魔法少女は衰退しました 前編 

 
323: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:26:53.48 ID:UlO49LMz0


さやか「あれ? なんか違う?」

妖ほむ「もっとこう、一旦貯めてから勢いをつけてやると似た感じにはなりますよ」

さやか「どれ……」ファサー

さやか「んー、似た感じにはなったけどなんか違う」

妖ほむ「ええ。なんか違うんです。いい感じにふぁさーってならないんです」

妖ほむ「これは、かなり練習しないと成しえない技ですね」

さやか「ああ、そうだね。相当練習したに違いない!」

原ほむ(……な、なんか急に恥ずかしくなってきた……///)

シャル「そこの二人。遊んでないで真面目に取り合いなさいよ」

シャル「一応私、銃を突き付けられてんだから」

妖ほさや「えー……」

シャル「なんとまぁ、やる気のない返事」

妖ほむ「騒乱の原因はシャルロッテさんじゃないですか。自分で片してくださいよぅ」

さやか「下手に関わるとまた怒られそうなので放置」

シャル「薄情者共めー」

原ほむ(な、なんなのこれは……)

原ほむ(魔女と仲良くしている……美樹さやかが、私と打ち解けている……?)

原ほむ(というか、銃を突きつけられて何故平然として……いや、そもそも……)

原ほむ「……あなた達、やけに冷静ね?」

原ほむ「もしかして事情を知っているの?」

原ほむ(或いは、)

妖ほむ「知っているもなにも、私が騒動の原因ですからね」

原ほむ(彼女達がこのイレギュラーの原因――――)

原ほむ「……………あれ?」



引用元: 魔法少女は衰退しました

 

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324: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:30:02.78 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「ふむ、事情を呑み込めていないあたり、過去の私という可能性は薄いですね」

妖ほむ「大方この方は並行世界の、魔法少女になってしまった私という感じじゃないでしょうか」

シャル「いや、もしかすると記憶を失った未来のほむらという可能性も」

さやか「じゃあ、あたしは何者かが作ったほむらのクローンって説を一つ」

シャル「ちょっとちょっとー、それだと私とキャラ被るじゃない」

妖ほむ「シャルロッテさんは入れ物がクローンってだけですけどね」

原ほむ「ちょ、ちょっと待って!」

原ほむ「あの、出来ればちゃんとした説明を……」

妖ほむ「そーですねー。答え合わせもしたいですし」

妖ほむ「適当な壁とか……あ、地面があるか」

妖ほむ「よっうせいさーん。おっりまっすかー?」コンコン

妖精さん「およばれー?」

原ほむ「!?(床がぱかりと開いて中からなんか出てきた!? 小人……いえ、使い魔?!)」

妖ほむ「こんにちは、妖精さん」

原ほむ「よ、妖精さん?」

原ほむ「あの、どういう事かしら……コイツは、使い魔じゃないの?」

妖ほむ「妖精さんは妖精さんです。友枝先輩と同じネタ振らないでくださいよ」

原ほむ「そ、そう……(友枝先輩って誰?)」

妖ほむ「さてさて。妖精さん。ご質問してよろしいですか?」

妖精さん「かもしれませんなー」

妖ほむ「それでは早速。此処は一体どんな空間ですか?」

妖精さん「ここ、かさなってます」

妖ほむ「重なっている?」

妖精さん「おとなりのにんげんさんよびますです」
妖精さん「ひとりここにいるとみんなくるです」
妖精さん「ふえるです」
妖精さん「ごそうだんするがよろしい?」

原ほむ「……意味が分からないけど」

妖ほむ「成程。つまり並行世界にいる私をこの世界に呼び込んだという訳ですねー」

さやシャル「あー、ほむらが正解かー」

原ほむ「ちょっ……今の説明でなんで分かるのよ!?」

原ほむ「というか並行世界の私を呼び込むって……」

妖ほむ「妖精さんの超絶科学力ならお茶の子さいさいですよ」

さやか「なんら驚きもしないな」

シャル「今更よね」

原ほむ「……ああもう。いいわ、可能って事で話を進めるから」


325: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:33:11.82 ID:UlO49LMz0


原ほむ「なら、その目的は一体何? 並行世界の私を集めて……彼等は何を企んでいるの?」

妖ほむ「どうやら、私が悩んでいたのでその相談相手を集めてくれたようです」

原ほむ「……は?」

妖ほむ「ですから私の相談相手を集めてくれたんです。まぁ、結局私自身な訳ですけど」

原ほむ「いや、ちょ……え?」

さやか「何? ほむら、悩みがあったの?」

ほむら「ええ。明日……今日でしょうか? まぁ、お二人に話してみようと思っていたのですが、
    妖精さんがお膳立てしてくれたようで」

シャル「お膳立てもなにもねぇ……自分を集めても仕方ないでしょうに」

妖精さん「さんにんよればもんじゅのちえではー?」

さやか「いや、同じ人間が集まっても烏合の衆でしょ」

シャル「或いは船頭多くして船山に登る、かしら」

原ほむ「ま、待ちなさい!」

原ほむ「その程度の理由で彼等はこんな、並行世界を跨ぐような真似をやったというの!?」

妖ほむ「妖精さんですからねー」

妖ほむ「ケーキをたくさん食べたいって理由で時間を何度も巻き戻した事もありましたから、
    それと比べれば大したものではありませんよ」

原ほむ「時間遡行をそんな理由で……」

原ほむ「み、美樹さやかと魔女はどうなの!? 今の説明で納得出来るの!?」

さやか「あれ? あたし名乗ったっけ?」

シャル「並行世界のほむらみたいだし、並行世界のアンタと面識あんじゃない?」

原ほむ「……そんなところよ。それで、どうなの?」

さやか「いや、さっきから何度も言ってるけど、正直今更なんだよね」

さやか「妖精さんなら何をしても不思議じゃないし、何が出来ても可笑しくないし」

シャル「むしろ出来ない事を知りたいぐらいね」


326: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:37:28.22 ID:UlO49LMz0


原ほむ「……滅茶苦茶過ぎる……インキュベーターとどっこいどっこいね」

妖ほむ「エントロピー一つろくに覆せないようなへっぽこ宇宙人とどっこいな訳ないじゃないですかー」

原ほむ「っ……あなた、インキュベーターの事を知っているの!?」

妖ほむ「ええ。辞書に載っていたので」

原ほむ「じ、辞書? いえ、そんな事はどうでもいいわ」

原ほむ「一つ聞かせて。あなたの世界では……鹿目まどかは、魔法少女になっているの?」

妖ほむ「鹿目さんですか? ええ、なっていますよ」

原ほむ「……そう」

原ほむ(並行世界……私とは関係ない世界のまどかとはいえ、救えないと聞かされるのは……辛いわね)

さやか(おや、平行世界のほむらの表情が曇った……並行世界のまどかに何かあったのか?)

さやか(って、魔法少女って事は、そういう事かー……)

さやか(妖精さんがいなけりゃ、滅茶苦茶悲痛な話だもんなー)

さやか(……むしろ、悲痛な話だと今まであまり自覚させない妖精さんパワーが特別なのか)

妖ほむ「……ああ、魔法少女が魔女になるから鹿目さんがご心配なんですか?」

原ほむ「それも知っていたのね。インキュベーターの事を知っていたから当然でしょうけど」

妖ほむ「でしたらご安心を。こちらの鹿目さんに関しては妖精さんパワーで人間に戻せますからね」

原ほむ「!?」

原ほむ「ちょっと、どういう事!? 人間に……」

原ほむ(そんなのあり得ない……)

原ほむ(い、いえ! もし今目の前にいる私モドキが魔女から人間に戻った存在だとしたら……)

妖ほむ「その話はまた後ほど」

妖ほむ「とりあえず今は、この辺りの状況を調べるとしましょう」

原ほむ「後ほどじゃない!」

原ほむ(もし魔法少女を人間に戻す方法があるのなら、まどかを確実に救い出せる!)

原ほむ(いえ、それどころか、魔法少女になったまどかと一緒ならワルプルギスの夜をも容易く越えられる!)

原ほむ(私の勝利が確定したも同然になる!)

原ほむ(なんとしても聞かせてもらう……いいえ)

原ほむ「今教えないのなら、力尽くで聞かせてもらうわ!」

妖ほむ「わっ……銃を向けないでくださいよ……」

妖ほむ(妖精さんのお守りがあるので飛び道具は効きませんけど)

さやか(本来ならガクガク震えるような場面なのにまるで物怖じしないあたしらである)

シャル(しっかしまぁ、随分と必死ねぇ。鹿目さんがそんなに大事なのかしら?)

妖ほさやシャル(……私達が何度か彼女を酷い目に遭わせている事は秘密にしておこう)


327: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:41:01.51 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「まぁまぁ、落ち着いてください」

妖ほむ「教えてもいいですけど、ちょっとした裏技みたいなものなので、あなたには使えないと思いますよ?」

原ほむ「それは私が判断するわ」

妖ほむ「時間の無駄なのにー」

原ほむ「……」カチン

妖ほむ「ああ、もう。分かりました。教えます。教えますから銃のセーフティは解除しないでください」

妖ほむ「簡単に言いますと、こちらに居ります妖精さんの力を借ります」

妖ほむ「妖精さんの超絶科学力によって、魔女さんから魂を抽出。ついでにほいほいっと空っぽな肉体を用意」

妖ほむ「そしてニューボディに魂を放り込めば、人間に戻れるって寸法です」

原ほむ「……………はぁ?」

妖ほむ「言っときますけど、これ以上の説明を求められても私には答えられません」

妖ほむ「妖精さんならお茶の子さいさいでも、私達人間には到底理解の及ばない超絶テクノロジーの産物なんです」

妖ほむ「妖精さんを知らないあなたに、私の方法は意味を成しませんよ」

原ほむ(……確かに、彼女の言う通りか)

原ほむ(よく考えれば、彼女は最初から妖精の力によって魔女から人間に戻すと言っていた)

原ほむ(彼女を追及しても、その方法を正しく理解出来るとは限らない)

原ほむ(仮に妖精を拉致したとしても、協力してくれるとは限らないし、研究施設も存在しないこちらでは無意味か)

原ほむ(くっ……やはり、そう簡単にまどかは救えない……)

妖ほむ「ふぅ。気が済んだようで何より」

妖ほむ「まぁ、そんな落ち込まないでくださいよ。笑顔でいないと、幸せが逃げちゃいますよ?」

原ほむ「慰めはいらないわ……そうよ。もう誰にも頼らないって決めたのだから……」

妖ほむ(あ、この私、お一人様をすっごく拗らせた感じがします)

妖ほむ(こういう人は何を言っても聞いてくれないんですよねぇ……”自分”の事ながらちょっと面倒臭い)

妖ほむ(文字通り自分の事と思って、戒めとしときましょう。うん)

さやか「あー、言いたい事は済んだかー?」

原ほむ「……ええ。もういいわ」

妖ほむ「ふー……やれやれです」

妖ほむ「さて、一段落ついたところでこれからどうしたものでしょうか」

原ほむ「どうしたもこうしたもないわ。出口を探すだけ」

原ほむ「何時までもこんな場所に居る訳には――――」



妖精さん「でぐち、ないです?」

原ほむ「え?」


328: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:44:42.01 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「出口、無いんですか?」

妖精さん「ありませんなー」
妖精さん「そーてーしておりませんもので」

さやか「出口を想定しない部屋ってなんだよ」

妖精さん「……おきにいりのへやとか」

シャル「いや、お気に入りでも出口は必要でしょ……」

妖精さん「ぼくら、かべぬけとくいですし?」

妖ほむ「あー、確かによく抜けてますよね」

さやシャル(よく抜けるんだ……)

原ほむ「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

原ほむ「出口がないなら、どうやって私は元の世界に帰ればいいのよ!?」

妖ほむ(あ、並行世界の私が妖精さんを捕まえた……結構すばしっこいのに、流石魔法少女ですね)

妖精さん「あー、つかまた」

原ほむ「今すぐこの世界から出しなさい。でないと……」

原ほむ「このまま握り潰すわよ」

妖精さん「ぼく、つぶされます?」

原ほむ「言っておくけど、冗談じゃないわよ」ギリギリ

妖精さん「あー……しぼられますー……」

シャル「な、何してるの!?」

原ほむ「言った通りよ。今すぐこの世界から出さないのなら、コイツに用はない」

原ほむ「握り潰しても、私は困らないわ」

さやか「ちょっ!? ほ、ほむら、妖精さんが……!」

妖ほむ「あー、あれぐらいなら平気ですよ」

原ほむ「その余裕は、私が並行世界の自分だから彼等に手を下さないという甘い考えから生まれるのかしら?」

原ほむ「だったら間違いよ。私は、目的のためなら命を奪う事も躊躇わない」

原ほむ「仲間の妖精が見ているのなら、すぐに私を元の世界に戻しなさい。そうすればこの子は解放してあげる」

原ほむ「だけどそうしないのならこの子を握り潰し、他の妖精も一人ずつ――――」

原ほむ「……………」

原ほむ(手からほんの数秒目を離したら、何時の間にか妖精が消えていた……)

原ほむ(手の中に残っているのは一本の……枯草? みたいなものだけ……)

原ほむ(え? どういう事?)


329: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:48:55.57 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「私もあれはよくやりますもん。ぺっちゃんこにしちゃえばかさ張らないので、持ち運びに便利なんですよー」

さやか「かさ張るって理由だけで潰すんかい!? というか潰して平気なのかよ! そしてあんな簡単に潰れるのかよ!」

シャル「つーか常日頃持ち運んでるの? そのままだとかさ張るほどの数の妖精さんを」

妖ほむ「ざっと一万人ぐらいですかね、持ち歩いている数としては」

さやシャル「お前は神にでもなるつもりか!」

妖ほむ「なろうと思えばなれるんですけどねー、割とお手軽に」

原ほむ(え? 神様ってお手軽になれるものなの? そしてさっきから何言ってんの?)

妖ほむ「そんな事よりも、折角見つけた妖精さんが干物です」

妖ほむ「水をかければ元に戻りますけど、生憎この場に水はないですし」

さやか「水で戻るってクマムシ並の生命力なのか、妖精さんは」

妖ほむ「ま、この空間の建設理由は分かりましたし、脱出方法の見当は付きました。多分すぐに帰れますよ」

原ほむ「だ、脱出出来るの!?」

妖ほさやシャル「……………」ジー

原ほむ(うっ……なんというか、三人から『え? アンタがそれ訊いちゃうの?』と言いたげな視線を感じる……)

原ほむ(た、確かに、よく考えると妖精をいきなり握り潰そうとするのは何と言うかアレな感じがする)

原ほむ(というか、そもそも妖精に出してもらうのが一番の早道で、その妖精を見失う結果を作ったのも私で)

原ほむ(要するに、全ての元凶が素知らぬ顔で仲間に入ろうとしている訳で)

原ほむ(……あ、これちゃんと謝らないとシカトされるわ。十七回目のループで体感したもの)

原ほむ「わ、悪かったわよ……その、いきなり脅そうとして……」

原ほむ「出られないと聞かされて、焦って、その……(ああ、上手く謝れない……というか謝れたら
    十七回目のループを失敗してないし!)」

さやか「ああ、そんなに謝らないでよ。あたしだってアンタの立場なら同じ事をしたかも知れないしさ」

原ほむ(!? 美樹さやかに、許してもらえた……?)

シャル「私も同意見ね。私らはちょっと毒され過ぎて気付けなかったけど、知らない人からしたらホラー体験そのものだしコレ」

シャル「取り乱すのも当然よ」

原ほむ(魔女にも、許してもらえた……)

シャル「ほむらはどう?」

妖ほむ「あー、まぁ、いいんじゃないですか?」

原ほむ「なんかあなただけすっごく雑な許し方してない!?」

さやか「お前もう少し真面目に受け取ってやろうよ。あのほむら、多分すっごい頑張って謝ってるぞ?」

妖ほむ「いやぁ、私ってコミュニケーション不足なもので、そういう人の感情の機微とかに疎いですから」

さやか「それ、自分で言っちゃいけない事だろ」



330: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:52:02.83 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「さて、そんな事よりも本題です」

妖ほむ「妖精さんはこの空間を、悩んでいる私のために用意したと言っていました」

妖ほむ「ですから悩み事を皆さんに相談すれば、この空間から出られるものと思われます」

原ほむ「……いや、意味が分からな」

さやシャル「なるほどー」

原ほむ(……考えるだけ無駄なのかしら)

妖ほむ「それでは始めるとしましょう」

妖ほむ「お悩み相談室の開催です♪」



……………

………





原ほむ(そんな訳で始まってしまったお悩み相談室)

原ほむ(並行世界の私が始めると言った途端、何処からともなくテーブルと椅子が落ちてきて、今、私達は席についている状態)

原ほむ(……なんだか分からないけど、向こうのペースに乗せられていると考えるべきね)

原ほむ(悪意は感じないけど、並行世界をつなげるほどの力を持っている相手)

原ほむ(油断はしないように――――)

妖ほむ「はふぅー……紅茶、美味しいです♪」

シャル「ほんとねー」

さやか「ケーキうまー」

原ほむ(……向こうにはもっとこう、緊張感というものは無いのかしら)

妖ほむ「さてさて、気持ちも落ち着いたところで、お悩み相談を始めるとしましょう」

シャル「つーてもねぇ……誰から始めるの?」

妖ほむ「じゃあ、言い出しっぺのシャルロッテさんから」

シャル「いや、言い出しっぺって……まぁ、いいけど」

シャル「丁度悩みというか、皆に訊きたい事があったし」

原ほむ(魔女の悩み……精神的な弱点を聞いておくのは、戦略を練る上で役立つかもしれない)

原ほむ(聞いておいて損はないわね……)

シャル「あのね……」

シャル「みんな、体型維持ってどうやってるの?」

原ほむ「……は?」


331: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:54:52.32 ID:UlO49LMz0


シャル「いや、私ってお菓子を魔法で生み出せるでしょ?」

シャル「お陰で食べたい時何時でもお菓子を出せちゃうんだけど……」

シャル「今の私は少なくともボディは人間。肉体的には魔女じゃない訳で」

シャル「という事は……このままの食生活を続けたら太るって事よ!?」

シャル「これは一大事よ! いくら魔女でも女は女よ!? デブは嫌よ!」

シャル「という訳で体型維持方法を教えてくださいー」

さやか「あー、まぁ、気持ちは分かるが」

さやか「でもその前に、食事前の間食を止めるように努力しろよ……流石に晩ご飯前のクレープはどうかと思うよ」

シャル「一度転がり落ちると這い上がるのは大変なの」

さやか「格言っぽく言ってるけど、つまり止められない止まらないって事かい」

シャル「ふんっ。さやかには最初から期待してないわよ。維持しているようには見えないし」

さやか「え」

シャル「本命はほむらよ、ほむら!」

妖ほむ「私ですか?」

さやか「……維持しているように、見えない?」

シャル「そのスレンダーな身体付き、何か秘策があると見たわ」

シャル「この三日間の同居生活じゃ分からなかったけど、何か秘密があるのよね?」

さやか「あたし、太ってるのか……?」

妖ほむ「期待するのは勝手ですけど、私、特に何もしていませんよ」

妖ほむ「元々食は細い方ですし……何より、いくら食べても太らない体質なんです」

妖ほむ「むしろ健康上もう少し体脂肪を付けた方が良いぐらいなんですが」

シャル「……つまり?」

妖ほむ「私が痩せているのは努力の賜物ではなく、単なる体質です」

シャル「こ・ん・ち・く・しょーっ!」

妖ほむ「はい、それでは少しずつでも一日に食べるお菓子の量を減らしていくとしましょう」

妖ほむ「とりあえず、明日から朝ご飯はホットケーキではなく和食ですね」


332: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 16:58:00.53 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「これにてシャルロッテさんのお悩みは解決です」

シャル「してないだろ! てきとーに付けんなーっ!」

妖ほむ「……ところで」

さやか「」チーン
原ほむ「」チーン

妖ほむ「そこのお二人は、何故真っ白に燃え尽きているのですか?」

さやか「あたしはデブじゃないあたしはデブじゃないあたしはデブじゃない……」

妖ほむ「……意味が分かりません」

妖ほむ「えっと、それでもう一人の私はどうしたんですか?」

原ほむ「……なんでも、ないわ」

原ほむ(魔女の弱点を探るどころか、むしろ元々普通の女の子だという事実を改めて突き付けられて意気消沈……なんて言えないわ)

妖ほむ「そうですか。では、早速次の悩み相談といきましょう」

妖ほむ「はい、それでは次はさやかさんの番ですよー」

さやか「はっ!? あたしは一体何を――――」

妖ほむ「もう、次は自分の番って聞いて意気込むのはいいですけど、我を忘れるほど考え込んでどうするんですか」

さやか「あ、あれ? そういう話だったっけ?」

妖ほむ「そーいう話でしたよー」

原ほむ(息のように嘘を吐くわね……美樹さやかは嘘や隠し事が嫌いな筈なのに、どうして仲良くなれたのかしら?)

さやか「そ、そうか……いや、でもあたし悩みなんてないしなぁ……」

シャル「……本当に無いの?」

さやか「……何故ニヤニヤしながら訊いてくるのか不思議だけど、ないよ」

シャル「ふーん」

さやか「なんだよ。何か言いたい事でもあるのかよ」

シャル「いや、別にぃ。ただ――――」

シャル「好きな男の事を相談しなくていいのかなぁって」

さやか「え? な、え? うええええええええええええっ!?」


333: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:00:47.65 ID:UlO49LMz0


さやか「な、なな、なんでシャルちゃんがそんな」

シャル「昨日一緒にお風呂に入った時言ってたじゃない」

さやか「ちゃんと聞いてたのかよ!?」

シャル「それで? 誰なの? ん?」

さやか「だ、誰とかなんとかいう、あれはその、疑惑が出てきたから反論として言っただけで!」

さやか「べ、別に恭介の事が好きとかそんなのはないし!」

シャル「へぇ、恭介って言うんだ?」

さやか「おぅふッ!?」

シャル「しかも呼び捨てする間柄って事は、クラスメートとかじゃないわね。幼馴染かしら?」

さやか「お、おんどりゃあ……! 言わせておけば……」

妖ほむ「さやかさん!」

さやか「うわ!? な、何……?」

妖ほむ「そ、そんな、す、す、好きな男の子なんて……」

妖ほむ「不潔です! 不純異性交遊は駄目なんです! 破廉恥ですぅ!」

さやか「……流石にその反応は潔癖過ぎるだろー」

シャル「いや、これは逆に興味津々過ぎてR-18レベルまで妄想していると見たわ」

さやか「……今度、あたしの持ってる少女漫画でも貸してやるか」

シャル「ああ、いいかもね。少女漫画」

シャル「最近のは過激って聞くからねぇ……昔のなんて知らないけど」

妖ほむ「ああもう! この相談は終わりです! 駄目絶対です!」

シャル「恋は麻薬ってか」

さやか「座布団没収するぞ」

妖ほむ「終わりですったら終わりですーっ!」

シャル「ま、聞きたい事は聞けたから異議なーし」

さやか「……終わるなら、まぁ、異議なしで」

妖ほむ「あああああもう……嘆かわしい、嘆かわしいです……!」


334: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:03:37.42 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「はい、次は魔法少女の私!」

原ほむ「え? 私?」

妖ほむ「そうです!」

妖ほむ「……すみません。ちょっと冷静になりますので……ふー……」

妖ほむ「すみませんでした。本題に戻りましょう」

さやか「相変わらず切り替え早いなー」

妖ほむ「いいじゃないですか。何時までもウジウジしているよりかは」

妖ほむ「それで、どうですか? 悩みありませんか?」

原ほむ「……………悪いけど、私はあなた達に相談するつもりなんてないわ」

妖ほむ(ふむ。する気はない、と……悩みがあると認めているようなものですねぇ)

妖ほむ(ま、そこが逆鱗なのは容易に想像が付くので、少し遠くからつつくとしましょう)

妖ほむ「えー? なんでですか?」

妖ほむ「思い悩むと視野が狭くなりがちです。第三者の意見を取り入れると、案外すんなりと解決するかも知れませんよ?」

原ほむ「あなたには分からないでしょうね。妖精という、超常の存在の力を借りられるのだから」

原ほむ「でもね、私に頼れるものは何もない」

原ほむ「誰かに期待なんてするだけ無駄。奇跡を期待するのも無駄」

原ほむ「相談なんかしても何も変わらない」

原ほむ「だから私は、もう誰にも頼らない――――」


335: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:04:08.93 ID:UlO49LMz0



???「きゃああああああああああああああ」



336: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:05:58.14 ID:UlO49LMz0


原ほむ「っ!?(悲鳴!? 一体何処から……)」

原ほむ(……なんか上から聞こえたような気がし)

???「あああああああああああああああああああっ!?」

原ほむ「って、上から誰かが落ちてきてぶしゃっ!?」

――――ドンガラガッシャーン

さやか「ほ、ほむらァ――――!?」

妖ほむ「あらあら。並行世界の私の上に誰か落ちてきましたね」

シャル「だ、大丈夫……?」

原ほむ「わ、私は大丈夫……ソウルジェムが砕けてなければ……」

原ほむ「それより、一体誰が落ちてきて……」

眼鏡を掛けた三つ編みほむら(以下めがほむ)「うきゅ~~~~……」←目を回している

妖ほむ「……………三人目、来ましたね」

さやか「三人目、来たな」

シャル「三人目、来たわね」

原ほむ「三人目、来ちゃったわね」

原ほむ(恐らく彼女もまた何処かの並行世界から連れて来られた私)

原ほむ(私服姿で、眼鏡を掛けている)

原ほむ(雰囲気的には向こうの、並行世界の私と近いけど……)

原ほむ(いえ、むしろ……昔の私と近いような気がする)

原ほむ「……それで、どうするの?」

妖ほむ「来てしまったものは仕方ありません。巻き込むとしましょう」

シャル「ああ、やっぱり巻き込むのね……」

原ほむ(巻き込むって、そういう使い方の言葉だったかしら……)


337: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:08:37.64 ID:UlO49LMz0


めがほむ「う、うーん……此処は……?」

めがほむ「ひっ!? な、なんで……なんで私がたくさん……!?」

原ほむ「……落ち着いて。今から説明してあげ」

妖ほむ「これは夢ですよー」

原ほさやシャル「え?」

めがほむ「あ、そっか。夢ですかー」

めがほむ「そーですよねー。私がたくさんいるなんて、夢じゃなかったら変ですよねー」

妖ほむ「そーそー。でも夢は夢でも、これはあなたの潜在意識ですから、私達からの忠言は覚えておくようにしてくださいねー」

めがほむ「成程! 自分の知らない自分ってやつですね! 入院中に読んだ本に書いてありました! 確か……ぺ、ペンタゴン?」

妖ほむ「ペルソナですかねー。文字数どころか意味すら合ってませんけど」

めがほむ「ああ、それです! 多分それです!」

ほむほむ「あっはっはっはっはー♪」

さやか「……そっこーで打ち解けたな」

シャル「ごり押しで人間関係って深まるものなのね。勉強になったわ」

原ほむ(馬鹿でドジで間抜けなのは知っていたけどあっさり陥落し過ぎよ過去の私ィ――――!!)

妖ほむ「ああ、そうそう。それでですねー、これは夢な訳ですけど、実はお悩み相談をやっておりまして」

妖ほむ「何か悩みとかありませんか?」

めがほむ「悩みですか? ……私の別人格なのに、私の悩みが分からないのでしょうか?」

妖ほむ「そこはほら……別人格ですから。あなたとは別人ですもん」

めがほむ「なるほどー」

めがほむ「えっと、では相談したいのですけど……」

めがほむ「私……心臓病で入院してて……入院生活が長かったから、運動も勉強もダメダメで……」

めがほむ「それに、引っ込み思案で臆病で、なにをやっても駄目で……」

めがほむ「今日は転校初日だったのに、自己紹介も上手く出来なくて……」

めがほむ「こんな自分を変えたいのですけど……ど、どうすればいいのでしょうか?」


338: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:11:29.22 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「ふむ、自分を変えたいと」

妖ほむ「性格を変えるには、何か衝撃的な体験が一番手っ取り早いでしょう」

原ほむ(衝撃的、ね……確かにそうね)

原ほむ(私も、魔女化の真実を知り、過去に戻って自分を助けてとまどかに言われてから、こんな性格になった)

原ほむ(美樹さやかも、まどかも、巴マミも……残酷な体験をしなければ現実を受け入れてくれない。
    私が何を言っても信じてくれない)

原ほむ(人が変わるには、残酷な事実以外に方法はないのよ――――)

妖ほむ「じゃあ、アイドルデビューしましょう」

原ほさやシャル「はい?」

原ほむ「あの、あなたは一体何を言っているの?」

妖ほむ「何って、衝撃的な体験をする方法?」

原ほむ「あたかも私当然の事言ってますよ、みたいな感じの態度で断言された!?」

さやか「そりゃ衝撃的だろうよ、アイドルデビューは」

シャル「無責任極まりない解答ねぇ……」

めがほむ「あ、あの……いくら別人格からのアドバイスでも、アイドルというのは……」

めがほむ「それに、あの、私そんなに可愛くないですし……」

妖ほむ「何を言っているんですか! あなたは私なんですよ!? 可愛いに決まっています!」

原ほむ(超ストレートに自画自賛しやがったわコイツ!)

めがほむ「でも、でも、私、人見知りが激しくて、アイドルって、たくさんの人の前で歌ったり、すると思うし……」

妖ほむ「じゃあ此処で慣れましょう」

妖ほむ「はい、マイクです」

めがほむ「え、あ、ども……え?」

妖ほむ「こんな事もあろうかと用意しておいたカラオケ機器の数々!」

原ほむ(どんな事があると思って用意していたのよ!?)


339: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:13:31.53 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「そんでもって、ギャラリーかもーん!」

妖精さん×30「よばれた?」「ばればれかも」「あつまってはみたけれど」「なにかはじまる?」「にんげんさんのだしものはさいこうねー」「みせてもらえるなんて」「なにかおれいひつよう?」「だまってみるのがれいぎかと?」「かもくにてっするべきでは?」「ぼっくすひつようかも」「からおけおっけー」「おけおっけー」

原ほむ「ひっ!?(どっかから湧いてきた!?)」

めがほむ「あの、こちらの方々は?」

妖ほむ「あなたが描いた観客のイメージです」

妖精さんA「そーなの?」
妖精さんB「そーいうやくまわりか」
妖精さんC「はいやくはだいじ」
妖精さんD「ぼくら、あどりぶへたですし」
妖精さんE「ではぼくらききにてっします」
妖精さんF「おきかせくだされー」

めがほむ「なるほどー」

原ほむ(なんでさっきから無抵抗に納得してんのよ私ぃぃぃぃぃぃ!)

さやか「なんでさっきからあのほむら、逐一悔しそうなんだ?」

シャル「私が知る訳ないでしょ」

めがほむ「では私、歌います! 選曲は……」

妖ほむ「鋼のレジスタンスとか未来への咆哮、それからGONG辺りを聴きたいですねー」

さやか「何故JAMプロ推しなんだ」

シャル「いい曲だけどね。うん」

原ほむ(え? 今の選曲って有名なの?)

めがほむ「では、未来への咆哮で!」

原ほむ(え? あの私も知ってるの?)

めがほむ「それでは、う、歌います!」


340: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:14:35.11 ID:UlO49LMz0


~~~♪

めがほむ「たーちあがーれ、けーだかくまえ、さーだめを受けたせーんしよーっ!」

めがほむ「せーんの覚悟身に纏い! 君よ! 雄々しく、はーばーたーけー!」

さやシャル(まさかの圧倒的な声量と完璧な音程で圧倒される私達であった)

原ほむ(……………)

原ほむ(はっ!? 歌に魅了され、唖然としてしまった!)

原ほむ(……こ、今度、CD買いに行こう)

~~~♪


341: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:17:15.00 ID:UlO49LMz0


めがほむ「とーきを越えその名前を! 胸に、刻もう! Just Forever~!!」

めがほむ「……ふぅ……」

妖ほさやシャル「わーっ!」パチパチパチパチ

妖精さん×1500「わー!」パチパチパチパチ

原ほむ(……い、何時の間にか、妖精の数がとんでもない事に……一体何処から湧いたの!?)

