「大好きだよ、一方通行」前編 

362: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 01:31:30.74 ID:pe4j396o




 俯いて背中を向ける土御門の声は、豆腐のせいかくぐもって良く聞こえない。

 三人が振り返ると、
 そこにはサングラスを整える土御門が、異様な雰囲気で立っていた。







「一方通行、お前女孕ませたんだってなぁ」


「――――は?」

「「…………えっ!?」」





 ボソッと、土御門が呟く。
 土御門は自他共に認められる情報通、たとえ彼が天邪鬼《ウソつき》だとしても、
 その言葉は重く響き。

 事実、海原と結標は信じられないという様な顔を一方通行に向けていた。


「しかも、孕ませておいて責任取る気なしって話じゃないか」

「…………アイツは、俺の子供じゃねェよ」




引用元: 「大好きだよ、一方通行」 

 

363: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 01:37:15.53 ID:pe4j396o


 めちゃくちゃだった、めちゃくちゃな物言いだった。
 衝撃的な話だったがその前に、
 流石にまずいと感じた傍観者二人は止めに入る。
 ここで暴れられてもたまらない。


「ち、ちょっと言い過ぎですよ土御門さん!」

「そ、そうよ!」

「諦めない俺かこいい(笑)ロリスト、ショタフラはだまりゃ!」

「……ショタフラってどういう意味よ?」

「フラッシャーは露出凶という意味です。あとはわかりますね?」

「…………」ビキビキィ


 土御門はまた恨みを買ったらしい、
 結標の肩がプルプルしている。

 一方、一方通行もキレかけているようだ。
 耐えているところに成長をうかがえるが、
 今の彼にも触れてはならない逆鱗がある。


「――――死にたいなら早く言えよ土御門ォ、
遠慮なくバラしてやるぜェ?」



「ぁ?」ピキッピキッ


 一方通行に触れてはならないものがあるように、
 土御門にも触れてはならないものがあったようで。


 事実、彼は傷心だったのだ。


364: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 01:47:37.87 ID:pe4j396o



「ザ・子供の敵に言われたくないなぁ……
久しぶりに、キレちまったよ……屋上行こうぜぃ……」

「俺たちを呼んで俺たちに嫉妬してりゃ世話ねェなァ(笑)
言うとおり俺は乳繰りあってくるから、
オマエは妹ネトラレものAVでも見て泣きながらシコってろよ」

「テメェェェこのキチペド野郎ォォォおお!!」

「来いやシスロリヤロォォォォォォォおお!!」

「ちょぉっと待てェェェェッッ!!」


 泣きながら殴りかかろうとする土御門を止めたのは、
 いつの間にか現れた隣人の上条だった。

 他の二人は離脱準備に入っている。
 止める気なしである。


「止めるなカミやんっ!! コイツを殴らなきゃ気がすまねぇ!」

「落ち着け土御門っ!! 一方通行を殴ったって、きっと虚しいだけだっ!
失うものが多すぎる!! プライドも、寝床も、俺の部屋も――――」


 何気に彼の切実な願望も吐露されるが、
 ソレも今の土御門には届かない。



 うおおおォォおォオオ……



 哀しき野獣の雄叫びで満たされたこの部屋に、
 外で流れるジングルベルは、聴こえてこなかった。




373: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 21:51:03.68 ID:pe4j396o
…………









「しゅびばしぇんべしば……」


 部屋の中央で顔中にアザを作り正座して謝っているのは、
 部屋の主である土御門だった。


 ちなみに顔のアザは取り押さえるとき作ったもので、大半が結標、海原のもの。
 ……ついでにウサも晴らしたらしい。
 ちょっとしたサンドバック状態である。


「何やら隣が騒がしいと思ったら、
聴こえる声は両者とも友人だし、喧嘩してる風だし、
お前らが暴れたら被害はこの部屋だけですむはずがないし、
俺が乗り込むしかねぇって思ったわけですよ」

「いやはや、迷惑をかけましたね」

「この二人の喧嘩を止められるのって、多分貴方ぐらいじゃない?」

「止める努力ぐらいはしてくれ……」

「嫌よ、巻き込まれたくないし」

「……不幸だ」ハァ



 今日も今日とて、上条当麻は不幸だった。



374: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 21:54:55.65 ID:pe4j396o


「で、一方通行は反省しているのか?」

「……チッ、反省してまァーす」

「舌打ち!? ねぇ今舌打ちした!??」

「うっせーなァ……そもそも変な理由で呼び出したソイツが悪ィンじゃねーの?」


 彼が顎で示す先には、ボロボロのサングラスをかけ直す土御門。
 喋るにも、口の中が切れているようで話づらそうだ。


「どうなんだ? 土御門」

「……オレは単純に、
せっかくのクリスマスイブだからパーティーでもして盛り上がろうかと――」

「そンな関係かよ、俺らが」

「…………」


 嫌な沈黙が訪れる。
 今来たばかりの上条には、そもそも彼らの関係すらわからないから
 戸惑うしかない。


「あのー聞きたいんですが……」

「……ンだよ」

「あなた方はどの様なご関係であらせますでせうか……?」


 上条にとっていずれも知った顔だったが、
 あまり繋がりのなさそうな連中であり、
 つるむ想像が出来なかった。


 そんな無垢な質問をする上条に、四人は顔を見合わせる。



375: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 21:56:52.73 ID:pe4j396o



「……仕事の同僚?」

「そんなところですかね」

「あンまりこォいった付き合いはねェがな。
オマエは何で家にいンだよ、暇なのか?」

「い、いや俺は……」


 これ以上突っ込まれるのも嫌だったので、多少強引に話をそらす。
 それがわかったのか、他の三人も合わせることにした。


「そういえば言い損ねていたが、
クリスマスパーテーに呼ぼうとしていたメンツの一人はカミやんだにゃー」

「じ、じゃあ御坂さんも!?」ガタッ

「呼んでないぜぃ」

「見かけてないな」

「そうですか……(´・ω・`)」

「……じゃあ呼ぶか?」

「い、いえいいんです! きっと気まずいでしょうから……」


 ションボリする海原だが、忘れちゃいけないのは、
 彼が御坂美琴にストーカーまがいのことをしていたという事実。
 海原としても、御坂とはしゃべりづらいだろう。



376: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 21:59:51.18 ID:pe4j396o


「で、他に呼ンだやつはいンのかよ」

「他はあたってみたがダメだった。
……まあどうせこんな場所じゃそんなに人数いらないだろう」

「そもそも、どうしてここでパーティーをすることにしたんですか?」


 当然の疑問だった。
 見る限り、この部屋には十人も入らないだろう。
 クリスマスパーティーをやるには、少し狭すぎる。


「――――急すぎて場所が取れなかったンだろォな」

「っ!?」

「……そうなの?」

「確かにそうだが、よくわかったな一方通行」

「カレンダーの今日の日付を見てみろ」

「カレンダー……?」


 皆がカレンダーに注目し、日付を追う。
 すると十二月二十四日には――――



377: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 22:01:40.49 ID:pe4j396o




「……!」

「舞夏とのランチ――――」

「相当楽しみだったんでしょうね……幾重にも丸がされているわ」

「ですが、約束の時間には既に間に合いませんよ?」


 カレンダーにある時間は十二時、
 今まさに迎えようとしている時間だった。


「つまり土御門は義妹にドタキャンされたンだよ」

「ドタキャン? いつ?」





「――――今朝、だろォ? 土御門」

「…………」


 土御門は黙秘無表情、サングラスによって瞳はうかがい知れない。
 だが、一方通行は確かに静かに言い切る。


 彼は、この推理に自信があったのだ。


「……なんで言い切れるんです?」

「理由は複数、証拠は二つ、だ。まず一つ目の証拠はソコのゴミ箱」

「ゴミ箱……?」


 一方通行が指差す場所には、小さなゴミ箱があった。
 特に不審な物でもない、普通のゴミ箱である。




378: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 22:06:05.16 ID:pe4j396o



「ゴミの切れ端が見えるだろォ? アレは『曲がり角コウジィ』のもンだぜ」

「……『曲がり角コウジィ』って、有名なあの!?」

「えっと……俺にはさっきからノリも何もよくわからないけど、その店は?」

「ちょっと前に芸人がパティシエになるって話題になったことがあるんです」

「その芸人が出店したのが『曲がり角コウジィ』よ。
値段は結構はるんだけど、それに見合う美味しさだって話ね」


 興奮して説明する海原と結標に上条は若干引きつつも、
 自分には全く無縁な世界のデザートであることは理解した。


 だが彼の中で疑問がでてくる。
 果たして土御門は何故、
 いつそんな高価なものを食べたのか――――


「可笑しいよなァ、
土御門はクリスマスイブの朝に、
もォすでにクリスマスケーキを食べ終わってンだぜ? 
しかもあの箱から見て二三人前はある。
一人で食うには多すぎンだろ」

「それは……
例えば昨日の時点で義妹さんのキャンセルがわかっていて、
昨夜一緒に食べたのではありませんか?」

「それはありえねェよ。
土御門の義妹はメイドだ、
そンなヤツが、ゴミを部屋に置きっぱなしで帰るかァ?」

「確かにそうだわ。



――――本当に一緒に食べたのが義妹さんなら、ね」




379: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 22:09:04.16 ID:pe4j396o




 それは、ほとんどあり得ないにしても、捨てきれない可能性。
 義妹一筋の土御門だが、もしかしたら――――


「違う女と一緒に食べた可能性、か。あり得ないわけじゃァねェなァ。
ここで第二の証拠だ。
上条、この部屋に入った時、何か違和感を覚えなかったか?」

「――――え?」


 唐突にふられた上条は、
 皆から注目されつつも少しだけ考えてから答えた。


「違和感、かぁ……
そう言えば、やけにいつもより片付いているような……?」

「それは……私たちが訪問するとわかったから片付けたのでは?」

「それ以前に、義妹さんがちょくちょく片付けに来ているなら
この程度小綺麗なのは納得なんだけど?」


 上条の違和感の理由を説明する二人。
 食いつかれたものの上条としては、
 まだ違和感が拭えない。


「この部屋が片付いている理由は、
それで納得できるかもしれない。
――――だからこそ、キッチンに証拠が残ったンだ」

「!」

「キッチン? ……私が見たときは特に何もなかったと思うけど……?」


 結標はこの部屋に入った時、真っ先にキッチンを覗いたのだ。
 料理の練習をしている結標からすれば、
 自然で小綺麗に感じるものだったはず。




380: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 22:13:02.99 ID:pe4j396o



「ああ、ちゃンと片付いていたぜ。




――――置いてあるのは、
乾いたシンクに生クリームのついたフォーク一本だけだ」



「「っ!」」



 ある意味それは決定的な証拠だった。
 フォークだけなら結標が見過ごしてもおかしくはない、
 そしてシンクが乾いているということは、
 洗い残しというわけでもないのだろう。


「そんな……」

「まさか……」


 結標と海原は悲痛な顔。
 土御門の肩が震えたような気がした。


 暗い空気の中で、まだよくわかっていない上条のために、
 一方通行は事の全貌を語る。
 この、ありふれた悲劇を。


「悲劇ってヤツは大概一つの希望から始まるンだ。
――――つまり、
土御門が義妹にクリスマスイブの約束を取り付けた時、
既に悲劇は始まっていた」




381: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 22:16:19.32 ID:pe4j396o



「きっと喜んだでしょうね……」

「ええ……彼がアロハシャツの柄を迷う姿が目に浮かびます」


 そんな幸せな日々は、クリスマスイブ当日まで続くことになる。
 土御門が予約したレストランは、なかなか予約のとれない有名店。
 奨学金が少なく、 暗部で稼いだ金は
 ほとんど義妹のための貯金や資金へと消える彼には辛い出費。



 しかし彼は、彼女の笑顔を見られるだけで満足だったのだ。



「そして昨日の夜、
この部屋の片付けと洗い物、ご丁寧にもシンクの掃除までした」

「おそらくクリスマスイブぐらいは義妹さんに掃除させまいとする、
土御門さんなりの意地だったのでしょう」

「念のために聞くけど、土御門は昨夜確かにここで過ごしたのよね」

「あぁ、それは間違いない。昨夜は少しだけご飯を恵んでもらったし。
そう言えばいつもよりテンションが高かったなぁ……」


 隣人の裏付けはとれた。
 だから上条のナチュラルなコジキ行動はスルーすべきだろう。


「眠れない夜を過ごした土御門は、
クリスマスイブ早朝に出かけて『曲がり角コウジィ』へと向かった。
ちなみに、ここから『曲がり角コウジィ』まで一時間はかかるぜ」

「となると、どこかに寄ったついでに買ってきたという線は考えづらいな」

「あそこはちょっと学園都市でも外れのほうにありますからね。
どんな用事があったとしても、ついでに、というわけにはいきませんよ」

「そもそもせっかく予約したからっていう理由で買うにはちょっと値段が
高すぎるんじゃない?
確かクリスマス限定のケーキってわけじゃなかったはずだし」



382: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 22:20:25.45 ID:pe4j396o



 つまり、彼はわざわざ二三人前のケーキを一人で食べるために、
 一時間かけてケーキ屋に行ったということになる。
 何故、そのような結果になってしまったというのか――――


「買いにいくときは、まだ希望ってヤツが潰えていなかったってことだな。
ドタキャンは、おそらく帰り際だろォぜ」

「「うわぁー……」」

「キッツいですね……」


 舞い上がっていた彼には、寝耳に水だったろう。


 その時、彼はどのような気持ちになったのだろうか。
 どのような、顔をしていたのだろうか。


「きっとどォしよォもない理由だったンだろォぜ、
例えばメイドの急な仕事が入った、とかな。
やり場のない怒りと哀しさ。
帰ってすぐに泣きながらケーキを貪ったンだな」

「義妹の写真を正面において、
やけくそに涙味のケーキを頬張る土御門……
目頭が熱くなるわね」




 もしかしたら、
 一方通行たちを呼んだ時何か言われるのが嫌で、
 証拠隠滅を図ったのかもしれないし、
 これ以上ケーキの存在が許せなかったのかもしれない。


 悲しい想いが、蘇ってくるから。




383: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 22:23:41.41 ID:pe4j396o



「そして、おかしいテンションで一方通行さんに絡み、
図星、逆ギレで殴りかかったわけですね」

「人間としてはアレだけど、シスコンとしては仕方がなかったってわけか」

「これが、この悲しい出来事の、真相」

「ここまでが俺の推理だ。どこか違うところはあるか? 土御門」

「…………」


 皆が目を向ける先には、土御門の震える背中。





 次の瞬間、彼は膝をつき泣き崩れた。


「土御門さん……っ!」

「土御門……っ!
大丈夫よ、貴方には私たち『グループ』がいるわ!」

「豆腐投げつけて悪かったなァ。ぶっちゃけあン時、
大方の事情はわかってたけどオマエウザかったンだわ」

「もういい……!
もう……休めっ……!
休めっ……!
土御門っ……!」

「……ううっ」


384: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/29(水) 22:26:08.72 ID:pe4j396o




 彼はサングラスごしに泣いていた、哭いていた。



 思う。
 俺は、そんなに悪いことをしたのか? と。
 周りの、本気で慰めているような、
 お通夜のような雰囲気の奴らを見回す。



 どこからか入ってきた猫は、
 場の空気を無視して呑気にあくびをし、




「おそいんだよとうま! おなかすいたーーっっ!」




 よく聞く声が、聞こえてくる始末。




 土御門は、本気で死にたくなった。


 そんな、クリスマスイブの正午。


 玄関から聴こえるジングルベルは、
 彼に対するララバイだったのかもしれない。





393: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:12:10.58 ID:Vn8CsnMo
…………










 とある寮の一室で発覚した、幸せだったはずの男に訪れた悲劇。
 これによりもたらされた、滑稽で胡散臭い陰鬱な空気は、
 隣室にいた白い餓鬼の乱入により、呆気なく霧散した。


「おそいよとうまー、なにしてるの?」

「おぉ、丁度良いところに来たなインデックス」

「?」


 キョトン、と小首をかしげる姿は愛らしい。
 それでも一方通行が彼女を見て真っ先に考えたのは、
 先ほど見た冷蔵庫の心配だった。


 間違いなく、買い出しが必要になってくるだろう。




394: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:15:18.00 ID:Vn8CsnMo


「オマエも呼ばれたのか? ……そォいう訳じゃなさそォだな」

「あっ! あの時の白い人だ!!」

「そういやお前、世話になったんだってな。ちゃんと礼をしたか?」

「ぶーっ、失礼なんだよとうま!
でも一応もう一度お礼を言うね、ありがとう!! えっと――」

「……俺は一方通行だ、インデックス」

「ありがとうあくせられーた! またよろしくねっ」

「おぃっ!」

「別に構わねェよ。もしコイツに餓死させられそォになったらいつでも言え」

「一方通行……すまねぇ」

「いやいや、少しは遠慮すべきでしょ!」

「やっぱりあくせられーたは優しいね。
いつでもうちに遊びに来ていいんだよ?」

「イヤ、はぁ、もういいや……いつでも来てくれよ、お前なら大歓迎だ」


 そんな、たかりともとられかねない誘いだったが、その目は澄んでいて。
 きっと、こういう包容力がこの男の強さなのだろう。一方通行は思った。


「――――よしっ!
誘った人間も揃ったことだし、パーティーでも始めるかにゃーっ」


 いつの間にか立ち直っていた土御門の号令。
 これによってインデックスはどういうことになっているのか理解するものの、
 伝え損ねた上条への制裁は忘れない。



 彼の不幸な叫びで、クリスマスパーティーは始まったのだった。




395: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:17:33.52 ID:Vn8CsnMo
…………





「くぉーー、なぁんでこんな序盤でキングボンビーになるんだよぉっ!」

「カカッ! オマエ貧乏神独占しすぎだろォ」

「とうまは不幸すぎてこういうゲーム向いてないよね……」

「上条君、不幸というレベル超えてるわよコレ。ある種の天才ね!」

「いや、天才っつゥかもはや天災だろコイツのは……
何連チャンで一を出すンだよ」


 今は昼食のちょっとした休憩中。
 案の定冷蔵庫の中身が無くなったため、
 土御門と海原の買い出し待ちで桃鉄に興じているところだ。


 ちなみに、買い出しはポーカーで決めた。
 当然の如く上条が負けたものの、
 彼が行くと無駄に女性が増えるという理由で土御門が却下し、
 二位と三位が行くことになったのである。


「ちょっ、結標オマエッ!」

「へへーん、あんたに調子に乗らせる私じゃないわよっ!」

「すごいんだよあわき! もうちょっとで逆転だね」

「ケッ、上条から盗ンだカードじゃねェかよ」

「盗んだなんて人聞きの悪い、貰ったのよ」

「不幸だ……」



396: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:19:54.28 ID:Vn8CsnMo




 始めた時はあまり乗り気じゃなかった結標と一方通行も、
 元来の負けず嫌いから大盛り上がりだ。


 そんなとき、どこからか軽快な着信音が鳴り響く。


「ン?」

「あ、私みたいね。小萌かも」

「小萌って――」

「こもえはこもえだよ、あわきは一緒にすんでるもんねーっ」

「ねー」

「えらく仲がいいな、ってそうか、小萌先生と一緒に住んでいるなら当然か」

「そうだよ、とうまがいない時はこもえの家に押し付けられているからねぇ」

「ちょ、いや俺も忙し……ぎゃぁぁぁああああ」

「ふふふっ」



397: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:22:20.92 ID:Vn8CsnMo



 騒ぐ三人を横目に、喉の渇きを潤すためキッチンに向かう一方通行。
 見事なまでに喰い尽された料理達の残り屑が、テーブルの上に無様な骸を晒している。
 冷蔵庫の中も同様で、一方通行は呆れと感嘆の息を漏らしていた。



 その耳に、玄関から届く控え目なノック。
 どうやら彼しか気づいていないようなので、
 面倒だが出ることにした。


「誰だよオイ」

「あ……」



 そこに立っていたのは――――



「――――あァ?」

「……」


 一見は超電磁砲、
 だがその頭には彼女の容姿にミスマッチな暗視ゴーグル。

 あまりにも見慣れた顔で、
 彼のまぶたにこびりつき離れたことはない。


「――――妹達、か」

「…………製造番号一〇〇三二号です、とミサカは混乱しつつも名乗ります」

「あァ、オマエか……で、どォした?」


 土御門が妹達と知り合いであるという話を、
 彼はついぞ聞いたことがない。

 ここに来る理由は、かなり限られてくるだろう。



398: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:23:53.20 ID:Vn8CsnMo



「……隣室に住んでいる上条当麻がどこにいるか知っていますか?
とミサカは隣人に驚きつつも直球で聞いてみます」

「待て、俺はここに住ンでねェ。オマエだって知ってンだろォが」

「知っています、上位個体があなたを保護していましたね、
とミサカは会話が進まないことに苛立ちつつも答えます」

「……その認識は腹立つがまァいい。
上条ならこの家にいるぜ。なンか用か?」

「! ……いえ用があるとかそういうわけでは、とミサカは……」

「……あァーなるほどな。ここはアイツと俺の知り合いン家だ。
どォする? 上がるか?」


 歓迎の言葉をかけられて、さらに彼女の表情は驚愕に染まる。
 素直に一方通行が自分を受け入れるとは思わなかったから。
 咄嗟に、反応できない。


「えっ……いや、えっと、とミサカはモジモジ……」

「……」

「えっと……」

「…………」

「そう、ですね、とミサカは……」

「あァー面倒臭ェ! オラッ、上がれっ!」




399: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:26:39.50 ID:Vn8CsnMo



 一方通行は足踏みしている彼女を強引に招き入れると、彼女も素直に従った。


 前を歩く彼の背中は意外なほど大きく、
 彼女は何故か兄という存在を幻視する。


(彼が変わったのか、それともミサカが変わったのか……
きっと両方ですね、とミサカは自分の心境を冷静に分析します)


