一方通行「そンな実験で絶対能力者になれるわけねェだろ」前編
462: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:49:30.07 ID:tuTw9TiRo
(目の前にいるのは垣根だ、目の前にいるのは垣根だ、目の前にいるのは垣根だ……)
目の前の人物が垣根である事を頭に刷り込もうと、一方通行は必死で自分に言い聞かせる。
頭では既に理解出来ているのだ。しかし、心が理解してくれない。目の前の人物を直視できない。
「……ホントにどうしたんだ?」
ふと顔を上げると、垣根は心配そうな目でこちらを見つめている。
一方通行はやはりその顔を直視する事が出来ず、プイと顔を逸らした。
喫茶店の窓からは行き交う無数の通行人の姿を確認する事ができる。
あの通行人の中に自分と同じく正常な、或いは狂った人間はいるのだろうか?
それとも、やはり皆一様に狂ってしまっているのだろうか?
窓の外を睨みつけながらそんな事を考え、何とか目の前の人間から気を逸らそうとする。
そのような風に別の思考に集中しなければ、込み上げて来るとある衝動を抑えきれないのだ。
「おい一方通行、聞いてんのか?」
(こいつは垣根だ、こいつは垣根だ……)
身を乗り出し一方通行の視界に入ってくる垣根を前に、一方通行はまるで呪詛のように頭の中で呟く。
さて、話は変わるがここしばらく御坂に監視されている一方通行は、妹達への告白は勿論、
運命の人と巡り合う機会すらほとんど与えられていない。
毎日のようにこなしていた、半ば儀式と化していた二つの行動を突如禁じられた彼は、
それにより猛烈な欲求不満状態に陥っていた。例えるなら早熟な中学生男子の禁欲三日目といったところか。
多少の余裕はあるが目の前に獲物があれば暴発する危険もある、そんな状態の彼に今回の事件は起きてしまった。
今、彼の目の前にいる垣根は
(こいつは垣根だ、だから……)
垣根帝督の、その姿は
(だから、間違ってもコイツに告白する訳にはいかねェンだよォォォォ!!!!)
何とも間の悪い事に、妹達のそれへと変化していたのだ。
しかし一方通行以外の人間から見れば、彼は見も心も垣根帝督のままなのである。
もし告白などしてしまったらどうなる事か……
『生殺し』これほど今の状況を的確に表す言葉は他にあるまい。
「おーい?」
「近寄ンな!!」
「何でだ!?」
「おはようございます一方通行、とミサカは部屋から出てきた一方通行に挨拶をします」
「……は?」
欠伸をしながら部屋から出た一方通行を出迎えたのは、まるで妹達のような口調で喋る天井亜雄であった。
先に説明した通り、御使堕としの影響で天井の身体に妹達の誰かの魂が入っているのだが、
当然この時の一方通行はそのような事知る由も無い。
妙な口調で挨拶してきた天井に、ぽかんと口を開け、ただ呆然とするだけだ。
「どうしたんです?そんなマヌケな顔をして、とミサカは寝起きでボケている一方通行をクスクスと笑います」
「えェ、いやいや、え?何言ってンだ?」
「何って挨拶ですが……本当にボケてるんですか?顔でも洗ってきては?とミサカは笑いながら洗面所を指差します」
天井の姿をした個体は呆けている様子の一方通行をさも面白そうにクスクスと笑うが、
当の一方通行の頭は混乱を深めるばかりだ。眠気など疾うに覚めてしまったが、思考が全く追いつかない。
「何故天井がこのような喋り方をしているのか」、わからないながらも何だか馬鹿にされているような気がし、
彼の胸には徐々に怒りがこみ上げてきた。
「おいおいおい、朝っぱらからふざけてンのかオマエ?」
「へ?」
「なァンでそンな喋り方してるンですかァ?馬鹿にしてンのかコラ」
「え、だってこの喋り方ミサカのアイデンティティの一つですし……
とミサカは今更喋り方につっこみを入れてきた一方通行に首を傾げます」
その個体からすれば何を言っているのかわからないのは一方通行の方である。
これもまた先に説明したが、術の影響下にある彼女は自分の変化に気付けないのだ。
鏡を見ようと写真を見ようと、彼女の目には自分は元の姿にしか映らず、
よって彼女にとって今の状況は『何だか寝ボケて機嫌の悪い一方通行が
今更妹達の喋り方に文句をつけてきた』というモノに他ならない。
「はァァ?つーか何ミサカミサカ言ってンだよオマエ」
「え、何?一人称まで変えろと?ちょっと横暴過ぎやしませんか?
とミサカはやけに不機嫌な様子の一方通行から後ずさりして距離を取ります」
「だからやめろつってンだよ!!妹達を侮辱してンのかァ!?」
一方通行にとって、妹達とは告白すべき運命の対象であり、己を絶対能力者に引き上げるために必要な、
ある意味神聖視すらしている存在である。その彼女達の口調を冴えない中年研究員が真似するなど許される事ではない。
一方通行はピキピキと額に青筋を浮かべ、目の前のおっさんにきついお灸の一つでも据えてやろうか、と空気を圧縮し始める。
その様子を、彼の目の前にいる天井の姿をした個体は心底訳がわからない、と言う顔で見つめた。
「いや侮辱とか本当に意味わからないんですが……と言うか実験開始するつもりですか?
とミサカは突如空気を圧縮してプラズマ火球を作り始めた一方通行に冷静に尋ねます」
「まァだやめねェのか!!マジでいい加減にしろよ天井くゥゥゥン!?」
「天井?天井亜雄の事ですか?はて、何処に彼がいるのでしょう?とミサカは周囲を窺います」
「おちょくってンだな?そォなンだな!?良い度胸じゃねェかァァァァ!!!」
「……ひょっとして、このミサカの事を言っているのでしょうか、とミサカは思い至ります」
「テメエ以外に誰がいるってンだ!!マジでいい加減にしとけよ!!」
「いや、いやいやいや、ちょっと寝ぼけ過ぎだろお前、とミサカはガックリと項垂れます」
「……あ?」
「このミサカのプリティな姿をよりによって天井亜雄と見間違えるだなんて……
腐ったのは目ですか?頭ですか?元からですか?とミサカは割りとリアルに心配します」
「あ、あァ?え?」
「マジで顔洗って来い、それか病院行け、とミサカは狂った一方通行に選択肢を提示してみます
ちなみに個人的には後者がお勧めです、そんで出て来んな」
「え、ちょっと待て、は?……いやいや、えェ?」
「それではこのミサカも暇ではないのでこれで失礼します、お大事に
とミサカは何やら混乱している一方通行に手を振り別れを告げます」
「お、おォ……え?何だこれ?」
天井の姿をした個体が去っていった後、一方通行は部屋へと引き返し一人頭を抱えた。ちなみに顔も洗った。
喋るテンポや調子、その身振りから察するに、先程の天井は確かに本物の妹達のようにも感じられた。
口調は真似出来ても喋る内容や独特の間の取り方までは真似出来まい。
しかしあの姿は、声は、間違いなく天井亜雄のモノであり、その事実が一方通行の混乱を最高潮導いていた。
(マジで寝ボケてたのか、それとも天井の演技にまンまと騙されたのか……
つーか天井があンな事するメリットもねェよな、てことはやっぱ寝ボケてたのかァ?)
マトモに働いてくれない頭で何とか導き出した答えは、
自分が寝ボケていたという事にして流してしまおう、という何ともお粗末なモノであった。
いくらなんでも妹達と天井を見間違えるなど本来在り得ないはずなのだが、
魔術の事など欠片も知らない彼にはそれ以外に納得できるような回答は見つからない。
半ば現実逃避ともいえる答えだと言うことはわかっているが、彼はそれに無理矢理納得しながら、
二度寝でもして気を紛らわせようと布団に潜り込もんだ。
(あァそォか、これ全部夢って可能性もあンだな……早く目ェ覚まさねェと……)
あの始まりの日 強がってた~♪
(あン?携帯が……メールか?)
布団の中で現実逃避に現実逃避を重ね、小一時間うつらうつらとしていた一方通行は、
鳴り響いた携帯電話に無理矢理覚醒を強いられる。
どうでもいいが、いい加減ギャルゲーのテーマを着信音にするのは止めていただきたい。
(垣根から……ン?あァ!!)
メールの送り主はやはり彼の友人である垣根帝督であり、
というか一方通行にメールを送ってくる人間など彼くらいしかいないのだが
そのメールにはたった一言『まだ来ねえのか』とだけ書かれていた。
(やっべェ忘れてた!)
そう、今日は垣根と会う約束をしていたのだ。先の騒動ですっかりそれを忘れていた一方通行は慌てて時間を確認し、
既に待ち合わせ時間を10分ほど過ぎている事を確認すると、謝罪のメールを一本垣根に送り、
すぐさま研究所から飛び出した。その間、誰にも遭遇しなかったのは彼にとって幸運と言えただろう。
―とある喫茶店
(えっとォ……?)
能力を全開で使用し、凄まじいスピードで待ち合わせ場所である喫茶店に到着した一方通行は
キョロキョロと店内を見回し、先に来ているはずの垣根の姿を探す。
しかし、それ程広くない店内の何処を探しても彼の姿は見当たらない。
怒って帰ってしまったのか、と心配するが、謝罪のメールも入れた事だし、それ程心の狭い男でもないはずである。
それでは待ち合わせ場所を間違えたか、とも思ってみたが、彼らが会うときは
基本的にこの喫茶店に集合するように決めているので、その可能性も低い。
(あっれェ?いねェぞおい、電話でもして……)
「おい何やってんだよ、こっちだこっち」
「……はァ?」
窓際の席から不意に声を掛けられ、そちらを振り向いた一方通行は、
そこに座っていた、自分に声をかけてきた人物の姿を確認すると呆けたような声を漏らした。
彼の視線の先で、基本的に無表情なはずの妹達の一人がにこやかに手招きしているのだから、それも仕方あるまい。
「早く来いって、迷惑だろ突っ立ってたら」
「お、おい!」
ぼんやりするばかりでいつまで経っても席に座ろうとしない一方通行に業を煮やしたその個体は
眉を八の字にしながら彼に駆け寄ると「店の迷惑になるから」と無理矢理彼を席に押し込んだ。
「遅刻はするわ、ボサっと立ち尽くすわ、どうしたんだ?寝ボケてんのか?」
「え、は、……え?」
首を傾げながら不審そうな目付きで睨んでくるその個体を前に、
一方通行の思考は再び混乱の坩堝に叩き落とされそうになる。
しかし腐っても鯛、童 でも第一位である。呆けた声を出し困惑しながらも、
彼の明晰な頭脳はこのような状況でも正常にこれまで起こった事象を解析し、とある仮説を立て始めていた。
(俺は垣根とここで待ち合わせをしていた。だが待ち合わせ場所に垣根はおらず、何故か妹達の一人がいた)
(目の前にいるのは間違いなく妹達だ、オリジナルの方じゃねェ、ゴーグルも付けてるし目に生気がねェからな)
(つまりこれは超電磁砲が監視の一環として垣根の振りをしてるってわけじゃねェって事だ)
(とにかく、コイツはまるで男みたいな、垣根みたいな喋り方で俺に話しかけてきて、
俺の反射を越えて俺を強制的に座席に押し込ンだ)
(そう、俺の反射を越えた。そンな真似が出来るのは今ン所垣根のワケわかンねェ能力だけだ)
(そして今朝、俺は似たような現象を目にしてる。天井の姿をしながら、まるで妹達のように振舞う何かを……)
(つまり、目の前にいるコイツは妹達の姿をしちゃいるが……)
「……オマエは垣根だな?」
「当たり前だろ、何言ってんだオマエ」
一方通行の頭の中など全く知らない垣根は、当然の事を尋ねてきた彼にますます不審の目を向ける。
コイツ本当に頭おかしくなったんじゃないか、とリアルな心配をし始めレベルである。
しかし仮説を組み立てる事に集中している一方通行はそんな視線など意に介している暇はない。
(ビンゴだ、やっぱり目の前のコイツは垣根に間違いねェ)
(つーことは今朝の天井も本当に妹達だったンだろォな)
「おい垣根、オマエ起きてから鏡見たか?」
「あ?さっきもトイレで見てきたが……ひょっとして寝癖でも立ってるか?」
「いや、立ってねェよ気にすンな」
「はぁ?」
(鏡を見ても自分の姿に疑問を持たねェって事もわかった)
(結論、身体と精神が入れ替わっちまって、しかも入れ替わった当人達はそれに気付かねェってとこか)
(意味がわかンねェ、何だそりゃ……やっぱ夢でも見てンのか?)
(つーか友人の格好が運命の女性の姿になるって、それ何て●●●だよ)
第一位の頭脳は、少ない情報から素早く正解を導き出す事に成功する。
今朝天井の姿をした妹達に出会えた事は幸運だった。あの一悶着が無く、
何の情報も持たずに今の垣根に遭遇していたら、恐らく散々に取り乱していたに違いない。
どうでもいいが、散々こっぴどく振られておきながら未だ妹達を運命の女性と言い切るのも流石は第一位だと言えよう。
(とにかく厄介な状況だなァ、これじゃ説明しても理解は得られねェだろォし……)
(そもそも何でこンな事になってンだ?どのくらいの範囲でこれが起きてンだ?俺の周りだけなのか?……ン?)
ふと、喫茶店に設置されているテレビの映像が目に入り、一方通行はそちらを注視する。
流れているのはごく普通のニュースのようで、キャスターがこの先一週間の天気予報などを告げている。
しかし問題はそのキャスターの姿で、どう見ても10歳以下のピンク色の髪をした幼女が、淡々と文章を読み上げているのだ。
まるでママゴトのようで微笑ましくもあるが、このニュースは全国ネットで流れているお堅い番組である。
幼女がキャスターに扮して遊んでいる姿など流すはずが無いのだ。
(……なるほど、相当広範囲に広がってるらしいなァ)
(ンで、垣根はどォやらあの幼女なキャスターに何の疑問も抱いて無さそォだ)
(入れ替わってるヤツは他人の入れ替わりにも気付かねェってワケか……本当に厄介極まりねェな)
(つーか待て、周囲の誰もニュースに疑問を持ってねェって事は俺以外全員が入れ替わってるって事か?)
(じゃァ何故俺だけ入れ替わらなかった?他のヤツに無くて俺にはあるモノ……反射の膜か)
(……超広範囲に、肉体と精神が入れ替わる超能力が使用された、とかそンな感じなのか……?)
超能力と魔術と言う違いはあるが一方通行の導き出した結論はほとんど正解していた。
問題の解決策は全く思いつかないが、それでもどういう事が起きているのかある程度理解出来たというのは大きい。
彼は徐々にではあるが平静を取り戻し始め、垣根と談笑出来る程度にまでは回復する事ができた。
しかしここで新たな問題が発生する。余裕を持って談笑すると言う事は、すなわち目の前の垣根と、
妹達の姿を、声をした垣根と正面から向き合うと言う事に他ならない。
「それでその時にだな……ん、おい聞いてるか?」
「あ、あァ(やべェ……)」
妹達の姿をした垣根は、コロコロと表情を変えながら楽しそうに自分と会話をしてくれている。
基本的に感情を顔に出さない妹達の様々な表情を見るのが初めてなら、妹達とこれほど親しく会話をするのも初めてである。
加えて、既に書いたように今現在の一方通行は女性との触れ合いにかなり飢えている。
結果、中の人が垣根であるという事は理解しつつも、それでも彼は、目の前の妹達の姿をした男に徐々に惹かれつつあった。
(これ以上コイツの顔を見るのはやべェ……)
「お、おいどうした?」
これ以上今の垣根と会話するのはマズイと判断した一方通行は、彼から目を反らし、耳を塞ぎ、
ついには頭を抱えて蹲ってしまう。そして舞台は冒頭へと続いていく。
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―――――――――
――――
「近寄ンな!!」
「何でだ!?」
時間は元に戻る。俯いてブツブツ言っていた一方通行を心配して身を乗り出した垣根は
猛烈な勢いで拒絶された事に驚き戸惑いを隠せないでいた。
数ヶ月程度の付き合いではあるが、同年代の友人などいなかった彼らは短い期間でかなり親密な関係を築いていた。
にも関わらずここに来て一方的な拒否、事情を知らない垣根が戸惑うのも無理は無いだろう。
そして一方通行の方もまた、垣根を意識し始めている自分に困惑していた。
状況を分析する事で持ち直しかけていた彼の理性は決壊寸前まで追い込まれ、そして――
(……あれ、これもォ運命でいいンじゃねェか?)
何かもう思いっきりダメな方向へ道を踏み外そうとしていた。
「垣根……」
「あ……ッ!?」
ようやく顔を上げた一方通行と目を合わせ、垣根は言葉を失う。
薄笑いを貼り付けた一方通行の顔は、目は、ゾッとするほど冷たく、恐ろしかった。
暗部で地獄のような日常を送って来た垣根ですら吐き気を催すような凄まじい悪寒の中、
二人はしばし無言で睨みあう。気付いてみれば、いつの間にか喫茶店には彼ら二人だけになっていた。
圧迫感に耐え切れず、皆逃げ出してしまったのだろう。
「垣根ェ……」
「な、何だ?」
気圧されながらも逃げ出さず一方通行の呼びかけに答える垣根は友人の鑑と言えよう。
しかし彼は逃げ出すべきだった。逃げ出して欲しかった。ホント逃げてください。
「……『一発だけなら誤射かも知れない』って言葉知ってっかァ?」
「何が!?」
「なァ、垣根ェェェェ!!!」
「お、おぉぉぉ!?」
叫びながら、一方通行はガバっと立ち上がる。過去最大級の身の危険を感じた垣根は瞬時に未元物質の翼を展開、
己の身を守る為にその身体を翼で覆った。しかし残念ながらそれは逆効果だ。
一方通行の目には、能力を展開した状態の今の垣根は、天使のような純白の翼を生やした妹達にしか映らない。
「おおおォォォォォォ!!!!」
それは歓喜、それは狂喜、それは嘆き。一方通行は人とは思えないような叫び声を上げると、
右拳を天高く突き上げ狂気染みた笑顔を浮かべながら、限界まで見開かれた瞳でギョロリと垣根を睨み付ける。
「垣根ェェェェェェ!!!!」
(やられる!?)
て言うかヤられる。咄嗟に距離を取った垣根の前で、突き上げられた一方通行の拳が唸りを上げて振り下ろされた。
「おぶあァァァァ!!!」
「……あぁ?」
一方通行自身の顔面に。最後の最後、僅かに残っていた理性が打ち勝った瞬間である。
自分で自分の顔面を全力で殴りつけた一方通行は喫茶店の椅子や机をなぎ倒しながら派手に吹き飛ぶと、
そのまま床に崩れ落ち、ダクダクと致死量を越え兼ねない量の血を流し始めた。
「あ、一方通行……?」
「」
「おい一方通行!?」
「……あ、あァ」
垣根の呼びかけに、一方通行は息も絶え絶えといった様子で何とか起き上がり、軽く手を振る。
殺されかけた(?)にも関わらず、警戒しながらではあるが、一方通行の心配をする垣根は本当にいい人である。
童 なのが不思議なくらいだ。
「ホントにどうしたんだよオマエ……」
「……すまねェ、ちょっとトイレ行ってくる」
「お、おぉ」
起き上がった一方通行は垣根の問いには答えず、フラフラと覚束ない足取りでトイレへと向かって行き、
垣根は本当に心の底から困惑した表情でそれを見送った。
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―――――――――
――――
「心配かけたなァ、もォ大丈夫だ……」
数分が経ち、学園都市の第一位は青ざめた表情で、若干前屈みになりながら、
ヨチヨチと生まれたての小鹿のような足取りでトイレから出てきた。
何があったのかはわからないが、傍目にはどう見ても悪化している。
「……何かさっきより顔色悪くなってるけど大丈夫か?」
「あァ、気にすンな……ちょっと聞き分けのねェ馬鹿●●●を足腰立たなくしてやっただけだ」
「……」
彼の名誉の為に言っておくが、断じて一人遊びをしたわけではない。
トイレに駆け込んだ彼は、垣根にまで反応する見境無い馬鹿●●●に鉄拳制裁を加えただけであり、
決して上下運動をしたわけではない。
ちょっと加減を間違えて本当にしばらくは●●そうに無いが、何にせよ元は断ったので、
これでようやく平常心のまま妹達の姿をした垣根と話せるわけだ。
「とにかく、これでもォ心配ねェ、俺は完璧に正気に戻った」
「あんまり信用出来ねぇが……まぁオマエがおかしいのは今に始まった事じゃねぇしな」
「そうね、こいつの奇行を一々気にしてたら身が持たないわよ」
「……出たな残念なガキ」
「誰が残念だゴラアアアア!!!」
(残念なガキ……これが超電磁砲だってのかァ……?)
いつもの如く突如沸いて出た御坂に、垣根は溜息混じりに暴言を吐きつけた。
それに激怒した御坂が電撃を飛ばし、垣根は笑いながらそれを無効化する。
ここ最近の日常と化していた光景であり、普段は御坂の可愛らしい姿も相まって中々微笑ましいのだが、
今の一方通行の目に映る光景は違う。御坂も例に漏れずその姿が変わっており、
外見だけが取り得だった(一方通行談)彼女は今や、短い茶髪に鼻ピアス、
ジャージの上着に、下はジーパンといった出で立ちの、やられ役のチンピラのような姿に成り果てていた。
(いくら当人達が気付かないとはいえこれはあンまりだろ……)
取り得がなくなってしまった御坂と、対照的にやけに可愛らしくなっている垣根、
二人のやり取りを冷めた目で眺めながら、一方通行は静かに涙を流した。
その涙は可愛らしさの欠片も無くなってしまった可哀相な御坂に対するモノなのか、
それとも今後チンピラのような姿をした彼女に監視されなければならない自分の境遇を思っての涙なのか、
或いはその両方なのか、それは彼自身にも判別できなかった。
「え、ちょっと一方通行、何泣いてるのよ?気持ち悪いわよ」
「やっぱりどっか調子悪いのかオマエ?」
「……あァ、ちょっと腹が痛ェだけだ、気にすンな」
「腹痛で泣くって……あんたは幼児か!」
「何だったら未元物質で薬作ってやろうか?上手くいく保障はねぇけどな」
「流石に遠慮しとくわ、それにもォ大丈夫だ」
「ならいいけどな、勝手にくたばるなよ?」
(クソが、 欲はブチコロシたはずなのに垣根が天使に見えてくるぜ……
つーか超電磁砲はあの顔じゃなかったら一挙一動がこんなにムカつくんだな)
顔が良いというのは総じて得である。御坂がこれまで一方通行に危害を加えられなかったのは、
妹達との約束もあるが、顔が可愛かったから、というのも大きな理由の一つだろう。
そして今やその可愛さは欠片も無い。果たして色々とキレている今日の一方通行が、
妹達との約束という一つの理由だけで何処まで耐え切れるだろうか。
「ねぇ、あんたのその変な能力って薬が作れるの?」
「さぁな、やった事ねぇからわからねぇが……まぁ何とかなるんじゃねぇか」
「ふーん、じゃぁ『馬鹿に付ける薬』でも作って二人で塗りたくったら?」
「……オマエやっぱ一回張り倒しといた方がよさそうだな」
「私に手を出したら一方通行が黙ってないわよ?ねぇ、一方通……行……?」
にやにや笑いを浮かべながらいつもの様に一方通行を盾にしようとし、彼の方を振り向いた御坂は絶句する。
視線の先の一方通行はギチギチと音がなるほど強く歯を噛み締め、
全身の血管を青筋の如く浮かび上がらせ、目から真っ赤な血を流しながら
チンピラの姿をした彼女を睨みつけていた。彼は、必死に耐えているのである。
「あ、一方……通行……?」
「……なァ超電磁砲」
「は、はい」
「今日はちょっとマジで自重してくれ、トビそォなンだ……」
静かに、感情を押し殺して、しかし有無を言わさぬ強い口調で一方通行は御坂に通告する。
御坂の方もこの只ならぬ雰囲気を察知できぬほど残念なわけではなく、しばし何か言いたげに逡巡していたが、
やがて黙っているのが得策だと判断すると、頬を膨らませながらも無言で肩を落とした。
彼女が可愛らしい容姿のままならば見ている方が胸が痛くなりそうなシーンだが、
残念ながら今の彼女の姿はその辺にいそうなチンピラである。
「おい一方通行、ガキ相手にマジになるなよ。やっぱ変だぞオマエ」
「いや、あんたも私を張り倒そうとしてたでしょ」
「マジでやろうなんて思っちゃいねぇよお嬢ちゃん」
「本当にぃ?」
「あ、やっぱムカつくなオマエ」
垣根と御坂の掛け合いを尻目に、一方通行は何とか落ち着こうと深呼吸を繰り返していた。
そもそも姿の変わった垣根の相手だけで手一杯だったのである。そこに更にふざけた姿の御坂まで乱入してきたのだから、
いい加減一方通行の理性がトンで頭が狂ってしまいそうになるのも無理もない。
だが第一位の頭脳はギリギリの所で今の状況を上手く処理し始めていた。
胸に手をあて、更に深呼吸を繰り返す。垣根の姿はほぼ克服できた。
御坂の姿にも徐々にではあるが慣れてきている。もう少し、もう少しこのまま時間を稼げば
いつも通りのやり取りが出来るようになるだろう。このまま、邪魔さえ入らなければ――
「ジャッジメントですの!」
(ちくしょォォォォォォ!!!)
響いてきた野太い声に、一方通行の脳漿は焼き切れんばかりに混乱する。
突如三人の目の前に空間移動で現れたその人間は、能力や決め台詞から察するに
先日一方通行に絡んだ(絡まれた)白井黒子という少女に間違いないだろう。
しかし、その姿は少女と呼ぶには余りにもかけ離れていた。
可憐な少女のように髪を掻き揚げる仕草、しかしそれとは裏腹に、今の白井は
まるでゴリラのような筋骨隆々な身体に、アクの強い洋ゲーに出てくる悪役のような顔をしている。
あまりのギャップに、一方通行はもう限界だった。脳だけでなく意識とか腹筋とかが。
「あれ、黒子じゃない、どうしたの?」
「第三位の知り合いか?ジャッジメント?」
「あらお姉様なぜこちらに?実は先程この喫茶店内から爆発音が響いてきたと通報がありまして……」
当然、一方通行以外の目からは彼女もまた普段通り、ツインテールの美少女にしか見えない。
そのため、垣根と御坂、白井の三人はごく普通に会話を始める。
しかし一方通行の目にそれは、筋肉モリモリのゴツいおっさんが茶髪のチンピラをお姉様と呼び擦り寄る、
というこの世の物とは思えないおぞましい光景に映っていた。
耐え切れなくなった一方通行は白井から身を隠すように頭を抱えその場に蹲る。
「爆発音……あぁ、さっき一方通行が自分をブン殴った時のあれか」
「自分をぶん殴ったって、何やってんのよ……」
「一方通行って……だ、第一位様もここに!?」
「うん、そっちで蹲ってるわよ」
「……」
「あ、そいつ何か今日は様子がおかしいから近寄らないほうがいいぞお嬢ちゃん」
「そ、そうなんですの……?」
垣根に引きとめられ、一方通行に挨拶の一つでもしようとしていた白井は慌てて彼から距離を取る。
もし間近で白井の姿を見てしまったら本当に限界を迎えていたかもしれない一方通行は、
蹲ったまま密かに垣根に感謝した。
「そ、それでそちらの殿方さん、爆発音は第一位様の自傷行為ということですが、事情をお聞かせ願えますの?」
「それは構わねぇが、そんなつまらねぇ話よりも、もっとお互いの事を話さねぇか?」
「ふぇ!?」
「ちょっと!私の後輩に手ぇ出そうとしないでよ!!」
垣根は早速目の前に現れた少女を口説き始める。こいつもう運命とかどうでも良いんじゃね?
お嬢様学校に通っているためあまり男に免疫がなく、ここまで直球で口説かれた経験など初めてな白井は
顔を赤くし、くねくねと身をよじりながら困った素振りを見せている。
想像して頂きたい。生気の無い目をした美少女の前でくねくねと蠢くゴリラのようにマッチョなおっさんの姿を。
一方通行が見ているのはそういう世界である。あなたはこれに耐え切る自信があるだろうか?
「おっと、ここにはうるさいガキがいるから外行こうか」
「ちょっと!うるさいガキって誰の事よ!?」
「オマエだよオマエ!この残念ストーカーが!」
「誰がストーカーだああああ!!!」
「そ、そうですの!お姉様を侮辱しないでくださいまし!」
「ハッ、お姉様の事なんてすぐに忘れさせてやるよ」
「あっ……」
笑いながら、垣根は白井の肩に手を掛け外に連れ出そうとする。御坂が電撃を放ち止めようとするが、
そんなものは当然通用しない。白井も流石に強引過ぎる垣根から逃げ出そうとするが、
ガッチリとホールドされているため離れる事が出来ず、また能力で逃げ出そうにも、
すでにその空間には垣根の未元物質が混ぜ込まれており、満足に空間移動の演算をする事ができない。
「一方通行!黒子が、黒子が連れて行かれちゃう!」
「……あァ?」
打つ手に窮した御坂は縋る思いで蹲ったままの一方通行に駆け寄る。
半ば思考停止の状態に陥りながらも何とか顔を上げた彼の目に入ったのは
不安そうな顔をしている茶髪のチンピラ(御坂)、
そしてべったりとくっついている妹達(垣根)とゴリラのようなおっさん(白井)。
「おおォォォォ!!!」
叫び声を上げ、一方通行は垣根と白井の元へ突進する。
頭では、妹達の姿をした垣根がゴリラのような姿の白井を口説き一方的にくっついていると言うことはわかっている。
白井には何の罪も無いと言うことも承知している。彼女は被害者だ、彼女は犠牲者だ、彼女はかわいそうな少女だ。
しかしどれだけ頭で理解しても、心が、身体が、状況の理解を拒絶する。
もはや彼の目にはゴリラのようなおっさんが無理矢理妹達に迫っているようにしか映っていなかった。
「こンのパンダがァァァァァ!!!!」
「ぶふええぇぇええぇ!?」
突き出された一方通行の右拳は的確に白井の頬を捉え、哀れ彼女はきりもみ回転をしながら星になった。
後に残ったのは息を荒げながらも頭を抱え蹲る一方通行と、何が起きたのか全く理解できない垣根と御坂だけである。
「……今日は帰るわ」
「お、おぉ……」
やがて、一方通行はゆっくりと立ち上がると喫茶店を後にした。
垣根も御坂も、彼の尋常ではない様子に引きとめることはおろか、白井に対する仕打ちを糾弾する事すら出来ない。
その後、研究所に戻った一方通行は誰とも会話せず、再び引き篭もり始めたと言う。
御使堕としがヒーロー達の活躍により僅か1日半というスピード解決をしなければ、学園都市は滅んでいたかもしれない。
―深夜、とある研究所の一室
一方通行「……」カタカタカタ ←PCいじってる
一方通行「……」カチカチ
一方通行「……」カチャカチャ
一方通行「……」ッターン
一方通行「わふー………ン?」
『Teitokuさんからメッセージが届きました』
Teitoku:このやろう
Accela:なンですか
Teitoku:なんですかは俺のセリフだ
Accela:意味わかンねェ
Teitoku:昨日のテメエは何だったんだよ
Accela:あーうン、ごめン
Teitoku:ごめんじゃなくて
Accela:サーセン
Teitoku:理由を説明しろ
Teitoku:何で俺の出会いの邪魔をした
Accela:色々耐えれンかった
Teitoku:何にだよ
Accela:そのうち説明するわ、まだ整理つかねェ
Teitoku:朝から様子が変だったのと関係してんのか
Accela:してるけど話せねェ
Teitoku:……別にいいけどよ、過ぎた事だし
Accela:悪ィな
Teitoku:で、本題だけどな
Accela:はい
Teitoku:リトバス返せ
Accela:だが断る
Teitoku:おい
Accela:はい
Teitoku:はいじゃないが
Accela:イヤだ
Teitoku:返せよ
Accela:わふー
Teitoku:わふーじゃねえ、会話をしろ
Accela:ぶっちゃけるとな、
Teitoku:あ?
Accela:今他人に会うのが怖ェ
Teitoku:またかよ
Accela:はい
Teitoku:それも昨日の一件が関係してんのか
Accela:してる
Teitoku:じゃあ直接取りに行ってやるから
Accela:今回はオマエに会うのも怖ェ
Teitoku:どんだけ重症だよ
Accela:もう一回オマエと対峙したら歯止めが効かなくなるかも知れねェ
Teitoku:どういうことなの
Accela:自分で自分がわからねェ
Teitoku:つーかもう電話で話さねぇ?チャットだりい
Accela:声聞くのも怖ェから電話すら出来ねェ
Teitoku:おい末期じゃねぇか、自殺とかすんなよ
Accela:善処する
Teitoku:善処かよ
Accela:そういやパンダ生きてっかな
Teitoku:パンダ?
Accela:オマエが昨日口説こうとしてたジャッジメント
Teitoku:あぁオマエが殴り飛ばした……
Accela:反省はしている
Teitoku:何でアイツがパンダなんだ?
Accela:名前が白井黒子だから
Teitoku:把握した
Accela:生きてっかな、星になってたけど
Teitoku:ニュースでさ、
Accela:うン
Teitoku:昨日未明二一学区の貯水用ダムに生きた人間が着弾、ってやってた
Accela:それっぽいな
Teitoku:生きてるみてえだな
Accela:よかった
Teitoku:よかったな
Accela:あ
Teitoku:あ?
Accela:ドア叩かれてる
Teitoku:またかよ
Accela:やばいやばいやばいやばいやばい
Teitoku:落ち着け
Accela:……じゃあな垣根、今まで楽しかったぜ
Teitoku:おい早まるな、今生の別れみたいな言い方やめろ
Teitoku:おい一方通行
Teitoku:おい
『Accelaさんがログアウトしました』
Teitoku:一方通行ァァァァァァ!!!!
―――――――――――――――
―――――――――
――――
「何なンだよ!?マジで何なンだよオマエらァァァ!!!」
「引き篭もってる場合じゃないんですよ一方通行!とミサカは涙目になっている一方通行を怒鳴りつけます」
「そう、君の力を貸してほしいのよ」
大部分が灰と瓦礫の山となった研究所の一室で三人の男女が口論をしている。
一人はこの部屋を占拠し引き篭もろうとしていた少年、一方通行
一人はこの部屋を爆撃した張本人の少女、妹達の一人。
一人はその爆撃を指示した女性、芳川桔梗。
何もかもをぶち壊されて涙目で抗議する一方通行に、二人の女性は物怖じせずに詰め寄り
「力を貸せ」と迫っている。どう見ても他人に物を頼む態度ではない。
「俺の力だァ?……いやちょっと待て、その前にオマエら本当に芳川と妹達なのか!?」
「は?何言ってるんです、当たり前じゃないですか、とミサカは突然奇妙な事を言い出した一方通行から後ずさります」
「見ての通り、正真正銘本人よ、他に誰に見えるのかしら」
一方通行の奇妙な疑問を、彼女達二人は首をかしげながらも肯定した。
彼女達は知らないが、先日一方通行は御使堕としと言う絶望的な体験をしている。
その御使堕とし自体はすぐに解決され、皆とっくに元に戻っていたのだが、
昨日研究所に戻ってすぐに部屋に篭った一方通行は、今の今まで皆が元に戻っている事を知らなかったのだ。
「よかった、本当によかった……元に戻ってよかったァ……」
(な、泣いてる……とミサカは突如涙を流し始めた一方通行にドン引きします)
(な、何があったのかしら……)
思わず安堵の涙を流す一方通行の姿に、事情を知らない二人はドン引きする。
「気持ち悪い」とはっきり口に出さないのはせめてもの優しさだろう。
一方通行が泣き止むまでの数分、彼女達は黙って彼を見つめ続けた。
「……落ち着いたかしら?」
「……すまねェ、大丈夫だ」
「なかなかいい画が撮れました、とミサカは満足しながら携帯を仕舞います」
「おい」
「それで、そろそろ話を聞いてもらえるかしら?」
「あ、あァ」
「非常事態です、妹達の上位個体が連れ攫われました、とミサカは状況を端的に伝えます」
「……上位個体だァ?」
彼女達の説明はこうだ。妹達には通称打ち止め(ラストオーダー)という上位個体が存在し、
彼女は全ての妹達に命令を下すコンソールのような役割を持っている。
本来は妹達の反乱防止の為の安全装置として、肉体精神共に未完成のまま研究所の培養機に保管されていたのだが、
「全ての妹達に命令を下すことが出来る」という上位個体の機能に目をつけたある人物が彼女を奪取、
彼女の頭に危険なウイルスコードを仕込み、彼女を連れて逃亡。
仕込まれたウイルスの起動までは二十時間程度しかない、という事らしい。
「ウイルスコード……それが起動するとどォなるンだ?」
「MNWを通じて全ての妹達にとある命令が下され、妹達は抗う術も無くその命令に従う事になります
とミサカは恐ろしい事実を淡々と述べます」
「どンな命令だ?」
「詳しくは言えないわ。けれど、妹達の尊厳を粉々に粉砕してしまうモノであることは間違いない」
「尊厳を粉々に……?」
「はい、それどころか妹達の存在にすら関わる事です、とミサカは芳川桔梗の発言に補足します」
どんなモノかはっきりとは教えて貰えないが、彼女達の悲壮な顔つきを見る限り、
どうやら本当に危険なモノなのだろう。そして妹達に様々な感情を持っている一方通行は、
当然そんな悲劇的な結末など望まない。許さない。
彼は苦虫を噛み潰したような顔で歯軋りすると、更に質問を重ねた。
「研究所に保管されてた上位個体が連れ去られたってこたァ、犯人は研究所内の人間だな?」
「……上位個体を連れ去ったのは天井亜雄です、とミサカは衝撃の真実を告げます」
「ッ!!天井だと!?」
告げられた事実に一方通行は驚愕を露にする。天井亜雄は絶対能力進化に最も積極的だった研究者の一人だ。
その彼が絶対能力進化の要である妹達にウイルスを、
それも妹達の存在に関わるほど危険なモノを仕掛けるなど、一体どういうことなのか。
「どォ言うつもりだ天井の野郎……始まってもねェ実験をぶっ壊す気か?」
「天井が何を考えているのかはわからない、けれどハッキリしている事が一つだけあるわ」
「天井亜雄と上位個体を見つけ出しウイルスコードを停止させなければ、
全ての妹達が望んでもいない、おぞましい行動を取らされる事になります、とミサカは芳川桔梗の言葉を引き継ぎます」
「どンな行動を取らされるかはやっぱり教えてくれねェのか?」
「……口に出すのも憚られるようなモノよ、特に君には伝えたくないわ」
「はい、あなたにだけは知られたくありません、とミサカは目を伏せながら答えます」
一方通行から目を反らし、二人は押し黙ってしまう。よっぽど口にしたくない内容なのだろう。
しかし二人のそんな態度は一方通行の思考のネガティブな部分を刺激し、逆に事の重大さを認識させる事となった。
「チッ、俺は何をすりゃいいンだ?」
「力を貸してくれるのね?」
「当たり前だろォが!妹達の危機に黙って引き篭もってられるわけねェだろ!!」
「正直ちょっと気持ち悪いですが今回ばかりは素直に感謝します、
とミサカは己の心情を隠しながら一方通行に頭を下げます」
「えェー……」
「ありがとう一方通行、君には天井と打ち止めの捜索をお願いしたいの」
「あ、あァ」
「私がウイルスに気付き、天井が研究所から脱走したのはほんの数十分前、まだ遠くには行ってないはずよ」
「オマエらはどォするンだ?」
「私は天井の残したデータを解析してワクチンを作るわ。妹達には既に捜索を始めてもらっているのだけど……」
「上位個体は現在MNWの接続を解除しているようで、場所の特定をする事が出来ません。
大勢の妹達による人海戦術で当たっていますが、手掛かりが無いのであまり期待は出来ないかと……
とミサカは力無い己に歯軋りします」
「それで俺の出番ってワケか」
「えぇ、君の能力はレーダーにもなるでしょう?」
「お願いします一方通行、とミサカはもう一度頭を下げます」
「そンなに不安そォな面で必死に頭下げンな、オマエらの上位個体とやらはすぐ見つけてやるからよ」
優しい言葉をかけながら、一方通行は必死な形相をしているその個体の頭をくしゃくしゃと撫でる。
が、撫でられた個体が心底嫌そうな顔をしたのでちょっと涙目になりながらすぐに手を離した。
せっかく協力しようというのにこの扱いはあんまりである。
こんな時くらい優しくしてやってもバチは当たらないだろうに。
「はァ……そンじゃ探しに行くとするかァ……」
ガックリと肩を落とし、トボトボと崩れた部屋の壁から夜の街へ消えていく。
その背中は結婚十年目にして妻の浮気が発覚したサラリーマンのように悲哀に満ちていた。
「いやぁ、中々の役者振りでしたね、とミサカは芳川桔梗を褒めちぎります」
「あら、何の事かしら?」
「天井亜雄が何を考えているのか、確信に近い予想はついているはずでしょう?
とミサカはシラを切る芳川桔梗に微笑みかけます」
「まぁ……ウイルスコードの中身を見ればね」
「どんなウイルスか一方通行に深く追求されなくて良かったですね、とミサカはほっと胸を撫で下ろします」
「そうね、どんなウイルスか彼に知られてしまったらきっと協力は得られなかったでしょうし」
「まったく天井亜雄も厄介なウイルスを作ってくれたものです、とミサカは頭を抱えます」
「後は天井が余計な事を言う前に一方通行が彼の口を封じてくれれば良いのだけど……」
「もしウイルスコードが起動を始めてしまったら、感染する前に妹達のほぼ全員が自決する準備は出来ています
とミサカは万が一の備えがある事をアピールします」
「自決って、何もそこまでしなくても……」
「だってイヤですもん、ウイルスに操られるとはいえあんな行動を取るのは……」
「……嫌われたものね、一方通行も」
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――――
「クソ!何てことだ!!」
人気の無い道に車を止め、一人の男がダッシュボードを殴りつけながら嘆きの声を上げていた。
彼の傍ら、車の助手席には十歳前後の毛布に包まった少女が寝かされてある。
研究所から脱走した天井亜雄と連れ去られた打ち止めだ。
「まさかこんなに早く気付かれるなんて……ク、どうすれば……」
天井にとって、今の状況は全て予定外だった。
芳川がウイルスの存在に気付くのが思いの他早く、起動まではまだ丸一日近い時間が必要だ。
一時間ほど前、芳川にウイルスの事を問い詰められた彼は半ば衝動的に、
何の準備も出来ないまま打ち止めだけを攫い研究所を飛び出してしまったのだ。
ウイルス起動まで後二十時間弱、何としても逃げ切らなければならない。
「せめて、せめて一方通行に事情を説明していれば……」
一方通行に事情を説明していれば、ウイルスがどのような物かを言い聞かせれば、
彼は自分に協力してくれたかもしれない。しかし今更悔やんでも遅い。
一方通行と話す時間も、余裕も、その時の彼にはありはしなかったのだから。
そして更に、天井は最悪のケースを思い浮かべる。
それは芳川らによって偏った、或いは誤った情報を与えられた一方通行が己を捕まえに来る、というケースだ。
もし一方通行が本気で捕まえに来たとしたら、逃げる事などまず不可能だろう。
彼はその気になれば学園都市中の大気の流れを演算ではじき出せるほどの化物である。
空気の振動するベクトルを逆算し、ソナーの様に何処に何があるかを把握する事すら可能なのだ。
「もし一方通行が動いているのなら、自分はすでに捕捉されているかもしれない」
そんな最悪な想像を振り払うかのように、天井は強く目を閉じ、震える拳を握り締めた。
しかし、彼の悪い予感は見事に的中してしまう。
「こォンばァンはァ」
「ヒ!?」
学園都市最強の超能力者は、光も音も無く、いつの間にか車の真正面に笑いながら立っていた。
「イヤァ、馬鹿正直に研究所から離れてった車を追いかけてみたらまさかビンゴだとはなァ
探す手間が随分省けて助かったぜェ……なァ、天井くゥン?」
「あ、一方、通行……ぐぁ!!」
天井の口が閉じきる前に一方通行の腕がフロントガラスを砕きながら迫り、彼を車の外に引き摺り出す。
放り投げられた天井はゴロゴロと転がりながら呻き声を上げるが、一方通行はそんな事露ほども気にかけず、
助手席に寝かされている打ち止めに手を伸ばしていた。
「このガキが上位個体か、まだ小せェが将来性はありそォだな……ピンチを救うって運命的だよな?」
ニヤニヤと笑いながら将来の打ち止めの姿を想像し、勝手な運命を膨らませる一方通行。
ロリコンだったらこの場で手を出していたかもしれない。危ない所であった。
「まァこのガキには将来期待するとして、さっさと帰るとするかァ」
「ま、待て一方通行!」
「あァ?」
打ち止めを抱え研究所に戻ろうとする一方通行に、何とか起き上がった天井が声をかける。
天井は焦燥しながらも笑っていた。まだ己に勝機があると考えているからだ。
今の状況は確かに良いとは言えない、しかし最悪でもない。
想定していた最悪のケースは、一方通行が問答無用で自分の口を封じるというもの。
しかし今の一方通行は自分の言葉に耳を傾けるだけの余裕がある。
それならば、このまま事情を説明できれば、逆転の目は十分すぎるほどあると言うものだ。
「一方通行、話を聞いてくれないか?」
「時間稼ぎのつもりか?往生際が悪ィぜ天井」
「ウイルスの起動まではまだ二十時間近くある、それくらいは聞いているだろ?
