俺は今、SAO35層の”迷いの森”にいる。





SAO攻略がここまでしか進んでない訳ではない。
俺がここにいる理由は、攻略とは別にある。



どういうわけかその”別の理由”のために、よく知らない奴らと臨時パーティーなんざを組む羽目になっちまった。



……さらにこのパーティ、すっげえ空気悪い。ついでに俺の居心地も悪い。





引用元: 比企谷「ぼっち過ぎて暇だからSAOやる」2

 

ソードアート・オンライン (14) アリシゼーション・ユナイティング (電撃文庫)
川原礫
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2014-04-10)
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3: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:45:17.80 ID:cO4Aa25qo






???「なあに言ってんだか。アンタはそのトカゲが回復してくれるんだから、ヒールクリスタルは分配しなくていいでしょ?」





そういったのは赤髪の女、ロザリアだ。
ディアベルとはまた違った意味で、俺が苦手とする人種である。つーかたぶん、こいつが苦手じゃない奴なんていないんじゃね? 性格的に考えて。


さっきの言葉は俺に向けられたものではなく、同じパーティーの少女に対してのものだ。ちなみにヒールクリスタルっつーのは、よくある回復アイテムのことだな。





???「そういうあなたこそ、碌に前衛に出ないのにクリスタルが必要なんですか!?」





そう答えたのは、シリカという名の少女だ。
こいつの頭にはロザリアが言っていた羽根の生えた”トカゲ”が乗っている。このトカゲは、”ビーストテイマー”と呼ばれる役職が扱えるモンスターで、こいつは回復を補ってくれるらしい。関係ないがシリカは、どう見ても子供にしか見えない。絶対SAOの年齢制限無視してるよこいつ。



4: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:45:44.89 ID:cO4Aa25qo





ロザリア「もちろんよぉ。おこちゃまアイドルのシリカちゃんみたいに、男たちが回復してくれるわけじゃないもの」





なにそれ? アイドル? なにその恥ずかしい呼ばれ方。いや、皮肉かなんかか?


ロザリアがそう言うと、シリカはむっとした顔で睨む。









…………正直、くっだらない喧嘩だ。




5: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:46:27.76 ID:cO4Aa25qo




回復アイテムくらいで喧嘩してんじゃねえよ……。こんな回復アイテムなんかの取り合いしてるのをみるとすっげえ悲しくなる。いやむしろ笑える。ま、ネットゲームなら日常茶飯事なんだろうけどさ。


俺は内輪ノリは嫌いだが内輪モメは好きだ。仲良さそうな連中が身内で争っているのを見るとなんだか楽しいよな。だがそれは、俺が内輪の中にいないことが大前提だ。俺が一緒にいるパーティーでもめられると面倒なことこの上ない。これが、当事者と傍観者の差なんだな……。ボッチだったからわからなかったよ。やっぱ傍観者が一番だよな、ぼっち最強。



まあ正直、ロザリアの言いたいことが分からない訳でもない。このパーティーでシリカは、同じパーティーメンバーの男達から率先して回復をしてもらっていた。これが人気者の力ってことか……俺だったら同じパーティーに邪魔されることはあっても回復されたことはないぜ……。


ロザリアはロザリアで、ほとんど前衛に出ないってのも本当だ。他のパーティーメンバーをあごで使うだけで、最後のアイテムドロップばかり狙ってきやがる。こいつも別の意味で、回復アイテムが必要とは思えん。



だから、一番戦闘に貢献してる俺に回復アイテムくれませんかね? 俺も貰ってないんですが。



……なんで一緒にいるのに俺はスルーされてるの? なんか俺悪いことした?
なるべく目立たないようにしてたじゃん。何が気に食わなかったの? いや、もしかして素で忘れられてる? 




……何それ泣きたい。




いやべつに、回復アイテムなんか腐るほど持ってるからいらねーし、そもそも俺そんながめつくないから譲ってやってるだけだし。





6: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:46:54.66 ID:cO4Aa25qo





「お、おい2人とも……」





男が止めに入るが、なんとも頼りない止め方だ。というかさ、お前らが過保護だからこんなことになったんじゃねーの?





シリカ「わかりました。アイテムなんかいりません。あなたとはもう絶対に組まない! 私をほしいっていうパーティーは、他にも山ほどいるんですからね!」




そう言ってシリカは、どこかへ歩いて行った。


……お前もお前で図太いな。そんなセリフ吐ける時点で、ロザリアが言ってたことが大体あってるってことじゃねえか。まあ、あってるからといって分配が不公平な理由にはならんけどな。


だが俺は、止めに入ってロザリアの機嫌を損ねるわけにはいかない。


なぜなら、俺はこいつを見張っているからだ。それがこの階層にいる理由でもある。





7: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:47:21.79 ID:cO4Aa25qo






俺は今、SAO内部に蔓延る、”オレンジギルド”を追っている。 


オレンジギルドとは、プレイヤーカーソルがオレンジ色のプレイヤーが集まるギルドのことだ。プレイヤーカーソルは緑色がデフォルトだが、他のプレイヤーを故意に傷付けたりすると、オレンジ色に変化する。所謂”PK”ってやつだ。


言うまでもなく、このSAOで人を殺せば現実世界でも死ぬことになる。だから、オレンジギルドとは”殺人ギルド”の別名といっても過言でない。


俺達攻略組がゲーム攻略を進めている中、下の階層ではこんなギルドができているという噂が流れた。





というか、アルゴがそう言っていたので間違いない。




8: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:48:06.01 ID:cO4Aa25qo




だから俺は、そのオレンジギルド壊滅を目的として、この階層にいるのだ。
俺たちが必死こいて攻略してるのを尻目にそんなことされちゃ、何のために攻略組と仕分けしたのかわからないからな。



そして、ロザリアがオレンジギルドの一員というところまでは分かっている。だから俺は、こいつを通して他のPKプレイヤーもまとめて一網打尽と行こうという訳だ。




一応俺は”ロザリア=PKプレイヤー”だとは知らないことになっているが、俺がこいつの信用を勝ち取れば、他のオレンジギルドの情報を漏らすかもしれない。まあ、そのためには多少オレンジギルドっぽいことする必要があるだろうけどな。


だが、俺がロザリアに協力し始めて3日たつが、未だに教えてもらえる気配がない。むしろPKの片鱗も見せようとしない。警戒してんのか?


