1 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:05:01 WguG/4l6
こんな所に客が来るなんて珍しいな、何年ぶりだろう?

狭苦しいけど我慢してくれ。まともに使えるのは此処ぐらいしかないんだ

適当に座って寛いでくれよ

何か飲むかい?

要らない、代わりに何か話してくれって?

まあいいさ。こうして誰かと話すことに飢えているんだ

たっぷり話をしてやるが、その前に紅茶を淹れさせてくれ

それじゃあ何について話そうか……そうだな、こんなのはどうだ?


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2 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:07:15 WguG/4l6
人類が滅びるとしたら、何が原因だと思う?

いきなりで何だと思うが、まあ聴いてくれ

人類は宇宙にまで進出するほど文明を発展させてきた

太陽系どころかその先、宇宙の果てを、さらに果ての先――宇宙の外を目指した

医療だって凄いものさ。死人は蘇らせないが、大体の病を治し外科手術も発達していた

日常生活に関する物も一見すると判らないが、より便利になっていく

それに比例するように戦争の道具も発達……逆だったかな?

まあいずれにせよ文明は急速に発展していく。加速度的に、限界を知らずにな

そんな中いつの頃か、人類はある事を考えるようになった

自分達は、人類は如何にして滅びるのかって


3 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:09:12 WguG/4l6
どうして自分達の滅びを想像するのか。これは勝手な憶測だけどさ、多分人類に天敵がいなかったためだ

自分達を喰らう天敵がいれば、おそらくこんな事は考えないさ。考える暇もない

生命っていうのは、危機に晒されてきたからこそ進化していったのだと思う

外敵から身を守るために、食料を確保するために、異性を惹きつけ子孫を残すために、進化したのだろうさ

でも、人類はどうだろうか? 天敵もなく、食料は生産でき、異性を得るために少なくとも死の危険はない

そう、進化する必要がない。身体は退化していった。退化も進化の内というがね

でも人類は本能的に進化をしたい、己を高めたいと思っていたのかもしれない

天敵がいないから、天敵となるべきものを探し出した

毒や細菌、過酷な自然災害――そして同属、つまり人類。それが自身を滅ぼす要因と考えたのさ


4 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:12:32 WguG/4l6
じゃあまずは細菌、つまり病で人間が滅ぶのか?

医療が発達したなかでも対処できない病は多い。だから致死性の高い細菌が人間を襲えば滅びるって説だ

でもさ、致死性が高ければ被害地域が拡大する前に宿主が死んで、拡散しにくい

潜伏期間が長い細菌だったら拡散しやすいだろう

でも医療が発達している中、細菌が原因と突き止めるのは難しくない

仮に対処できず死ぬしかないとしたらさ、原因が判った時点で患者を隔離する

国中に蔓延したら、その国を周囲の国が封じ込めるだろう。最悪それすら出来なかったとしてもだ、

離島や交通が不便な所にどうやって拡散できる?

他の動物が運び手となったとしても、その動物が世界中に移動する?

寒冷地から熱帯、砂漠や海辺まで移動して住む。そんな広範囲に、それこそ地球全体に分布する動物は人間だけだ

だから、病原菌で人類絶滅はあり得ない



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6 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:16:24 WguG/4l6
次に核戦争で滅びる説だ

いつでも何処でも人類は争っている。全ての核兵器を使用すれば人類が滅びるには充分ということらしい

けど核兵器って普通の爆弾みたいに、火が点けば爆発するわけじゃあない

詳しい原理はしらないけど、核兵器を運用するには面倒な手順が必要なのさ

とち狂った国が核兵器を周辺国に撃ち込む。そして報復に他の国から核兵器が飛ばされる。その報復にさらに

核兵器を……そうして世界中に核兵器が落とされて人類絶滅

でも、これってかなり難しいだろう。核兵器を秘密裏に撃つってかなり困難だしさ、仮にそれが可能だったと

して、報復に核兵器? しかもさらに反撃で核兵器を撃たれるまで地上活動などせず報復されるがまま?

