2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 00:44:08 ID:bNsiVmno
~朝 事務所にて~

P「こんなもん、かな。」

小鳥「何書いてるんです?」

音無さんが肩越しに覗き込んでくる。

P「うわぁっ!? いきなりなんですか!」

引用元: 千早「秋めいてきましたね。」 P「ああ。」 

 

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3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 00:46:02 ID:bNsiVmno
小鳥「そんなに驚かなくても… っていうかそれ誰に贈るんです?」
  「これから一年またよろしくって、まるでラブレターじゃないですか。」

P「ちっ違いますよ。そんな軽薄なもんじゃありません。」

急いで便箋と封筒を机の中にしまいこむ。

小鳥「冗談はさておいて、そろそろ時間じゃないですか?」

時計を確認する。

9時12分。 千早の街頭ロケの開始時間は10時。

4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 00:47:50 ID:bNsiVmno
P(そろそろ出るか…)

P「そうですね、じゃぁそろそろ送ってきます。
 ロケの間向こうで暇つぶして、終わったら千早を家まで送ってから帰るんで、ちょっと遅くなります。」

小鳥「はいはい。じゃあ、気をつけて。」

6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 00:50:30 ID:bNsiVmno
~午後5時 仕事終了後~

P「悪いな、千早まで歩かせちゃって。」

千早「いえ、構いませんよ。収録が家の近くで助かりましたね。」

P「ああ、本当にすまん。まさか車のキーを無くすとは思わなかった…」

7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 00:54:19 ID:bNsiVmno
仕事帰り、二人並んで街路を歩く。

少し前まで蝉の鳴き声で賑わっていた通りも、八月の終わりともなると少しばかり静けさを取り戻していた。

千早「なんだか秋めいてきましたね、いつの間にか。」

P「ん?そうか?まだまだ毎日結構暑いけど。」

千早「…プロデューサーには風情が足りてません。」

P「?」

8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 00:57:56 ID:bNsiVmno
キョトンとするプロデューサー。

その間の抜けたような表情も何処か魅力的に見える。

これが春香の言っていた「夕暮れの魔法」だろうか。


眩いオレンジに光る夕日。

私とプロデューサー、二つの影が揺れる。

千早(結構・・・ロマンチックな状況ね、これ。)

9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 01:04:12 ID:bNsiVmno
P「千早?」

千早「えっ?あっ はい、どうしました?」

P「いや、いきなり黙りこくっちゃったから。考え事か?」

千早「いえ。」
  「綺麗、だな と思いまして。」

P「…そうだな。普段移動は車ばっかりだし、たまにはこう歩くのも悪くないな。」

千早「ま、プロデューサーが鍵を無くしたせい、なんですけどね。」

P「うっ。悪かったって。」

千早「ふふっ 冗談ですよ。寧ろこうしてゆっくり話せて、ちょっと嬉しいです。」

10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 01:08:16 ID:bNsiVmno
仕事で見せるものとは違う、力の抜けた笑いを浮かべる。

暫く心地よい沈黙が続く。

千早(そういえば、一年前の今日って確か)

(プロデューサーと初めて、二人で出かけた日、でしたね。)

(歌の仕事がしたいと我が儘を言う私の相談に乗ってくれて。)

(思えば、あのときから・・・だったのかもしれませんね。)

12: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 01:11:46 ID:bNsiVmno
P「千早、ちょっとこっち向いてみろ。」

千早「ふぇっ?」

P「顔が真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃないか?」

千早「い、いえ大丈夫ですから。きっと夕日のせいですっ。」

気がつくとプロデューサーの顔がすぐ近くにあって、照れくさくなり思わず顔を背けてしまった。

13: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 01:14:59 ID:bNsiVmno
P「そうか…ならいいんだけど。最近忙しそうだからな。無理だけはするなよ。」

千早「ありがとうございます。」
「でも最近、仕事がすごく楽しいんです。きっとプロデューサーが歌の仕事を沢山とってきてくれているお陰ですね。」

P「ははは。そりゃよかった。頑張ったかいがあるよ。」
「最近、ますます歌も上手くなってるし。」

14: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 01:18:58 ID:bNsiVmno
千早「まだまだ、世界的な歌手には遠いです。」

P「千早なら、きっとすぐになれるさ」
「一年前のあの日、俺はそう思った。」

千早(えっ まさか・・・覚えていてくれた?)

