―――2週間後 病院



オカッパ女子「男くん、大丈夫?」


男「あははは、大丈夫だよ。にしても、すっかり立場逆転したな」

オカッパ女子「うん」

男「お前の方こそ大事ないか?」

オカッパ女子「うん」

男「それは良かった。学校、普通に行けてるんだってな」

オカッパ女子「うん」

男「辛いことはないか?その、みんなから距離置かれたり」

オカッパ女子「辛いこと……一つだけあるかな」

男「そう、あるのか」

オカッパ女子「男くんが学校にいないこと」

男「……ははっ」

オカッパ女子「何時から学校に来れるの?」

男「1ヶ月は安静だって聞いたけど、それ以降はどうかな。おれが学校に行ってもって思うし」

オカッパ女子「そんなことないよ。ほら、入ってきて」

男「……?」

ガラガラガラ

男「あっ」

ショート女子「……」

男「お前……」

581: >>1 2012/02/19(日) 13:36:46.93 ID:Okpc4uySO
ショート女子「えーと……その……」

ショート女子「その……」

ショート女子「……」

ショート女子「こ、この子がさ、その……普段自己主張しないようなおとなしい子の……いや、そうじゃないかって……私たちが決めつけてだけなんだけど……」

ショート女子「とにかくさ、この子がさ、言うんだよ。それも泣きながら」

ショート女子「私たちがあんたの悪口言ってたらさ、その……違うって」

ショート女子「あんたは助けてくれたんだって……」

ショート女子「被害者のこの子が必死に庇うんだもん。私たちもさ、もう一回考えたんだ」

ショート女子「その……あんたが本当に殺そうとしたのかって……」

ショート女子「でさ、その……この子が間違いを しちゃう前に必死になって止めたんじゃないかって考えられるなって……」

ショート女子「も、勿論、それでもあんたのやり方は間違ってたって思う。火とか本当に危ないし……」

ショート女子「でも、そういうことなのかなって……」

ショート女子「だから……その……」

オカッパ女子「もう、しゃんとしてよ」

ショート女子「……だからその……その……ごめんっ!」

男「……」

ショート女子「みんな来たかったんだよ!でも、整理がさ……まだ出来てないっていうか、割り切れてないっていうか……」

男「……」

ショート女子「ゆ、許して欲しいワケじゃないよ。でも、一言謝りたくて。ただ、それだけ……」

男「……」

ショート女子「な、何か言ってよ……」

男「はぁ、アホか」

ショート女子「なっ!?」

582: >>1 2012/02/19(日) 13:39:48.28 ID:Okpc4uySO
男「あぁ、アホだ、アホ。アホ丸出しだよ」

ショート女子「わ、私がどんな思いで謝りに来たと思ってんのよ!もう滅茶苦茶気まずくて、胃が痛くて!」

ショート女子「あんた、それをアホって!」

男「だって、今ごろ気付いたんだろ?おれ、すんげー傷ついたのに」

ショート女子「言っとくけどあんただって悪いんだから!全然否定しないし!やり方過激だし!普段の行い悪いし!」

ショート女子「私たちが疑うのも当たり前だっ――

男「でも、ありがとう」

ショート女子「ぁ……」

男「おれを許してくれて、こいつを信じてやってくれて、本当にありがとう。嬉しいよ」

ショート女子「う、うん」

オカッパ女子「良かったね。仲直り出来た」

ショート女子「した……のかなぁ?」

男「二人とも、本当にありがとう。それから、おれの方こそごめん。みんなにも伝えといてくれ」

ショート女子「うん、分かった。それじゃ、伝えることも伝えたし、私は帰るね」

オカッパ女子「あ、じゃぁ、私も。これ以上長居するのもあれだし」

男「あぁ」

ショート女子「またね。今度はみんなでお見舞いにくるから」

オカッパ女子「早く良くなって、一緒に勉強しようね」

男「あぁ、またな」

ガラガラガラ

男「……」

男「……みんな優しいな。本当に優しい」

男「あんたもそう思うだろ?」

スッ

執事服の男「おや、お気付きでしたか」

男「舐めんなよ、魔法使い。で、何の用だ。おれの息の根っこを抜きに来たのか?」

執事服の男「とんでもない。私たちは貴方様を保護しようと参ったのです」

男「保護だと?」

執事服の男「えぇ。貴方様はこの度、教会の刺客に襲撃を受け、重傷を負った」

執事服の男「私たちの主様がこの状況を憂い、本家の屋敷にて保護することを提唱したのです」

男「なるほどねぇ」

執事服の男「さて、どうなされます。私たちの保護を受けますか?」

男「くっくっくっ、ジジイ、そういうのは拒否権用意してから垂れ流せよ」

執事服の男「なるほど、生意気な小童ですな。手荒いのがお好みと見える」

583: >>1 2012/02/19(日) 13:41:26.23 ID:Okpc4uySO
―――病院 廊下



姉「魔女ちゃん、ずっと気になってたんだけど、その眼帯は何時になったらとれんの?」

魔女「あー、これですか。これは……いや、そうですね。話しましょうか」

姉「……?」

魔女「実はこっちの目、ガラス状に変化してしまって、義眼ぽくなってるんです」

姉「変化?」

魔女「あはは、魔力切れのサインなんです」

姉「あー、魔力切れね。なんか、ごめんね。うちの愚弟を助ける為に」

魔女「いえ、良いんです」

姉「はー、ありがたやー。魔女ちゃんは良い娘じゃー。で、治るの?」

魔女「それなんですけど、こっちの技術では治らないんです」

姉「マジか。どうすんの?隻眼の美女ってキャラで行くの?」

魔女「いえ。男さんも元気になってきましたし、一旦実家に帰ろうかなって思うんです。確認したいこともありますし」

姉「なーる。珍しく私を呼んだのはそういった大事な話があるからか」

魔女「それもありますけど、お姉さんもお見舞いさせないと男さんが寂しがると思って」

姉「ないない」

魔女「だって、お姉さんまだ一回しかお見舞いしてないじゃないですか」

姉「生きてるって分かったらそれで良いんだよ。変に気を遣う必要無し」

魔女「窮屈な入院生活なんですから、私たち家族がしっかり支えてあげないといけませんよ」

姉「窮屈ねぇ。ま、飯が不味くて泣いていそうではあるかな」

魔女「もう、そんなこと言って。あ、着きましたよ。ここが男さんの部屋です」

姉「知ってるべや」

魔女「男さん、私です。入っても良いですか?」コンコン

シーン

姉「返事がない。昼間っから爆睡してんのか。良いご身分だなぁ」

魔女「うーん、寝てるなら起きるまで待たせていただきましょう」

魔女「男さん、入りますね」

ガラガラガラ

魔女「男さーん?あれ、居ませんね」

姉「トイレなんかね」

魔女「多分そうでしょうね」

姉「……トイレだと、嬉しいんだけどなぁ」

魔女「お姉さん?」

591: >>573の差し替え 2012/02/20(月) 14:02:31.01 ID:CIXqwZTw0
ワニスケ「クシャー」タッ

ガブッ

青年「ぐっ」

青年「ぁぁぁぁああああああっ!!」

ワニスケ「シャ」グルン

青年「うぉっ」グラッ

ガッシャーン

青年「……ぃっ!」

青年「ってぇなこの爬虫類がぁっ!」スッ

ワニスケ「……!」ピクッ

青年「『指の先に集約する』」

魔女「ワニスケちゃん、危ない!」

青年「『シェイン』」シュィィン

カッ

ワニスケ「クシャー!」バクンッ

青年「……は?」

魔女「……え?」

ワニスケ「ケフッ」

青年「……なっ、そんな、ウソだ……魔法を」

魔女「魔法を食べ……た……?」

青年「……クッ、クソッ、あってたまるかそんなこと!」バッ

青年「『行儀よく一直線に走る』」

青年「『ランダー』」バリバリ

ワニスケ「シャ」バクンッ

青年「『深く深く潜って』」

青年「『オータウ』」バッシャァッ

ワニスケ「シャー」バクンッ

青年「『疾れ』」

青年「『エスカ』」ヒュンヒュン

ワニスケ「フシュ」バクンッ

青年「クソクソクソクソクソクソォォォォ!ふっざけんなぁぁっ!!」

青年「なんで!爬虫類ごときに!僕の台本が!壊されなきゃいけないんだよ!っがぁぁぁぁぁ!!」

597: >>1 2012/03/22(木) 17:21:59.23 ID:I5CVomXSO
―――八年前



姉「ハァ……ハァ……」

姉「……ッ、ハァ……」

姉「……ハァ……」

姉「ッ……」

姉「……」

姉「……よし」

姉「もう、もう大丈夫。出てきて良いよ」

男「姉さん……」

姉「どうしたよ、そんな顔して。腹でも減った?」

男「さっきの人……その……殺し、たの?」

姉「……」

男「ねぇ、姉さん……」

姉「あぁ」

男「……!ど、どうしてっ!?ひ、人殺しは悪いことなんだよ!悪人さんがやることで、姉さんは――

姉「うるさい!じゃぁなんだ!私が されて! されて! されて!その挙げ句殺されるのを我慢すれば良かったってか!!」

男「うっ……」

姉「……ごめん。あんたにはまだ分からないよね。ごめん」

男「……ううん」

姉「……」

男「……」

男「これから、どうなるんだろう……」

姉「……さぁ」

男「父さんと母さんに……会えるのかな……」

姉「分からないよ。でも、会いたいね」

男「うん……」

姉「……」

598: >>1 2012/03/22(木) 17:22:54.49 ID:I5CVomXSO
男「えと、姉さん……その……」

姉「さっきさ」

男「う、うん」

姉「さっき死体処理してる時に考えたんだ。父さんと母さんに会うためにどうすれば良いかって」

男「うん」

姉「色々考えて、本当に色々考えて、一番良いと思った結論がコレ。ほら、受け取って」

男「えっ、うわっ、重たいっ!ね、姉さん、これなに?」

姉「銃とナイフ」

男「え……」

姉「銃は私たちの細腕じゃ扱えるものじゃないが、脅しには使える。それか0距離」

姉「ナイフの使い方は師匠に習ったから分かるな。躊躇するなよ」

姉「見つかったら子供であることを活用しろ。 すにしろ殺すにしろ近づいてくる。その時に切れ」

男「ち、ちょっと待ってよ!どういことだよ!」

姉「……父さんと母さんに会いたかったら、捕まったらダメだ。二人だけで生き残らないといけない」

姉「見つかったら、見つけたられたら、その時は殺さないと」

男「そんなっ、ほごしてもらえばいいじゃんか!」

姉「……してくれる人を見つけたその時にね。少なくとも、あいつらはダメだ」

男「姉さんはそんなに人を殺したいのかよっ!」

姉「バカっ!そんなワケ無いだろ!」

姉「今だってさっきの殺しの後悔が!嫌悪が!感触が残ってる!」

姉「あんたが居るからどうにかギリギリで虚勢はってられるんだよ!一人だったら……とても耐えられないっ……」

男「あっ……ご、ごめん」

姉「……良いよ。私も酷いこと頼んでるって理解してる」

男「……」

姉「あんたにはまだ分からないって言ったよね」

男「……うん」

姉「そんなあんたに進んで殺せなんて言わない」

姉「お姉ちゃんが、頑張って殺すから」

男「それは…………」

姉「でも、お姉ちゃんが何時もいるとは限らないし、何時までもいるなんて分からないでしょ」

男「……っ、いやだよ、そんな話」

姉「甘えん坊め」

男「だけど……うん……覚悟、する」

姉「……うん、それでこそ男の子だ」

姉「じゃぁまぁ、ここで起きてるのが戦争なのか、紛争なのか、抗争なのかは知ったこっちゃないが、頑張って生きような」

男「うん、二人揃って、父さんと母さんにまた会おうね」

599: >>1 2012/03/22(木) 17:23:40.84 ID:I5CVomXSO
―――本家



「…………さい」

「……き…さい」

「…きて下さい」

「起きて下さい」

男「……んっ、だれっ……いたっ!」

男「あー、クソ、背中痛ぇ。何だよコレ」

侍女「ようやくお目覚めになられましたね」

男「……あ?誰だテメェ」

侍女「館さまより貴方さまのお世話を仰せつかっている者です」

男「館さま?あー、そっか。ここはもう、魔法使いたちの根城ってワケね」

侍女「はい」

男「で、何でおれがこんなベッドの一つもない牢の石床に放り投げられて目覚めなきゃいけねぇんだ」

侍女「さぁ。それは執事さまに聞きませんと」

男「あぁ、あの老害ね。あの程度の軽口でプンプンきちゃったんだ。ハハッ、可愛いねぇ」

侍女「……」

男「で、おれの眠りを妨げた理由は?」

侍女「コホン……、館さまが貴方とお話がしたいと」

男「へぇへぇ。ま、寝覚めは最悪だが、気分は大変によろしい。付き合ってやるよ」

侍女「それはどうも」

男「だが、ちいと腹が減った。話し合いの席には飯を用意してくれ」

男「そうだな、病院食が薄かったからな。味付けは濃い目で頼む。胃にガツンとくるぐらいのな」

侍女「……おい」

男「なんだ?まさか用意出来ない?」

侍女「あんま図に乗ってんじゃねぇよ、人間風情が」

男「おいおい、おれはお呼ばれされたお客様だぜ?噛み付こうとしてんじゃねぇよ、魔法使いごときが」

侍女「……失礼しました。つい暴言を」

男「いいよ。お互い敵意むき出しの方が愉快だ」

侍女「館さまにはそのような無礼を働きませんように」

男「時処位に左右されるかな。確約はしかねる」

侍女「首切り落としますよ」

男「分かった分かった。善処するよ。ハハハ、便利な言葉だ。善処するよ、ハハハ」

侍女「冗談じゃねぇんだぞ、ガキ」

男「いくらおれが凡愚でもな、今はまだおれを殺すことが出来ないくらいは分かるぜ」

男「でなきゃ怖くて煽りなんて無理だって」

侍女「……ッチ、なるほど。小賢しいガキなようで」

男「ほら、疾く疾く館さまとやらのところに案内しな」

600: >>1 2012/03/22(木) 17:25:17.71 ID:I5CVomXSO
―――本家 食卓



当主「ようこそ、客人。待ちわびたわ」

男「本日はこのような場に至らぬ身を置かせていただき、有難うございます」

当主「あら、驚いた。小生意気だと聞いていたのに、礼儀はちゃんと知っているのね」

男「幼少より父母に厳しく躾けられてきましたので」

当主「出来るなら、私の部下にも礼儀正しく接してくれないかしら」

男「ご婦人、それは出来かねるのです」

当主「どうして?」

男「この小人めは魔法使いが嫌いなのです」

男「それでも貴女に礼儀を振る舞うのは地位があるからこそ。その他有象無象にもだなんて、とてもとても」

当主「ふふっ、ふふふっ。面白い。これは素直な坊やだこと」

男「お褒めいただき光栄です」

当主「あの娘が気に入るはずだわ」

男「あの娘……?誰のことでしょうか……」

当主「そう怖い顔しないの。あなたの考えている人じゃないわ」

男「これは失礼。それでは、誰のことなのでしょうか」

当主「私の娘よ。あなたの家でお世話になっているでしょ」

男「……え」

当主「あら、意外だったかしら」

男「い、いえ、勿論考えの底にはありました。むしろ、何時ものおれでしたら、そうだとしか考えないでしょう」

男「ですが……」

当主「なに?」

男「魔女があなたの娘だというのが、ですね……。血は繋がっているのですよね」

当主「えぇ、正真正銘私の実の娘よ」

男「あまり、似ていませんね」

当主「そうね。本当にそう。父方にも母方にも似ていないのよ」

男「兄弟とも似ていませんでしたね」

当主「そういえば、あなたは上の息子に会っていたわね」

男「えぇ、背中を刺されたので大変印象に残っています。うちの姉が首を切り落としてしまい、文句が言えないのが残念です」

当主「死体なら回収しているわ。唾でもはき付ける?」

男「いや、折角の気遣いですが、またの機会に」

当主「そうね。それじゃ、とりとめのないお喋りはこれくらいで切り上げて、本題に移りましょうか」

男「ありがたい。そろそろ焦れていたところです」

601: >>1 2012/03/22(木) 17:26:19.29 ID:I5CVomXSO
当主「単刀直入に聞くわ。どうして私の娘と    をしなかったの?」

男「……は?」

当主「私の娘と   に至らなかったのは何故かと聞いているの」

男「仰っていることの意図を計りかねますが……」

当主「知りたいだけよ」

男「……まさか、それがあいつをおれの送り込んできた目的ですか?」

当主「目標の一つではあるわ」

男「あいつ、    のことも男性のことも正しく知っていませんでしたが」

当主「無防備な娘の方が男の子なら劣情しやすいでしょう?」

男「……」

当主「あの娘が嫌い?」

男「いや、好きですけど、それは……その、    したいというような好きではなくてですね……」

当主「別に    には拘らないわ。それくらいに欲望を表に出すことが必要なの」

男「それと粘膜接触ですか」

当主「あら、よく分かったわね」

男「まぁ、心当たりが無いでも無いので……」

当主「そう、つまり最低キスでも良かったの。好きだったんでしょ。キスもしなかったのは何故かしら?」

男「だから、それは……。ええと、実の親である貴女の前では大変言いにくいのですが……」

当主「言ってちょうだい」

男「……おれは、あいつが好きです。愛しています。あくまで、家族として。二人目の姉弟として」

当主「それが理由ね」

男「はい」

当主「他人との    やキスを禁止にしたのも?」

男「そんなことまで報告されているのですか」

当主「どうなの?」

男「あいつを守る為に言った、とだけ」

当主「……ふう。そこまで仲良くなるなんて、完全に私の読み違いだったわ」

当主「それとも、それが出来損ないのあの娘が持つ、数少ない才能だったのかしら……」

男「……」

当主「今日の話はこれで終わりよ。部屋に帰ってゆっくりしなさい」

602: >>1 2012/03/22(木) 17:27:01.79 ID:I5CVomXSO
男「あの、質問……よろしいでしょうか」

当主「一つだけなら」

男「魔女の負っている任務がどんなものかは計れませんが、それは重要な任務なはずです」

男「少なくとも、教会という組織の邪魔が入る程度には」

男「それを出来損ないと評するあいつに任せた理由って、やっぱり、目標からして、アレ……ですか?」

当主「えぇ、あなたの読んでいる通り、あの娘が私の使える駒の中で一番可愛かったからよ」

男「……」

当主「話は以上かしら?」

男「……先に言っておきます。今から言うことは、一切の害意も悪意もありません」

当主「随分な前置きね。遠慮せずに言いなさい」

男「では、失礼して」

男「……コホン」

男「お前ら本当にバカばっかだなぁっ!!」

614: >>1 2012/05/18(金) 18:44:16.33 ID:A4zs6OJn0
ドカッ

男「ぐっ……」

侍女「大人しくしていてくださいね」

男「いってぇなぁ……あんまりな扱いじゃねぇのか?」

侍女「不当かどうか、よく考えてみてくださいね」

男「バカって言っただけだろうが」

侍女「それが駄目なんだよ。無礼は働くなと言ったはずだろうが、えぇ?」

男「ちゃんと断りをいれて言ったんだ。非の打ち所が見当たらないがね」

侍女「断りいれりゃ免罪符の判が押して貰えるなんて考えが甘いんだよ」

男「あぁ、そりゃ貰えないだろうさ。罪ですらありはしない話だ」

侍女「寝言は寝て吐きやがれ」

男「寝言になら文句足れねぇのか。なら寝てやろうか?」

侍女「それは助かります」

男「だが、空腹で眠気が来ないんだよなぁ。おい、メイド。客人に飯を持って来い」

侍女「勝手に飢えてろ」

男「持ってこないのか?」

侍女「こねぇよ」

男「それは、アンタの意思か?それとも当主の意思か?」

侍女「あ?」

男「答えろ」

侍女「……皆の意思ですよ、客人」

男「そうかい。哀れなもんだ」

侍女「はぁ?どこが哀れなんだよ」

男「みんなの意思ってことは、みんなに共通する事情があるってこった」

男「おれの屑っぷりを知らない奴でさえ、客人に料理を出したがらない理由」

男「単純に考えれば財政逼迫」

男「客人に飯を食わせられないほど火の車だなんて、哀れみ以外の感想を抱きようがない」

侍女「……ッチ、何か食べたいものはございますか?」

男「コックの得意料理が食いたいね」

侍女「分かりました。お食事の時間になりましたら、お持ち致します」

侍女「ですので、それまで暫くの間、精々マスでも扱いてやがれ」

男「  見たら卒倒しそうな顔してよく言うぜ」

侍女「テメェの米粒ごときにゃ驚かねぇから安心しろ」

男「籾と言わないだけ、優しさを感じるね」

侍女「黙らない野郎だ」

侍女「それでは失礼致します」

カツカツカツ

男「……」

男「……ははは、これは良い」

男「何時まで猶予があるのか分かんねぇが、暇はしなくてよさそうだ」

615: >>1 2012/05/18(金) 18:45:41.19 ID:A4zs6OJn0
―――二時間後



執事「お食事をお持ち致しました」

男「あれ?お嬢さんじゃねぇの?」

執事「あなたのようなクソ餓鬼のお世話は、一人でするには荷が重すぎるでしょう」

男「だからって、半分骸骨のロートルが来なくても」

執事「女の子でなければ、ご不満ですか?見事に猿ですな」

男「それもある。だが、一番はあんたの血圧を気にしながら煽りを入れないといけないことだ」

男「血を上らせすぎて脳内出血誘発とか、洒落にもネタにも調理できねぇからな」

執事「……ご心配なく。下らない発言を一々気に留めたりはしません」

男「オーケー。あんたがそう言うなら、遠慮せずにガンガン行こう」

男「ま、今はその前に飯を食いたいが」

執事「どうぞ、存分に召し上がってください」カチャ

男「……」

執事「おや、どうしました?」

男「こんな石牢に詰め込んでる割りには、飯は豪華だったんで驚いたんだよ」

執事「当たり前でしょう。貴方は客人で、此処はスウィートルームなのですから」

男「ははっ、そうだったな。寝心地があまりに悪いんで忘れてたよ」

執事「お食事時は一人にした方がいいですか?」

男「居ろよ。コーラを飲みたくなった時に運搬係が居ないと不便だろうが」

執事「分かりました。では、何か有りましたら直ぐにお申し付けください」

男「じゃ、いただきます」パクッ

男「……」モグモグ

男「……おい」

執事「早いお呼びだしですな。どうなさりました?スプーンの使い方が分かりませんか?」

男「これは、作ったんだよな?注文したんじゃなくて」

執事「えぇ、そうですよ。一流のコックが作ったものです」

男「一流ねぇ……。爺さん、紙とペンを用意しろ」

執事「紙とペン……コック宛のラブレターでもしたためるおつもりで?」

男「……そうだな。とびっきり甘酸っぱいラブレターを叩き付けてやる」

616: >>1 2012/05/18(金) 18:49:26.58 ID:A4zs6OJno
―――三日後



給仕長「館さま……」

当主「あら、どうしたの?ワインが足りなくなったのかしら?」

給仕長「私は……私は……、この仕事に誇りを持っています。ですが……」

給仕長「今日をもって任を降ろさせていただきます」

当主「……また、随分急なのね。理由くらいは聞いてもいいかしら?」

給仕長「……自信を無くしました」

当主「料理の?大丈夫よ。あなたの料理は文句がつけられないわ」

給仕長「そんなことはありません。私は……余りに未熟でした」

当主「ふぅ……そんなに弱っているなんて、余程ね。誰かに言われでもしたの?」

給仕長「……あの客人です」

当主「……は?」

給仕長「返ってきた食器に手紙が付いているのです」

給仕長「内容は……ただ、その日のメニューの作り方です」

給仕長「でも……!私の作り方とは違うやり方で……」

給仕長「私も多少知識のある素人の戯れ言だと思いました……」

給仕長「試しに書いてある作り方で作ってみて、その考えは変わりました」

給仕長「美味しかったんです!私のやり方より遥かに!」

給仕長「それから、恐かった。彼からの手紙が来るたびに……私のちっぽけなプライドが傷ついて……」

給仕長「……もう、耐えられません。これ以上、自分の至らなさを曝されるのは……」

給仕長「もう……本当に……ううっ……っ……」

当主「……ふぅ、あの子にも困ったものね」

617: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) 2012/05/18(金) 18:50:42.22 ID:A4zs6OJno
―――



