1: ◆A8/TIJ786I 2012/01/23(月) 23:28:16.54 ID:MGtS0iH80

禁書(っていうか一方通行だけ)×Angel beats!のSSです。
どちらも原作未読・アニメは2,3周程度で今さら感もありますが、至らぬ点があれば指摘してくれたら嬉しいです。
ほのぼの・ギャグが六割、あはぎゃは一割、シリアス三割程度だと思われます。


以下、注意点

・音無くんの代わりに一方さんが来たって感じなんで、少し…というか結構ストーリーとか設定が変わっちゃってます

・一方通行の能力に関しては独自解釈があるかも

・始まりはABアニメの三話終了直後となってます

・遅筆

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1327328896(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)

引用元: 一方通行「『死んだ世界戦線』だァ?」 

 

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3: >>2マジですか?違います… 2012/01/23(月) 23:33:11.11 ID:MGtS0iH80





一方(―――!)ハッ






4: ◆A8/TIJ786I 2012/01/23(月) 23:35:15.30 ID:MGtS0iH80



一方「……」


一方通行は辺りを見回す。
周りは薄暗いが、手の感触から地面に寝転んでいる事が分かった。


一方(何だこりゃ、どォなってやがる。俺は確かバッテリーを充電しよォとしてた筈だが……)


首元のチョーカー型電極に手を当てる。
段々と目が慣れてきたお陰で、目の前に大きな建物が視認できた。


一方(バッテリーはまだ機能してやがる……)

一方(つゥ事は……夢、明晰夢ってやつか?)




「そこのあなた!」




――すると、不意に背後から声をかけられた。



5: ◆A8/TIJ786I 2012/01/23(月) 23:38:23.30 ID:MGtS0iH80


一方「あァ?」


そこには、(多分)赤紫色の髪をした少女が立っていた。


一方「……誰だオマエ」

ゆり「あたしは仲村ゆり。ゆりっぺって呼ばれてるわ。宜しく」



一方通行は軽く脚をつねり、再び考えを巡らす。

――目が覚めたら見た事もねェ場所にいて見た事もねェ女がいた。ンでもって夢じゃないらしい。恐らくだがここは学園都市じゃねェな……つゥ事は――。



ゆり「ちょっと。人に名乗られたなら自分も名乗りなさいよね?」

一方(……ちっ。なンか癪だがコイツに聞くしかねェか……)




6: ◆A8/TIJ786I 2012/01/23(月) 23:42:38.10 ID:MGtS0iH80

ご丁寧にわざわざ舌打ちをし、杖に力を込めながら一方通行は立ち上がる。
いつでも臨戦体勢に入れるよう、警戒は解かずに。


一方「ここは何処だ」

ゆり「……死後の世界よ」

一方「……はァ?」


何言ってンだコイツ。死後――死ンだ後の世界だと?

予想外の返答に学園都市最強には似つかない素っ頓狂な声が出る。
そしてそれを見てゆりは笑った。


ゆり「えぇ、死後の世界。ここに来た人は皆そんな反応をするわ」

一方「……」



……頭ン中お花畑か。

目の前の―――ゆりといったか―――自分と殆ど変わらぬであろう年齢の少女を見て、
彼はそう確定させる。




7: ◆A8/TIJ786I 2012/01/23(月) 23:45:54.77 ID:MGtS0iH80


一方「……そォか」


付き合ってられっか。そう呟いて踵を返そうとしたその時――。



「おーいゆりっぺ!新人勧誘は成功したか?」


青い髪の少年がこちらに向かって走ってきた。

その手に、銃を持って。


一方「!」カチッ


一方通行は即座にスイッチを入れ、臨戦体勢に入る。
能力が展開された事を確認し、青髪の少年と向き合った。



ゆり「まだよ日向くん。……っていうか何だか警戒されてない?」

日向「そりゃ普通はそうだろ。ついでにこんなモン持ってりゃなぁ……」

一方「……オマエら、何者だ?」ギロッ



8: ◆A8/TIJ786I 2012/01/23(月) 23:48:17.42 ID:MGtS0iH80



日向「あぁ、俺達は――」

ゆり「あたし達について来なさい。そうすれば全部説明してあげるわ」

一方「……」



尚も警戒を解かない一方通行を見て、ゆりと日向は苦笑した。






ゆり「信じて。あたし達はあなたの味方よ」






9: ◆A8/TIJ786I 2012/01/23(月) 23:51:18.77 ID:MGtS0iH80





……結論から言うと、一方通行はついていく事に決めた。

まず情報を集めるのが最優先だし、仮に騙されているとしても自分なら返り討ちに出来る、という自信もあった。



ゆり「ただいま!」



「校長室」と書かれた扉を開ける。





「おぉ、ようやくかよ。遅かったじゃねぇかゆりっぺ」

「後ろの人が新人さんなの?」

「どうやら成功したようですね」

「はっ!今までゆりっぺが勧誘に失敗した事があったか?」

「無理矢理成功させてた気もしないでもないが……」

「うわー、何だかアホみたいに真っ白ですね!」

「Red eyes white dragon?」

「……あさはかなり」




10: ◆A8/TIJ786I 2012/01/23(月) 23:53:22.23 ID:MGtS0iH80


日向「こいつらは俺達の仲間で―――って、どうした?」

一方「」



……なンなンだコイツら。

揃いも揃ってどンなキャラ目指してンだ?
つゥか制服着て槍やら刀やら銃やら持って何してやがンだよ。


最高峰の頭脳をもってしても分からない事ばかりである。



ゆり「ていうかあなたホントに白いわねー。暗くて分かんなかったけど」

一方「……」



星の数ほどのツッコミ所をあえてスルーし、なんとか一方通行は状況の説明を要求するのであった。




11: ◆A8/TIJ786I 2012/01/23(月) 23:55:58.98 ID:MGtS0iH80



ゆり「――という訳よ」

一方「……」


ここは死後の世界。
消滅しないように自分達「死んだ世界戦線」は天使と戦い、神に抗い続けている。


日向「まぁ信じられないのも無理ねーけどさ、取りあえず俺達はお前の味方だから安心しろよ」

一方「……」

一方(なンだそりゃ……俺ァ死ンだのか? バッテリーが切れて? いやいや、どォ考えてもあり得ねェだろ……)

一方(能力が使えるっつゥ事はMNWに……打ち止めに不具合が起きた訳でも無さそォだ。だとすっと、魔術か?)

一方(時期尚早……まだ情報が足りねェ、か。くそったれが)



ちっ……と軽く舌打ちをし、一方通行は溜め息をついた。



12: ◆A8/TIJ786I 2012/01/24(火) 00:00:43.30 ID:WDKpwEM30


一方「オイ、ガキ」

ゆり「……それってあたしの事かしら?」

一方「良ィから知ってる事をもっと話せ」



「ゆりっぺに向かってなんて事を言いやがる!」とか言いながら
ハルバードを振り回す男を軽くスルーする。

だがゆりは悪戯っぽく笑った。



ゆり「あたし達の仲間になれば色んな事を教えてあげるわよ?」

一方「……!」

ゆり「どう?」

一方「……」




13: ◆A8/TIJ786I 2012/01/24(火) 00:04:53.18 ID:WDKpwEM30



ゆり「……」ジーッ

一方「……」

ゆり「……」ジーッ

一方「ちっ……分かった、なってやる。だからさっさと―――」

日向「!」

ゆり「……決定ね」ニコッ








ゆり「ようこそ『死んだ世界戦線』へ!」






25: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 16:51:47.07 ID:WvM/Qvd80


一方「――で、仲村っつったか。さっさと話しやがれ」

ゆり「まず今此処にいるメンバーを紹介するわね」

一方「ちょ、オイ――」

日向「俺は日向。宜しくな!」



一方通行を完全にスルーし、個人的にも早く終わらせたかったメンバーの紹介が始まる。



ゆり「彼は大山くん。特徴が無いのが特徴よ」

大山「ようこそ、死んだ世界戦線へ。えーっと……男の子、だよね?」スッ

一方「……」ギロッ

大山「ひっ!?」

ゆり「彼は柔道家の松下くん。皆敬意を持って松下五段って呼んでるわ」

松下「宜しくな」スッ

一方「……」

松下「ははっ、緊張してるみたいだな」



26: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 16:54:45.66 ID:WvM/Qvd80


ゆり「そこの事ある毎に眼鏡を上げる彼は高松くん。本当は馬鹿よ」

高松「宜しく」クイッ

一方「……」

ゆり「そこの子はユイ。陽動隊のメンバーよ」

ユイ「ユイにゃんでーす☆宜しく白い人!」

一方「……あのシスターみてェに呼ぶなクソガキ」

ユイ「だ、誰がクソガキですかぁ!?」

ゆり「シスター?」

一方「こっちの話だ」

ゆり「で、あっちで『あさはかなり』って呟いてるのが椎名さん」

椎名「あさはかなり……」

一方「……」

ゆり「彼はTKって呼ばれてるわ。本名は不詳ね」



27: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 16:57:32.94 ID:WvM/Qvd80


TK「Let's dance,rabbit??」

一方「……喧嘩売ってンのかコイツ」

ゆり「やめなさい。彼なりの挨拶よ。で、彼は――」

藤巻「……藤巻だ。宜しくな坊主」

一方「あァ? なンだと小僧」

ゆり「やめなさいって。で、彼は野田くん」

野田「ふん、こんな貧弱そうな奴を入れて良いのか?」

一方「……言ってくれンじゃねェか。オマエこそそンな時代遅れな得物持って足引っ張ってンじゃねェのか?」

野田「な・ん・だ・と!?」

一方「ハッ。三下は沸点も低ィみてェだな」




28: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 17:01:12.81 ID:WvM/Qvd80



