1: 甘味について ◆H0UG3c6kjA 2011/09/11(日) 23:23:41.15 ID:kFhUpmXE0
このスレは、>>1のむぎのんとていとくんへの愛で構成されています。
以下が苦手な方にはおすすめしません。
・ほのぼの
・ていとくんがショタ、というよりもはや幼児
・麦野が垣根を好き
・原作より数年後、平和な学園都市が舞台
以下より本題へ。
とある科学の超電磁砲S 麦野 沈利 (1/10スケール PVC製塗装済み完成品)
posted with amazlet at 14.11.15
ウェーブ (2015-02-28)
売り上げランキング: 37,313
売り上げランキング: 37,313
2: 1 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/11(日) 23:32:25.83 ID:zgjsJQJU0
垣根帝督は困惑していた。
何故なら、状況が把握しきれなかったからである。
垣根帝督は混乱していた。
何故なら、現在の状況が信じられないようなものだったからである。
垣根帝督は懇願していた。
垣根(誰か飯くれよ…飢え死にしちまう)ぐすっ
何故なら、彼は今五歳位の幼児の姿にされており、真冬の公園にちょこんと置かれた段ボール内、にっちもさっちもいかなくなっていたからである。
垣根(とりあえず第一位にボコ殺られたところまではわかってんだよ…だが、それ以降がさっぱりだ)
ちなみに彼が五歳児状態で、『ひろってください』と書かれた段ボールに入っているのは、ひとえに☆の気まぐれのせいであったりする。
無論、今の垣根にその発想は無い。
訳もわからず、寒さに震えているだけである。
垣根(クソ寒ぃ…)じわっ
幼児にとって真冬の寒さは、あまりにも過酷過ぎるものであった。
もはや泣きそう。というか死にそう。
彼を更に追い詰めるかのように、とうとう雪まで降り始めてしまった始末である。
3: もしこの酉を見た人が居たら ◆H0UG3c6kjA 2011/09/11(日) 23:33:24.56 ID:zgjsJQJU0
もうすぐクリスマス、『仕事』も今はもう無く、やる事もなく、只今日の晩御飯(鮭弁)と夜食(鮭とば)を買いに出た帰り。
ふと目に入った公園に入ると、何やら目立つ段ボールが置いてあった。
麦野(…捨て猫?)
その割には寂しそうな鳴き声だとか、そういったものは聞こえてこない。
こんな寒い真冬、おまけに雪まで降ってきた…こんな気温じゃ、もう死んでしまったのかもしれない。
可哀相に、なんて珍しい感情が胸に込み上げてくるのを感じながら段ボールを覗き込むと、そこには、行方生死共に不明だったはずの、小さな第二位がうずくまっていた。
麦野(…冗談にしちゃ悪趣味過ぎだっての)
他人のそら似にしてはあまりにもそっくり過ぎる。
少し考えて、浮かんだ答えは三つ程。
・第二位本人
・第二位のクローン(調整不完全?)
・第二位の隠し子
この中で一番可能性が高いのは三番目。
見た目からしてこの子供は五歳位。
…あいつの亡くなった時の年齢から逆算すると、15か16の時の子供…有り得なくはない、昔からモテていたらしいから。特に年上に。
二番目も確かに有り得るけど、それならこんなあからさまに『拾って』アピールなんてするはずがない…何かの実験という可能性も有り得るけど。
もしも三番目なのだとしたら、この子を拾ってあげたいと思った。
予想するに、父親たる垣根は居ないし、母親は…誰かは予想もつかないけど、何らかの事情で捨てたのだろう。
母親は学生なのかもしれない。
――私は、麦野沈利は、垣根帝督という男が、好きだった。
ううん、今でも、今だって好きでいる。
どうして好きになったのかはわからない、けど、思い当たる理由があるとするならば、私を初めて負かした男だからかもしれない。
我ながら何て軽い理由だ、馬鹿な阿婆擦れのようだと自分を罵倒する。
でも、人を好きになる理由なんて微々たるものであることが多いと思う。
それでも、好きで。
5: 同一人物です、すみません ◆H0UG3c6kjA 2011/09/11(日) 23:47:10.50 ID:BwilVQs70
それに気付いたのは、あいつが脳を三分割にされて機械に入れられていたのを目にしてから。
只の研究材料(素材)と化した垣根を見て、今更好きになったんだって気付いた。
それも今では昔の話、今では序列第二位は空席、詰められてこそいないものの、垣根は生死行方共に不明だった。
研究が終わって、戦争に使われて、殺されたんだろうと私は推測している。
もし垣根が生きてたなら、一度サシで話してみたかった。今じゃもう叶わない事だけど。
口から出てくる言葉は一つだけ。
只でさえ小さい身体を縮こませる、彼そっくりな君へ。
麦野「…ねぇ、もし良かったら、私の家に来る?ここ、寒いでしょ?」
垣根(こいつは…第四位か、記憶にある姿とはだいぶ違うが)
垣根「うん」こくっ
垣根(うんってなんだちくしょう、言動がまるっきりガキじゃねぇかクソ!…言動は複雑に話せないように制御がきかねぇのか…失語症よりもきつくねぇか、プライド的に)
垣根(まぁいい、ひとまず此処に居るよりは餓えと寒さがしのげるだろ)
麦野「んっ、と」
その子は年齢が年齢(多分、五歳位?)だからとても軽くて、柔らかくて、温かかった。
子供を抱っこするだなんて、人生初かもしれない…少なくとも、今までに覚えは無い。
よっぽど寒かったのか、ぎゅっと抱きついてくるのが可愛い。
麦野「ところで、お名前は?」
垣根(どう答えるか悩むな…偽名使うのもアホらしい、だが…駄目だ、混乱して頭が働かねぇ、どのみち言語は俺自身の完全制御下には無いし、適当に…)
垣根「かきね、ていと」ぎゅっ
麦野「そう。…じゃあ、ていとくんね」なでなで
☆「やはりおねショタは良いな…」わくわく
エイワス「………」
ちびっこ未元物質と原子崩しが交錯する時、子育て物語は始まる―――――。
12: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/12(月) 22:20:52.37 ID:2cn8Qqq70
第四位の部屋に着くと、予想よりも…いや、逆に予想通りというべきか、ファンシーで少女趣味な部屋模様だった。
辺りを見回して現状確認を図っている俺の姿は物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回す子供に見えたのか、第四位は微笑んでいた、
振舞われたのは砂糖のどっさり入っていると思われるホットミルク。
俺は紅茶派なんだが…駄目だ、子供らしからぬ事は言えないようにされているらしい、なんて厄介だ。
麦野「ちびちび飲んでるけど…熱かった?」
垣根「あつくない…」
暑くはない、程よく温度調節されたホットミルクは砂糖の量さえスルーすれば飲み易い温度だ。
子供舌に合わせて甘くしたんだろうが、それにしたって入れすぎじゃねぇのか。
文句をつけようにも制限で話せない。
…まぁいいか、女性の好意だ、受け取っておくことにする。
麦野「お腹空いてる?」
垣根「うん…」
麦野「とはいっても、今あるものっていうと…昨日の残りの南瓜煮と鮭弁、鮭とばしかないけど…」
垣根「しゃけべんのおかずたべたい」
第四位が料理の出来る人間だという確証が無い、ひとまずは安全牌を選択。
それにしても拙い話し方が自分で気に障る、俺に母性は無い。
子供舌だからか、段々とホットミルクのゲロ甘さにも馴れてきた、あんまり芳しくねぇな。
第四位は俺の頭を撫で回してから、鮭弁の蓋を開け、おかずらしき唐翌揚げを差し出してきた。
麦野「あーん」
垣根「じぶんでたべれる…」
麦野「子供が遠慮なんかするもんじゃないわよ、ほら」
垣根「んむ…」もきゅもきゅ
身体が小さいからか、ショボい唐翌揚げが口一杯に広がる…悪くねぇな。
っていやいや、ガキの状態に甘んじちゃ駄目だろ。
何とかねぇのか、どうすりゃいい…駄目だ、第二位の頭脳をもってして浮かばない事は誰にもわからない。
13: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/12(月) 22:22:13.40 ID:2cn8Qqq70
麦野「あ、そうそう。私の名前は麦野沈利っていうの」
垣根「むぎのしじゅり…」
麦野「しーずーりー」
垣根「しーじゅーりー」
麦野「…まぁいいか、子供の発音ってそんなものよね、きっと」
垣根「……」しょぼーん
麦野「いいのよ、その内ちゃんと発音出来るようになるでしょ」なでなで
別にお前の名前は知ってんだよ、まともに発音出来ねぇ自分の舌に失望してるだけだ。
とは言えず、撫でられるのに甘んじる…第四位結構指細い、ってんな事どうだっていい。
硯よりマシよね、などと呟く第四位に同意する、完全に発音が下手くそよりかは惨めじゃない。
クソ、俺が何したってんだよ……いや、反逆とかテロとか色々やってきたけどよ。
口に運ばれてくる物を頬張る(自分では普通に噛みたいんだが、子供の口内じゃ狭すぎる)と、第四位がはにかむ。
…顔は美人、スタイルも俺好みなんだが…口が悪いのだけが難点だよな、こいつ。
麦野「もうお腹一杯になっちゃった?」
垣根「うん…もういらない」
麦野(可愛い…なんでだろ、小さくて丸いからかしら)
垣根「おふろ…」
麦野「今沸かしてるからもう少し待ってて。…服どうしよう」
垣根「………」じー
麦野「…バスタオル、じゃ駄目よね」
垣根「こごえちゃう…」
麦野「でもお店開いてないし…お風呂入っている間に洗濯間に合うっていうのがベストなんだけどね…」
垣根「まにあわなかったら…?」
麦野「…私が昔着てたワイシャツとか、もう使わないし…裾切ったら着れるかも」
垣根「うー…」
麦野「嫌かな?」
垣根「…むー」
14: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/12(月) 22:22:46.07 ID:2cn8Qqq70
裸ワイシャツは男のロマンだ、それを可愛い女の子が着るならば。
…妥協するしかねぇだろう、バスタオル一枚で凍え死ぬよりは幾分も幾分もマシだ。
どうせ明日までには今着てる服(原作15巻扉絵服ミニ版)も乾いて着られるだろうし、この分じゃ買ってくれそうだしな。
垣根「わいしゃつ、きる」
麦野「ごめんね、弟とか居たらまた違ったんだろうけど…」
麦野「そういえば、お風呂は一人で入れるの?」
垣根「はいれる」
麦野「じゃあ私先に入ってくるから、おとなしく待っててね」
垣根「うん」
『子供らしい』を基準として、許可されない言葉が決まっているようだ。
誰が俺に制限をかけたのか、考えつくのはただ一人。
垣根「あれいすたー…!!」
反逆者への刑罰のようなものなのか、それはわからない。
…ムカついたところでどうしようもない。
幸いにして第四位は美人の女だ、状況は男として見た場合に悪くない。
15: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/12(月) 22:23:56.90 ID:2cn8Qqq70
女ってのは長風呂だ、待ってる身としてはやる事がない。
大人しくしてろとは言われたが、少し位動いたっていいよな、暇だし。
がさごそ、と部屋を漁る(とはいっても大体は身長が届かなかったから見て回るだけだが)と、ふと見慣れたものが目に入った。
俺が使っていた香水の、香水瓶。
近寄るとそこはかとなく甘い匂いが辺りへ漂う、中身の量からして使われたのは一、二回というところか。
麦野「っ、それは駄目!触らないで!」
垣根「!? …う、ん」
麦野「…大声出してごめん、でもこれ、あんまり売ってないから」
全然気配に気付かなかった…俺としたことが、腑抜けたもんだ。
第四位が焦ったのも無理はない。
何しろ数量限定で売られた香水だからな、コレが最後の一瓶なのかもしれない。
俺が触らないように香水瓶を手にして高く掲げた第四位は、大人げなさについて謝罪している。
別段怒る事じゃねぇ、プレミアムの付いていそうな香水瓶、ガキが触ろうとしていたら俺だって窘める。
…気に入っている割には使われた形跡少ねぇけど。
麦野「……これは、私の好きな人が、使ってたのよ」
垣根「…すきな、ひと」
麦野「今は行方も生死も不明だけど。…だから、割れたら嫌なんだ、好きな人との、繋がりみたいなものだし」
行方も生死も不明で、その香水を使っていた男。
…まさか俺か、とも勘繰ったが、その可能性は極めて少ないだろう。
この学園都市で生死行方不明なんてそれなりにある事だし、この香水だって数量限定とはいえそれなりのやつが使ったはずだ。
男女兼用の香水だが、男の方が購入した奴は多いんじゃねぇかと思う。
麦野「…って、何話してんだか。ていとくんもお風呂入ってきなよ」
垣根「うん」とてとて
麦野(垣根………)きゅっ
☆「R18展開が待ち遠しいな」わくわく
エイワス「警備員に通報しておこう」
☆「まぁ落ち着くといい。…おねショタは日本の良い文化だろう?」
エイワス「………」
26: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/14(水) 20:42:04.63 ID:NWt1wMRP0
さて、幼児が一人で風呂に入るにあたって、難関がいくつか存在する。
現在の俺にとってそれは何かといえば、
一つ、服を満足(スムーズ)に脱ぎ着すること
二つ、シャワーを浴びること
三つ、充分に身体を洗うこと
前述の内、二つ目と三つ目は多少妥協が出来る、まったくもって出来ないものは一つ目だ。
男のプライドにかけて、第四位に「はいバンザーイ」等と服を脱がせてもらう事は許されない、流石に情けない。
という訳で脱衣所に到着して早速脱ぎ始めたんだが、上着とシャツはともかくベルトが上手く外せない。
気が逸る度に苛立ちが募る。
垣根「やー…」むむ
垣根(硬ってえな、そしてムカついた)
俺は基本的には寛容な人間だが、短気だという自覚もある。
もういい面倒だ、こんなベルト、能力でぶっ千切…ん?
垣根「…う?」きょと
垣根(能力が使えねぇ、だと…!)
一応予想の範囲内にはあった事だが、まさか全く使えないとは思ってもみなかった。
無論素手でぶっ壊そうにも、幼児の握力や腕力では無理ってもんだ。
面倒だ、が…正攻法で前向きに取り組むしか無さそうだ。
垣根「……」かちゃかちゃ
こんな真面目に何か単調な作業に取り組んだのは、あの『滞空回線』解析以来久しい…というか、その日以降の意識が無かったんだから何とも言えねぇが。
そういや今はあの頃からどの程度経って…考えても判る訳ねぇか、後で第四位に聞こう。
27: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/14(水) 20:42:40.58 ID:NWt1wMRP0
結局数分格闘し、何とか服を脱ぎきる事が出来た。
バスタオルは俺の身長で取れる場所に置いてあるようだし、脱いだ物は洗濯機に押し込んで稼動させた、もうこれで問題無い。
垣根「ちかれた…」
垣根(衣服風情が、手間かけさせやがって…)
独り言を漏らしていてふと気が付いたが、俺の言動は正確には制限というよりフィルターがかかっているようだ。
例えば、ソースコードを記して、ブラウザーを通して見た場合に視覚化されるように。
例えば、絵の具の塊に上から水を注げば、色水に変わるように。
とはいってもそこまで正確(つまりは完全パターン化)されたものではなく、アットランダムに変換されるようだ。
垣根「…むぅ」
面倒臭い、ウゼェ、等とぼやこうとすれば大体はこの様に唸り声が漏れる。
…第三者から聞いたら可愛い部類なのかもしれないが、それが自分だと思うとげんなりする。
ま、とりあえず服は全て脱げたので風呂場に入ると、其処には。
―――予想だにせぬ、高き難関が聳え立っていた。
28: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/14(水) 20:44:41.22 ID:NWt1wMRP0
香水瓶一つで、自分がここまで動揺するだなんて思わなかった。
確かに香水瓶自体は箔が付くというか、希少性でいえばかなり高価だろうけど、そもそも私の金銭感覚ではさしたる値段じゃない。
それでもみっともなく取り乱してしまったのは、言葉通り、好きな人―――垣根帝督との、唯一の繋がりだから。
麦野「馬鹿じゃねぇの、ちょっと話した位で、闘り合った位で、一丁前に第二位のオンナ気取りか」
自嘲の言葉を吐き捨てても、気持ちは一向に変化してはくれなかった。
もやもやとした感情が胸と胃の間辺りでぐるぐるともたついて、吐き気が込み上げてきた。
麦野(何で、こんなに好きになったんだろう)
ほぼ無傷で負かされたからなのか、実力に見合った余裕に惹かれたのか、はっきりした理由なんて分からない、よくよく考えたって理解する事なんて出来ない。
嗚呼、これじゃ第三位のクソガキを馬鹿にしてきた人間とは思えない、愚の極みだわ。
垣根『まぁまぁ、そう熱くなるなよ第四位、メイク落としたら可愛い顔が台無しだ』
麦野『ちっ…余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ、クソ第二位がっ…!?』
垣根『だから熱くなるなよ、息上がるぞ?ん?』
麦野『…ぜ、っは…テメ、何、し…っ』
垣根『素粒子大の未元物質を制御出来るんでな、今第四位は気管にちょっとしたしこりのある状態だ』
麦野『……っく、ぅ…ナメ、やが、って…!!』
垣根『安心しろ、俺が脱出したら解除して呼気と一緒に吐き出させてやるからよ。…ま、今度会ったらデートでもしようぜ』
麦野『げほっ…う…』
垣根『…最も、もう会う事も無さそうだが。残念だ』
麦野「……ま、本当に会う事無かったけどね」
あれから、語るにも長すぎる程に沢山の出来事があった。
浜面にも幾度となく負かされた、でも、私はずっと垣根だけを好きでいた、忘れる事は無かった。
それは何故か、明確な理由は…やはりわからない。
本当に残念そうな微笑を浮かべながら私の髪を一撫でだけして去っていった姿が、今も網膜に焼き付いている。
あの時は色々とどうかしていたからあの動揺は全て苛立ちによるもの、第二位を殺せば解決すると勝手に結論付けていたが、恐らくあの時から、私は、ずっと。
麦野(デート、しようって、言ったじゃない)
あまりにも理に適わない呟きを、誰かに聞かれている訳でもないのに飲み込んだ。
感傷的な気分なんて、もう今夜は寝る事で忘れてしまおう。
麦野「っ、ふ…ぐすっ…うっ…ひくっ…」
…忘れて、しまいたいのに。
確かに香水瓶自体は箔が付くというか、希少性でいえばかなり高価だろうけど、そもそも私の金銭感覚ではさしたる値段じゃない。
それでもみっともなく取り乱してしまったのは、言葉通り、好きな人―――垣根帝督との、唯一の繋がりだから。
麦野「馬鹿じゃねぇの、ちょっと話した位で、闘り合った位で、一丁前に第二位のオンナ気取りか」
自嘲の言葉を吐き捨てても、気持ちは一向に変化してはくれなかった。
もやもやとした感情が胸と胃の間辺りでぐるぐるともたついて、吐き気が込み上げてきた。
麦野(何で、こんなに好きになったんだろう)
ほぼ無傷で負かされたからなのか、実力に見合った余裕に惹かれたのか、はっきりした理由なんて分からない、よくよく考えたって理解する事なんて出来ない。
嗚呼、これじゃ第三位のクソガキを馬鹿にしてきた人間とは思えない、愚の極みだわ。
垣根『まぁまぁ、そう熱くなるなよ第四位、メイク落としたら可愛い顔が台無しだ』
麦野『ちっ…余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ、クソ第二位がっ…!?』
垣根『だから熱くなるなよ、息上がるぞ?ん?』
麦野『…ぜ、っは…テメ、何、し…っ』
垣根『素粒子大の未元物質を制御出来るんでな、今第四位は気管にちょっとしたしこりのある状態だ』
麦野『……っく、ぅ…ナメ、やが、って…!!』
垣根『安心しろ、俺が脱出したら解除して呼気と一緒に吐き出させてやるからよ。…ま、今度会ったらデートでもしようぜ』
麦野『げほっ…う…』
垣根『…最も、もう会う事も無さそうだが。残念だ』
麦野「……ま、本当に会う事無かったけどね」
あれから、語るにも長すぎる程に沢山の出来事があった。
浜面にも幾度となく負かされた、でも、私はずっと垣根だけを好きでいた、忘れる事は無かった。
それは何故か、明確な理由は…やはりわからない。
本当に残念そうな微笑を浮かべながら私の髪を一撫でだけして去っていった姿が、今も網膜に焼き付いている。
あの時は色々とどうかしていたからあの動揺は全て苛立ちによるもの、第二位を殺せば解決すると勝手に結論付けていたが、恐らくあの時から、私は、ずっと。
麦野(デート、しようって、言ったじゃない)
あまりにも理に適わない呟きを、誰かに聞かれている訳でもないのに飲み込んだ。
感傷的な気分なんて、もう今夜は寝る事で忘れてしまおう。
麦野「っ、ふ…ぐすっ…うっ…ひくっ…」
…忘れて、しまいたいのに。
29: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/14(水) 20:45:12.08 ID:NWt1wMRP0
垣根「oh...しゃわーへっど…」
思わず呟いてしまった、忌々しいシャワーヘッド…いや、無いと困っちまうんだけど。
何故俺がシャワーヘッドを高き難関と喩えたかといえば、俺の現在の身長では明らかに届かない部分に引っかかっていたからだ。
第四位に多くは求めない、せめて上から二段目に引っ掛けといてくれりゃ…ぼやいても今更どうしようもない。
俺にも俺なりのプライドがある手前、まさか此処から大声を出して助けを求めるという方法はいただけない。
さてどうするか、としばらく悩んだ結果、俺は浴槽の縁によじ登ってシャワーヘッドを手にする事にした。
我ながら名案だ、ほれぼれとしちまう。
垣根「んしょ…あう…あっ…うー…」
もう少し、もう少しで中指が届く…!