現実的な発想じゃあない。万が一にそうなったとしても、やはり離島や政治的に重要でない地域に

核兵器が飛ぶと思えない。というかそんな所に撃たないだろう、報復なら尚のこと


7 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:21:11 WguG/4l6
次に自然災害だけど……まあこれも現実的ではないな

地震、津波、火山噴火、竜巻……色々あるが、特定の地域に限定される。世界中に住む人間を滅ぼすには

それこそ地球が滅ぶほどの災害じゃなきゃ、人類絶滅には至らない

太陽の活動が活発になって地球が極限まで熱せられるなら……でも、そんな事はなかった

ここに生き証人がいるからね。そもそも前触れもなく太陽が爆発することもない

近しいものに巨大隕石が落ちて滅びるってのがある。確かに巨大隕石ならば可能かもしれないけど、

宇宙技術が発達している中地球に衝突しそうな巨大隕石を見逃すか?

見逃すとして、衝突するまで気付かないわけがない。あらゆる対策を立てて隕石のコースを逸らしたり、

あるいは小片になるよう画策するだろう。環境は劣悪になるが、絶滅を避けられる

そもそも大体の隕石は地球に到来するまでに、木星をはじめとして多くの惑星に阻まれるだろうけどな


8 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:23:26 WguG/4l6
何らかの要因で動物に変化が起き、人類を捕食する立場になる。それまで人類が見逃すのか? 仮にそうでも

絶滅は考え難い。捕食ならば胃に収める限界がある

異星人侵略説。少なくとも太陽系外から移動できる術を持って、地球を侵略してその異星人に何の益が

あるのか。そんな技術があるなら、周辺の星の環境を変える方が手っ取り早い

陸地完全沈没。一日で数十メートル海面上昇するならともかく、絶滅するまで手を拱いているか?

機械反乱説。人工知能が人間の知能を凌駕して反旗を翻すって説だけど、人間より知能を凌駕しているなら

反乱を興さず裏で操れば良いし、人間を絶滅させるには他の説と比べるとかなり困難そうだな

まだまだ諸説あるけど、主だったのはこの辺かな? 先生に聞いただけだからあやふやだけど、

結構あるものだな、人類滅亡論。それだけご執心だったんだろうね

けどここまで列挙して判るのは、一つの事が原因で滅亡するには、人類の文明は発達していて

その上数も多く生息地も広いから不可能ってことさ


9 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:29:27 WguG/4l6
さて否定しておいてなんだけど、これらは現実に起きてもおかしくはない出来事だ

人間を滅ぼすには一つだけの要因では成しえない。だが、それが一度に押し寄せたら?

戦争が勃発して正体不明の伝染病が広がり、自然災害が頻発になり食糧問題が発生し、疲弊したところに

隕石が落ちてさらに環境を汚染し……そうすれば人間はどうしようもなくなるだろう

そんなことあり得ない? たった一つの原因で人類が滅ぶっていうよりは現実味があると思うけどな






――少なくとも、俺達人類はその大災害に巻き込まれて滅びへ向かったのだから


10 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:35:20 WguG/4l6
何処の国が忘れたが、核兵器を本当に撃った。報復に経済制裁に終わらず核兵器が飛ぶ。それだけで周辺国も

巻き込まれていった。同時期に各地で未知のウィルスが発生し封じ込めに失敗。その上大地震に竜巻、異常な

寒冷化によって被害が広がり、食糧危機に加えてエネルギーの確保に悩まされていく

異常気象のせいか家畜を始めとして動物達の異常行動が発生。人間も同属も見境なく襲い掛かる状態になった

地上が混乱に陥っている時、隕石が迫ってきた。それほど巨大ではないが地球に堕ちる危険がかなり高かった

通常なら各国協力するところだが、戦争やら内乱やらでそれどころじゃない

気がついた時には遅かった。何カ国は協力して隕石の軌道を逸らそうとしたけど、周辺国が弾道ミサイル開発だと

難癖をつけ、そう紛糾されるのを恐れて秘密裏に行ったためにマスコミが面白おかしく騒ぎ立て、

他の国々からの猛反対で計画が頓挫、一部の人間が計画を強行したけど、軌道は逸らせず隕石を削り取るだけに終わった


11 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:40:16 WguG/4l6
隕石は地球に落ちる前に小片になって世界中に降り注いだ。下手に隕石に衝撃を与えたせいだと怒りをぶつけた

