1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:59:17.28 ID:V6vQV7Y00
「お父さん、また負けたの?」

「いやぁ、お父さんも本気を出したんだけどね…」

「言い訳なんか聞きたくない! トウカジムは楽勝だって舐められているじゃない!」

そういってハルカは父を睨みつけた。
ハルカの父、センリはトウカジムのジムリーダーでありながら挑戦者に負け続けていた。

「若者のポケモンバトルの質が上がっているということだよ…、お父さんは嬉しく思うんだが…」

「もう! それとトウカジムが舐められるのは別の話じゃない! 娘として恥ずかしいわ!」

「いや、しかし…」

まだ食い下がり続ける父にハルカは堪忍袋の緒が切れた。

「じゃあ、私がジムリーダーになるんだから!!」


2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:05:04.81 ID:V6vQV7Y00
「……なんだとう! そんなことお父さんが許さーん!」

「お父さんじゃもう若者には勝てないわ。私は娘なんだから、ジムリーダーになる権利はあるはずよ」

センリはため息をついた。こうなった娘は何を言っても聞かない。

「お前なぁ。手持ちのポケモンは3匹だけじゃないか」

「あら、私はその3匹でホウエンリーグを勝ち抜いたのよ?」

「……準優勝だったじゃないか」

「け、決勝の相手が強かっただけ!」

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:08:44.27 ID:V6vQV7Y00
(こ、こうなったら父として娘に大人の厳しさを教えてやらないとならん)

「じ、じゃあこうしよう。明日、お父さんとのバトルに勝ったらジムリーダーになることを認める」

「明日ね。もちろん、あたしは3匹で挑むわ」

「ふ、ふん! 後悔するんじゃないぞ!」

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:14:21.56 ID:V6vQV7Y00
――翌日

「ハルカ、やめるなら今のうちだぞ! お父さん本気出すからな!」

「あたしが負けるわけ無いでしょ!」

自信満々にモンスターボールを取り出す娘をみて、センリは複雑な思いに駆られた。

(あぁ、成長したな。しかし、トウカジムのジムリーダーとして負けるわけにはいかない!)

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:21:44.10 ID:V6vQV7Y00
「いけっ、パッチール!」

(パッチール…昔からいたお父さんの一番手)

「だったら、速さで勝つまでよ! ライボルト!」

ハルカが繰り出したポケモンを見てセンリの表情に焦りが見えた。
ライボルトはその速さと雷撃を武器とするポケモンである。
パッチールには厳しいか…?

「さぁ、ライボルト! 先制攻撃よ、電光石火!」

ライボルトは目にも留まらぬ速さでパッチールを突き飛ばした。
不意を疲れたパッチールは一瞬だけ怯んだ。
もちろん、その一瞬をハルカが見逃さないわけが無い。

「ライボルト、かみなり!」

ライボルトから放たれた雷がパッチールを容赦なく襲う。

「……いちぬけ!」

「くっ…」

センリは唇をかんだ。

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:27:32.91 ID:V6vQV7Y00
「ヤルキモノ、任せた!」

センリが繰り出したのは俊敏さと攻撃力を併せ持つヤルキモノだ。
耐久力もあるため、さっきのパッチールみたいにはいかないだろう。

「ライボルト、攻撃に当たらないようにして」

ライボルトは頷くと警戒態勢に入った。

「いくぞ、ハルカ!」

センリの声でヤルキモノがライボルトに襲い掛かる。

「今!」

ヤルキモノのワンパターンな戦法は幼い頃から見てきたため手に取るようにわかる。
ハルカの合図でライボルトは眩い光を放った。
秘伝技のフラッシュだ。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:32:32.30 ID:V6vQV7Y00
ヤルキモノの爪が空を切る。
ハルカはライボルトに更に指示を出した。

「電磁波!」

ライボルトから発せられた電磁波がヤルキモノに襲い掛かり、
瞬く間にその体を痺れさせた。

目が眩み、動きが鈍くなったヤルキモノはライボルトの敵ではなかった。
そのまま雷撃を食らって倒れる。

「しまった!」

父はライボルトの速さを読みきれなかったのか。
ハルカは勝利を確信した。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:38:40.21 ID:V6vQV7Y00
父が次に繰り出したのはマッスグマ。
おそらく、父のポケモンの中では最速を誇るだろう。