危うく転落しかけながらヘッドを掴んだ時の気分は、痒い所に手が届いたような、そんな爽快な気分だった。
たかが入浴一回に何分かけてんだよ、と自嘲しながら身体を洗う。
幸いにしてボディシャンプーもスポンジも手の届く距離にあった。
垣根(それにしても、『超能力者』の住居にしちゃ、何か狭い気がする…が、広けりゃいいってもんでもねぇしな、ホテルはともかく住居は)
どうでもいい事を考えながら無事入浴を終えて浴室から脱出。
未元物質が無いのは不便だ、『暑い』なんて感覚、久しく感じたぞちくしょう。
脱衣所に来て今更気付く、そういや着替えって…。
垣根「…ない」しょぼーん
まだ探してるのか、それともすっかり忘れ去られているのか。
どちらにせよ、衣服が無いというのは色々と不味い、特に俺の精神苦痛的に。
仕方ない、と何もかもを妥協した俺は身体にバスタオルを巻きつけ、第四位を探しに脱衣所から旅立つのだった。
幸いにして暖房は部屋(もとい家)中に効いている、歩いていて凍え死ぬ事は無さそうだ。
部屋をいくつか回ってみたが、第四位は見つからなかった。
残り、立ち入っていない部屋は先程の香水の一件が起きた部屋と、第四位の自室。
流石に自室へ立ち入るのは常識に適ってねぇだろうと思い、香水の部屋(仮)に入ると、第四位は香水瓶を見つめて俯いた。
ぽた、ぽた、と水滴が第四位の顔付近から床に数滴落ちて、カーペットを部分的に色濃くして。
……泣いてる、のか?
30: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/14(水) 20:46:05.72 ID:NWt1wMRP0
私は、自分で思っていたより女々しく弱く、脆い女だったようだ。
何て情けない、みっともない、馬鹿みたい…そう思うのに、とめどなく涙は溢れていって止まらない。
後ろから小さくとてとてと可愛らしい足音が聞こえた。
しまった、ていとくんの着替え用意してあげてなかった…そりゃ困るに決まってる。
本当に駄目じゃねぇか、しっかりしろ、麦野沈利。
麦野「っ、ごめ…」
垣根「しじゅり」
麦野「………」
涙で潤んでぼやけた視界では、ていとくんが垣根に見えた、希望が出たのかもしれない、これじゃ幻覚だ。
困ったような顔をして、少し悩んでから、彼は私の頭を抱き寄せた。
それから、『あの日』垣根がそうしたように、私の頭を撫でて、小さく笑った。
違いといえば、今回は『残念そうな』微笑ではなく、『困惑した』微笑だというところか。
垣根「しじゅり、なくな」
『沈利、泣くな』
麦野「う…ひっ、く…うぁ…」
垣根「なにがあったかわかんないけど、だいじょうぶ、なくな」
『何があったかは知らねぇが、大丈夫だ…泣くな』
麦野「………」
垣根「なくと、かわいいかお、だめになる…う?」
『泣いたら、可愛い顔が台無しになっちまう、だろ?』
麦野「何、う…っ…うわぁぁああん!」ぎゅっ
垣根「!?」おろおろ
垣根(慰めたら一層泣かれた…どういうことなの…)
幼い声で慰められていること位わかってる、鼓膜は正常なはずなのに。
それにも関わらず垣根の幻聴が重なって、小さな体躯を抱きしめていた。
関係ない子だと分かってるのに、それでも縋りたくなる私は―――。
☆「おねショタを超えた愛だな」うんうん
エイワス「愛、か…愛を抱いているのは女性の方だけのようだが」
☆「これからショタ…第二位の方も好きになるんだ、私にはわかる」
エイワス「………」
☆「それはそうと、この『おねショタいちゃいちゃ構築プラン☆』を立てるにあたって、参考にした蔵書があるのだよ」
エイワス「蔵書…あまり関係が無いようにも伺えるが」
☆「ちなみにカエルにされた王子様だ」
エイワス「」
☆「麦野沈利がショタを垣根帝督と認識し、唇に接吻する事で魔術は解かれ、垣根帝督は晴れて本来の年齢(21)へと戻れる、麦野沈利と正式に結ばれて所謂ハッピーエンドだ」
エイワス「…私は、君に知識を授けるのをやめた方が良いのか?」
☆「おねショタの良さに君もハマるはずだ。…なかなか良い恋愛模様ともいえなくもない」
エイワス「…君の好きにすると良い、私を飽きさせてくれるな」
☆「それは今後の二人次第、というところか…」
41: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/19(月) 18:37:21.66 ID:fq7udGVC0
結局第四位はしばらく泣き続け、ようやく泣き止んだ後数回俺に謝罪した。
何について謝罪されたのかはさっぱりだが、別に何とも思っていない事を伝えると安堵したのか、ようやく俺の服を探してくれた。
ワイシャツ一枚では寝るだけとはいえ流石に心許ないと考えてくれたらしく、バスタオルで簡易な短パンまで縫ってくれた事には感嘆の声すら漏れた。
第四位、口さえ悪くなきゃ本当に完璧な女なのにな。
麦野「大丈夫そうね。とりあえず今日はその格好で我慢して寝て」
垣根「うん」こくっ
麦野「…」ちょいちょい
垣根「?」
麦野「何首傾げてるのよ。一緒に寝ましょう?私、そんなに寝相悪い訳じゃないから安心して」
垣根「」
垣根(えっ)
声にこそ出なかったもののかなり動揺してしまった。
いや、別に俺は○○じゃねぇけど。
○○じゃねぇけど(大事な事なので二回言う)。…今どうていとくんって言った奴出て来い。
かといって胸のデカい自分好み(暴言以外)な女に添い寝されて冷静に寝られる程、俺は悟りを開いちゃいない。
身体はガキのものだから勃ったりなんだりはないと思うが、それにしたって精神的によろしくない。
垣根「うー…」ふるふる
麦野(…やっぱりまだ信用されてないのかしら。当たり前よね、意味不明に取り乱したり、ロクなご飯も食べさせてあげられてなかったし…)
麦野「でも此処以外は寒いし、予備の布団も無いのよ」
垣根「あう…」
麦野(嫌がっているっていうよりは、困ってる…?でも五歳児ってそんなに女性に敏感だったかな…よく分からないけど)
垣根「…いっしょにねる」こくん とてとて ぱふっ
麦野「寝てる時にトイレ行きたくなったりしたら起こしてくれて構わないからね」
垣根「……」こくん
麦野「おやすみ、ていとくん」ぎゅっ
垣根「おやしゅみ…」
第四位に抱き寄せられ、自然と豊満な胸に俺の顔が押し付けられる形になる。
顔の向き次第で窒息はしないんだが、精神的に窒息しそうだ。
嫌だという意味じゃない、むしろ嬉しい展開なんだ…が、何分この身体じゃ何も出来ないのが残念でならない。
ま、俺が大人の状態だったら拾われない以前に自分の力で何とかしてたと思うから、仮定の話を持ち出した所でどうしようもない。
思っていたよりも寝つきの早い第四位は満足気な微笑みを浮かべながら俺に頬ずりしている。
苦しいような、悪い気分はしないような、男として見られてないのを再確認して切ないというか…もういい、寝ちまおう。
――結局俺が寝付けたのは、寝ると決意して二時間後の事だった。
42: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/19(月) 18:39:27.39 ID:fq7udGVC0
麦野「んー…」
目が覚めると、ていとくんは安心した様子ですやすやと眠っていた。
そういえば割とあっさり私に拾われたけど、この子自体の警戒心はどれ位のものなんだろう。
この後昼の買い物の際、迷子になられたり誘拐されたら…想像したらぞっとした。
…って、別にこの子は私が産んだ子じゃないし、育てる義務も権利も本来は無いんだよね、何執着してんだか。
それにしても…
麦野「…可愛い寝顔」つんつん
垣根「うぅ…」もぞもぞ
頬が柔らかい大福餅で何だかひどく和んだ、可愛い。食べちゃいたい位可愛いって言葉の意味が解る気がする。
私が頬を突っついた事が気に入らなかったのか、むずがったていとくんは毛布を頭から被って身を隠してしまった。
さて、いつまでも構って遊んでちゃていとくんが可哀相だし…朝飯でも作っちまうか。
子供の好むご飯はよく解らないけど、多分甘いものと柔らかいものは好きだと思う(絹旗がそうだったし)。
麦野「…オムレツと鮭フレークご飯位なら普通に食べられるか」
もし苦手かアレルギーがあるなら私が代わりに食べて、ていとくんには菓子パンとかを食べさせてあげればいいだけの話だし。
アレルギーの心配まったくしてなかったわ…まったく…失敗失敗。
昨日の唐揚げも小麦アレルギーだったら引っかかってたわね…特にアレルギー症状は見られないし、大丈夫だとは思うけど。
垣根「んん…」とてとて
麦野「おはよ。座って待ってて」
垣根「ごはん…」
麦野「今作ってるし、もうすぐ出来るからね」
垣根「………」こくん
思ったより早く起きてきたていとくんは、眠た気に目を擦りながら椅子によじ登って座った。
大人しくご飯が出来上がるまで待っている様は、よく出来た人形のように思える。
短気なのかお腹が空いているのか、少し時間が経過すると退屈そうに脚をぱたぱたと動かし始めた。
子供用の椅子買ってあげようかな、なんて思いながらオムレツと鮭フレークご飯を配膳する。
先程の予想は後者が当たっていたらしい、割合(私の中では)粗末な朝食にきらきらと目を輝かせ、脚の動きがぴたりと止まった。
あんまり待たせるのもアレだし、片付けは後にして私も食べよう。
麦野「いただきます」
垣根「いたらきます」
発音出来たり出来なかったり、舌の作りが特殊なのかいまいち未発達なのか…わからないけど、まぁこの年齢なら可愛いし、無理に直させる必要もないか。
手元がしっかり見えてないらしく、時々食べ零すのを拭いてあげる度にぴしっと固まる。
…緊張してるのだとしたら、私のせいなのかな。
昨日の夜から態度が緊張状態気味なってしまった理由…私が泣いて縋りついたからだろうか。
ちょっと申し訳ないことしたな…ていとくんのせいじゃないのに。
麦野「美味しい?」
垣根「ん!」もぐもぐ
麦野「後で着替えたらお買い物行こうね?」
垣根「ん…」こくっ
43: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/19(月) 18:40:20.94 ID:fq7udGVC0
食べ終わった私は片付けをしつつ携帯を見る。
そういえば、『いただきます』なんて言ったの何年ぶりだろ…家ではほとんど言ってこなかったしなぁ。
携帯のディスプレイに表示された文字は、『新着メール1件』。
麦野(誰だよ…)パカッ
------------------------------
From:絹旗最愛
Title:朝9時待ち合わせですけど
本文
全然辺りに麦野が見当たらないん
ですけど、麦野今何処にいますか
?
もし遅れそうなら超連絡お願い
します!
------------------------------
麦野「げっ…完っ全に忘れてた…今何時?」
ちらりと見やった時計、針の指す時刻は8時50分。
そりゃ連絡寄越せともなるわよね…普段の私なら15分は前に到着してるもの。
何て言おう、断ろうかしら…でも今日は一緒に映画見るだけの約束なのよね、その後ならていとくんの服も買えるか。
そりゃここで絹旗にドタキャンするのは簡単だけど、私の我儘で絹旗を悲しませるのはあまり気分が悪い。
…なんて、考えてしまう辺り私も丸くなっちまったものね。
垣根「…?」
麦野「あー…んー…」
一先ず遅れる旨を伝えて…そうだ、ていとくんについて説明すれば連れて行ける。
絹旗は確か子供嫌いじゃなかったはずだし。
------------------------------
To:絹旗最愛
Title:ごめん
本文
諸事情で遅れそう、ごめんね。
今事情持ちの子供(男の子・5歳
)を預かってて、目が離せないん
だけど、一緒に連れていってもい
いかな?
大人しくていい子だから、迷惑は
かけないと思う。
------------------------------
ピッ 送信完了
麦野「ねぇていとくん」
垣根「う?」きょと
麦野「私以外の…そうだな、もう少していとくんに歳の近いお姉さんと一緒にお買い物しようか」
垣根「…」こくん
垣根(…頷いたのはいいが、誰とだよ)
麦野「食べ終わったら置いといていいからね。洗濯はもう乾燥まで終わってるから、着替えちゃって」
垣根「うん」とてとて
麦野(…さて、あのメールで遅れる理由、七割位は伝わったかしら)
そういえば、『いただきます』なんて言ったの何年ぶりだろ…家ではほとんど言ってこなかったしなぁ。
携帯のディスプレイに表示された文字は、『新着メール1件』。
麦野(誰だよ…)パカッ
------------------------------
From:絹旗最愛
Title:朝9時待ち合わせですけど
本文
全然辺りに麦野が見当たらないん
ですけど、麦野今何処にいますか
?
もし遅れそうなら超連絡お願い
します!
------------------------------
麦野「げっ…完っ全に忘れてた…今何時?」
ちらりと見やった時計、針の指す時刻は8時50分。
そりゃ連絡寄越せともなるわよね…普段の私なら15分は前に到着してるもの。
何て言おう、断ろうかしら…でも今日は一緒に映画見るだけの約束なのよね、その後ならていとくんの服も買えるか。
そりゃここで絹旗にドタキャンするのは簡単だけど、私の我儘で絹旗を悲しませるのはあまり気分が悪い。
…なんて、考えてしまう辺り私も丸くなっちまったものね。
垣根「…?」
麦野「あー…んー…」
一先ず遅れる旨を伝えて…そうだ、ていとくんについて説明すれば連れて行ける。
絹旗は確か子供嫌いじゃなかったはずだし。
------------------------------
To:絹旗最愛
Title:ごめん
本文
諸事情で遅れそう、ごめんね。
今事情持ちの子供(男の子・5歳
)を預かってて、目が離せないん
だけど、一緒に連れていってもい
いかな?
大人しくていい子だから、迷惑は
かけないと思う。
------------------------------
ピッ 送信完了
麦野「ねぇていとくん」
垣根「う?」きょと
麦野「私以外の…そうだな、もう少していとくんに歳の近いお姉さんと一緒にお買い物しようか」
垣根「…」こくん
垣根(…頷いたのはいいが、誰とだよ)
麦野「食べ終わったら置いといていいからね。洗濯はもう乾燥まで終わってるから、着替えちゃって」
垣根「うん」とてとて
麦野(…さて、あのメールで遅れる理由、七割位は伝わったかしら)
44: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/19(月) 18:40:56.85 ID:fq7udGVC0
―――ショッピングモール一階ベンチ
ヒービーキーアウー ネーガーイノナーカメーザーメテクー
絹旗(麦野超遅いです…ん?メールが…)パカッ
------------------------------
From:超麦野!
