2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:49:06.33 ID:OKbqyPri0
暗い牢獄で一人の男が、壁に何かを書き続けていた。
彼の名は火野神作。大量殺人の罪で投獄されている死刑囚だ。
エンゼル様 エンゼル様、彼の書いている文は、第三者にとっては
意味のない言葉が並べてあるだけだろう。彼は目に見えない友人と話しているのだ。
いや、友人とは正確な言葉ではないだろう。エンゼル様は彼にとっての主君、神なのだ。
突然、火野神作は声を上げた。
「火野よ、ここを出るぞ」
その声は別人のようだ。彼の精神を支配しているエンゼルさまの出した声だった。
かつて彼が自分の心のよりどころとして、自分の行為を正当化するために作り出した
もう一つの人格は、今では彼のほとんどを支配してしまっていた。
火野に残されていたのは、体の自由のみ。精心はすっかりエンゼル様のものだ。
その日、火野神作は脱獄した。
時刻は午前2時
壁に残された文字には、ルーン文字が混じっていた。
彼の名は火野神作。大量殺人の罪で投獄されている死刑囚だ。
エンゼル様 エンゼル様、彼の書いている文は、第三者にとっては
意味のない言葉が並べてあるだけだろう。彼は目に見えない友人と話しているのだ。
いや、友人とは正確な言葉ではないだろう。エンゼル様は彼にとっての主君、神なのだ。
突然、火野神作は声を上げた。
「火野よ、ここを出るぞ」
その声は別人のようだ。彼の精神を支配しているエンゼルさまの出した声だった。
かつて彼が自分の心のよりどころとして、自分の行為を正当化するために作り出した
もう一つの人格は、今では彼のほとんどを支配してしまっていた。
火野に残されていたのは、体の自由のみ。精心はすっかりエンゼル様のものだ。
その日、火野神作は脱獄した。
時刻は午前2時
壁に残された文字には、ルーン文字が混じっていた。
引用元: ・姫神秋沙VS火野神作
ヴァイスシュヴァルツ 【 姫神 秋沙 】 IDW10-094-C 《 とある魔術の禁書目録 》
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3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:49:39.04 ID:OKbqyPri0
火野神作が牢獄から抜け出してから十二時間後、
土御門は窓の無いビルで逆さ吊りの人影と向き合っていた。
「火野神作が脱獄した」
逆さ吊りの人影、学園都市統括理事長アレイスター・クロウリーは唐突にこう切り出した。
「朝からニュースでやってたからな、それくらいは知ってる。
世間話をするために呼んだのか?」
「君に頼みたいことがあるんだ。
火野神作を殺して欲しい」
アレイスターの発言があまりに予想外だったため、土御門は少しの間
言葉を失った。
「いったい、何のつもりだ?」
「信じられないかも知れないが、火野神作は能力者だ」
アレイスターの話によると、学園都市はAIM追跡等の能力を使い、
学園都市外部にいる能力者の位置や数を定期的に観測しているらしい。
火野神作のもとから反応があったのは、つい最近との事。
能力の正体は不明だという。
「仮に火野が能力者だったとして、どうして『殺す』なんて話になるんだ?
研究対象にするために捕獲するのではなくて?」
「その能力が問題なのだ。 この写真を見てくれ
火野が脱獄する数日前から書いていたと思われるものだが…」
「これは…魔道書!?」
アレイスターに手渡された写真には、明らかに日本語ではない文字が混じっている。
「能力の正確な正体は不明だが、火野は
なんらかの能力でこれらの情報を集めた、と推測できる」
「ちょっと待て、なんでこれだけで火野が能力者だと決め付ける?
魔術師が火野に知識を与えただけかも知れないぞ」
「私もそう思ったのだがね。 そこに書かれている魔道書を一度に集めるのは、
不可能だと判断せざるをえないんだ。
君たちの上司、最大主教にも問い合わせてみたんだがね。
それに、死刑囚に魔道書を渡すことに何か、意味があるか?」
沈黙が流れた。厄介ごとばかり押し付けられていた土御門だったが、
今回の件は流石に理解に苦しむ。火野の目的が理解できないためだ。
だが、火野が脅威であることには変わりない。
土御門はアレイスターの依頼を受けた。
土御門は窓の無いビルで逆さ吊りの人影と向き合っていた。
「火野神作が脱獄した」
逆さ吊りの人影、学園都市統括理事長アレイスター・クロウリーは唐突にこう切り出した。
「朝からニュースでやってたからな、それくらいは知ってる。
世間話をするために呼んだのか?」
「君に頼みたいことがあるんだ。
火野神作を殺して欲しい」
アレイスターの発言があまりに予想外だったため、土御門は少しの間
言葉を失った。
「いったい、何のつもりだ?」
「信じられないかも知れないが、火野神作は能力者だ」
アレイスターの話によると、学園都市はAIM追跡等の能力を使い、
学園都市外部にいる能力者の位置や数を定期的に観測しているらしい。
火野神作のもとから反応があったのは、つい最近との事。
能力の正体は不明だという。
「仮に火野が能力者だったとして、どうして『殺す』なんて話になるんだ?
研究対象にするために捕獲するのではなくて?」
「その能力が問題なのだ。 この写真を見てくれ
火野が脱獄する数日前から書いていたと思われるものだが…」
「これは…魔道書!?」
アレイスターに手渡された写真には、明らかに日本語ではない文字が混じっている。
「能力の正確な正体は不明だが、火野は
なんらかの能力でこれらの情報を集めた、と推測できる」
「ちょっと待て、なんでこれだけで火野が能力者だと決め付ける?
魔術師が火野に知識を与えただけかも知れないぞ」
「私もそう思ったのだがね。 そこに書かれている魔道書を一度に集めるのは、
不可能だと判断せざるをえないんだ。
君たちの上司、最大主教にも問い合わせてみたんだがね。
それに、死刑囚に魔道書を渡すことに何か、意味があるか?」
沈黙が流れた。厄介ごとばかり押し付けられていた土御門だったが、
今回の件は流石に理解に苦しむ。火野の目的が理解できないためだ。
だが、火野が脅威であることには変わりない。
土御門はアレイスターの依頼を受けた。
4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:50:05.17 ID:OKbqyPri0
土御門が火野神作の殺害を依頼された頃と同時刻、
一人の警官が通報を受け、ある山間部に入っていった。
付近の住民から、怪しい五人ほどの人影が入っていくのを目撃したという
通報があったのだ。
普段なら気にかけないことだが、今は死刑囚が脱獄したという状況下であった。
火野神作には狂信的な信者が幾人かおり、
マークしていた連中の内、四人の行方が昨夜からわからなくなっていたのだ。
この五人が火野とその信者であるという証拠はなかったが、それでも調べる価値はある。
彼らが何をたくらんでいるのかはわからないが、
それはこの警官にとって問題ではなかった。
彼はまだ若く、自身が脱獄犯の再逮捕につながる重要な役割を果たせると期待していた。
そのため、自身が追っている相手の危険性をいささか軽視してしまっていたのだ。
一人の警官が通報を受け、ある山間部に入っていった。
付近の住民から、怪しい五人ほどの人影が入っていくのを目撃したという
通報があったのだ。
普段なら気にかけないことだが、今は死刑囚が脱獄したという状況下であった。
火野神作には狂信的な信者が幾人かおり、
マークしていた連中の内、四人の行方が昨夜からわからなくなっていたのだ。
この五人が火野とその信者であるという証拠はなかったが、それでも調べる価値はある。
彼らが何をたくらんでいるのかはわからないが、
それはこの警官にとって問題ではなかった。
彼はまだ若く、自身が脱獄犯の再逮捕につながる重要な役割を果たせると期待していた。
そのため、自身が追っている相手の危険性をいささか軽視してしまっていたのだ。
5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:50:33.86 ID:OKbqyPri0
警官が怪しい五人組を追っていたころ、学園都市のとある高校で
こんなやり取りが行われていた。
「上条君。顔色が悪いけど。どうしたの?」
話かけたのは姫神秋沙。上条当麻のクラスメイトである。
「上条さんはちょっとした事情で寝不足なのです」
いかにも眠そうに上条は答えた。昨晩も、何か厄介ごとに首をつっこんでいたのだろう。
まったく仕方が無い男だ。
そんな彼の様子を見て、姫神はあることを思いついた。
「上条君。少し試したいことがあるのだけれど。協力してくれる?」
「別にいいけど。何を試したいんだ?」
姫神は、それに答えずに、上条の額に手をやる。
いったい何を、そう思った瞬間。上条は時間が消し飛んだかのように感じた。
「いったい何が? 時計の針が十分進んでる…」
貴重な休み時間が何者かに削り取られてしまったのか?
しかし、そうではなかった。
「よく眠れた?」
「姫神…何をしたんだ?」
「私の能力で血の流れを操って。脳を眠っている時と同じ状態にしたの。」
「なるほど、確かに体が軽くなった気がするな。頭もはっきりしてるみたいだ」
姫神の話によると、学園都市の能力開発によって彼女はできることが増えたらしい。
吸血殺し本来の力はコントロールできないが、自分自身や触れた相手の血流を操ったり
血液を凝固させたり、自分にとって害となる不純物を
血中から浄化することができるという。
そんなやり取りをしているうちに、チャイムが鳴った。
こんなやり取りが行われていた。
「上条君。顔色が悪いけど。どうしたの?」
話かけたのは姫神秋沙。上条当麻のクラスメイトである。
「上条さんはちょっとした事情で寝不足なのです」
いかにも眠そうに上条は答えた。昨晩も、何か厄介ごとに首をつっこんでいたのだろう。
まったく仕方が無い男だ。
そんな彼の様子を見て、姫神はあることを思いついた。
「上条君。少し試したいことがあるのだけれど。協力してくれる?」
「別にいいけど。何を試したいんだ?」
姫神は、それに答えずに、上条の額に手をやる。
いったい何を、そう思った瞬間。上条は時間が消し飛んだかのように感じた。
「いったい何が? 時計の針が十分進んでる…」
貴重な休み時間が何者かに削り取られてしまったのか?
しかし、そうではなかった。
「よく眠れた?」
「姫神…何をしたんだ?」
「私の能力で血の流れを操って。脳を眠っている時と同じ状態にしたの。」
「なるほど、確かに体が軽くなった気がするな。頭もはっきりしてるみたいだ」
姫神の話によると、学園都市の能力開発によって彼女はできることが増えたらしい。
吸血殺し本来の力はコントロールできないが、自分自身や触れた相手の血流を操ったり
血液を凝固させたり、自分にとって害となる不純物を
血中から浄化することができるという。
そんなやり取りをしているうちに、チャイムが鳴った。
6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:51:13.75 ID:OKbqyPri0
火野と思われる人物を追っていた警官は、自分が長い間気絶していたことに気づいた。
空は夕暮れ。時計を見ると、どうやら三時間ほど経過しているようだった。
(いったい何が? たしか五人の人影を見つけて…思い出せない)
とりあえず山を降りることにした。
山を降りた彼は、しばらくすると周りの様子が何かおかしいことに気づいた。
人が見当たらないのだ。 言いようの無い不安感にかられたが、彼は先を急いだ。
「火野神作だな?」
突然声をかけられた。
振り返ると、金髪で、サングラスをかけた男が立っている。
(見たところ警官ではなさそうだが、味方だろうか? 火野神作を追っているようだ)
自分の得た手がかりを教えようと、彼が口を開いた瞬間。
一発の銃声が鳴り響いた。
撃ったのは、彼に声をかけた金髪の男。
警官は、撃たれたのが自分だという事実に気づくことはなく事切れた。
「あっけなかったな」
警官を撃った土御門は、人払いを解除した。
幸いなことに、魔術の使用でかかった負担は軽かった。
空は夕暮れ。時計を見ると、どうやら三時間ほど経過しているようだった。
(いったい何が? たしか五人の人影を見つけて…思い出せない)
とりあえず山を降りることにした。
山を降りた彼は、しばらくすると周りの様子が何かおかしいことに気づいた。
人が見当たらないのだ。 言いようの無い不安感にかられたが、彼は先を急いだ。
「火野神作だな?」
突然声をかけられた。
振り返ると、金髪で、サングラスをかけた男が立っている。
(見たところ警官ではなさそうだが、味方だろうか? 火野神作を追っているようだ)
自分の得た手がかりを教えようと、彼が口を開いた瞬間。
一発の銃声が鳴り響いた。
撃ったのは、彼に声をかけた金髪の男。
警官は、撃たれたのが自分だという事実に気づくことはなく事切れた。
「あっけなかったな」
警官を撃った土御門は、人払いを解除した。
幸いなことに、魔術の使用でかかった負担は軽かった。
7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:51:49.47 ID:OKbqyPri0
時は警官が火野を追って山に入る直前へとさかのぼる。
火野神作、いやエンゼル様の能力は簡単なものだ。
人の手によって書かれた文字、描かれた絵や図形、撮られた写真などを、『好きな時』
『好きなだけ』閲覧できる というものだ。
たとえコンピュータ内の情報であっても、誰かが『書いた』ものであれば閲覧できる。
この能力を使い、エンゼル様は、信者達の日記を閲覧し、信頼できる者を集めたのだ。
火野神作は、自身の下へ集ってきた信者を集め、ある儀式を行っていた。
儀式の手順は、エンゼル様が魔道書から得た知識によって推測した物だ。
複雑な魔術を、少人数でも実行でき、かつ身近にある道具で行えるようなものに
組み替えたのだ。独学で。
その儀式の内容とは?
