4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 18:35:09.96 ID:hhtfiB8C0



「ひぃっ、やめてくれぇぇぇぇえ」 

「やめるわけねえだろーが。屑野郎」 

日も落ち、街灯も切れかかった裏路地に二人の少年がいる。 
一人は顔をくしゃくしゃに歪めながら懇願する少年、もう一人はまるで悪魔のような笑みを浮かべながら 
今に目の前の敵を殺そうとしている少年。 

「わ、悪かったっ!! もうしないから見逃してくれぇぇ!!」 

「おいおいおい、今まで散々やってきた奴がそんなこと言うのかよ。 
 ハッ、笑えねーな」 

「い、いやだっぁぁぁぁ!!」 

悲痛な叫び声を上げながら逃げようとする少年を、慣れた手つきで捕まえ 
首を強い力で掴む。 

「……がっ……ぐがぁ……」 

メキメキメキと鈍い音がする。首が締まっている音だ。 
少年はその手を引き離そうともがくが、全て無意味に終わる。 

「アハハハハッ、いい気味じゃねえーかッ!!」 

「た…す……け……」 

「今更、命乞いってか!? バカじゃねぇの!?」 

「い………」 

「ア゛ハハハハハッ!! じゃあな。化け物」 

先ほどの音とは全く違う残虐な音が裏路地に響いた。 


引用元: 上条「異常だよ。この街は」

 

 
5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 18:40:06.58 ID:hhtfiB8C0


「早くスーパーに行かないとヤバイぞ!、特売が終わっちまうっ!!」

上条当麻は走っていた。普段の場合は特売などは事前にチェックして
遅れることのないようにしている上条であったが、今日は担任の小萌先生から
『上条ちゃんは休みばっかりなので補修でーす』と突然、学校が終わって帰宅しようと
するちょうど間際に言われ、遅くまで居残っていた為である。

「ちくしょう。これで間に合わなかったら小萌先生恨むぞ……」


苦学生の上条にとってはタイムセールを逃すのは致命的なのだ。
それもこれも暴飲暴食シスターの食費と度重なる入院でもともと少ない奨学金の
大半をもってかれ、いろいろと節約しないと生活が危うくなるという状態であるためだ。

「はぁ…はぁ……タイムセール終了まであと二十分だ。これなら間に合うか!?」

(頼む!! 間に合ってくれ!!)

お買い得商品はほとんど売り切れだろうが、他のものは少しぐらい残っているだろうと
上条は僅かな希望を抱きつつ大通りを駆け抜ける。

「あれは……」

しばらく進むと交差点に差し掛かると人だかりができていた。野次馬の向こう側には
大勢のアンチスキルやらジャッジメントが忙しなく動いているのが見える。金属臭い匂いが辺りを漂っている。

(何が起きたんだ?)

上条は足を止め、最後尾にいた野次馬の少年に尋ねる。






6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 18:46:15.74 ID:hhtfiB8C0





「何が起きたんだ?」

「また無能力者狩りさ。これで何件目だか……」

「嘘だろ……まだ日も落ちていないのに!?」

「……うん」

野次馬の少年は苦しそうにそう伝える。おそらくこの少年も
無能力者なのだろう。

「犯人は?」

残念そうに首を横に振った。その顔には悲痛が見て取れるほどだった。

「……そっか」

ここ最近、高位能力者による殺人事件が多発している。
被害者は無能力者や低能力者など低レベルの能力者ばかりだ。
手口も『大人数で奇襲』といった卑劣なもので多くの学生は殺されており
女学生に至っては強姦されてから殺されている。

被害は甚大。何人もの生徒が犠牲になっており、余りの酷さに
後処理をするアンチスキルやジャッジメントの中にも、気が触れてしまう者も多い。

そのため学園都市は完全下校時間を早め、夜間は外に出歩かないように注意を呼びかけ
アンチスキルを巡回させるなどの対策をとっている。
しかし、いつもきまって目撃者がいないので、捜査は難航。犯人の一人も捕まってはいない。





7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 18:50:37.96 ID:hhtfiB8C0

「現場みた?」

野次馬の少年が苦痛な声のまま質問する

「いや……」

「現場を見てみなよ。本当に非道いから……何でこんなことできるんだろうって思うよ」

上条は目を向ける。さっきの野次馬がまだ群がっているが誰ひとり声を上げていない。
無音の空間の中にアンチスキルたちの指示しか響いていない。

「……っ」

上条は群れを掻き分け先頭に出る。その光景は最悪なものだった。

「何だよ……これ…」

交差点の中心は爆弾で吹き飛ばされたかのように抉れ、信号機は針金のようにグニャグニャに変形しており
地面にはバラバラになった看板やアスファルトで覆われている。車数台が何かの能力だろうか、不自然にペシャンコに潰れている。

それだけならまだいい、時間をかければ元に戻せる。しかしこの羅列したもの全部に塗り固められている赤黒いものや
ピンク色のモノは元に戻せない。

上条は地獄を見ている。耳に響くのは呻き声や泣き叫ぶ声。鉄の匂いが鼻に嫌というほど鼻につき、取れない。
地面にはすごく濃い赤い影や虫がたかっている腕、細長い腸のようなモノがブツ切れに散らばっている。
そして首や体やらがありえない方向に曲がっているモノが横たわっている。