……本当にこいつであってるんだろうな、アルゴ。もし偽情報だったらお前の顔のヒゲを書き足してやるからな。




9: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:48:37.26 ID:cO4Aa25qo




「ちょ、ちょっと! シリカちゃーん!」




男が呼び止めようとするも、シリカは立ち止まることなく歩いて行った。それもすっげえ怒り肩で。


……ちょっと様子を見に行くべきかもしれんな。まさか一人で森に突っ込むとは思えないが、こいつがほかのパーティーと組むまでは見守ったほうがいいかもしれない。人間、興奮してる時は何しでかすかわかったもんじゃないからな。




ロザリア「ふん、いけすかないガキだね」





アンタもたいがいだろうが。





比企谷「俺はちょっとやることがあるんでな、また人員が必要になったら呼べよ」





俺はロザリアにそう言って、返事を待たずにシリカが向かって行った方へ歩き出した。






10: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:49:10.88 ID:cO4Aa25qo




……………………








畜生、見失った……。




まさか本当に一人で森に突入するなんて思わなかったぜ……。何あいつバカなの? 人気利用してパーティー組むんじゃなかったの? さっきのは強がりだったのかよ。あいつもボッチかよ。


森に突入してから少しして、俺はシリカを完全に見失ってしまった。あたりはもう暗くなっていて、森の中でも視界が相当悪くなっている。つーか少女を追いかけまわしてる絵面って大丈夫なのか? 俺完全にストーカーじゃん。




いやそれより早く、大事にならん内に見つけないとな。索敵スキルをフル活用してダッシュするか?




11: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:49:38.79 ID:cO4Aa25qo





……と、思った瞬間。数十メートル先にシリカの姿を捉えることができた。





しかも、3匹のゴリラに囲まれて、ちょうどこん棒でぶん殴られたところだった。




……って、大ピンチじゃねーか! 言わんこっちゃない!





シリカは木の根元に叩きつけられ、座り込んだ。ゴリラはそのまま真っすぐシリカのほうへ向かっていく。


おいおい、やばいんじゃねえのこれ!


まずい、もっと早く走れ俺……! 





12: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:50:14.93 ID:cO4Aa25qo





ゴリラはシリカに追撃すべく、棍棒を振り上げた。だがその瞬間、シリカのトカゲが前に飛び出した!





そして無情にもゴリラの振り下ろした棍棒は、そのままシリカを庇ったトカゲに直撃……!











……いや、直撃しなかった。その寸前に俺のヒロイックな行動が成功したからだ。






つまり、シリカを庇ってこん棒で殴られたのは俺だった。


どうやら中途半端に間に合ったらしい。


なんか、現実世界でもこんなことあったな。





14: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:50:41.96 ID:cO4Aa25qo





比企谷「あっだっ……!」



シリカ「ヒ、ヒキさん!?」




ありゃ、俺の名前覚えてたのか、珍しい奴もいたもんだな……。





シリカ「ヒキさん、どうしてここに!? いや、早く回復しないと! ああ、でも回復アイテムがない……!」




落ちつけよお前、よくそんなんで一人で森に入ったな。




俺のHPはほとんど減ってない。”バトルヒーリング”という自動回復のスキルでほとんど完治したからな。この程度の敵に回復アイテムを使うまでもねえよ。いやあ、このスキルが現実でもあればよかったのに…………それより、早くゴリラ共をかたずけないと。


15: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:51:08.32 ID:cO4Aa25qo


……と思って立ち上がったが、ゴリラはもういなかった。


というか、ちょうどキリトが倒し終わったところだった。







……あれ?




キリト、なんでお前がここにいるんだ?





16: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:51:35.46 ID:cO4Aa25qo





俺とシリカの前に立つのはSAO攻略組”黒の剣士”キリト。


黒の剣士は、俺と同じようにキョトンとした顔をして立っていた。






キリト「あれ? なんでヒキがここにいるんだ?」




……それはこっちのセリフだろうが。





比企谷「……お前、どうせヒロイックな行動とるならもっと早く来てくんねえかな」




シリカ「えっ……ええ?」







17: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/15(火) 16:52:01.87 ID:cO4Aa25qo






その場で3人とも、驚いた顔で佇んだ。



さて、この中で一番状況把握できてるのは誰だろうか。






つーか、なんだよこの間抜けな絵面は……。 













71: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:41:26.79 ID:ULbTSHmlo




シリカ「え、ええーっと。助けてくれてありがとうございました……?」





突如訪れた沈黙を、最初に破ったのはシリカだった。




キリト「…………」




おいキリト、礼を言われてるのにだんまりか? 捻くれは俺のアイデンティティーのはずだぞ。





キリト「あれ? ヒキに言ってるんだろ? お礼」





……? 




