2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) 2011/10/28(金) 12:12:58.96 ID:saC22zk/o
シーワシワシワシワシワ

秋口に入った窓の外で時期をはずしたセミの音が聞こえる
研究所の外はすでに夏の気温は過ぎてすでに肌寒くなってきている

岡部はスーパーマーケットで買った荷物をクリスと分け、
ラボへの帰路をスタスタと歩いている。

クリス「まーたたくさん買い込んだものね。今日でこんなに食べれるのかしら」

クリスは自分の買い物袋を覗き込んで嘆息をつく、
もともと彼女は大食ではないことと、几帳面な性格から、
買い込んだ食糧と消費量を計算して心配しているのだ。

引用元: まゆり「ブラックウーパーなのです!」 

 

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3: トウニュー 2011/10/28(金) 12:14:58.00 ID:saC22zk/o
岡部「フッフッフ、甘い、甘すぎるぞ助手よ。今宵は狂乱の宴・・・供物が食べきれるとか食べきれないとかそのような小さいことなど問題ではないのだ」

岡部は半ばあきれたような顔で静かにクリスを諭す

クリス「誰が助手かっ!まぁそこまで気にすることもないかもね、でも岡部はドクペ買いすぎ。冷蔵庫に入れておけばいいけど、運ぶ労力は比例するのよ」
岡部「フン、些細な問題だな。途中で切れるよりはいいだろう。それにいざとなれば、無限吸引能力、インフィニティフォーリングを発動するまでのこと」

クリスが怪訝そうな顔をする

クリス「岡部ってそんなに大食漢だったの?その華奢な体からはとてもそうは思えないわね、ほんとにこれが全部食べられるわけ?」
岡部「ああ、この程度の食料を食べることなど造作もない」
岡部はフッと息をつき斜め上を見上げていった
岡部「まゆりにとってはな(フッ」

ラボの入り口が見えてきた。


4: トウニュー 2011/10/28(金) 12:16:49.78 ID:saC22zk/o
ガチャッ


ラボの扉を開けると
二人をラボメンが迎える

まゆり「おかえりなので~す。オカリン、クリスちゃん。外は暑くなかった?」

ラボの中は窓から夕日を入れて、影を交えながらオレンジ色に染まっている。

岡部「うんむ、さすがにもう秋だからな。闇のマッドゥサイエンティストとしては、このくらいの季節を常に維持しておきたいところだ」
クリス「一般人の私としても、このくらいの気温が好ましいわね。大体日本の夏は湿度が高すぎるわ。あの湿度がなければ夏だって嫌いじゃないけどね」

まゆりはニコニコと笑う

5: トウニュー 2011/10/28(金) 12:21:15.96 ID:saC22zk/o
まゆり「ラボにお泊りなんてずいぶんと久しぶりなのです。オカリンはちゃんとからあげ買ってきてくれましたか?」

岡部「もちろん抜かりはない。さすがのまゆりでも食べきれるかどうか」

まゆり「これくらいなら全然食べきれるよ。今日はからあげ祭りですねっ」

クリス「まじかっ?まゆりって意外とフードファイターなのね。でもスタイルだってきれいだし、ちゃんと運動してるとか?」

まゆりは首をふると

まゆり「うーうん。まゆしぃはからあげでは太らないのです。だからいくら食べても大丈夫なんだよ」

クリスは大仰に目を見開くと

クリス「oh・・・それはうらやましすぎるぞまゆり。まぁいいわ、でもからあげだけじゃなくてほかにもチーズやらチョコやらいろいろ買ってきたわ」


冷蔵庫にドクペを入れながら続ける

クリス「それになんだったら私が何か作ってもいいしね」
岡部「その必要はない」

ピシャリと否定する

クリス「なによ岡部。頭ごなしに拒否するわね。あなた私の手料理、食べたことあるの?きっとそこそこおいしいはずよ」

「おいしい『はず』」という文言がすでに怪しいし、岡部は彼女の手料理でひどい目にあったことがあった。
もっとも、それは彼女の記憶にはないことだったが

6: トウニュー 2011/10/28(金) 12:28:23.25 ID:saC22zk/o
岡部「い、いやぁ本当にいいんだ。それにだなクリスティーヌ。日本ではホームパーティをやる場合、手料理は基本的になしだ。そしてそれはこのラボでも踏襲しているしきたりだ」

クリス「そ、そうなの?それじゃあ仕方ないわね、結構自信あるんだけど」


岡部は幾度にわたるクリスとのやり取りで、彼女の手料理を阻む極意を会得していた。

彼女は日本の事情にはかなり疎く、適当にでっちあげたしきたりでもそれなりに効果があるのだ。

まゆりは二人を見て特に何も言わずにいたが、おそらくまゆりもそんなしきたりがあったのかとでも思っているのだろう。

あとで訂正しておくか、岡部は頭の隅でそう思った。

8: トウニュー 2011/10/28(金) 12:36:31.71 ID:saC22zk/o
日も落ちきったころ、橋田が帰ってきた


ダル「たっだいま~。フェイリスちゃんとキャッキャウフフしてきたお~」

まゆり「おかえりダルくん。あっダルくん何か買ってきたのですか?」


橋田はビニール袋をおろしながら言った

ダル「そうそう、メイクイーンの帰りにいいPCパーツを発見、迅速に保護したのだぜ、キラッ」

彼はクリスに気づいた

ダル「やぁやぁ牧瀬氏、この時間にラボにいるとかめずらしい。どうかしたん?」

岡部「ああそれなんだがなダル」

9: トウニュー 2011/10/28(金) 12:37:18.30 ID:saC22zk/o
岡部は部屋に上がろうとする橋田を押しとどめるように言った

岡部「実は今日ラボで暗黒の会合、ダークソウル・セッションを行うことになったのだ」

橋田は机の上の袋を見て顔を輝かせた

ダル「おー、いいじゃん、いいじゃん。じゃぁ今日はお菓子を片手にPCのチューンナップと洒落こみますかぁ~」

岡部「そこなのだがな、ダル」

10: トウニュー 2011/10/28(金) 12:38:27.31 ID:saC22zk/o
ダル「ん?どうしたんオカリン?」

岡部は沈痛な面持ちで続けた

岡部「今日の会合はクリスティーヌを主賓とした懇親会でな、前々から性別的に孤独だったまゆりとクリスティーヌが仲を深めようという趣旨にのっとっている」

橋田「うんうん、思えばまゆしぃには寂しい思いをさせてきたぜ。そして俺はそういう怪しい関係も大歓迎!」

よからぬ妄想に心を弾ませる橋田に岡部は続ける

岡部「それでダルよ、ほかにも出席者が何名かいてな」

橋田「そうなん?オカリンはそんな友達いないから、牧瀬氏の友達?じゃあその子らもおにゃの子なん?うー、みなぎってきたあああ」

岡部「それでキャパシティオーバーでな。すまんダル、今日は帰ってくれ」

橋田は笑顔を硬直させ
橋田「なん・・・だと・・・?」

11: トウニュー 2011/10/28(金) 12:44:57.91 ID:saC22zk/o
クリス「橋田ごめん、申し訳ないけど今日はそういうことなの、またみんなでおとまり会はやるから了承してもらえないかしら」

怪訝な顔をする橋田

橋田「牧瀬氏、ちょっと聞きたいことがある件」

クリスは後ろめたさもあって促した

クリス「なにかしら?大体のことは答えるわよ、ただし変な質問は禁止ね」

ダルが続ける

ダル「牧瀬氏、本当に友達おるん?」

クリス「なっ」

クリスは狼狽を抑えながら答える

クリス「もちろんいるわ、私にだって友達の一人や二人いるわよ。疑ってるの?」

クリスを覗き込む橋田の目には懐疑心が宿っている

ダル「だって牧瀬氏日本にきてまだ間もないっしょ?そんなにアクティブにも見えないし、本当にお泊まり会するような友達おるん?」

痛いところを直撃されて言葉を失う。確かにクリスはもともと積極的に友達を作るタイプではない

12: トウニュー 2011/10/28(金) 12:49:30.43 ID:saC22zk/o
狼狽したクリスの空白を埋めるように岡部がいった

岡部「あ、あ~あ本当だとも。俺も直接話しをしたことがある。すまんダル、選択の余地はないのだ」

橋田は依然として懐疑的な表情をしている。

しかし何かを思いついたような顔をした。

クリス「わかってくれた?」

橋田は怪訝そうにアゴに手をやると、玄関からまゆりを見つめる、

まゆりは雑誌を読んでいたが橋田の視線に気づき不思議そうに笑った。

次にクリスに視線をやる、クリスはなにかやましいことがあるかのように目線をそらした。

そして岡部に目をやる・・・

橋田は何かに気づいたように大きくうろたえた。

ダル「お・・・オカリン・・・まさか・・・」

13: トウニュー 2011/10/28(金) 12:50:23.02 ID:saC22zk/o
橋田は稲妻に打たれたようによろめき、ニ、三歩後退した。

岡部「すまんなダルよ、わかってくれ」

岡部はすまなそうにうつむいて言った。

ダル「オカリン・・・俺達、ずっと○○でいようなって約束した仲だったじゃない!」

感きわまった発言に岡部は不思議そうに顔を上げる

岡部「ん?それとこれといったいどう関係があるのだ?大体そんな約束をした覚えはないぞ」

橋田は顔をそむけてさらに二、三歩下がると

橋田「いい、いいんだオカリン・・・でも」

うつむいたまま続けた

橋田「避妊だけは・・・するんだぜ」

しぼりだすようにそういうと、橋田は外に走って出て行った。

タッタッタッタという足音にまじってしばらくしたあとリアじゅう爆発しろと遠くから聞こえてきた。

岡部「あいつは何を勘違いしてるんだ?」

岡部は怪訝そうな顔を浮かべて橋田を見送るとラボの扉を閉めた。


14: トウニュー 2011/10/28(金) 12:52:39.05 ID:saC22zk/o
外は日が落ちてすっかり暗くなり

ラボの窓からはカーテンの裾から電灯の光が漏れている。


まゆり「それでね、オカリンがルカちゃんにすぶり百回だ~っていって、木刀を振らせるのです」

クリス「なんで神社にケンドーが必要なのかわからないけど、不思議な文化ね」

まゆり「別に日本の文化ってわけじゃないんだよ。でね、ルカちゃんは体力がないので、まゆしぃが10回にしてあげようってかけあうのです」

電灯に照らされた部屋の中で

まゆりとクリスはソファーに陣取り会話を弾ませていた

岡部は部屋の奥でドクペを飲み、PCを触ってたまにまゆりの声にうんうんと相槌を打っていた。

15: トウニュー 2011/10/28(金) 12:56:39.08 ID:saC22zk/o
まゆり「そしたらオカリンはちょっとなやんで、まゆしぃの頼みをきいてくれたのです。ねぇオカリン?」

岡部「ああ確かそうだったな。そもそもよくよく考えればルカの体力では100回も木刀を振ることはできんしな」

クリス「そのルカって子もよく付き合うわね。どんな子なの?」

まゆり「ルカくんはね~、とっても美人さんなのです。いつかルカくんにコスプレしてもらうのがまゆしぃの隠れた野望なのです」

岡部「ルカ子はあまり乗り気ではないようだがな。確かにあいつは華奢だし気配りもいい、少々気が弱いがそこいらの女よりよほど端麗な容姿をしている」

クリス「まぁ岡部にあわせられるならよほど気配りができる子なのね。私も仲良くできるかもしれないわね。今度紹介してくれない?」

岡部「そうだな考えておこう、だが・・・」

岡部とまゆりは二人して深刻な顔をする。

岡部「だが男なのだ」

まゆり「だけど男の子なのです」

クリス「えっ、そうなの?話的にてっきり女の子だと思ってたわ」

まゆり「そこが問題なのです。きっとコスプレした姿はとてもかわいいのに、男の子だって全然乗り気になってくれないのです」

岡部「ルカ子が男なのは神のいたずらだな、だが安心しろクリスティーヌ。ルカ子とまゆりの会話する姿はどこからどうみても女子だ。お前とも仲良くできることだろう」

相槌を打ちながらいつかそのときがくることがあるのかという疑問がよぎった。

16: トウニュー 2011/10/28(金) 13:28:01.71 ID:saC22zk/o
時間が過ぎるにつれてクリスはたまに岡部に目配せを送っていた。

時計の針は9時を過ぎている。

岡部は折を見計らってクリスにいった


岡部「クリスティーヌよ。少しいいか?すまないがまゆりよ。ちょっと席をはずさせてもらう」

まゆり「わかったのです。でもあんまりクリスちゃんを独り占めにしないでね。まゆしぃはまだまだ喋り足りないのです」

クリス「えぇ、わかったわ。ごめんねまゆり、すぐ帰ってくるからちょっと待ってて」

17: トウニュー 2011/10/28(金) 13:36:56.86 ID:saC22zk/o
岡部はクリスを呼び、ラボの屋上に二人で出ていた。

屋上といってもたいした高さもない。

夜空は街の明かりに照らされ、薄い藍色に染まっている。


クリス「岡部、もう9時だけど・・・」

沈んだ声で岡部に尋ねる

岡部「ああ、あわてるな助手よ。100%の確立で来訪は起こるだろう。今まではそうだった」

岡部は淡々とした口調で答えた。

18: トウニュー 2011/10/28(金) 13:46:41.75 ID:saC22zk/o
まゆりは殺される。それも一度ではない。

何度も殺される。何百回と殺される。

そして岡部はほとんどそのすべてを目撃し、

そのたびにタイムリープを繰り返してすべてをまき戻した、

そしてそのたびにまゆりは生き返り、そしてそのたびに死んでいったのだ。

19: トウニュー 2011/10/28(金) 13:56:47.30 ID:saC22zk/o
岡部「最終確認をしよう」

クリスは無言でうなずく。

岡部「セルンの連中は必ずラボに強襲する。時間はほぼ10時前後だ」

岡部は屋上から外の道路を見下ろして続けた。あたりは静まり、薄暗い闇が降りている。

岡部「目安としてやつらが強襲してくる直前に、まゆりの懐中時計が止まる、これも必ず起こる。セルンの連中はラボを強襲し、まゆりを[ピーーー]だろう」

クリス「そんなことはさせないわ」

岡部「そう、俺達が何もしなければだ。俺達はそれを阻止する」

20: トウニュー >>19 2011/10/28(金) 14:01:42.74 ID:saC22zk/o
岡部「最終確認をしよう」

クリスは無言でうなずく。

岡部「セルンの連中は必ずラボに強襲する。時間はほぼ10時前後だ」

岡部は屋上から外の道路を見下ろして続けた。あたりは静まり、薄暗い闇が降りている。

岡部「目安としてやつらが強襲してくる直前に、まゆりの懐中時計が止まる、これも必ず起こる。セルンの連中はラボを強襲し、まゆりを殺すだろう」

クリス「そんなことはさせないわ」

岡部「そう、俺達が何もしなければだ。俺達はそれを阻止する」

21: トウニュー 2011/10/28(金) 14:10:33.44 ID:saC22zk/o
まゆり「ずいぶん早かったねぇ~。どんな話をしていたのかなー」

ラボに戻るとまゆりが明るい表情で二人を迎えた。時計は9時15分を指している。

岡部「ふっふっふまゆりよ、これは最高機密事項でな、いかにラボメンといえども明かせない情報なのだ。悔しければ早くラボメンランクを上げることだな」

まゆり「ぶー、それなら仕方ないのです」

まゆりは初耳のラボメンランクなるものをスルーし、クリスとの談笑を再開する。

まゆり「ねぇクリスちゃん。このコスプレとこのコスプレどっちがいいかな~」

クリス「そうね、うーん。こっちなんかいいんじゃないかしら、リボンがかわいいわね」

まゆり「お~っ、クリスちゃんはけっこうかわいい趣味をしているのです」

少しぎこちないクリスの声を聞き流しながら、岡部はドクペを一口飲むと再びPCの文面に目を落とした。

23: トウニュー 2011/10/28(金) 16:51:21.63 ID:saC22zk/o
時計は9時45分を回り、まゆりとクリスはあきもせず談笑を続けている。