視覚からの衝撃が余りにも強く、瞳を強く刺激する。


8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 18:55:06.04 ID:hhtfiB8C0





「うっ……」

胃が逆流するのを感じ、力強く口を抑える。顔は青ざめ、目の焦点が合わない。筋肉が不自然に振動し、体全体が震える。
目からは涙が自然と溢れてしまい、体を支えられず膝をつく。


野次馬の生徒もそうだった。泣き崩れている者もいれば、呆然と立ち尽くす者
この場にいる全員が、この地獄の光景に戦慄し恐怖している。
言葉を発することも体を動かすこともできない。

アンチスキルやジャッジメントが生徒だったモノの隣で生き残った生徒たちを懸命に治療している。
被っている生徒の顔は皆、痛みと恐怖に支配されボロボロになっている。

(どうしてこんなことができんだよ…なんで……なんで……)

理解できない。地に膝を着き、口を抑えながらそう思う。
なぜこんなことができるのか、どんなに考えても理解できない。




(異常だ……異常すぎる……)



(どうして……どうして…どうして、どうしてッ!!)




          「あっ」




上条は僅かながら理解した。どうして奴らがこんなことできるのか。





9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 18:55:46.60 ID:hhtfiB8C0
  




そうか   








       奴らは――――――――









          化け物なんだ




10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 18:58:17.98 ID:hhtfiB8C0



日は落ちかけて夜はもう近い。上条は帰路に就いていた。その足取りは弱々しく遅い、俯きながら帰るその様子は
同情を買うだろう。

「……」

先ほどの光景を思い出す。未だにあの圧倒的な赤が目にこびり着いて消えない。

あの鉄の匂いが鼻を掠める。
他のもっと楽しいことを考えようとするが、その度にあの地獄が頭をちらつく。
それぐらい衝撃が大きかった。

「もうダメだ、ダメだ。こんな姿インデックスに見せられねーよ
 こういうのは上条さんらしくないですのことよ!!」

頭を強く振って、威勢良く言ってみる。あの悪夢を振り払うがごとく。
周りにいる学生たちがチラリと怪訝そうに見る。

「……っ」

また頭を過ぎる。あのピンク色のモノや悲鳴が。
あの空気が。あの状況が。ハンマーで後頭部を殴られたかのような感覚が走る。

衝撃的だった。

「……しばらく飯は食えないな」

乾いた声でハハッと笑う。心の中で『タイムセールにも行けなかったし』と自虐を付け加える。



11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 19:02:26.56 ID:hhtfiB8C0



「……」

笑えない。むしろ虚しくなる。あの人たちは行きたい所にも行けずに死んだのだろう。
まだ碌に人生も過ごしていないのに。やりたいことだってたくさん有ったはずだ。
もっと遊びたかったはずだ。もっと勉強したかったはずだ。もっと寝たかったはずだ。
もっと……もっと……

「……くそッ」

小さい声で呟く。誰にも聞こえない声で、自分だけにしか聞こえない声で。
上条の心の中にはいろんな感情が渦を巻いている。怒りや悲しみや恐怖や苦しみや嫌悪。
たくさんの感情が行き場をなくして上条の体を巡っている。

(化け物)

あの時浮かんだ言葉。あの惨劇を起こした奴らは化け物だと上条は思う。
人の皮をかぶった化け物なんだとそう思った。あれを見て何も思わない奴らだと。
最低な奴等なんだと。

それに相応しい能力も持っているし――――――――

ゾクッゾクッゾクッと上条の背筋に悪寒が走った。
バッと身を翻して上条は辺りを見渡す。




12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 19:06:00.36 ID:hhtfiB8C0


「にゃ、にゃあ?!」

素っ頓狂な声を上げながら少女が尻餅をついた。
後ろを振り向いた先にいたのは綺麗な茶髪で常盤台中学校のブレザーを着た少女だった。

「み、御坂!? どうしたんだ?」

結構、派手についていたので痛そうだなと思いながらも
上条は手を差し出し、少女を立たせながら聞く。

「いたたた……」

「大丈夫か? 御坂」

「うん……大丈夫よ、ありがと」

若干、顔を赤くしながら礼を言う常盤台の超電磁砲こと御坂美琴に
微熱でもあるのかと思いながら上条は尋ねる。

「もう一度言うけど、御坂はどうしたんだ?こんな時間に
 あと顔赤いけど熱でもあるのか?」

そう言いながら上条は自分の額を御坂の額に合わせる。



13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 19:08:50.40 ID:hhtfiB8C0



「ね、ねつなんてないわよぉ///」」

「本当か?更に上がった感じしたんだか?」

「ほほほほんとうにないからぁ/// だ、だいじょーぶよぉ///」

「そっか、ならいいんだが」

顔から湯気が出ている御坂の言葉に従いとりあえず上条は額を離す。
御坂はというと深呼吸して呼吸を整えている。その様子を上条は
本当は病気じゃないのかと有らぬ心配をしている。