Title:ごめん
本文
諸事情で遅れそう、ごめんね。
今事情持ちの子供(男の子・五歳
)を預かってて、目が離せないん
だけど、一緒に連れていってもい
いかな?
大人しくていい子だから、迷惑は
かけないと思う。
------------------------------
絹旗(事情持ち?…麦野の親戚とかでしょうか)
絹旗「とりあえず返信を…」
------------------------------
To:超麦野!
Title:超大丈夫です!
本文
諸事情なら仕方ありません、来た
時に良かったら詳しく説明してく
ださいね。
こっちに到着する5分前位に電話
かメールを超お願いします。
------------------------------
ピッ 送信完了
絹旗(これで大丈夫ですよね…映画もまだチケット購入してませんし、このまま待っていましょう)
絹旗(それにしても麦野が子供の世話なんて…超イメージ湧きませんね)
絹旗(でもああ見えて世話焼きですし、きっと上手くいっているんでしょう)
45: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/19(月) 18:42:25.31 ID:fq7udGVC0
―――20分後
絹旗「」うとうと
ヒービーキーアウー ネーガーイノナーカメーザーメテクー
絹旗「」びくっ
------------------------------
From:超麦野!
Title:もうすぐ
本文
着くわ。本当にごめん。
------------------------------
絹旗(すっかりうたた寝してました…)
麦野「絹旗、遅れたわね」
絹旗「大丈夫ですよ」
垣根「………」じー
絹旗「その子が件の事情持ちの子ですか?超可愛い…ですけど、どこかで見たような…」
垣根(どう考えてもあの時のチビガキか…チッ、コイツにバレんのは気分良くねぇな)
垣根「………」ふいっ
麦野「詳しい話は歩きながらするから」
麦野が抱っこして連れてきた子は年齢に見合わず(生まれつき?)金に近い茶色の髪をしていた。
どこかで見たような気がするんですが…うーん。
視線が合った瞬間にぷいっと顔を背けられる。もしかして超人見知りなんでしょうか。
それにしても麦野の子供だとしても違和感無い程に端整な顔立ちの可愛い子です…ほっぺたも柔らかそう、超触りたい…!
麦野曰くこの子は親戚(ついこの間亡くなった)の子で、学園都市で唯一引き取れそうな人物が自分しか居なかったから引き取った、だそうで。
名前はかきねていと(字は解らない)だそうで、ていとくんと呼んでいる。
見た感じではよく麦野に超懐いてますね…可愛い。
麦野「ていとくん、緊張してる?大丈夫よ、この小さいのは私の…そうね、お友達だから」
絹旗「小さいって何ですか麦野、超失礼です!私は絹旗最愛、お姉ちゃんって呼んでくれても超構いませんからね」
垣根(別に緊張はしてねぇ、バレたら馬鹿にされそうだからそっぽ向いてるだけだ…)
垣根「…もあい」むぎゅっ
麦野「……っふ」
絹旗「」
絹旗「麦野、何かていとくんに吹き込んできましたね?超失笑しましたし」
麦野「何も教えてないわよ?…最愛をもあいって読めるんだから、ていとくんは頭良いのね」なでなで
垣根「んー…」えへ
垣根(ま、学園都市第二位だしな。やべぇ、超楽し…口調移った、マジかよ…)
絹旗「…子供の言う事ですし、超大人気なく怒ったりしませんけど」はぁ
麦野「元気出して。アイス奢ってあげてもいいわよ?」
絹旗「麦野様って超優しいです、超リスペクトですね!」
麦野(絹旗も大概ガキじゃないの…)
絹旗「」うとうと
ヒービーキーアウー ネーガーイノナーカメーザーメテクー
絹旗「」びくっ
------------------------------
From:超麦野!
Title:もうすぐ
本文
着くわ。本当にごめん。
------------------------------
絹旗(すっかりうたた寝してました…)
麦野「絹旗、遅れたわね」
絹旗「大丈夫ですよ」
垣根「………」じー
絹旗「その子が件の事情持ちの子ですか?超可愛い…ですけど、どこかで見たような…」
垣根(どう考えてもあの時のチビガキか…チッ、コイツにバレんのは気分良くねぇな)
垣根「………」ふいっ
麦野「詳しい話は歩きながらするから」
麦野が抱っこして連れてきた子は年齢に見合わず(生まれつき?)金に近い茶色の髪をしていた。
どこかで見たような気がするんですが…うーん。
視線が合った瞬間にぷいっと顔を背けられる。もしかして超人見知りなんでしょうか。
それにしても麦野の子供だとしても違和感無い程に端整な顔立ちの可愛い子です…ほっぺたも柔らかそう、超触りたい…!
麦野曰くこの子は親戚(ついこの間亡くなった)の子で、学園都市で唯一引き取れそうな人物が自分しか居なかったから引き取った、だそうで。
名前はかきねていと(字は解らない)だそうで、ていとくんと呼んでいる。
見た感じではよく麦野に超懐いてますね…可愛い。
麦野「ていとくん、緊張してる?大丈夫よ、この小さいのは私の…そうね、お友達だから」
絹旗「小さいって何ですか麦野、超失礼です!私は絹旗最愛、お姉ちゃんって呼んでくれても超構いませんからね」
垣根(別に緊張はしてねぇ、バレたら馬鹿にされそうだからそっぽ向いてるだけだ…)
垣根「…もあい」むぎゅっ
麦野「……っふ」
絹旗「」
絹旗「麦野、何かていとくんに吹き込んできましたね?超失笑しましたし」
麦野「何も教えてないわよ?…最愛をもあいって読めるんだから、ていとくんは頭良いのね」なでなで
垣根「んー…」えへ
垣根(ま、学園都市第二位だしな。やべぇ、超楽し…口調移った、マジかよ…)
絹旗「…子供の言う事ですし、超大人気なく怒ったりしませんけど」はぁ
麦野「元気出して。アイス奢ってあげてもいいわよ?」
絹旗「麦野様って超優しいです、超リスペクトですね!」
麦野(絹旗も大概ガキじゃないの…)
46: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/19(月) 18:43:33.21 ID:fq7udGVC0
絹旗のメールから出かけるまでしばらく慌しかったけど、一先ずこれについては割愛させてもらうわ…って、私は誰に説明してるんだか。
現在地は映画館のチケット売り場、ていとくん(幼児)はお断りかと思ったけど問題無く入れて安心。
とはいえ一人で席に座らせるのは心配だったし、ていとくんは私の膝上だけど。
絹旗はだいぶハイテンションで映画(今世紀最高級のC級らしい、日本語おかしくない?)について語りかけてくる。
それを適当に相槌打っていなしていると、やがて本編が始まった。座っている席は丁度真ん中だから、首が痛くならない。
『いやああああああああ!!!』
\パリーン グチャッ ドンドンドン/
映画名だけじゃ何のジャンルか非常に解り辛かったけど、どうやらサイコホラーだったようだ。
それにしても、この映画を見ると決めておいてビビリまくりな絹旗って…可愛げあるし構わないけど。
どういう手法で怖がらせるのか少しは期待してたけど、C級と噂だけあって予想通り過ぎる(恐怖演出が)。
そろそろ来るかな、と思ったタイミングで殺人鬼が現れ、破壊されていく家と殺されていく人々。
殺され方もかなり残酷というかエグい…けど、私としては見慣れてるから怖くない。
ふと、ていとくんが私にしがみついてきた。…しまった、残酷表現って教育に悪いんだったか。
垣根(やべええええ怖ぇええええ!!)
垣根「うー…」ぎゅうう
麦野(この歳じゃ普通に怖いか…)なでなで
『ひくっ、もういやぁ…許して…あ、ああああああぁあ!!』
\グチャリ ザクッ ゴロゴロ…/
垣根(今来るってわかってただろ絶対何で行ったちくしょおおおお!)
☆「ショタの涙目は、女性のソレとはまた違う可愛らしさや魅力がある」キリッ
エイワス「それはキメ顔で言う事ではないと…まぁ、君の中で構わないなら私も何も言うまい」
☆「ふふふ、第四位のお姉さん振り、怯えてしがみつくショタ…うっ…ふぅ」
エイワス「唐突に賢者タイムを迎えないでくれないか」
☆「すまない」
エイワス「理解したのならば、追及はしないでおこう」
☆「さて、『セカンドプラン(ショタ誘拐、お姉さんがドキドキプラン☆)』の進行に取り掛からねばならないな…」
58: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/22(木) 20:21:52.25 ID:B7ab3BkL0
―――窓のないビル
☆「さぁ、セカンドプランの実行だ」
エイワス「格好つけて言ったところで、この計画が所謂下らないものという事は変わりないだろうに」
ビーカーの様な生命維持装置に浸かったその囚人のような聖人のような男のような女のような子供のような老人のような人間は笑う。
嬉しそうに、楽しそうに、愉快そうに、満たされたように、意地悪いように、施すかのように微笑んだ。
それは悪魔のようにも神のようにも天使のようにも魔王のようにも見えた。
そんな、そうこの人間を仮に『彼』とするならば。
彼は自らの計画を実行する為に必要となった人員を無理矢理招き寄せた。
彼に招かれた女性、彼女は美しいお姉さんのようにも、露出狂の変態ショタコン女のようにも見えた。
結標「…もう『グループ』は解散したはずよ。今更私に何の用?」
☆「そう険しい顔をするものじゃない。命令しようというのではない、これはあくまで『お願い』だ」
結標「…お願い?聞かなければ私を殺すか洗脳するか…逆らった場合に処刑するなら、それはお願いとは呼べないわ」
☆「そんな事をせずとも、君は私の『お願い』を聞く。これは決まっている事だ」
結標(何もかも見通したかのような瞳…相変わらず読めない…)
結標「長い前置きはもう良い、飽きたわ。そのお願いとやらの内容を聞かせてもらおうじゃない」
結標(私は『座標移動』、もしかしたら物資の運搬だのそういったものかもしれない、殺しに関わると決まった訳じゃない…)
☆「君には今日午後、5才の男の子を誘拐してもらいたい」
結標「」
☆「誘拐後隠れる部屋も決めてある、その間ショタと君を二人きりにしよう。殺す、後遺症の残る怪我をさせたりしなければ何をしても構わない」
結標「」
☆「…ふふ、引き受ける気になっただろう?」
結標「勿論よ、当たり前じゃない、ショタと二人きりとかそれなんて僥倖なの(ふざけないで!おちょくってるの?!)」
エイワス(人間とは、表面と内面が此処まで違うものか…やはり興味深い)
☆「ちなみにこれが誘拐する少年だ。現在はショッピングモール内の映画館に居る」つ『ていとくんの寝顔写真』
結標「ほっぺがマシュマロほっぺじゃないの、本気で私好みね(私はそんな事しない、絶対にしない!)」ハァハァ
エイワス(人間とはry)
結標(二人きりになったら何しようかしら、とりあえずおやつ食べさせて動画撮ろう、そうしよう)
☆「決行は午後二時だ。現在少年は第四位・『窒素装甲』と共に居る、バレないように行ってくれ」
結標「私の『座標移動』を舐めないでちょうだい。時にアレイスター…いえ、統括理事長様」
☆「…何だい?」
結標「この写真(ていとくんの寝顔写真)もらってもいいかしら」
☆「好きにするといい」
結標「うふ、うふふふふふ!」
59: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/22(木) 20:23:27.49 ID:B7ab3BkL0
―――ショッピングモール五階、飲食店通り
絹旗「超怖かったですけど超楽しかったです、有意義でした。ね、麦野?」ほくほく
麦野「あーそうねー」
麦野(全編に渡って展開完全に読めてたけどね)
垣根「…」ぎゅー
麦野「…ていとくん、怖かったか」なでなで
垣根「…」こくん
麦野「ご飯食べに行こうね」
垣根「…」こくん
映画ってのは基本的にほぼ二時間だが、六時間程見ていた気分だ。
途中からグロさについては完璧に(元々見慣れてるし)慣れたんだが、それにしたってビックリ系の仕掛けが多すぎた。
というかチケット、よくよく見るとR15マーク入ってたしな。加えて心臓の弱い方は視聴をご遠慮して下さい、との但し書き。
多分チケット窓口は俺(幼児)が寝ていると思ってオッケー出したんだろうけど…俺が本当に幼児(中身的な意味で)だったら教育にすこぶる悪いぞ。
第四位はまったくもってビビってなかったことからして、ビックリ系ホラーに強いんだろうな。
チビガキ(絹旗)はホクホク顔で映画について延々と感想を述べている。
麦野「何食べたい?」
ちなみに現在俺は第四位に抱っこされた状態だったりする。
…ちくしょう、俺が五歳児時点でもっと身長高かったらこんな屈辱味わわないで済んだってのに。
気付けばメニュー(この通りにどんな飲食店があるか、メインの写真つきマップ)を見せられていた。
ハンバーグ、オムライス、ハンバーガー…大体洋食がメインのようだ。
垣根「んっ」
麦野「オムライスね、わかった」
絹旗「おててちっちゃくて超可愛いです…」きゅん
垣根「モアイ」つん
絹旗「」
絹旗(発音がより悪意を帯びている…)
麦野「さ、行こっか」にこっ
絹旗「少し位フォローしてくださいよ麦野…」ぐす
麦野「ていとくんは悪くないものね」
絹旗「ていとくんのフォローって意味じゃないですから!」
ちょっとからかっただけでうるせぇな、何年経ってもガキかコイツ。
先程映画の半券を見てわかったが、今は俺が仮死状態に陥ったあの日から約4年程経過している。
ということは第四位は推定20代前半、チビガキは推定高校生(相当)…だと思う。あくまで予測の域を出ないが。
第四位を俺と同い年だと仮定して、俺も本来なら20代前半のはずなんだが…クソ、アレイスターの野郎…。
60: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/22(木) 20:24:28.30 ID:B7ab3BkL0
ギィイ カランカラン
\いらっしゃいませ~!/
店員「こちらのお席へどうぞー」
店員B「お子様用の椅子はご利用になられますか?」
麦野「うーん…」ちらっ
垣根「……やー」ふるふる
垣根(いくらなんだってそんな羞恥に耐えられるか、死んだ方がマシだっつの)
麦野「じゃあ、要らないわ」
店員B「かしこまりました」
店員「こちらお冷になります。ご注文お決まりになりましたらそちらのボタンを押してお呼びください」ぺこり すたすた
絹旗「はい麦野」つ【メニュー】
麦野「ありがと。…何にしようかな」
垣根「しろいの…」じー
麦野「ホワイトソースの事?」
垣根「うん」こくっ
麦野「クリームシチューオムライスか、美味しそうね」
絹旗「ていとくんは超ホワイトソースが好きなんですか?」
垣根(トマトソースよりはな…)こくっ
絹旗「頷く仕草まで超可愛いです…」
麦野「絹旗、あんた保育士になったほうがいいんじゃない?」
絹旗「それも悪くないかもしれません」
―――現在時刻、13:20
61: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/22(木) 20:25:23.47 ID:B7ab3BkL0
―――現在時刻、13:50(ショッピングモール五階、飲食店通り)
垣根(眠い…飯食ったからか…ん?)
麦野「どうしたの?」
垣根「んー…」ふるふる
垣根(第四位が気付いてねぇんだ、俺の気のせいだよな…)
結標(あれが標的のショタ(=ていとくん)ね…『原子崩し』、なんて羨ましいのかしら、抱っこして歩くなんて)
絹旗「そういえば今日課題を片付けてしまわないと超ヤバかったような」はっ
麦野「一旦帰った方がいいんじゃない?私とていとくんは下の階に服買いに行くから、お開きでも大丈夫だし」
絹旗「超すみません、一旦帰りますね。気のせいだったらまたメールしますから!」
麦野「ん、それじゃあね」ひらひら
絹旗「ていとくん、麦野、また後でー!」ひらひら たったったっ
麦野「…まったく、慌しいわね」
垣根「………」きょろきょろ
麦野「? 絹旗ならもう帰っちゃったわよ?お友達でも見つけたの?」
垣根「んー…」ふるふる
垣根(視線と悪意めいたものを感じるんだが…只の俺の被害妄想か?)
結標(後一分、後一分…よし!)
麦野「!? …っな」
垣根「!?」
―――現在時刻、14:00
62: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/22(木) 20:26:26.45 ID:B7ab3BkL0
―――窓の無い部屋
垣根「」どしんっ
結標「ふー…」すたっ
結標「大丈夫?間違いは無いと思うけど、怪我とかしてないかしら?」あわあわ
垣根「もんだいねぇよ…!?」
一瞬の浮遊感の後、気付けばファンシー(内装的な意味で)な空間に移動させられていた。
俺に触れずに転移を行い、尚且つ第四位に感付かれず事を済ませる事の出来る女。
コイツは恐らく、『グループ』の『座標移動』、結標淡希。
個人の恨みということは考えにくい事からして、恐らくアレイスター…までいかずとも統括理事会からの命令を受けて実行したか。
この場所は予測するに、俺を幽閉する為の空間だと思われる。
今現在最も不可解なのは、俺の口調がフィルター(幼児語変換)されず普通に喋れる事だ。
…色々考慮すれば、俺にフィルターをかけているのはアレイスターなんだろう。より状況を楽しむ為に今はかけていないと…クソ。
そうしている間にも座標移動は俺ににじり寄りながら鼻血を出し…鼻血…?