野田「お前、死ぬか?」ジャキッ

一方「二秒で返り討ちにしてやるよ」スッ



日向(おいおい……)

大山(あわわ……)

松下(と、止めないとな……)

TK(Oh,war……)

椎名(あさはかなり……)







ゆり「やめろって言ってんでしょうがぁぁぁ!!」






29: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 17:05:30.80 ID:WvM/Qvd80



ゆり「―――とまぁ、こんなもんね。他にも戦線メンバーは居るけど追い追い紹介してくわ」

一方「そォですか……」

野田「」チーン

日向「……ところでよ、お前名前なんてんだ?」

ユイ「ラビットさんですか?」

一方「殺すぞ」ギロッ

ユイ「ひゃあああああひなっち先輩ぃぃぃぃ!!」

ゆり「そういえば聞いてなかったわね。何ていうの?」

一方「……ちっ。一方通行だ」

ゆり「へ?」

藤巻「あぁ? 何だって?」

高松「『アクセラレータ』……要するに加速器の事ですね」クイッ




30: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 17:10:53.97 ID:WvM/Qvd80



大山「そ、それが名前なの?」

藤巻「んな訳ねぇだろ」

椎名「あさはかなり……」

一方「……元から名前なンざ無ェンだよ」

TK「No name,No life」

一方「……やっぱ喧嘩売ってンだろコイツ」

松下「訳有りなのか?」

一方「どォでも良いだろが。只の能力名だ」

日向「能力?」

ゆり「何よそれ?」

一方「…………ちっ」




31: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 17:14:00.83 ID:WvM/Qvd80


一方通行は自身の能力について軽く説明した。



―――が。



日向「はははっ!超能力なんてある訳ないだろ?」

ゆり「そんなチート乙な能力なら尚更ね」

ユイ「全くですよー!厨二ですね☆」

一方「殺すぞ」ギロッ

ユイ「ひゃあああああひなっち先輩ぃぃぃぃ!!」

高松「科学で超能力を開発……これはまた興味深い」

松下「俺も開発したいもんだ」

大山「へぇ……第一位なんて凄いんだね」

藤巻「あぁ? 何お前信じてんだよ?」

大山「あ、いや……その」

椎名「あさはかなり」

野田「」チーン



32: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 17:17:41.92 ID:WvM/Qvd80


ゆり「あと何であなた杖ついてるの?」

日向「脚悪いのか?」

一方(面倒臭ェ……)

一方「まァ、そンな感じだ」

ユイ「最初白髪もあいまって老人に見えましたもん!」

一方「殺すぞ」ギロッ

ユイ「ひゃあああああひなっち先輩ぃぃぃぃ!!」

松下「あぁ、それと――」

一方「……」



一方通行は、今日何度目か分からない溜め息をつく。



33: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 17:20:56.46 ID:WvM/Qvd80



松下「俺は肉うどんを無限に生み出せる能力がほしいな!」

日向「そこまでして食いたいのか五段!」

大山「超能力があれば特徴的になれるよね?」

藤巻「はっ。俺ぁ麻雀が強くなる能力が欲しいねぇ!」

高松「私の筋肉は超能力を得る為にあると言っても過言ではないですから!」クイッ

TK「E.S.P…E.S.P…」

椎名「……あさはかなり」

野田「」チーン



一方(つゥかコイツら馴れ馴れし過ぎンだろ……)



殺人鬼の大悪党である自分に寄ってたかって。

一方通行は皮肉的な笑みを漏らす。


だがその笑みにはほんの少しの喜びも混じっている事に、果たして彼は気付いているだろうか。



34: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 17:24:12.95 ID:WvM/Qvd80





ゆり「一方くん、あなたも何か飲む?」

一方「……コーヒー。ブラックで」


二人は、夕暮れに染まる屋上にいた。


一方(この世界じゃ死ぬ事は無ェらしいのに喉も渇くし腹も減るのか。ご丁寧なこった)


見たこともない銘柄の缶コーヒーを啜り、グラウンドを見下ろしながら一方通行はそんな事を考えていた。


一方「……どォ見ても普通の学校じゃねェか」


……まァその「普通の学校」にいた事なンざ無ェけどよ。

自嘲的な笑みを浮かべ、コーヒーをもう一口。


ゆり「彼らはNPC。プログラムに沿って延々とその役割を演じるだけの存在」

一方「ふゥン。で、オマエらとは何が違うってンだ?」

ゆり「うーん、制服とか? ……あとは何よりも天使と戦う意思があたし達にはあるわ」

一方「あァそォ」

ゆり「試しにその辺の生徒に話し掛けてみなさいよ。違いを見抜くのは難しいから」




35: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 17:28:00.27 ID:WvM/Qvd80


ゆり「天使の言いなりになって学校生活をまともに過ごせば消される。あたし達は抗い続けるわ」

一方「で、オマエらの最終目標はなンなンだ?」

ゆり「天使を消し去り、この世界を手に入れる!」

一方「……その天使ってのをすり潰せばこの世界を手に入れられンのか」

ゆり「なんか言い方が物騒ね……まぁそうだけど」

一方「ちっ。面倒臭ェ……」

一方(でもまァ、当面の目標はそれだな。取りあえずこの世界を手に入れられりゃァ自由になれンだろ多分)

一方「じゃ、とっとと潰しに行くぞ。天使ってのは何処だ」スッ

ゆり「ちょ、早いわよ!いつもは作戦を立ててから皆で行くんだから!」

一方「あァ? 作戦もオマエらも要らねェよ。一人で充分だ」



36: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 17:33:26.66 ID:WvM/Qvd80


ゆり「だめ!それに天使は一般生徒と共に学校で生活してるの。
だから他の生徒に被害が及ばないようにいつもは陽動班が生徒を引きつける訳よ」

一方「陽動……あのクソガキで大丈夫なのかよ」

一方(まァ、確かに一般人にゃ手ェ出す訳にはいかねェが……)

ゆり「――そういえば」

一方「あ?」

ゆり「早速明日の夜、オペレーションを行うわ」

一方「……」

ゆり「初陣ね、新人くん♪」




44: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:22:25.44 ID:WvM/Qvd80


一方通行は、杖をつきながら廊下を闊歩する。

制服(半ば無理矢理着せられた)を着ているものの、元々彼は白髪に白肌、赤い瞳という非常に目立つ風貌をしているせいで、只歩いているだけでも人目を集める。



一方(ちっ。うざってェ)



――それも彼が一睨みすれば蜘蛛の子を散らすように皆逃げていくのだが。



一方「ン……?」



目の前の教室から音が廊下まで響いてくる。
恐らく楽器の音だろう。歌声も聞こえる。



一方(あ? クソガキじゃねェか……)


覗いてみると、ユイが歌っていた。

他にドラムを叩く薄い青紫髪の少女と、ベースを弾く黄色髪の少女がいる。



45: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:23:56.25 ID:WvM/Qvd80


一方(そォいや陽動班ってのはバンドだって聞いたっけか……)


ふと思い出しながら、帰りに缶コーヒーでも買ってくか……なんて考え踵を返そうとすると、教室の扉が開いた。


ユイ「ウサ先輩じゃないですかぁ!」バターン

一方「おォ。つゥかその呼び方やめやがれ」

ユイ「まぁまぁ、折角だし聴いていって下さいよ!」グイッ

一方「ちょ、オイ!引っ張ンな!」


一方通行が中に入ると、二人の少女は一斉に彼を見た。

ゆりに「何て名前の奴がいるか」だけは教えてもらったものの、まだ顔と名前は一致しない。


ユイ「この人はウサ先輩!ウサギみたいだからウサ先輩でーす」

一方「オマエはもォ黙ってろ」



46: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:26:13.73 ID:WvM/Qvd80


入江「えっと……私は入江みゆきっていいます」

――ドラムの薄青紫頭。


関根「私は関根しおりでーす。よろしく!」

――ベースの黄色頭。



一方「あァ、俺ァアクセラレータだ」

関根「外人さん? ……にしては日本語ぺらぺらですね!ていうか目ぇ赤いですね!」

入江「カラコン……ですか?」



初対面で髪や目の色について聞かれた事は何度かある。
正直欝陶しいが、目の前の少女達の好奇心旺盛な目を見ると無下にも出来ない。



47: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:28:48.18 ID:WvM/Qvd80



「わりぃ、遅れた!」ガラッ


――すると、茶髪の少女が入ってきた。


ユイ「あ、ひさ子さん」

ひさ子「おっ、客か?」

一方「……」

ユイ「この人はウサ先p痛いです痛いですチョップはやめて下さい!!」

ひさ子「あぁ、ゆりから聞いたよ。新人くんだろ?」

一方「……その呼び方も止めて欲しいンだが」

関根「アクセラレータならアクセラさん、でどうです?」

入江「一方さん……」

一方「いや、あのなァ」

ひさ子「よし一方。なんなら演奏聴いてくか?」

ユイ「ありがたーく聴いてって下さいね!」

一方「……もォ勝手にしろ……」




48: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:31:40.45 ID:WvM/Qvd80





――夜。



・第二連絡橋


野田「ちっ。何故俺がお前なんかと行動しないといけないんだ」

一方「その言葉、そっくりそのままお返しすンぜ」

日向「まぁまぁ、一方は今回が初陣なんだし何人か付いてないと危ないだろ?」

一方「一人で充分だっつゥの」

野田「はっ。笑わせる」

一方「何なら試してみるか野田くゥゥゥン??」スッ



ゆり『しっ!天使が現れたわ!』



野田「っ!」ジャキッ

日向「!」チャキッ

一方「……アレが天使、か?」


目線の先には、色白の小柄な少女が立っていた。




49: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:34:50.78 ID:WvM/Qvd80



日向「あぁ。そういやお前は初めて見るんだったな」

一方「……いや、翼生えてねェじゃン」

日向「は?」

野田「何?」

一方「え?」

日向「……翼?」

一方「……あァ。翼生えてて言葉にノイズが走ってンのが天使だろ?」

野田「えっ」

日向「なにそれこわい」





ゆり『喋ってないでとっとと撃って足止めしなさいバカ共!』




50: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:38:51.46 ID:WvM/Qvd80



日向「っ……そうだったな、撃てっ!」ダンダンッ

野田「銃は嫌いだ」ダダンッ

一方(ハッ。あンなガキが天使だァ? あンだけ集中砲火されたら骨も残ンねェだろ)チラッ



天使「……」



だが、天使と呼ばれた少女は傷一つ無く歩み寄ってくる。



一方(オイオイ、銃弾を弾いてやがンのか!? まさか俺と似たよォな能力……魔術か?)