「とりあえず御坂がここにいる理由を聞きたいんだが……
 帰り道は逆だろ」

深呼吸が終わったのを見計らって上条は聞いてみる。

「アンタのせいよ!!」

「上条さんのせい……?」

上条は自分の行動を思い返す。

(あれ? 俺、今日なんか御坂にしたっけ?
 いや、してないだろ。今、初めて会ったんだし……)



14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 19:15:21.99 ID:hhtfiB8C0



「とぼけんなっ!!いくら呼んでも反応ないし仕方ないから
 気づかせようと近づいたらアンタが私を脅かしたんじゃないのよ!!」

御坂が大声を上げながら攻め立てるが、当然上条には、
そんな怒られるような覚えが無い。が自分を呼んでいたらしいので
聞き返す。

「へっ…? じゃあ、後ろにいた?」

「『へっ…』じゃないわよ!!馬鹿にしてんのアンタ、いたわよ」

どうやらいたらしいが、全く覚えが無い。

「馬鹿にはしてないけど、えっーと…御坂サンはその…いつからいたんでしょーか……?」

右手で頬を掻きながら上条は聞いてみる。歩きながら結構独り言を言っていたので
他人ならまだしも知り合いに聞かれていたら恥ずかしいのだ。

「アンタが『もうダメだ、ダメだ――――』って一人で言っている時からいたわよ
 インデックスって何?人?」

「え……?」

(は、恥ずかしすぎる。やっちまったぁぁああ!!)

上条は恥ずかしさにワナワナと震える。顔が真っ赤になりそうだったので俯いて隠す。

「どうしたの?プルプル震えて?」

(よりにもよってコイツの前でぇぇぇぇぇぇぇえええ!!)

「どうしたのよ? アンタ、大丈夫?}

御坂が心配そうに聞く。その問に上条は答えない。
ただ思いっきり深呼吸して




15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 19:16:42.76 ID:hhtfiB8C0












「不幸だぁぁっぁあああぁぁああああ!!」









上条の嘆きとも叫びともいえる声が道路に響き渡った。














16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 19:24:01.70 ID:hhtfiB8C0



「ほらっこれ飲みなさい。私のお気に入りだから」

「さんきゅ」

ポイと渡されたアルミ缶を上条は慌てて取る。ヤシの実サイダーというものらしい。
一口飲んで口から離す。

「やっぱおいしーわ、これ」

「悪いな。なんか、奢ってもらっちゃって」

「良いわよ。貧乏人から金せびる趣味ないし」

「言い返せねぇ……」

上条たちは公園に来ていた。なんでも御坂が話をしたいらしく立ち話もナンだということで
ここに来たのだ。しかし完全下校時刻が近いので長居は出来ない。

「で、御坂は俺になんの用だよ」

上条は御坂に聞く。言葉は悪いが何度無視(気づかなかっただけだが)されても話したい
理由があるらしい。

上条はどうせまたろくでもないことだろと思って聞いたのだが
御坂の態度がそういうものではない気づく。
 
「……」

「どうした? 御坂」

「アンタさ。体調悪い?」

突然の内容に若干うろたえながらも上条は答える。

「い、いや、ぜんぜん」

「ウソでしょ」

真剣な眼差しでそう聞かれて上条はたじろぐ。
いつものフザけた感じはない。とても真剣だった。




17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 19:34:13.52 ID:hhtfiB8C0



「さっき、足フラフラだったわよ。顔色もすごく悪かった。それも体調不良とか
 そういうのじゃなくて何か悪いものでも見てそうなったって感じだった」

「どうしたの?」

「……」

別に御坂にいうことはダメということじゃない。別に上条自身はあの事件に関わっていないし
野次馬として見たというだけだから。あのことに関して言えない秘密なんかないし、存在しない。
勝手に事件現場をみて、勝手に衝撃を受けただけだ。

ただあの光景を思い出すのが嫌なのだ。
口に出せば、あの現場を鮮明に、嫌でも脳に浮かぶからだ。

「御坂と話したら少し楽になったから言うよ」

しかし上条が言ったことも事実だ。御坂と話していたら気分が良くなった。
このまま言わなかったら、御坂はずっと心配するだろうしいったほうが良い。


「無能力者狩りの現場を見ちゃったんだよ
 発見者とかじゃなく野次馬として」

御坂は一瞬目を見開き、そして目を伏せた。

「……そう」

「黒子も今、そんな感じよ。ジャッジメントで沢山の死を見てグロッキーになっちゃって
 今も病院で療養中だわ……」

「白井が……?」

白井がそんな風になっているところなんて想像できないが、
そうなってしまうのも仕方が無いと上条は思う。

「……うん」

目を伏せながら御坂は言う。
その顔は泣き顔とも取れるような見てるほうも辛くなるような表情だった。

白井と御坂は仲が良かった。友達が精神をおかしくしてしまったなんてことは
そう簡単に割り切れるものではないし、物凄く悲しいことだろう。



18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 19:44:18.80 ID:hhtfiB8C0




「私も見ちゃったわ、今日のもだけど他の日のも
 最低だけど慣れちゃったわ」

御坂が沈痛な表情をする。唇を噛み締め拳を握っている。
悪魔のようなあの実験の中心いた御坂は許せないのだろう。
残虐性、理不尽さの点において似ているところが多いから。

