような状態へと変化していた。湯気のような状態に変化すると目を丸くしている姉帯豊音が出てきた。
不安でいっぱいという目で須賀京太郎を見つめていた。そんな姉帯豊音の赤い目を須賀京太郎は輝く赤い目で見つめ返した。終わったという合図である。
そんな須賀京太郎の目を見て姉帯豊音が息をのんだ。昂っている須賀京太郎の輝く赤い目は力強く美しかった。
そうしているとマントになっているロキが小さな声でこう言った。
「嘘じゃろ……上級悪魔を一瞬?」
須賀京太郎が引き起こした結果を疑っていた。いくらなんでも強すぎた。そうして現実を信じられなくなっているロキに、須賀京太郎がこう言った。
「戦闘特化でない上級悪魔は面倒くさいだけの雑魚だ。
異界を創れるから強いという発想自体が間違えている。
建築家と大工さんは建物を作れるが武力で優れているわけではないだろう?」
特に不思議なことは起きていないと須賀京太郎の顔に書いていた。そうしていたところで、異変が起きた。唸り声が聞こえ始めたのだ。風の唸りではない。
人間の唸り声、獣の唸り声、神の唸り声の混ざったものだった。どこから唸り声が聞こえているのかすぐにわかった。
足元だ。須賀京太郎たちを支えている白骨の大地が、白骨たちが唸っていた。そして須賀京太郎たちは青ざめた。なぜならば、怨念が強すぎた。
そしてこの唸り声が極まった時、須賀京太郎たちの足元が大きく割れた。小魚を喰らう鯨の様に地面が大きく口を開いて須賀京太郎たちを飲み込んだ。
須賀京太郎の脚力でも逃げ出すのは不可能だった。無理をすれば突破可能だが
「まっしゅろしゅろすけ」
の展開が間に合わなかった。脱出不可能と察した須賀京太郎は姉帯豊音を抱き寄せた。そして精神を集中させ、何が来てもいいように心を決めた。
抱きしめられた姉帯豊音は加護の範囲を広げ、須賀京太郎を守った。
「まっしゅろしゅろすけ」
は姉帯豊音だけで十分と判断していたが、彼女は満足しなかった。
白骨の大地に飲み込まれた後須賀京太郎は亡霊たちに歓迎された、この時に須賀京太郎たちを歓迎した亡霊たちついて書いていく。
それは白骨の大地が唸りを上げて須賀京太郎たちを飲み込んだ直後である。落下中の須賀京太郎と姉帯豊音を亡霊の群れが歓迎した。
落下中の須賀京太郎と姉帯豊音の周りを取り囲んで、ぐるぐると回転していた。白骨の大地に飲み込まれた直後、まったく間をおかずの歓迎であった。
非常に素早かった。しかし不思議ではない。
というのが白骨の大地の内部には膨大なエネルギーの渦があったのだ。緑色に光るマグネタイトと真っ赤なマガツヒそして霊気の青。
この三つがまじりあってエネルギーの渦となっていた。美しかった。海を見ているような気持ちになる。しかしにこのエネルギーの渦の中に亡霊たちがいた。
青白い亡霊たちで、須賀京太郎たちを見つけるとすぐに襲いかかってきた。須賀京太郎の一睨みで退散していたが、奇妙だった。
沢山の亡霊がいたのだが、どの亡霊もすがるような目で須賀京太郎を見つめていたのだ。おかしなことだった。
また亡霊というのが人間であったり獣であったり悪魔であったりして統一感がない。
人間の霊魂というのも男もいれば女もいて、日本人以外の人種も色々であった。
亡霊になったものが生身の人間を襲うことはよくあることだが、このすべてがすがるような目で見つめて来る。おかしなことだった。
恨んでいたり諦めていたり、笑っていたりすればいいのだが、統一されているのはおかしかった。
110: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:22:37.93 ID:a4xFQg1Z0
亡霊たちの歓迎を受けた後須賀京太郎たちは地獄の底に着地した、この時に提案されたロキの作戦について書いていく。
それは亡霊の歓迎を受けてから数秒後のことである。須賀京太郎は巨大な樹の根っこに着地していた。着地は見事で衝撃を完全に散らしていた。
ロキに頼る必要がなかった。完璧な着地を決めた須賀京太郎であるが根っこに着地したとは思っていなかった。
なぜなら巨大すぎて根っこだとは思えなかった。そうして着地した須賀京太郎に対して、マントになっているロキが叫んだ。
「小僧! 下に降りて行け! この根の下、下の下に我が娘ヘルの気配を感じる!」
この時、須賀京太郎はすぐに動き出した。ロキの提案を無言で受け入れて、姉帯豊音を担いで駆け下りていった。繋がっているロキを信じた。
そして躊躇わずに一気に巨大な樹の根を駆け下りていった。自分たちにすがりついてくる亡霊たちは無視した。
奇妙な亡霊たちの相手をするよりも姉帯豊音を守ることが重要だった。ただ、肩に担がれた姉帯豊音は非常に困っていた。
何が起きたのかさっぱりわかっていなかった。
姉帯豊音が状況を把握しようとしている時須賀京太郎たちを何者かが引っ張り込んだ、この時の須賀京太郎と謎の存在について書いていく。
それは大樹の根っこを須賀京太郎が駆けおり始めて二十秒ほどのところで起きていた。
須賀京太郎が姉帯豊音に気を使いながら巨大な根っこを駆け下りていると、輝くエネルギーの渦に変化が起きた。
今までは複雑ながらも規則的な流れを保っていたエネルギーの流れだったのが、乱れたのだ。これは霊的な感知能力は必要なく理解できる変化である。
川の流れが急にねじ曲がったような違和感なのだ。見逃す者はいない。しかし須賀京太郎とロキは対応しなかった。
白骨の大地が生み出しているエネルギーと真正面からやり合うのなら小細工は無意味だからだ。
そもそも須賀京太郎とロキは有益な道具を一つも持っていない。なにか動きがあるのならばその都度、後手後手で対応するしかなかった。
しかし何かが起きるのは間違いない。身構えるくらいのことはやっていた。そうして
「何が来る?」
と身構えていると須賀京太郎たちの足場になっていた根っこが消滅した。巨大な樹の根っこがなくなったのではない。
広範囲にわたって転送に使う門が開いたのだ。足元に門が開いたと理解して須賀京太郎は舌打ちをした。飲み込まれるのが確定したからだ。
須賀京太郎ひとりだけならば回避できた罠だったが姉帯豊音を連れている。無茶な回避はご法度だった。
須賀京太郎が思いきり動けば、かついでいる姉帯豊音が慣性の法則でひどいことになるのが見えていた。
巨大な門にのまれて少し後須賀京太郎と姉帯豊音は妙な空気になっていた、この時の二人について書いていく。
それは足元に開いた転送の罠にかかって一秒後のことである。須賀京太郎はそれなりにきれいな石造の部屋に着地していた。それなりに広い部屋だった。
高さが四メートルと少し、縦横が十メートルと少しといったところである。天井にはシャンデリアがつるされている。しかし豪華なものではない。
しかも光源はろうそくだった。ろうそく以外に光はなく不気味だった。ろうそくの光が弱く、部屋全てを照らせないのだ。四隅が暗くて怖い。
またこの不気味さの上に、石造の部屋の床には大きな魔法陣が描かれていて最悪だった。
しかし部屋が清潔に保たれているのでぎりぎりアートの雰囲気であった。そして着地から少しして須賀京太郎は調査を始めようとした。脱出する必要があった。
しかしいったん中断することになった。というのが動き出そうとした時肩に担いでいた姉帯豊音がこう言ったのだ。
「須賀君、あの……ごめん、手あたってる」
肩に担いでいる姉帯豊音は恥ずかしそうな声を出していた。須賀京太郎ははっとした。そして視線を肩に向けた。何時の間にやら
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護が無くなっていた。須賀京太郎は慌てて姉帯豊音を肩からおろした。そして目を泳がせながらこういった。
「すみません」
すると姉帯豊音はこういった。
それは亡霊の歓迎を受けてから数秒後のことである。須賀京太郎は巨大な樹の根っこに着地していた。着地は見事で衝撃を完全に散らしていた。
ロキに頼る必要がなかった。完璧な着地を決めた須賀京太郎であるが根っこに着地したとは思っていなかった。
なぜなら巨大すぎて根っこだとは思えなかった。そうして着地した須賀京太郎に対して、マントになっているロキが叫んだ。
「小僧! 下に降りて行け! この根の下、下の下に我が娘ヘルの気配を感じる!」
この時、須賀京太郎はすぐに動き出した。ロキの提案を無言で受け入れて、姉帯豊音を担いで駆け下りていった。繋がっているロキを信じた。
そして躊躇わずに一気に巨大な樹の根を駆け下りていった。自分たちにすがりついてくる亡霊たちは無視した。
奇妙な亡霊たちの相手をするよりも姉帯豊音を守ることが重要だった。ただ、肩に担がれた姉帯豊音は非常に困っていた。
何が起きたのかさっぱりわかっていなかった。
姉帯豊音が状況を把握しようとしている時須賀京太郎たちを何者かが引っ張り込んだ、この時の須賀京太郎と謎の存在について書いていく。
それは大樹の根っこを須賀京太郎が駆けおり始めて二十秒ほどのところで起きていた。
須賀京太郎が姉帯豊音に気を使いながら巨大な根っこを駆け下りていると、輝くエネルギーの渦に変化が起きた。
今までは複雑ながらも規則的な流れを保っていたエネルギーの流れだったのが、乱れたのだ。これは霊的な感知能力は必要なく理解できる変化である。
川の流れが急にねじ曲がったような違和感なのだ。見逃す者はいない。しかし須賀京太郎とロキは対応しなかった。
白骨の大地が生み出しているエネルギーと真正面からやり合うのなら小細工は無意味だからだ。
そもそも須賀京太郎とロキは有益な道具を一つも持っていない。なにか動きがあるのならばその都度、後手後手で対応するしかなかった。
しかし何かが起きるのは間違いない。身構えるくらいのことはやっていた。そうして
「何が来る?」
と身構えていると須賀京太郎たちの足場になっていた根っこが消滅した。巨大な樹の根っこがなくなったのではない。
広範囲にわたって転送に使う門が開いたのだ。足元に門が開いたと理解して須賀京太郎は舌打ちをした。飲み込まれるのが確定したからだ。
須賀京太郎ひとりだけならば回避できた罠だったが姉帯豊音を連れている。無茶な回避はご法度だった。
須賀京太郎が思いきり動けば、かついでいる姉帯豊音が慣性の法則でひどいことになるのが見えていた。
巨大な門にのまれて少し後須賀京太郎と姉帯豊音は妙な空気になっていた、この時の二人について書いていく。
それは足元に開いた転送の罠にかかって一秒後のことである。須賀京太郎はそれなりにきれいな石造の部屋に着地していた。それなりに広い部屋だった。
高さが四メートルと少し、縦横が十メートルと少しといったところである。天井にはシャンデリアがつるされている。しかし豪華なものではない。
しかも光源はろうそくだった。ろうそく以外に光はなく不気味だった。ろうそくの光が弱く、部屋全てを照らせないのだ。四隅が暗くて怖い。
またこの不気味さの上に、石造の部屋の床には大きな魔法陣が描かれていて最悪だった。
しかし部屋が清潔に保たれているのでぎりぎりアートの雰囲気であった。そして着地から少しして須賀京太郎は調査を始めようとした。脱出する必要があった。
しかしいったん中断することになった。というのが動き出そうとした時肩に担いでいた姉帯豊音がこう言ったのだ。
「須賀君、あの……ごめん、手あたってる」
肩に担いでいる姉帯豊音は恥ずかしそうな声を出していた。須賀京太郎ははっとした。そして視線を肩に向けた。何時の間にやら
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護が無くなっていた。須賀京太郎は慌てて姉帯豊音を肩からおろした。そして目を泳がせながらこういった。
「すみません」
すると姉帯豊音はこういった。
111: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:25:31.72 ID:a4xFQg1Z0
「いいよー、しょうがないよ。私背が高いから、当たっちゃうよね?」
少し顔を赤くしている姉帯豊音に須賀京太郎はただ謝るばかりだった。
須賀京太郎と姉帯豊音が妙な空気を作った後ロキが探索を提案した、この時の須賀京太郎とロキの会話について書いていく。
それは須賀京太郎が謝り倒している時だった。マントになっているロキがこう言った。
「お嬢ちゃんの尻はもうええじゃろ。お嬢ちゃんが許すといってくれておるんじゃから、次から気を付ければええ。
それよりも小僧、ここから早く脱出するべきじゃ。何がわしらを呼び寄せたのかはわからん。この石造の部屋を探索しヘルの気配をたどるべきじゃ。
わしが感じたヘルの気配は間違いなくわしの娘のモノ……きっとわしらに協力してくれるじゃろう」
マントになっているロキが探索を提案すると須賀京太郎は姉帯豊音の手を握った。そしてロキに答えた。
「ここから脱出したいのは俺も同じだ。探索も同意するよ。
しかしその前に何が目的で俺たちと一緒に来る?
俺は姉帯さんを守るのが目的だが、お前はいったい何がしたい? 確かに俺は協力するとは言った。しかし具体的な内容はまだ知らない。教えてくれ」
するとマントになっているロキが口ごもった。赤く染まったマントがもごもごと震えている。不気味だった。そしてもごもごしてからロキが答えた。
「シギュンを助けたい。わしはシギュンを助けたいんじゃ。わしの妻。最終戦争の後わしと一緒に座についた、わしの家族を助けたい。
じゃからな、わしが小僧に望むのは妻・シギュンの探索じゃ。シギュンを見つけ出し解放してやりたい。
それがわしの望みよ、若しも協力してくれるというのならば小僧のために働いてやろう。
魔法科学のスペシャリストであるわしが味方に付けば異界創造の領域を小僧に与えられる。
わしがとりついたことで既に壁は突破しておる、あとは協力関係を確かにするだけ。そうすりゃあ、おそらくお互いの目的は達成できる」
マントになっているロキの話を聞いて須賀京太郎は少し黙った。考えていた。疑問があった。須賀京太郎はこういった。
「協力するのは構わない。しかしこの地獄にいるのか? 正直に話をするが地獄から脱出すれば姉帯さんの護衛はほぼ完了しているといっていい状況になる。
今はここにいないが俺の先生はお前くらいなら楽々引きはがせる技量がある。おそらく俺に張り付いているロキを見ればすぐに引きはがすだろう。
いくら俺が止めても無駄だと思う。
それでもいいのか? 一応は探すが、地獄にいないのならばおそらく手伝えないぞ?」
するとロキが少し黙った。そして考えてから答えた。
「正直な小僧じゃな。しかし少し嘘もある。今の小僧でもわしを引きはがすことはできるじゃろう? 無理をすればじゃけどな。
正直な小僧にわしも正直に答えよう。シギュンは地獄にいる。そして小僧はシギュンを助けずにはいられなくなるじゃろう。
なぜならば、シギュンを助けなければ、お嬢ちゃんどころか帝都全体が、日本が、世界がぶっ壊れるからじゃ。
詳しくきくか?」
須賀京太郎と手をつないでいる姉帯豊音が青ざめた。須賀京太郎の目の輝きが嘘ではないと教えてくれていた。
ロキと繋がっている須賀京太郎の目の輝きだから、信じられた。
姉帯豊音が青ざめてすぐロキが語った、この時ロキが語った内容と須賀京太郎について書いていく。それは詳しい話を聞くかとロキが質問した直後である。
須賀京太郎が答えていた。
「教えてくれ」
するとマントになっているロキが語った。
少し顔を赤くしている姉帯豊音に須賀京太郎はただ謝るばかりだった。
須賀京太郎と姉帯豊音が妙な空気を作った後ロキが探索を提案した、この時の須賀京太郎とロキの会話について書いていく。
それは須賀京太郎が謝り倒している時だった。マントになっているロキがこう言った。
「お嬢ちゃんの尻はもうええじゃろ。お嬢ちゃんが許すといってくれておるんじゃから、次から気を付ければええ。
それよりも小僧、ここから早く脱出するべきじゃ。何がわしらを呼び寄せたのかはわからん。この石造の部屋を探索しヘルの気配をたどるべきじゃ。
わしが感じたヘルの気配は間違いなくわしの娘のモノ……きっとわしらに協力してくれるじゃろう」
マントになっているロキが探索を提案すると須賀京太郎は姉帯豊音の手を握った。そしてロキに答えた。
「ここから脱出したいのは俺も同じだ。探索も同意するよ。
しかしその前に何が目的で俺たちと一緒に来る?
俺は姉帯さんを守るのが目的だが、お前はいったい何がしたい? 確かに俺は協力するとは言った。しかし具体的な内容はまだ知らない。教えてくれ」
するとマントになっているロキが口ごもった。赤く染まったマントがもごもごと震えている。不気味だった。そしてもごもごしてからロキが答えた。
「シギュンを助けたい。わしはシギュンを助けたいんじゃ。わしの妻。最終戦争の後わしと一緒に座についた、わしの家族を助けたい。
じゃからな、わしが小僧に望むのは妻・シギュンの探索じゃ。シギュンを見つけ出し解放してやりたい。
それがわしの望みよ、若しも協力してくれるというのならば小僧のために働いてやろう。
魔法科学のスペシャリストであるわしが味方に付けば異界創造の領域を小僧に与えられる。
わしがとりついたことで既に壁は突破しておる、あとは協力関係を確かにするだけ。そうすりゃあ、おそらくお互いの目的は達成できる」
マントになっているロキの話を聞いて須賀京太郎は少し黙った。考えていた。疑問があった。須賀京太郎はこういった。
「協力するのは構わない。しかしこの地獄にいるのか? 正直に話をするが地獄から脱出すれば姉帯さんの護衛はほぼ完了しているといっていい状況になる。
今はここにいないが俺の先生はお前くらいなら楽々引きはがせる技量がある。おそらく俺に張り付いているロキを見ればすぐに引きはがすだろう。
いくら俺が止めても無駄だと思う。
それでもいいのか? 一応は探すが、地獄にいないのならばおそらく手伝えないぞ?」
するとロキが少し黙った。そして考えてから答えた。
「正直な小僧じゃな。しかし少し嘘もある。今の小僧でもわしを引きはがすことはできるじゃろう? 無理をすればじゃけどな。
正直な小僧にわしも正直に答えよう。シギュンは地獄にいる。そして小僧はシギュンを助けずにはいられなくなるじゃろう。
なぜならば、シギュンを助けなければ、お嬢ちゃんどころか帝都全体が、日本が、世界がぶっ壊れるからじゃ。
詳しくきくか?」
須賀京太郎と手をつないでいる姉帯豊音が青ざめた。須賀京太郎の目の輝きが嘘ではないと教えてくれていた。
ロキと繋がっている須賀京太郎の目の輝きだから、信じられた。
姉帯豊音が青ざめてすぐロキが語った、この時ロキが語った内容と須賀京太郎について書いていく。それは詳しい話を聞くかとロキが質問した直後である。
須賀京太郎が答えていた。
「教えてくれ」
するとマントになっているロキが語った。
112: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:29:13.59 ID:a4xFQg1Z0
「この地獄を創った者どもはシギュンを利用して新しい世界を創ろうとしておる。
もしかすると壊したいだけかもしれんが、おそらく新世界の創造が目的じゃろ。
確たる証拠はない。しかし、ほぼ間違いないとわしは見ておる。
理由は大きく分けて二つじゃ。
一つ目は明らかに北欧神話を模して異界を創造しておるということ。これはこの地獄の中心に据えられておる巨大な樹を見ればわかることじゃろう。
あの巨大さ、どう見ても世界樹。そして我が娘ヘルの気配がこの地獄のような世界にある。まず間違いねぇ。
破壊だけが目的かもしれんといったのは再生まで頭にない可能性があるからじゃが、それはどうでもええじゃろう。
再生までが目的じゃったとしても今までの世界はなくなるからのう。
二つ目はシギュンをさらったということ。破壊にしても創造にしても膨大なマグネタイトが必要になる。
マグネタイトを集めるという仕事自体が難しいが、実のところ一番難しいのはコントロールじゃ。
北欧神話をモチーフにして儀式を行おうとしているのはシギュンが始まりじゃからじゃろう。
『北欧神話をモチーフとするからシギュンを狙った』のではなく、
『シギュンを見つけたから北欧神話に設定した』
という感じじゃ。多分、エネルギーを御せるのなら誰でもよかったんじゃろうな。
膨大なエネルギーは荒れ狂う海に似る。望んだものを創りだそうとしてもこのエネルギーを支配できなければ何の意味もねぇ。
シギュンには特殊な異界創造技術があるんじゃ。あらゆる一切の攻撃を防ぐ、鉄壁の守りを生み出す異界操作術よ。
この異界操作術があれば荒れ狂う海さえ御しきることができる。
実際にこの地獄を見てエネルギーを体感しての結論じゃな。
そうなりゃあよ、お嬢ちゃんを守りたい小僧はどうする? 地上に戻ればそれでおしまいか。違うじゃろう?」
ロキが語った内容はそれなりに衝撃的だった。話を聞いた姉帯豊音は気が遠くなった。荒唐無稽と笑いたかった。
しかし視界を埋め尽くしていた白骨の大地と地下を流れるエネルギーの渦を体感すると笑えなかった。一方で須賀京太郎は厳しい顔で黙っていた。
少し違和感があったからだ。この違和感とは妙な距離感である。しかしこの違和感を振り切って須賀京太郎はこういった。
「これだけのエネルギーがあれば帝都くらいならあっさり飲み込めるだろうな……そして帝都の住民たちをエネルギーに変えて、徐々に範囲を広げていく。
シギュンさんがこの地獄を創った奴らの要だというのなら、やるしかないな」
須賀京太郎に疲労の色が見えた。胸が重くなり頭が痛くなった。この真っ白な地獄も問題だが、帝都の状況がわからないことが不安にさせていた。
サイレンの被害もどこまで広がっているのかわからない。やることが山積みである。
巨大な問題を抱えて須賀京太郎が青ざめているとき、石造の部屋に叫び声が響いた、この時の須賀京太郎たちの対応について書いていく。
それはありえないほどの重圧を須賀京太郎が感じている時のことである。石造の部屋の全体が大きく揺れた。地震ではない。
石造の部屋の空間が叫んでいた。しかし不思議な現象だった。なぜなら須賀京太郎たち以外に石造りの部屋に何ものも存在していない。
姿を消して潜んでいる悪魔というのも須賀京太郎の感知能力は否定している。特に信頼できる
「まっしゅろしゅろすけ」
の自動防御も動いていない。魔法科学のスペシャリストだというロキも全く反応がないので、これは不思議であった。
ただ、空間を震わせる叫びを聞いた須賀京太郎たちはまったく安心できなくなった。
不意打ち気味に響いてきた叫び声は体の芯を震わせる恐ろしい断末魔の叫びにしか聞こえなかったのだ。
そしてこの響きに気付くや否や、須賀京太郎は姉帯豊音を抱き寄せた。少し遅れて須賀京太郎と姉帯豊音を
「まっしゅろしゅろすけ」
が包み込んだ。これは姉帯豊音の意思からの発現だった。須賀京太郎と姉帯豊音が
「まっしゅろしゅろすけ」
によって包まれるとマントになっているロキが冷静に分析を始めた。こう言っていた。
もしかすると壊したいだけかもしれんが、おそらく新世界の創造が目的じゃろ。
確たる証拠はない。しかし、ほぼ間違いないとわしは見ておる。
理由は大きく分けて二つじゃ。
一つ目は明らかに北欧神話を模して異界を創造しておるということ。これはこの地獄の中心に据えられておる巨大な樹を見ればわかることじゃろう。
あの巨大さ、どう見ても世界樹。そして我が娘ヘルの気配がこの地獄のような世界にある。まず間違いねぇ。
破壊だけが目的かもしれんといったのは再生まで頭にない可能性があるからじゃが、それはどうでもええじゃろう。
再生までが目的じゃったとしても今までの世界はなくなるからのう。
二つ目はシギュンをさらったということ。破壊にしても創造にしても膨大なマグネタイトが必要になる。
マグネタイトを集めるという仕事自体が難しいが、実のところ一番難しいのはコントロールじゃ。
北欧神話をモチーフにして儀式を行おうとしているのはシギュンが始まりじゃからじゃろう。
『北欧神話をモチーフとするからシギュンを狙った』のではなく、
『シギュンを見つけたから北欧神話に設定した』
という感じじゃ。多分、エネルギーを御せるのなら誰でもよかったんじゃろうな。
膨大なエネルギーは荒れ狂う海に似る。望んだものを創りだそうとしてもこのエネルギーを支配できなければ何の意味もねぇ。
シギュンには特殊な異界創造技術があるんじゃ。あらゆる一切の攻撃を防ぐ、鉄壁の守りを生み出す異界操作術よ。
この異界操作術があれば荒れ狂う海さえ御しきることができる。
実際にこの地獄を見てエネルギーを体感しての結論じゃな。
そうなりゃあよ、お嬢ちゃんを守りたい小僧はどうする? 地上に戻ればそれでおしまいか。違うじゃろう?」
ロキが語った内容はそれなりに衝撃的だった。話を聞いた姉帯豊音は気が遠くなった。荒唐無稽と笑いたかった。
しかし視界を埋め尽くしていた白骨の大地と地下を流れるエネルギーの渦を体感すると笑えなかった。一方で須賀京太郎は厳しい顔で黙っていた。
少し違和感があったからだ。この違和感とは妙な距離感である。しかしこの違和感を振り切って須賀京太郎はこういった。
「これだけのエネルギーがあれば帝都くらいならあっさり飲み込めるだろうな……そして帝都の住民たちをエネルギーに変えて、徐々に範囲を広げていく。
シギュンさんがこの地獄を創った奴らの要だというのなら、やるしかないな」
須賀京太郎に疲労の色が見えた。胸が重くなり頭が痛くなった。この真っ白な地獄も問題だが、帝都の状況がわからないことが不安にさせていた。
サイレンの被害もどこまで広がっているのかわからない。やることが山積みである。
巨大な問題を抱えて須賀京太郎が青ざめているとき、石造の部屋に叫び声が響いた、この時の須賀京太郎たちの対応について書いていく。
それはありえないほどの重圧を須賀京太郎が感じている時のことである。石造の部屋の全体が大きく揺れた。地震ではない。
石造の部屋の空間が叫んでいた。しかし不思議な現象だった。なぜなら須賀京太郎たち以外に石造りの部屋に何ものも存在していない。
姿を消して潜んでいる悪魔というのも須賀京太郎の感知能力は否定している。特に信頼できる
「まっしゅろしゅろすけ」
の自動防御も動いていない。魔法科学のスペシャリストだというロキも全く反応がないので、これは不思議であった。
ただ、空間を震わせる叫びを聞いた須賀京太郎たちはまったく安心できなくなった。
不意打ち気味に響いてきた叫び声は体の芯を震わせる恐ろしい断末魔の叫びにしか聞こえなかったのだ。
そしてこの響きに気付くや否や、須賀京太郎は姉帯豊音を抱き寄せた。少し遅れて須賀京太郎と姉帯豊音を
「まっしゅろしゅろすけ」
が包み込んだ。これは姉帯豊音の意思からの発現だった。須賀京太郎と姉帯豊音が
「まっしゅろしゅろすけ」
によって包まれるとマントになっているロキが冷静に分析を始めた。こう言っていた。
113: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:33:22.82 ID:a4xFQg1Z0
「この断末魔に悪意は含まれておらん……この断末魔は……どういう事じゃ? 喜び?
それに奇妙じゃな……断末魔は二つなのに一つじゃ、どうなっておる?
こいつっ!? 瀕死の分際でわしの探知網に気付きよった! 来るぞ小僧!構えろ!」
マントになっているロキは焦って叫んでいた。須賀京太郎の背中のマントが大きくなびいていた。
マントになっているロキが叫んだ直後に石造りの部屋に奇妙な竜が姿を現した、この時の須賀京太郎たちの対応について書いていく。
それはマントになっているロキが危険を知らせ須賀京太郎の目の色が赤く変わった時である。石造の部屋に奇妙な竜が落ちてきた。
優雅なものではなく、落下。落下である。石造の部屋に落ちた時ベチャっと嫌な音がしていた。着地は決められなかった。
それもそのはずで竜は死に掛けだった。この竜の見たは見たまま竜である。ドラゴンではなく、蛇に足がついているような存在である。
しかも大きくない。大型犬ほどの大きさだった。この犬くらいの大きさの竜はどこからどう見ても死に掛けだった。
全身のマグネタイトの構成が緩く、風が吹くだけで散る幻に近かった。
この死に掛けの小さな竜をみて須賀京太郎の眉間のしわが消え、姉帯豊音の握り拳が緩くなった。警戒心があっという間に静まっていた。
しかし須賀京太郎も姉帯豊音も最後の一線を越えなかった。つまり
「まっしゅろしゅろすけ」
を完全に解くこともなければ、輝く目が光を失うこともなかった。弱弱しいふりをしているだけかもしれないのだ。
また、本当に死に掛けだったとして、この悪魔を餌にして須賀京太郎たちを狙う何かが居るかもしれない。油断は禁物だった。
須賀京太郎と姉帯豊音が事の成り行きを見守っていると四体の悪魔が姿を現した、この時現れた悪魔と須賀京太郎について書いていく。
それは死に掛けの竜が姿を現して十秒後のことである。石造の部屋の魔法陣が動き出した。空中の霊気を吸い取って何かを呼び出そうとしていた。
魔法陣の発動を察してロキがうろたえた。そしてこんなことを言っていた。
「これはどっちじゃ? この竜は味方なのか、それとも敵? 魔法陣から現れようとする者は何をするために呼び出される?」
マントになっているロキがうろたえている間に、須賀京太郎は姉帯豊音にお願いをした。小さな声でこう言った。
「すみません、姉帯さん。一緒に死に掛けのトカゲに近付いてもらえますか?
判断がつかない以上、殺させるわけにはいきません」
すると姉帯豊音が肯いた。少し怖がっていたが了解していた。そして須賀京太郎と姉帯豊音は死に掛けの竜に近寄り
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護で守った。しかし一メートルほど距離があった。完全に信用したわけではなかった。そうして守られた竜は視線を二人に向けた。
蛇の目が希望を取り戻していた。姉帯豊音は蛇の目をじっと見ていたが、須賀京太郎は魔法陣からくるものを待ち構えていた。
そしていよいよ魔法陣が効果を発揮した。光がほとばしった。光はすぐに消えた。光が消えると四体の悪魔の姿があった。四天王と呼ばれる悪魔だった。
中華風の甲冑を身に着けてそれぞれ得意の武器を持って構えていた。いかにも武人といったたたずまい。
邪鬼を踏みつぶす恐ろしい存在たちが、死に掛けの竜を睨みつけていた。この四体の悪魔を見てロキがこう言った。
「こんな雑魚に四天王を当てるじゃと? この竜はいったいなんじゃ?」
ロキが困惑していると、姉帯豊音が青ざめた。青ざめて震えだした。恐ろしい予感が襲ったのだ。しかし須賀京太郎は目を輝かせた。
オロチから与えられた龍の目が輝いて燃えていた。四天王が飛ばした殺意を感じ取っていた。須賀京太郎の心が決まった。
四天王が姿を現して数十秒後石造の部屋で須賀京太郎が手首を振っていた、この時の損壊状況と須賀京太郎たちについて書いていく。
それは石造の部屋に四天王が現れてから一分半といったところである。綺麗だった石造りの部屋が廃墟に変わっていた。
綺麗だった天井も四方の壁も床もずたずたである。特に魔法陣が描かれていた床の損壊状況がひどい。
石造だった床はほとんどむき出しになって非常に歩きにくい状態になっていた。幸い床が抜けることはなかった。岩盤らしきものがあったのだ。
むき出しになった岩盤にひびが入るだけで済んでいた。そしてこの部屋で生きているのは須賀京太郎たちと死に掛けの竜だけになった。竜はまだ生きていた。
それに奇妙じゃな……断末魔は二つなのに一つじゃ、どうなっておる?
こいつっ!? 瀕死の分際でわしの探知網に気付きよった! 来るぞ小僧!構えろ!」
マントになっているロキは焦って叫んでいた。須賀京太郎の背中のマントが大きくなびいていた。
マントになっているロキが叫んだ直後に石造りの部屋に奇妙な竜が姿を現した、この時の須賀京太郎たちの対応について書いていく。
それはマントになっているロキが危険を知らせ須賀京太郎の目の色が赤く変わった時である。石造の部屋に奇妙な竜が落ちてきた。
優雅なものではなく、落下。落下である。石造の部屋に落ちた時ベチャっと嫌な音がしていた。着地は決められなかった。
それもそのはずで竜は死に掛けだった。この竜の見たは見たまま竜である。ドラゴンではなく、蛇に足がついているような存在である。
しかも大きくない。大型犬ほどの大きさだった。この犬くらいの大きさの竜はどこからどう見ても死に掛けだった。
全身のマグネタイトの構成が緩く、風が吹くだけで散る幻に近かった。
この死に掛けの小さな竜をみて須賀京太郎の眉間のしわが消え、姉帯豊音の握り拳が緩くなった。警戒心があっという間に静まっていた。
しかし須賀京太郎も姉帯豊音も最後の一線を越えなかった。つまり
「まっしゅろしゅろすけ」
を完全に解くこともなければ、輝く目が光を失うこともなかった。弱弱しいふりをしているだけかもしれないのだ。
また、本当に死に掛けだったとして、この悪魔を餌にして須賀京太郎たちを狙う何かが居るかもしれない。油断は禁物だった。
須賀京太郎と姉帯豊音が事の成り行きを見守っていると四体の悪魔が姿を現した、この時現れた悪魔と須賀京太郎について書いていく。
それは死に掛けの竜が姿を現して十秒後のことである。石造の部屋の魔法陣が動き出した。空中の霊気を吸い取って何かを呼び出そうとしていた。
魔法陣の発動を察してロキがうろたえた。そしてこんなことを言っていた。
「これはどっちじゃ? この竜は味方なのか、それとも敵? 魔法陣から現れようとする者は何をするために呼び出される?」
マントになっているロキがうろたえている間に、須賀京太郎は姉帯豊音にお願いをした。小さな声でこう言った。
「すみません、姉帯さん。一緒に死に掛けのトカゲに近付いてもらえますか?
判断がつかない以上、殺させるわけにはいきません」
すると姉帯豊音が肯いた。少し怖がっていたが了解していた。そして須賀京太郎と姉帯豊音は死に掛けの竜に近寄り
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護で守った。しかし一メートルほど距離があった。完全に信用したわけではなかった。そうして守られた竜は視線を二人に向けた。
蛇の目が希望を取り戻していた。姉帯豊音は蛇の目をじっと見ていたが、須賀京太郎は魔法陣からくるものを待ち構えていた。
そしていよいよ魔法陣が効果を発揮した。光がほとばしった。光はすぐに消えた。光が消えると四体の悪魔の姿があった。四天王と呼ばれる悪魔だった。
中華風の甲冑を身に着けてそれぞれ得意の武器を持って構えていた。いかにも武人といったたたずまい。
邪鬼を踏みつぶす恐ろしい存在たちが、死に掛けの竜を睨みつけていた。この四体の悪魔を見てロキがこう言った。
「こんな雑魚に四天王を当てるじゃと? この竜はいったいなんじゃ?」
ロキが困惑していると、姉帯豊音が青ざめた。青ざめて震えだした。恐ろしい予感が襲ったのだ。しかし須賀京太郎は目を輝かせた。
オロチから与えられた龍の目が輝いて燃えていた。四天王が飛ばした殺意を感じ取っていた。須賀京太郎の心が決まった。
四天王が姿を現して数十秒後石造の部屋で須賀京太郎が手首を振っていた、この時の損壊状況と須賀京太郎たちについて書いていく。
それは石造の部屋に四天王が現れてから一分半といったところである。綺麗だった石造りの部屋が廃墟に変わっていた。
綺麗だった天井も四方の壁も床もずたずたである。特に魔法陣が描かれていた床の損壊状況がひどい。
石造だった床はほとんどむき出しになって非常に歩きにくい状態になっていた。幸い床が抜けることはなかった。岩盤らしきものがあったのだ。
むき出しになった岩盤にひびが入るだけで済んでいた。そしてこの部屋で生きているのは須賀京太郎たちと死に掛けの竜だけになった。竜はまだ生きていた。
114: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:37:46.39 ID:a4xFQg1Z0
しかし手当はしなかった。竜の味方をしたわけではないのだ。判断を先送りにしただけである。はっきりと殺意を向けてきた四天王は
「わかりやすい、お前たちから処理していく」
という須賀京太郎の決心の前に敗れ去った。流石に戦闘用に調整された悪魔である。須賀京太郎も手こずった。バトルスーツが若干傷ついた。
しかし須賀京太郎自体はまったく無傷だった。恐ろしい四天王を始末した須賀京太郎は特に何の感動もなかった。
軽く手首を振り足首を揺らして体をほぐしている。そんな須賀京太郎を見て姉帯豊音が冷や汗をかいた。
また須賀京太郎に張り付いているロキもほんの少し見る目が変わっていた。姉帯豊音もロキもここまで圧倒的だと思っていなかったのだ。
四天王が滅び去った後死に掛けのトカゲに須賀京太郎が話しかけていた、この時の須賀京太郎とトカゲについて書いていく。
それは戦闘用に調整された四体の悪魔をこともなげに須賀京太郎が始末したすぐ後のことである。
ボロボロになった石造の部屋で死に掛けている竜に須賀京太郎が近づいていった。死に掛けの竜には姉帯豊音の加護がかかったままである。
須賀京太郎が近づいて拳を撃ち込んだとしても消すことはできない。しかし須賀京太郎が近づいてくると死に掛けの竜は非常におびえた。
近付いてくる魔人が怖かった。万全の竜であっても手も足も出ない戦闘用の上級悪魔をあっさり倒した魔人だからだ。
魔人というだけでも不吉なのに修行を積んだ魔人はただ恐ろしいばかりであった。そうして死に掛けの竜に近付いた須賀京太郎はかがみこんだ。
小さな子供に話しかける時の様に目線を合わせるためである。そして見つめあうと須賀京太郎がこういった。
「お前はどっちだ? 今始末した奴らは俺に対して殺意をもっていた。だから敵だと判断した。
お前には殺意がないな。しかし仲良くしたいという意思も見えない。あるのはただ恐怖だけだ。
嫌々ここに来た感じがすごい……使い魔か?
目的はなんだ? 言いたいことがあるのなら早めに言っておいてくれ。回復魔法に期待しているのなら残念だが諦めてくれ。俺は使えない」
須賀京太郎の赤い目はまっすぐだった。嘘をついている様子はかけらもない。須賀京太郎に見つめられた死に掛けの竜は小さな鳴き声を発した。
人の言葉を放つこともできていなかった。マグネタイトが圧倒的に不足しているのだ。あと数分でマグネタイトを使い果たし消え失せるだろう。
死に掛けている竜がいよいよ崩壊を始めた時須賀京太郎が応急処置を行った、この時の須賀京太郎と姉帯豊音の動きについて書いていく。
それはあと数十秒でマグネタイトの結合が解けるという時だった。須賀京太郎が姉帯豊音に視線をやった。ちらっと視線をやって、うなずいていた。
すると須賀京太郎の視線に気づいた姉帯豊音が軽くうなずいた。すると
「まっしゅろしゅろすけ」
が解けた。加護が消えるとすぐに須賀京太郎は右手を握りこんだ。殴るためではない。自分の手のひらに爪を立てて、血を流すためである。
少し装備品が傷ついたがしょうがないことと納得していた。そして血でにじむ右手を須賀京太郎は竜の上にかざした。
すると流れ出す血液が竜の体に降り注いだ。竜の体に降り注いだ数敵の血液は素晴らしい酒の芳香があった。
また強烈な浄化作用が起き、石造りの部屋の邪悪な空気がうせた。ただ、血液を与えられた竜は苦しんでいた。
マグネタイトを血液で補給するというのは良くある方法だったが、須賀京太郎の血液の特性が身を焼いていた。しかし命はつないだ。
結合が確かになり竜に生気が戻っていた。
須賀京太郎が血液で救って三分後復活した竜が話しかけてきた、この時の須賀京太郎たちの反応と竜が語った内容について書いていく。
それは竜が落ち着いてからのことである。大型犬サイズの奇妙な竜が四足歩行で立ち上がった。立ち上がったはいいが、まだふらついていた。
そしてふらついている奇妙な竜が須賀京太郎と姉帯豊音に対して会釈をした。頭が二回、ぺこっとしていた。竜に会釈された二人は反射的に頭を下げていた。
特に理由はない。会釈されたら仕返すという動作を体が覚えていた。
115: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:41:55.38 ID:a4xFQg1Z0
そして須賀京太郎と姉帯豊音が会釈をすると奇妙な竜がこんなことを言った。
「私の名前はムシュフシュ。古い友人の願いを叶えるために参上した。
しかしまずはお礼申し上げる。ありがとう。助かった。
お二人のお名前をうかがってよろしいかな?」
見た目よりかなり理性的だった。すると須賀京太郎が姉帯豊音に視線を向けた。姉帯豊音はうなずいていた。須賀京太郎はそれを見てこう言った。
「俺は須賀京太郎。今までお前を守っていたのが姉帯さんだ。お礼なら姉帯さんに頼む」
するとムシュフシュと名乗った大型犬サイズの竜は姉帯豊音に深めに頭を下げた。それに姉帯豊音が一礼で答えた。
誠実に対応されると誠実に対応する性質だった。
そんなことをしているところで須賀京太郎はこういった。
「自己紹介が済んだところで本題に入っていいか?
