鈴「あっづー……」セシリア「な、何ですのコレは……」前編  


223: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/20(月) 00:06:25.62 ID:DzjRp3Qs0



鈴「……(はっ……ッたく暑い部屋ね……汗が出ちゃうわ……どうする、龍咆で扉ごと……?)」

ドンドンドンドン!!!


セシリア『鈴さん!鈴さん!』

鈴「!!!!」

ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!

セシリア『鈴さん!鈴さん!』

鈴「………………」

ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!

セシリア『鈴さん!鈴さん!』

鈴「……あんた、騙っちゃいけない人間騙ったってわかってる? 珍しく焦ってんの?」

ドンドンド……

セシリア『鈴さん!鈴さ――』プツッ


セシリア『…………』


鈴「…………」


鈴「入ってきなよ、そんな叩かなくても鍵はあいてるからさ。――シャルロット」


ガチャ……


ギィ……







シャル「こんにちは♪鈴。お見舞いに来たよ」






引用元: 鈴「あっづー……」セシリア「な、何ですのコレは……」 



224: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/20(月) 00:12:19.87 ID:DzjRp3Qs0



―― IS学園敷地内 林間部


セシリア「ええと……ラウラさん?」

ラウラ「黙ってついてこい……」

セシリア「どこへ行こうというのです?こんな……林の中まで……」

ラウラ「…………セシリア」

セシリア「なんですの?」

ラウラ「すまん」

セシリア「ひっ!?ななな、なんですのそのロープは!!!」

ラウラ「なにも言わず大人しく縛られてくれっ!」

セシリア「ちょっ!冗談じゃありませんわっ!」

ラウラ「すまない……本気だ!」

シュウン!

セシリア「これは……AIC!?本当に本気ですのね!?」

ラウラ「さっきからそう言っている!」

セシリア「ISまで出してくるなんて……その意味がお判りになりませんの!?」

ラウラ「……黙れ」

セシリア「問答無用というわけですのね……」

ラウラ「すぐに楽にしてやる!!」

セシリア「部分展開!?――来るッ!ワイヤー! ―― ティアーズ!」

ドシュドシュドシュゥ

ラウラ「くっ!ビットで迎撃されたか……!!」

セシリア「以前は不覚を取りましたが……技量差さえ埋まれば多面攻撃のできる私では相性最悪ですわよ?」

ラウラ「……くっ!やはり腕を上げているか!だが!」

セシリア「それが判っていながら……何故!!」

ラウラ「退けぬのだ!私もまた、友の為ッ!!!」




225: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/20(月) 00:20:00.75 ID:DzjRp3Qs0



ラウラ「一度ワイヤーを落としたくらいでいい気になるな!」

セシリア「何度でも落としますわ!」

ラウラ「忘れたか!シュヴァルツェア・レーゲンの装甲はそう易々と抜けん!」

セシリア「……両腕を展開……プラズマ刀……ッ」

ラウラ「ブルー・ティアーズなど所詮は五月蠅い羽虫!被弾前提であれば動けぬ女王蜂を潰せば終わりだ!」

ゴウッ

セシリア「……ラウラさんともあろうお方が……冷静じゃありませんのね」ボソ

ラウラ「なにッ!?」

ガゴッ!!

セシリア「ブルーティアーズは4基、ここにあるのは3基」

ラウラ「!!!(後頭部に打撃……!?まさかビットで……殴ってきた……?のか……!?)」

セシリア「いくらなんでも、もう1基が隠れているのは見え見えですのに」

ラウラ「く……そ…………こんな……撃たずに……ぶつけてくるなど」

ガクッ

セシリア「それでは絶対防御が発動して終わりでしょうね、だからぶつけたんですわよ」

ラウラ「………………お前にしては……荒っぽい……な」

セシリア「鈴さんの影響かしら?完全展開されてたら無理の奇策ですわね」

セシリア「もうAICは使えないでしょうけれど……申し訳ないですが、意識を刈らせていただきます」

ラウラ「……ふっ……そう……か……私の負けか」



―― ゴッガッガゴッ……

ドサッ



セシリア「笑いながら倒れられても結構困りますわ……」

セシリア「……全く、仕掛けるならもう少し、保健室の近くにしていただきたかったですわ」

セシリア「よい……しょっと……お、重っ!!??」

ガシャガシャガシャ

セシリア「」




セシリア「こっ……この撮影道具と色々アレな道具は……か、勝てて良かったですわ………」ガクブル






====RESULT====

○セシリア・オルコット [1分3秒 ビット殴り] ×ラウラ・ボーデヴィッヒ






226: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/20(月) 00:37:11.23 ID:DzjRp3Qs0




―― 保健室


簪「……大丈夫、軽い脳浸透……じきに目を覚ますわ」

セシリア「助かりましたわ、保険の先生がいなくてどうしようかと」

簪「いえ……オルコットさんと……ボーデヴィッヒさん、よね?一組の」

セシリア「……そういえば、あなた確かタッグマッチの時の……」

簪「ええ……更識 簪……」

セシリア「改めてよろしくお願い致しますわ、私はセシリア・オルコット。イギリスが誇るブルー・ティアーズの操縦者。代表候補生ですのよ、そちらはドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

簪「……知ってるわ」

セシリア「あら!そうですわよね!私を知らないなんて。何せ私、エリィートですものね!」

簪「いえ……対戦するかもしれない相手だったから……中止になってしまったけれど」

セシリア「……ああ、そうでしたわね。全く今年の行事は尽く中止続きですわね」

簪「…………あの」

セシリア「なんですの?」

簪「……喧嘩?」

セシリア「ええ、でも、彼女は仲間でもありますの。遺恨は無い……と信じていますわ」





227: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/20(月) 00:38:50.68 ID:DzjRp3Qs0



―― 鈴の部屋


シャル「やだなぁ、鈴……!部屋の中で部分展開なんかして」

鈴「あんただってしてるじゃ……!」

ドンドン!!

ギギン!

シャル「……何言ってるの?……僕は『今』何か持ってるかい?」

コツ…コツ…

鈴「っ! 高速切替……!」

シャル「いいから、さ。いいかげん大人しくついてきてよ。この部屋暑くって……」

鈴「くっ……意味わかんない!あんたどうかしてんじゃないの!?」

シャル「……どうかしてるのは鈴たちじゃないか」

鈴「…………ちょっと、ちょっと待ちなさいよ!たちって……まさかセシリアに!!」

シャル「――ふっ!!」

ダッ!

鈴「――しまっ……甲龍!!」

ドズン!!!

鈴「――ッ!!(盾……殺し……!)」

シャル「恨むならセシリアだよ。個人的な喧嘩に一夏を巻き込んで」


鈴「かはっ……」

ガクッ

シャル「……流石甲龍、ううん、流石は代表候補生、部分展開でも灰色の鱗殻で意識を飛ばさなかったね」

鈴「セシリアに……何を……」

シャル「さぁ?でも安心してね、ちょっと言う事を聞いてくれるようにするだけだから」

鈴「……あんた……あんたはっ!」

シャル「さ、鈴……箒が待ってる」

スッ……


鈴「クッ……セシリア……セシリアァァーーッ!!!」

ドズン!!!

ドズン!!!






ドズン!!!



====RESULT====

○シャルロット・デュノア [12分10秒 灰色の鱗殻] ×凰 鈴音




228: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/20(月) 01:05:01.68 ID:DzjRp3Qs0



―― 保健室


簪「あの……もう一つ……いい?」

セシリア「ええ、何でも答えて差し上げますわ?何せ私、エリィィートですから」

簪「…………織斑君……一夏…くんとは、どういう」

セシリア「は?………………ああ……」ハァ……

簪「ど、どうしたの……?」

セシリア「いいえ……何人目、ですの……?」ハァ……

簪「えっ」

セシリア「頭の痛い話ですわ……」

?? <<ザザッ>>

セシリア「……今のは……?聞こえまして?何かしら」

簪「……オープンチャンネルね、はっきり聞こえた。倉持技研のセンサーは高感度なの」

簪「……あなたの名前を呼んでいるように聞こえました」

セシリア「……まさか、鈴さん!?」

簪「オルコットさん!待って……!場所は判るの?」

セシリア「っ……でも!」

簪「ご一緒します。ただ事では無いようですから」



ラウラ「……」




233: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/20(月) 23:46:11.21 ID:DzjRp3Qs0


―― シャルロットとラウラの部屋



箒「くっ……このロープ……さえ!!」

ガチャ パタン


シャル「やぁ箒、楽しんでるかい?」

箒「貴様、シャルロット……こんな事をして!!」

シャル「ただで済むよ」

箒「なっ……」

シャル「別に箒が何も言わなければいい話さ……違うかい?」

箒「こんな事をされて、私が黙っていると……!」

シャル「鈍いなあ……そんなんだから一夏がいつも怯えるんじゃないか」

箒「い、一夏は関係ないだろう!!」

シャル「関係あるよ、僕の全ては一夏の為、僕は一夏の為なら悪魔にもなれる」



234: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/20(月) 23:57:03.27 ID:DzjRp3Qs0


箒「それと私が話さないことと何の関係が……」

シャル「はぁ……鈍い女、一夏は僕の幼馴染だったらもっと幸せだったのに」

箒「な……な、なな、何だと貴様!!言っていいことと悪いことが」

シャル「はいはい……うるさいなぁ、喚かないでよ……そんなに嬲られたいのかい?キミは三番目だよ」

箒「……一番はセシリアの事か……そういうお前の行動を何と言うかを教えてやろうか?シャルロット」

シャル「嫉妬、とかありきたりな事は言わないでくれるかな?」

箒「そんな高尚な物ではない。ただの、逆恨みというのだ。」

箒「一夏をどれほどの比重で想っていようが、大事なのは想いそのものの大きさだ」

シャル「何が言いたいんだい?僕の想いが小さいとでも?」

箒「ああ、小さく、狭い。私は今のお前には負ける気がしない」

シャル「っはは……灰色の鱗殻一発で意識飛ばした箒が言うとギャグだよ、それ!」

箒「今のお前に振り向く一夏はいないと言った方がいいか」

シャル「箒はちょっと手加減してあげようと思ってたんだよ?」

箒「何が手加減だ」

シャル「君は一夏の幼馴染だから。でも」

シャル「ラウラが戻ってきたら、鈴共々たっぷりと地獄を見て貰うから」

ドサ

鈴「ぐっ!……ううっ……ほう……き?」

箒「鈴!!」




237: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/21(火) 00:16:54.85 ID:qOrwNusL0

シャル「もう目を覚ましたんだ……呆れるタフさだね、少し炸薬の量が少なすぎたかな」

鈴「箒……あんた、どうして」

箒「私はセシリアが好きだからな、そして鈴、お前も」

鈴「……箒……」

シャル「感動の再会だね。じきにセシリアも来るよ、嬉しいでしょ?」






コンコン


ラウラ「……シャルロット」

シャル「あれ、ラウラ?早かったね」

ガチャ

シャル「!?」



238: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/21(火) 00:18:09.72 ID:qOrwNusL0



セシリア「……鈴さん!!鈴さん!!」

鈴「ぁ…………セシリア……どうして来てくれたの、私たち……」

セシリア「助けに来るのは当り前ですわ!!大切な仲間、大切な……私の友人を!!」

鈴「せし……セシ……リア」ポロポロ

セシリア「鈴さん……!」ポロポロ

簪「大丈夫……?」

箒「ああ、ありがとう……」

シャル「せ、セシリア……?? ラウラ、まさか……」

ラウラ「すまない、セシリアの成長を「僕を裏切ったのかい!?」

シャル「負けただけじゃなく!セシリア達をここに案内するだなんて!!信じられないよ!!」

箒「……シャルロット」

シャル「あんなに仲良しだったのに!ラウラ!どうして!!」

ラウラ「私は……」

簪「……ボーデヴィッヒさんは……裏切ってない。」

シャル「裏切りじゃないならなんだって言うんだい……っ!僕たちは二人で一夏の為に!」



240: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/21(火) 00:32:02.28 ID:qOrwNusL0



ラウラ「……ああ、わかっている……すまないシャルロット……私はお前の期待に……」

セシリア「――ッ!! 応える必要なんか、ありませんわ!」

ラウラ「セシリア……」

セシリア「シャルロットさん……あなた……どこまでラウラさんを、私たちを裏切りますのッ!?」

シャル「え?ぼ、僕……僕が?????」

セシリア「……ご自分で……気付いていらっしゃるのでしょう?!」

シャル「な……泣いてるのかい、な、泣きたいのは……」

セシリア「あなたがしている事は、一夏さんの否定ですわ!!」

シャル「……ぇ?」

セシリア「一夏さんの為と言いながら、あなたが傷つけているものは……!」

シャル「……」

セシリア「箒さんも、鈴さんも、ラウラさんも、私も、シャルロットさんも、そこにいる更識さんも……」

セシリア「みんな、一夏さんの大切な仲間ですのよ!!」

シャル「……」

セシリア「傷つける事が一夏さんの為なんて……他ならぬあなたの口からだけは聞きたくありませんわ!」

シャル「セシ……リ……ア……」

箒「立てるか?鈴」

鈴「いたた……ぅん……ありがと」

ラウラ「……シャルロット、私はそれをお前に教わった……私にとって……お前は……」

シャル「ラウ……ラ」

鈴「……ねえシャルロット。あまりさ、失望させないでよ……」

シャル「……り……ん」

箒「皆……お前を信じている。お前も仲間なのだから」

シャル「ほうき…… ――……っ!な、なんだって言うのさ!仲間だったら、見過ごせって言うの!?」

シャル「一夏が取られちゃうんだよ!?みんなそれでいいの!?」



241: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/21(火) 00:33:36.81 ID:qOrwNusL0


―― パーン!

シャル「ぶべら!?」



242: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/21(火) 00:34:43.83 ID:qOrwNusL0



セシリア「一夏さんを、見くびらないでくださいましっ!!」


シャル「な、な、な、何を言って……」

セシリア「一夏さんは、私の相談に乗って下さっただけですわ……」

セシリア「私昨夜はキメるつもりでしたのに!!」

箒「な、なんだと!!!……いやまぁ、大体予想はついたが」

鈴「一夏に期待するほうが……無理よ」

ラウラ「キメるとはなんだ?」

鈴「知らなくていいのよ……」

セシリア「コホン……私たち、仲間ですのよ。一緒に戦った、戦友ですのよ?」

セシリア「誰かが苦しいとみんなが苦しい……どうして、そうなる前に相談してくれなかったんですの?」

鈴「いや、相談内容の本人に相談しても……」

セシリア「さ、先程から!み、水を差さないでくださいましっ!」



243: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/21(火) 00:36:32.20 ID:qOrwNusL0



箒「まあ、正直一夏をセシリアに取られてしまいそうで……怖い気持ちはわかる……」

ラウラ「その矛先をセシリアに向けるのは、やはり違う」

シャル「……でも、そういってるセシリアも鈴も、僕にだけは相談しないじゃないか」

セ鈴「「だって、見返りが怖い」んですもの」

シャル「ひ、ひどいよ!?」

箒「だが、少し前にいつも一夏がセシリアの部屋の前で挙動不審で心配だって言っていたし……」

ラウラ「二人の弱みを握る為に恥ずかしい写真を撮るように言われたな」

シャル「そ、それは……」

箒「そんな事までしてたのか……一夏に関わる事になると本当に見境がなくなるな貴様は」

鈴「あたしらも人の事言えないけどね……」

セシリア「というか部屋の前で挙動不審ってなんですの……?」

シャル「な、なんでもないよ」

箒「……コホン。 とにかく……私たちは仲間だ、そうだろう?」

シャル「……ぅん」

セシリア「それが聞ければ、十分ですわ」

簪「え……十分……なの?」

ラウラ「十分なんだ、私たちはそれだけで。そういうものなのさ」



244: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/21(火) 00:45:54.10 ID:qOrwNusL0


鈴「正直あたしは十発くらいお返ししたいんだけど、シールドがあるったってパイルバンカー食らったのよ!?」

ラウラ「灰色の鱗殻をまともに食らって本来それで済むわけがないだろう?」

セシリア「当然、炸薬の量を調整したのでしょ?」

シャル「うるさいなぁ……突っ込まないでよ、恥ずかしい」

鈴「そんな事言ってラウラ頭に包帯巻いてるんだけど、アンタこそ手加減しなかったんじゃないの?」

セシリア「き、緊急事態ですわ」

シャル「ま、まぁまぁ、冷静に」

セシ鈴「あなたが「アンタが言うな!」ですわ!」

簪「(……いいな。女の友情……私も……)」



245: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/21(火) 01:00:21.11 ID:qOrwNusL0

セシリア「大体、あんな道具で一体私を捕まえて何を撮らせようとしていましたの!?」

シャル「それは……」

ラウラ「うむ、◯◯いやつだ」

シャル「ラ、ラウラッ!?それは!」

箒「ほぅ、地獄を見るとは、ほほう」

鈴「ほほう、そういう事なんだ、ほほほう」

セシリア「シャルロットさん」

ガシャガシャガシャ

簪「ひっ!!」

シャル「せ、セシリア……?そ、それ……持って来て……たの?」

箒「ラウラ、ドアを閉めてくれ」

ラウラ「承知」

バタン

鈴「うっわぁ、どれもえげつないわね……これ、ギャグボールっていうんだっけ」

シャル「ね、ねえ!?今僕たち友情を再確認したばっかりだよねぇ!?」

セシリア「ええ、女の友情をしかと」

箒「カメラはこれでいいのか?」

ラウラ「ちょっと待っていてくれ、電源周りのセッティングをしている」

セシリア「ハードな事は致しませんわ。ソフトな撮影会と参りましょう?」

シャル「ひ、ひいい!!!」

鈴「シャルも結構イイ体してるわよねぇ……」ジュル

箒「縛るくらいはソフトの内に入るか?」

鈴「入る入る、よゆーよゆー」

簪「」ガクガクブルブル

シャル「そ、そこのキミ!た、助けて!」

簪「!?」

ラモセ鈴「「「「!!」」」」ギラ

簪「し、失礼します!!!!!!」

ダダダ バン ダダダダダダダ……

シャル「あっ!!」


箒「ラウラ、ドアを」

ラウラ「承知」




バタン カチャリッ





――   ヒャアアァァァァァァ



252: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/22(水) 01:07:42.37 ID:cnFAX4PQ0



――翌日 昼休み


カリカリカリカリ

箒「……セシリアよ」

セシリア「はーい?なんですの~?」モグモグ

箒「英語はわかるか?」

セシリア「バカにしてますの……?母国語ですわよ」ヒクッ

箒「いや!違う!違うんだ……その、明日のテストに向けてな、ここを教えてほしいのだが」

セシリア「」

箒「どうした?セシリア……」


ドアバーン


鈴「せ、せ、せしりあぁぁぁ!!明日テストだって!!」ウルウル

セシリア「忘れてましたわぁぁぁぁぁ!!!!」



253: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/22(水) 01:21:18.18 ID:cnFAX4PQ0


シャル「で、何の用だい……?」

鈴「やー、シャルロットならさ?」

セシリア「試験範囲のノートがあるかな、なーんて思いまして」

ガタン

シャル「きっ……きっ……キミたちは……ッ!あんな事をしておいて……ッ!!」

セシリア「あんな事?気持ち良さそうだったじゃありませんの」

シャル「こッ……これだから!!ローストビーフは!!」ガタン

セシリア「何ですの、このフロッガー……!!」ビキ……

鈴「セシリア!」

セシリア「なんですの!?今は……」

鈴「国よりテストよ!!」

セシリア「――マジですの!?」

ラウラ「よく言った!! 鈴、使うがよい」

鈴「ラウラ!」

ラウラ「貴様の言葉は、私の心を震わせた、そう、テストだ!国は明日滅びぬがテストは明日滅ぶ!」

セシリア「……いや、滅んでどうするんですの……」

ラウラ「持って行け……シャルロットのノート、貴様のものだ!」

鈴「ラウラ……」

ラウラ「これは情けなどではない……健闘を祈るぞ!凰 鈴音!!」

鈴「貴女もね!ラウラ。ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

ガシッ!!

シャル「……あれ?えっと……僕の……ノート……」

セシリア「あの、私は日本史のノートが欲しいのですけれど……」

シャル「何!?何なの!?僕はノート業者なの!?」



254: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/22(水) 01:34:18.01 ID:cnFAX4PQ0



――四組



簪「……何」

セシリア「……あ、あまり友好的な感じじゃありませんわよっ!?」ヒソヒソ

鈴「……知らないわよ!アンタが心当たりがって言ったんでしょうが!!」ヒソヒソ

簪「……聞こえてるけど」

セシリア「あ、あのですね!」

簪「ノートなら貸してあげるわ」

鈴「やった!!ありがとう簪さん!!」

簪「……名前で呼ばないで」

鈴「ごめんなさい更識さん」ジャンプドゲサ

簪「今20人待ちだから、一人1時間で20時間後ね」

鈴「返して!!私の土下座返してよ!!」

セシリア「無様ね」

鈴「あんた、もし借りれてもあたしの一時間後まで見せないわよ!?」

セシリア「21時間後じゃテスト開始の瞬間ですわよ!?」

簪「大体……どうして私なの?もっと優秀な人は……一組なら」

セシリア「イヤですわ、引っ込み思案なオタ娘が勉強ダメだったらまるっきりマダオコースじゃないですの」ケラケラ

簪「」

鈴「流石の私もそれはひくわ」

セシリア「えっ!?えっ?」

簪「うわぁぁぁん!一夏くううん!!」ダッ

セシリア「あっ!ちょっと!!」

鈴「セシリア、ついてくわよ!!」

セシリア「えっ!?あ、はい!!」



263: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/23(木) 02:18:00.85 ID:KasDRRgA0





―― 一組


ダダダダ バン!


のほほん「あれー?かんちゃんだー。やっほーかーんちゃーん。どうしたのー?」

簪「!?……しまった…………本音……」

のほほん「わかったよ~。かんちゃん、おりむーに用があるんだね。うふふふ、いま呼んできてあげるね~」

簪「ちっ……違……ほ、本音に用があったのよ」

のほほん「ほえ?」

簪「ちょっと、ついてきて」

のほほん「はーい。それじゃおりむー。いってくるねぇ~」フリフリ

簪「ちょっと……本音……ッ!?」

一夏「おう。――あれ?簪か、家の用事か?お疲れさん」

簪「……う、う、うん。い、いち……一夏っ……も、また……ね」

トボトボ

一夏「おう」

谷本「あれあれー、織斑くんじゃなくなってるね」ニヤニヤ

夜竹「織斑くん、タッグマッチの時に何かあったの~?」ニヤニヤ

一夏「……えっ?いや……(アニメの事は……伏せたほうがいいか)別に何も、普通だぞ?」

谷本「くうー、天然タラシめ!にくいねこの!」



264: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/23(木) 02:23:20.85 ID:KasDRRgA0



バタバタバタバタ ズバーン!!

