1: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 02:08:01.62 ID:SpQ/wWX60
ここはとある操車場。
人気のないその場に一人佇む少女はミサカ10032号と呼ばれる個体だ。
彼女はとある実験で殺されるためだけに作られたクローンであり、
この場所は、本来その実験で彼女が命を落とすはずだった場所。
自分が殺されかけた場所に彼女がわざわざ足を運んだ理由……、
彼女自身、それがわからずにいた。

御坂妹「ミサカはなぜここにいるのでしょうか?とミサカは自分に問いかけます」

???「ククク……、知りたいかァ?」

御坂妹「!?」

振り向くとさっきまで誰もいなかったはずのそこに一人の少年が立っていた。

御坂妹「一方……通行……」

『一方通行』、その名は学園都市で最強の超能力者の能力名。
運動量、熱量、電気量などのあらゆるベクトルを観測し、変換する能力。
そして、『実験』で彼女を殺そうとした者の名でもある。

引用元: ???「ククク……、」 御坂妹「」 一方通行「」 上条「」 

 

5: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 02:45:53.49 ID:SpQ/wWX60
御坂妹「どうしてあなたがここに?とミサカは当然の疑問をぶつけます」

一方通行「簡単な話だァ。『実験が再開された』」

御坂妹「なっ!」

その一言で息が止まり、我が耳を疑った。
少年は確かに口にした。
『実験が再開された』と。
実験とはなんだ、実験が再開されるとどうなる、それが自分と"どう関係する"?
少年の言葉の意味がするところは―――。

ザッ

頭で理解するより先に身体が反応する。
即座に反転しその場から駆けだす。
何がどうなったかはわからないが、今この場から逃げなければ間違いなく死ぬことになる。
ミサカたちはもう一人だって死んでやることはできないのだから。

一方通行「愉快にケツ振って誘ってんのかァ!!」

6: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 03:10:47.95 ID:SpQ/wWX60
ところ変わってとある公園。
完全下校時刻を過ぎていることもあり辺りに人気はない。
唯一、無人の公演を闊歩するのは白髪の少年。
缶コーヒーが大量に入った袋をぶら下げ、杖を突きながらも悠々と歩いている。

???「ククク……、待てよ最強」

一方通行「あン?」

背後からの声に振り向くとツンツン頭の少年が立っていた。
その顔には見覚えがある。
無能力者でありながらかつて自分と対峙した男。
レベル0でありながらレベル5の自分を倒した男。

一方通行「三下ァ、俺になンか用でもあンのかァ?」

7: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 03:38:22.95 ID:SpQ/wWX60
上条「歯を食いしばれよ最強(さいじゃく)、俺の最弱(さいきょう)は、無茶苦茶響くぞオラァッ!」

一方通行「なっ、テメェ! いきなり何しやがる!」

振り上げられた拳が届くか否かというタイミングで
演算補助装置を能力使用モードへと操作すると
足元のベクトルを操作しバックステップで少年の攻撃を回避する。

一方通行「どういうつもりかァ知らねェが、身に覚えのないことで殴られてやるほど人間できちゃいねェぞ、おィ」

かつて自分を屠った相手を前に杖とコーヒーを投げ捨て臨戦態勢を取る。

上条「身に覚えが無いだと? まさかお前は改心したら今までのしたことが許されると思ってるんでせうか?
  お前はその力で何人の人間を傷つけてきた? 自分でもわかってるはずだ最強。
  この世でお前のことを許してくれる人間なんて一人だっていやしねえんだ。
  それでもお前が身に覚えが無いって言うのなら、まずは

  そ の ふ ざ け た 幻 想 を ぶ ち 殺 す ! 」

一方通行「上等だァ三下アァァァ!」

8: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 04:02:23.69 ID:SpQ/wWX60
再びところ変わってとある大通り。
少年上条当麻はタイムセールスという戦場での戦利品を片手に急ぎ帰路に就いていた。

上条「インデックスの奴、怒ってるだろうなぁ」

遅くなっちまったからなぁ、などと独りごちりながら思い浮かべるのは
現在同居中のはらぺこ少女のことである。
俺よりも小柄なくせに食べるのは俺の倍以上だし、
腹減ってたらなんだって、それこそ缶詰だって封も切らずに丸のみしかねない。
うー『怖い怖い』。

???「くくく、なんだよとうま」

上条「ヴぇ!? い、インデックス……」

どうしてこんなところにインデックスがいるんだ?
空腹に耐えきれず俺を迎えに来たのか?
っていうか今の独り言聞かれてなかったですよね?
突然現れた少女に身体が教師に悪戯が見つかった時のような緊張を覚える。

上条「インデックスさん、こんなところでどうしたんでせうか?」

禁書「ねえとうま、その手に持ってるのって何」

9: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 04:15:49.47 ID:SpQ/wWX60
上条「これか? これは一週間分の食料だ」

あぁ後今日のデザートのプリンも入ってるぞ、と。
少年がそう続けようとする前に少女は駆け出していた。
瞬きする程度の時間で少年が左手に持つスーパーの袋を奪い
その小さな身体に似つかわしくない大きな口へと袋の中身を盛大にぶちまけた。

上条「なっ! 馬鹿! いくら腹が減ってたからって! スチロールの容器やプラスチックやら
  それに缶詰だって入ってたのをそのまま丸呑みなんて!!!」

少年の制止も聞かずに気休めにもならない咀嚼をする少女。
『右手』に持つ残り半分の一週間分の食料を道へ置き捨て少女に駆け寄る。
そして少女に伸ばした『右手』が少女に触れた瞬間、
始めからそこには誰もいなかったかのように少女は霧のように消えてしまった。

17: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 15:20:20.89 ID:SpQ/wWX60
上条「え? おい、インデックス? どこいっちまったんだよ」

禁書「何、とうま」

上条「ふぇ?」

さっきまで目の前にいたインデックスに後ろから話しかけられた?
なにがどうなってるのかわかんねえけど今はそれどころじゃない。

上条「インデックス! 今食ったもん吐き出せ! 背中さすってやるからほら早く!」

禁書「え、ちょっととうま! どうしたの、何言ってるのかわからないよ」

上条「だから今食ったビニールとか缶詰とか吐き出せって、いくら空腹だったからって」

がぶり。

禁書「ほうは~!! いくらわはひへほふひふふはたたへないんだよ!」
 ※とうま、いくらわたしでも無機物は食べないんだよ

上条「ぎゃああああああ、痛い痛い痛いー、ごめんなさい謝りますので食べないでー!!?」

18: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 15:37:04.24 ID:SpQ/wWX60
禁書「とうま、少しは落ち着いてくれたかな」

上条「はい」

上条当麻はなぜか道の真ん中で正座させられ、お説教されている真っ最中です。
上条さんはただ心配だっただけなんですよ?
なのにこんな……、不幸だ。
っていうか背中に刺さる周囲の目が痛いです。

禁書「ねえとうま。とうまはさっきまでわたしと一緒にいたのかな」

上条「何言ってるんだインデックス、頭でも打って記憶喪失にでもなっちまったのか?」

禁書「真面目に答えてほしいんだよ。さっき私が『後ろから』話しかけるより前」

目の前の少女は確か記憶力だけが取り柄の大食漢だったと上条さんは記憶しているのですが、
上条さんはまたしても記憶喪失になってしまったんでせうか。

上条「後ろから? お前が話しかけてきたのは『前から』だったじゃないか。
  話しかけてきたと思ったらいきなり買い物袋を奪って容器までまるごと」

禁書「わたしはね、とうま。魔術の気配を感じてここまできたんだよ」

上条「なっ、魔術だと!?」

24: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 20:12:53.00 ID:SpQ/wWX60
少女は走っていた。
電気を操る自身の能力を活かし足に刺激を与え、筋肉を限界以上に酷使する。
背後から迫る恐怖からは、最初にレールが、次には巨大なコンテナが投げ飛ばされてくる。
直撃すれば間違いなく命を落とすであろうその攻撃は、寸でのところで脇に逸れていく。
これは決して運がいいのではない、奴は遊んでいる、少女は弄ばれているのだ。

一方通行「クカカカ、鬼さンこちらァ手の鳴る方へってかァ」

手近なコンテナの裏へと滑り込み追手の死角に入る。
ここで不意打ちを仕掛ける必要はない。
ただこの場から一刻も早く離れることだけを考える。
破裂しそうな心臓を押さえ息を殺し足音を忍ばせ、
万が一にも見つかるまいと操車場の外を目指す。
後ろでは、大きな――交通事故の時にでも聞くような――音が何度もしている。
奴が少女を探して手当たり次第に暴れているのだろう。
しかし、その轟音は遥か遠い。
どうやら見当違いの方へ行ってくれたようだ。
そこからはよく覚えていない。
とにかくその場から少しでも距離を置きたくてどこどう走ったか―――。
気付けば目の前には公園があった。

26: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 21:07:41.54 ID:SpQ/wWX60
それはいつか見た光景だ。
自分の価値を単価18万円の代替可能な実験材料として見ていなかった頃、
あの日、少女が殺されるはずだった日の出来事。
学園都市最強と呼ばれる超能力者に右手一本で立ち向かったヒーロー。
あの時の光景が再び目の前で繰り広げられている。

御坂妹「これは夢……白昼夢という奴でしょうか」

これが夢だとしたらとびっきりの悪夢だ。
わからないことだらけの現実に思わず吐き気を覚える。

御坂妹「情報があまりに不足しすぎています。ミサカはミサカネットワークを通じて上位個体に説明を……っ!?」

繋がらない。
クローンであるミサカたちは脳波リンクによってミサカネットワークを通じ、
他のクローンたちと意識を共有することができる。
クローンの数は1万人規模であり、その誰とも繋がらないというのはほぼありえない。

御坂妹「状況が何一つとして理解できませんが……」

少女は立ちあがる。
わからないことは数え上げればキリがないが、わかってることが一つだけある。

御坂妹「命の恩人が戦っているのを見過ごすわけにはいきません、とミサカは自身を鼓舞し奮い立たせます」

27: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/27(木) 21:35:24.54 ID:SpQ/wWX60
一方通行「確かに俺は悪党だァ。俺を恨んでる奴なンて星の数ほどいるだろうな。
  だけど、それとこれとテメェがどう関係するってンだ三下ァアアアー!!」

右足を振り上げベクトルを操作して地面に叩きつける。
コンクリートは捲れあがり破片が凄まじいスピードで発射される。
対峙した目の前の少年はその全てを横っ跳びでかわす。

上条「おぉっと、危ない危ない」

少年は額の汗をぬぐう動作をするが焦る様子はない。

一方通行「すかしてンじゃねェぞ三下風情があああ」

これ見よがしな挑発に頭に血を上らせた一方通行は少年との距離を一息で0にする。
狙うのは頭、血流操作ではなく脳波を乱し昏倒させるつもりだ。
しかしその行動は少年にとっては願ってもないもの。
半歩下がり一方通行の掌底をかわすと同時に自身の拳を顔面にカウンターとして叩きこむ。

一方通行「ガァッ!」

上条「なんだよ今の声、烏でももっと綺麗な声で鳴くぞ」

28: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/28(金) 00:00:46.55 ID:tTZfZ4S10
一方通行「やめだやめだァ、気絶させてことを収めようなンざ俺の性格的にありえねェだろォ。
  テメェが本気ってのはよォくわかった、両手両脚引き千切ったうえで生かしてやる!
  後で殺してくれって頼んだって手遅れだァ!!」

そう言い放つと一方通行は高く大きく跳躍して薄暗い公園を照らす一本の電灯に着地する。

一方通行「この間は邪魔が入ったが今度は誰も助けちゃくれねェぞ三下ァ」

手の平を真上に掲げるとそこに小さな光が点る。
大気のベクトルを操作し圧縮された空気がプラズマを発生させる。
わずか数秒で光の玉は大きく膨れ上がり電灯の光が霞むほどの輝きを見せる。
が、ツンツン頭の少年は動かない。
一方通行を殴り倒した位置からニヤニヤと厭らしい笑いを浮かべ光の玉を観察している。
余裕ともとれるその行動に一方通行の頭を一抹の不安がよぎる。
あの右腕は一方通行にとってブラックボックスそのもの、何が起こるかは予想ができない。
その一瞬の気の迷いから周囲への警戒が薄れた瞬間、

カァン!

と背後から何かを弾くような高い音が聞こえてきた。
振り向けばそこにあったのは自身に向かい飛翔する、その音の通りの空き缶。
そしてその宙を舞う空き缶を結び延長線上に立つ一人の少女。
一方通行が相手の顔を視認した次の瞬間、
少女の手から放たれた青い電撃が一方通行に襲いかかる。

一方通行(プラズマの演算中に反射の演算までする余裕はねェ。何より……)

一方通行がプラズマの演算を中断し新たに電流のベクトル演算を終えたのと
空き缶を避雷針として電撃が一方通行に直撃したのはほぼ同時。
一方通行が行った演算は反射ではなく上方へのベクトル変換、
電撃は真上に飛び四散して消えた。

御坂妹「ミサカたちはもう一人だって死んでやれません。ですが、
  ミサカは恩人を襲うあなたを見過ごすこともできません!」

29: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/28(金) 01:00:11.24 ID:tTZfZ4S10
一方通行「どんな厄日だよォこりゃァ」

ツンツン頭の少年を警戒しつつ電灯から飛び降りると、
ゆっくりと歩き自分で投げた杖を拾うと装置を通常モードへと操作する。
少年はその行動をつまらなそうに、少女は警戒した様子で見据えている。

一方通行「先に言っとくがなァ、いきなり殴りかかってきやがったのはあの三下の方だァ」

御坂妹「それは再開された実験を止めるためでしょう、とミサカは警戒を解かずに反論します」

一方通行「実験再開だァ? それは絶対能力進化計画のことォ言ってンのかァ? そンな話俺は聞いてねェぞ」

御坂妹「実験が再開されたと口にしたのはあなたですよ。とミサカはやはり警戒を解かずにさらに反論します」

一方通行「はァ、俺がァ一体いつゥどこでェ、何時何分何秒にそンなこと言ったってンですかァ」

御坂妹「つい先ほど、操車場で、ミサカを襲いながらあなたがそう言いました。とミサカはあなたの子供染みた発言に怒りという感情を強く感じながら答えます」

一方通行「俺だってコんビニでコォヒィ買ってその帰りに、ってお前よく見りゃァ傷だらけじゃねェか!」

御坂妹「近付かないで下さい、ミサカはあなたを信用していません。とミサカはあなたに警告します」

一方通行「チッ、すみませンー、お前がそう言うンなら近付かねェよォ」

31: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/28(金) 02:10:27.95 ID:tTZfZ4S10
一方通行「おい三下ァ、お前はなンか知ってンのかァ」

見た目から命に別状はないと判断しその矛先を先の少年へ戻す。

一方通行「実験だなンだってのォ、俺は聞かされてねェんだが」

殴りかかってきたということは相応の理由があるということ。
仮にもヒーローが顔見てムカついたなんて理由で殴りかかってくるとは考えにくい。
自分が知らないだけで、実験は本当に再開しているんではないか、
正直なところ、少年が口を開くのを待つ間、一方通行は気が気ではなかった。

上条「白髪のお爺さんが杖突いて重そうな荷物持ってたから
  優しい上条さんはとりあえず力いっぱい顔面ぶん殴らないと気が済まなかっただけのことですよ」

だから、こんなふざけた返答を頭で理解するのにたっぷり10秒もかかってしまった。
少女もその言葉を聞き、信じられないものを見た時のようなぽかんとした顔をしてしまっている。

上条「なんだ反応なしか? まぁどちらにしろ今日はもう限界だしな。
  じゃあそういうことで、またなサイジャク」

一方通行がふざけた内容(挑発)を理解しブチ切れるよりわずかに早く、
少年は歯切れの悪い捨て台詞を残して文字通り霧のように消えてしまった。
そして公園に残された男女二人に気まずい空気が流れる。

32: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/28(金) 04:11:05.43 ID:tTZfZ4S10
一方通行(おィおィ、こいつと二人きりで何話せって言うんですかァ)

一方通行が黙ってこのままいなくなろうかと考えた頃、口を開いたのは少女からだった。

御坂妹「……一方通行、あなたは本当にミサカに襲いかかっていないのですか?とミサカはもう一度確認します」

一方通行「あァ、俺はお前と同じ顔した奴に二度と手をあげたりしねェ、そう誓ったンだ。
  信用できねェ、今ここで殺すって言うンなら俺はァそれでもいいと思ってる」

心残りがあるとすりゃァ、10031回殺されてやれないことだァ。
そう付け加えた時の一方通行の顔は、ひどく哀愁が漂っているように見えた。

御坂妹「そうですか。では、ミサカはあなたのことを信用することにします。とミサカは最終的な決断を下します」

甘い奴だ。口にこそ出さなかったが口元が緩んでいたらしく、
実験に関してはミサカにも責任がありましたので、と気を使わせてしまった。

禁書「とうまー、気配はこっちの方からするんだよ、急いで」

33: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/28(金) 06:25:48.61 ID:tTZfZ4S10
上条「先に行くなってインデックス、魔術なら上条さんが前の方が安全だろ」

公園に現れた二人の訪問者。
一人目は科学の街学園都市には似つかわしくない修道女の恰好をした、まだ幼さを感じる少女。
そして二人目は、

一方通行「三下アアアアアアアアアアア!!!?」

公園に入ると同時にいきなり三下呼ばわりされ、聞き覚えのある声に身体を強張らせる少年上条当麻。

上条「わっ、一方通行!?」

一方通行「テメェ、さっきはよくも俺のことォ散々馬鹿にしてくれたなァ。
  それだけじゃねェな、殴られた左頬の礼も」

上条「御坂妹も一緒なのか……ってその怪我どうしたんだ! まさか一方通行にやられたのか?」

御坂妹「ええ、まあ、確かにその通りなのですが、とミサカはどう答えていいものか迷い曖昧な回答を返します」

一方通行「おィ聞けよ三下ァ」

上条「実験は終わったんじゃなかったのかよ、ふざけんじゃねえぞ!
  どんな理由があったか知らねえけどなあ、どんな理由であっても御坂妹を傷付けていいなんてことにはならねえんだよ。
  一方通行、お前が御坂妹を苦しめるって言うのなら、まずは
  そ の ふ ざ け た 幻 想 を ぶ ち 殺 す ! 」

べちーん!

一方通行「ぐふゥ」

40: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/28(金) 16:18:12.56 ID:tTZfZ4S10
御坂妹「かくかくしかじか、というわけです。とミサカは古典的な簡略説明をします」

一方通行「でェ、三下くンはァ、何か言うことがあるンじゃないンですかァ」

上条「あ、あははー。いやぁそのですねぇ、咄嗟のことで気が動転していたといいますか」

一方通行「ァン!?」

上条「すみませんでした、一方通行様ー!!」

上条当麻が勢い勇み一方通行にワンパン喰らわせた後、
すぐに御坂妹が仲介に入り状況の説明をし今に至る。

上条「一応弁解しておくけど、最初に殴りかかった俺は俺じゃないから」

一方通行「おゥ、それはなンとなくわかってるゥ。
  最初に殴りかかってきた奴もムカつく野郎だったがァ、テメェはその数倍ムカついた」

上条「すみませんでしたー!」

御坂妹「ですが、ミサカを襲った一方通行や、一方通行を襲った偽物のあなたは誰だったのでしょうか?
  もしや、ミサカのようなクローンだったりするのでしょうか?とミサカは自分の誕生理由を思い出し身震いします」

一方通行「さすがにィそれはないだろォ、俺はDNAマップを提供した覚えなんかねェしィ、
  さっきの偽の三下は霧のように消えちまったァ、科学的なクローンよりも
  オカルト的なドッペルゲンガーって言われた方がァしっくりくらァ」

ドッペルゲンガーとは、ドイツ語で「生きている人間の霊的な生き写し」を意味する。
その者の寿命が尽きる前触れだとか、本人が出会うと殺されて入れ替わられるなど
様々な伝承があるが、この場合「非科学的な存在」というニュアンスで言ったことだろう。

上条「それについてなんだが、一応の心当たりがある」

41: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/28(金) 17:24:56.01 ID:tTZfZ4S10
禁書「ようやくわたしの出番なんだよ」

一方通行「そういやこのシスターさンはなンなンですかァ」

禁書「わたしの名前はいんでっくすって言うんだよ、よろしくねあくせられーた」

一方通行「はいよろしくゥー」

禁書「そっぽ向いてよろしくする気なんてこれっぽっちもないみたいなんだよ、とうま!?」

上条「そいつはそう言う奴だから。とりあえず話進めちゃって下さい」

禁書「むぅ、わかったんだよ。
  あくせられーたと妹の短髪が会ったのは魔術で作られた『噂』なんだよ」

一方通行「魔術だァ? いきなりわけわかンねェ単語が出てきたぞおィ」

禁書「うーん、詳しく説明すると長くなっちゃうから今はそういう世界があるってことで納得してほしいかも」

御坂妹「わかりました、続けて下さい。とミサカは話の続きを促します」

44: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/28(金) 18:14:02.23 ID:tTZfZ4S10
一方通行は出だしから荒唐無稽な話だと感じていたが話の続きはさらにその上をいくものだった。
今この街全体が魔術の儀式場になっている、だとか
噂を媒介にして世界に顕現する御使堕しの術式に近いかも、だとか
挙句に詳しくはわからないからまだ推測だけどときたもんだ。

一方通行「つまり俺とこいつが出会ったのは噂が形になったものでェ、
  それぞれ苦手意識を持ってる相手が現れたって言うのかァ?
  馬鹿馬鹿しィにもほどがあンぞ、それならまだ立体映像とかのが信憑性あらァ」