日向「おい、どうした!」

一方「くかかっ……面白ェじゃねェか」

野田「何するつもりだ!」




51: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:41:00.26 ID:WvM/Qvd80



藤巻「おいおい!あんの馬鹿……」

大山「一方くん!?」

松下「天使に向かって歩いていってるぞ!」

ゆり「撃ち方やめ!彼に当たるわ!」

高松「一体何を……!」

TK「Is he crazy ??」

椎名「あさはかなりっ!」




52: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:43:24.14 ID:WvM/Qvd80



一方「……よォ、天使さン」

天使「……」

一方「随分面白ェ仕掛けだな、そりゃ」

ゆり「一方くん!あなた何をやってるの!?」

日向「早く天使から離れろ!」


ゆりと日向がこちらに向けて銃を構えながら叫ぶ。


一方「最近身体が鈍っててよォ。たまには運動しねェとな」

ゆり「あなたは天使の強さを分かってないわ!」

一方「うざってェな。イイから下がってろ」カチッ


一方通行は笑いながら電極のスイッチを入れる。



……誰に言ってンだよ。

オマエらこそ、俺の強さを知らねェだろォが。




53: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:45:30.89 ID:WvM/Qvd80



一方「そンじゃ、行くぜ」

天使「……」

一方「ぎゃはっ!」ダンッ

天使「!」



一瞬にして肉薄した一方通行に即座に天使は反応した。



一方「オラァ!」



先ずは様子見。

人間離れした移動速度のベクトルを収縮した掌打。

「その程度」の攻撃を、天使と呼ばれる少女はその細腕で防いだ。

そしてその時、一方通行は見えない盾のようなものを感知した。



一方「!……へェ……」




54: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:47:51.54 ID:WvM/Qvd80


「普通の動きじゃない」――そう感じたのは天使の方も同じだった。


天使「……」バッ


一っ跳びで十メートルほど距離をとる天使。


一方「……甘ェよ」


それを受けて一方通行は地面の砂利を蹴りあげた。

一方通行(アクセラレータ)の能力を受け、小石は弾丸のように天使へ向かう。



天使「――Guard skill――Distortion」


だがさっきと同じく、小石は天使に当たるや否や見えない壁のようなものに砕かれ、あるいは逸れていく。




55: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:52:40.54 ID:WvM/Qvd80



一方「ハッ!」

天使「……」



目にも止まらぬ速さで互いの攻撃を捌き合う。




日向「アイツ凄ぇな……」

ゆり「あんなに速く動かれちゃ援護しようがないわね……」


完全に蚊帳の外な二人である。




天使「……」

一方(何だ何だよ何ですかァその妙なシステムはよォ!!)



そして攻防の中で、その未知のモノを解析していく。




56: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:54:27.88 ID:WvM/Qvd80



天使「――Guard skill――handsonic」

一方「……ハッ。来いよ」


今度は天使が人間離れした速度で一方通行に向かった。

しかし一方通行は両腕を広げ、それを受け入れる。



ゆり「っ――!」

日向「一方――!」











ぼぎっ。

と、嫌な音が辺りに響いた。






57: ◆A8/TIJ786I 2012/01/25(水) 23:58:47.37 ID:WvM/Qvd80



天使「……!」


天使の右腕が、通常では有り得ない方向に曲がっていた。



日向「な、何が――」

ゆり(あらゆる力の『向き』を操作する能力……どうやら本物らしいわね)

松下「!」

野田「なっ……!?」

藤巻「おいおい、超能力ってマジモンだったのかよ!」

大山「うわぁ……痛そう……」




58: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 00:01:37.30 ID:COncltJ30



一方「……こンなもンかよ」

天使「……」

一方「……」

一方(……コイツ、本当に天使なのか?何つゥか普通の人間に見えるが……)



無言で右腕を押さえている天使。その痛々しい姿はどこからどう見ても人間にしか見えない。



一方(……)チラッ



彼は天使の腕の光る刃を一瞥する。そして溜め息をつき、頭を掻きむしった。








一方「――飽きた。まァ少しは楽しめたぜ。じゃァな」






59: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 00:07:14.70 ID:COncltJ30






・食堂



日向「いやー、お前本当に強かったんだな!」

ゆり「超能力なんて嘘だと思ってたけど」

TK「So cool,rabbit!」

藤巻「あの天使をボコボコにするなんてやるじゃねぇかコラ!」

松下「戦線も強くなるな」

高松「これはナイス勧誘、ですね」クイッ

野田「ふん……」

一方「……ちっ」



一方通行は何故かむず痒くなり、舌打ちをする。
ていうかこのとりあえず舌打ちする癖は直すべきだと思うよ。





とにかく、こうして一方通行にとって初のオペレーションは無事(?)終了したのだった。



73: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:08:51.59 ID:L4830xv10


一方通行が死んだ世界戦線に加わってから三週間が経った。

当初と比べると大分馴染んできたものの、元々大人数でつるむのが余り好きではない彼にとっては慣れない事も多い。

しかし以前と比べると、彼のコミュニケーション能力も随分と上がったものである。




松下「よし、肉うどん食いに行くぞ!」グイッ

一方「だァから引っ張ンな!こちとら杖ついてンだよ!」

日向「ったく、能力ないとホント貧弱だよなー」

一方「血液逆流させンぞコラ」ギロッ

高松「私のこの筋肉h……」

一方「黙ってろ脳筋」ギロッ

TK「M.o.y.a.s.h.i」

一方「オマエは相変わらず喧嘩売ってンなァ!?」ギロッ




74: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:10:43.15 ID:L4830xv10



・食堂


結局無理矢理連れて来られた一方通行は、松下・TKが馬鹿食いしてるのを呆れた目で見ている。


一方(コーヒー飲みてェ……)


こっそり自分だけ帰ろうか、なんて考えていると、誰かが近づいてきた。



藤巻「よぉ」

ひさ子「お邪魔ー」

松下「おう、お前達だけか?」

ひさ子「あぁ。コイツがまだ朝食べてないって言うからさ」

藤巻「そっちこそ一方が一緒に来てるなんて珍しいじゃねぇか」

松下「あぁ、さっき誘われてな」

一方「自然に嘘つくなコラ」

ひさ子「へぇ。あんた意外にそういうところあんのね」

一方「信じンなよ……」




76: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:12:35.50 ID:L4830xv10


TK「??♪?♪???♪」

藤巻「……おぉそうだ。折角面子いるんだからよ、麻雀でもしねぇか?」

松下「おう。良いぞ」

ひさ子「あたしも良いよ。今日は練習ないし」

藤巻「おぉし」

ひさ子「あんたは麻雀できるの?」

一方「いや、ルールすら知らねェ」

松下「それじゃあついでに覚えさせるか」

藤巻「TKは――」

TK「Let's dance!」

藤巻「――よし、んじゃ飯食ったら早速やるか!」

一方(俺に拒否権はねェのかよ……)



軽く溜め息をつき、一方通行は立ち上がった。



松下「どうした?」

一方「……飲みモン買ってくる」



77: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:15:17.09 ID:L4830xv10



・自販売機前



――ガコン。


一方通行は片手で器用にプルタブを開け、一口啜る。

無糖の苦みが口の中に広がり、ホッと溜め息をついた。


一方「ン……」


そして戻ろうと再び食堂を通る――と、端の方であるものが目に入った。







一方「……よォ」

天使「……」



そこには戦線の敵、天使が座っていた。



78: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:18:11.82 ID:L4830xv10



天使「あなたは……」

一方「安心しろ。こンな所でドンパチやる気はねェよ」


どうやら――というか食堂にいるのだから当然か――彼女は、昼食を取っていた。


一方(コイツも……普通に生活してるンだったか)


元通りの右腕を一瞥し、ふとそんな事を思う。


一方「生徒会長様が一人で飯か? つゥか……」


彼女――天使の前に置かれているのは、「ハバネロ○個分の辛さ!」とかのフレーズが似合いそうな赤い麻婆豆腐だった。


一方「……そォいうもンが好きなのかァ?」

天使「え……?」



彼が尋ねると、天使は不思議そうに目の前の麻婆豆腐を見つめる。




79: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:20:20.85 ID:L4830xv10


天使「『好き』? 私はこういうのが好き、なの……?」

一方「俺に聞くな。自分の事だろォが」

天使「分からない。……でも、美味しい」

一方「そォか」

一方(……つゥかなンで俺ァ敵とこンな他愛もない話をしてンのかね)





一方(……)





一方(『敵』、か……)



彼は白い眉をひそめる。



一方「――なァ、オマエ」



80: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:22:57.77 ID:L4830xv10


天使「何?」

一方「……オマエ、本当に天使なのか?」

天使「ううん。私は天使なんかじゃないわ」

一方「は?」

一方(即答かよ……)



……天使じゃない。

じゃあ目の前のコイツは、今まで何度も自分達と戦ってきたコイツは何者だ?