岡部はPCの時計を見つつ、時間を確認すると何気なく白衣のポケットをまさぐった。


クリス「岡部」

クリスの呼びかけに振り返る

岡部「どうしたのだ~助手よ。俺は今重要な機密情報の分析を行っているのだ」

クリス「うん、そうね」

クリスはぎこちない風で言葉を続ける。10時が近づいて気がはやっているのかもしれない。

まゆり「オカリンせっかくクリスちゃんが来てくれてるんだから今日くらい話の輪に積極的に参加してほしいのです」

クリス「それにしても、まゆり、すごいわね。本当にこれだけ食べるなんて、一体どういう体機能をしてるのかしら」

まゆり「まゆしぃはからあげが大好きなので、いくらでも食べられるのです。クリスちゃんももっとからあげを食べて一緒にからあげファンくらぶになりましょう」

岡部「やめておけまゆり、からあげで太らないのはお前くらいだ」

クリス「そうね、私ももう肉ものはノーサンキューよ。岡部、ドクペとってもらえるかしら」

岡部「助手の分際で俺をアゴで使おうとはいい度胸だな。まぁ今夜は特別に見過ごしてやるとしよう」

岡部はそばの冷蔵庫を開けてドクペを取り出すと、クリスに手渡した。

まゆり「あれ~?クリスちゃん今日は優しいねぇ。いつもならこんなときは誰が助手か~って言うのに」

クリス「え、そうかしら?まぁ今日くらいは大目に見るわよ」

まゆり「うんうん、みんな仲良しなのはいいことだねぇ。ねぇこれを見て、このコスプレはね~」

まゆりの呼びかけに応じて、二人は雑誌に目を落とした。

25: トウニュー 2011/10/28(金) 17:12:57.68 ID:saC22zk/o
まゆり「この衣装はねぇ。魔法少女=アバン・ギャルドっていう変身もののコスプレなんだよ~」

クリス「へぇ、かわいいわね。でも私はこんなフリフリの衣装は似合わないわね」

まゆりの進行でコスプレ談義が進んでいた。こういうのはきっとルカ君に似合うとまゆりは想像を膨らませる

まゆり「あれ?」

まゆりは胸元に目を落とすと懐中時計を手に取った。

クリスは懐中時計を見ると、驚いた風で息を呑んだ。

クリス「まゆり?どうしたの?」

まゆり「まゆしぃの懐中時計、止まっちゃってるのです」

二人の会話を聞いて、岡部は立ち上がった。

まゆり「おかしいなぁ、この前修理したばっかりなのに・・・」

クリス「岡部・・・」

岡部「助手よ、覚悟を決めろ」

岡部はラボの玄関のほうに向き直り、クリスも玄関を向いた。

クリス「岡部・・・本当に・・・」

クリスが言いかけたとき、ラボの玄関が突然バンっと開いた。

26: トウニュー 2011/10/28(金) 17:19:24.33 ID:saC22zk/o
扉がバンっと開き何者かがラボに侵入してきた。

何者かは顔に覆面をしていて性別はわからない、手には銃を持った人間が三人、
ラボに突入してきたのだ。




ガウゥン!!




あたりに銃声がとどろく

ガタンっと音がして、覆面をした人間が崩れ落ちた。

覆面の額には穴が開き、体がビクンビクンと追撃している。



銃弾は岡部の右手に握られた拳銃から発射された。

数日間苦労して手に入れた拳銃だった。

27: トウニュー 2011/10/28(金) 17:21:38.50 ID:saC22zk/o
覆面たちは一瞬狼狽している。

岡部は次の覆面に照準を合わせようとしていた。

覆面はそれに気づいて反射的に岡部に銃口を向けようとした。

そしてそのとき自分の懐の近くまで近づいた影に気づいた。




クリス「あああああああああああああああああああああっ!!!」




クリスは叫ぶと左の覆面に突撃した。

突撃された覆面はビクっと体を震わせた。

腹部に異常を感じ、見ると、クリスの手に握られたナイフが深々と突き刺さっていた。



二人目の覆面が倒れる。

今部屋にいるのはラボメンの三人と覆面の三人、覆面の二人は倒れている

三人目の最後の覆面はナイフを持ったクリスに向かって銃をむけ、
標準を合わせようとした。

しかしクリスはすでに懐に入っており、
覆面は銃身でクリスを押しとどめる。クリスのナイフが宙を切る。

そのとき、岡部の銃から発射された銃弾が三人目のコメカミをうちぬき、覆面は崩れ落ちた。

28: トウニュー 2011/10/28(金) 17:24:14.88 ID:saC22zk/o
クリスはハァハァと息をつくと

玄関から外をのぞいた。



***「二人は殺すなぁ!」

そこには覆面が7、8人いた。そして奥からそう声が聞こえる。

クリスは顔を引っ込めると、


ガガガガガガ!!玄関先を銃弾が掠める。威嚇射撃だ。

岡部も玄関までつめる。


まゆり「オカリン、クリスちゃん、えっえっ?」

何がなんだかわからずあわてるまゆり

岡部「まゆり!静かにしてろ!お前は守る!」

29: トウニュー 2011/10/28(金) 17:28:41.94 ID:saC22zk/o
ガゥン!ガゥン!

岡部が玄関から数発うつ、覆面には当たらなかったものの
影まで後退した。

少しして覆面たちが玄関に向かって突撃してきた。

岡部が銃口を向けたとき、
バリーンとガラスが割れる音がした。

岡部が振り返ってみると、ラボの窓が割られ、
窓の外には覆面が5、6人、窓から銃身が伸びている。
そして、その銃身は、まゆりに向けられていた。

岡部「やめろ・・・」
小さいこえでつぶやく

まゆりはソファから窓の銃口を正面に見据え、
大きく目を見開いた。
まゆり「あ、・・・」


ガガガガガガガガガガ!ガガガガガガガ!


30: トウニュー 2011/10/28(金) 17:32:46.66 ID:saC22zk/o
窓から伸びた銃口から、銃弾が吐き出され、
窓の反対側のまゆりにつきささった。


岡部「やめ・・・ろ・・・」

何度も見た光景である。

もう慣れた冷たい感覚が頭から体へと降りてくる


クリス「まゆりっ、まゆっ、まゆっ、あぐっ!!」



クリスの悲鳴を聞いてクリスに向き直る。

見るとクリスは倒れ、彼女の太ももにはナイフが突き刺さっていた。

覆面が玄関から進入し、岡部に銃口を向けた。

31: トウニュー 2011/10/28(金) 17:36:36.46 ID:saC22zk/o
***「銃をよこせ」

クリス「おっ・・うぐっ・・・岡部ぇ・・・まゆりが・・ぐすっ・・・」



銃を覆面のほうに放り投げる。

クリスはナイフを取られ、太ももを押さえながら涙を流していた。

その涙はまゆりの死を目の当たりにしたからか、太ももの痛みからなのか。

銃口をつきつけられながら岡部はそう思い、まゆりのほうを見た。

32: トウニュー 2011/10/28(金) 17:39:34.79 ID:saC22zk/o
まゆりはすでに事切れていた。いくつもの銃弾がまゆりの体につきささり、
ソファにうつぶせに倒れていた。

じっと倒れたからだからはいくつもの傷口から出血し、
血液が服に花のような模様を浮かべていた。



まただ、またまゆりが死んでしまった。

岡部は落ち着いた風にクリスを見下ろした。

クリス「おかべぇ・・・まゆりが・・・ぐすっ・・・」

かわいそうに、同情的な気持ちになっている岡部に覆面の一人が言った。

33: トウニュー 2011/10/28(金) 17:45:00.46 ID:saC22zk/o
***「岡部りんたろう、牧瀬クリスだな」

男の声が確認する。

岡部「ああ、そうだ」

ひどく落ち着いた、かすれた声で答える。

***「橋田至はいないようだな、そいつも連れて行く。お前達には一緒に来てもらう。選択肢はない」

岡部「ああ、わかった」


岡部は答えると、振り返り部屋のPCに向かった。
後ろでは死体を処理しろという声が聞こえる。

PCの前まで行き、イスに座る、
岡部は起動したままのPCに向かい、キーボードを操作する。

34: トウニュー 2011/10/28(金) 17:47:37.34 ID:saC22zk/o
カチカチ、カチ、カチカチカチ


後ろではクリスの泣きじゃくる声が聞こえた

彼女に悪いことをしたな、少し後悔を感じる。

岡部はあたまにヘッドホンのようなものをセットした。


エンターキーを押すと、PCの右手においてあるレンジが起動した。

オレンジ色に光ると、ついで青白く光る。

そして青い放電を走らせ始めた

35: トウニュー 2011/10/28(金) 17:48:28.35 ID:saC22zk/o
バジジ、バジジジジ


あたりが白くそまっていく、
岡部は落ち着いた気持ちで目を閉じた。


視界が幾度もフラッシュし、次第に暗く、白と黒が交じり合っていく


戻るのだ、平穏な世界に回帰する


あたりが崩れていった

36: トウニュー 2011/10/28(金) 18:06:55.13 ID:saC22zk/o
岡部が意識を取り戻したとき、
彼は窓から夕日が入るラボにいた。


彼はうつろな目であたりを見回してみる。

窓は割れていない、PCはつけっぱなしのままだ

ソファに目をやると、まゆりとクリスが雑誌に目を落として会話していた。

37: トウニュー 2011/10/28(金) 18:07:56.60 ID:saC22zk/o
岡部「まゆり」

岡部に呼ばれて、まゆりは顔を上げ、ニコリと笑った。

まゆり「なに?どうかしたのオカリン?」

岡部はふっと心を軽くしあわてて訂正した

岡部「いーや、なんでもない、楽しそうだな」

岡部の様子にクリスが怪訝そうな顔をする

クリス「どうしたんだ岡部、あなたもコスプレに興味あるの?あまりオススメしないけど」

まゆり「オカリンは白衣のコスプレをしてるんだよね」

クリス「白衣はコスプレじゃないわまゆり、それにそれだと私までコスプレをしてることになるじゃない」


岡部はイスに座り、会話をする二人の声を聞きながら、思索に沈んだ。

38: トウニュー 2011/10/28(金) 18:19:26.34 ID:saC22zk/o
まゆり「じゃーねオカリン、クリスちゃん、まゆしぃはそろそろ帰宅のお時間なのです」

クリス「えぇ、私はもうちょっとこの論文を読みたいから残るわ。シーユー」


まゆりがラボを出て、ラボには岡部とクリスが残った。

岡部はPCの画面を見つめ、クリスは論文のページをめくる



ペラッ・・・・・・ペラッ・・・・・・・



岡部「じょ~しゅよ~」

クリス「誰が助手か、なに?」

岡部「すまなかったな」

クリス「なに?どういうこと?」

岡部「いや、いいのだ」

クリスはまた論文に目を落とし、ページをめくりはじめた




ペラッ・・・・・・ペラッ・・・・・・・




岡部「クリスティーナよ~」

クリス「牧瀬クリスだ。で、何?」

岡部はPCを見つめながら続ける。

岡部「少し出てくる。留守を頼むぞ」

クリスは時計を見上げた

クリス「そうね、私はもうしばらくいるから、いいわよ」

39: トウニュー 2011/10/28(金) 18:25:47.85 ID:saC22zk/o
岡部は街を散策していた。

夕日がビルの間に落ちかけ、

オレンジに染まった道には往来する人々と白衣の男が歩いていた。


岡部と女性の二人組みがすれ違い、二人の楽しげな話し声が横切っていった。


行く先にコンビニを見かけたので、店内をのぞく

最近のコンビニには珍しくドクペを販売していた、それを一本購入し

ドクペを飲みつつまた歩く。

40: トウニュー 2011/10/28(金) 18:27:56.00 ID:saC22zk/o
これで何度目だろうか。

オカベは何度もまゆりの死を目のあたりにし、
何度も世界を再構築し、その回数を数えるのはとうにやめていたが
毎回そう思うのだった。

あの日の10時、まゆりとラボにいると必ず襲撃が起こり、まゆりは死ぬ。

苦労して手に入れた拳銃も無意味だった。

警察を呼ぶことも何度も試したが無駄だった。


ラボを連れ出してもなんらかの事故が起こり、やはりまゆりは死ぬのだ。

どうすればまゆりを死なせずにすむのだろう。

41: トウニュー 2011/10/28(金) 18:31:24.75 ID:saC22zk/o
目の前の信号が赤に変わる、岡部は立ち止まり、ドクペを一口飲んだ。

炭酸がのどを刺激し食道を下っていく。


まゆりを海外に連れ出すか?いや、空港に行きつくことができない。

どこかに隠れれば、それも無駄だった。


次の手を考えているうちに、岡部は神社の境内についていた。

神社の巫女服を着た人が岡部のほうに歩いてくる。

42: トウニュー 2011/10/28(金) 18:42:08.29 ID:saC22zk/o
ルカ「岡部さん、来てくださったんですね」

岡部「うんむ、ルカ子よ、組織の陰謀を打ち砕く方法を思索するうちに、自然にな」

ルカは相槌を打って笑った。

岡部「それはそうと修行にはたゆまず励んでいるか?」

ルカはうつむいて答えた

ルカ「ええ、毎日がんばって素振りしています。よければ岡部さん、稽古をつけていただけますか?」

岡部「ふむ、かまわん」

43: トウニュー 2011/10/28(金) 18:43:35.84 ID:saC22zk/o
ブンッ  ブンッ

ルカが木刀を振る、岡部は境内のベンチに腰掛け、腰を入れろ、とか、握りが甘い、とか注文をつける。

何度と行ってきた習慣である。



ルカ「岡部さん」

岡部「・・・」

ルカ「岡部さん?」

ルカの呼び声にハッとして見上げる

ルカ「素振りし終わりました。どうでしたか?僕、上達しているでしょうか」

岡部「ああ、悪くない。妖刀も近くお前の鍛錬に答えることだろう」

ルカ「ありがとうございます。あの、隣に座ってもいいでしょうか」

岡部に促されて、ルカは隣に腰掛けた。

44: トウニュー 2011/10/28(金) 18:47:13.31 ID:saC22zk/o
境内は陽光に染まっていた。

セミが弱弱しく鳴いている。

岡部とルカはベンチに腰掛けて、

どちらが喋ることもなくくつろいでいた。

ルカ「岡部さん、何か悩み事ですか?」

岡部「うむ」

あまりに素直に肯定されたので、ルカは少し驚いた。

ルカ「あの、僕がこんなことを聞くのは変かもしれないですが、大変なことなんですか?」

岡部「うむ」

そう答えて、二人は黙り込んだ。

セミの鳴き声があたりに立ち込める。



ミーン ミーン ミーン




岡部「機関の力があまりに強大なのだ。俺に打ち砕けるのかどうか」

岡部は赤く染まる空を見上げてつぶやいた。

ルカ「そうですか」

ルカはうつむいてつぶやいた

ルカ「岡部さん、どんなに大変でも、がんばってください。僕、応援してます」

ルカはそういうと、もういかなきゃといって歩いていった。

岡部はもうしばらくベンチで思索にふけり、そうだな、とつぶやくと再び歩き出した。





45: トウニュー 2011/10/28(金) 18:51:12.32 ID:saC22zk/o
ラボの玄関を開けると、ラボには明かりがついており、
ソファではクリスが論文のページをめくっていた。