(このまま死刑囚の体に囚われたまま生を終えてなるものか。)
火野神作が自らを救ってくれる存在として作り上げたエンゼル様だったが、
そのエンゼル様は、火野を救うことなどまったく考えていなかった。
火野神作という檻から抜け出すこと。 エンゼル様の頭にはそのことしかなかった。
自身の能力で、風斬氷華というAIM拡散力場の集合体が、
意思と体を持ったという記録を発見したエンゼル様。
彼は、超能力ではなく
ただの人間にも使える魔術を代用品として
自分の体を作り上げる方法を編み出したのだ。
儀式は、比較的短時間で終わった。一時間もかからなかっただろう。
死刑囚である火野神作が使える時間は限られている。
エンゼル様はそれを見越して、術式を簡略化したのだ。
さらに、能力者である火野は儀式に参加できないことを
必要悪の教会のレポートから閲覧したエンゼル様は、
信者の中から手駒として使える者を調べて召集をかけたのだ。
準備は完璧だった。しかし
「やはり、不完全だったか」
術式の構成が甘かったのか。専門家ではないエンゼル様の知るところではないが、
儀式によって作り出されたエンゼル様の体は完全なものではなかった。
具現化したエンゼル様の姿は、術者達が神聖視しているもの―少女の姿をしていた。
しかし、はっきりした存在ではない。幽霊のようにその体は薄く透き通っている。
「目も見えず、音も聞こえない。失敗だな」
エンゼル様は、自分の発した声を火野の耳で聞き、自分の姿を火野の目で捉えていた。
(直ちに別の手段を検索しなくては…)
落胆するエンゼル様をよそに、信者達は自分達が魔術を使ったという事実に色めき立つ。
そんな彼らの様子を眺めていた者がいる。例の警官だった。
火野神作、いやエンゼル様の能力は簡単なものだ。
人の手によって書かれた文字、描かれた絵や図形、撮られた写真などを、『好きな時』
『好きなだけ』閲覧できる というものだ。
たとえコンピュータ内の情報であっても、誰かが『書いた』ものであれば閲覧できる。
この能力を使い、エンゼル様は、信者達の日記を閲覧し、信頼できる者を集めたのだ。
火野神作は、自身の下へ集ってきた信者を集め、ある儀式を行っていた。
儀式の手順は、エンゼル様が魔道書から得た知識によって推測した物だ。
複雑な魔術を、少人数でも実行でき、かつ身近にある道具で行えるようなものに
組み替えたのだ。独学で。
その儀式の内容とは?
(このまま死刑囚の体に囚われたまま生を終えてなるものか。)
火野神作が自らを救ってくれる存在として作り上げたエンゼル様だったが、
そのエンゼル様は、火野を救うことなどまったく考えていなかった。
火野神作という檻から抜け出すこと。 エンゼル様の頭にはそのことしかなかった。
自身の能力で、風斬氷華というAIM拡散力場の集合体が、
意思と体を持ったという記録を発見したエンゼル様。
彼は、超能力ではなく
ただの人間にも使える魔術を代用品として
自分の体を作り上げる方法を編み出したのだ。
儀式は、比較的短時間で終わった。一時間もかからなかっただろう。
死刑囚である火野神作が使える時間は限られている。
エンゼル様はそれを見越して、術式を簡略化したのだ。
さらに、能力者である火野は儀式に参加できないことを
必要悪の教会のレポートから閲覧したエンゼル様は、
信者の中から手駒として使える者を調べて召集をかけたのだ。
準備は完璧だった。しかし
「やはり、不完全だったか」
術式の構成が甘かったのか。専門家ではないエンゼル様の知るところではないが、
儀式によって作り出されたエンゼル様の体は完全なものではなかった。
具現化したエンゼル様の姿は、術者達が神聖視しているもの―少女の姿をしていた。
しかし、はっきりした存在ではない。幽霊のようにその体は薄く透き通っている。
「目も見えず、音も聞こえない。失敗だな」
エンゼル様は、自分の発した声を火野の耳で聞き、自分の姿を火野の目で捉えていた。
(直ちに別の手段を検索しなくては…)
落胆するエンゼル様をよそに、信者達は自分達が魔術を使ったという事実に色めき立つ。
そんな彼らの様子を眺めていた者がいる。例の警官だった。
8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:52:20.85 ID:OKbqyPri0
警官は自分の目にした現象が理解できなかった。
魔術によって幽霊のようなものが生み出される。
この事実を即座に受け止められる人間はいないだろう。
彼が動揺したのも無理はなかった。しかし、その動揺が命取りとなる。
急いでその場を離れようとしたことがかえって仇となった。
「誰だ!?」
落ち葉によって転んでしまった警官の下へ信者が群がる。
警官は、恐怖で自分が銃を持っていることさえ忘れてしまっていた。
「やめろ!近づくな!」
おびえた声を上げる警官に対して、火野神作がとった行動はシンプルだった。
死刑囚は、その手に石をつかみ、警官の後頭部を殴りつけた。
「まだ殺すなよ、そいつには利用価値がある。」
エンゼル様はそう言うと、火野に
自分の皮膚を一部剥ぎ取ることを命じた。
『火野神作』になった警官が撃ち殺された頃。
エンゼル様一行は、学園都市へ潜入していた。
警備は厳重だが、完璧ではない
インデックスが入ることができたように、どこかに穴があるのだ。
エンゼル様が学園都市に入ったのは、一人の能力者のためだ。
(吸血鬼…アウレオルスのレポートにあったこいつらなら、
私を完全に具現化してくれる可能性がある)
吸血殺し、この力を使えば吸血鬼を呼び寄せられる。
火野に携帯電話を持たせ、信者達に姫神を捜索させる。
姫神の住所等は既に能力で閲覧しているため、
早く型がつくだろうとエンゼル様は踏んでいた。
(念のために人払いを使ってあるが、学園都市暗部組織にも魔術師はいるからな)
姫神の持つ霊装が、人払いを無効化することまでエンゼル様は閲覧済みだった。
魔術によって幽霊のようなものが生み出される。
この事実を即座に受け止められる人間はいないだろう。
彼が動揺したのも無理はなかった。しかし、その動揺が命取りとなる。
急いでその場を離れようとしたことがかえって仇となった。
「誰だ!?」
落ち葉によって転んでしまった警官の下へ信者が群がる。
警官は、恐怖で自分が銃を持っていることさえ忘れてしまっていた。
「やめろ!近づくな!」
おびえた声を上げる警官に対して、火野神作がとった行動はシンプルだった。
死刑囚は、その手に石をつかみ、警官の後頭部を殴りつけた。
「まだ殺すなよ、そいつには利用価値がある。」
エンゼル様はそう言うと、火野に
自分の皮膚を一部剥ぎ取ることを命じた。
『火野神作』になった警官が撃ち殺された頃。
エンゼル様一行は、学園都市へ潜入していた。
警備は厳重だが、完璧ではない
インデックスが入ることができたように、どこかに穴があるのだ。
エンゼル様が学園都市に入ったのは、一人の能力者のためだ。
(吸血鬼…アウレオルスのレポートにあったこいつらなら、
私を完全に具現化してくれる可能性がある)
吸血殺し、この力を使えば吸血鬼を呼び寄せられる。
火野に携帯電話を持たせ、信者達に姫神を捜索させる。
姫神の住所等は既に能力で閲覧しているため、
早く型がつくだろうとエンゼル様は踏んでいた。
(念のために人払いを使ってあるが、学園都市暗部組織にも魔術師はいるからな)
姫神の持つ霊装が、人払いを無効化することまでエンゼル様は閲覧済みだった。
9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:52:57.99 ID:OKbqyPri0
学生寮に向かっていた姫神は、突如周囲の異変に気づいた。
(人が。いない?)
視界には一人の人間も見当たらず、彼女の『自分だけの現実』
――周囲の人間の血の流れを感知する力――にもなんの反応もなかった。
(いや。一人いる。けど。様子がおかしい)
姫神が感知した人間は、なぜか異常に興奮していた。
突如、その人間の脈拍が速くなる。
(攻撃しようとしている!?)
姫神はとっさに横へ跳んだ。
直後、空を裂くような音をたて、四本のワイヤーが、
先ほどまで姫神がいた位置を通過する。
いったい何が、と思う間に、飛んできたときと同じようなスピードで
ワイヤーは発射された所に戻った。
(あのワイヤーの動き。すごく不自然。攻撃が目的じゃないみたいだった。)
ワイヤーは持ち主の下へ戻る際、丸まりながら戻っていったのだ。
さながら何かを捕まえようとしているかのように。
姫神は路地裏へ逃げこんだ。広い場所では分が悪すぎる。
(警備員に連絡しないと…)
(エンゼル様の言うとおりだ)
姫神を追ってきた男はワイヤーを構えた。
彼の使う術式は、天草式の七閃を簡略化したものだ。
相手を捕らえることに特化しており、素人でも簡単に扱うことができる。
彼はエンゼル様の指示でこの場所までたどり着いたのだ。
「絶対に逃がしてなるものか。 すべてはエンゼル様のため」
彼は携帯電話で仲間へ連絡した。
(人が。いない?)
視界には一人の人間も見当たらず、彼女の『自分だけの現実』
――周囲の人間の血の流れを感知する力――にもなんの反応もなかった。
(いや。一人いる。けど。様子がおかしい)
姫神が感知した人間は、なぜか異常に興奮していた。
突如、その人間の脈拍が速くなる。
(攻撃しようとしている!?)