だったら少しくらいこっちの言葉に耳を傾けてもいいんじゃないか」
「……」
確かに、一方通行は最初に芳川達からウイルスの起動予想時間を聞いている。
そして彼女達からは聞かされなかったウイルスの内容や天井の目的も気になる所だ。
少しくらいなら彼の話を聞いてもいいのではないか、そんな甘い考えが一方通行の中で芽生え始めていた。
天井「こちらの目的もウイルスコードの中身も聞かされてないか、全くのデタラメを聞かされているんだろ?
頼む、十分、いや五分でいいから話を聞いてくれ」
一方通行「……わかった、五分だ」
天井「よし、ならすぐに説明に入る。まずは目的だが……絶対能力進化を始める為の準備だ」
一方通行「あァ?ウイルス流して妹達に妙な事させようとしてンだろ?
それがどォして実験の開始とつながるンだ?」
天井「一方通行、お前は仕込まれたウイルスがどのようなものだと聞いている?」
一方通行「……詳しくは聞いてねェよ、ただ妹達の尊厳をぶっ壊すモンだって聞かされた」
天井「尊厳を壊すとは……また随分酷い言い方されてるな」ハァ
一方通行「あ?」
天井「いいか一方通行、このウイルスコードの中身は……このウイルスが起動すれば!」
天井「全ての妹達がお前に好意を持つようになるんだ!!」バァーン
一方通行「な、なン……だとォ……」
天井「二万の妹達の全てがお前の望むように動く!何もかもが思いのままだ!」
一方通行「つまり、童 も……」
天井「捨て放題だ!」
一方通行「なンてこった、そンなウイルスだったのか……」
天井「絶対能力進化を始める為の準備だ、と言ったのがわかっただろう?
このウイルスにより妹達はお前に好意を持つ、そしてお前は適当な相手で童 を捨てる!
そうすれば絶対能力進化を開始出来るというわけだ!」
一方通行「……なるほどなァ、そォいう事だったのか」
天井「芳川達に何を言われていたのかは知らんが、これで大義はどちらにあるかわかったか?
お前がどちらに協力すればいいのかわかっただろ!?」
一方通行「あァ、わかったぜ……俺が今何をすればいいのかがなァ!」
天井「わかってくれたか!さぁ、このままもう二十時間も経てばお前は晴れて童 を……」
一方通行「この天井がァァァァァ!!!!」ベクトルパンチ!
天井「ぐぼあぁぁ!!!!」バコーン
一方通行「この天井が!この天井が!」ベクトルチョップ!
天井「ぐあああああ!!!」ベシーン
一方通行「そンな事で俺がお前に従うと思ってンのか!?」
天井「ぐふぅ……な、何故だ一方通行……!?童 を捨てられるんだぞ!?」
一方通行「作られた運命なンざ俺はいらねェ!!!」
天井「なにぃ!?」
一方通行「ウイルスなンざに頼らなくても、俺は俺の手で運命を切り開いて見せるつってンだよ!!」
天井「一方通行……」
一方通行「だいたい、『ウイルスで無理矢理心を縛り付けて童 卒業しました!』なンて●●●と大して変わンねェじゃねェか!!
『ウイルスで二万人のハーレム作りました!』とか言ってもドン引きされるだけで……
待てよ妹達二万人のハーレムか……アレもコレも出来るのか……」
天井「滅茶苦茶後ろ髪惹かれてるじゃないか」
一方通行「うるせェ!ダメなモンはダメだ!作り物の運命なンざ認めねェ!!
自分の手で必ず運命を掴んでみせるってンだよ!!」
天井「でもお前全然成果出てないじゃん……」
一方通行「うっ……」
天井「妹達にもフラれっぱなしだし、外でも第二位と遊んでるだけじゃないか……」
一方通行「俺なりに頑張ってンだけどなァ……」
天井「もうイヤなんだよ……」
一方通行「あン?」
天井「第一位のお前が!絶対能力者に一番近いお前が妹達ごときに虐げられてるのを見るのはもうイヤなんだよ!」
一方通行「天井?」
天井「お前わかってんのか!?一万四千回近くフラれてるんだぞ!!見てるほうが心痛くなってくるわ!!」
一方通行「やめろ、改めて回数を言うンじゃねェ!現実を突きつけるな!!俺の心を折る気か!?」
天井「見てるだけのこっちの心が折れそうになったわ!!同じ男として悲しすぎるんだよお前!!
ウイルスでも何でも受け入れてもっと幸せになってくれよ!頼むから!!情けなすぎていい加減泣けてくるわ!!」
一方通行「天井、オマエがどンだけ甘い言葉で誘惑しようが俺はウイルスになンざ頼らねェ」
天井「何だと?」
一方通行「考えても見ろ、そもそも自力で童 の一つも捨てれず、
ウイルスなンて楽な道を選ぶクソ野郎が絶対能力者になれると思うか?」
天井「……」
一方通行「俺は絶対に自力で童 を捨てる、だからもォこンな馬鹿な真似はするンじゃねェ」
天井「………クソ…」
一方通行「……打ち止めは研究所に連れて帰るぞ、文句はねェな?」
天井「……好きにしろ」
一方通行「天井、道は間違えたが、これは一応俺の事を考えてくれた結果なンだろ?」
天井「……あぁ」
一方通行「……ありがとよ」
天井「ッ!?」
一方通行「じゃァな」ビュン
一方通行が打ち止めを連れ帰った後も、天井亜雄はしばらくその場に立ち尽くしていた。
誰かに感謝されるなど、どのくらい振りだろう。ましてあの傲慢な第一位が感謝の言葉を口にするなど、通常なら在り得ない。
「ありがとう、か……」
やり直そう、もう一度、一から。誰も傷つけない方法で
あの甘っちょろい童 を絶対能力者に押し上げる道を探してやろう。
決意を新たに、天井は晴れやかな気持ちで新しい一歩を……
「何をいい話みたいに締めようとしているのです?とミサカは天井亜雄の背後からそっと迫ります」
「!?」
踏み出せなかった。
「いやぁ危ない所でした、一方通行が独自の童 美学を持っててよかったですね、とミサカは心底安堵します」
「さて、それでは乙女心を踏みにじろうとしたこの男はどうしましょう?とミサカは皆に尋ねてみます」
「とりあえずあんなウイルスを作る力がある以上放っては置けませんよねぇ、とミサカはニヤニヤ笑いながら答えます」
「お、お前ら!?」
三人、四人、十人、二十人、百人……妹達は天井を囲むようにして、際限なく増えていく。
「「「さぁ、お仕置きの時間ですよ?とミサカ一同は笑いながら天井亜雄にゆっくりと接近します……」」」
「う、うわああああああ!!!!」
その後、天井の行く先を知るものは誰もいなかった。
―研究所
「お疲れ様でした、とミサカは一仕事終えた後の一方通行を労います」
一方通行「ン、オマエは……」
10032号「10032号です、とミサカは検体番号を告げます」
一方通行「打ち止めのウイルスは駆除出来そうなのかァ?」
10032号「はい、あなたが早期に天井亜雄を発見してくれたお陰でなんとかなりそうです
ありがとうございました、とミサカは妹達を代表して頭を下げます」ペコリ
一方通行「ハッ、気にすンな、大した事はやってねェ。この程度朝飯前なンだよ」
10032号「一方通行……」
一方通行「でも多分これで妹達の好感度上がったりしたよなァ?」ニヤ
10032号「そういう事口に出しちゃダメでしょう……
とミサカは結局イマイチかっこ良くなりきれない一方通行にガックリ項垂れます」
一方通行「あ、いけね……これからも何かあったら言えよ、助けになってやるからな(キリッ」
10032号「今更かっこつけても遅えよ、とミサカは呆れ顔でつっこみをいれます
……隣座っても良いですか?」
一方通行「お、おォ、どうぞどうぞ!」ワタワタ
10032号「キョドるなよ、とミサカは突然わたわたし始めた一方通行に若干引きます」
一方通行「うるせェ、こォいうシチュエーションは慣れてねェンだよ……」
10032号「童 ですものね(笑)」
一方通行「黙ってろ」
10032号「……正直言うとですね、」
一方通行「あ?」
10032号「あなたが天井亜雄からウイルスの内容を聞いた時はもう終わりだと思ってたんですよ
とミサカは当時の妹達の心境を語ります」
一方通行「どォいう意味だ?」
10032号「ぶっちゃけあなたは天井亜雄に協力すると思ってました、とミサカは正直に答えます」
一方通行「あァ、だから芳川達はウイルスの詳しい事教えてくれなかったンだなァ」
10032号「ええ、教えたらあなたはミサカハーレムを作るためにウイルスの起動に尽力するに違いない、
と妹達一同は満場一致で判断しましたから」
一方通行「そォ思われる心当たりはあるけどよォ……やっぱ『見縊ンな!』って言いたくなるなァ」
10032号「う、すいません……とミサカは素直に謝罪します」
一方通行「天井にも言ったけどよ、やっぱウイルスなンぞに頼ってちゃダメなンだよ
童 一つ自力で捨てられねェよォじゃ絶対能力者なンて夢のまた夢だ」
10032号(今更だけど絶対能力者に童 は関係ないよね、とミサカは(ry)
一方通行「それにな、妹達がウイルスで俺に好意を持った人格になったとしても
俺は多分そンな妹達には運命感じねェと思うンだわ」
10032号「それはどういう……?」
一方通行「だってそりゃはもう妹達とは別モンだろ、ありのままのオマエらがいいンだよ俺は」フッ
10032号「一方通行……」
10032号「あなたそんなかっこいいセリフが吐けるのにどうして告白の仕方はあんなに残念なんですか、
とミサカは告白された当時を思い出して頭を抱え項垂れます」
一方通行「えっ、俺の告白そンなダメだったか!?」
10032号「『あり』か『無し』かで言えば『死ね』ですね、とミサカは頷きます」
一方通行「そンなに!?」
10032号「そもそも流れ作業のように一日数百人単位で告白するっていうのがもうナメてますよね
とミサカは根本的に一方通行が間違っている事を指摘します」
一方通行「ぐ……」
10032号「て言うかMNWであなたがどの個体に告白したか情報流れちゃいますからねぇ
10031号に告白した一分後にこのミサカに告白、何てことしてたらそりゃ誰もOKしませんよ
とミサカはあなたのダメっぷりを更に追求します」
一方通行「うゥ……」
10032号「もっとターゲットを絞った方が良いですよ、とミサカはアドバイスしてみます」
一方通行「でも妹達は全員平等に扱ってやりてェンだよなァ……」
10032号「その結果が流れ作業のような告白ですか、かっこいいんだか腐ってるんだかわかりませんね……
とミサカは呆れ顔で溜息を吐きます」
一方通行「ターゲット絞るなンて無理だから逆転の発想でだなァ、」
10032号「はい?」
一方通行「まとめて面倒見てやるから二万体全員俺のモンになれ、とかいう告白どォよ?」
10032号「……そこまで突き抜けると確かにかっこいいわ、とミサカは一方通行の器の広さに脱帽します」
一方通行「だろ?だろ?いい案だろ?」
10032号「………今の会話を元に MNWで多数決取った結果、反対多数で否決されました、とミサカは結果を告げます」
一方通行「ちくしょォ……」
10032号「まぁでも思ったよりあなた派の妹達増えてましたよ、地道な好感度アップ作戦の賜物ですね
とミサカは一方通行を励まします。特に今回あなたが天井亜雄の誘惑を振り切ったのは大きいですね」
一方通行「もォ一頑張りかァ……」
10032号「でもあなた童 捨てれたら絶対能力進化開始するんですよね?ハーレム作っても一瞬で終わりじゃね?
とミサカはふと思いついた事を口にします」
一方通行「ンー、多分開始しねェンじゃねェかな」
10032号「『絶対能力者になるのに童 じゃ恥ずかしいから』って理由で童 捨てようとしてるはずですよね?
それなのにいざ童 捨てても開始しないんですか?」
一方通行「運命の相手で童 捨てられりゃァ多分それだけで絶対能力者になれるはずだ、そンな確信に近い自信がある
逆を言うと、童 捨てても絶対能力者になれなかったとしたら、俺には絶対能力者になる資格がねェって事だ
だからどっちにしろ絶対能力進化は開始されねェよ」
10032号「サッパリ意味がわかりません、とミサカは力強く頷きます」
10032号「一方通行、一つ尋ねても?」
一方通行「なンだ?」
10032号「あなたは何故妹達に拘るんです?とミサカは最も謎な部分に触れてみます」
一方通行「何故、妹達に拘るか?」
10032号「はい、妹達は散々あなたに辛辣な態度を取ってきました。
それは『あなたの反応が楽しかった』、というのも勿論ですが、
それ以上に、『あなたを怒らせて実験を開始させよう』、と言う思惑があったからなのです
とミサカは裏設定を暴露してみます
にも関わらずあなたは怒る事はあっても決して手は上げませんよね。いったい何故?」
一方通行「そォだったのか……いや待て、俺の反応楽しンでたのかオマエら」
10032号「こまけぇこたぁいいんですよ、とミサカは都合の悪い部分はスルーします」
一方通行「オマエらに拘る理由かァ……いや別に拘ってるわけじゃねェだろ、
確かにオマエらに運命感じちゃいるが、外でも他に運命の相手探してるしなァ」
10032号「これだけ辛辣な態度を取られているのにまだ妹達に運命感じて好意持ってる時点で十分拘ってるでしょう
とミサカは指摘します。ドMですか?ドMなんですか?」
一方通行「誰がドMだ!?つーかホントに拘ってるつもりなンてなかったからなァ……」
10032号「えー……あれだけ理不尽に辛辣な態度取られたらマザーテレサでも舌打ちしますよ?
あなたの心どれだけ広いんですか、とミサカは半ば呆れながら一方通行を眺めます」
一方通行「別に心が広いつもりはねェけどなァ……まァ、あれだ」
10032号「?」
一方通行「好きな相手にどンだけ振り回されよォが、そりゃむしろ幸せってモンだろ?」フッ
10032号「……な、なんだやっぱドMなんじゃねえか、とミサカは目を反らしつつ答えます」
一方通行「お、いいなァその反応、また俺の好感度上がったかァ?」ニヤ
10032号「あなたは自分で雰囲気叩き壊すのが好きですね、とミサカはいい加減呆れ果ててしまいます」
一方通行「ケケケ、偶にはこっちからもからかってやらねェとなァ」クククク
10032号「く、このミサカとした事が……」
「楽しそうね、私も混ぜてもらえる?」
一方通行「ン?あァ、オマエか」
10032号「どうぞどうぞ、とミサカは布束砥信を歓迎します」
布束「ありがとう」
一方通行「どォでもいいけどオマエがマトモに喋ってるの久々に聞いたわ」
布束「well ここ数ヶ月あなたの顔を見るたびに『寿命中断(クリティカル)!』と叫んでいたものね」
一方通行「マジで寿命が縮みそうだったからやめてくれて助かるわ」
10032号「まぁ全面的にあなたが悪いんですけどね、とミサカは一方通行を横目で睨みます」
一方通行「俺は普通に告白しただけですゥ」
布束「sigh 土下座しながら『やらせてくれ』と懇願するのが普通の告白と言えるのかしら」
一方通行「そこまでは言ってねェ、『先っちょだけでいい』つっただろ」
布束「……」
10032号「引くわぁ……」
布束「ま、まぁとにかく、今回の一件あなたには感謝しているわ」
一方通行「ハン、10032号にも言ったが別に大した事はしちゃいねェよ」
布束「but あなたにしか出来ない事だったわ、ありがとう」
一方通行「チッ、妹達の好感度上がるかもって打算で動いただけだ、礼なンざ言ってンじゃねェ」
10032号「ククク、この白モヤシ照れて真っ赤に茹で上がってますよ、
とミサカは先程のお返しとばかりにニヤニヤと笑います」
一方通行「モヤシは茹でても赤くならねェよ!」
布束「great やはりモヤシには詳しいわね」
一方通行「常識ですよねェ!?」
―俺の未元物質に常識は通用しねぇ―
一方通行「なンか脳内に声響いてきた!?」
10032号「大丈夫ですか?とミサカは突然叫び始めた一方通行の頭を形だけでも心配します」
一方通行「ン、あァ……疲れてンのかな……」
布束「もう夜が明けそうだものね、眠ったら?」
一方通行「……そォだな、だがその前に、布束」
布束「何?」
一方通行「改めて俺と付き合ってくれ」
布束「」
10032号「おいいぃ!?お前さっき妹達に運命感じてるとか言ってたよなぁ!?
とミサカは突然の告白に目を丸くしつつ抗議します」
一方通行「それはそれ、これはこれ、布束にも運命感じてンだよ!
運命感じてる相手はまとめて差別せずに告白すンのが俺の流儀だ!!」
10032号「やっぱお前腐ってるよ!とミサカは再び一方通行の株を暴落させます」
一方通行「腐ってよォが構わねェ!!それに安心しろ
たとえ俺が童 を捨ててもオマエら妹達が大事な存在な事に変わりはねェから!!」
10032号「何で妹達がフラれたみたいな流れになってんの!?すごい屈辱なんですけど!!
とミサカは一方通行の勝手な言い分に地団駄を踏んで憤慨します」
一方通行「さァ布束、答えを聞かせてくれるか?」
10032号「おい無視すんな!」
布束「errr……そういう普通の告白をしてくれるのは嬉しいのだけど……」
一方通行「嬉しいンだな?いいンだな!?よっしゃァ!!」
布束「いやちょっと、」
一方通行「よしじゃあ早速ヤルぞ、すぐヤルぞ」カチャカチャ
布束「」
10032号「おい待て、ベルトに手をかけるな、とミサカは不穏な動きをしている一方通行を制止します」
一方通行「心配すンな、最初は先端だけで済ませるからよォ」
10032号「心配のベクトルが違いすぎる!?ハッ、これがベクトル操作……
とミサカはドン引きしつつ思いついた事を口にしてみます」
一方通行「まァ今から俺が操作すンのは布束のベクトルだけどな」
10032号「なるほど意味がわからん、とミサカは再び力強く頷きます」
一方通行「布束、部屋に行こうぜ」
布束「誰が行くか!!!」
一方通行「な、なンでだ!?」
布束「手が早すぎる!then そもそも告白をOKしていない!!」
一方通行「なンだと……」
布束「あなたには感謝している、だけどそれを差し引いてもこれは許容できないわ!」
一方通行「頼む布束ァ!先っちょだけ、先っちょだけでいいンだ!!」ガバッ
布束「土下座をしないでえええ!!!」
一方通行「接合部だけ、接合部だけ!!」
布束「言い方変えても同じ!!」
一方通行「刹那の刻を、刹那の刻を!!」
10032号「躊躇無く余所様のネタをパクった!?」
布束「く、寿命中断!!!」
一方通行「お願いします!お願いします!!」
布束「寿命中断!!寿命中断!!!」ダッ
一方通行「あ、待て逃げンな!!」ダッ
10032号「……そりゃあいつ童 だよ、とミサカは走り去って行った二人の方を生暖かい目で見つめます」
その後、一方通行はベルトを緩めていた事が災いし、走っている内にズリ落ちたズボンに足を取られ豪快にすっ転ぶ事になる。
その隙に布束には逃げ切られてしまい、彼はまたもや童 喪失の機会を失ってしまった。
て言うかこれもう半分●●●じゃね?童 の暴走とは恐ろしいものである。
Q:辛辣な態度取ってまで実験開始させたいんなら妹達はさっさとヤラせてあげればよかったんじゃね?
A1:一方通行を振るのが楽しかった
A2:乙女心として一方通行に純潔を捧げるのは抵抗があった(ほとんどの告白の仕方が最悪でした)
A3:実験開始された場合妹達も一方通行を全力で倒しにかかる事になるので、
その際に妹達が『色仕掛け』という攻撃を有効的に行うためにも一方通行に童 を捨てさせたく無かった
考えてた理由はこんな感じか、後々SSの中で説明するつもりだったけど先に書いちゃおう
多少の矛盾は勘弁してください、酔っ払ったり半分寝たりしながらライブ感満載で書いてるんで……ごめんな?
それと、ちょっとデレさせたけどこのSSの妹達は基本的に黒いよ!
ていうか俺の書く女キャラは皆腹黒性悪になるよ!俺がドMなのが関係してるのかな!
P.S. 今日の投下は無理です サーセン
ある日、一人の男に彼の属するとある魔術組織から命令が下った。
科学の街の住人でありながら、十万三千冊の魔導書を持つ少女をその手中に収め、
更に強力な魔術師とも親交のある少年がいる。その少年本人の持つ『異能を打ち消す』という力も相まって、
彼らの存在は今後科学勢力と魔術勢力のバランスを崩し兼ねない。
だから監視をしろ。組織の男に下った命令はそのようなモノだった。
簡単な仕事だった。確かに少年は強力な手札を持ってはいたが、ほとんど素人のようで、
監視に気付くような素振りは見せない。もっとも、男は監視や変装に関してはプロ中のプロであり、
例え同業者であろうとも気付かれないだけの自信はもっていたが。
いつもの様に少年を監視していた最中、男は偶然、とある少女を見かける。
―― 一目惚れであった。一目見た瞬間から、その少女の明るい茶色の髪に、勝気な顔に、
華奢な身体つきに、その全てに心を奪われた。運命を感じた。
己の純潔を捧げるのはこの少女しかいない、と瞬間的に考えた程だ。
以降、男は仕事そっちのけで少女の監視を始める。何の事は無い、やっぱりコイツもダメ人間だった、というだけの事。
そしてついに監視だけでは飽き足らず、男は得意の変装で直接少女への接触を試みた。
この物語は、仕事を投げ出しとある少女への想いを優先した一人のストーカーの心温まるお話である。
―街中
一方通行「だから謝ってンだろォ?」
垣根「うるせぇ!一言二言謝られただけで許すわけねぇだろ!!」
一方通行「そンなにあのパンダ口説きたかったのかよ?」
垣根「そっちじゃねぇ!」
一方通行「え?」
垣根「クラナドに続いてリトバスまで消し飛ばされたってどういう事だよ!?」
一方通行「あァー……そっちに怒ってたのかオマエ……」ウワァ
垣根「おま、何だその『ギャルゲーなんかにマジになってる男の人ってキモい』みたいな顔は!?」
一方通行「いやァそこまでキレるのは引くわァ……」
垣根「テメエ!!」
一方通行「クラナド面白かった、リトバス可愛かった、でもなァ……」
垣根「ナメてやがるな。よほど愉快な死体になりてえと見える」ピキピキ
一方通行「悪かったって、そンな名言の無駄遣いしてまでキレるなよ。ちゃンと金渡すから」
垣根「フン、まぁ今回はそれで許してやる。だがもうオマエには当分ゲーム貸さねぇからな」
一方通行「えっ」
垣根「つーか自分で買えよオマエ、金なんざ腐るほどあるだろうが」
一方通行「自分で買うのはなァ……何かこォ、そこは越えちゃいけねェ一線な気がして……」
垣根「周りの目が気になるか?心配すんな、自分で思うほど他人はオマエのことなんか見ちゃ……あ、でもオマエ目立つからな」
一方通行「だろォ?『見て見てあの白い人あんなゲーム買ってるキモーイ』とか言われたら正直泣くわ」
垣根「相変わらずその辺のメンタル弱いなオマエ、万単位で女にフラれても平気なくせに」
一方通行「メンタル強かったら童 卒業できてンのかなァ……」
垣根「いやそれとこれとは……」
「ごっめーん、待ったぁー?」
垣根「あ?」
一方通行「ン?」
垣根「……何か第三位がすげえ笑顔で走って来てるな」
一方通行「『待ったー?』ってなンだよ……何一つ待ってねェよ……」
垣根「やっべぇちょっと寒気がするわあの笑顔」
一方通行「絶対なンか企ンでるなこりゃ……」
垣根「どうする?」
一方通行「……飛ぶぞ垣根」ブワッ
垣根「おう」バサッ
御坂「ちょ、待てゴラアアアア!!!」ダッ
一方通行「うわァ、また走って追って来たァ……」
垣根「良くついて来れるよなぁ、結構な速度で飛んでるつもりなんだが……」
一方通行「つーかあの速度で地面走ったら大迷惑だろ……」
垣根「あ、ウニみたいな頭したヤツと青い髪のヤツと金髪アロハの三人組が跳ね飛ばされた」
一方通行「……おい適当な場所に降りるぞ、これ以上被害を出すわけにはいかねェ」
垣根「あぁ……ったく、あのガキは……」
―とある公園
御坂「ハァ、ハァ、ハァ……顔見た途端飛んで逃げるってどういう事よ……」ゼェゼェ
一方通行「オマエが笑顔で走ってきたらそら逃げるわ」
垣根「何考えてるかわかったもんじゃねぇ」
御坂「こんな可愛い女の子捕まえて何言ってんのよ!!」
垣根「自分で自分の事を可愛いなんて言う女は総じて地雷だ」ウン
御坂「うるさいわよ!!……それよりさ、ちょっと相談があるんだけど」
一方通行「断る」
垣根「帰れ」
御坂「あのね、私最近男の人に付き纏われてるの」
一方通行「ほォ……」
垣根「勝手に話し始めやがったよ……どんだけフリーダムなんだこのお嬢ちゃんは……」
御坂「この一週間、毎日毎日同じヤツに会うのよね」
一方通行「あァ、俺もだ」
御坂「外出した直後にさ、『奇遇ですねー』って話しかけてくるのよ」
垣根「そりゃ確かに怖ぇな」
一方通行「俺もな、友達と二人で話してたらいつの間にか当然のように会話に加わってるヤツがいてちょっと怖ェンだよ」
御坂「で、『何処に行くんですか?』『ご一緒しますよ』ってずっとついて来るの」
一方通行「俺の方も延々ついて来られて参ってンだよなァ」
御坂「これって絶対ストーカーよね?」
一方通行「あァ、間違いねェな。俺が受けてる被害とほぼ同じだ」
御坂「あんたもストーキングされてんの?何処の誰だか知らないけど趣味悪いヤツがいるもんね」
一方通行「オメエェェの事だよォォォォォ!!!!」
御坂「はぁ!私があんたのストーカー!?ふざけないでよ!!!」
垣根「え、マジで自覚ねぇの?どんだけ残念な頭してんだよ」
一方通行「ちょっと妹達見習って来いよ、アイツら頭の回転無駄に速ェから」
御坂「そりゃそうよ、元の私が頭いいんだもん」
垣根「やだ、この子どんだけ自己評価高いの?ちょっと怖いわ……」
御坂「だって事実として学園都市の第三位だし」
一方通行「オマエの目の前にいるのは第一位と第二位だけどなァ」
御坂「そうそうそれ、あんたら見てるとそのうち私が第一位になれるんじゃないかなって思うのよ、あんたら基本馬鹿だし」
垣根「え、コイツが増長してんのってひょっとして俺らのせい?やっぱここらで一旦シメとく?」
一方通行「相手すンの疲れてきたわ……おい超電磁砲、もォ帰れ」
御坂「て言うかさ、『超電磁砲』だの『お嬢ちゃん』だの『第三位』だのって呼ぶのいい加減やめてくれる?
私には『御坂美琴』って名前がちゃんとあるんだからさ」
垣根「本当に話聞かないな」
一方通行「……年下のガキに色々振り回されンのは、人間ならだれでも通る道だ」
御坂「はい、呼んでみて。『御坂美琴』」
垣根「……御坂」
一方通行「………美琴」
御坂「うん、気持ち悪い。今まで通りの呼び方でいいわ」
垣根「うおおぉぉい!!!ナメてんのかこのガキィィィィ!!!!」
一方通行「堪えろ垣根、コイツもォ何言っても無駄だ……」
御坂「あ、それで相談の続きなんだけど、」
垣根「……ここまでアレだと逆にちょっと可愛い気がしてきたぜ」
一方通行「それはどォかと思います……」
御坂「その付き纏ってくる男っていうのが常盤台の理事長の孫でさー、あんまり邪険に出来ないのよ」
一方通行「その位の常識はあるンだな」
垣根「その常識を一%でいいから俺らとの会話の時に出して欲しいわ」
御坂「いつも適当な理由つけて何とか撒いてたんだけど、今日は特にしぶとくてね」
一方通行「あァ、そォいやさっきオマエの後ろに男が立ってたなァ」
垣根「それで偶々通りかかった俺らと待ち合わせしてる事にしようとして『待ったー?』とか言ってたのか」
御坂「そう、それなのにあんたらいきなり飛んで逃げるし……」
一方通行「結果的にそのストーカー野郎は撒けたンだからいいだろォが」
御坂「良くないわよ、どう見ても不自然じゃない!」
垣根「つーか理事長の孫だろうが何だろうが関係ねぇだろ、ガツンとやってやれよ」
御坂「ダメダメ、部屋に侵入された、とかそういう被害は受けてないし、何だかんだで毎回撒いてるし、
まだ『偶然』って言い張られたらそれで押し通されちゃう段階なのよ」
一方通行「始まって一週間らしいしなァ」
垣根「本当に偶然って可能性はねぇのか?」
御坂「無いと思う……状況証拠だけど、毎回寮から出た直後に話しかけられるし
それに何だか私のこと嘗め回すような目で見てくるのよね……」
垣根「女ってそういうの敏感らしいからな」
一方通行「そォなのか?」
垣根「あぁ、胸とか脚とか『あ、今コイツに見られてるな』ってわかるらしいぞ」
一方通行「ほォ」
御坂「あんた達はいっつも私の胸見てるわよね」
一方通行「いやそンな……どこ見りゃいいンだよそれ、ねェモンは見れねェよ」
垣根「やっぱストーカーってオマエの思い込みなんじゃねぇか?」
御坂「うるさーい!間違いないったら間違いないの!」
垣根「わかったからギャーギャー喚くな!幼児かオマエは!?」
一方通行「初めて会った時はもォ少し大人っぽかったっつーかマトモだった気がすンだけどなァ……」
御坂「とにかく!そのストーカー……海原光貴って言うんだけど、そいつに私の事を諦めさせたいのよ」
一方通行「で、協力しろって?」
垣根「まだ実質的な被害はねぇんだよな?だったら第三者が口挟めるような事はねぇだろ」
御坂「被害が出てからじゃ遅いでしょ!今の内に手を打たないと……」
一方通行「つーかどォやって諦めさせるってンだ?」
垣根「まさか恋人でも演じろなんて言うんじゃねぇだろうな?」
御坂「んなわけないでしょ、ただちょっとあのストーカーが
しばらく病院から出てこれなくなる程度に痛めつけてくれれば……」
垣根「うわぁ……」
一方通行「あ、もしもしジャッジメントですの?ちょっと今犯罪犯そうとしてる中二が目の前にいてですねェ……」
御坂「ちょ、冗談!冗談だから!通報しないで!!電話切って!!」
一方通行「ホントに冗談かァ?目がマジっぽかったぞオマエ」ピッ
垣根「俺らがノリ気だったら絶対その案で押し通しただろ」
御坂「じゃあ何かいい案考えてよ!」
一方通行「逆ギレの上丸投げかよ……」
垣根「エスカレートして来たらそん時返り討ちにするって事でそれまで放置でいいんじゃねぇの?」
御坂「んー、そういう受け身の姿勢って何かしっくり来ないのよね」
一方通行「つっても他に有効な手段なンてなァ……ン?」
「御坂さーん!」
垣根「あ?何か手ぇ振りながら走ってくる野郎がいるぞ」
御坂「げっ」
一方通行「あァ、あれが今言ってた……」
御坂「そ、あれが海原光貴よ……」ハァ
海原「御坂さん、どうしたんです?突然走り出すだなんて」
御坂「あ、あはは……ごめんね、ちょっとこいつらと待ち合わせしててさー」
海原「こいつら……そちらのお二方ですか?」
御坂(お願い、話し合わせて……)ボソボソ
垣根(しょうがねぇなこのガキは……)ボソボソ
一方通行(妹達との約束あるしなァ……仕方ねェか)ボソボソ
垣根「そうそう、今日は俺らと御坂の三人で遊びに行く予定なんだ
用事があるんならまたにしてもらえねぇか?」
海原「……失礼ですが、御坂さんとはどのようなご関係で?」
垣根「関係?関係か、そうだな……」チラッ
御坂(こっち見ないでよ!適当に言っちゃって!)ボソボソ
垣根「……友達だ」チッ
海原「そ、そうですか……(何かすっごいイヤそうな顔で舌打ちしながら友達発言してる……)」
垣根(なんで俺がこんな残念なガキと友達ごっこしなきゃならねぇんだよ……)
海原「で、ではそちらの白い方は?」
一方通行「あ?あー、俺も……」ハッ
一方通行(ちょっと待てよ、友達つっていいのか?)
一方通行(あれだ、俺と妹達は結婚する可能性が高ェだろ)
※極めて低いです
一方通行(ンで俺と妹達が結婚したら、コイツは……)チラッ
御坂「?」
海原「どうなさいました?」
一方通行「コイツは俺の義姉だ」バーン
御坂「」
海原「な、なんですって!!?」
垣根「何言ってんのオマエ!?」
一方通行「間違った事は言ってねェ」
※間違っています
海原「御坂さんの義弟さんという事は……将来の自分の義弟だという事ですね!」ババーン
垣根「オマエも何言ってんだ!!?」
海原「何って、自分と御坂さんは将来結婚するんですから」
御坂「」
垣根「すげぇ、ストーカーって本当に頭の中バラ色なんだな」
一方通行「はじめましてお義兄さン、一方通行と申しますゥ」
海原「これはご丁寧にどうも、自分は海原光貴と申します」
垣根「ダメだこいつら……はやく何とかしねぇと……」
御坂「」
垣根「おい第三位、呆けてる場合じゃねぇぞ」
御坂「ハッ!ちょ、ちょっとあんた達なに好き勝手言ってんのよ!?」
一方通行「義姉さン!?」
御坂「義姉さんって言うなぁ!!何で私があんたの義姉にならなきゃいけないのよ!?」
一方通行「え、だって俺が妹達と結婚したらそォなンだろ?」
御坂「ならないし、させないわよ!!」
一方通行「えェー……ン、待てよ」
一方通行(呼び方こそ『妹達』だが、アイツら本物の妹じゃなくてクローンなンだよな)
一方通行(つーことは遺伝子的には超電磁砲と妹達は同一人物……)
一方通行(つまりそォ言う事か……)
一方通行「わかったぜ超電磁砲」
御坂「へ?」
一方通行「オマエは未来のマイワイフだ!」バァーン
御坂「」
海原「」
垣根「つっこみきれねぇ……この俺がぁ……」
一方通行「そォだそォだ、遺伝子的に考えりゃそれで間違いねェはずだ」ウン
垣根「『常識は通用しねぇ』は俺のキャッチフレーズだったんだがな……もうオマエにやるよ」
一方通行「いらねェ」
海原「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
一方通行「あァ?どォした義兄……っと、もォ違うな、この場合どォなンだ?」
垣根「知らんわ」
海原「そんな事どうでもいいですよ!!それより御坂さんは自分のモノです!あなたには渡しません!!」
垣根「オマエのモノでもねぇけどな」
一方通行「あァ?落ち着けよ、別に俺は超電磁砲と直接結婚しようってわけじゃねェ」
海原「意味がわかりません……」
一方通行(イヤ待てよ、さっきも言ったが超電磁砲と妹達は遺伝子的に同一だ)
一方通行(つまりこの海原とか言う野郎が超電磁砲を抱いたりした場合……)
一方通行(ソレはつまり妹達がこのクソ野郎に抱かれたってのと同じ事だよなァ)
一方通行「ふざけてンじゃねェぞコラァ!!!!」クワッ
海原「何がです!?」
一方通行「オマエの存在がだァ!!妹達には指一本触れさせねェ!!!」
海原「妹達って何ですか!?」
垣根「おい第三位見ろ、クレープ売ってるぞ」
御坂「あ、本当だ。買いに行きましょうか」
一方通行「オマエは俺の敵だ!俺の運命を遮る邪魔な石ころだ!!」
海原「く、良く分かりませんが御坂さんを渡すつもりは無いという事ですね!?」
垣根「甘っ!こいつクソ甘ぇ!」
御坂「馬鹿ね、ホイップ増量なんてするから……」
一方通行「スクラップの時間だぜェェェェェ!!!!」
海原「ぐああああああ!!!!」
垣根「チッ、クリーム取り除いてもまだ甘ぇな……コーヒー味にしときゃ良かったか……」
御坂「あんたも一方通行もコーヒー好きよね、厨二病ってやつ?」
一方通行「もォ一発だァァァァァ!!!!」
海原「ぎゃああああああ!!!!」
垣根「ん、そろそろ終わったか」
御坂「ご馳走様」
一方通行「ハッ、人様の女に手ェ出そうとすっからそォなンだよォ!」
海原「」ビクンビクン
垣根「あーこりゃ間違いなく入院コースだな……よかったな第三位、当初の予定通りじゃねぇか」
御坂「うん、良かった、のかな?うん、まぁ心配事は一つ減ったけど……それよりさ、一方通行」
一方通行「あ?」
御坂「あの、さっきの言葉ってどういう意味なの?」
一方通行「さっきの言葉ァ?」
御坂「私があんたの……ワイフがどうのとか、人様の女にとか……」
一方通行「あァ、それか……だってそォだろ?」
御坂「え?」
一方通行「妹達とオマエは遺伝子的には同一人物だよな?
だから俺と妹達が結婚したらオマエは義姉じゃなくてワイフになるわけだ」
御坂「な、なんじゃそらああああ!!!!」
垣根「なるほど、わかるようなわかんねぇような……いや、わかんねぇわ」
一方通行「……待てよ、いくら遺伝子が同じでも同一人物って事はねェよな」
一方通行「妹達だってそれぞれ個性があるし、超電磁砲とは似ても似つかねェしなァ」
一方通行「つーことはやっぱ妹達とオマエは別人か、つまり俺と妹達が結婚してもオマエは他人のままか」
御坂「頭痛くなってきた……」
垣根「つーか妹達ってオマエを一万数千回振ってるクローンどもだよな?
何でナチュラルに結婚できると思ってんだよ?
あと、いつの間に目的が脱童 から結婚になったんだ?」
一方通行「運命だ」
垣根「そうか運命か」
御坂「認めないわよ!!」
海原「フフ、御坂さんとあなたが他人のままだというのなら、御坂さんは自分が頂いても構いませんね!?」
垣根「うわ生き返りやがった」
御坂「もう黙ってろおおおお!!!!」バチバチバチ
海原「ぐぎゃああああああ!!!!」バリバリバリ
一方通行「あ、コイツ理事長の孫に普通に攻撃しやがった」
御坂「ハァ、ハァ……」
海原「」プスプス
垣根「あー……ストーカー問題解決したっぽいし俺らそろそろ行くぞ?」
一方通行「久々にゲーセンでも行くかァ」
垣根「お、いいなそれ。出会いがありそうだ」
御坂「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
海原「御坂さぁぁぁん!!!」
御坂「しつっこいのよおおおおお!!!!」バチバチバチ
海原「あ゛あ゛ああああ!!!もっとおおおお!!!」ビリビリビリ
9月1日、夏休みが終わり御坂の監視が緩んだ為、一方通行は久方ぶりに己のマンションに帰る事が出来た。
しばらく間借りしていた研究所の一室での生活も中々有意義なモノであったが、やはり自分の部屋が一番である。
妹達や布束と離れるのが多少辛いところだが、どの道研究所には毎日顔を出すつもりなので問題あるまい。
垣根と遊ぶ約束をしている時刻まであと二時間弱(こいつら本当に毎日遊んでんな)、
一方通行はそれまで買い込んでいた缶コーヒーでも飲みながらテレビを眺めてダラダラしようと、
缶コーヒーを冷やす、という用途以外に使われた事の無い可哀相な冷蔵庫へと近付く。
(どォでもいいンだが、冷蔵庫見てると妙な衝動に駆られるンだよなァ……)
(なンつーかこう、改造しなきゃならねェような……)
(垣根がなンか関係してるような気がすンだけどなァ)
そんな風に、別次元の自分と微妙にリンクしたりしながら、ガチャリと冷蔵庫の扉を開ける。
しばらく部屋には帰っていなかったが買い溜めておいた缶コーヒーが数十本残っていたはずだ。
そのはずだったのだが……
「おいおいおい、なンの冗談ですかこりゃァ!」
冷蔵庫の中を確認した彼は驚きの声を上げ、怒りを露にする。
「なァンで買い置きのコーヒーが全部カフェオレに変わってンだよ!?」
彼が買い込み、冷蔵庫の中に放り込んでいたのは間違いなく当時出たばかりだった新商品の缶コーヒーだったはずである。
その黒い缶が、どのような理屈か今では茶色いカフェオレの缶に摩り替わっていた。
そんなものは生まれてこの方買った事が無いというのに、一体何があったのか、誰の仕業なのか。
一方通行は脳裏に『監視』と称しこの部屋に不法侵入を繰り返していた、甘い物が好きな一人の少女の姿が思い浮かべた。
「超電磁砲の仕業かァァ……」
よくよく部屋を見回してみると、覚えの無いゴミがゴミ箱に入っていたり、台所を使った形跡があったりと、
しばらく帰っていなかった割に妙に生活感がある。
恐らく、一方通行が部屋に戻らないのをいい事に御坂が好き勝手ここでダラダラしたのだろう。
とするとカフェオレは彼女が飲むために買って来たという事か。
「俺の缶コーヒーはどこ行ったンだよ……」
溜息を吐きつつ仕方無しにカフェオレに手を伸ばし、プルタブを開け中身を口中に流し込む
その甘ったるさに辟易しながらソファに身を沈め、テレビを付けようとリモコンを探すがどうにも見当たらない。
「あァ?」
置いたはずの場所にリモコンがない、少し前まで手元にあったはずのリモコンが消えた、
という経験が、一人暮らしをしている方にはあるのではないだろうか?