お互いに沈黙する。公園には二人以外誰もいないので
風の音しか響かない。

交差点の惨劇が上条の頭を掠める。

「……もし……もしも能力がなかったらどうなってたんだろうな?
 起こらなかったのか?」

沈黙を上条が壊す。その質問は絶対に叶わない仮定の質問。

「関係ないわ。能力があってもなくても、やる奴はやるわよ。
 ただ被害の程度の違いだけ。なかったらもっと減ってた」

「そう……だよな。
 ……能力が悪いわけじゃないよな」

「そんなこと、アンタが一番良く知っているじゃないの」

「結局……使う人次第よ」

その言葉を聞いて前に感じた悪寒が薄まっていくのを上条は感じた。
結局使う人次第だ。悪用する奴はするし、しない奴はしない。
能力が悪い訳じゃない、使う人間が悪いのだ。

上条が黙っていると御坂が橙色の雲を見ながら呟いた。





19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/06(土) 19:44:52.83 ID:hhtfiB8C0














「どうしてあんな非道い事できるんだろう」














24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 22:28:59.87 ID:9ALPomJq0





「……もうすぐ完全下校時間だし帰るか」

時計を見て上条が提案する。太陽も既に落ちて
薄暗くなった公園を外灯と自販機の光が照らしている。

冷たい風が体を軽く舞い上げ、体を振るわせる。

「そうね」

御坂も了承しこのまま解散することになった。
上条と御坂の帰り道は逆方向のため自然と上条は一人で帰ることになる。
……のだが

「……」

「……」

無言のまま、上条は横の人物をチラリと見る。
しばらく歩みを進め、口を開く。

「あの……」

「何よ?」

「どうして御坂さんはついてくるのでしょーか…?」

「別にいいじゃない。ダメなの?」

なんてことない風に御坂は聞き返す。

「ダメ!!」

ジト目で見ながらそんなことを言ってくる御坂に
上条は強い口調で拒否を突きつける。



25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 22:37:42.33 ID:9ALPomJq0






「何、私と帰るのがイヤって訳!!」

御坂がどうして自分と帰るのが嫌なのかと感情を
声に込め、反論する。

「違う」

上条は御坂の肩に両手を添えながら顔を近づけ。
まるで諭すように、真っ直ぐ彼女の目を見る。


「違う。御坂が心配だから言ってるんだ。最近は物騒なんだから
 下校時刻は守らないとダメだ。だからもう帰れ」
 
「ちょ、ちょちょっとぉお///」

突然、顔を近づけられた御坂はボンと音が出そうなくらい赤くなり
バリバリと頭から漏電する。

「あっ」

頭が沸騰して平衡感覚を失っていた御坂は足がもつれて上条に
寄りかかる形になってしまう。

「おいちょっと御坂?!大丈夫か?おいしっかりしろ!!」

突然、倒れかかってきた御坂を添えていた両手で支える上条。
支え方がちょうど御坂を囲むように、つまり抱きしめる形になっていた。

「ふ、ふにゃああぁぁっぁあああぁぁぁぁああああ///」

「えっ?」

ボンっと御坂の頭から爆発音が聞こえ、煙のようなものが
噴き出る。

「御坂ぁぁぁあ!!しっかりしろぉぉぉおおお!!」

御坂美琴の意識はそこで途切れた。






26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 22:38:56.03 ID:9ALPomJq0




「はぁ…疲れた。結構きついな…」

上条は帰宅していた。帰宅といっても寮の階段を上がっている最中である。
部屋が七階なので階段で昇降するのは結構きつい。ならエレベーター使えという話なのだろうが
なぜかボタンが全く反応しなかったのだ。十分ほど粘ってみたのだが意味はなかった。

「御坂のせいでなんかいつもの倍は疲れた気がする。
 あいつこそ体調大丈夫かよ…パトロール務まんのか」

パトロール。これが先ほど御坂が付いてきた理由。アンチスキルと一緒に
巡回をするらしく、その集合場所が上条の寮と方向が一緒だったからついてきたらしい。
なんですぐ言わないのかと上条が聞いたら「別にいいじゃない」と顔を赤くして言っていた。

その答えに不服であるが顔が赤くなったり、気絶したりと体調が良くなさそうだなと上条は推測して
それ以上何も言わず黙っていたのだ。

「パトロールねぇ……」





27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:00:58.50 ID:9ALPomJq0







御坂はこれをアンチスキルのお偉いさんに直接頼まれたと言っていた。
レベル5が一緒に巡回していれば犯人たちも迂闊に動けないからという理由らしい。
確かに効果的な手だ。御坂は強いし、遭遇すれば全員捕まえることだってできるだろう。
しかし、それだけじゃ犯行は収まらないだろう。

(そもそも何で捕まらないんだ)

上条は疑問に思う。今日のように相当派手にやっているのになぜ捕まえられないのか?