垣根「なに…なん…」
結標「うふ、うふふ…怯えなくて大丈夫、お姉ちゃんはていとくんを傷つけたりしないわ」ぼたぼた
垣根「こっちくんじゃねぇ」
言語機能がほぼ元通りなら、と考え演算してみたが、相変わらず能力は使えない。
もし統括理事会の人間が俺の『回収』命令をしたのであれば、座標移動とこの部屋に来させられた時点で何か処置をされるはずだが、まったくその様子は見られない。
という事は、この状況にしたのはアレイスターだと考える他無い。多分、多分だがこの状況を何らかの手段で観察して楽しんでやがる。
後ずさる度にゆっくりと歩いてくる座標移動は鼻血を床に撒き散らしながらにやけ顔で近づいてくる。
ある意味で女に迫られている状況だってのに、ちっとも嬉しくない、誰か助けてくれ。
結標「ふふ、口が悪い子ね…でも大丈夫、お姉ちゃんはそれもカバーしてるわ」
垣根「なにをだよ!こっちくんなへんたい、ろしゅつきょうのばいたが!」
結標「汚い言葉遣いね、『原子崩し』の口調が移っちゃったのかしら?でもいい、それもいい、可愛いは正義だもの」
垣根「うっ、ふぇ…」じわっ
結標「泣かないでもいいのよ?お姉ちゃんと仲良くしようね、今少しお尻を撫で回させてくれればいいの」ハァハァ
垣根「」
前言撤回、コイツは女じゃない、只の変態だ。プラス多分ショタコンだ。
何だよ、尻を撫で回すって。いや、日本語としては間違ってねぇんだろうけど。
とうとう背中が壁についた、俺にもう逃げ場所は無い。
何をされるかはさっぱりだが、きっとこの変態に【ピー】とか【ピー】みたいな○○い事をされるんだろう。
俺の人生もここまでか、ロクな人生じゃなかったな……。
63: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/09/22(木) 20:27:31.45 ID:B7ab3BkL0
―――ショッピングモール五階、飲食店通り
腕の中に居たていとくんが唐突に消えた。
消えたというには語弊があるのかもしれないが、予想するに恐らく強制的な空間転移を行ったのだろう、誰かが。
私の周囲に人間はそれなりに居たが、まさか私の目につくところでこんな大胆な誘拐を行う訳がない。
もしくは近くに潜伏していたが、私が気付かなかったか。
どちらにせよ私の失態だ、悩んでいる場合ではない。
相手が仮にプロなら、数十分もあれば殺してバラして売り飛ばす事が可能。
憂いている暇なんて無い、今私が最優先にすべき事は、暗部時代のコネを使って何がなんでもていとくんを助ける事だ。
麦野「……はーまづらぁ」
浜面『麦野じゃねぇか、久しぶりだなー。何か用か?』
麦野「お願いがあるんだけど、聞いてもらえるかしら?」
浜面『お願い?あぁ、俺に出来そうな事ならするが…声色からして、何かあったのかよ?』
麦野「ちょっとね。急いでるんだ」
浜面には、元スキルアウトの仲間を使って聞きこみを。
滝壺には、無理をしない範囲での空間移動系能力者の検索。
絹旗には、周辺の捜索を。
そして私は、元下部組織を軽く脅迫しての捜査。
解散したとはいえ、『アイテム』を敵に回した事を後悔させてやる。
……ねぇ、垣根。
私はあんたを喪ったけれど、ていとくんは、あんたの血を引いているだろうあの子供は。
私のこの、『壊すしか能の無い力』で、救えるかな。
もう私はあんたに思いを伝える事は出来ない、だから、きっとあの子を守ってみせるよ。
☆「…ふむ、私が予想していたよりも醜いな」
エイワス「少年が全身くまなく舐め回されているように見えるが、問題無いのか?」
☆「ショタの貞操的にはだいぶ危機だろうとは思うが、私は構わないよ。おねショタだからな」
エイワス「判定基準がおねショタというのはどうなのだろうか」
☆「座標移動も口にしていただろう?『可愛いは正義』と」うん
エイワス「………」
エイワス(この世界の為にも、あの女性に協力した方が良いのかもしれないな…)
腕の中に居たていとくんが唐突に消えた。
消えたというには語弊があるのかもしれないが、予想するに恐らく強制的な空間転移を行ったのだろう、誰かが。
私の周囲に人間はそれなりに居たが、まさか私の目につくところでこんな大胆な誘拐を行う訳がない。
もしくは近くに潜伏していたが、私が気付かなかったか。
どちらにせよ私の失態だ、悩んでいる場合ではない。
相手が仮にプロなら、数十分もあれば殺してバラして売り飛ばす事が可能。
憂いている暇なんて無い、今私が最優先にすべき事は、暗部時代のコネを使って何がなんでもていとくんを助ける事だ。
麦野「……はーまづらぁ」
浜面『麦野じゃねぇか、久しぶりだなー。何か用か?』
麦野「お願いがあるんだけど、聞いてもらえるかしら?」
浜面『お願い?あぁ、俺に出来そうな事ならするが…声色からして、何かあったのかよ?』
麦野「ちょっとね。急いでるんだ」
浜面には、元スキルアウトの仲間を使って聞きこみを。
滝壺には、無理をしない範囲での空間移動系能力者の検索。
絹旗には、周辺の捜索を。
そして私は、元下部組織を軽く脅迫しての捜査。
解散したとはいえ、『アイテム』を敵に回した事を後悔させてやる。
……ねぇ、垣根。
私はあんたを喪ったけれど、ていとくんは、あんたの血を引いているだろうあの子供は。
私のこの、『壊すしか能の無い力』で、救えるかな。
もう私はあんたに思いを伝える事は出来ない、だから、きっとあの子を守ってみせるよ。
☆「…ふむ、私が予想していたよりも醜いな」
エイワス「少年が全身くまなく舐め回されているように見えるが、問題無いのか?」
☆「ショタの貞操的にはだいぶ危機だろうとは思うが、私は構わないよ。おねショタだからな」
エイワス「判定基準がおねショタというのはどうなのだろうか」
☆「座標移動も口にしていただろう?『可愛いは正義』と」うん
エイワス「………」
エイワス(この世界の為にも、あの女性に協力した方が良いのかもしれないな…)
74: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/06(木) 18:33:39.70 ID:5rYxPydo0
―――窓の無い部屋
死ぬかと思った、冗談とか大袈裟じゃなくて本当に。
全身嘗め回されるという体験に俺の精神キャパシティが一時的にダウンして数回吐いた。
『ショタのゲロはぁはぁ』なんて言葉が聞こえた気がするのだが、失神する直前に聞いたのであまりしっかりとは覚えていない。
失神していたのは正味一時間程だったろうか、時計が無いから確認が出来ない。
俺が気絶した事にショックを受けて正気に戻ったのか取り繕っているのか、座標移動の変態女は現在俺を甘やかすようにお菓子や玩具を差し出してくる。
残念だが俺は中身20歳代前半だ、そんなものに興味や執着出来る子供じゃない。
…前言撤回、ねるねるryには興味を示してやってもいい。これには少々思い出がある。
結標「おやつ、好きに食べていいのよ?全部君の為に用意したんだからね」
垣根「んっ」
結標「…ねるねる○るね?「」
垣根「ん」こくり
結標「はいどうぞ」
垣根「ん」ねるねる
結標「その…さっきはごめんなさいね?その、久々の生ショt…可愛い子だったからテンション上がっちゃって」
垣根「くず、ごみといっしょにくたばれへんたい」
結標「」
流石に応えたのか無言で放心状態に陥った座標移動は放置して、おやつを食べる事にする。
ひとまず、自力で此処から逃げ出さなければならない。
さて、この状況では、他人からの助け(第四位含む)はまず頼りにならない、足取りを掴めたらそれこそ奇跡だ。
未だ暗部に所属してるならありえるかもな、と思いつつ周囲確認。
恐らくあそこにある木製のドア(木製はカムフラだろう)が出入り口だと思うが、恐らく二重ロックにでもなっているだろう。
だが、ハッキングはしようと思えば出来る、特に電子ロックならば容易だ。物理的なものならピッキングを試みるしかないが。
座標移動を何らかの方法で気絶させるか、殺すか、目を閉じさせれば何とかなる…はずだ。
気絶させる、これはほぼ不可能だが完全に不可じゃない、何とかして凶器を探せば殴打位は…とはいえガキの腕力じゃタカが知れてるな。
殺す、これは不可能だ、まず能力を使えないこの状態で勝てるとは思えない。
目を閉じさせる…現状としてはこれが一番可能というか、成功する可能性が一番高いと思われる、尚且つ一番簡単だ。
……後は、俺の脚の速さに賭けるしかねぇ。
垣根「おねーちゃん」
結標「!? な、なぁに?」ふふふ
垣根(きつい…精神的にキツイぜ…)
垣根「あのね、ひどいこといったから、ちゅーする、そしたら、げんきでる?」
結標「ちゅ…ちゅー、してくれる、の…?」
垣根「うん」
垣根(嘘だけどな)
結標「ふふ、えへへ…はい」目瞑り
垣根「…ゆうきでるまで、もうちょっとまっててね」きょろきょろ
結標「ずっと待ってるから大丈夫」ドキドキ
垣根「……まだまっててね」
死ぬかと思った、冗談とか大袈裟じゃなくて本当に。
全身嘗め回されるという体験に俺の精神キャパシティが一時的にダウンして数回吐いた。
『ショタのゲロはぁはぁ』なんて言葉が聞こえた気がするのだが、失神する直前に聞いたのであまりしっかりとは覚えていない。
失神していたのは正味一時間程だったろうか、時計が無いから確認が出来ない。
俺が気絶した事にショックを受けて正気に戻ったのか取り繕っているのか、座標移動の変態女は現在俺を甘やかすようにお菓子や玩具を差し出してくる。
残念だが俺は中身20歳代前半だ、そんなものに興味や執着出来る子供じゃない。
…前言撤回、ねるねるryには興味を示してやってもいい。これには少々思い出がある。
結標「おやつ、好きに食べていいのよ?全部君の為に用意したんだからね」
垣根「んっ」
結標「…ねるねる○るね?「」
垣根「ん」こくり
結標「はいどうぞ」
垣根「ん」ねるねる
結標「その…さっきはごめんなさいね?その、久々の生ショt…可愛い子だったからテンション上がっちゃって」
垣根「くず、ごみといっしょにくたばれへんたい」
結標「」
流石に応えたのか無言で放心状態に陥った座標移動は放置して、おやつを食べる事にする。
ひとまず、自力で此処から逃げ出さなければならない。
さて、この状況では、他人からの助け(第四位含む)はまず頼りにならない、足取りを掴めたらそれこそ奇跡だ。
未だ暗部に所属してるならありえるかもな、と思いつつ周囲確認。
恐らくあそこにある木製のドア(木製はカムフラだろう)が出入り口だと思うが、恐らく二重ロックにでもなっているだろう。
だが、ハッキングはしようと思えば出来る、特に電子ロックならば容易だ。物理的なものならピッキングを試みるしかないが。
座標移動を何らかの方法で気絶させるか、殺すか、目を閉じさせれば何とかなる…はずだ。
気絶させる、これはほぼ不可能だが完全に不可じゃない、何とかして凶器を探せば殴打位は…とはいえガキの腕力じゃタカが知れてるな。
殺す、これは不可能だ、まず能力を使えないこの状態で勝てるとは思えない。
目を閉じさせる…現状としてはこれが一番可能というか、成功する可能性が一番高いと思われる、尚且つ一番簡単だ。
……後は、俺の脚の速さに賭けるしかねぇ。
垣根「おねーちゃん」
結標「!? な、なぁに?」ふふふ
垣根(きつい…精神的にキツイぜ…)
垣根「あのね、ひどいこといったから、ちゅーする、そしたら、げんきでる?」
結標「ちゅ…ちゅー、してくれる、の…?」
垣根「うん」
垣根(嘘だけどな)
結標「ふふ、えへへ…はい」目瞑り
垣根「…ゆうきでるまで、もうちょっとまっててね」きょろきょろ
結標「ずっと待ってるから大丈夫」ドキドキ
垣根「……まだまっててね」
75: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/06(木) 18:35:52.74 ID:5rYxPydo0
どんだけショタに従順なんだよ、と思いながら第一関門突破。
外から出るのは難しく中から出るのは簡単な作りのようで、思ったよりあっさりと部屋から出られた。
辺りは落ちていく陽の光で明るく赤い、恐らく現在は午後四時くらいだろうか。
気付かれる前に隠れるか…『滞空回線』で首謀者(恐らくアレイスター)が俺を確認したらもう手遅れになる。
まずは…高位能力者に取り入って何とか匿ってもらうか。
幸いにして俺は無害そうな五歳児の姿だ、事情が説明出来ずとも追っ手に対して俺が怯えれば、ほとんどの人間が守ろうと動いてくれるだろう。
垣根(さて、誰に頼るか…って、うおっ)
打ち止め「わわわっ、ってミサカはミサカはちょっとしたショックに驚いてみる」
垣根(高校生位…だが、超電磁砲とは何か違うな、そもそも超電磁砲はもう大学生位だろうが)
打ち止め「あ、大丈夫?ってミサカはミサカは手を差し出してみたり」
結標「…お姉ちゃんを置いていくなんて酷いじゃない」
垣根「」
垣根(クソ、もう追い着いてきやがった、仕方ない、非常に不服だが最終信号を巻き込めば第一位が動くはずだ)
垣根「お、おねえちゃんたすけてぇ、ころ、ころされるっ」ぶわっ
打ち止め「状況がよく読めないけどただ事じゃないみたいだね、ってミサカはミサカは久しぶりに上位個体命令を行使してみるっ!」
結標「ちょ、ちょっと離して!っ、演算が…」
御坂妹「此処はミサカ達が」
19070号「引き止めますので」
14866号「上位個体はその少年を連れてお逃げ下さい、とミサカは標的Xにしがみつきます」
何処に隠れていたのか妹達が座標移動を拘束(とはいっても全力でしがみついてるだけだが)している。
個性が出てきたのか見分けがつくな、と他人事を思いつつ最終信号に手を引っ張られるままに走る。
途中で面倒になったのか抱え上げられた、クソ、第四位に抱き上げられた時より敗北感がハンパねぇ…!
打ち止め「すぐに安全な所に連れて行くから、ってミサカはミサカは全力ダーッシュ!」
垣根(…何処向かってんだ…)
本当に大丈夫なんだろうか、最終信号に頼って。
外から出るのは難しく中から出るのは簡単な作りのようで、思ったよりあっさりと部屋から出られた。
辺りは落ちていく陽の光で明るく赤い、恐らく現在は午後四時くらいだろうか。
気付かれる前に隠れるか…『滞空回線』で首謀者(恐らくアレイスター)が俺を確認したらもう手遅れになる。
まずは…高位能力者に取り入って何とか匿ってもらうか。
幸いにして俺は無害そうな五歳児の姿だ、事情が説明出来ずとも追っ手に対して俺が怯えれば、ほとんどの人間が守ろうと動いてくれるだろう。
垣根(さて、誰に頼るか…って、うおっ)
打ち止め「わわわっ、ってミサカはミサカはちょっとしたショックに驚いてみる」
垣根(高校生位…だが、超電磁砲とは何か違うな、そもそも超電磁砲はもう大学生位だろうが)
打ち止め「あ、大丈夫?ってミサカはミサカは手を差し出してみたり」
結標「…お姉ちゃんを置いていくなんて酷いじゃない」
垣根「」
垣根(クソ、もう追い着いてきやがった、仕方ない、非常に不服だが最終信号を巻き込めば第一位が動くはずだ)
垣根「お、おねえちゃんたすけてぇ、ころ、ころされるっ」ぶわっ
打ち止め「状況がよく読めないけどただ事じゃないみたいだね、ってミサカはミサカは久しぶりに上位個体命令を行使してみるっ!」
結標「ちょ、ちょっと離して!っ、演算が…」
御坂妹「此処はミサカ達が」
19070号「引き止めますので」
14866号「上位個体はその少年を連れてお逃げ下さい、とミサカは標的Xにしがみつきます」
何処に隠れていたのか妹達が座標移動を拘束(とはいっても全力でしがみついてるだけだが)している。
個性が出てきたのか見分けがつくな、と他人事を思いつつ最終信号に手を引っ張られるままに走る。
途中で面倒になったのか抱え上げられた、クソ、第四位に抱き上げられた時より敗北感がハンパねぇ…!
打ち止め「すぐに安全な所に連れて行くから、ってミサカはミサカは全力ダーッシュ!」
垣根(…何処向かってんだ…)
本当に大丈夫なんだろうか、最終信号に頼って。
76: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/06(木) 18:40:00.24 ID:5rYxPydo0
手分けして捜した結果、ていとくんはあるビルに居る事が判明した。
乗り込んでみればそこはもぬけの殻で、菓子だのぬいぐるみだのが散乱しているだけだった。
著しくムカっときたのでとりあえず内装をめちゃめちゃに破壊しておいた。
結局振り出しに戻ってしまった…が、死臭がちっともしなかった事から考えてていとくんは生きている。
生きている限り、学園都市から出てしまわなければきっと見つかるはず。
犯人はていとくんを殺さないようだし、これ以上長々と関係ない元『アイテム』を巻き込む訳にもいくまい。
麦野「…はー」
街中を走り回ってみたけど、犯人らしき奴どころか怪しい動きをしている人間さえ見つからない。
学園都市から出ているとは考えにくい…もしかしたら、そう、運が良ければていとくんは逃げ出したかもしれない。
もしそうなら、私は犯人側より早くていとくんを発見しないといけないことになる。
麦野(…はぁ)
駄目だ、ため息しが出ない。
無事でありますように…もう一回捜すか…。
―――とある警備員の教師寮
一方「……」
垣根「……」
一方「…ンで?」
打ち止め「だーかーらー、命を狙われてる子を保護したんだよ、ってミサカはミサカは面倒臭そうなあなたに再度説明してみる!」
一方「…守れって言いてェのか?」
打ち止め「駄目かな、ってミサカはミサカは食い下がってみたり」
一方「構わねェが…髪を二つに結わえた露出気味の女、ねェ…」
一方(過去の知り合いにドンピシャな女が居るンだが)
垣根(やべぇ、冷や汗出てきた、第一位怖ぇ、普通歳とったら雰囲気も丸くなるもんじゃねぇの?)
一方(なァンかこの顔、どっかで見たような気ィすンだよなァ…)じろじろ
垣根「う、っふぇ…」じわじわ
垣根(見抜いたら絶対殺すだろコイツ、くそ、顔見つめんな)
打ち止め「泣かせちゃ駄目、ってミサカはミサカは幼子を睨む一方通行を非難してみる!」
一方「泣かしてねェ…」
一方(まァいいか…こンな小せェガキの顔見知りは居ねェし、俺の気のせいだろォよ)
垣根(しじゅりたすけ、じゃなかった第四位助けてくれぇえええ!!)