72: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:42:42.95 ID:ULbTSHmlo




シリカ「はい! ピナを庇ってくれてありがとうございました!」



比企谷「あ、はい」





シリカは、頭の上のトカゲを指してそう言った。


……お礼なんて小町以外に言われたの何年振りだろうか。少なくともここ3年くらいは言われた覚えがないから驚いた。
でもこいつの中では俺がかばったのはあのトカゲって事になってるのか?
まあどっちでもいいけどよ。





シリカ「あ、あと。あのモンスター倒してくれてありがとうございました! もうちょっとで私もピナも死んじゃうところだったかもです」





今度は、キリトに向かってそう言った。




73: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:43:12.56 ID:ULbTSHmlo





キリト「いや、たぶん俺が来なくてもヒキが倒してたと思うよ」





そこは素直に”どういたしまして”で終わっとけよ。なんで俺に振るんだよ。





シリカ「え!? ヒキさんってそんなにお強いんですか……?」





ほーら面倒な流れになっちまっただろうが……。俺がさっきのパーティーで手を抜いてたことがばれちゃったらどうする。





比企谷「いや、正直俺じゃ倒せなかったな。キリトじゃなきゃ無理だったよ、うん。あーキリトお前は命の恩人だありがとう」



キリト「いやでも……」



比企谷「ありがとうキリト、マジでありがとう!」



キリト「お、おう」



74: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:43:39.63 ID:ULbTSHmlo



シリカ「私からも、ありがとうございます!」





よし、無事にターゲットを擦り付けることに成功したようだ。面倒事回避スキルがあったとしたら、俺はきっと熟練度MAXだろうな。


正直これ以上目立ちたくない。ただでさえヒロイズムなんかキャラじゃねえってのに、期待の目で見られたら失踪する自信があるぜ。


まあとりあえず、今の状況を順に整理していくか。






75: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:44:14.72 ID:ULbTSHmlo






比企谷「キリト、なんでお前ここにいるんだ? 迷宮区の攻略はどうしたんだよ」



キリト「いや、ちょっと用事ができてさ。ちょうどこの階層にいる人に用事があったんだよ」





なんだ、俺と似たような感じか。





キリト「ヒキは……いや、ヒキならどこにいても不思議じゃないか」




比企谷「質問しないにしても、人聞きの悪い自己完結はやめろ。人をゴキブリみたいに言うんじゃねえよ」 




お前の中の俺のイメージって一体どうなってるんだよ。全部添削してやる。そして、可能なら俺は素晴らしい人物だと刷り込ませてやる。




ま、キリトの方の疑問は解決したとして。




シリカ「……もしかして、お二人とも攻略組の方なんですか……?」




問題はこいつだな。




76: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:44:41.60 ID:ULbTSHmlo




キリト「……ええっと、うーん」




キリトは答え渋ってるようだ。こいつも身分を隠してんのか? まあ、そういうことなら協力してやらなくもないな。


秘儀、”質問を質問で返す”の術。






比企谷「なあシリカ、なんでお前はパーティーも組まずに森に入ったんだ? さっきの話だと、人を釣って協力させるみたいなこと言ってたじゃねえか」



キリト「ええ!? そんなこと言ってたのか!?」



シリカ「ち、違いますよ! 協力してくれる人とパーティーを組むって言ったんです!」





あ、そうだったっけ? まあ似たようなもんだろ。





77: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:45:19.02 ID:ULbTSHmlo





比企谷「どちらにしろ、パーティーが組めなかったんならやめとけばよかったんだよ。自分の力量すら測れない奴が危ない橋渡ってんじゃねえ。自殺癖でもあんのかよ」




シリカ「うっ……ご、ごめんなさい」




比企谷「だいたい、あんな可愛げのない態度で接してたらそのうち誰ともパーティーを組めなくなるぞ。ソロプレイヤーを目指してるんなら処世術くらい覚えとけよ」


比企谷「それに、命を預かるパーティーの相手を、相手から選ばせるなんてことやって本当に大丈夫なのか? 組む相手はお前を守るかもしれねえが、お前はそいつを守れんのかよ」





シリカ「ううう……」




比企谷「攻略組から御触れがあったろうが。”命を最優先にしろ”って。お前が大事にしてる”ピナ”って奴だって、お前のせいで死ぬところだったんだぞ?」


78: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:45:59.13 ID:ULbTSHmlo



比企谷「つーか、もしも俺もキリトも来なかったら確実にお前も死んでただろうな。回復アイテムもろくにないのにそのトカゲ一匹で何とかなるとでも思ったのかよ。そんな最低限の考えもできなくて……」





キリト「ま、まあまあ! そのくらいでいいだろ!? ヒキ、さすがにそろそろ相手を見たほうがいいって!」




比企谷「え?」




なんだよ、まだ話は終わって……。


あ、あれ? シリカさん、泣いてらっしゃる? 

やっべえ言い過ぎた。普段攻略組相手に言いたいこと言いまくってる癖が出ちまった……。






シリカ「うぅっ……グスッ……ごべ、ごべんなざいぃぃぃ…………!」









79: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:46:32.25 ID:ULbTSHmlo






………………………………










比企谷「ええっと、だからあれだ、その、うん。とにかく無事でよかった! 本当に良かった!」




キリト「そうそう、ピナだって無事だったんだしよかったじゃないか! もうこんな危ない目に合わないって!」




シリカ「でもお……わだじのせいで……ヒグッ……ピナが死んじゃうところでええ……」








……マジでごめんなさい。



キリトさんそんなに睨まないでください。なんなら土下座するから。



いや俺だって言い過ぎたと思ってるって……ほんと大人げなかったよ、マジで。



80: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:47:07.51 ID:ULbTSHmlo



相手が子供って事忘れて思いっきりぶちまけちまったからなぁ……。単なる説教なら泣くことは無かったんだろうが、全部本質ぶっ指して貫通させる勢いで言っちまったからダメージでかいよなぁ……。



あれから30分ほどたっても、シリカは未だに泣きながら謝罪を続けている。もうやめて! 俺のライフはもうゼロよ!