当主「どうして呼び出されたか分かるかしら?」

男「いきなりですね、御当主。まるで小学校の先生だ」

当主「そうね、確かに幼稚な質問だわ。でも、あなたには十分でしょ?」

男「ははは、こりゃキツい。間違っていないのが、またなんとも」

当主「それで、答えてくれるかしら」

男「まー、分かっていますよ。素人ちゃんへのしごきが強すぎたんです」

当主「しごきが強すぎたのはそう。でもね、彼はプロよ」

男「へぇ、プロだったんですか。いやぁ、実際に会っていないもので、料理は趣味程度の相手かと」

当主「その認識のせいで、彼はコックを辞めてしまいそうだわ」

男「あ、そこまで追い詰めていましたか。これは失策」

男「で、まさか、そんな阿呆な話をする為におれを呼んだのではないですよね?」

当主「責任を取りなさい、客人」

男「……御当主、失礼ですが話が阿呆から変わっていません」

当主「阿呆でいいの」

男「……なるほど。これは上手い逃げだ」

当主「責任の取り方も貴方に任せるわ。一番誠意があると思うやり方を取りなさい」

男「ふむ……」

男「では、こういうのはどうでしょう」

男「今のコックが辞退を取り止める、又は後任が決まるまでおれが料理を作る」

当主「良いと思うわ」

男「……自棄ですか?」

当主「あら、なぜそう思うのかしら?」

男「まともな判断とは思えません」

男「異常な過保護っぷりもそう」

男「罪には罰をが普通でしょう」

当主「あら、叱られることをご所望なの?」

男「そうなのかもしれません。罰の内容で自分の価値の度合いが計れますから」

618: >>1 2012/05/18(金) 18:51:57.14 ID:A4zs6OJno
当主「ふふっ、貴方の価値、ね」

当主「そんなに知りたいなら、教えてあげましょうか」

男「本当に、気味が悪くなる羽振りの良さですね。まぁ、だからといって、折角の好意を無下にはしませんが」

当主「はっきり言うわ。貴方はただのオマケよ」

男「オマケ?」

当主「そう、オマケ。貴方みたいな変哲もないただの人間その物に、価値なんてあるはずないじゃない」

当主「それとも、自分は特別だなんて勘違いしていたのかしら。自意識過剰よ、坊や」

男「……はは、確かに仰る通りです。勘違いしていましたよ。いやぁ、お恥ずかしい」

男「で、おれは一体何のオマケなんですか?」

当主「そう怖い顔しなくても教えてあげるわ。勿論、ただではないけど」

男「はっ、忠誠でも誓えと言うのですか?」

当主「そんなことより、もっと素晴らしいことよ」

男「これより素晴らしいとは、余程のことなんですね」

当主「貴方、言うからには相当料理の腕が立つのよね」

男「……?まぁ、フランス料理限定ですが」

当主「それなら、私がびっくりするような美味しい料理を作ってちょうだい」

当主「とびっきりのね」

男「……さすが御当主、吐き気がするような素晴らしさです」

男「えぇ、良いでしょう。作りましょう。とびっきり美味しい奴を」

627: >>1 2012/07/08(日) 12:57:26.46 ID:xDSqafgSO
―――男の家



ガサッガサッ

魔女「……これで良しっと」

魔女「後はどうやって此処を……」

姉「なぁにが良しなのかにゃ~?」

魔女「えっ!?お、お姉さん!?」

姉「よっ!そんな大荷物抱えて月夜の大飛行でもするつもりかい?」

魔女「か、勝手に部屋に入るのはルール違反じゃありませんでしたか?」

姉「深夜にごそごそ五月蝿くするのもね」

魔女「うっ……」

姉「魔女ちゃん、あたし言ったよね。あいつは探しに行くなって」

魔女「わ、私だってそれに了承した覚えはありません!」

姉「そんなの待ってないよ。命令だもん」

魔女「お姉さんは男さんが居なくなって心配じゃないんですか!!」

姉「心配だよ」

魔女「そうですよね!お姉さんは冷こ……えっ?」

姉「心配だよ。当然だ。家族だもん」

魔女「えっ、な、なら、どうして?」

姉「素人が動いたって共倒れになるからさ。素直に警察に任せた方が良い」

魔女「言ってることは分かります。でも、お姉さんは警察に頼んでいないでしょ!」

姉「おう!今回は 人は魔法使いだって分かり切ってるかんな!んなイレギュラー、警察さんじゃ探せない」

姉「徒労に終わらせるのは可哀相だ」

628: >>1 2012/07/08(日) 12:58:43.44 ID:xDSqafgSO
魔女「そうです。イレギュラーなんです。だから、共倒れを覚悟してでも私たちが動くべきなんじゃないですか!」

姉「言うね。でも、その強気の出所は虚じゃないだろうね」

魔女「お姉さん、 人は魔法使いです。そして、私も魔法使いの一人です」

魔女「落ちこぼれですが、この件に関して言えば警察みたいな素人より上手くやれます」

姉「ほー、どうするんだい?バックパッカーになって全国行脚しながら探すのか?」

魔女「本家に帰ろうと思います。目のこともありますが、何か教会の動きを掴んでいるかもしれません」

姉「ま、そんなところか。聞けてはっきりしたよ」

姉「やっぱ、絶対に行かせらんねー」

魔女「な、なんでですか!危険だからですか!?」

姉「そう危険だ。うちの可愛い可愛い愚弟が」

魔女「は……はぁっ!?」

姉「魔女ちゃん、あんたどっちの味方なんだい?」

魔女「どっちってそりゃ、お姉さん達ですよ」

姉「仮想敵は?」

魔女「か、仮想もなにも敵は教会でしょう!」

姉「もし、敵が本家だったら?もし、愚弟を攫いやがったのが本家だったら?」

魔女「あり得ません。そうするメリットが見当たりません。私がいるのに」

姉「絶対にか?」

魔女「絶対にです」

630: >>1 2012/07/08(日) 13:02:08.55 ID:xDSqafgSO
姉「ひひっ、魔女ちゃんさ、酷いこともされたみたいだけど、結局つまり自分の家が大好きなんだな」

魔女「な、何でそんな話になるんですか!そりゃ、愛着が無いと言ったら嘘になりますが……」

姉「良いさ良いさ。責めてるワケじゃない。愛情はバラ撒いてなんぼさ」

姉「愚弟が心配なのは確かだろう。目が、つまり魔力切れが心配なのも確かだろう」

姉「でも、それだけか?違う、違うだろ。もう一つあるだろう」

姉「実家と連絡が取れなくなって不安なんだろ、魔女ちゃん」

魔女「……!お姉さん、知って……」

姉「知ってるさ。魔女ちゃんのお兄さんの死亡を報告したのが最後だったってのもね」

魔女「……盗聴器でも仕掛けてたんですか。私の部屋に……」

姉「いっひっひっ」

魔女「私は……信頼されてなかったってことですか!」

姉「いや、普通に深夜に魔女ちゃんがどうしてどうして、って叫ぶ声が聞こえただけだけど」

魔女「……あ、そ、そうですか……」

姉「ま、私としてはそんな中途半端な奴を愚弟が捕えられているかもしれない場所に送るワケにはいかない」

姉「誰に味方して良いかも分からず、中途半端な助けと中途半端な裏切りで台無しにしてくれかねない」

魔女「だから、本家が攫っているというのは……」

姉「その考えが味方の視点だよ」

姉「私らからすればね、良い魔法使いは魔女ちゃんだけで他はみな敵だし、向こうも同じ考えだろ」

魔女「……じゃぁ、結局、私は帰らして貰えないんですね」

姉「そうなる。なぁに、心配すんなって!眼帯姿の魔女ちゃんもしっかり可愛いよ!」

魔女「そういうことじゃありません!」

姉「……2つほど言っておこう」

魔女「……?」

姉「魔女ちゃんの実家は大丈夫だ。叩けば簡単に潰せるほど小さい組織じゃないんだろう?」

魔女「え、えぇ、そりゃ勿論」

姉「んで、私たちは誘拐された時、一人で脱出出来るくらいの備えは何時だってしてる」

姉「こと奴さんは科学に関しては素人も良いところだ。どっしり構えてりゃ、あのバカはひょっこり帰ってくるさ」


634: >>1 2012/07/10(火) 11:16:27.62 ID:zw0cvp/SO
―――本家



当主「……驚いたわ。貴方、本当に料理が上手なのね」

男「プロにしごかれましたから」

当主「それ、捉え方では凄い皮肉よ。まるでうちのお抱えシェフが素人みたいじゃない」

男「素人ではありませんよ。進化をしていないだけです」

男「まさか、石器時代の調理法を受け継いでる人がいたなんて驚きでした」

当主「ふぅ、辛辣ね。彼が此処にいたら泣き出していたでしょうね」

男「それに関しては残念としか言いようがありません。大の大人の無様な姿は中々見られませんので」

当主「可愛いらしい趣味をしてるわね。それで、私は貴方の料理に大いに満足したわ」

当主「出来ればチップを弾みたいところなのだけど、相場を知らないの。好きな額言ってちょうだい」

男「はははっ、さすが御当主。気前の良さもその器量の良さと負けず劣らずですね」

男「では、あいつの家庭教師を呼んで貰いましょう」

当主「家庭教師を?不思議な頼み方ね」

635: >>1 2012/07/10(火) 11:17:35.47 ID:zw0cvp/SO
―――



学士「遅くなってしまって申し訳ございません、館様。本日のご用件は如何なことでしょうか」

当主「私こそ急に呼び出したりしてごめんなさいね。今日はね、貴方にご指名がかかったかかったのよ」

学士「指名と申しますと、誰ぞ私の叡智を聞きつけ、教えを享受したいと言ってきたのでしょうか」

当主「さぁ、それは分からないわ。そこの彼に聞いてみて」

学士「彼……?」

男「おう、おれだ。よろしくー」

学士「は、ははっ、ははははっ!館様、これは何のご冗談でしょうか!」

当主「冗談ではないわ」

学士「冗談ではない!?だって、ただの人間ではありませんか!」

学士「ははははっ!こんな奴が私の高説を聞いても、とんと理解しえないでしょう!まるで無駄ですよ、館様!」

男「ちょっとばかし口を塞げ愚者。アホ面がより輝いて見えて、心底目障りだ」

学士「……なんだと」

当主「こらこら、喧嘩しないの。呼んだ私の顔を潰すつもりなのかしら」

学士「い、いえっ!決してそのようなことは……。ですが、相手はただの人間で……」

男「すみません。可愛いらしかったもので、つい意地悪をしたくなりました」

当主「では、もたつかないで速やかに用事を済ませてね」

636: >>1 2012/07/10(火) 11:20:14.30 ID:zw0cvp/SO
学士「……ふぅ、他ならぬ館様の命令だ。話ぐらいはしてやろうじゃないか」

男「やー、どうも」

学士「ふん。それで、何が知りたいんだ。魔法回路第二原理か?錬金術の基礎構築式か?」

学士「何でも私の叡智に聞き給え。もっとも、理解出来るかどうかは知りえるところではないがね」

男「いや、おれバカですから、そういった難しい話はちょっと」

学士「ふははは!まぁ、そうだろうな!だが嘆く必要はないぞ。酷く愚鈍なのが君たちただの人間の持ちえる才能だ」

男「いや、全く。で、おれが頼むことは至って単純。もう少し右に寄って、顎を少し上げてくれ」

学士「ふむ、寄ったぞ。まさか、写生でもしたくて私を呼んだのかな?」

男「あぁ、実に良い感じ……だ!」ブンッ

学士「へっ?」

バキィッ

学士「ひぎゃぁっ!!」

当主「あら!」

学士「ぐぅぅぅ、こ、このぉ!何をするんだ!は、鼻が折れたぞ!」

男「いやぁ、あいつと約束してましてね。下衆のような教育をしてる家庭教師の鼻を折ってやるって」

当主「それだけの為に貴重な機会を使ったの?」

男「えぇ。それにしても、やはり素手で殴ると痛いですなぁ。危うくこっちの骨まで折れるところでした」

学士「ガキぃ!よくも!よくもやってくれたな!」

男「あぁ、お前もう帰って良いよ」

学士「ふざけるな!私の顔を傷付けやがって!ぶっ殺してやる!」

男「折角一発で綺麗折ってやったのに、自分から苦痛を拾いに来るか。ドMさんめ」

当主「……ふふっ、ふふふっ。あっはっはっはっはっ!」

学士「や、館様?」

当主「あー、可笑しい。わざわざ約束を果たす為にですって?貴方は紳士の鑑ね!」

男「止してください。赤面してしまいます」

当主「ふふふっ、確かにこれは思った以上に高くついたわ。でも、払い過ぎでもなかったわよ」

学士「館様、一体何の話を……」

当主「あぁ、貴方はもう帰って良いわよ。ご足労だったわね。でも、傷の治療ぐらいはしていっていいわ」

学士「なっ……!館様、納得いきません!こんなガキに苦汁を飲まされたまま帰るなぞ――

当主「帰れと言ったのよ。喚くなんて命令してないわ。それとも、消えたいのかしら」

学士「うっ……、わっ、分かりました」

カツカツカツカツ


637: >>1 2012/07/10(火) 11:30:36.18 ID:zw0cvp/SO
男「……さすが御当主。部下の扱いに慣れておられる」

当主「上に立つ者に必要なことよ。褒めるようなものではないわ」

男「失礼。下に這いつくばる者の目からは余りに鮮やかに映えましたので」

当主「褒め過ぎは毒よ。さて、今日はとても楽しめたわ。ありがとう」

男「いえ、自分は横暴に振るっただけですから」

当主「次もその調子でお願いね」

男「驚いた。次があるのですか。失礼ですが、破綻してしまいますよ」

当主「心配しなくても大丈夫。あと一、二回する余裕はあるわ」

男「おれが破綻してしまいそうです。身に余る金になってしまいます」

当主「貴方だって、後一、二回は節制出来る筈よ。私はそう信じているのだけど」

男「ふふっ、信じるですか。何とか応えてみせましょう」

当主「そうそう、これはちょっとしたお願いなのだけれど」

男「はい、何でしょうか」

当主「此処のコック達を全員しごいてくれないかしら?」

男「ふむ……チップは?」

当主「払わないわ。嫌なら断ってちょうだい」

男「成る程。分かりました。ある程度は無償の愛を捧げましょう。ある程度ですが」

当主「ありがとう。助かるわ」

男「おれも美味しくない料理を流し込むのは苦痛ですからね。利害の一致ですよ」

当主「そうね、利害の一致ね」

男「最も出来るなら受けたくありませんでしたが」

当主「やはり面倒臭いかしら」

男「いえ、この小人には怖いのです。御当主の優しさと信頼が」

当主「無償の愛よ」

男「本当に早くその浅ましい腹の底を見せて貰えれば、こんなに震えなくてすむというのに」

当主「それはお互い様でしょう。貴方だって私たちに底は見せないじゃない。悪態で隠してばかりで」

男「どうですかね。どうも、御当主にはもう一歩のところまで踏み込まれていそうなんですがね」

当主「過大評価よ。それじゃ、明日から宜しく頼むわ、先生」

男「ヤー。任せて下さい」

643: >>1 2012/07/26(木) 04:02:00.96 ID:FymmFvMSO
―――



男「なぁ、チップはどうやったら貰えると思う?」

侍女「どうしました?急にお金でも欲しくなりましたか?」

男「そうだな。どうせなら、2回分せしめたいなぁって」

侍女「良く分かりませんが……そうですね。三回回ってワンでもしてみたらどうでしょうか」

男「それで貰えてもチップじゃねぇだろうが。真面目に考えてみろよ」

侍女「VIPルームでごろごろするだけの貴方が、チップなぞ貰える訳ないでしょう」

侍女「お金が欲しいなら芸の一つでもするか、無様に乞食でもやってみたらどうですか」

男「きひひ、確かに。チップを受け取る為の前提を忘れてたぜ。上客のうちは貰えないわな」

侍女「話は以上ですね。なら、口を塞いてください、、客人。貴方の声も口調も何も全て真に不愉快ですので」

男「まぁ、ちょっと待てよ」

侍女「なんです」

男「くるくるくる~」クルクルクル

男「ワンッ!」

侍女「……」

男「へへっ、鳴いたぜ?金はどうした?拍手はどうした?嘲笑はどうした?さっさとしやがれよ、おい」

644: >>1 2012/07/26(木) 04:05:35.16 ID:FymmFvMSO
侍女「……はぁ、呆れました。金の為ならプライドを捨てれるんですね。なんて卑しい」

男「卑しくても生きれれば金星だワン」

侍女「見世物としては程度の低いものでしたが、まぁ、餌ぐらいはあげましょう。精々の哀れみです」チャリン

男「……へぇ。やっぱりそうか」

侍女「どうしました?まさか、少ないとケチ付けるつもりですか?」

男「いや、十分だ。ただ、通貨は円以外に持ってないのかい?」

侍女「今は持ち合わせていませんね」

男「おやどうして?」

侍女「円以外持っていても使えないからです」

男「ってことは、今居るのは日本か」

侍女「あっ……!」

男「わざわざご教授どーも。脱出した後の不安が少し減ったよ」

侍女「このガキッ……!」

男「おいおいおい、怒るなよ。別に嵌めたワケじゃないだろう。あんたの自爆だ」

侍女「……チィッ、確かにそうだ。まっこと私の自爆だ。クソッ!腹立たしい!」

男「まぁ、安心しろ。楽しめるうちは脱走なんてしねぇ。あんたの自爆は本当に些細なもんさ」

侍女「あぁ、そうかい!」

男「どうした、口数が少ないぞ?ん?」

侍女「……手前は随分頭と口が回る。このまま勢いに乗せられ楽しく談笑なぞ続けたら、何回火消しすりゃ良いか予想つかなくなる」

侍女「なので、沈黙で金を溶かさせて貰います」

男「なんだぁ、つまらん。そっちも随分おれの扱いに慣れてきちまったもんだなぁ」

645: >>1 2012/07/26(木) 04:10:22.67 ID:FymmFvMSO
―――



執事「感心しませんな、客人。今は就寝の時間の筈です」

男「ん~?」

執事「どうしてこんな所でワインを傾けているのですかな?」

男「ははっ、初耳だよ。今の時間が就寝時刻だって?なら、太陽さん沈んでからは一体何の時間だ?」

男「ミサでも開いて子山羊の首でも刈り取るのかい?」

執事「太陽が沈んでからは当然就寝です」

男「おかしな話だ。それじゃぁ、一日中寝てなきゃいけないみたいだ」

執事「えぇ、そうです。貴方はあの部屋でずっと大人しくしていなければなりません」

執事「決して許可無しに屋敷をうろついてはいけないのです。ましてワインを飲むなど」

男「あんたはワインに感謝するべきだな。こんなに美味しそうなものが無ければ、おれはこの屋敷からエスケープしてたよ」

執事「どうやって牢から抜け出したのです」

男「ふふん、気合いさ」

執事「教える気が無いのなら無理には聞きません。それに今回のことにも目を瞑りましょう。こちらにも不備があった模様」

男「太っ腹だねー。このワインを分けてやっても良いぞ?」

執事「……次からは容赦なく拘束致しますからな。あと、それ以上ワインを開けぬことです」

男「未成年が酒を飲むのは駄目ってか?」

執事「酒の味も分からないガキに飲まれては、そのワインが可哀想だと言ったのです」

男「失礼な奴だ。ワインの味くらい分かる」

執事「ジュースのようにあおっているうちは、そのような虚勢も張らないことですな」

執事「吹き出しそうになるのを堪えるのも辛いのですから」

男「ご忠告どうも。次からはグラスを回して飲んでみるよ」

執事「簀巻きになるとしても格好付けたいというのなら、お好きに」

男「ほろ酔い気分の時に柔らかな布地で包んでくれるとは。おぉ、実に優しきロートルよ」

男「だが、辞退しよう。布地が一つ減ったら、貴方の寿命も一つ分減ってしまうだろう」

男「自己犠牲は時に美しく、時に醜くある。己を大事にしたまえ、ご老人」

執事「その口に噛ませる布も必要なようなので、二枚減ることになりますなぁ」

男「はぁ~、涎拭きまで付けてくれるか」

男「赤子扱いには少々戸惑うが、まぁ、眼も頭も枯れ木にて十、二十の齢の差が分からないと思っておこう」

執事「……なんなら、貴方の食事を粉ミルクにしましょうか?」

男「あっはっはっ、分かった。負けたよ。それだけは勘弁だ。素直に部屋に戻ろう」

執事「やれ、ようやくですか。泣き喚いてくれた方が、まだマシに思えますな」

男「これでも夜は故郷を想い、こっそり泣いてるんだぜ」

執事「それはそれは。夜の見回りの楽しみが一つ増えました」

646: >>1 2012/07/26(木) 04:14:21.58 ID:FymmFvMSO
―――



男「元給仕長。この現状は何だ?」

給仕長「え、いや、何かおかしな箇所がありますでしょうか……」

男「ワイン、バルサミコス、黒胡椒、塩、サフラン、ジンジャー、蜂蜜、砂糖、香草……」

男「前見たときから思ってたんだが……少なくね?」

給仕長「数でしたら、暗室の方にかなり蓄えがあったと思いますが……取って来たほうが良いのでしょうか?」

男「種類だ、バカ」

給仕長「種類が足りないですって?冗談でしょう?それ以上別の物があっても使い道がないですよ」

男「使い道がないとは、随分ほざきやがる。その発想の原点を言ってみろ」

給仕長「だって、本に無いでしょう」

男「あーあ、これだよ。進化っつーか、適応って言葉を知らないなぁ、魔法使いってのは」

給仕長「なっ……!このレシピは我が本家にずーっと受け継がれてきた特別な本ですよ!」

男「そいつをありがたがるのは料理人じゃない。歴史学者だ。つまり、それほどに古いんだよ」

給仕長「古いのが悪というのですか」

男「いいや。掘り起こしたワケでもないのに、古いまんまってのが悪い」

給仕長「古いままは先代の意志を尊重するからこそで……」

男「ドアホ。料理は壁崩しに挑戦し続けるゲームだろうが。素材も器具も何もかも移っていくんだから尚更だ」

男「あとな、ラテンなんぞ読めないから多分になるが、書いてあるのは当時の庶民達の料理な」

男「それでも、ワインと果物が有るのは貴族達への憧れだろうな。そのせいで余計に味が崩壊してる部分もあるし」

給仕長「あ、憧れですって!?私たちは!高貴な魔法使いなんですよ!」

男「テメェら、魔女狩りっつー、大迫害から逃げて来たんだろうが」

男「良いとこ没落貴族か、細々と隠れてた奴らの末裔があんたらなんだよ」

給仕長「と、とても信じられません!与太話です!」

647: >>1 2012/07/26(木) 04:17:06.13 ID:FymmFvMSO
男「まぁ、予想だしな。信じなくても結構だがね。えーと、何の話してたっけ?」

男「そうそう。レシピ本は使えないって話だったな」

給仕長「あぁ!まだそのことをいうのですか!」

男「これぐらいは折れろ。おれが改変したレシピに勝るものが一つでも有ったか?ん?」

給仕長「そ、それは……」

男「無いよな。だから御当主に泣き付いた。誇りが云々だっけ?」

給仕長「ぅっ……っ……ぅぅ」

男「おい、泣きそうになるなよ。こっちは別に涙が見たいワケじゃないんだ」

男「ったく、あんたは一等煽り辛いなぁ」

給仕長「な、泣きませんよ!こんなことで!」

男「あっそ。ならいいや。で、その本は料理本としての価値は無いってのはもう認めたな?」

給仕長「はい……」

男「じゃぁ、ようやくだ。お料理の話に入ろう。って言っても、まずは調味料揃えないとな」

男「石を買いにくる宛はあるみたいだし、そいつらについでに調味料を買って来てもらうってのは出来るか?」

給仕長「はぁ、それぐらいでしたら。館さまの許可は要りますが……」

男「含んだ言い方だな。何ぞつっかい棒でも掛かってんのか?」

給仕長「その……魔法を使わない貴方たちただの人間の食材は、その……食べて大丈夫なのでしょうか?」

男「……」

給仕長「い、いや、より美味しく料理する方があるのはもう認めます」

給仕長「で、ですが……、えーと、ろくな栽培方法も保存方法もない未開の文明なのでしょう?」

男「ふふっ、冷暗室で喜んでる奴らに言われるとギャグにしか聞こえねぇや」

男「再教育をしてやろう。泣きながら聞け」

648: >>1 2012/07/26(木) 04:20:06.55 ID:FymmFvMSO
―――



学士「出来た……完璧だ……」

学士「ふふ……、ふふふ、これで、これで私の鼻をあのガキを最大限に苦しませることが出来る……」

学士「あっはははははは!あぁ!楽しみだ!何とも楽しみだぁっ!」

男「へー、そいつは凄い。どんなのだ」ヒョイッ

学士「あっはは…………え」

男「うっわ……ラテンで書いてら。喋りが日の本で書きがラテンって、やっぱり狂ってる気がするんだけどなぁ」

学士「え……え……?」

男「高貴さに強烈な憧憬でも感じてたのかねぇ、昔の魔法使いってのは」

男「あんたはどう思う?」ニッ

学士「ぎ、ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

男「おいおい、おれと会えたからってそんなに喜んでくれるなよ。その、なんだ、照れる」

学士「な、ななな、なんで貴様が此処に居るんだっ!?」

男「散歩の途中に知った声が聞こえたんでね。挨拶しに来たんだ」

学士「監禁中だろうがぁっ!!」

男「監禁なんて酷い誤解だ。オートロックの客室に寝泊まりしてるだけさ」

学士「抜け出たのか!」

男「んー、深夜ってのは不味かったかね」

学士「し、信じられない。あの牢から抜け出るなんて。しかも、逃げるでもなく私のところに……」

学士「……まさか!」

男「何か気付いたみたいだが、残念ながらあんたに告白しに来たワケじゃないぞ」

学士「ふざけた態度を……!だが、その余裕も見せられなくなる!」

学士「ずばり、貴様は私を人質にするつもりだな!」

男「……ん?」

学士「はっはっはっ!その間抜けな顔、図星だろう!」

学士「確かに、私は前回貴様の拳打を受けてしまった。そこから、君は私を弱いと思ってしまったのだろう」

学士「だが、甘かったな。こうして考えも見破った今、不意討ちは受けない」

学士「真っ向に戦えば、ただの人間である貴様が私に勝てることなぞ、万に一つもないのだ!」

学士「仮に負けようとも、私は大人しく人質にはならない。潔くこの命を捨てる覚悟だ」

男「……」

学士「さぁ!どうする、人間!私と戦うのか!」

649: >>1 2012/07/26(木) 04:21:10.58 ID:FymmFvMSO
男「……ぷっ」

学士「ん?」

男「ぷはっ、あっはっはっはっ!っはっはっはははは!!あはは!」

学士「な、何が可笑しい!!」

男「くっくく、ひ、人質だなんて真面目に言われると予想してなくてっ!」

男「つーか、テメェ、さっきまで隙だらけだったろうが。不意討ちするチャンスが腐るほどあったこと忘れてんなよ」

男「何より、自分に人質が勤まるほどの価値が在ると思ってるのが、もー最高に笑える」

男「いいか、お前にそんな価値は無い。勘違いすんな。自意識過剰なんだよ。恥ずかしい奴め」

学士「この……っ!私を辱めるかガキィ!」

男「テメェの自爆だよ、バカ。くくっ、本当は色々するつもりだったが、此処に居たら笑い死にさせられそうだ」

男「つーワケで、おれ帰るな。いや、楽しい夜を有り難う。hava a good dream」ガチャッ

バタン

学士「……お、」

学士「……おぉぉ」

学士「ぉぉおのれぇぇぇぇ!!あのガキィィィイイイ!!」

学士「一度ならず二度も私をっ!!」

学士「くそっ!くそっ!くそっ!」ダンッダンッダンッ

650: >>1 2012/07/26(木) 04:27:47.94 ID:FymmFvMSO
―――



当主「随分と楽しんでいるようね」

男「楽しんでいるとは?」

当主「此処での生活よ」

男「はははっ、まぁ、退屈しない程度には」

当主「このまま住んでみるのはどうかしら?」

男「冗談。おれは此処には観光で来ているんです。迎えが来たらそそくさと、おいとまする腹積りです」

当主「そう、残念だわ。上手くやっていけると思ったのだけど」

男「部下のことも考えてあげてください。ストレスフルで病んでしまいます」

当主「あぁ、そうね。一番大切なことを忘れていたわ。貴方、私たちが嫌いだったわね」

男「ギスギスした職場は好みませんし、作りたくありません。他人のままで煽るから楽しいんです」

当主「ねぇ、貴方」

男「はい」

当主「私たちが庶民か没落貴族の流れだと言ったのも嫌悪感からかしら」

男「おぉ、何とも、血潮まで凍てつきそうな眼ですね。震え上がってしまいますよ」

当主「答えなさい、客人」

男「真実を言ってしまえば、嫌悪感云々の嫌がらせではなく、あくまで推論した結果です」

当主「その推論の過程、聞いても差し支えないかしら」

男「第一、食がみすぼらしい」

当主「確かに貴方の料理には劣るけど、それだけで落伍と分かるのものなの?」

男「分かります。庶民の調理に無理矢理上流階級の食材を注ぎこんでいるのがあなた方の料理です」

男「貴族の日々を忘れられなかった没落者か、貴族に羨望を抱いていた愚者の仕業と予想出来ます」

男「第二、未だに日常的な書き言葉がラテン語だということです」

男「ラテンの読み書きは上流の必須ステータスでしたから、また同じ理由ではないかと予想します」

男「もっとも、導ける中であなた方が一番嫌うであろう結論を意図して出している部分はありますが」

当主「……なるほどね」

651: >>1 2012/07/26(木) 04:29:42.35 ID:FymmFvMSO
男「やはり、気に食わないでしょうか。なんなら、下らぬ妄想でしたと叫んでも良いですよ」

