テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「人の恨みとは恐ろしいものです」

タモリ「知らず知らずのうちに積み重なり」

タモリ「気づいた頃には時既に遅しです」

タモリ「果たして彼女にとってその恨みには」

タモリ「どのような意味があるのでしょうか?」

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン

引用元: 八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語はまちがっている」いろは「特別編ですよ、先輩!」 

 

7: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/09(火) 22:33:47.09 ID:gYsjAAxMo
冬休みが終わり、またこれまで通りの授業の日々が再開され、それに慣れ始めた新学期七日目の昼休み。俺は自販を求めて校内を歩き回っていた。

八幡「だりぃ……」

何で冬休みって夏と違ってあんなに短いの? 冬も二ヶ月くらい休ませろ。無論夏もな。

八幡「マッ缶マッ缶~♪」

午前の授業を耐え切った達成感からか、自然と鼻歌が出てしまう。周りには誰もいないし、問題ないだろ。

八幡「マッ……なん……だと……!?」

マッ缶が……ない……!

10: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/09(火) 23:18:00.21 ID:L4KnXSs8o
学校では初めて見たマッ缶の下の売り切れの文字。

八幡「そん……な……」ガクッ

マッ缶がないとか、これからの午後俺どうやって乗り切ればいいんだよ……。

八幡「いや、まぁなんとかなるんだけどな」

ピッ

ガタンッ

選ばれたのは、スポルトップでした。

12: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/09(火) 23:21:31.58 ID:L4KnXSs8o
八幡「……っ」ゴクッゴクッ

八幡「……ぷはぁ」ゴクリ

八幡「たまには悪くないな。この反骨精神がたまらなく好きだ」

八幡「あとはベストプレイスで飲むとしよう」



――て。



八幡「……ん? 何か聞こえたような……」



――誰か、助けて。

14: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/09(火) 23:38:41.57 ID:L4KnXSs8o
八幡「…………」テクテク

八幡「こっちの方から音がしたよな……?」

??「あっ! 先輩!!」

八幡「……? 今聞き覚えのある声がしたような……」

??「だから! そっちじゃなくて、こっちですよ!」

声は聞こえるが、そこには誰もいない。

八幡「……なるほど、誰もいないという事は幻聴だな。最近戸塚の事を考えすぎてて眠れない日が多いし」

何それ、気持ち悪い。

??「うわー、正直それはないです」

16: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/09(火) 23:48:37.56 ID:L4KnXSs8o
幻聴にしてもあれだな、随分と嫌なやつだ。まぁ俺の脳が勝手に作り出した声なら、これくらい普通か。むしろ本当にそうならもっと酷いまである。

八幡「しかし一色の声の幻聴とは……俺あいつの事好きなの?」

??「えっそれ告白のつもりですか、ごめんなさい、それはないです」

八幡「だよな、ないよな。よくわかってる。流石俺の心の声だ」

あいつの事を好きになるわけがない。

八幡「俺が全然可愛くないし可愛げもない小町な一色いろはを好きになるわけがない」

ラノベのタイトルにありそうだな、ないか、ないな。

18: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/09(火) 23:59:03.73 ID:L4KnXSs8o
??「先輩ー、そんなのどうでもいいから助けてくださいよー」

八幡「そんなの? 俺は俺のくせに小町の事をどうでもいいと言うのか?」

??「うわ……もうめんどくさいです……」

自分の心の声に呆れられた。じゃあ今思考して自分を肯定し続けている俺の精神は一体何なの? やだ、哲学的。我思う、故に我あり。材木座あたりに今度言わせてみよう。いや、ウザいな。やめるか。

さて、茶番はここまでにして――。

八幡「……で、どこに隠れているんだ、一色」

20: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/10(水) 00:04:23.27 ID:BRj6+i5mo
いろは「あっ、さっきのは冗談だったんですね」

八幡「決まってんだろ、もう一人の自分なんてそんな中二設定抱えて生きてねーし」

いろは「まぁ、よくわからないのは放っておいて、助けてください」

八幡「なら、俺の前に現れろ。隠れてるなんて男らしくない」

あっこいつ女だった。

いろは「……正直ボケとかツッコミとか、そんなのやってられる状況じゃないんですよね」

八幡「……?」

いろは「私ですね、今、先輩の足元にいます」

八幡「はっ?」

22: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/10(水) 00:07:30.59 ID:BRj6+i5mo
言われて足元を見る。そこには一つ、ペンダントが落ちていた。

いろは「それです、それが、私なんです」

一色の声は本気だ。ふざけているようではない。

そして何よりも驚くべき事は――



――その一色の声が、ペンダントから聞こえてきた、という事だ。




24: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/10(水) 00:11:12.79 ID:BRj6+i5mo
八幡「…………」スッ

いろは「やっと誰かに拾ってもらえました……。このままここで置きっ放しにされたらどうしようかと……」

八幡「…………」カチャ

ペンダントはボタンを押すと、開く仕掛けになっている。ぱっと見は何の変哲もない、ただのペンダントだ。

開くとその中は写真が一枚入るようになっていて、そこに入っていた写真は、一色いろはのだった。

八幡「……お前の熱狂的なファンのか、これは?」

いろは「違いますよっ!!」

八幡「!?」ポロッ

26: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/10(水) 00:14:43.90 ID:BRj6+i5mo
今、何が起こったか説明するとだ。

止まっていた写真の中の一色が、動いた。

ガッ!

いろは「いたっ!?」

ペンダントが地面に落ちると同時に一色の声が聞こえる。

八幡「……すげぇな、今の科学技術は。あんな小さいもので映像を映し出せんのか……」

いろは「映像じゃなくて、本人ですから! あと落とさないでください! 乱暴に扱われると、痛いんですからね!?」

八幡「しかも自動応答までできるのか。しかもこのリアル感。Siriなんて目じゃないな」

いろは「だから! ロボットとかじゃなくて、私、本人なんです!!」



いろは「何だかわからないですけど、私、ペンダントにされちゃったみたいなんですっ!!!」

37: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 21:43:02.75 ID:dPZc2bmRo
八幡「……はっ」

いろは「?」

八幡「ふざけるのも大概にしろよ。そんなので俺を騙せると思ったか?」

いろは「いや、だから本当に――」

八幡「どっかからマイクかなんかで喋ってんだろ? その声をこのペンダントから出す。少し機械に強ければこのくらい簡単にやってのける」

映像はちょっと無理な気がするが。

いろは「少しは信じてくださいよ!」

39: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 21:47:42.75 ID:dPZc2bmRo
ソレカラドシタ



八幡「……しかしやっぱり信じられん」

いろは「それは私もですよ……」

八幡「そろそろドッキリでしたーって出てこないの? リア充のぼっちに対する仕打ちの一つじゃないの?」

本当、あいつら何なんだよ。何で俺がチラッと見た時に大爆笑してんの。俺の顔はそんなに面白いか?

いろは「……どうしよう」

無視ですか、そうですか。

八幡「葉山あたりに相談してみたらどうだ?」

いろは「それだけは嫌です」

41: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 21:51:45.17 ID:dPZc2bmRo
八幡「何でだ? あいつなら絶対に助けてくれるだろ。そのための力や人脈も申し分ないし」

いろは「嫌ですよ。好きな人にこんなの、知られたくないですし……」

八幡「あーなるほどな」

まあ確かに今の一色の状況はあまり格好の良いものではない。そんなのを好きな人に見られたくないと思うのは人として当然の感情だろう。

八幡「……で、俺は別にいいと」

いろは「先輩は、どうでもいいので」

八幡「」

ショ……ショックなんか……受けてない……! 絶対にだ……!

44: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 22:16:07.42 ID:Y+yTcKsJo
いろは「しかし参りましたねー、これ」

八幡「おう……そうだな……」ショボーン

いろは「先輩元気ないですねー。そんなにショックだったんですか?」

八幡「何を言ってる。俺はいつもこんな感じだろ」

いろは「そうですか。まぁどうでもいいですけど」

八幡「」

いつも雪ノ下からの罵倒でこういうのには慣れていると思いきや、こういう無関心という精神攻撃もなかなか心にくる。一つ勉強になった。

46: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 23:14:40.32 ID:QoZOXQlko
八幡「原因に心当たりとかないのか?」

いろは「あー、そう言えば……」

八幡「どんなのだ?」

いろは「私の事を嫌いなグループの子に変な事を言われました」

一色を嫌いなやつだけで一つグループが出来るのかよ……。お前はどんだけ嫌われてんの?

八幡「変な事?」

いろは「はい……。誓いとか契約とか言ってましたね」

瞬間、脳裏に一人の男の姿がチラついた。コートを着た大男の姿だ。何だっけ、あいつの名前。

48: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 23:21:57.82 ID:QoZOXQlko
以下、回想

いろは「話って何?」

女子『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ』

いろは「!?」

女子『閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する』

女子『―――――Anfang』

女子『――――――告げる』

女子『――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』

女子『誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者』

女子『されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――』

女子『汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』

以上、回想、終ワリ

50: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 23:27:38.37 ID:QoZOXQlko
八幡「何を召喚するつもりだったんだよ、そいつは」

英霊でも召喚するつもりだっの? てか何でわざわざ一色の目の前でやったのか。しかもよりによってバーサーカーだし。行動が意味不明すぎて、もうわけがわからないよ。

いろは「召喚……?」

八幡「いや、こっちの話だ」

それともあれかな、令呪で自害させるつもりだったのかな。自害せよ、いろはす。何も持ってないけど、どうやって自害するんだろ。やっぱいろはすでか? 手で握り潰せてしまう程に耐久度の低いいろはすのペットボトルでか? それ聖杯手に入れるよりむずいんじゃね?

いろは「あの……先輩……?」

いや、逆に考えるんだ。いろはすのペットボトルで自害する方法はある。小さく握り潰して口から飲み込んでしまえばいけるんじゃね? そうか、いろはすのペットボトルは凶器だったのか。

いろは「先輩!」

八幡「うおっ!?」

52: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 23:36:05.83 ID:QoZOXQlko
いろは「何ボーッとしてるんですか。気持ち悪いです」

八幡「いろはすってすごいよな」

いろは「はい?」

最後まで水たっぷりだし、その気になれば自害にも使える。万能ツールなんじゃねぇか、これ?

いろは「ちょっと何言ってるのか、わからないですよ?」

八幡「いろはすの偉大さに気づいたんだ。別にお前は関係ないからな」

いろは「意味わからないですし、ちょっとイラっとくるんですけど」

さっきのお返しだ。さっきの無関心のせいでトラウマが再発したしな。

54: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 23:41:19.00 ID:QoZOXQlko
八幡「他には?」

いろは「うーん、特にないですね……。あれしか考えられないですし」

八幡「何で英霊召喚の呪文で、一色がペンダントになるんだか……」

いろは「本人に聞いてみるのはどうですか?」

八幡「そうだな、もしも本当にそれが原因なら、聞いてみればわかるかもしれない」

いろは「じゃあ先輩、お願いします」

八幡「えっ、俺が聞くの?」

いろは「他に誰がいるんですか?」

56: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/12(金) 23:59:24.84 ID:QoZOXQlko
なん……だと……?

俺が後輩の教室に行く……?

八幡「無理だな、他の奴をあたってくれ。戸部とか」

いろは「えー、戸部先輩は当てにならなそうですし……」

可哀想。マジ可哀想、戸部。

いろは「先輩だけが頼りなんです! お願いします!!」

ペンダントの中で両手を合わせて一色は頼む。しかし正直言ってその姿は――。

八幡「……あざとい」

いろは「それは酷いですよ!?」

58: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 00:07:10.85 ID:nnHrxQkTo
いろは「あー、今ので傷つきました。もう行ってくれないと、許してあげません」

八幡「何でお前の許しなんか得なきゃならんのだ」

最悪葉山に投げれば万事解決だしな。本当、便利すぎる。一色の気持ちなど知らん。

八幡「めんどいし、葉山に話して俺は帰るぞ」

いろは「だから~葉山先輩に知られちゃうのは嫌なんですってば~」

八幡「それに俺じゃ何もできねーし。助けを求めるなら葉山か戸部、どちらか一択だ」

いろは「むー……」

ペンダントの中の一色はプクーと頬をふくらめて、俺を睨む。だからあざといんだよ、お前は。

60: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 00:12:40.69 ID:nnHrxQkTo
いろは「確かにそう言うなら止められませんね。何をするかなんて先輩の自由で、私は今何もできないですし」

八幡「だろ? じゃあ戻らせて――」

いろは「但し、このまま葉山先輩に話したら、私が元に戻ったあと、どうなっても知らないですからね?」ギラッ

八幡「はっ?」

いろは「一応先輩のせいとは言え、私、生徒会長なんですよ? その気になれば、何でもできるんですよ……?」

八幡「なっ……!」

62: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 00:19:52.86 ID:nnHrxQkTo
いろは「そうですね……例えば、全校集会の時に先輩についてある事ない事言っちゃったりとか、校内放送を使って――」

八幡「職権乱用じゃねぇか。公私混同もいいとこだぞ」

いろは「いえ、この場合は有効利用ってやつです♪」

いい笑顔で一色は断言する。言っている内容は最悪だが。

八幡「うぜぇ……殴りてぇ……」

いろは「私は使えるものは何でも使いますから♪」

八幡「俺はお前の所持品じゃない」

いろは「でも、こう言ったら、先輩は無視できないですよね?」

八幡「くっ……」

65: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 00:27:12.86 ID:nnHrxQkTo
ぼっちは目立つ事を望まないし、もっと言うなら、周りからの目の敵になるのは、最も避けなければならない事態だ。

俺には全校生徒を相手にして戦争を起こせるような力も、人脈も、コミュ力もない。かと言って学校中の人間が敵になってもどうにかやっていけるとは思えない。

つまり、今、一色いろはは、この俺を社会的に殺す事ができるという事だ。

まさかこいつを生徒会長にしたせいで、こんな状況になるとは。やはり行動とは、もっと考えてから実行すべきである。今後の教訓としよう。

68: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 00:34:35.72 ID:nnHrxQkTo
八幡「……わかったよ」

いろは「えっ、本当ですか!?」

八幡「この状況で断れるわけねーだろ。ぼっちの最大の弱点を突きやがって」

いろは「えへへー」

八幡「褒めてない」

いろは「まぁ、先輩にどう思われようと、関係ないので。さぁ、じゃあ私の教室に行きましょうか?」

八幡「無理だな」

いろは「さっきと言っている事が違いますよ!?」

70: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 00:38:28.48 ID:nnHrxQkTo
キーンコーンカーンコーン

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。結局昼食は食べられず仕舞いだ。

八幡「ま、そういう事だ」

いろは「まさか……これ狙ってました……?」

八幡「いや、偶然だ」

もちろん狙ってた。どう断ろうとも結局断りきれなくなるのは、わかっていたし、ならせめての時間稼ぎに賭けた。ベットは俺の昼食。腹減ったなー。

いろは「……いいですよ、まあ。じゃあ、放課後お願いしますね?」

八幡「おう、わかった」

さて、どうやって次は切り抜けるか……。

72: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 00:44:58.95 ID:nnHrxQkTo
八幡「何も思いつかなかった……!」

