1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 05:16:45.04 ID:WKYUDUU20.net
男(この世の中にあまたある犯罪の中で最も卑劣なもの、それは子供を狙う犯罪だ)

男(俺はそういった犯罪を心の底から憎み、子供が巻き込まれないよう日々活動している)

男「なのに何故こうなる」

警官「御近所の方から通報があってねぇ」

男「いつも言ってるでしょ、ただ子供達と遊んでいるだけだって」

警官「それは分かってるんだけどね、最近そういう人多いでしょ?」

男「そういう人って何ですか!? 俺は  コンじゃないですよ、ただ子供が好きなだけですよ!?」

警官「うん分かったから。とにかく落ち着いて、ね?」

4: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 05:29:00.74 ID:WKYUDUU20.net
警官「あんたに悪意がないのはうちも分かってるんだけどね、この御時勢だから理解してくれないかな」

男「くっ」

警官「それじゃ、これからは気を付けてよ。本当にね」

男(なんて言い草だ!)

男(俺はただ子供達の笑顔が守りたいだけなのに!)

男(社会の秩序は子供の安全から! 子供の笑顔無き社会は悪だ!)

男「まったく!」

幼女「……お兄ちゃん、大丈夫?」

男「ああ、ごめんね。お巡りさんはもうあっち行ったからね」 ナデナデ

幼女「もー、くすぐったいよ」

男「ごめんごめん」

5: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 05:34:40.62 ID:WKYUDUU20.net
男「他の子達は?」

幼女「みんな帰っちゃった」

男「と、もう夕方か。そうだね、幼女ちゃんもそろそろ帰った方がいいよ。暗くなると危ないからね」

幼女「えー、まだお兄ちゃんと遊びたいよー!」

男「お兄ちゃんも君と遊びたいけど、お母さんが心配するよ? ほら、お兄ちゃんが送ってってあげるから」

幼女「お願い、もうちょっとだけいいでしょ?」

男(あんまりきつく言って泣かせちゃっても大変だからなぁ)

男「んー、じゃあ少しだけだよ」

幼女「うん! それじゃあね、おままごと!」

男「ええ? おままごとはダメだよ、長くなっちゃうし」

6: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 05:39:46.96 ID:WKYUDUU20.net
幼女「大丈夫、すぐに終わるから! えとね、ここに名前書いて!」 サッ

男「ここに?」

男(ミミズが悶えた跡みたいでまったく読めない字でなんか色々書いてあるけど……)

男「これ、もしかして婚姻届け?」

幼女「うん! これで明日もおままごとできるでしょ?」

男(えらく本格的なこと考えるなぁ。おませさんだな)

男「わかったよ。ここでいいの?」

幼女「うん!」

男「はいはい。……ん、これでいいかな?」 スッ

幼女「うん! ……あは、やったっ! やったっ! やったぁ!」 ピョンピョン

男(そんなに喜ばれるとさすがに照れるなぁ)

幼女「ふふふ、これで馬鹿なガキのフリも終わりだわ! あはははっ!」

男「え? あ、れ……」 バタリ

幼女「これからよろしくね、お兄ちゃん」

7: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 05:46:12.29 ID:WKYUDUU20.net
帝国歴4997年!
節目の歳を数年後に控えた帝国は腐敗の一途を辿っていた!
神の恩寵により安楽の日々を過ごす貴族階級!
隷属を余儀なくされ苦痛の日々を過ごす平民階級!
天国と地獄の入り混じるこの世界に今、また新たな人間が一人!

男「ん……」

男(ここは、んん、どこだ?)

男(見覚えのない場所だな。ずいぶん汚いな、どこの物置小屋だ?)

男「俺、なんでこんな所に寝てるんだ?」

男(最後の記憶は……)

男「そうだ、幼女ちゃん!」 ガバッ

先輩「おう、起きたか新入り」

男「え? あ、あなたは誰ですか?」

8: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 05:50:59.19 ID:WKYUDUU20.net
先輩「あー、面倒臭ぇな」

男「め、面倒臭いって、ていうか何がどうなってるんですか? ここは一体?」

先輩「そういうのが面倒臭ぇんだよ。つーかいつまでも寝てるんじゃねえよ、連帯責任で俺までどやされるだろ」 ゲシッ

男「痛っ!」

先輩「お前は繊細かよ。軽い挨拶だろ。ほら、とっとと付いて来い。歩きながら説明してやる」

男(な、何がどうなってるんだ?)

男(……とにかく、あの人に付いて行く以外にないか)

9: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 05:57:27.35 ID:WKYUDUU20.net
男(ここは、屋敷の庭?)

男(ずいぶん大きな家だな。……まさか俺、ヤクザか何かに拉致されたのか?)

男(確かにこの人、人相悪いしなんか汚いし、使い走りのチンピラっぽいな)

先輩「お前にしっかり仕事を叩き込んでやる。俺達の朝は水汲みから始まる」

男「み、水汲みですか」

先輩「ああ。屋敷の水がめがいっぱいになるまで川と井戸から水を汲むんだ」

男「ま、待ってくださいよ。俺達って?」

先輩「その仕事はもう終わった、次は……おい、少し急ぐぞ」

男(何の説明にもなってないじゃないか!)

10: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:05:04.30 ID:WKYUDUU20.net
先輩「よし間に合った!」

同僚A「ひひっ、危なかったな」

同僚B「お前の泣きっ面が見れると思ったんだがな」

先輩「うっせえ馬鹿ども」

男「はあ、はあ、い、一体何なんですか?」

先輩「しっ、黙って背筋伸ばしとけ。死にたくなかったらな。……ほら、来るぞ」

男「来る、って」

執事「……全員揃っているようですね。ふむ、今日は良い日になりそうですね」

男(この人だけ身なりが違うな。他の人は臭いし汚いのに)

執事「どうやら元気になられたようで幸いです」

男「え、お、俺ですか?」

11: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:09:06.51 ID:WKYUDUU20.net
執事「ええ。せっかくお嬢様がお連れからずっと眠っていましたからね。心配していたんですよ」

男「はあ、恐縮です。……あの、それで、ここはどこなんですか?」

執事「あれぇ? 説明されてませんか? そこの男から」

先輩「うぐっ」

執事「おかしいですねぇ。私はあなたを彼の教育係に任命していたはずなんですが」

先輩「そ、それは、仕事をしながら説明してやった方が飲み込みも早いだろうと考えてのことです!」

執事「そんな言い訳が通用するとでも? さて、無能には罰を与えなければ」

幼女「よい、赦してやれ」

執事「はっ、仰せのままに」

男「幼女ちゃん! 良かった、無事だったんだね!」 タッタッタッ

先輩「なっ!?」

12: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:16:40.15 ID:WKYUDUU20.net
男「怪我はない? 大丈夫? ていうか、もしかしてここ、幼女ちゃんの家なのかい?」

幼女「……」

男「どうしたの、幼女ちゃん?」

先輩「馬鹿、てめえ何やってやがんだっ!?」

男「え?」

幼女「粛清して」

執事「ふん!」 ブンッ

男「ふぎぃいっ?!」 メキッ

執事「このっ、屑がっ、誰にっ、口をっ、利いているっ、つもりだっ、死ねっ、死んで詫びろっ!!」 ゴスッ ゴスッ ゴリッ ゴスッ

男(痛っ、なっ、クソっ、ふざけんなっ!)

男「このぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 ガバッ

幼女「跪け」

男「えっ、ぐぁ!?」 ガスッ ヨロッ ヨロヨロッ

男(か、身体が勝手にっ!?)

13: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:23:29.94 ID:WKYUDUU20.net
幼女「ふ、ふふふっ!」

執事「お見事でございます」

幼女「このくらい当然よ。私を誰だと思っているの?」

男「か、体が、動かな……っ」

幼女「自由に動いていいわ」

男「う、動く? な、何が、な、なんで?」

幼女「ふふふ、せいぜいこの世界で頑張ってね。お、に、い、ちゃ、ん?」

執事「さて、本来ならば今の件も含めて教育係のお前の責任を追及するところだが」

先輩「ひっ!」

執事「……幼女様の御計らいです、今回だけは特別に赦してさしあげましょう」

執事「さて、今日は特にご来客の予定はありません。皆さん、しっかり働いてください。以上、解散です」

14: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:29:50.33 ID:WKYUDUU20.net
男「う、うぅぅ……」

男(叩かれた所が熱い。ずきずき痛む。クソ、あいつ本気で俺を叩きやがった)

先輩「おい」 ガシッ

男「ぐ、うぅ……」

先輩「いいか? てめえがどれだけとち狂おうが勝手だが、俺を巻き込むな。殺すぞ」

男「何の、はな、話だ」

先輩「ちっ。もういい、さっさと立て。畑に行くぞ。トロトロしてっと本当に殺すからな」

男(もういい。今はとにかく、何も考えずに言う通りにしよう) ヨロヨロ

15: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:36:50.90 ID:WKYUDUU20.net
先輩「様子はどうだ?」

同僚A「ダメだな。芽の出る気配もねえ」

先輩「気配もねえじゃ済まねえだろ」

同僚B「土台無理があんだよ」

先輩「んな事は最初から分かってたろうが。文句言う暇があったら何か手を考えろ」

同僚A「元はと言や、お前が二つ返事なんてするからこうなったんだろうがよ」

先輩「てめえなら断れたってのか?」

同僚A「知るか、お前がなんとかしろ。行こうぜ」

同僚B「ああ」

先輩「おい! ……クソ!」

17: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:42:44.19 ID:WKYUDUU20.net
男「あの、俺は、どうすれば?」

先輩「……水汲んで来い」

男「それは、終わったんじゃ?」

先輩「畑の水は別だ! いいからさっさと行って来い!」

男「何で汲めば。というか、どこに行けば」

先輩「桶は小屋の裏! 川はあの森の奥だ! さっさと行け!」

男「……」 ヨロヨロ

18: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:49:13.25 ID:WKYUDUU20.net
男(体が重い。ちくしょう、なんで俺がこんな目に遭うんだ)

男「この桶か」 カラン

男(俺が何したって言うんだよ) ヨロヨロ

男(クソ、絶対に警察にチクってやる。裁判で訴えてやる) ヨロヨロ

男(絶対にタダじゃ済まさないぞ、あの偉そうな男) ヨロヨロ

男(まずは診断書だ。病院に行って診断書を取って、それから) ヨロヨロ

男「川、ここか」 ジャボッ

男「……ん?」

舟人A「……」 ギコッ ギコッ

舟人B「可哀相に……」 ギコッ ギコッ

舟人A「馬鹿。言うな」 ギコッ ギコッ

男(あんな小舟が川を漕いでるの、初めて見たな)

男(相当辺鄙な所に連れて来られたみたいだな)

男「俺、帰れるのか? ……いや、必ず帰るんだ」 ヨロヨロ

19: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:57:06.08 ID:WKYUDUU20.net
先輩「遅かったじゃねえか。……おい」 ゴスッ

男「痛っ」

先輩「なんで桶が一個なんだよ。二度手間だろうが、二個持って行けよアホか」

先輩「おら、もう一回行って来い!」

男「……はい」

男(ちくしょう、こいつも一緒に訴えてやる)

20: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 06:57:22.42 ID:WKYUDUU20.net
先輩「クソ、やっぱりダメか。いや、まだ分かんねえ。きっと大丈夫だ、そのはずだ」

男「はあ、はあ……」

男(熱は引いたけど痛みが増してきた。もうこれ以上動けない)

同僚A「おい、飯の時間だぞ!」

同僚B「来ないならお前らの分も食っちまうからな」

先輩「行くに決まってんだろうが! おら、お前も行くぞ!」

男「はい……」

21: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:00:16.70 ID:WKYUDUU20.net
同僚A「んくっ、んっ」 ゴクゴク

同僚B「ぷはっ」 

先輩「……」 モグモグ

男「あ、あの」

先輩「なんだ?」

男「これだけ、ですか?」

男(パン1個に水だけって、さすがに冗談だろ?)