☆「…ふむ、予想外の事態だ」
エイワス「その割には随分と楽しそうじゃないか?」
☆「何もかも予想通りに『プラン』が進行しても面白く無いだろう?…さて、心理系能力者を呼び、座標移動の記憶を改ざんさせてもらおうか」
エイワス「写真も回収するのか?」
☆「ショタの眼福写真をほぼ無償で他人に明け渡す訳が無いだろう」
エイワス「…」
90: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/20(木) 16:47:35.66 ID:vqdmraGu0
ていとくんについて考えながら歩いた結果、別の可能性が脳内に浮かび上がっていた。
これだけ『暗』い部分で捜しても見つからないならば、『光』の部分に居るのではないか、と。
例えば、風紀委員であれば迷子を保護するだろう。
あるいは、警備員でも同じく。
それか、まったくの一般人にていとくんが助けを求めたか…これも充分にありうる。
先程までそれなりに晴れていた空が徐々に暗くなり始めてきた。
麦野「…外に居るなら、ちゃんと雨宿りしてくれてればいいけど」
出来れば『善人』に運良く出会って頼って、暖かい屋根付きの場所に居てくれれば、それがベストなのだが。
―――一方その頃、ていとくんは。
一方(なンだって俺がこンな小せェガキの世話しなきゃならねェンだ…クソ。黄泉川も芳川も番外個体も旅行だし、挙句の果てにガキ拾ってきた打ち止めは『調整』ときてやがる)ちらっ
垣根(俺また死ぬのかよ…)ガクブル
一方(それにしてもなンでこンなに怯えてるンだか…顔つきか、俺の地位及び能力=『一方通行』を知っているか、単に人見知りか)じー
垣根(見んな)もそもそ
幼児が顔を見せまいと毛布を被った事に眉を寄せた第一位。
しばし逡巡した後、納得のいかない事があれば長らく不快でいる一方通行は、結果として毛布を剥ぎ取った。
かの打ち止めとの初対面場面のようにするり、と。
そして幼児の顔を改めてまじまじと見た一方通行は気付いた、気付いてしまった。
垣根が隠さんとしていた事実に、ではなく。
一方「オマエ…」
垣根「……」ふるふる
垣根(やべぇ、とうとうバレたか…クソ、せっかく生を取り戻せたと…いや、この状態惨めだしな、死んでもいいけどよ)
一方「その歳で髪染めてるって、保護者はどォいうセンスっつーか教育方針なンだよ、信じらンねェ」はぁ
垣根(髪色に対してだけはオマエに言われたくねぇよ!!)
垣根「…あぅ」しょぼん
黄泉川家での生活にすっかり馴染み、違う言い方でいえばだいぶ平和ボケしきっている一方通行は常識的だ。
そんな常識(および良識)ある人間が5歳児(金髪に近い茶髪、明らかに染めている)を見たら何と思うか。
すなわち、『親の顔が見てみたい』、『不良のようで可哀相で、将来が心配だ』と思うであろう。
一方通行という人間は、そもそも良心の備わった一般的な青年である。
打ち止めに感化され、優しさと思いやり、多少の過保護を培った父性ある青年がそんな幼児を見てしまえば、世話をしたくてたまらない。
無論、ショタコンやら何やらと邪な意味合いではなく、あくまで保父及び父親的感情からの衝動である。
一方「駄目だ、そンなンじゃ全然駄目だァ、オマエ」
垣根(何がだよ)
一方「明日髪を黒く染めてやる」キリッ
垣根「やー…」ふるふる
垣根(え、何その親切超要らねぇ、っつか似合ってるだろこの色?…似合ってないのか?不安になってきたじゃねぇか馬鹿第一位死ね)
一方「なンならウチの子になるかいっそ。命狙われてる間は庇ってやンぞ」
垣根「うー…」じわっ
一方「オマエは将来イイ男になりそォだ」しみじみ
垣根(当たり前だろ、オマエよりイケメンだっつの)むー
91: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/20(木) 16:48:15.89 ID:vqdmraGu0
エイワス「時にアレイスター」
☆「ふむ、何だ?」
エイワス「あの青年と少年は…果たして君のいうところのおねショタとやらなのか?」
☆「それは見る者に拠って変わる、シュレディンガーの猫箱。少なくとも私はおねショタだとは思っていない」
エイワス「道理で興奮している様子が見られないと思ったらおねショタ認識ではなかったのだな」
☆「無論おねショタならば全裸待機だ」
エイワス「…君は常に全裸じゃないのか?」
☆「………てへぺろは、君には通用しないのだったか」
エイワス「そのようなものに私は興味が無いのでね、すまないな」
☆「腐敗したご婦人方が喜ぶ状況だけは回避したいものだ」しみじみ
エイワス(…腐敗?)
垣根「………」うとうと
一方「眠みィのか?」
垣根「………」こくり
垣根(そういや全力疾走したんだったか…精神的にも疲れた、風呂も入ったし…)うとうと
もし寝ている間に正体がバレて殺されたならそれでももういい。
子供の状態から元に戻れないなら、この先十何年も不自由で惨めな思いをする羽目になる。
主犯であろうアレイスターは何を考えているかは知らない、今この瞬間もほくそ笑みながら俺を監視しているのかもしれない。
どうせ死ぬなら寝てる間が楽でいいな、と思いつつ目を閉じると、思った以上に早く眠気が込み上げた。
あの時諦めた命だ、いつ奪われようと何も変わらない。
一方「……」なでなで
垣根「……」うとうと
これが永遠の眠りになるかもしれないな、と思いつつ脱力する。
……俺がガキの状態から戻れないのも、第一位がこんなに腑抜けている状況も何もかも、全部、夢だったらいいのに。
92: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/20(木) 16:51:41.52 ID:vqdmraGu0
結局結果でいえば一晩中探したにも関わらず、ていとくんを見つける事は出来なかった。
とりあえず第三位によく似た少女がていとくんらしき幼児を抱いて走っていたというから、明日はそこを当たってみようと思う。
少なくとも『暗部』から情報は無いし、『表』側で保護されたんだろう。今は寝ているのかも。
…ていとくんは、本当は私と一緒に居たくないのかもしれない。
そんな考えが自分の中で確立されていってしまうのが酷く不快で、無理矢理寝る為に目を閉じた。
もう辺りは真っ暗だけど、ていとくんが家まで歩いて帰ってきたら笑顔で迎え入れて、抱きしめて慰めよう。
どんな目に遭ったか、遭っているかは解らないけど、どんな状態であれ、私の出来る最大限の優しさで接しよう。
麦野「…寒くないかな」
もし外に居たら凍えてるかも、と思ったら、一睡も出来るはず…無かった。
先程はわざととぼけたが、このガキは数年前俺が殺した『垣根帝督』という男によく似ている。
あの男のこさえたガキにしてはデカ過ぎる、有り得なくは無いかもしれねェが。
そして、先程から妙な視線を感じる。…『滞空回線』だろうか。
仮に理解したところで、俺の能力では何も干渉出来ねェ、ましてや此処に『ピンセット』は無い、つまりは手の打ちようが無い訳なンだが。
非現実的な事を考慮するならば、このガキはあの第二位のクローン、もしくは…復活させられた本人か。
後者の可能性は限りなく低いが、学園都市ならば不可能では無いだろう。何しろ俺の演算能力を『妹達ネットワーク』で復活させた街だ。
かくも恐ろしきは、不可能はほとンど無いと感じさせるこの学園都市そのものだが。
垣根「……」くゆくゆ
一方「…はン、どちらにせよ昔の話だ」
仮に後者のパターンで、このガキが第二位本人だとしても、今すぐ殺害する理由にはならねェ。
打ち止めが自分の意思で保護してきたということは、それ自体がこいつが打ち止めに何も出来ないという事の証明になる。
今日殺せる人間は明日殺せるし、明日殺せる人間は数年後だって殺せる。
…俺がコイツのした事(とはいっても打ち止めや一般人に手を出そうとした事だけだが)を許したいと思うのは、俺が赦されたいからなンだろうと身勝手に想う。
今は、何も知らないフリをしていてもイインじゃないかと、思う。
あの時は否定したが、確かに俺と第二位は、大きな違いこそあれ、底の部分では似ているンだろう。
まったくもって嬉しくない共通点だが。
それにしても。
一方(子供の寝顔は可愛いな、クソ…今の内に写メるか)カシャッ
垣根「んにゃ…」もぞもぞ
115: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/23(日) 21:59:24.95 ID:9c5xKBQM0
目が覚めると、第一位の寝顔が目の前にあった。
某幸せのセット商品を目にした子供ではないが、危うく発狂するかと思った。
あまりの衝撃で呼吸が止まる程ビビってしまったが、一先ず現状を整理する。
ガキになって目が覚めた→第四位に世話になる→第四位、チビガキと映画を見た
→変標態動(ペロペロポイント)に誘拐された→逃げ出す→最終信号に助けを求める
→意外にも抱っこ(自嘲)されたまま運ばれる→第一位と感動(失笑)の再開
→生を放棄する気持ちで寝る→殺されてなかった→おはようございます ←今ココ
第一位は結局俺の正体を見抜けなかったのか、それとも見抜いて尚且つ情けをかけたのかは不明だ。
…とりあえずは今暫くの間の惰眠をもう少しばかり貪るかと目を閉じる。
………寝れる訳ねぇだろうが。
垣根「うー…」むむ
垣根(ムカつく、寝ようとする程に眠気が飛んでいきやがる、それもこれも全部第一位のせいだ)イラッ
一方「静かにしてろォ…」ぎゅう
垣根「」
垣根(死にたい)
最終信号と寝ぼけているにしても抱きしめ直してんじゃねぇよ、ロリコンだったのかオマエ。
俺より(序列が)上の奴がロリコンとかショック過ぎるだろ…ちくしょう、もういい、何とかして寝てやる。
ちなみにさっき暴言を心中で吐いたが、基本的に寝ようと意識すると人間は寝れなくなる。そういう生き物だ。
何となく第一位のせいにしたが、他人の存在そのものによって眠れなくなる俺ではない。
一方「ン…?」ぼんやり
垣根「……」寝たフリ
一方「………」背中とんとん
垣根「……」うとうと
男と朝チュンとか誰得だよ、少なくとも俺は得しねぇ。…アレイスターが得すんのか?冗談だろ。
背中を一定のリズムで叩いてんじゃねぇ、生理的に眠くなるだろうが。
別に眠る事は構わないんだが、第一位の行為に基づいて眠気が催すのが気に入らない。
とはいえ今の俺は非力な平均的(体格は平均のそれより少し小さい)な幼児に過ぎず、抵抗の度合い等たかが知れている。
無駄に暴れて朝から体力を使い果たしてしまうのも馬鹿らしい。…プライドよりも現実の流れにあわせてやる。
…そういえば俺は、『親』というものに抱きしめられたり、撫でられた経験がない。
かといって殴られたり蹴られた記憶があるのかといわれればそういう訳でもなく、只学園都市に捨てられたはずだと過去についての記憶を参照する。
湿っぽい事を思い出していたら、それとなく悲しくなってきた。しまった、幼児だからすぐに涙腺が滲みやがる。
常なら(というよりも前なら)露ほども気にしないどころか深く考えても涙の一滴すら浮かばなかったんだが…。
116: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/23(日) 22:00:11.16 ID:9c5xKBQM0
垣根「う、っふぇ…」じわじわ
一方「ンー…どォした」なでなで
垣根「ぐすっ、えぐっ…」えぐえぐ
一方「?」なでなで
やめろ、保父とか一般的な『父親』とやらにありがちな優しい撫で方をするな。
人間、特にガキなんてのは撫でられたらもっと泣くモンなんだぞ…やべ、呼吸困難になってきた。
一方「…寂しいか?…そもそも、オマエが誰と住ンでたのかを知らねェが」
垣根「さみ、しくない、もんっ…」ぶわっ
垣根(ちょっと感傷的になってたら勝手に涙出てきただけだっつの、変な勘違いしてんじゃ…もう泣くの疲れた)ぐすぐす
一方「ンなら嫌な夢でも見たか…」
垣根「っ…」ふるふる
一方「なンで泣いてンのかさっぱり分かンねェンだが…」
垣根(俺もよく分かってねぇよ。…しいていうなら原因は…んー)ぐすっ
垣根「おと、しゃ…おとぉ、しゃん…」ぐすぐす
何で辛うじて呼吸の合間に言えた単語が頼りない上に内容をほとんど示さないものなんだよ。
ココから俺の思想を読み取ったら第一位は多重能力者だ、心理系能力の才能を認めてやる。
ほら見ろ、あからさまに困惑しきってんじゃねぇか。いい気味だと思う以前に面倒臭ぇよ俺自身が。
果たしてどういう風に受け取ったのかとぼやける視界に第一位を入れると、至極真面目真剣まともな表情でこう言い放った。
一方「……、…俺で良ければオマエの父親になってやる、泣くな」
そうじゃないだろ。
…いや、そうじゃないだろ。
117: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/23(日) 22:01:14.84 ID:9c5xKBQM0
結局睡眠時間は20分と数秒、普段美容に気をつかってたつもりの肌が一夜にしてボロボロだ。
頭も痛むし、目の奥もいやにツキンツキンと痛む。完全に凝っている。
『善人』に拾われた説が高いとはいえもしもていとくんがひどい扱いを受けていたらどうしようと考えていたら、ほとんど眠れずにいた。
陽も登ってきた事だし、昨日と同じく虱潰しに可能性を捜していくしかない。
とはいえ昨日の時点で第三位によく似た少女(=恐らく『最終信号』だと思われる)がていとくんを抱っこして走っているというのを聞いたので、もしそのまま保護されたなら、ていとくんが『最終信号』の住居に居るはずだ。
『最終信号』についてはそんなに詳しく知らないけど、第一位プラス他数人と警備員寮に住んでいるのではなかったか。
となれば一先ずは住所(せめて警備員達が住んでいる学区や区域)を探すのが先だ。
『書庫』にハッキングするにはしばらく時間がかかる。
ていとくんに傷の一つでも見つかって、それが第一位やその周囲がやったというのなら、序列差等気にせずにブチ殺してやる。
一方「…おやつ食うか?」
垣根「やー」ふるふる
垣根(別に要らねぇよ、見た目はガキだけど中身はオマエより年上なんだぜ実は)
一方「ねるねる○るねがあるンだが」
垣根「たべる」ぱあっ
つい勢いでとンでもねェ事を口走ったが、コイツが垣根帝督本人だった場合は刷り込み効果に似たものの欠片すら発揮されないから大丈夫だろうとは思う。
もし前者(第二位クローン説)だった場合は本気にしちまうかもしれねェが…まァ、幸いにして金は困ってない。養える。
ガキらしい行動をとったり、そのクセ考え込む様子は本来の歳相応(…生きてたら20代前半か)の様子なのが気にかかる。
さて、子供が大人ぶっているのか、大人が子供に閉じ込められているのか。
一方(まァそンな事は実質どォでもイイ。問題は、俺の携帯のデータフォルダがぶっ壊れそうな事だ)カシャッ
垣根「………」ねるねる
垣根(俺、第四位の所帰れんのか…第一位が父親とか鬱るっつの…)ねるねる
一方(こンなに携帯のカメラ機能を駆使したのは数年前の打ち止めの誕生日祝い以来か)しみじみ
垣根(…何だ?今、何か…)ぞわわ
一方(仕方ねェ、ガキってのは小さい内は何してても可愛いンだ)うんうん
垣根(……変標態動と似たようで違うものを感じた気がするが、どうやら気のせいだったみたいだな)むぐむぐ
一方「食い終わったら買い物行くかンな」
垣根「う?」きょと
一方「オマエの髪色戻し買いに行かねェと」
垣根「……やっ」
垣根(何だってそんなに俺を黒髪にしたがるんだこのもやし野郎、テメェが染めろ)
一方(つってもガキだけに言っても嫌がるだろォしな…父親が手本を見せるモンか)←既に半分以上父親気分
一方「安心しろ、俺も今日染めっから」うん
垣根「」
垣根(えっ)
118: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/23(日) 22:02:06.54 ID:9c5xKBQM0
いまいちふらついてうまく歩けないので、栄養ドリンクを飲んだ。久しぶりに。
だいぶ体力を消耗しているから、第一位の寮に居てくれれば幸いなんだけど。
疲れとストレスとでだいぶイライラしてきた。第一位に八つ当たりしてしまおうか。
外はあまりにも寒すぎる、暖房の完備されたドラッグストアで一休みしようかと思い立つと、白い髪と幼い子供が視界に入った。
幼い子供はやや半狂乱で暴れており、白髪の男は悪意の無い困った顔で逃がすまいと押さえつけている。
親子に見えなくもないし、歳の大幅に離れた兄弟に見えなくもないが私にはその幼児が誰かよくよくわかる。
垣根「やー…やっ」じたばた
一方「大人しくしてろ」
垣根(第一位とお揃いで髪黒に染めるとか真っ平ごめんだっつの!)じたばた
ようやく、ようやっと、見つけた。
麦野「…オイ第一位、速やかにていとくんから離れろ」
一方「あァ? 第四位風情が、俺に指図してンじゃねェよ」
麦野「最ッ高に頭にキたわ、苛立ちを最高潮にしてくれてありがとう。お礼にぐちゃぐちゃにしてやっから覚悟しろ○○カスモヤシが!」
一方「下品なババァの相手なンざしてらンねェな。オマエは隠れてろ」
垣根(…第四位…)ぱあっ
\ドパーン/
\ドドドド/
\ジュウッ/
麦野「ていとくんの保護者はなぁ、私なんだよ!ぽっと出の癖に親面してんじゃねぇえ!」ドパァアン
一方「オマエみてェな駄目ババァ保護者にあのガキは育てられねェ、だからいい加減諦めやがれェエエ!」ベキベキベキ ドゴォオン
垣根(ここは『私の為なんかに争わないでっ』的な乱入をした方がいいのか?つっても無能力者状態だしな)うーん
一方「クソ、しぶてェな…」
垣根(正直第一位と第四位どっちと暮らしたいかといわれれば第四位だからな、よし)
垣根「しじゅり」てとてと
麦野「はー…はー…」ちらっ
垣根「けんか、めっ」ふるる
麦野「…そうね。ごめん」きゅん
一方「………ッチ。もうそのガキから目ェ離すンじゃねェぞ」
麦野「そもそも目離してたんじゃなく攫われたんだよ。…短い間とはいえ守ってくれたことには感謝するわ。八つ当たりして悪かった」
一方「構わねェよ、気持ちはわからンでもねェ。…じゃァな」てくてく
垣根(ほんの少しだけ申し訳無い気もしないでもないが、あいつが俺にした所業にくらべればな)しみじみ
麦野「…本当に、良かった」ぎゅう
垣根(出来る事ならいつまでもこのまま第四位の胸に埋もれてたい、疲れた)
麦野「一緒に、帰ろうか」
垣根「うんっ」
119: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/10/23(日) 22:03:10.32 ID:9c5xKBQM0
エイワス「ふむ、どうやら元鞘に収まった、ということか」
☆「ようやく私得展開に戻ったか」たらり
エイワス「………」
☆「私の鼻血に気を悪くしたならば謝罪しよう、だから装置に手をかけないでくれ」
エイワス「私に感情は無いのだが、主から告げられた気がしてな」
☆「まだおねショタが私の人生に成分が足りていない、まだ死ねないよ」」
エイワス「………」
☆「すまなかった本当にやめてくださいしんでしまいます」
エイワス「君の言い訳を理解するには、少しばかりこの世界はヘッダが足りないようだ」
☆「」
135: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/11/20(日) 16:07:23.95 ID:jvEJDH/t0
垣根「ふみゅ…」すぴすぴ
麦野「……」なでなで ぽんぽん
家に帰って、早三日。
外に出るには私の警戒心が強かったから、ひとまずていとくんの身体のサイズをメジャーで測って、子供服を浜面と滝壺に買ってきてもらった。
浜面と滝壺には、ていとくんについて絹旗にしたのと同じ説明をしてある。
真っ当に考えて保育園に入れたりするべきなんだろうけど、私が…私が、ていとくんと離れたくない。
パラノイアか何か病気なのではないかと自分でも思うけど、それでもていとくんを少しの間でも手放したくない。
垣根と唯一の繋がりだからなのか、それさえすっ飛ばしてていとくんという子供を私が好きなのか。
かなりいい子だしね。贔屓目なしで。
垣根「うにゃ…」ぱちっ
麦野「おはよう。よく寝れた?」
垣根「う…」こくっ
垣根(ずっと家閉じこもりっきりで飽きてきたな)
麦野「何か食べたいものある?」
垣根「……む」うーん
麦野「………」
垣根「ましまろ!」きりっ
麦野「…マシュマロ?」
垣根「うん」こくっ
垣根(菓子類は一切家に無いのは調べがついてんだ、買い物でもいい、外に出させろ)じー
三日間家に閉じこもりきりというのは、5歳児にとって息苦しかったのかもしれない、と反省する。
とはいえこれは私の思い込みで、多分ていとくんは純粋にマシュマロが食べたいんだろうけど。
そもそも、幼児にマシュマロって大丈夫なの?何か喉に詰まらせそうなイメージがあるんだけど。
まぁその時はすぐさま病院で、と簡単に結論付けながらていとくんを抱っこして外へ向かう。
手放したくない大切なものは、結局のところ、こうしてしっかりと抱きしめていなければならない。その事実に、場所など関係ないのだから。
―――とある大型スーパー
麦野(たまには庶民的な買い物もいいわね。生活用品買わないと)
垣根(スーパーか…初めて来た)きょろきょろ
麦野「何か気になる?」よしよし
垣根「んーん」ふるふる
垣根(しいていうなら牛乳六本と卵四パック、他野菜と肉をパンパンに詰め込んだ何トンもありそうな袋を平然と持つウニ頭の男が気になるが)
??「…そういえば、インデックスはもう家じゃなくてイギリスだったか」しょんぼり
垣根(何か切ねぇな、何今の発言)じー
??「こんなに沢山買ったって、食いきれねぇのに…はは、不幸だ」てくてく
垣根(…さしずめ、大食いの女と同居してたが、逃げられた。だがそれをうっかり失念して大量に食材を買って、そんな自分を嘲笑していた。…いや、返品しろよ)
麦野「ていとくん」
垣根「う?」びくっ
麦野「何か面白いものでもあった?」なでなで
垣根「ん」ふるふる
垣根(ある意味面白かったけどな。他人の不幸は何とやら、って言う位だし)しみじみ
麦野「これと、これと…マシュマロも買ったし。後何か欲しいもの、ある?」
垣根「んー…」ふるる
麦野「じゃあ帰ろっか」
垣根「んっ」
136: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/11/20(日) 16:08:12.59 ID:jvEJDH/t0
―――麦野沈利の家(自宅)
麦野「生活用品も食糧もしまったし…ご飯作るにはまだ早いから、お昼寝でもしようか」
垣根「ん」
垣根(眠気ゼロなんだが、まぁいいか)
麦野「おやすみ、ていとくん」
垣根「おやしゅみ」
電灯<カチッ
麦野「…」すー
垣根「寝るの早…ん?」
唐突に視界が高くなった気がする。…いや、気のせいじゃない。
心なしか声が低く(もとい元に戻って)なって、発音もまともになった気もする。
鏡が無い以上今現在確認しようがないが、状況を観察して、恐らく高確率でいえるのは。
垣根「…俺は元に、戻れ『やぁ、未元物質。久しぶりに自分の本来の姿へと戻った気分はどうかな?』
垣根「誰だコラ」
部屋に響くというよりは、俺の聴覚に直接作用しているような声。
となれば、精神感応系能力者、もしくは音波を操る系統か…どちらにせよ、俺の事情を知っている時点でおかしい。
黒幕か、あるいはその大元の部下か…下っ端にせよ、情報の欠片位は掴めるかもしれねぇ。
?『私かい?…君が話したがっていた、といえば分かり易いだろうか』
垣根「は?何だそりゃ…まさか、テメェは」
怒りと焦りで喉が干上がっていくのを感じる。
話したがる、という言葉を言い換えるならば、交渉したいということ。
俺が『直接交渉権』を求めていた相手、つまりコイツが、コイツこそが―――!
