前回 ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」前編

127: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:23:56.92 ID:tM7PgGFC0

千冬「何だ、言ってみろ」 

一夏「俺、実はマゾなんです」 

千冬「………………………………そうだな」ボソッ 

ラウラ「???」 

一夏「だから、彼女に頼んでいろいろ蹴っ飛ばしてもらいました」 

一夏「気持ちよかったです。ISに乗っていると忘れてしまいそうな生の痛みを感じられて……」 

千冬「………………」 

一夏「合意の上です」 

一夏「衆目に晒したことは謝ります」 

一夏「ですが、俺とラウラはトーナメントで雌雄を決するという約束をしていたんです」 

一夏「どうか俺とラウラの処分は、大会が終わるまで見逃してもらえないでしょうか?」ドゲザ 

一夏「お願いします! 俺が頼み込んだばかりに無辜のラウラを停止処分させたくはないです!」 

一夏「重ねて、お願いします! 非を受けるべきは俺だけですから!」 

一夏「どうか、どうか――――――!」 

千冬「………………もういい」ハア 

千冬「そういうことはTPOを弁えてやれ」 

一夏「あ、ありがとうございます!」 

ラウラ「わ、私は…………」 

千冬「ラウラ、お前はとっとと寮に帰れ」 

千冬「織斑はこう言っているが、誰がどう見てもお前が一方的に虐げたようにしか見えないからな」 

千冬「後始末は私がしておく」 

千冬「そして、トーナメントで正々堂々と勝負しろ」 

ラウラ「は、はい……(……織斑一夏、何故憎いはずの私を助けた?)」タッタッタッタッタ 


 
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128: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:26:36.52 ID:INcEegxh0

千冬「さて、行ったか……」

一夏「………………」オコサレル

千冬「………………」パチーン

一夏「………………効くな~。やっぱり、千冬姉の一発は身に沁みる」ヒリヒリ

千冬「自分に正直になれとはいったが、自分の身を犠牲にするなど言語道断だ」プルプル

一夏「初等教育の時点で人間になり損なったガキにはこうするしかないじゃないですか」

千冬「…………だとしてもだ」

一夏「明日は公欠にしてもらえますか?」

千冬「……お前はいつから私の前でも仮面を外そうとしなくなったのだ」

一夏「俺はもう『イケメン』の仮面を外す気はありませんよ」

一夏「みんながくれたものを捨てることはできない…………」

千冬「その優しさが自分を追い込んでいるとしてもか?」

一夏「俺はずっと逃げ続けてきたんだ。何も続かず、何やっても中途半端……」

一夏「だったら、せめて1つぐらい『イケメン』を3年間演じ続けたという実績が欲しい!」

千冬「それも『逃げ』なのに、か?」

一夏「いい加減、何もできないままでいる自分が嫌なんだ」

一夏「ゼロベクトルの自分は止めて、負のベクトルになってもいいから、」

一夏「過去に囚われたままの自分とオサラバしたいんだよ…………!」ポロポロ

千冬「そうか…………いつか私のところに甘えにこい」

一夏「いつか、そうするよ…………いつか、ね」



129: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:29:09.75 ID:tM7PgGFC0

技師「――――――それで、傷を隠すために私のところで隠れる、と」

一夏「今のうちにできることをしておきたいんです」

技師「これは、武装強化案かね」

一夏「あれは俺の仮説通り、――――――とんでもないオーパーツでしたね」

技師「ああ、あれには心底驚いた」

技師「まさかあれ自体が拡張領域――――量子化構造を活かした多機能兵装の試作品だったとはな…………」

一夏「だから、次の「最適化」で狙う武装のリストを書いたんです」

技師「なるほど、ここにあるのは『零落白夜』を応用した兵装となるのか」

技師「それとイグニッションブーストに関する「最適化」への運用計画もちゃんとあるな」

技師「だが、これはますます『白式』の燃費の悪さを増長させることになるな」

技師「機体が「最適化」しても“鉄の城”のように実弾兵器を自動生成するわけではないからな」

技師「雪片弐型を真似て機体が武器を創りだすとしたら、必然的にエネルギー兵器になるわけだ」

一夏「はい。ですから、根本的な『白式』の戦術の幅の狭さは解消されますが、より慎重な運用が求められるようになり、」

一夏「ハイリスク・ハイリターンを超えた、ウルトラリスク・ウルトラリターンの機体となるでしょうね」

一夏「正直に言えば、こんな機体は兵器としては欠陥機でしかないけど、」

一夏「それでいいんです。俺は『白式』を兵器として扱いたくないですから」

一夏「本来の用途であった“宇宙開発用のパートナー”であって欲しいから……」

技師「そうだな。むしろそうした方が外宇宙でのミッションに適している」

技師「で、織斑一夏? “ヴィーラント”としては雪片弐型の拡張領域に何を仕込む気だ?」

一夏「―――(中略)―――の他にマシンガンぐらいは仕込んでおきたいと思いますが、極力使わないようにしておきます」

一夏「もし雪片弐型の真の性能が露見したら――――――」

技師「第3世代兵器の開発に躍起になっている世界の現状を悪い意味で打破してしまうな」

技師「BT兵器や『AIC』といった信頼性のないものを高いコストを投じて量産するよりは、拡張領域と武器の機能を兼ね備えた雪片弐型のようなものを優先して量産すれば、拡張性と信頼性に秀でた第2世代型の方が圧倒的に有利となるからな」

技師「つまり、時代逆行を引き起こすわけだ」

技師「現在、第3世代型への移行に四苦八苦している企業が多い中、この技術が明るみに出れば、」

技師「この技術の獲得、あるいは技術の抹消を巡って、紛争の火種となる……!」

技師「――――――まるで同じだ。アラスカ条約締結までの流れと」

技師「ISとはつくづく罪作りだ……」

技師「『白騎士事件』といい、軍事転用といい、世代移行といい――――――」

技師「IS産業型経済モデルなんていう概念も創られるぐらいだからな…………」


130: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:31:07.27 ID:INcEegxh0

IS産業型経済モデル――――――それは、ISのコアが全世界でわずか467しかないもので成立している、

需要と供給のバランスから外れた非市場主義的な計画経済とも言えない何かであった。

そこには従来の経済感覚から大きく逸脱した商業形態が確立されており、

その原因は言うまでもなくISのコアの圧倒的な不足であり、なおかつ生産する手段がないことに起因していた。

それ故に、その数少ないISのコアを所有し続けるためには、

アラスカ条約で設置された国際機関:国際IS委員会の定期的な厳しい審査を経て、

刻々とハードルが上がり続ける成果を出し続ける必要があったのだ。

簡単に言えば、技術革新を無謀なまでに毎年のようにしなければならないということである。


何故第3世代兵器という効率の悪いものを世界が一から作り始めているのかと言えば、

まさしくISの研究を維持するためにはひたすら技術革新していくしかないからである。

そうする必要があったから意図的にそうなったわけだが、

これまでの研究成果が次の段階に持ち越せないという、これまでの産業の在り方を否定するような歪な伝統となりつつあったのだ。


売れてさえいればずっと安泰という次元を超えた、血を吐きながら続ける悲しいマラソンのようなものなのだ。

あくまでもISのコアの所有権は販売業績ではなく研究成果に対してのみ決められるので、

デュノア社のように『ラファール・リヴァイヴ』のように売れている製品があろうと、

次世代型への移行ができなければ、容赦なく没収である。

ISのコアが無ければ、当然新製品の開発もままならず、株価も一気に暴落して倒産することだろう。

そして、新技術開発による特許料で得た収入など、更なる技術開発のためのあっという間に溶けてなくなる。

そういうわけで、あまりに供給と投資の回収が追いつかないので、IS関連の価格帯はとにかく高い!

それ故に、IS産業に関わるあらゆる職種は収入に差があれ、一種のステータスとなった。

それが、女尊男卑の風潮に拍車を掛ける要因となっていた。


131: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:32:13.52 ID:INcEegxh0

更に、旧来の軍需産業を駆逐して成り立った経済構造なので、とにかく失業者が多い!

『白騎士事件』によって、ISの圧倒的な軍事能力に世界が魅了されたと同時に、

これまで世界の中心であった旧来の軍需産業への信頼と権威の失墜により、

人々の心は世界的な軍縮へと突き進み、多くの軍需産業に勤めていた人間の雇用は失われていった。

それに反発した大規模なデモも盛んに行われたが、最終的には跡形も無く消滅した。

これだけでどれだけの人間の人生が狂わされたことだろう?

やがて、IS産業は高収入を望める安定した次世代産業になると思われたが、

ISの生みの親である篠ノ之博士がコアの生産を止めてブラックボックスを開示することなく失踪したことで、

歴史的なハイパーインフレを引き起こすことになったのである。

これを収拾するために国際IS委員会による無慈悲な鉄槌が平等に振り下ろされ、

IS産業に従事する人間はどんどん篩いにかけられて失業していった。


現在でこそ、『白騎士事件』からの熱狂と混乱は落ち着き、、

一人の発明家の匙加減一つで世界が震撼させられたことへの反省として、

技術革新に対して慎重に議論することを覚えた一方で、

流れに乗った者たちはひたすら技術革新をしていかなければ生き残れないという、

内外で大きな矛盾と苦しみを孕んだ特異的な経済構造を指して、


――――――IS産業型経済モデルという概念は生まれた。




132: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:33:17.22 ID:INcEegxh0

だが、殊更 技術革新を追究していながらIS技術者に慎重さを求められていたのは、

ISが軍事利用され、ミリタリーバランスに直接結びついていたからに他ならず、

ダイナマイトを発明したノーベルが莫大な利益を狙われて、
シャフナーと名乗る軍人に執拗なまでに迫られて、軍事的な使用権を譲渡させられた

というような話の二の舞を演じることを恐れたからであった。

表向きはアラスカ条約によって軍事利用を禁止されているにも関わらず、である。


だが、全ての元凶である篠ノ之博士をよく知る彼らはただ溜め息しか吐けなかった。





――――――忘れるなかれ。

ある天才の発明が世間に浸透したのは、人々が誰に強制されたわけでもなくそれを求めたからであり、

人々の飽くなき欲望こそが革命に伴う多くの犠牲をもたらしたのだ。

買わないこと・減らすこと・捨てることを決めたのは他でもない人民の意思に他ならない。

開発者である篠ノ之博士だけにその責任を押し付けるのはただの無知者の思い上がりである。

ISの導入によって数多の失業者が生まれることは明らかに予測できたことであり、

それを断行し、それに対抗し、それに見倣い、それに続いた人々の業の深さこそが全ての元凶なのである。


発明を神の恵みとして平和利用するか、それとも悪魔の力として悪用するかは、人類に課せられた永遠の課題である。


133: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:35:13.60 ID:INcEegxh0

番外編3 一夏の特訓その2

――――――学年別ツーマンセルトーナメント前々日


箒「ま、まさか私が負けて、二人っきりになれるとは塞翁が馬だな……」ドキドキ

箒「しかし――――――」


――――――二人っきりで真剣を振るわせてくれ。


それが勝者から敗者へ要求だった。

卓を囲んでのポーカーはトーナメントを前にして控えるようになっていたが、

こうして実質的に大会前最後となったポーカーの席では、

セシリアと鈴がグルになって一夏を最下位に転落させようと目論んだが、

一夏は自信過剰な相手に強い質だったので、一夏も逆にイカサマを使って、箒が最下位になるように工作したのであった。

一夏が箒を最下位にして要求を行ったのは、大会に出る前に自分自身の手で確認しておきたいことがあったからだ。


一夏「もうちょっと重かったかな……」グッ

箒「大会まで2日というこの時期に、何故私を選んだのだ?」

一夏「それは、勝者の都合だよ。俺を信頼してくれているなら、ISの方に専念していていいよ」ピッピッ

箒「そういうつもりではないのだが…………」

箒「その映像は――――――!」

一夏「そう、第1回『モンド・グロッソ』の“ブリュンヒルデ”の試合だ」

箒「そうか、一夏は…………」

一夏「剣を振るうぞ」

一夏《無表情》「こう、こういうふうに雪片の光の剣で薙いで…………」ヒュン、ヒュン

一夏《無表情》「……納刀」

箒「……剣を鞘に収めた! 居合術か!」

一夏《無表情》「(――――――抜刀!)」バーン

一夏《無表情》「………………残心」

箒「…………凄い踏み込みだ。剣道の踏み込みとは全く違う、間合いを詰めるまでの一撃の速さを追求したものだ」


――――――いいか、一夏?

――――――刀は振るうものだ。振られるようでは剣術とは言えない。

――――――重いだろ? それが人の命を断つ武器の重さだ。


一夏「わかっているさ、千冬姉…………」

一夏「今なら、こんなにも錆び付いた身体でもね」

一夏「俺はあなたにはなれないけど、この重さは身に沁みている」


134: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:37:13.62 ID:tM7PgGFC0

一夏「さて、ここからだな……」

箒「…………一夏? 今度は何をする気だ?」

一夏《無表情》「(想像しろ! 織斑千冬が刃を抜こうとしている様を!)」

一夏《無表情》「(そして、イメージの中でもいい! それを俺の手で――――――!)」

一夏《無表情》「……………」ジー

箒「何が見えているんだ、一夏には……?」ジンワリ

箒「だが、まさしくこれは真剣勝負だ! 見守る他ない!」









一夏《無表情》「――――――!」ブンッ

箒「け、結果は!?(一瞬、何が起きたのか理解できなかったぞ……)」






一夏「…………ぐはっ」ガクッ

箒「い、一夏!?」

一夏「だ、大丈夫だ、箒……!」ハアハア

箒「し、しかし――――――」

一夏「負けた……記憶の中にある織斑千冬の幻影に負けた…………」

一夏「全身全霊で挑んで負けた……やっぱり、勝てないんだ……」 orz

箒「大会前にそんな気落ちさせるな! どうして、こんなことをこの時期に…………」

一夏「でも、これではっきりしたことがある……」ニコー

一夏「――――――俺は俺なんだ」

箒「???」

箒「……それは、そうだろう?」

135: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:38:07.82 ID:INcEegxh0

箒「――――――って、一夏! 足から血が!」

一夏「やっぱりね。俺は弱い」

一夏「こんな無茶をしてもまるで千冬姉には及ばなかった……」

箒「今、止血してやるからな(な、何を考えているのか全然わからないぞ、一夏……)」

一夏「だから、もういい。これでいいんだ」

一夏「俺は俺だ。俺の智謀と勝負師としての業で、これまで通り戦ってみせるさ!」

一夏「ごめん。もう一回やる!」

箒「ま、待て、一夏! 刀は!?」

一夏「次のは、要らない」


千冬『――――――織斑一夏!』キッ


一夏「はあああああああ!」


箒「――――――部分展開!? これってあの時の!?」

一夏「来い、『白式』!」

一夏「――――――っと、こんな感じか」

一夏「ありがとう、これで戦いに臨める」ニコー

箒「あ、ああ…………(やはり一夏は、私たちの理解の及ばないところにいる)」

箒「(一夏にとって私は助けになったらしいが、まったくその実感が私には湧いてこない……)」

箒「(私はそれが悔しくて悔しくてたまらないのだ…………)」

箒「(私はいったいどうすれば、お前と同じ目線に立てるのだ…………)」

箒「(やはり、専用機を――――――)」

136: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:40:13.96 ID:INcEegxh0

――――――学年別ツーマンセルトーナメント、当日


シャル「とうとうこの日がやってきたね」

一夏「ああ。遠隔展開の方は任せたぜ」

シャル「うん。でも、本当に大丈夫? 『白式』には照準器は入ってないんでしょ?」

シャル「まあ、マニュアル射撃で命中させられたんだから、十分か」

一夏「基本的に俺が囮になる。シャルルは容赦なく『高速切替』の弾幕で各個撃破を」

シャル「わかったよ――――――あ、ちょっと本国の人と用事が……」

一夏「ああ、行っておいで(あれはデュノア社の人間か。けっ、いけ好かない面だ)」

一夏「(鼻の下が伸びているぞ。大丈夫か、あれ?)」

一夏「さて、今日のはタッグマッチだが、急な予定変更で急拵えのタッグばっかだな……」

一夏「ああ、またセシリアと鈴が組むことになったか……」

一夏「でも、相手は1年生だもんな。そろそろ始まる頃だけど、これはあっさり勝つだろう」

一夏「さて、その次――――――まさか初戦で当たるとはな、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

一夏「そして、その相方が箒か……」

一夏「宣言した手前、何が何でも勝たせてもらうぞ!」

一夏「お…………」ムズムズ

一夏「ごめん、千冬姉。使わずにはいられなかった」タッタッタッタッタ

一夏「さて、と…………」カチャピピピ


シャル『これが『白式』のデータです』

社員『よくやったな、シャルル。いや、シャルロット・デュノア?』

シャル『ここでその名は呼ばないでください。バレたらどうするんです?』

社員『ああん? その時はお前は本国で第3世代型の開発のために尽力してもらうぞ?』

社員『あるいは、俺のxxxの相手でも……げひゃひゃひゃひゃ……』

シャル『何でこんな人が連絡役なんかに…………』ボソッ

社員『まあ、あとは“世界で唯一ISを扱える男性”の 子を取ってくるとかさ~』

社員『頑張って、これからも成果を出してちょうだい、シャルロットちゃ~ん』

シャル『…………失礼します』


一夏「ふぅ~ん」

一夏「最近の盗聴器って凄いよね。発信機の機能も付いているからさ。あと、ラウラが残してくれたカメラも役に立って良かったよ」

一夏「これでデュノア社は終わりだな……」

一夏「――――――シャルルはいただく」

一夏「男の娘じゃなかったのが残念極まりないが、俺を慕ってくれている以上は切り捨てるつもりはない」バタン

一夏「お、やっぱ早いな。セシリアと鈴、もう勝負を決めたか」ゴクゴク

シャル「あ、一夏。セシリアと鈴はもう勝ったんだ」

シャル「それじゃ、急ごう……」タッタッタッタッタ

一夏「ああ(顔を合わせようともしないか。相当良心の呵責に苛まれているんだろうな)」

一夏「――――――展開」

一夏【???】「さ、誰も彼もが滑稽でしかない仮面舞踏会の始まりだ」

137: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:41:54.94 ID:INcEegxh0

シャル「………………」

一夏「シャルル、集中してくれ。俺のパートナー」ニッコリ

シャル「あ、うん! 頑張るからね、一夏!」

ラウラ「…………怪我の方は大丈夫か?」

箒「――――――怪我?(ラウラが一夏を気遣っただと!? な、何が起こった……!?)」

一夏「心配される言われはない――――――けど、嬉しいぞ、ラウラ」ニッコリ

ラウラ「……私は貴様を許さない。私の存在を脅かす貴様を」

一夏「大丈夫だ。ガキのワガママを適度に許容するのが大人だからな」

一夏「そして、ガキの減らず口を封じるのも大人の務めだから」

一夏「どんどん怒ってくれ。“弱さ”と“優しさ”の区別ができない野蛮人」

ラウラ「…………その言葉をそっくり返してやろう。弱いやつの虚言妄言、その減らず口を叩けなくしてやる」

箒「(珍しい。一夏が直面(ヒタメン)じゃない)」

箒「(ラウラに合わせた……いや、タッグマッチだから使わないってことなのか?)」

一夏「(あの時はラウラがモヨオシタおかげで一矢報いることができたが、)」

一夏「(ラウラが言ったように前のようには絶対にならない。だから――――――)」

一夏「ラウラ! 俺はシャルルを頼りにしている!」

一夏「――――――倒せるかな、シャルルを!?」

シャル「え、僕!?(どういうこと? 僕に注意を向けさせてどうするの?)」

ラウラ「ふん、接近戦しか能がない『白式』と第2世代型の『ラファール』など、『シュヴァルツェア・レーゲン』の敵ではない!」

一夏「箒も行くぞ! 手加減なしだ!」

箒「……あ、ああ、覚悟していろ!(蚊帳の外かと思ったが、やはり一夏は私をちゃんと…………)」

箒「(だが何にせよ、最悪の組み合わせだが武士として勝利を得る! そのためには一夏の動きを封じる!)」キッ

シャル「………………」

ラウラ「………………」

箒「………………」

一夏「(悪いな、ラウラ……シャル……箒……)」

一夏「(勝負師の勝負っていうのは、場につく前から始まっているんだ)」

一夏「(俺がトーナメントに参加するって決めた時点で、)」

一夏「(この試合、負ける要素は1つもないな……)」



138: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:44:05.68 ID:tM7PgGFC0


アナウンス「試合開始」


一夏「見せてやるよ、俺のゲームメイク!」ヒュウウウウウン

ラウラ「潰す――――――っといきなりの先制攻撃か。それぐらいわかっていたぞ」

一夏「動け! あの時みたいに――――――!(はいはい、『AIC』『AIC』)」

ラウラ「あの時は――――――そう何度も通じると思うな!」

シャル「隙だらけだよ、ラウラ!」ジャキ

ラウラ「な、いつの間に接近していた!?」

ラウラ「くぅうううう!」

シャル「逃がさない!」

箒「足元がガラ空きだぞ、シャルル!」

シャル「――――――あ!?」

一夏「っと、そうはさせない!(――――――来た!)」ガキーン

箒「読まれていたか……(だが、これは好都合だ! 動きを封じられる!)」

一夏「ちぃいいい!」

箒「えええええい!(……何だ? 何というか力が篭っていないぞ、一夏)」ガキーン

一夏「(やっべえ! 機体の重量差を考慮しても、箒の剣捌きは俺なんかよりも数段上手で重みがある!)」

一夏「(これで不調なんだから、末恐ろしい! さすがは全国一……!)」

一夏「(箒のやつ、やっぱり訓練の時なんかは俺に無意識的に手加減していたか……)」

一夏「(やっぱ小細工なしじゃ、俺なんかに勝ち目がなかったな……)」

一夏「(だけどな――――――!)」

シャル「一夏!(――――――予想通りだね!)」

一夏「悪いな、箒! そっちの相方はどうやら援護には不向きな機体だぞ!」

箒「しまった!(これは、足止め!? 何かおかしいと思ったら……!)」

箒「(そうか、一夏は最初から囮になって攻撃をシャルルに――――――!?)」

シャル「(なるほど、だから僕に注意を引き付けるようにしたのか)」

シャル「(あからさま過ぎた方が、逆に相手は疑いだすもんね)」

箒「くぅううう!(シールドエネルギーが!)」

シャル「一夏! ラウラが――――――!」

一夏「ワイヤーブレードか!?(だが、味方に隠れてこう密着していては――――――)」

箒「な、何をする!」

シャル「み、味方を投げ飛ばした!?」

ラウラ「邪魔だ!」カコン、パーン

一夏「――――――イグニッションブースト!」

ラウラ「ちぃ」

一夏「(投げ飛ばしたと同時に、レールガンか。なかなかの集中力だが……)」

一夏「(同時操作はせいぜい2つ程度が限界のようだな。なら――――――!)」

139: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:45:32.82 ID:INcEegxh0

箒「く、最悪の組み合わせだがベストは尽くすぞ!」

シャル「ごめんね、一夏が相手じゃなくて!」

箒「なっ!? ――――――馬鹿にするな!」

ラウラ「織斑一夏、八つ裂きになれ!(次いでに後ろの第2世代型を捕らえる!)」

一夏「来た!(見せてやれ、『白式』!)」フワッ

一夏「――――――『零落白夜』!」ズバリーン

ラウラ「な、何! レールガンとワイヤーブレードが、また…………」

一夏「――――――解除っと!そして、(秘技“ローアングラー”――――でもないスライディングキック!)」

ラウラ「ぐわっ! け、蹴りを入れられただと!? 舐めた真似を……!」

観衆「おおおおおおおお!」


山田「い、今のはいったい……?!」

千冬「ワイヤーブレードが発射されたと同時に、」

千冬「イグニッションブーストで一瞬だけ飛び上がり、身体を捻りながらプラズマブレードを回避しつつ、」

千冬「射出されたワイヤーブレードを即座に回転斬りで斬り落として、味方への攻撃を防ぎ、」

千冬「そして、右肩のレールガンをも斬り落とし、敵の戦闘能力の大半を奪った」

千冬「一瞬でこれだけの戦術効果を持った行動を咄嗟にできるとはな」

山田「本当に素晴らしいですね」

千冬「ああ」

千冬「(しかも、『零落白夜』のオン・オフが異常な速さだった)」

千冬「(反射神経や伝達能力は全盛期の私以上だな)」

千冬「(惜しむらくは体力の無さだが、これ以上望むまい)」

千冬「(元々『白式』は一撃必殺を主眼とした機体――――――)」

千冬「(戦況が膠着すると剣1つしかないこともあって圧倒的に不利)」

千冬「(それ故に、持久力のある『ラファール』による的確な援護を活かす立ち回りをしている)」

千冬「(つまり一夏と『白式』にとって、タッグマッチでの最高のパートナーとはシャルルと『ラファール』の他にない)」

千冬「(あるいは、……火力と燃費を考慮して、ラウラと『シュヴァルツェア・レーゲン』のタッグもありだがな)」

千冬「(1対1で輝く機体と、2対2で輝く機体――――――)」

千冬「(万能最強の機体が存在しないのは、機体の数を変えただけで、)」

千冬「(こんなふうに求められる能力が変わってくるからなのだ)」

千冬「(タッグマッチになって割りを食ったな、ラウラ)」

千冬「さて、試合はもうそろそろ終わりそうだな」

山田「はい」




140: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:49:11.66 ID:INcEegxh0

箒「ええい!」

シャル「甘いよ!」ジャキ

箒「――――――はっ!?(いつの間にショットガンを!? 一夏はこんなのと戦っていたのか!?)」

バキュンバキュン

箒「…………ここまでか」(戦闘続行不能)