禁書「科学のことはよくわからないけど、その立体映像っていうのは人を殴れるのかな」

一方通行「そりゃァ……無理だ、けどよォ」

御坂妹「一方通行、にわかには信じがたいですが、あなたの反射を無効化したのは事実です。
  ある程度は許容し歩み寄ることも大切です。とミサカは順応性の高さを見せつけます。
  それに……」

一方通行「それに、なんだよ?」

御坂妹「噂というのであれば心当たりがあります。正確には都市伝説なのですが……」

曰く、風力発電のプロペラが逆回転するとき、街に異変が起きる!
曰く、使うだけで能力が上がる道具レベルアッパー!
曰く、どんな能力も効かない能力を持つ男。

御坂妹「学園都市最強の第一位に関する噂は腐るほどあります。
  とミサカは復活したミサカネットワークを駆使しいくつかの都市伝説をピックアップします」

上条「その『どんな能力も効かない能力を持つ男』ってもしかして上条さんことでせうか」

御坂妹「恐らくですが」

禁書「少しは信じてくれたかな、あくせられーた」

一方通行「ちっ、少しだけな」

46: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/28(金) 18:41:52.96 ID:tTZfZ4S10
上条「俺も、その都市伝説って奴に会ってるんだけど」

一方通行「あン? 聞いてねえぞそンな話ィ」

上条「悪い、言いそびれてた」

一方通行「で、テメェはどんな都市伝説と出くわしたってンだ?」

上条「都市伝説かどうかわかんねえんだが、俺が会ったのはこのインデックスなんだ。
  つっても出会っていきなり3日分の食料を一口で食われただけなんだが」

禁書「失礼な話なんだよ。だいたい、わたしはここにきて日が浅いから都市伝説になんて」

御坂妹「ありました」

禁書「へ?」

曰く、学園都市全てのバイキング店を潰して回った白衣のブラックホール。

一方通行「何? こいつこの小さいなりで無茶苦茶食うンですかァ?」

上条「余裕で俺の倍以上、容器まで一緒に食べてなければ違和感なかったと思う」

禁書「くーるびゅーてぃーってばひどいんだよ!」

御坂妹「ミサカが流布したわけではありません。とミサカはミサカに否はないと言い張ります」

禁書「ゔ~~~、とーうーまー!!!」

上条「え!? ちょっ、何で俺ー!!? ふ……不幸だああああああああ」


とある魔術のタタリの夜に。第一夜完。

51: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/29(土) 03:55:39.01 ID:776mrtoT0
その後、あらかたの情報交換を終えた4人は
インデックスがより詳しい人間に話を聞くということで
その日は解散することになった。

そして翌日、ファミレスにて――――。

禁書「『タタリ』、それがこの街で行われている魔術儀式の名前なんだよ」

インデックスが店に到着したときにはすでに一方通行、御坂妹が席についており、
補習で遅れていた上条当麻が今しがた到着しようやく話が始められた。

禁書「この魔術はとっても特殊なんだよ。
  タタリは限定された区画での強い不安感や一般性を持つ噂を具現化する呪い。
  これはね、専門用語になるんだけど固有結界って言ってとても高度な魔術なんだよ」

昨晩――――。

オルソラ『それは間違いなく“タタリ”でございましょう』

禁書「タタリ? わたしの頭の中の魔導書にも載ってないし聞いたこともないんだよ」

オルソラ『それもそのはず、元を辿ればアトラス院がからんでくるのでございます』

禁書「アトラスって錬金術で有名な?」

オルソラ『そうでございます。あそこの方々は何かと秘密主義なものですので、
  詳しいこととなりますと最大主教や一部の専門機関に属する者しか……』

禁書「それでも知ってることには知ってるんだよね?
  ならどんな小さなことでもいいから教えて欲しいんだよ、オルソラ」

52: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/29(土) 04:15:28.88 ID:776mrtoT0
オルソラ『まず、タタリと言うのは限られた区画で行われる呪いなのでございます。
  そしてその区画に住まう人々の強い不安感や一般性を持つ噂に形を与え具現化する、
  それは一種の固有結界と考えてもらっても差し支えないものでありましょう』

禁書「ちょっと待ってほしいんだよ! 今、固有結界って」

オルソラ『はい。ご存じでしょうが固有結界は術者を中心とする心象世界を
  “現実と異なる現実”としてカタチを与える高度な術式でございます』

禁書「……」

オルソラ『インデックスさん』

禁書「大丈夫なんだよ、続けて欲しいかも」

オルソラ『わかりました。先ほど、噂を具現化すると申しましたが
  噂の大本が存在する場合がとても厄介だと伺っているのでございます。
  なぜならタタリは噂の元となった存在と同じ力を奮うのでございます。
  そして、観測者に影響され元となった存在以上の力を発揮することもあるそうなのでございます』

禁書「例えば当麻のタタリが現れたとして、その当麻が魔術を使うこともあるってこと?」

オルソラ『実際には、それを強く信じそのことに畏怖を覚えた場合と条件が付くのでございますが、
  逆を言えば、条件をクリアすれば容易に起こりえるとお考え下さいませ』

53: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/29(土) 04:31:05.89 ID:776mrtoT0
オルソラ『シェリーさんがいらっしゃればもう少し詳しい話もお聞きできたのですが』

禁書「シェリーならタタリのこと詳しく知ってるの? 今どこにいるのかな」

オルソラ『今お話しした内容は全てシェリーさんにお聞きしたものなのでございますよ。
  ですが、シェリーさんはただいま外出中でして、明日には戻ると思うのですが』

禁書「そっかぁ、シェリーが帰ったらすぐに連絡欲しいかも」

オルソラ『承知いたしました。わたくしは少しはお役に立てたのでございましょうか」

禁書「うん、とっても。ありがとうなんだよオルソラ」

オルソラ『それはよかったのでございます。では、おやすみなさいインデックスさん』

禁書「おやすみなんだよオルソラ」

――――――――

禁書「今わかってるのはこのぐらいかも」

インデックスが昨晩電話でオルソラと話した内容をそのまま伝える。
異教の話を聞き終え最初に口を開いたのは一方通行だった。

一方通行「魔術なンてわけわかンねェこと言いやがって、
  要するにちょっと規模がでけェ自分だけの現実(パーソナルリアリティ)じゃねェかァ」

54: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/29(土) 22:38:11.26 ID:776mrtoT0
禁書「む、わかったような口ぶりだけど魔術が軽く見られてるみたいでちょっと嫌かも」

一方通行「俺たちが使う超能力ってのはァ起こりえないことをォ起こりえると思いこむことで発現するんだァ。
  その固有結界ってのはまさに超能力そのものじゃねェかァ」

禁書「うーん、確かにあくせられーたの言うことも一理あるかも。
  でもこの場合、固有結界が超能力に似てるんじゃなくて超能力が固有結界に」

上条「その辺の原理的な話は置いといて、ぶっちゃけこの後どうするんだ?
  敵の目的もどこにいるかもわからないし、どう動くつもりなんだ」

一方通行「そもそも俺たちが動く必要なンてあンのかァ?
  こういうことはジャッジメントやアンチスキルに任せときゃいいンじゃねェのか?」

禁書「魔術に詳しくないこの街のたちじゃ対抗するのはかなり難しいと思うんだよ。
  それにもしわたしたちの噂が勝手に暴れて誰かを傷付けたりしたらとても困るんだよ」

一方通行「それはそうだがァ……」

インデックスの言葉に何か思うところがあるのか口ごもる一方通行。
しばらく視線が宙を泳いだ後隣の席に座る御坂妹の方でぴたりと止まる。

御坂妹「?」

一方通行「はァ、とりあえず俺たちでどうにかするしかないってことかァ。
  学園都市最強の俺がいるんだァ、どんな都市伝説が相手でも関係ねェ。
  もし俺の都市伝説が現れたとしてもテメェの右手ならなんとか、って
  三下は何ニヤニヤしてやがるんですかァ!?」

上条「一方通行もずいぶんと丸くなったなぁって思って」

一方通行「あァ? どォやら三下くンは愉快なオブジェにされてェよォだなァ」

56: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/30(日) 00:09:00.31 ID:SkLWw42t0
???「ちょっとアンタたち!」

一触即発とまではいかないまでも、倦厭なムードが漂うファミレス店の隅の一角に
好んで近づき、なおかつ話しかけるような奇特な人間がどこにいるだろう。
ましてや、学園都市最強と謳われる一方通行がその中に含まれているわけで
彼を彼であると知りつつ話しかける者などごくごく限られている。

御坂妹「こんにちはお姉様、とミサカはごく自然な対応をします」

一方通行「なんだァ第三位か」

禁書「なんだ短髪か」

上条「なんだビリビリか」

美琴「なんだとはなんだああああ、あとビリビリって言うなぁッ!」

四者四様の反応(うち三人からぞんざいな扱い)に
ビリビリと全身から放電して怒りをあらわにする少女、
彼女の名前は御坂美琴、学園都市第三位の電撃使い(エレクトロマスター)である。

57: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/30(日) 01:49:52.98 ID:SkLWw42t0
美琴「っていうかこの面子はありえないから、なんかもういろいろと。
  ねぇあたしの話聞いてる?」

作戦会議なう――――。

上条(御坂に見つかっちまたったけどどうする?
  こいつもレベル5だし味方に居れば心強いと思うが)

御坂妹(今回の件にお姉様は無関係です。あまり心配させたくありませんし、
  できれば何事もなく日常を過ごしていてもらいたいです)

一方通行(戦力的には俺一人いりゃァ十分だ、無理に誘う必要はねェ)

禁書(あくせられーたがそう言うのなら、わたしはどっちでもいいんだよ)

誘う1票、誘わない2票、無効票1票


上条「というわけでだな御坂」

美琴「何が『というわけ』なのかわかんないんだけど」

58: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/30(日) 02:18:30.57 ID:SkLWw42t0
上条「俺たち、さっきそこで偶然ばったり遭遇してな」

御坂妹「そうです、偶然にも食パンを咥えて走っていたら曲がり角で一方通行にぶつかってしまって、
  とミサカはついさっきそこであったことを説明します」

一方通行「おィ、なんだァその超設定はァ」

上条「それで一方通行が腹減ってるなら飯奢るって言い出してな」

一方通行「オイィィィ、さりげなく何言っちゃってるンですか三下ァァ」

禁書「ごはん!!」

上条「インデックスは黙ってなさい。
  夏休みにいろいろあったしその罪滅ぼし的なー、だよな?」

美琴「……。本当なの? 一方通行」

一方通行「ちっ。……本当ですゥ。別に飯奢ったぐらいで罪滅ぼしになるなンて思ってねェし」

美琴「当たり前でしょっ! アンタがやったことは」

上条「御坂落ちつけ。気持ちはわかるがそれは御坂妹たちと一方通行の問題だ。
  俺たちが口を出すことじゃない。例えオリジナルのお前でも、な」

美琴「それは……そうだけど。その……悪かったわ」

一方通行「別にィ、気にしてませンー」

59: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/30(日) 02:36:08.44 ID:SkLWw42t0
上条「そうだ、せっかくだしお前も一緒にどうだ? いいだろ、一方通行」

一方通行「勝手にしろォー」

上条「いいってよ。ほら、隣座れよ」

美琴「え! ちょ、アンタの隣!?」

上条「もしかして門限か? 常盤台ってお嬢様学校だし厳しいか」

美琴「いや、別にそんなこと、ないんだけど。じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」

上条「ほら、インデックス。今日は一方通行の奢りだから好きなもの選んでいいぞ」

禁書「い、いいのかな、あくせられーた?」

一方通行「ガキが気ィ使うンじゃねェよ、好きなもン好きなだけ頼めェ」

この時、一方通行は忘れていた。
白衣のブラックホールの都市伝説を。
その都市伝説は確かに実在するものだったのだ。

禁書「ありがとうなんだよ。じゃあ、このページとこのページの料理全部持ってきてほしいんだよ」

一方通行「」

66: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/30(日) 14:55:14.69 ID:SkLWw42t0
一方通行「別によォ、金に困ってるわけじゃねェンだが」

上条「話の流れとはいえ、悪かったな一方通行」

禁書「ごちそうさまなんだよ、あくせられーた」

御坂妹「ありがとうございました。とミサカは素直にお礼を言われて頂きます」

一方通行「不幸だァ」

上条「ちょっ、それ俺のセリフ!」

御坂美琴を含めた五人での食事を終え、美琴に勘繰られないように一度別々に別れた後、
四人は改めて昨日の公園に集合していた。

上条「たしか、俺たちで何とかするってとこまで決まったんだったな」

御坂妹「はい。ですが、敵の居場所が分かりません。とミサカは一番の問題点を議題に挙げます」

禁書「一応、今日の午前中に街の中を見回ってみたんだけど、
  魔力は街中にまんべんなく滞っていて核みたいなものは見つからなかったんだよ」

一方通行「じゃァ、完全にお手上げってことかァ。なンか手はねェのかよ」

禁書「正直今は連絡待ちかも。せめて相手の目的とかわかってたらいんだけど」

67: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/30(日) 15:23:36.52 ID:SkLWw42t0
上条「都市伝説を具現化する大規模魔術、そこにどんな意味があるのか」

一方通行「意味も何も、完全にテロ行為じゃねェか。ンなもん考えるまでもねェ」

上条「テロ……」

上条当麻が過去に戦った魔術師の中に、科学サイドと魔術サイドで戦争を引き起こそうとした者がいた。
『彼女』は友を失った悲しみから事件を起こしたが
上条当麻らの活躍により拿捕されイギリス協会に引き渡されたのだった。
そして今、インデックスが電話を待ちわびている相手こそ、
皮肉なことにも件の人物シェリー=クロムウェルである。

禁書「だから今のところは都市伝説が具現化しそうなところを周って
  被害者が出ないようにわたしたちで叩くことしかできないんだよ」

インデックスの発言により、今後の方針が決まりかけた、その時だ。

♪マヨラー、その手を引く者などいない♪

上条「おぉっと、悪い俺の携帯だ」

禁書「もしかしてシェリーから?」

上条「違う、非通知だ。とりあえず出てみる」

69: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/31(月) 01:09:39.32 ID:FqwtaHZr0
上条「もしもし、どちら様?」

携帯『私よ、シェリー=クロムウェル。連絡くれって言ってたのはそっちなんだろ』

上条「シェリーか、何で非通知で」

携帯『早速だけどさぁ、近くに鉄橋ってない?』

上条「ぇ、鉄橋? 鉄橋なら何でもいいのか? 少し歩くけど」

携帯『あるのね、じゃあとにかくそこに向かいな。
  こっちはまだ調べ物があるから、一時間後にまた電話するわ」

上条「お、おい、シェリー! どういう」

携帯『ツー、ツー、ツー……』

上条「……。話聞かねーやつだな」

一方通行「でェ、俺たちゃァ鉄橋に向かえばいいのかァ」

上条「ああ、聞いてたか。なんかわかんねーけどとにかく行けって。
  それと調べ物が残ってるらしくて一時間後にまた電話するってよ」

70: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/31(月) 01:53:15.13 ID:FqwtaHZr0
上条たちがいた公園から一番近くの鉄橋まで徒歩でおよそ二十分程度の距離。
足を悪くする一方通行のことを考えるとバスでの移動が好ましいのだが、
生憎と完全下校時刻間際のため運行しているバスはなく、やはり歩いて向かうことになった。
どうせ、シェリーが次に連絡をくれるのは一時間後だ。
急げとは言われなかったし、次に電話がかかってくるまでに到着すればいいだろうということで
一方通行を気遣い、上条たちはゆっくり三十分かけて目的地に到着した。

鉄橋――――。

上条「やっと着いたな。シェリーとの電話からまだ三十分しか経ってないし休憩にするか」

御坂妹「できれば自動販売機でもあれば喉を潤せるですが、
  とミサカは周囲を見回しつつやっぱり無いなぁと気を落とします」

一方通行「うぜェ、その遠まわしな優しさが吐き気がするほどうぜェよクソッたれ」

上条「いえいえ、単純に上条さんが疲れたから休憩したいなーと思って」

御坂妹「そうです、ミサカもミサカが喉が渇いたから自動販売機を探しているわけであって、
  決して夕食をご馳走してくれたお返しとか昨晩泊めて頂いたお礼に優しくしてあげ」

一方通行「ワァァァ―! テメェ黙ってろっつったろォがァ」

上条「え、何? お前昨日、御坂妹を泊めたわけ?」

一方通行「ばっ、ちげェし、三下が思ってるようなことァ何もねェよ」

71: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/31(月) 02:41:48.75 ID:FqwtaHZr0
御坂妹「ミサカネットワークの不調について上位個体に報告があったため
  一方通行の居候先に向かったのですが、夜も遅いということで帰り際に家人に引きとめられ、
  そのまま泊めて頂くことなったのです。とミサカは決して不純なことはなかったと
  誤解を解くと同時に一途なミサカをさりげなくアピールします」

上条「ミサカネットワークの不調?」

上位個体とか居候先とか気になる単語があった気もするのですが、
とりあえず重要そうな話を先でお願いします。
後も先もねェよ、テメェには関係ないことだァ。

御坂妹「詳しくは話していませんでしたが、一方通行と偽のあなたが戦っていた間のことです。
  状況の把握にミサカネットワークを通じて他のミサカと連絡を取ろうとしたのですが
  なぜかどのミサカとも連絡が取れなかったのです。とミサカは昨夜のことを克明に語ります」

禁書「なんだかよくわからないけど、みさかねっとわーくってのが使えないのは異常なことなの?」

御坂妹「はい、詳しい説明は省きますが学園都市内でそのような場所はほぼ皆無ですし、
  一時的だったとはいえ考えられない事態です。とミサカはいかに深刻かを熱弁を振います」

上条「それで、その上位個体ってのに会って原因はわかったのか」

御坂妹「残念なことに原因は不明なのですが、その時刻に上位個体や他のミサカは
  ミサカネットワークが繋がらないといったことにはなっていなかったようなのです」

上条「というと?」

御坂妹「憶測ですが偽物が現れている間、その辺りは電波などが遮断されるのではないかとミサカはそう考えています」

偽物が消えると同時にミサカネットワークが通じるようになったのもそう考える一因です、と付け加えた。

72: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/31(月) 03:03:12.15 ID:FqwtaHZr0
御坂妹の憶測が正しいとすれば、敵の発見に役立つのではないだろうか。
少なくとも不意打ちを食らうようなことはないし、これは大きなアドバンテージになるのでは、
などと上条当麻がいろいろ考えていたところへその思考を中断する音が鳴り響く。

♪マヨラー、その手を引く者などいない♪

上条「電話だ。少し早い気がするがシェリーからか、な!?」

携帯を取り出し、着信相手にそれと時刻を確認して上条当麻は愕然とする。

禁書「どうしたのとうま、誰から?」

上条「また非通知だ……」

そんなことよりも。

上条「圏外ってどういうことだよ」

上条当麻の発言に皆が息を飲む。
圏外の携帯電話に電話がかかってくることなどあるわけがない。
考えられることがあるとすれば表示画面の故障。
もし、そうでないとすれば。
思考する間も上条当麻の携帯は緊張感のない着信音を垂れ流し続ける。

上条「御坂妹、今ミサカネットワークは繋がるか?」

御坂妹「!? いえ、繋がりません!」

それはつまり。

携帯『いい加減電話に出ろよ、クソやろー』

その電話は、通話ボタンを押してもいないのに繋がった。

73: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/31(月) 03:39:21.15 ID:FqwtaHZr0
携帯『それにしてもこの街はいいわね、日が落ちて間もないっていうのにこんな簡単に具現化できちゃう。
  何より、開演まではまだ時間があるっていうのが素晴らしいわ」

携帯から聞こえてくる音声はシェリーのもの。
勝手に拡声ボタンが押されておりその声はその場にいる者全員が聞いていた。

上条「お前は誰だ」

携帯『誰ってさっき名乗ったじゃない、シェリー=クロムウェルだって』

上条「茶番はいい、姿を現わせ魔術師!!」

携帯『魔術師? くっくっく、あっはっはっはー!」

上条「何がおかしいってんだ!?」

携帯『そのような侮辱は初めてだよ、“人間”」

キラッ、どごおぉぉぉぉぉん……

視界の外で微かな光。そして次の瞬間に着弾し轟音が鳴り響く。
着弾地点は上条たちの約三十メートル前方、粉煙は未だ立ち昇っている。
正体不明の攻撃に上条たちは身構える。
こちらへ向かってくるゆっくりとした足音。
そして粉煙の中から現れた人物、それは『御坂美琴』その人だった。

76: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/31(月) 23:07:02.70 ID:FqwtaHZr0
上条「げ、御坂!? ってことは今のはレールガンかよ。
  ハブにしたこと怒ってんのか! マテ、オチツケ、とりあえず話し合おう!」

御坂「うるさい! 死ね!」

御坂美琴は拒絶の言葉と右手を振り上げ強力な電撃を放ってくる。

上条「インデックス下がってろ!」

反射的に右手をかざし幻想殺しで攻撃を受け止める。

御坂「ほんとにうっとうしい右腕ね、やっぱり今後の障害にならないように切り落としといたほうがいいかな」

上条「何物騒なこと言ってるでせうか!?」

半ば涙ぐむように叫ぶ上条当麻をよそに御坂美琴はポケットから一枚のコインを取り出す。
それは、彼女の代名詞でもある必殺の一撃の予備動作に他ならない。
御坂と上条の距離は約二十五メートル。
コインが弾かれる前にそこまで到達できるかは一瞬躊躇するほど微妙な距離。
そして上条が躊躇したことでその可能性はゼロとなる。
御坂は指でコインを上に向かって弾き、上条はそれを幻想殺しで受け止める姿勢を取る。
しかしそのコインがレールガンになることはなく、そのまま地面に落下したコインは綺麗な金属音を鳴り響かせる。