鈴「まったく!セシリアのせいで見失っちゃったじゃない!」

セシリア「人のせいにしないでくださいます!?」

鈴「なによ!あんたが『なんでわたくし達、追いかけてるのかしら』なんて言うからでしょ!?」

セシリア「考えてみたら追いかけてる場合じゃないと思ったからじゃありませんの!」

鈴「ノートを手に入れなきゃ話にならないでしょーが!!」

セシリア「でーすーかーらー、すぐに追いかけましたわよ!?」

鈴「だったら始めから止めるなって言ってるの!」

一夏「よう、セシリア、鈴。相変わらず仲がいいな。どうしたんだ?」

セ鈴「「一夏」さん」

セシリア「そ、そうですわ!一夏さん!」

鈴「無駄よ」

セシリア「早ッ!聞いてみなければ判らないじゃありませんの!」

一夏「そうだぜ、鈴。何のことかサッパリ判らないんだが」

セシリア「一夏さん!テスト勉強のノート、お持ちではありませんか!?」

一夏「……?」

鈴「だから言ったじゃない」

セシリア「一夏さんッ!?どうしてそこでテストって何のことだ?って顔をしますの!?」

一夏「おお、すごいなセシリア!そこまで判るのか!」

セシリア「そっ……それは……いつも見てますから……」

一夏「人間観察か、やっぱスナイパーの習性ってやつか」

セシリア「そういう意味ではありませんわ!!」

鈴「っていうかさ一夏、アンタ随分落ち着いてるじゃない。テスト……明日よ」

一夏「……マジか?」

谷本「マジマジ」

セシリア「マジですわ」

一夏「マジかーーーーーーっ!!!!」



268: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/23(木) 22:39:11.39 ID:KasDRRgA0



―― 放課後・一夏の部屋 改め テスト緊急対策本部

一夏「……それで、成果は」

セシリア「ラウラさんからゲットしましたシャルロットさんの数学のノート、だけですわね」

鈴「あんたたちやる気あんの?赤点取りたいの!?」

セシリア「くっ……借りれなかった以上は何も言い返せませんわ……っ」

鈴「セシリアってさぁ、あんまし友達いないじゃないの?」

セシリア「い、いますわよ!それくらい!!」

鈴「ノートを貸してくれる友達は居なかったわけだ」

セシリア「ぐぬぬ」

鈴「一夏はどうしたのよ、ちょっと廊下で薔薇咥えながら立ってれば頼み放題でしょうが」

一夏「なんだそりゃ……そんなわけないだろ?」

セシリア「そうではなくても、一夏さんに頼まれて断れる子はいないと思うのですけれど」

一夏「またまた……」

鈴「あー、それはいいから、どうして一冊も借りてないのよ?」

一夏「いや……それが……なぜか行く先々で楯無さんに絡まれて……」

セシリア「赤点取らせてそれをネタに何かする気ですわね……」

一夏「勘弁してくれ……」

セシリア「仕方ありませんわ……ノートの無い教科は何とか自力で頑張りましょう」

鈴「え、そんなの赤点確定じゃない!!」

一夏「くっそー……あ、待てよ……いっそ楯無さんに……!」

楯無「はーい、呼んだ?」

セ鈴「」「」

一夏「……」


269: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/23(木) 23:04:11.76 ID:KasDRRgA0


楯無「あれ?そこは『楯無さん!いつのまに』って驚くトコじゃない?」

一夏「いや……もう、なんか……驚くのもめんどくさくて……」

楯無「あれあれ、それじゃ、部屋に私がいるのが自然って言ってるみたいじゃない」

セシリア「一夏さん……!」ゴゴゴゴゴ

鈴「一夏……ァ!」ドドドドドド

一夏「いいっ!!ちょ、セシリア!鈴!どうしてそこで俺に向かって怒ってるんだ!?」

楯無「やれやれ、困った子だね」

一夏「でも楯無さん、いつからいたんですか?」

楯無「……それで、成果は?キリッ、の所かな」

鈴「始めからじゃない……」

セシリア「私達が部屋に入ったときには既に居たんですのね……」

一夏「な、なんか、キリっとか付けられるともやもやする……」

楯無「気にしない気にしない」

一夏「……とにかく、それなら……あの、楯無さん」

楯無「お断りします」

一夏「」


270: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/23(木) 23:23:12.49 ID:KasDRRgA0
================インフォメーション================

一夏「えーと、修正があります。」

千冬「テスト前のバタバタがやりたくなったというだけで書き始めるからこうなる」

セシリア「ええと、IS学園一年一組の時間割表をBDで確認したところによりますと……」

セシリア「国語、英語、数学、体育、保健、歴史、地理、科学、物理、生物、情報、IS、クラブ、選択、美術、礼法、家庭科」

セシリア「私がシャルロットさんに借りようとした日本史なんて授業は行われておりませんわ」

鈴「考えてみりゃそうよね、各国から生徒が集まってるのに日本史は無いわ」

セシリア「でも英語と国語はありますのね、英語の授業?と違和感を感じて確認したのですけれど」

鈴「ということで、日本史のノートではなく、歴史のノートを借りようとした、ってわけね」

一夏「以上、失礼しました」

==================================================


272: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/24(金) 00:20:25.96 ID:CfBFCNUq0



楯無「これに関してはオルコットさんが正しいわね。流石イギリス代表候補生」

セシリア「お、お褒めいただき恐縮ですわ」

楯無「あれ?エリートとしてとーぜんですわ!みたいに言わないの?」ニヤニヤ

セシリア「そっ、それは」

一夏「生徒会長にそれは無理ですよ……楯無さん」

楯無「判ってるわよ、じょーだんよ、じょーだん」ケラケラ

鈴「……ねえ、一夏。生徒会長ってもしかして……」ボソボソ

一夏「言うな、鈴。 多分聞こえてるぞ」

楯無「あーあー、きこえなーい」

鈴「……」

一夏「こういう人なんだ」

楯無「あ、そうそう。副生徒会長が赤点なんて……無しね?」

一夏「」

楯無「それじゃ三人とも、ハバナイスデ~イ」

パタン

セシリア「……あれが……生徒会長、更識 楯無」

鈴「学園最強、学園唯一の国家代表……IS操縦者……」

セシリア「捉え所の無い方ですのね……」

鈴「変人の間違いじゃない?」

楯無「ひっどいなー、凰さん」

一セ鈴「「「うわあああああっ!?」」」

セシリア「えっ!?いま、出て行って!?えっ!?」

楯無「そんな鈴音ちゃんには、く す ぐ り 刑をサービスしちゃうわ」

鈴「ちょっと!?な、なに!あはは!あははははははははははははは」

一夏「鈴……骨は拾ってやるからな」

セシリア「……言葉が見つかりませんわ…………」




275: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/24(金) 23:40:29.17 ID:CfBFCNUq0



鈴「あひゃははは!あはは!あはははははははは!!」

一夏「鈴はくすぐりに弱いなぁ」

セシリア「そうですわね。ところで一夏さん。一夏さんはどの教科が弱いんですの?」

一夏「あー……」

一夏「(全部、とか言ったらドン引きされそうだよな……)」

一夏「ええと、英語は特に弱いな」

セシリア「――……きましたわー!!」

一夏「うぉっ!?ど、どうしたんだセシリア」

セシリア「よ、宜しければ!!私が、家庭教師を勤めさせていただきますわ!!何せわたくしッ!!エリートイギリス人ですので!!」

一夏「えっ!?」

セシリア「……えっ???」

一夏「イギリス人と英語に何の関係が……」

セシリア「」

セシリア「一夏さーん。わたくしの祖国は日本語でなんと言いますか?」

一夏「イギリス。……あ、ええと確か、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国だ」

セシリア「……ッ……正解ですわ」

一夏「それくらいなぞなぞ遊びのレベルだろ、何だよ一体」

セシリア「ああ、もう……そうではなく……そう、漢字で」

一夏「漢字?ああ、当て字のやつだよな確か、猊利太尼亜……」

セシリア「わざとやってますわよね!?」

一夏「うおっ!どうして怒るんだよ……あってるだろ?歴史と地理はそんなに苦手じゃないんだ」

セシリア「そんないきなり問題なんか出しませんわよ!!英国!英国ですわ!!」

一夏「ああ!!」

セシリア「……ああ、じゃありませんわよ……まったく」ハァ

一夏「いや、悪い……頼りにしてるよ」

セシリア「……は、はい……い、幾らでも頼ってくださいましね♪」パァァ




276: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/24(金) 23:56:14.97 ID:CfBFCNUq0


楯無「そうれ」

鈴「あはははっ!あふっ!あふぁははひゃはひゃひゃははは!!」


一夏「それでセシリアは何が弱いんだ?」

セシリア「……はい、お恥ずかしながら……実は少々歴史、特に古代史が」

一夏「意外だな、伝統とか拘りそうだし、セシリアは得意だと思ってた」

セシリア「……わたくし、幼い頃に父と母を亡くしてから……ずっとオルコットの家を護ってきましたの……」

一夏「ぁ……すまん、思い出させたか?」

セシリア「いいえ、わたくしにとっては誇るところですわ。一夏さんが謝る事なんてありません」」

一夏「さんきゅ」

セシリア「大人達と渡り合う為に猛勉強しましたわ、得意学科は経済学ですのよ?」

一夏「テスト……ないよな?」

セシリア「た、確かに経済学はございませんけれど数学は経済学にも通じますの。」

一夏「ああ、なるほど……あれ?でもそれなら歴史にも結構関係深くないか?」

セシリア「ええ、ですから……近代、現代史ならば全く問題ありませんの」

一夏「……なるほど……ああ、でも数学、英語は問題ないってこと……か?」

セシリア「科学と情報と物理もあまり問題はありませんわね」

一夏「…………苦手って歴史の一部だけか」

セシリア「え、ええ……あと、生物。国語は苦手なのですけれど、普段からやってますので多分何とか……」

一夏「全然平気じゃねーかっ!!」

セシリア「ひっ!?え、えっ!?一夏さん???ど、どうして怒るんですの!?!?!?」

一夏「生物は科学と物理と一つのテストだし、歴史と地理は一つのテストだし、近代と現代史は平気、国語は普通なら、赤点候補が無いじゃないか!?」

セシリア「え?……ええ、別に赤点は……わたくしはテスト前に勉強をしなかったことが問題なのではないかと……思いまして」ビクビク

一夏「セシリア……お前安全圏の人間じゃないか……なんてこった



277: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/25(土) 00:07:50.94 ID:cPuz9R770



セシリア「そ、そんな……!わたくし、一夏さんのためなら赤点圏にだって……!」

一夏「セシリア……」

セシリア「一夏さん……っ!」

鈴「アンタ少しは助けるそぶりを見せなさいよおおおおっ!!!」

ゴッ

セシリア「はぐっ!?」

一夏「おう、鈴。おかえり。楯無さんは?」

鈴「アンタたちがあまりにもスルーしてるから帰っちゃったわよ!死ぬかと思ったわ!」

セシリア「い、良い所でしたのに……」

鈴「なんか言った?」ギロ

セシリア「何でもございませんわ」

鈴「大体あんた、テスト前の徹夜をしなくても赤点にならない可能性のほうが高いなんて……」

鈴「そんなのアタシ達レッドライン上の人間をバカにしてるとしか思えないわ!!」

セシリア「鈴さん中国の代表候補生ですわよね!?その成績に危機感はございませんのッ!?」

鈴「うっさいわね!私は……英語、国語、数学で一気に三つも赤点候補よ!!」

一夏「えっ」

鈴「……えっ?」

一夏「……そ、そうか……鈴、中学の時より……」

鈴「あんた……まさか……」

一夏「ああ……正直に言えば歴史と国語だけだ」

鈴「二教科ッ!?私が一番!?」

一夏「いや、大丈夫なのは。」

鈴「……」

セシリア「……」

一夏「そ、そんな目で見ないでくれ!」



278: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/25(土) 00:27:01.83 ID:cPuz9R770


一夏「まあ大丈夫と言っても結構ギリギリなんだが……」

セシリア「……徹夜、ですわね」

一夏「セ、セシリア!教えてくれるのか」

セシリア「……赤点なんて許しませんわ……未来のオルコット家の主人がそれでは……」ボソボソ

一夏「?」

鈴「ムカッ……ねー一夏!敵の言うことなんて聞くこと無いわよ!こうなったらもう補習受けましょ?」

一夏「いいいっ!?冗談だろ鈴!楯無さんに何されるかわから無いし、何より千冬姉に殺される!!」

鈴「なによ!普段やってないのがいけないんでしょう!?」

一夏「ISの事で覚える事が多すぎてできないんだよ!」

セシリア「ISの実技試験は素晴らしい成長ですものね」

一夏「いや、まだまだだよ」

鈴「余裕ぶっても筆記試験は無くならないわよ……」

一夏「……くうっ」



290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/25(土) 23:26:47.21 ID:cPuz9R770


一夏「セシリア!教えてくれ」

セシリア「えぇ!」

一夏「おお!サンキュ!!」

鈴「あ、わ、私も!!」

セシリア「えぇ?」

鈴「何よその差!?」

セシリア「まぁ?エリートであるこの英国国家代表IS操縦者候補生であるこのわたくしに?頼るのも無理はありませんわね!」

鈴「なんっかむかつくわね……」

一夏「耐えろ鈴、背に腹は代えられないと言うだろう?」

セシリア「ふうん……帰って寝ますわよ?」

一鈴「「ごめんなさい」」

セシリア「それでは……鈴さんは英語、国語、数学……一夏さんは全教科ですから、先に英、国、数からやってしまいましょうか」

鈴「セシリア!ありがとう!やっぱりセシリアは私の事……!」

セシリア「とっとと三教科終わらせて一夏さんと徹夜勉強ですわ……」ボソ

鈴「……ぁ?」ビキ

一夏「り、鈴、いいからやろうぜ!俺には時間がないんだ!!」

鈴「くっ……判ったわよッ」

セシリア「フフッ……」




291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/25(土) 23:34:07.95 ID:cPuz9R770



―――― 21時



ドンッ!!

セシリア「鈴さん!?どうして判らないんですのッ!?」

鈴「ひぃぃ!だ、だってぇ……」

一夏「ははは、鈴はバカだなぁ」

鈴「一夏!あんたも判って無いじゃないのよ!!」

セシリア「まったく……こんなのジュニアスクールのレベルですわよ……」

鈴「だって中学から出来なかったし」

一夏「あ、俺も」

セシリア「開き直らないでくださいまし!!……小学生レベルと言ってますのよ?」

一鈴「」「」

一夏「な、なぁセシリア、小腹もすいたし夕食にしないか?」

鈴「さ!賛成!食堂まだ開いてるかな?」

セシリア「 な め て ま す の !?」

一夏「うわああっ!す、すまん!!」




292: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/25(土) 23:39:27.68 ID:cPuz9R770



―――― 22時



セシリア「そうですわ、うん。順調ですわね」

一夏「なんだ、結構判るな!」

鈴「うん!これならテストもいけるッて気がする!」

セシリア「教える甲斐もあると言うものですわ、わたくしもおさらいになりますし」

一夏「セシリア……ありがとうな」

セシリア「わ、わたくしは……別に」

一夏「いつも、遠回しだけれど、助けてくれるよな、セシリアって」

セシリア「一夏さん……」

鈴「はーい、そこまで、勉強よ、勉強!」

セシリア「……」チッ

鈴「なによ!」

セシリア「なんですの!」

一夏「まぁまぁ」

セ鈴「「誰のせいよ!」ですの!」



293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/25(土) 23:52:19.27 ID:cPuz9R770



―――― 23時



鈴「zzz……」

セシリア「寝るんじゃないですわ」スパーン!

鈴「ふぎゃっ!」

一夏「そうだぞ鈴、まだ三教科目だぞ……?」

鈴「くう……わ、わかってるわよ」

セシリア「これが終わったらとっととお部屋に帰って寝ててもいいですわよ……?」

鈴「絶対 い や ! 」

一夏「にしても、夜更かしばっかりしてるのに今日はダウンが早いな?」

鈴「文字見てると眠くなるのよ……」

セシリア「いつもお読みのラノベだって文字ですわよ……?」

鈴「あれはいいのよ……そうだ!ラノベ風に教えてよ!」

セシリア「……バカにも程がありましてよ」

一夏「そうだぞ、鈴」

鈴「何でそこまで言われなきゃいけないわけ!?バカ一号に!!」

一夏「こら鈴、誰がバカ一号だ!」

ドンッ

セシリア「とっとと続けますわよ……?」

一鈴「「はい」」



294: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/26(日) 00:01:26.05 ID:YKx4TtOz0



―――― 00時


一夏「…………」

セシリア「……つまり、物質Aとはここでは酸素ということになりますの」

鈴「zzzzzzzzzzzz……」

セシリア「では、酸素との反応とはつまり酸化になりますから、この数式を……」

一夏「……セシリア」

セシリア「なんですの?」

鈴「zzzzzzzzzzzz……ふがっ」

一夏「起こさないのか?」

セシリア「一夏さん?他人の心配をしてる余裕はあなたには在りませんわよ……?もう一息なのですから」

一夏「……ぉ、おう」

鈴「ぐがー……」

セシリア「さ、いいペースなのですから……科学と物理を仕上げましょう」

一夏「あ……ああ」



295: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/26(日) 00:16:16.31 ID:YKx4TtOz0



―――― 02時


鈴「むにゃ……終わったぁ……?」

一夏「お、おう鈴、起きたか」

セシリア「鈴さん、無理に付き合わなくても結構ですわよ?疲れが取れなかったなんて言い訳はありませんわ」

鈴「んー……う……せしりあー、鍵ー」

セシリア「持ってませんの?全く……」

鈴「今朝出るときあたしが忘れたって言ってるのに閉めたのせしりあじゃん……んむー……」

セシリア「はい、鍵ですわ」

鈴「うん。  ……あんたそこに座ってたっけ??」

セシリア「ねねねね寝ぼけてますの?とっととベッドでちゃんと眠ってくださいな」

鈴「んー……いつもは平気なのに、勉強だとやたら眠いわ……」

一夏「おやすみ、鈴」

鈴「えへへ、うん、一夏。セシリア、おやすみ」

トコトコ パタン

セシリア「さ!あと一息ですわ!」

一夏「おう!」



297: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/26(日) 00:26:36.48 ID:YKx4TtOz0



―――― 05時







セシリア「あっ!は……ぁン……い、一夏さん……!」

一夏「……ほら、セシリア。力を抜けって」

ギシ

セシリア「……ぁあ……ぁぁぁ……そんな……わたくし……わたくし……」

一夏「そんなに恐がらなくても平気だって……ほら」

セシリア「ああ、一夏さん……は……はい」

一夏「……お、おう……よっ……と。」

ギシ……ギシ……

セシリア「ああ!そんな所……気持ち……よすぎて……ああ!何かが……あーっ!」


ガチャ



ラウラ「おはよう我が嫁よ……ふふ、さぁて今日はどんな……」

セシリア「ああ……もう、わたくし!」

ラウラ「」

一夏「うおおっ!?ラ、ラウラ!?」

セシリア「ぁふ……一夏さぁん……」


ラウラ「な……な、な!なな!!なんだこれはあああああああああああああああああッ!!!」シュウン!



―― どごーん



299: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/26(日) 00:35:23.07 ID:YKx4TtOz0


バタバタバタ

箒「一夏ッ!こんな時間に何事だいまの音は……?!」

シャル「一夏!大丈夫!?ってラウラ!キミはまた!」

ラウラ「せ、せ、セ、セ、セシリアァァァッ!貴様一体どういう……!」

箒「は?セシリア?ラウラ、お前何を……」

一夏「――ッてて……」

セシリア「な、なんですの……」

箒「」

シャル「……ど、ドウイウコトナノかな?一夏……」シュウン

一夏「……あれ……?シャル……?なんでIS……」

箒「い、い、い、一夏ァァァァァ!!!!!」シュウン

一夏「箒ッ!?ちょっと待て!お前まで」

セシリア「な、な、何ですの一体……!?」

ラウラ「こうなれば、身体に覚えさせるしかあるまい……」ジャキン!

シャル「何処でミスったかなぁ……今生は……一夏、一人にはしないからね」ジャカッ

箒「性根を……叩ッ斬りなおしてくれる!!」チャキッ


鈴「セシリア!一夏ッ!!」


ガギィン!!



300: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/26(日) 00:49:41.94 ID:YKx4TtOz0


ラシ箒「「「!?」」」

一セ「「鈴!」さん!!」

ラウラ「チィッ!そこをどけ!鈴ッ!!」

鈴「嫌よ!」

シャル「きみはこれでいいっていうのかい!?」

鈴「うっさいわね!」

箒「一夏!一夏!!貴様ぁぁっよくも!!」

鈴「落ち着きなさいよ!!箒!!」

セシリア「え……えっ!?どうして……」

千冬「 鎮 ま れ !! バ カ 者 ど も !!」

千冬「貴様ら!!朝っぱらから寮内で完全展開など、どういうつもりだ!!」

一夏「千冬姉!」

千冬「……!? ほ、ほぅ……」ヒクッ

セシリア「お、織斑先生」

千冬「………………貴様らは……このタイミングで……頭の痛い問題を……」



301: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/26(日) 00:51:03.57 ID:YKx4TtOz0


千冬「篠ノ之!デュノア!ボーデヴィッヒ!!さっさとISをしまえ!!ここは寮だぞ!!凰!貴様もだ!」

シャル「……っ」シュウン

ラウラ「くっ……教官……」シュウン

箒「………………」シュウン

鈴「……ふう」シュウン

千冬「オルコット!!さっさと部屋にもどれ!!織斑、貴様は私の部屋だ。来い!」

セシリア「はっ!はいッ!」

鈴「……セシリア、大丈夫?もどろ?」

セシリア「え……ええ」

一夏「は、はい……」

千冬「お前らも部屋に帰れ!話は今日のテストの後だ!!解散!!」



一夏「篠ノ之 箒、ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルロット・デュノア vs 織斑 一夏、凰 鈴音、セシリア・オルコット 異例の3on3戦の告知がされたのは、テストを終えた日の放課後だった」




309: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/26(日) 23:38:02.37 ID:YKx4TtOz0


================インフォメーション================

千冬「えー、本日は3on3戦の予定でしたが。都合により番組の予定を変更致します」

千冬「本日は『山田と朝まで無限おかわりテキーラ・ショットガン大会!負けたら脱げ!』をお送りいたしまーす。」
山田「しませんよ!?もしかしなくても強制参加じゃないですか私!絶対嫌ですよ!?」

千冬「……と、いうのは嘘だ。ああ、『山田脱げ!』が嘘だからな」

山田「その略し方おかしくないですか!?」

千冬「これはいわばCAUTIONだと思ってくれ、最近のゲームやら立ち上げると出るあれだ」

山田「このゲームに登場する人物は全て18歳以上で~、ってとかいうやつですね!」

千冬「ほう……」

山田「……はっ!!」

千冬「それは置いておいて、前回で小生意気に『引き』など使いながら『テスト前徹夜編』が終わり、今回からは擬音と声だけでは非常に判りにくい『3on3集団戦編』に入る。」

山田「そこで、今回から試験的に 地の文あり という形に変更します。」

千冬?「黒歴史レベルだなこりゃ、イエス様でも書いたやつに捕鯨槍ブチ込んでモビー・ディックに喰わせるレベルだ。しかもやたら書く時間がかかる上に進行が遅くて今書き上がってる所では未だ戦闘すら始まってないどころか放課後にすらなって無いときた。終わンのかよこれ」

山田「誰ですかッ!?」



千冬はマイク横に置いてあったロックグラスを手に取り、くいと一口大きく呷ると、
深く息を吐いてから、隣の山田真耶の肩を抱き寄せる。

「こういうことだ、嫌悪感があったら元に戻すようレスを残してくれると嬉しい」

「ど、どういうことですか!?って!織斑先生!先輩ッ!お酒!酒臭ッ!!」

―――― ガハハハハ  キャー

==================================================



310: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/26(日) 23:44:46.15 ID:YKx4TtOz0


――――


「織斑」

冷たい声色が、この部屋にいる人間両方の名字を呼ぶ、

「……は、はい」

二人しかいなければ独り言か相手に掛ける言葉しかない。
学内唯一の男子生徒、織斑 一夏は教師、織斑 千冬の前で床に正座をしながら萎縮し、沙汰を待っていた。

「…………確かに、いい加減一人に絞れとは私も言った……言ったが」

すらりとした鼻筋から眉間を指で押さえながら、教師として、保護者として、姉として、
言うべき言葉を考えるほどに、自慢の弟の周囲に群がっていた小娘たちの今朝の姿がフラッシュバックする。
いざそうなった時に、こんな事になるのは判っていた、判ってはいたが……

「テスト前日に寮内でさかるとか貴様達はFランの大学生か?獣か?バカか?死ぬか?」

「いや……だからあれは……」

何度もした抗弁を口にしかけ、言葉を飲み込む。
徹夜のテンションがおかしかった事はあるけれど、正直理性は効いていたのかと問われて答える自信は無い。
手に残る柔肌の感触と、最後に見た酷く寂しそうな表情が忘れられない。

――もしあそこでラウラが入って来ていなかったら?

そう思うと、酷くのどが渇いて、一夏はこくりと喉を鳴らす。


「その代わり、土曜の放課後に関係者での3on3戦を行う事になった」

もしかしたら、弟が弁明する通り、笑ってしまうような事が真実なのかもしれない。
しかし既に真実は乱暴な言い方だがどうでもいい。事実が優先される。

国家代表候補生含む専用機持ち4人がIS学園の寮内でISの完全展開を行い、部屋の中で破壊行為を行った。
最悪、学園そのものの在り方さえ左右するかもしれない問題だ。
幸いにして怪我人は出なかったからいいものの、事が公になれば各国は黙っていまい。
こうして専用機持ち同士のプライドのぶつかり合いであった点を強調するように、専用機同士のエキシビジョンマッチを行う事で、
事が公になった場合の機先を制する。
この3on3にはそんな意味もあった。



311: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/26(日) 23:49:43.14 ID:YKx4TtOz0



――――


「織斑」

冷たい声色が、この部屋にいる人間両方の名字を呼ぶ、

「……は、はい」

二人しかいなければ独り言か相手に掛ける言葉しかない。
学内唯一の男子生徒、織斑 一夏は教師、織斑 千冬の前で床に正座をしながら萎縮し、沙汰を待っていた。

「…………確かに、いい加減一人に絞れとは私も言った……言ったが」

すらりとした鼻筋から眉間を指で押さえながら、教師として、保護者として、姉として、
言うべき言葉を考えるほどに、自慢の弟の周囲に群がっていた小娘たちの今朝の姿がフラッシュバックする。
いざそうなった時に、こんな事になるのは判っていた、判ってはいたが……

「テスト前日に寮内でさかるとか貴様達はFランの大学生か?獣か?バカか?死ぬか?」

「いや……だからあれは……」

何度もした抗弁を口にしかけ、言葉を飲み込む。
徹夜のテンションがおかしかった事はあるけれど、正直理性は効いていたのかと問われて答える自信は無い。
手に残る柔肌の感触と、最後に見た酷く寂しそうな表情が忘れられない。

――もしあそこでラウラが入って来ていなかったら?