姫神はとっさに横へ跳んだ。
直後、空を裂くような音をたて、四本のワイヤーが、
先ほどまで姫神がいた位置を通過する。
いったい何が、と思う間に、飛んできたときと同じようなスピードで
ワイヤーは発射された所に戻った。
(あのワイヤーの動き。すごく不自然。攻撃が目的じゃないみたいだった。)
ワイヤーは持ち主の下へ戻る際、丸まりながら戻っていったのだ。
さながら何かを捕まえようとしているかのように。
姫神は路地裏へ逃げこんだ。広い場所では分が悪すぎる。
(警備員に連絡しないと…)
(エンゼル様の言うとおりだ)
姫神を追ってきた男はワイヤーを構えた。
彼の使う術式は、天草式の七閃を簡略化したものだ。
相手を捕らえることに特化しており、素人でも簡単に扱うことができる。
彼はエンゼル様の指示でこの場所までたどり着いたのだ。
「絶対に逃がしてなるものか。 すべてはエンゼル様のため」
彼は携帯電話で仲間へ連絡した。
10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:53:26.05 ID:OKbqyPri0
(おかしい。電話はつながっているのに)
姫神は焦りを感じていた。
おかしいのだ。
電話は完全に警備員のもとへ届いており、通話もできている。
しかし、その警備員は、こちらの教えた場所には来ない。
それどころか、まったく別の場所を右往左往するばかり。
(ひょっとして、魔術? アウレオルスも似たようなことをしていたような…)
こういった事態に、学園都市の警備員は対処できないだろう。
こういった事態に対応できる人物を、姫神は一人しか知らない。
姫神は、自分を三沢塾で救ってくれた少年に電話をかけた。
「姫神か。 どうした?」
「助けて上条君!」
姫神の様子はただ事ではないようだ。
「どうした姫神!何があった!?」
「わからない。けど、魔術だと思う。」
姫神は警備員がいっこうに来ないこと。敵が妙な力を使ってきたことを話した。
「待ってろ。すぐに行く!場所は?」
「この路地裏入り組んでいるから現在地がよくわからない。メールで写真を送るから
それを目印にして」
姫神は電話を切ったようだ。直後、メールが送られてくる。
「とうま、どこ行くの?」
上条が出かけようとした矢先、彼の同居人であるインデックスが声をかけた。
「姫神から電話があった。魔術師に襲われてるって」
「だったら私も行くんだよ。そういうことは専門分野だし」
「いや、ここに残っててくれインデックス。急いでるんだ。
足の速さが違うおまえを連れて行けないし、やってもらいたいことがある。」
「やってもらいたいこと?」
「ああ」
上条は、姫神が自分に助けを求める際、メールで写真を送って
自分の位置を教えたことを話した。
「この写真から姫神の位置を探りだして向かうなんて、オレ一人ではできそうもない。
完全記憶能力ってやつで、最短ルートを教えてくれないか。」
「わかったんだよ!」
インデックスは上条の携帯電話を手にした。
機械が苦手な彼女だったが、最近ではそれも克服しつつある。
姫神は焦りを感じていた。
おかしいのだ。
電話は完全に警備員のもとへ届いており、通話もできている。
しかし、その警備員は、こちらの教えた場所には来ない。
それどころか、まったく別の場所を右往左往するばかり。
(ひょっとして、魔術? アウレオルスも似たようなことをしていたような…)
こういった事態に、学園都市の警備員は対処できないだろう。
こういった事態に対応できる人物を、姫神は一人しか知らない。
姫神は、自分を三沢塾で救ってくれた少年に電話をかけた。
「姫神か。 どうした?」
「助けて上条君!」
姫神の様子はただ事ではないようだ。
「どうした姫神!何があった!?」
「わからない。けど、魔術だと思う。」
姫神は警備員がいっこうに来ないこと。敵が妙な力を使ってきたことを話した。
「待ってろ。すぐに行く!場所は?」
「この路地裏入り組んでいるから現在地がよくわからない。メールで写真を送るから
それを目印にして」
姫神は電話を切ったようだ。直後、メールが送られてくる。
「とうま、どこ行くの?」
上条が出かけようとした矢先、彼の同居人であるインデックスが声をかけた。
「姫神から電話があった。魔術師に襲われてるって」
「だったら私も行くんだよ。そういうことは専門分野だし」
「いや、ここに残っててくれインデックス。急いでるんだ。
足の速さが違うおまえを連れて行けないし、やってもらいたいことがある。」
「やってもらいたいこと?」
「ああ」
上条は、姫神が自分に助けを求める際、メールで写真を送って
自分の位置を教えたことを話した。
「この写真から姫神の位置を探りだして向かうなんて、オレ一人ではできそうもない。
完全記憶能力ってやつで、最短ルートを教えてくれないか。」
「わかったんだよ!」
インデックスは上条の携帯電話を手にした。
機械が苦手な彼女だったが、最近ではそれも克服しつつある。
11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:53:54.45 ID:OKbqyPri0
(上条君に連絡はした… けどこの状況は一人で切り抜けなきゃいけないみたい)
姫神は路地裏を走っていた。
『自分だけの現実』を使えば敵の位置は把握できるが、
それでも飛び道具の使える敵のほうが有利だ。
一直線上になった通路に入ったが最後、姫神はワイヤーにとらわれてしまうだろう。
(敵を早めに無力化しないと)
あせる姫神だったが、あるものが目に入った。
ビールの空き瓶と、それを入れるためのケースだ。
(これで、なんとか…)
姫神は罠をしかけることにした。
12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:54:35.59 ID:OKbqyPri0
(見失ったか!?)
姫神を追っていた男は曲がり角で敵を見失っていた。
その路地にある分かれ道は三つ、敵はどこにいったのか?
(火野様の指示を待つか…?)
その時、視界に何か動くものが。
路地の通路から通路へと動く何ものかの影。
男は反射的に自身の術式を使った。
しかし、捕まったのは人間ではなかった。ビールのケースだ。
(なんだこれ。囮のつもりか?)
そう思っていると腕に小さな痛みが。ビールのケースには、割れたビール瓶の
破片が固まった血でいくつか貼り付けてあった。
(こんなもので、倒せるとでも思っているのか? おめでたいやつだ)
男はこのケースの飛んできた方向や、動き方から姫神の位置を推測。
追跡を再開するが…
次の瞬間、男はあまりの激痛に叫び声をあげた。
見ると、ガラスが刺さっていた部分がひどい炎症をおこしている。
姫神を追っていた男は曲がり角で敵を見失っていた。
その路地にある分かれ道は三つ、敵はどこにいったのか?
(火野様の指示を待つか…?)
その時、視界に何か動くものが。
路地の通路から通路へと動く何ものかの影。
男は反射的に自身の術式を使った。
しかし、捕まったのは人間ではなかった。ビールのケースだ。
(なんだこれ。囮のつもりか?)
そう思っていると腕に小さな痛みが。ビールのケースには、割れたビール瓶の
破片が固まった血でいくつか貼り付けてあった。
(こんなもので、倒せるとでも思っているのか? おめでたいやつだ)
男はこのケースの飛んできた方向や、動き方から姫神の位置を推測。
追跡を再開するが…
次の瞬間、男はあまりの激痛に叫び声をあげた。
見ると、ガラスが刺さっていた部分がひどい炎症をおこしている。
13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:55:02.18 ID:OKbqyPri0
この男の身に何が起こったのか?
『吸血殺し』 その能力は吸血鬼を殺すこと、そして血液を操作することだ。
そしてその血液は、能力者本人、つまり姫神秋沙にとって
生物的に危険な物を自動で排除してしまうのだ。
その能力射程距離は姫神の半径約50メートル内
生物の外にある時は普通の血液とは変わりない。
しかし、一度生物の体に入り込むと、その『深い血』としての活動を開始。
生物にとって、他の生物の組織とは『有害な物』だ。
そのため姫神の血液は、入り込んだ生物を、内側から侵食してしまうのだ。
『吸血殺し』 その能力は吸血鬼を殺すこと、そして血液を操作することだ。
そしてその血液は、能力者本人、つまり姫神秋沙にとって
生物的に危険な物を自動で排除してしまうのだ。
その能力射程距離は姫神の半径約50メートル内
生物の外にある時は普通の血液とは変わりない。
しかし、一度生物の体に入り込むと、その『深い血』としての活動を開始。
生物にとって、他の生物の組織とは『有害な物』だ。
そのため姫神の血液は、入り込んだ生物を、内側から侵食してしまうのだ。
14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:55:38.39 ID:OKbqyPri0
苦痛に呻く男に特殊警棒が振り下ろされる。
姫神愛用の『魔法のステッキ』だ。
電流が流れるようになっており、非力な彼女でも人一人簡単に気絶させることができる。
(早く離れないと。この人は死んでしまうかもしれない)
『深い血』が効力を発揮するのは、姫神の半径50メートル内にあるときだけだ。
一度射程距離から離れれば、普通の血液になり、姫神の体内に入らない限り、
二度と被害を及ぼすことは無い。
血液型が違えば影響を及ぼすかもしれないが、入った血はわずかなので問題はないだろう。
姫神は、敵が再び襲ってこないように、ワイヤーを回収し、その場を離れた。
姫神愛用の『魔法のステッキ』だ。
電流が流れるようになっており、非力な彼女でも人一人簡単に気絶させることができる。
(早く離れないと。この人は死んでしまうかもしれない)
『深い血』が効力を発揮するのは、姫神の半径50メートル内にあるときだけだ。
一度射程距離から離れれば、普通の血液になり、姫神の体内に入らない限り、
二度と被害を及ぼすことは無い。
血液型が違えば影響を及ぼすかもしれないが、入った血はわずかなので問題はないだろう。
姫神は、敵が再び襲ってこないように、ワイヤーを回収し、その場を離れた。
15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:56:15.78 ID:OKbqyPri0
「もしもし上条君」
姫神は上条へと電話をかけた。敵が一人とは限らないため、早く合流したほうがいい。
「はい、上条なんだよ」
しかし電話に出たのは、上条ではなかった。彼の同居人、インデックスだ。
「いったい。なんであなたが。」
インデックスは、完全記憶能力を使い、自分が上条をナビゲートしていることを話した。
「今、当麻は…」
インデックスの話を聞いて、姫神は驚愕した。
「それ。ここから反対の方向…」
「えっ!でもあいさがこっちだってメールしたんだよ」
いったい何が起こっているのか。
姫神は一度電話を切った。そして、受信したメールを確認する。
敵に位置を悟られないように、サイレントマナーにしておいたので
メールが来たことに気づかなかったのだ。
「多すぎる」
姫神が送信したメールは多くても5回程度だった。
しかし、インデックスからの返信は、その倍以上の数であった。
(どうやっているのかはわからないけど、敵は私になりすましてメールしているみたい。)
嘘の情報があることを伝えたかったが、インデックスが騙されたということは、
敵はこちらのメールをなんらかの方法で読んでから、書く内容を決めたのだろう。
下手に手を出すと、逆に混乱を招きかねない。
(なんとかして伝えないと…)
16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:56:46.66 ID:OKbqyPri0
火野神作が何故なりすましのメールをおくることができたのか。
彼の信者の中に、機械に強い者がいた。
彼はメールを別人に替わって発信する技術を作り出したのだ。
この技術が、火野神作逮捕を妨げたことはいうまでもない。
彼は追っていた男からの連絡で、姫神の現在地をとらえている。
さらに、彼の追っている獲物は、Eメールで幻想殺しと連絡をとっている。
このチャンスを逃すエンゼル様ではなかった。
(うまくいけば、私にとって一番危険な幻想殺しを始末できる)
風斬の例から、自分にとって上条が一番危険だということは閲覧済み。
さらにこの上条、過去にさまざまな事件に突っ込んでいる。
見ず知らずの他人まで命を懸けて守ろうとする男だ。
知人なら言うまでもないだろう。
今回の件にも遅かれ早かれ絡んでくる、とエンゼル様は考えていたが、
その解決法が思いつかなかったのだ。
しかし、この姫神の送信したメールを能力で閲覧することで、その解決策を思いつく。
自身の配下の魔術師の張った罠に上条をおびき寄せればよい。
エンゼル様にはそのための道具があった。
彼の信者の中に、機械に強い者がいた。
彼はメールを別人に替わって発信する技術を作り出したのだ。
この技術が、火野神作逮捕を妨げたことはいうまでもない。
彼は追っていた男からの連絡で、姫神の現在地をとらえている。
さらに、彼の追っている獲物は、Eメールで幻想殺しと連絡をとっている。
このチャンスを逃すエンゼル様ではなかった。
(うまくいけば、私にとって一番危険な幻想殺しを始末できる)
風斬の例から、自分にとって上条が一番危険だということは閲覧済み。
さらにこの上条、過去にさまざまな事件に突っ込んでいる。
見ず知らずの他人まで命を懸けて守ろうとする男だ。
知人なら言うまでもないだろう。
今回の件にも遅かれ早かれ絡んでくる、とエンゼル様は考えていたが、
その解決法が思いつかなかったのだ。
しかし、この姫神の送信したメールを能力で閲覧することで、その解決策を思いつく。
自身の配下の魔術師の張った罠に上条をおびき寄せればよい。
エンゼル様にはそのための道具があった。
17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:57:23.97 ID:OKbqyPri0
(敵はこちらのメールを受信している 電話も傍受して先読みしてくる可能性もある)
姫神が追い込まれた状況はかなり過酷といえるだろう。