一方(嘘ついてるよォには見えねェが……天使じゃねェなら何なンだ? いくら死なない世界とはいえ銃もナイフも効かねェ人間なンざ―――)



一方(―――いや、あれ? 考えてみると結構いたわ)





天使「……どうかした?」

一方「いや、なンでもねェ」


そして杖を握り直し、一方通行は踵を返した。



81: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:26:38.42 ID:L4830xv10





・対天使用作戦本部



ゆり「全員…とまではいかないけど、集まったわね」


白いベレー帽を被ったゆりにメンバーの視線が集まる。


ゆり「早速だけど、あなた達には野球大会に出てもらうわ!」

大山「なっ……」

高松「なっ……」

松下「なんだってぇぇぇぇ!?」

日向「は? どういう事だよそれ」

ゆり「この作戦の狙いは……」



曰く、

皆で楽しく野球をしよう→いやー楽しい。青春だ!満足だ!→そこで普通なら消える→でも飽くまで作戦だから消滅しない→それを見た天使「あれ? 満足してるみたいなのに消えないぞ?」→混乱→作戦成功☆

らしい。



一方「……くっだらねェ」




82: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:29:08.24 ID:L4830xv10


日向「なんだそりゃ……」

ゆり「言っておくけど、これはれっきとした作戦なんだから負けたら罰ゲームよ?」

大山「えぇっ!?」

一方「面倒臭ェ」

高松「それで我々戦線チームを作り優勝を狙う、と」

ゆり「あたしらは二チーム作るわ。その方が決勝で当たった時面白いでしょ?」

日向「……ってそれじゃ俺達の半数は確実に罰ゲームじゃねぇか!」

ゆり「あー、その辺はちゃんと考慮するわよ。それより真面目に取り組んでるところを天使に見せるのが重要なの。だから……」






ゆり「手ぇ抜いたら殺す☆」ニコッ




83: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:32:27.50 ID:L4830xv10



・廊下


日向「さて、と」

一方「……」カツカツ

日向「うおーい!何処行くの!?」ガシッ

一方「俺ァやンねェぞ」

日向「待ってくれ!頼むぜ!」

一方「つゥか杖つきで野球なンざ出来る訳ねェだろ」

日向「能力使えよ!そうすりゃ優勝確実じゃねーか!」

一方「電池の無駄だろォが」

日向「大丈夫、安心しろ。俺の人脈で最高の人材を選んでやる。だからチーム組んで下さい」

一方「ちっ。最初からそォしろよ」

日向「……」

一方「? どォした」

日向「……あ、いや。何でもねーよ」




84: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:35:52.92 ID:L4830xv10





・体育館


日向「なぁ、俺のチームに入ってくれないか?」

ひさ子「あー、悪いけどもう高松んとこに入った」

日向「裏切り者ぉ!」

ひさ子「そんじゃあね」スタスタ

日向「くっそ……アイツ運動神経抜群なのによぉ」

一方「……」




・食堂


松下「あぁ、それならもう高松達と組んだぞ」

日向「ひ、酷いぜ松下五段!」

一方「……」




・空き教室


TK「Their beats,look like my beat!Foooo!」

日向「ティ―――ケェ―――!!」チクショォォォォ!!

一方「……」





85: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:39:20.12 ID:L4830xv10




日向「」チーン

一方「大した人脈だなァ」

日向「だ、誰か……他に……」

一方「……オイ、あの椎名って女はどォだ? 身軽そォだろ」

日向「ナイスアイデア!早速行くぜ一方!」




・体育倉庫


椎名「……あぁ、構わないが」

日向「やったぜぇぇぇ!!」

一方(つゥか普通に喋ったとこ初めて見たわ)




・廊下


日向「よっしゃ次は……」



ユイ「せぇーんぱぁーい!」タタタッ



日向「ん――?」

ユイ「せいやぁぁぁ!!」ゲシッ

日向「ふべらっ!?」

ユイ「野球大会のチーム、このユイにゃんが入ってやるぜぇぇぇ!」

日向「どっから沸きやがったぁぁぁ!?」

椎名「あさはかなり……」

一方「……ったく、まだ足りねェンだろ。さっさと次行くぞ」

日向「……」

一方「オイ!聞いてンのかァ?」

日向「あ、あぁ!悪ぃ」




86: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:42:31.62 ID:L4830xv10




・川原



野田「せいせいせい!ふんっ!ぬりゃあぁぁぁぁぁぁ!!」ブンブンブン




日向「……よし、馬鹿だ」

ユイ「アホですね」

一方「三下が……」

椎名「……あさはかなり」




87: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:45:00.15 ID:L4830xv10





――野球大会当日。



ユイ「早速私達の試合が始まりまーす!」

一方「つゥか今更だが面子は揃ったンかよ?」

日向「あぁ、正直集まんなかったからユイの知り合いを誘った」



女1・2・3「宜しくお願いしまーす」



一方「勝てンのかこれで……つゥか一人足ンねェし」

野田「ゆりっぺの顔に泥は塗れん。絶対に勝つぞ」

椎名「……」コクッ




88: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:48:28.82 ID:L4830xv10



日向「……」ボーッ

一方「オイ。さっきから何呆けてやがる」

日向「……ん。何かさ、懐かしいなって」

一方「懐かしい? 野球やってたのか? ……その、生前に」

日向「あぁ。セカンド守らせたら右に出る奴はいない…とか言われる程だったんだぜ」

一方「なンだそりゃ」

日向「……でもさ、ここ一番でエラーして負けちまったんだ。なんて事の無いフライだったのに」

一方「……」

日向「だから、だから今日は勝って勝って優勝しないとな」

一方「……仕方ねェな」









日向「よっしゃあ!締まってくぞぉぉぉ!」

野田ユイ女1・2・3「おぉぉぉぉ!!」



椎名「……」

一方「……さっきから思ってたンだが何でオマエはずっと箒支えてンの?」




89: ◆A8/TIJ786I 2012/01/26(木) 23:52:01.09 ID:L4830xv10





日向「おらぁ!」カキーン

椎名「あさはかなりっ!」カキーン

野田「ぬりゃあぁぁぁぁっ!!」ドギャーン

ユイ「そいやぁぁぁ!」ストラーイクバッターアウッ

一方「くかっ……くかきけこきかくけかきこけきくけかきくかかかか―――!!」






……とまぁ、大体こんな感じであっさりと準決勝まで勝ち抜いたのだった。





100: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:34:40.12 ID:VkTD3Kli0





日向「――次の相手は、天使達だ」

野田「何っ!?」

日向「しかも、相当手強いメンバーを連れてやがるぜ……ありゃ野球部レギュラーだ」

一方「ふゥン」

椎名「……」

ユイ「確かに皆ゴツイですね……」チラッチラッ

一方「オイオマエ今何でこっち見た比べただろコラ」

ユイ「まっさかー☆」テヘッ





101: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:36:22.95 ID:VkTD3Kli0



野田「向こうの戦線メンバーも勝ち抜いて来てるみたいだな。締まって行くぞ」

ユイ「ですね」キリッ

日向「……いやいや、さっきからお前何もしてないだろ」

ユイ「何だとこらぁぁぁ!」ブンブン

日向「あぶっ!? ちょ、バットはやめろぉぉぉっ!」

一方「ったく……うっせェな」

日向「が、頑張れよ一方……」ギリギリ

ユイ「がるるる……!」ギリギリ

野田「はっ、無様な姿だけは見せるなよ」

一方「誰に言ってンだよ三下」




102: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:38:12.98 ID:VkTD3Kli0



・対天使作戦本部(校長室)



ゆり「さーて、スポーツマンシップに則って決着つけましょう……!」

遊佐『凄く腹黒そうな声ですよ、ゆりっぺさん』











プレイボール!



ピッチャー「……」ゴゴゴ

一方(確かに妙な威圧感があンな……だが)

ピッチャー「せいっ!」ブンッ




103: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:40:36.83 ID:VkTD3Kli0



一方(ボールと指の摩擦、ボール周辺の気流の変化、マウンドからバッターボックスまでの距離とそこに掛かる空気抵抗。
これらを演算式に取り込み、逆算する事によりボールの最終到達地点を割り出す……!)


―――この間約0.05秒。



一方(けっ。朝飯前なンだよォォォ!)

一方「ぎゃはっ!!」カキーン




104: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:44:54.42 ID:VkTD3Kli0



日向「おぉ、柵越えコース!」

ユイ「ナーイス!ウサ先輩!」



一方(バッテリー勿体ねェから歩くか)カチッ

一方「――ン?」



外野「ぬぉぉぉ!」バババッ



野田「フェンスを登ってやがる!? なんていう速さだ!」

日向「嘘ぉ!?」



外野「はっ!」パシッ


アウト-!



一方「……上ォ等じゃねェか……!」




107: >>106訂正 2012/01/28(土) 23:49:37.01 ID:VkTD3Kli0





一方「打てるもンなら打ってみやがれェェェ!」ブンッ


スリーアウト、チェンジ!



