1: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 08:45:54.46 ID:kNwJPS9B0

第一期REWRITE 第二期REWRITE

初期ランクS:一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」
Supreme :→ Succession:学園祭まで執筆済。
ジャンル:武侠伝説

初期ランクA:落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない
Abnormal: →  Argument:修学旅行まで執筆済(この時点で従来の4倍の文量)。
ジャンル:世界戦略&貴種流離譚  ワールドパージ編の公開まで待つ

初期ランクB:原作。シナリオ展開の基準。描写はアニメ準拠
Basic
ジャンル:ハイスピード学園バトルラブコメ

初期ランクC:ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」
Chicken :→ Challenger:織斑一夏誕生日まで執筆済。
ジャンル:タクティクスアドベンチャー

特別編:一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」←本作
Re-Born:
ジャンル:国際スポーツドラマ



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1394149554

引用元: 一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」

 

2: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 08:50:40.77 ID:kNwJPS9B0

注意
IS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作です。
オリジナルキャラ・原作キャラの性格矯正・独自設定による第1期の内容の再構成でございます。
かなりの長編なので(過去作の2倍以上)、気長にお願いします。


ざっくりとした話の概要
基本的なキャラ設定はいじっていない。ただ状況が大きく変わった。

今作のテーマは「優しさを信じられる世界」であり、
物語としては「大人がきっちりと大人をしていたら」どんなふうに織斑一夏の物語が変わるのかを描いてみようと思った。

端的に言えば、
・最初に居たのがセカンド幼馴染だったら
・『打鉄弐式』が問題なく完成していたら
というIFを題材にした物語としている。


いつもどおり場所を借りての投稿となるので、まとめて投稿しますので、

即時返信はできませんが、コメントはしっかりと見返しております。

過去作とは違って、今までとは二次創作の趣向が違う作品となっていることを明言しておきます。

また、過去作の2倍の長さとなってので、投稿も4回にわけてとなると思います。



3: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 08:51:52.77 ID:kNwJPS9B0
プロローグ -こうして出会いが変わった-
Men of Destiny

――――――2月


――――――本当にIS学園に入る気はないんだね、箒ちゃん?


箒「何度も言いましたけど、私は姉さんとは違いますから…………」プイッ

箒「それに適性はCでしたし、私なんか必要とされないでしょう」

担当官「そうか」

担当官「けど、きみの身体能力の高さはISでも活かせると思うし、生涯剣道を続けようと思うのなら悪くないはずだ」サッ

担当官「気が変わったのなら、3月までには答えを出して欲しい」

箒「…………わかりました」

担当官「それではな。気をつけて帰るんだぞ」ガチャ

箒「…………はい」


バタン


担当官「いつも通りの無愛想な態度だ」コツコツコツ・・・

担当官「だが、仕方あるまい」


担当官「実の姉が、史上最強の兵器:IS〈インフィニット・ストラトス〉の生みの親なのだからな」


担当官「女性にしか扱えないなど、いろいろとわけのわからない空戦用パワードスーツだが、」

担当官「その動力源となるコアの製造法は失踪した開発者にしかわからないということで、」

担当官「少しでも情報を引き出そうと様々な組織からの魔の手が家族に伸び始めた…………」


担当官「…………“不束者”めぇ!」ドン!


4: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 08:54:38.80 ID:kNwJPS9B0

担当官「この姉妹の父親、――――――篠ノ之 柳韻という神社の神主は大し御人だった」

担当官「昔気質といえば女尊男卑の今の世の中じゃ聞こえは悪いが、古き良き父性の持ち主で厳格ながらも清々しい人物であった」

担当官「苦渋の決断の末に、重要人物保護プログラムを受け容れてくれたが…………」

担当官「結果として、何度も戸籍や住居を変えられて、最終的には一家離散となってしまった…………」

担当官「今どこにいるのだ、柳韻さん…………私に篠ノ之流剣術の奥義を伝えてそれっきりだ」

担当官「あの子はどうしようもなく不器用で、そしてこの理不尽に耐えるだけの心の強さは持っていない…………荒んでしまったよ」

担当官「――――――不幸中の幸いと言っていいのだろうか、」

担当官「篠ノ之一家の重要人物保護プログラムの担当官として、」

担当官「この私がずっと付き添ってあげられたから幾分かは気持ちを汲み取ってやれたが…………」ハア

担当官「柳韻さん。あなたから預けられた子はこのままだと――――――」


政府高官「やあ、きみ! あの娘はIS学園に入ってくれる気になってくれたかい?」ニコニコ


担当官「…………ダメですね(――――――この俗物がっ!)」ハア

担当官「ISのせいで一家離散の憂き目に遭って今までの全てを捨てさせられたのに、触れたくないと思うのが普通だとは思いませんか?」

政府高官「しかし、あの“篠ノ之博士の妹”なのだぞ? 妹のために篠ノ之博士が何かをしてくれると期待してもバチは当たらんだろう?」

担当官「そういう目で見るのは対象の心証を害しますよ」

担当官「今の彼女に残ったものは、」


――――――“篠ノ之博士の妹”というレッテルだけ。


担当官「多感な思春期を迎える少女にはあまりにも残酷な話ですよ」

政府高官「だが、姉との繋がりはまだ残っているだろう? 今でも連絡は取り合っている――――――」

担当官「だから何です? 私の仕事は重要人物保護プログラムの監視員であり担当官です」

担当官「私は普通の生活を送る権利を奪われた保護対象の便宜を図り、対象が健やかなる一生を送れるように最善を尽くすものです」


担当官「今年の中学女子剣道全国大会で本名をリークしてしまった責任の追及はまだですよ?」


政府高官「そ、それはだな…………」

担当官「最初から“篠ノ之 箒”でいていいのなら、最初からその名を奪われなければよかったものを……!」ギロッ

担当官「おかげで、大会優勝の余韻に浸る間もなくまた引っ越しですよ……!」

担当官「新しい受け入れ先を探して――――――! 対象にまた引っ越しさせる準備をさせるだけで――――――!」

担当官「いったいどれだけの損失が出たのかわかってるんですか! それを何度も! 税金の無駄、徒労ですよ!」

担当官「それに、荒れた剣筋ではあったが純粋な強さに惹かれた可愛い後輩だってできたのに――――――!」

担当官「ようやく、少しずつ居心地がよくなってきたと思えてきたのに――――――!」

担当官「積み上げてきた思い出も努力も何もかも、――――――強制移動で全てが台無しだ! ますます彼女の世界を閉じることになったんです!」

担当官「――――――『友達を作ること』を完全に諦めてしまった!」

政府高官「むむむ」

5: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 08:55:32.74 ID:esIQ1gOT0

担当官「とにかく、対象:篠ノ之 箒のIS学園の入学は見送らせてもらいます。そして、近場の高校に通うことになるでしょう」

政府高官「だが、現在もIS開発の第一人者である篠ノ之博士からの技術提供は国益に繋がることなのだ」

政府高官「ISの登場によって、日本の安全保障はアメリカの傘を必要としないほどのレベルにまで達した」
     ・・・・・・・・・・・・・・
政府高官「小善のために大善を見誤るなよ」

担当官「政治屋らしい御見識、ごもっともです」

政府高官「もし、あの娘の気が変わったのならすぐに報告してくれ」

担当官「わかりました。多分あなたに報告することはありませんけどね」

政府高官「おっと。それじゃな」ピピピ

政府高官「私だ」ピッ

政府高官「――――――何!? それは本当か!」

担当官「シー」

政府高官「っとすまん」

政府高官「……わかった。すぐに向かう」ピッ

担当官「どうしたんです?」ジトー

政府高官「実はもう一人、IS学園への入学を検討しなければならない人材が現れたのだ!」ニカッ

担当官「…………まあ、私には関係ないことです。ごゆっくり検討してきてください」

政府高官「ああ! だが、これはきみも腰を抜かすぞ!」

政府高官「わーははははは!」

担当官「…………俗物が」ボソッ






6: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 08:56:23.21 ID:esIQ1gOT0

――――――3月、IS学園


使丁「これはどういうことですか、轡木校長?」


使丁「まあ、給金も高いし、仕事も学校用務員ってことで楽そうでいいですけど」


使丁「あ、千冬じゃないか。中学以来だな。“IS世界一”になるぐらい昔から凄かったけど、すっかり丸くなったな」


使丁「え? …………まあ、ヘマしちまった俺にとってはありがたい求人ですよ」


使丁「なるほど。そういえば、千冬ってそういうやつだったな」


使丁「わかったよ。アスリートとしての選手生命は絶たれたが、お前と同じように後進の教育に力を貸すよ」


使丁「え? 何だって!?」





7: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 08:57:23.06 ID:kNwJPS9B0


使丁「さてと、この階の下見は終わりか?(警備員の真似事もしないといけないのか…………責任重大だな)」」

使丁「(轡木校長の旦那さんがここの用務員で“良心”とまで言われているんだ。俺もそれぐらいのビッグネームを戴きたいね)」

「わっと!」ドン

使丁「だ、大丈夫ですか!?(もう入寮してた子が居たのか!?)」

「ちょっと、気をつけなさいよ! まったくもう……」

使丁「すみません。ここの用務員として赴任してきたばかりでして……」

「そうなんだ。まあ、そういうことなら、大目に見てやらないでもないわ」

使丁「あっ、あなたは確か、1年2組の――――――」

「そうよ! 私は中国代表候補生:凰 鈴音よ」

「そういえば、あなたは用務員だったっけ?」

「ねえねえ、だったらお詫びとして教えてもらいたいことがあるんだけどさ?」

使丁「何です?」


「“世界で唯一ISを扱える男性”の部屋がどこか教えてくれない?」モジモジ


*使丁=小使い=学校用務員


8: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 08:58:40.39 ID:kNwJPS9B0

――――――4月、倉持技研


政府高官「何故だ! 何故後回しにできん!」

副所長「ふざけたこと言うんじゃないよ、政治屋が」ジトー

政府高官「むぅ……」

副所長「当然の義務です」

副所長「今年度の我が国の代表候補生:更識 簪の専用機の納入が優先事項であり、我々は第3世代型『打鉄弐式』の完成を急がせます」

副所長「これは信頼で成り立つ業界人として当然の処置です」

副所長「それに、この機体は国際IS委員会の査定に出す実験機でありますから、この機体のデータ収集が滞る方が国益に反しますよ?」

政府高官「…………そこを何とかできんか?」

副所長「確かに、我が倉持技研で引き取ったすぐに使えるISはありますよ。まあ、ある程度の調整に時間がかかりますけど」

副所長「しかし、かの“ブリュンヒルデの弟”と言えども、――――――聞けばISに関する知識も全くないということを聞きましたが?」

副所長「そんな初心者以下のただの“世界で唯一ISを扱える男性”と熟練した代表候補生――――――どちらの機体を先に納入すべきか、理解できますね?」

政府高官「それでは私の面子が…………!」

副所長「焦ることはありませんよ。しっかりと基礎訓練をしてもらってから専用機に乗ってもらったほうが格好がつくでしょう?」

副所長「まさか専用機に乗れたからって代表候補生に比肩する実力をすぐに発揮できるとお思いですか?」


副所長「“専用機持ちなのに弱い日本男子”となれば、国のイメージダウンにも繋がりかねませんよ?」


政府高官「…………わかった」

政府高官「だが、機体は用意してもらうぞ。どれくらいで準備してくれる?」

副所長「そうですね。IS学園の名物である来月の『学年別個人トーナメント』までには余裕で納入できますよ」

政府高官「……まあ、1ヶ月程度の遅れなど大した問題ではないか。それに訓練機でも運用データは取れるからな」

政府高官「では、正式な契約は後ほど」

副所長「毎度あり~」

ガチャ、バタン

副所長「ふぅん」


――――――“世界で唯一ISを扱える男性”ねぇ。



9: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:00:10.04 ID:esIQ1gOT0

副所長「俺の中学時代の同級生から世界的な有名人がごろごろ出るとは驚きだよ」

副所長「そして、“その弟”まで正しい意味でのセレブになっちゃうとはねえ……」

副所長「織斑千冬も数奇な運命をたどってきてるもんだ。“ブリュンヒルデ”、大会2連覇直前の試合放棄、IS学園の教師、か」

副所長「“スケバン”だったあの姐御がねぇ…………」

副所長「そういえば、第2研究所所長:篝火ヒカルノはその有名人二人の高校時代の同級生だったな。まあ、ただの同級生でしかなかったらしいが」

副所長「いやあ、世の中ってわかんねえもんだなー。女尊男卑の世の中になったりよ」

副所長「元々某バイクメーカーの設計技師だった俺が、こうやって女性にしか扱えないISの設計なんか担当しているんだからさ」

副所長「(ま、昔からいろんなものに手を出していたから、いずれISに辿り着くのは必然だったのかもしれないな…………)」

副所長「(それに、束と俺は――――――)」

副所長「しかし、――――――『白式』かぁ」

副所長「あれ、どうしようかねぇ…………何故か後付装備ができない欠陥品なんだよな」

副所長「ま、それ以外は恐ろしく高性能なんだが(ま、だから初期化するのを先送りにしてきたんだよな。戦術的に使えない機体なのによ……)」

副所長「それはとにかく、『打鉄弐式』の完成を急がねえとな」

副所長「――――――俺が設計して、あの子の才覚を見込んで限界を突き詰めた性能になったんだ」

副所長「きっちり活躍してもらわねえとな」ニヤリ

副所長「『白式』はその後で考えよう」

副所長「んじゃ、やるかー!」








こうして、数々の運命は変わった。

果たして、どのような世界へと進むのであろうか?

そして、これから起こる出会いはどんなものを少年に与えていくのだろう。





10: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:01:35.70 ID:esIQ1gOT0

第1話 クラス代表決定戦
Class reunion of the junior high school era


山田「それでは、自己紹介をお願いします」ニコニコ

女子「」ジー

女子「」ジー

女子「」ジー

一夏「(…………これは、想像以上にきつい)」アセタラー

一夏「(誰か見知った顔はいないか? 何だよこの、場違い感は……!?)」ビクビク

一夏「(うわあ……。俺、やっていけるのかな…………)」

山田「織斑くん」

一夏「ウーム」

山田「織斑一夏くん?」

一夏「は、はい!?」ビクッ

周囲「クスクス」

山田「あの大声出しちゃって、ごめんなさい」

山田「でも、“あ”から始まって、今“お”なんだよね」

山田「自己紹介してくれるかな? ダメかな?」

一夏「いや、あの、そんなに謝らなくても…………」

一夏「ええっと……、織斑一夏です」バッ

一夏「よろしくお願いします」

周囲「…………」

一夏「いっ!? あっ!?」キョロキョロ

周囲「」ワクワクドキドキ

一夏「(いかん。これで黙っていたら、“暗いやつ”のレッテルを貼られてしまう!)」ハアースウーー!

山田「!」

周囲「!」


一夏「 以 上 で す ! 」キリッ


周囲「アラララ・・・」ズコー

セシリア「…………」ジー

一夏「え、あれ、ダメでした!?」


使丁「ははははは!」


一夏「え?(だ、誰……!? あ、若い男の人!?)」

周囲「ワア、カッコイイ!」


11: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:02:51.69 ID:kNwJPS9B0

使丁「いやはや、“千冬の弟”だと聞いていたからどんなやつかと思っていたら、――――――驚いたよ」

千冬「まったく……」ガン!

一夏「あう!?」

一夏「つぅ、いったぁ……」

一夏「げ、千冬姉――――――!?」ガンッ!

千冬「学校では“織斑先生”だ」

使丁「あははははは」
              ・・・
千冬「くっ、馬鹿な弟のせいで同窓生に笑われた……」

山田「織斑先生、会議はもう終わったんですか?」

千冬「ああ、山田先生」

千冬「クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

一夏「(なんで千冬姉がここにいるんだ? 職業不詳で月1,2回ほどしか家に帰ってこない実の姉が)」

一夏「(それに、千冬姉と一緒に現れた男、――――――“同窓生”だって? 何がどういうことなんだ?)」


12: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:04:20.29 ID:kNwJPS9B0

千冬「さて、諸君」

千冬「私が担任の織斑千冬だ!」

千冬「きみたち新人を1年で使い物にするのが仕事だ」フッ

周囲「キャー!」

一夏「!?」

周囲「チフユサマダー!」
周囲「ホンモノダー!」
周囲「チフユサマ、ノノシッテー!」

使丁「はははは、噂以上に大人気だな、千冬?」

千冬「毎年よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。――――――それと、ここでは“織斑先生”だ」

使丁「おっと失礼、織斑先生」


キャーキャーワーワー!


一夏「千冬姉が俺の担任…………(そして、この圧倒的なまでの人気…………)」

千冬「で、挨拶もまともにできんのか、お前は?」ポキポキ

一夏「いや千冬姉、俺は――――――あぐっ」ガンッ!

千冬「“織斑先生”と呼べ」

一夏「……はい、織斑先生」

使丁「なるほどね。――――――“姉弟”だ。そっくりだな」
             ・・・・
使丁「それに、――――――可愛い弟ときたもんだ。必死になるのもよくわかるよ」

千冬「何か言ったか、“金メダリスト”“ゴールドマン”?」ジロッ

使丁「何でもありません」


女子「え、“ゴールドマン”!?」
女子「誰それー!?」
女子「知らないの?! 昔、千冬様と同じ頃に活躍した柔道のオリンピック代表選手で――――――」


使丁「おっと、私の紹介は後にしてとりあえず、みんなの自己紹介をすませよう」

山田「わかりました」

山田「では、次は――――――」

一夏「いったい何だって言うんだ……(俺、やっていけるのかな…………)」



13: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:05:01.43 ID:esIQ1gOT0

俺の姉:織斑千冬は第1世代の元日本代表であり、ISの世界大会である第1回『モンド・グロッソ』を圧倒的な強さで総合優勝を飾った“ブリュンヒルデ”だ。

その圧倒的な強さと美貌によって世界的な人気を博していることは知っていたが、まさかIS学園で教師をしていたのかよ。心配していた俺が馬鹿だった。

けど、これで少しは男一人でも頑張れるような気はしてきた。

そして、千冬姉と一緒に現れた“金メダリスト”“ゴールドマン”と言うのは――――――、


山田「みなさんも知っている通り、ISの正式名称はインフィニット・ストラトス。日本で開発されたマルチフォームスーツです」

山田「10年前に開発された当初は、宇宙空間での活動が想定されていたのですが、現在は停滞中です」

山田「アラスカ条約によって軍事利用も禁止されているので、今は専ら競技用――――――スポーツとして活用されていますね」

山田「そしてこのIS学園は、世界で唯一のIS操縦者育成を目的とした教育機関です」

山田「世界中から大勢の生徒が集まって操縦者になるために勉強しています」

山田「様々な国の若者たちが、自分たちの技能を向上させようと、日々努力をしているんです」

山田「では、今日から3年間しっかり勉強しましょうね」

周囲「ハーイ!」

使丁「では最後に、――――――私は本年度からこのIS学園で用務員として働かせていただくことになった者です」

使丁「かつて、オリンピックで「トライアスロン」と「柔道」の2種目で金メダルを獲得したことがあります」

使丁「今はもう昔ほどの実力はありませんが、トップアスリートとしての指導協力をするようにお願いされました」

使丁「普段はみなさんが勉学に励んでいる裏で雑務をこなし、なるべく放課後にはみなさんの特訓にお付き合いできるようにしたいと思います」

周囲「オオ!」

使丁「特に、――――――織斑一夏くん!」ビシッ

一夏「は、はい!?」ビクッ

使丁「きみには特に力を入れて指導するよう、きみのお姉さんに頼まれていてね」チラッ

千冬「!」ギラッ

使丁「そういうわけだから、いろいろと頼ってくれ」フフッ

使丁「大丈夫。『男でISを動かす』だなんて誰も経験したことがないことだし、私も正しい指導の仕方なんかわからないんだ」

使丁「でも、スポーツなんだろう? IS学園は体育大学と工業大学が1つになったようなところなんだし、いけるでしょう」

一夏「は、はあ……」

千冬「『はい』と言わんか、馬鹿者が」

一夏「は、はい!」

使丁「それじゃ、1年1組のHRとISの授業以外は轡木さんと一緒に用務員として働いています」

使丁「そうそう。夜回りも私の仕事なので、くれぐれも夜遊びはしないように…………」

周囲「ハーイ!」


千冬姉が俺のために招いてくれた特別コーチであった。

ちなみに“ゴールドマン”という異称は、『アイアンマン』というハワイで開催されるトライアスロンの最高峰の世界大会(和訳すると「鉄人レース」か)で、
17時間の制限時間内に完走した者に与えられる称号“アイアンマン”、オリンピック覇者である“金メダリスト”であることを掛け合わせた通称である。

実際に“アイアンマン”としては世界記録保持者であり、なんとスイム3.8km・バイク180km・ラン42.195kmを6時間を切る韋駄天振りで走破したという化け物なのだ。

それ以前の世界記録が8時間弱であることを考えると、千冬姉並みにダントツの強さを誇ることから“ゴールドマン”という称号に相応しい世界覇者と言える。

俺はこの人の指導を受けることになるのか。これは忙しい毎日なりそうだ…………



14: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:05:56.91 ID:esIQ1gOT0

――――――休み時間


女子「ねえ、あの子よ! ――――――“世界で唯一ISを扱える男性”って!」ジー
女子「入試の時に、ISを動かしちゃったんだってね」ジー
女子「世界的な大ニュースだったわよねー!」ジー
女子「やっぱり入ってきたんだ」ジー

ワイワイ、ガヤガヤ、ジロジロ・・・

一夏「(なんで俺にISを動かす力があるのかはわからない)」

一夏「(けど、こんなふうに見世物にされるなんて思ってもみなかった……)」

一夏「(誰かこの状態を助けてくれ…………)」


――――――いぃちかぁ!


一夏「?」

周囲「!?」

「ちょっとどいて!」

女子「あ、抜け駆けする気!?」

女子「ずるい~!」

「ちょっと何するのよー!」

「一夏ぁ! 私の声が聞こえてるぅ!?」

一夏「あ…………」


一夏「鈴? お前、鈴なのか!?」


鈴「そうよ! ほら、どいて!」

周囲「エ、ナニアノコ-!」ザワ・・・


15: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:06:50.31 ID:kNwJPS9B0

一夏「1年振りだな。どうしてここに?」

鈴「それはこっちのセリフよ。どうしてこんなことに?」

一夏「それは俺のほうが聞きたいぐらいだ」

一夏「ああ、でもよかった。――――――鈴に会えて」ホッ

周囲「エ、エエエエエエエエエエエ!?」

鈴「ちょ、ちょっと!(いきなり恥ずかしいじゃない!?)」ドキッ

女子「何々!? あの二人ってどういう関係なの!?」
女子「確かあの子って、2組の専用機持ち」
女子「中国代表候補生:凰 鈴音――――――!」

千冬「」スッ

鈴「そ、そんなに私に会えて――――――きゃっ!?」ゴンッ

鈴「ちょっと何すんの!?」

鈴「あ…………」

千冬「もう授業が始まるぞ、馬鹿共が」

鈴「ち、千冬さん……」

周囲「ハーイ!」スタスタ・・・

千冬「“織斑先生”と呼べ」

千冬「さっさと戻れ、邪魔だ」

鈴「す、すいません……」

使丁「続きはまた今度ってことで――――――、鈴ちゃん?(さて、俺もある程度ISについて勉強しておかないとな)」

鈴「あ、はい。“ゴールドマン”」

鈴「一夏! 昼休みは付き合いなさいよ!」

一夏「ああ……」

一夏「あいつが代表候補生…………(って何だ?)」


16: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:08:02.79 ID:kNwJPS9B0

――――――授業風景


山田「では、ここまでで質問のある人――――――」

一夏「(この『アクティブなんちゃら』とか『広域うんたら』とか、どういう意味なんだ……?)」アセダラダラ

一夏「(まさか全部覚えないといけないのか……!?)」

山田「織斑くん、何かありますか?」

一夏「うわあ! えっと……」アセアセ

山田「質問があったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」ニコッ

一夏「先生…………」スッ

山田「はい、織斑くん!」ニッコリ

一夏「ほとんど全然わかりません!」

山田「え、……全部ですか!?」オロオロ

山田「今の段階でわからないっていう人はどのくらいいますか?」

周囲「」ジー

周囲「」ジー

周囲「」ジー

使丁「…………はい」スッ

山田「あ」

周囲「アハハハハ」

一夏「あ、あははは…………」

千冬「…………」ハア


17: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:08:47.24 ID:esIQ1gOT0

千冬「織斑、入学前に渡した参考書は読んだか?」

一夏「ええ……、あの分厚いやつですか?」

千冬「そうだ。今、用務員のお兄さんが必死になって目を通しているあれだ」

使丁「私の腕よりも分厚い…………わけないか」

千冬「『必読』と書いてあっただろう」

一夏「いやあ、間違えて捨てまし――――――うあっ!?」バシィ!