そう思うと、酷くのどが渇いて、一夏はこくりと喉を鳴らす。


「その代わり、土曜の放課後に関係者での3on3戦を行う事になった」

もしかしたら、弟が弁明する通り、笑ってしまうような事が真実なのかもしれない。
しかし既に真実は乱暴な言い方だがどうでもいい。事実が優先される。

国家代表候補生含む専用機持ち4人がIS学園の寮内でISの完全展開を行い、部屋の中で破壊行為を行った。
最悪、学園そのものの在り方さえ左右するかもしれない問題だ。
幸いにして怪我人は出なかったからいいものの、事が公になれば各国は黙っていまい。
こうして専用機持ち同士のプライドのぶつかり合いであった点を強調するように、専用機同士のエキシビジョンマッチを行う事で、
事が公になった場合の機先を制する。
この3on3にはそんな意味もあった。





317: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/27(月) 00:08:40.96 ID:ozxFYtUC0



それに、姉の勘が告げている、弟の言葉が真実であっても、もしあそこで騒ぎにならなかったのなら、きっと……

「皆には既に連絡をしてある……お前もこの件は決して口外するな」

見栄を切り、虚勢を振り上げ、高飛車な言動の目立つセシリアのそれが、
セシリア・オルコットを飾るドレスに過ぎない事は、少し彼女に触れた者ならばすぐに判る。
おだてに弱く、一度でも心を許した相手には賭け値無しの信頼をぶつけてくる素直さ。
明るい感情を大らかに表情に出し、良く笑い、良く怒る。年相応の、乙女の本質。

その笑顔から「何不自由なく育ったお嬢様」以外の彼女はなかなか想像ができない。
確かに何不自由なく暮らしていたセシリアは、早くに両親を事故で亡くしている。
幼かったセシリアに残されたのは莫大な遺産と貴族の流れを汲む家の名誉。

彼女はこれまで、どれほどの努力をしてきたのだろう。どれほどの大人の汚い部分を見て育ったのだろう。
どんな思いで、オルコットの誇りを維持し、国家の威信を背負い、今あんなに明るく笑えるのだろう。

同じように家族を只管に護り続けた自分はあんな風には笑えていない。
元々の性格の違いも環境の違いもあるにせと、と千冬は口中で小さく自嘲する。

(まぁ、真実如何にせよ良い女をつかまえたじゃないか……勿体無い程にな)



319: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/27(月) 00:19:26.73 ID:ozxFYtUC0



「口外なんて……」

一夏はそこまで言いかけて、感じた違和感に言葉を飲み込む。
早朝の寮内で放たれたシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンは部屋の内装を破壊し、外壁を見事に貫通した。
時間のせいもあってか、千冬より早く現場にいたのは、いつもの6人だけだったけれど、その破壊の跡は外側からも確認できる程の壮絶さだ。
口外も何もない、今朝一夏の部屋で何かがあり、部屋一つを破壊する火力の何かが使用されたことは明らかなのだ。
当然、そのような火力が使用された原因も公のものとしなければいけない、
それが寮長である姉の仕事ではないか。

「どうした、そんな目で教師を見るな」

「いや……っ!」

「……ふん、まだ全員からの聴取も終わっていないからな。手っ取り早い。
 それに、その方が対外的に都合がよい……まさか国家代表候補生同士が色恋沙汰で暴れたなど、どこに報告しても冷静な返答は帰って来なかろうよ」

千冬の言葉が、一夏自身を含めたその周囲の背負う物を改めて実感させる。

「千冬姉……俺は」

「織斑……いや、一夏…………心配するな。お前は何も間違っていない」

一夏と、そう言葉にする千冬の言葉は、姉として、ただ一人の家族として、
自分と、その抗弁の向こうに抱え、言葉にできなかった『もしも』までも見透かして、その上で、その世界を護ると、そう宣言してくれているようで。
それが一夏はとても嬉しくて、でも、いつまでも、本当の意味で守られてばかりの自身が不甲斐なくて、今はただ拳を握り締めるしかできなかった。



323: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/27(月) 00:29:17.74 ID:ozxFYtUC0



――――――


「3on3……ですの?」

「ええ、第一アリーナ、今週の土曜の放課後よ」

「アタシとアンタと一夏のチームと、シャルロット、ラウラ、箒のチーム」

「……」

「はぁ、予想はしてたって顔ね」

ボスン、と音を立てて、寮の部屋に不釣り合いな天蓋付きのベッドへ、
先程の一件ですっかり気落ちした様子の親友の隣に鈴は腰を下ろす。

試験勉強をしていた筈の年頃の男女は夜明け近くに二人きりでベッドの上にいた、
今は気品を感じさせる制服に身を包んでいる親友は、自分が踏み込んだ時はバスローブを羽織っただけの姿だった。
それが何を意味するかは、いくらなんでも鈴にも理解できた。
本当は、一夏の得意なマッサージをしていただけかもしれない。バスローブ一枚でマッサージという時点で十分いかがわしい事だが、親友は暴走しがちな色仕掛けを行う傾向がある事はよーく判っている。
きっと、今事情を聴けば、親友は洗いざらいを話してくれる。
それが例え、年頃の男女がベッドの上で裸同然で行うものであっても、マッサージであっても。
でも、聞かない。子供っぽい感情ではあったけれど、

「…………聞かないわよ」

「……」

もう何度も告げた言葉。
きっと、親友が自分に何か聞いて欲しい事があるのだと凰 鈴音には判っていたけれど、
とても聞く気にはなれない。
付き合いはまだ短い、親友と思える彼女が片思いの幼馴染と寄り添う姿が浮かんでは消える。

「笑えないわ」

足を組んで、膝に頬杖を突く。
祝福したい気持ちはあっても祝福などできないかもしれない、以前そんな事で心を痛めていた事もあったけれど、いざとなると、それどころではない。
不意に洩れてしまった呟きにぴくりと肩を跳ねさせて、押し黙る横顔を見つめていると、
部屋に踏み込んだあの瞬間、確かに沸き上がった感情が今も鈴自身を苛む。

「――あー!やめやめ!セシリアもいつまでもそんな気分落としてんじゃないわよ!」

「で、ですが」

「やめろって言ってんの!ほら立って!シャワー浴びてガッコ行くわよ!」

はずみをつけてベッドから降りると、ぎゅっと線の細い手を握って立たせようと引く。
生返事のまま、引かれるがままのセシリアをシャワールームに連れて行きながら、

この手はもう幼馴染のものなのかと、そんな風に感じて、鈴は少し泣きたくなって。

二人で一緒に入るシャワーが今はこんなに寂しい事が互いに辛くて、二人はいつの間にか泣いていた。



324: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/27(月) 00:42:32.07 ID:ozxFYtUC0


――――――


テスト終了の鐘が鳴る。実際に鐘を鳴らしているわけではないし、
明らかに合成音声を再生しているだけだが鐘は鐘。
しんと静まり返っていた教室内は、一気に解放感に包まれ、一気に喧騒が戻って来た。
朝からずっと聞きたかったんだと跳ねながらやって来た布仏本音、通称のほほんさんが間延びした声で一夏に質問を投げかけるのを皮切りに、クラスメイトのほぼ全員が一夏に詰め寄って来た。

「おりむー、大丈夫?」

「部屋凄い事になってたね、何があったの?」

「はは……いや、大したことじゃ……」



「……ふん!一夏が悪いのだぞ!」

答えに詰まる一夏の傍に箒がやって来て、一夏を口撃し始める。
はじめ、まさか箒は全て言葉にしてしまうのではないか、そんな不安を感じたけれど……それは杞憂であったと気付くのはすぐだった。

「全く貴様と言う奴は……あれだ!!あれなのだ!!」

この幼馴染は、自分たち二人が争ったのだと、そういう形にしようとしている。

「ほ、箒……だからってお前な!やって言い事と悪い事があるだろう!?」

姉から、どのタイミングで話を聞いているのかは知らないが、
いつもはこの様な口喧嘩をすぐに止めに入るシャルロットも、ラウラも、セシリアも動けない。
代表候補生である自分自身が当事者であってはいけないのだから。

「ええい!うるさい!大体貴様は、いつもいつも誰にでも……だから私は……それなのに」

(あれ……?)

箒の声の様子が変わる。訝しがる一夏の前に、箒を庇うようにラウラが割って入って来たのはその時だった。

「我が嫁一夏よ、今のはお前が全面的に悪い!」

「そうだね、ひどいよ一夏……箒、大丈夫?」

続いて、シャルロットも箒の肩を持つ。絶妙のタイミングでの乱入によってこれで対立構図が生まれた、ここまでの計算なのだろうか、それとも打ち合わせをしたのだろうかと思うと、一夏はぞっとしたものを感じざるを得なかった。

「な、なんだよお前ら、俺の何が悪いって……」

(あれ、でもこのままじゃ……俺が三人にぼこぼこにされる展開じゃないか?)



325: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/27(月) 00:53:40.28 ID:ozxFYtUC0



「お待ちなさい。確かに一夏さんに問題は沢山ありますけれど、箒さんも悪くてよ?」

そんな一夏の不安を和らげる凛とした声が響く。
セシリアが一夏のサイドに着いた……。一瞬、寒気のする気配も周囲に広がる。ラウラとシャルロットからだ。
これが打ち合わせの上のものだとすれば、セシリアもそこに加わっていたというわけだ。
今朝の箒、シャルロット、ラウラの剣幕を知る一夏にとって、それは女の怖さを感じる寒気だった。
けれど、それはドアを勢いよく開けて乱入してきた鈴の声によってかき消される。



「話はきかせて貰ったわ!私は一夏につく!箒!謝んなさいよ!!」



水を打ったように静まり返る教室。
聞かせて貰ったと言い切る鈴は、どう考えても今教室に来たばかりなのだから。

「ぶっふ……」

(おいいいいい!その登場の仕方はどうなんだ!?ラウラとか口元抑えてうずくまってんじゃねーか!?)

「……おりむー、今のはおりむーが悪いよ!」

「織斑君!私は織斑君の味方だよ!」

「篠ノ之さん、元気出して?ね?」

鈴の宣言を合図にしたように、クラスメイトが立ち位置を宣言し始めて二分する。幸いにして普段から一組に出入りしている事が多いせいか、誰も鈴の唐突さと不自然さには気づいてないようだ。

(鈴はこんな事計算してない、絶対)

ガラリと教室の戸をあけて、この三文芝居のトリがやってくる。
千冬は専用機持ち全員に一発づつ拳骨を一周入れてから、トドメとひときわ強い拳骨を一夏に食らわせて、

篠ノ之 箒、ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルロット・デュノア vs 織斑 一夏、凰 鈴音、セシリア・オルコット
異例の3on3戦の告知がされたのは、テストを終えた日の放課後だった。



326: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/27(月) 01:05:17.25 ID:ozxFYtUC0


――――――


篠ノ之箒           織斑 一夏
ラウラ・ボーデヴィッヒ VS 凰 鈴音
シャルロット・デュノア    セシリア・オルコット

三年生の専用機持ちは一人、二年生が二人に対して、一年の専用機持ちは七人いる。
その七名のうち、六名での3on3が行われると聞き、第一アリーナは通路まで満員の観客で埋まっていた。
たった一人の男性IS操縦者織斑 一夏の白式・雪羅は、数多くの謎を秘めたいかなる国家にも属さない機体だ。シールドエネルギーを無効化するワンオフアビリティ零落白夜は全てを切り裂く。

篠ノ之箒が駆る紅椿は、近接戦闘と射撃戦を同時に補う万能機。

第二世代機にして並いる第三世代機達を抑え、一年最強と噂されるフランスの代表候補生シャルロット・デュノアのラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ。

ドイツ軍に籍を置く同国の代表候補生であるラウラ・ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンには、PICを応用した新機構、AICが積まれ、砲戦機の欠点であった近・中距離においても強さを見せる。

中国の代表候補生凰 鈴音が駆る甲龍は近距離を重視した機体でありながら、射角、射撃姿勢を問わない上に砲弾だけではなく、砲身すら目に見えない龍咆を搭載。設計思想から抜群の継戦能力を持つ。

特殊なレーザー兵装、BT兵器を搭載したイギリス代表候補生セシリア・オルコット専用機はBTそのものの名称、ブルーティアーズを与えられている。

簡単な各機の情報が電光板に掲示されている。
今回の試合は各国からの視察団が訪れるタイミングで開催された為、
念の為、白式・雪羅と紅椿が第四世代機である事や篠ノ之束が手掛けた機体である事は伏せられ、それに伴い、紅椿には絢爛舞踏の使用が禁止されていた。
自分だけでなく仲間のシールドを含めたエネルギーを瞬時に回復させる絢爛舞踏を使用した場合、全く勝負にならない事が明白だからというのも使用禁止の要因だった。



327: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/27(月) 01:17:27.50 ID:ozxFYtUC0


――――――


「絢爛舞踏は無しか……」

「一対一の模擬ならまだしも、集団戦で使われたらたまったもんじゃないわよあんなの」

ISスーツのまま、ドックで最終チェックを行う。
何も聞かず、何も言わず、セカンド幼馴染は一夏を、セシリアの味方でいてくれる。
家庭の事情で中国に帰った時も、そんな様子はとうとう再会するまで一度も見せなかった。

「鈴……ありがとな」

「はあっ!?ば、バカじゃないの!アンタの為じゃないわよ……」

その意思の強さは、真っ直ぐさは、一途さは、不器用な態度の下で、何度も何度も壁にぶつかって、
傷だらけになって何度倒れても、何度でも立ち上がり、またまっすぐに走りだす。
そんな鈴の意思を貫き通す為の力、第三世代IS甲龍を完全展開し、お先に、と言いながらエントリーカタパルトへ鈴が向かっていく。その背中は、一夏にとって、とても頼もしいと憬れさえ感じるものだった。


328: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/27(月) 01:19:18.33 ID:ozxFYtUC0


「…………」

「…………」

残された二人は、無言のまま、互いに顔を合わせずにいた。
あれから、付け焼刃の連携訓練は行っているから、全く言葉を交わさないわけでもない、
クラス内でもいつものようにクラスメイト達と談笑を交わしていた、
しかし、あの一件以来、一人になるとこうして押し黙っている事が増えたし、
それを一夏は知っていた。

「……すまない、セシリア」

「…………謝る事が……ありますの?」

「いや、そういうわけじゃ……謝ってるんじゃなくて……いや、謝っているのか?」

一夏は、もどかしそうに頭を掻く。こうなった原因は何だと、ここ数日はいつも考えているけれど、
どうしてもこれという答えが見出せずにいた。
全く同じ事をセシリアもまた問い続ける、一人になる度に塞いでいるのは、決して沈む気持ちを起因とする訳では無かった。
それを考えた結果、沈んでしまう事が殆どなのだけれど。

(テスト勉強をしていれば?いいえ、それでは誰か他の人が私と同じ道をたどってきっとここにいらっしゃったのでしょうね。一夏さんは……誰にでもお優しいですもの……。わたくしは幸運を享受しただけ……それでも……ラウラさん達の怒りは尤もですわ。……きっと。その上で進む為の何かが必要なのに……わたくしは一夏さんに好印象を持って頂く事ばかり考えて……一夏さんの判断を尊重すべきでしたのに……一夏さんが謝罪すると言う事は、きっと……舞い上がったのは私ですのね)

戦闘前の緊張がそうさせるのか、考えるほどにネガティブな答えが次々生まれる。

(どちらにせよ……私はラウラさん達の怒りを受け入れるべきですわ)

「………一夏さん。有難う、ございました……」

「!?」

鮮やかな蒼の機体、第三世代ISブルー・ティアーズを完全展開したセシリアが一夏に背を向ける
一夏はその背中に手を伸ばす、口を開くが言葉が出ない、何かを思いついてはその言葉が消えていった……。




329: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/27(月) 01:21:50.97 ID:ozxFYtUC0



(ございまし……た?)

鮮やかな蒼は空の中にあって映え、すっきりとまとまったデザインは派手すぎず、地味すぎず、それでいて、パイロットのプロポーションによる印象の補助もあるにしても、女性的なシルエットを確りと全体に残している。
初めて戦った時、高慢なこの女を乗せたブルー・ティアーズは、鮮烈なイメージを焼き付けるほどに美しかった。

いつからだった、それを……。

いつからだった、ずっと……。

カタパルトを踏みこみ、真っ青な空へ昇って行く涙。見送ることしかできなかった一夏の耳に、姉の声が響く。



「織斑!おい!織斑!!聞いているのか!!」

「ッは!はい!!」

「……織斑、どうした」

「い、いや、なんでも……」

微かな声の変化に、スピーカーから聞こえる姉の声は、とても優しくなる。他人が聞けば気付かないような変化だけれど、唯一の肉親である弟がわからないのでは情けない。心配をかけまい、ただでさえ今回の件では支えて貰っているのだから。
一夏はISを展開して、カタパルトへの移動を始める。

「もう全員上がっている、お前もさっさと上がれ!」

「はい!」


でも……他人が聞けば気付かないような変化、唯一の肉親である姉もまた、わからない筈が無くて。


「…………何度も言わせるな。お前は間違っていない。」

「!!」

「さあ、話は終わりだ!さっさと行け!……行って、お前の意思を見せて来い」


「千冬姉……。 白式・雪羅、 織斑 一夏! 行きます!」





完全展開された第四世代相当IS、白式・雪羅が、決戦の空へとカタパルトから飛び立っていった。





337: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/28(火) 00:04:53.14 ID:XJVUzEZ20


第一アリーナの空に、6機のIS、それも専用機が空に展開している。

燃費こそ悪いが超性能を誇る、あまり公に出来ぬ第四世代
白式・雪羅と紅椿

遠近をカバーし、優れた安定性が磐石の戦果を生む万能機
甲龍とラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ

超射程の主武器と、特異なサブウエポンによるオールレンジを実現したワンオフ機
ブルー・ティアーズとシュヴァルツェア・レーゲン

6機の専用機が決戦の空を翔け、攻防を繰り広げていた。

「っ!!あたしだって……負けらん無いのよ!!!」

「鈴ッ!お前は……許せるのか!?」

紅椿と崩山装備の甲龍が幾度も幾度も交差する。
二刀に分割した双天牙月で鈴が迫れば、
激しい剣戟を縫うように雨月・空裂の刀身から放たれるエネルギー刃を放つ箒。

「そんなのわかんないわよアタシにだって!!……でも……セシリアに……セシリアに!アタシの親友に!!!これ以上寂しそうな顔なんかさせるわけにいかないでしょうが!!!」

鈴が崩山装備の炎を纏った拡散衝撃砲を放つ。砲門が4つに増えた事でその範囲は大きく広がっており、近距離戦の間合いでは文字通り逃げ場は無い。箒は第四世代の機体性能を頼りに被弾しつつも後方に下がり、大きく高度を下げて回避する。

「くっ!思った以上に……!!」

「箒!援護するよ!!」

今回の試合が発表された時、箒は勝利を確信していた。
紅椿のワンオフ・アビリティ絢爛舞踏は自身のだけではなく、他者のチャージも行う事が出来る。
相性問題で白式に使用する事が望ましいけれど、それでも、ただ一人、己の力で勝利を引き寄せられるのは自尊心を満たしてくれる。
しかし、あまりにも強力すぎるその性能は、公開試合となったこの戦闘では使用を禁止されている。
絢爛舞踏がなければ紅椿は持て余すほどの火力、機動力、シールドの全てと引き換えに、
極めて燃費の悪い欠陥機同然だった。

(くそっ……無様だな私は!)



338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/28(火) 00:21:50.36 ID:XJVUzEZ20


シャルロットの両手に握られたアサルトライフルから、3点バーストで交互に弾丸が発射され、鈴に迫る
巧みに間隔と射角を変える射撃は、単純な掃射よりも読みにくく、避け難い。

「鈴!そちらの要は鈴だ、開始早々で悪いけれど落ちてもらうよ!」

「何でもかんでも、そう上手くいくと……!」

致命打こそ避けながらも、このままシャルロットの弾雨に身を置くことは3on3であるこの戦いに於いては不利。
鈴はスラスターを吹かしての離脱を試み、シャルロットは……その離脱をすんなりと許した。

「……しまった!!」

鈴がその意図に気付いた時、地表で射撃姿勢をとった黒の機体が吼える。

「鈴!覚悟ッ!!」

二門のレールカノンが回避運動で大きく動いた鈴に狙いをつける。
大きな動きにはどうしても慣性が発生する為、次の回避運動が遅れがちになる。
始めからそれを狙っての攻撃だったと鈴が気付き、口惜しげな視線をシャルロットに向け、それにシャルロットが笑みで応える。チェックメイトだ。

「うあああああッ!!」

しかし、爆音の中に叫んだのは、硬く目を閉じ衝撃に備えた鈴ではなく、今まさに発車しようとしていたレールカノンの砲身を天から降り注いだ光条に撃ち抜かれ、その誘爆に呑み込まれるラウラだった。
上空から一気にシュヴァルツェア・レーゲンに間合いを詰める蒼い機体。

「ラウラさん……!私をお忘れでなくって?」

「来たか……セシリアァァッ!!!!」



340: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/28(火) 00:55:29.20 ID:XJVUzEZ20



砲身を失ったレールカノンをパージしながら、ワイヤーブレードを展開してラウラが降下してくる憎い恋敵を迎撃に飛び立つ。
正直に言えば、あの晩、二人が同じベッドに居る。それだけしか確認できていない。一夏の部屋へ潜入した己の目に飛び込んできた二人の姿と、セシリアの嬌声に逆上したのは、相手がセシリアだからだ。敵と認めうる存在だからこそ、慌てた。この女にアドバンテージを握られては危険、シャルロットの事件の際からそれを強く感じていたから。
ターゲット周囲に展開されたビットなど、機動性を犠牲に装備された物理シールドで凌ぎ切る。わざわざ居場所を知らせた上に、ショートブレード、インターセプターを展開しながら突撃してくる実験型、試作型の狙撃機など、量産化の目処こそついていないとは言え軍用機として正式採用されているシュヴァルツェアシリーズの相手ではない。

(相手ではない……?いや……こいつまさかッ!!)

あまりにも無策、無謀、これが鈴や一夏、シャルロット相手ならば己の不利を覚悟する事だが、相手はセシリアとブルー・ティアーズ。
何よりラウラにその予想を確信させたのは、大型シールドのような肩部にはっきりと4つのビットが着いたままだったからだ。

「この馬鹿者が!!贖罪だとでも言うつもりか!!!」

ワイヤーを鞭のようにしならせて、ラウラはセシリアを迎撃する。
ワイヤーの尖端に取り付けられたブレードが変幻自在の動きで迫る。当たり所が悪ければ遠心力を乗せて打ち込まれるそれは致命的な威力となる。

「良かろう、貴様をココで終わらせてやるよ!」

「さぁせるかあああああ!!!」

ワイヤーが辿り着くよりも早く、セシリアに瞬間加速で体当たりする白の機体があった。
専用機同士の派手な戦闘に沸いていた観客席も、二対一の戦いで鈴を追い詰める箒とシャルロットも、追い詰められる鈴も、目の前でセシリアが轢き飛ばされるのを見ていたラウラも、全員が唖然とした表情を浮かべ、アリーナは一瞬静寂に包まれた。
身体をくの字にして弾き飛ばされたセシリアが壁に叩きつけられた爆音が大きく響き、そのままズルズルと蒼のシルエットが地表に崩れ落ちる。

「…………ぉい」

突然の事態に、ファースト幼馴染の頬が引き攣る。

「……あーあ……」

フランスからやってきた美少女は、溜息をつきながら首を振り

「せっ……セシリア……!?」

裂帛の気合で今まさに貫こうとした相手を襲った衝撃に、怒りも忘れてその様子を目で追い

「なっ!!な、な、ななななな」

味方は二の句が次げずに言葉を震わせ。

「セシリア!大丈夫かッ!!」

「「「「お前が言うな!!」」」」

戦場と観客席に生まれた一体感が、お前が言うなの大合唱を第一アリーナに響かせた。



「…………」

「…………あの、織斑先生?」

「山田君」

「は!はい!」

「酒持って来い……」



348: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/28(火) 23:46:34.72 ID:XJVUzEZ20


突然の事態にアリーナに動揺が満ちる。
イギリス代表候補生セシリア・オルコットがドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒと交戦状態に入るや否や、唯一の男性IS操縦者である織斑一夏があろうことか味方であるはずのセシリアを瞬間加速≪イグニッション・ブースト≫からの体当たりで吹き飛ばしたのだ。
予想外からの角度で吹き飛ばされた蒼い機体は憐れ姿勢制御もままならず障壁に叩きつけられ、ずるずると地表へと崩れ落ちていた。
イギリスからの来賓がこの事態に激昂しながら学園関係者に詰め寄っている他は、あまりの展開に茫然としていた。ただ一人、事の張本人である織斑一夏をのぞいて。



「……く……うっ……な、なんですの、一体……」

辛うじて意識は保っていたものの、ブルー・ティアーズのシールド残量は今の一撃で大きく削られてしまった。手にしたスターライトmk-Ⅲを杖代わりに何とか立ちあがり、機能損傷のチェックを行う。スラスター系のいくつかに僅かにエラーとセンサー系に障害が発生しているが、BT管理系は正常を示していた。
ブルー・ティアーズが自動で機能修復を行っている事を示すインジケーターの動きは、障壁に叩きつけられた主人を護り尚、まだ戦えると健気に奮い立つブルー・ティアーズ自身の意思を見た気がして、セシリアは俯く。

「わたくしは……勝利を捨てた戦いをしておりますのよ……」

ISには意思のようなものがあると言われている。
それは人格のようなものとは似ているようでまた違うらしいが、生憎と対話をした事は無い。
以前におかしな夢を見たと織斑一夏が漏らしていた言葉。もしかしたら、それは彼が自らのISと対話したのかもしれない。
ブルー・ティアーズはどんな人格なんだろう、話す事ができたなら、何故負けようとする主人の為にそうまでするのかを聞きたかった。



349: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/28(火) 23:58:51.74 ID:XJVUzEZ20



「セシリア!」

「……一夏さん……!?」

機能の自己応急処置を待つセシリアの元に、今しがた自分自身を轢き跳ばした人物が真剣な表情でやってくる。もしかして心配しているのだろうかなんて思ってしまった自分へ否定するように首を左右に振る。
そんなわけがない。彼はごめんと謝った、あの日の事で仲間と戦う事になったセシリアに謝った。

(私が後悔していると思うから?私が勘違いしていると思うから?一夏さんが私に迷惑をかけたと思うから?何が迷惑?私の願いを聞いてくれた事が私に迷惑だったと?)