人はいたが、何もしないままだったら人類どころか地球は終わっていたよ。昔シミュレーションで巨大隕石が

落ちた時、地表が吹き飛び溶岩に覆われていく結果が出たらしい。それに比べればまだマシだったのさ

破片のいくつかは地表に堕ちる前に燃え尽きたしな

こうして地球は大打撃を、甚大な環境汚染を受けた。人類の滅亡はそこまで迫っていた

けど、幸か不幸か生き残った人達がいた。汚染された環境で次々と死んでいくが、それでも生命を繋いで

いったらしい。つくづく人間って、生命って逞しいと思えるね

その頃俺も生まれて先生に育てられた。先生は博識でさ、俺のいた集落の中心人物だったのさ

常に怒っている感じで、とにかく厳しい人だった。でも理不尽な事で怒らないし、他人への気遣いが出来る

凄い人さ。生きるのに必死な時に、他人に気遣えるって簡単に出来る事じゃないのにな


12 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:42:33 WguG/4l6
話が逸れたな。とにかく最悪な環境でも命は生まれてきた。でも大抵は耐え切れず死んでいく。特に文明に

慣れきった人類には耐え難い。それでも僅かに放射線に強い奴、未知のウィルスに耐性を持つ奴……そうさ、

人間も環境に耐えられるように進化していた。そんな子供が生まれていたんだ



――んっ、それじゃあ人間は僅かずつに環境に慣れていって絶滅しないって?

そうさ、誰しもそう思ったんだよ。でも、人間は同属同士で殺し合うことに慣れ切っていた

殺し合いを後押しする兵器も、たっぷり残されていたんだ……

特に資源が乏しい時は熾烈な奪い合いが起こる

無論、それに伴って殺し合いが起こる。いとも簡単に、命が吹き飛ぶんだ


13 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:47:18 WguG/4l6
俺の集落も例外ではなかった。比較的環境に恵まれていた場所だが、それゆえに生き残った人間が押し寄せて

きた。でも何事も限度がある。やってきた人を押し退ける事もあった。仕方ないさ、受け入れていたら

限られた資源はあっという間に失われる。いつの頃か資源を貪る為に各地を転々とするならず者達が現れた

なんて事はない、奴らも生きる為に必死だったのさ。生き残るために奪う方法をとっただけだ

もちろん素直に奪われる気などない。生きるために抵抗した。追い返した人々が暴走したのを何度か

見た事があるが、その比じゃなかったね。生き残るために戦う。ルールも何もあったもんじゃない

生き残るためにお互いあらゆる方法をとった


14 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:50:41 WguG/4l6
結論から言えば俺達の集落はならず者達を皆殺しにした。そうしないと助からないからな

でも、限られた資源は戦いによって消費されてしまった。先生も、死んでしまった

大勢死んだ上に怪我人も多かった。病人も多い。化学兵器や細菌兵器を大量にばら撒かれたから

当然の結果だ。一週間、一ヶ月、一年……生き残った奴も後遺症やら何やらで死んでいく

呻き声が絶えない日はなかった。資源を求めてあちこちを回った奴もいるが、何の成果もなかった

奇跡的に生き残った衛星を打ち上げた奴もいた。その時だけは生き残った俺達は大喜びさ

これで他の安全な地域を探せるってね






まぁ、ぬか喜びで終わったんだが


15 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 20:59:36 WguG/4l6
衛星から送られた映像はまさに地獄そのものだ。海は七色に、場所によってドス黒く染まり荒れ狂っていた