先輩「ああ。前はもう少し貰えたんだがな」

同僚B「へ、へへ、あいつら俺達を殺す気なのさ」

男「殺すって」

同僚A「考えねえ事にしてんだ、やめてくれ」

執事「ああ、ここにいましたか。あなた達、今すぐ本邸の方に来なさい」

先輩「了解ですよ、執事様」 ゴクン

22: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:04:41.56 ID:WKYUDUU20.net
男「……」 ポカーン

先輩「おい、チンタラしてんじゃねえぞ!」

男(もう何が起きても驚かないつもりだっただけど、なんだこの大宮殿は……さっきの御屋敷が小さく見えるぞ……)

執事「実は幼女様のお母上から突然この荷物が送られてきましてね」

執事「あなた達にはこれを広間に運び込んでもらいます」

先輩「こいつは、えらくでけえ像ですね……」

執事「ええ。幼女様の目の前で布を解くように言われていますから、気を付けてくださいね」

同僚A「お、俺の3倍はあるぜこれ」

同僚B「冗談だろおい」

執事「そうそう、床を汚さないように念入りに足を洗ってから入ってくださいね」

男(……これ、ヘタすれば像に潰されて死ぬぞ)

24: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:07:38.72 ID:WKYUDUU20.net
先輩「おい! てめえらしっかり持てよ! いいな?」

同僚A「お、おう」

同僚B「俺、自信ねえよ……」

先輩「俺だってねえけどやるしかねえんだよ! いいか、絶対に放すんじゃねえぞ!」

男「は、はい」

先輩「いっせーの、で!」 グッ

同僚A「ぎっ!?」 グッ

同僚B「ぐぉ!!」 グッ

男「うぐっ!?」 グッ

男(腕が千切れる!?)

先輩「ま、前に歩け!!」

男「き、つっ!」 ビキビキ

25: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:14:09.71 ID:WKYUDUU20.net
同僚A「うっ、うぅ……!」

同僚B「ひぃぃ……!」

男「ぐぅぅ……!」

先輩「もう少しだ、しっかり……しろぉ!!」

男(痛い! 指が腕が肩が痛い! もう限界だ!)

男「い、一度下ろして……っ!」 スッ

先輩「ば、馬鹿、バランスが……っ!!」

同僚B「うっ、ああっ!」 パッ

同僚A「ひっ!」 先輩「うおっ!?」 男「うわっ!?」

ドドドンッ

執事「何をしているんですか!!」

同僚B「ち、違うんです、こいつが像を傾けて!」

執事「いいえ、私はしっかり見ていましたよ。あなたが最初に手を放したのを」

同僚B「違うんです、違うんです!!」

26: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:16:03.06 ID:WKYUDUU20.net
幼女「どうかしたのかしら?」

執事「幼女様、この者が御母上のお届けになった石像を床に落としたのです」

同僚B「ご、御慈悲を! どうか御慈悲を!」

母幼女「何の騒ぎじゃ?」

男(女の子? どうしてこんな所に! ああ、ダメだ! 絶対ダメだ! こんな所に子供が来ちゃ!)

執事「こ、これは母幼女様! も、申し訳ありません、突然の御来訪でお出迎えの準備も!」

男(え? ええ?)

母幼女「よい。で、どうしたのじゃ?」

幼女「この者が御母様のお送りになられた石像を床に落としたみたいなの」

男(この子が幼女ちゃんのお母さん!? え、でも、こんな小さい子が!?)

母幼女「そうか。では殺させよ」

男「……え?」

28: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:20:34.24 ID:WKYUDUU20.net
母幼女「そうじゃの。お前が捕まえてきた奴隷というのはどれじゃ?」

幼女「これですわ、お母様」

男「え? え? こ、殺すって、え?」

母幼女「そうか。ではお前、この男を外に連れて首を斬り落とせ」

男「く、首って、え、あ、え、ちょ!」 ガシッ ズルズルッ ズルズルッ

同僚B「い、嫌だ、誰か、誰か助けて!」

男「な、なんで、また体が勝手に!」 ズルズルッ ズルズルッ

同僚B「た、助けてくれよ、おい! なんでもするから! 頼むって、おい!」

先輩「……」 同僚A「……」

同僚B「嫌だ、嫌だ、嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」

29: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:28:04.20 ID:WKYUDUU20.net
母幼女「準備はよいかの?」

同僚B「やだ、嫌だ……ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!!」

男(そうか、これは夢なんだ。だから体が勝手に動いてるんだ。そうなんだ)

執事「あの者の斬首と同時に布を引くという事でよろしいですか?」

母幼女「うむ」

同僚B「へ、へへ、へへへ。て、てめえら、てめえら全員死んじまえ!」

執事「では僭越ながら私がカウントを。……3」

同僚B「何が神に愛された者だ! てめえら全員いかれてやがるんだ!」

執事「2」

同僚B「神なんてクソ喰らえだ! てめらなんてクソ喰らえだ!」

執事「1」

同僚B「ああ、嫌だ、嫌だ、死にたくねえ、なんで俺達ばっかりがこんな」

執事「0」 バサァ

同僚B「なんでなんだよ、かみさ」

30: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:35:32.41 ID:WKYUDUU20.net
ゴロッ ゴロゴロッ

幼女「これは見事な彫像ですわね!」

母幼女「うむ、お前の成人の儀に合わせて職人に作らせておいたのじゃ」

幼女「ありがとうございます、お母様!」

母幼女「ほほほっ、お前が喜ぶのならこんな像くらいいくつでも作らせてやるわ」

執事「本当に見事でございます。幼女様の美しさ、神々しさを実に見事に表現されております」

幼女「そうだわ、お友達も呼んでお披露目パーティーを開きましょう!」

母幼女「心配せずともお前の成人祝いの準備はしてある。任せておくがよい」

男(なんだ、これ)

男(血が、血が噴き出して、首、首が転がって、人が死んで)

男(今、俺がこの人を殺したのに、なんで)

幼女「お母様大好き!」 ギュッ

母幼女「ほほほっ、まだまだ親離れができぬようじゃな」

男「う、うぶっ、おえっ、おえっ!」 ビチャ

男(何なんだよ……何なんだよ、これ……) バタンッ

31: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:39:00.42 ID:WKYUDUU20.net
男「……」

男(この天井、あの小屋の)

男「まだ覚めないのか、この夢……」

男「うっ、ぐぅ……違う、違う、俺じゃない、違うんだ!」

先輩「よう、熱くなってる所わりぃな」

男「……」

先輩「あー、今日は色々悪かったな。お前がよその奴だとは知らなくてな」

男「よそ?」

先輩「お前あれだろ、この世界の外側から来たんだろ?」

男「外側、って」

先輩「そっか、そこから話さないとダメなんだな」

32: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:44:19.19 ID:WKYUDUU20.net
先輩「そうだな」

先輩「まず、この世界はお前の知ってる世界じゃねえ」

先輩「なんつーのかな、世界ってのはいくつもあってな、なんでも作った神様が違うんだとさ」

先輩「この世界同士は普通移動できねえ。あっちからこっち、こっちからあっちとはいかねんだ」

先輩「だからお前の世界の連中は、お前を含めて俺らの世界のことは知らねえわけだ」

先輩「と、付いてきてるか?」

男「ええ、話は理解してます」

先輩「そうか。ええと、そうそう、なんで俺がお前が違う世界から来たって知ってるかっていうとだな」

先輩「……あー、詳しい説明はまた今度する事にするが」

先輩「こっちの世界には、そっちの世界に行って帰る方法があってだな、奴隷狩りをしてんだ」

男「奴隷狩り? ……く、くく、あははは! なるほど、奴隷狩りね!」

先輩「お、おい?」

33: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:50:46.19 ID:WKYUDUU20.net
男(奴隷狩りと来たか。おまけに異世界?)

男「もう笑うしかないですよ、こんなの。人権も何もあったもんじゃない」

先輩「ジンケン? ええと、まあそれでお前はここに連れて来られたってわけだ。大丈夫か?」

男「はい。……そうか、俺はここの世界の人間だと思われてたって事ですか」

先輩「ああ、本当に悪かったな。てっきりお前、頭いかれちまってるのかと思ってな」

男「いえ、状況が分かって少しだけ楽になりました。少しだけですけど」

先輩「そいつは良かった」

男「俺からも質問していいですか?」

先輩「ああ、構わないぜ」

男「俺、あの人を……殺しましたよね」

先輩「あー、ああそうだな」

男「あの時、体が言う事を聞かなかったんです。あれは」

先輩「そうだな、しないわけにはいかねえな。いいか、これからする話をよく覚えとけ」

34: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 07:55:49.03 ID:WKYUDUU20.net
先輩「この世界には大まかに二つの人種がいる」

先輩「俺らとそいつらはどれだけ似た姿で生まれて来ても、完全に別の存在だ」

先輩「そいつらはある年齢に達すると成長が止まって、永遠にそのままの姿でいる」

先輩「そして、俺達はそいつらの命令には絶対に逆らえないようにできてる」

先輩「そいつらは神に愛された人間で、俺達はその奴隷の役目を与えられて創られたんだな」

先輩「奴隷の俺達は命令されればなんでも従うしかない。俺達は命さえゴミクズ同然ってわけだ」

先輩「つまり、俺らはあのガキどものために用意された都合の良い玩具って事だ」

先輩「あらためて挨拶しておくぜ。……このクソッタレな世界にようこそ、新人くん」


幼女の帝国~奴隷狩り編~ 終

38: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 08:43:27.73 ID:WKYUDUU20.net
男「はあ、はあ……眠い、怠い……ぐっ、うっ、うぅっ!」 チャポッ

先輩「しっかりしろよ、新人。まだ二周目だぞ」 ユラ

男「み、水汲みって、何回やるんで、すか!」 チャポッ

先輩「大体10周ってとこか。何、馴れりゃ意外になんとかなる。先行くぜ」 サッサッ

男「ぜぇ、ぜぇ……冗談、やめてくれよ……」 チャポッ

39: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 08:50:08.88 ID:WKYUDUU20.net
先輩「おいおい、なんだそのへっぴり腰は!」 ザクッ

男「も、もう腰が……っ」 ザクッ

先輩「ははは! しっかりやれよ! お前が殺ったあいつの分くらいは働いてもらわなきゃな!」 ザクッ

男「うぐっ」

先輩「お、おいおい、軽い冗談だぜ? このくらいでへばってたらもたないぜ?」

同僚A「飯行ってくる」

先輩「あ、こらおい!」

男「もう一歩も動けない……」 ヨロッ

先輩「しょうがねえ、持ってきてやるから座ってな!」

41: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 08:53:58.46 ID:WKYUDUU20.net
先輩「ほらよ」

男「ありがとう、ございます」

男(昨日は色々ありすぎて混乱してたけど、この人実は凄くいい人だったんだな)

男「すいませんでした。実は昨日、絶対にこいつ訴えてやるって思ってました」

先輩「気にすんなよ」

男「はい。……こんな酷い世界にも先輩みたいな人はいるんですね」

先輩「おう。存分に慕ってくれていいぜ? あ、xxは簡便な」

男「俺はノーマルですよ、まったく」

42: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 09:03:29.53 ID:WKYUDUU20.net
男(それにしても、たった二日前の事なのに全部遠い出来事みたいな気がするな)

男「……俺、子供が好きなんですよ」

先輩「おう、俺も好きだぜ。嫁さんでも貰って子供作って、畑耕して平和に歳食って、ガキが育ったのを見ておっ死ぬのが俺の夢だ」

男「この世界にも普通の子供はいるんですか?」

先輩「おう。俺だってあんな化け物どもを育てようなんて気はさらさらねえさ。……と、今のはナシな。バレるとやべえ」

男「そうですか。……俺、本当に子供が好きなんですよ」

先輩「ん?」

男「だから、この世界の子供が笑顔じゃないとしたら、それ、すげえ許せないんですよ」

先輩「熱くなったって無駄だぜ。どうせ奴らはどうしようもねえんだ。せめて平和に生きる事を考えようぜ」

男「……」

43: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 09:10:38.38 ID:WKYUDUU20.net
幼女「あら、仕事はどうしたのかしら?」

先輩「い、今は飯休憩でございます!」

幼女「そう、ふぅん、そうなの」

男(目の前にいるのは幼女ちゃん、なんだよな。喋り方は大人びたし、服も綺麗になったけど……)