戦線チーム0ー天使チーム0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



野田「どりゃあぁぁ!」カキーン

内野「ふんっ!」バシーン

日向「だあっ!」キーン

内野「せいっ!」パシッ

一方「大人しく尻尾ォ巻きつつ泣いて無様に元のグローブに引き返しやがれェ!!」ズガーン



1ー0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方「ぎゃはっ!甘ェンだよ三下共がァァァ!!」ドギャーン



1ー0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



椎名「あさはかなりぃぃ!!」カキーン

内野「ふんっ!」パシッ

ユイ「せいやぁぁぁ!!」ストラーイクバッターアウッ



1ー0






108: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:51:36.55 ID:VkTD3Kli0





そして1ー0で戦線チームがリードしたまま、九回の裏。


一方(ツーアウト二、三塁か……バッテリーはなンとか持ちそォだな)

日向(よし、ここを抑えりゃ勝ちだ……!)




一方「おらァ!」ブンッ

バッター「ぬあぁぁぁ!」ギィン

野田(しめた!引っかけやがった!)

椎名「勝機……!」






日向(よし、俺がこれを捕れば勝ちだ!)






109: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:54:07.90 ID:VkTD3Kli0





日向(これを……捕れば、終わりだ)





日向(これを……)





日向(……あれ? この光景、前にも……)






110: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:55:42.13 ID:VkTD3Kli0



日向(……)

一方(ン……? どォしたンだアイツ)



日向(そっか……捕れば終わり、か。そいつは最高に気持ちが良いな……)

一方(まさか―――)



一方通行の脳裏に過ぎったのは、ゆりやひさ子から聞いた――岩沢まさみという少女の事である。

彼女は、一方通行がこの世界に来る直前に「消滅」したという。

そしてその消滅した理由が――。



一方(日向はさっき自分の心残りを話していた。聞く限り今の状況とそっくりじゃねェか……!)





……つまり、あのボールを捕ると。






111: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:57:22.80 ID:VkTD3Kli0





日向(……)スッ


一方(……オマエはそれで消えて良いのか……?)






112: ◆A8/TIJ786I 2012/01/28(土) 23:58:58.88 ID:VkTD3Kli0





ユイ「――私が捕るんじゃぁぁぁい!!」ゲシッ

日向「わっつ!?」ビターン



一方「」




113: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 00:00:39.05 ID:LDdRYgqH0



日向「おまっ、何してやがんだよ!落としちまったじゃねーか!」

ユイ「だって先輩達ばっか活躍してて狡いもん!」

日向「こんのやろぉぉぉ!」ギリギリ

ユイ「ぎゃあぁぁぁギブギブギブ!」ギリギリ

日向「いーや今のは許さねぇ!!」



一方「」





最終スコア、1ー3。

ゲームセット。




114: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 00:02:13.77 ID:LDdRYgqH0



そして。



野田「……」



椎名「あさ……はか、なり……」



ユイ「……」



日向「……ぅ……」



一方「……コー、ヒー……」




天使の目の前でしょうもない失態をした五人は、ゆりによる地獄の「一週間の断食」を味わう羽目になったのだった。



121: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:02:09.79 ID:LDdRYgqH0



・対天使用作戦本部



ゆり「――高松くん、報告をお願い」

高松「武器庫からの報告によると、武器・弾薬が残り少ないようです」



一方「……武器庫なンてあンのか」

日向「前から何回も会話の中で出てたぜ」



高松「再び天使と一戦交えるにはそろそろ補給が必要でしょう」クイッ

ゆり「ありがと。という訳で今回のオペレーションは『ギルド降下作戦』よ!」

一方「なンだギルドってのは」

ゆり「簡単に言うと地下にある武器製造所ってとこね」

一方「地下もあンのかよ……」

ゆり「早速今いるメンバーで行くわよ!」

松下「なぁゆりっぺ。そういえば野田がいないが……」

藤巻「はっ。どーせまた単独行動だろ」




122: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:04:26.68 ID:LDdRYgqH0



・ギルド連絡通路 B1


一方「にしてもこンな所に入口があったなンてな」

ゆり「行くわよ」

日向「ん? おい皆、あれ……」




野田「……遅かったな」




ゆり「……」

高松「何故もうここに……?」

大山「野田くんはシチュエーションを重要視するからね」

野田「おい一方。俺はまだお前を認めてない」

一方「あァ?」

松下「いきなり何を言い出すんだアイツは……」

一方「別に認めて貰おォなンて毛ほども思ってねェよ」




野田「……ふっ。口は達者だな―――ぐはっ!?」メコッ!!




一方「」




123: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:06:21.65 ID:LDdRYgqH0



野田「何…だと…」ガクッ

一方「……何コレ」

ゆり「これは……対天使用トラップ!?」チャキッ

日向「おいおい、なんでそんなもんが発動してんだよ!」ジャキッ

藤巻「ちっ!どうなってやがんだ、ゆりっぺ!」スッ

TK「……」チャキッ

椎名「……」スッ

ゆり「分からないけど……罠が発動してるって事は天使に侵入されたって事よ」

高松「て、天使がここに入ったのですか!?」

椎名「不覚……」

松下「どうする?」

ゆり「とにかくギルドの皆と合流しないと」

大山「えぇっ!こんな罠の中を進むの!?」

ゆり「そうよ。行きましょ」

一方「……面倒臭ェな……」




124: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:08:11.26 ID:LDdRYgqH0



ゆり「……」スタスタ

日向「……」スタスタ

一方「……」カツカツ

椎名「……!」ピクッ

一方「!」

椎名「まずい!」



全員が反応する前に、天井から大きな鉄球が落ちてきた。



松下「!」

藤巻「マジかよ!」

TK「Oh,my……」

日向「走れ走れ走れ!!」

ゆり「高松くん!」

高松「くっ―――」




高松「ぎゃあぁぁぁっ!!」グシャッ




一方(普っ通ゥに潰されたァァァ―――!?)




125: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:09:54.89 ID:LDdRYgqH0



椎名「皆、こっちだ!」

松下「何してる一方!早く来い!」

一方(杖ついてて走れっかよ……面倒臭ェ)カチッ



ドギャーン!!



大山「うわっ!」

藤巻「っ……どうなった!?」



鉄球は粉々になっており、一方通行は無傷で立っていた。



一方「ったく……」カチッ

松下「あー……そういえばそうだったな」

日向「相変わらずチートだよなー」

大山「ていうか最初から一方くんが鉄球壊してれば良かったような気が……」

ゆり「……さ、行くわよ」

一方「オイ、良いのか? 脳筋眼鏡を放っといて」

日向「大丈夫だって。その内自力で戻るさ」




126: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:11:57.04 ID:LDdRYgqH0




・ギルド連絡通路 B3



一方「――こりゃまァた暗ェ部屋だな」

大山「あぁっ!」

ゆり「どうしたの!?」

大山「忘れてたよ!ここは閉じ込められるんだった!」

一方「ンな事忘れてンじゃねェ!」

椎名「あさはかなり……」



松下「―――伏せろ!」バッ

ゆり「!」バッ

日向「っ!」ガシッ

一方「痛ェよ一人で伏せられるわ引っ張ンな!」



椎名が煙幕を投げると、そこには赤外線のようなレーザーが光っていた。



127: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:13:39.62 ID:LDdRYgqH0



一方「触れると警報でも鳴るってかァ?」

ゆり「……そんな可愛いもんじゃないわ」

日向「鉄も綺麗に焼き切る驚きの切れ味!って感じかな」

一方「……」

藤巻「来るぞ!」



赤い光が形を変えながら戦線メンバーに襲い掛かる。



一方(こンな狭ェ部屋で反射したらどォなっか分かンねェ……普通に避けるのが無難か)カチッ

日向「うぉっと!」バッ

ゆり「っ!」バッ

椎名「ふっ!」バッ

藤巻「ちっ!」バッ

大山「わわっ!」バッ

TK「I got it!」バッ



松下「ぬっ……!!」





128: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:15:14.87 ID:LDdRYgqH0



日向「早く開けろぉぉぉ!」

藤巻「だらぁぁぁ!」ガチャッ

大山「ぜーはーぜーはー」



雪崩のように、皆出口になだれ込む。



日向「はぁ……はぁ……」

藤巻「危機一髪……だったな……」

ゆり「松下くんは……あの身体じゃ避けられない、か」

大山「うぅ……」

一方「……」




129: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:16:43.78 ID:LDdRYgqH0




・ギルド連絡通路 B6



一方(ここは……さっきと違って妙に広い部屋だな。それに天井も不自然な程高ェ)


そう一方通行が考えた瞬間、合わせるように天井が下がってきた。


大山「忘れてたよ!ここは天井が落ちてくるんだった!」

一方「またかよコラァ!」

日向「おいおい!どーすんの!?」

ゆり「あそこから抜けだすわよ!」

椎名「行くぞ!」



TK「Let's go!」バッ



自らの身体を盾(縦)にし、TKは落ちてくる天井を支える。

みしっ、と嫌な音が鳴った。




130: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:18:54.16 ID:LDdRYgqH0



日向「お、おいTKっ!」

TK「Go!今なら間に合う……」ブルブル

一方(普通に喋ったァ!? つゥか日本語喋れンのかよ!)