 彼女が、御坂妹が生まれ、
 そして自由になりそれなりの時間が経過した。

 その時間はかなり密度が濃いもので、
 見るもの全てに感動し、感銘させられたと言っても過言ではなく、
 彼女を成長させるのには十分だったのだ。


 彼女は、知る。
 楽しい、悲しい、嬉しい、寂しい、苦しい。
 そしてそれらを伴う、愛や怒りや憎しみを。

 その上で、
 彼を、自分たちを殺害した一方通行という捕食者を、恨まなかった。
 恨むにも、憎むにも、怒るにも、何分彼を知りすぎたのだろう。
 上位個体を通しても、自分としても、彼を『理解』してしまったのだ。





「おっ、御坂妹じゃねぇか。どうした?」

「――! あっ、その……」



 飛び込んでくる、上条の呼びかけ。
 急な想い人の声に思考が途切れる、胸の鼓動が大きく高鳴った。
 考えてみれば、良くわからない感情に支配され、
 いつの間にやら訪ねて来てしまっただけ。
 理由なんて、存在しない。



400: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:29:11.46 ID:Vn8CsnMo



「チィ……コイツも混ざりたいンだとさ。だろォ?」

「! ――――はい、そうです、
とミサカは何をしているのかサッパリわからないながらも頷きます」

「ん? クリスマスパーティーだぜ? ちょっと面子は珍しいけどな」

「……超電磁砲?」

「短髪じゃなくてクールビューティーだね。妹の方だよ」

「クリスマスパーティー……」


 御坂妹には知識はあっても経験がなく、
 どうすればいいのかわからない。
 立ち尽くすしかなかった。


 ぽんっと、
 彼女の頭に手が添えられる。
 一方通行だ。


「クリスマスイブを上条と一緒に過ごしたかったンだろォ?
……違うか?」

「――そう、ですね。きっとそうなのでしょう」

「だったらコレをやれ」

「え……?」


 渡されたのは、ゲームのコントローラー。
 それは、一方通行の使っていたもので。


「じゃ、終わったら起こせ。俺は寝る」

「――――あ」



401: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:30:56.87 ID:Vn8CsnMo




 そんな、勝手に一通り決めて寝ようとする彼を、
 彼女はとっさに袖をとり引き留める。


「……なンだ?」

「……無責任です」

「あァ?」

「私はこのゲームのやり方を知りません。教えてもらわないと困ります、
とミサカは勝手に去る貴方を糾弾します」

「だったら上条にでも教われ」

「ダメです。……きっとダメなんです、とミサカは意味もわからず否定します」


 このままでは、
 一方通行はこれからも彼女たちに微妙な距離を取り続けるだろう。


 とある幼女の願い――――、


 彼女が彼に近づく時は、今なのかもしれない。


「……そォかよ。ダメならしょォがねェわな」

「しょうがないです、とミサカはさりげなく好位置に座ります」


 すかさず上条の隣に座る彼女、そのとなりに座る一方通行。
 二人を見て、傍観していた三人は優しく笑うのだった。



402: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:32:47.47 ID:Vn8CsnMo







 その後ゲームに熱中し笑いあう彼らを、
 いつの間にか帰っていた土御門と海原が眺める。


「――――羨ましい、ですね」

「お前も節操がないな」

「……否定はしませんが、それだけではありませんよ」


 ぎこちなくも近づこうとする、一方通行と御坂妹。
 その姿は、近づくことの出来ない海原が求めた理想で、
 あり得ない夢だった。


「――よっしゃ、見たかコラァ! オマエスゲェぜッ!!」

「いえ貴方の指導がいいからです、とミサカは興奮しつつも謙虚さを見せます」


 パンッと手を合わす二人は微笑ましく、彼らの頬も緩む。


 御坂妹は無表情の中に少し笑みのようなものが見え、
 一方通行は子供のように笑いはしゃいでいた。


(こんな顔を見せられては、憎めませんね)

(そんな顔を見せられては、妬めませんよ)


「そうか……俺としては否定すべきだと思うが」

「彼女もまた御坂さんですよ」(キリッ

「…………」



403: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 01:34:43.41 ID:Vn8CsnMo




「あぁーーーっっ追加のご飯!!」

「土御門たち帰っていたのね」

「じゃあ飯にするか。
コラッ、まだ手をつけちゃいけません!」

「ではミサカも……ほら、一方通行も頂きましょう」

「……あァそォだな」




 そこは誰の理想郷か、
 明るく楽しいクリスマスパーティーはまだまだ続く。




 ジングルベルは、未だに途切れることなく聴こえ、
 終わりなき宴を思わせて。




 その儚さを、皆噛みしめていた。





409: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 20:41:30.28 ID:Vn8CsnMo
――――







「へぇー面白かったみたいだね」

「……まァな」

「良いじゃん良いじゃん青春してるじゃん!」



 病院でのクリスマスパーティーは、
 ミサカベストに対する昼のパーティーの報告会になっていた。


 肩をバンバン叩く黄泉川をうっとうしく思いつつも、
 少し気恥ずかしくジュースを煽ってごまかす一方通行は、
 それでも昼のパーティーに満足気だ。


「ミサカも行きたかったよーー、うーうー!
 ってミサカはミサカはジタバタしてみる!」

「うーうー言うのを止めなさい!
 って強気になれるほど元気になれないわぁ。……若さって良いわね」


 打ち止めは呼んでもらえなかったことを不服に思っているようだが、
 一方通行としては仕事仲間のいる場所に連れていく気にはならず、
 わざと呼ばなかったようだ。

 打ち止めと芳川は大がかりなクリスマスパーティーを計画していたが、
 ドクターストップがかかったらしい。
 こぢんまりとした、ミサカベストの個室でのパーティーになった。
 酒はシャンパンのみである。
 



410: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 20:45:27.72 ID:Vn8CsnMo


「でもこうして話を聞くだけでも十分面白いね。
一方通行が楽しいなら、ミサカも楽しいよ」

「……そォかよ」

「いやぁ良い娘さんじゃん! 子供もさぞかし可愛いだろうねぇ」

「早く会いたいね! ってミサカはミサカはわくわくてかてかしてみたり!」

「そうね、子育ては私も手伝うわ」

「……それはちょっと心配じゃん?」

「変な方向に行きそうかも……ってミサカはミサカはけねんをひょうめいしてみる」

「オマエ、コイツ産まれたら定職につけよ。ニートは育児に悪影響だからな」

「うっうっ……最近彼ら私に甘くないのよぅ」

「あはは……よしよし」


いい歳してすがり付く芳川の頭を撫でるミサカベスト。
気のせいか、彼女もすでに母親のような貫禄が見えなくもない。


「でも一方通行もパーティーの出来る友人が出来たか……」

「――そう、ね。感慨深いわぁ……」

「なンだよそりゃァ」

「スゴくいい変化だよっ!
ってミサカはミサカはちょっとだけ寂しいのをガマンしてみる」

「……あなたの世界は、もっと拡げていくべきだよね。
助けになるから、きっと、ゼッタイ」


打ち止め同様ミサカベストも少し寂しそうな顔を覗かせたが、
それでも嬉しそうで。
彼の幸せを、本気で願っているようだった。


 彼は、この暖かい世界が大好きで、それでも慣れそうになく。
 リアクションに困り、俯くしかなかった。


411: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 20:48:51.13 ID:Vn8CsnMo

「――――さて、そろそろプレゼント交換じゃん!」

「そんな時間かしらね」

「ン? ……オイ、俺は何も用意しちゃいねェぞ」

「ダイジョブダイジョブ、ってミサカはミサカはプレゼントの用意!」

「あなたは何もしなくていいよ。ただ座っているだけでいいから」

「……? というかなンで迫ってきてンだ!」


 ビクつく一方通行を見て、四人は笑い合う。
 そして、彼を壁際へと追い詰めると、――――皆でしっかりと抱き寄せた。



「お前は沢山の人を救う力があるじゃん」ギュウ



 彼を見る目は皆優しく、



「キミは壊すだけじゃなく創ることも出来るから」ギュウ



 暖かく包み込んで、



「そんなあなたのいる世界は、ずっとずっと幸せであるべきなんだよ、
ってミサカはミサカは願ってみる」ギュウ



 何も言葉を発することが出来ず、



「あなたを愛しているよ、ダーリン♪」ギュウ



 溶けてしまいたかった。
 

412: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 20:50:48.32 ID:Vn8CsnMo




それは、甘いチョコレートのような、愛のクリスマスプレゼント。




「……ワッケわかンねェ。どこがプレゼント交換なンだよ、クソッ」


「皆で温もりを交換してるじゃない?」


「クソックソッ……あちィよ、たまンねェよォ……」


「大丈夫、ここには私たちしかいないじゃん」


「何がだよ、クソッ……」


「それは弱さじゃないから、ってミサカはミサカはフォローしてみる」


「……何言ってンだ」


「だから、――――あなたは今泣いて良いんだよ」


「何、が…………え?」



 彼は、頬に雫を感じる。


 家族の愛に初めて浸って、油断したのか。
 自分でもわからないうちに、泣いていたのだ。
 涙は、止めようとしても止められない。



 優しさに包まれて泣く一方通行は、まるで赤ん坊のようだった。



413: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 20:53:22.90 ID:Vn8CsnMo
…………









 しばらく五人で抱き合っていた後、
 芳川が人脈を駆使して買ってきた『曲がり角コウジィ』の特注ケーキを食べ、
 その場は解散になった。

 と言っても、ミサカベスト以外が同じ家に帰るだけだが、
 寂しそうなミサカベストと離れるのに骨が折れて。

 それでもなんとか家に帰ると、打ち止めは疲れたのかすぐに寝付く。
 その後、一方通行はサンタモドキをさせられたのだが、
 それはまた別の話。





そして――――





(早く帰ンねェと皆起きちまう、っと!)


 ダッ、と。
 一方通行は携帯片手にサンタ姿、建物間を跳ぶ、翔ぶ、飛ぶ。


 世界中、一万人以上の人間にプレゼントを配るという、
 誰にも知られないであろう偉業を、
 学園都市の科学技術を駆使した芳川の協力をもって
 成し遂げた彼は、ようやく学園都市に帰ってきていた。



 日はとうに顔を見せていて、朝と言って何ら間違いではない時間帯だ。



414: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 20:55:55.49 ID:Vn8CsnMo



 そんな時間に彼へ連絡してくる人間は、おおよそ想像がつく。
 まだ彼の最愛なる家族は起きていないだろうから――――


「で、なンの用だ? この性の六時間後のコーヒーブレイクタイムに」

『それを言うな……仕事の話だ』


 茶化す一方通行に少し反応するものの、
 土御門の硬い声は崩れない。
 仮にも休暇中の一方通行に連絡が来るということは、
 どうやら緊急の仕事らしい。


「へえ……? まだ馬鹿は消えてねェってわけか」

『蟲はいくら殺しても湧くものだから仕方がない。
だが今回の蟲は少々生意気みたいだな。
ピンポイントで俺たち「グループ」に喧嘩を売っているらしい』


 ピクッ、と。
 一方通行の眉が動く。
 蟲の気配を、感じたかのように。


「――――聞かせろ、そのクソムシはどォいう奴だ。
なンらかの接触はあったのか?」

『あぁ、ご丁寧にも予告してくれたよ。







――――“親船最中暗殺計画”をな』


「!」



416: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 20:59:30.23 ID:Vn8CsnMo

 統括理事の親船最中は一時期一線から退いていたものの、
 現在は復帰し『グループ』最大の支援者となっている。
 それは裏の世界ではよく知られた話で、つまり――――


「なるほど、俺らに喧嘩売っているみてェだな」

『俺たちが護衛することを見越した上か、それとも俺たちをおびきだす罠か』

「どっちにしろ、やるしかねェ」

『そうだ、だからいつもの場所に来い。ミーティングをするぞ』

「了解、リーダー」

『……じゃあな』ピッ


 ツーツーっと。
 一方通行は無機質な音を、なんとはなしに聞いていた。
 その音に合わせて、急速に頭を冷やし、心を固くしていく。

 今の彼は首にあるチョーカーの改良が進み、
 持ち運び可能な充電機も完成して、
 かなり長い間能力を使うことが出来る。

 それでも基本的にはスイッチを切った状態だが、
 戦闘には全く支障がないようになっていた。

 現に昨夜、世界中駆け回っても電池は尽きることがなかったのだ。
 今日の戦いに使う電池は、
 充電済みのものを使えばいい。替えの電池もある。


 つまり今の彼は、正真正銘時間制限無しの学園都市最強、
 誰にも恐れられた超能力者第一位、一方通行である。
 そんな彼に、喧嘩を売った奴がいる――――


(全く、俺の癇に障ってンじゃねェよッッ!)


 目の前の蟲を圧し潰すように突貫する彼は、誰にも止められない矛。
 それでも、彼が油断をすることはなく。


 向かうは戦場、 学園都市の風は鬨の声を上げていた――――――


417: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 23:40:49.24 ID:Vn8CsnMo
――――










 サンタクロースが世界中を疾駆したクリスマスイブの夜は終わったが、
 クリスマスは終わらない。終われない。終わってたまるか!



 そんな叫びが聴こえるかのように、
 不機嫌に空き缶を蹴飛ばすお嬢様にあるまじき素行が、
 御坂美琴から他人を遠ざけている。


 スカートの下に見える短パンが、
 何人の漢たちを絶望させてきたのか知るはずもなく。


(あーームカつく!!
コレがなかったらイルミネーション手当たり次第壊していたところよっ!)


 物騒なことを考えてはいるが、
 制服の下に着ているゲコ太Tシャツ、
 世界的ブランド『ITTUU』がデザインした限定モデルのお陰で
 だいぶ不機嫌が抑えられているようだ。


 ちなみに、そのTシャツは昨夜サンタクロースにもらったもの。

 厳重な警備である常磐台中学寮に侵入し、
 しかも超能力者である自分に気付かれず、
 プレゼントを枕元に置くなんて本物のサンタに違いない。

 そう考えるところが、純粋乙女御坂美琴らしいと言えるだろう。


 同じ部屋に住む白井黒子が、
 風紀委員(ジャッジメント)として侵入者を逃したことにショックを受けていたことは、
 御坂にとってはどうでもいいことである。



418: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 23:45:04.67 ID:Vn8CsnMo


 そんな彼女が今不機嫌なのは――――


(くぉーー、なぁんでアイツはあの子とパーティーなんかしてるのよぉ!?
……まんまと嵌められたorz)


 怒ったり凹んだりと忙しい彼女。
 元凶は、例の如く上条当麻だった。


 昨日の土御門主催のクリスマスイブパーティー。
 実は影で謀略渦巻く上条当麻争奪戦が繰り広げられており、
 結局土御門が保護という形で匿い終息させた経緯がある。

 だからこそ無関係な『グループ』を招待客にチョイスしたのであり、
 上手く紛れこんだのが御坂妹だった。
 なお、インデックスは単に忘れられていただけである。

 そして上条争奪戦は足の引っ張り合いに終始し、
 御坂美琴はミサカネットワークによる巧妙な情報トラップに引っ掛かり、
 脱落した。

 先ほど御坂妹と出会い慰められたのは、
 御坂からしてみれば
 『恥辱のクリスマスイブ』と名付けてもいいぐらいの屈辱。


 だからこそ、御坂はこのクリスマスに挽回したいと考えている。
 取り敢えず昨日の轍を踏むまいと、
 勇気を出して上条の寮に向かうところだが――――


(さっきの情報は本物なのかしら……?)


 自分のクローンに思いっきり小馬鹿にされた事実は忘れ去りたいが、


『あの人は寮にはいませんでしたよ?
とミサカは携帯が通じないことを再確認しながら、
ライバルに塩を送ります』


 という情報は捨てがたい。


419: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 23:48:23.95 ID:Vn8CsnMo


 それが本当なら、完全に無駄足であり、
 他者に遅れをとってしまうことは間違いないのだから。
 それでも――――


(昨日の今日で信じるなんてこと簡単には出来ないわね。
……念のため行ってみましょう)


 すでに昨日煮え湯を飲まされたばかりであり、
 送られた塩は劇薬である可能性も否定出来ない。


 一旦寄るぐらいの時間はあるだろう。
 今現在十一時を回ったところ。
 彼女は白井黒子を振り切るのに時間を使いすぎた。


(色々考えるだけ無駄ね。ひたすら突っ走るのが私らしいかもっ)


「周りの電化製品に注意しろよー。掃除ロボだって高いんだからなー」


 そんな、
 電気を使って走りだそうとした御坂を止めたのは、
 メイド服を着て掃除ロボの上に座る少女。


「……舞夏?」

「やっほー」


 彼女の名前は土御門舞夏、
 土御門元春の最愛なる義妹である。
 御坂美琴とは友人であり、
 下の名前で呼ぶくらいには既に仲良くなっていた。



420: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 23:50:55.56 ID:Vn8CsnMo


「こんなところで暴れてどうしたんだー?」

「それは……えと、アンタこそ何してるのよ?」

「私は昨日の埋め合わせだぞー」


 まさか想い人とクリスマスを過ごすためにここまで来たとは、
 御坂の性格上言えないので言葉を濁す。
 そんな意思を汲み取ったのか、舞夏もあまり突っ込まない。
 さすがはエリートメイドである。


「あぁ、アンタの兄貴こっちに住んでるんだっけ。昨日なんかあったの?」

「昨日は兄貴がランチに誘ってくれて私も時間あったからOKしたんだけどー、
急に学校の用事が出来てドタキャンしちまったんだー」

「……そっか」


 メイドという仕事は基本的に無休だ。
 主人の求めにはいつでも応える必要がある。
 クリスマスだから休み、とはなかなかいかないのだろう。
 御坂はそう理解した。


「でも今日はやっと本当に休みを貰えてなー、
兄貴に話したら年甲斐もなく大喜びで、
ディナーを予約するって騒いでさー」

「へぇー……いい兄貴じゃない」

「そうだなー、バカだけどいい兄貴だと思うぞー」


 舞夏はバカなんて兄を貶めるが、その目は優しく。
 本当に大事に思っていることが、よくわかった。
 兄弟のいない御坂としては、少しだけ羨ましい。



421: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 23:54:31.14 ID:Vn8CsnMo


(まっ、姉妹ならかなり沢山いるけどね。ちょっと生意気だけど)


 思い浮かべるのは、自分と同じ顔をした妹たち。
 なんだかんだ喧嘩みたいなことをするが、
 それでも自分は妹たちに救われている。
 そう御坂は思っていた。


「しっかし兄貴のやつどうしたのかなー?」

「ん、なにかおかしかったの?」

「いやー、『明日の夜は大事な話がある』って
昨夜真剣な声で言われてさー。
珍しいなーって思ってー」

「…………」


 それ変なフラグじゃない? とは、御坂には言えなかった。
 彼女にはフラグ不成立を願うことしか出来ない。




「で、美琴はどこまで一緒なんだー?」

「……そう言えばそうね」


 どうやら、話しているうちにだいぶ歩いていたようだ。
 地図によるとこのあたりが上条の寮のようだが――――


「それ兄貴と一緒の寮じゃないかー?」

「え」

「ほらここー」



422: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/30(木) 23:57:30.72 ID:Vn8CsnMo



 PDAを覗きこんだ舞夏が指差すのは、目の前の寮。


「私の兄貴と一緒だー」

「そう……みたいね」


 そして階まで一緒、隣同士の場所を目指していたとは、
 さすがに両者驚き顔だった。


「あー、美琴は上条当麻に用があったのかー」

「……ちょっと、ね」

「それじゃなー」

「うん」


 隣の部屋に入っていく舞夏を見送り、
 このような偶然もあるんだな、なんて彼女は少し思う。


 しかし今の彼女はそれどころではないのだ。


(そうよ、アイツが家にいるか確認しなくちゃ!)


 無駄に緊張する御坂は改めて上条宅に向き合い、
 ノックにすべきか、チャイムを鳴らすべきか、
 それともいっそ蹴破るか……そんなことを考える。

 どうやら、切羽詰まると彼女の思考は暴力的になるらしい。
 蹴破ろうとする彼女は、
 寸前でドアの隙間に挟まれたメモに気づいた。


(……?)