クリス「おかえり、早かったわね」

クリスが論文に目を落としたままで迎える

岡部「まったく早くないぞ。もう二時間は経過している」

そう聞くとクリスははっとして時計を見上げた。

クリス「本当だわ、時間が過ぎるのが早いのね、でもいいところだから、もうちょっと」

そういってまた二時間くらい没頭するのではないかと岡部は思った

そしてまたクリスに声をかけた

岡部「クリス、ちょっといいか」

呼ばれて、クリスは顔を上げた

46: トウニュー 2011/10/28(金) 19:12:06.56 ID:saC22zk/o
二人はラボの屋上に立っていた。

岡部は数度目になるクリスへの事情の説明をすませたところだった。



クリス「じゃぁ、まゆりは死んでしまうということ?とても信じられない」

そういうとうつむいて少し考えると

クリス「でも岡部がタイムリープしてるっていうのは疑いようがないわ」

クリスが話をだいたい把握したところで、岡部はクリスに機器を見せた

47: トウニュー 2011/10/28(金) 19:14:10.82 ID:saC22zk/o
それは木の台にヒューズのような数字を表示するガラスケースがいくつも連なった
時計のような機械だった。クリスはそれが何かたずねた

岡部「ダイバージェンスメーターだ。この世界線の変動率を示している。この数字はどう見える?」

クリスは怪訝そうに数字を覗き込む

クリス「どうって・・・0.000176ね」

岡部「そうだ、この数字は変動したか?」

クリス「変動って、確かにそれがラボにあったのは見かけたけど、特に意識はしてなかったわね」

岡部「ふむ」

48: トウニュー 2011/10/28(金) 19:16:05.16 ID:saC22zk/o
岡部は説明を続けた、タイムリープを繰り返すごとにこの数値が変動すること、その数値の変化は岡部にしか把握できないこと、
そしてこの変動率を1以上にすることで、世界線を変動させまゆりの死を回避できるかもしれないということ。


クリス「把握したわ、つまりこのメーターの数値を1以上にするようにタイムリープをするってことね」

岡部「そういうことだ。しかしダイバージェンスメーターは容易には変動しない」

クリスは思案げな表情をする

岡部「俺も何度も実験したが、基本的には0.000001単位でしか変動しない、つまりこの数字の右端が変動するだけだ」

そんな、というクリスをさえぎって続ける

岡部「しかし一度だけ0.000150の変化値を観測したことがある」

クリス「興味深いわね、その行動を分析すればそのダイバージェンスメーターの変動機構を確立できるかも」

そういうことだという岡部にクリスはさらにたずねる

岡部「ダイバージェンスアルゴリズムを使う」

49: トウニュー 2011/10/28(金) 19:18:40.38 ID:saC22zk/o
クリス「ダーバージェンスアルゴリズム?」

クリスは不思議そうにうつむくとちょっと考えてから顔を上げるとさらに続けた

クリス「なんぞ、それ?」



岡部「うむ、タイムリープを繰り返すうちにある数列を打ち込むとタイムリープする感覚に違和感を感じてな、
その数列を抽出しそれをいくつか重ねてタイムリープを発動してみた。そしたらこうなったのだ」

そういって0.000176の数値を示すダイバージェンスメーターを持ち上げた

50: トウニュー 2011/10/28(金) 19:22:58.58 ID:saC22zk/o
クリス「なるほど、興味深いわね、いったいどんな構造でメーターの変動値になったのかしら、数式が変換された電波信号になんらかの規則性があるのかしら」

岡部「残念ながらそこまでは判明していない。この数式を三つつなげることで世界線の変動率が0.000150前後変動する」

クリス「その数式をまた勝手にダイバージェンスアルゴリズムとか厨二設定で名づけたわけですねわかります、で、その数式を打ち込むわけね」

岡部「うむ、三つつなげた数式で0.000150メーターが推移する」

クリス「6667個の数式を打ち込む?」

岡部「そういうことになる」

クリス「それで変動率を1以上にできるの?それに危険性が大きすぎる」

岡部「世界線は一度変動しているのだクリスティーナよ。そしてこれ以外にまゆりを救う方法があるとは思えない」

51: トウニュー 2011/10/28(金) 19:27:40.34 ID:saC22zk/o
カタカタカタカタ


キーボードを打ち込む音がラボに響く

ある程度数式を打ち込むとそれをコピーアンドペーストしていく


岡部「完成だ」


暗いラボの中でただひとつの光源である
PCの画面には規則的な数式がズラリと並んでいた。


クリス「目がチカチカするわね」

岡部「これで世界線が変動するはずだ」

52: トウニュー 2011/10/28(金) 19:30:04.39 ID:saC22zk/o
少し悩んでクリスが岡部にたずねた

クリス「ねぇ岡部、あなたは今まで何回タイムリープを繰り返して、この世界を繰り返して、何回まゆりの死を見てきたの?」

岡部「幾度となく、だ。数えるのも億劫になった」

そしてクリスにそう聞かれるのも数度目になる、それは言わずにおいた

岡部「では、押すぞ」

岡部はエンターキーに手をやる

クリス「岡部」

呼びかけにクリスのほうを向く。

彼女は笑顔で親指を立てた

クリス「グッドラックなんだぜ、岡部」

彼女の励ましに岡部は小さく笑ってこたえた。

岡部「ああ、世界線の向こうでまた会おう」

エンターキーが叩かれた


岡部の周りの景色が崩れ始める。いつもとは違う、タイムリープの違和感が体を襲う

世界が再構築されていく

57: トウニュー 2011/10/28(金) 20:16:13.69 ID:saC22zk/o
気がついたとき、青い光が飛び込んできた

どこだ?ここは


どこかの屋上にいるようで、岡部はフラつきながら
目の前の屋上の端まで行って下を見おろす。

だいぶ高い15階くらいの高さがある、ここには見覚えがあった


岡部「ラジ館の屋上か」

ダイバージェンスメーターはもっていないようだった。

世界線は変動したのだろうか、岡部は思った。

もし変動していればまゆりの身には何も起こらないに違いない。

もし変動していないのであれば、再び四日後にまゆりはに死の危険が迫ることになる。

58: トウニュー 2011/10/28(金) 20:20:35.49 ID:saC22zk/o
まゆり「オカリ~ン」


まゆりの呼びかけに岡部は振り返った。

まゆりが満面の笑みを浮かべて岡部に駆け寄ってきている。


オカベ「ああ、まゆり、きていたのか」

オカベの返事にまゆりは首をひねった

まゆり「おかしなことを言うオカリンなのです。まゆしぃがオカリンを誘って一緒にラジ館に来たんだよ?」

オカベはタイムリープ後の軽い混乱にいつものように対処する

オカベ「ああ、そうだったな。あー、どうしてラジ館にきたんだったっけ?」

まゆり「もー、ウーパーのガチャポンがここにしかないから、オカリンと一緒に来たんだよ」

岡部「すまんすまん、そうだったな。それで首尾はどうだった?」

まゆりは悲しそうにしている

まゆり「残念ながらレアウーパーは出なかったのです。このウーパーはクリスちゃんにあげるのです」

59: トウニュー 2011/10/28(金) 20:23:52.27 ID:saC22zk/o
タイムリープが発動したということは、なんらかの変化があるはずだ。

そう思っている岡部の目が、まゆりの後ろのものを捉えた。


それはラジ館に突き刺さった人工衛星だった。

なぜここに人工衛星がある?

人工衛星は二つ目の世界線で起こった固有事項だ、
もし世界線が一つ目に移行したとすれば、ここに人工衛星があるハズがない。

岡部はさらに考えをめぐらせた。

となると世界線は移行しなかったか、もしくは第三の世界線に移行したことになる。


何も言わずに衛星を見つめる岡部を不思議そうに見つめるまゆり

まゆり「じゃーメイクイーンに出発なのです。ダル君とクリスちゃんは先にいってまってるって」

岡部「あ、ああ」

岡部は生返事をして、二人は屋上の出口に向かった。


世界線は変動したのか?何か変化したとしたら、何が変化したんだ?

まゆりの死は避けられるのか?



60: トウニュー 2011/10/28(金) 20:28:19.34 ID:saC22zk/o
メイド喫茶・メイクイーンの片隅にダルとクリスが座っていた。

クリス「ハローまゆり、岡部」

クリスが手を上げて挨拶をする

まゆり「クリスちゃん、ダルくん、トゥットゥルー」

まゆりも手を上げて答える

クリス「トゥットゥルーまゆり」

まゆりと岡部は席に座って難しい顔をしている橋田に言った

岡部「ダルよ、また悩んでいるのか。もうメニューを取るがいいか?」

ダル「うーん、うーん、よし。せっかくだから、俺はこのドリームオムレツを頼むぜ」

まゆり「ダル君いっつもそれだねぇ」

ダル「メイクイーンのオムレツは何回食べてもレボリューションなんだお!」

61: トウニュー 2011/10/28(金) 20:33:43.62 ID:saC22zk/o
メニューを取って、たわいない会話が続いた、ウーパーのこのタイプがかわいいとか、
オムレツに書く絵柄はどうするとか、


しばらくして岡部が話題を挙げた

岡部「ところでだ、もし仮にタイムリープした人間がいたとしたら、その人間が速やかにタイムリープしたことを証明するとしたらどうする?」

悩むまゆり

まゆり「うーん、素直に言ったらいいんじゃないかなぁ、私はタイムリープしてきた未来人なのです」

クリス「それじゃあ何の証明にもなってないわまゆり、相手にとってはあくまで可能性でしかないわね」

スパゲティを飲み込んで、水を飲んだクリスが言う

橋田「んー、たとえば未来のニュースを先に言うとかでいいんじゃね?新聞の内容を先に当てるとかさぁ」

ダルはオムレツに書かれたハートをよけながらオムレツをほおばりながらいった

岡部「なるほど悪くないな、しかしタイムリープによって事象が変動している場合や、迅速性という点では少々不適当だな」

62: トウニュー 2011/10/28(金) 20:37:49.54 ID:saC22zk/o
クリス「でもやり方としては悪くないわね、やはり未来でしか知りえないことを話すのがいいと思うわ」

岡部「ふんむ、それもある特定の個人についてならばもっとやりようはあるかもしれないな。たとえばその個人しか知りえない情報を未来で習得しそれを伝えるなどの方法が挙げられる」

まゆり「なるほどねぇ」

まゆりはメロンソーダのアイスフロートをつつきながらストローを吸った

岡部「たとえば、未来でその個人が『私が今一番ほしいものはマイフォークである』と言っていた、とかだな」

スパゲティをくるくると巻くクリスの手がピクッととまる。

橋田「いや~それはありえないっしょ。今日びマイフォークほしい人なんてネットでも聞かないお」

まゆり「そうだねぇ、私ならマイカップとかならほしいかな~」

クリス「岡部ちょっといい?」

クリスが席を立った

63: トウニュー 2011/10/28(金) 20:42:27.12 ID:saC22zk/o
メイクイーンの一角で
岡部とクリスが向き合っていた

店員や客とは離れた場所で、客の喋り声や雑音でこちらの声が聞こえることもないだろう。

クリス「周りくどいことするわね」

岡部「わるいなじょ~しゅよ~。俺から切り出すとお前が素直に同意するとも思えなかったのでな」

岡部はマッドサイエンティストの表情でフッフと笑みを作る

クリスはハァ、とため息をついた

クリス「岡部、タイムリープしてきたわね」

岡部「そのとおりだクリスティーナよ、世界線は変動したのか?」

岡部は事情を説明し始めた。

65: トウニュー 2011/10/28(金) 20:46:14.99 ID:saC22zk/o
喋り声と店員の声でざわざわと雑音に包まれた店内で
クリスは状況を把握してたじろいだ。

クリス「わ、私がよくそんなこと了承したわね。でもラジ館に衛星は落ちたし、ルカ君も男の子ね」

岡部「ふーむ」

クリス「確かに何か変動したの?」

岡部はうなずいて言った

岡部「Dメール送信後に世界の再構築が発生した。なんらかの変動は確実に起こっている」

クリス「それにしたって、ナンセンスね。そもそも岡部以外に変動を確認できないわ」

岡部「そのとおりだ、しかし一人で考えるより二人で考えるとまた違った見方もでてくる」

66: トウニュー 2011/10/28(金) 20:49:10.97 ID:saC22zk/o
クリス「え、そう?まぁそうね、こればっかりは私も積極的に協力するわ」

まんざらでもなさそうにするクリスに、岡部は思いついてたずねる。

岡部「そういえばクリスティーナよ。ラボにダイバージェンスメーターはあるか?」

クリスはちょっと思案げにして答える

クリス「あああのおかしな時計のこと?確かにあったわよ。たしか、PCの机の下においてたんじゃないか」

岡部「その数値を覚えているか?一の位だけでもいい」

クリスはうーんと悩んでいる

クリス「いや、ちょっと待って、確か特徴的な数字だったから覚えてるわ」

クリスは続けてうなっている。

もしダイバージェンスメーターの一の位が1であれば、それは世界線の変動を意味する、
まゆりの死は回避できるかもしれない。

クリスが思いついたような表情になった。

クリス「確か、9.99999だったわね、全部9だったわ」

岡部「なっ、なに・・・」

驚愕した顔の岡部を見て驚いたクリスが言う

クリス「確かだと思うけど、何か問題があるの?岡部?岡部?」

岡部はしばらく答えなかった

67: トウニュー 2011/10/28(金) 20:56:25.39 ID:saC22zk/o
四人はラボの帰路についていた。

もう少し談笑したいというまゆりと、
しぶるダルを説得して急いで帰りの道についたのである。

道の角を曲がって、ラボのある建物が見えてきた。


岡部は建物を見て、その建物の姿に違和感を覚えた。

岡部「おい、ダル」

橋田「もっとフェイリスたんとキャッキャウフフしたかったお~、どしたん?」

岡部「うちのラボがあるビルは何階建てだった?」

橋田「何階建てって、そこにあるじゃん?三階建てとあと屋上だお」

68: トウニュー 2011/10/28(金) 20:58:20.54 ID:saC22zk/o
橋田の言うとおり、歩きながら近づいているビルは三階建てだった

一階は家主がテレビ店を経営していて、二階はラボとして借りている、
三階は、なかった。タイムリープ以前は。

岡部「あの三階は誰が使ってるんだ?」

まゆり「今日はちょっとおかしなオカリンなのです。あそこはミスターブラウンさんが、誰かが借りてるらしいけど使用はされてないっていってたよ?」

岡部「それだけか?」

橋田「俺らが知る限り、まったく音沙汰なし。ちょっとミステリアスだよね~」


四人はラボへと続く階段を登った

69: トウニュー 2011/10/28(金) 21:02:00.63 ID:saC22zk/o
まゆり「とぅっとぅる~。ただいまなのです」

まゆりが一番にラボに入り、ソファに腰掛ける

それに続いて岡部が入り、PCの机の下を探る

橋田「よーし、二次元の女の子と戯れるお~」

クリス「ちょっと橋田、わかってると思うけど健全なものにしてよね」

三人の声を後ろに岡部は机の下を探り、ダイバージェンスメーターを見つけた。

その機械が示す数字は、確かにクリスの言ったとおりだった。




9.999999




70: トウニュー 2011/10/28(金) 21:07:22.34 ID:saC22zk/o
はしだ「なにいってるの。わかってるってば~。おれはこれでも立派な変態紳士なんだお?」