当主「その必要はないわ。ふふっ、貴方は随分優秀ね。本家が必死に隠してきた恥部をこうも簡単に見抜くなんて」

男「単純におれが外部の者であるということと、知識があったからです。普通の教育を受けた人間なら誰でもたどり着くでしょう」

当主「貴方たちにとって当たり前でも、私たちにとっては凄いかとなのよ。今までそんなことを唱える人はいなかったんだもの」

男「唱える先から消していたからでは?」

当主「さぁ?そこは黙秘させてもらおうかしら」

男「非道い人です。生殺しではありませんか。気になって食が細くなってしまいます」

当主「たまには細くしてみるのも悪いことじゃないわ。食べ過ぎの節制よ」

男「そうは言いますがね……」

当主「まぁ、余程聞きたいなら、この事実を本家と教会に漏らさないことを誓えば教えてあげようかしら」

男「うーん、安いですね。別にそこまでの約束を取り付けるほど聞き惚れたいことでもないのです」

当主「別に質問の内容を変えても良いのよ」

男「全く別のことでも?」

当主「えぇ」

男「ならば甘えて問いましょう。魔法使い共で戦争を起こしたことはありますか?」

当主「戦争なら沢山してるわ。今だってそう」

男「慣れない銃と近代装備に身を包み、森林を散兵連れて伸し歩き、人も獣もとにかく殺し回った戦争がありませんでしか?」

当主「えらく具体的ね」

男「よくよく思い出してみると、オッドアイが多かったなぁ、と……」

当主「何のことか分からないけど、私たちは魔法使いよ。貴方が思うよりも誇り高く、不器用で、度し難い」

当主「科学に、私たちを迫害してきた人間の力に擦り寄り尻尾を振るぐらいなら、万年の苦しみの果ての死を選ぶ」

当主「そういう生き物なの。悪いけど、そんな子供の癇癪は起こしたことないわ」

652: >>1 2012/07/26(木) 04:31:21.41 ID:FymmFvMSO
男「そうですか。お答えしていただき有り難うございます、御当主」

当主「どうしてこんな珍妙なことを聞いたのかしら」

男「聞きたいことは沢山あります。頼みたいことも。前回はその最たることで、今回は二番目。ただそれだけです」

当主「そう、私も変なことを聞いてしまったわね」

男「おきになさらず」

当主「それにしても、銃、銃、銃ね………」

当主「……」

男「そんなに真剣に考えないでください。ある種の戯れ言です」

当主「……あぁ、……そう……そういうことね……」

男「御当主?」

当主「貴方、八年前のアレに巻き込まれたのね」

男「……!」

当主「ふふっ、それでそうなのね。ようやく疑問が解けたわ」

男「知っているんですね。何があったか」

当主「えぇ、戦争なんてややこしい言い方をするものだから分かりにくかったの」

男「教えてください、御当主。アレは貴女がしたことですか?」

当主「思い出しなさい」

男「思い出す……?」

当主「えぇ、貴方はあそこで魔法を見た筈だわ。それを思い出しなさい。そうしたら、全て語ってあげましょう」

当主「全てね。ふふふっ」

656: >>1 2012/07/27(金) 17:38:15.24 ID:OuHCHz0SO
―――八年前



姉「ねぇ!今の見たっ!?」

男「う、うん、山の方でなにか光ったね」

姉「これきっとアレだよ!UFOだよ!UFOに違いないよ!」

男「ぇぇぇえ!?UFOなの!?」

姉「お姉ちゃんが言うんだから間違いない!だからね、ほら、宇宙人捕まえに行こ!」

男「い、いやだよ!さらわれちゃう!」

姉「バカやろー!ビビってたら他の誰かに先こされちゃうだろ!」

男「だいたい捕まえてなにするの?」

姉「売りさばく!」

男「えぇっ!?宇宙人さんを!?」

姉「うん!きっと高く売れるよ!お菓子買いたい放題だ!だから、早く行こ!」

男「ぅうう、お菓子食べほうだいは良いなぁ。でもやっぱり、怖いよぉ」

姉「男の子が怖がらないの!ほら、早く早く!」

男「や、やだぁ!行けないったら行けない!」

姉「ふん!だったらお姉ちゃん一人で行くもんね!この恐がりんぼ!」スタスタスタ

男「えっ、ちょっと、お姉ちゃん!危ないよ!」

バタンッ

男「あ、ぁぁう、行っちゃった……」

男「……」

ガタッ

男「ヒッ……!だ、誰かいるの……?」

男「……」

ガタガタッ

男「ま、待ってよお姉ちゃん!ひ、一人にしないでよぉ!」タッタッタッ

657: >>1 2012/07/27(金) 17:39:21.06 ID:OuHCHz0SO
―――八年前 山中



男「お姉ちゃぁん、もう帰ろうよぉ。もう疲れたよぉ」

姉「あとちょっとだから、泣き言言わない!言わない!」

男「それさっきも聞いた。ちっともちょっとじゃないよ」

姉「もう!文句言うなら何で着いてきたの!?」

男「えっ、そ、それはその…………寂しかったから……」

姉「……はぁ、ったく仕方ないわね。少し休もうか」

男「いいの!?」

姉「私も疲れてきたし、ちょっとだけならね」

男「うん!ありがとう、お姉ちゃん!」

姉「急に元気になるんだから……」

男「えへへ、じつはお家からチョコ持ってきたんだ。半分こしよっ?」

姉「ん、なら貰っちゃおうかな」

男「んーと、今出すからちょっと待って――

ガサガサッ、パキッ

男「……!」

姉「しっ……!静かに。何かこっちにくる。宇宙人かも」

男「……」コクコク

ガサッガサッ

姉「……」

ガサッガサッ

男「……っ」ゴクッ

パキッ、ピシッ

大きな影「……」ガサッ

姉「お、ぉぉぉおっ……!」

男「お化けだぁぁぁぁぁ!!」

姉「に、ににに逃げよう!!」ダッ

男「うわぁぁぁぁぁん!!」ダッ

大きな影(イノシシ)「……?」

658: >>1 2012/07/27(金) 17:40:11.69 ID:OuHCHz0SO


タッタッタッ

男「ハァ……、ハァ……ハァ……ッ、ハァ……」

男「に、逃げ……きれたの……?」

男「ハァ……、はぁぁぁ………」ヘタッ

男「こわかったぁ……」

男「……」

男「あ、あれ?お姉ちゃんは?お姉ちゃんがいない?」

男「何で?だって、いっしょに逃げて……」

男「逃げて……えっ、ウソだ!お姉ちゃん!?」

男「お姉ちゃん!?ウソっ!?食べられちゃったの!?」

男「お姉ちゃん!へんじしてよ!お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」ダッ

男「おねっ――

ガッ

男「あいたっ!」コケッ

男「な、なんだよもう!」バッ

男「あれ、石……?これにつまずいたの?」ヒョイッ

男「わぁ……きれい。まっ白でつるつるしてる……」

男「……あっ!お姉ちゃん探さないと!」

男「とりあえず、石はカバンに入れて……よしっ」

男「お姉ちゃーん!へんじしてー!お姉ちゃーん!」

「……i……k」

男「お姉ちゃん?」

「……う……せ……」

男「お姉ちゃんだっ!!」ダッ

男「おーい!お姉ちゃん!」タッタッタッ

男「よかった!お化けに食べられちゃったのかと心配して……」ガサッ

兵士「……?」

男「えっ、お姉ちゃんじゃない……?おじさん、だれ?」

兵士「……殲滅対象一体捕捉。種類、ヒト。子供。アジア系」

男「……?ねぇねぇ、おじさん。ボクのお姉ちゃん見なかった?」

兵士「……」ガチャ

男「え……」


666: >>え 2012/08/14(火) 23:52:15.16 ID:V2axreRSO
―――本家



男「失礼します、御当主」

当主「早かったわね。もう、すっかり思い出せたのかしら?」

男「えぇ、何回も思い出しました。それで、やはりあの一つしかないだろうと」

当主「一つ、ね」

男「おや、一つでは足りませんでしたか?」

当主「そんな顔をしないでちょうだい。別に一つでも問題ないわ。そういう可能性もあるもの」

男「と言われましても、一度気になりだしますと集中しきれずに吃ってしまいそうです」

当主「大丈夫よ。お客は私一人だもの。上手く言えなくても恥ずかしくないわ。さ、答えてごらんなさい」

男「だからこそ恥ずかしいのですが……まぁ、今だけは僅かばかりの度胸を掲げましょう」

男「人払いですね。一度だけ、血吸い虫が使ったところを見ました。準備に時間と手間が相当かかる代物みたいですが」

当主「それは、正しくは正解ではないわ。でも、魔法に疎いのだから特別に認めてあげましょう」

男「ご厚意、まこと感謝致します。が、人払いではないならいったい何があるのです?」

当主「この屋敷と同じものを使ったと言えば良いかしら。貴方なら何となく気づいていると思うけど」

男「……なるほど、位相を変えているんですね」

当主「流石ね。正解よ」

男「この建物は巨大です。少なくとも、一国の城ほどの規模でしょう。牢や錠の造りから相当の歴史も知れます」

男「ただでさえ日本では珍しい近代西洋建築物に加えてこの付加価値。個人所有であっても噂になり、有名になるでしょう」

男「ですが、ありません。科学の星の目をもってしても、活発な貴女がたの住みかは発見出来ていないのです」

男「全く不自然極まりないです。外部からは認知不可能であれば別ですが」

当主「ふふっ」

男「正直、いくらなんでも有り得ないと思っていましたよ。魔法というのは、本当に何でも出来るのですね」

当主「何でもは出来ないわ。科学がまだ出来ていないことが、魔法なら少し出来るだけよ」

当主「逆もまたあるわ。そちらで言う冷蔵庫の役割を果たす存在がこちらに無いことからでも分かるでしょ?」

男「成る程。上手に住み分け出来ているものですね」

当主「双方とも認知しあってないもの。住み分けとはちょっと言えないかしら。言うなら、透明な隣人ね」

男「妙な響きですね」

当主「もっとも、日々の進歩で境界は曖昧になってきているようだけど」

男「それはどちらの?」

当主「どちらもよ」

667: >>え 2012/08/15(水) 00:04:28.71 ID:/2drfyaSO
男「魔法も進歩するのですね。保守的で変わらないものかと思っていました」

当主「同じヒトなのだから、選択は違えど道は同じよ。少しは魔法に対する偏見が消えたかしら」

男「えぇ、次は科学に対する偏見が減って欲しいですね」

当主「そうね。教育の改善も視野に入れておくとするわ」

男「どうも」

当主「では、約束を守りましょうか。でも、完全な正解で無かったのだから、一部伏せさせてもらうわ」

男「えぇ、構いません。自分の失敗で貴女に八つ当たりをするほど子供ではありませんので」

当主「器が大きくて助かるわ。そうね、何から話そうかしら……」

当主「……貴方が一番聞きたがっていることから始めましょうか」

男「それは何とも嬉しい。好物には真っ先に箸が伸びる性格なんです」

当主「あの虐殺の原因の一つは確かに私たちよ」

男「へぇ」

当主「そして、もう一端の原因であり、実行したのが教会。つまり、私たち本家の敵であり、貴方にちょっかいをかけ続けた相手よ」

男「その原因とは?」

当主「省略させて貰うわ。ただ、下らない小競り合いでないことは私が保証しましょう」

男「貴女がたはおれ達に剣先を向けていない、と」

当主「えぇ。あの場ではね」

当主「それで教会だけど、彼らは貴方たちの社会ともコネがある組織で、科学もある程度受け入れているクズ魔法使いの集まり」

当主「といっても、あの場所にクズはゼロね。居たのは、教会に雇われた人間の傭兵だと思うわ」

男「おれ達の社会の傭兵?それにしては驚異のオッドアイ率でしたが。どういうワケかは知りませんが、オッドアイは貴女達の特徴でしょう」

当主「魔法使いに無理矢理したということよ。実験も兼ねていたのでないかしら」

当主「思い出して考えなささい。なぜ子供の貴方たちが生き残れたか。実力があったから?姉弟の絆が強かったから?日頃の行いがいいから?」

当主「すべて自惚れよ、坊や」

男「……相手が弱体化していたんですね。それも子供に劣るほど」

当主「そうよ。可愛そうに。あの子たちは意識も朧のうちに殺されていったのね」

男「御当主、彼らは本当に無理矢理魔法使いにされただけですか?」

当主「鋭いわね。でも、省かせてもらうわ」

男「これもダメですか。随分とペナルティが多い」

当主「あぁ、安心して頂戴。今省略したところはいずれ話すわ」

男「や、それを聞いて安心しました。赤点ギリギリを叩きだしてしまったのかと、胃の痛い思いでした」

668: >>え 2012/08/15(水) 00:08:27.79 ID:/2drfyaSO
当主「次は……そうね。なぜあの場所だったかということだけど、拍子抜けしないでね」

男「どうぞ、精々胆に気合いを込めていますから」

当主「偶然よ」

男「……失礼、クラッと来ました」

当主「巻き込まれた貴方からすればそうよね。でも、本当に偶然なの」

男「位相を変える魔法はそんなに簡単に起こせるものなのでしょうか」

当主「準備自体は本家も教会もあの日の三年前からしていたのよ」

男「本家も、ですか」

当主「えぇ、出来るなら介入したかったわ」

男「ははっ、なら貴女たちがおれとこうして会話出来ているのも偶然ですね。介入していたら問答無用で滅ぼそうと決めてましたから」

当主「それなら偶然を起こす神に感謝しても良いわね。貴方と話せないなんてまったくもって大損だもの」

男「いや、全く。おれも御当主と楽しく会話出来る奇跡を神に感謝しているところです」

当主「他に喋って欲しいことはあるかしら?」

男「一つ。位相を変えたことで長い期間助けが来なかったのも、抜け出せなかったのも分かります」

男「ですが、その後は?あそこでは大量の死体と大量の兵装が取り残されていた筈です」

当主「勿論隠滅したわ」

男「どうやってでしょうか?簡単に出来る話でも無い気がするのですが」

当主「ごめんなさい。話してあげたいのだけれど、こればっかりは企業秘密なの」

当主「ネタが分かってしまえば、私たちがどれだけ貴方達の社会に潜んできたか明かされてしまうわ」

男「残念です。是非とも裸にひん剥いてみたかったのですが」

当主「まぁ、怖い。まるで野獣ね」

男「男の子ですから」

当主「花売りでも当てて、発散させておいたほうが良いのかしら」

男「花売りと言っても、どうせ魔法使いでしょう。喜んで辞退させてもらいます」

当主「一人で寂しくない?」

男「寂しいですね。なに、別に自分はウサギでもないので、そのぐらいは耐えてみせます」

当主「そうやってやせ我慢しちゃうところを見ると、貴方も年相応の男の子ね」

男「ははっ、くすぐったいお言葉です」

当主「それじゃ、今日はもう部屋へ帰りなさい、客人」

男「次のアポイントメントを入れておきたいのですが、何時なら都合が良いでしょうか」

当主「近いうちに私から場を設けるわ。アポは必要なしよ。貴方に対してのアポが必要なら取り付けるけど」

男「おれを暇人と知っての発言ですか」

当主「だって、迎えが来るのでしょう?それまでに最低一回は会えるようにしたいのよ」

男「そのことならご心配なく。迎えは当分先ですから」

当主「その言葉、信じているわ」

男「まぁ、それでも、なるべくお早めにお願いしますね。あんまり待たされると、遊び道具が切れてしまいます」

当主「壊してしまうのでなくて?」

男「人の物を壊していけないと母から教わっていますので、それはあり得ません」

671: >>1 2012/08/19(日) 15:45:22.47 ID:kc3NIZZSO
―――男の家



運転手「……はい、ですから、私に預けて頂きたく」

姉「んー、性能確かめてないからなぁ。ま、確かめる術もないけど」

運転手「お嬢様の勘は何と言っておられますか?」

姉「成功する」

運転手「ならば、大丈夫でしょう」

姉「人らしい部分より、動物らしい部分を評価されてるのって、あんまり嬉しくないにゃー」

運転手「頼りになるのだから仕方在りません。それに、お嬢様には人らしい部分で褒めるところが無いではありませんか」

姉「はっはっはっ、首を飛ばされたいのか、貴様」

運転手「雇い主は飽く迄貴女の父親。貴女にその権利はありません」

姉「だが、私が父さんに泣き付いたとしたら……どうなると思う?」

運転手「そうですね……普段甘えてこない娘の奇行に罠の気配を感じ取り、一歩身を退かれるのではないかと」

姉「……うん、そうね……」

魔女「あれ、ドライバーさん?珍しいですね。どうかしたんですか?」

運転手「おぉ、これは魔女さま。お久しぶりでございます」

魔女「はい、お久しぶりです」

運転手「本日は少しばかりお嬢様に用事がありまして、それで寄らせていただいた次第です」

魔女「はー、お姉さんに……」

姉「ん?何だその視線は」

魔女「いえ、一応お嬢様をしていることもあるんだなぁ、と思いまして」

姉「こら、私は普段からお嬢様らしいだろうが」

運転手「ご安心下さい。今回はお嬢様としての立場に期待したものではございませんので」

姉「なんだすとコノヤロー」

魔女「あぁ、それなら良かったです」

姉「そして、その反応はなんだバカヤロー。泣くぞコノヤロー」

672: >>1 2012/08/19(日) 15:47:36.05 ID:kc3NIZZSO
魔女「……それで、その用事がどういったものなのか聞くのは無礼でしょうか」

運転手「やれ、貴女も賢しくなりましたね」

姉「全くだ。おろおろしていた頃はもう昔か」

魔女「男さんに関係のあることなんですね」

運転手「……私の口から何とも」

魔女「お姉さん」

姉「さぁ、どうだろうね。都合の良い方向で考えていいよ」

姉「ただ、そうだね。魔法に秘密の連絡方法があるように、科学にもいくらでもそんなものはあるのさ」

魔女「やっぱり、男さんの無事が分かっていたんですね……。落ち着きすぎだと思ったんです」

魔女「よくよく考えると、お父さんもお母さんが何も言ってこない時点で気付くべきでした……」

姉「ドンマイ!」

魔女「……」ジト-

姉「な、なんだよぅ。私だって好きで隠してたワケじゃないよぅ」

魔女「……分かっています。私が内通することを危惧したんですよね」

姉「いいや、単純に忘れてたわ」

魔女「はい?」

姉「メンゴ!」

魔女「……ぷっ、あははっ!」

姉「はははははっ!」

魔女「はは……はー……、お姉さん、お話があります」

姉「おっと急用を思い出した!」ダッ

魔女「逃がしませんっ!」ダッ

姉「わざーとじゃないーんだよぅ。許しーてくーれよぅ」タタタッ

魔女「お姉さんのは質が悪いんです!将来の為にもここでお灸を添えさせてもらいます!」タタタッ

673: >>1 2012/08/19(日) 15:49:23.80 ID:kc3NIZZSO


<ワーワーキャーキャー


運転手「……ふむ、仲睦まじく大変によろしいようで」

運転手「それでは、私はこれにて失礼させていただきます」

姉「おうっ!疾く疾く去れ去れ!」ダダッ

魔女「あっ、ちょっと待ってください!お帰りになる前にお姉さんを捕獲してください!」ダダッ

姉「はんっ!バカめ!こいつは私の家の専属ドライバー!つまり、私の味方ァッ!」ダダッ

運転手「それぐらいの助力でしたら」ガシッ

姉「あるぇー?」

魔女「ハァ……ハァッ……、あ、ありがとうございます!」

運転手「お気になさらず」

姉「おいテメー。裏切りとは華やかなことしてくれんじゃねーか」

運転手「先も言いましたが、雇い主は旦那さまです。お嬢様か魔女さまかを選ぶのは私の自由となります」

運転手「ならば、お嬢様より可愛げのある魔女さまを優先させるのは当然のこと。裏切りではありません」

姉「むむっ、貴様のその強気!嫌いではないぞ!」

運転手「お褒めに預かり光栄です」

姉「魔女ちゃん!君も彼みたいな毅然、泰然とした判断を見習い給え!」

魔女「はい!毅然、泰然とした姿勢でお小言を言います!」

姉「正座でかね?」

魔女「もちろんです」

姉「……やれやれね」

魔女「それではドライバーさん、改めてありがとうございました。また、いらしてください」

運転手「はい、それではお嬢様がた、頑張ってくださいね。くれぐれも騒音にはお気をつけて」

魔女「はい!大声を出させないように気をつけます!」

姉「えっ!?私が出すの?な、なにするつもりで?」

魔女「えへへ」

姉「いや、えへへじゃなくて」

675: >>1 2012/08/23(木) 00:06:08.66 ID:pHVFkT+SO
―――本家 地下牢



学士「はーっはっはっはっ!寝心地はいかがかな、客人!」

男「今日に関して言えば最悪だな。なにせ、眠りを邪魔されている」

学士「そうか!そいつは重畳だ」

男「一介の家庭教師ごときがこのVIPルームへ何の用だ?」

学士「復讐だよ」

男「中々の冗談だ。堅物かと思ってたが、どうだ、案外話せるじゃないか」

学士「冗談ではない!忘れたワケではなかろう!私の鼻を折ったあの日を!私を侮辱したあの日を!」

学士「私は!あの苦痛への報いを貴様に与えにきたのだ!」

男「そうか、お疲れさん。今日はもう帰って良いぞ」

学士「相変わらず癪に触れてくる奴だ……。だが、それも今に崩れる!」

男「なんか、前にも聞いたぞ、そのセリフ」

学士「うるさい!いいか!よく聞け!今日からこの私が貴様を一睡たりともさせん!」

男「…………ゲイ?」

学士「違う!そういう意味じゃない!睡眠を妨害すると言いたいのだ!」

男「やっぱりゲイじゃねーか」

学士「だぁぁぁぁっ!真面目に聞く気はないのか!貴様に今から降り掛かる恐ろしいことだぞ!?」

男「ねーよ、んなもん。復讐の方法がみみっちすぎる。はっきり言って、興が削がれる」

学士「館さまから貴様を傷つけることを禁止されていなければ、私もこのような恥ずかしい手は使わない!」

男「なるほど、そういった事情か。からかって悪かったな。てっきりジョークかと」

学士「ふん、まぁ、そう取れなくもないからな」

676: >>1 2012/08/23(木) 00:07:16.63 ID:pHVFkT+SO
男「で、学者先生。おれをどうやって眠らせないつもりだ?添い寝してピロートークでもすんのかい?」