 手にとり確認すると――――


423: 泥源氏 ◆88arEec0.g 2010/12/31(金) 00:00:59.08 ID:J4zRO4Eo




――――脱力。


 内容は、推して知るべし。
 なお、差出人は御坂妹だったとだけ追記しておこう。




 こうして、

 彼女はどのくらいの時間脱力していただろうか。
 忙しない車の気配に気を取り戻した御坂は、
 メモ片手にワナワナと震えだした。


(舐めた真似してくれるじゃない……こうなったら、あのバカ絶対に見つけてやる!)


 燃える彼女に追われる上条。
 上条の身体に走る悪寒は、
 哀れその後に起こる不幸を報せることしか出来なかった。







 ――――そして、戦いはこの時既に始まっていたのだ。






448: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 20:39:37.51 ID:BkXnBeqvo





 舞台は、第三次世界大戦の起こっていない世界。





 一方通行の元に現れたのは、御坂美琴の量産個体の一人である
 番外個体(ミサカベスト)だった。
 彼女や親船たちに促され打ち止めたちと和解した一方通行は、
 束の間の休息を黄泉川家で過ごすことになる。


 そして、時期はクリスマス。
 皆とクリスマスパーティーを行い、サンタの真似事までした一方通行。
 そんな彼に、土御門より緊急の電話があった。





 不吉な影は、彼のすぐそこまで近づいていて――――





 あらすじ…………みたいなものです。
 かなり適当でおおざっぱですが、思い出していただけると幸いです。
 それでは、>>423の続きから始めます。



 

449: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 20:42:32.85 ID:BkXnBeqvo
――――






「“親船最中暗殺計画”、ね」




 そのワンボックスカーでは、四人の男女が思い思いにくつろいでいた。
 それでも話す内容は物騒で、顔は真剣そのもの。


「予告しちまったら暗殺もクソもねェじゃねェか」


 ぼやくのは、一人仮眠用ベッドで寝転がる一方通行。


「で、予告っていうのはどういうものなの?」


 訪ねる結標は、今簡易キッチンからタオルで手を拭いつつ出てきたところ。


「なに、大したものじゃない。
『親船最中様を暗殺させて戴きます』――――ちょっとした古風なラブレターさ」

「なかなか過激なラブレターですね」


 土御門はソファーに身を任せ、海原は身を乗り出して座っていた。


「そのラブレターはどンなシチュで渡されたンだ?
まさか下駄箱に置いてありましたァなンてこたァねェだろォ」

「渡し方もなかなか古風だったよ。――――矢文だ」

「……矢文?」

「ああ、一メートルの鉄矢だ」

「…………」



450: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 20:44:20.77 ID:BkXnBeqvo


考え込む一方通行を置いて、話は続く。


「事務所近くの広場に突き立ててあったらしい。
通常はイタズラで処理するところだが……少しばかり狂気じみていたからな」

「警備員、風紀委員じゃなく『グループ』に話がくる理由はそれ?」

「それもあるだろう。理由としては、相手が複数人の能力者集団、
――――最低でも強能力者(レベル3)、という点も挙げられそうだ」

「相手は集団、そして狂気に満ちている? ……まるで宗教ですね」

「それに近いのかもな」

「待て」

「……なんだ? 一方通行」

「なンで矢文を打ち込まれただけで狂気がわかる?
猫の死体でもあったのか? あと人数もだ」


 土御門が説明を欠いたのはわざとなのか図りかねたため、
 海原はあえて突っ込まなかったが、一方通行はどうも心地悪かった。




 意味のわからない動悸、発汗、頭痛。


 まるで、その狂気がすぐそこにあるかのよう。




451: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 20:46:07.04 ID:BkXnBeqvo


「……猫の死体も、ましてや血糊で書かれた予告状もなかったさ。
単に矢文が刺さっていただけだ」

「じゃあどうして――」

「そう、矢文が刺さっていたんだ。







――――広場を覆い尽くすぐらい、な」

「「っ!!」」

「…………」





 その光景は、あまりにも異様で、非日常的で、狂っていた。



 直立する鉄製の矢は規則正しく置かれていて、
 機械的過ぎるソレは何者かの恐ろしいまでの神経質さをまざまざと見せつけている。

 もはや芸術的なソレは、しかるべき場所に存在すれば評価されたのかもしれない。


 しかし、そこは皆の憩い、子供たちも遊ぶ広場で、
 日常の風景を提供してくれるはずの普通の敷地だ。


 日常を蹂躙したソレは、美しさよりも禍々しい、描いたものの狂気を顕現させていた。


「それは――――」

「狂っている――――わね」

「……なんの意図があるのかはわからないが、やらかしたヤツは常人だとは思えない。
イタズラでは処理不可能だ」


452: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 20:48:10.19 ID:BkXnBeqvo


「予告状も本気だってこと?」

「まず間違いないでしょうね」

「…………オイ」


 先ほどから喋らなかった一方通行が重い口を開く。
 彼らしくない、少し震えた声だった。


「……どうした一方通行」

「その矢文は何本あったンだ?」

「――――二百本、だな」



『二百三十体作られていたとしたら二百体以上いるんじゃないかな』



「書かれていたのは――――」

「さっき言っていた文と、脅迫だ」

「脅迫?」

「親船最中の行動計画を変更しない、警備員や風紀委員に通報しない、
これらの条件を満たさない場合は無差別にテロ起こす、ってさ」

「なるほど。差出人は親船さんの行動を把握している……?」

「おそらくは限定的に、だ。
今日彼女が第三学区中央ホテルでVIPと昼食、ってのは特に秘匿事項じゃない」

「それだけ知っていれば、差出人としては十分なのね」

「そうだ。そこで仕留める気満々ってわけだ」

「解せないのは、それだけ目立つ行為を行っても警備員や風紀委員を排そうとする、
という点ですかね」

「私たち『グループ』を誘っているからってこと?」

「他に……他に何か書かれてなかったのか!?」

453: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 20:49:51.90 ID:BkXnBeqvo


 矢文の光景を思い浮かべた一方通行には、
 自分が時折見る悪夢が何故かフラッシュバックしてしまう。


 視界にちらついて離れないのだ。


「他に……? あぁそう言えば」

「なンだ!!?」


 簡易ベッドから立ち上がる彼は少し取り乱して、顔に余裕が見られなかった。


「……? 確か、数字が書かれていたみたいだ」

「数字?」

「細かく模様みたいに、一本約五十個のペースで








――――計一万三十一個」

「っ!!」



454: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 20:52:22.54 ID:BkXnBeqvo




――――まさしく鉄製の矢は、墓標だったのか。




 その数字は、一方通行に馴染み深い数字、彼の犯した罪を現していた。
 偶然には出来すぎていて、作為には悪意がすぎる。



(断罪……これは俺への死刑宣告、か)



「どうしました? 一方通行さん」

「……いや、なンでもねェ。構わず続けろ」


 一方的に突きつけられた殺意。
 彼は受け止め取り乱すものの、
 その目にあるものは諦観でも絶望でもなかった。


(なンとしてでも、殺されてやるわけにはいかねェな)


 悪意は受け止めても、自分が壊れるわけにはいかない。
 そうでなければ、悪意は行き場を失ってしまうから。


 破滅が、訪れるだけだから。


 これからの行動指針を決める他の三人の話を聴きながら、
 一方通行は思いを馳せる。


 自分にも、彼みたいに守ることが出来る、そう信じて。






 来る困難の重さを確かめながら、彼はただ救う決意を固めていた。






455: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 20:55:55.60 ID:BkXnBeqvo
――――







「今日の検査が終われば一旦退院ですね、
ご苦労様でした。それでは失礼します」

「……ありがとうございました」

「おめでとう滝壺」

「おめでとうございます、滝壺さん」

「ありがとう、はまづら、きぬはた」



 十二月二十六日、クリスマスの翌日に滝壺理后は退院する。
 医者の話では、もうしばらく入院は必要ないとのこと。


「いやー良かった良かった……うん、とにかく良かった」

「超良かったですけど、浜面はどんだけ語彙ないんですか」

「いいじゃねえかよ、本当に良かったんだから。
これでクリスマス会出来るな! …………ここで」

「ショバ代超ケチってますね」

「うっせ」

「? わたしはここ好きだよ?」

「だよな! やっぱ好きなところでやるべきだよなっ!」

「……せいぜい昨日みたいにならないよう超気をつけて下さいね」

「ぐっ……!」


 そう、昨日のクリスマスイブも二人は滝壺の病室を訪れパーティーを決行していた。


 すると浜面の仲間が頼んでもないのに押し掛け、
 病院はパニックになりパーティーは中止を余儀なくされてしまったのだ。


 約一名、某忍が警備員待ちで暴れていたが、強制的に絹旗が排除したとか。



456: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 20:58:14.48 ID:BkXnBeqvo


「アイツら誓約書書かされたから、もうさすがに今日はこねーよ」

「だと良いですけど」

「大丈夫だよ。あの人たちいい人っぽかったし」

「根はいい奴らなんだけどなぁ……」


 浜面の仲間である彼らはスキルアウト、無能力者の集まりであり、
 能力開発をドロップアウトした人間が能力者から身を守るため、
 そして学園都市で生き抜くために作った団体である。


 戦争反対運動でも彼らは浜面と共に活躍、学園都市での地位を上げ、
 今現在はリーダーの意向でなんちゃって警備員みたいなものをやっている。
 学園都市の平和を守る縁の下の力持ちを自負していたのだ。


 それでも根っからの騒ぎたがり屋が集まっているため、
 祭りとなれば助っ人を買ってでるのはいいが、やり過ぎるのが珠に瑕。


 浜面との親交は途絶えず、超能力者を撃破した浜面を尊敬している節があり、
 滝壺は姐さんと呼ばれ親しまれるが、こういう時は正直迷惑だった。


「昨日は悪かったな滝壺……クリスマスイブが台無しになっちまった」

「たく、本当に超反省して下さい」

「あれはあれで楽しかったからいいよ、はまづら。
それに今朝は貴重な体験もできたし」



457: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 21:01:49.93 ID:BkXnBeqvo


 そういう彼女は全然気にしていなさそうで浜面としては助かったものの、
 機嫌のいい彼女が少し不思議だった。


「……朝何かあったんですか?」

「うん、サンタさんと出会ったの」

「「…………は?」」


 一瞬何を言ったのかわからなかった浜面と絹旗だが、
 理解すると大したことはない。
 きっと病院の先生かなにかが変装したのだろう。


「へぇー、超粋な計らいですね」

「……俺が行ってやりたかったけど、昨夜は色々と付き合わされてさ。
ごめんな滝壺」


「空を飛び回れるなんて、サンタさんてやっぱりすごいんだね」


「……へ?」「……ん?」


 彼らを無視して放った滝壺の言葉に、
 なんだか雲行きが怪しくなってきた。

 少なくとも、
 浜面たちの常識の中に空を飛び回る偽サンタはいない。


「……見間違い、とかではないですか?」

「朝の散歩の途中に会って、話もしたよ。
プレゼントももらったんだ」

「プレゼントって……大丈夫なのかよ!?」


 浜面としては、
 知らない人に物を貰っちゃいけませんなどと、
 いい歳した女性に言いたくない。


 しかもそれが自分の彼女なら尚更である。


458: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 21:05:05.99 ID:BkXnBeqvo


「これがプレゼント、すごく綺麗だよね」

「これ、ですか?」

「ん? ……なんだそれ??」


 滝壺のマイペースには慣れたもの、
 無視されてもへこたれない強さを浜面は手にいれていた。


 プレゼントはちょっとした黒い破片、のように見える。


「明らかに不審物ですが、確かに超綺麗ですね」

「あぁ……惹き込まれるような、不思議な美しさがあるな」


「サンタさんは言ってたよ。
『コイツを俺は“竜王の鱗(ドラゴンメイル)”って呼ンでンだが、特別にやるよ。
だから俺がココにいたことは秘密だ』って」


「ふーん……って、滝壺さん超言っちゃってますよ!?」

「あちゃー……てへっ(ノ∀`*)」

「――――ま、超どうでもいいんですけど」

「可愛いは正義だな!」



 ……二人ともなんだかんだで滝壺には甘かった。





459: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 21:07:42.45 ID:BkXnBeqvo




「そう言えば、今日のクリスマス会にしょちとるも呼んでいい?」

「? それは誰ですか?」

「あぁ、滝壺が病院で作った友達だよ、な?」

「うん」


 ショチトルは昨日のパーティーにも誘ったが、断られていた。
 検査の後に義兄との約束があったらしい。


「ほー、超いいですね。浜面呼んできてください」

「……やっぱり俺か。あの子俺を見て警備員呼ばないよな?」

「うわっ……その子にも超変態扱いですか?
どうせ超自業自得なんでちゃっちゃと行ってきてください」

「……そうですねこの中で行けるの俺ぐらいだもんな
不審者として追っ払われても知らんぞコンチクショーーッ!」

「ごめんねはまづら、パシリが似合うはまづらを私は応援してるよ」

「うおおおおおーーーっっ!!」

「あなた廊下を走らないっっ! 大声もダメっ!!」

「……スミマセン」


 突然大声を出して走り出した浜面は、
 結局廊下で看護士さんに捕まり説教されていた。




460: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 21:10:19.97 ID:BkXnBeqvo



「超ダサッ」

「……ごめんはまづら、フォローできないや」


 そんな女性陣の追い討ちが聴こえていないのが不幸中の幸いか。
 彼は無事(?)受付に向かう。



 病室も大分静かになったように感じられた。


「――――はぁ、ようやく超暑苦しいのがいなくなりましたね」

「ちょっと暑苦しいところがいいんだよ、はまづらは」

「……滝壺さんって超ちょくちょく毒吐きません?」

「? そうかな?」


 とぼける滝壺に、呆れ顔の絹旗。
 本気かどうかいまいちわからない所が、
 滝壺の侮れないところである。



 そして静寂の中、
 滝壺は思考に耽り絹旗は適当に持ってきた映画雑誌を読む。
 これは『アイテム』として活動している頃より変わらないスタイルだった。


 だからこそ、二人は思い出してしまったのかもしれない。
 あの、四人でファミレスに集まる日々を。


「……きぬはた」

「……何ですか?」



461: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 21:12:50.15 ID:BkXnBeqvo



 滝壺は絹旗に呼び掛けるものの視線は窓の外を眺めたままで、
 絹旗も顔を上げることはない。


「きぬはたは、今幸せ?」

「……っ! どうしたんですか? 超突然」

「私は幸せだよ」

「……そう、ですか。私も、まぁそれなりには――」

「うそ」

「え?」


 否定されるとは思わなかった絹旗は、思わず顔を上げる。
 そこには、真剣な滝壺の顔、透き通った瞳が、
 絹旗を見透かすように見つめていた。


「きぬはた、時々寂しそうな顔してるよ。
少なくとも、自分は幸せじゃないって思ってる」

「そ、そんなこと……」



 否定しようとするものの、絹旗の言葉に力はなかった。
 ――――事実だったから。



 『アイテム』、それは絹旗や滝壺が所属していた暗部の組織である。
 他の二人、麦野とフレンダが離脱を余儀無くされ、『アイテム』は実質解散済み。



 滝壺にとって唯一の居場所でもあったが、それは絹旗も同じ。
 そして浜面の隣という居場所を得た滝壺と違い、
 『置き去り(チャイルドエラー)』である絹旗は家族もおらず、


 事実、彼女は居場所を失っていたのだ。


462: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 21:14:50.85 ID:BkXnBeqvo




「……ごめん、変なこと言って」

「……いえ、いいんです。
滝壺さんに心配させた私が超悪いんですから」

「私たちは、きぬはたの居場所にはなれなかったんだね」

「そういうわけでは超ないですが……私は結局暗部でしか生きられない、
そんな生き方しか超出来ないのかもしれませんね」


 絹旗最愛は“置き去り”で『暗闇の五月計画』の被験体であり、
 暗部組織『アイテム』の構成員だった。


 そう、彼女は学園都市の闇から出たことがないのである。


 そんな彼女が、早々に暗部から足を洗うことは難しいのかもしれない。




 絹旗はあくまでも暗部に居場所を求める。
 たとえ、独りになろうとも。




「私たちはずっときぬはたを応援してる。
つらくなったらいつでも来てね、いつまでも友だちだよ」

「……滝壺さん、超少しですけど饒舌になりましたね」

「そうかな? ……そうかもね」


 絹旗は自分が恵まれている、とも思う。
 こんなに思ってくれる友が、いるのだから。
 その事実だけでも、十分心の支えになる。



463: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/01/16(日) 21:16:58.72 ID:BkXnBeqvo





「――――あっそうだ! きぬはたにこれあげる」

「それは……
さっきの、“竜王の鱗”とかいう超厨二プレゼントですか?」

「うん、サンタさんに言われたの。
『オマエが幸せになって欲しいヤツにくれてやれ』って」

「……サンタが、そんなことを」


 滝壺へのプレゼントを自分が受けとることに抵抗はあったが、
 頑固な彼女が引くとは思えない。
 自然と、絹旗の手に納まっていた。




 その欠片は不思議な黒、
 決して無の黒ではなく、無限の集合体を感じさせて。




 未だ見えぬ彼女の前途を、
 闇で照らしてくれているような気がした。






471: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/08(火) 21:50:32.61 ID:99QDuSj2o



第三学区中央ホテル――――



 VIP御用達の三ツ星レストランも内包し、、
 学園都市の内外における顔ともいうべき第三学区においてさえ、
 一際華やかで絢爛豪華とも言えるであろう来賓用宿泊施設である。


 統括理事が外交によく使うことでも有名であり、
 正装のみ許されるそこは警備員も多く配置され、
 現代の城を思わせる荘厳かつ凄然かつ威圧的な雰囲気を持つ。



 今現在中央の広大なダンスフロアにおいては、
 ホテルの威信を賭けていることが一目でわかってしまうほどの
 大がかりな立食パーティーが行われていた。


「ンで、なァンでココにオマエがいて、わざわざ俺に付きまとってンだよォ……」

「モガっ?」


 高級スーツを身に纏い一人会場に潜入している一方通行の近くで、
 バイキングから取ってきたであろう食事を貪るのは、
 こういう場所に全く縁がなさそうな男、上条当麻だった。


「ん……ふぅ、そりゃお前、面倒事には俺が付き物、だろ?」

「憑き物ねェ……コッチは仕事なンだが」

「コッチだって知らなきゃ首突っ込まねえよ。
けど親船さんが狙われているって聞いたら黙ってらんねえ」



472: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/08(火) 21:53:04.51 ID:99QDuSj2o



 面倒臭そうに頭をかく一方通行を横目に入れつつも、
 上条当麻の箸は止まることがなく。



 ガツガツ、じゅるじゅる、ぐびぐび、ばくばく。



 同居人に似てきてしまっていることに、彼は気付いているのだろうか。



「――――どォやって侵入した?
その正装だって、もやしばっかり食ってるヤツが
借りることの出来る代物じゃァねェだろォ」

「んぐ……、いやー、俺金はないけど人脈だけはあってさ。
借りは高くついたけど、なんとかなったんだ」

「……そォかよ」


 ハハハ……と笑う上条の笑顔は渇いていて、自嘲しているといった風。


 一方通行は彼の人の好さに呆れつつも、
 ヒーローらしいその振る舞いに、内心少しだけ喜んでいた。
 眩しいものを見るように、目を細める。


「正装と言えば、最初見たときはお前だって全然わからなかったぜ。
その髪の毛なんだよ(笑)」

「うっせェ白髪は目立つンだよクソが。オマエこそだて眼鏡似合わねェ」

「……そうかな? 結構気に入っているんだけど……」


 一方通行は髪を黒く染めてアイコンタクト、
 上条はヘアーワックスでガチガチに固めた髪とだて眼鏡装着コーデで
 いつもの自分にさよならしちゃお★状態であるが、
 画がないのは非常に残念である。


473: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/08(火) 21:57:17.36 ID:99QDuSj2o



「……誰にそそのかされたかしらねェが、オマエは帰れ」

「なんでだよ。役立たずになるつもりはないぞ?
これでもそれなりに修羅場を経験しているんだ」

「ンなこと知ってる。だが今回はオマエが絡むよォな事件じゃねェ。
クッセェ下水道ン中の、汚物にまみれた茶番劇だ」


 そう、一方通行は自嘲するように吐き捨てる。


 犯行予告、描かれた巨大なアート。
 大仰な演出を、彼はどこか冷めた目で見つめていた。


「!! お前、犯人を知っているのか!?」

「正確には知らねェよ。
ただ、俺を恨んでいる奴らの仕業の可能性が高いってことだけはわかる」

「――――……そうか、例の数字だな?」

「知っていたのか……だったらわかンだろォが。
これは俺の尻拭いだ、オマエの出る幕じゃねェ」


 ヒーローに、蟲同士の腐れた小競り合いは似合わない。
 正々堂々、勧善懲悪が上条当麻の居場所であり歩む道だ。
 一方通行は無意識に目を伏せた。




474: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/08(火) 22:00:21.04 ID:99QDuSj2o



「何言ってんだよ、そんなもん関係ないね。
俺は俺のためにここにいる。それだけだ」

「チィ、強情な野郎――――っ!」


 と、押し問答の中感じるかすかなノイズ。
 ――――知らせるのは、辺り一帯の磁場の異常。


「……のンびりしてる暇はなさそォだぜ、せいぜい生き延びンだな」

「へ? ――――ってうお!?」


 バチンと、
 
 唐突な停電。
 談笑していた親船も戸惑う様子が見てとれたが、
 電源が切れてなお十二分に明るいため、比較的落ち着いている。


(昼間だから停電が視界を奪うことはねェ。だったら狙いは――――)


 親船を囲み安全な場所に護送しようとする秘書たちの横をすり抜け、
 一方通行は駆ける。
 当然上条の制止は無視。


(イージス・システムは電気で作動している。
 ――――ここを狙ったのは、掌握可能だと判断したからか…っ!)