お前が俺たちをここに呼んだのか? もしもそうならこの石造の部屋から出る方法を教えてほしい。やることが山積みであまり時間を取りたくない」
するとムシュフシュが首をうねらせた。グネグネとしている。考え事をしていた。そしてよく考えてからムシュフシュが答えた。
「ここに呼び寄せたのは私ではない。おそらくお二人を呼んだのは私の友人だ。
ここから出たいというのなら私の友人と面会するのが一番の早道だろう。実のところ私も呼び出されたばかりで状況を完璧に把握できていない。
わかっていることは私の友人が囚われているということ、そしてあなたたちを呼び寄せてほしいと私に願ったことだけなのだ。
お互いにわからないことばかりのこの状況だが、いったん協力しないか? 私は友人のもとへ向かう道を開ける。あなたたちは私についてくる。
うまくいけば問題が解決するかもしれない」
するとマントになっているロキがこう言った。
「罠かもしれんけどな……しかしムシュフシュか、えらい古いところが出てきおったな」
ロキの呟きにムシュフシュが反応した。マントになっているロキに気付いて驚いていた。そしてこういっていた。
「おや、珍しい……智慧の完成者か」
須賀京太郎と姉帯豊音は何を言っているのかさっぱりわからなかった。しかし気にしないことにした。
石造りの部屋から出る方法と、須賀京太郎たちを呼び寄せたものの思惑を優先した。
大型犬サイズの竜・ムシュフシュとの出会いから三分後須賀京太郎たちが提案を受けた、この時の須賀京太郎たちの考えについて書いていく。
それは、ムシュフシュの提案に須賀京太郎たちが軽く頭を悩ませた後のことである。悩んだ結果、ムシュフシュの提案を受けた。
須賀京太郎も姉帯豊音もロキも提案をのむ以外に道がないと理解していた。というのが場所が問題だった。須賀京太郎たちがいる石造りの部屋だが
「どこにあるのか」
さっぱりわからない。おそらく白骨の大地のどこかだとはわかっていたが、それ以外にはわからなかった。
白骨の大地のどこかと推測できたのは、ムシュフシュの友人が弱体化している可能性が高いからだ。
力が残っているのならばムシュフシュは死に掛けた状態で呼ばれなかったはず。そもそも断末魔を上げることもない。
カツカツの状態だと考えると地獄のどこかと考えるのが自然だった。
そうだったとすれば下手に行動して迷うよりも呼び寄せたものに元の場所へ戻してもらうのが安全と判断した。無茶なことをするのは最後でよかった。
須賀京太郎たちが提案をのむとムシュフシュは速やかに門を開いた。ムシュフシュが呼び出した門はレンガでくみ上げられていた。
二メートルほどの高さしかなく、玄関の風格しかなかった。ただ、須賀京太郎たちは何も言わなかった。大型犬サイズのムシュフシュである。
良く似合っていた。そして開かれた門を須賀京太郎たちは通り抜けた。この時ごく自然に須賀京太郎と姉帯豊音は手をつないでいた。また
「まっしゅろしゅろすけ」
が二人を包んでいた。こうすれば安全であるし安心だった。少しの恥ずかしさも二人にはなかった。
116: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:45:39.92 ID:a4xFQg1Z0
ムシュフシュの門を潜り抜けた直後姉帯豊音が鼻を押さえた、この時の状況と須賀京太郎たちが感じたものについて書いていく。
それは、ムシュフシュの後を追って門を潜った直後だった。暗黒が須賀京太郎たちを出迎えた。門の向こう側が真っ暗だったのだ。
絵の具をぶちまけたかのような真っ暗加減。不自然なほど光がない。頼りになるのはマントになっているロキが放つ火花だけだった。
しかしその光も頼れるものではない。そんな真っ暗な空間に須賀京太郎たちは足を踏み入れたのだが、足場はあった。
足の裏から感じられる反発力から同じく石造りの部屋だと須賀京太郎は見抜いていた。そしてすぐに須賀京太郎は分析を始めた、しかしうまくいかなかった。
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護が強すぎるのだ。そうしていると、姉帯豊音が鼻を押さえ、須賀京太郎の手を強めに握った。何事かと姉帯豊音の方を須賀京太郎が見た。
すると姉帯豊音が泣きそうな顔で須賀京太郎を見つめていた。須賀京太郎と目が合うと首を横に振って吐き気を抑えるような動作をして見せた。
姉帯豊音は
「まっしゅろしゅろすけ」
から感じ取れる部屋の状況から、惨状を予想したのだ。この姉帯豊音のジェスチャーを見て須賀京太郎は小さな声でこう言った。
「ムシュフシュ、お前の友人だが……」
すると須賀京太郎たちから一メートルほど前にいたムシュフシュが悲しげな声でこう言った。
「どうやら……死んでいるようだ。しかも死んでから随分と時間がたっている。
しかし不思議だ。時間の経過があるはずなのに、この腐臭。白骨化していてもおかしくないほど残留思念が薄れているのに……」
哀しげなムシュフシュの声をきいて姉帯豊音が顔を伏せた。ムシュフシュの悲しみに同調していた。しかしこの時須賀京太郎とロキは疑問を持った。
その疑問とは
「ならばなぜ自分たちはここにいるのか?」
である。須賀京太郎たちとムシュフシュを呼び出した存在がどこかにいるはずなのだ。まったく理屈に合わなかった。
そうしていると不自然な真っ暗闇が唸りだした。石造りの部屋で聞こえた断末魔と同じ声だった。これを聞いてムシュフシュが叫んだ。
「生きているのか! マルドゥーク!」
友人の名前を呼ぶムシュフシュだったが、答えたのはまったく別の存在だった。ムシュフシュの叫びの後、部屋の暗黒に緑色の光が複数出現した。
川辺の蛍の群れのように美しかった。しかしすぐに気持ち悪くなった。緑色の光を中心に闇が集まり粘菌のように蠢きだた。
集まった闇は、形を変えていった。造る形は人体骨格だった。頭蓋骨から始まって背骨が出てきて骨盤が生えて足首まで創り上げて完成である。
うっすらとマグネタイトの光を放つ骸骨は呪いの類、悪魔ですらなかった。
大量の黒い骸骨が生まれた直後須賀京太郎にロキが話しかけていた、この時の須賀京太郎とロキについて書いていく。
それは緑色の光を放つ黒い骸骨たちが部屋を明るくした時のことである。
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護の中にいる須賀京太郎はつないだ手を離そうとしていた。この時、生まれてくる黒い骸骨たちをゴミを見るような目で見つめていた。
悪意があるわけではない。骸骨たちの群れが滑稽で痛ましかった。加えて骸骨たちが発する無念の感情が、須賀京太郎をいらだたせた。
ただ、どこからどう見ても悪意しかない相手であるから、やることは簡単に決まった。真っ黒な骸骨たちを部屋ごと抹殺すると決めた。
つないだ手を離すのは目の前の骸骨たちを滅ぼすためである。
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護から出なければ殴り殺せないのだから、しょうがないことだった。ただ、須賀京太郎が手を離しても姉帯豊音が手を離してくれなかった。また
「まっしゅろしゅろすけ」
も加護を消してくれなかった。加護に阻まれた須賀京太郎が姉帯豊音に視線を向けた。外してくれと目で訴えた。しかし姉帯豊音はうなずかなかった。
姉帯豊音の目は
「戦うべき相手ではない」
と言っていた。慈愛で包むべき相手だと。言いたいことはわかる。無念に共感しているのもわかる。
それは、ムシュフシュの後を追って門を潜った直後だった。暗黒が須賀京太郎たちを出迎えた。門の向こう側が真っ暗だったのだ。
絵の具をぶちまけたかのような真っ暗加減。不自然なほど光がない。頼りになるのはマントになっているロキが放つ火花だけだった。
しかしその光も頼れるものではない。そんな真っ暗な空間に須賀京太郎たちは足を踏み入れたのだが、足場はあった。
足の裏から感じられる反発力から同じく石造りの部屋だと須賀京太郎は見抜いていた。そしてすぐに須賀京太郎は分析を始めた、しかしうまくいかなかった。
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護が強すぎるのだ。そうしていると、姉帯豊音が鼻を押さえ、須賀京太郎の手を強めに握った。何事かと姉帯豊音の方を須賀京太郎が見た。
すると姉帯豊音が泣きそうな顔で須賀京太郎を見つめていた。須賀京太郎と目が合うと首を横に振って吐き気を抑えるような動作をして見せた。
姉帯豊音は
「まっしゅろしゅろすけ」
から感じ取れる部屋の状況から、惨状を予想したのだ。この姉帯豊音のジェスチャーを見て須賀京太郎は小さな声でこう言った。
「ムシュフシュ、お前の友人だが……」
すると須賀京太郎たちから一メートルほど前にいたムシュフシュが悲しげな声でこう言った。
「どうやら……死んでいるようだ。しかも死んでから随分と時間がたっている。
しかし不思議だ。時間の経過があるはずなのに、この腐臭。白骨化していてもおかしくないほど残留思念が薄れているのに……」
哀しげなムシュフシュの声をきいて姉帯豊音が顔を伏せた。ムシュフシュの悲しみに同調していた。しかしこの時須賀京太郎とロキは疑問を持った。
その疑問とは
「ならばなぜ自分たちはここにいるのか?」
である。須賀京太郎たちとムシュフシュを呼び出した存在がどこかにいるはずなのだ。まったく理屈に合わなかった。
そうしていると不自然な真っ暗闇が唸りだした。石造りの部屋で聞こえた断末魔と同じ声だった。これを聞いてムシュフシュが叫んだ。
「生きているのか! マルドゥーク!」
友人の名前を呼ぶムシュフシュだったが、答えたのはまったく別の存在だった。ムシュフシュの叫びの後、部屋の暗黒に緑色の光が複数出現した。
川辺の蛍の群れのように美しかった。しかしすぐに気持ち悪くなった。緑色の光を中心に闇が集まり粘菌のように蠢きだた。
集まった闇は、形を変えていった。造る形は人体骨格だった。頭蓋骨から始まって背骨が出てきて骨盤が生えて足首まで創り上げて完成である。
うっすらとマグネタイトの光を放つ骸骨は呪いの類、悪魔ですらなかった。
大量の黒い骸骨が生まれた直後須賀京太郎にロキが話しかけていた、この時の須賀京太郎とロキについて書いていく。
それは緑色の光を放つ黒い骸骨たちが部屋を明るくした時のことである。
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護の中にいる須賀京太郎はつないだ手を離そうとしていた。この時、生まれてくる黒い骸骨たちをゴミを見るような目で見つめていた。
悪意があるわけではない。骸骨たちの群れが滑稽で痛ましかった。加えて骸骨たちが発する無念の感情が、須賀京太郎をいらだたせた。
ただ、どこからどう見ても悪意しかない相手であるから、やることは簡単に決まった。真っ黒な骸骨たちを部屋ごと抹殺すると決めた。
つないだ手を離すのは目の前の骸骨たちを滅ぼすためである。
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護から出なければ殴り殺せないのだから、しょうがないことだった。ただ、須賀京太郎が手を離しても姉帯豊音が手を離してくれなかった。また
「まっしゅろしゅろすけ」
も加護を消してくれなかった。加護に阻まれた須賀京太郎が姉帯豊音に視線を向けた。外してくれと目で訴えた。しかし姉帯豊音はうなずかなかった。
姉帯豊音の目は
「戦うべき相手ではない」
と言っていた。慈愛で包むべき相手だと。言いたいことはわかる。無念に共感しているのもわかる。
117: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:49:18.47 ID:a4xFQg1Z0
しかし須賀京太郎はうなずけなかった。壊すしか能がない男だと自覚しているからだ。そうしているとロキが語りかけてきた。
「小僧…これは我が娘ヘルの力じゃ……しかし暴走しておる。
ムシュフシュの友人の呪いが原因じゃろう、無念を残して死んだ亡霊たちとかみ合って、呪いが具現しておる。
小僧、わしの願いを聞いてもらえんか?」
マントになっているロキに問われた須賀京太郎はこのように答えた。
「内容による。俺にできることは敵をブッ飛ばすだけだ。それ以外は全く役に立たないから期待するなよ」
するとマントになっているロキがこう言った。
「血を流してくれ。小僧の血液の浄化作用でもって呪いを消し飛ばせるはずじゃ。ムシュフシュを助けた時のように。
もちろん、わしも協力する! わしが空気中の霊気を集め、小僧に送ろう! そうすればいくらかましになるはずじゃ!
頼む、娘の世界を汚したくない」
お願いをするときマントになっているロキは早口だった。慌てていた。合理的ではないとわかっていた。優しく解決せずとも、破壊すれば終わるのだ。
あえて血を流して浄化する意味が分からない。報酬もないのだ。当然納得しないとロキは考えた。だが、須賀京太郎は即答していた。
「よしやろう。それだけでいいならさっさとやるぞ。俺の血液が通用しなかったら、その時は覚悟しておけよ、全部壊すからな。
姉帯さん『まっしゅろしゅろすけ』を外してください。ムシュフシュ、お前は下がってろ。病み上がりだろ」
嘘はない。須賀京太郎の顔を見ていれば間違いないと理解できる。それはもう、姉帯豊音が見惚れるほどさわやかな横顔だった。
合理的な解決方法ではない。須賀京太郎もわかっている。しかし、妙に気持ちの良い解決方法だった。拳をふるうよりも手間がかかるが、それでも良かった。
須賀京太郎自身、なぜうなずいたのかさっぱり分からない。わからないが、自分の衝動に従った。
ロキのお願いの直後暗黒の部屋を須賀京太郎が浄化し始めた、この時の部屋の状況と須賀京太郎について書いていく。
それは姉帯豊音を守る湯気のような加護
「まっしゅろしゅろすけ」
が須賀京太郎を解き放った後のこと。加護から解き放たれた須賀京太郎は右手をぐっと握りこんだ。特に何の迷いも見えなかった。
それどころかむしろ爽やかで、血を流すのを良しとしていた。傷ついた右手からは血液がにじみ、滴り落ちていった。
血液が一滴落ちていくたびに、暗黒は退いた。真っ暗闇だった部屋は、須賀京太郎たちを中心にして白くなっていった。真っ暗なのは変わらないのだ。
しかし不自然な黒さは消えて、光のない白さに変わった。骸骨たちは浄化作用に巻き込まれてあっさりと消えてしまった。
現れるときにはうめき声をあげていた骸骨たちだったが、消えるときは静かだった。そして浄化を初めて数分後、闇は退き浄化が完了した。
床が少し血液で汚れているだけである。しかし、浄化が完了しても須賀京太郎は眉間にしわを寄せたままだった。腐臭が強くなったのだ。喜べなかった。
部屋を完全に浄化した時須賀京太郎は握り拳をほどいた、この時に須賀京太郎たちが見たものと彼らの行動について書いていく。
それは呪いを完璧に浄化した時であった。光さえ飲み込む暗黒の部屋はただの薄暗い石造りの部屋に戻った。
ろうそくの光もないのに部屋の状況を確認できるのは、空気中の霊気をロキが集めているからである。
空気中にあって大した力を持たない霊気だが集めていくと青白い光を放つのだ。
マントになっているロキが須賀京太郎の援護のために集めているので懐中電灯程度の光が腐臭漂う部屋を照らしていた。
「小僧…これは我が娘ヘルの力じゃ……しかし暴走しておる。
ムシュフシュの友人の呪いが原因じゃろう、無念を残して死んだ亡霊たちとかみ合って、呪いが具現しておる。
小僧、わしの願いを聞いてもらえんか?」
マントになっているロキに問われた須賀京太郎はこのように答えた。
「内容による。俺にできることは敵をブッ飛ばすだけだ。それ以外は全く役に立たないから期待するなよ」
するとマントになっているロキがこう言った。
「血を流してくれ。小僧の血液の浄化作用でもって呪いを消し飛ばせるはずじゃ。ムシュフシュを助けた時のように。
もちろん、わしも協力する! わしが空気中の霊気を集め、小僧に送ろう! そうすればいくらかましになるはずじゃ!
頼む、娘の世界を汚したくない」
お願いをするときマントになっているロキは早口だった。慌てていた。合理的ではないとわかっていた。優しく解決せずとも、破壊すれば終わるのだ。
あえて血を流して浄化する意味が分からない。報酬もないのだ。当然納得しないとロキは考えた。だが、須賀京太郎は即答していた。
「よしやろう。それだけでいいならさっさとやるぞ。俺の血液が通用しなかったら、その時は覚悟しておけよ、全部壊すからな。
姉帯さん『まっしゅろしゅろすけ』を外してください。ムシュフシュ、お前は下がってろ。病み上がりだろ」
嘘はない。須賀京太郎の顔を見ていれば間違いないと理解できる。それはもう、姉帯豊音が見惚れるほどさわやかな横顔だった。
合理的な解決方法ではない。須賀京太郎もわかっている。しかし、妙に気持ちの良い解決方法だった。拳をふるうよりも手間がかかるが、それでも良かった。
須賀京太郎自身、なぜうなずいたのかさっぱり分からない。わからないが、自分の衝動に従った。
ロキのお願いの直後暗黒の部屋を須賀京太郎が浄化し始めた、この時の部屋の状況と須賀京太郎について書いていく。
それは姉帯豊音を守る湯気のような加護
「まっしゅろしゅろすけ」
が須賀京太郎を解き放った後のこと。加護から解き放たれた須賀京太郎は右手をぐっと握りこんだ。特に何の迷いも見えなかった。
それどころかむしろ爽やかで、血を流すのを良しとしていた。傷ついた右手からは血液がにじみ、滴り落ちていった。
血液が一滴落ちていくたびに、暗黒は退いた。真っ暗闇だった部屋は、須賀京太郎たちを中心にして白くなっていった。真っ暗なのは変わらないのだ。
しかし不自然な黒さは消えて、光のない白さに変わった。骸骨たちは浄化作用に巻き込まれてあっさりと消えてしまった。
現れるときにはうめき声をあげていた骸骨たちだったが、消えるときは静かだった。そして浄化を初めて数分後、闇は退き浄化が完了した。
床が少し血液で汚れているだけである。しかし、浄化が完了しても須賀京太郎は眉間にしわを寄せたままだった。腐臭が強くなったのだ。喜べなかった。
部屋を完全に浄化した時須賀京太郎は握り拳をほどいた、この時に須賀京太郎たちが見たものと彼らの行動について書いていく。
それは呪いを完璧に浄化した時であった。光さえ飲み込む暗黒の部屋はただの薄暗い石造りの部屋に戻った。
ろうそくの光もないのに部屋の状況を確認できるのは、空気中の霊気をロキが集めているからである。
空気中にあって大した力を持たない霊気だが集めていくと青白い光を放つのだ。
マントになっているロキが須賀京太郎の援護のために集めているので懐中電灯程度の光が腐臭漂う部屋を照らしていた。
118: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:52:40.28 ID:a4xFQg1Z0
そして闇が晴れた時ムシュフシュを呼び出した
「何ものか」
の姿を確認できた。それは石造りの部屋の中心にあった。それは死体にしか見えない二体の悪魔の残骸だった。
かなりの部分が白骨化して、かろうじて肉らしきものがついていた。そして奇妙だった。この悪魔の残骸には鎖が絡み付いていた。
一本の鎖が二体の悪魔を縛り上げて動けないようにしていた。この鎖だが今も残骸を縛り上げ続けていた。生きているヘビのようだった。
鎖自体が呪物なのだ。この光景を見て須賀京太郎の目が冷えた。眉間のしわがなくなり、無表情になった。
そしてじっと鎖で締め上げられている悪魔の死骸を見つめた。ひどい虚無感が襲い、心臓が高鳴っていた。
この間に姉帯豊音は息を飲み、ムシュフシュは直視不能になってた。死してなお苦しめられている悪魔を憐れんだ。
また、須賀京太郎に張り付いているロキは、苦しんでいた。須賀京太郎の激しい感情から生まれるエネルギーがロキの体を焼いたのだ。
激しい感情が浄化の力を高めロキを苦しめていた。あわててロキはエネルギーを発散し始めた。すると部屋の明かりが青白いモノから激しい赤に変わった。
夕焼けの色だった。
部屋の状況を確認して少し間をおいて悪魔の死体に須賀京太郎が近づいていった、この時の須賀京太郎と残骸ついて書いていく。
それは今も辱められている残骸を発見してすぐのこと。須賀京太郎が小さく舌打ちをした。目の前の惨状に対して揺れた自分を恥じた。
「こういう事は良く起きること。弱いものが虐げられるのはしょうがないこと。いちいち気にしてもしょうがない」
退魔士になってから何度も自分に言い聞かせた須賀京太郎である。この状況で自分の心を支配出来ずに怒りを感じたのは恥ずかしいことだった。
そんな須賀京太郎の舌打ちはムシュフシュに届いていた。この時ほんの好奇心で須賀京太郎をムシュフシュが見た。すぐに後悔した。
須賀京太郎の輝く赤い目が爛々としていた。輝く赤い目に乗る感情は激しい怒り。見ているだけで心臓が止まりそうだった。
そんなムシュフシュに須賀京太郎はこんなことを言った。
「一思いに楽にしてやるべきだと思うが……それでいいか?」
ムシュフシュに対しての須賀京太郎の問いかけは礼儀である。友人だと聞いていたので、ムシュフシュにたずねていた。
話しかけられたムシュフシュは答えられなかった。須賀京太郎の目におびえていたからである。しかしどうにか頑張って持ち直し、こういった。
「もう、助けられないだろう……私が見たところ魂のほとんどが消滅している。回復魔法も蘇生魔法も役に立つまい。
おそらく私をここに呼んだのは苦しみからの開放を望んでいるからだろう。貴方なら苦しませずに送ってやるやれるはずだ」
すると須賀京太郎はうなずいた。そして何も言わずに鎖で締め上げられている二体の死体に近付いていった。特に警戒する様子はない。
そうして須賀京太郎が近寄っていくと、二体の死体を締め上げている鎖が須賀京太郎に飛び掛かってきた。
死体をいじめるのをやめて、須賀京太郎に向かって猛然と突撃してきた。獲物を狙う蛇のようだった。突然の攻撃であったため
「まっしゅろしゅろすけ」
は動かなかった。姉帯豊音には早すぎたのだ。またムシュフシュも対応できなかった。病み上がりである。
しかし須賀京太郎は無視して死体に近寄っていった。当然だが鎖は須賀京太郎の肉体を締め上げていった。全身にまとわりつくさまは蛇そのものである。
ただ無駄だった。須賀京太郎が一歩踏み込み、少し体を震わせるだけで鎖は砕けて散った。死体をいじめるだけしか能がない鎖である。当然の結末だった。
須賀京太郎が鎖を粉砕した後死んでいるはずの悪魔が話しかけてきた、この時の須賀京太郎と死体について書いていく。
それは二体の悪魔の残骸にあと三歩というところだった。須賀京太郎に悪魔の残骸の一つが話しかけてきた。それはぎりぎり肉が残っている死体である。
しかし残っている肉は腐っている。そんな死体がこういったのだ。
「何ものか」
の姿を確認できた。それは石造りの部屋の中心にあった。それは死体にしか見えない二体の悪魔の残骸だった。
かなりの部分が白骨化して、かろうじて肉らしきものがついていた。そして奇妙だった。この悪魔の残骸には鎖が絡み付いていた。
一本の鎖が二体の悪魔を縛り上げて動けないようにしていた。この鎖だが今も残骸を縛り上げ続けていた。生きているヘビのようだった。
鎖自体が呪物なのだ。この光景を見て須賀京太郎の目が冷えた。眉間のしわがなくなり、無表情になった。
そしてじっと鎖で締め上げられている悪魔の死骸を見つめた。ひどい虚無感が襲い、心臓が高鳴っていた。
この間に姉帯豊音は息を飲み、ムシュフシュは直視不能になってた。死してなお苦しめられている悪魔を憐れんだ。
また、須賀京太郎に張り付いているロキは、苦しんでいた。須賀京太郎の激しい感情から生まれるエネルギーがロキの体を焼いたのだ。
激しい感情が浄化の力を高めロキを苦しめていた。あわててロキはエネルギーを発散し始めた。すると部屋の明かりが青白いモノから激しい赤に変わった。
夕焼けの色だった。
部屋の状況を確認して少し間をおいて悪魔の死体に須賀京太郎が近づいていった、この時の須賀京太郎と残骸ついて書いていく。
それは今も辱められている残骸を発見してすぐのこと。須賀京太郎が小さく舌打ちをした。目の前の惨状に対して揺れた自分を恥じた。
「こういう事は良く起きること。弱いものが虐げられるのはしょうがないこと。いちいち気にしてもしょうがない」
退魔士になってから何度も自分に言い聞かせた須賀京太郎である。この状況で自分の心を支配出来ずに怒りを感じたのは恥ずかしいことだった。
そんな須賀京太郎の舌打ちはムシュフシュに届いていた。この時ほんの好奇心で須賀京太郎をムシュフシュが見た。すぐに後悔した。
須賀京太郎の輝く赤い目が爛々としていた。輝く赤い目に乗る感情は激しい怒り。見ているだけで心臓が止まりそうだった。
そんなムシュフシュに須賀京太郎はこんなことを言った。
「一思いに楽にしてやるべきだと思うが……それでいいか?」
ムシュフシュに対しての須賀京太郎の問いかけは礼儀である。友人だと聞いていたので、ムシュフシュにたずねていた。
話しかけられたムシュフシュは答えられなかった。須賀京太郎の目におびえていたからである。しかしどうにか頑張って持ち直し、こういった。
「もう、助けられないだろう……私が見たところ魂のほとんどが消滅している。回復魔法も蘇生魔法も役に立つまい。
おそらく私をここに呼んだのは苦しみからの開放を望んでいるからだろう。貴方なら苦しませずに送ってやるやれるはずだ」
すると須賀京太郎はうなずいた。そして何も言わずに鎖で締め上げられている二体の死体に近付いていった。特に警戒する様子はない。
そうして須賀京太郎が近寄っていくと、二体の死体を締め上げている鎖が須賀京太郎に飛び掛かってきた。
死体をいじめるのをやめて、須賀京太郎に向かって猛然と突撃してきた。獲物を狙う蛇のようだった。突然の攻撃であったため
「まっしゅろしゅろすけ」
は動かなかった。姉帯豊音には早すぎたのだ。またムシュフシュも対応できなかった。病み上がりである。
しかし須賀京太郎は無視して死体に近寄っていった。当然だが鎖は須賀京太郎の肉体を締め上げていった。全身にまとわりつくさまは蛇そのものである。
ただ無駄だった。須賀京太郎が一歩踏み込み、少し体を震わせるだけで鎖は砕けて散った。死体をいじめるだけしか能がない鎖である。当然の結末だった。
須賀京太郎が鎖を粉砕した後死んでいるはずの悪魔が話しかけてきた、この時の須賀京太郎と死体について書いていく。
それは二体の悪魔の残骸にあと三歩というところだった。須賀京太郎に悪魔の残骸の一つが話しかけてきた。それはぎりぎり肉が残っている死体である。
しかし残っている肉は腐っている。そんな死体がこういったのだ。
119: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:55:47.84 ID:a4xFQg1Z0
「交渉をお願いしたい……どうか我らの魂を対価にアダム・カドモンを頂きたい。
交渉をお願いしたい……どうか……我らの願いを……」
すると須賀京太郎は立ち止った。ブツブツとつぶやいている死体を見下ろして須賀京太郎はこういった。
「骨が口をしゃべるのは珍しいことじゃない。しかしお前はもともと骨ではなかったはずだ。
一体誰がお前たちをこんな目に合わせた?
教えてくれよ。お前たちをこんな目に合わせた憎いやつが、俺の標的になるかもしれないんだ」
語りかけながら須賀京太郎は右手を差し出した。そして頭蓋骨の上に右手を持って行って、右手を握りしめた。
すると血液がにじみ出ししずくになって頭蓋骨に落ちた。滴り落ちた血液は死体の頭蓋骨に落ち、すぐに蒸発した。すると一瞬だけ死体に活力が戻った。
死体は頭蓋骨を震わせてこんなことを言った。
「わからない。わからないし、どうでもいい。
我々が望むのはアダム・カドモンだけだ。アダム・カドモンさえあればいい。譲ってくれるのならば我ら二人は汝の下僕になると誓う。
好きなように扱うがいい。犬のように従順になって働こう。死後の安寧を捧げよう。
しかしアダム・カドモンを頂きたい。どうか、お願いする」
一気にまくしたてていた。ただ、これが最後の輝きであった。須賀京太郎が何度も血液を垂らしてみたが反応しなくなった。何度も何度も
「交渉をお願いする」
と
「アダム・カドモン」
を繰り返すだけの壊れた残骸になった。
死体が同じ文句を繰り返すようになるとムシュフシュが話しかけてきた、この時の須賀京太郎ムシュフシュそしてロキの会話について書いていく。
それは同じ文句を繰り返す残骸が出来上がったすこし後である。須賀京太郎は首を横に振った。ため息が自然と出ていた。胸が重たくなっていた。
まったく死体の言いたいことがわからないからだ。無念を酌んでやりたかった。ただ、
「アダム・カドモン」
という言葉には引っかかっていた。というのが須賀京太郎、この
「アダム・カドモン」
かも知れないものを持っている。それは須賀京太郎が使用している斜め掛けのカバンの中にある。今も背負ったままである。
マントになっているロキがいるので見えないが、今も一緒に行動していた。つまり十四代目葛葉ライドウが返してくれた
「変異したドリー・カドモン」
ではないかとあたりをつけた。しかし差し出すつもりは全くなかった。なぜならこれは遺品である。渡せるわけがなかった。
ただ、須賀京太郎の顔色から何かを察したムシュフシュが黙っていなかった。話しかけてきたのだ。
「少しわからないところがある。『アダム・カドモン』を求めるというのならば、注入する魂があるはずだ。
アダム・カドモンというのは器だから、そそぐものがあるはず。
私はてっきり友人の魂を入れるために呼び寄せたと思ったが、違うだろう。
なぜなら友人たちは滅びるさだめにある。アダム・カドモンに注入できないほど弱っている。
しかしそれでも求めた……どういう事だ?」
ムシュフシュの独り言のような語りかけに、須賀京太郎が興味を持った。確かにムシュフシュの指摘する通りだった。
そして須賀京太郎の視線が再び二体の悪魔の残骸に向かった。だが、須賀京太郎の目には何も映らなかった。
そうしていると今まで黙っていた姉帯豊音が少し大きな声を出した。こんなことを言っていた。
「須賀君! 死体と死体の間! 小さな魂が隠れてる!」
姉帯豊音が指摘するが須賀京太郎はまったく分からなかった。須賀京太郎は非常に困った。
120: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 00:59:26.15 ID:a4xFQg1Z0
須賀京太郎の困惑を察しマントになっているロキがこんなことを言った。
「いやいや、わしにも見えんぞ? いったいどこにある? ムシュフシュお前は見えるか? 死体と死体の間じゃと」
するとムシュフシュはこういった。
「いいや。さっぱりわからない。小さな魂? どこにある?」
ムシュフシュもロキもかなり困っていた。本当にまったく何も見えなかった。しかし姉帯豊音には見えているらしく死体と死体の間を指差して
「そこにいる。今も生きている!」
と叫んだ。須賀京太郎たちは非常にあせった。姉帯豊音の真剣さから察するに真実だろうから余計に困った。何がどうなっているのかわからなかった。
須賀京太郎たちが困っていると姉帯豊音が死体に向かって歩き出した、この時の須賀京太郎たちと姉帯豊音について書いていく。
それは小さな魂が隠れていると姉帯豊音が指摘した後である。須賀京太郎、ムシュフシュ、ロキは困り果てていた。
それもそのはずでいくら五感を鋭くしても感知の網を広げてみてもさっぱり何もわからない。
須賀京太郎はもちろんだが、ムシュフシュもロキも結構な使い手である。
須賀京太郎の五感は修業の積み重ねで音速の世界での行動を可能にし、ムシュフシュとロキは六感を手に入れるに至っている。
小さな魂の波動を感じ取れないというのはおかしなこと。しかしそれでも姉帯豊音は
「ある」
といって指摘し続ける。しかも明らかに見えているようで、理解できない須賀京太郎たちにやきもきしていた。須賀京太郎たちは非常に困った。
そうしていくら指摘しても動かない須賀京太郎たちにいよいよ苛立って、姉帯豊音は自分から小さな魂を迎えに行った。
この時の移動は驚くほど堂々とした移動だった。ムシュフシュの横を通り過ぎ須賀京太郎のそばまであっという間に歩いてきた。
姉帯豊音が平気で歩いてくるものだから、須賀京太郎たちは非常にあせった。
今この部屋にいて一番戦闘能力の低い姉帯豊音が壊れた残骸に近寄ってゆくのだ。よくない光景だった。ただ、姉帯豊音に迷いはなかった。
死体と死体の間にあるという小さな魂しか見ていなかった。
残骸に姉帯豊音が近づいて来ると須賀京太郎が止めた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音そしてロキについて書いていく。
それは姉帯豊音が平気な顔で壊れた残骸に近寄ってきてからのことである。姉帯豊音を須賀京太郎が手で止めた。そして姉帯豊音の目を見てこう言った。
「近付かないでください。こいつらが何を考えているのかわからない状況で近寄るのはいいことじゃない」
すると姉帯豊音が須賀京太郎を押しのけようとした。姉帯豊音の細い腕は須賀京太郎に触れたが、少しも動かせなかった。
しかしそれでもあきらめずに姉帯豊音は動かそうとしていた。そしてこういっていた。
「邪魔しないで。須賀君たちには見えていないかもしれないけど、そこにあるの。
『まっしゅろしゅろすけ』で包めばまだ生きられるかもしれない。
私のマグネタイトを与えれば命をつなぐことだって……だからどいて、死んじゃう前に助けたいの!」
するとマントになっているロキがこう言った。
「やめておいた方がええと思うぞ嬢ちゃん。この残骸たちを見よ。魂というコアが九割以上損傷しているこの状態でなお耐えておる。
もしもお嬢ちゃんの言うように小さな魂があるというのならばじゃ、その小さな魂とやらのためにこいつらはここで耐えておるということになるじゃろう。
悪魔にここまでさせる魂というのは普通の魂ではなかろうよ。
『大慈悲の加護』を持っておるだけのお嬢ちゃんにそんな魂を扱えるのかの? 思い出せよ、わしらの置かれておる状況を。
わしらは地獄に落とされ、ジリ貧なんじゃぞ? 何もかもがイレギュラーじゃのに、これ以上は背負えんじゃろう」
121: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:02:42.39 ID:a4xFQg1Z0
すると、須賀京太郎が一瞬目をそらした。姉帯豊音の目が須賀京太郎を射抜いたからだ。そして目をそらした時、須賀京太郎の胸が高鳴った。
護衛中に見た夢を思い出した。奇妙な老人と少女の夢である。須賀京太郎は一瞬しか目をそらさなかった。
しかし須賀京太郎の迷いを姉帯豊音は見逃さなかった。須賀京太郎の腕の下を通り抜けて、残骸と残骸の間に手を突っ込んだ。
「まっしゅろしゅろすけ」
は姉帯豊音を守ったままであった。
姉帯豊音が残骸に手を突っ込んだ後須賀京太郎は重大な選択を迫られた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音そしてロキについて書いていく。
それは姉帯豊音に隙を突かれた後の話である。須賀京太郎は慌てて姉帯豊音に駆け寄った。そして姉帯豊音を残骸から引き離そうとした。
小さな魂などどうでもよく、姉帯豊音のことが心配だった。しかしそんなことをするよりも早く姉帯豊音は目的を達成していた。
腐臭漂う悪魔の残骸の間から何かを見つけて両手で包み込んでいた。この時奇妙なことが起きた。
今まで同じ文句を繰り返していた悪魔の残骸がぴたりと動きを止めたのだ。そして何とか形を保っていた二つの残骸が崩れた。
二体分の骨の山になって、腐臭を漂わせるだけになった。これを見て須賀京太郎たちは姉帯豊音の言い分が真実だったと理解した。
そして悪魔の残骸が本当の残骸に変わった後のことである。姉帯豊音が須賀京太郎にこんなことを言った。
「須賀君! どうしよう、この子私のマグネタイトを受け取ってくれない! 受け取るだけの力がないみたい!」
姉帯豊音は泣いていた。というのが彼女の両掌の上にある小さな魂は蛍の様に点滅しているだけでまったく生気がない。
そこら辺の浮遊霊の方がよっぽど生気があるだろう。これを見て須賀京太郎は眉間にしわを寄せた。そして感知できなかった理由を察した。
弱すぎるのだ。魂が弱りすぎていて魂と認識できない状態だった。須賀京太郎と同じ分析をロキも出していた。そしてこういった。
「こりゃあもう無理じゃろう。小僧の浄化に巻き込まれて消えんかったのが不思議なくらいじゃ。
たとえアダム・カドモンに移したところで無事に生きられるかはわからん。そもそも何の魂なのかさえ分からん……小僧よ、どうする?
もしかすると非常に危険な悪魔の残滓かもしれん。いや、ほぼ間違いなかろう。
残骸になってまでも悪魔が守りたいと思う魂、ここでつぶしておく方がええかもしれんぞ?」
すると姉帯豊音の両手が
「まっしゅろしゅろすけ」
で覆われた。まったく何も見えないほど強く加護が発動していた。姉帯豊音は無言だった。しかしじっと須賀京太郎のことを見つめた。
何が言いたいのかよくわかった。涙にぬれた姉帯豊音の目に見つめられた須賀京太郎は、睨み返していた。しかし悪意からではない。
目を背けそうになったから、睨むしかなくなった。そして須賀京太郎は下唇を噛んだ。ロキの提案に乗りたかった。
合理的で目的を達成するにふさわしい手段である。
しかし異様なほど胸が高鳴るのだ。心臓が
「助けてやれ!」
と叫んでいるようだった。そして須賀京太郎はいよいよ、決断を下した。須賀京太郎はこういった。
「わかりました……おそらくこれが『アダム・カドモン』でしょう。これに姉帯さんが保護した魂を入れましょう」
須賀京太郎の退魔士としての理論が不合理に負けた。しかし気分はよかった。そして須賀京太郎は
「変異したドリー・カドモン」
を姉帯豊音に差し出した。須賀京太郎が差し出したアダム・カドモンを見て姉帯豊音は喜んだ。涙で潤んだ目で須賀京太郎に微笑みをくれていた。
須賀京太郎がアダム・カドモンを差し出した後姉帯豊音が動き出した、この時の須賀京太郎と姉帯豊音について書いていく。
それはアダム・カドモンを差し出した直後である。姉帯豊音を守っている加護
「まっしゅろしゅろすけ」
が須賀京太郎を包み込んだ。須賀京太郎と姉帯豊音を一緒に包み込んだ真っ白い加護は優しかった。この加護に包まれた時、誰かが褒めてくれているような気がした。
122: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:05:36.59 ID:a4xFQg1Z0
不思議なことだった。そうしていると須賀京太郎が差し出すアダム・カドモンに消えかけている魂を姉帯豊音がそっと注ぎ込んだ。
するとアダム・カドモンに蛍のような光が吸い込まれていった。魂が吸い込まれた後、アダム・カドモンが急激な変化を迎えた。
卵が急に力を帯び始め、卵の中の元型が急成長を始めた。この時アダム・カドモンを手の平の上においていた須賀京太郎は非常にあわてた。
それもそのはず、今まで熱のなかった物体に熱がこもり、鼓動を始めた。どう対応すればいいのかさっぱりわからなかった。
そうしていると姉帯豊音がアダム・カドモンに両手をかざした。すると姉帯豊音の身体からマグネタイトが抜けていった。何をしているのかすぐにわかった。
急成長するアダム・カドモンにエネルギーを与えているのだ。須賀京太郎は何もできないのでただ気合を入れてアダム・カドモンを支えていた。
地面を支えるように全力を出していた。しかししょうがないことである。須賀京太郎の手のひらの上で急成長する卵は新しい命である。
生まれてくる命があるのならば守りたい。遺品を憑代にして生まれてくるのならばより一層守りたかった。
そうして卵はバスケットボールほどの大きさになり、卵の中の元型が胎児の形になった。もうほとんど人の形であった。
そこからさらに十分間マグネタイトを注ぎ込んだ。そしてようやくアダム・カドモンの殻が割れた。
殻が割れた後、須賀京太郎の腕の中で赤ん坊が鳴いていた。女の子だった。へその緒がついていたが問題なかった。須賀京太郎が指先で切り裂いた。
アダム・カドモンが孵化すると姉帯豊音がふらついた、この時の須賀京太郎たちと姉帯豊音について書いていく。
それは須賀京太郎の腕の中に新しい命が生まれた直後である。アダム・カドモンにマグネタイトを注ぎ込んでいた姉帯豊音が大きくふらついた。
このとき、姉帯豊音を守っている
「まっしゅろしゅろすけ」
がかなり薄くなっていた。須賀京太郎は慌てて姉帯豊音を支えに向かった。腕の中に赤子を抱いているので非常に難しかったが、どうにかなった。
赤子を片腕で支え空いた手で姉帯豊音を支えた。赤子を抱いた経験がない須賀京太郎である。一連の動きが非常にぎこちなかった。
須賀京太郎が姉帯豊音を支えるとマントになっているロキそしてムシュフシュがほっとしていた。それほどぎこちなく、下手くそな動作だった。
姉帯豊音と赤子を須賀京太郎が支えている時ムシュフシュとロキが提案してきた、この時にムシュフシュとロキが語った提案とそれに対する二人の反応について書いていく。
それは須賀京太郎が所持していた
「変異したドリー・カドモン」
が赤子に変わってから数分後のことである。どうにか姉帯豊音が持ち直してきた。血色が悪くなっていたが徐々に良くなり、目に力が戻っている。
須賀京太郎の腕の中で泣いている赤子を見て
「抱かせて?」
と言える所を見ると大丈夫そうだった。須賀京太郎から赤子を受け取ると
「まっしゅろしゅろすけ」
を展開して赤子を包み込んで守った。赤子は真っ白な布に包まれているように見えた。そうすると赤子は泣き止んだ。
「まっしゅろしゅろすけ」
と姉帯豊音が良いらしかった。この状況になると須賀京太郎はどうでも良くなっていた。なるようになればいいと若干やけになっていた。
何がどうなっているのか理屈をつけるよりも、目の前の現実に立ち向かい続けることにした。そうしないと目の前が真っ暗になりそうだった。そうして
「なんでも来い」
の心境になっている須賀京太郎にムシュフシュがこんなことを言った。
「名前を付けないのか? 危険な魂かもしれないと心配しているのならば、今ここで新しい名前を付けて縛り付けてしまえばいい。
あれだけ損傷していた魂だ、人間が名付け親になり人間の子として育てれば、人間のように育つだろう。
我が友人が何を思い二つに分かれ、何を思いこの魂を守ったのかは私もわからない。
しかし今がチャンスだ。誰もこの子の本当の名前を知らない今、真実の名前が祝福になり呪いになる」
123: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:10:12.86 ID:a4xFQg1Z0
するとマントになっているロキがこう言った。
「生まれてしもうたのなら、しょうがねぇわな。さすがにワシも鬼じゃぁねぇ。殺せとは言わん。
小僧、さっさと父親として名前を付けちゃれよ。良い名前を付けるんじゃぞ。
わしらが立ち会い真実の名前じゃと認めるわけじゃからな、阿呆な名前をつけんなよ」
父親として名前を付けろと言われた須賀京太郎は唸った。顔を伏せて胃のあたりに手を当てていた。思った以上に精神的な圧力があった。
一方で赤子を抱いている姉帯豊音は随分真剣になっていた。
生まれてきたこの赤子にできるだけ良い名前を与えて幸せな人生を歩いてもらいたいと考えたからだ。
須賀京太郎がプレッシャーを感じて胃を抑えているところで姉帯豊音が名前を付けた、この時の須賀京太郎たちについて書いていく。
それは須賀京太郎が悩み初めてすぐのこと。悩んでいる須賀京太郎が名前を付けるよりも前に姉帯豊音がこんなことを言った。
「『未来』でどうかな……」
赤子を抱いている姉帯豊音の呟きは小さかった。しかし須賀京太郎たちに届いていた。姉帯豊音がつぶやいて少し間を開けて須賀京太郎は肯いていた。
プレッシャーから解放されて、まじめな顔になっていた。ストレートに良い名前だったので、文句が一切なかった。
また、ムシュフシュとロキは名前の意味を考えて問題ないと判断し同じくうなずいていた。
満場一致で名前が決まっていたが、須賀京太郎たちが無言で肯くので姉帯豊音は困っていた。姉帯豊音の腕に抱かれている赤子はいつの間にか眠っていた。
そんな赤子を覗き込んで須賀京太郎はこういった。
「それじゃあこれからお前は『未来』だ。必ずこの地獄から連れ出してやる。必ずな」
話しかけていたが非常に小さな声だった。赤子・未来に話しかける須賀京太郎はやわらかい表情になっていた。
赤子に名前が決まった直後滅びた悪魔たちが形を変えた、この時に生まれてきた武具について書いていく。
それは姉帯豊音が繰り返し赤子の名前を呼んでいる時だった。完全に滅び去ったはずの悪魔の残骸が動き出した。
カタカタと骨と骨がぶつかり合い、かちゃかちゃと石畳を叩いた。残骸たちが動き出すと須賀京太郎が一番に反応した。
何のためらいもなく姉帯豊音と赤子を背中に隠した。そうして須賀京太郎が戦闘態勢に入ると、二体分の悪魔の残骸が融けていった。
白骨が解けて肉片が解けて、一つになっていった。融けていった残骸は徐々に武具の形になった。この変化を須賀京太郎たちは黙って見守った。
礼であると察していたからだ。そして数分をかけて籠手が二つ生み出された。それは実に奇妙な籠手だった。まずデザインが奇抜だった。
不思議なレリーフが刻み込まれているのだが、ただのレリーフではない。右の籠手と左の籠手を合わせてると一枚の絵になるレリーフである。
このレリーフがまたおかしなデザインだった。というのが四つの目と四つの耳を持つ奇妙な神のデザインなのだ。
美しいというよりは禍々しい感じが強かった。また、悪魔の白骨を使って作ったものだからなのか、生々しい白さがあった。
そんな籠手が出来上がるとマントになっているロキがこう言った。
「小僧。これはお前のものじゃ。ありがたく使わせてもらえ。
ムシュフシュの言うところが本当ならばあの残骸はマルドゥーク。たとえ滅び去った残骸であったとしても、その力は本物じゃろう。
これからのことを考えればありがたい限り……」
すると神妙な面持ちで石造の部屋の中心に須賀京太郎が向かっていった。そして部屋の中心に到着すると、正座をして一礼してから二つの籠手を受け取った。
そして受け取ると、須賀京太郎は籠手を身に着けた。悪魔の白骨で創られた籠手をバトルスーツに押し合わせると、水と水が溶けあうように一つになった。
須賀京太郎が武具を身に着けたその時不思議な幻を見た、この時に見た幻影と須賀京太郎について書いていく。
それは須賀京太郎が奇妙な籠手を手に入れた直後である。薄暗い石造りの部屋に赤いスーツを着た老紳士と黒いスーツを着た老紳士が現れた。
この時須賀京太郎は幻だと気付かなかった。あまりに現実味がありすぎた。そのため須賀京太郎はあわてて立ち上がり構えを取った。
そして有無を言わさず拳を幻たちに叩き込んだ。ただ、全く無意味だった。幻だったからだ。しかし須賀京太郎自身は幻ではない。
拳をふるえば空気が割れ、部屋が揺れた。
「生まれてしもうたのなら、しょうがねぇわな。さすがにワシも鬼じゃぁねぇ。殺せとは言わん。
小僧、さっさと父親として名前を付けちゃれよ。良い名前を付けるんじゃぞ。
わしらが立ち会い真実の名前じゃと認めるわけじゃからな、阿呆な名前をつけんなよ」
父親として名前を付けろと言われた須賀京太郎は唸った。顔を伏せて胃のあたりに手を当てていた。思った以上に精神的な圧力があった。
一方で赤子を抱いている姉帯豊音は随分真剣になっていた。
生まれてきたこの赤子にできるだけ良い名前を与えて幸せな人生を歩いてもらいたいと考えたからだ。
須賀京太郎がプレッシャーを感じて胃を抑えているところで姉帯豊音が名前を付けた、この時の須賀京太郎たちについて書いていく。
それは須賀京太郎が悩み初めてすぐのこと。悩んでいる須賀京太郎が名前を付けるよりも前に姉帯豊音がこんなことを言った。
「『未来』でどうかな……」
赤子を抱いている姉帯豊音の呟きは小さかった。しかし須賀京太郎たちに届いていた。姉帯豊音がつぶやいて少し間を開けて須賀京太郎は肯いていた。
プレッシャーから解放されて、まじめな顔になっていた。ストレートに良い名前だったので、文句が一切なかった。
また、ムシュフシュとロキは名前の意味を考えて問題ないと判断し同じくうなずいていた。
満場一致で名前が決まっていたが、須賀京太郎たちが無言で肯くので姉帯豊音は困っていた。姉帯豊音の腕に抱かれている赤子はいつの間にか眠っていた。
そんな赤子を覗き込んで須賀京太郎はこういった。
「それじゃあこれからお前は『未来』だ。必ずこの地獄から連れ出してやる。必ずな」
話しかけていたが非常に小さな声だった。赤子・未来に話しかける須賀京太郎はやわらかい表情になっていた。
赤子に名前が決まった直後滅びた悪魔たちが形を変えた、この時に生まれてきた武具について書いていく。
それは姉帯豊音が繰り返し赤子の名前を呼んでいる時だった。完全に滅び去ったはずの悪魔の残骸が動き出した。
カタカタと骨と骨がぶつかり合い、かちゃかちゃと石畳を叩いた。残骸たちが動き出すと須賀京太郎が一番に反応した。
何のためらいもなく姉帯豊音と赤子を背中に隠した。そうして須賀京太郎が戦闘態勢に入ると、二体分の悪魔の残骸が融けていった。
白骨が解けて肉片が解けて、一つになっていった。融けていった残骸は徐々に武具の形になった。この変化を須賀京太郎たちは黙って見守った。
礼であると察していたからだ。そして数分をかけて籠手が二つ生み出された。それは実に奇妙な籠手だった。まずデザインが奇抜だった。
不思議なレリーフが刻み込まれているのだが、ただのレリーフではない。右の籠手と左の籠手を合わせてると一枚の絵になるレリーフである。
このレリーフがまたおかしなデザインだった。というのが四つの目と四つの耳を持つ奇妙な神のデザインなのだ。
美しいというよりは禍々しい感じが強かった。また、悪魔の白骨を使って作ったものだからなのか、生々しい白さがあった。
そんな籠手が出来上がるとマントになっているロキがこう言った。
「小僧。これはお前のものじゃ。ありがたく使わせてもらえ。
ムシュフシュの言うところが本当ならばあの残骸はマルドゥーク。たとえ滅び去った残骸であったとしても、その力は本物じゃろう。
これからのことを考えればありがたい限り……」
すると神妙な面持ちで石造の部屋の中心に須賀京太郎が向かっていった。そして部屋の中心に到着すると、正座をして一礼してから二つの籠手を受け取った。
そして受け取ると、須賀京太郎は籠手を身に着けた。悪魔の白骨で創られた籠手をバトルスーツに押し合わせると、水と水が溶けあうように一つになった。
須賀京太郎が武具を身に着けたその時不思議な幻を見た、この時に見た幻影と須賀京太郎について書いていく。
それは須賀京太郎が奇妙な籠手を手に入れた直後である。薄暗い石造りの部屋に赤いスーツを着た老紳士と黒いスーツを着た老紳士が現れた。
この時須賀京太郎は幻だと気付かなかった。あまりに現実味がありすぎた。そのため須賀京太郎はあわてて立ち上がり構えを取った。
そして有無を言わさず拳を幻たちに叩き込んだ。ただ、全く無意味だった。幻だったからだ。しかし須賀京太郎自身は幻ではない。
拳をふるえば空気が割れ、部屋が揺れた。
124: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:14:27.21 ID:a4xFQg1Z0
また背負うものが増えた須賀京太郎の拳は威力を高め、空気を伝って部屋の壁をぶち抜いた。そうしてようやく、幻を見ていると気付いた。
影がなかったのだ。
この時、赤いスーツの老紳士がこう言った。
「存分に我らの力を使ってくれ。
幸運なことだ。我々の願いは君たちの下で叶えられる」
これに黒いスーツの老紳士が続けた。
「運命とは奇怪なもの。まさか新人類を生む母となる彼女が魔人によって守られるとは……寂しくはある。しかし子はいつか巣立つのが自然の摂理。
『アリスの魂』が新しい旅を始められると思えば、これまでの苦難は報われる」
そして赤いスーツの老紳士と黒いスーツの老紳士は一礼して、消えていった。
赤いスーツの老紳士と黒いスーツの老紳士の幻が消えた時、須賀京太郎の目から涙がこぼれていた。須賀京太郎は悲しくもなんともない。
しかし両手を守る籠手から感情が流れ込んでくる。この感情が須賀京太郎の胸に響いて涙になってあふれていた。
赤いスーツの老紳士と黒いスーツの老紳士の幻に須賀京太郎が錯乱した後マントになったロキが道を見つけていた、この時の姉帯豊音とムシュフシュ、そしてロキについて書いていく。
それは石造りの部屋の壁に向かって突然須賀京太郎が拳を振りぬいた後。薄暗い石造りの部屋にいる姉帯豊音たちは非常に困っていた。
それもそのはず、一体何に対して須賀京太郎が攻撃したのかわからなかった。
これは須賀京太郎からエネルギーを受け取っているロキも何が起きているのかわからなかった。しかし状況は変わっていた。
というのが須賀京太郎が全力で拳をふるったことで石造りの部屋の壁は崩れ、その向こう側の硬い岩盤も砕けたのだ。そうして道が切り開かれた。
須賀京太郎が崩した壁の向こう側には膨大なマグネタイトの流れと巨大な樹の根っこが四方八方に広がる景色が見えた。
駆け下りていた地獄の光景と同じものだった。この光景を感知してロキがこう言った。
「力技で異界をぶっ潰したんか!? 無茶苦茶しよるな!」
するとムシュフシュがこう言った。
「いやぁ、単純な腕力で異界に穴をあけるとか……魔人は基本的に強いとは聞いていたが、ここまで来ると悪夢だな」
悪魔たちにひどい評価を須賀京太郎がもらっていると姉帯豊音が赤子を抱いたまま近づいてきた。壁が壊れたのならば、移動すると理解していた。
自分から近づいていったのは須賀京太郎がいつになっても近寄ってこないからである。そうして須賀京太郎に近付いた姉帯豊音は目を見開いた。
須賀京太郎の両目がオロチとそっくりな赤い目に変わっていた。戦闘終了から一秒ほどあれば人間の目に戻っていたのだ。今は完全に赤で動かない。
しかし取り乱さなかった。両手の籠手のせいだろうと察した。また、涙にも気づいていたが見て見ぬふりをした。そうするものだとわかっていた。
壁を破壊した直後須賀京太郎に話しかけてくる者がいた、この時に行われた会話について書いていく。
それは須賀京太郎に姉帯豊音が近寄ってきた数秒後のことである。何処からともなく表れた幽霊に
「なぜ泣いているのですか?」
と問われた。問いかけられた須賀京太郎は大慌てで頬をぬぐった。色々と油断しすぎていた。
そうして須賀京太郎が問いかけを無視していると、何処からともなく表れた幽霊が壁の穴を通って須賀京太郎たちの前に進んできた。
半透明な幽霊は男なのか女なのかさっぱりわからなかった。ぎりぎり人間の形をしているだけで、それだけだ。
そうして現れた幽霊は須賀京太郎にこういった。
「申し訳ありません。こちらにロキ様がいらっしゃるとお聞きしたのですが……どなたでしょうか?