これがかの有名な『妖怪リモコン隠し』の仕業である。
汚れた部屋だけでなく、整理の行き届いた、或いはモノのほとんど無い部屋でもこの現象は容赦なく起こってしまうのだ。
「めンどくせェ……」
ぽつりと呟きカフェオレの残りを飲み干すと、彼はリモコンを探すのを諦めそのままソファに横たわる。
元々、特に見たい番組があったと言うわけでも無く、
ただの暇潰しの一環として適当な番組を垂流そうと思っていただけなので、
別に今どうしてもリモコンを探す必要があるわけではない。
リモコン探しなどと言う面倒な作業は後回しにするに限る。
それに、『リモコン隠し』に隠されたリモコンは放っておけば
そのうち思いもよらぬ所からひょっこり出てくるものなのだ。下手に探し回って無駄な体力を使う必要も無い。
「ふあァ……」
待ち合わせ時間まで一眠りするか……欠伸をしながらそんな事を考え、目覚まし時計をセットする。
さてこれで寝坊する事は無いだろう、と安心した気持ちで目を閉じ、うつらうつらとまどろみ始めたその時、
<ピンポーン♪
「あァ?」
唐突に鳴り響いたインターホンの呼び出し音により、彼の眠りは妨げられる事となってしまった。
無視を決め込みもぞもぞと頭を埋める一方通行だったが、インターホンはしつこく鳴り響き、
徹底的に彼の神経を逆撫でする。
ならばそんな雑音反射して……と行きたいところだが、そうもいかない。
それでは自分が先程セットした目覚まし時計の音も聞こえなくなってしまい、
その結果、寝坊して待ち合わせに遅れてしまうという可能性が大いにある。
(あァクソ、何なンだよ……)
鳴り止まないインターホンについに根負けした一方通行はムクリとソファから起き上がり、
めんどくさそうに玄関へと歩いていく。ただでさえ凶相の彼の顔は眠りを妨害された事で不機嫌に歪み、
子供が見たら泣き出すのではないか、街を歩けば通報されるのではないか、という程恐ろしいものになっていた。
「はいはァい!どなたですかクソが……あ?」
「お、ようやく出てきましたか、とミサカはインターホンから指を離します」
「やぁやぁこんにちは、とミサカは片手を軽く上げて気さくに挨拶してみます」
玄関を勢いよく開けた一方通行はそこに立っていた二人の少女の姿を確認し、その身を硬直させる。
しつこい勧誘か何かだと当たりをつけていた彼にとって、その光景は全くの予想外だった。
自分の運命の相手が二人も同時に家を訪ねてきてくれたのだ、無理もあるまい。
まるで双子のようにそっくりな少女達―妹達の二人は、
そんな戸惑っている彼の様子が面白くて仕方ない、と言った風に口元を綻ばせていた。
(え、何コイツら、何でここにいるンだ?)
(インターホンを押してたって事は用があるって事だよな……誰に?俺にだろ!)
(わざわざ尋ねてきてくれた?俺なンかを?)
(待て、これは孔明の罠だ、どっかに関羽が潜ンで……いや何考えてンだ俺)
(例え罠だとしても妹達が二人も尋ねてきたのは事実だろ!つまりこれは……)
「我が世の春が来たァァァァ!!!」
「お前の頭ん中は年中春だろうが、とミサカは突然叫び始めた一方通行に冷静につっこみをいれます」
「まぁ、 的にはずっと核の冬でしょうけどね、
とミサカはどうせよからぬ事を考えていたであろう一方通行にドン引きします」
喜びのあまり若干トリップ状態で叫び声を上げる一方通行に多少動揺しつつ、
二人の妹達は冷静かつ辛辣なつっこみを叩き込む。
その表情には呆れこそ見て取れるものの、以前のように嫌悪している様子は無い。
やはり先日の打ち止めを救助した一件や、日頃の地道な活動のお陰で一方通行の地位も少しずつ向上しているのだろう。
「まァ立ち話もなンだし入れよ」
「ではお言葉に甘えて、とミサカは躊躇無く扉をくぐります」
「お茶の一杯でも用意してくださいね、とミサカは少しばかり喉が渇いている事をアピールします」
玄関から顔を出した時の不機嫌な表情から一転、一方通行は上機嫌に妹達を部屋に招きいれる。
彼女たちも大人しくそれに従い部屋の中に入ると、どっかりと我が物顔でソファに腰を下した。
これでは誰が家主かわかったものではない。
「おらよ、こンなモンしかねェが構わねェな?」
「おやカフェオレですか、とミサカは意外なチョイスに目を丸くします」
「てっきりブラックコーヒーでも出されるのかと思っていたのですが……
とミサカは予想外の事態に動揺しつつ甘いものは好物なので素直に受け取ります」
一方通行が冷蔵庫の中から御坂の置き土産であろうカフェオレの缶を取り出し二人に差し出すと、
彼女達は目を丸くしてそれに驚いた。
一方通行が日頃ブラックコーヒーしか飲まないという事は彼の関係者ならほとんど誰もが知っている事実である。
彼のカフェイン中毒っぷりたるや、血液の代わりにコーヒーでも流れてるんじゃないか、と疑いがかかったり
彼の演算力の高さにはコーヒーが関係しているのではないか、と研究する者が出てくるほどだ。
そんな彼の家にカフェオレという飲み物が存在するなど一体誰が予想出来ようか。
「一方通行、さてはあなた皆の前ではかっこつけるために無理してブラック飲んでたんですね?
とミサカはこの場でカフェオレが出てきた理由を推測してみます」
「ば!違ェよ!!俺はマジでブラックが好きだっつーの!!」
あらぬ疑いをかけられ、一方通行は首をブンブン振って慌てて否定する。
こんな所で自分のこれまで築いてきたイメージを破壊されては叶わない。
「いやお前のイメージ既に最悪だから」という無粋なつっこみはやめて頂きたい。
彼は未だ自分の事を『ブラックコーヒーの似合うクールでミステリアスな男』だと思っているのだから。
「それで、オマエら何しに来たンだ?」
これ以上カフェオレの件につっこまれるのは面倒だと判断した彼はコホンと咳払いを一つすると、
話題を逸らす為彼女たちに何の用件かを尋ねる。
嫌悪されてはいないようだが、何の用事も無く遊びに来るという事は、まぁ無いだろう。
夢見がちな童 も少しずつ状況判断が出来るようになっているのだ。
「そうですね、そろそろ本題に入りましょうか、とミサカはカフェオレを啜りながら答えます」
「えーっと、先日あなたが救ってくれた上位個体なんですが、覚えてますか?
とミサカは同じくカフェオレを啜りながら尋ねます」
「あ?ついこの前の事じゃねェか、覚えてるに決まってンだろ。打ち止め(ラストオーダー)つったか?」
「はい、その上位個体なんですが」
「あァ?」
「脱走しました、とミサカは端的に情報を伝えます」
「はァ!?」
妹達の話によると、先日一方通行により救助された打ち止めはその後無事ウイルスも駆除され、
今日の早朝までは何の問題も無く眠っていたらしい。
一度培養機から出してしまった以上、ウイルス駆除が終わったからといって、
また培養機で保管というのはかわいそうだ、という意見により、研究所の一室で寝かされていたのだが、これが裏目に出た。
目を覚ました打ち止めはその旺盛な好奇心の赴くまま、研究所の職員や妹達の目を盗み、
一人でちょろちょろと脱走してしまったのだ。
「それで、まァた俺に探してくれってわけか」
「ま、そういうことですね、とミサカは飲み干したカフェオレの缶を弄びながら頷きます」
「本当はここに来たりしてるんじゃないかな、とちょっと期待してたんですが、そう上手くはいかないものですね
とミサカは空き缶を握り潰しながら溜息を吐きます」
「そンなのンびりしてていいのか?学園都市の治安の悪さは知ってンだろ?」
「危なくなったらMNWで助けを求めてくるでしょうし、多分大丈夫でしょう、
とミサカは楽観的な意見を述べます」
「しかし何が起こるかわからないと言うのも事実、ですのであなたに探していただきたいのです
とミサカは上位個体の資料を差し出しながらお願いします」
妹達から差し出された資料には写真も含まれており、そこには間違いなく、
先日一方通行が天井の下から連れ戻した少女の姿が写っている。
この前はじっくり姿を確認している暇は無かったが、立派なアホ毛をしているな、
などとどうでもいい事を考えながら彼は他の資料に目を移した。
「その資料には上位個体の行きそうな場所や好みそうなモノを色々書き込んでいます
とミサカは資料の説明をします。どうぞ参考にしてください」
「本当は妹達で探しに行きたいのですが、ミサカ達はクローンという立場上
真昼間から堂々と表を歩くわけにはいかないので……とミサカは探しにいけない理由を説明します
断じて面倒だからあなたに丸投げしているというわけではありません」
「オッケー、引き受けた……って言いてェンだが、今日はこの後予定が入ってンだよなァ」
「えぇそんなぁ!とミサカはまさか断られるとは思っていなかったので愕然とします」
「そンなに緊急性が高ェわけでもねェンだろ?夕方からとかじゃダメかァ?」
「んー、構わないっちゃ構わないんですが、やっぱり無事がちゃんと確認できないと
精神衛生上よくないんですよね、とミサカは漠然とした不安を訴えます」
「夕方までミサカ達に不安なまま過ごせというのですか?とミサカは上目遣いで訴えかけます」
「もしもし垣根かァ?悪ィ、今日ちょっと無理になったわ。うン、悪ィ、埋め合わせはすっから、うン」
「はや!とミサカはあまりにもあっさり陥落した一方通行に苦笑いします」
「涙目の上目遣いは最強ですね、とミサカは目薬をしまいながら頷きます」
「よし、それじゃァ探しに行いくかァ」
「朗報を期待していますよ、とミサカはソファに身を沈めながら見送ります」
「上位個体がここに来る可能性があるので、ミサカ達はしばらくここで待機することにします
とミサカは一方通行に手を振りながら今後の予定を離します」
「あ、じゃァ鍵渡しといてやるからオマエら帰るときは戸締りして帰れよ?」
「了解です、とミサカは部屋の鍵を受け取ります」
部屋に二人の妹達を残したまま一方通行は矢のように飛び立って行く。
そんな彼を、彼女達はニヤニヤと笑いながら見送った。
再三言って来たが、彼女達は性格が悪い。打ち止めが脱走した、ということに嘘偽りはなく、
彼に捜索を依頼しに来たと言うのも事実だが、二人が一方通行の家に残ると言う選択をしたのは
打ち止めをここで待つ、という理由ではない。
いや勿論それもあるのだが、真意は別のところにあった。
「行きましたか……さてそれでは、」
「家捜しを開始しましょうか、とミサカは怪しく目を輝かせます」
「とりあえず冷蔵庫のカフェオレは全て没収してやりましょう、とミサカはカフェオレを袋に詰めます」
「頑張ってください一方通行……外での捜索に協力できないミサカ達に出来ることと言ったら、
こうしてあなたの部屋の掃除をしながら無事を祈ることだけです……
とミサカは無力な自分に歯噛みしつつベッドの下を……おやおやこれはぁ」
まさに外道
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―街中
「しかし、探すつっても何処探すかァ……」
勢い良く街に飛び出した一方通行であったが、早速打つ手に困っていた。
渡された資料によると打ち止めの行きそうな場所は『クレープ屋』や『洋服屋』という事だが、
そんなものこの街には無数にある。というかこれは打ち止めの行きそうな場所というよりは、
どちらかと言うと妹達の行きたい場所、ではないだろうか。
「この前とは状況が違う……能力で探すっつーのも難しいなこりゃ」
彼の能力によるレーダーはあくまでも『何処にどういう形のモノがあるか、どう動いているか』を判断するだけで、
『何処に誰がいるか』を知る事は出来ない。
以前天井を探した時は、彼が逃げ出して間もなかった事、一直線に研究所から離れていった事、
などからそれでもあっさり見つけることが出来たが、今回は状況が違う。
打ち止めがどんな動きをしているか想像出来なければ、レーダーは全く役に立たないのだ。
(こォ言うときは人海戦術……誰かに応援を頼むか)
(だが誰に……垣根?いや、今日の約束を反故にした手前頼み辛ェ)
(それにアイツ、下手したら打ち止めみてェな幼女にも手ェ出し兼ねねェ、それはダメだろ)
(じゃァ超電磁砲はどォだ?……打ち止めの事説明すンのめンどくせェな、却下だ)
(打ち止めの事を適当に誤魔化せそうで、かつ人探しの役に立ちそうなヤツ……誰かいねェか)
「……ン?あそこにいるのは」
思考しながら歩いていた彼の目が、一人のツインテールの少女の姿を捉えた。
白井黒子もまた、その時人探しをしていた。
情報によると、付近に外部からの侵入者が潜んでいるというのだ。
学園都市は外の世界より数十年進んだ技術力を持っているとも言われており、
その為技術力を盗もうと、或いは破壊工作をしようと侵入を試みる輩が後を絶たない。
とは言えそれらのほとんどは都市の監視衛星に発見され街に侵入する事すら出来ないのだが、今度は違う。
どのような手で監視衛星を誤魔化したのかはわからないが、敵は既に街に侵入して来ている。
それだけでそんじょそこらの相手とは格が違うという事がわかるというものだ。
学園都市の治安維持の為侵入者を拘束する事、それが彼女達風紀委員(ジャッジメント)に与えられた仕事だった。
「……いましたわね」
褐色の肌に荒れた金髪、擦り切れた黒のゴスロリ服……渡された写真と同じ人物が白井の視界に入る。
彼女こそが侵入者に間違いないだろう。
ニッと不敵な笑みを浮かべると、白井は周囲に避難命令を伝えるべく、上空に信号弾を撃った。
「ひ、避難命令だ!」
「うわぁ、に、逃げろ!」
放たれた信号弾が、パンッという破裂音と共に辺りに強い閃光を走らせると、
それが避難命令だと理解した周囲の学生達は蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていった。
後に残ったのは学園都市への侵入者、魔術師シェリー=クロムウェルと
治安維持の役割を持つ風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子……
と、二人は気付いていないが何か白いのも近くにいる。
「動かないでいただきたいですわね」
「……」
「わたくし、この街の治安維持を勤めておりますジャッジメントの白井黒子と申します
自身が拘束される理由は、わざわざ述べるまでもないでしょう?」
不敵な笑みを浮かべたまま、白井はシェリーを牽制する。
彼女は学園都市でも有数の空間移動能力者だ。
だからこそ、外部からの侵入者などに後れを取るはずが無いという絶対の自信があった。
他方、白井に対して何の興味も持っていないシェリーはしばし無言で彼女を見つめると、
やがて心底めんどくさそうに溜息を吐き、ようやく口を開く。
「……探索中止、手間かけさせやがって」
呟きつつ、彼女はボロボロのドレスの裾から何かを取り出そうとする。
手首を少し丸め獲物を取り出すというわずか数秒の動作であったが、
彼女がその動作を完了するより早く――
「!?」
「動くなと申し上げております」
白井は空間移動の一跳びでシェリーの懐まで潜り込む。
白井はそのままシェリーの手首を掴み、能力を行使して一気彼女を地面へと薙ぎ倒しす。
何が起きたのか理解出来ていないシェリーを余所に、白井は更に能力を行使、
太もものホルダーに仕込んだ金属矢を転移させ、
未だ困惑状態にあったシェリーの服を地面に縫いつける事により彼女を完全に拘束した。
「日本語、正しく伝わってませんの?」
まるで昆虫採集の標本のように地面に張り付けられたシェリーを見下ろし、白井は挑発するかのような言動を取る。
それは犯罪者に対して情けは無用とする彼女の信条と、既に勝負は決したと言う余裕から生まれた言葉だった。
「……フッ」
そのような状態であるにも関わらず、シェリーは白井に負けぬほど不敵で余裕に満ちた笑みを浮かべる。
白井の誤算、それは侵入者が魔術師という彼女の理解の及ばない存在だったこと、
そして……
「ジャッジメントですのォォォォ!!!」
「ごぶふぁぁ!!!」
すぐ近くに何か白いのがいた事である。
シェリーが魔術を行使するより速く、白井がシェリーの異変に気付くより速く、
一方通行の右拳が白井の脇腹に突き刺さっていた。見事なボディーブローである。
「な、何をなさるんですの!?」
以前のように星になる勢いで吹っ飛んだりしないと言う事は手加減はされているのだろう。
とは言っても痛いものは痛い。白井は殴られた脇腹を擦りつつ、突然の理不尽な仕打ちに涙目で抗議する。
一方通行「何をじゃねェ!ジャッジメントが一般市民いたぶってンじゃねェぞ!!」
白井「は、はぁぁ!?あなたいったい何を勘違いしていますの!?」
一方通行「勘違いだァ?」
白井「そうですの!その女は学園都市への侵入者ですの!!」
一方通行「侵入者だと……?」チラッ
シェリー「……」
一方通行「嘘吐いてンじゃねェぞパンダ!!何処の世界にこンな見るからに怪しい格好の侵入者がいるってンだ!?」
白井「い、いやそこ!そこにいますの!!」
一方通行「だいたいオマエは無実の俺にケンカ売ってきたって前例があるしなァ」
白井「あれはあなたが挑発したからですのおおお!!!」
一方通行「悪ィなオマエ、このパンダには俺がきつく言っとくから許してやってくれねェか?」
シェリー「え?あ、あぁ……」
白井「話を聞いてくださいまし!!」
一方通行「ン、じゃァ野良犬にでも噛まれたと思って忘れてくれ」
シェリー「あ、うん、じゃあ私急ぐから……」
一方通行「おォ、じゃァな」
白井「ちょ!お待ちなさいな!!」
一方通行「待つのはオマエだ」ガシ
白井「ガフッ、あ、頭を掴むのはやめてくださいまし!!あ!あー……見失ってしまいましたの ……」
白井「第一位様!どういうおつもりですの!?どうしてあの女を行かせてしまったんですの!?」
一方通行「え、だって好みじゃねェし」
白井「意味がわかりませんのおおお!!!」
一方通行「で、ちょっと話があるンだが聞いてもらえねェか?」
白井「まずわたくしの話を聞いてくださいまし!」
一方通行「いいから聞け」ギロッ
白井「はいですの」
一方通行「オマエをジャッジメントの出来るパンダだと見込ンで頼みたい事がある」
白井「パンダはやめてくださいまし!白井黒子!白井黒子ですの!!」
一方通行「白と黒逆じゃなくてよかったよなァ、オマエの名前……」
白井「うるせーですの!!」
一方通行「黒井白子とかだったらオマエ……なァ?白子って 巣だぜ?しかもそれが黒いンだぜ?つまり……」
白井「解説するなあああああ!!!!」
一方通行「あァー、それでまァオマエに人探しを頼みてェンだよ」
白井「いえ、わたくしそんな事やってる暇無いんですの、さっきの女を追わなければならないので……」
一方通行「あァ?オマエ俺の頼みが聞けねェってのか?」ガシッ
白井「だ、だから頭を掴まないでくださいまし!脅されようとわたくしはジャッジメントとしてさっきの女を……」
一方通行「この俺がこれだけ平身低頭で頼ンでンのにダメだってのかァ!?」グググ
白井「何処が!!何処が平身低頭ですのおおお!!?」
一方通行「ちゃンと俺の頭の方がオマエより下になってンだろォが」ググググ
白井「それはあなたがわたくしの頭を掴んで持ち上げているからですのおおお!!!」
一方通行「ところでよォ、豆腐を潰さないように持ち上げ続けるのって意外と難しいンだわ」メキメキ
白井「」ミシミシ
一方通行「人探し、引き受けてくれるよなァ?」ニコッ
白井「もちろんですの」
「で、この写真に写ってるガキを探して欲しいンだが……」
そう言いつつ、一方通行は妹達から預かった写真を一枚白井に手渡す。
理不尽過ぎる扱いに涙目になっていた白井がおずおずとそれを受け取ると、その途端、彼女の雰囲気が一変した。
「ぬふぁ!これは!!」
「あ?」
「第一位様!この写真の子は!!お姉様の小さな頃ににそっくりなこの写真の子はどなたですの!?」
目を輝かせ、鼻息荒く白井は一方通行に詰め寄る。
最大の恐怖とは『知らぬ』という事、とはよく言ったもので、一方通行は痛恨の人選ミスをやってしまった。
彼は知らなかったのだ。白井が、超重度のミサカ・コンプレックスを患っているという事を。
「あー……ちょっとワケありでなァ、詳しい事は聞かずに探してもらえねェか?」
「……わかりましたの、何処の誰でも構いませんの。愛でる対象である事には変わりありませんので」
「め、愛で……?」
「とにかくこの小さいお姉様を探せば良いんですのね!?探し出して好きにしてよろしいんですのね!?」
「あ?いやちょっと待て何言ってンだオマエ!?」
ここに至り、ようやく一方通行は感付く。
あ、コイツこの前の超電磁砲のストーカー野郎と同じタイプの変態だ、と。
しかしもう遅い。彼女は『打ち止め』という存在を知ってしまった。
もはや彼女を止める事など誰にも出来はしない。
「これはもうさっきの女を追ってる場合じゃありませんのね……白井黒子、行かせて頂きますの!!」
「おい待て!!」
一方通行の制止も虚しく、白井は空間移動で彼の前から姿を消す。
彼女の限界飛距離は本来八十メートル程であり、とてもではないが一方通行から逃げ切れるようなものではない。
しかしこの時彼女が見せた跳躍は明らかに限界であるはずの数値を越えており、
少なくとも肉眼で見える範囲に彼女の姿はどこにも存在しなかった。愛の力である。
「やっべェ、人手増やすどころか危険増やしただけじゃねェか!!」
「あのパンダにそンな趣味があるなンざ聞いてねェぞクソ!!早く見つけねェと……」
もし白井に先を越されてしまったら……考えるだけでも恐ろしい。
焦りを覚えた一方通行もまた、持てる力の全てを使って打ち止めの探索を開始した。
―その頃の垣根さん
垣根「一方通行に約束反故にされて一人で地下街に遊びに来てみたものの……」
垣根「何かジャッジメントが避難誘導してやがる……おかしいだろ……」
垣根「ハ?テロリストがいる?ふざけろよクソ野郎が……」
垣根「ゲ、停電になりやがった!?……ツイてねぇ」
垣根「……何か音がするな、あっちか?」
―騒動に巻き込まれていた。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
一方通行「クソ、見つからねェ!!いったい何処に隠れてやがンだ!?」
一方通行「こォなったら背に腹はかえられねェ、垣根に応援頼むか……」ピッピッピ
一方通行「………」
一方通行「あの野郎圏外かよォォォォ!!!使えねェェェェ!!!」
一方通行「れ、超電磁砲は……」
一方通行「よく考えたら携帯番号知らねェェェェ!!」
一方通行(落ち着け、クールになれ……冷静に、ガキの気持ちになって考えるンだ……)
一方通行(俺がガキだったらどこにいく?俺はガキの頃何がやりたかった……?)
一方通行(……女風呂?いや違ェ!それは今の頭脳で子供の身体だったら何処に行きたいかだ!!)
一方通行(あ?つーことはコ○ンくンって女風呂入り放題って事かよ、死ねクソが)
一方通行(イヤイヤイヤ、関係ねェ事は考えンな、思考を集中しろ)
一方通行(ガキが一人で研究所から脱走……当然徒歩だ)
一方通行(恐らく金は持ってねェだろォからタクシーやバスは使えねェ、ヒッチハイクの可能性は低い)
一方通行(ガキが脱走した時間と現在時刻を鑑みるに、腹を空かせてる可能性が高ェ)
一方通行(金がねェから何も買えねェが、それでも腹が減った時は食い物の近くに行きたくなるってモンだ)
一方通行(超電磁砲筆頭に、妹達は皆甘党だったなァ……つーことは、怪しいのは研究所近くのクレープ屋か?)
一方通行「……行ってみるか」
―――――――――――――――
―――――――――
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(研究所からガキの足で歩いて行ける範囲のクレープ屋はここの公園の屋台で最後……)
(ここにいなけりゃお手上げだァ……頼むぜ、いてくれよ打ち止め……)
祈るような気持ちで一方通行は公園に入っていく。
そもそも冷静に考えてみれば広大な学園都市でちょこまか動く一人の幼女を探し出せ、など無理な注文だ。
例え見つからなかったとしても彼は十分良くやったといっていいだろう。
しかし彼の祈りは、願いは、最後の最後でようやく実を結ぶ事になる。
その公園の敷地内で、クレープ屋の屋台の前で、彼は確かに見た。
妹達そっくりの、ピコピコとアホ毛を揺らす愛らしい幼女の姿を。
そして、彼女を挟んで睨み合う一組の男女の姿を―。
「海原さん!この子はわたくしが見つけたんですの!!ジャッジメントとして保護させていただきますの!!」
「いいえそれはさせません!この子は自分が見つけたんです!!一緒にクレープを食べると約束したんです!!」
「お姉様に付き纏うだけでは飽き足らず、ついにお姉様に似たこんな小さな子にまで手をだそうだなど……
いくら理事長のお孫さんといえど、ジャッジメントとして見過ごすわけにはいきませんの!!」
「て、手を出すですって!?誰がそんな事をするものですか!!
自分はただあなたのような危険人物に彼女を預けるわけには行かないと言っているんです!!」
「だ、誰が危険人物ですの!?わたくしは迷子になったこの子を探すように保護者様に頼まれて……」
「フン、怪しいものです!あなたが御坂さんの事を尋常で無い程慕っているのはよく知っています!
この子を御坂さんに見立てて普段満たされない欲求を満たす為にあんな事やこんな事をするつもりですね!?」
「それはあなたの方でしょう!?何ですの!その不自然に膨らんだズボンの前方部は!!」
「こ、これは……ば、馬鹿な!自分のトラウィスカルパンテクウトリの槍が臨戦態勢に……!?」
「なんて汚らわしいんですの!これだから殿方は……」
「な、何を!あなたの顔だって先程から弛緩しっぱなしで……おや?」
「ん?」
白井黒子と海原光貴、いがみ合っていた二人は最後に同じ光景を目にする事となる。
しかしその光景が何を意味するのか理解する前に、両名の意識は深く深く沈んでいった。
一方通行「大丈夫だったかァ?」
打ち止め「ありがとう、これで二度目だね!ってミサカはミサカは笑顔でお礼を言ってみる!」
一方通行「あァ?前の覚えてンのか?オマエ寝かされてたンだろ?」
打ち止め「うん、だけど他の妹達が教えてくれたの!ミサカの為に引き篭もってた部屋から出てきてくれたんだよね!
ってミサカはミサカは勇気を振り絞ってミサカを助けに来てくれたあなたにもう一度頭を下げてみたり!」
一方通行「あァうン、引き篭もってたけどよォ……」
打ち止め「あなたはミサカのヒーローだねってミサカはミサカは照れながらあなたに擦り寄ってみたり」
一方通行「……ハッ、こンな人相悪ィヒーローいて堪るかよ」
打ち止め「かっこいいと思うけどなーってミサカはミサカは正直な気持ちをぶっちゃけてみる」
一方通行「オラ、いいから研究所行くぞ、オマエが黙って出てきたモンで皆困ってンだよ」
打ち止め「あ、そういえばそうだったー!ってミサカはミサカは今更ながらこっそり出てきた事を思い出してみたり!」
一方通行「忘れてたのかよ」
打ち止め「ど、どうしようこんなに長時間出かけるつもりじゃなかったのに……怒られちゃう……
ってミサカはミサカはしょんぼり項垂れてみたり……」
一方通行「自業自得だなァ、これに懲りたら黙って出かけたりするンじゃねェぞ」
打ち止め「うぅぅー……」
かくして打ち止めの脱走騒動は無事終わりを告げ、
学園都市に侵入した魔術師も垣根によってこっそり鎮圧されていた。
この後、打ち止めを研究所に送り届け自宅に帰った一方通行は
ベッドの下に隠していたはずの秘蔵のブツがテーブルの上に並べられているのを見て悶絶する事になるのだが、
それはまた別のお話である。
―その頃の垣根さん
垣根「せっかく助けたメガネの嬢ちゃんが目の前で突然消滅した……」
垣根「あの子はひょっとしたら二次元の世界の住人だったのかもしれねぇな……」
―何かよくわからん納得の仕方をしていた。
御坂「うああああ!!!」
一方通行「どうだァ?一方的な暴力に為す術もなく命をすり減らしていく気分はァ?」
御坂「いや、やめて!やめてぇ!助けてえええ!!!」
一方通行「おォー、コイツァ命乞いってヤツだなァ。最後はなンだァ?
ママか?恋人か?今頃走馬灯で子供の頃からやり直してる最中かァ!?」
御坂「あ、ああぁ……いやあああああ!!!」
一方通行「楽しいなァ超電磁砲!!楽しいよなァァァ!!!!」
― みことは めのまえが まっくらになった ―
―とある喫茶店
御坂「わ、私のピカチュウが……」
一方通行「これで俺の10勝0敗だなァ」ククク
垣根「いやオマエらどんなテンションでポケモンやってんだよ」
一方通行「あ?普通だろ普通」
垣根「いやいやいや、オマエの声怖すぎて周りから人いなくなっちゃったから!
下手したら通報されてるぞこれ!」
御坂「くぅぅぅ、もう一回!もう一回よ!」
一方通行「何度やっても同じ事なンだよ格下がァ!」
垣根「つーかオマエ何で第三位と普通に遊んでんの?」
一方通行「最近気付いたンだよ」
垣根「ん?」
一方通行「妹達と良好な関係を築こうと思ったら超電磁砲の存在は無視出来ねェ
ここらでコイツの好感度も上げといたほうが後々特だってなァ」
御坂「あんたは妹達と良好な関係なんて築けないし、私が築かせないわよ」
一方通行「ちょいさァ!!」
御坂「私のライチュウがああああ!!!」
垣根「オマエ、そんだけフルボッコにしといて好感度上がると思ってんのか」
御坂「そうよそうよ!ちょっとくらい手加減しなさいよ!!」
一方通行「あァ?オマエ手加減なンかされて嬉しいのか?」
御坂「え?」
一方通行「オマエを一人前と認めてるからこそ俺も全力でやってンだぞ?」
御坂「う……」
垣根「相手が妹達だったら?」
一方通行「気付かれないように絶妙な接待プレイをして機嫌をとる」
御坂「があああああ!!!!」バチバチバチ
一方通行「テメ、ゲーム機本体にダイレクトアタックしようとすンじゃねェよ!」
垣根「勝てないと思ったら躊躇なく卑怯な真似すんのか、相変わらず残念な子だな」
御坂「くうぅ、あんたら寄って集ってかよわい中二の女の子をいじめて楽しいの!?」
一方通行「かよわい女の子は人に向かって致死レベルの電撃をぶっ放したりしねェ」
垣根「第三位のオマエがかよわいんなら学園都市の女全員かよわいわ」
御坂「こんな時ばっか正論を……」
<消える飛行機雲 僕たちは見送った~♪
垣根「ん、悪い電話だ………もしもし」
一方通行「その着メロは引くわァ……」
垣根「オマエが言うかよ……あ?何でもねぇよ、こっちの話だ」
一方通行「いや流石に俺はそういう曲卒業したから」
御坂「そういう曲って?」
一方通行「気にすンな」
御坂「?」
垣根「あぁ、わかった、もう切るぞ……クソ」
一方通行「どうしたァ?」
垣根「仕事が入りやがったんだよ、つーわけで今日は先に帰るわ」チッ
御坂「仕事なんてやってたの?」
一方通行「仕方ねェなァ、気をつけろよ」
垣根「ハッ、第二位の俺が何に気をつけるってんだ?……っと、そうだ第三位」
御坂「なに?」
垣根「今度からオマエも俺らに混ざるときは電話かメールでアポとってからにしろ
毎度毎度突然現れるのはいい加減やめてくれ」
御坂「えー、一々連絡するのめんどくさいじゃん」
垣根「つってもオマエだって俺らが 談してる時とかに鉢合わせると気まずいだろ?
前もって来るのを知らせてくれりゃ少しは気ぃ使ってやるよ」
一方通行「垣根が突然イケメンみたいな事言い出しやがった……」
垣根「進歩のねぇオマエと違って俺は日々限界を超えて成長してんだよ
おら第三位、俺の番号教えといてやるからオマエの番号もよこせ」
御坂「そうやって私と番号交換してどうするつもりなの!!」
垣根「何この自意識過剰極まりない反応、マジで殴りてぇ」
一方通行「だァから真剣に相手にしようとすンのが間違ってンだって」
御坂「な、何よ当然の反応でしょ!?あんたらみたいのに番号教えたらろくな事にならないわよ!!」
一方通行「いやァマジでオマエに興味一切無いンでェ……」
御坂「む、何よその言い方」
垣根「チッ、もういい、とにかく俺は仕事行って来るわ」
御坂「舌打ちするな!さっさと行きなさいよもう!!」
一方通行「さァて、垣根も行っちまったしどうすっかな」
御坂「あんたどうせ暇なんでしょ?ちょっと付き合ってもらえる?」
一方通行「え、俺心に決めた女性が(複数)いるンでェ……」
御坂「何勘違いしてんのよ!!ゲーム負けっ放しなのが悔しいからちょっと時間よこせつってんの!!」
一方通行「あァそういう事か、安心したわ」
御坂「ムカつく言い方ね……ふん、とにかく移動するわよ」
一方通行「あ?どっか行くのか?」
御坂「ポケモンじゃ勝てそうにないし、次は私のホームグラウンドに行くの!」
一方通行「ホームグラウンドだァ?」
御坂「何、もしかして負けるのが怖い?第一位なのにぃ?」
一方通行「ケッ、ンなわけねェだろ。いいぜ、テメエに有利な場所で完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」
御坂「言ってなさいよ、吠え面かかせてやるわ!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―とあるゲームセンター
御坂「さて着いたわよ」
一方通行「常盤台ってお嬢様学校だよなァ?そこの生徒がゲーセンをホームグラウンドにしてるってどうなンだ?」
御坂「うるさいわね、あんたお嬢様に夢持ちすぎよ」
一方通行「いーや、ゲーセンに入り浸るお嬢様なンざオマエくらいだ」
御坂「そんな事ないってば!あーほら、あれやるわよ、あれ」
一方通行「スト4(ストリートファイター4)かよ」
御坂「何か文句あんの?」
一方通行「ますますお嬢様らしくねェなと思っただけだ」
御坂「うるさい!……あんた、やった事はある?」
一方通行「ン、まァ垣根と何度かな」
御坂「じゃあ練習とかいらないわよね?さっさと対戦しましょ」チャリン
一方通行「へェへェ……ンー、リュウでいいか」チャリン
御坂(フ、かかったわね一方通行……格闘ゲームはやり込み度合いが物を言うのよ!
『何度かやったことがある』程度でこのゲーセンの連勝記録保持者の私に勝てるわけがない!
私の春麗にボッコボコにされて半泣きになるがいいわ!!)
一方通行「おいオマエはブランカ使えよ」
御坂「あんたこそリュウなんてキャラじゃないでしょうが!!」
― ROUND 1 FIGHT ―
― K.O ―
―RYU WINS―
―PERFECT―
御坂「」
一方通行「小足見てから昇竜余裕でしたァ」
御坂「何なのあんた!おかしいでしょ!?」
一方通行「何が?」
御坂「何でこっちの攻撃見てからその全てに的確に対応出来るのよ!?」
一方通行「こちとら生身で超音速の戦闘が出来るだけの反射神経と動体視力持ってンだぞ?
フレーム単位で見切って対応するなンざ朝飯前なンだよ」ケケケ
御坂「ぐうぅ……じゃあ次あれ!BLAZBLUE!!」
一方通行「格ゲーだとどれやっても同じだと思うンだが……」
御坂「うるさいうるさい!ほら来なさいよ!」チャリン
一方通行「うるせェのはオマエだガキが」チャリン
御坂(もう許さないから……強キャラでも何でも使ってボコボコにしてやる……)
一方通行「ハクメンさンマジかっけェ」
御坂(はん、ハクメンなんかで私のノエルに勝てるわけが……)
― DISTORTION FINISH ―
― HAKU-MEN WIN ―
一方通行「反射反射反射反射ァ!!」
御坂「あ、当身で完封された………ああああもう!次次!!」
一方通行「まだやンのかよ」
御坂(こうなったらあいつの筐体をこっそり電撃で……)パチパチ
一方通行「反射ァ!!」ペカーン
御坂「あああああ!!!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
御坂「」
一方通行「そろそろ分かったかァ?どンなジャンルだろうとオマエは絶対に俺に勝てねェンだよ」
御坂「もう何なのよあんた……そんなんでゲームやってて楽しい……?」
一方通行「あンまり楽しかねェな、マトモに勝負になるのなンざ垣根くれェだ
だから滅多にゲーセンなンて来ねェンだよ」
御坂「むぅ……」
一方通行「でもなァ、今日は結構楽しめてるぜェ?」
御坂「え、それって……」
一方通行「主にオマエの無様な姿をなァ」ゲラゲラゲラ
御坂「あんたねぇ……」ピキピキ
一方通行「さァてどうする?終わりにするか、それとも無駄な挑戦を続けてみるかァ?」
御坂「ぐ……あ、そうだ」
一方通行「あ?」
御坂「あれやりましょう、あれ、あそこのクレーンゲーム」
一方通行「クレーンゲームゥ?どうやって勝負すンだよ」
御坂「500円でどっちが多くぬいぐるみを取れるか勝負!ほら、先攻は譲ってあげるから行きなさいよ」
一方通行「ハッ、俺が先攻で取り尽しちまっても構わねェンだなァ?」チャリン
御坂「やれるもんならやってみなさい」
一方通行「こンなモン、格ゲーやガンシューより遥かに簡単なンだよ!
ぬいぐるみの重心とアームの閉じ方を計算すりゃ……あァ?」ポロ
御坂「あれー、どうしたの?取れなかったみたいだけど?」
一方通行「ンな馬鹿な、あの角度で取れねェわけが……あァァ!?」ポロ
御坂(フフフ、今度こそかかったわね、このクレーンゲームはアームの力が弱すぎて絶対に景品を掴めないのよ!
通称、『100円入れてアームを動かすだけのゲーム』!私の知る限りもう年単位で景品の配置が変わっていないわ……
一方通行がぬいぐるみを取れば何か理由をつけて私がそれを没収、取れなければ最悪引き分け、
どっちに転んでも私に損は無い!)
一方通行「おいィィ!!ふざけてンのかこのクソアーム!!!」ポロ
御坂「ちょっと、ゲーム機のせいにするなんて情けないわよ?」
一方通行「いやこれ絶対に取れねェようになってンだろ!?」ポロ
御坂「はいはい、後一回ね。学園都市の第一位様が一個も取れないのかぁ」ククク
一方通行「ふざけンじゃねェぞォォォ!!!」ビキビキビキ
御坂「え、ちょっとあんた力入りすぎじゃない!?」
一方通行(集中しろ!計算しろ!ぬいぐるみの動きを!アームのベクトルを!操ってみせろ!!)
御坂「ちょ、あんた能力使ってるでしょ!?ダメよ!このクレーンゲームには能力の感知装置が……」
クレーンゲーム<ビービービービー!!!
一方通行「あァ?」
御坂「あああ!!警報鳴っちゃった!!!」
一方通行「あァ!?普通にやったら絶対取れず、能力使ったら警報かよ!!ナメてンのかこの店はァァァ!!!」
御坂「言ってる場合じゃないでしょ!早く逃げなきゃ!!」
一方通行「クソがァァァ!!覚えてろよクソクレーン!!!」ダッ
御坂「もおおお!!私このお店常連なのに来れなくなったらどうしてくれんのよおお!!!」
ダッ
―――――――――――――――
―――――――――
――――
一方通行「あァちくしょう、あのクレーン今度絶対ぶっ壊してやる……」
一方通行「つーか逃げてる間に超電磁砲とはぐれちまった、こっちから連絡取れねェしどうすっかな……」
一方通行「……まァいいか、結構付き合ってやったしあのガキも満足しただろ」
一方通行「研究所にでも顔出しに行くかァ」テクテク
―研究所
一方通行「よォ」
芳川「あら一方通行、私に会いに来てくれたのかしら?」
一方通行「……チッ」
芳川「……あのね、私も女の子なんだからそろそろ泣いてしまうわよ?」
一方通行「女の『子』(笑)」
芳川「……」イラッ
一方通行「あのなァ芳川、世の中には二種類の女がいるンだよ」
芳川「へぇ?」
一方通行「泣き顔が保護欲を掻き立てる女と、泣き顔すらムカつく女の二種類だ」
芳川「君は私が後者だと言いたいわけ?童 のくせに……」
一方通行「生まれたときは皆童 だろうが!!」
芳川「意味がわからない」
一方通行「そンな事だから行き送れンだよ」
芳川「まだ二十代よ!!」
一方通行「うるせェ、腐った子宮引きずり出されてェのか」
芳川「誰の何が腐ってるですって!?」
一方通行「年甲斐も無く声張り上げるのやめてくださァい、明日声が出なくなりますよォ?」
芳川「君は私をなんだと……」
一方通行「とにかく俺はオマエと話してる暇なンてねェから。じゃァな」テクテク
芳川「あ、ちょっと!………まったくあの子は……」ハァ
一方通行「さァてと……お」テクテク
布束「~♪」カタカタ
一方通行(仕事中の布束発見)ニタァ
一方通行(どうすっか、普通に声をかけるってのは芸がねェよなァ……つーか逃げられるだろうし)
一方通行(……背後からこっそり近寄る→そっと抱きしめて愛を囁く→もう、あっくんったら!)
一方通行(これだなァ!俺の時代が来るぜェ!!)
布束「……」カチカチ
一方通行(そォーっとそォーっと……)コソコソ
布束「……」カタカタ
一方通行(よォし行くぜェ……4、3、2、1……)
布束「……寿命中断(クリティカル)!!」ギョロ
一方通行「な、気付かれた!?気配は完全に消してたはずだぞ!!」
布束「because あなたのどす黒い気配は消そうと思って消せるものではないわ」
一方通行「えェー……」
布束「本当の事を言うと、パソコンのモニターに忍び寄るあなたの姿が映っていただけなのだけどね
それで、何の用?」
一方通行「用事かァ……オマエの顔を見たかったってだけじゃ不満かァ?(キリッ」
布束「不満ね、私はあなたの顔など見たくもなかったもの」
一方通行「流石にその言い草はひどくねェ?ちょっとへこむンですけどォ……」
布束「あなた、自分が私に何をしたのか忘れたの?」
一方通行「土下座しながら告白しただけじゃねェか」
布束「moreover ズボンを下ろしながら追いかけてきたわね」
一方通行「すいませンでした、テンション上がってたンです」
布束「未遂に終わったからよかったものの……」ハァ
一方通行「ハイ、ホントすいませンでした、だから嫌いにならないでください……」
布束「……あなたには、まぁ色々と感謝しているわ。therefore 別に嫌いというわけではないけれど……」
一方通行「ほォ………」カチャカチャ
布束「ちょっと待って、嫌いではないと言ったけど別に好きとは……あああもう!無言でベルトを緩めないで!!!」
一方通行「嫌いじゃないって事はつまり良いって事だよなァ!?OKって事だよなァ!?」ガチャガチャジー
布束「ズボンを降ろさないでぇぇぇぇ!!!」
一方通行「布束ァァァァァ!!!!」
布束「く、寿命中断!!!」
その後、逃げた布束を一方通行はズボンを下げたままヒヨコ走りで追いかけたが、
そんな状態で追いつけるはずもなく、結局またすっ転んで取り逃がすことになる。
どこまでも学ばない童 である。
「なァ垣根、知ってっか?」
「あぁ?」
「落し物を拾って持ち主に届けると拾ったモンの5%~20%をお礼として受け取る権利が発生すンだよ」
「それがどうした?」
「80歳の婆さん拾って届けりゃ運がよければ16歳の女を貰えるンじゃねェか?」
「持ち主が現れなかったら現物の80歳ババア受け取る事になんぞ。
しかも5%~20%だと下は4歳からじゃねぇか、流石に射程圏外だ」
「……ギャンブル過ぎるかァ」
それ以前の問題である。
今日も今日とて、喫茶店でコーヒーを飲みながらつっこみどころ満載の会話をしている馬鹿が二人。
何を隠そう、彼らこそ学園都市のトップ2、第一位、一方通行と第二位、垣根帝督である。
時期は9月の半ば、厳しい残暑はただでさえネジの外れている彼らの脳をさらに蕩けさせていた。
「どっかに運命転がってねェかなァ」
「転がってる運命なんてありがたみがなさそうだけどな」
ハァ、と二人同時に溜息を吐く。運命の人を探し始めてもう随分経つが、イマイチ成果は上がらない。
一方通行の方はここ最近妹達の反応が少しずつ柔らかくなってきているものの、
御坂に監視されている為アクションを起こす事ができず
垣根はそもそも一方通行のように運命を感じる相手が近くにいない上、
立ち掛けたフラグが運悪く潰れてしまったりで、これまた進展がない。
こうして情報収集のために顔をつき合わせているのだが出てくるのは愚痴ばかりだ。
「なンかいい方法は……あ」
「何か思いついたか?」
「おォ、樹形図の設計者だ。あれで運命の相手探してもらおうと思ってたンだった」
「はぁ?」
すっかり忘れてたぜ、と一方通行は今更ながら、垣根に出会ったあの日以来、
実に数ヶ月ぶりに樹形図の設計者の使用申請を出そうとしていた事を思い出す。
『ラプラスの魔』にも等しいあのコンピュータならば、正しいデータさえ入力すれば
確実に運命の相手を探し出してくれるはずだ。
しかし期待に目を輝かす一方通行とは対照的に、垣根の反応はあまり芳しくない。
何を言ってるんだ、と言いたげな怪訝な目で一方通行を眺めている。
「どォした垣根、なンか不満か?」
「不満っつーかなんつーか……」
「あァ?」
「樹形図の設計者ならとっくに壊れたぞ」
「はァ!?」
今より一月半程前、人工衛星『おりひめ一号』の内部に搭載され宇宙に浮いていた樹形図の設計者は
突如学園都市から放たれた正体不明の高熱源体の直撃を受け大破してしまったのだ。
その高熱源体を放ったのは彼らがかつて学園都市の闇から救った(と彼らは思っている)インデックスなのだが、
そのような事、彼ら二人は知る由も無い。
「暗部じゃ結構有名な話なんだが……知らなかったのか?」
「マジかァ……いや全然知らねェよ……」
「ま、そういうわけで樹形図の設計者は使えねぇよ」
残念だったな、と諭すように付け加え、垣根はコーヒーを啜る。
しかし一方通行はその事実を聞かされてもどこか不満そうで、
どうやら樹形図の設計者を諦めきれていないようだ。
「壊れたンならさっさと直しゃいいだろ、何やってンだ学園都市の上層部は……」
「損傷の少なかった中枢部は回収されたらしいが、それから続報は聞いてねぇな」
「続報無し?再構築する気はねェのか?」
「俺が知るかよ。外部の連中が狙ってるらしいからタイミング伺ってんじゃねぇか?