男「幼女ちゃん、どうして」

幼女「跪け」

男「……っ!」 ガクッ

幼女「よく覚えておきなさい。幼女ちゃんではなく、幼女様。私はあなたの御主人様なの。おわかりかしら、お兄ちゃん?」

男「ねえ幼女ちゃん、あれは全部嘘だったの? あの公園で何度も俺と遊んで、あんなに笑ってくれたのも、全部」

幼女「黙りなさい」

男「……っ」

幼女「あなたには奴隷としての自覚が足りないようね。そっちのあなた、教育係なのでしょう?」

先輩「はい、申し訳ありません!」

幼女「そうね、この男は今日一日食事抜きにしなさい。せいぜい飢えて反省するといいわ。ふふふっ」

44: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 09:17:10.19 ID:WKYUDUU20.net
先輩「……お前な、ビビらせるんじゃねえよ」

男「すいません。でも、なんか納得できなくて」

先輩「お前の納得のために俺まで死ぬところだったんだぞ、勘弁してくれよ」

男「すいません」

先輩「はあ。なんでお前の教育係なんかになっちまったかね」

男(俺だって来たくてここに来たわけじゃない、なんて言っても先輩のせいでもないしな)

男「俺は先輩が教育係で良かったです」

先輩「はあ。……あ、そうだ、お前のパン貰うぜ、どうせ食えねんだしいいよな。んむ、美味ぇ!」

男「まだいいとも言ってないんですけどねー」

45: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 09:28:19.18 ID:WKYUDUU20.net
男「はあ、疲れた……」 グッタリ

先輩「晩飯まで御馳走になっちまってわりぃな」

男「おかげでお腹が減って寝れそうにないですよ」

先輩「くけけけ」

同僚A「静かにしてくれ、眠れねえだろ!」

先輩「おう、悪い悪い」

男「はあ……」

先輩「ま、お前も無理にでも寝とけよ。じゃねえと保たねえぞ」

男「こんな生活がこれから毎日続くのか……」

先輩「すぐに慣れるさ。嫌でもな」

46: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 09:39:31.99 ID:WKYUDUU20.net
執事「――今日も来客の予定はありません。では、本日もしっかり働いてください」

執事「そうそう、言い忘れていましたが、私はしばらくパーティーの準備で忙しいので煩わせないでください」

執事「以上、解散です」 スタスタ

先輩「よし! これでしばらくは楽ができるぜ!」

同僚A「ああ、だが……」

男「どういう事ですか? ていうかあいつ、どういう奴なんですか? 俺の事めちゃくちゃに殴ってくれましたけど」

同僚A「教育係、適当に教えとけよ。俺は小屋で寝てるからよ」 スタスタ

先輩「そうだな。今日はいい機会だ、お前にここの事を色々教えてやるぜ!」

男「あははは……」

男(今更だけど俺、このままここでずっと奴隷として居着く事になるのかなぁ)

男(ああ、子供の笑顔が足りない……)

47: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 09:46:28.33 ID:WKYUDUU20.net
先輩「まず俺達の小屋や畑があるここ、別邸エリアだ」

男「別邸って事は、本邸はあの宮殿ですか?」

先輩「そう、普段俺らはあっちには近付けない」

男「近付いたら?」

先輩「俺が来た頃は、ここの奴隷は十人以上いた。他の奴がどうなったか、説明が必要か?」

男「いえ、もういいです……」

先輩「よし、よくできた新人だ。ま、ようはバレないようにやればいいんだ。特にあの執事の野郎にはな」

男「結局あいつは何なんですか? どう見ても幼女ちゃん達とは違いますよね?」

先輩「そう急ぐなよ。にしても腹減ったな、飯食いに行こうぜ」

男「飯? ちょ、どこ行くんですか!?」

48: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 09:52:40.67 ID:WKYUDUU20.net
先輩「おーいメイド! なんか食う物くれよ!」

メイド「はあ? あんた何堂々とこっち来てんのよ、見つかったら死ぬわよ」

先輩「俺がそんなヘマするかよ、バーカ」

メイド「誰が馬鹿よ、チクるわよ。で、そっちのは新しい奴隷くん?」

男「えと、どうも」

先輩「うちのお嬢様が捕まえてきた例の奴だよ」

メイド「え? ……へえ、なんか普通の人間ね。角とか生えてないの?」

男「生えてませんよ。俺はただの子供好きです」

先輩「で、まんまと騙されて契約させられたってわけだ」

メイド「うわぁ、凄い馬鹿! ねえねえ、なんか話聞かせてよ。向こうの世界ってどんななの?」

先輩「おっと、話が聞きたいならまず食う物を出しな」

メイド「ケチ! ……少し待ってなさいよ」

49: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 10:01:57.81 ID:WKYUDUU20.net
メイド「お待たせ。今朝のお嬢様の食事の残り、ゴミ箱から拾って来たわよ!」

男(ゴミ箱から拾って来たって言われたら食べる気も)

男「って、ええぇ?」

先輩「さんきゅ、助かるぜ。ほら、お前も食えよ」

男「こ、これ食べていいんですか? すごい量、しかも全部高級料理なんじゃないですか?」

先輩「おう。おかげで俺もすっかり舌が肥えちまったぜ」

メイド「まったく、毎度毎度私がどんだけ苦労して持って来てやってると思ってるのよ」

先輩「感謝してるぜ」

メイド「さてと、それじゃあ約束通り、そっちの世界のことを聞かせてもらうわよ」

男「俺の世界は、うーん、そうだなぁ。例えば――」

50: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 10:04:11.97 ID:WKYUDUU20.net
男「――みたいな感じかな」

メイド「水も食べ物も住む所も働く所もあって……」

先輩「いつでも好きな物が買えて、どこにでも行ける世界か……」

メイド「天国ね」 先輩「天国だな」

男「それが普通なんですよ」

先輩「お前にとって普通でも、俺らにとっちゃ天国そのものだぜ。自分の意思で好きに生きられるってだけでな」

メイド「その世界を捨てて契約して来たって言うんだから爆笑よね」

男「その契約っていうの、何なんですか?」

先輩「お前さ、あのお嬢様に何か書かされたろ?」

『えとね、ここに名前書いて!』

男「あ。……はい、名前を書かされました」

先輩「なんつーのかな、俺も詳しくは知らねえけど、その世界毎にルールってのがあるらしいんだわ」

先輩「お前はお前の世界で生まれたから、当然その世界のルールを持ってたわけだ」

先輩「ところがお前はこっちの世界のルールに鞍替えする契約書にサインしちまったわけ」

先輩「ここじゃ契約ってのは重いんだよ。その契約でお前は絶対服従ってルールを飲んじまったんだよ」

51: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 10:21:14.12 ID:WKYUDUU20.net
男「嘘だろ……」

先輩「マジだよ。まあ、メイドはお前を馬鹿にしてっけどな、そもそもお前みたいなのを騙してくるための奴隷狩りなのさ」

男「ずいぶん詳しいですね」

メイド「ほとんど私が教えてあげた話じゃないのさ」

男「そうなんですか?」

メイド「そっ。私は本邸で働いてるから色々耳に入って来るのよ。お嬢様とお友達との会話だとか、古株の愚痴とかね」

メイド「ていうかさ、その敬語やめない? 他人行儀でダメだわ、私」

先輩「だな。どうせ俺らみんな奴隷に変わりねえんだしな」

男「……わかったよ、これでいいだろ?」

メイド「おっけー♪ で、その奴隷狩りね、あの子達が大人になった時にやる儀式なわけ」

男「儀式?」

52: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 10:29:35.12 ID:WKYUDUU20.net
メイド「んー、今この世界ってね、人間がすごい減ってるのよ。なんでだと思う?」

男「食糧事情が悪いとか?」

メイド「それもなくもない。でも一番大きいのはね、単純に生まれるよりも死ぬ数の方が多いからよ。なんでだと思う?」

男「まさか」

メイド「そのまさか。あいつらがバンバン殺すのよ。大した理由もなく。酷い時には街一つ潰したりしてね」

先輩「あいつらには遊び感覚なんだよ。特に何百年、何千年と長生きしてる奴ほどどうかしてる。イカレてんだよ」

メイド「私なんてなんとなくで両親と弟殺されてるからね」

先輩「うちは母親とジジとババが殺されたなぁ。ちなみに殺ったのは両方うちのお嬢様の母親だ」

男「……酷すぎる」

メイド「慣れるわよ。慣れない子は死んじゃうだけ」

男「憎くないのか?」

メイド「ないわけないじゃない。殺せるならとっくに殺してるわよ」

先輩「できねえ以上は妥協して、今できる幸せを求めるってのが俺らの選択って事だ」

53: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 10:32:35.56 ID:WKYUDUU20.net
メイド「ていうわけで、少しでも奴隷の減少防止に貢献するため、自分の奴隷を自分で捕まえてくるのが大人になった証ってわけ」

メイド「どう? すごく馬鹿みたいでしょ? 散々自分達で殺しておいて何言ってんのって話よ」

メイド「おまけに契約は相手の意思でさせなきゃいけないってわけ。騙すのはアリでも強制はなし」

男「そう言われると笑えて来るね。騙された俺も含めてワンセットで」

メイド「でしょ? ……と、そろそろヤバいわね。私もう戻るわ」

先輩「おう、しっかり頑張れよ」

メイド「そっちもね」

男(もしかすると、この二人って……)

先輩「ん? なんだよ」

男「いや、なんでも。……やっぱりどんな世界にも、いい人ってのはいるなと思っただけ」

先輩「訳わかんねえ奴だな。ほら、次行くぞ」

54: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 10:38:42.51 ID:WKYUDUU20.net
男「なあ、これどこに向かってるんだ?」

先輩「本邸探検ってとこだな。馬鹿みたいに広いからな、ここは」

先輩「ちなみに、ここで働いてる奴の大半は俺らと同じ奴隷身分のスレイブだ。中で働く分、身なりだけは綺麗だがな」

男「身なりだけは、ね」

先輩「ああ、結局は同じ使い捨てさ。そうなりたくなきゃ、あいつみたいになるしかない」 チラッ

執事「そこ、何をしているんですか! あなた方のせいで幼女様が社交界で中傷される事でもあればどうなるか分かっているのですか!」

先輩「偉そうだろ? あいつも昔は奴隷だったんだぜ」

男「え?」

先輩「元々は別のところで奴隷やってたらしいが、仲間を売って奴らに媚びへつらって、ああして支配する側になったってわけだ」

執事「死にたくなければしっかり働きなさい! いいですか!」

先輩「……色々な奴がいんだよ。奴らの側にも、俺らの側にもな」

55: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 10:42:52.07 ID:WKYUDUU20.net
先輩「さて、後はそうだな、うちのお嬢様の部屋でも案内してやろうか?」

男「え、大丈夫なのか?」

先輩「まさか、冗談に決まってるだろ。勝手に入ったってバレるだけで関係ない奴のクビまで飛ぶぜ、きっと」

男「いいよ、どうせ用もないし」

先輩「お前、まだ気になってんだろ」

男「気になってるっていうか、多分俺は、全部が嘘だったって思いたくないんだよ」

先輩「お前、ほんとお人好しだな。長生きできないぞ。……と、そろそろ戻るか」

男「なんで?」

先輩「どうせうちの執事様の事だ、あんな風に朝礼で言ったって事は俺らがサボってないか見に来るに決まってるさ」

76: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 17:22:50.36 ID:WKYUDUU20.net
先輩「よし、無事先回りできたな」

男「本当に来るのか?」

先輩「あいつはそういう奴さ。俺らが嫌がるならなんでもするような奴だぜ」

男「どうしたらそんな風になっちゃうのかねぇ」

先輩「そりゃお前、自分がやられた分をお返ししたいんだろうさ」

男「やり返す相手が違うでしょ。……って、二人だけでいいのか?」

先輩「あー、仕方ねえな。一応あいつも呼んでおいてやるか」

78: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 17:29:23.36 ID:WKYUDUU20.net
男「あれ、誰もいない。小屋で休んでるって言ってたよな?」

先輩「……」

男「畑にもいなかったし、あの人もどっかでサボってるのか?」

先輩「探すぞ!」 スタスタ

男「え、ど、どうしたんだよ?」

先輩「いいから!」

80: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 17:40:03.07 ID:WKYUDUU20.net
男「はあ、はあ……やっぱりどこにも見当たらないな」