「ライボルト、でんこうせっk…」

ハルカが指示を出すより先にマッスグマが動いていた。
長年ジムのポケモンをやっているから、ライボルトの動きが読めたのだ。
勢いよく突っ込んできたマッスグマはそのままライボルトを突き飛ばした。
後退するライボルト。

「よし、マッスグマ! 次は…」

指示を出そうとした父の表情が凍りついた。
マッスグマの動きが止まっている。

「ま、麻痺……! ライボルトの静電気か!」

「そう。この子はもともと早い上に、相手のスピードも下げられるの」

そのままマッスグマはライボルトの雷撃の餌食になった。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:42:30.39 ID:V6vQV7Y00
「ふう……」

(ずいぶんと成長したものだ。いったいで私をここまで追い詰めるとはな…)

センリは最後のモンスターボールを見ながら思った。

(しかし、もう好き勝手にはさせないよ、ハルカ)

センリが最後に繰り出したのは彼のエース、ケッキング。
怠け者ではあるが、抜群の破壊力と意外な速さを併せ持つポケモンである。

ハルカもそのことを知ってか、表情を引き締める。

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:48:08.36 ID:V6vQV7Y00
「ライボルト、相手の動きを止めるわよ! 電磁波!」

ライボルトはケッキングに向けて電磁波を放った。しかし、ケッキングは動じない。

「そんな!」

ハルカは焦った。ケッキングがどれほど速いかはよくわかっている。
しかも、あのパワーだ。攻撃を受けたら一溜まりも…!

そんな焦りが一瞬の隙を作ったのか、既にセンリがケッキングに指示を出していた。
そして次の瞬間、大きな揺れがライボルトを襲う。
大技、地震。

ライボルトはその場に倒れた。

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:52:22.01 ID:V6vQV7Y00
ライボルトをモンスターボールに戻したハルカは落ち着きを取り戻していた。

(ケッキングは至近距離で戦うタイプだ。唯一の遠距離攻撃である地震は飛行タイプには通じない)

ハルカはモンスターボールを選ぶと勢いよく投げた。
出てきたのはハルカの2番手、チルタリスだ。

「遠距離で攻撃していれば問題ないわ。いくわよ!」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:00:23.33 ID:V6vQV7Y00
ケッキングは一度行動すると少し怠ける癖がある。
ハルカはそこを狙った。

「チルタリス、竜の舞」

この技によってチルタリスの力が爆発的に上昇する。

チルタリスが舞い終えると同時にケッキングが起き上がった。
そして、勢い良く突っ込んでくる。

「チルタリス、迎え撃つわよ…! 竜の息吹!」

衝撃波のような息吹がケッキングを襲う。
しかし、ケッキングは動じなかった。
そのままチルタリスに飛び掛る。だが、チルタリスは冷静だった。

避けて、ケッキングの背後に回る。

「ドラゴンクロー!」

鋭い爪がケッキングを襲う。ケッキングはたまらず、膝を突いた。
しかし、チルタリスは容赦しなかった。
怯んだケッキングに火炎放射を浴びせる。

「ケッキング!」

センリは驚愕の表情を浮かべた。
脅威の耐久力を持つケッキングがこうも簡単に…!

そう、ケッキングは敗れていた。

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:04:19.03 ID:V6vQV7Y00
――

「うぅ、悔しいがジムリーダーの座は譲る」

「ふふ、お父さんは家でゆっくりしてて。1人たりともポケモンリーグには行かせないんだから!」

「あぁ…、そうだな」

「明日からお前がジムリーダーとしてジムを守ってくれ」

「うん!」

この時、ハルカはまだ知らなかった。
ジムリーダーがいかに大変か…



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:37:07.30 ID:V6vQV7Y00
「さて、今日は記念すべきジムリーダーデビューの日よ!」