キリト「ヒキ、責任を持って泣きやませるんだ。出来なかったら俺が許さないぞ」



比企谷「マジですか……い、いやわかった」





キリトは、見たこともない形相で俺を睨んでくる。マジで怖いよ、キバオウのガン付けの100倍怖い。





考えろ、考えるんだ俺! 何かここでシリカを泣きやませるための打開策を!





…………あ、そうだ!





81: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:47:36.82 ID:ULbTSHmlo





比企谷「なあシリカ、プネウマの花って知ってるか?」





シリカ「プネ、ウマ……?」





比企谷「そう、プネウマだ。そのアイテムは、ピナのようなビーストテイマーが扱うモンスターを蘇生する効果があるらしい。石橋を叩いて渡りたいなら、そのアイテムを1つ位持ってた方がいいと思わないか?」



シリカ「グスッ……そんなアイテムがあるんですか……・?」



比企谷「もちろんだ! たしか、47層にあるダンジョンだったかな。ビーストテイマー本人が近づくと咲く花がそれなんだよ」




82: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:48:02.40 ID:ULbTSHmlo





シリカ「……でも、47層なんか、私じゃとても攻略できそうにないです」




比企谷「大丈夫だ! このキリトが一緒に行ってくれる!」



キリト「なっ……!?」



比企谷「こいつはソロプレイヤーの中じゃ最強だ。クリアできないクエストなんてねえ」




俺がそう言うと、キリトが俺だけに聞こえるように文句を言ってきた。





83: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:48:28.37 ID:ULbTSHmlo





キリト「おい! ヒキが行くんじゃないのか!?」


比企谷「馬鹿言え、泣かせちまった相手と一緒にゲーム攻略なんかできるわけねえだろ……。気まず過ぎて死んだらどうする」


キリト「ヒキが慰めるんだろ!?」


比企谷「泣きやますだけならもうコンプリートした。後はキリトさん頑張ってください」


キリト「おいそれじゃあ……」


比企谷「この借りはいつか返すから! マジで!」






俺はそう言ってキリトから2メートルほど離れた。いっそもう帰りたい。




84: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/16(水) 22:48:55.30 ID:ULbTSHmlo





シリカ「本当ですか……キリトさん……?





キリト「え、あ、うん。任せろ! 絶対アイテム取ろうな!」





キリトさんさすがです。





比企谷「じゃあ、俺はここらへんで……キリト、頑張ってくれ」



キリト「…………おう」




怖ええよ、だから睨むなって……俺が悪かったよ……。















133: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:48:30.87 ID:3EgOvXULo



俺はシリカをキリトに押しつけてから、だらだらと考え事をしながら宿に戻った。






……どうしよう、借り作りすぎじゃね? 俺。





未だアルゴに借りが残ってるってのに……むしろ6個から17個に増えたし……この上キリトにまでとなると、本格的にまずい。


現実世界での俺は、普段から他人に借りは作らないように心がけていた。なぜなら、俺は返せるだけの物を持っていないからだ。



134: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:48:58.57 ID:3EgOvXULo



教科書を忘れても他人に借りない。まあ、借りる相手がいるかどうかは置いといてな?


あと、学校を休んだ時に授業ノートも借りない。見せてもらえる人がいるかどうかは話が別だぞ?





……いや一緒だけどさ。






他人から教科書を借りるくらいなら教師に説教されるほうがマシ。
他人からノートを借りるくらいなら勉強が遅れるほうがマシ。
他人に借りを作るくらいなら初めから他人とかかわらない。



135: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:49:24.50 ID:3EgOvXULo



俺は、そんな後ろ向きな信念を貫いていたはずなんだ。




そして、今だってそう思っているはずなんだ。





それなのに、どうしてこうなった。




……まあとにかく、これ以上借りを増やさないようにしねえとな。
こんな世界じゃ、いつ返せなくなるかわかったもんじゃねえしよ。




136: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:49:53.99 ID:3EgOvXULo



……………………








俺が宿に戻って一息ついた後、30分前にロザリアからメッセージが届いていたのに気がついた。






”30分後に、広場の入り口に来てくれるかい?”





ごめんなさい無理です。だって30分後って今じゃん。俺ヤードラット星人から瞬間移動教えてもらってねえし。


……って訳にはいかねえよな。機嫌取りってこんなに面倒なのかよ。
畜生……今日はとことんついてない。





”後10分待て”





仕方ないのでこう返信し、俺は広場にダッシュした。


137: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:50:26.93 ID:3EgOvXULo


俺はどうあがいても手掛かりにしがみ付かなければならない。じゃなきゃ、この3日間が無駄になっちまうからな。オレンジギルドのPKプレイヤーってのは、普段から町をうろついてたりしないから、なかなか尻尾を掴めない。そりゃ、プレイヤーカーソルがオレンジだと”自分は犯罪者です”って言ってるようなもんだからな。


どういう経緯でロザリアがオレンジギルドのメンバーかってのが判明したのかは知らないが、ロザリアのプレイヤーカーソルは俺が会ってからずっと緑色だ。自力でカーソルの色を治す方法がない訳じゃないが、何度も色が変わっちまえばいくら偽装しようが目立つ。顔を覚えられちまえば思うように行動できなくなるだろう。




だから、オレンジギルドには”獲物をしとめる実行犯”と、”白昼堂々と動ける陽動犯”がいた方が効率がいいはずだ。





ロザリアがオレンジギルドのメンバーだって言うなら、こいつが陽動役だろう。こいつが獲物を見つけて、実行犯が殺す。そうすれば、ロザリアのプレイヤーカーソルは緑色のままだ。こうやって考えた方がいろいろと辻褄が合う。



俺はこの3日間、ロザリアに自分の戦闘能力をアピールし続け、それでいてアイテムに固執しないようにふるまった。あいつにとって都合のいい人材、それでいて使える人材ってな。


