1: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 10:18:43.30 ID:561r+OQu0
「あっ、あった! やっと見つけたよ…… ってきゃああああっ!?」
「あいったた…… ごめんね、うるさくしちゃって。やっぱりわたし、こんなときまでドジだなぁ……」
「…… でもさ…… 響ちゃんも、たいがいうっかりさんだよ。……誰にも、なんにも言わないままで、さ」
「そうだ、これ、おみやげ持ってきたんだ。 ……かわりばえしなくて、悪いんだけど」
「事務所にお菓子作って持ってくるの、またわたしだけになっちゃってさ。ちょっと寂しいかなぁ、なんて」
「…… 嘘ついちゃったな、ちょっとじゃないや…… 響ちゃんがいない事務所は、すごく、寂しいよ」
「ここからは、海がよく見えるよ。海が大好きな響ちゃんにも、きっと…… 見えてる、よね?」
「ああ、いけない、もう行かなくっちゃ…… じゃあね、響ちゃん。近いうちに、また来るからね」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416791913
引用元: ・貴音「十三ひくことの一」
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2: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 10:19:52.85 ID:561r+OQu0
5: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 11:34:52.41 ID:561r+OQu0
「案内の通りなら、ここのはず、だけど…… ……ああ、我那覇さん」
「これ、春香のクッキー…… 私より前に、もう春香が来ていたのね」
「すぐに来られなくて、ごめんなさい。スケジュールが予想以上に詰まっていたの」
「みんな、最近は仕事が増えているわ。 ……少しでも、我那覇さんの分まで頑張ろうって」
「今日はこれを届けに来たの。スタジオで、ちょうど出来上がった分を受け取ったから」
「…… 我那覇さんがみんなと一緒に歌ったのは、この収録の時が…… 最後に、なってしまって」
「とてもよく録れていると、思うけれど…… 私は、今度のライブで、貴女と一緒に歌いたかった」
「……それじゃあ、今日はこれで。次はいつ、と今すぐには約束できないけれど、また必ず来るわ」
6: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 11:35:32.82 ID:561r+OQu0
8: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 13:23:08.74 ID:561r+OQu0
「えーっ、と、あった! ……響の名前もちゃんとあるし、間違いないの」
「クッキーと、それに新譜のCD? 春香と…… こっちはきっと、千早さんだね」
「そーだ、これ。ミキ、お昼に食べよって思って作ったんだけど
現場で食べる時間なくて余っちゃったから、響にも分けてあげるの」
「もう響ってば。起こされてもずっと起きないなんて、これじゃミキとキャラがかぶっちゃうよ」
「フェアリーも、さ。貴音とミキの二人しかいないと、なーんか落ち着かないカンジ」
「…… ねえ、響…… 貴音がああ見えて泣き虫さんなの、響がいちばんよく知ってるでしょ?」
「毎日みたいに泣いてて、見てらんないくらいなんだから…… 貴音が、どれだけ、たか、ね、が、っ」
「……っ、ゴメン、今日はもう次の現場に行かなきゃいけないんだ。また来るね? ばいばい、響」
9: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 13:23:49.20 ID:561r+OQu0
10: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 14:05:37.98 ID:561r+OQu0
「ここよね…… って、これ…… おにぎり? ……美希、ね。あの子は、まったくもう」
「響。あんたね、フェアリーもこっちでまた軌道に乗って、これから、って時に、こんな」
「おかげで美希と貴音はもちろんだし、他のみんなも…… 口や顔には出さないけど、明らかに無理してる」
「事務所的にも、動物番組のオファーは断るしかないし、ダンスの激しい曲は映えないし、それに……」
「…… ねえ、響、なんでなのよ……!