上条「あれ?」

決死の覚悟で受け止めようとしていた上条当麻にとっては拍子抜けだった。
一瞬で緊張がとかれ全身の筋肉が弛緩するのを感じた。

その時だ。

一方通行「上だ三下ァ!!」

77: ◆tVP11EVtkPKg 2011/01/31(月) 23:56:07.80 ID:FqwtaHZr0
一方通行の声を聞き、上条当麻は反射的に上を見上げる。
そこにいたのは真っ黒い剣のようなものを振り上げ上条に襲いかかる人影。
幻想殺しは、異能であれば神の奇跡さえ打ち消す力を持つが、
反面何の変哲もない普通の武器には全くの耐性が無い。
よって正体不明の攻撃には回避以外の選択肢が存在しないのだが、
前方の超電磁砲へ意識を集中していたため反応が鈍い。

一方通行「飯ィ奢った分含めて貸し二つだ三下ァ!」

チョーカー型の装置を操作し、上条に襲いかかる影目掛け一気に跳躍する。
その影は一方通行の動きに即座に反応し、体勢を崩しながらも黒い剣を横薙ぎに振う。
しかしその反撃は一方通行の能力『反射』によって容易にはじかれる。

一方通行「こいつァ砂鉄かァ?」

影の主は弾かれた反動から着地と同時バックステップを二、三度繰り返し上条たちから距離を取る。

???「ミサカと同じ顔をした人には二度と手を挙げないと誓ったのではなかったのですか?
  とミサカは昨日の今日で早速誓いを破るあなたに幻滅します」

静止したことでようやくその姿を確認できたかとおもいきや、『まさか』と思う。
御坂美琴に瓜二つの顔に、同じ常盤台の制服、そして独特の喋り方。

妹達(シスターズ)。

78: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/01(火) 00:55:19.11 ID:o5L5mKpY0
上条「妹達!? 御坂はともかくどうしてお前らが!」

禁書「ふぇ!? くーるびゅーてぃーが二人いる!」

突然のことにインデックスは目を丸くし隣にいるミサカと攻撃してきたミサカを交互に見やる。
ミサカの攻撃を弾いた一方通行は呆然とし青ざめてしまっている。

御坂妹「ありえません……、ミサカたちのレベルで砂鉄を剣のように操るなど。
  ミサカの製造番号は10032号! そちらの製造番号を答えなさい!」

ミサカ「奇遇ですね、ミサカの製造番号も10032です。とミサカは同じ製造番号のミサカに親近感を抱きます」

御坂妹「ふざけないで下さい! 同じ製造番号の個体は存在しません!
  ミサカ10032号はミサカであってあなたではありません!」

御坂妹がここまで感情を表に出すところを上条当麻は初めて目にした。
また御坂妹自身も、他人に対してこれほどまで怒りが湧き上がるのは初めての経験だった。

ミサカ「困りましたね。……ではこうしましょうか。とミサカはたった今浮かんだ妙案を口にします」

感情の読みにくい表情がわずかに曇ったかと思うと、ぽつりとつぶやくように宣言する。

ミサカ「より強い方が本物のミサカ10032号です」

いつの間にか手に持っていたコインを真上に弾き、宙に向かってデコピンの構えを取る。
空中で再度弾かれたコインはまさしく超電磁砲そのものだった。

79: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/01(火) 03:18:59.40 ID:o5L5mKpY0
レールガンは弾丸となるコインを音速の約三倍の速度で打ち出す技だ。
上条当麻とて音速で腕を振り回せるわけではない。
受け止めるためには弾道を予測し、予め通過点に腕を配置しなければならない。
ほぼ何の前触れもなく放たれたその一撃はただ茫然と眺めることしかできなかった。

どごおぉぉぉぉぉん!!

上条「御坂妹ー!!」

一直線に伸びた光線と衝撃波に目を眩ませる。
ミサカと御坂妹の距離は約十五メートル、到底外す距離とは思えない。
御坂妹の命運は尽きたかに思われた。

一方通行「チッ、そういうことかよォ。胸糞悪いにもほどがあるぜェ」

レールガンの軌跡で眩んだ目が徐々に慣れようやくといった感じで視界が開けてくる。
視力が回復した上条当麻の目に映ったのは仁王立ちする一方通行と、その後ろで座り込んでしまっている御坂妹の姿だった。
辺りを見回せば、一方通行によってあらぬ方向へと反射され着弾したレールガンの傷跡が見受けられた。

一方通行「無事かァ?」

御坂妹「は、はい……」

か細い声ではあるがどうやら無事なようである。

80: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/01(火) 03:42:14.62 ID:o5L5mKpY0
一方通行「第三位に関係する都市伝説ってなンかあるンじゃねェか?」

御坂妹「ええ……、はい……。あります。とミサカは簡潔に答えます……」

曰く、常盤台の第三位のそっくりさんがいる

一方通行「つまりアレは、都市伝説の第三位とそのそっくりさン、そういうことだろォ」

御坂妹「で、ですが! ミサカのレベルではあのようなことはできません!
  あの力は間違いなくレベル5です。とミサカはあなたの推論に異を唱えます」

禁書「オルソラが言ってたんだよ。噂の内容によっては元となった本人より強い力が使えるって。
  きっと短髪のそっくりさんなら短髪と同じ力が使えてもおかしくないってそういうことなんだと思う」

そう、突然現れた御坂美琴と自称御坂妹はタタリが具現化したもの。
御坂妹がレールガンを使えたのもインデックスの憶測通り、大多数がそう考えたからに違いなかった。

ミサカ「外されましたか。ですが力の差は理解してもらえたと思います。
  とミサカはミサカの前で無様に座り込む『偽物』に優しく諭します」

御坂妹「っ!?」

81: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/01(火) 03:59:52.25 ID:o5L5mKpY0
御坂妹「ミサカは……みさかは……ぅ、うあああああああああああああああ!!!!!!」

頭を抱え突然狂ったように叫び声を上げる御坂妹。
ミサカが口にした言葉が御坂妹を『破壊した』。
比喩でもなんでもなく、今の御坂妹はそうとしか説明できない状態に陥っていた。

一方通行「おィ、どォしたァ!? 落ちつけ! ……クソッ聞こえてねェのか!」

上条「一方通行! まずはこのタタリをぶっ倒さねえと」

一方通行「わかってるッッッ!!」

上条「!? ……インデックス、御坂妹を頼む」

禁書「任されたんだよ」

ミサカ「お姉様、どうしましょうか?とミサカはお姉様がどう答えるか知った上で尋ねます」

美琴「全員ぶっ殺す、それでいいでしょ」

83: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/01(火) 04:21:54.86 ID:o5L5mKpY0
一方通行「テメェは第三位、俺はあっちの『偽物』を潰す」

上条「なっ、てめえ勝手に!」

言うが早いか一方通行は凄まじい勢いでかっ飛んでいく。
上条当麻も後を追うようにして駆けだす。

ミサカ「先程は防衛でしたが、今度は好戦的に向かってくるのですか?
  やはり昨日の言葉は口だけだったのですね。とミサカは落胆の色を隠せません」

一方通行「あの言葉はテメェに向けた言葉じゃねェんだよ! 勝手に拡大解釈してンじゃねェぞ!」

ミサカ「『ミサカと同じ顔をした』、そう言ったのはあなたでしたよね?
  とミサカはあなたの単調な攻撃をヒョイとかわしながら反論します」

一方通行「例えテメェの面があいつらと同じでも、俺が守りてェもンにテメェは含まれてねェンだよォ。
  俺が守りてェもンを傷付けたァ、それだけでテメェは万死に価するッ!!」

84: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/01(火) 04:45:25.49 ID:o5L5mKpY0
美琴「そろそろアンタとの勝負にも決着つけたかったとこなのよね」

上条「そろそろも何も、上条さんとあなたは初対面だと思うんですがね」

美琴「つれないこと言わないでよ、いつも追っかけっこしてたじゃない。
  そういえばアンタに初めてレールガンぶっ放したのもこの橋だったわね」

上条「御坂の顔して御坂の思い出話語ってんじゃねえぞ三下ぁ!
  その思い出は御坂『だけ』のもんだ、パチモン風情が穢していいもんじゃないんだよ!」

美琴「御坂、だけ、かあ。そこにどうしてアンタは含まれてないのかしら?
  無いもの強請りで逆ギレするなんて男が廃るわよ」

目の前の敵は知っている。知り過ぎている。
御坂美琴のこと。上条当麻のこと。記憶喪失だということも。
それは今の上条当麻にとって誰にも知られてはいけないことだ。絶対に。

上条「いいぜ、てめえがどうあっても御坂を騙るってんなら、まずは
  そ の ふ ざ け た 幻 想 を ぶ ち 殺 す ! 」

91: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/01(火) 22:57:42.09 ID:o5L5mKpY0
真っ先に駆け出した一方通行だが、その攻撃は一度も当たらずにいた。

一方通行「ちょこまか逃げンじゃねェよ、愉快に素敵にビビらせてくれよォ偽物さンよォ」

ミサカ「今あなたに攻撃したところで反射されるだけです。
  そのような安い挑発に乗せられるミサカではありません」

しかし能力によってミサカの攻撃は反射されてしまう以上、反撃は無意味というより自殺行為。
ならばどう攻略するか、ミサカの狙いに一方通行は気付いていた。
そう、これはただの時間稼ぎ。
今の一方通行は過去の無敵だった頃と違い、能力の使用に時間制限がついている。

夏休み最後の日、俺は全てを失った。
それでも今俺は生かされている。
ならばその力は、俺を生かす者のために振わなければならない。
振うと誓ったのだ!

一方通行「教えてやるよ、俺の演算補助装置のバッテリーは持って後八分だァ」

ミサカ「? ……あぁ、そういう宣言ですか。とミサカはあなたの遠回しな宣言の意図をようやく理解します」

一方通行の大振りな攻撃を蝶のようにかわし、磁力を発生させミサカは鉄柱に対し垂直に着地する。

ミサカ「八分以内にミサカを倒すとそう言いたいのですね。ならばミサカはこう返しましょう。
  『それはこちらの台詞です』。とミサカは定番の決め台詞を口にしかなりの満足感を得ます」

92: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/01(火) 23:30:58.24 ID:o5L5mKpY0
一方通行「あァ? テメェこそ安い挑発してンじゃねェぞ。テメェの力は第三位と同等のレベル5だァ。
  だが、所詮は第三位だろォが。学園都市最強のレベル5の力舐めンじゃねェぞ!!」

口上を言い終わるが早いか、一方通行はミサカの立つ鉄柱の根元に強烈な拳を叩きこむ。
地面に垂直だった鉄柱は無残にも歪んでしまったが、ミサカは宙を舞い一方通行の真上を飛び越えていく。
その最中についでと言わんばかりに電撃を叩きこんでいく。
反射がある以上、元より狙いは一方通行には非ず。
電撃はコンクリートの地面に当たりレールガンによって砕かれた破片が
宙を舞散り一方通行の視界を一時的に奪うことになる。

一方通行「煙幕のつもりかァ? 何やったって反射で攻撃は当たんねェンだから無駄だっつーの」

即座に大気のベクトルを操り目障りな煙幕を取り払う。
やはりさっきのは挑発、冷静さを欠き時間を無駄に浪費すれば相手の思う壺だ。

ミサカ「ならばミサカのレールガンを反射できますか?とミサカは自信満々でコインを弾きます」

ミサカがコインを弾きレールガンを発射するのと、
視界の晴れた一方通行がミサカの後方にいる御坂妹とインデックスを視認したのはほぼ同時だった。

93: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 00:17:05.23 ID:1DhUvtlG0
もし一方通行がミサカのレールガンを反射していたら。
間違いなく発射したミサカを貫き、戦いに決着がついていたことだろう。
しかし、その威力は人一人を貫いた程度で衰えることはない。
結果、勝利の代償として御坂妹とインデックス、この二人を供物として捧げることになる。

一方通行(クソッタレ!)

反射的にそう考えてしまったがそのわずかなラグでさえ命取りになる。
反射を解き、新たに別方向へのベクトル変換の演算を行う。
コンマゼロ何秒で飛来する致死の一撃に恐怖する時間的余裕はない。
音速で襲いかかった光線は一方通行の額に直撃し、
次の瞬間に遥か上空へと花火のように打ち上げられていた。

ミサカ「驚きました。正直、絶対に間に合わないと思っていました。
  とミサカはあなたの無謀とも思える行動が実を結んだことに感嘆の声をあげます」

ぜェはァと息を吐く一方通行に声を返す余裕はない。
ギリギリで演算が間に合ったとはいえ、一方通行の額は赤く腫れている。

御坂妹「あくせら、れーた……?」

一方通行「ちっとは、落ちつい、た、みてェだなァ」

余裕はなくとも虚勢ぐらい張れる。
らしくねェ。だがァ、悪かねェ気分だァ。

94: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 00:45:43.01 ID:1DhUvtlG0
一方通行とミサカが戦っている間、上条当麻と御坂美琴の戦いも徐々に熱を帯び始めていた。

上条当麻と御坂美琴は一度だけ(途中まで)本気で戦ったことがある。
その時は抜群の演技力で負けた振りをしたが(なぜかさらに逆上させることになったが)、今度はその必要はない。
相手が女の子だからと言って気後れする上条さんではありませんのことよ。

美琴「その右腕だけはどうにかして切り落とさせてもらうわよ」

そう言って美琴が振り回すのは砂鉄で作られたチェーンソー。
御坂妹が手放して元の砂鉄に戻ったものを美琴が再び能力で操っているのだ。

上条「不幸じゃなくなるって言うんなら魅力的な提案ではあるけど、できれば遠慮したいところだな」

右腕を失う恐怖より知人を侮辱された怒りで、一歩また一歩と前進する。
こちらはこの右腕で、ただ触れるだけでいい。
ある程度なら相手の手の内も知っている。
上条当麻はその考えが慢心だった、驕りだったと思い知らされることになる。

95: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 03:50:42.83 ID:1DhUvtlG0
二人の戦いは御坂美琴の放った電撃によって火蓋が切って落とされた。
先制攻撃でありながらも十分な殺傷能力を持つ攻撃に、上条当麻は右腕をかざし防御する。
その対応を見て、美琴はすかさず距離を詰めチェーンソーを掛け声とともに大上段から振り下ろす。

美琴「ヤァアアアアアアアア!!」

上条はここで選択を迫られた。
その攻撃を身を引いてかわすか、右腕で受け止めるか、先に右腕で相手に触れるかの三択だ。
その中から上条が選んだのは右腕で受け止めるという選択、まず相手の武器を無効化しようというのだ。
しかし、結果的にその選択はまずかった。『読まれて』いたのだ。
美琴の持つ砂鉄のチェーンソーは上条の右腕に触れた途端に元の何の変哲もない砂鉄へと戻る。
上条はそのまま腕を振り下ろせば、幻想殺しで勝負は決するとそう考えていた。

上条「これで終わり、だ?」

最後の『だ』に疑問符がついたのは、美琴が左手で逆手に持つ二本目のチェーンソーが原因だ。
さっき上条が打ち消したもの比べればはるかに短いが
上条の腕を斬り落とすという唯一の用途を考えれば十分な長さを持つ。
上段からの振りおろしを受け止めるため、振り上げた右腕はすぐには振り下ろせない。

美琴「右腕にさよならのキスは必要?」

クスリと口元を歪めたまま、懐に飛び込ようにしてチェーンソーが振り抜かれる。

96: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 04:44:52.02 ID:1DhUvtlG0
上条「ぐぁッ!」

チェーンソーが二の腕を削る痛みに苦悶の声をあげる。
しかし、右腕は繋がったまま、辛うじてかわすことに成功し三ミリ程の傷に抑えることができた。

美琴「しぶといはね、というよりこの身体の性能が低いのかしら」

美琴が砂鉄のチェーンソーを振り下ろした時、すでに刃は二本あった。
右手で順手に持った一本目と、左手で逆手に持った二本目。
縦にそろえて構えることで、上条が一本のチェーンソーだと錯覚するように仕向けていたのだ。
一本目の陽動に見事に引っかかり、奇襲は完璧なものだった。
そこで明暗を分けたのは中学生女子と高校生男子という身体的な要素。

上条「勝手に他人の姿借りて今度は文句だ? ふざけるのも大概にしろ!
  お前なんかが他人の努力の結晶にケチつける権利がどこにあるってんだ!」

自分が傷つけられることより知人を傷つけられたことが許せない。
上条当麻とはそういう男なのである。
例え過去に遺恨があったとしても、今は共に闘う仲間であれば特に。

ミサカ「ならばミサカのレールガンを反射できますか?とミサカは自信満々でコインを弾きます」

辺りを照らす突然の光。
その光量は凄まじく、今この場で考え得るのは電撃使いの大技レールガン。
目の前の電撃使いでなければ消去法でもう一方。
反射という能力を持つ彼にそれが有効でないのは知っている。
しかし。それでも。上条当麻は振り向いてしまった。

美琴「デート中によそ見は厳禁よ、朴念仁」

バチン!
電流は上条の意識を一瞬にして刈り取っていった。

97: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 05:05:54.56 ID:1DhUvtlG0
一方通行「ずいぶんと舐めた真似してくれンじゃねェか」

ミサカ「なんのことかわかりませんね。とミサカはあなたの問いかけにシラをきります」

一方通行「キツネ狩りもここまでだ。もう容赦しねェ」

ミサカ「そんなものを頼んだ覚えはありませんが。そうですね、そろそろ終わりにしましょうか。
  とミサカは公演の幕引きを宣言します」

その言葉をもう挑発とは思わない。
ここまで手を抜いていたつもりはないが、どこかで気後れしていたのかもしれない。
やはり彼女らと同じ顔を持つというのは、自分にとって不安要素でしかないのだ。
だが、ここからは違う。
目の前の敵を『殺す』。殺す殺す殺すコロスころす……、ブチ殺す!!
頭のスイッチをしっかりと切り替えた、次の瞬間。

ゴン!

後頭部に鈍い衝撃を受け、一方通行はそのまま倒れ込んでしまった。

98: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 05:25:18.30 ID:1DhUvtlG0
一方通行は一瞬何が起こったかわからずにいた。
能力は再び反射に設定し直していたため、あらゆる攻撃が……
ましてや鈍器による物理攻撃を受けるなど想定もしていなかったからだ。
そして、首を動かし、今自分に覆いかぶさっているものの正体に気付く。

上条「」

右腕に幻想殺しを持つ少年、上条当麻が右腕を下にしてのしかかっていたのだ。

一方通行「三下ァ、テメェ何を」

していやがるゥ? その言葉は御坂美琴によって遮られる。

美琴「馬鹿な奴よ。よそ見した瞬間に電撃で気絶させてやったわ」

ミサカ「今のあなたは能力を使わなければまともに立つこともできない。
  よって、その右腕が触れている間、あなたは陸に打ち上げられた魚も同然です」

美琴「じゃあそろそろ」

ミサカ「終幕と」

美琴・ミサカ「「まいりましょう」」

99: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 05:50:36.38 ID:1DhUvtlG0
不可思議な力に対して絶大な威力を発揮する幻想殺し。
あらゆる攻撃を無効化し存在そのものが脅威の一方通行。
その二人を持ってしてもタタリには敵わなかった。
組み合わせが悪かったのもあるかもしれない。
しかし、二人は完全に弄ばれていた。

禁書「とうまー! とうまー!!」

気を失っている上条にインデックスの声は届かない。
反射が使えない今の一方通行に身を守る術はない。
御坂美琴とミサカはともに一枚のコインを取り出し必殺の構えを取る。
学園都市序列第三位。その代名詞こと超電磁砲。

一方通行「万事休すってかァ、笑えねェぞ」

今まで能力に頼り切っていた貧弱な腕。脆弱な脚。
上条当麻の下から懸命に抜け出そうとするがどうあっても抜け出せる気配はない。
今この場に二人を助け出せる力を持つ者はいない。

美琴・ミサカ「「早い幕だったな、人間」」

二枚のコインが宙を舞う。

100: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 06:29:42.33 ID:1DhUvtlG0
その瞬間、一方通行は思わず硬く目を瞑っていた。
まさか自分が恐怖から目を逸らすようなことがあるなどとは夢にも思わなかった。
これが一万人以上の妹達を殺した報いなのだと、覚悟を決めるしかないのだろう。
だが、レールガンが飛来する気配はなく、気が抜けかけたところへチャリンチャリンと
まるでコインが落下した時のような音にビクと肩を震わせる。
やはりレールガンは飛来しない。
ゆっくりと目を開くと二人の御坂は手をだらりと下げどこか彼方を見つめている。
首を傾け二人の視線の先に目をやると一人の人間が立っているのが見えた。

赤と白のコントラストのきいた巫女服。
髪は黒く長い。女性のようだ。
そしてなぜか右手には十字架が握られている。

何がどうなって未だ自分が五体満足無事でいられるのかわからないが
とにかくこの場から抜け出すには今しかない。

一方通行「おィコラ、三下ァ。目ェ覚ませ」

上条当麻の頭を右手でバシバシと叩くが一向に目を覚ます気配はない。
とっととどいてもらわなければ自分たちの身も、間の悪いあの巫女も危ないというのに。
気絶とはいえこの火急の事態に自分の上で寝こけているというのは無性に腹が立つ。

キィーン。

突然響き渡ったその音に再び首を傾けると先の巫女さんが、
手にしていた十字架を地面に落とした音ということが分かった。

102: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 06:42:21.92 ID:1DhUvtlG0
だからどうなることもないだろう、一方通行はそう考えていたが違った。
御坂美琴とミサカ、二人同時に巫女さん目掛けて駆けていく。