 このホテルのセキュリティは学園都市でも最高峰。――――だからこそ、狙う。
 そもそも外交を行う場所がバレている時点で驕りだったのだ。


 砂皿緻密に狙撃を受けて以来、
 親船が公で行う演説などは『グループ』側が万全に万全を重ねた警備だった。
 一方通行の演算能力、土御門の下拵え、海原の変装に結標の座標移動。
 噛み合わないようでがっちりと噛み合う、約三か月で培った絶対防御である。


 しかし今回の接待は別だった。
 ホテルと接待相手が繋がっているのか、安全性の宣伝に利用するため
 セキュリティに関しホテル側が全面的に請け負う形で同意させられてしまった。
 これはホテルの面子、プライドも大きく寄与するところなのだろう。


 確かに対能力者対兵器に関しての守りは固いが、相手は軍隊。
 いくら城のように堅固であっても、所詮は一ホテルで、
 戦争に耐えうるかと言えば疑問符がつく。


 事実、電気系統を掌握され、
 すでに七十パーセント以上のセキュリティは麻痺しているように思える。
 ――――城は、初手で落ちていたのだ。



475: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/08(火) 22:04:59.76 ID:99QDuSj2o


 一方通行は騒然とした緊張の最中、疾風の如く窓から飛び出す。
 一見、狂乱を疑う光景だが――――




 次の瞬間、空を覆うほどの大爆発。




 見ている人間には、にわかに信じられないだろう。
 日常における、非日常的なテロリズムも。
 人間が、ミサイルに突っ込み無傷で空に浮かんでいるという事実も。



 一方通行は、翼を広げるように両手をかざす。



――――その姿は、まさに悪魔。



 見せつける邪悪な笑みは、とても救う者には見えなかった。




476: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/08(火) 22:14:08.12 ID:99QDuSj2o



 髪の毛が、みるみるうちに白く枯れていく。
 双眸が、みるみるうちに紅く歪んでいく。



「さァて、俺に喧嘩を売った代償を払ってもらうぜェ――――」



 ニタァッと、
 更に深く禍々しい笑顔を浮かべた彼は、空から、視界から消失。


 いや、目にうつるスピードを越えていた、のだろう。


 すでに彼は別のビルで、
 二発目のミサイルを放とうとしていた者の目の前に立ち塞がっていた。



「なァ――――番外個体(ミサカワースト)ォ」



 彼の鼻先で大きなミサイルランチャーを構える女は、
 一昨日の夜に一方通行を襲ったミサカワースト。




 堕天使の目の前に捧げられた贄は、ただただ怯えることしかできなかった。




483: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 21:46:56.08 ID:XdZJesNBo
…………






 ミサイルランチャーをのぞくミサカワーストの前に現れた一方通行。
 彼が彼女を見る目は凪いでいて、破壊者のそれではない。


 だが彼女は知っている。
 彼は虫を潰すのと同様に人間を[ピーーー]ことの出来る怪物であることを。


(一旦距離を――――っ!?)


「どこに行く気だよ、オマエ」


 ミサカワーストの失策は、一方通行のスピードを見誤り接近を許したということ。
 思考をモニターし行動を起こすまでのタイムラグは、この距離では到底無視できない。


 ガッと、
 ミサカワーストの首を押さえた一方通行は、能力によって完全に彼女を掌握する。


「くっ……うぅ」

「手足動かせねェだろォ? 人間ってのは首押さえちまえば終いなンだよ」

「ふ……殺しなよ……」


 息も絶え絶えに、ミサカワーストは精一杯嘲笑する。
 そんな彼女を、一方通行は無表情で観察していた。
 
 ――――気に食わない。
 強者の余裕が、彼女の癇に障る。



「…………吐け。オマエのご主人サマはドコのドイツだ」

「話すと思う? ミサカの仇であるあなたに」

「……話さねェだろォな」

「でしょ? だから殺しなよ。妹達みたいに、さ」

「…………」


484: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 21:51:21.59 ID:XdZJesNBo



 一方通行はミサカワーストを殺さない、いや殺せない。


 彼女はそれがわかっているから挑発している、という風でもない。
 彼女の行動原理は、いかに一方通行を苦しめられるかのみだ。
 ――――命など、惜しくはないのだろう。


「さあ、どうしたの? あなたに選択肢はそんなに多くないと思うけど」

「わかってる。








 ……オマエ、俺に手ェ貸せ」


「――――は?」


 彼女を[ピーーー]ことの出来ない、彼の導きだした最善策。
 あまりに突拍子もない、彼らしくもない大きな博打だった。


 一瞬、一瞬だが、ミサカワーストの顔が本当に驚いた、そんな幼い表情を見せ呆ける。


 彼女は耳を疑う。それ以上に、一方通行の正気を疑った。


「……頭おかしくなった?」

「オマエのご主人サマが何者か知らねェが、
オマエは捨てゴマ扱いってことぐらいわかンだよ。
――――こォなるってことも、なッ!」



485: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 21:54:39.05 ID:XdZJesNBo




 ――――直後、爆発。




 一方通行たちのいた場所に爆炎と爆煙、赤と黒の大樹が空へと昇る。


 ミサカワーストを抱き抱えて飛び出した一方通行、


 彼を狙う第二撃はガトリングガン。
 それは飢えた獣のように執拗に追い回す。


「――――ちッ」


 彼にすれば全くの無意味。だが――――


(コイツにあてるわけにはいかねェ)


 ミサカワーストの身体を覆うには、一方通行の身体は少し小さかった。
 身体の自由がない彼女を、必死に抱き締め庇う。
 そして、足裏のベクトルを操作。



――――高く高く飛び上がる。
 宙に投げ出されるように。天空に、墜ちていくかのように。


 捕捉。
 獣たちは大好物の獲物を見つけたように一斉に襲いかかった。
 多方面より同時掃射、蜂の巣にならなければおかしい。
 



 しかし、忘れてはならないのは、一方通行が対軍能力者であるということ。




486: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 21:59:12.06 ID:XdZJesNBo



 既に、一帯の風は彼の支配下。
 ――――銃弾程度が、通る術はない。


 銃弾は異常な上気流の前にことごとく逸れ舞い上がる。
 上空で火花を散らし、さながら小さな花火だった。





「見ろ、この光景を」

「…………」


 応えられない。
 ミサカワーストは、不覚にもその圧倒的な力に魅せられてしまっていた。

 ――――ゾクゾクッと、
 背筋に得体の知れない快感がかけのぼる。


(これが、ホンモノ――――最強の力ッ!)


 地面に這いつくばる蟲を見下す。
 そんな構図に、負の情念を持ちやすい彼女が興奮しないはずがなかった。




「オマエは、玩具みてェに食い潰されていいよォな奴じゃねェ。
――――生きろよ、ミサカワースト。
オマエに、最低で最高のクソッたれな世界をプレゼントしてやる」




487: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:01:29.02 ID:XdZJesNBo



「…………ミサカ、は」

「オマエの枷は今壊した」


 気づけば、既に先程いた場所は遠く、見知らぬ場所で二人きり。
 彼は、彼女の首からゆっくりと手を離す。


 ピキピキッと聴こえる音はミサカワーストの首元から。
 彼女につけられていた遠隔制御装置の壊れた音だった。


「裏切れば[ピーーー]気だったンだろォな」

「…………」

「学園都市で生きる道は、俺が指し示してやる。――――オマエが、自由に決めろ」




 ミサカワーストは、考える。
 目の前で、こちらを見つめる一方通行のことを。


(一昨日に見えた弱さが消えた――――?)


 自分の力に対する絶対的な信頼、そんなモノが垣間見える。
 何を言われても動じない強さ、芯、のようなものだろうか。


(まさか、ミサカが温もりを惜しむなんて、ね)


 彼に抱き締められた時、嫌悪感ではなく安心感がそこにはあったのだ。
 それこそ、おそらく強さにすがりたくなった、のかもしれない。


488: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:04:22.16 ID:XdZJesNBo



 彼女は気づく。
 心にある憎しみや恨みを、単に拠り所にしていただけなのではないか。
 生きる理由の見えない自分の唯一無二の感情だったから標にした、
 ただそれだけではないか。



 必要とされたい――――存在を認めてもらいたかった、だけなのだと。



 一方通行の過去を肯定し飲み干す度量、進化の前に、彼女は完全に敗北を悟る。



「……ま、ミサカとしては、面白ければ何でもイイんだけどねっ☆」

「あ?」


 おどける彼女、浮かべる笑みは年相応のものだった。


「なんでもなーい。手を貸すって言うけど、具体的にはどうするわけ?」

「……取り敢えず、ここから生き延びろ」

「なるほど、……囲まれているみたいだね」



489: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:07:05.91 ID:XdZJesNBo



 気づけば、一方通行たちのいる場所を囲うように気配がある。
 仕掛けてこないのは、様子をうかがっているからか。


「オマエはここの病院に行け。これを受付で見せればわかる」

「PDA――――、ミサカも戦えるよ?」


 フンスッと、鼻息荒く息巻く。
 そんなミサカワーストを見やり、軽く嘆息。


「怪我人は足手まといだ。一昨日の傷、治ってねェンだろォが」

「……あちゃー、バレてた?」

「すぐわかンだよ、オマエらのことぐらい。
――――俺が引き付ける。その間に抜け出せ」


 PDAを見ると、逃げ込んだ場所から病院はすぐ近くだった。
 これならば、肋骨が複数本折れているミサカワーストでも無事たどり着けるだろう。



「わかった、言う通りにする。あなたもこんなところで簡単に死なないでよ」

「ふン、当り前だ」

「ミサカはあなたを頼ることにした。その方が面白そうだし」

「…………」

「一方通行の生き様、思いっきり笑ってあげる。――――だから、早く来てね」

「――――あァ」


 不敵に笑いあい、ギュッと、固く手を握り合う。
 再会は遠く、戦場は彼らを逃さないだろう。
 果たして二人の向かう先は地獄か、それとも――――






490: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:10:21.31 ID:XdZJesNBo
…………







「ようやく出てきたの? 臆病風に吹かれたのかと思ったよ」



 外に出てきてすぐ一方通行に吐き捨てられた言葉は、
 侮蔑混じりの罵倒だった。


「せっかくの朗報なのに、あの人の気が変わったらどうするワケ?
あまり手間取らせないで」

「知ったことか。で、どォする? やンのか?」

「……あぁ今すぐ殺してあげたい、ケドだ~めっ!
これから始まる楽しい楽しい茶番劇の主役だよ、きゃは☆」

「そうだねそうだね興醒めだねっ! 先に殺したらカントクに怒られちゃうっ」

「他の役を集めるのもちょっとばかし苦労したわ~。
楽しませてくれなかったらコロスからね♪」

「えーーっっ、ミサカが殺したいぃーーーー」

「ミサカは×××食べたいなぁ」

「ヤダ、大胆……」


 ミサカワーストと同じ顔、声、姿の人間が何人も彼を囲む。
 それぞれが好き勝手に言い、統制はない。


(第三次製造計画の個体か……)


 不健康そうな顔、御坂美琴が高校生ぐらいの容姿、下品で凶悪な言動、
 いずれも特徴が一致する。



491: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:13:27.32 ID:XdZJesNBo




「……オマエら、俺になンの用だ?」


 一方通行のその言葉に、ピタッと雑談が止まった。
 そして役目をようやく思い出したかのように、皆向き直る。
 ――――手に持つ黒光りした花とともに。


「……ミサカたちについてきて。言っておくけど、あなたに選択肢なんてないから」

「わかった。ちゃっちゃと俺を連れていけ、オマエらのステージへ」

「――――へぇ……素直についてくるなんて、どういう風の吹き回し?
あなたをどうやって連れていくのかこっちは随分迷ったのに、これじゃ拍子抜けだよ」

「ちなみに、もし従わなかったら
一人ずつそこらへんの人殺していくって結論になったんだー」

「むしろ残念……この街を世紀末にしてみたかったにゃーん」

「ヒャッハーーッッ! 汚物は消毒だぜぇぇーー!!」

「ヤダ、不覚にも心躍る……」


 軽口をたたく彼女たちだが、手に持つ重苦しい荷物が単なる冗談にしていない。
 彼女たちならばやりかねない。――――いや、迷いなくやるだろう。



492: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:15:54.81 ID:XdZJesNBo




「オラ行くぞ。俺だって暇じゃないンだ、オマエらのオアソビに付き合う気はない」

「カッチーーン。……いいよ、皆行こう」

「了解」


 全員の量産個体が同意すると、一方通行を中心に部隊を変形した。
 ――――彼を逃がさない、籠のように。


「……第一位、同調出来る?」

「抜かせ。オマエらトロトロすンなよ」

「さっすが。じゃ、全機ブーストジャンプ!」


 全員同時に電気を利用して飛び上がる姿は、同じ顔も相まって圧巻だった。
 一方通行は押される形で飛び上がるものの、ほとんど遅れることはない。


(俺はコイツらを傷つけない、その上で親玉を狩る……っ!)


 難しいことは、十分承知で。
 しかし、彼は成すだろう。いや、成さなければならないのだ。
 ――――彼の、存在意義なのだから。



 命を賭けようとも、引くわけにはいかない。
 曇天は光を閉ざし、学園都市に大きな影を作っていた。







493: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:42:04.83 ID:XdZJesNBo
――――








学園都市シーサイドビル――――

 本来なら今年中に完成するはずの建造物であり、
 企業も続々とオフィスを構える予定だった。
 しかしスポンサーが突如撤退し計画は頓挫、
 工事も中止され今現在多くの鉄骨を晒している。


『何故君をそこに呼び出したのかわかるかな?』

「さァな」


 当然の如く屋上は立ち入り禁止だが、今は三つのディスプレイが置かれ、
 ちょっとしたシアターのような会場が特設されていた。


『このビルは私が出資して建設していたのだよ。
しかし私が財を没収されたために完成させることが出来なかった。
君たちのおかげでね』

「オマエが政争に負けただけじゃねェか」

『……はは、手厳しい』


 特設シアターの一番大きなディスプレイに映っている人間は、
 駆動鎧に身を包み一方通行を見下ろしていた。


「で、そンな的外れな復讐のために俺をこンなところに呼び出したのかよ」

『ククッ、確かに八つ当たりと言われればそれまでだが、
これには様々な大人の事情というものが存在するのだ。察したまえ』



「知ったことか。
しかし統括理事もここまで落ちぶれるといっそ滑稽だよなァ、





――――潮岸よォ」



494: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:44:21.84 ID:XdZJesNBo



 『グループ』を襲撃し殺害しようとした人物、
 そしてその後失脚し行方知れずとなっていた男。



それが、元統括理事の潮岸である。



 誰よりも安泰を望んだ彼こそ、ミサカワーストを使い親船襲撃を演出し、
 一方通行を呼びだした首謀者。


『……ふん、今はただ好機をうかがっているだけだ。
しかしようやくこの惨めな時間も終わる。
そのために必要なのが君の命、というわけだ』

「…………」

『だが、クライアントが欲しているのは君が単純に果てることではない。
そんな容易なことでは、満足し得ない』

「……だから、こいつらを使ったのか?」


 一方通行の周りには、いつの間にやらかなりの数の番外個体たちが存在した。
 下準備らしきものをする彼女たちは、一様な顔をしているようでいて少しだけ違う表情。
 それは感情の発露ゆえの違いだろうか。


『ああソレか、ソレらは破棄寸前だったところを拾ってきただけだよ。
もう下手な人間を信じれば私の「安泰」に関わる。ソレはそういう意味で便利だ』

「……そォかい」

『君の弱点でもあったからもっと使えるかと思ったが、
……すでに乗り越えてしまったようだな。
おかげで予定変更、君と遊んでもらう人間が必要になってしまった。
――――まあ用意できたからいいがね。後ろを見たまえ』



495: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:47:04.52 ID:XdZJesNBo



 一方通行も、言われずとも気づいていた。
 彼が振り向くとそこには、大きなリングに観客席、ご丁寧に実況席まである。



 そう、そこは仮説試合場。
 まさしく奴隷同士が殺しあうのにはぴったりなコロッセウム。



「っ!! ――――これは」

『驚いたか? なに、クライアントが派手好きでね、
君の処刑台としてこのような形を所望してきたんだ。
……ふむ、相手も準備完了したようだな。


――――ククッ、どうやら私としては、ミサカワーストよりも楽しめそうだぞ』



「…………オマエ、っ」


 仮設されたコロッセウムの上、
 対戦相手と思わしき人物が、直立不動で一方通行を見下ろしていて。





 会ったことがある、どころではない。
 何度も死地を共にした、先ほどまで一緒にいた、そんな人物。





496: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/09(水) 22:48:44.41 ID:XdZJesNBo





「さて、ようやく出番か。
――――学園都市超能力者第一位を[ピーーー]役目を俺が引き受けることになるとは、
なかなかに光栄だぞ一方通行」






 アロハシャツに、サングラスをかけた金髪。
 土御門元春が、いつもとなんら変わらない顔と口調で、
 一方通行の眼前に立ち塞がっていた。







511: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:30:03.80 ID:nIcPF987o
――――










――――上条当麻を探して、どれだけの時間が経っただろうか。



 すでに太陽は中天を過ぎているはずだが、雲に遮られ良くわからない。
 御坂美琴は、またもや上条の家の前で途方に暮れていた。


 探索、不在、探索、不在、八つ当たり、逃走、自己嫌悪、……逆戻り。



(なんでどこにもいないわけ!? あーーほんっと苛々させてくれるわ――ッ!!
見つけたらただじゃおかないから……)



 もはや目は胡乱、完全に不審者。
 ああ哀れ気弱警備員、声かける勇気あらず。
 しかし賢明、その命守られて。



(……いくら探してもいない、データ上も動きなし。コレじゃ手詰まりね)




512: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:32:46.59 ID:nIcPF987o



 はぁ、と
 溜息を吐きチラりと見るは、隣の土御門家。



(もしかしたら隣室なら、何かしらの気配を感じ取っているかも)



 それは淡すぎる期待で、
 クリスマスを楽しんでいるであろう土御門たちを邪魔する野暮なことかもしれない。


 しかし残る疲れ果てた理性が止めるも、恋する乙女には勝てなかった。
 まさしく完敗である。ほぼノータイムでチャイムを鳴らしていた。



ピンポーン
…………



 一向に出てくる気配はない。



(――――あれ? おかしいな……別れ際に午後はずっといるだろう、
なんてこと言っていたのに)


 すでに出かけてしまったのだろうか。
 しかしノブを回すとドアが開いている事に気づく。


 不用心だな、なんて。
 不法侵入する人間に住人たちも思われたくはなかっただろうが、
入ってしまったものは仕方がない。




 御坂美琴には迷いがなかった。ある意味凄い少女である。




513: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:34:59.48 ID:nIcPF987o



 そろりそろり。
 先ほどの威勢に反する足さばき。
 入る時は大胆だったが、いざ入ると少し怖い、そんなものかもしれない。



 入ってすぐに感じたのは、決して小さくない違和感だった。




(全く人の気配がない――どころか、人がいた気配すらない……?)




 部屋は寒く、暖房の類はいれられていないようだ。
 ゴミ袋は置いてあるが、それも今朝置かれたようには見えない。
 外に出るのならメイドである舞夏はきっとついでに捨てるだろう、
 そう御坂には思える。




 少し見てわかったのが、



 土御門舞夏は一切この家の家事をせず鍵を開けっぱなしで出ていった、ということ。



514: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:37:22.25 ID:nIcPF987o




(どういうことなの? ……まさか、何らかの事件に巻き込まれた!?)




 いつもそう考えて先走ってしまう御坂だが、
 今回は少しだけ慎重に考えてみることにする。

 もし事件性があるにせよ、
 何らかの手がかりがなければ辿ることすらままならないのだから。



 取り敢えず狭い部屋をもう一度、今度はじっくり捜索してみると――――



(鍵が落ちている……っ、これは!?)