垣根「統括理事長が俺に何の用だ。…俺がガキになってたのはテメェの仕業か」
☆『予想はついていたようだね。流石は私の第二候補というべきか』
垣根「御託はどうでもいいんだよ。用は何だって聞いてんだ。そもそもどういう目的で俺をガキにしやがった、能力を没収すればそれで充分だろうが」
☆『おねショタだ』
垣根「…は?」
☆『目的を今聞いただろう?』
垣根「…あ、あぁ」
☆『おねショタだ』
聞きなれない単語に自分でも眉間に皺が寄るのが分かる。
オネショタって何だ。何かの用語か?
駄目だ、当て字すら浮かばねぇ。となれば英語…という響きでも無い、となれば他の外国語か。
…ああクソわかんねぇ、アレイスターが何か語りだして…ん?
麦野「生活用品も食糧もしまったし…ご飯作るにはまだ早いから、お昼寝でもしようか」
垣根「ん」
垣根(眠気ゼロなんだが、まぁいいか)
麦野「おやすみ、ていとくん」
垣根「おやしゅみ」
電灯<カチッ
麦野「…」すー
垣根「寝るの早…ん?」
唐突に視界が高くなった気がする。…いや、気のせいじゃない。
心なしか声が低く(もとい元に戻って)なって、発音もまともになった気もする。
鏡が無い以上今現在確認しようがないが、状況を観察して、恐らく高確率でいえるのは。
垣根「…俺は元に、戻れ『やぁ、未元物質。久しぶりに自分の本来の姿へと戻った気分はどうかな?』
垣根「誰だコラ」
部屋に響くというよりは、俺の聴覚に直接作用しているような声。
となれば、精神感応系能力者、もしくは音波を操る系統か…どちらにせよ、俺の事情を知っている時点でおかしい。
黒幕か、あるいはその大元の部下か…下っ端にせよ、情報の欠片位は掴めるかもしれねぇ。
?『私かい?…君が話したがっていた、といえば分かり易いだろうか』
垣根「は?何だそりゃ…まさか、テメェは」
怒りと焦りで喉が干上がっていくのを感じる。
話したがる、という言葉を言い換えるならば、交渉したいということ。
俺が『直接交渉権』を求めていた相手、つまりコイツが、コイツこそが―――!
垣根「統括理事長が俺に何の用だ。…俺がガキになってたのはテメェの仕業か」
☆『予想はついていたようだね。流石は私の第二候補というべきか』
垣根「御託はどうでもいいんだよ。用は何だって聞いてんだ。そもそもどういう目的で俺をガキにしやがった、能力を没収すればそれで充分だろうが」
☆『おねショタだ』
垣根「…は?」
☆『目的を今聞いただろう?』
垣根「…あ、あぁ」
☆『おねショタだ』
聞きなれない単語に自分でも眉間に皺が寄るのが分かる。
オネショタって何だ。何かの用語か?
駄目だ、当て字すら浮かばねぇ。となれば英語…という響きでも無い、となれば他の外国語か。
…ああクソわかんねぇ、アレイスターが何か語りだして…ん?
137: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/11/20(日) 16:09:16.94 ID:jvEJDH/t0
☆『とはいえ君はおねショタがどういったものか分からないだろう。
今の私には余暇というものしかない、ショタとして私のプランに参加している君にも少しは情報を開示するのが人道的というものだ。
よく一般人でおねショタは年上嗜好の中学生以下の男性と成人以上の女性が居ればすぐさま成立すると思っている人間が居るが、それは甘い。
そしておねショタは近親相姦の関係にあってはならない。なぜならばそれは姉弟という属性であり、カテゴリーであり、おねショタとは別物だ。
また女性側の実年齢が高すぎてはいけない。それはお姉さんとしての基準から遥かに外れてしまっているからだ。
その点麦野沈利という女性は実年齢が若く美麗であり、ヤンデレ・ツンギレという属性を兼ね備えた素晴らしいお姉さんだ。
また、ショタにする点で君を選んだ理由は、魔術を掛け易かったこと、加えて美青年だからだ。ショタ…幼児にしてしまえば最高に可愛らしい顔立ちだったからだ。
能力を一切封じた事は謝罪しよう、しかしまだその時ではない。まだ君を完全に戻す訳にはいかない。まだおねショタ成分が足りない』
垣根「…つまり、要約すると?」
☆『プランという名のおねショタ成分摂取が済むまでもう少し頑張ってくれ』
垣根「」イラッ
☆『無事元に戻れた際はそれ以降君には干渉しない。安心してくれ』
垣根「…分かった。最後に一つだけ教えろ」
☆『…ふむ。受け付けよう』
垣根「自発的に元に戻る方法は、存在するのか?」
☆『…それは、第四位、麦野沈利に アッー!』
垣根「……?」
大事なところで会話(とはいえ割と一方的だったが)が終わった。
結局第四位にどうすればいいんだよ。
垣根「…むー」
垣根「」
気付けば身体が元に戻っていた。無論、発音も声色も幼児のソレだ。
……っつーか、おねショタって結局なんなんだよ。
麦野「ん…どうしたの…?おいで」
垣根「うー…」むすっ
麦野「?」
垣根「……」ばふっ
麦野「…」よしよし
138: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/11/20(日) 16:10:12.92 ID:jvEJDH/t0
麦野「んー、よく寝た…」
垣根「……」くゆくゆ
ていとくんはすやすやと眠っている。その呑気さに平和と幸せを感じるのは、私が長年居た場所が暗い場所だったからだろうか。
明るい世界だなんて夢のまた夢、どうやったって越えられない壁の先にあったはずのものなのに、気付けば私は光の下に居た。
もう二度と暗鬱とした場所に戻る事は出来ないし、戻る気もない。
でも、仮に垣根が生きていたとしたら、彼は今もまだあの暗い世界で、一人きりでいるのかもしれない。
最も、私以上に非情な、格下をゴミ以下に見ていただろう彼は、そういった暗部の方が過ごし易いのかもしれない。
それでも、彼が生きているのならば、会いたいと、未だに思っている私が居る。
そして出来ることならば、彼にもこの明るい場所で、世界で、幸せだと感じて欲しいとも、思う。
どうして垣根が暗部に身を堕としたのかは知らない。あまり知りたいとも思わない。
光を諦めていた私がここまで幸せを感じる事が出来るんだ、きっと垣根だって、そう感じる事は不可能じゃないと、思いたい。
垣根「…」むにゃ
麦野「…あ、そうだ、ご飯作らないと」
そういえば、そろそろ大学にレポートを提出しに行かないと、いくら超能力者とはいえ不味い。
レポートは既に出来上がっている。後は明日出しに行くだけだ。
でも、その間ていとくんをどうすればいいのだろう。第一位に預ける?とはいえ奴にも所用はあるだろう、さてどうすべきか。
そういえばていとくんの意思をほぼ丸無視で連れてきたけど、彼本人の知り合いは居るのだろうか?起きたら聞いてみよう。
麦野「鮭ご飯とブリの照り焼きでいいかな…」
垣根「うー…ほしおばけ…」
麦野「?」
139: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/11/20(日) 16:10:52.43 ID:jvEJDH/t0
心理掌握「最近面白い事ないのよねぇ~…」
取り巻き「心理掌握様、お耳に挟みたい事が」
心理掌握「誰かの噂ぁ?」くすくす
取り巻き「少し前ですが、第三位御坂美琴の妹と思われる少女が訳ありの様子で少年を抱えて逃げていたそうです」
心理掌握「どんな子なのぉ?…やっぱりいいわぁ、私の改竄力で視るからぁ」えいっ
心理掌握「うーん…何だか面白そうねぇ。こういう将来イケメンさんになりそうな子、私好きよぉ?」
取り巻き「何とかして探して参ります!」
心理掌握「気が利くわねぇ、期待しちゃおうかなぁ」
心理掌握(何だか面白そうな気がするのよねぇ…まぁ、妙な事になったら私の適応力で何とかしちゃえばいいものぉ)
140: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/11/20(日) 16:11:57.52 ID:jvEJDH/t0
☆「唐突に生命維持装置に蹴りを入れるのはやめてくれないか。貴方の蹴りは洒落にならない」
エイワス「おねショタとやらについて語っている表情に一抹の気持ち悪さを感じてな。神が」
☆「」
エイワス「嘘だ。本当は私に宿った僅かな感情が全力で気持ち悪さを感じただけだ」
☆「」
エイワス「………」
☆「もう少し自重する事を約束しよう」
エイワス「それならば構わないが」
☆「少しプランを修正した」
エイワス「…修正?」
☆「もう少しおねショタにも種類が欲しい。そこで第五位を利用することにした」
エイワス「…」
☆「何、本命は未元崩しのおねショタだ、安心するといい」
エイワス「………」
☆「けり は やめ」
150: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/12/30(金) 03:13:59.83 ID:B0KEHnVi0
麦野「おはよう、ていとくん。ご飯を食べたらお散歩に行こうか」
垣根「うん」もぐもぐ
外は燦燦と太陽光が照り付けている。
テレビから流れるニュースを無感動に聞き流しながら鮭御飯を口元へ運ぶ。
手が小さいからか視界が狭いからか、それともう口が小さいからなのか、ぼろぼろと口端から飯が知らず知らずの内に零れていくのが不快で仕方ない。
第四位は時折気が付いて俺の口元を拭いている。保護者か、とツッコミたいが、保護者だ。
麦野(最近は物騒なニュースを聞かないな…だからといって世界が平和な訳じゃないけど)
垣根「んっ」
麦野「ご馳走様ね。片付け終わるまでちょっと待っててね」
垣根「うんっ」
言語制限にも段々と慣れてきた。
その内内面…性格面も幼児化してしまうような気がして、少しばかり恐怖を感じる。
アレイスターからは聞き出せなかったが、何とかして元に戻る方法を見つけなければならない。
実現可能なものなのだとは思う。実際、アレイスターは後少しで口に出していた。
あえて黙ったのかはわからない。そこに悪意がこもっているのかもしれない。
だが、その内容が殺人だとしても俺は嬉々としてやるだろうとは、思う。
只、本来の年齢に戻ったとしても暗部組織が解体されている今(第四位の電話を盗み聞きして得た情報だ)、どうやって働けばいいか悩む。
まぁ、手っ取り早いのは科学者か。病気の研究でもしてみるか。
151: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/12/30(金) 03:15:23.69 ID:B0KEHnVi0
―――外(街中)
麦野「そろそろ帰ろっか…と言いたいところだけど、用事があるのよね…どうしよう」
垣根「う?」きょと
麦野「ねぇていとくん。ていとくんに、大人の知り合いっているの?」
垣根「……」むー
垣根(経過年数から計算しても第一位くらいしか居ねぇな)
垣根「…」ぶんぶん
麦野「そっか…」てくてく
垣根「…こーえん」
麦野「公園?」
垣根「あそんでる」
麦野「…遊んで待ってるって事?そこの公園で?」
垣根「うん」こくっ
麦野(ここ数日視線すら感じなかった…とはいえ、警戒するに越した事は無いんだろうけど、でもレポート出して此処に戻るのは一時間もかからない。…大丈夫かな)
麦野「……分かった。いい子に待っててね?はいマシュマロ」
垣根「うん」
麦野「いってきます。早く戻るからね。知らない人に連れていかれそうになったら、第一位助けてーって大きな声で言いなさい」なでなで
垣根「はーい」
垣根(例え殺されかけてもそれだけは言わねぇけどな)
麦野「そろそろ帰ろっか…と言いたいところだけど、用事があるのよね…どうしよう」
垣根「う?」きょと
麦野「ねぇていとくん。ていとくんに、大人の知り合いっているの?」
垣根「……」むー
垣根(経過年数から計算しても第一位くらいしか居ねぇな)
垣根「…」ぶんぶん
麦野「そっか…」てくてく
垣根「…こーえん」
麦野「公園?」
垣根「あそんでる」
麦野「…遊んで待ってるって事?そこの公園で?」
垣根「うん」こくっ
麦野(ここ数日視線すら感じなかった…とはいえ、警戒するに越した事は無いんだろうけど、でもレポート出して此処に戻るのは一時間もかからない。…大丈夫かな)
麦野「……分かった。いい子に待っててね?はいマシュマロ」
垣根「うん」
麦野「いってきます。早く戻るからね。知らない人に連れていかれそうになったら、第一位助けてーって大きな声で言いなさい」なでなで
垣根「はーい」
垣根(例え殺されかけてもそれだけは言わねぇけどな)
152: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/12/30(金) 03:16:46.45 ID:B0KEHnVi0
心理掌握「ふぅん…公園ねぇ」
取り巻き「丁度保護者らしき女性が公園を出て行きました」
心理掌握「じゃぁその人が戻るまでに全部済ませちゃおうかなぁ」
取り巻き「心理掌握様自らがお出向きになられるのですか?」
取り巻き2「その様な事にしてもわたくしが」
心理掌握「うぅーん…『消えて』」
取り巻き達「「「かしこまりました、失礼いたします」」」
心理掌握「さて、と…あの子よねぇ」
垣根(視線?)ちらっ
心理掌握(『覗ける』のに『弄れ』ないなんて…心理系能力者の自衛?この年齢でぇ?)