クリス「信用していいのかいけないのかわからないことを言うのはやめてくれる?」

まゆり「ダルくんは○○○だけど、マナーをわきまえた○○○なのです」


会話を続ける三人を背に、
岡部はダイバージェンスメーターを見て目を見開き固まっていた。


さまざまなタイムリープをして0.000001単位でしか動かなかったダイバージェンスメーターが、9.999999を示している。

示しているというより、振り切れているといったほうがおそらく正しいだろう。

1の位が変動しているので、世界線は変動したと言ってもいいだろう。

それが振り切れるほどに世界線変動率は推移した。しかし回りに大きな変化は確認ができない。

ラジ館に衛星は落ちてきているし、ルカは男だし、メイクイーンではラーメンは売っていない。

変わったことといえば、ラボの上に新たな建造物ができているということくらいである。


岡部は立ち上がり、玄関へと歩き、靴を履き始めた。

それに気づいたはしだが声をかける

はしだ「あら、オカリンどっかいくん?」

岡部は振り返らずに言う

岡部「ああ、ちょっと三階に行ってみる」

71: トウニュー 2011/10/28(金) 21:11:54.54 ID:saC22zk/o
四人は三階の扉の前に立っていた。


扉はもちろん閉まっていて、物音はしない。中をうかがうことはできないし、
電気メーターは動いていない。


はしだ「だから誰もいないって~。天王寺のおっちゃんも言ってたじゃん『誰も使ってないみたいだしずっと鍵もしまってる。でも家賃だけはしっかり振り込まれてるんで問題ない』ってさ」

まゆり「私たちも何度か来たけどやっぱり鍵がしまってて門前払いだったのです」

72: トウニュー 2011/10/28(金) 21:12:50.87 ID:saC22zk/o
岡部「ふんむ」

岡部は少し考えるとドアノブに手をかけた


クリス「ちょっ、オカベ」

クリスが制止する。

まゆり「鍵がかかってるのです。オカリン泥棒はダメだよ?」


ガチャリ


扉が開いた

73: トウニュー 2011/10/28(金) 21:14:48.56 ID:saC22zk/o
はしだ「あ、あれ~?どういうことなん?」

不思議そうにするはしだとまゆり、岡部は小さく開いたドアを開き、
中を見てみる。

クリス「中に誰かいるの?」

一人タイムリープの事情を知るクリスは岡部の様子に気づき、
あかずの間であった三階の内部を気にしている。


ドアの中は玄関と左手に廊下があり廊下の突き当たりに右に扉があった。

ここからでは中の様子はほとんどわからない。

74: トウニュー 2011/10/28(金) 21:17:36.25 ID:saC22zk/o
岡部「ど、」

岡部はドアから首だけ差し込んで声をかけてみる

岡部「どなたかいらっしゃいますか~?」

返事はない



まゆり「オカリン?だいじょうぶ?」

心配そうにする三人、
岡部も平静でいるわけではない。

しかし世界線の変動を確認する必要がある。

岡部はまゆりに目をやり、意を決すると

玄関に足を踏み入れ不法侵入を慣行した。

75: トウニュー 2011/10/28(金) 21:21:14.21 ID:saC22zk/o
玄関に入って、靴を脱ぐ、

左手の廊下を歩いて、右手のドアを開ける、

ギーと音をたてて、ドアは開いた。

ゆっくりと部屋を覗き込んだ岡部の目には誰も確認することはできなかった。

人間は誰もいなかったし、部屋にはひとつを除いてなにもなかった。

76: トウニュー 2011/10/28(金) 21:22:19.92 ID:saC22zk/o
なんだ?これは?岡部は率直に疑問に思った。

まゆり「誰かいた?」

後ろからまゆりが顔を出す。その物体を捉えてまゆりは驚いたふうでいった

まゆり「わーおっきいねー」

引き寄せられるようにまゆりが部屋に入っていく。

岡部「ちょっとまてまゆり」

一緒に岡部も部屋に入った


それは巨大な玉だった。全体が黒塗りで、鈍い光沢を放っている。

直径はまゆりの身長ほどある、巨大な玉がそこにあった。

78: トウニュー 2011/10/28(金) 21:24:21.50 ID:saC22zk/o
まゆり「うわー、こんなの、どこに売ってるんだろう。あ、硬い」

クリスも部屋に入ってきて、黒い玉を見ていった

クリス「ワオ、なにかしらこのボール、どこにも継ぎ目がないみたいだけど、このサイズじゃドアからじゃ入らないわよね」

岡部「確かにそうだな、大体なんのためにこんなところにあるんだ?これを保存するためにこの部屋を借りているのか?」

まゆりは黒い玉をなでながら言った

まゆり「決めました。まゆしぃはこれをブラックウーパーと名づけたのです」

クリス「ブラックウーパーって、あのガチャガチャの?」

まゆり「そうなのです。そしてこのメタル仕様、メタルブラックウーパーといってもいいですね。でもそれじゃあ長いので、ブラックウーパーなのです」

80: トウニュー 2011/10/28(金) 21:31:10.69 ID:saC22zk/o
うれしそうにするまゆりを横目にしながらたずねる

岡部「ダルはどうした?」

クリスはドアのほうを気にしていった。

クリス「はしだは玄関の外ね、なんだかおっかないっていって入ってこなかったわ」

岡部「ふむ」

そういってまゆりにブラックウーパーと名づけられた黒玉を見下ろした。

おっかないといえば、これはおっかないな、ボーっとそう考えた。

ダイバージェンス9.999999の数値、変動した世界線で現れた部屋、そこにある巨大な玉

これらはなにか関係があるのか?それともなんでもない誰かの道楽かなにかか?

81: トウニュー 2011/10/28(金) 21:33:55.34 ID:saC22zk/o
岡部は黒球に手を当てた、金属の手触りが伝わってくる、ひんやりとしている。

まゆり「冷たくってきもちーのです」

まゆりは黒玉に抱きついて、頬ずりをしている。クリスがそれを制して言う

クリス「まゆり、あんまり触るのはちょっと危険よ、汚いものじゃなさそうだけど、えたいが知れないし他人のものよ」

まゆり「そうだったのです、ごめんねブラックウーパー」

まゆりがさみしそうに黒玉から離れたとき、ブンッっと音がした



82: トウニュー 2011/10/28(金) 21:37:45.66 ID:saC22zk/o
黒球に手を置いていた岡部がまわりを見回していると、まゆりが言った


まゆり「あ、ブラックウーパーに写真が写ったのです、オカリン、見て見て」

まゆりに促されてまゆりのほうに行くと、確かに黒球の表面に画面が浮かび上がっていた

クリス「なにこれ?」

彼女のいうとおり、どういうことかわからなかった

黒玉には複数の写真が写っていた。

写真は全部で10まいある、そして誰かしらない写真に混じって
岡部の写真があった。

岡部「なんで俺が写ってるんだ?」

岡部は窓の外に振り返る、窓の外には空が広がっているだけだった。

83: トウニュー 2011/10/28(金) 21:40:05.42 ID:saC22zk/o
まゆりの言ったとおり、黒玉には岡部、まゆり、クリス、はしだの写真があった

ほかの四枚は、学生らしい男が一人、女が一人、金髪で巻き髪の男性外人が一人、あとはガラの悪そうな男が三人だった。


ほかに何かないか?岡部は黒玉に近づいて、黒玉をコンコンたたきながらよく見ると、
写真の表示の下に時計のような表示を発見した。

数字は00:04:28:36と表示されていて、大体一秒の感覚で一番右の数が一ずつ減っていっている。


クリス「岡部、これって・・・」

世界線の変動の影響か?と続けたいのだろう

まゆりは見知らぬ女の写真を見てコスプレが似合いそうだとはしゃいでいる

岡部「クリス、まゆり、いったんここを出るぞ、ラボに戻る」

84: トウニュー 2011/10/28(金) 21:45:15.32 ID:saC22zk/o
三階の玄関から出て二時間後

二階のラボで岡部がPCのイスに座り
まゆりとクリスがスファに腰掛けていた。

クリス「はしだを返してよかったの?」

岡部「ああ、特に急を要する話じゃないし、ダルはそもそも恐がっている。事情を説明する上でも、すこし相談してからのほうがいいだろう」

クリス「ええ、まぁ、そうかもしれないわね」

事情の説明とは、世界線の変動を含めた説明である。

それによく事情を説明しないと外に情報が漏れる可能性がある。

たとえ非力なデブで、二次元に嫁が数百人いようとも
はしだはそう口が軽い男ではない

だがやつはメイクイーンの店員、フェイリス=ニャンニャンに対してはザルである。

ラボの情報は大体ここから漏れる。

85: トウニュー 2011/10/28(金) 21:47:09.47 ID:saC22zk/o
クリス「そもそもなぜこの建物の三階に誰もいない部屋があって、そこに大きな金属球があるのか」

岡部「そしてなぜその玉に俺達の写真が写っているのか」


あの映像は今も三階の無人の部屋で黒玉に映し出されているのだろうか?岡部はそう考え、少し背筋が寒くなった。


クリス「ほかの人物は誰か?写真のしたの数値は何か」

まゆり「きっと誰かが私たちにブラックウーパーをプレゼントしてくれようとしてるんじゃないかなぁ」

まゆりがそういうとクリスはふぅと息をつく

クリス「ノーサンキューね。それにあんな大きなものどこにも置く場所がないわ」

まゆりは思いついたように
まゆり「あっ、本当なのです。ブラックウーパーかわいいのになぁ」

86: トウニュー 2011/10/28(金) 21:49:10.16 ID:saC22zk/o
クリス「黒玉の写真をとっておくべきだったわね、明日三階にいって写真をとってきましょう」

岡部が不思議そうにクリスに言う

岡部「どうして明日なのだ?今からいけばいいだろう」

そういわれるとクリスはたじろいでいった

クリス「べっ別に明日でもいいんだろ。それに暗いと危ないからな、電気がつくかわからないし」

岡部「びびってるのかクリスティーナ?」

クリス「びびってない!それなら岡部がいけばいいじゃない」

岡部「だが断る」

87: トウニュー 2011/10/28(金) 21:52:55.96 ID:saC22zk/o
話を進めるうちに、写真の人間が誰なのかということに争点が移った

クリス「とりあえずほかの人物の所在が気になるわね」

岡部「何か共通点があるかもしれないしな」

二人が相談していると、まゆりがひそめた声で言った

まゆり「あの~、すみませんが、まゆしぃはそろそろ帰宅のお時間なのです」

岡部「それじゃあとりあえず今日の会議はここまでにしよう。俺はまだラボに残るが」

クリス「そうね、私ももうちょっと残るわね、シーユーまゆり」

まゆりは玄関口で靴を履き終えて
まゆり「シーユーなのです、クリスちゃん、オカリン。オカリン、クリスちゃんに変なことしちゃダメだよ」

岡部「なにもするわけないだろうがっ!門限が過ぎるぞ」

まゆりは笑って手を振ると階段を下りていった。

88: トウニュー 2011/10/28(金) 21:57:11.42 ID:saC22zk/o
ジリリリリリリ

ラーメンタイマーがなるのを確認して、
カップめんのふたを開ける

日が落ちて明かりのついたラボには
岡部とクリスが二人で、
カップメンとドクペで軽い夕食をとっていた。

89: トウニュー 2011/10/28(金) 21:58:02.15 ID:saC22zk/o
岡部「ふむ、ふむ、シーフード麺もなかなかいけるな」

クリス「そうね、あと塩も敬遠しがちだけど意外と味がしっかりしてるわよ」
クリスはプラスチックのフォークでカップ麺をすくいながら言った

クリス「やっぱりマイフォークがほしいわね」
プラスチックのフォークを見てそういった。

90: トウニュー 2011/10/28(金) 22:01:41.26 ID:saC22zk/o
クリス「それで、あの金属球はやっぱり世界線変動の影響なの?」

カップ麺を食べ終わって、クリスが岡部に聞く。

岡部「わからん、確かに前の世界線ではあんな部屋もなかったし、あの金属球もなかった」

さらに続ける

岡部「しかしそれがどこまで重要なものなのかはわからん、機関の陰謀かもしれないし、変人の道楽かもしれん」

クリスは少し考えていった。

クリス「まゆりは死ななくてすむかしら」

岡部「・・・わからん」

ラボに沈黙が下りる

岡部「前の世界線では四日後になんらかの事件が起こってまゆりが死ぬ」

まゆりが死ぬ、この言葉をいうことにまったく抵抗感がなくなってしまっている。

91: トウニュー 2011/10/28(金) 22:03:08.87 ID:saC22zk/o
岡部「そのときが来るまではなんともいえない、もしかしたら何も起こらないかもしれないし、もしかしたら、また何か起こるかもしれない」

クリス「そう・・・」

再び沈黙

クリス「ねぇ岡部、あの金属球の表示はなにかしら?」

岡部「表示?あの数字のことか?」

クリス「そう、まるでラーメンタイマーみたいだったわね」

岡部「ラーメンタイマー?まぁ時計に見えなくもなかったが」

92: トウニュー 2011/10/28(金) 22:04:41.31 ID:saC22zk/o
岡部はラーメンタイマーに目をやって、続けた

岡部「だが右から秒数、分、時ともう二つ0が並んでいただろう、タイマーにそんな表示はない」

クリス「じゃあ日にちとか?それともバッテリーの残量を表示してるのかしら」

岡部「それもなんとも言えんな、明日詳しく見てみるか、ほかにも何かあるかもしれん」

そういってさらに続けた

岡部「だがあの金属球が大きい意味があるとは限らん、俺達の目的はまゆりの死を退けることであり、金属球のなぞをとくことではない」

クリスもうなずく

クリス「そうね。まゆり、守れるといいわね」

岡部「ああ」

岡部は右手に持ったドクペのゆれる水面を見つめた

岡部「ああ、そうだな」


93: トウニュー 2011/10/28(金) 22:10:19.96 ID:saC22zk/o
さらに一時間後


岡部はPCでネットを調べていた。

世界線の変動による変化をネット上で観測するためである。

しかしニュースサイトや@チャンネルでも多少の差異はあるかもしれないが
大きな事件や変化というものは認められないように思われる

岡部がさらに調べていると、突然後ろでガタンッと音がして

クリス「な、なんぞこれ~!?」

とクリスの叫びに似た声を聞いて驚いて振り返った


その光景に岡部は言葉を失った


クリスがソファから立ち上がってあわてている。

しかしそのあわてるクリスの頭が、なかった。

94: トウニュー 2011/10/28(金) 22:13:37.06 ID:saC22zk/o
岡部「く、クリス?」

クリスと思われる人間の頭がなかった

そしてそれだけではなく、その体が上から消えていっていた。


何が起こっているかわからない、

そしてクリスの体が腹部まで消失したころ

やかんの反射に映った自分を見て、自分の頭も消失しはじめていることに気がついた。

95: トウニュー 2011/10/28(金) 22:16:20.44 ID:saC22zk/o
岡部「ああっ、何、なんだこれ!?」


あわてて消失した頭をまさぐる。

しかし頭を触る手はどんなに力を入れてもまるで手と頭の間にガラスでもあるかのように消失している頭にふれることができない。


岡部「ああっ、はぁっ!?」

心臓の音が耳に突き刺さるように脈打っている。

頭の消失部が目を通過しようとしている。何が起こっているんだ?すでに完全に消失したクリスはどうなった?