あんた黙って勝手にいなくなるような子じゃないはずでしょう、ねえ!」
「…… ごめん。わかっててもいざ目の前にすると、どうしても冷静になれなくて。プロデューサー失格だわ」
「これ、置いてくわね。わたしは、あんたも出演者の一人だって、今でも思ってるから」
「今度来るときは、竜宮のみんなも一緒に連れてくるわ。……じゃあ、響、またね」
11: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 14:06:27.83 ID:561r+OQu0
13: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 14:50:00.76 ID:561r+OQu0
「あっ、ここ、かな……? こんにちはー、響さん…… 来るの遅くなっちゃって、ごめんなさい」
「わあっ、これ…… 次のライブのパンフレット! 律子さんが見せてくれたのとおんなじです!」
「えっと、実は、かすみとか長介とかとみんなで相談して…… これ、一緒に作ってきたんです」
「すっごくきれいでしょう? 響さんならきっと、喜んでくれるんじゃないかな、って……」
「……浩太郎に、聞かれたんです。『ひびきおねーちゃん、こんどはいつ遊びにきてくれるの?』って」
「響さん、わたし…… あの子に、響さんのことでウソつくの、いやなんです」
「プロデューサーにお願いして、いいって言われたら…… 今度はうちの兄弟たちも、連れてきていいですか?」
「もちろん、連れてくるのはダメだ、って言われても、わたしは、ぜーったい、また、来ます、からっ」
14: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 14:50:42.94 ID:561r+OQu0
16: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 15:12:37.53 ID:561r+OQu0
「見ーつけた! 真美、ここここ、ひびきんここだよー!」
「……ひびきん、お待たせ。やっぱり亜美と真美は二人で一緒に来たくってさ」
「おぉ、このきれーな花束は? 見たことない花がいっぱい入ってるよ!」
「よく見たら包みとか手作りっぽいね、よくできてる。 ……これ、やよいっち、かな?」
「そうそう、これ、おみやげだよ。ゲーセンで取ったんだけどさ、ほら、いぬ美とハム蔵そっくりじゃない?」
「……もーひびきーん、ノリ悪いっしょー。なんかないのー、自分嬉しいぞー! とかさー」
「…… ねえ亜美、あのさ、」
「せっかくこーんなせくち→な双子が揃って来てるんだよー? ほらほらー」
「こういうところで、そういうの、さ。やめようよ」
「あ、さては感動しちゃって言葉もない? だよねぇ、こいつぁシツレイ――」
17: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 15:13:57.56 ID:561r+OQu0
「亜美、いいかげんにしてよっ! こんなときくらいそういう態度、やめてってば!」
「だって、さ。いつも通りにしてなきゃ、ひびきんが、安心できないじゃん」
「……え?」
「こーいうとき、だからって、急に、シンミョーになるの、亜美たちの、キャラじゃ、ないっしょ」
「っ!」
「もし…… もし今、ひびきんが、っ、もし、そんなの、聞いて、たら、さ……!
二人とも、なにおとなしく猫かぶってるんだ、似合わないぞ、って笑うに決まってる!」
「…… ごめん…… 亜美が、そんな風に思ってるって…… 真美、気づかなくて」
「……ん。わかって、くれたら、いいよ」
「ほんと、ごめ…… っ、だから、さ、もう、泣かない、で、よ」
「っ、泣いて、ない、し…… ていう、か、そんな、こと言って、自分が、ぼろぼろ、じゃん」
「……まったく、ひびきんはさ、こんなぷりち→なアイドル姉妹を泣かせるなんて、罪なオンナだねぃ」
「ホントホント。……泣かされっぱなしじゃシャクだから、またふたりで一緒にリベンジしに来るかんね?」
18: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 15:14:32.39 ID:561r+OQu0
20: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 15:57:35.49 ID:561r+OQu0
「……ふぅ。やっと着いたわ。探しちゃったわよ、まったく」
「犬のぬいぐるみに、ハムスターのストラップ…… 亜美と真美、かしら?