(一人ぐらい捕まえててもおかしくないはずなのに……)

(どんな能力を使っているのかすら詳しく絞り込めていないとか何やってんだよ……)


この事件。通称、無能力者狩りはに三週間ほど前から始まった。
それから今日までに決して少なくはない人々が犠牲になったが、それでも犯人は誰一人捕まってはいない。
目撃者すらいないのだ。分かっていることは犯人の中にはパイロキネシス系統の能力者がいるだとか
多人数で行われているだとかの大まかな事だけで、捜査は難航している。

連日、マスコミやら新聞社などのマスメディアはアンチスキルの不手際を批判している有様だ。
事件解決に至るような証拠も目処も立ってはいない。

「……とりあえず家に入ろう」

部屋の前まで行きドアノブを上条は回す。
キィィと甲高い金属音を響かせながらドアをあける
そしてただいまーと上条が言う前に白いシスターが頭めがけて突っ込んできた。

「とぉぉぉうぅぅぅぅぅまぁぁっぁっぁぁ!!!」

「痛い痛い痛い痛い痛い!!頭が砕けるぅぅぅうううう!!!」

「おそいんだよっぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォおおおお!!!」

「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!!」

ガリっと言う余り気持ちの良くない音が上条の耳に直接届く。
めちゃくちゃ痛いが上条はとりあえず胸いっぱい空気を吸い込んで
恒例の口癖を叫ぶ。


「不幸だぁっぁぁっぁあああああああ」









28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:02:32.00 ID:9ALPomJq0




「……はぁっ……はぁ…」

息を切らした少女が埃の溜まった地面に倒れこむ。
その足や背中には服を突き破った火傷の痕があり、その痛々さを強烈に物語っている。

「誰かぁ……助けてぇ……」

暗い路地に細く弱々しい少女の声が虚しく木霊する。
その涙混じりの声に反応するものは無く、少女自身の乱れた吐息音しか聞こえない。

「どうして……」

この道を使ってしまったのだろう。少女はそう痛感せずにはいられない。
人気のない道を使うことはダメだということは嫌というほど言われていたのに。
どうしてそれを守らなかったのだろう、ともう意味の無い後悔が脳全体を支配する。
そして、その後悔を恐怖で塗りつぶす背後から声が響き渡る。

「おーい、どこ行ったぁ。悪いようにしねぇから出ておいでぇ」

「激しくあそぼぉぜぇぇ」

「待ちきれねーからさぁぁ」

ゲラゲラと汚い笑い声と共にそんな声が複数聞こえてくる。
とても楽しそうに、とても愉快そうに。




29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:08:31.45 ID:9ALPomJq0




「いやぁぁあああっ」

少女は一心不乱に走り出していた。足が地に着くたびに鈍痛とも鋭痛とも分からない痛みが少女を襲うが
それでも少女は走ることをやめない。その痛みを忘れさせるほどの恐怖が今迫っているからだ。

「おい、逃げるぞ。さっさと追え」

「リーダー、逃げるといったって誰も助けには来ないんだぜ?
 別に急がなくても良くねぇか?」

「それじゃ緊張感ねぇだろうが、さっさと追え」

「まあ、それもそうだな」

「ほら、行くぞ。早くしろ」

リーダー格と思われる男が冷淡な声で仲間の少年達に命令する。
もちろんと言わんばかりに他の少年たちは少女を追って駆け出す。

「……」

自ら追うことはせず、その後ろ姿をリーダーの少年は見送る。
そして歪んだ笑いをしながら呟いた。

「アハハハハハッ、アハハッハハハハッ!!」


汚い笑い声が辺り一面に響き、壁に当たって反響する。



30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:15:49.88 ID:9ALPomJq0











「どんなに逃げようたって逃げれねぇよ。無能力者のクズが」










31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:17:09.23 ID:9ALPomJq0



「っ……」

目を極限まで見開き、額から尋常じゃない量の汗が滴っている。
少女の顔色は蒼白でまるで幽霊のようだ。

追いつかれたら死ぬ。少女はそう実感していた。
だからこそ足の痛みも気にせず、迫り来る死から逃走している。

背後からは、嫌な笑い声がガンガンと聞こえ、それが少女を更に加速させる。

「あっ!!」

少女が突如、大声を出す。その視線の先には腕に緑の、ジャッジメントの腕章をつけた少女。
それを見て、追われていた少女の顔が安堵の表情に包まれていく。

「た、助けてっ!!能力者がっ!!」

頻りに後ろを確認しながら必死の形相で訴える。
大声を上げながら背後の危険を伝える。




32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:18:02.03 ID:9ALPomJq0




「仕留めろ」

低く抑揚のない声が背後から聞こえ、複数の少年が迫ってきている。
その喜々とした表情に背筋がゾッとする。

「ひっ、奴らが来る。助けてっお願い!!」

少女は泣きながらジャッジメントに縋り付く。
死にたくないという感情が一気に溢れ出ている。

「……」

少女のその問にジャッジメントは黙る。
そして微かに笑う。

「何してんの!!早く助けてよ!!」

少女が怒声を上げる。しかし涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながらなので
普通の人間は恐怖より同情を感じるだろう。