ま、焦らなくてもそのうち再構築されるだろうよ」
「そのうち、なンて待ってられるかボケ」
「あ?」
「上層部の連中が再構築しねェっつーンなら俺らでやってやりゃァいい」
「……は?」
「樹形図の設計者の中枢部、ブン捕りに行くぞ垣根ェ!」
「はぁぁぁ!?」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
薄暗い路地裏の一角で、二人の少女が対峙していた。
一人は大きなキャリーケースに腰掛け、余裕の笑みを浮かべた赤い髪の少女。
もう一人は右肩と脇腹から鮮血を流し、苦痛に顔を歪めながらも相手を睨みつけているツインテールの少女。
どちらが優位に立っているかは誰の目からも明らかである。
しかしそれでもツインテールの少女―白井黒子は後退する素振りは見せない。
ジャッジメントとして、犯罪者に背中を見せるわけにはいかないのだ。
「ね、もう諦めなさい?あなたの『空間移動』じゃどう足掻いても私の『座標移動(ムーブポイント)』には敵わないわよ」
赤い髪の少女―結標淡希はキャリーケースに腰掛けたまま挑発的に笑う。
彼女の『座標移動』は空間移動系の能力の中でも最高クラスのものであり、
射程距離、一度に飛ばせる質量の限界、どちらをとっても白井の『空間移動』を大きく上回っている。
また、白井のそれが触れているモノにしか効果を発揮しないのに対し、
結標の能力は始点が固定されておらず、触れずに、離れた場所にあるモノも移動させる事が出来る。
はっきり言うと、レベル5の認定を受けてもおかしくないほど強力な能力であり、
正攻法で白井が勝てる道理は無いのだ。
「ふざけないでくださいまし……ッ!例え勝ち目が薄かろうと、
わたくし達ジャッジメントは犯罪者に屈するような事があってはならないんですの!」
今回彼女が帯びている使命は、結標を含むある組織が強奪したキャリーケースを奪い返す事。
その中身が何なのか、一体どのような目的なのか、そんな事は白井にはわからない。
しかしこれほど高位の能力者が動いている事態だ、到底見過ごす訳には行かない。
だからこそ白井は立ち上がる。痛みも恐怖も押し殺し、ただ学園都市の平和を守りたい一心で。
「……仕方の無い人ね」
(来る!!)
一触即発。二人の睨み合いが終わろうとしたまさにその時―
「そこまでだオマエらァ!!」
「「!?」」
「それ以上俺の為に争うのは止めろォ!!!」
空気を読まない事に定評のある白い男が、彼女達の間に割って入った。
「あなたという人は……何故こうシリアスな空気の時に乱入して来るんですの……」
突如目の前に現れた見覚えのある白い男の姿に、白井は溜息を吐きつつ、へなへなとその場に崩れ落ちる。
命掛けの戦いに身を投じようと覚悟した直後にこの有様である。緊張の糸が完全に切れてしまったのだろう。
「俺の為に云々」にはあえてつっこまない。
余計な事は言わない、というのは何度かの一方通行との邂逅の果てに白井が学んだ処世術であった。
「おっと、大丈夫かお嬢ちゃん」
「あ、あなたはこの前の……」
「よ、久しぶりだな」
がっくりと項垂れていた白井の肩に、これまたいつの間にか現れた垣根が背後から優しく手をかける。
やっべぇこのままじゃ垣根にフラグ立っちまうぞ誰か潰し方考えろよおい
「どうしてここに……」
「運命だよ運命。……ん、オマエ怪我してるのか?」
「こ、このくらい何ともありませんの!」
「ダメダメ、女の肌に傷は禁物だぜ?ほら、病院行くぞ病院」
「え?あ、ちょ!」
強がる白井に優しく微笑みかけ、背中と脚に手を回し一気に抱え上げる。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
ちくしょう垣根が普通にいい男になってきてるじゃねえかおいこら誰か何とかしろ
「お、降ろしてくださいまし!」
「あぁ、病院着いたらな。 おい、ちょっとこの嬢ちゃん病院まで送ってくるから後任せてういいか?」
「チッ、仕方ねェな、さっさと行ってこい」
「何を勝手に、わたくしは戦わなければ……ま、また空間移動が出来ませんの!?いったい何故!?」
「異物の混じった空間。ここはテメエの知る場所じゃねぇんだよ(キリッ」
「意味がわかりませんの!」
「んじゃ飛ぶからあんまり暴れるなよ?」
「と、飛ぶとは………翼が生えた!?ひぎゃああああ!!!」
未元物質を空間に混ぜ込むことによって白井の能力を封じると、垣根は翼を広げ超スピードで飛び立つ。
あまりにも加速的に飛び立った為、彼が元立っていた地面には小規模なクレーターができ、
その暴力的なまでのスピードに白井は大声で悲鳴を上げた。
もうちょっと丁寧に扱えよ、詰めが甘いんだよ……
「わっかンねェなァアイツの趣味。あンな貧相な体付きしたババア声のどこがいいンだか……
なァ、オマエもそう思うだろォ?」
「え?あ、そ、そうかもね」
ドップラー効果で徐々に低くなっていく白井の悲鳴を笑いながら、
一方通行は誰彼構わず手を出す垣根の趣味に首を傾げ、結標に同意を求める。
突然の事態に未だ混乱気味だった彼女は突如話を振られた事で更に狼狽し、
先ほどまでの余裕の態度は何処へやら、オロオロとしつつも一先ず一方通行の意見に同意することにした。
「つーかオマエすげェ格好してンな、流行ってンのか?そォいうの」
「う、うるさいわね、いいでしょどんな格好してても!」
一方通行はここでようやく結標の姿をはっきりと確認し、その露出度の高い格好に思わず素朴な疑問をぶつけた。
確かに、彼女は下半身にはミニスカート、上半身は胸にサラシを巻き、その上からブレザーを羽織っているだけ、
という『え、見られるのが趣味なんですか?ありがとうございます』と言いたくなる様な格好をしている。
一方通行でなくとも「女がそんな格好してていいのか?」とつっこみたくなるというものだ。
「ン、まァどォでもいいけどな。俺が用があるのはオマエが座ってるそれだ」
「ッ!?」
一方通行が結標の座っているキャリーケースを指差すと、場に緊迫した空気が戻る。
結標は一瞬驚いた顔をしたがすぐにそれを隠し、キャリーケースを庇う様に立ち上がると、
一方通行を思い切り睨み付けた。
「……あなた、これが何か知っているの?」
「樹形図の設計者の残骸、だろ?」
「……あぁなるほど、学園都市の上層部が事態に気付いて取り戻そうとしてるわけ?」
「ン?いやちょっと違うンだが……まァいいか、とにかくよこせ」
「ふざけないで!そう簡単に渡すと思う?あなたが何者かは……」
知らないけれど、そう続けようとして、結標はふとある事に思い至り、息を呑む。
目の前の男を、自分は本当に知らないのだろうか?
直接見るのは初めてだ。しかし白い髪に白い肌、赤い瞳を持つ超能力者の噂を、情報を、自分は知っているはずだ。
そう、目の前にいる白い男の事を、自分は知っている。この男は――
「一方……通行……」
「あァ?」
学園都市最強の超能力者、序列第一位、一方通行。それが今、目の前にいるのだ。
自分の持つ樹形図の設計者の残骸を狙って。つまり、自分と敵対する意思を持って。
(う、嘘、どうして……無理よ、学園都市最強の能力者と戦うなんて……)
(何でコイツ俺の名前知ってンだ?……まさか、そォいう事なのか)
結標は顔を引き攣らせ、後ずさる。一方通行の能力の詳細は知らない。しかしその噂は嫌というほど聞いている。
曰く、最強の能力者、理論上出来ない事など無い、絶対能力者に最も近い存在……
(でも、だからって……)
退くわけにはいかない。ここで退けば、今までやって来た事が全て無駄になってしまう。
自分の目的の為にも、自分を信頼してくれている仲間達の為にも、ここで退いてはならないのだ。それに……
(そうよ、勝算が0というわけじゃないわ!)
絶対能力者に最も近い存在、そう噂されながらも一方通行は未だ絶対能力者に至っていない。
彼の為に絶対能力進化という実験まで計画されたと言うのに、だ。それどころか計画は始まってすらいないという。
はっきりとした理由まではわからない。だが、ある程度想像は出来る。
(一方通行の能力に絶対能力者になれないような致命的な欠陥があった、そう考えるのが妥当。
つまり、そこを突くことが出来ればこの状況を打破できるかもしれない!)
大ハズレであった。
一方通行の能力には欠陥など存在しない。
絶対能力進化を行わなかった理由は彼が 的に欠陥品だったというだけの事である。
しかし結標はまさかそんな下らない理由で実験が凍結されているとは夢にも思わない。
だからこそ、彼女は一方通行の能力に欠陥が存在するという事に一縷の望みをかけ、彼と対峙する道を選んでしまった。
「し、知ってるわよ一方通行!」
「あン?」
「あなたは絶対能力進化を開始していない!絶対能力者になれていない!あなたに欠陥があるからなんでしょう!?」
恐怖に震える拳を握り締め、精一杯余裕の笑みを作り、強がった声を出す。
一方通行はその言葉に目を丸くし、声にならない声を上げ、動きを止めた。心なしか顔が紅い。
その姿に精神的動揺を見て取った結標は自分の考えの正しさを確信し、次の一手を思案しはじめる。
(やっぱり、予想通り何か欠陥があるのね……それも、これだけ動揺するほど致命的な何かが!)
(名前だけじゃなく絶対能力進化と俺の欠陥(童 )まで知ってるだと……やっぱり、コイツは……)
「運命かァ!!」
「!?」
童 特有の身勝手な勘違いをし、感極まった一方通行は歓喜の声を上げる。
その際にうっかり能力を使ってしまったのか、同時に彼の立っていた場所を中心に道路が捲れ上がり、
周辺の建造物がガラガラと崩れ落ちて行った。何とも傍迷惑な童 である。
(な、何よ今の……)
突如テンションを爆上げし周囲を瓦礫の山に塗り替えた一方通行を、結標は唖然とした表情で見つめている。
何をやったのかはわからない、しかし今のを見るだけでも実力の差は歴然、本当に能力に欠陥などあるのだろうか?
彼女は早くも一方通行と対峙する道を選んだ事を後悔し始めていた。
「オマエ、名前は?」
「え?」
「名前だよ名前」
「む、結標、淡希……」
笑顔で詰め寄ってくる一方通行に気圧され、結標はつい自分の名前を零してしまい、
それを聞いた一方通行は「いい名前だ」などと言いながら腕を組みうんうんと頷いている。
結標の混乱は深まっていく一方であった。
結標(いったい何なの……?)
一方通行「おい結標」
結標「な、なに?」
一方通行「残骸はオマエにやる」
結標「……へ?」
一方通行「俺の目的は達成出来たから、もう樹形図の設計者は必要ねェ」
結標「目的って……」
一方通行「運命の人に出会う事だ!」カッ
結標「は、はぁ?」
一方通行「樹形図の設計者で探すつもりだったンだがなァ、見つかったからもういいンだよ」
結標「樹形図の設計者をそんな下らない事に……て言うか、見つかったってまさか……」
一方通行「オマエだァ!!」ビシィ
結標「やっぱり!!何でよ!?」
一方通行「初めて出会ったはずのオマエが、何故か俺の詳細な情報を知っていた……運命だろ!
それに、残骸を巡って争う立場だった二人が対話を通して徐々に惹かれあうってシチュエーションも
運命的だと思わねェか?」
結標「……意味がわからないし、あなた自分がどれだけ有名かわかってる?
あなたの個人情報なんて裏の世界の人間なら皆 ……ハッ」
一方通行「あ?」
結標(ここで『皆あのくらいの事知ってる』何て言うのはマズイわよね……
せっかく勘違いしてくれてるんだし、それに乗じて残骸は貰っちゃおう)ウン
一方通行「ン?」
結標「そうね、私とあなたはきっと運命の赤い糸で結ばれてたのね」
一方通行「だよなだよなァ!」パァッ
結標(すっごい喜んでる……)
一方通行(よしそれじゃ早速………イヤ待て落ち着け、毎度毎度焦って失敗してるじゃねェか、
ここは慎重に、軽いジャブから……)
一方通行「なァ、」
結標「え?あ、何?」
一方通行「とりあえず下の名前で……淡希って呼んでみてもいいか?」
結標「えっ……」
結標(な、何よこいつ……)
結標(ちょっと可愛いじゃない……ッ)
一方通行「だ、ダメか?」
結標「えーっと……あ、そうだ、あなた歳はいくつ?」
一方通行「あ?あー……15か16、だったかァ?」
結標(15歳かぁ……確かに年下だけど、欲を言えばもうちょっと下が……)ウーン
結標(いやいや違うわ!私はショタコンじゃない!年下の男の子が好きなだけで……でも、うん15歳……)チラッ
一方通行「?」
結標(……悪くは無いわね)ニヤッ
一方通行「……!?」ゾクッ
結標(中性的美形のアルビノ系年下男子。しかも学園都市第一位……これって何気に超優良物件じゃない?)
一方通行(な、なンだ?何か寒気が……)ゾクゾク
結標(将来は安泰だろうし、●●りに励んでアルビノショタを量産すれば……
将来はたくさんのアルビノ系男子に囲まれて幸せな生活を……
孫の代にはサッカーチームが作れるくらい大勢のアルビノショタが……)ゴクリ
一方通行(邪悪な気配が……)
結標「ね、ねぇ」
一方通行「……あァ、なンだ?」
結標「下の名前で呼ぶよりも……」
一方通行「ン?」
結標「『お姉ちゃん』って呼んでくれない?」
一方通行「……は?」
結標「だからその、『お姉ちゃん』って……」
一方通行(……あれ、コイツ何か変な女じゃねェ?)
結標「あ、『先生』でもいいわよ!さ、呼んでみて!」
一方通行(あ、地雷だこれ、地雷踏ンだ、やべェ)
結標「ね、呼んでみて?ほら、ほーら?」
一方通行「すいませン、運命とかマジ勘違いだったンで残骸貰って帰っていいですか?」
結標「ダメよ!この出会いは運命なの!!」
一方通行「えェー……」
結標「それにあなたの方から誘ってきたのよ?
私の量産型アルビノショタ計画の為にも、あなたと私は結ばれなければならないの!!」
一方通行「量産型……なに?」
結標「あ、最終目標はアルビノショタに囲まれる事だけど、もちろんあなたが嫌いなわけじゃないわ!
あなたも十分可愛いし……ね、だからほら、安心して『お姉ちゃん』って……」
一方通行(やべェ、電波だ、関わっちゃいけない人種だ……逃げるか、何とか残骸だけでも奪って……)
―その頃の垣根さん
垣根「よーし着いたぞ、お嬢ちゃん」
白井「」ブクブク
垣根「ん?泡吹いて気絶してる……そんなに傷が酷かったのか?クソ!早く病院の中に……」
垣根「……『本日の受付時間は終了致しました』だと!?なんてこった!」
垣根「超音速で飛んで来たってのに……ちくしょう」
白井「」ピクピク
※白井さんは空気の壁に直撃なさいました
垣根「……開いていない病院、そして腕の中には意識不明の重態に陥っている少女」ハッ
垣根「これはもしや人口呼吸フラグか!!」
白井「」グッタリ
垣根「……仕方ねぇよな、他に方法ねぇもんな、やっちまっていいよな?」
白井「」グター
垣根「いただきます」
「ストォォォォォップ!!!!」
垣根「あぁ?……何だ第三位じゃねぇか、何の用だコラ、つーかどっから湧いて出やがった」チッ
御坂「何の用だ、じゃないわよ!私の後輩に何してんのあんた!!」
垣根「あ?……カクカクシカジカで、病院に来たんだが閉まっててな、」
御坂「嘘、黒子怪我してるの!?」
垣根「そんなに深い傷じゃねぇはずなんだが、何故か意識不明になっちまったから応急手当しようとしてたんだよ」
御坂「そうだったの……う、疑ってごめん」
垣根「いいって事よ、じゃあ俺人口呼吸やるから」
御坂「いやいやいや待ちなさい!それは認めないわよ!!」
垣根「何でだよ!?疚しい気持ちなんて一切ねぇぞ!!事態は一刻を争うんだ!!」
白井「」シーン
御坂「疚しい気持ちが無かろうが黒子をあんたの毒牙にかけるわけには行かないわ!
あんたに人口呼吸やらせるくらいなら私がやるわよ!!」
垣根「あ、マジ、オマエがやる?じゃあ頼むわ」
御坂「へ?」
垣根「ほら急げ、可愛い後輩がピンチだぞ」
御坂「え、あ、うん」
御坂(な、何かあっさり引き下がったわね……こいつ本当に人助けのつもりだったの?)
垣根(女子中学生同士の生レ プレイ、悪くねぇな!)
白井「」
御坂「うー……」
垣根「どうした?早くしろよ」
御坂「わ、わかってるわよ!……くっ」
垣根「……やっぱり俺が」
御坂「やるから!ちゃんとやるから下がってて!!」
御坂(そうよ、これは人口呼吸……人助けの為の行為だから、き、キスとかじゃないから!
だから女の子同士でもおかしくなんて……で、でも……)
垣根(第三位も顔はいいんだからこうやって黙って照れたりしてりゃ可愛いのになぁ……
もう一生喋らなけりゃいいのに)
御坂「うぅぅぅ……」
垣根「オマエが躊躇してる間に可愛い後輩は一歩一歩天国の階段を……」
白井「」チーン
御坂「ぐ…………で、」
垣根「で?」
御坂「出来るかあああぁぁぁ!!!!!」バチバチバチ
白井「あばばばばばば!!!」ビリビリビリ
垣根「何やってんだオマエェェェェ!?」
御坂「電気ショックよ電気ショック!!何も人口呼吸にこだわる必要ないじゃない!!」
垣根「致死量流れた!今絶対致死量の電流が流れただろ!!」
御坂「大丈夫よこの位、普段の黒子なら喜ぶから」
垣根「いやいや何言って……」
白井「ふぅ……生き返った気分ですの」テカテカ
御坂「ね?」
垣根「どういうことなの……」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
「……いねェ、よな?……ふゥ」
恐る恐ると言った様子で一方通行は物陰から顔を出す。
そのままキョロキョロと周囲を見渡し、厄介な追跡者の姿が見えないことを確認すると、安堵の声を漏らした。
「何なンだアイツは……運命かと思ったらとンだ地雷女じゃねェかクソ」
先程まで自分を追い掛け回していた少女の事を思いながら悪態を吐く。
相変わらず勝手に運命認定して好みから外れたら地雷認定するのだから身勝手極まりない。
とはいえ今回は少しは同情の余地があるだろう。相手が重度の変態じゃ流石にねぇ?
最初こそ好感触だった物の、突如「お姉ちゃんと呼んで欲しい」などと言い出すのだから堪ったものではない。
如何な童 といえど、流石にそんな相手と付き合うのはゴメンだったようだ。
(見てくれは悪くなかったンだがなァ……まァ、当初の目的は果たせたから良しとするかァ)
若干後ろ髪引かれる思いを感じながらも、それを振り切り手元のキャリーケースに目を落とす。
先程、件の少女―結標から強奪してきた樹形図の設計者の残骸だ。
今日感じた運命は気のせいだったが、これさえあれば本物の運命を探す事が出来るだろう。
後は第一位と第二位の人脈、コネを使ってこれを再構築するだけ、それで今度こそ運命の相手を……
期待に胸を膨らませ、一方通行は自分の置かれた状況も忘れ笑みを零していた。
「見ぃつけたぁ」
「!?」
だから彼は気付かなかった、自分を追いかけている厄介な相手がすぐ近くまで迫っていた事に。
そして気付いた時はもう遅い、結標淡希は音もなく彼の背後に立っており、
更に今の今まで一方通行の手元にあったキャリーケースは、いつの間にか彼女の腕に抱えられていた。
「ダメじゃない逃げちゃ、そんなにお姉ちゃんを困らせたいの?」
クスクスと笑いながら、まるで幼子を相手にするかの様な口調で一方通行を問い詰める結標。
そんな彼女の様子に、一方通行は改めて「こいつは無いな」と思ったとか思わなかったとか。
とにかく、僅かな油断の内に残骸まで奪い返されてしまった。厄介な事になったものだ。
「テメエ、どうやって……」
「フフ、私の能力『座標移動』は飛距離800m以上、重量限界4520kg、学園都市最高の空間移動能力よ
いくら第一位といえど、その私から逃げ切るのは容易ではないわ」
「チィ……」
「さぁあっくん、この残骸が欲しければ私の事を『お姉ちゃん』と呼びなさい!
出来れば涙目の上目使いで頬を赤らめて!」
「誰が呼ぶかァ!!つーか誰があっくんだ!?」
叫ぶと同時、一方通行は拳を握り締め結標に飛び掛る。
地雷とはいえ自分に好意を持ってくれている、という理由で暴力を振るうのを躊躇っていた彼だったが、
追い掛け回され残骸を奪われ更にショタプレイまで強要されては流石に我慢の限界というものだ。
しかし、一方通行の振るった拳が結標に接触する刹那、彼女は一瞬にしてその姿を消し、再び彼の背後に立っていた。
自分で自分を転移させたのだろう。空間移動系の能力に逃げに徹されると言うのは非常に厄介だ。
一方通行は思わずチッと舌打ちを漏らし、結標を睨みつけた。
「ふ……やろうと思えば出来るじゃない、私」
「あァ?」
一方通行は知らないが、結標はかつて自身を転移する過程で座標の計算誤り大怪我をした事がある。
それがトラウマとなり、今日に至るまで自身の転移を行う事に拒否感を抱いており、
また、それ故強大な能力を持ちながらレベル5認定をされていなかったのだが、今の彼女は違う。
「おらァ!!」
「甘いわよ!」
学園都市最強を翻弄するかのように、縦横無尽に空間を跳び回る。
もはやトラウマを抱えていた事など過去の話し、彼女は一つの目的を達成する為、
トラウマなど忘れ今のこの状況に集中する。この極限の中を楽しむ。
「ほらほらお姉ちゃんはここよ、捕まえてみなさーい」
「がァァうぜェェェ!!!」
結標は己の能力をずっと忌み嫌っていた。
『座標移動』、一人の少女が持つには余りにも大きな力、望むままに人を傷つける事が出来る能力。
それは言ってみれば安全装置の無い銃以上に危険な武器を常に持たされているのと同じ事だ。
「何故自分にこんな力があるのか」「何故自分でなければならないのか」
強大すぎるその能力に彼女は怯え、ずっと思い悩んできた。
樹形図の設計者を再構築しようとしたのも、突き詰めればそこに行き着く。
彼女は知りたかった、納得したかった。樹形図の設計者を外部組織に引き渡してでも、
自分がこの能力を持たされた事の答えが欲しかった。
しかしそれも先程までの事。
彼女は既に理解した、納得した、答えを得た。
自分の能力は、今この瞬間の為にあったのだと。
もはや、迷いは無い。
「私の能力はこの為にある!」
――新たなレベル5誕生の瞬間であった。
(クソが、埒が明かねェ……)
一方通行のイラ立ちは今や最高潮に達していた。
いかに結標の転移が素早く正確であろうと、彼が本気でかかれば対処の方法などいくらでもあるだろう。
しかし、彼は跳び回る結標を愚直なまでに一直線に追いかけるだけだ。
いったい何故か?答えは単純、彼女が樹形図の設計者の残骸を抱えているからである。
残骸がこれ以上破壊され、樹形図の設計者の再構築が不可能になってしまうのは彼の望む所のものではない。
結標をぶん殴るだけなら簡単だが、高速で跳び回る彼女から残骸を無傷で取り戻すとなると、
これはかなり難易度が高くなる。というか結標が残骸を盾にしながら逃げている為ぶっちゃけ無理ゲーである。
「……仕方ねェか」
溜息混じりにそう呟くと、一方通行は結標を追う足を止める。
元より我慢弱い彼が遂に根負けしたのだ。
「おい、オマエの望み通り呼んでやるからこっち来やがれ」
「ようやくその気になってくれた?男の子は素直が一番よ」
「チッ、呼んだら残骸こっちに寄越してくれンだな?」
「勿論!お姉ちゃんを信じなさい!」
「………オネエチャン」
「え、何聞こえない」
「……お姉ちゃん」
「聞こえなーい」
「お姉ちゃん!」
「も、もう一回……」
「お姉ちゃァァァァん!!!」
「ごめん、もう少しトーン落としてくれる?あとその言い方だと可愛くないから……」
「………」
「……あれ、どうしたのあっくん?顔怖いよ」
「………」
その時、一方通行の中の何かが、ブツンと音を立てて切れた。
「ぐがァァァァァァ!!!!!」
「!?」
獣のような咆哮を上げ、一方通行は思い切り右足を踏み込む。
それだけで地面に亀裂が走り、周囲の建造物が崩れ落ちる。
先に喜びの余り見せた光景と似ているが、決定的に違う点が一つ、
崩れた建造物の破片が全て、明確な攻撃性を以って結標に降り注いで行った。
(やりすぎた!?子供っぽい癇癪起こしちゃってかわいい、何て言ってる場合じゃなさそうね……!?)
咄嗟に自身を転移し瓦礫の届かない空中に逃れた結標だったが、すぐにその行動を後悔する。
瓦礫から逃れる為に空中へ跳ぶ事など一方通行には計算済みだったようで、
彼女が転移した目と鼻の先に、風を纏い、狂ったような笑みを浮かべている彼の姿があった。
「く、私を攻撃すれば残骸も……」
「そンなモンに頼らなくてもなァァ!!!」
「うあぁ!?」
咄嗟に残骸を盾にする結標だったが、一方通行は笑みを浮かべたまま、躊躇無く拳でそれを打ち抜く。
もはや、今の彼は結標をぶっ飛ばすという事以外何も考えていないのだろう。
「運命くらい、自分の手で掴み取ってやるよォォォ!!!」
残骸を粉々に砕いた一方通行が、更に拳を振りかぶる。
最後の盾すら剥ぎ取られた結標が取れる行動は、もう何も残っていなかった。
「悪ィがこっから先は一方通行だァァ!!!」
「いやちょっと意味がわからnあぐおあぁ!!!!」
決め台詞の無駄遣いをしながら放たれたその一撃は的確に結標の顔面を捉え、
彼女もまた、かつての白井のように星になった。男女平等パンチどころか、今のところ女性限定パンチである。
こうして、残骸争奪戦は終わりを告げた。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―後日、とある喫茶店
「はァァ……」
「自分で残骸叩き壊したってオマエ馬鹿じゃねぇの?てか馬鹿じゃねぇの?」
「うるせェ、二回言うな!耐えられなかったンだよクソ……それにな」
「あ?」
「自分の手で掴むからこそ『運命』だろォが、機械なンかに頼ってちゃいけねェンだよ」
「……いや、ちょっとかっこいい事言っても誤魔化されねぇから、罰として今日はオマエの奢りな」
「ちくしょォ……つーかオマエ、あのパンダとはどうなったンだよ?」
「あー……何かアイツも第三位の電撃浴びて喜ぶような変態だったからちょっと冷めちまってなぁ」
「……マトモな女っていねェモンだなァ」
「っと、もうこんな時間か……そろそろ仕事だから引き上げるわ」
「おォ、俺も帰るわ」
― 一方通行宅
「ふゥ、ただいまァ……つっても一人暮らしだし誰もいねェンだけど……
いつか迎えてくれるような相手と出会えンのかねェ」
「お帰りなさーい!!」
「!?」
「お帰りなさいあっくん、御飯にする?お風呂にする?それとも……お姉ちゃん?」
「出てけオラァァァァァ!!!!」
一方通行の童 脱出計画、ただ今の成果
・恋人 なし
・仲間 一人
・ストーカー 二人
―番外編
フィアンマ「おいヴェント」
ヴェント「あぁ?何よ珍しいわね、そっちから話しかけてくるなんて」
フィアンマ「ふん、少しばかり貴様に聞いてもらいたい事あってな」
ヴェント「聞いてもらいたい事?益々珍しいわね……ま、暇だからいいけどさ」
フィアンマ「では早速だが……いいかヴェント」
ヴェント「うん」
フィアンマ「俺様は童 だ」
ヴェント「うん……あ?今何つった?」
フィアンマ「俺様は童t」
ヴェント「ああああ!!言い直すなボケが!!!」
フィアンマ「何だ?貴様が聞き返したのだろうが」
ヴェント「つーか突然何言ってんだテメエ!?」
フィアンマ「おかしいとは思わんか?顔良し、能力良し、頭良し、野望もある、そんな俺様が未だに童 なのだぞ」
ヴェント「自己評価高過ぎだクソが!!……ってか、一応聖職者なんだから当たり前だろ」
フィアンマ「神の右席の筆頭であるこの俺様が!未だに童 !!こんな事が許されていいのか!?」
ヴェント「だから聖職者……あと大声出すな!!」
フィアンマ「いいや許されない!!俺様の童 が外部に知れてしまえば
ローマ正教はたちまち求心力を失い瓦解してしまうだろう!!」
ヴェント「しねぇよ!!そもそも神の右席はそんなにオープンな組織じゃねぇだろ!!」
フィアンマ「そこでだ、ヴェント」
ヴェント「話を聞け」
フィアンマ「●●せろ」
ヴェント「死ねばいいのに」
フィアンマ「俺様が頼んでいるのだぞ?……●●せろ」
ヴェント「ぶっ殺すぞオカッパ野郎」
フィアンマ「ほんの●●●だけで構わん……●●せろ」
ヴェント「いい加減にしろやこの赤パジャマがああぁぁぁ!!!!」
フィアンマ「この俺様がここまで譲歩しているというのに貴様という奴は……」
ヴェント「何処が譲歩してんのよ!?」
フィアンマ「先っぽだけで構わんと言っているのだぞ?これ以上は譲れんな」
ヴェント「うるせえ先っぽとか言うな!!死ねこのタレ目!!」
フィアンマ「……さっきから貴様の暴言に地味に傷ついてるんだが」
ヴェント「だったら二度と下らねぇ事言うんじゃねぇ!忘れてやるからさっさと失せろ!!」
フィアンマ「ふむ、仕方が無いか……」
ヴェント「チッ、当分面見せんなよ」
フィアンマ「ならば見せてやろう、俺様の聖なる右曲がりを」
ヴェント「意味がわかんねぇんだよおおおお!!!!」
フィアンマ「この、神の生み出した最強の一品を目にすれば貴様の考えも変わるはずだ」モゾモゾ
ヴェント「絶ッッ対変わらねぇからズボンから手ぇ離せえええええ!!!!」
フィアンマ「いいかヴェント、バナナみたいな格好したお前はバナナのように引ん剥かれて俺様に喰われるべきなのだ」
ヴェント「あぁそういう事、喧嘩ね?喧嘩売ってたのね?いいわ、買ってやろうじゃないクソ野郎が」
フィアンマ「ほう、要は『私が欲しければ力ずくでやってみろ』と言う事だな?
ならば遠慮なくやらせて貰おう。さぁ刮目するがいい、これが俺様の……」ジジジ
ヴェント「死ねオラアアアアア!!!!」ブゥン!
フィアンマ「おっふ!!!」キーン!
ヴェント「ハァ、ハァ……」
フィアンマ「き、貴様……ハンマーで俺様の聖なる右曲がりを……」ピョコピョコ
ヴェント「股間押さえながらぴょんぴょん跳ねてんじゃねぇよ気持ち悪ぃ!!!」
フィアンマ「く、ふ……はぁ……俺様で無ければ即死だったぞ今のは……」
ヴェント「死ねばよかったのに」
フィアンマ「危うく男としての死を迎えるところだ。貴様は俺様を女にする気か?」
ヴェント「もう一発ブチ込まれてぇかコラ」
フィアンマ「……なるほど、貴様はレ プレイが好みだと言うのだな?だから俺様を女にしようと……」
ヴェント「頭湧いんのかテメエェェェェ!!!!」
フィアンマ「ローマ正教の人間でありながら同性愛に走るなど……恥を知れ背信者が!!」
ヴェント「オマエの存在が背信だろうがぁぁぁぁ!!!!!」
フィアンマ「我らが主よ、俺様は今より哀れな子羊に本物の愛を叩き込む。見守っているがいい」
ヴェント「殺す!もう殺す!!本気でテメエの小汚ぇブツを叩き潰してやらぁ!!!」
フィアンマ「やってみるがいい。不意を付かれた先程とは違い、今の俺様は既に臨戦態勢d」
ヴェント「死ねやぁぁぁぁぁ!!!!」ブゥン!
フィアンマ「ふん!!!」ガキーン
ヴェント「なっ!!私のハンマーが砕かれた!?」
フィアンマ「ふぅ……中々に刺激的だったぞ、貴様の一撃は。
お陰で溜め込んでいた聖なる右の力が放出されてしまった」モゾモゾ
ヴェント(砕けたハンマーの破片に何かついてる……)
フィアンマ「良いモノだな、この開放感……今の俺様なら神上に至れそうな気すらする……」フッ
ヴェント(ホント死なねぇかなコイツ)
フィアンマ「ちょっとズボン履き替えて来る。ベタベタどころかタプンタプンだ」
ヴェント「戻ってくんな死ね、あと意味のわかんねぇ擬音使うな死ね」
フィアンマ「……しかしあれだな」
ヴェント「あぁ?」
フィアンマ「俺様はまだ顔立ちが良いし比較的若いから童 でも救いがあるが……」
ヴェント「何が言いてぇんだ?っつーか色々と救いようがねぇだろ」
フィアンマ「アックアやテッラを思うと不憫でならん。奴ら、あの容姿、あの年齢で童 なのだろう?」
ヴェント「知るかぁぁぁぁ!!!!」
462: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:49:30.07 ID:tuTw9TiRo
(目の前にいるのは垣根だ、目の前にいるのは垣根だ、目の前にいるのは垣根だ……)
目の前の人物が垣根である事を頭に刷り込もうと、一方通行は必死で自分に言い聞かせる。
頭では既に理解出来ているのだ。しかし、心が理解してくれない。目の前の人物を直視できない。
「……ホントにどうしたんだ?」
ふと顔を上げると、垣根は心配そうな目でこちらを見つめている。
一方通行はやはりその顔を直視する事が出来ず、プイと顔を逸らした。
喫茶店の窓からは行き交う無数の通行人の姿を確認する事ができる。
あの通行人の中に自分と同じく正常な、或いは狂った人間はいるのだろうか?
それとも、やはり皆一様に狂ってしまっているのだろうか?
窓の外を睨みつけながらそんな事を考え、何とか目の前の人間から気を逸らそうとする。
そのような風に別の思考に集中しなければ、込み上げて来るとある衝動を抑えきれないのだ。
「おい一方通行、聞いてんのか?」
(こいつは垣根だ、こいつは垣根だ……)
身を乗り出し一方通行の視界に入ってくる垣根を前に、一方通行はまるで呪詛のように頭の中で呟く。
引用元: ・一方通行「そンな実験で絶対能力者になれるわけねェだろ」
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463: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:49:58.07 ID:tuTw9TiRo
さて、話は変わるがここしばらく御坂に監視されている一方通行は、妹達への告白は勿論、
運命の人と巡り合う機会すらほとんど与えられていない。
毎日のようにこなしていた、半ば儀式と化していた二つの行動を突如禁じられた彼は、
それにより猛烈な欲求不満状態に陥っていた。例えるなら早熟な中学生男子の禁欲三日目といったところか。
多少の余裕はあるが目の前に獲物があれば暴発する危険もある、そんな状態の彼に今回の事件は起きてしまった。
今、彼の目の前にいる垣根は
(こいつは垣根だ、だから……)
垣根帝督の、その姿は
(だから、間違ってもコイツに告白する訳にはいかねェンだよォォォォ!!!!)
何とも間の悪い事に、妹達のそれへと変化していたのだ。
しかし一方通行以外の人間から見れば、彼は見も心も垣根帝督のままなのである。
もし告白などしてしまったらどうなる事か……
『生殺し』これほど今の状況を的確に表す言葉は他にあるまい。
「おーい?」
「近寄ンな!!」
「何でだ!?」
464: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:50:28.24 ID:tuTw9TiRo
―――――――――――――――
―――――――――
――――
「ふあァ……今日もいい天気だな」
時間は少し巻き戻る。その日の朝、一方通行はその後自分に襲い掛かる悲劇など予想もせず、
研究所の一室でサンサンと照りつける太陽の光を堪能していた。
連日の熱帯夜も24時間常に反射の膜を展開させている彼には関係なく、今日も快適な目覚めであった。
余談ではあるが、彼はこのところ自分の住んでいるマンションを御坂に監視されている為、
ここ何日かは御坂の手の及ばないこの研究所の一室を借りて生活している。
こちらでの生活も妹達が逐一御坂に報告しているようだが、それでも直接監視されるよりは幾分マシというものだ。
いつも通りの朝だった。いつも通りの一日になると思っていた。
いつもの様に垣根とバカ話をし、運命の人を探し歩き、御坂に邪魔され……
そんないつも通りの日常が、今日も送られるはずだった。
だと言うのに――
―――――――――
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「ふあァ……今日もいい天気だな」
時間は少し巻き戻る。その日の朝、一方通行はその後自分に襲い掛かる悲劇など予想もせず、
研究所の一室でサンサンと照りつける太陽の光を堪能していた。
連日の熱帯夜も24時間常に反射の膜を展開させている彼には関係なく、今日も快適な目覚めであった。
余談ではあるが、彼はこのところ自分の住んでいるマンションを御坂に監視されている為、
ここ何日かは御坂の手の及ばないこの研究所の一室を借りて生活している。
こちらでの生活も妹達が逐一御坂に報告しているようだが、それでも直接監視されるよりは幾分マシというものだ。
いつも通りの朝だった。いつも通りの一日になると思っていた。
いつもの様に垣根とバカ話をし、運命の人を探し歩き、御坂に邪魔され……
そんないつも通りの日常が、今日も送られるはずだった。
だと言うのに――
465: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:50:57.05 ID:tuTw9TiRo
「おはようございます一方通行、とミサカは部屋から出てきた一方通行に挨拶をします」
「……は?」
欠伸をしながら部屋から出た一方通行を出迎えたのは、まるで妹達のような口調で喋る天井亜雄であった。
先に説明した通り、御使堕としの影響で天井の身体に妹達の誰かの魂が入っているのだが、
当然この時の一方通行はそのような事知る由も無い。
妙な口調で挨拶してきた天井に、ぽかんと口を開け、ただ呆然とするだけだ。
「どうしたんです?そんなマヌケな顔をして、とミサカは寝起きでボケている一方通行をクスクスと笑います」
「えェ、いやいや、え?何言ってンだ?」
「何って挨拶ですが……本当にボケてるんですか?顔でも洗ってきては?とミサカは笑いながら洗面所を指差します」
天井の姿をした個体は呆けている様子の一方通行をさも面白そうにクスクスと笑うが、
当の一方通行の頭は混乱を深めるばかりだ。眠気など疾うに覚めてしまったが、思考が全く追いつかない。
「何故天井がこのような喋り方をしているのか」、わからないながらも何だか馬鹿にされているような気がし、
彼の胸には徐々に怒りがこみ上げてきた。
466: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:51:23.87 ID:tuTw9TiRo
「おいおいおい、朝っぱらからふざけてンのかオマエ?」
「へ?」
「なァンでそンな喋り方してるンですかァ?馬鹿にしてンのかコラ」
「え、だってこの喋り方ミサカのアイデンティティの一つですし……
とミサカは今更喋り方につっこみを入れてきた一方通行に首を傾げます」
その個体からすれば何を言っているのかわからないのは一方通行の方である。
これもまた先に説明したが、術の影響下にある彼女は自分の変化に気付けないのだ。
鏡を見ようと写真を見ようと、彼女の目には自分は元の姿にしか映らず、
よって彼女にとって今の状況は『何だか寝ボケて機嫌の悪い一方通行が
今更妹達の喋り方に文句をつけてきた』というモノに他ならない。
「はァァ?つーか何ミサカミサカ言ってンだよオマエ」
「え、何?一人称まで変えろと?ちょっと横暴過ぎやしませんか?
とミサカはやけに不機嫌な様子の一方通行から後ずさりして距離を取ります」
「だからやめろつってンだよ!!妹達を侮辱してンのかァ!?」
467: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:51:56.88 ID:tuTw9TiRo
一方通行にとって、妹達とは告白すべき運命の対象であり、己を絶対能力者に引き上げるために必要な、
ある意味神聖視すらしている存在である。その彼女達の口調を冴えない中年研究員が真似するなど許される事ではない。
一方通行はピキピキと額に青筋を浮かべ、目の前のおっさんにきついお灸の一つでも据えてやろうか、と空気を圧縮し始める。
その様子を、彼の目の前にいる天井の姿をした個体は心底訳がわからない、と言う顔で見つめた。
「いや侮辱とか本当に意味わからないんですが……と言うか実験開始するつもりですか?