シャル「一夏! 今、助ける!」

一夏「さあ、どうする? ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

一夏「前みたいに主力のレールガンは斬り裂いてやったぜ!」

ラウラ「な、何をおおお!」

一夏「もう、サレンダーしな。残っているのは第3世代兵器ばっかだし……」

一夏「使う度に足が止まるってこんな欠点、第2世代型ISだったらありえないのにねー」ププッ

ラウラ「それでも私はあああああ!」

一夏「チェックメイトだ(ふはははは、集中力をガリガリ削いでやったからな。ワイヤーブレードの機動が鈍いぜ!)」

一夏「――――――『零落白夜』!(そんな単調でノロノロなもの!)」ズバズバ

一夏「――――――解除(またつまらぬものを斬ってしまった、なんてね)」

ラウラ「な、何故だ……!? 何故、私がここまで――――――!?」

ラウラ「だが、甘いぞ!」

一夏「――――――あ!!(有利に驕ったか…………)」

シャル「させないよ!」ドカッ

ラウラ「よくも! よくもよくもよくも…………!」

一夏「…………助かった(でも、プラズマブレードを受けても余裕だったんだけど)」

一夏「(やっぱり、ISに乗っていると理性と感覚が麻痺してくるな……)」

シャル「まだ、終わりじゃないよ!」

ラウラ「イグニッションブーストだと!?」

ラウラ「だが、『停止結界』なら無力――――――ぐあっ!?(背後から撃たれただと!?)」

一夏「――――――ナイスタイミング! さすが俺のパートナー!」

一夏「動きの止まったでかい的なんてマニュアルでも十分当てられるよ」

一夏「『停止結界』――――――自分を停止させる結界ねぇ」ニヤニヤ

ラウラ「またしてもやつに――――――!」

シャル「どこ見ているの? この距離なら外さない!」

ラウラ「盾殺し(シールド・ピアース)だと!?」

一夏「ああ、やっぱ『ラファール』って厄介だな(そして、男の娘強ええ! ――――――もう違うけど)」

ラウラ「ぐあああああああ!」

観衆「おおおおおおおおおお!」

一夏「凄い勢いで吹っ飛んだな……」

一夏「よし、突撃しろ!」パン、パン、パン

シャル「ううおおおおおおおおおおおお!」

ラウラ「ぐわあああああああああ!」



141: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:50:35.44 ID:INcEegxh0


――――――ゲームセットだ。


一夏「ラウラ、お前の敗因は『一人だった』ことだよ」

一夏「“強さ”だけで何でもできると思い込んで、その“強さ”を正しく発揮するための努力を怠った当然の敗北だ」

一夏「(人間っていうのは様々な顔を使い分けて生きていて、)」

一夏「(学生としての自分、ISドライバーとしての自分、家族としての自分――――――)」

一夏「(いろんな顔を持ち合わせているのが人間というもの)」

一夏「(千冬姉にだって、――――――鬼のように怖い顔、――――――母親のように優しい顔、いろいろあるのにさ)」

一夏「(――――――お前は脳筋だったんだよ。“強さ”だけでしか物事を判断できずに、弱いやつの足掻きや努力を知らなかった)」

一夏「(そして、負け方を知らなかった。千冬姉の手で最強になってから、それを考慮する努力を怠ったんだ)」

一夏「(だから俺は、お前が精神的に幼稚であることに目を付けて、)」

一夏「(利用できるものは全て利用し、今まで体験したことのない状態に陥らせ、)」

一夏「(――――――精神的に追い込んだ!)」

一夏「(ISは極めてパイロットの精神状態が反映しやすい脳波制御で動く)」

一夏「(人の精神なんてこんなにも簡単に揺らぐのだから、)」

一夏「(何で世界は第3世代兵器とかいう、安定性のない兵器の開発に力を入れているんだか…………)」

一夏「(思考が乱れても銃爪で引くという確実な動作で機能するライフルを持たせていれば、もっと強かったろうに…………)」

一夏「(――――――ああ、夢があるからか…………血を吐きながら続ける悲しいマラソンの産物だけど)」

一夏「(その辺が旧い時代との違いか…………理性的なようで狂っているけどな!)」



シャル「応答して、一夏!」

一夏「――――――!? どうした、シャルル?」

ラウラ「うわあああああああああああああああ!」

箒「い、一夏! ラウラの様子がおかしいぞ!」

一夏「――――――!? な、何が起きた!?(試合は終わったんじゃないのか!?)」

一夏「離脱しろ、シャルル!(シールドエネルギーはまだ残っているようだな)」

シャル「う、うん!」

一夏「何だか知らないけど、シールドエネルギーが無くなれば、機能は停止する!」パン、パン

一夏「――――――弾が止まった!? 『AIC』の力場が一様に発生しているのか!?」

一夏「突っ込んでも無駄か…………くぅ、黙って見ているしかないのか?」

シャル「い、一夏…………」

一夏「心配するな、パートナー。何があってもきみは見捨てない」

シャル「う、うん…………」


142: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:52:23.07 ID:tM7PgGFC0

アナウンス「非常事態発生! トーナメントの全試合は中止!」

アナウンス「状況はレベルDと認定! 教師部隊を送り、鎮圧を図ります!」

アナウンス「来賓、生徒はすぐに避難してください!」


一夏「また公式での勝利は立ち消えたか…………」

一夏「無冠の帝王の名が付きそうだな…………」

シャル「一夏! あれ!」

一夏「――――――IS用の太刀!? って、あれは雪片じゃないか!?」

一夏「しかも、原寸大じゃないけどあの輪郭は――――――!」

一夏「シャルル! 攻撃は待て!(…………ただの変形じゃない!)」

一夏「俺の考えが正しければ、(…………パイロットや機体を呑み込んでの変態だ)」

一夏「あれは第1回『モンド・グロッソ』総合優勝者“ブリュンヒルデ”織斑千冬のコピーだ!」

一夏「――――――“ブリュンヒルデ”なんだよ!」

シャル「え!?」

箒「な、何だと!?」

一夏「ん? 覚えがある気が…………(『モンド・グロッソ』の優勝者……機体とパイロットを再現……変態……)」

一夏「まさか――――――!?」

箒「どうした、一夏!」

一夏「――――――こいつがアラスカ条約で禁止されている“VTシステム”なのか!?」

シャル「VTシステム?」

箒「初めて聞く名だ」

一夏「ヴァルキリー・トレース・システム!」

一夏「『モンド・グロッソ』部門優勝者“ヴァルキリー”の機体とパイロットを再現する禁断の技術だ!」

一夏「アラスカ条約で禁止された理由は、見ての通りパイロットすら呑み込んで機体とパイロットを再現する点だ!」

一夏「基本的な輪郭や性能を再現するために、強制的にISの輪郭を歪め、性能を書き換え、」

一夏「パイロットは質量を“効率よく”再現するために機体の中に取り込まれる!」

一夏「だが、それは純粋な質量として再現するために石ころを腹に詰め仕込んだのと同じ感覚で、」

一夏「あのまま閉じ込められていたら、ラウラが酸欠でただの物体になってしまうぞ!」

箒「何だと!?」

シャル「そ、そんな技術が存在していただなんて……」


143: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:53:08.98 ID:INcEegxh0

一夏「シャルル、最後に確認できた相手のエネルギー残量はわかるか?」

シャル「レッドゾーンには入っていたはずだよ、一夏」

一夏「それなら、問題はないか」ギリッ

一夏「あの時の織斑千冬は俺の『白式』と同じように、相手の行動に合わせて攻撃態勢に移るから、敵対意思を見せなければ大丈夫なはずだ。あとは、教師部隊の数の利で捻じ伏せることができる」イラッ

シャル「一夏?(言葉と裏腹に凄く忌々しそうに睨んでいるよ…………)」

一夏「…………俺たちは後退だ。箒は俺の手に。シャル、相手を刺激しない程度に低速で離脱だ」ギリギリ

箒「あ、ああ…………(お、お姫様抱っこ……だが、あまり喜べない状況だ……)」

シャル「わかったよ、一夏(やっぱり、苛立ちを募らせている……)」

一夏「(くっそー! 『AIC』が使えれば“ブリュンヒルデ”でも簡単に倒せるのに!)ギリギリ

一夏「(教師部隊は何ノロノロやっているんだ! 早く助け出さないと中のラウラが死ぬぞ!)」ギリギリ


千冬「……VTシステムか(ラウラ、お前はそこまで私になりたかったのか)」

山田「教師部隊が配置につきました」

千冬「事は一刻を争う。対象のシールド残量も残り少ない」

千冬「一気に鎮圧せよ!」


144: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:54:41.66 ID:INcEegxh0

セシリア「一夏さん!」

鈴「一夏!」

一夏「よく来てくれた! セシリアたちも来てくれ!」

一夏「教師部隊に万が一のことがあった場合の備えとして、」

一夏「シャルルも再出撃を頼む!」

一同「了解!」

箒「くっ(またしても、私だけ…………)」

一夏「箒、力が今ないことを悔やまないでくれ!」

箒「一夏……そうだな、すまない。救護班に酸素マスクを用意させてくる」

一夏「そうしてくれ!」

一夏「行くぞ! 再出撃だ!」






セシリア「――――――教師部隊8機が壊滅しているじゃありませんか!」

鈴「そんな……1分も経っていないじゃない!」

一夏「やっぱり、手に負えないか……(そんな気はしていた。だが、あれを持っていいのは――――――!)」ギリギリ

一夏「(だが、最悪の状況だ。これを鎮圧するための手段はただ1つ――――――)」

一夏「セシリアは『ブルー・ティアーズ』を戦闘不能になった隊員の周囲に浮かばせてくれ!」

一夏「絶対に撃つなよ! あくまでも保険だ」

一夏「シャルルと鈴は教師部隊の避難を手伝ってくれ!」

一夏「刺激はするな。低速で離脱するんだ」

一夏「――――――俺が斬りこむ! だから、後は頼んだぞ!」

シャル「そんな! 一夏はあの“ブリュンヒルデ”と真正面から戦う気なの!?」

一夏「……そうだ、遠隔展開はしないでくれ」

一夏「たぶん、全神経を研ぎ澄ませた戦いになるだろうから命取りになる」

一夏「いいか、決して撃つな! 戦闘レベルの行動は一斉行うな!」

鈴「そんな、一夏!」

セシリア「しかし、イグニッションブーストを使う相手となると、私たちでは歯が立たないのは事実ですわ」

シャル「く、足手まといにならないようにするのも、パートナーの務め……だね」


145: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:57:45.86 ID:tM7PgGFC0

一夏「そこのIS! 俺と勝負しろ!」

ラウラ「――――――」

一夏「来た!(イグニッションブースト同士の高速戦闘……!)」

一夏「行くぞおおおおお!(機体性能はどうなんだ?)」

一夏「(『白式』は欠陥機として放置されていたけど、第1世代型最初の『暮桜』よりさすがに性能は高いはずだ!)」

ラウラ「――――――!」

一夏「危なっ!(秘技“ローアングラー”!)」

一夏「(…………危なかった! こんな俺が“ブリュンヒルデ”に優っている点は、技術進歩による恩恵と、“ブリュンヒルデ”の太刀筋がわかっていることだ。だが、わかっていても俺の体力が保たない…………)」

一夏「(中のラウラにちゃんと絶対防御が働いているのか、心配だ……!)」

一夏「(まだ生きているよな? 死ぬなあああああああああ!)」

ラウラ「――――――」ガキーン

一夏「…………このぉ!(――――――偽物め、ぶっ倒してやる! それは――――――!)」ガキーン

一夏「(空中戦から地上戦に持ち込まないと、勝ち目が――――――)」




箒「イグニッションブースト同士の高速戦闘…………」

箒「――――――あ、一夏の動きが!? 限界なんだ!(勝ってくれ、一夏…………!)」

ラウラ「――――――」 ガキーン

一夏「――――――っか(あ、息が…………)」ガキーン

セシリア「い、一夏さん!(今すぐにでも銃爪を引きたいですけど、)」

鈴「一夏!(ここで誰か一人でもあいつの強がりを無視したら、)」

シャル「一夏!(一挙に崩れてしまう! 耐えるんだ!)」

一夏「――――――あ(…………血が?)」

ラウラ「――――――」ガキーン

箒「一夏ああああああああああ!」

一夏「(………………もう、アレを使わざるを得ない!)」ヒュウウウン

一夏「ゴホゴホ…………て……かい…………(悪い子でごめん、千冬姉)」ドゴーン


千冬「一夏ああああああああああ!」ガタッ

山田「織斑先生!」


織斑一夏の『白式』はまだ機能停止をしてはいなかった。まだ戦えた。

しかし、イグニッションブースト同士の壮絶な戦いの中で、パイロットの方に明らかな不調が出始めていたことから、

誰もがこのまま地表に叩きつけられて、再び起き上がることはないと予想してしまった。


――――――だが!


146: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 10:59:16.11 ID:tM7PgGFC0

シャル「え、今 何か展開して……」

鈴「い、一夏!(口から血を吐いた! もう耐えられない! あんたの強がりなんて――――――は!)」

一夏【???】「――――――」スクッ

セシリア「一夏さん! 無事で何よりですわ、本当に……(墜落してからの急停止で持ち直しましたわ!)」ホッ

箒「だが、様子がおかしい……」

箒「――――――って、な、何だあれは!?」

シャル「能面――――――“黒い般若”!?」ビクッ

鈴「い、一夏……?(白い機体に黒いパイロットのモノトーンが印象的……)」

セシリア「一夏さん、大丈夫ですか! ……一夏さん?」

シャル「一夏、僕の声が聞こえる? 返事をして! ねえ!」

箒「な、何が起きたのかわからないが、あのVTシステム機が来たぞ!」

ラウラ「――――――」

一夏【黒般若】「――――――」

箒「空中戦は止めて、今度は居合で勝負する気か?!」

箒「だが、一夏は全身全霊を賭けた一戦で敗北し、勝てないと言った!」

箒「止めろ、一夏! 止めるんだああああ!」

鈴「箒!? 生身のあんたが出しゃばったって邪魔になるだけよ!」ガシッ

箒「だが、一夏は! 一夏は――――――!」ポロポロ

シャル「僕らが一夏に許されたことは見守ることだけなんだ…………」


147: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 11:00:12.03 ID:tM7PgGFC0



















ラウラ「――――――!」

一夏【黒般若】「――――――」フワッ

箒「一夏――――――!?」

千冬「――――――こ、これは!?」

一夏【黒般若】「――――――!」ズバッ



箒「……勝った、勝ったのか! あの“ブリュンヒルデ”に!?」

鈴「一夏ぁ!」

シャル「一夏!」

セシリア「遠くから見ていただけでしたけど、本当に、よかったですわ……」ポロポロ


148: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 11:01:27.71 ID:INcEegxh0

勝敗はそこに居た誰もが抱いていた予想を裏切るやり方で決した。

“ブリュンヒルデ”のVTシステム機が居合を放ち、それに対して一夏も同じく居合で対処するものだと誰もが思っていた。

しかし、一夏の『白式』はとんでもない機動を見せた。


一瞬で空中に横たわったかと思うと、更に雪片弐型の光の剣と黒般若の面を残して装備が解除され、

解除した瞬間に自由落下し始めた横たわった生身の身体の下スレスレをコピーの雪片が通り過ぎ、

一瞬後れてから、『零落白夜』を発動させた雪片弐型でそのまま斬りつけたのだ!



それは試合中に見せた、『シュヴァルツェア・レーゲン』のワイヤーブレードとレールガンを、

一振りでまとめて斬り裂いてみせた、あの回転斬りを発展させた奥義であった。



だが、それがいかにとんでもない反撃の仕方だったかは容易に想像付くであろう。

ISを解除――――絶対防御やPICを切って自然落下の勢いに任せて無心で斬り捨てたという、

1秒でもタイミングがずれれば、あるいは座標の調整をミスしていれば、

水平に一夏の身体が真っ二つにされていただろうし、取り込まれたラウラを逆に真っ二つにする可能性すらあった、

凄そうなことをやっているように見えて、どちらかが必ず死にかねない、とんでもなく効率の悪い魅せ技であったのだ。

だが、織斑一夏はやってみせた。それが事実である。


149: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 11:02:31.63 ID:tM7PgGFC0


――――――仮面舞踏会は意外な幕引きを迎えた。

しかし、見事に使命を果たした勇者が仮面を投げ捨てて囚われの姫君を抱きとめたシーンは、

そこに居た誰にとっても感動をもたらす名場面にとなった。


一夏『俺は俺だ。俺の智謀と勝負師としての業で、これまで通り戦ってみせるさ!』


箒「……そうか! 一夏にとっての最大の武器は、直接的な“強さ”じゃない!」

箒「最初から最後まで一貫して、自分の“強さ”を限界以上まで活かしきる、」

箒「智謀と勝負師としての業、――――――不可能を信じない芯の強さだったんだ!」



一夏『そして、俺は織斑千冬の“強さ”は目指さない! それを超えるものを手にするんだああ!』


千冬「まさか、本当にお前のやり方で私を超えてしまうとはな…………」ポロポロ

山田「織斑先生……」

千冬「よくぞ、よくぞ、やってのけた…………!」

千冬「あんなにも頼りなかった一夏が、一夏が…………」

千冬「(――――――だが、アレを使ってしまった以上は、更に過酷な状態に陥ってしまっただろう)」

千冬「(そして、それ以前におそらく一夏はもう――――――)」

千冬「(私も次に備えて覚悟を決めていくか……)」


150: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 11:03:30.18 ID:tM7PgGFC0

一夏「オキロ、オキルンダ! メヲサマシテクレ、ラウラ!」ゲッソリ

ラウラ「」

一夏「ハアハア……ガァハ…………!(脈動確認、気道確保、口内損傷無し)」

一夏「スゥーーー」

一夏「フゥ・・・フゥ・・・フゥ・・・」

一夏「ハアハア・・・・・・! (呼吸の反応なし……!)」

一夏「スゥーーー」

一夏「フゥ・・・フゥ・・・フゥ・・・」

一夏「ハアハアハアハアア・・・! (呼吸の反応なし……! 心臓マッサージ……!)」クラクラ

一夏「ハアハア・・・カハッ・・・ア・・・(こいつ、15歳で148cmだっけ?)」

一夏「ハア・・・ア・・・(小児と扱うべきなんだろうか?)」

一夏「ア・・・(いや、軍人だし、ここは大人として扱う!)」

一夏「ハフ・・・ハア・・・ハア・・・ア・・・(手の位置はここでぇ……!)」

一夏「アア・・・クア・・・フン・・・ア・・・」

ラウラ「・・・ガハッ・・・ゴフッゴフッ・・・」

一夏「アア・・・アアア・・・(対象の呼吸を確認――――――)」ドサッ

一夏「――――――(ヤッタヨ・・・チフユネエ・・・・・・)」

シャル「一夏! しっかりして! ねえ!」

鈴「何やってんのよ! 心肺蘇生して逆に酸欠で倒れたら世話ないじゃない!」

鈴「こうなったら、私が――――――」

箒「そんなことよりも二人をストレッチャーに!」

セシリア「一夏さん!? そ、そんな、どうしてこうも選手生命に傷をつけるような災難が!?」



箒「(私はこの時、一夏のファーストキスがラウラに捧げられたことに対する苛立ちよりも、)」

箒「(こんなあまりにも理不尽な目に遭ってなお、最期に人を救えたという、)」

箒「(顔面蒼白のあまりの痛ましさに直視できないが、妙に安堵させる、)」

箒「(一夏の死人のように安らかに眠るあまりの美しい表情に、)」

箒「(一瞬でも『良かった』と思ってしまった自分に言い知れない怒りを覚えた)」



151: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 11:04:41.20 ID:tM7PgGFC0

――――――数日後


医師「もはやここまで来ると、十分に悲劇の主人公と認定してもいいぐらいだ」

シャル「先生! 一夏は……一夏は大丈夫なんですか!?」

セシリア「そうですわ! 早く一夏さんに一目会わせてください!」

鈴「私たちだけじゃなく、学園中が心配してるわ! だから、早く!」

箒「………………」

医師「病室では騒がないことだ。それに騒ぐと唾液のバイ菌が飛び散る」

シャル「…………すみません」

セシリア「あ、それはそうですけれど……」

医師「まず結論から言えば――――――、」

一同「ゴクリ」

医師「少なくとも、天国には行ってないよ」

シャル「よ、良かった…………」ホッ

セシリア「そ、そうでしたか……」

鈴「そ、そうよね。あの程度でくたばるわけないじゃない!」ジワッ

箒「良かった。もう二度と目を覚まさないものだと…………」ブルブル

医師「話を進める前に、缶コーヒーでも飲んでリラックスして欲しい」

医師「正直、私でもどう話したもんか困っている…………」

医師「さあ、遠慮なく選ぶといい。そっちのお嬢さんはカフェオレでいいかな?」

セシリア「あ、お気遣い感謝します」

シャル「じゃあ、僕はこれにします」

鈴「苦いのにしておこ……」

医師「さて、話を進めようか」

箒「ちょっと待ってください! ――――――『少なくとも』とは?」

医師「そのことについてなんだが、」

鈴「――――――あ!? まさか、また後遺症が?」

医師「…………そのまさかだ」

セシリア「そ、そんな! 一夏さんはこれで二度目の死を経験しておりますわ!」

箒「だ、だが、その時は後遺症なんて――――――」

医師「…………(もう話してもいいだろう。もう隠し通すことはできないからな)」

医師「残念だが、一夏くんは最初のやつでPTSDになって、」

医師「ISを私的な目的のために展開できなくなっていた」

一同「――――――!?」

医師「織斑先生の前や絶体絶命の状況なら使えたようだがね」

箒「そ、そんな! そんな素振り、全然……」

鈴「それを知っていたなら、どうして教えてくれなかったんですか!」

医師「それは一夏くんのためを思ってだ」

152: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 11:06:00.35 ID:INcEegxh0

医師「一夏くんは非常に体裁を気にする子でね……」

医師「みんなが想像している『イケメン』であろうと必死に感情を押し殺して、『イケメン』を演じてきた難儀な子なんだ」

医師「それになまじ良識や考えが行き届くせいで、」

医師「ISが使えなくなれば、学園での自分の立場が無くなることを危惧して、」

医師「それをみんなに悟られないように、必死に努力をしていたからね…………」

医師「織斑先生も極力一夏くんが『白式』を展開する際に立ち会うようにしてたのさ」

セシリア「ぜ、全然そんなこと知りませんでしたわ……」

医師「例えば、朝4時か深夜1時頃にアリーナに侵入して、」

医師「そこで『白式』を展開する特訓をしたり、そこでの過去の戦いを振り返って感覚を忘れないようにしたり……」

シャル「え!? そ、それじゃ、あの日の朝に一夏が居なかったのって…………!?」

箒「そ、そんな!? 一夏はあの日からそんな状態で私との朝稽古に付き合っていたのか?!」

鈴「というか、いつ寝ているのよ! ポーカーだって夜に結構やってたじゃない!」

医師「(重度のナルコレプシーにもなっていたことは伏せておくか)」

医師「最終的には、ある程度克服する手立てを自力で見つけられたようだがね」

医師「それだけでも実に賞賛に値するよ、彼」

箒「あの時の、居合――――――!」

セシリア「え、それは何ですの?」

シャル「あ、確かにそんなこと試合前にやってたような気がする!」

シャル「剣と腕部を部分展開してから、全体を展開する奇妙な展開の仕方だったからよく覚えてる!」

箒「間違いない! それだ!」

医師「だが、ここに来て新たな後遺症が確認された……」

医師「原因は言うまでもなく、酸欠によるものだ」

医師「イグニッションブースト同士の限界を超えた空中戦による内臓器官の圧迫及び破裂」

医師「居合対決による緊張、疲労状態での強行、呼吸回数の低下、」

医師「最後に、自身の身を顧みない人工呼吸の断行と、積もり積もった呼吸不足……」

シャル「聞いているだけであの光景が蘇ってくるよ……」ジンワリ

鈴「私もよ」ジンワリ

医師「以上の数々の致命的な原因が積み重なり、一夏くんは常人では再起不能なほどのダメージを受けてしまった」

セシリア「最初の内臓器官の圧迫や破裂の時点で、重傷じゃありませんか!」

医師「そう。だから、本来なら緊急の外科手術を行う必要があったのだが…………」

医師「奇跡的な回復力でそれはほとんど治ってしまった」

鈴「へ? それ、どういうことですか?」

医師「私にも何が起きているのかわからない」

医師「とにかく、放っておけば後2,3日で快復するんじゃないかと踏んでいる」

箒「え、それじゃ、特に問題はないのでは…………」

医師「それがただの内臓だけの被害だったら、奇跡の生還として諸手を挙げて祝うところだが、」

医師「酸欠で一番怖い後遺症は、脳組織へのダメージなんだよ」

鈴「それってどういう――――――」

153: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 11:07:39.22 ID:INcEegxh0

医師「脳組織の酸素消費量は全身の4分の1にも及んでいる」

医師「つまり、呼吸しないと脳活動が低下し、やがては生命活動が止まる危険性がある」

医師「これだけで一夏くんの脳活動がいかに打撃を受けたか想像ができるだろう……」

医師「そもそも一夏くんは酸欠に気合で耐え続けて、あの機体を撃破するまでに3分程度戦い続けた」

医師「ISという脳波制御の兵器を使っていたのだから、脳組織の仕事量は常人の比ではなかっただろう」

医師「そして、ストレッチャーに乗せられて人工呼吸器に繋がれるまでで7分程度」

医師「これは致命的だ。普通の人間なら脳組織が完全に死んで、脳死に至ったであろう」

医師「いや、――――――ISドライバーとしても、――――――織斑一夏としても、完全に終わったかもしれん」

一同「」

医師「そう、彼は記憶喪失や痴呆にはならなかったが――――――、」

医師「これを見て欲しい。以前に後遺症の検査で原稿用紙に好きなことを書かせた結果なのだが、」

医師「この前 特別病棟に送られた際のものは、きめ細かく丁寧にかつ理路整然と書き込んでいるのがわかるだろう」

医師「だが、今回の検査で書いたものは、一見すると一般人が書いたような、所々誤字が見られるレベルにまでなっている」

医師「よって、以上のことを踏まえると、」

医師「――――――性格異常と知能低下の可能性があります」

医師「また、本格的にカウンセリングをしたわけではありませんが、」

医師「その他にも、身体の一部が慢性的な麻痺を引き起こしているようにも見受けられました」

医師「ですが、この程度で済んだのは奇跡としか言いようが無いレベルだったということを、」

医師「――――――医者として告知しなければなりません」

医師「酷ければ、脳死、痴呆、記憶喪失、四肢麻痺などに陥り、人間としての尊厳など微塵も感じられない惨状になっていたことでしょう」

154: ◆vc6TpLHdOs 2013/08/31(土) 11:09:35.85 ID:INcEegxh0

箒「ああ、一夏、一夏、一夏…………」ガクッ

シャル「僕のことを置いていかないで、『パートナー』だっていったよね! 一夏、一夏ああああああ!」

鈴「あはははは、やりたいことなくなっちゃった……」

セシリア「私に料理を手取り足取り指導してくださる約束は…………」

一同「ウワアアアアアアアアアアアアン!」

医師「…………すまない。私は失礼させてもらうよ」

医師「そろそろ検診の時間だからね」

医師「だが、その原稿は最後まで読んでいって欲しい」

医師「彼の優しさは失われていない。ではな」



――――――ラウラは攻めないであげてください。オレがノゾんでしたことですから。







いったい誰が予測することができたであろう、このような仮面舞踏会のフィナーレ。

果たして、織斑一夏自身はここまでの展開を予測することができたのであろうか?

そして、その結末を一夏は後悔しているだろうか?