妖ほむ「はい、コンサートは終わりです」

妖ほむ「妖精さん達はてきとーに散ってくださいねー」

妖精さん×1500「はーい」

妖ほむ「……とりあえず、これで今すぐ童話災害には襲われない、筈っと」

めがほむ「ああ……気持ちいい……!」

めがほむ「人の前で歌うのって、こんなに気持ちいいんですね……!」

妖ほむ「それは何より」

妖ほむ「だけど、満員のドームで歌う気持ち良さは、こんなものじゃないと思いますよ?」

妖ほむ「全国ツアーとかやって、何万人のファンがあなたを応援してくれるんですよ」

めがほむ「……!」ゾクゾク

めがほむ「満員の、ドーム……全国百万人のファン……私に向けられる歓声……」

めがほむ「なんて……素敵……!!」

さやか「……なぁ。あれ、なんか目覚める方向間違ってないか?」

さやか「なんか世界を滅ぼそうとしている悪役のような、不気味で光悦とした笑み浮かべてんだけど」

シャル「まぁ、そういう需要がない事もないし、社交的になったという意味では性格が改善してるし」

シャル「ぶっちゃけめんどくなってきたので、ノータッチで」

さやか「シャルロッテさんったら物臭ですわー」

原ほむ(見ていて色々複雑な気持ちになったのは私だけなのかしら……私だけよね、多分)

妖ほむ「さて、こちらの私のお悩みも解決ですね」


342: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:18:53.86 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「取りは全ての元凶である私として……」

妖ほむ「またしても残るはあなただけですよ――――並行世界の私」

原ほむ「……何度も言わせないで」

原ほむ「私の悩みは、誰かに言って解決するようなものじゃない。誰かに言って変わるものじゃない」

原ほむ「誰かに頼っても無駄。自分でなんとかするしかない」

原ほむ「何度やっても駄目だったのに、ぽっと出のあなたにどうにか出来るなんて……」

原ほむ「思い上がりもいいところだわ」

妖ほむ「……ふむ。成程」

妖ほむ「今ので大体分かりましたよ、あなたの悩み」

原ほむ「……ハッタリのつもり? なら、是非とも教えてほしいものね」

原ほむ(分かる訳がない……本当の事を話しても、誰も信じなかったのに)

妖ほむ「そうですねぇ……じゃあ、言わせてもらうとしましよう」

妖ほむ「並行世界の魔法少女が私達のいう魔法少女と同じかは分かりませんが……
    基本的なルールである、魔女化の真実があるので同じと仮定します」

妖ほむ「という事は、あなたは魔法少女の契約をキュゥべえさんと結んだ」

妖ほむ「即ち願いがあったという事になります」

妖ほむ「そして、その願いはまだ叶っていないのではないですか?」

妖ほむ「例えば……誰かを守りたいと願ったのに、未だに守れていない」



妖ほむ「『何度も時間を繰り返したのに、鹿目さんを守れていない』、とか」



343: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:21:55.29 ID:UlO49LMz0


原ほむ「っ……!?」

妖ほむ「ふむ。どうやら当たったみたいですね」

さやか「え、ど、どういう事?」

シャル「時間を繰り返した……?」

妖ほむ「あの私が鹿目さんに対し、ただならぬ執着があるのは先の会話で皆さん分かっていたと思います」

妖ほむ「その時点で、彼女の願い事が鹿目さんの類なのは容易に想像出来ました」

妖ほむ「そして私に対し、あなたの世界での鹿目まどかは魔法少女になっていないか、とも尋ねてきました」

妖ほむ「あちらの世界でも、きっと鹿目さんは魔法少女になっていた。或いは、ある時契約してしまった」

妖ほむ「いえ、魔女化の真実を知っていた事、そして魔女を人間に戻せるという言葉への反応を吟味すれば……」

妖ほむ「鹿目さんが魔女になったところを見たのかも知れない」

原ほむ(な、なんで……!?)

妖ほむ「そんでもってさっきの、何度やっても発言が決定的です」

妖ほむ「つまり、目の前の私は何度もやっているんです。鹿目さんが魔女にならないようにする挑戦を」

妖ほむ「他にも時間遡行という珍しい言葉を使ったり、何もかも諦めた態度だったり、ヒントは山ほどありましたね」

妖ほむ「……むしろこれだけヒントがあって、寸分もこの可能性が頭を過ぎらないと言うのは……」

さやか「う、うっさいなぁ……いくらとんでも事態には慣れてきても、アンタほど経験は積んでないんだから」

シャル「なんだかんだ、私らもほむらと比べたら常識人って事ねー……良かった良かった」

めがほむ「???」←話についていけてない

妖ほむ「むー、なんですかその物言いは。人を非常識の塊か何かと思わないでくださいよ!」

さやシャル「塊どころか濃縮圧縮レベルだろ」

\ワイワイキャッキャ/






原ほむ「……なんでよ……」




344: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:24:03.83 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「……なんですか? 意見があるなら、ハッキリ言った方がいいと思いますよ? 勿論相談も受け付けます」

妖ほむ「ここにいる者の半分は自分なんですから、吐いてすっきりしちゃいましょうよ。ね?」

原ほむ「……なんでよ……」

原ほむ「なんでそこまで分かって、相談しろって言うのよ……!」

原ほむ「ええそうよ! 私は何度も時間を戻って、何度もまどかを助けようとした!」

原ほむ「だって私の願いは、まどかを守る事なのだから!」

原ほむ「だけど結果は何時も失敗!」

原ほむ「魔法少女の真実を話せば仲間割れが起きてみんな死ぬ!」

原ほむ「真実を隠せば誰も私を信じてくれず、協力してくれない!」

原ほむ「それでもなんとか仲間を加えても、ワルプルギスの夜が越えられない!」

原ほむ「そしてワルプルギスの夜が倒せないと……まどかが契約してしまう!」

原ほむ「どうしろって言うの! どうすればいいの!?」

原ほむ「どうすればまどかを……あの子を助けられるのよ……!!」

さやか「……ほむら、あの」

シャル「さやか……今は……」

さやか「……うん。”ほむら”に任せる」

妖ほむ「……それがあなたの悩みですか?」

原ほむ「……ええ、そうよ」

原ほむ「それが私の悩み……まどかを救うために、どうすれば――――」



妖ほむ「ああ、もう。面倒臭いですねぇ」



原ほむ「――――え?」

妖ほむ「面倒臭いと言ったんです。あなたの悩みというか願い事」

妖ほむ「ああ、そもそもの問題は、願いと悩みが一緒くたになっている点ですかね」

原ほむ「な、何を、言ってるの!?」

原ほむ「私の願いが面倒臭いですって!?」

妖ほむ「だって面倒ですもん」

妖ほむ「あなた、自分の願いの本質を見失ってますよ?」

妖ほむ「誰かを守りたいなんて――――そんな願い、ある訳ないじゃないですか」


345: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:26:51.66 ID:UlO49LMz0


原ほむ「なっ……さっきから聞いていれば勝手な事ばかり……!」

原ほむ「私はまどかを守りたい! それが私の願いであり目的よ!」

妖ほむ「じゃあ聞きますけど、あなた、どうして鹿目さんを守りたいんですか?」

原ほむ「ど、どうして……?」

原ほむ「それは――――か、彼女が私の、一番の友達だったから……」

原ほむ「と、友達を守りたいと思うのは可笑しい事なの!?」

妖ほむ「可笑しくはないですよ。だからあなたは本質を見失っていると言っているんです」

妖ほむ「友達だから守りたいなんて、そんな上っ面の言葉なんかいりません」

妖ほむ「……そもそも、友達だから守りたいなんて建前でしょう?」

原ほむ「っ!? どういう意味……!」

妖ほむ「どういうも何も、本当は知っている癖に」



妖ほむ「あなたの本当の願いは――――人に認めてもらう事でしょう?」



原ほむ「――――?!」

妖ほむ「認めちゃいましょうよ。自分が劣等感の塊である事を」

原ほむ「ちが……!」

妖ほむ「何も違いませんよ」

妖ほむ「私はあなた。あなたは私。あなたの事はなんでも知っている」

妖ほむ「何も出来ない自分への劣等感で、何時も何時も卑屈になっていたでしょう?」

妖ほむ「そんな自分が嫌で嫌で堪らなかったでしょう?」

妖ほむ「だから力を手に入れて、それを誇りたいのでしょう?」

妖ほむ「鹿目さんから、尊敬や嘱望の眼差しを受けたいのでしょう?」

妖ほむ「魔法少女の鹿目さんより、上に立って見下ろしたいのでしょう?」

原ほむ「違う、違う違う違う!」

妖ほむ「何が違うのですか? 守ってやるなんて上から目線で言っときながら、何が違うのですか?」

妖ほむ「ああ、それともこれじゃまだまだ生温いとか?」

妖ほむ「鹿目さんだけじゃなくて、さやかさんとか巴先輩からも崇められたいと?」

妖ほむ「それともワルなんとかとやらを倒して、自分の名声を世に広めたいとか?」

妖ほむ「もしくは、さやかさんも鹿目さんも踏み台程度の認識で――――」

原ほむ「違う!」



346: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:29:55.47 ID:UlO49LMz0


原ほむ「私は、私は尊敬とかそんなのはいらない!」

原ほむ「戦いだってしたくない! 誰も踏み台だなんて思ってない!」

原ほむ「私は、私はただ……」



原ほむ「私はまどかが、みんなが死んでほしくないだけなの!!」



妖ほむ「……ふー。やっと本音を言ってくれましたか」

原ほむ「えっ……?」

妖ほむ「ですから、それが本音ですよね?」

妖ほむ「誰かを守りたい。まぁ、立派なご意見だとは思いますけど」

妖ほむ「自分の願い事なのに他人が前面に出てくるなんて、そんなの願いじゃありません」

妖ほむ「勿論守りたいと思う事は結構です。人として大切な気持ちでしょう」

妖ほむ「ですが『何故』が抜け落ちていては、そんなのは耳触りのいい言葉でしかありません」

原ほむ「それ、は……」

妖ほむ「ほら、思い出して」

妖ほむ「あなたは何を願って魔法少女になったのか……ちゃんと思い出して」

原ほむ「……そうだ……私の願いは、まどかを守るじゃない……」

原ほむ「まどかを守れる私になりたい……」

原ほむ「まどかと『同じ場所』に居る事……生きて、一緒に居る事……それが願いだった……」

原ほむ「なのに、なのに私……!」

原ほむ「忘れてた……私が何を求めていたのか……忘れて……!」

妖ほむ「……何度も過去に戻る事が大変なのは分かります。周りにとってはゼロの時間も、
    あなたにとっては永遠の監獄だったでしょう」

妖ほむ「最初に決めた道しるべが分からなくなっても仕方ないと思います。迷ってしまうのも当然だと思います」

原ほむ「で、でも……私、忘れちゃってて……」

妖ほむ「誰だって物忘れの一つ二つはありますよ」

妖ほむ「大切なのは繰り返さない事。もう忘れない事」

妖ほむ「そして――――自分の想いに、正直になる事」

原ほむ「自分の、想いに……?」

妖ほむ「そうです」

妖ほむ「空っぽな人間に力はない。力を持つのは、何時だって信念を持つ人間です」

妖ほむ「だから自分のやりたい事をやりましょう」

妖ほむ「そうすれば……」

原ほむ「……?」


347: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:32:10.71 ID:UlO49LMz0


原ほむ「……そうすれば、何?」

妖ほむ「……そうすれば、人は全力を出せる」

妖ほむ「全力を出せれば、人間は世界を変えられる!」

妖ほむ「だからあなたは自分のために――――自分の願いのために、堂々と他人を利用すればいいんです!」

妖ほむ「あなたは正しいのだから、迷わなくていいんです!」

妖ほむ「容赦なく、徹底的に、何処までも!」

妖ほむ「みんなを幸せにしちゃえばいいんですよ!」

原ほむ「……そう、ね……そうよね……」

原ほむ「まどかを契約させない……そんなの、私の願いじゃない」

原ほむ「まどかだけじゃない。巴さんも、さやかも、杏子も――――全員幸せにする」

原ほむ「ええ、そうよ。まどかだけ幸せにするなんて、そんな謙虚ではいられない」

原ほむ「何処までも、何処までも欲張ってやる……」

原ほむ「私の幸せのために、全員を幸せにしてやる!!」

原ほむ「それが私の、本当の願いよ!」

妖ほむ「ふふ……もう大丈夫ですね」

原ほむ「ええ」

原ほむ「もう運命になんて屈しない……ううん、今までは勝負すらしていなかった」

原ほむ「建前をかざして本当の願いを誤魔化していた。叶えられそうにない夢から逃げていた」

原ほむ「もう、私は逃げない」

原ほむ「逃げないから……全力で挑めるわ」

妖ほむ「それは何よりです♪」

さやか「どうやら終わったようだね」

原ほむ「ええ。お陰さまで」

シャル「表情も軟らかくなったね。そっちの方が可愛いよ」

原ほむ「ありがとう。褒められるのは、気分がいいわね」

めがほむ「えーっと……つまりどういう事ですか?」

原ほむ「うん。面倒臭いしあなたには無関係だから説明はなしで」

原ほむ「……さて、それじゃあいよいよ”トリ”の出番ね」

妖ほむ「とり? ……ああ、そうですね」


348: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:34:05.91 ID:UlO49LMz0


原ほむ「あなたはどんな悩みをぶつけてくれるのかしら?」

さやか「あ、それちょっと楽しみだったんだよね」

シャル「普段弱みなんて見せないからねー。つーかメンタル面ではうちらの中じゃ最強っぽいし」

シャル「まぁ、だから平然と相談したい事があるとか言えたんだろうけど」

めがほむ「私の別人格の持つ悩み……自分でも知らない悩みが今明かされるのですね……!」

妖ほむ「あー……それなんですけど」

妖ほむ「さっきの説教しているうちに自己解決しました。はい」

原作めがさやシャル「ええーっ!?」

妖ほむ「いや、そう露骨にガッカリしなくても……」

さやか「だってだってだって~」

原ほむ「私達だけ精神的弱点を見せるなんて不公平よ」

シャル「そーだそーだ」

めがほむ「そーだそーだ!」←周りに合わせているだけ

妖ほむ「ですから、解決したというだけで話さないとは言ってませんよ」

妖ほむ「そもそも私が相談という形で悩みを打ち明けないとこの空間からは出られそうにないですし」

妖ほむ「アドバイスがいらないというだけで、ちゃんと悩みはお伝えしますから――――」



???「うわあああああああああああああああああああああああ!?」



原ほむ「ちょ……また悲鳴!?」


349: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:36:13.45 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「四人目の私って……流石に追加が多過ぎますねぇ……」

シャル「そんな事より、誰か受け止めてあげなさいよ! 声、また上から聞こえてきているし!」

さやか「よーし、さやかちゃんが見事にキャッチして」

???「どべちっ!?」ビタンッ!

シャル「……見事にキャッチ失敗したわね」

さやか「……面目ないです」

めがほむ「そ、それより大丈夫なんですかその人!?」

妖ほむ「妖精さん空間ですから、致命的なダメージはないと思いますけど」

原ほむ「……みたいね。自力で起き上がって――――」


魔法少女姿のさやか(以下魔さや)「……………」


さやか「……あれ? あたし?」

シャル「……少なくとも、ほむらじゃないわね」

原ほむ「ちょ、ちょっと、どういう事!?」

原ほむ「この空間に集まるのは私だけじゃないの!?」

妖ほむ「あ、あれー? えーっと……」

妖ほむ「……………あ」

シャル「……何?」

妖ほむ「……思い返してみると、妖精さん、誰が集まるとは言ってませんでした」

妖ほむ「ただ、この空間に居ると並行世界の自分が集まると言っていただけです」

さやか「つ、つまりあれか? あのあたしは、並行世界のあたしって訳か?」

妖ほむ「そうなりますね」

妖ほむ「まぁ、並行世界のさやかさんですからね。事情を話せばツッコミ役としての役回りは出来るかと思いますし」

原ほむ「……残念だけど、そうはいかないと思うわ」

妖ほむ「と、言いますと?」

原ほむ「……」←並行世界のさやかを指さす

妖ほむ「?」


350: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:39:03.84 ID:UlO49LMz0


魔さや「……ああ、分かった。そういう事か……」

魔さや「あたしをこんな場所に閉じ込めて始末するつもりだな、転校生……!」



妖ほむ「あら?」

さやか「なんかあのあたし……すっげー臨戦態勢じゃない?」

シャル「……並行世界のほむらさん。あなた、説明出来ますかしら?」

原ほむ「……正義の魔法少女さやか。誤解に誤解が積み重なって、私の陰謀で彼女の師匠である巴マミが死亡したという事に」

原ほむ「多分そんな感じの事があったのかなーっと。過去のループで何度かやっちゃったパターンね」

さやか「わーお」

シャル「見事なまでの修羅場ね」

魔さや「……よく見たら、転校生が四人も居る……それに、あたしの姿も……」

魔さや「成程ね。杏子ってやつの魔法で作った幻影か……やっぱりアンタ達グルだったんだね……!」

さやか「なんか猛烈な勢いで間違った推理を展開してんだけど。つか、きょーこって誰?」

シャル「なんとか誤解を解きなさいよ。アンタでしょ、アレ」

さやか「いやいやいやいや。無理無理無理無理」

さやか「だってあれ刃物持ってんだよ? 目とか逝っちゃってるじゃん」

さやか「あれだよ。友好的に接しようと伸ばした手を切り落とされちゃうパターンだよ」

シャル「いや、つーてもこの状況でまともに話が出来そうなのってアンタぐらいしかいないし」

原ほむ「同意見、と言いたいけど……あの状態になったさやかは、親友であるまどかの話も訊かないし……」

さやか「でしょ? 自分の事だもん。よく分かるもん」

シャル「それ、認めていて悲しくない?」

原ほむ「とにかく刺激しないようにしないと。声を掛けただけで敵認定されかねないわ」

妖ほむ「えー、私が全ての元凶ですから、聞きたい事があれば私にどーぞ」

原ほさやシャル「何言ってんのアンタああああああああああああああっ!?」


351: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:42:29.90 ID:UlO49LMz0


妖ほむ「いえ、だってなんか面倒で……」

妖ほむ「誰が悪い奴かハッキリさせるのが一番話がスムーズに進むかなーっと」

シャル「そりゃスムーズに進むでしょうよ! 最悪な形で!」

さやか「アンタは相変わらず自分のやりたいようにやるな!? 巻き込まれるこっちの身にもなれよ!」

原ほむ「そうよ! それに万一魔法少女である彼女に襲われたら……」

魔さや「そうか……アンタが元凶か……」

魔さや「だったらアンタを倒せばそれで終わりだ!」

原ほむ「ほらほらほらほらほらぁ!?」

妖ほむ「あー、まぁ、なんとかなるでしょう。多分」

原ほむ「なんとかって一体どうするつもりよ!? 戦いになって勝てる算段でもあるの!?」

原ほむ「もう一人の私も何か言いなさいよ!」

めがほむ「戦いなんてくだらない! 私の歌を聴けーっ!!」

原ほむ「違うでしょ!? あなたのキャラとして言うべき台詞はそれじゃないでしょ?!」

魔さや「隙ありだっ!」

原ほむ(! しまっ……さやかが突っ込んできて……!?)

魔さや「喰ら【ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!】?!」

原ほむ(な、何か巨大な物体が魔法少女のさやかに襲い掛かった!? さやかは辛うじてかわしたけど……)

原ほむ(い、いえ、これは……)

魔女シャルロッテ(以下魔女シャル)【ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!】

シャル「あ、私だアレ」

さやか「なっつかしー」

原ほむ(並行世界の魔女まで来たあああああああああああああ!?)


352: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 17:45:36.20 ID:UlO49LMz0


魔さや「くっ……魔女を飼っていたのか……!」

原ほむ「いや、違います。誤解です」

魔さや「じゃあこの魔女はなんだ!? いや……」

魔さや「アンタの肩に乗っている使い魔は!」

原ほむ「え? 肩って……」

妖精さん「どもです?」

原ほむ「……なんで私の肩に乗っているのかしら」

妖精さん「かくれんぼしてて、ここまできましたので」

原ほむ「隠れてないわよ、あなた」

妖精さん「みつけてもらえないほうがさみしい」

原ほむ「ぐふっ……嫌な事思い出した……じゃなくて!」

原ほむ「ち、違うの! この子は使い魔じゃなくて……」

魔さや「使い魔じゃないなら一体なんなんだ!」

原ほむ「え、えっと……よ、よ……」

魔さや「よ?」

原ほむ「よ……妖精、さん……///」

魔さや「……………」

原ほむ「……………」

魔さや「そうやって誤魔化すつもりか! そうはいかないんだから!」

原ほむ「あああああああもう! 当然の反応なのにすっごいムカつくーっ!!」

魔さや「待ってろ! この魔女を倒したらすぐにでもアンタを」

赤髪碧眼の少女「ちょっと待ったーっ!」

魔さや「!?」

原ほむ「誰!?」

シャル「展開的に、魔法少女だった頃の私じゃない? 自分の元の姿とか全然覚えてないけど」

さやか「へー、普通に可愛いじゃん」

原ほむ「いやいやいや!? そんな和んでる場合じゃないから!?」

魔さや「ここで別の魔法少女……? さてはお前もほむらの仲間か!」

赤髪碧眼の少女(以下人シャル)「はぁ? いや、私はこの空間についての情報交換をしたくてアンタに接触しただけで」

人シャル「んで、ついでだから一緒に魔女を倒してグリーフシードのおこぼれをもらおうかなーっと」

魔さや「やっぱりグリーフシード目当ての、悪い魔法少女なんだな……」

人シャル「いやいや、グリーフシードが欲しいのはどんな魔法少女だって同じでしょ?」

魔さや「あたしはそんな魔法少女にならないって決めたんだっ!!」

人シャル「ちょ!? い、いきなり切りかかってきたーっ!?」

魔シャル【ギャアアアス!】

人シャル「ああもう! 助けにきたのになんで襲われるのーっ!?」



355: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:09:36.15 ID:UlO49LMz0


空手着姿のほむら(以下空手ほむ)「助太刀する!」

人シャル「え? え、ああ、ども……え? 誰?」

空手ほむ「詳しく語ると長くなるが、要約すると気が付けばこんな空間にいたのだ」

空手ほむ「そして争いの音が聞こえたので駆け寄った次第」

空手ほむ「ちなみにこちらは私の強敵<とも>達である」

空手さや「うすっ」

空手シャル「ちーっす」

人シャル「あれ? 私が居て……え?」

空手ほむ「此度の闘い、どうやらそなたにとって不本意と見た」

空手ほむ「それに先から話を聞いていれば……」

空手ほむ「自らの思い込みを振りかざし、相手の話を聞かぬ身勝手ぶり」

空手ほむ「協力して怪物を倒さねばならぬ時に、己が妄想に支配されるとは笑止千万!」

空手ほむ「さやか! 同じ顔の者が相手で辛かろうが……」

空手さや「問題ない。むしろ昂ぶっている」

空手さや「自分を相手に戦う……これ以上の鍛錬はなし!」

空手ほむ「その意気やよし!」

空手シャル「私は、ま、二人が戦うからねー。力添えでやんすよ」

人シャル「そ、そう……」

モヒカン頭のさやか(モヒさや)「ひゃっはー! じゃああたしはこっちの味方するぜー!」

魔さや「はあ!? あんた一体何なの!?」

モヒさや「あたしが誰かなんてどーでもいいだろーが!」

モヒさや「面白そうだから弱そうなテメェに協力すんだよ!」

魔さや「こ、この……!」

ホムリリィ【クルルルルルル】

オクタヴィア【コオオオオオオ】

魔女シャル【ギャス?】

ホムリリィ【クル、クルルルルル】

オクタヴィアA【コオオオオオ、コオオオオオオオオ!】

オクタヴィアB【オオオオオオ!】

オクタヴィアC【オオ、コオオオオオオオ!】

オクタヴィアD【コオオオオオオオオオオ!】

魔女シャル【ギィシャアアアアアアアアアアアア!】

魔女s【――――――!!】←声にならない叫び


356: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:11:26.96 ID:UlO49LMz0


魔法さや「ま、魔女の大群!?」

モヒほむ「ひゃっはー!」

モヒシャル「汚物は消毒だー!!」

ウェディング服姿のほむら「きゃっ! ……こ、此処はどこ……?」

半透明なシャル『寂しい、寂しい、寂しい……』

セーラー服姿のシャル「こ、これは夢、悪い夢、悪い夢なのよ……!!」



さやか「……なんというか、あれだな」

シャル「……なんというか、あれね」

原ほむ「なんか、どんどんメンバー増えてない? それも加速度的に」

シャル「増えてるわねー、加速度的に」

さやか「つーかさ、黒い魔女は色彩的にほむらが魔女化した姿だとして」

さやか「あの青い怪物って多分あたしが魔女化した姿だよね? なんか多くね? 四体も居るんだけど」

シャル「あれじゃない? どの並行世界でも唆されるがままほいほい契約して、そっこーで魔女化してんじゃない?」

さやか「笑えないっす……割とマジで」

シャル「まぁ、ほむらが居なかったら魔法少女の真実なんて知り様がなかっただろうし、知ったところでどうにもならないしねー」

さやか「あたしって、ほんとラッキー」

原ほむ「……さて、と。現実逃避はこれぐらいにして」

原ほむ「これはどういう事かしら? 恐らく理由を知っているであろう――――私?」

妖ほむ「えー、このカオスっぷりは間違いなくアレですね」

妖ほむ「童話災害末期の様相です」

シャル「童話災害?」

妖ほむ「簡単に言うと妖精さんによって引き起こされた、諸々の非常識に対する呼称でして」

妖ほむ「災害クラスの大迷惑を被りつつも、童話みたいに誰一人犠牲者が出ない素敵な時間です」

さやか「素敵なのか? それ」

原ほむ「童話みたいに死者は出ないけど災害クラスの迷惑を被る、って言った方が正しいんじゃないかしら……」



357: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:12:51.59 ID:UlO49LMz0


原ほむ「それで? 末期というからには、もうすぐこの茶番は終わるという事かしら?」

妖ほむ「終わりますねー……それも、皆さんが想像しているよりもあっさりと」

シャル「あっさり終わるならいいじゃない。グデグデよりかはマシよ」

妖ほむ「個人的にはグデグデの方がいいんですけどね……逃げる時間がある分」

――――ピシリッ

シャル「? なんか、音がしなかった?」

さやか「聞こえたね。ひび割れみたいな音だった」

原ほむ「私も聞いたけど、でも、なんの音かしら?」

――――ピシピシピシ

シャル「ほら、またよ。何処から鳴ってんのかしら」

さやか「上から聞こえなかった?」

原ほむ「上?」

原作さやシャル「……………」

シャル「……私の目が可笑しいのかしら」

さやか「いやー、あたしにも見えてるよ。多分」

原ほむ「奇遇ね。私もよ」

原ほむ「ねぇ、私」

妖ほむ「はい」

原ほむ「……空に大きなひび割れが生じているように見えるのだけど、どういう事かしら?」

妖ほむ「困った時の妖精さーん」

妖精さん「はーい」

妖ほむ「空に大きなひび割れがありますが、どういう事でしょうか?」

妖精さん「てーいんおーばーでは?」

妖ほむ「定員?」


358: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:14:37.40 ID:UlO49LMz0


妖精さん「このくうかん、はちにんようですゆえ」

妖ほむ「へー。八人までしか入らない空間なんですか」

妖ほむ「で、八人以上来たらどうなるのですか?」

妖精さん「こわれますが?」

妖ほむ「壊れるのですか?」

妖精さん「ばりーんとなりますなー」

妖ほむ「ばりーんと壊れるんですかー」

妖ほむ「じゃあ、あのひび割れは空間崩壊の予兆という訳ですね」

妖ほむ「……という事だそうです」

原ほむ「という事じゃないわよおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

さやか「空間崩壊って名前からしてヤバいじゃないか! 何そんなのほほんとしてんだよ!?」

妖ほむ「まぁ、妖精さんがいますから」

さやか「ああそうだな! 死にはしないな! 心休まるよこんちくしょう!」

シャル「つーか定員八人ならちゃんとセーブしてよ!? なんで八人以上空間に招いてんの!?」

妖精さん「ぼうそうは、ろまんですから」

シャル「浪漫は永遠に浪漫のまま胸に秘めてなさい!」

――――ビシ、ビシビシビシビシ!

さやか「――――あ。これあかん音だ。もう時間ない時の音だ」

シャル「あー、今回も駄目だったわ」

原ほむ「ちょ、急に達観してないで逃げなさいよ!? 何処に逃げればいいか分からないけど兎に角どっかに」

魔女シャル【ギシャアアアアアアアアアアアアアアア!】

魔さや「喰らえっ!」

空手ほむ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

原ほむ「あなた達お願いだから暴れないで!? こんなボロボロ空間で暴れたら――――」

妖ほむ「手遅れみたいですね」

原ほむ「え」



――――バギャン!




359: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:15:31.36 ID:UlO49LMz0



――――その音が聞えた瞬間、私達のいた空間の全てが一瞬で瓦解しました。

私達は時空の外側に放り出された訳ですが、まぁ、そこは妖精さんによる童話災害。
特に息苦しさもなく、眠るように意識が遠退きました。

そして――――



360: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:16:37.26 ID:UlO49LMz0


目を覚ました時、私は自室の布団で寝ていました。

さやかさんとシャルロッテさんも、私の布団の中で一緒に寝ていました。

ほむら「……時間は……朝の六時……」

ほむら(……ま、今回の童話災害は軽い方でしたかね)

さやか「ん、んん……」

ほむら「あ、さやかさん。おはようございます」

さやか「……おはよう」

さやか「……一つ聞きたいんだけど……」

ほむら「夢みたいな現実です」

さやか「おーけー」

シャル「……」ムクリ

ほむら「おはようございます」

シャル「……おは」

シャル「……一つ聞いていいか?」

ほむら「今日から朝ご飯はホットケーキではなく、和食にしますね」

シャル「あいわかった」

ほむら「それでは皆さん起きましたし、朝食の準備と……あ、そうだ」

ほむら「そう言えば私の悩んでいた事をまだ話していませんでしたね」

さやか「あ? あー、そういやそうだったな」

シャル「なんか今更のような気がするのよね。もう解決しちゃったんでしょ?」

ほむら「そうですけど、ほら、こういうのって仲間に決意を聞いてもらうのがお約束じゃないですか」

ほむら「新章突入って事で、一つ聞いてくださいよー」

さやか「それ、自分で言うかねぇ……あたしは別にいいけど」

シャル「ま、聞くだけならタダだしね。私もいいわよ」

ほむら「それでは、言います――――」


361: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:18:27.23 ID:UlO49LMz0


ほむら「インキュベーターの手は、それこそ世界を覆うほど、この世界の隅々まで伸びている事でしょう」


ほむら「そして遥か昔から、人類に干渉してきた事も分かっています」


ほむら「そんな彼等を地球から追放したらどうなるか? もしかしたら、とても酷い事が起きるのでは?」


ほむら「私は……その責任を負う事が、怖くて堪りませんでした。見知らぬ誰かに責められる事に怯えていました」


ほむら「ですが思い出しました」


ほむら「私は今まで、そしてこれからも! のんべんだらり! 自由気儘! 明るく楽しく生きていたい!」


ほむら「なのに傍でめそめそ泣いている人が居たら、心から笑えないじゃないですか!」


ほむら「誰かの迷惑なんてどーでもいい! 私は! 私の幸せのためだけに生きている!」


ほむら「世界が滅びたってかまいやしません! こんなつまらない世界、むしろぶっ壊してやります!」


ほむら「だから私は!」


ほむら「これから『本気』で地球を――――明るく楽しくしてやる!」


ほむら「全ての魔女を救い!」


ほむら「インキュベーターを、地球から追い出してやります!!」


362: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:19:52.49 ID:UlO49LMz0


ほむら「――――ふぅ。すっきりしました」

ほむら「やっぱり自分の中で完結するより、誰かに聞かせる方が気分がいいです」

さやか「そりゃ何より」

シャル「少しはアンタの役に立てたのなら、ま、良かったわ」

ほむら「……別に非難されたい訳じゃないですけど、何か言わないんですか?」

ほむら「今言った事、正直邪悪そのものじゃないですか」

さやか「何を今更。大体何時ものアンタだったじゃん」

さやか「ぶっちゃけアンタ、普段から正義っつーよりも悪だし」

シャル「そーよねぇ。何時も自分勝手。何時も他人の迷惑なんて考えない。何時も自分の楽しさを優先」

シャル「だけど――――アンタは間違った事をしていない」

さやか「魔女を助けるのが間違っている訳ない。人をエネルギーとしか見てない奴を追い払うのが、いけない訳ないよ」

さやか「だから、迷うなっ!」

シャル「アンタはやりたいようにやりなさい」

シャル「そうすればきっと、”巻き込まれた奴”だって幸せになれるわよ」

ほむら「――――はいっ!」

ほむら「みんな、みんな幸せにしてみせます!」


ほむら「覚悟してくださいね! インキュベーター!」


―――――

―――




363: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:21:01.42 ID:UlO49LMz0


――何時か何処かの並行世界――


「はっ!?」


目を覚ました時、私はベッドの中に居た。


辺りを見渡せば、目に入るのは見慣れた機器の数々。

そして真っ白な壁。

此処は――――私が入院している病院で、私の『時間』が始まる場所だ。


「ゆ、め?」


今でもハッキリと思い出せる、妖精と……無数の私による、滅茶苦茶な記憶。

あの光景は現実だったのか、それとも夢だったのか……終盤のしっちゃかめっちゃかぶりを考えると、後者のような気がしてくる。


いや、夢でも構わない。


私は大切な事を思い出した。


そうだ。まどかなんてどうでもいい。


全て私のため。


全て私の幸せのため。



――――みんなの笑顔が好きだから、その笑顔を見るために、みんなを幸せにしてやる――――


364: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:22:24.16 ID:UlO49LMz0


とってもシンプルな目的。これ以上ない、私の本心。


だから、私はもう迷わない。


「……そう言えば、全員が幸せになれたらインキュベーターの面目丸潰れよね」


まどかを見事契約させずワルプルギスを倒したら、アイツはどんな反応をするのだろう。

誰一人魔女にならなかったら、アイツはどう思うのだろう。

負け惜しみを言うのか、それとも感情がないから何も思わないのか。

前者を想像したら……胸が急に弾みだした。これは一体?


……ああ、そうだ。この気持ちは、楽しい、楽しいだ。


こんなにも楽しい気持ちでループを始めるのは……始めて時間を戻った時以来かな。

そんなにも長い間、私は楽しさを忘れていたんだ。


楽しくない中で、私は一体どれだけ力を振り絞れたのだろう?


どれだけ本気になれたのだろう?


