魔女「私は魔女です!」男「病院行け」 前編

330: 2011/02/06(日) 16:18:40.85 ID:LD6eLgoSO
―――男の家



パラッ

男「……」

パラッ、パラッ

男「魔眼、か……」

男「魔術よりもヴァンパイアよりも眉唾物だが……」

パラッ、パラッ

男「……」

パラッ、パラッ

魔女「難しい本読んでますね」ヒョコッ

男「うぉっ!」ガタッ

魔女「わっ!」

男「ま、魔女か……」

魔女「そんなにビックリしましたか?」

男「き、気付かなかった……」

魔女「余程集中してたんですね。何の本ですか?」

男「いや、これは……」パタンッ

魔女「ファンタジー用語辞典?」

男「やべっ!題名見えてる!」サッ

魔女「何で隠すんですか?別に疾しい本じゃないじゃないですか」

男「そうだが……」

魔女「……?」

男「……」

魔女「あっ!もしかして、カモフラージュ!」

男「違う」

魔女「じゃぁ、何でですか?」

男「……はぁ、正直に告白するよ。恥ずかしかったんだ」

魔女「恥ずかしい?」

331: 2011/02/06(日) 16:19:22.70 ID:LD6eLgoSO
男「ちょっと物語書いててさ」

魔女「素敵じゃないですか!」

男「それで、魔眼ってのを使おうと思って探してたんだ」

魔女「魔眼……ですか…」

男「あぁ。何せ魔法と違って現実には無い物だから、どうリアリティー出そうかで迷って迷って」

魔女「うーん……確かに難しいですよね」

男「……何か意見くれないか?」

魔女「魔眼ってアレですよね。人を魅了するって言う魔力の瞳」

男「そうだな」

魔女「心にパッと踏み込めるなんて時点で、そもそも非現実的ですからね……」

男「……」

魔女「もう、フィクションとして割り切るしかないんじゃないですか?」

男「やっぱりそう思う?」

魔女「現実性持たせるのはちょっと無理が有りますね」

男「……有り難う。参考になった」

魔女「いえいえ。完成したら見せて下さいね」

男「約束する」

魔女「絶対ですよ」

男「あぁ」

ガチャ
バタン

男「……」

男「無ぇのかよ……」

332: 2011/02/06(日) 16:22:16.20 ID:LD6eLgoSO


コンコンコン

姉「誰?」

「おれだ」

姉「愚弟か。さっさと入れよ」

ガチャ

男「いや、着替えか  中だったらマズいと思って」

姉「今まで気にしたこと無いクセに」

男「……ホントは姉さん一人か確認したんだ」

姉「……えっ?」ドキッ

男「鎖骨砕かれたくなかったら、その顔を止めるんだな」

姉「つれねぇの」

男「つられてたまるか」

姉「で、何の用?」

男「……恋の話」

姉「うっそぉ!マジで!?相手誰!?お姉ちゃんの知ってる人?」

男「座るぞ」

姉「どうぞどうぞ!あ、お茶注ごうか?」

男「要らない」

姉「そっか。それで、どんな恋?禁断系?許されない系?」

男「……女同士の恋ってどんなの?」

姉「 嗜好!?」

男「おれじゃない。友達の話」

姉「あー、うん。友達ね……」シュン

男「何でがっかりしてんだよ」

姉「ま、あたしは女の子に恋したことないから上手く言えないんだけどさ……」

男「うん」

姉「普通じゃないの?」

男「普通、か……」

姉「そこに社会的な障壁が在っても、恋は恋。綺麗で純真だよ」

333: 2011/02/06(日) 16:23:09.27 ID:LD6eLgoSO
男「……人付き合いが苦手な子が居てさ」

姉「うん」

男「その子は初めて出来た同性の友達に惚れてるって言ったんだ」

男「それって普通なのか?」

男「唯、舞い上がってるだけとか勘違いしてるだけって可能性が在るんじゃないのか?」

姉「その子は……自分で好きだって自覚してたワケだ」

男「あぁ」

姉「なら、そりゃ恋なんでしょ」

男「でも……」

姉「良い言葉教えてやろうか?」

男「何?」

姉「恋はインフェニティ!」

姉「どんな風に芽生えるかも!どんな風に転ぶかも!どんな風に実かも!それは神さえ知らない!」

姉「それが恋って代物なのさ!!」

男「……」

姉「判ったかい?」

男「言ってて恥ずかしくないか?」

姉「……少し」

男「まぁ、助かったよ」

姉「して、どうすんの?」

男「明日、謝罪と応援かな」

姉「失礼な反応しちゃったんだな」

男「しちゃったんだ」

姉「土下座してこい」

男「どうしようもなかったらな」

334: 2011/02/06(日) 16:24:00.30 ID:LD6eLgoSO
―――高校



教師「……では、これで朝のHRを終わる。提出物が有ったら直ぐに出してくれ」

男「先生」スッ

教師「どうした?」

男「三人程来ていませんが、遅刻ですか?」

教師「いや、休みだ」

男「……休み?」

教師「風邪だよ、風邪」

男「風邪って……そんな、休む程なんですか?」

教師「いや、そこまで酷くはないらしい。37度2分ってとこか。明日から中間テストだから用心してんだろ」

男「……成る程」

教師「他に無いか?」

男「有りません」

教師「あー、他の奴等も風邪には気を付けろよ」

335: 2011/02/06(日) 16:25:46.66 ID:LD6eLgoSO

男「……偶然…」

男「……」

男「へい!カモンッ!」

テクテク

サッカー部員1「どしたん?」

男「盾役代行」

サッカー部員1「……は?」

男「ウゼェ教師の目からおれを守る仕事を授けよう」

サッカー部員1「何するつもりだ」

男「あの三人がサボりかどうか電話して確かめんだよ」

サッカー部員1「メールじゃダメなのか?」

男「誤魔化しが効くだろうが」

サッカー部員1「電話でも出来るだろ」

男「訓練も積んでねぇ高校生が、素早く完璧な演技をこなせると思うか?」

サッカー部員1「……無理だな」

男「だろ?さぁ、早く教師とおれの直線上に立ち給え」

サッカー部員1「へいへい」テクテク

男「ご協力感謝感激雨霰」パカッ

ピポパピ
プルルル、プルルル
ガチャッ

男「もしもし」

『はい。どちら様ですか?』

男「あー、お宅の娘さんの友達ですかね」

『まぁ!あの子の!』

男「えぇ。風邪を引かれたとの話を聞きまして、心配になって電話をさせて頂きました」

『そうだったの……』

男「娘さんは今、御自宅で?」

『自室の方に』

男「少し声を掛けたいのですが、よろしいですかね?」

『済みません。今、眠ってまして』

男「あぁ、それなら無理に起こすのも可哀相ですね」

『折角お電話してもらったのにごめんなさいね』

男「いえいえ。娘さんによろしくお伝えください」

『分かりました』

男「それでは」

ピッ

336: 2011/02/06(日) 16:27:26.16 ID:LD6eLgoSO
サッカー部員1「どうだった?」

男「んー、まぁ、60%だな」

サッカー部員1「何が?」

男「真である確率」

サッカー部員1「……なんか、お前疑い過ぎだよ」

男「そういう立場なんだよ」

サッカー部員1「知ってるけどさ、友達関係はラフでいけよ」

男「残念。それとは別件だ」

サッカー部員1「……?」

男「まぁ、警戒したいお年頃なんだよ」

サッカー部員1「……良く判んねぇ。ってか、他の奴等に電話しなくて良いのか?」

男「意味無いだろうからしねぇ」

サッカー部員1「いや、そんなに手間じゃねぇんだから聞けば良いだろうが」

男「……吾が歩み遅く勘所は遥か遠くに押さえるは及ばず触れさえ出来ぬ也」

サッカー部員1「あー……」

サッカー部員1「電話番号聞いてないのか」

男「……イエス」

サッカー部員1「予想してなくて」

男「……イエス」

サッカー部員1「漠迦だな」

男「全くだよ」

337: 2011/02/06(日) 16:28:19.21 ID:LD6eLgoSO
………翌日………



茶髪男子「……」カキカキ

オカッパ女子「……」ススス

茶髪男子「……」カキカキ

オカッパ女子「……」ピトッ

茶髪男子「おい」カキカキ

オカッパ女子「……何?」

茶髪男子「ひっつくな」

オカッパ女子「何で?」

茶髪男子「皆の見てる前だぜ?恥ずかしいじゃねぇか」

オカッパ女子「見せ付けようよ」

茶髪男子「それに、今は勉強だ」

オカッパ女子「後からでも出来る……」

茶髪男子「……」ナデナデ

オカッパ女子「わっ!」

茶髪男子「それこそ後からだっつーの」

オカッパ女子「……?」

茶髪男子「いちゃつく時は誰にも邪魔されたくねぇんだよ」

オカッパ女子「あっ……」

茶髪男子「分かってくれたか?」

オカッパ女子「分かった」

茶髪男子「じゃ、さっさと範囲終わらせちまおうぜ」ニッ

オカッパ女子「うんっ!」ニコッ

338: 2011/02/06(日) 16:29:46.75 ID:LD6eLgoSO

イチャイチャ

男「………なんだ…アレ……」

サッカー部員1「……さぁ?」

男「違うじゃん!何か違うじゃん!」

サッカー部員1「分かってる!分かってるよ!違和感バリバリだよ!」

男「だってあいつらあれじゃん!気配は愚か可能性の片鱗すら見せなかったじゃん!」

サッカー部員1「険悪ムード一直線でしたよねぇ!」

男「アルケミストか!アルケミストの仕業なのかっ!?」

サッカー部員1「催眠術師さん出てらっしゃい!」

テトテト

ロシア少女「驚きデスカ?」ヒョコッ

サッカー部員1「当たり前でございます!」

男「……てめぇは驚かねぇんだな」

ロシア少女「知ってましたカラ」

男「知ってた?」

ロシア少女「茶髪クンが好きなのは彼女ってコト」

男「はぁっ!?」

サッカー部員1「えっ!?マジで!?」

ロシア少女「ワタシに近付いたのもその為だったんデスヨ」

サッカー部員1「な、なんで?」

ロシア少女「簡単に言えば仲介人になって欲しかったみたいデス」

男「いや、でもアイツはっ!」

ロシア少女「どんな理屈を付けてモ、二人が恋人同士になったと言う事実は無くなりませんヨ」

男「うっ……」

ロシア少女「それとモ、茶々を入れたいんデスカ?」

男「いや……そうじゃ……」

サッカー部員1「驚いたけど……そう…だよな……。事実は事実だ……」

男「……」

サッカー部員1「な、なぁ!疑ってばっかいないで祝福しようぜ?」

ロシア少女「そうデスヨ。祝ってあげまショウ」

男「……」

男「こ、恋はインフェニティ……なのか?」

ロシア少女「良いこと言いますネ。意味は判りませんガ」

351: 2011/02/20(日) 01:15:29.41 ID:NRYq7osSO
男「はぁ……」

姉「おろ?学校に行かないのかい?」

男「行くの怖い……」

姉「いじめっ!?」

男「そんなちゃちなモンなら、まだ救いが在ったんだがな……」

姉「ふむ。いじめよりも怖いもの……」

姉「学校の怪談か」

男「何故そうなった」

姉「ならば、学校の七不思議か」

男「違いが判らないが違う」

姉「じゃぁ、何だってんだよ!」

男「ネタ切れ早いな」

姉「これ以外に思い付いたら鬼才の領域に達する」

男「……まぁ、確かにおれの悩みを当てられたら鬼才だな」

姉「ほー、そんなに難解なモンか。その正体は?」

男「……恋の着陸点」

姉「……あ、いや……また、何というか…」

男「……」

姉「え?ロマンチックが怖いの?」

男「変化が怖い……」

姉「……?恋は移るものだろ」

男「急過ぎる。着いて行けねぇよ」

姉「着いて行かなきゃ良いじゃん」

男「……」

男「そうもいかない」

姉「友情かい?」

男「そんな高貴な感情じゃないさ」

姉「ふーん……」

352: 2011/02/20(日) 01:17:17.16 ID:NRYq7osSO
魔女「恋のお話しですか?」ヒョコッ

男「うわ……」

姉「おぉ、片付けは終わったのかい?」

魔女「はい!」

男「そろそろ学校行くわ」スクッ

魔女「時間在るじゃないですか。私だけのけ者にしないで、話して下さいよ」ガシッ

男「漠迦に話しても仕方ない」

魔女「酷いです!」

姉「……成る程。ポカミスか」

男「ミスかどうかは60%だけどな」

姉「ふーん。迷ってんだ」

魔女「何の話ですか?」

姉「魔女ちゃん」

魔女「はい」

姉「そういうワケだから」

魔女「はい?」

姉「恥ずかしいってことだよ」

魔女「えー、お姉さんには相談してるじゃないですか。私も男さんの恋をサポートしたいです!」

男「おい、いつか――

姉「愚弟は黙ってろ」

男「……黙ってる」

姉「まぁ、そこはお姉ちゃんだから」

魔女「な、成る程……」

男「それで納得す――

姉「愚弟はお口チャックマンしてろ」

男「……してる」

姉「事情は飲み込めたかい?」

魔女「はい!でも、結果だけは教えて下さいね!」

姉「よかよか」

魔女「じゃぁ、私はワニスケちゃんと遊んで来ます!ゆっくりしてください!」タタタ

姉「うむ」

魔女「あっ!でも、遅刻しちゃダメですからねー!」

タタタ

姉「これで良し」

男「良しじゃねぇよ」

姉「下手に隠しても怪しまれる。これが最善の道だ」

男「おれは面倒事が増えただけじゃないか」

姉「別に面倒でも何でも無い」

男「違ぇよ!解決策ぐらい判る!問題はその後だろうが!」

姉「別に面倒でも何でも無いし」

353: 2011/02/20(日) 01:18:05.83 ID:NRYq7osSO
男「面倒だよ!あいつ絶対慰めるぞ!」

姉「慰めてもらえよ。哀れんでもらえよ」ニヤニヤ

男「判ってんじゃねぇか、愚姉っ!」

姉「キヒヒッ」

男「クソッ!学校行って来る」

姉「怖いんじゃなかったのかい?」

男「どーでも良くなったよ!」

姉「そりゃ良かった」

男「……ッチ」

ガチャ

姉「ああ、ちょい待ち」

男「あ?」

姉「あれはちゃんとしたのかい?」

男「したよ。朝一で」

姉「そう。んじゃ、いってらっしゃい」ヒラヒラ

男「……いってきます」

バタン

男「はぁ……」

ロシア少女「朝から大変デスネ」

男「……ッ!」

ロシア少女「お早ようございマス」

男「てめぇ、何時から…」ギロ

ロシア少女「怖い顔しないで下さいヨ。ワタシがアナタを待っていたら変デスカ?」

男「一緒に登校したいってか?」

ロシア少女「登校では無いデス」

男「あ?」

ロシア少女「男サン、一緒に公園に行きまセンカ?」

男「……公園?」

354: 2011/02/20(日) 01:20:05.55 ID:NRYq7osSO
―――公園



ロシア少女「ハイ、どうゾ」スッ

男「ん」

ロシア少女「コーラで良かったんデスカ?」

男「コーラ好きだし」

ロシア少女「へェ、初耳デス」

男「嗜好の話なんか振らねぇからな」カシュッ

ロシア少女「そして今飲むト…」

男「目覚ましになる」グビッ

ロシア少女「コーラ程度の刺激で目が覚めるんデスカ?」

男「此処の自販機にレモン果汁100%の飲み物があるんだったら、そっちのが良いんだがな」

ロシア少女「フフッ!失礼しまシタ。確かニ、そんなモノは売っていませんネ」

男「で、目的は何だ」

ロシア少女「……怒りませんカ?」

男「殴りはしねぇ、とだけ言っとく」

ロシア少女「冒険デス」

男「冒険?」

ロシア少女「学校サボってみたかったんデスヨ」

男「おれの役割は?」

ロシア少女「道連れデス」ニコッ

男「帰る」スクッ

ロシア少女「待って下さいヨ。ジュース奢ったじゃありませんカ」

男「返そうか?てめぇにぶっかけて」

ロシア少女「そんな間接キスは嫌ですネ」

男「……ったく」ストッ

ロシア少女「帰らないんデスカ?」

男「少しぐらい付き合ってやるよ。おれも真面目に学生やってるワケじゃねぇからな」

ロシア少女「流石デス」ニコッ

男「感謝しろ」

ロシア少女「アリガトゴザイマス」

男「誠意が足りねぇ。叩頭ぐらいしてみせろ」

ロシア少女「乙女に土下座を強要デスカ。悪趣味な人デス」

男「てめぇ程じゃねぇよ」

ロシア少女「……ワタシが何カ?」

男「サボり場所に公園ってのを選んだ」

ロシア少女「それが悪趣味?」

男「わざわざ人目の多い所で不良行為。居心地悪いのが好きなのか?」

ロシア少女「でハ、他に何処に行けト?」

男「一人暮らしなんだ。自宅にでも籠もれよ」

355: 2011/02/20(日) 01:21:27.40 ID:NRYq7osSO
ロシア少女「アナタを無防備にも家に上げろと言うんデスカッ!?」

男「待て。おれが巻き込まれんのが必然みたいになってる」

ロシア少女「必然デス。一人は寂しいですカラ」

男「寝るかテレビでも見てろ」

ロシア少女「そんな非生産的なこと出来ませんヨ」

男「今してることも生産的とは言えねぇがな」

ロシア少女「いいエ。生産的デス」

男「そいつはつまり、大事なワケ有りってことだな。学校サボりたかったってのは嘘か」

ロシア少女「……口が滑りまシタ」

男「そのワケってのは何だ」

ロシア少女「どうしても知りたいデスカ?」

男「知りたいね」

ロシア少女「判りまシタ。言いまショウ」

ロシア少女「二人で行うイケナイ行為!秘密の絆が仲を深メ、親密度は急上昇!クラスの皆も二人揃っての遅れた登校を目撃シ、あれやこれやの大妄想!その内背中を押す仲間も出てきテ、意識していなかった彼もハートがドッキドキ!!」