先輩「あの馬鹿、先走りやがって。もう少し待ってりゃどうとでも……クソ!」

男「な、何がどうなってるんだよ」

先輩「決まってるだろ、脱走だ! すぐに報せるぞ! 黙ってたって思われりゃ俺らもまとめて処刑されるぞ!」

男「え、えええ!?」

82: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 17:48:37.44 ID:WKYUDUU20.net
執事「ほう、脱走ですか。それは面白い事を考えますね。報告ご苦労様です、あなた方はしっかり働いてください」 スタスタ

先輩「……クソ!」

男(脱走って、つまり逃げ出したって事だよな。そうか、俺には逃げる先もないけど、他の人にはあるんだな)

男「無事に逃げ切れるといいな」

先輩「逃げ切れるわけねえだろうが。そもそもんな事ができるなら俺が真っ先に逃げてんだよ」

男「え、でも」

先輩「とち狂いやがって。……いいか、俺達はここに来た時にここで働くよう契約させられてるんだ。契約ってのは破れねえんだよ」

男「破れない?」

先輩「……今更どうこう言っても全部手遅れって事だ」

83: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 17:56:58.35 ID:WKYUDUU20.net
先輩「クソ! クソ! クソ!」 ザクッ ザクッ ザクッ

男(俺が口出しできるような状態じゃなさそうだな。少し離れてよう) スタスタ

幼女「あら、何をしているのかしら?」

男「……」

幼女「返事をしなさい」

男「どうも」

幼女「ふん、まだ相変わらず躾が行き届いてないようね。まあいいわ、時間はいくらでもあるものね」

男(……何を言っても無駄なんだろうな)

幼女「そうそう、奴隷が一匹逃げ出したそうね。本当、馬鹿の考える事って理解に苦しむわ。あなたは馬鹿にならないでね?」

男「……」

幼女「それにしても残念だわ。私、招待状の準備をしなくていけないの。遊んであげたかったのだけどもう帰らなくてはいけないわ」

幼女「ああそうそう、教育係の男に言っておいてくれるかしら? 命令しておいたアレ、パーティーの日までに用意しておくようにってね」

幼女「それじゃあ、ここでの生活を楽しんでね。お、に、い、ちゃ、ん?」 スタスタ

男(悲しいな。あのいつも元気で可愛かった幼女ちゃんが、あんな風になっちゃったなんて)

86: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 18:06:11.24 ID:WKYUDUU20.net
男「あの、先輩」

先輩「あぁ? 何か用かよ!」 ザクッ ザクッ

男「さっきそこで幼女ちゃんに会って、先輩にパーティーの日までにアレを用意しておけって言うように」

先輩「パーティー? アレ? ……な、なあおい、他に何か言われなかったのか?」

男「何かって?」

先輩「だから、お前について何をどうするとか言ってなかったのかよ!!」 ガシッ

男「と、特には何も」

先輩「……嘘だろ」 ズルズルッ

先輩「クソ、クソ、クソ、クソッ!! クソォォォォォッ!!」

男「おい、どうしたんだよ?」

先輩「やってられるかよ、ちくしょう……どうすりゃいいんだよ、クソ、クソォ!!」

88: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 18:19:21.05 ID:WKYUDUU20.net
先輩「悪ぃな、取り乱して」

男「いや、それは別に構わないけど何があったんだ?」

先輩「……だいぶ前にな、あのお嬢様の気まぐれで花を育てる事になったんだよ」

男「花?」

先輩「ああ。えらく立派なやつだ。馬鹿みたいでデカい真赤な花びら、南の方のもんらしい」

先輩「なんでも自慢されたんだとさ、こんな珍しいものお前のとこにはないだろってな具合にな」

先輩「奴らの頭ん中はそんな事しか詰まってねえ。くだらねえ贅沢、くだらねえ見栄。そのために俺達を苦しめやがる」

男「で、その花は?」

先輩「種があっても育つわけがねえだろ、南の花なんて。大体俺らにとっちゃ花なんてそこらに咲いてるだけのもんだぜ?」

先輩「育てた事もなけりゃ飾った事もねえ、最初からうまくなんていくはずねえのさ」

男「ならもっと早くちゃんと話しておけば、幼女ちゃんだって」

先輩「あぁ!? どうにかなると思うのかよ!? てめえの目にはあいつらがそんなお優しい連中に見えるのかよ!?」

男「……」

90: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 18:29:59.13 ID:WKYUDUU20.net
先輩「はは、俺の人生もここで終わりか。せめて執事の野郎でもぶち殺してから死んでやるか」

男「なあ。パーティーってのはいつやるんだ?」

先輩「そんな事聞いてどうすんだよ。今から花でも育てようってか?」

男「いいから」

先輩「……そうだな、早くても2週間後ってとこだろ。奴ら、パーティーなんぞ開くとなれば他の連中に舐められないよう必死だからな」

男「時間は問題ない、か。後は見本と素材が手に入るかどうかだな」

先輩「はあ? てめえ人の話聞いてたのかよ? もうどうにもなんねえんだよ! 手遅れなんだよ!」

男「先輩。先輩は言ったよな、今できる幸せを求めるのが自分の選択だって」

先輩「だからもうどうにもなんねえんだよ!! あの花は俺らの手の届くような値じゃねえ、芽も出ねえ! もう手は尽くした!!」

男「まだやれる事はある。もしかしたら失敗するかもしれないが、まあ、その時は俺も一緒に謝ってみるよ」

先輩「お前って奴は……ちっ、なら早く計画を聞かせろよ、時間がねえんだぜ?」

男「ああ、具体的にはこうしようと思うんだ。まずは――」

95: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 18:38:37.80 ID:WKYUDUU20.net
メイド「――言われた物なら多分この倉庫にあると思うけど、ねえ本当に大丈夫なの?」

先輩「今はこいつの言葉を信じる以外にねえんだ、さっさと鍵を開けてくれ」

メイド「……うん」 ガチャ ガラガラ

男「うわ、これは凄いな! 店でも開くつもりなのかな」

先輩「本当にできるんだな?」

男「後は見本さえあれば多分ね」

先輩「……確か、お嬢様の部屋に植物図鑑ってのがあったな」

メイド「私、盗んで来ようか? 私ならお嬢様の部屋に入ってもおかしくないし、見つかってもなんとか言い訳できるかも」

男「俺が行くよ。一度見るだけでいける。案内してくれ」

先輩「俺は必要なもんを倉庫から運び出しておくぜ」

男「うん、頼んだよ!」

96: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 18:46:11.32 ID:WKYUDUU20.net
メイド「この部屋がそうよ」

男「よし、行ってくる」

メイド「誰か来たらすぐ隠れるのよ。もし見つかったら楽に死ねないと思った方がいいわ」

男「あ、あんまり脅かさないでくれよ」

メイド「あんたがあいつのために色々してくれるのは嬉しいけど、覚悟くらいはしておいて欲しいのよ。じゃないと夢見が悪いじゃない」

男「……ありがと。君はきっといいお嫁さんになれるよ」

メイド「何それ、馬鹿じゃないの?」

男「おかしいなぁ、こう言うと大抵の女の子は喜ぶんだけど」

メイド「子供じゃあるまいし。もう、いいからさっさと入ってさっさと出てきなさい!」

男「了解」 ガチャ

98: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 18:53:06.32 ID:WKYUDUU20.net
男(これは、多分何もかも相当な高級品なんだろうけど、桁が違いすぎて全然分からない)

男(ていうか部屋広すぎるだろ。カーペットもふわふわすぎて雲の上みたいだし、これ何百万円くらいするんだ……)

男(と、今はそれどころじゃなかったな。本棚は、ってベッド際の壁全部が本棚か)

男(あのベッドのカーテン、天蓋とかって言うんだっけ。本物を見たのは初めてだな。と、今は図鑑だな)

男(あれ? よく考えたら俺、ここの字読めないし図鑑の探しようもないんじゃ……と、とにかく分厚い本が並んでいる辺りを探そう)

男「……」 ペラ ペラ ペラ

男(違う、これも違う。ああクソ、そうこうしてる間に誰か来たらどうするんだよ)

男(ああ、まずい。段々自信が無くなってきた。あんな大見得切るんじゃなかった)

男「あ。あった!」

男(これだ! この図鑑のどこかに……って、だから俺文字読めないんだってば!)

男(赤い花なんていくらでもあるしどうすれば……ん、このページだけ開き癖が付いてる?)

男「もしかして、この花が?」

99: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 18:58:45.27 ID:WKYUDUU20.net
男(よし、これで色や形はしっかり覚えられた。後は実践あるのみだな) パタン

幼女「ん……」 ゴソッ

男「え?」

幼女「すぅ……すぅ……」

男(よ、幼女ちゃん? まさか最初からベッドで寝てたのか?)

男(もし途中で目が覚めたりしてたらどうなってたか。はあ、危なかったな)

男(でも) スッ

幼女「すぅ……」

男(間近で寝顔を見ると、向こうの世界で会った時と同じで、まるで天使みたいだな)

幼女「ん、んん……」 スッ

男「え?」

100: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 19:10:36.41 ID:WKYUDUU20.net
幼女「ん……お兄ちゃん……?」

男(ま、まずい、早く誤魔化さないと! でもこの状況、どうやっても誤魔化しようが……)

幼女「どうしたの……お兄ちゃん……?」

男「な、なんでもないよ。ほら、おやすみ」 ナデナデ

幼女「ん、おやすみなさい……」 スゥ

幼女「すぅ……すぅ……」

男「……」

男(危うく命がまるっとなくなる所だった)

幼女「ん……」

男(でもさ、やっぱり俺にはこの笑顔も全部が偽物だなんて思えないんだよな)

男(俺の勝手な思い込みのかな)

男「……またね、幼女ちゃん」 スタスタ

102: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 19:17:28.84 ID:WKYUDUU20.net
男「元々はこれも、子供達に喜んで欲しくて始めたんだ」 チョキチョキ

男「他にも手品だとかリフティングだとか逆立ちだとか、子供が喜びそうな芸を練習してさ」 スススッ

男「やっぱり知らない大人がいきなり一緒に遊ぼうなんて言っても、怪しがられるだけだからね」 クククッ

男「おかげで子供達とは仲良くなれたけど、大人からは相変わらず不審者扱いだったなぁ」 ペタペタ

男「はい、一本目の完成」

メイド「え、何? 今のどうやったの?」

先輩「言葉も出ねえな」

男「まだディティールは荒いけど今日中にもう少し詰めておくから」

先輩「……これならいけるかもしれねえな。頼んだぜ、新人!」

男「何言ってるんだよ、先輩も作るに決まってるでしょ?」

先輩「お、俺も?」

男「こういうのは数と質が勝負なんだ。俺と同じレベルで作れるようになるまでやってもらうからね」

先輩「お、おう、任せとけ!」

103: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 19:26:13.02 ID:WKYUDUU20.net
先輩「ど、どうだ?」 サッ

男「ダメ」


先輩「これならどうだ?」 サッ

男「さっきよりはマシだけどダメだな」


先輩「これでどうだ!」 サッ

男「さっきより悪くなった」

先輩「あ? おいふざけんじゃねえぞ、これじゃあちっとも進まねえじゃねえか! こっちは命掛かってんだぞ!?」

男「適当な物を子供達に見せるくらいなら死んでしまえ!」

先輩「お、お前性格変わってねえか?」

男「いいから早く作業を再開しろ!」

先輩「お、おう……」

105: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 19:29:58.20 ID:WKYUDUU20.net
先輩「はあ、はあ……こ、これでどうだ?」 サッ

男(形は十分に再現されてる。触っても簡単に崩れたりもしない)

男「うん、合格!」

先輩「よっしゃああああああああああ!!」

男「後はこの質を維持してガンガン作ってくれ」

先輩「おう、任せとけ!」

113: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 20:10:22.37 ID:WKYUDUU20.net
執事「さて、パーティーまで後数日です。幼女様のため今日もしっかり働いてください。以上、解散です」