 落ちている鍵を拾おうとして気づいたのは、薄い複数の足跡。
 しかも、その靴を御坂は見たことがあった。
 業務用のスニーカー、コレを使う会社を良く知っていて、




 ――――ピタリと、パズルがあてはまる。




515: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:39:36.98 ID:nIcPF987o



(……なるほど、ね。あの時、もう少し気を配っていれば――ッ!)



 御坂が一度ここを去るとき、確かに目撃していたのだ。
 せわしなくこのマンションに現れた――――ゲコ太マークのカエル郵便を。




 常に安全運転を心掛けるあの会社が、あんな大きなブレーキ音を鳴らすはずがなかった。
 不審者に間違われないように帽子をしないはずの彼らが、帽子を被っていた。




 即座にPDAで、カエル郵便の宅配システムをハックする。



(…………やっぱり、この寮にあの時間配達履歴はない。抜かったッ!!)



 電話を手にとり、すぐさまワンプッシュコール。
 やはり、彼女に迷いはなく、ためらいもない。――――つくづく凄い少女である。



『はい、もしもし――――』

「黒子っ!!」

『ひゃいっっ!?』

「今すぐに言う車を探してっ! 誘拐事件よ!!」

『!! ――――わかりましたわ。……準備は出来ましたの』

「車種は―――――――」




 御坂美琴は、友のために走る。
 紫電のごときスピードで、電流のように想いは周りへと伝わるだろう。
 真っ直ぐな心は澄み渡っていて、彼女に不可能の文字は見えなかった。






516: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:45:35.07 ID:nIcPF987o
――――








「レディースエーンジェントルメーーーン!!」





 閑散としているはずのビルの屋上は、
 かなりの数の観客により、熱気がすさまじい物になっていた。
 もはやテレビに放映される試合の様相を呈している。



「さて、このたびの試合の実況は私、ミサカワースト、略してミサワとッ!」

「……解説の海原光貴、もといエツァリです」



 コロッセウムに設置されていた実況席に座る一組の男女。
 テンションに極端な差があるのは、プロ意識によるものか、
 それとも――――



「この二人でお送りさせていただきます! 
どうも、初めまして海原さん」

「初めまして。……まぁ顔の方は、見慣れていますが」

「さっすが海原さん!
お姉様の写真をいじくり未来予想を必死にしていただけのことはありますね!」

「……え? な、なんでそれを――――」

「――――おっ、早速リング外で動きがありそうですよっ!」

「答えて下さいっ!」



517: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:49:07.01 ID:nIcPF987o



 大仰なレフェリーの紹介も、噛み合わない実況も、観客による怒号と罵倒と悲鳴も、
 一方通行と土御門には届いていなかった。




 見えるのは、相手の姿だけ。
 聴こえるのは、相手の息づかいだけ。




「……オマエ、本気で俺に勝てると思ってンのか?」



 一方通行が真っ先に土御門へ問うたのは、理由等ではなく彼の正気だった。


 腐っても学園都市超能力者第一位である自分と、
 上条とは違い紛れもなく無能力者(レベル0)である土御門、勝負にはならない。
 それは彼が主観的にも客観的にも行った評価である。



「まあ、このままじゃ俺がお前に勝つことは絶対不可能だろうな」

「自殺がしたいなら勝手に死ンでろ。
こンな決闘、俺には何のメリットもない」

「しかしお前がここから逃げ出す事は出来ない」

「……何? ――――!?」



518: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:52:57.43 ID:nIcPF987o




 唐突に、ガクッと、一方通行の姿勢が崩れる。
 なんとか踏み止まった彼も、杖がなければ少し辛そうだった。


 
 ――――電極のスイッチが突然切り替わったのだ。



「――――そォいう事かよ、クソッ!」


「理解したか?
ハンデを貰わなければ俺に勝ち目なんてあるはずがない。
そしてお前にその状態で逃げ出す術は、ない」


「……電極、いつの間に細工した?」


「――――お前の電極をイジっている技術班は、一体誰の部下だと思っている?
こんな時のために、なりたくもないリーダーになったんだ。
彼らは疑いなく従ってくれたさ」



 チッと吐き棄てるように舌打ちするものの、一方通行の電極はどうやっても直らない。
 どうやら番外個体に協力を仰ぎスイッチをバカにしたようだ。
 完全に壊さなかったのは、スポンサーの意向か。




 本当に、舞台劇を演じる気らしい。
 あくまでも泥臭く、無様に。野蛮な、獣類の如く。




519: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:55:49.97 ID:nIcPF987o


どこぞの役者の様に大げさに、土御門は客席へ合図を送る。
合わせるように、客席からは大歓声。



――――完全に一方通行のアウェイゲームだった。





「さて、ようやく対等に近い、
いや土御門さんに若干有利な状況に持ち込めたでしょーか、
そこら辺に詳しい海原さん」

「……いえ、まだまだ差は大きいですね」

「ほう、それは何故ですか?」

「一方通行には黒翼という奥の手が存在するからです。
彼が自由に扱えるかどうかは不明ですが、追い詰められれば……」

「んなるほどっ!」



 一方通行が持つ謎の黒い翼。
 これを使えば、まず間違いなく彼の勝利は確定するだろう。


 だが、一方通行がそれを使いこなせているかと言えば疑問であり、
 不安定かつ不明瞭な力に頼るほど彼は馬鹿ではない。
 そして、この会場には沢山のミサカがいる。
 暴走に巻き込みかねないと考えると、理性がブレーキをかけるのも必然。




 黒き力は、結局奥の手にしかなり得なかったのだ。




520: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/17(木) 23:58:41.32 ID:nIcPF987o





「……聞いてやるよ。オマエが裏切った理由はなンだ?」


「天の邪鬼(ウソツキ)である俺にその質問は意味がないが、答えは簡単だ。
――――アレを見ろ」


 土御門が指差すのは、三つあるディスプレイの一つ。
 そこに映っているのは――――



「――――縛られたメイドに複数のゴロツキ、か。
アレがオマエの義妹か?」

「そうだ。俺がお前に敗北したとき、舞夏は汚され殺される。
俺には勝利しか道がない」 

「……分かりやすい理由アリガトウ」


 土御門のシスコンぶりを思えば、
 一方通行を殺して義妹が助かるなら迷わないだろう。



 だがそれでも、彼女が助かるとは限らないのだ。




 そう、ここはコロッセウム。
 奴隷同士が殺し合い、主人の温情で生かしてもらう場所。
 ――――褒賞なんて、高尚な物を望めるわけがなかった。




521: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/18(金) 00:02:37.64 ID:XKZ/1aavo






「……彼らは殺し合うしかないんですよ、自分たちが生き残るために」

「土御門さんが敗北した場合闘うことになる海原さんとしても、
他人事ではないでしょう?」

「ええそうですね。
……ショチトルを握られている限り、闘わざるを得ない」



 三つのディスプレイ、
 残り一つに映っているのは、褐色の少女が捕らえられた姿。
 土御門も海原も、すでに生命線を握られている状態だったのだ。



 一方通行も、そのことを良く理解した。
 だからこそ、もはや会話するだけ無駄と感じたのだろう、
 黙ってリングに上がる。





――――途端に、ビルが揺れるほど猛々しい音の津波。





 罵声嬌声歓声が入り交じる。
 殺せと、潰せと、嬲れと、甚振れと、ことごとく汚い叫び。
 まさしく、悪意の大挙だった。




「大人気だな、一方通行」

「人気者は辛いぜ、ったく」



「では、始めよう。――――最初で最後のデスゲームを」






523: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/18(金) 00:06:57.90 ID:XKZ/1aavo
――――









 ミサカベストが入院中の病院は、現在混乱の最中にあった。


 突然起きた停電により、
 病院の電子機器、警備システムが麻痺してしまったのである。


 間違いなく患者の死活問題、医者や看護士は右往左往。
 彼女のように軽度患者の病室には連絡のみで、誰も来ることはなく。





――――だからこそ、襲撃者にとってはまたとない好機。






524: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/18(金) 00:07:59.79 ID:XKZ/1aavo



 ガチャガチャと、
 一個小隊の襲撃者はミサカベストの病室に無断で入り込む。
 ベッドの膨らみを確認すると、素早く囲みガバッと布団を剥いだ。
 するとそこには――――






「……ソレに一体何の用だ?」





 声が聴こえたのは、ベッドからではない。
 人形は、しゃべるわけがないのだから。




 ドサドサッ、
 襲撃者たちは次々と倒れていく。





 そう、単純な話だ。
 ――――襲う者と襲われる者は、最初から逆だったというだけのこと。





525: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/18(金) 00:11:18.50 ID:XKZ/1aavo






「あっけないねぇー。我らが同胞として恥ずかすぃーにゃーん」

「しょうがないよ、相手が忍者だもんっ!」

「……君は忍者に夢見る外国人かね」



 どこから現れたのか、ミサカベストとミサカワースト、
 そして杉谷が襲撃者を縛りながらも軽口を交わしていた。



「大能力者と言えど、一個小隊程度いなすのは難しくない」

「ふーん……もしかしてあなた、超能力者に匹敵しちゃう?」

「……能力なぞ、所詮戦うための道具にすぎん。
使いこなせなければ脅威ではない」

「……仮にも軍用個体なんだけどね」


「――――うんっ、忍者っぽいね!」



526: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/02/18(金) 00:13:29.92 ID:XKZ/1aavo




 ウンウンと頷く彼女は放っておくとして、
 彼らはこれからの指針を確認することにした。



「で、どーすんの?
ミサカはあなたに合流しろって言われただけだよん」

「俺は一方通行の家族の安全を確認しにいく」

「じゃ、ミサカはダーリンの元へ行くよ!」



 フンスッと、
 気合いを入れ歩き出すミサカベストを横目に、杉谷は小さくため息をつき、
 ミサカワーストはニヤニヤと悪戯っ子の様に笑っていた。


「……お前、付いていってやれ」

「あいさー♪」


 彼女は危険だと言っても止まらないだろう。ならばいっそツーマンセルに。
 杉谷としても、お守り役までするつもりはなかった。





「……これはお前の戦いだ一方通行。
結果を背負うといい、必ず何かを掴めるだろう」




 呟く声は、誰にも聴こえない。
 期待に応えがあると信じて、忍は影に溶けていった。







533: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/18(金) 23:16:41.57 ID:VAbyktRxo
――――








 土御門元春が主役を演じることはない。
 いつだって彼は端役、お膳立ての黒子である。






 舞台で活躍する主役たちはそれ相応の悲劇を背負ってきているが、
 彼のような端役は、地味な努力と犠牲と時間を背負うだけである。
 たとえ主役を霞ませるような悲劇的な過去があろうと、語られることはない。




 何故なら、端役だから。




 上条当麻の様に反則的な能力で切り札を演じることも出来ない。
 一方通行の様に圧倒的な力で存在感を示すこともない。
 浜面仕上の様に土壇場で逆転できる底力があるわけでもない。



 主役たちの演技を横で眺め、時に助言し、時に導く。
 誰がやろうとも同じ。それならば、路傍の石と何が違うのか。

 

534: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/18(金) 23:18:39.50 ID:VAbyktRxo


 日常に没してしまいそうな、
 スポットライトの中にいても注目されることのないような、
 そんな役回りをする彼。






 ――――――だからこそ、ダークホースと呼ぶに相応しい。





 端役なりの努力と犠牲と時間は、彼に人脈と暴力と知略を授けた。 
 戦略的勝利のために、必要不可欠である役者たちを。





 土御門元春は、上条当麻に勝つことが可能か?
  ――――――肯定。肉弾戦に持ち込めれば易く、また甘さに付け込めば軽く御することが可能。


 土御門元春は、浜面仕上に勝つことが可能か?
  ――――――肯定。吹けば飛ぶような塵芥の如き存在であり、屠る必要性すら見当たらない。


 そして、
 土御門元春は、一方通行に勝つことが可能か?
  







  ――――――肯定。語るまでもない。
        アレイスターが見張りとして傍に置いた、それだけで根拠は十分である。






535: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/18(金) 23:19:58.75 ID:VAbyktRxo




 付け加えるなら、今の限定付最強である一方通行でなくとも仕留めることは可能だ。





 何故なら、彼には幻想殺しという切り札があるから。
 



 公式≪一方通行は幻想殺しに勝てない≫にX≪幻想殺し≫という役者を挿入しただけ。




 これこそが、戦略的勝利への方程式であり、
 方程式を成り立たせる前提こそ、彼が培った“人脈”であり“暴力”であり“知略”であった。 

 

 「ぐゥゥ……」


 「…………」



 だから、この結果は偶然でも奇跡でもなく、単なる必然。



 
 弱点だらけの一方通行を嬲るのは、彼にとって赤子の手を捻るより容易だったのだ。


  


 

536: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/18(金) 23:21:51.80 ID:VAbyktRxo





「がはッ……ぐゥ」

「……まあ、お前にしては良く頑張ったほうだよ」



 一方通行と土御門の闘いも、すでに終わりが近づいていた。
 ギリギリと首を締め付ける手が、一方通行の意識を削り取っていく。



 能力が封じられ、杖をつかなければ歩行もままならない一方通行だが、
 数々の死闘を切り抜けてきているだけあり善戦。
 杖を上手く使い立ち回る姿は、とても脳に障害を持つとは思えないものだった。


 しかし土御門のリーチ、体術の前には完全に子供扱い。
 彼は逃げる一方通行を追い回し、止めは刺さず弄ぶように暴力を振るい続けた。





 観客の反応も上々で大盛り上がり。
 ショーは大成功である。





537: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/18(金) 23:25:13.06 ID:VAbyktRxo



「拳銃を持っているくせに観客を気にしてためらっているようじゃ、
俺に勝つことは到底不可能だ。――――興ざめだぜ、本当に甘いよお前は」

「…………」

「スパイってのは大抵丸腰、孤立無援で生き延びなければならない。
お前みたいに賓客扱いされるはずもなく、いつも真っ先に切り捨てられてきたんだぜ?
能力に甘えてヌクヌクと生きてきた奴とは違うってこった」



土御門はたびたびこうやって長話で決着を引き延ばす。
ショーの一貫なのか、時間を稼いでいるのか、彼も殺すのをためらっているのか――





しかし、それも限界が来ていた。
潮岸が焦れてきていることが、画面越しにも伝わってくる。
クライアントから指示がこないから何も言わないだけだろうが、
そろそろ終わらせてもおかしくない。




538: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/18(金) 23:27:34.44 ID:VAbyktRxo




「……だから、なンだ」

「……何?」



 ボロボロになりながらも、一方通行は反論を止めることはなく。
 紅い眼は、土御門を睨みつけて離さない。
 気持ちだけでも負けないように、意地だけで食らいついている。



「俺は、諦めない。オマエみたいに早々に切り捨てるなンてこと、もォ出来ねェ。
うンざりなンだよ、悲劇も、絶望も」

「――――ハッ、悪党のセリフじゃないな」

「……幻想と、罵られても、いい。
救いたい、守りたい、悲劇と絶望を奇跡に、塗り替えてやる」




 その姿は、どこかで見た男のようで。
 ――――――土御門は、心の中で唾棄した。




「……ふん、それは確かに幻想だな。
お前みたいな弱者に、そんなヒーローみたいなマネ出来るはずがない」

「ククッ、まァ、一人じゃ無理、なンだろォよ。
とっくに、気づいていたつもりなンだがな……」



 見せる遠い眼差しは何を見ているのか。
 一方通行は誰に言うともなく、呟く。


 土御門にしてみれば、負け犬の戯言。
 あっけなさと儚さに、失望が湧く。



539: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/18(金) 23:29:34.18 ID:VAbyktRxo





「……――もう終わりみたいだ。じゃあな、一方通行」





 とうとう、




 合図が、来た。
 終わりの、合図が。


 土御門は、手に力を込める。





(終わり、か)


 仲間を殺害することに、ためらいはない。
 全ては予想通り、全く持って何も裏切られることはない。
 ここまで至極当然の結果だった。




541: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/18(金) 23:31:55.01 ID:VAbyktRxo








―――――――だからこそ、未だに信じている。
           
           脚本家の筋書きをひっくり返す奇跡を。






 これは、予感。もはや、確信。
 いや、もしかしたら彼の、内なる期待。










「やめろ土御門ォォッッ!!」






 そんな時、ヒーローは必ず現れる。
 全ての幻想(脚本)をぶち壊す、出鱈目で無謀な馬鹿野郎が。





547: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 21:24:18.28 ID:GjUytUexo
………








 上条が処刑場に辿り着けたのは、御坂妹のおかげだった。
 彼女なら、沢山の番外個体が存在する違和感を察知することが可能だったのだ。

 上条はそのことを知らないが、情報屋を自任する彼女を頼りにしている。
 そして今回もドンピシャ。これならば報酬の一回デートも安いものだろう。
 ……彼からすれば、デートではなくただの荷物持ち程度の認識だが。



「何やってんだよ、お前ッ!」

「見てわからないか? これはちょっとしたショーなんだにゃー」


 このような状況でも、土御門はいつもと変わらない。
 それが尚のこと上条を苛立たせる。


「ショー……だって?」

「そう。カミやんには空気を読んでもらいたいぜぃ」


 観客席は乱入者への怨嗟の声で溢れていたが、上条とってはどうでもいい。
 友が友を殺そうとしている、その状況に戸惑い、また怒りに震えていた。


「……離せよ」

「…………」




「離せっつってんだよ、この野郎――ッ!」





548: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 21:25:59.78 ID:GjUytUexo




 その眼差しは、先ほど見た――――――






「……どうする? 潮岸」

『いいだろう、離してやれ』

「了解っと」



「――――がッ!」

「っ! 一方通行ッ!!」


 唐突に放り出された一方通行は地面へとしたたかに叩きつけられる。
 それでも駆け寄った上条が見る限りでは、彼に大事なさそうだった。


「大丈夫か!?」

「……ぐ、はァ、だ、大丈夫に決まってンだろ……ったく、遅ェぞ上条ォ!」

「なっ、無茶言うなっ!」

「ケッ……でも、助かったぜ」


 不器用ながらも礼を言う一方通行。
 表情には信頼と、僅かな安堵があった。



549: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 21:28:05.13 ID:GjUytUexo



「……、今の状況は?」

「ディスプレイを見ろ、そォすりゃ大方わかる」

「――――っ! なるほど、クソッたれが」


 ディスプレイの一つに舞夏を見つけ、上条は土御門の行動を理解する。
 そして、中央で見下す偉そうな男が首謀者であることも。




「…………テメェ、何者だよ」

『……邪魔が入ってしまったな。これではクライアントに申し訳がたたん』


 上条の問いには答えず、全く困ってなさそうにため息をつく潮岸は、
 画面の奥で何らかの指示を出しているようだ。


「……で、どうする? 二人を相手にしても構わないが」

『いや、それには及ばんよ。邪魔者は排除する、それだけだ』


 土御門の問いに、
 彼は想定内だったと言わんばかりの余裕の笑みを浮かべた。






――――事実、策は用意されていたのだ。






550: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 21:31:13.48 ID:GjUytUexo




『ではこちらを見たまえ。幻想殺し』




「何? ――――ッッ!?」

「なっ……!!」





 驚愕は、二人。
 ディスプレイが切り替わった先の光景は、見覚えのあるもので






 ――――まさしく、悪夢の再来。






551: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 21:33:56.77 ID:GjUytUexo










「風斬!?」

「天使(ANGEL)――ッ!」




 幾重にも昇る、光り輝く白き翼。





 曇り空に生える様は、まるで霹靂か。





 根元に存在する核は、学生服の少女。







 そう、そこに映るのは――――ヒューズ=カザキリ。
 AIM拡散力場より生まれた天使だった。





552: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 22:26:23.76 ID:GjUytUexo








 神々しくも醜く卑猥なその姿に、観客たちは下卑た歓声を上げる。
 メインディッシュも少々飽いていた彼女たちには、いい口直しになるのだろう。





「…………っ! テメェッ、俺の友達に何してんだッッ!!」


『ふん、九月三十日と同じだよ。
まぁ今回魔術師がいないから攻撃は始めないかもしれんが……
くくっ、演出としては派手で最高だろう? 多少見苦しくもあるがね』



「打ち止めは、打ち止めはどォしたァァ――ッ!」




553: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 22:27:57.36 ID:GjUytUexo





 喰い気味に、一方通行が叫ぶ。




 九月三十日。
 それを聞いて彼が真っ先に思い出したのは、打ち止めが木原数多に捕らえられた姿。
 薄々ながら感じていた関連性が、焦燥感を駆り立てる――――



『私が優しく教えてあげるとでも思ったのかね?』

「何っ………!」


 にやにやと嗤う気配で、ディスプレイ越しに観察する潮岸。
 一方通行はギリリッと、音を立てて歯噛みした。



554: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 22:29:01.69 ID:GjUytUexo