それとも、試合を投げようとしている事に気づいて、それに怒っているのだろうか。自分から敗北を受け容れるなど最低の行為だ、それは自覚している。
ましてやこれは3on3のチーム戦。己の負けは直接の敗北にこそ繋がらないけれど、一人が落ちた瞬間に。人数差が生まれる。チーム戦とはいえこの小人数ではたった一人の人数差が大きい。

何より、セシリア自身を苛むのは、正直なところセシリアにとってはこんな戦いの勝敗などどうでもいいという事。
それよりも、自分達をかばった為にシャルロット達から敵と誤解されている鈴、自分がした要求によって責められ続ける一夏。二人が、三人と仲直りする事が大事なのだ。
ならば、三人の憤懣は誰かが引き受ければいい。

(一夏さんに謝らせるくらいなら、学園にだって未練はありませんわ)

陰鬱としていた思考の末にセシリアが導き出した回答は、敵にも味方にも失望され、罵倒され、完膚なきまでに自身を破壊して貰う事だった。
幸いというわけではないけれど、もしここでIS学園を追われ祖国に帰ったとしても、祖国は別の代表候補生を送り込むだけだろう。

BT計画二番機であるサイレント・ゼフィルスが奪われ、一番機であるブルー・ティアーズが完敗したとあれば、BT計画は頓挫してしまうかもしれない事は申し訳ないけれど、
優れたエンジニアである彼らはきっとBTに代わる技術を生み出し、それを搭載したISを駆る自分に代わる代表候補生が、一夏達と共にサイレント・ゼフィルスを破壊してくれるはず。

自分自身はどうなるだろうか、ブルー・ティアーズは剥奪され、代表候補生からも外され、またあの汚い大人たちに囲まれた日々が始まる。
以前のようにはいかないかもしれない。国家の名に泥を塗ったオルコット家を援助するような者はいないだろう。やがて、チェルシーたちとも別れ、オルコット家はどこかに呑み込まれ、自身も共に堕ちてゆくのだろう。

(まるで一夏さんの部屋で見つけた本のようですわね『悶絶隷嬢咽び何とか』だったかしら……)

今回の発端となった本の名前をふと思い返す。つまらない事が原因で、沢山のかなしい事があった。一夏は、こんな自分に引導を渡してくれるのだろうか。

彼が何を否定しようとしたのか、現れた彼の顔を見た瞬間から、思考がぐるぐると回る。回り続ける。
相当長く、思案にふけっていたのだろうか何度も名前を呼ばれながら、その手が肩を掴むまで呼ばれた事にもセシリアは全く気が付かなかったようで。
肩を掴まれた感覚にハッと顔を上げたセシリアは、眼の前に彼の顔が現れた事に頬だけでなく耳まで熱を感じていた。



350: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/29(水) 00:19:05.91 ID:f0W8eAsi0

「――リア!セシリア!おい!セシリア!!」

「っは!はい!」

「あっ……ああ、良かったぜ、変な所打ったかと……」

(あれ?体当たりしたの一夏さんでしたわよね……?)

「その……あああ!だめだ……何を言えばセシリアが喜ぶかがわかんねえ!」

「……えっ」


「でも、これだけは聞いてくれ……! 千冬姉の受け売りだけれど……セシリアは、セシリアは何も間違っちゃいない!!セシリアが望んだ事も、何一つ間違ってなんかいない!!」


「一夏……さん……」


ISのアームで肩を掴まれると結構痛い。勿論シールドは有効だし、もしも怪我の危険がある力が加えられても別条は無いけれど、とにかく痛い。ISの先端が細い指が、肩に微妙に食い込む。

「だから、セシリア……」

「い、痛いですわ……一夏さん」

痛みを訴えるセシリアの声に、一夏ははっとして両手を離す。

「す、すまん!……あ、いや、すまんっていうのは、思い切り掴んじまった事で……」

出撃前のピットでの事を思い出し、一夏が困り顔で繕うのを見て、セシリアが小さく噴き出す。

「ふ……ふふっ……」

「セシリア……」

陰鬱とした気持ちが、あれほど思いつめた事が、自分でも驚くほどの速さで崩れていく。鈴にこの話をしたらちょろすぎと言われるのだろう。自分でも可笑しいくらいにちょろい。

「一夏さん、一つ伺ってもよろしいですか?」

「お、おう?」

「どうして先程、謝ったんですの?」

「あ、あれは……揉め事になるのは、俺だからで。だから……いつも苦労をかけてすまないなって意味で……セシリアに悪い事をしてるとか!そういう事じゃないんだ!信じてくれ!」

「……良かった。私は迷惑なんて思っていませんのよ?だって、わたくしも一夏さんも……何も間違ってないのですから」

何も間違っていない、一夏が千冬に言われ、一夏がセシリアに言った言葉。自身を苛む全ての全否定。最後に残っていた雲が晴れ、セシリアの心は今日の青空の様に晴れ渡っていた。

「ほんと、いつも苦労をかけられますわ♪」

「う……すまん」

「一夏さん……」

「セシリア……俺は…」

何かを言おうとした一夏の声は、此方に急接近する橙色の機体が空気を切り裂く轟音にかき消された。


360: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/29(水) 23:32:30.23 ID:f0W8eAsi0



「――ッ!? シャル!!」

「僕とした事が……戦闘中だっていうのに呆けちゃったよ……もしかしてそれも一夏の作戦?」

肩を竦めて、微笑を見せる。両手にブルパップ式の、銃剣付きアサルトライフルを出し、一方の銃口を一夏に、もう一方を突撃を受けいまだ満足に動けないと見えるセシリアの眉間へ向けながら。

「はい……そこまでだよ?」

朗らかな声で、終演を告げる。こんなものは茶番だ、続ける価値なんてあるわけが無い。

「くっ……!」

セシリアを庇うように立とうとする一夏の腕、それをそっと下ろさせたのは、庇おうとする相手。駆動系にも僅かな違和感がある、ゆっくりと一歩前に出て、セシリアは銃口の前に身を晒した。

「……セシリア、贖罪のつもりなの? 呆れ「いいえ!」

凛とした声が、シャルロットの言葉に食いつく。ぴくりと眉を顰めながら、シャルロットは埃に汚れた金髪を靡かせる、強い意思の篭る蒼い瞳を睨み付けた。
以前から、危険だと薄々感じていた。どんなに尽くし、どんなに行動を起こそうとも、高く聳える幼馴染の壁を何度も感じていた。そしてそれとはまた別に……危険を感じる程ではないと思わせる言動、御気楽にいつも笑っていて、何不自由なく育ってきたお嬢様丸出しのくせに、料理が壊滅的に下手で、造形センスは3歳児なのに、どんなに引き離した筈でも、いつの間にか幾度も攻めた自分と同じ位置にいる女、セシリア。

「キミは……本当に……」

言い終える前に、フルオートで弾丸を発射する。不意を突いた連射は、綻びだらけの蒼い機体に致命傷を負わせる……筈だった。

「……ッ!!」

杖代わりに着いていたライフルを、銃口を地面につけたまま発射する。溢れる大出力のBTエネルギーが行き場をなくし、長大な砲身を内側から炸裂させれば、その勢いで若干のダメージと引き換えにセシリアの身体が跳ぶ。未だに離陸できるほど右足のスラスターは回復していなかったが、一度跳んでしまえばあとは左足だけでも辛うじて滞空は出来る。
まさか自身の主武器を失う事になってでも回避を優先するとは思って居なかったシャルロットの反応が遅れ、その隙にブルー・ティアーズのバインダーからビットが分離される。

「ビットを切り離したからって!!」

舌打ちと共に、飛び立つビットに照準を合わせ、ライフルを撃つ。しかし、緩慢な動きのセシリアと違い次々に放たれる弾丸は機敏な機動を見せるビットにかすることも出来無い。その隙にシャルロットを包囲した4基のビットは、シャルロットから最も反応の遠い位置からだけなく、容易に反応できる位置もあわせ、単純な連射ではなく、一基一基が緩急をつけた射撃を行ってくる。

「なんだって!?こんな……回避しきれない!?」

それは、以前のセシリアには無かった技術。主武器を失った事で増した集中力がそうさせるのか、それとも、単純に枷の無い、背負う気負いがないセシリア・オルコットの本当の実力なのか。

蒼の光条が次々と襲い来る、こう機敏で読みにくい機動をするビットの攻撃を完全に回避しきる事も出来ず、シャルロットは徐々に被弾が増えていく。これではまるで敵がたった一人ではない。小隊を相手にしているかのような感覚。

実際には一夏もいるにはいるが、何を想ってか彼は動かず、セシリアの一歩後方でじっと戦いの行方を見守っている。



361: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/29(水) 23:43:33.81 ID:f0W8eAsi0


「付き合ってられないよ!」

堪らず間合いを離すが、ぴたりとその動きを追ってくるビットが相手では安全な距離など何処にもありはしない。シールドエネルギーがゆっくりと、徐々に削られてゆく。

「この……ッ!! うっとおしいよ!!セシリア!!」

苛立ちが頂点に達したシャルロットが高速切替≪ラピッド・スイッチ≫で武装をアサルトライフルから携行手持ち式ミサイルランチャーに切り替え、ビットからの被弾覚悟で滞空しているセシリアを狙う。小型弾頭のミサイルだが、追尾性も高く何より弾速が速いモデルだ。
ビットで迎撃されるならそれはそれも良し、自身から照準を外したビットをやり過ごしてセシリア本体を狙うのみ。
今のブルー・ティアーズならば落とせる筈。肩部のシールドを破壊されながらもロックオンを終え、小型のミサイルが8つばら撒かれた。

「させないよ!!」

シャルロットの背後から声が響くと共に、紅蓮の炎が打ち出されたばかりの弾頭を8発丸ごと巻き込んで、シャルロットの目の前で爆発を起こす。
ハイリスク・ハイリターン。賭け、に近かった攻撃を介入で文字通りの灰燼に帰された。それどころか爆発のせいで更にシールドを削られてしまう。

「鈴……ッ よくも!!」

背後に視線を向けるけれど、黒と赤紫の機体は己を無視して無防備な姿を晒しながら、自分の横を通り過ぎてゆく。
その代りに、少し遅れて紅椿、箒の機体が近付いてくる姿だけが見えた。

「な……完全……無視……?!」


「セシリアッ!!大丈夫!?」

鈴は滞空するセシリアを寄り添うようにして支え、必死の形相で問う。鈴に接近された事で、ビットの攻撃までが止む。シャルロットは安全圏に辿り着いたのだった。

「鈴さん……ごめんなさい、わたくしは……わざと負けようとして……」

寄り添ってくれる友の暖かさに、申し訳なさそうに眉根を寄せて、己の選択に振り回してしまった鈴へ謝罪を告げようとする。けれども鈴はその言葉を聞く前に、力いっぱい首を左右に振って。

「そんな事……そんな事言われなくたってわかってるわよ!わかるに決まってんでしょ!そんなことどうだっていいのよ!勝ち負けなんかどーだって!!バカ!!バカセシリア!バカリア!!」

「ば……ばかりあって……鈴さん……」


「アンタがわざと負けようがどうしようが!あたしはセシリアが決めた事ならいつだって、いつだってずっとそばで……!ずっと、ずっと、ずっと!!ずっと一緒なんだから!!」


気がつけばいつも一緒に居た。一組と二組の合同練習では、大抵ペアを組んでいた。
一夏にご飯を食べさせてあげるときも同じタイミングだったし、買い物を尾行する時も、どちらが言い出したわけでもなく一緒に居た。
IS訓練を放課後にしようと思えば、同じアリーナに同じタイミングで出会って、当人の居ないところで一夏を賭けて何度も戦った。
タッグマッチのときも、一夏をボコれるパートナーと考えれば自然と互いが頭に浮かんでいた。

エアコンが壊れた時だって、本当は一夏の所になんて行っていなかった。いつも、いつでも、いつだって。

いつの間にか、セシリアと一緒にいることが、鈴にとっての大切な時間になっていた。

大粒の涙が、鈴の瞳から溢れ落ちる。



362: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/29(水) 23:47:34.22 ID:f0W8eAsi0


「僕を無視して戦闘中にお涙頂戴かい?そのまままとめて仲良く……!!」

シャルロットが連発式のグレネードランチャーを両手で構え、寄り添う二人へと向ける。この武器ならば直撃させなくとも爆風で削ることができる。鈴は助かるかもしれないが、もうセシリアには耐え切る力もない筈だった。
しかし、トリガーを引こうとした瞬間に今度は雪羅を展開した白式が射線に割り込む。誰も彼もが、どうしてこう自分のチャンスを潰すのか、シャルロットは悔しさに唇を噛むしかなかった。

「俺を忘れてないか?シャル!」

「ふ、ふふ、いつもいつも……でも、一夏も忘れてないかい?これは3on3だって! 今だよ!箒!!」


「一夏ーーーッ!!!!」


シャルロットが大きく左に動くと、その背後から、両肩の展開装甲を開いて、全開まで出力をチャージした穿千を構えた箒が現れる。

「っげえっ!!箒!!!」

「貴様、貴様は……セシリアに何をした!この不埒者ォォッ!!!」

あれから箒は、上辺だけで他者と言葉をこそ交わしても、一夏と「言葉を」交わす事だけはなかった。
それは、織斑一夏にまつわる時々の問題のたびにそうであったから、一夏本人もこうして試合が決まった以上それに向けての事だろうと気にすることはなかったし、それはクラスメイト達もそうだった。
誰一人気づかない変化、それが今爆発する。怒りの矛先、一夏に向けて。



363: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/29(水) 23:51:30.61 ID:f0W8eAsi0

「う、うおおおおおっ!!!!」

一夏は雪羅からエネルギー爪を発生させる。白式第二形態・雪羅最大の特徴である多機能左腕の能力のひとつであるその爪は、その全てがあらゆるエネルギーを無効化する零落白夜を発動させている特徴を持つ。穿千の最大出力ブラスターもエネルギー兵器、この爪に切り裂けぬ筈は無し。
対する穿千は戦闘経験を積んだ箒に応える様に展開された二門のブラスターライフル。その火力はラウラのレールカノンに匹敵、いや、最大出力ならばそれもゆうに超えてしまうだろう。この火力ならば、エネルギー爪で切り抜けることができる一夏はともかく、その背に守られた鈴とセシリアは無事には済まないだろう。

「頼む!応えてくれ白式!!俺は……護りたいんだ!!」

だから一夏は、更に零落白夜のバリアシールドを傘のように展開させた。

「い、一夏!?そんな事をしたら……!」

鈴が叫ぶが、その瞬間に穿千の砲門からエネルギーの放出が始まった。奔流は一夏の左腕によって何条かに切り裂かれ、逸れたエネルギーもバリアによって無効化される。
自身のエネルギーと引き換えにあらゆるエネルギーを無効化する特徴を持った零落白夜の多重展開。完全に防御しているようにしか見えなくても、一気に白式のシールドエネルギーは減少してゆく。

「判ってる!長くはもたない!! だから……セシリアを頼むぜ!鈴!!」

「一夏さん!鈴さん!箒さんは絢爛舞踏を使えませんわ、穿千を撃てばもうエネルギー切れも同然の筈……ですから……!」

「嫌だね」「嫌よ」

セシリアの言葉を遮り、鈴と一夏の声がハモる。まだ何か言おうとするセシリアを他所に、鈴と一夏は一度視線を合わせ、互いに頷いた、言葉などなくても、思春期を共に過ごした幼馴染同士だから、言いたいことは判っているし、何かあるなら後でいくらでも聞く。

「だから、私の事は構わずにげてくださいましぃー、って?悲劇のヒロインのつもり?バッカじゃないの」

「そ、そんないい方してませんわッ!!」

呆れ口調の鈴が正面からセシリアに抱きつき、そのままセシリアごとその場を離れる。



364: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/30(木) 00:02:11.92 ID:nlPppA320

―――――――


「……さてと、このまま脱落したんじゃ千冬姉に後でシメられそうだ……箒……悪いな、言いたいことがあるなら後でゆっくり聞いてやるよ」

セシリアが一夏を呼ぶ声を尾のように引きながら二人が穿千の射線から離れたのを確認して、バリアの展開を止めると、シールド減少の速度が少しだけ緩やかになる。バリアがなくとも自分だけならば突き出した左腕の爪に切り裂かれ、エネルギーが白式に届くことはない。

「くっ!一夏!私は…私は貴様に怒っているのだぞ!!」

「だから、悪いなって……後で聞くよ!」

その声は、箒の耳には、ずいぶん近くで聞こえた気がして、気付いたときには、エネルギーの奔流を切り裂きながら接近してきた一夏の爪が、眼前にあった。

「これでリタイアだな。箒」

すべきことをした、満ち足りた笑顔でそう言われてしまうと、セシリアにあんな事をしたことが許せない相手であっても、間違いなくこの男が自分の幼馴染で、でも、セシリアの事はとても好ましくて、でも、セシリアは鈴の親友で、鈴もとてもいいやつだけれど二組で。考えるのが苦手な自分にこんなにでもでもと考えさせる一夏にもセシリアにも後で一言言わないと気が済まない気がしてきて……とりあえずは。



「大体が一夏!貴様がセシリアに……――――」



動けなくなった者同士、地上で擱座したまま一言でも二言でも共に擱座している一夏にたっぷりとぶつけるとしようと、箒は思った。







篠ノ之 箒【IS:紅椿】 12分30秒 シールドエネルギー:0 戦闘不能


織斑 一夏【IS:白式・雪羅(正式名称:白式第二形態・雪羅)】 12分31秒 シールドエネルギー:0 戦闘不能





 ×篠ノ之箒           ×織斑一夏
  ラウラ・ボーデヴィッヒ VS  凰鈴音
  シャルロット・デュノア     セシリア・オルコット





365: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/30(木) 00:18:51.24 ID:nlPppA320



≪シャルロット!箒がやられた、大丈夫なのか!?≫

コア・ネットワークを介した通信で、離れた位置に待機しているラウラがシャルロットに問う。アリーナの電光板には箒と一夏の戦闘不能を表示している。

「大丈夫だよ、ラウラ。箒は一夏を落としてくれた。これで2対2、しかもセシリアは殆ど動けない。ラウラは作戦通り待機していて、合図するから」

≪わかった、プランBで行くんだな≫

「プランB?」

≪なんでもない、こっちの話だ≫

ラウラの言葉に首をかしげる。このルームメイトの言う事は時々良く判らない。
それはともかく、ブラスターライフルの火線から逃れた二人を素早く捕捉する、一夏がいないのなら遠慮なんていらない。まずは鈴を落として、じっくりと狙撃銃を失った狙撃手を潰すとしよう。


「鈴さん!一夏さんが!」

「わかってるわよ!箒を落としてってくれたのはラッキーだったわね、絢爛舞踏無しとはいってもいるだけでも面倒だから」

展開していたビットがいつのまにか戻って来ていて、セシリアのバインダーに連結される。
鈴は全ての武装が使用できるがシャルロットと箒の二人を同時に凌いだ損耗は激しい。相方のセシリアに至っては試合的に瀕死レベルのダメージを負っており、更に機動性の大半を失い、主武器である大口径レーザーライフルまで失っている。
残る相手はシャルロットとラウラのコンビ。どちらも無傷ではなく、シャルロットはこちらに来てからの戦闘でシールドバインダーを失うまでダメージを重ね、ラウラは主武器であるレールカノンを失っている。

(あんな離れた所にラウラがいる……でもラウラのレールカノンはさっきセシリアに壊された筈よね……)

鈴は素早く戦場の状況を把握しようと視線を巡らす。
若干こちらが不利か、何しろラウラはほぼ無傷と言って良い。

「セシリア、こうなりゃアンタが頼みなんだからね!」



366: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/30(木) 00:30:38.20 ID:nlPppA320


「無茶言わないでくださいな!まともに動けないのにどうしろと……!?」

「違うわよ」

抗議の声を上げるセシリアに、鈴は額同士をこつんとあわせてにぃと歯を見せる。

「アタシがアンタの足になる」

正面から抱き抱えられたまま伝えられた言葉に、セシリアは目を丸くする。足になる、何を言っているのだ、前々からバカだとは思っていたけれど、本格的におかしくなったのだろうか。

「いいからほら、肩車するから、足パーツしまいなさい」

「か、肩車ぁ!?い、嫌ですわそんな、恥ずかしい!!」

「じゃーこのままでもいいけど、これじゃ相手を見辛いのよ、負けてもいいの?折角一夏がこの状況に切り拓いてくれたんだよ?」

一夏の名前を出されてしまうと弱い、しぶしぶミサイルビットを含めた下半身のパーツを格納するセシリアを鈴は傷つけないように慎重に、自身の肩の上に腕を使って導く。丁度甲龍の両肩の龍咆に左右を挟まれる位置にセシリアがいる。

「……ぅ、髪が当たってくすぐったいですわ……」

情けない声を出すセシリアの太股に噛み付いてやろうかなんて思いながら、脇の下にセシリアの足首を抱え込んで、我慢してしっかり掴まるように言おうと上を見上げ。
セシリアの胸が邪魔で顔が見えない事に人種格差を感じた。きっとやや前かがみの胸を突き出すような態勢にでもなっているのだろうと気を取り直し、茫然とした表情でその様子を見ているシャルロットに顔を向け直す。

「な、な、何を……してるの?」


「はぁ!?見て判んない? 合 体 よ ! 」


戦闘再開から、一夏と箒の同時ノックアウトを見て盛り上がっていた観客達も、まさか肩車で戦うつもりかと俄かに困惑のざわめきが広がってゆく。来賓席ではイギリスからの来賓が今度は中国からの来賓に詰め寄っていた。



367: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/30(木) 00:56:09.11 ID:nlPppA320



「セシリア!しっかり掴まって!あんたが攻撃するんだからね!」

そう言って再度加速を始める。任意の部分解除で、生足とはいえシールドも有効のようで、特に脚に風圧を感じる事もないようだ。ただ頭を動かすたびに、頭上から情けない声は聞こえてくるし、太股に力が入り、首というか頬が圧迫される。
自分より背丈のあるセシリアを肩車する構図というのもシュールだが、そもそもこんなに密着感があるのは……

「ああ……ケツがでかいせいね。」

その呟きは、内股に鈴の髪が当たってくすぐったくて悶えるセシリアに果たして聞こえたかどうか……。
鈴が何もされなかったという事は、聞こえなかったのだろう。
見れば気を取り直したシャルが、サブマシンガンを出現させる所だった。