先輩「んん……」

男「はあ……」

執事「あなた方、ずいぶん眠そうですね。その調子で働けるのですか?」

先輩「問題ないでさー、執事様」

執事「ふん。もし何かあればタダでは済みませんよ」

先輩「大丈夫ですって。俺らは俺らで仕事してますからそっちのパーティーの準備を頑張ってくださいよ」

先輩「ほら、行こうぜ新人」

男「うん」 スタスタ

執事「……気に食わんな」

114: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 20:17:00.26 ID:WKYUDUU20.net
先輩「ってぇ!?」 ブスッ

男「大丈夫か?」

先輩「ああ、すまねえ。またやっちまった。……なあ、これで本当に大丈夫だと思うか?」

男「分からないよ。それでも信じてやるしかない、そうだろ?」

先輩「そう、だな。悪ぃ、弱気になっちまった」

男「いいさ。俺達は一蓮托生、死ぬ時は一緒だろ?」

先輩「馬鹿、恥ずかしいこと言ってんじゃねえよ」

メイド「……差し入れ持ってきてやったのに、何二人でいちゃついてんのよ」

男「はは、二人で延々作業してるせいでハイになっちゃってるみたい」

先輩「お前も一緒に作るか? 結構ハマるぜこれ」

メイド「いいから黙って手を動かしてなさいよ。まったくもう」

117: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 20:23:00.98 ID:WKYUDUU20.net
先輩「そういやそっちの様子はどうなんだ? あの執事様、相変わらず喚き散らしてんだろ?」

メイド「馬鹿みたいに張り切ってるわよ。ま、あいつの場合は自分の仕えてる主の評価が自分の評価みたいなもんだからね」

男「そうなの?」

メイド「そうみたいよ。まあ私も詳しい話は知らないけどね」

先輩「俺らよりはマシってだけなんだよ、結局あいつもな。つーか今はそういう余計な事考えたくねえな、疲れたぜ」 ゴロッ

メイド「ちょ、ちょっと! 人前でやめてよ!」

先輩「へへ、いいじゃねえか。たまにはお前の膝で寝かせてくれよ」

メイド「み、見られてるじゃないの!」

男「俺は何も見てないよ」

メイド「見てるじゃないの! ああもうバカ、私もう帰る!」 スッ

先輩「うおっ、痛っ!? お、おい待てって、悪かったよ! 俺が悪かったって!」

男「あははっ」

119: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 20:30:05.44 ID:WKYUDUU20.net
先輩「よし完成、と。……悪ぃ、もう限界だ」 バタンッ

男「俺もこれが完成したら寝るよ」

先輩「ああ。……いよいよ明日だな」

男「うん、明日だ」

先輩「明日で俺らの運命が全部決まっちまうのか。あーちくしょう、子供欲しかったなぁ」

男「まだ死ぬって決まったわけじゃないだろ? そのために今日まで頑張ってきたんだから」

先輩「今の内に謝っておきてえことがある」

男「何さ?」

先輩「俺な、最初はお前を利用するつもりだったんだよ」

男「利用?」

120: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 20:35:25.75 ID:WKYUDUU20.net
先輩「成人の儀で捕まえて来られた人間ってのはな、出世する奴が多いんだとよ」

先輩「奴隷なんてすぐに抜け出して、あっという間に支配する側なんて奴もいるらしい」

先輩「だからお前があっち側だって知った時は『チャンスだ!』と思ったもんだ」

先輩「せいぜいお前に恩を売っとけば俺も取り立てて貰えるかもしれねえだろ?」

先輩「そうすりゃ花の事なんてチャラで、俺の生活も安泰なんて具合に考えてたんだよ」

男「それは残念だったな。俺は見ての通りだよ」

先輩「ああ。見ての通り、最高のダチだ」

男「え?」

先輩「なんてな、お前もさっさと寝ろよ」

男「……ああ、おやすみ」

124: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 20:46:37.40 ID:WKYUDUU20.net
執事「さて、おはようございます皆さん。と言っても、今では二人だけでしたね。くくっ」

先輩「おはようござーます、執事様」

執事「よろしい。さて、今日はお嬢様の成人祝賀パーティーの日ですね」

執事「お嬢様から話は聞いていますよ。ぷっ、くくっ、今日があなたの命日だそうですね」

先輩「……」

執事「あの畑に花など一輪も生えてはいないのだから、仕方がないですよねぇ?」

執事「ああ、安心してください。あなたには散々手を焼かされましたから、私が自ら首を刎ねて差し上げましょう」

先輩「ふん、まだ分からねえぜ?」

執事「何だと?」

125: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 20:53:53.10 ID:WKYUDUU20.net
男「……これです」 スッ

執事「こ、これは!? う、嘘だ、そんなはずはない! どうしてお前らがその花を!?」

男「これは造花ですよ」

執事「造花だと? いや、確かに手触りが……これは布か?」

男「はい。布と糸と糊で造られた花です」

先輩「あんたが騙されるくらいだ、なかなかのもんだろ?」

執事「造花、造花か。なるほど、実にくだらんな」 バサッ

先輩「なっ、おい!!」

執事「所詮はただの偽物だろうが!」 グシャッ

執事「失敗を、誤魔化すための、作り物!」 グシャッ グシャッ グシャッ

執事「そんな物でお前の失敗が許されるとでも思ったか? あぁ!?」 グシャ

先輩「てめぇ、よくも俺達の花をっ!」 ガシッ

執事「汚い手で、私に触るんじゃないっ!」 ゴスッ

先輩「ぐっ!?」 ヨロッ

126: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:01:58.28 ID:WKYUDUU20.net
執事「いいか、俺はなッ!! 貴様ら虫けらとはッ!! 違うんだッ!」 ドゴッ ドゴッ

先輩「ぐっ、ぐぇっ、おっ」 ビグッ

執事「いずれはッ!! 独立しッ! 貴族としてッ! 貴様らをッ! 従えるッ!!」 ドゴッ ドゴッ

執事「その器ッ! なんだよッ! わかるかッ!? おいッ!!」 ドゴッ ドゴッ

男「や……やめろっ!!」 ガシッ

執事「あぁ!?」 ギロッ

男(こんな奴に何を言っても無駄だって事は俺だって分かる。でも、こんなの……)

男「こんなのおかしいだろ!」

執事「おかしい? くくっ、自然な事だろう。私は人間、お前達は虫けら。虫を踏み潰して歩く事をためらう人間がどこにいる?」

先輩「俺達は、虫じゃねえ。……人間だ」 ガシッ

執事「このっ、離れろ! この虫どもが! クソ、この!」

127: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:09:27.61 ID:WKYUDUU20.net
幼女「……いったい何を騒いでいるのかしら?」

執事「あぁ!? ……お、お嬢様、これは見苦しい所をお見せて申し訳ありません!」

幼女「それで、それはどういう事なのか説明してもらえるのかしら?」

執事「じ、実はですね、この者達が失敗を誤魔化そうとくだらぬ小細工をしたものですから少々躾をしていまして」

先輩「こ、小細工じゃねえ。つ、潰れちまったが、花を、この花を……」

幼女「花? ……これは」

男「まだ何百本も用意してあります」

幼女「そう。新しい物を1本持ってきてくれるかしら?」

男「は、はい!」

執事「し、しかしお嬢様!」

幼女「そこに跪きなさい」

執事「う……く……っ」 スッ

129: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:14:08.20 ID:WKYUDUU20.net
男「これです」 スッ

幼女「……」 サワッ

執事「そ、そのような粗悪な偽物、お嬢様の目に触れさせるのも申し訳ないと思い!」

幼女「そう、あなたなりに私を思いやってくれたというわけね」

執事「はい、そうなのです!」

幼女「実に見る目がないわね」

執事「は?」

幼女「偽物であるから価値がない、なんて安直な事を考えてあなたは喚き散らしていたのかしら?」

幼女「その薄汚れた目をよく開いて御覧なさい。本物の美しさをより輝かせた偽物の美しさを」

執事「し、しかしこのような者達が作った物など、とてもお嬢様に見せられる物では!」

幼女「ふ、ふふふっ! あなたが私の審美眼を疑うの? あなた如きが? ふ、ふふふっ!」

執事「ち、違います!? そのような意味では決してありません!」

幼女「いいえ、いいのよ。私如きではあなたの主には相応しくなったというだけの事よ。……さようなら」

執事「ひっ!?」

130: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:20:41.39 ID:WKYUDUU20.net
執事「ど、どうかお赦しを! 違うのです、そのようなつもりではなかったのです!」

幼女「私はあなたを咎めたりなどしていないわ。あなたは自由なのよ? どうぞどこへなりともお行きなさい」

執事「お赦しを! お赦しを!」

幼女「それにしてもおかしいわね。どうしてこんな所に関係のない人がいるのかしら?」

執事「どうかご容赦を! せ、せめて紹介状を! お目障りと言うのならどこ屋敷へでも行きますので!」

幼女「ねえ、そこのあなた。この人を外へ連れて行ってくれるかしら?」

先輩「お、俺ですか?」

幼女「ええ。お願いできる?」

先輩「それはもう喜んで! ……おい、行くぞ」 ガシッ

執事「い、嫌だ! 私は、俺は、こんな所で終わる人間じゃ! い、嫌だ、嫌だぁぁぁ!!」

幼女「安心して。契約書は私で処分しておくわ」

執事「あ、ああ、あああああああああああああああああああっ!!」 ズルズルッ

134: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:30:20.35 ID:WKYUDUU20.net
幼女「綺麗な花ね」

男「……幼女ちゃん」

幼女「初めて会った時も、お兄ちゃんはお花をくれたね」

幼女「とっても綺麗なお花で私、すっごく嬉しかったの」

幼女「懐かしいなー」

男「ねえ、なんで俺を連れてきたの?」

幼女「さあ、なんでだったかな」

幼女「ふふっ、忘れちゃった」

先輩「放り出して来ましたぜ! いやあ、あの泣きっ面! 他の連中にも見せてやりたかったな!」

幼女「ご苦労様。この造花に香水を噴き付けておいてもらえるかしら? 何の匂いもしないのでは味気ないでしょう?」

先輩「はい!」

135: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:35:31.54 ID:WKYUDUU20.net
幼女「後は執事に言って屋敷に飾らせて……あら、そういえばもういないのだったわね」

幼女「そうね、あなた。今日からあれの代わりをしてくれる?」

先輩「おおおおお、俺がですか!?」

幼女「だって困るでしょう、誰かが代わりをしてくれないと。嫌だと言うなら別のを探すけれど」

先輩「い、いえ、喜んで!!」

幼女「そう、でもそうなると奴隷があなた一人だけになってしまうわね。あなたにも別の仕事を与えないと」

男「いえ、別にいいですよ。奴隷も板に付きましたから」

先輩「おい馬鹿! ここは素直に肯いとけ!」

幼女「こんな反抗的な奴隷、あなたも使い勝手が悪いでしょう?」

先輩「ええ、まったくですよ!」

幼女「本邸に来なさい。そこであなたに新たな仕事を言い渡すわ、お兄ちゃん」 スタスタ

137: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:41:17.52 ID:WKYUDUU20.net
先輩「お」

先輩「おおおお!」

先輩「うおおおおおっ! マジか、これマジか! 夢? 夢なのか! 夢じゃないよな!? おい、ちょっと俺の頬叩いてくれ!」

男「うん」 バシッ

先輩「痛……痛くねえ! 全然痛くねえ! もう一回頼む、本気で!」

男「いいの?」

先輩「いいから」

男「せい!」 バシーンッ

先輩「い」

先輩「痛ぇ!? マジだ! これマジだ! マジのやつだ!!」

先輩「うおっ、うおおおおおおおおおおおおおおおっ!! よっしゃああああああああああああああっ!!」

138: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:46:14.39 ID:WKYUDUU20.net
先輩「うおおおおおおおおおおおおっ!」

メイド「やっほー」

男「あ、メイドちゃん」

メイド「ちゃん付けはやめて、呼び捨てでいいから」

先輩「メイド! メイド! 俺、俺さ、俺、俺!」

メイド「ああうん、話はお嬢様から聞いてる。とりあえずあんたらを案内するようにって言われてるから」

先輩「やった! やったぞ! 子供は5人な! 5人作ろうな!」 ギュッ

メイド「ちょ、お、落ち着いてよ! ああもう、いいから行くよ!」

男(新しい仕事、か)

男(今度はいったい何をさせられるんだろう……嫌な予感しかしないな) スタスタ

139: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:56:43.89 ID:WKYUDUU20.net
男「はあ……」

男(久しぶりの風呂に入れられて、えらく立派な服を着せられたけど)

男(落ち着かないな。何が落ち着かないって)

貴族幼女A「私なんてまだ成人の儀なんてとてもできないわ」

貴族幼女B「そうですよね、向こうの世界は危険だって言いますし」

貴族幼女C「私はもうすぐ出発する予定なの。見ていて、極上の奴隷を捕まえてみせるわ」

男(パーティーの来客が従者を除けば幼女しかいないって所だ)

男(ああ、可愛がりたい、もてなしたい、笑わせてあげたい!)