敵は何人いるかわからないが、少なくとも、
こちらの情報を知ることができる者がいるのは確か。
さらに、男から離れたにもかかわらず。
人払いが解除されてないのだ。
姫神は魔術に詳しいわけではなかったが、自身が幾度か事件に関わったため、
人払いの特性はおおよそ把握していた。
人間を無意識的に遠ざける魔術。
その効果範囲は、術式の設置している場所、または設置した人間から
幾分か離れた円状の範囲のはず。
何故男から離れているにも関わらず術式が解除されていないのか
(既に新しい敵が近づいているということ? こちらのメールを閲覧したのか、
あの襲ってきた男から知らされたのか…)
姫神は携帯を取りだす。 一か八かの賭けに出ることにしたのだ。
(あの子は完全記憶能力を持っている。ならば…)
姫神が追い込まれた状況はかなり過酷といえるだろう。
敵は何人いるかわからないが、少なくとも、
こちらの情報を知ることができる者がいるのは確か。
さらに、男から離れたにもかかわらず。
人払いが解除されてないのだ。
姫神は魔術に詳しいわけではなかったが、自身が幾度か事件に関わったため、
人払いの特性はおおよそ把握していた。
人間を無意識的に遠ざける魔術。
その効果範囲は、術式の設置している場所、または設置した人間から
幾分か離れた円状の範囲のはず。
何故男から離れているにも関わらず術式が解除されていないのか
(既に新しい敵が近づいているということ? こちらのメールを閲覧したのか、
あの襲ってきた男から知らされたのか…)
姫神は携帯を取りだす。 一か八かの賭けに出ることにしたのだ。
(あの子は完全記憶能力を持っている。ならば…)
18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:57:52.14 ID:OKbqyPri0
「わかったんだよ」
姫神のメールを受信した完全記憶能力を持つ少女は、
隠されたメッセージに気づき、行動を開始
学園都市のナビゲーションシステムにアクセスする。
交通機関の管理のため、人の流れを観測する機能だ。
本来は、このデータからAIによって導き出された最短ルート等を入手するための
サイトだが、インデックスが閲覧していたのはそのデータそのものだ。
「やっぱり敵は複数いるみたい」
人払いが単純なためか、周囲の人間は術式から円状に離れていた。
そのため、人のいない範囲から敵の位置と数は容易に推測できる。
姫神を襲ってきた男が単独行動していたことから、敵は別れて行動していると
推測できる。
一つの人払いに複数の魔術師がついている可能性は低いだろうと
インデックスは判断した。
彼女は秘密の暗号のメールを姫神に送った。
(敵に悟られないようにとうまをあいさのところまで誘導しなきゃ)
インデックスは外へ出た。上条に暗号を伝えるのは難しいと判断した彼女は
直接彼に伝えることにしたのだ。
姫神のメールを受信した完全記憶能力を持つ少女は、
隠されたメッセージに気づき、行動を開始
学園都市のナビゲーションシステムにアクセスする。
交通機関の管理のため、人の流れを観測する機能だ。
本来は、このデータからAIによって導き出された最短ルート等を入手するための
サイトだが、インデックスが閲覧していたのはそのデータそのものだ。
「やっぱり敵は複数いるみたい」
人払いが単純なためか、周囲の人間は術式から円状に離れていた。
そのため、人のいない範囲から敵の位置と数は容易に推測できる。
姫神を襲ってきた男が単独行動していたことから、敵は別れて行動していると
推測できる。
一つの人払いに複数の魔術師がついている可能性は低いだろうと
インデックスは判断した。
彼女は秘密の暗号のメールを姫神に送った。
(敵に悟られないようにとうまをあいさのところまで誘導しなきゃ)
インデックスは外へ出た。上条に暗号を伝えるのは難しいと判断した彼女は
直接彼に伝えることにしたのだ。
19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:58:30.51 ID:OKbqyPri0
(しまった…)
新手の追っ手から逃げていていた姫神。
彼女が現在いる位置はなにかの工場。
走っている途中、大通りに出てしまった姫神。
直線状、姿を捉えられないルートを選択することに集中するあまり、
かえって追い詰められてしまったのだ。
(チャンスかも知れない。この時間帯だから電源を落とせば
こちらの位置はわからなくなる。)
姫神は、血流を感知することで、敵の位置を割り出せる。
互いに姿の見えない状況なら彼女のほうが有利だろう。
姫神は、ブレーカーを目指して急いだ。
彼女がブレーカーにたどり着く前に、工場に重低音が鳴り響く。
(今。人払いで工場は誰もいないはず。ということは敵の仕業)
敵は工場の扉を閉めていたのだ。
敵が扉の開閉スイッチの位置や操作法をわかっているのは不思議だったが
姫神は考えないことにした。
姫神がブレーカ-を落とすと同時に、工場の扉が閉まった。
あたりは暗闇に包まれる。
(敵は裏口から離れてる)
薄暗い中、目を凝らして工場の見取り図(どのスイッチがどのセクションに
対応しているかを知らせるため、ブレーカーの近くには見取り図があった)を眺め、姫神
は考えた。
(このまま逃げてしまおう)
裏口まで到達し、扉に手をかけドアノブをひねる。しかし、
(動かない…)
鍵がかかっているわけでもないのに、ドアは一向に開こうとしない。
いや、それどころか姫神からまったく影響を受けてないのだ。
(アウレオルスが使ってたコインの結界!?)
「見つけたぞ」
姫神がたてた音が大きかったためか、彼女は敵に見つかってしまった。
新手の追っ手から逃げていていた姫神。
彼女が現在いる位置はなにかの工場。
走っている途中、大通りに出てしまった姫神。
直線状、姿を捉えられないルートを選択することに集中するあまり、
かえって追い詰められてしまったのだ。
(チャンスかも知れない。この時間帯だから電源を落とせば
こちらの位置はわからなくなる。)
姫神は、血流を感知することで、敵の位置を割り出せる。
互いに姿の見えない状況なら彼女のほうが有利だろう。
姫神は、ブレーカーを目指して急いだ。
彼女がブレーカーにたどり着く前に、工場に重低音が鳴り響く。
(今。人払いで工場は誰もいないはず。ということは敵の仕業)
敵は工場の扉を閉めていたのだ。
敵が扉の開閉スイッチの位置や操作法をわかっているのは不思議だったが
姫神は考えないことにした。
姫神がブレーカ-を落とすと同時に、工場の扉が閉まった。
あたりは暗闇に包まれる。
(敵は裏口から離れてる)
薄暗い中、目を凝らして工場の見取り図(どのスイッチがどのセクションに
対応しているかを知らせるため、ブレーカーの近くには見取り図があった)を眺め、姫神
は考えた。
(このまま逃げてしまおう)
裏口まで到達し、扉に手をかけドアノブをひねる。しかし、
(動かない…)
鍵がかかっているわけでもないのに、ドアは一向に開こうとしない。
いや、それどころか姫神からまったく影響を受けてないのだ。
(アウレオルスが使ってたコインの結界!?)
「見つけたぞ」
姫神がたてた音が大きかったためか、彼女は敵に見つかってしまった。
20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:59:06.77 ID:OKbqyPri0
「巨人に苦痛の贈り物を!」
男が叫ぶと、彼のもとから炎が湧き出す。
エンゼル様が魔道書から得た知識で、ステイルが使う魔術を不完全ながら再現したのだ。
(掠るだけでも危ない。といって近づくわけにもいかない)
姫神がとれる行動は二つ。敵と戦うか、コインの結界の穴をついて逃げるかだ。
敵に見つかってしまった状況、しかも敵は飛び道具をもっているのだ。
接近戦しかできない姫神には不利な状況だ。前者の選択肢は除外できる。
とりあえず姫神は逃げることを選択。
風の吹き出しているところを探す。
逃走を始めた姫神。
(風が上に向かって流れてる。換気扇以外だといいけど)
祈るような気持ちで姫神は上り始めた。
敵の攻撃を避けながら階段を上がっていた姫神だったが…
(? おかしい。敵は攻撃しているはず…なのに、炎が飛んでくるのは
掠めもしない位置ばかり)
ここで姫神は、先ほど自分を襲ってきたワイヤー使いのことを考えた。
敵は何故ワイヤーを使ったのか。
熟練した魔術師の手にかかれば、確かにワイヤーも恐ろしい凶器となりうる。
しかし、敵の使い方は攻撃を意図したものではなかった。
ワイヤーが張り、そして再び丸められた形へと戻る。
これは、相手を捕まえる動きではないだろうか。
(この炎も私を捕まえるために? でも。炎でどうやって?)
敵が何を意図しているかはわからなかったが、チャンスのようだ。
姫神は階段を上りきった。開いている窓はすぐに見つかった。
しかし
(そんな…あれじゃ届かない)
窓は工場上部、機械の力で開閉するタイプの窓で、直接たどり着けない位置にあった。
だが姫神はあきらめない。工場の上部からは部品を組み立てるためなのか、
細いコードでつながれたドライバー等のツールがおりている。
普通の空間なら、壊れやすく、とても人間を支えることはできないだろう。
だが、今は普通の空間ではない。コインの結界の中なのだ。
結界の中では、『表』にあるものは『裏』にあるものから一切の干渉を受けない。
つまり、『裏』からどれほどの力を加えようと、
ティッシュペーパー一枚破ることはできないのだ。
この法則は、当然このコードにも適用される。
姫神はコードに一番近い足場まで寄った。
男が叫ぶと、彼のもとから炎が湧き出す。
エンゼル様が魔道書から得た知識で、ステイルが使う魔術を不完全ながら再現したのだ。
(掠るだけでも危ない。といって近づくわけにもいかない)
姫神がとれる行動は二つ。敵と戦うか、コインの結界の穴をついて逃げるかだ。
敵に見つかってしまった状況、しかも敵は飛び道具をもっているのだ。
接近戦しかできない姫神には不利な状況だ。前者の選択肢は除外できる。
とりあえず姫神は逃げることを選択。
風の吹き出しているところを探す。
逃走を始めた姫神。
(風が上に向かって流れてる。換気扇以外だといいけど)
祈るような気持ちで姫神は上り始めた。
敵の攻撃を避けながら階段を上がっていた姫神だったが…
(? おかしい。敵は攻撃しているはず…なのに、炎が飛んでくるのは
掠めもしない位置ばかり)
ここで姫神は、先ほど自分を襲ってきたワイヤー使いのことを考えた。
敵は何故ワイヤーを使ったのか。
熟練した魔術師の手にかかれば、確かにワイヤーも恐ろしい凶器となりうる。
しかし、敵の使い方は攻撃を意図したものではなかった。
ワイヤーが張り、そして再び丸められた形へと戻る。
これは、相手を捕まえる動きではないだろうか。
(この炎も私を捕まえるために? でも。炎でどうやって?)
敵が何を意図しているかはわからなかったが、チャンスのようだ。
姫神は階段を上りきった。開いている窓はすぐに見つかった。
しかし
(そんな…あれじゃ届かない)
窓は工場上部、機械の力で開閉するタイプの窓で、直接たどり着けない位置にあった。
だが姫神はあきらめない。工場の上部からは部品を組み立てるためなのか、
細いコードでつながれたドライバー等のツールがおりている。
普通の空間なら、壊れやすく、とても人間を支えることはできないだろう。
だが、今は普通の空間ではない。コインの結界の中なのだ。
結界の中では、『表』にあるものは『裏』にあるものから一切の干渉を受けない。
つまり、『裏』からどれほどの力を加えようと、
ティッシュペーパー一枚破ることはできないのだ。
この法則は、当然このコードにも適用される。
姫神はコードに一番近い足場まで寄った。
21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 15:59:37.97 ID:OKbqyPri0
「エンゼル様。敵に一酸化炭素は効果がないようです」
「そうか、予想はしていたが厄介だな。吸血殺しの能力で有害な気体をブロックしたか。
まあ、生きてさえいればいい。 手足を切り落とせ」
「わかりました」
男は攻撃の手段を火炎から斬撃に切り替えた。
炎剣。ステイルが使うものは、自身の接近戦の力を高めるための補助用術式だが、
この男の術式は遠距離攻撃に特化し、斬撃を飛ばせるようになっていた。
これは割りと簡単な応用でできることだ。
ステイルがこれを使わないのは、単に効率が悪いからである。
だが、相手を殺さず無力化しなければならない場合には向いている。
「くらえ!」
男は姫神に狙いをつけ、炎の斬撃を飛ばす。
姫神は、まさにコードにつかまっているところだった。
「そうか、予想はしていたが厄介だな。吸血殺しの能力で有害な気体をブロックしたか。
まあ、生きてさえいればいい。 手足を切り落とせ」
「わかりました」
男は攻撃の手段を火炎から斬撃に切り替えた。
炎剣。ステイルが使うものは、自身の接近戦の力を高めるための補助用術式だが、
この男の術式は遠距離攻撃に特化し、斬撃を飛ばせるようになっていた。
これは割りと簡単な応用でできることだ。
ステイルがこれを使わないのは、単に効率が悪いからである。
だが、相手を殺さず無力化しなければならない場合には向いている。
「くらえ!」
男は姫神に狙いをつけ、炎の斬撃を飛ばす。
姫神は、まさにコードにつかまっているところだった。
22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:00:13.70 ID:OKbqyPri0
「しまった!」
斬撃をかろうじて避けた姫神だったが、その弾みでロープから手が離れた。
落ちていく―
落下することを予期した姫神はあらかじめ手に傷をつけていた。
そして、落下しつつ、地面に向かって血を噴出させた。
地面に血が触れた瞬間、吸血殺しの能力で、自分の血をゆっくりと凝固させる。
粘度の高い血液をクッションにして、落下の衝撃を和らげたのだ。
落下のダメージはなかったが、危機的状況に変わらない。
血を流しすぎて体は貧血気味。しかも、敵は何のダメージも負っていないのだ。
(敵の攻撃が正確になった。私を捕まえようとしているのだとしたら どうやって?)