いろは「逃げようと思っても無駄ですからね?」

八幡「おい、まだ教室内なんだから喋んな。変な声が聞こえたら怪しまれるだろうが」ヒソヒソ

いろは「そこは問題なしです。誰も先輩の事なんか見てませんし」

八幡「……否定は、できないな」ヒソヒソ

そうだ、戸塚がいるじゃないか! ……あっ、もう部活に行ってる。この世には神も仏もない。

いろは「なので、早く行きましょう!」

八幡「それでも大声はやめてくださいお願いします」ヒソヒソ

オンナノコノコエシナカッター? エーナンノコトー? イロハスー

いろは「じゃあ、お願いしますね♪」ヒソヒソ

八幡「…………」

もうやだ、お家に帰りたい。

74: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 00:51:45.52 ID:nnHrxQkTo
八幡「……ここか」

いろは「そうですね」

八幡「てかお前いなくなったって事になってるんだよな。よく騒ぎにならないものだ」

いろは「サボったと思われたんですかね」

八幡「一応生徒会長だろ、お前は」

いろは「不真面目な生徒会長なんていっぱいいますよ」

八幡「あんなの漫画の中にしかいないからな?」

いろは「……また時間稼ぎしてますね? もう騙されませんよ?」

やはり同じ手段は通用しないか。もう手詰まりだし、覚悟を決めるしかない。

76: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 00:58:52.90 ID:nnHrxQkTo
八幡「えーっと、何て名前?」

いろは「鈴木です」

うわー、てきとーな名前。

八幡「了解」ゴホンッ

八幡「すぅーはぁー」

ガララ

八幡「すんません。鈴木さんっていますか?」

ニネンノセンパイ? ナンデコンナトコロニ? イロハスー

鈴木「はっはい……私……ですけど……」

八幡「少し聞きたい事があるんだが……いいか?」

鈴木「はい……」

78: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 01:02:32.31 ID:nnHrxQkTo
八幡「……一色についてだ」

鈴木「!!」ビクッ

動揺の仕方が尋常じゃない。これは……クロだな……。

八幡「昼あたりからいなくなっているらしい。何か知らないか?」

鈴木「いえ……私は何も……」オドオド

八幡「はぁ……」

この聞き方じゃ何も言うわけないよな。仕方ない。奥の手だ。

八幡「じゃあ、あの呪文は何だ?」

鈴木「!!」ビクゥッ

比企谷家奥義! カマイタチ!!(ただのかまかけ)

80: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 01:09:31.66 ID:nnHrxQkTo
八幡「告げる……とかなんとか言ってたよな」

鈴木「あ……」サー

彼女の顔が青ざめていく。それで仮定は確信に変わった。こいつは、一色のペンダント化に関わっている。

もしも無関係であるなら、呪文詠唱などという痛々しい姿を見られた恥ずかしさで顔が赤くなるはずだ。

八幡「お前が……やったのか?」

鈴木「私は……何も……知りません……!」ダッ

八幡「あっ……」

タタタタタタタタタ……

82: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 01:11:49.99 ID:nnHrxQkTo
八幡「……とりあえず犯人はわかったな。ほぼ確定だ」

いろは「そうですね……。ただ、それ以外の情報は得られませんでしたけど」

鈴木が何をしたのか、それがわかっていない限り、手の打ちようがない。

八幡「どうする? 帰る?」

いろは「どうしてこのタイミングでその選択肢なんですか!」

八幡「むしろベストなタイミングだろ」

大体奇妙系の話の一日目は何も得られずに終わるものなのだ。

八幡「もう何もできないしな」

いろは「じゃあ私はどうすればいいんですか!? こんな状態で家に帰れないですよ!!」

八幡「あーそうだなー」

いろは「うわーすごいどーでもよさそー」

84: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 01:24:52.06 ID:MhV3tWTxo
八幡「もう正直に親に言ったらどうだ?」

いろは「それも嫌ですよ! なるべく多くの人に知られずに私は元に戻りたいんです!」

八幡「わがままだな……」

いろは「だって正直、親って面倒臭いじゃないですかー」

確かにめんどい時あるよな。同意はするが、生徒会長のセリフじゃねぇよ。少しは立場考えろ。職権は振りかざすくせに。

八幡「だからと言って今日中に解決しろなんて無理だぞ。あまりにも時間と情報が足りなすぎる」

いろは「……じゃあ、しょうがないですね」ケイタイピッ

八幡「!?」

86: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 01:33:13.79 ID:MhV3tWTxo
いろは「ん、どうしたんですか?」

八幡「何で携帯持ってるんだ……?」

ペンダントの中の一色は携帯電話を手にしている。

いろは「あー、ペンダントになる時に一緒になっちゃったみたいですねー」ピピピ

八幡「一緒になっちゃったって……」

いろは「さて、親にメールは送りました!」

八幡「はっ?」

いろは「これから数日、友達の家に泊まると!」

八幡「なるほど、その友達にお前を渡せばいいんだな?」

いろは「えっ、違いますよ。先輩の家に泊まるんです」

八幡「はい?」 

96: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 22:53:48.81 ID:wy2JgTuAo
八幡「どうしてそうなるんだ?」

いろは「だって今の状態知ってるの先輩だけですし~。こういうの頼めるのも先輩だけなんですよ~」

八幡「だからあざといんだよ。で、誰に渡せばいいの?」

いろは「誰にも渡さずにこのまま持って帰ってください♪」

状況が状況ならかなりすごいセリフなのではないか? はぅ~お持ち帰りぃ~! 何で戸塚じゃないんだ。

やはり俺の世にも奇妙な物語はまちがっている!

98: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 23:02:19.91 ID:wy2JgTuAo
いろは「何だかんだ文句言いつつ先輩は助けてくれるんですね」

八幡「俺の平穏な学校生活が懸かっているからな」

いろは「なるほど、捻デレってやつですね」

八幡「……お前小町に会った事あるの?」

いろは「こま……ち……?」

八幡「あーないならいいや」

いろは「先輩の彼女ですか?」

100: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 23:12:37.72 ID:wy2JgTuAo
八幡「彼女なんかいねーよ。妹だ。世界一可愛い俺の妹だ」

いろは「あー、あの時の……」

ポンっと手を打つ。そう言えばクリスマスイベントの時に小町いたな。

いろは「うわ……てかシスコンですか……」ヒキッ

八幡「なぜ人は兄妹愛を否定するのか……」

いろは「先輩だからじゃないですか?」

八幡「元凶俺かよ」

102: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 23:22:07.08 ID:wy2JgTuAo
八幡「……頼むから声は出すなよ。うちは大体静かだから、少しでも喋ると小町あたりに聞こえる」

いろは「私はその小町ちゃんには会ってみたいなー。先輩の妹って興味がわきますし」

八幡「絶対に会わせん」

多分この二人意気投合しそうだし。小町がこんなやつに汚されていくなんて、八幡耐えられない!

いろは「何ですか、その思春期の娘を持つ父親みたいな言い方は」

八幡「まぁ、兄だからな」

いろは「普通兄って妹の事を嫌悪しません?」

八幡「あーそれよく聞くな。リアルの妹はクソだとか何とか」

いろは「じゃあ何で先輩は?」

八幡「俺の妹が小町だからだ」キリッ

いろは「……やっぱり気持ち悪いです」

104: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 23:25:56.50 ID:wy2JgTuAo
ガチャッ

八幡「ただいまー」

小町「あっお兄ちゃんおかえりー」

いろは「お邪魔しまーす」

小町「えっ?」

いろは「あっ」

八幡「」

106: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 23:28:37.24 ID:wy2JgTuAo
小町「お兄ちゃん、今変な声しなかった?」

八幡「そうか? 何も聞こえなかったが」

小町「そうかなぁ……今確かに何か聞こえたような……」

八幡「勉強のしすぎなんだろ。ほら、コーヒー入れてやるから、リビング行け」シッシッ

小町「あーうん。じゃあお言葉に甘えて」テテテ

ふぅ、危なかった……。ホッと胸を撫で下ろしながら、胸ポケットに入っているペンダントを手の甲で圧迫する。

ギギギ……

いろは「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい痛いですやめてくださいごめんなさい」ヒソヒソ

109: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 23:35:02.48 ID:wy2JgTuAo
in 八幡's room



いろは「うわー、ここが先輩の部屋ですかー。つまんないですねー。必要最低限なものしかないじゃないですか」

八幡「悪かったな。特に趣味もねーし」

いろは「しかしさっきのは痛いですよ……」サスサス

八幡「お前はニワトリか。三歩あるいたら何でも忘れちゃうのか」

いろは「いやー、癖って怖いですね~。よその家に入るとつい反射的に言っちゃうんですよね~」

八幡「礼儀正しいアピールはやめろ。あざとい」

いろは「先輩、最近何でもあざといと言えばいいと思ってません?」

八幡「ナンノコトダカサッパリ」

いろは「図星なんですね……」

111: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 23:56:49.00 ID:wy2JgTuAo
八幡「しかし……どうなってんだこれ」ジャラッ

どう見てもただのペンダントだ。喋るのと、写真が動くの以外は至って普通。――いや、それ普通じゃねぇな。

いろは「そんなジロジロ見ないでくださいよ……恥ずかしいですし……」

八幡「別にお前を見てるわけじゃねぇ」

いろは「それでもですよ。今の私このペンダントから見えるもの全部見えるんですから」

八幡「?」

いろは「あー、何て言えばいいんですかねー。何か球状に360度全部見えちゃうんですよ。例えるなら、プラネタリウムが下にもあって全部一気に見えちゃうみたいな」

八幡「へーそうなのかー便利だなー」

いろは「すごい棒読みですねー」

113: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/13(土) 23:59:25.77 ID:wy2JgTuAo
いろは「とりあえず、だから先輩からは私が見えない時も、私からは先輩の顔が見えちゃうんですよ。しかも360度見えるせいで、こっち見ると確実に目が合っちゃうんですよ!」

八幡「そうかー大変だなー」

いろは「先輩ちゃんと聞いてませんよね!?」

八幡「そんなのより元に戻る手がかりを探す方が先決だろ。悪いが我慢してくれ。俺の腐っている眼に免じて」

いろは「それむしろマイナスですよ?」

八幡「うっせ、窓から投げんぞ」

いろは「それだけはやめてください。ちょっとの高さから落ちただけで結構痛いので」

115: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 00:07:07.78 ID:SfGWB4dwo
八幡「そういや、それについて気になってたんだけどさ」

いろは「何ですか?」

八幡「落としたりすると痛いんだよな?」

いろは「そうですよ。だから丁寧に扱ってくださいね?」

八幡「……じゃあ、触覚もあるのか?」

いろは「?」

八幡「だから、このペンダントに俺が触ったりすると、お前にその感覚が伝わるのかって事だ」

いろは「……そういうのは、ありますね」

八幡「マジかよ……」

いろは「ちなみに先輩は今、ペンダントの裏の方を擦ってますけど、そこ触られると私のある部分が触られたように感じるんですよね」

八幡「な……」

いろは「……お尻です」

八幡「うおっ!?」ポイッ

いろは「きゃっ!?」

ガンッ!

いろは「痛っ!」

八幡「す、すまん……。大丈夫か?」

117: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 00:11:52.96 ID:SfGWB4dwo
いろは「丁寧に扱ってって言ったばかりなのに……」

八幡「わ、悪い……。まさかそんな事になってるなんて知らなかったものだから」

いろは「えっ、何の事ですか?」

八幡「はっ?」

いろは「えっ?」

八幡「…………」

いろは「…………」

120: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 00:15:53.57 ID:SfGWB4dwo
八幡「一色」ギロリ

いろは「はっはいっ!?」

八幡「正直に答えてもらおうか」

いろは「なんれしょうか……?」

いろは(先輩が怖くて噛んじゃった)

八幡「本当に今のお前に触覚があるのか?」

いろは「もちろんあるに決まって――」

八幡「……!」ギロッ

いろは「ごめんなさい嘘です先輩をからかいたかっただけです」

八幡「そうか……」スッ

いろは(……許してもらえたのかな?)

122: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 00:18:23.65 ID:SfGWB4dwo
ウワーヤメテクダサイセンパイー

ウルセェホンキデニカイカラオトスゾ

キャータスケテー

バカオオゴエダスナ

小町「……お兄ちゃん。そういうゲームは妹に聞こえないようにしてやってくれると、小町的にポイント高いんだけどな……」 

125: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 19:27:25.06 ID:GwiU2iZmo
投下します。



八幡「小町」

小町「なに?」

八幡「お前の周りで呪いみたいな噂って聞いた事あるか?」

小町「どうしたの、いきなり」

八幡「教室でその類の話を聞いて、少し気になったんだ」

小町「うーん……あっ」

八幡「あるのか?」

小町「呪いじゃなくて、おまじないならね」

128: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 19:33:54.84 ID:GwiU2iZmo
八幡「おまじない?」

小町「うん、おまじない。好きな人と両思いになれるとか、いい事が起こるとか、そんな感じのおまじない」

八幡「そういうのってよくあるだろ。特に女子の間じゃ」

小町「そうなんだけどね。ただ、ちょっと普通じゃないんだ」

八幡「普通じゃないって?」

あれか、どこぞの部族みたいに変な音楽に合わせて変な踊りをしたりするのか?