……忘れてしまう程度にしか、頑張らなかったみたい。これじゃ、願いが叶わなくても仕方ない。


さ、暗い話はここまで。


ここから先はハッピーエンドになるためのお話。


例え何度絶望が来ようと、私はそんな絶望を全て台無しに出来る魔法を持っている。何も恐れる必要はない


さあ。




「今度こそ、全員幸せにしてやる! 待ってなさいよ、みんな!」



365: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/02(日) 18:25:38.83 ID:UlO49LMz0


「……あら? 服になんかゴミが……?」


「これ……確か妖精を握っていたら、いつの間にか持っていた枯草よね……」


「あ……風で枯草が……」


「あらら……コップの水に入っちゃったわね……」


「っ!?」


「み、水に入った枯草が急に膨れ上がって……!?」


「一体これは――――」








「ぼく、さらわれたです?」






379: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 12:59:29.10 ID:vlUOJUyW0


えぴそーど とー 【上条さんの、かいぞうけいかく ぜんぺん】


380: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:04:22.89 ID:vlUOJUyW0


――――あたしとアイツが知り合って、さて、一体どれだけの月日が流れたんだろう。


自分でも思い出せないが、幼稚園の頃から遊んでいたような気がするので彼是十年の付き合いだろうか。

大人からしたら大した事無いかもだけど、中学生のあたし達からすれば、それはそれは長い年月。

あたしが、アイツの事ならなんでも知っていると思いあがらせるには十分な月日。



だけどあたしは今日、初めて知る。



今まで知らずにいた事の幸福を。


自分がどれだけ無力な存在なのかを。




そして――――アイツの絶望を。


381: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:09:04.90 ID:vlUOJUyW0


――見滝原総合病院・玄関前――


さやか「今日も元気なさやかちゃんですよ~っと」

さやか「ほむらとシャルちゃんは今日学校をお休み」

さやか「まどかとは一方的にギクシャクされてるし、仁美は今日もお稽古」

さやか「今日は久々の一人ぼっち」

さやか「という訳で! 普段は多忙なさやかちゃんが、今日は恭介のお見舞いにきてやったぜ!」

さやか「平日でも学校が終わったら来てくれる、あたしみたいな幼馴染をもって恭介は幸せ者だねぇ♪」

さやか(……思えば、ほむらと出会ってからお見舞いに来てないんだよな……)

さやか(出会った初日は蛇の怪物と魔法少女に遭遇し)

さやか(翌日は魔女の結界探しをしていたら地底探検になって)

さやか(その翌日はほむらの家にお泊り&異空間で悩み相談)

さやか(その次の日は悩み相談の疲れもあったので、ほむらの家でまったりお茶会)

さやか(……体験してきた身なのに、自分でも何を言ってるのか分からんぐらいのカオスだなぁ)

さやか(たった五日間の出来事なのに、一生分の面白体験をしたような気がする)

さやか(……今日は、話したい事がたくさんあるな……)


382: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:09:43.66 ID:vlUOJUyW0



――好きな男の事は相談しなくていいのかなぁって――



383: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:15:53.69 ID:vlUOJUyW0


さやか「!」ボッ

さやか(う、うわーっ! うわわわわーっ! なんか急に顔が熱くなってきたーっ!?)

さやか(いや、そもそもなんで顔が熱くなってんだよあたし!? そして何故不意にシャルちゃんの言葉を思い出した?!)

さやか(別に恭介は幼馴染で、好きな男って訳じゃ……)

さやか(訳じゃ……)

さやか「……………」

さやか(つーかあたし、なんであの時好きな男がいるって言っちゃったんだ?)

さやか(……それじゃまるで、本当に恭介の事……)

さやか(……もしかして、あたし、恭介の事好きなのか?)

さやか(恭介の事が好きか嫌いかで言えば、勿論好きだ。幼馴染だし、仲は良いんだから、当たり前の事)

さやか(恥ずべき事じゃない。むしろ胸を張っていえる事実の筈)

さやか(だけど、それを誰かに言うのは……考えるだけでも凄く恥ずかしい)

さやか(そりゃ、まどかやほむら、シャルちゃんに面と向かって好きって言うのも恥ずかしいけど……)

さやか(恭介の事を好きって言うのは、それとは全然違う恥ずかしさだな……)

さやか(そういや昨日ほむらの家で読んだ漫画に書いてあったな。恋ってのは、他とは違う好きだって)

さやか(……あたしが恭介に対し感じている”好き”は、ほむら達とは違う?)

さやか(……違う気がする)

さやか(って、事は……)



さやか「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」



通行人「!?」

さやか「あ、すいません。ちょっと青春してただけっす。はい」


384: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:18:46.22 ID:vlUOJUyW0


さやか(ヤバい、ヤバいヤバいヤバい!)

さやか(もももももももももしかしなくてもあたし、恭介の事好きなのか!? 好きだったのか!? あい・らぶ・ゆーっ!?)

さやか(いやいやいや、そう結論付けるのはまだ早い! クールになれ!)

さやか(そうだ! 恋人同士になった時の事を想像してみよう! そしてそれで自分がどう思うか冷静に判断しよう!)

さやか(恋人同士でする事……)

さやか(キス、とか?)



さやか「うおおああああああああああああああああああああああああああ!!!」



通行人B「!?」

さやか「あ、ごめんなさい。リビドーを抑えきれず、はい」

さやか(やばばばばはば゛ばばばばばばばば゛あばばばばばばばばばばはば゛ばばば゛ばばば゛ばはば゛ばはば゛)

さやか(イイ! 凄くイイ!)

さやか(言葉には出来ない高揚感! 幸福感! 絶頂感!)

さやか(ただの妄想なのに、かつてないほど心がヒートアップしている!)

さやか(間違いない! 確信した!)

さやか(あたし……恭介が好きだ!!)

さやか(大好きだったんだ!!)

さやか(…………なんだろ。そしたら急にアイツがあたしの事どう思ってんのか気になってきた)

さやか(幼馴染? クラスメート?)

さやか(……可愛い女の子って、思ってくれたら嬉しいかな……)

さやか「――――!」ブンブンッ

さやか「こ、こんな事考えてる場合じゃないな! うん、今頃恭介が寂しがってるだろうし!」

さやか「つーか玄関前でにやにやしてたら、ただの不審人物じゃん!」

さやか「さっさと行こう!」

さやか(べ、別に、恭介の顔が一刻も早く見たいって訳じゃないんだからねっ!)


……………

………




385: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:31:25.69 ID:vlUOJUyW0


――見滝原総合病院・入院患者棟――


さやか「さて、面会の許可も出たし……えーっと、恭介の病室は……」

さやか「っと、此処だ此処」

さやか(……そういや看護師さんに、恭介の事元気付けてほしいって頼まれたなぁ)

さやか(確かに、恭介が怪我してもう大分経つ。気が滅入るのも当然だよね)

さやか(いや、でもあの看護師さんの表情は、そんな軽い話っぽくなかったような……)

さやか「まぁ、考えてもよく分からないし、何時も通りに接するとしますかね」

さやか「……むしろ何時も通りに接する事が出来るか心配だったり」

さやか(う……なんか急に会うのが恥ずかしく思えて……)

さやか(か、髪とか変じゃないよね!? 表情強張ってないよね!?)

さやか(お弁当のカスが歯についていたり、服装がたらしなくなったりしてないよね!?)

さやか(ふおおおおおおっ! な、なんか急にあらゆる事が気になって……)

さやか(会えない! 会いたいのに会いたくない!)

さやか(こ、これが恋の悩みだと言うのかあああああああああああっ!)頭抱えて悶絶中



通りすがり看護師A「青春、かしらね。微笑ましいわね」

通りすがり看護師B「青春、しているわね。微笑ましいわ」

通りすがり看護師C「青春、しているのか。妬ましい」



さやか「……この恥ずかしさは、恋の恥ずかしさじゃないな。うん」


386: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:40:19.84 ID:vlUOJUyW0


さやか「こほん……ま、まぁ、此処で立ち止まる訳にもいかないし」

さやか「の、ノックしてもしも~し……」コンコン

さやか「き、今日も元気なさやかちゃんがお見舞いにきたぞーっ!♪」バンッ

さやか(ヤバ……強くドアを開けすぎた……)

恭介「……ああ、さやかか」

さやか(よ、よかった……恭介は驚いた様子はないね……ほっ……)

さやか(えーっと、何時も通り。何時も通りのあたしを心掛けて……)

さやか「さ、さやかか、とは失礼だなー。お見舞いにきてやった者に対し無礼じゃぞー」

さやか「おや? それとも久しぶりのお見舞いで、今まで寂しかったのかい?」

恭介「……………」

さやか「さて、そんな寂しい恭介くんにお土産だぞ。今日のお見舞いCDはね……これ!」

恭介「……『亜麻色の髪の乙女』」

さやか「いやぁ、恭介へのCDを買っているうちに、あたしも大分クラシックとかに詳しくなってねー」

さやか「あたしってこんなのだからクラシックとか似合わないっしょ? だからみんなからけっこー意外に思われて」

さやか「そんで尊敬までされちゃったりでー」

さやか「いやぁ、恭介のお陰であたしの学生生活はバラ色に」

恭介「さやかは、さ」

さやか「ん?」


387: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:43:49.40 ID:vlUOJUyW0


恭介「僕をいじめているのかい?」




さやか「……え?」

さやか(いじめているって……え?)

さやか(どういう事? あたし、何かしちゃった……? いや、でもCDを渡そうとしただけだし……)

さやか(お見舞いに来てやったぞって言い方が、ちょっと無神経過ぎた? 寂しかったかいっておちょくったのが不味かった?)

さやか(でもこれぐらい、何時もの事で……何時もなら、平気で……)

さやか「え……ど、どういう、事……?」

恭介「……さやかは、なんでCDを僕に渡すんだい? なんで、僕に音楽を聞かせるんだい?」

さやか「そ、それ、は……恭介が、音楽、好きだから……」

恭介「もう聞きたくなんかないんだよ!」

さやか「ひっ!?」

恭介「自分で弾けもしない曲なんて、聞きたくない!」

恭介「こんな手じゃ、もうバイオリンは引けないんだ!」

さやか「あ、諦めないでよ!」

さやか「ちゃんと治療を受けて、リハビリを続ければ……」

恭介「……諦めろって言われたんだ……」

さやか「あ、諦めろ……?」

恭介「病院の先生たちにだよ」

恭介「僕の手は、現代の医学じゃ治せないって」

恭介「だったらこんな手――――いらないじゃないかっ!」ガシャンッ!

さやか(し、CDプレイヤーに手を叩きつけて……!? ち、血が……!)

さやか「止めて! お願い、そんな事しないで!」

恭介「もう放っておいてくれよ! もうなんの希望も無いんだ!」ドンッ

さやか「きゃっ!?(つ、突き飛ばされた……)」

恭介「こんな手なんか、こんな手なんか!」ガシャン! ガシャン!

さやか「あ、ああ……手が、血塗れに……」

さやか「お願い、お願いだから……止めてぇ……!」

恭介「さやかには分からないだろうね! 僕の苦しみは!」

恭介「全てを失った絶望が!」

恭介「魔法や奇跡がない限り、僕の手は――――」



「さやかさん! どうかしましたか!?」



さやか「え……(この声って――――)」


388: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:50:13.38 ID:vlUOJUyW0


……遡る事、数分前の見滝原病院……


ほむら「はぁ……ようやく終わりました」

シャル「お疲れー」

ほむら「すみません。待たせてしまいましたね……ただの付き添いでしたのに、こんなに待たせてしまって」

シャル「朝から夕方まで検査だもんねー。ま、する事なんて無いからいいんだけど」

シャル「つーか、学校休んでまで何をそんなに調べてんの?」

ほむら「……本当は土日のうちに行かなければならない検査だったですが、ついサボってしまい」

ほむら「命に係わるから、明日、つまり今日は学校休んででも絶対に来いって言われてしまったのです」

シャル「あー、そういや昨日の夜、電話があったわね。あれ、病院からだったのね」

ほむら「はい……そんな訳で今日、学校を休んでこの検査を受ける事になりました」

ほむら「別に一回ぐらいサボってもまず死なないのに……」

シャル「いや、流石に同意出来ないから。自業自得でしょ」

ほむら「ええ、まぁ……私が悪いとは思いますけど」

ほむら「でもこんなに束縛されるのはどうかと思います」

ほむら「検査自体は午前中に終わり、午後は結果が出るのを待っていただけなんですよ?」

ほむら「別に郵送で送ってくれてもいいのに……なんでわざわざ病院で結果を聞かないといけないのやら……」

シャル「万一異常があったら緊急入院させるためじゃない? よー知らんけど」

シャル「それで? もう家に帰れるの?」

ほむら「いえ、この後薬も貰わないといけないので、処方箋を受けとりに行かないと」

シャル「大変ねぇ」

ほむら「大変ですよ、ほんとに。サボりたくなる気持ちも分かるでしょう?」

シャル「いや、死にたくないからその気持ちは分からん」

ほむら「むぅー」


389: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:52:39.19 ID:vlUOJUyW0


ほむら「……ん?」

シャル「? どうした?」

ほむら「いえ……今、さやかさんが居たような……」

シャル「さやか? 何処よ」

ほむら「あっ、居ました! ほら、あそこです!」

シャル「どれ……ああ、ほんとね。ありゃ、さやかだわ」

シャル「しかしなんで居るのかしら? 診察……じゃないわよね。入院患者の病棟に入っていったし」

ほむら「という事は、誰かのお見舞いでしょうね」

シャル「……ちょいと見に行くとしますかね」

ほむら「え? 見に行くって……誰のお見舞いをしているのか確かめる、という事ですか?」

ほむら「それはちょっと、流石に無神経過ぎません?」

シャル「別に、病室に顔出すって訳じゃないわよ」

シャル「入って行った病室を確認して、冷やかすだけ」

ほむら「冷やかす?」

シャル「花の中学生が、放課後病院にお見舞いなんてよっぽどよ」

シャル「入院相手は肉親か……そうじゃなかったら、好きな男に決まってるわ」

シャル「うしししし……鉢合わせたら、絶対アイツ顔を赤くするわよぉ」

ほむら「……無神経じゃなくて、悪趣味の方でしたか」

シャル「そりゃあ、魔女だもん。悪趣味に決まってるでしょ」

シャル「ほら、置いてくわよー」

ほむら「ああ、もう……私は人のプライベートを暴くような悪ふざけは好かないんですけどねぇ」

ほむら「かと言ってシャルロッテさんも無視出来ませんか……」

ほむら「待ってくださいよー」


……………

………




390: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 13:55:34.59 ID:vlUOJUyW0


シャル「……見失ったわ」

ほむら「入院病棟、結構作りが複雑ですからね」

ほむら「まぁ、見失って良かったじゃないですか。万一さやかさんにバレたら、軽蔑されたと思いますよ?」

シャル「そんときゃ、ほむらの所為にするから大丈夫」

ほむら「信じてもらえると?」

シャル「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」

シャル「ま、見失ったもんはしょうがない。諦めて帰るとするかね」

ほむら「そうすべきです……ん?」

シャル「どしたの? 今度は巴さんあたりでも見つけたのかしら?」

ほむら「いえ、そうではなくて……何か、物音が聞えませんでしたか?」

シャル「物音?」

――――カシャン

ほむら「あ、ほら。また聞こえてきましたよ!」

シャル「確かに……何か、割れるような音かしら」

シャル「病院で割れるような音……ねぇ……」

シャル「これはちょっと、無視出来ないか」

ほむら「ですね。様子を見に行くとしましょう」

ほむら「音が聞えたのはあっちですね……」

――――モウホウッテオイテクレヨ!
――――キャッ!

シャル「! ほむら!」

ほむら「ええ、今のはほぼ間違いなく揉めている時の声ですね」

ほむら(相手は男性と女性……それも、男性の声の方が荒々しく聞こえました)

ほむら(女性の声は悲鳴っぽかったですし……乱暴を受けているとしたら……)

ほむら(……これは、あまり悠長にはしていられませんね……)

ほむら「急ぎましょう! 声がしているのは……………」


??「こんな手なんか、こんな手なんか!」ガシャン! ガシャン!


ほむら「――――この部屋ですね」


391: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:01:26.71 ID:vlUOJUyW0


ほむら(患者の名前は……上条恭介。男性ですね)

??「お願い、お願いだから……止めてぇ……!」

ほむら(そして見舞いに来ている人は女性――――)

ほむら「って、この声……」

シャル「さやか!?」

ほむら「ああもう! 中がどうなっているのか分かりませんけど……」

ほむら「さやかさんが居ると分かった以上のんびりはしていられません! 突入しますよ!」

シャル「当然!」

ほむら「さやかさん! どうかしましたか!?」バンッ!

さやか「えっ……」

さやか「ほ、ほむら!? それにシャルちゃん……どうして此処に……!?」

ほむら「ちょっと騒がしかったので、失礼ながら無断で部屋に入った次第です」

シャル「私はその付き添いね」

ほむら「それより……」

同年代ぐらいの男子(恭介)「う……な、なんだい……」

ほむら(ふむ。この人が上条さんですか)

ほむら(……この目付き、態度、部屋の荒れ方……ふむ)

ほむら(何があったかは大体見当が付きました。なら、聞くべき事は一つ)

ほむら「失礼ながらあなた……上条さん、ですよね?」

恭介「あ、ああ……なんだい?」

ほむら「これだけ聞かせてもらえれば一先ず部屋から出ますので、お答えください」

ほむら「まさかとは思いますけど、あなた……さやかさんに暴力とか振るってませんよね?」

恭介「っ! ど……どういう意味だい?」

ほむら「どういうも何も、そのままの意味です」

ほむら「先程悲鳴のような声が聞えたので、もしやと思って尋ねただけです」

ほむら「それで、どうなんですか? 暴力なんて振るってませんよね?」

恭介「そ、れは……」

さやか「きょ、恭介は暴力なんて振るってないよ!」

恭介「!? さやか……?」

ほむら(……あー……さやかさん。その言い方はハッキリと真実を物語ってますよ。上条さんも戸惑っていますし)

ほむら(まぁ、顔に殴られたような跡は見られず、着衣に大きな乱れもなし。そして現在上条さんの腕にしがみつくさやかさん)

ほむら(大方突き飛ばされた、或いは振り払われたといったところでしょうか)


392: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:08:19.26 ID:vlUOJUyW0


ほむら「……分かりました。とりあえず、今はそういう話で良しとしましょう」

シャル「ちょ、ほむら……良いの? だってあれ……」

ほむら「『万一』さやかさんが被害者だったとして、本人が訴えない以上こちらに手だしする権限はありませんよ」

ほむら「手だししないであげる義理もありませんが、ま、それは追々」

ほむら「大方の事情は把握しましたし、あの態度からして『ちゃんとした』お答えをいただけるとも思えません」

シャル「で、でも……」

ほむら「それに今はそんな問答をするより、お医者様を呼ぶべきですよ」

ほむら「出血が酷いようですからね。傷口から細菌が入らないとも限りません」

ほむら「急いで治療しないと、取り返しのつかない事態になりかねな――――」

さやか「ほむら!」

ほむら「っ……ちょっと、さやかさん? あの、なんで私の腕を掴んで」

さやか「ちょっとこっちにきて!」

ほむら「え? あの、さやかさ――――え、どういう」

さやか「恭介!」

恭介「っ……な、なんだい……?」


さやか「恭介の手は絶対に治すから、だから、諦めないで!」


恭介「え……」

さやか「さ、ほむら! こっちに!」

ほむら「いや、こっちって病室の外で、あの、せめてナースコールを」

ほむら「え、えええええええええええ……!?」

シャル「……さやかにほむらが拉致られた……」

恭介「……」

シャル「……あ、あー、その、なんだ……」

シャル「と、とりあえず五分待って」

シャル「ちょっとさやかーっ!?」

――――バタン

恭介「……一体何だったんだ?」

恭介「僕の手を治す……諦めるな?」

恭介「現代の医学じゃ無理なんだぞ……精神論でどうにかなったら苦労は……」

恭介「……ん?」

恭介「なんだ? これ……?」


393: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:14:38.26 ID:vlUOJUyW0


――上条恭介・病室前廊下――


シャル「もう、さやか! 何勝手にほむらを連れ去ってんのよ!」

さやか「ごめん……でも、あそこで話す事じゃないと思って……」

さやか「あの、それで、ほむら……」

ほむら「いえ、わざわざ話さなくとも大丈夫です。先の言葉で推測が確信に変わりました」

ほむら「上条さんは、事故か病気で手が動かなくなった」

ほむら「そして、医者に現代の医学では治せないとかなんとか言われ」

ほむら「その事に深く絶望し荒れていた、というところなんでしょう?」

さやか「う、うん……よく分かったね」

ほむら「私だって元々は心臓病で入院していた身です。上条さんと似たような境遇の方は相応に見てきたつもりです」

ほむら「上条さんが特別荒れているとも思いませんね。あれぐらいなら普通ですよ」

シャル「でも女に手を上げるのはどうなのかしらね」

さやか「だ、だから恭介はそんな事してなくて……」

シャル「いや、アンタの態度は振るわれたって言ってるも同然だから」

シャル「別に警察に突き出すって訳じゃないんだから、認めちゃいなさいよ」

さやか「だから……」

ほむら「まぁまぁ。今はそんな話をしている場合ではありません」

ほむら「彼、そのままにしていたら最悪自殺しますよ」


394: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:24:16.25 ID:vlUOJUyW0


さやか「じっ……!? 嘘、そんなの!?」

ほむら「先程言った通り、病院暮らしが長いと上条さんのような境遇の方とは少なからず付き合いがあったりするもので」

ほむら「妖精さんが活動出来ない、この辛く厳しい現実では、それなりの頻度で”そういう”方が出てしまうのです」

ほむら「人間って、思っている以上にあっさりと自分の命を捨てちゃうものですよ?」

さやか「そんな……」

ほむら「あくまで最悪ですが、起こり得る最悪ですからね」

ほむら「さやかさんの知り合いが死ぬのは目覚めが悪くなりそうですし、何かしらの手を打たねばならないでしょう」

シャル「何かしらの手? って、事は……」

さやか「も、もしかして!?」

ほむら「妖精さんに上条さんの手を治してほしい」

ほむら「大方、そんな感じの事をさやかさんは言おうとしていたのではありませんか?」

ほむら「さやかさんからのお願いとなれば断れませんね」

さやか「ほむら……!」

ほむら「今は諸事情で人員が足りませんが、まぁ、一晩あれば手ぐらいは治せるでしょう」

ほむら「ただし、治療は上条さんにちゃんと説明してからですよ」

さやか「え? きょ、恭介に?」

ほむら「治療とはいえ、面白さ重視の妖精さんが普通に治してくれるとも思えません」

ほむら「私も一応監修しますが、妖精さんの治療は素早いですし、些細な事で方向がずれるなんて何時もの事です」

ほむら「正直、手を治してくれと伝えたのに超合金ロボットが出来ても不思議はありません」

ほむら「いくら人助けとはいえ、これを本人の了承なしにやってしまう訳にもいきません」

ほむら「上条さんにはそのリスクを把握し、覚悟を持って承諾してもらう」

ほむら「医者の真似事をやる以上、これが出来なければ私は力を貸せませんよ?」


395: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:25:35.32 ID:vlUOJUyW0


さやか「そ、それでいい! それでいい!」

さやか「ありがとう……ありがとう……!!」

ほむら「お礼を言うのは上条さんを説得してからにしてください」

ほむら「……ああ、そうだ。私は今から薬を飲まないといけないので、少し席を外します」

ほむら「今のうちに説得するといいですよ?」

さやか「うん、そうする」

さやか「……本当に、ありがとう」

ほむら「ですから、お礼は後でいいと」ガサゴソ

ほむら「……あれ?」

シャル「? どうした?」

ほむら「いや、あの……え? あれ?」ガサゴソガサゴソ

ほむら「ちょ、なんでこんな時に!?」ゴソゴソゴソゴソ

ほむら「……ヤバいです……」

シャル「何が?」




ほむら「妖精さんを詰めておいた薬のカプセルを、紛失しました……」




396: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:28:19.29 ID:vlUOJUyW0


さやか「妖精さんを詰めたカプセル?」

シャル「随分とけったいなものを持ってるわね、アンタ」

さやシャル「……………」

さやシャル「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

ほむら「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいマジでヤバいです……」

ほむら「ど、どど、どうしましょう……?」

シャル「ど、どうするって、どうしたらいいのよ!?」

さやか「お、落ち着こう!」

さやか「その、カプセルに妖精さんを詰めただけだろ!? 妖精さんは電波に弱いんだから、その辺に落としただけなら……」

ほむら「万一あのカプセルを誰かが飲んでしまうような事があれば、以前私が飲んだ時と同様の効果が表れます」

ほむら「カプセル一つで100f相当の事態が起きるでしょう」

ほむら「最悪、見滝原が地図から愉快に消え去る事に……」

シャル「都市が愉快に消え去るってどんな状況よ!?」

さやか「やっぱり駄目だこりゃ! えーらいこっちゃえーらいこっちゃ!」

白衣姿の老人「君達! 何を騒いでいるんだ!」

三人「ビクッ!?」

ほむら「す、すみませ……あ、先生……?」

医師「む? 君は、暁美くんではないか。近くにいるのは友人……かね?」

シャル「あ、その……は、はい。と、友達、です」

さやか「こ、こ、コイツは、よく、あの……」

医師「いや、それ以上は結構。今は深く話を聞いている場合ではない」

医師「君達、この部屋から何か物音を聞かなかったかね?」

医師「何やら物が壊れるような音がしたと、他の患者から知らせが入ったのだが」

さやか「物音……! そ、そうだ!」


397: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:30:15.94 ID:vlUOJUyW0


さやか「先生! 恭介……この部屋の患者が暴れて、その、手に怪我を……」

医師「暴れた……そうか。危惧していた結果になってしまったか……」

医師「失礼する」

ほむら(先生、上条さんの病室に入っていきましたね……)

シャル「ほむら、今の人って知り合い?」

ほむら「ええ。私の心臓手術をしてくれた先生です」

ほむら「上条さんの手術も担当していましたか……」

ほむら「先生の技術で無理だったとなれば、やはり現代医学では治せない怪我なんでしょうね」

さやか「そ、それで、これからどうするんだ?」

シャル「自殺しそうな奴の説得から済ませとく?」

ほむら「うーん……上条さんは先生がしばらく見てくれると思いますし、私達は先に妖精さんカプセルの捜索を――――」

医師「あ、暁美君!」

ほむら「ひゃあっ?!」

ほむら「せ、先生!? 驚かさないでくださいよ! 自分で治した心臓を止める気ですか!」

医師「それはすまない。だが、一刻を争う時だ」

ほむら「一刻を争う?」




医師「上条くんが病室から失踪している。彼が病室から出た瞬間を見ていないか?」




398: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:34:21.08 ID:vlUOJUyW0


ほむさやシャル「!?」

医師「窓が開いていたのでもしやと思い下を覗いたが、幸い……ああ、幸い彼の姿はなかった」

医師「だが、だとすると彼がこの部屋から出るには、君達が陣取っていたこの扉から出るしかない」

医師「どうなんだ? 出た瞬間を見ていないか?」

ほむら「……いえ、見ていません」

医師「何? しかし暴れたところは……」

ほむら「確かに私達はこの病室の患者と会いました」

ほむら「ですが、外に出る瞬間は見ていません。私達があの病室から出た時、彼はベッドで寝ていました」

医師「……そうか。分かった」

医師「だとすると、一体どうやって……いや、それは見つけてからだな」

医師「とりあえず、彼を見つけたらすぐに教えてほしい」

医師「私は今から彼を探しに行く!」

シャル「……走って行ったわね」

ほむら「患者が行方不明なんです。必死にもなりますよ」

さやか「そ、それよりどういう事なの?!」

さやか「恭介は、恭介は何処に……?!」

ほむら「……」

シャル(ほむらの奴、病室に入っていった……?)

さやか「どうしたの? ほむら」

ほむら「……中身は空っぽ、だけど水滴塗れのコップ」

さやか「え?」

ほむら「荒々しく布団がめくれ、窓も全開……随分とはっちゃけたものですねぇ……」

ほむら「ま、100f相当の事態でこの程度の荒れ方ならまだマシですかね」

さやか「一体どういう事?」

シャル「……まさか」

ほむら「そのまさかですよ。自殺するよりかはマシだとは思いますが……」

ほむら「……仕方ありません。今回は私のミスが原因ですからね」

ほむら「ちょっと本腰を入れて事態の収拾に乗り出すとしましょう」


……………

………




399: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:37:33.05 ID:vlUOJUyW0


――見滝原、その辺の路地裏――


さやか「……今は、午後六時丁度か」

さやか「恭介を探すって名目で夜の外出が認められたけど、それでもあたしは十時までには家に帰らないといけない」

さやか「それまでに、恭介を見つけられるかな……」

シャル「どうかな……目撃証言も特にないみたいだし」

ほむら「正直なところ、難しいと思います」

ほむら「私の推測が正しければ、上条さんは私が落としてしまった妖精さん入りカプセルを何故か服用」

ほむら「その結果100f相当の事態に直面してしまった」

ほむら「その事態によって外に連れ去られたのか、或いは自力で外に出たのか……」

ほむら「目的や理由は分かりませんが、街に出てしまったものと思われます」

ほむら「……問題は、何処まで行ってしまったか、です」

ほむら「『探し物アンテナ』で方角と距離は確かめましたが、あれは大き過ぎて家から動かせませんし、
    上条さんが動き回っていたらどうにもなりません」

ほむら「事実、アンテナが示した場所に私たちは今居る訳ですが、彼の姿は何処にもありません」

ほむら「さて、一体何処に行ってしまったのか……」

シャル「見滝原を動き回っているだけならまだマシなんだけどね。風見野とかに行かれると厄介だわ」

シャル「この町で巴さんとか鹿目さんと遭遇する分には、まだいいけど……」

シャル「万一風見野の魔法少女と鉢合わせて、交戦って事態になったら色々と面倒よ」

ほむら「確かに。見滝原からきた何者かに魔法少女が”襲われた”という風評が立つのは」

ほむら「私の目的的にも、あまり好ましくないですねぇ……面倒な事案は抱えたくないものです」

さやか「恭介はそんな事しない、って言いたいけど……」

さやか「何が起きてるか分からない以上、警戒しないと駄目か……」


400: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:42:18.06 ID:vlUOJUyW0


さやか「つーかさ、恭介をここに呼び寄せる道具とかないの?」

ほむら「作ってもらう事は可能でしょう」

ほむら「ですが今、私の知り合いである妖精さんの殆どには、ある場所での作業に従事してもらっています」

ほむら「お菓子をあげれば増えますけど、そちらもモチベ維持のため、作業中の妖精さんに分配していまして」

ほむら「こちらに残っている数少ない妖精さんも、多くはカプセルや紙縒りで休眠状態」

ほむら「それらも”万一”を想定し温存しているのが現状でして……」

ほむら「残念ながら現在、新たな道具を作ってくれる人員はおりません」

ほむら「手持ちの妖精さんアイテムでどうにかする以外にないですね」

シャル「随分とカツカツねぇ……その作業ってやっぱりアレ? アンタが前言ってた策ってやつ?」

ほむら「ええ。詳細は……ま、秘密は何処から漏れるか分かりませんので、ここでは言えません」

ほむら「そうですねぇ。話せるのは、総勢五十万人の妖精さんを集結させても、完成に一月を要する大作という事ぐらいでしょうかね」

シャル「ごじゅ……!?」

さやか「い、一体どんなものを作って……」

ほむら「まぁ、実際には九割九分九厘の妖精さんが指示を忘れたり、脇道に逸れた作業をしたりで、実働五千人未満ですけどね」

さやシャル「ずこーっ!?」

さやか「い、いや、十分凄いけど……うん」

シャル「百人ぐらい引っこ抜いても平気じゃない? それ?」

ほむら「なんか、みんなで作業してみたーいとか言っていたので……現場の要望には出来るだけ応える方向です」

ほむら「それに魔法少女による魔女討伐は待ったなしです。少しでも早くその秘策を完成させねばなりませんので、
    たった一名でも人員は減らしたくないんですよ」

さやか「いや、でもさぁ……」


401: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:44:43.33 ID:vlUOJUyW0


ほむら「それに、無策という訳ではありませんよ?」

ほむら「戦力が足りないのなら足せばいいのです」

ほむら「一応コネはありますし、言い包めるのも簡単でしょうからね」

ほむら「自称正義の味方ほど、利用しやすいものもありません」

シャル「自称正義の味方……って、アンタまさか!?」

ほむら「噂をすればなんとやら、ですね」



ほむら「こんばんは――――鹿目さん、巴先輩」



まどか「ほむらちゃん……」

マミ「……ようやく、名前を憶えてくれたようね」

さやか(まどかに、巴先輩……二人とも、私服か……魔法少女じゃないなら少しは安心、かな?)