それはもう誰にもわからない。あの一夏はもう過去の人物になってしまったのだから…………



千冬「…………一夏」ギュウ

一夏《???》「………………いい、凄くいい」

千冬「最初からこうしてあげればよかった…………」

千冬「私が仮面を脱ぎ捨ててさえいれば…………」




158: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/01(日) 14:20:06.84 ID:jpAVf3xP0

今回は、前作ほどの変化がないので、作品のコンセプト周りの解説を。



織斑一夏

着想:前作の織斑一夏の特徴を反転させたらどうなるのか「立派」←→「惨め」
結果:宮沢賢治『よだかの星』の「よだか」のような存在に
特技:戦闘前に敵味方問わず戦意を大幅に削ぐこと=グダグダにする能力

原作との違いは「もしも誘拐事件以来性格が後ろ向きになっていたら」であり、
もっと言えば「織斑千冬の負担になっていることにトラウマを抱えている」状態、
あるいは「誘拐事件によって重度のPDを患ったら」である。
外面は装えているが、内面は壊滅的で、全体的に見て性根はヘタレている。
他人のために自分の全てを偽れる真性のxxxx。


前作の一夏は、パイロットの直接の挙動や表情で相手の動きを見切り、人外の身体能力と熟練した実戦戦闘で他を圧倒しているが、

こちらの一夏は、整備科出身という背景の下に、自身の知に絶対的な自信を持ち、勝負師としての業も備えた知能派。

思考速度や柔軟性はずば抜けて高いこともあって、
ISの知識や運用論、相手の意表をつく機転に裏付けされた、
小さな工夫の積み重ねと無理で実力差を埋めるスタイルとなっている。

しかし、彼の学園生活全体が『白式』の生体再生能力の恩恵によって支えられており、
『白式』の専属でなければおそらくすぐに再起不能になっていたと思われるぐらいに貧弱。

自分に合わせて機体を調整するのではなく、機体に合わせて自分を調整しているという歪な運用法だが、
それを徹底しているおかげで、理論上可能なパイロットの安全性や操縦性を無視した、重力から解放された合理的で奇抜な運用を可能としている。


鈴と対戦していた時が一番輝いていた。個人の強さとしてもピークを迎えていた。


しかし、その直後の無人IS:ゴーレムとの戦闘によって、ISの危険性やそれに対する欺瞞を痛感してしまい、重度のPDとPTSDに陥ってしまう。
それから数々の事故が重なって、一夏個人の強さは完全に下降傾向にある。

総じて心身ともにヘタレた結果、最終的には『自分』というものを失う結果になってしまう。
こう考えてみると、原作の一夏はどう考えても超人である。あれで「本来の強さを取り戻しつつ」あるのだから。
さすがは「可能性の獣」ワンサマー…………。


159: 以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/06(金) 17:17:57.63 ID:kksmQpny0

自分の弱さや卑小さを受け止め、様々な知識を深めているので、常識的ではあるが卑屈。
常識的になったので多少は「朴念仁」ではなくなったが、恋愛フラグが立っていたことに気づくのが鈍く、
結局のところ、いつ好意を抱かれたのかさえわからない「唐変木」なのに変わりない。
いや、今作の一夏の心の拠り所は――――――。
更に、自身を卑下し、自分の欲望より保身を選ぶ小心者なので、やっぱり報われない。

しかし、一方で弱さや卑小さを誤魔化すために道化になろうとして、HENTAI趣味に走って『プレイボーイ』を演じてみようとするが、
なまじ良識があるばかりにそれを表に出すことができず、真正面から自分の弱さや卑小さを受け止めることになり、
結局、聖人にも不良にもなりきれない“中途半端”な存在だと卑下し続ける悪循環に陥っている。


前作の一夏が、「いざとなったら一人だけでも生きていける」絶対的な“強さ”のせいで、
他人との一線が引かれているのに対して、

今作の一夏は、「過去のトラウマによって自己肯定できない」絶対的な“弱さ”のせいで、
他人との一線が引かれている。

それに伴い、肉親である織斑千冬の態度が優しくなっており、
前者は助ける必要が全くないから――――むしろ、逆に支えられているから、
後者は助けを大いに必要とするから、かなり甘い態度になっている。

3人の大人
今作の一夏は大人に頼ることで自身の弱さを補強しており、師事した大人の影響を受けて少しずつ成長していく。
しかし、当人たちが言っているように「自分たちの領分以上のことはできない」=「対等の関係にはなれない」関係なので、
最終的に一夏の人生の支えとなれるのは、公私や領分を超えて“織斑一夏”を愛せる『家族』の織斑千冬や『同年代の異性』であるヒロインたちしかありえない。


技師・・・チーフ。CV:鈴置洋孝
一夏がISエンジニアを志すきっかけとなった人物。

医師・・・ドクター。CV:中博史
外部の人間だが、学園の人間から信頼を寄せられている好人物。

店主・・・マスター。CV:岸祐二
事の元凶。良くも悪くも一夏の人格形成の中心となった人物。


160: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:20:10.43 ID:kksmQpny0

Rewrite IFストーリーのシリーズ構想

・初期ISランク
原作……B 徐々に本来の強さを取り戻しつつ、驚異的な吸収力で台頭していく真性の超人

前作……S ISどころか心身共に鍛えあげられており、真の“強さ”に辿り着いている『人間』
今作……C 身体能力を犠牲に知略と勝負師の業を手に入れ、運と勢いを一番の味方とする真性のxxxx
次作……A (コンセプトはすでに完成済み)


・ストーリーの脚色の仕方
初期ISランクで良し悪しを決めている。
原作ではBランクだったので、Basicらしく基準にして試合内容や被害規模を上下するように脚色している。
ただし、戦闘においては結果は同じくとも、戦法が変わってくるようには腐心している。
それに伴い、今作はかなりの被害を出しており、一方で前作ではいずれも速攻で勝負が付いているので『白式』のダメージ以外被害が一切無いというぐらい差がある。

なお、対人関係に関してはIFストーリーのコンセプトに沿うように脚色している。
その中で初期ISランクが関係してくるのは、ヒロインとヒロインの――――――。
ヒロインの一人である「凰 鈴音」はその経歴からコンセプトの影響を一番に受けるので、改変された一夏のバロメーターとなっている。


161: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:21:59.65 ID:kksmQpny0

第4.5話 静かなる日々
Fresh Start

――――――織斑一夏 退院前の数日。


一夏《???》「………………」ソウット

シャル「…………がんばって(あともう少しで完成だ)」ボソッ

一夏《???》「………………あ」パラパラパラパラ

一夏《???》「………………ああ」プルプル

一夏《???》「トランプピラミッド完成直前の麻痺による失敗がこれで18回か…………」プルプル

一夏《???》「…………中途半端な俺にはお似合いな結果だな」

シャル「(どうしよう? どうやって中に入ろう…………)」ジー

シャル「(でも、一夏は身体を張ってラウラやみんなの命を守ったんだ)」

シャル「(そんな人を前にして僕はこれ以上自分に失望させたくない…………)」

シャル「だから――――――あ」ポンッ

技師「」シー

シャル「チーフ……」

技師「用があるのだろう。私も一緒に入ろう」

シャル「あ、ありがとうございます」

技師「照明も点けないで何をやっているんだ、織斑一夏?」

一夏《???》「あ、チーフ……それにシャルルか……」

一夏《???》「あ――――――」グラッ

シャル「一夏!」ダキッ

一夏《???》「……ありがとう、シャルル」ベッドニヨコタワル

技師「…………人格変化は杞憂に終わったが、やはり機能障害は深刻だな」

技師「手や足だけではなく、」

技師「――――――表情筋そのものが硬直している」

技師「本当にきみは素顔を失ってしまったな…………」

一夏《無表情》「ははは、俺はちょっと前のことを思い出しただけですよ」

一夏《無表情》「俺はISドライバーになる前から、ISエンジニアである前に、」

一夏《無表情》「勝負師として賞金稼ぎを目指していた――――ただそれだけのことです」

技師「表情筋は顔全体の運動機能も司っている」

技師「眼や鼻の開閉や、食べることや飲むこと、喋ること、息を吸い吐くことなどにも関係している」

技師「それ故に、印象が大きく変わってしまった…………」

技師「声の調子も大きく変わったように感じられたことだろう」

162: 以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/06(金) 17:23:01.38 ID:kksmQpny0

一夏《無表情》「でも、それを補うためにこれがあるんです」スッ

シャル「それって…………」

技師「きみも見たことがあるだろう? これはIS用の簡易デバイスだ」

技師「このデバイスの特性は――――――」

一夏【延命冠者】「」ニコニコ

技師「ISを通じてイメージ・インターフェイスでスキンの模様を変えるものだ」

技師「元々はイメージ・インターフェイスを利用した新しい迷彩技術の試作品だったものを、織斑一夏の趣味で可変能面にしたものだ」

技師「戦闘では何の役にも立たない代物だが、意外な場面で役に立ったな」

技師「だが、このデバイスはスキンの固定機能もあるから、ますます本当の顔がわからなくなるわけだ」

技師「とりあえず、これまで通りのハッタリには利用できるがな……」

一夏【延命冠者】「それで、シャルルはどうしたの。そろそろ帰らないとまずいぞ」ニコニコ

シャル「一夏……それとチーフにも、この際 聴いていただきたいことがあるんです」

技師「それは代表候補生 シャルル・デュノアとしての案件かな?」

シャル「……はい」

技師「わかった。このことは我々だけの秘密にしよう」ピポパ

技師「――――――ドクターか? 織斑一夏の部屋にロックを頼む」

シャル「ありがとうございます……」

一夏《無表情》「ここにみんなからの見舞い品がたくさんあるから、それでリラックスしながら話してね」・・・

シャル「ありがとう、一夏。それじゃ、ドクターからの缶コーヒーを」

技師「私はこちらのアイリッシュ・ウィスキーでもいただこう」

一夏《無表情》「マスターはそんなものを贈ってきていたのか…………」

シャル「それじゃ、話すね」





163: 以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/06(金) 17:24:35.79 ID:kksmQpny0







技師「なるほど、きみは真性の女性で普通の代表候補生でしかなかった、と」

技師「そして、経営危機のデュノア社が起死回生の策としてきみを男性として織斑一夏に近づけた、と」

技師「――――――やはり、産業スパイだったな」

シャル「…………はい」チラッ

一夏《無表情》「………………」

シャル「(やっぱり、感情表現がなくなったせいで怖い!)」

技師「残念だったな、一夏」


――――――身も心も女の子で。


シャル「え!?」

技師「冗談だ。だが、半分は事実だ」

シャル「…………ああ、ははは、そうですね」

シャル「僕は一夏の気持ちを弄んで裏切り続けた…………」

シャル「だから、僕はデュノア社と心中します」

一夏《無表情》「待ってくれ、シャルル」

シャル「いいんだ、一夏」

シャル「あの日、自分の命を賭けてラウラやみんなを守った織斑一夏という偉大な人物の、」

シャル「――――――『パートナー』でいることに僕が耐えられないんだ、もう」

シャル「こんなにも誰かのために必死になれる人の善意を踏み躙ることがもう嫌なんだ……」ポロポロ

シャル「僕なんかじゃ釣り合わないよ…………」

一夏《無表情》「知ってたよ。そんなこと」ナデナデ

シャル「え?」

一夏《無表情》「――――――シャルロット・デュノア」ナデナデ

シャル「あ、まさか…………」

一夏《無表情》「聞いてた」

シャル「そ、そうなんだ…………」

一夏《無表情》「だけど、俺はシャルロットの心の声も感じ取れた」

一夏《無表情》「もう、そんなことはどうでもいいんだ」

一夏《無表情》「どうせ、俺や『白式』のデータなんて見ても誰もわかりっこないし」

164: 以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/06(金) 17:25:32.49 ID:kksmQpny0

一夏《無表情》「それよりも、ちゃんと言ったよな、俺」


一夏『俺のために、今はどこにも行かないでくれ』ニッコリ

一夏『心配するな、パートナー。何があってもきみは見捨てない』


シャル「あ…………」ポー

一夏《無表情》「表情筋どころか涙すら溢れなくなった、」

一夏《無表情》「こんなのっぺら坊みたいな顔になってしまったけれど……」

一夏《無表情》「きみのために笑顔を見せることができなくなってしまったけれど……」

一夏《無表情》「俺を見捨てないでくれ…………」

技師「…………仮面の下の涙を拭ってやってくれ」

シャル「…………うん! こんな僕で良ければ」ポロポロ

シャル「(一夏の顔、すっごく大きくて温かい……)」サワサワ

一夏《無表情》「(いいねえ、いいご褒美だ…………)」

一夏《無表情》「(もう表情を覆い隠す努力をする必要がなくなったのが何とも言えないが、)」

一夏《無表情》「(今はただ、また誰かのためになったことを喜ぶべきか…………)」

一夏《無表情》「(だが、俺は『イケメン』で在り続けることもできなかった…………)」

一夏《無表情》「(俺は帰ってきていいのだろうか…………)」

一夏《無表情》「(もうアレ無しでは『白式』を使えない俺は…………)」



――――――ホント、ザンネンだよ、俺。




165: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:26:55.20 ID:kksmQpny0

番外編4 一夏の特訓その3


一夏《無表情》「…………」ペラペラ

一夏《無表情》「――――――195ページ」

一夏《無表情》「…………」ペラペラ

一夏《無表情》「――――――あった。『IS学園特記事項 序文』」


シャル「ドクター、あれってどういう訓練なんですか?」

医師「ああ、あれは常日頃からの記憶力と感覚を鍛える、勝負師としての訓練らしい」

医師「どんな些細なことでも見逃さず、感じ落とさない鋭敏さが重要なんだとか…………」

医師「たぶん、あのやり方を徹底したら分厚い本の内容を一言一句間違いなく思い出せるんじゃないかな」

医師「だから、暗記系の科目を猛勉強しないでいられるのはあの記憶力によるものだろう」

シャル「勉強を教えてもらおうだなんて思ってたけれど、ついていけない…………」

シャル「次元が違いすぎるよ…………」



シャル「あ、今度はスクリーンに何か放送しだした……」

医師「うむ」


一夏《無表情》「………………」ジー

――――――1994
――――――10787
――――――4789
――――――103
――――――FF

――――――ANSWER?

一夏《無表情》「――――――17928、かな」ピッピピピ

――――――SUCCESS!

一夏《無表情》「ま、こんなもんは初歩の初歩か……」


シャル「あれは、何です?」

医師「フラッシュ暗算だな。16進数が混じっている引っ掛け問題もあるようだが、あの程度の単純な足し算は朝飯前ということだな」

医師「あれ自体はプログラミング初心者でも簡単に作れるものだ。一夏くんは高速で動く紙芝居機能を利用して、多種多様の問題を高速で認識させることで記憶の定着を図っているようだ」

医師「最長5分、最短1秒だ。速読トレーニングだとかサブリミナル効果とか、そういうものを参考にして導入したらしい」

シャル「一夏って本当に何でもできるんだ…………」

シャル「凄いな、一夏」

医師「――――――使えるものは何でも使う、状況に合わせて自分を改造したがる彼らしいやり方だがな」

シャル「え……」

166: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:28:03.68 ID:whTGHLoe0

番外編4 一夏の特訓その3


一夏《無表情》「…………」ペラペラ

一夏《無表情》「――――――195ページ」

一夏《無表情》「…………」ペラペラ

一夏《無表情》「――――――あった。『IS学園特記事項 序文』」


シャル「ドクター、あれってどういう訓練なんですか?」

医師「ああ、あれは常日頃からの記憶力と感覚を鍛える、勝負師としての訓練らしい」

医師「どんな些細なことでも見逃さず、感じ落とさない鋭敏さが重要なんだとか…………」

医師「たぶん、あのやり方を徹底したら分厚い本の内容を一言一句間違いなく思い出せるんじゃないかな」

医師「だから、暗記系の科目を猛勉強しないでいられるのはあの記憶力によるものだろう」

シャル「勉強を教えてもらおうだなんて思ってたけれど、ついていけない…………」

シャル「次元が違いすぎるよ…………」



シャル「あ、今度はスクリーンに何か放送しだした……」

医師「うむ」


一夏《無表情》「………………」ジー

――――――1994
――――――10787
――――――4789
――――――103
――――――FF

――――――ANSWER?

一夏《無表情》「――――――17928、かな」ピッピピピ

――――――SUCCESS!

一夏《無表情》「ま、こんなもんは初歩の初歩か……」


シャル「あれは、何です?」

医師「フラッシュ暗算だな。16進数が混じっている引っ掛け問題もあるようだが、あの程度の単純な足し算は朝飯前ということだな」

医師「あれ自体はプログラミング初心者でも簡単に作れるものだ。一夏くんは高速で動く紙芝居機能を利用して、多種多様の問題を高速で認識させることで記憶の定着を図っているようだ」

医師「最長5分、最短1秒だ。速読トレーニングだとかサブリミナル効果とか、そういうものを参考にして導入したらしい」

シャル「一夏って本当に何でもできるんだ…………」

シャル「凄いな、一夏」

医師「――――――使えるものは何でも使う、状況に合わせて自分を改造したがる彼らしいやり方だがな」

シャル「え……」

167: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:29:26.18 ID:kksmQpny0

医師「彼を見ているとな、彼が社会奉仕ロボットにしか見えなくてな…………」

シャル「そ、それは…………」

医師「……わかっている。それは一夏くんの優しさと行動力がなせる素晴らしいものだと」

医師「しかし、人の世は無情だ。良い人間ほど早く死んでいって、憎まれっ子ほど世に憚るものだ」

医師「彼は能力はあっても自分で使おうとはしない。自分で自分の許可が取れないのだ」

医師「だから、彼は他人に使われるしかなくなる。それが存在意義なのだと言い聞かせてな」

シャル「僕にも経験があります。他の生き方を知らなかったから、シャルル・デュノアを名乗って人を欺き続けた…………」

シャル「でも、僕を僕に帰してくれたのは一夏なんです!」

シャル「僕はそんな一夏のことが好きだから、何とかしてあげたいんです……!」

医師「その気持ちに嘘偽りがないなら、やってみせることだ」

医師「――――――私は医者だ」

医師「医者としてのベストは尽くせるが、それ以外のことはできん」

医師「大切に思うのと、大切にするというのは、似ているようで違う」

医師「どうあるべきか、どうするべきか、きみの立場でできる最善の道を探っていって欲しい」

シャル「はい!」





168: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:30:57.49 ID:whTGHLoe0

一夏《無表情》「…………」セッセセッセ

シャル「お昼ごはん、持ってきたよ!」ニコニコ

一夏《無表情》「」ウナズク

一夏【グラサン】「ありがとう、シャルロット」

シャル「それって、リハビリの一環だよね?」

一夏【グラサン】「ああ、こうやって玉こんにゃくを箸で挟んで別の皿に移す作業ね」

一夏【グラサン】「普通は豆を使うんだけど、ヌルヌルとして、しかも軟らかいから結構落とすんだよね……」

一夏【グラサン】「今のところ、たった8往復しかできていないけどね……」

シャル「え?(少なくとも皿に8つはあって往復だから皿写しを最低128回もしたってこと? 相変わらず、見えているものが違う…………)」

一夏【グラサン】「それじゃ、食べようか」

シャル「うん! ――――――あ」

一夏【グラサン】「ん。そういや、シャルロットって箸使えたっけか」

シャル「…………練習はしているんだけどね」

一夏【グラサン】「取りに戻るのも面倒だろうし、しかたないか」

一夏【グラサン】「はい、あーん」

シャル「ふえ!?(こ、これって箒にしてた、アレ!?)」ドキッ

一夏【グラサン】「あ、気持ち悪かったか……すまない」

一夏【グラサン】「……そうだよな。このグラサンで覆い隠しているものは――――――」

シャル「違う違う!(えい、やっちゃえ!)」パク

一夏【グラサン】「あ…………」

シャル「す、凄く美味しいよ! だから――――――」モジモジ


―――――― 一夏が食べさせて。


一夏【グラサン】「………………え(ブ、)」

シャル「…………ダメ?」キラキラ

一夏【グラサン】「(ブヒィイイイイイイイイイイ!)」

169: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:33:14.77 ID:whTGHLoe0

一夏【グラサン】「お、おう(あ、危なかった、この破壊力…………!)」プルプル

一夏【グラサン】「そ、それじゃいくぞ、あーん」

シャル「あーん」

一夏【グラサン】「あ、ご飯粒ついているぞ」

シャル「あ、取って」

一夏【グラサン】「しょうがないな(ブヒィイイイイイイイイイイ!)」

一夏【グラサン】「(男の娘じゃなくなって魅力激減がしたかと思ったが、別にそんなことはなかったぜ!)」

一夏【グラサン】「(これからも、あらゆる面で頼りにしたい理想のパートナーだ!)」

一夏【グラサン】「玉こん、美味い」

シャル「僕も1つもらっていいかな?」

一夏【グラサン】「いいぜ。箸っていうのはこんなふうに刺すことだってできるぞ」

一夏【グラサン】「まあ、行儀悪い作法だけれど、串がないからいいよね?」

シャル「…………一夏ので、食べたいな」モジモジ

一夏【グラサン】「……ああ、わかったよ。よーく口を開けよ」

シャル「あーーん」










シャル「ZZZ」スヤスヤ

一夏《無表情》「おや…………もう夜ではないか」

一夏《無表情》「――――――あの日のことはもう夢に見ることはなくなったけど、」

一夏《無表情》「また勝てなかった――――――って、まだ居たのか、シャルル――――いやシャルロット」スッ

一夏【グラサン】「何にもないのにこうしているってことは、そういうことなんだろうな……」ハア

一夏【グラサン】「(だからこそ、俺の許から離れて巣立っていって欲しい…………)」ナデナデ

シャル「一夏…………大好き…………」ムニャムニャ




170: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:35:43.07 ID:kksmQpny0

一夏《無表情》「――――――VTシステム」ボソッ

技師「また、例の夢の話か?」

一夏《無表情》「いえ、あれとは違いますよ」

一夏《無表情》「前に、あの無人ISに関するレポートを提出しましたよね」

技師「ああ、卒論として認めてもいいぐらいのあれか」

一夏《無表情》「ふと、思いついたんですけど、」

一夏《無表情》「――――――VTシステムの発展が無人ISなんじゃないかって」

技師「なるほど、それはなかなか興味深いな。一考の価値がある」

一夏《無表情》「フルスキンといい、特定の命令に従って行動する辺りが似ているなって」

技師「確かにきみが考察したように、量子コンピュータの実現で、人間が知覚し得ないほどの情報処理が可能となった今の最高技術なら、より人間的な自律行動――――――いや、人間の心を再現させることも可能かもしれない」

技師「となると、きみがVTシステムと無人ISを結びつけたということは――――――」

一夏《無表情》「そうです。おそらくVTシステムの開発の足跡を辿っていけば、無人ISを保有する裏組織への手がかりを掴めるはずです」

技師「なるほど。――――――だが、少し遅かったな」

一夏《無表情》「どういうことです」

技師「ラウラ・ボーデヴィッヒの機体にVTシステムを搭載したと思しき研究所が、」

技師「実は、露見したその日に何者かに爆破された」

一夏《無表情》「そんな……」

技師「きみの予測が正しければ、裏組織が警戒してすぐに手を回したとも考えられる」

技師「だが、これまで封印されてきたVTシステムが再び表沙汰になったのだ」

技師「国際IS委員会の監視の目は一層強くなるだろう」

一夏《無表情》「……ラウラはどうしてます」

技師「彼女はきみの全てを捧げた応急処置のおかげで、その日の夕方には目を覚ました」

技師「だが、現在もきみと同じくこの病棟で静養している――――と、思いたい」

一夏《無表情》「歯切れの悪い言い方ですね…………」

技師「こればかりはプライバシーに関わることだ」

技師「ましてや、――――――年頃の女の子のな」

一夏《無表情》「チーフの口からそんな言葉が出るだなんて思いもしませんでしたよ」

技師「定期試験も終わったんだ。臨海学校に向けてリハビリの日々が始まる」

一夏《無表情》「…………満点、取れなかったな」ハア

一夏《無表情》「俺はどこまでも俺だと信じて、他人事のようにしか思えなかったけど、何かしらの形で知能低下の痕跡がはっきり出ると、辛いな…………老人になるというのはこういうことなんだな…………」

技師「たかだか全科目中2つだけの部分点ではないか。障害者を感じさせない成績で何を言うか」

技師「それよりも、人間関係の清算もしっかりと行なっておけよ」

技師「今、あの子の心を救えるのは織斑一夏だけなのだからな」

一夏《無表情》「俺が、ですか」

技師「そうだ。織斑千冬では教えられなかったものを心に植えつけたのだ」

技師「そのことを自覚するといい。シャルロット・デュノアにせよ、な」

一夏《無表情》「…………やります。それが責任の在り方なら」

技師「ああ、やってみせてくれ。そして、また人を救ってみせてくれ」



171: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:38:07.54 ID:kksmQpny0

一夏《無表情》「――――――ここがラウラの部屋か」

一夏《無表情》「……問題なのはどの面で行くべきかだな」

一夏《無表情》「グラサンか、マスクか、この無表情な素面でか……」

一夏《無表情》「何でこんな大事なことを考えてこなかった」

一夏《無表情》「ああ、そっか。今までになかったことだからか……」

一夏《無表情》「くそ、こういうところで後遺症を実感するとは…………」

一夏《無表情》「どどど、どうしよう。面会の時間までもう少しだぞ」

一夏《無表情》「(迷ってどうする!? 誤魔化してどうする!?)」

一夏《無表情》「(学園に復帰した時のことを考えると、――――――グラサンでいいか?)」

一夏《無表情》「よし、グラサンならドクターのおかげで許可されたしな――――――ん」スッ

ラウラ「………………織斑一夏?」

一夏《無表情》「ら、ラウラ……(どうして、外に――――――?!)」

ラウラ「――――――織斑一夏!」

一夏《無表情》「うわ!?(いきなり飛び掛かられた、だと!?)」

一夏《無表情》「(ひゃああ! 148cmの女の子に廊下で押し倒されてるぅううう!)」

ラウラ「………………」ジー

一夏《無表情》「いきなり何をするんだ(れ、冷静に、冷静に話に持ち込むんだ、俺!)」

一夏《無表情》「(あれ、何故だろう? 興奮する状況のはずなのにイマイチ感情がこもらない……)」

ラウラ「………………」ポロポロ

一夏《無表情》「(な、涙を流した? どうして?)」

一夏《無表情》「(これでもあまり驚けない……やっぱり俺の感情は死んでるのか……)」

ラウラ「私が奪ったのだろう、お前の全てを…………」

一夏《無表情》「え……(千冬姉からあまり知らされてなかったけど、険しさがなくなっている……)」

ラウラ「――――――あれから、寝ても覚めてもお前のことばかりしか思い浮かばなくて」

ラウラ「もう一度会って話をしたいと、ずっと思い続けていた」

ラウラ「だけど、怖かった…………」

ラウラ「教官からもドクターからも詳しい経過が聞かされず、」

ラウラ「普通の人間なら再起不能の重傷を私が負わせたことが何故か心苦しかったのだ」

ラウラ「お前を排除することを目的にここに来たのにも関わらず、だ」

ラウラ「ある意味 目的は果たされた。私はそう認識している…………」

ラウラ「だが、そんなことよりも織斑一夏――――お前の顔が見たくてみたくてしかたがなくなったのだ……」

ラウラ「こうして見ると本当に、織斑一夏は死んだのだな…………」

ラウラ「――――――私のせいで」


172: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:40:18.88 ID:whTGHLoe0

一夏《無表情》「ラウラ…………」

一夏《無表情》「(みんなが言っていたとおり、ラウラも変わったんだな)」

一夏《無表情》「(――――――俺のせいで)」

一夏《無表情》「よっと……(ラウラに印象付けた数々の俺の策略が今、実を結んだというわけか)」カベニセヲアズケル

一夏《無表情》「なあ、ラウラ。聞いていいか」

一夏《無表情》「もう、俺や千冬姉のことはいいのか(ま、こいつはガキだもんな)」

一夏《無表情》「(俺への復讐も果たせたし、ただ単に千冬姉と一緒に居たかったってだけだもんな)」

ラウラ「それは、その…………」オドオド

一夏《無表情》「可愛いな、もう(やっぱ精神的にはガキそのものだな。欲求が駄々漏れだぞ)」ナデナデ

ラウラ「か、可愛いだと?!」テレテレ

一夏《無表情》「もう1つ質問をする」

一夏《無表情》「ラウラは今この時と最高の兵士であった頃、どっちが楽しい」

ラウラ「………………今」ボソッ

一夏《無表情》「よく答えられました」ギュッ

ラウラ「うわ!?」

一夏《無表情》「聞こえる、俺の心臓の音…………俺はまだ生きているよ」

ラウラ「う、うん……」ドキドキ

一夏《無表情》「俺もラウラの命の鼓動を感じるよ。ドックンドックンって…………」

一夏《無表情》「俺もラウラも、昔にはもう戻れないけれど――――――」

一夏《無表情》「そこで人生は終わりじゃない。現にまだ生きているんだもん…………」

ラウラ「織斑一夏……(あ、あの時の教官と同じ――――――)」

一夏《無表情》「なあ、ラウラ」


――――――俺と一緒に新しい世界を旅してはくれないだろうか。(肩身狭い者同士だから)


ラウラ「い、一夏…………」ポー

一夏《無表情》「一人でいるのは寂しいからな」

173: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:41:46.07 ID:whTGHLoe0

一夏《無表情》「俺は俺、ラウラはラウラ、千冬姉は千冬姉…………」

一夏《無表情》「どんな顔を持っていてもそれでいい――――それを許せるようになってくれ…………」

一夏《無表情》「そうすれば、みんな居るから楽しいんだ――――――生きるってことが……」

一夏《無表情》「それを教えてあげたい……(あ、何だか眠たくなってきた……)」

ラウラ「そ、そうか、一夏」テレテレ

一夏《無表情》「すまない、そろそろ何だか眠たくなってきた……」

一夏《無表情》「最後にこれだけは言うよ」

一夏《無表情》「俺も千冬姉も、ラウラのこと、好きだからな…………」

一夏《無表情》「だから、自分の気持ちに素直になってくれ……それが俺の願い、だから……」スヤー

ラウラ「一夏!? 一夏あああああ!」

医師「問題ない。死んではいないよ」

ラウラ「――――――ドクター!?」

医師「上手く和解できるか、緊張していたんだな」

医師「だが、見てご覧? ――――――この安らいだ表情」

医師「これはきみが変わったからだ。きみの心の変化が一夏くんに安らぎを与えたのだ」

ラウラ「私は――――――」

医師「ここは私に任せて、次に一夏くんと何を話し合うのか考えておけばいい」

医師「ではな。今度からは部屋の中で話をするように」

ラウラ「あ、ありがとうございました!」

医師「(…………本当に二人はコインの裏表のような関係だな)」

医師「(はっきり言って、彼がラウラに投げかけた言葉は自分に向けて発したようなものが多かった)」

医師「(彼もより良くなるべく変わろうとしている)」

医師「(しかし、ここから出た後の現実がどうなるのか、そこが問題だな……)」




174: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:43:11.98 ID:kksmQpny0

――――――ラウラと一夏の交流は進んだ。


ラウラ「今日は、私の自慢の副隊長を紹介してやろう」

一夏《無表情》「どんどん教えてくれ、ラウラのこと」


一夏《無表情》「わだかまりは完全になくなったな」

一夏《無表情》「元気でやんちゃな妹ができたみたいだ」

一夏《無表情》「ま、あの背丈であの精神年齢からして、間違いはないんだがな(ロリ――――何でもない)」


ラウラ「さて、回線が繋がったぞ」

ラウラ「聞こえるか、クラリッサ?」

クラリッサ「はい。感度良好、お二人の表情もしっかりと見えております」

クラリッサ「初めまして、織斑一夏。こちらはクラリッサ・ハルフォーフ」

クラリッサ「ドイツ軍 IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ(クロウサギ)』副隊長。階級は大尉であります」