ゆり「分かったわ。ありがと」

日向「サンキュ!」

大山「じゃあ……」

藤巻「達者でな」

一方「……相変わらず軽ィなオマエら……」

TK「早く……早く行って抱きしめてやれ……!」ブルブル

一方「いや誰をだよ」





131: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:21:29.83 ID:LDdRYgqH0




・ギルド連絡通路 B7



ゆり「……」スタスタ

藤巻「……」スタスタ

日向「……」スタスタ

一方「……」カツカツ

大山「……」スタスタ

椎名「……」スタスタ



――ビキッ。

という嫌な音が足元に走り……


ゆり「――!」

日向「!」


そして次の瞬間、足元が崩れ落ちた。



大山「忘れてたよ!ここは――――………」ヒュウウウ

椎名「くっ!」パシッ

藤巻「ぐっ」ガッ

ゆり「んっ!」ガシッ

日向「うぉっ!」パシッ

一方「ちィっ!」ガッ



何とか戦線メンバーは耐える。

一人落ちたけど。




132: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:25:16.29 ID:LDdRYgqH0



ゆり「お…重過ぎる……!」プルプル

日向「俺と一方も落ちるか!?」

椎名「ここで一気に戦力を失うのは得策ではない!」

ゆり「は、早く……のぼってよ……!」プルプル

日向「登れ一方!ていうか能力使え!」

一方「そォしたらサクッと行きすぎて詰まンねェだろォが」

日向「何それ!? さっき使ってたじゃん!」

一方「そりゃオマエ……あれだ、あン時は割りと危なかったからなァ」

藤巻「お前ら喋ってねぇでさっさと登れよ!」

一方「チッ……行くぞ」グッ

日向「っ!……お前ってSだな」

一方「何言ってやがる」グイッ

日向「痛い痛い痛い!髪引っ張んなぁ!」

一方「掴むとこ無ェンだから仕方ねェだろ」グイッグイッ

日向「ちょ、わざとやってないっすか!?」




133: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:29:45.62 ID:LDdRYgqH0



一方「……よっと」

ゆり「早く……しなさい!」プルプル

一方「……」

ゆり「な、何やってるの?」

一方「……いや、どこ掴めば良いンだよ」

ゆり「どこでも良いわよ……」

一方「ンな事言われてもなァ」



日向「うぉーい!さっきから杖が当たって痛いんですけど!?」



一方「はァ……じゃ、行くぞ」グッ

ゆり「んっ……!」

一方「よっ……ってオイ!オマエなンでこっち向きなンだよ!」

ゆり「し、仕方ないじゃない!そんな事より……早くしなさいよ……」

一方「……ったく……」



何とか一方通行は登りきった。
これでもうモヤシのイメージは払拭できた筈である。


ゆり「ちょ、どこ触ってんのよぉぉぉぉ!!」ゲシッ

日向「おまっ、馬っ鹿野郎ぉぉぉ!!」ヒュウゥゥ

ゆり「あ」




134: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 18:34:50.52 ID:LDdRYgqH0



一方「――オイ、日向はどォした」

ゆり「尊い犠牲よ」

一方「は?」

椎名「……」

ゆり「遂に四人になっちゃったわね……」

藤巻「入ってまだ一ヶ月も経ってない一方が残ってんのが奇跡だけどな」

一方「そりゃどォも」



……正直、能力使えば今のもさっきのも余裕だったけどな。

一方通行は目を逸らしながらそんな事を考えていた。




143: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:23:54.90 ID:LDdRYgqH0



・用水路



一方「……」

藤巻「」プカプカ

一方「コイツってカナヅチだったンだな……」

椎名「こっちに出口があるぞ」

ゆり「一方くん、泳げる?」

一方「嘗めンな。能力無しでも余裕だっつゥの」







144: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:26:15.12 ID:LDdRYgqH0





一方「……つゥか、ギルドってのにはまだ着かねェのか?」

ゆり「もうすぐよ。ここを越えたら――」

椎名「むっ!」ピクッ



椎名の視線の先には、水道に浮かんでいる箱があった。



一方「ン?」

ゆり「何かしらあれ……」

椎名「仔犬がぁぁぁ!」バッ

一方「はァ!?」

椎名「はぁぁぁぁっ!!」パシッ



忍者の如き動きを見せながら、流されている箱を滝壺ギリギリで掴む。


―――が。




145: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:28:17.90 ID:LDdRYgqH0



ぬいぐるみ< やぁ


椎名「」

一方「」

ゆり「」



椎名「不覚―――っ!!」ヒュウゥゥ


ぬいぐるみを抱えたまま、椎名は滝へ消えていった。





ゆり「くっ……椎名さんまで……」

一方(えェー……何これ……)

ゆり「可愛い物に目がないのが彼女唯一の弱点なのよ……」

一方「……」




146: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:31:25.12 ID:LDdRYgqH0






* * * * * * * * * * * * *







147: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:34:51.65 ID:LDdRYgqH0



ゆり「着いたわ!」

一方「ここが……」


一方通行は素直に感心した。

地下深くの大きな空洞に、これまた大きな工場。

彼が今まで見てきた実験場や研究所の中でもトップクラスに匹敵する広さだろう。



ギルドA「おぉ、ゆりっぺ!」

ギルドB「ゆりっぺだ!」


長い梯子を降りると、直ぐにギルドの隊員達が集まって来た。


一方「人気者だな」

ゆり「大袈裟よ」



一方通行は自分に向けられる好奇心の視線に軽く舌打ちする。
だからこの取りあえず舌打ちする癖を(ry



ゆり「それより皆、聞いて。ここに天使が侵入したわ」

ギルドC「て、天使が!?」

ギルドA「どうすれば良いんだよ!?」





「――ここを離れるしかないだろう」





148: 一方さんは既にゆりの過去を聞いています 2012/01/29(日) 23:37:45.65 ID:LDdRYgqH0


背後からの声に一方通行は振り向く。
そこには見るからに「職人」と言えるような髭面の男が立っていた。



ギルドA「チャーさん!本気かよ!?」

ギルドB「ここを捨てんのか!?」

チャー「あぁ。大事なのは設備や施設じゃない。自分達の技術と魂だ!」


いきなり現れたチャーという男の一声により、ギルドのメンバー達からも段々と賛同の声があがる。


チャー「よし、そうと決まれば早速爆破の準備だ!」

ギルド員「「「おおぉぉぉぉ!」」」



ギルド員達が準備をする中、ゆりと一方通行は地響きを感じた。



ゆり「!まさか――」ダッ

一方「オイ、どこ行くンだ?」

ゆり「足止めよ!奴さんが来たわ!」





149: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:41:41.38 ID:LDdRYgqH0







ゆり(さて……と)


ゆりは暗闇に向かって銃を構える。
そして何も無い闇から、音も無く白い影が現れた。


ゆり「先手必勝!」ダンダンッ



躊躇せず小さな少女に銃弾を叩きこむ。
そして何発かは彼女の身体を貫くが―――。



天使「――Guard skill――Distortion」



そう呟くだけで傷は治り銃弾は見えない壁に弾かれ、逸れていく。



ゆり(相変わらず一方くん並にチートよね……それなら!)


それを受けて、ゆりは銃を捨て近接戦闘に切り替えた。



ゆり「っ!だあっ!」バババッ

天使「……」バババッ




150: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:44:10.60 ID:LDdRYgqH0



一方(ったく……一人で突っ走り過ぎだっつゥの……)


目にも留まらぬ攻防を余所に、長いとは言え梯子を登って来ただけで息の切れた学園都市最強がひょこっと顔を出す。



ゆり「たぁっ!」バッババッ

天使「……」シュッバッバッ



一方(へェ、アイツ近距離戦でもいけンのか……)



柄にもなく感心している学園都市最強。
その間にも少しずつゆりは押されてきてるんだから早く助けろって感じなんだけどね。



天使「――Guard skill――delay」

ゆり「!」



一瞬にして相対していたゆりの背後に回り込む天使。

いや、「回り込む」ではなく、「目の前から消え、一瞬にして背後に現れた」とでも言うべきか。



一方(ちっ。仕方ねェな―――)カチッ


彼は刹那に二人との間合いを詰め―――ゆりに迫っていた光る刃を粉々に砕いた。




151: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:46:33.17 ID:LDdRYgqH0



天使「!」

ゆり「一方くん!」


そして彼が割って入ったのに合わせるように、大きな砲台のようなものが地面から現れた。



ギルドB「二人共!離れろ!」

ギルドA「ぶっ放すぜ!」

ゆり「あなた達、やるじゃない!」

一方「ほォ」



A&B「発射ぁぁぁ!!」




152: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:48:27.86 ID:LDdRYgqH0




ドカァァァン!