いけ好かない老人と聞いているのですが……貴方ではないですよね、青年って感じですし。そっちの貴女はどう見ても女性です。
赤ちゃんは論外、そっちの犬っぽいドラゴンさんは違いますよね?
あの、私の主人ヘルが助けを求めているのです。助けてもらえませんか? ロキ様に頼めばきっと助けてくれると私を派遣したのです。
どうかお姿をお見せください」
125: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:17:22.31 ID:a4xFQg1Z0
丁寧なのか失礼なのかわからない幽霊だった。ただ、味方らしかった。
若干失礼な呼び出しの後須賀京太郎に張り付いているロキが答えた、この時の半透明な幽霊とロキの会話について書いていく。
それは半透明な幽霊が失礼な呼び出しを行って十秒ほどしたところだった。須賀京太郎の背中に張り付いていたマントが翻った。
風もないのに、元気だった。そして翻りつつマントになっているロキがこう言った。
「わしがロキじゃ。今はこの小僧に張り付いておるが、おそらく『わしが知るヘル』の父親じゃ。
一応確認させてもらうが、おぬしが仕えておるヘルというのは身長がそこそこ高く、無表情で少女趣味な上に年齢を考えない女のことかな?」
すると半透明な霊体が答えた。
「その通りです。
娘さんと同じで結構な趣味をお持ちなのですね、マントになるなんて」
霊体が答えた後、ロキが震えた。喜びと怒りがわいていた。しかし押さえた。大人だった。ロキはこう言った。
「間違いない。わしの娘じゃ。小僧、落ち着いたのならばヘルの救出へ向かおうぞ。
我が娘を助け出せば『ナグルファル』を利用できるはずじゃ。そうすればこの地獄からの脱出も容易いはず」
マントになっているロキが希望を語ると姉帯豊音の目が輝いた。腕に抱く赤子・未来の重さが力を与えてくれていた。未来を守れると思うと奮い立てた。
「まっしゅろしゅろすけ」
も同意して強度を増していた。
ナグルファルを利用するという計画をロキが語った直後須賀京太郎がおかしなことを言った、この時の須賀京太郎とロキについて書いていく。
それは脱出の足掛かりをロキが語った直後である。ほとんど間をおかずに、須賀京太郎が鼻声でこう言った。
「無事でよかったなと言っておくよ」
優しい言葉だった。娘との再会が喜ばしい。須賀京太郎も祝福していた。ただ、次にこういった。
「で、信用してもいいのか?
なんていうのかな……今の俺は高揚している。今の俺の心理状況からするとちょっとしたことで爆発しそうなんだ。
自分でも可笑しいと思うくらいにコントロールできていない。
おそらくこの籠手のせいだろう。材料になった悪魔たちの感情が俺の心を震わせている。
不思議な気持ちだが、悪い気はしない……ただ、だからこそ問題なんだ。
『冷静でなければならないと叫ぶ俺』と『喜んでいいという俺』がいるんだ。
大丈夫、狂ったりしていない。理屈はしっかり理解できている。
だが、それを踏まえて答えてほしい。
もしも、この誘いが罠の類ならば俺は嬉々として暴れる。喜びも悲しみも増幅されているが、怒りも激しく増幅されているんだ。
ムシュフシュを助けた時のような温情は見せられそうにない。喜んで籠手の力を試すだろう。
ロキはどっちだと思う? もしも罠だと思うなら俺を止めたほうがいい」
鼻声の須賀京太郎の話を聞いてロキが一瞬固まった。須賀京太郎から流れてくるエネルギーに真剣さが含まれていたからだ。
また物騒な話をした須賀京太郎自身も不安げだった。コントロールできない自分がいるという事実自体が怖かった。
「いっそ狂人のように振舞えたのならば」
と考えるほど怖かった。しかし須賀京太郎にはできなかった。狂人としてふるまうことが、どうしても許せなかったからだ。
須賀京太郎自身はさっぱり説明できないが、狂人のごとく振舞う自分を思い描いて、汚らわしいと思ったのである。
126: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:19:52.97 ID:a4xFQg1Z0
須賀京太郎が自分の状況を説明した後半透明な幽霊が問題ないと答えた、この時の須賀京太郎たちの反応と半透明な幽霊が語った内容について書いていく。
それは須賀京太郎が感情を持て余していると正直に告白した後のことである。須賀京太郎の前に浮いている半透明な幽霊が少しおびえながら手を挙げた。
かろうじて人の形を保っている幽霊であるが、許可を求めた挙手であるのは間違いなかった。須賀京太郎はそれを見てうなずいていた。
「発言どうぞ」
のうなずきである。須賀京太郎がうなずいた後半透明な幽霊がこのように語った。
「あの……おそらくヘル様は何の策略も練っておりません。
今のヘル様にあるのは一畳分の領地と魂の波長が合う部下一人だけです。つまり私のことですね。それ以外には何も持っていないのです。
貴方が私たちのことを疑っているのはわかります。しかし私たちにはそもそも罠を仕掛けるだけの余力がありません。
私がここに顔を出せたのもヘル様の封印が一つ解けたからです。もしもここの封印が解けなければ、私を派遣することさえ不可能だったでしょう。
信じてもらえませんか?」
半透明な幽霊の話を聞き終わると須賀京太郎は黙った。目をつぶってじっくり考えた。考えている間須賀京太郎の両手が震えていた。
須賀京太郎のまとう雰囲気からして邪悪なことを考えているのがわかる。しかし抑え込んだ。そして深呼吸を三回行ってから答えた。
「わかった。行こう。
たとえ道中で何かが邪魔をしたとしても、何かしらのトラップがあったとしてもそれらは一切ヘルからの攻撃ではないと俺は判断する。
そういう事だと納得することに決めた」
半透明な幽霊に自分の考えを伝える須賀京太郎はずいぶん興奮していた。口調が冷静なだけに非常に恐ろしかった。
須賀京太郎が何とか理性的な答えを出すと姉帯豊音たちはほっとした。思った以上に須賀京太郎の動きに冷静さが欠けているからだ。
特に姉帯豊音はわかりやすい。インターハイが始まってずっと一緒にいる姉帯豊音である。感情を高ぶらせている須賀京太郎が別人に見えて不安だった。
須賀京太郎が何とか自分を抑え込んだ後ムシュフシュが助言をくれた、この時のムシュフシュの助言と須賀京太郎の反応について書いていく。
それは半透明な幽霊に対して須賀京太郎がどうにか冷静に対応して見せた後のことである。ムシュフシュが須賀京太郎に助言をした。こういったのだ。
「心を落ち着かせたいのならば一度感情を解放したほうがいい。魔人殿は自制心が非常に高い様子。
下手に抑え込んで爆発するよりは適度に発散することでコントロールするほうがいいだろう。
おそらく魔人殿の心を高ぶらせているのは未来ちゃんを救えたという悪魔たちの喜びなのだ。
その喜びを一度言葉にして発散すれば落ち着くのではないかと推測するわけだが、どうか?」
爬虫類が助言をすると須賀京太郎はぴたりと動きを止めた。今まで落ち着かない様子だった須賀京太郎が嘘のように冷静になっていた。
須賀京太郎が急に落ち着いたのでムシュフシュ以外の者たちがあわてた。不吉な行動の前触れに思えた。
しかし、これもまた感情が増幅されているからなのだ。熱くなりやすくなっているが、冷える速度も速かった。もともと自制心は高いのだ。
そしてムシュフシュの提案を採用した。須賀京太郎はバランスをとりたかった。
ムシュフシュの助言を受けてすぐ須賀京太郎が胸の内を告白した、この時に行われた告白と告白を聞いた者たちについて書いていく。
それは助言のすぐ後のことである。高揚してしょうがないという須賀京太郎が口を開いた。普段の冷静沈着なふるまいが全くなくなっていた。
動作に無駄が多く見え、呼吸も乱れ気味だった。正直に告白することが怖かったのだ。しかしどうにか頑張ってこういった。
それは須賀京太郎が感情を持て余していると正直に告白した後のことである。須賀京太郎の前に浮いている半透明な幽霊が少しおびえながら手を挙げた。
かろうじて人の形を保っている幽霊であるが、許可を求めた挙手であるのは間違いなかった。須賀京太郎はそれを見てうなずいていた。
「発言どうぞ」
のうなずきである。須賀京太郎がうなずいた後半透明な幽霊がこのように語った。
「あの……おそらくヘル様は何の策略も練っておりません。
今のヘル様にあるのは一畳分の領地と魂の波長が合う部下一人だけです。つまり私のことですね。それ以外には何も持っていないのです。
貴方が私たちのことを疑っているのはわかります。しかし私たちにはそもそも罠を仕掛けるだけの余力がありません。
私がここに顔を出せたのもヘル様の封印が一つ解けたからです。もしもここの封印が解けなければ、私を派遣することさえ不可能だったでしょう。
信じてもらえませんか?」
半透明な幽霊の話を聞き終わると須賀京太郎は黙った。目をつぶってじっくり考えた。考えている間須賀京太郎の両手が震えていた。
須賀京太郎のまとう雰囲気からして邪悪なことを考えているのがわかる。しかし抑え込んだ。そして深呼吸を三回行ってから答えた。
「わかった。行こう。
たとえ道中で何かが邪魔をしたとしても、何かしらのトラップがあったとしてもそれらは一切ヘルからの攻撃ではないと俺は判断する。
そういう事だと納得することに決めた」
半透明な幽霊に自分の考えを伝える須賀京太郎はずいぶん興奮していた。口調が冷静なだけに非常に恐ろしかった。
須賀京太郎が何とか理性的な答えを出すと姉帯豊音たちはほっとした。思った以上に須賀京太郎の動きに冷静さが欠けているからだ。
特に姉帯豊音はわかりやすい。インターハイが始まってずっと一緒にいる姉帯豊音である。感情を高ぶらせている須賀京太郎が別人に見えて不安だった。
須賀京太郎が何とか自分を抑え込んだ後ムシュフシュが助言をくれた、この時のムシュフシュの助言と須賀京太郎の反応について書いていく。
それは半透明な幽霊に対して須賀京太郎がどうにか冷静に対応して見せた後のことである。ムシュフシュが須賀京太郎に助言をした。こういったのだ。
「心を落ち着かせたいのならば一度感情を解放したほうがいい。魔人殿は自制心が非常に高い様子。
下手に抑え込んで爆発するよりは適度に発散することでコントロールするほうがいいだろう。
おそらく魔人殿の心を高ぶらせているのは未来ちゃんを救えたという悪魔たちの喜びなのだ。
その喜びを一度言葉にして発散すれば落ち着くのではないかと推測するわけだが、どうか?」
爬虫類が助言をすると須賀京太郎はぴたりと動きを止めた。今まで落ち着かない様子だった須賀京太郎が嘘のように冷静になっていた。
須賀京太郎が急に落ち着いたのでムシュフシュ以外の者たちがあわてた。不吉な行動の前触れに思えた。
しかし、これもまた感情が増幅されているからなのだ。熱くなりやすくなっているが、冷える速度も速かった。もともと自制心は高いのだ。
そしてムシュフシュの提案を採用した。須賀京太郎はバランスをとりたかった。
ムシュフシュの助言を受けてすぐ須賀京太郎が胸の内を告白した、この時に行われた告白と告白を聞いた者たちについて書いていく。
それは助言のすぐ後のことである。高揚してしょうがないという須賀京太郎が口を開いた。普段の冷静沈着なふるまいが全くなくなっていた。
動作に無駄が多く見え、呼吸も乱れ気味だった。正直に告白することが怖かったのだ。しかしどうにか頑張ってこういった。
127: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:22:45.50 ID:a4xFQg1Z0
「お礼が言いたい。魔人である俺を軽蔑せずに一緒にいてくれる姉帯さんに礼が言いたい。
ムシュフシュ、ロキがいてくれてよかった。お前たちが何を思っているのかはわからないが、心強く感じている。
お前たちがいてくれてよかった。お前たちがいてくれるから俺は前に進める。諦めずに戦える」
告白している間須賀京太郎は視線を泳がせていた。姉帯豊音の方を見ることもなくムシュフシュを見ることもなくあさっての方向を見ていた。
自分らしくないと思ったからだ。ただ、かなり落ち着いていた。正直に告白することで自分の内側にあった爆発するような歓喜の念は失われていた。
そうして須賀京太郎が恥ずかしげもなく胸の内を告白すると姉帯豊音は赤くなった。普段の不機嫌そうな須賀京太郎を知っている。
そうなって今の様に告白されるとたまらなかった。またムシュフシュとロキも若干悶えていた。
ムシュフシュとロキが須賀京太郎に感じていた印象は蛇である。疑り深く無慈悲な怪物だと思っていた。
だから心の内を正直に告白され、温かいものを見せられると厳しかった。須賀京太郎の告白は半透明な幽霊にも届いていた。
半透明な幽霊はわかりやすいくらいに悶えていた。青臭くて耐え切れなかった。こういうのが大好きな幽霊だったのだ。
須賀京太郎が感情を吐き出した後半透明な幽霊の先導で須賀京太郎たちはヘルの下へ向かった、この時の須賀京太郎と姉帯豊音について書いていく。
それは、須賀京太郎の告白からすぐのこと。恥ずかしげもなく心を吐き出した須賀京太郎が落ち着いていた。完全に冷静沈着で無慈悲な退魔士に戻っていた。
眉間にしわが寄って射殺すような目になった。しかしまだ両目は赤いままだった。そんな須賀京太郎を見て半透明な幽霊が驚いていた。
急に冷徹な存在に変わってしまったからだ。温度差が激しすぎた。そんな須賀京太郎が現れると半透明な幽霊はこういった。
「そ、それでは……我が主ヘルの屋敷へご案内いたします。
地獄の底の底、ニーズヘッグが見張り続ける小さな牢獄です。
私の力で門を開きます。どうぞお通り下さいませお客様方」
このように語った後、半透明な幽霊がお辞儀をした。すると悲鳴が聞こえてきた。女性の悲鳴だった。この悲鳴を聞いて須賀京太郎はあわてた。
不吉なものを感じたからだ。須賀京太郎が戦闘態勢を整えたが、半透明な幽霊が制した。こういったのだ。
「あっ、申し訳ありません。今のは門を開く合図です。仕様がホラーチックなままなんです。
封印がとけたら可愛い感じに変えるってヘル様が言ってました」
須賀京太郎は困った。そしてこういった。
「今のもしかして呼び鈴っすか?」
すると間をおかずに半透明な幽霊がこう言った。
「そうですよ?」
そうして須賀京太郎が困っている間に門が姿を現した。地獄の門というイメージそのものだった。中々豪華で見栄えがした。
そして現れた地獄の門の扉を半透明な幽霊が叩いた。すると扉の向こう側から女性の声で返事がきた。
「どうぞぉ」
気の抜けた声だった。同時に扉が開いた。扉が開くとムシュフシュが一番に門をくぐった。次に須賀京太郎と姉帯豊音が門をくぐった。
門をくぐる時須賀京太郎に姉帯豊音が無言で寄り添っていた。門と扉はそれなりに大きいので寄り添う必要はない。しかしぴたりと寄り添っていた。
また赤子未来を抱く姉帯豊音の顔は赤かった。須賀京太郎の話の影響である。姉帯豊音が寄り添ってくると須賀京太郎の表情が柔らかくなった。
自分の感情を吐き出したことで嫌われたのではないかと心配していたのだ。また、姉帯豊音に受け入れられて、嬉しく思っていた。
それを少し恥ずかしく思った。
「らしくない」
と思った。そんな須賀京太郎と姉帯豊音の様子を後ろから見ていた半透明な幽霊が最後に門をくぐった。半透明な幽霊だが門をくぐるその時まで悶えていた。
くねくねしながら門をくぐっていた。客観的にみると奇妙としか言えない幽霊だった。須賀京太郎たちが門を潜り抜けると禍々しい門が姿を消した。
そして二体の悪魔を封じ込めていた石造りの異界も間をおかず消滅した。
128: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:25:32.93 ID:a4xFQg1Z0
半透明な幽霊が創りだした門を潜り抜けた瞬間に須賀京太郎たちはひどいことになった、この時の須賀京太郎たちについて書いていく。
それは幽霊の創る門を潜った直後である。須賀京太郎たちは失敗したと思った。そして冷静さを取り戻さなくてはならないと戒めた。
というのが、半透明な幽霊の言葉をすっかり忘れていた。半透明な幽霊は間違いなくこう言っていた。
「ヘル様にあるのは一畳分の領地」
だけだと。これは狭い領地という比喩でなかった。本当に一畳分しかなかった。門をくぐった先には畳一畳分の独房があったのだ。
畳一畳というと須賀京太郎が一人横になるとぎゅうぎゅうである。ここに須賀京太郎、姉帯豊音、ムシュフシュが門をくぐって入ってきた。
当然これほど狭いとは思っていないので独房の中で事故が多発した。
ムシュフシュとヘルがぶつかり、須賀京太郎と姉帯豊音が未来をかばって倒れこんだりして最悪の状況だった。幸い
「まっしゅろしゅろすけ」
が自動展開してくれていたので怪我をする者はいなかった。ただ狭いところで絡み合ってしまったので立て直すまでに五分ほど必要だった。
持ち直した時須賀京太郎も姉帯豊音もムシュフシュも死にそうな顔になっていた。狭いうえに熱い。その上空気が少ない。地味な地獄だった。
グダグダとやってからマントになっているロキがヘルに話しかけた、この時の親子の会話について書いていく。
それは須賀京太郎たちが狭い独房に腰を下ろした後のことである。須賀京太郎の背中に張り付いているロキが封印されているヘルに話しかけた。
かなり喜んでいた。
「我が娘ヘル。よくぞこの十年を耐えきった。再び我が子に会えたこと嬉しく思う」
マントになっているロキが話しかけると独房のヘルが反応した。独房にいたヘルなのだが、見た目は裸の女性だった。
黒い髪の毛で身長が百八十センチを超えている。髪の毛の長さはオロチと良い勝負。肌は死体の様に真っ白だった。ただ、非常に整っていた。
年齢は二十に届くか届かないかといったところで無表情が印象的な美人だった。この時ヘルから一番遠くに須賀京太郎が座っていた。
視線もヘルに一切向けていない。直視していたのは女性陣だけだった。そんなヘルだが、ロキに話しかけられて喜んでいた。
無表情なまま体を揺らして喜びを表現している。小さな少女がするような動きだった。そしてこういっていた。
「あぁお父様。以前よりもずっと男前になりましたね。持ち運びも便利だし加齢臭もしない。
無駄口を叩けるのが残念ですけれど、全然気にしませんわ。
本当に再会できてうれしいです、お父様」
するとマントになっているロキが黙った。須賀京太郎と姉帯豊音も黙った。するとムシュフシュがこう言った。
「再会できてうれしいらしいぞ。良かったなロキ」
マントになっているロキがこう言った。
「こやつは昔からこんな感じじゃい。なぜこうなったのか今でもわからん」
するとヘルがこう言った。
「成長したということです。教育プログラム以上の成果を出したと喜んでほしいですわ」
十年近く独房に放り込まれていたというのに元気そうだった。良い傾向だった。
ただ、時間が過ぎるにつれて部屋の空気が熱くなり、酸素も少なくなっていった。そもそもヘルを封じ込めるだけの独房である。
生身の一般人が入り込むという想定がされていなかった。
マントになっているロキとヘルが会話を初めて三分後須賀京太郎が物理的に独房を破壊していた、この時の須賀京太郎とロキたちについて書いていく。
それは父親と娘が再会を喜んで会話を楽しんでいる時だった。この時須賀京太郎は黙って成り行きに任せていた。
じっと黙って、二人の会話に耳を傾けていた。マントになっているロキから流れ込んでくる喜びの感情を受け取っていたからだ。邪魔をしたくなかった。
129: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:28:36.17 ID:a4xFQg1Z0
しかしそれも数分間のことである。須賀京太郎が視線を激しく動かし始めた。なぜなら須賀京太郎のすぐ近くにあった姉帯豊音の呼吸が乱れ始めたのだ。
須賀京太郎はすぐに異変に気付いた。そして若干顔色が悪くなっている姉帯豊音と未来に気付けた。それは小さな変化であった。
しかし見逃せない変化だった。そうして気付いた時、視線を動かして理由をさがした。原因はすぐに見つかった。換気扇もない独房である。
すぐに理解できた。そうして理解すると、須賀京太郎の目の動きが止まり、立ち上がった。立ち上がって独房の壁に向かって構えた。
須賀京太郎が立ち上がって構えた時には
「まっしゅろしゅろすけ」
が姉帯豊音たちを包み込んでいた。加護がいきわたったのを確認してから須賀京太郎は拳を振り上げた。この時須賀京太郎の両手が輝いていた。
赤い光だった。奇妙な神のレリーフに赤いエネルギー・マガツヒが通ったのだ。そして振るわれた輝く赤い拳は一瞬で独房の四方を粉砕した。
須賀京太郎が独房の壁を破壊してから数十秒後独房の内側にいた者たちが大慌てした、この時の須賀京太郎とヘルについて書いていく。
それは姉帯豊音と未来が酸欠状態になりつつあると察した須賀京太郎が独房の壁を破壊した後のことである。壁の向こう側に痩せた大地が発見できた。
痩せた大地というのはそのままの意味である。地面以外に何も見えない。
痩せた大地の中心に独房がポツンとあるだけで、草も生えない土地が浮いているだけ。しかも狭い。
土地の一番端から端を測ってみても百メートル程度しかなかった。地獄の女王ヘルの領地と呼ぶには寂しすぎた。ただ、見上げると美しい景色が見えた。
痩せた大地の頭上にはマグネタイトとマガツヒと霊気がまじりあったエネルギーの海が見えた。
そしてエネルギーの海の中に巨大な樹の根っこが四方八方に伸びているのが見える。空を見上げた深海魚が見る光景に違いない。
そうして地獄の最深部に到着し壁を須賀京太郎が粉砕し、状況を確認している時である。裸のヘルが大きな声を出した。こういったのだ。
「あぁなんてことを! ニーズヘッグがこっちに来ます!」
大きな声を出しているヘルだが、まったく表情が変わっていなかった。ただ身振り手振りから焦っているのはよくわかった。
ヘルの叫びを聞いて須賀京太郎はすぐに戦闘態勢に入った。しかし後悔はなかった。ヘルを味方につけるためには独房から出る必要があるのだ。
時間の問題なのだから、何の問題もない。そうして須賀京太郎が感覚を研ぎ澄ませていた時だった。須賀京太郎は敵の気配を察した。
ただ、気配を察した須賀京太郎は冷や汗をかいた。尋常ではない範囲に敵の気配を感じたからである。
これはマントになっているロキもムシュフシュも同じである。自分の感覚を疑うほど敵の気配が大きすぎた。これは腕力の話ではない。範囲の話である。
須賀京太郎たちがやや混乱しているところでニーズヘッグの攻撃が行われた。ニーズヘッグの攻撃はただの噛みつき攻撃だった。
良くある獣らしい噛みつきである。ただ、須賀京太郎たちはまったく回避できなかった。攻撃範囲が非常に広かったのだ。
というのが一口で痩せた大地が喰われて消えていた。逃げるも何もなかった。
痩せた大地を喰らったのは超巨大な黒いドラゴン、世界樹の根をかじる存在ニーズヘッグである。
いかにもドラゴンといった威風堂々の姿は規格外、分厚い鱗で守り、鋭い爪と牙で喰らう恐ろしい怪物。
しかし何より恐ろしいのは全長一・五キロメートルの巨体である。まぎれもない霊的決戦兵器級の怪物だった。
世界樹の根をかじる黒いドラゴンに飲み込まれた後も須賀京太郎たちは生きていた、この時の須賀京太郎たちについて書いていく。
それはニーズヘッグに飲み込まれてすぐのことである。ニーズヘッグの食道を通り抜けた須賀京太郎たちは胃袋に到着していた。
胃袋には痩せた大地の残骸や世界樹の根っこの破片が散乱していた。
ただ、須賀京太郎たちから見ると破片というよりも瓦礫で、胃袋の中は産業廃棄物の集積場といった趣である。
この産業廃棄物の集積場に到着した須賀京太郎たちはまったくの無傷であった。誰一人として傷ついていない。
130: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:31:23.81 ID:a4xFQg1Z0
それを成し遂げた立役者は
「まっしゅろしゅろすけ」
と姉帯豊音である。ニーズヘッグの攻撃が広範囲に及ぶと察したその時に須賀京太郎たちを一まとめにして包み込んだのだ。
「下手に離れ離れになるよりも一緒にいたほうが良い」
との姉帯豊音の判断の結果である。そして胃袋に着地したところでようやく姉帯豊音の加護が薄らいだ。薄らぐと須賀京太郎たちは少しばらけた。
かなり無理な姿勢で一塊になっていた反動である。坂から転がるような調子で、コロコロと二メートルほど転がっていた。
しかしこの時も須賀京太郎と姉帯豊音そして未来は離れることはなかった。須賀京太郎が両腕で捕まえていたからだ。
そして加護が薄らいで動けるようになると須賀京太郎たちは神経を研ぎ澄ませた。周囲の状況を確認するためである。
須賀京太郎は五感を使って周囲を警戒し、ムシュフシュとロキは魔術で網を張っていた。そうして須賀京太郎たちが周囲の状況を確認している時だった。
姉帯豊音にヘルが話しかけてきた。当然だがヘルは裸のままである。服はない。
須賀京太郎たちが状況を確認している時に姉帯豊音とヘルが会話をしていた、この時の二人の会話について書いていく。
それは須賀京太郎とムシュフシュとロキが良いコンビネーションを発揮している時の話である。
赤子・未来を腕に抱いて加護を発動させている姉帯豊音に向かって裸のヘルが近寄ってきた。素っ裸なのだがまったく恥じるところがない。
優雅に歩いて近づいてきた。身長百八十センチを越えている上にスタイルがいいヘルである。威圧感がすごかった。
ただ、姉帯豊音に話しかける口調は女子高校生かそれ以下であった。姉帯豊音を見上げながら裸のヘルがこういっていた。
「まだ自己紹介をしていませんでしたよね? ヘルです。よろしくお願いします」
そして軽く一礼した。これもまた優雅だった。自己紹介を受けた姉帯豊音は一瞬黙った。素っ裸でフレンドリーに自己紹介をされたからだ。
しかしすぐに自己紹介で返した。姉帯豊音はこういった。
「姉帯豊音です。よろしくお願いします。
灰色の髪の男の子は須賀京太郎君で、この子は未来です。須賀君は見た目に反してシャイだからあまりからかわないであげて?」
姉帯豊音が自己紹介で応えるとヘルが喜んだ。無表情のままだが身振り手振りで理解できた。そして喜んだヘルはこんなことを言い出した。
「嬉しい! まともに会話が成立した! 自然体で私をいじめたりしない人って最高だわ! 普通の会話がこんなに心を穏やかにしてくれるなんて!」
ヘルの話を聞いて姉帯豊音がやさしい笑顔を浮かべた。半透明な幽霊に舐められていると確信できた。
姉帯豊音がやさしい笑顔を見せているとヘルが続けてこんなことを言った。
「ねぇ豊音ちゃん、あっ、豊音ちゃんって呼んでもいい?
私のことは『ヘルちゃん』って呼んでもいいから」
無邪気にはしゃいでいるヘルのお願いに姉帯豊音が答えた。
「いいよ。ヘルちゃん」
特に何の問題もなかった。姉帯豊音だが結構な器の広さがあった。人嫌いのオロチにくっつかれるだけのことはあった。
そんな姉帯豊音が許可をくれるといよいよヘルが大喜びした。もちろん身振り手振りだけだが、非常に喜んでいるのがわかった。
喜んでいるヘルを見ていると姉帯豊音の心にも喜びがわいてきた。ただ、全力で喜んではいない。
なぜならここはニーズヘッグの胃袋の中、そしてヘルは裸である。同性ではある。しかし目のやり場に困った。
姉帯豊音とヘルが自己紹介を終わらせたところで須賀京太郎たちも周囲の状況を確認し終わっていた、この時の須賀京太郎たちについて書いていく。
それは姉帯豊音とヘルが現状に合わない緩い会話をしている時である。
五感を研ぎ澄ませた須賀京太郎と魔術で網を張っているムシュフシュとロキが仕事を終えていた。わかったことは一つである。
須賀京太郎がこう言った。
「ニーズヘッグの体の中には異界が展開されている。三つか四つの階層に分かれているっぽいな……」
131: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:34:43.25 ID:a4xFQg1Z0
須賀京太郎の呟きに対してマントになっているロキが応えた。
「特殊な調整を加えられた悪魔じゃな……悪魔一匹でここまで繊細な異界のコントロールは不可能なはずじゃ。
戦闘にも能力が割り振られておるようじゃから、複数の悪魔が協力しておるか機械化しておるかのどちらかじゃろう」
ロキの答えに対してムシュフシュがこう言った。
「どちらも正解のような気がするな。サイボーグであり複数の悪魔の協力があるタイプ。確かこういうタイプの悪魔は『超力超神』だったか?
この国ではそう呼ばれているのではないか?
何か情報は?」
ムシュフシュの問いかけに対して須賀京太郎がこう言って答えた。
「俺みたいな下っ端に伝えられている情報はほとんどない。『十四代目が一体所有している』くらいだな……詳しい仕組みに関しては何も知らない」
須賀京太郎の答えを聞いてムシュフシュがこう言った。
「超力超神は優れた兵器だと聞いているが広まらなかったのか?
攻略方法くらい出来上がっているだろう?
大正二十年の段階で鹵獲したはずだ。試すチャンスも攻略する機会もあったはず」
須賀京太郎の前にロキが答えた。
「無理じゃろう。維持費も開発費も阿呆みたいにかかる。何より制御ソフトを作るのが難しかろう。
ボディを創るのは簡単じゃ。骨格と悪魔を用意すりゃあええ。しかし制御ソフトは段違いじゃ。
この時代の人間に異界を制御するソフトなんぞ作れんよ。いや、不可能じゃろう。
十四代目の超力超神も奇跡の産物じゃねぇか? 大正二十年の技術レベルじゃあ絶対に創れんからな」
マントになっているロキの答えを聞いて、須賀京太郎は難しい顔をした。そしてこういった。
「良くわかるなロキ。
大正二十年に手に入れた超力超神は、装甲をはり変えただけで中身は昔のまんまだそうだ。
同じようなものを創ろうとしても制御ソフトのレベルが全く追いつかないって言ってたよ。
ただ、肉体の創り方自体は簡単だから、建造方法が流出して大変なことになったと聞いている。
特に世界大戦では決戦兵器が作りやすかったらしくてな、粗悪品が世界中で大量に出回ったそうだ。
ただ、御しきれないことが多く、中途半端になりがちだった。
神降ろしの異能を持った一族が駆り出されたり、大卒の兵士が制御ソフトとして組み込まれたりしてな。
人の命が安い地域では悲惨なことになったみたいだ、異能力者狩りをしたせいで内乱が起きるほどにな」
するとロキがこう言った。
「まぁ、猿まねで霊的決戦兵器は動かせん。
人間を制御ソフト扱いするという発想も前時代的じゃな……それに、制御ソフトだけでは異界を完全にコントロールできん。
異界を支配するために必要なんは、司令塔。強大な支配者じゃから」
とロキが若干早口で説明をしようとしたところであった。須賀京太郎とムシュフシュが警戒を強めた。
須賀京太郎とムシュフシュが警戒を強めたのに気付いてロキも警戒を強めた。須賀京太郎たちの警戒範囲に敵意を持つ何かが現れようとしていた。
須賀京太郎たちが警戒心を強めて二秒後のこと亡霊の塊が攻撃を仕掛けてきた、この時に現れた亡霊たちと彼らの攻撃について書いていく。
それは須賀京太郎たちが奇妙な気配を感じて戦闘態勢を取った所で起きた。突然、胃袋の中にあった大量の瓦礫が動き始めたのだ。初めは小さな揺れだった。
集中しなければ気付かないほど小さく揺れていた。しかし徐々に強まって横に揺れ始めた。
瓦礫の揺れは足場に伝わり、足場が揺れ始めるとヘルが小さな悲鳴を上げた。そして悲鳴を上げたヘルは姉帯豊音にしがみついた。
そんなことをしている間に揺れはさらに強まった。
「特殊な調整を加えられた悪魔じゃな……悪魔一匹でここまで繊細な異界のコントロールは不可能なはずじゃ。
戦闘にも能力が割り振られておるようじゃから、複数の悪魔が協力しておるか機械化しておるかのどちらかじゃろう」
ロキの答えに対してムシュフシュがこう言った。
「どちらも正解のような気がするな。サイボーグであり複数の悪魔の協力があるタイプ。確かこういうタイプの悪魔は『超力超神』だったか?
この国ではそう呼ばれているのではないか?
何か情報は?」
ムシュフシュの問いかけに対して須賀京太郎がこう言って答えた。
「俺みたいな下っ端に伝えられている情報はほとんどない。『十四代目が一体所有している』くらいだな……詳しい仕組みに関しては何も知らない」
須賀京太郎の答えを聞いてムシュフシュがこう言った。
「超力超神は優れた兵器だと聞いているが広まらなかったのか?
攻略方法くらい出来上がっているだろう?
大正二十年の段階で鹵獲したはずだ。試すチャンスも攻略する機会もあったはず」
須賀京太郎の前にロキが答えた。
「無理じゃろう。維持費も開発費も阿呆みたいにかかる。何より制御ソフトを作るのが難しかろう。
ボディを創るのは簡単じゃ。骨格と悪魔を用意すりゃあええ。しかし制御ソフトは段違いじゃ。
この時代の人間に異界を制御するソフトなんぞ作れんよ。いや、不可能じゃろう。
十四代目の超力超神も奇跡の産物じゃねぇか? 大正二十年の技術レベルじゃあ絶対に創れんからな」
マントになっているロキの答えを聞いて、須賀京太郎は難しい顔をした。そしてこういった。
「良くわかるなロキ。
大正二十年に手に入れた超力超神は、装甲をはり変えただけで中身は昔のまんまだそうだ。
同じようなものを創ろうとしても制御ソフトのレベルが全く追いつかないって言ってたよ。
ただ、肉体の創り方自体は簡単だから、建造方法が流出して大変なことになったと聞いている。
特に世界大戦では決戦兵器が作りやすかったらしくてな、粗悪品が世界中で大量に出回ったそうだ。
ただ、御しきれないことが多く、中途半端になりがちだった。
神降ろしの異能を持った一族が駆り出されたり、大卒の兵士が制御ソフトとして組み込まれたりしてな。
人の命が安い地域では悲惨なことになったみたいだ、異能力者狩りをしたせいで内乱が起きるほどにな」
するとロキがこう言った。
「まぁ、猿まねで霊的決戦兵器は動かせん。
人間を制御ソフト扱いするという発想も前時代的じゃな……それに、制御ソフトだけでは異界を完全にコントロールできん。
異界を支配するために必要なんは、司令塔。強大な支配者じゃから」
とロキが若干早口で説明をしようとしたところであった。須賀京太郎とムシュフシュが警戒を強めた。
須賀京太郎とムシュフシュが警戒を強めたのに気付いてロキも警戒を強めた。須賀京太郎たちの警戒範囲に敵意を持つ何かが現れようとしていた。
須賀京太郎たちが警戒心を強めて二秒後のこと亡霊の塊が攻撃を仕掛けてきた、この時に現れた亡霊たちと彼らの攻撃について書いていく。
それは須賀京太郎たちが奇妙な気配を感じて戦闘態勢を取った所で起きた。突然、胃袋の中にあった大量の瓦礫が動き始めたのだ。初めは小さな揺れだった。
集中しなければ気付かないほど小さく揺れていた。しかし徐々に強まって横に揺れ始めた。
瓦礫の揺れは足場に伝わり、足場が揺れ始めるとヘルが小さな悲鳴を上げた。そして悲鳴を上げたヘルは姉帯豊音にしがみついた。
そんなことをしている間に揺れはさらに強まった。
132: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:42:23.07 ID:a4xFQg1Z0
横揺れから縦揺れに変わり視界が定まらなくなった。そして十秒後。足場が急浮上した。
もともと須賀京太郎たちがいたのは飲み込まれた時に立っていた痩せた大地である。これが胃袋の天井ぎりぎりまで上がっていた。
完全に足場が天井に触れていないのは、上昇しきったところで須賀京太郎が拳で攻撃したからだ。
思い切り拳を打ち上げて浮上した痩せた大地の勢いを完全に相殺していた。しかしそうするととんでもない勢いで痩せた大地は落下した。
落下した時の衝撃で痩せた大地が完全に砕けた。土煙が大きく上がった。しかし須賀京太郎たちは無事である。
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護が守ってくれていた。須賀京太郎たちが落下した時ニーズヘッグの胃袋が鳴いた。可愛らしいものではない。うめき声である。
胃袋全体からうめき声が聞こえていた。正体はすぐに見破れた。須賀京太郎の拳を叩き込まれた天井を見れば一目瞭然である。
拳を叩き込んだ所に亡霊たちが顔を出していた。人間の亡霊もいれば獣、神の亡霊もいた。統一感がないが、一つだけ共通点があった。
みな目が死んでいた。亡霊たちは奴隷だった。そして奴隷たちは必死になって働いていた。須賀京太郎が思いきり殴った胃壁を修復し始めたのだ。
しかしうまく修復できていなかった。というのが須賀京太郎の攻撃の被害が深く広かったからだ。
拳での攻撃だったはずだが、攻撃地点から波紋のように衝撃が広がって胃袋全体を傷つけていた。
そしてその傷を直すために亡霊たちがわらわらと姿を現して、呻きながら働きはじめた。哀れな光景だった。
土煙が消えた後須賀京太郎が嬉々として攻撃を仕掛けた、この時の須賀京太郎の行動と考えについて書いていく。
それは黒い竜ニーズヘッグの胃袋を修復するために亡霊たちが姿を見せた時のことである。土煙の中で須賀京太郎は、口角を上げていた。
赤い目を輝かせて、ニヤリと笑った。というのもニーズヘッグの正体を見抜き対処法を導いていた。
それができたのは、土煙の中で胃袋を修理する大量の亡霊たちを見逃さなかったからである。胃袋そのものが亡霊に変化したことで
「超力超神タイプ」
と判断がついた。超力超神タイプは、複数の悪魔を制御してどうにかボディを創るのだ。コアをぶち抜けば終わりと理解していた。
そして攻略の糸口を見つけた須賀京太郎は土煙が消えるのを待ってから動き出した。姉帯豊音に
「少し離れますけど加護は維持したままでお願いします。
ムシュフシュ、お前は姉帯さんと未来を死守しろ」
と言い、姉帯豊音から三メートルほど離れた。須賀京太郎が動き出した時胃袋の修理も完了していた。それと完了と同時に亡霊たちの攻撃が始まった。
胃袋全体から呪いの言葉が聞こえ、再び瓦礫が震え始めた。しかし、須賀京太郎の行動が早かった。
雄たけびをあげて須賀京太郎は拳を地面にたたきつけた。須賀京太郎の攻撃を目で追えたものはいなかった。
ただ、その威力はよく理解できた。というのもの地面にたたきつけられた拳から放たれた衝撃は胃袋全体を震わせた。
それだけにとどまらず衝撃だけで胃袋を崩壊させた。胃袋だけで済めばよいが肉体を足がかりにしてニーズヘッグの脳に衝撃が届いた。
音速を超えて熱の壁さえ力づくで突破する怪物が心を震わせて全力で拳をふるうのだ。威力は悪夢的領域に突入していた。
須賀京太郎の一発目が終了した直後、ニーズヘッグが大きな声で鳴いた。また須賀京太郎たちを飲み込んだことを心底後悔した。
一発目から数えて三分間延々と痛みが続いたからである。痛みを感じなくなったのは心臓と脳みそを叩き潰されたからだ。
胃袋を徹底的に叩かれて弱まったところであっさり獲られていた。
ニーズヘッグの心臓部分を須賀京太郎が破壊した後マントになっているロキがナグルファルの建造を提案してきた、この時の須賀京太郎とロキとについて書いていく。
それはニーズヘッグの胃袋に拳を叩き込んでから少し後のこと。つぶれたニーズヘッグの心臓の前に須賀京太郎が立っていた。
バトルスーツが汚れていたが、特に問題は見えなかった。こ須賀京太郎の前にある心臓というのは、生々しいものではない。
機械のフレームと悪魔を混ぜた発電機である。制御が難しい物質を悪魔と融合させることで安全な発電機として運用していたのだ。
当然重要な部分であるから沢山の警備兵がいた。
133: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:46:23.14 ID:a4xFQg1Z0
上級悪魔たちである。白血球のように須賀京太郎を排除しようとしていた。しかし相手にならなかった。
須賀京太郎の基本的な能力と両手の籠手の力、そしてロキのサポートが上手くかみ合いすぎていた。両手の籠手の試し切りに使われて終わりである。
こうなってしまったのは、相乗効果が起きているからだ。須賀京太郎の持つ心と悪魔たちの心が重なりあり、共鳴し出力が跳ね上がっていた。
しかし須賀京太郎は歓迎していない。なぜなら自分の感情が全くコントロールできないからである。
冷静であることが勝利への道と信じている須賀京太郎である。今の自分はどうしようもなく嫌いだった。ただ、勝利はもぎ取った。そんな時である。
マントになっているロキがこういった。
「聴け小僧」
すると須賀京太郎が答えた。
「敵か?」
須賀京太郎の答えを聞いてロキが少し笑った。冗談だと理解したのだ。というのも、重要機関をすべて破壊しているのだ。
しかも須賀京太郎のマグネタイトを注入して浄化作用を起こしている。すっとぼける須賀京太郎がおかしかった。
しかし咳払いをしてすぐに本題に入った。ロキはこういった。
「ニーズヘッグの死体を使ってナグルファルを創ろうと思う。小僧には許可をもらいたい。
一応小僧がリーダーじゃからな」
ロキの提案を受けてすぐに須賀京太郎はこういった。
「もちろんやってくれたらいい。
だが、俺がリーダー? 大丈夫か? 感情のコントロールに難があるリーダーなんて欲しくないだろ? 俺なら嫌だ」
するとマントになっているロキがこう言った。
「自分で難があるとわかっておるのなら十分じゃ。ちょっとヘルのところへ行ってくれ。異界を展開させる」
そうして須賀京太郎とロキは再び胃袋に戻っていった。帰りは素早かった。胃袋から心臓まで一直線にトンネルができているのだ。楽々だった。
ニーズヘッグの胃袋に戻って来た須賀京太郎は非常に驚いた、この時に須賀京太郎が見たものについて書いていく。
それはニーズヘッグの心臓を叩き潰して須賀京太郎が戻って直ぐのことである。胃袋に到着した須賀京太郎は目を見開いた。
大きく目を見開いて、驚いていた。というのも到着した胃袋が青い光で満ちていたのだ。しかし強い光ではない。
蛍のような弱弱しい光がいくつも浮かんで胃袋を満たしていた。中々幻想的な光景である。何事かと思った。しかし驚きはすぐに失せていった。
なぜならこの弱弱しい青い光の正体を知っているからだ。この青い光の正体は霊魂。彷徨っている魂である。
ニーズヘッグのコアを潰したことで自由になったのだと察した。
須賀京太郎たちが胃袋に戻って直ぐムシュフシュが話しかけてきた、この時に行われた会話について書いていく。
それは須賀京太郎が大量の霊魂を見て驚いている時である。須賀京太郎たちの帰還を察してムシュフシュが大きな声を出した。こう言っていた。
「魔人殿! こっちです! こっち!」
大きな声を出すムシュフシュはうれしそうだった。青白い霊魂が大量にありすぎてまったく姿かたちがわからなかったが、声だけで喜んでいるのがわかった。
そんなムシュフシュの声を頼りにして須賀京太郎が歩いていった。そうして声がする方に歩いていくと加護に包まれている姉帯豊音と未来、そしてヘルがいた。
加護で包まれている三人に傷はない。しかし少し問題が発生していた。姉帯豊音にヘルが
「豊音ちゃんお願いだから加護を解除して。この子たちを支配してあげないとだめなの」
とすり寄っていた。かなりべったりくっつかれていた。普通なら折れても良い状況に見えた。
須賀京太郎の基本的な能力と両手の籠手の力、そしてロキのサポートが上手くかみ合いすぎていた。両手の籠手の試し切りに使われて終わりである。
こうなってしまったのは、相乗効果が起きているからだ。須賀京太郎の持つ心と悪魔たちの心が重なりあり、共鳴し出力が跳ね上がっていた。
しかし須賀京太郎は歓迎していない。なぜなら自分の感情が全くコントロールできないからである。
冷静であることが勝利への道と信じている須賀京太郎である。今の自分はどうしようもなく嫌いだった。ただ、勝利はもぎ取った。そんな時である。
マントになっているロキがこういった。
「聴け小僧」
すると須賀京太郎が答えた。
「敵か?」
須賀京太郎の答えを聞いてロキが少し笑った。冗談だと理解したのだ。というのも、重要機関をすべて破壊しているのだ。
しかも須賀京太郎のマグネタイトを注入して浄化作用を起こしている。すっとぼける須賀京太郎がおかしかった。
しかし咳払いをしてすぐに本題に入った。ロキはこういった。
「ニーズヘッグの死体を使ってナグルファルを創ろうと思う。小僧には許可をもらいたい。
一応小僧がリーダーじゃからな」
ロキの提案を受けてすぐに須賀京太郎はこういった。
「もちろんやってくれたらいい。
だが、俺がリーダー? 大丈夫か? 感情のコントロールに難があるリーダーなんて欲しくないだろ? 俺なら嫌だ」
するとマントになっているロキがこう言った。
「自分で難があるとわかっておるのなら十分じゃ。ちょっとヘルのところへ行ってくれ。異界を展開させる」
そうして須賀京太郎とロキは再び胃袋に戻っていった。帰りは素早かった。胃袋から心臓まで一直線にトンネルができているのだ。楽々だった。
ニーズヘッグの胃袋に戻って来た須賀京太郎は非常に驚いた、この時に須賀京太郎が見たものについて書いていく。
それはニーズヘッグの心臓を叩き潰して須賀京太郎が戻って直ぐのことである。胃袋に到着した須賀京太郎は目を見開いた。
大きく目を見開いて、驚いていた。というのも到着した胃袋が青い光で満ちていたのだ。しかし強い光ではない。
蛍のような弱弱しい光がいくつも浮かんで胃袋を満たしていた。中々幻想的な光景である。何事かと思った。しかし驚きはすぐに失せていった。
なぜならこの弱弱しい青い光の正体を知っているからだ。この青い光の正体は霊魂。彷徨っている魂である。
ニーズヘッグのコアを潰したことで自由になったのだと察した。
須賀京太郎たちが胃袋に戻って直ぐムシュフシュが話しかけてきた、この時に行われた会話について書いていく。
それは須賀京太郎が大量の霊魂を見て驚いている時である。須賀京太郎たちの帰還を察してムシュフシュが大きな声を出した。こう言っていた。
「魔人殿! こっちです! こっち!」
大きな声を出すムシュフシュはうれしそうだった。青白い霊魂が大量にありすぎてまったく姿かたちがわからなかったが、声だけで喜んでいるのがわかった。
そんなムシュフシュの声を頼りにして須賀京太郎が歩いていった。そうして声がする方に歩いていくと加護に包まれている姉帯豊音と未来、そしてヘルがいた。
加護で包まれている三人に傷はない。しかし少し問題が発生していた。姉帯豊音にヘルが
「豊音ちゃんお願いだから加護を解除して。この子たちを支配してあげないとだめなの」
とすり寄っていた。かなりべったりくっつかれていた。普通なら折れても良い状況に見えた。
134: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:49:45.99 ID:a4xFQg1Z0
しかし姉帯豊音は
「だめだよ。須賀君が戻ってくるまで加護は解かないからね」
といって頑として肯いていなかった。ヘルが拝み倒しても顔色一つ変えないあたり姉帯豊音はすさまじかった。
ただすぐそばで番犬の役目を果たしていたムシュフシュは非常に苦しそうだった。ヘルが味方してくれと目線で訴えるからだ。
そんなところで須賀京太郎たちが戻ってくるのだから非常にうれしかった。そうして須賀京太郎たちを発見するとヘルがはしゃいだ。
拝み倒すのをやめてこういったのだ。
「京太郎ちゃん! 京太郎ちゃんよ豊音ちゃん! これで解除してくれるでしょ? ねぇいいでしょう?