だから、ロザリアが俺を獲物として見ることはまずないだろう。自分で言うのもなんだが、こんな非公認のオレンジギルドに俺のような実力者は少ないはずだ。だから、ロザリアが俺を仲間に引き入れようとしてもおかしくない、と思う。



そして、このメッセージがその誘いという可能性もあるのだ。







138: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:51:12.54 ID:3EgOvXULo







ジャスト10分後、俺はロザリアの待つ広場についた。
……あいつは1人か。くそ、奴の仲間も一緒にいりゃ手間も省けるんだがな。





ロザリア「……遅かったじゃないか」




比企谷「だから待てと言っ……いや、すまんな」





まずいまずい、ここで機嫌を損ねるわけにはいかん。ここからは媚売りモード発動だ。あいつのことは神と思え、俺。





139: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:51:48.70 ID:3EgOvXULo





比企谷「で、なんで呼び出されたのか教えてくれませんかね?」



ロザリア「ああ、その話なんだけど、もうちょっと人通りの少ないところでいいかい?」



比企谷「……了解」





……この感じ、どうやら大当たりのようだな。
ロザリアは俺を町の外に誘導すると、一呼吸置いてから話し始めた。






ロザリア「アンタさ、どうしてもほしいアイテムがあるときはどうやって手に入れる?」






……そういう感じ? 徐々に本題に持ってく方向性なの? 無駄に時間がかかりそうだな。


前ふりとかそういうのいいから早く本題に入れよ、めんどくさい。


俺がここで「殺してでもうばいとる」って言えば本題突入するの? いや急にそんなこと言ったら怪しまれるだけよなぁ。





140: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:52:29.24 ID:3EgOvXULo





比企谷「自力で手に入れるしかねえだろ。クエストをクリアするにしても、金で買うにしても、動くのは自分だ」



ロザリア「自分で、ねえ。その”自分で”ってのは、どこまで有効なんだい?」



比企谷「自分でできる範囲までに決まってるだろうが」






俺がそういうと、ロザリアは「……はあ」とため息をついた。
こいつ、話の持ってきかた下手すぎねえか? いや、俺の受け答え方がそっけなさすぎるのか? こんなとこで普段会話しないのが仇になるとは……。ここは一回、こっちから誘導してみるか。





比企谷「まあどうしても欲しいアイテムがあったら、手段は選ばねえかもしれないな」




こんな感じか?




141: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:53:11.40 ID:3EgOvXULo




ロザリア「!……へえ、アンタ意外と話がわかるじゃないか」




そういうのいいから。





ロザリア「じゃあ聞くけど、もし自分がどうしても欲しいアイテムを他人が持っていたとき、金も交渉手段もなかったらアンタはどうするんだい?」







…………ああ、なるほど。



こいつはどうしても俺の口から言わせたいんだな。万が一でも言質を取られないように。


結構信用されたと勝手に思っていたが、ずいぶんと用心深い奴だ。そういうことなら、あのセリフの使い時は今かもしれん。


俺は一度深呼吸してから、ニヤリと笑ってこう言った。





142: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:53:45.87 ID:3EgOvXULo








比企谷「金もない、交渉もできない、でもどうしても欲しい、ねえ。そりゃ、もう残された道は一つしかないさ。それが本当に欲しいアイテムなら」




比企谷「殺してでも、奪い取るかもなぁ」





ロザリア「…………へ、へえ」






なんで引くんだよ。このセリフを待ってたんだろうがお前。
いや、これはきっと思惑通りで喜んでんだな、そうに違いない。






ロザリア「そ、その言葉が本当なら、明日私のギルドと一緒に実行して見せて貰おうじゃないか!」





……これはもう、確定だな。しかも明日にはこいつの仲間も現れるらしい。


つまり、明日で俺の任務は完了するってことだ。






143: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:54:16.17 ID:3EgOvXULo






ロザリア「もしアンタが私のギルドで頑張りをみせたら、もっと上のギルドに紹介してやらないでもないよ?」





……ん? 


いやいや、ちょっと待て。”上”?
上ってなんだ?





比企谷「”上のギルド”ってのは、”その系統の上”ってことでいいのか?」



ロザリア「もちろんさ」





もっと上があるのかよ……。これは嬉しいのか嬉しくないのかよくわからん誤算だな。これじゃあ明日で終われないじゃないか。





ロザリア「詳細はまた明日、朝9時にここで待ってるよ」



比企谷「あ、ああ」






144: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/19(土) 13:55:05.95 ID:3EgOvXULo






……まずいな。
本来なら明日こいつの仲間がそろった時点で一網打尽で終われるところだが、もっと上を釣り上げるには本格的に信用を得る必要があるってことじゃねえか。




うまい具合に殺させないように信用を得ることはできるか?







まあ、やるしかねえよな。




でも、なんだか嫌な予感がする。


俺の予想なんて碌に当たらないが、いやな予感に限って当たることがある。杞憂だといいが、今日はずっと運が悪い状態が続いている。




……なんの予兆だ?
















172: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:23:57.64 ID:fV9DNsWgo




次の日の朝。


俺は8時45分に集合場所に着いた。


まだ俺以外誰もいないようだったが、集合場世の周りで隠蔽スキルを使ってる連中が数人いるようだ。
俺を試してんのか? それとも観察してんのか?