「ハルカ、トウカジムの挑戦者はフエンジムで勝ったばかりだから
お前には物足りないと思うぞ」

ミシロタウンの自宅、朝食を食べながら意気込むハルカにセンリは念を押した。

「そんなことわかってるわ。私はトウカジムが舐められないようにしたいだけよ」

何を言っても聞かないハルカにセンリはため息をついた。

(あぁ、情けない…)

「わかったよ。ジムは任せるが、無理はするなよ」

「はーいっ!」

勢い良く家を飛び出したハルカを見送りながら、センリは再びため息をついた。

「職を探さないとなぁ…」

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:45:30.68 ID:V6vQV7Y00
ジムの奥の部屋に入ってから1時間ほどで挑戦者はやってきた。
まだ15歳くらいの子だ。

「トウカジムへようこそ。私はリーダーのハルカよ」

にっこりと自己紹介をすると少年は顔を赤くして俯いた。

「最近だらしのない父に代わってジムリーダーになったの。あなたが記念すべき最初の挑戦者よ!」


――

10分後、がっくりと肩を落とした少年がジムから出て行った。
彼のポケモンでは先方のライボルトに指一本触れることができなかった。

理由の一つは、ポケモン事態が弱いから。
そして、もう一つの理由は彼の手持ちがほとんど水タイプだったから。

ハルカは後者に頭が来た。

(フエンタウンで勝ったからって、うちでも勝てると思って…!!)


その後に訪れるチャレンジャーも、皆同じような理由でハルカに敗北していった。

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:00:40.93 ID:V6vQV7Y00
ポケモン自体が、だね


ジムリーダーになってから3日。
ハルカはだんだん退屈になってきた。

挑戦者のポケモンのパターンがみんな一緒。
父はこんな相手に負けていたのか。
そう思うとだんだん情けなくなってくる。

「あぁ、旅をしていた頃は楽しかったなぁ…」

1番手として活躍するライボルトも、元々は頼りがいの無い者だった。
出会ったきっかけも、彼がライボルトに進化する前、
子供が作った落とし穴にはまったところを助けたというものなのだ。

2番手のチルタリス。
飛行タイプのくせに木から降りれなくなっていたところを助けて仲間になった。
そんな彼も今では大空を自由に舞う。

そして、エースのラグラージ。
ハルカが一番最初に出会ったポケモンだ。
最初は腕に抱えられるサイズだったのに、今ではハルカより一回り大きい。

みんな、成長したんだなぁ。
そういえば、私もトレーナーになったばかりのころは弱かったんだよね。

しみじみと思い出に浸っていたハルカはゆっくり立ち上がると、再び挑戦者を待ち続けることにした。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:10:56.75 ID:V6vQV7Y00
おはようございます
落ちてないのにはびっくりですが、嬉しいです

もう少しで再開するのでおねがいします

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:31:56.42 ID:V6vQV7Y00
――その日の夜

「やぁ、ハルカ。ジムリーダーはどうだい」

父がニコニコしながら話しかけてきた。
自分がジムリーダーになってからというもの、バッチを手にしたものは誰一人いない。
そういう点では、順調ともいえた。
しかし…。

「ジムリーダーの仕事って何かわかんなくなってきたわ…。
たしかに、トウカジムは以前ほど舐められなくなったけど。
お父さんがやってることと…、いいえ、私が戦ってきたジムリーダーと何か違うような気がするの」

ハルカは悩んでいた。
自分に負けたものは誰一人として再戦しにこない。
自分は他のジムリーダーと違って、再戦に駆り立てるような何かを持っていないのか。

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:36:33.90 ID:V6vQV7Y00
そんなハルカを見てセンリは腕を組んだ。
実は、自分もハルカの悩みの原因はわからない。

長年ジムリーダーをやっているせいで、
ジムリーダーになりたての頃に教えられた一番大切なことを忘れてしまったのだ。

(……まいったなぁ)

自分を含む他のジムリーダーにできて、ハルカにできないこと…。

「だめだ、お父さんもお手上げだ」



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:50:12.10 ID:V6vQV7Y00
――翌日。