ほむら「あ、巴先輩は以降タヌキ先輩と呼びますので」

マミ「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

まどか「ほむらちゃん!?」

シャル「いきなりの関係悪化である」

さやか「え? なんでそー呼ぶの?」

ほむら「昔はタヌキの事をマミと呼んでいたからですよ」

さやか「へー」

さやか「それで、タヌキ先輩とまどかを此処に呼んでどうすんの?」

マミ「ごっぱあっ!?」

まどか「さやかちゃんまで?!」


402: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:49:26.18 ID:vlUOJUyW0


ほむら「無論協力してもらう腹積もりです」

マミ「げほっ、げほっ……きょ、協力……?」

マミ「ふん……地底探検で親密になれたつもりなのかしら?」

まどか(なんだろう。地底探検……数日前の出来事なのに、なんかものすごく久しい出来事に聞こえる……)

ほむら「まぁ、多少は仲良くなれたと思っています」

ほむら「現にあなた達は私の呼び出しに応え、しかも私服姿で来たじゃないですか」

ほむら「こちらを信用していないのなら此処に来ないか、魔法少女の姿で来ているでしょう?」

マミ「……好きに解釈なさい」

マミ「それで? 何を頼むつもりなの?」

ほむら「簡単に言えば人探しをお願いしたいのです」

マミ「人探し?」

ほむら「さやかさんの幼馴染が現在、行方不明になっています」

まどか「幼馴染って、上条くん!?」

まどか「そんな、どうして?!」

ほむら「行方不明になった理由は分かりません」

ほむら「しかし病院から姿を晦ましたのは事実です。疑うのでしたら、病院のナースさんに訊けばいいと思います」

ほむら「箝口令は出ているでしょうけど、人の口に戸は立てられませんからね。ボロボロ漏れてくると思いますよ?」

まどか「で、でも、上条くんは怪我をしていて……」

ほむら「まぁ、原因に心当たりはなくもないのですが……」

マミ「心当たり?」

ほむら「説明しない訳にもいかないので言っちゃいますけど」

ほむら「彼は今、私の友人である妖精さんの影響で行方不明になったと思われます」

マミ「!?」

まどか(妖精……地底から地上までを一瞬で移動させるほどの、すごい力を持った使い魔……)

まどか(あの子達の所為で、上条くんが……?!)


404: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:51:29.42 ID:vlUOJUyW0


マミ「あなた、一体どんな目的で彼を攫ったの!?」

ほむら「攫ってはいませんよ。あくまで妖精さんパワーの影響です」

ほむら「簡単に言えば事故でして……本来自分が服用するために用意した薬をうっかり落としてしまったんですよ」

ほむら「それで一体何を思ったのか、彼は私の落とした薬を飲んでしまったようでして」

ほむら「本来は私の心臓が危ない時に飲んで、危機を避けるのが目的のものでしたが……よもやこうなるとは」

シャル(ああ、そういう理由で持参していたのね)

さやか(確かに下手なやつより効きそうだわ。妖精さん入りの薬って)

マミ「ふん。自分の失敗の穴埋めを他人に手伝わせるなんてね」

ほむら「真に最悪なのは失敗を隠す事。失敗を揉み消そうとする事。そうではありませんか?」

ほむら(ま、正確には”中途半端に”と頭に付きますけどね……情報操作万歳♪)

マミ「……いいわ。あの使い魔の被害者を放置するのは気が気じゃない」

マミ「今回は手を組みましょう」

マミ「鹿目さんも、異論はないわよね?」

まどか「は、はい! 上条くんを放ってはおけません!」

ほむら「物分りのいい方で助かりました」

ほむら「さて、それでは友好の印及び護身のために、あなた達にも妖精さんアイテムをお配りしましょう」

さやシャル「えっ!?」

まどか「妖精さんアイテム?」

ほむら「地底探検の際に使った、あの洗面台と同種の代物と思ってくれれば良いです」

ほむら「今はあまり品揃えがよくありませんけど、何かの役に……立ったらいいなーと」

マミ「……なんでそんな自信なさげなのよ」


405: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:54:03.54 ID:vlUOJUyW0


ほむら「何分妖精さんのアイテムですからね……ちゃんと使っても役立つか怪しく、てきとーに使っても役立たず」

ほむら「悪用しようとしたら自分が破滅し、正義の心で使うと辺りに迷惑を振りまく……まぁ、そんな代物です」

マミ「全然ダメじゃない!?」

ほむら「でも妖精さんパワーが発動した事案には、同じく妖精さんパワーに頼るしかないと思いますよ?」

マミ「……………」

マミ(あの使い魔の力に頼るというのは癪。正義の魔法少女として、正しいとも思えない)

マミ(でも、もしあの使い魔が上条くんの傍に居たら、私達の力では勝てそうにないのも事実)

マミ(その道具とやらに罠がないとも限らないけど……)

マミ(妖精の力を思えば、多少のリスクは仕方ないわね)

マミ(それに道具自体を解体し、調べれば、使い魔に対する情報を得られるかも知れない)

マミ(……こんな時にキュゥべえが居てくれたら相談出来るのに……最近帰ってこないのよね……)

マミ(まぁ、時々居なくなる子だから、あまり心配していないけど)

マミ「……そうね。お言葉に甘えて、一つ借りようかしら」

まどか「あ、じゃあ私」

マミ(鹿目さん)テレパシー

まどか(えっ、あ、はい)テレパシー

マミ(あなたは道具を借りないようにして。”万一”の事を考えて、ね)テレパシー

まどか(……分かりました)テレパシー

まどか「……私は、遠慮しておくね。ちょっと怖い、から」

ほむら「そうですか? 伏線効果を狙っててきとーでもいいから借りておくべきだと思いますが……」

ほむら「まぁ、無理強いはしません」

ほむら「さやかさんとシャルロッテさんは?」

さやか「あー……じゃあ、まぁ、使わせてもらうか」

シャル「どーせ使っても使わなくてもねぇ……ま、持っていくとしましょう」


406: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 14:57:01.62 ID:vlUOJUyW0


ほむら「それではそれでは~この『なんでもはいるバック』に入れておいた道具を取り出すとしましょう」

さやか「なんでもはいるバック?」

ほむら「いくらでも物が入る素敵なバックです。しかもいくら詰め込んでもバックの重さは変わりません」

まどか「それって四次元ポケット的な?(そうだとしたら、やっぱり凄い力……)」

シャル「いや、妖精さんアイテムがそんな単純な使用な訳ないわ」

ほむら「ええ……」

ほむら「実は詰め込んだ物の”質量”が……入れた人間の”重量”に移る使用でして……」

まどマミ「!?」

ほむら「このバックには四キロほどの物しか……入れられませんでした……」

ほむら「バックから取り出せば、体重は元に戻るのに……」

マミ「そ、それは仕方ない、わね……」

まどか「うん。それは仕方ない、よ……」

シャル(アイツ、この前はちょっと太りたいとか言ってたじゃない)

さやか(ぶっちゃけ体重変化とか気にするタマじゃないよね)

ほむら(ぶっちゃけ気にしてませんけどね。同情を誘ってみただけです。ぐふふ)

ほむら(そもそも増えるのはあくまで重量で、外見上の変化はないんですよね)

ほむら(多分入れた対象の重力やらなんやらを変化させて、質量はそのままで”重量”だけを増加させるのでしょう)

ほむら(減った分の重量は、どっかで帳尻合わせをした方が面白いとかいう理由で)

ほむら(無駄に高度なテクノロジーを無駄な方向に使う。実に妖精さんらしいアイテムです)

ほむら「ま、そんな事はさておくとして」

ほむら「妖精さんアイテムのお披露目でーす♪」


407: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:01:01.24 ID:vlUOJUyW0


マミ「こ……これは……!」

まどか「……これは、一体?」

マミ「ガラクタにしか見えないけど……」

ほむら「パッと見効果が分からないと思うので、気になるものから説明しますよ?」

マミ「えっと、じゃあ……この時計は?」

ほむら「それは『万能時計』」

ほむら「スイッチを押せばこの宇宙の時を止める事が出来ます」

ほむら「更に時計の針を戻せば過去に、進ませれば未来へと移動可能」

ほむら「針の速度を遅くすれば時間をゆっくりに出来、加速させればその分加速します」

ほむら「設定を弄れば特定範囲内の時間だけを操作する事も可能。タイムパラドックスも自動で解消」

ほむら「この時計一つで世界の時はあなたの手中に収まるのです!」

マミ「なっ!?(時間操作!? とんでもないアイテムじゃない!)」

ほむら「ただし……」

まどか「た、ただし……?」

ほむら「使うにはギャグを言う必要があります」

まどマミ「……え?」

ほむら「時を止めるには凍えるほど寒いダジャレを」

ほむら「過去に戻るには昔流行った一発屋の芸を、未来へ行くには時事ネタでショートコントを」

ほむら「遅くするにはサイレント(無音)系のネタ、加速するにはモノマネをする必要があります」

ほむら「ギャグのパワーは時空を超える、と、妖精さんは言っていました。この時計はそのパワーを動力にしているそうです」

ほむら「ちなみにギャグの質は厳正に審査され、最高評価のSランクを取れば十秒の効果が」

マミ「いらない」

ほむら「ですよねー」


408: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:05:45.85 ID:vlUOJUyW0


まどか「え、えっと……じゃあこのホイッスルは?」

ほむら「そちらは『集まれホイッスル』」

ほむら「一吹きすれば超広範囲……大体見滝原全域にいる犬猫鳥等々、諸々の動物を集めます」

ほむら「そして吹いた人間の虜にしてしまう効果を持つのです」

マミ(動物とはいえ精神操作……それも見滝原全域とは……凄まじいわね……)

ほむら「問題は好かれ過ぎて、動物なのにみんなヤンデレ化してしまう事で」

マミ「却下で」

ほむら「ですよねー」

マミ「もうちょっとまともなのは無いのかしら……ん?」

マミ「この剣とかまともそうね。武器として使えるかしら?」

ほむら「そちらは『呪い剣』と言いまして」

マミ「止めておくわ」

ほむら「賢明です。まぁ、呪いと言っても可愛いものですけどね」

マミ「じゃあこのお面」

ほむら「『気持ちダダ漏れお面』と言いまして」

マミ「このサッカーボールっぽいやつ」

ほむら「『遥か彼方へボール』」

マミ「この知恵の輪」

ほむら「『解けない知恵の輪』」

マミ「この小箱」

ほむら「『何処までもドア』」

マミ「この下駄」

ほむら「『お天気従わせる下駄』」

マミ「このお揃いデザインのイヤリング」

ほむら「『死が二人を別つまで』」

マミ「このバットを持った手乗り人形」

ほむら「『一人用バッターさん』」

マミ「このねばねばした物が先に着いている棒」

ほむら「『スーパートリモチMark2』」


……………

………




409: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:09:21.08 ID:vlUOJUyW0


マミ「まともなの一つもないじゃない!」

ほむら「最初からそう言っていたと思いますけど?」

さやか「まぁ、あたしらは最初から期待はしていなかったけどな」

シャル「あの二人はまだそれほど慣れてないだろうからねぇ……」

まどか(なんでさやかちゃんと魔女は遠い目しているの?)

マミ「だとしても、もう少し実戦的なものは……あら?」

マミ「これは、銃弾かしら?」

ほむら「え? あら……それは入れた覚えがないのに……」

マミ「入れた覚えがない?」

ほむら「ええ。他の道具に輪をかけて使えない仕様なので、別のにした方がいいと思いますよ?」

マミ(……妙ね)

マミ(他の道具は勧めてきた癖に、これは使わないように勧める)

マミ(入れた覚えがない、つまり入れるつもりがなかったと言ってるし……)

マミ(もしかすると、何か重要な秘密が?)

マミ「……いえ、これにするわ」

ほむら「え? ですが……」

マミ「私は銃使いよ。弾丸なら使い勝手がいいわ」

ほむら「まぁ、そうまで言うなら構いませんけど……」

ほむら「それじゃ、次はさやかさんとシャルロッテさんがお選びください」

シャル「つーてもねぇ……じゃ、この『何処までもドア』を」

さやか「あたしはこの『スーパートリモチMark2』で」


410: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:15:21.23 ID:vlUOJUyW0


ほむら「はい。では残りはバックに戻して……」

マミ「それじゃあ、そろそろ行こうかしら」

ほむら「いえ、その前に『探し物何処ダーツ』で上条さんがいるであろう方向を確認しましょう」

マミ「? ダーツの矢? そんなの、さっき紹介された中には無かったけど」

ほむら「これは今使おうと思っていたので、除外しておいたんです」

ほむら「で、これは投げると探し物のある方向へ自動的に進むダーツとなっています」

まどか「そんな便利なものがあるなら、すぐに上条くんの居場所が分かるんじゃないの?」

ほむら「便利ですけど、結構危ないんですよね……」

まどか「え?」

ほむら「ま、投げれば分かりますよ――――っと」

――――ヒュッ!

さやか「ん?(何か横切った?)」

――――ゴオオオオオオッ!

さやか「え、何これ衝撃波あああああああああああああああああああああ!?」

シャル「ああ!? さやかが空の彼方へと吹っ飛ばされた!?」

シャル「つーかさやかの後ろにあったビルに大穴が開いてるんだけど!?」

ほむら「どんな物の在り処でも正確に指し示すためには、目標が動く前にダーツが方向を示さなければなりません」

ほむら「一番簡単なのは超速度で飛行する事ですが、妖精さんはそれでは満足しなかったようで」

ほむら「なんでも投げた瞬間、時空を改変しながら飛行するように改造」

ほむら「理論上はワープどころか時間停止よりも”早く”探し物に到達する……という仕様らしいです」

ほむら「まぁ、ダーツの素材がただのプラスチックですので、五メートルほど進んだ辺りで自壊してしまいますけどね」

まどか「滅茶苦茶過ぎるよそれえええええええええ!?」

マミ「むしろなんで五メートルも進めるの!?」

ほむら「曰く、空間にちょっとの間だけ優しくしてもらうとか」

まどマミ「意味分かんない!?」

シャル「あー、優しくしてもらうのかー。流石妖精さん」

まどか「なんであなたはツッコミを放棄してるの!? こんなの絶対おかしいでしょ!?」


411: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:19:40.85 ID:vlUOJUyW0


ほむら「とりあえず、方向は分かりました。あちらに上条さんが居るのは間違いありません」

ほむら「まぁ、移動しているでしょうから、結局手分けする事にはなると思いますが」

ほむら「ああ、そうそう。上条さんを見つけたら携帯で私に連絡をください」

ほむら「直に飲んでしまった以上、恐らく彼を取り巻く力は想像を絶するものとなっているでしょう」

ほむら「まぁ、その力がどんな方向かはさて置くとして……」

ほむら「妖精さんの力に敵うのは妖精さんだけです」

ほむら「つまり現状上条さんと対抗出来るのは妖精さんパワーをフルに借りられる私だけですので」

ほむら「タヌキ先輩と鹿目さんは意地なんか張らず、私に連絡してくださいね?」

マミ「だからタヌキって言うなーっ!」

シャル「つーか、さやかが空に飛んだきり落ちてこないんだけど……」

まどか「え? ちょ、えええええええっ!?」

まどか「さやかちゃん、何処まで飛んでいっちゃったの!?」

ほむら「あー、まぁ、平気じゃないですかね? 妖精さんアイテムで吹き飛ばされた訳ですし」

ほむら「いざとなったら巨大化出来ますから、なんとでもなるでしょう」

まどか「えええええええ……」

シャル「コイツ、絶対面倒だから無視したな……」

シャル「ああ、飛行機飛んでるし……明日のニュースで『フライングヒューマノイド現る!』とかやらなきゃいいけど」

ほむら「九割以上の人が信じないオカルト話なんてどーでもいいじゃないですか」

ほむら「それよりも上条さんの方が大切です」

まどか「あの、今はさやかちゃんの方が大切じゃ」

ほむら「さ、捜索開始です!」

まどか「無視しないでよぉーっ!?」


……………

………




412: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:27:33.52 ID:vlUOJUyW0


ほむら「ふむ……ここまでのルートでは特に痕跡は見当たりませんでしたね」

マミ「ソウルジェムにも反応はないわね……」

ほむら「もー、だから妖精さんは使い魔なんかじゃなくて、妖精さんって言ってるじゃないですかー」

ほむら「というか自分の魂で索敵って……安全管理的に問題があるんじゃないですかね……」

マミ「? 魂?」

まどか「わああああっ!? わあああああああああああっ!!」

マミ「ど、どうしたの鹿目さん!?」

まどか「な、なな、なんでもないですよ!」

まどか「そ、それより、全然手がかりが見つからないね! どうしようか!」

シャル(……あー、巴先輩にまだソウルジェムの秘密を話してないのか)

シャル(今その話を追及されると色々面倒そうだし……合わせてやるとしましょう)

シャル「確かに、そろそろ手がかりの一つぐらいはほしいわね」

シャル「丁度分かれ道に出たし、手分けして探さない?」

ほむら「そうですね。いいと思います」

ほむら「そちらに何か意見はありますか?」

マミ「特にないわ」

まどか「わ、私も、特には……」

ほむら「では私達はあちら側を探しますので」

マミ「反対側は任せなさい」

まどか「で、では……」

シャル「……行ったわね」

シャル「ああ、そうだ。ほむらに一つ聞きたかったんだけど」

ほむら「私にですか?」

シャル「あの子たちさ、どう思う?」

ほむら「? どう、とは?」

シャル「あの子たちが私達に素直に協力してくれるかって事よ」


413: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:31:31.29 ID:vlUOJUyW0


シャル「一時に比べれば問答無用で攻撃しない分、和解したと言えなくもないけど」

シャル「私は魔女であの子たちは魔法少女。殺し合う立場が変わった訳じゃないわ」

シャル「あの二人がこのまま素直にほむらの言う事を聞くとも思えないんだけど」

ほむら「まぁ、人間のやる事ですから断言は出来ませんけど……多分大丈夫でしょう」

ほむら「彼女達は生粋の善人。損得の有無に関わらず、常に正しくあろうとする人達です」

ほむら「それにお願いしたのは行方不明者の捜索ですし、何より目標はさやかさんの幼馴染ですからね」

ほむら「鹿目さんは真剣に、タヌキ先輩もそこそこ真面目にやってくれるでしょう」

シャル「……意外ね。寝首を掛かれても妖精さんパワーがあるから問題無い、とか言うと思っていたのに」

ほむら「意見のぶつかり合いとか戦闘とかありましたけど、私、結構あの人達の事信用しているんですよ?」

シャル「信用してんならいい加減巴先輩の事名前で呼んであげなさいよ」

ほむら「それは仲直りした時までとっておきたいです」

ほむら「っと、歩いていたらまた分かれ道ですね……」

シャル「どうする? また手分けする?」

ほむら「そうですねぇ、そうした方が――――」

――――ボーン……

ほむら「? 水音……」

シャル「というより、爆音?」

シャル「音は海辺の方から聞こえてきたわね……何かあったのかしら」

ほむら「……ここは用心して、一緒に行くとしましょう」

シャル「合点」


414: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:40:23.03 ID:vlUOJUyW0


――――その頃――――


マミ「どう? 鹿目さん」

まどか「……駄目です。やっぱり、ソウルジェムに反応はありません」

マミ「そう……思い返せば、地底の時も魔女の反応は得られなかったから、反応がなくても当然か」

マミ「暁美ほむらが妖精は使い魔じゃないと言っていたのは、真実なのかもしれないわね」

マミ「……そうだとしたら、妖精の力で魔女と打ち解けたとでもいうのかしら」

マミ「いえ、そんな筈ない。どんな魔女でも呪いと絶望を振りまく存在には変わりない」

マミ「まして……」

まどか「マミさん……」

マミ「……ごめんなさい。今はこんな事考えている場合じゃないわね」

マミ「あなたの親友である美樹さんの幼馴染。彼をちゃんと保護しないと」

まどか「は、はい!」

まどか「あっ、分かれ道、ですね」

マミ「そうね。時間も惜しいし、分かれて探しましょう」

マミ「幸い鹿目さんが上条くんの写真を携帯で撮っていたから、容姿は分かるしね」

まどか「正確にはさやかちゃん経由なんですけどね」

マミ「それじゃあ、私はあっちを探すわね」

まどか「はい。では、見つけたらテレパシーで連絡しますね!」

マミ「……さて、と」

マミ(グリーフシードのストックは一つだけ。最近はあの魔女ばかり追い駆けていたから、魔女退治を全然していなかったのよね)

マミ(今後の事を考えると、このストックを使うのは可能な限り避けたい)

マミ(魔法を使っての捜索は却下。自分の脚で探さないと)

マミ(とは言え、手掛かりもないのに探すのは中々大変――――)

マミ「――――!」


415: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:43:01.89 ID:vlUOJUyW0


マミ「……何者かしら。私の事を覗き見しているのは」

マミ「出てきなさい」

マミ(……建物の影から、出てきたわね)

マミ(数は一。全身を黒いロープで覆った、怪しい奴ね……)

マミ(まさか、アイツが上条くんを?)

マミ(暁美ほむらの言っていた妖精云々はあくまで推測。アイツが上条くん失踪に関わっていないとも限らない)

マミ(私を監視していた理由も気になるし、問い詰めないとね)

マミ「レディを尾行なんて、どういうつもりかしら?」

黒ロープ「……………」

マミ「口が利けないのかしら? それとも、私なんかと話す事はないと?」

マミ「あまり、嘗めないでほしいのだけど」変身!

黒ロープ「……」

マミ(変身するところを見ても身動ぎ一つしない……)

マミ(私が魔法少女だと知っている? もしくは、魔法少女という存在自体を知っている?)

マミ(いずれにせよ、只者ではないわね)

マミ「このマスケット銃が玩具と思ったら間違いよ?」

マミ「何なら、威嚇射撃でもして――――」

黒ロープ「――――!」

マミ「!?」

マミ(く、黒ロープがこっちに突撃……!)

マミ(速い!)


416: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:45:05.90 ID:vlUOJUyW0


マミ「くっ!」シュッ!

黒ロープ「――――……」

黒ロープ「……」

マミ(不味いわね。さっきの攻撃、あまりにも速くて避けきれず、腕を少し切られた……)

マミ(少なくとも速さに関しては私より格段に上。そして人を簡単に切り裂けるだけの攻撃力もある)

マミ(リボンで拘束出来ればいいけど、あの素早さだと隙を突かないと捕縛は無理ね)

マミ(鹿目さんと別れなければ……いえ、二人になったからと言ってどうにか出来るものじゃない)

マミ(あの速さに追随出来る人が足止めしてくれない事にはどうにもならないわ)

マミ(……佐倉さんが居てくれたら……)

マミ(ううん、あの子とは決別したのよ。ここはなんとか自力でやらないと)

マミ(……そうだ)

マミ(暁美ほむらからもらった、あの弾丸を試してみましょう)

マミ(どんな効果があるかは分からないけど、物は試しってね)

マミ(魔法で作った銃に装填して……)

マミ「……先に攻撃してきたのはそっちだから、悪く思わないでね!」

マミ(アイツの足の周り目掛けて、全弾一気に撃つ!)パパパパパンッ


417: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:47:26.60 ID:vlUOJUyW0


黒ロープC「――――!」

マミ(動いた! やっぱり避けられ――――)

マミ(!?)

マミ(じゅ、銃弾が黒ロープを追跡している!? 追尾弾だったの!?)

――――バスッ バスッ バスッ バスッ バスッ

黒ロープ「――――!?」

マミ(ああ、ついに命中した!)

マミ(だけど胴体に当たったわ……不味い、治療しないと致命傷かもしれない……)

黒ロープ「……! ……!!」

マミ(黒ロープが痙攣している……やっぱり、致命傷なの!?)

マミ(くっ! まさかあんな機能があったなんて――――兎に角今は治療を――――)

黒ロープ「」バキンッ

マミ「え? 何の音……」

黒ロープ「」バキ、ベキベキ

黒ロープだった者「」メキメキメキ、ピキ、ベキ、ボキッ、ゴキンッ

マミ「あ、あら? な、なんか、黒ロープの姿が変わって……」

黒ロープ→筋肉隆々の怪物「……フシュゥゥゥゥゥ……」

マミ「……何、これ?」

―――――――――――

シャル「ところでさ、巴さんが持っていった弾丸ってどんな道具なの?」

ほむら「あれは『人生ハードモード弾丸』と言いまして」

ほむら「撃ち込んだ敵の全パラメーターを二倍にするという」

ほむら「冒険に刺激が足りない、敵が弱すぎて話にならない」

ほむら「そんな方々の欲求不満に応える、平穏を愛する私には全く役に立たないアイテムです」

ほむら「タヌキ先輩は確か五発分持っていったので、万一全弾当てた場合敵の強化率は三十二倍となります」

ほむら「ちなみに弾丸は自動的に『敵』へと命中するので、自分に撃って強化という手法は出来ませんのであしからず」

シャル「……それは何が何でも説明してあげなきゃダメじゃなかったのかしら」

ほむら「どーせ死にはしませんから気にしない気にしない」

ほむら「精々後処理をする私達が面倒を背負うだけですよ」

シャル「……あの人、撃ってないといいわね」

ほむら「撃ってないといいですけど、妖精さんアイテムですからね。多分使っちゃってますよ?」

―――――――――――

怪物「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

マミ「きゃあああああああああああああああああ!?」

マミ(なんなのよアレ!? なんかすっごいパワーアップしてない?! 元の強さを知らないけど!)

マミ(え!? つまり何!? あの弾丸ってそういう類のやつなの?!)

マミ「最初に説明しなさいよーっ!?」


418: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:48:55.22 ID:vlUOJUyW0


怪物「シャア!」

マミ「ひっ」

――――ビュウウウンッ!

マミ(と、突進された……?)

マミ(慌てて身を捩ったお陰かダメージはないけど……)

マミ(でも今の動き、全く見えなかった!)

マミ(パワーアップさせるにしても、もっとこう、徐々に強くしなさいよぉ!?)

怪物「? …………?」

マミ(幸いなのは怪物自身、自分のパワーアップについていけてない事ね……私の横を通り過ぎた事に気付いてない)

マミ(どうやら私一人では本格的にどうにも出来ないわね)

マミ(癪だけど、鹿目さんだけでなく魔女と暁美ほむらにも助力を願わないと……)

怪物「――――」

マミ「……まぁ、そんな時間をくれるとも思えないけどね」

マミ(なんとか翻弄して逃げないと……)

怪物「……」

マミ(来る――――)


419: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:49:37.83 ID:vlUOJUyW0








「とおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうっ!」







420: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:52:20.13 ID:vlUOJUyW0


マミ「?!」

怪物「ギッ!?」バキッ!

マミ「なっ!?(空から誰か降ってきて、怪物に蹴りを食らわせた!?)」

マミ(蹴りを食らった怪物は……あ、なんか頭が変な方に曲がってる……死んだ、のかしら?)

マミ(助かったけど、あの人は一体……)

マミ(……全身タイツというか、戦隊ヒーローのスーツみたいな恰好は、ある意味一般人に見えないんだけど……)

??「君。もう大丈夫だよ」

マミ「は、はぁ……(あ、こっちを振り向いた。顔は剥き出しなのね)」

マミ(ふむ。どうやら男の人、それも私と同年代っぽいわね)

マミ(あら? なんか、見覚えがあるような……)

??「ん? 僕の顔に何か付いているかい?」

マミ「あ、いえ……そういう訳では……」

マミ「えっと、助かりました。ありがとうございます」

??「いやいや、気にしないで」

??「人助けは当然の事さ」

マミ(……悪い人、ではなさそうね)

マミ(だけど気になる……どうにも見覚えがある……)

マミ(名前を聞けば思い出せるかしら?)

マミ「……あの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか……?」

??「僕かい? 僕の名前は」


421: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/04(火) 15:52:55.17 ID:vlUOJUyW0




恭介「上条恭介と言うんだ」




440: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 08:25:14.54 ID:oaYv80Qq0



えぴそーど じゅーいち 【上条さんの、かいぞうけいかく こうへん】



441: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 08:29:34.56 ID:oaYv80Qq0


マミ(私は、ついさっきまで怪物に襲われていた)

マミ(その怪物はとても一人じゃ倒せそうにないぐらい強そうだったんだけど……)

マミ(それを倒してくれたのが――――今、私の目の前にいる人)

マミ(上条恭介……行方不明になったという、鹿目さんの親友の幼馴染……!)

マミ(まさかこんなところで出会うとは……)

恭介「ふぅ……また一体成敗したな……あと何人かな……」

マミ(なんで全身タイツみたいな恰好なのか、事故の怪我で入院していた筈なのにしっかり立っているとか)

マミ(ツッコミどころは山ほどあるけど、一応無事なようだし……)

マミ(念のため、本人確認だけはしておきましょう)

マミ「あ、あの、あなたは……美樹さやかさんの幼馴染の、上条くんでしょうか?」

恭介「え? えーっと、まぁ、そうですけど……あなたはさやかの知り合いなんですか?」

マミ「ええ。私は巴マミ。あなたと同じ見滝原中学校に通う、三年生よ」

マミ「病院から行方不明になったと聞かされ、みんなで探していたの」

恭介「みんなでって……いや、よく考えたら、今の僕は行方不明扱いされて当然か……そうか……」

マミ「とりあえず、病院に戻りましょう?」

マミ「何があったかは分からないけど、怪我をしていないとも限らないからね」

マミ「鹿目さんや美樹さんには私から連絡を入れておくから、あなたは病院に戻って――――」

恭介「それには及びません」

マミ「? 自力で戻る、という事かしら?」

マミ「ダメよ。確かに今は元気そうだけど、あなたは本来入院していないといけない身なのだから安静に」


恭介「病院には戻らない、と言っているんです」


442: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 08:38:43.84 ID:oaYv80Qq0


マミ「……どういう事かしら?」

恭介「そのままの意味です」

恭介「僕には成すべき事がある。病院で寝ているだけでは、決して成し遂げられない目的がある」

恭介「そのためにも、病院に戻る訳にはいかない」

恭介「見逃してはくれませんかね?」

マミ「……あなたが何をしたいのかは知らない」

マミ「だけど、あなたが行方不明になって心配している人がいる以上……」

マミ「あなたを見逃す訳にはいかないわ」

恭介「……残念です」

恭介「なんともフリーダムな格好をしているから、説得出来るかもと思っていたんですけどね」

マミ「うん。服装云々であなたに言われたくないから」

マミ「……おほん。まぁ、説得は無意味なようだし」

マミ「とりあえず、ちょっとの間気絶してもらおうかしらね?」

恭介「そうきますか。お淑やかそうなのに、意外と好戦的ですね」

マミ「こう見えて面倒は嫌いなの」

恭介「成程……では僕も面倒な理屈は抜きに」

恭介「あなたを倒し、先に進むとしましょう」

マミ「あら。簡単にいくと思わないでよ?」

マミ(とは言え……この展開、不利なのは私の方かしら)

マミ(不意打ちとはいえ、あの怪物を一撃で倒す攻撃力……とてもただの人間とは思えない)

マミ(妖精達の手によってなんらかの力が与えられた? それとも、元々ただの人間ではなかった?)

マミ(いずれにせよ……)

マミ(……鹿目さん、聞こえる?)テレパシー

まどか(はい、マミさん。どうかしましたか?)テレパシー

マミ(上条くんを見つけたわ)テレパシー

まどか(ほ、本当ですか!?)テレパシー

マミ(ええ。だけど、ちょっと問題が生じていてね……)テレパシー

マミ(上条くんと交戦する事態になったわ)テレパシー


443: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 08:42:19.98 ID:oaYv80Qq0


まどか(そ、そんな!? なんで!?)テレパシー

まどか(そもそも上条くんは事故で怪我してて……)テレパシー

マミ(理由は分からないけど、完治しているみたいね)

マミ(しかも上条くんの強さは、私と同等以上……いえ、見栄を張ったわね)テレパシー

マミ(私よりも格段に上の力を持っているとみて間違いない)テレパシー

まどか(嘘……)テレパシー

マミ(だから、一つお願い)テレパシー

マミ(暁美ほむらと魔女に、私が上条くんと交戦状態にある旨を伝えてほしいの)テレパシー

マミ(そして、出来たら合流したいと伝えて)テレパシー

まどか(分かりました!)テレパシー

マミ(……これでよし)

マミ(……向こうは油断しているのか、あるいは様子見か、中々攻撃を仕掛けてこない)

マミ(なら、遠慮なく)

マミ「先手を打たせてもらうわね!」

恭介「なっ……!?」

マミ(良し! 彼の足元からリボンを生成して、捕縛に成功したわ!)

マミ(腕も上手い事後ろ手で縛れたし、これなら多少相手の力が強くても簡単には)

恭介「ふん」バリバリバリー

マミ「……………」

マミ「簡単には破られないと思っていたリボンが、時間稼ぎすら出来ずに粉砕された」

マミ「何を言っているか分からないと思うけど、私にも何が起きたか分からな」

恭介「今のはなんですか? もし先制攻撃だとしたら……次は僕の番ですよね?」

マミ(あ、これヤバいわ)


444: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 08:51:13.33 ID:oaYv80Qq0


マミ(真っ向から戦ったら雑魚敵Aみたいな感じに吹っ飛ばされる未来しか思い浮かばないもの)

マミ(ライオンに戦いを挑むネズミの心境かしら? いえ、ネズミならまだ一矢報いる事も出来そうだし、蟻とか?)

マミ(私でどうこう出来る相手じゃないわね……)

マミ(かと言って鹿目さんと協力しても、蟻が二匹になるだけ)

マミ(ライオンに勝てるとすれば、同じライオンか、ライオンより巨大な像か)

マミ(ライオンを殺す道具を作れる人間だけ……)

マミ(癪だけど……本当に癪だけど、暁美ほむら達に助けを求めるしか、彼を止められそうにない)

マミ(つまり、私がすべき事は――――)

恭介「大丈夫です、怪我はさせませ」

マミ(魔法で作りだした大型大砲を)

恭介「!? いきなり大砲が……!」

マミ(”自分の足元”に撃ちこみ!)

――――ドンッ!