一夏《無表情》「こんにちは、織斑一夏です(へえ、やっぱりラウラと同じく眼帯してるんだ)」

一夏《無表情》「無愛想で申し訳ありませんが、何卒ご容赦ください(あれ、何だろう? 千冬姉と似たものを感じる)」

クラリッサ「気になさらないでください。事情は把握しておりますし、軍人も似たようなものですから」

クラリッサ「それよりも早速ですが、隊長」

ラウラ「何だ、クラリッサ」

クラリッサ「いい表情をしていますね。出発前のあなたと同じ人物だなんて信じられないほどに、」

クラリッサ「――――――可愛くなりましたね」ニコニコ

ラウラ「な、何を言うんだ、クラリッサ!?」

一夏《無表情》「全く以て、その通りです」

ラウラ「い、一夏……!?」

一夏《無表情》「大丈夫だよ。そういう表情を見せられるようになったのをみんなが知れば、」

一夏《無表情》「―――――― 一人じゃなくなるよ」

ラウラ「そ、そうか……一夏がそう言うなら、このままでいよう」

175: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:44:36.63 ID:kksmQpny0

クラリッサ「…………いいですね」

クラリッサ「“世界で唯一ISを扱える男性”が織斑一夏――――あなたでよかったと思います」

一夏《無表情》「そうですか? 正直言ってドライバーとしての腕はからっきしですよ」

一夏《無表情》「“ブリュンヒルデ”織斑千冬には遠く及ばないです」

クラリッサ「いえ、確かに職業柄“強さ”が人を見る上での基準とはなりますが、」

クラリッサ「あなたのように周囲から関心が寄せられる人物としては、」

クラリッサ「“強さ”を抜きにしても非常に好感が持てます」

クラリッサ「経歴を見る限り、将来有望な非常に優秀なエンジニアとしても期待できますし、」

クラリッサ「そして何より、――――――囚われの姫君を救い出し、熱い口付けで眠れる姫君を永遠の眠りから覚ましたプリンス」

クラリッサ「織斑教官とは別の意味で、是非とも我がドイツ軍にお招きしたいぐらいです」

一夏《無表情》「え、そうなんですか。人工呼吸なんて軍人だったら訓練でしているものなんじゃないんですか」チラッ

ラウラ「」ポー

一夏《無表情》「(…………おいおい、マジかよ!?)」

クラリッサ「確かに訓練で人形相手にしたことはありますが、IS乗りが外傷を負うことはほとんどないですから」

クラリッサ「ね、隊長?」

ラウラ「――――――はっ!? そ、そうだぞ、一夏! 一夏は自分の凄さが世間的に知れ渡っていることを少しは知るといい」

一夏《無表情》「ははは、ならその期待を裏切らないように精進します(って、何言ってんだ、俺!?)」

クラリッサ「それは、将来ここに来ることを誓ったものと見做していいですか?」

一夏《無表情》「いえ、選択肢に入れておくという程度です(嘘です! 今のは完全に――――――)」

一夏《無表情》「(でも、悪くないなー。高圧的な軍人に見下されて踏まれるのはイイ!)」

一夏《無表情》「(ラウラでもいいんだけど、幼すぎて何か違うんだよな……)」

一夏《無表情》「(見た感じ、この副隊長が実質的な部隊のまとめ役で体格もいい具合だから、)」

一夏《無表情》「(きっと俺好みにシてくれるだろう。ぐへへへ…………)」

一夏《無表情》「(仮に結婚するなら、この人をもらってラウラは妹分――――――って何考えてんだ!?)」

一夏《無表情》「(できるわけもないのに、何を妄想しているんだか…………)」ハア

ラウラ「?」

クラリッサ「どうかなさいましたか?」

一夏《無表情》「…………それも悪くないかなって思っちゃっただけです」

一夏《無表情》「――――――忘れてください」

クラリッサ「おや……(――――――これは脈あり?)」ニヤリ


176: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:46:30.52 ID:kksmQpny0

ラウラ「クラリッサ?」

クラリッサ「隊長、このクロウサギ部隊は常に隊長とともにあります」

クラリッサ「そして、隊長の御側には織斑一夏という大変素晴らしい御人が居ます」

クラリッサ「そのことをどうかお忘れなく」

ラウラ「ああ、わかっている」

一夏《無表情》「(俺の評価って外部でもそんなに高かったの?)」

一夏《無表情》「(ということは、上手く外面は装えた――――生前はみんなにそう思い込ませることには成功したってことか)」

一夏《無表情》「(ああ、クラリッサさん、素敵だなー。踏んでくれ――――――って、だから何考えてんだ、俺!?)」

クラリッサ「それでは時間が迫っておりますので、これにて」ニコニコ

ラウラ「ああ、また頼む!」ニコニコ

一夏《無表情》「ごきげんよう」・・・

クラリッサ「はい、ごきげんよう」ニコニコ



ラウラ「どうだった、私の副官は!」

一夏《無表情》「いい副官じゃありませんか(ええ、それはもう――――――じゃなくて)」

一夏《無表情》「よく頼るんだよ、ラウラ。クラリッサはラウラが変わったことを本当に喜んでくれるいい人だから」

ラウラ「ああ。わかったぞ、一夏」

一夏《無表情》「さ、シャルロットと3人で、IS学園 再デビューを果たすぞ」

ラウラ「おお!」


この時、織斑一夏は知らなかった。

クラリッサ・ハルフォーフ大尉が間違った方向に自分と同種の人間だったことを。

そして、これから何も知らない少女であるラウラが彼女の純粋な善意でどんどんイロモノに染まっていくことを。

その驚愕は退院後の居るべき日常の再開初日からもたらされたのであった。





177: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:48:08.02 ID:whTGHLoe0

――――――週明け 退院後の復学初日


一夏《無表情》「――――――というわけで、この通り表情を作ることができなくなり、」

一夏《無表情》「声も小さくなって、突発的な運動障害も負ってしまいましたが、」スッ

一夏【グラサン】「俺はこの通り生きていますから、どうかこれまで付き合いをお願いします」

周囲「ヨカッターヨカッタヨー」パチパチパチパチ

一夏【グラサン】「ありがとう、みんな」

箒「(よかった、臨海学校前に復帰できて――――いや、一夏が一夏のままで)」ホッ

セシリア「(ドクターに面会謝絶され続けたせいで様子を見ることが叶いませんでしたが、本当によかったですわ)」ホッ

山田「はい、本当によかったです。えっと次は――――――」

箒「まだ何かあるのか?」

セシリア「そう言えば、シャルルさんとラウラさんはまだ来ておりませんでしたわ。どうしたのでしょう?」

山田「みなさんに、もう1つ嬉しいお知らせがあります……」ニコー

箒「山田先生の表情が…………」

山田「では、入ってきてください」

ガラッ

シャル「シャルロット・デュノアです。みなさん改めてよろしくお願いします」

周囲「」ポカーン

山田「えっと、デュノアくんはデュノアさん、ということでした……」

箒「…………は?」

周囲「エエエエエエエエエエエエエエエ!」

セシリア「そ、そんなあああああ!」

鈴「どういうことよ、一夏!?」ガラッ

一夏【グラサン】「知らん。そんなことは俺の管轄外だ」

一夏【グラサン】「俺もそれを告白されたのは入院した時だし、俺は知らなかったんだ」

鈴「本当にそうなの…………?(一夏が気づかないはずないじゃない……まさか、記憶が?)」

シャル「(ごめんね、一夏。最後まで迷惑を掛けて……)」

一夏【グラサン】「そうなの(嘘だがな。ついでに、昨日の日曜日に開放された大浴場で一緒に――――――ブッヒィイイ!)」

178: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:49:49.19 ID:kksmQpny0

一夏【グラサン】「……とにかくだ」コホン

一夏【グラサン】「――――――みんな、聞いて欲しい」ガッ

一夏【グラサン】「あれから3人の人生が大きく変わった。それを優しく受け止めてくれないか」

一夏【グラサン】「これが、俺からみんなへの切実なお願いだ……」

箒「い、一夏……そうだな、止むに止まれぬ事情があったことだろうし、ここは水に流そう」

セシリア「一夏さんからのお願いじゃしかたありませんね」

鈴「そうね。せっかく退院したばっかりだし、今日のところは目いっぱい祝ってあげる!」

周囲「ワカッタヨー、オリムラクン!」

一夏【グラサン】「ありがとう、ありがとう……」

鈴「だけど、3人? じゃあ、あともう一人は――――――」

一夏【グラサン】「よし、入ってきてくれ」パンパン

周囲「???」

ラウラ「ま、待たせたな……」ガラッ

周囲「エエエエエエエエエエエエエエエ!」

一夏【グラサン】「ん、ほわあああああああ!?(何その服!? 予想外過ぎるぅううう!)」

山田「ら、ラウラ・ボーデヴィッヒさん…………!?」

箒「な、ななな、何だとおおおおおおお!?」

セシリア「あ、ああ…………私との結婚…………」クラクラ

鈴「あ、あんた、本当にあのラウラ・ボーデヴィッヒなの!?」

シャル「(可愛い服を着て来るって手筈だったけど、まさかこれを選んでくるなんて!?)」ポカーン

一夏【グラサン】「な、なななな何で――――――」プルプル


――――――ウェディングドレスなんだよ!?


一夏【グラサン】「だ、誰の入れ知恵だ――――――あ」

ラウラ「」チュ

一同「」

ラウラ「――――――お前は私の嫁にする!」

ラウラ「決定事項だ! 異論は認めん!」

周囲「エエエエエエエエエエエエエエエ!」


一夏【グラサン】「………………はあ!?」


179: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:51:13.64 ID:kksmQpny0

千冬「織斑、後で教員室に来い……」ゴゴゴゴゴ

一夏【グラサン】「ち、千冬姉……!? こ、これは、違うんだ……」

一夏【グラサン】「クラスのみんながラウラを受け容れられるようにするために、」

一夏【グラサン】「親近感が湧くように女の子らしい服装をしてくるように――――――ぐはっ!」ボカッ

千冬「ここでは織斑先生と呼べと言ったはずだ……!」ゴゴゴゴゴ

一夏【グラサン】「ああああああああああああ!」


――――――ありがとうございますぅ!(恍惚)



これが新生した織斑一夏の新たな人生の門出であった。


ISドライバーなのに、ISを自分の意思で満足に起動させられない、

下心は人並みにあるくせに、結局手を出す勇気はない、

みんなから尊敬を集める英才を演じていながら、やはりどこか抜けている、


そんなザンネンな織斑一夏の物語はまだまだ始まったばかりである。



――――――どこまでもいってもザンネンだよ、俺!




180: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:53:15.10 ID:whTGHLoe0

これにて、接続部は終わりです。

ついに自宅での投稿が困難になってきたので、また環境を替えて登校しております。

本日中に完結させる予定でありますので、大変長らくお待たせしました。

では、続きをどうぞ、

181: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:54:34.29 ID:whTGHLoe0

第5話 福音事件
FACE DEATH

――――――深夜のアリーナ


一夏《無表情》「来い、『白式』!」

一夏《無表情》「………………」シーン

技師「………………」

千冬「………………」

医師「………………」

一夏《無表情》「なら、これでどうだ」スウ


千冬『――――――織斑一夏!』キッ


一夏《無表情》「はあ――――――なっ(……足の動きがとんでもなく遅い!?)」

一夏《無表情》「…………うわ(今まで対応できたのに完全に――――――!)」ガクッ

一夏《無表情》「身体が衰えてしまったのか――――いや、ダメになった…………」

一夏《無表情》「くぅ……ISを動かすのに重要な集中力――――俺の唯一の取り柄が…………」

一夏《無表情》「たかだか酸欠になっただけで――――これが不幸中の幸いなのかよ……」

一夏《無表情》「泣きたいと思っても泣けないし、驚いたのに驚けない……」

一夏《無表情》「心と身体が赤の他人のような関係になっている……」スッ

一夏《無表情》「…………この仮面が死ぬ前の俺の忘れ形見」

一夏《無表情》「――――――力を失った俺に力を貸してくれ」

一夏【黒般若】「来い、『白式』!」

一夏【黒般若】「――――――いける。いけたよ、みんな」


182: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:56:35.51 ID:kksmQpny0

技師「本来なら、ただのIS用の簡易デバイスでしかない代物だが、」

医師「私の一存で、結果的にVTシステムに酷似したものを搭載させてもらった」

千冬「………………必要悪なのはわかっております」

医師「原理は非常に単純で、一夏くんのIS運用時の脳波パターンをデバイスを通して出力させているだけに過ぎない」

医師「起動と解除、それから生前というべき頃の思考パターンをキャプチャーしている」

医師「だがもちろんこれは、VTシステムとほとんど大差がない原理だ」

医師「今の一夏くんと生前の一夏くんは似て非なる別人同士だ」

医師「それ故に、どこかで思考や反射に大きな食い違いが起こり、――――――最悪の場合、自我の崩壊やISの致命的誤作動も考えられる」

技師「本来ならばすぐにでもISドライバーなど名誉退職させたいところだが、」

技師「スポンサーからの要求――――――そして何より、一夏くんが辞めたくないという要望があった」

医師「私も『白式』の生体再生能力による回復のために持たせておきたいと思っている」

医師「だが、そのためには――――――」

技師「これ以上の死線が起こらないことが絶対条件だ」

技師「『白式』という機体そのものは戦術的スペックでは時代遅れの産物だが、」

技師「織斑一夏というダークホースが組み合わさった場合は話が別だ」

技師「単一仕様能力『零落白夜』の規格外の攻撃力、イグニッションブーストによる高速戦闘、織斑一夏の智謀――――――」

技師「このように十分すぎるほどの戦術的価値が生まれてくる…………」

技師「それ故に、これからも何かが起きた場合は彼を頼らざるを得なくなってしまうだろう……」

技師「何故なら、どんな難題も“彼ら”ならやってくれると思わせる魅力があるからだ」

千冬「…………それで、あの“劇薬”はどれくらいの作用を?」

医師「これが退院後初めての使用となるだろうから、まだはっきりとしたことはわからない」

技師「だが、見たところ基本を一通りこなせている以上は、ただのIS乗りとしては十分だろう」

千冬「…………そうか」

技師「ところで、織斑先生。生前の織斑一夏がラウラ・ボーデヴィッヒが転校してくる以前に、ある装備を――――――」

千冬「他にもまだあったというのか?」

技師「ここに新装備の仕様書のコピーがあります」

技師「臨海学校での拡張装備稼働試験に彼を参加させる場合、どうするかの判断材料に」

千冬「…………これも弟が?」パラパラ

技師「彼の努力と熱意はどの研究分野にいっても大成するほどのものです」

技師「整備科の教員を代表して、彼の扱いには細心の注意を払っていただきたい」

技師「それがあなたのためでもあります」

千冬「……忠告、感謝する」

医師「さて、どうやら戦闘レベルの行動までは試せなかったようだが、今日のところは満足したようだ」

千冬「ああ――――――ん? あそこに居るのは…………」


箒「やはり、一夏は…………」

箒「許せ、一夏。私はお前のように力を持っていないがために、お前が一人苦しむのはもう嫌なんだ……」

箒「お前が力を持ったことでここまで苦しむのなら、私も同じ苦しみを……」

箒「白に並び立つもの――――――『紅椿』」

箒「それが私のIS…………」

183: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:57:47.50 ID:kksmQpny0

――――――『自分』とは何者なのだろう?


ふと、そんな疑問が俺の心を捉えて放さない。


もし俺にIS適性が無かったとしたら、答えは決まっている。

今頃 俺はヒミツの花園で優雅に踊る貴公子とは程遠い、

整備科において作業つなぎが似合う人間になるために勉学に励んでいることだろう。

そして、普通の中学校の延長線上にある、男も女もいる学園生活をチーフのご指導の許で過ごしていたに違いない。

そうなれば、ドクターと親密になることもなく、今以上に千冬姉との接点は無かった。

だが、それが当たり前だった。それで満足だった。


――――――何よりも、こんなにも『自分』というもののことで思い悩むことも無かったろうに。


俺は憧れていた。

ラウラと同じように、――――――千冬姉の“強さ”に。

しかし、それは俺が男だからどれだけ努力しても到達することができないことを知り、一度諦めた。

そして、――――――あの日、剣を置いてカードを手にするきっかけとなった。

それ以来、俺は知の力を追求し、マスターから勝負師の業を会得し、自分でも驚くぐらいの英才になれた。

そう、だから俺は、ISドライバーにさせられたことに抗議して、本来望んだ道を進むこともできたのだ。


184: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 17:59:40.49 ID:whTGHLoe0

では、何故俺はISドライバーの道を必死になって突き進んでいるのだろう?


何度も死にかけ、女子しか居ない全寮制の生活に緊張し続け、その果てに『自分』を見失った。

そして、俺はもう一度、千冬姉のように慣れないことを痛感した…………

おそらく、これからも俺が予見した通り、数々のアクシデントやハプニングが起こり続けることだろう。

それをわかっていながら、俺は何故今もこうしてIS乗りを続けようとしているのだろう?

俺がIS乗りを辞めればペナルティが発生するようだが、名誉の負傷で辞職しても文句を言われない境遇にまでなった。

それなのに、もう一度手にした剣を置こうとは思わなかった。辞める絶好の機会を得たのに、である。

むしろ、俺は意地でも続けようとしていた。

その果てに、この身体が朽ちようとも、『自分』じゃなくなっても――――――、そう思えてしまうのだ。

理由はわからない。ただ漠然と意固地になっていた。

様々な要因を挙げていけば、ISドライバーを辞めた方が続けるよりもリスクが大きすぎることに行き着く。

あるいは、あの5人に対して愛着と責任を感じているのかもしれない。

しかし、俺にはどうにも納得できなかった。

『自分』のことなのに、何故そう思っているのかがわからない――――――それが悩みの種となっていた。








今日も星空が綺麗である。

――――――あの日以来、俺は星空を眺めることが日課となっていた。

趣味や特技というほどのものではない。俺の天文学知識は星座観測かけだしレベルで止まっている。

ただ、そうしていると何故かこの胸の支えがすっと消えていくようだから…………


さあ、今日のやるべきことは果たした。あとは眠るだけ。

そして、夢の中で『自分』と向き合うのだ。

夢とは、起きてから眠るまでの間の記憶を整理するために起こるものと聞く。

ならば、そこに答えがあるのかと、お告げというものを期待しながら今日も夢の世界へと旅立つのであった。


185: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:01:11.53 ID:kksmQpny0

番外編5 温故知新


鈴「どうして私と一緒に街に出かけたいだなんて…………?」モジモジ

鈴「普段なら『みんなと一緒の方が楽しい』って言うところじゃない」

一夏【グラサン】「ごめんな、鈴。あらかじめ言ったけど、今回のは俺の治療の一環で、楽しくないものだ」

一夏【グラサン】「そんなものに人を巻き込みたくなかった」

一夏【グラサン】「だから、本当は鈴にも声を掛けたくはなかったんだ」

一夏【グラサン】「それなのに付き合ってくれてありがとう」

一夏【グラサン】「これは鈴じゃないと確認できないことなんだ……」

鈴「そ、そうなんだ(やっぱり変わった、けど――――――)」

一夏【グラサン】「それで俺が確認したいのは、――――――昔のことなんだ」

鈴「――――――『昔のこと』?」

一夏【グラサン】「ああ。時々、何かを忘れているような気がしてならないんだ……」

一夏【グラサン】「さて、まずは鈴の店があったところだ」

鈴「じゃあ、行こう、一夏!」

一夏【グラサン】「待ってくれ、身体が鈍ってしまったからもうちょっとゆっくり……」パシッ

鈴「あ、うん(手、握ってくれた……)」


それから二人は、幼少の時の思い出を振り返るために、かつての母校や街並みを散策していった。

ファースト幼馴染である篠ノ之箒が重要人物保護プログラムで一家離散の憂き目に遭っていたことを知らず、

ただ無邪気に普通の少年としての人生を歩んでいたあの頃…………。

しかし、――――――あの日を境にそれは一変した。


――――――な、何だ、お前ら!?

――――――うわあああああ!

――――――助けて! 千冬姉えええええ!


一夏【グラサン】「くぅううううううう…………」ブルブル

鈴「い、一夏……?」

一夏【グラサン】「あ…………すまない(また自動症か)」

一夏【グラサン】「こんなくだらないことに付きあわせて、本当に申し訳ない……」

鈴「いいのよ。こうやって二人っきりで居られるだけでも嬉しいんだから」

一夏【グラサン】「そういうもん、なのかな…………」

鈴「そうなの!」

186: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:03:00.80 ID:whTGHLoe0

鈴「それでどうなの? 記憶の方は?」

一夏【グラサン】「あんまり思い出せない…………驚くくらいに…………」

一夏【グラサン】「何というか、俺がIS学園に至るまでに必要だった要素以外、全て忘れてしまったような感じだ……」

一夏【グラサン】「小学校のことなんてまるで憶えてなかった…………」

一夏【グラサン】「中学校の時の記憶でさえもあやふやだ……」

一夏【グラサン】「俺がISエンジニアになるための勉強の内容ぐらいしか思い出せない……」

一夏【グラサン】「(皮肉なもんだ。最初は鈴から俺の過去を暴露されるのを恐れて口封じしたのに、)」

一夏【グラサン】「(それが一転して、鈴から俺の過去を聞き出すようなことになるなんて…………)」

鈴「そ、そうなんだ……(それじゃ、もう一夏は私との約束も完全に――――――)」

一夏【グラサン】「なあ、確認していいか」

鈴「え? 何を?」

一夏【グラサン】「確か鈴はいつだったか俺に、」


一夏【グラサン】「――――――『結婚してくれ』って言ってなかったか」


鈴「え? えええええええええええええ!?」ワタワタ

一夏【グラサン】「やっぱり違うのか…………いかんな、記憶の欠落が思った以上に酷い」ハア

鈴「い、一夏……(ちゃんと覚えていてくれたんだ……こんな状態になっても私との約束……)」

鈴「(――――――嬉しい)」

鈴「(でも、今ここで気持ちを伝えても、一夏が受け容れてくれるとは思えない)」

鈴「(むしろ、一夏にとっては負担にしかならないはず…………)」

鈴「(悔しいけど、ここは待つしかないわね…………)」

鈴「(でも本当に、――――――嬉しかった)」ニコニコ


187: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:04:25.81 ID:kksmQpny0

一夏【グラサン】「どうした、鈴。そろそろ家に着くけれど……」

鈴「ねえ、一夏?」

一夏【グラサン】「ん」

鈴「一夏にとって大切な記憶のほとんどはちゃんとあるんでしょう?」

鈴「だったら、他のことは思い出さなくていいじゃない」

一夏【グラサン】「そうは言うけれど…………」


鈴「だって、今こうしてここに居るじゃない(見えない過去に縛らせるわけにはいかない!)」


一夏【グラサン】「……あ、憶えているぞ、その台詞」

一夏【グラサン】「俺がIS学園に転校してきたばかりの鈴に言ったんだよな」

鈴「そうよ。あの頃の一夏は『未来のこと』を見据えて歩き続けてきたじゃない!」

鈴「だから、いつまでも『昔のこと』を振り返り続けるのは、――――――らしくない」

鈴「もっと自信を持って! 『昔の自分』はベストを尽くしてきたって信じてあげて!」

一夏【グラサン】「…………ははははは」

一夏【グラサン】「――――――鈴がセカンド幼馴染でよかった」

一夏【グラサン】「俺の『昔のこと』を一番わかっているのは、鈴だな」

一夏【グラサン】「今日は一日付き合ってくれてありがとう。おかげで、気分が楽になった」

鈴「私もよ。何だか熟年夫婦の昔めぐりしているみたいで、懐かしくも新鮮だったわ(ふふふ、『一番』だって……)」

一夏【グラサン】「こういうのを温故知新っていうのかな……」

鈴「まさにそれね」

一夏【グラサン】「それじゃ、到着だ。どうする、鈴」

一夏【グラサン】「俺はこれから五反田兄妹のところで夕飯にするけど」

鈴「じゃあ、私もそうしようかな」

一夏【グラサン】「そうか。それじゃ、行こう」

鈴「うん!(またこうやって、手を繋いで、ね?)」





188: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:06:04.10 ID:kksmQpny0

――――――とあるバー


一夏【グラサン】「やあ、マスター」カランカラン

店主「おお、ワンサマー! 怪我の方は大丈夫なのですか?」

一夏【グラサン】「感覚が鈍っていないか、確かめて欲しい」スッ

一夏《無表情》「泣きたいと思っても泣けない、驚いても驚かない、のっぺら坊相手に……」

店主「ふふ、確かに衰えたようにも感じますが、」

店主「だが、私にはわかる! まだワンサマーは死んでいない、と!」

店主「今夜は人が集まっています」

店主「私からの退院祝いです。これを使って勝負してきてください」

一夏《無表情》「感謝する、マスター」

店主「確かに、表情を使い分けて相手を幻惑することはできなくとも、」

店主「ポーカーフェイスと能面を結びつけたワンサマーなら演じきることができるでしょう」

一夏《無表情》「――――――能面、その手があったか」

店主「GOOD!」

店主「どうやらまた新しい発見をしたようですね」

店主「勝負師に常道はない。いついかなる時でも業を磨き続けることが大切なのです」

店主「その目敏さ、その英明さが失われていなければ十分でしょう」

店主「勝負とは最後に勝てばいいのですから、焦らずにただ勝利を見据え続けなさい、ワンサマー」

店主「私もまた、ただの子供でしかなかったあなたに教えられたことがありました」

店主「いずれまた、互いの魂を賭けた勝負を――――――!」

一夏《無表情》「…………受けて立つ」・・・

店主「GOOD!」ニヤリ

189: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:07:31.47 ID:kksmQpny0

一夏《無表情》「…………ん、朝か」

一夏《無表情》「また、【俺】の夢…………」ハア

一夏《無表情》「汗がひどい……寝苦しい夜だったな……」フキフキ

一夏《無表情》「早くシャワー……(あれ、やたら身体が重い?)」

一夏《無表情》「な、下半身が動かない……(まさか、ついに半身不随に――――――!?)」

一夏《無表情》「まずい――――――ナースコール……」アセダラダラ

一夏《無表情》「うん……(あれ、床に見覚えのある制服の脱ぎ散らかしが…………)」

一夏《無表情》「まさか――――――」バサッ

ラウラ「ああなんだ……もう朝か……」ゼンラ

一夏《無表情》「………………」

ラウラ「おはよう、嫁。今日もいい日にしよう」

一夏《無表情》「あはははは…………」

一夏《無表情》「感無量なのに涙が流せないのが残念な限りだがな…………」

一夏《無表情》「クラリッサさん、いろいろザンネンだよ…………」

一夏《無表情》「(こんな夢の様な状況なのに、まるでタタナイ俺の身体…………)」

一夏《無表情》「(俺はオトコとしても死んでいたのか…………そうか、俺、●●●になったんだ…………)」

ラウラ「…………? 夫婦とは互いに包み隠さぬものだと聞いたぞ?」

一夏《無表情》「それ全部、クラリッサさんから教わったことだよね……」

ラウラ「違うのか?」

一夏《無表情》「知識としては正しいが、ただやり方が間違っている(うはっ、可愛すぎるぅうう!)」

190: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:09:03.96 ID:whTGHLoe0

一夏《無表情》「(ぐへへへ、ここで手取り足取り丁寧に調教してやる!)」

一夏《無表情》「(無垢な子供を自分好みに仕立て上げるのは楽しいからな…………)」

一夏《無表情》「(こういうのって、相手を知らないうちに罠に陥れるのと似たようなものだし!)」

一夏《無表情》「(……あれ、待てよ? クラリッサって間違いなく常識人じゃないか)」

一夏《無表情》「(そんな人がいくら間違った日本知識を鵜呑みにしているからと言っても、自分たちの貞操概念を曲げるか、普通?)」

一夏《無表情》「(あのウェディングドレスといい――――――、何かおかしい)」

一夏《無表情》「(そういえば、俺も千冬姉と同じくドイツ軍の御墨付きをもらったっぽいし、これは――――――)」

一夏《無表情》「(――――――ハニートラップに違いない!)」

一夏《無表情》「(そうだとも! シャルロットにも一応その命令がくだされていたぐらいだし、)」

一夏《無表情》「(基本的に俺の貞操にはプレミアの値打ちがあるんだ……)」

一夏《無表情》「(――――――おのれ クラリッサ!)」

一夏《無表情》「(ラウラが戦いしか知らないことをいいことに、謀略に巻き込もうだなんて……!)」

ラウラ「嫁よ! 大丈夫か!? 戻ってきてくれ!」ウルウル

一夏《無表情》「あ、どうした……そんなに考え込んでいたのか、俺」

ラウラ「まるで銅像のように固まっていたから意識を失ってしまったのかと…………」

一夏《無表情》「すまなかった(そうか、無表情でタタナイ身体だから、黙っているだけでも周囲に不安を与えるのか)」

一夏《無表情》「だけど、ほら」ギュッ

ラウラ「――――――あ」ドクンドクン

一夏《無表情》「俺はまだ生きている。ちゃんと心臓の鼓動は鳴り響いているだろう」

ラウラ「…………うん(嫁の胸板……汗の臭い……)」


―――――― 一夏!