「そんな遊びで!!」

「セシリア!!お願い!」

「ひぅ……あ、頭……動かないでくださいなァッ!!」

セシリアは腕の格納をしてから、両手で鈴の頭を上から抑え、更に両足をぐっと力を入れて締める。

「ちょっと!なにすんのよ!」

「頭が動かれると困った事になるんですわ!動かないでくださいまし!いきますわよ!ブルー・ティアーズ!」

一見出鱈目な合体だが、鈴は回避に集中していればいいし、セシリアはビットの操作に集中していられる。相対したシャルロットとしてみれば、これは厄介な相手だった。
たまに回避運動が激しすぎてセシリアが振り落とされそうになったり、セシリアがシャルロットの姿を追って身を捻った際に、そのまま鈴の首が極められたりしているが、
二人ともが国家代表候補生。回避に集中した鈴に当てなければいけない上に、射撃に集中したセシリアの攻撃も避けなければならない。

思ったよりもきつい、ならば……

高速切替≪ラピッド・スイッチ≫でハンドグレネードを取り出し、上空に向けて放り投げる。それが合図だった。
シャルロットの行動を不思議そうに見つめるセシリアと鈴、先に気付いたのはセシリアだった。

「鈴さん!回避!対狙撃機動にお切り替えになって……!狙撃が来ますわ!!」

「っは?狙撃?ラウラのレールカノンはセシリアが……」

「シャルロットさんの武器ですわ!!!」

武器の貸し出し、それを行えば狙撃翌用のライフルをラウラに渡す事が可能。確かにシャルロットの所有武装には狙撃にも使えるライフルは含まれている。
小刻みな停止と加速をランダムに繰り返しながら機動するが、こうなると二人分の大きさになった事がマイナスに働く。
ドンという重い音に続き、高速で飛来した弾丸をセシリアが鈴の額に手をかけて思い切りのけぞって避ける、もし当たっていたら確実にシールドエネルギーが全て持っていかれていた。

「ちょっ!セシリア!首痛い!痛い!」

「ご、ごめんなさい!」

不意だったとはいえ、鈴の首に今のは結構な負荷をかけたかもしれない、気遣うように体を起こし、鈴の顔を覗き込もうとして……

「いけない!鈴さん!右ですわ!!」

がっしと、鈴のヘッドアーマー部、鬼の角のような部位をがっしと掴み。

「へっ!?痛い痛い痛い痛い!!!」

ぐいっと右にスロットルレバーのように傾けると、痛みから逃れようと鈴が体ごと右に傾く。すると、先程まで鈴の体があった位置を、ロケットランチャーが通過し、背後でビットを一機巻きこんで爆発する。

「今のを避けるんだ……やるね」

「鈴さん!ナイスですわ!!でも、一基やられてしまいましたわね……」

「セ、セシリア……あんた後でコロスわ……」

狙撃によって生じたセシリアの集中の乱れによるビット攻撃の間隙を狙っての攻撃が失敗に終わり、再びシャルロットはセシリアのビットに追い詰められ始める。しかし、一基減った事により弾幕は薄くなり、シャルロットの回避運動に多少の余裕が見てとれる。
更に離れた位置からはラウラがライフルのリロードを終えた所だった。



368: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/06/30(木) 00:57:10.98 ID:nlPppA320



このまま同じ行動を続けていても、次の狙撃を避け切れる保証もなければ、またセシリアの集中が乱れればビットは二基になる。そうすればシャルロットの反撃も来るだろう。かなり絶望的だが、シャルロット自身のシールドはもう残り少ない、削りきれば或いは……。

それとも、その残り少ないシールドエネルギーのシャルロットよりも、ほぼ万全のまま間合いを離しているラウラを先に狙うべきだろうか。ラウラの狙撃さえなくなってしまえば、もはやビットを減らされることもないだろう。

いや、ここは合体を解いて、鈴がシャルロットの相手を、セシリアがラウラの相手をするべきだろうか。

合体を解くにしても、動きの鈍いセシリアがこのままシャルロットと戦い、鈴がラウラへと急襲すべきだろうか……。


374: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/01(金) 00:00:38.20 ID:s4d4tJXG0



「鈴さん!このままでは……」

「わかってる、私に作戦があるわ……セシリア、ちょっとそのまま腰を浮かせて?」

「こんな感じですの?」

言われるがままに、左右の龍咆に手をかけて、ぐっと腰を上げる。鈴が足首をしっかり脇に挟んでくれているからずいぶんと楽なものだ。

「オッケー♪」

「何をするんです……のぉぉぉおぉおお!?」

そのまま、抱えていたセシリアの足首を確りと甲龍の手で掴み、思い切りジャイアントスイングの要領でぶん回す。

「おーーーーりゃあああああああ!!分離!!!!」

ぶん投げられたセシリアがラウラのほうへと飛ばされる、それを追うようにしてブルー・ティアーズ達もシャルロットへの射撃を停止し、主人を追っていく。

「……鈴……まったくキミには結構唖然とさせられるよ、そんな方法でラウラを追わせるなんて考えもしなかった、でもラウラは、逃げることだってできるんだよ?」

シャルロットが飛ばされてゆくセシリアをちらりと見てから、右手にサブマシンガン、左手に連装式のショットガン≪レイン・オブ・サタデイ≫を構える。
対する鈴は、セシリアに締め上げられた首筋をコキコキと鳴らしながら不敵に笑い。連結した双天牙月を右手に出現させた。

「ッハ!冗談、セシリアにとっちゃこのアリーナ全体が射程内よ、ラウラに逃げ場なんかない」

ちらりと投げた方向に鈴が視線をやれば、投げられながら下半身の展開を終え、体勢を整えたセシリアのバインダーに三基のビットが戻ろうとしているところだった。

「今のはアンタから離しただけよ、シャルロット……いつかのリベンジ!させてもらうわ!!」

「余裕だね、鈴」

「アンタ……その状態で言う?」

鈴の行為を余裕と揶揄するシャルロットのシールドエネルギーは残り僅か。
相手を余裕と揶揄する事は、相当の余裕を見せる発言、更に言えば、相対する鈴に対する挑発だった。

(とは言っても、アタシも万全には程遠い……やれるの?いえ……やってみせる!)

双天牙月を両手で旋回させながら、鈴はシャルロットに向けて飛び込んでいった。



375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/01(金) 00:37:50.68 ID:s4d4tJXG0

――――



「っ!何をなさいますの!」

生足で肩車されろと言われたり、突然ISの力でジャイアントスイングされたり、
先ほどはうっかり貰い泣きするほど、熱い言葉をかけてはくれたけれど、やっぱり相当怒っているんじゃないだろうか?
格納していたブルー・ティアーズの下半身パーツを出現させ、足首のスラスターで姿勢制御を行う。やはりまだ片足しか満足に噴かせない、これは試合の後本格的なメンテナンスが必要かもしれない。
姿勢を整えている間に、飛ばされた自分を追ってきたビットを肩のバインダーに連結させる。左右対称、4つある筈のビットは、先ほどシャルロットのロケットランチャーを回避した際に破壊されてしまった。

結構な確率で戦闘するたびビットは破壊されるため、予備のパーツは常に用意されている。用意はされているけれど。

(やはり、いい気分ではありませんわね)

自身の手足、イメージ・インターフェイスにより管理されるブルー・ティアーズ。機体だけでなく、ビットもまた自身の一部、いや、正確に言えばもっと……

「!!」

セシリアの回避行動は早かった、早すぎた、ラウラが何より驚愕したのは銃声の前に回避運動を始めたことだ。狙撃手の直観力、というものだろうか。
狙撃をしようとする瞬間を感じる直感。相手のマニューバを読み取らねば狙撃はうまくいかない。それが染み付いているからこそ、自身の動きにその瞬間を見たときに反射的に反応し、狙撃を感知出来る。

「なん……だと……」

外した、決して苦手ではない狙撃を、トリガーを引く瞬間に対象が動き、狙った弾は空を切る。
スコープ越しに、此方に真っ直ぐと腕を伸ばすセシリアが見えた。先ほど、捨て鉢になっていた人物が、毅然とした視線を投げかけていた。
親友と言うには遠いかもしれない。
初めて出会った時、技術の満たぬ鈴とまとめて嬲った記憶もある。
最悪の出会いだったろう。しかし……銀の福音との戦いを共に乗り越え、自身の成果たるサイレント・ゼフィルスを亡国企業に奪われて尚凛々しく、
遂には、奇襲と言えど嘗て完敗した己を一度は倒した。戦友。

「ふん……一夏のこととなると、一喜一憂の激しい……私もそうだがな」

スコープから目を離せば、3基のビットが迫るのがラウラの目に入った。
あとはワイヤーブレードの届かぬ間合いから、ビットによる弾雨に晒される事になるのだろう。
ならば、策は一つ。念の為にと残しておいた対狙撃翌用物理シールドでビットからの攻撃を耐えつつ、一気に間合いを詰める。
幸いシールドエネルギーも十分、物理シールドが破壊されても十分耐え切れる。

左目を隠す眼帯を外しながら、ラウラは狙撃銃を捨て、弾雨の中へと突撃を開始した。

「セシリア!決着をつけるぞ!!」



378: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/01(金) 01:47:49.05 ID:s4d4tJXG0


シャルロットは決して虚勢を張るような女ではない。ありのまま、素直な思考と言葉に作られた己を持っている。
鈴に余裕だといった言葉だって厭味なんかではない、本心からそう思っているのだろう、
それを確かめることは出来ない、厭味だろうと言ったところで、自身に悪意のないシャルロットはそれを否定するだけだし、それが覆ることもないから。

そして実際。

鈴の放つ崩山装備龍咆の拡散衝撃砲は尽くシャルロットにかすりもせず、鈴はサブマシンガンの掃射に削られ、連射式のショットガンによる弾幕に対してまともに近づくことも出来ないのだから。

「このままじゃ……!!」

「鈴、甲龍の開発者の人に言った方がいいよ?武装のバリエーションが少なすぎる。それじゃ格上相手には歯が立たないって……ああ、別に気を悪くしないでね?僕は純粋に鈴の為を思って」

ナチュラルな上から目線。実力に裏打ちされたものとはいえ、鈴はその言い草が気に入らなかった。純粋に相手の為を思っていようがいまいが、此方も国家代表候補生。
そして自分の為のISが甲龍、沸々と怒りが沸いて来る。

(ぶっ[ピーーー])

そうは思うけれど、だからと言って有効な手立てが浮かばない。
シールドが先ほどの戦闘中に破壊されているから、例の必殺パイルバンカーは使えない筈だ。
しかし、シャルロットと近接戦闘というのはなかなかに難しい。
砂漠の逃げ水と名付けられた戦闘機動がまだシャルロットには残されている。
正しくは、シャルロットである限りは存在する。それはパイロットとしての技量だからだ。
伊達に、一年唯一の第二世代専用機で、一年最強と言われているわけではない、もしも紅椿がシャルロットの手に渡っていたなら文字通り無敵だったろう。

欠点が無い事が人間的な欠点、とも言えるかも知れない、欠点が無いゆえに思い通りに行かない事態への対応が弱い。
思い通りに行かない事態などが無いように動くから、欠点が無いのだけれど。

(砂漠の逃げ水……上等じゃない!!)

大きく双天牙月を振りかぶり、鈴はシャルロットへの間合いを狭めてゆく。



380: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/01(金) 01:50:47.65 ID:s4d4tJXG0



シャルロットは決して虚勢を張るような女ではない。ありのまま、素直な思考と言葉に作られた己を持っている。
鈴に余裕だといった言葉だって厭味なんかではない、本心からそう思っているのだろう、
それを確かめることは出来ない、厭味だろうと言ったところで、自身に悪意のないシャルロットはそれを否定するだけだし、それが覆ることもないから。

そして実際。

鈴の放つ崩山装備龍咆の拡散衝撃砲は尽くシャルロットにかすりもせず、鈴はサブマシンガンの掃射に削られ、連射式のショットガンによる弾幕に対してまともに近づくことも出来ないのだから。

「このままじゃ……!!」

「鈴、甲龍の開発者の人に言った方がいいよ?武装のバリエーションが少なすぎる。それじゃ格上相手には歯が立たないって……ああ、別に気を悪くしないでね?僕は純粋に鈴の為を思って」

ナチュラルな上から目線。実力に裏打ちされたものとはいえ、鈴はその言い草が気に入らなかった。純粋に相手の為を思っていようがいまいが、此方も国家代表候補生。
そして自分の為のISが甲龍、沸々と怒りが沸いて来る。

(ぶっ殺す)

そうは思うけれど、だからと言って有効な手立てが浮かばない。
シールドが先ほどの戦闘中に破壊されているから、例の必殺パイルバンカーは使えない筈だ。
しかし、シャルロットと近接戦闘というのはなかなかに難しい。
砂漠の逃げ水と名付けられた戦闘機動がまだシャルロットには残されている。
正しくは、シャルロットである限りは存在する。それはパイロットとしての技量だからだ。
伊達に、一年唯一の第二世代専用機で、一年最強と言われているわけではない、もしも紅椿がシャルロットの手に渡っていたなら文字通り無敵だったろう。

欠点が無い事が人間的な欠点、とも言えるかも知れない、欠点が無いゆえに思い通りに行かない事態への対応が弱い。
思い通りに行かない事態などが無いように動くから、欠点が無いのだけれど。

(砂漠の逃げ水……上等じゃない!!)

大きく双天牙月を振りかぶり、鈴はシャルロットへの間合いを狭めてゆく。




381: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/01(金) 02:07:29.39 ID:s4d4tJXG0

「来たね、予測通りだよ?」

サブマシンガンを、近接専用のショートブレードに切り替え、双天牙月を受け止める。甲龍の格闘戦性能はかなり高い。それを片手一本で受け止めるあたり、鈴がこの手で来ることを予め予測して準備していたのだろう。
そんな事を考えている場合でもない、もう片方にあったショットガンの銃口を鈴の腹部に向けるのが見えたからだ。

「っこのおおお!!」

鈴が受け止めたブレードを弾き飛ばすべき双天牙月を力いっぱい振り抜く。第三世代格闘機のパワーにブレードはへし曲がり、シャルロットの表情に少し翳りは見えるけれどショットガンの銃口を腰だめに構えたまま少し上に向け、振り抜いたことで続く双天牙月の二枚目の斬撃の腹に散弾を打ち込み、斬撃を逸らせる。

「まだまだっ!!」

連結した剣というものは、実用性は極めて低い。なぜなら単純に重いのが一つの要因。もう一つは、次の攻撃の角度が見えるからだ。片方が上に逸れたなら、次の攻撃は下から来る。

(甲龍は……本当に欠陥機だね、データを取るように言われなかった理由が良くわかるよ)

シャルロットは、顔もろくに知らない実父の命令でIS学園にやってきた。デュノア社の令嬢ではなく、子息として。
織斑一夏のデータを手に入れるために。
当然、一夏だけではない、どうせならば他の専用機のデータも取るに越したことは無い。あくまでついでではあったけれど、そのついでにすら甲龍は入っていなかった。
砲身も弾も不可視の衝撃砲以外には、燃費が良くて安定性が高いという特徴だけ。格闘戦向けの機体で、確かに弱くも無いけれど……。

(武装がまずいよ、火力強化のために衝撃砲の「見えない」特性を殺してしまう必要があるなんて、衝撃砲に調査の価値は無い、そして双天牙月はお話にならないおもちゃだ)

「……かわいそう。」

「はあっ!!」

シャルロットの予測通り、否、物理的に他はありえない。勢いを殺さぬままに下段からの斬撃は来る。憐れなほどに愚直な武器を必殺の武器と信じる鈴を、シャルロットは憐れむ他に無かった。
易々とそれをかわして、曲げられたブレードの代わりに呼び出したハンドガンでその背中を撃ちつつ、離れはじめる。

(終わらせるよ、鈴……キミはそのままのでいてくれるのが一番だから、欠陥には気づかないまま落ちてね)

撃ち終えたハンドガンとショットガンを捨て、フルオートの手持ち式の機関砲を構える。火力は絶大ながら、携行型の為装弾数が少なく、一瞬で弾切れを起こしてしまう。
その為本来は増設マガジンも呼び出して連結してから使用するが、今はこれでも十分。むしろハンドガンのマガジンがもう少し大きかったら今ので終わっていた筈なのだから。

そして反動を吸収する為に背部のスラスターを吹かそうとしたシャルロットは、小さな、ダメージにもならないような爆発を感じながら前に体勢を崩した。

「……えっ」


「アタシの………………勝ちよ!!」


奇跡的な確率なのか、欠陥と笑った武器故の必然だろうか、鈴のセンスが意図的に防御を成したのか。回転していた鈴の背中を狙ったハンドガンの弾丸は双天牙月の、先程ショットガンに逸らされた方の刃に当たり、満足にその体勢を崩すことも出来ず、離れて行こうとするシャルロットにブーメランのように双天牙月が投げつけられる。
その瞬間、シャルロットの背のスラスターは限界を向かえ、後方に離れるべく吹かされていた脚部は自然と後ろに向き、後退ではなく前進してしまう。

投げつけられた双天牙月を何とか機関砲で防ぐものの、砲身が切り裂かれ、その重い刃は残り少ないシールドエネルギーを更に減らす。
体勢を立て直したシャルロットの眼前で、崩山装備の甲龍が、両肩の4門に増強された拡散衝撃砲が火を噴いた。

「……嘘ッ!?こんな!こんな事!!僕が!僕が…………!!」





シャルロット・デュノア【IS:ラファール・リヴァイヴ・カスタムII】
                  14分08秒 シールドエネルギー:0 戦闘不能




 ×篠ノ之箒           ×織斑一夏
  ラウラ・ボーデヴィッヒ VS  凰鈴音
 ×シャルロット・デュノア     セシリア・オルコット





エネルギーを失い、拡散衝撃砲の炎の残滓を散らしながら地上へ落ちていく橙色の機体を見送りながら鈴は考える。シャルロットは合体モードとの戦闘で背中にダメージを受けすぎていた。むしろ、ビットでもなければ背中への打撃など早々出来るものではない。

「ま、一人で勝てなかったのは少し悔しいけど…………セシリア、アンタと一緒だから……勝てたよ……」



390: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/01(金) 23:56:08.83 ID:s4d4tJXG0




「おおおおおおおおッ!!!」

ラウラが吼える、擬似ハイパーセンサー、ヴォーダン・オージェ≪越界の瞳≫を輝かせて、蒼の弾雨を避けながら。
偏差射撃を行ってくるビットの猛攻は、進めど進めど緩まることが無い。
どんなに感度を上げたところで、機体がそれに完全に追いついてくれるわけが無いのだから。

「オールレンジ攻撃とは、よく言ったものだ……!」

どんなに避けようと、移動しようと、常にさらされ続ける弾雨に、既に物理シールドをパージし、更にはシールドエネルギーまで減らされ始めている。
かするような被弾でも、これだけ続くとなかなかに厳しい。蒼の光条の先に緩慢な動きで、必死に間合いを離そうとしているセシリアの姿は見えているのに。
だが、僅かな違和感をラウラは感じていた。

「こんなに間合いを……この……ッ!!」

頭が痛くなるほど意識をビットの操作に集中させる。回避運動をしながらの前進と言うのは結構大変なもので、自身もゆっくりではあったけれど確実に後退している為、いまだに間合いは離れている。
まだまだ自分の間合いだ、しかし彼女が今眼帯をしていない事は判る。
セシリアにはまだ切り札があった、BT偏向制御射撃【フレキシブル】。BT兵器最大稼動時を象徴する、BT兵器の真の姿、射出されるビームそれ自体を精神感応制御によって自在に操ることができる。避けられた筈の攻撃を対象に再び向かわせる、曲げて壁越しに撃つ等、使い道は数知れない。

(ですが……今のラウラさんはそれさえも避けられてしまうのではなくって……もっと、例えば、ワイヤーブレードを使用した瞬間とかを狙って……くっ!迷っている場合ではございませんのに……怖い……もし避けられてしまえば私は負けますわ、折角、一夏さんと鈴さんがここまで頑張ってくださったのに……わたくしのせいで!!)

≪迷っているな!セシリア・オルコット!!確信したぞ!!≫

「!?」

突然個人間秘匿通信【プライベートチャネル】を開いて話しかけてきたのは、あろうことか目の前の敵、ラウラだった。
はじめ、突然の事にぎょっと眼を剥いたセシリアだけれど、まるで心を見透かしたようなその通信に唇を噛む。

≪判っていますわそんな事……迷っているから、何だと仰るのです?≫

≪私の勝ちだ≫

≪ブルー・ティアーズを前にボロボロに削られながら……よくもそんな事がいえますわね!!≫

≪言えるさ≫

もう後僅かの距離まで接近された、セシリアは最後の手段である近接ブレード【インターセプター】を展開して備える。

≪集団戦というものは、チームが一個の戦闘体だ。貴様のブルー・ティアーズにもあるだろう?シールドエネルギーゲージが。三人で一つのそれを共有しているということだ。つまり、敗戦は一人の敗けではない。≫

≪そんな事わかっていますわ!!≫

「いいや!判っていないな!貴様は敗北の責任を背負おうとしている!!一人の腕は三人の腕であり、一人の行動は三人の行動なのだ、信頼を委ねこそすれ、背負うものなど何一つ無い!!シャルロットがじきに到着する、たとえ私がここで落ちようとも、私のすべきは全力で貴様と相対すること、貴様もそうだ!セシリア!」

躊躇が致命的なロスとなった、プライベートチャネルではないラウラの肉声がはっきりと耳に届く。もはや迷っている余裕は無い。ビットに戻る指示を与えながら、ワイヤーブレードと両手のプラズマ刀を展開するラウラを前に、インターセプターを構える。鈴を信じていないとそう言われている気がして、セシリアの心がひどくざわめいていた。



391: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 00:14:14.73 ID:kWoxRpHq0


(そんな事……そんな事……)

「落ちろセシリア!私達の勝ちだ!!」

≪くッだら無いこと聞いて動揺してんじゃないわよ!!!≫

オープンチャネルを使用した通信が、二人の動きを一瞬止める。その聞こえた声にざわめいた心が急速に安らぎを取り戻していく。勝利を確信した心が一瞬揺らぐ。
はっとしたラウラが、シャルロットと鈴の戦闘のあった方向へ顔を向けると、橙色の機体が地上に倒れ、赤と黒の機体が満身創痍の体で空にいた。電光板を見ずともわかる、シャルロットが負けたのだ。

≪勝ったわよ!セシリア!!さっさとキメちゃいなさい!≫

どうしてこの声はこんなに安心するのだろう。怒っているんじゃないかと窺う事も、自分が負けたら負けが決まってしまうと迷った事も、全てを馬鹿馬鹿しいと笑って捨てる。迷いを否定されることが、揺れる心にドンと真っ直ぐな杭を打ち込む。いつも一緒だと、ずっと一緒だと言った鈴の言葉が、自然と自身の口から呟かれる。

「ずっと、ずっと一緒ですわ……」

「くだらん!何をぶつぶつと……結局は二人の満身創痍を駆逐するだけだ!我々の勝利は動かん!!」

「――お黙りなさい!!」

「!?」

「ラウラさんの仰っていることは正しいですわ。ですが……背負うからこそ、パートナーですのよ。私の負けは鈴さんの敗北。一夏さんの敗北。わたくしはただ、その背負い方が少しずれていただけ。背負うからこそ……負けられないのですわ!!わたくしは……わたくしは何も間違っておりませんわ!!」

右の手で宙を切る、号令一下三基のビットが切り離された。その雰囲気が今までとは違う、ラウラはその違和感の正体を察して、不敵に笑む。

(ブルー・ティアーズの稼動状態が高まっている……BT偏向制御射撃【フレキシブル】が来る……)

「それだ、それを待っていたぞ、セシリア!貴様が一夏に何をさせようとしたのか、最大稼動状態の貴様を破って吐かせ!今度は私がその位置に立つ番だ!!」

無数の光条は、光の乱舞となってラウラに襲い掛かる。
ビットからいくつも放出された光は意思を持ったように、ラウラをターゲットにした集束を起こす。着弾の瞬間、そのタイミングをヴォーダン・オージェの瞳とシュヴァルツェア・レーゲンのセンサーを併用して、そして、自分自身の経験を回避行動への挙動に生かす。
避けきってみせる。シャルロットは落ちたけれど、まだ敗れてはいない。勝たせて見せる、勝つのだ、シャルロットの為に。セシリアの在り方を否定しておいて、自身もまた背負っている事にラウラは気付いていない。気付かないままで、自然に背負えるラウラと、気付いていてもそうと決めなければ背負う事ができないセシリア。
似て異なる二人の意地が交錯する。

「――ッ!!」

青い光が。ラウラのわき腹を掠めて天に昇ってゆく。


会場が一瞬の静寂に包まれる。

ラウラの回避が成功した。



392: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 00:15:14.39 ID:kWoxRpHq0


地上から、一夏は悔しそうに、箒は拳を握り締め、シャルロットは微笑んで、其処から訪れるであろう光景を待つ。
ラウラはワイヤーを一気に伸ばし、セシリアにめがけて伸ばした、箒とシャルロットと、三人で得た勝利。最大稼動のBT偏向制御射撃【フレキシブル】を正面から破った勝利を求めて。