この子たちは囚われていた可哀そうな子たちなの。私が守ってあげないと消えて行ってしまうだけの魂なのよ。
ハチ子ちゃんみたいに私の中に入れてあげないと消えちゃうわ」
無表情なままでヘルは必死に訴えていた。しかしそんなヘルを無視してロキがこう言った。
「それじゃあ、小僧。ニーズヘッグを材料にしてナグルファルを建造するという方向でオーケーか?」
この時まったく娘の問題などロキは気にしていない。娘の扱いに慣れていた。そんなロキに須賀京太郎が苦笑いを浮かべた。
そして苦笑いを浮かべたままロキに答えた。
「オーケー」
するとマントになっているロキがこう言った。
「それじゃあ、小僧。ヘルの分の加護を解くようにお嬢ちゃんに言ってやってくれ。
そして我が娘ヘルよ。きいておったな、ニーズヘッグを材料にしてナグルファルを建造せぇ。
『異界・ヘルヘイム』の展開を小僧が許したぞ」
するとヘルがはしゃいだ。無表情な顔のまま、しかし目がきらきらと輝いていた。ヘルにへばりつかれていた姉帯豊音は怪訝な顔をしていた。
ロキを信じていなかった。すぐに須賀京太郎に視線を送ってきた。須賀京太郎はうなずいてこういった。
「大丈夫、だと思います。ヘルの分だけ解除してください」
須賀京太郎の答えを聞いて姉帯豊音は
「まっしゅろしゅろすけ」
を部分的に解除した。ヘルを包んでいた白い雲が消えて、ヘルは自由になった。
ナグルファルを創り上げたのはヘルが自由になってすぐだった、この時に生まれたナグルファルと乗組員たちについて書いていく。
それは
「まっしゅろしゅろすけ」
の鉄壁の守りがとけてすぐだった。無表情なヘルが腹の底から声を出した。ヘルはこういっていた。
「『広がれ永遠の私が統べる世界! 集まれ私の亡霊たち!』」
須賀京太郎には届いていたが、姉帯豊音には届いていなかった。まったく聞いたこともない呪文にしか聞こえなかった。しかし変化は間違いなく起きた。
呪文の後、胃袋に集まっていた霊魂たちがヘルに殺到した。そして胃袋を埋め尽くしていた青い光があっという間にヘルに取り込まれた。
すると弱弱しかったヘルの体に力が満ちた。力が満ちると同時にマグネタイトを操ってヘルが服を創りだした。可愛らしい白いドレスだった。
二十代のヘルが身に着けるにはきついデザインだった。天江衣あたりでなければ似合わないだろう。そんなヘルはすぐに次の動きに入った。
両手をくねくねと動かしてこういった。
「さぁ、我が子たちよ! ニーズヘッグを創り変えナグルファルを生み出すのだ!」
すると亡霊たちが動き出した。ヘルの身体から無数の霊魂が飛び出してきて、動かなくなったニーズヘッグに飛び込んでいった。
すると一瞬の静寂が訪れた。しかし一瞬である。一瞬の静寂の後さまざまな音が聞こえ始めた。
骨の位置が変わる音、肉がうねる音、電子音。建築現場で聞こえるような音まで聞こえてくる。
聞こえてくる音が思っていた以上に建築現場チックな上に人力臭いので須賀京太郎と姉帯豊音は困っていた。
そうしていると可愛らしいドレスを着たヘルがこんなことを言った。
「だめだよ。須賀君が戻ってくるまで加護は解かないからね」
といって頑として肯いていなかった。ヘルが拝み倒しても顔色一つ変えないあたり姉帯豊音はすさまじかった。
ただすぐそばで番犬の役目を果たしていたムシュフシュは非常に苦しそうだった。ヘルが味方してくれと目線で訴えるからだ。
そんなところで須賀京太郎たちが戻ってくるのだから非常にうれしかった。そうして須賀京太郎たちを発見するとヘルがはしゃいだ。
拝み倒すのをやめてこういったのだ。
「京太郎ちゃん! 京太郎ちゃんよ豊音ちゃん! これで解除してくれるでしょ? ねぇいいでしょう?
この子たちは囚われていた可哀そうな子たちなの。私が守ってあげないと消えて行ってしまうだけの魂なのよ。
ハチ子ちゃんみたいに私の中に入れてあげないと消えちゃうわ」
無表情なままでヘルは必死に訴えていた。しかしそんなヘルを無視してロキがこう言った。
「それじゃあ、小僧。ニーズヘッグを材料にしてナグルファルを建造するという方向でオーケーか?」
この時まったく娘の問題などロキは気にしていない。娘の扱いに慣れていた。そんなロキに須賀京太郎が苦笑いを浮かべた。
そして苦笑いを浮かべたままロキに答えた。
「オーケー」
するとマントになっているロキがこう言った。
「それじゃあ、小僧。ヘルの分の加護を解くようにお嬢ちゃんに言ってやってくれ。
そして我が娘ヘルよ。きいておったな、ニーズヘッグを材料にしてナグルファルを建造せぇ。
『異界・ヘルヘイム』の展開を小僧が許したぞ」
するとヘルがはしゃいだ。無表情な顔のまま、しかし目がきらきらと輝いていた。ヘルにへばりつかれていた姉帯豊音は怪訝な顔をしていた。
ロキを信じていなかった。すぐに須賀京太郎に視線を送ってきた。須賀京太郎はうなずいてこういった。
「大丈夫、だと思います。ヘルの分だけ解除してください」
須賀京太郎の答えを聞いて姉帯豊音は
「まっしゅろしゅろすけ」
を部分的に解除した。ヘルを包んでいた白い雲が消えて、ヘルは自由になった。
ナグルファルを創り上げたのはヘルが自由になってすぐだった、この時に生まれたナグルファルと乗組員たちについて書いていく。
それは
「まっしゅろしゅろすけ」
の鉄壁の守りがとけてすぐだった。無表情なヘルが腹の底から声を出した。ヘルはこういっていた。
「『広がれ永遠の私が統べる世界! 集まれ私の亡霊たち!』」
須賀京太郎には届いていたが、姉帯豊音には届いていなかった。まったく聞いたこともない呪文にしか聞こえなかった。しかし変化は間違いなく起きた。
呪文の後、胃袋に集まっていた霊魂たちがヘルに殺到した。そして胃袋を埋め尽くしていた青い光があっという間にヘルに取り込まれた。
すると弱弱しかったヘルの体に力が満ちた。力が満ちると同時にマグネタイトを操ってヘルが服を創りだした。可愛らしい白いドレスだった。
二十代のヘルが身に着けるにはきついデザインだった。天江衣あたりでなければ似合わないだろう。そんなヘルはすぐに次の動きに入った。
両手をくねくねと動かしてこういった。
「さぁ、我が子たちよ! ニーズヘッグを創り変えナグルファルを生み出すのだ!」
すると亡霊たちが動き出した。ヘルの身体から無数の霊魂が飛び出してきて、動かなくなったニーズヘッグに飛び込んでいった。
すると一瞬の静寂が訪れた。しかし一瞬である。一瞬の静寂の後さまざまな音が聞こえ始めた。
骨の位置が変わる音、肉がうねる音、電子音。建築現場で聞こえるような音まで聞こえてくる。
聞こえてくる音が思っていた以上に建築現場チックな上に人力臭いので須賀京太郎と姉帯豊音は困っていた。
そうしていると可愛らしいドレスを着たヘルがこんなことを言った。
135: ◆hSU3iHKACOC4 2016/08/28(日) 01:52:33.81 ID:a4xFQg1Z0
「さぁ、あとは完成まで待つだけです。
ハチ子ちゃん! ハチ子ちゃん!? どこです!? 京太郎ちゃんたちを玉座の間に案内してあげて!」
ヘルが大きな声を出すとどこからともなく半透明な幽霊が現れた。呼ばれて飛び出してきた半透明な幽霊だが、少し人に近付いていた。
前よりも輪郭がはっきりとしていてどんな人物だったのかが分かった。年齢がヘルと同じくらいで身長は百六十センチほど。
不機嫌そうな顔で冷たい目をした女性だった。このハチ子と呼ばれた女性は主人であるヘルにこう言っていた。
「自分で案内すればいいじゃないですか。
私は今権力争いで忙しんです。調子に乗っている新参者どもをボコらないと。
門なら呼びますから、あとは頑張ってください。それと玉座の間はまだ未完成です。今気合を入れて創っていますから完成をお待ちください。
『我が王』、我らを地獄から救い出して頂けたこと感謝の極み。ヘル様をどうかよろしくお願い致します」
このように伝えてハチ子は姿を消した。ハチ子が姿を消すとヘルがうつむいた。無表情なのは変わらないけれどもへこんでいるのは間違いなかった。
ハチ子が「我が王」といった時、視線が須賀京太郎に向いていたからだ。明らかに女王と認められていないのが悲しかった。
しかし門を開くといったハチ子はやることはやっていた。須賀京太郎たちの前に禍々しいデザインの門が現れていたのだ。
この門が現れるとマントになっているロキがこう言った。
「どんだけ舐めらとんじゃ? まぁ、ハーフみてぇじゃから、しゃあねぇかもしれんが」
マントになっているロキが責めると須賀京太郎が小さな声でこう言った。
「愛情表現だろ、たぶん。
俺の上司も自分のいとこにはあんな感じだぞ。へこんだ姿が可愛いと」
するとマントになっているロキがこう言った。
「屈折しとんなぁ、小僧の上司。ストレートに愛情を伝える方がこじれんでええと思うけどな、わしは。
まぁええ小僧。お嬢ちゃんを連れてさっさと移動しようじゃねぇか。工事が終わるまで大人しくしとこうや」
そうして須賀京太郎たちは門をくぐり胃袋から移動した。移動したところで須賀京太郎たちはげっそりとした。
門の向こう側は五畳程度の独房だったからだ。しかし文句を言ってもしょうがないのでナグルファルの完成まで大人しく待った。
待っている間姉帯豊音がへこんでいるヘルを慰めていた。慰められたヘルは少し気分を良くしていた。そんなことをしているとナグルファルが完成した。
独房の壁がパタンパタンと外側に外れたのだ。そうして独房が崩壊しすると、須賀京太郎たちは驚いた。船の甲板にいたからだ。
船の大きさは中型の漁船程度で全体が真っ白だった。超巨大なニーズヘッグを材料にして創られた船のはずである。非常に小さかった。
また乗組員もねじり鉢巻きをした半透明な老人と不機嫌そうなハチ子だけであった。無数の霊魂の光はどこにもなかった。
ハチ子ちゃん! ハチ子ちゃん!? どこです!? 京太郎ちゃんたちを玉座の間に案内してあげて!」
ヘルが大きな声を出すとどこからともなく半透明な幽霊が現れた。呼ばれて飛び出してきた半透明な幽霊だが、少し人に近付いていた。
前よりも輪郭がはっきりとしていてどんな人物だったのかが分かった。年齢がヘルと同じくらいで身長は百六十センチほど。
不機嫌そうな顔で冷たい目をした女性だった。このハチ子と呼ばれた女性は主人であるヘルにこう言っていた。
「自分で案内すればいいじゃないですか。
私は今権力争いで忙しんです。調子に乗っている新参者どもをボコらないと。
門なら呼びますから、あとは頑張ってください。それと玉座の間はまだ未完成です。今気合を入れて創っていますから完成をお待ちください。
『我が王』、我らを地獄から救い出して頂けたこと感謝の極み。ヘル様をどうかよろしくお願い致します」
このように伝えてハチ子は姿を消した。ハチ子が姿を消すとヘルがうつむいた。無表情なのは変わらないけれどもへこんでいるのは間違いなかった。
ハチ子が「我が王」といった時、視線が須賀京太郎に向いていたからだ。明らかに女王と認められていないのが悲しかった。
しかし門を開くといったハチ子はやることはやっていた。須賀京太郎たちの前に禍々しいデザインの門が現れていたのだ。
この門が現れるとマントになっているロキがこう言った。
「どんだけ舐めらとんじゃ? まぁ、ハーフみてぇじゃから、しゃあねぇかもしれんが」
マントになっているロキが責めると須賀京太郎が小さな声でこう言った。
「愛情表現だろ、たぶん。
俺の上司も自分のいとこにはあんな感じだぞ。へこんだ姿が可愛いと」
するとマントになっているロキがこう言った。
「屈折しとんなぁ、小僧の上司。ストレートに愛情を伝える方がこじれんでええと思うけどな、わしは。
まぁええ小僧。お嬢ちゃんを連れてさっさと移動しようじゃねぇか。工事が終わるまで大人しくしとこうや」
そうして須賀京太郎たちは門をくぐり胃袋から移動した。移動したところで須賀京太郎たちはげっそりとした。
門の向こう側は五畳程度の独房だったからだ。しかし文句を言ってもしょうがないのでナグルファルの完成まで大人しく待った。
待っている間姉帯豊音がへこんでいるヘルを慰めていた。慰められたヘルは少し気分を良くしていた。そんなことをしているとナグルファルが完成した。
独房の壁がパタンパタンと外側に外れたのだ。そうして独房が崩壊しすると、須賀京太郎たちは驚いた。船の甲板にいたからだ。
船の大きさは中型の漁船程度で全体が真っ白だった。超巨大なニーズヘッグを材料にして創られた船のはずである。非常に小さかった。
また乗組員もねじり鉢巻きをした半透明な老人と不機嫌そうなハチ子だけであった。無数の霊魂の光はどこにもなかった。
143: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/03(土) 23:36:55.61 ID:tx3yT6Et0
中型の漁船ナグルファルが完成して数分後のことハチ子が自己紹介をしていた、この時行われたハチ子の自己紹介ともう一人の亡霊について書いていく。
それはナグルファルが完成してすぐのことである。状況確認をしている須賀京太郎たちに半透明な幽霊ハチ子が近づいてきた。
不機嫌そうな顔をしていたが足取りは軽やかだった。権力争いでぶっちぎりの一位を獲得したからである。
そして足取り軽やかなハチ子はヘルを無視して須賀京太郎の前に立った。姿勢を正してこういった。
「自己紹介遅れまして申し訳ありません。
私、女王ヘルの第一の配下ハチ子と申します。気軽にハチ子とお呼びくださいませ」
半透明な幽霊ハチ子は軽く一礼していた。主人のヘルに似て優雅だった。するとハチ子にならって、ねじり鉢巻きの老人が動き出した。
いかにも職人的な空気をまとったお爺さんで、頑固そうに見えた。ただ、ハチ子と同じくぼんやりとした輪郭しか持たない幽霊だった。
そうして動き出した老人の幽霊はハチ子の横に立って、同じく自己紹介をした。老人はこういっていた。
「お初にお目にかかる。
亡霊たちを仕切らせてもらっている棟梁だ。本名ではないが、こっちの方がわかりやすいと思ってな。
今は忙しいときだ。すべてが落ち着いた時にゆっくり話しましょうや。そっちの方が流儀に合う。
ヘル様には亡霊たちを代表してお礼申し上げる。いまだ力を取り戻せていない我らは貴女がいなければ自我を取り戻せなかった。
貴女に非常に感謝している。協力は惜しまない」
このように自己紹介をした棟梁であるがヘルよりも風格があった。腕っぷし一本で歩いてきた男の自信と後進を導く指導者のふるまいが一挙一動即に見える。
そんな棟梁とハチ子の挨拶に須賀京太郎が応えた。
「俺は須賀京太郎。ヤタガラスの退魔士です。王様ってのは俺のことでいいんですか?」
すると不機嫌そうなハチ子が一層不機嫌になった。当たり前のことをきくなと目で語っていた。しかし答えた。こう言っていた。
「もちろんです。ヘル様は私の主ですが王としての器量はありません。
この場にあって数十万の亡霊を率いて行動できる意志力を持つのはあなたくらいでしょう。棟梁と私もそれなりの統率力を持っていますが、それだけです。
獣と神の亡霊たちを従わせるほどの輝きがありません。
それに、
『ニーズヘッグに使用されていた亡霊たち』
が自由になっただけです。
『この地獄を構成する魂達』は解放されていません。
またこの地獄から脱出するためは六つの支配権を奪い返す必要があります。奪い返すのは貴方でしょうから、誰が何と言おうとあなたは王になります」
半透明な幽霊ハチ子が須賀京太郎が王で良いと言い切ると老人の亡霊棟梁もうなずいた。須賀京太郎は少し首をひねった。
気になる情報が二つ三つ追加されたからだ。特に支配権という言葉が気になった。ただ、須賀京太郎が質問をする前に、姉帯豊音が自己紹介をした。
ニコニコ笑って自己紹介をしていた。毒気が一切なかった。彼女はこういっていた。
「私は姉帯豊音です。それで、この子は未来です」
自己紹介をするついでに腕の中で眠っている赤子の自己紹介もしていた。自己紹介に対して自己紹介で返す。姉帯豊音らしい発想だった。
そうして姉帯豊音が未来を紹介している時甲板の上が温かい空気に包まれた。姉帯豊音の腕の中で眠っている赤子を見ていると、希望があるように思えた。
人間の本能が力をくれるのか、それとも神秘的な理由なのかそれはさっぱりわからない。しかしこの場にいた者たちの心に火がついていた。
この良い空気で武具も喜んでいた。
中型漁船ナグルファルの甲板が温かくなった奇妙な声が地獄に響いた、この時に聞こえた奇妙な声について書いていく。
それは姉帯豊音が自己紹介をした直後である。暖かい空気の中で須賀京太郎が支配権について質問しようとした、その時である。
ナグルファルのはるか上空から男と女の声が聞こえた。ナグルファルは地獄の底の底、世界樹の根っこさえ届かない異界ぎりぎりのところに浮かんでいる。
声が届くわけがない。しかしそれでも男と女の声はしっかりと須賀京太郎たちに届いていた。一番に聞こえたのは男の声だった。こう言っていた。
「何という事だ! ニーズヘッグが殺された!」
男の声が聞こえてきた瞬間に須賀京太郎は頭上を見上げた。頭上には世界樹の太い根っこが広がってエネルギーの海の光を遮っているだけであった。
しかし間違いなく声は上から聞こえていた。須賀京太郎が位置を確認したのは始末するためである。魔力を練り上げて稲妻を撃ち込もうとたくらんだ。
しかしその前に女の声が聞こえてきた。
それはナグルファルが完成してすぐのことである。状況確認をしている須賀京太郎たちに半透明な幽霊ハチ子が近づいてきた。
不機嫌そうな顔をしていたが足取りは軽やかだった。権力争いでぶっちぎりの一位を獲得したからである。
そして足取り軽やかなハチ子はヘルを無視して須賀京太郎の前に立った。姿勢を正してこういった。
「自己紹介遅れまして申し訳ありません。
私、女王ヘルの第一の配下ハチ子と申します。気軽にハチ子とお呼びくださいませ」
半透明な幽霊ハチ子は軽く一礼していた。主人のヘルに似て優雅だった。するとハチ子にならって、ねじり鉢巻きの老人が動き出した。
いかにも職人的な空気をまとったお爺さんで、頑固そうに見えた。ただ、ハチ子と同じくぼんやりとした輪郭しか持たない幽霊だった。
そうして動き出した老人の幽霊はハチ子の横に立って、同じく自己紹介をした。老人はこういっていた。
「お初にお目にかかる。
亡霊たちを仕切らせてもらっている棟梁だ。本名ではないが、こっちの方がわかりやすいと思ってな。
今は忙しいときだ。すべてが落ち着いた時にゆっくり話しましょうや。そっちの方が流儀に合う。
ヘル様には亡霊たちを代表してお礼申し上げる。いまだ力を取り戻せていない我らは貴女がいなければ自我を取り戻せなかった。
貴女に非常に感謝している。協力は惜しまない」
このように自己紹介をした棟梁であるがヘルよりも風格があった。腕っぷし一本で歩いてきた男の自信と後進を導く指導者のふるまいが一挙一動即に見える。
そんな棟梁とハチ子の挨拶に須賀京太郎が応えた。
「俺は須賀京太郎。ヤタガラスの退魔士です。王様ってのは俺のことでいいんですか?」
すると不機嫌そうなハチ子が一層不機嫌になった。当たり前のことをきくなと目で語っていた。しかし答えた。こう言っていた。
「もちろんです。ヘル様は私の主ですが王としての器量はありません。
この場にあって数十万の亡霊を率いて行動できる意志力を持つのはあなたくらいでしょう。棟梁と私もそれなりの統率力を持っていますが、それだけです。
獣と神の亡霊たちを従わせるほどの輝きがありません。
それに、
『ニーズヘッグに使用されていた亡霊たち』
が自由になっただけです。
『この地獄を構成する魂達』は解放されていません。
またこの地獄から脱出するためは六つの支配権を奪い返す必要があります。奪い返すのは貴方でしょうから、誰が何と言おうとあなたは王になります」
半透明な幽霊ハチ子が須賀京太郎が王で良いと言い切ると老人の亡霊棟梁もうなずいた。須賀京太郎は少し首をひねった。
気になる情報が二つ三つ追加されたからだ。特に支配権という言葉が気になった。ただ、須賀京太郎が質問をする前に、姉帯豊音が自己紹介をした。
ニコニコ笑って自己紹介をしていた。毒気が一切なかった。彼女はこういっていた。
「私は姉帯豊音です。それで、この子は未来です」
自己紹介をするついでに腕の中で眠っている赤子の自己紹介もしていた。自己紹介に対して自己紹介で返す。姉帯豊音らしい発想だった。
そうして姉帯豊音が未来を紹介している時甲板の上が温かい空気に包まれた。姉帯豊音の腕の中で眠っている赤子を見ていると、希望があるように思えた。
人間の本能が力をくれるのか、それとも神秘的な理由なのかそれはさっぱりわからない。しかしこの場にいた者たちの心に火がついていた。
この良い空気で武具も喜んでいた。
中型漁船ナグルファルの甲板が温かくなった奇妙な声が地獄に響いた、この時に聞こえた奇妙な声について書いていく。
それは姉帯豊音が自己紹介をした直後である。暖かい空気の中で須賀京太郎が支配権について質問しようとした、その時である。
ナグルファルのはるか上空から男と女の声が聞こえた。ナグルファルは地獄の底の底、世界樹の根っこさえ届かない異界ぎりぎりのところに浮かんでいる。
声が届くわけがない。しかしそれでも男と女の声はしっかりと須賀京太郎たちに届いていた。一番に聞こえたのは男の声だった。こう言っていた。
「何という事だ! ニーズヘッグが殺された!」
男の声が聞こえてきた瞬間に須賀京太郎は頭上を見上げた。頭上には世界樹の太い根っこが広がってエネルギーの海の光を遮っているだけであった。
しかし間違いなく声は上から聞こえていた。須賀京太郎が位置を確認したのは始末するためである。魔力を練り上げて稲妻を撃ち込もうとたくらんだ。
しかしその前に女の声が聞こえてきた。
144: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/03(土) 23:39:12.61 ID:tx3yT6Et0
「すぐに報告しなければ! でもどうしたらいいの? ベリアルとネビロスの反応も消えている! それにどうして封印されていたヘルが自由に!?
あぁ、嫌だ……この大事な時期にどうしてこんなことが……責任問題になるわ」
女の声もまた遥か上空から聞こえていた。この時世界樹の異変に皆が気付いた。ものすごく薄い白い膜が世界樹の根っこにへばりついていた。
これを見つけて
「あのつるつるした膜はいったいなんだ? 巨大な樹の根っこを完全にコーティングしてやがる」
と須賀京太郎が不思議がった。また、
「まっしゅろしゅろすけと似ている」
とも思った。そうして不思議に思っていると男の声がこういった。
「問題ない。報告などせずとも内々に処分してしまえばいい。
いかにヘルが恐ろしい悪魔でも支配権を六つに分けた今、大した力は出せまい。
小型霊的決戦兵器を出撃させ事に当たらせて終いにするのだ」
すると女の声がこう言った。
「しかし報告の義務が……」
報告の義務を主張している女の声だったが、乗り気だった。報告して叱られるよりも静かに対応して終わらせたいのが見え見えだった。
そしてそんな女の心を理解しているのか男の声がこう言っていた。
「この時期にお手を煩わせる方がずっと問題だ。
『天国の最終点検』をしているこの時にこのような些末な問題にかかわっている時間があると思うのか?
既に計画は八割達成しているのだ。葦原の中つ国の塞の神によって帝都侵略は失敗したが、九頭竜の姫・天江衣は呪いにかかり我らの手に落ちた。
人形の呪いも広範囲に拡散している。海外の勢力も無事現地入りできた。
帝都を滅ぼせなかったのは確かに痛い。しかし、首都機能が落ちた今ヤタガラスは混乱の極み。我らを見つけることはできない。
すべては、最終点検を残すだけなのだ。我々だけでやるしかあるまい」
すると女がこう言った。
「わかりました。私も覚悟を決めましょう。ほかの四名にも小型霊的決戦兵器を出すように通達しておきます。
『霊的決戦兵器・トール』の出撃準備をしておいてください。私も『イズン』を用意してすぐに向かいます」
そうして男と女の会話は聞こえなくなった。同時に世界樹を覆う薄い白い膜の震えが止まった。
どこからともなく聞こえてきた男女の会話の後マントになっているロキがうめき声をあげた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音たちについて書いていく。
それは男女の会話が終わってすぐのことだった。須賀京太郎の背中に張り付いているマントになっているロキがひどいうめき声をあげた。
尋常ではない苦しみ方で、死にそうだった。周囲にいた者たちはすぐに視線を向けた。視線を向けた時、誰もが息をのんだ。
というのも激しく火花を散らす赤いマントがあった。マントに起きた異変もおかしなことだが、両手の籠手も火花を散らして赤く染まっていた。
理由はだれの目にも明らかである。マグネタイトの過剰供給だ。激しく散る火花はどうにか適応しようともがくロキのあがきであった。
一方ロキが苦しむ原因である須賀京太郎は、黙って空を見つめていた。赤く輝く目は爛々としているが、無表情に近かった。
少なくとも怒っているようには見えなかった。しかし姉帯豊音たちは話しかけられなかった。身振り手振りと表情は穏やかだが怒りの匂いがすごかった。
有無を言わさない激怒の匂いが姉帯豊たちを黙らせた。
145: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/03(土) 23:41:30.18 ID:tx3yT6Et0
須賀京太郎の激怒から数十秒後のことマントになっているロキが次の進路を提案した、この時に行われた会話について書いていく。
それは須賀京太郎が若干落ち着いてきたところであった。ようやくロキのうめき声が聞こえなくなった。
しかし非常に苦しそうな呼吸音が船の甲板に響いていた。このときようやく須賀京太郎はロキの異変に気付いた。そしてこういった。
「ごめん。
話を聞いていたら、怒りがわいてきた。信じたくない言葉がいくつも聞こえてきて、どうにも抑えられなくなった。
しかし今不思議なくらい頭がすっきりしているんだ。激しい怒りだったはずなんだが不思議だ。静まり返っている。
それに抱えていた問題がどうでもよくなった。退魔術をつかえない不甲斐なさとか、俺の前に現れた呪いを吐く影とか……もうどうでもいい。
心の底から目の前のことだけに集中できる。全身全霊をすべて、目の前の戦いに注ぎ込める。
『皆殺し』だ。皆殺しにしてここから出ていく。日常から奪われたものをすべて奪い返してやる。
だが、本当に悪かった。ごめん」
須賀京太郎が謝るとロキは許した。呼吸が荒かったが怒っている様子はなかった。むしろ少し元気になっていた。こんなことをロキは言っていた。
「マグネタイトの質が急に上がりよったから、対応できんかっただけじゃ。もう大丈夫」
そしてこのように続けた。
「しかし小僧。状況は良くないぞ。聞くところによると『小型』の霊的決戦兵器がこっちにくるみてぇじゃねぇか。
ニーズヘッグとは違って警戒心も強かろう。それに小型化に成功しとるっちゅーのがこえぇな」
すると冷静を手に入れた須賀京太郎がこう言った。
「そうだな。しかも話ぶりから察するに最低六体は確実に存在している。戦術を練ってくる相手となると正直無傷では済まないだろう。
俺としては一対一の状況を作り各個撃破が望ましい。が、おそらく無理だろう。数の有利が相手の有利だからな。
一匹ずつやってくるなんてことはないはずだ。
こっちも手数が必要だ。ナグルファルは足にしかならんだろうし」
するとマントになっているロキが提案してきた。
「それならばええ考えがある。地獄に落ちてきたときのことを覚えておるか?
小僧は焦っておったから気づいておらんかもしれんが、地獄にはわしの息子たちの残骸が眠っておった。
地獄の周囲を囲む山脈のごとき白骨、あれこそ我が息子たち、ヨルムンガンドとフェンリルよ。
おそらく残骸しか残っておらんじゃろうが……利用させてもらおう。ヘルの力で骨を操り駒にしよう。
そうすりゃあ、小僧と息子たちで前衛が三つ。ナグルファルとお嬢ちゃんの大慈悲の加護で移動要塞が一。
ガタガタの六対四の形じゃが、ここまで持って行ければどうにかなるじゃろう?」
マントになっているロキの提案をきいた須賀京太郎は少し考えた。かなり厳しい戦いになるのは間違いなかった。ただ、希望があった。
すると須賀京太郎はうなずいた。そしてこういった。
「それで行こうか。手が多いことはいいことだ。
すみませんけど姉帯さんナグルファルとの連携お願いします」
すると亡霊のまとめ役二名と姉帯豊音がうなずいた。ただ三人とも顔色が悪かった。修羅場のど真ん中で踊る経験がなかった。
三人とも心は一般人のままなのだ。確かに厳しい場面を乗り越えてきた。命がけの場面も見てきた。
しかし、命を奪うことが当たり前で、修羅が乱舞する戦場は初めてだった。震えるのも仕方がなかった。
この時やることがないムシュフシュとヘルは世間話をしていた。なぜだかファッション談義で盛り上がっていた。随分なリラックス振りである。
しかししょうがない。出来ることが少ないからだ。出来ることが少ないからこそ、自分の仕事に集中できた。そして逆にリラックスできた。
146: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/03(土) 23:44:37.55 ID:tx3yT6Et0
ロキの提案で次の一手が決まった数分後ナグルファルに乗った須賀京太郎たちは地獄のふちに到着していた、この時に彼らが見たものについて書いていく。
それはヨルムンガンドとフェンリルの残骸を利用すると決まって数分後のことである。
亡霊のまとめ役半透明な幽霊・棟梁の運転によってナグルファルは地獄のふちに到着していた。
世界樹が貫く地獄は普通の世界とは違って古代の世界観(世界が平たい)で出来上がっている。
そのためヨルムンガンドとフェンリルの残骸がある世界の果てに移動するのは簡単なことだった。
地の底からみえる浮遊大陸の端っこを目指せばいいだけだからだ。
そうして世界の果て・ヨルムンガンドとフェンリルの残骸が山脈を作るところに到着すると須賀京太郎は目を見開いた。
地獄に落とされた時世界の状況を確認していた須賀京太郎である。世界の果てが白骨の山脈で囲まれているのは覚えていた。
しかし実際に近付いてみてみると恐ろしい力を感じた。この恐ろしい力とは単純なパワーではなく、激しい感情のエネルギーである。
特に山脈の大部分を占めているヨルムンガンドの白骨とフェンリルの白骨はすごい。悲しみと怒りのエネルギーは近づくだけで須賀京太郎の心を震わせた。
また世界の果てから見える真っ白な大地と天を突く世界樹は雄大で見事あった。
しかし感受性が高まっている須賀京太郎からすれば哀しく怒りを沸かせる光景だった。
「退魔士は冷静沈着でなければならない。同情していたら身が持たないと学んだはず」
しかし雄大な光景が哀しかった。
ヨルムンガンドとフェンリルの残骸が作る山脈にたどり着いて数分後マントになったロキが呪文を唱え始めた、この時に起きた異変について書いていく。
それは白骨の山脈に到着してすぐのことである。須賀京太郎は姉帯豊音とヘルを下がらせた。この時に須賀京太郎はハチ子にこういった。
「ハチ子さん、ナグルファルの中に姉帯さんたちを案内して。何かあったら危ないから棟梁さんとハチ子さんも一緒に下がって」
すると半透明な幽霊ハチ子がこう言った。
「よろしいのですが? 棟梁も私もそれなりにお役にたてると思いますが……」
そうすると須賀京太郎はこういった。
「ありがとうございます。でも何かあったら呼びますよ。姉帯さんたちの護衛よろしくお願いします」
このように語ると須賀京太郎はハチ子から視線を切った。そしてハチ子が何か言うより早く、須賀京太郎はロキにこう言った。
「それじゃあ、始めようかロキ。
しかしヨルムンガンドとフェンリルは協力してくれるかな? 俺はそこまで人望があるタイプじゃない」
するとマントになっているロキがこう言った。
「どうじゃろうな。
わしの息子たちはそこまで馬鹿じゃねぇから、わしが呼んでおると気付けばすぐに味方になってくれるじゃろうよ……魂が残っておるのならば、じゃけどな。
まぁ、小僧を利用して復讐をたくらむかもしれんが、しかしそれは小僧の器量でどうにかせぇよ」
すると須賀京太郎は苦笑いを浮かべた。おもしろそうだった。そうしているとロキが呪文を唱え始めた。
ロキが呪文を唱え始めるのに合わせて、ナグルファルの内部に慌てて姉帯豊音たちが移動を始めた。この時ムシュフシュも一緒に移動している。
須賀京太郎の戦いぶりからして自分の戦力では邪魔にしかならないと理解していた。そうしてロキが呪文を唱え始めたところで二つ異変が起きた。
一つは地獄を囲む白い山脈に。もう一つは須賀京太郎にである。非常にわかりやすい変化は地獄全体に起きた変化である。
というのが世界を取り囲む白い山脈が震え始めたのだ。グラグラと揺れて地震が起きているようだった。これは間違いなくロキの呪文の仕業である。
もう一つの変化はわかりにくかった。なぜなら須賀京太郎の心の中で起きた変化だったからだ。
ロキの呪文が進むにつれて三つの感情が強烈に渦を巻き始めたのだ。一つは怒り。一つは悲しみ。もう一つは責任感である。
この三つが同時に渦を巻いたことで須賀京太郎は一瞬ふらついた。
147: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/03(土) 23:48:10.35 ID:tx3yT6Et0
この場に姉帯豊音が残っていたのならロキの呪文を止めていただろう。なぜなら須賀京太郎の顔色は非常に悪かった。
死人のように真っ白だった。赤く輝く目と白い肌が合わさって幽鬼にしか見えなかった。
ロキの呪文が完了した後地獄のふちを囲んでいた白骨の山脈が姿を消した、この時の地獄の状況ついて書いていく。それはロキの呪文が完了した時だった。
今まで震えていた白骨の山脈が重力に負けて完全につぶれた。
もともと狼と蛇の巨大な骨格が地獄のふちを囲んでいる状態だった。重力に負けてつぶれていない状態の方がおかしかったのだが、ついにそのおかしさが正された。
すると地獄に真っ白い骨片が舞い上がった。崩れ落ちた白骨の山脈が大地の表面でぶつかり合い砕け散った。
そして細かくつぶれた骨片は空に舞い上がって雪のように散った。
そうして骨片の雪が舞う地獄になったのだが、この光景を一人で眺める須賀京太郎は苦しんでいた。そして苦しんだ挙句、膝をついて甲板にうなだれた。
しかもうめき声まで上げていた。このとき須賀京太郎と一緒にロキがうめき声をあげていた。
それもそのはず、須賀京太郎の胴体そして両足に新しい武具が装着されている。籠手と同じく白骨が素材になっていてバトルスーツと一体化していた。
ヨルムンガンドとフェンリルの情報がロキを経由して須賀京太郎に流れ込んだ結果だった。
そして流れ込んできた情報によって須賀京太郎の内側にある悲しみと怒りの感情が激しく振れた。そうなってロキを苦しめた。
供給されるマガツヒの質が一層良くなった結果である。そうして須賀京太郎の背中に張り付いているマントは余剰マガツヒの放出によって火そのものに見えた。美しかった。
ロキの呪文が完成した後も須賀京太郎は動けなかった、この時の須賀京太郎の状態について書いていく。
それはヨルムンガンドとフェンリルの魂が須賀京太郎へ注ぎ込まれて四分後のことである。ロキの思惑とは全く異なった状況が生まれていた。
本当ならば地獄に放り出されている巨大な残骸をよみがえらせて小型の霊的決戦兵器との戦いに利用するつもりであった。
しかし呪文の後に出来上がったのはチューニングされた白骨の鎧と白骨のすね当てである。望んだ結果ではない。
しかし間違いなくヨルムンガンドとフェンリルの力である。なぜなら鎧とすね当てにはわかりやすい特徴があった。
鎧の背骨にあたる部分に蛇の背骨が、すね当てには狼の毛が生えていた。また材料となった悪魔を示すレリーフがある。
すね当てには狼の、鎧には蛇のレリーフである。これだけでも想定外だが、問題はもう一つあった。儀式が終了しても須賀京太郎がまったく動かなかった。
ナグルファルの甲板で膝をついてうなだれたまま呻いていた。敗北者のようだった。しかし悔しいわけではない。
新しい力が備わったことによって猛烈な勢いで腹が減っていた。感情のエネルギーは恐ろしいほど湧き出してくるのだ。
喜怒哀楽余すことなく激しく振れている。しかしそれをどうでもいいと思えるほど肉体が乾いていた。スペースシャトルのような状態である。
重力を振り切る出力を持つが、消耗が激しすぎた。そして須賀京太郎はただ耐えるだけになった。
「何でもいいから食べたい」
というところまで既に追い込まれているのだ。何か食えば済む話。だが動かない。下手に動けば自分が彼女を喰らうと確信していた。
抑え込めるのは強烈な責任感を持っているからだ。姉帯豊音と未来を喰らうくらいなら、餓死で結構だった。
ロキの呪文が完成して七分後ナグルファルを六体の霊的決戦兵器が取り囲んだ、この時に姿を現した六体の霊的決戦兵器について書いていく。
それは地獄から白骨の山脈が失われ骨片の雪が舞い散る地獄が出来上がって数分後のことである。
めまぐるしく変わっていく状況の中で死者たちの船ナグルファルは地獄のふちで命令を待っていた。
なぜなら須賀京太郎とロキがナグルファルの支配者だから。命令もなしには動けない。
しかし当然のことだが、何もない地獄のふちでぽつんと浮かんでいるナグルファルはわかりやすい目標になった。
どうにか出撃準備を完了した地獄の管理者たちは霊的決戦兵器に乗り込んですぐにナグルファルを取り囲んだ。
小型の霊的決戦兵器は当たり前のように空を飛び、当たり前のように音速で行動していた。ナグルファルを取り囲んだのは六体の霊的決戦兵器は小さかった。
一番小さいもので五メートル。一番大きいものでも十メートルに届くか届かないかというところであった。
148: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/03(土) 23:51:24.29 ID:tx3yT6Et0
十四代目の所有する超力超神が三百メートルクラスであるから、小人サイズである。しかし超力超神よりも洗練されている。
そのため何も知らない状態で出会えば巨大なサイボーグとしか思えないだろう。
サイボーグという印象を受けるのは霊的国防兵器たちが生きているような動きを見せるからだ。身振り手振りもそうだが呼吸と間合いの測り方が人間臭い。
またモチーフがわかりやすかった。北欧神話の神それも有力な神を狙ってデザインに取り入れていた。
一番わかりやすいのはハンマーを持った大きな体の霊的決戦兵器だ。どこからどう見ても「トール」だった。
そしてナグルファルを囲んだ六体の霊的決戦兵器だが、なかなか攻撃を仕掛けてこなかった。
囲んだはいいが弱弱しいナグルファルを見つめているだけになった。攻撃を仕掛けない理由は甲板にいた。
それは敗北者のように膝をつき、うつむいている須賀京太郎である。霊的決戦兵器を駆る者たちは不吉と死の空気を察して近寄れなくなっていた。
霊的決戦兵器六体がナグルファルを取り囲んで数秒後管理者たちは動き出した、この時の管理者達の心境と須賀京太郎の状態に書いていく。
それは地獄の管理者たちがナグルファルを取り囲んですぐのことである。ようやく地獄の管理者たちが覚悟を決めた。
囲むだけ囲んで数秒間を無駄にしたけれど何とか心を決めて攻撃を仕掛けに行った。
「恐怖を乗り越えなければ天国の時は来ない」
と心を決めたのだ。そして
「やってやる。自分たちならばやれる」
と心を硬くしていた。しかし虚勢である。本当は近寄りたくなかった。ナグルファルから放たれている禍々しいオーラを感じて怯えていた。
しかし絶対に排除しなければならない異物と、回収したい存在がいる。理由が理由であるから、どうにか頑張っていた。
そして各々が魔力を高め、攻撃を仕掛けようとした。しかし攻撃を仕掛けようとした瞬間である、須賀京太郎が顔を上げた。
須賀京太郎が顔を上げた時霊的決戦兵器トールを駆る者が
「しまった」
と心の中でつぶやいた。須賀京太郎の「金色の目」が輝いているのを見て罠と覚った。
「恐怖に駆られて冷静さを忘れていた」
油断しきったタイミングで須賀京太郎が顔を上げたのだ。見透かされたのは間違いなかった。しかし反省する必要はない。一番最初に喰われたからだ。
トールを駆る者が最後に見たのはコックピットをぶち抜いて現れた禍々しい金色の目の怪物。
断末魔の瞬間に感じたのは、戦友たちが散り散りになって逃げる気配であった。
小型霊的決戦兵器トールを撃ち落とした後須賀京太郎は白骨の大地に立っていた、この時の須賀京太郎の状態について書いていく。
それは小型霊的決戦兵器の一つを落としてすぐのこと。須賀京太郎が白骨の大地に着地していた。白骨の大地に着地した須賀京太郎は無事だった。
特に怪我をしている様子はない。少し汚れているだけある。また少し変化があった。
須賀京太郎の装備である。バトルスーツと融合した両足のすね当て、鎧、そして籠手。この三つが赤く染まっていた。血液ではない。
赤い精神エネルギーマガツヒが須賀京太郎から過剰供給されていた。マントになっているロキも同じである。
特に激しく供給されているために火そのもののように見えた。このようになってしまったのは須賀京太郎と白骨の武具たちが共鳴しているからだ。
喜怒哀楽の感情が武具たちと共鳴し制御不能になっていた。また、問題があった。出力が跳ね上がっているため消費が激しかった。
満腹になったその時から既に腹が減り始めていた。しかし、まだ大丈夫だった。白骨の大地に立つその姿はいつもと変わらない。
目が金色に染まっただけである。
須賀京太郎のすぐそばにコックピットが破壊された小型霊的決戦兵器トールが転がっていたが、パイロットの姿はどこにもなかった。
血まみれのコックピットがあるだけだった。
149: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/03(土) 23:55:33.86 ID:tx3yT6Et0
須賀京太郎が食事をしていた時マントになっているロキが分析を行った、この時行われたロキの分析について書いていく。
それは小型の霊的決戦兵器トールが落ちている間のことである。須賀京太郎が食事をしている間にマントになっているロキが「トール」の分析を行った。
これから須賀京太郎と一緒に地獄を突破してシギュンを目指すロキである。邪魔になる霊的決戦兵器の分析は必須だった。
霊的決戦兵器の分析が進めば進むほど、攻略は簡単になる。また分析の結果がナグルファルへ応用出来るかもしれない。
何が利用できるのかはわからないが、まったく何もしないのはロキの性格上難しかった。
「できることはする。応用できるものはする。発展できるものは先に進めていく」
それがロキだった。そうして分析をしていくロキだが、小型霊的決戦兵器の大きな仕組みをほとんど理解した。
というのがそれほど難しくない造りだったのだ。ロキはこのように見極めていた。
「これはパワーアーマーのようなものじゃな、強化外骨格とでもいえばええか。
拡大された人体の一部……普通のものと違うのは明らかにモチーフが決まっておるところとパイロットにも同じモチーフが強制されておること。
この小型霊的決戦兵器『トール』の場合ならば、外骨格自体に『トール』の情報を入れることでいったん入れ物として完成する。
しかしそのままでは動かない。動いてもらう必要がない。悪魔は信用ならん存在じゃから、器として利用するだけにとどまる。
しかしこのままでは兵器として運用が不能。じゃからパイロットとしての『トール』を組み込むことで脳みそのかわりとし、霊的決戦兵器を動かす。
同じ『トール』の情報を持つものじゃから、拒否反応は出ない。しかもパイロットは訓練された兵士じゃから、信用できる。
問題があるとすれば、パイロットを落とされたら即終了ということだけじゃな。
パイロットの育成に時間がかかるが、下手に悪魔を駒にするよりはずっとええじゃろう。しかも大量に生産することも可能。
チューニングしやすい悪魔を見つけさえすれば霊的決戦兵器級の軍隊も夢じゃねぇな。
しかし今回のトールのパイロットは運が悪かったのぅ。おそらく専用機もちの優秀な兵士じゃったろうに。
こんな地獄に霊的決戦兵器を喰らう怪物がおるとは夢にも思わんかったかな?」
このように見極めたのだが、口には出さなかった。口に出しても応えてくれる存在がいないからだ。流石に一人で結果をつぶやくのはさみしい。
しかしそれほど待つ必要もないだろう。そろそろ食事も終わるからだ。
霊的決戦兵器「トール」を落として数分後ナグルファルが降りてきた、この時のナグルファルと姉帯豊音について書いていく。
それは小型の霊的決戦兵器の攻略方法と利用方法について須賀京太郎とロキが語り合っている時のことである。
須賀京太郎とロキから離れていたナグルファルがようやく白骨の大地に降りてきた。ゆっくりと空を飛びゆっくりと降りていた。
何か恐ろしいものがあるような動き方だった。しかし須賀京太郎もロキも特に気にしなかった。
戦闘能力の低いナグルファルである。霊的決戦兵器を恐れていると解釈した。
そうして須賀京太郎たちの下へ降りてきたナグルファルだったがなかなかヘルたちが顔を見せなかった。一番に姿を見せたのは姉帯豊音と未来である。
「まっしゅろしゅろすけ」
で身を守りつつ、船の甲板に姿を現していた。彼女に従ってムシュフシュが姿を見せていたがしょんぼりしていた。へこんだ犬のように見えた。
そうして現れた姉帯豊音を見て須賀京太郎は速やかに甲板に飛び乗った。この時姉帯豊音が須賀京太郎の顔を見て引きつった笑みを浮かべた。
須賀京太郎は首をかしげた。なぜひきっつているのかわからなかった。そうして須賀京太郎が困っているとゆっくりとヘルが姿を現した。
背後に棟梁とハチ子が従っている。この時のヘルたちは怯えていた。須賀京太郎をまっすぐに見ていない。露骨に視線を外していた。
須賀京太郎は不思議に思った。そんな須賀京太郎に姉帯豊音がこう言った。
「須賀君、血が……」
流石に察した。するとナグルファルの船員たちは余計に須賀京太郎から目をそらした。血液が恐ろしいのではない。倫理観のない須賀京太郎を恐れていた。
150: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/03(土) 23:58:18.13 ID:tx3yT6Et0
そんな亡霊たちを見て須賀京太郎はこういった。
「何が気に入らない? お前たちを閉じ込めていたのはこいつらだろう? 友達だったか?」
この時の須賀京太郎に冷淡さはなかった。分かりやすくいらだっていた。目的を達成するためには必要な手段だった。少なくともそう考えている。
褒めてほしいわけではない。しかし心がささくれた。普段は違うのだ。普段なら
「自分は納得している。他人が何を思おうと関係ない。離れたいのなら離れて行け」
と割り切れる。しかし感情が増幅されている今は無理だった。自分を制御できていなかった。ポーカーフェイスは完全に失われた。
須賀京太郎の問いかけから少し後地獄に異変が起きた、この時に起きた変化について書いていく。それは須賀京太郎が苛立ってすぐのことである。
質問を投げられた者たちは黙った。また視線を向ける事もない。これは自然なことだった。なぜなら今の須賀京太郎はあまりにも禍々しい。
もともと魔人であるが、具足をそろえたことで一層強まっている。また金色の目の輝きも常軌を逸した狂気を感じさせ恐怖をあおる。
霊的決戦兵器のコックピットの惨状が視界に入っているのだ。須賀京太郎の正気が疑わしかった。正直に
「霊的決戦兵器を瞬殺したうえに同族を食い殺す怪物が目の前にいるから」
などと答えられるわけもなかった。正直に答えたらたちまち殺されるに決まっている。そうなると無言になるだけである。
しかし無言というのはそれだけで答えになる。質問に対して無言で返された須賀京太郎は悲しげな顔をしてナグルファルに背を向けた。
感情が激しく振れている須賀京太郎だが、理性は失っていない。むしろ理性も同じく高まり冷静になるのも早かった。
そして冷静になれば、責めることはない。ナグルファルの船員たちと姉帯豊音の言いたいことはよくわかった。
そうしてナグルファルに須賀京太郎が背を向けた時だった、マントになっているロキが大きな声を出した。
「小僧! シギュンの気配がする!」
すると須賀京太郎の気配が鋭くとがった。五感を研ぎ澄ませて周囲の状況を探った。しかし何も感じ取れなかった。
須賀京太郎がより深く集中しているとロキがこう言った。
「上じゃ小僧! 上を見よ!」
ロキに促されて須賀京太郎は暗黒の空を見上げた。するとそこには巨大な卵を抱いた巨大な老婆のミイラが浮いていた。
この卵と老婆だが比較対象は世界樹がふさわしい。地獄のど真ん中に生える世界樹の隣に立つと普通の人間サイズに見えるほどの大きさであった。
須賀京太郎などアリにしかならない大きさである。暗黒の空に浮かぶ老婆のミイラと卵は徐々に高度を上げていた。そして急に姿を消した。
幻のように消えたのだ。これを見てロキがこう言った。
「一瞬だけじゃが門が開いたな……」
すると須賀京太郎はこういった。
「あぁ、おそらく現世に移動したはずだ。ちらりとだが、夏の大三角形が見えた。
どこに移動したのか特定するのは難しいな。範囲が広すぎる。もう少し夜空の星を見上げておくべきだった」
須賀京太郎の話を聞いてロキが小さく笑った。感情が増幅されている須賀京太郎がやや詩人になっているのがおかしかった。
しかしできるだけ抑えてロキはこう言った。
「現世への帰還が急がれるのう。小僧もそうじゃろう? 相手はかなり練度の高い組織体。帝都どころか日本がどうなっておるのかさっぱりわからん。
急ぎ帰還を果たさねば」
すると須賀京太郎はこういった。
「そうだな。しかしどうやって現世へ帰還する?