学士「気色の悪いことを言うなっ!」

男「怒るなよ。軽い冗談さ」

学士「……これを見ろ」

男「棒っ切れだな。それとなく気品を感じさせる」

学士「これを使い、貴様をつつく」

男「……」

学士「どうした?そんなに恐ろしいことじゃないだろう。何故なにも言わない」

男「……」

学士「……まさか、眠たいのか?」

男「……」

学士「……」

男「わあっ!!」

学士「うわぁぁぁぁっ!!」

男「そんなにビビってちゃ世話ないな。復讐なんぞ諦めて今日は眠りな」

学士「……」

男「おれももう寝る。日に二回も興を削がれたのは初めてだ。二度と経験したくない」

学士「……す、好き放題言いやがってぇっ!!」バッ

男「よっと」ガッ

学士「あっ!」

男「起きてる時に棒を突き出してどうする。ほうれ見ろ、奪われちまうじゃないか」グイッ

学士「うわっ」ガシャン

男「……はぁ、これで三回目だ。なんというか虚しいなぁ」

学士「……」

男「で、この棒は返した方が良いか?」

学士「い、いるかっ!!クソッ!」

カツカツカツ

男「……愛すべきか、笑うべきか迷うバカだな、あいつ」

677: >>1 2012/08/23(木) 00:08:58.76 ID:pHVFkT+SO
―――



当主「こんにちは、客人。元気にしているかしら」

男「これはこれは、御当主。わざわざ部屋まで足をくれるとは」

当主「たまには歩かないと、お尻と椅子がくっついてしまうわ」

男「なるほど。それは回避すべきことですね。ささ、どうぞ部屋に入ってきて下さい」ガチャッ

当主「ふふっ」

男「どうしました?何かおれが無作法でも働いてしまったのでしょうか」

当主「いえ、ドアを簡単に開けたのが面白くて」

男「ドアを……済みません、今一要領を得ないのですが」

当主「だって、この部屋のドアは内鍵も外鍵も付いているでしょう」

男「あー、はい、そういうワケですか。いや、難しいことではありません。中で話しましょう」

当主「えぇ、何故かティーポットもあるみたいだし、紅茶を傍らに話して下さるかしら?」

男「大丈夫です。本当に簡単な話なんです。あ、どうぞ、この赤いソファーに」スッ

当主「ありがとう」

男「なに、紳士として当然のことです」

当主「それにしても、随分部屋の様子が変わったわね。最初は簡易トイレとベッドがあるだけだったのに」

男「いやぁ、1人でここまでするのは苦労しました。……えぇと、紅茶、紅茶……」ガチャガチャ

当主「ソファーに椅子にテーブル、絨毯、食器、ワイン、書物……全部私からの借り物だとしても大したものね」

男「埃を被って眠っていた、付喪神になる寸前の品を選んでお借りしました。報告が遅れたことはすみません」カチャ

当主「そう、この子たちにまた使命を与えてあげたの。ありがとう。眠ったままにするよりずっと素敵よ」

男「褒め殺しは止してください。おれは極めて利己的な動機で動いただけです」トポトポトポ

当主「無意識の善意ということね。ただ、このワインだけはもう少し寝かせていて欲しかったかしら」

男「それは失礼。ですが、その子にも罪はあります。色気を放ち過ぎという罪が」カチャ

当主「それでも寝ている生娘を襲うなんて最低よ。今度から自重なさい」

男「ご心配なく。彼女以上の色気を持つ娘っ子が、地下のワインセラーにいないことは確認済みです」

男「どうぞ、紅茶が入りました」コトッ

678: >>1 2012/08/23(木) 00:11:15.79 ID:pHVFkT+SO
当主「んー、良い香りだわ」

男「ミルクと砂糖はお入れいたしましょうか?」

当主「結構よ。そのままでも美味しいのでしょう?」

男「勿論です。ああ、こちらクッキーとスコーンになります。少々湿気ているかもしれませんが」

当主「ありがとう。では……」コクッ

当主「……」

男「……」

当主「……うん、とても美味しい」

男「ありがとうございます」

当主「クッキーもスコーンも良い出来ね。ジャムか生クリームがあればもっと嬉しかったけど」

男「失礼しました。女性は太ることを気にしているものかと思い、用意をしていませんでした」

当主「あら、そちらでも女の子は痩せたがりなのね」

男「男性の視点から言わせてもらいますと、些か度が過ぎていて少し身を引いてしまいますが」

当主「それは違うわ」

男「違うとは?」

当主「度が過ぎていることにではなくて、度を過ぎようとする必死の顔が怖いから身が引けるのよ」

男「なるほど、言われてみればそうかもしれません」

男「それで、確か……そう、鍵の話をせねばなりませんね」

当主「待っていたわ」

男「簡単な話ですよ。錠を改造したんです」

当主「どのように?」

男「開いているのに外からは閉まって見えるように」

当主「まぁ、そんな単純なこと。奇術士がよく使う手ね」

男「仰る通りです。あ、他の皆への種明かしは止めてくださいね。食いはぐれてしまいます」

当主「勿論しないわ。なにより、皆の楽しみを奪ってしまうもの」

男「これは要らぬ忠告でしたね」

679: >>1 2012/08/23(木) 00:12:38.11 ID:pHVFkT+SO
男「それで、御当主。おれを訪ねて来た理由はなんでしょうか」

当主「……」コクッ

当主「本当に、美味しい紅茶だわ」

男「どうも」

当主「……ねぇ、客人。貴方、どの程度の痛みなら気絶しない、ないしショック死しない自信があるかしら?」

当主「爪を剥がされる、歯を抜かれる、骨を折られる、皮膚を削ぎ落とされる」

当主「手足をもがれる、目玉を刳り貫かれる、肉を燃やされる、腸を溶かされる……」

当主「ね、どこまでが限界なのか、素直に教えて頂戴」

男「……」

男「……そうですね、髪を引っ張られるくらいでしょうか」

686: >>1 2012/09/13(木) 00:54:08.87 ID:rmnndPTSO
―――本家 祭儀場



「…………さい」

「……き…さい」

「…きて下さい」

「起きて下さい」

男「……んっ、だれっ……いづっ!」ジャラ

男「……あ?」ジャラッ

男「あぁ?……これ……鎖か……」ジャラッジャラッ

侍女「ようやくお目覚めになられましたね」

男「おー、あんたか。相変わらず美人だね」

侍女「ありがとうございます」

男「それで、美人さんにちょいと聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」

侍女「なんでしょうか」

男「なんでおれ、石のベッドに鎖の布団で眠ってるんだ?」

侍女「貴方が暴れ出さない為です」

男「へぇ、今から緑の巨人になる薬でも飲まされるのか」

侍女「まさか。仮に有ったとしても、貴方に飲ませるメリットが一つも無いでしょう」

男「その反応は知ってるな。アメコミにも精通してるとは、お前、本当はおれたちのこと大好きだろ?」

侍女「……胆力だけは褒めましょう。ですが……」ヒュンッ

ドゴッ

男「ぐッ……!」

侍女「場所ぐらいは弁えろよ、ガキ。皆が優しかったサービス期間はとっくに終了したんだ」

男「ゲホッ……ゲホッ……はは、誰が優しかったって?アレで優しくしてたつもりか」

侍女「殴りはしなかったろ?」

男「非暴力が優しさだなんて勘違い、今この場で正しておけよ。子ができた時恥ずかしい親になるぞ」

侍女「皮も剥けきらないガキが、育児論を飛ばしてんじゃねぇ。アホに見えますよ」

男「ばーか。外野の内だから騒げるんだよ」

侍女「おぉ、貴方にしては上等なことを言いますね」

男「中途半端な女だなぁ。褒めるか貶すかどっちか片方だけ取れよ」

侍女「褒めて欲しいのですか?」

男「バカを言え。気色悪い」

侍女「では、貶して欲しいのですか?」

男「アホ言うな。腹立たしい」

侍女「面倒くせぇ奴だ」

男「もぅ、面倒臭い男が好きなくせにぃ」

687: >>1 2012/09/13(木) 00:59:56.33 ID:rmnndPTSO
当主「そうね、何時だって男の子は手間がかかるもの。それに恋する女の子の苦労は分からないでしょう」

男「これは、恥ずかしいことを聞かれましたね。御当主、今のはほんの戯れですのでお忘れ下さい」

侍女「館さま、このような場所に足を運んでもらうことになり申し訳ありません」

侍女「本来ならば、私たちだけで行わねばならないことなのですが……」

当主「私が立ち合わねば客人に失礼になるわ。それより、貴女は準備に取り掛かって頂戴」

侍女「はい。整い次第声をおかけ致しますので」

カツカツカツ

当主「……さて、客人。スイートルームの寝心地は気に入ってもらえたかしら」

男「えぇ、勿論。寝返り一つもうたない眠りを経験させてもらいました」

当主「良かったわ。ベッドが固すぎて気を悪くしていないか心配だったの」

男「今のところは大丈夫です。全く問題ありません。これからどうなるかは、貴女次第ですが」

当主「ふふっ、例えば何を言ったら眉間にしわが寄るのかしら」

男「例えば、拷問だなんて言葉は即時帰宅レベルですね。実に品が無い」

当主「なら大丈夫。私だってそんな品の無い言葉は嫌いだもの」

男「放置や懲罰は下品ではありませんが、気落ちするには十分ですからね」

当主「貴方を魔法使いにするの」

男「……は?」

当主「貴方を魔法使いにするのよ。どう?とても素敵なことでしょう?」

男「御当主、貴女、一体何を……」

当主「そう何度も言わせないで頂戴。聞こえていないワケじゃないでしょ」

男「魔法……使い……。冗談でもデタラメでもなく、おれを魔法使いにする、と……」

当主「その為に私たちは貴方をお招きしたの」

男「…………最悪の気分です。おれがこの世で一番嫌いな生物になってしまうなんて……」

当主「なら、嫌になって帰ってしまうのかしら」

男「嫌がらせ……ではないんですね?」

当主「わざわざ確認するようなことかしら?」

男「……はい、大丈夫です。なら、帰りませんよ。というより、帰れません」

男「施術はこれから直ぐに執り行うのでしょう?迎えは早くて明日の朝なんです」

当主「なるほど、拷問をされても監禁をされても帰宅出来るというのに嘘は無いわね」

男「まぁ、1日は我慢しなければならないものでしたが」

当主「それにしても、随分あっさり受け入れてくれたわね。もう少し暴れるかと思ったわ」

男「だから、この鎖ですか?」ジャラ

当主「その役目もあるのは確かよ」

男「……諦めですよ。受け入れてはいません。騒いでも意味がないと諦めているだけです」

当主「もう、背伸びしちゃって。子供なんだから、しっかり騒ぎなさい」

男「格好つけて大人の真似をするのも子供らしい行動でしょう」

当主「ふふっ、確かにそうね。そこも、可愛いらしいところだわ」

688: >>1 2012/09/13(木) 01:00:55.68 ID:rmnndPTSO
男「それで、御当主、施術の予定を聞かせてもらっても宜しいでしょうか?」

当主「これから準備が整い次第、直ぐに始めるわ。退院は……そうね、何もなければ一週間後かしら」

男「分かりました。では迎えの者には一週間後と伝えておきます」

当主「そうして頂戴。他に何か?」

男「後はわざわざ質問せずともお医者さまが話してくれる。そうでしょう?」

当主「えぇ、その通りだわ」

コンコン

侍女「館さま」

当主「あら、良いところに。準備は出来たのね」

侍女「はい」

当主「アレをここに」

侍女「どうぞ」スッ

当主「ありがとう。他の物もこの部屋に運び入れて頂戴」

侍女「畏まりました」

カツカツカツ

689: >>1 2012/09/13(木) 01:05:25.61 ID:rmnndPTSO
当主「さて客人、この包みの中に何が入っていると思う?」

男「その球形から察するにスーパーボールだと」

当主「残念。惜しいわ。正解はこれよ」パサッ

男「おぉ、これは見事な義眼ですね。鮮やかなブルーの瞳が何とも芸術的です」

当主「この青はアパタイト。意味は――

男「繋がりの強化ですね。それとも、柔らかな惑わしの方が好みですか?」

当主「良く勉強しているわね。感心するわ」

男「敵の武器を熟知しておくのは、兵法の初手ですから」

当主「その敵を殺しきったとしても安心して忘れてはダメよ。石の言葉は魔力の性質に等しいのだから」

男「貴女のご忠告とあれば、記憶に焼き付けています」

当主「本当に頼むわね。せっかく良いものを選んだのに、魔力が馴染まずに両方とも壊れるなんて悲しいわ」

男「おれだってそんな間抜けな死に方は悲しいですよ。魔法使いになるより悲しい」

当主「うん、大丈夫そうね。ところで、私が昨日言ったことを覚えているかしら?」

当主「ほら、貴方が眠る前に聞かせたでしょう?」

男「覚えていますよ。ただ、昨晩はかなり話が弾みましたからね。具体的にはどのお話でしょうか?」

当主「どの程度の痛みに耐えられるかと尋ねたことよ」

男「あぁ、あの。えぇ、大丈夫です。復唱すら出来ますよ」

当主「なら、もう察しているわね」

男「はい」

当主「これから、貴方の目玉を刳り貫くわ」

男「はい」

当主「麻酔は使わずによ」

男「はい」

当主「辛さは、鎖で縛る必要性から判断出来るわね」

男「はい」

当主「髪の毛を引っ張られただけで倒れてしまうような貴方には、かなり苦しい手術でしょう」

当主「それでも、何とか頑張って気を保っていてくれるかしら」

男「はい。一生に一度くらい、そのような男気を見せるのも悪い気がしません」

当主「その男気、部下の見世物にしても大丈夫よね」

男「おれの逞しさに惚れてしまう女の子が出ない保証があるならば、ご自由にどうぞ」

当主「……」

男「……」

690: >>1 2012/09/13(木) 01:15:16.63 ID:rmnndPTSO
当主「……ふぅ、ごめんなさいね。本当は甘やかしてあげたいのだけれど……」

当主「……貴方に迷惑をかけられた部下が納得しないのよ。痛い目を見るべきだって、そう言うの」

男「申し訳ないと思う必要はありません。おれの父も上に立つ人間ですし、少しは事情が理解出来ます」

男「何より、その英断で貴女に対する恐怖心が少し薄れました」

当主「可笑しな子。自分の目玉を刳り貫く鬼が天使に見えてしまうのね」

男「逆です。天使が鬼の面を見せてくれたから嬉しいのです」

男「貴女は優しくするだけの愚者ではなかった。指導者の構えがきちんとあった……!」

当主「ふふっ、なら、不気味なイメージは払拭されたかしら?」

男「まだです。まだですが……」

男「…………この小人に浅ましい底を僅かでも覗かせてくれたこと、まことに感謝しています」

当主「可愛いことを言うのね、貴方。でも、感謝されて悪い気はしないわ」

当主「さぁ、何時までも話していたら貴方の覚悟が鈍ってしまう。手術をしましょう」

当主「身体が内から弾ける事故も起こり得るから、私は立ち合えないけれど、客席から見守っているわ」

男「勿論、無事に終わることを祈ってくれますよね」

当主「きちんと言葉にしないと不安かしら?」

男「たまらなく不安で、どうしようもなく寂しいですよ」

当主「仕方のない子ね。眼を瞑りなさい」

男「はい」

当主「主よ、今から困難に立ち向かうこの者に祝福を与え賜え、アーメーン」

男「アーメン」

696: >>1 2012/10/18(木) 00:11:03.33 ID:fpPJjZfSO

―――



「眼球摘出開始」

―――

「摘出完了」

「出血が酷いが、命に関わるほどでなし。このまま続行する」

「義眼へ神経と血管を繋ぐ」

「治癒魔法」

―――

「癒着確認」

「魔力回路の生成に入る」

「術式……」

―――

「失敗。再度試みる」

「患者の失神を確認。このままでは見世物としてつまらない。意識回復をはかる」

「電撃用意」

―――

「意識回復。魔力回路の生成に移る」

「術式……」

―――

―――


697: >>1 2012/10/18(木) 00:11:36.85 ID:fpPJjZfSO
――本家 医務室



男「……うっ………ぁぁ……」

男「ハァッ……ハァ……ッ……」

男「ねぇ……さん……」

男「あつい……あついよ……ねぇさん……」

男「……ぐっ……ぅう……」

男「うぅっ……からだが……あつ……いんだ……」

男「ねぇさん……たすけて……っ」

男「うぅ……ぁぁああっ………」

男「めがっ……めがやけっ………」

男「……いやだっ……うっ……ぅぅ……」

男「……ッ……ハァ……ハァ……」

男「いたいっ……いたい……」

男「ねぇさん……っ」

男「……そばに……そばに……きて……」

男「ハァッ……うっ……ぐぅぅううううっ……」

男「ハァッ……ハァッ………ッ……ぅっ……」

男「さ……びしい……さびしい……よ……」

男「ねぇ……さん……」

698: >>1 2012/10/18(木) 00:12:51.68 ID:fpPJjZfSO
―――


魔女『やっほー!みんなのアイドル!マジカルミミミです!』

魔女『地球の平和を脅かす悪の魔法使いはフィジカルケミカルデストロイ!』

魔女『さぁ、チャッキー!今日の獲物は何処っ!?』

ワニスケ『今日はあそこの民家に住む中年っす!』

魔女『やっぱりね!あいつが学校の先生でありながら、生徒の妹さんを狙おうとしていたあたりからもしやと思っていたんだ!』

ワニスケ『ミミミちゃん、人の行動の善悪如何が魔物の決め手になることはないっすよ!』

魔女『黙れマスコット』

ワニスケ『さぁ、パワーアップとか面倒なことされる前にやろう!』

魔女『うん!そうだね!くらえっ!マジ☆カルパイナップルボム!』ポイッ

チュドーン

魔女『イェイッ!成敗完了!』

『まだダッ!』

魔女『あ、貴女は!転校生!?』

ロシア少女『ふふフ、驚いたカ?実は私は吸血鬼だったのダ!』

魔女『くっ、自己紹介の時の一発ギャグが滑って、高校スタートに遅れたあたりからもしやと思っていたけど、まさか敵だったなんて!』

ワニスケ『ミミミちゃん、人の行動の結果如何が吸血鬼の決め手になることはないっすよ』

魔女『黙れマスコット』

ロシア少女『今日は素敵なプレゼントも用意したゼ!カモン!』

茶髪男子『うー……あ……』

オカッパ女子『かゆ……うま……』

魔女『うわっ、ゾンビってるの私のクラスメイトだっ!これじゃミンチにしたくても世間体が邪魔でミンチに出来ない!』

ワニスケ『くっ、絶対絶命っすね!』

『まてーい』

魔女『はっ、その声は敵に寝返りやがったお兄様!?』

青年『そうだ!何となく妹を倒すのは僕だと言っておかなければいけない気がしてやってきた!』

青年『手土産付きで』

担任「……しゅたーず……」

魔女『げぇっ!?さっきマジ☆カルした筈のおっさん!?』

ワニスケ『ゾンビ被りで戻ってきてマンネリ化を進めようとは、恐ろしい敵っす!』

『待った待った待ったぁ!』

魔女『えっ!そんなっ、お母様!』

当主『娘の危機を察し、マジカルメメメ!ただいま参上!』

魔女『お母様が助けに……ひゃ……』

当主『……り……たお……』

魔女『……――――



699: >>1 2012/10/18(木) 00:13:56.76 ID:fpPJjZfSO
―――本家 医務室



男「はっ…………!」ガバッ

男「……」

男「……」

男「……」

男「……何だ……今の夢……」

ガチャッ

侍女「……!あら、目が覚めましたか」

男「あんたか……。おれは、どのくらい寝てた?」

侍女「三日と十六時間ですね。なんなら、もう少し寝ていても良いですよ」

男「いや、遠慮しとくよ」

侍女「さすがに弱っていますね。まぁ、あれだけ叫んでいたのですから、体力を消耗して当然ですね」

男「……熱がまだあるんだよ。下手くそな手術のせいだ」

侍女「あれでもかなり優遇されてましたよ。ほら、今こうして生きているじゃないですか」

男「されてなきゃ、殺してたってか。物騒だね」

侍女「私たちは貴方を歓迎していませんからね」

男「んー、まぁ、そりゃそうか」

侍女「実は、起きたら館さまが会いたいと言っていました。直ぐにお呼びしましょうか?」

男「思考がまとまらない。頭がぼーっとする」

男「こんな状態であの人に会ったら、ただでさえ掌の上なのに握り潰されちまう。明日にしてくれ」

侍女「分かりました。では、そのように」

男「今日は優しいな。献身のうちに愛でも見つけたか?」

侍女「これは忠義です。館さまも弱った蝿を潰すのはつまらないだろうと考えたのです」

男「くくっ、なるほど、大した忠臣だな、あんた」

侍女「それでは、客人。私はもう出ていきますね。今日はもう眠るが良いでしょう」

男「眠くないんだがね。ま、目を閉じてればいつの間にか寝てるか」

707: >>1 2012/10/20(土) 07:28:37.65 ID:UqhPbC7SO
―――



当主「お久しぶり、になるのかしら?」

男「たかが4日です。お久しぶりではないでしょう」

当主「体調はもう良いのかしら?」

男「完全ではないですがね。まぁ、少なくとも貴女に風を移す心配はなくなりましたよ」

当主「昨日起きてたのに会おうとしなかったのは、もしかしてそれが原因なの?」

男「あまり突かないでください。美人の前では見栄をはらせてくださいよ。虚栄でもね」

当主「なるほど、もう大丈夫なようね」

男「お待たせしました」

当主「病み上がりの貴方を無理に引きずり出しておいてなんだけど、今日はそんなに大事な話ではないの」

男「なら、今日は顔合わせですか?」

当主「そうしても良いけど、この前私が伏せた話の続き、聞きたくないかしら?」

男「それは、なんとも、興味がありますね」

当主「本当に魔法使いにされただけなのか。この質問は覚えているわね」

男「はい。問題なく」

当主「貴方は今、魔法使いになったわ」

男「実感ありませんけどね。あるのは身体のだるさと眼の痛みです」

当主「実感がなくて当然。まだ魔法も使えない存在だもの」

男「なるほど、今のおれはただのオッドアイのイケメンなわけですね」

当主「そうね。貴方は本当に不安定な状態のイケメンよ」

当主「そんな不安定な状態の時に、もう一つの眼も刳り貫いて義眼にしてしまうの」

男「そうすると、彼らみたいになるわけですか」

当主「えぇ。軽い洗脳状態ね。思考はあるけれど、意思決定を自由に出来るようになるのよ」

男「それがあの時の魔法使い化の真実なのですね」

当主「良かったら、貴方もしてみない?」

男「両目とも義眼に?」

当主「えぇ」

708: >>1 2012/10/20(土) 07:31:42.57 ID:UqhPbC7SO
男「……あっはっはっはっ!御当主、おれは小心と言ったでしょう?変に脅さないでください」

当主「あら、どうしてそう思うのかしら?」

男「いやだって、そんなお手軽な方法があるなら、誘拐してすぐに行っているでしょう」

当主「言われてみればそうね。もう、準備も無しにからかおうとするものじゃないわね。恥ずかしいわ」

男「おれは良いものが見れて満足ですがね。本音を言うと、先の話をもう少し詳しく教えてもらえるとより満足です」

当主「そんなに話すことはないわ」

男「あるでしょう。おれにその方法を取れない理由とか」

当主「詰まらないわよ」

男「詰まらなくとも、仮に何か条件があるものなら、それに向かいたくないんです」

当主「条件、ね。特に無いわ」

男「ならば、どんな理由で?」

当主「貴方を強く、そして長く使える手駒にしたいという私の願いよ」

男「両目を義眼にしてしまっては、それは叶わぬと?」

当主「力が弱くなるし、魔力が多くなりすぎて1ヶ月程度で身体が崩壊してしまうの」

男「それは確かに使えませんね。精々捨て駒にするしか道がない」

当主「そういうことよ。試してみたくなった?」

男「ご冗談を」

当主「さて、話はこれぐらいで良いかしら」

男「えぇ。取り敢えずは安心しました。今日はこれくらいにしましょう」

当主「貴方から切り出すのは珍しいわね」

男「さすがに病み上がりなので。それで御当主、大事な話は何時してくれる予定で?」

当主「貴方が元気になりさえすれば、明日でも構わないわ」

男「元気になる必要がある、と。それは早く完治しなければなりませんね」

当主「頑張りなさい。といっても、若いから気にせずとも良くなるのでしょうね」

男「特権ですから」


709: >>1 2012/10/20(土) 07:32:28.35 ID:UqhPbC7SO
当主「羨ましいわ。ところで、貴方はこれからコックのところに行くつもり?」