男(でも中身はみんな見た目通りじゃないなんて、ああ! クソ! 落ち着かない!)

母幼女「皆様、本日は娘の成人祝賀パーティーにご出席いただき、真に感謝しているのじゃ」

母幼女「初めて娘がやって来た日から今まで、一瞬のようにも永遠のようにも思えるが」

母幼女「子の成長を見守る以上に愉快な事もなかなかないものじゃな」

男(あの子が先輩とメイドの家族を殺したっていうんだから、何も信用できないよな……)

142: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 22:10:22.58 ID:WKYUDUU20.net
母幼女「しかし長々と挨拶をしていても始まらぬからの」

母幼女「娘から話があるそうじゃ、そろそろ代わるとしようかの」

幼女「……お母様のお話も大変面白かったのですが、私からもお話したい事がありますので」

先輩「おい」

男「え、もしかして先輩?」

先輩「当たり前だろ、誰だと思ったんだよ」

幼女「……このたびのパーティーは私の成人を祝うものでありますが、それと同時に……」

男「いやだって、あんなに髭モサモサだったのに」

先輩「そんなナリじゃ執事なんて勤まらねえよ。ほら、お前の出番だぞ」 グイッ

男「え、ちょ!?」

幼女「私の専属奴隷を紹介しようと思います」

先輩「今だ」 ドンッ

男「え、ええ!?」

幼女「私が向こうの世界で捕まえてきた奴隷の男です。私は彼を専属奴隷とします」


幼女の帝国~奴隷脱出編~ 終

159: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 23:04:21.62 ID:WKYUDUU20.net
幼女「はあ。お客様の相手も疲れるわね、まったく」

男「ね、ねえ幼女ちゃん、どういうこと? 専属って?」

幼女「そうね、まずは正式な契約を結んでおきましょうか」 ピラッ

男「……」

幼女「そんな風に警戒しなくていいわ。これはあなたにとって得しかないものだから」

男「そんな風に言われてはいそうですかって言うと思う?」

幼女「言わないでしょうから、これから説明してあげるわ」

163: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 23:18:03.25 ID:WKYUDUU20.net
幼女「専属奴隷契約は、そうね、結婚みたいなものかしら?」

男「け、結婚!?」

幼女「大袈裟に言えばそうなるわ」

男(結婚って、つまり俺が幼女ちゃんと夫婦に? いやいやいや、それはない!)

幼女「脱奴隷宣言なんて言い方もできるわね」

幼女「今のあなたは私達の誰でも命令されれば従ってしまうわ。お母様にされた命令、覚えているかしら?」

男「……忘れるわけないだろ」

幼女「この契約をすれば、あなたは私の命令以外は受け付けなくなるの。素敵でしょう?」

男「話が上手すぎるね」

幼女「そう。だからこの契約、私達一人に付きあなた達一人としかできないの。だから結婚みたいなもの」

男「俺でいいの?」

幼女「あなたじゃなきゃ嫌なの」

男「……俺は、幼女ちゃんが分からないよ」

166: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 23:26:51.98 ID:WKYUDUU20.net
男「どうして俺をここに連れてきた?」

男「どうして俺を契約させようとする?」

男「君は何がしたいんだ?」

幼女「いいじゃないの、そんな事はどうでも」

男「そんな事って」

幼女「ねえお兄ちゃん、この世界はそんな風に考えて生きていく必要なんてないの」

幼女「何も考えなくてもいいし、私達はいつでも自由なの!」

幼女「私はただお兄ちゃんに聞いているだけだよ? 私の物になるか、みんなの物でいるか」

幼女「お兄ちゃんがどうしても嫌だって言うなら、私止めないよ? お兄ちゃんを捨てるだけ」

幼女「ねえ、どうするの? お兄ちゃん」

男(幼女ちゃんの言葉は強いのに、目を見ているとなんだか縋られているような気分になる)

男(なんでなんだろう)

男「……わかった、契約するよ」 サラサラ

167: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 23:31:33.73 ID:WKYUDUU20.net
幼女「ふふっ、やっぱり! お兄ちゃんならきっとそうすると思ったの!」 ギュッ

男「うわっ!?」

幼女「ねえ、お布団に連れて行って」

男「う、うん」 ダキッ

幼女「ふふふっ、お兄ちゃんはこれからずっと私と一緒だよ!」 スリスリ

男(この無邪気な幼女ちゃんと、冷たい幼女ちゃん。どっちが本当の幼女ちゃんなんだろう……)

169: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 23:36:53.98 ID:WKYUDUU20.net
幼女「世界は契約で成り立っている」

幼女「私達は生を受けた時から神との契約を結び、死を迎える時までそれは続く」

幼女「それにより私達は絶対的な権利を持ち、老いを迎えない」

幼女「その特権は誰にも引き継がれない。私達は子供を産まないから」

幼女「そうして神は不老のヘイズをお作りになり、それに仕える者としてハンバーをお作りになられた」

幼女「ここまで何か質問はあるかしら、お兄ちゃん?」

男「あの、なんで俺は朝から授業を受けてるの?」

幼女「私の専属が無教養では私が恥を掻いてしまうでしょう? 質問がないのなら続けるわ」

172: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 23:44:08.50 ID:WKYUDUU20.net
幼女「そしてヘイズは上流貴族、下級貴族の二種類に分けられるわ」

幼女「大まかに千年以上を生きた者が上流、それ以下は下流ね」

幼女「まだ若輩者の私はヘイズの中では下流貴族に属するわ」

幼女「そしてハンバーは市民、奴隷の二種類に分けられるわ」

幼女「私達からすれば両方奴隷に過ぎないけれど、ハンバーの事情はまったく違うようね」

幼女「市民は貴族側。それがハンバーの総意みたい」

男「はあ、なるほど」

幼女「退屈して来たようね、今日の授業はここまでにするわ。……あーあ、疲れちゃった! お兄ちゃん、おままごとしよ?」

男「え? お、おままごとはちょっと」

幼女「えー! じゃあいつもの手品見せて!」

男「トランプ持ってないんだよ」

幼女「もー、お兄ちゃん使えない! なんてね、ふふふっ」

男(なんだか複雑な気分だな。……俺はこれから幼女ちゃんとどう接していけばいいんだろう)

174: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/17(火) 23:52:39.15 ID:WKYUDUU20.net
先輩「あぁ? そりゃお前、手籠めにしちまえば? 女なんて手籠めにしちまえばイチコロよ」

メイド「最低」 男「殺すぞ?」

先輩「か、軽い冗談じゃねえか。お前ら目が完全に本気だぞ」

メイド「他のいい男探しちゃおうかな」

男「俺はね、子供に手を出す 犯罪者がこの世の一番嫌いなんだよ」

先輩「は、ははは……悪かった、許してくれ」

メイド「この馬鹿は放っておくとして、あんた本当に専属になっちゃったんだもんね」

男「専属ねぇ。幼女ちゃんと遊んでるってだけにしか思えないんだけど」

先輩「はは、あれと遊ぶね。お前、大物になるよ」

男「市民とか?」

先輩「……まあ、そうだな」

使用人「あ、お、男様! 幼女様がお呼びです!」

男「ああ、今行くよ!」 タッタッタッ

先輩「まったく、知らないってのは怖ぇな」

178: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 00:00:18.08 ID:7loPBTQF0.net
幼女「お兄ちゃん、一緒にお昼ご飯食べるって約束したでしょ!」

男「ごめんね、幼女ちゃん」

幼女「もう、次は許さないからね!」 プンプン

給仕「お嬢様、お食事をお持ちしました」

幼女「そう。あなたも座りなさい」

男「うん」

男(この切り替えにもなれなきゃいけないんだろうな)

給仕「……」 カチャ カチャ

幼女「ねえ、このスープ冷めてるように見えるのだけど」

給仕「え? あ、も、申し訳ありません!」

男「ああ、ごめんね。俺が話し込んでたせいで」

給仕「申し訳ありません!」

幼女「そういえばお母様の知り合いが丁度給仕を探していたのよ、紹介してあげるわ」

給仕「は、母幼女様の!? お、お赦しください、どうかお赦してください!」

180: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 00:09:31.01 ID:7loPBTQF0.net
男「よ、よく分からないけど許してあげたら? 元はといえば俺が悪いんだし」

幼女「……男に感謝しなさい」

給仕「ありがとうございます、ありがとうございます!」

男(なんで俺、こんな猛烈に感謝されてるんだろう)

幼女「行きなさい」

給仕「し、失礼しました!」 スタスタ

男「あの、幼女ちゃん」

幼女「わぁ、美味しそう! お兄ちゃん、はやく食べよ? いただきまーす!」

男「……いただきます」 モグモグ

男(元の世界にいた頃とは比べ物にならないくらい贅沢な生活はしてるけど)

男(何だろう。奴隷だった頃以上に今の生活に違和感があるのはなんでなんだろう)

183: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 00:18:35.63 ID:7loPBTQF0.net
幼女「ん……眠くなっちゃった……」 ゴロッ

男「そっか」

幼女「お膝……あったかい……」 

男「うん」

幼女「撫でて……」

男「うん」 ナデナデ

幼女「ふふ……くすぐったい……」

男(子供と遊んでで毎日暮らすなんて俺の理想そのものなんだけどな)

幼女「私、知ってるんだよ……お兄ちゃんが私の部屋に入ったこと……」

男「え?」

幼女「ふふ……でも許してあげる……特別だよ……ん……」

男(特別、か。そう言われるのは凄い嬉しいけどさ)

男(じゃあ、俺以外の特別じゃない人が同じ事をしてたら、幼女ちゃんはどうしてた?) ナデナデ

184: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 00:24:08.95 ID:7loPBTQF0.net
幼女「すぅ……すぅ……」

男(何度見ても可愛い寝顔だな。……でも今すごくトイレに行きたいんだよなぁ)

男「ごめんね、幼女ちゃん」 ソーッ

幼女「ん……」


男「ふう」 ガチャ

男(部屋に戻って幼女ちゃんが目覚めるまで待つのもなぁ)

男「あ、給仕さん!」

給仕「ひっ! ご、ごめんなさい! 許してください!」

男「やだな、怒ってるわけじゃないよ。さっきはごめんね、俺のせいで」

給仕「い、いえ、全部私が悪いんです。これからは気を付けます」

男(なんで俺、こんなに恐縮されてるんだろ)

男(そういえば奴隷やってた時も、先輩とメイド以外とは全然話した事なかったっけ)

男「今時間ある? 少し話がしたいんだけど」

給仕「え、で、でも……」

男「先輩には俺から話しておくから。先輩は執事と違って話の通じる人だから大丈夫だって。ね?」

186: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 00:31:22.41 ID:7loPBTQF0.net
男(なんて強引に誘ってみたものの……)

給仕「……」

男「……」

男(すごい気まずいな)

男(そうだよな、よく考えたら俺って元奴隷でいきなり偉くなったみたいだし、あの執事とかと同類に見えるか)

男「あー……俺、元々は凄い普通の家に住んでててさ、普通に暮らしてたんだよ」

給仕「は、はい」

男「でも俺さ、ちょっと変わってる所あるから両親にも煙たがられてて、だからあんまり元の世界が恋しくないっていうか」

男「だからって別にこの世界が好きなわけでもないっていうか、好きになるほどよく知らないっていうか」

男「あー、とにかく君の話が聞きたいんだ。ダメかな?」

給仕「……」 ポカーン

男「あれ、俺なんか変な事言った?」

給仕「い、いえ。……ただ、少し変わっていらっしゃるなって」

男「うん。よく言われる」

187: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 00:38:46.47 ID:7loPBTQF0.net
給仕「私も、少し前までは普通に暮らしていました」