なんか俺、試されてばっかだな。信用なさ過ぎだろ。






比企谷「……いるなら出てきてもらえませんかね」






俺が控えめにう言うと、その連中が建物の陰から7人ほど出てきた。








こいつらのプレイヤーカーソルは、……全員オレンジ色だ。




173: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:24:26.14 ID:fV9DNsWgo




やっと、目に見えるPKプレイヤーとご対面って訳だな。
俺が訝しげに眺めていると、その中の一人がだるそうな喋り方で話しかけてきた。






「へえ、ロザリアが言うだけのことはあるじゃん。よく見破ったな」






逆に、俺が見破れない奴の方が珍しいんだよ。お前ら程度に褒められても何にも嬉しくない。ましてや、犯罪者に褒められると虫唾が走るからやめてくんねえかな。





比企谷「その、ロザリアはまだいないのか?」



「さあ? 時間までまだあるだろ。話に付き合えよ」





やだよ、面倒くさい。
俺は一方的に質問するが、お前の質問には答える気はない。




174: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:25:03.88 ID:fV9DNsWgo





比企谷「ロザリアが言っていたが、このギルドの上に、もっと大きな集まりがあるって本当か?」



「え? ……ああ。もちろんよ! 俺らのバックには強力な後ろ盾があるからな。俺らを舐めてると痛い目食うぜ?」






バックに強力な後ろ盾か、ずいぶん後ろの方に居るんだな。
だが、やはりオレンジギルドの根は深いらしい。俺の潜入捜査は長くなりそうだ。


あ、ロザリアが来たみたいだな。じゃあ、話は終わりだ。
俺はそいつのセリフに何も答えず、ロザリアの方へ向いた。





ロザリア「今日は早いじゃないか」





ロザリアは俺の存在に気付くと、平坦な口調でそういった。






比企谷「……まあな」









175: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:25:41.33 ID:fV9DNsWgo








今日の行動について、一応俺なりに考えついたことがある。
俺が今一番欲しいのは、こいつらの信用だ。だからやっぱり、オレンジギルドらしい行動をしなければならないと思う。


だが、まさか人を殺すわけにもいくまい。それじゃあ本末転倒だ。


こいつらの殺しは、手段であって目的ではない。つまり、アイテムさえ手に入れば殺しの必要性はないはずだ。
心苦しいが、ロザリアの言う獲物に対し、俺のレベルを見せつけてアイテムを脅し取る。これが一番現実的で、最小限の被害ですむ方法だろう。


ここでロザリア達だけを捕らえるのは簡単だ。だがそれでは、こいつらの背後にいるギルドを引っ張り出すことが出来なくなってしまう事になる。


問題ない、被害者のアイテムは俺が責任を持って補填するさ。俺の悪評と、オレンジギルドによる今後の被害は、天秤に掛けるまでもない話だ。





176: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:26:16.28 ID:fV9DNsWgo





比企谷「で、どこに行くんだ?」





俺が覚悟を決めた顔で目的地を聞くと、ロザリアは頷いて答えた。





ロザリア「へえ、準備はできてるようだね。じゃあ早速向かおうじゃないか」





だから、どこにだよ。





ロザリア「転移門にきまってるじゃないか」





だから、転移門でどこに行くんだよ。


って、あれ?
この層じゃないのか? しかもここから転移門まで歩いて行くのか?




177: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:26:43.55 ID:fV9DNsWgo






比企谷「ここから転移門のある街まで、結構距離あるぞ? 転移結晶とか使わないのか?」






転移結晶とは、名前通り好きな街に転移するアイテムだ。ポケモンでいう空を飛ぶ的な? いや、洞窟内でも使えるからテレポートでいいのか。





ロザリア「そんな高価なもの、使うわけないじゃないか。それに、今は持ち合わせがないわよ」





マジかよ。





「ひひひ、俺たちがそんな高けえもん持ってる訳ねえよ」





178: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:27:14.56 ID:fV9DNsWgo




……何こいつら。揃いも揃って転移結晶すら常備してないのかよ。犯罪者のくせに逃走アイテムすらないとは、今までよく捕まらなかったな。いや、今まで捕まえる奴がいなかったから考えもしなかったのかもしれん。どちらにしろただのアホだな。


まあ、頭がよかったらアイテム如きで殺しなんかしないか。こんなゲームのアイテムを殺人を犯してまで手に入れようとする理由を、俺は全く理解できない。攻略組でもないのに、金やアイテムを集める意味があるのか?


”活動的な馬鹿より恐ろしいものはない”と言ったのはゲーテだったかな。よくいったものだよ、本当に。






ロザリア「じゃあ、行くよ」


「へーい」

「りょうかーい」




オレンジギルドは、気だるそうに歩き出した。


何というか、ずいぶんとお粗末な連中だな。








179: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:28:02.55 ID:fV9DNsWgo


……………………










あ、れ?
ここって……ここってもしかして……。







ロザリア達オレンジギルドと一緒に向かった層は、





47層だった。






そう、キリト達が今日あたりここに、”プネウマの花”を取りに来てるはずだ。


なあ、まさかとは思うが、いやそんなわけ……。






180: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:28:32.91 ID:fV9DNsWgo








ロザリア「さあ、今日はここでシリカ達が持ってくるレアアイテムを奪い取るよ」





比企谷「へええ!?」





ロザリア「……? どうかしたかい?」




比企谷「んんっ……何でもねえよ」












181: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:29:02.97 ID:fV9DNsWgo





やっぱりシリカかよ!? 



って事はキリト脅してアイテム盗るのか!?



いやぁああああああああああああ!!??


無理無理無理無理!!! キリトに殺されるって!!


ただでさえ機嫌悪いキリトにそんなことできる訳ねえだろ!!


いやなんでよりによってシリカなの!? 昨日パーティー組んだときに目ぇつけてたの!?


つーか、なんでシリカがアイテム持ってくるって知ってるの!?




182: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:29:35.18 ID:fV9DNsWgo




ロザリア「昨日シリカをつけてたら、生意気な男とレアアイテムを取りに行くって話を聞いたから間違いないよ」





その生意気な男絶対キリトじゃねえか! なんでつけられてんだよ……!
いや、おいマジなの? なんでみんなそんな自信満々に木陰に隠れてんの!?