古い知り合いがジムに訪れた。
3年前、ハルカがポケモントレーナーになったばかりの頃からの知り合いだ。

「やぁ、ハルカさん。お久しぶりです」

「あっ、ミツル!」

彼の名前はミツル。
次期四天王候補とも言われている強力なトレーナーだ。
ポケモンリーグでは彼と激戦を繰り広げ、勝利した。

「トウカジムのリーダーが変わったと聞いていたのですが…。
やっぱりハルカさんだったんですね」

落ち着いた笑みを浮かべるミツルは、初めて出会ったときよりも遥かに成長していた。

「えぇ…、あまり順調とはいえないんだけどね…。ところで、どうしてここへ?」

「実は、サーナイトと一緒にまた旅へ出るんです。他の地方に。
だからハルカさんとセンリさんにご挨拶にうかがったんですよ」

「そうなんだぁ…」

ミツルは再びにっこりと笑うと、

「次に勝負する時は負けませんからね」
と言って、去っていった。




46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:02:17.69 ID:V6vQV7Y00
「……はぁ。あぁやってライバルたちはどんどん強くなっていく…」

「私、トレーナーとしてもジムリーダーとしてもここまでなのかなぁ」

かつては凄まじい勢いで各地のポケモンジムを制覇し、ポケモンリーグ優勝候補とまで言われたが、
それも準優勝で終わってしまった。
もしかしたら、私はもうトレーナーの頂点に立つということをあきらめてしまっているのかもしれない。

それに比べてミツルは……。

ベスト8の戦いでハルカとあたり、敗北したミツル。
しかし、彼はあきらめるどころか他の地方に出向いて修行するというのだ。
そして、すぐに私よりも強くなるだろう。

「……はぁ」

再びため息をついたとき、エントリーコールがなった。
相手は父だった。

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:11:22.11 ID:V6vQV7Y00
「おう、順調か?」

「うん…。さっきも2人相手したわ」

結果はいうまでも無い。

「さっき、ミツルくんがうちへ来た。カントー地方に旅に出るそうだな」

カントーといえば強力なトレーナーが多いと有名な地方だ。

「それで、思い出したんだけどさ。来
週お父さんの知り合いの家族がジョウト地方からこっちに遊びに来るそうでね。
娘さんがジムリーダーだから話を聞いてみたらどうだい?」

「話を?」

「ああ。歳も近いし、お父さんと話すよりもずっと参考になるだろうからさ」

自分と同じくらいのトレーナー。
父の口調からして、そのジムリーダーを認めているようだった。

「うん、わかった。会ってみたい」

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:21:15.93 ID:V6vQV7Y00
――翌週

「さて、今日のジムはジムトレーナーに任せよう」

「…うん。どこへ迎えにいくの?」

「カイナ港だ。ここから、ムロタウンを経由して船の旅さ」

船か。しばらく乗っていなかったため、やけに懐かしく思えた。

「あれ、嫌? お父さんチケットとるの頑張ったんだけどなぁ」

「ううん。嫌じゃない。……ありがと」

「それはよかった」

最近落ち込んでいるハルカを気遣ってか、父はとても優しかった。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:32:43.81 ID:V6vQV7Y00
「さぁ、着いたぞ」

カイナシティ。きれいな浜辺が有名な観光スポットだ。
旅で来た頃は観光など楽しまなかったが、改めて見ると意外と賑わっている街だった。

「10分後には着くらしいから、港で待っていようか」

「ねぇ、お父さん」

「うん?」

「そのジムリーダーの子ってどんな子?」

「んー、とても優しい子だよ」

「え、それでジムリーダーガ務まるの?」

「…まぁ、むしろ優しいから務まるんだよ…あっ、来たみたいだ」

船が着くと、乗客がぞろぞろ降りてきた。
その中の3人家族がハルカ達に向かってきた。
少女が早足で近づいてくる。
父はその子に微笑んだ。

「やぁ、久しぶりだね。ミカンちゃん」



52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:37:01.47 ID:V6vQV7Y00
「お久しぶりです…、センリさん」