給仕「父が商人をやっていて、普通の家よりは少し裕福だったと思います」

給仕「父がお土産に本を買って来てくれるのがいつも楽しみでした」

給仕「私、お話が好きなんです。お話っていつでも知らない遠くに連れて行ってくれるから」

給仕「父の旅行話と本さえあれば他に何もいらない、そう思っていました」

給仕「……でもある日、父は殺されました」

男「うん」

給仕「父は儲け過ぎたんだって言われました」

給仕「それから……色んな事が、あって……」

給仕「今は、ここで働いています」

給仕「あの、つまらない話でごめんなさい」

男「いや、参考になったよ。ありがと」

188: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 00:41:10.17 ID:7loPBTQF0.net
男「知らない遠く、か」

給仕「え?」

男「いや、この世界そのものが俺にとっては知らない遠くなんだなと思ってさ」

男「そんな得体の知れない場所にいるのに、俺、結局この家の外には出た事もないんだよね」

男「これでいいのかなって思ってさ」

給仕「……それでいいんだと思います」

給仕「ここは、天国です」

男「そうかな」

給仕「そうですよ」

男「君がそう言うならそうなのかもね。うん」

給仕「それ、なんか変ですね。なんだか……っ」

男「ん?」

幼女「……」

男「起きたんだ、幼女ちゃん。お腹空いてる? 何か食べ物でも……」

幼女「私の専属奴隷とずいぶん楽しそうにお話しているのね、あなた」

191: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 00:51:02.02 ID:7loPBTQF0.net
給仕「も、申し訳ありません!」

幼女「どうして謝るのかしら? あなたが謝る理由なんて何もないでしょう?」

男「そうだよ、別に幼女ちゃんも君を責めてるわけじゃないって」

幼女「ええ、責めてるつもりなんてまったくないのよ? でも……」

幼女「あなたみたいな有能な人がこんな大した仕事もない所にいては勿体ないでしょう?」

幼女「もっと忙しい職場を紹介してあげるわ。さあ、紹介状をどうぞ」 スッ

給仕「お、お赦し……ください……」

幼女「変な事を言うのね。ほら、どうぞ」

男「よ、幼女ちゃん?」

給仕「ど、どうかお赦し……!」

幼女「……紹介状を手に取りなさい、今すぐに」

給仕「あっ、いやっ、あっ!」 パシッ

幼女「今日までお疲れ様、新しい職場で頑張って頂戴」

給仕「あ、あ……ああ……あああ……」 ガクッ

192: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 01:00:55.08 ID:7loPBTQF0.net
男「幼女ちゃん!」

幼女「どうしたの、お兄ちゃん?」

男「さっきの、どういうつもりなの?」

幼女「私よくわかんない」

男「紹介状って、つまりよそに行けって事だよね? なんでそんな事するのさ?」

幼女「お兄ちゃん、怒ってるの?」

男「だからそういう事じゃなくて、俺は理由を聞いてるんだよ!」

幼女「やっぱり怒ってるんだ。あいつのせいだ」

男「そういう話をしてるんじゃない! こんなんじゃ俺はこれから幼女ちゃんとやっていけないよ!」

幼女「う……うぅ……ひくっ、お兄ちゃんの、お兄ちゃんのバカっ!!」 タッタッタッ

男「……頼むから、子供なのか大人なのかハッキリしてくれよ」

男(幼女ちゃんの相手は後でもできる。今は給仕さんの方をどうにか引き留めよう) スタスタ

193: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 01:06:33.12 ID:7loPBTQF0.net
給仕「……」 スタスタ

男「給仕さん!」

給仕「何か、御用ですか」

男「ごめん、俺が幼女ちゃんを説得するから一旦戻ってくれる?」

給仕「ふ、ふふ、何も分かっていないんですね」

男「え? きゅ、給仕さん?」

給仕「契約、契約、契約。全部契約。この紹介状も契約なんですよ」

給仕「この紹介状を渡された瞬間からもう私に自由なんてないんです」

給仕「ほら、もう限界。体が勝手に歩いていく」 スタスタ

給仕「あなたとなんて話すんじゃなかった」

給仕「一瞬でも、楽しいなんて思うんじゃなかった」

給仕「あは、あははは……」 スタスタ

195: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 01:18:08.71 ID:7loPBTQF0.net
男(給仕さんは出て行って、幼女ちゃんは部屋に閉じこもったまま、か)

男「契約? 奴隷? ヘイズ? 神?」

男「何だよ、それ」

男(結局俺は何も分からずにただ平和ボケして暮らしてただけじゃないか)

男「こんなんじゃ、生きてるって言えないだろ」

メイド「贅沢ね」

男「メイド?」

メイド「平和に生きてるだけで喜べないなんて、贅沢もいい所よ」

男「そうかな」

メイド「そうよ。……本当はあんたに言いたい事がたくさんある。でも、私は言わない」

男「聞かせてよ」

メイド「嫌。一度言い始めたら、私は絶対にあんたを責めるもの」

メイド「はっきり言うのを避けてきた私達が悪いって分かってても責めちゃうから、私は言わない」

メイド「……じゃあね」 スタスタ

197: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 01:24:26.67 ID:7loPBTQF0.net
先輩「よう、元気か?」

男「元気じゃないかな」

先輩「だろうな。しかし、やっぱり上手くいかねえな。お前がいい感じにお嬢様の枷になってくれると思ったんだけどな」

男「役に立てなくてごめん」

先輩「いいんだよ、俺が勝手に期待してただけなんだからよ。で、お前これからどうするんだ?」

男「できるなら、給仕さんを連れ戻したい。俺のせいであんな風に追い出されて、彼女に申し訳ないよ」

先輩「やめとけ、なんて言って聞くわけないよな」

男「うん、ごめん」

先輩「はあ……これ、やるよ」

男「これ、地図?」

先輩「ああ。うちのお嬢様の母親は奴隷の仲介をやってる。給仕も一度あそこに送られるはずだ」

男「この印の場所が、お嬢様の母親の?」

先輩「俺なら絶対に行かねえ。あんな化け物と関わるなんてアホのすることだ」

男「……ありがと、行ってくる」

198: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 01:29:15.11 ID:7loPBTQF0.net
先輩「なんでお前はそう……ああ、クソ!」

先輩「おい、もし何かあったらお嬢様の専属だって言え! そうすりゃ大体の奴は縮み上がる!」

先輩「それと、あのババア……いや、お嬢様の母親だけは絶対に信用するな」

男「うん、ありがと」

先輩「……絶対に帰って来い」

男「そのつもりだよ。メイドを大事にしなよ」 スタスタ

先輩「クソ」

メイド「……付いて行きたかったんでしょ?」

先輩「んなことねえよ」

メイド「ありがとね、残ってくれて」

先輩「お嬢様、また切れるぜ」

メイド「それをどうにかするのが私達の仕事でしょ」

199: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 01:32:09.81 ID:7loPBTQF0.net
男「一人、か」

男(こっちに来てから一人になったのは、こっちで目覚めた時以来か)

男「本当、ずいぶん遠くまで来たな」

男(でも、来ただけで終わっちゃダメなんだろうな)

男(俺はこの世界の何も知らないんだから)

男「……よし、行こう」 スタスタ

男(どうか良い旅になりますように)


幼女の帝国~屋敷出立編~ 終

219: ◆cd6w9SHAriDY 2015/03/18(水) 05:58:46.99 ID:5l+joiV20.net
男「どうにか日が替わる前に町に着いたな」

男(ちらほら酔っ払いが歩いてるけど、なんだかみんな表情が暗いな)

住民「おい、あんた」

男「え、俺ですか?」

住民「そうあんただよ。あんた、もしかしてよそ者か?」

男(突然何聞いて来てるんだ、このおっさんは?)

住民「よそ者かって聞いてんだろ、答えろ」

男「……それがどうかしたんですか?」

住民「ああクソ! なんだってこんな町に来ちまうんだ! ……おいお前ら、よそ者だぞ!」

男「はあ? な、何ですか急に?」

住民「よそ者は市民様の所に連れていくのが町のルールなんだよ、クソ……クソ!」

男(他の奴らもぞろぞろと集まってきた……いったい何なんだよ、この町は?)

220: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:01:56.34 ID:5l+joiV20.net
住民「市民様、旅人を連れてきました」

市民「ほう? ふむ、確かに見ない顔だな」

男「事情くらい説明して貰えますかね」

市民「はは! 事情? 事情を説明? 市民のこの私が?」

市民「おいお前達聞いたか? この旅人、市民のこの私に事情を説明しろと言ったぞ?」

市民「面白い事を言う奴だな! お前達、ほら笑え!」

住民「はは……はははは……」

男(まともに話すだけ疲れる人間の匂いがするな、こいつ)

221: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:05:27.21 ID:5l+joiV20.net
市民「さて、労働力は多いに越した事はないが、どうしたものかな?」

市民「ん? 旅人くん? どうして欲しい? ん?」

住民「「あの、市民様。先日貴族様方に殺されて働き手が足りませんので、どうか」

市民「誰が貴様に聞いた!?」 ゴスッ

住民「も、申し訳……ありません……」

市民「次の余計な口を利いてみろ! 貴様の家族全員皆殺しにしてやるぞ!?」

住民「ど、どうか……どうかお赦しを……」

市民「貴様ら私が誰か分かっておるのか!? 市民だぞ!? 私は市民なのだぞ!?」

男(市民、か。幼女ちゃんの話だと、奴隷より少しマシってくらいだって言ってたけど)

男(こいつの何がどうマシなのか、まるで分からないな)

222: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:10:52.46 ID:5l+joiV20.net
市民「そうだ、そうだな! まずは三日三晩何も与えずに牢屋に閉じ込めておけ!」

市民「それが済んだ後で私の偉大さをじっくり聞かせてやろう!」

男「おい、何寝惚けた事言ってるんだよ? 俺は急いでるんだ、いい加減にしてくれ」

市民「うるさい、うるさい、黙れ! 誰が話していいと言った!」

男「話すのに誰かの許可がいると思ってんのか?」

市民「黙れぇ! おい、お前! この馬鹿をさっさと牢屋に連れて行け!」

住民「……すまねえ」

男「謝るなら何もしなけりゃいいんじゃないのか?」

市民「おい、さっさと連れて行け!」

住民「はい……」 グイッ

男(何もかもがどうかしすぎてて、もう言葉も出ない)

男(でも、俺が知りたかった事っていうのはそういう事なんじゃないのか?)