ロザリア「あんな糞ガキ程度、この数でかかりゃすぐ逃げだすさ。殺すまでもないだろうね」






無理だっつってんだろいい加減にしてくれマジで。ソロ最強だぞ? 少なくともあと50人は連れてこいって。
まずレベルが全く違うじゃねえか。


やばい、どうしようどうしよう。こいつらに無謀だってことを教えた方がいいか? いや、ここで力を貸さないといつ上のギルドを教えてもらえるかわかったもんじゃねえ……。



どうにかキリトにアイテムだけ譲ってもらうか?



いや、こいつらの前で説明できないし、説明なしにアイテムだけ貰うなんてできると思えん。
だって俺、キリトの恨み買ってるし。



あれ? どうしよう、俺マジでキリトに殺されるんじゃね?





はあああああああああああああああん誰か打開策考えてぇええええええ!!!!






183: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:30:18.03 ID:fV9DNsWgo





ロザリア「アンタも早く隠れな。……どうしたのさ、顔真っ青だよ? 今更怖気づいたのかい?」





はい。帰っていいですか。





ロザリア「ほら、そろそろ来るよ。いや、来たみたいだね」





マジで!? どうしようマジでどうしよう何も考え付いてないよ!?


あ、マジじゃん。もうキリトもシリカもすぐそこじゃん。


これ、俺詰んだ?








184: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/20(日) 22:30:44.26 ID:fV9DNsWgo









キリト「……そこで待ち伏せてる奴、出てこいよ」








ひゃああああい!!
俺の面倒事回避スキル仕事してぇえ!!!!














235: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:26:48.66 ID:TfcOv/5to






キリト「さっさと出てこい。出てこないなら、こっちから行くぞ?」






キリトが聞いたこともないような低い声でそういうと、木陰に隠れていたロザリアが姿を現した。
シリカはその姿をとらえると、驚きの表情を浮かべてその名を呼ぶ。





シリカ「ロ、ロザリアさん?」





しかしロザリアはシリカの方を見ていない。
ロザリアが見据えるその先には、片手剣を携えた少年が立っていた。






236: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:27:29.38 ID:TfcOv/5to







ロザリア「私の隠蔽(ハイディング)を見破るなんて、なかなか高い索敵スキルねえ、剣士さん?」



ロザリア「その様子だと、首尾よくプネウマの花をゲットできたみたいねえ。おめでとう」







隠蔽を見破られたのにもかかわらず、ロザリアの顔には余裕の表情が浮かんでいる。
それはもちろん、勝算があると思っているからだろう。




ロザリアの背後には、オレンジギルドの連中が7人も控えている。
一方キリト側は、シリカを数に入れても2人しかいない。誰が見ても圧倒的な戦力差だ。
それにロザリアは、シリカなど最初から敵戦力に含んではいないだろう。つまり実質、ロザリアを含めて8対1という事になる。
こう考えれば余裕と考えてもおかしい話ではないのかもしれない。







ロザリア「じゃ、さっそく花を渡して頂戴」







237: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:28:04.56 ID:TfcOv/5to







……相手がソロ最強のキリトじゃなかったらの話だけどな!






いやマジで。



なんでロザリアはあんなに自信満々なの? 馬鹿なの?
隠蔽を見破られた下りとか俺の時もやったじゃん。なんで学習しないんだ? 見破られたってことは実力的にもレベル的にも差があるってことだろうが。






シリカ「な、何を言ってるんですかロザリアさん!」






ほんとだよ。なに言ってんだよロザリアさん……。






238: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:28:40.52 ID:TfcOv/5to






……どうしよう。俺はどうしよう。



今こいつらをキリトに倒されちまったら、背後のオレンジギルドを取り逃がすことになるよな……。
でも、ここでキリトだけに説明する手段を俺は持っていない。メッセージなんか送っても読んでる暇はないだろうしな。


……とりあえず様子を見るか? 
キリトとの力の差を見せつけられれば、こいつらも撤退するかもしれん。俺がここで場を収める手段はなさそうだ。
ここは傍観一択だな。






俺がごちゃごちゃと考え事をしていると、キリトが毅然とした態度で返事をした。






キリト「そうはいかないなぁ、ロザリアさん」




キリト「いや、オレンジギルド”タイタンズハンド”のリーダーと言った方がいいかな?」






…………。





239: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:29:25.79 ID:TfcOv/5to





え? 今何て言った?
なんで知ってるの? 「いいかな?」じゃねえよ何シレっとネタバレしてんだよ。


キリトはこいつがオレンジギルドの奴だって知ってたのか……?
しかもこのギルド、”タイタンズハンド”って名前なのか? いやこれは俺が確認しなかっただけか。


どっちにしろキリトは俺よりも多くの情報を掴んでたってことじゃねえか。
いったいなんで……?





ロザリア「へえ……」





ロザリアは正体を見破られても、いまだ余裕そうな表情を崩さない。
いやそこは素直に驚いとけよ。なんかお前が余裕そうな顔してんの見ると、すっげえむかつくんだけど。





シリカ「でも、ロザリアさんはグリーン……?」




シリカは、ロザリアのプレイヤーカーソルを見て不思議そうにそう言った。
それを聞いたキリトは、予想していたと言う表情で答える。




240: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:30:07.20 ID:TfcOv/5to




キリト「簡単な手口だ。グリーンのメンバーが獲物をみつくろい、オレンジが待ち伏せてるポイントまで誘い出すのさ。夕べ俺たちの話を盗み聞きしてたのも、アンタの仲間だろう?」






ご名答。


ずばり、俺が4日かけて調べた情報だ。
お前は全部知ってたのかよ。




……つまり、だ。


これがキリトの”用事”だったって事か? 俺がアルゴからの情報で来たのと同じように、キリトも別ルートから調べていた、と。くそ、昨日俺がキリトに目的を話しておけばこんなややこしい事態にならなかったって事かよ。……完全に俺のミスじゃねえか。







キリト「ま、御託はその辺にしとこう。俺の目的は最初からアンタを捕まえることだったんだ」



キリト「ここで長々と説明するのは面倒だ。さっさとかかってこいよ。昨日ちょっと”イラつくこと”があったから、ちょっとだけ暴れたい気分なんだ」













それってもしかして俺のこと?