男「……」

ロシア少女「某乙女ゲームから取りましたこの作戦!その名もトラ!トラ!トラ!」

男「……」

ロシア少女「キャー!言っちゃっタ!恥ずかしイ!」

男「……」

男「子供達元気だなー」

ロシア少女「無視するのはどうかと思いマス」

356: 2011/02/20(日) 01:23:34.55 ID:NRYq7osSO
男「うわー、あっちの犬可愛いー」

ロシア少女「ほラ、こっち見て下サイ」

男「おじいさんがランニングしてるわー。元気だわー」

ロシア少女「判りまシタ。ワタシが悪かったデス。謝りマス」

男「ははは、蝶々が飛んでる。綺麗だなー」

ロシア少女「ねェ、謝りますからこっち向きまショウヨ」

男「あ、今あの家の洗濯物が落ちたわー」

ロシア少女「おーイ」ペシペシ

男「……いや、無理。もう、お前を直視できん」

ロシア少女「冗談ぐらい笑って流してくださいヨー」

男「冗談で済ませられる許容範囲を大幅に越えてたなー」

ロシア少女「モウ!心の小さい人デス!」

男「……お前は包帯巻いた腕を抑えて、クッ!鎮まれ!俺の中に眠る野獣よ!、とかやってる人をどう思う?」

ロシア少女「痛い人だなァ、と思いますネ」

男「さっきのお前の痛さはそいつが霞む程の痛さだった」

ロシア少女「そんなにデスカッ!?」

男「いや、もう、本当に……」

男「……ッ!」ガタッ

ロシア少女「どうしまシタ?」

男「……いや、こんな痛いのと一緒にいるおれも痛い奴って思われてるんじゃないかと思ったら、戦慄が走っただけだ」

ロシア少女「酷い人デス」

男「ってなワケでおれは学校に行って来る」スクッ

ロシア少女「待ってくだサイ」ガシッ

男「放せ。もう付き合いたくない」

ロシア少女「先程の一緒にいると言ってくれタ、あの誓いは嘘だったと言うんデスカ?」

男「約束は破棄するためにある」

ロシア少女「それニ、今学校に行ったら一時限目の途中になりマス。気まずくなりますヨ?」

男「大丈夫。お前といる方が気まずい」

ロシア少女「……そうデスカ。そんなに嫌なんデスネ……」

男「あぁ。だから、さっさと放せ」

ロシア少女「それとモ、気付いちゃったんデスカ?」

357: 2011/02/20(日) 01:24:56.42 ID:NRYq7osSO
男「…何の話してんだ?」

ロシア少女「とぼけても無駄デス」

男「はぁ?意味判んねぇこと言ってんじゃねぇよ!とっとと帰せ!」

ロシア少女「強情デスネ。まァ、どっちにしろアナタを此処から出しはしまセン」

男「……ッチ」

男「おい、ヴァンパイア」

ロシア少女「何でショウ」

男「こんな人気の無い公園におれを誘って逢瀬でもするつもりか?」

ロシア少女「フフッ、やっぱり気付いているじゃないデスカ」パチン

358: 2011/02/20(日) 01:27:01.94 ID:NRYq7osSO


子供達「キャッキャッ!」

パチン

子供達「キャッ……

フッ………

老人「はっ、はっ」タタタ

パチン

老人「は……

フッ………

犬「ワンワン!」

パチン

犬「ワンワ……

フッ………



359: 2011/02/20(日) 01:29:18.21 ID:NRYq7osSO
男「……ハッ!見事に全部消えたな」

ロシア少女「しかシ、判りまセン。どうやって幻だと気付いたのデスカ?」

男「おれ達の影と他の奴らの影とじゃ、微妙に角度が違ったんだよ」

ロシア少女「良くそんなことに目がいきますネ」

男「師範から周囲の地形は常に把握しとけと教えられてね」

ロシア少女「目障りな師範デス」

男「全くだ。つうか、良いのかい?こんなに積極的になっちまって」

ロシア少女「構いまセン」

男「誰か来るかもしれないぜ?」

ロシア少女「嫌デスカ?」

男「青 は好みじゃねぇんだ」

ロシア少女「フフッ!安心してくだサイ。人払いは済んでマス」

男「準備の良いこって」

ロシア少女「そうでショウ」

男「あぁ、凄い策士だよ。だから、尚更気になるね。何故、今崩した」

ロシア少女「何をデスカ?」

男「てめぇ、おれに好いて欲しかったんじゃねぇのか?」

ロシア少女「おやおヤ、そこまで察していましたカ」

男「ハッ!最初の頃の挙動が怪しかったんだよ」

ロシア少女「成る程。でモ、安心してくだサイ。そんな道はとうに捨てていマス」

男「……あぁ、おれも判りやすかったか」

ロシア少女「とてモ」

男「迂闊だったねぇ。もうちょい漠迦を演じとくべきだったか」

ロシア少女「それニ、実験も成功した今、媚びるなんてアホな真似する必要も有りませんしネ」

男「実験……?」

ロシア少女「えェ、実験デス」ピッ

スパッ

男「いつっ!」

ロシア少女「さァ、男サン。無駄話もこれマデ」

ロシア少女「アナタの血、頂きマス」

360: 2011/02/20(日) 01:31:31.06 ID:NRYq7osSO
本日は此処まで

370: 2011/04/24(日) 11:11:03.11 ID:qGBVxCUSO
男「けっ、好きにしろ」

ロシア少女「抵抗しないんデスカ?」

男「無駄な足掻きはしねぇ。みっともないだろうが」

ロシア少女「フフッ!良い子ちゃんデス」ペロッ

男「……ッ」

ロシア少女「ン……」ピチャッピチャッ

男「うっ……」

ロシア少女「ンンッ……」チュウ

男「身体が……」ガクッ

ロシア少女「……ッ!?」ドンッ

男「うおっ!」

ロシア少女「カッ……ア……!?」

男「いってぇな。急に突き放すなよ。俺の血はそんなに不味かったか?」

ロシア少女「キッ…サマ……ッ!」

男「そう怒んな。口直しにコーラやるから機嫌直せ」ブンッ

バシャッ

ロシア少女「グッ!目ニッ!!」

男「悪い。手元狂ったわ」スッ

ロシア少女「……ッ!!」

男「このスタンガンはお詫びの品ってこで」ドッ

バチッ

ロシア少女「ア゙ア゙ァァァアアァアアアア!!」

バリバリバリバリッ

ロシア少女「ア゙……アァ……」ガクッ

バチバチッ

男「流石はヴァンパイア様。一万Vでも気絶はしねぇか」

男「なら…」スッ

男「伝承みたいに白木の杭とかだったら効くのかな」チャキッ

ドスドスドスドスッ

ロシア少女「グァッ!」

男「おぉ、刺さるねぇ」

男「なら、お次は銀の銃弾でもぶち込むか」ガサゴソ

ロシア少女「……ッ!キッサマァァァア!!」ビュンッ

男「ッ!はやっ……」バッ

ドゴッ

男「カハッ……」ミシミシミシ

ロシア少女「ラァァァァアアッ!」ブンッ

ドカッ、ドカ、ズザザザザザ

男「ッ……!」

ロシア少女「ハァ…ハァ……クソ…!」ズポッ

ロシア少女「下らねぇ真似しやがっテ……」

371: 2011/04/24(日) 11:13:33.17 ID:qGBVxCUSO
男「……………ッ…ゲホッ、ゲホッ!」

ロシア少女「ナッ!?」

男「ハァ、ハァ……、下らなくて…悪かったな……」ムクッ

ロシア少女「……タフな奴」

男「クカカッ…ケホッ!あー、タフなワケじゃねぇよ。てめぇみたいに傷は回復しねぇし」バサッ

パラパラ

ロシア少女「……?」サッ

男「そう身構えんな。これはただの服の破片さ」

ロシア少女「服ノ?」

男「衝撃を受けると硬化する夢の素材を使ったな」

ロシア少女「へェ、便利なモンが有るんですネ」

男「科学サマサマだろ」

ロシア少女「それをネタバレすんのはバカですケド」

男「ふーん、どういう意味で?」

ロシア少女「服にタネが有んなラ、その生意気な面をぶん殴れば良いってワケですヨネ?」

男「クッ…クク……アッハハハハハッ!」

ロシア少女「アァ?何笑ってやがル」

男「てめぇが素直に殴ってくれるんなら、甘んじて受けてやるよ」

ロシア少女「舐めんじゃねぇゾ、ガキ」

男「舐めてねぇよ。素直につったろ?魔力飛ばすなってことだよ」

ロシア少女「……ア゙?」

男「さっきので確信したよ。てめぇのアホみてぇな速さも、漠迦みてぇな力も、全部エネルギーぶんぶん振り回してるだけだ」

ロシア少女「愚弄すんナ。んなモンが吸血鬼の強さなワケ無いだろォガ」

男「そうでなきゃ、ゴリラ並の筋肉隠してるってことになるんだぜ?」

ロシア少女「ふざけた常識に無理矢理当て嵌めようとするからだヨ、下等庶民。ちったァ、頭使って魔法を異能っつうことに目を向けロ」

男「悪いね。こっちは法則に当て嵌めろって科学の洗脳を幼い頃から受けてんだ」

ロシア少女「巻き込まれてるってのに意地張っちゃっテ。救われないネ」

男「結構だ。まだ、誰かの救いが必要な程追い詰められてない」

372: 2011/04/24(日) 11:17:23.62 ID:qGBVxCUSO
ロシア少女「……ヘェ」ニッ

ロシア少女「この状況でんな口が利けんのカ。大した自信だナァ、オイッ!」ダッ

男「……チッ!」

ガクン

ロシア少女「エ……?」ドサッ

ロシア少女「エ……ハ…?」

男「……おー、ギリギリだねぇ」

ロシア少女「……ナ、動カ……」ググッ

男「まぁ、何だ。御愁傷様」

ロシア少女「キサマッ!何ヲ……!」

男「勘が冴えないねぇ」

ロシア少女「ア゙?」

男「さっきのほっそいヤツが杭で、おれが何となくで手足にブッ刺したと思ってんのか?」

ロシア少女「……毒針カ」

男「毒じゃねぇ。スキサメトニウムっつう即効性のお薬だ」

ロシア少女「お喋りは時間稼ぎだったワケカ」

男「戦闘中に意味無く駄弁なんかするかよ」

ロシア少女「フフッ、負けたヨ……」

男「へぇ、あっさり認めたな。もうちょい、プライド意識の高いヤツと思ってたが」

ロシア少女「無駄な足掻きはみっともないダロ?」

男「成る程ね」

ロシア少女「……男サン」

男「何だ?」

ロシア少女「ワタシの話を聞いてくれますカ?」

男「それは、どういった心境の変化で?」

ロシア少女「……向こうのヤツラは嫌いでシタ。弱みを握られていなけれバ、居座り続けることもなかったでショウ」

ロシア少女「でモ、もうその束縛も終わリ。任務を失敗したワタシは直ぐにでも消されマス」

ロシア少女「……悲しいじゃないデスカ。悔しいじゃないデスカ。そんナ、タダで使われて、タダで死ぬのハ」

男「……」

ロシア少女「アナタは対象でしたガ、嫌いではありませんでシタ」

ロシア少女「だかラ、残したいんデス。これから巻き込まれるアナタへ情報とワタシの遺言ヲ」

男「そっか……」

ロシア少女「……駄目デスカ?」

男「いや、良いよ」

ロシア少女「有り難うございマス」

男「ただし」

ロシア少女「……?」

男「こいつを打ってからな」チャキッ

ロシア少女「……薬なら既に打っているじゃありませんカ」

男「そのお話ってのは薬の効果が切れる程度に長くするつもりなんだろ?なら、新しいのが必要だと思わないか?」

373: 2011/04/24(日) 11:21:05.65 ID:qGBVxCUSO
ロシア少女「……何を言っているノカ……」

男「じゃぁ、解らないまま受け入れてろ」テクテク

ロシア少女「オ、オイッ!待てヨ!!」

男「がっついて悪いな。焦らして楽しむほどの余裕がないんだ」テクテク

ロシア少女「ーーッ!近づけば死ぬゾッ!!」

男「……なんだと?」ピタッ

ロシア少女「キサマ言ったナ!ワタシは魔力の補助を受けているト!」

男「あぁ」

ロシア少女「良く考えロ!魔力だゾ!?身体が動かせなくともエネルギーとして撃つことは出来ル!」

男「……読めないな。何故、おれにそれを教える」

ロシア少女「殺したくないからダッ!殺せばホントに任務が終わってシマウ!」

ロシア少女「だかラ、来るナッ!それ以上近付くなラ、ワタシは自分の身を守る為に力を振るわなければならなくナル!」

男「……分かった。近付けば死ぬんだな」

ロシア少女「そうダ!」

男「だったらさ……」テクテク

ロシア少女「ッ!バカッ!ヤメロ!命が惜しくないのカッ!!」

ザッ

男「殺してみせろよ。ほら、ゼロ距離だぜ?」

ロシア少女「……フザケンナ……ッ!」

男「はぁ、つまんねぇ女だな」プスッ

ロシア少女「ツッ!」

男「色々とハッタリご苦労。さて、これでおれとお前には18時間程度の余裕が生まれたワケだ」

男「さっきのお話の続きをお聞かせ願おうか」

ロシア少女「クソガ……」ギリッ

男「うん、悪くない出だしだ。その表情も良い演技だ。憎しみの程がひしひしと伝わってくる」

ロシア少女「……オーケー、話してやるヨ」

男「30分以内に纏めてくれよ?」

ロシア少女「『Покажите прошлый!』」

男「何だそりゃ?出来れば日本語で頼み…………ッ!」

ロシア少女「『прочаи』」

男「黙れ!」ブンッ

ドガッ

ロシア少女「ガァッ……!」

男「……」ガッ

ロシア少女「……ウッ」

男「……」ギリギリギリ

ロシア少女「……!……ッ!」

男「……」パッ

ロシア少女「ゲホッ!ゴホッ!ゴホッ!!」

男「てめぇ、今魔法使おうとしたな」

ロシア少女「ハァ……ハァ……ッ!だったラ……どうシタ……」

374: 2011/04/24(日) 11:25:29.09 ID:qGBVxCUSO
男「一瞬でも化け物に出し抜かれたんだなってムカつくだけさ」

ロシア少女「ハッ!ざまぁ見ロ……」

男「足掻くのはみっともないんじゃなかったのか?」

ロシア少女「嘘ダヨ。最高に格好良いじゃないカ」

男「その意見には賛成だが、てめぇがそれを実行すんな。無駄なじか――

キャァァァァァ!!

男「なにっ!?」バッ

女性「ひっ!」ビクッ

男「……ひ…と?」

女性「う、ウソ……こんなの……」

男「あんた何処から……」スッ

女性「いやっ!やめてっ!来ないで!」

男「分かった!行かない。だから、怖がらなくて良い」

女性「ヒッ!」ビクッ

男「うん、判る。こんな状況だもんな。でも、信じてくれ。おれは君に危害を加えない」

女性「いやっ!誰か!助け……っ」ダッ

男「あ、おいっ!待て!行くな!おれの話を聞いてくれ!頼む!」

女性「イヤァァァァアッ!!」

ダダダ

男「あっ……クソッ!」

ロシア少女「あらラ、見付かっちゃったネ」

男「……お前のせいだろうが」

ロシア少女「誰にでもミスは有ル。人払いは難しい術ダシ」

男「は?人払い?」

ロシア少女「……ハ?」

男「……そっか、人払いだったか」

ロシア少女「それ以外に何ガ……」

男「考え付かなかった……」

ロシア少女「……んだヨ。それだけカ」

男「それだけさ」

ロシア少女「デ?どうすんダ、この状況。とっとと逃げるカ?ワタシを引き摺って帰るカ?それとも警察が来るまでおろおろしてるカ?」

男「……」

男「……まず、お前に感謝しよう」

ロシア少女「アァ?」

男「不思議だった。相手に見せたい幻覚を……しかも、抽象的な色彩イメージじゃなく、偽物とは解らない程に精巧に作られた光景」

男「スーパーコンピューターでさえ処理仕切れないような情報を生物ごときの脳ミソがどうしたら動かせんのかってな」

ロシア少女「……」

男「何てことはねぇ。てめぇの魔法は過去に録画した映像流してるだけだ」

男「ま、それを現実に具象出来るって点は現代科学に勝ってるがな」

375: 2011/04/24(日) 11:27:09.15 ID:qGBVxCUSO
ロシア少女「……根拠の無い推測ダナ」

男「……さっきの女性、一ヶ月前に行方不明になった人だろ」

ロシア少女「……!」

男「あの頃流行ってた吸血鬼事件の裏でこっそり取り上げられてたのを憶えてるぜ。新聞の端っこに顔写真と一緒に300程度の文字と一緒にな」

ロシア少女「……クソガ!んな小せぇこと憶えてんじゃねぇヨ……!」

男「てめぇの為さ。有り難く思え」

ロシア少女「お節介ダ!このゴミクズ!!」

男「さじ加減が難しいね」

ロシア少女「……シネ」

男「返しが弱いな。ネタが切れたか」

ロシア少女「ウルセェ……」

男「じゃぁ、そろそろ次のステップに移ってやろう」

ロシア少女「ハッ!ド素人ガ尋問でもすんのカ?」

男「発想が可愛い。流石乙女だ」

ロシア少女「ンダト……」

男「先に言っておく。嘘、偽り、及び怪しい行動はしないこと」

男「さぁ!拷問タイムといこうぜ!しっかり楽しみ、しっかり情報を吐いてくれよ、下等生物」

ロシア少女「ッ!!」

384: 2011/05/01(日) 23:33:40.97 ID:dMiVQ6QSO
男「さぁて、何から聞いて欲しい?」

ロシア少女「……………ネェ…」

男「……あ?」

ロシア少女「ワタシを見下してんじゃネェェェェェエエエッッ!!」

男「……ハッ!」ゲシッ

ロシア少女「ウグッ!」

男「見下されたくなかったら此処まで這い上がってみせろよ、なぁ?」グリッ

ロシア少女「グ……」

男「ま、ちょいと難題が過ぎたか」

ロシア少女「……いいヤ、難題じゃネェ……ヨッ!」ガリッ

男「……舌を噛んで自殺か」

ロシア少女「クフッ……」ツー

男「でも、てめぇ傷は再生するよな。ってことは……」

ロシア少女「ペッ!」

男「血を吐きつけるぐらいか。本当に悪あがきだな」ヒョイッ

ロシア少女「ケケケッ、可愛い発想ダナ」ンベ

男「ルビー……ッ!?」

ロシア少女「死ネ」

ピカッ

男「クッ!」ブンッ

ドゴッ

ロシア少女「アガ……ッ!」ポロッ

男「……おっと」パシッ

ロシア少女「チ…ク……ショウ……」ギリッ

男「……周到だな。ヒヤヒヤするぜ。口の中に暗器ってのは俺達の常識にはない戦法だ」パキンッ

ロシア少女「コノ……クソヤロウガッ!素直に死ねヨ!」

男「こんなんでも命は惜しいんだ」

プルルルル

男「……」

男「……緊張感の無い電話だこと」

385: 2011/05/01(日) 23:36:15.39 ID:dMiVQ6QSO
ロシア少女「……出ろヨ。もう何も出来やしねぇサ」

男「そうだな」ガッ

ロシア少女「ムグッ!?」

男「まぁ、信用は出来ねぇから、用が終わるまでおれの靴を食んどいて貰うが」

男「さて……ん?あいつ授業中じゃ……」

ピッ

男「もしもし?」

サッカー部員1『おい!お前今何処に居るんだよ!!』

男「あ?なんでんなこと聞くんだよ?」

サッカー部員1『さっさと言えっ!』

男「……公園だよ」

サッカー部員1『良かった!そんなに離れてねぇな!よし!お前今すぐ学校に来い!』

男「おい、サボるぐらい好きにさせて――

サッカー部員1『茶髪が飛び降りた!!』

男「……は?」

サッカー部員1『オカッパは暴れだすし無茶苦茶だよ!誰もそれを止められねぇんだ!先生達もはねのけられてっ!』

男「……」

サッカー部員1『お前があいつを止めてくれよ!このままじゃ死んじまう!!』

男「……何処で暴れてる」

サッカー部員1『あ、あぁ、教室だよ!』

男「……直ぐに向かう」

サッカー部員1『マジで!マジで頼むからな!』

ピッ

男「……」スッ

ロシア少女「プハッ!……ハァ、ハァ……ハ、ハハッ」

男「……てめぇか」

ロシア少女「ハハハハハハハッ!!」

男「てめぇかぁぁぁぁっ!!」

ゴシャッ

ロシア少女「ガッ!」

ドガッ、ゴスッ、バキッ

ロシア少女「ウッ…グッ…ゲッ!……ハハッ!」

男「笑うんじゃねぇっ!!」

ゴッ、ガッ

ロシア少女「ッ……アグッ……ァッ……ハハッ!ヒャハハハハハッ!!」

男「~~ッ!クソッ!」クルッ

ロシア少女「オッ?助けに行くのカ?目の前に餌が転がってるってノニ?良いネ!最高だネッ!友情だネェ!ヒャヒャヒャヒャ!」

男「……待ってろ。必ず殺しに戻ってくる」

ロシア少女「オゥ!オゥ!待つサ!待つトモォッ!何たって動けねぇからナァ!!」

ロシア少女「ハハハハハッ!!」

アッハハハハハハハハハハハハハハッッ!!

386: 2011/05/01(日) 23:36:49.59 ID:dMiVQ6QSO
―――高校 教室



オカッパ女子「gajpwGmhjアaKntq患Wvs!!」

ガシャンッ

オカッパ女子「あatキマζйやptnkez期しkneqtwgン!!」

ドガッ

オカッパ女子「㎏дレユбclohqtwdIO戴Lovsワ゛い!?」

バリンッ

オカッパ女子「ェオOZqtUてKstjとぞCo!?」

バキッ

オカッパ女子「Litmp死UPッぉ胼Fapqthbfnャ!!」

グシャァッ

オカッパ女子「キQqィィイapォォォォォォnォォッッ!!」

387: 2011/05/01(日) 23:39:13.37 ID:dMiVQ6QSO
―――体育館



野球部員「どうして呼んだんだ!」

サッカー部員1「仕方ねぇだろうが!俺だってテンパッてたんだよ!」

野球部員「だからって何であいつなんだよ!」

サッカー部員1「俺だって判んねぇよ!」

サッカー部員2「……ダメだ、繋がらん。携帯ほったって来てんのかもな」

野球部員「メールは!?」

サッカー部員2「アホ。電話に出ない状態なのにメールを見るワケがねぇだろ」

サッカー部員1「……あ、諦めるとかねぇかな」

ショート女子「このヘタレ。自分の都合の良いように考えんな」

サッカー部員1「……」

ショート女子「はぁ……仕方ない」スッ

金パツ女子「ちょっと待ってよ。何処に行くつもり?」

ショート女子「……教室。分かったらこの手を離して」

金パツ女子「危ないからやめときなって!」

ピアス女子「そうだよ。先生達に任せときなって。それか、あいつ」

サッカー部員1「は、はぁっ?無理だって!」

ショート女子「だってさ」

野球部員「ふざけんな!お前が悪いんだろうが!女の子に危険なマネさせて良いのかよ!」

金パツ女子「じゃぁ、あんたが役を代わるってのは?」

野球部員「えっ?い、いや、俺は……」

ピアス女子「同類かよ」

サッカー部員2「……言っちゃ悪いが、誰も化け物の徘徊してる校舎になんか近づきたくねぇよ……」

サッカー部員1「そ、そうだよ。先生達だってバリケード張るだけじゃん」

ショート女子「だから、私が行くって言ってるんでしょ」

ピアス女子「ごめんけど、友達の自殺を見過ごすほどあたしら非道じゃないんだ」

ショート女子「私だって見過ごせないから行くんじゃんか!」

金パツ女子「向こうは素人じゃないし大丈夫だよ」

ショート女子「そんなの気休めだよ!」

金パツ女子「そう思うしかないって言ってんの!被害増やそうとすんなっ!」

サッカー部員2「おい、お前らちょい落ち着けって。言い争うだけ無駄だし、声に惹かれて来る可能性だってあるんだぞ」

ショート女子「うっ……」

金パツ女子「そうだね……」

サッカー部員1「つうか、何さらっと怖いこと言ってんだよ。シャレになんねぇって」

サッカー部員2「来るかもってだけだよ。まぁ、気付かれやしねぇだろ」

ピアス女子「……もし本当に来たら袋のネズミだね」

野球部員「いや、お前マジでやめ――

ガラガラガラ

一同「ひっ!?」

388: 2011/05/01(日) 23:39:39.41 ID:dMiVQ6QSO
男「ハァ、ハァ……状況は……?」

ショート女子「男っ!良かった!こっちに来たんだね!」

男「普通に……声、漏れてたし……」

野球部員「マジかよ……」

男「今、どう……なってんだ?」

389: 2011/05/01(日) 23:41:31.45 ID:dMiVQ6QSO
――――――
――――
――



男「……ん、大体判ったわ」

サッカー部員1「ならさ、此処に居ようぜ?」

野球部員「あぁ、折角お前が無事に来たんだ。それに、いくらお前でも適いっこねぇよ」

男「まぁ、大の大人が三人がかりで吹き飛ばされるようじゃぁ、無事には済まないな」

男「おれ、一人だったらだが」

サッカー部員2「……いや、何言ってんだよ」

男「手伝えってこった。そんぐらい理解しろ」

金パツ女子「皆でかかれば止めれるってこと?無理に決まってんじゃん!」

ピアス女子「そうだよ。待ってれば警察も来てくれるだろうし、大人しくしてようよ」

男「勘違いすんな。直接対峙すんのはおれの役割だ。お前らは雑用」

ショート女子「……」

ショート女子「私は何をすれば良いの?」

ピアス女子「はぁっ!?あんた何言ってんの!?」

男「ようやく普通の反応してくれる奴が居たな」

サッカー部員1「何処が普通なんだよ!どうかしてる!」

ショート女子「友達なら助けないと」

金パツ女子「んなもん友達じゃない!友達なら止めるだろ!」

野球部員「傷付けたって知ったらオカッパさんだって悲しむぞ!」

サッカー部員2「男も良く考えろよ!俺たちに呼ばれたからって変な責任感じる必要ねぇんだ!」

男「……ごちゃごちゃとうるせぇな」

390: 2011/05/01(日) 23:44:41.87 ID:dMiVQ6QSO
男「こんな所で黙って待ってんのが非生産的なのに何で気付かねぇ!この世に勇者はいねぇんだ!救いが絶対的なワケねぇだろうが!!」