15: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 01:24:47 ID:bNsiVmno
P「千早も覚えてるか?皆でカラオケ行ったときさ・・・」

千早(あっ… なんだ そのことか…)
  
(やっぱり、もう覚えてないかな。こんな些細なこと。)
 
 (そうよね。プロデューサーは他に何人ものアイドル達をプロデュースしているんだもの。)
  
(仕方ないわ。)

P「・・・なんてこともあったな。」

千早「え、ええ。そうでしたね。」

P「千早…?」

16: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 01:30:03 ID:bNsiVmno
少し落ち込んだのが通じてしまったのかもしれない。

心配そうな目でこちらを伺っている。

千早「気にしないでください。少しロケで疲れただけです。」

P「ん…そうか。季節の変わり目は体調崩しやすいからな。気をつけろよ。」

千早「ありがとうございます。」

千早(気配りが出来るんだか出来ないんだか…)

17: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 01:37:55 ID:bNsiVmno
街路を抜け、入り組んだ住宅地へと差し掛かる。

オレンジ色の光を放っていた太陽は姿を消し、空には代わって月がおぼろげに輝いていた。

薄明かりの中を涼風が吹き抜ける。

P「暗くなってきたな。確か千早の家はもうすぐだったよな。」

18: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 01:43:51 ID:bNsiVmno
千早「はい。あそこの交差点を超えたらすぐです。」

P「そっか。」

千早(もう暫く、二人で歩いていたい…)
  (でもこんなときに限って、時間は早く過ぎるものね。)

赤信号の交差点に辿りつく。

時折通り過ぎる車のヘッドランプが二人を照らす。

19: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:09:31 ID:bNsiVmno
千早「月が綺麗・・・ですね。」

P「ああ、そうだな。朧月も悪くない。」
「また暇なときに、散歩に来ようか。」

千早「ええ、約束ですよ。」

暫し見詰め合う二人。

信号が青に変わった。

20: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:15:01 ID:bNsiVmno
P「ああ、楽しみにしてる。じゃあ千早。気をつけてな。」

千早「プロデューサーもお気をつけて。お疲れさまでした。」

横断歩道を渡り、家へと歩く。

(結局、気付きませんでしたね…プロデューサー)

(ちょっぴり残念ですが、二人の散歩、楽しかったです。)

21: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:18:24 ID:bNsiVmno
ガチャ
バタン

千早「ふぅ。今日は色々あって疲れたわ。」

律儀に靴をそろえて脱ぎ、居間へと上がる。

ソファに半ば倒れこむように腰掛け、バッグをテーブルに置いた。

千早(先にシャワーでも浴びようかしら。)

簡素なバスルームへと向かい、手早く入浴を済ませる。

パジャマに着替え、ソファに腰を下ろす。

22: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:21:38 ID:bNsiVmno
千早「あら?」

バッグの口から見慣れない物が顔を覗かせていた。

(何かしら…)

恐る恐る手にとって見る。

千早「…!」

可愛らしい青のリボンで装飾された封筒。

女の子が喜びそうな動物のシールで封がなされたそれを裏返すと、

差出人とタイトル欄には、こう記してあった。

23: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:24:53 ID:bNsiVmno
Title:また一年よろしく
From:P

24: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:27:40 ID:bNsiVmno
千早「クスッ 本当に、、、鈍感なのか敏感なのか。」

「でも」

「ありがとうございます、プロデューサー。」

25: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:30:21 ID:bNsiVmno
~その少し後のP家にて~

P「ふむ。全く分からんな…」

うちの次の仕事は本屋の宣伝。

一人ひとりお気に入りの文豪の本の紹介をするらしい。

P「俺も何か力になってやろうと思い、偉人伝・夏目漱石を読み始めてみたんだが・・・」
「サッパリわからん。」

26: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:32:02 ID:bNsiVmno
ぺらぺらと流し読みをしつつページをめくる。

P「ん?」

ふと視界に飛び込んできたフレーズが目に留まった。

ページを繰る手を止め、その一文を読む。

27: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:35:06 ID:bNsiVmno
文豪夏目漱石は外国文学にも造詣が深く、数々の名訳を残したことでも知られる。

その中でも代表的なものをここで紹介しよう。

彼は、とある本の中の"I love you."というありふれた一文を、こう訳した。


"月が、綺麗ですね。"と

28: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:38:31 ID:bNsiVmno
P「…!」

Pの頭の中に、俯いた千早の顔が浮かぶ。

P(まさか、な。)

29: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/08/21(火) 02:39:58 ID:bNsiVmno
…とにかく、また一年の間、いや、これからもずっと トップアイドルの座に上り詰めるまで。

P「そのときまで、よろしくな、千早。」

END