千冬「後で再発行してやるから、1週間以内に覚えろ。いいな?」

一夏「いや、1週間であの厚さはちょっと――――――」アセアセ

千冬「『やれ』と言っている」ギラッ

一夏「!」ゾクッ

千冬「お、そうだ。できなければ、」

千冬「――――――こっちのお兄さんに頼んでトライアスロンでもしてもらおうか? お前は基礎体力もダメそうだからな」ニヤリ

一夏「え!?」

使丁「それはいいですね。基礎体力作りには最適の種目ですから」ニコッ

使丁「そうだな。軽く『オリンピック・ディスタンス』スイム1.5km・バイク40km・ラン10km――――――合計51.5km行こうか?」ニッコリ

一夏「うぅ……はい、やります」ガクッ

使丁「安心しなって。私もよくわかってないから」

使丁「これから一緒に学んでいこう。な?」

一夏「はい。ありがとうございます……(ありがたすぎて、嬉し涙が出てきそうだよ……!)」

山田「では、授業を続けます」

セシリア「…………」ジー



18: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:09:26.39 ID:esIQ1gOT0

――――――昼休み


一夏「びっくりしたぜ。お前が2組の専用機持ちだっただなんて」

一夏「それに、帰ってきたっていうんなら、連絡くれりゃよかったのに」

鈴「そんなことしたら、劇的な再会が台無しになっちゃうでしょう?」

一夏「――――――『劇的』って…………そういや、お前ってまだ千冬姉のことが苦手なのか?」

鈴「そ、そんなことないわよ……」

鈴「ちょっとその……、得意じゃないだけよ」

一夏「ちょうどまる一年ぶりになるのか」

使丁「二人は仲良いんだね」ニコッ

一夏「用務員さんは知っていたんですか?」

鈴「あ、ちょっと――――――」

使丁「そりゃあもう。今日という日が来るのを『まだかまだか』って楽しみにしていたんだからね、鈴ちゃんは」ニッコリ

一夏「そうだったのか……?」

鈴「なんでもないわよ、……馬鹿ぁ」カア



19: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:10:09.68 ID:kNwJPS9B0



一夏「それで、いつ代表候補生になったんだ?」

鈴「あんたこそ、ニュースで見た時、びっくりしたじゃない」

一夏「俺だってまさかこんなところに入るとは思わなかったからな」

使丁「人生っていうのは不思議なものだね」

一夏「そうですね」

鈴「うん」

使丁「私も一夏くんと同じで、知り合いも誰もいない場所で長い時間を過ごすのだろうと思ってIS学園に来たのだけれど、」

使丁「まさか、中学時代のクラスメイトと顔を合わせることになるとはね……」

一夏「俺も、そう思います」

一夏「知り合いが誰もいないし、同性の友人なんて望めそうもなくて、凄く緊張していたけれど、」

一夏「千冬姉がいて、用務員さんとも親しくなれて、そして鈴もいてくれて――――――」

鈴「い、一夏……」テレテレ

使丁「ははは、人懐っこいな、きみぃ」

使丁「鈴ちゃん」

鈴「はい」

使丁「この通り、私たち二人はISについては全くのド素人で、しかも周りが女性しかいない環境なので大いに戸惑っている」

使丁「幼馴染であるきみが一夏くんを支えてやってくれ」

使丁「それに、代表候補生ならば私よりも実践的な指導をしてあげられるはずだ」

使丁「よろしく頼むよ」

鈴「ま、まかせなさいよぉ!」ドキドキ

鈴「一夏ぁ! ビシバシ指導してあげるから覚悟しなさいよ!」ニコッ

一夏「お、お手柔らかに、頼む……」ニコー

使丁「そうだ。一夏くんはこの参考書の内容を覚えないといけないんだったな」ドスン

一夏「げ…………!」

一同「ははははははは!」


セシリア「…………」ジー



20: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:11:05.74 ID:kNwJPS9B0

――――――放課後


一夏「ようやく授業が終わった…………」フゥ

一夏「ああそうだ、トライアスロンなんてごめんだ!(早く暗記しないとな……!)」ガサゴソ

セシリア「ちょっとよろしくて?」

一夏「へ?」

セシリア「まあ何ですの、そのお返事!」

セシリア「私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないのかしら?」

一夏「悪いな。俺、きみが誰だか知らないし」

セシリア「なっ!?」

セシリア「私を知らない!? セシリア・オルコットを!?」

セシリア「イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を――――――」

一夏「えっと代表候補生ってことは、鈴と同じように国家代表操縦者を目指しているやつのこと……でいいのか?」

セシリア「中国代表候補生がどの程度のものかは存じませんが、少し認識を改めていただきたいところですわね」

一夏「?」

セシリア「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出される“エリート”のことですわ」

一夏「…………“エリート”?」

セシリア「そう、“エリート”ですわ!」

セシリア「本来なら私のような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡――――――幸運なのよ!」

セシリア「その現実をもう少し理解していただける?」

一夏「…………そうか。それはラッキーだ」

一夏「千冬姉(=“ブリュンヒルデ”)や用務員さん(=“ゴールドマン”)、それに鈴(=中国代表候補生)とも会えたのに、」

一夏「その上、イギリス代表候補生とも知り合いになれただなんて」

セシリア「…………何だか私が軽く見られた気がしてなりませんわね、その物言い」

一夏「お前が『幸運だ』って言ったんじゃないか」

21: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:11:49.64 ID:esIQ1gOT0

セシリア「……だいたい、何も知らないくせによくこの学園に入れましたわね」

セシリア「“唯一男でISを操縦できる”と聞いていましたけれど、期待外れですわね」

一夏「俺に何かを期待されても困るんだが……」

一夏「何ていうか、――――――IS学園にこうして居ること自体、まだ実感がないっていうか、まだ混乱しているんだよ」

セシリア「ふん。まあでも、私は優秀ですから、あなたのような人間でも優しくしてあげますわよ」

セシリア「わからないことがあれば、――――――まあ、泣いて頼まれたら教えてさしあげても良くってよ?」

セシリア「なにせ私、入試で唯一教官を倒した“エリート中のエリート”ですからっ!」

一夏「あれ? 俺も倒したぞ、教官。それに、鈴だって倒したって聞いたけど」

セシリア「はあ!?」

セシリア「わ、私だけだと聞きましたが……」ワナワナ

一夏「『女子では』ってオチじゃないのか?」

セシリア「そ、それでは、その鈴さんとやらは――――――?」ワナワナ

一夏「鈴は隣国ってだけあって、去年のAO入試でさっさと受かったって話だ」

一夏「本土を離れて入学するのは乗り気じゃなかったっぽいけど、『来て正解だった』って言ってたな」

セシリア「」

一夏「えと、もういいか? 俺、頑張ってこの参考書の内容を覚えないといけないし」ササッ

一夏「それじゃ、また明日な、セシリア」ニコッ

セシリア「あ」

セシリア「話の続きはまた明日! よろしいですわね!」カア

一夏「ああ!」



22: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:12:26.45 ID:kNwJPS9B0

――――――1年生寮


一夏「初日からこれじゃ先が思いやられるな……」ガチャ

一夏「おお!(何これ、高級ホテルみたい!)」キョロキョロ

使丁「おや、一夏くん」ガチャ

一夏「あ、用務員さん」

使丁「どうだい、IS学園の寮は?」

一夏「凄いです! こんな部屋で毎日寝泊まりできるだなんて!」ドキドキ

使丁「そうか。気に入ってもらえたようで何よりだ」

使丁「だが、悪いな」

一夏「?」


使丁「俺が自宅出勤できるまでは俺と相部屋なんだ」


一夏「そうなんですか!(良かった! 嬉しい! マジで!)」

使丁「まあ、この女子しかいない学園生活に少しずつ慣らしていく必要があると思ってな」

使丁「一人暮らしは慣れっこだろうが、慣れない場所で一人寂しく眠るよりは話し相手がいたほうが心強いだろう?」

一夏「はい!」

使丁「寝る前に、その参考書から問題を出してやるからしっかり覚えようぜ、ヒーロー?」

一夏「ひ、ヒーローって……」

一夏「用務員さんのほうがよっぽどヒーローじゃないですか」

一夏「“ゴールドマン”ですよ? トライアスロンだけじゃなくて柔道の“金メダリスト”でもあるんですから」

一夏「それに、千冬姉の同窓生ってこともあって…………」

使丁「そうだな。篠ノ之 束といい、千冬といい、なんか俺の同級生はみんな世界的な有名人になっているからな」

使丁「俺を含めて10人はあのクラスにはいたからな……」

一夏「ち、千冬姉と束さん並みに凄い人が他にも…………!?(す、すっげー!)」

使丁「いやあ、――――――でも、あの二人が特に凄かった。別格だったよ。千冬はその頃から強い上に面倒見がいいから人気者でね」

一夏「へえ…………」

一夏「それじゃ、――――――その頃の千冬姉のこと、教えてくれませんか?」

使丁「ああ、いいけど……、口止めされていることがあるから、そこは勘弁してくれ、“千冬の弟”」

一夏「はい!」ワクワク



23: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:12:43.56 ID:esIQ1gOT0

――――――1年生寮


一夏「初日からこれじゃ先が思いやられるな……」ガチャ

一夏「おお!(何これ、高級ホテルみたい!)」キョロキョロ

使丁「おや、一夏くん」ガチャ

一夏「あ、用務員さん」

使丁「どうだい、IS学園の寮は?」

一夏「凄いです! こんな部屋で毎日寝泊まりできるだなんて!」ドキドキ

使丁「そうか。気に入ってもらえたようで何よりだ」

使丁「だが、悪いな」

一夏「?」


使丁「俺が自宅出勤できるまでは俺と相部屋なんだ」


一夏「そうなんですか!(良かった! 嬉しい! マジで!)」

使丁「まあ、この女子しかいない学園生活に少しずつ慣らしていく必要があると思ってな」

使丁「一人暮らしは慣れっこだろうが、慣れない場所で一人寂しく眠るよりは話し相手がいたほうが心強いだろう?」

一夏「はい!」

使丁「寝る前に、その参考書から問題を出してやるからしっかり覚えようぜ、ヒーロー?」

一夏「ひ、ヒーローって……」

一夏「用務員さんのほうがよっぽどヒーローじゃないですか」

一夏「“ゴールドマン”ですよ? トライアスロンだけじゃなくて柔道の“金メダリスト”でもあるんですから」

一夏「それに、千冬姉の同窓生ってこともあって…………」

使丁「そうだな。篠ノ之 束といい、千冬といい、なんか俺の同級生はみんな世界的な有名人になっているからな」

使丁「俺を含めて10人はあのクラスにはいたからな……」

一夏「ち、千冬姉と束さん並みに凄い人が他にも…………!?(す、すっげー!)」

使丁「いやあ、――――――でも、あの二人が特に凄かった。別格だったよ。千冬はその頃から強い上に面倒見がいいから人気者でね」

一夏「へえ…………」

一夏「それじゃ、――――――その頃の千冬姉のこと、教えてくれませんか?」

使丁「ああ、いいけど……、口止めされていることがあるから、そこは勘弁してくれ、“千冬の弟”」

一夏「はい!」ワクワク



24: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:13:27.85 ID:esIQ1gOT0

――――――1年生寮


一夏「初日からこれじゃ先が思いやられるな……」ガチャ

一夏「おお!(何これ、高級ホテルみたい!)」キョロキョロ

使丁「おや、一夏くん」ガチャ

一夏「あ、用務員さん」

使丁「どうだい、IS学園の寮は?」

一夏「凄いです! こんな部屋で毎日寝泊まりできるだなんて!」ドキドキ

使丁「そうか。気に入ってもらえたようで何よりだ」

使丁「だが、悪いな」

一夏「?」


使丁「俺が自宅出勤できるまでは俺と相部屋なんだ」


一夏「そうなんですか!(良かった! 嬉しい! マジで!)」

使丁「まあ、この女子しかいない学園生活に少しずつ慣らしていく必要があると思ってな」

使丁「一人暮らしは慣れっこだろうが、慣れない場所で一人寂しく眠るよりは話し相手がいたほうが心強いだろう?」

一夏「はい!」

使丁「寝る前に、その参考書から問題を出してやるからしっかり覚えようぜ、ヒーロー?」

一夏「ひ、ヒーローって……」

一夏「用務員さんのほうがよっぽどヒーローじゃないですか」

一夏「“ゴールドマン”ですよ? トライアスロンだけじゃなくて柔道の“金メダリスト”でもあるんですから」

一夏「それに、千冬姉の同窓生ってこともあって…………」

使丁「そうだな。篠ノ之 束といい、千冬といい、なんか俺の同級生はみんな世界的な有名人になっているからな」

使丁「俺を含めて10人はあのクラスにはいたからな……」

一夏「ち、千冬姉と束さん並みに凄い人が他にも…………!?(す、すっげー!)」

使丁「いやあ、――――――でも、あの二人が特に凄かった。別格だったよ。千冬はその頃から強い上に面倒見がいいから人気者でね」

一夏「へえ…………」

一夏「それじゃ、――――――その頃の千冬姉のこと、教えてくれませんか?」

使丁「ああ、いいけど……、口止めされていることがあるから、そこは勘弁してくれ、“千冬の弟”」

一夏「はい!」ワクワク



25: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:14:21.15 ID:kNwJPS9B0

――――――翌日


使丁「アスリートの朝は早い!」

一夏「はあはあ…………お、終わったぁ」ゼエゼエ

使丁「ありがとな、一夏くん。校内清掃や荷物の納入なんてのは私の仕事だが、一夏くんにはこれからもISドライバーになってもらうために扱き使うからな」

一夏「こ、これを毎日ですか…………?」ゼエゼエ

使丁「ああ」

使丁「そして、筋肉を動かしたらアミノ酸を取る! ほら、常温のスポーツ飲料だ」

一夏「あ、ありがとうございます……」

使丁「IS学園は女子校だから男子用のトイレがないことだし、こうやって早めに外に出れば誰にも注目されることなく用を足しに行くこともできる」

一夏「あ、なるほど……」ゴクゴク

使丁「で、その後はシャワーで汗を流して綺麗さっぱり・おめめパッチリでこれで朝食を毎朝美味しくいただくことができるってわけだ」

使丁「 良 い 汗 掻 い た な 」ニコニコ

一夏「そう、ですね……(え、笑顔が眩しい! これが“ゴールドマン”の輝き!)」プルプル

使丁「うん? あれ、きみって剣道しているよね? 千冬がそうだったんだから(思ったよりも筋肉はついてはいるが、これは…………)」モミモミ

一夏「あ、それは小学校までで、中学校はバイトのために帰宅部でした…………」プルプル

使丁「バイトか……(そういえば、一夏くんは私立藍越学園という就職メインのところの入ろうとしていたんだっけな…………)」

使丁「(1音違うだけで普通間違えるか? この辺のうっかりも千冬そっくりだな……)」

使丁「そこまで体力が落ちるものとは思えないが、訓練内容も4月の段階では緩めにしておくよ」

使丁「とにかく学園生活に慣れることが先決だからな」

使丁「よし、早くシャワーを浴びてきな。今日はここまででいい」

一夏「はい……! ありがとうございました……!(凄い、脚が軽くなった!)」

タッタッタッタッタ・・・・・・

使丁「うん。千冬には敵わないが、素養はあるな。これから楽しみだ」

26: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:14:57.69 ID:esIQ1gOT0

――――――朝食


一夏「おお! こいつは美味い!(いつもの一人で作った朝食とは別次元の美味さだ!)」パクパク

鈴「おはよう、一夏!」

一夏「おう、鈴か。おはよう!」ハツラツ

鈴「あんた、早速扱かれていたようね」

一夏「まあな。けど、良い汗掻いたから、いつもの朝飯がずっと美味しく感じる!」パクパク

鈴「そう、なんだ……」

一夏「?」

鈴「あ、あのさ、一夏?」モジモジ

一夏「あ、そうだ!」

鈴「!」

一夏「親父さん、元気してるか? あの中華料理、絶品だったもんな! また食べたいぜ」ニッコリ
         ・・・・・・
鈴「あ……、うん。元気だと思う」

一夏「え?」

鈴「ごめん……。先に行ってる」

一夏「……そうか」

一夏「…………何だ、鈴のやつ?」モグモグ


27: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:15:29.30 ID:kNwJPS9B0

女子「織斑くん、隣いいかな?」

一夏「え、ああ、別にいいけど(あれ、何だあの着包みは…………?)」

女子「よし!」パン!

女子「カンちゃんもほらほら」(着包み)

簪「えと……本音?」オドオド

女子「ほらほら、日本代表候補生なんだからもっと堂々と」

一夏「――――――日本代表候補生?」ピタッ

簪「あ、あの……、私、更識 簪って言います。1年4組の」

一夏「織斑一夏だ。よろしく」

簪「う、うん……」

一夏「………………?」ジー

簪「な、何、かな……?」ドキドキ

一夏「女子って朝それだけしか食べないで平気なのか?」

女子「えっとね?」

女子「私たちは、平気かな……?」

女子「お菓子よく食べるしぃ!」

簪「そ、そうだよ、――――――い、一夏」

一夏「そういうものなのかな……?」

簪「あ…………」

女子「ねえ、織斑くんってあの中国の代表候補生と仲が良いの?」

一夏「ああ、まあ幼馴染だし」

女子「え、幼馴染!?」

簪「へえ…………」


パンパン!


一同「!」

千冬「いつまで食べてる! 食事は迅速に効率よく摂れ!」

千冬「私は1年の寮長だ。遅刻したらグラウンドを10周させるぞ」

周囲「」ガツガツ

一夏「そうなんだ……(道理でめったに帰ってこなかったわけだ)」


28: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:16:32.53 ID:kNwJPS9B0

――――――LHR


千冬「これより、再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」

千冬「クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席など――――まあ、クラス長と考えてもらっていい」

千冬「自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

女子「はい。織斑くんを推薦します」サッ

女子「私もそれがいいと思います」

一夏「――――――お、俺!?」ドキッ

千冬「他にはいないのか? いないのなら無投票当選だぞ?」

使丁「ほう。責任重大だな。これもあるのにな」パラパラ

一夏「うわああ!」

一夏「ちょ、ちょっと待った。俺はそんなの――――――(冗談じゃない! 1週間であの内容を覚えないといけないのにそんな余裕ないって!)」アセアセ


セシリア「納得がいきませんわ!」


一同「!」

セシリア「そのような選出は認められません!」

使丁「おや?(せっかく彼が辞退しようとしていたのにな。むしろ、黙っていても指名してくれたろうに……)」

セシリア「男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!」

使丁「まあ、ISは女性限定のスポーツだからね。そう思うのはしかたないか」

一夏「………………」

29: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:17:39.54 ID:kNwJPS9B0

セシリア「このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか?」

セシリア「だいたい! 文化としても後進的な国に暮らさないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛で――――――」

一夏「」イラッ

使丁「ほう(さすがにこれは俺でも怒るぞ? 言ってやれ、一夏くん)」フフッ


一夏「イギリスだって大してお国自慢ないだろう?」


一夏「世界一不味い料理で何年覇者だよ?」

セシリア「――――――っ!?」

セシリア「美味しい料理はたくさんありますわ!」

セシリア「あなた、私の祖国を侮辱しますの!?」

一夏「…………」ジー

使丁「プッ、ククク・・・・・・・・・・」プルプル

千冬「おい」

使丁「だって、あまりにも低次元の争いで…………ククク」プルプル

一夏「…………」ジー

セシリア「…………」ジー


セシリア「決闘ですわ!」


一夏「おおいいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

セシリア「わざと負けたりしたら、私の小間使い、いえ奴隷にしますわよ?」スタスタ
   ・・・・・・・・・・・・
一夏「ハンデはどれくらい付ける?」

セシリア「は?」

セシリア「あら、さっそくお願いかしら?」
      ・・・・・・・・・・・・・・・・
一夏「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」

使丁「ぷっ!? ふはははははは!」

一同「アハハハハハハハ!」

女子「織斑くん、それ本気で言っているの!?」
女子「男が女より強かったのはISができる前の話だよ」
女子「むしろ、男と女が戦争したら3日持たないと言われているよー?」

一夏「なっ!?(しまった。そうだった…………)」

千冬「やれやれ……(これ以上見せつけないでくれ、その馬鹿さ加減を、用務員のお兄さんに…………)」

30: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:18:14.87 ID:esIQ1gOT0

セシリア「むしろ、私がハンデをつけなくていいのか迷うぐらいですわ」クスッ

セシリア「日本の男子はジョークセンスがあるのね?」ニヤニヤ

女子「織斑くん。今からでも遅くないよ。ハンデ付けてもらったら?」

一夏「男が一度言ったことを覆せるか」

使丁「ほう?」


一夏「無くていい」キッパリ


女子「ええ……、それは舐め過ぎだよ……」

千冬「話はまとまったな」

千冬「それでは勝負は次の月曜、第3アリーナで行う」

千冬「織斑とオルコットはそれぞれ準備をしておくように」

一夏「…………!」ジー

セシリア「…………!」ジー

使丁「これは早速面白くなってきたじゃないか」



31: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:19:16.21 ID:esIQ1gOT0


キンコーンカンコーン!


千冬「織斑。お前のISだが、準備まで時間がかかるぞ」

一夏「へ」

千冬「予備の機体がない」

千冬「だから、学園で専用機を用意するそうだ」

使丁「なんだ、てっきり『暮桜』でも使わせるのかと期待してたのに」

千冬「それはない」

千冬「だが、これでお前がどれだけ注目されているかは理解できただろう」

千冬「せいぜい、初心者は初心者らしく足掻いてみせろ」

千冬「ではな」

コツコツコツ・・・

一夏「…………専用機があるってそんなに凄いことなのか?」キョトン

使丁「ありゃ、そういうことも知らないのね。本当に何も――――――」

セシリア「それを聞いて安心しましたわ!」シュッ

一夏「わっ!?(いきなり目の前に出てくるなよな! びっくりした)」ドキッ

セシリア「クラス代表の決定戦――――――、私とあなたとでは勝負は見えていますけれど、」

セシリア「さすがに私が専用機、あなたが訓練機ではフェアではありませんものね」

一夏「お前も専用機っていうのを持っているのか?」

セシリア「ご存じないの?」

セシリア「よろしいですわ。庶民のあなたに教えて差し上げましょう」

セシリア「この私、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生――――――つまり、すでに専用機を持っていますの」

セシリア「世界にISはわずか467機――――――、その中でも専用機を持つものは全人類60億の中でも“エリート中のエリート”なのですわ!」

32: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:20:04.12 ID:kNwJPS9B0

一夏「へえ……(昨日用務員さんとの勉強会で知ったばかりのことだけど、やっぱり圧倒的に少ないよな……)」

使丁「まあ、トライアスロンの世界大会『アイアンマン』を制限時間以内にクリアできる人間も少ない」

使丁「その中で、常連となって“アイアンマンの中のアイアンマン”って呼ばれるのと似たようなものだな」

使丁「だが、“ただのエリート”よりかはずっと“スペシャル”だぞ、一夏くんは」

一夏「……そうなんですか?」

セシリア「ちょっとあなた――――――!?(――――――私が“ただのエリート”ですって!?)」

使丁「本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間にしか与えられない」

使丁「――――――ところがだ」チラッ

セシリア「!」

使丁「一夏くんの場合は“特異ケース”ということで、是が非でもそのデータが欲しいってことなのさ」

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
使丁「そりゃあだって、女が男より強い時代を終わらせる可能性があるんだからさ?」


セシリア「なっ!?」

一同「!?」ピタッ

使丁「まあ、専用機っていうのは余程の余力がある国じゃない限りは、みんな実験機だけどさ」

使丁「その重要性を少しは理解できたか?」

一夏「なるほど! 用務員さんとの勉強のおかげで、すんなりと」

セシリア「こ、この私を無視しないでくださる!?(な、何ですの、先程からの私へのあてつけみたいな言動の数々は…………)」プルプル

使丁「だが、迂闊だったな。これから来週の月曜日まで死ぬほど忙しくなるぞ?」ニヤリ

一夏「あ、しまったあああああああああ!(テストが出されるんだったああああああああああ!)」

セシリア「ふ、ふん。取ってつけたような訓練でどこまでやれるようになるか楽しみですわね!」フン

使丁「それじゃ、放課後になったら整備室にまで来てくれ」コツコツコツ・・・・・・

一夏「わ、わかりました……(ああ、勢いで言ってしまった…………)」

周囲「・・・・・・・・・・・・」

周囲「エト・・・、ドウナルノカナー」

周囲「タノシミダネー」ワイワイ、ガヤガヤ





33: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:20:46.30 ID:esIQ1gOT0

――――――放課後、整備室


使丁「さて、ここがIS学園の一般利用可能な整備室だ。まずはここで訓練機の『打鉄』のパラメータを見ておこうか」

一夏「わかるんですか?」

使丁「わからん」

一夏「え、ええ……」

使丁「今日は4組の代表候補生の専用機が届けられていて、今まさに最終調整を行っているはずなんだ」

使丁「同じ日本人同士、便宜を図ってくれるはずさ」

一夏「そうなんですか……(4組の代表候補生――――――確かあの子、名前は更識 簪って言ったっけ?)」


使丁「お、やってるやってる」

簪「あ、織斑くん」

副所長「ん? ――――――ああ!」

一夏「やあ、簪さん。ん――――――?」

使丁「ああ――――――!」

一夏「え」

簪「副所長……?」

副所長「懐かしい顔だな。何だお前、IS学園で何してんだ? ここは――――――ああ、なるほどね」

使丁「相変わらず察しが良くて助かるよ」(作業つなぎ)

簪「えっと……」

一夏「あの……」

使丁「ああ、俺たちは織斑千冬と篠ノ之 束の中学の時の同級生だよ」

使丁「え、何? お前、ISの整備士になってたの?」

副所長「そうだ。倉持技研第一研究所の副所長なんかをやっている」

使丁「バイクの製造メーカーで働いているとは聞いていたけど、これは『おめでとう』と言うべきか?」

副所長「そっちこそ、トップアスリートのお前が織斑千冬と同じく早々と第一線を退くとはな」

副所長「ま、無駄話はこれぐらいでいいだろう? 二人にもこちらの為人はわかったろうし」

使丁「それじゃ、見学させてくれ」

副所長「ああ、いいとも。とはいっても、IS初心者のお前たちにはついていけないだろうがな」

34: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:21:23.97 ID:kNwJPS9B0

副所長「それじゃ、稼働させてみてくれ」

簪「あ、はい」ピピッピピッピピッ

一夏「すっげえ。何してるんだか、全然わからねえや」

一夏「これが代表候補生ってやつか(みんな、こういうのができて当たり前なのか……!?)」

副所長「まあ安心しろ、“千冬の弟”」

副所長「お前の専用機は俺の倉持技研の提供だ。ド素人のお前にも扱いやすい機体を用意しておいた」

一夏「え」

使丁「それ、本当か」

副所長「ああ。ちょっと待ってろ――――――」ピピッピピッピピッ

副所長「それじゃ、テストを続けてくれ」

簪「はい」ピピッピピッピピッ

副所長「さて、こいつがIS学園の訓練機の『打鉄』だ。防御重視で安定性がある優秀な国産機だ」

使丁「確か、第2世代型では最高の防御力で『シールドが破壊される前に修復する』ことで継戦能力が高く、世界シェア第2位だったな」

一夏「へえ」

副所長「そう! その通りなのだよ――――――って、本当にISについて何も知らないようだな」

一夏「…………その、俺がISについて知ろうとすると千冬姉が全力で阻止してきたから」

簪「え?」ピクッ

使丁「千冬が――――――、か?」

一夏「はい」

副所長「…………そうか。それは悪かったな」

副所長「だが、事情は変わった」

副所長「よって、このIS設計技師の俺が、最先端技術や実戦的な知識を授けてやろうではないか」

副所長「安心しろ。お前のことはよく分かった。だから、この界隈を渡り歩くのに恥ずかしくないように力添えしてやろう」

一夏「あ、ありがとうございます」

35: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:21:59.53 ID:esIQ1gOT0

副所長「さて、『打鉄』の輝かしい世界記録の数々を語ると本題に入れないからな。それはおいおい語るとして」

副所長「まず、この簪ちゃんの機体の名は『打鉄弐式』だ。俺が設計した」

一夏「それって凄いことですね!(す、スゲー!)」

副所長「まあな。乗り手を選ぶ性能だが、防御重視の『打鉄』とは違って、機動力に特化した第3世代型だ」

副所長「イギリスの『ブルー・ティアーズ』なんか目じゃないぜ」

一夏「…………『ブルー・ティアーズ』?」

副所長「専用機だよ、イギリスの専用機。狙撃特化の機体だ」

使丁「なにっ!?」

副所長「どうした?」


使丁「実はカクカクシカジカで」


副所長「ふぅん。普通なら勝ち目はないな」

一夏「…………『何とかなる』って気はしていたんだがな」ハア

副所長「…………!」ピクッ

使丁「今は勝てなくたっていい。けどせめて、一太刀浴びせられる程度は無理なのか……?」
            
 ・・・・・・・・
副所長「いや、――――――普通じゃないなら勝てるぞ」シレッ


一夏「え」

使丁「それはどういうことだ? 『普通じゃない』っていうのは」

副所長「ここで採用されているもう1つの訓練機の『ラファール・リヴァイヴ』はあんまり詳しくないが、」

副所長「『打鉄』に関してなら俺は何でも知ってる」

使丁「ほう? どうやら何か策があるようだな、“プロフェッサー”」


副所長「ああ、度肝を抜かしてやろうぜ?」ニヤリ


副所長「次いでに『ブルー・ティアーズ』の最初の戦績に華々しい敗北を刻んでやる」

一夏「………………」ワクワク

副所長「まあ、とりあえず俺がここに来た理由は、一番は代表候補生の簪ちゃんに専用機を納入することだが、」

副所長「――――――もう1つの目的はお前なのだからな、“千冬の弟”」

副所長「そろそろ終わったかな?」

簪「はい」ピピッ!

副所長「それじゃアリーナに向かおうか。まずは何よりも操縦感覚に慣れることだ。それとデータだ」

使丁「おお!」

一夏「ありがとうございます!(すっげー! トントン拍子で話がうまい方向に進んでる! 千冬姉さまさまだな!)」


36: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:22:41.64 ID:kNwJPS9B0

――――――アリーナ


一夏「やっぱり、きっついなこれ……」ピッチリ(ISスーツ)

副所長「オーライオーライ」

簪「準備、できました」(ISスーツ)

使丁「さて、乗ってみるんだ」

一夏「はい」

副所長「さて、ISの物理装着だが、何となくわかるだろう?」

使丁「そういうものなのか?」

副所長「ISのハイパーセンサーは人間の知覚・認識レベルを桁違いに上げさせる。誰でも1を聞いて100を知るぐらいにな」

一夏「おお! そうだ、この感じだ……」スチャ

副所長「ほらな。あっさりと物理装着できた。まあ、ほとんど自動化されてるんだけどさ」ジー

副所長「だが、――――――本当に男がISを動かしたよ(疑ってはいなかったが、やはり実物を見るまではな…………)」スッ

使丁「そのカメラは何だ?」

副所長「これ? もっと精密なデータをとっておきたかったけど、今回は第3者の視点から搭乗者の癖だけでも見ておこうかと思ってね」

使丁「なるほど」

副所長「それじゃ、簪ちゃんも展開してみて」

簪「わかりました」

簪「おいで、『打鉄弐式』」

使丁「お、おお…………!?」ジー

副所長「感動的なデザインだろう?」

使丁「なあ、いったいこれのどこが『打鉄弐式』なのだ? 見較べるとどこも『打鉄』っぽさが残っていないように見えるのだが」

副所長「当たり前だろう! 本来ISで想定されていた高速戦闘に耐えうるように軽量化を図ったんだから」

副所長「コンセプトも正反対だけど、世界で一番造られている『打鉄』の多種多様のパッケージにちゃんと対応しているから『打鉄弐式』なの!」

使丁「…………『打鉄弐式』なのはよくわかった。」

使丁「けど、そうじゃないだろう! ――――――何故本体に装甲が無いのだ?」

副所長「ん? 何故って……、――――――『当たらなければどうということはない』だろう?」

使丁「ええええええええ!?」

37: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:23:48.50 ID:kNwJPS9B0

一夏「それじゃお願いします、簪さん」

簪「う、うん……」

簪「それじゃ、歩いてみようか」

一夏「お、おわわわわ!(おお! 空を飛んでる!?)」フワッ

一夏「あ、あれ!? どうやって足をつけるんだ、これ……」バタバタ

簪「お、落ち着いて、織斑くん」アセアセ


副所長「まずは、基本的な動作からだな」

使丁「ISについて何も知らなかった子がIS学園に入って2日目でもうIS乗りになるとはな……」

千冬「どんな感じだ?」ヒョコ

副所長「おお、千冬の姐御ではないか。元気でそうで何よりだ」

千冬「そっちこそな」

副所長「今のところ、初心者にありがちな挙動でしかないな」

使丁「ISっていうのは脳波コントロールだもんな」

千冬「そうだ。しっかりと自分の行動をイメージ出来ていないとまともに動かすことすらできない」

副所長「IS適性はBランク。『可もなく不可もなく』ってところだな」

副所長「しかし、向こう見ずなところは、さすがは姉弟といったところだな?」

副所長「――――――“触れれば切れるようなナイフ”のようにな」

千冬「…………昔のことだ。忘れたよ」

使丁「だが、千冬に比べると一夏くんは“箱入り息子”って感じで、ごぼうのささがきみたいにスパスパ切られてしまいそうな印象があるな」

使丁「よくこんな姉を持って穏やかな性格になれたものだ」

副所長「 言 え て る ! 」
          ・・・・・
副所長「ああでも、“愛しの弟君”が作った弁当を大切に口に入れているところが見たことがあるぞ、俺!」ニヤニヤ

千冬「なにっ!?」カア
             ・・・・・・
使丁「なるほど。やっぱり、弟は可愛いか」ニコニコ

千冬「き、貴様ら…………!」ゴゴゴゴゴ
              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
副所長「おっと、俺はパスだ。いくら俺でも姐御の相手なんて無理無理!」
   ・・・・・・・・・・・・・
使丁「決着を着けるか? IS無しで」
       ・・・・・・・・・
千冬「ふふふ。いい訓練相手を得たもの――――――っ!?」ビクッ

使丁「む!」ビクッ


ヒュウウウウウウウウウン! ドスーン!