先ほどの攻撃が直線的だったことから、姫神はコードが多数おりているエリアに隠れる。
敵にわざと攻撃させ、何が狙いで、どんな攻撃を仕掛けてくるか探るためだ。
コインの結界で敵の攻撃は遮断される―はずだった。
「!?」
コードの隙間から敵の様子を伺っていた姫神。
敵の攻撃は横方向に直線な炎を飛ばしてくるものだった。
斬撃で手足を切り落とし、運動能力を奪うつもりだということは容易に推測できた。
姫神にとって予想外だった出来事は敵の攻撃がコードに触れた瞬間に起こった。
敵の攻撃が、コードをすり抜けたのだ。
いや正確にはすり抜けたのではない。コードに触れていない部分が進み続けたのだ。
斬撃が一体となって進む。姫神は勝手にそう思い込んでしまっていたのだ。
「痛っ」
かろうじてかわした姫神だったが、敵の斬撃は彼女の左ひざ部分をかすめていった。
幸い傷は深くなかったが、もともと貧血状態であった姫神の運動能力は、さらに低下。
足を引きずって物陰の隠れようとするが、敵との距離は着実に縮まっていく。
(敵が走らないのは。私のステッキを警戒してのこと。
私が動けない状態になるのを待ってる)
接近戦に持ち込まなければ勝ち目はない。
姫神は賭けに出た。
斬撃をかろうじて避けた姫神だったが、その弾みでロープから手が離れた。
落ちていく―
落下することを予期した姫神はあらかじめ手に傷をつけていた。
そして、落下しつつ、地面に向かって血を噴出させた。
地面に血が触れた瞬間、吸血殺しの能力で、自分の血をゆっくりと凝固させる。
粘度の高い血液をクッションにして、落下の衝撃を和らげたのだ。
落下のダメージはなかったが、危機的状況に変わらない。
血を流しすぎて体は貧血気味。しかも、敵は何のダメージも負っていないのだ。
(敵の攻撃が正確になった。私を捕まえようとしているのだとしたら どうやって?)
先ほどの攻撃が直線的だったことから、姫神はコードが多数おりているエリアに隠れる。
敵にわざと攻撃させ、何が狙いで、どんな攻撃を仕掛けてくるか探るためだ。
コインの結界で敵の攻撃は遮断される―はずだった。
「!?」
コードの隙間から敵の様子を伺っていた姫神。
敵の攻撃は横方向に直線な炎を飛ばしてくるものだった。
斬撃で手足を切り落とし、運動能力を奪うつもりだということは容易に推測できた。
姫神にとって予想外だった出来事は敵の攻撃がコードに触れた瞬間に起こった。
敵の攻撃が、コードをすり抜けたのだ。
いや正確にはすり抜けたのではない。コードに触れていない部分が進み続けたのだ。
斬撃が一体となって進む。姫神は勝手にそう思い込んでしまっていたのだ。
「痛っ」
かろうじてかわした姫神だったが、敵の斬撃は彼女の左ひざ部分をかすめていった。
幸い傷は深くなかったが、もともと貧血状態であった姫神の運動能力は、さらに低下。
足を引きずって物陰の隠れようとするが、敵との距離は着実に縮まっていく。
(敵が走らないのは。私のステッキを警戒してのこと。
私が動けない状態になるのを待ってる)
接近戦に持ち込まなければ勝ち目はない。
姫神は賭けに出た。
23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:02:27.18 ID:OKbqyPri0
「もう逃げられない。あきらめろ」
姫神は壁際に追い詰められてしまった。
飛び道具を持った相手に、壁際まで追い詰められる。
これは一見不利な状況だ。
しかし、姫神は意図してこの状況をつくったのだ。
男は姫神に向かって炎を放つ。その狙いは?
当然足だ。足をねらって動けなくするのがこの男の目的なのだ。
姫神はこれを読んでいた。全力を振りしぼって跳躍し、炎の斬撃を飛び越える。
「空中では自由も利くまい」
男は第二弾を構える。
姫神はこのタイミングで、自身に血流操作の能力を使った。
『火事場の馬鹿力』という言葉がある。
人間は普段はその力の大半をセーブしており、危機が迫った時に
その力を解放するということをあらわした言葉だ。
姫神は、自身の血液を操作し、脳に『危機が迫っている』という情報が伝わるように
仕向けた。
解き放たれた力は、姫神の負ったダメージを補って余りある。
そして、この追い詰められたという状況。
はじめの炎剣をさけた際、姫神は壁に向かって飛んでいた。
三角跳びの要領で、壁を蹴る。
男がどの方向に攻撃を行うつもりなのか、姫神は正確に予想できた。
脳に危険信号を送った時に得られたのは、筋力だけではない。
試合中、ボクサーは相手の動きがスローモーションで見えることがあるという。
その原因は、化学物質が分泌され、脳の処理速度が驚異的に上昇しているためだ。
血流操作で危険信号を送られた姫神の脳は、一時的にこの圧倒的処理能力を得たのだ。
「何っ!?」
急激に上昇した姫神の身体能力に、男は一瞬判断能力を失う。
それでも炎剣を放つことができたのは、素人にしては上出来といえるだろう。
だが、隙ができたことに変わりはない。
姫神は空中で身をひねって斬撃をかわし、着地と同時に男に向かって突進。
手についた傷口を開き、血流操作で血を噴出させる。そして、
飛び出した血を一瞬でかため、血の刃を作った。
いまだ対応できていない男に近づくと、その胸に刃をつきたてる。
男の口から悲鳴があがった。
だが、姫神の攻撃はこれで終わりではない。
刃の一部にはあらかじめ穴が空いてある。
なんのために? 相手の血液をとりこむためだ。
血流を内向きに変えることで、敵の血液を取り込む。
血液操作という能力の特性上、戦えば多かれ少なかれ血を流してしまう。
そのため、こういった手段で、彼女は戦闘で失った血液を取り戻すのだ。
相手の体にある有害物質は、すべて『深い血』によって排除される。
男が意識を失うと、姫神は離れた。
筋力増強と、脳の過剰使用で、全身が痛む。姫神の目には血が流れ出した跡が見られる。
姫神は携帯を取り出した。インデックスから返事が届いている。
「敵は四人。私が二人倒したから。あと二人」
どうやら暗号はきちんと伝わったらしい。
さらに、メールによると、上条は一人の敵と戦っているという。
なんとか解決の糸口が見えてきたが、敵に追われているという状況に変わりはない。
早くこの場を脱出する必要があった。いつ次の敵が襲ってくるかわからない。
しかし、先の戦闘で負った疲労、ダメージは大きく、
コードを伝って窓から脱出するだけの体力は残っていなかった。
(コインの結界は。核を壊せばなくなる。それをなんとか破壊しないと)
通
姫神は壁際に追い詰められてしまった。
飛び道具を持った相手に、壁際まで追い詰められる。
これは一見不利な状況だ。
しかし、姫神は意図してこの状況をつくったのだ。
男は姫神に向かって炎を放つ。その狙いは?
当然足だ。足をねらって動けなくするのがこの男の目的なのだ。
姫神はこれを読んでいた。全力を振りしぼって跳躍し、炎の斬撃を飛び越える。
「空中では自由も利くまい」
男は第二弾を構える。
姫神はこのタイミングで、自身に血流操作の能力を使った。
『火事場の馬鹿力』という言葉がある。
人間は普段はその力の大半をセーブしており、危機が迫った時に
その力を解放するということをあらわした言葉だ。
姫神は、自身の血液を操作し、脳に『危機が迫っている』という情報が伝わるように
仕向けた。
解き放たれた力は、姫神の負ったダメージを補って余りある。
そして、この追い詰められたという状況。
はじめの炎剣をさけた際、姫神は壁に向かって飛んでいた。
三角跳びの要領で、壁を蹴る。
男がどの方向に攻撃を行うつもりなのか、姫神は正確に予想できた。
脳に危険信号を送った時に得られたのは、筋力だけではない。
試合中、ボクサーは相手の動きがスローモーションで見えることがあるという。
その原因は、化学物質が分泌され、脳の処理速度が驚異的に上昇しているためだ。
血流操作で危険信号を送られた姫神の脳は、一時的にこの圧倒的処理能力を得たのだ。
「何っ!?」
急激に上昇した姫神の身体能力に、男は一瞬判断能力を失う。
それでも炎剣を放つことができたのは、素人にしては上出来といえるだろう。
だが、隙ができたことに変わりはない。
姫神は空中で身をひねって斬撃をかわし、着地と同時に男に向かって突進。
手についた傷口を開き、血流操作で血を噴出させる。そして、
飛び出した血を一瞬でかため、血の刃を作った。
いまだ対応できていない男に近づくと、その胸に刃をつきたてる。
男の口から悲鳴があがった。
だが、姫神の攻撃はこれで終わりではない。
刃の一部にはあらかじめ穴が空いてある。
なんのために? 相手の血液をとりこむためだ。
血流を内向きに変えることで、敵の血液を取り込む。
血液操作という能力の特性上、戦えば多かれ少なかれ血を流してしまう。
そのため、こういった手段で、彼女は戦闘で失った血液を取り戻すのだ。
相手の体にある有害物質は、すべて『深い血』によって排除される。
男が意識を失うと、姫神は離れた。
筋力増強と、脳の過剰使用で、全身が痛む。姫神の目には血が流れ出した跡が見られる。
姫神は携帯を取り出した。インデックスから返事が届いている。
「敵は四人。私が二人倒したから。あと二人」
どうやら暗号はきちんと伝わったらしい。
さらに、メールによると、上条は一人の敵と戦っているという。
なんとか解決の糸口が見えてきたが、敵に追われているという状況に変わりはない。
早くこの場を脱出する必要があった。いつ次の敵が襲ってくるかわからない。
しかし、先の戦闘で負った疲労、ダメージは大きく、
コードを伝って窓から脱出するだけの体力は残っていなかった。
(コインの結界は。核を壊せばなくなる。それをなんとか破壊しないと)
通
24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:02:53.69 ID:OKbqyPri0
(コインの結界は。核を壊せばなくなる。それをなんとか破壊しないと)
通常、コインの結界の核は、結界の『裏』からでは手が出せず、
『表』からも干渉されにくいところに置く。
この干渉されにくい場所を探すのが第一だろう。
結界自体はすぐに見つかった。工具箱の中においてあったのだ。
しかし、当然のことだが、工具箱はふたが閉まっていた。
このままでは破壊できない。
どうしたものかと思案していた姫神だったが、突如あることを思い出す。
(そういえば。敵からワイヤーを奪ってた。 これを使えば…)
ワイヤーを工具箱の隙間から入れ、術式に触れさせる。
そして、ワイヤーに特殊警棒をあて、電流を流す。
この結界が、プロの手によるものであれば、この程度の攻撃は
効果がなかったかもしれない。
しかし、この術式を仕掛けたのは素人だった。
電流を流された術式の核は、その負荷に耐え切れず破壊され、術式としての機能を失った。
「早く逃げないと」
足を引きずり、姫神は工場を後にした。
通常、コインの結界の核は、結界の『裏』からでは手が出せず、
『表』からも干渉されにくいところに置く。
この干渉されにくい場所を探すのが第一だろう。
結界自体はすぐに見つかった。工具箱の中においてあったのだ。
しかし、当然のことだが、工具箱はふたが閉まっていた。
このままでは破壊できない。
どうしたものかと思案していた姫神だったが、突如あることを思い出す。
(そういえば。敵からワイヤーを奪ってた。 これを使えば…)
ワイヤーを工具箱の隙間から入れ、術式に触れさせる。
そして、ワイヤーに特殊警棒をあて、電流を流す。
この結界が、プロの手によるものであれば、この程度の攻撃は
効果がなかったかもしれない。
しかし、この術式を仕掛けたのは素人だった。
電流を流された術式の核は、その負荷に耐え切れず破壊され、術式としての機能を失った。
「早く逃げないと」
足を引きずり、姫神は工場を後にした。