消失部が目を半分覆うと視界の上半分が別の景色を映し始めた。

消失部が目を完全に通過する。混乱する岡部の視界に、ラボとは別の部屋が飛び込んでくる。

岡部「はぁっ!はっ!へぇっ!?」

消失部が首元を通過すると自分が別の部屋を見ていて、そこではまゆりと、はしだ、そしてクリスが自分を心配そうに見つめていることに気がついた。

未知の部屋に足先まで完全にあらわれると、岡部は完全に脱力して尻餅をついた。

96: トウニュー 2011/10/28(金) 22:19:53.83 ID:saC22zk/o
暗い部屋の中で岡部は気も失いそうなほど脱力していた。

ドキンドキンと心臓の音が耳を打っている。

混乱する岡部にまゆりが声をかけた。


まゆり「オカリン、オカリン、だいじょうぶ?」

心配そうにするまゆりにはしだが言う

はしだ「大丈夫なわけないっしょまゆしぃ。あんなんなったら誰でもびびるって」

岡部はまゆりとはしだを交互に見つめる


岡部「まゆり、ダル、・・・どこなんだここは?」

そうたずねると二人の間からクリスの姿を見ることができた。

はしだ「俺とまゆしぃはそうでもないけど、オカリンと牧瀬氏はそーんな移動してないみたいだお」

クリスは何かを見つめている、彼女の視線の先に目を移すと、そこには巨大な金属球を見て取ることができた。

岡部「あの黒球・・・じゃあここは・・・?」
岡部がろうばいして二人を見ていった

はしだ「そゆこと、俺達が昼に来た三階の部屋。ラボの真上だお」

97: トウニュー 2011/10/28(金) 22:23:02.39 ID:saC22zk/o
カーテンのない窓の外から薄明かりが差し込んでいる。


部屋には10人の人間が散らばっており、その中央には巨大な黒い金属球が鎮座している。


やっと落ち着いた岡部はクリスに呼ばれて黒球をのぞいた

クリス「岡部、ここ見て」

クリスの指さきに視線を移すと、そこに例の写真があった。

クリス「この写真の人たち、全員ここにいるわ」

岡部が部屋を見回すと確かに自分達以外に6人の人間がいた。

女子高生と男子高校生は部屋の隅で座っている

部屋の窓には巻き髪の金髪の外国人男性が外を見ている

別の隅ではガラの悪そうな男達が三人で座っていた。

98: トウニュー 2011/10/28(金) 22:26:04.62 ID:saC22zk/o
再び黒玉に目を落とすと、写真のしたの数字はすべて0になっていた。

クリスに呼びかけられて顔を上げる

クリス「岡部、あの窓を見て」

窓を見ると、金髪の男性が窓をつついていた。

いや、窓をつついているのではない。窓の鍵をあけようとノブに手を伸ばしているのだ。

しかしノブには手が届かず、何度も空を切っている。


「オーゥ、やっぱりつっかめっまセーン」


金髪の男性が頭に手をやった。

岡部は無言でクリスを見た。

クリス「本当に鍵がつかめないの、それどころかまどや壁には触れないわ。玄関へのドアは開くけど、玄関のドアもダメ、触れない」

岡部は確認するように窓の前に行き窓に触ろうとした。

しかし手はスカッ スカッと宙を切る。

まるでまどと手の間に見えないガラスがあるかのようだ。

隣の男性を見ると、男性もこちらをみて困ったようなジェスチャーをした。

99: トウニュー 2011/10/28(金) 22:28:09.15 ID:saC22zk/o
まゆり「玄関もさわれないのです。まゆしぃ達、閉じ込められちゃったの?」


そのとき、部屋の隅のガラの悪そうな三人のうちの一人が立ち上がり、叫んだ

***「誰か見てんだろオラァ!!さっさと出せやぁっ!!殺すぞコラァッ!!」


叫び声が部屋中に響く、まゆりが岡部の影に隠れた。


隣の隅の男子高校生が男に言った

***「何度さけんでも一緒だって、誰かが見てて何もアクションがないんだから」


ガラの悪い男は虫が悪そうにすると床にベッと唾を吐いて再びすわった。

100: トウニュー 2011/10/28(金) 22:31:07.00 ID:saC22zk/o
***「とりあえず、自己紹介しまセンカ?」

金髪の男性が言うと先ほどの男子高校生が答えた。


***「わかった、とりあえず全員の素性を明らかにしよう。ほら、夜空もこっちに来いよ」

男子高校生に促されるままに女子高校生も中央の周りに集まる。

ガラの悪い三人組は部屋の隅に座り込んだままだった。

101: トウニュー 2011/10/28(金) 22:32:28.35 ID:saC22zk/o
男子高校生が続けた。

***「じゃあ俺から、時計回りにいこうか、俺の名前は羽瀬川 小鷹こいつと同じ高校に通ってる。まぁ高校生だな」

***「三日月 夜空だ、こだかと同じ高校に通っている。以上だ」

無愛想に言う。

時計回りだと、次はガラの悪い三人組の番である。

こだかという青年が三人組に顔をやって声をかける。

こだか「あんた達も一応自己紹介しなよ。こんな状況なんだしさ、苗字だけでもいいから」

そういってしばらくするとポツリと小野寺、石田、亀田とそれぞれ苗字だけ名乗る

102: トウニュー 2011/10/28(金) 22:34:27.57 ID:saC22zk/o
***「次はワタシのバーンです。ワタシの名前はジョージ・マッカートン。見てのとおり、アメリカ人デース

でも、日本文化大好き、日本には観光できマーシタ」


これで四人以外の名前はとりあえずわかった。やはり黒玉の写真と一致している。彼らと自分達に共通点はあるのだろうかと岡部は思った。


次にまゆりが立ち上がり右手を挙げる

まゆり「私の名前はしいなまゆりです。高校生でかわいいものが大好きです。秋葉のメイド喫茶メイクイーンニャンニャンでアルバイトをしているのです」

はしだ「はしだいたる。大学生」

はしだが自己紹介を終えると、次は岡部が立ち上がる。

岡部「フッフッフッ・・・」

岡部は低く笑うと両手を高々と掲げ

岡部「俺は機関の支配構造を打破し、世界をやみと混沌で覆わんとする狂気のマッドゥサイエンティスト」

バッ バッ

岡部「ふぉーおういーん」

バッ バッ さらにポージングして

岡部「きょーうまだ!」


静まり返ったあたりを見回してフッフっと笑う岡部の隣でクリスが言った

クリス「私は牧瀬クリス。大学生で、研究員をしています。ちなみに隣のバカは岡部倫太郎。大学生で厨二病を患っているからあまり怪しまないでね」

岡部「違う!断じて俺は岡部倫太郎などという平凡な名前ではなくほうおういんきょうまだ!」

はしだ「岡部だお」

まゆり「オカリンはオカリンなのです」


ジョージ「オーウ」

金髪の男性が言う

ジョージ「みなさんよろしくオネガイしマース。オカベさんもヨローシク」

103: トウニュー 2011/10/28(金) 22:41:48.05 ID:saC22zk/o
あた~らし~いあ~さがきた~き~ぼ~のあ~さ~だ~



自己紹介が終わってしばらくすると中央に鎮座する黒玉から音が聞こえてきた

10人はそれぞれ視線を中央に集める。


ジョージ「みなさーんコッチにもーじが出てマース」

男に言われて、おのおのは黒玉の玄関側に回って黒玉の表面を見た。

そこには蛍光で文字が書かれていた

104: トウニュー 2011/10/28(金) 22:43:28.32 ID:saC22zk/o
オマエタチハシニマシタ。ソノイノチヲドウツカオウト
ワチシノカッテナワケダヲ(笑)




コダカ「なんだ?これ」

夜空「勝手に殺されてるぞ」

二人は怪訝そうにしているが。ジョージが何か思いついたように言った。

ジョージ「ワターシはここに来るマエーに、交通事故を起こした夢をミマーシたが、そのことデショーか?」

男に言われて高校生二人も思い出したように

コダカ「そういえばなんか恐い夢を見た気がするけど」

夜空「偶然だな、ワタシも火事にあって死んだな、夢の中では」

ガラの悪い三人組も何か話している。何か心当たりがあるようである。

105: トウニュー 2011/10/28(金) 22:47:59.98 ID:saC22zk/o
クリスが怪訝そうに岡部を見つめていた。岡部も違和感を感じていた。

クリスもそう思っているのだろう。俺達は死んでないのだ。

二人はお互いにラボにいて、岡部はクリスが消失するのを目にしている。

あれが死んだということなのだろうか?それでは自分も死んだということだろうか、しかしあれが死とも思えなかった。

106: トウニュー 2011/10/28(金) 22:50:00.25 ID:saC22zk/o
黒玉に映された文字が消え、別の画面があらわれた。



コイツヲタオシテクダチイ



小野寺「なんやぁコレ?」

ガラの悪い男が機嫌が悪そうに言った。


画面には写真といくつかの文面が映し出されていた



名前:ゴリラ星人
特徴:力が強イ
好きなもの:レバー
口癖:ウホ ウホ

その横にゴリラの写真がうつっている。

107: トウニュー 2011/10/28(金) 22:53:50.60 ID:saC22zk/o
はしだ「倒すってどういうことなん?どこにおるん?」

はしだが辺りを見回す。


そうしていると、突然ガコンッ!という音とともに黒玉の両わきが開き、
変形して開いた黒玉のパーツの中は棚になっていて、
そこにはさまざまな機械と、箱がしまわれていた。

108: トウニュー 2011/10/28(金) 22:54:56.38 ID:saC22zk/o
クリス「なにかしらこれ、なにか名前が書いてるわよ。私たちの」

クリスのいったとおり、10個の箱にはそれぞれここにいる10人の名前が書かれていた


ジョージ「なんでーすかこれ、タイツですかぁ?」


箱の中身はゴムのようなものでできた黒いタイツのようなスーツだった。

小野寺「なんやこれ、これ着ろいうんか?着れるかいんなもん」

夜空「コダカに似合うんじゃないか?着てみるといい。笑ってやるぞ」

コダカ「はなから笑う気マンマンじゃねーか!」

109: トウニュー 2011/10/28(金) 22:57:20.43 ID:saC22zk/o
棚にはほかにもいくつかの機械のようなものがある。

石田「小野寺さーん。これなんっすかねぇ」

ガラの悪い男は棚から銃のようなものを取り出すとためしにトリガーを引いている。

しかし、何度引いても銃口のように見えるところからは何も出てこない

もう一人のガラの悪い男が言う

亀田「こっちもなんもでないっすね。それにこれ、刀っすかね」

小野寺「刀ぁ?んなもん刀身あれへんやん、刀身なかったら刀ちゃうやん」

男のいうとおり刀らしいものは柄と鍔があるだけで刀身がない。

小野寺がしょもーなっといって黒玉をガンッとけって部屋の隅に戻ると、
ほかの二人も部屋の隅に戻って座った。

110: トウニュー 2011/10/28(金) 22:59:07.54 ID:saC22zk/o
これじゃあコスプレだな。

岡部がけげんそうにスーツを手にとっていると。

まゆりがクリスと声をかけた。

まゆり「オカリンオカリン」

岡部「どうしたまゆりよ。まさかこのスーツを着てみたいとか言うのではあるまいな?」

まゆりは右手を上げて

まゆり「オカリン大正解なのです。今からクリスちゃんと玄関の部屋で着替えるので、ドアの前を見張っておいてほしいのです」

岡部「大丈夫か?こんな怪しげなものを」

まゆり「ブラックウーパーが言ってるんだもんきっと大丈夫だよー。それじゃぁ着替えてくるね」

まゆりが玄関の部屋に向かうと、クリスも続きながら言った

クリス「まぁ着てみるのもいいんじゃないかしら、こういう状況だし、ある程度の柔軟性は必要よ」

はしだ「牧瀬氏もあれきるん?」

クリス「ワタシはちょっとノーサンキューね。まゆりの着替えを手伝うだけ。それじゃお願いね」

111: トウニュー 2011/10/28(金) 23:02:07.73 ID:saC22zk/o
岡部は中央に金属球がある薄暗い部屋で、
玄関の部屋に続くドアの前に立っていた。