小町「おまじないの存在自体の噂はあるんだけどね、その具体的な内容は絶対に出回らないの」

130: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 19:39:20.57 ID:GwiU2iZmo
八幡「……つまり、そういうおまじないがあるって噂はある。でも何をすればいいかは誰も知らないと」

小町「そういう事。それにおまじないと言っても良いものばかりじゃないし。誰かに悪い事が起こりますように、みたいなのもたくさんあるって聞いた」

八幡「なるほど、それが呪いみたいだと」

小町「うん。まぁ小町にはあんまり関係ないんだけどね」

八幡「そうなのか? むしろ被害に遭いそうだろ」

女子とかには嫌われそうな気がする。もしもいじめられたりしたら俺がそいつらを殺しに行くがな。

132: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 19:43:24.91 ID:GwiU2iZmo
小町「お兄ちゃん、小町を甘く見てもらっては困るよ? お兄ちゃんと違って小町はいろんな人と仲良くできるし、嫌われたりしないから」

八幡「自分で言うな」

そういう意味では俺も問題ないか。スクールカースト最底辺に属する俺をわざわざ呪おうなんて思うやつはいない。誰かへの嫌悪の感情は、自分以上の人間に対して発生する。自分より下の人間は呪わなくても、自分のプライドを満たすための道具という役割を果たしているのだから、そんな事しなくて良い。

小町「雪乃さんとかに呪いがかかったりしたの?」

八幡「そんなんじゃねーから、安心しろ」

かかったのはお前の知らない人間だからな。嘘はついていない。

134: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 19:57:11.91 ID:GwiU2iZmo
八幡「そうか……」

小町「小町はあんまり知らないけど、友達なら知ってるかもしれないし、聞いてあげようか?」

八幡「……頼む」

小町「…………」

小町はジッと俺の目を見つめる。

八幡「何だよ?」

小町「……今は聞かないけどね」

八幡「はっ?」

小町「お兄ちゃんが小町に何を隠してるか、今は聞かないでおいてあげるよ。ただ、もしも話せる時が来たら、話してくれると嬉しいな」

136: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 19:58:25.09 ID:GwiU2iZmo
流石は俺の妹だ。何もかもお見通しってわけだ。まぁ、むしろバレて当然だわな。

いろは「何話してたんですか~?」

部屋に戻るとペンダントから声がした。

八幡「別に、ただの世間話だ」

いろは「妹相手に?」

八幡「今日学校どうだったとかそういう話だ。どうでもいいだろそんなの」

138: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 20:03:15.54 ID:GwiU2iZmo
いろは「家での先輩ってちょっと気になるじゃないですか」

八幡「学校と変わらねぇよ。本読むか、ゲームするか、寝るか」

いろは「それ退屈じゃないですか? もっと外に遊びに行ったりした方が楽しいですよ?」

八幡「その楽しみよりも、家にいる方を選ぶね。外出るのダルいし」

いろは「将来は引きこもりかニートですね」

八幡「わかってないな。俺の第一志望は専業主夫なんだよ」

いろは「それでも、意地でも外に出たくないんですか……。やっぱり先輩はクズですね」

八幡「何とでも言え。俺はそんな自分を愛しているからな」

140: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 20:06:35.32 ID:GwiU2iZmo
次の日の朝。

八幡・小町「「いただきます」」

そう言って朝食を食べ始める。少し経って小町は話しかけてきた。

小町「お兄ちゃん、あのおまじないについて友達にメールで聞いてきたんだけどね」

八幡「おお」

小町「結構あれ、酷い」

八幡「酷い?」

小町「うん、すごくね。あと、どうしておまじないの内容が明るみに出ないのかもわかった」

八幡「ほう」 

144: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 21:56:38.34 ID:L8CyrfRuo
小町「おまじないの専門家みたいな人が、千葉にいるみたいでその人が広めてるらしいよ」

八幡「つまり、そいつが犯人なのか」

小町「元を辿れば、だけどね。ただ、あくまでもその人は方法を教えるだけで、直接手を下すわけじゃないみたいだから、微妙なところなんだよね」

八幡「なるほど、で、酷いというのと、具体的な内容がわからないのは?」

小町「どっちも理由は同じで、その人はおまじないを教えるのにお金を取るみたい。中学生には高すぎる料金で」

八幡「いくらくらいだ?」

小町「五万くらいって言ってた」

そりゃ中学生には酷すぎんだろ。

148: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 22:06:34.50 ID:L8CyrfRuo
小町「それでもおまじないの効果は絶大だって知っている人は知っているから、そのためになけなしのお小遣いを使っちゃったりするみたい。中には親の物を勝手に売ったりしている子もいるとか」

八幡「だから内容は絶対に出回らないのか。大金を出して得た情報を、わざわざ誰かに教えたくないからな」

小町「うん。それにおまじないを使ったなんて事も、誰にも知られたくないし。もしもこれがタダだったり、安かったりしたら、他の人から聞いたって誰かに言って、そのまま噂になるんだろうけど」

結果的におまじないの価値は上がり、多くの人間が金を持ってくるのか。

八幡「策士だな、そいつ。金稼ぎの才能がある」

小町「……真っ先にその考えに至るお兄ちゃん、小町的にポイント低いよ」

150: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 22:09:07.29 ID:L8CyrfRuo
八幡「さて、と」

いろは「何をするんですか?」

八幡「今日は学校サボる」

いろは「ええっ! どうしたんですか!?」

八幡「ちょっと出かけるからな。お前にもついて来てもらうぞ」

いろは「それは、別にいいですけど……。ずっとここにいても動けないから暇ですし」

八幡「あと、一つ頼まれて欲しい」

152: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 22:11:19.48 ID:L8CyrfRuo
ガタンゴトン

エーツギハーフナバシーフナバシー

いろは「……先輩」

八幡「…………」

いろは「すごく……目立ってるんですけど……」

ナニアノカッコー シッミチャイケマセン アンナフクドコニウッテルンダロー イロハスー

八幡「お前が選んだんだろ」

いろは「一番ボロボロに見えるのって条件付けたの先輩じゃないですか」

154: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 22:15:48.61 ID:L8CyrfRuo
八幡「俺にも考えがあるんだよ」

いろは「どんなのかはわかりませんが、その継ぎ接ぎだらけの学ランは、ないですよ。と言うかよくそんな物を持っていましたね」

中二病時代の名残だ。あの頃の俺はこれがカッコ良いと思ってたんだよ。今思うと本当にわけがわからない。

八幡「もう静かにしていてくれ。これ以上目立ちたくない」

いろは「これ以上ないくらいに、目立ってますよ」

八幡「黙ってろ。今度は窓から電車の外に投げんぞ」

いろは「ごめんなさい」

156: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 22:20:04.57 ID:L8CyrfRuo
八幡「……着いたな」

いろは「何ですか、このボロビル?」

八幡「少し会う人がいてな。一色、お前はこれから何があっても声を出さないでくれ」

いろは「……わかりました」

コツコツ

薄暗い階段をゆっくり上る。この先にいるのは、一色をこんな目に合わせた張本人だ。

コンコン

扉を二回ノックして取手を回す。

??「……客か?」

男は扉とは反対方向を向いていたが、俺が入って来た事に気づくと、こちらを向いた。俺は後ろ手で扉を閉めながら、中にいる男の顔を睨む。

??「阿良々木……じゃないな。誰だ、お前は?」

小町から聞いて調べたおかげで、こいつの名前は知っている。

貝木泥舟。

この男は、詐欺師だ。

158: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 22:26:15.85 ID:L8CyrfRuo
貝木泥舟とは、西尾維新作の〈物語〉シリーズの登場人物である。
作中では、偽物語「かれんビー」から登場。喪服のような漆黒のスーツと、ネクタイ姿の中年の男。
職業は「詐欺師」であり、人を騙すことで生計を立てている。相手が、たとえ女子供であろうとも騙すことを厭わない。

ニコニコ大百科より抜粋

160: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 22:30:35.34 ID:L8CyrfRuo
貝木「俺のところに男が来るとは珍しいな」

八幡「…………」

貝木「何だ、お前もおまじない目当てで来たのか? だとしたら、ずいぶんメルヘンな奴だ」

八幡「そんなんじゃねぇ。あんたに聞きたい事があって来たんだ」

貝木「聞きたい事か、そうか。俺はお前に教えたい事はないんだがな」

八幡「そりゃそうだろうよ。あんたは俺の事なんか知らないし。ただ、質問をするくらいはいいだろう?」

貝木「で、何だ、お前は俺に何を話して欲しいんだ?」

162: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 22:37:51.50 ID:L8CyrfRuo
八幡「これについて」

俺は胸ポケットに入れていたペンダントを見せる。一色に再三忠告した理由はこれだ。下手に声を出されても話をややこしくするだけだ。

貝木「それがなんだ? 俺に関係あるのか?」

八幡「俺の知り合いがある日突然、このペンダントに変えられた。あんたならその原因を知っているんじゃないのか?」

貝木「そのペンダントの秘密を知りたいか? 教えてやる。金を払え」

八幡「いくらだ?」

貝木「諦めろ。マトモな制服も買えないようなお前には払えん」

八幡「いいから言ってみろよ。盗んででも払ってやる」

164: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 22:47:28.62 ID:L8CyrfRuo
貝木「じゃあ三万だ。お前には無理だろう?」

八幡「…………」ヒラッ ユキチフタリトノグチジュウニン

貝木「ほぅ。よくそんな金を出せたな」

八幡「あんたが金次第で動く人間だってのは知ってたからな。かき集めてきた」

貝木「なるほど。……いいだろう。その努力に免じて話してやるとしよう」

八幡「ふぅ……」

いろは(先輩もなかなか外道だな~)

168: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 23:34:41.06 ID:CqeUjOd+o
貝木「それに関して言ってしまえば、普段俺の関わっているような、現象とは無関係だ。本当にただのおまじないや魔法みたいなものでな」

八幡「…………」

貝木「そうだ、その前に名前を聞いておこう。俺の事をそこまで知っているという事は名前まで知っているのだろう? なら、そっちの名前を聞かなければフェアじゃない」

八幡「……知らない人に個人情報は漏らすなってかーちゃんに言われてるんで」

貝木「ならこの契約は破棄だな。金は返すがそのペンダントについては何も話さん」

八幡「……比企谷八幡」

170: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 23:38:36.22 ID:CqeUjOd+o
貝木「じゃあ比企谷。説明するとだな、そのペンダントはどこかの誰かが作り出した呪術の結晶だ」

八幡「呪術……呪い……?」

貝木「まぁそんな解釈でいい。その呪いにかかった人間は、どんな仕組みか知らんが、ペンダントに閉じ込められる。滅多に成功しないんだがな」

八幡「ペンダントから出すには?」

貝木「……それを作った誰かは相当夢見がちな奴だったらしい。そして恐らく女だ」

彼は急に言葉を濁し始めた。

八幡「?」

貝木「あくまでも俺は誰かが作ったりした物を横流ししているに過ぎん。だからこれは俺の趣味ではない」

八幡「はっ?」

172: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 23:42:34.80 ID:CqeUjOd+o



八幡「結論を早く言え」



貝木「そのペンダントに接吻する事だ」



八幡「えっ?」




174: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 23:45:42.72 ID:CqeUjOd+o
貝木「その呪いを解くには、呪いのかかった人間の心を満たす必要がある」

貝木「そもそも心が満たされた人間に呪いは効かないからな」

貝木「だからそれに最も効率的らしい接吻が呪いを解く唯一の方法だそうだ」

八幡「いや……それは……」

貝木「きっとこれを作った人間は某夢の国のファンだったんだろうな」

千葉にもテーマパークありますね、それ。何で千葉なのに『東京』ってついてるんだろ。あとららぽも。

176: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 23:52:37.70 ID:PJXak/84o
貝木「話す事は全部話した。じゃあな、比企谷八幡。もう二度と会う事もないだろう」

八幡「ま、待て! 本当にそれ以外に方法はないのか」

貝木「ないな。あぁ、二つ言い忘れた。接吻の場所はどこでもいいわけではなく、その人物の口にちゃんとしなきゃいけないのと、その接吻の相手は、呪いの対象が好意を抱いている相手じゃないと意味がないとか。本当に、どこまでもファンタジーだな」ガチャッ

八幡「それかなり重要なところだろ……」

貝木「じゃあな」ガチャン

貝木はそう言いながら部屋を出て行った。慌てて追いかけたが、もうそこに彼の姿はなかった。

八幡「……まぁ俺には関係ないな」

だって、後は葉山に任せればいいんだし。

178: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 23:55:54.57 ID:PJXak/84o
八幡「……というわけだ。わかったか?」

いろは「先輩の性格の悪さは」

八幡「最近石とか投げてないなー」ブンブン

いろは「すいませんやめてください」

いろは「しかし……だからそんな服だったんですね」

八幡「あいつが相手によって金額を変えるようなやつだとわかっていたからな。俺からじゃ三万でも巻き上げられないと高を括ってたんだろ。普通の服装で行ってたら、二十万くらい請求されてたんじゃねぇの?」

いろは「先輩がめついですね」

八幡「あとであの三万払えよ?」

いろは「さすが先輩! 知能犯!」

八幡「それ褒めてねぇから」

181: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/14(日) 23:59:27.29 ID:PJXak/84o
八幡「じゃあ、葉山によろしく言っといてくれ」

いろは「えっ? 何を言っているんですか?」

八幡「逆にお前が何言ってるんだ? もう俺にできる事はないだろ」

いろは「まぁ……それは、そうですね」

八幡「お前は葉山が好きなんだろ? なら、あとの仕事は葉山のだ。前も言ったが、あいつなら絶対に助けてくれる」

いろは「でも、そんな、葉山先輩に、その……」

183: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/15(月) 00:03:05.19 ID:5Ai83mvIo
八幡「……あっ」

そう言えば……。

八幡「……すまん」

いろは「ようやく気づいたんですね」

八幡「ああ……」

そう言えば、冬休み前にディスティニーランドに行った時にこいつ、葉山に振られてたっけ。そんな状況でキスしろなんて頼めねぇよな。

八幡「……まいったな」

いろは「まいりましたね……」

八幡・いろは「「はぁ……」」

185: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/15(月) 00:13:20.33 ID:5Ai83mvIo
いろは(先輩)

いろは(私は、この数週間、いろいろ考えてきたんです)

いろは(あの時、葉山先輩に振られちゃいましたけど)

いろは(正直、めちゃくちゃショックってわけでもなかったんです)

いろは(もちろん直後は泣きそうでしたし、胸なんか張り裂けそうなくらい痛かったですよ)

いろは(それでも……時間が経つにつれて、そこまで傷ついてなかったと思うようになったんです)

いろは(ああなるのがわかっていたからなのかもしれませんけれど)

いろは(もしかしたら、恋に恋していただけだったのかもしれません)

187: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/15(月) 00:22:08.57 ID:5Ai83mvIo
いろは(先輩は本当に良い人です)

いろは(どんな人だって助けてしまう)

いろは(きっと傷つく、という事が何なのかを知っているから)

いろは(その痛みがどんなものか知っているから)

いろは(だから先輩は、みんなを助けたいと思ってしまうんでしょうね)

いろは(先輩は本当に優しい人です)

いろは(……もしいつか、私が本当に誰かを好きになるなら――)

いろは(――その時は、その相手が先輩みたいな人だったらいいなぁ、なんて思ったり)

いろは(もちろん言えませんけどね) 

200: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/17(水) 22:52:53.71 ID:lQyv7wcyo
八幡「しかしどうすんだ、これ」

いろは「葉山先輩には……頼みづらいですよ……」

八幡「でもあいつ以外じゃ無理なんだよな」

いろは「…………」

ペンダントの中の一色は俯いている。確かに現状は笑えないから、仕方もない。

キスねぇ……。妄想では何回もした事あるけど、リアルでやった事なんかねぇよ。口すら童貞とかワロス。いや、ワロエナイ。

専業主夫を目指す俺には大きすぎる壁だ。

202: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/17(水) 23:01:22.58 ID:lQyv7wcyo
八幡「間接……とかは?」