男「胃と舌が美味い飯を求めていますから。……なにかあります?」

当主「いえ、これはほんの親切心なのだけど、先にお風呂に行くことを勧めるわ」

男「そんなに汗臭かったですか。気付かすにとんだ失態を」

当主「そうじゃないの。ただ、顔にね、落書きがされてて」

男「落書き……?」

当主「ラテン語でね。読めない人からすれば格好良いフェイスペイントかもしれないけど、好き放題されているわ」

男「……一つあげてもらえますか」

当主「玉ナシ」

男「なるほど……」

当主「まぁ、どうするかは好きになさい」

男「折角の親切心を無下にする理由もありません。この足でお風呂に入らせていただきます」

当主「そう」

男「御当主」

当主「なにかしら」

男「一つご許可願いたいことが」

当主「言ってごらんなさい」

男「明日までに誰かの顔を腫れさせてよいでしょうか」

当主「私は、その程度の些事は認知しないとだけ言いましょう」

男「それだけ聞ければ充分です」

714: >>1 2012/10/28(日) 20:05:01.98 ID:SbfcsxHSO
―――



男「……ハッ……ハッ……」タッタッタッ

男「……ふぅー」

男「……うしっ!」

男「絶好調!」

執事「朝から精が出ることですな」

男「ん?おぉ、爺さん。こんなところで散歩か」

執事「散歩ではありません。中庭の掃除をしているのです」

男「落ち葉も風情だと思うがね」

執事「ここが日本庭園なら映えていたでしょうな」

男「にしても、この建物森の中にあんのな。お陰で気持ちのいいランニングが出来た」

執事「何処まで走りましたか?」

男「ぐるっと。まぁ、10㎞ぐらいじゃないか」

執事「良い森でしょう」

男「あぁ、整備が行き届いてる。見事だったよ」

執事「……この際、貴方が牢から出たことは気にしません」

執事「ただ、貴方が勝手にうろついて何を調べているのか。そこが知りたい」

男「……ハッ、ランニングだって言ってんだろ、爺さん」

執事「……」

男「……」

執事「……はぁ、素直に答えてはくれませんか。尋問出来ないのが悔やまれる」

男「ずっと答えてたろ。空見たり木みたりしながら走ってたんだよ」

執事「ふん、戯れ言は結構。それより、折角元気になったんです。さっさと、館さまの役に立ってきなさい」

男「分かってるよ。何時までも穀潰しじゃ恥ずかしいからな」

執事「貴方にも恥があったのですね。少し見直しましたよ」

715: >>1 2012/10/28(日) 20:06:10.90 ID:SbfcsxHSO
―――



男「……といった感じで急かされましたので、朝も早いですがお邪魔させていただきました」

当主「体調はもう良いのね?」

男「えぇ。今なら貴女たちを全員殴り倒せそうです」

当主「血気も戻ったようね。なによりだわ」

男「手厚い看病のお陰です」

当主「それにしても……」ジッ

男「どうしました?」

当主「いえ、手に怪我が見られないと思って。彼の顔は腫れていたのに不思議だわ」

男「あぁ、それは道具を使いましたから」

当主「道具?」

男「風呂場にあったタオルですよ。濡らして石鹸を包めば、簡単な非殺傷の鈍器になります」

当主「殴られた後の不快感も相当ありそうな武器ね」

男「むしろそちらがメインの機能です」

当主「良かった。彼のこと本気で怒っているわけでは無かったのね」

男「そんなに狭量ではありませんよ」

当主「なら、彼を嫌わないでいてくれるかしら」

男「最初から嫌っていますよ。魔法使いは尽くね。これ以上下げようが在りません」

当主「魔法使いになったのに魔法使い嫌いは辞めないのね」

男「身体を売ったからといって、心まで売ったことにはならないでしょう」

当主「魔法使いとしてさらなる高みを目指すことを選択したものだと思ったのだけど」

男「なったからには食らい付くしてしまおうとしているだけです」

当主「そう」

男「生意気だと叱りますか?」

当主「いいえ。素敵よ、その青臭さ」

男「どうも」

716: >>1 2012/10/28(日) 20:09:18.58 ID:SbfcsxHSO
当主「さて、それじゃぁ、魔力を使う練習でも始めましょうか」

男「練習ですか。オマケを鍛えても兵士には使えないと思うのですがね」

当主「まだそのことを根に持っているの?」

男「持っていませんよ。ただ、気になるんです。練習が終わった先が」

当主「言ってしまっていいの?喜びが減るわよ?」

男「ゴールが見えていると士気が上がります」

当主「……貴方が覚える魔法は一つだけ」

男「一つ……。何やらとんでも無さそうなものが来そうですが、その魔法とは?」

当主「召喚魔法よ」

男「召喚というと……異世界から魔物を呼び出す奴ですね」

当主「異世界も魔物も居ないけど、そういうものだと思ってくれて構わないわ」

男「なら、現実に居る何かを召喚するワケですか。一体何を呼び出して欲しいので?」

当主「貴方と契約を結んだ人工生命体」

男「そんな怪しいものと契約者のやり取りをした記憶はありません」

当主「とぼけないで。気付いているでしょう?貴方の家にいるワニのことよ」

男「えっ……!そ、そんな……あいつが……っ!?」

当主「……えっ、本当に気付いていなかったの!?」

当主「人語を理解する知能、無闇に噛み付かない理性、異常なまでに鋭い感覚、習性、雑食、睡眠、体温に筋力」

当主「ワニであるどころか、生き物としておかしな所ばかりじゃない。それでも気付かなかったと言うの?」

男「いや、だって、家のワニスケですし!!それが当たり前でしょう!!」

当主「……」

男「え、というか、本当に?本当にワニスケは人工生命体なんですか?」

男「だって、あんなに可愛くて可愛くていい子なのに……信じられません……というか、はぁぁ……」

当主「……」

当主「なんというか……その……」

当主「貴方もおバカさんだったのね」

724: >>1 2012/11/06(火) 14:43:35.05 ID:H59sldESO
男「……はぁぁ、変に意識しそうだ……」

当主「……話を続けるわよ」

男「うーい……」

当主「そんなにショックを受けることかしら?」

男「今なら……、今なら育ててきた自分の子供が、実は赤の他人の子だと知った父親の気持ちがよく分かります……」

当主「ペットは雑種が一番という質なのね」

男「親元は気にしません。ただ一点、貴女たちが生み出したモノである、ということを省けば」

当主「私たちが生み出したワケではないわ」

男「では教会ですか?ははっ、大して変わりはしませんよ」

当主「教会でもなし。小さな魔法使いのグループよ。錬金術系のね」

男「……もしかして、魔法使いのグループは沢山あるのですか?」

当主「私たちと教会が二大ではあるけれどね」

男「うへぇ……嫌なことを聞きました」

当主「その小さなグループが偶然生み出した兵器」

当主「組まれた魔法を魔力にまで戻し、吸収する。魔法使いを無力化する恐ろしい生き物よ」

男「そうですか」

当主「興味なさそうね」

男「魔法使いが作ったと分かれば、後は別に。貴女たちの効率の悪い自慢を聞いても面白み無いですし」

当主「どういうことかしら?」

男「魔法を無力化するならば、科学なり肉体なり使って捕えれば良いだけでしょう」

当主「知らないの?ある程度の魔法も使うのよ」

男「はぁ?ワニスケが魔法を?」

当主「遠くに逃げた泥棒なんかを捕まえることもあったのでしょ?」

当主「アレは転移魔法で追い掛けたの。ただし、私たちが使うものより、よっぽど高度なモノだけど」

男「……普通に走って追いかけて」

当主「バイクや自転車相手に?」

男「……そ、それでも――

当主「いいの。言わなくて結構。貴方の口からそんなバカなことを何度も聞きたくないわ」

男「……はい、黙っています」

当主「賢明ね」

725: >>1 2012/11/06(火) 14:45:46.62 ID:H59sldESO
男「……捕らえられないのは分かりました。ですが、腑に落ちません」

男「ピストル一つで倒せる生物が、どうして兵器になるのです?」

当主「死なないから」

男「えっ」

当主「消えるのは契約が果たされた時。つまり、貴方が死ぬまで何度だって蘇るわ」

男「……うわぁ、マジですか……」

当主「魔力で生きている使い魔は、総じてそうよ。生き物でないのだから、死もなくて当然」

男「……なんか、いよいよワニスケにどう接すれば良いか……」

当主「普通に接すれば良いのよ」

男「……使い魔」

当主「……?」

男「使い魔が他にもあるなら、別にワニスケでなくても……。量産して数で押すとか……」

当主「使い魔は本来、頑張っても偵察に使える程度の力しか出せないの」

当主「戦闘能力を有している貴方のが異例よ」

男「……はぁ、逃げ道なしですか」

当主「それに、使い魔はお高いの。一体で百万は飛ぶわ」

男「魔法にお金がかかるので?」

当主「魔力は宝石に宿る。質の良い宝石が、タダで拾える?」

男「無理ですね。ははっ、魔法には夢も希望もなかったワケですか」

当主「全てに対価は必要よ。科学だって、魔法だって」

男「まぁ、精神力だなんてファンシー吹かれるよりかは素敵です」

当主「さて、最後は少し反れたけど、これで貴方の使い魔を狙う理由が分かったかしら」

男「えぇ……、とても良く」

当主「そう。なら、もう練習に入っても良さそうね」

男「モノにするまで時間がかかりそうですがね」

当主「難しいモノじゃないわ」

男「ずっと練習してきたのに、大した魔法が扱えない人間を一人知っています」

当主「あの娘は落ちこぼれなの。あの娘程度なら、1週間練習すれば誰でも出来るのが普通よ」

男「おれが落ちこぼれの可能性は?」

当主「無いわ。むしろ、貴方は才能のある方よ」

男「貴女にそこまで褒められたら、これはもう頑張るしかないですね」

男「さぁ、どんなハードなことでも言ってください」

726: >>1 2012/11/06(火) 14:46:58.25 ID:H59sldESO
当主「では、まずこれを見て」スッ

男「魔方陣?」

当主「しっかり見なさい。眼に焼き付けるの。義眼の中の魔力回路が陣の形になるわ」

男「それって実感あります?」

当主「眼の中で何かが動いている感覚がする筈よ」

男「な、なかなか嫌な感覚ですね」ジッ

当主「慣れればどうってこと無いわ」

男「だと良いですが……」ジッ

ゥジュルッ

男「ぅげっ……!」ビクッ

当主「きたみたいね」

男「と、鳥肌が……」

当主「初めてなら仕方ないわ」

男「というか、早くないですか?」

当主「遅いものが実戦で使えると思って?」

男「それはそうですが……」

当主「魔力回路が変わったら、次はその戻し方ね」

当主「といっても、何もしなくても陣を暫く見ないだけで良いわ」

男「簡単ですね」

当主「簡単でなければ、魔法は歴史の中で消えていたでしょうね」

男「誰でもお手軽にですか。いやはや、科学技術みたいです」

当主「2つの差の無さには驚くでしょう」

男「えぇ。でも、不思議と相容れないんですよね」

当主「そうそう、良い忘れていたけど、戻る時も感か――

ゥジュル

男「ぃい゙っ……」

当主「……遅かったみたいね」

男「ぅー……次の機会までに改善をお願いします」

当主「練習その一は、ひたすらこれを繰り返すことよ」

男「どの程度ですか?」

当主「貴方が感覚に慣れ、陣を見たその瞬間に魔力回路が形成出来るようになるまでね」

男「今日はもう、それだけで終わりそうですね」

当主「そう?三時間もかからないと思うけど」

男「三時間……ですか。ご期待に添えるよう、最大限に努力はします」

当主「目が疲れたら、適度に休みなさい。無理して得られるものではないわ」

727: >>1 2012/11/06(火) 14:49:40.47 ID:H59sldESO
―――二時間後



ゥジュル

男「……」

男「……慣れるものですね」

当主「ね?言ったとおりでしょ」

男「気持ちの悪さは変わりませんが、少なくとも一々律儀に鳥肌をたてることはもうありません」

当主「充分よ。それなら、事故も防げるでしょう」

男「事故?」

当主「魔力回路形成失敗による魔力の暴発」

男「……具体的に言うと、どのくらい危険な事故なのですか?」

当主「普通は片目が弾ける程度で済むわ」

男「悪ければ、顔面の半分ですか。危険ですね」

当主「無茶をしなければ、まず起こり得ない事故よ。一年に一回も無いの」

男「魔法で無茶となると、やはり、使いすぎが原因になるのでしょうか?」

当主「それなら、魔力切れを起こすだけよ。この場合の無茶は、詠唱無しの魔法の行使ね」

男「あの詠唱にも一応意味はあったということですか。ただの格好付けかと」

当主「そうね……、基礎的なことぐらいは説明しておこうかしら」

男「お願いします」

当主「はっきり言って、魔法は陣だけでも発動するわ」

男「陣が重要だと」

当主「ただ、ややこしくてね。これを見て頂戴」スッ

男「これも陣ですか。先ほどよりごちゃごちゃとしていますが」

当主「これを見て、魔力回路は形成されそう?」

男「……そういえば、気持ち悪さがいつまで立っても来ませんね」

当主「そういうことよ。複雑過ぎて読み取れないの。相当な訓練を積んでも、素早く正確な読み取りは難しいわ」

当主「陣は、本来義眼から出る筈の魔法の、代わりの出口となる」

当主「けれども、それは双方の形が正確にリンクしてこそ。それが出来なければ……」

男「ボンッ、ですか。なるほど。詠唱は簡略化された分を補う補助であり、構築を安定させると見ても?」

当主「もう少し難しいけれど、そう思ってもらって構わないわ」

男「では、あの妙な言葉は何処から?日本語だというのも気になりますね」

当主「日本語なのは私たちが覚えやすいから。他の言語圏の魔法使いは、別の言語を使っているわ」

当主「詠唱の内容は、補完に使える言葉を組み合わせて、格好良いものを作っているだけよ」

男「くくっ、なるほど。魔法使いらしい理由ですね」

当主「でしょう?だから、詠唱を決めるときは何日も頭を捻らせて決めるの」

728: >>1 2012/11/06(火) 14:50:53.13 ID:H59sldESO
男「それなら、おれが唱えるモノも当然格好良いのでしょうね」

当主「今直ぐにでも知りたいの?少し休んでからにしようと思っていたのだけど」

男「慣れが消えないうちにしたいのです」

当主「事故は滅多に起きないと言ったのだけれど……、恐がらせちゃったかしら」

男「当方、小心者につき」

当主「ふふっ、良いわ。簡単な方の陣に手を置いて」

男「はい」スッ

当主「私が今から言う言葉に続きなさい」

当主「『隣人よ、我らは離れすぎた』」

男「『隣人よ、我らは離れすぎた』」

当主「『距離を戻し、今一度我が隣に座れ』」

男「『距離を戻し、今一度我が隣に座れ』」

当主「『これは契約に基づく命令だ』」

男「『これは契約に基づく命令だ』」

当主「『来い、ワニスケ』」

男「『来い、ワニスケ』」

カッ


735: >>1 2012/11/19(月) 02:42:29.17 ID:XHAlaUUSO


カッ


男「……」

当主「……」

男「……あの、何も起こらないのですが」

当主「おかしいわね。暴走した風でもないし。もう一度お願い出来る?」

男「えぇ、まぁ」

男「『隣人よ、我らは離れすぎた。距離を戻し、今一度我が隣に座れ。これは契約に基づく命令だ』」

男「『来い、ワニスケ』」

カッ

男「……」

当主「……」

男「……何も起こりません」

当主「……そうね」

男「あの……やっぱり、おれって才能が無いのでは?」

当主「間違っているところは無いわ。それでも発動しないのは、何か別の要因が在るはずなのよ」

男「魔力が足りないとか」

当主「貴方の眼は新品よ」

男「なら、単に向こうの都合が悪いとか、電波が悪いとか」

当主「使い魔に拒否の自由は無いし、呼び出す距離の制限もないわ」

男「じゃぁ、やはり、才能不足ですね」

当主「……それは無いわ。才能不足なら、そもそも魔力に侵食されて……」

男「……どうも、相当悩ませているようで申し訳ない」

当主「……それが起きていないなら、本当に拒否を……?」

男「その……、魔法とて全て解析出来ているワケではないのでしょう?」

当主「……魔法は生み出された技術よ。生物みたいに言わないでちょうだい」

男「これは失礼」

当主「と言っても、原因が分からないのは本当のことだし、正直、参ってるわ」

男「まぁ、今日はおれか機材の調子が悪いということにしましょうよ。また明日挑戦すれば、きっと成功します」

736: >>1 2012/11/19(月) 02:47:23.54 ID:XHAlaUUSO
当主「……待って。一つだけ失敗の説明がつくものがあるわ」

男「本当ですか?それは良かった」

当主「でも……そんなことが……」

男「あの、ご当主?原因があるならば言ってくださいよ。改善しますから」

当主「……有り得ないだろうけど、貴方が使い魔と契約していないことよ」

男「契約……ですか。そういえば、使い魔との契約はどのように結ばれるのですか?」

当主「使い魔の方から魔力の欠片を貰ったでしょう?」

男「魔力の欠片となると、宝石の欠片ですか?」

当主「違うわ。使い魔の身体の一部と言っていいかしら。光るものを体内に送り込んでくるはずなのだけど」

男「誠に残念ながら、そのような奇跡体験をした記憶はありません」

当主「えっ?」

男「ありません」

当主「名前があるのに?」

男「いや、ペットなら普通に名前はつけますよ」

当主「嘘よ。なら、どうして使い魔が大人しく貴方に従っているというの」

男「愛でしょうね」

当主「はぁ……、頭が痛くなるわ」

男「愛はインフィニティですよ、ご当主」

当主「良い言葉ね」

男「そうでしょう」

当主「はぁ、でも本当に困ったことになったわね。まさか、契約していないなんて」

男「契約すれば良いだけの話ではありませんか」

当主「貴方に一端家に帰ってもらうことになるのだけど、またこっちに戻って来てくれるの?」

男「いや、もう飽きてきましたので、帰ったら戻ってはこないと思います」

当主「そうよね」

男「もしかして、おれが此処ですることは無くなってしまった形ですか?」

当主「駒として育てていきたかったのだけれど、残念ながらね」

男「なら、帰らせていただきましょう」

当主「送ってあげなくて大丈夫?」

男「迎えが来ると言っていたはずです」

当主「そうだったわね。迎えの人はいつ頃到着の予定なのかしら」

男「明日には」

当主「ということは、事前に連絡を入れていたのね。最初から帰るつもりだったのじゃない」

男「たはは、まぁ、そうなります」

当主「もう、勝手なんだから。帰る時も私に黙っていたら嫌よ。きちんと挨拶なさい」

男「分かっています、ご当主」

737: >>1 2012/11/19(月) 02:51:26.00 ID:XHAlaUUSO
―――翌日



学士「おい、起きろ!」

男「……」

学士「起きろと言っている!」

男「うっせぇな、起きてるよ。無視したかったおれの心情ぐらい察してくれ」

学士「このっ……!」

男「で、何しに来たんだ」

学士「監視だ」

男「監視ぃ?」

学士「貴様、帰ると言ったらしいな。館さまに何の恩も返さぬまま」

男「耳の早いこって」

学士「館さまは貴様に甘すぎる。このまま帰らせてやれと言ったが、私は認めぬ」

男「命令違反か」

学士「館さまを想えばだ!それで貴様の監視に来てみれば、なぜ地下牢にいない」

男「迎えが来るってのに地下にいたんじゃ、分からないだろいが」

学士「あそこが貴様の部屋だろう!あそこで縮こまっておけ!」

男「部屋じゃなくなれば良いんだな」

学士「なに?」

男「ほれ、あの部屋の鍵だ。フロントに届けておいてくれ」ポイッ

カシャンッ

学士「ほ、ほぉ、あくまで客人気取りらしいな」

738: >>1 2012/11/19(月) 02:52:02.18 ID:XHAlaUUSO
男「違ったのか?じゃぁ、囚われのお姫様の方か」

学士「実験体だ!貴様は!」

男「今日はあんまりギャグが冴えないな、お兄さん」

学士「誰がいつギャグを言った!」

男「……おっと。そこから離れた方が良いぜ、お兄さん」

学士「はぁ?なんだ急に?」

男「死にたくないだろ?」

学士「ワケの分からないことを。逃げるつもりだろう」

男「音が聞こえないのか。おれより後ろに下がってろ」

学士「音……?」

……ォォオ

学士「な、なんだこれは!?」

男「あぁ、もう仕方ねぇ野郎だ。こっち来い」グイッ

学士「なっ……!引っ張るな!たかがにんげ――

バガァァアアアンッ!

学士「ひっ!?ひぃぃぃぃっ!?」

男「やれ、これでおれは手前の命の恩人だな。感謝しろよ」

ブォォォォオオオオオ

キキィッ

学士「な、なななななっ!」

男「日本じゃ銃刀法の関係で主砲付けれなくてね。随分と可愛らしくカスタムしちまってるが、英軍偵察戦闘車のフォックス装甲車だ」

男「にひひ、滅多に見れないんだ。びびって目を逸らすんじゃねぇぞ」

ガチャッ

運転手「はぁ、ようやく見つけましたよ、坊っちゃま」

男「遅いんだよ、バカが」

運転手「貴方が寄り道なぞするからです」

男「おっ、言うねぇ」

739: >>1 2012/11/19(月) 02:54:30.02 ID:XHAlaUUSO

キィィン

男「ん?」

パァンッ

男「チッ……、魔法か。対応早ぇな」

運転手「今のが魔法?ロケット花火かと」

男「まぁ、そう言ってやるな」

タタタッ

戦闘員「そこの侵入者、動くな!」

運転手「色々集まり出しましたね。早くお乗りに」

男「ん~?まぁ、少し待て」

戦闘員「『アーファロ』放て!」

男「おっと、流石に影に隠れとくか」

キィィン

ヒュンッ、ヒュンヒュン

パァンッ、バババァンッ

運転手「どうして直ぐにでも発進しないので?」

男「約束があってな」

戦闘員「こ、壊れなどころか効いていないのか!クソッ!ただの人間が作ったオモチャのくせに!」

学士「どけっ!私がやる!」

男「あら。腰抜かしているかと思ったら、いつの間にかあんなところに」

学士「散々、私をコケにしてくれた罰を受けよ!」

学士「『トルグニン・サーヴォ』」カッ

ヴァリヴァリヴァリ

ガァァンッ!