「待て一方通行!
あいつに聞くより直接電話したほうが早いんじゃないか!?」

「……チッ」



 一方通行もどうやら取り乱していたらしい。
 携帯電話を取り出すと、打ち止めの番号をダイアルする。






――――長い、長い待ち時間だった。






555: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 22:32:06.08 ID:GjUytUexo










『――もしもし?』

「――っ!! その声は芳川かッ! 打ち止めは!?」

『……何かあったの? 打ち止めは今お昼寝中よ。そろそろ起こさないと』


 一方通行とは対照的に、芳川の声はのんびりしていた。
 そんなものなのかもしれない。
 あまりのズレに違和感を拭えないが、無視。
 そもそも彼の状況が異常なのだ。


「……わかった。何かあったら連絡しろ」

『大丈夫? 用があったんじゃないの?』

「いやいい。夜までには帰る」

『そう……じゃあね』

「あァ」


ピッと、
電話を切り、一方通行は胸を撫で下ろす。




556: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 22:34:03.13 ID:GjUytUexo




「……打ち止めは?」

「今は昼寝中だとよ、ったくのンきな奴だぜ。……っ! じゃァあの天使は――――」

『思い至ったか? 第三次製造計画について知っている者なら理解出来るだろう』




 第三次製造計画。
 その目的の一つは、旧くなりつつあるミサカ達を刷新しネットワークを拡大、再配備すること。
 それならば、打ち止めのような役割の個体が製造されていてもおかしくはない。
 上条は置いてけぼりだが、一方通行はそう理解した。


「……つまり、打ち止めは無事ってことか?」

「そォいうことだ。取り敢えず、オマエは天使の元へ行け」

「ココは大丈夫なのか?」

「まァ見てろ、俺は負けねェ」


 少し不安そうな上条を見据え、ハッキリと断言する。
 怪我は多いものの、生気は取り戻しているようで。
 上条の知る、いつもの一方通行だった。


557: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 22:35:52.62 ID:GjUytUexo


「あと、こいつを持っていけ。こっから天使の場所まで遠そォだからな」

「こいつって……万札!? い、いらねぇよ!」

「いいから持って行けっての、タクシーでも使え」


 強引に押し付けられた上条は、一旦受け取っておくことにする。
 一方通行の稀有な好意を無碍にすることは避けたかったから。
 …………決して、貧乏性が出たわけではない。


「ありがとう、一方通行」

「ンなこと気にするな。
それより――――オマエなら止められるか? あの天使」

「ああ、今度こそ止めて見せるさ。……俺の親友を、頼む」

「……任せろ」


 ニッと、二人で笑い合い、上条は飛び出るように屋上から消えた。
 その背中は、後に一切の憂いを残していない。
 躊躇いも、一切ない






 止める者は、止められる者は誰もいなかった。






558: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/21(月) 22:37:00.90 ID:GjUytUexo






「――――さて、またさっきと同じ状況のようだが」

「抜かせ、もォ俺が負けることはねェよ」

「……ほう、どこからその自信が?」







「俺に勝ったのはアイツだけ。そしていつだって最後に勝つのはこの俺。
かかってきやがれ土御門、本物の最強を見せてやる」







565: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:06:30.26 ID:wSY5P0C1o
――――







 上条がビルの外に出ると、外はえらく騒がしい。
 車のクラクションは、下手糞なオーケストラだ。


(……当然か。突然街中に天使が現れたんだから)


 あの姿を見て天使だと思う人間がどれだけいるのか。


 しかし上条にとってみれば天使であり、――――友だちだった。


(あの時と違って警備員がまともに機能しているから、
 正直タクシーじゃまともに近づけないな)


 所々検問が敷かれているようだ、渋滞がどこも起こっている。
 だが、そもそもビルから天使までタクシーを使うほど離れてはいない。
 なんとか走っていけるだろう。とても万札がいる距離ではないのだ。



566: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:08:46.42 ID:wSY5P0C1o



(じゃあなんで万札を……? ――――っ!)


 先ほど一方通行から貰った万札を良く見ると、
 携帯のメモリが貼付されていた。


 ――――折らなくて良かった、心底思う上条だった。


(中身はっと……)


 携帯に差しこみ読み込む。
 あるのはちょっとした文章。手紙、ということなのか。


(――――これ、さっき書いた文章か!? いつ書いてたんだ……?
 もしかして打ち止めに電話したときか?)


 こんな文章を携帯に書いているとは、あの場の誰一人として気づかなかっただろう。
 書かれている文章は、



 なるほど、気づかれてはならないもの。



567: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:11:05.14 ID:wSY5P0C1o




(あいつ――――やっぱ、スゲーやつだよ)



 そこには、
 ディスプレイに映る背景から推測出来る土御門舞夏の居場所と状況、
 そして天使の正確な場所とそこまでの最短距離が書かれていた。
 渋滞すらも考慮されている。


(『メイドの情報は信頼の足る人物に――――』か。
 信頼の足るって言うのは解決可能な人間ってことだろうな、
 ……警備員は忙しそうだし……風紀委員?)


 そんなことを考えて携帯をいじっていると、
 センターにメールが溜まっている事に気づく。

 受け取ると――――



(げぇっ! 御坂ぁっ!?)


御坂美琴からのメールで溢れかえる受信ボックス。


見なかったことにしたかったが一通ぐらいメールを返したほうがいい、
そう彼は判断した。


後が、怖い。



568: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:12:46.57 ID:wSY5P0C1o






(――――! 御坂に送るって手もあるな)



 御坂美琴、彼女は超能力者である。
 彼女が解決できないのなら、大抵の人間には解決できないだろう。


 信頼の足る人物――――これ以上ない、しっくりくる評価だった。


(送信、っと。それにしても、一方通行のルートは人が少なくて走りやすいぜ)


 彼はそこまで考慮に入れているのだろう。
 本当に、上条当麻は友人に恵まれている、
 つくづくそう思った。




 長い間路地裏を走り、大通りに出る。
 そこは、もうすでに天使の膝元。


「ここから先は立入禁止区域だから気をつけなきゃな……」

「そうだね、あんちすきるってやつに見つかったら捕まっちゃうよ」



569: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:14:57.13 ID:wSY5P0C1o











 ビクゥゥッ!!
 彼は、大袈裟に、盛大に、引っ繰り返らんばかりに驚く。
 しかし、振り返る勇気はない。


 気にせず、不機嫌そうに語りかける声。


「そのリアクションは何かな? とうま」

「え、えーと、インデックスさんではございますまいか……
こないとこでどないしてはるんどすえ?」

「……とうまが何語喋っているのかわからないかも」

「……俺にもわからん」





「――――それより早く行こう! ひょうかがあそこで待ってるよっ!」





570: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:34:27.03 ID:wSY5P0C1o
――――








(どうなっている?)




 土御門は、今まで数多くの敵と相対してきた。
 多重スパイとして、アレイスターの駒として奔走してきた彼は
 十分すぎるほど肝が据わっていて。


 しかし、この男、一方通行にはどうしても威圧される。恐怖すら感じてしまう。
 敵になることで、初めて真に理解出来た。



(コイツは、紛れもない化物――ッ!)



 化物。
 そう呼ぶしかないだろう。


 あり得ないはずだ。
 能力の無い一方通行など、ただの弱者だったはず。






 それならば、なぜ杖も使わず、土御門を圧倒しているのか――――



 


571: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:36:38.39 ID:wSY5P0C1o



「カカカッ! どォしたンですか土御門くゥゥゥン?」

「くっ……」


 直線的な一撃。
 読むのはそう難しくない。


 だが、そのスピードと威力は受け流すことすら一苦労で。


「オラオラオラァ!! もっと楽しませろォォおお」


 繰り出される連撃はまるでマシンガン。
 一方通行の乱舞は地面に着く必要すらない。



(なんだ……なんなんだよその黒いモノはッ!)



 そう、黒い鱗のようなものが一方通行を支え、動かしているのだ。
 それは途切れ途切れ、消えたり現れたりする、そんな不安定な鎧。



(これは……黒翼を無意識下で操っている――――?)




 背中から生えていない、異形の翼だとでも言うのか。
 この底知れない力こそ一方通行が持つ威圧感の原点だろう。




572: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:38:12.77 ID:wSY5P0C1o





「調子に……乗るなッ!!」

「ガッッ!?」




 土御門の救いは、一方通行が武術に関して素人だったこと。
 動きを先読みし拳をかわしてカウンター、
 見事に一方通行の顎に入った――ように見える。




 しかしその手応えは、まるでざらざらなゴムを固くしたような、
 そんな彼自身の拳を痛めてしまう感触。



「クッ、クックックカキコケキ……あーいってェなァ。
 ケケケ、だがその程度で俺をヤるのはちと無理なンじゃねェかァ?」


「……チッ」


 効いていない、いや届いていないのかもしれない。
 土御門の拳は、荒いヤスリでもかけたように削れていた。
 それでも、痛みより感じるのは恐怖。



こちらを窺う一方通行の真っ赤な瞳は、異常なほど爛々と輝いていて――――



「うおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」



土御門は、気づけば走りだし、一方通行に肉薄、蹴り飛ばしていた。




573: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:51:42.37 ID:wSY5P0C1o




「ごッッ!!?」

「ハァッッ!!」




 当然それだけでは終わらせない。
 体勢を整えつつある彼をフックで捕まえ、また拳が傷つくのも無視して殴り続ける。

 


――――四肢を存分に使った高速の連撃。



――――避けられない、反撃する暇すら与えない。



――――自分の意志で倒れる事さえできない。





――――煉獄の炎から、逃れる術はない。






574: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:55:34.78 ID:wSY5P0C1o




「おーーっと、アレは富田流の煉獄かーーーーっっ!?」

「……どこで覚えてきたんでしょう?」

「殴る蹴る殴るぅぅーーそして、時々蹴るゥゥゥうう?
 息もつかせない連打だぁぁーーッッ!!」


「一方通行さんには得体の知れないオーラがありますからね。
 正直、対峙したくない相手ですよ」

「つまり今の土御門さんは――」

「恐怖、というより生存本能に駆り立てられ動いているのでしょう。
まだしばらく続くかと」

「では、ここで宣伝しておきましょう! 私のブロマイドが来年の初めに発売します。
握手会も行われますので是非ともご参加くださいっ!」

「……何で宣伝……まぁ、僕も握手会には参加しますけどね」





脱力するような実況の間も連撃は終わらない。
いくら感触が悪くとも、土御門は終わらせる訳にはいかなかった



――――が、



「……煉獄は、息が続かないだろォが」

「っ!?」



575: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 01:58:26.12 ID:wSY5P0C1o



 ガシッと、
 何度目の鉤突きか、一方通行は動きが鈍くなっていた土御門の拳を受け止める。



「長くやりたいなら、そンなに焦ってやっちゃ駄目だぜェ」

「チィッ!」


 一度距離を取る土御門は、すでに息が上がっている。
 煉獄は長く続けるには不向きだろう。体力も酸素も多量に必要だ。
 続いたとしても一分か二分。

 ――――時間稼ぎには使えない。


(まだ、か)


 一方通行は、息一つ乱さずに土御門を観察する。
 今の彼が必要なのは、勝利ではなく時間。


 そこにあるのは、圧倒的強者の余裕だった。


「どォした土御門、もォ終わりか?」

「……さっきまでのお前とえらい違いじゃないか。
 今にも死にそうだったお前はどこにいった?」

「言っただろォが、本物を見せてやるってな」

「聞かせて欲しいな、その心境の変化を。――――強さの礎を」

「…………」



576: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 02:01:02.26 ID:wSY5P0C1o





 土御門の目は、先程までの冷酷な色が消え失せ、
 いつも通り、いや少しだけ呆れているようだ。


 敗北を、悟ったのだろう。





「クッ、大したこっちゃねェよ。
あのバカにこの場を任された、――――それだけで十分だ」

「……ハハッ、なるほど」



 ヒーローであり友である上条当麻の信頼に応えること。
 それは、一方通行にとってどんな名誉にも勝るものだった。
 土御門にもなんとなくわかるのだろう。納得の笑みを浮かべている。





「……じゃあ、行くか」

「……オゥ」




 どちらからでもなく呼吸を合わせ、二人は同時に駆けだしていた。



577: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/03/27(日) 02:02:01.36 ID:wSY5P0C1o










 先ほどの激しさが嘘のように、無音。






 そして、響き渡る轟音。
 一方通行の拳が、土御門をとらえ、叩き伏せる。
 決着のゴング代わり、か。


「……勝ちだ」

「……ああ、そしてオレの負けだ」

「いや、俺たちの勝ちだぜ」

「……何? ――――っ!」




 彼らが見るディスプレイ、その映像は――――





584: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/02(土) 15:19:50.95 ID:pSmIqulzo
…………








『あぁーテステス……ちゃんと聞こえてる? まいっか。
えーと、ソッチの様子は良くわからないけど、舞夏の身柄は確保したわ』


 屋上のディスプレイ、その一つ。
 土御門舞夏の映っていたディスプレイからは激しい音が聞こえた後、
 舞夏の姿が消え、代わりに御坂美琴がマイクで話をしていた。


『あの馬鹿のヒントメールは正直助かった。
 車の場所だけじゃ、ちょっと絞り込めそうになかったし』

『おーい、兄貴ぃー。こっちは大丈夫だぞー』


 画面に割り込むのは、土御門舞夏。
 怪我もなく、元気そうだ。


『そういうわけで、舞夏のお兄さん安心して下さいね。
 ……あと、こんなことやらかした人間、私は絶対に許さない。
 高くつくから覚悟してね。じゃ!』



 最後に一つ脅しをかけて、その映像は終わった。



585: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/02(土) 15:21:43.92 ID:pSmIqulzo
 

そして――――


『ん、んんーーーー?
 このビデオでなに映してんだこれ?
 人質ってやつなのか?』

『そうですね。
 あの時話してたお兄さんに超見せつけているみたいですよ。
 今あっちで吐きました』

『あ、そうなの?
 ……えーと、んんっ、ショチトルのお兄さん、彼女は無事ですよー』

『……エツァリ、大丈夫か?
 無茶するなよ。私の心配なんかするな』

『こっちは片付きましたから、そちらはそちらで超頑張って下さい。
あ、私たちですか? 通りすがりの人間です』




 映っているのは、ショチトルを含めた二人の少女と一人のチンピラだった。
 チンピラの方は、犯人が寝返ったのかもしれない。



586: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/02(土) 15:24:08.42 ID:pSmIqulzo





『え? い、いや、ちょちょっと、え? なにその扱い』

『浜面は仕方がないですよ、超安っちい顔してますもん』

『……フォローは出来ないな』

『いや、え? 俺って結構大活躍だったよね?
裏で無能力者にはあるまじき、まるで映画みたいな――――』

『いや、そんなこと語られてないんで皆知りませんよ』



 ここで語られることはないが、
 浜面仕上はアクションスターばりの大活躍だったようである(目撃者なし)。
 まぁ、番外編も用意されてはいないが。




587: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/02(土) 15:27:37.41 ID:pSmIqulzo



『絹旗は見てたよね?
 続編への布石みたいな、そんな敵との出会いもあったよね?』

『……さぁ? 私は良く見てませんでした。
それと続編があったとして、浜面が出るかどうか超微妙ですね』

『コラーーーーーーッッ!!
活躍してたじゃねぇかっつーか俺は第三の主人公だぞこの野郎!
俺が出なかったらお前も大して出ないんだぞ!?』

『いや、浜面超書き辛いって言ってましたし、
 絹旗最愛ファンクラブ入ってますんで、
 次回作では待遇の差が露骨に超表れると思います』

『……それマジ?
ソースあんならすぐ出せマジならスキルアウト総力を上げて潰すが』

『ソース? 浜面に見せるソースなんて超ありませんよ。
せいぜいトンカツソースですねこのトンカツ顔!』

『な、ト、ト、ト、トンカツ~~~~!??
 お前なんてパンツ担当の痴女じゃねぇか!!』

『痴女じゃありません超お色気担当といって下さいっっ!!
 浜面なんて髪の毛といい、超明らかにトンカツじゃないですか!
 浜絹なんて超お断りですよッッ!!
 滝壺さんの可愛さを引き立てるトンカツ、
 カツカレーで言うらっきょうです超浜面はっ!!』

『そこはせめてトンカツだろぉ!?
 つーか俺はトンカツでもらっきょうでもねーーー!!』


『……と、いうわけで、無事帰ってこい、エツァリ』



588: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/02(土) 15:29:22.78 ID:pSmIqulzo







 ここで、二つの映像は終わった。
 シーサイドビル屋上との温度差は激しいが、それも仕方がないだろう。
 観客席、舞台上、どちらも不自然なほど静まり返っている。


「舞夏――――っ」

「大事なさそうですね……」


 土御門と海原は、安堵の笑みを浮かべる。
 張り詰めていた空気が、一気に弛緩したようだ。


「……悪かった。お前には世話をかける」

「別にかまわねェよ」


 一方通行も、少しだけ声に余裕がある。
 彼でも、人質がいるといないとでは緊迫感が違うのだろう。
 苦虫を噛み潰したように押し黙る潮岸に、溜飲を下げていた。



589: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/02(土) 15:32:01.37 ID:pSmIqulzo





「これは……どうなるのでしょうね」

「まぁ、勝負は勝負ですし、こちら側としては残念ですが終わりなんじゃないでしょーか」

「あなたの実況なかなか楽しかったですよ。――――握手会は行きます」

「……ミサカもつまらなくはありませんでした。ストーカー行為もほどほどに」

「ストーカーだなんて人聞きの悪い。これはピュアな愛です」

「…………そ」


 ストーカーは、そう言い残して仲間の元へ駆け寄る。
 闘いは、終わった。剣闘士たちは、どちらも生き延びたのだ。


「無茶してくれますよ。見ているこっちはヒヤヒヤです」

「……なかなか楽しめただろォ?
 アレでも頑張って引きのばしたンだぜ」

「一方通行のことだから何か手があると思ったからな。
 オレも必死で時間稼ぎだ」

「――――まったく。でも、ありがとうございます。正直助かりました」

「まだ終わっちゃいねェ。ゴミ掃除が、な」

「ああ、そうだな」





 三人が睨みつけるのは、うつむき顔の見えない潮岸だった。




590: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/02(土) 15:34:00.35 ID:pSmIqulzo










『クッ、ククククッ』


 唐突な、笑い声。
 先ほどから一転、潮岸は笑い始めた。
 彼は、自分の舞台を台無しにされたにもかかわらず、笑っていたのだ。


『いやいや、これは予想外の展開だよ。
 君たちは良い仲間を持っている』

「オマエ……」

『素晴らしい! コングラッチュレーションだ!!』




 合わせて、一斉に観客席より拍手が送られた。




591: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/02(土) 15:35:16.36 ID:pSmIqulzo




 それは、一方通行からしてみれば、あまりにも不気味。
 潮岸は気でも狂ったのか? そう考えたかった。
 だが彼の頭は、最悪のケースを考えてしまう。



「……で、潮岸。結局オマエは何をしたかったンだ?」

『言わなかったかね?
 クライアントの趣味に付き合っただけだよ』

「じゃァ、こっからが本番ってワケか」




『違うな。ここからは単なる勝利宣言だ』

「……何?」

『これから君は私のお人形遊びに付き合ってもらおう。……コレを見たまえ』

「…………あ?」





592: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/02(土) 15:36:29.30 ID:pSmIqulzo



 にやり、潮岸の顔が、歪んだ。
 潮岸を映していたカメラが、横にずれていく。
 ゆっくりと、ゆっくりと、もったいぶるように。
 そして、段々と映りこんでくるのは――――




「…………な……ンで……?」




 見たことのある、愛くるしい少女。




「あ……り……えねェ」




 一方通行の生命線




「どォして、どォしてだよ打ち止めァァァァああああッッッッ!!!!」





 横たわる、打ち止めが、そこには、いた。






599: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:43:18.47 ID:OD//0ETBo




『蛇蝎の如く、数で圧す』




地味で、強引で、狡猾で、執拗で、
――――確実で、周到で、堅実で、安全だった。


これこそが、潮岸の『攻め』。
絶対的『安泰』を求める、彼らしい戦い方だった。






600: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:45:42.66 ID:OD//0ETBo
…………









『ハハハッ、チェックメイト、といったところか。説明が必要かね?』



嘲笑うように、潮岸は王手をかける。
呆然と打ち止めを凝視する一方通行の耳には、届いているだろうか。



『まさか、携帯電話がちゃんと機能したと考えたわけではあるまい?
それとも、よほど芳川女史に似ていたのかな?』



油断、だったのか。
もしかしたら、彼は最悪の事態から目をそらしていたのかもしれない。
違和感を、無視してしまった。




601: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:46:29.73 ID:OD//0ETBo




『君は守護者として良くやっている。少しだけ手こずったよ。
情報トラップ、マンションのセキュリティ強化、親船最中の手まで借りて打ち止めを護衛するとは。
まぁ、軍隊の前では無力だがね』