使丁「な、何が起こった……!?」

副所長「ありゃま……」

38: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:24:33.95 ID:esIQ1gOT0

一夏「いってー、死ぬかと思った……」

一夏「あ、千冬姉…………」ムクッ

千冬「“織斑先生”だ。この馬鹿者」

一夏「すみません……」

簪「大丈夫、織斑くん!?」

副所長「あ、簪ちゃん」

簪「ごめん、なさい……」

簪「私が初心者の織斑くんをしっかりとサポートしないと、いけなかったのに…………」ウルウル

一夏「ああ、大丈夫だよ、簪さん」ニコッ

一夏「こういうのって、初心者によくある事故なんでしょう?」ニコッ

簪「織斑くん…………」

副所長「その通りだ。気にするな――――――ん?」

使丁「どうした?」

副所長「もしかして、「急降下」したのか?」

一夏「はい。そうですけど……?」

副所長「簪ちゃん? 「急降下」と来たら「完全停止」だろう? そんな高等テクニックをどうしていきなり?」
       ・・・・・・・・・
簪「えと……、やれそうだったから?」

副所長「…………」

千冬「…………」

使丁「???」

副所長「いやあ、こいつはたまげたなー」

副所長「さ、トライアルアンドエラーだ。もう一度飛んでみてくれないか?」

一夏「わかりました……」

ヒュウウウウウウウン!

簪「わ、私も……!」

ヒュウウウウウウウン!

39: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:25:13.55 ID:esIQ1gOT0

使丁「…………どういうことだったんだ?」

副所長「思っていた以上に筋がいいってことだ。それに呑み込みも早い」

副所長「あの子はね、歴代の我が国の代表候補生の中ではトップクラスの空間認識能力と脳波コントロール精度の持ち主でね」
         ・・・・・・・・・
副所長「その彼女があんなことを言ったんだ。まぎれもなくIS操縦者としての素養はある」

千冬「PICを自在に使いこなせるようなったら、その後はドライバーの身体能力が勝負に大きく影響してくる」

千冬「――――――そこからがお前の仕事だ、“ゴールドマン”」

使丁「なるほどな」

使丁「これ、冗談抜きに本当に、」


――――――時代を変えるかもしれませんよ?


副所長「やっぱり千冬の弟は“千冬の弟”だったのか」

副所長「これは専用機に乗った時が楽しみだ」

使丁「ところで、来週の月曜までにはその専用機を用意してくれるんだろうな?」

副所長「は? 無理だよ、そんなの。来月中には余裕で完成するけどな」

使丁「あらま……(それじゃ、2週間後のクラス対抗戦にも出せないってことか)」

千冬「………………」

使丁「だが、やれるだけはやらせてもらうさ」

使丁「クラス代表になることが最終目標ではないのだからな」

使丁「トライアスロンでも捨てるところというものがある」

使丁「どこからスパートをかけるのか――――――最後に勝てばいいのだ。最初の失敗はしっかりと糧にすればいい」

千冬「……そうだな」フッ

副所長「よし! だいたいの癖や傾向はわかった。短期間で自分の特徴を出せる辺り、――――――有望ですよ、これは」

千冬「逆に、直すのが困難なぐらい悪癖だったりするから困るのだがな」

使丁「まあ、それはおいおい直していくとして、」


――――――今日の成果は上々だな、一夏くん!



40: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:25:45.54 ID:kNwJPS9B0

――――――ロッカールーム


使丁「さて、一夏くんに差し入れをして――――――」

鈴「あ」

使丁「やあ、鈴ちゃん。今日はどうしたんだ? まあ、気分が優れない日もあるだろうけれど」

鈴「…………訓練はどうなった?」

使丁「4組の更識 簪ちゃんの付き添いで、基本的な動作は頭に入ったようだぞ」

鈴「あ…………」シュン

使丁「…………ほら、これを持って一夏くんのところに行きな」

鈴「あ、でも…………」

使丁「出鼻を挫かれたからってそれで勝負が終わるわけじゃない。最後まで諦めないやつが勝つんだ」


使丁「勝負は終わってみなければわからない」


鈴「!」

鈴「ありがとうございます!」

タッタッタッタッタ・・・

使丁「…………真剣勝負の世界に色恋・ギャンブル・ドラッグは厳禁なんだがな」

使丁「だが、気を許せる相手は段階を分けて幅広く持った方がいい」

使丁「様々な刺激が選手の心に豊かさと強さをもたらし、向上心を高みへと持ち上げるのだから」




使丁「だが、“プロフェッサー”から気になることを言われたな……」

使丁「俺からすれば別におかしいとは思わなかったが、“プロフェッサー”が言うのだから俺も意識しておくべきなんだろうな」

使丁「さて、IS学園というスポーツ校に入ったのだから、一夏くんには一端のスポーツマンになってもらわないとな」


41: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:26:23.21 ID:kNwJPS9B0

一夏「『何とかなりそう』な気はしてきた……(だけど、不慣れなことをして結構疲れたな…………)」ハア

鈴「お疲れ、一夏」

鈴「初めての訓練――――――、その様子だといい感じのようね?」

鈴「はい。差し入れ」

一夏「何だお前? 今日は朝食の時に顔を合わせたっきりだったけど随分と機嫌が良くなったな」

一夏「ともかく、サンキュな」

鈴「えっへへん、まあね」

鈴「………………ちゃんと気持ちの整理をつけてきたんだから」ボソッ

一夏「え」

鈴「……やっと二人っきりだね」モジモジ

一夏「ああ、そうだな……」ゴクゴク

鈴「一夏さ、やっぱ私がいないと寂しかった?」

一夏「まあ、遊び相手がいなくなるのは大なり小なり寂しいだろう?」

鈴「そうじゃなくてさ……」

鈴「久し振りに会った幼馴染なんだから、いろいろと言うことがあるでしょう?」

一夏「あ、そうだ。大事なことを忘れていた!」

鈴「!」ドキッ

一夏「中学の時の友達に連絡したか? お前が帰ってきたって聞いたらすげー喜ぶぞ」ニッコリ

鈴「うええ……、――――――じゃなくて!」

鈴「例えばさ――――――」

一夏「それと、今日はお前と一緒に訓練できなかったけど、明日からは大丈夫か?」

鈴「へ」

一夏「頼む! 月曜日のクラス代表決定戦まで手を貸して欲しい!」

一夏「――――――この通り!」バッ

鈴「な、ちょっと…………」

鈴「もう、しかたないわね……」ハア

鈴「別に月曜までじゃなくて、――――――ずっと付き合ってあげたって、い、いいわよ?」プイッ

一夏「そうか! ありがとう! すっげー助かる!」ギュッ

鈴「あ……(一夏の手、こんなに大きい…………それに汗の臭いも…………)」ドクンドクン

一夏「それじゃ、身体も冷えてきたし、汗を流すから行くな?」

一夏「明日からよろしく、鈴!」ニッコリ

鈴「あ…………」


鈴「何よ、せっかく心の準備までして臨んだっていうのに、肝腎なこと何一つ言えなかったじゃない…………馬鹿ぁ」



42: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:26:54.98 ID:esIQ1gOT0

それから、織斑一夏はたくさんの人の協力を受けて月曜日のクラス代表決定戦とテストのために、ISについて座学と実習を懸命に学んだ。

――――――座学


使丁「では、Q.ISの基本システムは?」

一夏「A.『パッシブ・イナーシャル・キャンセラー』」

使丁「次に、Q.そのPICを発展させた第3世代兵器とは何か?」

一夏「えと……、A.『AIC』」

使丁「よし、正解としよう。で、『AIC』は『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』の略」

一夏「ああ、そうだった……」

使丁「まあ、これぐらいでいいだろう。他にも詰め込む知識はいっぱいあるんだから」

一夏「本当にありがとうございます。わざわざ生徒たちから入試の内容の聞き込みまでしてもらって」

使丁「思ったよりも学校用務員としての仕事が無くて暇だったからな。用務を取り仕切っている轡木さんには頭が下がります」

使丁「で、入試問題そのものを手に入れることはできなかったが、――――――聞き込みの結果、これで傾向は掴めたぞ」

使丁「このデータ、赤本にして売ろうかな?」

一夏「ははは……、それじゃ時間ですし――――――」

使丁「ああ。今日はおやすみ。明日も早いぞ?」

一夏「はい。ちゃんと明日の分の軽食も準備出来ています」

使丁「よろしい」


43: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:27:31.85 ID:esIQ1gOT0

――――――実習


鈴「それじゃ、よろしくね、簪」

簪「はい。よろしくお願いします」

一夏「協力ありがとう、二人共!」ニッコリ

鈴「い、いいってことよ、これぐらい……」

簪「それで、イギリスの『ブルー・ティアーズ』と戦って勝つための訓練をするんですよね?」

副所長「そうそう。で、ここに『ブルー・ティアーズ』のデータがある」

一夏「えっと、欧州で進められている第3世代型開発推進計画の『イグニッション・プラン』に使われたPVですか?」

副所長「お、よく勉強しているね(正確には欧州連合の統合防衛計画――――――まあいいや)」

一夏「ははは、“ゴールドマン”の前だと絶対にやらなきゃっていう気になっちゃいますからね」

副所長「さて、このPVから最新鋭の第3世代型ISの典型的な弱点が浮き彫りになっている」

副所長「Q.それは何か? PVが終わってから30秒以内に答えろ」

一夏「え、えええ!?」

一夏「えっと、第3世代型ISっていうのは、第3世代兵器を持っているやつのことだろう?」

鈴「そうそう」

一夏「ううん!? 誘導兵器を飛ばしてくるなんて聞いてないぞ!」

副所長「後、半分ぐらいで終わりかな?」

一夏「ええ!? えと、第3世代兵器はイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器のことだったっけ……」

簪「うん」

一夏「え? つまり、イメージして動かすってこと、なんだろう?」

副所長「PV終了。後、30秒だ」チチチチチチチ・・・

一夏「ええっと…………!」アセアセ

鈴「一夏! Q.ISの基本システムは?」

一夏「A.PICだろう――――――あれ? となると、そういうことになるのか?」

副所長「ほう」

一夏「…………すみません。もう一度見せてもらえませんか?」

副所長「いいだろう。50点はくれてやるから、リトライだ」

一夏「はい」


44: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:28:23.47 ID:kNwJPS9B0

一夏「………………」ジー

一夏「あ! やっぱり!」

鈴「ホッ」

一夏「あの誘導兵器を使っている時は『ブルー・ティアーズ』が動いていない!」

一夏「PICとイメージ・インターフェイスが……被って行動ができなくなってるんだ!」

一夏「A.『ブルー・ティアーズ』は毎回命令を送らないと動かない! しかもその時、本体はそれ以外の攻撃ができない! 制御に意識を集中させているからだ!」

副所長「Excellent!」パチパチパチ・・・・・・

副所長「しっかりと基本を理解できているようだな。ISの起動が今日で、ひ、ふ、み……3回目とは思えないな」

副所長「その通り。『こいつ』は第3世代兵器である機体と同名の誘導兵器『ブルー・ティアーズ』を活かすためだけに組まれた、――――――欠陥機だ」

副所長「無防備になることを踏まえた上で遠距離射撃型にしたという妥協しまくりのふざけた機体だ」

副所長「まあ、ハイパーセンサーの改良あるいは誘導兵器に運用データを入れれば、PICが使用不能になる欠陥は克服されるとは思うけどな」

副所長「はっきり言って、『ブルー・ティアーズ』は完成機を造るための捨て石というわけだ」

副所長「この弱点を突くんだ」

副所長「まあ、ISに究極の完成機などまだまだ形になっていないから欠陥機もないのだがな」

簪「でも、弱点はわかっても、間合いを取られたらどうしようもなくなる…………」

副所長「心配するな、簪ちゃん。ISの戦闘スピードは従来兵器の比ではない。ハイパーセンサーで認識力が強化されても肉体がそれに追いつくことはない」

副所長「懐に飛び込んでしまえば格闘機の方が有利なんだよ」

副所長「お前の姉はそうやって並み居る雑魚を蹴散らして“ブリュンヒルデ”となったんだ」

一夏「おお!」

副所長「よって、お前が使う『打鉄』は簪ちゃんの『打鉄弐式』と同じく機動性を重視した調整をさせてもらった」

副所長「お前に渡す専用機も高機動強襲型の格闘機だから、安心して乗り換えてくれ」

副所長「いやむしろ、――――――パワーアップするから今のうちに乗りこなしてみせろ、“千冬の弟”よ!」

一夏「おお!(さっきからこの言葉しか出ない! それぐらい感激だ!)」

副所長「だが、さすがに調整したとはいえ、完全に対応しきれるほどの機動性は確保できなかった。元が元だけにな」

副所長「『打鉄』用の高機動パッケージを使えば何とかなったかもしれないが、『打鉄弐式』の設計が終わった後に譲渡しちまった…………」
          ・・・
副所長「だから、ある奥の手を仕込ませてもらったよ?」ニヤリ
         ・・・
一夏「――――――奥の手?」ゴクリ

簪「あ、副所長――――――!?(あの顔をしている時は絶対に掟破りをする時だよ!)」

鈴「何々? これだけ盛り込んだんだから、最後まで言いなさいよ」

副所長「ふふふ、それはな――――――」






45: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:29:35.35 ID:kNwJPS9B0

鈴「どうしたの、一夏!?」ガキーン!

一夏「く、くそっ!(なんて重たい攻撃なんだ……!)」

鈴「そんなんじゃ私のISには勝てないわよ!」ブンッ!

一夏「うわあ……!?」


簪「でやあああああああああ!」ガキーン!

一夏「く、くそう……!(『打鉄』から派生した機体とは思えない身のこなしと、簪さんの薙刀捌き――――――!)」

簪「脛!」

一夏「なっ!?(足への攻撃なんて剣道じゃ反則だろう…………!?)」










一夏「はあ…………」ガクリ

副所長「ま、初心者だから当然だね」

副所長「これで代表候補生と自分との間の力量差というものをよっく理解できただろう?」

副所長「よく刃向かう気になったもんだな?」

一夏「うう…………」

副所長「そういうところは本当に千冬に似てはいるけど、――――――口だけだな」クケケケ

一夏「くそっ」イラッ

副所長「うん。“触れれば切れるナイフ”――――――、中学時代の千冬はそんなふうに誰にでも怖い顔をしていたよ?」

一夏「…………っ!」

副所長「織斑一夏」ビシッ

一夏「……は、はい(急に雰囲気が!? これって昔の千冬姉の気と似ている――――――!?)」ビクッ


副所長「いいか。間違っても“織斑千冬”になろうとするな」


一夏「え」

46: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:30:45.14 ID:esIQ1gOT0

副所長「お前はド素人で身体も訛っている上に戯け者だ」

副所長「お前と同じ歳で、誰にも負けない力、親無しでも生きていける知恵、強靭な意志を持っていた織斑千冬と比べること自体がおこがましいんだ!」

一夏「!!??」

副所長「お前はこれまで、ISのことや織斑千冬の普段の姿ついて何も知らなかっただろう」

副所長「そのお前が、たまたま姉と同じようにISを扱えるようになったからって、」

副所長「――――――“織斑千冬”に成り切れるなんて思うな」

一夏「お、俺は別にそんな――――――!」

副所長「まあ、そんなことは今は重要じゃない」

副所長「……これだけは聴かせろよ?」


副所長「お前は勝ちたいか、あのタレ目女に? どんな手を使ってしても!」ゴゴゴゴゴ


一夏「えと…………(こ、言葉が出ない…………千冬姉以上に俺は怯えているのか?)」

副所長「はっきりしろ! こっちとしてはな、お前の無茶に道楽として付き合うにも限度というものがあるんだっ!」

副所長「このまま行けば無残に負けて、――――――“日本男子の恥晒し”“女が強いご時世で無闇に刃向かった愚か者”になるぞ!」

副所長「お前はそのことを考えたことはあるのか!?」

一夏「くっ…………(俺は、俺は――――――)」ググッ

副所長「(本当に手間のかかる姉弟だ。御しやすいんだか、御しやすくないんだか…………)」フフッ

一夏「……………………勝ちたい」ワナワナ

副所長「何ぃ? 聞こえんなー」


一夏「勝ちたい!! 俺はセシリアに勝ってみんなの鼻を明かしてやるんだっ!!」


副所長「よく言った!」

一夏「あ」

副所長「その意気を忘れるなよ? お前が自らに課したものの重みを力に変えろ」

一夏「あ、ああ…………(何を戸惑っているんだ、俺は…………)」

副所長「返事は全て『はい』だ! 男なら自分の言った言葉に責任を持てぇい!」

一夏「は、はいっ!」ビシッ

副所長「(これぐらい発破をかけておかないと、いいデータは取れないからな。この際、基本技術云々よりもモチベーション重視だ)」

副所長「(この子は何もかもが不足している。ならば、簪ちゃんが感じ取った才能と千冬譲りの勝負強さが上手く働くことを期待する)」

副所長「よし、『ブルー・ティアーズ』打倒のために、明日は実戦で役に立つ技術を浅く広くでいいから学んでもらうぞ」


副所長「まずは、――――――「高速切替」だ」



47: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:31:20.43 ID:kNwJPS9B0

――――――夕食後


使丁「なるほど。昔の感を取り戻したいと」

一夏「自慢じゃないけど、小学生の時は結構剣道は強かったと思ってます」

使丁「ふうん。なら――――――」ブン!

一夏「――――――っ!?」ピタッ

使丁「この砂と水を詰めた一升瓶を自在に振り回せるようになれば十分だ」

一夏「は、はい…………(ピタッて止まった! やっぱり凄いや、この人!)」アセタラー

使丁「どうやら、“プロフェッサー”に活を入れてもらったようだな」

一夏「あ、わかりますか」

使丁「ああ。眼の色が全然違うよ。それは勝利に喰らいつくハングリー精神の現れだ。いい傾向だぞ」

使丁「それに、俺としてはこの決闘については、勝てずとも一矢報いるぐらいはやってもらいたいと思っているんだ」

一夏「……どうしてです?」

使丁「あのセシリアって子は、スポーツマンシップに悖る問題発言をした」

使丁「いいか? ISはスポーツだ。決して自己顕示のための道具でもなければ、他者を貶めるためのものでもない」

使丁「そして、世界の国々を繋ぐものなんだ」

使丁「勝って誇るのは勝者に与えられた当然の権利だ」

使丁「だが、それだけで相手の全てに優越しているなどと考えてもらっては困る」

使丁「真のスポーツマン精神がもたらすものは、互いの技術力や健闘を素直に褒め称えられるような競争相手への尊敬の念なのだからな」

使丁「第2回『モンド・グロッソ』を不戦勝で優勝したイタリアの……何とか選手が“ブリュンヒルデ”の称号を辞退したのなんて、まさにそれだろ?」

一夏「…………はい、そうですね」

使丁「俺は一夏くんみたいに女尊男卑の風潮についてどうのこうの言うつもりはない」

使丁「ただ、国の代表として国際交流の場に送り込まれたのなら、外交官になったつもりで他国へのリスペクトを忘れてはならない」

使丁「ISというスポーツを通じて、国際協調や相互理解の精神を養い、切磋琢磨して自分たちの技能向上を目指すための場所が“ここ”なのだ」

一夏「はい」

使丁「ともかく、4月が終わるまでは相部屋だから、できるかぎりの協力をさせてもらうよ」

一夏「ありがとうございます」


48: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:31:47.90 ID:esIQ1gOT0

こうして、強力なコーチたちの指導の下で、あっという間に時は進んでいった。

その様子は“世界で唯一ISが扱える男性”の入学の衝撃の興奮が冷めきらない学内で持ちきりの話題となり、


一夏「よし。アリーナに行くか!」

鈴「行くわよ、一夏ぁ!」

一夏「ああ」

周囲「イッテラッシャーイ! ガンバッテー、オリムラクーン!」

セシリア「…………」


そして、決戦の時が訪れるのであった。




49: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:32:38.71 ID:kNwJPS9B0

――――――週明けの月曜日、アリーナ


一夏「今までありがとうございました、みなさん!」

使丁「うん。いい目をしている。気合も十分だ。後は自分の心の声に従うのだ」

一夏「はい!」

鈴「ここまで付き合ってあげたんだから、きっちりとお礼はしてよね?」ニィ

一夏「ああ!」

簪「その、……頑張ってね」

一夏「簪さんもありがとな。4組だから顔を合わせづらいし、今の時間は1組以外は普通に授業中なのに、駆けつけてくれて本当にありがとう」

副所長「さて、休日も惜しんでの訓練の日々、ご苦労だった。今日で私とも一旦お別れだ。5月の専用機を待っていてくれ」

一夏「はい。楽しみにしています」

副所長「…………上手くやれよ? それが勝利の鍵だ」コソッ

一夏「」コクリ

――――――
千冬「気分はどうだ?」
――――――

一夏「すこぶるいいです。敗ける気がしない」

――――――
千冬「そうか」フフッ
――――――


一夏「それじゃ、行ってきます!」


鈴「負けんじゃないわよー!」

副所長「さて、俺は管制室で千冬と一緒に見物するか」

副所長「お前たちはどうするんだ?」

使丁「俺には技術的なことはわからないし、静かにこのピットのモニターから見ているよ」

使丁「それに俺は専属コーチだからな。迎える準備をしているよ」

鈴「そ、それなら私も…………」

簪「私は、本音たちと一緒に観客席で見ることにする」

副所長「それじゃ、――――――織斑一夏の初陣だ!」


50: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:33:33.54 ID:kNwJPS9B0

一夏「基礎訓練は用務員さんから、機体調整は副所長が、ISの操縦指導は代表候補生二人が――――――!」

一夏「ここまでお膳立てしてもらって、敗ける気がしねえ!」

一夏「っと!(これが本物の『ブルー・ティアーズ』! ――――――倒すべき目標!)」

セシリア「…………」

セシリア「最後のチャンスをあげますわ」

一夏「チャンスって?」

セシリア「私が一方的な勝利を得るのは自明の理――――――、今ここで謝るというのなら許してあげないことはなくってよ?」

一夏「そういうのはチャンスとは言わないな」

一夏「そうだ、それがイギリス自慢の自虐ジョークってやつか?」

セシリア「どういう意味かしら?」

一夏「イギリス人の言うことは常に反対のものを指してるんだよな?(つまり、先程のチャンスの内容を裏返すと――――――)」

セシリア「…………!」

セシリア「わかりましたわ。そこまで言うのでしたら、」

一夏「!」 ピィピィピィ


セシリア「お別れですわね」ジャキ、バヒューン!


一夏「ぐわああ!」

――――――

鈴「!」

使丁「ありゃま……」

――――――

山田「あ!」

千冬「…………」

副所長「おっと、間に合ったか――――――って、開幕直後の先制攻撃か」

――――――

51: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:34:28.80 ID:esIQ1gOT0

一夏「くそっ! 卑怯だぞ!(試合開始のアナウンスなんてまだだろう!)」クルッ

セシリア「む……(――――――体勢を立て直すのが想像以上に速い!? 明らかに初心者離れした動きですわ)」

――――――

本音「おー」

簪「練習の成果が出たね、織斑くん」

――――――

一夏「うわあっと!(副所長が言った通り、本当にギリギリの調整だ! 俺がしっかりしないと確実に敗ける!)」

セシリア「さあ、踊りなさい! 私、セシリア・オルコットと『ブルー・ティアーズ』が奏でるワルツで!」バヒュン、バヒュン!

一夏「くぅ……(4発に1発中てられるんじゃジリ貧だ。とにかく中らないように近づくんだ!)」

セシリア「遠距離射撃型の私に、訓練機が近づけるとお思い?」


セシリア「笑止ですわ!」

            ・・・
一夏「おっと!(まだだ。奥の手を使うタイミングはここじゃない! もっと近づいて、相手の気を逸らすんだ!)」

――――――

鈴「…………よく粘るわね、一夏」

使丁「ああ。操作感覚がわからないからどうとも言えないが、ISドライバー歴1週間の動きじゃないことは俺でもわかる」

――――――

山田「凄いですね。ここまで粘り強く戦えるなんて……」

副所長「そこまで意外でもないよ」

千冬「ふん。お前らしいやり方だな、“プロフェッサー”?」

副所長「どうもどうも」

山田「えと……、何をしたんです、織斑くんに?」

副所長「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」

副所長「そして、“口は災いのもと”ってことさ」

山田「な、なるほど…………」

千冬「薄く広く『ブルー・ティアーズ』対策に必要な技能を教えこんだ後は、モチベーションを高めて勢いで実力差をカバーしたといったところか」

副所長「ああ……、さすがは人を育てる人種だわ。昔だったら考えつかなかったろうに、今では俺の考えていることが理解できるか…………」

千冬「甘く見るなよ」

副所長「へいへい。さすがは姐御だ」

千冬「だが、お前のやることだ。普通にやったら勝てないこの勝負をどうひっくり返すつもりでいる?」

副所長「それは、まあ見てからのお楽しみということで」

千冬「…………」

――――――

52: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:35:03.79 ID:kNwJPS9B0

セシリア「この『ブルー・ティアーズ』を前にして、乗りたての訓練機で初見でここまで耐えたのはあなたが初めてですわね」

セシリア「褒めて差し上げますわ」

一夏「そりゃどうも(さすがにキツイな。けど、まだいける!)」

セシリア「でも、そろそろフィナーレと参りましょう!(――――――『ブルー・ティアーズ』よ、敵を撃て!)」

一夏「――――――っ!(――――――来た、誘導兵器!)」

一夏「さすがに――――――(――――――避けきるのは難しいか)」

一夏「なら――――――!」

セシリア「――――――左足! もらいましたわ!」ジャキ

                           ・・・
一夏「今だああああああああ!(誘導兵器が戻っていく間隙――――――今こそ、奥の手だああああああ!)」ヒュン


セシリア「なっ!?(…………避けられた!? あり得ない! 機動力を調整していたとしてもあれだけの機動力は!?)」

一夏「でやああああああ!」ブンッ

セシリア「くっ!(こんなにも速いなんて――――――無茶苦茶ですわね!)」アセタラー

一夏「ちっ!」

――――――

鈴「ああ、惜っしい!」グッ
                 ・・・
使丁「ついに使ったか、――――――奥の手を」

使丁「さあ、ここからが正念場だぞ。スパートを掛けたのだからな」

――――――

山田「い、いったいどうすれば『打鉄』でこれほどの機動力を――――――はっ!?」

山田「織斑先生! 大変です! 織斑くんの『打鉄』のエネルギーが原因不明の消耗をしています!」

千冬「…………何か仕込んだのか?」

副所長「さあ、何のことでしょうね? シールドバリアーの設定が反応過剰になっちゃったのかな?」

千冬「…………アリーナを使用できる時間は限られている」

千冬「試合は続行だ」

山田「織斑先生……!」

――――――

53: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:36:09.37 ID:esIQ1gOT0

セシリア「ここまでやるだなんて――――――」

セシリア「けれど、無駄な足掻きですわ!(――――――『ブルー・ティアーズ』!)」

一夏「――――――いける!(時間制限がきついけど、今のスピードなら対応できる!)」スパッ

セシリア「っ!?(――――――斬られた、ですって!?)」

一夏「よし!(イメージ・インターフェイスで自由に動くとは言っても、4つを同時に動かすとなったら命令が極端なものにしかならない!)」スパッ

一夏「残り2基!(だから、誘導兵器の動きは必ず俺の身体の反応が遠いところを狙ってくる! 数に惑わされるけど、複雑なようでいて実は単純だったんだ!)」

一夏「距離を詰めればこっちが有利だ!」

セシリア「そう簡単に行くとお思い!」ジャキ、バヒューン!