恭介「ぼふっ!……ふ、粉塵が舞い上がって……煙幕か!?」

マミ(そしてこの隙に、逃げる事――――)

――――ヒュッ

マミ「え――――ぐぇっ!?(の、喉を掴まれ……!?)」

恭介「残念でしたね」

恭介「煙幕を張った直後ならまだ逃げていないと踏んで、急いで腕を伸ばした次第ですが……」

恭介「予想通り、まだ此処に居てくれましたね」

マミ(くっ……まさか、逃げる前に捕まるなんて……)

マミ(パワーだけじゃない。スピードや反応速度も人間以上!)

マミ(このままでは……)

恭介「おっと、いくらもがいても無駄ですよ?」

マミ「ぐっ! く、ぁ、かっ……!?」

マミ(だ、ダメ……身体強化魔法をいくらかけても、全然引きはがせない……!)

マミ(叩いても、引っ掻いても、びくともしない!)

マミ(確かに身体強化は得意ではないけど、それでも並の大人数人分の力はある筈なのよ!?)

マミ(まさか、此処まで強くなってるなんて……!)

恭介「ふむ。中々しぶとい」

恭介「でもこのまま首を圧迫していればそのうち気を失うかな」

マミ(不味……!)


445: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 08:53:52.68 ID:oaYv80Qq0


恭介「ん?」

恭介「――――ちっ」

マミ「くはっ……え、なんで首から手を離し……」

マミ(! 上条くんが飛び退くように離れて……)

マミ(上条くんのいた場所に、”桃色の矢”が通った!)

マミ(矢の色、そして感じられた魔力の気配……間違いない!)

マミ(今の攻撃は……)

マミ「か、鹿目さん!?」

まどか「良かった! 間に合って!」

マミ「一体どうして……暁美ほむらへの連絡は!?」

まどか「携帯でもう済ませてあります。私は偶々近くにいて、爆発みたいな音を聞いて駆け付けたんです」

マミ「爆発……煙幕を展開した時の音かしらね」

まどか「……それより……」

まどか「……上条くん」

恭介「……やぁ、鹿目さん。久しぶり」

恭介「今日は随分と可愛らしい服装だね。よく似合っているよ」

まどか「そんな事言って誤魔化さないで」

まどか「どうしてマミさんに酷い事をしていたの?」

まどか「答え次第では、いくら上条くんでも許さないよ」

恭介「酷いも何も……最初に手を上げたのはそっちなんだけどね」

恭介「僕は病院に戻りたくないのに、無理やり連れて行こうとするのは酷くないのかな?」

まどか「それは……だって、上条くんは今まで入院していたんだよ! 連れ戻そうとするのは当然でしょ!?」

恭介「だーかーら。僕は見ての通り、もう完治している訳」

恭介「そしてやりたい事がある」

恭介「その邪魔をするのなら、いくらさやかの親友である鹿目さんでも容赦しないよ?」

まどか「そんな……おかしいよ……そんなの、絶対におかしい!」

まどか「私達を、マミさんを倒してまで成し遂げたい事ってなんなの!?」

恭介「……鹿目さんに言っても仕方ない事さ」

恭介「それに言葉をぶつけたところで、君は自分の意見を曲げる気はないんだろ?」

恭介「僕だって曲げる気はないんだ。だったら言葉を交わすのなんて時間の無駄だよ」

恭介「僕を止めたいのなら、力尽くで止める事だね」

まどか「そ、んな……なんで、なんでこんな……!」

まどか「なんでクラスメートと、さやかちゃんの幼馴染と戦う事に……」


――――ピロピロピーロ~♪――――


446: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 09:35:38.36 ID:oaYv80Qq0


恭介「? この音は……携帯の着信音?」

まどか「あ、これ私の携帯……!」

まどか(ほむらちゃんからだ!)

まどか「……」

恭介「ああ、いいよ。出なよ」

恭介「その隙に攻撃しようなんて思ってないよ」

恭介「別に、僕達は”敵”って訳じゃないんだからさ」

まどか「……分かった」ピッ

まどか「もしもし、ほむらちゃん?」

ほむら『あ、もしもし? 鹿目さん、今お電話平気でしょうか?』

まどか「えと……(許可は出たけど、これから戦おうって相手が目の前にいるんだよね……)」

ほむら『まぁ、私には関係無い事ですので気にせず要件言っちゃいますね』

まどか「いや、そこは気にしようよ!?」

ほむら『先程タヌキ先輩と上条さんが交戦状態にあるとの連絡について、少々お話したい事がありまして』

まどか「無視されたーっ!?」

ほむら『どんな展開で戦う事になったかは分かりませんが、恐らく苦戦は必須の状況となっているでしょう』

ほむら『多分、鹿目さんは巴さんと協力して上条さんと戦う事になるかと思いますが』

ほむら『妖精さんパワーに対抗出来るのは妖精さんパワー以外にありません』

ほむら『そして現状、妖精さんパワーをほぼ自在に扱えるのは私だけ』

ほむら『そもそもあなた達に妖精さんの知識はありませんので、対処方法のノウハウを持っていない』

ほむら『つまりあなた達では役者不足。上条さんを大人しくするには、私と合流する以外にないという事です』

まどか(うう……ハッキリ言われた……)

ほむら『とはいえ今日持ってきた道具で真っ向勝負を挑めるようなものはないので』

ほむら『私は此処で少々準備というか、作戦を練っておきます』

ほむら『なので私達の方からそちらへと向かう事は出来ません』

ほむら『出来れば上条さんを此処まで誘導してくれませんか?』

ほむら『ちなみに場所は……××港ですね。コンテナだらけの。コンテナターミナルと言うんでしたっけ?』

ほむら『そんな感じの場所ですけど、分かりますか?』

まどか「あ、うん。一応分かる」


447: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 09:39:28.76 ID:oaYv80Qq0


ほむら『ではそこまで上条さんを誘導してください』

ほむら『彼がいくら妖精さんパワーを受けたとしても、所詮トーシローです。妖精さんの友達である私の敵ではありません』

ほむら『ここまで来てもらえれば、勝ちは確定ですよ』

まどか「でも……そんな、どうすれば……」

ほむら『まぁ、殴り合いながら連れてくるのはしんどいでしょうし、
    無理やり引っ張れるようならそもそも私の力は必要ないですからね』

ほむら『かと言って、説得でここまで来てもらう事も恐らく無理でしょう』

ほむら『ですから、私から一つ言葉を送らせていただきます』

まどか「言葉?」

ほむら『死ぬ気で頑張れ♪』

――――ぷつっ

まどか「あ、切れた……」

まどか「……………」

まどか「ただの精神論じゃん?!」

マミ(鹿目さん、暁美ほむらはなんて?)テレパシー

まどか(……死んででも××港まで上条くんを連れてこいと)テレパシー

マミ(簡単に言ってくれるわね。此処からだと、直線距離でも五百メートルぐらいはあるわよ)テレパシー

マミ(で? それで勝てるって?)テレパシー

まどか(私の敵じゃない、と言っていました)テレパシー

マミ(それは心強い)テレパシー

マミ(……つまり、私達は彼をどうにか××港まで連れて行かないといけないと)テレパシー

マミ(暁美ほむらに従うのは癪だけど……彼の実力を考えると、今回ばかりは仕方ないわね)テレパシー

マミ(それに)テレパシー

まどか(それに?)テレパシー

マミ(初めて出会った時から思っていたんだけど、暁美ほむらは私達魔法少女の扱いがぞんざい過ぎるわ!)テレパシー

マミ(ここは華麗にミッションコンプリートして、ちょっとは私達の凄さを思い知らせてやらないと!)テレパシー

まどか「……」

まどか(マミさんが日に日に小物化している気がする……)

恭介「ねぇ。さっきから棒立ちしているけど、もう話を進めてもいいかな?」

まどか「……うん」

まどか「念のためもう一度訊くけど……」

まどか「大人しく、病院に戻ってくれるつもりは?」

恭介「ない」

まどか「……なら、戦って従わせるしかないよね」

まどか「本当はこんな事したくないけど……でも、上条くんのためだから!」

恭介「鹿目さんはさぁ……」

恭介「僕の事、嘗めているのかい?」

まどか「え……?」


448: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 09:43:31.57 ID:oaYv80Qq0


恭介「戦って従わせる、こんな事はしたくない」

恭介「それって、勝てるつもりだから言える事だよね?」

恭介「鹿目さん達がどんな力を持っているかは知れないけど……」

恭介「今の僕を甘く見ないでほしいな」ゴオォォォォォォォ・・・・・・!

まどか「!?」

まどか(な、なに……? 凄い威圧感が……!)

マミ「予想していたけど、どうやら全然本気を出していなかったみたいね」

マミ「鹿目さん、手加減しちゃ駄目よ」

マミ「彼は――――私達が今まで戦ってきた、どんな魔女よりも格段に強い」

マミ「怪我は治癒魔法でどうにか出来るから、本気で挑まないと……」

マミ「勝てないわよ」

まどか「は、はい!」

まどか(で、でもやっぱり大怪我をさせちゃ不味いだろうから、矢の威力は低めに――――)

恭介「おいおい鹿目さん。先輩に手加減するなって言った傍からかい?」

まどか「?!(え……き、気付かれ……)」

恭介「ダメだよ、油断していると」



恭介「ほら、こんな風に フッ



まどか「え……(上条くんの姿が消え……)」

マミ「か、鹿目さん!? うし――――」

恭介「僕を見失ってしまうよ?」

まどか「ぐっ!?(う、後ろから殴られ――――)」

まどか「きゃああああああああああっ!?」

マミ「鹿目さんが殴り飛ばされた!? 何メートルも飛んで……」

恭介「おっと、すまない」

恭介「あまりにも弱すぎて、加減したのに意味がなかったみたいだね」

マミ「こ、この!」

――――パパパパパパパパパパンッ!!

恭介「遅い」

マミ(なっ……し、至近距離で銃を10丁も生み出して撃ったのに)

マミ(全弾回避された!?)

――――ヒュン!

恭介「おっと?」

マミ(桃色の矢が飛んできた……鹿目さん、無事みたいね)

マミ(でも、ああ、やはり躱された!)


449: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 09:45:27.24 ID:oaYv80Qq0


恭介「いやぁ、今のは危なかった。死角からの攻撃は気配を察しないといけないけど」

恭介「攻撃が弱過ぎると、察すべき気配すら弱いからね。はっはっはっ」

マミ「ぐっ……何処までもおちょくって……!」

マミ(でも、その実力が圧倒的なのは間違いない)

マミ(魔法少女でも視認できないほどのスピード)

マミ(魔法少女を容易く吹き飛ばすほどのパワー)

マミ(特殊な力を使っている様子はない。シンプルに、純粋に強い。強過ぎる)

マミ(一体何があればこんな力を持てるのよ! こっちは奇跡の対価として与えられた力なのに!)

マミ(だけど全ての攻撃を回避しているって事は……)

マミ「だったらこれは!」

恭介「ん? これはリボン?」

恭介「また拘束かい? 無駄な事が好きだねぇ」

マミ「鹿目さん!」

恭介「おいおい、さっき攻撃したばかりなのに、そう連射は……!?」

まどか「お生憎さま、私の弓は魔法だから……」

まどか「普通の弓とは性能が違うの!」バシュッ!

恭介「! 桃色の矢が五本同時に……」

恭介「ちっ!」

――――ボンッ! ボボボンッ! ボンッ!

マミ「良し、直撃!」

マミ(今まで回避行動を取っていたという事は、防御には自信がないという事!)

マミ(多少怪我をさせてしまっても、回復魔法で治療出来る)

マミ(ちょっと強引だけど、これが一番彼の負担にならない選択の筈――――)

恭介「……なんちゃって」

マミ「なっ!?(無傷!?)」


450: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 09:47:57.64 ID:oaYv80Qq0


恭介「大方、回避に専念しているから防御が手薄って思ったんだろうけど」

恭介「これだけ強大なパワーを、軟弱な肉体で制御できると思っていたのかい?」

恭介「この程度のパワーじゃ、傷一つ付けられないよっ!」バツッ!

マミ(くっ、リボンが破られ――――)

恭介「だから」ヒュッ

マミ「うあっ!?」

まどか「マミさ――――(キックで吹き飛ばされ)」

恭介「遅いんだってば」ヒュンッ

まどか「うっ!?(い、何時の間にか接近され……!)」

――――ドオオオンッ……

恭介「……ああ、やり過ぎちゃったかなぁ」

恭介「二人を叩きつけたビルの壁が崩れてる……死んでないといいけど」

恭介「でもまぁ、人に銃とか矢を撃ってきたし、正当防衛って事で」

恭介「悪く思わないでほしい――――ん?」

まどか「……はぁ、はぁ……!」

マミ「う、く……!」

恭介「……へぇ、予想していたよりも凄いじゃないか」

恭介「てっきり立てないぐらいのダメージは与えたと思っていたんだけどなぁ」

恭介「それにここまでコテンパンにやられて、まだ立つ気力があるなんてね」

まどか「あなたほどじゃないけど、私達も丈夫さには自信があるの」

マミ「それにね……こちらは”個人的な理由”で、フルパワーで戦うのは難しいの」

マミ「今のが私達の全力だと思わないで欲しいわ」

恭介「ふーん……言い訳にしたって、もう少しマシなのは出来なかったのかな?」

マミ「なら、今ここで証明しようかしら」

マミ(さて、どうしたものかしらね)

マミ(”全力”を出していないのは本当。負け惜しみじゃない)

マミ(だけど全力で魔力を使えば、ソウルジェムが大きく濁ってしまう)

マミ(私が予備で持っているグリーフシードの数は一個)

マミ(ソウルジェムが濁りきってしまうと、魔法少女として再起不能になる)

マミ(確かキュゥべえはそんな感じの事を言ってたし……)

マミ(どうにかして避けたいのが本音)

マミ(でも……)


451: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 09:50:20.96 ID:oaYv80Qq0


まどか(マミさん)テレパシー

マミ(鹿目さん……)テレパシー

まどか(全力、出しましょう)テレパシー

まどか(ここでソウルジェムが濁りきって、魔法少女として再起不能になったとしても……)テレパシー

まどか(それで上条くんが助けられるのなら、構いません)テレパシー

マミ(……そうね)テレパシー

マミ(力を出し惜しみして人を助けられなかったなんて、正義の魔法少女の名折れよね)テレパシー

マミ(分かったわ。幸い、グリーフシードの予備が一つだけある)テレパシー

マミ(全力全開、一気にソウルジェムが真っ黒になるぐらい)テレパシー

マミ「本気を出すわよ!」

まどか「はい!」

恭介「おいおい、あまり調子に乗り過ぎないでほしい――――」

マミ「それは、こっちの台詞!」ドンッ!

恭介「!(先輩が地面を叩いた瞬間、大量のリボンが地面から……さっきまでの比じゃない数、何百本あるんだ!?)」

恭介(成程、本気じゃないって言葉は嘘じゃなかったという訳か!)

恭介(けど、どうやら無茶をしているのも間違いない! 動きが単純だ!)

恭介「なまっちょろい! この程度で僕を捉えきれると思うな!」

マミ(なっ……展開したリボンの隙間を残像が見えるほどの速さで潜り抜けてる!?)

マミ(まさかここまで機動力に長けているなんて!)

まどか「なら、弓矢とのコラボはどうかな!?」バシュッ!

恭介「っ!?(視界を埋め尽くすほどの矢だって!? 鹿目さんもこれほどの力を隠していたのか!)」

恭介(リボンと矢の同時攻撃を避けきるのは、流石に無理か!)

恭介(いや、そもそもあの矢……こっちに吸い寄せられるように来てないか?)

恭介「追尾式かよ!? ――――くっ!」バチッ

まどか(やった! 命中……!?)


452: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 09:54:46.06 ID:oaYv80Qq0


恭介「全くっ」バチッ

恭介「こんな」バチッ

恭介「小細工でっ!」バチンッ!

まどか(ち、違う! 命中したんじゃない!)

まどか(マミさんの展開したリボンを盾代わりにして、攻撃を防いでいる!)

まどか(なんて動体視力と判断能力なの……!)

まどか「だったらこれはどう!?」バシュンッ!

恭介「空に向けて矢を……?! そういう事か!」

恭介「やはり、打ち上げられた矢がこっちに飛んでくる!」

まどか「水平方向では防がれても、上からの隙間ない一斉掃射には逃げ場なんてない!」

まどか「これは避けられないよ!」

恭介「ふんっ! いくら隙間が無くても……」

恭介「こんな軟弱な攻撃は――――通じない!」

まどか(うっ……矢を直に受けても平然としている!)

まどか(だけど、撃ち続けるしかない!)バシュバシュバシュ!

恭介「通じない通じない通じない!」

恭介「この程度でどうにか出来ると思うなああああああああああっ!」

まどか(やっぱり私の攻撃力じゃダメージを与えられない……)

まどか「でも! 足は止まった!」

まどか「マミさん!」

マミ「ええ!」

マミ「こっちはもう十分に、魔力をチャージ出来たわ!」


453: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 09:57:05.06 ID:oaYv80Qq0


恭介(何……?)

恭介(なんだ? あの巨大な銃……いや、大砲!?)

恭介(全長十メートルはあるぞ!? デカ過ぎるだろオイっ!?)

マミ「気付いてなかったのかしら? リボンによる攻撃が単調である事に」

マミ「もしくは気付いても、こう思っていた? コントロールしきれていないって」

マミ「残念はずれ。正解は――――魔力をこの銃に注ぐのに集中していたから」

マミ「お陰でソウルジェムが殆ど真っ黒になってしまったけど……」

マミ「その分、強力な一撃よ?」

恭介「しまっ……!」

マミ「久しぶりに決めるわよ! 最大火力の……」



マミ「ティロ・フィナーレ!」



まどか(よし! 上条くんは今、攻撃の真っただ中にいて自由に動けない!)

まどか(そして今放ったティロ・フィナーレは拡散型……広範囲に魔力を散らしている!)

まどか(これは絶対に避けられ――――)



恭介「……ふふ」



まどか(え? 今、上条くん笑って……)

恭介「逃げ場ならあるんだよ――――上にねっ!」

――――バゴンッ!!!

まどか「う、嘘!?」

まどか「上条くんが、空を飛んだ!?」

まどか(ち、違う! 飛んだんじゃなくて……跳んだんだ!)

まどか(地面にクレーターみたいな穴が出来るぐらい強力な脚力で、私の放った弓を全て吹き飛ばすぐらいの衝撃と共に!)

まどか(滅茶苦茶だよこんなの!)

まどか(ああ……ティロ・フィナーレは私の矢と違って、撃った後のコントロールは利かない……)

まどか(上条くんがもう居ない場所を通って……)

まどか(……外れた……!!)


454: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:00:20.31 ID:oaYv80Qq0


恭介「ふ、ふはは、ふはははははははははははははははははははっ!」

恭介「甘い甘い甘い甘い甘い甘いっ! この程度で僕の動きを封じたつもりか!」

恭介「もう僕は昔の僕じゃない! 怪我でろくに歩けなかった、あの貧弱な僕じゃない!」

恭介「お前達如きに負ける事はないんだっ!! 誰にも、僕は負けないんだ!」

恭介「ふっははははは、あーはっはははははははははははは!!」

まどか「そんな……こんなのって……!」

マミ「……随分、高くまで跳んだわね」

恭介「――――?」

まどか「マミ、さん……?」

マミ「鹿目さんの放った矢を吹き飛ばすにはそれだけのパワーが必要だったという事なんでしょうけど」

マミ「何とかと煙は高いところが好きって、よく言ったものだわ」

恭介(……なんだ?)

恭介(負け惜しみ、じゃない……先輩の浮かべているあの笑みは、ハッタリでも狂った訳でもない……)

恭介(勝利を確信した、笑み……?)

マミ「……確かにあなたの身体能力は高いわ。私達ではとても敵わないぐらい」

マミ「避けられてしまう事は想定済みよ」

――――ボコッ

まどか「え……?(道路が盛り上がって……)」

恭介(おい、まさか――――)

マミ「だから――――保険を用意しておいたの」

マミ「地中に、ね」

恭介(なっ……ど、道路からさっきの大砲が!? 一体何時の間に――――)



            ―――― マミ「それは、こっちの台詞!」ドンッ! ――――


      ――――恭介「!(先輩が地面を叩いた瞬間、大量のリボンが地面から…… ――――



恭介(あの時か!? あの時に、こうなる事を予見して……!?)

マミ「あなたの肉体は強力。攻撃を当てるのも一苦労だわ」

マミ「でも、あなたは空を飛べる訳じゃない。今の状態もただジャンプして、ただ落ちているだけ。」

マミ「さて……空中にいるあなたは、どうやって私の一撃をかわすのかしら?」

恭介「お、い……オイオイオイオイオイ……!?」

マミ「さあ、覚悟しなさい!」

マミ「本日二度目、最大最強の――――」


455: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:00:58.46 ID:oaYv80Qq0






マミ「ティロ・フィナーレ!!!」






456: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:03:14.20 ID:oaYv80Qq0


まどか(撃たれた……さっきより魔力が大きい!)

まどか(しかもあれは魔力一点集中型……さっきの拡散型と同じ量の魔力を使いながらも、攻撃範囲が狭いから当てにくく……)

まどか(だけど威力は、何十倍にもなっている一撃!)

恭介「う、ごあああああああああああああああああああああっ!!!?」

まどか「やった! 当たった……!」

恭介「こ、の……クソアマがあああああああああああああああああああああああああっ!!!」

まどか(!? そ、そんな……)

まどか(あの一撃を受けて平然としてる!?)

まどか(威力が凄いから、上条くんは何百メートルも彼方に吹き飛ばされたけど……)

まどか(で、でも、ティロ・フィナーレを受けて平然としているのなら、落下でもダメージを受けるとは考え辛い)

まどか「ま、マミさん、どうしよう! あれでも上条くん、全然平気で……」

マミ「落ち着いて鹿目さん……くっ……!」

まどか「!? ま、マミさん!?」

マミ「大丈夫……ちょっと、力を使い過ぎただけ……とっておいたグリーフシードで回復するわ」

マミ「鹿目さんも、ソウルジェムを貸して。今のうちに回復させるわよ」

まどか「は、はい……でも、あの、これからどうすれば……」

マミ「……鹿目さん。だから落ち着いて」

マミ「私達の目的はなんだったかしら?」

まどか「それは、上条くんを連れ戻す事で……」

マミ「ほら、忘れてる」

マミ「そんなんじゃ、まだまだ魔法少女としては半人前よ?」

まどか「え? えーっと……」

まどか「あっ!?」

マミ「そうよ。私達の目的は……」


457: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:05:31.52 ID:oaYv80Qq0


―― ??? ――


恭介「ぐっ……直撃を受けたかっ」

恭介(さっきの一撃は危なかった……咄嗟に両腕でガードしなければ、ノーダメージとはいかなかっただろう)

恭介(だけど、あれが最強最大の一撃だと分かったのは収穫だ)

恭介(やはり彼女達では僕を倒せない!)

恭介(それに同じ手はもう食らわない! 着地次第、すぐにケリを着けてやる!)

恭介「ふっ――――とっ、とっ……ふぅ」

恭介「って、おいおい。一体何百メートル飛ばされたんだ……あの二人とかなり離れちゃったよ」

恭介「そもそも、えーっと、此処は……」

恭介「コンテナだらけだな。という事は――――」



「××港。私達があなたを待っていた場所です」



恭介「――――君達は、確か……病院で出会った」

恭介「暁美さん、だったかな?」

ほむら「おや、覚えていましたか」

シャル「てっきり忘れられているかと思っていたんだけどね」

恭介「結構強烈な出会いだったからね。流石に忘れはしないよ」

ほむら「出会い云々で言えば、今のも中々刺激的でしたけどね。空から男の子が! って感じでしたし」

恭介「ははっ。確かに」

恭介「……ん?」

シャル「どうした?」

恭介「いや、まぁ、なんだろう……別にそういう決まりはないと思うけど、お約束というか……」

恭介「さやかは居ないのかい?」

ほむシャル「……あー……」

恭介「……何故二人が空を見上げるのかは分からないけど、居ないという事は分かったからもういいよ」

マミ「どうにか、この場所まで”誘導”出来たわね……」

まどか「ほむらちゃん……」

恭介「ふむ。あの二人が此処に来たという事は……僕はここに誘導されたのか」

恭介「そして君も、彼女達と同じく僕を病院に連れ戻そうとしているのかな?」

ほむら「そうですねぇ。それが一応目的ではありますが」

ほむら「しかしまぁ、あなたの目的如何では、見逃すのも吝かではありません」

まどか「えっ!?」


458: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:09:44.34 ID:oaYv80Qq0


ほむら「正直なところ古傷やらなんやらが原因であなたが死んだとしても、私個人はどうでもいいんです」

ほむら「精々あなたが死ぬとさやかさん悲しむだろうなーっと思うだけ」

ほむら「何しろ、私とあなたは今日出会ったばかりの他人ですからね」

ほむら「さやかさんには申し訳ないですけど、正当な理由があるのなら、私はあなたを見逃してもいいと思っているのです」

まどか「ほ、ほむらちゃん!? 何を言って……」

マミ「そうよ! もし本当に彼の身に何かあったら……!」

シャル「まぁまぁ。二人とも落ち着いて」

マミ「っ!? ま、魔女……!」

まどか「あ、あなたも、やっぱり上条くんの事なんてどうでもいいと……」

シャル「あー、いや、そういう訳じゃないわよ?」

シャル「ほら、見た感じ怪我とかしていないみたいじゃん。手足なんて完治してるっぽいし」

シャル「そっちは納得しないだろうけど、妖精さんが関わってんなら酷い事にはならないだろうしね」

シャル「ほったらかしでも問題がなさそうなら、本人の好きにやらせればいいんじゃないかしら?」

シャル「まぁ、あとでさやかにはたっぷり怒られるでしょうけどね」

まどか「で、でも……」

シャル「それに結局のところ話を聞かない事にはどうするのがいいか分かんないし」

シャル「アイツ曰く、”話してくれないのなら、話すまで追い詰めるか、話した方が得だと思わせればいい”」

シャル「んで、思惑通り……話してくれるみたいね」

恭介「そうだね……戦わずに済むなら、まぁ、話すのは構わない」

恭介「まず、僕がどうしてこんな力を持つに至ったかを話そうか」

ほむら「あなたの力……ああ、まぁ、確かに不思議ですね」

ほむら「空の彼方から吹っ飛んできて、平然と着地する」

ほむら「私達はそれぐらいしか見ていませんけど、あなたが出鱈目な身体能力を持っている事は分かります」

ほむら「そうですね。それについても知りたいですし、是非お願いします」

恭介「……あれは君達が僕の病室から出て、すぐの事だった」

恭介「窓から、怪しい連中が現れたのさ」


459: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:11:32.02 ID:oaYv80Qq0


シャル「怪しい連中?」

恭介「真っ黒な……クローク? ローブ? まぁ、そんな感じの服装の連中だった」

恭介「奴等は何も言わず僕に近付いて、無理やり外へと連れ出した」

恭介「その際薬を嗅がされたみたいでね。連れ去られた間は意識が途絶えていて、何があったかは分からないけど……」

恭介「ただ、僕はそこで改造手術を受けた」

まどか「か、改造手術!?」

まどか「それって、あの、特撮ものとかでよく出てくるような……?」

恭介「正にその通り。所謂悪の秘密結社が行う、改造人間の作製だ」

恭介「そこでは僕のように改造された怪人が何人もいてね……彼等は脳を弄られ、組織に忠誠を誓わされていた」

恭介「脳の改造を施される前に脱出出来たから良かったものの」

恭介「下手をすれば、僕もその秘密結社の一員となっていただろうね」

マミ「なんて事……人間を改造するなんて……!」

まどか「ひ、酷いよ、そんなの……!」

シャル「安定のザル警備、とか言っちゃ駄目なのかしら」

ほむら「そもそも脳の改造手術は真っ先にすべきですよね」

恭介「……鹿目さん達と暁美さん達の温度差が凄まじいけど、置いておくとして」


460: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:16:07.41 ID:oaYv80Qq0


恭介「で、僕は手に入れた力を使いこうして逃げ延びた、という訳さ」

まどか「そんな事があったの……」

マミ「成程……あなたが病院に戻らないのは、その秘密結社の手が周りの人に及ぶのを避けるため」

マミ「そんな事情があったのに、無理やり連れ戻そうとしていたなんて……」

マミ「ごめんなさい、私……」

ほむら「ちなみにその秘密結社はどうなりました?」

恭介「脱出の際思いっきり基地を破壊してやったからね」

恭介「科学者連中は瓦礫の下敷で、残ったのは運の良かった数体の怪人ぐらいじゃないかな?」

恭介「その数体も、なんやかんや襲いかかってきたから全部倒しちゃった気がするし」

まどマミ「え?」

ほむら「ま、そんな事だと思っていました」

ほむら「妖精さんが関与した事案です。長続きする訳ありませんからね」

ほむら「予想通り、既に秘密結社は壊滅していましたか」

まどか「いや、あの、意味がよく分からないのだけど……」

まどか「そもそも妖精は何処にも関与していないような……」

ほむら「その確信を得るために、一つ、質問させてください」

ほむら「上条さん。あなた、あの病室で私が落とした錠剤を飲みましたね?」

恭介「錠剤? ……ああ、飲んだね。君が落とした物かは分からないけど」

恭介「あの時は色々と自暴自棄だった。正直、死にたかったんだ」

恭介「だからあの訳の分からない薬を飲んだら死ねるかと思って、ま、勢いで飲んでしまったよ」

恭介「君の薬だったのなら、申し訳ない事をしたね」

ほむら「いえ、それは別にいいんですけどね」

ほむら「とりあえず妖精さんの仕業で確定っと」

シャル「確定ね」

まどか「なんで!?」

ほむら「考えたら負けです。妖精さんだもの」

シャル「んで? 改造された経緯は納得がいくとして」

まどか「どこが!?」

シャル「細かい事は気にしない方がいいわ。妖精さんだもん」


461: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:19:50.61 ID:oaYv80Qq0


シャル「それより、じゃあアンタはなんで病院に戻ろうとしないの?」

シャル「秘密組織は壊滅。怪人も残るは僅かな残党、もしくは殲滅済み。手足の怪我は完治」

シャル「そして鹿目さん達と戦った事から、アンタは知人の身を案じているようにも思えない」

シャル「アンタはどんな目的で行動しているの?」

まどか(! た、確かに……)

まどか(組織が壊滅した以上、身の回りの人を守る必要はない筈)

まどか(なら、一体……)

恭介「……僕がなんで入院していたのかは、知っているかい?」

ほむら「? いいえ。さやかさんからも聞いていませんし……」

ほむら「鹿目さんはどうですか?」

まどか「え? えーっと、確か交通事故って……」

恭介「そう。交通事故」

恭介「あの事故によって僕は指が動かなくなった。バイオリンを弾けなくなった」

恭介「もし、あの秘密結社に攫われなければ、僕の怪我は決して治らなかっただろう」

恭介「つまりアイツは……僕を轢いたあの運転手は、僕からバイオリンを奪ったも同然なんだ……!」

ほむら「……成程。大体の事情は分かりました」

ほむら「あなたの目的は復讐ですね。その運転手に対する」


462: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:26:47.61 ID:oaYv80Qq0


恭介「ああ、そうだ! アイツに復讐するのが、僕の目的さ!」

マミ「なんて事……!」

ほむら「実にお約束な目的でしたねぇ」

ほむら「しかし誰に復讐すべきか分かっているという事は、少なくともその運転手は逮捕されているのでは?」

恭介「……そうだね。確かに逮捕されたよ」

ほむら「なら、その方への罰は法律と裁判によって定められるべきです」

ほむら「あなたの怒りはご尤もだとは思いますが……」

恭介「いいや、納得出来ない! アイツの手を、この僕みたいに動けなくしてやらなきゃ気が済まない!」

恭介「僕を轢くような運転をしたあの手を、捩じ切ってやる……ギリギリギリギリ捩じって引き千切ってやる……!!」

シャル「……アイツ、本当に脳の改造をされてないのかしら? まるっきりバーサーカーよ?」

まどか「わ、分かんない……上条くん、あんな事言う人じゃ……」

ほむら「古今東西、復讐は人を狂わせるものですよ」

まどか「そんな……」

ほむら「さて、理由は聞き出せました。その上で私の意見を言わせていただくなら」

ほむら「実に、つまらない」

恭介「……何?」

ほむら「つまらない。ああ、つまらない」

ほむら「折角手に入れた妖精さんパワーを復讐に使う? あなたは何も分かっていませんね」

ほむら「彼等の力は世界を楽しくする力です。面白おかしく使う以外には全く役立たない……最高の力です」

ほむら「あなたの方法じゃ妖精さんは活かせない。あなたは上っ面の力で満足しているだけです」

ほむら「だから、私が妖精さんの力の本質を、ほんの少しだけあなたの身体に刻み付けてあげます」

ほむら「まぁ……そのほんの少しすら、あなたには耐えられないでしょうけどね」

まどか「ほ、ほむらちゃん……?」

まどか(ほむらちゃん、なんか、凄く怖い……!)

まどか(あの歪な笑顔……何を考えているの……?)

マミ(妖精の力の本質……一体、上条くんに何をする気……!?)

シャル(つーか、今の台詞と不気味な笑みを見ていると)

シャル(上条とほむらのどっちが悪者か分かんないわね、これ)


463: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:30:28.24 ID:oaYv80Qq0


恭介「……いいだろう。妖精というのが何なのかは分からないけど」

恭介「僕が得た力の前に屈するのは君の方だと言わせてもら」

ほむら「妖精さんアイテム『遥か彼方へボール』~♪」

恭介「え、ちょ、口上ぐらいは言わせ」

――――ズギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!