男「友達を殺したくなかったら!自分が死にたくなかったら!後悔したくなかったら!」

男「ぐだぐだと最も納得出来そうな言い訳探してねぇで、おれの手足となって働く覚悟しやがれこのボンクラどもォォオオオッ!!」

サッカー部員1「……んなこと言ったって……」

男「黙れ!弱々しいこと言うんじゃねぇ!!」

男「いいか!良く聞け!」

男「男共は水を集めろ!バケツに汲もうが水筒に汲もうが構わねぇ!とにかく水をありったけ用意しろ!!」

ショート女子「私達は?」

男「糸でも鎖でも縄跳びでも何だって良い!とにかく縛れるモノ掻き集めろ!!」

男「他の暇人のクソッタレの皆様は素直に引っ込んでろ!野次馬に来やがったら前歯全部引き抜いてやる!!」

男「理解出来たか!!」

サッカー部員2「……」

野球部員「……」

サッカー部員1「あ、集めたら……校舎に入るのか……?」

男「あ?怖ぇのか?」

サッカー部員1「……ッ」

男「ッチ!仕方ねぇな!だったらおれがあいつをグラウンドに呼んでやるよ!これなら動けるかァ?ってか、動けよ」

金パツ女子「……そんなの一方的じゃん。あたしは……手伝わないかもよ?」

男「好きにしろよ。支援が無ければ、どうせおれかあいつが殺人 になるだけさ」

金パツ女子「殺人って……」

ピアス女子「あんた何する気?」

男「てめぇで考えろよ。おれはもう行くぜ」クルッ

テクテクテク

金パツ女子「……」

ピアス女子「……」

ショート女子「……私、倉庫見てくるね」

タッタッタッ

野球部員「……あいつら、ホントにどうかしてる」

サッカー部員1「……」

サッカー部員2「違う。どうかしてるのは……」

野球部員「……」

サッカー部員2「……先輩達とバケツ探してくる」

サッカー部員1「本気か?」

野球部員「……確か、部室に大きい水入れが有ったな。皆を誘って運ぶか」

サッカー部員1「お前まで!」

サッカー部員1「何でだよ!何でそんなに簡単に行けるんだ!!」

サッカー部員1「死ぬかもしれないんだぞ!怖くはないのかよっ!!」

サッカー部員1「俺は……俺はぁぁあああああっ!」

391: 2011/05/01(日) 23:47:16.29 ID:dMiVQ6QSO

ゾロゾロ


金パツ女子「……何人か、動いてるね」

ピアス女子「……うん」

金パツ女子「あたし達はどうしよっか……」

ピアス女子「……」

ガラガラガラ

金パツ女子「……!?」

先生「何の騒ぎだ!何勝手に動いてる!!」

ピアス女子「あっ、先生……」

先生「おい!何人か生徒達が居なくなってるぞ!どういうことだ!!」カツカツカツ

ピアス女子「えーと……」

先生「言えないのか?」ギロッ

生徒1「あ、あの……」スッ

先生「ん?どうした?」

生徒1「男くんが皆をけしかけて……その……友達を救うとか言って外に……」

ピアス女子「なっ!?」

金パツ女子「漠迦ッ……」

先生「なんだとっ!?それはホントか!」

生徒1「は、はい……。後、グラウンドに集まるとか……」

先生「良し判った。教えてくれて有り難う。直ぐにそんな漠迦なマネは止めさせよう」

先生「今しがたうろついてたアホ共もだ!何を言われたか知らんが大人しくしとけ!!良いなっ!!」

金パツ女子「……」

ピアス女子「……」

先生「ったく……余計な仕事を増やしやがって」カツカツカツ

金パツ女子「……先生!」

先生「なんだ!用なら後に――

金パツ女子「……えいっ」ガッ

先生「うぉっ!?」ドサッ

ピアス女子「失礼します」ドカッ

先生「うっ……何のマネだ……っ!」

金パツ女子「マネとかそういうんじゃなくて……何て言えばいいんだろ?」

ピアス女子「うーん……まぁ、何です?」

金パツ&ピアス「「私達の邪魔をしないでもらえます?」」

先生「お前ら………ッ!」ギリッ

392: 2011/05/01(日) 23:48:31.71 ID:dMiVQ6QSO
―――校舎



男「ゼェッ……ゼェッ……!」タッタッタッ

オカッパ女子「htp這xfkgu/ッギゥィィイ!」ダダダ

男「ハァハァ……ッ!クソッ……合うの早ぇだろうが!」タッタッタッ

オカッパ女子「あひapやぁJぁNはたйロァァア!!」ダダダ

男「ッ!」ズキッ

男「グ……こんな時にッ……鎮痛剤が……切れんのかよ……」ヨロッ

オカッパ女子「Ryyりyyyaアァアaaa!!」バッ

男「……クソッ」

ヒュンッ
バコッ

オカッパ女子「ア唖ァipァjッ!?」ドサッ

男「サッカーボール!?」

サッカー部員1「ダ、ダメダメじゃねぇか……」

男「お前!」

サッカー部員1「さ、さっきの様子じゃ、何か道具が要るんだろ?此処は俺に任せて取りに行けよ」

男「……」チラッ

オカッパ女子「ガgmnァァイooxtp!!」ムクッ

男「……頼めるか?」

サッカー部員1「言っとくが、お、お、お前よりは足速いんだぜ?」

男「……一周だ。校舎一周したらグラウンドに向ってくれ」

サッカー部員1「おう!そんぐらいよ、余裕だ!」

男「……捕まるなよ」ダッ

タッタッタッ

サッカー部員1「ハハハ、心配性だな……」

サッカー部員1「さて……」

オカッパ女子「Oをおォooォヲお圧ッぉ!!」ギロッ

サッカー部員1「……こ、来いよ。鬼ごっこをしようじゃないか」

393: 2011/05/01(日) 23:50:58.39 ID:dMiVQ6QSO
―――公園



ロシア少女「ケケケッ……あの顔最高だったナァ……」

ロシア少女「……」グッ

ロシア少女「クソッ……動かねぇカ」

ロシア少女「あいつが帰って来る前に何とかして薬の効果を切らさねぇト……」

ピカッ

ロシア少女「ン?」

カァァァア

ロシア少女「この光……転移カ。本家の連中カ?」

シュンッ

ローブの女「……」スタッ

ロシア少女「何ダ、キサマかヨ」

ローブの女「久しぶり……」

ロシア少女「んなこたァどうだって良イ。ガキに薬打たれタ。多分、筋弛緩薬の一種ダ」

ローブの女「知ってる。見てたから」

ロシア少女「なラ、話は早イ。さっさとワタシを治療するか運ぶかしてクレ」

ローブの女「……見てたから」

ロシア少女「何回も言うナ。言う通りにシロ」

ローブの女「それで、思ったの」

ロシア少女「ア?」

ローブの女「貴女、最悪。本家に感付かれた」

ロシア少女「……オイ、マサカ」

ローブの女「吸血鬼って、どれぐらいで死ぬのかな?」

ロシア少女「ヤメロ! した失態は必ず取り返ス!!だかラ!!」

ローブの女「醜い……」スッ

ロシア少女「ヨセェェェェェッ!!」

ローブの女「『潰れろ』」

ローブの女「『ラビリティーグ』」カッ

401: 2011/05/16(月) 22:39:41.75 ID:3uQx2JzSO
オカッパ女子「aaアァaあaaぃあっっtTハgmハはハajハハrtsgn!!」

サッカー部員1「ハッ、ハッ……!」タタタ

グキッ

サッカー部員1「うおっ」ドサッ

オカッパ女子「ひhyeeぃぁhアや唖ぁぁ婀あャァぁあやぁiiあ!」ニィ

サッカー部員1「ひっ……」

『そこの生徒に次ぐ!!』キーン

オカッパ女子「っヴい゛ぃっ!?」バッ

男『喧嘩するならおれにしとけ!愉しませてやるよ!』キーン

サッカー部員1「おっ、男っ!」ヨタタ

男「よぉ。上々じゃないか」ポイッ

サッカー部員1「助かった!マジで助かった!」

男「なら、その運無くさないうちに下がりな」

サッカー部員1「あ、あぁ、そうさせて…………お前、それ……」

男「ちょっとした小道具だ」

サッカー部員1「まさか……」

男「良いから下がれ。おれだって……」

オカッパ女子「オnomォェェアぃぎォアッ!!」

男「あいつと正面きって殴り合えるほど、余裕残ってねぇんだよ……」ズキッ

サッカー部員1「男……」

402: 2011/05/16(月) 22:43:34.32 ID:3uQx2JzSO
―――グラウンド



雲一つ無い煩わしいほどに澄み切った青空の中で太陽がギラギラと照り輝き、校庭の砂を容赦なく焼き焦がす。
校舎というコンクリートの壁に阻まれ籠もる熱がもうもうと渦を巻く。

春の終わりよりも夏の到来を思わせる天候の下、少年と少女が対峙していた。
少女は粘つくような敵意と狂気を孕ませて
少年はかつての面影を思い哀れみながら

「異ぎtイッLhvヒxxィィC!!」

突撃を仕掛けたのは少女からだった。
足を前に出すこと以外に意識が向かっていないのではないかと思う走法。
首は座らずボブルヘッドのごとくカクカクと揺れ、力を抜き切った腕は地から伝わる振動で無抵抗に左右に振れる。

だが、人の口から出たと思えぬ煉獄の咆哮を上げて駆ける彼女は恐ろしく速かった。

空気抵抗に重心のブレ。
およそ物理的な障害を悉く打ち破り、地を蹴る脚力だけで跳ねるように進む。

一呼吸の間に目算100mは有った少年との隙間が半分程に埋まってしまう。

更に一歩先へ彼女が前へ足を伸ばしたその時だ。悲痛な面持ちで立っていた少年が遂に構え、そして、ふわりとパスを渡すように下からエタノールの詰まったガラス瓶を少女の進行先に上げた。

高速戦闘に突入していた彼女の集中の矛先は一瞬だけその投擲物体に向けられた。一瞬だけ、対象以外の全てを無視してしまう程の超集中を。

爪先に停止の力を込め直線的なカーブの体勢を取る。身体がその条件反射に従った時には既に回避不能の状態。
剛弓から打ち出された一矢が、光を受けて華やく劇薬入りの硝子細工に黒く重たい鎌首を叩きつけていた。

「Byァおyaにaろろろagiヅジynxiiiii!!」

ガラス片は万の剣となりて降り注ぎ、彼女の日焼けの少ない青白い肌を引き裂き、食い込み、刻んだ。
ぽっぽっと赤いシミが白布のキャンパスへ広がっていく。

追撃は止まない。皮膚という防護服が破られ、むき出しとなった神経に酒精が襲い掛かる。
強い刺激に曝された全身から運ばれる夥しい痛みの信号が脳内で爆ぜた。

響き渡るは無論絶叫。

それを乗り越え、殺意の中で少年に首を向けた彼女の血走った眼に映ったのは

流転せし紅蓮の滝


酸素ガスとライター。それだけで作り上げられた粗末な火炎放射器。

そこから出でた炎は、狂いなく少女をその丸々とした腹の中に呑み込んだ。

「――――!!」

もはや声にすら聞こえぬ苦痛の塊。響き、木霊し、乱反射する。

彼女はこの瞬間全てを忘れていた。殺人欲求、破壊衝動、自傷願望、狂喜、愛情、眼前の敵、全てみな。

ただ視るは赤、赤、赤の熱世界。

出口を探そうと彼女は奇妙なダンスを踊り続けた。


そこに少年が動く。もう一つの槌を利き手に握り締め、40mを全力で駆け抜ける。

砂地を踏み越え、散乱するガラスを踏みならし、燻る火炎を強引に踏み消す。
燃え盛る舞台に突入すると、荒れ狂うダンサーの指先をくぐり抜け少女の側面に並ぶ。

腕を振り上げ、そして

「ごめんな」

一切の感情と慈悲を乗せずに暴威を振るった。
一直線。米噛みに重厚な金属の鎚が吸い込まれる。

何かが割れる音を伴って少女は沈黙に臥した。

403: 2011/05/16(月) 22:46:13.29 ID:3uQx2JzSO
男「水だっ!さっさと水を掛けろ!速く!!」

シーン

男「見とれてんじゃねぇぇ!こいつの命が危ないだろうが!働けクズ共!!」

バッシャァァンッ

男「っ、もっと!!俺ごとで良い!用意した分全部ぶちまけろ!!」

バッシャァァン
バシャッ
バチャャン

男「……火は消えたな」

男「おれは……」ペロ

男「流れたみたいだな。よし、縛るモノ」

ショート女子「あっ、うん」

タタタ

ショート女子「これで良い?」

男「半分寄越せ。お前は足を頼む」

ショート女子「う、うん」

男「あ、ただしテープ系はダメだ。下手すりゃ皮膚が剥げる」

ショート女子「わ、分かった」

男「ん……」グルグル

ショート女子「……」グルグル

男「っと、こんだけすりゃ大丈夫だろ」ギュッ

ショート女子「うん……」

ショート女子「……」

ショート女子「ねぇ……」

男「なんだ?」

ショート女子「方法ってこれしか……」

男「……悪い。迎えが来たみたいだ」

ショート女子「えっ?」

404: 2011/05/16(月) 22:47:39.59 ID:3uQx2JzSO

ブロロロロ
キキィッ

ガチャッ

運転手「さぁ、ぼっちゃま。早くお乗り下さい」

男「ちゃんと医療用具乗せて来ただろうな」

運転手「漏れなく」

男「よいしょっと」グイッ

男「こいつはおれが預かるから。じゃぁな」

ショート女子「待ってよ!」

ショート女子「ちゃんと私の質問に答えて!こんな酷い方法しか無かったの!?教えてよ!!」

男「……」

男「あいつはどうなった」

ショート女子「え?」

男「茶髪だ。飛び降りたって聞いたが」

ショート女子「あ、す、直ぐに救急車に運ばれてった」

男「そっか、有り難う」

バタンッ

ショート女子「……待ってよ。未だ答え聞いてないって言ってるじゃん」

男「出せ」

運転手「はい」

ショート女子「逃げるなんて卑怯だ!ちゃんと、皆に言って!ちゃんと説明して!!これじゃ救ったなんて言えない!!」

ブロロロロ

ショート女子「話せ!話してよ!何で連れて行くんだよ!!」

ショート女子「男ォォォオ!!」

405: 2011/05/16(月) 22:48:30.94 ID:3uQx2JzSO
――――公園



人気を感じない憩いの場

絡み付く臓物の臭気と酸の味、アンモニア、そして鉄臭さが漂う

四方には巨大な爪痕

中央にはクレーター

致死量の血液が鮮やかな池を作り出す

人気は無い


406: 2011/05/16(月) 22:49:20.71 ID:3uQx2JzSO
―――男の家



バァァァン

姉「愚弟!家の扉は何時も優しく開けろって言っ…て……」

男「……急患だ」

オカッパ女子「」グッタリ

姉「……!魔女ちゃん!魔女ちゃん居るかっ!?一階に集合しろ!!」

ドタタタ

魔女「は、はい!お姉さん、一体何用でしょうか!」

姉「詳しくはあいつに」

魔女「えっ?」クルッ

男「よぉ」

オカッパ女子「」グッタリ

魔女「っ!そ、その娘!!一体何がっ!い、いや!それよりも!」ワタワタ

魔女「あ、あっ!治療ですよね!ち、ちょっと待ってください!今すぐ回復魔法をっ!」ドタドタ

男「違う!」

魔女「……へ?」

男「これ見ろ!」バッ

姉「腹にタトゥーか」

男「応急措置中に見付けたんだ!心当たりねぇか!?」

姉「趣味じゃねぇの?」

魔女「ひっ!」ガタンッ

姉「……魔女ちゃん?」

男「知ってんだな」

魔女「う、嘘だ……ソレが人に……人に結べるワケ……」ガタガタ

男「んなこたどうでも良いんだよ!この印が一体全体何で!治療出来んのか!それを教えろ!!」

魔女「……」

魔女「……ソレは、服従の印です」

姉「服従……」

魔女「治療は……」

男「治療は?」

魔女「……ごめんっ、なさい」グスッ

男「……!」

407: 2011/05/16(月) 22:51:19.25 ID:3uQx2JzSO
魔女「ごめんなさい……、私、私勉強不足で……」ポロポロ

魔女「在るはずなんです!でも、でも!私が漠迦だから……」ポロポロ

男「……」

姉「いや、ちょい待ち。その服従の印が在ったらどうなる」

魔女「そのままです……。主人の命令に絶対服従します……」グスッ

姉「……愚弟、その命令は?」

男「暴れ回れ、だろうな」

姉「ッ!」

魔女「っ!」

男「ハハ、そうか、解けないのか。ハハハ」

男「なら、こいつは精神病院に入れるな。とびきり牢獄みたいな奴に」

男「良かったよ。こいつは自由に暴れ回れるんだ。幸福なことだよな」

魔女「男さん……」

男「本当に……本当に……」

男「……」

男「ックソッタレェェェエエ!!」ガンッ

男「おれの行動は全部悪あがきか!?」

男「巫山戯んなっ!傷付けるまでしたのに!覚悟決めたんだよ!結果も着いてこいよ!!」

男「巻き込んじまった友達一人救うことが出来ねぇのかっ!!」

魔女「違います!私のせいです!」

男「おれだよ!おれが変化を可笑しいと気付けなかったからだ!!おれがっ――

パァァァンッ

姉「うるさいっ!被害妄想でエクスタシー感じたいなら後でしろよ!!」

姉「てめぇ全部の可能性試したのか?どうせしてねぇだろうが!一回失敗したらこの世は終わりか?アホヌカせぇ!!」

魔女「おっ、お姉さん!抑えて!」

姉「シャラップ!!いいか!てめぇのそういう節大嫌いだ!いい加減べそをかくだけのガキは卒業しやがれ!!」

姉「この玉無し野郎!!」

男「っ……」

魔女「男さんを責めないであげてください!何があったかは私達は知ることは出来ません!」

魔女「でも!きっと頑張ったんです!」

姉「今頑張ってねぇから叱ってんだよ!オマエも変なお情けで済ませようとしてんじゃねぇ!甘えんなクソガキッ!」

魔女「ッ!」

男「……言い過ぎだ姉さん」

姉「あぁ?」

男「でも、有り難う。お陰で目が覚めた」

姉「フンッ、今さら立ち上がっても格好悪いんだよ、愚弟」

男「格好つける気無いから良いさ。なぁ、魔女」

魔女「は、はいっ」

男「今、本家ってのと連絡取れるか?」

魔女「えっ?」

男「答えはイエスかノー」

408: 2011/05/16(月) 22:52:53.07 ID:3uQx2JzSO
「シャー」

男「……」

トテトテ

ワニスケ「シャー」

魔女「あ、ワニスケちゃん……」

姉「最悪なタイミングだな、お前」

ワニスケ「シャー」

男「ちょっと今立て込んでるんだ。遊んで欲しいなら後にしろ」

ワニスケ「シャー」ノソノソ

男「おい、それはおれの友達だ。見慣れないからって噛むなよ」

ワニスケ「シャー♪」ガブッ

男「……」

姉「……」

魔女「……」

男「噛んだぁぁぁぁぁぁあああ!!」

姉「エンダァァァァァァァッ!!」

魔女「キャァァァァァァ!!」

ワニスケ「シャー」ガジガジ

男「放せ!放すんだワニスケェッ!!」ググッ

姉「ガジガジアウトォォォォォオオ!!」

魔女「イヤャァァァァァァァァァァ!!」

ワニスケ「シャー」パッ

男「よよよよぉぉしっ!いい子だ!」

姉「うわっ!傷深いぞコレ、どうすんだコレ、ヤバイコレ」

魔女「ととっ!とにかくっ!早く止血しないと!」タタタッ

男「運転手っ!」

ガチャッ

運転手「はい、どうしました?」

男「病院だ!病院に向うぞ!」

姉「担架持って来い!」

運転手「かしこまりました」

魔女「包帯持ってきました!」

姉「血がダバダバ出てる時に使えるか!」

魔女「えぇっ!?」

男「そうだ!回復魔法が在るんだろ?」

魔女「あっ、はい!準備します!」カキカキ

姉「取り敢えず傷口抑えよう。愚弟、服脱げ」

男「ほらっ!抑えるぞ!」

姉「オーケー!」

男「ッチ!大した効果ねぇな」

409: 2011/05/16(月) 22:56:08.98 ID:3uQx2JzSO
男「やっぱきちんとした道具を」

姉「ちょっと待て」

男「なに?」

姉「服を上げてみろ」

男「……?」ヒョイッ

男「印が消えてる!?」

姉「お前のシャツって落書き消せるのか?」

男「知るかよ!おい、魔女!」

魔女「何ですか?」カキカキ

男「印ってのは自然消滅するもんなのか?」

魔女「しないです!」カキカキ

魔女「良し!出来ました!」

男「消えたんだが」

魔女「はい?」

姉「印がね。消えちゃったの」

魔女「え……えっ?」

男「クソッ!変異したってか」

姉「専門の意見は?」

魔女「えー……と、取り敢えず、回復魔法かけます?」

男「……いや、ダメだ。もし変異してるなら下手な刺激は加えない方が良い」

魔女「わ、分かりました」

姉「経過見ないとな」

運転手「担架を用意、並びに病院側との連絡もつきました。お急ぎください」

男「ん。姉さん、そっち持て。魔女は体を浮かせてくれ」

姉「うい」

魔女「はい!」

ワニスケ「シャー」

男「お前を怒るのは暫く保留だな」

410: 2011/05/16(月) 22:57:15.22 ID:3uQx2JzSO
―――???