25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:05:42.82 ID:OKbqyPri0
姫神が工場で追手と戦っていたころ。
上条は火野のメールに騙され、火野の信者の一人の下おびき出されていた。
「姫神はどこだ!?」
男の姿を捉えた上条は、即座に問いかけた。男はその場から動こうとしない。
「幻想殺し。エンゼル様がもっとも危険視している男だな。すぐに貴様を―」
男が話し終える前に上条は殴りかかった。
「うぐっ!?」
上条の行動があまりに突発的だったためか、男は反応することができなかった。
「もう一度聞く。姫神はどこだ?」
「くそっ!いきなりなんて奴だ!」
上条は再び腕を振り上げる。しかし、二度目の拳は男に届かなかった。
「何っ!?」
敵の胸から腹にかけての部分に岩の塊が張り付いていた。さながら盾のようだ。
上条の拳は、この岩石の塊にぶち当たる。
甲高い音を立て、幻想殺しはこの盾を破壊するが…
「ぐはっ!」
上条は腹部に重い打撃をうけた。体が浮き上がる。
上条を襲った衝撃の正体。それは、敵の腹部から伸びる岩石の拳だった。
「魔方陣…シェリーの使ってたやつに似てるな」
男の服には魔方陣が描かれていた。
これで、盾や拳を作り出していたのだろう。
岩石に幻想殺しを使い、上条は男から一歩離れる。
だが、男は上条の足元に一気に近づいてきた。
「くらえ!」
男の手は上条の足元に伸びる。
そこには、魔方陣が張ってあった。
アスファルトと同化するような色なので、上条は気づかなかったのも無理はない。
再び拳が襲ってくる…はずだった。
「うぎゃぁぁ!」
上条は男が地面に触れる瞬間、その手をまっすぐ踏み抜いた。
「てめえの手の内は割れてんだよ。さっさと姫神の場所を吐け
今なら一発ぶん殴るだけで楽にしてやる」
上条は男の顔面を蹴り上げた。
「ふざけやがって。くそっ」
勝てないと悟ったのか、男は上条から見て左側へジャンプ。
距離をとるような動きだった。
しかし、この動作の不自然な部分を見抜いた上条は、男に近づいた。
「馬鹿め!オレが触らずとも、貴様が踏めば魔方陣は作動するのだ!」
勝ち誇ったように男は叫ぶ。
だが、上条の表情は揺るがない。
地面から作り出された拳を、あっさりと打ち消したのだ。
「不思議そうな顔してるな。なんで攻撃をよけられたか教えてやる。
てめえは、後ろに逃げりゃあいいのにわざわざ左に避けた。
俺を誘い出そうとしているのは丸見えだ。
俺が踏むことで発動するなら、攻撃が地面からくることぐらい予想できるってわけだ」
上条は、伊達に何度も修羅場をくぐっているわけではない。
素人の付け焼刃程度の魔術では、上条に対して圧倒的に精度と経験が足りない。
しかし男はあきらめるつもりはないようだ。
足元の魔方陣に触れ、なんと自分自身を岩の拳で殴ったのだ。
上条は火野のメールに騙され、火野の信者の一人の下おびき出されていた。
「姫神はどこだ!?」
男の姿を捉えた上条は、即座に問いかけた。男はその場から動こうとしない。
「幻想殺し。エンゼル様がもっとも危険視している男だな。すぐに貴様を―」
男が話し終える前に上条は殴りかかった。
「うぐっ!?」
上条の行動があまりに突発的だったためか、男は反応することができなかった。
「もう一度聞く。姫神はどこだ?」
「くそっ!いきなりなんて奴だ!」
上条は再び腕を振り上げる。しかし、二度目の拳は男に届かなかった。
「何っ!?」
敵の胸から腹にかけての部分に岩の塊が張り付いていた。さながら盾のようだ。
上条の拳は、この岩石の塊にぶち当たる。
甲高い音を立て、幻想殺しはこの盾を破壊するが…
「ぐはっ!」
上条は腹部に重い打撃をうけた。体が浮き上がる。
上条を襲った衝撃の正体。それは、敵の腹部から伸びる岩石の拳だった。
「魔方陣…シェリーの使ってたやつに似てるな」
男の服には魔方陣が描かれていた。
これで、盾や拳を作り出していたのだろう。
岩石に幻想殺しを使い、上条は男から一歩離れる。
だが、男は上条の足元に一気に近づいてきた。
「くらえ!」
男の手は上条の足元に伸びる。
そこには、魔方陣が張ってあった。
アスファルトと同化するような色なので、上条は気づかなかったのも無理はない。
再び拳が襲ってくる…はずだった。
「うぎゃぁぁ!」
上条は男が地面に触れる瞬間、その手をまっすぐ踏み抜いた。
「てめえの手の内は割れてんだよ。さっさと姫神の場所を吐け
今なら一発ぶん殴るだけで楽にしてやる」
上条は男の顔面を蹴り上げた。
「ふざけやがって。くそっ」
勝てないと悟ったのか、男は上条から見て左側へジャンプ。
距離をとるような動きだった。
しかし、この動作の不自然な部分を見抜いた上条は、男に近づいた。
「馬鹿め!オレが触らずとも、貴様が踏めば魔方陣は作動するのだ!」
勝ち誇ったように男は叫ぶ。
だが、上条の表情は揺るがない。
地面から作り出された拳を、あっさりと打ち消したのだ。
「不思議そうな顔してるな。なんで攻撃をよけられたか教えてやる。
てめえは、後ろに逃げりゃあいいのにわざわざ左に避けた。
俺を誘い出そうとしているのは丸見えだ。
俺が踏むことで発動するなら、攻撃が地面からくることぐらい予想できるってわけだ」
上条は、伊達に何度も修羅場をくぐっているわけではない。
素人の付け焼刃程度の魔術では、上条に対して圧倒的に精度と経験が足りない。
しかし男はあきらめるつもりはないようだ。
足元の魔方陣に触れ、なんと自分自身を岩の拳で殴ったのだ。
26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:06:22.05 ID:OKbqyPri0
「何のつもりだ?降参するのか?」
「魔方陣が張ってあるのが、地面だけだと思ってたのか?」
殴り飛ばされた男は、ビルの側面にたたきつけらる。
ビルの側面に…魔方陣のある部分に。
男は魔方陣に触れた。
「まさか!」
上条は予想できなかった。男がここまで大それたことをするとは。
ここまで術式の規模が大きいとは。
突如ビルの側面から突き出す巨大な拳。
上条には届かない距離にあった。直接攻撃するものではないらしい。
そして実際、この拳は上条を攻撃しなかった。
この魔術が行ったことは唯一つ。
自分の魔方陣が描かれたビルを、全力でぶち抜いたのだ。
「幻想殺し、お前は異能の力以外には、何の役にも立たない。
瓦礫に潰されて死ね!」
男の言う通り、幻想殺しは『現実』には効かない。
だが上条はあきらめない。こんなところで死ぬつもりなど毛頭なかった。
(野郎は一つミスを犯してる。シェリーの時と同じミスをな。
どうやって崩れ落ちるビルからてめえ自身を守るつもりなんだ?
答えは簡単、野郎のいるところは安全地帯ってことだ)
迷わず上条は男のもとへ突進する。
「そうくると思ってたぞ、幻想殺し。予想通りだ」
男は再び自身の服の魔方陣に手をやる。その拳で上条を迎え撃つつもりだろうか
(いや、違う。あれはフェイクだ。幻想殺しを使えば、あんなものどうとでもなる。
敵もそれをわかっているはず。では本命の攻撃は…)
上条は一瞬、足元に目をやった。
(思った通りだ)
地面に描かれた魔法陣。保護色故初見ではわかりにくいが、
一度見抜けばどうということはない。問題は…
(くそっ、最短ルートに仕込んでやがる。どんだけ用意がいいんだ。)
少しでもルートから外れれば、瓦礫の落下から逃れることはできない。
躊躇している暇もない。
だがその瞬間、上条は一つの解決法を閃く。
魔法陣に足が触れる。上条は迷いなく踏んだ。
瞬間、岩石の拳が飛び出す。
しかし…
「魔方陣が張ってあるのが、地面だけだと思ってたのか?」
殴り飛ばされた男は、ビルの側面にたたきつけらる。
ビルの側面に…魔方陣のある部分に。
男は魔方陣に触れた。
「まさか!」
上条は予想できなかった。男がここまで大それたことをするとは。
ここまで術式の規模が大きいとは。
突如ビルの側面から突き出す巨大な拳。
上条には届かない距離にあった。直接攻撃するものではないらしい。
そして実際、この拳は上条を攻撃しなかった。
この魔術が行ったことは唯一つ。
自分の魔方陣が描かれたビルを、全力でぶち抜いたのだ。
「幻想殺し、お前は異能の力以外には、何の役にも立たない。
瓦礫に潰されて死ね!」
男の言う通り、幻想殺しは『現実』には効かない。
だが上条はあきらめない。こんなところで死ぬつもりなど毛頭なかった。
(野郎は一つミスを犯してる。シェリーの時と同じミスをな。
どうやって崩れ落ちるビルからてめえ自身を守るつもりなんだ?
答えは簡単、野郎のいるところは安全地帯ってことだ)
迷わず上条は男のもとへ突進する。
「そうくると思ってたぞ、幻想殺し。予想通りだ」
男は再び自身の服の魔方陣に手をやる。その拳で上条を迎え撃つつもりだろうか
(いや、違う。あれはフェイクだ。幻想殺しを使えば、あんなものどうとでもなる。
敵もそれをわかっているはず。では本命の攻撃は…)
上条は一瞬、足元に目をやった。
(思った通りだ)
地面に描かれた魔法陣。保護色故初見ではわかりにくいが、
一度見抜けばどうということはない。問題は…
(くそっ、最短ルートに仕込んでやがる。どんだけ用意がいいんだ。)
少しでもルートから外れれば、瓦礫の落下から逃れることはできない。
躊躇している暇もない。
だがその瞬間、上条は一つの解決法を閃く。
魔法陣に足が触れる。上条は迷いなく踏んだ。
瞬間、岩石の拳が飛び出す。
しかし…
27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:07:06.29 ID:OKbqyPri0
「そんな馬鹿な…!」
男が声を上げたのも無理はない。
上条は、あらかじめ岩の拳のでるポイントに足をおいていた。
そして、攻撃が起こる瞬間、岩石の殴る力を利用して、男のもとへとジャンプしたのだ。
とっさに男は自身の服に仕込んだ魔法陣を作動させるが、幻想殺しの前には無力そのもの。
岩の拳を消しながら突っ込んでいく上条。
男の左に着地すると、間髪いれずに裏拳で殴り飛ばした。
「ぐぎゃぁ!」
間抜けな悲鳴をあげ、男は気絶してしまった。
「くそっ、姫神のこと聞き出そうと思ってたのに」
だが上条は、あることに気づいた。
(そもそもこんな術式で姫神を追いかけるというのは非効率的だ。
つまり、この男は姫神を追っていたわけじゃない。
俺を足止めするための敵だ…)
上条は携帯電話をとりだす。
インデックスの情報に間違いはないだろう。彼女の情報処理能力は信頼できる。
では、自分がおびき出された原因は何か?
インデックスのもとに届いた情報、姫神からのメールに他ならない。
(敵が騙してるってことをインデックスに伝えねえと)
上条はすぐに電話をかけた。
コール音が三回。
「はい、もしもし」
声は以外に近くで聞こえた。
上条は振り返る。
インデックスが立っていた。
男が声を上げたのも無理はない。
上条は、あらかじめ岩の拳のでるポイントに足をおいていた。
そして、攻撃が起こる瞬間、岩石の殴る力を利用して、男のもとへとジャンプしたのだ。
とっさに男は自身の服に仕込んだ魔法陣を作動させるが、幻想殺しの前には無力そのもの。
岩の拳を消しながら突っ込んでいく上条。
男の左に着地すると、間髪いれずに裏拳で殴り飛ばした。
「ぐぎゃぁ!」
間抜けな悲鳴をあげ、男は気絶してしまった。
「くそっ、姫神のこと聞き出そうと思ってたのに」
だが上条は、あることに気づいた。
(そもそもこんな術式で姫神を追いかけるというのは非効率的だ。
つまり、この男は姫神を追っていたわけじゃない。
俺を足止めするための敵だ…)
上条は携帯電話をとりだす。
インデックスの情報に間違いはないだろう。彼女の情報処理能力は信頼できる。
では、自分がおびき出された原因は何か?