とミサカは突如空気を圧縮してプラズマ火球を作り始めた一方通行に冷静に尋ねます」
「まァだやめねェのか!!マジでいい加減にしろよ天井くゥゥゥン!?」
「天井?天井亜雄の事ですか?はて、何処に彼がいるのでしょう?とミサカは周囲を窺います」
「おちょくってンだな?そォなンだな!?良い度胸じゃねェかァァァァ!!!」
「……ひょっとして、このミサカの事を言っているのでしょうか、とミサカは思い至ります」
「テメエ以外に誰がいるってンだ!!マジでいい加減にしとけよ!!」
「いや、いやいやいや、ちょっと寝ぼけ過ぎだろお前、とミサカはガックリと項垂れます」
「……あ?」
468: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:52:38.66 ID:tuTw9TiRo
「このミサカのプリティな姿をよりによって天井亜雄と見間違えるだなんて……
腐ったのは目ですか?頭ですか?元からですか?とミサカは割りとリアルに心配します」
「あ、あァ?え?」
「マジで顔洗って来い、それか病院行け、とミサカは狂った一方通行に選択肢を提示してみます
ちなみに個人的には後者がお勧めです、そんで出て来んな」
「え、ちょっと待て、は?……いやいや、えェ?」
「それではこのミサカも暇ではないのでこれで失礼します、お大事に
とミサカは何やら混乱している一方通行に手を振り別れを告げます」
「お、おォ……え?何だこれ?」
天井の姿をした個体が去っていった後、一方通行は部屋へと引き返し一人頭を抱えた。ちなみに顔も洗った。
喋るテンポや調子、その身振りから察するに、先程の天井は確かに本物の妹達のようにも感じられた。
口調は真似出来ても喋る内容や独特の間の取り方までは真似出来まい。
しかしあの姿は、声は、間違いなく天井亜雄のモノであり、その事実が一方通行の混乱を最高潮導いていた。
469: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:53:18.46 ID:tuTw9TiRo
(マジで寝ボケてたのか、それとも天井の演技にまンまと騙されたのか……
つーか天井があンな事するメリットもねェよな、てことはやっぱ寝ボケてたのかァ?)
マトモに働いてくれない頭で何とか導き出した答えは、
自分が寝ボケていたという事にして流してしまおう、という何ともお粗末なモノであった。
いくらなんでも妹達と天井を見間違えるなど本来在り得ないはずなのだが、
魔術の事など欠片も知らない彼にはそれ以外に納得できるような回答は見つからない。
半ば現実逃避ともいえる答えだと言うことはわかっているが、彼はそれに無理矢理納得しながら、
二度寝でもして気を紛らわせようと布団に潜り込もんだ。
(あァそォか、これ全部夢って可能性もあンだな……早く目ェ覚まさねェと……)
あの始まりの日 強がってた~♪
(あン?携帯が……メールか?)
布団の中で現実逃避に現実逃避を重ね、小一時間うつらうつらとしていた一方通行は、
鳴り響いた携帯電話に無理矢理覚醒を強いられる。
どうでもいいが、いい加減ギャルゲーのテーマを着信音にするのは止めていただきたい。
470: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:53:46.62 ID:tuTw9TiRo
(垣根から……ン?あァ!!)
メールの送り主はやはり彼の友人である垣根帝督であり、
というか一方通行にメールを送ってくる人間など彼くらいしかいないのだが
そのメールにはたった一言『まだ来ねえのか』とだけ書かれていた。
(やっべェ忘れてた!)
そう、今日は垣根と会う約束をしていたのだ。先の騒動ですっかりそれを忘れていた一方通行は慌てて時間を確認し、
既に待ち合わせ時間を10分ほど過ぎている事を確認すると、謝罪のメールを一本垣根に送り、
すぐさま研究所から飛び出した。その間、誰にも遭遇しなかったのは彼にとって幸運と言えただろう。
471: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:54:34.65 ID:tuTw9TiRo
―とある喫茶店
(えっとォ……?)
能力を全開で使用し、凄まじいスピードで待ち合わせ場所である喫茶店に到着した一方通行は
キョロキョロと店内を見回し、先に来ているはずの垣根の姿を探す。
しかし、それ程広くない店内の何処を探しても彼の姿は見当たらない。
怒って帰ってしまったのか、と心配するが、謝罪のメールも入れた事だし、それ程心の狭い男でもないはずである。
それでは待ち合わせ場所を間違えたか、とも思ってみたが、彼らが会うときは
基本的にこの喫茶店に集合するように決めているので、その可能性も低い。
(あっれェ?いねェぞおい、電話でもして……)
「おい何やってんだよ、こっちだこっち」
「……はァ?」
窓際の席から不意に声を掛けられ、そちらを振り向いた一方通行は、
そこに座っていた、自分に声をかけてきた人物の姿を確認すると呆けたような声を漏らした。
彼の視線の先で、基本的に無表情なはずの妹達の一人がにこやかに手招きしているのだから、それも仕方あるまい。
472: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:55:08.80 ID:tuTw9TiRo
「早く来いって、迷惑だろ突っ立ってたら」
「お、おい!」
ぼんやりするばかりでいつまで経っても席に座ろうとしない一方通行に業を煮やしたその個体は
眉を八の字にしながら彼に駆け寄ると「店の迷惑になるから」と無理矢理彼を席に押し込んだ。
「遅刻はするわ、ボサっと立ち尽くすわ、どうしたんだ?寝ボケてんのか?」
「え、は、……え?」
首を傾げながら不審そうな目付きで睨んでくるその個体を前に、
一方通行の思考は再び混乱の坩堝に叩き落とされそうになる。
しかし腐っても鯛、童 でも第一位である。呆けた声を出し困惑しながらも、
彼の明晰な頭脳はこのような状況でも正常にこれまで起こった事象を解析し、とある仮説を立て始めていた。
473: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:55:43.39 ID:tuTw9TiRo
(俺は垣根とここで待ち合わせをしていた。だが待ち合わせ場所に垣根はおらず、何故か妹達の一人がいた)
(目の前にいるのは間違いなく妹達だ、オリジナルの方じゃねェ、ゴーグルも付けてるし目に生気がねェからな)
(つまりこれは超電磁砲が監視の一環として垣根の振りをしてるってわけじゃねェって事だ)
(とにかく、コイツはまるで男みたいな、垣根みたいな喋り方で俺に話しかけてきて、
俺の反射を越えて俺を強制的に座席に押し込ンだ)
(そう、俺の反射を越えた。そンな真似が出来るのは今ン所垣根のワケわかンねェ能力だけだ)
(そして今朝、俺は似たような現象を目にしてる。天井の姿をしながら、まるで妹達のように振舞う何かを……)
(つまり、目の前にいるコイツは妹達の姿をしちゃいるが……)
「……オマエは垣根だな?」
「当たり前だろ、何言ってんだオマエ」
474: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:56:12.40 ID:tuTw9TiRo
一方通行の頭の中など全く知らない垣根は、当然の事を尋ねてきた彼にますます不審の目を向ける。
コイツ本当に頭おかしくなったんじゃないか、とリアルな心配をし始めレベルである。
しかし仮説を組み立てる事に集中している一方通行はそんな視線など意に介している暇はない。
(ビンゴだ、やっぱり目の前のコイツは垣根に間違いねェ)
(つーことは今朝の天井も本当に妹達だったンだろォな)
「おい垣根、オマエ起きてから鏡見たか?」
「あ?さっきもトイレで見てきたが……ひょっとして寝癖でも立ってるか?」
「いや、立ってねェよ気にすンな」
「はぁ?」
(鏡を見ても自分の姿に疑問を持たねェって事もわかった)
(結論、身体と精神が入れ替わっちまって、しかも入れ替わった当人達はそれに気付かねェってとこか)
(意味がわかンねェ、何だそりゃ……やっぱ夢でも見てンのか?)
(つーか友人の格好が運命の女性の姿になるって、それ何て●●●だよ)
475: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:56:49.76 ID:tuTw9TiRo
第一位の頭脳は、少ない情報から素早く正解を導き出す事に成功する。
今朝天井の姿をした妹達に出会えた事は幸運だった。あの一悶着が無く、
何の情報も持たずに今の垣根に遭遇していたら、恐らく散々に取り乱していたに違いない。
どうでもいいが、散々こっぴどく振られておきながら未だ妹達を運命の女性と言い切るのも流石は第一位だと言えよう。
(とにかく厄介な状況だなァ、これじゃ説明しても理解は得られねェだろォし……)
(そもそも何でこンな事になってンだ?どのくらいの範囲でこれが起きてンだ?俺の周りだけなのか?……ン?)
ふと、喫茶店に設置されているテレビの映像が目に入り、一方通行はそちらを注視する。
流れているのはごく普通のニュースのようで、キャスターがこの先一週間の天気予報などを告げている。
しかし問題はそのキャスターの姿で、どう見ても10歳以下のピンク色の髪をした幼女が、淡々と文章を読み上げているのだ。
まるでママゴトのようで微笑ましくもあるが、このニュースは全国ネットで流れているお堅い番組である。
幼女がキャスターに扮して遊んでいる姿など流すはずが無いのだ。
476: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:57:23.85 ID:tuTw9TiRo
(……なるほど、相当広範囲に広がってるらしいなァ)
(ンで、垣根はどォやらあの幼女なキャスターに何の疑問も抱いて無さそォだ)
(入れ替わってるヤツは他人の入れ替わりにも気付かねェってワケか……本当に厄介極まりねェな)
(つーか待て、周囲の誰もニュースに疑問を持ってねェって事は俺以外全員が入れ替わってるって事か?)
(じゃァ何故俺だけ入れ替わらなかった?他のヤツに無くて俺にはあるモノ……反射の膜か)
(……超広範囲に、肉体と精神が入れ替わる超能力が使用された、とかそンな感じなのか……?)
超能力と魔術と言う違いはあるが一方通行の導き出した結論はほとんど正解していた。
問題の解決策は全く思いつかないが、それでもどういう事が起きているのかある程度理解出来たというのは大きい。
彼は徐々にではあるが平静を取り戻し始め、垣根と談笑出来る程度にまでは回復する事ができた。
しかしここで新たな問題が発生する。余裕を持って談笑すると言う事は、すなわち目の前の垣根と、
妹達の姿を、声をした垣根と正面から向き合うと言う事に他ならない。
「それでその時にだな……ん、おい聞いてるか?」
「あ、あァ(やべェ……)」
477: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:57:54.18 ID:tuTw9TiRo
妹達の姿をした垣根は、コロコロと表情を変えながら楽しそうに自分と会話をしてくれている。
基本的に感情を顔に出さない妹達の様々な表情を見るのが初めてなら、妹達とこれほど親しく会話をするのも初めてである。
加えて、既に書いたように今現在の一方通行は女性との触れ合いにかなり飢えている。
結果、中の人が垣根であるという事は理解しつつも、それでも彼は、目の前の妹達の姿をした男に徐々に惹かれつつあった。
(これ以上コイツの顔を見るのはやべェ……)
「お、おいどうした?」
これ以上今の垣根と会話するのはマズイと判断した一方通行は、彼から目を反らし、耳を塞ぎ、
ついには頭を抱えて蹲ってしまう。そして舞台は冒頭へと続いていく。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
478: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:58:19.41 ID:tuTw9TiRo
「近寄ンな!!」
「何でだ!?」
時間は元に戻る。俯いてブツブツ言っていた一方通行を心配して身を乗り出した垣根は
猛烈な勢いで拒絶された事に驚き戸惑いを隠せないでいた。
数ヶ月程度の付き合いではあるが、同年代の友人などいなかった彼らは短い期間でかなり親密な関係を築いていた。
にも関わらずここに来て一方的な拒否、事情を知らない垣根が戸惑うのも無理は無いだろう。
そして一方通行の方もまた、垣根を意識し始めている自分に困惑していた。
状況を分析する事で持ち直しかけていた彼の理性は決壊寸前まで追い込まれ、そして――
(……あれ、これもォ運命でいいンじゃねェか?)
何かもう思いっきりダメな方向へ道を踏み外そうとしていた。
「垣根……」
「あ……ッ!?」
ようやく顔を上げた一方通行と目を合わせ、垣根は言葉を失う。
薄笑いを貼り付けた一方通行の顔は、目は、ゾッとするほど冷たく、恐ろしかった。
暗部で地獄のような日常を送って来た垣根ですら吐き気を催すような凄まじい悪寒の中、
二人はしばし無言で睨みあう。気付いてみれば、いつの間にか喫茶店には彼ら二人だけになっていた。
圧迫感に耐え切れず、皆逃げ出してしまったのだろう。
479: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:59:02.91 ID:tuTw9TiRo
「垣根ェ……」
「な、何だ?」
気圧されながらも逃げ出さず一方通行の呼びかけに答える垣根は友人の鑑と言えよう。
しかし彼は逃げ出すべきだった。逃げ出して欲しかった。ホント逃げてください。
「……『一発だけなら誤射かも知れない』って言葉知ってっかァ?」
「何が!?」
「なァ、垣根ェェェェ!!!」
「お、おぉぉぉ!?」
叫びながら、一方通行はガバっと立ち上がる。過去最大級の身の危険を感じた垣根は瞬時に未元物質の翼を展開、
己の身を守る為にその身体を翼で覆った。しかし残念ながらそれは逆効果だ。
一方通行の目には、能力を展開した状態の今の垣根は、天使のような純白の翼を生やした妹達にしか映らない。
480: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:59:30.53 ID:tuTw9TiRo
「おおおォォォォォォ!!!!」
それは歓喜、それは狂喜、それは嘆き。一方通行は人とは思えないような叫び声を上げると、
右拳を天高く突き上げ狂気染みた笑顔を浮かべながら、限界まで見開かれた瞳でギョロリと垣根を睨み付ける。
「垣根ェェェェェェ!!!!」
(やられる!?)
て言うかヤられる。咄嗟に距離を取った垣根の前で、突き上げられた一方通行の拳が唸りを上げて振り下ろされた。
「おぶあァァァァ!!!」
「……あぁ?」
一方通行自身の顔面に。最後の最後、僅かに残っていた理性が打ち勝った瞬間である。
自分で自分の顔面を全力で殴りつけた一方通行は喫茶店の椅子や机をなぎ倒しながら派手に吹き飛ぶと、
そのまま床に崩れ落ち、ダクダクと致死量を越え兼ねない量の血を流し始めた。
481: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 16:59:56.68 ID:tuTw9TiRo
「あ、一方通行……?」
「」
「おい一方通行!?」
「……あ、あァ」
垣根の呼びかけに、一方通行は息も絶え絶えといった様子で何とか起き上がり、軽く手を振る。
殺されかけた(?)にも関わらず、警戒しながらではあるが、一方通行の心配をする垣根は本当にいい人である。
童 なのが不思議なくらいだ。
「ホントにどうしたんだよオマエ……」
「……すまねェ、ちょっとトイレ行ってくる」
「お、おぉ」
起き上がった一方通行は垣根の問いには答えず、フラフラと覚束ない足取りでトイレへと向かって行き、
垣根は本当に心の底から困惑した表情でそれを見送った。
482: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:00:23.15 ID:tuTw9TiRo
―――――――――――――――
―――――――――
――――
「心配かけたなァ、もォ大丈夫だ……」
数分が経ち、学園都市の第一位は青ざめた表情で、若干前屈みになりながら、
ヨチヨチと生まれたての小鹿のような足取りでトイレから出てきた。
何があったのかはわからないが、傍目にはどう見ても悪化している。
「……何かさっきより顔色悪くなってるけど大丈夫か?」
「あァ、気にすンな……ちょっと聞き分けのねェ馬鹿●●●を足腰立たなくしてやっただけだ」
「……」
彼の名誉の為に言っておくが、断じて一人遊びをしたわけではない。
トイレに駆け込んだ彼は、垣根にまで反応する見境無い馬鹿●●●に鉄拳制裁を加えただけであり、
決して上下運動をしたわけではない。
ちょっと加減を間違えて本当にしばらくは●●そうに無いが、何にせよ元は断ったので、
これでようやく平常心のまま妹達の姿をした垣根と話せるわけだ。
483: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:01:04.31 ID:tuTw9TiRo
「とにかく、これでもォ心配ねェ、俺は完璧に正気に戻った」
「あんまり信用出来ねぇが……まぁオマエがおかしいのは今に始まった事じゃねぇしな」
「そうね、こいつの奇行を一々気にしてたら身が持たないわよ」
「……出たな残念なガキ」
「誰が残念だゴラアアアア!!!」
(残念なガキ……これが超電磁砲だってのかァ……?)
いつもの如く突如沸いて出た御坂に、垣根は溜息混じりに暴言を吐きつけた。
それに激怒した御坂が電撃を飛ばし、垣根は笑いながらそれを無効化する。
ここ最近の日常と化していた光景であり、普段は御坂の可愛らしい姿も相まって中々微笑ましいのだが、
今の一方通行の目に映る光景は違う。御坂も例に漏れずその姿が変わっており、
外見だけが取り得だった(一方通行談)彼女は今や、短い茶髪に鼻ピアス、
ジャージの上着に、下はジーパンといった出で立ちの、やられ役のチンピラのような姿に成り果てていた。
484: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:01:43.58 ID:tuTw9TiRo
(いくら当人達が気付かないとはいえこれはあンまりだろ……)
取り得がなくなってしまった御坂と、対照的にやけに可愛らしくなっている垣根、
二人のやり取りを冷めた目で眺めながら、一方通行は静かに涙を流した。
その涙は可愛らしさの欠片も無くなってしまった可哀相な御坂に対するモノなのか、
それとも今後チンピラのような姿をした彼女に監視されなければならない自分の境遇を思っての涙なのか、
或いはその両方なのか、それは彼自身にも判別できなかった。
「え、ちょっと一方通行、何泣いてるのよ?気持ち悪いわよ」
「やっぱりどっか調子悪いのかオマエ?」
「……あァ、ちょっと腹が痛ェだけだ、気にすンな」
「腹痛で泣くって……あんたは幼児か!」
「何だったら未元物質で薬作ってやろうか?上手くいく保障はねぇけどな」
「流石に遠慮しとくわ、それにもォ大丈夫だ」
「ならいいけどな、勝手にくたばるなよ?」
(クソが、 欲はブチコロシたはずなのに垣根が天使に見えてくるぜ……
つーか超電磁砲はあの顔じゃなかったら一挙一動がこんなにムカつくんだな)
485: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:02:19.79 ID:tuTw9TiRo
顔が良いというのは総じて得である。御坂がこれまで一方通行に危害を加えられなかったのは、
妹達との約束もあるが、顔が可愛かったから、というのも大きな理由の一つだろう。
そして今やその可愛さは欠片も無い。果たして色々とキレている今日の一方通行が、
妹達との約束という一つの理由だけで何処まで耐え切れるだろうか。
「ねぇ、あんたのその変な能力って薬が作れるの?」
「さぁな、やった事ねぇからわからねぇが……まぁ何とかなるんじゃねぇか」
「ふーん、じゃぁ『馬鹿に付ける薬』でも作って二人で塗りたくったら?」
「……オマエやっぱ一回張り倒しといた方がよさそうだな」
「私に手を出したら一方通行が黙ってないわよ?ねぇ、一方通……行……?」
にやにや笑いを浮かべながらいつもの様に一方通行を盾にしようとし、彼の方を振り向いた御坂は絶句する。
視線の先の一方通行はギチギチと音がなるほど強く歯を噛み締め、
全身の血管を青筋の如く浮かび上がらせ、目から真っ赤な血を流しながら
チンピラの姿をした彼女を睨みつけていた。彼は、必死に耐えているのである。
486: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:02:48.74 ID:tuTw9TiRo
「あ、一方……通行……?」
「……なァ超電磁砲」
「は、はい」
「今日はちょっとマジで自重してくれ、トビそォなンだ……」
静かに、感情を押し殺して、しかし有無を言わさぬ強い口調で一方通行は御坂に通告する。
御坂の方もこの只ならぬ雰囲気を察知できぬほど残念なわけではなく、しばし何か言いたげに逡巡していたが、
やがて黙っているのが得策だと判断すると、頬を膨らませながらも無言で肩を落とした。
彼女が可愛らしい容姿のままならば見ている方が胸が痛くなりそうなシーンだが、
残念ながら今の彼女の姿はその辺にいそうなチンピラである。
「おい一方通行、ガキ相手にマジになるなよ。やっぱ変だぞオマエ」
「いや、あんたも私を張り倒そうとしてたでしょ」
「マジでやろうなんて思っちゃいねぇよお嬢ちゃん」
「本当にぃ?」
「あ、やっぱムカつくなオマエ」
487: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:03:28.53 ID:tuTw9TiRo
垣根と御坂の掛け合いを尻目に、一方通行は何とか落ち着こうと深呼吸を繰り返していた。
そもそも姿の変わった垣根の相手だけで手一杯だったのである。そこに更にふざけた姿の御坂まで乱入してきたのだから、
いい加減一方通行の理性がトンで頭が狂ってしまいそうになるのも無理もない。
だが第一位の頭脳はギリギリの所で今の状況を上手く処理し始めていた。
胸に手をあて、更に深呼吸を繰り返す。垣根の姿はほぼ克服できた。
御坂の姿にも徐々にではあるが慣れてきている。もう少し、もう少しこのまま時間を稼げば
いつも通りのやり取りが出来るようになるだろう。このまま、邪魔さえ入らなければ――
「ジャッジメントですの!」
(ちくしょォォォォォォ!!!)
響いてきた野太い声に、一方通行の脳漿は焼き切れんばかりに混乱する。
突如三人の目の前に空間移動で現れたその人間は、能力や決め台詞から察するに
先日一方通行に絡んだ(絡まれた)白井黒子という少女に間違いないだろう。
しかし、その姿は少女と呼ぶには余りにもかけ離れていた。
可憐な少女のように髪を掻き揚げる仕草、しかしそれとは裏腹に、今の白井は
まるでゴリラのような筋骨隆々な身体に、アクの強い洋ゲーに出てくる悪役のような顔をしている。
あまりのギャップに、一方通行はもう限界だった。脳だけでなく意識とか腹筋とかが。
488: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:04:07.24 ID:tuTw9TiRo
「あれ、黒子じゃない、どうしたの?」
「第三位の知り合いか?ジャッジメント?」
「あらお姉様なぜこちらに?実は先程この喫茶店内から爆発音が響いてきたと通報がありまして……」
当然、一方通行以外の目からは彼女もまた普段通り、ツインテールの美少女にしか見えない。
そのため、垣根と御坂、白井の三人はごく普通に会話を始める。
しかし一方通行の目にそれは、筋肉モリモリのゴツいおっさんが茶髪のチンピラをお姉様と呼び擦り寄る、
というこの世の物とは思えないおぞましい光景に映っていた。
耐え切れなくなった一方通行は白井から身を隠すように頭を抱えその場に蹲る。
「爆発音……あぁ、さっき一方通行が自分をブン殴った時のあれか」
「自分をぶん殴ったって、何やってんのよ……」
「一方通行って……だ、第一位様もここに!?」
「うん、そっちで蹲ってるわよ」
「……」
489: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:04:35.17 ID:tuTw9TiRo
「あ、そいつ何か今日は様子がおかしいから近寄らないほうがいいぞお嬢ちゃん」
「そ、そうなんですの……?」
垣根に引きとめられ、一方通行に挨拶の一つでもしようとしていた白井は慌てて彼から距離を取る。
もし間近で白井の姿を見てしまったら本当に限界を迎えていたかもしれない一方通行は、
蹲ったまま密かに垣根に感謝した。
「そ、それでそちらの殿方さん、爆発音は第一位様の自傷行為ということですが、事情をお聞かせ願えますの?」
「それは構わねぇが、そんなつまらねぇ話よりも、もっとお互いの事を話さねぇか?」
「ふぇ!?」
「ちょっと!私の後輩に手ぇ出そうとしないでよ!!」
垣根は早速目の前に現れた少女を口説き始める。こいつもう運命とかどうでも良いんじゃね?
お嬢様学校に通っているためあまり男に免疫がなく、ここまで直球で口説かれた経験など初めてな白井は
顔を赤くし、くねくねと身をよじりながら困った素振りを見せている。
想像して頂きたい。生気の無い目をした美少女の前でくねくねと蠢くゴリラのようにマッチョなおっさんの姿を。
一方通行が見ているのはそういう世界である。あなたはこれに耐え切る自信があるだろうか?
490: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:05:01.31 ID:tuTw9TiRo
「おっと、ここにはうるさいガキがいるから外行こうか」
「ちょっと!うるさいガキって誰の事よ!?」
「オマエだよオマエ!この残念ストーカーが!」
「誰がストーカーだああああ!!!」
「そ、そうですの!お姉様を侮辱しないでくださいまし!」
「ハッ、お姉様の事なんてすぐに忘れさせてやるよ」
「あっ……」
笑いながら、垣根は白井の肩に手を掛け外に連れ出そうとする。御坂が電撃を放ち止めようとするが、
そんなものは当然通用しない。白井も流石に強引過ぎる垣根から逃げ出そうとするが、
ガッチリとホールドされているため離れる事が出来ず、また能力で逃げ出そうにも、
すでにその空間には垣根の未元物質が混ぜ込まれており、満足に空間移動の演算をする事ができない。
491: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:05:41.94 ID:tuTw9TiRo
「一方通行!黒子が、黒子が連れて行かれちゃう!」
「……あァ?」
打つ手に窮した御坂は縋る思いで蹲ったままの一方通行に駆け寄る。
半ば思考停止の状態に陥りながらも何とか顔を上げた彼の目に入ったのは
不安そうな顔をしている茶髪のチンピラ(御坂)、
そしてべったりとくっついている妹達(垣根)とゴリラのようなおっさん(白井)。
「おおォォォォ!!!」
叫び声を上げ、一方通行は垣根と白井の元へ突進する。
頭では、妹達の姿をした垣根がゴリラのような姿の白井を口説き一方的にくっついていると言うことはわかっている。
白井には何の罪も無いと言うことも承知している。彼女は被害者だ、彼女は犠牲者だ、彼女はかわいそうな少女だ。
しかしどれだけ頭で理解しても、心が、身体が、状況の理解を拒絶する。
もはや彼の目にはゴリラのようなおっさんが無理矢理妹達に迫っているようにしか映っていなかった。
492: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/24(日) 17:06:17.73 ID:tuTw9TiRo
「こンのパンダがァァァァァ!!!!」
「ぶふええぇぇええぇ!?」
突き出された一方通行の右拳は的確に白井の頬を捉え、哀れ彼女はきりもみ回転をしながら星になった。
後に残ったのは息を荒げながらも頭を抱え蹲る一方通行と、何が起きたのか全く理解できない垣根と御坂だけである。
「……今日は帰るわ」
「お、おぉ……」
やがて、一方通行はゆっくりと立ち上がると喫茶店を後にした。
垣根も御坂も、彼の尋常ではない様子に引きとめることはおろか、白井に対する仕打ちを糾弾する事すら出来ない。
その後、研究所に戻った一方通行は誰とも会話せず、再び引き篭もり始めたと言う。
御使堕としがヒーロー達の活躍により僅か1日半というスピード解決をしなければ、学園都市は滅んでいたかもしれない。
550: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/25(月) 23:59:17.04 ID:pn29KdzGo
―深夜、とある研究所の一室
一方通行「……」カタカタカタ ←PCいじってる
一方通行「……」カチカチ
一方通行「……」カチャカチャ
一方通行「……」ッターン
一方通行「わふー………ン?」
『Teitokuさんからメッセージが届きました』
551: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/25(月) 23:59:50.01 ID:pn29KdzGo
Teitoku:このやろう
Accela:なンですか
Teitoku:なんですかは俺のセリフだ
Accela:意味わかンねェ
Teitoku:昨日のテメエは何だったんだよ
Accela:あーうン、ごめン
Teitoku:ごめんじゃなくて
Accela:サーセン
Teitoku:理由を説明しろ
Teitoku:何で俺の出会いの邪魔をした
Accela:色々耐えれンかった
Teitoku:何にだよ
552: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:00:20.99 ID:2hu7uiUEo
Accela:そのうち説明するわ、まだ整理つかねェ
Teitoku:朝から様子が変だったのと関係してんのか
Accela:してるけど話せねェ
Teitoku:……別にいいけどよ、過ぎた事だし
Accela:悪ィな
Teitoku:で、本題だけどな
Accela:はい
Teitoku:リトバス返せ
Accela:だが断る
Teitoku:おい
Accela:はい
Teitoku:はいじゃないが
Accela:イヤだ
Teitoku:返せよ
553: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:00:48.03 ID:2hu7uiUEo
Accela:わふー
Teitoku:わふーじゃねえ、会話をしろ
Accela:ぶっちゃけるとな、
Teitoku:あ?
Accela:今他人に会うのが怖ェ
Teitoku:またかよ
Accela:はい
Teitoku:それも昨日の一件が関係してんのか
Accela:してる
Teitoku:じゃあ直接取りに行ってやるから
Accela:今回はオマエに会うのも怖ェ
Teitoku:どんだけ重症だよ
554: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:01:17.50 ID:2hu7uiUEo
Accela:もう一回オマエと対峙したら歯止めが効かなくなるかも知れねェ
Teitoku:どういうことなの
Accela:自分で自分がわからねェ
Teitoku:つーかもう電話で話さねぇ?チャットだりい
Accela:声聞くのも怖ェから電話すら出来ねェ
Teitoku:おい末期じゃねぇか、自殺とかすんなよ
Accela:善処する
Teitoku:善処かよ
Accela:そういやパンダ生きてっかな
Teitoku:パンダ?
555: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:01:49.08 ID:2hu7uiUEo
Accela:オマエが昨日口説こうとしてたジャッジメント
Teitoku:あぁオマエが殴り飛ばした……
Accela:反省はしている
Teitoku:何でアイツがパンダなんだ?
Accela:名前が白井黒子だから
Teitoku:把握した
Accela:生きてっかな、星になってたけど
Teitoku:ニュースでさ、
Accela:うン
Teitoku:昨日未明二一学区の貯水用ダムに生きた人間が着弾、ってやってた
Accela:それっぽいな
Teitoku:生きてるみてえだな
Accela:よかった
Teitoku:よかったな
556: 一部ミスった 2011/04/26(火) 00:03:25.18 ID:2hu7uiUEo
Accela:オマエが昨日口説こうとしてたジャッジメント
Teitoku:あぁオマエが殴り飛ばした……
Accela:反省はしている
Teitoku:何でアイツがパンダなんだ?
Accela:名前が白井黒子だから
Teitoku:把握した
Accela:生きてっかな、星になってたけど
Teitoku:ニュースでさ、
Accela:うン
Teitoku:昨日の午後二一学区の貯水用ダムに生きた人間が着弾、ってやってた
Accela:それっぽいな
Teitoku:生きてるみてえだな
Accela:よかった
Teitoku:よかったな
Teitoku:あぁオマエが殴り飛ばした……
Accela:反省はしている
Teitoku:何でアイツがパンダなんだ?
Accela:名前が白井黒子だから
Teitoku:把握した
Accela:生きてっかな、星になってたけど
Teitoku:ニュースでさ、
Accela:うン
Teitoku:昨日の午後二一学区の貯水用ダムに生きた人間が着弾、ってやってた
Accela:それっぽいな
Teitoku:生きてるみてえだな
Accela:よかった
Teitoku:よかったな
557: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:03:52.46 ID:2hu7uiUEo
Accela:あ
Teitoku:あ?
Accela:ドア叩かれてる
Teitoku:またかよ
Accela:やばいやばいやばいやばいやばい
Teitoku:落ち着け
Accela:……じゃあな垣根、今まで楽しかったぜ
Teitoku:おい早まるな、今生の別れみたいな言い方やめろ
Teitoku:おい一方通行
Teitoku:おい
『Accelaさんがログアウトしました』
Teitoku:一方通行ァァァァァァ!!!!
―――――――――――――――
―――――――――
――――
558: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:04:20.26 ID:2hu7uiUEo
「何なンだよ!?マジで何なンだよオマエらァァァ!!!」
「引き篭もってる場合じゃないんですよ一方通行!とミサカは涙目になっている一方通行を怒鳴りつけます」
「そう、君の力を貸してほしいのよ」
大部分が灰と瓦礫の山となった研究所の一室で三人の男女が口論をしている。
一人はこの部屋を占拠し引き篭もろうとしていた少年、一方通行
一人はこの部屋を爆撃した張本人の少女、妹達の一人。
一人はその爆撃を指示した女性、芳川桔梗。
何もかもをぶち壊されて涙目で抗議する一方通行に、二人の女性は物怖じせずに詰め寄り
「力を貸せ」と迫っている。どう見ても他人に物を頼む態度ではない。
「俺の力だァ?……いやちょっと待て、その前にオマエら本当に芳川と妹達なのか!?」
「は?何言ってるんです、当たり前じゃないですか、とミサカは突然奇妙な事を言い出した一方通行から後ずさります」
「見ての通り、正真正銘本人よ、他に誰に見えるのかしら」
559: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:04:55.13 ID:2hu7uiUEo
一方通行の奇妙な疑問を、彼女達二人は首をかしげながらも肯定した。
彼女達は知らないが、先日一方通行は御使堕としと言う絶望的な体験をしている。
その御使堕とし自体はすぐに解決され、皆とっくに元に戻っていたのだが、
昨日研究所に戻ってすぐに部屋に篭った一方通行は、今の今まで皆が元に戻っている事を知らなかったのだ。
「よかった、本当によかった……元に戻ってよかったァ……」
(な、泣いてる……とミサカは突如涙を流し始めた一方通行にドン引きします)
(な、何があったのかしら……)
思わず安堵の涙を流す一方通行の姿に、事情を知らない二人はドン引きする。
「気持ち悪い」とはっきり口に出さないのはせめてもの優しさだろう。
一方通行が泣き止むまでの数分、彼女達は黙って彼を見つめ続けた。
560: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:05:22.74 ID:2hu7uiUEo
「……落ち着いたかしら?」
「……すまねェ、大丈夫だ」
「なかなかいい画が撮れました、とミサカは満足しながら携帯を仕舞います」
「おい」
「それで、そろそろ話を聞いてもらえるかしら?」
「あ、あァ」
「非常事態です、妹達の上位個体が連れ攫われました、とミサカは状況を端的に伝えます」
「……上位個体だァ?」
彼女達の説明はこうだ。妹達には通称打ち止め(ラストオーダー)という上位個体が存在し、
彼女は全ての妹達に命令を下すコンソールのような役割を持っている。
本来は妹達の反乱防止の為の安全装置として、肉体精神共に未完成のまま研究所の培養機に保管されていたのだが、
「全ての妹達に命令を下すことが出来る」という上位個体の機能に目をつけたある人物が彼女を奪取、
彼女の頭に危険なウイルスコードを仕込み、彼女を連れて逃亡。
仕込まれたウイルスの起動までは二十時間程度しかない、という事らしい。
561: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:05:48.86 ID:2hu7uiUEo
「ウイルスコード……それが起動するとどォなるンだ?」
「MNWを通じて全ての妹達にとある命令が下され、妹達は抗う術も無くその命令に従う事になります
とミサカは恐ろしい事実を淡々と述べます」
「どンな命令だ?」
「詳しくは言えないわ。けれど、妹達の尊厳を粉々に粉砕してしまうモノであることは間違いない」
「尊厳を粉々に……?」
「はい、それどころか妹達の存在にすら関わる事です、とミサカは芳川桔梗の発言に補足します」
どんなモノかはっきりとは教えて貰えないが、彼女達の悲壮な顔つきを見る限り、
どうやら本当に危険なモノなのだろう。そして妹達に様々な感情を持っている一方通行は、
当然そんな悲劇的な結末など望まない。許さない。
彼は苦虫を噛み潰したような顔で歯軋りすると、更に質問を重ねた。
「研究所に保管されてた上位個体が連れ去られたってこたァ、犯人は研究所内の人間だな?」
「……上位個体を連れ去ったのは天井亜雄です、とミサカは衝撃の真実を告げます」
「ッ!!天井だと!?」
562: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:06:27.21 ID:2hu7uiUEo
告げられた事実に一方通行は驚愕を露にする。天井亜雄は絶対能力進化に最も積極的だった研究者の一人だ。
その彼が絶対能力進化の要である妹達にウイルスを、
それも妹達の存在に関わるほど危険なモノを仕掛けるなど、一体どういうことなのか。
「どォ言うつもりだ天井の野郎……始まってもねェ実験をぶっ壊す気か?」
「天井が何を考えているのかはわからない、けれどハッキリしている事が一つだけあるわ」
「天井亜雄と上位個体を見つけ出しウイルスコードを停止させなければ、
全ての妹達が望んでもいない、おぞましい行動を取らされる事になります、とミサカは芳川桔梗の言葉を引き継ぎます」
「どンな行動を取らされるかはやっぱり教えてくれねェのか?」
「……口に出すのも憚られるようなモノよ、特に君には伝えたくないわ」
「はい、あなたにだけは知られたくありません、とミサカは目を伏せながら答えます」
一方通行から目を反らし、二人は押し黙ってしまう。よっぽど口にしたくない内容なのだろう。
しかし二人のそんな態度は一方通行の思考のネガティブな部分を刺激し、逆に事の重大さを認識させる事となった。
563: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:06:59.39 ID:2hu7uiUEo
「チッ、俺は何をすりゃいいンだ?」
「力を貸してくれるのね?」
「当たり前だろォが!妹達の危機に黙って引き篭もってられるわけねェだろ!!」
「正直ちょっと気持ち悪いですが今回ばかりは素直に感謝します、
とミサカは己の心情を隠しながら一方通行に頭を下げます」
「えェー……」
「ありがとう一方通行、君には天井と打ち止めの捜索をお願いしたいの」
「あ、あァ」
「私がウイルスに気付き、天井が研究所から脱走したのはほんの数十分前、まだ遠くには行ってないはずよ」
「オマエらはどォするンだ?」
「私は天井の残したデータを解析してワクチンを作るわ。妹達には既に捜索を始めてもらっているのだけど……」
「上位個体は現在MNWの接続を解除しているようで、場所の特定をする事が出来ません。
大勢の妹達による人海戦術で当たっていますが、手掛かりが無いのであまり期待は出来ないかと……
とミサカは力無い己に歯軋りします」
564: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:07:28.35 ID:2hu7uiUEo
「それで俺の出番ってワケか」
「えぇ、君の能力はレーダーにもなるでしょう?」
「お願いします一方通行、とミサカはもう一度頭を下げます」
「そンなに不安そォな面で必死に頭下げンな、オマエらの上位個体とやらはすぐ見つけてやるからよ」
優しい言葉をかけながら、一方通行は必死な形相をしているその個体の頭をくしゃくしゃと撫でる。
が、撫でられた個体が心底嫌そうな顔をしたのでちょっと涙目になりながらすぐに手を離した。
せっかく協力しようというのにこの扱いはあんまりである。
こんな時くらい優しくしてやってもバチは当たらないだろうに。
「はァ……そンじゃ探しに行くとするかァ……」
ガックリと肩を落とし、トボトボと崩れた部屋の壁から夜の街へ消えていく。
その背中は結婚十年目にして妻の浮気が発覚したサラリーマンのように悲哀に満ちていた。
565: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:08:10.50 ID:2hu7uiUEo
「いやぁ、中々の役者振りでしたね、とミサカは芳川桔梗を褒めちぎります」
「あら、何の事かしら?」
「天井亜雄が何を考えているのか、確信に近い予想はついているはずでしょう?
とミサカはシラを切る芳川桔梗に微笑みかけます」
「まぁ……ウイルスコードの中身を見ればね」
「どんなウイルスか一方通行に深く追求されなくて良かったですね、とミサカはほっと胸を撫で下ろします」
「そうね、どんなウイルスか彼に知られてしまったらきっと協力は得られなかったでしょうし」
「まったく天井亜雄も厄介なウイルスを作ってくれたものです、とミサカは頭を抱えます」
「後は天井が余計な事を言う前に一方通行が彼の口を封じてくれれば良いのだけど……」
「もしウイルスコードが起動を始めてしまったら、感染する前に妹達のほぼ全員が自決する準備は出来ています
とミサカは万が一の備えがある事をアピールします」
「自決って、何もそこまでしなくても……」
「だってイヤですもん、ウイルスに操られるとはいえあんな行動を取るのは……」
「……嫌われたものね、一方通行も」
566: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:08:40.91 ID:2hu7uiUEo
―――――――――――――――
―――――――――
――――
「クソ!何てことだ!!」
人気の無い道に車を止め、一人の男がダッシュボードを殴りつけながら嘆きの声を上げていた。
彼の傍ら、車の助手席には十歳前後の毛布に包まった少女が寝かされてある。
研究所から脱走した天井亜雄と連れ去られた打ち止めだ。
「まさかこんなに早く気付かれるなんて……ク、どうすれば……」
天井にとって、今の状況は全て予定外だった。
芳川がウイルスの存在に気付くのが思いの他早く、起動まではまだ丸一日近い時間が必要だ。
一時間ほど前、芳川にウイルスの事を問い詰められた彼は半ば衝動的に、
何の準備も出来ないまま打ち止めだけを攫い研究所を飛び出してしまったのだ。
ウイルス起動まで後二十時間弱、何としても逃げ切らなければならない。
567: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:09:25.76 ID:2hu7uiUEo
「せめて、せめて一方通行に事情を説明していれば……」
一方通行に事情を説明していれば、ウイルスがどのような物かを言い聞かせれば、
彼は自分に協力してくれたかもしれない。しかし今更悔やんでも遅い。
一方通行と話す時間も、余裕も、その時の彼にはありはしなかったのだから。
そして更に、天井は最悪のケースを思い浮かべる。
それは芳川らによって偏った、或いは誤った情報を与えられた一方通行が己を捕まえに来る、というケースだ。
もし一方通行が本気で捕まえに来たとしたら、逃げる事などまず不可能だろう。
彼はその気になれば学園都市中の大気の流れを演算ではじき出せるほどの化物である。
空気の振動するベクトルを逆算し、ソナーの様に何処に何があるかを把握する事すら可能なのだ。
「もし一方通行が動いているのなら、自分はすでに捕捉されているかもしれない」
そんな最悪な想像を振り払うかのように、天井は強く目を閉じ、震える拳を握り締めた。
しかし、彼の悪い予感は見事に的中してしまう。
「こォンばァンはァ」
「ヒ!?」
学園都市最強の超能力者は、光も音も無く、いつの間にか車の真正面に笑いながら立っていた。
568: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:09:59.92 ID:2hu7uiUEo
「イヤァ、馬鹿正直に研究所から離れてった車を追いかけてみたらまさかビンゴだとはなァ
探す手間が随分省けて助かったぜェ……なァ、天井くゥン?」
「あ、一方、通行……ぐぁ!!」
天井の口が閉じきる前に一方通行の腕がフロントガラスを砕きながら迫り、彼を車の外に引き摺り出す。
放り投げられた天井はゴロゴロと転がりながら呻き声を上げるが、一方通行はそんな事露ほども気にかけず、
助手席に寝かされている打ち止めに手を伸ばしていた。
「このガキが上位個体か、まだ小せェが将来性はありそォだな……ピンチを救うって運命的だよな?」
ニヤニヤと笑いながら将来の打ち止めの姿を想像し、勝手な運命を膨らませる一方通行。
ロリコンだったらこの場で手を出していたかもしれない。危ない所であった。
「まァこのガキには将来期待するとして、さっさと帰るとするかァ」
「ま、待て一方通行!」
「あァ?」
569: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:10:40.62 ID:2hu7uiUEo
打ち止めを抱え研究所に戻ろうとする一方通行に、何とか起き上がった天井が声をかける。
天井は焦燥しながらも笑っていた。まだ己に勝機があると考えているからだ。
今の状況は確かに良いとは言えない、しかし最悪でもない。
想定していた最悪のケースは、一方通行が問答無用で自分の口を封じるというもの。
しかし今の一方通行は自分の言葉に耳を傾けるだけの余裕がある。
それならば、このまま事情を説明できれば、逆転の目は十分すぎるほどあると言うものだ。
「一方通行、話を聞いてくれないか?」
「時間稼ぎのつもりか?往生際が悪ィぜ天井」
「ウイルスの起動まではまだ二十時間近くある、それくらいは聞いているだろ?
だったら少しくらいこっちの言葉に耳を傾けてもいいんじゃないか」
「……」
確かに、一方通行は最初に芳川達からウイルスの起動予想時間を聞いている。
そして彼女達からは聞かされなかったウイルスの内容や天井の目的も気になる所だ。
少しくらいなら彼の話を聞いてもいいのではないか、そんな甘い考えが一方通行の中で芽生え始めていた。
570: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:11:10.21 ID:2hu7uiUEo
天井「こちらの目的もウイルスコードの中身も聞かされてないか、全くのデタラメを聞かされているんだろ?