最近やたらクレーンゲームがどうのってご執心だったの、このためだったのね」
「……響、あんたの家族たちね、しょうがないからこの伊織ちゃんが直々に預かってあげてるわ」
「それに、わに子とかの特殊なケアが必要な子たちに関しては、水瀬の方にも手を借りてるから大丈夫」
「とはいえ、一緒にいられなくて気になってるだろうから、これ、持ってきたわよ」
「…… あんたに見せるためだってわかってるみたいに、どの子もみんな、おとなしくじーっとして……
いじらしいったら、ありゃしないわ……」
「響、あんた、最高のご主人様だったのね。 ……あの子たちを置いていかなきゃ、完璧なのに」
「……また近々、新しいのが出来たら持って来てあげる。感謝、しなさいよね」
21: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 15:58:24.62 ID:561r+OQu0
22: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 16:39:32.88 ID:561r+OQu0
「ああ、いたいた。響、見つけたよ」
「わ、すごい数の写真だなぁ…… これってぜんぶ響の家族のだ、よく撮れてる。
……伊織がよく言ってるよ、みんな本当にすごくいい子だって」
「最近さ、いまいちレッスンの張り合いがないんだよ。もちろん、だからって手を抜いたりはしないけど」
「なんでかなぁって思ったら、ダンスのときに、響が一緒にいないからなんだ」
「ボク、いまでも勝手に、響のことダンスのライバルだと思っててさ。絶対負けないぞーって」
「……不戦勝で決着、なんて、ぜんぜん、響らしくも、ボクらしくもないじゃんか」
「これ渡しに来たんだ。ボクだけ先に覚えるなんて不公平だから、響の分、置いてくよ」
「次に来るときまでに、このフリ、"カンペキ"にしてくるからね、ボク」
23: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 16:40:23.55 ID:561r+OQu0
25: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 17:46:33.04 ID:561r+OQu0
「よかった、ちゃんと見つけられたぁ…… なかなか来られなくてごめんね、響ちゃん」
「あれっ、これ、今日渡されたばっかりの振り付けDVDだ…… そっか、置いていったの、きっと真ちゃんだね」
「みんな…… あ、もちろんわたしもだけど、次のライブに向けてすごく頑張ってるよ。
……響ちゃんも一緒にいるつもりで、絶対に成功させよう、って」
「あっ、そうだ、これ。いつも行くお店が、ちょうど新しく扱い始めてたの」
「実はね、今日は、わんちゃんと撮影するお仕事があって…… わたしね、その子を抱っこできたんだよ!」
「いつだったか会わせてくれたいぬ美ちゃんの迫力に比べたら、ぜんぜん大したことないって思って」
「……響ちゃんにも、わたしがその子と一緒に写ってるところ、見てほしかった、かな」
「またこうやって、お話聞いてもらいに来ても、いいかな…… 今日はわたし、これでおいとまするね」
26: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 17:47:03.16 ID:561r+OQu0
27: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 18:31:31.08 ID:561r+OQu0
「……あら~、ほんとだわ、ありました! 本当にすみません、案内して頂いて、ありがとうございます」
「まぁ…… うふふ、このチョイスは雪歩ちゃんね? さんぴん茶を売ってるお店って、案外少ないもの」
「あーあ、それにしてもやっぱり、ひとりじゃたどり着けなかったわ…… お久しぶりね、響ちゃん」
「この分だとわたしが最後、かしら? タイミングは合わなくても、みんな、気持ちは一緒なのよ」
「……最近、みんなも、わたしも、ようやく十二人だけの事務所に慣れてきたみたい。
アイドルだもの、いつまでも泣いてはいられないから」
「でもね、わたし、今でも…… 響ちゃんが『はいさーい!』って、明日にでも戻ってくるような気がして……」
「……最年長だし、わたしが今一番しっかりしてなくちゃいけないのはわかってるの。
でもこうやってこっそり、響ちゃんの前で夢みたいなことを言うのくらい、許してね」
「今度来るときは、迷わずにまっすぐ、響ちゃんのところに着けるようにがんばるわ。それじゃあ、またね」
28: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 18:32:05.72 ID:561r+OQu0