一方通行「そこのあンた、とっとと逃げろォ!」

一方通行の声が聞こえているのかいないのか、その巫女姿の女性はまったく動く気配が無い。
突然自分目掛けて駆けてくるようなことがあれば、たじろぐなり何なりの行動は起こしそうなものだが。
次の瞬間には同じ顔の少女に二人同時に飛びつかれ
左右の首筋に噛みつかれるという異様な光景が繰り広げられていた。
先ほどまで得意の能力で自分たちを翻弄していた二人がどうしたことだろうか。
しかし、わけのわからない光景はそこで終わらなかった。
噛みついた二人が一瞬にして灰と化してしまったのだ。
一方通行は言葉もなくただただ呆然と眺めていることしかできなかった。

103: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 07:00:38.68 ID:1DhUvtlG0
御坂美琴とミサカのタタリが灰となって消えた後、
巫女さんは着崩れを直し、落とした十字架を拾うと悠然とこちらへ歩いてくる。
敵か味方か判断が付かないが、敵意がないことを期待するしかないのが今の状況だ。

一方通行「アンタ何もンだァ、どうやってあいつらを倒した」

その問いかけに彼女は答えない。
巫女さんはゆっくりと近付き上条当麻の顔に手を添える。
可能性としての話。
彼女が敵だった場合、さっきの力が触れたものを灰に替える能力だった場合、
次の瞬間には上条当麻は灰となって消えてしまうのではないか。
得体の知れない恐怖が増長されるのをひしひしと感じる。

上条「ん……ぁあ? どうして、姫神が、ここに?」

一方通行「気が付いたか三下ァ! こいつァお前の知りあいなンか」

上条「一方通行? 何でお前、俺の下敷きになってんだ?」

一方通行「うるせェぞ三下ァ、今すぐどかねェと今度こそ愉快なオブジェにしちまうぞ」

104: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 07:10:40.68 ID:1DhUvtlG0
上条「あ、あぁ、悪い。すぐにどく……ってあれ?」

一方通行「何してやがる、早くどけって」

上条「なんか身体に力が入らないんですがどうしませうか」

姫神「そのままでいい。聞いて」

一方通行「よくねェよ、テメェがこいつ何とかしろォ」

姫神「上条くん。あなたも。この件から手を引いてほしい」

上条「この件? タタリのことか?」

姫神「そう。これは私の仕事。だからお願い」

上条「姫神は何か知ってるのか? なら協力して」

姫神「必要ない。じゃあ。伝えたから」

上条「おい! 姫神! 待てよ、待って……お願い待ってえええ、この状況何とかしてくれー」

一方通行「ふざけンな、テメェの知り合いじゃねェのか、この状況見て放置ってどういう性格だよ」

上条・一方通行「不幸だー!!」

115: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 23:19:03.52 ID:1DhUvtlG0
夕刻某所――――。

御坂美琴の元へ一本の電話がかかってきていた。
相手は一つ下の後輩、白井黒子からである。

黒子「おねえええええええさまあああああああ!!」

通話ボタンを押すと同時に鈴のような声でありながらおどろおどろしい叫び声が聞こえてきた。

美琴「く、黒子? いきなり何よ、どうしたの」

黒子「どうしたもこうしたもございませんわ! 黒子というものがありながら殿方と逢引などと」

美琴「はぁ? 逢引ってどういうことよ」

黒子「とぼけても無駄ですのよ。ジャッジメントの巡回中に見かけましたの。
  ジュリアンで白髪の優男とご一緒していらっしゃいましたでしょう?」

白髪の優男……ですって?

黒子「その場で取り押さえたかったんですが、固法先輩に引きずられて泣く泣く巡回の続きを……。
  もしかしてお姉様、今もその殿方とご一緒ですの!?」

まさかとは思うけど。
どうせコンビニで立ち読みする予定だったし。

美琴「あんたの勘違いよ、ただ落し物を拾って届けたらお礼に甘いものご馳走になっただけよ」

黒子「ほ、本当ですの!? じゃあ、黒子のこと愛してるって100回言っ」

美琴「じゃ、切るわよ」

ジュリアン。確か○×学区のファミレス店だったわね。

116: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 23:48:08.79 ID:1DhUvtlG0
ファミレス(ジュリアン)――――。

まさかとは思ったけど。

美琴「いた。一方通行と妹達……、それと」

上条当麻。
っていうかなんなんだろうこの空間は。
あの実験で殺されかけた奴、殺そうとした奴、実験を阻止した奴。
ファミレスで同じ席に着いて何の話し合いよ。
後ちっこいシスターさんが一緒って、揃って宗教にでも入信する気?
わけわかんない。

美琴「ちょっとアンタたち!」

とりあえず文句言わなきゃ気が済まないわ。

御坂妹「こんにちはお姉様、とミサカはごく自然な対応をします」

一方通行「なんだァ第三位か」

禁書「なんだ短髪か」

上条「なんだビリビリか」

美琴「なんだとはなんだああああ、あとビリビリって言うなぁッ!」

117: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/02(水) 23:58:45.98 ID:1DhUvtlG0
美琴「っていうかこの面子はありえないから、なんかもういろいろと。
  ねぇあたしの話聞いてる?」

とりあえず声をかけてはみたけど、小声で作戦会議?
突然割り込んだあたしも悪いけど気分悪いわね。
っていうか文句言ったあとどうしようかな。
一応、実験は無期限凍結されたわけだし
さっきは喧嘩腰みたいだったけどこの子(妹達)に危害を加える様子はないし
あれ? この後ほんとどうしよう!
えーとえーと、全然考えまとまんないんだけどー
なんか四人とも頷いて、話まとまったのかな?

上条「というわけでだな御坂」

美琴「何が『というわけ』なのかわかんないんだけど」

上条「俺たち、さっきそこで偶然ばったり遭遇してな」

え? そういう流れ?
とりあえずなんでもないってことにして誤魔化そうって魂胆みえみえじゃない。

118: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 00:06:44.22 ID:XDvPqJWE0
御坂妹「そうです、偶然にも食パンを咥えて走っていたら曲がり角で一方通行にぶつかってしまって、
  とミサカはついさっきそこであったことを説明します」

あたしはそういう感じの少女漫画って読まないだけど
この子はそういうの読んだりしてるのかしら。

一方通行「おィ、なんだァその超設定はァ」

話まとまってないじゃない。
学園都市最強の男がツッコミってなんだかシュールね。

上条「それで一方通行が腹減ってるなら飯奢るって言い出してな」

あれ? 話飛んだ?

一方通行「オイィィィ、さりげなく何言っちゃってるンですか三下ァァ」

またツッコんだ。コントの練習かしら。

禁書「ごはん!!」

この子はボケ担当ね。
食欲旺盛なシスターさん、アリね。

119: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 00:16:36.64 ID:XDvPqJWE0
上条「インデックスは黙ってなさい。
  夏休みにいろいろあったしその罪滅ぼし的なー、だよな?」

美琴「……。本当なの? 一方通行」

一方通行「ちっ。……本当ですゥ。別に飯奢ったぐらいで罪滅ぼしになるなンて思ってねェし」

美琴「当たり前でしょっ! アンタがやったことは」

許されるはずがない。
殺された10031人はどんなことがあっても戻ってこないのだから。

上条「御坂落ちつけ。気持ちはわかるがそれは御坂妹たちと一方通行の問題だ。
  俺たちが口を出すことじゃない。例えオリジナルのお前でも、な」

美琴「それは……そうだけど」

正論と、真っ直ぐな視線にそれ以上言葉が出てこない。
そういえば、一方通行に殺されに行こうとしてたあたしの前に立ちはだかったあの時も、
今みたいに真剣な目をしてたっけ。

美琴「その……悪かったわ」

一方通行「別にィ、気にしてませンー」

121: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 01:17:25.56 ID:XDvPqJWE0
上条「そうだ、せっかくだしお前も一緒にどうだ? いいだろ、一方通行」

はい? このツンツンウニ頭は何言ってるのかしら
なんであたしがこいつと一緒にご飯食べなきゃいけないのよ
だいたいこいつだって

一方通行「勝手にしろォー」

へー、オーケーしちゃうんだ
むしろやけくそっぽいわね

上条「いいってよ。ほら、隣座れよ」

って……、

美琴「え! ちょ、アンタの隣!?」

そういえばこいつも一緒じゃないの
走ってきたから髪も崩れてるかもだし、ああああ、汗とか

上条「もしかして門限か? 常盤台ってお嬢様学校だし厳しいか」

うわあああ、もうどうにでもなれよ

美琴「いや、別にそんなこと、ないんだけど。じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」

122: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 01:35:21.97 ID:XDvPqJWE0
カチャ、カチャ……

さっきまであたしは何を慌てたのかしら。
こいつと一緒って言ってもただ隣でごはん食べるだけじゃない。
二人きりならまだしも他に三人もいるんだし。

美琴「ちょっと」

御坂妹「? なんでしょう、お姉様。とミサカは返事をします」

美琴「ここ、ほっぺたにソースが付いてる。取ってあげるからじっとしてなさい」

ごしごし

御坂妹「むぐむぐ、すみませんお姉様」

上条「」

美琴「な、何よ。人の顔じっと見て」

上条「いや、いいお姉ちゃんだなと思って」

ちょっ、その笑顔は反則でしょっっっ。

123: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 01:58:52.19 ID:XDvPqJWE0
お姉ちゃん、か。
言ってみればこの子は双子の妹みたいなものだけど、
周囲の目にはどう映ってるのかしら。

ちらっ。

ひそひそひそ……
双子だ、双子だ、Wデートだ、双子だ

だ、ダブルデート!?
誰と!誰が?
向こうの座席には一方通行と妹達の二人だけ。
なんか納得いかないけど、何も知らない人からすればこの二人で一組でしょうね。
問題はこっちの座席、あたしと、こいつと、大食いシスター。
っていうか、このシスターさん――インデックスだっけ?
そもそもこの子一体誰よ、こいつとどんな関係なのよ。
目録(インデックス)なんて本名じゃないだろうしニックネームかしら。
こいつのこと名前で呼んでたし結構仲良さそうだし……。
あ、あたしも名前で呼んでみようかしら。

美琴「と、とうま……」

上条「……な、なんでせうか?」

美琴「え、や、その。……何でもないわよっ!」

上条「?」

124: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 02:41:53.38 ID:XDvPqJWE0
食事を終えて――――。

一方通行「会計済ましとくからお前らは先ィ外出てろォ」

上条「ああ、わかった」

一方通行「ァー、やっぱいいわ。めんどくせェ、このまま解散ってことでェ」

御坂妹「わかりました」

店員「ありがとうございましたー」

一方通行「支払いはカードでェ」

――――――――――――

御坂妹「お二人と、お姉様も。今日は楽しかったです。とミサカはお先に失礼します」

上条「ああ、またな御坂妹」

禁書「ばいばい、くーるびゅーてぃー」

美琴「またね。じゃああたしもこれで」

上条「御坂、ちょっといいか? インデックス悪い、先行っててくれ」

禁書「わかったんだよとうま、短髪もまたね」

125: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 03:24:53.87 ID:XDvPqJWE0
上条「呼びとめて悪かったな」

美琴「別にいいけど、なんか話でもあるの?」

上条「話ってほどのことでもないんだが。その、さっきは悪かった! スマン」

美琴「ちょっとちょっと、突然謝られてもなんのことしかわかんないし」

上条「『俺たちが口を出すことじゃない』。そう言ったことに対してだよ。
  俺があの実験のことを知るより前から、ずっとずっと前からお前は戦ってたんだよな。
  それを俺なんかが知ったような口を」

こいつは優しい。

美琴「気にしてないわよ。一方通行のことは許せないけど、あたしは自分がもっと許せないだけ。
  あたしが実験のことを知ったのも9981人の妹達が殺された後だった。
  もっと早く実験を止められていればとか」

とてもとても優しい。

美琴「そもそもあたしがDNAマップを提供しなければ、なんて考えたりもした。
  でもそれは今生きてるあの子たちを否定することになっちゃう。
  そんな弱い自分が悔しくて不甲斐なくて、あたしはあたしを許せない」

上条「御坂……」

美琴「アンタはさ、『俺なんかが』って言ったけどアンタは実験を止めてくれた。
  他の誰かならともかくアンタにはそのぐらいのこと言う権利あるわよ」

126: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 03:48:25.81 ID:XDvPqJWE0
上条「俺は一人っ子だからさ、兄弟とかどんな感じかわかんねえけど、
  お前は間違いなく『いいお姉ちゃん』だよ。俺が保証する。
  お前みたいな姉を持った妹は幸せだろうな。『20000人全員幸せもんだよ』」

優しいけどずるい。

美琴「う、うぅ……」

そんな言い方されたら、

美琴「うわああああ、とうまぁ……」

こいつに泣き顔を見られるのはこれで二度目だ。
馬鹿で鈍感でいっつも不幸だーって叫んでるくせに、
変なとこでカッコよくて自分のことそっちのけで人の心配してる
そんな優しいこいつが、

127: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 03:51:39.96 ID:XDvPqJWE0



好き。



128: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/03(木) 04:06:58.32 ID:XDvPqJWE0
美琴「ぐす、アンタの胸借りて悪かったわね」

上条「上条さんの薄い胸板なんかでよければいつでも貸しますよ」

美琴「ばーか、中学生に抱きつかれて調子のんじゃないわよ」

上条「それを抱きついた本人が言いますか。……やっぱ御坂は笑ってる方がいいからな」

美琴「またアンタは、そういうことを軽々しく言うなーっ!」

上条「うおぉ、電撃はやめ、あれ?」

美琴「フェイントよ、今日だけは許してあげる。じゃあね」

手を振り一方的に別れを告げて走り始める。
むちゃくちゃ恥ずかしいことをやってる気がするけどそんあのは気にならない。
あたしはあたしだ。それ以上でもそれ以下でもない。
20000人の妹達のいいお姉ちゃんでいればそれでいい、今はそう考えることにしよう。

135: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 00:39:18.88 ID:bPf41+5d0
朝、病院――――。

冥土帰し「今回は軽傷みたいだけど、君はもう少し身体を労わった方がいいよ。
  退院してまだ一週間も経ってないのに入院なんて」

上条「あははは……」

ベッドに横たわる上条当麻は、返す言葉もなく苦笑いを返すだけである。

冥土帰し「と言っても、昼過ぎには退院だけどね。
  一応、精密検査をするけどその様子だと異常はなさそうだ」

上条「いつもお世話をおかけします。……あの」

冥土帰し「なんだい?」

上条「御坂妹のことなんですが」

冥土帰し「ああ、彼女なら――」

136: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 01:01:30.55 ID:bPf41+5d0
屋上――――。

上条「お、いたいた。おーい、一方通行」

一方通行「あン? 三下が何か用かァ」

上条「用ってほどのことじゃないんだが。御坂妹のこと」

一方通行「あいつは培養機の中だァ、元々あいつは絶対安静だったらしいからなァ」

――――――――――――

御坂妹「ミサカには、どれほどの価値があるというのでしょうか」

一方通行「突然なンだ」

御坂妹「ミサカは単価十八万円のクローンです。妹達はミサカを除いても9968人もいます。
  ミサカがいなくなったとして、誰か悲しんでくれるのでしょうか」

――気付いてくれるでしょうか、と。

137: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 03:39:58.89 ID:bPf41+5d0
一方通行「クソガキも言ってたがお前らは『もう一人だって死んでやる事はできない』、
  それが妹達全員の意思なンじゃなかったのかァ」

御坂妹「わかっています!! ですが……。ミサカと同じ製造番号を名乗ったミサカは、
  ミサカを『偽物』と呼んだあのミサカは、ミサカよりも遥かに強い力を持っていました。
  あの時、『偽物』と呼ばれて頭の中が真っ白になって……」

一方通行「偽物はお前じゃねェよ、あいつの方だ。それにあの偽物は消えちまったンだ」

御坂妹「なぜあのミサカが偽物だと言いきれるのですか、ミサカが本物である必要はあるのですか。
  教えて下さい……。ミサカはミサカを殺そうとしたあなたに問いただします」

一方通行「……つまんねー答えでわりィが、今お前が言ったことじゃねェか。
  俺が殺そうとして今生きてる『ミサカ』はお前だけだ。世界にただ一人」

ケッ、唖然としてやがるぜ。
まァ、そのせいで培養機で静養する羽目になっちまったンだが。

一方通行「この答えで満足いかねェっつーンなら、テメェで見つけるしかねェンじゃねェか。
  劣ってるのが悔しけりゃ強くなりゃいい、個性がないと思うンなら身につけりゃいい。
  無理しなくても生きてりゃその内見つかるだろォけどな」

御坂妹「どこか釈然としませんが。今はその答えで納得しておきましょう。とミサカは妥協することにします」

138: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 04:16:18.55 ID:bPf41+5d0
冥土帰し「培養機の設定が終わったけど、そろそろいいかい?」

御坂妹「はい。丁度話も終わったところです。とミサカはどうぞと返します」

一方通行「柄にもねェこと語っちまったな。じゃ行くわァ」

御坂妹「……『確かに俺は一万人もの妹達をぶっ殺した。だからってな、
  残り一万人を見殺しにして良いはずがねェンだ』」

一方通行「なっ!?」

御坂妹「そう言ったあなたなら、このミサカでも助けてくれるのでしょうね」

一方通行「覚えてねェよ、そんな臭い台詞」

――――――――――――

一方通行「はァ、柄にもねェこと言っちまったなァ」

上条「ん? そうなのか?」

一方通行「そうなンですゥ」

139: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 04:40:23.75 ID:bPf41+5d0
上条「ところで、その頭の包帯」

一方通行「これかァ? ちょっと火傷しただけだァ。薬も塗られたしベクトル操作ですぐ治っちまうよ」

上条「ベクトル操作ってそんなことまで出来んのかよ、すげえな」

一方通行「一昨日、テメェに殴られた所が何ともねェのがその証拠だァ。
  っていうか、なーンなーンですかァ、このどォでもいいつまンねー雑談は」

上条「精密検査まで時間あったし暇だったからな。お前がまだ院内にいるって聞いたから話でもしてみようかと」

一方通行「お前、俺に一度殺されかけてんだぞ? そこンとこわかってンのかァ?」

上条「わかってるよ。でも、これからもお前が悪くあり続けるわけじゃないんだろ?
  なら俺はそれでいいと思うわけですよ」

一方通行「フン、どいつもこいつも甘すぎンだろォ」

看護師「あぁ、ここにいたの。上条さーん、精密検査の時間ですよー」

上条「すいませーん、すぐ行きまーす」

141: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 11:14:24.81 ID:bPf41+5d0
昼過ぎ――――。

精密検査の結果にも問題はなく、上条当麻はすんなりと退院することができた。
実質、半日程度のことだから入退院と呼んでいいのかも微妙じゃないか、などと独り言をつぶやく。
昨夜は姫神が立ち去った後、上条は身体が痺れて動くことができず御坂妹に救急車を呼んで貰い病院へ。
御坂妹は病院を抜け出した(本人は記憶にないらしいが)うえに無断外泊だったため上条とともに強制送還。
インデックスを一人で帰らせるのは心配だったため、駄目元で一方通行に送って貰えないかと頼むと、
渋々といった様子ではあったが意外にも承諾され二人とはそこで別れた。
別れ際に昨日と同じ時間に同じファミレスで落ちあう約束だけしておいた。

上条「約束までにはまだ時間があるし、とりあえず先に会いに行ってみるか」

突然現れて去っていた姫神秋沙。
上条たちには手を引けと言っていたが彼女は何故そんなことを言ったのか。
彼女は何を知っているのか、わからないことだらけである。
その謎を解き明かすため、上条当麻は彼女の居候先である月詠小萌の家に向かう。

142: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 11:29:48.79 ID:bPf41+5d0
小萌宅――――。

ドンドン。

上条「小萌先生いますか、俺です上条です。小萌せんせー!」

小萌「上条ちゃんですか? はいはーい、すぐ開けますからねー」

がちゃり。

小萌「日曜日の昼間に先生に会いに来るなんてどうしたんですか上条ちゃん」

上条「ごめん小萌先生。今日は先生にじゃなくって姫神に用があって来たんです」

小萌「姫神、ちゃんですか……」

姫神の名前を出したとたんに小萌の顔に影が落ちるのを上条は見逃さなかった。

上条「もしかして、帰ってないんですか? 姫神の奴」

小萌「はいなのです……」

143: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 11:48:59.93 ID:bPf41+5d0
小萌「昨日の夜、御夕飯前に突然出かけていってそれっきりなのです。
  二、三日戻らないかも、とは言ってたんですが訳を聞いても答えてくれませんでしたし、
  先生やっぱり心配なのです」

完全に当てが外れた、上条当麻はそう考えていた。
ここにくれば話が聞けると思っていたがそうはいかないらしい。
しかも、二、三日は帰ってこないというのは決着がつくまで帰らないということではないだろうか。

小萌「上条ちゃん、姫神ちゃんのこと何か知ってるんですか? 知ってたら教えてほしいのです」

姫神がどういうつもりなのかはわからない。
しかし、小萌に要らぬ心配をかけるのもよくないだろう。

上条「いやぁ、ちょっと勉強を見てほしかったんですけど」

そこまで口にして上条当麻は気付く、目の前にいるのが教師であったことを。

小萌「勉強なら先生が見てあげますよ、幸い今日は先生暇ですし」

藪をつついて蛇を出すとはまさにこのことであろう。

144: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 12:08:57.14 ID:bPf41+5d0
小萌「ふふ、冗談ですよ。上条ちゃんは先生を心配させないように気を使ってくれたんですよね」