ドアの後ろではまゆりとクリスの声が聞こえてくる

はしだはコダカと夜空という男女と金属球を調べている。

ガラの悪い男三人は部屋の隅でなにかしゃべっているように見える。

金髪の外国人男性は窓の外をしきりに気にしていた。



はしだ「オカリン、オカリンちょっとこれ、見てくれ」

はしだが岡部を手招きする

岡部「なにかあったか?」

はしだの目は開いた金属球の内部を向いている。岡部もそちらを見て、驚愕した。

岡部「だ、誰だこいつ?」

はしだ「オカリン、こいつをどう思う?写真にも写ってないやつだお」

金属球の内部には一人の人間がおさまっていた。

服はきていない。金属球内部から延びたコードが体中にはりつけられ、人間は眠っているように見える。

夜空「ひゃぁっ、男じゃないかこいつ」

しげしげとみていた女子高校生が体つきからか裸体の人間が男だと気づいて視線をそらす。

コダカ「こいつもさわれないみたいだ。こいつがこんなことをしてるのか?もしもーし、もしもーし」

金属球の男は呼びかけにこたえない。目をつぶって寝ているようにも見える。

112: トウニュー 2011/10/28(金) 23:04:13.07 ID:saC22zk/o
小野寺「どないしてん、ちょっとどけやおまえら」

騒ぎを見て三人組が金属球に近づいていた。

そのとき玄関の部屋の扉が開いた。


まゆり「とぅっとぅるー、オカリーン、どうどう?まゆしぃのコスプレは似合っていますか?」

玄関からクリスとあらわれたまゆりは

全身が真っ黒のゴム質のタイツに身を包んでいた。

ところどころに白い円状のふたのようなアタッチメントがついている。

全身をピッタリと包んでいて、体のラインが浮き出ている。

岡部「まゆりよ、本当に着たのか。お前の適応力にはときどき驚かされるな」

まゆりのあとに続くクリスを呼ぶ

岡部「クリスティーナよ、ちょっとこっちにきてくれ、新しい発見があった」

クリス「どんなこと?」

岡部に呼ばれてクリスが金属球に近づいているとき、再びあの消失がはじまった。

薄暗い部屋がざわつきはじめる。

113: トウニュー 2011/10/28(金) 23:12:44.19 ID:saC22zk/o
亀田「小野寺さん、頭が消えてます!」

小野寺「んなんやコレェ!!とめろやボケがぁ!!」

ガラの悪い男たちが騒ぎたてる


コダカ「みんな落ち着いてくれ。たぶん死ぬわけじゃない。大丈夫か夜空?」

夜空「ああ、でもいやな感じだ。また別の部屋にいくのか?」


外国人の男性は消失する頭の部分をさわろうとしながら触れずあわてている。

114: トウニュー 2011/10/28(金) 23:14:55.43 ID:saC22zk/o
岡部、クリス、はしだ、まゆりの頭も消失しはじめていた。

まゆり「オカリン」

気がつくとまゆりが不安そうに岡部のそばにたっていた。

岡部「まゆり、大丈夫だ。おそらくまたどこかに移動するだけだ」
まゆりの肩に手を置く。

クリスはただ身を硬くしている。

115: トウニュー 2011/10/28(金) 23:15:39.27 ID:saC22zk/o
消失が目を過ぎようとしている。

岡部は上部から切り替える視界で薄く光る黒玉の画面を見た。

そこにはさきほどのゴリラの写真が写されていた。

こんどはどこにあらわれるんだ。

消失が目を過ぎ去り、別の光景が目に映る。

116: トウニュー 2011/10/28(金) 23:17:13.99 ID:saC22zk/o
気がつくと、10人は広い空き地にいた。

サッカーグラウンドほどある広い空き地である。

真夜中で、明滅する電灯が弱くあたりを照らしている。

10人はそれぞれあたりを見回した。

117: トウニュー 2011/10/28(金) 23:18:48.61 ID:saC22zk/o
小野寺「なんやねんここ。ここ外ちゃうん?」

石田「そうみたいっすね小野寺さん。ほら、あそこから道に出られるみたいっすよ」

グラウンドほどの空き地には二つの出口があり、男は片方の出口の道を指していった。


ジョージ「おーう、ここどっこですカァ?ワタシ帰り道わっかりまっせーん」


夜空「さっきの部屋はなんだったんだ?コダカ、さっきの部屋を覚えているか?」

コダカ「ああ、部屋の真ん中にでっかいボールがある部屋だろ?なにか集団幻覚みたいなものだったのか?俺達は何かしてたのか?」


岡部は薄暗いあたりを見回しながら考えた。

集団幻覚?確かにその線は悪くない。悪くないが、ラボで相談をしていた岡部とクリスは黒玉の部屋に行くまでの経緯がはっきりしている。

何かに気づいたはしだが岡部に声をかける

はしだ「オカリンオカリン、俺この場所しってるかもしれん」

岡部「ああ、ここはおそらく秋葉の空き地だ。ラボから300mくらいの場所だ」

クリス「集団幻覚?それはちょっとないわね。それなら私たちはまだ幻覚状態にいることになるし」

岡部はそういうクリスに目をやるとクリスのとなりのまゆりが目に入った。

まゆりの服装は全身が黒で、ラバー状のタイツがピッタリとくっつき、体のラインを浮き立たせている。

まゆりはあたりを見回していた。

119: トウニュー 2011/10/28(金) 23:24:24.08 ID:saC22zk/o
小野寺「あほらしっ かえろかえろ」

三人組が石田という男が指した道に向かって歩き出す。


三人が向かおうとしている出口から続く道を、一人の人間が通りかかった。

通りかかったのではない、人間は歩道を曲がると、グラウンドに入ってくる。

小野寺「んなんやあいつ」

電灯の影になって見えなかったが、近づいてきた人影が薄暗い電灯に照らされると、それは人間の姿ではないものだとわかった。


亀田「ゴリラ、こいつゴリラっすよ小野寺さん」


広いグラウンドの真ん中にポツンと集まっている10人のほうに歩いてくる人影は、見かけはゴリラの姿をしていた。

大きさは2mほどで、全身に黒い毛が覆っている。しかし遠めに人影に見えたのは、ゴリラが人間のように直立して歩いているからである。

直立歩行してるだけではなく、ゴリラは上半身にTシャツを着て、ハーフパンツをはいていた。

半そでの腕口から、毛むくじゃらの腕がのびている。

その直立ゴリラが10人のほうへ歩いてきている。

120: トウニュー 2011/10/28(金) 23:27:50.32 ID:saC22zk/o
ジョージ「オーゥ、ゴリラ人間でース」


外国人の男がゴリラ人間に駆け寄る。すると、ゴリラ人間が立ち止まった。

ジョージ「すばらしいデース。かなりリアルでースヨ」

ジョージはゴリラ男の概観をしげしげとながめる

121: トウニュー 2011/10/28(金) 23:30:11.87 ID:saC22zk/o
クリス「岡部、あれ・・・」

クリスに聞かれて答える

岡部「ああ、金属球の映像に映ってたやつだ」

まゆり「じゃあじゃあ、あの人がゴリラ星人さんってこと?」

はしだが首を振る
はしだ「いやいやまゆしぃ、きぐるみっしょ。大体ゴリラ星人ってイミフだし」

122: トウニュー 2011/10/28(金) 23:33:38.36 ID:saC22zk/o
ジョージに続いて、小野寺が険のこもった表情で人間ゴリラに詰め寄る

小野寺「なんやねんワレェ?きぐるみかいコレ?」

ジョージ「オウッ!」

小野寺が振り向くと、ジョージが崩れ落ちていた。

地面に横たわるジョージはオウオウとうめきながらピクピクと追撃している。

瞬時に緊張し、小野寺はポケットをまさぐる

小野寺「なんじゃオドレェ!!」

ポケットからナイフをとりだし、2mの巨体にナイフをつきつけて叫ぶ


ドゴッ


小野寺「ウゴォッ」

小野寺は腹部に違和感を感じ、腹部を見てみると、人間ゴリラの毛むくじゃらの腕が自分の腹に突き刺さっていた。

小野寺は口をパクパクと動かして地面に崩れ落ちた。

123: トウニュー 2011/10/28(金) 23:36:55.57 ID:saC22zk/o
岡部の場所からは遠くてよく見えなかったが

人間ゴリラのそばのジョージと小野寺が崩れ落ちたのはわかった。

そして人間ゴリラが小野寺の体をまさぐり、小野寺の体がビクンビクンと追撃するのが見えた。


石田「なにしてんだコラァっ!!」

亀田「殺すぞボケェっ!!」


二人の男がナイフを取り出し人間ゴリラにつめよろうとする。

そのとき、人間ゴリラの後ろには、さらに二つの影が近づいていた。

片方の影は人間ゴリラと同じ2mくらいの巨大な影で、もうひとつは1,5mほどの小柄な影だった。

ただ、その腕が異様だった。

人間のような肩口から伸びる腕は、途中で大きく肥大化し、肘からこぶしにかけて、
まるでドラム缶のような巨大な腕を引きずるようにこちらに近づいてくる。

124: トウニュー 2011/10/28(金) 23:38:38.90 ID:saC22zk/o
岡部がなんだあいつはと思っていると、そのドラム缶の腕の影がいきなり走りだした。


ダッダッダッダッダッ


小さい影が電灯に照らされると、やはり服を着たゴリラだった。

小野寺をまさぐる巨大なゴリラをすぎさり。

巨腕のゴリラはナイフを持って向かってくる石田と亀田に走っていく。

125: トウニュー 2011/10/28(金) 23:41:54.61 ID:saC22zk/o
亀田「死ねやオラアアアアアァァァァ!!」

亀田は叫び、走ってくる巨腕のゴリラにナイフで刺しにかかる。

巨腕のゴリラはドラム缶のような左腕をかざし、ナイフを受ける、
ガッと音をたてて、ナイフは刺さらず、はじきとばされる。

ナイフがささらず驚く亀田。

巨腕のゴリラはドラム缶のような右手を後ろまで大きく振りかぶると、
すさまじい速さで亀田のわき腹に打ち込む。


バァン!!と音を立てて亀田が吹き飛ぶ。

亀田の体はきりもみし、血を撒き散らしながら空き地のすみまでゴロゴロと吹き飛んだ。


夜空「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

126: トウニュー 2011/10/28(金) 23:44:40.80 ID:saC22zk/o
暴力行為が行われていることに気づいた夜空が悲鳴を上げる。


石田「オアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

石田がナイフを頭上に振りかぶって、1.5mの巨腕のゴリラに突き刺そうとする。

巨腕のゴリラはナイフが突き刺さる前に、ドラム缶のような腕を下の方向に振りかぶり、
下から石田にアッパーを打った。


バアアァァン!!とすさまじい音がして、石田の体がすさまじい速さで打ち上げられる。

石田の体は血を撒き散らしながらビルの10階ほどの高さまで打ち上げられた。

空中できりもみしながらくるくると舞い、7秒ほどしてドチャッと地面に落下する。

127: トウニュー 2011/10/28(金) 23:46:59.71 ID:saC22zk/o
岡部たちの目はその光景に釘付けだった。

目は見開かれ、心臓はバクバクとなっている、
口からなにかがせりだしてくる感覚がきもちわるい。


オッオェェェエエエエエ!!!!


コダカという青年が胃の残留物を吐き出した。

128: トウニュー 2011/10/28(金) 23:49:10.60 ID:saC22zk/o
巨腕のゴリラは空き地のはしまで飛んでいった亀田に向かって歩き出した。


巨大な人間ゴリラのほうを見ると、ジョージが助けを求めていた。


ジョージ「た、助けて・・・助けてくだサーイ」


そのジョージに三人目の巨大なゴリラが近づき
ジョージの胸の辺りを指差す。


ジョージ「い、いや、殺さないで・・・ド、、ドンキル・・・」


ゴリラの人差し指がゆっくりとジョージの胸に吸い込まれる


ジョージ「オッオオオオアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


ジョージの体がビクンビクンと追撃した。

129: トウニュー 2011/10/28(金) 23:51:58.08 ID:saC22zk/o
岡部「見るな!まゆり!!」

その光景に釘付けとなって震えるまゆりの目を手で覆う。

覆った手からはまゆりがカタカタと震えるのが伝わってきた。



オオオオオオウウウェッ!!!


はしだも胃の残留物を吐き出した。



ブチブチッブチブチッ


小野寺をまさぐっていた一人目の人間ゴリラが
小野寺の体から何かを取り出す。

130: トウニュー 2011/10/28(金) 23:53:05.73 ID:saC22zk/o
クリス「岡部、アレ・・アレ・・・うぷっ!」

その光景を見たクリスが口を押さえる


人間ゴリラがとりだしたのは小野寺の肝臓だった。

明滅する弱い電灯で赤くてらてらと輝いて見える。


人間ゴリラははいているパンツをまさぐる。

そして、パンツのポケットからビンを取り出すと、
ふたをあけて小野寺の肝臓にサッサッと中の粉をかけた。

粉がふりかけられた肝臓を口もとに運び、食べた。


ムチャッムチャッムチャッムチャッ


そこまで見て岡部は目をそらした。



真夜中、薄い電灯がてらすグラウンドでは、猛獣による人間の捕食が行われていた

131: トウニュー 2011/10/28(金) 23:55:37.50 ID:saC22zk/o
再びブチッブチブチッと音が聞こえてくる。

岡部は目を伏せておそらくジョージの体があばかれているのだろうと想像した。

そこで思い出したように気がついた。

10人のうち4人が捕食されたが、それで終わりではないのではないか?

当然?自分達もやつらにとっては、捕食対象なのでは?

132: トウニュー 2011/10/28(金) 23:57:25.93 ID:saC22zk/o
ジョージのほうを見ると、
小野寺の肝臓を食べ終えた巨大ゴリラがこちらを見ていた。


岡部「あ、ああ・・・」


コダカと夜空もビクッとする

コダカ「に、逃げるぞ夜空・・・」

夜空「に、逃げ・・・」

声も出ず、ずりずりと後ろにあとずさる。


クリス「お、岡部・・・」

岡部「あ、あああ・・・」

クリス「岡部ぇ!!」

クリスに叫ばれ、はじかれたように体を動かす。


岡部「まゆり!ダル!逃げるぞ!」


コダカと夜空も人間ゴリラたちが来たほうと逆の道路に向かって走りだしている。

四人が振り返って走り出すと、後ろの歩く足音が走る音になったのが聞こえた。

133: トウニュー 2011/10/28(金) 23:59:49.67 ID:saC22zk/o
ダッダッダッダッダッ!


6人の男女が薄暗い道を全力で走る。


こんな夜中だからか、どこにも人がいない。


コダカ「た、たすけてええええええええええ!!!」

走りながら青年が叫ぶが、なんの反応もない


6人は道の角を曲がって走り続ける。

岡部が走りながら後ろを振り向くと、
さっきまがった角から黒い影があらわれるのが見えた。


岡部「うっうおおおおおおおお!!」


ゴリラ星人!?あれがゴリラ星人なのか!?

岡部は黒玉の部屋のことを思い出して思った。

ゴリラ星人を倒すって、あいつらを倒すのか!?


走りながら後ろから走る足音が大きくなっていくのが聞こえる。

134: トウニュー 2011/10/29(土) 00:01:18.35 ID:nz8aESfxo
できない!不可能だ!!

巨体のゴリラだけでもそもそも2mの人間を倒すだけでも難しいのに
人間に人間の肝臓を素手でとりだす力などない。


巨体ゴリラの足音がさらに大きくなる。距離をつめられているのだ。


それに巨腕のゴリラのほうはもっと悪い。

人間をグラウンドのはしまで殴りとばし、
そして10m以上上空に吹き飛ばすなど、いったいどれほどの腕力があれば可能なのだ?

あのドラム缶の腕で殴られたら、即死はまぬがれない。

135: トウニュー 2011/10/29(土) 00:03:05.52 ID:nz8aESfxo
クリス「まゆりっ!!」

クリスの叫び声で気がついた。


振り返ると、数メートル後方で転んだまゆりがこちらを見ていた。

黒いシルエットのまゆりの後ろには、巨体のゴリラが腕を大きく振り返っている。


岡部「あっ、まっ、まゆっ」

視線がまゆりに釘付けにされ、体が硬直する。


まゆり「くっ、きゃああああああああああああああ!!」


ゴリラの腕が振り下ろされ、まゆりの背中を激しく殴打した。

136: トウニュー 2011/10/29(土) 00:05:45.61 ID:nz8aESfxo
まゆり「きゃああああああああああああっ!!」


岡部「まゆりっ?」


岡部は強烈な違和感に襲われた。

ドキンドキンという心音と、風景がねじまがってしまいそうな感覚、そしてそれとは別の違和感である。

まゆりは叫び続けている。

しかし一度強力に殴られればあんなふうに叫び続けることはできないのではないか


ゴリラはなおもゴッゴッとまゆりを殴り続ける。

まゆりは叫びながらゴリラのほうに両腕をつきだした。

まゆり「こないで!!」

突き出した両腕がゴリラの胸を押し、

ゴリラの巨体が浮き、後方に吹き飛ばされる。

まゆり「えっ?えぇっ?」

137: トウニュー 2011/10/29(土) 00:09:12.96 ID:nz8aESfxo
混乱するまゆり。

そして吹き飛ばされた巨体ゴリラの後ろから、
あの巨腕のゴリラが走ってくる。


ダッダッダッダッダッ


まゆり「いやあああああああああああこないで!!」

まゆりはまた走ってくる腕ゴリラに両手を突き出した。

腕ゴリラはドラム缶の腕を走りながら振りかぶり。

まゆりを突き出した腕ごと殴った。



バァンッ!!!