「セシリアアァァァァァーーーッ!!!」

セシリアに迫ったワイヤーブレード、静寂の会場に鈴の叫びが大きく響き……そして、爆発の中にセシリアの姿が消えた。
決着はついた、いつかの森の中の奇襲、今日の3on3の中での邂逅、これで一勝一敗。
残るは鈴、しかし双天牙月さえも失った鈴はもはやとどめを待つばかり。趨勢は決した。ラウラの心残りは、偏向射撃を破ったと言っても、満身創痍のセシリアとしかまともに戦えなかった事。次は……

「……次こそは、互いに万全の状態でやろう……戦友よ」


393: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 00:27:16.40 ID:kWoxRpHq0


いまだ晴れぬ爆煙、地上に落ちていく青い機体を見送ろうと、ラウラの目線が下へ向く。
しかし其処に蒼い機体を見つけることは出来なかった。

≪ラウラ!上だよ!!セシリアはまだ落ちていない!!≫

被撃墜状態でのコア・ネットワークの使用は競技のルールに反する、それでも、シャルロットは叫ばずにいられなかった。
そのシャルロットの叫びが終わるよりも早く、煙を貫いて三本の蒼い光が次々とラウラに襲い掛かる。

「ぐっ……あ!」

肩を、腰を、足を、BTエネルギーで貫かれたラウラの眼前で煙が晴れてゆき、その向こう側にあったのは、腰部のミサイル発射型ブルー・ティアーズを射撃姿勢にしたセシリアの姿だった。
ラウラが切り裂いたと思ったのはその弾頭だったということらしい。しかしビットを使用している間の他兵装の使用は、集中力の維持が難しく出来なかった筈。

「貴様……この土壇場でモノにしたというのか……!?」

BT偏向制御射撃【フレキシブル】を習得したときも、セシリアはサイレント・ゼフィルスとの交戦中の、土壇場での逆転劇を演じたと聞いている。
なるほど、本番も本番の、土壇場でこそ能力を最大限に発揮するタイプかと、セシリアを分析しながら、ラウラは再び両手のプラズマ刀とワイヤーブレードを展開する。

「お往きなさい!ティアーズ!!」

対するセシリアは、煤で汚れた髪を靡かせながら、腕を真っ直ぐに前に伸ばし、三つのビットと、ミサイルを放つ。
ISのコアはそれ自身が操縦者の特性を理解してゆき、操縦者がより自身の特性を引き出せるように自己進化するという。
ラウラの眼前で展開される遠隔操作による独立機動兵装と自律誘導のミサイル、そして、射出されるBTエネルギーを精神感応制御によって自在に操るフレキシブル。ラウラの見立てたセシリアの特性は"女王"。光の騎士団を従え、その敵を駆逐する女王。英国の代表候補生としては、これほど相応しい特性も無い。
その特性ゆえに、BT特性が高くブルー・ティアーズの操縦者として選ばれたのなら、それは必然だったのだろう。それはラウラの気のせいかもしれないけれど、それでも。

「よかろう蒼き女王よ!蒼き女王の騎士よ!この黒騎士ラウラ・ボーデヴィッヒが相手だ!!」


(……厨二発言乙ですわ)

「でも……悪い気はしませんわね!!」

ギッと歯を食いしばり、意識をビットの操作、BTの軌道修正、ミサイルのロックオンと射撃にリソースを割り振ってやる。脳の血管が破裂しそうなくらいに痛い、しかしここで手を緩めることは出来ない。ここでラウラとの決着をつける。鈴とともに勝つのだ。青い光の一斉射撃が始まる。今度は、一度にに集束はさせない。一つ一つの光条が、丁寧に、幾重もの孤を描いてラウラに迫り、其れを凌いだラウラに、即座にミサイルが迫る。

「負けはせん!!負けてたまるかぁッ!!!」

気勢を吐くラウラ、ヴォーダン・オージェの連続使用に、金の瞳の縁から赤い涙が流れる。限界は近い。光条を避け、弾頭を破壊し、一歩一歩、蒼い女王の下へと、せめて一太刀浴びせんと、矢の雨を潜り、敵兵を切り伏せながら、真っ直ぐ、真っ直ぐと。避けた筈の光に背中を撃ち抜かれ、ワイヤーブレードの展開すら困難になりながら、そして、セシリアの眼前で大きくプラズマ刀を振りかぶり……

「…………無念だ……」

最後の一撃が、ラウラの胸に直撃して、ゆったりと笑みを浮かべながら、黒騎士は崩れ落ちていった。



394: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 00:28:28.81 ID:kWoxRpHq0



ラウラ・ボーデヴィッヒ【IS:シュヴァルツェア・レーゲン】
                  15分12秒 シールドエネルギー:0 戦闘不能




 ×篠ノ之箒           ×織斑一夏
 ×ラウラ・ボーデヴィッヒ VS  凰鈴音
 ×シャルロット・デュノア     セシリア・オルコット





395: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 00:38:14.28 ID:kWoxRpHq0



====RESULT====


○織斑 一夏 [12分30秒 雪羅エネルギークロー] ×篠ノ之 箒


  [12分31秒 織斑 一夏 エネルギー切れによりリタイア]


○凰 鈴音 [14分08秒 崩山龍咆] ×シャルロット・デュノア


○セシリア・オルコット [15分12秒 ブルー・ティアーズ(ビット)] ×ラウラ・ボーデヴィッヒ


== 篠ノ之 箒チーム全機戦闘不能 織斑 一夏チーム勝利 ==

397: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 01:30:17.49 ID:kWoxRpHq0


激戦に終止符が打たれた、いまだ興奮冷めやらぬ会場の熱気も、試合終了から4時間も経過すればすっかりと落ち着いたもので、各人が、各々の愛機の整備について、整備班や、教員との話し合いを終えて、夕食もとり、女性陣は大浴場での入浴も終え、部屋に帰り疲れた体をゆっくり休めるかとした折、教師山田が各人の部屋を訪ねて回った。

「――――――……でだ」

なぜか、今日激戦を繰り広げた6人は、あちこちに酒瓶の転がる鬼のねぐらで、全員正座させられていた。

「……織斑、なんか言うことはあるか?」

「いや、千冬姉……俺は一応箒を倒してから……」

「織 斑 先 生 だ」

「織斑先生。俺は箒は倒したけれどエネルギーが切れちまっただけで……」

「なっ!一夏!そんな言い訳が通用すると思っているのか!私を倒してすぐエネルギー切れでリタイアしたくせに!!」

「あーいい、もーいい、お前の言い訳はたくさんだ!お姉ちゃんがどんだけ苦労してきたと思ってる、其れを何だ味方に突撃など……このバカ弟!」

どうやら、相当の時間呑んでいる様子で、すっかり口調もおかしい千冬はずいとグラスを突き出す、注げと。それを受けて控えていた山田がビールを注ぐ。

「で、織斑よ……貴様はベッドでほぼ裸のオルコットに何をしていた」

ぴくっと、全員が反応する。特に反応したのはシャルロット、ラウラ、箒の敗戦組だった。本来なら勝利し、絶対的優位から聞き出そうとしたこと。
それが聞けるチャンスとあって、皆が一斉に一夏を見る。約一名、恥ずかしさに耳まで真っ赤にしながらセシリアは一夏を睨んでいた。

「い、いや、その……テスト勉強のお礼にマッサージを…………」

ちら、と一夏は女性陣の視線のほうを見て、余計なことを言ったらぶちのめしますわ、と聞こえてきそうな視線を感じ、慌てて眼をそらす。

「はい!マッサージをしていました!テスト勉強のお礼にと思いマッサージしましたっ!」

「だ、そうだが。小娘」

千冬は第一発見者のラウラに矛先を変えた、蛇に睨まれたカエルのようになってしまうラウラ。
箒と鈴はマッサージときき、どうせそんな事だろうと思っていたと溜息を吐き、シャルロットはそんなことなのかと愕然として、セシリアは恥ずかしそうにうつむいていた。

「は、はい、私は!!」

「喋る時は 頭 と ケ ツ に サ ー を つ け ろ 小娘」

「サー!自分はあんなうつ伏せをいいことにバスローブの裾をコッソリ摘み上げて覗き込もうとしながらするマッサージなど知らないであります!サー!!」

「」「」「」「」「」

ラウラの発言に、箒、鈴、シャルロット、山田、そしてセシリアが言葉を失う。
そんなことかと胸を撫で下ろした二人も、愕然としたシャルも、聞き間違いではないかと目を剥く。

「オルコット、貴様はバスローブ一枚だった、其れは事実だな?」

「はっ!は、はい……そんな……一夏さん仰ってくだされば……わたくしは……いつでも」

片手を沿えて頬を染めるセシリア。ギリギリと歯を食い鳴らす箒と鈴とシャルロット。

「ち、違うんだ!違うんだ!!」

「よぅし、お前ら、各自部屋に戻ってゆっくり休め。今日の試合はなかなか良かったぞ。お前らの成長、教師としてうれしく思う。勝った者も負けた者も、これからも切磋琢磨を怠るなよ!織斑、貴様は今から第三アリーナだ。」

「さ、女の敵と書いて織斑君。第三アリーナまで行きましょう?」

普段やさしい山田先生の声が、僅かに震えていた。マッサージで無防備なのをいいことにバスローブの中をのぞこうとしたのがそんなにいけないのか?
一夏は退室してゆく女性陣からの絶対零度の視線を浴びながら、頭を垂れる。


398: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 01:31:15.72 ID:kWoxRpHq0


一夏の両腕に冷たい鉄の輪がはめられた

外界との連絡を断ち切る契約の印だ。

「千冬姉……、俺、どうして……
 セシリアの尻、覗いちゃったのかな……」

とめどなく大粒の涙がこぼれ落ち
震える彼の掌を濡らした。

「うるさい変態、黙って第三アリーナで私と握手だ」

一夏はこれからの数時間後、自分がどうなっているのかを想像し、心で泣いた。



399: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 01:41:48.27 ID:kWoxRpHq0


―― エピローグ


「あれ?セシリア、なにその本」

「えっ!?ななななななんでもありませんわ、ちょっと拾ったんですの」

「へー、ちょっと見せてよ……ってうわ!!これ◯◯本じゃない!!!」

「ええ、ですからもう処分してこようかと思いまして」

「表紙見て判るでしょそんなの、さっさと捨ててきてよ、中学時代の一夏達じゃあるまいし……早く寝たいんだからさー」

「え、ええ、すぐに戻りますわ」

いそいそとセシリアは焼却炉に向かう。
一夏の部屋であの日見つけたこの本に、

――お嬢様のマッサージの最中、執事が誘惑に負けて……――

なんてシチュエーションがあったことは、誰にも知られてはいけない秘密だから。


3on3編 end



407: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 23:39:41.73 ID:kWoxRpHq0

~これから読む人へ、あらすじと現在設定~

鈴の部屋のエアコンが壊れた為、鈴とセシリアは修理が終わるまで同居中。
テスト期間もなんとか凌げるかと思いきや、一夏とほぼ裸のセシリアがベッドの上で……。

火を噴くレールカノン、吹き飛ぶ一夏の部屋。
怒りと疑惑に殺気を孕んだ3on3戦は、セシリアと鈴と一夏が友情を深め、気持ちを深め、勝利する。
ほんの少し、◯◯◯な秘密なんかも生まれながら。


そして今度こそまったりとした週末がやってくる。



■セシリア・オルコット
 このSS主人公。
一夏さん大好き鈴さんも大好きなちょろい子。
原作で負け込んでいる戦闘面でもBT偏向制御射撃【フレキシブル】を使いこなし、
更に原作ではまだなビットと他の兵装の同時使用まで使いこなして現在無敗の女王。
ちょろさを残して主人公らしくするように書いてます。

■凰 鈴音(ファン リンイン)
 このSSのヒロイン。
親友と称して実際はセシリアの体を好き放題にしたがる自覚の無い子。
セシリアも一夏も両方恋のライバルという非常にややこしい状態。
最近完全に セシリア>一夏 になった。

■織斑 一夏
 火種。
基本的にこいつが関わると事件に発展する。
好きなシチュはお嬢様と執事。残念な上にド変態の一面も。
セシリアがかなり気になってるが戦闘中のどさくさにまぎれて告ろうとして失敗した。

■篠ノ之 箒
 モッピー。
一夏は好きだがセシリアも基本的には好き。
鈴にとってはセシリアの親友ポジションのライバル。
3on3編では、事件後敵対してはいたけれど、セシリアではなく一夏に怒りを向けた。
結構熱い性格が目立つように書いてます。

■ラウラ・ボーデヴィッヒ
 基本的にシャルロットが好きで、その為なら盗撮から拉致までこなす。
厨二病を患っている為、時々おかしなことを口走るが、くっ左目が疼く……という時はマジ痛がってるので注意。
セシリアのことは戦友として認めており、気に入っている。

■シャルロット・デュノア
 ヤンデレ気味で、悪気無く一夏以外を見下す驚きの黒さ。黒シャル。
戦闘ではこのSSで最強クラス、計算高く、ほぼ全ての事態に予測通りと言い放つ。
一夏への一途さはISヒロインズでは随一で、一夏が絡まない限りは優しく、朗らか。
セシリアとはローストビーフ、フロッグと言い合う悪友気味な仲。

■織斑 千冬
 セシリアを気に入っている様子。
インフォメーションやオチを担当してくれる優しさに満ちた女神。

■更識 楯無
 生徒会長、IS学園最強の生徒。

■更識 簪
 一夏が好きな、無口ッ子。
ISヒロインズの女の友情にちょっと憧れているボッチ。

■布仏 本音、谷本 癒子、夜竹 さゆか
 一年一組のモブ。
のほほんさんはちょくちょく出す筈。

■山田 真耶
 山田ァ!

408: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 23:43:31.48 ID:kWoxRpHq0



―――― 日曜日・朝・セシリアの部屋

「んむ……えへへ……セシリアぁ……」

「ひゃあん、一夏さん……むにゃ」

セシリアの部屋の天蓋付きベッドは大きい。ダブルベッドなんてものじゃない、キング、王の風格のベッドだ。
本来寮の部屋には、互いのベッドを仕切る板があるが、既存のベッドを撤去する際にそこも取り払われている。元々の同部屋の子が使用していたベッドが窮屈そうになっている。
現在そのベッドは鈴のものなのだが、鈴がそこを使うのは寝転がりながらお菓子を食べる時やカードゲームをする時に限定されている。

つまりは二人仲良く一つのベッドで眠っていた。主に鈴がセシリアにひっつき、セシリアが夢の中で幸せそうに頬を緩ませる。

昨日の激戦を勝利で終えた二人だが、共に機体の損傷は激しい。
特にセシリアのブルー・ティアーズの損傷は見た目以上にひどく、暫く安静にしなければ、致命的な欠陥が残ってしまう程の状態だった。

『オルコット、貴様のISだが一度本国で再調整が必要になった。丁度来週からは連休だからな、一度イギリスに帰るといい』

整備の最中、織斑千冬から伝えられた言葉はひどく落胆させるものだったけれど、良い事もあった。

『えっ……セシリア、一度イギリスに帰るのか?そうか、イギリスかぁ……一度行っては見たいな』

昨日その事を3on3を共に戦った二人に伝えた所、一夏がイギリス行きに興味を示したのだ。
何やら中国産の小動物もしきりにイギリス行ってみたい、でもお金が無いと繰り返していたが黙殺しておくとして。
おかげで現在セシリアは夢の中で早速イギリスの自宅で二人きりの甘い夢に浸っている所だった。

「いけませんわっ……そんな、一夏さん!一夏さん!」

「……」

むくりと眠るセシリアの上に鈴が体を起こす。気持ちよく眠っていたのに、耳元で騒がれるとセシリアの声質は存外脳に響く。

「一夏さん!一夏さん!一夏さん!いち「うっさい」ガッ!?」

身悶えしながら一夏の名を呼ぶセシリアの頬を鈴は起きたままのナチュラルなマウントポジションからぱしーんと張る。
頬を張られた事よりもその拍子に舌を思い切り噛んだ。鈴の下で今度は別の意味で身悶えしているセシリア。

「ったく、静かにしてよねー?折角の休みなんだからまだ寝てたいじゃない」

「起こしたのは鈴さんでしゅわよね!?わぷ……」

呂律の回らない涙目のセシリアの頭を胸にきゅっと抱きしめて

「んふふ、あたしの胸で眠りなさい」


「…………………肋骨の間違いでは無くて?」


そして、部屋の外を通りかかった千冬にまで余裕で聞こえる口げんかが始まった。




409: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 23:50:02.39 ID:kWoxRpHq0


――――


「鈴さんのせいですわよ……ッ?」

「はーぁ?聞こえなーい。どう考えてもアンタの自爆でしょー?巻き込まれたこっちの身にもなって欲しいわね」

レトロな箒と塵取りでの寮の廊下掃除を二人でやりながら、二人の口論が再発しそうになると、ガゴン!という鈍い音がリアルに聞こえてきそうな拳骨が二人の頭に落ちる。

「真面目にやれ、騒音ペアめ」

「はい……」「はいですわ……」

「全く、折角昨日褒めてやったと言うのに……」

「あの、織斑先生? ところで今日は一夏さんの姿が……」

「ああ、独房だが?」

おずおずと、今朝の食堂で見かけなかった一夏の事を尋ねると、千冬は事もなげにそう答える。セシリアも鈴も、それ以上その件について言葉が継げず、そうですか、等と言うしかなかった。

「独房なんてあったんだ……」

ぼそりと鈴が呟く。

「ああ、正しくは用具入れを鎖で巻いたやつだがな。何ならもう二部屋用意するぞ?」

「い、いいええ!滅相もない!!さ!セシリア!掃除さっさと終わらせちゃうわよ!」

「そ、そうですわね!」

二人の掃除速度が一気に上がった事は言うに及ばず……。



410: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/02(土) 23:58:12.56 ID:kWoxRpHq0




―――― 昼前・学生寮裏手、倉庫前




「あれ?鈴、セシリア、どうしたのこんな所で」

掃除も終わり、寮の裏手の倉庫で使用した掃除用具を片付けていると、ジャージ姿のシャルロットが近付いてきた。
寮生活もある程度長くなってくると、入学当初こそ皆部屋着にも気を使っていたが、だんだんとゆるく、正しくは面倒臭くなってくる。その行きつく先がジャージ生活である。

「あら、シャルロットさんおはようございます。寮の掃除をしておりましてよ。今日もとってもジャージがお似合いですわ、いつもその格好でいれば宜しいのに」

「あはは、セシリアもわざわざフリフリのワンピースで掃除だなんて、背伸びした田舎のおばあちゃんみたいで可愛いよ」

「……」

「……」

「うふふふ」

「あははは」

暖かいクラスメイト同士の談笑が進む。

「んで、シャルロットこそこんなとこで何やってんのよアンタ」

若干軋むような空気に耐えかねて、鈴が今度はシャルロットに問う。こんな寮の裏手に一人でいるなんてどうしたんだろうと。

「うん?ああ、散歩だよ、散歩……ところでセシリア、ちらっと聞いたんだけれど、イギリスに帰るんだって?帰ってくるのは何年後かな?もう卒業しちゃってるかな……寂しくなるよ」

「そんなに行きませんわよッ!連休明けには帰ってきますわ!?」

「そっかー、良かったぁ……まだ僕はキミに負けたわけじゃないからね?」

シャルロットはすれ違うように近づいて、セシリアの肩をぽんと叩く。
そして鈴に笑顔を向けて。

「二度は起こらないから奇跡は奇跡なんだよ?次は負けないんだから」

「言うじゃない、それじゃセシリアの前にあたしに勝たないとね?」

「うん」

鈴も片目を閉じて、にっと口端を上げて笑う、
一夏が絡まない事なら、こうして笑い合う事が出来る。穏やかな午前中がこうして終わって行った。



411: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/03(日) 00:13:37.39 ID:32SFaEPm0


―――― 昼過ぎ、セシリアの部屋


「せーしーりーあー、ねえ、せしりあー」

「なんですのー?うっとおしい」

「暇だよ、どっか行こうよ―」

「……その格好でですの?」

向かっていた端末から顔を離し、椅子の背もたれに肘をかけながらベッドの方を振り返ると、仰向けで寝転がる鈴を見てあわてて視線を逸らす。

「いやいや流石に着替えるって……ありゃ、どーしたのよ」

むっくりと上体を起こし、胡坐を組みつつ少し赤くなっているセシリアを見て鈴が問う。

「せ、せめて下着くらいはお着けになったら!?」

「あ、セシリア見たでしょー?◯◯◯」

「そそそそんなもの見せられる側の気にもなって欲しいですわ!!ほら、さっさと着替えて下さいまし!!」

セシリアはガタンと音をさせて椅子から立ち上がると、つかつかと自身のクローゼットを開く。
勿論、クローゼットも備品では無い、特大サイズのクローゼットがでかでかと置かれているのだけれど。

「セシリアってさ―、結構可愛い服いっぱい持ってるわよね」

「鈴さんが持っていなさすぎるんですわ」

「えー、結構持ってるわよ?」

青白ストライプのスポーティな上下を身に着けながら、肩越しに振り返った鈴が口を尖らせる。
クローゼットの中に並ぶ可愛らしい衣装の数々を見ていると、少し、それで着飾ったら自分も可愛くなれそうな気がしてくるから不思議だ

「そーだ!ねね、今日は服交換しようよ!」

「はぁ!?冗談ですわよね?」

少し光沢のある白地に上品なレースで飾られた上下姿になったセシリアが抗議の声を投げるけれど、思い付いた鈴は止まらない。
それが良いとばかりに強引に自分の服をセシリアに寄越し、自分はセシリアのクローゼットで服を選び始める。

「ちょっと!鈴さん……!」

「一夏も喜ぶかもよー?」

「お借りしますわね♪これにあうように下着も替えなくては♪」



412: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/03(日) 00:37:33.23 ID:32SFaEPm0



―――― 午後 IS学園前の駅



「…………ねえ」

「なんですの?」

「……いや……」

駅でモノレールを待ちながら、鈴はちらりと隣のセシリアを見る。

(あたしのショートパンツ……見せパン履かなきゃならないほどローライズだったっけ……てかあたしのキャミ……あんなピッチリしてたっけ……?)