必死だった。
彼は、打ち止めを傍で守ると誓った時から、
徹底的かつ隠密に打ち止めの防衛に専念してきたのだ。



『結局、君は耐えかねた。専守防衛ではジリ貧と考えたのだろう、私の元に討って出た。
――――その時点で、君の負けだよ』



自信があった。
自負が、あった。
最強とは、果たしてなんだったのか。




602: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:48:06.30 ID:OD//0ETBo



『間違いではない。
確かに君が来なければ、執拗に念入りに狡猾に付け狙っただろう。
しかし、私のホームに来てしまった。
情報は遮断され、外で何があったか君は全く知らない。
電撃使い(エレクトロマスター)の大勢いる場所に来るとは、そういうことだ』



回りの観客たちは、嗤い続ける。
舞台の上にいる、哀れなピエロを。



『……さて、総括しよう。君の敗因は幾つかある。
この場所に来てしまった、これも大きなものだが、最大というわけではない。
君の最大の敗因、それは――――』



一旦言葉が止まる。
言うのをためらっているわけではない。
そこにあるのは、――――怒り。




603: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:49:33.22 ID:OD//0ETBo






『次期統括理事長有力候補の私に、単なるモルモットふぜいが喧嘩を売ったこと!
私を、潮岸を舐めたことだッ! 万死に値するッッ!!』



バキッッと、
目の前の机を駆動鎧で叩き壊す。
その顔にあるのは、狂気。



『……だが、私も君たちを舐めていた、それは謝ろう。
私を本気にさせるとはさすが最強のモルモットだ。
しかし、こんなものだよ』



ニタァ……
浮かぶ狂笑に、海原もゾッとする。
それは親船最中への暗殺予告、その時垣間見えたものによく似ていた。




604: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:51:15.26 ID:OD//0ETBo



『権力の欠片もないクソガキに、本気の私が負けるはずがない。
知っているか?
統括理事でもない私の元へ、今でも多くの有力者が顔を見せにくる。
あいつらは良くわかっているのだ、私が未だ軍需関連に顔が利くことを』



「…………」


一方通行は、気づく。
自分が、上条当麻に負けた時よりも、ずっと打ちのめされている、という事実に。



『弱みを握っているから、警備員はもちろん治安部隊ですら私に手を出せない。
脱税しようが人を殺そうが捕まらない。
事実、君たちの「視察」によって失脚させられても、
身を少しの間隠せばまた復帰可能だよ。
――――ちょっとした土産が必要だがね』




これが、これこそが、潮岸の権力。
学園都市に十二人しかいない統括理事会の一人、
軍需関連に大きな力を持つ男の権力だった。




605: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:52:54.22 ID:OD//0ETBo



『……ふぅ、少し大人げなかったか。
対軍兵器とは言っても、政治的には弱者にすぎんからな』


「……見つけ出す」


『ん?』


「必ずオマエを見つけ出して、打ち止めを救ってやるッッ!!」


『……なんだ、まだ諦めていなかったのか。
言ったろう? ――――チェックメイトだと』



ピンッと、
潮岸が指を鳴らせば、いとも簡単に一方通行の演算能力は剥奪された。
ドサッと、崩れ落ちる音が響き渡る。
――――今度こそ、終わり。



『……さて、もう終わらせよう。――――狩れ』



一言。
潮岸の合図。
それに合わせ、観客席より一斉に群がる番外個体たちは、まるでハイエナのよう。
一方通行の身体は、餌。
食事の時間は訪れて。





――――しかし、まだ始まらない。




606: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:54:04.59 ID:OD//0ETBo




「コイツを食べることは許さないぜぃ」

「ええ、仲間は殺らせませんよ」



土御門と海原が、立ちはだかったのだ。



「お前、やれるのか?」

「そちらこそ、ボロボロじゃないですか」

「ふん、この程度、肉体再生でへっちゃらだにゃー」


二人とも、不利なことはわかっていた。しかし負けられない。
――――彼らのために戦った、仲間のために。



『……無謀、だな。遠慮なく潰せ』

「こいやッッ!!」



607: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:55:34.38 ID:OD//0ETBo




命令に押されるようにして駆け出す番外個体たち。
それを迎え撃つのは、海原の原典。


彼女たちの一角が吹き飛ぶ。


「うひゃ~凄い威力だぜぃ」

「土御門さんも戦って下さい!」

「接近戦は任せろい」



すぐ近くに迫っていた番外個体を殴り飛ばす。


が電撃によって弾き飛ばされる、土御門と海原。




「……まさかミサカたちが単なる三下だなんて思ってないよね?」

「大能力者のミサカたちに、あなたたちだけで挑むなんてマジ馬鹿だし(笑)」




608: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:56:38.18 ID:OD//0ETBo





「ミサカたちもいんだよこんちくしょぉぉおぉおおぉおお」

「にゃーん、ミサカもいるよん♪」





そこに乱入する、ミサカベストたち。
シーサイドビルの屋上は、限りなくカオスな戦場になっていく。







609: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:58:34.55 ID:OD//0ETBo



演算能力を奪われた一方通行に、その乱戦を見ることは適わない。
しかし一方通行を守ろうとする四人の仲間たちは、確かに奮戦していた。



それでも数には勝てず、一人、また一人と倒れていく。



そして残るのは、一方通行を庇うように両手を広げるミサカベストだけになっていた。
――――生存本能に震えながらも、必死で抗う姿が痛々しい。



「……どうします? アレだけはご命令通り無事ですが、確保しますか?」

『……ソレは学園都市の「最高傑作(マスターピース)」を抱えている。
下手なことは出来ない――が、抵抗するようなら構わん』

「了解しました」



彼女たちはミサカベストを囲う。
逃げられないように、威圧するかのように。



610: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 01:59:47.79 ID:OD//0ETBo




「――――で、どうするわけ? 最適母体(ミサカベスト)」

「……ミサカはここを動かないよ……ミサカがこの人を、守るっ!」

「……はぁ、頑固だねぇ。
ソレの何が気に入ったのかは知らないけど、あんたは所詮最適母体でしかない。
『最高傑作』を生むだけの器だよ。わかる?」

「……関係ない。ダーリンとの愛は、揺るがない」

「くひ、くひゃひゃひゃっ! スイーツ(笑)はホント救えないよ。
傑作傑作、マジ笑い死ぬって!」



囲う番外個体たちも、嗤う。
彼女たちには、これも見せ物でしかなかった。




611: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 02:01:03.91 ID:OD//0ETBo



「……ミサカも、愛が勝つ、なんて下らないこと、信じない」

「ふーん、じゃあ潔く捕まるの?」

「でも、ミサカは、この愛だけに生かされてきたの。
だから、ここで引くわけには行かない」

「……馬鹿だよ」

「わかってる。でもミサカ、この人がいなきゃ、生きられないっ!」

「……そ。だったら情けとして、ここでソイツと一緒に逝かせてあげる」

「本望だね」

「……ふん、勝手にときめいて逝けッッ!!」




612: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 02:02:37.04 ID:OD//0ETBo


鳴り響く、銃声。

一方通行に、その会話も、銃弾の行方も、崩れ落ちるミサカベストも、
彼女の涙も、何も見えていない――――はずだった。









「大好きだよ、一方通行」








それでも、確かに聴こえていた、視えていたのだ。




613: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 02:03:22.77 ID:OD//0ETBo





「■■■■■■■■■■…………ッッ!!」





溢れ出る感情は、黒い翼の形をしていて。
背中から吹き出る、力の奔流。
辺り一帯に、爆発的に膨張し、満ちる。

彼を中心に起きた嵐には誰も対応できない。
人々は、皆鉄骨の下に消える。
 幕は、瓦礫と共に、降りた。






634: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 16:34:22.76 ID:OD//0ETBo



気づけば、屋上は見る影もなく。
寒空に投げ出され、無人の廃墟のようになっていた。



「……な、なんなんだ?」

「……黒翼、でしょうか」


そんな中最初に起き上がったのは、死にかけていた土御門と海原だ。
彼らはどうやら助かったらしい。


「……オレはてっきり死んだかと」

「ギリギリの状態ですけどね」

「……穴だらけ、か。くふっ」


635: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 16:35:16.92 ID:OD//0ETBo



血は、止まっている。
だが、穴は開いていて。
助かったとは、言い辛かった。



「……そう、だね。ミサカもギリギリだよ」

「お前は――――」

「それより、あれを見て」

「えっ……?」



なんとか生きていたミサカワーストが指差すのは、瓦礫の頂上。




636: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 16:36:19.50 ID:OD//0ETBo




ミサカベストを腕に抱え、一方通行が俯く。
彼は、血まみれの彼女に語りかけていた。



「俺は」

「うん」

「守らなきゃって、思ったンだ」

「うん」

「でも……俺には、力が足りなくて」

「うん……」

「だから、これ以上誰も傷つけないように、せめて逝くなら、俺の手で」

「恨みを、引き受けようって、思ったんだよね」



「……最強なら、出来るはずじゃないか。
学園都市第一位?
守れない、救えない、成し遂げられないなら、一体何の意味があるンだよォ!?」



叫んだ彼は、泣いていた。
今の彼は、ひどく幼い。
まるで、親にすがり付く子供。




637: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 16:37:36.58 ID:OD//0ETBo


「クソッ! くそっ、くそォ……」

「……」

「俺は、俺、は……」







「……あり、がとう」






「……え?」


突然の感謝の言葉に、一瞬固まる。
頬を弱弱しく撫でる手が、青白く。



638: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 16:39:02.54 ID:OD//0ETBo




「ミサカが生きられたのは……あなたのおかげ。だから、ありがとう」

「いや、だ」

「ミサカは、あなたに、救われた……あなたなら、守れるよ……まだ、諦めないで」

「や、めろ。置いていかないでくれェ……」

「この子や、打ち止め……だけでも……助けて、あげて……ね?」

「………………あァ……」





僅かな微笑みは、一瞬だけ。
頬から、彼女の手が滑り落ち。
止血しているはずなのに、体温は下がっていく。






零れ落ちる、命。







639: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 16:40:35.41 ID:OD//0ETBo





「ミサカベスト……?」




一方通行は、彼女の手を握る。
握り返すことは、なかった。
そして、彼女の腹部に手を添えて。
そこには、もう一つの音。




「……コイツ、無事だぜ」

…………

「は、はは。今動きやがった」

…………

「……助けて、くれ」

…………

「助けてくれェェェえええ!!」





彼の叫びは、曇天に消え。
――――応えるように、声が聴こえた、気がした。







643: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:20:56.23 ID:OD//0ETBo









――――そこは、どこだったか。








644: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:21:47.23 ID:OD//0ETBo



目を開ければ、暗闇の中立ち尽くしていた。
見回せば、いつも夢に見る場所。



(何でここにいるンだ……?)



先ほどまでの光景を思い出す。
確か自分は屋外にいて、腕の中には――――









「何を立ち止まっているのですか? とミサカは詰問します」







645: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:23:11.28 ID:OD//0ETBo




ビクゥッ!
自分でも驚くほどのオーバーリアクション。


だが、考えてみてほしい。
いつもここには死体しかいなかった。
そして誰かに話しかけられたこともない。



そこで唐突に声が聴こえれば、誰だって驚くだろう?



646: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:24:41.22 ID:OD//0ETBo


「……リアクションが大きいですね。
大方、死人が口開いただァ? ってな具合でしょうか、とミサカは推測します」

「…………」

「この人まだ寝ぼけているのでしょうか? とミサカはジロジロ観察します」

「いえ、きっとまたへたれているのでしょう、とミサカはあからさまに馬鹿にします」

「ああ、彼女の死にショックをうけているのですね。






一万人以上殺したのに今更かよ、とミサカは呆れます」





「……っ」


647: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:25:43.83 ID:OD//0ETBo



そう、今更。
人の死なんて、慣れたはずだった。
だが、自分はこんなにも打ちのめされている――――




「いいじゃない、傷ついたって」




――――――っ!?




「ミサカも死んだらあなたにはショックを受けて欲しいかな、
ってミサカはミサカはワガママを言ってみたり」


「ワガママじゃないわよ。好きな人には自分が死んだら傷ついて欲しいし、
好きな人が死んだら傷つくに決まっているわ。
それぐらいの人間らしさは持ち合わせているんでしょう?」



そこにいたのは、御坂美琴と打ち止め。
軽くパニックになる。
彼女たちにはこんな場所、あまりにミスマッチだったから。




648: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:26:57.54 ID:OD//0ETBo




「……コイツは大丈夫じゃん」

「そうね、彼ほど人間らしい人間もいないわ」




もはや驚かない。
むしろ、驚いてやるものか。
近くにいた黄泉川と芳川を軽く睨む。




「おお怖い怖い、意地になっちゃってまあ」

「……これも彼の照れ隠しよ」

「なるほど、そう考えると可愛らしいじゃんよ♪」




好き勝手言ってろォ、心の中で吐き捨てる。
夢の中にまで、わざわざこいつらはおちょくりにきたのか。





649: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:32:20.76 ID:OD//0ETBo




「人間なんだから、立ち止まって当然だ」

「そうですね、彼も疲れることぐらいありますよ」

「ちょっと気を張りすぎなのよ。もう少し楽になさいな」

「貴方は独りじゃないんですから」

「ケケケ、ミサカもその無様な姿を隣で見ててやるよん☆」




今度は『グループ』と親船最中、そしてミサカワースト。もはや訳がわからない。
だがそれでも、彼らが励ましてくれていることはわかった。





650: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:33:56.15 ID:OD//0ETBo







「あーダメダメ」






ひらひらと、
手で否定しながら現れたのは、憎たらしい顔面刺青野郎。



「コイツはケツをぶん殴ってやんないと前に進まねえよ。
一方通行博士の俺が言うんだ間違いねぇ」


「チッ、前に歩き出さないテメェにゃこっちもイライラすんだよ。
さっさと行けや、じゃないと俺が先に行くぜ?」




もう一人、クソ忌々しいメルヘン野郎もいた。
相変わらず、翼の似合わない奴。




「自覚はあるが、お前には言われたくねぇ。黒翼(笑)」





651: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:35:07.64 ID:OD//0ETBo


イラッとくることを抜かすバカメルヘンに世間の仕組みを叩き込もうとすると、
下から服を引っ張る感覚。



そこには、いつかの子供がいた。





「あなたは、ヒーローなの?」





突然の問いに、言葉がでない。
迷わず、否定するところなのに――――声が出ないのだ。
すると、――――






「ああ、コイツはヒーローだぜ」






652: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:37:09.08 ID:OD//0ETBo





結局、何故か。
肯定したのは、自分ではなく。
声の聴こえた方向は、眩しい光が差していて。
そこにいたのは、――――上条当麻。





「やっぱりそうなの!?」

「ああ、そうだよ。――――な?」




……正直、自分で肯定出来るほど自信があるわけではない。
自分がなれるのは、せいぜいクソッたれの悪党だ。







「……何ためらっているんだよ。
お前まさか、俺に助けてもらえるなんて甘いこと考えているんじゃないだろうな?」







653: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:38:34.46 ID:OD//0ETBo



思わず、息をのむ。
図星、なのかもしれない。
ヒーローが来てくれる、そう信じていたのは、何もこの子供だけじゃなかった。



「求められるのも憧れてくれるのも嬉しいし、たまには寄りかかってもらいたいとも思う。
でも今、救えるのは、助けられるのは、成し遂げられるのはお前しかいないんじゃないのかっ!?
この場面でヒーローになれるのは、主人公のお前だけだろうがッッ!!」





…………そう、なのだろうか。
助けを求めるだけではなく、俺が、この俺が――――









「ヒーローになれるよ、一方通行なら」







654: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:39:40.73 ID:OD//0ETBo




聴こえてくる声は、光の中から。
愛おしい声、自然と光の方へ手を伸ばしていた。



『権力を手に入れろ一方通行』

『対軍兵器とは言っても、政治的には弱者にすぎんからな』



(力がないンだったら――――)




手は光の中へ。
そこは、無限の世界。








「手に入れてやるよォォォォおおおおッッッッ!!!!」







655: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:49:55.22 ID:OD//0ETBo
――――









外界はサイレンやクラクションの音で騒々しいが、
ビルの屋上は水を打ったような静寂。




一方通行の悲痛な叫びから、誰も声を出せないでいた。




だが、それも長くは続かない。
続ける訳にはいかないだろう。
まだ、戦争は終わっていないのだから。




656: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:50:51.64 ID:OD//0ETBo



ジャリッと、
最初に動き出したのは、一方通行だった。
いや、そもそも彼が動き出さなければ何も始まらないのかもしれない。


腕に抱いていたミサカベストを、優しく横たえる。
彼女の頬を撫でた彼は、一瞬だけ笑みを浮かべるとゆっくり立ち上がった。


その場にいる仲間たちは、彼を見守ることしかできない。
むしろ、彼の見せる所作、挙動に魅せられている、といった表情だ。


それほど、今の彼は神聖で魅力的だった。



657: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:51:55.52 ID:OD//0ETBo





―――――――嵐の前の静けさ、だったのか。





バキバキバキッと、
何かにヒビが入るような音が、広い空に鳴り響く。


それはまさしく、世界が割れた、という表現が似つかわしい。
黒いヒビが、一方通行の背中から空に向けて入っていき。




否、それはヒビなどではなかった。

彼の背中から、黒い翼が明確な形を持って世界を侵食していたのだ。

いつもの彼の翼と違うのは、噴き出す、というより形作っている、という点だろう。




658: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:52:50.09 ID:OD//0ETBo




そう、形作っている。
黒い、黒い翼を。




ピキピキピキッと、
形作られた翼にヒビが入る。
殻が、割れるように。
サナギから、蝶になるように。




――――そして、顕現する。




パキーーーンと、
甲高い音が響き渡り。
殻が割れ、生まれいずる絶対的な存在。





――――一方通行の背中に、大きな翼





659: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:54:07.38 ID:OD//0ETBo




「おぉ……」

「すご……」

「なんて……」




見ているものは、まるでお伽噺に迷い込んだかのように錯覚するかもしれない。
これは夢だと、受け入れることを無意識に拒んでも致し方ないのかもしれない。




一方通行から生えた翼は、神話や伝説に出てくる竜の翼に、あまりにも忠実だったのだから。





660: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:55:14.86 ID:OD//0ETBo



「あれは……」




「――――“幻想具現化”」





「えっ?」

「っ! まさかあれが絶対能力ですかっ!?」

「……オレも断定は出来ないが、あの翼、魔術にしても科学にしても生々しすぎる」

「確かに、まるで本当に背中から生えているみたいだね」

「竜の翼だけ召喚、あまつさえ自分と融合させるなんて聞いたことがありませんよ?」

「ああ、オレもそんな話全く聞いたことがない。だが幻想具現化なら、納得出来なくはないな」

「……どういうこと? 第一位はあんな厨二妄想をしてたわけ?」



「……『ドラゴン』」



「えっ?」

「そう、かつてオレたちが探っていた『ドラゴン』、アレがもしかしたら関係しているのかも」




661: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:56:20.91 ID:OD//0ETBo



彼ら『グループ』は『ドラゴン』まで辿り着いてはいない。
しかし上条当麻の“竜王の顎(ドラゴンストライク)”について、土御門は知っていた。
覚醒状態にも、その片鱗がうかがえる。



『幻想殺し』と『幻想具現化』、
その二つには大きな繋がりがあるのかもしれない。




そんなことを土御門が考えていると、突然、肌にナニかが触れる。




662: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 19:57:20.20 ID:OD//0ETBo




「ん……?」

「これは――――雪?」




見渡せば、学園都市に舞い落ちる雪のようなモノ。
雲の隙間から差す陽光を反射し、キラキラと輝いていた。



「――――雪って、案外暖かいんだね」

「…………これは、雪じゃない」

「え……そう、なの?」

「おそらく、先ほどの――――」




663: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/10(日) 20:03:53.89 ID:OD//0ETBo




雪、というより、破片。
そう、これは一方通行が先ほど打ち破り舞い上げた殻。
触れば溶けてしまう、幻想の欠片。



「――――何だろう、スゴく落ち着くよ」

「傷が治っていく……?」




その欠片は、
まるで愛を形にしたような、そんな奇跡だった。




一方通行は、一つ大きく羽ばたき、空へと溶けていく。
まるで、彼が幻だったかのように。
神々しくも、儚く、切なく、夢物語は紡がれる――――









672: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:25:35.99 ID:ibw4YJ0so
――――










(とうとう辿り着いたか、一方通行)




そこは、窓のないビル。
円筒に逆さまで浮かぶ人間が、珍しく感情を漏らしている。

アレイスター=クロウリー、学園都市統括理事長にして、二十世紀最高の魔術師。
彼が見せるのは、――――歓喜の表情。


(『最高傑作(マスターピース)』が絶対能力への“門(ゲート)”の役割を果たしたな)


彼の『計画(プラン)』が大幅に進むことは、間違いないのだろう。
だが、それだけではない。





(嗚呼、一方通行。早く会いに来てくれ)