頼む、十分、いや五分でいいから話を聞いてくれ」
一方通行「……わかった、五分だ」
天井「よし、ならすぐに説明に入る。まずは目的だが……絶対能力進化を始める為の準備だ」
一方通行「あァ?ウイルス流して妹達に妙な事させようとしてンだろ?
それがどォして実験の開始とつながるンだ?」
天井「一方通行、お前は仕込まれたウイルスがどのようなものだと聞いている?」
一方通行「……詳しくは聞いてねェよ、ただ妹達の尊厳をぶっ壊すモンだって聞かされた」
天井「尊厳を壊すとは……また随分酷い言い方されてるな」ハァ
一方通行「あ?」
天井「いいか一方通行、このウイルスコードの中身は……このウイルスが起動すれば!」
天井「全ての妹達がお前に好意を持つようになるんだ!!」バァーン
一方通行「な、なン……だとォ……」
571: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:11:38.30 ID:2hu7uiUEo
天井「二万の妹達の全てがお前の望むように動く!何もかもが思いのままだ!」
一方通行「つまり、童 も……」
天井「捨て放題だ!」
一方通行「なンてこった、そンなウイルスだったのか……」
天井「絶対能力進化を始める為の準備だ、と言ったのがわかっただろう?
このウイルスにより妹達はお前に好意を持つ、そしてお前は適当な相手で童 を捨てる!
そうすれば絶対能力進化を開始出来るというわけだ!」
一方通行「……なるほどなァ、そォいう事だったのか」
天井「芳川達に何を言われていたのかは知らんが、これで大義はどちらにあるかわかったか?
お前がどちらに協力すればいいのかわかっただろ!?」
一方通行「あァ、わかったぜ……俺が今何をすればいいのかがなァ!」
天井「わかってくれたか!さぁ、このままもう二十時間も経てばお前は晴れて童 を……」
一方通行「この天井がァァァァァ!!!!」ベクトルパンチ!
天井「ぐぼあぁぁ!!!!」バコーン
一方通行「この天井が!この天井が!」ベクトルチョップ!
天井「ぐあああああ!!!」ベシーン
572: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:12:23.06 ID:2hu7uiUEo
一方通行「そンな事で俺がお前に従うと思ってンのか!?」
天井「ぐふぅ……な、何故だ一方通行……!?童 を捨てられるんだぞ!?」
一方通行「作られた運命なンざ俺はいらねェ!!!」
天井「なにぃ!?」
一方通行「ウイルスなンざに頼らなくても、俺は俺の手で運命を切り開いて見せるつってンだよ!!」
天井「一方通行……」
一方通行「だいたい、『ウイルスで無理矢理心を縛り付けて童 卒業しました!』なンて●●●と大して変わンねェじゃねェか!!
『ウイルスで二万人のハーレム作りました!』とか言ってもドン引きされるだけで……
待てよ妹達二万人のハーレムか……アレもコレも出来るのか……」
天井「滅茶苦茶後ろ髪惹かれてるじゃないか」
一方通行「うるせェ!ダメなモンはダメだ!作り物の運命なンざ認めねェ!!
自分の手で必ず運命を掴んでみせるってンだよ!!」
天井「でもお前全然成果出てないじゃん……」
一方通行「うっ……」
天井「妹達にもフラれっぱなしだし、外でも第二位と遊んでるだけじゃないか……」
一方通行「俺なりに頑張ってンだけどなァ……」
573: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:12:48.69 ID:2hu7uiUEo
天井「もうイヤなんだよ……」
一方通行「あン?」
天井「第一位のお前が!絶対能力者に一番近いお前が妹達ごときに虐げられてるのを見るのはもうイヤなんだよ!」
一方通行「天井?」
天井「お前わかってんのか!?一万四千回近くフラれてるんだぞ!!見てるほうが心痛くなってくるわ!!」
一方通行「やめろ、改めて回数を言うンじゃねェ!現実を突きつけるな!!俺の心を折る気か!?」
天井「見てるだけのこっちの心が折れそうになったわ!!同じ男として悲しすぎるんだよお前!!
ウイルスでも何でも受け入れてもっと幸せになってくれよ!頼むから!!情けなすぎていい加減泣けてくるわ!!」
574: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:13:39.38 ID:2hu7uiUEo
一方通行「天井、オマエがどンだけ甘い言葉で誘惑しようが俺はウイルスになンざ頼らねェ」
天井「何だと?」
一方通行「考えても見ろ、そもそも自力で童 の一つも捨てれず、
ウイルスなンて楽な道を選ぶクソ野郎が絶対能力者になれると思うか?」
天井「……」
一方通行「俺は絶対に自力で童 を捨てる、だからもォこンな馬鹿な真似はするンじゃねェ」
天井「………クソ…」
一方通行「……打ち止めは研究所に連れて帰るぞ、文句はねェな?」
天井「……好きにしろ」
一方通行「天井、道は間違えたが、これは一応俺の事を考えてくれた結果なンだろ?」
天井「……あぁ」
一方通行「……ありがとよ」
天井「ッ!?」
一方通行「じゃァな」ビュン
575: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:14:06.44 ID:2hu7uiUEo
一方通行が打ち止めを連れ帰った後も、天井亜雄はしばらくその場に立ち尽くしていた。
誰かに感謝されるなど、どのくらい振りだろう。ましてあの傲慢な第一位が感謝の言葉を口にするなど、通常なら在り得ない。
「ありがとう、か……」
やり直そう、もう一度、一から。誰も傷つけない方法で
あの甘っちょろい童 を絶対能力者に押し上げる道を探してやろう。
決意を新たに、天井は晴れやかな気持ちで新しい一歩を……
「何をいい話みたいに締めようとしているのです?とミサカは天井亜雄の背後からそっと迫ります」
「!?」
踏み出せなかった。
576: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 00:14:55.58 ID:2hu7uiUEo
「いやぁ危ない所でした、一方通行が独自の童 美学を持っててよかったですね、とミサカは心底安堵します」
「さて、それでは乙女心を踏みにじろうとしたこの男はどうしましょう?とミサカは皆に尋ねてみます」
「とりあえずあんなウイルスを作る力がある以上放っては置けませんよねぇ、とミサカはニヤニヤ笑いながら答えます」
「お、お前ら!?」
三人、四人、十人、二十人、百人……妹達は天井を囲むようにして、際限なく増えていく。
「「「さぁ、お仕置きの時間ですよ?とミサカ一同は笑いながら天井亜雄にゆっくりと接近します……」」」
「う、うわああああああ!!!!」
その後、天井の行く先を知るものは誰もいなかった。
620: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:13:31.12 ID:2hu7uiUEo
―研究所
「お疲れ様でした、とミサカは一仕事終えた後の一方通行を労います」
一方通行「ン、オマエは……」
10032号「10032号です、とミサカは検体番号を告げます」
一方通行「打ち止めのウイルスは駆除出来そうなのかァ?」
10032号「はい、あなたが早期に天井亜雄を発見してくれたお陰でなんとかなりそうです
ありがとうございました、とミサカは妹達を代表して頭を下げます」ペコリ
一方通行「ハッ、気にすンな、大した事はやってねェ。この程度朝飯前なンだよ」
10032号「一方通行……」
一方通行「でも多分これで妹達の好感度上がったりしたよなァ?」ニヤ
10032号「そういう事口に出しちゃダメでしょう……
とミサカは結局イマイチかっこ良くなりきれない一方通行にガックリ項垂れます」
一方通行「あ、いけね……これからも何かあったら言えよ、助けになってやるからな(キリッ」
621: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:14:08.22 ID:2hu7uiUEo
10032号「今更かっこつけても遅えよ、とミサカは呆れ顔でつっこみをいれます
……隣座っても良いですか?」
一方通行「お、おォ、どうぞどうぞ!」ワタワタ
10032号「キョドるなよ、とミサカは突然わたわたし始めた一方通行に若干引きます」
一方通行「うるせェ、こォいうシチュエーションは慣れてねェンだよ……」
10032号「童 ですものね(笑)」
一方通行「黙ってろ」
10032号「……正直言うとですね、」
一方通行「あ?」
10032号「あなたが天井亜雄からウイルスの内容を聞いた時はもう終わりだと思ってたんですよ
とミサカは当時の妹達の心境を語ります」
一方通行「どォいう意味だ?」
10032号「ぶっちゃけあなたは天井亜雄に協力すると思ってました、とミサカは正直に答えます」
一方通行「あァ、だから芳川達はウイルスの詳しい事教えてくれなかったンだなァ」
622: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:14:48.12 ID:2hu7uiUEo
10032号「ええ、教えたらあなたはミサカハーレムを作るためにウイルスの起動に尽力するに違いない、
と妹達一同は満場一致で判断しましたから」
一方通行「そォ思われる心当たりはあるけどよォ……やっぱ『見縊ンな!』って言いたくなるなァ」
10032号「う、すいません……とミサカは素直に謝罪します」
一方通行「天井にも言ったけどよ、やっぱウイルスなンぞに頼ってちゃダメなンだよ
童 一つ自力で捨てられねェよォじゃ絶対能力者なンて夢のまた夢だ」
10032号(今更だけど絶対能力者に童 は関係ないよね、とミサカは(ry)
一方通行「それにな、妹達がウイルスで俺に好意を持った人格になったとしても
俺は多分そンな妹達には運命感じねェと思うンだわ」
10032号「それはどういう……?」
一方通行「だってそりゃはもう妹達とは別モンだろ、ありのままのオマエらがいいンだよ俺は」フッ
10032号「一方通行……」
623: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:15:14.27 ID:2hu7uiUEo
10032号「あなたそんなかっこいいセリフが吐けるのにどうして告白の仕方はあんなに残念なんですか、
とミサカは告白された当時を思い出して頭を抱え項垂れます」
一方通行「えっ、俺の告白そンなダメだったか!?」
10032号「『あり』か『無し』かで言えば『死ね』ですね、とミサカは頷きます」
一方通行「そンなに!?」
10032号「そもそも流れ作業のように一日数百人単位で告白するっていうのがもうナメてますよね
とミサカは根本的に一方通行が間違っている事を指摘します」
一方通行「ぐ……」
10032号「て言うかMNWであなたがどの個体に告白したか情報流れちゃいますからねぇ
10031号に告白した一分後にこのミサカに告白、何てことしてたらそりゃ誰もOKしませんよ
とミサカはあなたのダメっぷりを更に追求します」
一方通行「うゥ……」
10032号「もっとターゲットを絞った方が良いですよ、とミサカはアドバイスしてみます」
624: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:15:55.19 ID:2hu7uiUEo
一方通行「でも妹達は全員平等に扱ってやりてェンだよなァ……」
10032号「その結果が流れ作業のような告白ですか、かっこいいんだか腐ってるんだかわかりませんね……
とミサカは呆れ顔で溜息を吐きます」
一方通行「ターゲット絞るなンて無理だから逆転の発想でだなァ、」
10032号「はい?」
一方通行「まとめて面倒見てやるから二万体全員俺のモンになれ、とかいう告白どォよ?」
10032号「……そこまで突き抜けると確かにかっこいいわ、とミサカは一方通行の器の広さに脱帽します」
一方通行「だろ?だろ?いい案だろ?」
10032号「………今の会話を元に MNWで多数決取った結果、反対多数で否決されました、とミサカは結果を告げます」
一方通行「ちくしょォ……」
10032号「まぁでも思ったよりあなた派の妹達増えてましたよ、地道な好感度アップ作戦の賜物ですね
とミサカは一方通行を励まします。特に今回あなたが天井亜雄の誘惑を振り切ったのは大きいですね」
一方通行「もォ一頑張りかァ……」
625: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:16:22.06 ID:2hu7uiUEo
10032号「でもあなた童 捨てれたら絶対能力進化開始するんですよね?ハーレム作っても一瞬で終わりじゃね?
とミサカはふと思いついた事を口にします」
一方通行「ンー、多分開始しねェンじゃねェかな」
10032号「『絶対能力者になるのに童 じゃ恥ずかしいから』って理由で童 捨てようとしてるはずですよね?
それなのにいざ童 捨てても開始しないんですか?」
一方通行「運命の相手で童 捨てられりゃァ多分それだけで絶対能力者になれるはずだ、そンな確信に近い自信がある
逆を言うと、童 捨てても絶対能力者になれなかったとしたら、俺には絶対能力者になる資格がねェって事だ
だからどっちにしろ絶対能力進化は開始されねェよ」
10032号「サッパリ意味がわかりません、とミサカは力強く頷きます」
626: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:17:11.17 ID:2hu7uiUEo
10032号「一方通行、一つ尋ねても?」
一方通行「なンだ?」
10032号「あなたは何故妹達に拘るんです?とミサカは最も謎な部分に触れてみます」
一方通行「何故、妹達に拘るか?」
10032号「はい、妹達は散々あなたに辛辣な態度を取ってきました。
それは『あなたの反応が楽しかった』、というのも勿論ですが、
それ以上に、『あなたを怒らせて実験を開始させよう』、と言う思惑があったからなのです
とミサカは裏設定を暴露してみます
にも関わらずあなたは怒る事はあっても決して手は上げませんよね。いったい何故?」
一方通行「そォだったのか……いや待て、俺の反応楽しンでたのかオマエら」
10032号「こまけぇこたぁいいんですよ、とミサカは都合の悪い部分はスルーします」
一方通行「オマエらに拘る理由かァ……いや別に拘ってるわけじゃねェだろ、
確かにオマエらに運命感じちゃいるが、外でも他に運命の相手探してるしなァ」
10032号「これだけ辛辣な態度を取られているのにまだ妹達に運命感じて好意持ってる時点で十分拘ってるでしょう
とミサカは指摘します。ドMですか?ドMなんですか?」
一方通行「誰がドMだ!?つーかホントに拘ってるつもりなンてなかったからなァ……」
627: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:17:50.03 ID:2hu7uiUEo
10032号「えー……あれだけ理不尽に辛辣な態度取られたらマザーテレサでも舌打ちしますよ?
あなたの心どれだけ広いんですか、とミサカは半ば呆れながら一方通行を眺めます」
一方通行「別に心が広いつもりはねェけどなァ……まァ、あれだ」
10032号「?」
一方通行「好きな相手にどンだけ振り回されよォが、そりゃむしろ幸せってモンだろ?」フッ
10032号「……な、なんだやっぱドMなんじゃねえか、とミサカは目を反らしつつ答えます」
一方通行「お、いいなァその反応、また俺の好感度上がったかァ?」ニヤ
10032号「あなたは自分で雰囲気叩き壊すのが好きですね、とミサカはいい加減呆れ果ててしまいます」
一方通行「ケケケ、偶にはこっちからもからかってやらねェとなァ」クククク
10032号「く、このミサカとした事が……」
628: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:18:23.16 ID:2hu7uiUEo
「楽しそうね、私も混ぜてもらえる?」
一方通行「ン?あァ、オマエか」
10032号「どうぞどうぞ、とミサカは布束砥信を歓迎します」
布束「ありがとう」
一方通行「どォでもいいけどオマエがマトモに喋ってるの久々に聞いたわ」
布束「well ここ数ヶ月あなたの顔を見るたびに『寿命中断(クリティカル)!』と叫んでいたものね」
一方通行「マジで寿命が縮みそうだったからやめてくれて助かるわ」
10032号「まぁ全面的にあなたが悪いんですけどね、とミサカは一方通行を横目で睨みます」
一方通行「俺は普通に告白しただけですゥ」
布束「sigh 土下座しながら『やらせてくれ』と懇願するのが普通の告白と言えるのかしら」
一方通行「そこまでは言ってねェ、『先っちょだけでいい』つっただろ」
布束「……」
10032号「引くわぁ……」
629: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:18:50.05 ID:2hu7uiUEo
布束「ま、まぁとにかく、今回の一件あなたには感謝しているわ」
一方通行「ハン、10032号にも言ったが別に大した事はしちゃいねェよ」
布束「but あなたにしか出来ない事だったわ、ありがとう」
一方通行「チッ、妹達の好感度上がるかもって打算で動いただけだ、礼なンざ言ってンじゃねェ」
10032号「ククク、この白モヤシ照れて真っ赤に茹で上がってますよ、
とミサカは先程のお返しとばかりにニヤニヤと笑います」
一方通行「モヤシは茹でても赤くならねェよ!」
布束「great やはりモヤシには詳しいわね」
一方通行「常識ですよねェ!?」
―俺の未元物質に常識は通用しねぇ―
一方通行「なンか脳内に声響いてきた!?」
10032号「大丈夫ですか?とミサカは突然叫び始めた一方通行の頭を形だけでも心配します」
一方通行「ン、あァ……疲れてンのかな……」
630: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:19:18.29 ID:2hu7uiUEo
布束「もう夜が明けそうだものね、眠ったら?」
一方通行「……そォだな、だがその前に、布束」
布束「何?」
一方通行「改めて俺と付き合ってくれ」
布束「」
10032号「おいいぃ!?お前さっき妹達に運命感じてるとか言ってたよなぁ!?
とミサカは突然の告白に目を丸くしつつ抗議します」
一方通行「それはそれ、これはこれ、布束にも運命感じてンだよ!
運命感じてる相手はまとめて差別せずに告白すンのが俺の流儀だ!!」
10032号「やっぱお前腐ってるよ!とミサカは再び一方通行の株を暴落させます」
一方通行「腐ってよォが構わねェ!!それに安心しろ
たとえ俺が童 を捨ててもオマエら妹達が大事な存在な事に変わりはねェから!!」
10032号「何で妹達がフラれたみたいな流れになってんの!?すごい屈辱なんですけど!!
とミサカは一方通行の勝手な言い分に地団駄を踏んで憤慨します」
631: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:19:51.72 ID:2hu7uiUEo
一方通行「さァ布束、答えを聞かせてくれるか?」
10032号「おい無視すんな!」
布束「errr……そういう普通の告白をしてくれるのは嬉しいのだけど……」
一方通行「嬉しいンだな?いいンだな!?よっしゃァ!!」
布束「いやちょっと、」
一方通行「よしじゃあ早速ヤルぞ、すぐヤルぞ」カチャカチャ
布束「」
10032号「おい待て、ベルトに手をかけるな、とミサカは不穏な動きをしている一方通行を制止します」
一方通行「心配すンな、最初は先端だけで済ませるからよォ」
10032号「心配のベクトルが違いすぎる!?ハッ、これがベクトル操作……
とミサカはドン引きしつつ思いついた事を口にしてみます」
一方通行「まァ今から俺が操作すンのは布束のベクトルだけどな」
10032号「なるほど意味がわからん、とミサカは再び力強く頷きます」
632: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:20:18.39 ID:2hu7uiUEo
一方通行「布束、部屋に行こうぜ」
布束「誰が行くか!!!」
一方通行「な、なンでだ!?」
布束「手が早すぎる!then そもそも告白をOKしていない!!」
一方通行「なンだと……」
布束「あなたには感謝している、だけどそれを差し引いてもこれは許容できないわ!」
一方通行「頼む布束ァ!先っちょだけ、先っちょだけでいいンだ!!」ガバッ
布束「土下座をしないでえええ!!!」
633: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/26(火) 20:20:47.88 ID:2hu7uiUEo
一方通行「接合部だけ、接合部だけ!!」
布束「言い方変えても同じ!!」
一方通行「刹那の刻を、刹那の刻を!!」
10032号「躊躇無く余所様のネタをパクった!?」
布束「く、寿命中断!!!」
一方通行「お願いします!お願いします!!」
布束「寿命中断!!寿命中断!!!」ダッ
一方通行「あ、待て逃げンな!!」ダッ
10032号「……そりゃあいつ童 だよ、とミサカは走り去って行った二人の方を生暖かい目で見つめます」
その後、一方通行はベルトを緩めていた事が災いし、走っている内にズリ落ちたズボンに足を取られ豪快にすっ転ぶ事になる。
その隙に布束には逃げ切られてしまい、彼はまたもや童 喪失の機会を失ってしまった。
て言うかこれもう半分●●●じゃね?童 の暴走とは恐ろしいものである。
657: >>1 2011/04/27(水) 18:01:23.43 ID:D5nlJQrDo
Q:辛辣な態度取ってまで実験開始させたいんなら妹達はさっさとヤラせてあげればよかったんじゃね?
A1:一方通行を振るのが楽しかった
A2:乙女心として一方通行に純潔を捧げるのは抵抗があった(ほとんどの告白の仕方が最悪でした)
A3:実験開始された場合妹達も一方通行を全力で倒しにかかる事になるので、
その際に妹達が『色仕掛け』という攻撃を有効的に行うためにも一方通行に童 を捨てさせたく無かった
考えてた理由はこんな感じか、後々SSの中で説明するつもりだったけど先に書いちゃおう
多少の矛盾は勘弁してください、酔っ払ったり半分寝たりしながらライブ感満載で書いてるんで……ごめんな?
それと、ちょっとデレさせたけどこのSSの妹達は基本的に黒いよ!
ていうか俺の書く女キャラは皆腹黒性悪になるよ!俺がドMなのが関係してるのかな!
P.S. 今日の投下は無理です サーセン
662: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:45:43.34 ID:kENQ8JaCo
ある日、一人の男に彼の属するとある魔術組織から命令が下った。
科学の街の住人でありながら、十万三千冊の魔導書を持つ少女をその手中に収め、
更に強力な魔術師とも親交のある少年がいる。その少年本人の持つ『異能を打ち消す』という力も相まって、
彼らの存在は今後科学勢力と魔術勢力のバランスを崩し兼ねない。
だから監視をしろ。組織の男に下った命令はそのようなモノだった。
簡単な仕事だった。確かに少年は強力な手札を持ってはいたが、ほとんど素人のようで、
監視に気付くような素振りは見せない。もっとも、男は監視や変装に関してはプロ中のプロであり、
例え同業者であろうとも気付かれないだけの自信はもっていたが。
いつもの様に少年を監視していた最中、男は偶然、とある少女を見かける。
―― 一目惚れであった。一目見た瞬間から、その少女の明るい茶色の髪に、勝気な顔に、
華奢な身体つきに、その全てに心を奪われた。運命を感じた。
己の純潔を捧げるのはこの少女しかいない、と瞬間的に考えた程だ。
以降、男は仕事そっちのけで少女の監視を始める。何の事は無い、やっぱりコイツもダメ人間だった、というだけの事。
そしてついに監視だけでは飽き足らず、男は得意の変装で直接少女への接触を試みた。
この物語は、仕事を投げ出しとある少女への想いを優先した一人のストーカーの心温まるお話である。
663: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:46:14.56 ID:kENQ8JaCo
―街中
一方通行「だから謝ってンだろォ?」
垣根「うるせぇ!一言二言謝られただけで許すわけねぇだろ!!」
一方通行「そンなにあのパンダ口説きたかったのかよ?」
垣根「そっちじゃねぇ!」
一方通行「え?」
垣根「クラナドに続いてリトバスまで消し飛ばされたってどういう事だよ!?」
一方通行「あァー……そっちに怒ってたのかオマエ……」ウワァ
垣根「おま、何だその『ギャルゲーなんかにマジになってる男の人ってキモい』みたいな顔は!?」
一方通行「いやァそこまでキレるのは引くわァ……」
垣根「テメエ!!」
一方通行「クラナド面白かった、リトバス可愛かった、でもなァ……」
垣根「ナメてやがるな。よほど愉快な死体になりてえと見える」ピキピキ
664: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:47:00.12 ID:kENQ8JaCo
一方通行「悪かったって、そンな名言の無駄遣いしてまでキレるなよ。ちゃンと金渡すから」
垣根「フン、まぁ今回はそれで許してやる。だがもうオマエには当分ゲーム貸さねぇからな」
一方通行「えっ」
垣根「つーか自分で買えよオマエ、金なんざ腐るほどあるだろうが」
一方通行「自分で買うのはなァ……何かこォ、そこは越えちゃいけねェ一線な気がして……」
垣根「周りの目が気になるか?心配すんな、自分で思うほど他人はオマエのことなんか見ちゃ……あ、でもオマエ目立つからな」
一方通行「だろォ?『見て見てあの白い人あんなゲーム買ってるキモーイ』とか言われたら正直泣くわ」
垣根「相変わらずその辺のメンタル弱いなオマエ、万単位で女にフラれても平気なくせに」
一方通行「メンタル強かったら童 卒業できてンのかなァ……」
垣根「いやそれとこれとは……」
665: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:47:33.13 ID:kENQ8JaCo
「ごっめーん、待ったぁー?」
垣根「あ?」
一方通行「ン?」
垣根「……何か第三位がすげえ笑顔で走って来てるな」
一方通行「『待ったー?』ってなンだよ……何一つ待ってねェよ……」
垣根「やっべぇちょっと寒気がするわあの笑顔」
一方通行「絶対なンか企ンでるなこりゃ……」
垣根「どうする?」
一方通行「……飛ぶぞ垣根」ブワッ
垣根「おう」バサッ
御坂「ちょ、待てゴラアアアア!!!」ダッ
一方通行「うわァ、また走って追って来たァ……」
垣根「良くついて来れるよなぁ、結構な速度で飛んでるつもりなんだが……」
666: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:48:04.58 ID:kENQ8JaCo
一方通行「つーかあの速度で地面走ったら大迷惑だろ……」
垣根「あ、ウニみたいな頭したヤツと青い髪のヤツと金髪アロハの三人組が跳ね飛ばされた」
一方通行「……おい適当な場所に降りるぞ、これ以上被害を出すわけにはいかねェ」
垣根「あぁ……ったく、あのガキは……」
―とある公園
御坂「ハァ、ハァ、ハァ……顔見た途端飛んで逃げるってどういう事よ……」ゼェゼェ
一方通行「オマエが笑顔で走ってきたらそら逃げるわ」
垣根「何考えてるかわかったもんじゃねぇ」
御坂「こんな可愛い女の子捕まえて何言ってんのよ!!」
垣根「自分で自分の事を可愛いなんて言う女は総じて地雷だ」ウン
御坂「うるさいわよ!!……それよりさ、ちょっと相談があるんだけど」
一方通行「断る」
垣根「帰れ」
667: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:48:32.42 ID:kENQ8JaCo
御坂「あのね、私最近男の人に付き纏われてるの」
一方通行「ほォ……」
垣根「勝手に話し始めやがったよ……どんだけフリーダムなんだこのお嬢ちゃんは……」
御坂「この一週間、毎日毎日同じヤツに会うのよね」
一方通行「あァ、俺もだ」
御坂「外出した直後にさ、『奇遇ですねー』って話しかけてくるのよ」
垣根「そりゃ確かに怖ぇな」
一方通行「俺もな、友達と二人で話してたらいつの間にか当然のように会話に加わってるヤツがいてちょっと怖ェンだよ」
御坂「で、『何処に行くんですか?』『ご一緒しますよ』ってずっとついて来るの」
一方通行「俺の方も延々ついて来られて参ってンだよなァ」
御坂「これって絶対ストーカーよね?」
一方通行「あァ、間違いねェな。俺が受けてる被害とほぼ同じだ」
668: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:49:01.55 ID:kENQ8JaCo
御坂「あんたもストーキングされてんの?何処の誰だか知らないけど趣味悪いヤツがいるもんね」
一方通行「オメエェェの事だよォォォォォ!!!!」
御坂「はぁ!私があんたのストーカー!?ふざけないでよ!!!」
垣根「え、マジで自覚ねぇの?どんだけ残念な頭してんだよ」
一方通行「ちょっと妹達見習って来いよ、アイツら頭の回転無駄に速ェから」
御坂「そりゃそうよ、元の私が頭いいんだもん」
垣根「やだ、この子どんだけ自己評価高いの?ちょっと怖いわ……」
御坂「だって事実として学園都市の第三位だし」
一方通行「オマエの目の前にいるのは第一位と第二位だけどなァ」
御坂「そうそうそれ、あんたら見てるとそのうち私が第一位になれるんじゃないかなって思うのよ、あんたら基本馬鹿だし」
垣根「え、コイツが増長してんのってひょっとして俺らのせい?やっぱここらで一旦シメとく?」
一方通行「相手すンの疲れてきたわ……おい超電磁砲、もォ帰れ」
669: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:49:43.07 ID:kENQ8JaCo
御坂「て言うかさ、『超電磁砲』だの『お嬢ちゃん』だの『第三位』だのって呼ぶのいい加減やめてくれる?
私には『御坂美琴』って名前がちゃんとあるんだからさ」
垣根「本当に話聞かないな」
一方通行「……年下のガキに色々振り回されンのは、人間ならだれでも通る道だ」
御坂「はい、呼んでみて。『御坂美琴』」
垣根「……御坂」
一方通行「………美琴」
御坂「うん、気持ち悪い。今まで通りの呼び方でいいわ」
垣根「うおおぉぉい!!!ナメてんのかこのガキィィィィ!!!!」
一方通行「堪えろ垣根、コイツもォ何言っても無駄だ……」
御坂「あ、それで相談の続きなんだけど、」
垣根「……ここまでアレだと逆にちょっと可愛い気がしてきたぜ」
一方通行「それはどォかと思います……」
670: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:50:29.52 ID:kENQ8JaCo
御坂「その付き纏ってくる男っていうのが常盤台の理事長の孫でさー、あんまり邪険に出来ないのよ」
一方通行「その位の常識はあるンだな」
垣根「その常識を一%でいいから俺らとの会話の時に出して欲しいわ」
御坂「いつも適当な理由つけて何とか撒いてたんだけど、今日は特にしぶとくてね」
一方通行「あァ、そォいやさっきオマエの後ろに男が立ってたなァ」
垣根「それで偶々通りかかった俺らと待ち合わせしてる事にしようとして『待ったー?』とか言ってたのか」
御坂「そう、それなのにあんたらいきなり飛んで逃げるし……」
一方通行「結果的にそのストーカー野郎は撒けたンだからいいだろォが」
御坂「良くないわよ、どう見ても不自然じゃない!」
垣根「つーか理事長の孫だろうが何だろうが関係ねぇだろ、ガツンとやってやれよ」
御坂「ダメダメ、部屋に侵入された、とかそういう被害は受けてないし、何だかんだで毎回撒いてるし、
まだ『偶然』って言い張られたらそれで押し通されちゃう段階なのよ」
一方通行「始まって一週間らしいしなァ」
671: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:51:03.66 ID:kENQ8JaCo
垣根「本当に偶然って可能性はねぇのか?」
御坂「無いと思う……状況証拠だけど、毎回寮から出た直後に話しかけられるし
それに何だか私のこと嘗め回すような目で見てくるのよね……」
垣根「女ってそういうの敏感らしいからな」
一方通行「そォなのか?」
垣根「あぁ、胸とか脚とか『あ、今コイツに見られてるな』ってわかるらしいぞ」
一方通行「ほォ」
御坂「あんた達はいっつも私の胸見てるわよね」
一方通行「いやそンな……どこ見りゃいいンだよそれ、ねェモンは見れねェよ」
垣根「やっぱストーカーってオマエの思い込みなんじゃねぇか?」
御坂「うるさーい!間違いないったら間違いないの!」
垣根「わかったからギャーギャー喚くな!幼児かオマエは!?」
一方通行「初めて会った時はもォ少し大人っぽかったっつーかマトモだった気がすンだけどなァ……」
672: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:51:33.64 ID:kENQ8JaCo
御坂「とにかく!そのストーカー……海原光貴って言うんだけど、そいつに私の事を諦めさせたいのよ」
一方通行「で、協力しろって?」
垣根「まだ実質的な被害はねぇんだよな?だったら第三者が口挟めるような事はねぇだろ」
御坂「被害が出てからじゃ遅いでしょ!今の内に手を打たないと……」
一方通行「つーかどォやって諦めさせるってンだ?」
垣根「まさか恋人でも演じろなんて言うんじゃねぇだろうな?」
御坂「んなわけないでしょ、ただちょっとあのストーカーが
しばらく病院から出てこれなくなる程度に痛めつけてくれれば……」
垣根「うわぁ……」
一方通行「あ、もしもしジャッジメントですの?ちょっと今犯罪犯そうとしてる中二が目の前にいてですねェ……」
御坂「ちょ、冗談!冗談だから!通報しないで!!電話切って!!」
673: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:52:07.37 ID:kENQ8JaCo
一方通行「ホントに冗談かァ?目がマジっぽかったぞオマエ」ピッ
垣根「俺らがノリ気だったら絶対その案で押し通しただろ」
御坂「じゃあ何かいい案考えてよ!」
一方通行「逆ギレの上丸投げかよ……」
垣根「エスカレートして来たらそん時返り討ちにするって事でそれまで放置でいいんじゃねぇの?」
御坂「んー、そういう受け身の姿勢って何かしっくり来ないのよね」
一方通行「つっても他に有効な手段なンてなァ……ン?」
「御坂さーん!」
垣根「あ?何か手ぇ振りながら走ってくる野郎がいるぞ」
御坂「げっ」
一方通行「あァ、あれが今言ってた……」
御坂「そ、あれが海原光貴よ……」ハァ
674: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:52:43.87 ID:kENQ8JaCo
海原「御坂さん、どうしたんです?突然走り出すだなんて」
御坂「あ、あはは……ごめんね、ちょっとこいつらと待ち合わせしててさー」
海原「こいつら……そちらのお二方ですか?」
御坂(お願い、話し合わせて……)ボソボソ
垣根(しょうがねぇなこのガキは……)ボソボソ
一方通行(妹達との約束あるしなァ……仕方ねェか)ボソボソ
垣根「そうそう、今日は俺らと御坂の三人で遊びに行く予定なんだ
用事があるんならまたにしてもらえねぇか?」
海原「……失礼ですが、御坂さんとはどのようなご関係で?」
垣根「関係?関係か、そうだな……」チラッ
御坂(こっち見ないでよ!適当に言っちゃって!)ボソボソ
垣根「……友達だ」チッ
海原「そ、そうですか……(何かすっごいイヤそうな顔で舌打ちしながら友達発言してる……)」
垣根(なんで俺がこんな残念なガキと友達ごっこしなきゃならねぇんだよ……)
675: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:53:10.36 ID:kENQ8JaCo
海原「で、ではそちらの白い方は?」
一方通行「あ?あー、俺も……」ハッ
一方通行(ちょっと待てよ、友達つっていいのか?)
一方通行(あれだ、俺と妹達は結婚する可能性が高ェだろ)
※極めて低いです
一方通行(ンで俺と妹達が結婚したら、コイツは……)チラッ
御坂「?」
海原「どうなさいました?」
一方通行「コイツは俺の義姉だ」バーン
御坂「」
海原「な、なんですって!!?」
垣根「何言ってんのオマエ!?」
一方通行「間違った事は言ってねェ」
※間違っています
676: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:54:01.47 ID:kENQ8JaCo
海原「御坂さんの義弟さんという事は……将来の自分の義弟だという事ですね!」ババーン
垣根「オマエも何言ってんだ!!?」
海原「何って、自分と御坂さんは将来結婚するんですから」
御坂「」
垣根「すげぇ、ストーカーって本当に頭の中バラ色なんだな」
一方通行「はじめましてお義兄さン、一方通行と申しますゥ」
海原「これはご丁寧にどうも、自分は海原光貴と申します」
垣根「ダメだこいつら……はやく何とかしねぇと……」
御坂「」
垣根「おい第三位、呆けてる場合じゃねぇぞ」
御坂「ハッ!ちょ、ちょっとあんた達なに好き勝手言ってんのよ!?」
一方通行「義姉さン!?」
御坂「義姉さんって言うなぁ!!何で私があんたの義姉にならなきゃいけないのよ!?」
677: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:54:32.61 ID:kENQ8JaCo
一方通行「え、だって俺が妹達と結婚したらそォなンだろ?」
御坂「ならないし、させないわよ!!」
一方通行「えェー……ン、待てよ」
一方通行(呼び方こそ『妹達』だが、アイツら本物の妹じゃなくてクローンなンだよな)
一方通行(つーことは遺伝子的には超電磁砲と妹達は同一人物……)
一方通行(つまりそォ言う事か……)
一方通行「わかったぜ超電磁砲」
御坂「へ?」
一方通行「オマエは未来のマイワイフだ!」バァーン
御坂「」
海原「」
垣根「つっこみきれねぇ……この俺がぁ……」
678: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:55:03.79 ID:kENQ8JaCo
一方通行「そォだそォだ、遺伝子的に考えりゃそれで間違いねェはずだ」ウン
垣根「『常識は通用しねぇ』は俺のキャッチフレーズだったんだがな……もうオマエにやるよ」
一方通行「いらねェ」
海原「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
一方通行「あァ?どォした義兄……っと、もォ違うな、この場合どォなンだ?」
垣根「知らんわ」
海原「そんな事どうでもいいですよ!!それより御坂さんは自分のモノです!あなたには渡しません!!」
垣根「オマエのモノでもねぇけどな」
一方通行「あァ?落ち着けよ、別に俺は超電磁砲と直接結婚しようってわけじゃねェ」
海原「意味がわかりません……」
679: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:55:33.47 ID:kENQ8JaCo
一方通行(イヤ待てよ、さっきも言ったが超電磁砲と妹達は遺伝子的に同一だ)
一方通行(つまりこの海原とか言う野郎が超電磁砲を抱いたりした場合……)
一方通行(ソレはつまり妹達がこのクソ野郎に抱かれたってのと同じ事だよなァ)
一方通行「ふざけてンじゃねェぞコラァ!!!!」クワッ
海原「何がです!?」
一方通行「オマエの存在がだァ!!妹達には指一本触れさせねェ!!!」
海原「妹達って何ですか!?」
垣根「おい第三位見ろ、クレープ売ってるぞ」
御坂「あ、本当だ。買いに行きましょうか」
一方通行「オマエは俺の敵だ!俺の運命を遮る邪魔な石ころだ!!」
海原「く、良く分かりませんが御坂さんを渡すつもりは無いという事ですね!?」
680: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:56:07.72 ID:kENQ8JaCo
垣根「甘っ!こいつクソ甘ぇ!」
御坂「馬鹿ね、ホイップ増量なんてするから……」
一方通行「スクラップの時間だぜェェェェェ!!!!」
海原「ぐああああああ!!!!」
垣根「チッ、クリーム取り除いてもまだ甘ぇな……コーヒー味にしときゃ良かったか……」
御坂「あんたも一方通行もコーヒー好きよね、厨二病ってやつ?」
一方通行「もォ一発だァァァァァ!!!!」
海原「ぎゃああああああ!!!!」
垣根「ん、そろそろ終わったか」
御坂「ご馳走様」
681: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:56:36.57 ID:kENQ8JaCo
一方通行「ハッ、人様の女に手ェ出そうとすっからそォなンだよォ!」
海原「」ビクンビクン
垣根「あーこりゃ間違いなく入院コースだな……よかったな第三位、当初の予定通りじゃねぇか」
御坂「うん、良かった、のかな?うん、まぁ心配事は一つ減ったけど……それよりさ、一方通行」
一方通行「あ?」
御坂「あの、さっきの言葉ってどういう意味なの?」
一方通行「さっきの言葉ァ?」
御坂「私があんたの……ワイフがどうのとか、人様の女にとか……」
一方通行「あァ、それか……だってそォだろ?」
御坂「え?」
一方通行「妹達とオマエは遺伝子的には同一人物だよな?
だから俺と妹達が結婚したらオマエは義姉じゃなくてワイフになるわけだ」
御坂「な、なんじゃそらああああ!!!!」
垣根「なるほど、わかるようなわかんねぇような……いや、わかんねぇわ」
682: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:57:14.40 ID:kENQ8JaCo
一方通行「……待てよ、いくら遺伝子が同じでも同一人物って事はねェよな」
一方通行「妹達だってそれぞれ個性があるし、超電磁砲とは似ても似つかねェしなァ」
一方通行「つーことはやっぱ妹達とオマエは別人か、つまり俺と妹達が結婚してもオマエは他人のままか」
御坂「頭痛くなってきた……」
垣根「つーか妹達ってオマエを一万数千回振ってるクローンどもだよな?
何でナチュラルに結婚できると思ってんだよ?
あと、いつの間に目的が脱童 から結婚になったんだ?」
一方通行「運命だ」
垣根「そうか運命か」
御坂「認めないわよ!!」
海原「フフ、御坂さんとあなたが他人のままだというのなら、御坂さんは自分が頂いても構いませんね!?」
垣根「うわ生き返りやがった」
683: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/28(木) 22:57:43.21 ID:kENQ8JaCo
御坂「もう黙ってろおおおお!!!!」バチバチバチ
海原「ぐぎゃああああああ!!!!」バリバリバリ
一方通行「あ、コイツ理事長の孫に普通に攻撃しやがった」
御坂「ハァ、ハァ……」
海原「」プスプス
垣根「あー……ストーカー問題解決したっぽいし俺らそろそろ行くぞ?」
一方通行「久々にゲーセンでも行くかァ」
垣根「お、いいなそれ。出会いがありそうだ」
御坂「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
海原「御坂さぁぁぁん!!!」
御坂「しつっこいのよおおおおお!!!!」バチバチバチ
海原「あ゛あ゛ああああ!!!もっとおおおお!!!」ビリビリビリ
719: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:25:40.77 ID:sm2WAm3xo
9月1日、夏休みが終わり御坂の監視が緩んだ為、一方通行は久方ぶりに己のマンションに帰る事が出来た。
しばらく間借りしていた研究所の一室での生活も中々有意義なモノであったが、やはり自分の部屋が一番である。
妹達や布束と離れるのが多少辛いところだが、どの道研究所には毎日顔を出すつもりなので問題あるまい。
垣根と遊ぶ約束をしている時刻まであと二時間弱(こいつら本当に毎日遊んでんな)、
一方通行はそれまで買い込んでいた缶コーヒーでも飲みながらテレビを眺めてダラダラしようと、
缶コーヒーを冷やす、という用途以外に使われた事の無い可哀相な冷蔵庫へと近付く。
(どォでもいいンだが、冷蔵庫見てると妙な衝動に駆られるンだよなァ……)
(なンつーかこう、改造しなきゃならねェような……)
(垣根がなンか関係してるような気がすンだけどなァ)
そんな風に、別次元の自分と微妙にリンクしたりしながら、ガチャリと冷蔵庫の扉を開ける。
しばらく部屋には帰っていなかったが買い溜めておいた缶コーヒーが数十本残っていたはずだ。
そのはずだったのだが……
720: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:26:16.94 ID:sm2WAm3xo
「おいおいおい、なンの冗談ですかこりゃァ!」
冷蔵庫の中を確認した彼は驚きの声を上げ、怒りを露にする。
「なァンで買い置きのコーヒーが全部カフェオレに変わってンだよ!?」
彼が買い込み、冷蔵庫の中に放り込んでいたのは間違いなく当時出たばかりだった新商品の缶コーヒーだったはずである。
その黒い缶が、どのような理屈か今では茶色いカフェオレの缶に摩り替わっていた。
そんなものは生まれてこの方買った事が無いというのに、一体何があったのか、誰の仕業なのか。
一方通行は脳裏に『監視』と称しこの部屋に不法侵入を繰り返していた、甘い物が好きな一人の少女の姿が思い浮かべた。
「超電磁砲の仕業かァァ……」
よくよく部屋を見回してみると、覚えの無いゴミがゴミ箱に入っていたり、台所を使った形跡があったりと、
しばらく帰っていなかった割に妙に生活感がある。
恐らく、一方通行が部屋に戻らないのをいい事に御坂が好き勝手ここでダラダラしたのだろう。
とするとカフェオレは彼女が飲むために買って来たという事か。
721: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:27:05.68 ID:sm2WAm3xo
「俺の缶コーヒーはどこ行ったンだよ……」
溜息を吐きつつ仕方無しにカフェオレに手を伸ばし、プルタブを開け中身を口中に流し込む
その甘ったるさに辟易しながらソファに身を沈め、テレビを付けようとリモコンを探すがどうにも見当たらない。
「あァ?」
置いたはずの場所にリモコンがない、少し前まで手元にあったはずのリモコンが消えた、
という経験が、一人暮らしをしている方にはあるのではないだろうか?