「許っ……さネェ!」

「ワタシを……コケにした……アイツラ!!」

「絶対ニッ……ゲホォッ!」

ビチャビチャ

「ハァ……ハァ……ッ!」

「死ねッ、るカァッ……!!」

「アイツらを殺、すマデッ!」

「死んデ……ガフッ!」

ビチャッ

「……死んでッ…………たまるかヨォォォォォオオオッ!!」






416: 1 2011/05/21(土) 21:21:39.92 ID:jrK/wVTSO
【血の秘密】

※本編とは一切の関わりは有りません



ロシア少女「ねェ、男サン」

男「なんだ?」

ロシア少女「一つ気になっているんですガ、どうして男さんの血はあんな味がしたんデス?」

男「あんな味って?」

ロシア少女「うーン、まァ、辛くて酸っぱい感ジ」

男「あぁ、アレね。アレは血にタネがあるワケじゃないのよ」

ロシア少女「エ?」

男「皮膚さ。皮膚に辛くて酸っぱい液体塗りたくってたのさ」

ロシア少女「そレ、皮膚が焼けませんカ?」

男「ノープロブレム。皮膚には保湿クリーム的な何かで二重三重の膜を敷いておいた」

ロシア少女「全身ニ?」

男「肌が露出してる所と血を吸われそうな部分オンリー」

ロシア少女「そうデスカ」

男「って言っても、この処方はてめぇが吸血鬼と知れた時から続けてたもんでな」

男「流石に皮膚のダメージがやばかった」

男「姉さんに準備すんの面倒くさいって愚痴ってたのもそれだな」

ロシア少女「アレ、伏線カヨ」

男「解りづらいよな」

ロシア少女「他にネタハ?」

男「メタるほど詰め込んでねぇよ。他のはいつか回収しようとしてるし」

ロシア少女「出来なかったらどうするんデスカ?」

男「……もう一回この会が開かれる」

419: 2011/05/25(水) 22:55:45.40 ID:2aUT8b7SO
【魔眼】



月光に当てられ、歪に湾曲した男の口元が鈍く光り、目は罠にかかったま間抜けな狐を可愛がるように細められている。

成る程、成る程。

確かに、僕は特別に運動が出来る訳じゃない。文字通り人並みだ。

勘や才気に溢れている様子は、散々に攻撃を食らってきて、今現在まんまと術中に溺れているのを見れば、最早疑うことすら漠迦らしいのかもしれない。

総合的な視点、自身への絶対。

そんなものから、ついつい僕を雑魚であり、スナックのように手頃な稼ぎだと認識してしまうのも無理はない。

「もう、逃げ場はないぜ?大人しくくたばりな」

あぁ、しかし。だかしかしだ。

挑発するかのようにねっとりとした動作で銃を引き抜き、わざとらしく弾丸の行く先をフラフラさせる君を見ると胸の内から赤の衝動が湧き出るのだ。

人であった頃の性なのだろう。
今すぐにでもその若さ故の愚かさを塗りたくったような表情を一叩きし、固く冷たい石の上に座らせ、教授をしたくなる。

あぁ、君はどうして教科書に書いてあることに満足してしまうんだ!
経験を積まないと!経験を大人から聞かないと!
でないと、君という人間は型にはまった面白くない生き物に成ってしまう!

何故、人並みしかないヴァンパイアがいることを疑わないんだ!?
僕はちゃんと生かしているぞ!先輩から話を聞いていないのか!?

「なぁ、ヴァンパイア」

引き金が絞られるより早く、僕と赤の視線と彼の緑が交差する。

金属が響かせる悲しい音を立てて、彼の銃は道端へと転がった。

ほら、これで終わりだ。
彼はたちどころに戦意を失うことになる。それどころか、未来永劫僕に牙を剥こうとはしなくなるだろう。

これが魔眼。人より優れた身体を代償にして、授かった悪魔の瞳。
見つめた相手を魅了し、支配する化け物の―――――

420: 2011/05/25(水) 22:56:37.61 ID:2aUT8b7SO
魔女「ふぅ……」パタン

男「どうだった?」

魔女「文章に引き込まれるものがありません。強いて評価をつけるなら、平凡です」

魔女「その平凡は飽く迄子供の道楽としてですからね。言っておきますが、プロではこのような甘えは通じませんから」

男「プロになるつもりはないんだが……ってか、何か厳しいな」

421: 2011/05/25(水) 22:57:04.88 ID:2aUT8b7SO
【魔眼Ⅱ】



彼女の腕がびゅおんっ、と迫ってくる。

しゃしゃーっと避けると、背後の壁がばっこーんと崩れた。ぱらぱらと砂煙が巻き上がる。

本気だ

拳圧で裂けた頬からぱーっと流れる血をぐいぐい拭きながら、彼女の覚悟をぴりぴりと感じていた。

「もうやめようよ!」

ズキズキ痛む胸中の思いをばららららっと叫ぶ。

「うるさいうるさいうるさーーいっ!!」

彼女はその思いをぎゃおんと遮り、ごうごうと流れる感情をばちんばちんっとぶつけ始めた。

ぶるんぶるんと身体をしたらめっちゃらに振り回し、ぐるぐる回る暴威が周囲の風景をどっかーんと破壊してゆく。

「あんたなんかに私の何が判るんだっ!!」

ぎりっと歯軋りする。そうだ、分かりっこない。これだこ沢山付き合ってきて、あなたのちょこっとした変化に気付けなかったのだから。
所詮はにへ~っとしてる愚図なのだ、私は。

でも、それでも

「助けたいの!!」

だから、私は使う。ガシャンガシャンと暴れれば暴れるだけ、ボロボロになるのは貴女だって知ってるから。

私の、私達の奥義を!

瞳を開く!

「ほざけぇぇぇぇえっ!!」

向こうも使う気だ。

開かれた魔眼にみょんみょんと魔翌力が集約しているのが判る。

ぶつかり合う二つの魔翌力の塊はぴしぴしと空間を揺らし始め、私達の力場を危うくしていた。

それでも止まらない。退くことは許されない。

「うわぁぁぁぁ!!」

お互いの魔眼からばっぴょーんと発射された二色のレーザーはドガガガとぶつかり合い、周りの建物がぱらぱらと消え去っていく。

そもそも―――――

422: 2011/05/25(水) 22:57:39.72 ID:2aUT8b7SO
男「……」パタン

魔女「どうでした?」

男「えーと、その、だな……」

魔女「はい!」

男「す、凄く前衛的だった……と思う……」

魔女「ソレ、褒めてます?」

男「あー、悪い方に考えとけ」

魔女「はい!」

魔女「……はい?」

428: 1 2011/06/22(水) 22:05:16.34 ID:djiJld6SO
男「今日は花を買ってきたんだ」

男「あぁ、大丈夫。勿論、お前の両親の面倒にならないようドライフラワーにした」

男「一応、本物そっくりの香はするがな」

男「そうそう、お前の両親のことなんだが、アレはおれから言わせたら相当な漠迦だ」

男「だってよ、おれにありがとうって言ったんだぜ?お前のこと謝りに言った日にさ」

男「神経オカシイよ。どうかしてる。大事な一人娘に火傷負わせて、意識奪って」

男「綺麗な髪はバッサリ切られて、身体のあちこち傷だらけだ。頭蓋だって下手すりゃ陥没してた」

男「そんな最低で最悪な仕打ちをしたヤツに有難うだ」

男「ホント……どうかしてる……」

男「……せめてさ、嘘でもいい、フリでもいい、だから責めとけよそこは」

男「でないとおれが……」

男「……」

男「……悪い。ただの愚痴になっちまったな」

男「今日はもう良い時間だし、帰るよ。どうにも思考が負に働いてやれねぇや」

男「じゃ、また……」

男「……」

男「……あのさ…」

男「あ、いや、やっぱ今度にするわ。また明日な」

429: 1 2011/06/22(水) 22:06:02.40 ID:djiJld6SO
―――男の家前



青年「おかしい……ここの筈なんだ……ここの……」

青年「……間違えた?」

青年「いや、あり得ない。卯まで使ったんだぞ」

青年「あぁ、でも一週間前だ。可能性は……」

青年「クソッ、うろちょろしやがって……!」ギリッ

「おい」

青年「ん?」

男「人ん家の前で怪しい行動とるな。格式と評判が下がるだろうが」

青年「……君は?」

男「知るか」

青年「え?」

男「教えてもらえると当然のように思ってんじゃねぇよ」

青年「き、君は初対面の人に対して少し失礼じゃないかい?」

男「そういう言葉は道理を通せるヤツ限定だ。軽々しく口にするな」

青年「道理って……あ!」

男「……」

青年「え、えーと、此処は君の家……で良いんだよね?」

男「あぁ」

青年「君の家の前で不審な行動を取って大変申し訳なかった。怖かったろう?」

男「……変質者には慣れてます。別に怖くはありません。ただ、邪魔でした」

青年「そ、そうかい……」

男「それで、どのような理由で人家の前であのような行動を?あ、勿論話せなければ無理には結構です」

青年「無理じゃないさ。ちょうどこの家の人に聞きたいと思っていたんだ」

男「そうなんですか」

青年「あぁ。君の家にさ、魔法を使えるとびきり美人な女の子が居候していたり、遊びに来たりしていないかい?」

男「……ま、魔法?」

青年「うん、魔法。一週間前には確かにこの場所に居たのを知っているんだけど、どうかな?」

男「……メモのご用意を」

青年「メモ?うん、判った。これで良いかい?」スチャ

430: 1 2011/06/22(水) 22:07:28.46 ID:djiJld6SO
男「まず、この通りをあちらの方向に真っ直ぐ進みます」

青年「真っ直ぐ進む」カキカキ

男「突き当たりを右に曲がり、大通りに出たら公園前というバス停に向かいます」

青年「公園前……バス停……」カキカキ

男「今からでしたら……6時47分の周回バスが有りますから、それに乗車してください」

青年「0647ね」カキカキ

男「バスで七つ先の一丁目で降りまして、赤色で目立つ高い電波塔を目指します」

青年「赤の電波塔……電波塔ってなんだい?」

男「まぁ、大きい塔です。ずば抜けて高いので直ぐに分かると思います」

青年「とにかく高い塔を目指せば良いんだね」

男「えぇ。そして、塔の正面側から左、記念碑のある方向に進んでください」

青年「塔から記念碑の方へ、と」カキカキ

男「三番目の信号で右に進路を変え、ずうっと真っ直ぐ向かうと坂になっているので登ってください」

青年「坂まで登るのか」カキカキ

男「あとは山を一つ越えた先にクリニックがありますので、そちらでごゆっくりどうぞ」

青年「そこに彼女がいるんだね?」

男「良い方向にお考えください」

青年「有難う、少年。感謝するよ」

男「いえいえ」

青年「だが、ちょっと複雑で遠過ぎる気がするんだ。何か簡単に済む方法はないのかい?」

男「タクシーを捕まえて××クリニックまで、と言えば万事解決です。アホみたいに金は飛びますが」

青年「タクシーというのを使えば簡単なんだね。なら、そうさせてもらうよ。体力に自信がなくてね」

男「お金が大丈夫なら」

青年「お金は心配ないよ。タクシーは何処で使えるんだい?」

男「なんなら呼びましょうか?」

青年「良いのかい!」

男「はい。格安のタクシーを一台駅の方に……駅は分かりますよね?」

青年「大丈夫だよ」

男「では、駅の方に手配しておきます」

青年「何から何まで本当に有難う。お礼を述べることしか出来ないのが悔しいよ」

男「困ったときはお互いさまですから」

青年「その年で随分立派だね。僕よりよっぽど凄い」

男「そんなことは……」

青年「謙遜しなくて良いよ。それじゃ、僕は駅に向かうね。さようなら」

男「えぇ、またのご縁を」

431: 1 2011/06/22(水) 22:07:59.69 ID:djiJld6SO
男「……」カパッ

ピポパ
プルルル プルルル

男「おれだ」ガチャッ

男「今から駅に向かって、痩身の外国人旅行客をタクシー運転手として捕まえてくれないか?」

男「他の特徴?そうだな、髪は銀で左を眼帯で隠してる」

男「行き先はお前の友達がやってる精神クリニックだ」

男「今から、夢と現実の区別がついていない患者を運びますって伝えときな」

男「それじゃ、頼んだぜ」ピッ

男「……」

432: 1 2011/06/22(水) 22:09:38.37 ID:djiJld6SO
―――男の家



魔女「……訪ね人ですか?私に?」

男「お前と同じ銀色の髪の外国人。心当たりあるか?」

姉「おっ、なになに?恋人とか?」

魔女「いいえ。在りません」

姉「なんだよ~、恥ずかしがんなよ~。ホントはどうなんだい?」

魔女「違いますから」

男「向こうはお前のこと知ってたぜ?それでもないって言えるか?」

魔女「はい」

姉「分かる、分かるぜぇ、その気持ちぃ。喧嘩してるんだろぅ?気まずくて他人のフリしちゃうよなぁ」

魔女「違います」

姉「でもでもぉ、良い女ならドンと受け入れるぐらいでなぁ。どんなに怖くても、ね」

魔女「ッ!知らないって言っているじゃないですか!!」ドンッ

姉「……!」ビクッ

魔女「なのにどうしてどうして信じてくれないんですか!イライラしますっ!!」

男「そのイライラは、本当におれ達のせいか?おれは違う風に見えるね」

魔女「見えるからなんです!勝手なこと言わないでください!!」

男「知らないのか?お前、顔に―――

姉「知らないの!」バチンッ

男「いってぇ!」

姉「魔女ちゃんごめんね。ないこと攻められたり冷やかされたら嫌だよね」

魔女「あ……い、いえ……」

魔女「私こそ……声を荒げてごめんなさい……」

姉「良いの。起こって当然だもん。な、愚弟」

男「……知るか」

姉「今日はさ、お夕飯何処かに食べに行こ、ね?」

魔女「……はい」

姉「だから、それまで部屋でゆっくりしてなさい」

魔女「そうします……」ヨタヨタ

ガチャッ
バタン

男「……イライラしてんのはおれの方だな」

姉「珍しい。今回は自覚有ったんだ」

男「まぁ、な」

姉「友達が一人と半分死んだんだ。そうなるのは推して計るけどね」

男「……寝る。あとで起こしてくれ」

姉「まったく、世話がやけるねぇ」

433: 1 2011/06/22(水) 22:11:02.73 ID:djiJld6SO
―――精神クリニック



医師「つまり、貴方は魔法を使う少女を探していると」

青年「はい。此処に居ると聞いたんです」

医師「此処に……」チラッ

運転手「……」フルフル

医師「あー……幾つか良いかな?」

青年「大丈夫です」

医師「魔法というのは?」

青年「魔法は魔法ですよ。魔力を糧に魔導法則の範囲内で物理原則を越えた現象を引き起こすんです」

医師「成る程……興味深い」

青年「疑わないんですね。此処はそういう場所でしょう?」

医師「そういう場所だから疑いません」

青年「なるほど」

医師「それに、魔法の存在を訴える人は案外大勢居ます。貴方の訪ね人もそうでしょう?」

青年「あぁ、そうでした。彼女は今こちらに?」

医師「先に、貴方と尋ね人の関係を教えてくれませんか?流石に誰も彼にもと言える情報ではないので」

青年「これは失礼。言っていませんでしたか」

青年「彼女は僕の妹ですよ」

医師「妹さん……」

運転手「……」

青年「本当に……本当に大切なね……」

446: 1 2011/07/10(日) 23:19:12.96 ID:LpXnDVJSO
男「おーおー、また物が増えてる」

男「集めていたっていうマンガの最新刊が出たからってことで、持ってきたんだが……」

男「こりゃ、置場がないな。当ててもらった個室が繁雑とした生活空間化してるぜ」

男「ま、それだけ皆から愛されてるってことか」

男「幸せだったんだな、お前」

男「……」

男「さ、今日も話をしようか」

男「といっても、現実問題ネタ切れなワケよ。謹慎中だから殆ど外になんか出ないもんで」

男「最近はあいつらにメールしても返ってこないしな」

男「だからちょいと趣向変えるぞ。今からは、いままで話してきたような世間様の動向じゃなくて単なる思い出話」

男「ま、構えず聞いてくれ」

447: 1 2011/07/10(日) 23:21:17.16 ID:LpXnDVJSO
―――病院 事務室



男「お忙しい中患者でもないのにお時間取らせてしまい、誠に申し訳ありません」

医者「全くだよこのクソガキめ。慣れない喋りしてねぇで、とっとと終わらせろ」

男「じゃ、直球で」

男「アイツの腹には何が有った?」

医者「小腸と大腸に決まってんだろうが。アホかてめぇ」

男「おい、無駄な時間取りたくないんじゃないのかよ」

医者「冗談だよ。ほら、コレが写真。違法行為までしてんだから、ちょっとは労え」

男「……コレ、何時のだ?」

医者「昨日だ」

男「手術の時は有ったか?」

医者「有ったよ」

男「コレについてあんたはどう思う?」

医者「変わった刺青だなぁ、ぐらいだ」

男「刺青ねぇ。本当に刺青なのかどうか」

医者「オレが知るかっての。専門じゃねぇんだ」

男「はぁ……調べてくるだろフツー」

医者「うるせぇ。時間が無いの」

男「冗談、有難うな。有るって知れただけでも前進だわ」

医者「ふーん」

男「それじゃ、また」

医者「あー、あのさぁ」

男「ん?」

医者「オレは彫りの知識はないんだが、あぁいうのって皮が削がれても消えないもんなんだな」

男「……先生、本当に有難う。また何か有ったら宜しくな」

医者「次は普通に患者としてオレの時間を使ってくれ」

448: 1 2011/07/10(日) 23:27:51.65 ID:LpXnDVJSO
―――ショッピングモール《石の宿》



姉「うぃーっす、お元気してるぅ?」

店主「今日はもう店仕舞いなんだが」

姉「うん、知ってる」

店主「知ってて来たのか。コーヒーで良いか?」

姉「モカで頼む。豆から挽いてくれ」

店主「相変わらず我が物顔だねぇ」

姉「嫌だなぁ、あたしはちゃんと冗談で聞き流してくれる人を選んでるよ」

店主「嘘付け。俺みたいなお人好しを狙ってるんだろ」

姉「自分で言っちゃうか」

店主「コーヒーだ」コト

姉「ま、間違っちゃいないが」ニヤッ

店主「それで、何を話したいんだ?」

姉「えっ?」バサァ

店主「何勝手にお菓子広げてやがる」

姉「大丈夫、キチンと二人分在るから」

店主「まぁ、別に良いが」

姉「んー、うまいっ!やっぱこれに限るねぇ!」

店主「確かに美味いチョコだな。高かったろ」

姉「談話料ですから」

店主「……込み入った話か」

姉「そーいうこと」

店主「余りに厄介だったら追い返すぞ」

姉「大丈夫大丈夫。近況知りたいだけだから」

店主「近況?」

姉「相変わらずオッドアイのお客さんは足を運んでくるかい?」

店主「そういった話、ね」

店主「あぁ、来るよ。貴重な収入源だ」

姉「最近彼らに変わったことは無い?例えば、やけに買う量が増えたとか、誰かが来なくなったとか」

店主「特に無い。この店での話ならだが」

姉「私生活のただれた 事情ではあるって事か……」

店主「いや、知り合いの話だ」

姉「お知り合いのただれた 事情だとっ!?」

店主「頼むから 事情から離れろ」

449: 1 2011/07/10(日) 23:30:45.28 ID:LpXnDVJSO
姉「違うのか。がっかりだよ」

店主「なら、話さなくて良いな」

姉「やぁーん!今のうそっぴー!真に受けちゃいやいや!」

店主「相も変わらずだな。それで、そいつの話だが」

姉「うん」

店主「派手な髪色の外人さんが人を探していたらしい」

姉「髪は何色?」

店主「銀って言ってたか」

姉「銀で人捜し……うーん、あたしその話知ってるかもだなぁ」

店主「おっ、そうなのか。なら、敢えて言う必要はないな」

姉「いや、一応頼む。このままでは採算が取れぬ」

店主「無駄は避けたいんだが……聞く内容が怖いってのは一致してるか?」

姉「えっ、何それ?全然してないし」

店主「……別みたいだな」

店主「あのな、聞く内容が具体的なんだと。その人の喋るクセとか、交友関係、今までしてきたことに職業まで人となりを粗方な」

店主「まぁ、本人に会えよって話で、そいつも実際言ったらしい」

店主「帰ってきた答えは、もうどうしようもない状態だからそれは無理だと」

姉「ふむ……随分と含んだ言い方じゃないか」

店主「詳しいことまで踏み込めなかったらしいが、まぁ実際そうだろうよ」

姉「誰も知らないこと知ってるのに、友達なら知ってて当然を知らない外人さんか……」

姉「ねぇ、その捜し人が誰か分かる?」

店主「いや、そこまではだな。気になるなら、これからアンテナ張っといてやるよ」

姉「有難うさん」

店主「これだけで良いか?」

姉「話はね。本意はまだまだ」

店主「そんなこと言われても、後してやれるのは買い物ぐらいだぞ?」

姉「じゃ、それで」

店主「それならまた明日来い」

姉「お得意様って言葉……知ってるか?」

店主「逆にお前が知ってるのか?」

姉「まぁまぁ、どうせ魔術士ちゃん達魑魅魍魎の有象無象、有形無形の百鬼夜行の皆々様はランダムに来るんだろ?」

姉「品物は欲しいが鉢合わせはしたくないのよ。判ってくれる?」

店主「あいつらに売る用の商品寄越せってことか」

姉「おぉよ。恐らく、高魔力だと思われる品をね」

店主「やれやれ、とんだ無茶を言うが、何せお得意様だ。仕方ないから売ってやろう」

姉「流石だぃ!よっ、この男前!愛してるぜっ!」

店主「はいはい、ありがたいありがたい」

姉「チッ、つれないなぁ」

店主「で、何に使うんだ?あの娘っ子にでもあげるのか?」

姉「ノンノン。センサーボムを作りたいのよ」

450: 1 2011/07/10(日) 23:32:17.12 ID:LpXnDVJSO
……………
…………
……





姉「ふんふふふーん♪」テクテク

カツカツカツ

姉「きっみが~よ~はっ♪」テクテク

カツカツカツ

姉「千代にや~ちよにさざれ石のっ♪」テクテク

カツカツカツ

姉「いわおと……んんっ!」ピタッ

カツカ……

姉「とっとと出て来いよバッドボーイ。家まで尾行すんのが目的か?」

ザッ

包帯男「……」

姉「へぇ……包帯   たぁ、またハードでロックな趣味してるじゃん」

姉「で、何用だよ?」

包帯男「……」クルッ

姉「あるぇ?」

タッタッタッ

姉「いやいや、ちょっ、何で逃げてんの!?」

タッタッタッ……

姉「えぇー……?」ポツーン

451: 1 2011/07/10(日) 23:35:52.02 ID:LpXnDVJSO
―――男の家



姉「ってな感じに私は変 さんとの邂逅を果たしました」

魔女「だ、大丈夫ですか?怪我は有りませんでしたか?」

姉「モチよモチ」

男「こんな時にストーカー拾ってんじゃねぇよ。面倒臭い姉さんだなぁ」

姉「ごめんねぇ。川原で雨に濡れて震えてたからほっとけなくてぇ……ってアホかぁっ!!」

姉「こちとら、拾いたくて拾ってんじゃねぇやい!」

魔女「あの……怖くないんですか?」

姉「んー、全然」

男「昔は生爪とか  とか送ってくる変 致しな」

魔女「う、うへぇ……」

姉「あぁ、あたしにじゃないよ。そんなに変 さん量産出来るほど可愛くないし」

男「おれでもない。そんなに変 さん集まるほど格好良くないから」

魔女「いやいや、お姉さんはモテるでしょう」

姉「またまたお世辞を~」

男「おれは?」

魔女「お姉さんとっても男らしくてカッコいいじゃないですか」

姉「漢らしいは嬉しくねぇよ」

魔女「そうですか?私は自分が弱々しいから憧れますけど」

男「おい、聞いてんのか」

姉「お前の話なぞ反応する価値もないってことだよ。気付けバカヤロウ」

男「ほー、好きかって言うな」

魔女「す、すみません。別に男さんの話を無視してたワケではないんです」

男「じゃぁ、どういったワケで?」

魔女「優先的にお姉さんかなぁ、と」

姉「本音は?」

魔女「その通り過ぎて何と反応すれば良いやらで」

男「ちょっと外行こうか……」ガタッ

魔女「な、何する気ですか!行きませんよ絶対に!」

男「なぁに、ちょっと頭蓋凹ますだけさ」

魔女「それはちょっとじゃありません!」

男「時間的にはちょっとだろ」

魔女「状態的にはそうも――

ギャァァァァァ!