一夏「(よし。ここは一旦間合いを取って『ブルー・ティアーズ』が再発射されるのを待つんだ。――――――ここまでは副所長の言った通りの展開だ!)」ヒュン

セシリア「数は減りましたけれど、逆に精密さは上がりますわ(今度こそ! ――――――『ブルー・ティアーズ』!)」

一夏「――――――っと!(――――――今だ! これで決めてやる!)」

一夏「そっちこそ! 自分が格好の的になっていることを忘れるなよ(――――――「高速切替」!)」ジャキ

セシリア「なっ!?」ビクッ

――――――

山田「え、あれは『ラファール・リヴァイヴ』用のライフル!? 標準装備のアサルトライフルではない!?」

千冬「…………」チラッ

副所長「どうかしましたー、織斑先生?」

千冬「まあ、後付装備ぐらいは目を瞑っておいてやる」

山田「これは「高速切替」――――――!?」

山田「こんな高等技術を短期間でものにするだなんて――――――」

千冬「落ち着け、山田先生。これはブラフだ」

千冬「射撃訓練も満足にできず、しかも中距離以遠の火器管制システムまで載せる余裕もなかったはずだから、撃ってもまずあたらん」

千冬「本当の目的は、飛び道具を持っていることを『ブルー・ティアーズ』を使用して未防備になった隙に見せつけることで、揺さぶりを掛けることにあるのだろう」

千冬「そして、揺さぶられてできた思考の空白を突いて接近戦でケリをつけようという魂胆だ」

千冬「とにかく近づきさえすれば、近接戦闘用装備を全く持たない『ブルー・ティアーズ』の負けは確定するのだから、それを念頭に置いたトリックだ」

山田「な、なるほど……」

千冬「相手の意表をついて無理やり勝利をもぎ取ろうというこんなやり方を考えられるのは、――――――やはりお前しかいないな」

副所長「」ニヤリ

千冬「フッ」

千冬「だが、そう上手く行くものかな?」

――――――

54: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:36:46.77 ID:kNwJPS9B0

一夏「行けええええ!(あたれ、あたれえええ!)」バン、バン!

セシリア「くっ!(しかし、やはり素人! 射撃がなっていない! この程度は避けずとも中りませんわ!)」アセダラダラ

一夏「けど、距離は稼げた! もらったあああああああ!(――――――「高速切替」準備!)」スッ


セシリア「掛かりましたわね! 4基だけではありませんのよ!」ガコン!


一夏「うおおおおおおおおお!」ピィピィピィ

セシリア「へ――――――(どうして突撃を止めないのですか!? それがカミカゼというもの――――――!?)」


チュドーン!


――――――

鈴「一夏!」ガタッ

使丁「…………」ジー

――――――

千冬「…………」ジー

山田「『打鉄』、エネルギー残量は0――――――」

副所長「ふふふふ……」





――――――ところがどっこい!





――――――

55: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:37:32.29 ID:esIQ1gOT0

一夏「うおおおおおおおおお!(――――――「高速切替」! 抜刀おおおおお!)」ガキーン!

セシリア「きゃあああ!?」

セシリア「ど、どういうことですの――――――!?(――――――装甲が無くなった!? 絶対防御が働いているISで!?)」

セシリア「あ!(――――――しまった! 『スターライト』が!?)」バチーン!

――――――

観衆「おおおお!」

簪「凄い。『ブルー・ティアーズ』の狙撃銃を叩き落とした……! これでもう打つ手なしだね」

――――――

山田「え、シールドエネルギーは――――――ほとんどギリギリ残った!?」

山田「ですが、叩き落とされた『ブルー・ティアーズ』のライフル以外の何かが落ちてますね……」

千冬「!」ギロッ

副所長「あ、やべ…………」

千冬「学園の装備に勝手に改造を加えただけじゃなく、器物損壊までするとはな…………」

千冬「 こ の ツ ケ は 払 っ て も ら う ぞ 」ゴゴゴゴゴ

山田「ど、どういうことですか!?」

千冬「山田先生にわかりやすく説明しろ」グリグリグリ

副所長「ああああああああ! わかりましたわかりました、わかりましたよ、姐御――――――がふっ!」ガンッ

千冬「“織斑先生”と呼べと言っているだろうが、馬鹿共がああああ!」

山田「えっと、それで――――――?」

副所長「簡単に言うと、今回の調整では機動性に特化するために装甲に使うシールドエネルギーは最小限にした上に、」

副所長「一部の装甲を外せるようにして、至近距離でのミサイル・ビット対策の盾として使わせてもらいました」テヘッ

副所長「シールドバリアーを張っていない盾がミサイルの直撃を防いでくれたので、」

副所長「機体全体のエネルギー消費量と本来受ける総ダメージ量が減ったわけで、首の皮一枚繋がったというわけです」

副所長「やってくれましたよ、彼!」

副所長「ざまあみろ、『ブルー・ティアーズ』め!」ハハハハハ!

山田「す、凄い…………!」

千冬「いや、残念だがここまでのようだ。よく見てみろ」

副所長「あ、まあ……、うん」

――――――

56: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:38:09.43 ID:kNwJPS9B0

一夏「これで勝負ありだあああああああああ!」ピィピィピィ、プゥゥゥン・・・

セシリア「…………っ!(まさか、こんな――――――!)」アセダラダラ


ピーーーーーーー!


アナウンス「試合終了! 勝者、セシリア・オルコット」


一夏「え――――――あっ!?(――――――時間切れ!?)」

セシリア「え……、え?」キョトーン

一夏「そ、そんな…………(後もう少しだったのに…………)」

――――――

鈴「…………間に合わなかった」

鈴「惜しかったわね、一夏」

使丁「だが、試合に負けても勝負には勝っていた。ただ負けるにしてもいい試合内容だったよ」ニコッ

鈴「本当ね。これからが楽しみだわ」ニコニコ

使丁「ああ、そうだとも(ただ、ドーピングとも言えるやり方だったのが気に入らないがな)」

――――――

57: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:39:02.60 ID:esIQ1gOT0

周囲「ナンダッタンダローネー?」
周囲「デモ、オリムラクン、オシカッタヨー」
周囲「ソレニ、カッコヨカッター!」

本音「凄かったね、おりむー」

簪「うん」

簪「…………織斑くん」


          ・・・
副所長『だから、ある奥の手を仕込ませてもらったよ?』ニヤリ
         ・・・
一夏『――――――奥の手?』ゴクリ

簪『あ、副所長――――――!?(あの顔をしている時は絶対に掟破りをする時だよ!)』

鈴『何々? これだけ盛り込んだんだから、最後まで言いなさいよ』

副所長『ふふふ、それはな――――――』


――――――リミッター解除だ。


鈴『え……』

一夏『???』

副所長『わかりやすく説明すると、』


――――――機体の限界以上のスペックを引き出して自壊するのを無理やりシールドバリアーで防いで、その間だけパワーアップする!


副所長『ってことだ』

副所長『要は、シールドエネルギーを糧に時間制限付きのパワーアップを施す装置を入れておいた』

副所長『ただし、一度発動させたらエネルギー切れになるまで続く』

副所長『使いどころを見誤らなければ、遠距離射撃型の姿を隠していないスナイパーの懐なんて余裕で飛び込めるさ』

副所長『それに、被弾を抑えればこの『打鉄』の燃費はいいから意外と長持ちするぞ。おすすめだ』

副所長『だが、それだけじゃ『ブルー・ティアーズ』の懐に飛び込むのは自殺行為でしかない』

副所長『ちゃちな迎撃装備が一応付いているからな。それで勢いを削がれては元も子もない』

副所長『本当は「イグニッションブースト」が使えればいいんだけどたぶん習得までの時間が足りないだろうから、これで何とか勝て』

副所長『わかったな、“千冬の弟”?』

一夏『はい!』

鈴『……本当はよくわかってないでしょう』

一夏『あ、……はい』

副所長『大丈夫だ。こういうのは実際に体験してみないとわからないからな』

副所長『早速試すんだ』

一夏『はい!』

簪『………………』


簪「凄いんだね、織斑くんは」


58: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:40:10.72 ID:esIQ1gOT0

――――――その夜


一夏「負けちゃったな…………(あれだけのお膳立てをしてもらって、十分に勝てたはずなのに――――――!)」ハア

使丁「こんなところにいたのか、一夏くん」

使丁「補導の対象になるから早く寮に帰りなさい」

一夏「…………用務員さん」

使丁「それと、――――――温かいココアはいかが?」スッ

一夏「ありがとうございます」






一夏「…………勝てる相手だったのに負けてしまいました」

一夏「スパートを掛けるタイミングが悪かった――――――いや、やっぱり代表候補生との実力の差が出たってことですよね」

使丁「そうだな。対戦競技の世界は常に自分と相手しかいないものだ」

使丁「一夏くんがあのタイミングでスパートを掛けることを決断したのも、極論相手の出方によるものだった」

使丁「だから、『もう少し粘るべきだった』――――――己の判断ミスに帰することになるな。極論だが」

一夏「…………はい」

使丁「だが、今日の敗北は数ある敗北の中でも一番勝利に近いものだっただろう?」

使丁「これはビギナーズラックなどではない」

使丁「ISに乗って間もないきみが代表候補生をここまで追い詰めることができたのだ」

使丁「むしろ、きみの中の可能性を多くの人が認識する結果になったんだ」

使丁「だから、今はそれでいい。それから織斑先生の指導の下でじっくりと実力を蓄えていけばいいのだから」

一夏「はい」

59: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:40:52.51 ID:kNwJPS9B0

使丁「それに、良い報せがあるぞ?」

一夏「何ですか?」


使丁「テスト、満点だったよ」


一夏「あ!」

使丁「明日にも返却されるだろうけれど、努力はこうして実を結んでいっているんだ。自信を持て」


使丁「今日の敗北を次の糧として、最後に自分が思うように勝ちなさい」


使丁「いいね?」

一夏「はい!」

使丁「さてと、長話が過ぎたな。それじゃ、俺は夜回りに戻る」ゴクゴク

一夏「明日の準備はしておきますね」

使丁「ありがとう」

使丁「あ、そうだ」

一夏「何ですか?」

使丁「ISの訓練はとりあえず急ぐ必要なくなったから、今度は基礎体力を付けないといけなくなったな」

使丁「どうだ? 今度、トライアスロンに出てみない?」

一夏「え、それは、そうですけれど…………」

使丁「一度はやってみなよ。『俺はこれだけのことはやってみせた』っていう他に代えがたい自信が身につくぞ」

一夏「!」

一夏「…………わかりました。ちょっと考えてみます」

使丁「うん。良い返事だ」

使丁「では、お疲れ様でした。おやすみなさい、一夏くん」

一夏「はい。本当にありがとうございました! おやすみなさい!」




一夏「………………温かい」ゴクゴク




60: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:41:59.64 ID:esIQ1gOT0

ここまでの状況の整理:第1話
原作との違いに説得力を付けるために、
・織斑千冬の中学時代の同級生たち“奇跡のクラス”の存在
を付け加えている。

キャラの概要
織斑一夏
改変度:B
例のごとく究極の朴念仁で向こう見ずな性格なのだが、良き大人の支えもあってしかも同室してくれる頼れる大人の存在で、かなり余裕を持った落ち着きを見せている。
また、千冬姉の同級生たちとの関わり合いで徐々にアスリートの精神に目覚めていき、効率的な指導のおかげで無理なく地力を上げていき急成長することになる。
ただし、その分だけ独力でどうにかしなければならないという逆境がなくなり、安定感は出たが爆発力は抑えられた。

また、5月になるまでは『白式』には乗っていないので、『零落白夜』に頼った短期決戦を積極的に狙うような戦闘ルーチンは構築されず、
逆に、クラス代表決定戦で見せた粘り強さと丁寧な立ち回りを重視する戦い方を覚え、燃費の悪い第3世代型に対して持久戦の我慢勝負を挑む面も見られるようになった。


凰 鈴音
改変度:A
この設定の変更で一番得をしたキャラ。
なにせ物語開始当初は恋のライバルと言える存在がおらず、唯一の幼馴染としてIS学園に戸惑う一夏の精神安定剤の役割を独占できたのだから。
更に、良き大人の相談相手もいたことで自分の気持ちに素直になっており、短気な性格も大人が見ている手前では自然と抑えられている。
しかし、それだけにこれからが大変となっていく…………


セシリア・オルコット
改変度:B
チョロインの代表格として有名な人物だが、第1話が終わった段階では一夏を見直した程度の好感度である。
つまり、チョロインとしてのセシリア・オルコットは今作では見られないという貴重な流れとなった。
腐れ縁となるはずの鈴とは一夏を巡って対抗心を燃やしていないので、普通にリスペクトしている。


更識 簪
改変度:A
原作だと、2学期になるまで『白式』の開発や後付装備の開発に全ての人員が取られて、
7割(実質的に機体フレームだけ)完成したところで放置されるという憂き目に遭い、
そのことで一夏を恨み、姉へのコンプレックスを悪化させることになった。

しかし、今作では予定通りに専用機『打鉄弐式』が完成し、その後に『白式』の開発されるので、最初から専用機持ちとして登場している。
なので、一夏に対する恨みもなく、また良き理解者も付き添っていることで姉へのコンプレックスも抑えられた状態で、極めて良好な状態となっている。

一夏に対しては、学園のみんなと同じように少しばかり興味関心があり、訓練に付き合うことで少しずつだが距離は縮めている。


篠ノ之 箒
改変度:S
原作でのメインヒロインは入学しませんでした。了――――――ではない!

ちゃんと登場しますので、どんな扱いかはご想像しながらお待ちください。


織斑千冬
改変度:C
彼女自身の立ち位置そのものは変わっていないが、今作では織斑千冬の中学時代を題材にして改変されており、
これまで筆者のREWRITEは織斑一夏とISの世界設定を中心にして脚色してきたが、今作では逆に本編では語られない裏話や補完を目指した趣向となった。

中学時代の同級生たちが登場することで、若干孤高の性格に丸みがついた。本人としてはそれぐらいしか変更は加えられていない。



61: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:42:37.17 ID:kNwJPS9B0

3人のキーパーソンたち

そして、その物語の分岐点を担った今作でメインとなる“3人の男たち”は、

――――――別名:死亡フラグの塊


・担当官 支援先:篠ノ之 箒
篠ノ之 箒の重要人物保護プログラムの担当官であり、長年箒の成長を見守ってきた人物。
保護対象であった篠ノ之 柳韻の頼みもあって、一家離散後は最終的な保護対象となった篠ノ之 箒の気持ちを第一としており、孤独だった箒に微力ながらも尽くしてきた。

・使丁 支援先:織斑一夏(&凰 鈴音)
織斑千冬が召喚した人物であり、表向きは学園用務員として雑務に従事しているが、
実は織斑一夏を短期間で鍛えあげるために呼ばれたトライアスロンと柔道のオリンピック金メダリストである。
また、護身術にも心得があり、体を鍛えるために軍の特殊訓練にも参加したことがあるほどの根っからのアスリートである。

彼の存在によって、ハイスピード学園バトルラブコメは、健全なスポーツマンシップへの道を綴ったスポーツドラマになってしまった。
その存在の影響力により、逆境には頻繁に置かれることになるが、修羅場は潰してしまうので、色恋沙汰を期待している読者にとっては受け付けない人物かもしれない。


・副所長 支援先:更識 簪
倉持技研の第1研究所副所長の設計技師。元々はバイクや楽器を造る大手製造メーカーで設計技師をやっていた。
この物語では、『打鉄弐式』の設計者・開発責任者として登場しており、更識 簪の良き理解者として励まし続けている。


62: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:43:35.51 ID:esIQ1gOT0

第2話 クラス対抗戦
Farewell for Growth


一夏「結局、クラス代表はセシリアになっちゃったな…………別になりたかったわけじゃないけど」

鈴「でも、誰が見ても一夏の勝利だって言ってるんだからいいじゃない」

一夏「でも、負けは負けだ。そこはしっかりと受け止めなくちゃな」

鈴「一夏…………」

一夏「クラス対抗戦は来週だな。セシリアと当たることになるだろうけれど、がんばれよ」

鈴「まかせておきなさいよ! あんたの仇は取ってあげるんだから!」

一夏「それと、簪さんも出るのか。楽しみだな」

鈴「そうね。あんたの『打鉄』とどれくらい違ってくるのか楽しみだわ(私でも勝てるかわからないわ。それぐらいの強さだわ、簪は…………)」

一夏「さて、俺としては急いで訓練する必要もなくなったことだし、」

一夏「副所長がくれたこのIS実習ドリルを反復して5月に専用機を受け取った時に恥ずかしくないようにしないと」

鈴「付き合ってあげるわ」

一夏「ありがとな、鈴」ニッコリ

鈴「い、いいってことよ、それぐらい……」ドクンドクン

鈴「………………」モジモジ

鈴「ねえ、一夏さ」


鈴「約束、覚えてる?」


一夏「…………約束?」

一夏「俺、鈴と何か約束したっけ?」

一夏「あ!」

鈴「……!」ドキドキ

一夏「クラス代表決定戦に付き合ってくれたお礼をするの、忘れてた!」

鈴「そ、それもあるんだけど……(そういえばそんなのあったわね…………何してもらおうかしら)」

鈴「――――――じゃなくてさ!」

63: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:44:07.94 ID:kNwJPS9B0

鈴「ほら、小学校の時に」

一夏「え? そんな昔――――――?」

一夏「あ、あれか? 『鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を――――――』」

鈴「そ、そう。それ!」ニッコリ

一夏「『――――――奢ってくれる』ってやつか?」

鈴「はい……!?」

一夏「だから、『俺に毎日飯をごちそうしてくれる』って約束だろう?」

鈴「」イラッ


一夏「その約束を今果たしてくれるって言うのか、鈴!」キラキラ


鈴「!?」ピタッ

一夏「あれ、どうしたんだ、鈴?」

鈴「え、え…………!?(怒るべきか、そうしないべきか判断に困る…………)」

一夏「ああ、そうか。ちゃんと言わないとわからないよな。ごめんな」

一夏「俺もIS乗りっていうアスリートの道に進んだからには、食事の管理は結構重要となってきたからさ」

一夏「寮のメニューも月毎に替わって栄養バランスも悪くはないんだけど、まだまだアスリート養成機関としては不徹底だって用務員さんが言ってた」
                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一夏「そりゃそうだもんな。IS学園はIS乗りの教育機関であってアスリートの養成機関じゃないもんな」

一夏「だから、寮のメニューに載せることができるような新しい献立を考えようって話が持ちきりで――――――」

一夏「鈴も参加してくれるのなら、一緒にやろうぜ」

鈴「サイテー」ボソッ

一夏「え」

鈴「………………呆れて言葉も出ないわ」ハア

一夏「何か間違えていたか?」キョトン

鈴「もういい。このことは先日のお礼として償ってもらうから」フン

一夏「あ、ああ…………」

鈴「それじゃ、何をしてもらおっと」ワクワク

一夏「なんかよくわからないけど、機嫌が良くなってよかった(ホント、よくわからねえよな、――――――女って)」

鈴「♪」


64: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:44:53.15 ID:kNwJPS9B0

一夏「…………う~ん」

使丁「どうした、一夏くん?」

一夏「ああは言ったけど、俺はセシリアと鈴のどっちを応援すればいいんだ? 普通に考えたら1組と2組がすぐに戦うことになるからな…………」

使丁「なるほど。確かにそれは迷うな」

使丁「個人的には幼馴染の鈴ちゃんに肩入れしたいところだが、クラスメイトとしての義理もある――――――」

使丁「基本的にあの『ブルー・ティアーズ』は、距離をとって撃つしか能がない機体だ」

使丁「逆に言えば、単純故にパイロットも完成しているから手伝う必要はないかもな」(素人の意見)

使丁「(“プロフェッサー”からは、機体運用の酷さもあって総合的な強さはISドライバー成りたての一夏くんと大差ない戦力って酷評されてるがな……)」

一夏「う~ん…………」

使丁「悩むぐらいなら、思い切って誘ってみろ。それで断られたらそれでいいじゃないか」

一夏「でも、受け容れた時は?」

使丁「どちらにしろ、得するだけだぞ。Win-Winの選択だ」

使丁「断られたら、心置きなく鈴ちゃんの手伝いをすればいいし、」

使丁「受け容れてもらえたら、オルコット嬢に一夏くんの実力が認められたということの証になる。そこから仲良くしていくことができるぞ」

一夏「なるほど…………」

使丁「難しく考えるな。考えたってしかたないじゃないか」


使丁「案ずるより産むが易し」


使丁「一方で、『言うは易し、行うは難し』というのもあるが、まだ始まってもいないんだ」

使丁「それに、気になるだろう? ちゃんと“日本男児の意地”というものを見せつけられたかをさ」

一夏「そう、ですね。いずれははっきりさせないといけないことなんだし、やってみます!」

使丁「うん。行っておいで(さて、鈴ちゃんのゴキゲンを取っておかないとな)」


65: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:45:25.30 ID:esIQ1gOT0

一夏「あ、いたいた」

セシリア「…………織斑一夏」

一夏「クラス対抗戦に向けての訓練をするんだろう? だったら、俺も協力できることはないか」

セシリア「それは…………」ウーン

一夏「あれ……?(てっきり頭ごなしに断ってきそうな雰囲気だと思ったんだけど)」
        ・・・・
セシリア「えと、一夏さんは鈴さんと幼馴染なんですよね?」

一夏「…………“一夏さん”?(それに、以前に比べて口調も随分と柔らかい……)」

セシリア「その、いいのですか?」

一夏「えっと……、いいんだ、それは。別のことだから」

一夏「俺は、代表候補生同士の戦いってやつを見てみたいんだ」

一夏「5月には俺も専用機を受け取ることになるし、そうなったら鈴も俺のライバルになるんだ」

一夏「だから、この際 自分のクラスの代表には精一杯頑張ってもらおうと思ってる」

一夏「それに、『代表候補生って凄いんだな』って思ってるから、簡単には負けて欲しくないっていうのが、あるかな……」

セシリア「…………」ジー

一夏「えと…………」


セシリア「…………その、ありがとうございます」


一夏「!」ホッ

セシリア「先日、代表候補生としてあるまじき罵詈雑言をしてしまったことを深く反省していると同時に、」

セシリア「私はあなたに敬意を抱いています」

セシリア「今回の申し出、本当に感謝しておりますわ」

一夏「それじゃ――――――!」

セシリア「ええ。是非とも、私も訓練に混ぜてくださいね」

一夏「お、おお!(あれ、予想していたのと随分違った結末だ――――――でも、気持ちのいいものでよかったー)」

セシリア「ふふふ」ニッコリ

一夏「あ、もしかしてこれが――――――(そうか。これがスポーツマンシップってやつなのか。何だかわかってきたような気がする!)」

66: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:45:57.85 ID:esIQ1gOT0

――――――その夜


使丁「そうか。うまくいったようだな。“こっち”もうまくいったよ」

一夏「え、――――――“こっち”?」

使丁「ああ……、何でもないぞ」

使丁「それよりも、――――――あっという間に見違えたな、一夏くん」

一夏「そうですか? 自分では何か変わったって感じがしないんですけどね」

使丁「いやいや、きみは立派にIS学園で唯一の男子生徒を演じている。それも、誰からも愛されるぐらいにな」

一夏「えと、むず痒いですね……」

使丁「4月のまだ半ば頃だが、この調子だと5月を迎える頃には身も心も立派なアスリートとして生まれ変わっていることだろう」

使丁「俺としても嬉しいぞ、教え甲斐のある優秀な後輩で」ニッコリ

一夏「ははは…………」

使丁「だが、これだけは忘れないでくれ」

一夏「?」


使丁「出会いが人を変えるというのなら、別れも人を変えるということを」


一夏「な、何を言っているんです……?」

使丁「いや、5月になったら俺はこの部屋から出て行くことになる」

使丁「今の状態はこれからの学園生活においては当たり前じゃなくなるってことを意識してもらいたい」

一夏「あ、……はい」

一夏「――――――別れ、か」

使丁「まあ、全寮制で外に出ることも少ないし、世界で一番安全なスポーツをやってるんだ」

使丁「少なくとも、ここでの日常においては“死”を意識することなんてほとんど無いだろうけれどね」
                    ・・・・・・・・
使丁「ああ……、自宅通勤ヤダなー。まあ、学園から十数分の立地条件のいいマンションをもらえたからいいけどさ」(“ゴールドマン”の健脚で)

一夏「寂しくなりますね」

使丁「けど、これは最初から決まっていたことなんだ。そのことに徐々に慣れていけばいい」

使丁「それじゃ、夜回りに行くから今日はおやすみなさい」

一夏「はい。お気をつけて(そうだよな。俺がISを動かしていなかったらこうして一緒の時を過ごすことなんて普通は有り得なかった――――――)」


――――――だから俺は、今こうしていられる時を後悔がないように生きたい!



67: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:46:27.50 ID:kNwJPS9B0

――――――日常


一夏「朝は用務員さんと一緒に雑務をこなしながら、ジョギングをする」タッタッタッタッタ・・・

一夏「いい汗を流したらシャワーを浴びてスッキリ!」キリッ

一夏「そして、爽やかに朝食を摂る! これが美味い!」パクパク

一夏「それで、登校! HRの時に用務員さんと顔を合わせてからが学業の始まり!」キンコーンカンコーン

一夏「俺は授業を受けながら、空いた左手は砂と水が詰まった一升瓶を素振りしている」ブンブン

一夏「みんなが学業に勤しんでいる間は用務員さんは用務員らしく働いているっと」セッセセッセ・・・

一夏「そして、放課後は用務員さんや代表候補生のみんなと様々な訓練を行う!」ガキーン!