上条「ゔっ、すみません先生……。見つけたら必ず連れて帰ります」

小萌「そういえば黄泉川先生がおっしゃってたことなんですが、
  最近、都市伝説を装った変な事件が起きているそうなんです」

上条「変な事件?」

小萌「はい、誰かが襲われているって通報がくるんですが、アンチスキルが駆けつけるとそんな形跡はない。
  つまり誰も襲われてないので事件としては扱われない、変な事件なのです」

また都市伝説だ。
不安を掻き立てられる内容ではあるが、被害者はいないらしいということ。
タタリのことを考えるとそれだけが喜ばれた。

小萌「もし現場を見かけたりしても、首を突っ込んだりせずに走って逃げること」

上条(すみません先生、もう首突っ込んじゃってます。なんて言えないもんなぁ)

小萌「姫神ちゃんにあったら伝えて下さいね」

上条や姫神のことを信用していると、そういうことだろう。
どうしてもやらなければいけないことがあるなら仕方ないが、それでもできるだけ無茶はしないでほしい。
小萌の心遣いに感謝しつつ上条はその場を後にした。

145: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/04(金) 20:48:18.74 ID:bPf41+5d0
上条当麻は姫神秋沙を探し、街中を走り回っていた。
しかし、学園都市は広大だ。
姫神の目を惹く服装であればある程度聞き込みをすれば
何か手がかりくらいは掴めるかもと思っての捜索だったがかなり難航していた。
仮にコンビニを利用していたとして学園都市中のコンビニを一日で全て回りきることはできない。
一応、昨日姫神が現れた鉄橋を中心にあたってみたが収穫はゼロ、
コンビニで働く店員もシフトによって時間帯がばらばらでいろいろと穴の多い考えだったと痛感する。
元より運が良ければ会えるだろうと、そういう作戦なのだから
元より運の悪さに定評のある上条当麻には無理な作戦だったと言える。

そうこうするうちに日も傾き始め約束の集合時間が近付いてきていた。
上条はそろそろジュリアンへ向かおうかとそう考えていた時、

♪マヨラー、その手を引く者などいない♪

上条当麻の携帯の着信音だ。
すぐに取り出し携帯を確認すると『イギリス聖教』と表示されている。
オルソラからの電話だろうと思い上条は通話ボタンを押し携帯を耳に当てる。

携帯『死にたくなかったらすぐにそっから離れな!! 今すぐにだ!!』

つい昨日も聞いたその声に大声でまくし立てられる。
シェリー=クロムウェルだ。

146: ↑ごめん、酉忘れてた ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/04(金) 20:59:42.21 ID:bPf41+5d0
上条「シェリーか」

シェリー『あん? 誰だテメエ、これは禁書目録の携帯のはずだぞ』

上条「違います、これは上条さんの携帯です、そっちに連絡する時インデックスに貸してただけだ」

シェリー『上条? ああ、私をぶん殴ってくれた幻想殺しかよ。テメエでも構わねえよ、よく聞きな』

相変わらず口が悪い、上条当麻はそう思った。
一応明記しておくがシェリーは女である。

上条「その前にこっちからも話がある。大事な話だ」

語尾を強め相手の反論を許さない。

シェリー『言ってみなよ』

上条「お前は『昨日この携帯に電話をかけてきたか?』」

147: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 02:05:39.61 ID:/PCEcZuB0
シェリー『どういう意図で言ってんのかわかんねえが、私がこの番号にかけるのはこれが初めてだ』

上条「そうか。遮って悪かった、そっちの話も聞かせてくれ」

ほぼ間違いなく昨日の電話はタタリによるものだ。
だが、それでも一応きちんと確認だけはしておきたかった。

シェリー『ふん。私のは話じゃないわ、“警告”よ。今すぐ逃げないと全員死ぬことになる』

上条「さっきも言ってたな、死にたくなかったら~って。タタリってのはそんなに危険な魔術なのか?」

シェリー『魔術? タタリは魔術なんて生易しいもんじゃないよ、あれは“災害”さ』

上条「災害!? 魔術じゃないって、あーもうどういうことかさっぱりだ! 詳しく説明してくれ」

シェリー『そのままの意味さ。魔術ってのは術者がいて意図的に発動するもんだ。
  だが、タタリは条件がそろった時、勝手に発動しちまう地震や竜巻なんかと同じだよ』

上条「術者がいない!? それじゃどうやって止めろっていうんだ!」

シェリー『馬鹿言うな! 地震や竜巻を人間の力でどうこうできるもんじゃない。
  だから逃げろって警告してやってんだよ』

148: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 02:20:24.70 ID:/PCEcZuB0
上条「待ってくれ、そもそもタタリってのはどういうものなんだよ?
  今のところ都市伝説が具現化するだけで逃げなきゃいけないほど危険なものには思えない」

シェリーは言った。地震や竜巻のようなものだと。
確かにレベル5超能力者の都市伝説が暴れたりすれば同様の被害が発生するだろう。
しかし、それは各個撃破でなんとかすることはできないのだろうかと。
昨日は非常に危ないところだったが、戦力を強化してアンチスキルにも協力を仰げばあるいは。

シェリー『……』

シェリーは答えない。
それでも上条は黙ってシェリーが答えてくれるのを待ちつづける。

シェリー『……わかったよ、全部教えてやる』

上条「シェリー!」

シェリー『その前に、今禁書目録は近くにいるか』

上条「インデックス? いや今はいないぞ。これから会う予定ではあるが」

シェリー『これから言うことは禁書目録には伝えるな、これは絶対だ』

149: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 03:48:45.46 ID:/PCEcZuB0
ファミレス――――。

上条当麻がジュリアンに到着したのは約束の時間を少し過ぎた頃だった。

禁書「とうまー、遅いんだよー」

一方通行「三下は今日も遅刻かァ」

インデックスと一方通行はすでに着席しており、昨日に引き続き待たせてしまったようだ。

上条「……」

禁書「どうかしたのとうま、とりあえず座ろうよ。作戦会議が始められないんだよ」

上条「もう、やめにしないか」

禁書「ぇ?」

一方通行「あン?」

150: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 04:07:44.00 ID:/PCEcZuB0
上条「もう無理だろ、俺と一方通行の二人がかりでもあの有様だ。ここで引いた方が俺は懸命に思う」

一方通行「おィ三下ァ、そりゃァ本気で言ってんのかァ?」

上条「さっき本物のシェリーから電話があった。
  この魔術は噂に関わる人間の前に別の噂をぶつけて噂を成長させる魔術らしいんだ」

シェリーに言われた通りのことをそのまま伝える。

上条「だから俺たちがそもそも関わらなければ噂は成長しない。
  イギリス聖教から魔術師がきて犯人を捕まえる、噂に関係ない人間には影響がないからだ」

しかしこれは嘘だ。

上条「だからさ、もうやめようぜ。俺たちが頑張って空回りするのも馬鹿らしいじゃねえか」

禁書「とうまはそれでいいの?」

上条「当たり前だろ。上条さんは結局のところ自分が一番かわいいんですよー」

ガタン、がぶっ!

上条「いってー!!?」

禁書「とうまのばかああああ!!」

152: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 04:25:15.67 ID:/PCEcZuB0
上条「おーいてて、インデックスの奴噛みついてから走って行きやがったか」

インデックスに噛みつかれたこの右腕よりも、胸の痛みの方が強かった。

店員「店内であまり騒がれると他のお客様のご迷惑となりますので」

上条「あー、すみません。もう静かにしてるんで。あとアイスコーヒーをお願いします」

店員に適当に安い飲み物を注文し席に着く。
一方通行は席を立たず無言のまま。
少しして店員が注文したアイスコーヒーを持ってきて、ごゆっくりと一言残して去ったことで、
ようやく一方通行が口を開き、今日の『作戦会議』が始まった。

一方通行「でェ、シスターさン除け者にして俺らで何をしようってンだァ?」

上条「あいつは、あれでもあっちの世界じゃ結構有名らしくてな。
  事件にかかわると必然的に情報が流れちまうんだ」

つまりそれは他の誰にも知られてはいけないということ。

上条「それと」

一方通行「なんだよ、とっとと言えって」

上条「お前も、手を引くなら今のうちだぞ一方通行」

153: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 04:46:45.65 ID:/PCEcZuB0
一方通行「昨日ので俺がビビっちまったとでも思ってるンですかァ、三下くンはァ」

上条「少なくとも、俺は無茶苦茶ビビってる。今すぐ逃げだしたいくらいだ」

一方通行「チッ。……とっとと話しやがれ、どんな相手だろうと立ち向かってやるよ」

一方通行は、上条当麻が発した正直な言葉の意味をどの程度察してくれたのだろう。
きっと勝算の無い相手なのだろうということ。
しかし、それでも逃げるわけにはいかない理由があるのだろう。

上条「まず、タタリについての訂正だ。あれは魔術じゃない」

一方通行「前提からして崩れたなァ、なら俺が言った通り超能力かなンかか?」

上条「タタリとは、ある条件が揃った時に自然発生する現象、シェリーは災害って言ってたな」

一方通行「はァ? 雨が降った後虹が見えンのと同じで、ただ条件がそろったからあれが現れたってのか?
  運が悪いにもほどがあンだろォが。……で、ンなもンどうやって止めるて言うンだ?」

一方通行は思わずため息を漏らす。
学園都市在住の皆様ご愁傷様です、運の悪いことにタタリが福引で当たりました。
がらんがらんがらーん、とつまりはそういうことなのだから。

上条「その前に、一方通行は『吸血鬼』って信じるか?」

このウニ頭は真面目な話の最中に何を言いだすんだ、と一方通行はそう思っていた。

164: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 20:33:42.92 ID:/PCEcZuB0
シェリー『あんたは吸血鬼って信じるか?』

突拍子のない話に上条当麻はどう答えていいかわからない。
ただ、その答えはイエスだ。
上条当麻は吸血鬼の存在を信じている。
とある少女の持つ能力がその超常の者の存在を肯定してしまっているからだ。

シェリー『今、あんたらの街に襲いかかろうとしてる災害の正体、
  それが――人の生き血を啜り、陽の光を浴びれば灰になる――吸血鬼だって言ったら』

上条「信じている」

シェリー『本気かよ? もしかして見たことあるとか知り合いって言うんじゃないだろうね』

上条「見たことなんてあるわけないだろ。それよりタタリの正体が吸血鬼って話、本当なのか?」

シェリー『残念ながら本当だ。魔術師としては喜ぶところなのかね、これは』

――――――――――――

姫神「上条くん。あなたも。この件から手を引いてほしい」

姫神「そう。これは私の仕事。だからお願い」

姫神「必要ない。じゃあ。伝えたから」

――――――――――――

上条(そういうことかよ……)

165: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 20:53:37.14 ID:/PCEcZuB0
シェリー『タタリって吸血鬼は、吸血鬼の中でもかなり特殊な部類に入るらしい。
  特殊って言っても普通の吸血鬼がどういうもんかわかんなかったし
  教えてくれなかったわけだが……、っと話が逸れたな、悪い』

上条「続けてくれ」

シェリー『それでタタリってのは、“身体を捨てた”吸血鬼らしい』

上条「身体を捨てた? どういうことだよ」

シェリー『言葉通りさ。身体を捨て、条件を満たした街に現れる現象になっちまったんだよ。
  まだあんたがこうして話してるってことはタタリは完成しちゃいないみたいだが、タタリが完成したらその街は終わりだ。
  噂を模した姿で現れ一夜にして街中の人間全ての血液を飲み尽くす』

上条「なっ!!!」

頭を金槌で重いきり殴られたような、そんな気がした。

シェリー『だけどな、タタリってのは現象なんだ。条件を満たした場所にしか現れられない。
  だから今すぐにでもあんたらは逃げるしかないんだよ、命が惜しかったらね』

166: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 21:09:20.83 ID:/PCEcZuB0
逃げれば助かる。そう、自分は助かるのだ。
自分だけじゃない、インデックス、小萌先生、土御門兄妹、青髪ピアス、姫神、吹寄、
とりあえず学校の連中全員に声をかけて……。
あとは、そうだ……、ビリビリに妹達、一方通行……

ギリリ。

唇を噛みしめしっかりと現実を見直す。
仮に声をかけて皆は俺の話を聞いてその話を信じてくれるのか?
それにここは学園都市だ、街から出ようとしてすぐに出られるわけじゃない。
外出には申請が必要だし、学校単位での大規模な外出が認められるはずがない。

だが。

俺一人ならどうだ?
闇咲逢魔に連れられ学園都市から抜け出した時のあのルートなら
俺一人と、あともう一人ぐらいなら逃げ出せるはず。
これは悪魔の囁きでもなんでもない、ただの生存本能。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。

ならば見捨てろ。

できぬなら死ね。

167: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/05(土) 21:53:51.01 ID:/PCEcZuB0
上条「できるわけ、ねえだろ!」

シェリー『正気か? 敵は吸血鬼だよ、わかってんの?』

まだだ、こっちにも切り札は残ってるんだ。
諦めるにはまだ早い。
不幸なのには慣れてるだろ、上条当麻。
こんな天災みたいなもので死ぬのは間違いなく不幸だ。
だが、俺一人生き残ったところでやっぱり不幸じゃねえか。
不幸なんて見下してんじゃねえ!
俺たちはまだ死んでねえ! 生きて、必ず幸せを掴んで見せる!

上条「こっちにも切り札はある。大事なもの見捨てて逃げるくらいなら死んだ方がましだ!」

シェリー『クレイジーな奴だな幻想殺し。けど』

オルソラ『あなた様なそういうと思っていたのでございますよ』

上条「その声、オルソラか!?」

オルソラ『はい。つい先日はありがとうございました』

168: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 20:16:48.70 ID:r8vLc+5D0
オルソラ『あなた様のお身体の方はもうよろしいのでございましょうか?』

上条「学園都市には凄腕の医者がいるからな。もうすっかりよくなって駆けまわってたとこだ」

オルソラ『それはよかったのでございます。私のほうも天草式のみなさんともども』

シェリー『人の電話に割り込んで身の上話してんじゃないよ、そういうことはまたの機会にしてくれ』

受話器から離れた所からの声なのか、小声でオルソラの謝る声が聞こえてきた。

シェリー『それより幻想殺し、さっき切り札があるとか言ってたけどそれはアンタの右手のことか?』

上条「ああ、一応俺の右手も切り札の一つだけど、もう一つ『吸血殺し(ディープブラッド)』がある」

シェリー『詳しく話な』

――――――――――――

上条「――っていう能力なんだ。さっきも言ったが昨日も姫神のこの能力に助けられた」

シェリー『吸血殺し、確かに吸血鬼相手にこれ以上ないジョーカーだね。……けど』

上条「何か問題があるのか?」

シェリー『問題って言うか、“不安”だね』

169: ↑畜生、また忘れた ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/06(日) 20:40:18.62 ID:r8vLc+5D0
シェリー『吸血殺しには何の問題もないんだが、タタリの動きがどうも気になる』

上条「気になるって何のことだ?」

シェリー『タタリが噂を具現化するのは、本来タタリが完成する時なんだ。
  逆を言えばタタリが具現化したということはタタリは完成したと言ってもい。
  そしてタタリは“一夜限り”、なのに二日続けてだなんて』

上条「何かがおかしいってことか。タタリの正体がわからなかったから考えてなかったんだが
  昨日、タタリが姫神の血を吸ったことでタタリが死んだって可能性はないのか?」

シェリー『まずありえないだろうね。“直死の魔眼”でも殺しきれなかったらしいし』

上条「直死の、なんだって?」

シェリー『簡単に言うとあんたの幻想殺しや吸血殺しの上位互換みたいなもんなんだが』

オルソラ『シェリーさん、それは極秘の』

シェリー『あーっと、今の話は聞かなかったことにしてくれ、どちらにしろ無いもの強請りになっちまう』

上条「あ、あぁわかった」

うっかり外部に漏らすとまずいことを口走っていたらしい。
オルソラがあんな慌てた声を出すとは。

170: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/06(日) 21:14:50.61 ID:r8vLc+5D0
シェリー『じゃあ、これからについてだけど。幻想殺し、あんたは夜の巡回。
  タタリがいつ完成するかもわかんない以上、気を抜けないからね。
  完全に殺すことはできなくともその日一晩ぐらいは効果があるみたいだしね」

上条「わかった」

シェリー『それと吸血殺し、たぶん向こうも同じことをやってるはずだ。
  はち合わせたら必ず捕まえな、もしかしたら私らが知らない情報も握ってるかもしれない」

上条「姫神はタタリの正体が吸血鬼だって知ってたみたいだしな」

シェリー『そして、禁書目録。こいつはこの件に関わらせるな。
  禁書目録は他の魔術師に監視されてるから関われば必ず外の連中に勘付かれる。
  魔術師にとって吸血鬼の捕獲は悲願だ、分が悪かろうが何だろうが突っ込んでいく奴は必ずいる。
  そうなったら収拾がつかなくなって、最悪学園都市と魔術師の間で戦争が起きる」

上条「……わかった。インデックスには関わらせないようにする」

シェリー『“この魔術は噂に関わる人間の前に別の噂をぶつけて噂を成長させる魔術”だ。
  だから“あんたたちがそもそも関わらなければ噂は成長しない”、
  “噂に関係の無い外部の魔術師が処理に当たる”とでも言っとけ」

上条「魔術はわかんねえからな、そのまま伝えるよ」

171: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/06(日) 21:21:17.97 ID:r8vLc+5D0
シェリー『長くなったけど、まとめるとだな』

・タタリの正体は吸血鬼だった
・タタリが完成すれば一夜で学園都市の住人全てが死に絶える
・吸血鬼に対して姫神の吸血殺しは強力な切り札
・タタリが具現化するのは本来一夜限り、二夜続けてはおかしい
・今後は夜の巡回をしながら姫神の確保
・インデックスをこの件に関わらせない

シェリー『こんなところだ』

上条「シェリー、ありがとな。いろいろ手を尽くしてくれたんだろ?」

シェリー『ばっ!? 改まって気持ち悪いこと言うんじゃねえ。
  たかだが一晩徹夜してデカ尻野郎にカレー奢る約束したぐらいだ、大したことしてねえよ』

上条「十分すぎる、お前がいなかったら相手の正体もわからってなかったんだから」

オルソラ『私もお手伝いしたのでございますよー』

上条「オルソラもありがとう」

必ず生き残る。
もう誰一人傷つけさせない。
タタリなんてふざけた幻想はこの右腕で絶対にぶち殺して見せる。

172: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/06(日) 22:38:02.02 ID:r8vLc+5D0
一方通行「長い長い回想をどォもありがとォ」

ぱちぱちぱち、とやる気なさげな態度で拍手する一方通行。

上条「どうした? やっぱり降りるか?」

一方通行「降りねェよ、テメェ一人じゃ不安だからなァ」

上条「そうか、正直心強い」

一方通行「勝手に言ってろ」

心底めんどくさそうに言い捨てると一呼吸置き、話題の転換を図る。

一方通行「でェ、お前は夜の巡回ってことらしいが俺はそのサポートに回ればいいのかァ」

上条「ああ、そうしてもらえると助かる」

一方通行「だがよォ、結局は一時的なその場しのぎなんだろう?」

これは勝つための闘いではない。
いつまで続くのかもわからない、ただの消耗戦でしかないのだから。

上条「シェリーとオルソラが引き続き情報を集めてくれてる。
  きっとすぐにでもタタリを止める方法を見つけてくれるさ」

その言葉に確信はない。
できることはただ信じることだけ。
不安に思えば思うほどタタリに付け込まれる隙が多くなる。

上条「じゃあ、解散してまた今夜二十時に昨日の公園に」

一方通行「おォ、わかった」

174: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/07(月) 02:37:52.16 ID:wMaaEAJG0
巡回中なう――――。

一方通行「そういやまだ言ってなかったなァ」

上条「ん? 何の話だ?」

一方通行「この杖の話だァ。つーか気にならないもンかァ?」

ピタッ

上条(ごくり)

一方通行「どうしたよォ、急に立ち止まってェ」

上条「すまん!」

一方通行「はァ? 本気でどうしちまったンですかァ三下ァ」

上条「上条さんも手加減する余裕なんてなくてですね、お前がやったことを許せないのは別として
  やっぱり、後遺症が残るような殴り方をしてしまったんだなとそう思うと」

一方通行「言っとくがァ、杖突いて歩いてンのはお前のせいじゃねェぞ?」

上条「へ?」

一方通行「お前、どンだけその右手に自信持ってンだよ……」

175: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/07(月) 02:58:31.95 ID:wMaaEAJG0
一方通行「完全に別件ですゥ、俺が言おうとしたのは能力の制限のことだァ」

上条「制限って、三分間しか戦えないとか?」

一方通行「俺の服見ながらしゃべンのやめろォ! まァあながち間違ってねェけど。
  ……今の俺はァこのチョーカー型の補助演算装置で脳ミソを補ってる状態だァ」

慣れねェことやったせいでヘマやっちまってなァ。
そう口にした時の一方通行の顔に後悔の色は見られない。

一方通行「こいつァ充電式なンだが、日常生活で四十八時間、能力を使用すると十五分しかもたねェ。
  だから常に無敵で居られるわけじゃねェンだ」

上条「……その話、俺が聞いてもよかったのか?」

一方通行「いいわけねェだろ。だがそれで下手打つことになったらァ目も当てられねェ」

上条「一方通行、」

一方通行「そンだけだ、あンま俺を頼ンじゃねえぞ。あくまで俺はサポートだ」

176: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/07(月) 03:23:54.09 ID:wMaaEAJG0
――――――
――――
――

一方通行「三十分ぐらい歩きまわってるが、全くしかけてこねェな」

上条「おかしいな。シェリーは『向こうから直接アクションがあったのなら主賓はお前らだ。
  適当にうろついてればタタリの方からすぐに仕掛けてくる』なんて言ってたのに」

一方通行「コーヒー買ってくるゥつって出かけてきたンだが」

上条「俺もインデックスに学校に忘れ物したからって言って出かけてきた」

互いにこんな面倒なことはとっとと終わらせてとっくに家に帰っている予定で動いていたのだ。
正直、一度帰ってまた別の用事でもう一度出かけた方がいいんじゃないか、
これ以上は打ち止め/インデックスが外に出てタタリに遭遇するんじゃないかと気が気じゃない。
一旦帰っていいかァ?/一度帰ってもいいか?とどちらからともなく口に出そうとした時だ、

ピンポーン!