轟音をあげ、まゆりが吹き飛ばされる。

数メートル吹き飛ばされ、岡部たちのところまで転がってきた。


クリス「いやあああああああああ!!!まゆり!!!まゆりぃいい!!!!」

クリスがまゆりにかけよる

岡部も一緒にまゆりのほうにかけよる



コダカ「いくぞ夜空!!逃げないと!!」

男女の二人が走り出した。

138: トウニュー 2011/10/29(土) 00:12:03.46 ID:nz8aESfxo
岡部「まゆり・・・?まゆり・・・?」

岡部が呼びかけると、まゆりは目を開いた

まゆり「オカリン?あれ、まゆしぃ、生きてる?」

岡部「まゆり、お前はいったい」

まゆりの体を見ると黒いラバー状の全身タイツの白い円状のアタッチメントの表面から
ドロっとした液体が流れ出している。

まゆり「あのね、こないでって突き出したら、すごい力が出たの」

そういって手を突き出してみせる

まゆり「でも、今は力が出ないみたいなのです」

岡部「いや、いい。とにかく逃げるぞ」


四人は先に走りだした二人の後ろを再び走り出した。

139: トウニュー 2011/10/29(土) 00:17:40.00 ID:nz8aESfxo
クリス「だ、だれか!だれかああああああああああ!!」


逃げながら助けを求めるが、まるで街から人がいなくなったみたいに誰もいない。


ダッダッダッダッダッ


再び後ろから人間ゴリラが走ってくる。



夜空「コダカ!こっちだ!!」


先を走る二人が道のT字路を曲がる。


岡部「クリス!ラボに向かう!」


あとに続く四人が道を直進する。


ダッダッダッダッダッ


一番先頭のゴリラがT字路を曲がって二人の男女を追いかける



コダカ「なんでこっちなんだよおおおおおおおおおおお!!」


曲がり角からそう叫ぶ声が聞こえた。

140: トウニュー 2011/10/29(土) 00:23:31.52 ID:nz8aESfxo
岡部が走りながら後ろを見ると、
二体目の腕ゴリラもT字路の角を曲がって二人を追った。

そのとき曲がり角のさきからキャアアアアアアアアアと叫び声が聞こえた。


クリス「三匹目がこっちに来てる!」

三体目の巨体ゴリラがこちらに走ってくる。


岡部「まゆりのスーツだ!ラボの三階にいくんだ!!」


ダッダッダッダッ


空き地からラボへは300メートルと少しほどである。

四人の目前の角を曲がればラボがある建物が見える。

141: トウニュー 2011/10/29(土) 00:26:35.94 ID:nz8aESfxo
はしだ「はっはっはっ、あのスーツでどうするん!?」

岡部「おそらくそういうことなんだ!あの金属球の部屋にいってからこうなった!
きっとあのスーツを着てゴリラ星人を殺せということだ!」

クリス「スーツ!?スーツをきたらどうなるの!?」

岡部「まゆりを見ただろう!?あのスーツには対衝撃性と動増強性がある可能性がある!!」
クリス「そんな!ありえない!!」



ダッダッダッダッダッ

巨体ゴリラが近づいてくる



岡部「ありえないことならさっきから見てきた!とにかくそれしかない!!このままじゃ全員やられる!!」

さっきから人影が見えない。そしてこのままではラボにつく前にゴリラに追いつかれる。

142: トウニュー 2011/10/29(土) 00:28:49.75 ID:nz8aESfxo
クリス「わかった」

クリスは立ち止まると、走ってくるゴリラに向き直る。


岡部「クリス!立ち止まるな!」

叫ぶ岡部をクリスはじっと見つめる。

クリス「私が時間を稼ぐわ、これでも多少の格闘技の心得がある」

それを聞いてまゆりもクリスにかけよる

まゆり「まゆしぃもクリスちゃんと戦うのです。ちょっとくらいなら足止めできると思います」

岡部はまゆりのスーツを見た。白い円状のアタッチメントから流れ出る液体。明らかにスーツに異常がある。対衝撃性が発動しない可能性があった。

岡部「まゆり・・・ダメだ・・・」

クリス「時間がない!行け!岡部!!」

はしだ「ガチガチガチ、俺のことはいいから先にいけオカリン!」
歯を鳴らしながらはしだが言う。

岡部は何も言わずラボに走った。

143: トウニュー 2011/10/29(土) 00:31:53.15 ID:nz8aESfxo
カンカンカンカンカン


階段を登り、ラボの上の部屋の玄関を開け、中に入る。

そこにはやはり、巨大な黒球があった。


なんのためにこんなものを

思いながら、急いでスーツを探す。

144: トウニュー 2011/10/29(土) 00:33:14.75 ID:nz8aESfxo
岡部「あった」


岡部と名前の書いてあるケースをあけると

まゆりの着ていた黒いラバー状のスーツがあった。


急いで服を脱ぎ、スーツを着る

着ながら横目にケースのふたの裏に書いてあるものを見つける


セツメショ(笑)


と書いてある字の下に

図で右腕の上腕部が青く塗られていた。


ためしに右腕をまさぐってみると


スーツの右腕上部が青白く光り始める


セツメショ?説明書ということか


だが悠長に説明を聞く時間はなかった、
岡部は急いで部屋を出た。

145: トウニュー 2011/10/29(土) 00:36:07.86 ID:nz8aESfxo
ダッダッダッダッダッ


さっきまでは想像だったが、このスーツの動増強性は確かだとわかった

さっきまでより移動速度がかなり速い。


道の角を曲がると、
三人の姿と道の前後で三人を囲む巨大ゴリラの姿が見えた。

クリスが両腕を前方に構え、ビュッッビュッと放たれるゴリラの腕をかわしている。
岡部のほうのゴリラはまゆりのスーツを警戒してか、距離を保っている。

146: トウニュー 2011/10/29(土) 00:38:46.57 ID:nz8aESfxo
岡部「クリス!!おまえらこっちだああああああ!!!」


岡部は叫び、全力で走る。


前方のゴリラが岡部のほうを向いた。


後方でクリスがもう一体のゴリラの腕をよけると
もう片方の腕がクリスの肩を掠める


ゴッ


クリスは回転し、はしだの足元まで転がった

クリス「うっ・・・くっ・・・」

クリスが眉を寄せる。

クリスを殴ったゴリラがクリスに近づく。



岡部の前方で構えるもう一体のゴリラ



岡部「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


岡部が足に力をこめると、スーツの脚部がメリメリと音をたてて
血管のような繊維が浮かび上がる。


岡部はアスファルトを割ってジャンプした。

147: トウニュー 2011/10/29(土) 00:41:07.24 ID:nz8aESfxo
岡部「おおおおっ!?」

ジャンプした岡部自身が驚いたほどだった。3mとるほど上空まで体が浮かび、
下を見ると目の前のゴリラが過ぎ去っていく。

岡部の体は大きく放物線を描き、前方のゴリラの上方を飛び越え、
後方のゴリラとクリスの間に着地した。
スーツの足部が衝撃を吸収し、ブシュウウウウゥゥゥゥゥ!!!と音を立てる。
岡部はスーツの性能に驚くとともに、
目の前の巨体のゴリラに集中した。



バッ

2mの巨体に片手をかざす。




148: トウニュー 2011/10/29(土) 00:46:12.06 ID:nz8aESfxo
岡部「蛮行はそこまでだゴリラ星人よ」


片手をかざして言うが、実際はこれでこの2mあるゴリラが殺せるのか疑問だった。

右の腰には黒い刀を下げてきていた。柄のボタンを押すと刀の刀身が伸びることを確認していた。


岡部の目前の巨体ゴリラが右腕を岡部に振りぬく。


ゴンッと鈍い音を立てる。

岡部は左腕で巨体ゴリラの腕を受ける。

受けた左腕に痛みはない

149: トウニュー 2011/10/29(土) 00:49:07.21 ID:nz8aESfxo
岡部「おおおおおおおおおっ」



岡部は右腕を振りかぶる。

右腕を覆うスーツがメキメキと音をたてて擬似筋繊維を浮き上がらせる

ボキィッ

骨が折れる音を立てて、岡部の右腕が巨体ゴリラのわき腹に突き刺さる


巨体ゴリラはウゴォっとうめき声をあげて倒れた


はぁっ、はぁっ

岡部「や、やったのか・・・?」


クリス「後ろ!岡部!!」



クリスの声ではっと振り返るともう一体の巨体ゴリラが

両腕を頭上であわせて、一息に岡部に振り下ろした

150: トウニュー 2011/10/29(土) 00:51:46.21 ID:nz8aESfxo
岡部は両腕を頭上でクロスし、
打ち下ろしを阻む

巨体ゴリラの両腕に押し下げられ、
岡部は体ごと両足をアスファルトにまりこませる。

151: トウニュー 2011/10/29(土) 00:52:33.53 ID:nz8aESfxo
岡部「あああああっ!!」



叫ぶと、巨体ゴリラの腕を振り払い、再度ゴリラが腕を振りかぶる前に
腰の刀の柄をとり、ボタンを押す。


刀の柄からシュンッと刀身があらわれる。

それを両手で持ち、体全体に力を込め、メキメキというスーツの音とともに下から逆袈裟斬りに打ち上げる。


ガガガッ


刀は巨体ゴリラの右腋から心臓部までを切り裂き、体に刺さったままとまった。

巨体ゴリラの体から浅黒い血が噴き出し、巨体は倒れた。

152: トウニュー 2011/10/29(土) 00:54:14.76 ID:nz8aESfxo
黒く塗りつぶされた夜の狭い通りで、
四人の男女と、倒れた人間ゴリラの巨体があった。


クリス「岡部、岡部、・・・そのスーツ、本当なの?」


岡部「はぁっ・・・はぁっ・・・」


岡部はしばらく息をついて、答えた。


岡部「ああ、信じがたいことだが・・・」


そう言って前方の暗闇を見つめる


岡部「だが、まだだ」


岡部の見つめる先にはドラム缶のような腕を引きずる
1.5mほどの巨腕のゴリラが口を赤くベトベトにして、
こちらに歩いてきていた。

153: トウニュー 2011/10/29(土) 01:02:16.37 ID:nz8aESfxo
ヒタッヒタッヒタッ



腕ゴリラが四人のいるほうに近づいてくる



あの腕はやばいな。ドキンドキンと打つ鼓動の音をわずらわしく感じながら思った。


途中で腕ゴリラの足が止まる。

ドラム缶のような腕がプランと揺れたかと思うと、
突然腕ゴリラの姿が消えた


そして次に腕ゴリラの姿を見たとき
すでに岡部の眼前でドラム缶の腕を下方に振りかぶっていた。


岡部「おおおおおおっ!?」

驚いて体をのけぞらせる、巨腕が岡部の鼻先をかすめ、
轟音とともに突風が吹き荒れる。

154: トウニュー 2011/10/29(土) 01:17:52.66 ID:nz8aESfxo
目の前には腕を上部に伸びきらせて上体をそらせる腕ゴリラ


岡部「ああああああああああああっ!!」


岡部は右腕を振りかぶり、スーツの擬似筋繊維がメキメキと音をたて、
腕ゴリラの腹部に殴りかかる


ブン


腕ゴリラは体をそらし、突き出された岡部の右腕を避ける

岡部はそのまま前のめりになる。


腕ゴリラは、ドラム缶の腕を振り上げ、
前のめりになっている岡部をめがけて振り下ろした


岡部「ひいっ・・・!」


岡部は足を前に出して踏みとどまり横にそれた。


ガァンッ!!!


あたりに轟音とアスファルトが飛び散る。


見ると、ドラム缶のような腕が半分ほどアスファルトにめり込んでいた。

155: トウニュー 2011/10/29(土) 01:21:37.91 ID:nz8aESfxo
岡部「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」



ドキン! ドキン! ドキン!


視界が赤く染まり、心臓の音が耳を打つ。



腕ゴリラを見ると、自販機の明かりに照らされた巨腕のゴリラは、クリスたちのほうに向き直っていた。

156: トウニュー 2011/10/29(土) 01:23:31.67 ID:nz8aESfxo
岡部「うおおおおおおおおおおおお!!」

叫びながら腕ゴリラに突進すると、腕ゴリラははじかれたように
岡部のほうに向き直りドラム缶のこぶしを放つ


ビュンッ


岡部はしゃがんで巨腕をかわす

そしてアッパー気味に右腕を腕ゴリラに突き刺す


ガッ


手ごたえが合った、だが岡部の右腕が打ちぬいたのは腕ゴリラのもうかたほうの巨腕だった。
まるで鉄を殴ったような感覚。恐ろしく硬く、ナイフで突き刺せないはずだと思った。


そして岡部の右腕を受けた巨腕のもう一方の腕が、岡部を右側から殴りつける。

157: トウニュー 2011/10/29(土) 01:25:05.33 ID:nz8aESfxo
バァァァァン!!!



世界が爆発した。

岡部は吹き飛ばされ、ガァンッと轟音をたて自販機を破壊し体をほとんどめり込ませた。

岡部は混乱しながら考えをめぐらせる


食らった!?スーツは大丈夫か!!?


スーツが壊れては勝つ見込みがなくなる。岡部は指先に力を込める。

するとスーツの擬似筋繊維がメキメキと音を立ててこたえた。まだスーツは使える。

158: トウニュー 2011/10/29(土) 01:28:38.07 ID:nz8aESfxo
岡部がめり込んだ自販機から起き上がる。

腕ゴリラを見ると、ヒタヒタとクリスたちのほうに歩いているのが見えた。


岡部「や、やめろ」

岡部はたたらを踏みながら腕ゴリラのほうにかける


気がつくと、腕ゴリラは岡部の懐に入っていて、
下から打ち上げた巨腕が岡部の腹部に突き刺さる。



バアァァァァン!!!



岡部の体の下方でダイナマイトが爆発したように岡部の体が上空に打ち上げられる。


岡部「はっ・・・はぁっ・・・!!」

地上10数メートルを滞空する岡部の目の前には深い藍色の空が広がっている。

体中がきしむ、スーツはまだ動くようだが、スーツの耐衝撃性を貫通して岡部の体に衝撃が走っていた。

地上を見る。岡部の目がさらに見開いた。

159: トウニュー 2011/10/29(土) 01:30:18.92 ID:nz8aESfxo
腕ゴリラが、岡部の落下地点でドラム缶の腕を大きく振りかぶっている。

腕ゴリラの筋肉がメリメリと浮き上がっている。


あ、あれは、スーツが持たない。落下しながら冷静に分析する。

何か、何かないか!

160: トウニュー 2011/10/29(土) 01:33:19.04 ID:nz8aESfxo
あたりを見回すが、岡部の回りには中空が広がっているだけである。

と、ふと自分の右腕が青白く光っているのが見えた。

右腕の上部から画面が浮き上がり、さまざまな文面が並んでいる。

あわてて文面を読む岡部の目に


ぼーぎょ


という文字が映る

161: トウニュー 2011/10/29(土) 01:35:03.81 ID:nz8aESfxo
ぼーぎょ、防御!


わらにもすがろうという思いでどうにか操作を進めようとする

右腕上部に移った画面を触ると、タッチパネルのように操作できることがわかった


ビュウウウウウウウウウウウウウウッ

地面が迫る


防御メニューを押し、操作すると

右腕の前方が青白く発光しだした

岡部が地面を見ると、巨腕のゴリラが眼前に近づいていた。

162: トウニュー 2011/10/29(土) 01:37:35.53 ID:nz8aESfxo
上空10数メートルに打ち上げられた岡部が落下してくる。

巨腕のゴリラはドラム缶のような巨大な腕を大きく振りかぶり
筋肉をメリメリと隆起させ、
岡部の落下にあわせて全力で振りぬいた!

すさまじい破壊力が振りぬかれる



バジバジ!!!!バジバジバジッ!!!!!!!



岡部の足部が落下の衝撃を吸収し、ブシュウウウと音を立てる。

腕ゴリラが全力で放った巨腕は、
岡部がかざした右腕の前方の青白い光の前でプラズマを発しながら制止していた。

163: トウニュー 2011/10/29(土) 01:40:32.15 ID:nz8aESfxo
ボォオオオンッ!!



岡部の右腕の前方でプラズマを発してブルブルと震えながら制止していた巨腕が
すさまじい爆発音を立てて跳ね上がった、跳ね上がる巨腕に引っ張られ、
腕ゴリラが後ろにのけぞる。


助かった!だがなにが起こった!?防御機能が働いたのか?