一夏「最後に、今日1日の行動を振り返って反省点と更新点を記録簿に記入して就寝っと!」カチッ

一夏「おやすみの挨拶を用務員さんに交わして、俺の1日は終わるのである」スヤー




68: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:47:18.89 ID:esIQ1gOT0

――――――クラス対抗戦 当日


鈴「クラスが違うことをこれだけ恨めしく思ったことはないわ」

一夏「今日限りだよ。俺がセシリアだけの味方なのは」

一夏「明日からは、全員がライバルであり味方だからさ」

鈴「まあいいわ」

鈴「それじゃ、よく見ておきなさいよ、私の実力!」

一夏「ああ、行って来い!」

使丁「さて、どうなることかね?」

一夏「それじゃ、俺はセシリアの方のピットで」

使丁「ああ。しっかりと励ましてこい」

――――――

一夏「それじゃ、活躍を期待しているぜ、セシリア」

セシリア「はい。今日まで訓練のお付き合いしていただき、ありがとうございました」

セシリア「これから一夏さんという新しいライバルが加わるのですから、先輩としてきっちりとその貫禄をお見せしてあげますわ」

一夏「うん」

セシリア「それではセシリア・オルコット、『ブルー・ティアーズ』参ります!」


69: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:48:47.13 ID:kNwJPS9B0

――――――アリーナ


アナウンス「それでは両者、規定の位置まで移動してください」


セシリア「さて、中国の代表候補生:凰 鈴音と第3世代型IS『甲龍』――――――」

セシリア「(『航続力と安定性を重視した』系統の機体ですから、短期決戦に持ち込まなければ燃費の悪いこちらが不利となる!)」

セシリア「(かと言って、相手も果敢に近づいて来るのだから簡単には撃たせてはくれないはず…………)」

鈴「さすがに、互いの情報は筒抜けだけどさ――――――」

鈴「(一夏との対戦で、ある程度こっちでも対策はできているから、この勝負もらったわよ!)」

鈴「(けど、油断しないようにしないと。一夏が何かしらセシリアに助言しているはずだから)」


アナウンス「それでは、試合開始――――――!」


セシリア「まずは先制の一撃を――――――!」ジャキ
鈴「行くわよおおおおおお!」


――――――――――――

副所長「さて、始まったか」

千冬「お前か」

副所長「ふははは、俺が設計した『打鉄弐式』が優勝するのは不動の事実!」

副所長「そのことを確かめに来たのだ」

副所長「見ているか、来賓席でふんぞり返っている欧州の方々!」

千冬「勝手にしろ。以前のようなことをしなければ、お前などいてもいなくても変わらん」

副所長「はい、そうですか」

山田「しかし、この戦いは非常に高度な駆け引きの応酬となってきましたね」

千冬「そうだな」

千冬「開幕直後にオルコットは弾速の速いライフルで先制攻撃を狙うものの、それを読んでいた凰にあっさり躱された」

千冬「この辺は、先に公式試合で手口を見せていたオルコットの分が悪いな」

副所長「それに、燃費重視の第3世代型が相手となったら、燃費の悪い『ブルー・ティアーズ』が持久戦で競り負けるのは必然だから、」

副所長「何としてでも点を取りたいという欲張りなところ、――――――つまり、焦りが出ている」

副所長「この戦いは、戦術云々よりも戦略的に『ブルー・ティアーズ』が最初から不利だったというお話だ」

副所長「完敗ってことはないだろうが、対戦ダイアグラムとしては4:6ってとこかな」

副所長「ミスをおかせばどちらもそこから一気に敗北することもあり得る、いい対戦カードだ」

副所長「ま、俺と簪ちゃんの『打鉄弐式』だったらどっちに対しても8:2だがな」

千冬「どちらかが先に自分の得意とするレンジを掴んだほうが勝者となる」

千冬「鍵を握るのは、中距離で使われる互いの第3世代兵器の使い方――――――!」

山田「はい」ゴクリ

――――――

70: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:49:28.40 ID:esIQ1gOT0
――――――

一夏「頑張れ、セシリア!(…………鈴も頑張れ!)」

一夏「ああ、危ない!(そういえば、さっき“プロフェッサー”がもう一度稼働データを取りたいってこの前の調整機体を置いていったな)」

一夏「我が事のように手に汗握るな、これ……!(まあ、問題ないだろう)」

――――――

使丁「ISとはまるでコンピュータゲームのように単純なシステムだな」

使丁「強い性能を求めると持久力や防御力が減る一方で、安定性をとれば突出した性能がなくなる」

使丁「絶対的な強者が生まれづらいというのが、世界平和的には釣り合いがとれているのかもしれない」

使丁「だが、もしそのバランスを超越したボスキャラみたいなのがこの世を跋扈することになったら――――――?」

使丁「スポーツ選手ならそれはそれで“神”として称えられるだろうが、こと兵器にも転用できるISの場合だと――――――」

使丁「ISがスポーツのままであるために、絶対的に必要なことがある…………」

――――――

71: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:50:02.62 ID:esIQ1gOT0

セシリア「くっ……(話には聞いておりましたが、あの『甲龍』の衝撃砲『龍咆』は本当にどこに弾が飛んでくるのかまったくわかりませんわ!)」

セシリア「(しかも、後ろ向きでも撃てるということは射角は無限! 中距離での攻撃にも躊躇いが…………!)」

鈴「案外しぶといわね……(尻尾を巻いて逃げ出すのはわかってはいたけど、思っていた以上に『ブルー・ティアーズ』に対応しきれてない…………)」

鈴「(こんなのを撃破寸前にまで追い詰めた一夏は本当に凄いわね…………数々の対策や機動力があったおかげとはいえ、素直に尊敬しちゃう)」

鈴「(――――――背後を見せての『龍咆』による奇襲もダメ、――――――『双天牙月』の投擲もダメ)」

鈴「(なかなかやるじゃない……)」

セシリア「(しかし、こちらの機体の燃費はあちらの機体に劣るせいで、このままですと――――――!)」

セシリア「(いえ! ここは危険な賭けに打って出るのではなく、ジッとこらえてあちらと我慢勝負をあえてしますわ)」

セシリア「(こちらが刻一刻と不利となっていくことはわかっているはずですし、そこに慢心が生まれるはず…………!)」

鈴「(…………どうやらこの私と『甲龍』相手に我慢比べしようって気ね! いいわよ、受けて立つわ!)」


――――――

一夏「…………二人が何を考えているのか、俺にはさっぱりわからない」

一夏「けど、戦いにはペース配分っていうのがあるんだよな」

一夏「つまり、あの膠着状態は必死に相手の隙を窺っているってことはわかる」

一夏「そこから一気にラストスパートをかけようってことなんだろ?」

一夏「選択肢があるっていいよな。俺はよくわからないから突っ込むことしかできないけどさ」

――――――

使丁「さて、互いの動きがだいぶ鈍ってきたな」

使丁「そろそろこの試合の勝者と敗者が決定するというわけだ」

使丁「まだ10分も経っていないのに息切れするのを見ると、対戦競技者のスタミナ不足が否めないように感じられるが、」

使丁「競争競技は常に自分との戦いを強いられるが、対戦競技では自分だけではなく相手や周囲の環境などにも気を配らなければならない以上、」

使丁「使う神経の量も多いというわけで、アスリートとして劣っているというわけではない」

――――――

72: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:50:33.51 ID:kNwJPS9B0
――――――

副所長「さて、そろそろ決着――――――」

ピィピィピィピィ!

山田「システム破損! 何者かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです」

副所長「なんと!?」

千冬「――――――試合中止!」ガチャ

千冬「オルコット、凰! 直ちに退避しろ!」

山田「直ちに、待機していた鎮圧部隊は出撃を!」

山田「先生たちは生徒の避難を――――――!」

副所長「おっとそれはできねえみたいだぞ?」カタカタカタ・・・

山田「え…………?」

副所長「アリーナ全体が非常事態対応でシャッターが降りて、来賓も生徒も鎮圧部隊も立ち竦んでいる」カタカタカタ・・・

副所長「俺の方でアリーナのコントロールを取り戻してみる」カタカタカタ・・・

副所長「いいな?」カタカタカタ・・・

千冬「わかった、協力してもらう」

山田「お、織斑先生!?」

千冬「――――――非常事態だ」

副所長「よし、それなら話は早い。まずは生徒たちの避難だ」ピッ

副所長「聞こえるか、簪ちゃん!」
副所長「構わねえ。お許しが出た。荷電粒子砲『春雷』で隔壁をぶち抜け!」
副所長「その後は、鎮圧部隊の突入のために回ってもらう」

副所長「よし、避難誘導のアナウンスだ、織斑先生! パニックに陥っている生徒たちを従わせろ」

千冬「うむ」

山田「織斑先生! オルコットさんと凰さんが所属不明のISに襲われています!」

千冬「くっ! 山田先生は二人に退避を指示! そして、所属不明機に呼びかけろ!」

山田「わ、わかりました。――――――オルコットさん、凰さん!」ピッ


副所長「やつめ! ここまで高度なクラッキング機能を搭載しているというのか!?」カタカタカタ・・・

副所長「3年の精鋭たちもシステム回復のために一斉にやっているというのに、何だこのクラッキングの勢いは――――――!?」カタカタカタ・・・

副所長「(いや…………、待て)」

副所長「(突入してきてすぐにアリーナの機能が奪われた上に、そしてこれだけ同時にシステム回復に力を入れているのに、一向に埒が明かないだと!?)」

副所長「(どういうことだ? ISにそこまでの処理能力はないはずだ! 電子戦と白兵戦を両立できないのが常識だ)」

副所長「(そうか、ISからではないな! となると――――――)」

副所長「(まさか、この襲撃の意味は――――――!? そして、黒幕は――――――!?)」


山田「あれ? ――――――反応が1つ増えた? …………すでに突入に成功した機体が?」


――――――――――――

73: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:51:10.71 ID:kNwJPS9B0

セシリア「なんてこと…………(消耗しきったこの状態で、あれほどの機体を撃破あるいは時間稼ぎをしなければなりませんとは…………!)」ゼエゼエ

鈴「あんた、まだ生きているわよね……!?」ゼエゼエ

セシリア「だ、大丈夫ですわ、鈴さん……」ゼエゼエ

鈴「エネルギーはまだ残っていても、こっちの体力が保たないわよ…………」ゼエゼエ

セシリア「しかし、こちらに標的を定めてきた以上、逃げ出してしまったら被害が増えることは明白ですわ……」

鈴「そうね。救援は絶対に来ることはわかっているから、まだ頑張れる……!」

無人機「――――――!」ジャキ

セシリア「くっ」

鈴「危ない、セシリア!」

セシリア「な、何ですって!?(――――――動きが読まれていた?!)」

セシリア「あ、ああ…………(このエネルギー残量で、直撃――――――!?)」ドクンドクン


「やらせねええええ!」ヒュウウウン! ガシッ


セシリア「あ」

セシリア「え……(お姫様抱っこ……)」

鈴「い、一夏!?」

一夏「大丈夫か、セシリア!」

セシリア「い、一夏さん…………」

一夏「良かった、無事で………」

セシリア「あ、ああ…………」ポロポロ

鈴「その機体、どうしたのよ!?」

一夏「なんか“プロフェッサー”がまたデータを取りたいってことでピットに置いていってくれたんだよ」

鈴「あ、あの人…………でも、これは願ってもない展開よ!」

一夏「ともかく、救援が来るまで逃げ回るぞ!」

一夏「エネルギーがほとんどないセシリアを何とかしてピットに逃がす! 手伝ってくれ!」

鈴「わかったわ!」

セシリア「み、みなさん、私なんかのために――――――」

一夏「――――――『私なんかのため』じゃねえ!」


一夏「お前のこと、尊敬しているんだから! 情けないこと言わないでくれ!」


セシリア「あ…………」

鈴「一夏! 今よ!」

一夏「よし。機体は解除してくれ」

セシリア「は、はい!」

一夏「しっかりと捕まってろよ!」ギュッ

セシリア「くぅ…………(なんて力強さ、頼もしさなんでしょう。それに包まれている感覚がとても心地良い…………)」


74: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:51:52.59 ID:esIQ1gOT0
――――――

山田「あれは、織斑くんがこの前のクラス代表決定戦で使った機体です! それがどうして?!」

千冬「」ジロッ

副所長「ああ、それな」カタカタカタ・・・
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
副所長「ちょっと黄金色のお菓子をもらって、彼に特別出演してもらおうと用意しておいたんだが、」カタカタカタ・・・

副所長「どうやら、吉と出たようだな」カタカタカタ・・・

千冬「不問にしておくぞ。――――――無事に終わったならな」
               ・・・
副所長「だが、――――――もう奥の手を使ってしまったか」

副所長「簪ちゃんも急いでいるけど、鎮圧部隊が突入しきる頃まで保つのか……?」

千冬「…………くぅ」ギリッ

山田「織斑先生、そしてみんな…………」

山田「へ!? あれって――――――いや、カメラの誤作動じゃ…………」

千冬「どうした!」

山田「これを――――――」

千冬「なにっ!?」

――――――

75: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:53:51.98 ID:esIQ1gOT0

一夏「早く行くんだ、セシリア!(くそ、やっぱりあれはISに違いない! そうじゃなかったら、何だって言うんだよ!)」

セシリア「は、はい!」

一夏「大丈夫か、鈴!?」

鈴「そっちに行ってるわよ! ――――――この、止まりなさいよ!」

無人機「――――――!」ジャキ

一夏「な……(こっちに照準が向けられている!? このままだとピットが崩落してセシリアまで巻き添えだ!)」アセダラダラ

一夏「緊急離脱だ! 間に合えええええ!(あ、けど、このまま避けるだけじゃダメなんじゃ…………)」アセタラー

鈴「い、一夏あああああああ!」


――――――消え失せろ、フーリガン!


一同「!?」

無人機「!!!!!?」

使丁「うおおおおおおおおおおお!」ガシッ

使丁「だりゃああああああああ!」ブンッ!

無人機「!!!!!???」ドゴーン!

鈴「え、ええええええええ!?」

一夏「用務員さん…………!?」



一夏と鈴は目の前であり得ないようなものを見て、攻撃を受けずに助かったという思いなど簡単に吹き飛んで棒立ちになってしまった。

なんと二人の窮地に現れたのは、――――――いつもの作業つなぎを着た若い学校用務員ただ一人であり、

いつもは爽やかなIS学園の学校用務員である彼は、この時どこからともなく現れて、無人機の背後に急接近したと思った瞬間には、

勢い良く飛び上がって股を右手で掴み、その勢いに乗って今度は左手で思いっきり無人機の頭を鷲掴み、無人機を仰向けにさせるどころか、

着地したと同時にあれだけの重量感溢れる機体を投げ飛ばしたのだから!

巨大な肩部によって重圧感のある巨体に見える無人機ではあったが、ISであることには違いなく、人間大の本体を普通に掴まれて投げ飛ばされたのだ。

そして、ISはPICという反重力システムによって質量軽減をしているために、実は羽のように人間の手で投げ飛ばせるぐらいフワフワしているのである。


――――――これは意外な盲点であった。


だが、羽のようにフワフワしているということは、しっかりとベクトルを加えなければ叩きつけることは普通は無理である。

それをやってのけたのが、IS学園で勤務中のこの元柔道オリンピック金メダリストの学校用務員であった。

果たして、柔道ごときでISに打撃を与えられるのか――――――、できます。
                                                  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
柔道は稽古で死亡事故が普通に起こるぐらいに、水泳と同じぐらい安全性に配慮しないといけない競技であり、相手を殺そうと思えばそれが可能でもあるのだ。


76: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:55:24.69 ID:esIQ1gOT0

ただの学校用務員さんの暴れっぷりはこれだけではない。その形相は悪鬼羅刹のごとくであった…………


使丁「はあああああ!(ISはシールドバリアーによって外圧に対して圧倒的な剛性を得ている。殴る蹴る刺すは何万回打ち込んでも通じない)」

無人機「!!!!!???」ジタバタ

使丁「極める!(――――――だが!)」

無人機「!!!!???!!!??」

使丁「腕の一本はもらったああああ!(身体の内側にもシールドはちゃんと張ってあるのかな~?)」

バキッ!

無人機「!!!!????」

一夏「用務員さん!(――――――守る。守らなくちゃ! そうだ、『守る』んだよ! ISをまとっているのに生身の人間に守ってもらうなんて――――――!)」

使丁「近づくな! 腕の一本はもらったが、武装の火器管制は健在なはずだ!」

使丁「『こいつ』は俺が仕留める!」

一夏「そんな! 用務員さん!(けど、俺は用務員さんが駆けつけてくれなかったら、間違いなく撃たれていた…………)」

使丁「『こいつ』には装甲も背面迎撃に使える武装はない! 密着すればこちらのものだ!」

無人機「――――――!!」ヒュウウウン!
使丁「――――――くぅううううううう!」

一夏「くそ! 振り解くために急加速・急旋回を――――――!」

鈴「一夏!」

一夏「なっ!? 放れてください、“ゴールドマン”!」

無人機「――――――!」ドゴーン!
使丁「ぐわあ!?」

一夏「く、くそう! ど、どうすればいいんだ、これは!?(あれ、『守る』って何をどうすればいいんだ、この状況…………?)」

使丁「やるじゃねえか……(なるほど、絶対防御を活かして壁に激突することで張り付いた蛇を引き離そうってことか…………)」

使丁「だが、この手は放さねえええええええ!」

使丁「俺とお前の耐久レースだ!」

無人機「――――――!」ドゴン!
使丁「うわあ!」

使丁「だが、これでもう一本もらったああああああ!」

バキッ!

無人機「!!!!???!」

77: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:56:12.07 ID:kNwJPS9B0

鈴「す、凄い…………(あのISを生身で追い詰めているだなんて…………もう別次元の戦いだわ)」

一夏「そうだ! これで両腕が上がらなくなれば、レーザー攻撃の脅威も激減する! 助けるなら、今だ!」

一夏「仕掛けるぞ、鈴!」

鈴「わ、わかったわ!」

鈴「――――――って、一夏、あれ!」

一夏「な、何をする気だ、あのIS――――――え」ゾクッ

無人機「――――――!」グラッ、ヒューーーーン・・・

使丁「あ…………(仰向けに自由落下だと!? ――――――これはもう助からんな)」フフッ

使丁「なら、地獄への手土産として貴様のその首、極める!」

使丁「闖入者には相応の報いをおおおおおおおお!」ムギュゥウウウウウ!

無人機「!!!!!!!!」ギリギリギリ・・・ゴキャ

一夏「くそ、間に合え、間に合え、間に合えええええええええ!(エネルギーが尽きたっていい! 間に合えばそれでいい!)」ピィピィピィ・・・・・・

一夏「ああ……!」

ドッゴーン!

使丁「ガハッ」

一夏「あ、ああ…………(…………守れなかった? 嘘だろう? なあ、夢なら覚めてくれよ、今すぐ――――――!)」ワナワナ・・・

無人機「――――――」ムクッ

一夏「この野郎おおおおおおお!」ゴゴゴゴゴ

無人機「!!」ブラーンブラーン

鈴「え、何あれ。頭が――――――(首が折れているはずなのに、――――――まだ生きている!? 絶対防御のおかげとはいえ、あんなのって…………)」

一夏「でえええええい!」ガキーン!

一夏「ここから離れろおおおおお!」

無人機「!!!!」ブラーンブラーン

ヒュウウウウウン!

一夏「大丈夫ですか、用務員さん!?」スッ

鈴「あ、待て――――――!」


――――――ここまでよく耐え抜きました!


鈴「え」

簪「この距離の荷電粒子砲なら!」ジャキ

バンバン!

無人機「!!!!…………    」ドサー

鈴「終わった、の?」


78: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:56:51.19 ID:kNwJPS9B0

一夏「しっかりしてください!」

使丁「すまねえな。仕留め切れなかった…………」ゼエゼエ

使丁「あ、そうだった。ISには絶対防御があったんだったな、うっかりしてた…………」ニコッ

一夏「そんなことはいいです……! 『あれ』は――――簪さんが仕留めましたから」ポロポロ

使丁「悪いな。本当はIS学園名物の“世界最強の用務員”を目指してみたけど、やっぱり生身でISの相手をするのには限界があった…………」ゴフゴフ・・・

使丁「4月が終わるまで相部屋だったのに、一緒にいてやれなくてごめんな………………部屋の片付け、頼んだぜ

一夏「弱気なこと言わないで! 今、急いで医務室に連れて行きますから!」

使丁「なあ、――――――織斑一夏!」カッ

一夏「はいっ!」


使丁「ISは兵器ではない! スポーツだ! ――――――スポーツなんだ!」ゼエゼエ


使丁「それも、乗馬と同じ、乗り手と乗り物とのパートナーシップが肝要の、な!」

使丁「忘れるな! 山田先生が言っていたように、パートナーとしてISを受け容れろ」

使丁「心を開くんだ。他者からの声、そして自分の素直な気持ちに耳を傾けろ」

使丁「それが、織斑千冬が見せた“世界最強”でもあり、最高のアスリートになるための心構えだ」

使丁「人間は、一人では生きてはいけないのだからな」ニコッ

使丁「ゴフゴフ・・・」

一夏「しっかり!」

使丁「織斑一夏、お前との2週間、…………最高だったぜ」

使丁「達者でな。お前のことだ。無茶はしても、人の言葉に耳を貸して身体には気をつけるんだぞ?」

使丁「ゴフゴフ、ウ、ア……………………」

使丁「」

一夏「………………泣くものか」

一夏「始まったばかりなんだぞ? しっかりしなくちゃダメじゃないか、俺……!」ポロポロ

一夏「う、うう、うぅ…………」グスン





79: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:57:46.70 ID:esIQ1gOT0

――――――数時間後


千冬「そうか……」ピッ

副所長「あいつ、――――――死んだのか?」

千冬「いや、さすがは“ゴールドマン”といったところか」

千冬「鍛え上げられた己の肉体の頑丈さに救われたようだ」

千冬「だが、再起できるかどうかまでは…………致命傷こそは間一髪で回避したようだがな」

副所長「そっか」

副所長「でも、IS学園に入ってたった2週間でこのようなことになるとはな…………」

千冬「ああ……」

千冬「…………一夏」



80: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:58:23.54 ID:kNwJPS9B0

鈴「えと、一夏?」

一夏「何、鈴? それに、簪さんにセシリアもか。どうした?」ブン! ブン!

セシリア「もう日も暮れましたし、汗も冷えてくるでしょうから、そろそろお止めになりませんか?」オドオド

一夏「大丈夫だよ。それに俺、弱いから少しでも強くならなくちゃいけないんだ」

簪「それでも、休憩は必要だよ! 無理なくやるのが体作りの基本なんだよ」

一夏「大丈夫大丈夫。休憩ならちゃんと挟んでいるからさ」

鈴「一夏さ、怖いの?」


――――――部屋に戻るのが。


一夏「――――――っ!?」ピクッ

鈴「そう、やっぱり…………」

一夏「いや、違うんだ! これは、その…………あれ?」ポロポロ

セシリア「ああ…………(そういうことでしたの。同居人が唐突にいなくなった――――――ああ、お母様、お父様!)」ググッ

簪「…………そうなんだ」

鈴「な、ならさ? 一夏が寝付くまで部屋にいてもいいよ?」モジモジ

一同「!?」

一夏「で、でも…………」

鈴「そ、それに……、朝だってちゃんと付き合ってあげるからさ?」

セシリア「そ、そうですわ!」

簪「うん。それに、そういうことなら、織斑先生を頼っても、いいかもしれないよ?」

一夏「あ、ありがとう、みんな……」

鈴「そ、そういうわけだから! 早くシャワーを浴びて夕食にしましょう! ね!」

一夏「あ、ああ…………」

一夏「すまないな、みんな…………」

一夏「男なのに情けないところ、見せちまったな…………」

セシリア「いえ、そんなことありませんわ! だって、あなたは私の…………(――――――命の恩人なのですから)」

鈴「い、いいのよ。あんなことがあった後だし、みんな不安なんだしさ」

簪「そ、それにヒーローだって、ヒーローになるまではいろんな感情を持った人間なのは普通、だよね?」

一夏「そう、か」

一夏「…………」スゥーハァーー

一夏「これから専用機持ちとしていろいろと指導してください」ニコッ

鈴「もちろんよ!」

セシリア「私も喜んで!」

簪「私も頑張るから、お互い様だよ」

一夏「ホントにありがとう、みんな」

鈴「それじゃ、行こう」

一夏「ああ……」


――――――用務員さん。俺、まだやれそうな気がしてきたよ。



81: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 09:59:22.15 ID:esIQ1gOT0

副所長「あの無人機は――――――」


山田『やはり、無人機ですね』カタカタカタ・・・

山田『登録されていないコアでした』

千冬『そうか……』

副所長『まさかこんなものに出くわすとは……』

副所長『『ただのIS』が相手だったら、あいつは負けることはなかったんだ……!』

副所長『俺と簪ちゃんの『打鉄弐式』が頑張ってくれなかったらどうなっていたことか…………素直に活躍を喜べないな』

山田『ISのコアは世界に467しかありません』

山田『でも、このISにはそのどれでもないコアが使用されていました』

山田『いったい…………』

千冬『…………』

副所長『データはもらっていくぞ』

副所長『そして、予定通りに5月には姐御の弟の専用機だ』

千冬『ああ。わかった』

副所長『それじゃあな』


――――――記録映像再生中


副所長「…………あの無人機が撃墜される少し前にはクラッキングは停止していた」ジー

副所長「“マス男”がISを内側から破壊したおかげで、ダメコンで無人機の処理能力が落ちたからとも考えられるが、やはりクラッキングは外部から行われていた」

副所長「IS学園のセキュリティは世界最高峰――――――しかもリカバリー人数も夥しい」

副所長「それを、一方的にコントロールを奪ってみせた」

副所長「IS学園を掌握するつもりならいつでもできたはずなんだ」

副所長「それなのに、アリーナだけに限定したのだ」

副所長「目的は明らかに、――――――邪魔の入らない場所で代表候補生二人を抹殺するため?」

副所長「いや、代表候補生を抹殺するだけというのはそれっぽくない」

副所長「それとも、造り上げた無人機の性能テストができればそれでよかったということか?」

副所長「…………ん? おかしいな」(あるシーンを巻き戻しする)

副所長「無人機が“千冬の弟”を狙い撃てる絶好のチャンスにおいて、明らかに大きな間が開いているぞ?」

副所長「まさかな――――――」

副所長「いや、可能性としては一番あり得る!」

副所長「となれば…………」

副所長「これは検証せねばならんな」カタカタカタ・・・



82: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:00:09.94 ID:kNwJPS9B0

――――――それから、


ジリリリリ・・・

一夏「ふわあ」ペチッ

一夏「朝だな。よし――――――!」


        ・・
千冬「おはよう、一夏」ニコッ
        ・・・
一夏「おはよう、千冬姉」ニコッ

一夏「行ってきます」

千冬「ああ、行ってらっしゃい」フフッ





一夏「随分慣れたもんだな、俺も」(ジョギング中)

一夏「そして、この風景も――――――」

鈴「ちょっと待ってよぉ、一夏!」バタバタ

一夏「おはよう、鈴。今日は遅かったな」

鈴「昨日、簪と一緒に遅くまで映画を見ていてよく起きられたわね……」フワァオ

一夏「用務員さんが命を懸けて守ってくれたんだ」

一夏「その遺産を忘れるつもりはないよ…………」

鈴「……そうね」

鈴「ねえ、一夏? 今日は何食べたい?」

一夏「中華料理って脂っぽいからな。いろんな食材を使っているから栄養バランスはいいんだけど、こればかり食っていると確実に太るからな」

一夏「何かさっぱりとした料理ないかな?」

鈴「そうねぇ。私もいろいろ調べてはいるんだけどさ……」

一夏「まあでも、お前の酢豚は本当に美味しいから、たまに栄養バランスとかそんなの忘れて食べてみたくなるんだけどさ」

鈴「ふふふ、ありがと」

一夏「さてと、ペースを上げるか」

一夏「ついてこい!」

鈴「そっちこそ、置いて行かれないでよね!」フフッ




83: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:01:08.52 ID:esIQ1gOT0

一夏「ああ腹減った……」グゥウウウ!

一夏「朝食前は一口しか食べちゃいけないからな…………(朝食をしっかりとることが信条だからな。何よりも美味い飯にありつくためだ)」

セシリア「一夏さん!」

一夏「おはよう、セシリア。今日は早いんだな」

一夏「まだ、食堂も開いたばかりで朝食にはありつけないぞ?」ニコッ

一夏「おや、こいつは?」

セシリア「ええっと……、その、これを!」」バサッ

一夏「おお! 『イングランドでおいしいものを食べようと思えば朝食を三回食べよ』で有名なイングリッシュ・ブレックファストじゃないか!」

一夏「日本でも見慣れたメニューがいっぱいある!」

セシリア「あははは、先人が言った自虐を言われてしまいましたわ……」

一夏「そういえばそうだった! フランスやドイツでも取り入れられているんだって?」

一夏「本当にごめん! ちゃんとイギリスにも美味いものはあったのにな。ベーコンエッグとかIS学園に入る前は結構食べてたのに」

セシリア「いえいえ。こちらこそ、あなたの国の豊かな食文化に触れて見直しましたわ」

セシリア「それに、とっても美味しかったですよ」テレテレ

一夏「はは。えっと、それじゃごちそうになります、セシリア」

セシリア「はい! たーんと召し上がってください」ニコニコ

セシリア「その前に1杯の紅茶を」

セシリア「はい」

一夏「ありがとう」



84: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:02:21.54 ID:kNwJPS9B0

一夏「あ、ここ ここ! たまにはどう、簪さん? それに、みんな」

簪「え、あの…………」

本音「ありがとー、おりむー! それじゃ、カンちゃんも一緒にー!」ニコニコ

簪「あ、うん…………」ニコッ

女子「織斑くんって、朝は豪勢に食べるのに、お昼は意外と控えめなんだね」

一夏「ああそうだよ。食べ過ぎると昼の陽気で眠くなっちゃうからな」

一夏「それよりも、――――――やっぱり少ないじゃん、みんな」

一夏「それで大丈夫なのか、本当に?」

女子「それは、ね?」

女子「う、うん……」

一夏「…………じゃあ、せめて簪さん」

簪「え、何かな、織斑くん……?」

一夏「チキン南蛮食べてみる?」

簪「え」

一夏「できたてほやほやで最高だぞ~?(油物は1週間に一度だけだから尚更美味い……!)」ニコニコ

一夏「(だけど、今日は月曜日なのにもう食べてしまった…………しかたないだろう! 新メニューだったんだし!)」

一夏「(それに思ったよりも結構重たいし、少しばかりお裾分けしても悪くないはず…………!)」アセダラダラ

周囲「エ、エエエエエエエエエ!?」

簪「う…………」

一夏「まあ食べてみろって」

一夏「あーん」

簪「あ、あーん」ドキドキ

パクッ

一夏「な? 美味いよな?」ニッコリ

簪「う、うん」ポッ

周囲「オリムラクン! ワタシモワタシモー!」

一夏「あ、ううん、い、いいぜ!(え? こりゃどういうことだ……?)」

本音「よかったねー、カンちゃん」

簪「ほ、本音…………(あ、『あーん』だけじゃなく、『間接キス』までしちゃった…………)」ドキドキ



85: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:03:22.91 ID:kNwJPS9B0

一夏「ふぅ……」

一夏「今日の宿題も終わったし、明日の準備も万端だな」

一夏「………………」ジー

一夏「最初の頃はあんなに忙しかったのに、今では悠々とした毎日を送れている」

一夏「なんか最初から一人部屋だったかのように、使っていない新品のベッドが隣にポツンと置いてある」

一夏「でも、“今の俺”があるのは、あなたとの2週間があったからだ」

一夏「………………」フゥ


一夏「ありがとう、“ゴールドマン”!」ニコッ






















使丁「ヘクシュ!」

使丁「ああ、早く退院したいな。身体を伸び伸びとな」

使丁「待っていろよ、IS学園!」


――――――“世界最強の用務員”は再び現る!