ガコン!

一方通行「なンだァ今の音」

上条「向こうの方だ」

177: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/07(月) 03:30:45.01 ID:wMaaEAJG0
ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!

ガコン!ガコン!ガコン!

一方通行「説明しろォ三下ァ、あれは……何だ」

上条「上条さんに聞かれても……なんなんだよ、あれ」

ピンポーン!ピンポーン!

ガコン!ガコン!

一方通行「インターホンを連打してるおっさンに、マンホールを開け閉めし続けるおっさン?」

上条「あれはタタリなのか……、それともただの変質者なのか?」

一方通行「どう考えても後者じゃねェか」

上条「そのようで、ゲッ! こっち見たぞ」

インターホンを連打してるおっさン「にやり」

マンホールを開け閉めし続けるおっさン「にやり」

179: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/07(月) 03:45:22.56 ID:wMaaEAJG0
次の瞬間、マンホールを開け閉めし続けるおっさン(以下マンおじ)が開け閉めしていたマンホールの蓋を
円盤投げのフォームから上条当麻と一方通行目掛け投げつけてきたではないか。

ぶぅんっ!

上条「うわっぶねえええ!」

一方通行「フン!」

上条は横っ跳びで回避し、一方通行は演算補助装置を操作しベクトル操作で跳ね返す。
しかし、マンホールの蓋は重力に引かれマンおじに到達する前に地面に落下する。

ベキベキッ

突如聞こえた何かを破壊する音に、その音源の方に目を向けると
今度はインターホンを連打してるおっさン(以下インおじ)が
インターホンを力付くで剥ぎ取り振りかぶる体勢にいるのが見えた。

一方通行「テメェら一体なンなンですかァ! 舐めた真似してると愉快なオブジェにしちまうぞコラァッ!」

一方通行の叫びをよそにインおじはインターホンをスクリュー投法でぶん投げてくる。

180: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/07(月) 03:58:37.41 ID:wMaaEAJG0
上条「思い出した! 昼間携帯で調べた都市伝説にこんなのがあった!」

曰く、インターホン連打おじさんとマンホールおじさん

一方通行「はァ!? じゃァこれがタタリだってェのか、ふざけたことぬかしてンじゃねェぞ!」

上条「間違いない! ……いや、半分ぐらい自信がない。
  とりあえず右手で触って消えればタタリで、消えなきゃ変質者だ!」

一方通行「どっちにしろ嫌なんですけどォ!」

昨日の悪夢のようなタタリは何だったのかと、怒りをぶつけるように飛翔する一方通行。
狙うは先ほどインターホンを剥ぎ取った家の隣の家から
またしてもインターホンを剥ぎ取ろうとするインおじ。

ベキベキッ

剥ぎ取ってから投球フォームまでわずか一秒足らず。
いまだ宙を舞う一方通行にすかさず投げつける。
そして驚愕のジャイロ回転が凄まじい破壊力を生みジャイロインターホンが一方通行を直撃、
するも反射で自分の投げたインターホンを顔面に食らい、インおじは悶絶し転げ回っている。

181: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/07(月) 04:12:03.92 ID:wMaaEAJG0
とりあえずで頭に脚を乗せ、ベクトル操作で全ての動きを真下に変換し動きを封じる一方通行。
振り返ると、上条当麻がマンホールの蓋の上に乗り、マンおじがそれを必死に持ち上げようとしていた。
そのまま腕を振り上げ、上条当麻の幻想殺しがマンおじの頭部を殴りつける。

上条「消えた……」

一方通行「マジかよ……」

上条当麻と一方通行を襲う謎の疲労感。徒労感と言ってもいい。
そのまま無言で一方通行の元まで歩き、インおじの背中を右手で殴りつける。
マンおじ同様に幻想殺しに触れた途端インおじも霧のように消え、今夜のタタリが終了する。

上条「帰るか」

一方通行「おォ」

どこか晴れやかな顔をした二人。
律儀にマンホールの蓋を元に戻し、インターホンは門の前に置き、
心にはどす黒いモヤモヤを残したまま、
何にぶつければいいのかわからない怒りを抱え去って行った。

とある魔術のタタリの夜に。第二夜完。

190: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/14(月) 00:09:16.99 ID:7V4/Y39R0
突然だが、上条当麻は学生である。
なので、どんな事件に巻き込まれていようと、
身体が動く限りは学校で勉学に励まなければならない。
加えて言うなら、インデックスには今回の事件から離れようと言った手前、
少なくとも自分から日常を崩すような行動をとることはできないのだ。

上条「ようやく終わりかー」

その日一日の授業全てをボーっとした頭で聞き流し、
帰りのホームルームの終わりと同時に一言だけ呟く。
『ボーっと』とはいえ一日中考えていたのはタタリのことだけ。
シェリーの話では、タタリが完成すれば学園都市が滅びてしまうとのことだが
昨日のタタリを思い出すと、内心ではどうにかなるのではないかとずっと考えていた。
仮に一方通行や一昨日の御坂のようなレベル5のタタリが現れたとしても
右手の幻想殺しや姫神の吸血殺しがある以上、都市が壊滅するなんてことは考えられない、
それが上条当麻が今日一日で出した結論だった。

上条「大体、わからないことが大すぎるんだよな」

もう一言だけ呟いて、溜息を吐きながら立ち上がる。
幸いにも予定していた補習は延期され今日はこのまま帰ることができる。
はずだったのだが、

土御門「カミやん、話があるんだが屋上まできてもらってもいいかにゃー」

胡散臭いのに捕まってしまったなぁ、とまた一つ溜息を吐いた。

191: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/14(月) 00:10:27.01 ID:7V4/Y39R0
屋上――――。

土御門「なぁ、カミやん。俺に話さなきゃならんことってないかにゃー」

上条「おい土御門、話があるって言ったのはお前の方だろ?」

その言葉に疑問を覚えるのは当然、『話がある』のは土御門の方だったはずだ。

土御門「話はある。けどその前にカミやんは俺に言うべきことがあるはずだぜい」

上条「特にないと思うぞ? 強いて言うなら昨日の夜にお前んちに行ったんだけど
  留守だったからどこ行ってたんだろう、くらいか」

その言葉は上条が思ったことをそのまま口にした嘘偽りないもの。
だからこそ、土御門元春はそんな上条が許せなかった。

土御門「今この街で起こっている魔術的な現象、カミやんは知ってるはずだよな」

上条「ッ!?」

土御門「都市伝説、タタリ、吸血鬼、今回もずいぶん厄介な相手らしいじゃないか」

上条「それは……」

土御門「手伝ってやるよ。禁書には秘密にしてんだろ、魔術に詳しい奴が必要だろう」

192: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/14(月) 00:11:36.61 ID:7V4/Y39R0
上条「そういやお前も魔術師だったもんな、気付いてて当然か」

土御門「そうでもねえよ、上から依頼されて初めて気付いたんだ。
  禁書はすぐに気付いたらしいがそれは禁書がタタリとして現れたせいだろう。
  あいにくと俺は都市伝説になるほど有名でも何でもないからな」

上条「けど、お前は魔術を使うと」

土御門元春は超能力開発を受けた魔術師だ。
超能力開発を受けた者は魔術を使うと身体が崩壊してしまう。

土御門「使えなくとも知識があるだけましだろう。
  吸血鬼がいることを魔術サイドの連中に知られれば大変なことになる。
  だから禁書に手伝わせることもできないし、
  手伝ってくれてるイギリス聖教の奴らも大っぴらに情報収集できずに
  タタリに関する情報が少なくて困ってる、そんなとこだろ」

上条「そこまでわかってんのかよ!? はぁもうわかったよ。
  『お願いします土御門さん、手伝ってください。』これでいいか?」

土御門「おっけーだにゃー」

上条「ただし、絶対に魔術を使うんじゃねえぞ?」

土御門「おっけーだにゃー」

上条「ほんとにわかってんのかよ、お前の身体のことだぞ?」

土御門「俺はカミやんと違って自分が大事だからな、
  誰彼かまわず命を投げ捨てるようなまねしねえよ」

193: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/14(月) 00:13:02.94 ID:7V4/Y39R0
土御門「雑談はこの辺にして、今起こってることを教えてやるよ」

上条「頼む、土御門」

土御門「本来タタリが具現化するのは一夜限り、カミやんはそう聞いてるはずだな」

上条「ああ、シェリーが二日続けてなんておかしいって言ってたな」

土御門「そして、昨日もタタリは現れた。これにはAIM拡散力場が関係してるんだ」

上条「それって能力者が無意識に垂れ流してる微弱な力だったか?」

土御門「そうだ、超能力者の集まるこの街は、タタリが身体を持つためには
  非常に適した環境みたいでな、それでタタリの完成を待たずしてタタリが具現化してるんだ」

上条(AIM拡散力場……、風斬と関係あったりするのか?)

土御門「だがな、って聞いてるかカミやん?」

上条「おお悪い、続けてくれ」

土御門「で、AIM拡散力場の影響でタタリが具現化しやすくなってるって話だが、悪いことばかりじゃない。
  タタリの完成前に現れるタタリを倒せば、完成した時のタタリの能力を大幅に弱体化させることができる、らしい」

上条「らしい……って断言できないのかよ」

土御門「超能力者がこんなにいるのは世界中でここだけだからな。
  らしい、なんて言い方はしたが一応信用してもらって大丈夫だ」

194: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/14(月) 00:14:25.50 ID:7V4/Y39R0
上条「結局のところ、やることは変わらないわけか。
  タタリを探してこの右手でブン殴る、と」

土御門「タタリの完成は明日、今日を凌げば次がラスボスってわけだぜい。
  本来のタタリなら100%勝ち目はないが、弱体化したタタリなら余裕で勝てるはずだ」

上条「そうか、明日か……って明日!?」

土御門「何だカミやん、タタリがいつ完成するか知らなかったのか」

上条「初耳だぞ、まったく」

土御門「じゃあ、これもちゃんと言っといた方がいいな。『姫神秋沙は何がなんでも守り抜け』」

上条「姫神を? まぁ言われなくてもそうするけど」

土御門「姫神の吸血殺しは強力だ。完成前のタタリなら何かする前に吸血衝動に負けて
  自ら姫神の血を吸って自滅するだろうが、完成したタタリはそうはいかない。
  タタリは死徒27祖に数えられるほどの吸血鬼だ、吸血衝動を抑えるくらいは可能だ」

上条「吸血衝動? 死徒27祖? なんかまたしても知らない単語がちらほらと」

土御門「カミやん、話の腰を折らないでほしいにゃー。
  とりあえず、吸血鬼の世界の超能力者でいうレベル5みたいなもんだとでも思っててくれれば」

上条「はぁ!? 吸血鬼のレベル5って、そんなのに勝てんのかよ!?」

土御門「だから本来なら無理だって言っただろ、例えカミやんの幻想殺しが絶対的でも
  そもそも相手に触れることすらできない、そういう相手なんだよ吸血鬼ってのは。
  他の吸血鬼なら触れても消えねーし、弱体化させることもできなかったはずだから、
  そういう意味じゃずいぶんとラッキーな方だぜ、まだ生き残るチャンスが残ってるんだから」

195: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/14(月) 00:16:34.14 ID:7V4/Y39R0
上条「吸血鬼コワイ吸血鬼コワイ吸血鬼コワイ」

土御門「えーっと、どこまで話したっけか……、そうそう吸血殺しじゃ吸血鬼は倒せないって話だ。
  でだな、カミやん。吸血鬼を倒せないまでもタタリは吸血衝動を抑えるために
  弱体化している力をさらに使わなければならないんだ。
  さっき余裕で勝てるって言ったのはそういう意味だ」

上条「コワイコワイコワイ……ん? ってことはもし姫神がいないと?」

土御門「勝率が70%から3%くらいに」

上条「……。姫神って今日学校来てなかったよな」

土御門「ここ数日は昼はホテルで身体を休めて、夜は歩きまわってるらしいぞ」

上条「姫神は今夜必ず見つけてやる!! 待ってろよ姫神!!」

196: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/16(水) 01:01:31.35 ID:k1vk57QT0
同じ頃――――。

一方通行は街中を歩き回っていた。
ただの散歩やコーヒーの買い出しが目的ではない。

一方通行「ちっ、見つからねェ。やっぱ夜じゃねェとダメかァ?」

探し物――確固たる目的。
一方通行はとあるベクトルを探っているのだ。

一方通行「つっても昨夜も、ンなもン見つからなかった。やっぱ胡散臭ェな、魔術ってのは」

魔術。より正確にはタタリの術式。
一方通行が探しているのは今この街で行われているとされる、タタリの術式だ。
発動者のいない自然現象のようなものと言っても、世界に干渉しているのだから、
タタリにベクトルが存在しないというのは考えにくい。
そう考えた一方通行は昨夜からタタリのベクトルを探索しているのだ。

一方通行「やっぱ、能力に制限があるからかァ?」

演算補助装置のバッテリーは平常時モードで四十八時間、
この設定でも紫外線を反射する程度は可能で、ある程度のベクトルを感じ取ることもできる。
しかし、能力使用モードでしか感じ取れないベクトルも多く、
タタリのベクトルも能力使用モードでしか感じ取れないものである可能性も高い。
そもそも、魔術ってものにいまだ疑念を持っている一方通行は
ベクトル自体が存在しないという可能性も考えていた。

197: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/16(水) 01:20:25.86 ID:k1vk57QT0
一方通行「一分だけ、試してみるかァ」

能力使用モードの場合、バッテリーを著しく消耗する。
今夜も上条との巡回を予定しているため、長時間の使用は控えなければならない。
そのことに対する言い訳のように呟いて、演算補助装置を操作する。

一方通行「くく、クカカカ……」

今この空間に存在し、自身の身体に触れているあらゆるベクトルを選別していく。
熱、電磁波、重力、風……、音……、光……、

一方通行(これも違う、これは……自転運動か)

果てには地球の公転運動のベクトルさえ認識したところで選別にキリを付け、再び装置を操作する。
魔術。タタリ。吸血鬼。どれもこれも眉唾ものばかりだ。

一方通行(これ以上は無駄だな)

タタリのベクトル探索に見切りをつけ帰路につく。
学園都市第一位の能力を持ってして見つけられないベクトルは存在しない。
それが一方通行が下した結論だった。

198: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/17(木) 05:19:07.60 ID:TI+nfSO/0
夜、上条宅――――。

上条「じゃあ、ちょっと出てくるから」

食事とその片づけを終え、上条当麻は学生鞄片手に出かける準備を整える。
今夜こそどうにかして姫神と接触を図りたい上条は、
『同じ寮のクラスメイトと学校の課題をやる』という嘘を方便に、
一晩中使ってタタリの巡回と姫神探しを行うつもりなのだ。

禁書「ねぇとうま、タタリを追うのはもうやめたんだよね?」

上条「あたりまえだろ? 俺たちが関わらない方が都合がいいっていうんだから、そう説明しただろ?」

禁書「そうだよね、とうまは今から学校の課題をやるために友だちの部屋に行くんだもんね」

上条「管理人とかにはお前のこと秘密にしてるから向こうの部屋に行くしかないだろ」

禁書「うん。……うん、ごめんねとうま」

上条「おいおい、謝るようなことじゃないって」

悲しそうな、苦しそうな顔を見せるインデックスに上条はいたたまれない気分になってくる。
インデックスには何も伝えていないのに、何故そんな顔をするのだろうか。
だからと言って本当のことを話すわけにはいかない。
インデックスの頭に左手を乗せ、優しく撫でる。

上条「昨日一昨日と補習サボっちまったから量が多いんだ。
  もしかしたら今夜は帰ってこないかもしれないけど、ちゃんと朝ご飯は作りに来るからさ」

禁書「むぅー! 朝ごはんの心配してるわけじゃないんだよ、とうま!!」

今にもかぶりついてきそうなシスターさんに、「ごめんごめん」と一言謝ってから部屋を出た。

199: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/17(木) 05:39:00.34 ID:TI+nfSO/0
上条は部屋を出た後、ベランダおよび玄関からは見えない死角を通り寮の外へ出る。
あくまで上条当麻は寮の中にいる設定なのだから、万が一でも寮外へ出るのを見られるわけにはいかない。
寮からかなり離れたところで、ここまでくれば安心だろうと考え携帯を取り出す。
電話をかける相手はイギリス聖教のシェリー。
タタリと関わらないことに決めた上条のところへシェリーから電話がかかってくるのはおかしいため、
向こうからではなく、こちらから電話をかけることにしていた。
ちなみにイギリスとの時差は約マイナス九時間、今向こうは昼前である。

――――――――

シェリー『はぁ? 人が二日連続徹夜でいろいろ調べてやったってのに
  なに漫然とこっちより情報多く仕入れてやがんだてめえ」

上条「えー!? いやまぁその、なんていうかごめんなさい」

シェリー『ケッ、こっちもほとんど手詰まりだったわけだし、てめえが謝ることじゃねえよ』

上条「いろいろ苦労かけたみたいだし、それなのに」

シェリー『いいっつってんだろ。わかったら返事しな!」

上条「……はい」

上条(なんで俺怒られてるみたいになってるんだろう)

200: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/17(木) 05:59:23.80 ID:TI+nfSO/0
シェリー『まぁいい。とりあえず、今日と明日で決着がつくんだな?』

上条「ああ、そういうことらしい。だから安心して眠ってくれ」

シェリー『そうさせてもらうよ。あぁ、でもその前に』

上条「うん? なんだ?」

シェリー『一人そっちに“魔術師”が向かってる』

上条「なっ!?」

気付かれた?
吸血鬼が学園都市にいることを魔術師に知られてしまった?
ということは……。

シェリー『大丈夫だ、てめえが思ってるようなことにはならない』

上条「いや、でも今、魔術師って」

シェリー『魔術師は魔術師でも吸血鬼殺しの専門家だ。あんたらの邪魔する側の人間じゃないってこと。
  そんで到着は明日、タタリがいつ完成するか知ってるんだろうな奴さんは』

上条「もし遭遇しても味方だから安心しろってことか」

シェリー『味方ってわけじゃないんだが……、もし揉めるようなことがあったらカレーを奢る約束でもすれば大体のことはなんとかなるから』

上条「カレー? そいつはインドの魔術師なのか? 一応教えてくれてありがとうな」

シェリー『じゃあな、もう厄介事持ちこんでくんじゃねえぞ』

最後にそう言い捨ててぷつりと電話は切れてしまった。

上条「魔術師……吸血鬼殺しの専門家、ね」

上条は携帯をポケットにしまい、一方通行との待ち合わせ場所へ急ぐ。

201: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/17(木) 08:36:16.46 ID:TI+nfSO/0
同じ頃、一方通行の居候先――――。

黄泉川「もう遅いのにどこ行くじゃん、一方通行」

一方通行「チッ、ちょっとコーヒー買いに行くだけだァ」

黄泉川「コーヒーって昨日大量に買ってきたのが残ってるはずじゃん」

一方通行「違う銘柄のコーヒーが飲みたくなったンだよ。じゃァな」

黄泉川「おい、待つじゃん!?」

バタン。

打ち止め「言っちゃったね。ってミサカはミサカは最近のあの人の行動がとっても不安」

芳川「居候ってことで気を使ってるのかしら」

黄泉川「いや、あんたはもう少し遠慮って言葉覚えた方がいいじゃん」

※時系列にずれがありますがすでに黄泉川宅で居候中の設定です。

202: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/17(木) 08:49:41.29 ID:TI+nfSO/0
打ち止め「あの人はそんなの気にする人じゃないよって、ミサカはミサカはあの人の無神経っぷりを説明してみたり」

黄泉川「コーヒー買いに行くって言ってたけど、どう考えても嘘にきまってるじゃん。
  一昨日も額に包帯巻いて帰ってきてたし」

芳川「そのくせ、私たちには夜は絶対に出歩くな、でしょ。何かあるのは確実でしょうね」

打ち止め「ミサカ10032号も倒れちゃったみたいだし、ミサカはミサカは心配でじっとしてられない」

黄泉川「あいつはもうちょっと大人を頼るってことを覚えた方がいいじゃん。
  今は一方通行が無事に帰ってくるのを信じて待つしかないか」

205: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/18(金) 05:05:01.68 ID:QUn7doHu0
待ち合わせ時刻五分前、公園――――。

一方通行「よォ、今夜は遅れずにきたな三下ァ」

上条「そういうお前はいつから待ってたんだ、時間に厳しい第一位なんてすごい意外性だな」

一方通行「その軽口塞がねェと血液逆流させんぞクソが」

上条「ああ、今日もいろいろと報告がある」

――――――――

上条「と、まぁこんなとこだ」

一方通行「お前の知り合いそっち系の奴ばっかですかァ、ったく。まァそれもあと二日の辛抱か」

上条「そうなるな。あと二日、頼りにしてるからな」

一方通行「障害者頼りにしてンじゃねェよ、とっとと行くぞおらァ」

上条「おい待てって」

♪マヨラー、その手を引く者などいない♪

上条「ん?」

一方通行「あァ?」

206: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/18(金) 05:16:16.21 ID:QUn7doHu0
一方通行「確かテメェの携帯の着信音だったなァ」