そんな顔した少女にそのジャッジメントは手を頬に当て
優しい音色で囁いた。

「分かった」




33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:19:14.68 ID:9ALPomJq0



ピーピーと目覚まし時計が鳴り響く。それを上条は目を擦りながら手探りで止める。
まだ寝足りないと上条は欠伸をしながら伸びをする。半開きの目で時計をヌッと見る。

「ん……」

しばらく時計を凝視する上条。目を深く閉じて深呼吸をする。
もう一度目を擦って見る。しっかりと見る。

「……」

時計の時刻を先ほどより何倍も注意深く凝視する。
長針と短針が表す時刻を見て上条は『あれ、まだ寝ぼけているのか俺?』と考え
目の前にあるハンドルを回し、顔を洗う。

「……」

完全に目が覚めサッパリとした上条は再び時計を見る。
そして上条の顔がどんどん青ざめていく。体が小刻みに小さく震え始める。

「ちっ……」

上条が今にも叫びだそうという時、浴室の扉が勢いよく開かれ銀髪の修道女、
インデックスの澄んだ声が響き渡る。

34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:19:47.14 ID:9ALPomJq0



「とうまー、お腹へったんだよ。早く朝ごはん作って欲し――」

「ちこくだぁあああああああああ」

上条の突然のシャウトに驚いたのか、インデックスの小さな驚声を上げて盛大にコケる。
インデックスが来たことも気づかないまま、上条はいつもの三割増で息を吸い上げる。


「ふこ――――――」

「とうま」

いつもの、恒例の口癖を叫ぼうとすると突然、ドスの効いた声で遮られる。
上条が後ろを恐る恐る振り返ると、そこには背後に闇のオーラ的なものを身にまとった
インデックスが顔を伏せながら立っている。その様子を見て上条は内心ビビる。

「い、インデックスさん……?どうしたんでしょーか…?」

あまりの威圧感に上条の背中から汗が滲み出る。





35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:20:54.06 ID:9ALPomJq0



インデックスは答えない。無言のまま顔をゆっくりと上げる。
ひっと今度は上条が悲鳴を上げる。インデックスの可愛らしい顔は般若のようで
心なしか犬歯がドラキュラの牙のように長くなっている感じがする。
とりあえず、なんか言わなきゃヤバイと結論に至った上条は思ったことを口に出す。

「お、おはよう。き、今日も元気だなインデックスは」

沈黙。上条の声が虚しく、拡散する。

「とぉぉぉぉぉおおまぁぁぁぁぁああああッッ!!!!」

「いやだぁぁああああぁぁぁぁぁぁっぁぁあ」

情けない声を上げながら、上条は朝を迎えた。
しかしこれは不幸でもなんでもない、自業自得である。

「ぎゃぁぁっぁぁああああ!!!!」

「ゆるさないんだよぉぉぉぉお」

頭から変な音がミシミシ聞こえる。
昨日の噛み付きの三倍ぐらいの力だろう。

ガリっと頭の何か大事な部分が噛み切られたような感じがした上条。
貧血のように目の前がだんだんと暗くなっていく。

最後に聞こえたのはインデックスの猛獣のような唸り声だった。




36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:21:22.20 ID:9ALPomJq0



「はあ……」

上条は皿洗いをしながらため息をつく。テレビを点けっぱなしにしてインデックスはスフィンクスと
戯れている。それを目の当たりにして更に深いため息をつく。

上条がなぜこんなにのんびりしているかと言うと、学校に遅れるという旨の連絡を入れたためである。
連絡を入れたからゆっくりして良いというものではないが、どうせ間に合わないし急がなくてもいいだろという怠惰心と
朝から結構な激痛をくらったので上条は早く行く気分じゃなくなってしまったのである。

だからといって、あまり学校に遅れて行くのは良くないので上条は、皿洗いを早々に終わらせ
慣れた動きで登校の準備をする。

学校を休んでしまうというのも一つの手かもしれないが
上条はもともと出席日数が危ないのでそれはできないのである。

上条は学生服に手早く着替え、弁当を学生鞄に詰める。教科書はというと学校に一式置いているので
これで登校準備は完了である。廊下から玄関へと向かう。
インデックスはスフィンクスと遊ぶのをやめ、上条を見送る。




37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:21:52.37 ID:9ALPomJq0



「昼飯は冷蔵庫に有るから、レンジで温めてから食べるんだぞ。あと
 最近危ないから外には出ないんだぞ。分かったか、インデックス」

靴を履きながら、インデックスにそう伝える。
頷きながら、インデックスが少しだけ切なげな表情をする。

「今日も遅くなるの……?」

上条は言葉を失う。声は揺らいでおり、か細く弱々しい。
インデックスは同じ声質のまま続けて言う。

「最近危ないんでしょ…?だから、とうまも早く帰ってきて欲しいかも……」

『昨日、また新たに無能力者殺人事件が起きました。被害者は中学生の女生徒で
 焼死体で発見されたようです』

点けっぱなしのテレビからニュースの報道が聞こえ、インデックスの
顔の影が更に深くなる。上条の顔も険しくなる。



38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:22:38.63 ID:9ALPomJq0




「分かった……約束するよ」

力強く宣言して上条は小指を差し出す。こんな顔はもうさせられない。


「約束かも」

スッとインデックスが小指を差し出す。指先が少し震えている。
それを上条は強く掴む。心配すんなとでも言いたげに。


「行ってらっしゃい。とうま」

上条はインデックスの表情が少しだけ柔らかくなった気がした。
それを見て、今日はインデックスの好きなものでも作ってやろうと心に誓う。

「ああ、行ってくる」

バタンとドアが閉まる。その光景をインデックスは最後まで見つめる。
廊下は静まり、テレビの音だけがリビングを占めている。それが微かに廊下に漏れてくる。


『――――であるようです。また、アンチスキルは被害者の女生徒が
 殺される寸前まで抵抗がなかったことに対して、何らかの能力で動きを
 封じられた可能性があるという推測をしているようです』