使丁「というか、働いて1ヶ月も経っていないのに入院とか給料泥棒にも程があるだろう!」

チャンチャン


90: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:22:13.89 ID:esIQ1gOT0

第3話 学年別トーナメント・裏
Sportsman VS. Soldier


一夏「さて、用務員さんのお見舞いに行った帰りに、久々に弾のところに顔を出してみたけど、どっちも元気だったな」

一夏「本当によかった…………」

一夏「二人共、俺の肉体改造の成果を見て感激してくれたし、月末には学年別個人トーナメントがあるんだ」

一夏「それまでに、俺の専用機『白式』を使いこなせるようにしないとな」

一夏「やるぞおおおおおお!」


あれから5月を迎えようとしていた。

“世界最強の用務員”である“ゴールドマン”の教えを守り、俺は朝昼晩としっかりとアスリートとしての生活を実践してみせた。

そのおかげで、少しずつだが身体にバネがついたみたいに凄く動けるようになった気がしていた。

また、倉持技研第一研究所の副所長である“プロフェッサー”から課せられたIS実習ドリルもしっかりとこなしていき、
――――――今はもう標準仕様の『打鉄』なのだが、その操縦技術は見違えるほどに洗練されてきたという評価だ。


これで、――――――専用機を受け取る準備はできた。


次いでに、“ゴールドマン”との思い出が詰まった部屋も片付け終わっており、今は俺とみんなの思い出が詰まった部屋に変わろうとしていた。

しかし、まさか5月に入ってからこんな出会いや心を抉られるような出来事が立て続けに起こるとは、この時は思いもしなかった。


――――――5月もまた波乱の日々であった。





91: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:22:47.89 ID:esIQ1gOT0

――――――5月


山田「今日はなんと転校生を紹介します!」

周囲「エ、テンコウセイ?」ザワザワ

一夏「あ」


シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」


シャル「みなさん、よろしくお願いします」ニコッ

周囲「オ、オトコ?」

シャル「はい。こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転入を――――――」

周囲「キャーーーーーーー!」

シャル「え?!」ビクッ

周囲「ダンシ! フタリメノダンシ!」

千冬「騒ぐな! 静かにしろ」

一同「…………」

千冬「今日は2組と合同でIS実習を行う。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合」

千冬「それから、織斑」

一夏「はい!」ビシッ

千冬「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士だ」

千冬「では、解散!」


シャル「きみが織斑くん? 初めまして僕は――――――」

一夏「ああ、いいからいいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」パシッ

シャル「うわ」ドキッ

タッタッタッタッタ・・・




92: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:23:16.09 ID:kNwJPS9B0

――――――アリーナ、ロッカールーム


一夏「大丈夫か? 初めてのことだし、驚いたか?」

シャル「ごめんね、いきなり迷惑かけちゃって(思ったりよりも足が速くて息が切れちゃったよ……)」ハアハア

一夏「いいって」

一夏「それより、嬉しいよ。学園に男一人は辛いからな…………」

シャル「そうなの(あ……、どこか遠くを見ているような哀愁ただよう眼差し…………)」

一夏「これからよろしくな」

一夏「まあ知ってるだろうけれど、俺は織斑一夏だ」

一夏「“一夏”って呼んでくれ」ニコッ

シャル「うん。よろしく一夏」

シャル「僕のことも“シャルル”でいいよ」ニコッ

一夏「それじゃ、着替えようか」

シャル「あ……、う、うん」


93: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:23:54.47 ID:kNwJPS9B0

――――――同日、昼


一夏「なんか俺だけ特別に、専用機持ちでもないのにグループ実習のリーダーをやらされたな」

一夏「本当はシャルルのグループに入りたかったんだけどな」

シャル「でも、凄く手際よく教えていたよね」

一夏「ああ。入って早々何も知らない状態から1週間で座学も実習もマスターしなくちゃいけない状況に陥ったからな」

シャル「え? 1週間でマスターにしたの?」

一夏「ああ。まあ、薄く広くだったけれども、今では反復してだいたいは完璧に実践できるようにはなったぜ」

一夏「できなかったら“日本男児の誇り”を傷つけると共に、50kmのトライアスロンをやらされる羽目になったから、そりゃあもう…………」

シャル「凄いんだね、一夏は」

一夏「そうか? 俺より努力している奴なんていっぱいいるから、大した自慢にもならないと思ってたんだけど」

シャル「だって、IS乗りになってたった1ヶ月でグループ実習のリーダーを任せられるぐらいの信頼と実力を得たんでしょう?」

一夏「そうか。それもそうだな。やっぱり、親身になって教えてくれた人がいたからここまでやれたのかもしれないな…………」

シャル「あ…………(まただ。また遠くを見ているような眼差しを…………)」

一夏「さて、これから長い付き合いになることだし、この学園の代表候補生たちを紹介しておかないとな」

シャル「あ、うん。よろしくね」ニコッ



94: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:24:53.75 ID:esIQ1gOT0

一夏「それじゃ、クラス順ってことでいいか?」

セシリア「では、私から」

セシリア「私はイギリス代表候補生:セシリア・オルコットですわ」

鈴「私は中国代表候補生:凰 鈴音! “鈴”って呼んでよね」

簪「えと、私は日本代表候補生の更識 簪です……」

シャル「それじゃ、最後は僕だね」

シャル「僕が今日転校してきたフランス代表候補生のシャルル・デュノアです」

セシリア「デュノアと言うと、あのデュノア社の?」

シャル「はい。僕は社長の息子で」

一夏「へえ。道理で気品があるわけだ」

シャル「自己紹介はこれぐらいでいいかな?」

一夏「いいと思うぞ」

一夏「それじゃ、飯にしようぜ。シャルルにも味わってもらいたいんだ」


一夏「日本の味ってやつを」


シャル「え、これって――――――」

一夏「“おにぎり”だ」

簪「それと、各種漬物と食後のデザートも」

鈴「一夏ってば、本格的にアスリートを目指すことに目覚めちゃって、食事には結構うるさいのよ」

鈴「それで、昼食として最適な料理は、このお米を丸めて作った“おにぎり”ってことに行き着いてね」

セシリア「作るのが簡単ながらも幅広い味付けが可能でして、とっても美味しいですわよ」

シャル「へえ、これが日本のコンビニで必ず売っている黒いものの正体なんだ」

一夏「今日のは、シャケにおかかに、梅干しに、あと何だっけ?」

鈴「チャーハンもあるわよ」

シャル「黒いのが巻かれていないんだね」パクッ

シャル「うん、同じように見えても随分食感が違うね。美味しいよ」

セシリア「ええ。思わず何個でも飽きずに食べ続けてしまいそうですわ」

95: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:25:29.14 ID:kNwJPS9B0

一夏「いいね。簪さんが作ったピリ辛浅漬け」

簪「う、うん。ありがとう……」

一夏「でも、よく漬物とかこの良質な米を用意できたな」

一夏「簪さんの実家って農業でもやってるの?」

簪「えと、それは……、うん。結構旧い家でね」

一夏「へえ、そうなんだ」

セシリア「私も実家はイギリスの名門ですわ」

セシリア「いつか一夏さんをご招待して差し上げますわ」

一夏「へえ、そいつも楽しみだな」

セシリア「ふふふ……」

鈴「…………へえ」

一夏「…………鈴?」





シャル「ふう、ごちそうさまでした」

シャル「ありがとう、一夏」ニッコリ

一夏「あ…………」カア

鈴「なに、照れてんのよ、あんた」

一夏「べ、別に照れてねえぞ」

一夏「喜んでもらえたようで、嬉しいだけだ!」

シャル「照れちゃってまあ」ニッコリ

一夏「あ、えと…………(こういうタイプは初めてだな。ちょっとまいったな)」


96: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:25:55.34 ID:esIQ1gOT0

――――――その夜


一夏「それじゃ、これでルームメイトとしての確認事項は明記できたな」

シャル「几帳面なんだね」

一夏「何ていうか、もう癖になってね」

一夏「シャルルが来る前に相部屋だった人の影響で、物事は丁寧にしっかりしておかないといけない気がしてな…………」

シャル「えっと、その写真の人?」

一夏「ああ。この人のおかげで、俺は今の“俺”になれたんだ」

一夏「あの1週間は本当に忙しかったけれども、今では大切な宝物だ」

シャル「…………その人は今どこに?」

一夏「あ……、安心してくれ」

一夏「その人との相部屋は最初の1ヶ月って決まり事だったから。その後、その人は自宅出勤になってね」

シャル「そうなんだ」

一夏「今はちょっとした事情でIS学園に離れてはいるけれども、千冬姉に並ぶ“世界最強の用務員”だから驚くなよ?」

シャル「楽しみだな、その人に会えるのが」

シャル「それじゃ、明日からはよろしくね」

一夏「うん。それじゃ、おやすみなさい」


97: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:28:23.76 ID:esIQ1gOT0

――――――翌日


副所長「おはよう、“千冬の弟”」

一夏「あ、おはようございます」

副所長「待たせたな。ついにお前の専用機が届いたぞ」

一夏「本当ですか!」

副所長「ああ。授業が終わったら整備室に来い。その後は、お前がどれくらい成長したのかを見てやる」

一夏「ありがとうございます!」

副所長「そうだ。“マス男”の容態はどうだった?」

一夏「え? ――――――“マス男”?」

副所長「用務員に就職した“ゴールドマン”のことだよ。中学時代はこういうふうな二つ名で互いを呼び合ったものだ」

副所長「ちなみに俺は頭脳担当ということで、“プロフェッサー”と呼ばれ、千冬にも頼られたんだぜ」

一夏「おお!」

副所長「で、“マス男”っていうのは“まっすぐでマッスルな男”の略だそうだ」

一夏「え、ええ……、なんか国民的アニメの入婿みたいですね」

副所長「まあ、ネーミングセンスはともかく、俺たちのような天才児9人を束ねた“あの人”は本当に偉大な方だった……」

一夏「…………9人?」
       …………………
副所長「ああ、10人の同級生と言ってしまったか? なら訂正しよう」
    ………………………
副所長「担任も含めた10人のことだ。同じクラスなんだから10人のクラスメイトってことでいいだろう?」

副所長「その当時はよく、問題児集団のクラスが不思議とまとまっているということで、」

副所長「――――――“奇跡のクラス”と言われたもんだ」

一夏「“奇跡”…………」

副所長「今思うと、千冬も“あの人”に影響されて教師をしてるのかね」

副所長「“あの人”も許せないことがあったら、徹底的に俺たちのような曲者でも怯むことなく体罰だの口論を行う人だった……」

副所長「でも、それでもしっかりと向き合ってくれた」

一夏「…………」

副所長「…………すまないな。話が脱線した」

一夏「いえいえ。興味深い話でしたよ」

一夏「それで、用務員さんは元気でしたよ」

副所長「うん。当然か。“まっすぐでマッスルな男”なんだからな。――――――折れるはずがない」

一夏「はい。その通りですね」

副所長「話は以上だ」


副所長「では、行って来い。“千冬の弟”にして“ゴールドマンの一番弟子”よ」


98: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:29:57.07 ID:kNwJPS9B0

山田「えっと……、今日もうれしいお知らせがあります」

山田「またクラスにお友達が一人増えました」

山田「ドイツから来た転校生のラウラ・ボーデヴィッヒさんです」


ラウラ「…………」


周囲「ドウイウコト?」ザワザワ

周囲「フツカレンゾクデテンコウセイダナンテ?」ヒソヒソ

山田「み、みなさん、お静かに! まだ自己紹介が終わってませんから」

千冬「挨拶をしろ、ラウラ」

ラウラ「はい、教官」

一夏「(――――――『教官』? ってことは、千冬姉がドイツに居た頃の――――――)」


ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」ビシッ


周囲「…………」

山田「あ、あの、以上、ですか……?」

ラウラ「以上だ」

ラウラ「貴様が――――――」ジロッ

一夏「?」

ラウラ「…………」スタスタ

一夏「――――――っ!?」


バチィン!


一夏「のわっ!?」

一同「!」

一夏「ああ…………?」ヒリヒリ


ラウラ「私は認めない。貴様が“あの人の弟”であるなどと――――――!」


ラウラ「認めるものか!」



99: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:31:02.66 ID:kNwJPS9B0

――――――放課後


副所長「待っていたぞ、“千冬の弟”よ」

一夏「…………」

副所長「…………どうした?」

一夏「えと、実は…………」


――――――――――――(中略)――――――――――――


副所長「何だと? ドイツから来た小娘がそんなことを言ったのか」

一夏「あれってやっぱり、俺のせいで千冬姉が『モンド・グロッソ』連覇を逃したこと、なんだよな……?」

副所長「そんなことを気にしていたのか、お前は」


副所長「馬鹿か、お前は!!」


一夏「!?」ビクッ

副所長「お前の中の自己評価が何であろうと、あの時の千冬が大会連覇よりもお前を選んだことの意味を考えろ!」

一夏「あ…………」

副所長「どうせあの小娘は悪質なファンなんだろうよ」ヤレヤレ

副所長「いっぱいいるぜ、世の中にはな…………」

副所長「織斑千冬の中学時代を知ったら卒倒するぞ? まったく」

一夏「ははは、聞いてみたい気がします。“マス男”さんでは口を開けなかったこともありそうですので」

100: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:31:41.52 ID:esIQ1gOT0

副所長「だが、まいったな」

一夏「え、どういうことです?」

副所長「この時期にドイツから代表候補生が送り込まれたということは、ほら、欧州で進められている――――――」

一夏「あ、――――――『イグニッション・プラン』でドイツは『レーゲン型』を出してた!」

副所長「そうだ。その試作機が学園に送り込まれたということだ」

一夏「…………?」

副所長「はっきり言うぞ」


副所長「お前の専用機ではまず勝てない。天地がひっくり返ってもあり得ない」


一夏「!?」

一夏「嘘、ですよね……?」

副所長「こればかりは相性の問題なんだ」

副所長「これが、『イグニッション・プラン』での『レーゲン型』のPVだ」

副所長「今のお前ならよく理解できるだろう」


一夏「何だ、これは――――――!?」


副所長「Q.ISの基本システムであるPICを改良した第3世代兵器とは何だ?」

一夏「A.――――――『AIC』」

副所長「正解だ。これが『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』だ」

副所長「『慣性停止能力』とも言う」

副所長「発生できる範囲は至近距離でしかないが、イメージ・インターフェイスを利用した結果、イメージしやすい実体攻撃はほぼ無効化される」

副所長「つまり、至近距離での攻撃手段しか持たないお前のISでは勝つことは不可能だ」

副所長「勝ちたいんだったら、相手の致命的なミスを呼び起こす豪運が必要となるな」

一夏「…………」

101: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:32:49.72 ID:esIQ1gOT0

副所長「その他にも、搭載される武装としてはレールカノンやワイヤーブレード、プラズマブレードなど1対多をこなせる瞬間火力を重視した構成となっている」

副所長「つまり、全距離対応型だ」

副所長「正直に言うと、今の1年の専用機持ちで『こいつ』に圧倒的有利を付けられる機体が無いんだな…………簪ちゃんの『打鉄弐式』でも4:6の不利だ」

一夏「実体攻撃が完全に防御されるのなら、『ブルー・ティアーズ』なんかどうだ?」

副所長「いや、『ブルー・ティアーズ』は慣性移動している最中でないなら攻撃時に必ず足を止める必要があるから、レールカノンで余裕で撃破されてしまうぞ」

副所長「レールカノンは別に第3世代兵器じゃないし、携行火器じゃないから照準を固定したまま移動も可能で、弾速も極めて速い」

副所長「確かに『ブルー・ティアーズ』も主武装が弾速も速く、細かい粒子の集合であるレーザーなら『AIC』は突破できるが、その他の性能で終わってる」

一夏「え、ええ…………」

一夏「じゃあ、『甲龍』は?」

副所長「はっきり言おう。――――――0:10だ」

一夏「え」

副所長「『AIC』は確かにイメージしづらいものに対しては効果は薄くなるが、『甲龍』の第3世代兵器の衝撃砲は実際はただの空気砲だ」

副所長「『AIC』が発生させる強力な力場の前では質量を持たない攻撃など霧散してしまう」

副所長「そして、残された手段は接近戦だけ。それこそ『AIC』の格好の餌食だ」

一夏「………………」

副所長「わかったか? 決して戦うな」

副所長「一番勝ち目がありそうな『打鉄弐式』でも、簪ちゃんにドイツの小娘に敵うほどの力量はまだない」

副所長「つまり、満を持してドイツから派遣された専用機持ちが一日にして1年で最強となるわけだ」

副所長「実際に、コンペでの評価で最強と判定されたぐらいなんだからな」

一夏「いや、ちょっと待ってくれ」

副所長「何だ?」

一夏「フランスの代表候補生のシャルルなんかはどうだ?」

副所長「は? 誰だそれは?」

一夏「…………?」

副所長「聞いたことが無いな」

一夏「シャルル・デュノアだよ。デュノア社の社長の息子の」

副所長「――――――息子!? ――――――デュノアだと!? ――――――ますます胡散臭いな」

一夏「え」

副所長「まあいいだろう。デュノア社ってことだから、機体はどうせ『ラファール・リヴァイヴ』だろう」

一夏「あ、今思えば、合同実習で見たあの機体は確かに『ラファール・リヴァイヴ』だったかも」

副所長「いいか? たとえ、『ラファール・リヴァイヴ』の豊富な攻撃手段でも実弾を使う以上はまず防がれる」

102: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:35:29.41 ID:kNwJPS9B0

副所長「勝ち目はないんだ。よほどドライバーがマヌケでもない限り1対1じゃ」

一夏「…………1対1じゃ」
       ................
副所長「ああ。普通じゃ勝てない」

副所長「勝ちたいのであれば、――――――そういうことだ」

一夏「そんな…………」

副所長「フェアじゃないとか思っているんじゃないだろうな?」

副所長「いいか? あの機体は最初から戦争をするために造られた機体なんだ。兵器として造られたものだ」

副所長「だから、第3世代兵器の実用化だけに固執して欠陥だらけの実験機とはわけが違う」

副所長「いかに効率よく敵を撃破できるかを念頭に置いているんだ」

副所長「俺の『打鉄弐式』も全距離対応に仕上げてあるけど、瞬間火力と奇襲性、決定力においては完全に負けている」

副所長「勝っているところはもちろんあるけど、それ以前にドライバーの力量差が問題でな…………」

一夏「…………」

副所長「そのことを踏まえた上で、ドイツから来た小娘との付き合いを考えるんだな」

一夏「はい……」


両者「………………」


副所長「せっかく、待ちに待った専用機がもらえるっていうのにこんな話をして悪かった」フゥ

副所長「だが、お前のことだ。諌めておかなければ無闇に戦いを挑んで惨敗を喫すことになるのは目に見えているからな」

一夏「くっ…………」

副所長「いいか。勘違いをするなよ?」
     
副所長「これは戦力の差だ。相性の差だ。――――――実力の差ではない」

副所長「割り切れよ」

一夏「……わかりました」

副所長「それじゃ、お待ちかね!」


副所長「織斑一夏専用IS『白式』のご登場だ!」



103: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:37:59.24 ID:kNwJPS9B0

――――――アリーナ


副所長「ほう、お前も一端のISドライバーになったもんだな、“千冬の弟”」

副所長「さて、一通り動かしてみて、乗り換えた感想はどうだ?」

一夏「――――――速いです。リミッター解除した『打鉄』よりもずっと……」

副所長「そうだ。機動力は現在のIS学園の専用機の中では最速だ」

副所長「だが見た目通り、『打鉄』のような打たれ強さは期待できない。そのことは理解できるな? まあそれでも結構堅いほうなんだがな」

一夏「…………『白騎士』に似てません?」

副所長「そうだな。機体名も『白式』で“白”繋がりだからな(ほう。ISについて無知だった子がしっかりと勉強と研究を続けているようだな)」

副所長「だが正直に言うとな、――――――その機体は骨董品でね」

副所長「元々はよそのIS企業が設計開発していた代物だが、開発が頓挫して欠陥機として凍結されていたんだ」

一夏「え」

副所長「それで、我々 倉持技研が接収した際に調べたら、書類上のスペックを遥かに超える性能値を叩き出したんだ」

副所長「気味悪がって放置していたのだが、――――――そこにお前が現れた」

副所長「すぐにデータ収集に回せる(=個人所有できる)余った機体を政府が求めた結果、この機体がお披露目となったわけだ」

副所長「設計開発が何を思って『白騎士』に似せたのかは知らん」

副所長「ただ、奇妙な点がいくつも報告されていてな」


副所長「後付装備ができないぞ、その機体は」


一夏「え!?」

副所長「うん。できないんだ」

副所長「武器はその雪片弐型だけだ。なんでも、お前の姉の『暮桜』の雪片の後継作らしいぞ」

副所長「どうもそいつが拡張領域を独占しているらしく、取り外そうとしたんだが『白式』がそれを拒否してな……」

一夏「そんなことって…………」

副所長「知っての通り、ISには独自の意識が形成され、コア毎に個性というものがあるのが確認されている」

副所長「それ故に、ISは競馬に近いスポーツとされている。カネがべらぼうに掛かって思い通りにいかないところなんかそっくりだよな」

一夏「そうなんだ」

副所長「つまり、競馬に例えるならば、」

副所長「俺たちISエンジニアは、ISの趣味嗜好を調教してクライアントの望む装備が搭載できるようして実装するのが仕事になる」

副所長「一方、お前たちISドライバーは、調馬を同時にこなす生涯専属騎手を担うことになるってわけ」

副所長「ところがこの『白式』ってやつは、筋金入りの頑固者でな。まさにじゃじゃ馬だ」

副所長「だから飼いならすんじゃなくて、騎手の方を馬に合わせるしかなくなってくるってわけだ……」

一夏「ちょっと待ってくださいよ!」

一夏「それじゃ、セシリアと戦った時のようなトリックが使えないじゃないですか!」

副所長「そこは、――――――『『打鉄』では到底出せない高性能ぶりで補ってくれ』としか言いようがない。それぐらい謎に満ちた機体なんだ」

副所長「もしこんなじゃじゃ馬を相手にして『打鉄弐式』の開発を後回しにしていたら、確実に完成しなかったろうな」

副所長「ま、『打鉄弐式』の生みの親の俺がそんなの許すわけねえがな」

一夏「…………」

104: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:42:17.36 ID:kNwJPS9B0

副所長「さて、どうする? そいつを初期化して俺が設計して『打鉄参式』にでもするか?」

副所長「だが、そうなると少なくとも半年はかかるぞ?」

副所長「それに、『レーゲン型』を超える機体を造るだけの技術を擁する企業はおそらく他にはないぞ」
    vvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvv
副所長「そうなったら、スポーツ用の機体じゃなくて、軍用機になるからな」

一夏「!」

副所長「『造れ』と言うのであれば、別に構わないがな。ドイツの第3世代型以上の機体ぐらい余裕で造ってやる」

副所長「一応、査定に出す実験機として試験装備の数々を『打鉄弐式』に搭載してはいるが、あれは俺の本意ではないんだ」

副所長「ISの所有権は国際IS委員会での査定によって国毎に割り振りされるから、どうしても新技術開発のパフォーマンスが必要でね」

副所長「だから、本気装備のパッケージを別に用意させている。設計も最終段階なんだ。冗談抜きで強いぞ、これ」

副所長「ただ、相手を蹂躙し尽くすだけの『勝利することだけ』を重点に置いた装備で、面白みの欠片もないがな」

副所長「どうだ? 楽に勝てる機体にするか?」

一夏「…………わかりました」


一夏「俺は『こいつ』で行きます」ビシッ


副所長「そうか」

一夏「それに、なんだか俺は『こいつ』のことを知っているような気がするんだ…………」

副所長「ふぅん」

副所長「なら、いいんじゃない? ISはドライバーと「最適化」を重ねていくことで、「形態移行」することがわかっている」

副所長「お前が『白式』に運命を感じるのなら、乗りこなしてみせろ――――――いや、『白式』を信じろ」

副所長「幸い、『暮桜』と同じ運用法が想定されているらしいから親しみや愛着も湧きやすいだろうし、千冬の戦い方が直接参考になる」

一夏「それ、いいな」

副所長「あと少なくとも、『モンド・グロッソ』に出場するような連中は自分のISに対して並々ならぬ愛情を注いでいたと聞いている」

一夏「千冬姉もそうだったんだろうな」

副所長「ともかく、これでお前も専用機持ちになったのだから、専用機持ちとしての身の振り方をこれで覚えるんだ」ドサッ

一夏「うえっ!?(またこんな分厚い本を――――――!)」

副所長「む」ピクッ


副所長「誰だ、そこにいるのは」ギロッ


一夏「え……」

105: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:44:36.25 ID:esIQ1gOT0

ラウラ「織斑一夏……」スッ

一夏「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

副所長「ふうん。なるほど、こいつがね(あの眼帯の下にあるのは…………)」ジトー

ラウラ「貴様も専用機持ちになったようだな」

ラウラ「ならば、話は早い」


ラウラ「 私 と 戦 え 」


一夏「…………理由がねえよ(それに、乗り換えたばかりの機体でまともに戦えるものか! 『打鉄』とは挙動から感覚まで何もかも違うってのに!)」

ラウラ「貴様に無くても、私にはある」

一夏「今でなくてもいいだろう。月末にはトーナメントがあることだし、その時で(こいつ、そこまでして俺に――――――!)」

ラウラ「なら――――――!」

一夏「――――――展開した!?(――――――ロックされた!?)」ピィピィピィ

ラウラ「フッ」ニター

副所長「やれやれ」シュッ

ラウラ「む!?」ピタッ

一夏「あ、“プロフェッサー”!?」


副所長「これで撃てないだろう?」


ラウラ「何のつもりだ、貴様……!(――――――生身の人間がISの盾になるだと!?)」ギロッ

ラウラ「どけ。ISの前ではただ無力な有象無象に構っている暇はない」

副所長「いや、どかない」ジトー

ラウラ「…………!」

一夏「す、すげえ……(あのラウラを前にして、――――――しかもレールカノンを向けられて、全然動じてない。むしろ、押してる、よね?)」

ラウラ「貴様、怖くないのか?」

副所長「ああ。全く怖くありません」

副所長「なにせ、武器を構えているのに内心ビクビクしているような年端もいかないような小娘なんか怖くないよね? 可愛いね」ププッ

ラウラ「貴様…………!」ガコン、バン!

一夏「“プロフェッサー”!(――――――本当に撃ちやがった、こんのぉお!)」

一夏「あ…………(でも、だったらなんで俺はボーっとしてたんだよ!? 普通なら無防備な人をISに乗っている俺が『守るべき』だったのに…………)」

一夏「うわああああああああ!(この前の二の舞いじゃないかあああああああああああああ!)」

チュドーン!