上条「たぶん、さっき言ってた土御門だ」

そう言って携帯を取り出し、画面を確認すると『土御門元春』と表示されている。
思った通りだ、と一方通行に断りを入れて通話ボタンを押す。

上条「土御門か? 姫神が見つかったのか?」

土御門『おうカミやん、ハッキングが思ったよりスムーズにいってな。
  監視カメラの映像から丁度今、○×学区のメインストリートを北に歩いてるみたいだぜい』

上条「おっけー、サンキュー土御門」

土御門『しっかり頼むぜカミやん』

電話口の相手に一言だけ礼を言い、一方通行に向き直る。

上条「第一目標発見、○×学区のメインストリートを北に歩いてるらしい」

207: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/18(金) 05:35:07.34 ID:QUn7doHu0
全力で走ってもおよそ十五分はかかる目的の学区だが、
上条たちは土御門からの電話の約三分後にはそこへ到着していた。
その理由としては、『一方通行が能力を使用した』、とその事実だけで納得いただけるかと思う。
具体的には一方通行が上条の左手首を掴み、絶対に右腕で俺に触ンじゃねェぞ、と一言注意した後、
肩がはずれない程度の速度で跳躍し徐々に加速して一気にトップスピード(上条がギリギリ呼吸できる速度)へ。
そして徐々に減速し今に至る。

上条「ぜぇぜぇ……、上条さんしばらくジェットコースターには乗りたくありません」

一方通行「で、一昨日の巫女さンはどこなンですかァ?」

辺りを見回すが人っ子一人見当たらない。

上条「ここは学区の北端だからな、南に歩いていけば鉢合わせると思うが一応土御門に連絡してみるわ」

息を整え再び携帯を取り出すと、履歴から先ほどの通話相手に今度はこちらからかけ直す。

1コール、2コール……。
すぐに出ると思っていたのだが意に反して一向に繋がらない。
そして7度目のコール音が鳴りやんだ時、

一方通行「後ろだ、三下ァッ!」

208: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/18(金) 06:09:36.45 ID:QUn7doHu0
上条「へ? ぶらはッッッ!!」

間抜けな声を挙げる上条に、一方通行の蹴りが炸裂し軽く二メートルくらい吹き飛ばされる。
それに対し、互いに文句を言う暇も言われる暇もない。
直後に飛来した街灯がさっきまで上条が立っていた場所に、ズガン!と突き刺さったからだ。

上条「げほっ、なんだってんだ畜生」

一方通行「決まってンだろ、第二目標だ馬鹿野郎ォ」

危険を察知してすぐさま立ち上がり、一方通行の目線の先にあるものを確認する。
そこにいたのは二人組の少年。
一人は、白髪にセンスの悪いTシャツ、その二つで十分すぎる特徴と言えるだろう。
もう一人は、ツンツン頭の黒髪にとある学校の指定の学生服に身を包んでいる。
馬鹿げた話だと思う。

上条「御坂の気持ちが少しだけわかった気がするぜ」

一方通行「あァ、こんな糞みたいな気分は、この間テメェに殴られた日以来だ」

二人の前に立っていたのは、学園都市最強のレベル5、序列1位の一方通行。
そして、あらゆる超能力を無効化する男、上条当麻。
それが今夜のタタリの名称だった。

209: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/18(金) 06:28:49.42 ID:QUn7doHu0
土御門「クソッ、カミやんに繋がらねえ!」

土御門の目の前にあるパソコンには二人の上条と二人の一方通行の姿が映っている。
ただ、携帯を片手に持つ上条はもう一人の上条に背を向け、それに気づく様子はない。
携帯を持つ上条の隣の一方通行も同じく、背後の一方通行に気付かない。
それぞれの距離はおよそ十メートルほどだろう。
自らの背を見つめる一方通行はおもむろに歩きだし、すぐ近くの街灯に手を添える。
何をするかと思えば、一瞬で引きちぎってしまったではないか。
それでも気付く気配がないというのは、音もなく引きちぎったとでもいうのだろうか。

土御門「おい、カミやん! 後ろだ、気付け!」

モニター越しの声が届くはずもなくむなしさだけが残る。
カメラの向こうで、携帯を持つ上条が首をかしげた時、街灯を片手に持つ一方通行が
その腕の凶器を振りかぶり投擲する。
同時に何か異変を察知したのだろうか、一方通行が振り向き直後に上条に蹴りを入れる。
まさに間一髪。
土御門はその様子を見てほっと息をつくが、苛立ちの余り手に持っていた携帯を投げつける。

土御門「眺めるだけは許してやる、邪魔するな。っとそういうことか」

モニターに映るのはカメラ目線でニヤケ顔を見せる街灯を投げつけた一方通行だった。

210: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/18(金) 09:45:41.13 ID:QUn7doHu0
偽上条「久しぶりだな、サイジャク。元気にしてたか」

偽一方「今度はこの前みたいにはいかねェぞ、三下ァ」

互いの上条と一方通行が向かい合うように立ち、タタリが挑発の言葉を投げかけてくる。
それに対し、青筋を立てチョーカー型の演算補助装置に手を伸ばす一方通行。

一方通行「三下ァ、お前は俺の偽物と遊んでろォ。すぐにテメェの偽物ブッ潰してそっちのも叩き潰してやる」

上条「落ちつけ一方通行、挑発に乗るのはまずい」

一方通行「俺に指図すンじゃねェ!」

上条「落ちつけって、言ってんだろうがっ!」

ばしっ。

一方通行「ぐふっ」

どなり声を上げ今にも飛びかかろうとする一方通行を上条がその拳で力付くで静止させる。

偽上条「おいおい、仲間割れか?」

211: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/18(金) 10:08:44.73 ID:QUn7doHu0
一方通行「何しやがるッ! テメェ含めて三人まとめてブッ潰されてェのか!?」

上条「さっきの蹴りの礼だよ。俺の偽物は俺がやる、上条さんのことは上条さんが一番よくわかってるんだ。
  俺に出来るのは身体一つで突っ込んで右手でぶん殴ることだけだ、つまりそれは向こうも同じだろ。
  けど俺は何発殴られたって消えねえがあいつは一発でも食らえば消えちまうんだ」

上条のもっともらしい作戦に一方通行は虚をつかれしばし間を置いた後、舌打ちをする。

一方通行「正攻法過ぎてつまンねェよ」

上条「一方通行!」

一方通行「わかってるゥ。テメェの言うとおりにしてやる、今回だけだァ」

実際のところ、幻想殺しと相性が悪いの明白だ。
以前と異なり、十五分(すでに残り十分弱だが)しか戦えない制限があるため、
時間を稼がれるだけでも致命的となる。
故にこの作戦は賢明な選択であると言えた。

偽上条「チッ、挑発には乗ってこねえか」

偽一方「クカカカカカ、俺を殺せばレベル6になれンじゃねェのか?」

ついに今夜の戦いの火ぶたが切って落とされた。

212: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/18(金) 22:47:45.17 ID:QUn7doHu0
偽上条「幻想殺しとはあんまりやりたくなかったんだけどなぁ、仕方ねえか。かかってこいよ」

タタリは上条に対し指をちょいちょいと動かし誘うような動作をする。

上条「言われなくても! その幻想、速攻でぶち殺してやるよ!」

上条は即座に駆け出し、一気に距離を詰めようとする。
それに対し、タタリはバックステップで距離を計ったあと、攻撃を受けるような構えを取る。
しかしそれが防御であるはずはない。
もし上条の右腕が触れれば、勢いがあるないに関係なく消滅するはずだからだ。
ゆえに上条は警戒を怠らない。
カウンターで顎を揺らされることを考えて左腕で顔をガードし、そのうえで右腕を突きだす。
これは攻撃ではなく、相手の出方をうかがうための牽制、そのはずだった。
だから右腕が相手に触れたことに驚きを示す。
そして、触れたにもかかわらず消滅しない敵に思わず目を見開き驚愕する。

偽上条「俺はお前だぜ? 俺のことをお前が知ってるように、お前のことも俺は知ってる」

上条の右手の一撃を、タタリは同じく自身の右手で受け止めていた。

偽上条「幻想殺しなんて幻想は、俺の幻想殺しでぶち殺せばいい、それだけだ」

213: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/18(金) 23:07:56.60 ID:QUn7doHu0
上条「くそっ、放しやがれ!」

偽上条「正直なところ、お前の存在は邪魔なんだよ」

タタリは上条の右手をしっかりと握り、放す気配はまったくない。
上条は過信していた。
この右手で触れれば、それだけで全てが終わると。
今まで上条は、その右手の力を秘匿したうえで、切り札として使用し戦いに勝利してきた。
例え触れれば勝てる相手だとしても、その能力を知り得る相手と言うだけで圧倒的なアウェー。
そして上条は自身を過小評価し過ぎていた。
自分はただの高校生に過ぎず、少し喧嘩慣れしている程度の無能力者。
それは相手も同じことであり、目の前の存在を大した障害と認識できていなかったのだ。

偽上条「速攻でぶち殺してくれるんじゃなかったのか? ひゃはは」

タタリは上条の顔で心底楽しそうに笑う。
笑いながら左足で蹴りを放つ。
右手は掴まれているため、上条がそれを受け止めることはできず、右わき腹にもろに食らってしまう。

上条「ごふっ。っんなろう!」

しかし、一方的にやられる上条ではない。
すぐさま同様に蹴りを見舞い、同じ場所に一撃を喰らわせてやる。

偽上条「ごほっ。やるねえ、さすが俺」

僅かに顔を歪めるが、それでもタタリは右手を放そうとしない。
作戦は失敗、最悪の泥仕合に発展しようとしていた。

215: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/22(火) 00:23:05.44 ID:xghkmaiC0
上条同士の泥沼の殴り合いを呆れ顔で眺めるのは杖を突いている一方通行。

一方通行「はァ、要するにお前らはどっちでも構わなかったわけじゃねェか」

もし上条とタタリの一方通行が戦えば、タタリは右手に触れぬよう遠距離から攻撃し、
一方通行とタタリの上条が戦い、決定力に欠ける一方通行は時間を稼がれる。
今の組み合わせであろうとなかろうと、めんどくさいことになるのは前提条件だったのだと、
冷静になった頭で一方通行は結論を出す。

一方通行「しかしよォ、テメェのソレはどういうことだァ?」

視線を移し、目の前の自分と同じ姿をしたタタリに問いかける。
同じ姿と言ったが、二人には一目でわかる明らかな違いがあった。
一方は二足の脚のみで大地に立っているのに対し、
もう一方は杖を突き、首元にチョーカー型の機械を装着している。

偽一方「クカカカ、簡単なことだ。この街の噂として挙げられる一方通行は未だ最強、それだけの話だァ」

タタリとは噂を媒介として現れる。
例えば、御坂妹がレベル5の電撃使いであったように、
噂の内容によってタタリの能力や強さまで、容易に変質しうるのだ。
つまり、今一方通行の目の前に立つのは8月31日以前の、
脳に障害を負う前の何の制限も持たないまさに無敵の頃の自分。

216: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/22(火) 00:24:42.83 ID:xghkmaiC0
単純に考えて、能力の使用に15分の制限を持つ自分が不利なのは明白。
しかも、平常モードでの使用と公園からここまでの移動で能力を使った分で
おおよそのバッテリー残量は10分弱と言ったところか。

偽一方「学園都市最強の都市伝説を相手にビビっちまったのかァ?」

あからさまに見下すような笑みを浮かべる敵を前に、プライドの高い一方通行は
演算補助装置を操作し一直線に駆け出していく。

一方通行「都市伝説風情が俺様騙ってンじゃねェぞ!!?」

右腕を振りかぶり、目の前のムカつく野郎の顔面に全力の拳を叩きこむ。
それを目にするタタリも同時に右拳を振り上げ一方通行の顔にカウンターとなる一撃を放つ。
反射の能力に一方通行の攻撃は威力を倍にし、タタリの攻撃は跳ね返る、そのはずだった。

一方通行「ぐァァッ!?」

偽一方「ぐゥ!?」

タタリに直撃した右手と、タタリに殴られた左頬に鈍痛が走る。
驚愕に目が見開かれ、状況の把握に一度距離を取るため後方へ跳躍する。
それは相手も同じだったらしく、右手を抑え同じく後方へ跳躍していたタタリを目にし
一方通行は瞬時に現状を理解する。
殴られた瞬間はまさか相手の反射のみが適用されたのかとも思ったがそうではなかった。
反射の反射……、1を-1にする一方通行の能力をタタリが-1を1にしてしまい、
互いの能力が反映されたことで何の変哲もないただの攻撃と化したのだ。
殴られれば痛いし、殴っても痛い。
後者は攻撃時にも能力を使い続けていた一方通行にとって新鮮な経験だったと言えよう。

217: ◆tVP11EVtkPKg 2011/02/22(火) 00:25:54.00 ID:xghkmaiC0
状況を把握したところで一方通行は再び跳躍しタタリとの距離を詰める。
僅かに遅れてタタリもこちらに向かって走り出す。
おそらく、敵も先の現象の理由を理解したのだろう。
ならば狙いもこちらと同じであるということが容易に推測できる。

一方通行(奴の狙いは……)

偽一方(……血流操作!)

極端に脆弱な一方通行の腕力では打撃戦に勝機を見出すことは不可能、
投擲系の攻撃も手から離れてしまえば相手に一方的に操作されるだけ、
となれば必然的に直接攻撃でかつ打撃を除く攻撃方法、
つまりは血流操作による一撃必殺に持ち込むしかない。
より詳しく言えば、狙うのは大動脈。
末端の血管を破裂させたところでただの打撲による内出血と変わらない。
よって身体の表面に近く命に関わる首筋、両腕、心臓の三か所が狙いとなってくる。
その結果として、

一方通行「ッ!」

偽一方「ッ!」

右手でタタリの右腕を掴もうとすると、その右手を掴もうとタタリが左手を突きだし、
その左手を一方通行が左の手の平ではじき、タタリは右手を引き、一方通行の右手が宙を切る。
学園都市の最強同士の戦いはとてつもない地味なレベルで繰り広げられることになる。

222: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/02(水) 19:15:10.15 ID:PF81//pJ0
二度三度と互いの攻撃(?)が空を切り、四度目――先にタタリが右腕を振う。
漫才師のツッコミの方がまだ痛そうに思える振りだが、その実は必殺の一撃。
当たれば絶命必至のその毒手を前に、一方通行は真正面に自らの左腕を差し出す。
それを目に、タタリは口には出さないが馬鹿な奴だと心の中で嘲笑う。
どういうつもりかは知らないが、それは失策以外の何物でもない。
これでチェックメイト、その左腕を掴み、一方通行を愉快なオブジェに変えるべく血流のベクトルを操作する。
しかし、

偽一方「あン!?」

一方通行の血管が破裂することはなく、タタリは異変に首をかしげる。

一方通行「どォかしたかァ? 偽物野郎ォ」

口の端を吊り上げ邪悪な笑みを浮かべた一方通行がタタリに語りかける。
何かしたのか?と目の前の脳なしを嘲るように。

223: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/02(水) 22:48:54.14 ID:PF81//pJ0
なぜ?どうして?その疑問が解消される前にタタリの首元に一方通行の右手が迫り寄る。
確かに一方通行の腕はタタリに掴まれている。
ベクトル操作によって血流を逆流させている。
なのに、

偽一方「ァ……、や、やめろォ」

まるで絞首刑を宣告された死刑囚が一段また一段と、死の十三階段を昇るかのごとく。
必殺の毒手がじわりじわりと首元に忍び寄ってくる。
逆流でダメなら上――、それもダメなら下――、右!・・・左!
あらゆる方向へベクトル変換を試みるが一方通行の右手が止まることはない。

一方通行「く、クカカキキクケカカクククコココオオォォォォ」

一方通行が意味不明な叫び声をあげているにもかかわらず、タタリの耳に届いている様子はない。
ヒタリ。反射の膜を越え首に触れられた感触。
それはつまり、

パーン。

偽一方「ガハッああァァァ……」

風船が破裂したのかと勘違いする者がいてもおかしくないほどの大きな音が響き渡り、
首から大量の血液を放出し後ろ向きに倒れ込む白髪の少年。
その最中、ようやくことの真実に辿り着く。

偽一方(テメェの左手に俺のベクトル操作と逆向きのベクトル操作を……)

一方通行「テメェのやることなンざお見通しなンだよ、クソッたれがァ」

一方通行が行ったのは、互いのベクトル操作が相殺されるように相手と真逆のベクトル操作、
口にすれば簡単に思えるかもしれないがタイミングや角度がわずかにでも狂えば自らの命は無い。
出鱈目というにも出鱈目の枠を超えたとんでもない出鱈目な行為だった。

225: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/02(水) 23:07:44.33 ID:PF81//pJ0
ドシャリ、と倒れ込む過去の自分を見つめ微動だにしないのを確認し演算補助装置を操作する。
能力を一時的に失ったことで一方通行はバランスを崩しその場に座り込んでしまう。

一方通行「けっ、最強(サイジャク)な頃の俺なンかにこンだけ苦労してる様じゃ、
  いよいよもって焼きが回ったかもしンねェなァ」

独りごちた後、すぐ横にあった杖を見つけ手を伸ばす。
杖に体重をかけ、どうにか立ちあがることに成功する。
結局のところ、一方通行がタタリに勝利できたのは演算補助装置のおかげだった。
演算補助装置によって取り戻した仮初の能力と、バッテリーと言う名の余裕。
バッテリーが切れれば無能力者をも下回る肉の塊になってしまうことに対する余裕の無さが
血流のベクトル操作をさらに操作し相殺するという出鱈目な作戦を生み出し、一方通行を勝利へと導いたのだ。
最強にはほど遠い、今の一方通行は必死でもがき生を勝ち取った一人の人間にすぎなかった。

226: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/03/03(木) 03:00:22.45 ID:SIvRTp/j0
ドシャリ、と人間が倒れ込むような音を聞き、上条当麻は視線をわずかに横へやる。
視界の端に捉えたのは首から大量出血する白髪の少年。
出血のせいでチョーカーの有無がはっきりと見えず敵か味方かの判断はできそうにない。

偽上条「よそ見なんかしてていいのか?」

タタリは上条の見せた隙を見逃さない。
先ほどまでの一撃一撃の応酬とは比べ物にならない重い拳が上条の鳩尾に突き刺さる。

上条「ゴホッ!?」

偽上条「心配しなくてもあれは俺の陣営だよ。どうやら“第二目標”は果たせそうにない」

肺から無理やりに空気を追い出され、上条は片膝をつき苦悶の表情を浮かべる。
その様子を溜息混じりに見下ろし、タタリは事実のみを告げる。

偽上条「だが、“第一目標”だけは果たせそうだ」

第二目標、第一目標。
上条はその言葉にギョッとする。
それは上条と一方通行は公園での話し合いで口にしていた言葉。
第二目標とはタタリの殲滅、そして第一目標は姫神の保護。
タタリが口にしたのが上条たちと同じ意味でないのは当然だが、それはタタリ側にも優先順位があったということ。
自分たちにとって必要なものは、敵にとって不要なもの。
タタリの一方通行が敗れたことで第二目標は果たせなかったといった。
つまり第二目標とは上条たち――、もっと言えば上条の幻想殺しだろう。
ならば第一目標とはなんだ?