支配権がどうの言っていたが……?」
するとロキが笑った。そして
「心配するな、わしに考えがある」
といった。須賀京太郎は軽く微笑んだ。頼りになった。まったく二人は離れるつもりがなかった。
須賀京太郎の目的は姉帯豊音を守ること、ロキの目的はシギュンの解放。この二つの目的は重なり合っている。離れる理由がかけらもなかった。
151: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:00:54.65 ID:btyeGfEZ0
須賀京太郎とロキがこれからの話を始めた時、老婆が話しかけてきた、話しかけてきた老婆と須賀京太郎の会話について書いていく。
それはマントになっているロキが次の行動について提案しようとした時であった。
ナグルファルに背を向けている須賀京太郎に見知らぬ老婆が話しかけてきた。年を取った乾いた声だったが、威厳があった。また少し強い口調だった。
背を向けて先に進もうとする二人を引き留める強さがあった。老婆はこう言っていた。
「よろしいですか、お二人とも?」
声をかけられた須賀京太郎はかなり驚いていた。というのも気配が全くしなかったからだ。
あわてて振り向いてみるとヘルの一歩前に着物を着た老婆が立っていた。若干透けているがほとんど人間にしか見えなかった。
身長が百五十センチほどで髪の毛が真っ白。老舗旅館の女将さんのような雰囲気があった。身長の高いヘルの前に立つ老婆は堂々としていた。
背筋がピシッとしていて、おびえているヘルと並ぶと余計に際立った。この老婆を見て須賀京太郎は一歩引いた。
須賀京太郎をじっと見つめる老婆の目に威圧されていた。染谷まこのようだった。見た目の問題ではない。老婆のまとう雰囲気の問題である。
相性の問題でかなわないと悟った。一歩引いた須賀京太郎だが、受け答えはできていた。こういったのだ。
「なんでしょう」
すると老婆が軽く頭を下げて自己紹介をした。
「ナグルファルのまとめ役の一人に選ばれました、『梅』と申します。よろしくお願いいたします」
自己紹介を受けた須賀京太郎は少しあわてた。動揺が隠しきれていなかった。叱られると思ったからだ。しかしすぐに自分を律して自己紹介で返した。
「須賀京太郎です。よろしくお願いします」
このようにして霊的決戦兵器トールの残骸の近く、ナグルファルの甲板で自己紹介が行われたのだった。妙な感じだった。
自己紹介が終わってすぐ後のこと須賀京太郎の身なりを梅がただした、この時の須賀京太郎と梅について書いていく。
それは須賀京太郎が自己紹介を終えて直ぐのこと。須賀京太郎の顔をじっと見つめていた梅が小さく首を横に振った。若干機嫌が悪くなっていた。
これを見て須賀京太郎は少しおびえた。特に理由はない。須賀京太郎がおびえていると幽霊の老婆・梅がこう言った。
「口元がというより顔が返り血で真っ赤ですよ。すぐに拭いたほうがよろしい。手ぬぐいは?」
老婆の梅に問われると須賀京太郎は首を横に振った。小さく何度も振っていた。すると須賀京太郎の様子を見て幽霊の老婆・梅が手ぬぐいを差し出してきた。
そして梅はこういった。
「これで拭くといいでしょう。それではレディーの前に立てません、男前が台無しです」
そうして差し出された手拭いを須賀京太郎は
「ありがとうございます」
といって受け取った。手ぬぐいを受け取る時の須賀京太郎はただの少年に戻っていた。自分に優しくしてくれる梅が嬉しかった。
また、手拭いを貸した梅だが微笑んでいた。須賀京太郎のポーカーフェイスが消滅しているため、心境が読みやすかった。
そして須賀京太郎は返り血を綺麗にしていった。手ぬぐいが真っ赤に染まっていたが、それはしょうがないことだった。
手ぬぐいで返り血を綺麗にした後須賀京太郎はひどい頭痛に襲われた、この時の須賀京太郎とロキについて書いていく。
それは須賀京太郎が梅の手拭いできれいになった直後ある。真っ赤に染まった手拭いを須賀京太郎が梅に返していた。
血液が大量に染み込んだ手ぬぐいである。ひどいシミになって使えないような気もするが、一応は返していた。
これはだれの目から見ても明らかな惨状だった。洗っても使う気にはなれないだろう。ただ、梅は違った。
手ぬぐいを受け取ると、軽く指を振って血液のシミを飛ばしていた。そして血液のシミがなくなった手拭いを懐にしまっていた。
梅の行動を見て須賀京太郎は目を大きく開いた。見事なマグネタイト操作術だったからだ。須賀京太郎が驚いていると梅が教えてくれた。
152: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:04:04.03 ID:btyeGfEZ0
「私の母はいわゆる『悪魔』だったのです。戦う技術はさっぱりでしたけれど、こういう技術はたくさん教えてくれました。
昔は今よりもずっと不便でしたからね。教えてもらった技術は役に立ちましたよ。日露戦争が終った頃ですからそれはもう助かりました」
梅が教えてくれると須賀京太郎は何度かうなずいた。非常に感心していた。梅のように日常生活に根差して、しかも見事な技術は須賀京太郎の世界を広げた。
「こういう使い方もあるのか、しかも見事な技量。ハギヨシさんたちも相当な技量だが、全く負けていない。
世界は広い。こういう応用もあるのか」
と思うと胸がわく。ただ、この時であった。須賀京太郎の昂ぶりに合わせてひどい頭痛が起きた。痛みを感じた瞬間から、脂汗が止まらない。
かろうじて両足で立っていたけれど強く押されたら簡単に倒れてしまうだろう。須賀京太郎が苦しみ始めるとロキがあわてた。ロキはこういっていた。
「まずいっ! 共鳴がきつすぎる! ヘル! ちょっとこっちへ来い! 小僧を抑えよ!」
この時のロキのあわて方というのはひどかった。大きな声でとげがある。しかししょうがないことだった。
このまま共鳴が高まれば、須賀京太郎が武具に飲まれる可能性があった。それは避けたかった。
激しい頭痛から数分後須賀京太郎の調子が戻ってきた、この時の須賀京太郎の状態について書いていく。
それは須賀京太郎の共鳴が治まってからのことである。須賀京太郎の頭痛は消え去った。脂汗が出てくるほどの痛みだったが、嘘のように引いていた。
これで何の問題もないとなればよかったが、ほんの少し変化が起きていた。頭痛が引いた後須賀京太郎は焦っていた。視線が定まらない。
呼吸も若干乱れている。というのが、頭痛が治まってから狼と蛇の幻影が見えるようになったのだ。
大型犬サイズの狼の幻影と、十メートルクラスの蛇の幻影である。しかしどちらも幻影で間違いない。
なぜならナグルファルの船員たちと幻影がまったくぶつからない。須賀京太郎にもぶつかっていたがまったく何の痛みもなかった。間違いなかった。
しかし幻だとわかると余計に自分の正気を疑いたくなった。頭の痛みを経験してからの幻である。
しかもヨルムンガンドとフェンリルの力を手に入れてからの幻影だ。楽観視するのは難しくただ焦りがわいてきた。
須賀京太郎に異変が起きているとほかの者たちもすぐに察した。ポーカーフェイスなどどこにもないのだ。バレバレだった。
須賀京太郎が焦り始めると姉帯豊音が声をかけてきた、この時に行われた須賀京太郎と姉帯豊音の会話の様子について書いていく。
それは狼の幻影と蛇の幻影が須賀京太郎の足を通り抜けてみたり、ナグルファルを駆けて遊んでいる時のことである。須賀京太郎は深呼吸を繰り返していた。
何度も深呼吸を繰り返して心を落ち着かせようとしていた。しかし深呼吸を繰り返してみたところで幻影は消えなかった。
そうしていると未来を抱いている姉帯豊音が話しかけてきた。須賀京太郎をまっすぐに見つめてしっかりとした口調だった。こう言っていた。
「大丈夫? 顔色が悪いよ?」
話しかけられた須賀京太郎は視線を逸らした。一瞬姉帯豊音と目が合ったが、目を合わせていられなかった。
そして深呼吸をやめてナグルファルの船員たちに背を向け、こういった。
「大丈夫です。ちょっと気分が悪くなっただけです」
このように答えるとナグルファルの甲板に須賀京太郎は座り込んだ。そして白骨の大地をじっとにらんだ。自分の異変を覚らせたくなかった。
すると姉帯豊音がこう言った。
「でも、すごい汗だし……あのね須賀君。ムシュフシュちゃんとヘルちゃんが少しなら回復魔法を使えるらしいから、使ってもらったら?」
誰の目から見ても問題が発生している須賀京太郎である。姉帯豊音は心配していた。しかし甲板に座り込んでいる須賀京太郎はこう言った。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。後、申し訳ないんですけど、ナグルファルの内部で加護を発動させて待機しておいてください。
さっきは楽に倒せましたけど次は警戒してやりにくくなるでしょうから」
まったく姉帯豊音を見もしなかった。というのも姉帯豊音たちは護衛対象であって、戦友ではない。情報の共有は必要なかった。
153: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:06:51.61 ID:btyeGfEZ0
すると姉帯豊音はこういった。
「うん……それなら、未来と一緒に隠れてるよ。邪魔してごめんね」
このように答えた時姉帯豊音は非常に悲しげだった。親しくなった須賀京太郎の心が離れつつあるのを察した。
ナグルファル内部に引っ込もうとする姉帯豊音にムシュフシュがしたがった。肩を落として歩く姉帯豊音に従うムシュフシュも元気がない。
姉帯豊音同様に肩を落として歩いていた。役に立てないことを悲しんでいた。姉帯豊音と一緒である。
そして彼女らが甲板から姿を消そうとした時須賀京太郎がこんなことを言った。
「信用してもらえないでしょうが、任務はやり遂げます。
確かに俺は怪物です。しかし退魔士としての自負心があります。数か月間の修業と先輩の教えが俺に誇りと自覚をくれたんです。
言葉だけで信用してもらえるとは思っていませんが、必ず姉帯さんを帝都に連れ帰り、日常へ送り届けます。
それだけです……ですから、もう少しだけ大人しくしておいてください。帝都に帰還できれば信用できるヤタガラスに引渡し、俺は離れて護衛につきます。
それまで辛抱してください」
須賀京太郎はそれ以上語らなかった。そしてじゃれついてくる狼と蛇の幻影を眺めた。須賀京太郎の言葉を聞いた姉帯豊音は振り返った。
振り返ってみたはいいが口が動かなかった。
「違う、そういう事じゃない。仲間として頼って欲しい」
言いたかったが出てこなかった。須賀京太郎の性格をほとんど把握できている姉帯豊音である。仲間と認めない限り頼ってこないと知っていた。
だから何も言えなかった。そして何も言えない姉帯豊音は亡霊のまとめ役老婆の梅に促されて甲板を後にした。この時の梅は優しかった。
須賀京太郎のようなタイプをよく理解していた。そして姉帯豊音のような子の願いを叶える方法も。
ナグルファルの内部に姉帯豊音たちが引っ込んだ後須賀京太郎とロキが作戦会議をした、この時に行われた作戦会議の様子について書いていく。
それは姉帯豊音と未来、そして番犬ムシュフシュがナグルファルの内部に引っ込んですぐのことだった。微妙な空気を無視して、ロキが話しかけてきた。
ロキはこう言っていた。
「では小僧、地獄を脱出するための計画を伝えよう。まず必要なのは『力』じゃ。これがなければ地獄を突破することは出来ん。
小僧もワシも現世に通じる門を開くほどの力はない。おそらくハチ子の門も同じじゃろう。
そこでじゃ、わしらはヘルの支配権を取り戻さねばならん。今のヘルは支配権を奪われておる状態。
この地獄自体がヘルの力を利用して作られたものじゃから、奪い返せば返すほど我が娘の力は強大となるじゃろう。
この地に眠る亡霊たちがそのまま娘のモノになるわけじゃからな。
そうなれば、現世への門を開くのも容易い」
空気を無視して話すロキの口調には力があった。少しも自分の作戦を疑うところがない。須賀京太郎に気を使ってくれていた。
須賀京太郎と姉帯豊音の間に微妙な空気が流れているのを察して、無理に力を込めたのだ。下手に首を突っ込んでも悪化するだけだと理解していた。
ここはあえて無視して進めることが必要だと知っていた。話しかけられた須賀京太郎はこういった。
「支配権を取り戻すのは了解……だが取り戻すというのは、落下中に見つけた六つの砦を落とすという事か? それとも力を持つ悪魔を始末する方向か?」
少しだけ元気が戻っていた。ロキの優しさを受け取っていた。対等な優しさがうれしかった。
そうして須賀京太郎の気分が変わってきたと見抜くとロキがこう言った。
「一番ええのは両方じゃな。
じゃが、武器を壊すだけでも構わんじゃろう……おそらくな。地獄の支配権は、わしが見たところ王権の象徴として物質化されておる。
そこに転がっておる『トールのハンマー』のように。
欲を言うとな砦もぶっ壊すのがええ。ナグルファルの材料になる。しかし何にしても残りの霊的決戦兵器を始末する必要があるじゃろう。
もしもわしならば一番安全なところに支配権を配置するじゃろうからな。安全な場所というのがあるとすれば、そりゃあもう砦の内部、霊的決戦兵器の近くじゃろ?
作戦は簡単じゃな。わしらはこれから六つの砦に攻め入り王権を奪い返す。抵抗するものは倒す。倒したら現世へ帰還する」
ロキの計画を聞いて須賀京太郎が少しだけ笑った。小さな笑い声だった。しかし楽しそうだった。わかりやすくて好みだった。そして元気を取り戻した須賀京太郎はこういった。
「それなら一番は『トール』からだな。既に霊的決戦兵器は始末している。王権とやらを奪い返せばおわりだ。さっさとやろう」
するとロキが笑った。須賀京太郎が元気になってきたのがうれしかった。
154: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:09:20.94 ID:btyeGfEZ0
計画を決定して数分後須賀京太郎はハンマーをぶっ壊した、この時に起きた変化について書いていく。
それは計画に須賀京太郎がうなずいてすぐのことである。地獄の支配権を奪い返すと決めると須賀京太郎とロキは速やかに動き出した。
ナグルファルの甲板から飛び降りて、小型の霊的決戦兵器の残骸へ須賀京太郎は進んでいった。一番に始末したトールの支配権を奪い返すためである。
巨大なハンマーが奪われた支配権だとロキがいうので、それを獲りに向かったのだ。そうして残骸の近くに落ちていたハンマーの前に須賀京太郎がたった。
目の前に立ってみるとわかるが、ハンマーの大きさが尋常でない。ハンマーの柄の部分だけで須賀京太郎よりも太く高い。ハンマーの頭部もまた大きく太い。
おそらく頭部の重さだけで乗用車を薄くできるだろう。そんなハンマーの前に立った須賀京太郎はこんなことを言った。
「本当に壊せばいいんだよな? これが壊れたらヘルの力もなくなる、みたいなのは勘弁だよ?」
するとロキはこういった。
「壊してくれたらええぞ。これは代理印みてぇなもんじゃからな。失われたらそれで終わりよ」
ロキの答えを聞くと須賀京太郎は右足でハンマーを蹴り上げた。特に気負うことはなかった。思い切りけり上げていた。
打ち上げられた巨大なハンマーはサッカーボールのように空中に飛んでいった。そして空中で塵に変わった。打ち上げられてようやく衝撃が伝わったのだ。
このようにしてハンマーが塵に変わった瞬間だった。地獄が割れた。白骨の大地が六つに割れたのだ。板チョコがパキッと割れるような軽い勢いだった。
そして割れた大地はそれぞれ別方向に向かって浮かび上がっていった。
昔と変わらない位置にあるのは須賀京太郎たちがいる大地と天を貫く世界樹だけである。上昇を始めた五つの大地の断片は、空中で球体に変わった。
卵のような形だった。もともと白骨の大地は無数の残骸で出来上がった物。これが一つにまとまると真っ白な卵そのものだった。
そして砕かれた大地は卵のような形をとると上昇をやめて動かなくなった。こうなると異界はより奇妙である。暗黒の宇宙が上にあり、輝く海が下に広がる。
空と海の狭間に世界樹があり世界樹の周りには五つの卵が浮かぶ。しかも卵は白骨の集合体。世界樹だけが北欧神話の名残である。
この世界を見て地獄だったと理解できるものはいないだろう。
地獄の形が大きく変化した後、須賀京太郎たちに向けて五つの卵が攻撃を仕掛けてきた、この時に行われた攻撃について書いていく。
それは地獄が変化して十秒ほど後のこと。世界樹の周囲に浮遊していた巨大な卵が動き出した。今までは黙って浮遊するだけだったのだ。
しかしそれが急ににぎやかになった。五つの卵のどれもがドンチャン騒ぎを始めている。音楽が鳴り響き、歌声が聞こえてくる。
しかも結構な大音量だった。相当距離があるはずのナグルファルと須賀京太郎にも聞こえていた。
また、目を凝らすとわかるが白骨の卵たちの周りの空間に異変が起きている。景色がゆがんでいるのだ。蜃気楼のようにぼんやりと歪んでいた。
ただ、歪んでいるだけならば問題ないのだ。歪みの中でありえない現象が起きていた。
たとえば火が噴き出ていたり、水が生まれたり、稲妻がとどろいたりしている。これが巨大な白骨の卵の周辺で連続して起こる。一つの卵だけではない。
すべての卵の周りで起きていた。まったく奇妙な卵としか言いようがなかった。しかし攻撃なのは間違いない。なぜなら悪意ある魔力が垂れ流しになっていた。
隠す気が全くなかった。徹底抗戦の構えであった。
それは計画に須賀京太郎がうなずいてすぐのことである。地獄の支配権を奪い返すと決めると須賀京太郎とロキは速やかに動き出した。
ナグルファルの甲板から飛び降りて、小型の霊的決戦兵器の残骸へ須賀京太郎は進んでいった。一番に始末したトールの支配権を奪い返すためである。
巨大なハンマーが奪われた支配権だとロキがいうので、それを獲りに向かったのだ。そうして残骸の近くに落ちていたハンマーの前に須賀京太郎がたった。
目の前に立ってみるとわかるが、ハンマーの大きさが尋常でない。ハンマーの柄の部分だけで須賀京太郎よりも太く高い。ハンマーの頭部もまた大きく太い。
おそらく頭部の重さだけで乗用車を薄くできるだろう。そんなハンマーの前に立った須賀京太郎はこんなことを言った。
「本当に壊せばいいんだよな? これが壊れたらヘルの力もなくなる、みたいなのは勘弁だよ?」
するとロキはこういった。
「壊してくれたらええぞ。これは代理印みてぇなもんじゃからな。失われたらそれで終わりよ」
ロキの答えを聞くと須賀京太郎は右足でハンマーを蹴り上げた。特に気負うことはなかった。思い切りけり上げていた。
打ち上げられた巨大なハンマーはサッカーボールのように空中に飛んでいった。そして空中で塵に変わった。打ち上げられてようやく衝撃が伝わったのだ。
このようにしてハンマーが塵に変わった瞬間だった。地獄が割れた。白骨の大地が六つに割れたのだ。板チョコがパキッと割れるような軽い勢いだった。
そして割れた大地はそれぞれ別方向に向かって浮かび上がっていった。
昔と変わらない位置にあるのは須賀京太郎たちがいる大地と天を貫く世界樹だけである。上昇を始めた五つの大地の断片は、空中で球体に変わった。
卵のような形だった。もともと白骨の大地は無数の残骸で出来上がった物。これが一つにまとまると真っ白な卵そのものだった。
そして砕かれた大地は卵のような形をとると上昇をやめて動かなくなった。こうなると異界はより奇妙である。暗黒の宇宙が上にあり、輝く海が下に広がる。
空と海の狭間に世界樹があり世界樹の周りには五つの卵が浮かぶ。しかも卵は白骨の集合体。世界樹だけが北欧神話の名残である。
この世界を見て地獄だったと理解できるものはいないだろう。
地獄の形が大きく変化した後、須賀京太郎たちに向けて五つの卵が攻撃を仕掛けてきた、この時に行われた攻撃について書いていく。
それは地獄が変化して十秒ほど後のこと。世界樹の周囲に浮遊していた巨大な卵が動き出した。今までは黙って浮遊するだけだったのだ。
しかしそれが急ににぎやかになった。五つの卵のどれもがドンチャン騒ぎを始めている。音楽が鳴り響き、歌声が聞こえてくる。
しかも結構な大音量だった。相当距離があるはずのナグルファルと須賀京太郎にも聞こえていた。
また、目を凝らすとわかるが白骨の卵たちの周りの空間に異変が起きている。景色がゆがんでいるのだ。蜃気楼のようにぼんやりと歪んでいた。
ただ、歪んでいるだけならば問題ないのだ。歪みの中でありえない現象が起きていた。
たとえば火が噴き出ていたり、水が生まれたり、稲妻がとどろいたりしている。これが巨大な白骨の卵の周辺で連続して起こる。一つの卵だけではない。
すべての卵の周りで起きていた。まったく奇妙な卵としか言いようがなかった。しかし攻撃なのは間違いない。なぜなら悪意ある魔力が垂れ流しになっていた。
隠す気が全くなかった。徹底抗戦の構えであった。
155: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:13:32.05 ID:btyeGfEZ0
巨大な五つの卵が攻撃準備を始めてすぐ須賀京太郎とロキが迎撃準備を始めた、この時に須賀京太郎とロキが選んだ迎撃方法について書いていく。
それは大人数での呪文詠唱を巨大な白骨の卵が始めてすぐのことである。ナグルファルの甲板に帰還していた須賀京太郎がヘルたちに命令を出した。
須賀京太郎はかなりあわてていた。こういっていた。
「急いでナグルファルを動かせ! この大地ごと大魔法でぶっ壊すつもりだ!」
須賀京太郎の命令が飛んだが、ナグルファルの船員たちは動けなかった。命令を受けてかなりあわてていた。
それもそのはずで、状況判断が全くできていなかった。地獄の状況ががらりと変化したこと、支配権が戻ってきたこと、須賀京太郎があわてる理由。
問題が多すぎて処理しきれていなかった。乗組員の中で一番素早く情報を処理していたハチ子でさえ、支配権が戻ってきたところまでしか理解できていない。
急に逃げろと言われても困るだけだった。そうして船員たち以上に須賀京太郎が困った。動きが鈍すぎた。そしてすぐに青くなった。
「戦い慣れしていない」
と思い出していた。そして須賀京太郎は下唇をかんだ。船員たちが戦いに向いていないと思い出して須賀京太郎は二択を迫られたのだ。
二択とは、ナグルファルを見捨てて姉帯豊音と未来だけを守るか、それとも期待できない奇跡を起こすか。実質一択である。
しかしこの決断を下すよりも早くロキが妙案をくれた。こう言っていた。
「小僧! 共鳴を高めろ! 心をふるわせろ! わしが撃つ!」
ロキの声は力強かった。ロキの力強い声をきいて須賀京太郎は上を見た。須賀京太郎の視線の先には膨大な魔力をたぎらせる巨大な五つの卵がある。
あと数秒もすれば大地を消滅させるほどの魔法が四方八方から放たれるだろう。大切なものを持って逃げるのが一番のはず。しかし須賀京太郎は目を閉じた。
賭けてみることにした。ロキが何をするのか須賀京太郎にはわからない。しかし全て見捨てて逃げるよりはましな結末と考えた。そして目を閉じて
「守るのだ」
と念じた。すると集中力が高まった。心の中の無駄なものが削がれていった。激しく振れる喜怒哀楽が失せた。しかし力は満ちてくた。
不思議だったが、心がまとまる理由を考えなかった。今はただ、利用できると割り切った。さらに集中力を得るため、より具体的に守りたいものを念じた。
「自分の背にはナグルファルと姉帯豊音と未来の命がかかっている」
すると空腹が忘却の彼方へと消え去った。あらぶっていた感情は完全に統一された。
というのが、精神集中を完了し目を開けた時須賀京太郎の目の色が「赤く」輝いていた。須賀京太郎の出力は過去最大に高まっていた。
須賀京太郎の精神集中が完了して数秒後五つの卵とロキの魔法がぶつかり合った、この時の地獄の状況について書いていく。
それは強烈な責任感をバネにして須賀京太郎が精神集中を完成させた直後である。地獄の空に浮かぶ五つの卵たちが攻撃準備を完了させた。
というのが、五つの卵の周辺に数えきれない半透明な球体が浮いていた。半透明な球体の内部には小さな粒らしきものが高速で移動しているのが見えた。
巨大な卵と比較すると小さな球体にしか見えないが、一つの球体がナグルファルよりも大きかった。
この小さな弾丸の集まり、この魔法の正体とは一切の情報を分解する「メギドラオン」という魔法である。
この魔法に晒されれば肉体を構成する情報は解かれて消える。上級悪魔の中でも力を持つものでなければ使えない魔法であった。
これが数えきれないほど卵の周りに生み出され、ナグルファルを狙っていた。普通なら生きていられない状況。しかしこれに対する者がいた。
ナグルファルの甲板で集中を完成させている須賀京太郎とロキである。そしてぶつかり合いの時が来た。
きっかけは戦場の空気におびえたヘルが息をのむ音だった。もしくはもっとどうでもいいようなものが引き金になった。しかし間違いなく引き金は引かれた。
引き金が引かれると巨大な五つの白骨の卵から至高の弾丸の雨が発射された。これに対してロキが一発の弾丸で応えた。
撃ち出す前にロキはこういっていた。
「『ラグナロク』」
雨あられのように降り注いでくる弾丸に対するロキの弾丸は一発。どう考えても勝てるわけがない。
しかし、雨あられのように降り注ぐ弾丸は一発たりともナグルファルに着弾しなかった。ロキの生み出した魔法がナグルファルを球状に包み込んだのだ。
薄い火の膜のように見えるロキの魔法だが、一発たりとも弾丸を通さない。むしろ薄い火の膜に触れた弾丸がダメになっていた。
火の膜に触れたその場で焼き滅ぼされていた。しかし、ナグルファルが着地している大地はダメになった。
雨あられのように降り注いだ弾丸が大地を食い荒らし消し飛ばした。守れたのはナグルファルだけだった。また、ゆっくりもできなかった。
すぐに移動する必要があった。数発は「ラグナロク」で焼き滅ぼしたが生きている弾丸が多すぎた。
しかもあと十秒ほどで「ラグナロク」はエネルギー不足で消えるだろう。須賀京太郎とロキのマグネタイト容量の問題である。できるだけ素早く次の動きに入る必要があった。
156: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:16:39.92 ID:btyeGfEZ0
須賀京太郎とロキが追い込まれた時ナグルファルが動き出した、この時に操縦を担っていた者について書いていく。
それは至高の弾丸と弱い火の膜がぶつかり会っているさなかである。須賀京太郎たちはほぼ詰んでいた。
というのが須賀京太郎とロキは弱弱しい「ラグナロク」を発動させるので精一杯である。
須賀京太郎は極限の集中状態にあり、ロキは呪文の詠唱を止められない。確かに「ラグナロク」の威力はすさまじい。
メギドラオンの弾丸を滅ぼすほどである。ただ、相手も馬鹿ではない。大量の弾丸がエネルギー切れを待ち始めた。勝負を急ぐ必要がない。
地獄のマグネタイトはいまだ彼らのモノなのだ。ゆっくりと追い詰めていけばそれで終わる。すぐにナグルファルが動き出せるのならば良い。
しかし残念なことに動けない。ナグルファルを創ったヘル、側近のハチ子たちは状況を理解するので精一杯で、どう動けばいいのかがわからない。
これがゆっくりと話し合える状況ならば良い。時間の許す限り話し合えば良い。しかし須賀京太郎たちがいる戦場は数秒の読み間違えで即死の場。
須賀京太郎が命令を出せるのならばいいが、集中状態を維持するので精一杯、ロキもまた同じ。ほとんど詰んでいた。
マントになっているロキもこの状況になると予想していた。しかし自分の娘ヘルが機転をきかすと期待していた。
しかし戦い慣れしていないのと須賀京太郎とロキへの信頼感からヘルの判断力は鈍っていた。だが、この場にあって冷静に状況を把握できていたものがいた。
姉帯豊音である。須賀京太郎たちが集中状態になって迎撃を始めた時にはすでに、ナグルファルの操縦桿へ走っていた。
「まっしゅろしゅろすけ」
を変形させて未来を背負い駆ける姿は凛々しかった。須賀京太郎とロキが魔法を発動させて二秒後のことである。姉帯豊音が操縦かんを握って叫んだ。
「ナグルファル! 全速全身! 目標、骨の卵!」
叫ぶ姉帯豊音の声に普段の優しさはない。命令を部下に打ち込む力強い意志があった。この姉帯豊音の命令にナグルファルがしたがった。
力強い声、迷いのない目標が亡霊たちの尻を叩いた。そうして最後まで残っていた白骨の大地からナグルファルは飛び立った。
運転はこれ以上ないほど荒々しかった。
ナグルファルが飛び立って数秒後ナグルファルの船員たちが呆けていた、この時のナグルファルの船員たちと姉帯豊音の様子について書いていく。
それはナグルファルが動き出してすぐのこと。須賀京太郎とロキの「ラグナロク」の守りが徐々に薄く弱くなっていった。
集中している須賀京太郎の顔色も同時に悪くなっている。それもそのはずで、須賀京太郎の消費してもいいエネルギー量を越えている。
肉体を構成するエネルギーさえも魔法に回していた。やりすぎれば死ぬだろう。ただそれでも魔法を維持していられるのは責任感からである。
ここで発動を止めれば即座にナグルファルはハチの巣になる。何としても守り抜くと心に決めて集中を行った須賀京太郎である。退路はなかった。
たとえ滅び去ったとしても維持し続ける決意があった。そしてこの決意に報いるものがいた。姉帯豊音である。
ナグルファルの操縦桿を握った姉帯豊音は浮遊する卵の一つに舵を取った。何の迷いもなかった。そして当たり前のように加速を始めた。
全く止まる気配がない。何を狙っているのか誰にでもわかった。ナグルファルを使っての体当たりだ。狙われた卵は逃げようとした。
「ラグナロク」の守りがあるナグルファルである。ただの体当たりではない。逃げなくてはならなかった。しかしナグルファルの方が素早かった。
船として創られた分だけ素早かったのだ。そして浮遊する卵の一つにナグルファルが衝突した。そしてそのまま卵のど真ん中へ侵攻していった。
卵の殻である白骨たちは少しもナグルファルを止められなかった。「ラグナロク」の威力とナグルファルの勢いのためである。
こうして特攻を決めた姉帯豊音は操縦桿を握りしめたまま、膝をついた。そしてうつむいた。非常に息が荒かった。震えていた。
自分の賭けが成功してほっとして力が抜けたのだ。そしてそんな姉帯豊音を見てナグルファルの船員たちがかたまっていた。
目を大きく見開いて全く動けない。未来をあやしてほほ笑んでいる姉帯豊音しか知らなかったからだ。
157: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:19:02.58 ID:btyeGfEZ0
巨大な卵の中枢にナグルファルが侵攻して数秒後須賀京太郎とロキが魔法を止めた、この時の須賀京太郎とロキの状態について書いていく。
それは姉帯豊音の操縦によってナグルファルが巨大な卵の中枢に侵入して三秒後のことである。
ナグルファルを包み込んでいた「ラグナロク」の火の膜が失われた。
これはナグルファルが中枢部に突入したのを察したロキが、これ以上必要ないと判断した結果である。
しかしこの判断がなかったとしても須賀京太郎とロキは魔法を維持できなかった。須賀京太郎とロキを見ていればわかる。
マガツヒの循環がなくなっているのだ。今の須賀京太郎とロキはからからに乾いて死に掛けだった。ナグルファルを窮地から救うために無理をし過ぎた。
しかし必要な対価だった。そして魔法の維持をやめた須賀京太郎は膝をついて動けなくなった。上半身は起き上がっている。
しかし須賀京太郎の頑張りではない。ヨルムンガンドの鎧が須賀京太郎の背骨を支えているのだ。須賀京太郎を呼吸させるためである。
須賀京太郎が動けなくなってすぐ姉帯豊音が助けに向かった、この時の姉帯豊音について書いていく。それは須賀京太郎が膝をついてすぐだった。
操縦かんを握っていた姉帯豊音が顔を上げた。とんでもない賭けに勝利した興奮と恐怖の中にあった姉帯豊音だったが感覚は冴えていた。
ナグルファルの甲板から聞こえてきた金属の擦れる音と、骨のきしむ音から何が起きているのか予想できていた。
そして顔を上げた姉帯豊音は操縦桿を支えにして立ち上がった。立ち上がった姉帯豊音は動けなくなっている須賀京太郎を見つた。
見つけるとすぐに、駆け寄っていった。無理やりな侵入を行ったせいでナグルファルが若干傾いていたが、姉帯豊音は無事に走り切れていた。
そして走り切ってたどり着いた姉帯豊音は須賀京太郎の肩をつかんだ。そしてこういった。
「私のマグネタイトを須賀君に分ける。
私だって幹部の娘。大幹部の血脈は伊達じゃない。
それと、ちょっと見た目が怖いからって嫌いになるなんて思わないで」
須賀京太郎の肩に触れている姉帯豊音の手からエネルギーが注ぎ込まれていた。流石に大幹部の血脈、簡単に須賀京太郎のエネルギーを補充して見せた。
補充が完了すると須賀京太郎から手を離した。須賀京太郎ひとり分のエネルギーを分けたというのに姉帯豊音はびくともしていなかった。
エネルギーの補充を受けた須賀京太郎は黙っていた。うつむいて何も言わなかった。強烈な喜びのためだ。自分の味方でいてくれることがうれしかった。
姉帯豊音が補充し終わってすぐ須賀京太郎の姿が一瞬ぶれた、この時に須賀京太郎が行った戦闘行為について書いていく。
それはほんの一瞬の出来事である。須賀京太郎が感動でうつむいている時のこと。
ナグルファルの真上約百五十メートルのところに小型の霊的決戦兵器が白骨に紛れて隠れていた。
隠れている霊的決戦兵器はトールよりも小さく全長八メートル。巨大なサイボーグという印象はトールと変わらない。
これは基本骨格と設計思想が同じためである。しかし目に特徴があった。両目がうっすらと光を放っていた。ただ、須賀京太郎のような輝きではない。
サーチライトのような光具合だった。この白骨に紛れる霊的決戦兵器はライフルのような武器を構えていた。照準は既に須賀京太郎をとらえている。
すでに引き金に指がかかっている。後は引くだけだった。しかし出来なかった。須賀京太郎の姿が照準から消えたからだ。
一番の標的がいなくなると隠れている霊的決戦兵器はあわてた。すぐに探そうとした。しかし無意味だった。
探そうとした瞬間にパイロットの命が刈り取られ、武器のライフルが砕け散ったからだ。須賀京太郎の仕業である。
ナグルファルの甲板から霊的決戦兵器の殺意を察した須賀京太郎が飛び上がり、コックピットを殴りぬけた。
そしてパイロットを打ち抜いた勢いのまま、武器の破壊に赴いた。そして問題なく完了したのだ。これが瞬きの間に行われた。
姉帯豊音が与えてくれたエネルギーと感動のおかげである。
158: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:21:55.09 ID:btyeGfEZ0
巨大なスナイパーを始末した後須賀京太郎と姉帯豊音が会話をした、この時の二人の会話について書いていく。
それは白骨の中に潜んでいた敵を倒してすぐのことである。ナグルファルの甲板に須賀京太郎が戻ってきた。
甲板に戻ってきた須賀京太郎は二本の脚でしっかりと立っていた。また、姉帯豊音をしっかりと見ていられた。
しかし須賀京太郎は非常に恥ずかしそうだった。気を使わせたのが恥ずかしかった。そうしていると「金色の目」の禍々しさも和らいだ。
そうして須賀京太郎に見つめられている姉帯豊音だが、ほほ笑んでいた。まっすぐに自分を見つめる須賀京太郎が戻ってきたからだ。
そして戻ってきた須賀京太郎に姉帯豊音はこんなことを言った。
「あんまり『姉帯』の娘を舐めないで。いざとなれば私だって役目を果たすよ。
全部を一人でやる必要はないんだよ。分担できるところは分担しよう?」
すると恥ずかしそうにしていた須賀京太郎が申し訳なさそうな顔をした。自分の失敗を自覚していた。
自分の失敗を認めるのは難しかったが、受け入れていた。もっと頼ればよかったと思った。そして須賀京太郎はこう返した。
「はい。すみませんでした」
しょんぼりとする須賀京太郎である。年相応に見えた。またあまりにもわかりやすいしょんぼり具合のため、ナグルファルの船員たちは驚いた。
そんなしょんぼりしている須賀京太郎に姉帯豊音がこう言った。
「いいよ。私も強く言わなかったし……でも、次からは私に……私たちに頼ってね。『まっしゅろしゅろすけ』は須賀君を好いている。
しっかり守ってくれるはずだよ。
ナグルファルだってしっかり指示してあげれば動いてくれるよ。みんな初めて戦うみたいだからおびえているだけ」
このように姉帯豊音が語ると須賀京太郎は黙って何度もうなずいた。この時の須賀京太郎は嬉しそうだった。
前向きに一緒に戦ってもらえるのがうれしかった。それがたとえ上っ面だけのモノでもよかった。
「嫌われる要素しか自分にはない」
強大な暴力に強烈な思想。修羅場を切り抜けるためなら同族を喰らうことも良しとする怪物。仲良くしたい相手ではない。
わかっているからこそ一緒に戦うと言ってくれるのがうれしかった。
巨大な卵の中に突入してから十分後ロキがヘルに命令を出した、この時のロキの命令とヘルの対応について書いていく。
それは須賀京太郎に姉帯豊音が一緒に戦うと伝えてからのことである。マントになっているロキが咳ばらいをした。ゴホンゴホンと非常にわざとらしかった。
そうして咳ばらいをしたロキは威厳たっぷりにこう言った。
「さて、小僧とお嬢ちゃんが落ち着いたところで、わしらの仕事をやらんとな。
我が娘ヘルよ! 小僧によって二つ目の封印が破壊された。『ヘルヘイム』の能力も強化されナグルファルはさらなる段階へ進められるはずじゃ!
これからの激戦に備えナグルファルを強化せぇ!」
マントになっているロキが命令するとヘルがビクついた。表情は無表情のままだが、かなりおびえていた。当然で、自分たちが失敗したと理解していた。
自分たちというのはナグファルの船員たちという意味である。絶対に叱られると思っていた。ただ、それがなかったのでほっとした。
そんなヘルだが命令を受けると動いた。心をすっと切り替えてナグルファル強化に向けて動き出した。失敗したと思っている事もあり、
「次こそは」
という気持ちになっていた。そうしてやる気を見せたヘルは両手を天に向けた。そしてこういった。
「私の奪われた子供たち、かわいい私の子供たちよ。
今こそ再会の時! 屈辱の時は過ぎ去った!
我が王のもとに集い、ナグルファルとなり、最終戦争の場へ赴くのだ!」
159: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:24:46.90 ID:btyeGfEZ0
すると白骨の卵全体が震え始めた。特にナグルファルのいる中枢部分の揺れがひどい。ぐらぐらと揺れた。揺れ始めると姉帯豊音は立っていられなくなった。
しかしすぐに須賀京太郎が支えたので問題はなかった。このように白骨の卵が震え始めるとマントになっているロキが大きな声を出した。
「小僧! ヘルが強化を完了するまでナグルファルを死守するぞ! わしらが支配権を奪い返していると奴らも気づいておるはずじゃ!