インデックスのもとに届いた情報、姫神からのメールに他ならない。
(敵が騙してるってことをインデックスに伝えねえと)
上条はすぐに電話をかけた。
コール音が三回。
「はい、もしもし」
声は以外に近くで聞こえた。
上条は振り返る。
インデックスが立っていた。
28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:07:34.91 ID:OKbqyPri0
「土御門のやつめ、何をやっているんだ?」
窓の無いビルの暗がりで、アレイスターは毒づいた。
土御門は、確かに始末した、と連絡をよこしていた。
しかし、死んだはずの火野神作が、学園都市をうろつきまわっているのだ。
アレイスターはいったい事態がどうなっているのか把握なかった。
しかし、やるべきことは単純だ。
「仕方ない、グループにはまだ魔術師がいたな…」
土御門は戻ってくるまで時間がかかるだろう。だが、彼以外にも暗部の魔術師は存在する。
海原に化けた偽者、彼もまたアステカの魔術師だということを思い返したアレイスターは、即座に彼に指令を出した。
「うまくやってくれるといいが…」
窓の無いビルの暗がりで、アレイスターは毒づいた。
土御門は、確かに始末した、と連絡をよこしていた。
しかし、死んだはずの火野神作が、学園都市をうろつきまわっているのだ。
アレイスターはいったい事態がどうなっているのか把握なかった。
しかし、やるべきことは単純だ。
「仕方ない、グループにはまだ魔術師がいたな…」
土御門は戻ってくるまで時間がかかるだろう。だが、彼以外にも暗部の魔術師は存在する。
海原に化けた偽者、彼もまたアステカの魔術師だということを思い返したアレイスターは、即座に彼に指令を出した。
「うまくやってくれるといいが…」
29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:08:10.37 ID:OKbqyPri0
「インデックス!?」
上条は同居人の姿を見た途端、素っ頓狂な声を上げた。
「おまえ、家にいたんじゃなかったのか」
「とうまに伝えなきゃいけないことがあるんだよ」
インデックスは敵がこちらのメールを読み、さらに嘘のメールで騙していたことを話した。
(インデックスは既に気づいていたのか…)
上条は少し安心した。やはり彼女は頼りになる。
「それはわかったが… まだ姫神の位置がわからない。インデックス、
何か手がかりはないのか?」
姫神からのメールは偽者が混じっている。
信用できる情報がない以上、姫神の場所を特定するのは至難の業に思えた。
しかし、
「その心配はないんだよとうま。 秋沙はこっちに簡単な暗号で場所を伝えてる。
敵にはバレてないはず。それに人払いから、大まかに敵の位置はわかるんだよ」
「よし、すぐに動こう。最短ルートは?」
上条が動きだそうとした、まさにその瞬間、突然電話が鳴った。
「? 誰だ、こんな時間に」
怪訝に思ったが、上条は電話に出た。
「上条さん、ですね」
「その声は…海原?」
「偽者ですがね」
電話をかけてきたのは以外な人物だった。
かつて敵として襲ってきた男だ。上条は警戒心を強めた。
「今回は敵ではありません。 味方です」
「お前に襲われる理由はないからな。そこは信用してやる。
何のようだ?」
「ちょっとした仕事でして。いま私は、脱獄した火野神作を追っています」
「火野? アイツが姫神を追ってるのか?」
「ええ 詳しい事情は省きます。私が今回伝えたいことは一つだけ。
いまから私の言うとおりの場所に移動してください」
「俺たちの位置がわかるのか。こっちが見えてるみたいだな」
上条は海原の指示に従うことにした。
信用できないやつだが、この状況で、自分を騙して海原になんのメリットがあるか
皆目見当がつかなかったためだ。
「人払いを張ってたのは火野ではない。奴の部下です。
そいつを締め上げて火野の場所を吐かせました。 人払いも既に解除しています。
理由は不明ですが、火野は自分では人払いをかけていません。
友人を助けるなら、早く行動したほうがいいです」
「わかった。感謝する」
上条はインデックスに事情を話し、先を急いだ。
30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:08:45.03 ID:OKbqyPri0
「見つけた」
部下の情報を頼りに、姫神を追っていた火野神作だったが、
とうとうその姿を捉えた。
(まさか、部下が全部役に立たなくなるとは思わなかったが…こいつさえ手に入れば)
幻想殺しは自分の部下が足止めしていたし、何よりダミーのメールに騙されているはず。
ここにたどり着くまでには時間がかかるはずだ。
そして吸血殺し。疲労とダメージで運動能力が低くなった今なら、
簡単に捉えられるだろう。
(こいつもあるしな)
火野の手には拳銃が握られていた。警官から奪いとった物だ。
エンゼル様は引き金を引いた。姫神にあてるためではない。あくまで脅しの発砲。
ここで姫神に死なれたら元も子もないのだ。
「動くな吸血殺し」
勝ち誇ったようにエンゼル様は言い放つ。
勝利は目前だった。しかし、
突如わき道から飛び出す人影。それが何者か認識する前に、火野神作は殴り飛ばされた。
「馬鹿な!?貴様は…」
その人物は、上条当麻。エンゼル様がもっとも恐れる幻想殺しだった。
部下の情報を頼りに、姫神を追っていた火野神作だったが、
とうとうその姿を捉えた。
(まさか、部下が全部役に立たなくなるとは思わなかったが…こいつさえ手に入れば)
幻想殺しは自分の部下が足止めしていたし、何よりダミーのメールに騙されているはず。
ここにたどり着くまでには時間がかかるはずだ。
そして吸血殺し。疲労とダメージで運動能力が低くなった今なら、
簡単に捉えられるだろう。
(こいつもあるしな)
火野の手には拳銃が握られていた。警官から奪いとった物だ。
エンゼル様は引き金を引いた。姫神にあてるためではない。あくまで脅しの発砲。
ここで姫神に死なれたら元も子もないのだ。
「動くな吸血殺し」
勝ち誇ったようにエンゼル様は言い放つ。
勝利は目前だった。しかし、
突如わき道から飛び出す人影。それが何者か認識する前に、火野神作は殴り飛ばされた。
「馬鹿な!?貴様は…」
その人物は、上条当麻。エンゼル様がもっとも恐れる幻想殺しだった。
31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:10:26.29 ID:OKbqyPri0
「もうおしまいだ火野神作。 人払いも潰れた、部下もいねえ 詰みなんだよ」
火野は答えなかった。答えるだけの精神が残ってないのだ。
かわりにエンゼル様が口を開いた。
「撃て」
銃声が鳴り響いた。
(なん…だと…)
上条は火野が拳銃を握っていることに気がつかなかった。
魔術で攻撃してくるとばかり思っていたためだ。
(あらかじめ俺に対して対策を立てていたのか…)
しかし、痛みはやってこなかった。何故か?
「姫神!?」
「吸血殺し!?」
あの疲労でここまで素早く動けると、誰が予想できただろうか。
火野が引き金を引く直前、姫神は素早く弾丸軌道上に入り、上条の身代わりになったのだ。
弾丸の当たった場所は肩。貫通はしていなかったが、ダメージは大きい。
「くそっ!」
上条のとった行動は逃走。
拳銃相手に幻想殺しは不利である。
どんなに驚異的な能力でもねじ伏せてきた右手だったが、
今目の前にいるこの外道をぶちのめすことはできないのだ。
火野は答えなかった。答えるだけの精神が残ってないのだ。
かわりにエンゼル様が口を開いた。
「撃て」
銃声が鳴り響いた。
(なん…だと…)
上条は火野が拳銃を握っていることに気がつかなかった。
魔術で攻撃してくるとばかり思っていたためだ。
(あらかじめ俺に対して対策を立てていたのか…)
しかし、痛みはやってこなかった。何故か?
「姫神!?」
「吸血殺し!?」
あの疲労でここまで素早く動けると、誰が予想できただろうか。
火野が引き金を引く直前、姫神は素早く弾丸軌道上に入り、上条の身代わりになったのだ。
弾丸の当たった場所は肩。貫通はしていなかったが、ダメージは大きい。
「くそっ!」
上条のとった行動は逃走。
拳銃相手に幻想殺しは不利である。
どんなに驚異的な能力でもねじ伏せてきた右手だったが、
今目の前にいるこの外道をぶちのめすことはできないのだ。
32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:10:53.36 ID:OKbqyPri0
幸運なことに、近くには薬品倉庫があった。
学園都市はその名の通り学問を専門にした街だ。
当然、学校の数も多い。
授業の実験で使う薬品を一箇所に集中しておいたほうが便利である。
そのため学園都市には大規模な薬品倉庫がいくつか存在するのだ。
「暗いな」
中は無人だった。明かりがついておらず、まさに一寸先は闇。
上条たちはしだいに目がなれてきたが、見回しても同じような棚ばかり。
火野から逃げるために無我夢中で奥へと進んでいたため、
自分達の現在地さえわからなかった。
「とりあえず、インデックスに連絡するか…」
上条は同居人にメールを送った。電話では声で位置が特定される恐れがあるためだ。
ちょうど送信した瞬間、ガラスの割れる音が。
不意打ちを恐れたのか、火野神作は正面から入らなかったようだ。
「入ってきたか」
「上条くん。返信がきてる」
インデックスのメールはシンプルだった。
そこから左に曲がって五番目の棚に、強酸性の薬品等のある棚がある
武器にできそう
文面はこれだけ。
「姫神はここで待っててくれ すぐにアイツを始末して戻ってくる」
「待って。上条君はこのメールの意味をわかってない。
私も動かなきゃ。」
「何言ってるんだ? それに、その怪我で動くって…」
「いいから。上条君はそのメールの通りに動いて」
姫神の目は真剣だった。
上条は状況が理解できなかったが、姫神を信じることにした。
「三十秒たったら目を閉じて」
姫神から最後に出された指示はこれだけだった。
学園都市はその名の通り学問を専門にした街だ。
当然、学校の数も多い。
授業の実験で使う薬品を一箇所に集中しておいたほうが便利である。
そのため学園都市には大規模な薬品倉庫がいくつか存在するのだ。
「暗いな」
中は無人だった。明かりがついておらず、まさに一寸先は闇。
上条たちはしだいに目がなれてきたが、見回しても同じような棚ばかり。
火野から逃げるために無我夢中で奥へと進んでいたため、
自分達の現在地さえわからなかった。
「とりあえず、インデックスに連絡するか…」
上条は同居人にメールを送った。電話では声で位置が特定される恐れがあるためだ。
ちょうど送信した瞬間、ガラスの割れる音が。
不意打ちを恐れたのか、火野神作は正面から入らなかったようだ。
「入ってきたか」
「上条くん。返信がきてる」
インデックスのメールはシンプルだった。
そこから左に曲がって五番目の棚に、強酸性の薬品等のある棚がある
武器にできそう
文面はこれだけ。
「姫神はここで待っててくれ すぐにアイツを始末して戻ってくる」
「待って。上条君はこのメールの意味をわかってない。
私も動かなきゃ。」
「何言ってるんだ? それに、その怪我で動くって…」
「いいから。上条君はそのメールの通りに動いて」
姫神の目は真剣だった。
上条は状況が理解できなかったが、姫神を信じることにした。
「三十秒たったら目を閉じて」
姫神から最後に出された指示はこれだけだった。
33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:11:26.75 ID:OKbqyPri0
上条がメールを送る少し前、エンゼル様は攻めあぐねていた。
(吸血殺しの『自分だけの現実』は厄介だが…)
エンゼル様はこれまでの上条のデータから、
彼が姫神を戦闘に巻き込むことはないと予想していた。
というよりあの怪我では安静にしておくしかないだろう。
伊達に二十八人も殺していないのだ。火野が姫神の傷の深さを推測するのは容易だった。
(幻想殺しがあらかじめこちらの位置を把握している可能性も否定できん)
エンゼル様は安易に倉庫内に侵入することをためらっていた。そのとき、
(能力に反応が! 幻想殺し、メールで助けを求めたか!)