いろは「先輩黙り込んで何を考えていたかと思ったら、そんな事を妄想していたんですかごめんなさい正直気持ち悪いです」

八幡「お前のために考えたくない事も考えてるんだろうが……」

いろは「で、間接ってどうやって?」

八幡「しかもスルーかよ。そうだな……葉山の使っていたペットボトルをゴミ箱から取るとか」

いろは「うわ、気持ち悪いですね」

八幡「…………」

204: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/17(水) 23:04:34.40 ID:lQyv7wcyo
いろは「それ誰かに見られたらどうするんですか?」

八幡「心配ない。俺も同じタイミングでジュースとかを飲み、葉山の直後に行けば怪しまれない」

いろは「どうしてそういう事に関してだけ、異様に頭が回るんですか?」

八幡「はっ。キングオブぼっちなめんな。お前らが所謂『お友達』とペチャクチャ喋っている間、無限の可能性について考えてんだよ。無限って言うくらいだから、終わりはないしな。それだけで一生を終えられるレベル」

いろは「つまり、こういう事態が来たら、みたいなのを考えていたと」

八幡「…………」

いろは「うわ……」ヒキッ

206: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/17(水) 23:09:43.17 ID:lQyv7wcyo
八幡「何か問題あるかよ」

いろは「もう吹っ切れちゃいましたね」

八幡「妄想くらいしたっていいだろ。どこぞの誰かさんみたいに形には残してないんだからな」

いろは「……それ誰ですか?」

八幡「夏でもコートを着ているようなバカだ」

いろは「あー」

わかっちゃうのか。あいつ後輩にまで知られてんのかよ。よかったな、ちょっとした有名人になってるぞお前。意味合い的には野々村っぽいけど。ダレガヤッテモオンナジヤオンナジヤオモテー。

……やべぇ、どっちが野々村でどっちが材木座かわからなくなってきた。

209: </b> ◆.6GznXWe75C2<b> 2014/09/17(水) 23:36:54.71 ID:lQyv7wcyo
いろは「その方法を取るにしても、今日は無理ですよね……」

八幡「む……」

時刻は昼を過ぎたところ。今から行ってもいいが、平塚先生にドヤされるのは勘弁だ。今日は腹痛で行けなかった事にしよう。それがいい。それだけでいい。なんか混ざってんな、平塚先生繋がりか? ……本当に何言ってんだ、俺。

八幡「そうだな……。やれる事もないし、もう帰るか」

いろは「なら、どうせ外に出たんですし、遊んで行きましょうよ!」

八幡「断る」

いろは「却下です♪」

八幡「なん……だと……?」

俺の秘技、即答拒否を即答拒否で返すだと……?

211: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/17(水) 23:44:21.71 ID:lQyv7wcyo
いろは「先輩がそう言うのわかってましたし」

八幡「くっ……!」

そこまでこいつは俺の言動を理解してんのかよ……。わかってるなら、帰らせてくれ。

いろは「私もこんな状態ですし、カラオケ行きましょう!」

八幡「断る」

いろは「却下です♪」

八幡「それでもダメだ」

いろは「大声出しますよ?」

八幡「」

いろは(先輩、案外押しに弱いんですよね~)

213: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 00:21:03.17 ID:pq+Huf8bo
八幡「……そして、本当にカラオケか」

いろは「最近は一人カラオケも立派な趣味として認められているからいいじゃないですか」

八幡「むしろそれが嫌なんだよ」

いろは「?」

八幡「一人で何かをするのは多くの人間が嫌がる。逆に言えば俺はそれができる自分を誇りに思っていたわけだ」

いろは「は、はぁ……」

八幡「だが今やヒトカラブーム? ヒトカラ専門店? ふざけるな。みんながやったらそれはもう一人じゃねぇんだ」

いろは「一見カッコ良い事言っているようで、よく考えるとカッコ悪いですね」

八幡「最近じゃ、ヒトカラに行くのに友達を誘う輩もいるらしいな。大人数で無駄に個室を埋めるんじゃねぇ。本物のぼっちは一人でしかカラオケなんか行けねぇんだよ! リア充どもは十人くらいで大部屋使ってウェイウェイやって、爆発しろ!」

いろは「最後のはただの先輩の願望ですよね」

218: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 00:38:15.52 ID:GfXndqRIo
八幡「80000番……80000番……」

いろは「ここってそんなに部屋の数あるんですか……?」

八幡「ない。だから他は三桁とかなのに、ここのカラオケはなぜか一つだけ80000番がある。この番号はマイノリティーなぼっちの鏡だな」

いろは「呪われてたりするんですかね」

八幡「むしろ、八幡大菩薩の恩恵があるんじゃねぇの? ……おっここだ」

いろは「うわ……本当にここだけ五桁もある……」

ニモツヲヨッコイショウイチ

八幡「よしと……ドリンクバー取りに行くか」

いろは「先輩、私はいろはすのみかんので」

八幡「どうやって飲むんだよ。あと、そんなの置いてねぇよ」

220: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 00:43:51.00 ID:GfXndqRIo
八幡「…………」ピッピッ

いろは「…………」ジー

八幡「…………」ピッピッ

いろは「…………」ジー

八幡「……ジロジロ見ないでくれない?」

いろは「他に見る物もないんですよ! あと、早く曲入れてください!」

八幡「えっ、お前が来たいって言ったから、お前からじゃねぇの?」

いろは「どうやって曲入れるんですか!」

222: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 00:46:17.84 ID:GfXndqRIo
八幡「代わりに俺が入れればいいだろ。てか、それよりもどうやって歌うの?」

いろは「ああ、そうですね……。じゃあマイクをテーブルに置いて、その前に私を置いてください」

八幡「……それ、ハウらないか?」

いろは「その辺の角度の計算はお任せします♪」

八幡「俺の数学の成績なめんな」

いろは「つまらないです早くしてください」

八幡「……はい」

224: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 00:48:15.60 ID:GfXndqRIo

八幡「……で、何入れりゃいいの?」

いろは「先に歌わせてくれるんですか?」

八幡「そもそも俺は乗り気じゃねぇしな。歌いたいやつが歌え」

いろは「それじゃ――」

~♪

八幡「…………」ポカーン

いろは「せ……先輩……。どうだったでしょうか?」

八幡「ちょっと、いやかなりビックリした。お前、めちゃくちゃ歌、上手いのな」

いろは「えっそれ口説いてます? ごめんなさい無理です」

八幡「だからなぜそうなる……」

226: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 00:49:54.05 ID:GfXndqRIo
八幡「ちげぇよ。純粋に上手いと思っただけだ」

いろは「そうですか! 上手かったですか!」

八幡「あぁ、少なくとも材木座よりはよっぽど上手い」

あいつ、声は良いんだけどな。

いろは「それあんまり嬉しくないですよ……」

八幡「いや、すごい褒めてる。こんなに褒めてる自分を褒めたいくらい褒めてるぞ」

いろは「それ途中から褒める相手変わってるじゃないですか!」

229: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 00:51:34.26 ID:GfXndqRIo
いろは「まぁ友達とかとよく来ますしね~。回数が多ければ自然と上達するものです!」

八幡「なるほど。俺が下手な理由はそこにあったのか」

ぼっちは基本カラオケとか行かないしな。家での鼻歌で十分。小町に聞かれる可能性があるのが、唯一のデメリットだ。

いろは「じゃあ先輩も一曲どうぞ♪」

八幡「人前で歌うの嫌なんだよな……トラウマあるし」

いろは「どんなのですか?」メガキラキラ

八幡「何でそんなに興味津津なんだよ……」

いろは「先輩の目がそんなに腐るまでのプロセスって気になるじゃないですか」

八幡「お前本当に性格悪いぞ」

233: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 00:56:14.22 ID:GfXndqRIo
支援レスありがとうございます!



以下、回想

あれは中学二年の時の事だ。

五月のあたまらへんにある遠足の後、クラス全員での打ち上げがあった。選ばれたのは察しの通り、カラオケ。

誘われて行ったのはいいが、俺は一曲も歌わず、二時間という時間を誰とも話さずに浪費した。

ふと、クラスの中心人物が言った。

リア充「比企谷くん、だっけ? まだ一曲も歌ってないけど、まだ歌わないの?」

これが悪魔の囁きだと、この時の俺は純粋だから気づいていなかった。

235: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 00:58:50.37 ID:GfXndqRIo
俺は最初は遠慮したが、そのリア充の言葉に負け、選曲の機械を手に取り、この場で歌っても浮かないようなリア充が好みそうな、J-POPの曲を選んだ。

リア充「おっ、次は比企谷の番か」

八幡「そ……そうだな……っ」

人前で歌う緊張に飲まれ、俺は周りの違和感に気づいていなかった。今にしてみれば、俺以外のクラスの誰もがニヤニヤしていたのは、不自然以外の何物でもなかったのに。

237: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 01:02:27.10 ID:GfXndqRIo
ジャジャッ ジャジャッ ジャジャッジャッジャー

伴奏が始まる。その瞬間に――

女子A「あっ、私トイレに行ってくる」スッ

女子B「私も私も~」スッ

ハナレテルキガシナイネ キミトボクトノキョリ

男子A「おいB行こうぜー」スッ

男子B「おう」スッ

ボクラハイツモイシンデンシンー フタリノキョリツナグテレパシー

気づいた時には、広いカラオケルームでただ一人、ポツンと以心電信を熱唱する俺の姿があった。 

239: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 01:15:30.30 ID:GfXndqRIo
いろは「せ……先輩……っ。プップププ……」

八幡「笑うなら笑え。遠慮はいらんぞ」

いろは「アッハハハハハハハハハ!! 先輩! 最高ですよ、それ!!」

八幡「本当に他の奴らは以心伝心だったんだろうな。一糸乱れずに出て行ったし」

いろは「もう……やめてください……っ。お腹……痛い……っ!」プルプル

八幡「しかも終わった途端に全員戻って来るのな。『あれ? 比企谷くんの歌終わっちゃったの? 聞きたかったわー』だってよ。思わずいづらくて帰ったわ」

いろは「か……っ!」プルプル

一色はペンダントの中で震えていた。こっちからしたら、その姿の方がよっぽど滑稽なんだけどな。

241: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 01:19:26.28 ID:GfXndqRIo
いろは「久しぶりにこんなに笑いましたよ……」

八幡「人のトラウマを大爆笑するとか、心ないにも程があるだろ」

いろは「それでも……っ、あっまた思い出しちゃって……プッ!」

八幡「こんなのはまだ序の口だぞ? 他にもまだまだいくらだってある。十七年間生きていて、未だに日々増え続けるからな。何なら今笑われたのだってランクインしてもいいくらいだ」

いろは「まだあるんですかぁ? 正直今のだけでも自殺ものですよ?」

八幡「ふっ、甘い。このレベルならまだ少なくとも五十はあるし、これより上のレベルが二段階に渡って残っている。これがどういう事かわかるな?」

いろは「うわぁ……聞きたいですけどまた今度ですね。今は歌いましょうよ!」

八幡「じゃあ以心電信を……」

いろは「自分でトラウマ抉るんですか!?」

243: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 01:25:33.83 ID:GfXndqRIo
基本俺のトラウマネタは相手をゲンナリさせる事が多い。というかほとんどそうだ。なのにこいつは、それを聞いて引くどころが笑いやがった。

……それが、少し嬉しかったりする。

失敗談はその場の笑いを誘う役目を担う事もある。俺はそうなる事を心のどこかで望んでいたのだろうか。

別に雪ノ下や由比ヶ浜たちの反応が嫌だっていうわけじゃない。もちろんあれだって楽しい。

ただ、他の誰とも違って――いや、こんな笑い方をする人間をもう一人、俺は知っているが――俺のトラウマ話をただ無邪気に笑って聞いてくれるこいつが――

――少し、可愛いと思う。

246: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 01:28:27.93 ID:GfXndqRIo
いろは「先輩、どうせ二人で来てるならデュエットしましょうよ!」

八幡「はっ? 何で?」

いろは「えっ、そこ聞くんですか?」

八幡「質問を質問で返すな。てか、そりゃ意味がわからんだろ」

いろは「別にいいじゃないですか~、一曲くらい~」

八幡「嫌なもんは嫌だと――」

いろは「うーん、そうですねぇ……何を歌いましょうか……」

八幡「――言っても意味なさそうだな」

248: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 01:40:05.79 ID:GfXndqRIo
フタリダーカーラー トビラアーケーテー (ヘーエーエーエー)

トビダセールーヨーイマー (イーマー)

モウー (モオー!)

フタリダーカーラー

いろは「先輩……よく声出ましたね……」ゼーゼー

八幡「くっ……。高すぎんだろ、ハンス王子……! ヘーエーエーエーの所なんか死ぬかと思ったわ……」ゼーゼー

いろは「てか先輩も……なかなか上手いじゃないですか……!」ゼーゼー

八幡「そうか……? 大した事は……ないだろ……」ゼーゼー

250: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/18(木) 01:45:06.03 ID:GfXndqRIo
いろは「何だかんだ、二人ともすごい歌いましたね~」

八幡「男一人のはずの部屋から女の声がするって店員が怪しんでたぞ」

いろは「まぁいいじゃないですか~。一人分の料金で二人歌えたんですよ?」

八幡「そこは得したような気分になるな、確かに」

いろは「だからもういいんですよ♪」

八幡「何がだ。てか根本的な問題が解決してねぇだろ」

いろは「現実逃避くらいさせてくださいよ……」

八幡「自覚ありだったのか……」

そうだ、物事は何一つ解決していない。

何一つ、進んでいない。 

261: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/23(火) 23:19:41.52 ID:f7IEtPx5o
いろは「そう言えば先輩」

八幡「ん?」

いろは「今日で奉仕部二日休んでますけど、大丈夫なんですか?」

八幡「ああ、あいつらにはちゃんと言ってあるしな。当分行けないってだけだけど」

いろは「あ、そうなんですか」

八幡「だからまだ数日は大丈夫だ。むしろ心配すべきはお前だろ」

いろは「え?」

八幡「今日帰れなかったら二日間お前は家に帰っていない事になる。それは親としても心配するだろ」

いろは「そうですね……。一応連絡は取ってるんですけど、もっても明日までです」

263: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/23(火) 23:26:38.14 ID:f7IEtPx5o
八幡「過ぎたら?」

いろは「私が泊まってるって事になってる友達の家に迎えに来ると思います」

八幡「……つまり、それを避けるには明日の夜までに、お前を元に戻さなきゃいけないのか……」

いろは「時間、ないですね。でも葉山先輩に……その…………スしてなんて言えないです……」カァッ

八幡「状況が状況だ。もうなりふり構っていられないし、今から学校に行くぞ。ちょうどもう少しで放課後になる」

いろは「その服でですか?」

そう言えば俺が今着てるの、あのボロボロの学ランじゃねぇか。

八幡「……流石に一回帰るわ。チャリで行った方が楽だし」

266: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/23(火) 23:37:35.84 ID:f7IEtPx5o
at 校門

ちょうど終わったのか、大勢の生徒が校門から出て来る。中に紛れて入ればいいので楽なはずだが……。

八幡「サボったからか、入りづれぇ……」

いろは「誰も先輩の事見てませんから、大丈夫ですよ!」

八幡「……事実だが、お前に言われるとムカつくな」

いろは「自虐ネタを使う時は、相手からバカにされるのを覚悟して使うものですよ」

八幡「くっ……何も言い返せねぇ……!」

268: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/23(火) 23:39:26.56 ID:f7IEtPx5o
八幡「で、俺はどこに行けばいいの? 家?」

いろは「サラッと帰ろうとしないでください。そうですね、今ならまだ部活始まってないでしょうし、グラウンドて待ち伏せというのはどうでしょうか?」

八幡「お前にしちゃまともな意見だな……」

いろは「私の事を何だと思ってるんですか?」

八幡「……まぁいーや。行くぞ」

いろは「無視ですか!?」

270: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/23(火) 23:45:05.71 ID:f7IEtPx5o
八幡「……行くぞ。本当にいいんだな?」

いろは「もう他に手段ないですしね……。背に腹を決めます」

八幡「よし。……おーい、葉山ー」

葉山「おや、ヒキタニくんじゃないか。俺に何か用かい?」

八幡「あぁ、そうだ。まぁ俺がって言うのはちょっと違うんだけどな」

葉山「?」

ジャラッ

葉山に例のペンダントを見せる。それを見て葉山は首を傾げる。

葉山「それがどうかしたのかい?」

……どうやって説明すればいいんだ、これ?