恭介「うおおうっ!?」

恭介(な、なんだ今のは……ボールが凄まじい速さで飛んでいったのか!?)

恭介(暁美さんの蹴る動作で嫌な予感がして身体を逸らしたから躱せたけど……)

恭介(ボール自体は全く見えなかったぞ!?)

ほむら「このボールは軽く蹴るだけで亜光速まで加速し、大気圏を突破して遥か彼方へと飛んでいきます」

ほむら「昔、サッカーで男の子をぎゃふんと言わせたいと妖精さんに頼んだところ作ってくれたアイテムです」

ほむら「……ネットが破けるどころか余波でゴールポストが塵になりましたので、お蔵入りにしましたけどね」

恭介「あのー、亜光速って当たったら死ぬんじゃ……」

ほむら「死ぬでしょうねー、いくらあなたが頑丈でも」

恭介「ちょ」

シャル「……それで?」

シャル「ボール、彼方に飛んで行っちゃったけど、どうすんの?」

ほむら「そんな時のための『死が二人を別つまで』」

ほむら「『遥か彼方へボール』には既にこのイヤリングの片方をぷすっと刺しておきました」

ほむら「これも名前の通り――――死ぬまで、イヤリングを付けた相手と離れられなくなるアイテムです」

ほむら「で、予め対戦相手を上条さんに設定しておいた『一人用バッターさん』の耳に着けてあげて……」

ほむら「はい! 離れて!」

シャル「お、おう」

―――――……ゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!

恭介「ひゃあっ!?(は、背後からボールが!?)」

恭介(そ、そしてボールがバットを持った人形の元に向って)

―――――カッキーン!

恭介(あ、打った)

恭介「そんでもってあの人形が打ったボールが飛んできひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」


464: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:35:19.16 ID:oaYv80Qq0


まどか「か、上条くん、打たれたボールは躱したみたいだけど……」



恭介「ふぁっ!?」ギューン
恭介「ふぃっ!?」カキーン
恭介「ふぅっ!?」ギューン
恭介「ふぇっ!?」カキーン
恭介「ふぉっ!?」ギューン



まどか「……打たれたボールが亜光速で飛んでいって、」

まどか「飛んでいったボールは猛烈なスピードでバッターさんの人形に戻る」

まどか「その軌道の真ん中に立つ上条くんは当然前後から飛んでくるボールを回避しないといけない訳で」

まどか「弾道と弾丸は一つずつなのに、上条くん、戦場の真ん中なのかってぐらいの猛攻を受けてる……のかな?」

ほむら「あとは上条さんが疲労困憊になるまで待つとしましょう」

まどか「……あの攻撃って、当たったら死ぬボールに命中するまで終わらないんじゃ……」

ほむら「実際には命中した後も続きますけどね。二・三発多く撃ちこむのは誤射のうち」

ほむら「それにさっきは当たったら死ぬと言いましたけど、妖精さんアイテムです。当たり所が良くて助かる事になる」

ほむら「……筈」

まどか「今筈って言った? 筈って言ったよね?」

ほむら「何分妖精さんが近くに居ないので、事故が起きないとも限らないんですよねぇ」

ほむら「まぁ、万一が起きても大丈夫ですよ」

ほむら「死者蘇生は妖精さんパワーでも無理ですけど、死んでさえいなければなんとかなりますからね」

ほむら「運悪く頭がぽーんっと吹き飛んでも、心臓が動いている間は生きてる範疇です」

ほむら「『万能時計』で時を止めつつ、家に持ち帰れば治療可能ですよ」

ほむら「……最悪死んでも、記憶を再現した”模造品”なら作れますし、安心安心」

まどか「怖いから!? 色々と怖いからそれ! そして何一つ安心出来ないから!?」

ほむら「個人を確定するものは、魂でも肉体でもなく、その人の考え方である。私はそう思います」

まどか「そういう哲学的な話じゃないよねコレ!?」

マミ「あの、それより……上条くんが……」

まどか「え?」


465: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:38:10.19 ID:oaYv80Qq0



恭介「はっ!」
恭介「ふっ!」
恭介「ほっ!」



まどか「今も必死に避けてるだけにしか見えませんけど……」

ほむら「……ん? あれは……」

シャル「ああ、成程……これは……」

マミ「……あなた達は気付けたみたいね」

まどか「え?」

マミ「ほら、よく見て」

マミ「上条くん……さっきと違って、声と表情に余裕が戻っているわ」

まどか「え、えっ?」

ほむら「これは……不味いですね……」

ほむら「恐らく上条さんは、バッターさんの動きを見切っています」

まどか「ど、どういう事?」

ほむら「確かにバッターさんは素晴らしいバッターですが、基本的には単純な打ち返ししかしません」

ほむら「そして戻ってくる『遥か彼方へボール』は、イヤリングの効果で最短距離……つまり直線でしか動けない」

ほむら「それら全てを把握したなら、例え光の速度の攻撃でも弾道が読めるという訳です」

ほむら「無論常人にはそんな事が分かったところでどうにも出来ませんが」

ほむら「しかし超人と化した上条さんには、それらを同時に把握する事も可能なのでしょう」

ほむら「どうやら……速いだけの攻撃では、彼を止められないようですね」

恭介「そういう事、だっ!」

まどか「ああっ!? バッターさんが壊され……」

――――ギュウウウウウウウウウウウウウン!

恭介「これで終わり、と」

マミ「背後からのボールも躱された……!」

恭介「さあ、次は僕の番だね」

恭介「生身だから手加減はしてあげるけど――――」

恭介「多少の怪我は許してくれよ?」

まどか(! か、上条くんがこっちにきて――――)

ほむら「シャルロッテさん、『何処までもドア』を開けてください」

シャル「え? ああ、この小箱だっけ?」

シャル「えーっと、開けるとどうなるの?」パカ


466: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:41:21.82 ID:oaYv80Qq0


――――ズ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

シャル「ちょ、なんか吸い込まれ……」

――――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

シャル「吸いこ、ま、まままままままっ!?」

シャル「まああああああああああああああああああああああああああああっ!?」シュポンッ

まどか「ああ!? ま、魔女が小箱に吸い込まれ……?!」

マミ「え、何? 何?」

恭介「な、なんか風とかそんなんじゃなくて身体が吸い込まれる……!?」

まどか「というか吸引力強過ぎない!? 身体が浮くんだけど!?」

マミ「きゃあああああああああっ!? きゃ、きゃああああああああああああっ!?」←リボンで身体を固定している

恭介「なんじゃこりゃああああああああああああ!?」

ほむら「『何処までもドア』。開けると物体をなんでもかんでも吸い込み、内部に取り込む小箱」

ほむら「内部は無数のドアがひしめくだけの世界となっています」

ほむら「そしてドアの向こうもまた、同じくドアだけの世界」

ほむら「外から干渉する術はないので、中に吸い込まれた物は永遠に出てこれません」

ほむら「妖精さんも自分達の技術で脱出出来たら面白くないので、そこは徹底してあります」

ほむら「要注意♪」←ちなみにしっかり物陰に退避している

マミ「要注意じゃないわよ! 物騒過ぎるでしょそれ!?」

マミ「というか今魔女吸い込まれたわよ!? 自分の味方も吸い込まれてるんだけど!?」

恭介「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」

まどか「嫌ああああああああああああああ! 死にたくないいいいいいいいいいいいいいいいい!」

ほむら「あ、大丈夫ですよ。中は時間が止まっているので、何があろうと死にませんし、自殺も出来ませんから」

恭介「最悪じゃねえか!?」

マミ「よ、よわーく、よわーく銃を生成して……壊れたら何が起きるか分からないから兎に角よわーくして……」

マミ「発射っ!」パンッ バチンッ!

ほむら「あら、タヌキ先輩が小箱の蓋に攻撃を当てて、閉じてしまいましたか……」

マミ「片付けなさい! すぐに片付けなさい! 今すぐ片付けなさあああああああああああああああいっ!」

ほむら「むぅ。分かりましたよぅ……」

ほむら「実際には過去に戻ってこの出来事を無かった事にすれば救出可能なのに……」

マミ「意味分からないから!?」

恭介「い、今のは本気で死ぬかと思った……」


467: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:44:41.99 ID:oaYv80Qq0


恭介「で、でもそれが使えない以上、やはり僕の勝機は揺らがない!」

恭介「次こそは君に打撃を与え」

ほむら「『お天気従わせる下駄』~♪」

恭介「まだあるの!?」

ほむら「えー、下駄を履いて」

ほむら「あーした天気になーれ♪」

まどか(? あれって下駄占い?)

まどか(あ、下駄が落ちた……って、なんか踵の部分で立ってるし。ちょっとそれは不自然過ぎる立ち方じゃ)

――――ピシャアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

恭介「あびばばばばばばばーっ!?」

まどか「か、上条くんに落雷がああああああああああああっ!?」

ほむら「いえーい♪ 運よく一発で雷になりましたーっ♪」

マミ「ど、どういう事?」

ほむら「この下駄はお天気を操作してくれるアイテムです」

ほむら「使い方は普通の下駄占いと同じく、履いた奴をぽんっと投げてやるものでして」

ほむら「表向きなら灼熱地獄級の晴れ、裏向きならゲリラ豪雨並の大雨」

ほむら「表が右を向く横向きは首都機能停止レベルの大雪、左を向くと視程一メートル未満の濃霧」

ほむら「そして踵で立てば落雷、つま先部分で立てば竜巻が発生するのです。
    踵とつま先と横向きは妖精さん的オリジナル要素ですね」

ほむら「妖精さんの科学力なら天気を当てるぐらいお茶の子さいさいですけど」

ほむら「必ずお天気を当てるのではなく、出た結果にお天気を従わせる」

ほむら「その方が面白いので、そういう機能を付けたそうですよ」

マミ「て、天候操作……なんて力なの……!」

マミ「というかなんかどれが当たっても災害レベルじゃない!?」

ほむら「だって普通に晴れても面白くないですし……」

マミ「面白いかどうかで災害を起こさないでよ!?」

ほむら「長続きしませんから死人は出ませんよ。それより……」

恭介「けふけふけふ……」

ほむら「上条さんはもう大分へたれた様子」

ほむら「止めのもういっぱーつ♪」

まどか「……あ、下駄が裏返しに落ちた」

――――ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

マミ「……ゲリラ豪雨並の大雨ね」

マミ「私達も巻き込まれるぐらい広範囲に降り注ぐ」


468: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:48:13.13 ID:oaYv80Qq0


ほむら「まぁ、一応占いですからね……毎度毎度雷は出ませんよ」

まどか「あの、だったら下駄を踵で立たせればいいんじゃ……」

ほむら「そんなの面白くないでしょう」

ほむら「ちゃんと下駄占いをしないと機能しないように出来ているんですから」

まどか「えー……というか、蹴り上げた下駄が踵で止まるって滅多にないような」

ほむら「まぁ、そこはちゃんと占いとしての機能を持たせるべく」

ほむら「確率はきっちり六等分。不思議な止まり方もサイコロよろしく確率通りに出ますので安心を」

まどか(それって竜巻とか灼熱地獄も六分の一の確率で起こるって事じゃ……)

ほむら「そーれもういっぱーつ♪」

まどか(と、兎に角、今度こそ……!)

まどか(やった! 踵で止まった!)

まどか(今度こそ落雷で上条くんを止められ)

――――ピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

マミ「げろっぱああああああああああああああああっ!?」

まどか「って、マミさんに命中したああああああああああああああああああ!?」

ほむら「雷ですからねぇ……何処に落ちるか分かりませんし」

マミ「」プスプス

まどか「あああ……ま、マミさんが戦闘不能に……」

まどか「ぼ、ぼぼぼ、没収ーっ!」

ほむら「あらららら……」

まどか「つ、次いこ次!」

まどか「上条くんはまだ口から煙を吐いてるし、ここは一気に畳み掛けて」

ほむら「もう無いです」

まどか「……え?」

ほむら「ですから、もう攻撃に使えそうなアイテムは無いんですよ」

ほむら「流石に知恵の輪とお面ではどうにも出来ませんし、ホイッスルは私の身が危険ですし……」

まどか「え、ええええええええええええええええええっ!?」

まどか「どうすんの!? どうすんの本当に!」

まどか「このままじゃ――――」



恭介「このままじゃ上条くんが回復しちゃう、かな?」



469: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:54:53.95 ID:oaYv80Qq0


まどか「なっ……嘘、もう……?!」

ほむら「流石改造人間。落雷一発程度のダメージは即座に回復しますか」

恭介「いや、まだダメージはかなり残っているさ……でも、君達を倒すには十分だ」

恭介「どうやらあの不思議な力はもう使えないみたいだからね……」

恭介「今度こそ、勝たせてもらうよ」

まどか「くっ……!」

恭介「鹿目さん……無駄な事は止めないか?」

恭介「君の攻撃力じゃ僕には傷一つ付かない。つまり、僕がいくら消耗していても君に僕を倒せる道理はないんだよ」

まどか「それでも、それでも私は……!」

ほむら「はいはーい。隙あらばシリアスを挿もうとしないでくださーい」

まどか「ほ、ほむらちゃん……何時までもふざけてないで……」

ほむら「今ふざけないで何時ふざけるんですか」

ほむら「それに――――今度こそ妖精さんパワーを最大限発揮出来るんですよ」

まどか「え……?」

恭介「何?」

ほむら「妖精さんパワーは何も発明品だけではありません」

ほむら「むしろその神髄は、世界が愉快になる事。お伽噺のように楽しく、漫画のように激しく現実を変えてしまう」

ほむら「つまり、フラグの回収です」

ほむら「道具は使い果たしました。タヌキ先輩は倒れ、シャルロッテさんは小箱に閉じ込められてしまいました」

まどか「あの、それ全部ほむらちゃんの所為じゃ」

ほむら「今や私は一人。そして戦う力は残っていません」

まどか「また無視された!? というか私戦力外扱いなの?!」

ほむら「ですが、それがいい」

ほむら「”さやかさんが何処かに行っている状態で”こうなっているのが良い!」

ほむら「”ピンチの時に颯爽と助っ人が来る”のにこれほどいいタイミングはありません!」

恭介「さっきから一体何を言って――――」


―――― ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……


恭介「? なんだ、この地鳴りのような……」

恭介「海から聞こえてくる……っ!?」

まどか「何、何なの……!?」

ほむら「うふふ。やはりさやかさん行方不明イベント、そしてあの時聞いた”怪しい爆音”はフラグでしたねぇ」

ほむら「思わせぶりなハッタリを言った途端これ」

ほむら「これです。これでこそ妖精さん。これでこそ――――100fの出来事ですよ」

恭介「どういう事だ!? 100fってなんの事……」

恭介「い、いや!? それよりも、う、海が盛り上がって」

恭介「何か、出る!?」


470: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 10:55:38.21 ID:oaYv80Qq0





巨大さやか『ふん、ぬっ、ばああああっ!』





471: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 11:03:45.41 ID:oaYv80Qq0


恭介「な、なんだコイツ!? 海から怪獣が現れ――――」

ほむら「どーも、さやかさん」

まどか「さ、さやかちゃんっ!?」

恭介「えええええええええええええええええええええええええええっ!?」

恭介「あれがさやか!? いくらなんでもデカ過ぎないか!?」

恭介「そりゃ面影がないとは言えないけどやっぱりデカいし、色もなんか黒光りしてて正直キモ」

巨大さやか『よっこら』

恭介「あれ、なんでさやかの右手が僕に迫って」

巨大さやか『しょ』

恭介「ぷっちーん!?」ズシンッ!

ほむら「まるで地べたを這いずる虫のように、上陸するため付いたさやかさんの手に運悪く叩き潰されてしまいましたね」

ほむら「というか、さやかさん。なんで海から現れたんですか?」

巨大さやか『好きで海から来たんじゃないから!!』

巨大さやか『ほむらが投げたダーツで吹き飛ばされた後、あたしは空の彼方まで飛んでいき……』

巨大さやか『偶々近くを通りかかった飛行機に、持っていた妖精さんアイテムのトリモチが付着』

巨大さやか『しかもうっかり手にトリモチを着けちゃったばかりに』

巨大さやか『時速1000キロの突風を浴びても飛行機から振り落とされず!』

巨大さやか『寒いわ痛いわ息出来ないわ! 危うく死ぬところだったんだよ!?』

巨大さやか『そんでもって猛風の中で指輪が外れてあたしは巨大化』

巨大さやか『トリモチも流石に支えきれなくて飛行機から剥がれ、そのまま海に落下だよ!』

巨大さやか『高度一キロ近い場所から落ちたよ! 生身だったら死んでたよ!』

ほむら(ああ、あの爆音はさやかさんが海に落ちた音でしたか)

巨大さやか『んでもって泳いでここまで来たんだよ!』バン!

まどか「うひゃあ!?(じ、地面を叩いただけで地震が……!?)」

ほむら「それはまた……面白い経験をしましたね♪」

巨大さやか『お・も・し・ろ・く・ないわーっ!』バンバンバンバンッ!

まどか「さ、さや、かちゃ、地面を叩くと、じ、地震がーっ!?」

ほむら「ちなみに私は妖精さんアイテムがあるので、地震は全然平気ですよー」

まどか「ズルい! もう何もかもがズルい!」


472: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 11:09:01.28 ID:oaYv80Qq0


ほむら「それはさておき、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

巨大さやか『何!?』

ほむら「トリモチがくっついた方の手って、右手じゃありませんか?」

巨大さやか『あん? ……よく覚えてないけど、それが何?』

ほむら「右手を見れば分かるかと」

巨大さやか『右手って、一体何が……』



恭介「」ピクピク



巨大さやか『きょ、恭介ええええええええええええええええええええええええええっ!?』

ほむら「トリモチが残っていた方の手で叩かれて、上条さんくっついちゃったみたいですね」

ほむら「で、それに気付かず何回も右手を地面に叩きつけてしまった、と」

ほむら「……死んではいないでしょうけど、全身複雑骨折程度で済んでいるといいですねぇ……」

まどか「……あのー……というかこれって、解決したって言うのかな?」

まどか「なんというかシリアスは何処に」

ほむら「考えるな、感じろ!」

まどか「……あともう一つ」

まどか「さやかちゃん登場であっさり解決って事は、私達と上条くんの戦いって」

ほむら「大変だったでしょう。得る物は多かったでしょう。失った物も多かったでしょう」

ほむら「だが無意味です」

まどか「」パタリ

ほむら「あ、鹿目さん倒れちゃった」

巨大さやか『きょおおおおおおおおうすけええええええええええええええええええええええっ!!!?』

ほむら「さやかさーん、いい加減五月蝿いですよー」


473: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 11:10:19.14 ID:oaYv80Qq0


――――こうして、上条さん行方不明騒動は幕を閉じました。


病院に連行した時、上条さんは全身複雑骨折+内臓破裂+皮下出血多数という素敵な状態でしたが、そこは改造人間。

たった一晩で全ての怪我から回復し、二・三日後には学校に通える事となりました。

上条さんの怪我を診察した先生は「奇跡や魔法じゃなくて、ジョークを見ているようだった」と言っており、

細胞サンプルが取りたいと言っていました。……第二第三の上条さんが現れない事を祈るばかりです。


まぁ、結果的に上条さんの怪我は治った訳ですので一件落着。

真面目だったり辛気臭かったりもしましたが、最後はそこそこ楽しめました。


――――明日は、どんな楽しい日になるでしょうかね……。




追記

家に帰った後シャルロッテさんを『何処までもドア』から救出したら、マジ泣きしながら叩かれました。
痛かったけど、可愛かったです。


474: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 11:11:37.41 ID:oaYv80Qq0








































        ―――― 時は少し遡り、上条恭介が戦闘不能に陥ってから五分後 ――――


               ―――― 見滝原電波塔 先端部分 ――――



475: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 11:14:26.98 ID:oaYv80Qq0


赤い髪の少女「……………」

QB「やあ、佐倉杏子。待たせてしまったかい?」

赤い髪の少女(杏子)「おっせーよ。そっちから呼び出したくせに」

QB「すまない。緊急で観測しておかなくちゃいけない事例が発生してね」

QB「お詫びとして、グリーフシードを一つ君に渡そう」

杏子「何? なんでお前がグリーフシードを持って……」

QB「最近死んでしまった魔法少女がいてね。勿体無いから回収しておいたんだ」

杏子「……どういう風の吹き回し? 何を企んでいるのさ?」

QB「別に企んではいないよ。あくまでお詫びさ」

QB「それに、君に頼みたい事があるからね」

QB「僕らに対価の前払いという文化はないけど……君達人間は、それが好ましい事だと思っているんだろう?」

杏子「時と場合と相手と頼む内容による」

QB「そういうものなのか。覚えておこう」

QB「話が逸れたね。本題に移ろう……とは言っても、そう難しい話じゃない」

QB「君にはこの街の魔法少女と協力し、ある魔女とイレギュラーの排除を頼みたい」

杏子「……何?」

QB「この街の魔法少女はここ数日間特定の魔女と戦っているんだけど、未だ撃破には至ってない」

QB「その原因は魔女自身ではなく、魔女と行動を共にしている一人の人間によるものなんだ」

杏子「人間が魔女と行動を? 意味分かんないんだけど」

QB「僕にも詳細は分からない。ただ、その人間は魔女や使い魔を保護するような行動を見せている」

QB「もしかすると、君が放置しておいた魔女も保護してしまうかも知れない」


476: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 11:17:34.34 ID:oaYv80Qq0


QB「そうなるとグリーフシードの入手は困難になるだろう。僕にとっても、魔女が倒されないのは都合が悪い」

QB「この街の魔法少女は魔女と使い魔の両方を狩るから、君の方針とは反するだろうけど……」

QB「今回の状況を加味すれば、協力体制を築くのは不可能ではない筈だ」

QB「君がYESと答えてくれれば、僕がこの街の魔法少女との仲介役を担う」

QB「だからこの街の魔法少女二人と協力し、イレギュラーの排除を行ってくれないかな?」

QB「難なら僕からの報酬としてグリーフシードを、そうだね、二つあげようか」

QB「どうかな? 協力してくれないかい?」

杏子「……やけに積極的じゃないか。普段はグリーフシードの回収と勧誘の時ぐらいしか顔を見せない癖に」

杏子「しかもグリーフシードを付ける? 今まで駄目元で頼んでもくれた事なんてないのに」

QB「それだけ今回の事態がイレギュラーであり、解決しなければならない案件という事さ」

杏子「あともう一つ質問だ」

杏子「テメェ――――”あたしの知っている”キュゥべえか?」

QB「……質問の意図がよく分からないのだけど?」

杏子「惚けるな」

杏子「この街にいる二人の魔法少女のうち、少なくとも一人はあたしの知り合いだ」

杏子「そしてそいつはもう三年も魔法少女をやっているベテラン中のベテラン」

杏子「なのにテメェはさっきからこの街の魔法少女としか言わない。巴マミ、という名前を一度も出さない」

杏子「あたしとマミが知り合いだって知っていれば、出さない訳がねぇ」

QB「……ふむ。データ通り、中々の洞察力を持っているようだね」

杏子「何?」

QB「君の予想通りだ。確かに僕個人と君、そして僕とこの街の魔法少女には面識がない」

QB「僕も”キュゥべえ”ではあるけど、君と契約した個体ではないのさ」

QB「実を言えばこの辺りの区画を担当していた”前任者”が訳あって解任されてね」

QB「僕は君達人間の言葉で言えば、最近になって配属された新人なんだよ」


477: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/11(火) 11:19:49.80 ID:oaYv80Qq0


杏子「なんで今まで黙っていた?」

QB「……別に、言っても言わなくても問題はないと思ったからね」

QB「君達魔法少女の情報の引き継ぎは行えたし、人間に対する学習も済ませている」

QB「日常のコミュニケーションに多少の齟齬が生じる事は否定出来ないけど……」

QB「君達のフォローは今までどおりに行えるのだから、僕が以前と同じキュゥべえかどうかなんて些末な問題だろう?」

杏子「……………」

杏子「やっぱりテメェは信用出来ないな。手を組むのはなしだ。グリーフシードも、今はいらない」

QB「そうかい。それは残念だね」

杏子「だけど」

杏子「そいつがあたしの縄張りに入るのは、ちょいとウザいねぇ」

QB「……ま、僕は基本的に魔法少女の活動には関与しないからね。好きにすればいいよ」

杏子「ふふん。マミは甘っちょろいからね……この街では好き勝手出来ているかもだけど」

杏子「もしあたしの縄張りでも同じ事をしようとしたらどうなるか」





杏子「かるーくぶっ潰して、思い知らせてやらないとね?」





499: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:03:24.67 ID:WkOubGLx0


えぴそーど じゅーに 【ほむらさんの、ひがえりけっかいめぐりのたび】


500: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:05:26.84 ID:WkOubGLx0


―― PM12:30  見滝原中学校 二年生教室 ――




ほむら「なんやかんや、私達って全然魔女さんと会ってないと思いませんか?」




さやか「……え?」

シャル「はい?」

ほむら「ですから、シャルロッテさん以外の魔女さんと会ってないと言ったんです」

ほむら「確か当初は色々な魔女さんと出会い、そして絶望から救い出す事が目的だった筈」

ほむら「なのに私達はこの一週間近い間、ずっと遊んでいたではありませんか!」

さやか「……あー、まぁ、そういやそうだけど……」

シャル「大体アンタの所為じゃない? 地底探検にしろお悩み相談にしろ上条行方不明騒動にしろ」

シャル「そーいや上条の奴はまだ休みなのね」

さやか「うん。でもまぁ、色々あったけど元気になったみたいだし」

さやか「今週中にはまた登校出来るみたい」


501: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:07:26.14 ID:WkOubGLx0


さやか「……えへへ。また一緒に学校に来れる……♪」

シャル「おや? 恋する乙女の笑いですかな今のはぁ?」

さやか「あ、分かる?」

シャル「うわ、コイツもう隠そうともしないわ……面白くない」

さやか「面白くなくて結構。アイツを好きだって言える事を、あたしは誇りに思うね」

シャル「うわぁ、駄目。口の中が甘ったるくなってきた……口直しにほむらのお弁当のおかず、一つ貰うわね」

ほむら「ちょ、私の唐揚げ取らないでくださいよ!?」

ほむら「というかシャルロッテさんのお弁当はちゃんと作ってあげたじゃないですか! そっちを食べてくださいっ!」

シャル「それはもう食べちゃった。アンタ達がお昼前の授業に勤しんでいる間に」

シャル「でもほむらのお弁当って美味しいからあれだけじゃ足りないのよねぇ……卵焼きもいただきっと」

ほむら「あーっ!?」

さやか「つーか、シャルちゃんなんで学校に来てんの?」

さやか「魔女たる私は授業なんか受けないって言ってたくせに」

シャル「そ、それは……ほら、あれよ、その……」

シャル「一人で留守番とか退屈だし、魔法少女に襲われないとも限らないし」

シャル「だから、昼休みとかはアンタ達と一緒に過ごそうってだけ。それだけよ……うん」

さやか「ほほーう?」

ほむら「もー、本題から逸れてますよ! あとシャルロッテさんはこれ以上私のお弁当を盗らないでください!」

シャル「つーん」

さやか「ああ、悪い悪い」

さやか「で、まぁ、あれだ。つまりこの前みたいに今日は放課後魔女の結界探しをするって事?」

ほむら「……ええ。お二人とも、特にご予定がないのなら一緒にどうでしょう?」

シャル「私に予定なんてある訳ないでしょ。そもそも私が居ないとアンタ達に結界の探知は出来ないでしょーが」

さやか「あたしも今日は特に予定なし。恭介のお見舞いも必要なくなったし」

ほむら「では、放課後は早速魔女さん捜索と行きましょう」

ほむさや「おーっ♪」

シャル「ブロッコリーいただき」

ほむら「あーっ?!」

さやか「……流石にもう勘弁してやれよ」

\ワイワイキャッキャ/



まどか「……………」



502: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:09:23.56 ID:WkOubGLx0


まどか(魔女が普通に学校に来ている……)

まどか(クラスのみんなと打ち解けているのは……まぁ、もうこの際どうでもいいとして……)

まどか(暴れる訳でもなく、かと言ってほむらちゃんに従属している風でもない)

まどか(対等に、普通のお喋りを楽しんでいる感じ……)

まどか(それこそ、友達みたい)

まどか(……キュゥべえは、魔女は呪いを振りまく存在だって言ってた。人の危害を加える、悪い奴だって)

まどか(でも、あの魔女は……もう悪者には、見えない)

まどか(今までも、彼女は私達と戦おうとしていない。むしろ私達を助けてくれる事もあった)

まどか(上条くんだって助けてくれた。ほむらちゃんと私達の間を取り持つ事もあった)

まどか(あれは全部演技なの? それとも本当は、魔女と人間は分かり合える関係だったの?)