箒「………………」プルプル

一夏《無表情》「――――――あ(死ぬほど驚くような出来事のはずなのに、ピクリともしなかったぞ、俺!)」ハンラ オムツ

191: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:11:08.99 ID:whTGHLoe0

箒「な、何故裸同士で抱き合っているのだ…………」ワナワナ

ラウラ「む、無作法なやつだな……夫婦の寝室に」ゼンラ

箒「ふ、夫婦ぅう!?」

箒「(許さない許さない許さない許さない……)」ゴゴゴゴゴ

一夏《無表情》「待て、箒(って無理だろうな。昔から箒は――――――)」

箒「天誅ううううううう!」

一夏《無表情》「ぬあ…………」バキンボキン





箒「はあはあ……(ついカッとなってまた無防備な相手を打ってしまった……何をやっているんだ 私は!?)」

箒「(相手は正真正銘の障害者なのだぞ!? 最悪だ)」ドヨーン

箒「(そ、それにしても、やはり今の一夏は痛みすら感じなくなったのだろうか……)」

一夏《無表情》「(ああ、気持ちよかった……痛みを感じられるだけ生きているって感じがするぅう!)」ヒリヒリ

ラウラ「こ、こういう時は黙って見ていろと嫁は言ったが、何故なんだ!」

ラウラ「あの程度の相手なら私が――――――!」ギラッ

一夏《無表情》「許してやってくれ。死んだように鈍った身体に鞭を入れたほうが良い時がある……心臓マッサージと同じだ」

ラウラ「よ、嫁がそう言うなら私もたまにはしてやろうか……?」

一夏《無表情》「ああ、頼む……(イヤッタアアアアアア! 棚から牡丹餅とはこのことか!?)」

箒「わ、私を咎める気は一切ない…………!?」

箒「(ああ、どうしよう……一夏がどんどん私の手の届かない場所へ行ってしまう…………)」ドヨーン



192: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:12:38.85 ID:whTGHLoe0

一夏【グラサン】「えっと、臨海学校の最中に七夕か……」

一夏【グラサン】「セシリアの料理教室は今週はお休みして、箸の使い方を教えてっと……」ピピピ

一夏【グラサン】「いや、ここはマイフォークセットを贈るべきか……」

一夏【グラサン】「ポーカーはどうしようかな……」

シャル「あ、あのさ、どうして僕のことだけ誘ってくれたの?」

一夏【グラサン】「もうすぐ臨海学校だろう?」

一夏【グラサン】「俺はドクターストップで海水浴を禁止させられたから必要なくなったけど、」

一夏【グラサン】「お前 女子用の水着持ってないって言ってたじゃないか」

一夏【グラサン】「俺は外出する時は誰かと同伴じゃないといけないからさ、」

一夏【グラサン】「そういう面を含めて、今回はシャルに頼ったんだ」

一夏【グラサン】「本当は『パートナー』としていろいろ買い物を楽しみたかったけど、――――――ごめんな、シャル」

シャル「まだ僕のことを『パートナー』って言ってくれるんだね、一夏……」

シャル「いいんだよ、一夏。一夏は僕を救ってくれた。だから今度は、僕が一夏を支えてあげるから」

一夏【グラサン】「ありがとう。もうきみのために笑顔は――――――」

シャル「」シー

一夏【グラサン】「……そうだね(――――――天使だ、天使がおる!)」




一夏【グラサン】「何で俺、おむつコーナーに足が行くんだろ」ハア

一夏【グラサン】「もう当たり前のようにおむつを履くようになってしまったけど……(おむつ見て心底安心してる俺…………死にたい)」

一夏【グラサン】「まあいい。定期購入しているし、ここで買う必要なんかない」

一夏【グラサン】「とりあえず、予定したものは買い込んだ、な」

一夏【グラサン】「ちゃんと領収書もあるし、送り先も間違えていない」

一夏【グラサン】「あとはシャルの買い物が済むのを待つだけか」

シャル「―――――― 一夏、ちょっと来て!」パシッ

一夏【グラサン】「え、シャル」

タッタッタッタッタ

一夏【グラサン】「なんだよ、無理やり(どういうことだ? 何故試着室に二人で入らなくてはならないんだ!?)」

シャル「選んだ水着が似合っているか見てもらいたくって……」

一夏【グラサン】「だからって一緒に入らなくても…………(やっぱり、興奮しない。オトコとして死んでるよ、俺……)」

一夏【グラサン】「(俺、酸いも甘いも経験することなく、ジジイになってしまったのか……)」

シャル「」シー

一夏【グラサン】「……外に誰か居るのか」

シャル「だ、誰も居ないよ。いいから、とにかくここに居て! すぐに着替えるから――――――」ヌギ

一夏【グラサン】「…………あ(ドキッともしなかったよ、今)」セヲムケル

一夏【グラサン】「(ハニートラップの耐性は付いたけど、何だか人生の半分を損した気分)」

シャル「(勢いでこんなことしちゃったけど、どうしよう!?)」

シャル「(ええい、もうやっちゃえ!)」シュルシュル

一夏【グラサン】「………………あ」

193: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:14:24.79 ID:kksmQpny0

一夏【グラサン】「(何がしたいんだ、シャルは? 本当に脱ぎ出した……)」

一夏【グラサン】「(――――――ヤルつもりなのか、俺を!?)」

一夏【グラサン】「(いや、シャルにそんなことをする動機はないはず…………)」

一夏【グラサン】「(それに、俺に手を出したら身を滅ぼしかねい。その損得勘定はできているはずだ……)」

一夏【グラサン】「(それとも、――――――若さ故の過ち? 特に考えてない?)」

一夏【グラサン】「(わからん……まったくわからん……)」

一夏【グラサン】「(そして、背後で生着替えが行われているのに、タタナイ俺の身体…………)」

一夏【グラサン】「(仮に誰かと結婚しても、満足させられないよな、うん、きっと…………)」

一夏【グラサン】「(やはり俺は、己の知を磨いて、英知の殿堂に辿り着くしかない……!)」グッ

シャル「もう、いいよ」

一夏【グラサン】「……わかった」クルッ

シャル「へ、変かな……?」モジモジ

一夏【グラサン】「(うはっ、男の娘だったらサイコー! いや、女の子でもサイコー!)」

一夏【グラサン】「(――――――じゃなくて!)」

一夏【グラサン】「(どうする? こう至近距離でハシタナイ姿を拝めて、押し倒したいと思うのが普通だろうが、)」

一夏【グラサン】「(状況が状況だし、この感激を素直に表現できる手段がない)」

一夏【グラサン】「(落ち着け。『もうこの水着でいい』――――――それを静かに伝えるためには――――――!)」

シャル「い、一夏……(ここまでしたのに一夏は何も反応してくれな――――――あ)」

一夏【グラサン】「」ウナズク

一夏【グラサン】「」シー

シャル「――――――ふえ!?(――――――み、耳許に!?)」

一夏【グラサン】「キレイダヨ」

シャル「い、一夏……(ああ、何て甘美な囁き……)」ポー

シャル「そ、それじゃ、これにするね」テレテレ

一夏【グラサン】「」ウナズク

一夏【グラサン】「(さて、難問は1つクリアされた――――――問題はここからだ)」サッ

194: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:16:03.08 ID:whTGHLoe0

一夏【グラサン】「(ど、どうやってここから出よう…………)」アセダラダラ


ラウラ「教官はどのような水着を?」

千冬「そうだな――――――」

山田「楽しみですね、織斑先生の水着」


一夏【グラサン】「(千冬姉やラウラまで居るじゃないか……!?)」

一夏【グラサン】「(ど、どうしよう!? 俺、警告済みだから、このままだと『白式』が……!)」ガタガタ

一夏【グラサン】「(ここ、女性用水着のコーナーだから、見つかったら確実に問い詰められる…………!)」

一夏【グラサン】「(ヤバイヤバイヤバイヤバイ)」

一夏【グラサン】「(おのれ、シャルロット・デュノア! まんまとハニートラップに引っかかってしまった……!)」

一夏【グラサン】「(どうする、俺!?)」

一夏【グラサン】「(――――――あ! あれで行こう)」ピポパ


――――――“世界で唯一ISを扱える男性”を題材にした悪質なチェーンメール!


一夏【グラサン】「(こういう時のために通信系も学んでおいてよかった……)」

一夏【グラサン】「(行け! 一瞬でも注意を引くんだ!)」パッ


ラウラ「む?」

千冬「メールか?」

山田「あら偶然ですね。私も受信しました」


一夏【グラサン】「(――――――今だ!)」バサッ

一夏【グラサン】「オイ、シャル。モウイイダロウ」アセダラダラ

シャル「あ、うん! どう、似合う?」

一夏【グラサン】「ウン。コートダジュールノソレイユダネ」バクバクドキドキ

シャル「ありがとう、一夏!(ごめんね。また僕、一夏に迷惑を掛けちゃった……)」

ラウラ「おお、嫁ではないか! それに、シャルロットもか」

ラウラ「こういうのを、――――――似合っている、と言うのだろう」ジー

シャル「ありがとう、ラウラ」

一夏【グラサン】「シャル、ちょっと疲れた。早く昼食にしようぜ……(神経すり減らした……)」ゼエゼエ

千冬「………………下手な芝居を打ったものだな」ボソッ

山田「え、織斑先生……?」

千冬「何でもない(どこにもお前の姿が無かったのに突然更衣室の側に現れたらな……)」

千冬「どうだ、これから私たちと一緒に?(だが今はそれは咎めん。少しでも心労を減らしてあげたいからな)」

一夏【グラサン】「――――――本当に。…………やった」グッ

シャル「よかったね、一夏(明らかに反応に差がある。やっぱり母親代わりって凄いんだね……)」

ラウラ「……むう(織斑教官と嫁の互いを見つめる表情…………私もいつかは…………)」

山田「仲良きことは善き哉善き哉」ニコニコ


195: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:17:22.01 ID:whTGHLoe0

番外編6 一夏の調教その2

――――――ある夜


一夏《無表情》「……雲量8ぐらいの曇天な星空」スッ

一夏【黒般若】「――――――『白式』展開」

一夏【黒般若】「問題なし。解除」

一夏《無表情》「…………今の俺が何をすべきかはわかっている」

一夏《無表情》「けれど、漠然とした思いではあるけど、やるべきこととは別にやってみたいことがある…………」

そう言って、腰掛けたロッキングチェアに揺られながら、ふとあの高みへと手を伸ばそうとした。

ラウラ「嫁よ。ずっと空を見上げているが何か見えるのか?」

一夏《無表情》「あ、ラウラか……いや、さして珍しいものはない」

一夏《無表情》「ただ、こうやって夜空を見上げているとあの日のことが思い出されてね……」

ラウラ「――――――あの日?」

一夏《無表情》「――――――第2回『モンド・グロッソ』決勝戦」

ラウラ「あ……す、すまない……」

一夏《無表情》「気にすることはない。気にすることは……」スッ

一夏【白式尉】「ただ、今の状況は何となく、俺を縛り付けたあの暗闇に似ているんだ」ニコー

ラウラ「そんなもので顔を隠すな!」バッ 

一夏《無表情》「あ…………(え? 何で怒ったの?)」

ラウラ「夫婦とは包み隠さないものだろう……!」グスン

ラウラ「…………あれ、何故だろう? 涙が、溢れてくる」ポロポロ

一夏《無表情》「(…………やっぱり、ガキだな。仮面を被ることで拒絶されたように思うとはな)」ナデナデ

ラウラ「ううう、嫁よ…………」シクシク

一夏《無表情》「(――――――え? そういうふうにも感じられるのか)」ナデナデ

一夏《無表情》「悪かった…………だから、泣き止んでくれ」

ラウラ「う、うん……!」

196: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:18:44.86 ID:whTGHLoe0

一夏《無表情》「いい子だ。それでな、真っ暗だったんだけどどういうわけか星空だけは見えていてね」

一夏《無表情》「星座だとか天体観測だとか、そんなのはまったく興味はなかったんだけど、あの暗闇の中で唯一姿を見せてくれた星空だけが寂しさを埋めてくれたんだ」

一夏《無表情》「――――――釘付けになった。そして、天に散りばめられた星星を掴もうと必死になった」

一夏《無表情》「――――――手首を縛られてそれができなかったけれど、――――――疲れたけど、――――――何故そんな子供じみた衝動に駆られたのかわからなかったけれど、」

一夏《無表情》「とにかく無限の彼方にあるあの星星を掴みたかった」

一夏《無表情》「似ているんだ。今の状況――――――」

一夏《無表情》「曇天の空にちらちらと見える星星、手を伸ばすことも叶わない我が身、そして――――――」

一夏《無表情》「――――――希望、流れ星のごとき、IS」

ラウラ「…………希望? ISが?」

一夏《無表情》「流れ星が瞬いた時、千冬姉が現れた……」

一夏《無表情》「千冬姉が流れ星に乗って俺を助けに来たように思えた……」

一夏《無表情》「流れ星とはISのことだったんだ……」

一夏《無表情》「――――――ごめん。自分でも何を言っているのかわからない」

ラウラ「いや、嫁のことをもっと知ることができてよかった……」

一夏《無表情》「そうだな……このことを知っているのは俺とラウラに増えたな」

ラウラ「そ、そうか。そうなのか。えへへへ……」ニコニコ

一夏《無表情》「今でも、千冬姉のようになりたいと思ってるの」

ラウラ「当然だ。そして、嫁の強さにも憧れている」

ラウラ「教官と嫁が教えてくださったこと、生涯忘れない」

一夏《無表情》「そうか。やっぱり、生きてみるもんだな」

一夏《無表情》「七転び八起き。山あり谷あり、人生楽ありゃ苦もあるさ――――――」

一夏《無表情》「生きろ、ラウラ。そして、酸いも甘いもものにしてこい。一人の人間、ラウラ・ボーデヴィッヒとしてな」

一夏《無表情》「それが、お前の目指す“強さ”に…………」

ラウラ「……嫁?」

一夏《   》「………………」スゥ

ラウラ「また、眠ってしまったのか。しかたのないやつだな、私の嫁は」

ラウラ「窓を開けたままにしたら、寝冷えするだろう? 布団を掛けてやろう」

ラウラ「さ、明日から臨海学校だ。わ、私の水着姿を見せなければ、な?」

ラウラ「む?! か、考えてきただけで…………ふわああああああ!」

一夏「ZZZZ……」


197: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:20:07.43 ID:whTGHLoe0

――――――調教報告


近頃のラウラはクラリッサから間違った日本知識を教えられて、トンチンカンな面も見せているが年頃の女の子らしさを見せている。

いや、常識はなかったが元々そういった意識はちゃんとあったようである。

クラリッサの策略に気づいてからは、俺専用の―――(自主規制)―――に仕立てあげることはやめたが、

ラウラが目指した千冬姉の“強さ”に近づけるように、寝る前に絵本を読んで聞かせたり、こうやって俺や千冬姉の昔話を聞かせたり、

そういうところから始めてみて、ただの戦闘機械からの脱却を図っていた。

その成果は上々であり、油断ならない策士だが面倒見が良いシャルが同室ということもあり、

おそらくそのかいもあって、クラスの人間ともちゃんと打ち解けることができたようである。


生前の俺と今の俺――――――俺はすでに一度死んだ身で、『イケメン』ですらなくなってしまった別人になったが、

これからどう生きていくべきか、ラウラの成長を見守る傍らでしっかりと見据えていきたい。



198: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:21:26.69 ID:kksmQpny0

――――――臨海学校、当日


「い、一夏……に、似合ってるか、私の水着?」

「一夏さん! さあ、私にサンオイルを塗ってください」

「一夏! 一緒にほら、かき氷、かき氷!」

「一夏、こっちこっち! ラウラの水着を見てあげて!」

「ふ、ふわああああああああ!」

「ビーチバレーですか」ボイーン

「小娘共、大人を甘く見るなよ?」

「オリムラクーン!」

「いやっほおおおおおおお!」












――――――というような、キャッキャウフフな展開を期待してたけど、無理だった。


一夏《無表情》「だって、麻痺を起こして見てるだけになったから……」

店主「それは残念でしたね、ワンサマー」

一夏《無表情》「……何でマスターがここに」

店主「たまたまですよ。たまたま……」

一夏《無表情》「酒を卸しに来たんですか」

店主「YES」

店主「“ブリュンヒルデ”は美酒に酔いたいようで……」

一夏《無表情》「気苦労も多いよな……そのほとんどが俺のせいだし……」

店主「こうして一人 夕食にも同席できずに暇そうでしょうから、どうです?」

一夏《無表情》「俺とマスターの関係は千冬姉には内緒のはずじゃ……」

店主「ああ、そうでしたね。あまりにも二人が顔馴染みすぎて混同してしまいましたよ」

店主「では、私はこれにて。ワンサマー、いずれまた魂がぶつかり合う勝負を……」ニヤリ

一夏《無表情》「――――――受けて立つ」

店主「GOOD!」バタン


199: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:23:30.50 ID:kksmQpny0

一夏《無表情》「そして、一人寂しく、ごちそうを頬張る俺……」ハア

一夏《無表情》「せっかくみんな、気合入れて水着を買っただろうに、肝腎の俺がこんな調子じゃ…………」モグモグ

一夏《無表情》「――――――あ」プルプル

一夏《無表情》「……またかよ。練習はしているけど、逆の手はやり辛いな、まったく」

一夏《無表情》「ああ、もう……汁物が上手く食べられん…………」コンコン

一夏《無表情》「ん……誰だろう」






―――――― 一夏さん!






一夏《無表情》「ああ、セシリアか……」

セシリア「よ、ようやく意識が戻ったんですね……」ポロポロ

一夏《無表情》「は――――――(何で泣いてるの?)」

一夏《無表情》「あれ?(俺はみんなと同じ時間に食事を摂っているはずなのに、)」

一夏《無表情》「もうこんな時間…………(――――――時間が飛んだ?)」

一夏《無表情》「もう、夕食から一時間半も経っているじゃないか……(でも、空になった皿もあるし、満腹感もある……)」

一夏《無表情》「あ、ああ……(――――――自動症が悪化した!?)」

セシリア「だ、大丈夫ですか、本当に!?」

一夏《無表情》「…………大丈夫だよ(これ、マズくね? 自動症じゃなくて、これってもう――――――)」


――――――統合失調症じゃないのか?


驚きもしなかった、泣きもしなかった、声を上げることもなかった――――――。

この時、織斑一夏は淡々と事実を受け入れていた。


そして、――――――生温かい人形だった。


200: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:25:06.80 ID:whTGHLoe0

技師「一日後れて、織斑一夏の様子を見に来てみれば――――――」

医師「まさか、病状が一気に悪化するとはな…………」

技師「当然きみは、本日 専用機持ちで行われる拡張装備稼働試験には参加できない」

一夏《無表情》「俺はもう何もできないんですか…………」

医師「いや、これは一人で物思いに耽ることで、完全に自分の世界にのめり込んでしまうようだ」

医師「それでいて、黙々と作業を正確に行うから、一種の忘我の境地に陥っているようだ」

医師「つまり、作業させる分には何ら問題ない。独断専行が許される場なら、な」

一夏《無表情》「それ、意味ないじゃないですか……」

技師「これは例の酸欠だけが原因とは思えないが、ドクター?」

医師「ああ。これは“世界で唯一ISを扱える男性”という難病が悪化したものと考えられる」

一夏《無表情》「どういうことです」

医師「いずれきみは積み重なるプレッシャーに耐えられずに心が壊れたということだ」

医師「きみが師と仰ぐ勝負師――――会ったことはないが、きみの為人を見れば何となく想像ができてね」

医師「精密さと用意周到さ――――これだけで几帳面で神経質な性格が窺える」

医師「その人のやり方を真似た結果、きみは型通りにハマった自分じゃないと満足できなくなったというわけだ」

医師「きみはラウラに言ったね」


一夏《無表情》『どんな顔を持っていてもそれでいい――――それを許せるようになってくれ』


一夏《無表情》「聞いていたんですか…………」

医師「公共の場だったから、致し方がない」

医師「で、そういうことを他人に言う割には、」


――――――中途半端な自分が許せない。


一夏《無表情》「――――――! や、やっぱり、原因はそこなんですか……」

医師「………………」コクリ

技師「そうなのか?」

一夏《無表情》「………………ええ、そうですとも」


統合失調症を患ったような俺なんかが…………

“世界で唯一ISを扱える男性”だなんて…………

千冬姉に敵うはずないから、剣を置いてカードを手にした俺…………

ずっと逃げ続けて、何をやっても中途半端…………


――――――ザンネンですよね、俺。



201: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:26:38.88 ID:whTGHLoe0

医師「………………」

技師「それはとても過酷な宿命だったな」

技師「逃げ続けた結果、優れた知性の持ち主となってしまうのだからな……」

技師「勝負師として、ついでにISエンジニアとしての人生だけを歩んでいれば、ここまで病むこともなかったろうに……」

技師「だが、運命は残酷にもきみを選んでしまった…………」

医師「…………どうしたものか」

一夏《無表情》「俺はもう『白式』とは――――――」ポロポロ

医師「…………涙」

技師「む、これは……」カオヲミアワセル

一夏《無表情》「一緒に宇宙から地球を見ることなく、知らない誰かのところに行ってしまうのか…………」ポロポロ

医師「一夏くん、まさかきみは――――――」

技師「――――――ISには意識のようなものがある、か」



束「もう何してるの、いっくん~! いっくんは小難しいことなんて考えずに突っ走るのが一番だって!」



一同「――――――!?」

一夏《無表情》「――――――た、束さん」

技師「…………篠ノ之束。やはり今日この日に現れたか」

医師「この人が件の人物か……」

束「あ、チーフだ。そして、こっちのがいっくんもちぃちゃんもお世話になっているドクターだ」

束「お初にお目にかかります。私が天才の篠ノ之束ちゃんだよ! ブイブイ!」

医師「ああ。一夏くんの主治医に晴れて任命された者だ」

技師「珍しいな。お前が自分から挨拶をするなんてな。身内以外には興味が無いお前が」

束「ひっどーい! 私もこれでも人の子なんだよ? 大切な人を大切にしている人への礼儀は心得ているつもりだよ」


202: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:28:00.71 ID:kksmQpny0

一夏《無表情》「……今日は七夕でしたね。箒の誕生日プレゼントでも贈りに来たんですか」

束「そう、そうなのだよ、いっくん!」

束「箒ちゃんからのオーダーで、第4世代型IS『紅椿』をプレゼントしてきたんだから!」

技師「――――――第4世代型だと!?」

束「驚くことないじゃん、チーフ。『白式』もその1つだし」

一夏《無表情》「ま、まさか、――――――雪片弐型」

束「Exactly! いっくん、本当に賢くなったね。でも、いっくんはそういうキャラじゃないと思うんだ、私」

医師「なるほど、やはり『白式』はあなたが手を加えていたわけか……」

医師「『白式』の生体再生能力は察するに――――――」

束「そうだよ、『白式』は『白騎士』の生まれ変わりだよ」

一夏《無表情》「――――――やっぱり、そうだったんだ」

一夏《無表情》「『白式』は『白騎士』と『暮桜』の因子を…………」ブツブツ

技師「だが、束。お前が素直にプレゼントだけを渡して帰るとは思えん」

技師「――――――何が目的だ?」

束「そんなの、決まってるじゃない!」


束「――――――大好きな人のために盛大なプレゼントを!」


山田「た、大変です、チーフ、ドクター、織斑くん!」

技師「………………それで荒療治のつもりか」

医師「また、何かしたのだな……10年前と同じように」

束「さて、何のことでしょう~」ニコニコ

一夏《無表情》「………………そういうことなら、ものにしてやる!」


203: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:29:39.66 ID:kksmQpny0

千冬「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエルの共同開発の第3世代型IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視区域より離脱したとの報があった」

千冬「情報によれば、無人のISだそうだ」

技師「この機体は元々有人機だったそうだが、パイロットの意識が失ってもミッション遂行ができるように、独自開発した無人AI単体による試験飛行の最中だったということだ」

一夏《無表情》「…………へえ」フキフキ

技師「安心してくれ。AIのレベルはあの無人機よりはお粗末だ」

千冬「その後、『銀の福音』はここから2キロ先の空域を通過することがわかった」

千冬「時間にして50分後」

千冬「学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」

千冬「教員は学園の訓練機を使用し、空域及び海域を封鎖を行う」

千冬「よって、本作戦の担当は専用機持ちに担当してもらう」

千冬「それでは、作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」

医師「医者として、一夏くんには参加してもらいたくない」

一同「………………」

一夏【黒般若】「…………まずはブレインストーミングでもしましょうか」カポッ

セシリア「で、では、目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

千冬「ふむ。だが、決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視が付けられる」

一同「」コクリ

ラウラ「…………なるほど、だから無人AIの導入を急いだわけか」

セシリア「広域殲滅を目的とした戦略級特殊射撃型で、オールレンジ攻撃が可能……」

一夏【黒般若】「ま、そんなことだろうとは思ってたよ」

一夏【黒般若】「――――――何が、アラスカ条約だ」

一夏【黒般若】「――――――何が、軍事転用を危ぶむだ」

一夏【黒般若】「自爆装置でも付けてろ……(ま、命よりも重いコアを紛失するわけにはいかないんだろうけど)」

一夏【黒般若】「(IS産業型経済モデルの今の世界にふさわしい歪んだ価値観だな)」

鈴「私の『甲龍』と同じく、航行能力の高さが目を引くわね。さすが戦略級というだけあって自衛能力は高そうじゃない」

シャル「もっと情報は無いんですか? 背中の装備のことがわからないんですが……」

ラウラ「偵察はできないのですか? あるいは更なる情報提供を」

千冬「それは無理だ。超音速飛行をしている。アプローチは1回が限界だ」

千冬「そして、情報提供を得ようにも情報公開の承認を得るまでの時間がない」


204: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:31:23.15 ID:kksmQpny0

山田「となると、攻撃のチャンスは1回だけ」チラッ

鈴「ふざけてるわね。暴走した尻ぬぐいをさせられているのに、そんな扱いだなんて……」チラッ

シャル「だけど、これは大変なことになったね……」チラッ

ラウラ「うむ。アプローチが1回だけ。それだけで撃破できるだけの戦力であり、」チラッ

セシリア「しかも高速戦闘をこなせるだけの熟練したパイロット……」チラッ

医師「………………」

技師「………………」

千冬「………………」

箒「な、なんということだ…………」

一夏【黒般若】「俺しかいない――――のは、わかりきっていたことですけどね……」ペラペラ

一夏【黒般若】「この戦い、俺と箒以外には出番はない……」

千冬「何を見ている?」

一夏【黒般若】「第4世代型IS『紅椿』の特徴となる『展開装甲』について、天才 束さんからのプレゼント」

一夏【黒般若】「居るんでしょう。さっさと、やりましょう」

束「呼ばれて飛び出て、天才 束さん、また参上!」

千冬「どういうことだ、束?」

一夏【黒般若】「返します。半分はわかった。残り半分も暗記した」ピピピ

束「どうもどうも」ボッ

セシリア「ああ、貴重な第4世代に関するレポートが一瞬で灰に…………」

束「つまりね、『紅椿』は拡張領域でどうのこうのしないで、最初から複数の機能を兼ね備えた兵器であらゆる状況に対応できるようにした、スペシャルな機体なのさ!」

ラウラ「それはどういう――――――」

一夏【黒般若】「――――――それを知る必要はない」

鈴「い、一夏……?(な、何だろう。今ものすごい壁を感じた……)」

シャル「(精神を集中しているつもりなんだろうけど、怖い…………)」

205: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:32:46.96 ID:kksmQpny0

技師「で、話を続けてくれ。今回の作戦で、『紅椿』がどう役に立つのかね?」

束「はい、チーフ! つまりねつまりね、『紅椿』をスピード特化にすることで、超音速飛行を実現させて、」

束「いっくんの『白式』を消耗させることなく、『零落白夜』をフルに使えるように作戦を遂行させることができるってことなのだ~」

セシリア「そ、そんな……私の『ストライク・ガンナー』の出番が……」

束「よかったね、箒ちゃん! これでいっくんと肩を並べることができるよ!」

箒「ね、姉さん…………」

一夏【黒般若】「というわけで、いいでしょう」

一夏【黒般若】「箒の『紅椿』で俺を送って、俺が『銀の福音』を撃破する。他のメンバーは待機ってことで……」ピッピピピ

千冬「待て、織斑! まだ結論は――――――」

セシリア「そ、そんな一夏さん!」

一夏【黒般若】「他に代案がないのなら、ここまでだ」

一夏【黒般若】「行こう、箒、束さん。一刻の猶予もない」

箒「一夏! どうしたというのだ!? いつものお前らしくないぞ!?」

鈴「ちょっと一夏! そんな言い方はないんじゃない!」

一夏【黒般若】「……気に障ったなら、後で謝る」

一夏【黒般若】「だがこれは、『白騎士事件』に匹敵する歴史の転換点になる事件だ」

一夏【黒般若】「失敗すれば、お前たちはそれぞれの国家の尖兵として互いを殺しあうことになるぞ」

一同「――――――っ!?」

一夏【黒般若】「嘘と欺瞞に満ちた、今の情勢が大きく変わり得る」

一夏【黒般若】「俺は世界がどうなろうと知ったことではない。アラスカ条約を利用して互いを貪り食おうとする世界なんか、自らのハラワタを食い破って滅びればいい」

シャル「本当にどうしたの、一夏……?(み、見下されている、ように感じる。あの面の傾け方……)」

ラウラ「そ、そうだぞ、嫁!? 嫁はそんな顔はしないし、そんなことを言うなんて――――――」

束「いっくんいっくん! さあ、行こう」

一夏【黒般若】「はい。箒も早く……」

箒「あ、ああ…………」

一同「」ポカーン




206: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:34:27.87 ID:whTGHLoe0

山田「ど、ドクター!? 今のは!?」

千冬「………………私のせいなのか」

医師「…………わからない。今の一夏くんは演技なのか、真意なのか」

医師「だが、1つだけ確かなことがある」

医師「――――――仮面をこの場で付けたという事実だ」

セシリア「そ、それはどういうことですか!?」

医師「一夏くんは型にはまった完璧な自分を演じることを心がけていた」

医師「それ故に、中途半端であることを酷く嫌っていた」

医師「極端なことを言えば、――――――カッコイイ自分を演じるために、思春期特有の性愛意識や弱気な想いなどを抱くのは相応しくない――――――だから、そういった役柄に相応しくないものを全て封印しようとしていた」