恥ずかしそうに父に応じた少女はハルカと同じくらいの年齢だった。
しかし、どう見てもジムリーダーにはとても見えない。

「ミカンちゃん、娘のハルカだ。
ハルカ、こちらはジョウトのサギジム、ジムリーダーのミカンちゃんだ」

父に紹介されてはっとなる。

「あっ、よろしくね、ミカンちゃん」

「え、えっと…ミカンです、よろしくおねがいします…」

(あっ、可愛い)


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:42:25.67 ID:V6vQV7Y00
「さて、私はミカンちゃんのお父さんたちと話があるから、ハルカはミカンちゃんと町を回っていてくれ。
なんなら、街外れでバトルしててもいいぞ」

ハルカにそれだけ告げると父はミカンの家族と一緒にどこかへ行ってしまった。
港に取り残された2人。

「あっ、えーと、そのワンピース可愛いね」

気まずい雰囲気にさせないと、ハルカは話しかけた。
しかし…。

「えっ、あっ、えっと、あ、ありがとう…」

ミカンは顔を真っ赤にして俯くだけで会話にならなかった。


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 12:50:57.11 ID:V6vQV7Y00
(どうしよう。私こういう雰囲気苦手なんだよなぁ)

ミカンと目が合っても彼女は顔を赤くして俯くばかりだった。

(あぁ、気まずいわ。おしとやか過ぎるってのも問題なのね)

「あっ、そうだ。せっかくこっちに来たんだから、買い物でもしようよ!」

「えっ、あっ、はい…」

(買い物でもすれば仲良くなるでしょう)

そして、港から出たハルカは気づいた。

(あっ、ここってフレンドリィショップと市場しかないじゃん)



69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:57:19.75 ID:V6vQV7Y00
(仕方ない、ミナモまで飛ぼうか…)

「出てらっしゃい、チルタリス!」

ハルカがチルタリスをモンスターボールから出すと、ミカンは目を丸くした。

「どうしたの?」

「いえ…、チルタリスって、言うんですね。私、見たこと無かったです」

そう言ってミカンはじーっとチルタリスを見つめていた。
見てわかるほどそわそわしている。

「とってもふかふかなのよ、この子。撫でてみる?」

ハルカが笑いかけるとミカンの表情がぱあっと晴れた。

「…いいんですか?」

「もちろん。どっちにしろこの子に乗ってミナモシティまで飛ぶわ」

「じ、じゃあ失礼して…」

さわさわ

「あっ、やわらかぁい」

「うふふ、それじゃあ行こっか」

「はいっ」



71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:05:31.35 ID:V6vQV7Y00
~ミナモシティ~

「さぁ、着いたわ! 行きたいところとかある?」

「いえ…、あっ、大きなデパートがあるんですね」

ミカンがミナモデパートを指差した。

「ジョウトにもコガネデパートっていう大きなデパートがあるんです。
あの、私あそこに行きたいです」

「わかった。それじゃ、行きましょ!」

ハルカは横目でミカンを見た。
さっきよりも足取りが軽い。
…ちょっとでも、打ち解けてくれたのかな?

「……ハルカさん?」

「ううん、なんでもないわ」


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:16:04.99 ID:V6vQV7Y00
「あっ、あの服可愛いです…、ジョウト地方にはないんです、あの生地の服」

「そうなんだ…、ミカンちゃんが着てるワンピースもよく見たらちょっと違うね」

ハルカはミカンの楽しそうな表情を見て安心した。
楽しんでくれたみたいでよかった。

「お待たせしました、つき合わせてごめんなさい」

「ううん、私も楽しかったよ」

「ほんとですか!」

ミカンにつられてハルカも笑顔になった。

「それじゃ、屋上で一休みしよっか」

「はい、そうしましょう」


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:32:22.59 ID:V6vQV7Y00
~屋上~

「ねぇ、ミカンちゃん」

「はい、なんですか?」

「あなたに是非教えて欲しいことがあるの」

ミカンがコクンと首を傾げる。

「私は幼い頃からジムでお父さんの勝負を見ててね、
お父さんのように挑戦者を打ち負かすのが夢だったの。
だけど、最近お父さんは勝負に負けてばかりで…。
気がついたら世の中のトレーナーはトウカジムを弱いジムだと思い始めたの」