――と、派手な音を立てて「砲台が」爆発した。




ギルドA「くっ……即興じゃ無理があったか……」

ゆり「真面目に作りなさい!」ゲシッ

一方「……」



そうしている間にも、天使は砂埃を払いながら歩み寄る。




153: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:52:41.50 ID:LDdRYgqH0



チャー「お前ら!少しでも時間を稼ぐぞ!」


そう言ってギルドのメンバー達は小型の爆弾のようなものを天使に向かって投げた。
天使は微動だにせず只それを見上げる。



一方(オイオイ、やり過ぎ……でもねェンだろォな)



絶え間無く舞う爆風を見て、そんな事を考える一方通行。

事実、天使は無傷で立っていた。




チャー「皆伏せろ!起爆するぞ!」


その声と同時、ギルド内に仕掛けた爆薬が起動し、その衝撃が地割れを起こした。



ゆり「伏せて!」

天使「!」





その地割れは天使を飲み込み、まだ爆発の止まない階下へ落としていった。






154: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:54:47.59 ID:LDdRYgqH0





・オールドギルド



――戦いを終え、無事新ギルドに着いた一行。

全く何も無い大きな空間だが、ギルドのメンバー達は早速作業に取り組んでいる。



ゆり「もしもーし、さっさと戻って来なさいアホ共ー!」

一方「……」



――相変わらず軽ィな。本気でやってンのかたまに疑問に思うぜ。

一方通行は溜め息をつく。



ゆり「どうしたの?」

一方「いや、なンでも」

ゆり「そう?」

一方「……」



彼はギルドに着く直前に聞いたゆりの過去を思い出す。



一方(……コイツも、嫌な過去を背負いながら死ンだのか。いつもは気丈に振る舞っちゃァいるが……)




155: ◆A8/TIJ786I 2012/01/29(日) 23:56:36.98 ID:LDdRYgqH0



一方(……まァ、確かにリーダーシップみてェなのはある。あの三下共が付いてくるのも少し分かる気もする……)



一方「なァ」

ゆり「?」

一方「…………いや。何でもねェ」

ゆり「……ふーん? そういえば一方くん、電池は大丈夫なの?」

一方「……あァ、もしかしたらやべェkmbg知pdo2」バターン

ゆり「……」






ゆり「……もう。最後の最後で締まらないんだから……」ハァ





169: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 22:54:52.31 ID:jWE4ACN00



ゆり「ついにこの時期がやってきたわね……」

一方「は? 何かあンのか?」

ゆり「テスト週間よ!」



このテスト週間すらを利用して天使に対抗、つまり天使のテスト解答を捏造して全教科0点にさせて生徒会長の面目を潰そうというのである。潰そうというのである。



一方(それ只の嫌がらせじゃねェ?)

ゆり「……一方くん、今回あなたは留守番ね」

一方「なンでだ?」

ゆり「だって制服姿で杖ついてるアルビノくんなんてコスプレみたいで目立ち過ぎるじゃない。今回は邪魔にしかならないわ」

一方「そうかオマエは普段俺の事をそンな風に思ってたのかよし血液逆流か粉塵爆破か選べ」




170: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 22:56:45.38 ID:jWE4ACN00



……という訳でこの作戦には眼鏡を掛けた自称「クライスト」の竹山という少年、ゆり、そしてあまり目立たない一般人に近い日向・大山・高松が参加する事になった。



一方「……」



そんなこんなでテスト期間中は暇人となった一方通行。

なので無理矢理他のメンバーとの交流を深めさせようと思います。




171: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 22:58:25.63 ID:jWE4ACN00



・自販機前



一方通行は、もう既に飲み慣れた缶コーヒーを飲む。



一方(……)



タッタッタッ



一方(さて、と。どォすっかな……)



タッタッタッタッ



一方(部屋に戻ンのも面倒臭ェ……その辺で昼寝でもすっか?)



タッタッタッタッタッタッ



一方「あ?」クルッ





ユイ「せんぱーい!」バッ

一方「うォっ!?」バッ




173: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 22:59:47.27 ID:jWE4ACN00



(何故か)飛び掛かってきたユイを避け、一方は臨戦体勢に入りかける。


一方「なンだ急に!ビビるだろォが!」

ユイ「ちょっとしたボディランゲージじゃないですかー☆」

一方「☆出してンじゃねェ。つゥか何の用だよ」

ユイ「ひなっち先輩見ませんでしたか?」

一方「日向か?」



……そォいやアイツ、今作戦真っ只中なンだっけか。

不意の出来事にも無事な缶コーヒーを再び飲み、一方通行はそんな事を考える。




174: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:02:31.42 ID:jWE4ACN00



一方「アイツは作戦に参加してる。テスト期間中ずっとだとよ」

ユイ「えぇーつまんなーい」

一方「オマエらホント仲良いな」

ユイ「あれ? もしかして嫉妬ですかー? 羨ましいですかー?」

一方「あァとっても。そンじゃァな」

ユイ「ちょ、待って下さい!暇なんで遊びましょうよぉ!」

一方「俺はやる事あるンですゥ。多忙なンですゥ。オマエだけに構ってらンないンですゥ」

ユイ「遊ぼう言うとるんじゃぁぁぁぁい!!」バッ

一方「反射ァ」カチッ

ユイ「あべしっ!」

一方「また今度な」




175: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:05:28.66 ID:jWE4ACN00



・体育倉庫


一方(なンでここに来たのか俺も分からン。何となく来なきゃいけない気がした)



そこには、大量のぬいぐるみが転がっていた。

中にはギルド内で見たものもある。



一方「……おォ、椎名」

椎名「……一方通行か」




176: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:07:08.49 ID:jWE4ACN00



まぁ予想通り、椎名がいた。

しかも前まで箒一本だけだったが、なんか鋏やら定規やらが増えている。



一方「なンつー光景だこりゃ」

椎名「……集中力を高めている」

一方「ふゥン……」



シュール過ぎンだろ……と呟きながら、何気なくぬいぐるみを一つ拾う。



一方「……」

ぬいぐるみ「……」




177: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:09:08.57 ID:jWE4ACN00



ぬいぐるみと睨めっこをしていると、椎名に肩を掴まれた。


一方「ン?」






椎名「キュ―――――ト!!」

一方「」






何だよ急に顔近ェよつゥか目ェキラキラしてンなオイ。

……言いたい事は山ほどあるのに、最高の頭脳は一言だけしか紡げなかった。



一方「お、おォ。そォだな」

椎名「……あ、あさはかなりっ」

一方(何でちょっと照れてンだよ訳分かンねェコーヒー飲みてェ……)




178: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:11:43.04 ID:jWE4ACN00





・屋上



一方(良い天気だな……)



大して時間も経っていないのに既に疲労感たっぷりな一方通行。



「……こんにちは」



オッサン臭い事を考えていると、不意に声をかけられた。



一方(……ったく。今度は誰ですかァ?)クルッ

遊佐「こんな所で何をしてるんですか?」



179: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:14:18.07 ID:jWE4ACN00




一方「……」

遊佐「……」

一方「……」

遊佐「?」







一方(……誰だっけ、コイツ……)







目の前の黄色髪の色白な少女を見る。
聞き覚えのある声だったのに、見慣れない顔だ。

戦線に入って一ヶ月程経ったはずなのに、なんとも酷い男である。




180: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:16:51.61 ID:jWE4ACN00



遊佐「どうしました? 魂が抜けたような顔をして」

一方「……」

遊佐「……」

一方「いや、うン。その……元気、か?」

遊佐「……もしかして私の事忘れてますか?」

一方「っ……!」ピクッ

遊佐「遊佐ですよ。主に天使の監視、作戦の中継役をしてます」

一方「あ、あァー……」



すンませン。正直忘れてました。




181: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:18:55.34 ID:jWE4ACN00




遊佐「……思い出しましたか? 今回の作戦で戦力外宣告された一方通行さん」




少女は無表情だったが、妹達(シスターズ)の無表情を見慣れている一方通行には、どことなく彼女がからかっているのが分かった。



一方「喧嘩売ってンですか遊佐さァァァン!?」

遊佐「そろそろ私は天使の監視に戻ります。それでは」スタスタ

一方「……」



マジで妹達みてェだな……。

一方通行は大きな溜め息をついた。




182: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:20:52.85 ID:jWE4ACN00





・廊下



一方(……もォ良いだろ。もォ流石に充分だろ。眠ィ。ゆっくり寝たい……)





藤巻「―――おーい一方ぁ!」

一方「なァァァンなンですかァァァァァ!!?」



そうは問屋が卸しませんでした。




183: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:22:18.80 ID:jWE4ACN00



藤巻「相変わらず柄悪ぃな、おい」

ひさ子「いや、あんたも相当なもんだよ藤巻……」

松下「今暇か?」

一方「歩くのに忙しい。じゃァな」

藤巻「松下五段!」

松下「応ッ!」



早速帰ろうとした一方通行に手をかける松下五段。



松下「大外刈りッッッ」

一方「ぬぐァっ!?」バターン

藤巻「一本!決まったぜぇぇぇ!」

ひさ子「……」




184: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:23:57.91 ID:jWE4ACN00



一方「なァァァンなンですかァァァァァ!!?」

藤巻「おぉ、テイク2か?」

松下「今度は払い腰だな」

ひさ子「やめなって。主旨変わってきてない?」

松下「お、そうだったな」

藤巻「よっしゃ麻雀すんぞ!」

一方「またかよ……」



一度の実践でルールを覚え、ひさ子と鎬を削り合う程にまで上達した一方通行。



藤巻(笑)




185: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:27:23.87 ID:jWE4ACN00



藤巻「やろうぜ!」

一方「勝手にやってろ」

藤巻「何でだよ!連れねぇな!」

一方「眠ィンだよ俺ァ。つゥかTKはどォした? あのエセ外人誘えや良いだろ」

松下「あいつはどこにいるか分からんからな」

ひさ子「それにあんた強いから楽しいんだよね」

一方「……はっ。なンだオイ!勝つ気でいンのかァ?」

ひさ子「当然。ボコボコにしてやるよ」

一方「上ォ等だよひさ子さァァァン!半荘一回勝負だぜェ!?」

ひさ子「後悔すんなよ一方ぁ!」





藤巻「どうせ俺ぁ数合わせだよ……噛ませ犬だよ……」

松下「げ、元気出せ。な!」




186: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:30:20.03 ID:jWE4ACN00





・屋上



一方通行は缶コーヒー(今日三本目)を啜り、手摺りに寄り掛かる。



一方(……随分丸くなったもンだな俺も)



だが所謂「青春」を彼も殆ど経験していないせいか、ここに来てからは新鮮な事ばかりだ。





ドーン!!


ナンデマタオレガキリモミヒコウシナキャイケネェンダヨ!?

エ、エグイヨユリッペ……!!