鈴「え、なにそれ…………」

シャル「それってつまり、ずっと自分の気持ちを押し殺してきたってことなの?」

シャル「じゃあ、僕に見せてくれた笑顔は――――――」

医師「いや、みんなが惹かれた彼の優しさは本物だ。しかし、本来そこにあったはずの下心や悪口が封印されていたという話だ」

医師「彼は『プレイボーイ』を目指すのを辞めて『イケメン』であろうとしていたのだ」

一同「プレイボーイ……?!」

ラウラ「???」

千冬「………………」

医師「本当は年頃の男の子らしくそれぐらいの下心はあったという話だ。話を戻そう」

医師「たぶん、今の言葉は半分は嘘で、半分は真実だと思う。直接的な表現は抑えていたけれどね」

ラウラ「???」

セシリア「半分は嘘で、半分は真実――――――?」

鈴「まどろっこしいわね……」

医師「つまり、人は自分の中にいろんな視点から見た考えを同時に持っていて、」

医師「例えば、ある人の良い面と悪い面の両方を知っていたとしたら、どう振る舞うべきかという話だ」

医師「一夏くんは、それを自分に当てはめて多感な自分を否定し続けてきたのだ」

医師「おそらくさっきのは、“黒般若”として何らかの目的に沿ってさっきのようなことを言い放ったのだと思う」

セシリア「そ、そんなことよりも、障害の方は大丈夫なんですか!?」

ラウラ「作戦中に麻痺するようなことになったら――――――!」

医師「その点は問題ないと思う。あの仮面は生前の彼の意識を命令させる代物だ」

医師「任務は身命を賭して果たしてくれると思う」

シャル「…………そんなのはあんまりですよ」

医師「すまない。――――――私は医者だ。その立場での意見しか許されない」

医師「私は彼の主治医として、無事の帰還と作戦の成功を祈ることしかできない」

一同「………………」

技師「…………む(これは――――――わかった、織斑一夏)」ピッ

技師「――――――織斑先生」ボソッ

千冬「チーフ……」


207: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:36:10.38 ID:kksmQpny0

箒「な、なあ、一夏?」

一夏【黒般若】「どうした、箒。怖いのか、……実戦が。……それとも俺が」

箒「………………どっちもだ」

一夏【黒般若】「素直でよろしい……」ナデナデ

箒「い、一夏…………」

一夏【黒般若】「あの場は無理やり持って行かないとドクターストップを掛けられる心配があった」

一夏【黒般若】「そうなったらこのミッションは遂行不可能になる」

一夏【黒般若】「だから――――――」

箒「――――――だから、あんなことをみんなに言い放ったのか?」

箒「弛んでいるぞ、一夏!」パチーン

一夏【黒般若】「……けっこうやるじゃん」ヒリヒリ

箒「私は『紅椿』があれば一夏と並び立てる思っていた。思っていたんだ……」

箒「それなのに、一夏はどんどん遠い場所に行ってしまったように感じられた……」

箒「結局、私は専用ISを貰っても何も変わらないんじゃないかって…………」グズッ

一夏【黒般若】「…………そんなことはない」ナミダヲヌグウ

箒「い、一夏……」

一夏【黒般若】「孤高のお前が俺以外の誰かと一緒に居る時間を大切にできるようになったじゃないか」

一夏【黒般若】「証人保護プログラム、だったっけか?」

箒「――――――“重要人物”保護プログラムだ」

一夏【黒般若】「ああ、それそれ。お前が背負わされた重みに比べて俺は、ISドライバーにされた当初は、女の子しかいないヒミツの花園で花摘みをする『プレイボーイ』になろうと考えていた」

箒「い、一夏!?」

一夏【黒般若】「でも、俺には女の子の気持ちなんてさっぱりわからなくて『プレイボーイ』になることは辞めたんだ」

一夏【黒般若】「だから俺は、自分にもみんなにもわかりやすい『イケメン』を演じることを決めた」

一夏【黒般若】「だけど、『イケメン』であろうと強く思えば思うほど、結局それに相応しくないことを痛感していってね……」

一夏【黒般若】「その果てに、女の子にチヤホヤされる生活から女の子に介護される生活に落とされてしまった……」

箒「そ、それは…………」

一夏【黒般若】「――――――罰が当たったのさ」

一夏【黒般若】「だから俺は、『白式』と一世一代の大舞台で勝負したくてしたくて、たまらないんだ…………」スッ

一夏《無表情》「俺の命運がどれくらい残っているのか、俺の未来はどうなるのか――――――、」

一夏《無表情》「今 俺は、清々しいぐらいに打ち震えている……」

箒「い、一夏……(表情は全く変わっていないのに、確かに喜びのようなものを感じる一方で、儚さすら……)」

箒「(――――――それが幽玄というもののように感じられた)」

箒「な、何故私なんかにそんな秘密を話す気になったのだ……?」

一夏《無表情》「さて、何故かな……」スッ

一夏【黒般若】「ありのままだった頃の俺を憶えていてくれた人だったから、かな――――――わかんないや」

208: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:37:48.06 ID:whTGHLoe0

一夏【黒般若】「さて、この通り、声はあまり出ないし、戦力としては疑問符しか付かない存在だが、」

一夏【黒般若】「張り切って行こうか……」

箒「ああ! 何としても作戦を成功させて、明日を掴み取ろう!」

束「なーんかいい感じじゃん」ニコニコ

箒「そ、それは……」チラッ

一夏【黒般若】「………………」

束「二人共、乗っているのは世界最強の第4世代型なんだから気楽に強気に行こー!」

束「ほら、笑って笑って」ニコニコ

箒「……この顔は生まれつきなので」

一夏【延命冠者】「……そんなことはない。ほら、笑って」ニコニコ

箒「あ、ああ……こう、か?」ニコー

束「うんうん。とりあえず今は大満足なのですよ、いっくん!」

一夏【延命冠者】「(何としてでも成功させなければ…………)」ニコニコ

一夏【延命冠者】「(世界なんてどうでもいい。ただ、身近な人が悶え苦しんでいく地獄絵図を見たくないし、)」ニコニコ

一夏【黒般若】「(ずっと一緒に――――――!)」

一夏【黒般若】「――――――ただそれだけのことだ」

箒「(一夏はおそらく初めて胸の内を明かしてくれた)」

箒「(私はその期待に応えなければ…………)」

箒「一夏、私の装備の確認を――――――」

一夏【黒般若】「……なるほどね、パイロット共に相性がいい機体で助かる」


千冬「………………」

束「何かな、ちぃちゃん?」ピッピピ

千冬「お前はこれから世界をどうしたいのだ……」

束「ちぃちゃんは、今の世界は楽しい?」

千冬「そこそこにな……」

束「そうなんだ……」

束「チーフはどうなんだろうね……この閉ざされた今の世界」

千冬「………………」

209: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:39:36.00 ID:kksmQpny0

一夏【黒般若】「それじゃ、箒。行こう、今まで通りの明日のために……」

箒「ああ。お前と一緒に明日を迎えよう!」

箒「――――――お前の背中は私が守る!」

千冬「織斑、篠ノ之、聞こえるか?」

千冬「今回の作戦の要は一撃必殺――――短期決戦だ」

千冬「討つべきは、――――――『銀の福音』だ」

千冬「両名の奮闘と無事の帰還を期待する」

一夏【黒般若】「……了解」

箒「了解しました! 一夏は私が守り抜きます!」

千冬「よろしい」

鈴「乗りたての時と比べて、緊張感が出ているわね、箒」

ラウラ「どうやら程よい緊張感が初実戦の篠ノ之を冷静にさせているようだな。さすが、私の嫁」

シャル「でも、どちらかと言うと、それは今の一夏が核爆弾以上に危ういからなんじゃ……」

セシリア「そうですわ! パッケージ換装の最終調整を急がされている身ですけど、心配で心配で――――――」

技師「落ち着きたまえ。世紀の大天才に協力させているのだから、万が一に間に合うだろう」

束「ちぃちゃん! チーフがいじめる~!」ピッピッピピピ

千冬「グダグダ言わずに調整を急がせろ!」

山田「それでは、スタンバイどうぞ!」

一同「」ゴクリ

千冬「では、『銀の福音』討伐作戦、――――――始め!」

箒「行くぞ!」

一夏【黒般若】「ああ」ヒュウウウン

医師「おお……始まったな……」

医師「…………これは医者では勧められない荒療治だ」

医師「幸運を祈るよ、一夏くん」ミアゲル





210: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:40:59.18 ID:kksmQpny0

箒「見えたぞ、一夏! あれが『銀の福音』……!」

一夏【黒般若】「『零落白夜』を展開する。思いっきり行ってくれ」

箒「では、10秒後に接触するように加速を開始する!」

一夏【黒般若】「ああ、突っ込んでくれ(このデバイスは完璧だ。俺が考えた瞬間に反応を返してくれる……これなら問題ない!)」

箒「一夏! 行っけええええええ!」

一夏【黒般若】「………………!!(届けえええええええ!!)」

銀の福音「――――――!?」

一夏【黒般若】「箒、このまま押し切る(初撃を回避したか。半端じゃないな、あのAIは……!)」

銀の福音「――――――」

箒「あ、あれは――――――!?」

一夏【黒般若】「……第3世代兵器(あの数で狙いが正確だ! まとまっていては躱しきれない!)」

一夏【黒般若】「分離して、左右からの挟み撃ちを狙う(…………思ったよりもやる!)」

箒「了解した! 私は左から!」

一夏【黒般若】「(だが、確かにあのAIは戦略機用AIだからかは知らないが、明らかに改善の余地が見え隠れしている!)」


――――――これはやれる! 確実に次に繋げられる!


銀の福音「――――――」

箒「はあああああああ!」

一夏【黒般若】「………………(さて、どうする? 隠し球を使うか?)」

一夏【黒般若】「(イグニッションブーストの負担はアップデートしたマスクのおかげでそこそこ克服したが……)」

箒「一夏! 動きは私が止める!」

一夏【黒般若】「おお……(あんなふうに展開装甲の一部が誘導兵器となるのか! これは決まったな!)」

一夏【黒般若】「(あれ、俺が居なくても5人掛かりで勝てるんじゃないか、こんな機体……)」

一夏【黒般若】「だが、チャンスだ(――――今こそ、パッケージの封印を解く! 乾坤一擲! オール・イン!)」

一夏【黒般若】「(――――――保ってくれよ、身体!)」



211: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:42:46.77 ID:kksmQpny0

山田「織斑くんの機体が変わった!?」

セシリア「――――――セカンドシフトですか!?」

鈴「その割りには、ほとんど変わってないような……」

山田「――――――!? 『紅椿』には及びませんが最高速が音速の壁を超えました!」

山田「しかし、その分のエネルギーの消耗が……!」

千冬「織斑は隠し球を解禁したのだ」

セシリア「隠し球ですって!?」

技師「私から説明しよう」

ラウラ「チーフ、そして教官は、知っていたんですね……」

技師「織斑一夏は『白式』の拡張領域が何故無いのか、その疑問に早くから取り組んでいた」

技師「そして、雪片弐型が第4世代型IS『紅椿』に使われている『展開装甲』の原型だったことを突き止めた」

技師「それ故に、雪片弐型に後付装備を導入することを決意し、自ら装備を設計して学年別トーナメントまでには量子化していたのだ」

束「凄いね、いっくん! もしかしたら、私の後継者になれるかもよ!」ウキウキ

シャル「そ、そんなことまでしていたんだ、一夏って……」

鈴「それっていつのことよ! 一夏の身体が保たなかったのはそういう過労のせいじゃないの?!」

セシリア「それでは、あれもパッケージなのですね」

技師「そうだ。安物だが単純にブースターを倍増させた、超音速飛行パッケージ『ダブルイグニッション』だ」

技師「燃費は更に悪化したが、元々『白式』が短期決戦用の機体であり、そして今回のミッションにはうってつけだった」

山田「織斑先生! 織斑くんの『白式』が!」

一同「おおおおおおお!」

技師「これで決まるか……!?(だが、本来なら土壇場になって使うものではない!)」

技師「(少しずつイグニッションブーストの速度を上げながら「最適化」するまでは超音速飛行は封印の取り決めだった。それを――――――!)」

千冬「………………(耐えられるのか、今の一夏に……?)」アセダラダラ



212: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:44:15.75 ID:whTGHLoe0


箒「く、被弾したか(リボンが散ってしまった……)」

一夏【黒般若】「ぅううううううううううあああ!(意識が飛びそうだが、これでダウンだああああ!)」

銀の福音「――――――!?」ズバン

箒「やった! ――――――って、まだ!?」

一夏【黒般若】「……まだ、だ(手応えがない……!?)」カラブリ

一夏【黒般若】「あ、くっそおお…………(一世一代の勝負で負けた……エネルギーはもう無い……)」

一夏【黒般若】「(だが、大型スラスターと広域殲滅兵器を組み合わせた翼は完全に斬り落とした)」

一夏【黒般若】「(これで相手はイグニッションブーストは使えず、36連装(?)レーザーは封じられたはずだ……)」

一夏【黒般若】「すまない、箒……作戦の第一段階は失敗だ。第二段階へ……」ビキビキ


パリーン


一夏《無表情》「がはっ(また、内臓が潰れた…………)」フキダスチシブキ

一夏《無表情》「……後は、頼んだ」ヒュウウウウウン

箒「逃すか――――――は!? 一夏ああああ!」



213: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:45:40.10 ID:kksmQpny0

千冬「一夏あああああああああああ!」

山田「織斑くん!」

セシリア「一夏さあああああああああん!」

鈴「一夏!」

シャル「そんな、一夏あああ!」

ラウラ「一夏あああああああ! 嫁ええええええええ!」


――――――何をしている!?


一同「――――――!?」

技師「今、我々の仲間の一人が、己の宿命に従い、自らの生き様を全うしようとしている!」

技師「ならば、我々が仲間として出来る事は何なのか……」

技師「泣くことも叫ぶことも逃げることもしなかったその彼の生き様を無に帰すつもりか?!」

一同「――――――!?」

技師「山田先生! 現在、『銀の福音』は!?」

山田「あ、はい! 織斑くんの一撃によってウイングスラスターを損失した模様です」

山田「そして、大部分の推進力と戦闘力をスラスターに依存していたために、戦闘能力は失われたものと思われます!」

山田「篠ノ之さんの『紅椿』が織斑くんを救助して離脱したのを確認して、その場に停滞――――おそらく自己修復を図っているものと思われます!」

技師「なるほど、離脱するほどの能力も失われたということです、織斑先生!」

千冬「――――――! これより我々は手筈通りに海上封鎖を狭めていき、専用機持ちと連携して『銀の福音』の方位撃滅作戦に移る!」

セシリア「――――――『手筈通り』ですって!?」

シャル「ちょっと待ってください! それじゃ、出撃は――――――」

千冬「当然してもらう! 沖に展開するための船の手配が済むまで待機だ!」ブルブル

ラウラ「待ってください! それではまるで、織斑一夏は――――――」

鈴「そうですよ! いったいこれはどういう――――――」

千冬「返事は全て『了解』だ!!!」

一同「りょ、了解!」

千冬「…………(まさか、本当に弟が用意した展開になるとは……)」チラッ

技師「…………(よく耐えた、織斑千冬。今は作戦に集中してくれ)」

技師「(しかし、あのメールには心底驚いたぞ。――――――事実上の遺言書ではないか!)」


214: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:46:59.16 ID:kksmQpny0

技師『…………む(これは――――――わかった、織斑一夏)』ピッ

技師『――――――織斑先生』ボソッ

千冬『チーフ……』

技師『一先ず、外へ出ましょう」

千冬『ああ、あいつらの様子を見なくてはならないからな』


技師『これは織斑一夏の詳細な作戦内容です。今、転送します』

千冬『――――――何だこれは!?』

千冬『あの数分で、はっきりとした攻略手順、そしてクルーザー数隻を調達していたのか…………』

技師『織斑一夏は万が一撃破に失敗した時のことを考えて、最低限の目標を立てた上で挑むようです』

技師『撃破に失敗した場合でも、特徴的なウイングスラスターを排除して航行能力を奪い、そこから追撃できるようにここまでの作戦指針を提示しています』

技師『それこそ、例の隠し球を使って刺し違えて死ぬ気で――――――』

技師『おそらく今の織斑一夏に『ダブルイグニッション』に耐えるだけの体力も気力もないはず』

技師『――――――覚悟を決めてください』

技師『将来有望なISエンジニアが世界を救った語られない影の英雄として果てることを、私は覚悟しました』

千冬『――――――っ!』

技師『私は外宇宙開発機構の主任として、あの暗黒空間に尊い人命が失われていくのを見送ってきた……』

千冬『――――――覚悟はできている』ブルブル

千冬『弟の死よりも、弟が守ろうとした世界――――弟の意思を私は守る…………』

技師『そうしてください、平和の糧となって摘まれていく迷える魂のために……』

215: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:48:05.48 ID:whTGHLoe0

技師『…………む(これは――――――わかった、織斑一夏)』ピッ

技師『――――――織斑先生』ボソッ

千冬『チーフ……』

技師『一先ず、外へ出ましょう」

千冬『ああ、あいつらの様子を見なくてはならないからな』


技師『これは織斑一夏の詳細な作戦内容です。今、転送します』

千冬『――――――何だこれは!?』

千冬『あの数分で、はっきりとした攻略手順、そしてクルーザー数隻を調達していたのか…………』

技師『織斑一夏は万が一撃破に失敗した時のことを考えて、最低限の目標を立てた上で挑むようです』

技師『撃破に失敗した場合でも、特徴的なウイングスラスターを排除して航行能力を奪い、そこから追撃できるようにここまでの作戦指針を提示しています』

技師『それこそ、例の隠し球を使って刺し違えて死ぬ気で――――――』

技師『おそらく今の織斑一夏に『ダブルイグニッション』に耐えるだけの体力も気力もないはず』

技師『――――――覚悟を決めてください』

技師『将来有望なISエンジニアが世界を救った語られない影の英雄として果てることを、私は覚悟しました』

千冬『――――――っ!』

技師『私は外宇宙開発機構の主任として、あの暗黒空間に尊い人命が失われていくのを見送ってきた……』

千冬『――――――覚悟はできている』ブルブル

千冬『弟の死よりも、弟が守ろうとした世界――――弟の意思を私は守る…………』

技師『そうしてください、平和の糧となって摘まれていく迷える魂のために……』

216: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:49:40.32 ID:kksmQpny0

医師「――――――オペを行う! 人を近づけさせるな! いいな」

女子「スーパーアンビュランスだ!」

女子「イッタイナニガアッタンダロー」

箒「…………すまない、一夏」ポロポロ

セシリア「い、一夏さんはいったいどうなってしまったんですか、箒さん!」

箒「ドクターが言うには、機体自体が私の『紅椿』のように超音速飛行に対応していなかったから、絶対防御が働かない体内のほとんどの器官がソニックブームで斬り刻まれてミンチよりひどい状態に…………」

鈴「な、何よそれ! だって、あんなにも何にもなかったように、――――――綺麗な顔してたじゃない!」

シャル「それは傷の深さを探るために綺麗に拭き取ったからだよ…………」

ラウラ「…………仇は取ってやる!」ギラギラ

セシリア「そ、それは本当に生きていると言える状態なんですか!?」

箒「わからない。でも、ドクターは外科手術に踏み切った。それを信じる他…………」

箒「――――――まるで、一夏の心境がそのまま身体に現れたような状態ではないか…………」

箒「外面を装って綺麗に整えていても、内面ではただひたすら傷ついて…………」

箒「私は圧倒的な力を持つ『紅椿』を得てしても、一夏の心も身体も守ることができなかった…………何のために私は…………」

箒「私にあれを持つ資格はもうない…………」ポロポロ

セシリア「箒さん!」

鈴「……箒。――――――決めた!

鈴「――――――箒!」パーン

鈴「このままウジウジしていたって何にもならないじゃない!」

箒「り、鈴…………私はもう…………」ヒリヒリ

鈴「専用機持ちっていうのは、ワガママが許される立場じゃないの!」

鈴「そんなことよりも、ラウラを見なさい!」

ラウラ「………………」メラメラ

鈴「いい? 私たちが『今』考えるべきことは、一夏が教えてくれたことを活かして、一夏の仇をとることよ!」

鈴「一夏がウイングスラスターを破壊してくれたおかげで、『銀の福音』は高速移動はままならなくなった」

鈴「つまり、私たちでもやれるようになったのよ! 教師部隊と一緒にタコ殴りよ、タコ殴り!」

セシリア「……そうですわね。それに負けたままでいるのは我慢なりませんわ!」

セシリア「ここはドクターを信じて、憎き『銀の福音』をどう料理してさしあげるかを考えましょう!」ゴゴゴゴゴ

シャル「そうだね。僕も本気で怒りをぶつけたいからね!」ゴゴゴゴゴ


217: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:51:05.63 ID:kksmQpny0

鈴「さて、問題! このまま私たちが一丸となって『銀の福音』を戦う際に、考えられる障害は何でしょうか?」

箒「それって…………」

セシリア「簡単なことですわ。それぞれの武器の性能や機体の立ち回りが噛み合わなくて味方の足を引っ張ることですわ」

鈴「はい、正解!」

セシリア「えっへん!」

シャル「経験者は語るね」

鈴「あんまり言わないで、シャルロット……」

セシリア「今考えてみてもなんと浅はかだったか、恥ずかしく思いますわ……」

シャル「教師部隊が使っているのは、みんな『ラファール』の中・遠距離装備のものばかりだよ」

箒「つまり、斬りこむのは控えたほうがいいな……」

箒「あるいは、接近戦が得意な機体で追い詰めたところを狙撃してもらうか……」

鈴「そうそう、その調子その調子!」

鈴「で、私たちは今回のパッケージ換装で全体として射撃武器の火力が上がったから、十字砲火で挑む」

ラウラ「……妥当だな。それよりも、間もなく作戦決行に入る頃合いだ」

医師「――――――その前に、少し時間をもらってもいいかな?」

シャル「ドクター!?」

医師「気休めかもしれないが、一夏くんの心に訴えかけることができるのはきみたちだけだからな」




218: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:52:12.41 ID:whTGHLoe0

――――――どことも知れない世界


少女「また来たね」

一夏「ここは――――――そうか、今ならはっきり認識できる」

一夏「――――――あの日のことを夢に見ることがなくなった代わりに、俺はそれと入れ替わるように夢を見続けたんだ」


――――――星空が見えるこの場所を。


一夏「最初は臨死体験で三途の川まで来たのかと思った」

一夏「だけど、それは違った」

一夏「俺がISドライバーとしての実績を積んでいくうちに、何度も何度もここの夢を見るようになっていた」

一夏「決定的だったのは、“ブリュンヒルデ”を超えたから――――――!」

一夏「そして、もう1つ――――――!」


ガキーン!


一夏「――――――俺の中で『白式』の次なるイメージが出来上がっていったからだ!」

一夏「今度こそ、俺は【俺】を超えてやる!」

【黒般若】「できるかな…………【俺】は俺、理想の俺だ」

一夏「そんなことはわかってる! それでも、超えてみたいんだ!」


――――――あの少女は俺の夢だ!