272: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/23(火) 23:48:13.20 ID:f7IEtPx5o
八幡「……えーっと、一言で言うとだな……」

八幡「……一色が、この中に閉じ込められた」

葉山「…………」

葉山「えっ?」

ですよねー、やっぱりそういう反応ですよねー。俺も最初そんなんだったし。

葉山「それってどういうことだ? 君なりの冗談なのかな? なら、笑ってあげられなくてごめん。そういうギャグはわからなくてね」

八幡「こらやめろ。昔のトラウマ思い出しちまうだろ」

懐かしいなー。みんながふざけた事を言い合ってて、俺も勇気振り絞って、渾身のボケをかましたら、普通に白けたっけ。あの時の『何やってんの、こいつ?』って視線は忘れられない。今でも思い出すと、うわあああああああああってなる。

274: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/23(火) 23:53:49.22 ID:f7IEtPx5o
葉山「で、本題は? その冗談のために来たわけじゃないんだろう?」

八幡「いや、本当にこれが本題なんだ。一色がこのペンダントになっちまって、元に戻せないんだ」カチャッ

ペンダントを開く。中身を葉山に見せるためだ。実際に中の一色が動いているのを見たら、嫌でも信じるだろう。

いろは「…………」

葉山「?」

いろは「……いま、先輩が言ったのは全部本当です。私がここ数日学校に来れてないのも、これが原因なんです」

葉山「!?」

葉山「ヒキタニくん!? これは一体!?」

八幡「さっき言った通り、一色がペンダントになっちまったんだよ」

うわー、この反応すごいデシャヴ。

277: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/23(火) 23:57:50.20 ID:f7IEtPx5o
葉山「信じられない……」

八幡「正直俺もだ」

いろは「先輩もですか!?」

八幡「こんなのより、ドッキリの看板持ってくる方がよっぽど現実的だろ」

いろは「まぁ……そうですね。私も自分がこうなってなかったら、信じられないでしょうし」

葉山「ここ数日部活に来ないと思ったら、そういう事だったのか」

いろは「はい、ご心配をおかけしました……」

葉山「いや、いろはが謝る事じゃない」

279: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:00:34.37 ID:q80rrKGIo
八幡「で、お前に頼みがある」

いろは「先輩、ここからは私に言わせてください」

八幡「お、おう」

俺が言う事じゃないな、よく考えたら。

八幡「じゃ、葉山。後は任せた」

葉山「えっ、ちょ、ヒキタニくん?」

いろは「…………」

一色は俺を止めない。つまり俺はここでお役御免という事だろう。明日になったら元に戻っている事を祈って、家に帰るとしよう。

281: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:03:53.01 ID:q80rrKGIo
葉山「比企谷」

八幡「あ?」

葉山「校門で待っててくれないか?」

八幡「いや、早く帰りたいんだけど」

葉山「いいから」

八幡「……わかった」

葉山の声が真剣味を帯びているせいで、俺は断りきれなかった。マジな顔になると恐いんだよ、こいつ。

284: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:09:44.84 ID:q80rrKGIo
言われた通りに校門で葉山を待つ。どうしてあんな事を言ったのか、想像できないわけではないが、それは俺の知っている葉山隼人なら決してしない事だ。

葉山は誰かを助けられるなら助けたいと思う人間だ。

それに固執するのに、葉山自身の過去が関係しているのかもしれないが、今の俺にそれを知る術はない。

少なくとも俺の今まで見てきた葉山隼人なら、一色いろはを助けるはずだ。

ただどうしてか、葉山は一色を助けない気がした。



そしてそれは、見事に的中してしまった。

287: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:15:44.52 ID:q80rrKGIo
十五分程待って、葉山は校門に現れた。

葉山「やぁ、ヒキタニくん」

その近くに一色の姿はない。嫌な予感が現実味を増す。

八幡「……一色は?」

葉山「……悪いが」ジャラッ

葉山はゆっくりと俺にペンダントを渡す。その中にはさっきと同じように一色がいた。

八幡「……何でだよ」

葉山「俺には、できないんだ」

八幡「だからと言ってお前がやらなかったら、一色はずっとこのままなんだぞ」

葉山「そういう意味じゃない。俺に、いろはを救う事はできないんだ」

八幡「何を言って……」

いろは「…………」

289: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:18:16.05 ID:q80rrKGIo
葉山「……じゃあ、俺は部活に行くとするよ。部長がこれ以上遅れたら示しがつかないからな」タッタッタッ

八幡「待てよ、なるべく早めに解決しないと――」

いろは「いいんです、先輩」

八幡「?」

いろは「……いいんです」

八幡「……ダメだったのか?」

いろは「女の子にそういう事を聞くのはデリカシーないですよ、先輩」

八幡「悪かったな……」

291: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:24:06.62 ID:q80rrKGIo
八幡「……で、どうすんの?」

いろは「……今日も先輩の家に厄介になると思います」

八幡「いや、そっちじゃなくてだな。明日までにどうすんだよって話だ」

いろは「ああ……そうですね……。どうしましょう……」

八幡「…………」

ついさっきまであんなに元気だったのに、今の一色にはそのカケラもない。

葉山に何を言われたのかはわからないが、あまりいい返事ではなかったようだ。

いや――

――葉山は本当に一色を助けなかったのだろうか?

294: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:28:19.14 ID:q80rrKGIo
葉山と一色の言いぶりはどちらにも取れる。

一つは、葉山が何もせずに断ったという可能性。

もう一つは、葉山は一色のためにキスをした。

なのに、一色が元に戻らなかったという可能性。

前者ならまだ戻れる可能性が残っている。まだ慌てるような時間じゃない。

しかし、もしも後者の場合。

一色が元に戻る方法がもう何もないという事になる。

296: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:42:22.65 ID:q80rrKGIo
八幡「…………」

いろは「どうしましょう……先輩……」

八幡「わかるかよ、んなもん。そもそもお前らが何を話してたかも知らねぇんだからな」

いろは「……ですよね」

八幡「…………」

わからない。葉山と一色がどんな会話をしたのか。葉山は一体何をしたのか。何もしなかったのか。

しかし聞いても彼女は答えないだろう。聞いて答えるくらいなら、もう俺に言っているはずだ。

つまり、俺には言いたくない事が起きたと考えるのが妥当だ。

298: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:47:25.70 ID:q80rrKGIo
八幡「……どっか行きたいところでもあるか?」

いろは「妙に優しいですね……何かあったんですか?」

八幡「いつもふわふわゆるふわビッチなお前が、そんなにションボリしてたら、そりゃ不安にもなるだろ」

いろは「……そう、ですね」

どうも歯切れが悪い。いつもの一色なら前半部分でツッコミを入れるのに、それもない。これは相当重症だな。

ドンッ

八幡「あっすいません」

DQN1「どこに目ぇつけて歩いてんだぁ?」

ヤバい。関わっちゃいかんやつだ。

301: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 00:54:33.52 ID:q80rrKGIo
八幡「……すみません」

DQN1「あぁ、いてぇなぁ~。アザできちまったなぁ~」

うぜぇ、すごい喋り方うぜぇ。戸部と同じくらいうぜぇ。材木座程じゃないが。

DQN1「治療費弁償してもらおうかぁ~、あぁ~ん?」

前言撤回。やっぱ材木座よりもウザい。

こういう馬鹿にはとりあえず金を渡すに限る。ボコボコにされるよりもよっぽどマシだ。

八幡「わかりまし……あっ」

さっきの三万払ったせいで、財布ほぼ空っぽじゃねぇか!

八幡「\(^o^)/」

303: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 01:02:48.63 ID:q80rrKGIo
DQN1「さっさと金出せ言ってんのがわかんねぇのかぁ~?」

DQN2「やめなよ~。この子足震えちゃってるし~」

DQN1「こういうやつには世の中の厳しさってのを教えてあげなきゃでだなぁ」

むしろ理不尽の塊だろ。あ、それが社会そのものか。なかなか的を得てるじゃないか、このDQN。

DQN2「まぁどうでもいいけどぉ~? あっそのペンダント綺麗ねぇ」

DQN1「そうかぁ? ただの安物だろ?」ヒョイッ

いきなり、胸ポケットに入ってた一色が入っているペンダントを取られた。あまりにも唐突すぎて反応ができなかった。

305: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 01:09:52.47 ID:q80rrKGIo
八幡「!」

DQN2「そお? すごい綺麗だけどなぁ~」

DQN1「じゃあこれお前にやるわ。おい坊主、これに免じて許してやるから俺の前から消えな」

八幡「それだけは……渡せねぇ……」

DQN1「はぁ?」

八幡「返せっつってんだよっ!」ガッ

思いっきり飛びついてペンダントを取り返そうとしたが、そもそもの体格差のせいで、全く届かない。

DQN1「調子にのってんじゃねぇぞ!」バキッ

八幡「ぐっ!!」

思いっきり左頬を殴られる。喧嘩なんかした事がないから、うまれて初めての衝撃に脳が停止する。

307: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 01:18:00.56 ID:q80rrKGIo
DQN1「そんなに返して欲しいのかぁ~?」ジャラジャラ

チェーン部分でペンダントを振り子のように揺らす。今飛びつけば取り返せるのに、身体が動かない。ダメだ……このまま一色を助けられないままなのか……?



いろは「ちょっと!! 暴力をふるうなんて最低の人間がする事ですよっ!!!」



DQN1「!?」

八幡「一色……お前……余計な時にしゃべるなって……」

いろは「そんなんだからファッションセンスもダサいんですよ! 何ですかその格好、何十年前の流行りですか?」

DQN1「う……うえぇ……! 何か……変な声がする……!」

一方DQNが反応しているのは、あくまでも声に対して『だけ』のようで、内容は頭に入っていないらしい。

いろは「とっととその汚い手を離しなさい!!!」

DQN1「ひいぃっ!!!」ブンッ

309: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 01:22:53.54 ID:q80rrKGIo
恐怖のあまりDQNはペンダントを思いっきり投げた。地面に投げつけなかったのが救いで、山なりを描いてペンダントは飛んでいく。

カンカンカンカン……

ん、何の音だ? すごく聞き覚えがあるのに、それが何の音だか思い出せない。

いろは「きゃっ!!」

ついでに一色の声が一瞬聞こえる。相変わらずあざといな、お前は。

カンカンカンカン……

あぁ、思い出したわ。これが何の音か。

……これは……踏切の音だ。

311: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 01:30:49.03 ID:q80rrKGIo
ゴッガチャッカラカラ……。

ペンダントが地面に落ちる。そこは、踏切の中だ。

遠くから音が聞こえる。あと少しもしないうちに電車が来る。

一色の入ったペンダントは線路の上。

このままだと、どうなる?

八幡「くっ……!」ダッ

重い身体を無理矢理に動かし、走り出す。もう一刻の猶予もない。

八幡「はぁ……っはぁ……っ!」

カンカンカンカン……。

耳に入るのはやかましい踏切の音と、

プワーン。

電車が確実に近づいてきている音だけだ。

313: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 01:43:54.55 ID:q80rrKGIo
あともう十歩で踏切だ。中にあるペンダントは開いていてそこから一色の顔が見える。今にも泣き出しそうな顔だ。

周り360度見えるんだっけ? なら、電車が近づいてきているのが見えているのかもな。俺には見えないが。

今の俺には、一色しか、見えない。

電車の音がどんどん大きくなる。心臓の鼓動のスピードが一歩進むごとに早くなる。

間に合え、間に合え、間に合え――!!

黄色いバーをくぐり、思いっきり地面を蹴る。



八幡「いろはぁっっ!!!!!」



右手を伸ばし、もう一歩地面を蹴る。一瞬視界の隅に何か鉄の塊が映ったのは気のせいだと思いたい。

ガシッ!

掴んだ。確かに今俺は何かを掴んだ。手の中には光沢による光が見える。よかった……間に合っ……

ドンッッ!!!

315: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 01:51:31.70 ID:q80rrKGIo
いろは「……あいたたた……よかった、助かりました。先輩」

いろは「…………」

いろは「……先輩?」

ペンダントのすぐ隣に倒れている少年の頭部は、真っ赤に染まっている。

いろは「先輩、何か言ってくださいよ……ねぇ……」

いろは「先輩! 先輩!!!」

いろは「先輩っ!!!!!」 

327: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 20:42:19.48 ID:WBBfTTgjo
まず俺に見えたもの、それは闇だった。

何の光も差し込まない、完全な暗闇。

だから俺は闇を見たのではなく、実際は何も見えなかったのかもしれない。

現状を認識し始めると同時に少しずつ記憶が戻り始める。……そうだ、俺は一色を助けようとして……死んでしまった?

ではここは死後の世界なのだろうか。

こんな真っ暗な世界でこれから過ごさなければならないのか?

しかしその予想は外れ、一度瞬きをするとボワっと小さな光が現れた。

329: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 20:47:32.74 ID:WBBfTTgjo
ぼんやりとした光、それは少しでも触れてしまったら、すぐに消えてしまいそうで、儚い。

一度だけ、と、そっと触れてみる。光の周辺はわずかに温度が高く、触れるとさらに温かい。

その瞬間、光が強くなり始めた。真っ暗な空間がその光でどんどん明るくなる。周りが見えるようになっても光はとどまることを知らずに強くなり続け、俺はあまりの眩しさに目をつぶった。

そして、俺の身体は、その光に包まれた。

331: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 22:08:52.41 ID:qBXA+0C0o
目をつぶって十数秒が過ぎると、鼓膜がわずかな空気の振動を捉える。

これは、音だ。音が聞こえる。耳がきこえる。HIROSHIMA?