垣根(記憶とはあまり変わりねぇが…第五位か)
心理掌握「……随分と、見た目に似合わない程の思考能力ねぇ」
垣根(『読んで』る訳か。見た目については心配するな、自覚はある)
心理掌握「そうよぉ?どうしてだか、『働きかけ』る事は出来ないけどぉ…もうっ」
垣根(オマエみたいな奴を捜してたんだよ)
心理掌握「頼み事でもあるのぉ?私、これでも忙しいのよねぇ)
垣根(平日の昼間から公園に居るような大学生が暇じゃねぇ訳ねぇだろうが)
心理掌握「…どうして分かったの?」
垣根(カマかけてみただけだ。能力で無理矢理相手の頭に真実としてねじ込んでる分、嘘は得意じゃねぇみたいだな、マセガキ)
心理掌握「ふふ、益々興味が湧くわぁ…蛙にされた、ならぬ子供にされた王子様だったりするのぉ?」
垣根(あながち間違ってねぇな。本来は20代前半のはずだが、あらゆる諸事情でこの状態だ。言語制限を受けてる、オマエみたいに素で話せる奴は貴重だ。頼みは特にねぇよ、話し相手になってくれりゃいい)
垣根(諸事情…俺の記憶については視ない方がい。死体を見る事になるからな)
心理掌握「……」
心理掌握(自分が干渉を受けない立場だっていうのに、何も頼まないでただ、話相手に…これが友達ってやつなのぉ?くだらないと思っていたけど…)
垣根(…眠みぃ)
心理掌握(…思えば、昔から私に『友人』なんてものはなかった。いるのは『下僕』ばかりで…干渉できない、普通の友人なんていなかった)
垣根(世界に現存する蝶は何種類だったかな)
心理掌握(勿論、『友人』を作ろうとした。でも喧嘩をするのは嫌だから能力を使ってしまう。そうしている内に人が寄り付かなくなって)
垣根(それにしてもマシュマロが予想外に美味ぇ。ココアに溶かすモンだとばかり思ってたが)もちもち
心理掌握(今も尚、それは変わらずにいる。…この子…彼なら、或いは)
垣根「んっ」っマシュマロ
心理掌握「私にくれるのぉ?」
垣根「うん」
垣根(思ったより量が多くてな。封を開けた以上食いきった方がいいしよ)
心理掌握(友達って、お菓子交換したり、落ち込んでる時に優しくしあったり、するのよね)
心理掌握「ひくっ…うっ…うぅ…!!」
153: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/12/30(金) 03:17:20.19 ID:B0KEHnVi0
垣根「」
垣根(いやいやいや、何で泣いてんだよ。そんなにマシュマロ嫌いだったか?アレルギーか何かか?)
心理掌握「ち、違う、の…違うのよぉ…ひっく、うわぁああん…!」
垣根「あ…あう…」あわあわ
垣根(具体的に説明しろよ。意味分かんねぇし、っつか泣き止め)
心理掌握「ぐすっ、えぐっ…ちょ、ちょっとま、って…集中、する、から、ぁ…」
垣根「………」
心理掌握「んん…もう、大丈夫よぉ…ごめんなさいねぇ…」
垣根(オマエ、友達居ないクチか?)
心理掌握「」
垣根(安心しろ、俺も居ないからな。…一度死んだ扱いだしよ)
心理掌握「死んだ扱い?」
垣根「ま、諸事情だ。『覗き』たいなら止めねぇが…吐くなよ?」
心理掌握「そうねぇ…じゃあお言葉に甘えて視るわぁ)
垣根(おう)
~二十分後~
心理掌握「壮絶な人生ねぇ…理由は違えど、また涙出そうだわぁ…」
垣根(まぁな)
心理掌握「というか貴男、第二位だったのぉ?」
垣根(あぁ。第二位、『未元物質』だ。どこまで覗いたのかは知らないが、よろしく)
心理掌握「そうねぇ、よろしくぅ~」
心理掌握(生い立ちが悲惨だけど、そんなに冷たくはない人なのね)
154: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2011/12/30(金) 03:17:59.25 ID:B0KEHnVi0
☆「さて、未元掌握だ」キリリッ
エイワス「ELI ELI Gideo「ごめんなさい」
エイワス「………」
☆「キメ顔をした事は謝ろう。貴方の魔術は恐ろしい」
エイワス「すまない。君達の言葉を借りると『カッと』なった」
☆「段々と私の扱いがおかしくなってきてはいないだろうか。元統括理事長なのに」
エイワス「正しい扱いになってきただけだろう」
☆「」
174: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2012/02/19(日) 21:07:59.34 ID:ZWvoBPw30
垣根(女に泣かれたのなんざ何年ぶりだ?)滑り台つるーん
見た目こそ幼児ではあるものの、頭脳は第二位である―――即ち学園都市で二番目に優等生である垣根帝督は、滑り台で遊びながらぼんやりと思考する。
一時期はこのまま死んでしまった方が良いのではないかと思ったものの、やはり垣根も人間であり、生きる事をそう簡単には捨てられない。
ちなみに何故垣根が滑り台で遊ぶ羽目になったかというと、あまりにも暇だからである。
マシュマロは食べ尽くし、第五位『心理掌握』は用事を思い出したらしく公園を出て行き、一人ぼっちになった幼児(例え中身は成人を過ぎた青年だとしても)としては、もう遊んで暇を潰すしかない。
垣根(そういや、ガキの頃こうやって遊んだ記憶ねぇな…)
ぼんやりと思い返すのは、遠く昔の話。
第五位は気にしていない風を装っていたが、『視』ていてあまり愉快ではない記憶だろうと、自覚はある。
幼い頃の思い出といえば、注射器と、実験と、白衣と、それから―――。
垣根(…辛気臭ぇな、アホらしい)
今更思い出したところで何になるというのか。
ただ鬱々とした気分になるばかりで、あまりにも非生産的だ。
麦野「ていとくん、ごめんね待たせて」
滑り台を53回滑り、54回目に差し掛かるか否かという状況で、ようやく麦野は帰ってきた。
差し出される手を握って、そのまま抱き上げられて移動するのにも随分慣れたな、と垣根はしんみり思う。
これまでロクに子供(あの絹旗とかいうチビは置いといて)の相手なんてした事がないだろうに、一生懸命世話をしようとする麦野の姿を見ていると、垣根は少し哀れだなと思った。
きっとこの女は、自分(垣根帝督)が好きなのだろう、と今までの生活の中から読み取れる。
幼児である自分をどう見ているのかは知らないが、自分を守る理由もきっと、自分(垣根帝督)が好きだからなんだろう。
だが、今この状況はアレイスターの掌の上、転がされて遊ばれているだけ。
しかも、アレイスターが満足するまで第四位と自分はこの状況から解放されない訳で。
垣根「ぎゅー」ぎゅむ
麦野「ん?どうしたのていとくん、くすぐったいじゃない」
くすぐったそうに麦野が微笑み、垣根の髪を優しく撫でる。
寂しそうな面持ちは、今抱いている子供があまりにも想い人に容姿が似ていて、それでいて言動はまったく違うから。
麦野の中で『ていとくん』は『垣根帝督』ではない。頭の中でイコールになるはずがない。
そんな麦野の姿を見ながら、垣根はぼんやりと思う。
…もし自分が『恋』をするなら、こんな女がいい、と。
垣根帝督という男は、未だ恋をしたことがない。
幼い頃から幽閉されるかのように研究所で過ごし、実験動物として育ち、暗部組織の中で成長してきた。
そもそも人に好意というものを抱いたこともなかったし、あまり期待したこともない。何人か女を抱いたような記憶はあるが、それだって純粋な知的好奇心からしたはずだ。
何もかもどうでもいい。自分の邪魔さえしなければ。自分の敵にならないのなら、生きようが死のうが構わない。敵ならば殺す。只それだけのこと。
一方通行との違いは、少しでも期待したかしないかの違い。
大事にしようとして壊してしまうのが一方通行なら、垣根は最初から大事にしようとしない、大事になんて出来ない。
彼を構成する世界は彼だけのもの。そこに他者が入り込む隙間なんてない。
彼がこの世界を疎んだからこそ、『未元物質』は彼のみに行使を赦され、存在する(或いは、させられる)。
かといって他者を引き入れれば『自分だけの現実』が崩れる訳ではないものの、今まで垣根は他者と一線引いてきた。
彼の中では、『守るもの』があればある程、その人間の本質が弱まっていくと考えていたから。
本当の『悪』は、ただ徹底的に壊し、殺し、叩き潰し、敵を絶望させることだ。その考えは今でも変わらない。
そんな『悪』は、大事なものを持つべきではない。そう、思っていた。
麦野「寂しかった?」
垣根「…」こくん
麦野「ごめんね」なでなで
垣根「う」こくん
でももう、そんなに『悪』に徹する必要は無いのではないかとも、思う。
もうそろそろ、人の好意というものを知ってみてもいいのではないだろうか、と思う。
心理定規「…驚いた。本当にそっくり」
見た目こそ幼児ではあるものの、頭脳は第二位である―――即ち学園都市で二番目に優等生である垣根帝督は、滑り台で遊びながらぼんやりと思考する。
一時期はこのまま死んでしまった方が良いのではないかと思ったものの、やはり垣根も人間であり、生きる事をそう簡単には捨てられない。
ちなみに何故垣根が滑り台で遊ぶ羽目になったかというと、あまりにも暇だからである。
マシュマロは食べ尽くし、第五位『心理掌握』は用事を思い出したらしく公園を出て行き、一人ぼっちになった幼児(例え中身は成人を過ぎた青年だとしても)としては、もう遊んで暇を潰すしかない。
垣根(そういや、ガキの頃こうやって遊んだ記憶ねぇな…)
ぼんやりと思い返すのは、遠く昔の話。
第五位は気にしていない風を装っていたが、『視』ていてあまり愉快ではない記憶だろうと、自覚はある。
幼い頃の思い出といえば、注射器と、実験と、白衣と、それから―――。
垣根(…辛気臭ぇな、アホらしい)
今更思い出したところで何になるというのか。
ただ鬱々とした気分になるばかりで、あまりにも非生産的だ。
麦野「ていとくん、ごめんね待たせて」
滑り台を53回滑り、54回目に差し掛かるか否かという状況で、ようやく麦野は帰ってきた。
差し出される手を握って、そのまま抱き上げられて移動するのにも随分慣れたな、と垣根はしんみり思う。
これまでロクに子供(あの絹旗とかいうチビは置いといて)の相手なんてした事がないだろうに、一生懸命世話をしようとする麦野の姿を見ていると、垣根は少し哀れだなと思った。
きっとこの女は、自分(垣根帝督)が好きなのだろう、と今までの生活の中から読み取れる。
幼児である自分をどう見ているのかは知らないが、自分を守る理由もきっと、自分(垣根帝督)が好きだからなんだろう。
だが、今この状況はアレイスターの掌の上、転がされて遊ばれているだけ。
しかも、アレイスターが満足するまで第四位と自分はこの状況から解放されない訳で。
垣根「ぎゅー」ぎゅむ
麦野「ん?どうしたのていとくん、くすぐったいじゃない」
くすぐったそうに麦野が微笑み、垣根の髪を優しく撫でる。
寂しそうな面持ちは、今抱いている子供があまりにも想い人に容姿が似ていて、それでいて言動はまったく違うから。
麦野の中で『ていとくん』は『垣根帝督』ではない。頭の中でイコールになるはずがない。
そんな麦野の姿を見ながら、垣根はぼんやりと思う。
…もし自分が『恋』をするなら、こんな女がいい、と。
垣根帝督という男は、未だ恋をしたことがない。
幼い頃から幽閉されるかのように研究所で過ごし、実験動物として育ち、暗部組織の中で成長してきた。
そもそも人に好意というものを抱いたこともなかったし、あまり期待したこともない。何人か女を抱いたような記憶はあるが、それだって純粋な知的好奇心からしたはずだ。
何もかもどうでもいい。自分の邪魔さえしなければ。自分の敵にならないのなら、生きようが死のうが構わない。敵ならば殺す。只それだけのこと。
一方通行との違いは、少しでも期待したかしないかの違い。
大事にしようとして壊してしまうのが一方通行なら、垣根は最初から大事にしようとしない、大事になんて出来ない。
彼を構成する世界は彼だけのもの。そこに他者が入り込む隙間なんてない。
彼がこの世界を疎んだからこそ、『未元物質』は彼のみに行使を赦され、存在する(或いは、させられる)。
かといって他者を引き入れれば『自分だけの現実』が崩れる訳ではないものの、今まで垣根は他者と一線引いてきた。
彼の中では、『守るもの』があればある程、その人間の本質が弱まっていくと考えていたから。
本当の『悪』は、ただ徹底的に壊し、殺し、叩き潰し、敵を絶望させることだ。その考えは今でも変わらない。
そんな『悪』は、大事なものを持つべきではない。そう、思っていた。
麦野「寂しかった?」
垣根「…」こくん
麦野「ごめんね」なでなで
垣根「う」こくん
でももう、そんなに『悪』に徹する必要は無いのではないかとも、思う。
もうそろそろ、人の好意というものを知ってみてもいいのではないだろうか、と思う。
心理定規「…驚いた。本当にそっくり」
176: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2012/02/19(日) 21:08:32.86 ID:ZWvoBPw30
暗部が解体されて以来、心理定規は『新入生』に入るかどうか迷った結果、放棄して学生生活を歩むことにした。
一般の人間にとっての『日常』すなわち自らにとっての非日常を過ごす内に、何かが物足りない事に気付く。
それは、10月9日を過ぎてから、ずっと感じていた虚脱感、違和感。その正体に。
心理定規「…あぁ、そっか」
垣根が居ないからだ。
もしこの学生生活の中に垣根が居れば、一日一回でも話せば、私の日常は返ってくる、そんな気がした。
彼はもう死んでいるのに?なんて今更再確認して、そうして初めて心にぽっかりと空いた穴の存在に気付く。
垣根『心理定規、良い事思いついた』
心理定規『何?仕事関係で?』
垣根『いや、半プライベート。此処はワッカに見張り任せて俺達は飯食いに行こうぜ』
心理定規『あのねぇ…』
垣根『いいだろ、奢ってやるよ』
心理定規『…仕方ないから、付き合ってあげる』
誰にも見せない闇を押し込めながら明るく笑う彼の瞳に、笑顔に、私は気付かずに惚れてしまっていたらしい。
第一位との戦いにのんびり送り出したのは、きっと彼が勝利を手にズタボロだとしても帰ってくると信じていて。
でもその日の内に帰ってこなくて、次の日も帰ってこなくて。
その次の日にようやく『電話の男』から電話がきて、彼は死んだと、そう告げられた。
私が落ち込まなかったのは、自分を守る為で。
別に彼の事が大事なんかじゃないと自分に言い聞かせていたのは、彼の事を愛してしまっていたからで。
ばかみたい、とぽつり呟いて、耳に入った下らない噂が気になった。
裏の噂。垣根帝督の復活説。
…だから、私は久々に能力を使って色んな人に聞きこんだ。思えば、私の能力行使の理由の大半は、彼のためだったかもしれない。
聞き出せたのは、幼い子供、垣根に瓜二つ、座標移動が関わっていた、第四位が関係しているという噂、第一位と一緒に居るのを見た―――色々、だった。
210: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2012/04/29(日) 21:38:04.57 ID:/hCGTcEA0
定規「…驚いた。本当にそっくり」
傷み一つ無い金色の細い髪を風に靡かせ、少女は独り呟く。
その視線の先にあるのは、柔らかな巻き髪の女性と、その腕に抱かれた一人の幼児。
明るめの髪は地毛ではなく、彼の本来の年齢・歴史の中で13歳から染め始めたのだと、心理定規は知っている。ホテルの一室であんなに自慢げに語られてしまえば、そうそう忘れてしまうことなんて出来ない。
数年間会っていなかったのにまざまざと思い出される彼との記憶(思い出といえる程優美で素敵なものじゃない)に胸を締め付けられる。
あの幼児が彼本人なのかといえば、違うのかもしれない。でも、この学園都市(科学の街)ではあり得ないと言い切れる事でもない。勿論、可能性が高いのは、眼前の幼児が彼のクローンである場合、もしくは彼の隠し子だという事だけど。
じっと見つめてしまっていたのか、『アイテム』の麦野沈利が私を睨みつける。
悪意は込めていなかったつもりなのだけれど、どうやら曲解されてしまったらしい。
しかし彼女と目が合うのは好都合。私の”能力”を容易に使う事ができるから。
そういえばこの能力を用いてあの外国人の少女が情報を聞き出した事で、あの子は麦野沈利に殺されてしまったのだったか。今更関係のないことだけど。
麦野(な、に…何よ、この感覚…?コイツ…?)