【黒般若】「諦めたらどうだ……ここで俺は何度【俺】に討たれたことか……」

219: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:54:01.74 ID:whTGHLoe0

【黒般若】「ここでの勝敗はすでに決定されている……俺自身の意思によってな……」

一夏「二刀流だからって! 剣道の公式大会で二刀流が制覇したことはない! もう対策はできている!」

一夏「そこだ! “ローアングラー”!」

【怪士】「――――――変幻自在」ギラッ

【怪士】「この仮面のように、この機体の武器は姿を変える!」ギラギラ

一夏「わかっているよ! 俺がデザインした『白式』の第二形態なんだから!」

【延命冠者】「受け止めても無駄だよ」ニコニコ

一夏「――――――く、イグニッションブースト!」

一夏「危なかった、『零落白夜』のエネルギークローか…………」

一夏「だけど、飛び道具なら――――――」ジャキ

【俊寛】「距離をとっても無駄だ」ジー

一夏「――――――くぅ!?」

一夏「はあはあ…………あの無人機に殺されかけた時のことを思い出した……」

一夏「あれよりは規模は小さいが、戦術レベルじゃないか!」

一夏「そうか、アサルトライフルがあるから並大抵のものは要らなかったな……」

一夏「だが、燃費の悪さを設計したのも俺だ!」パンパン

【童子】「隙を突こうとしても無駄」ニヤリ

一夏「エネルギーシールド……だが、実弾兵器を持っているこちらが有利!」

【黒般若】「…………強がっても無駄でしかない」

一夏「ダブルイグニッションブースト!?」

一夏「そうだ……! 武器だけじゃなく、機体の面でも理想形…………」

一夏「こちらの未完成品では、自滅するだけだ…………」

一夏「あああああもう! こうなれば、乾坤一擲! オール・イン!」

一夏「織斑千冬から受け継がれた光の剣で迎え撃つ!」

一夏「それしかないじゃないかあ!」

一夏「ううおおおおおおおおお!」

【黒般若】「………………フッ」ズバリーン


パリーン


【一夏】「さすがは、【俺】の――――――」

220: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:55:55.34 ID:whTGHLoe0

一夏「ど、どういうことだ!? 何であっさり勝てた…………? わざと負けたのか!? ふざけるな!」

【一夏】「本当はわかっているんじゃないのか?」

【一夏】「経験と努力によって俺が強くなったからだよ」

【一夏】「そして、ガントレットから伝わる命の鼓動を憶えていないか」

一夏「わけがわからない! ガントレット? …………あ」


箒「―――――― 一夏」

セシリア「―――――― 一夏さん!」

鈴「―――――― 一夏!」

シャル「―――――― 一夏」

ラウラ「――――――織斑一夏。私の嫁!」


一夏「…………温かい」

【一夏】「ようやく感じることができたな……」

一夏「どういう……ことだ……」

【一夏】「IS学園に入学するまでの俺は力がなかった。ずっとそのことを悔やみ続けていたんだ」

一夏「……嘘だ」

【一夏】「【俺】はISドライバーとなった俺が『白式』と出会ったことで心の中で生まれた理想像」

【一夏】「当然、俺と【俺】とでは当初は力量差は歴然としていた。曲がりなりにも、“ブリュンヒルデ”そのものだったからな」

一夏「……そうだとも」

【一夏】「だが、俺はみんなの声援と協力をもらって努力を重ねて、最終的には目標だった“ブリュンヒルデ”を超える“強さ”を得たんだよ」

【一夏】「だから、もう悪夢を見なくなった。もう無力だった『昔の自分』とは違うから」

【一夏】「けど、問題は他にもあったよね」

【一夏】「強くなっていくうちに、今度は『自分』のことで思い悩むようになったね」

【一夏】「そこからだよ。本格的に【俺】との戦いの日々になったのは…………」

一夏「脈絡がなくてわけがわからないけど、何となくは……」

一夏「自分でも認めざるをえない“強さ”を得ていったから、余裕ができてきたってことなのか」

【一夏】「そして、このままの中途半端な俺じゃ『白式』と一緒に次の段階へと進めないことに気づく」

【一夏】「ISはパイロットの意思に共鳴する」

【一夏】「相手に合わせるだけだった俺は少しずつ自分の考えを口にするようになった」

【一夏】「俺のやり方や考えが受け容れられていくことで、その最後の扉は開かれた」


――――――初めて自分の胸の内を明かしたから。


一夏「…………あ」

一夏「理想の自分に負け続けていたのは――――――、少しずつ変われたのは――――――、そういうことだったのか」

一夏「――――――全部『自分』が望んできたことだったから」

一夏「答えはいつも『自分』の中にあったんだ……」

221: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:57:58.78 ID:kksmQpny0

【一夏】「さあ、次だ」

一夏「あ、あれは――――――!」


騎士「――――――力を欲しますか?」


一夏「お、俺は――――――!?(な、何で!? 身体が動かない!?)」ゾクッ

一夏「(勝ったんだぞ、俺? 何で、答えらない……!?)」

一夏「(受け取る資格は十分に得たじゃないか!?)」

一夏「(それとも、まだ何かあるのか…………)」

【一夏】「――――――案ずるより産むが易し」

一夏「へ……?」

【一夏】「俺を縛り付けている鎖は、俺自身の躊躇い」

【一夏】「それは緩くもなり、固くもなる鎖」

【一夏】「そして、その鎖は仮面でできている」

一夏「な――――――!?」

【一夏】「…………『自分』が誰かを答えられるか?」

一夏「――――――織斑一夏だろ?」

【一夏】「フッ、何だもう大丈夫じゃないか」

一夏「え?」

【一夏】「さ、もう一度」


騎士「――――――力を欲しますか?」


一夏「俺は『白式』と身近で大切な人を守れるだけの力が欲しい!」

一夏「――――――言えた?! こんなにもあっさり!? どうして?」

【一夏】「だって、簡単なことだろう?」


――――――当たり前のことだから。


【一夏】「『自分』が誰であるかなんて、自分が決めるものだろう?」

【一夏】「そして俺は、『自分』の言葉に責任を持てるから堂々と言えたんだ」

【一夏】「わかっていたことじゃないか。『お前が言うな』って心境でラウラに言い続けてきたことなんだから」

一夏「ああ…………そうだったな」

一夏「――――――もう大丈夫だ」

【一夏】「ああ、俺は大丈夫だとも」


騎士「――――――何のために?」


一夏「そんなの決まっているじゃないか!」

一夏「――――――千冬姉のようになりたいからに決まっている!」

【一夏】「フッ」

騎士「フッ」

一夏「(そうだ、――――――あの時、俺が初めて『白式』に触れた時にわかったんだ)」


222: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 18:59:25.18 ID:whTGHLoe0

一夏「(あの日から剣を置いてカードを手にした俺だけれど、俺はまだ千冬姉のようになりたいって思っていたこと!)」

一夏「俺もラウラも、世界中が憧れた、千冬姉の“強さ”に――――――」

少女「だったら、行かなきゃね」

少女「ほら、ね?」

一夏「ああ……小さくてすべすべで柔らかい手だね」

【一夏】「さあ、最後の儀式だ」

一夏「うん」

【一夏】「これで【俺】は俺に戻るわけだ。――――――ただいま」

一夏「ああ、――――――おかえり」スッ

一夏【一夏】「――――――そう、俺は織斑一夏」

一夏【…夏】「勝負師、ISエンジニア、ISドライバーの道を行く英才でもあり、」

一夏【……】「HENTAI趣味や家事全般にも堪能な織斑千冬の自慢の弟でもあり、」

一夏【  】「――――――“世界で唯一ISを扱える男性”だ」

一夏「そして、ポーカーと能面を趣味として挙げるような、他にも聞かれたらドン引きされかねない――――――」


――――――ザンネンな人間だよ。


一夏「………………」フゥ

少女「」ニコニコ

一夏「今度は、光の速さで歩いていこう!」ニッコリ

少女「うん!」ニッコリ

一夏「そして、いつかあの星空の彼方を――――――」





223: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:00:51.73 ID:kksmQpny0

千冬「予想外のセカンドシフトによって陣形は崩壊…………討伐部隊は壊滅か…………」ギリギリ

技師「織斑一夏がその身を賭して繋げてくれたと言うのに…………」

医師「――――――織斑先生!」

技師「ドクター!?」

千冬「作戦中に部外者は入ってくるな!」

医師「それが、一夏くんが――――――」

千冬「――――――!?」

山田「織斑先生、チーフ! レーダーにISの反応が1つ増えました!」

技師「――――――まさか!?」



ラウラ「セカンドシフトによる戦力回復はさすがに読めなかった……」

シャル「すでに教師部隊の半数が撃墜された……」

鈴「何なのよ! 『龍咆』みたいなエネルギー砲を何もないところから撃てるようになるだなんて……!」

セシリア「――――――は、箒さん!」

箒「な、しまっ――――――うわああああああああ!」

ラウラ「他人の心配をしている暇はないぞ!」

ラウラ「『AIC』で動きを止められれば…………く!?」

シャル「く、無事でいてよね、箒!」



箒「うわあああああああ!」



会いたい……会いたい…………一夏に会いたい…………



――――――会いたい!



――――――会いたい、ファースト幼馴染?





224: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:02:12.62 ID:whTGHLoe0

箒「――――――は!?」

一夏「久しぶり、箒」ニッコリ

箒「一夏!? ――――――身体は!? ――――――傷は!?」

箒「――――――って、夢や幻じゃないよな、その表情!」サワサワ

一夏「ちょっと痛いかな……? やるなら素手でやってくれ」(お姫様抱っこ中)

箒「……あ、すまない」ポー

箒「でも、本当に良かった…………本当に…………」ポロポロ

一夏「泣かないでよ。これから戦いに行くんだからさ」ニッコリ

一夏「それよりも今日は――――――」


――――――天の川が綺麗だね。


箒「へ!?(『月が綺麗ですね』っていう言い回しなら聞いたことがあるけど、これって――――――)」ドキッ

一夏「箒、これ」

箒「こ、これって…………」

一夏「――――――誕生日おめでとう。本当は静かな夜の下で渡したかったけど、ごめんな」

箒「いや、謝る必要はない! 絶対に!」

箒「――――――ありがとう、一夏」

一夏「うん。見立てた通り、似合っているよ。ISスーツが白いからっていうのもあるのかも」

箒「一夏……そういえば、もう“黒般若”はいいのか?」

一夏「……もう必要なくなったんだ。俺は“俺の仮面”を被り続けることにしたから」

一夏「見たいって言うんだったら、またするけどね」

一夏「それじゃ、行こうか。――――――守ってくれるんだろう?」

箒「――――――ああ! お前の背中は私が守る!」




225: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:03:29.97 ID:kksmQpny0

山田「織斑くんの機体……パッケージによる換装したものではなく、まぎれもない第二形態です!」

山田「か、仮面――――――覆面デバイスをしていません!」

千冬「まさか、セカンドシフトまでこんな短期間に…………」

医師「だが、一命を取り留めてまだ時間が経っていない! あれでは傷口が開いてしまうぞ!」

医師「仮に『白式』の生体再生能力ですぐに治癒したのだとしても、また音速戦闘で内蔵が――――!」

技師「――――――勝ったな」

千冬「チーフ?」

技師「あれは織斑一夏があらかじめデザインした第二形態だ」

技師「そう、『白式』が雪片弐型を学習し、エネルギー兵器を生成するように促したものだ」

技師「まさか、本当に上手くいくとはな……」

技師「――――――『銀の福音』は戦略級ISだ。エネルギー残量は第3世代型の比ではない」

技師「だが、『ダブルイグニッション』の経験も活きたようだ」

技師「見たまえ。音速戦闘を苦にせずにスリルを楽しむ余裕がある、あの表情を!」

技師「今の『白式』なら『銀の福音』と互角に戦えるだろう」

医師「…………ここまで驚かされたのはあれ以来だ。ISとは本当に――――――」

千冬「無限の可能性を秘めた最強兵器――――――いや、次世代を結ぶ“パートナー”――――――」



226: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:04:55.75 ID:whTGHLoe0

復活した織斑一夏の智謀は冴え渡っていた。

あっという間に『銀の福音』を捉えると、


一夏「あらよっと! 近づければこちらのものだ!」

銀の福音「――――――!?」

一夏「お前とは一緒に宇宙を目指せないな!」

一夏「AIのくせに発想が二次元止まりだぜ? 下だと思ったかい?」ニヤリ

一夏「――――――残念! “逆さま”ぁあああでしたあああ!」

鈴「上手い! 左腕を薙ぎ払ったわ!」


一瞬で姿勢を反転させて下から上に落ちて撹乱させ、『銀の福音』の左腕を斬り裂いたと同時に蹴り飛ばし、

制御を一瞬失った『銀の福音』へそこから怒涛の集中攻撃を浴びせるのだった。


一夏「セシリア! ラウラ!」

セシリア「わかりましたわ!」

ラウラ「狙いは外さない!」

銀の福音「――――――!」

銀の福音「――――――!!」


一夏の一声でセシリアとラウラが意図を解し、

超射程のレーザーライフルと増設されたレールカノンで前後から挟み込むよう滅多打ちにする。

そして、一夏の『白式』がセカンドシフトによって得た多機能武装腕『雪羅』が荷電粒子砲へと姿を変えた。


一夏「シャル! 鈴!」

シャル「わかったよ、一夏!」

鈴「見せてやりましょう! 私たちの連携!」

一夏「『雪羅』の荷電粒子砲を受けてみろおおおおお!」

銀の福音「――――――!!!」

鈴「何だかあんたのと同じぐらいのレーザーとか何やら食らったところ、悪いんだけど――――――!」

シャル「この距離なら逃さない!」

銀の福音「――――――!!!!」

銀の福音「――――――!!!!!」


再び掛けられた一夏の一声だけで、次の一夏の意図を解したシャルと鈴は、

『白式』の荷電粒子砲によって吹き飛ばされた『銀の福音』への追い討ちを敢行する。

そして、見事にシャルの『ラファール』が正式名称:『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』パイルバンカー、

通称『盾殺し(シールド・ピアース)』で受け止め、増設された衝撃砲によるサンドイッチをご馳走した。


――――――実に、完璧な流れだった。


これが織斑一夏と『白式』の真髄! 圧倒的なまでの戦術的価値である!


227: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:06:45.39 ID:kksmQpny0

――――――決まったな。


一夏「第二世代兵器最強の『盾殺し(シールド・ピアース)』で正面を貫かれ、」

一夏「機能増幅パッケージ『崩山』で4門に増加した衝撃砲を背後から浴びせられる!」

一夏「やっぱり、俺が居なくても勝てたんじゃないのか…………」

一夏「よし、ここで止めの一撃――――――あ、しまった…………」

一夏「荷電粒子砲のエネルギーを把握しきれてなかった…………あれは俺が設計したものじゃない」

一夏「燃費の悪さは元々だったけど、『零落白夜』が使えない!」

一夏「何しているんだ、俺は!? これだから中途半端――――――」ガシッ

箒「慌てるな、一夏。私の言葉を忘れたのか?」


――――――お前の背中は私が守る!


箒「さあ、『紅椿』よ。単一仕様能力を見せてくれ!」

一夏「エネルギーが回復していく!? これは驚いた……」

箒「――――――『絢爛舞踏』。それが私と『紅椿』の単一仕様能力だ」

一夏「なるほど、――――――『白式』に並び立つ『紅椿』か」

一夏「単一仕様能力もまた、『一対零のエネルギー消滅能力』に対する『一対百のエネルギー増幅能力』となっているのか」

一夏「もう十分!」

箒「行って来い、一夏!」


228: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:08:26.25 ID:kksmQpny0

シャル「一夏! もう弾が無い!」

鈴「こっちもよ! ここまで撃ちまくったのは初めてだわ!」

一夏「じゃあ、行ってくる! 『零落白夜』! ダブルイグニッション!」

一夏「うおおおおおおおおおおおおお!」

銀の福音「――――――!」

鈴「あ、しまった!」

一夏「――――――遅かったな(お前は次に上に飛ぶ!)」ホイ

ラウラ「何!? 雪片弐型を投げた!?」

セシリア「ああ! 足を貫いただけですわ!」

箒「一夏?!」

一夏《延命冠者》「これで終わり」ニコニコ

銀の福音「――――――!?」

シャル「『銀の福音』を直に掴んだ!?」

鈴「どうする気なの、一夏!?」


――――――ゲームセット。


銀の福音「!!??…………    」

箒「『銀の福音』が一瞬で細切りに…………!?」

一夏《延命冠者》「(さすがに強いな、『雪羅』。――――――さすが第4世代兵器)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(いや、これは俺と『白式』――――――)」ニコニコ

セシリア「今、一瞬どうなったのですか!?」

ラウラ「右手で『銀の福音』を掴んだ後、左手のプラズマブレードか何かで斬り裂いた……?」

鈴「な、何をしたのかまったくわからなかったわ……」




229: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:09:43.54 ID:kksmQpny0

――――――いったい何が起きたのか?


それは左腕――――多機能武装腕『雪羅』によるもう1つの『零落白夜』による手刀だった。

『雪羅』の指の1つ1つが『零落白夜』を帯びており、それで『銀の福音』の腹を貫き、そこから上下に引き裂いたのである。

雪片弐型による『零落白夜』よりも圧倒的に範囲に劣るがその分だけエネルギー損失が少ないので、豆腐や障子を指で引き裂くがごとくスパスパと斬れた。

この攻撃は対IS戦闘において最強の攻撃力を誇っており、このように勢いを殺して接することでシールドに弾かれずに確実に相手を抹殺できる必殺技であった。

一夏はその気持ち悪さをしっかりと噛み締めて、バラバラになった『銀の福音』のスキンを虚空へと散らせた。


シャル「……呆気無く終わったね。もっとこう苦戦するイメージがあったけどね」ハアハア

一夏「そういうもんだよ、世の中っていうのは」

一夏「百戦錬磨の強者でも一度の敗北で全てを失う…………」

一夏「それに俺が来るまでみんなで袋叩きにしてくれただろう?」

一夏「相手もセカンドシフトで尋常じゃないシールドエネルギーを回復したけど、それでも消耗はしていたんだ」

一夏「これはみんなの勝利だ! 教師部隊もみんな無事なようだし、さあ凱旋しよう!」ニッコリ

一同「おおおおお!」

一夏「任務達成だよ、千冬姉!」ニッコリ


――――――ありがとう、永遠のヒーロー!




230: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:12:14.34 ID:whTGHLoe0

束「『白式』には驚くな……」ハア

束「生体再生能力が脳組織の修復にも発揮されるだなんてね」

一夏「束さん……」

束「いっくん、大活躍だったね! もちろん箒ちゃんの『紅椿』も大活躍で大満足だよ!」

一夏「今日のことであなたに『ありがとう』を言うべきか迷っていたんですけど、」

一夏「とりあえず『あ』『り』『が』『と』『う』の五文字をお裾分けしておきます」

束「もっと盛大に感謝してくれてもいいんだよ、いっくん?」

一夏「束さん。これで俺も箒も、あなたと同レベルに追われる身となったんです」

一夏「そのことを自覚してください」

束「何がいけないのかな、それ?」

一夏「………………」

束「実のところ、『白式』がどうして動くのか大天才の束さんの頭脳を以ってしもわからないんだよね~」

束「いっくんがデザインした通りにセカンドシフトが行われたっていう興味深いものも見られたし、」

束「今回は箒ちゃんの誕生日を祝いに来て本当に嬉しい事だらけだったよ」

束「いっくんも元通りになってくれたし、いっくんの周りの良い大人にも会うことができたし、うん!」

一夏「だからって、『白騎士事件』と同じようなことをしなくても…………」

束「ねえ、いっくん? 今の世界は楽しい?」

一夏「正直に言えば、――――――今回の事件、身近な人が苦しむような結末を迎えることがなければ、失敗してもいいと思ってた」

一夏「俺にとって、世界っていうのはそんなものです」

束「………………」

一夏「IS産業型経済モデルを代表するように、ISが登場してからたった10年で世界は大きく変わった…………」

一夏「でも、変わらないんじゃないかな、今も昔も……」

一夏「あなたの発明が受け容れられなかったとしても、人は己の欲望に従って選び続けてきた歴史があるのだから、たまたまISという次世代技術が今 登場したってだけで、それを超える発明だって出てくるだろうし……」

一夏「常識や基準っていうのは刻々と移り変わっていく。ポーカーのハンドのように、良くなる時も悪い時もある」

一夏「だから、『世界が』楽しいかは答えられないけれど、『今の自分が』楽しいかって言えば、はっきり言える」


一夏「――――――楽しい! これからもっと楽しくなるはずだ!」


一夏「そう信じないと勝負師なんてやってられませんよ!」

一夏「勝負師じゃなくても、何が起こるかわからない未知への興奮、スリルへの欲求があるからこそ、癖になる!」

一夏「そして、俺はもう苦しみや哀しみを一人で背負い続ける必要はなくなった……」

一夏「――――――『自分』のこと、愛せるようになったからね」

一夏「もう過去には戻れないから、今を大事にしていきたい」

一夏「そんなわけで――――――」

一夏「ありがとう、束さん。俺にとってもいい誕生日パーティーだったよ」

一夏「生きていることが快感になるぐらいのね……!!」ブルブル

束「ふふふふ、また会おうね、いっくん!」

一夏「またこうやって話せる日を――――――。それも箒や千冬姉、みんなと交えて、ね」

束「いっくん、今度また会ったら――――――何でもない」


231: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:13:57.27 ID:kksmQpny0

一夏「…………行っちゃったか。神出鬼没だな、全く」

一夏「あの人は、――――――人そのものだから。身近な誰かの為に生きている」

一夏「そういう意味では、誰もあの人を責めることはできない」

一夏「ISの導入を決めたのは他でもない人民の意思なのだから…………」

一夏「そして、今回の事件も――――――」

一夏「………………」ザー

一夏「さて、ドクターやみんなに見つからないうちに、海を堪能しておくか…………」

一夏「イイイヤッホオーーーーーー!」

一夏「――――――来い、『白式』!」

一夏「さあ、水浴び水浴び!(あ、縫合の痕ってこうなってるんだ…………)」

一夏「そういや、ISって水中でも使えたっけ? やってみるか!」


ヒュウウウウウウウウン! ザバーン!


一夏「……ああ、圧力に対しては無意味か」

一夏「やっぱり、それ相応の装備がないと水中や宇宙空間は運用不可か…………」

一夏「…………宇宙への道は遠いな、『白式』」

一夏「ふう、着替えも一瞬だから楽だわ~」

箒「…………一夏」

一夏「……箒か。俺を連れ戻しに来たのか?」

一夏「(今年の流行は胸を寄せて上げる水着…………ナイスバディー!)」グッ

箒「…………一夏?(何だ、今の感じは……)」

一夏「あ……(しまった、1ヶ月にも満たない無表情生活の癖で、誤魔化すことを忘れていた……!)」

一夏「(待てよ……別に誤魔化す必要なんてないんじゃないか?)」

一夏「(こういう場所で見せる水着っていうのは“見せる水着”だったはず……)」

一夏「(なら、臆面もなく褒めてしまえ……!)」

一夏「――――――綺麗だな。ISスーツと同じように、白か」ジー

一夏「俺が黒衣の白騎士ならば、箒は白装束の紅武者って感じかな」ニッコリ

箒「…………そ、そんなに見るな!」

一夏「あれ?(それは照れ隠しと受け取っていいのか? ヤバイ、わからん……)」

一夏「やっぱり俺は『プレイボーイ』にはなれないか…………」ハア

箒「な、何!? よくも私の純情を――――――」ゴゴゴゴゴ

一夏「もう『昔のこと』だよ……若気の至りってやつさ……」

一夏「今は、素直に千冬姉のようになりたいと思ってる――――――ISドライバーとしても一流になりたいって」


そう言って、右腕のガントレットを愛おしそうに触れ、眺める一夏の満ち足りた表情に箒は自然と笑みを浮かべていた。

その時、あの清潔に閉じられた空間の中で握った手と手の温かさのことを箒は思い出した。


箒「…………そうか、昔のように私を剣で打ち負かす日が来るといいな」ニッコリ


232: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:14:10.63 ID:whTGHLoe0

一夏「…………行っちゃったか。神出鬼没だな、全く」

一夏「あの人は、――――――人そのものだから。身近な誰かの為に生きている」

一夏「そういう意味では、誰もあの人を責めることはできない」

一夏「ISの導入を決めたのは他でもない人民の意思なのだから…………」

一夏「そして、今回の事件も――――――」

一夏「………………」ザー

一夏「さて、ドクターやみんなに見つからないうちに、海を堪能しておくか…………」

一夏「イイイヤッホオーーーーーー!」

一夏「――――――来い、『白式』!」

一夏「さあ、水浴び水浴び!(あ、縫合の痕ってこうなってるんだ…………)」

一夏「そういや、ISって水中でも使えたっけ? やってみるか!」


ヒュウウウウウウウウン! ザバーン!


一夏「……ああ、圧力に対しては無意味か」

一夏「やっぱり、それ相応の装備がないと水中や宇宙空間は運用不可か…………」

一夏「…………宇宙への道は遠いな、『白式』」

一夏「ふう、着替えも一瞬だから楽だわ~」

箒「…………一夏」

一夏「……箒か。俺を連れ戻しに来たのか?」

一夏「(今年の流行は胸を寄せて上げる水着…………ナイスバディー!)」グッ

箒「…………一夏?(何だ、今の感じは……)」

一夏「あ……(しまった、1ヶ月にも満たない無表情生活の癖で、誤魔化すことを忘れていた……!)」

一夏「(待てよ……別に誤魔化す必要なんてないんじゃないか?)」

一夏「(こういう場所で見せる水着っていうのは“見せる水着”だったはず……)」

一夏「(なら、臆面もなく褒めてしまえ……!)」

一夏「――――――綺麗だな。ISスーツと同じように、白か」ジー

一夏「俺が黒衣の白騎士ならば、箒は白装束の紅武者って感じかな」ニッコリ

箒「…………そ、そんなに見るな!」

一夏「あれ?(それは照れ隠しと受け取っていいのか? ヤバイ、わからん……)」

一夏「やっぱり俺は『プレイボーイ』にはなれないか…………」ハア

箒「な、何!? よくも私の純情を――――――」ゴゴゴゴゴ

一夏「もう『昔のこと』だよ……若気の至りってやつさ……」

一夏「今は、素直に千冬姉のようになりたいと思ってる――――――ISドライバーとしても一流になりたいって」


そう言って、右腕のガントレットを愛おしそうに触れ、眺める一夏の満ち足りた表情に箒は自然と笑みを浮かべていた。

その時、あの清潔に閉じられた空間の中で握った手と手の温かさのことを箒は思い出した。


箒「…………そうか、昔のように私を剣で打ち負かす日が来るといいな」ニッコリ


233: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:15:42.97 ID:whTGHLoe0

一夏「もう七月七日は過ぎてしまったけれど、綺麗だよ、――――――天の川」

箒「……あ」ポー

一夏「あの夏の大三角形を形成しているベガが織姫、アルタイルが彦星だ」

箒「それって――――――」

一夏「って、…………前にもこんなやりとりをしたような気がする」

一夏「『昔のこと』は勉強以外のことなんてさっぱり忘れ去っていたと思ったのに……」

箒「……一夏」

一夏「――――――ま、まあいい。いやぁ、いい誕生日だったよ」

一夏「苦しいことや哀しいことを乗り越えて、ハッピーバースデーを迎えられて……」

一夏「宣言通り、今まで通りの明日を迎えられたね」ニッコリ

一夏「あとは、箒の髪が治れば――――――」

箒「――――――っ! 私の髪なんて些細な事だ! それよりも、だ!」

一夏「そりゃないでしょう? 女の子にとって髪は命だって――――――」

箒「私は真面目な話をしている、一夏! ―――――本当に治ったのか? あれほどの傷が?」

一夏「まあ、起死回生が俺の持ち味ですから。それに、未来を賭けた勝負は別にこれが初めてじゃないし」

一夏「ああ……でも、手術で体力は落ちたかな……ま、いいけど」

箒「よくない! 結局、一夏に無理をさせる他なかったんだぞ、あの作戦は!」

箒「そして、一夏が命懸けで次に繋いでくれたと言うのに、私はお前を救えなかったばかりに戦意を喪失して――――いや、IS乗りを本気で辞めようとさえ思っていた。武士たらんとしていたこの身で不甲斐ない限りだ……」

一夏「けど、そうなってないじゃないか」

箒「それは、……仲間が居てくれたからだ。本気で叱りつけてくれるような仲間が」

箒「だからその、…………簡単に許されると困るのだ」

一夏「――――――え? いいの? だったら、是非とも罰を与えないとな…………!」ワクワク

箒「え、一夏……!?」ゾクッ

一夏「ようし、オシオキの内容は――――――」

箒「………………!(く、来るなら来い!)」

一夏「……………………止めた」

箒「え?」

一夏「貸しってことにしておくから、今はいいよ。いずれ払ってもらうから」

箒「あ、ああ……(少し残念に思うのは何故だろう……)」

234: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:18:25.13 ID:whTGHLoe0

一夏「そんなことよりも、次からどう振る舞っていこう……」

一夏「『プレイボーイ』を目指して破れ、『イケメン』を全うしようとした俺はもう死んで、生温かい人形だった俺も入学前のゼロの『自分』に戻ってしまった…………」

一夏「――――――いや、桁上りを持つ高次元のゼロの『自分』になったのかな?」

一夏「難しいな…………余計なものが多すぎてさ、型通りにはいかない」

箒「それは人間なら誰しもそういうものではないのか?」

箒「私は、その、一夏のことを信じているから、何だっていいんだぞ?」

一夏「本当にそう思っているの?」ハア

一夏「――――――忘れてない?」

箒「な、何故ズボンを下ろす、馬鹿者!?」カァー

一夏「俺、おむつ履いているような小心者なんだぞ? ついでに手術痕も」オムツソウビ

箒「……そういえば、すっかり忘れていた(ああ、あんな感じに縫合の痕が残るのか……)」

一夏「そう、この数ヶ月、自分でも信じられないぐらい変わり続けたよ」ズボンヲアゲル

一夏「いろいろあったな…………“夢の国”でGを克服したり、箒から真剣を借りて“ブリュンヒルデ”を超える算段をつけたり、『白式』の装備をいろいろ設計したり、介護生活や総合失調症になったり…………」

一夏「一生の集大成をたった3ヶ月で出し切った感じがして、いろいろ疲れた……

一夏「でも、気分は晴れ晴れとしている」


――――――俺は“一生のパートナー”を“ここ”で見つけられたのだから。


箒「い、一夏!? ま、まさか、その“パートナー”は――――――」ドキドキ

一夏「さて、帰ろっ――――――は!?(『ブルー・ティアーズ』が目の前に!?)」

セシリア「一夏さん」ニコニコー

シャル「答えてくれないかなー」ニコニコー

鈴「その“パートナー”のことをさ」ニヤリ

ラウラ「当然それは私のことなのだろう、嫁?」ドヤガオ

箒「ま、待て、お前たち! 流れからいって今のは――――――!」

セシリア「一夏さんは私に一目惚れしてたんです! 聞かせてあげますよ、秘密の告白を!」

鈴「一夏のことを一番わかってたのは私よ! やっぱり、『昔のこと』を共有している私しかいないじゃない!」

シャル「一夏は僕が女の子だとわかっても『唯一無二のパートナー』であることを撤回しなかったよ! それに僕は一夏と互いの背中だって流しあった仲だよ!」

ラウラ「貴様ら、いい加減にしろ! 私は作法に従って純白のドレスを纏って互いの純潔を捧げた! 一夏は私の嫁だ!」

一夏「――――――何をしているんだ、お前たち!? 武器なんか出してさ……?」

一夏「(待て待て待て待て! 何か勘違いしてないか、こいつら!?)」アワワワ

一夏「(俺、『付き合いたい』だなんて一言も言わなかったろう……!?)」ガクガク

一夏「待ってくれ……何を言い争っているんだ、お前たちは…………!?」

一同「へ?」

一夏「『へ』じゃなくてさ!(ややややっぱり、こいつら臆面もなく言えるぐらいに俺に惚れてたのか……)」

一夏「(冗談じゃない! ただでさえ粒揃いなのに、俺には重すぎる…………)」

一夏「俺は『仲間として好きだ』とか『パートナー』だとか言ったかもしれないけど――――――!」


―――――― 一言も『恋人になってくれ』だなんて言っていないだろう!?