副所長「うん。やっぱり外してくれた」ニヤリ

一夏「あ…………よ、良かった(何が『良かった』っていうんだ! 撃たれたんだぞ、撃ったんだぞ、守れなかったんだぞ!)」

ラウラ「…………何だこいつは?(――――――冷や汗一つ掻かなかった、だと!?)」アセタラー
  

106: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:46:20.23 ID:kNwJPS9B0
          ●●●●
副所長「ところで、“千冬の弟”と戦わくちゃいけない理由って何だ?」

ラウラ「」ピクッ

一夏「あ――――――!」

ラウラ「認めない! そこの男が“教官の弟”であるなどと、認めるものか!」

ラウラ「だから、私は――――――」

副所長「ごめん。言っている意味がわからない」


副所長「軍人ならはっきり言えよ!! そんな曖昧な受け答えしかできねえのか!!」


ラウラ「――――――!?」ゾクッ

一夏「!?」ビクッ

一夏「(び、ビビった…………前に叱責された時以上にビビった。やっぱり千冬姉の同窓生なだけある!)」ビクビク

副所長「で、どうしたいんだ? 言えよ、早く!!」ギラギラ

ラウラ「くっ!」ウルウル

タッタッタッタッタ・・・・・・

一夏「…………ラウラのやつ、泣きそうになってましたね(いや、俺だってもしかしてたら泣きそうになっているのかもしれない)」ドクンドクン

副所長「ふん。所詮は年相応の小娘だったということだ」

副所長「どれだけISを上手く動かせたとしても精神年齢は相当幼いぞ、あれ」

一夏「凄い気迫でしたね。後ろに居た俺がビビるぐらいに……(いや、それ以上に生身のあなたが俺をかばうなんて――――――!)」アセタラー

副所長「おいおい? この程度でビビっていたら、“奇跡のクラス”の中で“最恐”と言われた男にチビっちまうぞ?」

一夏「え、ええ…………!?(こ、『この程度』――――――!? あ、冷や汗一つ掻いてない! 格が違いすぎるよ…………)」

副所長「聞いたこと無い?」


――――――“極東のプーチン”って仇名されているおっかない外交官のこと。



107: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:48:27.79 ID:kNwJPS9B0

ピピィ

「む? 珍しいな――――――」ピッ


副所長「よう、久しぶりだな、――――――“プッチン”」

外交官「…………その呼び方はやめろ」

外交官「そろそろ聞かせてくれ。なんでお前は“プロフェッサー”で、俺は“プッチン”なのだ?」ギラッ

副所長「え、覚えてない? お前、甘いモノが好きだし、その割には強面で切れると怖そうだから、“プッチン”なんだよ」アセタラー

外交官「はあ…………」

副所長「(うはっ、やっぱ怖ええ! 画面越しに伝わる相変わらずの威圧感…………!)」

外交官「で、何の用だ?」

副所長「IS学園にさ、フランス代表候補生が入ったんだけど」

外交官「フランスの? 誰だそれは? 国政に関わることなのに軽々しい冗談はよせ」

外交官「お前は今年の我が国の代表候補生の専用機の開発設計を担当したからこうして昔の親交を温めることはできたが、冗談をいうのなら――――――」ジロッ

副所長「ふうん、やっぱりそこまで話題にもなってないんだ」

副所長「データを送るぜ」

外交官「……ああ。受け取った」

外交官「うん?」ピッ

外交官「………………」ジー

外交官「わかった。こっちの方で調べてみる」

副所長「悪いね。やっぱ、持つべきものは友だな」

外交官「ふん」

108: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:48:58.22 ID:esIQ1gOT0

――――――その夜


鈴「え、“極東のプーチン”って言ったら、私の国じゃ悪い意味で有名人よ」

鈴「鬼よ、鬼!」

鈴「なにせ、この人の影響で私がうっかりIS学園に入ることになったんだから」

一夏「え…………」

鈴「あ、いやその……、一夏がIS学園に入るってことがわかったら、途中からでも転入してきたわよ、絶対に!」

一夏「ああ、そうか」

鈴「それでね? いやあ、あの時は凄かったわ」

鈴「そいつに国の政治家がみんな及び腰になっていることに軍のお偉いさんがね、自棄酒を飲んでいたこともあって、」

鈴「今にも殴りかかってそれ以上のことをしそうだったから、――――――『ああ、これはIS学園に入っておかないとこっちの命まで危ない』ってね」

鈴「でも、それが結果として今に繋がっているんだから、本当に人生っていうのは何が幸と出るかわからないものね」

一夏「そうだな」

鈴「それで、どうして私にそんなことを聞いたの?」

一夏「何でもない――――――いや、あるか」

鈴「どっちよ」

一夏「実はその人も、千冬姉の中学時代の同級生なんだってさ」

鈴「え、えええええええええええ!?」

鈴「道理で凄いわけね…………逆に千冬さんが強いのも納得だわ」

一夏「ああ。“ゴールドマン”もその一人だもんな」

鈴「そうね。早く帰ってきてくれるといいね」

一夏「うん」


109: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:49:37.03 ID:kNwJPS9B0

――――――翌朝


一夏「ふう、ただいま…………(シャワー、シャワーっと)」

シャル「おはよう、早いんだね」フワアー

シャル「そういえば、昨日はどうしたの?」

一夏「ああ……、貸し切りのアリーナで俺の専用機『白式』を受け取って試運転をしていたんだ」

一夏「悪かった。シャルルにとって訓練初日だったのに、俺がしっかりとやらなくちゃいけなかったのにさ」

シャル「いいんだよ。みんな、親身になって教えてくれたし」

一夏「本当はトライアルが終わってすぐにでも訓練に混ざろうとしたんだけど、ちょっとしたアクシデントがあってな…………」

シャル「…………もしかして、ボーデヴィッヒさんのこと?」

一夏「………………」

シャル「ご、ごめん……」

一夏「いや、いいんだ。これは俺の問題だから、お前との約束を破ったことを謝る」

一夏「今日こそは、みんなに俺の専用機をお披露目するから楽しみに待っていてくれよ」

シャル「うん。楽しみしているね」ニコッ

一夏「お、おお…………(何だろう? これが女の子だったら男女の壁みたいなもので緊張感が走るのに、男でこれだとしたら――――――あ)」


一夏『シャルル・デュノアだよ。デュノア社の社長の息子の』

副所長『――――――息子!? ――――――デュノアだと!? ――――――ますます胡散臭いな』


一夏「…………ああ、期待していてくれ」ニコー

シャル「?」


110: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:50:12.81 ID:esIQ1gOT0

女子「ねえ、聞いた聞いた? ――――――あの噂」


セシリア「それは本当ですの!?」

鈴「嘘ついてないでしょうね?」

女子「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ」


――――――今月の学年別トーナメントで優勝したら、織斑くんと一緒にハワイ旅行に行けるって!


セシリア「それは一夏さんも承知していますの?」

女子「それがね? どうも本人はわかってないみたい」

鈴「どういうこと?」

女子「…………よくわからない」


本音「ねえねえ、カンちゃん! おりむーと一緒に行くために頑張ろー」

簪「そ、そういうんじゃ、ないから…………」テレテレ

本音「最近のカンちゃんは前よりずっと明るくなって、かわいいよ?」

簪「ほ、本音…………」テレテレ


一夏「おはよう」


一同「!」ビクッ

シャル「何の話、しているの?」

簪「えと、それじゃ私、戻るね…………」

本音「頑張れー、カぁンちゃん!」

鈴「じゃあ私、自分のクラスに戻るから……」

セシリア「そうですわね。私も席につきませんと…………(でも、私なら別に優勝しなくても――――――いえいえ、こういうのは――――――)」


スタスタスタ・・・・・・


シャル「?」

一夏「何なんだ?(…………授業の準備とか昨夜のうちに終わらせているものだから朝はとにかく暇なんだよな)」

シャル「さあ……」

千冬「席につけ、ホームルームを始めるぞ」

一夏「さてと(だから、ギリギリの時間で登校するようにしてるけど、改めるべきかな?)」


111: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:55:45.91 ID:esIQ1gOT0

千冬「さて、今日はみなに報告することがあるな。入って来い」

一夏「え」

周囲「ナニナニ?」

ガラララ・・・

一夏「あ」ガタッ


使丁「や、みんな。ただいま」ニッコリ


一夏「よ、用務員さん……!」グスン

使丁「泣くなよ。見舞いにだって来ただろう?」

使丁「それに、今の俺は自宅出勤だ」

周囲「キャー! “ゴールドマン"サマー!」

セシリア「ほ、本当に良かったですわ……」

使丁「みんな、ありがとう」

使丁「で――――――、」チラッ

シャル「?」

ラウラ「!」

使丁「――――――シャルル・デュノアと、」

使丁「――――――ラウラ・ボーデヴィッヒか」

使丁「1組のホームルームにはこうやって必ず顔を出すから、これからよろしくね」ニコッ

シャル「はい!(この人が、僕が来る前に一夏と相部屋だった人か…………)」

ラウラ「…………」アセダラダラ
                   ********
千冬「ラウラ。こいつは教員ではないが、私と同程度の戦力だから敬意を持って接するように」ニヤリ

千冬「そして、返事は全て『はい』だ」

ラウラ「は、はい、教官!」ビシッ

一同「!?」

使丁「…………」ニコニコ

一夏「な、なんか、ラウラの様子が一日で変わったような――――――あ」

一夏「何かしたんですか?」

使丁「ノーコメント」ニコニコ

ラウラ「うぅ…………」


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――


112: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:56:58.14 ID:esIQ1gOT0

――――――数時間前の深夜、屋外


ラウラ「――――――教官」

ラウラ「あなたの完全無比な強さこそ、私の目標であり、存在理由――――――!」

ラウラ「…………」スッ(眼帯を外す)

ラウラ「――――――織斑一夏」

ラウラ「教官に汚点を与えた張本人――――――排除する!」

ラウラ「どのような手段を使ってでも…………!」

ラウラ「…………」


ピーーーーーーー!


ラウラ「!?」ビクッ

「で、お前は深夜何をやっているのかな、転校生?」ピカーン

ラウラ「くっ!?(ば、馬鹿な! いつの間に――――――!?、気配など感じなかったぞ!)」

ラウラ「な、何者だ!?」


使丁「今日から復帰した“世界最強の用務員”だ。覚えておけ、転校生」



113: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:57:44.80 ID:kNwJPS9B0

――――――放課後、アリーナ


一夏「来い、『白式』!」


一夏「みんな、待たせたな!」

一夏「こいつが俺の専用機『白式』だ!」

鈴「へえ。こいつが待ちに待ったあんたの専用機…………」

一夏「まだ初期設定のままなんだけどな」

一夏「だけど、この状態でも前まで使っていた調整機体以上の機動力を持っているぞ」

セシリア「それは凄いですわね」

簪「副所長が用意してきた機体なだけあって、他にも何かありそう…………」

シャル「ねえ、一夏」

一夏「何だ?」

シャル「僕と戦って欲しいんだ」

一夏「シャルルの機体は『ラファール・リヴァイヴ』だったっけ(本当ならファーストシフトするまで戦いたくないけど、ラウラの相手をするよりは遥かにマシだ)」

シャル「そうだよ。正式名称は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』」

一夏「――――――『カスタムⅡ』?」

一夏「そういえば俺も学園で採用されている訓練機をちょっとイジった機体に乗っていたからわかるけど、改めて見るといろいろと違うんだな」

シャル「うん。僕の機体は通常機の2倍の拡張領域があるんだよ」

一夏「え…………(な、なんて羨ましい! 『白式』はゼロなんだぞ! 『打鉄』じゃなくて『ラファール・リヴァイヴ』を選んでおけばよかった……!)」

一夏「(いやいやいや! 俺はこいつで戦い抜くって決めたんだ!)」

一夏「(たとえ、相手の大量の飛び道具に蜂の巣にされても、与えられた条件の中で最善を尽くしてみせる!)」


――――――今は敗けたっていい。最後に勝てばいいのだから、とにかくやってみる!



114: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:58:49.83 ID:kNwJPS9B0

セシリア「さて、“もう一人の男性ISドライバー”の実力はどれほどのものなのでしょうか?」

鈴「一夏も機体を乗り換えたことでどこまでやれるのか、少し楽しみだし不安だ……」

簪「でも、織斑くんの機体は『打鉄』と同じく剣1つなのに対して、あっちは豊富な火器を取り揃えている…………」


一夏「行くぞ、シャルル!」

シャル「うん。行くよ!」


3,2,1――――――!


一夏「でやああああああああ!」
シャル「はああああ!」

ガキーン!

一夏「まだまだあああああああ!(小手、面、小手、面、面ええええええええええええん!)」ガキンガキンガキンガキンガキーン!

シャル「うっ……(なんて重たい一撃! しかもこれだけの攻撃を絶え間なくしてくる!)」

シャル「ええい……(ここは距離をとって――――――)」ヒュウウウン!

一夏「あ――――――(しまった! 距離を取らせたら負ける! 何としてでも食らいつけ! 唯一のチャンスだぞ!)」

一夏「待てえええええ!」ヒュウウウン!

シャル「――――――思ったよりも速い!? いや、追いつかれる!?」クルッ

一夏「でえええええやっ!」ガキーン!

シャル「うわぁあ!(振り向くのがあと少しでも遅かったら、背後から太刀をもろに受けていた――――――)」


鈴「凄い! 剣1つだけなのに、『ラファール』を圧倒してる!」

セシリア「まるで喰らいついたら放さない飢えた獣のごとき猛攻ですわ!」

セシリア「そういえば…………(クラス代表決定戦がもう少し続いていたら私もあんな感じに叩きのめされていたのでしょうか……)」

簪「…………あれ?(一定のリズムを刻んで連続攻撃を叩き込んでいるのだけれど、何か他に狙いがあるような動き――――――)」

簪「織斑くんは決まった場所を執拗に攻撃している…………?」

使丁「なるほどね」

簪「あ、用務員さん」

使丁「気をつけな。同じ目に遭う可能性があるからな」ブンブン(砂と水の入った瓶を素振りしている)

簪「あ…………」ゾクッ

セシリア「どうしました、簪さん」

セシリア「あら、用務員さん」

使丁「やあ、オルコット嬢」

使丁「(『剣しか使えない』という事実だけで止まってはならない)」

使丁「(視点を変えて突破口や利用方法を知恵を振り絞って実践してみせろ、一夏くん!)」


ラウラ「………………くっ」


115: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 10:59:36.11 ID:esIQ1gOT0

一夏「はああああああああ!(いいぞ! 格闘機や『AIC』じゃなければ万能機相手でもやれる!)」ガン、ガンガンガン!

シャル「くっ! まだまだぁ!(入っていきなり見せちゃうのはもったいないけど――――――!)」

シャル「この距離なら外さない!(――――――『灰色の鱗殻』!)」バッ

一夏「な、うわああああああああああああ!?(盾の中に衝撃砲でも入っていたのか!?)」ヒューーーーン!


鈴「一夏!? 一夏の『白式』が吹っ飛んだ!?」

セシリア「あれって…………!」

簪「第2世代兵器で屈指の破壊力を誇る『パイルバンカー』!」

使丁「ただの盾ではなかったか。――――――矛と盾とを兼ねていたか」

簪「はい。それに、リボルバー式なのでしっかりと固定できれば連射も可能です」

使丁「いい武器だな。空中では相手を吹き飛ばして距離を取り、壁際などでは連射して大ダメージを与える」

使丁「『ブルー・ティアーズ』に持たせるべき武器なんじゃないのか、あれ」


116: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:00:40.06 ID:esIQ1gOT0

一夏「ゴホゴホ・・・(シールドエネルギーはまだ十分だが、距離を取られてしまった…………)」

シャル「これで、形勢逆転だね」ジャキ

一夏「まいった…………俺の負けだ」

シャル「初期設定の機体であそこまで戦うことができたんだから、一夏は強いよ」

一夏「ああ。世界最強のコーチ陣が俺を鍛えてくれているからな」フッ

シャル「一夏」スッ

一夏「ありがとう」ガシッ


――――――互いの健闘を称えた握手!


パチパチパチパチ・・・・・・!

両者「!」

周囲「キャー、ドッチモカッコイイ!」

周囲「オツカレサマー!」

周囲「ISガクエンニハイッテヨカッター!」

使丁「見応えのある試合だった」

一夏「ありがとうございます、“ゴールドマン”」

使丁「これからルームメイトとして上手くやっていてくれ」ニコッ

シャル「は、はい!」ビシッ

使丁「それじゃあな」


両者「…………」


シャル「今のが、“ゴールドマン”…………」

一夏「ああ。世界で一番に尊敬している男だ。女だったら、千冬姉だけどな」

鈴「お疲れ、二人共!」

セシリア「御二人とも、いい戦い振りでしたわ」

簪「織斑くんの猛攻もそうだし、デュノアくんの「高速切替」と対応の速さも凄かった」

シャル「ありがとう、みんな」ニコニコ

一夏「よっと。それじゃ、俺はファーストシフトするまでは頑張ってみるよ」

一夏「今度、「高速切替」のコツを教えてくれよな、シャルル」ニコッ

シャル「いいよ、一夏」ニコッ



117: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:02:40.98 ID:kNwJPS9B0

――――――夕方


一夏「さて、ファーストシフトした後が問題なんだよな」

一夏「『白式』は雪片弐型以外の装備を載せることができないから、飛び道具が使えないんだよな」

一夏「どうしよう? 特に今回のシャルルとラウラのような万能機が相手だと万に一つの勝ち目がなくなってくる」

一夏「そして、二人の機体の武器の特性も大きく異なってくる」

一夏「シャルルの『ラファール・リヴァイヴ』は基本的に後付装備の携行火器で、ラウラの『レーゲン型』は固定武器となっている」

一夏「つまり、携行火器なら叩き落として無力化できる可能性はあるが、固定武器だとISの特性上排除することは不可能」

一夏「今回のシャルルとの模擬戦で武器を叩き落とすのを狙って執拗に右手・右肩を攻撃してはみたけれど、なかなかうまくいかないな」

          ********
一夏「…………普通じゃ勝てない、か」


一夏「どうすればいいんだ?」

一夏「千冬姉なら武器の相性を粉砕して圧倒することができるのだろうか?」

一夏「…………訊いてみるか」



118: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:03:51.48 ID:kNwJPS9B0

ラウラ「答えてください、教官! なぜこんなところで」

千冬「何度も言わせるな」

千冬「私には私の役目がある。それだけだ」

ラウラ「こんな極東の地で何の役目があるのですか!」

ラウラ「お願いです、教官! 我がドイツで再びご指導を!」

ラウラ「ここではあなたの能力は半分も活かされません!」

千冬「ほう?」

ラウラ「だいたいこの学園の生徒など、教官が教えるに足る人間ではありません」

ラウラ「危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている!」

ラウラ「そのような者たちに、教官が時間を割かれるなど――――――」


千冬「 そ こ ま で に し て お け よ 、 小 娘 」


ラウラ「!」

千冬「少し見ない間に、偉くなったな」

千冬「15歳でもう“選ばれた人間”気取りとは、恐れ入る」

ラウラ「わ、私は――――――!」

千冬「寮に戻れ。私は忙しい」

千冬「くだらんことで頭を悩ませている暇があるぐらいなら、ひたすらに鍛錬でも積んでいろ」

千冬「このままでは、お前は必ず初歩的なミスを犯し、足元を掬われることになるぞ」

ラウラ「――――――っ!」

ラウラ「くっ!」


タッタッタッタッタ



119: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:04:35.38 ID:esIQ1gOT0

使丁「ん? おお、ボーデヴィッヒ少佐殿ではないか」

一夏「…………どうしたんだ?」

ラウラ「っ!」ギロッ

ラウラ「貴様は絶対にぃ…………!」プルプル

タッタッタッタッタ・・・

一夏「…………」

使丁「千冬に何か言われたのは間違いないな」

使丁「って、ISを部分展開して盗聴していたんだろう?」

一夏「まあ、ファンとスターの擦れ違いなんて、言わなくてもわかるでしょう?」

使丁「まあな。俺もオリンピック代表選手になって、いろんな人間のいろんな声を浴びせられたんだ。理解できる」

使丁「お」

千冬「…………お前たちか」

一夏「初代“ブリュンヒルデ”であるあなたに相談があります」

千冬「ほう?」

一夏「織斑千冬が“ブリュンヒルデ”と呼ばれることに不快感を覚えることは知っていますけど、」

一夏「俺は『白式』を使いこなすためにご教授していただきたいんです」

千冬「そうか」






120: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:07:22.88 ID:esIQ1gOT0

      ・・・・・・・・
――――――普通じゃ勝てない。


倉持技研 第一研究所副所長の“プロフェッサー”は確かにこう言った。

俺と副所長の繋がりは用務員さんよりは遥かに薄いが、それでも人並み以上の付き合いはあった。

何よりも、俺が尊敬している“世界最強のIS乗り”と“世界最強の用務員”の級友であり、その二人からも信頼を寄せられている人物なのだ。

自然と俺はその人に親しみを覚え、“プロフェッサー”の教えを請い、その教えを信じ、その教えに従った。

その結果、俺は短期間で少なくとも中級者レベルのIS乗りに急成長できたと、そう考えている。

そのことだけでも、俺は感謝しても感謝しきれない。


だが、それだけが“プロフェッサー”の人としての魅力ではないことを俺は知っていた。


厳しくともしっかりと事実と現実を突きつけ、当人の意思を確認することで、どんなに理不尽な無理難題にも一丸となって取り組んでくれる面倒見の良さがあるのだ。

時には丁寧に物事を解説する英明さを見せる一方で、目的のためなら自ら恨みを買うようなことも平気で行えるような果断な人物だった。

常にみんなのことを考えて最善策を一人思案するその姿こそが、“奇跡のクラス”において唯一“プロフェッサー”という格式高い渾名に相応しかった。

そして、自分の意志で立ち向かう決意を固められるように、言葉の端々に攻略のヒントを隠しているのだ。


先程の言葉にも、明確な解決への糸口が込められており、“プロフェッサー”は敢えて、

      ・・・・・・・
――――――普通は勝てない。


とは言わずに、

      ・・・・・・・・
――――――普通じゃ勝てない。


と言う、実にわかりやすい表現を使っているのであった。


副所長『勝ちたいのであれば、――――――そういうことだ』


121: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:09:01.55 ID:kNwJPS9B0

副所長はありとあらゆる可能性から俺の勝算を導き出そうと考えを巡らせてくれた。

解読の仕方は簡単である。――――――ジョークを理解できるだけの頭の柔らかさがあればいい。

そもそも、やり方の一例はすでに示されているのだ。副所長がそう言ったのなら、俺はそれを信じてありとあらゆる可能性を模索する。


副所長は簡単には答えを教えようとはしてくれない。

――――――当然だ。

ただ与えられた解答に意味など無いからだ。その解答が当人の血肉として人生の糧にならないからだ。

『考えなくなった人間は、機械や家畜と同義である』と信奉している“プロフェッサー”らしい考え方であった。

相手の程度に合わせてさり気なくヒントを伝えようと頑張る“奇跡のクラス”のバランサーは、
俺にドイツの第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』攻略のとある戦術を閃かせたのであった。


そう、IS〈インフィニット・ストラトス〉はロボットや戦車でもなく、量子化兵装を備えた“奇跡”の空戦用パワードスーツなのだ。


俺は“世界最強のIS乗り”から指導を受けた後に、そのことに目を付け、それに特化した訓練を敢行したのであった。


題して、――――――『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー・キャンセラー作戦』!


剣1つで、1対1最強の第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』攻略を意図した、軍人に対するアスリートの意地であった。


122: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:10:03.35 ID:kNwJPS9B0

――――――真夜中


一夏「やっと帰れたぁ……」ガチャ

一夏「さすがは“ブリュンヒルデ”。訓練の内容も今まで以上にハードだった……」ゼエ

一夏「シャルル……はもう寝ちゃったか。当然だよな」

一夏「パソコンに記録を付けてっと――――――」


一夏「…………盗み見された痕跡がある」


一夏「」チラッ

シャル「ZZZ・・・」スヤー

一夏「………………」

一夏「ん? メールだ。しかもついさっき来たばかりのだ」


――――――

織斑一夏へ

今週の土曜17:00、お前の家で待つ。

鍵は姉から預かっている。

――――――


一夏「!」

一夏「…………うん」スゥーハァーー

一夏「(これは『一人で来い』って意味だよな? そして、これが真実なら、千冬姉が信頼している人物――――――“奇跡のクラス”の面々か!?)」

一夏「行かないわけにはいかないよな?(必要最低限な文体からして、緊張感をもたらしている――――――! どんな人なんだろう?)」


123: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:10:36.85 ID:esIQ1gOT0

――――――土曜日


一夏「さて、自分の家だっていうのに、なんで緊張するんだろう……?」(私服)

一夏「俺の家の中から誰かが俺を見ているようだ…………」アセタラー

一夏「…………」スゥーハァーー

一夏「よし」ガチャリ

一夏「ただいま!」


――――――こっちだ。


一夏「は、はいっ!」ビクッ



124: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:11:30.07 ID:kNwJPS9B0

一夏「えっと、あ、あなたはい、いったい――――――!?」

外交官「俺は世間で“極東のプーチン”と怖がられているしがない外交官だ」(サングラス)

一夏「あ、あなたが“ブリュンヒルデ”や“ゴールドマン”、“プロフェッサー”の中学時代の級友だった方ですか!?」ゾゾゾ・・・

一夏「(で、でかい! 日本人らしからぬ2m近い巨体とサングラスを貫いて届くこの視線の鋭さ!)」

外交官「そうだ。まあ、怖がるな。危害を加えるつもりはない」

一夏「わ、わかっているつもりなんですけど…………(なんで足が震えているんだろう? 鳥肌が立っているよ)」プルプル

外交官「まだまだ未熟というところか…………」

一夏「あの、こんな薄暗い場所じゃなくて、明かりをつけましょう?」

外交官「それは構わない。きみが入ってくるまで待っていたのだからな」

一夏「…………大変なんですね」パチッ

外交官「ああ。俺は嫌われ者でね。いじめられないように常に気を配り続けないといけないんだ」

外交官「特に、これからきみに伝えようとしていることは1国の運命を左右するものだからな」

一夏「!」

一夏「なんで、それを俺なんかに……?」アセタラー

外交官「対象がIS学園の生徒だからだ。内部告発でしか追及することができない」

外交官「これ(=小型のノートパソコン)を見てくれ」スッ

一夏「えと、何々――――――え」

一夏「………………!?」

外交官「……………」

一夏「…………う、嘘だよな?」

外交官「思い当たる節は本当に無かったのか?」ギロッ

一夏「う、…………ありました」

外交官「なるほど、やはり産業スパイか」

外交官「稚拙なものだな。秘密裏に推し進めたようだが、外部の人間に見つかってすぐに身許が割れた」

一夏「……どうするつもりなんですか?」

外交官「無論、アラスカ条約違反で糾弾する」ギラギラ

一夏「そ、それじゃ、シャルルはどうなるんですか……?」アセダラダラ

外交官「――――――IS学園特記事項」


本学園における生徒は、その在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない


一夏「えと……、――――――あれ? さっき『糾弾する』って言ってたけど、これじゃ裁判にかけることなんてできないんじゃ?」

外交官「そうだ。糾弾したくてもできないんだ」

一夏「やっぱり……」

125: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:12:06.29 ID:esIQ1gOT0

外交官「つまり、内部の人間からの告発が無ければ、このままだとお前はそいつに延々とデータを奪われることになっていくぞ」

外交官「IS学園はあらゆる司法や権力から独立された空間だ。自分の身は自分で守らなくてはいけないのだ」

外交官「そのことを理解できたか?」

一夏「……はい」

外交官「ISに関する技術というものは基本的に公開しなければならない」

外交官「それがIS開発国である日本を標的に制定されたアラスカ条約の基本精神だ」

外交官「仮に企業秘密を押し通すつもりならば、秘密の私有地で秘密主義を貫き通せば問題ないがな」

一夏「…………」

外交官「だが、このままだとせっかく発明した新技術開発の恩恵がすぐになくなる――――――」

外交官「そういう面から、IS学園という完全中立地帯が設置されることになったのだ」

外交官「もちろん、これから拡大していくであろうIS業界の次代を担うISドライバーやエンジニアの教育育成も重要な目的なのだがな」

外交官「それ故に、IS学園では『使用されたIS技術の非公開』が認められている」

外交官「付け加えて、対戦・訓練環境も整っているおかげで、IS学園は次世代技術搭載の実験機のテストに最適なのだ」

外交官「もちろん、『行動全般の黙秘』も認められている。当然だな」

外交官「さて、ここで問題となってくるのは、――――――情報セキュリティの面なのだ」

外交官「実は、このアラスカ条約によって設置されたIS学園は完全中立地帯ではあるのだが、逆に言えば実質的な無法地帯でもある」

一夏「え」

外交官「なにせ何処の国の司法によって裁くことができないのだから、情報流出も容疑で取り調べを行おうにも国際IS委員会での審議を経る必要がある」

外交官「もちろん、情報を盗むなんてことが白日の下に晒されたらアラスカ条約の精神が汚されるということで大問題となるだろう」

外交官「だからこそ、国際IS委員会は専門の司法機関を設置しないはずだ」

一夏「え!? それじゃ、盗まれたほうが泣きを見ることに――――――」


外交官「残念だが、――――――国際社会とは口で言うほど遵法精神旺盛ではないのだよ」


一夏「…………!」

外交官「結局は利害の問題なんだ。自らの利になるかどうかだけで主張などころころ変わる」

外交官「もし糾弾したとしても、某国と互恵関係にある国や対立している国々の思惑によって、公平な審判になるか怪しいところだ」

外交官「そして、むしろその審判の席において国際感情が悪化することで、アラスカ条約体制が崩壊するのを早める結果にもなるということも懸念されている」

外交官「国際連合の問題解決能力を振り返れば、人類平和など程遠いことなどわかるだろう」

一夏「…………そんな」

126: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:12:40.50 ID:kNwJPS9B0

外交官「お前だってな、その欲望の標的なのだぞ」

一夏「え」

外交官「“世界で唯一ISを扱える男性”の帰属を巡って、各国がお前の身柄を買おうと必死なんだからな」

一夏「何だよ、それ!? 無理やりIS学園に入れておいて…………!」

外交官「まあ、はっきりいって不毛で無益で時間の無駄でしかない馬鹿馬鹿しい争いなんだがな。ちょっと考えればそのことに気づくはずだ」

外交官「しかし、こういうことを普通に言い出すようなところでもあるのだ、世界というのは」

一夏「…………ふざけるなよ(泣きたい気分だよ、もう)」

外交官「安心しろ、“千冬の弟”」ポン

一夏「!」


外交官「俺が目を光らせている限りは、日本国民であるお前の身の安全は保障する」


一夏「お、おお!」

外交官「あの“ピンクラビット”がしでかした不始末は、俺が処理する!」

外交官「お前は気にすることはない」

外交官「お前は“お前”だ。“千冬の弟”だからって、そう気負うなよ」

一夏「ありがとうございます!」

外交官「さて、言うべきことも言い終えた」

外交官「俺は帰るとするよ。貴重な休暇を消費したが、あの“スケバン”が大事にしていたものをじっくりと見ることができて満足だ」フフッ

一夏「こちらこそ、いろいろとありがとうございました!」

外交官「それじゃ、家に残るか? それとも、用事があるのなら送って行こう」

一夏「そうですね。特に、他に用事があるわけじゃないので学園までお願いします」

外交官「そうか」ピッ

外交官「俺だ。クルマを回せ。対象をIS学園に送り届ける」



127: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:13:05.21 ID:esIQ1gOT0

一夏「意外と中は凄いんですね」

外交官「お忍びで来たとはいえ、俺は特定アジアの人間からは相当狙われているからな。覆面車でも防弾仕様は欠かせない」

外交官「ガスマスクや備え付けの銃火器なんかも入っている」

一夏「あ、あははは…………(さすがは千冬姉の同級生…………けど、これで千冬姉と同い年とはやっぱり思えないな)」

外交官「では、テレビを映してくれ。夕方のニュースを確認しよう」

運転手「はい」ピッ


――――――こちら、倉持技研 第一研究所前です!