学士「はっはっはっ、どうだ!」

運転手「結構威力が出るものもありますね」

男「ま、こいつの装甲ぶち破るには足りないな」

学士「ぎぃっ!このっ!しぶといゴミどもがっ!」

「おやめなさい」

男「ヒュー、来た来たぁ」

戦闘員「館さま!」

740: >>1 2012/11/19(月) 02:57:22.85 ID:XHAlaUUSO
当主「攻撃は止めなさい、貴方たち」

戦闘員「どういうおつもりですか!」

学士「ただの人間に侵入を許したのですよ!?此処で殺さねば災厄を招きます!」

当主「貴方たち、少しうるさいわ。もう邪魔だから下がっていなさい」

学士「館さま!何処まであのガキを甘やかすのですか!」

当主「どのみちアレを壊せる魔法は直ぐには用意出来ない。無力な兵は兵でないわ」

戦闘員「我々は数では圧倒的に勝っています。囲めばあんなオモチャには負けません!」

当主「客人、彼らはこう言っているのだけど、囲まれるまで待ってくれる?」

男「貴女には悪いですが、待ちませんね」

当主「そういうことよ。大人しく下がりなさい」

戦闘員「館さま!」

当主「お願いだから聞いて頂戴。でないと、貴方たち全員殺すことになるでしょ」

戦闘員「……っ。わ、分かりました」

学士「館さま……どうしてただの人間にそこまで……」

スタスタスタ

当主「……ふぅ、お待たせ、客人」

男「えぇ、ご当主」

運転手「……この人は?」

男「偉い人だよ。お前は出てくんな。車の中でクロスワードパズルでも解いてろ」

運転手「やれやれ、呼び出しておいて待たせるとは」スッ

当主「聞き分けの良い部下で羨ましいわ」

男「おれには貴女の部下の忠誠の方が羨ましいですがね」

当主「……良い車ね」

男「余った金の正しい使い道は、こういった有意義な買い物にある。そうは思いませんか?」

当主「此処はいつもかつかつなの。余ったお金が出たことは一度もないわ」

男「それは、壁を壊してしまって悪いことをしました。登場にはインパクトをと思ってしたんですがね」

当主「修理代は出してくれるのでしょ?」

男「魔女がこちらに帰る時に持たせておきます。宿泊代と細やかな気持ちの分もつけておきましょう」

当主「助かるわ」

男「随分とご迷惑をかけましたから、当然ですよ」

741: >>1 2012/11/19(月) 03:00:38.77 ID:XHAlaUUSO
当主「聞いても良いかしら」

男「どうぞ」

当主「どうやって外部と連絡をとったの?」

男「結界の方が短い時間しか展開されてないと気付きましてね。その隙に通信機で。やはり、金がかかるものなのですね」

当主「使い過ぎると、日々の食事の回数が一回になる程度よ。普段はカモフラージュで誤魔化しているの」

男「それについては拝見させていただきました。見事なものです」

当主「ありがとう。通信機は最初から?」

男「ご当主、やはり科学について学ぶべきです。だから、ベロの下や耳のなかに隠していることに気付かないのです」

当主「そうね、検討してみるわ」

男「……」

当主「……」

当主「帰るのね、客人」

男「はい、さようならです」

当主「寂しくなるわね」

男「おれもです」

当主「また会いましょう」

男「えぇ、お元気で」

ガコンッ

運転手「挨拶は済みましたか?」

男「あぁ、出せ」

ゥオンッ

ブォォォォオオオオオ……

ォォォ……ォォ……

……

742: >>1 2012/11/19(月) 03:02:47.63 ID:XHAlaUUSO
当主「……まったく」

当主「来るときは大人しくしてくれたのだから、帰るときも大人しく帰ってくれれば良いのにね」

侍女「あの野蛮人には無理でしょう」

当主「それもそうね」

侍女「あの、館さま……」

当主「なぁに?」

侍女「聞いても宜しいでしょうか?」

当主「何をかしら」

侍女「彼を手放した理由です」

当主「こちらに在ろうが、野に在ろうが、最低限の目的は達成出来るからよ」

侍女「アレが教会を倒しにいくと?」

当主「憎しみもあるでしょうけど、何より安全の為に滅ぼしてくれるわ」

当主「それに、こちらに長く置いていれば、懐く前に私の底を見られていたでしょうから」

当主「そうなれば、私たちも敵と見なしてを潰しにきたでしょう」

侍女「手放した今もその危機は同じ気がしますが」

当主「それは無いわ」

侍女「どうしてです?」

当主「何の為に優しく振る舞ったと思っているの?」

侍女「その……気紛れかと」

当主「優しく振る舞った。それだけでは怯えてしまうでしょうから、残酷さも見せた」

当主「彼は、私を組織のトップとして認識したわ。他方で、あの娘の良い親としてもね」

侍女「つまりは、信頼させたということですか?」

当主「そこまで彼は甘くないわ。でも、此処が家族の一人が安心して帰ってこれる場所だと判断してくれた」

侍女「話が見えません。それだけで、彼が牙を向けてこない理由に?」

当主「貴女、彼のこと何も理解しようとしなかったのね」

侍女「必要がありませんでしたので」

当主「そう。それは残念ね。面白かったのに。家族を必死に守ろうとする姿とか」

侍女「まさか、あの小僧、ご息女を自分の家族だと?」

当主「そう言っていたわ」

侍女「何様のつもりなのか。身の程を弁えて欲しいものです」

当主「あら、私は別にあの娘が何処の家の子になろうと気にしないわよ。そのおかげで、出来損ないが役に立っているのだし」

侍女「……館さまは、ご息女に愛情は無いのですか?」

743: >>1 2012/11/19(月) 03:04:41.96 ID:XHAlaUUSO
当主「今日は随分と踏み込んで来るのね」

侍女「す、すみません!出過ぎました!」

当主「分かるけどね。どう理屈を並べようと、ただの人間を贔屓した私が信じられなくなっているのよね」

侍女「そんなことは……っ!」

当主「嘘、偽りは結構。大丈夫、その程度で優秀な部下を皆殺しにはしないわ」

侍女「は、はい……」

当主「ただ、私を見限って他のグループにつこうとしている人がいたら伝えて」

当主「半年ほど待て、と。そうすれば、私が狂乱したかどうか分かるはずだ、と」

侍女「わ、分かりました。それでは、私はあちらの片付けにいってまいります」

当主「えぇ、なるべく早くお願いね」

侍女「はいっ!」

タッタッタッ

当主「……本当は、手放したくなかったのだけどね。彼なら良い駒になった」

当主「もう少し愚かなら良かったのに」

当主「……言っても仕方ないわね」

当主「ふふっ、それにしても可哀想な教会」

当主「本来私たちと折半する筈の物を一手に受けることになってしまったんだから」

当主「きっと、凄惨なことになるわ。果たして、魔法使い殺しの化け物が数で押せるかどうか」

当主「出来れば、両方ともが死んでくれることを祈っておきましょう」

752: >>1 2012/12/20(木) 00:41:23.39 ID:IQigyU4SO
―――男の家



パーン

姉「おっかえりー!」

男「……」

姉「おっかえりー!」

男「……チッ」

姉「うわっ、久しぶりなのに可愛げがない」

男「こっちは疲れてんだ。クラッカーとか止めろ。癪に障る」

姉「んだよー、せっかく物置から出してきたのに」

男「どう考えても、見つけたから使ってみただけじゃねぇか」

姉「まぁね」

男「変わんねぇな」

姉「そっちは随分変わったよ。眼とか」

男「こいつか。後で話すさ」

姉「旅行の土産話より大事なことでもあるってか」

男「眠りたいってのもあるが、その前にやらなきゃなんねぇことがあってな」

タタタ

魔女「今、大きな音が……あっ!男さん!」

男「よぉ、ただいま」

魔女「はいっ!お帰りなさい!」

姉「なんか反応がちがーう」

男「クラッカーを鳴らされてないからな」

魔女「さっきの破裂音、やっぱりクラッカーだったんですか」

姉「んじゃ、クラッカー鳴らさないでリトライ」

男「やることあるって言ってんだろうが」

姉「なんだよー、私にもただいまって言えよー」

男「ったく……ただいま、姉さん」

姉「おう、お帰り。心配かけやがって」

753: >>1 2012/12/20(木) 00:41:58.65 ID:IQigyU4SO
男「連絡は入れてたろ」

姉「それでも、心配するっての」

男「そっか」

姉「それに、魔女ちゃんがね」

男「あー、何も知らせないようにしてたんだっけか。悪かったな」

魔女「いえ、良いんです。こうして、帰ってきてくれましたし」

魔女「その……無事に……とは言えないみたいですが」

男「その話は後でな。今は先に用事を片付けさせてくれ」

魔女「は、はい」

姉「さっきから言ってるが、その用事ってなんだよ」

男「ちょいとワニスケに」

姉「会いたくなった?」

男「それもある。魔女、一緒に来てくれ」

魔女「あっ、はい」

姉「私は?」

男「弟のあられもない姿を見たきゃ来い」

姉「わーい、行く行くー」

男「躊躇しないな、姉さんは」

754: >>1 2012/12/20(木) 00:43:09.76 ID:IQigyU4SO
男「連絡は入れてたろ」

姉「それでも、心配するっての」

男「そっか」

姉「それに、魔女ちゃんがね」

男「あー、何も知らせないようにしてたんだっけか。悪かったな」

魔女「いえ、良いんです。こうして、帰ってきてくれましたし」

魔女「その……無事に……とは言えないみたいですが」

男「その話は後でな。今は先に用事を片付けさせてくれ」

魔女「は、はい」

姉「さっきから言ってるが、その用事ってなんだよ」

男「ちょいとワニスケに」

姉「会いたくなった?」

男「それもある。魔女、一緒に来てくれ」

魔女「あっ、はい」

姉「私は?」

男「弟のあられもない姿を見たきゃ来い」

姉「わーい、行く行くー」

男「躊躇しないな、姉さんは」

755: >>1 2012/12/20(木) 00:45:46.30 ID:IQigyU4SO
―――男の家 庭



男「お前も久しぶりだな、ワニスケ」

ワニスケ「シャー」

男「よしよし」ナデナデ

ワニスケ「シャー♪」

姉「おーおー、嬉しそうなこと」

魔女「ワニスケちゃんも会いたがっていましたもんね」

男「なぁ、魔女」

魔女「はい、なんでしょうか」

男「契約ってどうするんだ?」

魔女「……やっぱり、ワニスケちゃんは……」

姉「ん?何の話よ?」

男「姉さんには理解の及ばない、高尚な話だ。口出し禁止」

姉「うわ、うぜぇ」

男「それで、方法は?」

魔女「……使い魔に聞いて下さい。必ず応えてくれます」

男「そうか。それだけか」

魔女「はい」

男「……ねぇ、姉さん」

姉「なに?」

男「ワニスケを戦いに巻き込むって言ったら、どうする?」

姉「殴る。顔面を一直線に殴りぬく」

男「そうか」

姉「でも、双方合意があるなら、それこそ私の口出すとこじゃないね」

男「……そっか」

男「……」

男「ワニスケ」

ワニスケ「シャ?」

男「お前、おれと姉さんの戦いについてくる気はあるか?」

ワニスケ「シャー!」

男「ありがとう。そして、済まない」

男「『契約をしよう』」

ワニスケ「シャ」ピカッ

姉「あわわわ、ワニスケが発光しだした」

魔女「落ち着いてください、お姉さん。大丈夫ですから」

756: >>1 2012/12/20(木) 00:49:01.31 ID:IQigyU4SO
ワニスケ「シャー」フワッ

姉「あわわわ、ワニスケが浮遊しだした」

魔女「大丈夫ですって」

使い魔「『名を与えよ』」

姉「あわわわ、ワニスケが喋りだした」

魔女「……お姉さん、わざとやってません?」

男「今さら名前かよ。そんなの決まってるだろ」

男「『ワニスケ』だ」

使い魔「『与えられた』」

使い魔「『ここに契約は結ばれた。証を渡そう』」

キラッ

男「これが、魔力の欠片……」

キラキラキラ

男「受け取れば良いのか?」スッ

ヒュンッ

男「!?」

ドスッ

男「ぐふぇっ!」

姉「愚弟が光の玉に攻撃受けてる」

魔女「止めたらダメですよ」

姉「あんな楽しい光景、止めるワケないじゃん」

魔女「そ、そうですか」

男「いってぇぇ……じくじくくる……」

姉「チッ、一回だけか。つまんねぇの」

魔女「私、時々お姉さんが悪魔に見えます」

男「え、なに?これで終わり?この痛みで終わりなの?」

ワニスケ「シャー」

男「あ、元に戻ってる。じゃぁ、本当にこれで終わりか……」

757: >>1 2012/12/20(木) 00:55:16.79 ID:IQigyU4SO
姉「ういーっす、結局なんだったの?」

男「いや、おれにも良く分からん」

魔女「とうとう、契約結んじゃいましたね」

男「魔女」

魔女「はい、何でしょうか」

男「痛いことなら先に言え」ペシッ

魔女「あいたっ!」

男「あー、まだじくじくする」

魔女「理不尽です!普通、知ってるかと思うじゃないですか!」

男「やり方聞いてくる時点で察しろ」

魔女「うぅ、久しぶりなのに愛がないです……」

姉「何時も通りっていやぁ、何時も通りだけどな」

魔女「それはそうかもしれませんが……」

男「じゃぁ、ハグからの両頬にキッスでもしてやろうか?」

姉「きるゆー」

魔女「きるゆー」

男「分かってはいたが、傷つくなぁ」

姉「で、これからその眼のこととか話してくれんの?」

男「んにゃ、寝る。夕食には起こしてくれ」

姉「あいあい」

魔女「お姉さんが食材大量に買ってきているので、帰宅を祝って豪華な食事にしてあげますね」

男「へぇ、姉さんが」

魔女「仕込みも早くからさせて、何事かと思いましたが」

姉「げへへへ」

男「ん、まぁ、楽しみにしてる」

758: >>1 2012/12/20(木) 00:57:15.10 ID:IQigyU4SO
―――



男「ご馳走さま」

魔女「どうでしたか?」

男「久しぶりにマシなもん食って、生き返ったって感じだな」

姉「向こうでサバイバルでもしてきたのかよ」

男「違うが、まぁ、こいつが来た当初に驚き受けてばっかだったのが納得出来る暮らしだった」

姉「ふーん、少し興味あるね」

魔女「反論出来ないのが悔しいです」

男「だが、悪いとこじゃなかったな。旅行するだけなら面白い」

魔女「そう……ですかね?」

男「特に、お前のお母さんは大したもんだな」

魔女「男さん、洗脳でもされましたか?」

姉「マジで!よぅし、ここはお姉ちゃんが頭かち割って正気に戻してあげる」

男「されてねぇよ!」

魔女「じゃぁ、どうしてそんなことを?」

男「親として苦手なタイプってのは分かるが、上に立つに相応しい人だ」

男「おれじゃ相手になってなかったな。良いように弄ばれたよ」

姉「そのビー玉も熟女と  り合ってる時につけられたんだな」

魔女「お姉さん、例えが最低です。引きます」

男「高級なワインを一つ空けちまってね。その代金を体で払っただけさ」

魔女「男さん、例えが最低です。引きます」

男「まぁ、向こうで魔法使いに転職させられてきたんだよ」

姉「皮肉にも、か。分かっててやったんかね」

男「さぁね。楽しんでいたのは確かだが」

姉「そうだ、魔法使いになったってんなら、一つ魔法でも見せておくれよ」

男「魔法か……」

姉「気乗りしない?」

男「いや、少しな」

魔女「使えるんですか?」

男「一つだけ教えてもらった」

魔女「一つだけ、ですか」

姉「どうしたん?」

男「なんだ、自分を越えていなくて安堵でもしたか?」

魔女「どうしてそういった見方しか出来ないんですか」ペシッ

男「いてっ」

759: >>1 2012/12/20(木) 00:59:55.66 ID:IQigyU4SO
魔女「本当に……どうして無事で帰ってこれたのか……」

男「おれもそう思うよ。ちょっとお茶目しちゃってたからな」

姉「愚弟、先方に迷惑かけてきたのか。ダメなやっちゃのぉ」

男「詫びは入れる」

姉「山吹色のお菓子を持っていくんだぞ」

男「金色の最中もな。ところで、魔女、聞きたいことがあるんだが?」

魔女「えっ、なんです?言っておきますが、私、まだ美味しい和菓子とか知りませんよ」

男「ちげぇよ。菓子じゃねぇ。魔法だ、魔法」

魔女「あぁ、魔法の」

男「おれは何回魔法を使える」

魔女「魔法が使えなくなるのが怖いんですか?」

男「小心でね」

魔女「50は大丈夫ですから、安心してください」

男「50か。なら、練習がてらに見せても大丈夫だな」

姉「よっ、待ってました」

男「『隣人よ、我らは離れすぎた。距離を戻し、今一度我が隣に座れ。これは契約に基づく命令だ』」

男「『来い、ワニスケ』」

シュンッ

ワニスケ「シャー」

姉「おぉ、ワニスケが突然に。これが手妻なるものなるか」

魔女「男さん、ワニスケちゃんのこと、私も詳しく知らないんです。説明出来ますか?」

男「あぁ、聞いて驚け。こいつ、人工生命体だ」

ワニスケ「シャー」

男「んでもって、魔法使い殺しの最終兵器らしいですよ」

ワニスケ「シャー」

魔女「そうでしたか。魔力を食べたとき、そんな気はしていましたが」

男「姉さんはどうだ?」

姉「人工生命体で魔法使い殺しか……」

男「もっと言うと、肉体は魔力で出来ていて、不死性を持ってる」

姉「……不死持ち……」

男「悪いが、嘘でも冗談でもない」

姉「その肩書き、カッケーな!」

男「は?」

760: >>1 2012/12/20(木) 01:02:17.46 ID:IQigyU4SO
姉「何だよワニスケー!不死だとか人工だとかカッケーの持ちやがってー!このこのっ!」ツンツン

ワニスケ「シャー」

魔女「お姉さん、今けっこう衝撃の事実が明らかになったところだと思うんですけど……」

姉「私にとっては衝撃でもなんでもない。格好良いで片付けられる事実さ」

魔女「う、うーん、お姉さんらしいと言えばお姉さんらしいですね」

男「……なんつーか、器の違いだな。おれはショックだったんだけどな」

姉「何処にショックを受けるんだよ」

男「魔法使いが作ったで一つ。生き物じゃないってところで一つ」

姉「ちっさいねぇ。自分の愛と相手の愛が偽物じゃないなら、そんなことは些事だろうが」

男「そう思えないから小さいんだ」

姉「じゃぁ、そのちっこいのに聞こう。これからどうする?」

男「教会を黙らせたい。一々聖書を読み上げにくるのが、うるさくて適わないんだ」

姉「ふふん、共感できる意見だ」

魔女「教会を黙らせたいって……何をするつもりですか?」

男「理想は皆殺しだな」

魔女「なっ……!?」

男「ま、無理だろうから、組織の体制を壊せたら万歳だな」

魔女「そ、それでも無理ですって!教会の大きさ知らないでしょう!」

男「どのくらいだ?」

魔女「戦闘員だけで5000です」

姉「そりゃ、食いでがあるってもんじゃないな」

魔女「そうですよ!だから、倒そうなんてしないで大人しくしていてください」

男「じっとしてても向こうは来るんだよ。先に討たなきゃこっちがやられる」

魔女「安全の為にってことですよね」

男「一番の理由としてはな」

魔女「だったら、もっと平和な方法を取りましょうよ。逃げるとか、本家に庇護を求めるとか」

男「それは出来ない」

魔女「どうせ魔法使いは気に食わないっていう下らない意地でしょう」

姉「そりゃこいつだけだ。私は違う」

男「おれだって半分の半分さ」

魔女「じゃぁ、何だって言うんです?」

姉「私怨だよ、私怨」

男「おれと姉さんは散々な目に遭わされたからな」

魔女「あぁ……」

姉「私の恨みは極単純。いきなり戦場に叩き込まれたからだ。お陰さまで人殺しの罪を背負ったよ」

姉「きひひ、地獄行きを押し付けられたようなもんだ」

男「襲われて殺されかけた。友達は巻き添えで殺された。それがおれの恨み」

男「なぁ、復讐は下らないか?」

魔女「私に……私にその正否を決めることは出来ません」

魔女「でも、2人が命を落としにいくことは止めさせていただきます」

761: >>1 2012/12/20(木) 01:05:51.28 ID:IQigyU4SO
男「死ぬ死ぬ言ってるが、おれ達は別に死ぬ気はないぞ」

魔女「5000人と戦って勝てる見込みがありますか?」

姉「絨毯爆撃が出来れば簡単な話さ。問題はそのカードが手持ちにないことかな」

魔女「ふざけないで下さい!」

男「なら、真面目に聞こう。ワニスケなら出来るな」

魔女「……!それは……」

男「今一魔法の大事さが分からないから、ワニスケの強さも不死身ぐらいでしか評価出来ないが」

魔女「……」

魔女「……攻撃手段を持たない状態の人が竜と戦うと思ってください」

男「勝てるじゃん」

姉「改めて聞くと、お前チートだな」ペシペシ

ワニスケ「シャー」

魔女「でも!向こうもそれは分かっている筈です。戦おうとはしませんよ」

男「まぁ、おれもワニスケを安易に使いたくはない。こいつに人肉の味なんか覚えて欲しくないからな」

男「どうしようもなくなった時の助っ人って奴だ」

魔女「結局、教会に勝てる方法はないんですね。なら、意地の一つを曲げて欲しいのですが」

男「急くなよ。ちゃんと方法は考えてある。ただ、成功するって確証がない」

男「お前が情報をくれたらその確証を得られる。協力までしてくれたら、安全性もアップだ」

魔女「私が手伝うと思いますか?」

姉「ていっ」パコッ

魔女「いたっ!何するんですか!」

姉「今のを強くしたら魔女ちゃんは気絶する。避けれたと思う?」

魔女「……いいえ」

姉「力不足は一緒さ。ただ、魔女ちゃんが味方してくれたら、こっちはそれが解消される」

姉「どうだい?お一つ噛んでみないか?」

魔女「私の方に味方してくれても、解消されると思うんですけど」

姉「おぉ、返しが上手いね。でも、ダメだ」

魔女「私に味方することはないというこですか?」

姉「バッキャロー!これが普通の話なら、私は魔女ちゃんにしか味方しないよ!愚弟なんぞ知らん」

男「おい」

魔女「そ、そうですか。それはど、どうもです」

姉「ただ、こんな時はより安全なほうを取りたいのが乙女の純情ってやつさ」

魔女「逃げるのが、庇護を受けるのが、戦うことよりも不安に思うと」

男「あー、嫌味な言い方になるから控えてたが、確実性がないんだ」

魔女「確実性……ですか。私だって、別に直感で提案している訳ではありませんよ」

男「なら、言ってみろ」

魔女「探し人を見つける魔法はありません。逃げてしまえば、向こうはこちらを見失います」

魔女「庇護は言うまでもないでしょう」

男「うん、やっぱダメだ」

魔女「……理由、お話ししてくれますか」

762: >>1 2012/12/20(木) 01:10:40.76 ID:IQigyU4SO
男「人探しに魔法も科学もあるか。ただ地道な情報集めだ」

男「5000以上の人員に探し回られたら、かくれんぼのプロでもないおれ達に隠れられる場所なんてねーよ」

姉「海外に足付かずに飛ぶ方法なんて知らないしねぇ」

魔女「なら、庇護はどうダメだって言うんです?」

男「殺される」

魔女「はい?」

男「戻ったらおれが確実に殺される」

魔女「……えーと、な、何してきたんですか?」

男「お茶目したって言ったろ」

姉「具体的に言ってやりなよ。私もあんたの武勇伝に少し興味がある」

男「なら言うが、使用人いびり倒す。使用人を殴る。使用人のプライドを折る。使用人を泣かせる」

男「当主に罵声浴びせる。勝手に物を改造する。高級ワインを無断で空ける。壁を壊す」

魔女「……」

姉「ヒューッ、思っていた以上にダメ人間だったぜぇ」

男「流石に、これで庇護を求めるなんて厚かましいこと願い出した日には、確実に殺されるってワケ」

魔女「つまり、100%男さんが向こうで暴れ過ぎた為に庇護は受けれないんですね」

男「うん」

763: >>1 2012/12/20(木) 01:16:35.03 ID:IQigyU4SO
魔女「このっ……バカーーッ!!」

男「はい」

魔女「不利になると分かっていたでしょう!どうしてそんなことしたんですか!」

男「はい、すみません」

魔女「もう信じられません!いい加減、嫌いを我慢することも覚えてください!」

男「はい、仰るとおりです」

魔女「本当に……もうっ!」

姉「これで分かっただろう?私達には戦うしか道はないんだ」

魔女「えぇ!呆れるほどに分かりました!」

姉「協力してくれるね?」

魔女「しますよ!誰かさんのせいで、それしかないんですから!」

男「ごめんねー」

魔女「……お姉さん、協力する条件として、男さんを一発殴って良いですか?」

姉「構わん、やれ」

男「いやいやいや、ちょっと待てよ。なんで殴られないといけない」

魔女「反省している様子がないので、灸を添えます」

魔女「それに、イラッとしたので」ニコッ

男「いつの間にか良い笑顔するようになったな、お前」

魔女「家族の誰かに似たんでしょうね」

姉「ようし、魔女ちゃん、こいつを付けて一発かましたれ」スッ

魔女「ナックルダスターですか。有難うございます。大事に使いますね」

男「待て、それは真面目に痛いぞ」

魔女「痛くないと意味ないじゃないですか」

姉「愚弟、避けたらあたしが待ってるから」

男「……クソッ、さっさと来い!」

魔女「なら、遠慮なく……っ!」

ゴガッ

男「がふっ……!」

姉「うわぁー、結構面白い音したなぁ」

魔女「や、やりすぎましたかね……?」

男「だ、大丈夫だ……。めちゃくちゃ痛いけどな」

姉「まぁ、内出血で済むだろ」

魔女「良かったです。骨を折っていたらどうしようかと」

姉「君も良い人を脱却しきれないねぇ」

男「これで協力するには十分か?というか、十分だな。十分以外は認めない」

魔女「え、えぇ、十分ですけど……」

男「よし。なら、第一回、教会をぶっ潰そう作戦会議を始める。そんなに時間もない」

姉「うーい」

男「あー……、にしても痛い。鈍く痛む……」

魔女「あ、謝りませんからね」

777: >>1 2013/04/01(月) 14:32:30.69 ID:Ir6rv1ZSO
魔女「それで、作戦会議で何を話すんです?」

男「まぁ、まずはこれを読んでくれ」パサッ

魔女「いきなりですね。別に構いませんが」

姉「また、えらく古臭い紙だな。ん?これ、書いてあるのラテンか」

男「その通り。ラテン語の書物だ」

姉「魔女ちゃんそんなもの読めるの?」

魔女「読めますけど、これは……」

男「で、何が書いてあるんだ?」

魔女「…………教会のことです」

男「よし、当たりだったな」

姉「ズバリな書物じゃないか。良く持って来た。愚弟も役に立つじゃないか」

男「もっと褒めてもいいんだぜ?」

魔女「……どう手に入れたんですか?」

男「あぁ?んなもん、拝借してきただけさ。無断だけどな」

魔女「貰った、ではなくて?これは教会についての調書です。私の記憶では、他の文書と一緒にまとめて保管されていたはず」

魔女「ラテンの読めないあなたが、これだけを正確に盗めるなんて思えませんね」

男「日本語の案内があったからな。それと間違えるな。借りて来たんだ」

魔女「どうでもいいですよ。それより、案内だなんてものは私の居た頃にはありませんでしたよ」

男「新しく備えたんだろ」

魔女「そうですね。あなたの為に」

姉「はぁー、なるほど。魔女ちゃん、あんたのお母さんは頭の良い人だね」

魔女「今の話でそう思いますか」

姉「魔女ちゃんのお母さんはこのバカの性質を短期間でよく理解してる」

姉「今回のコレはバカに言わせれば、協力じゃないのさ。あからさまな誘いでもね」

男「バカは余計だ」

魔女「……はぁ、どうしようもない人ですね。それに凄く面倒くさい」

姉「全くだよなー」

男「自覚はしてるよ」

魔女「貴方が良いなら進めます。大変に腹の立つ思いではありますが」

男「すまんね。で、何が書いてある?具体的に教えてくれ」

魔女「教会の位置、周囲に張ってある魔法、構成員、判明している拠点の情報ですね」

男「充分過ぎるほどに貴重で使える情報だな。話してくれ」

魔女「うーん、図を描きながらの方が良さそうですね」ガラガラガラ

男「おい、その電子黒板どっから持ってきた」

姉「ん?なんかデジャヴュだな。心なしか進化してるような……」

778: >>1 2013/04/01(月) 14:35:02.03 ID:Ir6rv1ZSO
魔女「教会の位置は……うーん……男さん、地図と定規あります?」

男「ん?まぁ、あるが……。姉さん、そこの取ってくれ」

姉「これね。ホレ」

魔女「どうもです」

姉「しかし、地図は分かるが……定規?」

魔女「422.199.27.8.0と言われて分かりますか?」

男「何だそりゃ?」

魔女「魔法使いが使う位置情報のコードです。それを地図上に示すのに定規を使うんですよ」

男「こっちの地図を使って出せるんだな」

魔女「当然じゃないですか」

姉「へぇ、衛星データと肩並べられる測量技術があるんだ。侮れないね」

魔女「ありませんよ」

姉「ん?」

男「まさか、こっちの地図をそのまま使ってんのか?」

魔女「そりゃ、使いますよ。何か変なことでも?」

男「科学がお嫌いなんだろう?魔法使い様って奴は」

魔女「嫌ってはいますが、ある程度の科学性は受け入れています。でないと、生活出来ませんから」

男「んん……あー、そっか、そうだよなぁ。そりゃそうだ。御当主があんまりにも凄むんで、勘違いしてたよ」

魔女「お母様は随分と外聞を綺麗にして、貴方と会っていたみたいですね」

姉「えー、じゃーなんだよー、私が愚弟から聞いた魔法使いの生態も偽であるかもなのかー」

魔女「生態って……。どんな報告を受けていたんですか?」

姉「魔法を至上と考え、やたらめったら過去の栄光をペ ペ して喜んでいる集団だって」

魔女「……そんなに的外れなことを言っているわけでもないんですね」

男「情報は正確にだろうが。虚偽報告してもつまらん」

魔女「いえ、もっと酷く評価しているのかと。……はい、場所出せましたよ」

男「どれ」

姉「私も私も」

男「……」

姉「……つまらんな」

男「あぁ、面白みも何もない場所だな」

魔女「いや、そう言われても。狙ってそんな場所にあるんですから」

779: >>1 2013/04/01(月) 14:36:31.23 ID:Ir6rv1ZSO
男「一応、衛星写真で確認してみるか。姉さん」

姉「ほいほい」カタカタ

姉「あ、出た出た」

男「木しかないなー」

姉「画面が緑一色ぜよ」

男「ここに教会の建物がどう収まってんのか分かるか?」

魔女「はい。記しましょうか?」

男「ん、頼む」

魔女「ちょっとマウスを失礼します」

姉「あいあい」

魔女「倍率はこうで、位置はこう……」カチッ

魔女「じゃぁ、これをUSBに移してください。その間にボードの準備をしておきます」

姉「うーい」

男「……」

魔女「何ですか、その目は?何か言いたいことでも?」

男「いや、お前もすっかりこっちの住人だなと思って」

魔女「……?何でそんな当然のことを」

男「ははっ、当然だってよ、姉さん」

姉「嬉しいね。申し訳なくもあるが。ほら、パス」

魔女「わっとっと。もう!投げないで下さいよ」

姉「ごみんにー」

魔女「全く。では、説明始めますね」

男「うい」

姉「ぼい」

魔女「この地図だと教会はこうなります。四角なのは簡略化してるだけで、実際の形は少し違いますよ」カキカキ

男「普通より少しデカい城ってところだな」

姉「こんなとこに5000以上の魑魅魍魎が詰めれんのかい?」

魔女「普段は世界のあっちこっちの支部にちらばっています」

男「あっちこっちに居んのか。また一つ嫌な情報が増えた」

魔女「組織としては普通のことでしょう」

男「巣が多いと駆除しきれないと思ってな」

魔女「まだ、全滅させる夢を諦めていなかったんですか?良くないですよ、そういうの」

姉「しかしねぇ、魔女ちゃん、残党って凄い怖いんだぜ。恨み辛みを残さん為にも殲滅が最善よ」

魔女「でも、現実それは無理でしょう。どうするんです?」

男「さっきと変わらん。妥協するさ」

魔女「良かった。今さら押し通すなんて言われたら、どうしたものかと悩むところでした」

男「そういう無茶は姉さんの専門な」

姉「おいおい、私は猪女か」

780: >>1 2013/04/01(月) 14:38:55.62 ID:Ir6rv1ZSO
魔女「では、説明に戻りますね。横から見ると教会はこうなってます」カキカキ