一同「――――――!?」

 

236: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:20:50.99 ID:whTGHLoe0

一夏「あ――――――ゴホゴホ(ヤバ、胃の中のものが吹き出しそうになった)」キリキリ

一夏「――――――それに、よく聞け!(気持ち悪い……ヤバイ、クラクラしてきた……)」クラクラ



――――――“一生のパートナー”だなんて、何も同じ人間の異性である必要は無いじゃないか!



一夏「……く、苦しい(息が詰まりそうだ……だ、だが、これで――――――!)」

一同「――――――!?」

箒「…………私じゃないのか…………私じゃ…………」

セシリア「………………」プルプル

鈴「同じ人間の異性である必要は無い、ですって?」

シャル「もしかして、一夏が好きな人って…………」

ラウラ「まさか、私より先に誰かとすでに――――――!?」


――――――あれ? 俺、テキサスホールデムじゃなくてドローポーカーやってたのかな?

――――――裏向きのままにしないといけないのにリバースしちゃった?


ラウラ「嫁えええええ! 私以外の女とすでに誓いを交わしていたと言うのかああああああ!?」

シャル「……一夏、それは犯罪だよ。いくらお姉さんが大好きだからってそれはないよ」

鈴《虚無》「ははは、やっぱり一夏ってホモだったんだ……よし、殺そう!」

セシリア《虚無》「ウフフフ…………」

一夏「え、ええええええええ!?」

一夏「ほ、箒!?(助けてくれええええ!)」

箒「そうか、一夏。――――――辞世の句を詠め、介錯してやろう!」ゴゴゴゴゴ

一夏「ひいえええええええええ! ――――――は、うぷ!?(もう死んでもいいかも……)」バタッ

箒「一夏!」


――――――モラシタ。リバースした。大敗した。


――――――今夜の敗者は俺だった。


――――――もうゴールしてもいいよね?


237: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:22:23.14 ID:whTGHLoe0

箒「起きろ、一夏! このまま死んでチャラになると思ったら大違いだぞ!」ゴゴゴゴゴ

セシリア《虚無》「さあ、一夏さん! 是非とも私特製の健康ジュースをお飲みください!」

鈴《虚無》「今夜は寝かせてあげないわよ!」

シャル「さあて、今まで乙女の純情を弄ばれた分の仕返しをしないとね……」

ラウラ「これは餞別だ。とっておけ」パチーン


――――――ありがとうございますぅ!(恍惚)


一夏「へ? あれ!?」

一同「」ニコニコー


アッーーーーーーーーーーーーーーー!


千冬「何をやっているんだ、あいつらは…………」ハア

千冬「――――――だが、元気で何よりだがな」クスッ



――――――俺ってやっぱりザンネンなやつ……!



238: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:23:58.66 ID:whTGHLoe0

最終話 いつか見た星空の下で
Return of the Nature


――――――とあるバー


一夏《無表情》「…………レイズ」

一夏《無表情》「――――――オール・イン!」

一夏《無表情》「…………ドロップ」

一夏《無表情》「――――――オール・イン!」

一夏《無表情》「――――――オール・イン!」

一夏《無表情》「……次のビッグ・ブラインドはあなただ」

遊び人「うぎゃあああああ!」

博徒「そんな、馬鹿な…………」

代打ち「この俺が…………」

悪女「ぼうや、いつかこの借りは返させてもらうよ……」

おっさん「無表情なのに惑わされただと……!?」

常連「ああ、またワンサマーのトーナメント一人勝ちか……」

店主「GOOD!」パチ・パチ

店主「さすがワンサマー。それでこそ我が好敵手……」

店主「快気祝い、そしてランキングトップ10入り おめでとう」

一夏「ありがとう、マスター」

店主「まさか、生前の状態にまで回復するなんて思いもしませんでしたが、新しいポーカーフェイスが役に立っていますね」

一夏「ああ、あれは能面の傾け方だけで相反する感情を表現できるってことを思い出して」

一夏「直面(ヒタメン)っていうのも現代の能楽師にとって重要な芸だけど、」

一夏「能面に込められた幽玄の真髄を俺はずっと見落としてきた…………身近な答えを」

一夏「本当にあの一言が助けになりましたよ。――――――これ、あの時のお礼」

店主「そういうのは勝負師の世界では必要ありません、ワンサマー」

一夏「え、でも、マスターは――――――」

店主「あれは、日本では浸透せず止む無くバーを経営することになったポーカーハウスの支配人としての心遣いです」

店主「勝負師である私からのものではありませんよ」

一夏「だったら…………わかった。大人になったら、いい酒を飲ませてくださいね」

店主「GOOD! しかし、大人の世界を甘く見ないほうがいいですよ」

一夏「大人の世界に片足を突っ込んだ青二才がマスターと実力伯仲で渡り合ったんだから、これ以上何かあるんですか?」

店主「それは“WSOP”に出場できる歳になったら、ね?」

店主「おっと、もうこんな時間ですよ。朝のランニングにしては長すぎたかもしれませんよ」ニヤリ

一夏「ヤバイ! もう9時じゃないか! 3時間以上のランニングだなんて千冬姉もさすがに心配する!」

店主「間もなく開店時間ですよ。裏口から出なさい。快気祝いの品も忘れずに」

一夏「ありがとうございます! それじゃ、また!」バタン

店主「ええ、また」ニヤリ



239: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:25:21.49 ID:kksmQpny0

技師「ここか。なるほど、金の臭いがするがなかなかいい雰囲気だな」カランカラン

医師「ほう、ビリヤードもあるか。昔取った杵柄を今試してみるのも悪くないな」

店主「開店早々……お客さん、初めてですよね?」

技師「ああ、ここのラベルが付いていたアイリッシュウィスキーの味が程よくてな」

医師「私はただの付き添いだ」

店主「…………ラベル。おや、どこかで見た顔だと思ったら、IS学園の関係者じゃありませんか?」

技師「その通りだ」

医師「まあ、私は外部の人間だが、最近はかかりつけでね」

店主「ここは“ブリュンヒルデ”もいらっしゃる憩いの場なのですよ」

店主「今後とも、ご贔屓に…………」ニヤリ

技師「ほう……」

医師「お、確かにそのようだな」




240: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:27:10.40 ID:kksmQpny0

一夏「言い訳の内容を考えておかないと…………」ゼエゼエ

一夏「縫合の痕はなくなったけど、やっぱり手術後の体力がキツイ…………」ハアハア

一夏「そうだ、それで行こう!――――――ん!」

一夏「俺の家の前に人影――――――」ゼエゼエ



一夏「すまないな、シャル。客人を待たせるなんてな」ホカホカ

シャル「いいんだよ、一夏。休業中でもまじめに体力造りに取り組んでいたんだね」

シャル「僕は『唯一無二のパートナー』だからわかっているよ」

一夏「……ああ、そうだね(千冬姉がどこかに出掛けていたのが幸いしたが、サプライズゲストだな、本当に)」

一夏「――――――あれ?」

シャル「ど、どうしたの、一夏?」

一夏「(何で風呂あがりのバスタオルを膝の上に掛けているのかな……?)」

一夏「(ダメだ! 触れないでおこう……あの時の悪夢が蘇る……!)」ゾクッ

一夏「(――――――俺は何もしていないのにぃいいいいいいいい!)」ガクブル

シャル「一夏……?」

一夏「……そうだ、日頃から仲良くしてくださっている御方から快気祝いをいただいたんだった。食べる?」

シャル「え? いいの、僕なんかがもらっても?」

一夏「いいんだよ。こういうのはみんなで楽しく分かち合って、次の活力にするもんだからさ」

一夏「さて、何だろう?(マスターが選んでくれたものだから、せめて食べられるものが…………)」

一夏「あれ、紙切れ……領収書?」

一夏「――――――こいつは凄い!」

シャル「え、どうしたの、何が入ってたの!?」

一夏「ラスベガス名物:バフェ10人分相当のメニューの詰め合わせ!」

一夏「え、しかも受取人が“OneSummer”で、送り届けが今日の正午のこの家!?」

一夏「とんでもない快気祝いだよ、マスター!」

シャル「え、それってどういうものなの? とにかくもの凄く大量の料理が送られてくるってことだけはわかったけど」

一夏「バフェっていうのは、元々はカジノホテルが客寄せのために始めた、とてつもない規模のバイキングなんだよ」

一夏「しかもこれ、一流ホテルのそれじゃないか!」

一夏「未だかつてないほどの、贅沢なひとときになりそうだ!」

一夏「よし、テーブルを用意しておかないと!」

シャル「あ、僕も手伝うよ!(一夏と二人っきりで高級料理を分け合うのか……うん!)」




241: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:28:36.30 ID:kksmQpny0

一夏「ふう、リビングがテーブルで埋まったな」

一夏「食べるところはソファにして、台所への道や廊下への道も開けた」

一夏「よし! これで準備万端だ!」

シャル「楽しみだね、一夏!」ピンポーン

一夏「まだちょっと早いけど誤差の範疇かな?」

一夏「はい、ただいま」ガチャ

セシリア「一夏さん! 美味しいと評判のデザート専門店のお菓子を持ってきましたの!」

一夏「せ、セシリア……!(うげ、何てっこったい! シャルとのひとときが……これではシャルの機嫌がぁ……!)」ゾクッ

シャル「うううう…………」ドヨーン

セシリア「シャルロットさん…………抜け駆けですのね」ジロッ

一夏「(あれ、待てよ? このままバフェを受け取ったらマスターの繋がりが千冬姉にバレちゃうじゃないか!)」

一夏「(何やってんだ、マスター! だがしかし、セシリアという逸材がいれば誤魔化せる!)」

一夏「よかった、セシリア! これから俺たちはバフェを楽しむところだったんだけど、参加するよね?」

セシリア「まあ! バフェというのが何なのかはわかりませんが、喜んで参加させていただきますわ!」

シャル「……一夏」ニコニコー

一夏「ごめん、シャル。実は千冬姉には知られたくないことなんだ……セシリアが居るなら誤魔化せるんだけどね」ヒソヒソ

シャル「そういうことなら、しかたないか」ハア



242: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:30:00.24 ID:kksmQpny0

そして――――――


一夏「見るがいい! この豪華絢爛の一品の数々を――――――!」

シャル「す、凄い! 本当にこれ食べていいの?」

セシリア「山ほどあった梱包材から出てきたのは王室料理にも匹敵するほどの豪華なものでしたわ!」

一夏「さすがにトングが足りなかったな……そこは行儀悪いけれど、それぞれフォークで頼みます」

一夏「でも、見栄え良く数々の料理を配置できたぜ!」

一夏「カジノホテルを一日に利用する人の数に比べたら10人分なんてチャチな数だけど、壮観だな」

一夏「それじゃ、シャルとセシリアは好きに食べてていいよ。俺はこっちのやつを解凍させたり、熱を通したりしておくから」

一夏「デザートなんかはそのままの梱包材に入っているから、取り出すから言ってね」

シャル「スゴイスゴイ」

セシリア「あの一夏さん、できるなら私たちと席についてくださりませんか?」

一夏「悪いけど、なるべく早く消費したいんだ。それにこのカニなんか食べたいし」

セシリア「そ、そうですの……」

シャル「――――――そうだ! セシリア」ゴニョゴニョ

セシリア「わかりましたわ、シャルロットさん!」パシッ

セシリア「一夏さん!」

一夏「うん? 手洗いでもしたくなった?」

シャル「あーん」

一夏「あ、あーん……はむ」モグモグ

セシリア「これでしたら、問題ありませんわ!」

一夏「気持ちは嬉しいんだけど、……狭いです危ないです邪魔です(それに胸が当たってますぅうううう!)」

一夏「台所ではしゃがないで……水蒸気が熱いよ……」モクモク

セシリア「そ、それは失礼しました……料理人の言うことには従うべきなんでしょうか」

シャル「ここは交互に行くことにしよう」

セシリア「そうですわね……」ピンポーン

一夏「今日は、やけに来客が多いな……」



243: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:32:00.56 ID:kksmQpny0

箒「………………ああ」

鈴「何であんたたちまでここに居るのよ…………」

ラウラ「ここが織斑教官と嫁の家か。何やら未開封の箱が多いようだが……」

セシリア「みんな、考えることは同じというわけですわね……」ションボリ

シャル「僕なんかじゃ一夏のように流れを握ることはできないか…………」トホホ

一夏「今、バフェを楽しんでいるんだ。昼飯もまだだろう? たらふく食べていけよ」

一夏「だけど、来るなら来るで先に言ってくれよな。誰か一人ぐらい連絡くれよ」

一夏「今日のバフェの準備でシャルとセシリアには手伝わせてしまったんだからさ」

箒「しかたないだろう。一夏に借りを返すためのアレがさっき届いたんだから」スッ

箒「ほら、これが欲しかったんだろ!」

一夏「――――――!? サンキュー、箒! うん、これだ! これだよ!」

鈴「……それが何なのかは聞かないけど、――――――それとも何? いきなり来られると困るわけ?」

鈴「――――――●●いものでも隠すとか」ニヤリ

一夏「それはない(●●いものなんて勝負師を目指した頃に全部処分したから心配ない。だけど――――――)」

ラウラ「私は突然やってきて驚かせてやろうと思ったのだ」

ラウラ「どうだ、嬉しいだろう?」

一夏「ああ、確かに嬉しいよ。こうやって俺の家に――――――人が集まってくれるは嬉しい限りですよ」

一夏「(めったに見られない私服姿、どれもこれもイイモノじゃないか!)」

一夏「これ全部は俺の快気祝いとしてもらったものだ。みんなで分け合って明日の元気をみなぎらせていってくれ」

一同「おー!」

ラウラ「では、食後はポーカーだ。今度こそ、私の嫁を脱がす!」

一夏「――――――はぅ!?(ら、乱暴にする気だろ!? 真夏の夜の臨海学校の時のようにぃ!?)」ガクガク

シャル「そうだね……ポーカー、楽しみだね」ニコー

箒「ああ、全くだ」

一夏「ええ!?(何この変態淑女たち! 怖い! 早く帰ってくれぇええ!)」ブルブル

鈴「そんなことより、早く食べましょうよ」

セシリア「そうですわ。一夏さんも早くこちらで食べましょう!」

ラウラ「どうしたのだ、嫁? 食べていいんだろう?」

一夏「あ、ああ…………メニューはこっちにあるから、出てないものは勝手に調理してくれ」アセダラダラ

鈴「一夏、食べたいものはどれ? 私が調理しておいてあげるから、今は席についてよね」

一夏「そうさせてもらうよ……(あれ、何だか凄く嬉しくない状況ですよ?)」

一夏「(そりゃ、美少女5人に囲まれて美食を浸れるこのひとときは誰が見ても羨ましいものだろうけれど、)」

一夏「(……何でだろう……凄く緊張する……悪寒がする……吐き気が……)」クラクラ

一夏「(胃の調子が臨海学校以来、すごく悪いんですけど…………)」

ガラッ

千冬「ん? 何だ、賑やかだと思ったら、お前たちか」

千冬「うお!? 何だこの目を見張るような料理の数々は!?」

一同「織斑先生!」


244: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:34:19.06 ID:whTGHLoe0

一夏「あ、おかえり、千冬姉(――――――セシリア)」チラッ

セシリア「(――――――承知しましたわ、一夏さん)」

一夏「食事がまだなら、食べて行きなよ。これ、セシリアの奢りなんだぜ」

千冬「ほう。これは凄いものだな…………」

セシリア「…………はは、そうなんですの」ニコー

千冬「………………」

千冬「少しだけいただいていこうか。まだ仕事があるんでな。感謝するぞ、オルコット」

一夏「それじゃ、お茶もどうぞ。熱いのと冷たいのどっちがいい?」

千冬「冷たいものをもらおうか」

一夏「わかったよ。狭いから気をつけて」

一同「………………」ジー

シャル「(……何ですの、この雰囲気?)」

セシリア「(まるで夫婦みたいですわ……)」

ラウラ「(自宅での教官はこういう感じなのか……参考にしよう……)」

千冬「なるほど、これは――――――」モグモグ

千冬「ん? すまんな、私はすぐに出る。遠慮せずに食え」

一同「あ、はい」

千冬「お前たちはゆっくりしていけ。――――――泊まりはダメだがな」

千冬「それから、篠ノ之」

箒「あ、はい」

千冬「たまにはおばさんに顔を見せてやれ。長いこと帰ってないんだろう?」

箒「はい」

一夏「はい、お茶」

千冬「ああ」ゴクゴク

千冬「――――――ではな」

一夏「もうちょっと食べていっても……」

千冬「これで十分だ。それよりもちゃんと味わっておけよ。めったに食べられないものなんだろうから」

一夏「それは千冬姉だって…………わかったよ」

一夏「それじゃ、行ってらっしゃい」

千冬「ああ、行ってくる」

一夏「(ああ、行っちゃった……)」バタン


245: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:35:37.94 ID:whTGHLoe0

シャル「ねえ、一夏」

一夏「何だ? 飲み物でも欲しいのか?」

シャル「何だか、織斑先生の奥さんみたいだった……」ムスッ

鈴「あんた、相変わらず千冬さんにべったりねぇ……」

一夏「ち、違うんだ! 弁明しただろう、そのことは…………!?」ガクブル

一夏「(ヤメテー! 俺のライフが保たない…………!)」

セシリア「そうでしたわね。結局、何者が一夏さんの“パートナー”になったかはわからずじまいでしたけど……」

ラウラ「そんなことは後でポーカーで聞き出せばいいだけのことだ」

ラウラ「さあ、バフェを楽しもうではないか」

箒「そうだな、とりあえず今は一夏の快気祝いを楽しもう!」

一同「おー!」

一夏「ああ、やっぱりするのね、ポーカー(逃げたい……ここまでしたくない勝負はかつて経験したことがない……)」

一夏「(それにしても、ラウラはいい子だな…………いや、言い出しっぺはコイツだろ!?)」イラッ

一夏「(だが、勝負師として敗けるわけにはいかないな…………!)」ゴゴゴゴゴ

一夏「バフェを楽しもう!(どうせ勝つのは俺だから、お願いに何にしようかな~)」





246: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:37:00.72 ID:whTGHLoe0

――――――同日、午後


一夏《無表情》「どうした、お前たち……」

一夏《無表情》「最初のトーナメントの勢いはどうした……」

ラウラ「く、的確な戦術だ。ダメだ、やつの顔を見て戦闘してはいけない!」

シャル「でも、だからと言って表情に惑わされなくても一夏は強い!」

鈴「そんなのはわかりきっていることよ! 何回いいようにされてきたと思ってるの!」

セシリア「鈴さん、それは大きな声で言えることではありませんわよ……」

箒「だが、5人で束になっても勝てないというのはどういうことだ?」

一夏《無表情》「これでこのトーナメントの勝者は俺となったわけだ」

一夏《無表情》「(さっきのは危なかったな……まあ、幸いトーナメントの1位が最下位を好きにしてもいいっていうルールだから、こちらとしては最下位さえならなければ、それでいいんだよ。だから、落ち着いてプレイできる)」

一夏《無表情》「(勝つ気はないが、敗ける気はさらさらないからな……)」

一夏《無表情》「(そのことに気づいていないことがみんなの一番の敗因かな?)」

一夏《無表情》「(それにこいつらイカサマしているのがバレバレだし、俺を最下位にする目的で団結はしてるけど、肝腎の命令権がもらえる1位を得るために互いに出し抜こうとしているから、足並みが揃わないんだよ)」

一夏《無表情》「(まさに、それぞれが俺の貞操を狙って虎視眈々としている今の関係にそっくりだな。自分のことしか見えていないというか…………そんなに“人生のパートナー”になりたいのか?)」

一夏《無表情》「(…………わからない。――――恋人になること、――――夫婦になること、それが男と女の関係とっての一番――――つまり、究極なのか? ――――――俺は違うと思うんだけどな)」

一夏《延命冠者》「次で5回目だな。――――――最後のトーナメント」ニコニコ

一夏《延命冠者》「それじゃ、始めようか」ニコニコ

一同「(今度こそ、勝つ!)」メラメラ

一夏《延命冠者》「(…………不安だな。このまま長引かせておくと、恋敵がただの怨敵になりかねない。ラウラあたりが暴発しそうだから、近々精算するしかないな。そうしなければ――――)」ニコニコ

一夏《般若》「(この“般若”の相のように嫉妬に身を委ねて心を蝕まれることになるぞ!)」ニター

一同「――――――!?」ビクッ

一夏《延命冠者》「さ、――――――オール・イン!」ニコニコ

一同「――――――!!??(ハンドを見ずに開幕いきなりのオール・イン!?)」

ラウラ「ど、どういうことだ、嫁!? 始まったばかりだぞ!?」

シャル「そ、そうだよ。いきなりオール・インはやり過ぎだよ!」

鈴「しかも、ハンドすら見てないじゃない! フロップだってバラバラだし」

セシリア「し、しかし、これはチャンスですわよ……」ブルブル

箒「だ、誰もコールしないのか……!?」

一夏《延命冠者》「どうしたの、みんな? アクションを早く」ニコニコ

一同「」カオヲミアワセル


247: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:38:24.03 ID:whTGHLoe0

一夏《延命冠者》「(さて、ここで少し種明かしをしよう――――その意図で仕掛けたんだが、誰も気づかないか)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(ハンドの内容なんて見るまでもない。これまでのデッキの流れは目で追えているし、微かなカードの傷跡だけでそれが何のカードかわかる)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(――――――勝負師ならこれぐらいできて当然だね)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(そして、俺が用意したデッキで何となく戦っている以上は永久に俺の掌の上で踊るってわけさ)」ニコニコ


――――――勝負師の勝負は、場に付く前から始まっている。


一夏《延命冠者》「(更に言えば、律儀にデッキの一番上からカードを順番に配っているから敗けるんだよ……)」

一夏《延命冠者》「それじゃ、オープン!」ニコニコ

一同「」ゴクリ

一夏《延命冠者》「ふふん」ニコニコ

一同「」ビクッ

一夏《延命冠者》「(せめて、こんなふうに枠組みの外側にあるものにも目を向けられるようになるといいな……)」ニコニコ

一同「」アゼーン


――――――フォー・オブ・ア・カインド!


――――――俺の勝ちだな。


――――――勝者のお願いは、みんなで集合写真(私服Ver.)!



248: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:39:53.23 ID:kksmQpny0

――――――とあるバー


山田「――――――『お姉さんとして』は気になりません? 弟さんがガールフレンドたちと居るのは」

千冬「それなんだがな……」

千冬「――――――“一生のパートナー”を“ここ”で見つけた」

千冬「あいつがそう言ったんだよ、臨海学校で」

山田「え、ええ!?」

千冬「それが誰なのかを探りだすために根掘り葉掘り例の女子5人に私も追い掛け回された……」

千冬「だが、少なくとも弟にとっては、あいつらも私たちも等しく大切な存在であることは間違いないのにな……」ハア

山田「姉弟揃ってそっくりですね」クスッ

千冬「何? どこがだ?」

山田「『優しさに境界線がない』ところが」

山田「でも、本当によかったです。本当に……」

千冬「そうだな」

店主「ふふふ、常連客の悩みの種が解決して、聞いているこちらも嬉しいですよ、“ブリュンヒルデ”」フキフキ

医師「まったくだな。主治医を務めている私としても、本当にな」

技師「しかし、さすがに長居し過ぎたか……ここらでお暇させてもらおうか」

医師「――――――あ、そうだ。実は一夏くんに関する重要案件があった。ちょうどいいから見て欲しい」

医師「今度の彼のレポートなのだが…………」スッ

千冬「む? これは織斑が描いたのか?(こっちのワンピースはいい。だが、『白騎士』に酷似したこれは……)」

山田「凄いデッサン力ですね。画家としての才能もありますよ、これ」

千冬「で、これが今回のレポートとどう関係があるのだ?」

医師「彼は数々の死線を越えてから決まって夢を見ていたそうです。夢の内容はレポートを」

千冬「…………」ジー

千冬「――――――何だと!?」

医師「その夢の中で会い続けていたのが、一定の顔を持たない理想の自分とその二人の女性だという」

技師「実は我々二人はあの日に織斑一夏の本音に触れてしまってね」

千冬「ま、まさか――――――!?」

山田「え、ええ!? もしかして――――いえ確かに私は生徒の前で“そういうふうに”扱うように言いましたけど……!」アセアセ

医師「おそらく、一夏くんにとっての“一生のパートナー”というのは――――――」

技師「――――――ISには意識のようなものがある、か」

249: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:41:46.63 ID:kksmQpny0

千冬「そうなのか……これは喜ぶべきことなのだろうか……」プルプル

技師「いろいろ原因は考えられるが、最大の原因であるシスターコンプレックスもここまで来ると…………」

医師「ああ、ますます手放せなくなったな、彼…………」

店主「おや、これは祝ってあげるべきでしょうか、“ブリュンヒルデ”?」ニヤリ

千冬「」ゴクゴク

千冬「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」ドン

山田「――――――嬉しそうですね、織斑先生」ニコニコー

千冬「……真耶、お前は男を見る目がないな」

山田「そうですね」ニコニコー

千冬「くぅ……」

一同「はははははは!」




251: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:43:18.33 ID:kksmQpny0


一夏「そろそろ流星群が見える頃だけど、今日は曇り空だ。星がほとんど見えない」ガララ

一夏「さあて、ちゃんと箒は探してこられたかな?」スッ

一夏「うん、これだ! ――――――このワンピースと帽子!」

一夏「うん! サイズも見立て通り、ぴったりだ!」

一夏「最近のマネキンは凄いや。着せるのも楽だし、こうやってしっかりと手も繋げる」

一夏「よし、完成だ! そして、行こう! あの星空の下へ!」


一夏【黒般若】「――――――来い、『白式』!」ヒュウウウウウウウウン



――――――あの雲を突き抜けて!










子供「みんな、どこぉ?」ドタッ

子供「いたいよぉ」グスン

子供「あ、――――――ながれぼし」


――――――これはとあるザンネンな少年の物語。


仮面の下の涙を拭って生き延びた先には何があるのか…………

←To Be Continued


252: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:50:47.72 ID:whTGHLoe0

最後の最後で、ミスしてしまった。

これにて、ザンネンな一夏の運命の物語はひとまずおしまい。

お付き合いしていただきありがとうございました。

すでに、次回作はアンコールの製作に入っており、すぐにでも投稿できるぐらいなんですが、

自宅で投稿できなくなったので、こんな感じに夕食を惜しんで必死にネットカフェで投稿することになるでしょう。

なので、毎日やることやりながら投稿するということはなく、前半と後半の2回にわけて一気に投稿する形となると思います。


ちなみに、次回作の全体的な分量は前作と近作の中間ぐらい。

弱いやつが下克上するための努力と根拠を提示しておく必要があるので、どうしても今作は長丁場となってしまいました。

こういう意味でも、強いって説得力があるってことなんだね。

それでは、また余裕があるときに、またどうぞ!


次の彼は、初期ISランクAだけど…………


253: ◆vc6TpLHdOs 2013/09/06(金) 19:52:05.04 ID:whTGHLoe0

最後に、イメージソング


一夏の心情のイメージ
STRAIGHT JET ←前作とは全く趣が異なってくる
http://www.youtube.com/watch?v=ntaMQeUf_us




ヒロインたち(という周りの人たち全員)の心情のイメージ
あなたの風が吹くから
http://www.youtube.com/watch?v=YOqq1IAo2jM


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