魔女「わっ!」ビクッ

452: 1 2011/07/10(日) 23:37:30.50 ID:LpXnDVJSO
姉「ワニスケだな」

魔女「ワニスケちゃんが人を襲ってるんですか!?」

男「言ったろ?番犬さ」

姉「何処かの外道めが悪さしようとしたんだろ。大概は中高生の悪戯とか度胸試しだが」

男「賢いから判っちゃうのよ。んで、遊び半分に全力で追っかけ回したりすんの」

魔女「あ……首輪着けてないから……」

姉「そうそう」

魔女「えと、咬みはしないんですね?」

男「よっぽどが無ければな」

魔女「なら、ワニスケちゃんの方は殴られたりしないんですか?」

男「アホ言え。戦闘技術知ってる動物に人間が勝てるかよ」

姉「でもま、念のためがあるから迎えに行くが。愚弟、私の丈は何処だ」

男「玄関だ」

姉「把握。んじゃ、ちょいとひとっ走りだ」

魔女「気を付けてくださいね」

ガチャ
バタンッ

男「さて、今のうちに茶でも汲むか」

魔女「男さん、あの、念のためってやっぱりそう言う……」

男「迷子」

魔女「はい?」

男「追いかけ過ぎて道判んなくなんの。居るだけで恐怖だから、次の日の登校時間はマジ大パニックよ」

魔女「動物って帰巣本能がどうたらって……」

男「賢さの代わりに色々動物としての感覚忘れちまってんだよ、あいつ」

魔女「はー、不思議な子ですね」

男「おれもそう思う」

459: >>1 2011/08/07(日) 17:53:26.43 ID:BxEIYLeSO
男「今日は……そうだな。家族との思い出でも話そうか」

男「おれの家にワニスケって名前のワニが居るのは知ってるよな」

男「あいつとの出会いというか、まぁ、そこら辺だ」

男「えーと……ちょっと待てよ。今あいつがアレだから……八年前か」

男「あー、八年前の、俺は小4だったんだが、まぁそんなある日だよ」

男「ほら、あの頃って心霊とかUFOとかオカルトが流行ってただろ?」

男「俺も波には随分乗っててね。ちょうどその日は宇宙人が人間を攫うとかそんなTV見たんだ」

男「布団に入っても、もしかしたら攫われるんじゃないかとビビって眠れなかった」

男「そんな時にだ。近くの山に……っと、そう言えばコイツも言い漏らしか」

男「おれの家さ、昔は山の近くにあったんだ。で、その近くの山に発光する謎の飛行物体が出現した」

男「来た!って思ったね。ヤバイ!とも思った」

男「だから、布団に包まってブルブル震えてたんだけど、同じ状況でも真逆の反応する奴が居るんだよなぁ」

男「うん、姉さんだ」

男「向こうはどうも、来た!って思うと同時にチャンスだ!と思ったらしい」

男「捕まえてJAXAに売り捌くんだーっとか言って、嫌がる俺を引き摺って山まで行くのよ」

男「で、俺はぐれたんだ。途中で野生の猪と出会ってパニくって、バラバラに逃げたせいで」

男「一人泣きながら姉さんの名前呼んで彷徨い……ん?」

男「お前の両親だ。今日は随分早いし、大分焦ってるな。何か有ったっかな、こりゃ」

男「その何かが悪いことじゃないと良いが……」

男「じゃ、おれは帰るよ。親御さんの邪魔だからな」

男「話の続きはまた明日だ」

460: >>1 2011/08/07(日) 17:54:08.25 ID:BxEIYLeSO

ガラガラガラ

男「……ふぅ」

「……男くん」

男「えっ、あ、お母さん」

茶髪母「こんにちは。お見舞いに来てたの?」

男「はい。お母さんは休憩ですか?」

茶髪母「……そう、ね」

男「……?」

茶髪母「ねぇ、男くん。少し話したいことがあるのだけれど、良いかしら?」

男「えぇ、まぁ。ただ、この場所は少し都合が悪いので、何処か別の場所でなら」

茶髪母「良いわ。私も此処だとしにくいのよ。人の居ないところに行きましょう」

男「……そういう話ですか。分かりました、移動しましょう」

461: >>1 2011/08/07(日) 17:55:50.38 ID:BxEIYLeSO
―――病院 屋上



男「無理言って解放してもらいました。此処なら良いでしょう」

茶髪母「ありがとうね」

男「いえ、出来る限りのことはしてあげたいんです」

茶髪母「出来る限り、ね。それってどうしてなの?入院費用も出してくれるし……」

男「ははは、深い意味は無いですよ。ただ変化に気付けな――

茶髪母「やっぱり、逃れる為?」

男「……はい?」

茶髪母「いい人ぶって疑いの目から逃れる為なんでしょ?ねぇ、そうなんでしょ?」

男「ちょ、ちょっと待って下さい!どうしたらそんな話に!」

茶髪母「そう……とぼけるの……」スラッ

男「……ッ!お母さん、刃物は洒落になりません。まず落ち着いて」

茶髪母「うるさいこの人殺しぃぃぃぃぃっ!!」ヒュンッ

男「うぉっ!」サッ

茶髪母「うわぁぁぁぁ!!」ヒュンッ

男「ぐっ……」サッ

男「……!だから!なんで!急に!……説明して下さいっ!」

茶髪母「とぼけるなぁぁぁっ!!」ヒュンッ

男「とぼけてっ、ません!」サッ

茶髪母「あなたが息子を殺したんでしょぉぉぉがっ!!」

男「…………は?」

男「死ん……だ………?アイツが……?」

茶髪母「このっ!」ギラッ

男「……あっ」

462: >>1 2011/08/07(日) 17:58:02.04 ID:BxEIYLeSO
―――公園前



姉「でさー、その時はホント負けるかと思ってさー」

姉友「でも勝ったんでしょー?」

姉「相手の得物がすっぽ抜けてね」

姉友「すっぽ抜けるとか有るんだ」

姉「普通は滑り止め巻いとくもんだけど、さぼってたぽい」

姉友「アホな人」

姉「だから、あたしは言ってやったんだよ。これが実戦ならキサマは死んで……」

姉友「……?どうしたの?」

姉「……水筒貸してくれる?」

姉友「えっ、良いけど……。喉乾いたの?」

姉「アリガト。凹ませても構わないよね!!」

姉友「ちょっ!凹ますって何に使うのっ!?」

姉「ヒュー、流石お嬢様。懐広いぜぇ」

姉友「私まだ許可してないしっ!ダメっ!ダメだかんねっ!」

姉「上島さん的なノリと見た」

姉友「ちがーーう!!」

姉「剛速球ぅぅぅ!!」ブンッ

姉友「うわぁぁぁ!やりやがったコイツ!!」

ヒュンヒュン
ゴシャッ

ォォォオオッ!

姉友「ちょっ、ちょっと!誰かに当たっちゃったよ!?」

姉「……ストーカーだ」

姉友「え?」

姉「ここ最近ずっと私たちを尾行してた」

姉友「えっ、ストーカー!ウソッ!?」

姉「取り敢えず警察に連絡頼む。私は様子見てくる。そしてぼこる」

姉友「あ……、あっ、うんっ!無茶しないでねっ!」

姉「ん」

463: >>1 2011/08/07(日) 18:00:02.04 ID:BxEIYLeSO

タッタッタッ

姉「この角の先にっ!」バッ

姉「……ッチ」

姉「逃げたか。なんとも足の速い」

姉友「ね、ねぇ、そっちに行っても大丈夫……?」

姉「ん?あぁ、多分ね」

姉友「……逃げたの?」ヒョコッ

姉「ムカつくことに」

姉友「そ、そう……」キョロキョロ

姉「んー、そう言えばぶん投げた水筒が見当たらない。お持ち帰りされちゃったか?」

姉友「ひっ……!」ビクッ

姉「おい、そんなにビビるなよ。そりゃぁ、生理的嫌悪が湧き出る気持ち悪さだが……」

姉友「う、うえっ!」

姉「あ?」

姉友「あそこ!あそこの屋根の上にっ!」

姉「屋根の上……?」クルッ


包帯男「……」


姉「へぇ、こりゃまた変 さんだわ」

姉友「な、なにあの人……」ギュッ

姉「守ってやる。恐がんな」ギュッ

包帯男「……」

包帯男「……」バッ

464: >>1 2011/08/07(日) 18:00:31.89 ID:BxEIYLeSO
姉友「あ、行った……」

姉「行ったな……」

姉友「はぁー……」ヘタリ

姉「……」

姉友「あ、あははは、なんか腰、抜けちゃった……」

姉「全く、軟弱よのぉ。取り敢えず公園のベンチまで担ぐぞ」ヒョイ

姉友「うん、ごめんね」

姉「ナハハハ、おにゃのこの太ももを合法的にふにふに出来るなら安いものよ」

姉友「バカッ!」ペシッ

姉「はははは」

姉「……」ギリッ

465: >>1 2011/08/07(日) 18:01:50.58 ID:BxEIYLeSO
―――病院 屋上



ガシッ

男「……!」

茶髪母「ッ!」

茶髪父「やめないかっ!!」

茶髪母「イヤッ!離して!離してぇぇっ!!」

茶髪父「お前、自分が今何をしようとしていたか分かっているのか!!」

茶髪母「あの子の仇を討つの!!」

茶髪父「巫山戯るなっ!息子は自殺したんだ!彼は関係ない!!」

茶髪母「嘘よ!あの子が自殺なんかする筈ない!」

茶髪母「アイツが殺したのよ!アイツのせいで死んだのよっ!!」

男「ぁ……」

茶髪父「いい加減にしろぉぉっ!!」

パァンッ

茶髪母「うっ……!」ドサッ

茶髪父「……はぁ、こんな刃物まで持ち出して……」

男「……」

茶髪父「男くん、だったか。妻が迷惑を掛けた。怪我は無いか?」

男「あ、はい……」

茶髪父「後日、この詫びは必ずする。だから、今日は済まないがこのまま帰らせていただく」

男「そんな、詫びだなんて……」

茶髪父「必要さ。ほら、帰るよ。立てるかい?」

茶髪母「ウソ……ウソよ……あの子が自殺なんて……」ブツブツ

茶髪父「やれ……」グイッ

茶髪母「ウソ……ウソなのよ……」ブツブツ

茶髪父「それじゃぁね、男くん」

男「……」

男「……あの」

茶髪父「ん?」

男「奥さまを責めないであげて下さい。多分、言ってることは正しいと思うので……」

茶髪父「君、それは……」

男「おれが彼を、あなた方の子息を殺したんです。きっと」

茶髪父「……」

茶髪父「息子はね、自殺したんだよ……」

男「原因はおれですよ、はははは」

茶髪父「……君も疲れているみたいだね。今日はゆっくり休みなさい」

467: >>1 2011/08/08(月) 00:18:53.51 ID:HH8NiacSO
―――男の家



姉「ただーいまー」

魔女「はい!お帰りなさい、お姉さん!」

姉「んー」

魔女「あの……、お姉さん?」

姉「んー?」

魔女「何か疲れていません?」

姉「……そう見える?」

魔女「はい。顔が少しやつれているような……」

姉「……はぁぁ、魔女ちゃーん、聞いてよぉ~」

魔女「えっ、は、はい!聞きます!」

姉「お泊まりすることになったの~」

魔女「別に困ることじゃ……あっ!男の子ですか!?」

姉「ううん、女の子~」

魔女「なら、何も問題ないような……」

姉「有るよー。有りすぎて困ってんのー」

魔女「はぁ。具体的にはどういう事情なんです?」

姉「ストーカー」

魔女「ストーカー!?」

姉「そうよー。マジ勘弁」

魔女「それ大変なことじゃないですか!もしかして、この前言っていた包帯の人!?」

姉「うん。アレはやっぱり、私を狙ってたみたいだ」

魔女「その人が、今日も現れたんですか……」

姉「友達居るときにね」

魔女「それは大変でしたね」

姉「全くだ」

魔女「アレ?でも何でそこからお泊まりに?」

姉「いやさ、ストーカー野郎に逃げられた後、警察来るのを公園で待ってたのよ」

魔女「追ったんですね、ストーカーさんを……」

姉「私もそこで本当のこと言えば良かったのに、女子大生を無差別で狙う変 の類って言っちゃったのよー」

魔女「あー、それでお友達さんは怖くなっちゃったと」

姉「水筒持っていかれたのも効いたんだろーねー。もう、必死に楽しいお泊まりプランを進めてくんの」

姉「旅行代理店みたいに、何がお得だ、何処が素晴らしいだとか、大切なメモリー云々みたいに」

468: >>1 2011/08/08(月) 00:25:18.40 ID:HH8NiacSO
魔女「お姉さん、途中で狙われているのは自分だ!って言いだせば良かったじゃないですか」

姉「無理無理。マシンガン捌くのに精一杯」

魔女「お姉さんのペースを奪うほどのマシンガン……」

姉「その後は警察にあれこれ聞かれるし、あー、だるいっ!」

魔女「お疲れ様です」

姉「というワケで、あたしの分の夕飯要らないから」

魔女「はい、分かりました」

姉「それと、悪いんだけども、宿泊セットを出しといて。私は獲物選んで来るから」

魔女「危ないことしないで下さいね」

姉「それは妖怪包帯巻き巻きの動向次第だな」

魔女「警察さんが動いてくれるなら良いじゃないですか」

姉「動かないよ。明確な証拠が少なすぎる。警察ってのは案外多忙だし、案外怠惰だ」

魔女「でも……」

姉「それに、敵が敵なら動いてもらうとややこしい」

魔女「……?」

姉「あたしをストーキングする奴は限られてんの。前にも言ったけど、大して可愛くないし愛想も尻尾も別段振ってないしね」

魔女「いや、お姉さんは格好良いんです」

姉「良いから聞け。論点じゃない」

魔女「あ、はい」

姉「候補一つ目は、私を後ろから刺そうと狙う憎しみの塊さん」

姉「二つ目は、魔女ちゃん目当てか母さんのファン」

姉「三つ目が魔法使いどもだ」

魔女「あっ……」

姉「分かった?友達の手前ああしたが、本意じゃないんだ」

魔女「済みません」

姉「魔女ちゃんは関係ないよ」

魔女「……はい、大丈夫です」

姉「んー、さてと、武器は決まった。魔女ちゃん、宿泊セットは有ったかい?」

魔女「ここに出してます」

姉「おー、これだコレ。埃も拭いてくれたんだね。感謝だ」

魔女「中のお菓子も詰め替えておきました」

姉「あはは、詰めっぱだったか。こりゃ、失敬」

魔女「管理はしっかりでお願いします」

姉「うん、次からは。それじゃ、行って来るね」

魔女「はい、行ってらっしゃい」

469: >>1 2011/08/08(月) 00:26:00.30 ID:HH8NiacSO
姉「あ、そうだ!」

魔女「忘れ物ですか?」

姉「んや、警告」

魔女「警告?」

姉「多分、今日から暫く愚弟は機嫌が悪い。最悪、魔女ちゃん関係には腫れ物注意になるかも」

魔女「な、なんでです?」

姉「それは知らない方が良い」

魔女「知らない方が……」

姉「コレも有るからなるべく一緒に居ようって思ったんだけど、ごめんね」

魔女「いえ……その、まだどうすれば良いのか分からないんですが」

姉「下手に刺激しちゃダメってこと。機械的な受け答え以外は無視も道の一つかな」

魔女「無視……ですか。出来ればしたくありません」

姉「匙は任せるよ」

魔女「分かり、ました……。良く考えます」

姉「うん、1日だけ我が家を頼むね」ガチャ

魔女「任せて下さい」

バタンッ

魔女「……」

魔女「私が知っちゃいけない理由……」


…………………
……………
………

470: >>1 2011/08/08(月) 00:28:51.16 ID:HH8NiacSO
男「ただいま」

魔女「お帰りなさい、男さん。今日は…………っ!」

男「どうした?」

魔女「い、いえ、随分憔悴なさっているようなので……」

男「憔悴、ねぇ。そんな酷い顔か?」

魔女「はい……」

男「ははは……、道理で変に同情されるワケだよ」

魔女「男さん……?」

男「魔女」

魔女「は、はい!何ですか?」

男「夕飯は要らない。姉さんと食べてくれ」

魔女「あ、お姉さんは居ないんです。今日はお友達さんの家に泊まりに行くみたいで」

男「ふーん、お気楽なもんだ」

魔女「……ちょっと」ムッ

男「んだよ」

魔女「お姉さんは別にっ…………いえ、それよりも夕飯は要らないって、何処か調子が悪いんですか?」

男「適当に考えとけ。食いたくないもんは食いたくないんだ」

魔女「ならそうします」

男「……」テクテク

魔女「……っ、男さん!」

男「あぁ゙?」

魔女「私に何か出来ることは在りませんか?」

男「何の話だ」

魔女「あの魔方陣を刻まれたお二人の話です」

男「……ッ!」

472: >>1 2011/08/08(月) 00:32:39.73 ID:HH8NiacSO
魔女「考えたんですけど、男さんが機嫌悪くする理由はそれしかないと思ったんです」