これがかの有名な『妖怪リモコン隠し』の仕業である。
汚れた部屋だけでなく、整理の行き届いた、或いはモノのほとんど無い部屋でもこの現象は容赦なく起こってしまうのだ。
「めンどくせェ……」
ぽつりと呟きカフェオレの残りを飲み干すと、彼はリモコンを探すのを諦めそのままソファに横たわる。
元々、特に見たい番組があったと言うわけでも無く、
ただの暇潰しの一環として適当な番組を垂流そうと思っていただけなので、
別に今どうしてもリモコンを探す必要があるわけではない。
リモコン探しなどと言う面倒な作業は後回しにするに限る。
それに、『リモコン隠し』に隠されたリモコンは放っておけば
そのうち思いもよらぬ所からひょっこり出てくるものなのだ。下手に探し回って無駄な体力を使う必要も無い。
722: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:27:47.95 ID:sm2WAm3xo
「ふあァ……」
待ち合わせ時間まで一眠りするか……欠伸をしながらそんな事を考え、目覚まし時計をセットする。
さてこれで寝坊する事は無いだろう、と安心した気持ちで目を閉じ、うつらうつらとまどろみ始めたその時、
<ピンポーン♪
「あァ?」
唐突に鳴り響いたインターホンの呼び出し音により、彼の眠りは妨げられる事となってしまった。
無視を決め込みもぞもぞと頭を埋める一方通行だったが、インターホンはしつこく鳴り響き、
徹底的に彼の神経を逆撫でする。
ならばそんな雑音反射して……と行きたいところだが、そうもいかない。
それでは自分が先程セットした目覚まし時計の音も聞こえなくなってしまい、
その結果、寝坊して待ち合わせに遅れてしまうという可能性が大いにある。
(あァクソ、何なンだよ……)
鳴り止まないインターホンについに根負けした一方通行はムクリとソファから起き上がり、
めんどくさそうに玄関へと歩いていく。ただでさえ凶相の彼の顔は眠りを妨害された事で不機嫌に歪み、
子供が見たら泣き出すのではないか、街を歩けば通報されるのではないか、という程恐ろしいものになっていた。
723: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:28:20.77 ID:sm2WAm3xo
「はいはァい!どなたですかクソが……あ?」
「お、ようやく出てきましたか、とミサカはインターホンから指を離します」
「やぁやぁこんにちは、とミサカは片手を軽く上げて気さくに挨拶してみます」
玄関を勢いよく開けた一方通行はそこに立っていた二人の少女の姿を確認し、その身を硬直させる。
しつこい勧誘か何かだと当たりをつけていた彼にとって、その光景は全くの予想外だった。
自分の運命の相手が二人も同時に家を訪ねてきてくれたのだ、無理もあるまい。
まるで双子のようにそっくりな少女達―妹達の二人は、
そんな戸惑っている彼の様子が面白くて仕方ない、と言った風に口元を綻ばせていた。
(え、何コイツら、何でここにいるンだ?)
(インターホンを押してたって事は用があるって事だよな……誰に?俺にだろ!)
(わざわざ尋ねてきてくれた?俺なンかを?)
(待て、これは孔明の罠だ、どっかに関羽が潜ンで……いや何考えてンだ俺)
(例え罠だとしても妹達が二人も尋ねてきたのは事実だろ!つまりこれは……)
「我が世の春が来たァァァァ!!!」
「お前の頭ん中は年中春だろうが、とミサカは突然叫び始めた一方通行に冷静につっこみをいれます」
「まぁ、 的にはずっと核の冬でしょうけどね、
とミサカはどうせよからぬ事を考えていたであろう一方通行にドン引きします」
724: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:28:54.19 ID:sm2WAm3xo
喜びのあまり若干トリップ状態で叫び声を上げる一方通行に多少動揺しつつ、
二人の妹達は冷静かつ辛辣なつっこみを叩き込む。
その表情には呆れこそ見て取れるものの、以前のように嫌悪している様子は無い。
やはり先日の打ち止めを救助した一件や、日頃の地道な活動のお陰で一方通行の地位も少しずつ向上しているのだろう。
「まァ立ち話もなンだし入れよ」
「ではお言葉に甘えて、とミサカは躊躇無く扉をくぐります」
「お茶の一杯でも用意してくださいね、とミサカは少しばかり喉が渇いている事をアピールします」
玄関から顔を出した時の不機嫌な表情から一転、一方通行は上機嫌に妹達を部屋に招きいれる。
彼女たちも大人しくそれに従い部屋の中に入ると、どっかりと我が物顔でソファに腰を下した。
これでは誰が家主かわかったものではない。
「おらよ、こンなモンしかねェが構わねェな?」
「おやカフェオレですか、とミサカは意外なチョイスに目を丸くします」
「てっきりブラックコーヒーでも出されるのかと思っていたのですが……
とミサカは予想外の事態に動揺しつつ甘いものは好物なので素直に受け取ります」
725: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:29:24.77 ID:sm2WAm3xo
一方通行が冷蔵庫の中から御坂の置き土産であろうカフェオレの缶を取り出し二人に差し出すと、
彼女達は目を丸くしてそれに驚いた。
一方通行が日頃ブラックコーヒーしか飲まないという事は彼の関係者ならほとんど誰もが知っている事実である。
彼のカフェイン中毒っぷりたるや、血液の代わりにコーヒーでも流れてるんじゃないか、と疑いがかかったり
彼の演算力の高さにはコーヒーが関係しているのではないか、と研究する者が出てくるほどだ。
そんな彼の家にカフェオレという飲み物が存在するなど一体誰が予想出来ようか。
「一方通行、さてはあなた皆の前ではかっこつけるために無理してブラック飲んでたんですね?
とミサカはこの場でカフェオレが出てきた理由を推測してみます」
「ば!違ェよ!!俺はマジでブラックが好きだっつーの!!」
あらぬ疑いをかけられ、一方通行は首をブンブン振って慌てて否定する。
こんな所で自分のこれまで築いてきたイメージを破壊されては叶わない。
「いやお前のイメージ既に最悪だから」という無粋なつっこみはやめて頂きたい。
彼は未だ自分の事を『ブラックコーヒーの似合うクールでミステリアスな男』だと思っているのだから。
726: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:30:05.55 ID:sm2WAm3xo
「それで、オマエら何しに来たンだ?」
これ以上カフェオレの件につっこまれるのは面倒だと判断した彼はコホンと咳払いを一つすると、
話題を逸らす為彼女たちに何の用件かを尋ねる。
嫌悪されてはいないようだが、何の用事も無く遊びに来るという事は、まぁ無いだろう。
夢見がちな童 も少しずつ状況判断が出来るようになっているのだ。
「そうですね、そろそろ本題に入りましょうか、とミサカはカフェオレを啜りながら答えます」
「えーっと、先日あなたが救ってくれた上位個体なんですが、覚えてますか?
とミサカは同じくカフェオレを啜りながら尋ねます」
「あ?ついこの前の事じゃねェか、覚えてるに決まってンだろ。打ち止め(ラストオーダー)つったか?」
「はい、その上位個体なんですが」
「あァ?」
「脱走しました、とミサカは端的に情報を伝えます」
「はァ!?」
727: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:30:45.30 ID:sm2WAm3xo
妹達の話によると、先日一方通行により救助された打ち止めはその後無事ウイルスも駆除され、
今日の早朝までは何の問題も無く眠っていたらしい。
一度培養機から出してしまった以上、ウイルス駆除が終わったからといって、
また培養機で保管というのはかわいそうだ、という意見により、研究所の一室で寝かされていたのだが、これが裏目に出た。
目を覚ました打ち止めはその旺盛な好奇心の赴くまま、研究所の職員や妹達の目を盗み、
一人でちょろちょろと脱走してしまったのだ。
「それで、まァた俺に探してくれってわけか」
「ま、そういうことですね、とミサカは飲み干したカフェオレの缶を弄びながら頷きます」
「本当はここに来たりしてるんじゃないかな、とちょっと期待してたんですが、そう上手くはいかないものですね
とミサカは空き缶を握り潰しながら溜息を吐きます」
「そンなのンびりしてていいのか?学園都市の治安の悪さは知ってンだろ?」
「危なくなったらMNWで助けを求めてくるでしょうし、多分大丈夫でしょう、
とミサカは楽観的な意見を述べます」
「しかし何が起こるかわからないと言うのも事実、ですのであなたに探していただきたいのです
とミサカは上位個体の資料を差し出しながらお願いします」
728: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:31:27.18 ID:sm2WAm3xo
妹達から差し出された資料には写真も含まれており、そこには間違いなく、
先日一方通行が天井の下から連れ戻した少女の姿が写っている。
この前はじっくり姿を確認している暇は無かったが、立派なアホ毛をしているな、
などとどうでもいい事を考えながら彼は他の資料に目を移した。
「その資料には上位個体の行きそうな場所や好みそうなモノを色々書き込んでいます
とミサカは資料の説明をします。どうぞ参考にしてください」
「本当は妹達で探しに行きたいのですが、ミサカ達はクローンという立場上
真昼間から堂々と表を歩くわけにはいかないので……とミサカは探しにいけない理由を説明します
断じて面倒だからあなたに丸投げしているというわけではありません」
「オッケー、引き受けた……って言いてェンだが、今日はこの後予定が入ってンだよなァ」
「えぇそんなぁ!とミサカはまさか断られるとは思っていなかったので愕然とします」
「そンなに緊急性が高ェわけでもねェンだろ?夕方からとかじゃダメかァ?」
「んー、構わないっちゃ構わないんですが、やっぱり無事がちゃんと確認できないと
精神衛生上よくないんですよね、とミサカは漠然とした不安を訴えます」
729: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:31:59.11 ID:sm2WAm3xo
「夕方までミサカ達に不安なまま過ごせというのですか?とミサカは上目遣いで訴えかけます」
「もしもし垣根かァ?悪ィ、今日ちょっと無理になったわ。うン、悪ィ、埋め合わせはすっから、うン」
「はや!とミサカはあまりにもあっさり陥落した一方通行に苦笑いします」
「涙目の上目遣いは最強ですね、とミサカは目薬をしまいながら頷きます」
「よし、それじゃァ探しに行いくかァ」
「朗報を期待していますよ、とミサカはソファに身を沈めながら見送ります」
「上位個体がここに来る可能性があるので、ミサカ達はしばらくここで待機することにします
とミサカは一方通行に手を振りながら今後の予定を離します」
「あ、じゃァ鍵渡しといてやるからオマエら帰るときは戸締りして帰れよ?」
「了解です、とミサカは部屋の鍵を受け取ります」
730: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:32:58.05 ID:sm2WAm3xo
部屋に二人の妹達を残したまま一方通行は矢のように飛び立って行く。
そんな彼を、彼女達はニヤニヤと笑いながら見送った。
再三言って来たが、彼女達は性格が悪い。打ち止めが脱走した、ということに嘘偽りはなく、
彼に捜索を依頼しに来たと言うのも事実だが、二人が一方通行の家に残ると言う選択をしたのは
打ち止めをここで待つ、という理由ではない。
いや勿論それもあるのだが、真意は別のところにあった。
「行きましたか……さてそれでは、」
「家捜しを開始しましょうか、とミサカは怪しく目を輝かせます」
「とりあえず冷蔵庫のカフェオレは全て没収してやりましょう、とミサカはカフェオレを袋に詰めます」
「頑張ってください一方通行……外での捜索に協力できないミサカ達に出来ることと言ったら、
こうしてあなたの部屋の掃除をしながら無事を祈ることだけです……
とミサカは無力な自分に歯噛みしつつベッドの下を……おやおやこれはぁ」
まさに外道
731: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:33:35.75 ID:sm2WAm3xo
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―街中
「しかし、探すつっても何処探すかァ……」
勢い良く街に飛び出した一方通行であったが、早速打つ手に困っていた。
渡された資料によると打ち止めの行きそうな場所は『クレープ屋』や『洋服屋』という事だが、
そんなものこの街には無数にある。というかこれは打ち止めの行きそうな場所というよりは、
どちらかと言うと妹達の行きたい場所、ではないだろうか。
「この前とは状況が違う……能力で探すっつーのも難しいなこりゃ」
彼の能力によるレーダーはあくまでも『何処にどういう形のモノがあるか、どう動いているか』を判断するだけで、
『何処に誰がいるか』を知る事は出来ない。
以前天井を探した時は、彼が逃げ出して間もなかった事、一直線に研究所から離れていった事、
などからそれでもあっさり見つけることが出来たが、今回は状況が違う。
打ち止めがどんな動きをしているか想像出来なければ、レーダーは全く役に立たないのだ。
732: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:34:11.71 ID:sm2WAm3xo
(こォ言うときは人海戦術……誰かに応援を頼むか)
(だが誰に……垣根?いや、今日の約束を反故にした手前頼み辛ェ)
(それにアイツ、下手したら打ち止めみてェな幼女にも手ェ出し兼ねねェ、それはダメだろ)
(じゃァ超電磁砲はどォだ?……打ち止めの事説明すンのめンどくせェな、却下だ)
(打ち止めの事を適当に誤魔化せそうで、かつ人探しの役に立ちそうなヤツ……誰かいねェか)
「……ン?あそこにいるのは」
思考しながら歩いていた彼の目が、一人のツインテールの少女の姿を捉えた。
733: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:35:05.43 ID:sm2WAm3xo
白井黒子もまた、その時人探しをしていた。
情報によると、付近に外部からの侵入者が潜んでいるというのだ。
学園都市は外の世界より数十年進んだ技術力を持っているとも言われており、
その為技術力を盗もうと、或いは破壊工作をしようと侵入を試みる輩が後を絶たない。
とは言えそれらのほとんどは都市の監視衛星に発見され街に侵入する事すら出来ないのだが、今度は違う。
どのような手で監視衛星を誤魔化したのかはわからないが、敵は既に街に侵入して来ている。
それだけでそんじょそこらの相手とは格が違うという事がわかるというものだ。
学園都市の治安維持の為侵入者を拘束する事、それが彼女達風紀委員(ジャッジメント)に与えられた仕事だった。
「……いましたわね」
褐色の肌に荒れた金髪、擦り切れた黒のゴスロリ服……渡された写真と同じ人物が白井の視界に入る。
彼女こそが侵入者に間違いないだろう。
ニッと不敵な笑みを浮かべると、白井は周囲に避難命令を伝えるべく、上空に信号弾を撃った。
「ひ、避難命令だ!」
「うわぁ、に、逃げろ!」
放たれた信号弾が、パンッという破裂音と共に辺りに強い閃光を走らせると、
それが避難命令だと理解した周囲の学生達は蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていった。
後に残ったのは学園都市への侵入者、魔術師シェリー=クロムウェルと
治安維持の役割を持つ風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子……
と、二人は気付いていないが何か白いのも近くにいる。
734: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:35:53.93 ID:sm2WAm3xo
「動かないでいただきたいですわね」
「……」
「わたくし、この街の治安維持を勤めておりますジャッジメントの白井黒子と申します
自身が拘束される理由は、わざわざ述べるまでもないでしょう?」
不敵な笑みを浮かべたまま、白井はシェリーを牽制する。
彼女は学園都市でも有数の空間移動能力者だ。
だからこそ、外部からの侵入者などに後れを取るはずが無いという絶対の自信があった。
他方、白井に対して何の興味も持っていないシェリーはしばし無言で彼女を見つめると、
やがて心底めんどくさそうに溜息を吐き、ようやく口を開く。
「……探索中止、手間かけさせやがって」
呟きつつ、彼女はボロボロのドレスの裾から何かを取り出そうとする。
手首を少し丸め獲物を取り出すというわずか数秒の動作であったが、
彼女がその動作を完了するより早く――
「!?」
「動くなと申し上げております」
735: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:36:20.83 ID:sm2WAm3xo
白井は空間移動の一跳びでシェリーの懐まで潜り込む。
白井はそのままシェリーの手首を掴み、能力を行使して一気彼女を地面へと薙ぎ倒しす。
何が起きたのか理解出来ていないシェリーを余所に、白井は更に能力を行使、
太もものホルダーに仕込んだ金属矢を転移させ、
未だ困惑状態にあったシェリーの服を地面に縫いつける事により彼女を完全に拘束した。
「日本語、正しく伝わってませんの?」
まるで昆虫採集の標本のように地面に張り付けられたシェリーを見下ろし、白井は挑発するかのような言動を取る。
それは犯罪者に対して情けは無用とする彼女の信条と、既に勝負は決したと言う余裕から生まれた言葉だった。
「……フッ」
そのような状態であるにも関わらず、シェリーは白井に負けぬほど不敵で余裕に満ちた笑みを浮かべる。
白井の誤算、それは侵入者が魔術師という彼女の理解の及ばない存在だったこと、
そして……
736: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:36:59.37 ID:sm2WAm3xo
「ジャッジメントですのォォォォ!!!」
「ごぶふぁぁ!!!」
すぐ近くに何か白いのがいた事である。
シェリーが魔術を行使するより速く、白井がシェリーの異変に気付くより速く、
一方通行の右拳が白井の脇腹に突き刺さっていた。見事なボディーブローである。
「な、何をなさるんですの!?」
以前のように星になる勢いで吹っ飛んだりしないと言う事は手加減はされているのだろう。
とは言っても痛いものは痛い。白井は殴られた脇腹を擦りつつ、突然の理不尽な仕打ちに涙目で抗議する。
737: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:37:28.19 ID:sm2WAm3xo
一方通行「何をじゃねェ!ジャッジメントが一般市民いたぶってンじゃねェぞ!!」
白井「は、はぁぁ!?あなたいったい何を勘違いしていますの!?」
一方通行「勘違いだァ?」
白井「そうですの!その女は学園都市への侵入者ですの!!」
一方通行「侵入者だと……?」チラッ
シェリー「……」
一方通行「嘘吐いてンじゃねェぞパンダ!!何処の世界にこンな見るからに怪しい格好の侵入者がいるってンだ!?」
白井「い、いやそこ!そこにいますの!!」
一方通行「だいたいオマエは無実の俺にケンカ売ってきたって前例があるしなァ」
白井「あれはあなたが挑発したからですのおおお!!!」
738: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:37:54.36 ID:sm2WAm3xo
一方通行「悪ィなオマエ、このパンダには俺がきつく言っとくから許してやってくれねェか?」
シェリー「え?あ、あぁ……」
白井「話を聞いてくださいまし!!」
一方通行「ン、じゃァ野良犬にでも噛まれたと思って忘れてくれ」
シェリー「あ、うん、じゃあ私急ぐから……」
一方通行「おォ、じゃァな」
白井「ちょ!お待ちなさいな!!」
一方通行「待つのはオマエだ」ガシ
白井「ガフッ、あ、頭を掴むのはやめてくださいまし!!あ!あー……見失ってしまいましたの ……」
739: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:38:24.00 ID:sm2WAm3xo
白井「第一位様!どういうおつもりですの!?どうしてあの女を行かせてしまったんですの!?」
一方通行「え、だって好みじゃねェし」
白井「意味がわかりませんのおおお!!!」
一方通行「で、ちょっと話があるンだが聞いてもらえねェか?」
白井「まずわたくしの話を聞いてくださいまし!」
一方通行「いいから聞け」ギロッ
白井「はいですの」
一方通行「オマエをジャッジメントの出来るパンダだと見込ンで頼みたい事がある」
白井「パンダはやめてくださいまし!白井黒子!白井黒子ですの!!」
一方通行「白と黒逆じゃなくてよかったよなァ、オマエの名前……」
白井「うるせーですの!!」
740: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:39:08.61 ID:sm2WAm3xo
一方通行「黒井白子とかだったらオマエ……なァ?白子って 巣だぜ?しかもそれが黒いンだぜ?つまり……」
白井「解説するなあああああ!!!!」
一方通行「あァー、それでまァオマエに人探しを頼みてェンだよ」
白井「いえ、わたくしそんな事やってる暇無いんですの、さっきの女を追わなければならないので……」
一方通行「あァ?オマエ俺の頼みが聞けねェってのか?」ガシッ
白井「だ、だから頭を掴まないでくださいまし!脅されようとわたくしはジャッジメントとしてさっきの女を……」
一方通行「この俺がこれだけ平身低頭で頼ンでンのにダメだってのかァ!?」グググ
白井「何処が!!何処が平身低頭ですのおおお!!?」
一方通行「ちゃンと俺の頭の方がオマエより下になってンだろォが」ググググ
白井「それはあなたがわたくしの頭を掴んで持ち上げているからですのおおお!!!」
一方通行「ところでよォ、豆腐を潰さないように持ち上げ続けるのって意外と難しいンだわ」メキメキ
白井「」ミシミシ
一方通行「人探し、引き受けてくれるよなァ?」ニコッ
白井「もちろんですの」
741: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:39:41.93 ID:sm2WAm3xo
「で、この写真に写ってるガキを探して欲しいンだが……」
そう言いつつ、一方通行は妹達から預かった写真を一枚白井に手渡す。
理不尽過ぎる扱いに涙目になっていた白井がおずおずとそれを受け取ると、その途端、彼女の雰囲気が一変した。
「ぬふぁ!これは!!」
「あ?」
「第一位様!この写真の子は!!お姉様の小さな頃ににそっくりなこの写真の子はどなたですの!?」
目を輝かせ、鼻息荒く白井は一方通行に詰め寄る。
最大の恐怖とは『知らぬ』という事、とはよく言ったもので、一方通行は痛恨の人選ミスをやってしまった。
彼は知らなかったのだ。白井が、超重度のミサカ・コンプレックスを患っているという事を。
「あー……ちょっとワケありでなァ、詳しい事は聞かずに探してもらえねェか?」
「……わかりましたの、何処の誰でも構いませんの。愛でる対象である事には変わりありませんので」
「め、愛で……?」
742: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:40:16.52 ID:sm2WAm3xo
「とにかくこの小さいお姉様を探せば良いんですのね!?探し出して好きにしてよろしいんですのね!?」
「あ?いやちょっと待て何言ってンだオマエ!?」
ここに至り、ようやく一方通行は感付く。
あ、コイツこの前の超電磁砲のストーカー野郎と同じタイプの変態だ、と。
しかしもう遅い。彼女は『打ち止め』という存在を知ってしまった。
もはや彼女を止める事など誰にも出来はしない。
「これはもうさっきの女を追ってる場合じゃありませんのね……白井黒子、行かせて頂きますの!!」
「おい待て!!」
一方通行の制止も虚しく、白井は空間移動で彼の前から姿を消す。
彼女の限界飛距離は本来八十メートル程であり、とてもではないが一方通行から逃げ切れるようなものではない。
しかしこの時彼女が見せた跳躍は明らかに限界であるはずの数値を越えており、
少なくとも肉眼で見える範囲に彼女の姿はどこにも存在しなかった。愛の力である。
「やっべェ、人手増やすどころか危険増やしただけじゃねェか!!」
「あのパンダにそンな趣味があるなンざ聞いてねェぞクソ!!早く見つけねェと……」
もし白井に先を越されてしまったら……考えるだけでも恐ろしい。
焦りを覚えた一方通行もまた、持てる力の全てを使って打ち止めの探索を開始した。
743: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:40:46.39 ID:sm2WAm3xo
―その頃の垣根さん
垣根「一方通行に約束反故にされて一人で地下街に遊びに来てみたものの……」
垣根「何かジャッジメントが避難誘導してやがる……おかしいだろ……」
垣根「ハ?テロリストがいる?ふざけろよクソ野郎が……」
垣根「ゲ、停電になりやがった!?……ツイてねぇ」
垣根「……何か音がするな、あっちか?」
―騒動に巻き込まれていた。
―――――――――――――――
―――――――――
――――
744: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:41:16.53 ID:sm2WAm3xo
一方通行「クソ、見つからねェ!!いったい何処に隠れてやがンだ!?」
一方通行「こォなったら背に腹はかえられねェ、垣根に応援頼むか……」ピッピッピ
一方通行「………」
一方通行「あの野郎圏外かよォォォォ!!!使えねェェェェ!!!」
一方通行「れ、超電磁砲は……」
一方通行「よく考えたら携帯番号知らねェェェェ!!」
一方通行(落ち着け、クールになれ……冷静に、ガキの気持ちになって考えるンだ……)
一方通行(俺がガキだったらどこにいく?俺はガキの頃何がやりたかった……?)
一方通行(……女風呂?いや違ェ!それは今の頭脳で子供の身体だったら何処に行きたいかだ!!)
一方通行(あ?つーことはコ○ンくンって女風呂入り放題って事かよ、死ねクソが)
745: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:41:46.21 ID:sm2WAm3xo
一方通行(イヤイヤイヤ、関係ねェ事は考えンな、思考を集中しろ)
一方通行(ガキが一人で研究所から脱走……当然徒歩だ)
一方通行(恐らく金は持ってねェだろォからタクシーやバスは使えねェ、ヒッチハイクの可能性は低い)
一方通行(ガキが脱走した時間と現在時刻を鑑みるに、腹を空かせてる可能性が高ェ)
一方通行(金がねェから何も買えねェが、それでも腹が減った時は食い物の近くに行きたくなるってモンだ)
一方通行(超電磁砲筆頭に、妹達は皆甘党だったなァ……つーことは、怪しいのは研究所近くのクレープ屋か?)
一方通行「……行ってみるか」
746: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:42:21.12 ID:sm2WAm3xo
―その頃の垣根さん
「アッハハハ!喜べ化物!この世界も捨てたものじゃないわねぇ!
そういう馬鹿が、一人くらいはいるんだから!」
「……一人じゃねぇぞ!!」
垣根「そうだ、俺がいる!!」
「どちら様!?」
垣根「そっちのメガネの嬢ちゃん、大丈夫か?」
「え、あ、あの……ど、どうして……いやそれより、誰……?」
垣根「理由なんていらねぇだろ?ただ、運命だと思っただけさ……」
「お、おい誰だか知らねぇけど危ねぇぞアンタ!!て言うか待機してた警備員の人達は!?」
垣根「邪魔だから寝かせた!テメエも下がってろウニ頭!!」
「ブチ殺せ!エリス!!」
垣根「ハッ遅ぇんだよ!!」バサァ
「なぁ!?」
―他人のフラグを横取りしていた。
「アッハハハ!喜べ化物!この世界も捨てたものじゃないわねぇ!
そういう馬鹿が、一人くらいはいるんだから!」
「……一人じゃねぇぞ!!」
垣根「そうだ、俺がいる!!」
「どちら様!?」
垣根「そっちのメガネの嬢ちゃん、大丈夫か?」
「え、あ、あの……ど、どうして……いやそれより、誰……?」
垣根「理由なんていらねぇだろ?ただ、運命だと思っただけさ……」
「お、おい誰だか知らねぇけど危ねぇぞアンタ!!て言うか待機してた警備員の人達は!?」
垣根「邪魔だから寝かせた!テメエも下がってろウニ頭!!」
「ブチ殺せ!エリス!!」
垣根「ハッ遅ぇんだよ!!」バサァ
「なぁ!?」
―他人のフラグを横取りしていた。
747: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:42:55.22 ID:sm2WAm3xo
―――――――――――――――
―――――――――
――――
(研究所からガキの足で歩いて行ける範囲のクレープ屋はここの公園の屋台で最後……)
(ここにいなけりゃお手上げだァ……頼むぜ、いてくれよ打ち止め……)
祈るような気持ちで一方通行は公園に入っていく。
そもそも冷静に考えてみれば広大な学園都市でちょこまか動く一人の幼女を探し出せ、など無理な注文だ。
例え見つからなかったとしても彼は十分良くやったといっていいだろう。
しかし彼の祈りは、願いは、最後の最後でようやく実を結ぶ事になる。
その公園の敷地内で、クレープ屋の屋台の前で、彼は確かに見た。
妹達そっくりの、ピコピコとアホ毛を揺らす愛らしい幼女の姿を。
そして、彼女を挟んで睨み合う一組の男女の姿を―。
748: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:43:43.90 ID:sm2WAm3xo
「海原さん!この子はわたくしが見つけたんですの!!ジャッジメントとして保護させていただきますの!!」
「いいえそれはさせません!この子は自分が見つけたんです!!一緒にクレープを食べると約束したんです!!」
「お姉様に付き纏うだけでは飽き足らず、ついにお姉様に似たこんな小さな子にまで手をだそうだなど……
いくら理事長のお孫さんといえど、ジャッジメントとして見過ごすわけにはいきませんの!!」
「て、手を出すですって!?誰がそんな事をするものですか!!
自分はただあなたのような危険人物に彼女を預けるわけには行かないと言っているんです!!」
「だ、誰が危険人物ですの!?わたくしは迷子になったこの子を探すように保護者様に頼まれて……」
「フン、怪しいものです!あなたが御坂さんの事を尋常で無い程慕っているのはよく知っています!
この子を御坂さんに見立てて普段満たされない欲求を満たす為にあんな事やこんな事をするつもりですね!?」
「それはあなたの方でしょう!?何ですの!その不自然に膨らんだズボンの前方部は!!」
「こ、これは……ば、馬鹿な!自分のトラウィスカルパンテクウトリの槍が臨戦態勢に……!?」
「なんて汚らわしいんですの!これだから殿方は……」
「な、何を!あなたの顔だって先程から弛緩しっぱなしで……おや?」
「ん?」
白井黒子と海原光貴、いがみ合っていた二人は最後に同じ光景を目にする事となる。
しかしその光景が何を意味するのか理解する前に、両名の意識は深く深く沈んでいった。
749: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:44:10.24 ID:sm2WAm3xo
一方通行「大丈夫だったかァ?」
打ち止め「ありがとう、これで二度目だね!ってミサカはミサカは笑顔でお礼を言ってみる!」
一方通行「あァ?前の覚えてンのか?オマエ寝かされてたンだろ?」
打ち止め「うん、だけど他の妹達が教えてくれたの!ミサカの為に引き篭もってた部屋から出てきてくれたんだよね!
ってミサカはミサカは勇気を振り絞ってミサカを助けに来てくれたあなたにもう一度頭を下げてみたり!」
一方通行「あァうン、引き篭もってたけどよォ……」
打ち止め「あなたはミサカのヒーローだねってミサカはミサカは照れながらあなたに擦り寄ってみたり」
一方通行「……ハッ、こンな人相悪ィヒーローいて堪るかよ」
打ち止め「かっこいいと思うけどなーってミサカはミサカは正直な気持ちをぶっちゃけてみる」
750: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:44:36.69 ID:sm2WAm3xo
一方通行「オラ、いいから研究所行くぞ、オマエが黙って出てきたモンで皆困ってンだよ」
打ち止め「あ、そういえばそうだったー!ってミサカはミサカは今更ながらこっそり出てきた事を思い出してみたり!」
一方通行「忘れてたのかよ」
打ち止め「ど、どうしようこんなに長時間出かけるつもりじゃなかったのに……怒られちゃう……
ってミサカはミサカはしょんぼり項垂れてみたり……」
一方通行「自業自得だなァ、これに懲りたら黙って出かけたりするンじゃねェぞ」
打ち止め「うぅぅー……」
かくして打ち止めの脱走騒動は無事終わりを告げ、
学園都市に侵入した魔術師も垣根によってこっそり鎮圧されていた。
この後、打ち止めを研究所に送り届け自宅に帰った一方通行は
ベッドの下に隠していたはずの秘蔵のブツがテーブルの上に並べられているのを見て悶絶する事になるのだが、
それはまた別のお話である。
751: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/04/29(金) 21:45:08.47 ID:sm2WAm3xo
―その頃の垣根さん
垣根「せっかく助けたメガネの嬢ちゃんが目の前で突然消滅した……」
垣根「あの子はひょっとしたら二次元の世界の住人だったのかもしれねぇな……」
―何かよくわからん納得の仕方をしていた。
811: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:47:44.24 ID:24bhEsHDo
御坂「うああああ!!!」
一方通行「どうだァ?一方的な暴力に為す術もなく命をすり減らしていく気分はァ?」
御坂「いや、やめて!やめてぇ!助けてえええ!!!」
一方通行「おォー、コイツァ命乞いってヤツだなァ。最後はなンだァ?
ママか?恋人か?今頃走馬灯で子供の頃からやり直してる最中かァ!?」
御坂「あ、ああぁ……いやあああああ!!!」
一方通行「楽しいなァ超電磁砲!!楽しいよなァァァ!!!!」
― みことは めのまえが まっくらになった ―
812: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:48:13.73 ID:24bhEsHDo
―とある喫茶店
御坂「わ、私のピカチュウが……」
一方通行「これで俺の10勝0敗だなァ」ククク
垣根「いやオマエらどんなテンションでポケモンやってんだよ」
一方通行「あ?普通だろ普通」
垣根「いやいやいや、オマエの声怖すぎて周りから人いなくなっちゃったから!
下手したら通報されてるぞこれ!」
御坂「くぅぅぅ、もう一回!もう一回よ!」
一方通行「何度やっても同じ事なンだよ格下がァ!」
垣根「つーかオマエ何で第三位と普通に遊んでんの?」
一方通行「最近気付いたンだよ」
垣根「ん?」
一方通行「妹達と良好な関係を築こうと思ったら超電磁砲の存在は無視出来ねェ
ここらでコイツの好感度も上げといたほうが後々特だってなァ」
813: 何か県名表示されてる恥ずかしい>< 2011/05/03(火) 09:48:52.58 ID:24bhEsHDo
御坂「あんたは妹達と良好な関係なんて築けないし、私が築かせないわよ」
一方通行「ちょいさァ!!」
御坂「私のライチュウがああああ!!!」
垣根「オマエ、そんだけフルボッコにしといて好感度上がると思ってんのか」
御坂「そうよそうよ!ちょっとくらい手加減しなさいよ!!」
一方通行「あァ?オマエ手加減なンかされて嬉しいのか?」
御坂「え?」
一方通行「オマエを一人前と認めてるからこそ俺も全力でやってンだぞ?」
御坂「う……」
垣根「相手が妹達だったら?」
一方通行「気付かれないように絶妙な接待プレイをして機嫌をとる」
御坂「があああああ!!!!」バチバチバチ
814: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:49:21.58 ID:24bhEsHDo
一方通行「テメ、ゲーム機本体にダイレクトアタックしようとすンじゃねェよ!」
垣根「勝てないと思ったら躊躇なく卑怯な真似すんのか、相変わらず残念な子だな」
御坂「くうぅ、あんたら寄って集ってかよわい中二の女の子をいじめて楽しいの!?」
一方通行「かよわい女の子は人に向かって致死レベルの電撃をぶっ放したりしねェ」
垣根「第三位のオマエがかよわいんなら学園都市の女全員かよわいわ」
御坂「こんな時ばっか正論を……」
<消える飛行機雲 僕たちは見送った~♪
垣根「ん、悪い電話だ………もしもし」
一方通行「その着メロは引くわァ……」
垣根「オマエが言うかよ……あ?何でもねぇよ、こっちの話だ」
815: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:49:49.07 ID:24bhEsHDo
一方通行「いや流石に俺はそういう曲卒業したから」
御坂「そういう曲って?」
一方通行「気にすンな」
御坂「?」
垣根「あぁ、わかった、もう切るぞ……クソ」
一方通行「どうしたァ?」
垣根「仕事が入りやがったんだよ、つーわけで今日は先に帰るわ」チッ
御坂「仕事なんてやってたの?」
一方通行「仕方ねェなァ、気をつけろよ」
垣根「ハッ、第二位の俺が何に気をつけるってんだ?……っと、そうだ第三位」
御坂「なに?」
垣根「今度からオマエも俺らに混ざるときは電話かメールでアポとってからにしろ
毎度毎度突然現れるのはいい加減やめてくれ」
816: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:50:32.18 ID:24bhEsHDo
御坂「えー、一々連絡するのめんどくさいじゃん」
垣根「つってもオマエだって俺らが 談してる時とかに鉢合わせると気まずいだろ?
前もって来るのを知らせてくれりゃ少しは気ぃ使ってやるよ」
一方通行「垣根が突然イケメンみたいな事言い出しやがった……」
垣根「進歩のねぇオマエと違って俺は日々限界を超えて成長してんだよ
おら第三位、俺の番号教えといてやるからオマエの番号もよこせ」
御坂「そうやって私と番号交換してどうするつもりなの!!」
垣根「何この自意識過剰極まりない反応、マジで殴りてぇ」
一方通行「だァから真剣に相手にしようとすンのが間違ってンだって」
御坂「な、何よ当然の反応でしょ!?あんたらみたいのに番号教えたらろくな事にならないわよ!!」
一方通行「いやァマジでオマエに興味一切無いンでェ……」
御坂「む、何よその言い方」
垣根「チッ、もういい、とにかく俺は仕事行って来るわ」
御坂「舌打ちするな!さっさと行きなさいよもう!!」
817: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:51:00.23 ID:24bhEsHDo
一方通行「さァて、垣根も行っちまったしどうすっかな」
御坂「あんたどうせ暇なんでしょ?ちょっと付き合ってもらえる?」
一方通行「え、俺心に決めた女性が(複数)いるンでェ……」
御坂「何勘違いしてんのよ!!ゲーム負けっ放しなのが悔しいからちょっと時間よこせつってんの!!」
一方通行「あァそういう事か、安心したわ」
御坂「ムカつく言い方ね……ふん、とにかく移動するわよ」
一方通行「あ?どっか行くのか?」
御坂「ポケモンじゃ勝てそうにないし、次は私のホームグラウンドに行くの!」
一方通行「ホームグラウンドだァ?」
御坂「何、もしかして負けるのが怖い?第一位なのにぃ?」
一方通行「ケッ、ンなわけねェだろ。いいぜ、テメエに有利な場所で完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」
御坂「言ってなさいよ、吠え面かかせてやるわ!」
818: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:51:36.35 ID:24bhEsHDo
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―とあるゲームセンター
御坂「さて着いたわよ」
一方通行「常盤台ってお嬢様学校だよなァ?そこの生徒がゲーセンをホームグラウンドにしてるってどうなンだ?」
御坂「うるさいわね、あんたお嬢様に夢持ちすぎよ」
一方通行「いーや、ゲーセンに入り浸るお嬢様なンざオマエくらいだ」
御坂「そんな事ないってば!あーほら、あれやるわよ、あれ」
一方通行「スト4(ストリートファイター4)かよ」
御坂「何か文句あんの?」
一方通行「ますますお嬢様らしくねェなと思っただけだ」
819: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:52:10.76 ID:24bhEsHDo
御坂「うるさい!……あんた、やった事はある?」
一方通行「ン、まァ垣根と何度かな」
御坂「じゃあ練習とかいらないわよね?さっさと対戦しましょ」チャリン
一方通行「へェへェ……ンー、リュウでいいか」チャリン
御坂(フ、かかったわね一方通行……格闘ゲームはやり込み度合いが物を言うのよ!
『何度かやったことがある』程度でこのゲーセンの連勝記録保持者の私に勝てるわけがない!
私の春麗にボッコボコにされて半泣きになるがいいわ!!)
一方通行「おいオマエはブランカ使えよ」
御坂「あんたこそリュウなんてキャラじゃないでしょうが!!」
― ROUND 1 FIGHT ―
820: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:53:11.11 ID:24bhEsHDo
― K.O ―
―RYU WINS―
―PERFECT―
御坂「」
一方通行「小足見てから昇竜余裕でしたァ」
御坂「何なのあんた!おかしいでしょ!?」
一方通行「何が?」
御坂「何でこっちの攻撃見てからその全てに的確に対応出来るのよ!?」
一方通行「こちとら生身で超音速の戦闘が出来るだけの反射神経と動体視力持ってンだぞ?
フレーム単位で見切って対応するなンざ朝飯前なンだよ」ケケケ
御坂「ぐうぅ……じゃあ次あれ!BLAZBLUE!!」
一方通行「格ゲーだとどれやっても同じだと思うンだが……」
御坂「うるさいうるさい!ほら来なさいよ!」チャリン
一方通行「うるせェのはオマエだガキが」チャリン
御坂(もう許さないから……強キャラでも何でも使ってボコボコにしてやる……)
一方通行「ハクメンさンマジかっけェ」
御坂(はん、ハクメンなんかで私のノエルに勝てるわけが……)
821: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:53:44.41 ID:24bhEsHDo
― DISTORTION FINISH ―
― HAKU-MEN WIN ―
一方通行「反射反射反射反射ァ!!」
御坂「あ、当身で完封された………ああああもう!次次!!」
一方通行「まだやンのかよ」
御坂(こうなったらあいつの筐体をこっそり電撃で……)パチパチ
一方通行「反射ァ!!」ペカーン
御坂「あああああ!!!」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
822: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:54:14.33 ID:24bhEsHDo
御坂「」
一方通行「そろそろ分かったかァ?どンなジャンルだろうとオマエは絶対に俺に勝てねェンだよ」
御坂「もう何なのよあんた……そんなんでゲームやってて楽しい……?」
一方通行「あンまり楽しかねェな、マトモに勝負になるのなンざ垣根くれェだ
だから滅多にゲーセンなンて来ねェンだよ」
御坂「むぅ……」
一方通行「でもなァ、今日は結構楽しめてるぜェ?」
御坂「え、それって……」
一方通行「主にオマエの無様な姿をなァ」ゲラゲラゲラ
御坂「あんたねぇ……」ピキピキ
一方通行「さァてどうする?終わりにするか、それとも無駄な挑戦を続けてみるかァ?」
823: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:54:52.23 ID:24bhEsHDo
御坂「ぐ……あ、そうだ」
一方通行「あ?」
御坂「あれやりましょう、あれ、あそこのクレーンゲーム」
一方通行「クレーンゲームゥ?どうやって勝負すンだよ」
御坂「500円でどっちが多くぬいぐるみを取れるか勝負!ほら、先攻は譲ってあげるから行きなさいよ」
一方通行「ハッ、俺が先攻で取り尽しちまっても構わねェンだなァ?」チャリン
御坂「やれるもんならやってみなさい」
一方通行「こンなモン、格ゲーやガンシューより遥かに簡単なンだよ!
ぬいぐるみの重心とアームの閉じ方を計算すりゃ……あァ?」ポロ
御坂「あれー、どうしたの?取れなかったみたいだけど?」
一方通行「ンな馬鹿な、あの角度で取れねェわけが……あァァ!?」ポロ
824: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:55:33.15 ID:24bhEsHDo
御坂(フフフ、今度こそかかったわね、このクレーンゲームはアームの力が弱すぎて絶対に景品を掴めないのよ!
通称、『100円入れてアームを動かすだけのゲーム』!私の知る限りもう年単位で景品の配置が変わっていないわ……
一方通行がぬいぐるみを取れば何か理由をつけて私がそれを没収、取れなければ最悪引き分け、
どっちに転んでも私に損は無い!)
一方通行「おいィィ!!ふざけてンのかこのクソアーム!!!」ポロ
御坂「ちょっと、ゲーム機のせいにするなんて情けないわよ?」
一方通行「いやこれ絶対に取れねェようになってンだろ!?」ポロ
御坂「はいはい、後一回ね。学園都市の第一位様が一個も取れないのかぁ」ククク
一方通行「ふざけンじゃねェぞォォォ!!!」ビキビキビキ
御坂「え、ちょっとあんた力入りすぎじゃない!?」
一方通行(集中しろ!計算しろ!ぬいぐるみの動きを!アームのベクトルを!操ってみせろ!!)
御坂「ちょ、あんた能力使ってるでしょ!?ダメよ!このクレーンゲームには能力の感知装置が……」
825: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:56:06.76 ID:24bhEsHDo
クレーンゲーム<ビービービービー!!!