39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:23:12.10 ID:9ALPomJq0



「……」

上条は俯きながら歩いていた。この時間帯は学生は授業を受けている時間帯で
通りは人気が少ない。肌寒い風が強く吹いている。

上条のその歩幅は非常に狭く、遅い。
足を動かしながら頭に浮かぶのは、先ほどのインデックスの表情。
そして小さいが明確に聞こえた報道の声。

「また……っ」

昨日の惨劇がまた起きたという事実に上条は苛立ちを隠せない。
上条の胸にフツフツと純粋な怒りが込み上げる。

色んなことに巻き込まれ沢山の心配をかけたが
インデックスのあんな表情を見たのは久しぶりだった。

病院で目を醒ますたびにああいう表情をしていた。

今にも泣き出しそうに目が揺れていて、声は掠れていた。
そんな表情をさせたことを悔やむ。



40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:23:38.03 ID:9ALPomJq0



ここ最近で街全体の活気が減った。多くの人が最近の事件で
出歩かなくなった為だ。いつ自分も被害者になるかわからない状況では
無理もない。

『罪のない人々を大勢殺し、周りを恐怖に陥れた』

この事実に上条は怒りの炎を燃やす。インデックスのように
多くの人を悲しませる原因を作った能力者たちが許せない。

この感情をどう処理すればいいのか上条は分からない。
体全身を拭えきれない苛立ちで小刻みに震える。

(ふざけんな……)

ただ、ただこの一言が心に浮かぶ。
こんな惨劇は起こっていいはずがない、起こらせていいはずがない。
このまま自分が見過ごしていいわけがない。



「……そんな最悪な幻想はぶち殺してやる」

上条はそう宣言する。もう二度とこんなことを起こさせないと誓う。
上条の目つきが変わる。




41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:24:04.64 ID:9ALPomJq0




上条は一般人だ。アンチスキルやジャッジメントではない。
唯の高校生だ。犯人を見つける方法も知らないし、分からない。

(俺に何ができるなんて分からない)

アンチスキルやジャッジメントが厳重に現場を検証し尽くしているはずだ。
もしかしたら犯人の痕跡やら、もしくは犯人特定まで進んでいるかもしれない。

(意味ないかもしれない)

自分ができることなんて無いかもしれない。だからといって見て見ぬ振りはできない。
あの惨劇を、悲しい顔をもう見たくない。

(協力なんて大逸れた事はできないかもしれない)

そう考えたら上条の足は自然と学校から遠ざかって行く。
動き出した足は昨日の地獄へと向かっていった。

(でも俺の出来る限りのことはしたい)

純粋な想い。たったこれだけで行動する。
上条はそういう人間なのだ。





42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:24:38.52 ID:9ALPomJq0




「これは……」

上条は息を飲んだ。その顔には焦りと驚きが混じっている。
自分は惨劇現場へと向かっていたはずだ。場所も間違えてない。間違えるはずがないのだが

「直ってる……」

そう直っていた。完璧に元通りになっていた。
まるで何もなかったかのように。

あれだけいたアンチスキルが一人だけになっている。
抉れていた地面は綺麗に修復されており、傷一つない。
グニャグニャに折曲っていた信号は新品に取り替えられている。
バラバラになっていた看板や標識はも同様だ。