魔女「もしそうなら、私にも関係がある話になります。一人で抱えこまないで――

男「無ぇよ!何にも無い!!てめぇみたいな弱者が出来ることなんてハナから存在してねぇっ!!」

魔女「っ!確かにそうかもしれませんが、でも、そんな言い方!!」

男「うるせぇっ!漠迦は関わってくんな!!」

魔女「いいえ、関わります!」

男「足手纏いで障害になんだよ!!」

魔女「男さんに魔方陣が読めるんですかっ!!」

男「読めたところで解けないんじゃ、ゼロと一緒だ無能!!」

魔女「何ですかそれ!男さん!ホントに彼らを助ける気在りますか!?」

男「このっ…………」

男「……いや、確かにお前の言うとおりだ。協力してもらわなきゃダメだよな」

魔女「男さん……」

男「魔女、お前に幾つか頼みたいことがあるんだが良いか?」

魔女「はい!全力で受けます!」

男「有難う。それじゃぁ、取り敢えずお前は……」

魔女「はい!」

男「金輪際、誰かと    するな。誰かにキスするな。誰かを好きになるな」

魔女「なっ……!」

男「ついでに、自分にも何か役割が在るんだって思い上がるな。以上」

魔女「ちょ、ちょっと待ってください!そんな協力はしません!!」

男「うるせぇなぁ……」

魔女「どうしてそんな酷いこと言うんですか!!」

男「適当に考えろ。おれは寝る」テクテク

魔女「真面目に答えて下さいっ!」ガシッ

男「……ッ!触れんなぁっ!!」ドガッ

魔女「キャァッ!」

男「あ……」

魔女「う、うぅ……」ドサッ

男「だい…………」

男「……クソッ」クルッ

魔女「ま、待って……うっ」ズキッ

ガチャンッ

474: >>1 2011/08/08(月) 21:59:06.49 ID:HH8NiacSO

…………………
……………
………



475: >>1 2011/08/08(月) 21:59:56.39 ID:HH8NiacSO
魔女「いたたた……青くなってる……」

ワニスケ「シャー?」

魔女「あ、ワニスケちゃん。ちょっと待ってください。薬塗ったらご飯出しますから」

ワニスケ「シャー」

魔女「……」

魔女「……私、ダメな子ですね」

ワニスケ「シャー……」

魔女「お姉さんの忠告は無視しちゃうし、それで得たのは喧嘩だけだなんて……」

魔女「……はぁ、何してるんだろ、一体……」

ワニスケ「シャ……」

ワニスケ「……!」ピクッ

魔女「……ワニスケちゃん、どうしました?」

ピンポーン

魔女「あれ、お客さんかな?」

ワニスケ「シャー!」トタタタ

魔女「あっ!ワニスケちゃん!何処に行くんですか!」

「いい!止まれワニスケ!」

ワニスケ「シャ」ピタッ

男「おれが出る」

魔女「……!男さ――

男「そこの出来損ないもだ。動かず喋らず待ってろ」

魔女「あ……」

男「……」カツカツ

ガチャ

476: >>1 2011/08/08(月) 22:02:25.79 ID:HH8NiacSO
男「はい、どちらさま?」

青年「や、少年。また会ったね」

男「てめぇか……」

青年「家の中、何かもめてたけど大丈夫かい?」

男「失せろ」カチャ

青年「……っ、モデルガンかい?」

男「良いから失せろ。おれは今、自分にもてめぇら魔術士にもサイッコウにイライラしてんだ……!」

青年「おや?僕は自分が魔術士だなんて名乗った覚えないけど」

パァンッ

青年「いっ!」

男「失せろって言ってんのが聞こえねぇのかっ!!」

青年「……やれ、怖いね。日を改めようか」

男「とっとと行けっ!!」

青年「……そうだ、最後にちょっとだけ質問」

青年「君の前の担任の先生はどんな人だった?」

パァンッ

青年「うわっ!」

男「……」パァンッ

青年「わ、分かった!去る、去るよ、もう!」タッタッタッ

男「……」カシャッ

男「……」パァンッ

「ォォア゙ッ!?」

男「てめぇもだ、変 野郎……」

包帯男「ぉぉぉおお゙……」バッ

男「……ッチ」

バタンッ

477: >>1 2011/08/08(月) 22:03:02.14 ID:HH8NiacSO
魔女「あ、あの……男さん……」

男「ワニスケ、しっかり見張り頼むな」

ワニスケ「シャー」

魔女「男さん!」

男「……」カツカツ

魔女「待ってください、男さん!さっきのこと謝りたいんです!」

魔女「だから――

ガチャンッ

魔女「っ!」ビクッ

魔女「……」

488: >>1 2011/08/21(日) 00:26:08.51 ID:MVx/43ySO
男「……」

男「……」

男「……」

男「……葬式、行って来る……」

男「……ごめん……」

男「ごめんな……」

489: >>1 2011/08/21(日) 00:50:36.97 ID:MVx/43ySO
―――葬式会場



…………ヒソヒソ……


「おい、何であいつが来てんだよ。謹慎中だろ?教師は何か言わねぇのか」

「金持ちだから、何をしても許されると思ってんだろうな」

「マスコミを黙らせてるから、テレビにも新聞にも出ないらしい」

「女の子燃やしたって聞いたけどホント?」

「やだやだ、とっとと死んでくれないかな」

「表情が分からない」

「殺人鬼が。二度と顔見せんな」

「叔母さんから聞いた話だとさ、病院で自分が人を殺ししたこと認めたって」

「おっかねー」

「殺した奴の葬儀に出るとか、どんな神経してんだか……」

「警察も金、金、金ね」

「やべっ、目が合った……」

「カスだよ、カス」

「オカッパのあの子の病室訪れてるらしいけど、今度こそ殺すつもりなのかな?」

「許さない……許さない……」

「ずっと友達面してたんだ。ウザッ」

「    か」

「腹の底では、せせら笑ってたんだろうな」

「昨日も銃発泡してたってよ」

「俺達も狙われるんじゃないか?」

「前から怪しいと思ってたんだ」

「ほら、前の担任の先生。あれの失踪も一枚噛んでるって話」

「今にしてみれば、目がイっちゃってたよなアイツ」

「動機はなんだよ」

「とっとと帰れよ。殺人 と一緒とか吐き気がする」

ヒソヒソ……ヒソヒソ………

492: >>1 2011/08/28(日) 21:47:32.73 ID:x/rHWvcSO
―――葬式会場 入り口



男「……」

茶髪父「男くん」

男「え、あ、あぁ、お父さん……」

茶髪父「来てくれたんだね。ありがとう」

男「ははは、来ますよそりゃ」

茶髪父「いや、先日のことが在ったから。もしかしたら、ね」

男「別に恐れたりは」

茶髪父「……男くん、私達家族は君に多大な迷惑と損害を与えてしまった。本当に申し訳なかった」

男「あ、謝らないで下さい」

茶髪父「卑しいと分かっているが、今は他に用意出来なかった。これは少ないが、詫びとして受け取ってくれ」

男「だから、本当に要らないんです。謝罪も、こんなお金も」

男「あなた方の息子さんを殺したのおれです。お母さんの行動は何ら間違ってはいません」

男「社会的な対面なら気にしませんし、こちらも大騒ぎするつもりはありません」

茶髪父「……そんな……そんな悲しいことを言わないでくれ」

男「え……」

茶髪父「男くん。妻はね、ちゃんと自分が何をしてしまったのか理解している」

茶髪父「あの時は錯乱していたと認めているんだ」

茶髪父「君に怪我を負わせなくて良かったと安堵しているし、君に傷を負わせたことを悔い嘆いている……」

茶髪父「……君は、妻が今この場にいないのは、憎んでいるからだと思っているんだろう?」

男「そんな……、ことは……」

茶髪父「違う、違うんだよ。ただ、悲しんでいるだけなんだ」

茶髪父「誰かと話す余裕もないほど深くね……」

男「……」

茶髪父「……あ、済まない。こんな、君に同情を乞うような真似を……」

男「いえ、話してくれて、有り難うございます……」

男「……おれが」

男「おれがガキでした。本当に済みません」

茶髪父「男くん……」

493: >>1 2011/08/28(日) 21:48:18.47 ID:x/rHWvcSO
男「先ほどは断りましたが、もしよろしければ、あなた方の詫びと謝罪、受け取らせて下さい」

茶髪父「……有り難う。でも――

男「でも今じゃ在りません」

茶髪父「……それは、また、どうしてだい?」

男「もう自分が皆悪いだなんていじけません。だけど、確かに彼が死んだ一因はおれなんです」

茶髪父「止められなかったからかい?」

男「そうです」

茶髪父「それが罪なら、私達もだ」

男「違います。自惚れでなく、彼の異常に気付けたのはおれ達の世界ではおれだけでした」

男「……いや、気付いていたんです。でも、踏み込むことをしなかった……」


男「……おれは全くの無罪ではないんです。ですから、今の、何もしていないおれにソレを受け取る資格はありません」

茶髪父「……君の意見は分かった。私達は最大限、尊重するよ」

茶髪父「でも、一つ。何時になら受け取ってくれるのかな?」

男「おれが貴方達の前に息子さんの仇を引き摺り出すその時に」

茶髪父「え……かた、き……?」

男「……言って良いものか迷っていましたが、一番の被害者である貴方達にはおれからの詫びも込めて伝えましょう」

男「この件は自殺ではありません。単なる権力争いです。おれも片足踏み入れています」

男「あなた方ともう一組、彼女の方の家族はそれに巻き込まれただけです」

男「貴方の息子は殺されたんですよ」

男「……」

男「……それでは、失礼します」

497: >>1 2011/08/29(月) 23:12:34.94 ID:lr/NtlUSO
運転手「おや、もうお帰りで?」

男「あぁ。焼かれるまでは付き合いたかったが、色々すること見付かったんで」

運転手「晴れましたか」

男「あ?」

運転手「いえ、先程までは随分不貞腐れていたご様子でしたから」

男「あー……、まぁな」

運転手「それは良かった。正直、多少迷惑では在りましたから」

男「……ハッ、そりゃぁ、悪かったね」

運転手「今後は機嫌が悪くとも、周囲に見せしめることはお止め下さいね」

男「善処するさ」

男「……ん?」

運転手「どうなさいました?」

男「いや、向こうでおれのこと見てる奴らがいるなぁって」

運転手「お友達ですか?」

男「……向こうはもう、そう接してはくれないだろうがな」

運転手「話していないのでしょう?」

男「おれは世間様じゃぁ、すっかりサイコパスよ。そんな奴と関わり持てばどうなるかは、猿でも分かる」

男「存在認知しないのが一番賢いやり方で、一番良い方法だ。おれだって、誰だってそうするさ」

運転手「私は関わり持っていますが」

男「大人はまだ良いさ。でも、学生なんてのは案外容赦が無いし、学校ってのは存外逃げ場が用意されてない」

運転手「そういうものですか」

男「あぁ……」

運転手「月並みな言葉ですが、これから先、大変ですね」

男「自分が撒いたもんだからな。我慢する他ねぇよ」

男「ほら、車出せ。帰るぞ」

運転手「はい」

498: >>1 2011/09/04(日) 21:24:30.14 ID:EQ34ZmoSO
―――男の家



男「ただいま」

シーン

男「……?」

男「おーい!ただいまー!誰も居ないのかー?」

トテトテ

魔女「あ、あの……」

男「なんだ、居るじゃんか。魔女、ただいま」

魔女「その……」

男「あ?どうした?」

魔女「ど、どうかしたのは男さんの方ですよ……」

男「はぁ?どういうことだよ?」

魔女「だって……、ここ数日、私から声をかけても無視するか悪態つくだけだったのに、急に、そんな……」

魔女「急にそんな風に親しく接されても、どう反応して良いのか判らないです……」

男「あー、そうだったけか」

魔女「はい……」

男「そっか、うん。ごめんな」ナデナデ

魔女「えっ!」

男「うん」ナデナデ

魔女「あ、あのっ!男さん!?」

姉「すっかり穏やかな顔だねぇ。腐った肉は全部蛆にでも食わせてやったのかい?」

男「姉さん」

姉「全く、魔女ちゃん惑ってんだから、ちょっとは説明してやったらどうだ」

男「ん?あ、あぁ。コレな。コレ、撫でてんのはまぁ、詫びと思ってくれ」

魔女「わ、詫び……ですか」

男「迷惑かけて、傷付けてごめんって意味の。お前、大きさ的に撫でやすいから、ついしちまうんだよなぁ」

魔女「そうですか……。はい、分かりました。それなら、素直に受け取っておきます」

男「ん」

姉「よし。なら、次はアタシだな」

男「……は?」

姉「アタシにも迷惑かけてんだから、同じような処置しやがれよ。おらっ!」

男「……」

姉「おいおい、どうしたぁっ!」

男「……」イラッ

500: >>1 2011/09/04(日) 21:27:53.24 ID:EQ34ZmoSO
男「はい、なでなでー」ブンッ

バチンッ

姉「ビンタッ!」

男「なでなでー」ブンッ

バチンッ

姉「往復っ……!」

男「もう一回イクかい?」

姉「いやぁ……結構だよ、クソッタレめ……」

魔女「男さん、そこはきちんと謝らないと」

男「大丈夫。家族だから」

魔女「そう……なんですか?家族って凄いんですね」

姉「んなワケあるかアホ。そうなら、世の中離婚だら虐待だらで騒いだりしねぇっつぅの」

魔女「あっ、それもそうですね。全く、危うく騙されるところでした」

男「こういうのは騙された方が……っと。そうだ、話は変わるんだが今日の炊事は当番誰だ?」

魔女「私ですが、何か注文でしょうか?」

男「いいや。最近おれは職務放棄してたから、取り戻さないとって思って」

魔女「おぉ、そういう話ですか。なら、お任せします」

男「あぁ。何か食いたいものあるか?」

姉「特上寿司」

男「ん、二万円。勝手に食いに行け」ポスッ

姉「……冷たい」

男「魔女は?」

魔女「うーん……美味しい煮付けと豚汁が食べたいです」

男「へー」

魔女「ダ、ダメですか?」

男「何というか、そのファンタジーな見目から和風が飛び出る違和感」

魔女「別に良いじゃないですか!」

男「はは、悪いとは言ってない。で、他に無いか?」

魔女「他に?」

男「お前にはかなり迷惑かけたし無理言ったんだ。存分に贅沢してくれ」

魔女「うーん……それなら、美味しいケーキと紅茶を食後に頂いても良いですかね?」

男「了解。というワケだ、姉さん。分かったな?」

姉「ふぇっ!?」

男「……次その癇を突つく声出してみろ。眼腔から硝酸流し込むぞ」

姉「ごめんごめん。で、なに?」

501: >>1 2011/09/04(日) 21:30:40.71 ID:EQ34ZmoSO
男「魔女のリクエストに必要なものをその二万円で買ってこい。余った分で特上寿司でも何でも買うと良いさ」

姉「あー、そのことね。そのことなんだけど……」

男「そうだ。そう言えば、姉さんも魔女も何かしらに狙われているんだったな」

姉「いや、そうじゃなくて……」

男「なら、なるべく外出は控えるべきか。うん、そうだよな」

姉「私も寿司より手料理が食べ……」

男「オーケー。俺が買ってくるよ。ちょっと待ってろ」

姉「だから、待っ――

バタンッ

姉「……」

魔女「行っちゃい……ましたね」

姉「はぁ……。ったく、ぐずぐす落ち込んでた割に一瞬でマックスまで元気になりやがって」

姉「ホント、面倒臭いガキんちょだな」

魔女「まぁまぁ、私は男さんが元気になってくれて嬉しいですよ」

姉「無駄にした分取り戻そうとしてあんなに精力的になってんだろうけど、正直こっちは変化の様についてけないよ」

魔女「それはあるかもしれませんね。でも、いつもに近づいたと思えば」

姉「……いつも、か」

魔女「お姉さん?」

姉「何時ものあいつなら、こんなご機嫌取りみたいなことしないんだがな」

魔女「そんな、ご機嫌取りって。普通に謝罪でしょう」

姉「家族に贈り物する時は感謝の時だ。謝罪なら、ただそれだけで以上はいらない。他人行儀すぎるだろ」

魔女「でも、ご機嫌を取られる理由が在りません」

姉「理由はこれから。これから、散々に嫌なこと言われるかもよ?」

魔女「まさか」

姉「どう…………っ!」ピクッ

姉「魔女ちゃん!伏せてっ!!」

魔女「えっ!?」

ヒュンッ

バリーーンッ

魔女「キャァッ!」

姉「チッ!野球のボールが飛んできたって感じじゃないな!誰だ!!」

502: >>1 2011/09/04(日) 21:32:47.12 ID:EQ34ZmoSO
姉「……っと言って、ノコノコ出ては来ないか」

姉「魔女ちゃん、大丈夫?ケガしてない?」

魔女「あ……、はい。大丈夫です。お姉さんは?」

姉「大丈夫だよ」

姉「しっかし、一体何が投げ込まれたんだ?音からして質量のある……」

魔女「す、水筒、ですかね?アレ?」

姉「ほぉ、お返しってか……ふざけやがってぇっ!!」ダッ

魔女「あっ、お姉さん!?ちょっと!何処に行くんですか!?」ガシッ

姉「離せっ!!もうブチ切れた!!アイツだけは絶対に殺してやる!!」

魔女「ダメです!危ないですって!!」

姉「このっ……!」

魔女「……ッ」ギュッ

姉「……あぁ、クソッ!!」

姉「近くに居るんだろうから、よぉく聞きやがれ!包帯野郎!!次私の前に姿見せたらその包帯血染めにしてやるからなぁっ!!」

姉「腐りかけの脳髄にメモ帳でも突っ込んで、しっかり記憶しとけ!!」

タッタッタッ……

姉「……ッチ、マジで近場に居たのかよ」

魔女「お、お姉さん?」

姉「魔女ちゃん、今日はもうどっかに行ったりしないから、この手を離してくれ」

魔女「あ、はい……」パッ

姉「あー、クソッ……イライラする……」

505: >>1 2011/09/04(日) 23:26:43.19 ID:EQ34ZmoSO
男「窓割れてるし、姉さん機嫌悪くなってるし」

男「おれが出掛けた間に何が在ったって言うんだよ」

姉「ふんっ」

魔女「あ、ああのですね、例のストーカーさんが水筒こちらに投げてきてですね」

魔女「それで窓割れて、お姉さんコロシテヤルーって叫んで」

魔女「私、危ないと思って、その……二重の意味で。それで、止めたんですが、多分それでお姉さん機嫌が悪くなっちゃったんじゃないかと……」

男「そんなことが……。それは災難だったな、二人とも」

魔女「いえ、でも、怪我無く済んだのは運が良かったです」

男「魔女が姉さんをしっかり止めてくれたからだな」

魔女「そんな、私はただ……」

姉「愚弟ぃ、私があんな唸るしか能の無い変 に負けるワケねぇだろぉがぁ」

男「普通の相手なら徒手空拳でもなんとかなるだろうよ」

姉「あぁ?普通じゃないってか?ははっ、そりゃ確かに常時締め付けられてエクスタシー感じちゃってるような奴だもんなぁ?」

男「おれが言うのも何だが、冷静になれよ姉さん。あいつはストーカーじゃない」

姉「てめぇ……いや、確かに。言われてみれば、そうも思えるか」

男「おっ、漸く顔が物騒じゃなくなってきたな」

魔女「えっ、あの、私は全然分からないんですが?」

男「ははは、なに、簡単さ。今回のコレは明らかに挑発だ。姉さんを何処かに誘き寄せようとしている」

魔女「でも、ストーカーさんだってそれぐらいはするような……」

男「そんなアクティブな奴は最早ストーカーとは呼ばない」

魔女「じゃぁ、何と呼ぶんですか?」

男「おれが知るか」

魔女「えぇー」

506: >>1 2011/09/05(月) 00:04:35.79 ID:VfcGlexSO
姉「だが、それがどうした。こっちは次会ったら殺すとしっかり約束してんだ」

魔女「お姉さん、罠ですよ?何が有るか分からないんですから、大人しくしていましょうよ」

姉「約束を反古には出来ねぇさ」

魔女「もう!男さんからも何か言ってあげてください」

男「おれは姉さんの自由に任せる。このまま放置しとくのも危険だし、罠と分かって動くんだ。よっぽどがない限り大丈夫さ」

魔女「いやいやいや、危ない橋は避けるべきです」

男「言ったろ?姉さんを倒せるのは武芸の達人レベルさ。罠張るような奴にそんな技量があるともなぁ」

男「それに、だ」

魔女「はい?」

男「おれ達がどう言おうが、姉さんは止まらない。相当キちまってるみたいだからな」

姉「はははっ、流石愚弟だ。良く分かってんじゃないか」

魔女「……はぁ、どうしてそんな危ないことしようとするんですか。私、本当に心配しているのに……」

姉「心配してくれてんなら、現状を打破しようとする私にエールをくれよ」

魔女「あげません!」

姉「はははっ!きっついねぇ」

507: >>1 2011/09/05(月) 00:22:15.21 ID:VfcGlexSO
魔女「本当にどうかしてますよ。男さんも、お姉さんも」

男「なぁ、魔女」

魔女「なんです?」ムスッ

男「話し込んだついでに言っておきたいことがある」

魔女「……どうぞ」

男「前に、お前に恋をするな云々言ったことがあるんだが、覚えてるか?」

姉「へぇ、それを言ったのか」

魔女「覚えてますよ。それがどうかしたんですか?取り消してくれるなら喜びますが」

男「取り消さない」

魔女「え?」

男「ただ、乱暴な言い方をしたことは謝る」

魔女「な、何でそんなっ!勢いに任せて言っただけの暴言じゃないんですか!?」

男「実は、ずっと言おうと思ってたことなんだが、酷だろうと躊躇してたんだ」

男「つい、ポロッと零しちまったが、ちょうど良い機会にもなった」

魔女「ずっと……」

男「魔女、お前はこれから誰かとキスしたり、  したり、恋したりすることはしないでくれ。頼む!」

魔女「……拒否権は?」

男「悪いが与えられない」

魔女「ですよね……」

男「ついでに、理由も教えられない」

魔女「……」

男「悪いな」

魔女「お姉さんも、私にこんな制約かけたいとずっと、ずっと思っていたんですか?」

姉「まぁね」

魔女「……酷いです」フラッ

男「あ、おい!なに部屋に行こうとしてんだ!?ケーキは?」

魔女「……要りません」

バタンッ

508: >>1 2011/09/05(月) 00:49:05.79 ID:VfcGlexSO
男「あんなにショック受けるなんて……やっちまったか?いや、でも、必要なことだし……」