男(なら、これも経験って事か)

223: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:16:44.92 ID:5l+joiV20.net
住民「クソ、クソ、クソ! 頼むよ誰か、誰かなんとかしてくれ……」 ガチャン

男「なあ、それどういう意味なんだ?」

住民「……っ」 スタスタ

男(何も言わずに行っちまった)

男「言わなかったというよりは、言えなかったのか」

男(幼女ちゃんは市民も奴隷も大差ないみたいな事を言っていたけど)

男(この状況、とてもそうは思えないな)

224: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:23:46.45 ID:5l+joiV20.net
男(そういえば、牢屋の中なんて初めて入ったけど)

男(小屋で暮らしてた頃よりは全然マシだな、これ)

男「無駄に人生経験豊かになったな、俺」

男(本当、色々あったからな。でもよく考えりゃまだ二週間ちょいか)

男(長かったような、短かったような)

男(幼女ちゃん、少しは元気になったかな。俺、どうすれば良かったんだろうな)

男(先輩とメイドは、うん、俺が心配するまでもないな。あの二人は俺よりずっと強い人達だ)

男(給仕さん、無事かな。今頃どの辺りにいるのかな)

男(両親はどうせ俺の心配なんてしてないだろうし、後は特に誰もいないな)

男「俺、友達少ないなぁ」

娘「私もです……」

男「え?」

娘「こ、こんばんは……今、鍵開けますね……」 カチャリッ

225: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:31:19.28 ID:5l+joiV20.net
男「ありがとね」 ナデナデ

娘「やめてください……恥ずかしいです……」

男「君、お名前は?」

娘「わ、私……そんな、子供じゃありません……」

男「あー、ごめん。俺は男、色々あって旅してるとこ」

娘「娘です……」

男「そっか、娘ちゃんか。牢屋から出してくれてありがとね」

娘「いえ……閉じ込められてる方がいると聞いて、あの……」

男「勇気あるね。でも一人でこんな所に来たら危ないよ?」

娘「だ、大丈夫です……私、責任あるから……」

男「責任?」

娘「……そ、外まで、案内します……」 スタスタ

226: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:37:41.30 ID:5l+joiV20.net
娘「こ、ここなら……大丈夫、のはず、です……」

男「もしかして、俺が怖いの?」

娘「い、いえ……わ、私……」

男「ほら、俺のほっぺ抓ってみて?」

娘「え……?」

男「ほらほら」

娘「え……えい……」 ギュゥ

男「やわいれしょ?」

娘「は、はい、柔いです……」 ギュゥ

男「は、はなひへ」

娘「ご、ごめんなさい……」 パッ

228: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:42:28.36 ID:5l+joiV20.net
男「ん」 スリスり

娘「あの……」

男「まだ俺のこと怖い?」

娘「あ……あまり、怖くないです……」

男「良かった。でも牢屋に捕まってる奴なんて普通は大体悪人だから関わっちゃダメだよ?」

娘「……はい、ありがとうございます……」

男「それじゃ、ばいばい」 ガチャ

見回り「あ」

男「うぇ」

見回り「クソ、なんで見つけちまったんだ……おい、旅人が牢屋から脱走したぞ! おまけに娘様を人質に取ってる!」

男「……は?」

229: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:49:10.25 ID:5l+joiV20.net
娘「ご、ごめんなさい……私のせいで……」

男「おい」

見回り「誰か、早く来てくれ! 旅人が人質を取って逃げ出した!」

男「俺が、子供を人質に、取るわけ、ねえだろう、がっ!」 ブンッ

見回り「え、ぐぇっ!?」 ドサッ

娘「え、え……!?」

市民「騒がしいぞ! 何があったのだ!?」

娘「お、お父様……」

男(あれが父親なのか。これが元の世界なら児童相談所に駆け込んでる所だな)

230: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:53:32.89 ID:5l+joiV20.net
市民「む、娘!? おい、誰か娘を助けろ!」

娘「ち、違うんです、お父様……わ、私は、この人を……」

市民「旅人は殺してかまわん、これは命令だぞ! 早くしろ!」

娘「お父様……」

男(どんどん人が近付いてくる。このままだと俺、囲まれて本当に殺されるぞ)

男「結局、俺一人でどうにかできる事なんてそんなにないって事だよな」

市民「な、何を言っているのだ! いいか、娘に指一本でも触れてみろ、貴様の命はないぞ!」

男「触らなくてもないんだろ。……いいか、俺はな、幼女様の専属奴隷の男だ」

市民「……な、何?」

市民「よ、よよよ、幼女様? 幼女様だと? そそそそ、それはあの、あの幼女様?」

市民「まままま、待て、そういえば貴族様方が、そ、そ、そんな話を?」

市民「ま、ま、まずい、待て、お、お前達、この方に手を出すな! いいか、絶対にだぞ!?」

231: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 06:57:31.36 ID:5l+joiV20.net
市民「よ、幼女様の専属奴隷様だとは露知らずに、とんだ御無礼を……」

男「別に、あんたの娘さんに助けて貰った事だし、それは気にしてないよ」

市民「そ、そうですか。それで、本日はどのような御用件でこの町をお訪ねになったので?」

男「だから、急いでるって言ったろ? 旅の途中なんだよ!」

市民「ももも、申し訳ありません! 私の考えが至りませんで、誠に申し訳ありません!」

男(なんかこいつと話してると、どんどん自分がつまらない人間になってく気がする)

男「……いいよ、もう。とりあえず今晩は泊まらせてくれ、頼むよ」

市民「も、もちろんです! ささっ、どうぞ! 私がご案内いたします!」

男「はあ……」

232: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:03:01.76 ID:5l+joiV20.net
市民「この部屋でございます!」

男「どうもありがとう」

市民「そ、それで、どのような女が御好みですか?」

男「は?」

市民「胸は大きい方が? それとも尻ですか? 年齢は若い方が?」

市民「それとも締まりの良い方が? 初物は、一桁の子供くらいしかおりませんが……」

男(あ、今頭の中で何か切れる音が聞こえた)

男「俺は  にも言った事もねえし遊びで    したりなんてしねえんだよッ!!」

男「大体てめえなら10や11の子供の  まで奪ったってか!? あぁ!? 殺すぞ!?」

市民「ももも、申し訳ございません! ししししし、失礼いたします!!」 サササッ

男(……少し後悔してる自分が情けない)

男(それにしても、この町は本当にどうかしてる)

男(でも、目を逸らさずによく考えてみれば、幼女ちゃんの屋敷もどうかしてた)

男(この世界はどこもかしこもこうなんだろうか。だとしたら、誰が悪いんだろうか)

234: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:14:42.40 ID:5l+joiV20.net
男(……色々ありすぎてなかなか寝付けないな)

男(先輩がいたら、『おらさっさと寝ろ』とか言って蹴ってくるんだろうな)

男「はは、うん、きっとそうだな」

娘「失礼、します……」 スッ

男「娘ちゃん? どうしたの、また何かあった?」

娘「いえ、私……だ、抱かれに来ました……」

男「今、なんて?」

娘「抱かれに、来ました……」

男「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って? え、なんで?」

娘「……嫌、ですか?」

男「い、い、い、嫌とか、そ、そういうのじゃなくてさ、ど、ど、ど、どういう事?」

235: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:18:38.14 ID:5l+joiV20.net
娘「さきほど父が部屋に来て……抱かれて来いと……」

男「ああ、それは 的虐待だ。待ってて、今すぐ解決して来るよ」

娘「ま、待って、ください!」

男「うん、お父さんを心配する気持ちは分かるけどね、それよりも自分を大事にしよう」

娘「違うんです……」

娘「父は父なりに、私を思って……」

娘「思ってくれて、いるんです……」

237: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:23:15.74 ID:5l+joiV20.net
娘「もう、何年も前になります……」

娘「父は、普通の農夫でした……」

娘「優しくて、頼りなくて……」

娘「母も私も、そんな父が大好きでした……」

娘「父はある日、怪我をした貴族の方を助けました……」

娘「そして、その貴族の方は、父を市民にしたんです……」

238: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:25:57.07 ID:5l+joiV20.net
娘「市民は、契約主になれます……」

娘「相手と契約さえ結べば、奴隷にだって……」

娘「最初は、父の友人だった農夫の方でした……」

娘「父は農地を餌に、相手を騙して契約させました……」

娘「そして……」

娘「家族を人質に取られた方がいました……」

娘「借金を盾に取られた方がいました……」

娘「罪をでっちあげられた方がいました……」

娘「この町の皆さんが、父と契約を結ばされました……」

239: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:28:38.53 ID:5l+joiV20.net
娘「父は、みんなに憎まれています……父も、それを知っています……」

娘「だから、誰も父に手出しができないよう命令をされているんです……」

娘「父は、臆病なんです……だから、父に手出しできる旅人を恐れて……」

娘「父の市民権を奪える、貴族の方々を……怖れているんです……」

娘「もし……」

娘「もし私が……専属奴隷の男さんと、結ばれれば……」

娘「貴族の方と……縁ができると……」

娘「そうすれば……父も私も安泰だと……」

娘「父は、そう信じているんです……」

241: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:37:14.60 ID:5l+joiV20.net
娘「父は、あなたを本気にさせろ、と……そう言っていました……」

娘「遊びでなければ抱くと……そして責任を取るはずだ、と……」

男「人の言葉をそんな風にしか受け取れなくなったらおしまいだよ」

娘「男さん……私では、ダメですか……?」

男(心揺さぶられるね。でも、答えはもう出てるんだよね)

男「あのね。娘ちゃんは可愛いし、これが娘ちゃんの意思なら俺も迷ったと思うよ」

男「俺が何言いたいか分かるよね? 君はお父さんに言われたから来た。そうだよね?」

娘「でも、嫌では……ないんです……」

男「……自分の意思でもないね」

娘「はい……」

男「なら、ダメだよ。きっと君も後悔するし、良いことにはならないよ」

244: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:44:19.71 ID:5l+joiV20.net
娘「私……自分の意志で何かをした事が、ないのかもしれません……」

娘「いつも、父の言いなりでした……」

娘「母が奴隷にされた時も……私は、何も言えませんでした……」

娘「父は……父はただ、臆病なだけなんです……」

男「お父さんのこと、好きなんだね」

娘「嫌いに……なるべきだって……わかってるんです……でも……」

男「お父さんだもんね」 ナデナデ

娘「う……うぅ……うぅ……っ」 

245: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:49:20.65 ID:5l+joiV20.net
娘「すいませんでした、私、取り乱してしまって……」

男「泣きたい時に泣かない方が良くないよ。ね?」

娘「……私、やっぱり……」

娘「いえ、なんでもないです……おやすみなさい、男さん……」

男「おやすみ、娘ちゃん」

男(……平和に生きてきただけの俺が偉そうなことは言えないけど)

男(娘ちゃんの父親は、死んだ方がいい人間だ)

男(それでも、そんな人でも誰かを愛していて、誰かに愛されてる)

男(俺には、娘ちゃんを不幸にする事はできない)

男「……救われる人達がいるって分かってても、できないものはできないんだよ」

247: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 07:57:21.67 ID:5l+joiV20.net
市民「おはようございます、男様! ささっ、お見送りの準備はできております!」

男「いいよ、そんなのはいらない」

市民「いえいえ、さあ玄関の方へ来てください!」

男(……気が重くなる。もう俺にできる事は、はやくここを離れる事だけだ)

市民「さあさ、ご覧ください! 男様をお見送りするための道でございます!」

住民「……」

男(土下座した人達が、道を作るように両脇に……)

市民「さあどうぞ、私が先導いたしましょう」

男(……早く、少しでも早くこの道を抜けよう)

「……せ」「……てくれ」「頼む……」「そいつを……」「殺……」「代わ……」

男(やめてくれ)

男(俺にはできないんだよ)

男(やめてくれ)

251: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 08:09:31.46 ID:5l+joiV20.net
娘「男さん」

男「……娘ちゃん」

市民「おお、娘! 遅かったじゃないか! ほら早く来なさい、一緒に男様をお見送りしよう!」

娘「お父様、私、決めました。男さんとお話して分かったんです」

市民「そうか! 男様、娘もこう申しております! どうか娘の事をよろしくお願いいたします!」

娘「私、お父様が大好きでした」 スッ

市民「ああ、もちろん私もお前の事……が……?」

市民「娘……何を、しているんだ……?」

娘「私は、お父様を愛していたいんです」 ズルッ

市民「い、痛いじゃないか……血が……血が、出ているぞ……」

娘「ごめんなさい、お父様」

市民「な、何を……何を、言ってるんだ……?」

市民「これからは……何にも、怯えず……暮らせたのに……」

市民「どうし……て……」

253: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 08:16:48.97 ID:5l+joiV20.net
娘「……」

男「これは、違うよ」

娘「はい」

男「絶対に、違う」

娘「はい」

男「……」

娘「私が、自分で決めたんです」

男「ああ」

娘「自分で決めた事だから、きっと、後悔しません」

男「してるじゃないか、もう」

娘「……して、ないですから」

256: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/03/18(水) 08:30:45.50 ID:5l+joiV20.net
住民「終わった……終わった、終わったんだ!」

住民「ああ、あああ……!」


男(町の人間達は、ある人は喜び、ある人は涙し、市民の死に感謝した)

男(それを行ったのが、その市民の子供だという事さえ忘れたかのように)

男「馬鹿じゃないのか、てめえら」

男「それで救われた気になって、そんな救いクソ喰らえだ!」

男(なんて叫んでみても、もう何も変わりはしない)


娘『私、大丈夫ですから』

娘『ちゃんと、やっていけますから』


男(俺が守りたかった笑顔は、あんな痛々しいものではなかった)

男「何が間違ってたんだ」

男(答えなんて、今の俺に分かるはずもなかった)


幼女の帝国~市民誅殺編~ 終

引用元: 男「幼女の帝国」