ミカンは黙ってハルカの話を聞いていた。

「私はそれが嫌だからジムリーダーになったの。
それ以来、挑戦者は一人もトウカジムのバッジを手にすることは無くなった。
でもね……」

「でもね、何かが違うの」

77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:48:18.37 ID:V6vQV7Y00
「でも、それがなんでだか私にはわからない。
だから、ミカンちゃんに教えて欲しいの」

ミカンはしばらく考えた後、口を開いた。

「えっと、私は、ジムリーダーというのはポケモンリーグへ繋がる門の門番であり、
また、ポケモンリーグへの案内人だと思います」

「……?」

「ハルカさんは挑戦者を打ち負かしてきたようですが、それではただの障害…
つまり、ポケモンリーグへの崖ではなく鋼鉄の壁なんです」



80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:06:47.76 ID:V6vQV7Y00
「そもそもジムリーダーとは、トレーナーのその時点での現実的な目標となるもの。
ジムリーダーの仕事は、トレーナーをより高いところへいざなうことです」

「そ、そうだったんだ…」

「ええ…。もちろん、勝負には本気で行います。
上に行くことができるトレーナーは、本気のジムリーダーを打ち破ることができるはずですから…。
ただし、ポケモン自体のレベルは挑戦者の目線に合わせたものにしなければなりません。
さきほどのふわふわのチルタリス、あの子はもちろんトウカジムのレベルではないですよね」

話し終えてからミカンは照れくさそうに俯いた。
場には沈黙が漂った。

先日、お父さんがトレーナーの質が上がったと言っていたが、そういうことだったのか。

「ミカンちゃん、教えてくれてありがとう。
私、明日から頑張るわ」

「い、いえ。私も、忘れてたことを今更思い出しましたから…。
ハルカさんならきっといいジムリーダーになれますよ」

「……ありがと」


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:54:49.62 ID:V6vQV7Y00
「おぉ、ハルカ。心配してたんだぞ。どこまで行ってたんだ?」

「ちょっと、ミナモシティまでね」

カイナシティに戻った頃にはもう夕方になっていた。
ミカンはホウエン地方に日帰りできているため、もう帰らないといけないらしい。

「ハルカさん、今度はジョウトまで遊びに来てくださいね。その時にでも是非勝負しましょう」

「えぇ、臨むところよ。今日は色々と教えてくれてありがとう」

ハルカはにっこりと微笑むミカンを見て、ポケモンリーグを勝ち抜いていった友人を思い出した。
決勝で激闘を繰り広げ、惜しくも敗れてしまった相手。

(あの人がリーグチャンピオンとして頑張っているのなら…私はジムリーダーとして頑張ろう。
時には、挑戦者の前にそびえ立つ巨大な崖として。
そして、ポケモンリーグへの案内人として……)



87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 16:30:47.21 ID:V6vQV7Y00
――「ハルカ、また旅に出るのか?」

「うん、ジムリーダーになるにはまだ修行が足りないみたい。
お父さんが一流のトレーナーだって、今更ながらわかったわ」

「そうか、ジムリーダーへの道は遠く険しいぞ。
世界を知り、たくさんのトレーナーと出会わなければ、
相手を見極め、ポケモンリーグに導くことはできない。
ジムリーダーとして頑張るとは、そういうことも含めて言うんだよ」

「……」

「さぁ、今日はもう遅いから寝なさい。船のチケットはお父さんが取っておくから。
ところで、どこへ行くつもりだ?」

「カントー地方へ。カントーのジムを制覇したらジョウト地方に行く。
それからポケモンリーグカントー大会を制覇して、ホウエン地方に戻ってくるわ」

「そうか。しばらく寂しくなるが……。トウカジムはお父さんに任せておきなさい。
お前が帰ってくるまで守っておくからさ」

「…うん、ありがとう、お父さん」

――翌日、ハルカはポケモンたちと共にカントーへと旅立っていった。
ポケモントレーナーたちに、目標とされるジムリーダーになるために……。

ハルカの旅はまだまだ始まったばかりだ――。