男「地下はないのか?本家には素敵なもんがあったが」

魔女「あると思います。ワインの保管に必要ですし。ただ、ここには書いていないです」

姉「各部屋の間取りは?」

魔女「書いていませんね」

姉「そっかー」

魔女「では、次いで魔法ですが、1つは色を変える魔法。建物と周囲の道にかかっています」

姉「うわ、地味」

魔女「いや、地味と言われましても」

男「保護色か。成る程地味だが、効く手ではあるな」

姉「でも魔法っぽくなーい」

魔女「お姉さん、魔法に間違った期待寄せてるでしょ」

姉「他~、他は~?もっと魔法っぽいの」

魔女「えーと、なら、違う次元へ飛ぶ魔法というのはどうでしょう」

姉「おおー、何かよく分からんけど凄そう」

魔女「位相を変え、こちら側からの物理的及び魔術的干渉を受けなくなります」

姉「スゲー。割とマジで何言ってるか分からんけど、スゲーってことだけは分かるぜ」

魔女「範囲は建物全体が入る球状となってます」カキカキ

姉「しかし、そんなスゲー魔法があったら、攻城戦が挑めないな」

男「その心配はいらないぜ。コストがバカにならんから、頻繁には使えん魔法だ」

姉「マネー?」

男「マネーだ。ドル。ユーロ。円」

姉「うわぁ、一気に現実的に……。萎えるわ……」

魔女「良く知っていますね」

男「教わったんだよ」

魔女「……お母様も珍しいことを」

男「普段、教鞭は振るいにならないのか」

魔女「違います。この話が、魔法使いにとって恥ずかしい類の話だということです」

姉「うん、分かるー。MPがマネーポイントなんてクソゲーにも程があるもんねー」

魔女「別にそこを恥じている訳ではないんですが……」

魔女「まぁ、掘り下げても仕方の無い話題ですし、次行きましょうか」

姉「次って言ってももう、期待できにゃーよ」

781: >>1 2013/04/01(月) 14:40:54.92 ID:Ir6rv1ZSO
魔女「そんなことないですよ。次は低コストで効果抜群。防衛の要になっている凄い魔法です」

姉「へー」

魔女「目に見えてやる気が落ちていますね」

男「姉さんには構わず、説明を続けてくれ」

魔女「あぁ、はい。えぇと、この魔法は簡単に言えば獣除けです」

男「ん?」

魔女「ドーナツ型で、かなり広範囲に展開されています」カキカキ

男「なぁ」

魔女「はい、なんでしょう」

男「絶賛の割に獣除けってショボくないか?」

魔女「あー、字面だけならそうですね。でも、動物全般に効果のある魔法なんです」

男「人もか」

魔女「はい」

姉「そりゃ凄い!」

魔女「復活したみたいですね」

姉「魔女ちゃん!その魔法っぽい魔法について詳しく!」

魔女「詳しくと言われても、獣を寄せ付けにくくするで済ませられますし」

男「絶対じゃないのか」

魔女「絶対に奥地に行けない森だなんて、オカルト好きの良い的じゃないですか」

男「ごもっとも」

姉「でも、それはそれで安心じゃない?」

魔女「ラジコンでも飛ばされたらそれで終わりですよ。機械を不調にする魔法はありませんしね」

姉「何か、魔法の世界って悲しいねぇ。木枯らし吹いてる感があるよ」

魔女「現時点で完璧な獣除けの魔法は出来ないという事情もあるんですけどね」

男「最善を尽くしたら、たまたま上手く情勢と合ったってだけか」

魔女「そうですね。偶然です」

姉「で、魔女ちゃん。次の魔法は?」

魔女「終わりです」

姉「えっ」

男「えっ」

魔女「終わりです」

姉「少ない」

男「ショボい」

782: >>1 2013/04/01(月) 14:42:39.32 ID:Ir6rv1ZSO
魔女「正確には、私たちに関係のある魔法はこれだけということです」

男「残りは魔法使い用ってか」

魔女「それがメインです。元より普通の人は滅多に入り込まない辺鄙な土地ですからね」

魔女「そうしっかりと対策しても仕方ないんです」

姉「なるほどなー」

魔女「魔法以外にも幾つかありますが、GPSが有れば無視できる物です」

魔女「さて、お次は構成員についてでしたか」

男「それパスな」

魔女「なら、拠点を」

男「それもパス」

魔女「えぇー」

男「世界に散らばってるって分かったからな。さっきも言ったが、そこは諦める。だから情報もいらん」

姉「世界一周の旅をしながらお手軽に殲滅出来るコースが100万円!」

姉「なんてプランがあれば是非にとやるんだけど……あったりする?」

魔女「知りません。旅行会社の人に聞いてください」

姉「あーん、冷たい」

魔女「なら、これで私が説明するべきことは全部ですね」

男「まだある」

魔女「なんです?この調書にはもう何も書いていませんよ」

男「転移魔法ってあるだろ。あれ、何処でも好きなとこに行けるのか」

魔女「行けません。転移可能な場所というのは限られているんです」

姉「魔法の力を持ってしても、どこでもドアは実現出来ないのか……」

魔女「それ、もろに科学の品じゃないですか……」

男「ここらに何処か転移可能だって所あったりする?」

魔女「行きだけなら一ヶ所ほど。こちらに来る側はありませんね」

魔女「そうでなきゃ、私、歩いてこの家探したりしませんでしたよ」

男「確かに」

姉「あの 倒錯教育者のとこあるじゃん」

魔女「あの場所は近所って呼べる距離じゃないでしょう」

男「少なくとも、いきなり現れて刺されるってのは無いわけか」

姉「なんだ愚弟、一回不意討ち食らっただけでトラウマか」

男「あのな、姉さん。あれ結構洒落にならん。凄く怖い。夜道とか泣きそうになる」

魔女「きちんと注意して、人気のない場所には行かないようにすれば大丈夫ですよ」

姉「え、なにその小学生に対する下校時の注意みたいなの」

魔女「教会の使者に襲われたくないならそうしましょうということですよ」

男「まるっきり不審者に対するそれなんだが」

魔女「不審者ですよ。騒ぎを起こしたくなくてこそこそしてる不審者です」

男「そんなもんか」

魔女「後はワニスケちゃんにボディーガードを頼んだら、絶対に寄ってきませんよ」

姉「うん、それ普通の人でも寄ってこないから」

男「ま、考えとく」

783: >>1 2013/04/01(月) 14:43:47.27 ID:Ir6rv1ZSO
魔女「もう質問は有りませんね」

男「今のところ」

魔女「なら、次はお二人が説明する番です」

男「説明ってなんかあったっけ?」

姉「さぁ?」

魔女「無策ではないとおっしゃいましたね。その策の説明を」

男「あぁ、それね。爆破解体しようぜってだけだ」

魔女「爆破……えっ!?」

姉「ん?爆破解体知らない?爆弾で建物壊すんだけど」

魔女「知ってますよ。ただ、その……、随分と思い切った作戦だったので少し」

男「シンプルで良い作戦だろ?」

魔女「正面玄関の呼び鈴を鳴らすよりはずっと素敵ですが、目立ち過ぎではないでしょうか」

魔女「人が来ますよ。お札で叩いて黙らせるにも限界があるでしょう」

姉「フフーン、そこはノープロ。誰も爆発音は聞かないし、爆煙も見ない。そういうことになってる」

魔女「消音性の高い爆弾なんてありましたっけ?」

男「無い。だから魔法に頼る。爆発音も何も全部異次元へ運んでくれるんだろう?」

魔女「あぁ、成る程」

男「戻ってきた際の土煙は水と布で抑える。これで外部にバレることはない」

魔女「徹底してますね。やっぱり、お二人でも捕まることは怖いんですね」

姉「いや別に」

魔女「え?」

姉「むしろ、相手が誰だろうと殺生してるんだし、捕まって償い受けるのが良いだろうさ」

魔女「では、どうして?」

姉「愛とだけ言っておこうか」

魔女「……男さん」

男「教えないぞ。気恥ずかしいからな」

魔女「えぇー」

男「別に支障のあるわけでもあるまい」

魔女「無いですけど……」

男「なら良いだろう。この話は終わりだ。分かったな」

784: >>1 2013/04/01(月) 14:44:41.83 ID:Ir6rv1ZSO
魔女「分かりましたよ、まったく。では、別のことを」

男「なんだ」

魔女「爆弾と言いますが、簡単に手に入るものですか?」

姉「よくぞ聞いてくれた。これがさ、大変なのよ」

姉「少量なら個人でも手に入れられるけどさ、今回は大量にいるんだよねー」

姉「普通に爆破解体する量より桁一つ二つ多い量がさ。設置出来ないから仕方ないけど」

姉「でもね、流石にそんな量の爆弾の材料買うと、お国に目を付けられちゃうの」

姉「だから、父さんの会社のお友達の会社に書類上は使用済みにした物を作ってもらってる」

姉「これと個人で買える範囲の量でかき集めて、現時点で目標値の20%ぐらいかなぁ」

姉「いやー、時間と金が面白いように消えていくよ」

魔女「お、お姉さん、語りますね」

男「交渉を全部やってもらったからな。相当ストレスあったんだろ」

姉「あったよ!社長さんは私が無理お願いした辺りから胃薬買い始めたらしくて申し訳ないし、二親にも……」

姉「おぉ、そうだ。愚弟に朗報があったんだ」

男「今の流れで朗報だとよく言えるな。絶対に凶報だろ」

姉「もうお小遣い無しだそうだ」

男「ほら見ろ。最悪の話じゃねーか」

魔女「いや、それだけで済んでいることに感謝しましょうよ」

姉「ちなみに、魔女ちゃんは対象外です」

男「資本主義の豚め。肥え太って破裂してしまえ」

魔女「お小遣いの有無だけで酷い言われようです。しかも私何も悪くない」

男「妬みはさておき」

魔女「あ、冗談ではないんですね」

男「姉さん、後どれぐらいかかる」

姉「急ぎに急いで4ヶ月。慎重に行くなら冬までかかるかな」

男「そんなもんか。さて、魔女はこれからどうする?」

魔女「えっ、何をです?」

男「おれはワニスケ連れて放浪の旅に出る予定」

姉「私は何時も通りかな。単位落とせないし」

魔女「えぇと……つまり、準備が終わるまでどう過ごすかと言うことですか?」

男「そうそう。実家に帰っても良いんだぞ。片目ってのも不便だろ」

魔女「……いえ、まだ本家には戻りません。私も何時も通りにさせて頂きます」

男「お前がそれで良いなら良いが」

姉「大体決まったね。んじゃ、これにて会議終了。お疲れっしたー」

男「っしたー。会議って言ったけど、普通のお喋りだった気もするな」

魔女「お疲れ様でした。あぁ、結局ボードをあまり使ってないまま終わってしまいました」

795: >>1 2013/06/06(木) 16:36:12.13 ID:pIqykOxSO
―――五ヶ月後 教会領前



姉「話ではここら辺に住んでるらしいんだけど」

魔女「家らしきものは見当たりませんね」

姉「葉っぱでも敷いて寝泊まりしてんのかなぁ」

魔女「それか木の上ですかね」

姉「アハハハ、あり得る。上にも注意して探そう」

男「下だ、この馬鹿ども」

姉「おぉ、愚弟。そこに居たか。おひさ」

魔女「どうもお久しぶりです」

男「ん、そうだな」

姉「うーん、何ていうか、変わってないな」

男「そんなに簡単に変わってたまるか」

姉「いやさ、ずっと山籠りだろ?」

男「そうだが?」

姉「もっと野人みたいになってっかとワクワクしてたんだけどなぁ」

魔女「言われてみれば、随分と小綺麗ですよね。本当にずっとここに?」

男「ま、とりあえず家に来てくれ。そしたら分かる」

796: >>1 2013/06/06(木) 16:38:34.03 ID:pIqykOxSO
―――地下室



姉「何というか、普通の部屋だな。これが山の中にあるってのは異常だが」

魔女「どうやってこんな部屋を。それも地下に……」

男「別に。プレハブ一つを丸ごと地面に埋めただけだ。あぁ、天井は少し弄ったが」

魔女「それはまた、金をかけましたね」

男「悠長に秘密基地作ってる時間も惜しかったからな」

姉「そう言う割りにはゲーム機の姿が見えますなぁ」

男「2週間は確かに激動だったんだが、それ以降は勝手も分かって暇になっちゃったんだよ」

姉「なるほどな。んで、爆薬は何処に」

男「窓の奥だ」

魔女「あ、ここ横穴が掘ってあるんですね」

男「中々の重労働だった」

魔女「見てきても?」

男「好きにしろよ」

姉「なんだ、部屋には置いてないのか」

男「爆発物に囲まれて寝る度胸はねぇな」

姉「スリルのある生活って素敵だと思うの」

男「そこまで人生に飽いてるわけじゃねぇんだが」

魔女「あのー」

男「ん、なんだ?」

魔女「奥にあるのが紅白の粉だけなんですが、もしかしてあれが火薬ですか?」

男「そうだが」

魔女「黒い火薬は今は使われていないんですか?」

姉「黒色火薬?もうお呼びじゃないなぁ」

魔女「そうなんですか。うーん、魔法使いの情報って本当に古い」

男「だからこそ、この作戦が成功するんだがな」

姉「いやぁ、実質彼らのプライドに助けられてるねぇ、私たち」

男「情けないよなぁ。どっちもこっちも」

姉「全くだ」

797: >>1 2013/06/06(木) 16:40:48.74 ID:pIqykOxSO
魔女「あれ?そういえば、ワニスケちゃんは?」

男「外」

魔女「外?」

男「こんな息苦しい場所で生活させるのは可哀想なんで、近くの川に住まわせてる」

姉「不便させてねぇだろうな?」

男「自然を満喫出来て、毎日が楽しそうだ」

魔女「でも、ご飯は普段と変わらないんですね。あそこに山積みになっているの、ワニスケちゃんのですよね」

男「変なもの食わせられないからな」

姉「うむ」

魔女「寝床までこちらに作っているみたいですし」

男「睡眠は健康の基礎。疎かにさせるなんて出来ん」

姉「うむうむ」

魔女「お二人ってたまにバカですよね。親バカです」

男「それ、お前の母親にも言われたわ。そんなにかなぁ」

姉「ほら、私たちは愛したらたっぷり甘やかすタイプだから」

魔女「ワニスケちゃん限定で?」

姉「何言ってるのー。魔女ちゃんにも愛をあげてるじゃない」

魔女「あははは」

男「乾いた笑いだな」

魔女「私の勘定違いで無ければ、鞭を振るわれた思い出も一つではないんですが」

姉「えー、信じてよー。今だって魔女ちゃんの為にこんなに頑張ってるのにー」

魔女「……そういえば、そんな話でしたね。時間も経ちましたし、教えてくれても良いんじゃないですか?」

男「えー」

魔女「それとも、まだ恥ずかしいですか?」

男「あー、うん、恥ずかしい……が、分かった。教えるよ」

姉「良いのか、ヘタレ」

男「こいつだって安心したいだろうと、穴蔵生活を送る中で結論に達した」

魔女「穴蔵生活ではないですけど」

姉「ま、違うわな。プレハブ小屋だし」


798: >>1 2013/06/06(木) 16:43:06.31 ID:pIqykOxSO
男「いいか、笑うなよ。怒るなよ」

魔女「聞いてから考えます」

男「あー、その……」

男「……い、一緒に暮らしたいからだ。これからも。家族として」

魔女「はい?」

男「そういうことだ」

姉「よし、お姉ちゃんが詳しく説明しよう」

魔女「はぁ、宜しくお願いします」

姉「魔女ちゃんに魔の手が忍ばないようにする為だ。以上」

魔女「詳しく、お願いします」

姉「やれやれ。ちょいと長いよ」

魔女「持して聞きます」

姉「普通にドカンとやったら、いくら辺境でも人が集まる。それは分かるね?」

魔女「はい」

姉「んで、それで魔法の存在は知られることになる。国には間違いなく。消防か警察は来るだろうし」

姉「知った奴がどうするかは、まぁ、私達が推測出来る範囲ではになるけど、宜しくないな」

魔女「それは、どういったふうに?」

姉「魔法を危険と見なしたら、もう一度魔女狩りだろうさ」

魔女「えーと……魔法が科学の神話を壊してしまうからですか?」

男「なんだ、分かるのか」

魔女「えぇ、まぁ。同じようなお話は散々と勉強させられてきましたから」

男「ふーん、魔法使いも流石にそこらは熱心か」

姉「うん、まー、そーいうこった。科学の神話が崩れる影響は良くは働かないってのは、アホでも分かることで」

姉「次に、友好的な話。魔法は使えそうだ。魔法使いたちと交友しようって考えた場合」

魔女「それで、問題が起こるんですか?」

姉「起こる。さっきの通り、魔法は一般には出来ない。交友もきっと、魔法使いがテリトリーから出ないことが条件になる」

姉「既にこっちに出ている魔法使いは首根っこ捕まれて戻されるワケだ」

魔女「成る程」

姉「魔法が使えるけど、書物が読めるし、何するか分からない生物は邪魔なだけだと思った場合」

姉「ま、これは詳しく言わなくても察せるでしょ?」

魔女「えぇ」

姉「一番良いのは魔法を嫌っての無視だけど、有り得ないわな。科学の世界にちょっかいかけてるのも分かるだろうし」

魔女「そうなったら、やっぱり……」

姉「そりゃ、皆殺しでしょ」

魔女「ですよねー……」

姉「どう行動するに依らず、こっちに出ている魔法使いを捕まえて根城を吐かせるってのが、まず起こるだろうけどね」

姉「有難いことに魔法使いは見事な特徴がある。オッドアイで義眼。探すのに苦労しなくて良いな」

魔女「私はどうしたって詰みですか」

姉「そうだね。他の道もあるかもだけど、皆仲良くな未来は、正直見えないなぁ」

799: >>1 2013/06/06(木) 16:45:37.87 ID:pIqykOxSO
魔女「話してくれてありがとうございます。……本当に、私の為にこんな面倒臭くて危険なことをしてるんですね」

男「そう言ってるだろうが」

魔女「やっぱり、バカですよ。捨て置けば良いのに。そうすればお二人はもっと安全……ふふっ」

男「なんだよ」

魔女「いえっ、その、ふふっ。怒らなきゃとは思うんですけど、えへへっ」

魔女「大切に思われているんだって分かったら、嬉しくて、つい。あはは」

男「くそっ、だから言いたく無かったんだ」

魔女「私は良かったですよ。ちゃぁんと、お二人の愛が知れて」

男「……チッ」

魔女「私もお二人を、家族を愛しています」

姉「死亡フラグっぽいこと言うの禁止!」

魔女「えぇっ!?」

男「そうだそうだ」

姉「ヘタレは黙ってろ」

男「はい、黙ります」

魔女「私もそれなりには勇気を出して言ったのに……」

姉「さぁ、話は終わりだ。急いで内職をしよう!間に合わなくなるぞ」

魔女「内職?」

男「この小さい袋に爆薬と雷管と信管を詰める内職。賃金は出ない」

魔女「あ、あの量を?何日でやるつもりですか?」

姉「三日かな」

魔女「みっ……!?」

男「徹夜と休みなしのコンボにならなかっただけでも喜べよ」

魔女「そんなことになったら、不注意で吹き飛びますよ!」

姉「いやぁ、先方の都合が取れた日が5日後でねぇ。こんな急ピッチに」

魔女「はぁ、付き合いますけども……」

姉「さすが」

魔女「ここにきて、無茶がまた積まれて行くなんて……」

男「乗り切るしかないさ」

姉「張り切っていこー」



800: >>1 2013/06/06(木) 16:49:26.11 ID:pIqykOxSO
―――5日後



男「マイクのスイッチを入れてくれ」カチッ

魔女「はい」カチッ

男『あー、あー……。どうだ、感度は良好か?』

姉『私は問題ない』

魔女『私もです』

男『うし、じゃぁ最後の作戦確認を行う』

姉『うーい』

男『目標は教会本部の爆破。ただし、その前後において誰かにバレてはいけない。バレた時点で作戦は失敗だ』

男『まず、射出器を教会正面と背面に設置する。ワニスケが既に結界を破ってくれているルートがある』

男『おれは正面への道を、姉さんは背面への道を』

姉『ういうい』

男『魔女は爆薬を交互に持ってきてくれ』

魔女『はい』

男『使い魔は多くが食われたか、出払っているはずだし、暗色の迷彩柄にフェイスペイントもしている』

男『見付かりにくいとは思うが、数回往復する必要がある為、危険度が増している』

男『転位発動は20時37分15~30秒と予測されている。少なくともその5分前には設置を完了しておきたい』

男『よって、この作業は慎重かつ速やかにというバカみたいな難しさを要求される。まぁ、祈ろう』

姉『そうだねぇ。祈るしかない。ドジ補正の入らないことにね』

男『以降も別行動となるため、異変が起きた場合はマイクを通して伝えること』

魔女『はい』

男『下らない内容で使うなよ、姉さん』

姉『しないさ。緊張をほぐす小粋なジョークを入れるだけ』

男『するなよ』

魔女『しないで下さいね』

姉『へいへーい。つまらん奴らだ』

男『設置完了後は各自決められた持ち場にて、転位開始まで待機』

男『発射タイミングは、魔女、お前に任せる』

魔女『はい』

姉『魔力の動きなんぞ素人には感じ取れないしね』

男『理想は転位する一秒前だが、多少早いくらいに押して構わない。だから、抜かるなよ』

魔女『大丈夫ですよ、そう心配しなくても』

男『そうは言うが』

姉『なになに、やっぱり私のジョークが炸裂すんの?』

魔女『いりません』

男『いらん』

姉『そんなにバッサリいかなくても』

魔女『適度な緊張があった方が良いんですよ』

姉『ふぅむ、分からんでもない』

801: >>1 2013/06/06(木) 16:50:01.31 ID:pIqykOxSO
男『爆弾はこちらからの信号が途切れた時に爆発するようになっている。スイッチは転位するまで押し続けるように』