まどか(もしかして――――)



            ――― どうせ二人とも××になるんだから ―――――



まどか「――――っ!」

仁美「あら? ……ま、まどかさん?!」

仁美「どうしたんですの? 顔が真っ青に……」

まどか「仁美、ちゃん……あの、ちょっと体調が悪くて……吐き気がしただけで……」

仁美「大変! 保健室に行きましょう。わたくしが肩を貸しますから」

まどか「へ、平気だよ……大丈夫……自分で行けるから……」

仁美「ですが……」

まどか「このぐらいなら、ちょっと横になれば平気……うん、平気」

まどか「保健室ぐらいなら一人で行ける」

まどか「それより仁美ちゃんは、さやかちゃん達のとこに行きなよ。あっち、かなり盛り上がってるよ」

仁美「……いえ、やはり一緒に」

まどか「大丈夫だから!」

仁美「っ!?」

まどか「あ……ご、ごめん……あの……」

仁美「……すみません。何度もしつこく言ってしまい……」

まどか「ち、ちが……そうじゃなくて……」

仁美「あの、わたくし……あちらに行きますわね……その、お大事に……」

まどか「あ……」

まどか「……」

まどか「保健室、行って……寝よう……」

まどか「……一人、で……」


503: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:12:15.87 ID:WkOubGLx0


              ―― 時は流れて、放課後 ――

               ―― 見滝原 路地裏 ――



ほむら「はい! そんな訳でやってきました路地裏!」

さやか「はい! そんな訳でやってきたぜ路地裏!」

シャル「やってきちゃったわねぇ、路地裏」

ほむら「もー、シャルロッテさんったらテンション低いですよ?」

ほむら「もっと明るく楽しくやっていきましょうよー」

シャル「魔女の結界って、そんな楽しげハイテンションで行くもんじゃないんだけど」

さやか「どの道楽しくなる以外の展開はないだろうから、そこそこ上げといた方がいいとあたしは思うけど」

シャル「……うん、まぁ、うん。そうね。今更だったわね」

ほむら「さやかさんの言うとおりですよー」

ほむら「さて、昨日は妖精さんアイテムが少なくてちょっと苦戦を強いられました」

さやシャル(お前は何一つ苦労してないだろ……)

ほむら「という訳で、今回は妖精さんアイテムがすぐに使えるよう準備として……」

ほむら「こちらの『つながり袋』で、我が家にあります妖精さんアイテムの保管庫と次元連結」

ほむら「無尽蔵に妖精さんアイテムを使えるようにしてあります」

ほむら「ま、妖精さんがいる時点で杞憂だとは思いますが、念のためって事で」

さやか「ほむらってばちょー頼もしい」

シャル「本当に頼もしいわねぇ……巻き込まれなければ、だけど」

ほむら「まぁ、肝心な時に限って役立たないと思いますけどね」

さやか「へ?」

ほむら「こちらの話です。その時が来たらお話しますよ」

シャル「……そろそろ本題にいこうかしら」

シャル「あちらにある不思議な歪みが見えるかしら?」


504: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:15:43.29 ID:WkOubGLx0


ほむら「見えますね。なんか水あめでも流したみたいにぐにゃぐにゃしてます」

さやか「あるって言われてから凝視して、ようやく見える薄さだけどね」

シャル「あれが魔女の結界よ。魔法少女の素質があっても、見え方としては大体そんなものね」

シャル「本来はソウルジェムで探知するから、ハッキリ見えなくても問題はないんだけど」

シャル「で、どうなの? 早速突入しちゃう?」

ほむら「しちゃいましょー」テクテク

さやか「そしてなんの躊躇いなく突入するほむらであった」

シャル「アンタ、誰に言ってんの?」


――――グニャアアアアア……


ほむら「おお、景色が変わりました。これは……薔薇、でしょうか?」

シャル「薔薇好きの魔女の結界かもね。だとしても、ちょっと多過ぎる気もするけど」

さやか「だねー。かなり歩き辛い」

さやか「ん?」

ほむら「おや、薔薇の隙間から髭を生やした奇抜な原住民さんが……」

シャル「この結界の魔女の使い魔ね」

アントニーA「ヤー! サー! ヤー!」

アントニーB「ヤー!」

ほむら「なんか薔薇の肥料にしてやるからお前ら殺すって言ってますね」

さやか「お、久々に活躍したね。翻訳眼鏡」

シャル「……鋏をシャキシャキ鳴らしながら接近中のバケモノを前に、滅茶苦茶冷静よね。私達」

さやか「地底の魔王とか空間崩壊に比べりゃ温い温い」


505: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:18:59.58 ID:WkOubGLx0


ほむら「さてと。では、妖精さんかもーん」

妖精さんA「はいほー」
妖精さんB「おっはー」
妖精さんC「よびりーん」

さやか「お約束のように、ほむらの耳から妖精さんが出てきたね」

シャル「今日はちゃんと連れてきたのね」

ほむら「ええ。作業からあぶれて退屈していた妖精さんを三人頭の中に入れておきました」

ほむら「……私の思い出が余程愉快だったのか、なんか数百人ぐらいまで増えてますけど」

さやか「最早何も怖くない」

シャル「むしろほむらが怖いわね。大変な事にならなきゃいいけど」

ほむら「それは保障出来ませんので、何かが起こる前に事を済ませるとしましょう」

ほむら「えー、使い魔さん。魔女さんの元に連れて行ってくれませんかね? ちょっとお話がしたいのですが」

アントニーA「ヤー!」

ほむら「いや、殺すじゃなくて」

アントニーB「ヤー!」

ほむら「死ねと言われて死ぬ人はそういませんから」

アントニーC「ヤー!」

ほむら「……妖精さんアイテム『執事化光線銃』~」シビビビビビビ

アントニーA・B・C「ヤッバーダーッ!」

さやか「いきなりの光線銃シリーズである」

シャル「話し合いと言って十秒と経たないうちにこれよ……」

シャル「……で、だ」

アントニーA「失礼しました、お客さま」

アントニーB「お嬢様との面会ですね」

アントニーC「只今よりお嬢様に確認してまいります」

シャル「……なんかお髭使い魔が、スーツ姿の美形男子になったんだけど」

さやか「あ。あの子、成○くんに似てる。あっちはジャニーズの櫻○くん似だー」


506: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:19:56.24 ID:WkOubGLx0


ほむら「これは撃たれた生き物を紳士的な外見と性格にしてしまう、なんとも恐ろしい兵器なのです」

シャル「確かに恐ろしいわね。色々な意味で」

シャル「つーか、何? あんたけっこーな面食いだったりするの?」

ほむら「別にそんな事はないと思いますけど」

ほむら「そもそもこの銃、私が作ってくれって頼んだ訳ではありませんし」

シャル「ん? 妖精さんが勝手に作ったって事?」

ほむら「いえ、姉さんが妖精さんに頼んだようです」

シャル「……あのお手伝いさんが?」

ほむら「はい。普段は姉さんが大事に持っているんですけど、今日はなんかテーブルに置いてあって」

ほむら「色々便利なのは間違いないので、勝手に拝借しちゃいました♪」

シャル「……さいですか」

アントニーC「面会の意思を確認しました。どうぞ、こちらに」

ほむら「では、お邪魔しまーす」

さやか「お邪魔しまーす」

シャル「あー、平和だわー」


……………

………




507: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:22:38.50 ID:WkOubGLx0


アントニーA「こちらがお嬢様の部屋となっております」

ほむら「はい、ありがとうございます♪」

ほむら(部屋と言っても、単に空間の境目のようにしか見えませんけどね……)

アントニーB「では、ごゆるりと……」

ほむら「案内ご苦労さまです」

ほむら「さて。それでは魔女さんを絶望の中から救出しましょー」

さやか「おーっ!」

シャル「そういやさ、どうやって魔女の絶望を打ち消すの?」

シャル「正直、私自身どうして今みたいに穏やかな気持ちになったのか分かんないんだけど」

さやか「え、そうなの?」

シャル「なんつーのかなぁ……しらけるというか、飽きるというか」

シャル「一気に、だけど気付かないぐらい自然に冷静さが戻っていたのよねぇ」

シャル「でも、あん時のアンタら特に道具とか使ってないわよね? だからどうしてなのかなーって思って」

シャル「それともこっそりなんか使っていたの?」

ほむら「いえ、私は特に何もしていませんよ?」

ほむら「妖精さんはどうですか?」

妖精さん「それ、たぶんぼくらでは?」

ほむら「おや、妖精さんが何かしていたのですか」

妖精さん「ぼくらいると、ぜつぼーにげにげしてしまうのでー」

ほむら「絶望が逃げるのですか?」

妖精さん「だからぼくら、ぜつぼーてきなものつくれませぬ」
妖精さん「ざいりょーないと、むのーです」
妖精さん「……みすてます?」

ほむら「あら。そんな事しませんよ? 例え無能でもちゃんと構ってあげますから」

ほむら「ほら、お腹こちょこちょ~♪」

妖精さん「あ、ひゃ、あひひひひーっ!」

シャル「……楽しんでいるところ申し訳ないが、何を言ってるのかサッパリ分かんないわ」

さやか「あたしは最近少しだけ分かるようになってきたよ」

シャル「マジで!?」

さやか「うん。フィーリングとノリで」

ほむら「はいはい。お二人とも、立ち話はそれぐらいにしましょう」

ほむら「折角お招きいただいたのですから、お嬢様を待たせてはいけませんよ?」

さやシャル「ほーい」


508: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:24:34.22 ID:WkOubGLx0


ほむら「あ、そうだ。皆さんに翻訳眼鏡をお渡ししておきますね」

さやか「あいよー」

シャル「なにこれ? 掛ければいいの?」

ほむら「それで大丈夫です」

ほむら「では、今度こそお邪魔しまーす」


――――グニャアアアア……


ほむら「んーっと、何処に……あ、いましたいました」

ほむら「なんか頭の部分がドロドロしていて、背中に蝶の翅が生えている……」

ほむら「変わった姿の方ですね」

シャル「魔女は大体あんなもんよ。自分で言うのも難だけど、私の姿ってけっこーマシな部類だから」

さやか「へー」

魔女【あ、あの、どちら様でしょうか……?】

シャル「うおっ!? な、なんか台詞が眼鏡の下に字幕で現れてる……これが翻訳かぁ……」

ほむら「どうもこんにちはー。私は暁美ほむらと申します」

ほむら「あなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」

魔女【え、えっと……げ、ゲルトルートと言います……】

魔女(ゲルト)【あれ? なんで普通に会話……あれ? ええっ?】

ほむら「ゲルトルートさん。カッコいい名前ですね」

ほむら「えー、今日こちらを尋ねたのは色々とお話ししたい事がありまして」

ゲルト【お、お話、ですか?】

ほむら「とはいえ時間もあまりないので手短に言いますと」


――― かくかくしかじか ――――


ほむら「という訳なのですが、どうでしょう?」

ゲルト【そんな……人間に戻れるなんて……!】

ゲルト【ほ、本当なのですか!?】


509: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:26:27.78 ID:WkOubGLx0


シャル「証拠は一応この私。魔力の形で信じてもらえないかしら?」

ゲルト【! た、確かに……あなたの魔力は、魔女のそれ……】

ゲルト【あなた達は、一体……】

ほむら「凄いのは私達ではなく、彼等ですよ」

妖精さんA「いま、ほめられた?」
妖精さんB「でもまだなにもしてないのでは?」
妖精さんC「おもいあたるふしなし」
妖精さんD「きおくにございませぬ」

ゲルト【そ、そうなの……】

ゲルト【あの、疑う訳じゃないけど……本当に彼等があなたを……?】

シャル「姿はあんなだけど、実力は本物よ」

ゲルト【はぁ……】

ほむら「それで、どうします? 人間に戻りたいですか?」

ほむら「戻りたい場合、ボディは私を素体にしたクローン、さやかさんを素体にしたクローン」

ほむら「そして自分でも把握出来ないぐらい深層の記憶からプリントアウトした、本来の姿のどれかで選べますけど」

さやか(あれ? 今あたしの名前……)

ほむら「それでどうします? どれを選んでも妖精さんがすぐにやってくれますよ」

ゲルト【……少し、考えさせてください】

ゲルト【いきなり戻れると言われても、その、どうしたらいいのか分からないですし……元の姿、覚えてませんし……】

ゲルト【た、魂を弄られるのは、ちょっと怖いと言いますか……】

シャル「あー、まぁ、ほいほいとは決断出来ないわよね」

さやか「シャルちゃんはほいほい決断したと思うけど」

シャル「私、昔から思い切りだけはいい方だから」

ほむら「そういう事なら無理にとは言いませんよ。何時でも出来ますし、一生に関わる事です」

ほむら「それに、一度キュゥべえに騙された訳ですしね。慎重になるのは良い事ですよ」

ほむら「決意した時、改めて言ってくださいね」

ゲルト【はい……】


510: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:32:11.82 ID:WkOubGLx0


ほむら「それでは次の結界に行くとしましょう」

ほむら「一人でも多くの魔女さんをお助けしないといけませんからね!」

ゲルト【えっと……が、頑張ってください】

ゲルト【私はここで待っていますから、その……また来てください……】

ほむら「? 何を言っているのですか?」

ほむら「あなたも一緒に行くんですよ」

さやシャゲル「え?】

ほむら「いや、だって結界にいたら魔法少女に襲われるかも知れないじゃないですか」

ほむら「それに何時人間に戻りたくなるか分かりませんし」

ほむら「だったら家に居候してもらった方が何かと都合がいいでしょう?」

ゲルト【ええええええ!?】

ゲルト【でも、でも、その、結界から出るのはちょっと、人の目とか、いえ一般人には見えませんけど、でも】

ほむら「ま、どれだけ渋ろうと無駄ですけどねー」

ほむら「妖精さんアイテム『ハンドパワー手袋』~」

ほむら「これを嵌めて……念力発動」

――――ぱりーん

さやか「あ、結界が割れた」

シャル「念力って便利ねー」

ゲルト【ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?】

アントニーA「お嬢様! 大丈夫ですか!?」

アントニーC「お怪我は?!」

ゲルト【う、うん。平気……あなた達も外に出てきたのね……】

ゲルト【というか今更だけど彼等を人間に変えたのって……】

ほむら「はい、妖精さんです」

さやか「妖精さんだよ」

シャル「正確には妖精さんアイテムを使ったほむらだけどね」

ゲルト【信じてない訳じゃないけど、本当だったんだ……】

ほむら「さてと、それでは街に行くとしましょう」

ゲルト【え? えーっと、その、やっぱりまだ覚悟が出来】

ほむら「念力~」

ゲルト【ちょ、か、身体が浮いて】

ほむら「さあ、街へれっつごーでーす♪」

ゲルト【あ、あーーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーーー!?】


……………

………




511: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:35:22.05 ID:WkOubGLx0


杏子(久しぶりの見滝原だな……)

杏子(けっこう離れていた気がするけど、あんまり街並みは変わってないか)

杏子(……あの店潰れてないな。あとで飯でも”もらおう”かね)

杏子(ま、今は腹減ってねぇからいいけど)

杏子(さて……魔女と協力してるって人間はどいつの事かねぇ……)

杏子(キュゥべえの奴から写真は貰ったけど、黒髪眼鏡の中学生なんていくらでもいるだろうし)

杏子(……つーか、マミと顔合わせるのも不味いんだよなぁ。立場とかやってきた事とか考えると)

杏子(あー、どうしたもんかなぁ)

杏子(魔女が仲間ってんなら結界を虱潰しに探せば何時か見つかるか?)

杏子(いや、マミと遭遇する可能性も高くなるし、この方法は止めといた方がいいか)

杏子(そもそも見滝原は風見野とかと比べて魔女が多過ぎだし)

杏子(そいつが魔女とか使い魔を連れてその辺フラフラしてりゃ分かりやすいけど、そんな事ある訳が)



ほむら「あ! 見てください! あそこで福引やってますよ!」

ゲルト【ゲル!? ゲルルルルルッ!?】

さやか「ちょ、ほむら走るなって! げるげるが振り回されてるから!」

さやか「というかいい加減念力解除しろよ!」

ほむら「あ、忘れてました」

ゲルト【ゲルゥ……ゲルルゥ……】

さやか「あー、よしよし。怖かったなー」

さやか「使い魔たちはほむらの家に行ってもらってるから、あんたは今一人ぼっちだもんねー」

さやか「大丈夫。あたしが傍にいるから。ね?」

ゲルト【ゲルゥ……】

シャル「つーかアンタ福引の券なんか持ってるの?」

ほむら「持ってませんけど、景品とか見るだけでもワクワクしません?」

シャル「分からんでもないけど、真面目に結界探せよ」

ほむら「それはシャルロッテさんの役目です」

シャル「おい」



杏子「……………」

杏子(ま、魔女だあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?)



512: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:37:05.37 ID:WkOubGLx0


杏子(え、何アレ? なんで魔女が結界の外に出てきてんの? つーか出ちゃって平気なもんなの?)

杏子(しかもなんかアイツらふつーに会話してるっぽいんだけど!? 魔女って喋れたのかよ!?)

杏子(というかなんでアイツ等結界の外に魔女を連れ出し……)

杏子(だ、ダメだ……ツッコミと理解が追い付かねぇ!)

杏子(いや、ほんとどうしよう……あまりにも常識はずれ過ぎてどうすりゃいいのかサッパリ分からん……)

杏子(あ、なんか脇道に入って行った……)

杏子(……うん。今回は見なかった事にして、もうちょっと普通な時に接触し――――ん?)



マミ「あの子たち、何処に行くのかしら……」

まどか「というか、魔女が露骨に結界の外に出てきてますけど」

マミ「今更感が否めないけど、大問題よね……」

マミ「……とりあえず尾行しましょうか」

マミ「あの魔女が……あの姿を見ているとそんな心配はない気がするけど、人を襲わないとも限らないからね」

まどか「……そう、ですよね……」

まどか「悪い魔女だったら、倒さないと……」

まどか「だって、それが……」

マミ「……鹿目さん?」

まどか「……大丈夫です。追いましょう」

マミ「え、ええ……?」



杏子「……………」

杏子(ま、マミぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?)


513: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:38:31.67 ID:WkOubGLx0


杏子(おいおいおい、なんでこんなタイミングで……)

杏子(いや、そういやキュゥべえも言ってたな。マミがある魔女とここ数日ずっと戦っているって)

杏子(一緒に居たピンク頭は仲間かね。なんか根暗そうな奴だったな)

杏子(で、その戦っている魔女ってのがさっき暁美ほむらが連れてた奴か? そんな強そうには見えなかったけど……)

杏子(いや、一匹の魔女と仲良くなれるのなら、他の魔女とも仲良く出来ても可笑しくない)

杏子(だとすると、暁美ほむらは他に何体もの魔女と協力しているのか?)

杏子(キュゥべえはそんな事言ってなかったが……アイツは信用出来ないし)

杏子(……やっぱり追い駆けるか)

杏子(どうやら思っていたよりもずっと手強そうな相手だ。情報を仕入れねぇとな)

杏子(それにマミ達と戦闘になれば、相手の戦力がどの程度か分かる)

杏子(あと双方弱ったところを漁夫の利、つーのもアリか)

杏子(ま、欲を出したらやられかねないから、こっちはあったらいいなぐらいで)

杏子(慎重に、追跡させてもらうとしようかね……)


……………

………




514: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:40:52.28 ID:WkOubGLx0


              ―― 見滝原某廃工場周辺 ――


ほむら「ここに魔女の結界があるのですか?」

シャル「気配は感じる。多分あの廃工場にいると思うんだけど……」

シャル「直線距離ではそう遠くないけど、道は入り組んでるし」

シャル「真っ直ぐ行けそうな道は段ボールとか冷蔵庫とかで塞がってたりするし……誰よこんな所に不法投棄したやつ」

さやか「いやはや見滝原の住人としてお恥ずかしい限りです……」

ほむら「まぁ、面倒でも無視は出来ませんし、遠回りするなり脇道を探すなりしませんとね」

さやか「だねー」

ゲルト【あの、美樹さん……少しよろしいでしょうか】

さやか「ん? げるげる、どうした?」

ゲルト【あちらに工場へと続く脇道があるようなのですが……】

さやか「お? おお、確かに」

さやか「ねー、みんなーっ。げるげるがあっちに行けそうな道を見つけたよー」

シャル「え? あ、ほんとだ。柱の陰に隠れてて見えなかったわ」

シャル「……うん、間違いない。あの先の廃工場に魔女がいる」

ゲルト【私も感じます】

さやか「なら、突入だな」

ほむら「総員、突撃ーっ!」

シャル「戦うつもりなんて微塵もない癖に勇ましい事で……」

さやか「いや、ここは乗っかるべきシチュとみたね」

さやか「突撃じゃーっ!」

シャル「ああ、もう。さやかまで……」

シャル「……私らはゆっくり行こうか」

ゲルト【あ、はい】


515: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:43:25.63 ID:WkOubGLx0


            ――― 廃工場内 ―――


シャル「んー……あのテレビの山の向こうが結界みたい。というか、テレビ自体が結界の境目ね」

さやか「今回は随分と分かりやすいね」

ゲルト【ですねー。ああもハッキリと境目が分かるのは、珍しいかも知れません】

ほむら「では、早速お邪魔するとしましょう。もしもーし」

使い魔【……】ニュゥ

ほむら「おお。結界から変な人形が出てきて――――きゃっ!?」

ゲルト【あ、暁美さん!?】

シャル「あー、連れ去られたか……まぁ、まだこっちは現実側で、電波の所為で妖精さんを出せなかったからね」

シャル「多少乱暴な結果は仕方ないか」

さやか「んじゃ、あたしらも向こうに行こうか」

シャル「行きましょーかね」

ゲルト【ま、待ってください!】

ゲルト【その、電波がどうとかはよく分かりませんけど……ちゃんと準備した方が……】

ゲルト【あなたも元魔法少女なら、結界内がどれだけ危険か分かって……】

シャル「いや、妖精さんがいるからね。外より結界内の方が却って安全だから」

さやか「どんな不条理でも起こるからなー」

ゲルト【ど、どういう事ですか?】

シャル「論より証拠。百聞は一見にしかず」

さやか「話すより見た方が早いよ」

さやか「ほら、行こう。おじゃましまーす」

ゲルト【は、はぁ……では、おじゃまします……】

――――ずるり

ゲルト【ずるり?】


516: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:44:55.25 ID:WkOubGLx0


ゲルト【……………】

ゲルト【ちょ、なんか此処足場がなくて下に落ちるぅぅぅうううううううううっ!?】

さやか「あー、またこの展開かよ……」

シャル「これで何度目よ、全く」

ゲルト【なんでお二人はそんな冷静なんですかぁ!?】

ゲルト【あぶっ!?】

さやか「あだっ!」

シャル「いでっ」

ゲルト【うう……なんか下が柔らかなクッションで助かりました……高さも大してなかったし……】

ゲルト【って、あれは暁美さんでは!?】

シャル「ん?」

ほむら「……………」

女の子?【……………】

人形【……………】

さやか(おお、確かにほむらだ。傍には……女の子? 多分魔女と、さっきの人形モドキがいる)

さやか(あれ? なんか足元に散らばってんな。機械の部品……?)

ゲルト【あ、暁美さん! 無事で――――】


箱の魔女(エリー)【びええええええええええええええええええええっ!】

使い魔たち【……………】オロオロ


ゲルト【……え? なにこれ?】


517: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 17:59:00.52 ID:WkOubGLx0


ほむら「あ、皆さん……」

シャル「何? どったの?」

ほむら「えーっと、私、先程無理やり結界内に引き込まれましたよね?」

さやか「うん」

ほむら「それでまぁ、使い魔さんが私を魔女さんの元まで連れてきたのはいいんですけど……」

ほむら「本来そこで魔女さんがトラウマの記憶を見せるそうなのですが」

ほむら「なんか私に全然トラウマがなくて、魔法が全く通じなかったとか」

さやシャル「……………あー」

ゲルト【え!? 納得するのですか!?】

ほむら「本題はここからで、その魔法って演出の都合憐れな犠牲者を上から落とし、宙に浮いた状態にして発動するそうで」

ほむら「でも私は魔法が効かなかったので、そのまま高所から落下」

ほむら「で、運悪くエリーさん……あたらの魔女さんの真上に着地」

ほむら「それだけならまだいいんですけど、その衝撃でお部屋兼パソコン器材である箱が壊れてしまったらしく」

ほむら「……まぁ、HDD物理的に破損と言いますか」

シャル「死んで詫びろ」

ほむら「酷い!?」

さやか「不可抗力なのは分かるけど、それは流石に……」

ほむら「私一応被害者なんですよ? 襲われたんですよ?」

ほむら「慰める訳でも励ます訳でもなく貶すだなんて、お二人の人格を疑います!」

さやシャル(どーせ微塵も恐怖なぞ感じてない癖によく言うわ……)

ほむら「そこ! 怖いなんて欠片も思ってない癖にと言いたげな顔してますよ!」

ほむら「確かに全然怖くなかったですけど、襲われたという事実が大事なんですから!」

さやシャル(それを言っちゃダメだろ……)


518: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:01:00.34 ID:WkOubGLx0


ゲルト【ええっと、その……ほ、ほら、泣き止んで。ね?】

エリー【えぐっ、えぐっ……だ、だって、だって……】

ゲルト【新しいパソコンは、その……わ、私が買ってあげるから!】

エリー【だって……】

エリー【あのパソコンには……パパとママの、写真データが……】

さやシャゲル「……うわぁ】

ほむら「ちょ、ゲルトルートさんまで敵に回らないでくださいよ!?」

ゲルト【いえ、その……命の恩人にこう言うのもアレですけど……これは……】

ほむら「ああもう! 分かりました! 直せばいいんでしょう!」

ほむら「という訳で妖精さんかまーん!」

妖精さん×4「はいほーい」

ほむら「妖精さん。こちらのパソコンが壊れてしまったのですが」

ほむら「内部のデータ諸々も含めてどうにか直せませんかね?」

妖精さんA「らくしょーですな」
妖精さんB「あふたーけあつけます?」
妖精さんC「おもいでたいせつですから」
妖精さんD「にどとこわれぬように?」

ほむら「あー、もうどんどんやっちゃってください。妖精さんにオールお任せしちゃいますから」

さやか「ちょ、おま」

シャル「何言ってんの? 何投げっぱなしなの?」

ほむら「皆さんが私が悪いって言ったんでしょー」

ほむら「だったら誠心誠意、全力でお答えするだけですよーだ」

シャル「コイツ拗ねやがった!?」

さやか「え、えらいこっちゃ……」

ゲルト【あの……どういう……】


519: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:02:18.20 ID:WkOubGLx0


ほむら「それでは作業開始してくださーい」

妖精さん×50「はーい!」

ゲルト【あ、妖精さんが動きだし……って、なんか増えてませんか!?】

ほむら「そりゃ増えますよ。妖精さんですもの」

ゲルト【妖精って増えるものじゃないでしょう!?】

エリー【あ、ああ……!?】

ゲルト【? あの、どうし……!?】

ゲルト【こ、壊れていたパソコンが、どんどん直っていく!? 凄いスピードで……】

ゲルト【凄い! もう直ってしまいましたよ!?】

エリー【嘘……ほ、本当に直った……!?】

妖精さんE「なかのでーたも、もとどーりにしてありますが?」

エリー【本当に!?】

エリー【良かった……良かった……】

エリー【これで、パパとママの事、ずっと忘れないでいられる……!】

ゲルト【……あなた……】

シャル「あー、その、なんだ。感動的な場面のとこ悪いけど……」

シャル「あれ、そろそろ止めた方がいいと思うんだけど」

エリゲル【え?】

――――トテトテカンカンドカカカンギュリリリリリンッ!

エリー【ちょ……なんか私のパソコンめっちゃ大きくなってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?】

ゲルト【というか形が既にパソコンのそれじゃないんですけど!? なんか球体みたいなのなんですけど!?】


520: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:05:50.48 ID:WkOubGLx0


ゲルト【すとーっぷ! 妖精さんストーップ!!?】

ほむら「もう手遅れですよ。そろそろ完成します」

ゲルト【感動に浸っていた時間十秒となかったですよ!? 時間制限厳し過ぎですからーっ!?】

エリー【あ、ああ……そうこうしている内に、わ、私のパソコンが……】

エリー【直径500メートルはありそうな、巨大なミラーボール型機械に……】

ゲルト【何処からこれだけの材料が!?】

さやか「なんつーかアレだな……マザーシップと呼びたくなる形してるね、これ」

シャル「ああ、確かに。この形はマザーシップよね」

エリー【なんで母船って呼称すんのよ!? 確かにしっくりきたけど!】

妖精さんE「そーすうにひゃくのほうだいに、ぼうぎょすくりーんもてんかい」
妖精さんE「したから、まちひとつやけるたいほーつけました」
妖精さんE「ひこうどろーんや、よつあしようさいもとうかできまっせ」
妖精さんE「いまならおまけで、もうきゅうきつけますが?」

エリー【要らないから!? 魔法少女と戦うにしたってそこまでの防衛機能は要らないから!?】

エリー【ていうかあと九機も作ってあんの?!】

シャル「逆に何を相手にしたら対等なのか気になるわ」

さやか「地球ぐらいなら楽々と侵略出来そうだよね」

ほむら「どーせ死人は出ないでしょうけど」

ゲルト【いやいや出ますよね!? 町一つ焼いたら何万と死にますから!?】

ほむさやシャル「いや、無いから」

ゲルト【なんでハモるんですかぁ!?】


521: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:07:35.41 ID:WkOubGLx0


エリー【と、兎に角! 元の普通のパソコンに戻してよ!】

妖精さんF「こうげききのう、いりませんか?」

エリー【要りません!】

妖精さんG「けいの、じゅっちょうばいのけいさんのうりょく、いりませんか?」

エリー【要りませ……ん?】

妖精さんH「きばんにおべんきょうおしえたです」
妖精さんI「やればできるこです」
妖精さんJ「けいなんて、ゆとりですし」
妖精さんK「へいれつけいさんしかできませんもん」

エリー【……え、けいって……スーパーコンピューターの『京』?】

妖精さんK「そー」

エリー【……今の私のパソコン、メモリってどれぐらい?】

妖精さんL「どーだっけ?」
妖精さんM「よたからさきは、しりませんもので」

エリー【よた……ヨタ……】

エリー【……ふひっ】

ゲルト【え? あの、エリーさん……?】

エリー【ふひひ】

エリー【ふははははははははははははははははははははははっ!】

エリー【気に入った! このパソコン気に入ったわ!】

エリー【是非とも使わせてもらうわよ!】

妖精さんN「まじょさんによろこんでもらえたー」
妖精さんO「がんばたかい、ありましたなー」

エリー【ふっはははははははははははははははははははははは!!!】

シャル「……あれ、絶対悪い事に使うわよね」

さやか「ペンタゴンとかにハッキングしそうだよね」

ほむら「ま、妖精さんの発明品ですから本当に悪い事にはならないでしょう」

ゲルト【いやいやいやいや!? 駄目ですから! ハッキングとかいけませんから!?】

エリー【とうっ!】

ゲルト【ああ!? あの人がダイナミックにジャンプしてパソコンの上まで跳んで……】

エリー【ドッキング!!】ガキーン!

ゲルト【合体したああああああああああああああああ!?】

ほむら「流石妖精さん。遊び心は忘れていませんね」


523: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:09:05.78 ID:WkOubGLx0


エリー【おおおおお……パソコンを、自分の思うがままに動かせる……!】

エリー【私は! 究極のパワーを手に入れた! もうモヤシだの引き籠りだの言わせない!】

エリー【じゃ、早速マイクラ起動しながらネットサーフィンでも……】

シャル「いきなり引き籠ってんじゃん」

さやか「気に入ったみたいで何より」

ほむら「流石にあのパソコンを外に出すのは問題ありそうなので、外には連れ出せませんねー」

ほむら「ま、あれがあれば魔法少女に負ける事もないでしょうし、絶望漬けからも解放出来たようですし」

ほむら「今日はこのぐらいで帰るとしましょう」

ゲルト【えっ!?】

エリー【うん! ありがと! 今度一緒にオンラインでゲームしよーねー♪】

シャル「ん、しようね」

さやか「じゃ、ばいばーい」

ゲルト【ええええええええっ!? 投げっぱなしなの!? あの状態のままでいいの!?】

シャル「まぁ、大体何時もの事よ。慣れなさい」

ゲルト【えええぇえええええええ……】


……………

………




524: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:11:19.28 ID:WkOubGLx0


ほむら「さて、結界から出ましたし、次の魔女さんを探しに行くとしましょうか」

さやか「だねー」

ゲルト【ほ、本当に良いのでしょうか? あれで……】

シャル「不可抗力以外で人を傷付けたらパソコン没収って言っといたし」

シャル「あれはあれで、本人は幸せそうだからいいんじゃない?」

ゲルト【はぁ……まぁ、私は皆さんに助けてもらった身ですし、何も知らないのであまり言えませんけど……】

ゲルト【――――っ!?】

ほむら「おや? どうしましたか?」

シャル「ああ、この気配……何時もの二人組が来たみたい」

さやか「ふーん」

ゲルト【お、落ち着いている場合じゃないです!】

ゲルト【魔法少女が……私達を狩る者が――――来ます!】



マミ「よ、ようやく見つけたわ……」ボロッ

まどか「ようやく、見つけたよ……」ボロッ



ほむら「……………」

さやか「……………」

シャル「……………」

ゲルト【……………】

ゲルト【あれ?】


525: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:13:07.79 ID:WkOubGLx0


ほむら「どういう訳かお二人ともボロボロですね?」

マミ「う、うふふ……いけしゃあしゃあとまぁ……」

マミ「あなた達を尾行してこの廃工場まで来たはいいけれど」

マミ「その後思いっきり道に迷って」

マミ「鹿目さんとは離ればなれになるし、開けっ放しのマンホールから下水に落ちるし」

マミ「グリーフシードのストックがないから魔法少女の力も迂闊に使えず」

マミ「ネズミとかGの大群に襲われて」

マミ「どうにかあなた達を見つけたら、今度は段差で蹴躓いて!」

マミ「こんな不運の連続、あなた達が関与してなきゃ可笑しいわ!」

ほむら(……否定は出来ませんねぇ)

ほむら(私達を尾行してきたようですが、トラブルの所為で魔女の結界に中々入ってこれず)

ほむら(お陰でエリーさんとまったりお話出来た訳ですから、妖精さん的ご都合主義じゃないとは言えません)

ほむら(とはいえ、証拠がある訳無いので)

ほむら「何をおっしゃいます。全部偶然でしょう」

マミ「むっきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

さやシャル(いけしゃあしゃあとまぁ……)


526: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:15:45.40 ID:WkOubGLx0


ほむら「それで? 私達を尾行してきて、何かご用ですか?」

ほむら「よもやゲルトルートさんを退治しようなんて思ってませんよね?」

マミ「……ゲルトルートというのが、その魔女の事だと言うのなら……もしそうだとしたら?」

ゲルト【っ……!】

ほむら「彼女とも既に友達になっていますからね。はい分かりましたで引き渡す訳にもいきません」

ほむら「妖精さんアイテムを使い、あなた達を潰させていただきましょう」

ゲルト【あ、暁美さん……】

マミ「……冗談よ」

まどか「えっ?」

ほむら「おや? これは予想外の反応ですね……何か悪い物でも食べましたか?」

マミ「……本当は、最初から分かっていたのかもね。あなたが悪い人じゃないって。ちょっと……ええ、
   ちょっとだけいたずらっ子なだけって」

さやシャル(ちょっとじゃないよなぁ……)

マミ「とにかく、あなたは悪い人じゃない」

マミ「そしてあなたは、魔女と和解する力がある。そうなのよね?」

ほむら「んー、和解と言うより本心を呼び戻すという感じですし、そもそも私の力ではないのですが……」

ほむら「大方その認識で問題はないかと」

マミ「……私だって、別に魔女は存在そのものが悪だなんて思ってないわ」

マミ「人を襲う魔女は当然放ってはおけないし、分かり合えない以上戦うしかないのは今も変わらないけど……」

マミ「だけど魔女と分かり合えるのなら……私はその方がいいと思うの」

マミ「……私からこんな事を言うのは図々しいって、十分に承知している。なんて恥知らずだって思うかも知れない」

マミ「でも……お願い」

マミ「私達と、仲直りはしてもらえないかしら……?」

ほむら「ほう」


527: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:38:50.94 ID:WkOubGLx0


ほむら(昨日の段階で敵意はあまり無いように感じていましたが……いや、これは嬉しい誤算です)

ほむら(まさかここまで関係が改善していたとは)

ほむら(この様子ですと、今後巴先輩たちが魔女退治を行うとは思えません。むしろ私達に協力してくれるでしょう)

ほむら(絶望漬けの魔女さんは人を襲うのでのんびりはしていられませんが……)

ほむら(一先ず、見滝原の魔女さんに救いの手が間に合わないという事は無くなります)

ほむら(それにメンツが多くなれば楽しさも倍増ですし♪)

ほむら「恥知らずだなんてとんでもない。自分から歩み寄ってきた人を、一体何故貶せると言うのですか」

マミ「! な、なら――――」

ほむら「こちらの答えは決まっています」

ほむら「是非ともこれからは私達とお友達に――――」


528: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:41:53.87 ID:WkOubGLx0



「こんなの、可笑しいよ」



マミ「……?」

シャル「な、に……?」

さやか「えっ?」

ゲルト【? ???】

ほむら「……何か言いたい事があるのですか?」

ほむら「――――鹿目さん」

まどか「……言いたい事も何も、可笑しいから、可笑しいって言ったんだよ」

マミ「か、鹿目さん? あの、どういう……」

まどか「マミさん。私達は、魔法少女ですよね?」

まどか「だったら、なんで魔女と和解するんですか?」

まどか「魔女を退治するのが、魔法少女の使命じゃないですか」

マミ「そ、それは、確かにそうだけど……」

マミ「でも、戦いだけが全てじゃないでしょ?」

マミ「確かに私たちの勘違いで戦いになってしまったけど、でも、平和的に解決出来るのならその方が」

まどか「じゃあ私達が倒してきた魔女は?!」

まどか「仕方なかったって言うつもりですか!?」

マミ「っ……!?」

まどか「違う、違う、違う違う違う違う。騙されない、私は騙されない……」

まどか「魔女と和解なんて出来ない、魔女は悪い奴……」

まどか「魔女を倒す魔法少女は正義の味方なの……悪い魔女を倒して、みんなを守る、正しい事なの……」

まどか「だから魔法少女は、魔女にならない……」


529: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:42:37.80 ID:WkOubGLx0




まどか「私は……誰も殺して、いない……!!」




530: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:44:41.96 ID:WkOubGLx0


ほむさやシャル「!?」

ほむら(まさか、このタイミングで……!?)