「…………」

「……何?」

「いいえ……」

駅でモノレールを待ちながら、セシリアはちらりと隣の鈴を見る。

(わたくしのワンピース……あんなに丈が長かったかしら……というか……)

「ぷっ」

「何よ!!」

「いえ、ただ……何も詰め物までなさいませんでも……」

セシリアは同世代に比べて華奢な方だった。
といっても、それは故郷イギリスでの話。
ちなみに下着販売店の販売実績から算出されるイギリス人の平均バストは2000年に差し掛かった頃にはBだったが、2010年には2ランクも上昇してDにサイズアップした。
当然、これはあくまで販売実績全体から平均を算出している為、若い世代だけの統計ならば更にサイズアップするという事になる。
IS学園に来るまで控えめだったと言っても、余裕でDはありそうなそれに押し上げられる鈴のキャミは、何やら胸元にプリントがあったようだが無残に横に伸びてしまっている。

その服を借りた鈴の取った行動は、セシリアのブラを拝借し、そこに詰め物をする事だった。
上品なワンピースを身に付けた鈴の胸元が爆発し、所謂トランジスタグラマーな外見に、鈴を知っている者は結構な確率で吹き出してしまうだろう。

髪はそのままに、可愛らしい麦わら帽をかぶっている。鈴は、そのつばを摘まんで、恥ずかしそうに顔を隠す。

「大体アンタは何なのよそれ、ザ・ビッチって感じ」

「モデルの様と言って欲しいですわね!」

ハイヒールのサンダルを履き、大胆に生足を露出したデニムのショートパンツはサイズの問題でローライズ履きが限界だった。結果、黒の見せパンを履き、ボタンも留めずに露出させた格好となっている。
自前の白いシフォン生地のロングベストで後ろは隠しているが、透けた生地の奥にちらちらと黒いT字型が見えるのだから目の毒としか言いようもない。
髪はドリルを残してサイドテールにまとめ、鈴から借りた大きめのスポーツキャップをかぶっている。
いかにもなギャル系ビッチ系だが、品のある化粧と長い足、白い肌が本当にモデルの様な空気を纏っていた。
教員に見つかったら注意されそうな勢いだし、実際駅に来る途中山田先生に呼び止められたが、私服と言い張る鈴とセシリアに言い包められてすごすごと帰って行った。



413: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/03(日) 00:50:18.24 ID:32SFaEPm0



「それで、鈴さん?どこか行きたい所でもありますの?」

「無いわよそんなもん」

「鈴さんがお出かけしたいって仰ったんですわよ!?」

「ま、行ってから考えりゃいいじゃん」

「全く……」

街に向かうモノレールは、学園の生徒が乗り込んで一気に華やぐ。
運良く窓際の座席を確保できた二人は、走り出したモノレールの窓から流れる景色に互いに目を細めて……笑い合い……。

「……あら?ねえあれ、鈴さん」

セシリアが何かを見つけたようで、窓の外を指さす。
鈴もそれに従い、指さす方向を見つめると……そこには海辺の岩場で、真っ白なジャージの女性が何かをバットでガンガンと叩いてノック練習をしていた。

「……セシリア、確かさっき千冬さん"用具入れに鎖を巻いた独房"って言ってたわよね」

「ええ……仰ってましたわね……」

白ジャージの人物がバットを振り下ろしている用具入れには厳重に鎖が巻かれている。
流石に変形するほどヤワな用具入れではないようだが、中がどうなっているのかはあまり想像したくない状態だった。

「見なかった事に……」

「ええ……」

モノレールはゆっくりと学園を離れてゆく、千冬のような誰かが、人気のない岩場で鎖にぐるぐる巻きにされた用具入れをガンガン金属バットで叩いていたのはきっと見間違いなのだ。



415: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/03(日) 01:38:23.78 ID:32SFaEPm0


――――


日曜日の街は日中から人で賑わっていた。
天下のIS学園最寄りの市街地とあって、ここは日本国内でありながら実に多国籍な近代都市の様相を呈している。

その中でも、セシリアと鈴の二人はどこに行っても注目の的であった。
この界隈で休日の若い女性と言えばほぼ大抵がIS学園の関係者か、それの見物客、来年IS学園に入ろうと考えている受験生達くらいなもの。

「見て見て、あの子……」

「わぁ!可愛い!!凄いスタイル!……高そうなワンピースね、やっぱりIS学園の子かしら」

「隣の子もすごいわよ、外人さんかしら、やっぱり向うはすごいわね!」

「足長ッ!どうなってんのよあれ」

周囲の声が時折聞こえてくると、鈴も鼻が高い。きゅっとセシリアの腕に両手を絡ませながら上機嫌だった。

「にっひひー、聞いた?セシリア。ま、あたしの美貌じゃ仕方ないわよねー」

「あら鈴さん、褒められてるの服とその偽乳だけですわよ?」

「」

にべもなく呆れ顔のセシリアに鼻で笑われ、鈴は言葉もなく頬を膨らませる。

「うっさいわね!いいのよ満足できれば!」

「ま、確かに悪い気は致しませんわね!羨望の眼差しを受けるのも、高貴なるものの務め、こういった格好もノーブル・オブリゲーションと言えなくもありませんわ♪」

「うっわ、むかつく。大体そんなビッチみたいな恰好のどこが高貴よ」

それでもセシリアの腕を離さず、すぐに二人で言い合いをしながら、きゃっきゃうふふと休日の街をゆく。
部屋では散々はしたないだのごねていた気がする鈴としては、こうまで喜んでいるセシリアを見るのは新鮮で、
でも、それはそれとして悔しくて、顔をそむけて小さく呟く。

「残念な中身のくせに……」

顔をそむけた小さな呟きは、顔を背けた事を見て、どうしたのかと覗き込もうとしたセシリアには勿論聞こえてしまう。

「な~んですって?」

「あ!セシリア!クレープ食べようよクレープ!」

ぷりぷりと怒るセシリアの顔を愉しげに見ながら、クレープの露店販売車が止まっているのを見て、セシリアの手を引く。
別に本当に怒るわけが無い、セシリアも直ぐに表情を明るくしていた。

「あら、いいですわね」

「もち、セシリアのおごりよね?」

「はぁ?冗談じゃございませんわ」

「そんな事言っちゃうんだ?持たざる者への義務感、ノブリス・オブリージュってやつはどうしたのよ?」

「それ、フランス語読みだから駄目ですわ」

「えーッ!今の無し!今の無しーッ!の、のーぶる・おぶりーじゅ?」

半眼で、溜息を吐きながら鈴を見ているセシリアだけれど、慌てて英語読みをべたべたの日本語発音する鈴を見て、口元は笑いを堪えていた。

「……ぷっ!ふふっ!仕方ないですわねぇ~」

「いよーし!おっじさん、チョコチップバナナ、アイスクリームも乗っけてね!」

仕方ないという言葉を聞くや否や、鈴は早速トッピングをたっぷりと載せたクレープを注文する、それを聞いてセシリアは一瞬ぎょっとした顔をするけれど、やれやれと肩を竦めてから、鈴に続いて自分もたっぷりと豪華なクレープを注文する。
クレープの域を超えた価格にはなったけれど……そんな事を忘れて、二人で街を歩く。

綺麗な服屋を見つけては二人で入り、CDショップでは互いの音楽の趣味について口論になったり、大道芸を見て二人して驚いたり、
そして二人は映画館の前に通りかかって。



416: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/03(日) 02:10:32.00 ID:32SFaEPm0

綺麗な服屋を見つけては二人で入り、CDショップでは互いの音楽の趣味について口論になったり、大道芸を見て二人して驚いたり、
そして二人は映画館の前に通りかかって。

「あら!この映画もう始まっていたんですのね」

「え?何々……ステインズゲート劇場版……?」

「ステではなくシュタ、シュタインズですわ。STEINS;GATE。なかなか面白いと評判ですのよ?」

「どこで?」

「@ちゃんで見ましたわ。鈴さん、ご覧になって行かれません?」

「あんた、結構インドア志向というかなんというか……えー、映画かぁ……映画って2時間もじっとしてなきゃいけないじゃん……?寝ちゃっても怒らないでよね」


―――― およそ三時間後


「うぐ、うぐ……」

「もー、まだ泣いてますの?」

「だってさぁ!だってさぁ!……なんであんな……こんなのってないわよ!こんな所で後篇に続くとか!」

「確かに前後編もの最近増えましたわよね……ちゃんと完結までやって欲しかった所ですけれど、尺を考えればこれがベストなのかもしれませんわ」

「……ちょっと待って、セシリア……あんた結末をもしかして」

「ええ、存じ上げておりますわよ?」

「マジで!!教えて!」

「……教えて、いいんですの?」

セシリアの口元がニヤリと愉快そうに笑む、ネタバレしてもいいのか?と、ネタバレの主導権を握った者の笑み。
それを見てしまうと、ネタバレをされる側に浮かぶのは葛藤。

「うぐ!ま、待って、やっぱりちょっと待ってよ……そんな勿体ぶるって事は……なんか『ある』のよね??」

「当り前ですわぁ……何も無かったらそれこそもったいぶらずにバラしてますわよ。あら失礼、何かある事をネタバレしてしまいましたわ?」

「ぐぬぬぬ……」

悔しそうに睨む鈴に涼しい顔で流し目を返し、それから時計を見る。時計の針はもう18時を指していた。日が落ちるのが遅いから気付かなかったが随分と遅くなってしまった。


417: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/03(日) 02:11:37.94 ID:32SFaEPm0


「あら……もうこんな時間ですのね」

「えー、夜まで遊んで行こうよー」

その様子から、そろそろ帰ろうと言わんとするのを察し、鈴が抗議の声を上げる。

「あのねぇ、鈴さん?私たちはIS学園の学生、国家代表候補生ですのよ……?」

「でも!こんな機会滅多にないじゃん!!」



425: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/03(日) 03:56:31.53 ID:32SFaEPm0

―――― ED後Cパート

「それも……そうですわね。イギリスに発つ前に今日くらいは……」

連休中はもう鈴と遊びに来ることは出来ない、そう考えると……今ここで帰るのは少し気が引けて。
きっと怒られるだろうけれど、鈴と一緒ならいいかなんて、この屈託の無い笑顔を見ていると思ってしまう。

「やったー、きーまりっ♪いこ!セシリア」

鈴がセシリアの手をとって走り出す、駅とは逆の方角へ……
この手の暖かさが、幸せをくれるから、離さない。












「おい、アレ見ろよ……」
                「おっほ、すげぇな誘ってんのか?」
  「ここは一つ行っちゃいますか?」
              「行っちゃうしかないでしょー、うひゃひゃひゃ」


そして、夜の街が二人を迎える……。



                To Be Continued...


429: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 00:51:50.03 ID:gekU2Ofq0



前述の通りこの街はIS学園を中心に動いていると言って過言ではない。
各国から集うこの時代の女性の最先端を行くエリート達の学園。それは代表候補生だけでなく、一般の生徒とて例外ではない。
何しろ、世界唯一のIS専門の教育機関、集う女生徒は選りすぐりの優秀な子女達である。

通常、夜にはIS学園が全寮制の学校だからか、生徒は皆夕刻には帰路につき誰一人として残らない。
学生向けの店舗は閉店が早いし、この町に残るのは、学園に用があった各国の研究者、
女尊男卑の時代にあって、エリートであるIS学園生とお近づきになりたい男達。

そして、近年特に問題となっているのはいつかIS学園に通う事を憧れる少女の中で、街の輝きに迷い込んだ少女達と、
それを狙ういつの時代にもいるハイエナ達。


「いけっ!そこよ!ばっちり!そのまま……そのまま……!!」

鈴と二人で夜の街に繰り出したは良い物の、二人ともこういう事はあまり経験が無い。
とりあえずカラオケに入り二人歌合戦を2時間ほど楽しんだ後、ゲーセンに二人でやって来て先程までぬいぐるみキャッチャーで楽しんでいたのだが、どうしても欲しいと鈴が息巻いたぬいぐるみは、あからさまにアームが弱く、付き添いで見ているセシリアが呆れてしまうほど取れるわけが無いものだった……。

「あーーーっ!!もう!何なのよこれ!!セシリア!弾薬頂戴!」

「いくら使うおつもりですの……?もう大きいのしかありませんわよ」

「んもう!じゃあ両替してきてよ」

「なんでわたくしがそんなパシリみたいな事!ここで見張っておいて上げますから、ご自分で行ってらっしゃいな」

ずいと札を鈴に突き出して先程自販機で買った水を軽く口に含む。

「もー、わかったわよ!」

ぱしとセシリアの手から札を奪い取ると、のしのしと両替機を探して鈴が店内に消えていく。

「まったく…………誰のお金だと思ってますの……?」

深く溜息をついて頭を振る。ぬいぐるみキャッチャーのコンソール部に寄りかかり、腰を下ろすと、機械がローライズの露出した腰に触れて少し冷たくて、小さくひゃっという声を出してしまい、慌てて離れる。

「……お、思ったより出てるんですのね……今度ちゃんとホットパンツも買おうかしら……」

少し顔を赤くして、この姿を見たら一夏は喜んでくれるだろうかなんて考えながら、ぬいぐるみキャッチャーの陳列部の奥の鏡で、前髪をなおしていると、背後に人がやってくるのが見える、もしかして、この台を使いたいのだろうか……でも、ぬいぐるみはもうあと一歩のところまで来ている、ここまで動かしたのは鈴だ、見張ってると言った以上動くわけにはいかない。

「あのーすんませン、オネーサン、どいてもらえねッスかァ?」



430: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 00:56:08.16 ID:gekU2Ofq0



「……申し訳ございませんけれど、今友人を待っておりますの。少しお待ちいただいてもよろしくて?」

男がまさか話しかけてくるなんて思っていなかった、それにしても、なんて話し方だ、頬をひきつらせながらセシリアは答えるけれど、それで引き下がってはくれない、更に近づいてくると、顔の高さをこちらに併せて近づけてくる。顔を見たくもないセシリアは視線を逸らして。

「……ッ」

「オネーさーん、ツレ待つんなら別ンとこでも良くね? あんさぁ、そりゃ俺男だけどよ、そのぬいぐるみ取りて―のよ。女だからってそこまでオーボーかましちゃうのってよくなくね?オンナが強いからオトコはゲームもすんなってんですかぁ?」

「近づかないでくださいましっ!……生憎、友人はさっきまでここでぬいぐるみを取ろうとしていましたの。今両替に行っているだけですから、すぐに戻ってきますわ。その後でしたら場所をお譲りしますから……」

「はーあぁ?そりゃないっしょ、ゲームは誰にでも平等だぜェ?オンナってだけでそこまで言っちゃっていいんスカ?え?コラ?おい?」

男の言葉は、弱者である事を前に押し出した言い方で、酷くセシリアの心を逆立てる。一夏の祖国を悪くは言いたくないが、この国はやはり野蛮だ。弱者特権が浸透してきた文化だけはどうにも馴染めない。弱者が弱者である事を安穏と受け入れ、開き直る。

(まったく、一夏さんを見習って欲しいものですわ)

そんな風に考えていたセシリアの耳に、突然大きな音が響く。セシリアの顔の横のアクリル板を男が思い切り叩いたのだ。
驚いてセシリアが男の方を見ると、眉間に皺を寄せ、いかにもな威圧の表情を男が浮かべていた、気づかぬうちに、もう数人、近くに並ぶぬいぐるみキャッチャー筐体の影から現れる。

(――ッ!仲間が!?……鈴さん……何をしていらっしゃいますのッ!)

プライベートチャネルを使えば……そっと手を、左耳のイヤカフスへ触れさせようとして……。そこに今、ブルー・ティアーズが無い事に気づく。


――――

『ではオルコットさん、ブルー・ティアーズは先にイギリスへ送るという形で宜しいですか?』

『……えっ!?』

『愛機と離れるのは寂しいと思いますが、今ブルー・ティアーズは見た目以上に危険な状態です。学園の設備では機密部分の完全メンテナンスはできませんから……丁度オルコットさんも、来週からイギリスとの事ですし……よろしいですか?』

『……ブルー・ティアーズ、そんなになるまで……頑張って下さいましたのね。わかりました、この子の事、どうかよろしくお願い致します』

――――


どの道、ブルーティアーズの事を思えば仕方が無い事だ。
今はこちらから誰かに連絡をとる事も、誰かから連絡を受ける事も出来ない事実だけはどうしようもない。

「――い!ォい!聞いてんのかよ!?オネーさんよォ!」

「なーになーに、ショウちゃーん。おっほ、◯◯いねぇ!オネーサン」

「おうカズぅ、いや聞いてヨ。この女、男はゲーセンで遊ぶなとか言っちゃってるわけよ、オーボーじゃね?」

「うっはー、何、女尊男卑主義ってやつ?女に盾つく男は生意気だとかチョーシくれちゃってるわけ?」

「おいネーちゃん、あんま男だからってナメんなよ、俺たちゃ……ヤルときゃヤルんだぜ……?」

「ヒュゥ!キメたァ、やっぱキョースケさんカッケェ!」

ゾロゾロと、男の仲間が集まってくる。
この程度の人数、代表候補生であるセシリアにとっては正直ものの数では無い。
しかし、イギリス貴族でもあり、エリート中のエリートを自負するセシリアにとって、一般市民相手に力づくの解決などは愚の骨頂。
ましてや相手は、ここで揉めるのは避けたい。
店員と思しき女性が、威圧感を纏う男達を見て怯えているのも視界の隅に目に入った。

「まぁまぁこんなトコで揉めんのもやめようや?お店に迷惑っしょ」

まるでセシリアの胸中を代弁したような言葉が男達の一人から発せられる。
しかし……その意図は、若干違った。

「場所変えようぜ?"話し合い"の」

あくまで話し合い、と強調されて、寮の門限も破っているのに店内で立ち回りなど演じるわけにもいかない。
セシリアには渋々でも頷くしかなかった。
何人もの男に囲まれながら、見張っていると言った台を離れてゆく。一度振り返ったけれど……鈴はまだ帰ってくる様子が無かった……。



431: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:04:28.03 ID:gekU2Ofq0


――――――


今夜は、本当に誤算が続く日だ。
店から一歩でも出て、裏路地にでも連れて行かれるのであれば、あまりエレガントな手段ではないけれどその場で立ち回りを演じてこの場を切りぬけることも可能であったけれど……向かった先は、先程の店内と同じ建物。
店内から一歩も出る事無く、地下に降りるエレベーターに乗っただけで、そこに到着してしまった。

喧しいとしか表現できない下品な音量。目を悪くするとしか思えない暗い店内に色とりどりの光が乱舞している。
今日のセシリアと似たような恰好の女は、見るからに濃いメイクで東洋人の目の小ささを縁取りで誤魔化して、まるでゾンビ映画のメイクのようですらある。

(羨ましい瞳ですのに……)

セシリアの瞳は、若干目尻が下がり気味で、少々幼く見えるのが気になっていた。
もちろん其れも含めてセシリア・オルコット。別に強いて嫌いな場所ではないけれど。

女の癖に男に媚びるその姿は見ていて不快感さえ感じるけれど、ISにより男女のパワーバランスが逆転する以前から、男性より強い女性がいた事は知っているし、その逆に、女性に媚びる男性がいた事も自らの両親と言う形で知っている。
男達は店の一番奥、薄いカーテンで仕切られた大きなソファのあるテーブル。所謂VIP席へセシリアを案内した。

「さぁて、ここなら邪魔は入んねーべ……」

先程話し合いを強調した男がソファに腰を下ろしたセシリアの隣にボスンと勢い良く腰を下ろす。
逆隣りには体格のいい男が座り、そして、正面にローテーブルが運ばれてきた。簡単には逃がす気は無い、その意図が聞かずとも伝わってくる。

「この店さぁ、俺のオカンがオーナーやってんだわ。ま、正確にはビル自体がオカンのものなんだけどさ。なんか飲むかい?おい、俺はいつもの頼む」

「水で結構ですわ」

どうでもいい聞いてもいない事をベラベラとよく喋る、とにかく、さっさと話を終わらせて戻らないと、鈴が心配する。
運ばれてきたグラス、随分と匂いが強いが、酒、それもブランデーだろうか。それをくいと呷りながら男が続ける。
先程の話から考えれば、この男が男達のリーダーなんだろう。

「そうかい?俺らはさ、別にアンタに謝らせようとか、あんたをどうこうしようとは思ってね―わけよ。女尊男卑であろうが男女にゃ譲り合いってのが必要だべ?って言ってるわけでよ……?」

人の熱気か知らないが、ここはひどく暑く、緊張からか喉も渇く。気は進まないが差し出された水のグラスを口に付け、一口。若干のフレーバーが入っているのか、微かな後味がするが、悪い味ではない。

「……然様ですの、確かに仰る通り譲り合いは必要かもしれませんわ、ですが、わたくしはただ、友人を待っているので、せめて少し待って頂けないかと申し上げただけですわ」

「ほう、そりゃあ悪い事をしたねぇ……」

この男は、他の男とは違うのかもしれない、話が通じそうなその態度を見て、少しだけほっと胸をなでおろす。

「ですから、早く……」

戻らないと、そう言おうとしたセシリアの前、カーテンをくぐって男がやってくる。初めにもめた、確か仲間からはショウちゃんと呼ばれていた男だ。
その事はどうでもいい、ただ、その手にあるものにセシリアの視線は釘づけになる。

「いっやぁ、ラッキーラッキー、簡単に取れる位置にあってよ!取って来ちった!ぎゃはは」

「おいショウ、そんなもん俺に言えばオカンに頼んで現金で売ってやるって言ってんだろよ。っくははは」

「あ、あな……あな……あなた……それ」

セシリアが震える声で、震える指を指す。指を差されてショウと呼ばれる男はあからさまに不機嫌そうに眉間にしわを寄せ。

「ぁあん!?なんか文句あんのかゴラァ!」

「大ありですわ!それは……それは鈴さんが……!!」

バンとテーブルを叩いてセシリアが立ち上がる。
それを見て何かにピンと来たのか、先程キョウスケと呼ばれた男がショウと呼ばれた男に話しかける。

「ひょっとしてショウ、鈴ってあの巨乳のガキじゃねーの?こっち見て随分と悔しそうにしていたけどよ」

「はっはーん、だからうろうろ誰か探して慌てて出てったんだな。ぎゃはは!」

「――ッ!……な、なんて事を…………返して下さいまし!それは鈴さんのものですわ!」

激昂して、テーブルの向うのショウとやらに手を伸ばすけれど、ひょいとその手はよけられてしまう。

「おいおい……穏やかじゃねぇなぁ……」

「こいつこの状況わかってねぇんじゃないの?おい?バカか?おバカちゃんでちゅかー?ぷっはははは」

周囲の空気が、一気に不穏になってゆく……。



432: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:10:23.46 ID:gekU2Ofq0







「きゃあっ!?」

立ち上がっていたセシリアは突然ぐいっと髪を引っ張られ、よりにもよってそのボス猿の上に引き下ろされてしまう。
男の膝の上に座る等、今だ一夏相手にさえした事が無い事をされ、セシリアの頭に一気に血が上り、咄嗟に肘を背後、ボス猿の鼻頭に打ち込む。

打ち込んだ、筈だった。その肘は先程迄隣にいた大男に両腕を掴まれて男の鼻頭までは届かない。

「ぎゃははは!オネーサン、そんな恰好して、これからどうせイイコトする相手でも探してたんだろ?良かったじゃねぇか、俺らとイイコトしちゃおうぜェ?」

ショウが本当に下卑た、下賤な男の代表のような言葉をセシリアに言い放つ。

「この……下衆ッ!!!わたくしは一夏さんという心に決めたお方がおりますのよ!!!」

体格差に、体勢に思うように動けないセシリアの首筋に、チクリとした痛みが走り、四肢の力が一気に抜ける。

「……な……ッ!!これは……何を………………」

「まぁまぁ、こんなトコで揉めんのもやめようや? ――判ってんだろ?ハラ決めて楽しんでいこうぜ?」

「ぎゃっはははははははは!いちかサァンってか?ゴチんなりまーす!ぎゃはははははは!」

「うっひょー、これってNTRってやつ?へへ!俺得!」

「ばっか、お前@チャンに毒され過ぎだっての」

ボス猿の手には拳銃型の注射器が握られている。思考が混濁し、ゆっくりと意識が離れていく。必死にそれを手繰り寄せるが、意識は煙のように指の間から抜けて行った。

「こんな…………こんな……いや……助け………………て……………………鈴さ……ん……………………一夏さん…………」

がくりと、仰向けに意識を失ったセシリアの頭から、鈴に借りたキャップが床に落ちた。

「何だこの女の力……ジュンさん。ありがとうございました。タダモンじゃないっすよこいつ」

取り押さえていた大男が、ようやく大人しくなったと一息吐く。
ボス猿ことジュンは拳銃型の注射器をテーブルの上に捨て、強く舌打ちをする。

「ふー、ったく手古摺らせやがって。たけー薬の癖に一発で気絶しねぇなんてどうなってんだこいつ。まぁいいや……おい、ショウ。カーテン閉めろ。早速ムイちまおうぜ」



433: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:12:36.32 ID:gekU2Ofq0




――――――


鈴は夜の街を走っていた、両替に梃子摺った鈴を待っていた筈のセシリアはいなくて、
ぬいぐるみはいかにも下品な男が耳障りな笑い声を上げながら取って行った。

トイレだろうかとも思ったけれどいない、店内を何度もぐるぐるまわったけれどいない、もしかして怒って帰ってしまったのだろうか、
慌ててプライベートチャネルで通信を開くけれど応答は無い。そう言えば今日はブルー・ティアーズを身につけていなかったと思い出す。
それは今彼女が、一般人よりは多少体術の心得があるにしろ、ただの高校一年生の少女で、最悪の事態の切り札を失っている事を意味する。

困り果てている所で、鈴はゲームセンターの店員の女性から『お連れの女性が、ガラの悪い男達に連れられて行ってしまった』と聞き、居ても立ってもいられずに走りだしていた。

(どこ!?セシリア……!!!!)

しかし、闇雲に走り回った所で、判るわけがない。それらしき男たちの集団も見当たらない。
鈴は後悔していた、セシリアが自分の服を着てくれる事が嬉しくて。それが例え多少目の毒でも許されるのは、学園内だけの話である事を失念していた。
一緒に過ごす時間が楽しくて、もっと長く二人だけでと欲をかいてしまった。

(神様でも仏様でも鬼でも悪魔でも構わないから!お願い!罰はアタシに下さい!セシリアは!セシリアを助けて……!!!)