673: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:26:58.30 ID:ibw4YJ0so



他人には見せることのない、愛着、執着が垣間見える。
特別な存在、なのだろうか。



「君がそんな表情を見せるとは珍しい。そんなにアレが嬉しいのかな?」

「――――エイワス、か。あなたにはわからないだろう、わかるはずがない。
彼は天使になることも、アレを顕現することも出来るということだ」

「……そう、か。実に興味深い」


エイワス、通称『ドラゴン』。謎の存在。
彼は、一方通行の進化を覗くため地上に顕現していた。



674: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:27:52.85 ID:ibw4YJ0so




「……ふむ、それにしても『竜王の翼(ドラゴンブレード)』、か。
なるほど、君が求めていたものはアレか」

「――――あの美しさは忘れられない。五十年程度で拝めるならば、あまりに易いな」

「だが、アレは御し難いのも事実だ。まさか過去の失敗を忘れたわけでもあるまい?」

「だからこその一方通行だよ。私は必ず『計画』を成功させてみせる」

「……そうか。楽しみにするとしよう」




全く期待しているようには見えない顔で言うと、エイワスは闇の中に消えていった。




675: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:28:32.78 ID:ibw4YJ0so





残ったのは、恍惚に浸るアレイスターだけ。
笑みは、いつものモノに戻っていて。
魔術師は、不敵に笑い、企む。







「――――もう止まることなど出来はしない。たとえ彼を利用することになろうとも」







676: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:29:40.81 ID:ibw4YJ0so
――――









大通りの一角。
クリスマスイルミネーションで溢れるソコにいるのは、二人の人間。


――――そして、天使。


二人の人間とは上条とインデックスであり、
今は機能が停止している天使がヒューズ=カザキリである。
それでも、カザキリが風斬に戻ることはなく、一時的な処置に過ぎない。



(……これが俺に出来ること)




677: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:30:52.08 ID:ibw4YJ0so






ちょっと前、
彼らは警備員の包囲を抜け、なんとか天使のところに辿り着いていた。


その場所には警備員の影はなく、野次馬すらもいない。
理由は上条たちにはわからないが、好都合には違いなく。


「ひょうかを止めるには核になる少女を見つけ出して対処するしかないんだけど……
 とうまは彼女がどこにいるか知ってる?」

「少女? ……もしかして打ち止めか?
 悪い、場所はまだわからん」

「わからないって……じゃあどうやって止めるの!?」

「わからないものはしょうがないだろ!?
 俺の……この右手でどうにかしてやるしかないっ」

「とうま……」



678: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:31:55.30 ID:ibw4YJ0so




 上条も、正直言って可能かどうかは試してみないとわからない。
 インデックスも、見てみないことには対処を考えることが出来ない。



 結局、行き当たりばったりだが、上条には自分の右手を信じるしかできなかったのだ。



「っっ!」

「っ、ひょうか!!」


目の前には、苦しむ友人。
迷う暇は、無かった。



679: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:32:38.18 ID:ibw4YJ0so




「…………やるぞ、インデックス」

「…………うん」



上条当麻は、幻想殺しを天使に向けかざす。





大地が揺れる。
大気が震える。
世界が、歪む。


その歪みを喰い破るように、上条の右手に顕れたのは
神話に幾度も出てくる竜、その頭だった。


竜は存在を誇示するように、咆哮。
天使を威嚇したのだ。



「すごい……っ!」



680: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:33:31.29 ID:ibw4YJ0so



これこそ、覚醒。
『竜王の顎(ドラゴンストライク)』と呼ばれる対幻想最終兵器であり、
神の右席ですら退けた紛れもない最強である。


天使に向けて威嚇し続ける竜は、魔術ではないためか天使の排除対象ではないらしい。
反応はしていない、が天使の機能が低下していっていることは一目でわかる。



上条の右手が覚醒して得た能力の一つ、『竜王の声(ドラゴンシャウト)』。



「! ひょうかを殺さないでっ!」

「わかっているッ!」



681: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:34:05.87 ID:ibw4YJ0so



かつて竜はその声によって威圧し、萎縮したところを襲い獲物を喰らったという。
声そのものに、幻想停止能力があるのだ。
つまり声だけならば、風斬が消されることはない。
しかし、――――



「う、うおおおおおおっっっ!!」

「がんばってとうま!」



天使を襲おうとする竜を、必死に抑える。
餓えた竜は凶暴で強力だ。
飼い慣らすのは、上条でも一苦労だった。



682: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:34:46.36 ID:ibw4YJ0so




やがて天使は機能を失い、輝きを失う。
決して消え去ることはないが、時間が停止したかのように全く動かない。



「止まったね……」

「ああ……」

「止めることが出来たねっ」

「ああ!」


地上に堕ちた天使は、人の形をしたままで。
絵画の中に、戻ったというのか。



683: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:35:41.66 ID:ibw4YJ0so






そんな時、雪が舞い落ちる。






時を動かすように。
彼女の罪すらも、許すかのように。

その優しい雪のおかげなのか、
降り始めて少し経つと天使は翼を失い、風斬は膝をつき倒れた。


「!!」

「ひょうかっ!」


駆け寄るインデックスを、風斬はフラフラしながらも起き、抱き締める。
強く、強く。



684: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:36:30.59 ID:ibw4YJ0so




(元に戻っている……どういうこと?)



「うっ、うぐっ」

「ひょうか……」

「またっ……私はっ……」



 わからない――――――
 十万三千冊の魔術書を以てしてもわからない。


 友を助けることの出来ない知識に、いったい何の意味があるのだろう。
 インデックスは、風斬を支えながらも唇を噛みしめる。




685: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:37:11.21 ID:ibw4YJ0so





風斬氷華は、前のように叫んだりはしない。
ただただ、震えながら泣いていた。
凍えている、わけではない。
化物であることが、辛いのだろう。



上条は、彼女の嘆きを聞いている。
だからこそ、その無力さに歯噛みしていた。



(この右手は、壊すだけだ……)



竜の宿る手を見る。
暴走してしまうことを考えると、風斬に近づくことが出来ない。
友だちとして、励ますことすら出来ないのだ。



686: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/17(日) 21:38:04.42 ID:ibw4YJ0so





(あいつのヒーローに、俺はなれない……っ)




幻想殺しの彼には、幻想を救うことは不可能。
これは、自明の理で。


 一方は、自分の知で友を救えぬことを嘆き、
もう一方は、自分の力で友を救えぬことを嘆いていた。





二人は視界一面の雪に、自分の小ささを痛いほど思い知るのだった。






693: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:10:26.60 ID:onlKvykKo
――――








とある学区、地下深く。
核シェルターよりも頑丈な部屋があった。


どのように入るのか、知っているのは一人だけ。
まるで王のように中央でふんぞり返る駆動鎧を着た男、
元統括理事の潮岸のみである。



(最終的にこうなるだろうと思ってはいたが、あの威力は……)



一方通行の黒翼については彼も研究中だが、
今までのケースと比べ威力が段違いだった。


地下と屋上のラインを根こそぎ吹き飛ばしたのだ。



694: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:11:57.54 ID:onlKvykKo





(様子を窺うことが出来んな。……まぁ、こちらにはアレがある)




チラリと、ソファに寝かされた打ち止めを見る。
天使を発動するデバイスとして使用中だが、比較的落ち着いた寝顔だった。




(天使の方は幻想殺しによって封じられている頃合いだろう。どうでもいいがな)




彼にとっては、単なる演出にすぎない。
もはや用済みだ。



必要なのは、人質のみ。
物理的にも政治的にも、発見、侵入が不可能な場所での籠城。
ただ彼はラインの復旧を待てばいいだけ。




695: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:13:00.63 ID:onlKvykKo





(のはずだが、なんだこの胸騒ぎは……)





潮岸は、学園都市に住まう人間全般に言えるが、オカルトの類いを信じない。
それは自分の第六感に関しても同様である。



経験からの推測である勘ですら疑うのは、そこに思考的空白が存在するからだ。
なんとなく、などというものを信じていては、精神的“安泰”を得られない。
そう彼は考えているからである。




だが、この絶対的“安泰”であるはずの場所で、確かに彼は恐怖していた。





696: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:14:09.84 ID:onlKvykKo









「見ィつゥけたァ」









結論から言えば、





第六感も、恐怖も、気のせいではなかった。






697: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:15:02.23 ID:onlKvykKo






「あ……あぅ……」



「一緒に遊ぼォぜェ……」




彼以外誰もいないはずの場所に、声が響く。





「なァ、臆病者の潮岸くゥゥゥン」




それは、黄泉に誘う声。





翼を背負う悪魔が、ただただ嗤っていた。





698: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:18:34.14 ID:onlKvykKo
――――









――――そこは、どこだったのだろう。









699: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:19:59.44 ID:onlKvykKo




ここが先ほどまでいた学園都市ではなく、
私がよく知る『陽炎の街』であることはわかっていた。
しかしこんな光景は、間違いなく生まれて初めてだ。




何もないはずの街に、こんこんと降り積もる雪。




雪は周りの景色を白く白く染め上げて、化粧していく。


寒いわけでは、ない。
むしろ、そこには暖かい感情が存在して、



(すごく……心地好い)



私は、自然と笑みを浮かべていた。
この奇跡に、涙すら浮かべていたのだ。




700: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:21:17.70 ID:onlKvykKo






「つッまンねェ場所だなァ」





唐突に、聞き覚えの無い声。
空耳、とは思えず振り返る。
そこにいたのは――――




「オマエ、こンな場所で何してンだ?」



白い、白い少年。
雪の中に見えなくなる、ことはない。




大きな、大きなその翼が、圧倒的な存在感を示していたから。




701: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:22:13.65 ID:onlKvykKo




「……あ、……う……」

「なンだ、天使ってのは喋れないのか?」

「い、いえ……驚いて、しまって」

「そォか……ま、しゃァねェわな」

「は、はい……」



私はびっくりしてまともに声も出なかったが、この人は全くもって平然としている。
この街に、さもずっといたかのように。




702: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:23:12.21 ID:onlKvykKo




「あの……」

「ン?」

「……えっと、どうやってここに、……来たんですか?」




「……俺に不可能はねェ、そォ考えろ」




「……は、はぁ……それで、いい……のかな?」


 納得できるかと言えば、正直厳しいが。
 それでは話が進まなそうなので、無理やり納得することにした。
 下らない冗談も、嘘も言っている風でもなかったから。




703: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:24:09.37 ID:onlKvykKo




「で、だ。話は変わるが、俺が何をしにここに来たと思う?」

「え……?」



そんなことわかるわけないっ、とは言えずに、少しだけ考える。


ここがどういう場所なのか、私も正確にはわからない。
それでも、学園都市にとって重要な場所であることは、なんとなくわかる。
そこから鑑みるに――――




「この場所が……欲しい、んですか?」




704: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:25:03.66 ID:onlKvykKo




「なるほど、俺は侵略者ってわけだ。そォ見えるか?」

「あ、……えと」



チラリと、彼の翼を見る。
見た目は恐ろしく感じたが、悪い人には思えなかった。
ぶっきらぼうな声だけど、優しさがあり。
誰かに、似ているような気がした。




「確かにこの翼はチィと凶悪かもしれねェなァ……」

「い、いや……でも、悪い人では……ないと」

「……そォかい、ありがとよ」



彼は、少なからずショックを受けているようだ。
……ちょっぴり可愛いかった。




705: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:26:02.85 ID:onlKvykKo




「俺は侵略者のつもりはねェ。俺の目的は――――オマエだ」

「……?」




「オマエを、ここから連れ出しに来たンだ」




「…………え?」





意味が、わからなかった。
ここから連れ出す?
……この人は何を言っているのだろう?





706: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:26:51.91 ID:onlKvykKo





「訳がわからないって顔してンな」

「それはっ……そうですよ。
ここから出るなんて、出来るわけない……じゃないですか」

「言っただろォ、俺に不可能は無いって」

「じゃあどうやってっ……どうやって、私を……連れ出すんですか?」






「――――オマエを人間にする」





707: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:27:41.41 ID:onlKvykKo





端的に、簡単に、あっさりと、彼は言った。
私が、何よりも叶えたい願望を。
私の、幻想(ユメ)を。




「……私が……人間に……?」

「正確に言えば、肉体を用意してオマエの魂を移植する形になる。
当然色々と制約は出てくるだろォな」

「……そんな神様みたいなことが……」





「出来る、俺には出来るンだ。――――絶対能力者の俺には、な」

「っ!!」




708: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:28:43.80 ID:onlKvykKo




絶対能力者(レベル6)、聴いたことがある。
神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの。
あまりに信じがたいが、竜の翼が絶対的な説得力を附与していた。



「……どうして」

「ン?」

「どうして……私を人間にして、下さるんですか?」




「……アレイスターの野郎と交渉するためのカード、そンなところだ」

「……なるほど」





「――――だが、それだけじゃねェ」

「……え?」





709: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:29:43.85 ID:onlKvykKo





ポリポリと、
後頭部をかく彼は、言葉を必死に探しているようで。
その不器用さと誠実さと優しさが、混乱する私の救いだった。


そんな彼が、私を真っ直ぐに見つめる。
赤い瞳に、ドキッとした。



「嫌なンだよ、俺は。
オマエみたいなヤツが化け物扱いされているのが、耐えられねェンだ」


「…………っ」


「普通に暮らして、友人と駄弁って、旨い飯でも食って、時々怒って、
……そンな、日だまりの中でオマエは笑っているべきなンだよ」




710: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:32:07.26 ID:onlKvykKo





彼は、ゆっくりと私に歩み寄る。
少しだけ怖かったけど、その慈愛に満ちた目が私を気遣うようで。
警戒なんて、出来なかった。




「俺にはオマエを人間にする手段がある。だが、強制なンざしたかねェ」




近くまで来ると、怯える私に手を差し伸べた。
その白く細い手は、意外なほどしっかりしている。




「オマエが選べ。俺を信じて人間になるのかどォか、な」






彼は、神妙に問うた。
人間になりたいか、と。






711: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:33:14.46 ID:onlKvykKo




「……一つ、聞かせてください」

「……なンだ?」

「私の名前は、風斬氷華、です。……あなたの、お名前を……教えて下さい」





「……一方通行だ」




「――――、一方通行さん」





私は、噛み締めるように口にした。
心へ、刻み付けるように。





712: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/04/25(月) 00:34:21.05 ID:onlKvykKo





「一方通行さん」

「なンだ、風斬氷華」






「私をっ、……私を人間にして下さいっ!」






いつの間にか私は、涙ながらに懇願していた。


そんな私を安心させるかのように、彼は力強く微笑む。
その笑顔はあまりに綺麗で、私は未来永劫忘れられないと思う。




「あァ、わかった。俺がオマエの幻想(ユメ)を実現してやる」





一方通行、
私のヒーロー。
彼に、手を伸ばし――――






719: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:51:36.59 ID:SF7Gj6uAo
――――








「ひょうかっひょうかっ……!」




インデックスは、泣きながら消えてしまった親友の名を呼び。
涙の雫は、冷えきったアスファルトを濡らす。


「インデックス……」

「…………」


上条に、かける言葉はなかった。
前も風斬を病室に招き入れた後いつの間にかいなくなっていたが、
二度も目の前で消えてしまったインデックスはどれだけ辛かっただろうか。

友だちとの別れに、いつまでも慣れることはなく。
こういうものだと納得するしかなかった。


「……大丈夫か?」

「……うん」


涙の跡が痛々しい。
それでも、舞う雪が彼女を癒す。
白い雪は、白い彼女を慰めるように抱き締めていた。



720: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:53:23.18 ID:SF7Gj6uAo






「……え?」






雪に感じる温もりは、気配は、どこかで感じた――――





「なっ……」




だが、驚きはそれだけではない。
二人の目の前に現れた謎の発光体。







「風斬っ……!?」

「ひょうかっ!」


風斬氷華が、雪とともに降り立つ。
その様は、まるでお伽噺に出てくる天使のように美しい。





721: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:54:22.15 ID:SF7Gj6uAo



そんな彼女に、インデックスは思い切り抱きつく。
困ったように、恥ずかしそうに笑う風斬は嬉しそうで。
先ほどの悲劇が嘘のようだった。



「ひょうか、人間になったんだねっ!」

「うんっ!」



微笑ましい二人の少女を眺める上条は、嬉しさとともに、少しだけ悔しさを滲ませた。



「この雪のおかげ、か?」

「これは雪じゃないよ。あくせられーたなんだよっ!」

「――――そう、なのか」



722: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:55:03.66 ID:SF7Gj6uAo


彼もなんとなくわかっていたらしい。
右手が、虚空を掴んだ。






「……本当にスゲーよ、一方通行。お前が、お前こそがヒーローだ」





完敗だな、そう言い彼は笑った。
他の二人も、笑う。





723: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:55:42.89 ID:SF7Gj6uAo


インデックスは、空を見上げた。
そこに、見えるはずのない翼を幻視する。






「――――『竜王の涙(ドラゴンダスト)』、悲劇を奇跡に変える欠片」





囁きは、風に消えていく――――






「あくせられーたは、みんなのことが大好きなんだねっ」







724: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:56:47.73 ID:SF7Gj6uAo





――――学園都市はこの日、白い奇跡に染められた。





「先生っっ!! 患者たちが――」

「こちらもですっっ!! 皆、謎の治癒を――」

「今行くよ? 大忙しだね、嬉しい悲鳴というやつかな?」

「……ミサカも手伝いましょうか、とミサカは復帰したばかりのローテンションで尋ねます」

「君は回復したばかりだろう? ゆっくり休むべきだよ」

「そうですか……しかしこの現象は、とミサカはちょっと興奮気味に唸ります」

「……さあね?
きっと優しい、優しいサンタさんからのクリスマスプレゼント、じゃないかな?」

「……そう、かもしれませんね、とミサカは昨夜を思い出しつつ頷きます」

「では、僕は行くよ? 患者たちが待っているからね?」

「はい――――、




…………あなたは、本当に強くて暖かくて優しいのですね、とミサカは誰もいない部屋で呟きます」





725: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:57:31.38 ID:SF7Gj6uAo






――――雪は降り続ける。







「ホワイトクリスマス……ですわね」

「そう――ね」

「雪が降る予定はありませんでしたけど」

「この雪、不思議と冷たくないわね……?」

「傘が必要ないのは助かりますわ。なんだか疲れが取れていくような気もしますの」

「……私も」

「……んっんっ、お姉様は類人えゴフッゴフン……あの方とお過ごしにならないのですか?」

「……別に、会ったら過ごそうかなって、その程度のもんよ」

「では、私めと二人で――――」

「黒子は風紀委員で何かあるんじゃないの?」

「い、いえっ! お姉様に時間があるなら、いやむしろなくてもお付き合いして下さいまし!」

「いや、なかったら付き合えないじゃない」

「お、お、お、お姉様、ふ、ふ、ふ、二人で熱い夜をおおおおおおおおっっっ!!!」

「ちょちょぉっと黒子ぉッ!?」



726: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:58:07.03 ID:SF7Gj6uAo






――――人々を癒すように、包み込むように。






「……はまづら、これ」

「ん? おおぅ、雪か。予報じゃ曇りだったけどなぁ」

「…………」

「……どうした滝壺。もしかして絹旗のことか?」

「――――それも、ある。大丈夫かな、きぬはた」

「雪は大丈夫だと思うけど……裏の仕事は心配だな」

「うん……そうだ、はまづら、やっぱり何か店でも開かない?」

「ああ、例の話か。アイツを店員に呼ぶのもいいな」

「きぬはただって、きっと居場所はあるよ」

「そうだな――――」




727: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:58:42.44 ID:SF7Gj6uAo






――――それは、愛の結晶。






「ありがとうじゃん。杉谷さん、だっけ?」

「俺は頼まれただけだ」

「…………これは」

「ん…………雪、か?」

「…………違うじゃん、これはあいつの精一杯の好意、ってとこじゃん?」

「そうね……この雪、まるであの時の――ふふっ」

「……はぁ、さすが奥様方だ」

「まあね。私たちは彼の、彼らの帰る場所だもの」

「――――なるほど」

「……あ、来たっ! おーーい」




728: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 22:59:14.85 ID:SF7Gj6uAo




学園都市のクリスマスは、彼の涙に愛されて。
幻想は幻想ではなくなり、悲劇は奇跡に救われる。




人々は奇跡に酔い、クリスマスは笑顔で溢れていた。




これこそ、一方通行の幻想。
世界は、幻想の中へ溶けていくのだった。






729: 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI 2011/05/26(木) 23:05:14.03 ID:SF7Gj6uAo







……うん、実はこれで終わりなんだ。
終わらせたくなかったんだけ、
いわゆるピーターパン症候群かな。



間あき過ぎて、読んで下さった方は少ないと思いますが、
もし読んで下さった方には有難うと言いたいです。

エピローグ……というより続きは、難しいですね。
ちょっと考えてあるけども、もはや書けなくなってしまいました。


また違う形で会うことになると思います。


辛口でもいいので批評下さると助かります。
それでは、一旦終わります。

有難うございました。