大陸のあちこちが虫食いのように抉られていた。かつて都市と呼ばれた場所は瓦礫と死体が重なっている

自然と呼べる場所はない。草どころか苔も生えず、動物らしい動物もいなかった

数ヶ月衛星を動かしたが、地球は想像以上に荒廃していた

結局得られたのは、俺達以外死滅している事実と、絶望だけだ

人間気力だけで生きていけるわけじゃないけど、でも生きていく上では重要なものらしい

生きる気力を失った何人かは、自殺していた。そうでない奴らも元気とか明るさってものが消えていた

あれほど耳を塞ぎたくなる呻き声も次第にか細くなっていき、やがてそれすらも消えた

そうさ、結局人類は俺以外みーんな、死んでしまったのさ


16 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 21:01:23 WguG/4l6
人類が滅亡するとしたら、何が原因だと思う?

たった一つの要因でおきるわけではない。けど、一つ一つが確実に影響しているのさ

人間がもっとお互いを支えあえたならば、自然と共にあれば、あるいは他の知的生命と遭遇していれば

結果は違ったかもしれないな

だからさ、もし今度俺達のような星に巡りあったら伝えて欲しい

今の状況を振り返ってよく考えろ、争い続けていたら肝心な時に大事なものを見失うって

以上が、この星最後の生き残りの言葉だ。忘れずに覚えておいてくれよ


17 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 21:29:08 WguG/4l6
……さて、あいつらは去ったようだな

まあ資源を求めてやってきたと言っていたんだ、滅び行く星に興味はないだろうさ

平和と博愛を重んじているとかほざいていたが、あいつら銃らしきものを俺に突きつけていたな

人間ってのは戦いに慣れ親しんでいるらしい、未知の物でもそれが武器か否か判ってしまったよ

とにかく異星人は去った。あいつらが来なければこっちのものさ

整備するのは大変だった。先生がいないし生き残りも俺だけ。その上プログラムが勝手に動き出す

機械が反乱を起こすなんて、しかもこのタイミングとは恐れ入ったね

幸い初期段階で潰せたから問題ないが、インターネットとやらが残っていたら収拾つかなかったな

さあ、いよいよだ。先生があらかじめ残してくれた遺伝情報で地上の世界を蘇らせる時が来たんだ

ノアの箱舟プロジェクトはまもなく起動する。多くの植物と動物が目覚め動き出すんだ

もちろん――お前達もだよ、アダムとイブ


18 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 21:31:16 WguG/4l6
相変わらず培養液の中は不満げだな。だが今出すには不都合が多い。もうしばらくの我慢だ

んっ、代わりに話を聞かせろって?

そうだな、何を話すべきか。かつて文明があった頃の話でも――なんだ質問か?

名前の由来を聞きたい、か。確かにお前達をアダムとイブと呼んでいるが、すまないが答えられない

先生に聞いた覚えがあるんだが……忘れてしまったんだ。だけどな、お前達の名前は特別なんだって事は確かさ

お前達の名は新たな人類の始まりとして刻まれる。とても特別な意味を持つのさ

さて、お前達が外に出ても大丈夫なように施設の環境を整えなければな

地上に出るにはまだ時間が必要だが、この施設の中は自由に動けるようにしないとな

……んっ、暗い? そうか……俺はこの明るさに慣れているが、お前達には暗く感じるのか

判った、お前達のためだ。この先の未来を恐れず進ませるためには暗闇は必要ないな

この星のため、そしてそこで生きるお前達の未来に――


19 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 21:31:50 WguG/4l6



   ――光あれ――


20 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/11/09(日) 21:36:14 WguG/4l6
以上で終了とします
どこかで見たことあるような設定と結末だが、まあ吐き出せて良かった
やっぱこの形式で、かつ見慣れた内容じゃあ人こないね
一応読んでくれた人、ありがと