マミ「鹿目さん、落ち着いて!」

マミ「確かに、私達が今まで倒してしまった魔女を犠牲として割り切るのは難しいと思うし、しちゃいけないと思うわ」

マミ「だけど……」

まどか「……そうですか……そうなんですね……」

まどか「マミさんも、ほむらちゃん側の人だったんだ」

マミ「え?」

まどか「私は騙されない! 魔法少女が魔女になるなんて嘘には騙されない!」

まどか「うん、そうだ。きっとほむらちゃんもマミさんも、あの妖精って使い魔に操られているんだ」

まどか「魔女を操っているんじゃなくて、使い魔に操られてそう言わされているんだ」

まどか「だから全部、嘘。悪い魔女と悪い使い魔が言う事は全部嘘。全部全部ぜーんぶ嘘ッ!!」

まどか「……そうだ。私が、魔女と使い魔を全部倒せばいいんだ」

まどか「そうすれば、みんな居なくなれば、ほむらちゃんもマミさんも正気に戻って」

まどか「――――あは」

まどか「あ、あははははははははは、あはは、あはははははははははははははははははっ!!!」

――――シャキンッ!!

さやか(!? へ、変身した……まさか戦うつもり!?)

ほむら「ちっ! 妖精さんアイテム――――」



まどか「まずはそこの魔女から!!」

ほむら「『あっちいってホイ』!!」



――――バシュンッ!

さやか「う、うわあっ!?」

シャル「躊躇いなく大量の矢を撃ってきたわね! ほむらの使った道具のお陰で、全部変な方に飛んでいっちゃったけど!」



まどか「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!?」



マミ「って、ついでに鹿目さんも吹っ飛んでるわよ!?」

ほむら「そんな厳密な選択性のある道具じゃないですからねコレ。仕方ありません」


531: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:47:33.84 ID:WkOubGLx0


ほむら「でも……あー……屋根を突き破って空の彼方に……見えなくなっちゃいましたか」

ほむら「その場しのぎの対応とはいえ、ちょっと好ましくないかも知れません……」

マミ「ど、どうするのよ!?」

マミ「いえ、そもそも鹿目さんは一体どうしてあんな……」

ほむら「どうしても何も……普通は、誰だって殺人鬼にはなりたくないでしょう?」

マミ「さ、殺人鬼!?」

ほむら「よもや忘れてはいませんよね? 魔法少女が魔女になるってお話。鹿目さんもさっき言ってましたし」

マミ「わ、忘れるも何も……そんな事、ある訳無いじゃない!」

マミ「キュゥべえだって、そんな事はないって言っていたわよ!」

ほむら「それ、嘘ですよ?」

ほむら「或いはハッキリ断言された訳ではないんじゃないですか?」

ほむら「例えば『暁美ほむらや魔女の言葉をどうして信じるんだい?』みたいな事を言われたとか」

マミ「それ、は……!」

ほむら「どうやら後者のようですね」

ほむら「ま、信用している相手にそう言われたら、都合よく解釈してしまうのも無理ないでしょうけど」

ほむら「ソウルジェムの秘密を知っていればまだ……ああ、そういえば巴先輩は知りませんでしたか」

ほむら「成程。あなたはキュゥべえさんを信用出来ても、鹿目さんには信用出来なかった、という事なのでしょう」

ほむら「かと言って自分が無自覚に何人も殺してきたなんて、到底受け入れられない」

ほむら「どちらも信じられない。だけどどちらかを信じなければならない」

ほむら「だったら『正しさ』に酔いしれよう……迷惑極まりないですけど、個人的には同情の余地はあると思いますね」

マミ「そんな……そんな事……!?」


532: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:52:26.84 ID:WkOubGLx0


ほむら「……すんなり受け入れてくれるとは思っていません」

ほむら「本来は、ええ本来は……もう少し時間をかけて伝えるべきだったのでしょうけど……」

ほむら「あなた達と初めて出会ったあの日に、さやかさんがぶちまけてしまうですもん。どうにもなりませんよぅ」

シャル「つまり大体アンタの所為って事よ! このこのこのこのっ!」バシバシバシバシ!

さやか「ご、ごめんなさぴぃっ!? 反省してまぶっ! 反省しがっ、お尻ぺんぺんは止めぎゃひっ!?」

ゲルト【……】

マミ「……」

ほむら「まぁ、後でさやかさんには私からの罰も受けてもらうとして」

さやか「え!? お尻ぺんぺんだけじゃ許してもらえなぎゃひぃ!?」

ほむら「それより、あなたはどうです? この話、信じてもらえませんか?」

マミ「そんなの……そんなの、信じられる訳が……ないじゃない!」

マミ「魔法少女が魔女になるなんて、魔女が、人間だったなんて……」

マミ「み、美樹さんが言ったのは、その場しのぎで……」

ほむら「否定するのは自由です。私を嘘吐き呼ばわりするとしても、あなたの事をどうこう言う気はありません」

ほむら「例えそれが真実を知ろうと立ち向かった結果であれ、楽な方へ逃げた結果であれ、
    魔法少女の成り立ちを思えば私如きにあなたを非難する資格などないでしょうから」

ほむら「ですが、立ち向かった結果ではなく、逃げるために否定するのなら」

ほむら「あなたはいずれ真実に取り囲まれ、獄中の如く苦悶を味わいますよ?」

マミ「あ……ぁ、あ……!?」

マミ「っ!!」

ほむら「……逃げてしまいましたか」

ほむら(予測していた反応とはいえ、やれやれ……後でフォローの一つでも入れないといけませんかね)


533: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:53:54.29 ID:WkOubGLx0


ほむら(出来ればこの状況は妖精さん濁に出来る結界内で済ませたかったのですが……)

ほむら(ま、起きてしまったものは仕方ありません。切り替え切り替えっと)

ほむら「シャルロッテさん、ゲルトルートさん。今更ですが、先の鹿目さんの攻撃でお怪我はありませんか?」

ゲルト【え、ええ……私は、大丈夫です】

シャル「こっちも問題ないわ」

さやか「」チーン

ほむら(さやかさんのお尻が、某国民的永遠の五歳児のように腫れ上がっている……)

ほむら「えー、全員無事なようですので、このまま話を続けましょう」

ゲルト【え。あの、美樹さんは……?】

シャル「死んでなきゃ無事でいいのよ」

シャル「……問題は鹿目さんね」

ほむら「ですね」

ほむら「このまま放っておけば、鹿目さんは魔女さんを退治してしまうかも知れません」

ほむら「今の心的状態で魔女さんを倒してしまったら、恐らく鹿目さんの心は二度と元には戻らないでしょう」

ほむら「なんとかその前に、彼女を止めねばなりません」

ゲルト【で、でも、巴さんでしたっけ? あの人の事も……】

ほむら「あちらは大丈夫でしょう」

ほむら「動揺はしていましたし、否定もしていましたが、私の問いかけに逃げました」

ほむら「先程は逃げたら余計苦しくなるといいましたけど、逃げているのなら時間的猶予はあります」

ほむら「何時までもほったらかしには出来ませんけど、今すぐどうなる事もないでしょう」

ほむら「それに、悩んでいるうちは魔女退治もしないでしょうからね。優先度は鹿目さんより大分下です」

ほむら「今はさっさと鹿目さんを見つけて、さっさと落ち着いてもらうとしましょう」

ゲルト【……そう、ですね】

ゲルト【それに、あの様子ですと何時魔女化しても可笑しくありません】

ゲルト【その前になんとしても助けましょう!】

ほむら「いえ、それはさっさと魔女化してくれた方が都合がいいかと」

ゲルト【ふぇっ!?】


534: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:55:41.69 ID:WkOubGLx0


ほむら「どうせ元に戻せるんです。それに否応なく魔女の真実を突き付ける事が出来ますし」

ほむら「だったら魔女になってもらって、誰かを襲う前に戻しちゃえば色々楽じゃないですかー」

ほむら「ま、絶望浸けの状態になるのは可哀想ですから、なる前に助けようとは思いますけど」

ゲルト【えぇー……】

シャル「覚えておきなさい。ほむらってあーいう奴よ」

ほむら「さて、それでは『お探し人諸々呼び寄せインターホン』を『つながり袋』から出しましょう」

ほむら「あのインターホンがあれば、鹿目さんとその周りにある諸々の物をこちらに転送出来ますからね」

シャル「このシリアスの中その便利さはどうなのかしら……」

ほむら「便利ならいいじゃないですか」ゴソゴソ

ほむら「……ん?」ゴソゴソ

シャル「どしたの?」

ほむら「……こんな時に限って紛失、というのも実に妖精さんらしい」

シャル「は? 紛失って……」

ほむら「妖精さんアイテムってどれだけ厳重に保管しても、何故かある時ふっと無くなってしまうんですよ」

ほむら「例え分厚い金庫にしまおうと、毎日無くなっていないか確認してもです」

ほむら「ですから欲しいものが無くなるなんてしょっちゅう」

ほむら「そんな訳で『お探し人諸々呼び寄せインターホン』は紛失。また新たに作ってもらうまで使えません」

ほむら「つまり、昨日同様足で探すしかありませんね」

シャル「な、何それ!?」

ほむら「ただまぁ、昨日と違い魔女が目的なのは分かっています」

ほむら「結界を探していけば、そのうち見つかるでしょう」

ゲルト【で、では急ぎましょう!】

シャル「ああもう、しょうがないわね……」

シャル「さやか! さっさと起きなさいっ!」

さやか「ぎゃ!? お、お尻を蹴らないで……」

ほむら「さやかさんも起きましたね」

ほむら「それでは鹿目さんが飛んでいったであろうあちらから探すとしましょう」

ほむら「まったく……レッツゴー、です」







杏子「……なんだったんだ、一体」


536: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:57:06.74 ID:WkOubGLx0


杏子(工場地帯でマミ達を見失い、さっきようやくマミを見つけたけど……)

杏子(アイツ、なんで泣きながら走っていったんだ?)

杏子(見たのが途中からだから話が分かんないな……今更追い駆けようにも、なんか事情が呑み込めないし)

杏子(それにちょいと腹も減ってきたし)

杏子(アイツが何体もの魔女と協力している可能性があるって分かっただけでも収穫だ)

杏子(今日の調査はこのぐらいで打ち切りとしようかね)

杏子(そうと決まりゃあ早速商店街の方に――――)

杏子(……そういや、此処から魔女の気配がするな)

杏子(大して魔力は感じねぇ。どうやらあまり強くない魔女みたいだ)

杏子(……………)

杏子「やっぱり飯は、腹ペコの時の方が美味いよね」

杏子「つー訳で、ちょいと運動がてら”つまみ食い”していこうかね」


……………

………




537: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:58:14.31 ID:WkOubGLx0


―― 見滝原 某所 ――


まどか「う、うぅ……!」

まどか(攻撃したら、簡単に吹き飛ばされちゃった……)

まどか(どうにか怪我なく着地出来たけど……)

まどか(今のままじゃ、ほむらちゃん達には……ほむらちゃんの連れている妖精には勝てない……)

まどか(ううん。それどころか、他の魔女を倒そうとしても、ほむらちゃん達は多分邪魔しに現れる)

まどか(どうすればいいどうすればいいのかな……このままじゃ……)

まどか(ううん。大丈夫、私は間違ってない、何も間違ってない)

まどか(私は正義の魔法少女だから、だから、最後は必ず勝つんだから)

まどか(勝てない正義なんていない、勝たなきゃ正義じゃない)

まどか(私は勝たなきゃいけない。勝たなきゃ)

まどか(勝たなきゃ、勝たなきゃ、勝たなきゃ、勝たなきゃ)

まどか(勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ)

まどか(勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ)



「やあ、鹿目まどか。どうしたんだい?」



まどか「……キュゥべえ。久しぶりだね」

QB「ん? そうかい? 僕はそうは思わないけど……」

QB「まぁ、そんな話はどうでもいいね」

QB「何か悩んでいる様子だけど、どうしたんだい?」


538: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 18:59:20.71 ID:WkOubGLx0


まどか「……………」

QB「まどか?」

まどか「……私、どうすればほむらちゃん達に勝てるのかな」

QB「?」

まどか「どうやっても、私じゃほむらちゃん達には勝てない。ほむらちゃんを操っている使い魔を倒せない」

まどか「ねぇ、魔法少女は正義の味方なんだよね? 魔女を退治する、大切な使命を持っているんだよね?」

QB「そうだね。君達魔法少女は人間を守る、所謂正義の味方だ」

QB「そして魔女退治は魔法少女の使命。他の人間には到底出来ない事だよ」

まどか「だったら、なんで……」

QB「まどかは、力が欲しいのかい?」

まどか「……うん」

まどか「みんなを守れる力を……魔女なんか、みんな倒せちゃう力がほしい……」

QB「ふむ。成程ね」

QB「君が望むなら――――その力、僕が与えるよ」

まどか「えっ?」


541: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:01:41.27 ID:WkOubGLx0


QB「本来、特定の魔法少女に肩入れするような真似はしないのだけど」

QB「暁美ほむら、ひいては彼女が従えている妖精と呼ばれる存在は、僕達にとっても都合が悪くてね」

QB「君にその気があるのなら、僕達が君のパワーアップに協力しよう」

まどか「……その力があれば、どんな魔女も倒せるの……?」

QB「流石にそこまでは保障できないね。何分、妖精の力がどれほどのものか分からないから」

QB「だけど今のままでは勝てないのなら」

QB「例え確証はなくとも、やれる事は何でもやるべきなんじゃないかな?」

まどか「……そう、だね」

まどか「分かったよ、キュゥべえ」

まどか「私……もっと、力が欲しい」

まどか「どんな魔女も使い魔も倒せるぐらい、強い力が欲しい!!」

QB「分かった」

QB「まどか、ソウルジェムを出してくれ」

まどか「……うん」

QB「はい、受け取ったよ……おや、随分と濁っているね。殆ど元の色が視えないじゃないか」

QB「浄化はしないのかい?」

まどか「グリーフシードのストックが無いから……」

QB「そういう事か。なら、仕方ないね」

QB「さて、ちょっと痛みがあるかも知れないけど、我慢してくれ――――よっ」

まどか「くっ!? う、あ、あぁ……」

まどか「あぁああぁあああ……!?」

まどか「あああああああああああああぁああぁあああああっ……!!」

QB「……こんなもの、かな」

QB「おめでとう、まどか。これで君の力は、以前とは比べ物にならなくなったよ」

まどか「はぁ、はぁ……はぁ……ほ、本当に……?」

QB「ああ。その証拠に……ソウルジェムを見てごらん」

まどか「!?」

まどか「嘘……あんなに濁っていたのに……」

まどか「今じゃ、点みたいなのが一個あるだけ!?」


542: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:03:41.87 ID:WkOubGLx0


QB「君のソウルジェムの持つ魔力量が増大した結果さ」

QB「今までと同程度の魔法だったら、どれだけ使っても見た目上濁りが増えたようには感じられないんじゃないかな?」

QB「多分今の君なら、最強の魔女と伝えられているワルプルギスの夜も一撃だろうね」

まどか「凄い……これなら……!」

まどか「ありがとうキュゥべえ」

まどか「これで……みんなを助けられる」

まどか「私が正しいって、みんな分かってくれる」

まどか「悪い魔女を倒して、私が正義の魔法少女になるの」

まどか「うふ、うふふふ」

まどか「あっははははははは、あははははははははははははははははははははははははははははは!!」

まどか「あーははははははは、あ、そうだ」

まどか「だったらさっさとほむらちゃん達を正気に戻さないと」

まどか「待っててねほむらちゃん、マミさん、さやかちゃん」

まどか「私がみんなを――――助けてあげる!」

――――ドンッ!!!

QB「……………空を自在に飛ぶか。惜しみなく魔力を使うね。ま、その方が都合がいいけど」

QB「さて、僕も行動を始めよう」

QB「ちゃんと観測しないと、折角鹿目まどかのソウルジェムを強化した意味がないからね」


……………

………




543: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:05:29.29 ID:WkOubGLx0


ほむら「それで、どうですか? 魔女の気配はしませんか?」

シャル「あのねぇ……確かに見滝原は魔女が多いけど、そうほいほい見つかるほどそこらに居るもんでもないの」

シャル「それにけっこー遠くまで飛んでいっちゃったみたいだし……」

ゲルト【ど、どうしましょう……他の魔女の事も心配ですけど、鹿目さんでしたっけ……彼女も無事でしょうか……】

ほむら「妖精さんアイテムで吹っ飛ばしたから、それは平気でしょう」

さやか「うう……ごめんなさい……あたしがあの時口走ったばかりに……」

シャル「あー、もういいって。十分怒ったから」

ほむら「ええ。後で十分怒るので、今は気にしないでください」

さやか「ヴぇっ!?」

ゲルト【……あら?】

シャル「? どうかし――――ん?」

ほむら「お二人とも、どうしましたか?」

シャル「なんだろ……これ……鹿目さんの魔力?」

ゲルト【鹿目さんの魔力っぽいですけど……】

ほむら「おお? 見つけましたか?」

シャル「いや、なんだこれ……本当に鹿目さん……?」

シャル「ちょ、なにこれ……!?」

シャル「どんどん力が大きくなってる!? 嘘、嘘よこんな……!?」

ほむら「シャルロッテさん? 一体どうし――――」

シャル「っ!? こ、こっちに来て――――」


――――ドンッ!!!!


まどか「――――見つけたァ……♪」

ほむら(空から鹿目さんが下りてきた!? いえ、それより……)

ほむら(これは……ええ、魔法少女ではない私でも分かります)

ほむら(分かってしまうぐらい、今の鹿目さんは危ない!)


544: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:08:31.25 ID:WkOubGLx0


まどか「今すぐそこの魔女を倒して、妖精も根絶やしにして」

まどか「みんな――――助けてあげる♪」

――――ズオオオオオオオオオオ……!!

ほむら(いきなり弓を構えた!? どういう――――)

シャル「な、何あの魔力!?」

シャル「あんなの撃ったら、町一つ消し飛びかねないわよ!?」

さやか「んなっ!? ま、まどか……!?」

まどか「大丈夫だよさやかちゃん」

まどか「ちゃんと魔力を集束して……爆発なんて起こらないようにしてあるから、ね!!」バシュッ!!

さやか「う、撃ち……」



ほむら「妖精さんアイテム――――『あべこべバリアー』!」



さやか「! ほ、ほむらが何かガラスみたいなのを投げ――――うわっ!?」

ゲルト【ガラスからバリアーが展開された!?】

シャル「矢は防げたみたいね……助かった……」

まどか「……ふふ。そうこなくちゃ、倒し甲斐がないよね」

まどか「でもね、今のは小手調べ……」

まどか「ここからが本当の勝負だよ!!」ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

さやか「ひっ!? まどかの周りにたくさんの光の矢が……」

ゲルト【あ、あああぁ……!?】

シャル「しかもさっきより一本一本の威力が桁違いに高い!? こんなの撃たれたら……」

ほむら「それに関しては大丈夫です」

ほむら「あのバリアーは攻撃の威力が上がれば上がるほど、どんどん強固になるものでして」

ほむら「単純な打撃だけでは絶対に破れない、無敵のバリアーなのです」


――――ズガガガガガガガガガガガガッ!!


さやか「ほ、本当だ……まどかの攻撃、全部防げてる……」

さやか「光やら土埃やらでまどかの姿が見えなくなるぐらいの猛攻なのに」

さやか「バリアー自体にヒビは入ってない!」

ゲルト【凄い……】

ほむら(ま、『あべこべ』という名前の通り威力が弱い攻撃、デコピンとかだとあっさり壊れてしまう使用ですが)

ほむら(あのバーサーカー状態の鹿目さんが気付くとも思えませんからね。好きにやらせとくとしましょう)


545: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:10:35.43 ID:WkOubGLx0


ほむら(それより……)

ほむら「どういう事です? 先程矢一本で町が消し飛ぶとか言っていましたけど」

ほむら「魔法少女って、そんなチート級に強いものだったんですか?」

シャル「んな訳ないでしょ! 大抵は銃を持ってる人が何人かいれば対抗出来る程度よ!」

シャル「あんな馬鹿げた魔力、絶対あり得ない!」

ほむら「なら、通常ではあり得ない何かがあったのでしょう」

ほむら「ま、見当は付いていますけどね」

さやか「見当……?」

ほむら「……こそこそしてないで出てきたらどうですか」

ほむら「どーせその身体、端末とかそんなやつで、潰されてもあなた自身には被害なんてないのでしょう」

ほむら「難なら無理やり引きずり出してもいいんですよ?」

ほむら「――――インキュベーター」










QB「――――これは予想外だね」



546: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:12:15.77 ID:WkOubGLx0


シャル「っ……キュゥべえ……!!」

ゲルト【あ、あなた……!?】

QB「気配は消していたつもりだけど、どうして僕が近くにいると分かったんだい?」

ほむら「あなた、私を馬鹿にしているのですか?」

ほむら「魔法少女を産み出しているのはあなた自身。つまりあなたには、魔法少女をいじくるだけのノウハウがある」

ほむら「だったら鹿目さんに力を与えたのはあなたしかいない」

ほむら「そして力を与えた理由なんて、大方私達を排除したいとか、そんなありきたりなものでしょう?」

ほむら「なら、私達がちゃんと排除されたか確かめねばならない」

ほむら「万一、或いは予想通り鹿目さんが倒された場合も考えると、妖精さんの観測もしておきたい」

ほむら「そして後者をするのなら、衛星のような遠距離よりも、近距離で、正確な分析が必要となる」

ほむら「あなたが近くにいるのは、簡単に導き出せる事でしょう?」

QB「……ふむ。君への認識を改める必要がありそうだ」

ほむら「あら、残念。見くびったままでいてくれた方が色々やり易かったのですが」

QB「その言葉、僕は言わずに済ませたいね」

ほむら「大丈夫です。言える時なんて永遠に来ませんから」

QB「そうだね。きっと、永遠に言う事はないだろうね」

ほむQ「ふふふふふふふふふ」

さやシャゲル(こ、怖い……)


547: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:13:29.26 ID:WkOubGLx0


ほむら「それで? まさかこれであなたの謀略は終わり、なんて言いませんよね?」

QB「ああ、勿論。むしろこれからが始まりさ」

QB「確かに鹿目まどかのソウルジェムは大きく強化された。今の彼女は、間違いなく最強の魔法少女だ」

QB「だけどね、ソウルジェムの魔力量、即ち魂の容量が増えるという事は」

QB「即ち内部に貯め込める穢れの量も増えるという事になる」

QB「なら、それが一挙に解放されたら?」

ほむら「――――まさか……」

さやか「ほ、ほむら、攻撃が止んだよ!」

ほむら「!」

シャル「流石妖精さん製のバリアーね。結局、ヒビなんて一つも入らなかったわ」

さやか「煙が晴れて……まどかの姿が見えるようになった……!」

まどか「……………」

さやか「あ、あの、まどか。大丈夫……疲れたんじゃない?」

さやか「まずは落ち着いて、ね? 話し合おう。うん、そうしよう」

まどか「大丈夫だよ、さやかちゃん」

まどか「私ね、全然疲れてないの。それどころか力が溢れてくる感じ」

まどか「力を使えば使うほど、どんどん力が溢れてくるの! ずっとずっと止まらないの!」

まどか「待っててね! このままどんどん強くなれば、どんな魔女でも使い魔でもやっつけられる!」

まどか「私はみんなを救える! みんなを助けられる!」

まどか「魔女さえいなくなればみーんな救われる!」

まどか「凄い! 凄い凄いすごいすごいスゴイスゴイスゴォイ♪」

まどか「きひ、くひ、ひきききききき、うぇひひひひひひひひひひひひ♪」

さやか「ま、まどか……」

まどか「それじゃあいくよ♪ ヤッチャウヨ?」

まどか「もう町ごとぜーんぶふっとばしちゃえ―――――♪」



――――パキン



まどか「……んぁ?」


548: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:15:17.60 ID:WkOubGLx0


さやか「え? な、なんの音?」

シャル「……最悪のパターンね」

ほむら「ここまでは思惑通り、という訳ですか……ああ、気に入らない」

さやか「え? え?」

まどか「ほむらちゃん達、何を話して……」

まどか「あれ?」

まどか「……私のソウルジェム、こんなに黒かったっけ?」

まどか「なんか形も変になってるし、それに何処かで見たような……」



――――パキ、パキパキ



まどか「あ、これが壊れてるんだ」

まどか「……あれ? あれれ?」

まどか「あ、ひ、いひ」

まどか「くひひひひひひひひひひひっ♪」

まどか「なんだろう! 身体からどんどん何かが溢れてくる! さっきまでと全然違う!」

まどか「私の中から何か生まれてくる! 私が私じゃなくなっていく!」

まどか「これ、これこれすっごおおおおくっ!」


549: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:15:54.96 ID:WkOubGLx0









――――バキンッ

まどか「すっごく……キモチイィ……♪」









550: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:16:43.37 ID:WkOubGLx0


さやか「ま、まどかぁあああああああああああああああああああああっ!?」

シャル「ぐうっ!? か、風が……!!」

ゲルト【ああ……け、結界が展開されて……!】

ほむら「……これがあなたの『本命』ですか……」

QB「そうだ。ボクが求めていたのは、この瞬間だ」

QB「強力な魔女が生まれる時、つまり絶望の解放量が多いほど、回収出来るエネルギーは多くなる」

QB「だけど魔法少女を人工的に強力にしても、その強力な魔法少女を作るために膨大なエネルギーが必要になる」

QB「エネルギーの収支は手を加えない場合と同等、むしろ手間を考えるとマイナスだ」

QB「だから本来、僕達が魔法少女を強化する事はない」

QB「でも今回はエネルギーの回収が目的じゃないからね。予算が許す範囲内で可能な限り強化してみたよ」



QB「さあ、暁美ほむら」


551: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/19(水) 19:17:11.42 ID:WkOubGLx0









QB「妖精の力を使って、最強の魔女を倒してみせてよ!」














600: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/26(水) 09:27:54.58 ID:lw2GyATE0



えぴそーど じゅーさん 【ほむらさんと、くりーむひるとさん】



601: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/26(水) 09:29:11.37 ID:lw2GyATE0


――――それは山と言えば良いのでしょうか。


展開された結界の中は、地平線の彼方まで白い花で埋め尽くされ、さながら天国のように素敵な景色が広がっていました。

猛烈な風が内部には吹き荒れていましたが、それによって舞う花弁は美しいと思ってしまいます。

気温もほどよく、居心地もいいです。


そんな天国に似つかわしくない姿をした真っ黒な”ソレ”は、暴風の中央に居ました。


先程思ったとおり、ソレは山のように巨大です。

形も山のような三角形っぽいですが、その先っちょで両腕を伸ばしている者の姿が視えました。

そう、足らしきものこそ見えませんが、ソレは人の姿をしているのです。


人によっては、ソレの姿に悪魔のようなおざましいを感じるかも知れません。

結界内に吹き荒れる暴風も、悪魔が迷い込んだ子羊を逃がすまいと、大口を開けて吸い込んでいるように感じるかも知れません。


しかし私には、ソレが悪魔とは到底思えませんでした。



だって、それはまるで誰かを抱きしめようとしているかのようで。


だって、それはまるで誰かを求めているようで。


だって、それはまるで――――



……結局のところこれは私の主観であり、出鱈目な憶測であり、無意識の期待なのでしょう。

いくら考えても、私はソレに対する正しい答えなど導き出せません。だって、私はソレではないのですから。


なら、ソレの気持ちを知りたい私がすべき事は一つ。


ソレから直接、聞き出す事です――――


602: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/26(水) 09:30:57.19 ID:lw2GyATE0


さやか「う、嘘……嘘、だよね……」

ゲルト【こんな事って……】

シャル「な、なに、よ、あれ……一体何なの!?」

QB「何を惚けているんだい? 自分が一度体験し、そして目の前でその光景を再度見たのなら、答えを出すのは簡単だろう?」

ゲルト【あり、あり得ません……だって、だってこんな……】

シャル「そうよ! あり得ない!」

シャル「あんな、あんなデカくて強い魔女なんて、あり得る訳がない!!」

QB「……ふぅ。データで見聞きはしていたけど、やっぱり人間の精神は理解出来ないなぁ」

QB「さっき言ったじゃないか。予算が許す限りの強化をしてみたって」

QB「なのに自分の予測を超えた途端現状を否定する……訳が分からないよ」

シャル「こ、いつ……!」

ほむら「シャルロッテさん」

シャル「っ……ほむら……」

ほむら「まこと不愉快ですが、そいつの言い分にも一理あります」

ほむら「どれだけ否定したい事実でもきちんと受け止める。巴先輩達に説教した手前、私達がやらなくてどうするのですか」

ほむら「今は鹿目さんを救い出すのが先決です」

シャル「……分かったわ」

ほむら「さあ! おいでませませ――――妖精さーん!」

妖精さん達「はーい」「じゅんばんにこーしーん」「おかしをまもるです」「おかし?」「おかしどこ?」
「おかしたべたいーっ」「くれる? くれます?」「じょーほーがさくそーしてる!」「でまのよかん?」
「そんなー」「ではなぜぼくらここに?」「さー」「きままにいきてく」「いつものことでは」「いつもどーりにー」

さやか「妖精さんがほむらの耳から出てきた! 行列作ってお行儀よく!」

ゲルト【……唐突に緊張感が薄れていきますね……】

シャル「この状況であの二等身不思議生命体の大群は卑怯よね」

QB(……どうやら妖精が出てきたようだね)

QB(このボディに搭載されているセンサー系に、妖精の反応はない)

QB(調査衛星でも妖精の観測は出来ていない。どうやら、余程高度な隠蔽性があるようだ)

QB(ま、これは既にある収集データから予測していた事)

QB(対象を観測する方法は直接見る事だけじゃない)

QB(大気の流れの変化、物体の運動量変化、不自然なエネルギー反応)

QB(間接的な観測データを積み上げれば、例え直接観測出来なくともどのような存在なのは推測は出来る)

QB(妖精。その姿を見せてもらうよ……)

QB(……ん?)


603: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/26(水) 09:32:04.64 ID:lw2GyATE0


妖精さん達「わー?」「すいこまれー」「かぜになりますー」「そらをとべるんだー」「とりになーれー」

さやか「ああ!? 出てきた傍から殆どの妖精さんが暴風に巻き込まれてまどかの方に飛んでいっちゃった!」

シャル「馬鹿でかい魔女が結界内で暴風を起こしているのに、何故か心が和んできたんだけど……」

ゲルト【あれ、いいのかなぁ……】

ほむら「大丈夫ですよ。妖精さんですから」

ほむら「さて、それより」

妖精さんA「にんげんさんにんげんさん」
妖精さんB「ぼくらになにかごよーでしょーか?」

ほむら「ええ、その通りです」

ほむら「あちらに居ます山のような魔女さん……あの方をどうにか助けたいのです」

ほむら「お願いできますか?」

妖精さんC「うけたまわりんぐ」
妖精さんD「ぜんりょくをつくすしょぞん」
妖精さんE「しかしながらめさきのことをどーにかすべきでは?」

ほむら「目先?」

妖精さんF「そー」
妖精さんG「そのばしのぎ、しませぬので?」

ほむら「しないと不味い事があるのですか?」

妖精さんH「たましい、すわれますが?」

さやシャゲル「……え?】


604: ◆HYvP9smHgsVn 2014/03/26(水) 09:33:23.42 ID:lw2GyATE0


妖精さんH「あちらのおやまにすわれてますな」
妖精さんI「つよくなってます」
妖精さんJ「すいすいーっとー」
妖精さんA「せんのかぜのなかまいり?」
妖精さんK「そのうち、ぽんっとぬけるのではー?」

ほむら「それはまた……随分と危険な力に満ちているようで」

さやか「いやいや!? 落ち着いてる場合じゃないよね!?」

さやか「そんな、魂が吸い取られるって!?」

シャル「魔女ならそういう奴がいても可笑しくないけど……あの力でやられると洒落にならないわね……」

ほむら「ま、大丈夫でしょう。その場しのぎの対策は出来るようですし」

ほむら「それで妖精さん。その対策とは?」

妖精さんD「ぼくら、おさえます」
妖精さんC「たましいでてくるふたにのって、おさえるです」
妖精さんA「これでだいじょぶです」
妖精さんL「かぜはつよくとも、きゅういんりょくいまいちなので」
妖精さんN「ひとりでへいきです」

ほむら「成程……」

ゲルト【えっと、どういう事……?】

ほむら「簡単に言えば、妖精さんが魂が抜け出るのを防いでくれるそうです」

ほむら「具体的には魂が出てくる蓋というのがあるらしく、その上に妖精さんを乗っければいいとの事」

シャル「つ、つまり?」

ほむら「つまり、こういう事です!」

さやシャゲル「!】

さやか(ほ、ほむらが妖精さんの一人を掴んだ!)

シャル(そして妖精さんを――――頭に乗せて……)














(・ワ・)
 ほむら 「これにて対策完了です!」



魔法少女は衰退しました 後編