その音はすぐに大きくなり、その正体がざわめきであることに気づく。

ザワザワ……。

光で目が潰れないかと思いながらまぶたを開くと、そこにはただっ広い何もない空間と、数えきれない程の人の姿があった。

八幡「……なっ!?」

334: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 22:17:30.10 ID:qBXA+0C0o
八幡「何だよ……ここ……!」

真っ白い世界に集められた人々。十や百じゃきかない、何十万、何百万もの人が集められているように見えた。実際はもっと多いのかもしれない。

??「また会ったな。比企谷」

突然、後ろから話しかけられ、思わず全身に電流が流れたかのように震える。

八幡「!?」

その声には聞き覚えがある。――というか、ついさっき聞いたような……?

八幡「貝……木……?」

貝木「お前みたいなやつに呼び捨てされるとは酷く心外だな」

八幡「ここは……一体……?」

336: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 22:29:05.36 ID:qBXA+0C0o
貝木「挨拶よりも先にまず質問か。少しくらい礼儀を知ったらどうなんだ?」

八幡「……コンニチハ」

貝木「……まぁいい。ここが何なのか知りたいか?」

八幡「知ってるのか?」

貝木「教えてやる。金を払え」

八幡「言うと思ったよ。……金なんかねぇ」

貝木「だろうな。まぁ俺も金を請求するはない」

八幡「?」

こいつが金を要求しない? 何を考えているんだ?

338: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 22:51:18.08 ID:qBXA+0C0o
貝木「ここにおいて金など無意味なんだよ。いくら手に入れようが、手に入らない」

八幡「……?」

貝木「ここでは金よりもよっぽど情報の方が価値が上だ。ここで金があっても使えないからな。情報が金銭の価値の代替になっていると言ってもいい」

八幡「はぁ……」

貝木「だから俺はお前から金を取らない。その代わりに知っている事を話せと言っているんだ。それに見合うだけの情報を俺も与えよう」

八幡「とは言っても俺も何も知らないんだが……」

貝木「俺の聞きたい事は後に回す。その方が効率がいいからな」

340: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 22:55:34.66 ID:qBXA+0C0o
貝木「あらら……じゃないな。比企谷、お前はここが何だと思う?」

八幡「……死後の、世界?」

貝木「なるほど、お前にはここが天国に見えるわけか。ならずいぶんとめでたい奴だ」

八幡「じゃあ逆に何だって言うんだよ……」

貝木「あくまでも俺の予想だが、臨死の世界じゃないかと俺は考えている」

342: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 23:14:36.79 ID:qBXA+0C0o
貝木「臨死という言葉くらいは知っているだろう?」

八幡「ああ、死にかけ状態で生きてるとも死んでるとも言えない、みたいなやつだろ?」

貝木「そんな感じの解釈でいい。俺がここにいる奴らから聞いた話を統合すると、全員死にかけてここに来ている。車に引かれたり、高いところから落ちたりとかな」

八幡「あんたも、何かあったのか?」

貝木「職業柄危険と隣り合わせでな」

貝木は頭を指差す。何が原因かわからないが、頭をやったらしい。

貝木「お前はどうしたんだ、比企谷?」

344: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 23:34:23.03 ID:qBXA+0C0o
八幡「電車にはねられた……みたいだ」

貝木「みたい……か。死ぬ理由なんて唐突でわからないものだ。気にしなくてもいいだろうよ」

八幡「別に気にしてなんかいねぇよ。ただ……」

貝木「ただ?」

……一色は無事なのだろうか。それだけが、気がかりだ。俺と違ってあいつはいろんなやつに好かれている。敵が多いのはきっとそのせいなのだろう。だから、あいつが無事であればいいと思う。あいつが死んで、俺が生き残ってしまうよりも、よっぽどいい。

八幡「……いや、何でもない」

346: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 23:37:00.03 ID:qBXA+0C0o
貝木「ここはあくまでも臨死の世界で、誰も死んではいない。だからここから生きて戻るか、そのまま死ぬかは運次第って事だ」

八幡「なら、俺もあんたも死なずに済むかもしれないのか?」

貝木「そういう事だ」

できる事なら生きて元の世界に帰りたいと思う。しかし、それを恐れているのも事実だ。

もしも俺が一色を救えていなかったとしたら……。

俺は生き延びる事ができたとしても一生それを悔やみ続けるだろう。

348: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 23:40:41.48 ID:qBXA+0C0o
いつか葉山に言われたっけな。

『もう、やめないか。自分を犠牲にするのは』

違う、違うんだ。

俺は誰かが傷つくのを見たくないだけなんだ。

誰かが傷つき、何かが失われた世界で生きたくない。それだけなんだ。

もしも一色が俺のせいでいなくなってしまったら、そんな自分を責めずにはいられないだろう。

だから俺はあんな無茶な事をした。それは一色のためではない。結局は自分のためなんだ。

誰かが傷つくくらいなら、自分でそれを負う。

自分の姿は、自分では見えないのだから、傷は見えない。

350: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 23:42:26.37 ID:qBXA+0C0o
八幡「……俺は、戻れるのか?」

貝木「わからんな。ただもしも戻れたなら、この情報料を俺に払え」

八幡「あんたも死にかけてんだろ」

貝木「ああ、そう言えばそうだったな」

貝木は苦笑をする。まるで何かが噛み合わないような話し方だ。

貝木「お互い戻れたら払えよ? 利子はつけないでおいてやる」

八幡「……わかったよ」

参ったな。これじゃまた三万飛ぶのか? 俺の錬金術じゃ間に合わないぞ。

貝木「俺は他にも調べる事があるからな。ここでお別れだ」

八幡「ああ」

八幡「……運次第、か」

352: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/24(水) 23:49:12.66 ID:qBXA+0C0o
ピッピッピッ……

いろは「先輩……」

あの後すぐに病院に運ばれた先輩は、即手術を受けました。

幸いひかれた訳ではなくて、掠っただけだったみたいですけど、それでも打ち所が悪かったみたいで……。

まだ生きているみたいですが、目覚めるかどうかはわからないようです。

小町ちゃんが一番に駆けつけて、先輩がベッドでたくさんの管に繋がれてるのを見て泣き出しちゃうのを見て、胸が酷く痛みました。

私のせいで……先輩は……。

そもそも私が先輩に無茶な事を言わなかったら、こんな事にならなかったのに……。

いろは「先輩……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

自然と涙がこぼれる。これはきっと、後悔の涙だ。

355: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 00:08:05.27 ID:u8dzVdvjo
いろは「先輩……どうしてあの時、助けてくれたんですか……?」

いろは「あんなの、無理だって、先輩もわかっていたはずなのに……!」

いろは「……なんて聞いたら、先輩はまた自虐的な事を言うんでしょうね。『お前の方が人から必要とされてる』とか言って」

いろは「でも、違うんですよ。先輩」

いろは「私なんかよりもずっと、先輩の方が人から好かれてるんですよ」

いろは「それに気づかないまま死んじゃったら、私、許しませんからね……!」

いろは「先輩……起きてくださいよ……!」

いろは「いつもみたいにくだらない変な事、言ってくださいよ……」

いろは「先輩と一緒にいるの、嫌いじゃなかったんですよ……?」

涙と、言葉が、止まらない。どうしても伝えずにはいられなかった。いなくなってしまったら、二度と伝えられないから。

いろは「……ずっと思っていて、言えなかった事を言いますね」

357: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 00:11:24.81 ID:u8dzVdvjo


葉山『なるほど……そんな事が……』

いろは『……無理強いはできないですけど、よかったら一回だけ……なんて』

葉山『好きな相手って、言ったよな?』

いろは『えっ? あっ、はい。そうですけど』

葉山『なら、きっと俺じゃいろはを助けられない』

いろは『な、何でですか!?』

葉山『本当はいろはだって気づいているんじゃないのか? 君が本当に助けを求めるべき相手が誰なのか』

いろは『それってどういう……』

葉山『わかっていようがいまいが、どちらにしろ俺は何もしない。そもそも何もできないんだからね』

会話はそれで打ち切られた。あの時の私でも、葉山先輩の言いたい事はわかった。それを認める事はできなかったが。

それでも、今は――。




359: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 00:25:03.30 ID:u8dzVdvjo
いろは「先輩は本当に良い人です」

いろは「どんな人だって助けてしまう」

いろは「きっと傷つく、という事が何なのかを知っているから」

いろは「その痛みがどんなものか知っているから」

いろは「だから先輩は、みんなを助けたいと思ってしまうんでしょうね」

いろは「……私も含めて」

いろは「先輩は本当に優しい人です」

いろは「だからなんですかね、私が――」



いろは「――先輩の事が、好きになっちゃったのは」



いろは「あーあ、言っちゃったなー。どうせ聞かれてないからいいですけど」

八幡「…………」カァァッ

いろは「」

361: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 00:33:57.95 ID:u8dzVdvjo
いろは「あの……どこから……?」

八幡「俺は、何も、聞いて、ない……」

いろは「いや、嘘だってバレバレですから。それで、どこから、聞いてたんですか……?」

八幡「……謝ってたところ辺りから」

いろは「それほとんど全部じゃないですか!?」

八幡「…………」プイッ

いろは「あーーー!! すごい恥ずかしいんですけど!?」

八幡「知るか! 俺もめちゃくちゃ恥ずかしいんだよ!!」

365: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 00:48:59.24 ID:u8dzVdvjo
いろは「知りませんよ!! 起きるなら起きるって言ってから起きてくださいよ!!」

八幡「無茶な事を言うなよ……」

いろは「本当にもう、先輩は、先輩は……っ!」

いろは「……っ、よがっ……だ……でず……っ」グズ…

いろは「先輩が……このまま死んじゃったら……どうじようって……ずっと思ってて……っ」

八幡「…………」

いろは「だから……本当に……っ、戻ってきてぐれて……っ!」

八幡「……悪かった。心配かけちまったな」

いろは「いえ……私の方こそ……。今まで無茶苦茶な事ばかり……」

368: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 00:53:12.41 ID:u8dzVdvjo
八幡「いいんだよ、んな事は。結果オーライだ」

いろは「でも、先輩の足、折れちゃったんですよ?」

八幡「誰も死ななかったんだ、それだけで十分だろ。それに骨折には慣れてる」

高校入学初っ端からやらかした俺からしたら、こんなのチョロいしな。

八幡「だから、気にすんな」

いろは「でも、せんぱ――」

??「あーっ!! ヒッキー起きてるー!!」 

377: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 23:09:17.93 ID:KAaumE42o
八幡「お……由比ヶ浜か」

結衣「お……じゃないよ!! 電車にひかれたって聞いてすごい心配したんだよ!?」

八幡「……すまん」

雪乃「それでも、無事でよかったわ」

八幡「足一本折れてるけどな」

雪乃「あら、あなたなら片足でも生活できるんじゃないの、一本足谷くん?」

八幡「俺をどこぞの野球のスターみたいな言い方するな」

雪乃「正確には打法よ?」

八幡「知っとるわ」

379: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 23:19:38.14 ID:KAaumE42o
小町「あーーーーー!!!!」

八幡「よう」

小町「お兄ちゃんいつ意識戻ったの!?」

八幡「今さっきな」

小町「ついさっきなの!? ……よかった……大丈夫だったんだ……」グスッ

八幡「……何か、いろんなやつに迷惑かけちまったみたいだな」

結衣「そうだよ! だからもっと自分の事大事にしなきゃダメなんだよ!?」

八幡「あぁ……、本当にすまないと思ってる」

いろは(……先輩にもしもの事がなくて、本当によかった……。)



ピッピッピッ……



いろは「……zzz」スヤスヤ

382: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 23:26:08.98 ID:KAaumE42o
ピッピッピッ……

いろは「……うーん」スヤスヤ

いろは「よかった……本当に……」ムニャムニャ

ビクッ

いろは「はっ……。何だ、夢か……」バッ

いろは「まだ……意識戻ってないんですね……」

ピッピッ……

ピーーーー

いろは「!?」

385: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 23:31:06.06 ID:KAaumE42o
一時間後

結衣「……嘘だよね? ただ眠ってるだけなんだよね……?」

雪乃「由比ヶ浜さん……」

結衣「ねぇ、嘘って言ってよヒッキー! 冗談だとしても笑えないよ!!」

雪乃「……!」ガッ

結衣「離して、ゆきのん! ヒッキーは……ヒッキーは……!」

雪乃「気持ちはわかるわ、それでも、今は、落ち着いて……!」

結衣「いやだよ!!」

雪乃「由比ヶ浜さん!」

結衣「!!」

387: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 23:33:58.35 ID:KAaumE42o
小町「お兄ちゃんは……本当に何で……」

結衣「…………」

小町「馬鹿だよ……大馬鹿野郎だよ……」

小町「こんな良い人たちを泣かすなんて……本当にゴミいちゃんだよ……!」ポロポロ

結衣「……っ、ひっく……ひっきぃ……っ!」

雪乃「比企谷くん……あなたって人は……!」ギリッ

小町「帰ってきてよ……帰って来てよぉ……っ! おにいぢゃん……!!」

389: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 23:43:57.76 ID:J6fuTN5Ho
いろは(…………)

いろは(……私の)

いろは(私のせいだ……)

いろは(私のせいで、先輩は……! 私のせいでみんなが……!)

いろは(私のせいで、私のせいで、私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで……!)