六つのうち二つ奪い返した今、奴らも必死になるぞ!」
マントになっているロキはそれはもう大きな声を出していた。怒っているわけではない。周囲がものすごくうるさいのだ。
ぐらぐらと揺れる白骨の卵自体がまずうるさい。骨と骨がぶつかり合って四方八方マラカス状態である。
そしてナグルファル自体も建築現場のような音が鳴り響いている。復活してくる亡霊たちの歓喜の叫びも相まって自分の声も聞こえない。
そんな状態なものだから、マントになっているロキはかなり大きな声を出していた。
五つあった白骨の卵の一つがヘルの支配下に置かれて数秒後地獄の勢力が対応を始めた、この時に行われた管理者たちの対応について書いていく。
それはナグルファルが警戒を強めている時であった。暗黒の空に浮かぶ四つの白骨の卵が動き出した。
須賀京太郎たちに奪われた卵から距離を取ろうとしていた。空を飛ぶシャボン玉のようにふわふわとした移動だったが、それなりに素早かった。
そしてそこそこに距離をとると四つのうち一つが動きを止めた。ぴたりと動きを止めて動かなくなった。
残りの三つはそのままふわふわと飛んでゆき、世界樹の影に隠れてしまった。直径五百メートルの卵であるが、世界樹の太さなら何の問題もなく隠れられた。
三つの卵が隠れると、隠れなかった一つが姿を変え始めた。巨大な卵から、鳥への変化であった。もともと巨大な卵は白骨の集合体である。
卵の形をしていただけで鳥の形に変わるくらい何のこともなかった。そうして生まれた白骨の鳥は、巨大な鷲(ワシ)の姿を取っていた。
卵から鳥への変化を遂げると、大きく鳴いてみせた。そして両方の翼を広げて悠々と暗黒の空を飛んだ。卵のころとは全く違い高い機動性があった。
そして鋭いくちばし、恐ろしいかぎづめを備えているのは非常に恐ろしい。全長八百メートルほどである。ただの怪物だった。
そうして生まれた鳥の怪物は速やかに須賀京太郎たちの下へ急いだ。この時、鳥の怪物の身体に薄い皮膜が張られていた。氷のような透明な皮膜であった。
ナグルファルが行ったのと同じ戦法をとったのだ。異界を体にまとわせて特攻を決める。須賀京太郎たちも必死だったが、彼らもまた必死だった。
巨大な鳥が卵から生まれた直後ナグルファルの甲板にいる須賀京太郎に幻影が話しかけてきた、この時に話しかけてきた幻影と須賀京太郎が見たものについて書いていく。
それは巨大な鳥が暗黒の空を滑空し始めた時のことである。須賀京太郎の視界に幻影たちが現れていた。
狼と蛇は当然であるが、これに牛の幻影がくっついていた。狼と蛇もかなり大きいのだが、牛はその一回りほど大きい。
バッファローのような見た目でサイの重量感があった。ただ幻影なのは間違いない。なぜなら牛の幻影にすり寄られている姉帯豊音が少しも視線を向けない。
この幻影たちを見て須賀京太郎は少しだけ驚いた。しかしそれほど困らなかった。自分のバトルスーツに憑依している悪魔たちの情報と予想がついたからだ。
ただ、牛の幻影が見え始めてすぐのこと。須賀京太郎は驚いた。三体の幻影たちが同じ方向を見て、同じことを言ったからだ。こう言っていた。
「敵が来るぞ、我が主。我らの宝を奪うために敵がやってくる。
我が主よ、我らの牙と爪をもって敵を引き裂き屠り喰らえ」
このように幻影が語ると白骨で創られた巨大な鳥のビジョンが須賀京太郎の脳裏に浮かんできた。見えないはずの位置にある敵の姿がはっきりとイメージできた。
流石に須賀京太郎も驚いた。幻影は幻影でしかない。そう思っていたからである。この時須賀京太郎はほんの少しだけ恐怖を感じた。
自分にとりつく具足たちが自分の知らない力を持っている。しかも自分に干渉する能力がある。これは恐ろしかった。支配されるような気がした。
しかし恐怖は抑え込まれた。そんなものよりも遥か彼方から襲い掛かってくる巨大な鳥の方が問題だったからだ。
160: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:28:03.27 ID:btyeGfEZ0
巨大な鳥のビジョンを見てすぐに須賀京太郎が対応した、この時に行われた巨大な鳥と須賀京太郎のやり取りについて書いていく。
それは須賀京太郎の脳裏に奇妙なビジョンが浮かんですぐのことである。須賀京太郎は大きな声でこう言った。
「姉帯さん! 敵襲!」
姉帯豊音が反応するのとほぼ同時に、巨大な鳥が攻撃を仕掛けてきた。しかし派手ではない。
猛烈な勢いでヘルが支配する白骨の卵に接近して、すれ違っただけである。だが被害は甚大だった。
というのがすれ違った瞬間にヘルの支配する卵が斜めに切れたのだ。翼が触れたわけでも爪で切り裂かれたわけでもない。
しかし間違いなく切り裂かれ、強化中だったナグルファルに被害が出ていた。だが、人的な被害はゼロである。
敵の攻撃が来ると察していた須賀京太郎によって攻撃の軌道がずらされていた。しかし須賀京太郎に若干のダメージが出ていた。
須賀京太郎の両腕の籠手が切り裂かれて、バトルスーツの下まで届いていた。
突然の攻撃にナグルファルの船員たちはもちろん姉帯豊音も何をされたのかさっぱり理解していなかった。
乗組員たちのほとんどは不安そうな顔をして須賀京太郎の方を見つめていた。一方で攻撃方法を理解できる須賀京太郎は非常に苦い顔をしていた。
攻撃を防いでみたものの思った以上に攻略しにくい戦法をとっていたからである。須賀京太郎は小さくつぶやいていた。
「距離を保って延々刃で攻撃を仕掛けるつもりか……」
この呟きの間に巨大な鳥が攻撃準備に入った。暗黒の空で宙返りをして余裕のアクロバットを決め、白骨の卵のど真ん中を切り裂く軌道を描いた。
超巨大な鳥の怪物が暗黒の空で宙返りを決めると非常に絵になる。優雅だった。巨大な鳥自身、自分の力に酔っていた。
それもそのはず、身にまとう刃の異界を体感してしまった。距離を取って安全に切り裂けるのだ。すれ違うだけで敵を切り裂けるのなら最高である。
しかも身体の大きさという有利と音速で移動できる有利を完璧に利用できる。無敵だった。
ただ、この余裕ぶった宙返りも須賀京太郎の幻影たちには見え見えだった。
巨大な鳥が余裕を見せた二秒後のこと須賀京太郎が攻撃を仕掛けた、この時に起きた須賀京太郎と巨大な鳥の格闘戦について書いていく。
それは二度目の攻撃を巨大な鳥が仕掛けようとした時のことである。ナグルファルの甲板で血を流している須賀京太郎が、深呼吸を行った。
大きく息を吐いて、大きく息を吸う。一回だけだった。しかし十分だった。「守る」と念じたのだ。
須賀京太郎の乱れた精神が一気に統一され、敵対者の絶命だけに全てが集中した。
須賀京太郎の精神集中が完成した時ナグルファルの真上から刃の異界が侵攻を始めた。そうして白骨の卵の頂点に刃が入ったその時である。
ナグルファルの甲板を踏み抜いて、須賀京太郎が跳躍を行った。すさまじい勢いで飛び出した須賀京太郎はあっさりと卵の殻をぶち抜いた。
そして卵の殻をぶち抜いたその勢いのまま、卵の殻を足場にして巨大な鳥に向かって二度目の跳躍を果たした。
この時足場にした卵の殻が、粉々に砕けて散っていた。須賀京太郎に飛び掛かられた巨大な鳥は目を大きく見開いていた。
ばれていないと思っていた。白骨の卵の殻が視界をふさいで邪魔をしているのだ。
「未熟者に察知されるわけがない」
とうぬぼれていた。ただ、反省したところでもう遅い。巨大な鳥の首根っこに須賀京太郎がしがみついてしまった。
当然巨大な鳥は振り落とそうともがいたが、なかなか難しかった。巨大な鳥は全長五百メートルの怪物である。しかも白骨で創られた鳥である。
つかむ場所は非常に多い。また音速の世界を自在に動き回る須賀京太郎がとりついているのだ。簡単に振り落とせるわけもなかった。
そうして巨大な鳥は必死になった。何とかしようと暗黒の空を乱舞した。死の化身を振り落とすためである。
中途半端に切った卵はどうでもいい。死にたくなかった。
161: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:31:22.39 ID:btyeGfEZ0
須賀京太郎と格闘戦を始めて十秒後巨大な鳥は世界樹に突進した、この時の巨大な鳥の状態と考えについて書いていく。
それは幻影たちの助力によって須賀京太郎が巨大な鳥に飛びついてすぐのこと。
マントになっているロキが魔法「ラグナロク」を発動させて須賀京太郎を火の膜で包み込んだ。巨大な鳥にしっかりと組みついている須賀京太郎である。
さっさと滅ぼす算段だった。一方で組みつかれている巨大な鳥は悲惨だった。
須賀京太郎が触れている部分から火がついて、あっという間に全身に火が侵食していった。巨大な鳥は何とか逃げようとした。
例えば宙返りをしてみたり、自分の体を分離して火から逃れようとした。しかしどれもうまくいかなかった。須賀京太郎の判断力と腕力が邪魔をした。
宙返りをしてみても腕力で押し込まれ、須賀京太郎ごと白骨を分離してみても、あっという間に飛び移られてしまった。
距離をとってじわじわと切り殺せるのが巨大な鳥の有利な点だった。須賀京太郎も当然理解している。離れる気はなかった。
そんな空中戦を行って数秒後である。いよいよ巨大な鳥の肉体がぼろぼろになった。
分離してみたり宙返りをしてみたりと小技を仕掛けていたのだが、須賀京太郎とロキには通じなかった。しかし巨大な鳥もあきらめなかった。
須賀京太郎を始末するために特攻を決意した。世界樹への特攻である。そして覚悟を決めた巨大な鳥は躊躇わず世界樹に突撃していった。
幹の太さが直径十キロメートル、宇宙に届くほどの高さがある世界樹である。その硬さは白骨とは比べ物にならない。突撃して砕けるのは巨大な鳥だろう。
しかしそれがよかった。衝撃で白骨で創った巨大な鳥は崩れ落ちる。コアになっている霊的決戦兵器がむき出しになる。
しかしそうなれば須賀京太郎は足場を失い不安定になる。須賀京太郎が空中戦を行えないのは既に見ぬいている。
小型の霊的決戦兵器で距離を取ったまま戦えば勝利の可能性が残っていた。そこに巨大な鳥は賭けたのだ。
そして須賀京太郎にくみつかれたまま巨大な鳥は世界樹にぶつかった。白骨で創られた巨大な鳥は世界樹を軽く揺らした。しかしそれだけだった。
突撃した衝撃で巨大な鳥は骨に還り、コアになっている霊的決戦兵器が露出した。同時に須賀京太郎は暗黒の空に放り出され、手も足も出なくなった。
巨大な鳥が崩壊してすぐ霊的決戦兵器が攻撃を仕掛けてきた、この時の須賀京太郎の状態と霊的決戦兵器について書いていく。
それは世界樹に特攻を決め巨大な鳥が崩壊してすぐのことである。巨大な鳥を操っていた小型の霊的決戦兵器が姿を現した。
小型の霊的決戦兵器は全長九メートルと少し。ほかの二体と同じく骨格は同じものを使っていた。
しかしほかの二体と違って若干美術品よりの装甲で身を固めていた。ヘルから奪い取った支配権は剣の形になって霊的決戦兵器の手にあった。
須賀京太郎と同じく暗黒の空に放り出された形なのだが、特にあわてる様子がない。翼などないが、問題ない。
自分のマグネタイトを操作して、暗黒の空を飛んだ。そもそも巨大な鳥を操作していたのは霊的決戦兵器である。
翼などなくともエネルギーを支配してうまく操作すればいいだけのことだった。一方で暗黒の空に放り出された須賀京太郎は非常にあせっていた。
というのもまったく自分を制御する技術がない。確かに音速の世界を自在に動ける筋力がある。耐久力もスタミナもある。
しかしマグネタイト操作はお粗末なのだ。エネルギーを操って空を飛ぶことは不可能な領域で、足場ひとつ作ることさえできない未熟者だ。
そもそも葛葉流の刃さえ創れずに頭を抱える下手くそである。足場のない空中に放り出されてしまうと、着地するまで無防備である。
巨大な鳥の中から現れた霊的決戦兵器の狙いなどすぐに見抜ける須賀京太郎だ。焦るばかりであった。
そして焦っている須賀京太郎に対して遠距離攻撃が仕掛けられた。
二人の距離は二百メートルほど、充分に距離を保った状態で霊的決戦兵器が剣を何度も振った。すると須賀京太郎の体に傷がついた。
普通なら届かない距離である。しかし白骨の卵を切り裂いた刃の異界がある。これで遠くから切り刻んで終わらせるつもりだった
162: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:35:15.94 ID:btyeGfEZ0
霊的決戦兵器の攻撃を受けた後須賀京太郎は反撃を行った、この時に行った反撃について書いていく。それは空中に投げ出されて三秒後のことである。
須賀京太郎は反撃の準備を始めた。準備といっても派手なことはなかった。一番にしたことが防御だった。体をダンゴムシのように丸めて攻撃に耐えた。
そして防御の姿勢をとってすぐに、精神集中を始めた。それ以外にすることがなかったのだ。少なくとも空中にあって須賀京太郎は手も足も出ない。
これはどうしようもない。しかし諦める必要もない。なぜなら遠距離攻撃も使えるのだ。というのが須賀京太郎、雷の異能力がある。
稲妻の魔法「ジオダイン」である。これを使えば手が届かない所にも手が届く。
「格闘に持ち込めないのならしょうがない。近寄ってこないのならしょうがない」
と覚悟を決めて、反撃の準備を始めた。外側にマグネタイトを送り出すのが下手くそな須賀京太郎である。
しかし閉じ込めて激しく加速させるのは得意だった。そしてダンゴムシのような姿勢のまま、二十と少し斬撃を喰らった。肉体は間違いなく損傷していた。
バトルスーツも武具たちもボロボロになっていく。しかし気にしなかった。血が噴き出し、体がぬれる。しかし気にしなかった。
そんなことよりも目の前の敵を殺すことが重要だった。そして集中が完成した時、須賀京太郎は防御の姿勢を解いた。
そして爛々と輝く赤色の目で剣を持つ霊的決戦兵器を見つめた。須賀京太郎の視線の先にある霊的決戦兵器は剣を振りかぶっている最中だった。
それを見て須賀京太郎は迷わずに呪文を唱えた。
「ジオダイン!」
須賀京太郎の内側で超加速していた魔力が一気に外へ放たれ稲妻となって敵を襲った。この時須賀京太郎は少しだけ驚いた。
稲妻の中にバッファローのような牡牛の姿があったからだ。ただ、詳しく見る暇はなかった。稲妻の流れに乗って霊的決戦兵器に突撃していったからだ。
反撃から数秒後須賀京太郎は暗黒の空を落下し続けていた、この時の須賀京太郎の状況について書いていく。
それは霊的決戦兵器に稲妻を打ち込んですぐのことである。須賀京太郎は暗黒の空を落ち続けていた。まったく重力に抵抗せず落ちていくばかりである。
全身全霊を込めたことでエネルギーが底をついていた。しかし攻撃は受けていない。須賀京太郎の放った稲妻の魔法によって霊的決戦兵器が先に落ちたのだ。
須賀京太郎の出力が上がっていることも原因の一つではある。しかしそれ以上に稲妻と一緒に現れた牡牛が強かった。
稲妻と一緒に現れた牡牛が突撃を決めてあっさりと片付けてしまった。
その勢いはすさまじく霊的決戦兵器は原形をとどめないほどバラバラにされていた。
しっかりと剣をかみ砕いていた牡牛だったが、妙に可愛らしく印象的だった。ただ、霊的決戦兵器を滅ぼすとすぐに消えてしまった。
しかし何にしても霊的決戦兵器は滅びた。そうして落下するだけになった。落下するだけになってみると須賀京太郎は逆に落ち着いた。
やれることが全くないので落下しながら周囲の状況を確かめていた。
「何かの役に立つのではないか」
という発想である。
落下中に須賀京太郎は奇妙なものを見つけた、この時見つけたものについて書いていく。それはエネルギーの海に落ちている時のことである。
須賀京太郎は奇妙なものを見つけた。それは世界樹の影に隠れている三つの巨大な卵の姿である。
この三つの卵だが実に奇妙だった。というのが三つの卵は融合しつつあった。三つの卵が寄り添って、巨大な白骨の塊が生まれようとしているのだ。
巨大な鳥を始末した後の須賀京太郎は嫌な予感しかしなかった。嫌な予感がしていても何もできなかった。しかし希望はあった。
エネルギーの海まであと五メートルだったからだ。エネルギーの海で腹ごしらえをしてから残りを潰す計画を立てたのだった。
163: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:38:26.27 ID:btyeGfEZ0
エネルギーの海に落下して十秒後暗黒の空で三つの卵が完全に一つになっていた、この時に生まれた巨大な卵について書いていく。
それは膨大なエネルギーの海に須賀京太郎が落下して、ロキの助けを借りながらマグネタイトを補充している時のことである。
世界樹の影に隠れていた三つの卵が完全に一つになっていた。
もともと材料が白骨であることと、地獄を守るという目的があるため全く問題なく一つになっていた。
三つが一つになったが、特に見た目の変化はない。大きくなっているだけである。世界樹と比べてみるとダチョウの卵サイズというところ。
今までがニワトリの卵といったところであるから、かなり大きくなっていた。このダチョウの卵も当たり前のように空に浮かんでいた。
暗黒の空にダチョウの卵が浮いているのはファンシーである。
しかし内包しているエネルギーの量と卵の材料が放つ怨念によって非常に気持ちが悪い卵になっていた。無念のうめき声が地獄に響くのだ。
天と海とでは一キロメートルほど離れているのに須賀京太郎にも届くうめき声である。いよいよ地獄らしくなっていた。
このようになってしまったのは、共鳴が起きているからだ。
須賀京太郎と武具たちが共通する感情を持ち合うことで力を生み出しているように、それと同じことが卵に起きていた。
一つ一つの卵だけだとそれほど大した共鳴は起きないのだ。何せ力を搾り取られた残骸たちである。小さすぎて震えない。
しかし三つが一つになると弱弱しい無念の感情も共鳴を起こしてしまう。
そうなって材料どもが反旗を翻してくれるのなら助かるが、残念なことにエネルギーに善悪はない。見る見るうちに巨大な卵の圧力が高まった。
そうなってついに、臨界に達した。そして臨界ののち暗黒の空が赤く染まった。太陽が生まれた。
暗黒の空が赤く染まった後地獄に巨人たちが現れた、この時の地獄の状況と巨人たちについて書いていく。
それは残骸たちの無念が共鳴し合い、巨大な卵を満たした後のことである。暗黒の空に太陽が生まれていた。しかし本物の太陽ではない。
白骨の卵が輝いているだけである。しかし本物の太陽とそれほど違いはない。強く輝いて広大な暗黒を照らしていた。
今まで世界樹から漏れ出すマグネタイトの光とエネルギーの海の輝き以外に光源がなかった地獄である。随分雰囲気が変わった。
ただ、空に輝く太陽は邪悪である。無念の叫びも同時に届けてくれるからだ。この邪悪な太陽が世界を照らしたあと、エネルギーの海が震え始めた。
おかしなことだった。エネルギーの海にいる須賀京太郎もすぐに異変を察知していたが、何もできなかった。無理もない。
なぜならエネルギーの海自体が形を変え始めたからだ。この時に起きたエネルギーの海の変化は劇的だった。太陽の光に照らされて輝く海が白く染まった。
綺麗な白色ではない。濁った白い海である。しかしすぐに黒に反転した。墨のような色だった。
そして黒の海が出来上がるとそこに白骨の太陽から赤いしずくが落とされた。赤いしずくが注ぎ込まれると、黒の海が固定された。
赤いしずくを基点にして、波紋が広がり黒い海は大地に変わった。そして生まれた黒の大地からは瘴気が発生した。瘴気は空に昇り雲になった。
夏の積乱雲のようだった。そうして生まれた瘴気たちも固定された。固定されると怪物の姿を取り始めた。怪物たちはみな巨大だった。
世界樹が普通の大木に見えた。また皆奇形だった。頭が大量にある者、腕がたくさん生えている者、獣の形をしたもの。神と混じった形のもの。
共通点は巨大であるということと、理性がないこと、そして目が死んでいることである。これが黒の大地を埋め尽くしていた。
広大な地獄の大地の下にあったエネルギーすべてが敵になったのだ。
暗黒の大地が生まれると地獄の管理者たちはほっとしてた、この時に行われた地獄の管理者たちの会話について書いていく。
それは暗黒の大地が出来上がり瘴気から怪物たちが出現した直後である。白骨の太陽の中で額を突き合わせている管理者たちが大きく息を吐いていた。
こわばった顔が緩み、肉体の緊張が失われていった。真剣さも薄らいでゆく。というのも、これで終わったと信じている。
そして緊張から解放された緩みからこんなことを言った。
164: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:41:43.00 ID:btyeGfEZ0
「ようやく終わった。魔人の小僧がここまで厄介だとは思わなかった。まさか初期化する羽目になるとは……」
すると緩みきった管理者に対して注意をするどころか
「未熟者なんぞどうでもいい。そんなことよりも『姫』だ。どうやって回収する? 時間をかけるわけにはいかないぞ」
と乗ってきた。当然のように須賀京太郎は終わったという前提で話していた。最終的には
「説得、出来るのではないでしょうか。
あの下劣畜生の魔人と『姫』の相性は悪いと私は見ています。戦いしかできない野蛮人の思想と貴人の思想がかみ合うわけがありません。
恐らく嫌々旅路を共にしていらっしゃるだけ。我々の理想をお伝えしさえすればお戻りになるはず。
確かに窮屈でしょう。しかし、きっとうなずいてくださいます」
といって計画と妄想半分の提案をするのだった。須賀京太郎の首をはねたわけでもないのに、終わったようなことを言うのは不安が強いからである。
六体の霊的決戦兵器で襲い掛かった管理者たちである。知覚できない速度で戦友が喰われて心がへし折れていた。
自分たちもそういう死に方をするのだと思うと震えが止まらなかった。
会話を初めて十分後のこと管理者たちが青ざめた、この時に彼らが見たものについて書いていく。
それは地獄にいる「姫」を取り戻す作戦会議をしている時のこと。警告音が鳴り響いた。
この警告音は霊的決戦兵器に備え付けられている警告音で、被弾を教えるものである。この警告音が同時に三つ鳴り響いていた。
これが鳴り響くと管理者たちは真っ青になった。というのが警告音と同時に霊的決戦兵器が敵対者の姿を目の前に映し出したからである。
眼球を飛ばして直接脳みそに映像が届いていた。そして届いた映像には魔人・須賀京太郎の姿があった。
管理者たちのはるか下、地獄の底で魔人・須賀京太郎が本物の地獄を作り上げていた。それは血の気が引くような光景だった。
暗黒の大地で生まれた巨人たちを須賀京太郎が屠っていたのだ。暗黒の大地に立ち、当たり前のように巨人たちの命を奪っていった。
戦いになどならないはず。大きさを比べれば人間とアリの違いがある。勝つのは人間であるはず。それが道理のはずなのに、巨人たちは死んでいく。
拳を振り上げている間に、呪文を唱えている間に、一陣の風が吹いて命が消えていった。瘴気から生まれた巨人たちは瘴気に還ることさえなかった。
死んだ瞬間に、燃え上がっているように見えるマントが、瘴気を奪い取り宿主に注ぎ込むからだ。
そして巨人たちが死に、倒れていく間に空に向かって稲妻が昇る。昇った稲妻は狼と牡牛そして蛇の姿となり太陽に喰らいついた。
稲妻の狼も牡牛もヘビも爛々と輝く赤い目で太陽を狙っていた。だが太陽の殻は分厚く中々砕けなかった。
しかしエネルギーを使い果たすまで稲妻の獣たちは止まらず、分厚い殻を砕きながら徐々に中枢に近づいていた。
この光景を脳裏に見て、管理者たちは震えた。信じられなかった。心臓が止まりそうになっていた。
暗黒の大地で戦う須賀京太郎を見て管理者たちは青ざめた、この時彼らが青ざめた理由について書いてく。
それは、瘴気から生まれた巨人たちが圧倒されている時のことである。禍々しい太陽の中枢部で管理者たちは死にそうな顔をしていた。
映し出される光景が信じられないと嘆いてしまう。それというのもしょうがない。絶対に勝てると思っていたのだ。負けるとはかけらも思っていなかった。
これは巨人たちを見ていればわかる。天を突くという言葉がまったく嘘ではない巨体。そして暴力性。
ニーズヘッグもそうだが体長一キロメートルに近い怪物というのは正真正銘の怪物である。普通の攻撃は届かない。魔法も通らない。
巨体を創る大量のマグネタイトがあるということはそれだけ強力な悪魔であるということ。普通なら圧勝である。雪玉の理屈だ。
沢山雪を使ったほうが硬くて強いという発想。スカスカなら話にならないが、地獄にはエネルギーの海ができるほどの蓄えがあった。中身も備わっている。
普通は負けない。しかし負けた。信じられないという気持ちでいっぱいになる。最悪なのは誰かが須賀京太郎をサポートしていることである。
未熟者の須賀京太郎は葛葉流の退魔術を使えないはずである。これはつまりマグネタイトを補給するすべがないということである。直接喰らえば話は別だ。
しかし巨人たちの肉体は瘴気へ還る。喰らうのは難しい。となって須賀京太郎の運動量を見ればスタミナ切れを起こすはずだった。
霊的決戦兵器を三つ落としているのだ。ぎりぎりだろう。しかしそれなのに動き回っている。その上、魔法を撃ちまくっている。
「誰かが補給のサポートをしている」
と判断するのはたやすかった。最悪だった。自分たちの切り札が無残につぶされたうえ、超音速の世界で対応できる優秀なサポーターがいるとわかったのだ。
気がめいる。
165: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:44:36.24 ID:btyeGfEZ0
暗黒の大地が出来上がって約三分後のこと白骨の太陽が対応に打って出た、この時に行われた対策について書いていく。
それは巨人たちを始末しながら空に浮かぶ太陽に向けて稲妻を須賀京太郎が打ち込んでいる時のことである。
青ざめていた管理者たちは須賀京太郎を封印することに決めた。
真正面から戦っても勝ち目が薄い上に悪魔を差し向けてもエネルギーに変えるサポーターがいる。
単純な武力で須賀京太郎を抑え込めないとわかった以上、封印の決定は自然だった。
そうして封印を決定すると地獄の管理者たちは暗黒の大地に向けて命令を出した。管理者はこういったのだ。
「『須賀京太郎』を封印しろ」
すると暗黒の大地に生まれた巨人たちが一斉に須賀京太郎めがけて駆け出した。四方八方から巨人たちが駆けてくる光景は絶望的だった。
しかし駆けだしてきた巨人を見て須賀京太郎は拳を握りこんだ。諦める様子はかけらもなかった。また拳を握りこむと手の平の傷が開いた。
傷口から血液がにじみ出た。にじみ出た血液は黒の大地に滴った。すると血液は大地を溶かした。たった数敵だが、黒い大地を白く染め清めた。
手の平が傷ついたまま須賀京太郎は拳を解いて構えた。何度でも巨人たちを始末する覚悟と用意があった。しかし必要なかった。
巨人たちは須賀京太郎めがけてボディプレスを仕掛けてきたからだ。恐るべき光景だった。
四方八方からボディープレスを仕掛けてくるものだから、須賀京太郎の周りだけ夜になっていた。須賀京太郎はあっさり潰された。よけきれなかった。
また追い討ちがかかった。須賀京太郎が逃げ出す前に、十人二十人と巨人が積み重なっていった。山のようなというよりも、山が出来上がっていた。
そして山が出来上がると速やかに、封印が施された。大地の瘴気から生まれた巨人たちが山積みになったまま融け合って本当の山になった。
ガチガチに固まったマグネタイトの山である。ガチガチのマグネタイトの山が出来上がって数秒後、黒の大地が大きく揺れた。
マグネタイトの山の真下が震源である。揺れは激しかったが、数秒後に収まった。災厄は巨人たちによって封じ込められたのだ。
須賀京太郎が封印されて数分後ナグルファルに管理人たちが提案してきた、この時のナグルファルと管理者の交渉風景について書いていく。
それは黒の大地に巨大な山が出来上がり静かになった後のことである。暗黒の空に浮かぶ白骨の太陽が移動を始めた。
ずいぶんゆっくりと移動しているように見えた。しかし実際のところはかなり早い。時速二百キロオーバーである。
比較対象になる物体が世界樹しかないためスピード感がなかった。空に浮かぶ雲がゆっくり動いているように見えるのと同じである。
そんな白骨の太陽が目指すのはナグルファルである。そうして白骨の太陽が目指すナグルファルだが、ずいぶん大きくなっていた。
今は全長六十メートル級の海賊船といった風貌である。外敵を打ち払うための大砲が備わって、亡霊の乗組員たちが甲板で働いていた。
ただ棟梁やハチ子、梅さんたちとは違って半透明だった。そんなナグルファルだが白骨の太陽が近づいてくるとすぐに動き出した。
暗黒の空を海を渡る船のように移動した。須賀京太郎とは違ってマグネタイト操作をきちんと行えているので空を飛ぶくらい容易いことだった。
しかしかなり遅かった。音速の領域に到達するのは夢のまた夢、法定速度ギリギリで乗用車に煽られるレベルだった。
そんなナグルファルに対して白骨の太陽はじわじわと近寄っていった。
そしてじわじわと近寄っていつでも落とせるのだと見せつけてから、船と星の距離を少し開け並走した。そして拡声器を使ってこんなことを言った。
女性の声だった。
166: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:47:20.50 ID:btyeGfEZ0
「降伏してください。
我々は貴女を傷つけません。我らの計画については後程説明いたします。ですから、どうかお願いいたします。
その偉大なる力を天国のために使用していただきたいのです」
するとゆっくりと暗黒の空をゆくナグルファルから女性の声で返事が来た。甲板を見てみるとわかるが、亡霊のまとめ役の一人梅さんだった。
こう言っていた。
「片腹痛いわ!
我らの無念を吸い上げておいて天国!?
お前たちにくれてやるものなんぞ一つもない!」
結構な気迫であった。甲板の乗組員たちは震えあがっていた。そうして啖呵を切ると白骨の太陽から返事が返ってきた。同じく女性の声だった。
こう言っていた。
「落ち着きましょう。いったん落ち着いて考えてください。
私たちは貴方たちを殺したわけではありません。思い出してください。貴方たちがここに来たのは事件、事故、病などで命を失った天命からなのです。
確かにあなたたちの遺体を地獄に放り込みました。倫理的に許されないことをしたと自覚しています。
しかしそれだけでしょう?
エネルギーを奪い取りはしましたが痛くなかったはずです。むしろ無念が晴れて成仏できた人もいらっしゃるはずです。
今回のいざこざは相互理解の欠如からくるものです。
私たちの目的を理解していただけたのならば、あなたたちの犠牲が正しいと納得してもらえるはずです。
正直に私たちの目的をお伝えしましょう。私たちは天国を創るつもりです。この地獄を土台にして天国を創り全人類を幸せにしたい。それだけなのです。
その暁には地獄で苦しんだ貴方たちの苦しみもすべて報われるでしょう。
これは妄想ではありません。そのように『なったらいいな』ではなく『なる』という計画なのです。魔人に協力するのは苦しみを台無しにする行為です。
どちらにつくことが正義なのか、あなた達ならわかるはずです」
するとナグルファルの船員たちが黙り込んだ。啖呵を切った梅さんも眉間にしわを寄せて黙っていた。悪い提案ではなかった。ナグルファルは敗北必死だ。
冷静に考えれば、悪い提案ではなかった。一度死に亡霊としてよみがえったのは奇跡。二度目の命が惜しかった。そんな時だった。
まとめ役の一人不機嫌なハチ子が大きな声でこう言った。
「上から目線でものを言ってんじゃないですよ! 長い間私たちを縛りつけておいて、なんですかその言い草!
貴方たちが何をしようとしているのかなんて興味ないんです! 私たちは奪われたものを奪い返しに行く!
私たちの感情は私たちのものだ! 私たちの無念は私たちだけのものだ! 勝手に話を進めんな!」
不機嫌なハチ子が大きな声で主張した。するとナグルファルの船員たちの目に光が灯った。諦めの感情が消えた。
徐々に消えて往く恐怖を思い出し、自我を取り戻した喜びを思い出した。そうすると降伏などナンセンスだと言い切れる。二度と操り人形に戻りたくなかった。
そうしてナグルファルに生気が宿ると白骨の太陽がこう言った。
「バカですね……でも、構いませんよ別に。
重要なのは貴方たちの納得ではありませんから。
『姫様』をお迎えできればそれで良い。さよなら亡霊たち」
捨て台詞を吐くと白骨の太陽が輝きを強めた。夏の太陽のように強烈な光線を放ち地獄を照らした。しかし輝きはすぐにおさまった。
白骨の太陽から一匹の怪物が生まれたからだ。
167: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:49:53.44 ID:btyeGfEZ0
白骨の太陽から怪物が生まれると地獄の女王ヘルが悲鳴を上げた、この時にヘルが見たものと心情についてい書いていく。
それは管理者が捨て台詞を吐いて直ぐ後のことである。暗黒の空に霊的決戦兵器が現れた。
白骨の太陽を内側から破って、身長十五メートルの霊的決戦兵器が現れた。
頭からつま先まで鎖帷子のように編みこまれた魔鋼の皮膚で守られて、マグネタイトを操って空に浮いていた。
この霊的決戦兵器が姿を現すと、ナグルファルの甲板にいたヘルが悲鳴を上げた。無表情ながらも悲しんでいるのがよくわかった。
彼女の悲鳴が響いている間に、十五メートル級の霊的決戦兵器の両脇に狼と蛇が姿を現した。
この狼と蛇もまた鎖帷子のように編みこまれた魔鋼の皮膚で守られていた。これを見て更にどうしようもない苦痛をヘルが感じていた。
目の前に現れた三つの怪物から届く臭いは家族の匂いとそっくりだった。間違えるわけがなかった。
つい先ほどまでヨルムンガンドとフェンリルとロキの匂いを感じていたのだから間違えるわけがない。
父親と兄弟の肉体がどのように再利用されているのか察してヘルは耐え難い苦痛を感じた。見ているだけで辛かった。
ヘルの悲鳴が止んだ後地獄の管理者が語りかけてきた、この時に管理者が語った内容について書いていく。それはヘルが悲鳴を上げている時のことだった。
「まっしゅろしゅろすけ」
がヘルを包み込んだ。自動的ではない。包み込んだのは姉帯豊音であった。空に生まれた十五メートル級の霊的決戦兵器と、狼と蛇を見て事情を察せた。
「まっしゅろしゅろすけ」
に包み込まれたヘルは少しだけ落ち着いた。大慈悲の加護に包まれると心がとても落ち着いた。そして姉帯豊音が手を握ってくれている。
どうにか耐えられそうだった。そしてヘルの手を握る姉帯豊音だが、霊的決戦兵器を睨んでいた。ものすごく怖かった。
しかししょうがない。趣味が随分悪かったからだ。そうしていると姉帯豊音が不機嫌になったのを察して、背負われている赤子・未来がぐずりだした。
そんな時だった。地獄の管理者が語りかけてきた。こう言っていた。
「最後にもう一度だけお願いしますね。諦めてこちら側についてもらえませんか?
無駄に血を流すことはないはずです。
ナグルファルの速力では私たちを振り切ることも、傷つけることもできませんよ?
戦いに向いていない魂で組み上げた船なんぞ、足代わりにしかなりませんからね。
それはそちらが一番わかっているはずです。『ヘルヘイム』に留まる魂は弱者の魂。そんなものがいくら集まったところで我々は倒せません。
もしも貴女が愛着を感じていらっしゃるのならばナグルファルを見逃しても構わないと考えています。
地獄での裁量は私たちに任されていますから、できるのです。
どうでしょうか。大人しくこちらに来てもらえませんか?」
語りかけてくる管理者は非常に優しかった。まったく攻撃する雰囲気がなかった。それもそのはず、須賀京太郎という凶悪なアタッカーがいない。
しかも目の前のナグルファルは格下。支配権を奪い返されてもどうにでも出来る雑魚の群れと判断していた。実際その通りであった。
この余裕が、穏便に目的を達成できると考えさせてしまった。そんな考えだから、このような言葉をヘルにぶつけられた。
「絶対にいや! 私の家族を傷つけた貴方たちに協力してやるものか! 失せろ外道ども!」
すると十五メートル級の霊的決戦兵器が一瞬震えた。怒りのためである。そして女性の声でこう言った。
「あまり調子に乗るなよ、悪魔風情が。貴様らなんぞ我々の道具に過ぎない、何を考えて魔人の小僧が貴様を解放したのかは知らん。
しかしお前がおさまるべき場所はそこではない。
『独房だ』
失礼しました。しかしご理解ください。
ナグルファルを破壊して目的を果たさせていただきます!」
冷静を装ってはいた。しかし我慢の限界だった。
「力づくで片付ける」
そう宣言すると十五メートル級の霊的決戦兵器と狼と蛇がナグルファルに襲い掛かった。
168: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:52:57.08 ID:btyeGfEZ0
戦いが始まって数秒後ナグルファルは追い込まれた、この時のナグルファルの状態について書いていく。
それは地獄の管理者たちが攻撃を仕掛けて五秒ほど後のことである。六十メートル級のナグルファルはボロボロになっていた。
それなりに頑丈な造りになり美しく整えられていた船体も見る影がない。狼にかじられ蛇に締め上げられ魔法を浴びてひどいことになっていた。
しかしそれでも何とか耐えられるのは姉帯豊音の守りがあるからである。戦いになると理解していた姉帯豊音が
「まっしゅろしゅろすけ」
を展開していた。
しかし姉帯豊音の技量の問題によって船全てを守りきることができなかった。
姉帯豊音が背負う未来を中心にして強く加護が発動し、遠くに行くにつれ弱くなっていた。
そのため操縦桿周りはほぼ無傷で、船首近くが悲惨な状態になっている。たった数秒の間に船首付近がごっそり持っていかれているのは絶望的だった。
そしてボロボロになったナグルファルは黒の大地に引きずり降ろされた。
「まっしゅろしゅろすけ」
の守りごと狼と蛇が一生懸命引きずりおろしたのだ。黒の大地でゆっくりと解体するためである。
獲物を空中で分解してもいいが、まな板の上でやる方がきれいに捌けるという発想だった。
そうして黒の大地に引きずり降ろされたナグルファルは狼と蛇に抑え込まれた。狼と蛇の力がナグルファルの上をいっていた。
抑え込まれたナグルファルを見て十五メートル級の霊的決戦兵器が剣を持ち出してきた。力強い剣だった。この剣を振りかざして思い切り振り下ろした。
しかし
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護が受け止めた。ナグルファルにダメージはない。メギドを防ぎきる加護は伊達ではない。ただ一時間持てばいいところだった。
攻撃を受けるたびにマグネタイトが消費されていくからだ。そうして剣が何度か振り下ろされた。等間隔で、何度も振り下ろされた。
攻撃のためというよりは、精神的に追い込む手段として剣を使っていた。そうして剣が何度か加護に阻まれた時、ヘルが小さく悲鳴を上げた。
不吉なビジョンが浮かんできたからだ。殺されるビジョンである。ただ、姉帯豊音は責めなかった。同じく不吉なビジョンが浮かんでいたからだ。
ヘルが小さな悲鳴を上げてすぐに十五メートル級の霊的決戦兵器が震えた、この時の霊的決戦兵器の震えとその理由について書いていく。
それは不吉なビジョンがナグルファルを包んだその時である。剣を振り下ろしていた十五メートル級の霊的決戦兵器が攻撃をやめた。
そしてその場から飛びのいた。飛びのいた十五メートル級の霊的決戦兵器は暗黒の空で浮遊していた。
ナグルファルから三百メートルほど上空で静止していた。そして上空で静止すると、速やかに周囲を見渡した。
見渡して異常がないと判断するとほっと一息ついていた。
というのも苛烈な意志の熱風と不吉を感じたからである。ナグルファルと一緒にいたくないと心の底から願うほど強烈な寒気だった。
そしてナグルファルから霊的決戦兵器が飛びのいた直後である。直感が正しかったと理解する。
というのも、浮遊する霊的決戦兵器は山が爆発するのを見たのだ。山とは、巨人たちの死体を積み上げて創った山である。
これが根元から吹っ飛んで瘴気に還るのを見た。暗黒の空が正気で汚れたが、すぐにきれいになった。噴き出した瘴気は山の根下に集中していった。
瘴気が集中する先に視線を向けると人間の姿があった。灰色の髪の毛に金色の目を持つ須賀京太郎である。この須賀京太郎は火に包まれているように見えた。
しかし燃えているわけではない。赤いエネルギー・マガツヒが具足に過剰供給されて、火のように見えているだけである。
この須賀京太郎を見た霊的決戦兵器はたじろいだ。須賀京太郎の気配が一層鋭くなっていたからだ。そして金色の目を見て狂人だと確信した。
目的のために合理性を追求した結果の純粋さがあった。そしてかなう相手ではないと覚った。
どうにもならないとあきらめた時、気付かれる前に逃げようとした。合理性だけしかない魔人など相手にしたくなかった。
しかし、無駄だった。モニター越しに目が合ったからだ。
169: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:56:26.30 ID:btyeGfEZ0
十五メートル級の霊的決戦兵器と狼と蛇が残骸になった後ナグルファルの下へ須賀京太郎が戻ってきた、この時に起きていた変化について書いていく。
それは十五メートル級の霊的決戦兵器が須賀京太郎と武具の怒りに触れた十秒後のことである。全ての支配権がヘルの下へ戻ってきた。
そして同時にナグルファルの甲板に須賀京太郎が戻ってきた。戻ってきた須賀京太郎を姉帯豊音が迎えてくれた。
長期間離れ離れになっていた恋人のような迎え方だった。大げさだった。しかし姉帯豊音が迎えてくれると須賀京太郎は喜んだ。
守りたいものが守れたと思った。須賀京太郎が喜んでいるのを見て姉帯豊音もまた喜んでいた。護衛期間中は厳しい顔をしていた須賀京太郎である。
喜んでいるのを見るとうれしくなった。そんなことをやっているとマントになっているロキがこう言った。
「小僧、ようやった。これですべての支配権を取り戻せた。
それに、小型の霊的決戦兵器の仕組みもわかってきた。小型の霊的決戦兵器は変化の得意な悪魔を、材料にして繋ぎにしておるようじゃな。
パイロットとフレームの間を取り持つためのワンクッションじゃよ。
腹立たしいことじゃ」
ロキがこのようなことを言うと須賀京太郎と姉帯豊音が少し沈んだ。ロキがどういう目にあったのかよくわかったからだ。そんな二人にロキがこう言った。
「許せよ二人とも。別に水を差すつもりはなかったんじゃ。わしが言いたかったのは利用できるということじゃよ。
ちょっと小僧、試してぇことがある。やってええかな? バトルスーツがダメになるかもしれんが」
須賀京太郎はこういった。
「オッケー。でも裸になるみたいな失敗の仕方は勘弁してよ」
するとロキがこう言った。
「心配すんな。小僧の一物なんぞ見ても興奮せんから」
須賀京太郎は苦笑いを浮かべた。そうしているとロキが呪文を唱え始めた。随分軽やかな呪文だった。呪文はとんとん拍子で進んでいった。
そしてとんとん拍子で呪文が終わると十五メートル級の霊的決戦兵器の残骸がナグルファルに近付いてきた。
風船のようにふわふわとやってきて、甲板の上で停止した。そして停止した残骸は四散した。基本フレームと神経と肉に分かれたのだ。
そして四散した部品が須賀京太郎に飛んできた。須賀京太郎は非常に嫌そうな顔をした。気色悪かった。ただ、しょうがないので黙って受けた。
そして十秒ほど我慢した。するとロキがこう言った。
「ええぞ小僧。完成じゃ」
ロキがいいというので須賀京太郎は自分の体を確認した。するとそこには魔鋼の装甲を手に入れた具足があった。
具足とスーツの間には神経が生まれ、須賀京太郎と具足たちが一層近いた。マントになっているロキにも魔鋼のコーティングが追加されている。
しかし柔軟性は失われていなかった。魔鋼の装甲を手に入れた須賀京太郎を見て姉帯豊音がこう言った。
「かっこいいー! 鎧の隙間から赤い光が漏れてる感じとか、完全に悪役だよ!」
須賀京太郎は少し照れた。マントになっているロキは口をへの字に曲げていた。褒めているのかけなしているのかわからなかった。
六つの支配権を奪い返して三十分後ナグルファルの強化が完了した、この時の地獄の状況とナグルファルの変化について書いていく。
それは須賀京太郎と姉帯豊音が難題を解決して一息ついている時である。亡霊のまとめ役棟梁の指揮の下でナグルファルが強化工事を行っていた。
今回の強化工事は非常に大規模なものであった。地獄全体が騒がしくなり、ものすごくうるさかった。
しかも亡霊たちがこれでもかといって現れて、死者の国が出来上がっていた。というのも広大な地獄を船の中にしまうつもりなのだ。
もともと地獄は女王ヘルのものである。支配権を奪い返した今ならばたやすいことだった。ただ、入れ物を大きくする必要があった。
地獄がでかすぎるからだ。そうして地獄を収納するためにナグルファルを巨大化していった。既に七割ほど完成して、一見すると豪華客船である。
それもまさかの一キロメートル級だった。
骨格にはニーズヘッグの残骸やら霊的決戦兵器の残骸が利用され、船型の霊的国防兵器と称してよい仕上がりである。ナグルファルの外壁は黒が基調だった。
これは黒の大地の創り方を応用した結果である。ナグルファルの分析班が頑張ってくれた。
須賀京太郎には無意味だが、そこそこの攻撃なら防げると装甲に採用していた。そうしてナグルファルが完成に近づいていくと地獄が狭くなっていった。
外側から少しずつ白い世界が迫ってくるのだ。初めはゆっくりと迫っていたのだが、七割がたナグルファルが完成するころにはものすごい勢いで地獄が圧迫されていった。
これは地獄という異界が消滅しかけているという証拠である。異界が不安定になり泡のように消える前兆だった。
しかしナグルファルの船員たちは焦らなかった。ナグルファルには現世へ続く門を開く力があり、白い世界に耐える強度があるからだ。
そして亡霊たちを導く王もいる。まったく不安などなかった。
170: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 00:59:22.33 ID:btyeGfEZ0
ナグルファルの強化が始まって三十五分後須賀京太郎と姉帯豊音が船首に立っていた、この時の二人について書いていく。
それは地獄の店じまいが始まってから三十五分後、もうそろそろ豪華客船ナグルファルが完成するというところである。
完全に実体化している船員たちの間を抜けて須賀京太郎と姉帯豊音は船首で遊んでいた。姉帯豊音が背負っている未来は楽しげに笑っていた。
豪華客船のにぎやかさと、気持ちのいい風を感じて喜んでいた。これは須賀京太郎と姉帯豊音も同じだった。
須賀京太郎と姉帯豊音が船首にやってきたのは、姉帯豊音が
「タイタニックごっこしてみたいなー……してみたくない?」
と言い出したからである。そして須賀京太郎が
「いいっすねー」
と答えたことで実現した。豪華客船の船首から落ちたとしても無事で済む能力を二人とも持っているので何の問題もなかった。
そうして船首で見事なタイタニックの再現をして二人は遊んでいた。この時背中に背負われている未来が
「きゃっきゃ」
とうれしそうにしていた。未来が笑っているのを見て須賀京太郎も微笑んだ。戦った意味があったと確信できた。
そして白い世界にのまれつつある地獄を眺めて須賀京太郎はこういった。
「地獄に落とされた時はどうなることかと思いましたけど、どうにかなりましたね。
姉帯さんを守り切れるかどうかさえ不安でしたけど……杞憂でした。姉帯さんがいてくれてよかった」
するとタイタニックごっこを堪能している姉帯豊音がこう言った。
「私もやる時はやるんだよー?