一方通行「あァ?」
御坂「あああ!!警報鳴っちゃった!!!」
一方通行「あァ!?普通にやったら絶対取れず、能力使ったら警報かよ!!ナメてンのかこの店はァァァ!!!」
御坂「言ってる場合じゃないでしょ!早く逃げなきゃ!!」
一方通行「クソがァァァ!!覚えてろよクソクレーン!!!」ダッ
御坂「もおおお!!私このお店常連なのに来れなくなったらどうしてくれんのよおお!!!」
ダッ
―――――――――――――――
―――――――――
――――
826: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:56:45.33 ID:24bhEsHDo
一方通行「あァちくしょう、あのクレーン今度絶対ぶっ壊してやる……」
一方通行「つーか逃げてる間に超電磁砲とはぐれちまった、こっちから連絡取れねェしどうすっかな……」
一方通行「……まァいいか、結構付き合ってやったしあのガキも満足しただろ」
一方通行「研究所にでも顔出しに行くかァ」テクテク
―研究所
一方通行「よォ」
芳川「あら一方通行、私に会いに来てくれたのかしら?」
一方通行「……チッ」
芳川「……あのね、私も女の子なんだからそろそろ泣いてしまうわよ?」
一方通行「女の『子』(笑)」
芳川「……」イラッ
827: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:57:13.30 ID:24bhEsHDo
一方通行「あのなァ芳川、世の中には二種類の女がいるンだよ」
芳川「へぇ?」
一方通行「泣き顔が保護欲を掻き立てる女と、泣き顔すらムカつく女の二種類だ」
芳川「君は私が後者だと言いたいわけ?童 のくせに……」
一方通行「生まれたときは皆童 だろうが!!」
芳川「意味がわからない」
一方通行「そンな事だから行き送れンだよ」
芳川「まだ二十代よ!!」
一方通行「うるせェ、腐った子宮引きずり出されてェのか」
芳川「誰の何が腐ってるですって!?」
一方通行「年甲斐も無く声張り上げるのやめてくださァい、明日声が出なくなりますよォ?」
芳川「君は私をなんだと……」
一方通行「とにかく俺はオマエと話してる暇なンてねェから。じゃァな」テクテク
芳川「あ、ちょっと!………まったくあの子は……」ハァ
828: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:58:07.44 ID:24bhEsHDo
一方通行「さァてと……お」テクテク
布束「~♪」カタカタ
一方通行(仕事中の布束発見)ニタァ
一方通行(どうすっか、普通に声をかけるってのは芸がねェよなァ……つーか逃げられるだろうし)
一方通行(……背後からこっそり近寄る→そっと抱きしめて愛を囁く→もう、あっくんったら!)
一方通行(これだなァ!俺の時代が来るぜェ!!)
布束「……」カチカチ
一方通行(そォーっとそォーっと……)コソコソ
布束「……」カタカタ
一方通行(よォし行くぜェ……4、3、2、1……)
布束「……寿命中断(クリティカル)!!」ギョロ
一方通行「な、気付かれた!?気配は完全に消してたはずだぞ!!」
829: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:58:43.16 ID:24bhEsHDo
布束「because あなたのどす黒い気配は消そうと思って消せるものではないわ」
一方通行「えェー……」
布束「本当の事を言うと、パソコンのモニターに忍び寄るあなたの姿が映っていただけなのだけどね
それで、何の用?」
一方通行「用事かァ……オマエの顔を見たかったってだけじゃ不満かァ?(キリッ」
布束「不満ね、私はあなたの顔など見たくもなかったもの」
一方通行「流石にその言い草はひどくねェ?ちょっとへこむンですけどォ……」
布束「あなた、自分が私に何をしたのか忘れたの?」
一方通行「土下座しながら告白しただけじゃねェか」
布束「moreover ズボンを下ろしながら追いかけてきたわね」
一方通行「すいませンでした、テンション上がってたンです」
830: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) 2011/05/03(火) 09:59:37.34 ID:24bhEsHDo
布束「未遂に終わったからよかったものの……」ハァ
一方通行「ハイ、ホントすいませンでした、だから嫌いにならないでください……」
布束「……あなたには、まぁ色々と感謝しているわ。therefore 別に嫌いというわけではないけれど……」
一方通行「ほォ………」カチャカチャ
布束「ちょっと待って、嫌いではないと言ったけど別に好きとは……あああもう!無言でベルトを緩めないで!!!」
一方通行「嫌いじゃないって事はつまり良いって事だよなァ!?OKって事だよなァ!?」ガチャガチャジー
布束「ズボンを降ろさないでぇぇぇぇ!!!」
一方通行「布束ァァァァァ!!!!」
布束「く、寿命中断!!!」
その後、逃げた布束を一方通行はズボンを下げたままヒヨコ走りで追いかけたが、
そんな状態で追いつけるはずもなく、結局またすっ転んで取り逃がすことになる。
どこまでも学ばない童 である。
887: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:29:20.84 ID:WUeWdgzzo
「なァ垣根、知ってっか?」
「あぁ?」
「落し物を拾って持ち主に届けると拾ったモンの5%~20%をお礼として受け取る権利が発生すンだよ」
「それがどうした?」
「80歳の婆さん拾って届けりゃ運がよければ16歳の女を貰えるンじゃねェか?」
「持ち主が現れなかったら現物の80歳ババア受け取る事になんぞ。
しかも5%~20%だと下は4歳からじゃねぇか、流石に射程圏外だ」
「……ギャンブル過ぎるかァ」
それ以前の問題である。
今日も今日とて、喫茶店でコーヒーを飲みながらつっこみどころ満載の会話をしている馬鹿が二人。
何を隠そう、彼らこそ学園都市のトップ2、第一位、一方通行と第二位、垣根帝督である。
時期は9月の半ば、厳しい残暑はただでさえネジの外れている彼らの脳をさらに蕩けさせていた。
888: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:29:47.61 ID:WUeWdgzzo
「どっかに運命転がってねェかなァ」
「転がってる運命なんてありがたみがなさそうだけどな」
ハァ、と二人同時に溜息を吐く。運命の人を探し始めてもう随分経つが、イマイチ成果は上がらない。
一方通行の方はここ最近妹達の反応が少しずつ柔らかくなってきているものの、
御坂に監視されている為アクションを起こす事ができず
垣根はそもそも一方通行のように運命を感じる相手が近くにいない上、
立ち掛けたフラグが運悪く潰れてしまったりで、これまた進展がない。
こうして情報収集のために顔をつき合わせているのだが出てくるのは愚痴ばかりだ。
「なンかいい方法は……あ」
「何か思いついたか?」
「おォ、樹形図の設計者だ。あれで運命の相手探してもらおうと思ってたンだった」
「はぁ?」
すっかり忘れてたぜ、と一方通行は今更ながら、垣根に出会ったあの日以来、
実に数ヶ月ぶりに樹形図の設計者の使用申請を出そうとしていた事を思い出す。
『ラプラスの魔』にも等しいあのコンピュータならば、正しいデータさえ入力すれば
確実に運命の相手を探し出してくれるはずだ。
889: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:30:17.32 ID:WUeWdgzzo
しかし期待に目を輝かす一方通行とは対照的に、垣根の反応はあまり芳しくない。
何を言ってるんだ、と言いたげな怪訝な目で一方通行を眺めている。
「どォした垣根、なンか不満か?」
「不満っつーかなんつーか……」
「あァ?」
「樹形図の設計者ならとっくに壊れたぞ」
「はァ!?」
今より一月半程前、人工衛星『おりひめ一号』の内部に搭載され宇宙に浮いていた樹形図の設計者は
突如学園都市から放たれた正体不明の高熱源体の直撃を受け大破してしまったのだ。
その高熱源体を放ったのは彼らがかつて学園都市の闇から救った(と彼らは思っている)インデックスなのだが、
そのような事、彼ら二人は知る由も無い。
「暗部じゃ結構有名な話なんだが……知らなかったのか?」
「マジかァ……いや全然知らねェよ……」
890: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:30:53.03 ID:WUeWdgzzo
「ま、そういうわけで樹形図の設計者は使えねぇよ」
残念だったな、と諭すように付け加え、垣根はコーヒーを啜る。
しかし一方通行はその事実を聞かされてもどこか不満そうで、
どうやら樹形図の設計者を諦めきれていないようだ。
「壊れたンならさっさと直しゃいいだろ、何やってンだ学園都市の上層部は……」
「損傷の少なかった中枢部は回収されたらしいが、それから続報は聞いてねぇな」
「続報無し?再構築する気はねェのか?」
「俺が知るかよ。外部の連中が狙ってるらしいからタイミング伺ってんじゃねぇか?
ま、焦らなくてもそのうち再構築されるだろうよ」
「そのうち、なンて待ってられるかボケ」
「あ?」
「上層部の連中が再構築しねェっつーンなら俺らでやってやりゃァいい」
「……は?」
「樹形図の設計者の中枢部、ブン捕りに行くぞ垣根ェ!」
「はぁぁぁ!?」
891: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:31:58.86 ID:WUeWdgzzo
―――――――――――――――
―――――――――
――――
薄暗い路地裏の一角で、二人の少女が対峙していた。
一人は大きなキャリーケースに腰掛け、余裕の笑みを浮かべた赤い髪の少女。
もう一人は右肩と脇腹から鮮血を流し、苦痛に顔を歪めながらも相手を睨みつけているツインテールの少女。
どちらが優位に立っているかは誰の目からも明らかである。
しかしそれでもツインテールの少女―白井黒子は後退する素振りは見せない。
ジャッジメントとして、犯罪者に背中を見せるわけにはいかないのだ。
「ね、もう諦めなさい?あなたの『空間移動』じゃどう足掻いても私の『座標移動(ムーブポイント)』には敵わないわよ」
赤い髪の少女―結標淡希はキャリーケースに腰掛けたまま挑発的に笑う。
彼女の『座標移動』は空間移動系の能力の中でも最高クラスのものであり、
射程距離、一度に飛ばせる質量の限界、どちらをとっても白井の『空間移動』を大きく上回っている。
また、白井のそれが触れているモノにしか効果を発揮しないのに対し、
結標の能力は始点が固定されておらず、触れずに、離れた場所にあるモノも移動させる事が出来る。
はっきり言うと、レベル5の認定を受けてもおかしくないほど強力な能力であり、
正攻法で白井が勝てる道理は無いのだ。
892: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:32:29.75 ID:WUeWdgzzo
「ふざけないでくださいまし……ッ!例え勝ち目が薄かろうと、
わたくし達ジャッジメントは犯罪者に屈するような事があってはならないんですの!」
今回彼女が帯びている使命は、結標を含むある組織が強奪したキャリーケースを奪い返す事。
その中身が何なのか、一体どのような目的なのか、そんな事は白井にはわからない。
しかしこれほど高位の能力者が動いている事態だ、到底見過ごす訳には行かない。
だからこそ白井は立ち上がる。痛みも恐怖も押し殺し、ただ学園都市の平和を守りたい一心で。
「……仕方の無い人ね」
(来る!!)
一触即発。二人の睨み合いが終わろうとしたまさにその時―
「そこまでだオマエらァ!!」
「「!?」」
「それ以上俺の為に争うのは止めろォ!!!」
空気を読まない事に定評のある白い男が、彼女達の間に割って入った。
893: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:32:58.56 ID:WUeWdgzzo
「あなたという人は……何故こうシリアスな空気の時に乱入して来るんですの……」
突如目の前に現れた見覚えのある白い男の姿に、白井は溜息を吐きつつ、へなへなとその場に崩れ落ちる。
命掛けの戦いに身を投じようと覚悟した直後にこの有様である。緊張の糸が完全に切れてしまったのだろう。
「俺の為に云々」にはあえてつっこまない。
余計な事は言わない、というのは何度かの一方通行との邂逅の果てに白井が学んだ処世術であった。
「おっと、大丈夫かお嬢ちゃん」
「あ、あなたはこの前の……」
「よ、久しぶりだな」
がっくりと項垂れていた白井の肩に、これまたいつの間にか現れた垣根が背後から優しく手をかける。
やっべぇこのままじゃ垣根にフラグ立っちまうぞ誰か潰し方考えろよおい
894: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:33:31.71 ID:WUeWdgzzo
「どうしてここに……」
「運命だよ運命。……ん、オマエ怪我してるのか?」
「こ、このくらい何ともありませんの!」
「ダメダメ、女の肌に傷は禁物だぜ?ほら、病院行くぞ病院」
「え?あ、ちょ!」
強がる白井に優しく微笑みかけ、背中と脚に手を回し一気に抱え上げる。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
ちくしょう垣根が普通にいい男になってきてるじゃねえかおいこら誰か何とかしろ
「お、降ろしてくださいまし!」
「あぁ、病院着いたらな。 おい、ちょっとこの嬢ちゃん病院まで送ってくるから後任せてういいか?」
「チッ、仕方ねェな、さっさと行ってこい」
895: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:34:10.58 ID:WUeWdgzzo
「何を勝手に、わたくしは戦わなければ……ま、また空間移動が出来ませんの!?いったい何故!?」
「異物の混じった空間。ここはテメエの知る場所じゃねぇんだよ(キリッ」
「意味がわかりませんの!」
「んじゃ飛ぶからあんまり暴れるなよ?」
「と、飛ぶとは………翼が生えた!?ひぎゃああああ!!!」
未元物質を空間に混ぜ込むことによって白井の能力を封じると、垣根は翼を広げ超スピードで飛び立つ。
あまりにも加速的に飛び立った為、彼が元立っていた地面には小規模なクレーターができ、
その暴力的なまでのスピードに白井は大声で悲鳴を上げた。
もうちょっと丁寧に扱えよ、詰めが甘いんだよ……
「わっかンねェなァアイツの趣味。あンな貧相な体付きしたババア声のどこがいいンだか……
なァ、オマエもそう思うだろォ?」
「え?あ、そ、そうかもね」
ドップラー効果で徐々に低くなっていく白井の悲鳴を笑いながら、
一方通行は誰彼構わず手を出す垣根の趣味に首を傾げ、結標に同意を求める。
突然の事態に未だ混乱気味だった彼女は突如話を振られた事で更に狼狽し、
先ほどまでの余裕の態度は何処へやら、オロオロとしつつも一先ず一方通行の意見に同意することにした。
896: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:34:51.64 ID:WUeWdgzzo
「つーかオマエすげェ格好してンな、流行ってンのか?そォいうの」
「う、うるさいわね、いいでしょどんな格好してても!」
一方通行はここでようやく結標の姿をはっきりと確認し、その露出度の高い格好に思わず素朴な疑問をぶつけた。
確かに、彼女は下半身にはミニスカート、上半身は胸にサラシを巻き、その上からブレザーを羽織っているだけ、
という『え、見られるのが趣味なんですか?ありがとうございます』と言いたくなる様な格好をしている。
一方通行でなくとも「女がそんな格好してていいのか?」とつっこみたくなるというものだ。
「ン、まァどォでもいいけどな。俺が用があるのはオマエが座ってるそれだ」
「ッ!?」
一方通行が結標の座っているキャリーケースを指差すと、場に緊迫した空気が戻る。
結標は一瞬驚いた顔をしたがすぐにそれを隠し、キャリーケースを庇う様に立ち上がると、
一方通行を思い切り睨み付けた。
897: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:35:36.61 ID:WUeWdgzzo
「……あなた、これが何か知っているの?」
「樹形図の設計者の残骸、だろ?」
「……あぁなるほど、学園都市の上層部が事態に気付いて取り戻そうとしてるわけ?」
「ン?いやちょっと違うンだが……まァいいか、とにかくよこせ」
「ふざけないで!そう簡単に渡すと思う?あなたが何者かは……」
知らないけれど、そう続けようとして、結標はふとある事に思い至り、息を呑む。
目の前の男を、自分は本当に知らないのだろうか?
直接見るのは初めてだ。しかし白い髪に白い肌、赤い瞳を持つ超能力者の噂を、情報を、自分は知っているはずだ。
そう、目の前にいる白い男の事を、自分は知っている。この男は――
「一方……通行……」
「あァ?」
学園都市最強の超能力者、序列第一位、一方通行。それが今、目の前にいるのだ。
自分の持つ樹形図の設計者の残骸を狙って。つまり、自分と敵対する意思を持って。
898: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:36:31.62 ID:WUeWdgzzo
(う、嘘、どうして……無理よ、学園都市最強の能力者と戦うなんて……)
(何でコイツ俺の名前知ってンだ?……まさか、そォいう事なのか)
結標は顔を引き攣らせ、後ずさる。一方通行の能力の詳細は知らない。しかしその噂は嫌というほど聞いている。
曰く、最強の能力者、理論上出来ない事など無い、絶対能力者に最も近い存在……
(でも、だからって……)
退くわけにはいかない。ここで退けば、今までやって来た事が全て無駄になってしまう。
自分の目的の為にも、自分を信頼してくれている仲間達の為にも、ここで退いてはならないのだ。それに……
(そうよ、勝算が0というわけじゃないわ!)
絶対能力者に最も近い存在、そう噂されながらも一方通行は未だ絶対能力者に至っていない。
彼の為に絶対能力進化という実験まで計画されたと言うのに、だ。それどころか計画は始まってすらいないという。
はっきりとした理由まではわからない。だが、ある程度想像は出来る。
899: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:37:01.91 ID:WUeWdgzzo
(一方通行の能力に絶対能力者になれないような致命的な欠陥があった、そう考えるのが妥当。
つまり、そこを突くことが出来ればこの状況を打破できるかもしれない!)
大ハズレであった。
一方通行の能力には欠陥など存在しない。
絶対能力進化を行わなかった理由は彼が 的に欠陥品だったというだけの事である。
しかし結標はまさかそんな下らない理由で実験が凍結されているとは夢にも思わない。
だからこそ、彼女は一方通行の能力に欠陥が存在するという事に一縷の望みをかけ、彼と対峙する道を選んでしまった。
「し、知ってるわよ一方通行!」
「あン?」
「あなたは絶対能力進化を開始していない!絶対能力者になれていない!あなたに欠陥があるからなんでしょう!?」
恐怖に震える拳を握り締め、精一杯余裕の笑みを作り、強がった声を出す。
一方通行はその言葉に目を丸くし、声にならない声を上げ、動きを止めた。心なしか顔が紅い。
その姿に精神的動揺を見て取った結標は自分の考えの正しさを確信し、次の一手を思案しはじめる。
900: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:37:32.03 ID:WUeWdgzzo
(やっぱり、予想通り何か欠陥があるのね……それも、これだけ動揺するほど致命的な何かが!)
(名前だけじゃなく絶対能力進化と俺の欠陥(童 )まで知ってるだと……やっぱり、コイツは……)
「運命かァ!!」
「!?」
童 特有の身勝手な勘違いをし、感極まった一方通行は歓喜の声を上げる。
その際にうっかり能力を使ってしまったのか、同時に彼の立っていた場所を中心に道路が捲れ上がり、
周辺の建造物がガラガラと崩れ落ちて行った。何とも傍迷惑な童 である。
(な、何よ今の……)
突如テンションを爆上げし周囲を瓦礫の山に塗り替えた一方通行を、結標は唖然とした表情で見つめている。
何をやったのかはわからない、しかし今のを見るだけでも実力の差は歴然、本当に能力に欠陥などあるのだろうか?
彼女は早くも一方通行と対峙する道を選んだ事を後悔し始めていた。
「オマエ、名前は?」
「え?」
「名前だよ名前」
「む、結標、淡希……」
笑顔で詰め寄ってくる一方通行に気圧され、結標はつい自分の名前を零してしまい、
それを聞いた一方通行は「いい名前だ」などと言いながら腕を組みうんうんと頷いている。
結標の混乱は深まっていく一方であった。
901: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:38:03.02 ID:WUeWdgzzo
結標(いったい何なの……?)
一方通行「おい結標」
結標「な、なに?」
一方通行「残骸はオマエにやる」
結標「……へ?」
一方通行「俺の目的は達成出来たから、もう樹形図の設計者は必要ねェ」
結標「目的って……」
一方通行「運命の人に出会う事だ!」カッ
結標「は、はぁ?」
一方通行「樹形図の設計者で探すつもりだったンだがなァ、見つかったからもういいンだよ」
結標「樹形図の設計者をそんな下らない事に……て言うか、見つかったってまさか……」
一方通行「オマエだァ!!」ビシィ
結標「やっぱり!!何でよ!?」
902: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:39:13.02 ID:WUeWdgzzo
一方通行「初めて出会ったはずのオマエが、何故か俺の詳細な情報を知っていた……運命だろ!
それに、残骸を巡って争う立場だった二人が対話を通して徐々に惹かれあうってシチュエーションも
運命的だと思わねェか?」
結標「……意味がわからないし、あなた自分がどれだけ有名かわかってる?
あなたの個人情報なんて裏の世界の人間なら皆 ……ハッ」
一方通行「あ?」
結標(ここで『皆あのくらいの事知ってる』何て言うのはマズイわよね……
せっかく勘違いしてくれてるんだし、それに乗じて残骸は貰っちゃおう)ウン
一方通行「ン?」
結標「そうね、私とあなたはきっと運命の赤い糸で結ばれてたのね」
一方通行「だよなだよなァ!」パァッ
結標(すっごい喜んでる……)
一方通行(よしそれじゃ早速………イヤ待て落ち着け、毎度毎度焦って失敗してるじゃねェか、
ここは慎重に、軽いジャブから……)
903: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:39:46.60 ID:WUeWdgzzo
一方通行「なァ、」
結標「え?あ、何?」
一方通行「とりあえず下の名前で……淡希って呼んでみてもいいか?」
結標「えっ……」
結標(な、何よこいつ……)
結標(ちょっと可愛いじゃない……ッ)
一方通行「だ、ダメか?」
結標「えーっと……あ、そうだ、あなた歳はいくつ?」
一方通行「あ?あー……15か16、だったかァ?」
904: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:40:31.88 ID:WUeWdgzzo
結標(15歳かぁ……確かに年下だけど、欲を言えばもうちょっと下が……)ウーン
結標(いやいや違うわ!私はショタコンじゃない!年下の男の子が好きなだけで……でも、うん15歳……)チラッ
一方通行「?」
結標(……悪くは無いわね)ニヤッ
一方通行「……!?」ゾクッ
結標(中性的美形のアルビノ系年下男子。しかも学園都市第一位……これって何気に超優良物件じゃない?)
一方通行(な、なンだ?何か寒気が……)ゾクゾク
結標(将来は安泰だろうし、●●りに励んでアルビノショタを量産すれば……
将来はたくさんのアルビノ系男子に囲まれて幸せな生活を……
孫の代にはサッカーチームが作れるくらい大勢のアルビノショタが……)ゴクリ
一方通行(邪悪な気配が……)
905: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:41:07.10 ID:WUeWdgzzo
結標「ね、ねぇ」
一方通行「……あァ、なンだ?」
結標「下の名前で呼ぶよりも……」
一方通行「ン?」
結標「『お姉ちゃん』って呼んでくれない?」
一方通行「……は?」
結標「だからその、『お姉ちゃん』って……」
一方通行(……あれ、コイツ何か変な女じゃねェ?)
結標「あ、『先生』でもいいわよ!さ、呼んでみて!」
一方通行(あ、地雷だこれ、地雷踏ンだ、やべェ)
906: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:41:39.30 ID:WUeWdgzzo
結標「ね、呼んでみて?ほら、ほーら?」
一方通行「すいませン、運命とかマジ勘違いだったンで残骸貰って帰っていいですか?」
結標「ダメよ!この出会いは運命なの!!」
一方通行「えェー……」
結標「それにあなたの方から誘ってきたのよ?
私の量産型アルビノショタ計画の為にも、あなたと私は結ばれなければならないの!!」
一方通行「量産型……なに?」
結標「あ、最終目標はアルビノショタに囲まれる事だけど、もちろんあなたが嫌いなわけじゃないわ!
あなたも十分可愛いし……ね、だからほら、安心して『お姉ちゃん』って……」
一方通行(やべェ、電波だ、関わっちゃいけない人種だ……逃げるか、何とか残骸だけでも奪って……)
907: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:42:06.73 ID:WUeWdgzzo
―その頃の垣根さん
垣根「よーし着いたぞ、お嬢ちゃん」
白井「」ブクブク
垣根「ん?泡吹いて気絶してる……そんなに傷が酷かったのか?クソ!早く病院の中に……」
垣根「……『本日の受付時間は終了致しました』だと!?なんてこった!」
垣根「超音速で飛んで来たってのに……ちくしょう」
白井「」ピクピク
※白井さんは空気の壁に直撃なさいました
垣根「……開いていない病院、そして腕の中には意識不明の重態に陥っている少女」ハッ
垣根「これはもしや人口呼吸フラグか!!」
白井「」グッタリ
908: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:42:44.39 ID:WUeWdgzzo
垣根「……仕方ねぇよな、他に方法ねぇもんな、やっちまっていいよな?」
白井「」グター
垣根「いただきます」
「ストォォォォォップ!!!!」
垣根「あぁ?……何だ第三位じゃねぇか、何の用だコラ、つーかどっから湧いて出やがった」チッ
御坂「何の用だ、じゃないわよ!私の後輩に何してんのあんた!!」
垣根「あ?……カクカクシカジカで、病院に来たんだが閉まっててな、」
御坂「嘘、黒子怪我してるの!?」
垣根「そんなに深い傷じゃねぇはずなんだが、何故か意識不明になっちまったから応急手当しようとしてたんだよ」
御坂「そうだったの……う、疑ってごめん」
垣根「いいって事よ、じゃあ俺人口呼吸やるから」
御坂「いやいやいや待ちなさい!それは認めないわよ!!」
909: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:43:21.44 ID:WUeWdgzzo
垣根「何でだよ!?疚しい気持ちなんて一切ねぇぞ!!事態は一刻を争うんだ!!」
白井「」シーン
御坂「疚しい気持ちが無かろうが黒子をあんたの毒牙にかけるわけには行かないわ!
あんたに人口呼吸やらせるくらいなら私がやるわよ!!」
垣根「あ、マジ、オマエがやる?じゃあ頼むわ」
御坂「へ?」
垣根「ほら急げ、可愛い後輩がピンチだぞ」
御坂「え、あ、うん」
御坂(な、何かあっさり引き下がったわね……こいつ本当に人助けのつもりだったの?)
垣根(女子中学生同士の生レ プレイ、悪くねぇな!)
白井「」
御坂「うー……」
垣根「どうした?早くしろよ」
御坂「わ、わかってるわよ!……くっ」
垣根「……やっぱり俺が」
御坂「やるから!ちゃんとやるから下がってて!!」
910: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:43:50.33 ID:WUeWdgzzo
御坂(そうよ、これは人口呼吸……人助けの為の行為だから、き、キスとかじゃないから!
だから女の子同士でもおかしくなんて……で、でも……)
垣根(第三位も顔はいいんだからこうやって黙って照れたりしてりゃ可愛いのになぁ……
もう一生喋らなけりゃいいのに)
御坂「うぅぅぅ……」
垣根「オマエが躊躇してる間に可愛い後輩は一歩一歩天国の階段を……」
白井「」チーン
御坂「ぐ…………で、」
垣根「で?」
御坂「出来るかあああぁぁぁ!!!!!」バチバチバチ
白井「あばばばばばば!!!」ビリビリビリ
垣根「何やってんだオマエェェェェ!?」
911: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:44:20.32 ID:WUeWdgzzo
御坂「電気ショックよ電気ショック!!何も人口呼吸にこだわる必要ないじゃない!!」
垣根「致死量流れた!今絶対致死量の電流が流れただろ!!」
御坂「大丈夫よこの位、普段の黒子なら喜ぶから」
垣根「いやいや何言って……」
白井「ふぅ……生き返った気分ですの」テカテカ
御坂「ね?」
垣根「どういうことなの……」
―――――――――――――――
―――――――――
――――
912: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:45:41.76 ID:WUeWdgzzo
「……いねェ、よな?……ふゥ」
恐る恐ると言った様子で一方通行は物陰から顔を出す。
そのままキョロキョロと周囲を見渡し、厄介な追跡者の姿が見えないことを確認すると、安堵の声を漏らした。
「何なンだアイツは……運命かと思ったらとンだ地雷女じゃねェかクソ」
先程まで自分を追い掛け回していた少女の事を思いながら悪態を吐く。
相変わらず勝手に運命認定して好みから外れたら地雷認定するのだから身勝手極まりない。
とはいえ今回は少しは同情の余地があるだろう。相手が重度の変態じゃ流石にねぇ?
最初こそ好感触だった物の、突如「お姉ちゃんと呼んで欲しい」などと言い出すのだから堪ったものではない。
如何な童 といえど、流石にそんな相手と付き合うのはゴメンだったようだ。
(見てくれは悪くなかったンだがなァ……まァ、当初の目的は果たせたから良しとするかァ)
若干後ろ髪引かれる思いを感じながらも、それを振り切り手元のキャリーケースに目を落とす。
先程、件の少女―結標から強奪してきた樹形図の設計者の残骸だ。
今日感じた運命は気のせいだったが、これさえあれば本物の運命を探す事が出来るだろう。
後は第一位と第二位の人脈、コネを使ってこれを再構築するだけ、それで今度こそ運命の相手を……
期待に胸を膨らませ、一方通行は自分の置かれた状況も忘れ笑みを零していた。
913: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:46:23.52 ID:WUeWdgzzo
「見ぃつけたぁ」
「!?」
だから彼は気付かなかった、自分を追いかけている厄介な相手がすぐ近くまで迫っていた事に。
そして気付いた時はもう遅い、結標淡希は音もなく彼の背後に立っており、
更に今の今まで一方通行の手元にあったキャリーケースは、いつの間にか彼女の腕に抱えられていた。
「ダメじゃない逃げちゃ、そんなにお姉ちゃんを困らせたいの?」
クスクスと笑いながら、まるで幼子を相手にするかの様な口調で一方通行を問い詰める結標。
そんな彼女の様子に、一方通行は改めて「こいつは無いな」と思ったとか思わなかったとか。
とにかく、僅かな油断の内に残骸まで奪い返されてしまった。厄介な事になったものだ。
「テメエ、どうやって……」
「フフ、私の能力『座標移動』は飛距離800m以上、重量限界4520kg、学園都市最高の空間移動能力よ
いくら第一位といえど、その私から逃げ切るのは容易ではないわ」
「チィ……」
「さぁあっくん、この残骸が欲しければ私の事を『お姉ちゃん』と呼びなさい!
出来れば涙目の上目使いで頬を赤らめて!」
「誰が呼ぶかァ!!つーか誰があっくんだ!?」
914: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:46:50.85 ID:WUeWdgzzo
叫ぶと同時、一方通行は拳を握り締め結標に飛び掛る。
地雷とはいえ自分に好意を持ってくれている、という理由で暴力を振るうのを躊躇っていた彼だったが、
追い掛け回され残骸を奪われ更にショタプレイまで強要されては流石に我慢の限界というものだ。
しかし、一方通行の振るった拳が結標に接触する刹那、彼女は一瞬にしてその姿を消し、再び彼の背後に立っていた。
自分で自分を転移させたのだろう。空間移動系の能力に逃げに徹されると言うのは非常に厄介だ。
一方通行は思わずチッと舌打ちを漏らし、結標を睨みつけた。
「ふ……やろうと思えば出来るじゃない、私」
「あァ?」
一方通行は知らないが、結標はかつて自身を転移する過程で座標の計算誤り大怪我をした事がある。
それがトラウマとなり、今日に至るまで自身の転移を行う事に拒否感を抱いており、
また、それ故強大な能力を持ちながらレベル5認定をされていなかったのだが、今の彼女は違う。
「おらァ!!」
「甘いわよ!」
学園都市最強を翻弄するかのように、縦横無尽に空間を跳び回る。
もはやトラウマを抱えていた事など過去の話し、彼女は一つの目的を達成する為、
トラウマなど忘れ今のこの状況に集中する。この極限の中を楽しむ。
915: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:47:47.51 ID:WUeWdgzzo
「ほらほらお姉ちゃんはここよ、捕まえてみなさーい」
「がァァうぜェェェ!!!」
結標は己の能力をずっと忌み嫌っていた。
『座標移動』、一人の少女が持つには余りにも大きな力、望むままに人を傷つける事が出来る能力。
それは言ってみれば安全装置の無い銃以上に危険な武器を常に持たされているのと同じ事だ。
「何故自分にこんな力があるのか」「何故自分でなければならないのか」
強大すぎるその能力に彼女は怯え、ずっと思い悩んできた。
樹形図の設計者を再構築しようとしたのも、突き詰めればそこに行き着く。
彼女は知りたかった、納得したかった。樹形図の設計者を外部組織に引き渡してでも、
自分がこの能力を持たされた事の答えが欲しかった。
しかしそれも先程までの事。
彼女は既に理解した、納得した、答えを得た。
自分の能力は、今この瞬間の為にあったのだと。
もはや、迷いは無い。
「私の能力はこの為にある!」
――新たなレベル5誕生の瞬間であった。
916: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:48:19.46 ID:WUeWdgzzo
(クソが、埒が明かねェ……)
一方通行のイラ立ちは今や最高潮に達していた。
いかに結標の転移が素早く正確であろうと、彼が本気でかかれば対処の方法などいくらでもあるだろう。
しかし、彼は跳び回る結標を愚直なまでに一直線に追いかけるだけだ。
いったい何故か?答えは単純、彼女が樹形図の設計者の残骸を抱えているからである。
残骸がこれ以上破壊され、樹形図の設計者の再構築が不可能になってしまうのは彼の望む所のものではない。
結標をぶん殴るだけなら簡単だが、高速で跳び回る彼女から残骸を無傷で取り戻すとなると、
これはかなり難易度が高くなる。というか結標が残骸を盾にしながら逃げている為ぶっちゃけ無理ゲーである。
「……仕方ねェか」
溜息混じりにそう呟くと、一方通行は結標を追う足を止める。
元より我慢弱い彼が遂に根負けしたのだ。
917: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:48:51.73 ID:WUeWdgzzo
「おい、オマエの望み通り呼んでやるからこっち来やがれ」
「ようやくその気になってくれた?男の子は素直が一番よ」
「チッ、呼んだら残骸こっちに寄越してくれンだな?」
「勿論!お姉ちゃんを信じなさい!」
「………オネエチャン」
「え、何聞こえない」
「……お姉ちゃん」
「聞こえなーい」
「お姉ちゃん!」
「も、もう一回……」
「お姉ちゃァァァァん!!!」
「ごめん、もう少しトーン落としてくれる?あとその言い方だと可愛くないから……」
「………」
918: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:49:17.64 ID:WUeWdgzzo
「……あれ、どうしたのあっくん?顔怖いよ」
「………」
その時、一方通行の中の何かが、ブツンと音を立てて切れた。
「ぐがァァァァァァ!!!!!」
「!?」
獣のような咆哮を上げ、一方通行は思い切り右足を踏み込む。
それだけで地面に亀裂が走り、周囲の建造物が崩れ落ちる。
先に喜びの余り見せた光景と似ているが、決定的に違う点が一つ、
崩れた建造物の破片が全て、明確な攻撃性を以って結標に降り注いで行った。
(やりすぎた!?子供っぽい癇癪起こしちゃってかわいい、何て言ってる場合じゃなさそうね……!?)
咄嗟に自身を転移し瓦礫の届かない空中に逃れた結標だったが、すぐにその行動を後悔する。
瓦礫から逃れる為に空中へ跳ぶ事など一方通行には計算済みだったようで、
彼女が転移した目と鼻の先に、風を纏い、狂ったような笑みを浮かべている彼の姿があった。
919: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:49:59.57 ID:WUeWdgzzo
「く、私を攻撃すれば残骸も……」
「そンなモンに頼らなくてもなァァ!!!」
「うあぁ!?」
咄嗟に残骸を盾にする結標だったが、一方通行は笑みを浮かべたまま、躊躇無く拳でそれを打ち抜く。
もはや、今の彼は結標をぶっ飛ばすという事以外何も考えていないのだろう。
「運命くらい、自分の手で掴み取ってやるよォォォ!!!」
残骸を粉々に砕いた一方通行が、更に拳を振りかぶる。
最後の盾すら剥ぎ取られた結標が取れる行動は、もう何も残っていなかった。
「悪ィがこっから先は一方通行だァァ!!!」
「いやちょっと意味がわからnあぐおあぁ!!!!」
決め台詞の無駄遣いをしながら放たれたその一撃は的確に結標の顔面を捉え、
彼女もまた、かつての白井のように星になった。男女平等パンチどころか、今のところ女性限定パンチである。
こうして、残骸争奪戦は終わりを告げた。
920: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:50:26.96 ID:WUeWdgzzo
―――――――――――――――
―――――――――
――――
―後日、とある喫茶店
「はァァ……」
「自分で残骸叩き壊したってオマエ馬鹿じゃねぇの?てか馬鹿じゃねぇの?」
「うるせェ、二回言うな!耐えられなかったンだよクソ……それにな」
「あ?」
「自分の手で掴むからこそ『運命』だろォが、機械なンかに頼ってちゃいけねェンだよ」
「……いや、ちょっとかっこいい事言っても誤魔化されねぇから、罰として今日はオマエの奢りな」
「ちくしょォ……つーかオマエ、あのパンダとはどうなったンだよ?」
「あー……何かアイツも第三位の電撃浴びて喜ぶような変態だったからちょっと冷めちまってなぁ」
「……マトモな女っていねェモンだなァ」
「っと、もうこんな時間か……そろそろ仕事だから引き上げるわ」
「おォ、俺も帰るわ」
921: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/06(金) 17:51:06.85 ID:WUeWdgzzo
― 一方通行宅
「ふゥ、ただいまァ……つっても一人暮らしだし誰もいねェンだけど……
いつか迎えてくれるような相手と出会えンのかねェ」
「お帰りなさーい!!」
「!?」
「お帰りなさいあっくん、御飯にする?お風呂にする?それとも……お姉ちゃん?」
「出てけオラァァァァァ!!!!」
一方通行の童 脱出計画、ただ今の成果
・恋人 なし
・仲間 一人
・ストーカー 二人
972: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/07(土) 19:11:48.63 ID:7dWICm9Ro
―番外編
フィアンマ「おいヴェント」
ヴェント「あぁ?何よ珍しいわね、そっちから話しかけてくるなんて」
フィアンマ「ふん、少しばかり貴様に聞いてもらいたい事あってな」
ヴェント「聞いてもらいたい事?益々珍しいわね……ま、暇だからいいけどさ」
フィアンマ「では早速だが……いいかヴェント」
ヴェント「うん」
フィアンマ「俺様は童 だ」
ヴェント「うん……あ?今何つった?」
フィアンマ「俺様は童t」
ヴェント「ああああ!!言い直すなボケが!!!」
973: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/07(土) 19:12:15.37 ID:7dWICm9Ro
フィアンマ「何だ?貴様が聞き返したのだろうが」
ヴェント「つーか突然何言ってんだテメエ!?」
フィアンマ「おかしいとは思わんか?顔良し、能力良し、頭良し、野望もある、そんな俺様が未だに童 なのだぞ」
ヴェント「自己評価高過ぎだクソが!!……ってか、一応聖職者なんだから当たり前だろ」
フィアンマ「神の右席の筆頭であるこの俺様が!未だに童 !!こんな事が許されていいのか!?」
ヴェント「だから聖職者……あと大声出すな!!」
フィアンマ「いいや許されない!!俺様の童 が外部に知れてしまえば
ローマ正教はたちまち求心力を失い瓦解してしまうだろう!!」
ヴェント「しねぇよ!!そもそも神の右席はそんなにオープンな組織じゃねぇだろ!!」
フィアンマ「そこでだ、ヴェント」
ヴェント「話を聞け」
フィアンマ「●●せろ」
ヴェント「死ねばいいのに」
974: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/07(土) 19:12:43.75 ID:7dWICm9Ro
フィアンマ「俺様が頼んでいるのだぞ?……●●せろ」
ヴェント「ぶっ殺すぞオカッパ野郎」
フィアンマ「ほんの●●●だけで構わん……●●せろ」
ヴェント「いい加減にしろやこの赤パジャマがああぁぁぁ!!!!」
フィアンマ「この俺様がここまで譲歩しているというのに貴様という奴は……」
ヴェント「何処が譲歩してんのよ!?」
フィアンマ「先っぽだけで構わんと言っているのだぞ?これ以上は譲れんな」
ヴェント「うるせえ先っぽとか言うな!!死ねこのタレ目!!」
フィアンマ「……さっきから貴様の暴言に地味に傷ついてるんだが」
ヴェント「だったら二度と下らねぇ事言うんじゃねぇ!忘れてやるからさっさと失せろ!!」
975: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/07(土) 19:13:13.88 ID:7dWICm9Ro
フィアンマ「ふむ、仕方が無いか……」
ヴェント「チッ、当分面見せんなよ」
フィアンマ「ならば見せてやろう、俺様の聖なる右曲がりを」
ヴェント「意味がわかんねぇんだよおおおお!!!!」
フィアンマ「この、神の生み出した最強の一品を目にすれば貴様の考えも変わるはずだ」モゾモゾ
ヴェント「絶ッッ対変わらねぇからズボンから手ぇ離せえええええ!!!!」
フィアンマ「いいかヴェント、バナナみたいな格好したお前はバナナのように引ん剥かれて俺様に喰われるべきなのだ」
ヴェント「あぁそういう事、喧嘩ね?喧嘩売ってたのね?いいわ、買ってやろうじゃないクソ野郎が」
フィアンマ「ほう、要は『私が欲しければ力ずくでやってみろ』と言う事だな?
ならば遠慮なくやらせて貰おう。さぁ刮目するがいい、これが俺様の……」ジジジ
ヴェント「死ねオラアアアアア!!!!」ブゥン!
フィアンマ「おっふ!!!」キーン!
976: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/07(土) 19:13:44.27 ID:7dWICm9Ro
ヴェント「ハァ、ハァ……」
フィアンマ「き、貴様……ハンマーで俺様の聖なる右曲がりを……」ピョコピョコ
ヴェント「股間押さえながらぴょんぴょん跳ねてんじゃねぇよ気持ち悪ぃ!!!」
フィアンマ「く、ふ……はぁ……俺様で無ければ即死だったぞ今のは……」
ヴェント「死ねばよかったのに」
フィアンマ「危うく男としての死を迎えるところだ。貴様は俺様を女にする気か?」
ヴェント「もう一発ブチ込まれてぇかコラ」
フィアンマ「……なるほど、貴様はレ プレイが好みだと言うのだな?だから俺様を女にしようと……」
ヴェント「頭湧いんのかテメエェェェェ!!!!」
フィアンマ「ローマ正教の人間でありながら同性愛に走るなど……恥を知れ背信者が!!」
ヴェント「オマエの存在が背信だろうがぁぁぁぁ!!!!!」
977: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/07(土) 19:14:15.36 ID:7dWICm9Ro
フィアンマ「我らが主よ、俺様は今より哀れな子羊に本物の愛を叩き込む。見守っているがいい」
ヴェント「殺す!もう殺す!!本気でテメエの小汚ぇブツを叩き潰してやらぁ!!!」
フィアンマ「やってみるがいい。不意を付かれた先程とは違い、今の俺様は既に臨戦態勢d」
ヴェント「死ねやぁぁぁぁぁ!!!!」ブゥン!
フィアンマ「ふん!!!」ガキーン
ヴェント「なっ!!私のハンマーが砕かれた!?」
フィアンマ「ふぅ……中々に刺激的だったぞ、貴様の一撃は。
お陰で溜め込んでいた聖なる右の力が放出されてしまった」モゾモゾ
ヴェント(砕けたハンマーの破片に何かついてる……)
フィアンマ「良いモノだな、この開放感……今の俺様なら神上に至れそうな気すらする……」フッ
ヴェント(ホント死なねぇかなコイツ)
978: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/07(土) 19:14:45.91 ID:7dWICm9Ro
フィアンマ「ちょっとズボン履き替えて来る。ベタベタどころかタプンタプンだ」
ヴェント「戻ってくんな死ね、あと意味のわかんねぇ擬音使うな死ね」
フィアンマ「……しかしあれだな」
ヴェント「あぁ?」
フィアンマ「俺様はまだ顔立ちが良いし比較的若いから童 でも救いがあるが……」
ヴェント「何が言いてぇんだ?っつーか色々と救いようがねぇだろ」
フィアンマ「アックアやテッラを思うと不憫でならん。奴ら、あの容姿、あの年齢で童 なのだろう?」
ヴェント「知るかぁぁぁぁ!!!!」
979: >>1 2011/05/07(土) 19:15:39.81 ID:7dWICm9Ro
番外編終了
母さん、海の剥こうにも馬鹿がいます。
母さん、海の剥こうにも馬鹿がいます。
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