227: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/03(木) 03:19:12.17 ID:SIvRTp/j0
姫神「上条くんから離れて」

声は建物と建物の間の路地裏から響いてきた。
上条はその声にハッとする。
それは上条たちにとっての第一目標。そしてそれはタタリにとっても――。

上条「姫神っ! 逃げろ!」

偽上条「そうはいかねえっつーの!!」

叫ぶ上条にタタリは未だ掴んだままだった右手を放し、太ももへのローキックを叩きこむ。

上条「ぐぁっ!」

短い悲鳴をあげ上条は無様にも崩れおちる。
その隙にタタリが姫神を目指し一気に駆け出していく。

一方通行「あン? 何やってンだ三下ァ!」

無様に膝をつく上条に一方通行が怒号を浴びせる。
一方通行がさっき見せた出鱈目な演算の相殺は相応の負担となっていた。
例えるなら5ケタの掛け算を物凄い速さで一切の間違いを許さず解き続けるような、
超能力とは万能に見えて、使用者の脳に演算に見合った疲労を与える。
だからできることなら僅かばかりでも脳を休ませたいのだが
しかし、あのタタリを野放しにするわけにもいかないのも実情だ。
そしてそれは、首元のチョーカー型の演算補助装置に手をかけスイッチを入れた途端の出来事だった。

228: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/03(木) 03:44:20.72 ID:SIvRTp/j0
がくんと、足元を払われた感覚に襲われ一方通行は倒れ伏してしまう。
その感覚は錯覚ではなく、まぎれもない事実。
基本の演算である反射は機能していたはず、なのにだ。
反射を越え攻撃が可能な奴など幻想殺しだけのはず……、否。
その答えは、先ほどまでと立場が逆転し、倒れた一方通行の目の前で自身を見下ろす殺したはずのタタリだった。
なぜ?どうして?降って湧いた第二の疑問の答えを一方通行は知っている。
一方通行は、芳川という科学者が銃で撃たれた時、破れた血管から血管へと血液を流し込んで彼女の命を助けたことがある。
それと同じことを、破裂した首の動脈の血流を能力によって繋いでいたのだ。

そして倒れ伏す上条と一方通行をよそに上条のタタリは姫神の目の前まで迫っていた。
姫神の手には自身の能力を抑えるための十字架が握られている。
その十字架を手放すよりも僅かに早く、タタリが姫神の手首を捻りあげ後ろ手に拘束する。
姫神は痛みから十字架を手から落とし、キィーンと高い金属音を響かせる。
それでも姫神を後ろ手に拘束し続けるタタリに疑問を抱く。

姫神「なぜ。私の能力は」

吸血殺しは、吸血鬼に対し吸血衝動を促す効果がある。
その衝動に抗う術は無い、はずなのに。

偽上条「忘れてないか? 俺の右手は異能の力なら神の奇跡だって打ち消せるんだぜ?」

姫神の腕を押さえているのは上条当麻の右腕、幻想殺し。
その効力は吸血殺しも例外ではないらしい。

偽上条「やれ、相棒!」

タタリが声をかけたのはもう一方のタタリ。
首元を自らの血液で真っ赤に染めた一方通行だ。

229: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/03(木) 04:11:28.05 ID:SIvRTp/j0
上条は痛みからすぐには動けない。
一方通行も立ちあがるために若干の時間を要する。
一方通行のタタリは負傷を感じさせない動きで能力を行使した人外の跳躍を見せる。
一秒と経たず姫神の前に立ち、タタリは姫神の手首に軽く手を置いた。

姫神「――っ!」

上条「姫神ーっ!」

偽一方「キヒャヒャヒャヒャ、これでバッドエンドだァ!!」

姫神の声にならない声と、それを呼ぶ上条の叫び、そしてタタリの勝利宣告が入り混じった後、
姫神の腕が自身の鮮血によって真っ赤に染められた。
同時に、姫神の飛散した血を浴びた一方通行のタタリはすぐに消え、本物の一方通行が二人へと急接近する。
それを見て、残った上条のタタリは姫神を放り出し路地裏へと駆け出していく。
追えばすぐにでも追いつけるだろうが、一方通行は支えを失い倒れ込む姫神を受け止めていた。
姫神は痙攣しており、一種のショック状態に陥っているようにみえる。

上条「一方通行! 姫神は……」

一方通行「俺が何とかする! だが7分だァ! それ以上は持たねェ、すぐに片づけて戻って来い!」

上条「……っ、わかった、姫神を頼む!」

未だダメージの残る足を叩いて言うことを聞かせ上条は自身のタタリを追って路地裏にかけていく。

231: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/03(木) 04:48:38.69 ID:SIvRTp/j0
上条が路地裏に入って、異変はすぐに現れた。
異変とは彼方より飛来する光の柱。
光の柱は上条の進行方向遥か先へと降り注ぎ辺りの闇を払い除ける。
その光はいつか見た、クラスメイトである魔術師が行使した魔術に酷似していた。
おそらくは、そうなのだろう。
上条が未だ降り注ぐ光の柱の落下地点へと到着すると、そこにあったのは光の柱を右腕で受け止め動けずにいるタタリの姿だった。

偽上条「ちっ、俺もチェックメイトか。まぁ第一目標は潰せたわけだしよしとしよう」

自分がぼやく姿を目の当たりにして、特に声をあげることもなく上条は一歩一歩近づいていく。
そして、自分と同じ顔のタタリの顎を、下から右手でアッパーの要領で打ち抜き、
霧散したタタリの後を引き継ぐようにして光の柱を受け止める。
その様子を彼は見ていたのだろうか、光は少しして消えさり上条は解放される。
即座にUターンし、きた道を逆走する。
幸いにもここまでの道のりは1分もかからない。
光の柱を受け止めていた時間も合わせて3分ほどで元の場所へ戻ってくることができた。

一方通行「思ったよりはァ早かったなァ、テメェのことだからギリギリで戻ってくるかと思ってたが」

上条「それより姫神は大丈夫なのか?」

一方通行「血液逆流させられて無事な人間がいるわけねェだろォ、今は俺の能力でどうにか維持してる状態だァ。
  テメェにできるのは救急車を呼ぶことくらいだァ」

返す言葉も見当たらず、上条は携帯を取り出し119のダイヤルを押す。
土御門にかけた時と違い、すぐに繋がりオペレーターに現在の場所と姫神の容態を告げる。
患部を清潔な布で押さえ脇を縛って止血するなどの応急処置を指示されたあと電話を切った。
一方通行の能力行使の限界を待つ間、上条は自らの無力な右腕をじっと見つめていた。

とある魔術のタタリの夜に。第四夜完。

241: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/24(木) 21:50:50.74 ID:ZpZWTzHO0
九月十五日(火)――。

午前五時、その時刻上条当麻は自宅で朝食の用意をしていた。
トントンと包丁がリズムを奏で直に食欲をくすぐる香りが漂い始める。
いつもより1時間以上早いとはいえ、食べ物の匂いに釣られて
居候が起きだしてきそうなものだが(少なくとも上条当麻のイメージ内では)、
未だ彼女が目を覚ます様子は見られない。
昨夜、家を出る時に帰ってこないかもとは伝えておいたが、
それでも上条の帰宅を待って夜遅くまで起きていたのかもしれない。
いろいろと余所事を考えながらも朝食と昼食の準備は着々と進み、ほどなくして全ての工程が完了する。
最後に書置きをして、自身はサランラップに包んだ大きめのおにぎり一つを片手に持ち、
インデックスが目を覚ます前にと寮を出ることにした。



―――インデックスへ

日直の仕事があるから早めに家を出る
ご飯を食べたら食器は流し台へ頼む
それと今夜は遅くなるから小萌先生のとこで
食べさせてもらってくれ、すまん

242: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/24(木) 21:52:55.60 ID:ZpZWTzHO0
寮の近くの公園で大きめのおにぎりを黙々と食べる。
時刻はまだ六時前、『何の用事もない』上条はボーっと空を見上げ漫然と時間を潰していた。
日直でもなければ部活の朝連があるわけでもない。
ただ、インデックスと顔を合わせずらかった、それだけの話だ。
だから嘘の書置きをして家を出た。
今顔を合わせたりしたら、きっと勘付かれるから。
関与することを禁じられている彼女にとって、
何もできず悔しい思いをさせるくらいなら始めから知らなければいい。
優しい彼女のことだ、友人が傷ついたなんて聞けば胸を痛めることだろう。
できることなら彼女には知られずに事件を終えたい。
今願うのはそれだけ。

上条「そろそろいいか……」

丁度いい頃合いだろうと見切りをつけ、上条はベンチから立ち上る。
おにぎりを包んでいたサランラップを公園のゴミ箱に捨て携帯を取り出す。
アドレス帳から目的の名前を探して、通話ボタンを押す。
数回のコール音の後、相手の声を聞き電話が繋がったことを確認して口を開く。

上条「朝早くすみません、上条です。今から伺ってもいいですか?
  姫神のことで話があるんです」

243: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/24(木) 21:54:32.57 ID:ZpZWTzHO0
小萌宅――――。

コンコン。

上条「おはようございます。上条です」

小萌「鍵は開いてますから、どうぞ入って欲しいのです」

家の主に了承を貰い、ドアノブを回し部屋に入る。
ざっと部屋を見回すと、以前突然押し掛けた時と比べ
ずいぶんと片付いた印象を受けた。

小萌「どうぞなのです」

そう言って差し出されたのは一枚の座布団。
しかし、上条は座布団の手前に両膝を突き深々と頭を下げた。

上条「すみません! 姫神を連れて帰るって約束したのに、俺……ッ!」

小萌「……上条ちゃん、頭を上げて欲しいのです。
  昨日の夜、病院から連絡は貰ってるのです。
  お医者さんは命に別状はないって言ってましたし、数日中に退院できると」

上条「死んでたかもしれなかったッ!!」

小萌「!?」

上条「俺と一緒にいた奴が超能力者で、そいつのおかげで助かったんです。
  もしそいつがいなかったら姫神は助からなかった、俺は何もできなかった」

小萌「……」

小萌は上条の強い口調に思わず言葉を失う。
短い間とはいえ、入院が必要になるほどの怪我だ、
かなり危険な目に会ったのだろうと予想はしていたが命を落とすほどとは想定していなかった。
未だ頭を下げ続ける少年は自分を許せないのだろう。
万能の力を持つわけでもない、ただの高校生がそれほどまでの責任感を負う必要があるのだろうか。

小萌「上条ちゃん、頭を上げてください。
  お話する時は相手の目を見てお話しましょうって小学校で習いませんでしたか?」

上条「小萌先生……」

244: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/24(木) 21:55:26.70 ID:ZpZWTzHO0
小萌は、ようやく頭を上げた上条の目をしっかりと見据える。
目に力はなく、よく見れば目の下に隈もできている。

小萌「上条ちゃんは先生との約束を守ろうと頑張ってくれたんですよね?」

上条「……はい」

小萌「なら先生は何も言いません。先生は頑張ってる生徒を叱ったりしないのです。
  今日、学校が終わったら一緒に姫神ちゃんのお見舞いに行きましょう」

上条「っ……はい」

小萌「上条ちゃんはきちんと朝ごはんは食べましたか?
  お腹空いてるなら先生ごちそうするのですよ」

上条「ありがとうございます。朝は食べてきました」

小萌「じゃあちょっと早いですけど学校に行きましょうか、
  今日は特別に先生が車で送迎してあげちゃうのですよ。
  上条ちゃん、あんまり寝てないみたいですし助手席で寝かせてあげちゃいます」

だから授業中に居眠りとかしちゃダメなのですよ?なんて、
優しい担任の言葉に思わず涙がこぼれそうになった。

上条「それじゃ、お言葉に甘えて」

どうしても伝えることができなかった。
事件がまだ終わってなどいないことを。
そして、なんとしても守りたいと思った。
もう誰も傷つけさせない。

245: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/25(金) 02:10:38.92 ID:3hYkeSth0
上条は小萌の車で学校へ向かっていた。
車の揺れは思いのほか心地よくすぐに睡魔が襲ってくる。
うつらうつらと舟を漕ぎながら、昨夜のことを思い出す。

上条は姫神と一方通行の付き添いとして、救急車に乗せられ病院へ搬送された。
姫神はともかく、一方通行の方は短時間でかなり脳を酷使する演算をした疲労から
演算補助装置のバッテリーが切れると同時に意識を失っただけなのだが、
タタリの一方通行を倒した時の返り血を浴びていたことで重症と勘違いされたのである。
病院に着いた後、上条も軽傷ではあるものの全身に打撲傷を負っていたため、
その治療を受けた後(実は今現在も、全身に湿布が貼られまくっていたりする)、
アンチスキルに『スキルアウトとの喧嘩』という説明と簡単な調書を書かされて解放された。
もし、一方通行と上条が姫神の血液を浴びていれば非常に面倒なことになっていたことだろう。
この時点で時刻は午後十時、夜も晩く喧嘩のあとということで一人で帰すのは好くないということになり
上条はアンチスキルの詰所の仮眠室で一夜を過ごすことになった。
インデックスと顔を合わせたくなかった上条にとっては都合は良かったと言える。
結局、夜通し自身の不甲斐なさを責め続けあまり眠ることはできず、
空が白み始める頃には起きだして帰宅したのだった。

小萌「上条ちゃん、着きましたよ。気持ち良さそうに眠ってますが起きて欲しいのです」

246: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/25(金) 07:13:40.48 ID:3hYkeSth0
休み時間――――。

教室を出て人通りの少ない踊り場へと移動する。
携帯を取り出して数少ない親友へと電話をかける。

土御門『もしもし、カミやん? どうかしたのかにゃー?』

電話はすぐに繋がり、電話口からとぼけた声が聞こえてくる。

上条「土御門、お前身体は大丈夫なのか?」

土御門『心配して電話してくれたのか、ありがとうだにゃー。
  俺ならこの通り、どうにか生きてるぜい』

上条「“どうにか”って、結構ひどいのか?」

土御門『今回はちょっとばかし運が悪かったにゃー。
  内臓に穴が開いちまってさすがに今日はカミやんを助けてやれそうにないぜい』

上条「内臓に穴!? おい、お前ほんとに大丈夫なのかよ!」

土御門『冥土帰しの執刀してくれたおかげで大事ないぜよ。
  切れた腕くっつけるよりは簡単だと思うぜい、はっはっはぁっ痛ぅ、腹の傷がぁ』

上条「盲腸の手術した人みたいなボケやってんじゃねえよ!」

247: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/25(金) 07:14:07.34 ID:3hYkeSth0
土御門『ははは、すまんすまん。とりあえず昨日のタタリはきちんと始末できたんだよなカミやん?』

上条「ああ、お前のおかげでな。けど……」

土御門『姫神がやられたのはまずかったにゃー、向こうも姫神を狙ってくるとは……』

上条「すまない、俺が不甲斐ないばっかりに」

土御門『なんで謝るんだカミやん? カミやんはよくやってくれてる方だ。
  姫神が負傷したのも、俺が魔術使って怪我したのもカミやんのせいじゃないぜい。
  ちっとばっか運が悪かった、それだけのことだ』

上条「それでももっとうまくやれてたらって思っちまうんだ……。
  もしあの時ああしていれば、こうしていればって」

土御門『自惚れてんじゃねえぞ、カミやん!
  カミやんができることなんかほんの一握りのことだ。
  あれもこれもなんて何でもできる奴なんかいやしねえんだ。
  だったらカミやんは自分にしかできねえことをやれ。
  後悔すんのは今夜タタリをぶっ倒せなかった時だけだ。
  わかったらどうすればタタリに勝てるか作戦でも練ってろ』

土御門は一方的にまくしあげ、上条が口を開こうとした時には電話はすでに切られていた。
さっきの土御門の物言いはガツンときた。
不甲斐ないのはいつものことだ、いつまでも女々しく落ち込んでいても仕方ない。
誰かが帰らぬ人になったわけでもない、いい加減気持ちを切り替えるべきだぜ上条当麻。

249: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/28(月) 10:16:51.22 ID:OQ7+1Pug0
放課後――――。

上条は登校時同様に小萌の車に揺られ、姫神たちが搬送された病院にきていた。
上条は、帰りは一人で帰るということで自身の荷物(学生鞄)を、
小萌は、学校からここまでの道程で購入したお見舞いの花束を手にしていた。

コンコン、ガラッ。

控えめなノックの後にドアを開ける。
病室の中は個室で、上条がよく世話になっている病室と同じつくりの様だ。

小萌「姫神ちゃ~ん、お見舞いに……ってあららお休み中みたいですね」

ベッドで寝ている姫神の顔色は、色白ではあるもののそれは彼女の元々の特徴であり、
呼吸器などといった機材も見当たらないところから経過は良好なのだろうと、小萌はほっと胸をなでおろした。

小萌「じゃあ先生は持ってきたお花を花瓶に活けてきますから、
  上条ちゃんはちょっとだけ待ってて下さいね」

上条「わかりました」

一言断ってから小萌は病室にあった花瓶と花を持ち病室を出て行った。

上条「……」

姫神の顔をじっと見つめ、土御門に言われた言葉を思い出す。

上条「きっと姫神も俺は悪くないって言うだろうけど、
  やっぱ一言だけ謝らせてくれ。助けてやれなくてごめんな」

それはただの自己満足、または自惚れ。
わかってはいても自分を責めることがやめられない、上条の性分なのだ。
上条の一方的な謝罪に、目を閉じたままの彼女は答えない、
かと思いきや、

姫神「許さない」

上条「うわっ、姫神!? 起きてたのか?」

250: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/28(月) 10:18:14.36 ID:OQ7+1Pug0
姫神「今。起きたとこ」

上条「気分は悪くないか? 痛いところとかは? そうだ、看護師さん呼んだ方がいいのか?」

姫神「落ちついて。お昼頃に。一度目を覚ましてる。身体は平気」

上条「そ、そうか。よかった……」

姫神「上条くん。一人?」

上条「いや、小萌先生と一緒だ。ついさっき花瓶に花を活けてくるって出て行ったんだ」

姫神「そう。……上条くん。どうして。さっき謝ったの?」

上条「へ? “さっき”って聞いてたんじゃ? だから“許さない”って」

姫神「まだボーっとしてたから。“ごめんね”しか聞こえなかった」

上条「それなのに“許さない”なんて言ったのかよ……。
  さっきは、姫神のこと助けてやれなくてごめんなって言ったんだ」

姫神「絶対に許さない」

上条「あぁ、ちゃんと聞いててもそう答えるのね……」

脱力して肩を落とす上条を見て、姫神はくすりと笑みをこぼす。

251: ◆tVP11EVtkPKg 2011/03/28(月) 10:18:57.80 ID:OQ7+1Pug0
上条「えーと、どうしたら許してもらえるんでせうか?」

姫神「私は。途中で脱落してしまったから。私の代わりに。吸血鬼を倒して」

上条「それなら言われなくても、」

姫神「本当は。私の役目なのに。……ごめんなさい」

上条「なんで姫神が謝るんだよ?」

姫神「私は“吸血殺し”だから。アレがどういうものかはよくわかる。
  放っておけば上条くんや。学校のみんなや。学園都市全部が危ない。
  できることなら。死ぬまで能力は封印しておきたかったけど。
  今回のは放っておけない。人類の敵」

姫神の持つ吸血殺しは、吸血鬼を殺すだけでなく吸血鬼を引き寄せる力もある。
姫神自身ではコントロールできず、姫神の力によって引き寄せられた吸血鬼が
昔、姫神が住んでいた村を襲い、住人全てを吸血鬼に変え、
最後には姫神の血を啜り、誰もいなくなってしまった。
そのことに姫神は深く傷つき、悩み苦しみ、能力を封じるためにとある錬金術師と取引をしたこともある。
今ではインデックスが作った十字架によって能力を封じているが、
それほどまでに忌み嫌った自身の力を、今度は自分の意思で行使しようと決心するのに
どれほどの葛藤があったことだろうか。

姫神「もう一度だけお願い。私は。途中で脱落してしまったから。
  私の代わりに。吸血鬼を倒して。“無事に戻ってきて”」

上条「ああ、わかった。約束するよ」

255: ◆tVP11EVtkPKg 2011/04/12(火) 04:07:41.48 ID:VQ/UCIXf0
ガチャリ。

小萌「話し声が聞こえましたが、姫神ちゃんが目を覚ましたのですか?」

丁度話の区切りがついたところで、小萌先生が花を生けた花瓶を手に戻ってきた。

姫神「小萌。おはよう」

小萌「姫神ちゃん、“おはよう”じゃないのですよ。身体の方は大丈夫なんですか?」

姫神「割と平気。ちょっと貧血気味なだけ。上条くんの友だちのおかげ」

小萌「よかったのです……。上条ちゃんが“死んでたかも知れなかった”って言ってたから、
  もしかしたらしばらく意識も戻らないじゃないかって心配、だったん……、ぐすっ」

姫神「ごめんね。小萌」

小萌「ふえーん、ほんと良かったのですー」

上条「小萌先生!? いい大人なんですからそんな大泣きしないで下さいよ」

生徒を心配して涙する教師の感動的な構図なのだが、
小萌の体躯では客観的にみると妹か何かにしか見えないのが輪をかけて微笑ましい。
きっと上条が怪我をすれば、この優しい担任は同じように涙するのだろう。

256: ◆tVP11EVtkPKg 2011/04/12(火) 04:33:29.65 ID:VQ/UCIXf0
――――――――

小萌「それじゃあ、入院中に必要そうなものは明日持ってきますのです」

姫神「明後日には。退院できると思う」

上条「じゃあ、また明日な」

姫神「うん。また明日」

小萌「また明日なのです」

そして『異変』が起きたのは三人が別れのあいさつをした直後だった。
ふっ、と辺りが暗くなったのだ。

上条「ん? 停電か?」

突然のことに天井を見上げると、蛍光灯が仄かな明かりを灯しており、
その明かりもほどなくして部屋中を照らす強い光へと変わる。
この病院では室内の明るさに合わせて丁度いい明るさへと光の強さが調節されるのだが、

姫神「上条くん。窓の外を見て」

上条「外がどうかしたか?」

姫神の声に上条は窓の方へと視線を向ける。
窓の外には特に変わった物は見つからない。
ただ、何の変哲もない『真夜中の』風景が映るばかり……。

上条「あれ?」

それは『おかしい』。
なぜならば今はまだ夕方の6時前、9月のこの時間でこの暗さは『ありえない』。

小萌「ふぇー、外が真っ暗なのです……」

上条「どういうことだ……?」

257: ◆tVP11EVtkPKg 2011/04/12(火) 04:58:50.93 ID:VQ/UCIXf0
♪マヨラー、その手を引く者などいない♪

信じられない状況を前に、なんとも緊張感のない音楽が鳴り響く。

上条「わわっ、俺の携帯!?」

同室の二人の女性のジト目に引け目を感じつつも携帯を取り出し、液晶に表示された着信相手を確認する。

上条「土御門……! ちょっとすいません!」

目の前の不可解な状況を説明してくれそうな相手からの電話に即座に通話ボタンを押す。
一応だが、この病棟は携帯使用可の病棟なので安心してほしい。

土御門『カミやん、外の異変には気付いてるか?』

上条「ああ、まだ6時前だってのに突然暗くなって何がどうなってるんだ?」

土御門『奴さん、日が沈むのが待ち切れなかったみたいだな』

上条「それじゃまさか……」

土御門『おそらくは。月の位置からして夜中の0時ってとこか。
  カミやんは今どこにいるんだ? 一方通行は一緒か?』

上条「今は病院だ、一方通行はいない」

土御門『正直、この後何が起こるか想像もつかない。
  戦力が分散しているのもまずい、一方通行と早めに合流するんだ』

上条「わかった。サンキュー土御門」

土御門『……カミやん、死ぬなよ』

上条「あたりまえだ」