いざとなったら私を頼ってね。守りに関して『まっしゅろしゅろすけ』は完璧なんだから。それとナグルファルのみんなももっと頼ってあげて。
確かにみんな戦闘に向いていないけど知識や技術は光るものがあるんだから。ムシュフシュちゃんとヘルちゃんと同じでね」
姉帯豊音に対して須賀京太郎はこういった。
「ムシュフシュちゃん?」
少し笑っていた。爬虫類をちゃん付けはなかなか面白かった。すると姉帯豊音がこう言っていた。
「一応女の子だって言ってたよ?」
須賀京太郎は驚いた。中性もしくは性別なしのタイプだと思っていたからだ。悪魔は大体このタイプなので、そうだと思い込んでいた。
そうしてタイタニック状態のまま会話をしている時だった。老人が声をかけてきた。しわがれていたが力のこもった声だった。こんなことを言っていた。
「ようやく見つけた。
豊音ちゃん、迎えに来たぞ。一緒に帰ろう」
老人の声が聞こえてきたとき須賀京太郎は青ざめていた、この時の状況について書いていく。
それは、しわがれた老人の声が背後から聞こえてきてすぐのことである。須賀京太郎は動けなくなった。
そして青ざめた。全身の肉体は間違いなく動かせる状態にあるのだが、動かせなかった。というのが須賀京太郎の全感覚が動けば死ぬと教えてくれていた。
しかし青ざめたのは命の危険を感じたからではない。姉帯豊音と未来を守れないことに絶望を感じたのだ。
しかしそんな須賀京太郎を知らずに姉帯豊音が動き出した。ナグルファルの船首の上、須賀京太郎の腕の中でゆっくりと一回転して、背後の老人と向き合った。
そしてこういった。
171: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 01:02:32.38 ID:btyeGfEZ0
「おじいちゃん? 本当におじいちゃん? 偽物じゃない?」
少し嬉しそうだった。しかし不思議なことではない。姉帯豊音に殺気は向いていないのだ。向いているのは須賀京太郎にだけである。
姉帯豊音に話しかけられると老人がこう言った。
「もちろん。本物さ。
本物でなければここまで来ることはできない。弱い退魔士ならここまで来ることさえ出来なかっただろう。
ここに私がいる。それだけで十分だろう?
さぁ、こっちに来て、一緒に帰ろう」
すると姉帯豊音は少しためらった。本物にそっくりな偽物の可能性があったからだ。そのため本物かどうか姉帯豊音は確かめることにした。用心深かった。
そうして確かめるために姉帯豊音は一つ質問をした。こう言っていた。
「姉帯に伝わる秘伝を見せて。そうしたら信用する」
姉帯豊音が無茶なことを言うと老人は嫌そうな顔をした。からかわれるのが嫌だった。しかし孫にねだられるとしょうがなかった。
嫌々ながら秘伝を披露した。自分の口元に手を持って行って、笑って見せた。秘伝を老人が披露したのを見て、姉帯豊音はこういった。
「本当におじいちゃんだ! やったね須賀君! これでみんな現世へ戻れるよ!」
ものすごい喜びようだった。須賀京太郎も頼りになるが、一層頼りになる存在が現れたからだ。須賀京太郎と祖父が一緒に動くというのなら完璧だった。
何が起きても絶対に大丈夫だと言い切れた。
姉帯豊音が喜んでいる時老人に須賀京太郎が質問をした、この時の質問の内容と答えについて書いていく。
それは姉帯豊音がほっとしている時のことである。タイタニックごっこをやめて甲板へ姉帯豊音が向かおうとした。
甲板に立っている信用できる家族の下へ向かうためである。しかしできなかった。須賀京太郎が邪魔をしていた。
姉帯豊音の腰に手を回したままで全く動かない。姉帯豊音が不思議に思っていると背中を老人に見せたまま須賀京太郎がこういった。
「質問してもよろしいですか?」
すると背後の老人が答えた。
「構わないよ」
少し笑っていた。答えに喜びの感情が乗っていた。そんな老人の声を聞いて姉帯豊音がほほ笑んだ。機嫌の良い祖父を見るとうれしくなった。
須賀京太郎との仲がこじれていないので、余計にうれしく思った。そうして質問を許されると須賀京太郎はこういった。
「姉帯さんが人形化の呪いを受けた時、一番に助けを求めたのは貴方ですか?」
すると姉帯豊音の祖父がこう言った。
「そうだよ」
すると姉帯豊音が困った。意味がさっぱりわからなかったからだ。その間に須賀京太郎はこういった。
172: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/04(日) 01:04:10.95 ID:btyeGfEZ0
「力試しの時結界をはっていた悪魔が居ましたけど、貴方の仲魔ですか?」
これをきいて姉帯豊音が青くなった。その間に姉帯豊音の祖父がこう言った。
「そうだよ。君にあっさりと殺されてしまったけれどね。
驚くべき腕力と技量だった。腕力だけならヤタガラスで一番でいいんじゃないか? お母さんとお父さんに感謝するべきだ。
肉体の素質と修行の成果だろう」
二人のやり取りが終わった時、船首近くが静かになった。周囲の亡霊たちもおとなしくなっている。しょうがないことだった。空気がよどんでいた。
張りつめているのに熱くて冷たい。最悪の空気だった。原因は船首近くにいる退魔士二人。空気の出所に気付いた時姉帯豊音の血の気が完全に引いた。
未来と出会う前ムシュフシュと出会ったあの時、あの悪魔を見て姉帯豊音が感じた
「おじいちゃんの仲魔にそっくり」
という感想が蘇ったのだ。そして蘇ってしまえば誰が何をしたのかすぐに当たりをつけられた。姉帯豊音が震えている間に須賀京太郎がこう言った。
「地獄を創ったのは貴方だな『二代目葛葉狂死』」
すると須賀京太郎の背後に立つ老人が笑った。そして肯いた。楽しそうだった。
「その通り。その通り!
良くわかったね。あぁ、でも勘のいいものならわかるか。北欧神話で飾り付けてはいるが、基本が陰陽道と神道だからね。
それに霊的決戦兵器を分析すれば超力超神の発展形だと気付いたはずだ。見た目が北欧神話『風』になっているだけで、モノに魂を宿らせるという発想は『葦原の中つ国の塞の神』に近いのだから。
それにどういう事か、ベリアルとネビロスにも出会ったようだ。気づかれてもしょうがないか。
しかしそれがどうした?
私が地獄を創った張本人だからどうする?
背後をとられている君がどうやって対処する? 自分をコントロールできていない君なんぞ、楽に始末できるというのに」
背中を見せたまま須賀京太郎は黙った。そして苦い顔をした。一度手合わせをして相手の力量を把握している須賀京太郎だ。
背後をとられているうえに一枚も二枚も上手の相手。姉帯豊音と未来を守ることは不可能だと理解していた。
179: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/10(土) 23:38:58.12 ID:EQqxFP/W0
須賀京太郎が頭をフルに回転させている時姉帯豊音が祖父に質問をした、この時に行われた祖父・二代目葛葉狂死と姉帯豊音の会話について書いていく。
それは須賀京太郎が必死になって対応策を練っている時であった。青ざめている姉帯豊音が震えながら口を開いた。
若干目がうつろになっていたが、意識はあった。姉帯豊音はこういっていた。
「私をさらったのはおじいちゃんだったの?
私のことが嫌いになった? 人形にしてしまいたいくらいに……それにヘルちゃんたちをここまで苦しめていたのがおじいちゃん?
天国を創るためになんて……妄想のために?」
祖父に話しかける姉帯豊音の声は非常に震えていた。鼻声になっていて、聞き取りにくかった。あまりに調子を崩している。
それこそ頭をフルに回転させていた須賀京太郎が、いったん考えるのをやめるほど。
そして一旦考えるのをやめた須賀京太郎は姉帯豊音をしっかり抱きしめた。姉帯豊音がバカなまねをしないようにしっかりと腰に腕を回した。
また、背中に背負っている未来が落ちていかないように気を配った。そんなことをしている須賀京太郎を二代目葛葉狂死が睨んだ。
可愛い孫娘に悪い虫がついたと思った。しかし自分を抑えた。そして二代目葛葉狂死が答えた。
「誓っていうが、私は豊音ちゃんのことを大切に思っている。私の妻に誓ってもいい。私のかあさんにも、娘にも誓おう。
豊音ちゃんのことは本当に大切に思っている。大切に思っていなければ、あわてて地獄に降りてきたりしなかった。
人形化の呪いについては言い訳はしない。怖がらせたことを今も後悔している。しかし理由があってのことだった。
あれは豊音ちゃんを無事に人形化できるかどうかの実験だった。『大慈悲の加護』は鉄壁の加護だ。
もしも計画実行時に豊音ちゃんだけ人形化できず、転送不可能状態になったらそれこそ問題だった。だから人形化の呪いが仕掛けられるか試した。
怖がらせたことは今も本当に悔やんでいる。いくらでも謝ろう。すまなかった。おじいちゃんを許してくれ」
そして二代目葛葉狂死は深く頭を下げた。完全に須賀京太郎から視線を切っていた。背後で二代目葛葉狂死が頭を下げていると須賀京太郎も察していた。
しかし動けなかった。目の前の姉帯豊音がかなりまいっていたからである。自殺を選びそうな顔色だった。そうしていると姉帯豊音はこういった。
「なら、天国は?」
すると二代目葛葉狂死は頭を上げて答えた。
「異界を創るということだ。大規模な異界を創りだして全人類を救済する。
人形化した帝都の住民たちを九頭竜の姫の能力でもって統一し、普遍的無意識の天国を呼び出し、人類をそこに放り込む。
普遍的無意識の天国はすべてを受け入れる。理想郷があらゆる願いを叶えるのだ。
そして理想郷の住民となれば苦しみは永遠に消え去り、人類が夢見た天国が完成する」
答える二代目葛葉狂死は本気だった。まったく嘘偽りが見えなかった。じっと自分の孫を見つめて揺らがない。見つめられた姉帯豊音は祖父を睨み返した。
赤い両目に光が宿っていた。つい先ほどまで見せていた意志薄弱ぶりはない。未来を背負っているのだ。この重さがすべてだった。
そんな孫の変貌に祖父が驚いた。幼き日の母を思い出していた。そうして驚いていると姉帯豊音が別れを告げた。
「世迷言だよ! 人類抹殺と何が違うの!?」
しっかりと自分の足で立てる孫に祖父が答えた。
「しかし幸せだ。全てがそこにあるだろう。無意識の海にはすべての可能性が眠っているのだから」
このように答えた祖父・二代目葛葉狂死は殺気を放った。しわだらけの老人から冷たい空気が流れ出した。冷たい空気に触れた亡霊たちは縮みあがった。
二代目葛葉狂死は自分の殺意に孫娘が耐えられないと考え、心を折に来た。力強い心を持っているとは認める。
しかし修羅場の空気には耐えられないと知っていた。そういう孫娘だと知っている。しかし姉帯豊音は全く動じなかった。
むしろ殺気を感じてより一層堅固になった。修羅場で踊った経験が彼女を立たせた。そして姉帯豊音はこういった。
「京太郎!」
自分を抱きしめる須賀京太郎の名前である。戦闘開始の合図だった。
180: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/10(土) 23:43:04.52 ID:EQqxFP/W0
姉帯豊音が名前を読んだその瞬間に二代目葛葉狂死と須賀京太郎の戦闘が始まった、この一瞬のうちに行われた双方の一撃目について書いていく。
それは姉帯豊音が須賀京太郎を選んだ瞬間だった。姉帯豊音の残響が消える間にナグルファルの船首が崩壊した。
かなり頑丈に創られたはずのナグルファルだったが、藁の家のように砕けて散った。破片はすべて下方向に向かって飛んでいた。
須賀京太郎が踏み抜いて破壊したからである。そうなって船首が崩壊すると、かろうじて残る黒の大地に姉帯豊音と未来は落下していった。
ただ、全く恐れの色が見えない。すでに「まっしゅろしゅろすけ」が展開して姉帯豊音と未来を包んでいる。
しかし落ちて行くはずの姉帯豊音と未来だがすぐに空中で静止した。これは二代目葛葉狂死が助けに向かったからだ。
空中で孫娘をキャッチしてその場で浮いていた。積極的に助けに向かったわけではない。
本当ならば、背中を見せている須賀京太郎に正拳突きを撃ち込んで始末してから孫を迎えるつもりだった。
しかし須賀京太郎が船首を踏み抜いて姉帯豊音を落したものだから、あわてて考えを変えた。加護のすさまじさは理解しているのだ。
大丈夫だと言い切れる。回復魔法の用意もあるのだ。しかし孫が傷つく可能性を考えると守らずにはいられなかった。達人の二代目葛葉狂死である。
空中の霊気を固定して孫娘を助けるくらいなんてことはなかった。ただ、戦闘という視点で考えると失敗である。無駄な行動だった。
二代目葛葉狂死が孫娘を助けた時須賀京太郎は攻撃を仕掛けなかった、この時の須賀京太郎について書いていく。
それは姉帯豊音が餌になり二代目葛葉狂死の両腕を封じた時のことである。須賀京太郎はナグルファルの甲板に立っていた。立っているだけで攻撃をしない。
船首がなくなった今、須賀京太郎は今、船の最先端にいる。この時の位置取りは完璧だった。
落下する姉帯豊音と未来を守るために二代目葛葉狂死が駆けて行ったのが見えていた。
また姉帯豊音ごと魔法を打ち込めば間違いなく始末できるべストポジション。
霊的決戦兵器たちを下し具足を手に入れた須賀京太郎の出力ならできるはずだった。格上の二代目葛葉狂死を始末するのなら千載一遇のチャンスであった。
しかし須賀京太郎は集中できなかった。まったく集中できなかったのだ。心が乱れていた。下唇を噛んで悶えていた。
必死で集中しようとしたがどうしてもできなかった。
「退魔士としてやらねばならない」
いくら言い聞かせてもダメだった。強烈な罪悪感が集中を乱していた。
退魔士としての役目、日本を守るという大義よりも姉帯豊音と未来が優先されていた。
この強烈な罪悪感が一体何を支えにして現れたものなのか、須賀京太郎はわからなかった。
しかし何にしても須賀京太郎は絶好のチャンスを罪悪感というあやふやなもので台無しにしてしまった。ダメな行動だった。
二代目葛葉狂死と須賀京太郎の一撃目のあとナグルファルが騒がしくなった、この時の姉帯豊音と船員たちについて書いていく。
それは二代目葛葉狂死と須賀京太郎が「らしくない」失敗を重ねている時のことである。ナグルファルの船員たちが慌て始めた。
大きな声で状況を確認し合ったり、まとめ役を呼びにいったりしている。今までの和やかな雰囲気は完全になくなっていた。
特に須賀京太郎が踏み壊した船首付近にいた船員たちの混乱はすごかった。なぜなら、目の前で地獄を創った張本人と自分たちの王が戦いを始めた。
しかも壊れるわけがない船首が簡単に壊された。意味が分からなかった。
そんなナグルファルから少し離れたところで二代目葛葉狂死に助けられた姉帯豊音が怒っていた。
自分を受け止めた二代目葛葉狂死に向かって平手を見舞ってみたり、最大のチャンスを見逃した須賀京太郎に対して
「撃ちなさい!」
と怒鳴っていた。先ほどの一瞬が二代目葛葉狂死を倒せる最大のチャンスと姉帯豊音は考えていたのだ。
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護がある以上傷つくわけがないと姉帯豊音は考えている。
祖父・二代目葛葉狂死が選択を間違えて助けに来たのなら、須賀京太郎はまとめて撃つべきである。
今まで合理的に戦ってきた須賀京太郎ならば撃つべきだった。また、地獄を創り天国に人類を収容するという祖父に対しては単純に怒っていた。
背負っている未来がいるのだ。自分たちの世代で人類を終わらせるわけにはいかなかった。
それは姉帯豊音が須賀京太郎を選んだ瞬間だった。姉帯豊音の残響が消える間にナグルファルの船首が崩壊した。
かなり頑丈に創られたはずのナグルファルだったが、藁の家のように砕けて散った。破片はすべて下方向に向かって飛んでいた。
須賀京太郎が踏み抜いて破壊したからである。そうなって船首が崩壊すると、かろうじて残る黒の大地に姉帯豊音と未来は落下していった。
ただ、全く恐れの色が見えない。すでに「まっしゅろしゅろすけ」が展開して姉帯豊音と未来を包んでいる。
しかし落ちて行くはずの姉帯豊音と未来だがすぐに空中で静止した。これは二代目葛葉狂死が助けに向かったからだ。
空中で孫娘をキャッチしてその場で浮いていた。積極的に助けに向かったわけではない。
本当ならば、背中を見せている須賀京太郎に正拳突きを撃ち込んで始末してから孫を迎えるつもりだった。
しかし須賀京太郎が船首を踏み抜いて姉帯豊音を落したものだから、あわてて考えを変えた。加護のすさまじさは理解しているのだ。
大丈夫だと言い切れる。回復魔法の用意もあるのだ。しかし孫が傷つく可能性を考えると守らずにはいられなかった。達人の二代目葛葉狂死である。
空中の霊気を固定して孫娘を助けるくらいなんてことはなかった。ただ、戦闘という視点で考えると失敗である。無駄な行動だった。
二代目葛葉狂死が孫娘を助けた時須賀京太郎は攻撃を仕掛けなかった、この時の須賀京太郎について書いていく。
それは姉帯豊音が餌になり二代目葛葉狂死の両腕を封じた時のことである。須賀京太郎はナグルファルの甲板に立っていた。立っているだけで攻撃をしない。
船首がなくなった今、須賀京太郎は今、船の最先端にいる。この時の位置取りは完璧だった。
落下する姉帯豊音と未来を守るために二代目葛葉狂死が駆けて行ったのが見えていた。
また姉帯豊音ごと魔法を打ち込めば間違いなく始末できるべストポジション。
霊的決戦兵器たちを下し具足を手に入れた須賀京太郎の出力ならできるはずだった。格上の二代目葛葉狂死を始末するのなら千載一遇のチャンスであった。
しかし須賀京太郎は集中できなかった。まったく集中できなかったのだ。心が乱れていた。下唇を噛んで悶えていた。
必死で集中しようとしたがどうしてもできなかった。
「退魔士としてやらねばならない」
いくら言い聞かせてもダメだった。強烈な罪悪感が集中を乱していた。
退魔士としての役目、日本を守るという大義よりも姉帯豊音と未来が優先されていた。
この強烈な罪悪感が一体何を支えにして現れたものなのか、須賀京太郎はわからなかった。
しかし何にしても須賀京太郎は絶好のチャンスを罪悪感というあやふやなもので台無しにしてしまった。ダメな行動だった。
二代目葛葉狂死と須賀京太郎の一撃目のあとナグルファルが騒がしくなった、この時の姉帯豊音と船員たちについて書いていく。
それは二代目葛葉狂死と須賀京太郎が「らしくない」失敗を重ねている時のことである。ナグルファルの船員たちが慌て始めた。
大きな声で状況を確認し合ったり、まとめ役を呼びにいったりしている。今までの和やかな雰囲気は完全になくなっていた。
特に須賀京太郎が踏み壊した船首付近にいた船員たちの混乱はすごかった。なぜなら、目の前で地獄を創った張本人と自分たちの王が戦いを始めた。
しかも壊れるわけがない船首が簡単に壊された。意味が分からなかった。
そんなナグルファルから少し離れたところで二代目葛葉狂死に助けられた姉帯豊音が怒っていた。
自分を受け止めた二代目葛葉狂死に向かって平手を見舞ってみたり、最大のチャンスを見逃した須賀京太郎に対して
「撃ちなさい!」
と怒鳴っていた。先ほどの一瞬が二代目葛葉狂死を倒せる最大のチャンスと姉帯豊音は考えていたのだ。
「まっしゅろしゅろすけ」
の加護がある以上傷つくわけがないと姉帯豊音は考えている。
祖父・二代目葛葉狂死が選択を間違えて助けに来たのなら、須賀京太郎はまとめて撃つべきである。
今まで合理的に戦ってきた須賀京太郎ならば撃つべきだった。また、地獄を創り天国に人類を収容するという祖父に対しては単純に怒っていた。
背負っている未来がいるのだ。自分たちの世代で人類を終わらせるわけにはいかなかった。
181: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/10(土) 23:45:57.09 ID:EQqxFP/W0
ナグルファルが混乱の極みに入った時二代目葛葉狂死と須賀京太郎が会話をした、この時に行われた会話内容について書いていく。
それはナグルファルが状況の確認を急いでいる時、姉帯豊音がさっさと魔法を撃てと怒鳴っている時のことである。
二代目葛葉狂死が須賀京太郎に話しかけてきた。二代目葛葉狂死と須賀京太郎は距離があったので声をはっていた。こう言っていた。
「須賀君。なぜ攻撃しなかった。敬老精神に目覚めたか。
それとも、豊音ちゃんと赤ちゃんが心配だったか?
ん?……赤ちゃん?」
話しかけていた二代目葛葉狂死はようやく背負われている未来に気付いた。大慈悲の加護に守られている赤子である。感知できなかった。
かわいらしい赤ちゃんが二代目葛葉狂死を見つめていたのだが、これを見て眉間にしわが寄った。可愛いのは間違いないのだ。
ただ、二代目葛葉狂死の頭に嫌な言葉が大量に浮かんできた。昨今の社会問題を憂う老人である。まさかうちの孫娘がという気持ちでいっぱいになった。
しかしすぐにふり払った。背負われている赤子から血縁を感じなかったからだ。血縁を感じるというのはマグネタイトの個性のことである。
姉帯にも若干の個性があるのだが、それが見えなかった。そのためすぐに血縁でないと見破れた。ただ少しあわてていた。
そんな二代目葛葉狂死に須賀京太郎がこう言って答えた。
「姉帯さんには『まっしゅろしゅろすけ』の加護がある。俺が攻撃を仕掛けたところで姉帯さんを盾に使えば、攻撃は通らない」
出来るだけ冷徹な魔人を演じていた。しかし無理があった。姉帯豊音と未来を見つめる須賀京太郎の目が弱くなっていた。
感情が具足たちによって増幅されているのだ。ポーカーフェイスは無理だった。そんな須賀京太郎の答えを聞いた時二代目葛葉狂死はニヤリと笑った。
嘘だと見抜いていた。当然姉帯豊音にもばれていた。
「お前たちが大切だから心が鈍った」
と、須賀京太郎の目が教えていた。そんな須賀京太郎に二代目葛葉狂死がこう言った。
「なるほど私の作戦をよく理解している。可愛い孫娘を盾にすれば、間違いなく君の攻撃を防げるだろう。『大慈悲の加護』は自動的に豊音ちゃんを守る。
間違いないだろう。
しかし、君のことが少しだけ好きになった。ほんの少しだけだがね。
だが処刑する。君は邪魔だ」
すると須賀京太郎がこう言った。
「処刑したいのなら、処刑すればいい。できるものならな」
二代目葛葉狂死に対応する須賀京太郎は嬉しそうだった。好きになったと言われたからではない。殺しに来るというのなら殺し返せば良くなるからだ。
簡単な状況になる。目の前の修羅場に集中すれば考えずに済む。姉帯豊音と未来を優先し大義を捨てた自分を無視できた。
会話が終わった後二代目葛葉狂死が甲板に向かって歩き出した、この時の二代目葛葉狂死とナグルファルについて書いていく。
それは二代目葛葉狂死と須賀京太郎が軽い会話を終えた後のことである。姉帯豊音をしっかり抱えたまま、二代目葛葉狂死は黙り込んだ。
孫娘から思い切り平手打ちを喰らっていたがまったく気にしていなかった。というのも須賀京太郎を心の中でほめていた。
孫娘の信頼を勝ち取り、部下たちを始末したその強さを喜んだ。二代目葛葉狂死にとって強者は望むところだった。
力を持つ者は邪悪ではなくステキなものだった。そうして喜び褒めた後、ポーカーフェイスのままゆっくりと甲板に向かっていった。
階段を上るようにゆっくりと甲板を目指した。足場はマグネタイトを操って、楽々の移動だった。お互いのための大切な時間だった。
そうして近付いてくる間に須賀京太郎にハチ子が駆け寄ってきた。随分慌てていた。実体を手に入れたハチ子は、美しかったが今は五割減である。
戦闘が始まったと聞いて慌てふためいて青ざめていた。須賀京太郎のところへ駆けてきたのは命令をもらうためである。
そうしてやってきたハチ子に対して須賀京太郎はこういった。
182: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/10(土) 23:49:35.79 ID:EQqxFP/W0
「ナグルファルはヘルの防衛に重点を置け。
もしも俺が敗北したら即座に現世へ移動し、『葦原の中つ国の塞の神』を頼れ。助けてくれるだろう」
須賀京太郎の命令を聞いてハチ子はためらった。霊的決戦兵器を雑魚のように扱い苦境を力づくで突破した我らの王が死を覚悟していたからである。
しかし口応えは出来なかった。ハチ子はすぐにヘルの下へ駆けだした。やるべきことをやるためである。
そうしてハチ子が駆けて行ってようやく二代目葛葉狂死が到着した。この時も姉帯豊音が平手打ちを仕掛けていたがまったく動じていなかった。
二代目葛葉狂死の目は須賀京太郎の目とそっくりだった。獲物を狙う退魔士の目である。
二代目葛葉狂死が甲板に到着すると須賀京太郎が深呼吸を始めた、この時の二代目葛葉狂死と須賀京太郎について書いていく。
それは二代目葛葉狂死が甲板に現れてすぐのことである。須賀京太郎は深呼吸を始めた。大きく息を吐いて、吸い込む。
誰にでもできる簡単な深呼吸だが、これを須賀京太郎は丁寧に行った。目的を達するため、自分を支配する必要があった。
姉帯豊音と未来を守りたいという願いと退魔士としての大義の間で揺れる不安定な心を何としてもおさめなければならなかった。
この時二代目葛葉狂死は静観していた。少し距離をとったままで動かない。普通に考えると合理的ではない行動。しかし必要だった。
二代目葛葉狂死も仕切りなおす必要だったのだ。姉帯豊音の成長を喜ぶ心と須賀京太郎をほめる心を鎮める時間である。
二代目葛葉狂死も須賀京太郎の実力を認めているのだ。心を統一する必要があった。
須賀京太郎が深呼吸を四回完成させたところで二代目葛葉狂死が動き出した、この時の二代目葛葉狂死と須賀京太郎について書いていく。
それは須賀京太郎が精神集中を行った後のことである。
乱れていた心をたった一つに集中させた須賀京太郎の前に、戦いの覚悟を決めた二代目葛葉狂死が現れた。
孫娘を甲板に静かにおろし何処からともなく剣を取り出していた。孫娘に対する二代目葛葉狂死は良いお爺さんにしか見えなかった。
しかし須賀京太郎を見る目は退魔士の目のままだった。そんな二代目葛葉狂死は孫娘に対して封印術を仕掛けた。
軽く指を振って六芒星・カゴメの模様を描いた。すると甲板に下された姉帯豊音と未来の姿が消えた。姉帯豊音を中心にして球体上に空間が失われていた。
切り取られた球体の直径二メートルほど、ヘルを縛った牢獄サイズだった。
「まっしゅろしゅろすけ」
の干渉を鬱陶しがった結果である。姉帯豊音と未来の姿が消えたが須賀京太郎は冷静だった。姉帯豊音と未来の気配を嗅ぎ取っていた。
そんな須賀京太郎に二代目葛葉狂死がこう言っていた。
「驚かないな。ベンケイあたりが見せていたか? それとも十四代目の糞狸か?」
世間話をするような気軽さだった。そんな二代目葛葉狂死に須賀京太郎はこういった。
「ハギヨシさんが」
同じく世間話の調子だった。須賀京太郎の返事を聞いて二代目葛葉狂死がこう言った。
「ハギヨシ? 封印術は下手だった気がするが」
冗談らしい口調だった。目は笑っていなかった。この口調を受け止めて須賀京太郎はこういった。
「部屋の片づけに使っていました。異界を創りだしてそこに衣さんのゴミを放り込んで……」
本当のことだったが冗談のように語って見せた。精神統一は済んでいる。焦れたりしない。すると二代目葛葉狂死が大きくため息をついた。そしてこういった。
「まったく何を考えているのか……衣ちゃんもずいぶんだらしない。ハイテクな時代だ。少し頑張ればいいだけのことなのに」
すると須賀京太郎はうなずいた。そしてこういった。
「同感です。見た目はいいのに」
すると二代目葛葉狂死も肯き返した。なかなか気が合うようだった。ただ、気が合うからこそ戦いが避けられないとお互い理解できた。
説得や交渉は無駄だった。
183: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/10(土) 23:53:19.70 ID:EQqxFP/W0
会話が終わって一秒後二代目葛葉狂死と須賀京太郎は殺し合いを始めた、この時の二代目葛葉狂死と須賀京太郎のぶつかり合いについて書いていく。
それは二代目葛葉狂死と須賀京太郎がわずかな会話で目の前の退魔士をバカと見抜いた後のことである。二代目葛葉狂死は剣を構えた。派手さは一切ない。
正眼の構えである。ただ構える武器は両刃の剣。しかし陰陽葛葉と同じ種類の存在だった。魔鋼を大量に使用して神々を生贄に創る呪物。
そこにあるだけで弱い悪魔を消滅させる力を持つ魔剣・陰陽葛葉である。魔剣の登場とほぼ同時に須賀京太郎の肉体が「ラグナロク」の火の膜で包まれた。
須賀京太郎の皮膚の上に薄く表れた火の膜は青かった。皮膚に張り付くように展開されているため須賀京太郎は青い皮膚を持つ怪物のように見えた。
灰色の髪の毛に金色の目が合わさるとアスラの類にしか見えなかった。そうして向き合った二人だがわかりやすい殺意はかけらも見えなかった。
眉間にしわがよることも、目が鋭くなることもない。呼吸も整っている。こうなると、剣を構える老人と拳を構える青年がむき会っているだけに見えた。
ただ、それは見た目だけの話。二代目葛葉狂死と須賀京太郎の周囲はひどい瘴気で満ちている。凶悪な殺意のぶつかり合いで周囲の空気が傷ついた。
このようになってしまったのはお互いに抹殺だけが目的になっているからだ。いらないものをごっそり捨てて、二人とも穏やかに見えた。
見事なものだったが、すぐに崩れた。構えが完成した時点で問答無用の一撃をお互いが撃ち込んだからだ。特にいう事はない。
剣を構えたのだから振り下ろして切り裂く。拳を固めて構えたのだから、打ち込んで砕く。これだけである。後のことはかけらも考えていなかった。
「どうすれば目の前の存在を抹殺できるのか」
という自問に対しての答えがこれだった。だから実行した。全身全霊をかけて一発を撃ち込む。
仮にカウンターを仕掛けられようが構わないという心構えで打ち込んだ。そうしてお互いに傷を負った。
二代目葛葉狂死の剣は須賀京太郎の左の鎖骨を砕き肋骨まで届いた。一方須賀京太郎の拳は二代目葛葉狂死の左胸を撃った。
この打ち合いの結果、足場になっているナグルファルの甲板が吹っ飛んだ。船首から半径五十メートルが、余波で崩れたのだ。
二人の圧力に耐えられなかった。しかしナグルファルも広大な地獄を取り込んでいる。内部に無数のひびが入っただけである。
あと二回は耐えられる。二回を越えて打ち合えば砂の城のように崩れ落ちるだろう。
仕切りなおしてからの一撃目が終了して二代目葛葉狂死と須賀京太郎は動かなくなった、この時の二人の様子について書いていく。
それはナグルファルの甲板が台無しになり、内部構造に致命的な被害が出てからのことである。
べコリとへこんだ甲板のど真ん中で二代目葛葉狂死と須賀京太郎がにらみ合って動かなくなっていた。
しかし二人とも健在である。呼吸もしているし鼓動もしている。抹殺の意志もある。だが動けなかった。お互いがクサビになっているのだ。
これは攻撃の結果である。須賀京太郎の肉体には剣が深く入り込んでいる。「ラグナロク」の青い皮膜を切り裂いて、肉体に剣が食い込んだままだ。
「ラグナロク」の青い火が剣を徐々に削っていたが、剣が崩壊するまで数分はかかるだろう。
また、二代目葛葉狂死の左胸には須賀京太郎の右拳が撃ち込まれている。胸の肉を貫いて、肋骨で拳は止まっている。
須賀京太郎の腕力ならば撃ち込めたはずだが、剣が邪魔をしてあと数十センチを打ち抜けなかった。こうなるとお互いに動けなくなってしまう。
下手に動けばお互いの攻撃が心臓に到達するからだ。獣二体が喰い合ってかみ合ったは良い。しかし殺しきれなかった。
しかも牙が食い込んでいるため、引くに引けない。そうなって二人は微妙なバランスの上でどうするかと悩むことになった。ただ逃げる方法ではない。
殺す方法を考えた。目の前の男が一番の障害物だと確信した結果だった。
二代目葛葉狂死と須賀京太郎がにらみ合いを初めて五秒後二人に変化が起き始めた、この変化について書いていく。
それはお互いの抹殺を企んだ結果動けなくなった獣二匹がにらみ合っている時のことである。
にらみ合っている二代目葛葉狂死と須賀京太郎の顔色が悪くなっていった。
須賀京太郎は火の膜で包まれているためわかりにくかったが、明らかに呼吸が乱れていた。この変化が起きた理由はお互いの武器にある。
というのが、二人の武器が毒になっていた。まず須賀京太郎の肉体に食い込んでいる剣。
普通でもよくない状態だが、二代目葛葉狂死の剣には大量の悪魔の魂が使用されている。魔鋼というのは悪魔の魂から創る物質である。
良質の魔鋼を大量に使用した剣は大量の悪魔の集合体。二代目葛葉狂死の剣を見るだけで心身喪失状態になる人間もいる。
そうなって魔剣・陰陽葛葉が肉体を切り裂いて肉体内部でとどまっているというのは良い状態ではない。
そして須賀京太郎。須賀京太郎を包む火の皮膜というのはロキの火である。こんなものが肉体の中にあり続けるというのは良いわけがない。
メギドだろうと触れれば焼き尽くすのだ。貫かれて生きているのが不思議だった。二人の顔色が悪くなったのは、お互いの毒のためだ。
動けない今だからこそ、じわじわと効いていた。
184: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/10(土) 23:56:47.15 ID:EQqxFP/W0
二代目葛葉狂死と須賀京太郎が削り合いを初めて十秒後横やりが入った、この時に入ってきた横やりについて書いていく。
それはお互いがお互いの毒で死に向かっている時のことである。二代目葛葉狂死と須賀京太郎はこの期に及んでまったく引こうとしなかった。
顔色は非常に悪くなっていたが、命を奪うという目的は全く消えていなかった。
むしろ自分の毒が相手に届いていると察してからは、我慢比べを良しとしていた。策略は一切ない。じわじわと削り合っていれば確実に難敵が死ぬ。
ならば我慢するだけだった。しかし、耐久戦を良しとしたのは本人たちだけだった。
そうして横やりが入ったのが削り合いが始まって十秒後、二代目葛葉狂死と須賀京太郎があと少しで死ぬというところだった。
一番に横やりを入れたのは二代目葛葉狂死の部下だった。ナグルファルから少し離れたところで待機していた小型の霊的決戦兵器たちが一気に近寄ってきた。
小型の霊的決戦兵器は全部で十二体。北欧神話をモチーフとしていない簡素な装備の部隊だった。
この小型の霊的決戦兵器が現れると亡霊のまとめ役ハチ子が須賀京太郎の命令を実行に移した。
ナグルファルの崩壊した船首付近に禍々しい門が一瞬にして現れた。ハチ子が呼び出したのは現世への門である。須賀京太郎の命令は
「敗北したら、逃げ出せ」
であるからタイミングが早かった。また、須賀京太郎を巻き込む形で現世へ逃げようとしている。
命令に反しているとハチ子もわかっていたが、何のためらいもない。双方の関係者は命令よりも「王」が大事だった。
部下たちが横やりを実行した直後姉帯豊音の封印が解けた、この時の状況について書いていく。
それは限界を知らない我慢比べに部下たちが止めに入った時のことである。極小の異界に封じられていた姉帯豊音と未来がナグルファルの甲板に戻ってきた。
切り取られていた甲板ごと帰還した姉帯豊音は帰還と同時に転がることになった。
戻ってきた甲板が大きくへこんでいて、帰還と同時に二代目葛葉狂死と須賀京太郎の方へずり落ちたのだ。
「まっしゅろしゅろすけ」によって守られている姉帯豊音と未来であるから怪我はない。しかし夢の中で溝に落ちるような驚きがあった。
そうして姿を現した姉帯豊音と未来である。すぐに状況確認を始めた。というのが二代目葛葉狂死によって封じられたと理解している姉帯豊音である。
封印が解けたということは勝負が決したということと解釈していた。
二代目葛葉狂死も須賀京太郎も良く似たタイプの人間であるから、中途半端なことはしないと覚悟していた。
ただ、そうして確認を進めていった姉帯豊音は生きている退魔士二人を見つけた。
べコリとへこんだ甲板の中心で我慢大会をしている二代目葛葉狂死と須賀京太郎の姿を見つけたのだ。これを見つけて姉帯豊音は呆気にとられた。
何が起きているのかわからなかった。しかし問題が起きていることはわかった。
そんなところに十二体の霊的決戦兵器が現れ、現世へ向かうための門が現れた。この二つの変化に対して姉帯豊音は冷静だった。
「おじいちゃんと須賀君なら自分が負けた時の命令も決めているはず」
と納得がいった。二代目葛葉狂死と須賀京太郎の性格を理解できていたので特に困らなかった。
十二体の霊的決戦兵器は祖父の作戦で巨大な門は須賀京太郎の作戦だと判断していた。
特に巨大な門についてはハチ子が呼び出していた門とそっくりだったので予想がつきやすかった。
このようにして状況を確認していると、べコリとへこんだ甲板がついに包囲されてしまった。
十二体の霊的決戦兵器に囲まれて、須賀京太郎の終わりの時が近づいていた。また、現世へ続く門だが、これはほんの少ししか開いていなかった。
術者の技量の問題である。全長一キロメートルのナグルファルが通る門である。大きくなりすぎて開くのに時間がかかっていた。
十二体の霊的決戦兵器がナグルファルの甲板を占拠した後姉帯豊音が大きな声を出した、この時の霊的決戦兵器たちと姉帯豊音について書いていく。
それは強大な力を持つ霊的決戦兵器が十二体も現れて甲板を占拠したすぐ後のことである。状況を確認した姉帯豊音が大きな声を出した。
普段の彼女なら全く出せないような大声だった。
「オロチちゃん! 私はここにいる!」
怒声としか言いようがなかった。しかししょうがない。自分の祖父がとんでもない事件を引き起こした挙句
「今からでも遅くないからやめて」
と頼んでも全く聞かない。また自分を守るといった須賀京太郎は何を考えたのか命がけの我慢比べに興じている。
背負っている未来の重さを感じている姉帯豊音からすれば、この二人の行動はただ腹が立つ。
そうして姉帯豊音が大きな声を出している間に、二代目葛葉狂死の肉体は完全に回復していた。肉体の損傷は消え、毒もどこかへ去っていった。
顔色も良くなっている。当然である。霊的決戦兵器達が最高の回復魔法を仕掛けたのだ。一方で須賀京太郎は死に掛けたままだった。
185: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:00:40.93 ID:0u6VSuLa0
剣は肉体に食い込んだまま、呼吸は苦しいままである。状況は悪化の一途をたどっている。しかし拳を緩めることはなかった。
むしろ逆境が火の出力を上げていた。
姉帯豊音がオロチの名前を呼んだあと二代目葛葉狂死が須賀京太郎の腕を切り落とした、この時の二代目葛葉狂死と須賀京太郎について書いていく。
それは二代目葛葉狂死の肉体が再生された後のこと。須賀京太郎の身を包む「ラグナロク」の火が出力を上げた。絶体絶命の状態である。
しかしそれは追い風になり、火力を上げた。今まで青かった火は徐々に白くなり、火が白くなるにつれ周囲の温度を上げた。
火が出力を上げていく間に、二代目葛葉狂死は須賀京太郎を蹴り飛ばした。肉体が再生し活力が戻ってきている二代目葛葉狂死である。
死に掛けの須賀京太郎を蹴り飛ばすくらい容易いことだった。
そうなって蹴り飛ばされた須賀京太郎はナグルファルの甲板ぎりぎりのところまでふっとばされた。ぎりぎりのところで柵に助けられた。
だが受け止めた柵は衝撃でへこみきしんでいた。しかし蹴り飛ばした二代目葛葉狂死も無傷ではない。蹴り飛ばした右足が重度の火傷を負っていた。
蹴り飛ばすその瞬間も須賀京太郎の火の温度が上がっていた。だが蹴り飛ばされたところで須賀京太郎の温度の上昇は止まり冷え始めていた。
左鎖骨から深く切り込まれた傷跡が蹴られた衝撃で開き、出血多量からくる意識混濁を起こしたのだ。
須賀京太郎のサポートをしているロキ、具足たちが傷口を必死で塞ごうとしていた。しかしうまくいかなかった。剣の毒のためである。
そんな須賀京太郎だが、戦いの姿勢を崩さなかった。転落防止用の柵を支えにして立ち上がって構えていた。
「ラグナロク」の火も使用できない上に回復魔法もない状態であるけれど、やる気だった。
意識混濁状態にあって須賀京太郎を立たせたのは意地とも呼べない本能であった。理由はまったくわからないけれども
「立ち上がり戦え」
と叫ぶ自分がいた。そうして立ち上がった須賀京太郎を見て二代目葛葉狂死は攻撃を仕掛けた。剣を振りかぶって唐竹割を狙った。油断はなかった。
全身全霊で殺しにかかった。しかし当てられなかった。強い衝撃がナグルファル全体を襲ったからだ。衝撃のため須賀京太郎が吹っ飛んで狙いがそれた。
結果、右上腕二頭筋あたりを剣が通過していた。ただ剣は間違いなく通過したため須賀京太郎の右腕はなくなってしまった。
須賀京太郎の右腕が切断された後二代目葛葉狂死の部下たちが撤退を進言した、この時の状況について書いていく。
それは須賀京太郎が右腕を持っていかれた直後である。二代目葛葉狂死の部下たちが大きな声で撤退を進言した。彼らはこういっていた。
「オロチ出現!」
部下たちの必死な声が響いていた。それもそのはずである。開きかけだった門が完全に開き切り、門の向こうから怪物が現れていた。
巨大な門を軋ませながらあらわれたのは、巨大な蛇。葦原の中つ国の土台になっているオロチの化身である。これが地獄に現れていた。
そうして現れるだけなら構わないが現れた瞬間から霊的決戦兵器たちに対して敵意を隠さない。輝く赤い目がギラついて恐ろしい。
また、この巨大な蛇だが一匹だけではなかった。ナグルファルの甲板に須賀京太郎と姉帯豊音の姿を確認すると、ナグルファルの周囲に複数の門が現れた。
そして門が現れると同時に乱暴に開かれて、そこから次々と巨大な蛇が現れた。初めに現れた蛇と同じく超巨大なうえに、敵意で満ちた目を向けていた。
ナグルファルとニーズヘッグよりもはるかに大きく、世界樹さえ締め上げられるサイズの蛇である。
流石の霊的決戦兵器たちでもこれを相手にするのは難しかった。しかし複数の巨大な蛇が現れても二代目葛葉狂死は撤退を選ばなかった。
一瞬だけ巨大な蛇に視線を向けていたが、須賀京太郎にしか興味がなかった二代目葛葉狂死は須賀京太郎を殺すと決めたのだ。
そのため何が何でもやるつもりだった。
二代目葛葉狂死と霊的決戦兵器たちが一瞬目を離している時須賀京太郎は幻覚を見ていた、この時に須賀京太郎が見ていたモノについて書いていく。
それは巨大な蛇たちが進撃を始めた時のことである。右腕を切断されて死に掛けの須賀京太郎が甲板に転がっていた。
もともと大量の出血で意識があいまいになっていた須賀京太郎である。右腕を失った今意識を保つのも難しかった。しかし両目だけは動いていた。
この時の両目の動きは不規則だった。また焦点があっていない。現実を見ていないように思えた。実際、甲板に転がっている須賀京太郎は幻覚をみていた。
転がっている須賀京太郎の顔を覗き込む、真っ黒い人の幻覚である。須賀京太郎の視界にある狼と牡牛、そして蛇のようにはっきりした幻覚ではない。
影が肉体を持ったような気持ちの悪い幻だった。須賀京太郎を覗き込んでいる黒い影は何か伝えようとしていた。
声ではなく身振り手振りで伝えようとしている。声はまったく発さない。しかし黒い影の言いたいことは伝わった。すると須賀京太郎は小さな声でこう言った。
「やるよ。右腕ならくれてやる」
黒い影に対する返答を聞いていたのはロキだけだった。独り言だと理解した。
黒い影の存在を知らないロキにとって須賀京太郎の返事は妄言にしか聞こえなかった。しかし須賀京太郎の返事の後黒い影に変化が起きた。
肉体を持たない黒い影に人間の右腕が生えたのだ。須賀京太郎の右腕に見えた。
186: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:03:54.37 ID:0u6VSuLa0
黒い影に右腕が生えた後二代目葛葉狂死が須賀京太郎にとどめを刺しに来た、この時の二代目葛葉狂死と周囲の状況について書いていく。
それは姉帯豊音の呼び声に応えてオロチの化身が次々姿を現している時のことである。
二代目葛葉狂死は平然と剣を構え、死に掛けの須賀京太郎の下へ歩き出した。
ナグルファルの周囲を取り囲む超巨大な鋼の蛇たちなどよりも、死に掛けている須賀京太郎を殺しておきたかった。
「殺すと決めたから」
というのもある。それ以上に生かしておくと巨大な障害になると直感が叫んでいた。しかし二代目葛葉狂死が動き出すと巨大な蛇たちも黙っていなかった。
数えきれない触角を生み出して二代目葛葉狂死の下へ送り出した。触角は、長い黒髪を持ち輝く赤い目を持つ人間の少女の形をとっていた。
産みだされた触角たちは可憐な少女である。しかし上級悪魔相当のエネルギーを秘めていた。そうなって産みだされてきた触角たちはかなり頑張っていた。
とくに小型の霊的決戦兵器達に優勢だった。数の有利で押していた。一方で二代目葛葉狂死には手も足も出なかった。
単純に二代目葛葉狂死がオロチの戦術と武術を上回っていた。オロチの触角たちなど二代目葛葉狂死からすれば可憐な少女扱いで十分だった。
そのため、須賀京太郎の下へ簡単に二代目葛葉狂死はたどり着いた。もともと百五十メートルほどしか離れていなかったのだ。
襲い掛かってくる健気な少女たちを切り捨てながらでも三秒と掛からなかった。しかし須賀京太郎の姿を見て二代目葛葉狂死は後悔した。
もう少し急げばよかったと思った。右腕を失ったはずの須賀京太郎に新しい右腕が生えていたからである。
須賀京太郎の新しい右腕を発見した時二代目葛葉狂死は全身全霊で攻撃を仕掛けた、この時の二代目葛葉狂死の攻撃と、老人が見たものについて書いていく。
それは須賀京太郎まであと八メートルというところまで近づいた時である。二代目葛葉狂死は奇妙なものを見た。須賀京太郎の銀色の右腕である。
その腕は細かった。骨のように細い。一応肉がついていた。しかし有刺鉄線を固めて創った歪な肉であった。また長かった。
健在である左腕と比べると三十センチほど長い。骨のように細く異様に長いというだけでも目を引くが、最も特徴が表れているのは指先である。