241: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:30:51.59 ID:TfcOv/5to






ロザリア「ずいぶんなめた口きくじゃないか。そこまで言うなら、お望み通り……!」





ロザリアはそう言うと、パチンと指を鳴らした。
すると隠れていた残りの7人が、キリト達の前に姿を出した。


え? さっきの指の合図ってそういう意味なの? 俺教えてもらってないんだけど。
うん、教えてもらってないから出ない!





シリカ「……! キリトさん、人数が多すぎます!」





いや、どう考えても少なすぎます。






キリト「ちょっと待ってて、シリカ。俺が絶対に守るから、ピナと一緒に後ろに下がってるんだ」






242: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:31:27.07 ID:TfcOv/5to





うっわぁ、すごくかっこいい。マジでヒーローじゃねえか。
こっちにゆっくりと歩きだした姿も、黒尽くめの装備も、全部が様になっている。人はきっと、こういうヒーロー姿に憧れをもつんだろうな。だって、すっげえかっこいいし。


……うっわぁ、すっげえ怒ってる。キリトさん目に見えて機嫌悪いよ。ムカ着火ファイアーだよ。
シリカに向けてる優しい表情と、こっち側に向いてる鬼みたいな形相の差がまさに天使と悪魔だよ。怖くて泣き出すレベル。むしろ、怖すぎてちびるまである。



ロザリア、考え直すなら今のうちじゃねえか? いや、もう遅いかもしれん。






ロザリア「とっとと始末して、身ぐるみ剥いじゃいな!」






ロザリアは全く臆する様子も見せず、後続に指示を出した。
それを聞いたオレンジギルドの7人は全員、それそれの武器を構える。


キリトがゆっくりと近づき、7人の射程内まで近づいた瞬間。
一斉にソードスキルを発動させて、雄たけびを上げながらキリトに飛びかかった。







……だがキリトも同時に、前に走り出した。





243: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:32:18.33 ID:TfcOv/5to






キリト「ハアアアアッ!」





キリトは一瞬のうちに、敵の懐に飛び込む。




「なっ!?」



キリトには敵の放ったソードスキルも、驚きの声も、全く届いていないようだ。
そのまま最短の間合いで、シュンと風を切るように一閃。……いや、4閃くらいか?
キリトは自分の片手剣を振り抜いた。





ギイーン、と鳴り響く金属音が複数回。





その数秒後、その場が凍ったかのように全員が動きを止めた。
……なにが起こったんだ、と考えるまでもない。





キリトにかかって行った7人の手元には、誰一人として武器が残っていなかった。武器は弾かれたわけでも、取り落としたわけでもない。


全員の手元には、武器消滅のエフェクトだけがのこされていた。






244: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:32:47.99 ID:TfcOv/5to







「ぶ、武器破壊、……だと……」



「嘘だろ……?」



ロザリア「ま、まさか一撃で!? しかも7人同時になんてありえないわ!?」







キリトさんマジぱねえっす。


武器のみを破壊することで、カーソルがオレンジに変化することなく勝利ですよ。
武器破壊って狙ってできるもんなんですかね。いやねーよ。





キリト「さあ、次はアンタだ」



ロザリア「ひ、ひい!?」




キリトはロザリアに向かって、死刑宣告を言い放つ。
そこではじめて、ロザリアの顔に恐怖の色が浮かんだ。やっとこいつも、”敗北”と”終了”を意識し始めたようだな。遅いんだよ、いろいろと。


キリトに武器を破壊された7人も、呆然と佇むことしかできないようだった。





245: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:33:25.49 ID:TfcOv/5to





……俺?


帰ります。
俺は今すぐ帰るべきなんだと思いました。






ロザリア「ちょっと、何のためにアンタを連れてきたと思ってんのよ! アンタが一番腕が立つんだから、早く加勢しなさい!」




あー……。





キリト「! まだ誰かいたのか……?」






……何で言っちゃうんだよ。もう撤退でいいじゃねえか。


246: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:34:06.49 ID:TfcOv/5to


何で人は追い詰められたとき、誰かを道連れにしようとするんだろう。で、最終的な責任はその誰かに押しつけられるって感じでな。学校行事で失敗があった時とか、なぜか俺に責任を押しつけられたことあったなぁ……。






……まあ、仕方ねえか。
こいつらが転移結晶もなしにキリトから逃げ切れるか怪しいしな。




どっちにしろ俺は、ここで帰るわけにはいかないさ。





腹くくれ、俺。







比企谷「俺単独じゃ”加勢”とは言わねえだろ。……一応確認するが、アイテムが手に入ればいいんだな?」






俺は最終確認とともに、隠蔽スキルを解いて前に出た。






247: ◆Ah4JR3K0.Got 2014/04/24(木) 18:34:37.63 ID:TfcOv/5to






キリト「……え?」



シリカ「ヒ、ヒキさん!?」





両者とも、ロザリアが現れた時の比じゃないくらい、驚いた表情をして見せた。
だが俺は、その表情をゆっくりと眺める余裕はない。





ロザリア「ああ、それで十分だよ! さっさと倒しちまいな!」





さっき7人やられたばっかなのに、よくそんなセリフが吐けるな。その自信はどっから来るんだよ。





まあとにかく、一か八かロザリアにばれないように説得してみるしかねえ。
大丈夫、キリトなら察してくれるはずだ。絶対。