混乱しながら、目の前にノーガードの腕ゴリラが映る。ここしかない!



岡部「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

岡部は全身に力を込めて、スーツの軟体性外骨格が震え、擬似筋繊維がメリメリと音を立てて隆起する。


岡部は腕ゴリラの懐に飛びこみ、右腕を打ち込む

岡部が放った右腕が腕ゴリラの腹部にめり込む、
攻撃は一撃で終わらない。

さらに左腕を振りかぶり、
左下から腕ゴリラの腹部を打ち抜く


オゴォッ!!


腕ゴリラがうめき、たたらを踏んでよろめく。

そのよろめく腕ゴリラのアゴを、岡部の右腕が打ち抜く、
宙に打ち上げられた腕ゴリラは、放物線を描いて10メートル後方まで吹き飛ばされた。


164: トウニュー 2011/10/29(土) 01:44:49.34 ID:nz8aESfxo
岡部「はぁ・・・はぁ・・・」

やったか?これでいいのか?


腕ゴリラを見ると、
腕ゴリラはピクピク震えて、よろめきながら立ち上がろうとしていた。


岡部はゆっくりとクリスたちのほうに歩いていき、
巨体のゴリラに突き刺さった刀を抜いた。

165: トウニュー 2011/10/29(土) 01:46:44.12 ID:nz8aESfxo
ダッダッダッダッダッ


腕ゴリラが一直線に走ってくる


岡部は腕ゴリラの正面に立ち、
刀を両腕で持ち上げた。


岡部「おおおおおおおおおおおああああああっ!!!」

叫び、全身に力を入れる。

両腕を上げた岡部を包むスーツがビシビシ音を立て
筋繊維を浮き上げさせていく。


眼前の腕ゴリラに全力で刀を振り下ろす。

腕ゴリラは巨腕を持ち上げて防ごうとした、
防ごうとしたがさきほどの損傷で腕がすばやく上がらない。

刀が腕ゴリラの脳天をとらえ、ザザザザザッと
腕ゴリラを縦一文字に切り裂く。


巨腕のゴリラは縦に真っ二つに切り裂かれ、二手に分かれながら仰向けに倒れた。

166: トウニュー 2011/10/29(土) 01:49:19.84 ID:nz8aESfxo
クリス「岡部っ!」

脱力してへたりこむ岡部にクリスとはしだとまゆりがかけよる。

岡部「ああ助手よ、肩は大丈夫か?」

クリス「たいしたことないわ、それよりあなたよ。そのスーツ・・・」

クリスはそういうと岡部の着ている黒いラバー状のスーツをしげしげと眺める。

岡部「ああ、いったい誰がなんのためにこんなことをしているのかはしらんが」

右手を上げて見つめる

岡部「こいつはいいものだ」

167: トウニュー 2011/10/29(土) 01:52:56.86 ID:nz8aESfxo
まゆり「私たち助かったんだよね?ね?オカリン」

ダル「あんた、漢だったぜオカリン」

ダルが親指を立てる

岡部はあたりを見回す。

息たえた巨体のゴリラが二体。目の前には真っ二つの巨腕のゴリラ。

電灯が明滅し、そばの自販機は人一人ぶんがおさまるくらい破壊されつくしている。

ゴリラ星人とやらはこれで全部なのか?ほかにもいないとは限らない。もしそうだったら。

そう思いあたりを見回していると、再び四人に消失が起こり始めた。

168: トウニュー 2011/10/29(土) 01:55:31.36 ID:nz8aESfxo
四人がいたのは、黒球の部屋だった。

明かりはついておらず、カーテンのない窓の外から薄い光が差し込んでいる。

クリス「助かった?助かったのね私たち」

はしだ「いったいなんだったん?ここラボの上の部屋っしょ?」

息をつく岡部にまゆりが抱きつく

まゆり「オカリイイィィン!恐かった!まゆしぃはとても恐かったのです!」

岡部に抱きついたまゆりは声を上げて泣きはじめた。緊張が解けたのだろう。

169: トウニュー 2011/10/29(土) 01:58:09.34 ID:nz8aESfxo
四人のほかに、部屋には誰もいなかった。おそらく助からなかったのだろう。

岡部「とりあえず今日は帰ろう。ダル、まゆりをラボに連れて行ってやってくれ。クリスティーヌは俺と残ってくれ」

ダル「オッケー。ほらまゆしぃ、なきたいならいくらでも俺の胸で泣くといいぜ?」

まゆりはダルと一緒に三階の玄関を出た。


クリスは部屋の中央の黒球を見つめる

クリス「実に興味深いわ。今まで見た技術、明らかに現代科学を超越してる・・・」

クリスは黒球を見つめながら、しかし黒球に触ろうとはしない

クリス「一体誰が何のためにこんなことを・・・」

クリスは岡部のほうをむいた

クリス「ねぇ岡部、これって、世界線の変動と何か関係が?」

岡部「ふむ」

岡部はうつむいて考え込んだ。

170: トウニュー 2011/10/29(土) 02:01:05.74 ID:nz8aESfxo
事件から四日後、
岡部とまゆりは二人ラボで過ごしていた。


まゆり「ねぇオカリン、オカリンもからあげを食べませんか?」

からあげをほおばりながら雑誌を見ていたまゆりが岡部に声をかける。

岡部は床に座り込み、床に置いたPCの画面を見ていたが、まゆりの声に気がつき、時計を見ると、立ち上がって、冷蔵庫を開けてドクペをとると
まゆりが座るソファの向かいのイスに腰掛けた。

岡部「では少々いただくとしよう」

まゆり「クリスちゃん遅いねぇ、女の子が夜遅くで歩くのは関心しないのです」

岡部「クリスティーナは特別なミッションを受けているのだ、すぐ来るから心配するな」

まゆり「ごめんね、まゆしいが食料を食べ過ぎたのです。反省してます」

岡部「いやいい、食料の量を計り違ったこちらにも非があるのだ。主にじょ~しゅぅにな」

171: トウニュー 2011/10/29(土) 02:03:37.21 ID:nz8aESfxo
まゆり「ところでオカリン?今日のラボはものの配置がちょっと変なのです」

岡部「うむ」

まゆりが見渡したラボ内はPCが床に置かれ、いつもは棚の上にあるものが
すべて床の低い位置に下ろされている。

岡部「これは組織の陰謀と関係がある極秘機密だ、いかにまゆりといえど明かすわけにはいかないのだ、すまんな」

まゆり「オカリンには秘密が多いねー」

まゆりはそう言うと、ふと自分の胸元に視線を落とす

まゆり「あれ?」

驚くまゆり、岡部の目線はまゆりの胸元に掲げられた懐中時計をとらえていた。

まゆり「あれー、まゆしぃの懐中時計、故障しているのです。おかしいなぁ、最近修理したばっかりだったのに」

172: トウニュー 2011/10/29(土) 02:05:34.98 ID:nz8aESfxo
岡部「まゆり、これからお前に最重要命令を下す」

岡部の声にまゆりはハッとしたようにこたえる

まゆり「はっ、ハイ」

岡部「今すぐ俺がいいというまでソファにうつぶせになって目をつぶっていろ。俺がいいというまで絶対だ、いいな」

まゆりは言われるままにソファにつっぷした。こもった声で岡部にたずねる

まゆり「こ、これでいい、オカリン?」

そのとき、ラボの玄関がバンッと開き、マシンガンで武装した男が三人飛び込んできた、
男達が岡部とまゆりにむかって銃を構えようとした。

そのとき、男達は違和感に気づいた


男「うっうわあああああああああっ!?」

男が悲鳴を上げる、男たちが自分の腕を見ると、それぞれの肘から先が消失し、
その消失部分から激しく出血していた。

173: トウニュー 2011/10/29(土) 02:09:18.32 ID:nz8aESfxo
覆面の仲間が玄関から突撃したのを見ていたほかの覆面たちが異常に気づく

そしてさらに異変、崩れ落ちる三人の男達のほうから、
棒状に閃くなにかと、プラズマをまとったかげろうがこちらに接近してくる。


ヒュンッヒュンヒュンヒュンヒュンッ


ラボの玄関から建物の入り口にかけて、
棒状の閃光とプラズマのかげろうが数名の覆面の男達をすり抜けて通り過ぎると、
覆面の腹部は切り裂かれ、ズトッと腕が落ち、
次々に覆面たちが悲鳴を上げ始める。

174: トウニュー 2011/10/29(土) 02:11:47.85 ID:nz8aESfxo
建物の外に待機していた数十名の覆面たちも建物の中からあがるいくつもの悲鳴に気づく

建物の入り口が陽炎でゆがんだかと思うと
道路の真ん中で陽炎がゆがんだ


バチチチチッバチチチッ


何もない空間が陽炎にゆがみ

そこから人影が、
全身を黒いラバー状のスーツでぴったりと身をつつんだ牧瀬クリスが、
青白く閃く黒い刀を肩にかけて姿を現した。


クリス「おっとナイフに持ち替えたほうがいいんじゃないかしら?仲間に当たるわよ?」


目に見えて動揺する覆面の男達に
あいたてをつきだし人差し指をたてて横にふる


クリス「チッチッチッ、お楽しみはこれからなんだぜ?」

175: トウニュー 2011/10/29(土) 02:18:43.46 ID:nz8aESfxo
ラボの室内で玄関でもがき、息絶えた覆面たちに目をやり、外から立て続けに聞こえる断末魔の悲鳴を聞いて、
始まったか、と岡部は思った。

まゆり「なに?なになに?オカリン?もういい、もういいの?」

岡部「まだだまゆり」

岡部はそういいながら、向かいの窓を見つめていた。

向かいの窓にいくつもの人影が見える。

バリィンッと音をたてて窓ガラスが割られる

窓からはいくつものマシンガンの銃口が伸び、
岡部の後ろでソファに伏せるまゆりにむけられていた。


ガガガガガガガガガガガッ!!!!


いくつもの銃口から数十発の弾丸が吐き出される。

窓から岡部をはさんでまゆりに銃弾が向かう

岡部は窓の覆面たちに向かって右手を突き出す。

岡部の前方が青白く発光しはじめた



バジジジジジッ  バジジジッ



窓のいくつものマシンガンから放たれた数十発の銃弾は、
岡部の突き出した右腕の前方で完全に静止していた。

176: トウニュー 2011/10/29(土) 02:21:15.63 ID:nz8aESfxo
青白い発光が終わると、ザラザラザラと床に銃弾が落ちていく。


岡部「フッフッフッ」

右腕を突き出しながら岡部が笑う

岡部「歓迎しよう機関の戦闘員どもよ」

バッバッ

両手を上にかかげ、クロスし、横に突き出す

岡部「だがむべなるかな、この地獄のムァ~ッドサイエンティスツ、ふぉうおういんきょ~うまがじきじきに相手をしてやるるるるるおう!!」

バッバッ ポーズをとりニヤリと笑った


覆面の男達は混乱しながらも、
ナイフを抜いて窓から侵入してきた。


177: トウニュー 2011/10/29(土) 02:23:08.18 ID:nz8aESfxo
ラボの外ですべての覆面を切り落としたクリスは部屋で銃声がするのと、
岡部の大声を聞いた。

そしてラボがある建物の向かいの建物の屋上に目をやる。


ダッダッダッダッ


向かいの建物に走り


ダンッ


上空に飛んだ


クリスの体が上空に飛翔し、放物線を描いて
向かいの建築物のコンクリートの屋上に着地する


屋上に着地したクリスは大声で叫んだ


クリス「岡部!準備完了!!」

178: トウニュー 2011/10/29(土) 02:25:40.23 ID:nz8aESfxo
岡部の眼前に覆面の男が突進してきた

岡部はスーツの筋繊維をメリメリ緊張させラボの置くに蹴り飛ばした。

次に突撃してきた覆面のナイフをかわし、上からこぶしを打ち下ろして
覆面を床に叩きつける。二人の覆面はおそらく即死しただろう。

その間にラボには覆面たちが7人、窓から侵入していた。

岡部はまゆりのほうに後ずさった。


クリス「岡部!準備完了!!」


クリスの声を聞いて岡部は叫んだ!

岡部「かまわん!やれ!オペレーションヴァルキュリアスを発動せよ!!」


そういうと岡部は急いで床に突っ伏した。

179: トウニュー 2011/10/29(土) 02:29:26.38 ID:nz8aESfxo
岡部「オペレーションヴァルキュリアスを発動せよ!!」


岡部の声を聞いて、
クリスはラボの向かいの建物の屋上から、
ラボのほうを見て刀を構えた。


刀を水平に構えて、柄のスイッチを押す、


シュイイイイイイイン


すると刀がどんどんと伸びていき、水平に10mほどにまでの刀身になった。



クリス「ほおおおおおおおおおおおおおああっ」

クリスが全身に力を込めクリスをつつむスーツがメリメリと音を立てて筋繊維を浮き上がらせる

両手でもった刀が、すさまじい力で横一線に振られ、10mの刀身が

ラボの向かいの建物からラボの真ん中を横一線に切り裂いた

180: トウニュー 2011/10/29(土) 02:31:08.05 ID:nz8aESfxo
ガガガガガガガッ


ラボの内部、床から1m上あたりを黒い刀身が水平に切り裂いていく


鋭い刀身が7人の覆面たちの腹部を真っ二つに切り裂き、
覆面たちは血液と腸を撒き散らしながらドサドダと上半身と下半身を別々にして崩れ落ちる。


ドサドサという音を聞いて岡部は顔を上げる。

するとそこには14個の上半身と下半身、そしておびただしい血液の池ができあがっていた。

181: トウニュー 2011/10/29(土) 02:33:08.71 ID:nz8aESfxo
岡部「これはひどいな」


岡部は振り返ってまゆりを見た。

岡部「まゆり、まゆり?生きてるか?」

まゆりは動かない

岡部は静かにまゆりに手を置く

まゆり「オカリン、もういい?まゆしぃはちょっと恐くなってきたのです」

生きている、まゆりが生きている、
岡部は意外なことがあったような、混乱した感覚で
まゆりを抱きしめた

まゆり「ひゃっ、どうしたのオカリン?」

岡部「ぐすっ、まゆり、よかった。うぐ、まゆりぃ」

嗚咽を漏らしながらまゆりを抱きしめる岡部に、
まゆりは何度ももう目をあけていいかと聞いていた。

182: トウニュー 2011/10/29(土) 02:36:06.97 ID:nz8aESfxo
ラボの襲撃事件から二日後、
岡部は一人ラボの建物の三階の部屋に座っていた。

目の前には黒い金属球が鎮座している。

薄暗い部屋の中にカーテンから陽光がさしている。


岡部「まゆりは今も生きている。ダイバージェンスの壁を越えたのは間違いじゃなかった」


黒球の前で岡部は続ける


岡部「この黒球がいったいなんで、だれがどんな目的でここにおいているのかわからないが、今まゆりを死なせずにすんだ。俺にはそれがすばらしい」

岡部は手に持った黒いラバー状のスーツを黒球の前に置いた。


岡部「誰か聞いているか?これはあなたに返す。もう使うこともあるまい」


岡部はしばらく黒い球を見つめると、スッと立ち上がり
部屋をあとにした。


ガチャとドアをあけ、玄関から外に出る。


玄関のドアが閉められ、部屋には黒い金属球だけがのこった。


薄暗い何もない部屋、その中央で黒い球は何も言わずにただそこにあった。


























しゅうりょう