定規(”彼”に対する距離と同じにしても困るものね。とりあえず滝壺…だっけ、あの元『アイテム』正規要員に対してと同じ位でいいか)
垣根(心理定規?…また懐かしい顔だなオイ)
見た目通りの思考とは程遠い垣根は、ぼんやりとした表情で心理定規を見つめる。
暗部が解体されたらしい今、普通の、いわゆる一般的な学生生活を謳歌しているものと思っていたのだが、何故わざわざ原子崩しに能力を使う必要性があるのか。
個人的な怨念があるとは思えない。だとしたら狙いは自分か。何の為に?読めない。
心理定規が能力を使ったかどうかは傍目にはまったく分からない。それでも垣根が能力を使用したのだと分かる理由は、率直なる勘だった。
一触即発な雰囲気をぶち破ったのは、子供らしからぬ思考を繰り広げていた垣根の、子供らしい音だった。
くきゅるるる
麦野「……」
垣根「…あぅ」
定規「……、…三人でご飯でも食べに行きましょうか」
麦野「そうね」
心の距離を操作された麦野は、滝壺理后にそうするように気の抜けた笑みを浮かべ、垣根の頭を撫でる。
和やかな空気に変えた垣根はといえば、どことない気まずさにしょっぱい顔をしている。
212: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2012/04/29(日) 21:38:35.99 ID:/hCGTcEA0
そうこうして歩く内、ファミレスに到着した三人は同じテーブルで食事を始めた。
渦中の垣根はといえば、羞恥に耐え忍びながら子供用のイスに座らされている。
心理定規と麦野沈利とは、能力を抜きにしても仲良くなり始めていた。育ちは違えど、暗部で育ち色々と何かを諦めた身、同じ男に執着している同士、過去の話をわざわざせずとも何か通じ合うものがあるのかもしれない。
定規「…それで、その子は?」
不意に、心理定規が垣根を指さして細い首を傾げる。
麦野「”ていとくん”。諸事情で預かってる子供よ」
定規「そう。利発そうね」
ふてくされつつポテトを頬張る垣根の髪を、心理定規がそっと撫でる。
執着こそあれど麦野と会話する内、公園に現れた当初程の漂う刺々しさは既に失っている心理定規の様子を冷静に眺めつつ、垣根は首を傾げた。
ぱさり、と明るい髪が揺れる。ファミレスの過剰証明に照らされた髪色と髪型は、彼が本来の年齢ならばチンピラと称されても仕方のないもの。
そんな髪の一本一本にさえ愛おしさを覚えながら、心理定規は数回頭を撫でる。
本当は話したい事があった。でも、この子はきっと彼じゃないんだ。
つい先月まで行なってきた努力の成果を一切合切捨てて、心理定規はそう判断しながら、自分に言い聞かせる、思い込ませる。
数時間前を思い返してみても、今自分になでられている子供の表情を眺めてみても、明らかに原子崩しの方が、彼に、この子に懐かれている。
胸をぎゅうぎゅうと締め付けられる気分になりながら、心理定規は痛々しく笑った。
泣けない代わりに彼女は笑ってきた。これからも痛みを誤魔化す為に微笑みかける事しか知らない、それしか出来ない。
だって、そうやって生きてきたから。
そうやってしか、生き抜いてこられなかったから。
214: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2012/04/29(日) 21:39:26.58 ID:/hCGTcEA0
私は垣根を見送ったんじゃない。自分の保身の為に見捨てたんだ。
大事だと思う気持ちに自分自身気付けていなかったというのは、何の言い訳にもならない。
私は何を勘違いしていたの。この子が彼だとして、或いは彼の関係者だとして、今更関わって何だというの。只の自己満足の為に人を振り回しても、かつての垣根帝督のような、素晴らしい結果を生み出せるカリスマ性なんて、私には備わっていないのに。
馬鹿みたい。
何で必死になったのかしら。
自分を誤魔化して誤魔化して、今更調べだして。
この子は私に対して何も言わない。なら、私の思い上がりなんだ。
定規「…じゃあ、私はそろそろお暇するわ。この額で足りる?」
麦野「払っておくから大丈夫よ」
定規「そう。…なら、失礼するわ」
麦野「……、…」
立ち上がった心理定規はその身に纏う学生服のスカートの端をひらりと翻し、ファミレスから出ていった。
その姿を見送って、麦野は一人呟く。
誰に宛てるでもない、ただの独り言を。
麦野「…垣根本人が此処に居たら、きっと。…きっと、違ったんだろうね」
その一言にどれだけの意味が込められているのかは、他ならぬ麦野自身と、もうこの場には居ない心理定規にしか理解出来ない。
垣根(……全体的にリアクション薄かっただけで、俺は実際ここに居るんだけどな。どことなく葬式的雰囲気出すのやめてくんねぇかな)
216: 合甘 ◆H0UG3c6kjA 2012/04/29(日) 21:40:25.20 ID:/hCGTcEA0
☆「思っていたより修羅場にならなかったか…ふむ」
エイワス「………」
☆「……」
エイワス「………」
☆(とうとう無視されるようになってしまった…)ぐすっごぽっ
エイワス「…アレイスター」
☆「」びくぅっ
エイワス「…果してこの『プラン』の収拾はつくのか?まさか延々と君の気持ちの悪い感想を聞かされたりはしないだろうね」
☆「無いとも。今後貴方を楽しませる展開があるはずだ」あせあせ
エイワス「……」にこっ
☆「…」ほっ
エイワス「”断罪せよ”」ぶんっ
☆「アッー!」
233: ◆H0UG3c6kjA 2012/05/19(土) 22:52:03.03 ID:0bILJFZI0
帰宅してすぐ眠りに堕ちた麦野の姿を見、疲れていたのだろうと予測しつつ、垣根は小さな手を麦野の柔らかな髪へと伸ばした。そのふわふわな髪を触りつつ、ぼんやりと考える。自分はどうしたいのか。どうなっていくのか。どうなりたいのか。どうなっても構わないのか。
うっすらとしか見えないあやふやで曖昧で不安定な未来予想図を掻き消して、小さくため息をつく姿は幼児のソレではなく、明らかに青年の其れで。
垣根「…おれは、」
やりたい事があったはずだ。どうしてもやり遂げなければならない事が。
誰を殺してもどれだけ穢れても後ろ指を刺されようと、どうしてもやり遂げたいと思った事が、あったはずなのに。どうしてか思い出せないのは、自分がこの短い期間ですっかり
腑抜けてしまったからか、それとも、この『馬鹿馬鹿しい位暖かい日々』に、内心ずっと憧れてきたからなのか。
垣根(…くっだらねぇ)
切り捨てて、柔らかい髪を三つに寄り分け、その器用な指先でもって丁寧に編む。
一定の順番で髪の毛を編みこむという単純作業をしながら、自分の脳内を、その思考を整理整頓する。
垣根(…『諦める』か。…ハッ。あの女にだけは屈しねぇと思ってたんだけどな)
昔、自分を担当していた『木原』の女。車椅子に腰掛け、いつもいつも『諦め』を信条としていた。自分にも諦めろと、大きな目的を抱くものではないと否定し続けた。
あの時は鬱陶しいとばかり思っていたのだが、諦めるという行為の本質は、そんなにマイナス方面的なものではないのかもしれない。
諦めないという事は、裏を返せば、目的を達成出来ない限り自分を苦しめ追い立て続けるという事に他ならない。自分はそうやって、苦しむ事で、血を絞り出し吐き出すかのようにして生きてきた。それで構わないと思っていた。何故なら、こんな自分に純粋な好意を抱いてくれる人間なんて、この世に一人も居ないと思っていたから。
麦野「…きね…あい…たい…」もぞもぞ
垣根「………」
もう、会っているだろうと。そう笑い飛ばしてしまいそうになりながら、小さな手の中から麦野の髪の毛を解放する。柔らかそうな髪は元の状態に戻して。
235: ◆H0UG3c6kjA 2012/05/19(土) 22:52:36.63 ID:0bILJFZI0
垣根(とりあえず、今までの生き方は諦める。死ぬ事も、諦めてやる。お前の為に。…くせぇ台詞だな、自分にムカつきやがる。口に出してないからノーカウントにしとくか)
平和な世界で自分の存在を省みると、どう考えてももう血なまぐさい考えは必要無いのだ。
自分が変えたかった世界は、世の中は、現在の状態にするためだったような気もしてくる。
もう誰も泣かなければ、無駄な悲劇が起きなければそれで良いと。
思えば、自分はずっと矛盾した行動をとってきたのかもしれない。だからこそ、第一位のやり方に腹が立ったのだ。
壊す側に、殺す側に立つとしっかり決めた人間が、まるで、まるで正義の味方か何かの様に、自分の守りたいと決めたたった一つだけでは飽きたらず、それに関する全てのものを守ろうとした事が、たまらなく気に入らなかった。
自分はこんなに捨てたのに。諦めたのに。それは、殺す側に立った以上仕方がない事だったはずだ。不可抗力に挫けない第一位の姿が気高く、自分の到底追いつけないものに見えて。
憎らしいと思った。自分の辿りつけない場所へ、たかが順位一つ違うというだけで、まったくの幸運(或いは不運)で、容易に立てたというヤツの事が。
誰かに手を差し伸べられた手を信じる事の出来たヤツの事が。
裏側の事情は、複雑なものだったのかもしれない。実は容易に立ったなんて、自分の思い込みで、ヤツはヤツなりに懸命必死に努力してどうにかしがみついたのが、あの救いを冠する様な幼い少女だったのかもしれない。
そんな事は、あの時の自分には関係無かったのだ。自分はきっと、あの希望を信じる瞳を絶望に歪ませ、諦めさせてやりたかったのだ。
かつての自分が歯噛みしつつも捨てた(最初から期待を抱かないよう自らを抑えつける程に魅力のあった)もの達の様に。
もっともっと苦しんで、その末に死んでしまえと、そう思ったのだ。
垣根(…俺が歪んでたのか。あの女みてぇだな…『何が何でも諦めさせてやりたい』なんざ。ま、外道らしかったといえばそうか)
諦めさせたかった自分が、今、大きなものを諦める。やりきれない。
しかしこの諦めは、同時に大きな一歩でもあるのだと、考える事にした。
あの時自分は確かに『死んだ』のだから。今更考え直す必要は無い。もう努力しなくて良いのだ。
自分を苦しめてきた鎖は、自分の手で解体していくしかない。
正しく諦めるきっかけとなった女性は、寂しそうな表情で隣に横たわり、安眠を貪っている。
きっと彼女も、何か大切なものを、自分のプライドの根幹となっていたものを諦めて前に進んだからこそ、今こんなにも人に優しい。
故にその優しい心でもって自分の事で苦しませてもいるのだが。皮肉なものだ。
垣根「…麦野。多分、お前は俺が世界で初めて、本気で好きになった人間だ。語弊があるか。初めて執着しても良いと思った人だ」
幼い容姿に見合わぬしっかりとした口調で、内面は青年である男がそっと囁く。
そのささやかな告白に、麦野は、うぅんと静かに唸っただけだった。
237: ◆H0UG3c6kjA 2012/05/19(土) 22:53:04.22 ID:0bILJFZI0
エイワス「…垣根帝督の言語制限が外れたようだな」ちら
☆「……、…うっかり外れ…外してしまった」てへぺろ
エイワス「今神から天罰を下す様命令を受けた様な気がしたのだが」
☆「気のせいだろう」うん
エイワス「……」げしっげしっ
☆「あっ、すいませんでした、あの、生命維持装置蹴るのだけはやめてください」
エイワス「天使に蹴られているのだから、人間は喜色を浮かばせるはずだ。『ワレワレノギョウカイデハゴホウビデス』等という言葉があるのだろう?私にはよくわからないが」げしっげしっ
☆「生身ならばそれも褒美と言えるが維持装置は洒落にならなあっ」ぴきっ
エイワス「おや、ヒビが入ったようだ」
☆「」
247: ◆H0UG3c6kjA 2012/05/28(月) 21:05:04.93 ID:Qk+A4Vt/0
寝ぼけ眼で麦野が何となしに天井を見上げると、明るい色合いの髪の毛が見えた。
何だていとくんか、などと思いつつ目を閉じて、小さな手が自らの手を撫でる心地よさにしばし甘える。
ふにゃ、などとどこぞの女子の様な声を漏らしながら、麦野は小さく身じろぐ。
柔らかな髪を撫でて、垣根はぼんやりと意識を飛ばす。
元同僚の少女とは別物である香水ではない女性特有の甘くて良い匂いに目を細めつつ、垣根はその見目にまるで似合わない挙止動作で、麦野の頬に口付けた。
優しい口付けは、厚意を示すもの。
少しずり下がり、幼い身体で、麦野の腕に口づける。
甘い口付けは、恋慕を示すもの。
再びずり上がり、首筋へと、そっと口づける。
細やかな口付けは、執着を示すもの。
「…麦野」
「…ていと、くん?」
「…っはは、やっと普通に話せるようになりやがったのかよ。…長かった」
「……、…?!」
事情も状況も理解出来ず目を見開く麦野の様子を眺めながら、垣根は意地悪く笑った。
今までの子供らしい可愛らしさと愛らしさに満ち溢れた幼い笑みではなく、まるで垣根帝督本人の様に、否、本人らしく、喉を鳴らして低く笑った。
そんな笑みを見つつ、かつての訳も無く湧き起こる苛立ち、もとい好意の裏返したる悪意を宿したあくどい笑顔を浮かべて、麦野は垣根を抱きしめる。
非現実的過ぎる。そんな訳がない。そんな風に警告してくれる自分の脳内をまるっきり無視して、垣根の頭を数度撫でた後、そっと口付けた。
頬へ、そっと柔らかく。
「…垣根?」
「…そうだ」
「…垣根、なのね」
「そうだっつってんだろうが。もう耳が遠いのかよ、やっぱりババアだな」
「殺す」
「はははは、怖ぇな」
「……、…ずっと、逢いたかった。話したい事も、いっぱいあった。なのに、出てこない。不思議だね。おかしいな。浜面に罵詈雑言ぶちまける時は、もっと沢山出てきていたのに」
おかしいな、と繰り返しながら。ぽたぽたと。
麦野の頬を伝っていった涙が、枕に落ち、そのまま染み込んでいく。
八つ当たり気味の暴言を吐いてやるつもりだった。
それとは逆に、大好きだとも伝えたかった。
ずっと逢いたくて、ずっとずっと、気が遠くなる位想い続けていた。
初めてぶつかりあった、暗部抗争のあの日から。
バラバラのミンチにされ、機械化された垣根を見ても、それでも変わらず、麦野は垣根が好きだった。
249: ◆H0UG3c6kjA 2012/05/28(月) 21:05:24.31 ID:Qk+A4Vt/0
一目惚れとは、また別種の惚れ方だったように思う。
苛立ちだとか、憎しみだとか、悔しさだとか。
色々と入り混じった苦しみを伴う恋情だったように思える。
フレンダが組織(アイテム)を裏切る原因を作った垣根を憎くないのかと問われれば、頷けないし、首を横に振る訳にもいかない。
様々な背徳感の上に成り立つ恋だった。
自分で自分の首を徐々にきつく締めあげていくような、そんな、汚らしい恋慕。
ふに、と触れる垣根の頬はとても柔らかで、何も変わりはない。
ただ、その話し方は、垣根帝督以外の何者でもなかった。殺し合ったからこそ、分かる。
今まで気付けず仕舞いだった私が、偉そうに語る事でもないけど。
「…垣根、好きだった。今も好き。冷蔵庫みたいな機械にされてた時も、ずっと」
「冷蔵庫言うなコラ。…知ってる。結構長い事暮らしたな、俺達」
小さく笑った垣根が、私の頬を小さい手でぺたぺたと触る。
幼い顔は昨日まで幼児にしか見えなかったのに、認識した以上、もう本来の垣根にしか見えない。
明るく笑う垣根の唇を半ば奪うように、目を閉じて口付けた。
もうガキじゃないっていうのに、どうにも顔が赤いような気がしてくる。
途端、しゃらん、と鈴にも似た音がして。
首を傾げつつ目を開けると、そこには全裸の垣根が居た。
何というか、本来の年齢(24…位?)に戻った(なった?)からか、幼児用の服は残念な事に破け、ただの布切れと化したらしい。
口付けを受けるべく目を閉じていた垣根が目を開け、自分の状況を確認した後、私から毛布を奪い取ってくるまった。…怪人デカ毛布。
「…早急に服買ってきてもらっても良いか」
「仕方ないわね」
「……それから、起きてるお前に伝えてない事があるんだが」
「…何よ。言うならさっさと言えよ」
「俺も、第四位…沈利が好きだ」
251: ◆H0UG3c6kjA 2012/05/28(月) 21:06:05.41 ID:Qk+A4Vt/0
「沈利が好きだ」
「ッ、……」
再度繰り返すと、麦野は茹でダコも真っ青の赤面で黙りこくった。
オイ、照れるのはどうでも良いから早く服くれ。
ヤってもいないのに俺だけ全裸ってどんな羞恥プレイだよ。
「…とんだ大馬鹿ね」
「どっちに言ってやがる」
「両方よ、この○○○野郎」
「あん? よしムカついた、このまま襲ってやる」
「!? 垣根、ちょ」
「…帝督で良い」
「…てい、とく」
「寂しかったんだろ」
「…そうよ。アンタのせいでかろうじてうっすら立ててた人生設計も滅茶苦茶になった。責任とってもらうわよ」
「どこぞのお局みたいな言いぶりだな。あってんのか」
「やっぱりその粗末なモンビームで切断されたい?」
「粗末かどうかは、お前の身体で確かめてみろよ」
「朝っぱらから○○ってんじゃないわよ、犬かテメェは」
「聞き捨てならねぇな。好きになった女と○○い事したがって何が悪い」
「……悪く、ない」
ぽふり。
253: ◆H0UG3c6kjA 2012/05/28(月) 21:06:25.57 ID:Qk+A4Vt/0
窓の無いビル。
巨大なビーカー(度重なる制裁でだいぶヒビが入っている)の中で、薄く薄く、アレイスターは笑った。
自らの『プラン』の成功とその結果に満足し、目的を達成したが故の、実に『人間らしい』笑みだった。
そんな笑みを横目に見ながら、女性的に思える美しく神々しい歪みの天使エイワスは、静かに目を細めた。
そうして、一つの問いを、『人間』アレイスターへと投げかける。
「…この『物語』には、どういう意味合いがあったのか?」
『貴方を退屈させないが為に私の用意した余興が一つだよ。『第二候補』を用いた遊戯の数々。少しばかりはお楽しみいただけたはずだ』
「一つは、本筋の『プラン』とやらに手を加えた、男性である第六位と女性である第二位との恋愛物語。最もあれは、別の時間軸のものだが」
『一つは、今までお見せしてきた、男性である第二位と、女性である第四位との恋愛物語。今回はほのぼのとした掛け合いが多かったように思う』
「ふむ。つまり君はwefrgig…ヘッダが足りないようだ」
『貴方を退屈させない為ならば、私はどんな『物語』でも用意する』
コポリ、と泡を零して、アレイスターが心地良さそうに、或いは不快そうにたゆたう。
「前回の『物語』は安直な題名だったな。まだ『本棚』に入っているよ」
『今回の『物語』もまた、安直な題名の方が捜しやすいだろう。難解な言葉には、貴方はもう飽き飽きしたことだろう』
「私に退屈という概念はあっても、飽きるという感情は無いよ。して、今回の題名は」
『垣根「しょたなおれとー」麦野「お姉さん」…これにしよう』
垣根「しょたなおれとー」麦野「お姉さん」 おわり
コメントする
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。