姉「なら、堂々としてやがれ」

男「予想外なんだよ。何であんなショックを……」

姉「其の一、お前が散々心労かけた後だから」

男「うっ……」

姉「其の二、昔のチキンと今の焦りで最悪のタイミングで発言しちまったから」

男「ぐはっ」

姉「其の三、私が受け皿にならなかったから」

男「あ、そういうのもあるのか」

姉「後は推測だが、自由を奪われることがトラウマなのかも」

男「おれ嫌われたかなぁ……」

姉「弱気になって謝るんじゃないぞ。魔女ちゃんの為にも、取り消せやしないんだから」

男「分かってるが……はぁ……」

姉「まぁ、精々ご機嫌取りに勤しむこった」

男「……姉さんも嫌われたんじゃないのか?」

姉「はは、んな漠迦な」

男「理由其の三と今日のキレ具合」

姉「……あ」

男「もし、本当にトラウマ背負ってんなら、仲直りは出来ないかもな」

姉「と、」

男「と?」

姉「取り消そう」

男「おいコラ」

514: >>1 2011/09/07(水) 22:25:24.62 ID:YFAVjdRSO
姉「ややっ、朝ご飯が出来ているっ!」

男「おれ達は今起きてきたばかりだと言うのにっ!」

姉「ということは、論理的に考えて魔女ちゃんが作ってくれたのか!お姉さん嬉しいな」

男「あぁ、いつもいつも有難うな」

魔女「ご馳走さまでした」スクッ

テクテクテク
バタンッ

姉「……死のう」

男「きっついなぁ……。一等堪えるぜ」

姉「作戦6も失敗かぁ」

男「ネタが尽きてきて、作戦なのか瞬劇なのかの違いもそろそろ怪しくなってきたがな」

姉「しかし、交流を止めたら関係も止まるし」

男「おれは寧ろ一回様子見るのも良い手な気がしてきたんだが、どうだ?」

姉「平行線辿って戻れなくなるって言ってるだろうが」

男「もしウザがられてたら下降線を進む」

姉「本人の口から出るまでは分からん」

男「言うか?今のアイツが」

姉「罵詈と文句なら、どんなに嫌ってる相手にでも言える。そうだろ?」

男「的を得てはいるが、正鵠とは言えないな。無視を決め込むことが強いと思っているかもしれない」

姉「怒りは噴火するもんさ。自分でコントロールできるもんじゃない」

男「いやいや、あいつ――

プルルル プルルル

男「っと、電話か」

姉「お前が近い。お前が往け」

男「いっつもおれだろうが。ったく……」ガチャ

男「はい、どちら様でしょうか?」

男「えっ、あ、あぁ、お母さん。こんな時間にどうしたんですか?」

男「はい、はい……」

男「……え、」

男「目を……覚ました……?」

519: >>1 2011/09/27(火) 23:07:31.87 ID:m93a6XQSO
―――病院



コンコン

「どうぞ」

男「……失礼します」

ガラガラガラ

オカッパ女子「おはよう。久しぶり……に、なるのかな?」ニコッ

男「さぁな。少なくともおれは毎日会ってたし、お前も記憶に古いワケじゃないだろう」

オカッパ女子「毎日来てくれたんだ。そっか……うん、ありがとう」

男「ははは、暇人だからな。それより、親はどうした?」

オカッパ女子「仕事だよ」

男「はぁ……お前が行かせたんだな」

オカッパ女子「うん。2人とも、有給使いきってたから。それでも休もうとするんだもん」

男「良いじゃないか、別に」

オカッパ女子「嫌だよ。私のせいでお仕事失わせちゃったら」

男「嫌、か……」

オカッパ女子「……」

男「あー……そ、そうだ。いつ起きたんだ?」

オカッパ女子「多分、昨日。ごめんね。凄く曖昧なの」

男「それは仕方ない。ずっと寝てたんだから」

オカッパ女子「うん、二週間だってね……」

男「あぁ」

オカッパ女子「長い方……だよね?普通、三日とかだもん」

男「永遠よりかは短い。それに、誰も長すぎるだなんて文句は言わねぇよ」

オカッパ女子「分かってる。でも、やっぱり不安で……」

男「……何となく察するよ。軽く言ったが、二週間ぽっかりだもんな」

オカッパ女子「……うん」

男「……」

オカッパ女子「……」

男「…………ごめん」

オカッパ女子「えっ、なに?どうしたの、急に」

520: >>1 2011/09/27(火) 23:10:54.32 ID:m93a6XQSO
男「今日は上手く話をさ、繋げられないわ」

オカッパ女子「ひ、久しぶりだから?」

男「いいや。まず、嬉しいってのがある」

オカッパ女子「大げさだよ」

男「大げさじゃない。目が覚めてくれて、本当に嬉しいんだ」

男「正直、泣きそうで……」

オカッパ女子「……やっぱり、大げさだよ」

男「後は、まぁ、お前と一緒。凄く打算的な部分が何気ない会話って行為を邪魔してくるんだ」

オカッパ女子「……私と一緒って、どうして?」

男「お前は無理に親を追い出したりしない。よっぽどが無い限りな。そうだろ?」

オカッパ女子「それ、さっき説明したよ?」

男「残念。この二週間、お前の両親は殆ど有給使ってないんだ。代わりに俺が付いてたからな」

オカッパ女子「……男くんのそういうところ、私嫌い」

男「はははっ、言われ慣れてる」

オカッパ女子「でも、私がお父さんとお母さんを追い出したからって、打算的な思いがあるっていうのは納得出来ない」

男「あー、打算は盛りすぎたな。スマートに言うと、相手に悟られず、気付かれずの情報の引き出しか」

オカッパ女子「そんなの、男くんだけだよ」

男「違うね」

オカッパ女子「証拠は?」

男「お前、記憶曖昧だろ」

オカッパ女子「ッ……!」

オカッパ女子「……お母さんに……聞いたの?」

男「お母さんや医者に話したか?話してないだろ」

オカッパ女子「……乗せたのね」

男「確証に近い仮定だ」

男「昨日再起動したばかりで、直ぐにいつも通りとはいかないだろ」

オカッパ女子「……」

男「……ま、起きた時に軽く事情を聞かされたが、でも何となく違和感がある。又は、はっきりとしている記憶とどうも食い違う」

男「それで軽く親と医者に不信が入った。だから、真実を知れる可能性としてのおれを呼んだ」

男「ってのが、おれが組み立てた仮説。有ってるか?」

521: >>1 2011/09/27(火) 23:19:59.44 ID:m93a6XQSO
オカッパ女子「……そう、そうだよ」

男「認めたな」

オカッパ女子「肝心なことが思い出せない。肝心なことを教えてくれない」

オカッパ女子「皆知らないんだ!憶えていないって凄く、凄く怖いのに!」

男「察するよ。無ってのは確かに怖い」

オカッパ女子「……男くん」

男「どうした?」

オカッパ女子「隠してたのに、此処まで引き摺り出したんだもん。教えて……くれるよね?」

男「悪いが、そいつには乗れないね」

オカッパ女子「……なぁんだ、結局男くんもそうなんだ……」

オカッパ女子「……もう知らない。男くんの打算にも答えないから」

男「おれも今日は自重するよ」

オカッパ女子「え?」

男「お前、自分の体調分かってないな?」

オカッパ女子「私の?」

男「声、擦れてきてる」

オカッパ女子「うそっ!?」

男「本当だ。やっぱり、昨日の今日で万全とはいかない」

オカッパ女子「……」

男「お互いに質問タイムは延期な」

オカッパ女子「……私の体調が気掛かりなら別に心配いらないよ」

男「無理だよ。お前が大事だ」

オカッパ女子「……」

男「焦んなって。日を置けば記憶も戻ってくる。質問はそれからでも問題ない」

オカッパ女子「でも……怖いよ……」

男「幻だ。眠れば消える。んで、起きたら忘れてる」

オカッパ女子「でも……」

男「他に薬は無いぜ?勿論、お前の知りたいことを全部喋るのもだ」

オカッパ女子「……分かった。休む」

男「それが良い。今日は一日中でもお前に付き添ってやるから」

オカッパ女子「ありがとう」

男「あぁ」

522: >>1 2011/09/27(火) 23:21:19.57 ID:m93a6XQSO
オカッパ女子「……」

オカッパ女子「……ねぇ」

男「ん、なんだ?」

オカッパ女子「一つだけ……良い?」

男「……どうぞ」

オカッパ女子「少女ちゃんはどうしたの?」

男「っ!」

オカッパ女子「お見舞いにも来てないって…お母さんが……」

男「……あいつは」

オカッパ女子「……うん」

男「帰ったよ。ロシアに。お別れ言えなくて凄い悲しがってた。本当だ」

オカッパ女子「帰っちゃったんだ……」

男「大分物騒になったからって、アイツの親が帰らせたんだ」

オカッパ女子「うん……」

男「本当だ……」

オカッパ女子「……お休み、男くん」

男「あぁ、お休み」

523: >>1 2011/09/27(火) 23:23:34.17 ID:m93a6XQSO
―――男の家



姉「魔女ちゃーん」

魔女「……」

姉「魔女ちゃーん魔女ちゃーん」

魔女「……」

姉「魔女ちゃーんちゃんちゃーん。機嫌治してくれよぉー」

魔女「うるさいっ!」

姉「うおっ!?」

魔女「ふんっ」プイッ

姉「……ったく、ロスト     したからってずるずる痛み引き摺ってんなや」

魔女「……今、何て言いました?」

姉「  卒業おめでとう。並びに、破弧の痛みに何時まで喘いでるつもりだって言った」

魔女「馬鹿馬鹿しい!何時!誰が!そんなことしましたかっ!」

姉「したよ。誰かに本気で怒ったの初めてだよねぇ?」

魔女「なっ!」

姉「悪いね。チキンの愚弟が居ないし、いい加減迷惑だから、ちょいとキツめにお説教&手解きだ」

魔女「聞きませんよ、そんなの」

姉「聞け。でないなら、私達の家から出ていけ。貧乏神背負えるほど暇じゃないんだ」

魔女「……ッ」

姉「どうするの?」

魔女「聞きますよ!聞いてやりますよ!」

姉「ハハッ、力強い返事だね。そんなに出ていくのは嫌かい?」

魔女「何でそうなるんですか!仕方なくです!」

姉「仕方なくか。嫌なら義理を通す必要はないんだよ?」

魔女「それが無理だと言っているんです!」

姉「無理じゃないさ。監視の任務が義理だと言うなら、カメラを設置する権利をあげよう」

魔女「えっ」

姉「それで実家に帰るなら路銀をやろう。マンション借りるなら軍資金をやろう。上限は100万まで」

魔女「……正気とも本気とも思えないほど好待遇ですね」

姉「狂ってるからね」

524: >>1 2011/09/27(火) 23:25:55.58 ID:m93a6XQSO
姉「さぁ、新たに条件を追加したところでもう一度聞こう。聞くor去る、貴女はどっち?」

魔女「……」

姉「おいおいー、クイズ番組じゃないんだから伸ばしは要らないよー。ヘイッ、ハリーハリー!」

魔女「……ああ、分かりました。お姉さん、選ばせる気ないでしょう」

姉「へっ?何言ってんの?」

魔女「どうせ、私がまた聞く選んでも条件を追加して再度、という形にするんでしょう」

魔女「此処から出ていって欲しいなら、回りくどく言わずに真っ直ぐに来て下さいよ!」

姉「……あ、ああー、そう取れるかぁ。じゃぁ、折角だから乗らせてもらおう」

姉「とっとと失せろ」

魔女「……っ」

姉「アッハッハッハッ!冗談!冗談よぉ!そんな泣きそうな顔しないでよー!」

魔女「べ、別にそんな顔してませんっ!」

姉「まぁー、どっちでも良いけどー。ってか、結局曖昧な結果か。愚弟みたいに上手くはいかんねー」

魔女「……はい?」

姉「よーし、もう面倒臭い臭いから単刀直入に聞くわ」

姉「魔女ちゃんの家出を止めたのは、こっちの家が好きっていう思い?それとも、あっちの家が嫌いって思い?」

魔女「はいぃっ!?」

姉「私的には好きが3で、嫌いが6、その他1って感じだと思うんだけど」

魔女「ちょ、ちょっと待ってください!何でそんな話になっているんですか!!」

姉「だってぇぃ、私が聞きたかった本質はこっちだもんだもーん」

魔女「それに、どうして勝手に嫌いか好きかなんて予測立てているんですか!」

姉「何か違うかい?」

魔女「何もかもがです!全くの逆ですよ!」

姉「うっそだー。どうあがいても実家嫌いに成るを得ないっしょ」

魔女「また根拠のないことを!」

姉「んー、証拠はあるよ?」

魔女「え?」

姉「少なくとも、目の前で人がサイコロステーキにされても騒ぎださず、心も病まない」

姉「その程度には死体を見慣れているんだろ?」

魔女「……!」

525: >>1 2011/09/27(火) 23:28:44.49 ID:m93a6XQSO
姉「そんな生活に加えて自由もなし。心根の優しい魔女ちゃんには、嫌いになる要素しかないじゃん」

魔女「そ、それは……」

姉「違う?」

魔女「……そっ、それよりも!」

姉「おっ、話かえるのかい。良いよ。付き合おう」

魔女「聞きたいことの本質がそれなら、先の怒り云々は嘘ですか」

姉「いえす。大いに嘘だ」

魔女「結局、私じゃなくて私の持つ情報の為に機嫌取りでもしようとしたんですね」

姉「違うよ。怒ってない人間に怒りを鎮めろってのは矛盾してるから嘘なんだ」

魔女「……何のことです?」

姉「魔女ちゃん、もう怒りなんかないっしょ。家事もしてくれるし、愚弟の言い付けも守ってるし」

魔女「そ、そんなこと在りません!!」

姉「その言は偽なり。今の魔女ちゃんの態度の元は……」

魔女「な、何ですか……」

姉「……」

魔女「……あの」

姉「悪いね。急用が出来た」

魔女「はぁっ!?」

姉「話の続きはまたしてあげるよ」

魔女「ちょっとお姉さん!こんな中途半端になんて!」

姉「んじゃ、バイビー」タッ

魔女「あっ」

バタンッ

魔女「……」

魔女「ああぁ……もうっ!」

526: >>1 2011/09/27(火) 23:31:04.18 ID:m93a6XQSO
―――病院



男「……はぁ」

男「……どっちの恋が本当なんだよ、お前……」

ガラガラガラッ

男「……!」

ショート女子「あの……お見舞いに来たんですけど……」

男「あ、あぁ……どうぞ」

ショート女子「えっ!?な、何であんたが居るのよ!?」

男「いやまぁ、成り行き?」

ショート女子「信じらんない!」

男「おれだってお前がお見舞いするなんてイレギュラーだ」

ショート女子「うっさい!友達の心配して何が悪いってのよ!」

男「友達ならもうちょっと静かにしろよ。寝てるんだぞ」

ショート女子「うっ……ムカつくぅ……」

男「はいはい、そうだね。ムカつくね」

ショート女子「で、なに?直ぐに帰るの?ってか帰ってよ」

男「理由がない」

ショート女子「 罪者と一緒に居たくないの」

男「人は生きている限り誰かを傷付けるもんさ。つまり、皆 罪者。仲良しさんだ」

ショート女子「素直に帰りなさいよ。そういう所がウザいって分からないの?」

男「分かってるから言うんだよ。ストレス溜まるだろ?」

ショート女子「このっ……!」

男「病院内では非暴力でお願いしまーす」

ショート女子「本当にムカつく……」

男「はっはっはっ」

ショート女子「……そう言えばさぁ、あんた、魔女ちゃんを監禁してるらしいじゃん」

男「は?」

527: >>1 2011/09/27(火) 23:32:47.79 ID:m93a6XQSO

ショート女子「あっ、狼狽えた。もしかして、図星ぃ?」

男「いや、おい、ちょっと待て……」

ショート女子「酷い独占欲って言うの?本当に最低。死んだほうが良いよぉ」

男「……誰から聞いた」

ショート女子「あっ、気になる?気になるよね、そりゃ。大丈夫だよ、警察じゃないから」

ショート女子「でも、もしかしたら金で何とかなる警察よりか危険かもね」

男「いいから言え。誰だ、誰に聞かれたんだ!」

ショート女子「ちょっ、必死過ぎるし……。何なの?静かにするんじゃないの?」

男「言えっ!」

ショート女子「……お兄さんだよ、魔女ちゃんの」

男「……!」

ショート女子「中々会わせて貰えないんだー、って嘆いてたよ?」

男「……喋ったのか。魔女が居ること」

ショート女子「当ったり前じゃん」

男「……ッチ」

ショート女子「今頃、ドラマチックな救出劇が始まってるかもね」

男「……!ということは、ついさっきなんだな」

ショート女子「そうだよ。そこで会って話したの」

男「……良し、帰る」

ショート女子「邪魔しに行くの?止めときなって」

男「お前、ペナルティな」

ショート女子「は?」

男「人の家の事情をべらべら漏らした罰だ。おれか親が帰ってくるまでこの部屋で待機」

ショート女子「ちょっと、意味分からないんだけど!」

男「ただ待つだけ。異常が有れば守る。それだけだ」

ショート女子「説明になってない!」

男「任せたぜ」ガラガラ

ショート女子「そんなこと言ったって私かえ――

バタンッ

男「……クソッ、間に合ってくれよ」タッ

528: >>1 2011/09/27(火) 23:33:33.65 ID:m93a6XQSO
―――男の家



魔女「……」

魔女「……好きか嫌いか、か」

魔女「……」

ピンポーン

魔女「……?」

ピンポーン

魔女「お姉さん?」

ピンポーンピンポーンピンポーン

魔女「……忘れ物かなぁ」

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

魔女「……」イラッ

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

魔女「ああ、もううるさいっ!さっさと入ってくれば良いじゃないですか!!」

ピンポーンピンポ……ピタッ

「アハッ!その声、魔女ちゃんだね」

540: >>1 2011/12/04(日) 20:31:18.36 ID:BzSPEP8SO

「今会いに行くからねぇぇ!」ガキッ

魔女「っ……!」

「んぁぁ?閉まってんじゃねぇか。おい、魔女ちゃぁん、開けてくれよぉぉ!」ドンドン

魔女「……」

「おいっ!聞いてんのかっ!!開けろって言ってんだよ!クソがっ!クソがああッ!!」ドンドンッ

魔女「……あの、少し待って頂いても良いですか?今寝起きのままで、ちょっと人前に出るには……」

「あ?あー、そうなの?何だよ、そうならさっさっと言えっての」

魔女「本当に済みません。服だけ替えてくるので」スッ

「いいよ。魔女ちゃんが俺の為におめかししてくれるってんだ。いくらでも待つさぁ」

魔女「ありがとうございます」カキカキ

「あぁ、でもなるべく早くね。俺短気だからさぁー」

魔女「えぇ」

魔女「『……か………ぶ……』」ボソボソ

魔女「『きま………そ……』」カチャッ

魔女「鍵、開けましたのでどうぞ」

「おっ、そうなの?ならお邪魔しまーす」ガチャッ

魔女「『ミンシート』」

覆面の男「あ?」

シュンシュンッ
ズバッ

魔女「……呆気ない」

魔女「取り敢えず、この物的証拠をお母様の元に……」

ガタッ

魔女「なっ!」

覆面の男「てめぇ!いきなり人様の首落とすたぁ、何考えてやがるっ!」

魔女「……これは、まさか……」

覆面の男「俺がお邪魔ですってかぁ!?嫌いですってかぁ!?変に期待持たせやがってよぉぉぉ!冷水ぶっかける為か!!」

魔女「アンデット……ッ!」

541: >>1 2011/12/04(日) 20:40:26.96 ID:BzSPEP8SO
覆面の男「アン……何つった?おい!まさか、今の好きな奴の名前か!?」

