5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:05:43.40 ID:yLRCR5m80
P「ボケてないよ、スーパーアイドル伊織ちゃん」

伊織「なに言ってんの!もうアイドルなんて何年前の話よ!」

P「怖いねー、あはは」

伊織「ほんとあんたは変わらないわね…」

俺と伊織は今から47年前に結婚した
当時トップアイドルだった伊織は俺との結婚を機にアイドルをやめ
俺はプロデューサーをやめた

そのあと俺はしがない会社員として伊織は主婦として
慎ましく暮らしてきた

俺たちの子供二人いたが二人とも
成人し自立して親元から離れ一人暮らしをしていた

数十年ぶりの夫婦二人だけの結婚生活だった

その生活は懐かしくもあり、新鮮でもある不思議な感覚だった



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:07:23.82 ID:yLRCR5m80
P「そういえば最近腰が痛いんだよ」

伊織「大丈夫?」

P「まあ年だからしょうがないかな」

伊織「そうねぇ、年だもんね」

P「伊織もすっかりおばあちゃんだよなあ」

伊織「そういうことはっきり言うのやめてよね」

P「別にいいじゃないか、年取ったって伊織は、伊織だよ」

伊織「あんたも中身はずっと一緒ね、本当に…」

P「ありがとな」

伊織「はぁ…別に褒めてないわ」

P「そうなのか、すまんな、あはは」

伊織「まあいいわよ、いつものことだし」

P「はは、優しいなぁ、いおりんは」

伊織「私もういおりんって年じゃないわよ…」

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:10:54.71 ID:yLRCR5m80
伊織「それにしてもあっという間だったわあんたといる時間は」

P「俺もだよ」

伊織「これからもあっという間なのかしら…」

P「どうだろうな、楽しい時間だからあっという間かもしれないな」

伊織「なんか少しさみしいわね」

P「そうだなぁ、伊織の誕生日もあと何回祝ってあげられるのか」

伊織「まあ明日の誕生日くらいは祝ってくれるわよね」

P「もちろんさ、まかせなさい」

伊織「ふふっ、楽しみにしてるわ」



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:15:03.56 ID:yLRCR5m80
そして五月五日は伊織の誕生日である

P「誕生日おめでとう」

伊織「はぁ…、また年をとるのね」

P「いいことだと思うよ」

伊織「そうなのかしら」

P「ああ、とらえ方次第だと思うな
 嫌なこともあるけど、いいこともあるだろ」

伊織「たとえば?」

P「たとえば、ほらあれだよ」

伊織「あれって何よ…」

P「ごめん、忘れちゃった」

伊織「なに言ってんだか…」

こんな気の抜けた会話があと何年出来るのか
最近ふと考えることが多い

いつまでも元気で伊織とこんな会話をしていたい
そんな小さな願いも、きっと叶わない
それでも時間が止まらないから二人で歩いて行くしかないんだろう

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:16:40.21 ID:yLRCR5m80
P「ご飯も食べたし、散歩に行こう!」

伊織「いいわよ、天気もいいしね」

P「よし、じゃあ支度しようか」

すぐに俺と伊織は出かける支度をし、
出かけることにした

P「あったかくなったよな」

伊織「そうね」

昔よりも俺たちはずっとゆっくりにしか歩けない
そのせいか見なれたはずの場所が違って見えたりする

今までただの公園にしか見えなかった場所も、
いまいちある意味のわからなかったベンチも
今では俺と伊織が休憩できるやさしい場所になっている

P「ふぅ…、ちょっと休憩していくか」

伊織「そうね、少し疲れちゃったわ」

P「はは、伊織もおばあちゃんだな」

伊織「あんたに言われたくないわ…」

出会った頃はまだまだ子供だった伊織は
今ではすっかり品のいいおばあちゃんだ

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:17:27.34 ID:yLRCR5m80
伊織「なんだか、昔と比べて時間がゆっくり過ぎてる気がする」

P「ああ、そうだな」

伊織「なんなのかしらこれ?」

P「いろんなこと経験してきたから、
  いろんなことが見えるようになってきたのかな」

伊織「ふふ、そうかもね」

P「もしかして今までが駆け足だったのかな?」

伊織「結婚してからいろいろなことがあったものね」

P「本当に楽しかったな」

伊織「うん」

P「もしかして…最近つまらない!?」

伊織「ふふっ、これはこれで楽しいわよ」


しばらく休憩して俺たちは目的地へ向かうためバスに乗った

俺たちはバスを降りて喫茶店へ向かって歩きだした


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:19:22.30 ID:yLRCR5m80
P「さあ、入ろうか」

伊織「うん」

席に着くなり、思い出話に花が咲く
約50年分の思い出があるからずっと話しても
話のネタが尽きることはなかった
しばらくして伊織が思い出したように言う

伊織「これ覚えてるわよね?」

するとカバンから万年筆をとりだした
忘れるわけがない
俺がこの場所で伊織にあげた万年筆だった

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:20:17.74 ID:yLRCR5m80
P「覚えてるさ、あたりまえだろ」

伊織「ふふっ、まあ当然よね
   それでその時なんて言ったかは覚えてる?」

P「ああ、それは大事に使ってくれれば
  伊織がおばあちゃんになっても使えるから
  大事にしてくれよ、とかそんな感じだろ」

伊織「そうね、半分正解」

P「半分?」

伊織「そう、半分、あとあんたはこう言ったの
   万年筆はずっと使い続ければ使ってる本人に
   なじんでくれるって」

P「ああ、そうだ、言った!それ!」

伊織「それを聞いて毎日これを使って日記を書いていたわ
   そしたらね、本当にかきやすくなっていった
   あんまりスラスラ書けるもんだからね
   ついつい書いちゃったのよ
   
   これ…」

そう言うと伊織は俺に手紙を差し出してきた

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:21:37.80 ID:yLRCR5m80
P「読んでいいのか?」

伊織「あ、後にして…」

P「わかった、ありがと」

伊織は顔を赤くして黙り込んでしまった
おばあちゃんになっても俺にとって伊織はかわいい
もっとずっとしわしわになっても、
きっとずっとかわいんだろう

ただ二人でのんびりしていると日が暮れ始めてきた

P「そろそろ帰ろうか」

伊織「そうね、暗くなっちゃうわ」

家へ帰っていつものように二人で夕飯を作って食べた

そのあと自分の部屋で伊織にもらった手紙を読むことにした

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:23:53.16 ID:yLRCR5m80
手紙には、出会ってからの記念日、喧嘩、日常のことの
いろいろな思い出が伊織の言葉で綴られていた。

手紙を最後まで読み終えると俺は伊織のいるリビングへ向かう
俺に背を向けている伊織に呼びかけた

P「なあ、伊織」

伊織「なに?」

振り返りもせず返事をする伊織だったが
俺はかまわず言葉をつづけた

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/14(土) 22:24:23.35 ID:yLRCR5m80
P「年をとるといいこと思い出したぞ」

伊織「ふーん、なんだったの?」

P「かっこつけなくて等身大の自分を出せるようになること」

伊織「そうかしらね?」

P「そうさ」

伊織「ふーん」

P「…俺は伊織と出会って本当に幸せだ、愛しています。」

伊織「……私もすごく幸せ、愛してるわ。これからもずっと」


伊織「あんたの言う通りね、年をとって少しは素直になれたのかしら…」

P「ああ、俺も伊織もな」

伊織「にひひっ」

いつまで二人で一緒にいられるかわからないけれど
まだ時間はありそうだ