両目から涙を零しながら、鈴は街を走る、何か、手掛かりは、何か方法は。
縁石に足をとられ、鈴は地面にヘッドスライディングする羽目になってしまう。麦わら帽が飛び、借りた綺麗なワンピースが汚れてしまったのを見て、鈴はへたり込んで泣き出していた。

「セシリアああああぁぁぁぁぁ!!」

「あっれ、鈴……?」

落ちた麦わら帽を拾い、近づいてくるその人に気付かないまま。



434: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:17:33.15 ID:gekU2Ofq0



――――――


「おい……こりゃァ……」

ボス猿ことジュンは、意識を失ったまま下着姿にされてソファに横たえたセシリアの下着に手をかけた所で、持ち物をチェックしていたショウに呼ばれてそちらに向かう。ハンドバッグも高級なブランド物だったが、そこから出てきた財布には、繁華街のビルのオーナーの息子である自分でも遠い世界の話である黒いカード、そして中高生の少女が持つには異様な額の金が入っていた。

服装の割におかしな喋り方をする女だと思っていたが、思った以上の収穫かもしれない。あとは脅すでもクスリに漬けるでもして絞り取るだけ絞り取って稼げるだけ稼がせれば、ビル一個では無い莫大な財産を手に入れる事が出来るかもしれない。

「おい!カメラ持ってこい!……こりゃあとんでもねぇ金の卵だぜ、ショウ!でかした、良い女見つけたじゃねぇか……」

「いっひひひ、あざっす!じゃあ、に、二番目俺で良いすか?……あれ?財布からなんか落ちたッスよ」

それは、IS学園のIDカード、つまりは学生証だった。

この街にも、こんな夜の顔にもルールがある。
『IS学園に手を出すな』数年前の事になるか、IS学園の生徒が出演する非合法の映像を裏ルートで販売した組織は完膚無き程に叩き潰され、更には全世界から制裁を受けたという。
ヤクザ、マフィア、裏社会等比では無い。白昼堂々とミサイルさえ撃ち込まれる勢いだったという。

その時、入口の辺りで悲鳴が上がった。



435: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:21:19.47 ID:gekU2Ofq0



「セシリア―ッ!!いるなら返事して!!!」

悲鳴の中、喧しい程の音楽をものともしない大きな鈴の声が店内に響く。

「鈴!こっちだ!」

「なんだてめえら!!」

「うるせぇ!どけっ!!」

どうやらここが突き止められたらしい、始めの声は先程言っていたこの女の連れだろう。どうやって?理由は判らないが、やたらと嫌な予感がする。突然の殴り込み?にホールの客達は我先にと非常口に雪崩込み、そのせいで店内のあちこちで悲鳴が聞こえる。

「お、おい!とりあえずその女隠せ!!」

慌てて振り返り、指示をするその背後で、赤い長髪に黒のヘアバンドを巻いた男と、ツインテールに所々汚れたワンピースの女がカーテンを大きく開いて現れた。
その男にボス猿は見覚えがあった、中学生の後輩の喧嘩に呼ばれて行った街で。
中学生の癖に、たった一人で仲間もろとも自分までノックアウトした化け物。
織斑一夏、凰鈴音共通の友人であり、特に一夏とは親友である一般市民、五反田食堂長男、五反田 弾。

「てめェ……弾!!!」

「うっせ、相変わらず下衆な事しやがって……鈴!あの子で間違いはねぇか!?」

「セシリア!!!」

ツインテールの女が、周囲を完全に無視してソファに倒れているセシリアの所へ向かう。
ショウ達手下が動こうとするにも、赤髪の少年から目を逸らせなくて、誰も一歩も動けない。

「ほっほー……こりゃぁ美人だ、眼福眼福」

下着姿の金髪美女が倒れているというのはなかなかに眼福で、鈴をここに案内した男、五反田 弾がシニカルに笑って呟くと、鈴がものすごいおっかない目で睨み返してきた。
思わず弾は眼を逸らし……長い髪で誤魔化しながらチラ見する事にした。特に腰周りがたまらない。

「アンタ達……覚悟はできてるんでしょうね!!アタシのセシリアにこんな事して……絶対に許さない!!!  甲 龍 ! 招 来 !!」

涙を讃えた怒りの瞳で真っ直ぐにボス猿を睨む鈴のブレスレットが光を放つ。
一瞬後には、一機で旧世代一国の軍隊を駆逐する戦力を秘めたパワードスーツ、IS<インフィニット・ストラトス>に身を包んだ鈴が現れる。

「IS!?……こ、こんな事してただで済むと思っているのか!!知ってるんだぞ!てめェらIS学園の生徒だろうが!!いいのか!こんな一般の商店でISで暴れやがって!!!」

自分がしようとした事を考えれば、出る所に出ればより酷い目にあうのは自分たちだ、しかし彼の言う事は尤もではある。
いくらなんでも対人にISは過剰火力も良い所だ。事情は兎も角本当に手を出せばさすがに鈴も処罰を免れない。

「ひっ!ひいい!!」

甲龍の威圧感のあるシルエットを見て、手下の一部がが一目散に逃げようとして。
VIPルームを出た所で、木の葉のように空中に吹き飛ばされた。

「ま、まだなんか来るッスよ!!」

「うるせぇ!ショウ!うろたえんじゃねぇ!!!」



436: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:23:00.95 ID:gekU2Ofq0



―― BGM:POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~ 反町隆史 1998年7月29日




437: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:25:29.15 ID:gekU2Ofq0





「……弾君、感謝する。凰だけではこの場所までは見つけられなかっただろう……」


ホールの照明を背に受けて、その人物はゆっくりとVIPルームに現れる。


「いえいえ、可愛い幼馴染が泣いて頼むんじゃしょーがね―ッすよ……来てくれると思ってましたよ……?千冬サン」



現れたその姿に、弾以外の、鈴を含む全員が息を呑む。異常な威圧感を纏い、片手に金属バットを携えて……。

「う、嘘……弾!あんたまさか!!」

「いや、ほんとはアイツにかけたんだけど出なくてな」



「貴様ら……誰の生徒に手を出したか、わかっているのか?」



「な、何だてめぇは!!!」




「何だ?だと……私か?」


震える声で問うボス猿に、ゆっくり下ろした金属バットの先を床で引きずりながら近づき、宣言する。





「Great Teacher Orimura.   一 教 師 だ !!!!!」





438: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:26:53.02 ID:gekU2Ofq0






====RESULT====

○織斑 千冬 [00分03秒 粉砕バット20号] ×街のゴロツキ + 甲龍を展開した 凰 鈴音







439: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:28:44.13 ID:gekU2Ofq0



――――――



目覚めたセシリアは、自分が暗闇の中にいる事に気がついた。

「わたくし……は……」

寝ている状態のようだけれど、酷く寝心地は悪く、しかも揺れている。手足は縛られているようで、身動きが取れない。
不意に、優しい一夏の笑顔が浮かんだ、あそこで意識を失って、自身に何が起こるのかが判らない程子供では無い。
とめどなく涙が溢れ、仰向けに寝かされたまま耳に向けて流れる。

「ごめんなさい、ごめんなさい一夏さん……」

「泣くなバカ者、貴様は無事だ。鈴と五反田という一夏の友人に感謝しろ」

かけられた声は、酷く頼もしくて、そして優しいものだった。

「織斑……先生……」

もう安心だ、この人がいるということは、この人が無事というという事は、本当に助かったのだ、でも、どうしてこんな鉄の箱に入れられたままなのだろう……?


(……箱?)


「立てるぞ、オルコット」

「――は!はい!!」

寝転がされた状態から、箱が真っ直ぐ立ち、セシリアは冷たい足場に両足で立つ。
どうやら自分は全裸のようだが、特に体に異常は感じない。いや、なんか、スースーする。それ以外はがっちり縛られている以外は健康そのものだ。

「ちょ、ちょっと!何!?何なの!?た、助けて!セシリア!助けて一夏!」

見えないけれど、鈴のくぐもった声が聞こえ、だんだんとそれは近づいてくる。
ゴトンという音がした、鈴も箱に入れられてるようだ。

うっすらとセシリアは、それが用具入れの様な予感がするけれど、まさかという思いもある。

「鈴さん!!」

「セシリア!!セシリア!目を覚ましたのね!良かった……良かったよぉ……!!」

「鈴さん!鈴さんこそ……!無事だったんですのね!!ごめんなさい、わたくし……」

「いいの!セシリアが無事ならいいの!!」

「鈴さん……ッ!!」



440: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:29:54.93 ID:gekU2Ofq0


「はーい、感動の再会そこまでー」

パンパンと手を叩く千冬の抑揚の無い声が聞こえる、音の位置関係から、鈴とセシリア、その中央に千冬がいるようだと二人は認識した。
ふと耳に、ざわめきが聞こえる、そのざわめきの中には、聞きなれたクラスメイトのものも聞こえた。

「よーし、貴様ら。寮の門限は知っているな?本日、その門限を破り、夜遊びに精を出していた愚か者が二人出た。知っての通り、一年の寮長はこの私が勤めている。それを承知の上で、門限破りを敢行する勇気は褒めてやろう。だが、門限破りをそれで済ませる程私は甘くない。これを見ても門限を破る度胸があるものは破って見せろ、今回はこの程度で済ませるが、次はもう一つ上の罰を与える」

千冬が何やら口上を述べている。
自分達にこれから何が起こるのか、何と無くわかった。千冬の手がドアにかかる、開けさせたくないけれど、何も抵抗する事が出来ない。

ドアの向こうはミーティングルームで、同じように扉を開け放たれた鈴の姿と全一年生の皆の姿が目に入った。

寮生に晒された二人の姿は、二人とも全裸とブライチで縛られていた。
セシリアのお腹にはでかでかと「不埒者」と書かれ、下を手入れの行きすぎた状態、簡単に言えば剃られている。


「いいやあああ!見、見ないでくださいましぃぃぃぃ!!!!」


だが、セシリアの無毛はまだマシなほうで……鈴はあの日のセシリアのブラだけをつけられて「 偽 乳 」と書かれていた。


「殺して!いっそ殺してぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


鈴の絶叫が、寮内に響いた。

翌朝まで、二人は晒されたままだった。




441: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:31:32.05 ID:gekU2Ofq0



―― エピローグ


夜、海辺の岩場は静かだ。打ち寄せる波が、岩に砕ける。
そんな岩場で、鎖に繋がれた用具入れが、ぽつんと波間に吊り下げられていた。

「ぶほっ!!げほっ!!千冬姉!!織斑先生!!潮が!潮が満ちて!!!千冬姉!!姉ちゃん!!セシリア!箒!鈴!ラウラ!シャル!簪!楯無さん!のほほんさん!!げほっ!ぶえふ!」


「……呆れた、随分沢山心当たりがあるのねー」


少し離れた岩場で、助けてあげるのやーめた、と楯無は扇子をパチンと閉じて寮へ帰って行った。
心配しなくてももう満潮。これ以上は水位も上がらないだろう。


「ふうん、セシリア・オルコット……かぁ……………………んふ」


一番初めに一夏が口にした名前、小さく呟く楯無の口元には、笑みが浮かんでいた。





GTO編 end


443: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/04(月) 01:55:43.74 ID:gekU2Ofq0


次回予告


ブルー・ティアーズ修理の為一路イギリスへと向かうセシリア・オルコット
懐かしの本国、懐かしのオルコット邸。つい最近帰ったばかりだけれどそれはそれとして、

今回の帰省にはなぜか、付き添いとして織斑一夏が指名される。(小姑オプションつき)
熱い青春の夜をもたらすのか、それとも地獄の基礎訓練の日々をもたらすのか。


しかし、そこに亡国企業、因縁のサイレント・ゼフィルスが現れる


次回
IS-if Cecilia Alcot 「イギリス旅情編」

英国の空を、駆けろ!白式!




450: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/05(火) 00:37:58.75 ID:ghJ8Yr7J0



飛行機の旅というのは、存外退屈なものだ。
ロンドンまで時計の上では約4時間、日本とイギリスの時差は約9時間。時刻を遡りながらのフライトになるのだろうか。
初めて乗るファーストクラスの座席は存外快適だけれど、今は動けない。窓の外の景色をのんびり眺めることにしよう。そうでなければ……

「……ううん……むにゃ……うふふ、一夏さん…………」

肩に頭を預けて眠るセシリアに変な気を起こしたら、そこのエアロックから放り出されてもおかしくない。
なんだかバラの香りが心地よい。困ったことに。
最近鈴も近付くと同じにおいがするものだから、時々鈴が綺麗に見えるなぁなんて思っていると。

「一夏さん!」

「はいぃ!!」

「うふふ、うふふふふ……すぅ……すぅ」

(何だ……寝言かよ今の……)

絶妙のタイミングでの寝言にほっと一息つきながら、
そして背後の座席で寝ている筈の姉の気配に殺気すら感じながら、一夏は肘掛に頬杖をつく。

事の始まりは、よりにもよって昼間まで放置された独房生活の後だった。



451: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/05(火) 00:54:01.06 ID:ghJ8Yr7J0


――――――――――


部屋、正確には千冬姉、織斑先生の部屋に同居している一夏がシャワーを浴びていると、外から千冬の声がした。


「……聞こえるか?」

「千冬姉?聞こえてるけど……あ、いや、織斑先生」

「いや、いい……今は職務時間外だ」

普段と違う声音に、一夏は疑問を感じる。何かあったのだろうか……
微かな心配と、不安。

「……一夏。お前はアレだ……何だ…………どう思っている」

「……千冬姉……いや……あの……お姉さま?…………何を!?」

「うるさい!」

「ええっ!?」

意味がわからないから問い返したら怒られた、本当にわけがわからない。

(ただなんとなく、何の事を言っているのかは……察しが着く。姉弟だからな)

「…………好きなんじゃないかな?多分」

「多分とは何だ貴様、それでも男か!?」

風呂場のドアを思い切り開けて千冬が怒鳴る。姉とはいえあまりの仕打ちに、大事なところだけは何とか隠す一夏。

「ちょっ!千冬姉!流石にそれはない!ない!!」

「ふん、お前のなんぞ見慣れたものだ。そんな小さな事はどうでもいい」

姉の冷静な言葉が嫌に突き刺さる、そりゃいくらなんでも同年代と比べたことは無いけれど、実姉に小さな事呼ばわりされるのは結構ショックが大きかった。

「……なんだ、気にしていたのか。すまん」

「そこで誤らないで!?リアルに傷つくから!!」

「いや、そんな事無いとは姉の口からは言い難いことを察しろ?」

「しらねぇよ!!いいから閉めてくれよ!!」

「ふむ、良かろう」

パタンとおとなしく戸を閉める千冬。一呼吸置いて、本題を口にしてきた。

「明日からイギリスに行くぞ、ついてこい」

むしろ、今までの話との脈絡も何も無く、決定事項だけを宣告された。



452: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/05(火) 01:06:24.87 ID:ghJ8Yr7J0


――――――――――

「…………やっぱり無茶苦茶だよな」

溜息と共に呟く。どうでもいいのだがファーストクラスというだけあって、客室は広い。
しかも他の客が一人もファーストクラスに乗っていない。

一夏、セシリア、千冬の三人だけだ。
先程から多分寝ているのは間違いないのだけれど、びしびしと威圧感を感じる気配を発している姉など、肘掛を取っ払って三席を丸ごと占領して完全に横になっている。

(俺は知っている。サービスドリンクだからってシャンパンを飲みまくっていたことを……)

おかげで要らぬ殺気をひしひしと感じ、眠ってしまうことも出来ない。
それにしても珍しいなと一夏は思った。いくら何でも、先日の3on3後は原因が自分にあるから別として、厳格なほうで、規律を重んじる姉が、連休の旅行のようなものとはいえ、仮にも生徒の前で酒を飲み、眠るなど普段の千冬から考えればありえないことだ。

ちらりと隣を見れば、他に席は十分にあるのに、わざわざ自分の隣の席へ、肘掛まで取っ払い、二人掛けにして当然のように眠っている同級生、今回の目的地であるイギリスの代表候補生セシリア・オルコットを見る。
改めて言うまでも無いことだけれど、細い眉も、伏せられた睫も、此方の肩に頭を預けているから、片腕が隠れてしまうほど長い髪と同じ当然金色で、肌は比喩抜きに白く。唇だけが仄かに色付いているのが余計に際立つ。一言で言うなら可愛い。美人の部類だ。

あの3on3以来、今までなんと無しに眼が行くと思っていたものが、ひょっとしたらひょっとすると自覚してから、あまり長く見ていられなくなってしまった。
本当は昨日の日曜日あたりにでも、実家に帰り、五反田食堂の悪友に少し相談でもしてみるつもりだったのだが、残念な事に昨日は24時間用具入れの中で過ごした為、相談も出来ないままこうして飛行機に乗っている。
そもそも昨日の事は更に先日、セシリアのお願いを聞いたが為にそうなったわけで、自分に非は無い。いや、頼まれたからって実行したのは自分だけれど。

(やっぱチラ見安定だな)

それが、ムッツリスケベの代表的行動であることに、一夏はまだ気付いていなかった。



453: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/05(火) 01:16:25.47 ID:ghJ8Yr7J0

――――


(一夏さん……見てらっしゃいますの?先程からチラチラと……ま、まるで、いけないものを見られているようですわ……ぁぁ……)

薄目を開け早鐘を打つ鼓動を胸に感じながら、セシリアは眠ったふりをし続ける。
自分のしたお願いで、独房に放り込まれ千冬の地獄の折檻を受けた一夏は、きっと自分に近付くのも怖いに違いない……。
こうして見られるのだって、結局は一夏の中の欲が具現化したものに過ぎないんだ。

見知らぬ男たちにどこまでされたのかは自分にもわからない、無事に助かったのだと、昨夜は喜んだものの、冷静になればなるほど、本当に無事だったのか、疑念が沸き続ける。
少なくとも、膝抱っこバージンは奪われてしまった。これは大変な事だ、淑女として有るまじき事だ。出発前に鈴に泣きながら言ったら物凄い冷めた眼で睨まれてしまったが、きっと重大なことだ。
穢れてしまった、穢されてしまった。

でも、一夏が見てくれる限り、それも浄化されていく気がする。
この人が好きなんだと、改めて自覚する。だから、辛い……。

一瞬、鈴の寂しそうな顔が過ぎる……もっと辛い……。

(……鈴さん…………)

今頃鈴はどうしているのだろう。
時折、熱そうなふりをして胸元のボタンを外してみたりしつつ、チラ見の喜びを噛み締める。
その喜びは淑女として大いに間違っていることを、セシリアはまだ気付いていなかった。



460: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/06(水) 01:09:01.83 ID:kR1NWqSe0


チラ見した時に入ってきたその景色は、息を呑むほど一夏にとっては驚愕の光景だった。
むかしこんな事を聞いて来た友がいる。

『一夏、おまえおっぱいは好きか?』

愚問だ。

『どっちでもいいよ。ただ、原則的におっぱいが嫌いな男子はいないだろ』

嘘だ。本当は大好きだ。風呂上りの箒と遭遇したときはやばかった。アレは本当にやばかった。箒のブラを一本釣りしたときもやばかった。幼馴染の成長に内心大興奮した。
シャルが当ててきたときはそのまま理性の向こう側へ離陸しそうだった。

おっぱい、大好きです。

チラ見どころか、凝視する。ブラウスのボタンを一つ一つ、ゆっくり外していくその指の動きを。

(あ、暑いのか?セシリア……す、すごい寝相だな……ん?)

寝相にしては、ずいぶん正確にボタンを外していないだろうか……心なしか肩にかかる重さも弱くなっている、これは…

「せ、セシリア…………起きてるよな?」

流石にそう露骨に動かれると、起きてる事は嫌でも判るのか、それとも、確認なのか。一夏の声が聞こえて、セシリアはぎくりと体を一瞬強張らせる。
反応する事が実に起きてると回答しているようなものだけれど、さも『今起きましたわ!』と言わんばかりの仕草でもそりと寄りかかった体を離し、ぐっと背筋を伸ばすしぐさで欠伸をかみ殺す演技。

「――――ぁふ、一夏さんはまだ起きていましたの?」


461: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/06(水) 01:10:21.07 ID:kR1NWqSe0

現在時刻は23:15。離陸したのは21時前だったから、もう2時間くらいになる。
尚、この旅客機と座席チケットは英国の政府が用意してくれた。
完全な専用機では無いけれど、英国の政府関係者と、今回はIS学園の関係者や倉持技研の技術者が乗っているらしい。
フランスとドイツ、同じ欧州の強豪国を破っての3on3勝利はイギリスでもちょっとした話題になっているらしく、
ブルー・ティアーズの修理と帰省の日程の中にはあちらで取材を受ける予定も組まれているらしい。
一夏も先日箒と二人でモデルの真似事のようなことはしたし、鈴やセシリアがそういった仕事もしているとは聞いてはいたが、海外でとなると随分一気に話が大きくなった気もする。
とはいってもセシリアにとっては地元での話だから一夏のそれと大して際は無い。むしろ国家代表候補生でもないのにインタビューを受ける一夏と箒の方がよっぽどすごいのだが。

「ああ、あまり時間も掛からないみたいだしな、確か……ロンドン着が01時05分だから半分ってとこか」

一夏がチケットを取り出して着時刻を確認して笑いながらそう答えるが、一夏の言葉を聞いた直後から、セシリアは無表情になって無言で一夏をじっと見つめる。かるく目のハイライトが消えているような、錯覚だろうか?一夏が首を傾げる。

「一夏さん……イギリスと日本の時差はおよそ9時間になりますわ」

「なんだよ?時差くらい知ってるよ。でもそうか、今はサマータイムってやつなのか……じゃあ今は一時間を英語で言うと、ワンサマータイム、俺時間だな」

突然時差の話を始め、眉間に手を添えるセシリアを、一夏は軽く笑いながらそんな風に返す。


(――――……おかしい、今のは爆笑してもいいところなんだぜ!?セシリア!ワン、サマータイム、ワンサマー、ひと夏、一夏、俺。俺時間……完璧すぎる)、


(……どうしたんだ?セシリアが無表情になった、また目のハイライトが消えてる、俺知ってるぜ、それレイプ目って言うんだろ?でもどっちかといえば怖いよな。)


ちょっとしたドヤ顔でセシリアの反応を待つ一夏に、深い深い溜息の後、意を決したようにセシリアは笑いながら、片手を口に添え。やだもう一夏さんったら♪の仕草でゆっくりと、ハッキリと言う。

「…………う、うふふふっ……一夏さんったら♪ロンドンまでの 所 要 時 間 は、およそ 12 時 間 ほどでしてよ♪冗談がお上手ですのね」

「………えッ!?」

『冗談で言ってるんですのよね?』と問う事で『あたりまえじゃないかHAHAHA』と返すチャンスを与え、そんなキャッキャウフフな会話を楽しみたいという願望もあったが、彼のプライドを傷つけまいとしたセシリアの努力は、どう見ても本気で驚いている一夏のリアクションで無駄に終わった。

「……」


「……」


セシリアは笑顔のまま固まり、一夏は驚いた恰好のまま固まっている。
嫌な沈黙だ、ファーストクラスの居心地のいい空間が何とも言えない空間と化していた。



「ははっ、またまたぁ!セシリアは冗談がうまいな、一瞬本気で信じそうになったぜ!」



462: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/07/06(水) 01:17:15.40 ID:kR1NWqSe0


「この! エ キ サ イ テ ィ ン グ 大 馬 鹿 者 が!!!!」

空気に耐えきれなかったのか、マジで言ってるのか、笑いながらそう答える一夏の頭が、後ろの座席から伸びてきた腕に物凄い力で窓に叩き付けられた。
そのあまりの衝撃に一瞬機体が揺れる程の一撃だった。

「…………織斑ァ……いや、一夏ァ……発着時間の差に時差を足してみろ……」

窓は割れてはいないけれど、叩きつけたまま一夏の頭をがっしりとアイアンクローで掴む千冬の指に力が籠る。この人リンゴどころかヤシの実素手で潰すんだぜ!と言われても信じられそうだった。万力はまだ優しい、対方向からしか力がかからないからだ。
アイアンクローは痛い。辛い。

「GYAAAAAA!!!!」

「答えられないか?ンー?20時55分発01時05分着、およそでみれば25ひく21。で?4だな?それに時差を足したらどうなった?ンン??」

「割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる!!!!」

「13だな?実際の所要時間にだいぶ近くなったな?グリニッジ子午線に向かう時は足せ、逆は引き算だ、正確とは程遠いが大体の所要時間と覚えておけ。また、その誤差は両地点の緯度、経度などから算出される純粋な距離が大きくなるほど大きい。一般常識だ。貴様の馬鹿さ加減に流石の温厚な私も本気で呆れたぞ」

「せ、先生!それ以上は一夏さんが死んでしまいますわ!?」

セシリアが惨劇を止めようと一夏を締めあげている千冬の腕にすがりつく。
…………けれど。

「…………オルコットォ……貴様はなぜそんなに胸元を肌蹴ている?」

「はっ!」

千冬の目がセシリアを見据える。何事かと様子を見に来た乗務員が思わずヒッ!と声を上げてしまう程の鬼気迫る威圧感。

「ほほう、確かに今は非番扱いだ、教師の前で淫行を期待するなと言った言葉は無効かもしれんな……では言いなおそう……姉の目の前で淫行未遂か貴様らァ……ンー?」

「いえっ!こ、これは、眠っていたら暑くて!つい!!」

「…………そうか」

ふっと笑みを浮かべる千冬を見て、セシリアの心が一気に穏やかさを取り戻す、助かった、助かった、生きていられる!

「ところでオルコット」

「はい!」


「どれくらい期待していた?」

「うふふ……ちょっとだけ、ですわ♪ ―――――――― っは!!」


致命的なミスだった。