病的な細さの指先に刃が生えていた。それも日本刀のような鍛造された刃である。これが五本ぎらついているのは不吉だった。
またこの右腕の持ち主に視線をずらしていくと持ち主に大きな変化が起きているとわかる。肌の色が褐色に変わっていた。
この変化を遂げた須賀京太郎が起き上がろうとしているのを見て、二代目葛葉狂死は全身全霊の一撃を撃ち込んだ。
自分を取り囲んでいるオロチの触角たちを完璧に無視したまま、須賀京太郎の命だけを狙って切り込んだ。
この時二代目葛葉狂死の剣にはマグネタイトの刃が付け加えられていた。マグネタイトの輝きを放つ緑色の刃は葛葉流の退魔術。
一度切り損ねたのだ、油断はなかった。
二代目葛葉狂死の攻撃の後須賀京太郎が動き出した、この時の二代目葛葉狂死と須賀京太郎のやり取りについて書いていく。
それは二代目葛葉狂死が攻撃を仕掛けたその時におきた。今までゆったりと動いていた須賀京太郎が攻撃を回避して見せたのだ。
須賀京太郎の回避の仕方は獣としか言いようがなかった。両足両手背中の筋肉をすべてを利用して獣のように飛び跳ねていた。
武術の気配が全くない回避の仕方であるから、非常に不格好だった。しかしその素早さは驚異的だった。一瞬二代目葛葉狂死の視界から外れる速度があった。
そうして二代目葛葉狂死の攻撃を回避した直後須賀京太郎は無表情だった。二代目葛葉狂死に静かな表情のまま金色の目を向けていた。
この時須賀京太郎と見つめあった二代目葛葉狂死は
「畜生になったか」
と思った。須賀京太郎の変貌をみて、悪魔に堕ちた人間と重ね合わせた。しかしすぐに間違いだと教えられた。
二代目葛葉狂死の目を見て須賀京太郎がこう言ったのだ。
「さぁ、第二ラウンドだ。
続きをやろう、二代目葛葉狂死」
すると二代目葛葉狂死は小さく笑った。可笑しかった。そして小さな笑いは大きな笑いに変わっていった。
この間にもオロチの触角たちが襲い掛かっていたが軽々と捌いていた。笑いながらオロチをさばくので、遊んでいるように見えた。
突如笑い始めた二代目葛葉狂死を見て須賀京太郎は困った。笑うところは一つもなかったからだ。
お互い真面目に戦っていたのだから、笑うのはおかしかった。そうして須賀京太郎が気を悪くしていると二代目葛葉狂死はこういった。
それは姉帯豊音の呼び声に応えてオロチの化身が次々姿を現している時のことである。
二代目葛葉狂死は平然と剣を構え、死に掛けの須賀京太郎の下へ歩き出した。
ナグルファルの周囲を取り囲む超巨大な鋼の蛇たちなどよりも、死に掛けている須賀京太郎を殺しておきたかった。
「殺すと決めたから」
というのもある。それ以上に生かしておくと巨大な障害になると直感が叫んでいた。しかし二代目葛葉狂死が動き出すと巨大な蛇たちも黙っていなかった。
数えきれない触角を生み出して二代目葛葉狂死の下へ送り出した。触角は、長い黒髪を持ち輝く赤い目を持つ人間の少女の形をとっていた。
産みだされた触角たちは可憐な少女である。しかし上級悪魔相当のエネルギーを秘めていた。そうなって産みだされてきた触角たちはかなり頑張っていた。
とくに小型の霊的決戦兵器達に優勢だった。数の有利で押していた。一方で二代目葛葉狂死には手も足も出なかった。
単純に二代目葛葉狂死がオロチの戦術と武術を上回っていた。オロチの触角たちなど二代目葛葉狂死からすれば可憐な少女扱いで十分だった。
そのため、須賀京太郎の下へ簡単に二代目葛葉狂死はたどり着いた。もともと百五十メートルほどしか離れていなかったのだ。
襲い掛かってくる健気な少女たちを切り捨てながらでも三秒と掛からなかった。しかし須賀京太郎の姿を見て二代目葛葉狂死は後悔した。
もう少し急げばよかったと思った。右腕を失ったはずの須賀京太郎に新しい右腕が生えていたからである。
須賀京太郎の新しい右腕を発見した時二代目葛葉狂死は全身全霊で攻撃を仕掛けた、この時の二代目葛葉狂死の攻撃と、老人が見たものについて書いていく。
それは須賀京太郎まであと八メートルというところまで近づいた時である。二代目葛葉狂死は奇妙なものを見た。須賀京太郎の銀色の右腕である。
その腕は細かった。骨のように細い。一応肉がついていた。しかし有刺鉄線を固めて創った歪な肉であった。また長かった。
健在である左腕と比べると三十センチほど長い。骨のように細く異様に長いというだけでも目を引くが、最も特徴が表れているのは指先である。
病的な細さの指先に刃が生えていた。それも日本刀のような鍛造された刃である。これが五本ぎらついているのは不吉だった。
またこの右腕の持ち主に視線をずらしていくと持ち主に大きな変化が起きているとわかる。肌の色が褐色に変わっていた。
この変化を遂げた須賀京太郎が起き上がろうとしているのを見て、二代目葛葉狂死は全身全霊の一撃を撃ち込んだ。
自分を取り囲んでいるオロチの触角たちを完璧に無視したまま、須賀京太郎の命だけを狙って切り込んだ。
この時二代目葛葉狂死の剣にはマグネタイトの刃が付け加えられていた。マグネタイトの輝きを放つ緑色の刃は葛葉流の退魔術。
一度切り損ねたのだ、油断はなかった。
二代目葛葉狂死の攻撃の後須賀京太郎が動き出した、この時の二代目葛葉狂死と須賀京太郎のやり取りについて書いていく。
それは二代目葛葉狂死が攻撃を仕掛けたその時におきた。今までゆったりと動いていた須賀京太郎が攻撃を回避して見せたのだ。
須賀京太郎の回避の仕方は獣としか言いようがなかった。両足両手背中の筋肉をすべてを利用して獣のように飛び跳ねていた。
武術の気配が全くない回避の仕方であるから、非常に不格好だった。しかしその素早さは驚異的だった。一瞬二代目葛葉狂死の視界から外れる速度があった。
そうして二代目葛葉狂死の攻撃を回避した直後須賀京太郎は無表情だった。二代目葛葉狂死に静かな表情のまま金色の目を向けていた。
この時須賀京太郎と見つめあった二代目葛葉狂死は
「畜生になったか」
と思った。須賀京太郎の変貌をみて、悪魔に堕ちた人間と重ね合わせた。しかしすぐに間違いだと教えられた。
二代目葛葉狂死の目を見て須賀京太郎がこう言ったのだ。
「さぁ、第二ラウンドだ。
続きをやろう、二代目葛葉狂死」
すると二代目葛葉狂死は小さく笑った。可笑しかった。そして小さな笑いは大きな笑いに変わっていった。
この間にもオロチの触角たちが襲い掛かっていたが軽々と捌いていた。笑いながらオロチをさばくので、遊んでいるように見えた。
突如笑い始めた二代目葛葉狂死を見て須賀京太郎は困った。笑うところは一つもなかったからだ。
お互い真面目に戦っていたのだから、笑うのはおかしかった。そうして須賀京太郎が気を悪くしていると二代目葛葉狂死はこういった。
187: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:07:15.58 ID:0u6VSuLa0
「この土壇場で『上級退魔士』の領域に足を踏み込んだのか。
本当に土壇場に強いな……魔人に転生した時も驚いたが、そういうところはものすごく厄介だ。
だが、まだ未熟。完全に自分を支配できていない」
このように語っている間にも大量のオロチの触角が襲い掛かっていた。しかしまったく傷つけられなかった。一方で須賀京太郎は膝をついていた。
かろうじて上半身を起こしているがぎりぎりの状態だった。左鎖骨から切り込まれた傷がまだふさがっていないのだ。
具足とロキがどうにか応急処置を行っていたが、剣の呪いと回避の衝撃で傷がまた開いていた。そんな須賀京太郎だが、諦めていなかった。
二代目葛葉狂死もしくは霊的決戦兵器が近寄ってきた瞬間に一太刀くれてやろうと考えていた。殺されるとしても一撃食らわさなければ死にきれなかった。
最後の瞬間を思い描き自分自身を須賀京太郎が激励している時二代目葛葉狂死が助言してきた、この時の二代目葛葉狂死の助言について書いていく。
それはナグルファルの甲板で須賀京太郎が必殺の空気を放っている時である。
この期に及んでまだあきらめていない須賀京太郎を見て二代目葛葉狂死は上機嫌になった。圧倒的に格上の相手に対してまったく諦めない。
その上逆境を糧にしてさらに強くなろうとするというのは素敵だった。二代目葛葉狂死にとっては最高に喜ばしかった。そんな二代目葛葉狂死である。
最後の一撃を狙う須賀京太郎を見て、こんなことを考えた。
「十四代目が弟子をとったのはこういう未熟で面白い小僧を見つけたからか。
正直、豊音ちゃんの護衛を男に任せるのは気に入らんが、今は許そう。そしてその可能性に賭けて、俺の奥義を見せ、導いてやろう。
もしかするとこの小僧に俺が殺されることがあるかもしれんが、それもまた一興」
そうしてこの結論に至った二代目葛葉狂死は須賀京太郎にこう言った。
「一つ、上級退魔士として手本を見せてやろう。
須賀君は私と同じで自分を変化させる異界創造に適正がある。今は右腕だけしか変えられないようだが、完成すれば戦闘特化形態に変じることが可能だ。
このように」
意味がさっぱりわからなかった。オロチもわからなかった。そうして困っている間に、二代目葛葉狂死の身体をマグネタイトの炎が包み込んだ。
緑色の炎が老人の身体から湧き出して、あっという間に火だるまにしてしまった。そうして一秒ほどしたところで緑色の火が消えた。
火が消えたところには身長二メートル三十センチほどの人型の悪魔が立っていた。一見すると緑と銀と白基調にした鎧武者のように見える。
しかし無駄なスペースが一切みえない。これは具足がすべてが生体装甲だからだ。
また頭部には牛のような角が二本生えているのだが、鎧武者風の生体装甲と合わさると悪魔の角にしか見えなかった。腰には剣を携えている。
魔剣・陰陽葛葉である。しかし、少し長くなっていた。身長がかなり伸びているのでそれに合わせて伸びていた。忠義者の剣だった。
この形になった二代目葛葉狂死だが、すぐに元の姿に戻った。手本を見せることが目的だからだ。これで十分だった。
二代目葛葉狂死の奥義を見た後須賀京太郎は息をのんでいた、この時の須賀京太郎とロキについて書いていく。
それは葛葉流異界操作術の近距離戦闘応用編を見た直後である。須賀京太郎はただ驚いていた。目を大きく開いて、じっと二代目葛葉狂死を見つめている。
というのも思っている以上に二代目葛葉狂死が高いところにいたからだ。そして大幹部というのはすさまじい力を持っているのだなと感心した。
強い強いとは思っていたが、実際に目の前で見せつけられると格の違いを感じてしまう。ただ諦めはなかった。
須賀京太郎が驚いたのは目の前で見せられた技術の素晴らしさを理解できるからなのだ。ここにあるのは単純な称賛の気持ちしかない。
「ものすごくておどろいた」
これだけである。折れる理由がなかった。一方でマントになっているロキは小さく震えていた。
二代目葛葉狂死が須賀京太郎の上位互換だと見抜いたからである。須賀京太郎の勝っているところなど身体操作のセンスと腕力くらいしかないだろう。
あとは完全に負けていた。組織力で負けカリスマ性で劣る。異界操作の技術は比べるまでもない。熟練者と入門者の差がある。
全てを踏まえて勝負に挑めば確実に敗北する。これは非常につらい現実だった。
シギュンを解放するという目的を達成するためには目の前の二代目葛葉狂死を斃さなくてはならない。
最大の標的が須賀京太郎の上位互換なのだから、たまらなかった。ただ震えてしまう。しかし須賀京太郎と同じくロキも諦めはなかった。
須賀京太郎から流れ込んでくる精神エネルギーを受け止めたからだ。
死に掛けの小僧がやる気満々なのに、相乗りしている自分があきらめるわけにはいかなかった。意地があった。
188: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:10:38.64 ID:0u6VSuLa0
須賀京太郎とロキが戦意を見せた後二代目葛葉狂死たちは撤退した、この時の二代目葛葉狂死と部下たちについて書いていく。
それは圧倒的な力量差を見せつけられたにもかかわらず須賀京太郎とロキが立ち向かう意志を見せた少し後のことである。
全く心が折れていないところを見て二代目葛葉狂死はうなずいた。そしてオロチの触角たちをいなしながらこういった。
「今回は私の負けだ。横やりを入れたのは私の部下だ。だから私の負けで良い。
しかし必ずもう一度やろう。今度は一対一で、お互い全力で最後までだ。今度は最初から全開でやってやろう。
心配せずとも私たちの目的は交わることがない。私は人類を救済するために天国を創る。君は豊音ちゃんを守りたい。
この二つの目的は絶対に同居できない。必ずぶつかり合う。
君が自分を御しきれるのならば、そして勝ち抜けるのならばチャンスはあるだろう」
このように二代目葛葉狂死が語ると須賀京太郎は小さく笑った。そして肯いた。血の気が失せていたが金色の目の輝きは強まっていた。
これを見て二代目葛葉狂死はこういった。
「それではな須賀君。
次に顔を合わせるまで豊音ちゃんを預けておく……節度ある付き合いを私は望んでいるぞ。十四代目もそうだろう。
さらばだ。みんな退却するぞ!」
このように語ると、二代目葛葉狂死と部下たちは宣言通り撤退した。巨大な蛇たちが邪魔していたが、簡単に逃げられた。
二代目葛葉狂死の異界操作術が上手だった。逃げられた時巨大な蛇たちは非常に悔しがっていた。輝く赤い目がぎらぎらしていた。
二代目葛葉狂死と部下たちが撤退した後須賀京太郎に異変が起きた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音の行動について書いていく。
それは二代目葛葉狂死が力の差を見せつけて部下たちを率いて撤退した後のことである。死に掛けだった須賀京太郎がいよいよ倒れこんで動かなくなった。
肉体に負っているダメージはもともと即死級。左鎖骨から深く切り込まれている上に右腕を切り落とされ、我慢比べをやった時に剣の毒を受けている。
また異形の右腕が生まれているのもマグネタイトの消耗を激しくさせて、いよいよ須賀京太郎を追い込んでいた。
そうして須賀京太郎が動かなくなると甲板を埋め尽くしていたオロチの触角たちがあわてだした。
今まで元気そうにしていた須賀京太郎が急に動かなくなったからだ。そうしているとマントになっているロキが大きな声で叫んだ。
「ムシュフシュ! ムシュフシュを呼んで来い! ヘルもこっちへ来い! おらんよりましじゃ!」
マントになっているロキも具足たちも頑張ってはいた。しかし回復魔法を使えない彼らである。マグネタイトを操って傷をふさぐのが限界であった。
ただ、ナグルファルの船員たちがヘルたちを呼び寄せるよりも姉帯豊音が駆けつけるほうが早かった。
オロチの触角たちに守られていた姉帯豊音が戦闘終了と同時に動き出していたのだ。大幹部の祖父と戦って無事でいられるわけがないと理解していた。
そうして須賀京太郎の下へたどり着いた姉帯豊音は須賀京太郎の肩に手を触れた。自分のマグネタイトを譲ろうとしていた。
この時、マントになっているロキがこう言った。
「あぶねぇぞお嬢ちゃん! 小僧はかなり不安定じゃ! わしらに任せて下がっとけ!」
意地悪のためではない。須賀京太郎の状態が不安定になっていることを理解したうえでの警告だった。
感情の揺れが非常に激しくなっていると身を持って実感しているロキである。もしものことを考えて本心からの忠告だった。
しかも二代目葛葉狂死が大切にしている孫娘なのだ。須賀京太郎が八つ当たりに、凶行に走る可能性も考えられた。ただ姉帯豊音は引かなかった。
「まっしゅろしゅろすけ」
を一応展開しておいて須賀京太郎にマグネタイトを注ぎ込んだ。まったく引かずにエネルギーを注ぎ込む姿を見てロキは黙り込んだ。
二代目葛葉狂死と同じく決めたらやる強さがあったからだ。
そして姉帯豊音が注ぎ込むのはしょうがないと認めて具足とロキは須賀京太郎の応急処置を再開した。
マグネタイトを注ぎ込み始めて十秒ほどでムシュフシュとヘルが姿を現した。ハチ子が門を開いてからの登場だった。人間並みの力しかヘルは持たないのだ。
門を開く必要があった。しょうがなかった。ナグルファルは広いのだ。
189: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:15:24.91 ID:0u6VSuLa0
二代目葛葉狂死たちが撤退して直ぐ後須賀京太郎はどうにか持ち直していた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音について書いていく。
それはどうにか戦いを切り抜けた後のことである。ようやく須賀京太郎の容態が安定した。
甲板に現れたムシュフシュとヘルが必死になって回復魔法をかけてマグネタイトを注ぎ込んだ結果である。
思った以上に時間がかかったのは、我慢比べの後遺症があったからである。二代目葛葉狂死の剣の毒が思った以上に須賀京太郎の体を蝕んでいた。
ムシュフシュとヘルは回復魔法の専門家ではない。そのため、毒素の浄化に時間がかかったのだ。
そうして回復した須賀京太郎なのだが、完全に元通りとはいかなかった。まず肌の色と右腕が戻らなかった。骨のように細い銀の右腕は今もそこにある。
肌の色も褐色のままだ。戻らない。金色の目も同じくである。バトルスーツも具足も状態が悪い。ズタズタになっていた。
ただ、須賀京太郎自身は特に問題がなさそうだった。右腕が異形のものへ変わっていたが、動じていなかった。
神経は通っていたし自分の肉体だと確信できたからだ。しかし本調子ではなかった。そんな須賀京太郎を見て姉帯豊音がこんなことを言った。
「少し休んだほうがいいよ」
すると須賀京太郎はこういった。
「大丈夫っす。俺のことよりも二代目葛葉狂死ですよ」
自分のことはどうでもよさそうだった。回復魔法を受け終わったのだ。戦える。問題ないと判断していた。
そうして落ち着いてくるとオロチの触角を須賀京太郎が見つめた。というのも沢山いた触角だが一人だけになっていた。
今まで甲板を埋め尽くしていたのだ。いなくなるとさみしかった。このたった一人の触角は連絡用に残された触角である。
そんな触角は切断された右の腕を拾って、持ってきてくれた。異形の銀色の腕と交換させるつもりだった。異形の右腕より人の右腕の方が好きだった。
この長い黒髪を引きずるオロチに須賀京太郎はこういった。
「ありがとうオロチ。助かった。お前がいてくれなかったらどうなっていたことか。
ここで起きたことをヤタガラスに伝えてくれるか? オロチが信頼できる退魔士たちに伝えてくれ。情報の伝達は出来るだけ正確にお願いしたい」
すると髪を引きずるオロチがうなずいた。赤い目が力強く輝いている。いつも不機嫌そうにしている須賀京太郎が自分を敬っていたからだ。
ポーカーフェイスが消えているので普段は隠している敬意が透けていた。そうしてオロチにお願いをした須賀京太郎だが、大きくふらついた。
甲板を吹き抜けた風に押された。強い風だった。しかし普通ならふらつくような風ではない。
これを見て、風で翻るスカートを抑えながら姉帯豊音がこう言った。
「ヘルちゃん、休めるところはある? 貸してほしいんだけど」
すると回復魔法を撃ち込んで疲れているヘルがこう言った。
「もちろん大丈夫ですよ。ハチ子ちゃん、門を開いてあげて」
するとヘルの側で成り行きを見守っていたハチ子が門を開いた。門が開くと須賀京太郎はこういった。
「いらないって言ってるっしょ」
少し怒っていた。大丈夫だといった手前引けなかった。そんな須賀京太郎を姉帯豊音は無視した。そしてこう言った。
「オロチちゃん、須賀君を運んであげて。それじゃあ、ゆっくり休ませてもらうね」
すると須賀京太郎にオロチが襲い掛かった。切断された右腕は放り出していた。須賀京太郎は当然抵抗した。しかしあっさりオロチにつかまって転ばされた。
肉体と精神がかみ合っていなかった。チューニングが必要だった。抵抗できないとわかると、しょうがないとあきらめた。
そしておとなしくオロチの肩に担がれた。情けない格好だった。そうして情けない格好のまま担がれると、姉帯豊音たちは門に直行した。
そしてヘルが用意してくれた部屋に到着するとすぐに須賀京太郎はベッドに放り込まれた。放り込まれると同時に
「まっしゅろしゅろすけ」
によって拘束されてしまった。調子が良くなるまで封印だとベッドの横で姉帯豊音が笑っていた。放り出された右腕はハチ子が回収していた。
右腕自体はどうしようもないが、右腕の籠手を王に渡すべきだと考えたのだ。
190: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:18:02.75 ID:0u6VSuLa0
姉帯豊音によって須賀京太郎が封印された後ヘルたちが姿を現した、この時に行われた作戦会議について書いていく。
それは須賀京太郎が大人しく封印されている時のことである。須賀京太郎たちが利用している部屋にヘルたちが現れた。
ハチ子の門からヘルたちがぞろぞろと入ってきたのだ。入ってきたのはムシュフシュ、ハチ子、ヘルの三人だった。
須賀京太郎が封印されている部屋はかなり広かったので全く問題なかった。三人が姿を現すと未来をあやしていた姉帯豊音がこう言った。
「良い部屋だね。見晴らしもいいし」
するとヘルがこう言った。
「そうでしょう、そうでしょう。一番いい部屋ですもの。京太郎ちゃんは私たちの王様。一番良い部屋にするのは当然です」
ヘルが王様というと横になっている須賀京太郎が嫌そうな顔をした。面倒くさかった。
須賀京太郎の嫌そうな顔は同じくベッドに寝転がっているオロチしか見ていなかった。
「まっしゅろしゅろすけ」
の拘束の上にオロチが寝転がっているのだ。オロチが寝転がっているのは、特に理由はない。姉帯豊音に接する調子で接していた。
須賀京太郎が嫌そうな顔をしているところで、ロキがこんなことを言った。
「ナグルファルは後どのくらいで動けるかな我が娘よ。地獄を創った存在の名が明かされ、目的が知れた今この世界にこだわる理由はない。
小僧の回復を待って行動しても構わんが……安全のため葦原の中つ国へ移動するくらいはしておいた方がいいじゃろう。
見たところ葦原の中つ国はこちらの味方じゃ、二代目葛葉狂死の力を身をもって知った今、どこにいても安心はできんが、出来るだけ安全なところで立て直しを図りたい」
すると亡霊のまとめ役の一人ハチ子が答えた。若干不機嫌だった。須賀京太郎の右腕が原因である。右腕から漂う血液の良い匂いに発狂しそうだった。
しかし何とか自分を保っていた。ハチ子はこういっていた。
「あと十分もあれば動き出せます」
ハチ子の答えを聞いてロキはこういった。
「ならば準備が完了と同時に葦原の中つ国へ向かうということでええな小僧」
すると須賀京太郎はこういった。
「もちろん喜んでと言いたいところだが、オロチに許可を取らないとだめだ。
なぁオロチ、葦原の中つ国へお邪魔しても構わない? 何かお土産が必要だったりする? 使用料とかは」
須賀京太郎が問いかけると寝転がっていたオロチがこう言った。
「特に何もいらないぞ。ナグルファルは京太郎の部下だろ? 葦原の中つ国の利用は構成員ならば無料だ。当然部下にも適応される。
私の機嫌を取りたいというのなら、いくらでもお土産をくれていいぞ。お菓子でもジュースでもマグネタイトでも受け取ろう」
すると須賀京太郎はこういった。
「後でマグネタイトを渡すよ。
ナグルファルはデカいから、賄賂を渡しておかないとな」
このように須賀京太郎が冗談を言うとオロチが驚いた。感情の揺れが大きくなっている須賀京太郎はただの好青年だった。新鮮だった。
マントになっているロキと寄生している具足たちそして金色の目は気に入らないがこれは大満足だった。
次の目的地が葦原の中つ国に決まってすぐのこと須賀京太郎にハチ子が質問をした、この時の質問と須賀京太郎に起きた異変について書いていく。
それはナグルファルの次の行き先が決まってすぐのことである。亡霊のまとめ役の一人ハチ子が、須賀京太郎に質問をした。こう言っていた。
「あの、右腕はどうされますか? 右腕はその……生えているから不要かもしれませんが、右腕の籠手は再利用できそうだったので」
するとベッドに封印されている須賀京太郎がはっとした。そしてこういった。
191: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:21:37.66 ID:0u6VSuLa0
「ありがとうハチ子さん。そういえばそうだったわ。完全に忘れてた。
なぁロキ、右腕の籠手なんだけどどうにかできない?」
するとマントになっているロキがこう言った。
「んん? 右腕自体はどうしようもねぇが、籠手くらいならどうにかなるかもしれんな。
すまんがお嬢ちゃん、『大慈悲の加護』を少し緩めてくれんか。上半身を起こせるように頼むぞ」
すると姉帯豊音が軽く指を振って封印を緩めた。腕の中で笑っている未来を見つめながらの解除だったが、きっちり上半身だけ封印が解けていた。
そうして須賀京太郎の上半身が自由になると、マントになっているロキがこう言った。
「良し、それじゃあ右腕をこっちに持ってきてくれ。籠手を左腕に移す。
そんで、移植が終わったら右腕はどうする小僧? 銀色の右腕を引っこ抜くわけにはいかんじゃろう?
引っこ抜いてもまた銀色の右腕が生えてくるだけじゃろうし」
ロキがこのように語っている間にハチ子が右腕を持ってきた。そして血液が滴る右腕を須賀京太郎に差し出した。
差し出された右腕を受け取って須賀京太郎はこういった。
「どうするって言われてもな、俺の血が呪物扱いになるから下手に廃棄できねぇし。後で焼却処分だろ」
そうして答えている間に、右腕の籠手が左腕に移動した。ロキが軽く呪文を唱えるだけで二つの籠手は一つになった。
ただ、二つの籠手が一つになると模様が変わった。四つの目と耳を持つ奇妙な神のレリーフはそのままだが、牡牛に狼そして蛇のレリーフが加わった。
同時に須賀京太郎の肉体を守っていた鎧、すね当てからレリーフが消えうせて、力を失った。力を失った鎧とすね当ては白い砂に変わった。
具足の変化に皆がすぐに気付いた。上半身を起こしていたので鎧が砂に変わるのがわかったのだ。分かりやすかった。
こうなるとバトルスーツのボロボロ加減がよくわかる。特に二代目葛葉狂死との戦いで負った傷、またラグナロクの火をまとうことのリスクを教えてくれる。
というのがバトルスーツの魔鋼は崩壊寸前だった。
修行中に集めた魔鋼を材料にして創ってもらった装備品なので、崩壊寸前になっているのを見ると心が痛んだ。
愛車のフロントガラスがダメになり落ち込んでいたディーの気持ちを今なら百パーセント理解できた。
須賀京太郎ががっくりしていると、マントになっているロキがこう言った。
「そんなにへこむなや小僧。ちょっと待っとけ治しちゃる。小僧の切断された右腕を使えばええ」
このように須賀京太郎を慰めるとマントになったロキは呪文を唱えた。
すると須賀京太郎の生身の右腕がマグネタイトへと変換されはじめ、緑色の光の粒に変わった。そうして呪文が進むにつれて右腕の影も形もなくなった。
生み出された緑色の粒たちはうねりながらバトルスーツに染み込んでいった。染み込んでいくとバトルスーツの魔鋼が脈を打った。
ボロボロなのは変わらないが、崩壊は食い止められた。また若干の変化があった。バトルスーツに血管らしきものが浮かび上がったのだ。
心臓から血管らしきものが四方八方に伸びていて、全身に赤いラインを描いていた。これを見て姉帯豊音はこういった。
「うわぁ須賀君。どこからどう見ても悪役だよー! このままアメコミに殴り込みをかけても大丈夫だよ!」
このように姉帯豊音が評価すると須賀京太郎は照れた。褒めているとは思えなかったロキは困っていた。これはほかの面々も同じだった。
ただ須賀京太郎も姉帯豊音も喜んでいたし褒めていた。
周囲の者たちが須賀京太郎と姉帯豊音の美的センスを疑っていた時ベッドに寝転がっていたオロチがお願いをしてきた、この時のお願いについて書いていく。
それは須賀京太郎の新しいバトルスーツを姉帯豊音がほめている時のことである。
ベッドに寝転がっているスタンダードなオロチが須賀京太郎に這いよっていった。這いよってくる様は天江衣とよく似ていた。
這いよってきたオロチは須賀京太郎の腹に衝突した。そして衝突した後に須賀京太郎を見上げてオロチはこういった。
なぁロキ、右腕の籠手なんだけどどうにかできない?」
するとマントになっているロキがこう言った。
「んん? 右腕自体はどうしようもねぇが、籠手くらいならどうにかなるかもしれんな。
すまんがお嬢ちゃん、『大慈悲の加護』を少し緩めてくれんか。上半身を起こせるように頼むぞ」
すると姉帯豊音が軽く指を振って封印を緩めた。腕の中で笑っている未来を見つめながらの解除だったが、きっちり上半身だけ封印が解けていた。
そうして須賀京太郎の上半身が自由になると、マントになっているロキがこう言った。
「良し、それじゃあ右腕をこっちに持ってきてくれ。籠手を左腕に移す。
そんで、移植が終わったら右腕はどうする小僧? 銀色の右腕を引っこ抜くわけにはいかんじゃろう?
引っこ抜いてもまた銀色の右腕が生えてくるだけじゃろうし」
ロキがこのように語っている間にハチ子が右腕を持ってきた。そして血液が滴る右腕を須賀京太郎に差し出した。
差し出された右腕を受け取って須賀京太郎はこういった。
「どうするって言われてもな、俺の血が呪物扱いになるから下手に廃棄できねぇし。後で焼却処分だろ」
そうして答えている間に、右腕の籠手が左腕に移動した。ロキが軽く呪文を唱えるだけで二つの籠手は一つになった。
ただ、二つの籠手が一つになると模様が変わった。四つの目と耳を持つ奇妙な神のレリーフはそのままだが、牡牛に狼そして蛇のレリーフが加わった。
同時に須賀京太郎の肉体を守っていた鎧、すね当てからレリーフが消えうせて、力を失った。力を失った鎧とすね当ては白い砂に変わった。
具足の変化に皆がすぐに気付いた。上半身を起こしていたので鎧が砂に変わるのがわかったのだ。分かりやすかった。
こうなるとバトルスーツのボロボロ加減がよくわかる。特に二代目葛葉狂死との戦いで負った傷、またラグナロクの火をまとうことのリスクを教えてくれる。
というのがバトルスーツの魔鋼は崩壊寸前だった。
修行中に集めた魔鋼を材料にして創ってもらった装備品なので、崩壊寸前になっているのを見ると心が痛んだ。
愛車のフロントガラスがダメになり落ち込んでいたディーの気持ちを今なら百パーセント理解できた。
須賀京太郎ががっくりしていると、マントになっているロキがこう言った。
「そんなにへこむなや小僧。ちょっと待っとけ治しちゃる。小僧の切断された右腕を使えばええ」
このように須賀京太郎を慰めるとマントになったロキは呪文を唱えた。
すると須賀京太郎の生身の右腕がマグネタイトへと変換されはじめ、緑色の光の粒に変わった。そうして呪文が進むにつれて右腕の影も形もなくなった。
生み出された緑色の粒たちはうねりながらバトルスーツに染み込んでいった。染み込んでいくとバトルスーツの魔鋼が脈を打った。
ボロボロなのは変わらないが、崩壊は食い止められた。また若干の変化があった。バトルスーツに血管らしきものが浮かび上がったのだ。
心臓から血管らしきものが四方八方に伸びていて、全身に赤いラインを描いていた。これを見て姉帯豊音はこういった。
「うわぁ須賀君。どこからどう見ても悪役だよー! このままアメコミに殴り込みをかけても大丈夫だよ!」
このように姉帯豊音が評価すると須賀京太郎は照れた。褒めているとは思えなかったロキは困っていた。これはほかの面々も同じだった。
ただ須賀京太郎も姉帯豊音も喜んでいたし褒めていた。
周囲の者たちが須賀京太郎と姉帯豊音の美的センスを疑っていた時ベッドに寝転がっていたオロチがお願いをしてきた、この時のお願いについて書いていく。
それは須賀京太郎の新しいバトルスーツを姉帯豊音がほめている時のことである。
ベッドに寝転がっているスタンダードなオロチが須賀京太郎に這いよっていった。這いよってくる様は天江衣とよく似ていた。
這いよってきたオロチは須賀京太郎の腹に衝突した。そして衝突した後に須賀京太郎を見上げてオロチはこういった。
192: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:24:30.21 ID:0u6VSuLa0
「なぁ京太郎。いつになったらその目をやめるんだ? 私の赤い目は気に入らないのか?
京太郎は私のことを嫌いになってしまったんだな」
すねている天江衣のような調子であった。
「面倒くさいことを言い出したな」
と思いながら須賀京太郎は困った。目がかなり泳いでいた。というのがオロチの言っていることがわからなかったのだ。
「目の色のパターンは、普通の色と赤色以外にない」
と須賀京太郎は思っていた。押し付けられた赤い目も落ち着いていれば表に出てこないと実証している。
今は落ち着いているのだから普通の人の目をしているに違いないというのが須賀京太郎の認識である。当然だが金色の目になっているとは思っていない。
なぜなら鏡を一度も見ていない上に誰も指摘していない。だから困った。須賀京太郎が困っていると姉帯豊音がはっとした。
姉帯豊音がはっとした時にはほかの面々もはっとしていた。一度指摘するタイミングを逃した上に、問題が続出したため忘れていた。
そうして周囲の者たちが可笑しな反応を見せると須賀京太郎は不安げにこう言った。
「えっ? もしかして俺の目の色変わってんの? 赤色じゃなくて? まじで? ちょっといいオロチ、今の俺の目何色?」
不安でいっぱいといった調子の須賀京太郎を見てオロチが困った。まさか自分の状態を理解していないとは思っていなかった。オロチはこういった。
「目は金色で、肌は褐色……前に京太郎とディーがつれていた女の肌と同じ色」
これを聞いて須賀京太郎はふらついた。結構な衝撃だった。一つ一つの衝撃は小さいが重なると痛かった。怪物の右腕というのはそれほどショックではない。
それほどショックではないのだ。ヤバいとは思うが、騒ぐほどではない。また目の色が変わっているというのもそれほどショックではない。
オロチから押し付けられた時も何とかした経験が生きている。肌の色もまた同様にそれほどショックではない。
褐色というのならば、健康的な肌色になったと笑える。しかし三つ重なるときつかった。流石にふらついた。
須賀京太郎がふらつくところを見てオロチは心配した。感情が見えやすくなって心配しやすくなっていた。
須賀京太郎が微妙にショックを受けている時まとめ役の一人梅さんが鏡を持って現れた、この時の須賀京太郎と梅さんについて書いていく。
それはオロチに指摘されてようやく自分の容姿に変化があると理解した時である。部屋にチャイムの音が響いた。
チャイムの音にヘルが応えると実体を手に入れた梅さんが鏡を持って現れた。実体を手に入れた梅さんは一層迫力が増していた。
普通のおばあさんにしか見えないが立ち振る舞いに年長者の切れがあり、逆らうのが難しい空気だった。特に須賀京太郎は完全に抵抗の気配がない。
実体を手に入れた梅さんから漂う頼れる年長者の風格に打倒されていた。そうして現れた梅さんは足音を立てずに部屋の中へ入って、ヘルに手鏡を渡した。
そしてこの時ちらりとベッドの上を見た。視線は須賀京太郎に一瞬だけ向かいすぐに寝転がっているオロチに集中した。
この視線の動きを見て須賀京太郎はまずいと思った。天江衣を説教するハギヨシの目とそっくりだった。
梅さんから手鏡を受け取ったヘルはすぐに須賀京太郎に渡してくれた。手鏡を受け取った須賀京太郎はこういった。
「ありがとう」
そしてすぐに自分の変化を確かめた。そして確かめて呆然とした。思った以上に人相が悪くなっていたからだ。灰色の髪の毛に輝く金色の目に褐色の肌。
どう言い訳しても日焼けではごまかせない色合いだった。一番無理だろうと思ったのが金色の目である。
言葉通り輝いているうえにどう見ても畜生の目だった。実際に確認してみるとかなりのショックだった。そうして
「悪魔よりも悪魔らしい」
などと須賀京太郎が落ち込んでいる時寝転がっているオロチを梅さんが見つめていた。
梅さんは少しも視線を隠す気配がなく、周囲のものは完全に威圧されていた。見つめられているオロチも気づいていた。しかし動けなかった。
天江衣と一緒にいた時の経験「コカジスコヤ」との出会いが、警報を鳴らしていた。ただ、警報がいくらなってもどうしようもなかった。
梅さんが動き出したからだ。落ち込んでいる須賀京太郎に梅さんが話しかけたのである。こう言っていた。
「王様。この少女はいったいどういう事ですか?」
かなり怒っていた。怒気百パーセントの声だった。オロチが震えた。
193: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:28:07.03 ID:0u6VSuLa0
オロチが震えて数分後のことナグルファルは葦原の中つ国へ移動を始めた、この時の須賀京太郎たちの動きとオロチについて書いていく。
それはスタンダードなオロチを梅さんが引っ張っていった数分後のことである。いよいよ二代目葛葉狂死が創った地獄すべてがナグルファルに収容された。
今まであった暗黒の空も黒の地面もなくなり、真っ白い空間と世界樹だけが残った。
そうして地獄のすべてがナグルファルに収容されると巨大な蛇が口を開いた。
山のように大きな頭が思いきり口を開くと軽々とナグルファルを飲み込める広がりができた。
この蛇の口の向こうにはぬらぬらとしたヘビの舌と暗黒の食道が待ち受けていた。巨大な蛇が口を開くとナグルファルは浮かび上がった。
十メートルほど浮かび上がってゆっくりと蛇の口の中へ入っていった。ヘビの口の中を通りぬけ葦原の中つ国へ移動するためである。
全長一キロメートルの巨大な船ナグルファルを楽々呑み込める巨大さは
「さすがにオロチ」
の一言に尽きた。飲み込まれていく途中須賀京太郎たちは特にすることもないのでのんびりしていた。
須賀京太郎はベッドの上で上半身を起こしたまま、ベッドのそばに姉帯豊音が椅子に座り未来をあやしている。
ムシュフシュとハチ子は未来に赤ちゃん言葉で話しかけていた。実に穏やかな京太郎たちだった。
ここにいない梅さんとヘル、そしてオロチは着替え中である。梅さんがオロチを見て
「軽々しく肌を見せるものではありません。破廉恥ですよ」
と言って叱り、どこかへと引っ張っていった。オロチも逆らおうとした。しかし思った以上に梅さんの力が強く逆らえなかった。逆らえない上にヘルが
「それなら私がいい服を見繕って……いや、創ってあげる!」
といって乗ってきたので、余計に止められなかった。怪物たちの闘う戦場を経験したことでヘルのストレスがひどいことになっていたのだ。
ただやはり無表情だった。しかしジェスチャーは激しかった。
そうして別室に連れて行かれオロチが色々されている間に、蛇の口を通ることになったのだった。
ナグルファルが完全に呑み込まれてしまうと、蛇の頭たちも姿を消した。蒸気機関の門も消えて後に残ったのは白い空間と世界樹だけになった。
巨大な蛇の食道をナグルファルが通り抜けている時須賀京太郎に姉帯豊音が話しかけてきた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音について書いていく。
それはムシュフシュとハチ子がオロチの着替えのために呼び出された後のことである。須賀京太郎とロキ、姉帯豊音と未来だけの部屋が出来上がった。
静かな部屋だった。須賀京太郎は上半身を起こしてベッドで休み、姉帯豊音はベッドの近くの椅子に座り、未来をあやしていた。二人とも無言だった。
しかし無言を二人とも問題としていなかった。ただ、須賀京太郎も姉帯豊音も凪いでいるので部屋の空気は妙だった。
こうなった時一番苦しかったのがマントになっているロキであった。この空気の中に取り残されるのは拷問だった。空気が読めるからこそ苦しい時間だった。
なにせ須賀京太郎と姉帯豊音の関係性が大きく変わっている。今までは単なる護衛の関係、踏み込んでみてもせいぜい友達以上恋人未満といったところ。
しかし今は二代目葛葉狂死の孫娘と、二代目葛葉狂死を狙う退魔士。地獄を創った張本人の大切な孫娘と、地獄を創ったものに激怒した魔人である。
となって、無言でいる理由を想像してロキは苦しくなった。
須賀京太郎と姉帯豊音がそれなりに良い関係性であると知っているロキであるから、余計に苦しかった。
そうしてマントになっているロキが苦しんでいると未来を抱いている姉帯豊音が須賀京太郎に話しかけてきた。姉帯豊音は穏やかな口調でこう言った。
「ごめんね」
誰に対しての言葉なのか、どういう意味での言葉なのか、非常にあいまいだった。視線は未来に向いている。しかし口調は須賀京太郎のためのもの。
この一言の意味を言葉だけで理解するのは難しい。実際
「ごめんね」
と言われた須賀京太郎も難しい顔をしてしまった。眉間にしわを寄せて、視線をあさっての方向へ向けていた。
しかしすぐに須賀京太郎は真面目な顔になった。姉帯豊音が何を言わんとしているのか理解できた。そして少しの間目を閉じて、思いを巡らせた。
自分の心を伝えられる言葉を探していた。無骨者であるから、時間が必要だった。そして数秒の沈黙を持って須賀京太郎はこういった。
194: ◆hSU3iHKACOC4 2016/09/11(日) 00:31:26.69 ID:0u6VSuLa0
「未来を任せます」
これまたどうにでも取れる言葉であった。しかしどうにでも取れる謝罪にはふさわしかった。実際
「未来を任せます」
と返事をきいて姉帯豊音はほほ笑んでいた。須賀京太郎の一言が姉帯豊音の存在を許し、そしてその先まで認めていることを察したのである。
そして須賀京太郎らしい答えだと思い、喜んでいた。ただ、微笑みはすぐに陰った。
今の一言を放てる須賀京太郎だからこそ、一層自分がふさわしくないと思えてしょうがなかった。何せ大罪人の孫娘。ふさわしいわけがない。
この時マントになっているロキは悶えていた。須賀京太郎と姉帯豊音の切り合いがロキには耐えがたかった。
ジョークの一つでも飛ばしたかったが、そんな勇気はなかった。
須賀京太郎と姉帯豊音が妙な空気になってから十分後のこと上機嫌なヘルが部屋に入ってきた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音そしてヘルについて書いていく。
それは巨大な蛇の食道をナグルファルが進み始めて十分ほど経過したところである。須賀京太郎が休んでいる部屋の扉をヘルが乱暴に開いた。
無表情なのは一切変わらない。しかしかなり興奮している。身のこなしが荒々しかった。
そして乱暴に扉を開いたヘルはこんなことを言いながらベッドに近寄ってきた。
「いやぁ素材がいいと創作意欲がワクワクさんだわ! 良いわねぇ非常にいいわぁ!
京太郎ちゃんもそう思わない!?」
よほどうれしかったのかドレスの裾をまくって大股で歩いていた。
梅さんに見つかったら間違いなく嫌味を言われるだろうヘルだが、ベッドを視界に入れると動きを止めた。ベッドの上を見たからである。
特におかしなものを見たわけではない。姉帯豊音がベッドに腰掛けて須賀京太郎と談笑していた。それだけである。やましいことは一切ない。
妙に距離が近いだけで、本当にやましいことは須賀京太郎にも姉帯豊音にもない。なぜなら須賀京太郎に未来を抱かせるために近寄っただけだからだ。
何せ須賀京太郎は右腕は怪物の右腕である。やわらかいものを抱きしめるのは難しい。
そうなってしまうと姉帯豊音と須賀京太郎の距離はどうしても近くなる。どうしようもなかった。
であるから非常に合理的な発想で姉帯豊音と須賀京太郎は近づいただけである。ただ、他から見ると非常にやましい光景に見えた。
イチャついているようにしか見えなかった。十年近く独房で過ごしたヘルにとっては刺激が強すぎた。固まるのもしょうがないことである。
ヘルが固まって数秒後ドレスアップしたオロチが部屋に戻ってきた、この時の須賀京太郎と姉帯豊音そしてオロチについて書いていく。
それはベッドの上でいちゃついている須賀京太郎と姉帯豊音を見てヘルが固まっている間のことである。須賀京太郎と姉帯豊音が少しだけ距離を取った。
姉帯豊音が未来を腕に抱いて、椅子に座りなおしていた。この時須賀京太郎も姉帯豊音も平然としていた。やましさは一切見せなかった。
というのも、礼儀作法の問題として距離を取っただけなのだ。
一対一なら近づいていても問題はないが、流石にヘルたちが戻ってくるとわかればヘルたちがいるときの距離間で動くのが須賀京太郎と姉帯豊音の流儀だった。
流儀なのだから、やましさはない。そうして二人が自然と距離をとっているところで、部屋の扉が開かれた。入ってきたのはオロチたちだった。
一番に入ってきたのはオロチ。二番目はムシュフシュで三番目はハチ子、最後に梅さんである。一番見た目が変わっていたのはオロチだった。
髪の毛をツインテールに変えてバトルスーツ風のワンピースを着て、足元はロングブーツを履いていた。
髪の毛だが非常に長いのでドリルのように巻いていた。バトルスーツ風のワンピースは須賀京太郎の着ていた物をベースにデザインされている。
上半身に鎖帷子のような装飾、背中に丈の短い赤いマント。牡牛と狼と蛇をイメージした銀の飾りが胸元で光ってチャーミングだった。
ロングブーツもまたバトルスーツのデザインを女性向けに変えた物である。全体としてみると奇抜な仕上がり。
上半身のラインが出やすい黒い変形ワンピースを着て黒いブーツを着たツインテールの少女である。普通なら「なし」のコーディネートである。
しかし成立していた。モデルがよかった。このオロチが現れると須賀京太郎と姉帯豊音がはしゃいだ。姉帯豊音は未来を抱えたままこういっていた。
「可愛い! 可愛いよオロチちゃん! 裏社会のドンの娘っぽい!」
すると須賀京太郎もはしゃぎながらこういった。
「こういうのも似合うんだなオロチ。超巨大なスナイパーライフルとか担いでそう」
二人に邪心はない。本心からの超高評価である。ただ褒められたオロチは少し困っていた。素直に喜べない単語が転がっていたからだ。
ただ、須賀京太郎も姉帯豊音も本当に褒めてくれているので悪い気はしなかった。
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