33: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 19:24:23.08 ID:561r+OQu0
「今晩は。響、すっかり遅くなってしまい、申し訳……」
「…… おや…… これは……? こんなにたくさん、贈り物が並んで……」
「今日は誰も、おふの予定ではなかったはずですが…… 皆、それぞれ仕事の合間で訪れたのでしょうか」
「各々の日程がなかなか合わないので、わたくしもあまり声をかけず、一人で参っているのですが」
「ちょうど、皆の訪問が今日という日に重なったのでしょう。やはり、気持ちはひとつということです」
「響…… 貴女は今でも、これだけ深く、皆に愛されているのですよ」
「……そんな貴女が斃れた、と聞かされたときの、皆の、美希やわたくしの、驚きと悲嘆がわかりますか」
「そうなる前に、美希や、わたくしに…… いえ、他の誰かにでも、なぜ一言でも言ってくれなかったのですか」
34: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 19:28:19.64 ID:561r+OQu0
「春香が事務所に持ってきてくれるお菓子は、今でも十三人分用意してあることを知っていますか」
「千早が、貴女の分までと言ってどんな殺人的な日程をこなしているか、知っていますか」
「あの美希が…… 人目もはばからず、貴女にすがりついて大泣きしたことを知っていますか」
「異変に気づけなかったことで、律子嬢がどれほど自分を責めたか、知っていますか」
「やよいが幼いきょうだいと一緒に毎日、貴女のために祈っていることを知っていますか」
「亜美も真美も、皆がいる前では、ことさらに明るく振る舞っていることを知っていますか」
「伊織が貴女のかわりをつとめようと、動物について懸命に学んでいることを知っていますか」
「踊っているときの真が、以前のように楽しそうな顔をしなくなったことを、知っていますか」
「雪歩がお茶を一人ぶん多く淹れすぎて、そのたび寂しげな顔をすることを知っていますか」
「あずさが道に迷わずに、まっすぐ事務所に着く朝が増えたことを、知っていますか」
「そして……、わたくしが、ここでどれだけ、涙を流したか…… 知らない、とは言わせませんよ……」
35: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 19:32:47.37 ID:561r+OQu0
「……響、貴女のいない日々はまるで、ほんとうに太陽が喪われてしまったかのようです」
「お仕事を遮二無二こなしても、事務所で皆に囲まれていても、らぁめんを思うさま食しても……」
「わたくしの心に空いてしまった大きな、大きな穴が―― どうやっても、埋められないのです」
「……太陽が姿を見せなくなってしまったら、月は如何にして輝けばよいのですか?」
「961で出会ってから…… 765へ移る時も、それからも…… 今までずっと、一緒だったではありませんか……」
「わたくし一人を残して、勝手にいなくなるなどと…… いけずにも、ほどがありますよ……」
「…… ほんとうに、わたくしには眠っているようにしか見えないのに…… なぜ目を開けてくれないのですか?」
「わたくしだけではありません、皆が貴女を待っているのですよ、響。
こんな病室でずっと眠り続けているのは……、貴女には、まるで似合いませんよ……」
36: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 19:38:35.88 ID:561r+OQu0
「……もう、こんな時間ですか。面会時間もそろそろ終わってしまいますね」
「あすも仕事が終わったら、また参ります。誰か都合がつくようであれば、今度は一緒に」
「それでは、今晩はこれで。響、わたくしはずっと、いつまでも貴女を待って――」
「…… ひび、き? 今、」
「……っ! なーすこーるは何処です!?」
37: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 19:40:09.37 ID:561r+OQu0
「先生! すぐにこちらへいらしてください!」
「――号室の患者さん―― え? そう、そうですその子です!」
「面会の方からたった今連絡があって、我那覇さん、目を覚ましたそうで――」
38: ◆a4srlcZ7P2 2014/11/24(月) 19:40:44.49 ID:561r+OQu0
おしまい。
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