魔女『はい』

姉『ボタン押すのは発射した後で良いからね。発射の衝撃で幾つかはいかれるかもしれんし』

魔女『ただし、時間が無ければ同時でも良い、でしたね。分かっています』

男『無事に爆弾抱えて転位してくれた後には、大急ぎでシーツを張って湿らせないといけない』

男『とにかく大急ぎでな。ここが一番忙しい。なんせ、42秒だ』

姉『もうちょっと時間取ってくれよ』

男『民間衛星に行ってくれ』

魔女『ラジコンでの作業だから大丈夫だとは思いますが、中央には近づかないようにしてくださいね』

魔女『戻ってきた瓦礫に押しつぶされちゃいますよ』

姉『そんな間抜けな死に方は嫌だなぁ』

男『そうしてこうして万事上手くいったら、祝杯をあげて作戦は終了。帰るまでが作戦だよー、ってな』

魔女『安全に帰れてこそ、ですからね』

男『分かってる』

姉『分かってるとも』

男『……ふー』

男『暗視ゴーグルを付けろ。始めるぞ』

姉『了ー解』

魔女『了解』


802: >>1 2013/06/06(木) 16:51:49.65 ID:pIqykOxSO
―――



男『……あと、5分だ』

姉『ここまでは』

男『順調だな』

魔女『このまま何も起きないと良いですね』

姉『なに?死にたいの?』

魔女『え?』

姉『そういう願いは高確率で壊される。言葉にすれば尚更』

魔女『それ、迷信じゃぁないですか。実際にはあり得ないですよ』

男『この場合に於いてはそうでもない』

魔女『どうしてです?』

男『少なくとも、こうやって話してると見付かるリスクが上がる』

姉『叫ばない限り大丈夫さ。ほら、始まった』

ヒュルルル-

パァーン

男『……あの花火は保険で、話し声を隠すためじゃない』

姉『隠せるんだから、使ってもいいだろう』

男『喋らないと死ぬ病でもあるまい』

姉『用意してやったのも、先方に頭下げたのも私だぞ』

男『それを盾にするのは卑怯だよ、姉さん』

ヒュルルル-

パァーン

魔女『……あの花火はどうやって?お祭ではないですよね』

姉『金持ちがキャンプしてて、その余興ってことになってる』

魔女『そのお金持ちは……』

姉『私の友人。土下座して頼み込みました』

男『……』

ヒュルルルルル

姉『あ、大玉』

ドォーン ドドーン

魔女『こんな状況で言うのも何ですけど……綺麗ですね』

姉『ついでに大玉は二発ね。職人さんに私が頭下げて、どうにかそれだけ用意してもらった』

男『私私と恩着せがましい』

姉『ここぞここぞという時にダメージを与えるのが私の流儀だ』

男『弟に与えてどうする』

姉『楽しむ』

男『相変わらず酷い姉だ』

803: >>1 2013/06/06(木) 16:52:59.07 ID:pIqykOxSO

ヒュルルル

パパーン

男『……2分30。半分を切った』

姉『半分か。ふふっ、さすがにワクワクしてくるね』

魔女『お姉さんだけですよ。普通はドキドキでしょう』

姉『高揚感が湧いてこない?ほら、こう、今から凄いことするんだって感じで』

魔女『お姉さんはとにかく燃えているタイプなんですね』

男『小胆な奴は胃の腑を冷やしてるんですよー』

姉『ま、どっちが良いとは言えんさ。作戦をこなせる奴が優秀。それだけよ』

魔女『失敗したら?』

姉『次頑張りましょう』

男『次を許して貰えたら、だけどな』

姉『ママにか』

男『取引先のママンにもいる』

姉『それを言ったら、友達のマミーも必要になってくるじゃないか』

魔女『その話、さっきと繋がってます?』

姉『繋がってる』

魔女『そうですか。私にはよく分かりませんね』

ヒューン

パーン

男『……』

姉『……』

魔女『……』

…………、

…………、

…………。

魔女『……来ます』

804: >>1 2013/06/06(木) 16:56:56.96 ID:pIqykOxSO
姉『了解』

男『カウント』

魔女『……30』

29、28、27、26、25、24、23……、

姉『……』

15、14、13、12、11、10、9……、

男『……』

魔女『5、4、3、2、1……』

魔女『発射します』カチッ

ヒュンヒュン ヒュン

トサ ドサッ バスッ


キィィィィン

魔女『教会本部、転位します』

ピシュン

魔女『……』

ヒュルルル

男『……』

ドドーン ドォーン

魔女『……成功、ですよね……』

男『あ、あぁ……。呆気のない……』

姉『おい、惚けてんなよ。ヘリを飛ばせ。布を張るぞ』

男『おっと、そうだった。魔女、ボタンは押したままな。見たところ、幾つか漏れてる袋がある』

魔女『あ、はい』

姉『あぁ、くそっ、時間がない。爆弾回収は何時になるやら』

男『一仕事終えてからになるな。どうしても。危ないことこの上ないが』

魔女『多少の衝撃では爆発しない爆薬でしたよね』

男『爆薬はな。信管が壊れる可能性はある』

魔女『……祈りましょう、本当に』

805: >>1 2013/06/06(木) 16:57:38.68 ID:pIqykOxSO

キィィィィン

魔女『戻ってきます!』

ピシュン

ガシャーン!ガラガラガラ……

男『ははっ、こりゃ良い。見ろよ、見事に吹き飛んでる』

姉『ちゃちゃっと放水するぞー』

男『あいあい』

バシャァ

男『よし、布を被せる。これで土煙は大分抑えられたろ』

姉『放水けいぞーく。しっかし、あれだな。こんなんで終わりかー』

魔女『何というか、凄くズルをしたような感じになりますね。楽というか』

姉『骨が無いよ、骨が。結果に見合った苦労をしてない気がする』

男『準備にいくら労と金と時間をかけたと思ってんだ。全ては被害少なく勝つためだ』

男『それに』

魔女『それに?』

男『そう頻繁にピンチになって怪我してられるか。痛いのは嫌いだし、皆に余計な心配させるのも嫌だ』

姉『あっはっはっ、そりゃそうだ。私かてこれ以上髪を短くするはめになったら泣く』

魔女『ふふっ、そうですね。私も痛いのは嫌です。皆さんが傷つくのを見るのも』

男『正々堂々ではないかもしれんが、勝利者に嬉しい結果こそが正義だ』

姉『骨無しチキン的勝利こそ正義か。うん、確かに食べやすいのは正義だな。旨いのも正義だが』

男『それは調理次第だな。』

姉『なら、そろそろ仕上げに移りますか』

魔女『何をするんです?』

姉『いや、爆弾の解除、回収とか、色々残業を』

魔女『あぁ、成る程。お気をつけて。私はしっかりボタンを押していますので』

男『教会に背を向けとくことをお勧めする』

魔女『それはまた、どうしてです?』

男『今からする主なことは、生き残りの殺害だからな。精神衛生上良くない』

魔女『それはっ……』

男『爆弾が爆発した。建物が崩れた。それだけじゃぁ、死なない悪運の強い奴って居るもんだ』

姉『災いの種を見逃す理由も無し。仕事はきっちりやらんとね』

姉『残酷だって止めるかい?』

魔女『いいえ、止めません。どうか、どうかお気をつけて』

キィィィィン

魔女『……!?誰か転移で飛んできます!』

男『なにっ!?』

シュン


812: >>1 2013/06/24(月) 23:36:45.77 ID:KrH3IVmSO
「子どもは子どもらしく」

当主「もっと明るく生きなさい」

男『なっ……』

魔女『お、お母様っ!?』

当主「えぇ、久しぶりね」

ズザァ

当主「……なに?獣?」

姉『……』

当主「あら」

姉『……敵じゃぁ、ないのか。先手必勝と思ったが』

当主「貴女は……あの子が言っていた優しいお姉さんかしら」

姉『えぇ……っと。もう必要ないか』カチッ

姉「どうも奥さん、魔女ちゃんと不本意ながらそこの野郎の姉をさせて貰っている者です」

当主「これはご丁寧に。私の娘が大変お世話になっているようで、感謝しているわ」

姉「いえ、私の方も愚弟が随分とお世話になったようで」

当主「ふふっ、あんなに手のかかる子を見たのは初めてだったわ。お姉さんも随分と苦労されているのではなくて?」

姉「ははは、いやぁ、アレはアレで可愛いもんですよ」

当主「良いお姉さんね」

姉「あー、そうそう、先程は殺そうとして済みませんでした」

当主「気にしていないわ。元気のあって良いことじゃない」

姉「元気だけは有り余っていますからね」

男『姉さん!』

姉「おぅ、来たか」

男『勝手に通信を切るな』

姉「電話をしながら魔女ちゃんのお母さんと話せと?そんな失礼が出来るか」

男『せめてそうだと言ってから切ってくれ。色々不安になる』

当主「ふふっ、本当に姉弟仲が良いのね」

男『……』カチッ

813: >>1 2013/06/24(月) 23:40:30.42 ID:KrH3IVmSO
男「……御当主」

当主「なにかしら」

男「なぜ此処に」

当主「貴方達が結界を壊してくれたお陰で、転移が出来るようになったから」

男「その説明では不満です」

当主「なら……そうね、貴方達が子どもらしくないことをしそうだったから、大人として代わりに来た」

男「御当主!」

姉「まぁまぁ。良いじゃないか、そういうことで。しっかり大人の好意に甘えようず」

男「しかしなぁ。分からんのは気味の悪い」

姉「好意なんだから、これは貸しにはならんのだぞ。ね、そうですよね、奥さん」

当主「見返りを求めたら、それこそ大人気ないじゃない」

男「……分かった、甘えましょう。嬉々としてやりたいことでもない」

男「ただし、本当に恩とは思いませんからね」

当主「えぇ。しっかり甘えて頂戴」

男「なんかなぁ……」

当主「さ、許可は取ったわ。瓦礫を掘り起こしてきなさい」

キィィィィン
シュン

従者「はっ」タッ

姉「……兵を近くに忍ばせているので?」

当主「1人でこんな場所まで散歩というのも笑い話でしょ?」

姉「私なら、貴女は随分と健康的な趣味をお持ちだと言いますかね」

当主「ふふっ、貴方も結構ユニークな人ね。弟さんと違って攻撃性はないけれど」

姉「愚弟、お前、割とマジで何をしてきたんだ」

男「うるせー」

814: >>1 2013/06/24(月) 23:41:42.06 ID:KrH3IVmSO
当主「さて、そろそろ隠れるのを止めて、挨拶ぐらいには来て欲しいのだけど」

魔女『ゔっ……』

男「お前、居ないと思ったら」

魔女『……』テクテク

魔女『……』

当主「……」

魔女『……えぇと、そのっ』

当主「外しなさい」

魔女『えっ?』

当主「そのマイクを外しなさい。礼儀がなっていないわ」

魔女『……!』カチッ

魔女「す、すみません……」

当主「気を付けることね」

魔女「……はい」

当主「……」

魔女「……」

当主「はぁ……うなだれているだけなの?」

魔女「あっ、え、えと……お、お久しぶりです、お母……様?」

当主「……」

魔女「えぇと、その……」

当主「久しぶりね。連絡も急に寄越さなくなるし。その所為で対象を招くことになったわ」

魔女「す、すみません……。魔力切れを起こして……それで」

当主「ふぅん」グイッ

魔女「うわっ!」

当主「確かに、随分と使いきっているようね。でも全部じゃない。後一回は連絡を寄越せるわ」

当主「なのに、どうしてしなかったのか」

魔女「そ、それは……」

当主「あなた、完全に見えなくなることを恐れたのね。それで職務放棄」

魔女「っ……」

当主「本当に、とことん使えない娘」

姉「まーまーまー、良いじゃないですか。誰だって失明は怖い」

当主「家族の話に割って入る無礼は弁えていると思ったのだけど、勘違いだったかしら」

姉「今は私たちの家族でもあることをお忘れじゃぁないですか?家族をバカにするなら、殺しますよ」

魔女「お姉さん……」

815: >>1 2013/06/24(月) 23:44:26.41 ID:KrH3IVmSO
当主「失礼。そうだったわね。久しぶりの再会で熱が入ってしまったわ」

男「御当主、気持ちは分からないでもありませんが、もう少し愛を持たれても良いのでは?」

当主「それで組織が健全に機能するのなら」

男「しませんか」

当主「しないわね」

姉「一つお聞きしたい。組織にこの子は必要な人材で?」

当主「特別ではないわ」

魔女「……」

姉「ならば、これからも家族の元に置いておくとして、問題有りませんね」

当主「えぇ。あなたもそれを望んでいるのでしょう?」

魔女「あっ、は、はいっ!」

当主「そこまではっきり言われると、少し惜しくなってくるわね」

男「どっちにしろ、今日の所はそちらにお預けすることになりますがね」

魔女「え゙っ……。な、何でです?」

男「お前、その目で実生活送る気か。とっとと治してこい」

魔女「か、片目でも何とか出来てましたし」

姉「これ以上、皿が割れるのも床にジュース零されるのも嫌だなぁ」

魔女「うっ」

姉「それにさ、やっぱり眼帯外した魔女ちゃんの笑顔が見たいよ」

魔女「……はい」

姉「ねっ、だからさ、治して来なよ」

魔女「はい……。分かりました。余り駄々をこねても困らせるばかりですもんね」

男「久しぶりの実家だ。ついでにゆっくりしてくと良い。具体的には2、3ヶ月ほど」

魔女「……まだ、何か考えてますね」

当主「ゆっくりする必要はない。ゆっくりさせる必要もないし」

当主「そうね、3日程度で帰せると思うわ」

男「……御当主、ふざけているのですか。貴女の口からそんな甘い言葉が出るとは」

当主「3日で良いから3日と言ったのよ。何がどう甘いのかしら」

男「分かるでしょう」

当主「分からないわ。もう居ない教会の残党なんか気にする必要があるのかしら?」

男「居ない?」

魔女「残党……。男さん、まさか、私を疎開にでも出そうと」

男「……今は突くな」

男「御当主、居ないとはどういうことですか。まさか貴女が?」

姉「おいおい、間抜け。余り阿呆な質問をするんじゃない。失礼だろうが」

姉「この人は全面戦争がしたくなくて、蚊帳の外のガキの尻に火を付けたんだぞ」

男「む……」

816: >>1 2013/06/24(月) 23:47:40.34 ID:KrH3IVmSO
当主「お姉さんは随分と私のことを分かっているみたいね。先刻会ったばかりというのが信じられないわ」

姉「まー、お話だけは聞いてましたから」

当主「この理由は分かるかしら?」

姉「それは皆目検討も尽きません」

当主「まぁ、そうね、蚊に噛まれたのよ。自分がつぶし損ねた蚊にね。それで半壊」

男「蚊……、あの血吸い虫の小娘か。やっぱり、生きていやがった」

当主「幾つかの支部が潰されて危機感を持った教会は、残っている司祭を集めて会議を開いていた」

当主「運悪く今日にね。もう教会は切れた尻尾でさえ機能しないの。分かるかしら」

姉「なるほど、今日に大事な会議を……。一つ質問良いですかね」

当主「どうぞ」

姉「花火職人にお知り合いは居ますか?」

当主「えぇ。この前仲良くなったばかりの人が一人」

姉「ははは、それはまた良いタイミングで仲良くなられたもんだ」

男「おれからも一つ」

当主「どうぞ」

男「血吸い虫の居場所を知っていますか。おれも、あいつを潰し損ねた一人なんですよ」

男「あいつだけは、おれの手で殺しておきたい」

当主「残念だけど、今の居場所は知らないわね。彼女と連絡が取れたら教えましょう」

男「……いつ、連絡が取れますかね」

当主「さぁ?彼女の気分が落ち着いたら、じゃないかしら」

男「……クソッ」

817: >>1 2013/06/24(月) 23:50:41.54 ID:KrH3IVmSO
当主「そうだ、貴方たち、帰りの足はあるの?家の近くまで飛ばしてあげましょうか?」

姉「私は向こうでパーティーやってる友人の所に突撃かましてきます。それで、明日の朝、友人の車で」

男「おれは……いや、おれも姉さんに着いていきます」

姉「えー、マジかよー」

男「知らないところで物事が上手く進みすぎなんだよ。ドキドキしてたことが、虚しくなってきた」

男「飲まずに今日を終わらせることが出来るか、クソッ」

当主「そう。事故と飲み過ぎには気をつけてね」

姉「ご安心を。私が居ますので」

男「姉さんは運転もしないし、酒も特別強くないだろうが」

当主「ふふっ。では、私たちは帰りましょうか。さ、行くわよ」カツカツカツ

魔女「え、は、はい」

姉「しっかり療養してきなよー」

男「じゃーな」

魔女「えぇと、ま、まぁ、楽して勝つのが良い勝利ですよ!元気出して!それでは!」

タッタッタッ


818: >>1 2013/06/24(月) 23:51:39.78 ID:KrH3IVmSO
男「分かっててもモヤモヤするから荒れてんだけどなぁ」

姉「上手いタダ飯、タダ酒もらってはしゃげば消えるさ。さ、私たちも行こう」

男「あぁ」

男「えーと……」

男「『隣人よ、我らは離れすぎた。距離を戻し、今一度我が隣に座れ。これは契約に基づく命令だ』」

男「『来い、ワニスケ』」

カッ

ワニスケ「シャー」

男「よしよし、待たせてごめんな。何か全部終わったらしいから、飯食いに行こう」

ワニスケ「シャー」

姉「BBQだぜ、BBQ。上手い野菜が食えるぞ」

ワニスケ「シャ♪」

ワニスケ「……」キョロキョロ

ワニスケ「シャ?」

男「魔女?あいつ実家帰ったよ」

ワニスケ「シャー……」

姉「落ち込まない。3日ぐらいで帰ってくるってさ」

ワニスケ「シャシャ」

男「そん時に改めて祝勝会としよう。父さんと母さんにも何とか予定空けてもらって」

姉「久しぶりに家族全員揃ってか。良いね。精一杯賑やかにしよう」

ワニスケ「シャー!」

ヒュー

姉「あ、花火。まだ残ってたのか」

パパーン パーン

男「……お開きの花火じゃないよな」

姉「……」

男「……」

姉「急ごう」

男「おう」

ワニスケ「シャー!」


819: >>1 2013/06/24(月) 23:52:37.14 ID:KrH3IVmSO
―――三日後



男「ただいまぁ、っと」

魔女「……遅い」

男「ん、あぁ、帰ってきてたの」

魔女「遅すぎです!」

男「え、なに?」

魔女「今日帰ると、そういう予定だったじゃないですか!どうして誰も居ないんですか!」

男「いや、今日平日だし。普通に学校あるし」

魔女「だとしても!」

男「はい」

魔女「せめて置き手紙を残しておくとか、鍵を置いておくとか!」

男「いや、防 上よろしくないんで、そういうのはちょっと」

魔女「私、何時間待ったと思います?」

男「知らん」

魔女「五時間ですよ!五時間!もう、嬉しさも消えましたよ!ひたすらに孤独ですよ!」

男「五時間か。そいつは少し可哀想ではあるな」

魔女「……」

男「……えーと、茶でも飲むか?」

魔女「もちろん、淹れてくれるんですよね」

男「そりゃ、まぁ。五時間待ちぼうけで機嫌の悪い人間の機嫌をさらに悪くしたくはないし」

魔女「……いま、悪くなりましたよ」

男「そいつは大事だな。ちょっと高いケーキをお茶うけに出そう」

魔女「甘いもので丸められたりはしませんからね」

男「魔女」

魔女「なんです?」

男「お帰り」

魔女「……ただいまです」

826: >>1 2013/06/28(金) 07:58:34.63 ID:w2CmtYNSO
おまけ

827: >>1 2013/06/28(金) 08:00:39.22 ID:w2CmtYNSO
【母娘】



別れた後


魔女「……」

当主「……」

テクテク

魔女「……お母様は」

当主「黙って進みなさい」

魔女「……お母様は愛情の無い人だったはずです」

当主「聞けなかったの?黙って進みなさい、と言ったのよ」

魔女「黙れません。わ、私はもう、お母様の駒でないし、極度の臆病でもなくなりました」

当主「……」

魔女「だから、そのお願いは、き、聞けません!」

当主「なら、親として言うわ。黙りなさい」

魔女「子に愛情を与えられない人は、親でなく他人です」

当主「きちんと与えているわ。でないと、あなたみたいな出来損ない、とっくに処分しているもの」

魔女「ただ、この作戦を為すのに必要だったからでしょう」

当主「最初からあなたを今回の作戦の為に調整してきた、とでも言いたいのかしら」

魔女「幼少の頃より私に与えられていたのは、偏った教育、恐怖、侮蔑、友達、それにほんのちょっとの褒賞」

魔女「出来上がったのは、世間知らずで、臆病で、命令に服従し、でも無口でないし卑屈過ぎもしない」

魔女「そんな人間です。お母様が今回の作戦で理想としていた人材は、どんな人間ですか」

当主「……少し強くなったわね」

魔女「えっ?」

当主「少し賢くもなった」

当主「でも、どれも中途半端。だから、無知で臆病な少女より、余計に愚か」

当主「あなたはそれを聞いて、何が知りたいの?私に愛の在ること?無いこと?」

魔女「……真実が知りたいじゃ、ダメですか」

当主「あなたはね、結局嫉妬しているのよ。自分が貰えなかった優しさを貰った彼に」

当主「自分にも与えられる機会はあるか、と知りたくて急いてる」

当主「今でも私に期待を抱いている辺りが、出来損ないのあなたらしいけれど」

魔女「……分かりません。自分の気持ちなんて。でも、或いは、そうなのかもしれません」

当主「次に口を開くとき、最低でも攻める意味だけは明らかにしておきなさい」

当主「ただ反抗したいだけの子どもは相手にしたくないの。分かる?」

魔女「……はい」

当主「いい子になりなさい」

魔女「……」

832: >>1 2013/07/04(木) 06:17:59.67 ID:NAuOU+eSO
【ヴァンパイア】



ロシア少女「久しぶりだナ、ゴミヤロウ」

男「あぁ、久しぶりだな、ヒル女」

ロシア少女「本当は話し合いじゃなくテ、テメェをなぶり殺したかっタ」

男「奇遇だなぁ。おれも、お前だけは殺したかったよ」

ロシア少女「ヒハハハ、テメェにゃ無理な話サ」

男「その傲慢で死にかけたことをもう忘れてる。これだから、血を吸うだけの虫は嫌なんだ」

ロシア少女「そういうテメェも随分ト、驕り高ぶっているじゃないカ。自己は省みれない阿呆メ」

男「今は驕るさ。慢心してても殴り合いにはなんねぇからな」

ロシア少女「許可が降りれバ、しても良いんだけどナ。殴り合イ」

男「おれだって許可が欲しいさ。拷問する許可とかな。お前さ、何で本家になんぞ下った」

ロシア少女「吸血鬼は繊細なんだヨ。テメェ等みたいな粗雑な玩具と違ってナ」

男「バグの多すぎで、最初に買ってもらえた家から捨てられたゴミのくせに」

ロシア少女「アリャ、使い方の知らぬバカ共ダ。制裁は与えタ」

ロシア少女「それがテメェの助けになったと聞いた時ハ、腹の虫を鎮めるのに苦労したもんだガ」

男「お前の間抜けが悪い」

ロシア少女「だガ、それでお前がこうして生きていられるってのハ、嬉しい話でもあル」

男「気味悪いな。告白なら同類にしろ。水溜まりの近くに沢山いるぞ」

ロシア少女「愛を語るなラ、テメェよりかはマシな相手だけどナ」

男「虫の目で見ればそうなるだろうさ」

ロシア少女「どの目で見たってそうサ。下衆より虫のほうが愛嬌があル」

男「酷いな。おれは極めて紳士だぞ。化け物退治にだって乗り気だ」

833: >>1 2013/07/04(木) 06:20:38.89 ID:NAuOU+eSO
ロシア少女「知識も何も無イ、やる気だけの若者だロ。大丈夫カ?玉が冷えたりしなイ?暖めてやろうカ?」

男「やめてくれ。変な病気移されて腐り落ちちまう」

ロシア少女「落ちて困ることがあるのカ。驚きだヨ」

男「なんだ、必死じゃないか。そんなに玉が触りたいのか?」

ロシア少女「死にゆく奴に良い思い出を作ってやるぐらいの優しさはあるって話サ」

男「相手はスライムみたいなもんだ。下手踏んでも死ねないから、その売女精神はしまっていいぞ」

ロシア少女「アァ、可愛いナァ。バカの倒錯は何度見ても可愛イ。自分が大きく見えてるんだナ」

男「褒めてくれるな。虫酸が走る」

ロシア少女「走れ走レ。そいつは愉快ダ」

男「人の虫酸が愉快か。とんだ 癖だな。恐れ入る」

ロシア少女「愉快なのはそれで歪むテメェの顔が間抜けだからだヨ。分からないかナァ、これくらイ」

男「お前みたいなのがそんな健全な趣味を持ってるだなんて、誰が想像出来るってんだ?」

ロシア少女「おいおイ、失礼だロ。そんナ、まるで自分が民意の代表ですって言い方はサ。バカなんだかラ」

男「思っちゃいないさ。でも、天才が辿り着けぬってのは事実だろ?」

ロシア少女「バァカ、見た目は健全なんダ。心も健全だと思うサ。邪推すんのは変 だけダ」

男「くくっ、自分で分かってるようで何より。そうだな、見てくれは健全だ。見てくれは」

ロシア少女「ハハッ、テメェも同類だロ?ゲロ臭い心をしやがっテ」

男「おぉ、珍しくまともで、正しい切り返しだな。多少は人様の叡智を身に付けたか」

ロシア少女「叡智だっテ?半万年遅れてるサイバリアンの何処に叡智が詰まってんダ」

男「筋弛緩剤とかに、かな。どうだ、 の具合は。まだ、弛んだままか?」

ロシア少女「聞いてどうすル?今晩の  にでもすんのカ?」

男「ヘドロの塊に欲 なんぞしねーよ。自惚れんな」

ロシア少女「自惚れるサ。結構簡単に釣れるんだゾ。テメェのお友達とかナ。ハハハハッ」

男「ハハハハ、根絶やしにするぞ、化け物」

ロシア少女「怒っタ?怒ったのカァ?アハハハ、悪いこと言ったみたいですまないナァ!」

執事「盛り上がっているところ、失礼します」

ロシア少女「ア?」

執事「面会時間の終了です」

男「……もうそんな時間か」

ロシア少女「チッ、良いところデ」

執事「時間は時間ですので」

男「じゃぁな、ヴァンパイア。中々有意義だったよ。次会う時は殺せることを願ってる」

ロシア少女「アァ、私も楽しかったヨ。次会う時までに殺しの許可を頂いておク。極上のナ。一緒に楽しもウ」

引用元: 魔女「私は魔女です!」男「病院行け」