すぐさま閲覧する。送った相手は十万三千冊の魔道書を記憶したインデックスだった。
幻想殺しがメールを送ったということは、彼はこちらの位置を把握していないことになる。
エンゼル様は倉庫に入ることにした。もちろん正面からではない。
相手に恐怖を植え付けることも考え、窓から侵入する。
(くそっ、この暗闇では、姿が捉えられん)
目が慣れてきたとはいえ、倉庫の中は暗く、視界が悪かった。
だが、彼には情報を閲覧する能力がある。
インデックスからの返信で、幻想殺しがどこに向かうか推測できるのだ。
(先回りして、待ち伏せだ。姿を捉えた瞬間に撃ち殺せ)
あらかじめ火野に指示をだす。
ここまできたのだ。それに、もう後がない。
なんとしてでも早急に吸血殺しを捕らえる必要があった。
(危険物取り扱いの棚、か…火野、不用意に発砲するな)
インデックスのメールを閲覧したエンゼル様は、火野に指示を出した。
(聞こえるぞ、幻想殺し。足音を殺してもわかる。)
エンゼル様は勝利を確信した。
しかし、そのとき倉庫内を強烈な光が包みこんだ。
(目が! くそっ いったい…?)
幸い火野はパニックに陥らなかった。興奮していたが。
(幻想殺しか!?何をやった?)
しだいに目が慣れてくる。すると、目前に幻想殺しが、上条当麻が立っていた。
しかし、様子がおかしい。
(奴は気づいてない? 自分で引き起こしておきながら無様だな)
上条は火野の方向を見ていなかった。チャンスだ。
「撃て!」
エンゼル様は火野に指示を出した。
勝利は目前だった。
(吸血殺しの『自分だけの現実』は厄介だが…)
エンゼル様はこれまでの上条のデータから、
彼が姫神を戦闘に巻き込むことはないと予想していた。
というよりあの怪我では安静にしておくしかないだろう。
伊達に二十八人も殺していないのだ。火野が姫神の傷の深さを推測するのは容易だった。
(幻想殺しがあらかじめこちらの位置を把握している可能性も否定できん)
エンゼル様は安易に倉庫内に侵入することをためらっていた。そのとき、
(能力に反応が! 幻想殺し、メールで助けを求めたか!)
すぐさま閲覧する。送った相手は十万三千冊の魔道書を記憶したインデックスだった。
幻想殺しがメールを送ったということは、彼はこちらの位置を把握していないことになる。
エンゼル様は倉庫に入ることにした。もちろん正面からではない。
相手に恐怖を植え付けることも考え、窓から侵入する。
(くそっ、この暗闇では、姿が捉えられん)
目が慣れてきたとはいえ、倉庫の中は暗く、視界が悪かった。
だが、彼には情報を閲覧する能力がある。
インデックスからの返信で、幻想殺しがどこに向かうか推測できるのだ。
(先回りして、待ち伏せだ。姿を捉えた瞬間に撃ち殺せ)
あらかじめ火野に指示をだす。
ここまできたのだ。それに、もう後がない。
なんとしてでも早急に吸血殺しを捕らえる必要があった。
(危険物取り扱いの棚、か…火野、不用意に発砲するな)
インデックスのメールを閲覧したエンゼル様は、火野に指示を出した。
(聞こえるぞ、幻想殺し。足音を殺してもわかる。)
エンゼル様は勝利を確信した。
しかし、そのとき倉庫内を強烈な光が包みこんだ。
(目が! くそっ いったい…?)
幸い火野はパニックに陥らなかった。興奮していたが。
(幻想殺しか!?何をやった?)
しだいに目が慣れてくる。すると、目前に幻想殺しが、上条当麻が立っていた。
しかし、様子がおかしい。
(奴は気づいてない? 自分で引き起こしておきながら無様だな)
上条は火野の方向を見ていなかった。チャンスだ。
「撃て!」
エンゼル様は火野に指示を出した。
勝利は目前だった。
34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:12:33.43 ID:OKbqyPri0
しかし、エンゼル様は銃声を聞くことはなかった。
それどころか、何の音も聞こえなくなっていた。
(馬鹿な!どうして…)
感覚が遮断された。これが意味することはただ一つ。
火野神作が意識を失ったということだ。
エンゼル様の視覚、聴覚はすべて火野由来だ。
火野が倒れれば、当然感覚も遮断される。
では、何故火野は倒れたのか?
(まさか…吸血殺しが?)
たしかに敵の持つ特殊警棒であれば、電流で火野を気絶させることはできるだろう。
しかし、あの傷でどうやってここまでたどり着いたのか、あの光の中で…
(能力か…!?)
答えは簡単だ。エンゼル様は姫神の能力を見落としていたのだ。
姫神は能力で自身の傷口の血を固め、止血。
さらに、『自分だけの現実』でこちらの位置を把握していたのだろう。
(くそっ! 火野は人を殺しすぎていた)
そして、今までの殺人の経験、それが火野を誤解させたのだ。
あの傷では動くことは不可能、と…
「私は、ただ『存在』したかっただけだ。見逃してくれ、助けてくれ」
命乞い、エンゼル様の残された手段はそれだけだった。
しかも、敵が何を言っているか、どんな行動をとっているか、
それすらもエンゼル様は知ることができない。
彼に残っていたのは、絶望だった。
それどころか、何の音も聞こえなくなっていた。
(馬鹿な!どうして…)
感覚が遮断された。これが意味することはただ一つ。
火野神作が意識を失ったということだ。
エンゼル様の視覚、聴覚はすべて火野由来だ。
火野が倒れれば、当然感覚も遮断される。
では、何故火野は倒れたのか?
(まさか…吸血殺しが?)
たしかに敵の持つ特殊警棒であれば、電流で火野を気絶させることはできるだろう。
しかし、あの傷でどうやってここまでたどり着いたのか、あの光の中で…
(能力か…!?)
答えは簡単だ。エンゼル様は姫神の能力を見落としていたのだ。
姫神は能力で自身の傷口の血を固め、止血。
さらに、『自分だけの現実』でこちらの位置を把握していたのだろう。
(くそっ! 火野は人を殺しすぎていた)
そして、今までの殺人の経験、それが火野を誤解させたのだ。
あの傷では動くことは不可能、と…
「私は、ただ『存在』したかっただけだ。見逃してくれ、助けてくれ」
命乞い、エンゼル様の残された手段はそれだけだった。
しかも、敵が何を言っているか、どんな行動をとっているか、
それすらもエンゼル様は知ることができない。
彼に残っていたのは、絶望だった。
35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:13:22.60 ID:OKbqyPri0
「お前が何者で、何を言ってるのかわからない。
だが、お前は姫神に手を出した。ぶちのめすにはそれだけで十分だ」
上条は火野の傍らに立つ謎の存在――エンゼル様――を殴りぬく。
甲高い音が鳴り、エンゼル様は世界から完全に消滅した。
だが、お前は姫神に手を出した。ぶちのめすにはそれだけで十分だ」
上条は火野の傍らに立つ謎の存在――エンゼル様――を殴りぬく。
甲高い音が鳴り、エンゼル様は世界から完全に消滅した。
36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:14:39.12 ID:OKbqyPri0
「勝った…のか?」
「うん」
返事をしたのは姫神だった。
「どうやってあんな光を出した? それに、あのメールはなんだったんだ?」
「光は。倉庫にあったマグネシウムを使った 火野は興奮していたから
私の『自分だけの現実』で上条君とアイツを区別するのは簡単だった」
暗号の説明をするから、と姫神は自分の一番最初のメールを出した。
「暗号ってほど上等なものじゃあないんだけど」
「でもさっぱりわからなかったぞ」
「メール本文は関係ないの」
そういって姫神は件名の部分を指した。
そこには、本来返信を示すReという文字が並んでいるはずだった。
しかし、姫神の送ったメールには…
Rs Re Rr Rc Rh Re Rn Re Rm Ry
となっていた。
「なるほど、search enemyか…」
「あいつがこっちのメールを読んでるのに気づいたから。
こっちがそれに気づいたことを悟られないように
それに。あの子は完全記憶能力を持ってるから」
この方法ならインデックスにだけ伝えられる。メールの件名の、
それもReなんて気に留めるなんてことは普通しない。
だが、完全記憶能力を持つ彼女なら、違和感として、気づくのだ。
「まあ、一件落着ということでいいかな」
二人は倉庫の外に出た。既に警備員が向かってくるのが見える。
インデックスが通報したのだろう。
火野神作は、万が一目を覚ました時のことを考え、姫神の持っていたワイヤで縛りあげた。
「二人とも、こんなところで何してたじゃん?」
「黄泉川先生、別に危ないことに首突っ込んだりとか、
火野をぶん殴ったりとかしてませんよ」
「つまり、また馬鹿やらかしてたってことじゃん…」
姫神が怪我をしていることに気づいた黄泉川。
アドレナリンによるものなのか、姫神は痛みを忘れていたため
一見しただけでは気づかなかったのだ。
「事情は手当てが終わってから聞くじゃん」
上条も、服の汚れ等から、少しばかりダメージがあると判断され、
治療をうけるよう指示された。(本人は必要ないといっていたが…)
「うん」
返事をしたのは姫神だった。
「どうやってあんな光を出した? それに、あのメールはなんだったんだ?」
「光は。倉庫にあったマグネシウムを使った 火野は興奮していたから
私の『自分だけの現実』で上条君とアイツを区別するのは簡単だった」
暗号の説明をするから、と姫神は自分の一番最初のメールを出した。
「暗号ってほど上等なものじゃあないんだけど」
「でもさっぱりわからなかったぞ」
「メール本文は関係ないの」
そういって姫神は件名の部分を指した。
そこには、本来返信を示すReという文字が並んでいるはずだった。
しかし、姫神の送ったメールには…
Rs Re Rr Rc Rh Re Rn Re Rm Ry
となっていた。
「なるほど、search enemyか…」
「あいつがこっちのメールを読んでるのに気づいたから。
こっちがそれに気づいたことを悟られないように
それに。あの子は完全記憶能力を持ってるから」
この方法ならインデックスにだけ伝えられる。メールの件名の、
それもReなんて気に留めるなんてことは普通しない。
だが、完全記憶能力を持つ彼女なら、違和感として、気づくのだ。
「まあ、一件落着ということでいいかな」
二人は倉庫の外に出た。既に警備員が向かってくるのが見える。
インデックスが通報したのだろう。
火野神作は、万が一目を覚ました時のことを考え、姫神の持っていたワイヤで縛りあげた。
「二人とも、こんなところで何してたじゃん?」
「黄泉川先生、別に危ないことに首突っ込んだりとか、
火野をぶん殴ったりとかしてませんよ」
「つまり、また馬鹿やらかしてたってことじゃん…」
姫神が怪我をしていることに気づいた黄泉川。
アドレナリンによるものなのか、姫神は痛みを忘れていたため
一見しただけでは気づかなかったのだ。
「事情は手当てが終わってから聞くじゃん」
上条も、服の汚れ等から、少しばかりダメージがあると判断され、
治療をうけるよう指示された。(本人は必要ないといっていたが…)
37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:15:20.64 ID:OKbqyPri0
翌日、
「おはよう」
姫神は包帯で腕をつっていた。火野の拳銃が与えた傷は深かったのだ。
「ああ、おはよう」
答えた上条の顔は、どういうわけか暗かった。
「どうしたの」
「昨日電話使いすぎて、電話代で食費がとんじまったんだよ」
上条は力なく笑った。
「おはよう」
姫神は包帯で腕をつっていた。火野の拳銃が与えた傷は深かったのだ。
「ああ、おはよう」
答えた上条の顔は、どういうわけか暗かった。
「どうしたの」
「昨日電話使いすぎて、電話代で食費がとんじまったんだよ」
上条は力なく笑った。
38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/01/07(土) 16:18:44.34 ID:OKbqyPri0
以上でおしまいです。
原作4巻で、火野が犯人だったなら、動機はこういうものだったのではないかと思い、書きました。
原作4巻で、火野が犯人だったなら、動機はこういうものだったのではないかと思い、書きました。
コメント
コメント一覧 (1)
それが改善されると、とても良いSSだと思う。
さすが姫神、第二ヒロイン候補は伊達じゃなかった。
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