あれだけ朱に染まっていたのにその痕跡すらなく、鉄の匂いもない。
普通にトラックやらバスが走っている。

学園都市は科学が進んでいる。それは上条もここの常識として分かっていたが
まさかここまでとは実感が沸かなかった。




43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:25:04.33 ID:9ALPomJq0



しかしそのことは今はどうでも良い。ここで何か手掛かりを探すことが重要だ。
上条はただ一人現場にいたアンチスキルの男性に尋ねる。

「昨日、ここで無能力者狩りが起きたんですけど、犯人に関する
 痕跡とか手掛かりとかってありませんでしたか?」

「またか……残念だけど守秘義務で答えられないよ」

「また……?」

上条は聞き返す。自分の他にも協力しようという人がいるのだろうか。

「おっと、すまない。マスコミやら新聞記者やらがたくさん来て
 君と同じようなことを言うからつい……」

アンチスキルは心底疲れたという声色で続ける。





44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:26:00.43 ID:9ALPomJq0




「一人だと対応するのも疲れてしまって……って
 また愚痴ってしまった、すまない。ところで君は何しに来たの?
 新聞部とかの取材とか?」

「いや、違います。ただ俺に何かできることがあったらなって思って……」

上条がそう言うとアンチスキルの男性は一瞬、目を丸くし、
機嫌よく笑い始めた。

「いい青年だな。こういう子が増えれば
 オジサンの仕事も楽になるのにな、一人でここに居ることもない」

「そういえば、どうして一人なんですか?
 昨日ほどの事件ならもっといても良いと思いますけど?」

上条は質問する。現場は綺麗さっぱり直っていても
昨日、あんな事件が起きたのだからアンチスキルがもっと居てもいいんじゃないかと上条は思う。







45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:26:35.20 ID:9ALPomJq0




「アンチスキルというのは教師と兼任だろ?だから、生徒が学校の間は
 少なくなってしまうんだ。それと同じ理由でジャッジメントもいないだろ?
 彼らは生徒だからね」

「……」

アンチスキルはそう答える。上条はその答えに違和感を感じる。
とても小さな、小さな違和感を感じる。
頭に『何かが引っかかる』という感じがする。

アンチスキルは『教師と兼任』であり『ボランティア』だ。
給料は出ないし、体を張ることもする。時には命にも関わる。その代わり様々な特権がある。
アンチスキルとはそういうシステムなのだ。ジャッジメントも同様にそうだ。

この街では当たり前の常識。
しかし何かが引っかかる。謎の違和感が微かにする。

「どうしたんだ?君」

アンチスキルが怪訝そうに上条の反応を見る。
上条は慌てて取り繕う。




46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:27:06.85 ID:9ALPomJq0



「い、いや。なんでもないです」

「そうか。じゃもう学校に行ったほうがいいんじゃないか?
 私は事件については何も喋れないし、ここにいても手がかりはつかめないぞ
 それに学校サボるのは教師として見逃せないしな」

「……そうですね」

上条は低い声で返答し、アンチスキルに背中を向け歩き出す。

「もし、良かったらジャッジメントに入りな。君みたいな正義感の強い子は
 大歓迎だからな」

背中からそんな声が聞こえる。上条は歩きながら顔を後ろに向ける。
そして手をフラフラと振る。

「一応、考えておきますよ」

そう、言って上条は学校へ向かった。





47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:27:38.38 ID:9ALPomJq0



上条は廊下を歩いていた。階段を上がってすぐに自分のクラスに向かう。
この時間帯は二時間目の時間帯で、授業がある程度進んでいる時間帯だ。
上条は『ノート写すのめんどくせぇ……』と溜息をつきながら、クラスのドアを開ける。

「すいません、遅れました」

上条が大きくも小さくもない声でそう伝える。
どうやら今は政治・経済の時間帯らしい。
クラスの皆が『あれ、休みじゃないの?』というような態度をとっており
上条は若干、気まずい気分になって顔を引きつらせる。

この状況は不登校児が突然学校に来たという感じである。

先生も上条のそんな顔を見て呆れ顔になる。
上条はもともと自分の度重なる入退院により、教師の評価が地の底なのだ。それに単位も危うい。
不真面目というか、学校に来ることが珍しいと思われているらしい。



48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:28:53.12 ID:9ALPomJq0



「……上条君、コレ」

先生の顔がもう呆れ顔を通り越して疲れているようなモノに変わり
上条に大量のプリント類を手渡す。表紙は白紙で題名を隠すように覆われている。

「……なんですか?これ……?」

政経の時間はプリント類で授業はしない、基本板書だ。
つまり授業で使うものではないということだ。

「大丈夫。ちょうど学園都市の単元だし、そんなに難しくないから」

「いや、そんこと聞いてないんですが……
 これは、何ですか……?」


「……」

無言。無言だが教師が『もう分かっているんだろ』という目を上条に向けてくる。
クラスの皆がクスクスと笑っている。そんな中、悪友の青髪ピアスが『上やん、頑張ってな』と
ニタニタしながら声をかける。生真面目な吹寄制理は先程から仏頂面をしている。




49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:29:20.06 ID:9ALPomJq0



上条自身にとっては笑い事ではない。これは上条の大嫌いなアレかもしれないのだ。
と言うよりもう、アレなのだが上条はまだ希望を捨てない。

(これはアレだ。でも、俺は諦めねぇ!!この謎のプリントが俺を
 ビビらせるためのドッキリ的なものの可能性を諦めないっ!!)

上条は自分の手の上にあるプリントをジッと見つめる。その眼差しは真剣そのものである。
まるで戦争に行く前の兵士のような覚悟を決めた顔をしている。そして白紙をどけるように手を伸ばす。

この上条の様子を見て周りのクスクス笑いが唯の笑い声になる。先生ももう笑っている。

(俺は諦めねぇ!!これがアレなんて言うフザけた幻想は全部まとめてブチ殺――――)

白紙がヒラヒラと床に落ちる。そしてプリントの表紙が露出する。

『上条君専用☆宿題プリント☆』

それを見てしまった瞬間、脊髄反射的に上条は叫ぶ。

「不幸だァァっァァァァァああああ」

その後、授業中に大声出すなと吹寄に鉄拳制裁をくらった上条であった。



50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/09(火) 23:30:12.58 ID:9ALPomJq0

ここで終わりで