いろは「……もしも神様がいるのなら、言わせてもらいます……」

いろは「こんなの……ないですよ……!」

いろは「こんなの! こんなのっ!!」

結衣「この声……いろはちゃん……?」

いろは「お願いします……一生このままでもいいです……先輩と結ばれなくてもいいです……二度とわがままも言いません……!」

いろは「何でもしますから……先輩を助けてくださいよっ!!」

391: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 23:49:57.50 ID:J6fuTN5Ho
八幡「……運次第、か」

貝木「あ、聞き忘れてた事があったな。比企谷、俺が最初に出した条件を覚えているか? その質問がまだだった」

八幡「えっ、あー、そんな話あったっけな」

貝木「なるべく正確に答えてくれ。比企谷、お前が死にかけたのは『いつ』で、『どこ』だ?」

八幡「は? 何でそんな事を」

貝木「俺の情報に対する対価だ。理由なんかどうでもいいだろ」

八幡「……あんたと出会って数時間後、学校の近くの踏切でだ」

貝木「そうか……ここで一年か……。場所は、あまり関係ないようだな……」

八幡「?」

394: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/25(木) 23:58:30.51 ID:J6fuTN5Ho
貝木「これで俺も目的を果たせた。じゃあな、またどこかで会おう」

八幡「何が聞きたかったのかよくわからんが、じゃあ」スッ

八幡「!?」

別れの間際に手を上げる事はよくある事だろう。しかし、その手が透けるなんて事は滅多に起こる事じゃない。

八幡「手が……!」

貝木「……そうか……残念だったな。お前は、死ぬようだ」

八幡「そんな……! 嘘だろ……?」

貝木「嘘じゃない。俺は何人もここでそうやって消えていく人間も見てきた」

396: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 00:07:36.59 ID:J/fg/pwIo
八幡「元に戻れる可能性は……」

貝木「……さぁな。八割くらいがお前みたいにゆっくり消えていき、残りの二割は一瞬で消える。どっちが死ぬ方かは、明白だろう」

話している間にも、どんどん身体が薄くなっていき、それと一緒に力も抜けていく。

八幡「くそ……っ、納得できるかよ……こんなの……!!」ガクッ

もう、立っている事すらできない。

貝木「じゃあな、比企谷八幡」

八幡「まだ死にたくねぇよ……!」

貝木「…………」

八幡「まだ……俺は……」

八幡「……ろ……は……」

八幡「…………」

そうして、俺は、消えた。

399: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 00:14:33.94 ID:J/fg/pwIo
比企谷のおかげで、俺の仮説の信憑性が増した。

この世界はきっと、臨死の世界だ。生きてもいない、死んでもいない、そんな中途半端な奴らが集められた一時的な場所に過ぎない。

コンピューターで言うなら、種類関係なくとりあえず集められるゴミ箱のようなものだ。

元に戻る事も、消される事も、どちらも可能な場所。

そしてこの世界で何よりも異様なのは――

――時間の概念がない、という事だ。

402: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 00:31:48.54 ID:J/fg/pwIo
―――
――



あいつがこの世界にいるなんて確証はない。

それでも、今、俺は見つけなければならないのだ。あの男を。

貝木「この『時間』にもいないとなると、諦めるしかないかもな……」

その瞬間、見覚えのある髪型が見えた。あんな髪型をしているやつを、俺は『二人』しか知らない。

貝木「よぉ、やっぱりいたか」

??「ん? 誰だ、お前?」

404: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 00:39:42.52 ID:J/fg/pwIo
カンカンカンカン……

踏切の音が鳴り始め、遮断機がゆっくりと下がり始める。

ゴッガチャッカラカラ……。

半分まで下がったところでペンダントが地面に落ちる。そこは、踏切の中だ。

遠くから音が聞こえる。あと少しもしないうちに電車が来る。

一色の入ったペンダントは線路の上。

このままだと、どうなる?

八幡「くっ……!」ダッ

重い身体を無理矢理に動かし、走り出す。もう一刻の猶予もない。

八幡「はぁ……っはぁ……っ!」

カンカンカンカン……。

耳に入るのはやかましい踏切の音と、

プワーン。

電車が確実に近づいてきている音だけだ。

あともう十歩で踏切だ。中にあるペンダントは開いていてそこから一色の顔が見える。今にも泣き出しそうな顔だ。

周り360度見えるんだっけ? なら、電車が近づいてきているのが見えているのかもな。俺には見えないが。

今の俺には、一色しか、見えない。

電車の音がどんどん大きくなる。心臓の鼓動のスピードが一歩進むごとに早くなる。

間に合え、間に合え、間に合え――!!

黄色いバーをくぐり、思いっきり地面を蹴る。



八幡「いろはぁっっ!!!!!」



右手を伸ばし、もう一歩地面を蹴る。一瞬視界の隅に何か鉄の塊が映ったのは気のせいだと思いたい。

ガシッ!

掴んだ。確かに今俺は何かを掴んだ。手の中には光沢による光が見える。よかった……間に合っ……

??「危ないっっ!!!」

407: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 00:53:25.70 ID:J/fg/pwIo
彼、おそらく男であろうその人の声が聞こえた瞬間、俺の身体に強い衝撃がかかる。それは、電車が向かってくる方向からではなく、後ろからだった。

その衝撃のせいで身体が宙に浮き、一瞬遅れてまた身体に衝撃が走る。これは、地面……?

八幡「いつつ……」

??「危ないだろ、あんないきなり踏切の中に入ったら」

八幡「……すいません。助かりました……」

右手を見ると、そこにはちゃんとペンダントが握られている。開いてみると、中にはちゃんと一色もいて無事のようだ。

??「まぁ助かったからいいようなものを。あんな無茶をすると、親が悲しむからな。二度とするんじゃない」

八幡「本当に、ありがとうございました」

深く頭を下げる。この人がいなかったら今頃どうなっていたか……。

八幡「……?」

頭を下げながら、命の恩人の服装を見てみる。着ているのが制服であるから、この人も俺と同じ学生のようだ。しかし彼が着ている制服はあまりこの辺では見かけない。

八幡「あの……あなたは?」

??「僕かい? 僕の名前は阿良々木暦っていうんだ」

409: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 00:58:14.64 ID:J/fg/pwIo
阿良々木暦とは、西尾維新作の〈物語〉シリーズ、およびそれを原作としたアニメの主人公である。

ニコニコ大百科より抜粋

412: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 01:05:15.85 ID:J/fg/pwIo
時間の概念がないとはどういう事か。

俺が死にかけたのは、比企谷と会って『一年後』の冬の事だ。何があったかなんてのは、この際言わないでおこう。

しかしあいつは、自分が死にかけた――いや、もう死んだのか、死んだのは『俺と会った直後』だと言った。

他の人間にも聞いたが、少しずつ、その時間はズレていた。俺の主観の時間軸で言ったら、一ヶ月前、三ヶ月前、のように。

最初にいる場所から離れれば離れる程、その時間のズレは大きくなる、という法則も見つけた。

比企谷の前に聞いたやつも、俺主観で一年前に死んでいた。

よって、導かれる結論は。

この世界において、『時間』とは、『場所』なのだ。場所を移動すればする程に、時間も移動する。

この世界に、時間の概念はない、と言うのはそういう意味では間違っていると言えよう。

414: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 01:08:05.24 ID:J/fg/pwIo
これから俺のする行動は、あくまでも俺自身のためだ。

俺が俺である事に矛盾を生んではいけない。

あのペンダントの件の後に、俺は一度だけ比企谷に会った事がある。

つまり、俺と出会った直後に死んでいてもらっては、死んで既に現実にいないはずの人間に俺は会ってしまった事になる。

その矛盾で、何が起こるのかはわからない。ただ、それで俺の存在が消えるなんて安っぽいSF的なオチはゴメンだ。

……ついでに俺も助けてもらえないだろうか。無理だろうな。

416: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 01:14:28.83 ID:J/fg/pwIo
貝木「……久しぶりだな、阿良々木」

阿良々木「僕はお前に会った事ないぞ?」

貝木「そうか。そうだろうな。こんな『時間』にいるくらいだ。納得できる」

阿良々木「何を言っているんだ? どうして僕の名を知っている?」

貝木「タイムマシンに乗って来たって言ったら信じるか?」

阿良々木「信じないな」

貝木「だろうな。俺も信じない」

418: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 01:16:38.24 ID:J/fg/pwIo
貝木「俺はお前に一つ頼みごとをしに来たんだが、その前に一ついいか?」

阿良々木「何だよ。僕は今わけのわからない場所に連れて来られたせいで混乱しているんだ」

貝木「……ここに来る前に何かしなかったか?」

阿良々木「あぁ、そう言えば、トラックにひかれそうな女の子を助けようとして……」

貝木「…………」

こいつは、本当にいつでも変わらないようだ。 

436: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 23:17:21.49 ID:k3hDMlqco
この男も死にかけてここにいるのだろう。しかし、そう簡単に死んでしまうような奴だと俺は思えないし、もしこのままそうなるのなら、俺にできる事はもうなくなってしまう。

貝木「一つ頼まれてくれないか」

だから、こいつに託そう。

阿良々木「何だよ、今の僕にできる事なんか少ないぞ?」

貝木「いや、今でなくていい。……この『時間』だから、お前は中学三年か?」

阿良々木「そうだけど、だから何でお前は僕の事を知ってるんだよ?」

貝木「タイムマシンに乗って来たんだって言ってるだろう」

阿良々木「そんなの信じられるか!」

439: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 23:26:57.90 ID:k3hDMlqco
貝木「いいから聞け。じゃなきゃお前の妹を、今度は殺すぞ」

今度は、と言っても、こいつにはわからないだろう。

阿良々木「……!?」

貝木「黙ったな、それでいい」

阿良々木の思考が飛んでいる間に、比企谷が死にかけるであろう場所と時間を告げた。

貝木「そこに来るお前と同じ髪型の比企谷って奴を助けてやってくれ」

阿良々木「何で僕がそんな事を――」

貝木「お前以外に助けられる人間がいないんだ。もしもそいつが死んだらお前の責任だぜ?」

阿良々木「…………」

こいつはこう言われれば断る事ができない。我ながら卑怯なものだ。

441: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 23:34:38.81 ID:k3hDMlqco
阿良々木「でも、二年後なんだろ? 忘れてしまうかもしれない」

貝木「忘れないさ、お前なら。じゃあ二年間忘れないようにな」

忘れるな、よりもこういうセリフの方が強い事もあるんだぜ? 相手にもよるがな。このセリフのせいでこれから毎日こいつは俺との約束を思い出すだろう。まぁ、なんだ。たったの二年間だ、大した事はない。

阿良々木「わかった。最善を尽くすよ」

貝木「頼んだぜ。……ついでにお――」

阿良々木「なん――」フッ

……俺の分も頼もうとした瞬間、阿良々木は消えた。消え方から察するに、やはりあいつは生き残るようだな。他人の分は頼んで、自分の事を疎かにするとは……。

貝木「……馬鹿な奴だな、俺も」

そう俺は一人苦笑した。

443: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/26(金) 23:51:06.45 ID:k3hDMlqco
八幡「阿良々木……」

阿良々木「そう。君は比企谷って言うんだろう?」

八幡「どうして……俺の……」

阿良々木「何年か前にね。君を助けてくれって頼まれたんだ」

何年か前? 意味がわからない。

八幡「……何年か前?」

阿良々木「タイムマシンに乗って来たとか言ってたな」

八幡「はぁ?」

タイムマシン? この人ちょっと痛い人なの?

阿良々木「でも本当にそうだとしても不思議じゃないだろう? 君がここで死にかけるのを予知していたんだ」

八幡「…………」

タイムトラベラーか。この人の言っている事が本当なのだとしたら、その可能性は否定できない。

446: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 00:02:01.60 ID:e3ZyGotno
八幡「てか、それ誰すか?」

阿良々木「そう言えば名前は聞かなかったな……。どこで会ったかも忘れたし、もう顔も覚えてない」

八幡「そうなんですか……」

阿良々木「さて、僕はもう帰るとするかな」

八幡「ま、待ってください。俺、まだお礼も何も……」

阿良々木「いいんだよ、さっきのお礼の言葉で十分だ。それに僕としても、この二年間ずっとこの日を待ち続けていて、ようやく胸のつっかえが取れたような気分なんだ」

八幡「はぁ……」

阿良々木「じゃあ、僕はもう行くよ」ダッ

ビュゥゥゥゥウウウウウン……

八幡「はやっ!」

448: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 00:05:52.18 ID:e3ZyGotno
八幡「……嵐のような人だったな」

いろは「まるで漫画かアニメのヒーローみたいな人でしたね……」

八幡「それより、大丈夫か?」

いろは「えっ?」 

八幡「いや、投げられてただろ」

いろは「あ、全然大丈夫です! むしろ先輩の方が……」

八幡「いや、俺もだ。あの人が上手く庇ってくれたおかげでほぼ無傷と言ってもいい」

いろは「そうなんですか……よかったです……」

八幡「流石の俺も死ぬかと思ったわ」

これはマジで思った。走馬灯みたいの見えかけたもん。一瞬戸塚も見えたし。天からのお迎えだったのかもしれないな。やだ、戸塚マジ天使。

450: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 00:11:23.57 ID:e3ZyGotno
いろは「先輩」

八幡「ん?」

いろは「ありがとうございました……!」ペコッ

ペンダントの中の一色が深々と頭を下げる。こいつがこんなに素直に礼を言うなんて、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。

いろは「先輩が助けてくれなかったら……私……っ!」

八幡「……正確には俺というよりもあの人が助けてくれたっていう方が近いけどな」

いろは「でも、先輩があの時走り出してくれなかったら、私は今頃粉々になってたと思います」

だから――と、一色は続ける。

いろは「本当に……ありがとうございました……!」

453: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 00:21:11.25 ID:7w6gCOcqo
八幡「……顔、上げろよ」

いろは「…………」スッ

八幡「別に、礼を言われるような事はしてねぇよ。ただ俺は……」

俺は? 俺は今、何と言おうとしたのだろうか。

八幡「……いや、何でもない」

いろは「そこで切っちゃうのは生殺しですよ、先輩」

八幡「悪いな。俺も忘れちまったんだ」

いろは「む~。でも今日はあんまり強く言えないですし、諦めますよ」

八幡「今日だけなのかよ」

455: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 00:27:23.74 ID:7w6gCOcqo
八幡「そういや、さっきの奴らは……」

と、その方向を見てみる。予想通りと言うか、そこには誰もいない。

八幡「やっぱ逃げたか」

いろは「先輩が踏切に飛び込むのを見て、逃げていきましたよ」

八幡「くそ……あいつらめ……」

だからバカは嫌いなんだ。話が通用しない奴ら程、うざったい存在もいない。

いろは「まぁ、お互い無事だったんですし、いいじゃないですか♪」

八幡「……そうだな」

457: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 00:35:37.81 ID:7w6gCOcqo
八幡「てか忘れてたけど、お前どうすんだ?」

いろは「はい?」

八幡「いや、明日の夜までにどうにかしなきゃいけねぇんだろ」

いろは「あ~、そう言えばそうでしたね~。この短時間にいろいろありすぎて忘れてました」

八幡「おい本人」

いろは「…………」

八幡「?」

459: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 00:39:51.17 ID:7w6gCOcqo
どうすればいいのか全然わからないんですよね。

葉山先輩の言っていた事がわからないわけではありませんが、正直認めたくないのが本音です。

いや、私が先輩の事を好きなんて、あり得ません。

どうして私みたいな可愛い女の子が、先輩みたいなクズ人間を好きになっちゃうんですか?

まず目は腐ってますし。……まぁ顔は悪くないですけど。

性格も捻くれててちょっとないですし。……それでも優しかったりするんですよね。

あれ? さっきから何で良いところ探してるんでしょう?

もしかして本当に……



……いや、それはないです。



……ないですよね?