魔女「は?」

覆面の男「ぁぁぁぁああああ!!それならぁっ!それならぁ、納得が行くぜ!そうか!そういうことかっ!!」

覆面の男「新しく彼氏が出来たから俺を追っ払おうとしたんだな!!ふっざけをなよっ!この尻軽!!」

魔女「こ、これはまた……」

覆面の男「俺がっ!こんなにも!こんなにも愛してやってるってのにぃぃいい!!愛して愛して愛して愛してぇぇええぁぁああ!!」

魔女「……随分不安定な」

覆面の男「ぁあああ、ぅぅううっ、無常だあぁぁ。非道い、非道いよぉぉ」グスッ

魔女「でも……」

覆面の男「こんな、こんな風に終わっちゃうならぁ……」グスッ

魔女「取り敢えずは捕獲、か……」スッ

覆面の男「殺しちゃおっ♪」

魔女「っ!なんでそんな結論――

ドゴッ

魔女「に゙ぃっ……!」

覆面の男「アッハッハッハッ、死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇいっ!!」

ガッ、ゴッ

魔女「か…はっ……」

覆面の男「俺のことが好きじゃなくなったお前に価値はなぁぁぁしっ!!」

バキッ、ガスッ

魔女「ぐぅぅっ……」

覆面の男「泣いて叫んで詫びろぉぉぉ!!詫び続けろぉぉぉおお!!」

魔女「……このっ!」バッ

覆面の男「おろろ?」

魔女「『剣劇が開く』」

魔女「『エアリパ』」

ズバンッ

覆面の男「おろろろ?」ズズッ

覆面の男「あっ、あっ、視界がずれる。また首切りやがったな!」

魔女「ハァ…ハァ……」

覆面の男「てめぇ!今度は許さねぇぞ!」

魔女「クッ、火が……火があれば……」

542: >>1 2011/12/04(日) 20:41:06.31 ID:BzSPEP8SO


覆面の男「さっき殺すって決めたが、やっぱり本当にマジで偽りなく殺すことに改めて決めたわ!!マジで!マジでな!!」

覆面の男「ハッハハハ!後悔すんなっ……ん?何だコレ?」ペタペタ

魔女「……?」

覆面の男「頭に何か付いてんな……。あっ、そうか!覆面着けたままだったか!」

覆面の男「ってことは、もしかして、俺のことが分からないだけだったの?んだよ、そんなことかよー!」

魔女「……貴方、私の知り合いなんですか?」

覆面の男「知り合いってもんじゃないさ!愛し合って繋がり合った仲だよ!ほら!」バッ

魔女「あっ!」

担任「懐かしくて嬉しくて堪らないだろぉ?愛しのダーリンが帰ってきましたぁっ!」

魔女「……そういう事ですか、お兄様」ギリッ

543: >>1 2011/12/04(日) 20:43:07.12 ID:BzSPEP8SO
―――



姉「やぁやぁやぁ!久しいかな、カス野郎」

包帯男「……」

姉「さて、契約は憶えているか?」

姉「甲は次に乙の前に姿を見せた時、生命に関する一切の権利を放棄し、一切の抵抗を排し、乙に切り刻まれることを誓いますっていうあの契約だ」

姉「お前はさっき私の家の周りを生意気にもうろつきやがった」

姉「当然、遺書は書いたな。家族にお別れは済ませたな。身辺整理はしてるな」

姉「覚悟を決めてるよな?」

姉「してなくても、今更後悔すんなよ。しても、時間はやれねぇんだ」

姉「さぁ、契約を果たそうか。喜んで刻まれてくれや」

包帯男「……」ダッ

姉「……逃げたか。ハハッ、シャイな奴」

姉「まぁ、今日はストッパーはいないし、何処まででも付いていってやるよ」

姉「何処までもな」ニッ

544: >>1 2011/12/04(日) 20:45:26.28 ID:BzSPEP8SO
―――二十分後




姉「ゼェ……ゼェ……あいつっ、足っ……速ぇぇ……ウェッ」

姉「ちょっ…ハァ……脇腹っ、痛っ……」

姉「休み……オエッ……」

姉「は、発信機着けといて……良かった……」

545: >>1 2011/12/04(日) 20:47:14.71 ID:BzSPEP8SO
―――町外れ



タクシー運転手「此処で良いの?」

姉「はい、有り難うございます」

タクシー運転手「じゃぁ、4500円ね」

姉「4500……はい、ちょうどで。帰りも呼びますから」

タクシー運転手「ん、分かった。それじゃ」ブロロロ

姉「達者でー」

姉「……さて、発信機の反応はここら辺なんだが」

ガサガサッ

姉「ん?」

猫「ニャー」

姉「……猫か」

猫「ナー」

姉「クソッ……もうちょい感度が良ければなぁ」ナデナデ

猫「ウナー」

姉「って、なんだよこの猫。あちこち包帯巻いてるし、妙に汚らしいなぁ」

猫「ニャフ」ピシッ

姉「えっ、にゃんこちゃんのご尊顔に亀裂が」

猫「ギニャー」パカァ

バクンッ



546: >>1 2011/12/04(日) 20:48:13.90 ID:BzSPEP8SO
―――男の家



担任「お、お兄様ぁ?いやいやいや!何言っちゃってんの!」

魔女「本当に悪辣な真似を……」

担任「俺だよ!俺!分からないのか!?」

魔女「どうやって調べたのか知りませんが、その人形では私の動揺は誘えません」

担任「あっ、もしかしてそういう   !?なんだ、そういう   ね!兄妹   !中々にマニアック突いてくるねぇ!」

魔女「糸を切って出てきて下さい。タネが露見した今、何時までも間接的接触を取るのはお勧めしません」

担任「でもね、前みたいに甘い声で名前を囁いてくれた方がそそるんだよ。最初はノーマルから行こうぜ?」

魔女「あくまでも貫きますか。なら、引き摺り出されても文句は言わないように」

担任「がぁぁぁあああっ!聞けよ!聞けよぉぉぉぉ!!」

ドッドッドッ

担任「……あぁ?何だこの音?」
魔女「駆動音?」

バンッ

男「チェーンソーさ」

ギュイギュィィィン

担任「……!お、お前っぁぃぎゃぁぁぁぁ!!」

男「やぁやぁやぁ、クズ野郎。ゾンビになって再会するなんて、ドラマチックなことしてくれるじゃねぇか!なぁっ!」ギュィィィ

担任「ぁ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁっ!!」

男「首取れても死なねぇようじゃ、何処までやって良いか分からんが……」ギャィィン

担任「やめっ!やめろォォォ!!」

男「取り敢えず、ミンチいってみようか!」ギュィィィ

担任「ゃぁぁぁぁぁああああ!!」

男「クッハハハハハ!!」ギュィィィ

ギュィィィン
ギャィィィ
ギャギャギャ……ギギ…
プシュー……



547: >>1 2011/12/04(日) 20:51:57.56 ID:BzSPEP8SO
男「ククク、クズ野郎でゾンビのくせに血はしっかり温かいんだな」

魔女「お、男さん……」

男「よぉ、魔女。大事ないか?」

魔女「男さん、どうして此処に……」

男「ハハッ、始めに聞くのがソレか。やっぱお前も異常だな」

魔女「異常とは失礼な」ムッ

男「だってよ、お前今、人体分解ショーを見たんだぜ?叫ぶかおれの狂気を攻めるのが普通よ」

魔女「……あっ!」

男「ん?何だその顔?しまった、って感じじゃないな」

魔女「男さん、後ろ!!」

男「あぁ?後ろだ?」

ドスッ

男「……は?」

魔女「男さん!!」

青年「あぁ、あぁ、可哀相に。ナイフが急所から外れてしまった」ズシャッ

男「ガハッ……」ドサッ

青年「これでは死ぬまで相当苦しむことになる。お前が余計なことを言うからだ、我が妹よ」

559: >>1 2012/01/09(月) 22:34:21.20 ID:sBHXCZ+SO
魔女「……ッ、男さんっ!!」

青年「うーん、傷付くなぁ。この兄との久しぶりの再会だと言うのに、気にするのは他の雄ばかりか」

魔女「お兄様!コレは明確な妨害であり、裏切りです。そのことが分かっておいでですか!」

青年「妨害って、お前のこの任務のことかい?」

魔女「お母様から聞いているでしょう。今なら報告は避けます。直ぐに失せて下さい」

青年「うーん、気に食わない」

魔女「は?」

青年「母上が最重要と位置付けるこの度の任務。どうしてお前なんだ?」

魔女「……そんなのどうでも良いでしょう。選ばれたものは選ばれたのです。さ、早く消えて下さい」

青年「良くないよ。許せないんだ。お前のような何の取り柄もない、愚鈍なクズが兄姉を、ましてこの秀才を差し置いて任務についていることがな」

魔女「知ったことではありません。私はさっさとどけと言っているのです」

青年「僕は思う、いや、確信している。これは間違いだ。間違いならそれは訂正すべき。そう思わないか?」

魔女「後で好きなだけして下さい!良いから今はさっさとどけぇっ!!」

560: >>1 2012/01/09(月) 22:35:01.43 ID:sBHXCZ+SO
青年「……やれ、聞く耳もたずか。不肖の妹だな。どかして何とする?こいつを助けるか?」

魔女「当然!」

青年「それはおかしな話だ。この少年を殺した 人が必死になって命を救おうなどと」

魔女「世迷い言を。例え死んでも手はかけません」

青年「いいや、殺すさ。僕の魔法を知らないワケじゃないだろ」

魔女「……私に殺しをさせる為に私を殺しますか」

青年「母上の為だ」

魔女「……まぁ、お兄様に退く気が見えませんので、私もそろそろ実力行使に移ろうかと考えていたところです」

魔女「物のついでに打ち負かすのも悪くない」

青年「ハハッ、大きく出るなぁ。でもお前、まさか本気じゃぁないだろうね」

魔女「お兄様こそ、未だ落ちこぼれだなんて思わないように。四年の間に腕は磨きましたから」

青年「なら試してみよう」スッ

魔女「望むところ」スッ

青年「『深緑の露を喉に落とす。流れ込む源は血に染み込み、僕の身体を流れる』」

魔女「『源は流れの中で原初の力へと姿を代え、そして貴方を撫でる指の先に集約する』」

青年「『シェイン』」シュィィン
魔女「『シェイン』」シュィィン


カッ……


561: >>1 2012/01/09(月) 22:36:41.41 ID:sBHXCZ+SO
―――町外れ



バクンッ

猫「フニャー」モグモグ

猫「ナー」ゴクン

猫「……」チラッ

姉「あ、あああ、あたしの……あたしの……」プルプル

猫「フシャー!」ギラッ

姉「あたしの髪に何さらしてくれとんじゃワレェェェェェ!!」

ゴシャァッ

猫「ミ゙ャッ」

姉「このクソ以下の駄猫がっ!色気も可愛げもないあたしが唯一女として誇れんのはこの髪だけだったんだぞ!!」

ガッ、ゴッ

猫「ミ゙ャ、ブミッ」

姉「それをテメェ、右側バックリ喰いやがって!明日からベリーショートだ!どう落とし前付けてくれんだよ!!あぁあ゛ん!?」

ガスッ、バキッ

猫「ミ゙ッ……」ガクッ

姉「…………ハッ!しまった!つい激情に任せて猫ちゃん殴っちまった!」

姉「って、別に猫ちゃんじゃないか。顔が割れる猫なんて居ないもんねー。生き物かどうかも怪しいしー」

ガサッ

姉「ん?」

包帯男「……!」ビクッ

姉「……ヘェ」ニタァ

562: >>1 2012/01/09(月) 22:37:32.15 ID:sBHXCZ+SO
姉「案外近くに居たね。それとも、わざわざ人気の無い場所で切り刻んで欲しかったのかな?かな?」

包帯男「……」ダッ

姉「おっと」ヒュン

ズバッ

包帯男「……!」ドサッ

姉「甘いねぇ。たかだか数メートル。剣士の範囲だっつぅの」テクテク

姉「さてさて、大人しく這いつくばって貰ったところで、不躾ながら次なるお願いだ」

姉「面ァ、拝ませろ」チャキッ

ズバッ

包帯男「……!」ハラッ

563: >>1 2012/01/09(月) 22:40:09.96 ID:sBHXCZ+SO
刺青男「……」

姉「ヘェ、それが素顔かい。しかし……えらく縫い目多いな。サイコロステーキにでもされたのか?」

刺青男「……」

姉「んん?良く見ればお前のその顔のパーツ、どっかで……」

ガサガサッ

姉「……!」ヒュン

ズバッ

犬「キャウン!」ドサッ

姉「……犬!?」

バサッバサッ

姉「チィッ!今度は上かっ!」

ズバッ

烏「ギギァ……」ドタッ

姉「……何だぁ?やけに獣畜生に狙われんな」

ザワ…

姉「……っ!」バッ

ザワザワ

姉「……これは」

ザワザワ
グルルル、ワォォォン、フシュー、コーン……

姉「流石に……」

ガサガサッ
キャオッキャオッ、シャー、ブルルッ、キーキー……

姉「偶然たぁ思えないな……」

バッサバッサ
ケーン、チチチッ、カァーカァー、コカカカカッ……

姉「……囲まれた」

ザワザワザワ……ザワザワザワ……

姉「百……よりは少ない。お前の罠か?」

刺青男「……」

姉「ま、どうでも良いか」チャキッ

ザワザワザワ……

姉「来い。何の因果で森の動物さんが徒党を組んで私を嬲り殺そうとしてるのかは知らねぇが……」

姉「その程度の数でニンゲン様倒せるなんて驕ってんじゃねぇぞ!!」

「グォォォォォオオオォァァア!!」


ザシュッ……!



570: >>1 2012/02/19(日) 12:02:39.29 ID:Okpc4uySO
―――男の家



青年「両親は共働きで忙しく家に帰ることは少ない。故に、姉弟と居候の子供たちだけで生活をしていた」

青年「子どもたちと居候の女性との関係は良好。とても仲が良かった」

青年「が、長女がストーカー被害に会い初めてから悪化」

青年「同時期、長男の学友が死亡。その 人とされてクラスで孤立したことも重なり、不安定な状態になる」

青年「ストレスは立場の弱い居候に向けられ、日々怒鳴り声が絶えなくなった」

青年「そして事件の日、散々に溜まった家族への怒りが爆発し、居候が長男を殺めてしまう」

青年「我に戻った居候は錯乱し、罪悪感と恐怖からその場で自殺」

青年「不運なことに同日、ストーカーを自分で追い掛けて山に入っていった長女も野犬に食い殺されていた」

青年「筋書きとしてはこんなものだ。どうだい?中々に悲劇で美しいだろう?」

魔女「……ハァ……ハァ……ッ!」ギリッ

青年「食指に合わないか。ん?あぁ、そうか。もう一人……いや、一匹忘れていたな」

青年「この家で飼われているペットのワニは、今頃トラックに轢かれている。これで満足かい?」

魔女「満足なワケェ……無いっ、だろうがぁぁ!!」バッ

青年「まだ来るか。分からない奴だ」

魔女「『指の先に集約する』」

青年「『指の先に集約する』」

魔女「『シェイン』」シュィィン
青年「『シェイン』」シュィィン

カッ
バシュッ

魔女「くっ……!」ドサッ

青年「見ろ。同じ魔法でもお前のはこんなにも脆弱で、僕のはこんなにも頑強だ」

青年「そろそろ認めろ。お前は四年経っても変わらない。依然としてクズのままだ」

魔女「お前なんかにっ……」

青年「まだ歯向かうか。しかし、このままだと早くに殺しかねないな。手足を飛ばすのは第三者を疑われるし……」

青年「……そうだ。妹よ、お前の間違いを正してあげよう。うんうん、実によくできた兄だ」

魔女「何の話ですか」

青年「そこに、まぁ、今はチェーンソーで刻まれ肉塊になってしまったが、僕の人形があるだろ」

魔女「……えぇ」

青年「お前は自分を動揺させる為に用意したなんて言ったが、そうじゃない」

魔女「……」

青年「コレはこのガキを動揺させる為に用意したんだ。お前みたいなクズは動揺してなくても、いくらでも殺せる」

青年「ま、ガキがちっとも動揺せず、人形を再起不能になるまで壊してしまったのは予想外だったけどね」

青年「おかげで、押し入った強盗が一家殺害という台本がダメになって、僕が出てくる羽目になったしな」

魔女「……ははっ」

青年「何か可笑しなところがあったかな」

魔女「嬉しいんですよ、お兄様。貴方の計画が貴方の思い通りにいっていないことが」

魔女「そして、決して成し得ないことが」

青年「ここまで力の差を見せ付けられ、ここまでこけにされて尚もそんな大口が叩けるとはね」

571: >>1 2012/02/19(日) 12:05:10.06 ID:Okpc4uySO
魔女「面白いお話を聞かせてもらったお礼に一つだけ教えます」

魔女「私は愚かですが、お兄さまの時間稼ぎが分からないほど愚かではありません」

青年「それぐらい知ってるよ。お前でも気付くように言ったつもりだ」

魔女「では、私がその間に準備をすることは?」

青年「当然。準備したそれを打ち負かしたら、お前も諦めるだろうと思ってな」

魔女「『気付けばもう過去の遺物、散々に打ち棄てられた城にそれはある』」

魔女「『それは玉座に刺さり抜けることはない、既に途絶えた資格を待ち続ける遺物』」

魔女「『凡たる私に資格は勿論ないけれど、払うべき闇がそこまで来ている』」

魔女「『どうか刹那、伝説を振るう力を』」

魔女「『エヴァ・リル・カークス』」

パキンッ

魔女「これでもですか?」チャキッ

青年「魔法剣か。確かに、無事ではいられないかもな」

青年「僕もお前も」

魔女「目の一つぐらい、安いものです」

男「そいつは……困るな……」フラッ

572: >>1 2012/02/19(日) 12:11:42.91 ID:Okpc4uySO
魔女「男さんっ!!」

青年「その傷でまだ意識があるのか。君もしぶといな」

男「お前……の…顔に……ゲホッ」

ビチャビチャ

男「クソ……肺…か……」


魔女「血がっ……無理して喋らないでください!」

男「……魔法を……け……ッ、オェッ……」

ビチャッ

魔女「け、消すんですね!分かりました!」シュン

魔女「ほら、消しましたよ!だから、だからもう……もう無理は…………お願いです……」

青年「あぁ、良かった。さすがの僕でもあの魔法を使われたら、大きな外傷無しに妹を止めることは出来なかったよ」

青年「君は僕を手伝おうと、わざわざ立ち上がってくれたのかな?」

男「……ちっ……げぇよ……」

青年「なら、僕を倒すのかな?いいよ。ジャブでもストレートでも打ってきてごらん。避けないから」

魔女「お兄さま!貴方って人はぁっ!!」

男「……ハァ……ワニ…スケっ……魔女を……グッ」

男「……魔女を……守れっ……」

男「……ハァ……ハァ……ッ、オェェェェ」

ビチャビチャッ

男「……ハ…ァ…ぅ…ぁ……」ドサッ

魔女「……っ!男さん!男さん!しっかりして!しっかりして下さい!」

青年「アッハッハッハ!これは愉快だ!そんなことを言うためにわざわざ立ったのか!」

青年「残念だったな少年!今ごろ君のペットは犬を追って――

バリーン

ワニスケ「シャー!」

青年「なっ!?」

魔女「ワニスケちゃん!?」

573: >>1 2012/02/19(日) 12:19:36.12 ID:Okpc4uySO
ワニスケ「クシャー」タッ

ガブッ

青年「ぐっ」

青年「ぁぁぁぁああああああっ!!」

ワニスケ「シャ」グルン

青年「うぉっ」グラッ

ガッシャーン

青年「……ぃっ!」

青年「ってぇなこの爬虫類がぁっ!」スッ

ワニスケ「……!」ピクッ

青年「『指の先に集約する』」

魔女「ワニスケちゃん、危ない!」

青年「『シェイン』」シュィィン

カッ

ワニスケ「クシャー!」バクンッ

青年「……は?」

魔女「……え?」

ワニスケ「ケフッ」

青年「……なっ、そんな、ウソだ……魔法を」

魔女「魔女を食べ……た……?」

青年「……クッ、クソッ、あってたまるかそんなこと!」バッ

青年「『行儀よく一直線に走る』」

青年「『ランダー』」バリバリ

ワニスケ「シャ」バクンッ

青年「『深く深く潜って』」

青年「『オータウ』」バッシャァッ

ワニスケ「シャー」バクンッ

青年「『疾れ』」

青年「『エスカ』」ヒュンヒュン

ワニスケ「フシュ」バクンッ

青年「クソクソクソクソクソクソォォォォ!ふっざけんなぁぁっ!!」

青年「なんで!爬虫類ごときに!僕の台本が!壊されなきゃいけないんだよ!っがぁぁぁぁぁ!!」

574: >>1 2012/02/19(日) 12:20:05.00 ID:Okpc4uySO
魔女「……」

魔女「……っ、ぼ、ぼーっとしてる場合じゃない!」

魔女「『古の都の跡を旅してきた』」

魔女「『家屋は荒れ果て崩れさり、草木の全てが枯れていた』」

魔女「『君へのお土産は、そこから拝借してきたものだ』」

魔女「『都の中央広場にあった、酷く錆びた鎖』」

魔女「『幾人モノ悪人、幾人モノ善人を縛り付け』」

魔女「『最後は王さえも縛り付けた、経歴高い拘束具だ』」

魔女「『君にぴったりだと思う、遠慮しないで受け取ってくれ』」

魔女「『ララパ・ファイズ』」バチッ

青年「……!うわっ!」バッ

魔女「上手く避けましたね。でも、次は外しません」

ワニスケ「クシャー!」

青年「……チッ」

青年「最悪だよ!お前たちみたいな屑の集まりに、僕が逃げなきゃいけないなんてな!」

魔女「失せるなら結構。存分に早くに失せてください。あなたの生死より大切なことがありますので」

青年「……舐めやがって。それじゃ、またお邪魔するよ」

青年「『まばたき一つで景色は変わる』」

青年「『テイクノアーザー』」

シュンッ

魔女「……ふぅ」

575: >>1 2012/02/19(日) 12:24:16.46 ID:Okpc4uySO
魔女「男さん、男さん!大丈夫ですか?」

男「……ゲホッ……ぁー、よぉ……無事……みたい…だな……」

魔女「良かった……大丈夫みたいですね。今、救急車を呼びましたから。助かりますよ」

ワニスケ「シャー」

男「……ハハッ……ゴホッ、ゴホッ……ぅ……もう……無理……さ……」

魔女「えっ」

男「……血……出過ぎた……さ……寒いんだ……」

魔女「そっ、そんなこと……い、言わないでくださいよ。せっかく助かるのに、どうして、そんな、諦めるようなこと……」

男「分かるん……だよ……無理さ……間に合わねぇ……奇跡でも……ウッ、ゲホッ…エホッ……」

ビチャツ

魔女「助かります!助かりますよ!絶対に助かりますから!そんなこと……言わないでください……」ポロポロ

ワニスケ「シャー……」スリスリ

男「ハハッ……魔女……そこに……居る…のか……?」

魔女「は、はい!私は居ますよ!男さん!」

男「……うっ……ごめん……な……」ガクッ

魔女「えっ、ちょっと!男さん!?そんなっ!なんで……!」

ワニスケ「シャー!シャー!」スリスリ

魔女「なんで……」

魔女「……ははっ、男さん、助かりますよ絶対に」

魔女「だって、私は魔法使いですよ?奇跡でも何でも起こしてみせます」

魔女「絶対に救ってみせます」

魔女「だから、生きてください」

578: >>1 2012/02/19(日) 13:29:42.80 ID:Okpc4uySO
―――



青年「クソッ、あの爬虫類め……足が砕けてる……」ヨタッヨタッ

「ヘイ!そこのお兄さん!ちょっと待ちねぃっ!」

青年「……誰だい?」

姉「クァカカカ、素敵に瀕死じゃありませんか。病院に連れていってやろうか?」

青年「やぁ、これは男くんのお姉さん。折角の心遣いだが、辞退させて頂くよ」

青年「どうにも病院ってのは嫌いでね」

姉「そうかい」

青年「それよりもお姉さん、貴女の方こそ素敵な成じゃないか。病院に行ったほうが良い」

姉「全部かすり傷さ。さっきアルコール浴びといたから、感染症の心配もない」

青年「ははは、随分荒い治療だ。君は病院が嫌いなワケじゃないんだろう?素直に行ったらどうだい」

姉「生憎、病院に行くよりも大事な用があるんでね」

青年「……僕にかい?」

姉「イエス。お兄さん、ちょいとブッた切られてくれねぇか?」スラッ

青年「おぉ、怖い。街中で殺人予告されるとは」

姉「魔女ちゃんから電話で聞いたんだよ。うちの弟が随分世話になったそうで」

青年「確かに」

姉「フランケンなストーカーもフランケンな森の仲間もお前の仕業だと聞いた」

青年「やれ、お喋りな妹だ」

姉「この狼藉、利子付けて一刀両断で返済可能って言ってんだ。安いもんだろう、えぇ?ネクロマンサー」

青年「言いたいことはそれだけだね。なら、僕は行かせてもらうよ」

579: >>1 2012/02/19(日) 13:32:45.82 ID:Okpc4uySO
姉「待てよ。お兄さんさぁ、殺せるワケがないって思ってんだろ?」

青年「おや、殺せるのかい?君が自ら進んで警察のお世話になりたいなんて思ってもみなかったなぁ」

姉「お世話にゃなりたくねぇなぁ」

青年「そうだろう、そうだろう」

姉「でも、テメェは殺すよ、お兄さん。なんつったって最高にムカつくからな」

青年「正気かい?」

姉「狂気さ」

青年「止した方が良い。君の家族が困るよ」

姉「迷惑を受け止めんのも家族だ。それに思うんだよ」

姉「あんたら魔法使い関係でこっちの警察は動かないんじゃないかって」

青年「根拠がないだろう」

姉「愚弟の担任とそのお友達の行方不明、血吸い虫の行方不明、愚弟のご学友の不自然な自殺と発狂」

姉「そして今回のフランケンパーティー」

姉「警察が騒いでないどころか、周囲の人間の聞き分けが良すぎるのも少々気になる」

姉「今も見てみろよ。片足潰れた漠迦と血濡れの刀持った美少女が仲良くお喋りしてんのに、窓から顔を出す奴さえいない」

青年「証拠足るに及ばないね。偶然だと切って捨てれる」

姉「偶然なら尚更いい!神が殺しの舞台をセッティングしてくれてんのさ!」

青年「ま、まま待て待て!落ち着くんだ!人を殺せば、その後悔は一生まとわりつくぞ!」

姉「今まで散々殺してきたよ。まとわりつくもんが一つ増えたぐらいでねぇ」

青年「そ、そうだ!君は獣たちに怪我を負わされたんだろ!アレには魔法の毒を塗った!解毒薬は僕しか作れない!」

姉「死に怯えるガキは卒業してる」

青年「君の弟を刺したナイフにも塗ったぞ!助けたいだろ!弟を!」

姉「おぉ、なら仇を討たないと」

青年「ぼ、僕は魔女の兄だ!僕が死ねば妹だって悲しむ!」

姉「その命乞いは、今までで一番につまらないな」チャキッ

青年「待て!止めろ!止めてくれ!頼む!助けてくれ!死にたくない!僕はまだ母上に――

姉「サヨナラだ」

ザンッ