両者「!?」

――――――
キャスター「御覧ください! つい1時間ほど前に謎の爆発により、施設は倒壊し、周囲には危険な有毒ガスや火災が発生しているとのことです」

キャスター「報告によると、幸い本日は土曜日ということで出勤していた人は少なく、正午頃には業務を終えて全員が帰宅していたとのこと」

キャスター「よって、怪我人はなかったそうです」
――――――

外交官「…………」ピッ

プルルル・・・プルルル・・・

外交官「何故出ない“プロフェッサー”!?」

一夏「行きましょう!」

外交官「頼む!」

運転手「はい!」


128: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:13:54.42 ID:esIQ1gOT0

――――――倉持技研 第一研究所廃墟


外交官「さすがに野次馬共は暗くなったから帰ったようだが……」(ガスマスク)

外交官「瓦礫を頼む!」

一夏「はい!」(ガスマスク)

一夏「来い、『白式』!」

外交官「その姿――――――ファーストシフトは完了していたのか」

一夏「はい。木曜日の“ブリュンヒルデ”との特訓で何とか……」

外交官「ふむ。こういう時に便利だな、ISというのは……」

外交官「こうやって瓦礫を取り除いたり、崩れた足場を無視して進めたり、警察のバリケードを掻い潜るのも容易だ」

外交官「それだけに、この“史上最強の兵器”がいつ目の前に現れて襲ってくるか、たまったもんじゃないな」

一夏「…………」

外交官「それで、お前の見立てだと、“プロフェッサー”は休日を惜しんで『白式』の謎の解明に乗り出しているのだな?」

一夏「はい。ファーストシフトの段階で単一仕様能力に目覚めたという、これまた特異的な反応を見せたので」

一夏「元々『白式』は副所長でも理解の及ばない特性を持っているということで、『打鉄弐式』が完成した後はその研究に没頭していました」

外交官「あいつは、一人になって考えるのが好きなやつだからな。そのくせ、よく周りのことは見えている不思議なやつだったよ」

外交官「帰らずに研究なんてしていなければいいのだが…………あいつ、研究所が倒壊したことにも気付いて無かったりして」

一夏「…………ゾッとしますね」


パラパラ、ヒューーーン!!


一夏「危ない!」ガシッ

外交官「っ! すまない!」アセタラー


ガラガラガッシャーン!


一夏「これ以上は…………」アセダラダラ

外交官「そうだな………‥」

外交官「ん?」

外交官「あそこだ!」

一夏「あ、――――――副所長!」

129: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:14:34.22 ID:kNwJPS9B0

副所長「ゴホゴホ・・・」バッタリ

外交官「急いで運ぶぞ! こっちはガスマスクをしているから気にもしなかったが、有毒ガスが発生していたからな!」

一夏「はい!」

副所長「お、おお! 二人共…………」

外交官「喋るな! 死に急ぐことになるぞ!」

一夏「あ、脚から血が――――――! 急がないと!」

副所長「待った……、試作品がちょうど完成したんだ…………」

一夏「わかりましたから、喋らないで!」

副所長「俺が確保しておくから、こいつを早く安全なところに連れて行ってくれ」

副所長「思ったよりも倒壊しそうにないから、ここで待っているぞ」

一夏「わかりました。では、行きますよ!」

副所長「」パクパク


――――――ありがとう。






一夏「この人を急いで病院に!」

運転手「!?」

運転手「それはわかりました」

運転手「しかし、あの方はどうなさった?」

一夏「重要機密の回収に向かいました。だから、俺が早く迎えに行かないと」

運転手「………私見ですが、あの方はあなた以上に我が国にとってなくてはならない存在です」

運転手「どうか、その史上最強の鎧で以って守り通してください」

運転手「でなければ――――――、」


運転手「我、魂魄何万回生まれ変わろうとも、恨み晴らすからなああああああああああ!」


一夏「!?!?」ゾクッ

一夏「は、はい!」

一夏「それでは、任せましたよおおおお!」

ヒュウウウウウウウン!



130: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:15:13.88 ID:esIQ1gOT0

――――――翌朝、病院


一夏「あ」

外交官「目が覚めたか」

一夏「すみません。眠ってしまいました(…………汗が酷いな。ああ、気持ち悪いよ。シャワーを浴びたい)」

外交官「密林のスナイパーでもない限りは、オペの長丁場を真剣なままで貫けるほどの集中力は保たないさ」

一夏「えと、“プロフェッサー”は!?」

外交官「ああ。何とか無事に生き残ったよ」

外交官「だが、“プロフェッサー”が残してくれたこのデータディスク――――――」

外交官「今回の襲撃の発端ともなったものだろうな」

外交官「おそらく、ドイツのIS研究所のどこかが同じように爆破されることだろう」

一夏「え…………?」

外交官「ともかく、あいつも目が覚めたんだ。本人から事の真相を聞こうではないか」


131: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:15:45.79 ID:kNwJPS9B0

副所長「昨日は、本当にありがとな…………」

副所長「だが、――――――さすがは俺!」

副所長「あんな状況になってもちょっと寝たら、ピンピンしているぜええ!」

一夏「あ、ははは…………(自信過剰に振舞っているのも何かの演技なんじゃないかと少し疑ってしまう)」

一夏「いったい昨日は何があったんですか……?」

副所長「あ、少し待って」シー

一夏「?」

外交官「よし、そっちはどうだ?」

運転手「問題ありません。この病室に盗聴器は確認されませんでした」

外交官「よし、妨害電波も流した」

外交官「話していいぞ」

副所長「」コクリ

一夏「…………俺、帰ったらちゃんと用心しないと」




132: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:16:33.42 ID:esIQ1gOT0

副所長「昨日は、正午まで『白式』第一形態で発現した単一仕様能力の謎について分析していた」

副所長「正午になって定時退社することになったのだが、副所長の権限を以って更に研究を続けていてな」

副所長「だが、一向に埒が明かなくてな」

副所長「そこで、“プッチン”がシャルル・デュノアについて調べている一方で、」

副所長「俺も今度の転校生:ラウラ・ボーデヴィッヒについて調べてみることにしたんだ」

副所長「まあ、普通なら国際IS委員会に提出されているデータで満足するところなんだが、」

副所長「俺はどうもIS以前にドイツ軍人であることのほうが気になっていてな。あの歳で少佐の少年兵って何ぞやってな」
            ・・・・・・・・・・・・・
副所長「それで、ちょこっと探りを入れて見たら、とんでもない秘密を暴いてしまってな」

副所長「それがよ、この世には存在しちゃいけない技術が搭載されているっぽいんだよ」


――――――ヴァルキリー・トレース・システム


副所長「VTシステム――――――これは『モンド・グロッソ』部門優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステムだ」

副所長「かつて、アラスカ条約において新たに禁止された技術でね」

副所長「まあ、詳しい説明はこの際抜きだ」


結論:あのラウラってクソ生意気な小娘の機体に、この禁止されたシステムが搭載されている可能性が大!


副所長「そして、その結論に至った直後に研究所が原因不明のクラッキングと直接の破壊工作を受けたんだ」

副所長「たぶん、俺の行動を監視していた何者かが、俺がVTシステムの不正利用者と見なして襲ったんじゃないか?」

副所長「なにせ、普通にログインしてデータを覗いただけだからさ。さすがは俺!」

副所長「本当ならとっとと脱出したかったところだけど、それと並行して“千冬の弟”にプレゼントを用意していたんだよな」

副所長「施設がぶっ壊された以上は、開発に戻るまで時間が空くってわけだから、どうしても完成させたかった。どうせ脱出は無理だったし」

副所長「で、次いでに証拠となるデータと遺書をチョチョイのチョイで書き残して、空気汚染が進む中を這いつくばって逃げ惑っていたってわけさ」

副所長「あとは、二人が助けに来てくれた」

副所長「ありがとな」

副所長「それと、簪ちゃんをよろしく」ニコッ



133: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:17:27.03 ID:kNwJPS9B0

――――――夕方


一夏「…………」ハア


外交官『お前が告発すれば、二人の転校生を強制送還することができる』

外交官『それはお前の人生にとっても、我が国の国益にも適うことだ』

外交官『今のところ この二人に問題は見られないが、お前には二人の行動を監視する義務ができたということを忘れるな』ギラッ


一夏「俺、何をすればいいんだろう?」

一夏「正しいことをすればいいのだろうけれど、――――――“正しい”って何だ?」

一夏「俺はどうすればいいんだ……」トボトボ・・・


鈴「一夏!」


一夏「ああ、鈴か。ただいま」

鈴「――――――『ただいま』じゃないわよ、まったく!」

鈴「昨日はどこ行っていたのよ!」

一夏「あ……(そうだ、昨日はこっそり実家に帰ってそれから――――――)」

鈴「すごく疲れた表情している…………」

鈴「どうしたのよ?」

鈴「あ、何か事件に巻き込まれて――――――!」

一夏「大丈夫。実家に帰ったらそのまま長居して眠っちゃったってだけだから」

鈴「…………」

鈴「一夏」

一夏「何だ?」

鈴「夕飯はまだなんでしょう?」

一夏「そうだな」

鈴「なら、今日は私が作ってあげるから、待ってなさいよ」タッタッタッタッタ

一夏「あ、ああ…………」


鈴『料理が上手になったら、毎日私の酢豚を食べてくれる?』


一夏「小学校の時、酢豚の話したのもこんな夕方だったよな……」

一夏「あの約束って、もしかして違う意味なのか……?」


134: ◆G4SP/HSOik 2014/03/07(金) 11:19:03.72 ID:esIQ1gOT0

一夏「(だけど今は、グダグダ考えている暇はない!)」

一夏「(――――――シャルルとラウラ、その二人の運命を俺は握ってしまったのだから)」

一夏「(千冬姉はどう思っているんだろ? どうなって欲しいんだろう?)」

一夏「だけど、確実に言えることは――――――!」


一夏「国の陰謀がなんだとか、そういったゴタゴタに付き合わされるつもりはないってことだ!」


一夏「健全なスポーツマンシップに則り、ノーサイドに行かせてもらう!」

一夏「爽やかに勝って、爽やかに負ける! 悔恨の残らない清々しいものを求めて、俺はここに立ったはずだ!」

コツコツコツ・・・・・・

使丁「やあ、一夏くん」

千冬「一夏……」

一夏「ただいま」

一夏「――――――今夜もお願いします」

千冬「ああ」

使丁「…………」


こうして、俺は自分が成すべきことを見据えて、偉大な先輩たちの指導の下、日々成長し続けるのであった。


141: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:13:25.08 ID:lu3tS7gx0

――――――数日後


一夏「ファーストシフトした『白式』の性能はなかなかだけど、根本的な相性を覆すほどのものでもない」

一夏「ただ、単一仕様能力には驚かされた。駆け引き次第でどんなISでも下すことができる」

一夏「これならタイマンでの『シュヴァルツェア・レーゲン』撃破を目的とした『AICC作戦』も絵空事ではなくなってきたぞ!」

一夏「ようし!」

シャル「じゃあ、僕は先に部屋に戻っているからね?」

一夏「へ? ああ……」ジロッ

シャル「な、何かな?」

一夏「お前、いつもそうだよな」

シャル「え!?」

一夏「なんで俺と着替えるのを嫌がるんだよ~」

シャル「べ、別に、そんなことないと思うけど…………」アセアセ

一夏「そんなことあるだろう?」ニコニコ

一夏「たまには一緒に着替えようぜ」ペタペタ

シャル「え、え、い、い、いや――――――」

一夏「そう連れないこと言うなって」

一夏「俺も結構鍛えたから密かに自慢したくてさ」

シャル「う、う、うぅ……」カア

シャル「うわああああああああああああ!」タッタッタッタッタ

一夏「シャルル――――――!?」

一夏「…………ああ、せっかく硬くなった腹を触ってもらおうと思ったのにな」

一夏「まあいいや。シャワー浴びよ」スタスタ・・・


キュッ、ジャージャー・・・




142: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:14:05.03 ID:lu3tS7gx0


バチィン!


ラウラ『私は認めない。貴様が“あの人の弟”であるなどと――――――!』

ラウラ『認めるものか!』


第2回『モンド・グロッソ』:ISの世界大会――――――。

その決勝の日、俺は何者かに誘拐された。

どういう目的があったのかは未だにわからない。

俺は拘束されて閉じ込められた。

それを助けてくれたのが、決勝戦を放り出して駆けつけてくれた、千冬姉だった。


――――――決勝戦は千冬姉の不戦敗。


誰もが二連覇を確信していただけに、決勝戦棄権は大きな騒ぎを呼んだ。

そして、俺に監禁場所に関する情報を提供してくれたドイツ軍に借りを返すため、1年ちょっとの間 ドイツ軍IS部隊の教官をやってたってわけだ。


全て、俺の不甲斐なさのせい…………


一夏「…………情けない弟だよな」

けど、俺は千冬姉のかつての級友たちの指導を受けて、

――――――少しずつ強くなった。

――――――いろんなことも考えられるようになった。

――――――無理して背伸びする必要や気負う必要はないって言ってもらえた。

――――――こんな俺にみんなは“俺”として接してもらえた。

――――――それが大人の役目なのだと背中で語るかのように。


だから、俺が千冬姉に報いるために必要なことは確かにわかりかけてきていた。
         ・・・・・・・・・
今の俺はちゃんと、強くなってきている。だから、今はそれでいい。

それ以上のことだ。――――――千冬姉にしてあげられることとは!



143: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:15:17.48 ID:lu3tS7gx0


一夏「ただいま」ガチャ

シャル「おかえり」

シャル「最近、帰りが遅くなったね、一夏」

一夏「まあな。秘密の特訓をしていたんだよ」

シャル「へえ」

一夏「聞いて驚け! ――――――『シュヴァルツェア・レーゲン』を剣1つで倒す特訓だ!」

シャル「え、えええ!?」

一夏「だから、秘密なんだ。悪いな、シャルル」

シャル「そうなんだ……」

一夏「そうなんだよ(パソコンとシャワールームの監視カメラはちゃんと機能していたかな)」ニコニコ

一夏「トーナメントが楽しみだぜ!」

シャル「そうだね…………」









144: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:16:00.44 ID:nYyIS+0E0

――――――翌日


一夏「トーナメントがツーマンセルに?」(左手で砂と水の詰まった瓶を素振りしている)

セシリア「そうなのですわ!」

鈴「で、誰と組むのよ! 当然、ここは私よね?」ドキドキ

周囲「ズルイズルイー!」

周囲「オリムラクン! ワタシトー!」

ラウラ「…………」ジー

一夏「俺は、そういうのはな…………」

鈴「どうしたのよ?」

使丁「察してやりな、嬢ちゃんたち」

セシリア「どういうことですの?」

使丁「一夏くんは個人競技のアスリートを前提に修養してきたから、誰かを選ぶっていうことには慣れてないんだよ」

使丁「それに、一夏くんは『シュヴァルツェア・レーゲン』を一人で倒すことを目標に取り組んでいたから、尚更ね」

一同「!?」

ラウラ「!」

セシリア「それは本当ですの!?」

鈴「あの機体を一人で!? 剣だけで『AIC』をどうやって突破するのさ?」

一夏「そこは、対戦してからのお楽しみってわけだ」ニコッ


一夏「ラウラ!」(一升瓶を向けて)


ラウラ「!」

周囲「!」

一夏「いい勝負にしようぜ、IS学園の生徒として、――――――同じ千冬姉の教え子として!」ビシッ

ラウラ「言っていろ。その減らず口を叩けなくしてやる……!」ギロッ

使丁「よしよし」ニコニコ

ラウラ「ちっ」


145: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:16:53.70 ID:lu3tS7gx0

セシリア「で、どうなさいますの?」

一夏「正直誰と組んでも最善を尽くすことに変わりはないからな」(やっぱり瓶を振っている)

一夏「ラウラは誰と組むんだ?」

ラウラ「必要ない!」

一夏「ふうん」

一夏「なあ、これって一人じゃ参加できないのか?」

ラウラ「む? 貴様、まさか――――――」

女子「抽選で組まされるって聞いているけど…………」

鈴「ちょっと馬鹿ぁ! そんなこと言ったら――――――」

一夏「わかった。なら、対等の条件で戦おう」

セシリア「あ…………(この流れはどこかで――――――)」アセタラー


一夏「俺は誰とも組まない! ラウラと同じく、ランダムで行かせてもらう!」


使丁「ほう?(この啖呵を切る様子は入学当初を思い出すな。だが、あの頃とはまるで違う――――――)」

一同「!?」

ザワザワ・・・――――――阿鼻叫喚!


146: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:17:39.40 ID:nYyIS+0E0

一同「キャアアアアアアアアア!」

ラウラ「貴様……、私を甘く見るなよ? 私の『シュヴァルツェア・レーゲン』の前に平伏すがいい」

一夏「俺もそこそこやれるようになってきたし、お前という強敵と戦えるのが楽しみでならないぜ!」

ラウラ「どこからそんな自信が湧いてくるのかは知らないが、二度と顔も上げられないぐらいに、――――――叩き潰す!」

鈴「ちょっと、あんた! その言葉、今すぐ取り消しなさいよ~!」

一夏「男が言ったことを覆せるか」


一夏「俺はパートナーは決めない」


周囲「ソ、ソンナー」

セシリア「あ、あははは…………(でも、この物事に真摯な態度が一夏さんの良さですわね)」

セシリア「(最終的にはたった1週間でこの私を追い込んだのですから、やってくれますわ、きっと!)」

使丁「いやはや、大言壮語もまんざら嘘でもなくなってきたな」


シャル「みんな、おはよう」


周囲「!」キラーン

使丁「あ」

シャル「へ」

周囲「ワタシトクンデー、デュノアクーン!」

ドタバタ、ワイワイ、ガヤガヤ・・・

シャル「ええと……」

鈴「ああもう…………!(優勝したら一夏と二人っきりでハワイ旅行だったわよね!?)」

鈴「こうなったらやってやるわ!(でも、一夏は最初からラウラと戦うことしか頭にないみたい…………)」

使丁「これは、いったいどうなることかね…………(やばい、まさかペアを組むことになるなんてな…………今から予約を増やせるかな?)」

使丁「(だが、『より実戦的な模擬戦闘を行うため』だというが、これはやはり先月の――――――)」


ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ・・・


千冬「静かにしろ! ホームルームが始まるぞ!」

周囲「ハーイ!」

セシリア「ここは万が一の可能性を信じるしかありませんわね」

鈴「一夏! 覚悟してなさいよ!」

一夏「じゃあな」(やっぱり、瓶を小刻みに振っている)

ラウラ「ふん」

シャル「これはどうしようかな……」アセタラー



147: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:19:12.08 ID:lu3tS7gx0

――――――放課後


一夏「慣れたもんだな、これも」ブンブン

一夏「ん、簪さん?」

簪「あ、お、織斑くん……」

一夏「教室に一人残ってどうしたのさ?」

簪「な、何でもないの……」

一夏「どうしたんだよ、泣いた跡があるじゃないか!」

一夏「……何かあったのか?」

簪「…………」グスン

一夏「よっと(こういう時は急かしちゃダメなんだっけな。ここは待ってみるか)」ニコニコ

簪「あ…………」







簪「ありがとう、織斑くん」

一夏「俺、何かしたっけ?」

簪「けど、――――――ありがとう」ニコッ

一夏「それじゃ、――――――どういたしまして」ニコッ

一夏「それで、どうしたんだよ、簪さん?」

簪「その、実は……、副所長との連絡が全然取れなくて…………」

一夏「え」

簪「いつも、何かあったら励ましてくれたのに、こないだからそれがなくなって…………」グスン

一夏「ああ…………(研究所を爆破されて入院しちゃったせいでケータイとか持ってないから…………)」

一夏「(いや、それだけじゃない。回復するまでは厳重な警護に置かれているから、連絡したくても連絡できない状態になっているんだったっけか…………)」

一夏「(それに、代表候補生の専用機の設計開発をした所が狙われたということを世間に知られるとマズイということで、箝口令も敷かれているんだっけな)」

一夏「あの、俺…………(けど、伝えるべきなのか? この一件に関しては“プッチン”さんから一切口外しないように言われたけど…………)」

簪「え? 織斑くん、何か知ってるの?」

一夏「落ち着いて聞いて欲しいんだ」

簪「う、うん……」

148: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:19:59.10 ID:nYyIS+0E0

一夏「実は、副所長は、怪我をしたらしく、入院してるんだ」

一夏「だから、簪さんのせいじゃ、ないよ」アセタラー

簪「そ、そうだったの? そんな、なんでそんなことを知らなかったんだろう……」

簪「あれ? でもどうして織斑くんは知っているの?」

一夏「あ、それはだな……(やばい! 口を滑らせてしまった! だけど、こうなったら行けるところまで行ってやる!)」

一夏「えっとさ、千冬姉の中学時代のクラスメイトのこと、知ってるだろう?」

簪「う、うん」

一夏「実は、副所長はその顔馴染みに会いに行った帰りに怪我をしたらしくてさ?(よく考えろ! 何故俺だけが知っているか、つじつまを合わせろ!)」

一夏「詳しいことは知らないけれど……、用務員さんがそんなことを話してくれた。たぶん、話す頃合いを見計らっていたんだと思うよ?」アセダラダラ

一夏「(何言ってるんだろう、俺? 確かに何があったかは少しは話したけど、いろいろ叩けば問題が――――――)」

簪「………………」

一夏「と、とにかく、副所長は入院しちゃった。だから、連絡を取ることができなかったんだよ、きっと。ほら、病院ってケータイ禁止だし」

簪「………………」

一夏「ああ……、ごめん。うまく伝えられなくてさ」

簪「あ、そ、そんなことないよ、織斑くん」

簪「それよりも、――――――本当にありがとう」ポッ

一夏「あ、ああ……」

一夏「たぶん、副所長はきっと5月が終わる頃までにはちゃんと返事をしてくれるだろうからさ?」

一夏「俺なんかで良ければ、こうやって相談や悩み事を聴いてやれるからさ?」

一夏「一人で抱え込むよ?」

一夏「同じ専用機持ちだし、俺だって副所長には良くしてもらったからさ……」

簪「う、うん! 今日は本当にありがとう……」ニッコリ

一夏「あ、そうだ! えと、ちょっと前に副所長からもらってたものがあったんだ」

一夏「見てみない? 俺も中身までは見てないから、今日開けてみようと思うんだ」

簪「あ……、うん!」

一夏「それじゃ、訓練が終わったら食堂でな!」

簪「わかった」ニコッ


スタスタ・・・


簪「………………」ドキドキ

簪「もしかして、副所長はちゃんと造って、くれたんだ…………」ポロポロ

簪「でも、私、どうしちゃったのかな……?(けど、織斑くんには――――――)」ドクンドクン



149: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:21:14.32 ID:lu3tS7gx0

――――――それから、夕食前


一夏「よし! だいぶ見えてきたぞ、――――――『AICC作戦』!」

一夏「あとは俺がどれだけ、これまで教えこまれた技術を活かせるかだな(そういえば、まだ1ヶ月しか経ってないんだよな…………強くなっているよな、俺?)」

一夏「ただいま」ガチャ

一夏「シャルル、戻っているか?」


ジャージャー


一夏「シャワーの音……(シャワーを浴びているのか。それじゃ、簪さんとの約束もあることだし、副所長からの贈り物を持っていこう)」

一夏「えっと、これだこれだ」

一夏「うん、――――――特に何かされた形跡はないな」

一夏「それじゃ、行くか――――――」

ガチャ

一夏「――――――あ?」
シャル「――――――あっ!」


ボヨーン、ゴッツーン!


一夏「うわっ!?」
シャル「きゃっ!」


ドタッ!


一夏「???」

シャル「あいたたた…………(まさか、出合い頭にぶつかるなんて、――――――僕の馬鹿! 何やっているんだよ)」

一夏「何が起きた…………(シャルルがシャワーから上がったってことは間違いないけど、ぶつかる一瞬 何か柔らかいものがあたったような…………)」

シャル「ごめんね、一夏…………(でも、一夏が部屋に戻ってきていたなんて、まったく気づかなかった――――――)」

シャル「あ!」ゾクッ

一夏「あ……」チラッ

シャル「うわっ!」ビクッ

一夏「え…………(えっと、あれ? いや、知っていたつもりだけれども…………あれー?)」ジー


シャル「…………」(身体や頭を被ったバスタオルが解け、イロンナトコロが丸見えに!)




150: ◆G4SP/HSOik 2014/03/12(水) 08:22:11.91 ID:nYyIS+0E0

一夏「す、すまん!(うわあああああああああああ! お、女の子のぜぜぜぜぜんr――――――!?)」カア

一夏「えっと……、コレヲキロ!(隠せ隠せ隠せ隠せ隠せ隠せ隠せ隠せええええええええ!)」ガバッ

シャル「あ、ありがとう…………(い、一夏のジャケットだ…………)」

一夏「ああ……それじゃあな…………」ガチャ

シャル「あ、うん……」


バタン


一夏「ふぅ……(廊下の空気で一気に気分が落ち着いて――――――)」

一夏「うおっ!?(って、や、やばいよ! 心臓の鼓動が止まらない! きっと顔も真っ赤だ! こんな状態で人前に出られないよ…………)」ドクンドクン

一夏「って、うわああああ! よく考えたら――――――!(荷物も落としたままだし、上着もやっちゃった!)」

一夏「き、気まずい…………(取りに戻らないと行けない! 今出てったばかりなのに!?)」

一夏「で、でも、約束があ、あるんだ…………(そうだ。ここで怖気づいたら男が廃る……! や、やるぞ…………)」

一夏「し、深呼吸――――――!」スゥーハァーー

一夏「よ、よし! まずはノックからだ……!(きっと出てったばかりだからまだ着替え終わっていないはずだ…………)」ドクンドクン


コンコン! ガチャ


一夏「これで――――――え(開くの早すぎやしないか?)」

シャル「ま、待って、一夏……」ウルウル(一夏のジャケットを羽織っただけ!)

一夏「うわっ!(何考えてんだよ、シャルルはあああああああああ!?)」

シャル「うぅ…………」ギュッ

一夏「わ、わかった!(何がわかったんだよ、俺!?)」

一夏「と、とりあえず、着替えて落ち着いて話を聞こうじゃないか!」ハラハラ

シャル「う、うん……」

一夏「さ、湯冷めするし、早く、な?(落ち着けー、俺ー……!)」ニコー

一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」中編