463: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 00:48:52.18 ID:7w6gCOcqo
次の日

八幡「結局何も思いつかなかったじゃねぇか! もう時間ねぇぞ!?」

いろは「そうですね……」

八幡「いやもっと危機感持てよ!? お前の問題なんだぞ!?」

いろは「わかってますよ……」

八幡「……ったく。葉山がダメなんじゃ他に手立てがないしな……。他に方法他に方法……」

結衣「ヒッキー!」

八幡「あ? 何だよ?」

結衣「今日は部室に来る?」

八幡「……最悪の場合は」

結衣「部室に来るのは最悪なの!?」

八幡「いや、そういう意味で言ってねーし」

いろは(相変わらずこの二人は仲良いですよね)

ズキンッ

いろは「……えっ?」

465: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 01:02:08.07 ID:7w6gCOcqo
いろは(今、一瞬、胸が痛かったような……)

結衣「また私の事バカにしてー!」プクー

八幡「してねーよ。本当だ。ちょっと頭があれだなーって思っただけだ」

結衣「やっぱりバカにしてるんじゃん!」

いろは「……っ!」

いろは(どうしよう、どんどん胸が痛くなる。ただ先輩が由比ヶ浜先輩と話してるだけなのに……!)

いろは(嘘、嘘、嘘、嘘。こんなの嘘。まるで私が先輩の事を好きみたいじゃないですか……!)

結衣「……だから、私とゆきのんのこと、頼ってもいいんだよ?」

八幡「あぁ、その時はよろしく頼む」

いろは(ダメだ、胸が痛くて仕方がない。どうして、先輩が他の女の子と喋ってると、こんなにも胸が痛くなるんだろう?)

いろは(こんなにも切ない気持ちになるんだろう?)

いろは(こんなにも……その相手に嫉妬しちゃうんだろう……?)

いろは(そんなのきっと……いや、認めたくない)

いろは(認めちゃったら……私は……)

467: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 01:15:34.09 ID:7w6gCOcqo
八幡「……ふぅ。参ったな……このままじゃあいつらに言うしかなくなるな」

いろは「……先輩」

八幡「何だ?」

いろは「少し、場所を移動しませんか?」

八幡「ここでも小声で話せば問題ないが」

いろは「いえ、行って欲しい場所があるんです」

八幡「……?」

何か思いついたのだろうか。一色がここまで言うのなら、きっとここでできない話なのだろう。

469: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 01:24:54.60 ID:7w6gCOcqo
ガララ

八幡「で、どこに行けばいいんだ?」

いろは「えっとですね――」

雪乃「あら、比企谷くん」

八幡「おう、雪ノ下か」

いろは(……このタイミングで二連続はやめてくださいよ)

雪乃「こんなところで何をしているのかしら? あなたには用事があるんじゃないの?」

八幡「教室で少し休んで、今から動き始めんだよ」

雪乃「あら、あなたは年中休暇中じゃなかったのかしら?」ドヤァ

八幡「確かに語呂はいいが、それでドヤ顔はどうかと思うぞ。あと、俺は一応学生だから週休二日制なんだよ。むしろお前の言うような状況を手に入れるために、専業主夫を目指しているまである」

471: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 01:44:07.79 ID:7w6gCOcqo
雪乃「どうしてそんなゴミのような発想しかできないのかしら……」

八幡「今、お前は全国の専業主夫志望の男子を敵に回したぞ」



いろは(また胸の痛みが……っ!)ズキンズキン

いろは(……もう、ダメです)

いろは(これ以上……自分に嘘をつき続けられないみたいです)

いろは(私は……私、一色いろはは……)

いろは(比企谷八幡先輩の事を……)

いろは(……好きになっちゃった、みたいです)

473: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 01:51:10.41 ID:7w6gCOcqo
初対面での印象はそこまで良くありませんでした。

腐った目、捻くれた思考、自虐的性格。

プラスの部分が目に付くよりも先に、マイナスの部分ばかりが目に映りました。

けれど、私は先輩に興味がわきました。だって、こんな人間が現実に本当にいるなんて、思いもしなかったから。

でも、そんな風に先輩と過ごしていって、先輩の事を少しずつ知っていくうちに、私は心のどこかで先輩に惹かれ始めたんだと思います。

今思えば、先輩は何回も私を助けてくれましたね。

生徒会選挙の時や、クリスマスイベントの時。

――そして、あの踏切の時。

あの時、私は『ヒーローみたい』なんて言いましたけど

あれ、実は先輩の事だったんですよ?

475: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 01:57:22.75 ID:7w6gCOcqo
もうダメだって、心の底から絶望し切った時に見えた、走ってくる先輩の姿が、どれだけ私の救いになったのかも――

心のどこかで惹かれている相手が、自分のために命を懸けて助けようとしてくれて、どんなに嬉しかったかも――

そして、その本人が自分の事を大切にしなくて、どんなに悲しい気持ちになったかも――

――きっと、先輩にはわからないでしょう。

477: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 02:04:16.88 ID:7w6gCOcqo
あぁ、気づいてしまいました。

何で好きになってしまったのかが、もうわからないです。

もう、今の私は先輩の全てが好きになってしまったんです。

あんなにも貶していた特徴ですら、愛しいと感じてしまう。

腐った目も、捻くれた思考も、自虐的性格も。

全てが、愛しい。

でも、気づいてしまったから、私はきっともう、元には戻れない。

479: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 02:12:19.16 ID:7w6gCOcqo
雪ノ下先輩も、由比ヶ浜先輩も、先輩の事が好きで、きっと、先輩も二人のどちらかの事が好きなんです。

少なくとも、その相手は私じゃないんです。

それに、あの二人は先輩の事を信じて、ずっとあの部室で先輩が来るのを待っていました。

それなのに、この数日ずっと先輩一緒にいた私が、『キスして』なんて、頼めるわけないじゃないですか。

そんなの、ズルいにも程があります。

だから、私は、もう、諦めましょう。

だって、口にしたら、先輩は私をまた助けてしまうから。

481: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 02:24:33.91 ID:7w6gCOcqo
八幡「で、話って何だよ」

一色が指定したのは、俺がこのペンダントを拾った場所だった。確かにここならあまり人も通らない。

いろは「もう、いいかなって」

八幡「はっ?」

いろは「私に元に戻る方法は、多分もうないんです」

八幡「何だそりゃ?」

いろは「だからもう諦めて、お父さんやお母さんに正直に話して、このまま生きていこうと思ったんです」

八幡「いや、いきなり何を言ってるんだよ。ついさっきまで、どうやって元に戻るかって話してただろ」

いろは「えぇ、でも、やっぱり無理なんですよ。だって――」

いろは「――今の私に、好きな人はいないんですから」

483: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 02:32:18.96 ID:7w6gCOcqo
八幡「はぁっ? 葉山はどうしたんだよ。あんなに好き好きアピールしてたじゃないか」

いろは「あれは、葉山先輩を好きになったわけじゃなかったんですよ」

八幡「じゃあ何なんだよ」

いろは「……恋に恋してたんですよ。私は私のステータスの補強のために、恋をしていた。いや、恋をしている振りをしていたんです」

八幡「…………」

いろは「だから……私は、元に戻れないんです」

八幡「んなの……」

いろは「今まで、ご迷惑をおかけしました……」

これで、終わりにしてしまおう。

485: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 02:37:34.09 ID:7w6gCOcqo
……おかしい。一見筋が通っているようで、いくつも論理が破綻している。

俺の知る一色いろはなら、元に戻るために何だってする。

もし、葉山の事が好きじゃなくなったとしても、代わりの別の誰かを意地でも好きになって、そこまでしてでも元に戻ろうとするだろう。

なのに、今の一色はそれとは真逆に、諦めようとしている。

そんなの、あり得ない。

俺がこの数ヶ月間見てきた一色は、そんな事をしない。

つまり、結論を言うと、一色いろはは嘘をついている。

487: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 02:56:50.38 ID:7w6gCOcqo
一色の態度が急変したのは、ついさっき、俺が由比ヶ浜と話し終えた辺りからだ。そして、その後には雪ノ下とも会って……。

……いや、その可能性を思いつかなかったわけじゃないよ? でもそんなのあり得ないじゃん? あるわけないじゃん? ジャンジャンうるさいな。立体機動上手いのか? てか誰に言い訳してんだ、俺。

あり得ない、あり得ない、あり得ない。

今までの黒歴史を思い出せ、比企谷八幡。俺は何度勘違いして心に傷を負ってきた?

そう、それはただの俺の願望で、ちっとも理論的仮説になり得ないのだ。

……でも、それ以外に今の状況にピタリと当てはまる仮説があるのか?

489: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 03:10:02.09 ID:7w6gCOcqo
どうせ今まで数えきれない程の黒歴史を生んできた俺だ。

今更一つ増えたって、何も変わりはしないだろう。

八幡「一色」

いろは「……何ですか?」

八幡「すまない」

いろは「先輩何を……んっ!?」

一色が突然の俺の謝罪に困惑した隙をついて、俺はペンダントにキスをした。



もっと正確に言うと。



俺は、一色の唇を奪った。




491: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 03:19:35.08 ID:7w6gCOcqo
冷たい金属の感覚が俺の唇を冷やす。あまりキスをしているような感じがしない。

一秒、二秒、三秒とおいて、ゆっくりと唇を離す。

ペンダントの中を見ると、顔を真っ赤にして俺を睨む一色がいた。

いろは「先輩……! 何やってるんですか……!」

その声は怒りで震えている。

いろは「どうして、私が必死でついた嘘も、先輩は……!」

八幡「……そりゃ――」

言いかけたその時、ペンダントが光り始めた。

いろは「何ですか……これ……!」

八幡「くっ……まぶし……っ!!」

光の強さはどんどん増していく。もう、目を開けてられない。

目をつぶる直前に、何かが割れるような音がした。

493: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 03:33:45.03 ID:7w6gCOcqo


いろは「先輩……先輩……!」

声が聞こえる。その声は確かに一色の声なのに、どこか違う気がした。

ゆっくりと目を開く。

いろは「先輩……」

目の前には、一色いろはの姿があった。彼女はもう、ペンダントに閉じ込められておらず、その身体は前までのようにペンダントの外にあった。声が違って聞こえたのはこのせいか。

八幡「一色……、元に、戻れたのか……?」

いろは「みたいです」

ふと、足元を見ると、そこにはさっきまで一色が入っていたペンダントが壊れて転がっている。

八幡「…………」スッ

屈んでそれを拾い上げて、一色の方へ向き直る。

八幡「……悪かったな」

いろは「本当ですよ。いきなりなんて、酷すぎます」

八幡「だから悪かったって」

495: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 03:47:38.34 ID:7w6gCOcqo
いろは「本当に悪いと思ってます?」

八幡「ああ、今すぐ土下座でもできるレベル」

いろは「なら……『見て見ぬ振り』、『気づいていて気づかぬ振り』をしないでくださいよ」

八幡「…………」プイッ

俺がペンダントにキスをする事によって、一色は元に戻れた。これが何を意味するか、わからない俺ではない。

あのペンダントの呪いが解けるのは、呪いの対象者が行為を抱いている相手がキスをした時のみ。つまり――

八幡「……っ!」カァァ

いろは「顔を真っ赤にしたいのはむしろ私の方なんですよ!?」

497: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 04:04:31.99 ID:7w6gCOcqo
それが何を意味しているかはわかる。ただ、どうすれば良いのかがわからないのだ。

だから、とりあえずさっきのが恥ずかしくて、目を逸らす。

いろは「はぁ……先輩……」

八幡「……おう」

いろは「私、さっきのが初めてだったんですよ」

八幡「へぇ……。……えっ?」

いろは「えっ、そういう反応なんですか?」

八幡「いや、ゆるふわビッチだしそれくらい経験あるのかと」

いろは「私は別にビッチとかじゃないですからね!?」

502: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 10:30:01.56 ID:BsEW25KCo
いろは「だから……」

一色は一歩、俺に近づき、両手を俺の胸に当てる。その距離はほぼくっついていると言っていい。

八幡「な……何だよ……」

いろは「責任、とってくださいね?」

そう言うやいなや、今度は一色が俺にキスをした。

一色の唇は、想像以上に柔らかく、そして、温かい。

あまりの衝撃に俺は動けなくなってしまった。

永遠とも思える一瞬が過ぎ、一色の唇が離れる。

それと同時に一色は一歩下がった。その目はまっすぐ俺を見つめている。

手を後ろに組んで、頬を染めながら、彼女はこう言った。

いろは「……お返しです♪」

その表情は太陽よりも輝いた、満面の笑顔だった。

505: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 10:58:14.69 ID:gLF/kDq3o
比企谷。俺がお前に話した事には一つ嘘がある。

あのペンダントの呪いを解くには、呪いの対象者が好意を持っている相手でないといけない言った。それが嘘だ。

本当に必要な条件は、二人がお互いに好き合っている事、つまり両想いである事だ。

お前はあの時、俺を騙しきったと思い込んでいたようだが、もちろんそんな訳があるわけないだろう?

今回の件からお前が得るべき教訓は、詐欺師を騙そうとするなど、神への冒涜にも等しいということだ。

まぁ俺は神など信じていないがな。



世にも
奇妙
な物語

507: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 11:04:56.18 ID:gLF/kDq3o
テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「人を想う感情」

タモリ「その力は私たちが普段思っているよりもずっと強大なものです」

タモリ「よってその力により訪れる結末は様々です」

タモリ「あなたもその強大さの波に溺れてしまわないように」

タモリ「お気をつけて」ニヤリ

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン

516: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 14:31:56.22 ID:fEov8AKGo
タモリ「この一月以上に渡ってお送りしてきた『世にも奇妙な物語』」

タモリ「いかがだったでしょうか?」

タモリ「一人の少年が迷い込んだ六つの世界」

タモリ「そのどれもが現実ではあり得ないと思われがちですが」

タモリ「事実は小説よりも奇なり」

タモリ「ふとした小さなつまづきから、そんな奇妙な世界に迷い込んでしまう事もないとは言い切れません」

タモリ「その扉は、あなたのすぐ隣にもあるのかもしれませんから」

タモリ「それでは、また」

https://www.youtube.com/watch?v=jsta3tEY43s



517: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 14:33:24.98 ID:fEov8AKGo
ストーリーテラー

タモリ



『世界は、材木座で出来ている』



比企谷八幡


材木座義輝


雪ノ下雪乃


由比ヶ浜結衣


戸塚彩加




材木座義輝×72億(友情出演)


脚本 作者




『白』



比企谷八幡


川崎沙希


由比ヶ浜結衣


三浦優美子


葉山隼人




平塚静


脚本 作者




518: ◆.6GznXWe75C2 2014/09/27(土) 14:34:23.25 ID:fEov8AKGo
『彼と彼女がそれに気づくまでの物語』



比企谷八幡


一色いろは


葉山隼人


比企谷小町


雪ノ下雪乃


由比ヶ浜結衣


阿良々木暦(友情出演)




貝木泥舟(特別出演)


脚本 作者




スペシャルサンクス


ここまで読んでくださった皆様


前スレから読んでくださった皆様


連投のできない作者のために支援レスをしてくれた皆様


俺ガイルという素晴らしい作品を世に生み出してくださった、渡航大先生


これまで俺ガイルSSというジャンルを作ってきてくださった、全ての俺ガイルSS作者様


総監督 作者


終わり


次回 八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語はまちがっている」いろは「特別編ですよ、先輩!」 後編