1: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:47:13.49 ID:Jply/wbJ
 


初夏の日差し、爽やかな風。空は青く、木々の緑が目に眩しい。今日はとても良い天気です。

…そういえば、冷凍庫にアイスがありましたね。
確か2つあったはずです。

…あの子を呼んでみましょうか。



「おっじゃまっしまーす!」

夏の暑さも吹き飛ばすような明るい声。

「海未ちゃんからお誘いなんて、珍しいにゃー!凛、嬉しい!」

さんさんと眩しい笑顔。
つい、こちらまで笑みがこぼれてしまいます。

2: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:48:04.94 ID:Jply/wbJ
「わー、縁側だ。縁側で麦茶を飲みながらアイスだなんて、ゼイタクだにゃー」

ただ家に呼んだだけなのにこんなに喜んでくれるなんて、予想外でした。

「えへへー、海未ちゃんのとーなり♪」

そう言って彼女は私の隣に腰掛けます。さらり、と。綺麗なオレンジ色の髪が揺れて、甘い香りが私の鼻腔をくすぐります。

…こんなに良い匂いをしていただなんて、今まで気付きませんでした。

「やっぱり夏はアイスだよねー」

彼女の横顔をちら、と見てみる。
長いまつ毛、くりっとした目、可愛い口、まん丸な輪郭。

そして、夏の暑さに上気した頬。

ああ、暑さでやられたんでしょうか。クラクラします。

「…ねぇ、海未ちゃんのアイスもひと口ちょーだい?凛のもあげるから!はい、あーん♪」

そうです、このクラクラは、絶対夏の暑さのせいです。

「照れてる海未ちゃんも可愛いー♪…あ、海未ちゃんのアイス美味しいね!」

3: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:48:34.47 ID:Jply/wbJ
ちりん…ちりん…

微かに風が吹いて、風鈴を鳴らしました。
私は風鈴の音が好きです。聞いていると、心が落ちつきます。

「あ、風鈴だ。りんりーんって、なんだか呼ばれてるみたい」

くすっ、と、冗談めいた口調で笑う彼女。可愛らしい表情に、少しドキっとしてしまいます。

彼女はずるいです。普段は元気いっぱいの腕白小僧みたいな顔をしているのに、ふとした時に大人の女性のような顔をするのです。

「ふあーあ、アイス食べたら眠くなっちゃった…」

まるで猫みたいですね、と私が言うと、「今日から園田家の飼い猫になるにゃー」と言って、縁側にゴロンと寝転がってしまいました。

4: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:49:49.62 ID:Jply/wbJ
ちりん…

また風が吹いて、風鈴を鳴らします。

「すぅ…」

縁側で寝息を立てて寝ている様は、まさに猫。私はペットは飼っていませんが、もし飼っていたらこんな感じなんでしょうか?

流石にペット扱いは凛に失礼でしょうか?でもさっき、園田家の飼い猫になりたいと言ってましたね。

「海未ちゃーん…」

寝ながら私の名前を呼ぶ彼女は、にへらっ、と笑っています。どんな夢を見ているのでしょうか。



「お邪魔しましたー!海未ちゃん、またねー!!」

大きく手を振る彼女を見送って、また1人で縁側に腰掛けます。だいぶ日が落ちて、風が冷たくなってきました。

今日は、楽しかったです。
ただ、家の縁側でアイスを食べて、麦茶を飲んで、お喋りして、昼寝をして。

ーただ、それだけなのに。

ただ、それだけなのに、私の心は満たされて、柔らかくなってしまいます。

「…また、誘ってみましょうか」

ちりん…

私の中で、ふわっと風が吹きます。

凪の合間に、小さく風鈴の音が聞こえた気がしました。



おわり

引用元: 海未「風鈴の音」