一方(……良い天気だな)


階下から響いてくる騒がしい声を聞きながら、一方通行は再びコーヒーを流し込んだ。




187: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:32:27.16 ID:jWE4ACN00







* * * * * * * * * * * * *










188: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:34:40.25 ID:jWE4ACN00





・対天使用作戦本部



ゆり「皆も知っての通り、天使は生徒会長を解任させられたわ」

一方(いや、俺知らねェンだけど)

藤巻「はっ!テスト捏造作戦が成功したって事かよ」

高松「……当然です。きりもみましたから」

日向「あぁ。きりもったもんな」

大山「あははは……」



松下(作戦のメンバーに一体何があったんだ!?)

藤巻(なんか知らねぇけどトラウマになってんぞ!?)

TK「~~♪~~~♪」

野田「……ふん」




ゆり「という訳で、オペレーション『トルネード』いくわよ!」




189: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:37:02.04 ID:jWE4ACN00




・食堂(外)



一方「……」

日向「おい、どうした? 元気ねぇみたいだけど」

一方「……いや、ちょっと疲れただけだ」

日向「作戦参加してないのに疲れたのか……」

一方「―――ン? オイ、銃貸せ」

日向「どうした?」



一方通行は日向の手から狙撃銃をもぎ取り、スコープを覗いた。




190: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:37:54.92 ID:jWE4ACN00



天使「……」スタスタ



一方「アイツだ――天使が来たぞ」

日向「マジかよ!よし、早速――」

一方「――いや、待て」

日向「え?」

一方「なンか様子がおかしい」

日向「様子?」

一方「……あァ。なンつゥか敵意が無ェ」




191: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:39:42.19 ID:jWE4ACN00



日向「は? 何だよそりゃ……」

一方「良いから撃つな。他の連中にも伝えろ。取りあえず様子見だ」

日向「ったく……良いのかぁ?」





・建物内



高松(ライブの方も順調ですね。これなら―――っ!?)

ゆり(どうしたの高松くん!)

高松(ゆ、ゆりっぺさん!あちらを!)


高松が必死で指差す方向を見て、ゆりは驚いた。



192: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:40:49.05 ID:jWE4ACN00



天使「……」スタスタ



ゆり(て、天使!? 外の奴らは何やってるのよ!)

高松(どうしますか!?)

ゆり(……ちょ、ちょっと待って)



そして天使は人混みをかき分け、券売機の前に進む。



ゆり(食券? 一体何やってるのかしら―――)




193: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:42:12.98 ID:jWE4ACN00



天使「……」ピッ

ゆり(あ、あれは!誰も手を出さない事で有名な激辛麻婆豆腐!?)



遊佐『ゆりっぺさん、ライブの盛り上がりは最高潮に達しています。どうしますか?』

ゆり「……」

遊佐『ゆりっぺさん?』

ゆり「……回して」

遊佐『了解です』



その直後、設置されていた巨大扇風機が回転し食券がばらまかれる。





天使「……」





そしてそれらは、あたかも雪のように辺りに降り注ぐのだった。





194: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:44:41.36 ID:jWE4ACN00





・食堂



一方「……」

日向「ん? おいおい、お前それ誰も手を出さない事で有名な激辛麻婆豆腐じゃねぇか」

一方「仕方ねェだろ。掴ンだ食券がこれだったンだからよォ」

日向「ははっ。ついてねーなぁ」





そんな二人をよそに、端に座ったゆりは一人考える。




ゆり(……)


ゆり(……彼女は天使じゃない)


ゆり(……失墜の底で、慰めに麻婆豆腐食べに来る天使がいるものか)


ゆり(……彼女はあたし達と同じ……)


ゆり(……)




195: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:46:44.13 ID:jWE4ACN00



一方「……」モグモグ

日向「……」モグモグ

一方「……か、辛ェ……」

日向「だろうな。見てるだけで辛ぇもん」

一方「……ン、でも案外悪くねェな」モグモグ

日向「嘘ぉ!マジで? ちょっとだけ貰うぞ……」モグ

一方「……」

日向「……」

一方「……」

日向「――か、辛っ!辛っっ!!」

一方「ハッ」

日向「……あ、あれ? でも何というか……食べ堪えがあるような……」

一方「だろォが」




196: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:49:19.07 ID:jWE4ACN00



一方「……」


不意に一方通行の手が止まる。


一方(……この食券は多分、アイツのモンだったンだろう)

一方(……アイツ、本当にこのアホみてェな辛さの麻婆豆腐が好きなンだな)

一方(……)



そして彼は、誰に言うでもなく、本当に独り言のように呟いた。





一方「……なンでアイツはオマエらの仲間にならねェンだ?」






197: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:51:26.19 ID:jWE4ACN00



藤巻「ぶっ!」

野田「ゲホゲホッ!何を言ってやがる!」

一方「ン?」

藤巻「そうだぜ!今まで何人やられたと思ってんだよ!」

大山「そうだよ!」

松下「……皆ピンピンしてるがな」

高松「まぁとにかく、彼女は――」



< ソウダソウダ!

< テンシハテキダ!





日向「……ははっ。愚問だったみたいだな」

一方「……」




198: ◆A8/TIJ786I 2012/01/31(火) 23:54:43.35 ID:jWE4ACN00



一方(……なンで今俺ァあンな事言ったのかね)



食堂で一人寂しく麻婆豆腐を食べている天使が頭に過る。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



天使『私はこういうのが好き、なの……?』

一方『俺に聞くな。自分の事だろォが』

天使『分からない。……でも、美味しい』

一方『そォか』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






一方「……ちっ。らしくねェなァオイ……」




そして彼は麻婆豆腐を一気にかき込んだ。




207: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:27:49.43 ID:H/bbEBno0


――天使が生徒会長を辞任した。


先日の「天使のテスト解答捏造作戦」によって、天使は生徒会長の座を退いた。

そしてその後釜として――。





ゆり「直井文人……か」



直井文人という少年が生徒会長になった。



ゆり(膠着状態ね……)

日向「おいゆりっぺ、これからどうすんだ?」

ゆり「……取りあえず、それぞれ好き勝手に授業を受けてみて」

高松「それでは消えてしまう可能性が――」

ゆり「えぇ。飽くまで好き勝手に、よ。だから真面目に受けないようにね」




208: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:29:49.61 ID:H/bbEBno0



ゆり「あ、ちょっと」

一方「あァ?」

ゆり「……これ、あなたが持ってなさい」


ゆりの手には黒い無線機が握られていた。


一方「……良いのか? ここじゃ貴重なモンなンだろ?」

ゆり「えぇ。良いから」








209: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:33:42.42 ID:H/bbEBno0



・教室



大山(うぅ……凄い……!)

大山(僕、僕、授業中にお菓子食べてる……!)

大山(なんていけない事してるんだぁぁぁ!?)




生徒A「あ、あの……」

生徒B「……」

野田「……ZZZ……」




藤巻「通れば……追いリーだ!」

ひさ子「ざーんねん。立直・平和・清一・一通!親倍!」

藤巻「えっ」

ひさ子「だーかーら、24000点だっての」

藤巻「」

TK「Oh……Ah……」

松下「ぐっ……なんたるザマだ……!」

藤巻「くそ……ひさ子の一人浮きかよ!」ジャラジャラ




高松「ふっ!ふっ!ふっ!」バッバッバッ




椎名「……」




210: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:35:52.16 ID:H/bbEBno0



一方「なンつー光景だこりゃ」

日向「ははっ」



ユイ「先生トイレ!」バッ

先生「またお前か……」



一方「で、何やってンだあのガキは?」

日向「一分おきにトイレに行く生徒だとよ」

一方「つゥか好き勝手っつってもなァ……何すりゃ良いンだよ」

日向「普通授業中なんて寝てるか他の事やってるかだよ」

一方「未経験だから知らン」

日向「ははっ。冗談だろ?」

一方「さァな」

日向「ま、俺達はこうやって駄弁ってようぜ」



ユイ「先生トイレー!」バッ

先生「はい行って来ーい!」




212: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:37:59.10 ID:H/bbEBno0


ガララッ。



直井「……」

ユイ「あ」



一方「ン? アイツは……」

日向「おーおー。生徒会長代理、直井文人様だぜ」



直井「……そこまでだ貴様ら」

ユイ「――わ、私っ!トイレ行きます!」ダッ

直井「!」



大山(お、お菓子隠さないと……!)



松下「逃げるぞ!」

藤巻「お前ら行くぞ!」

ひさ子「あいよ!」

TK「I'll be back」



直井「……」




213: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:39:21.77 ID:H/bbEBno0



直井「……」スタスタ

野田「……ZZZ……」

直井「貴様、どういうつもりだ?」

野田「……ZZZ……」

直井「……聞こえていないようだな。まぁいい、このまま反省室に連行しろ」


NPCが触れるやいなや、野田は飛び起きた。


野田「何を反省しろというのだ!」

女生徒「きゃああ!?」

野田「ん?」



机の上に立って女子にハルバードを突きつける。

どうでもいいが、端から見たらこれは只のちょっと頭がアレな人である。




214: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:42:35.12 ID:H/bbEBno0



直井「授業中に堂々と眠り、その上罪なき一般生徒を恫喝しておいてよくそんな疑問が抱けますね。ある意味天晴れだ」

野田「何だと!」

一方「騒ぐな単細胞」ガシッ

日向「馬鹿野郎、さっさと逃げるぞ!」ガシッ

野田「は、放せ!」ズルズル




<ナゼニゲル!? オイ!オレハココダ!カカッテコイ!




直井「……」




215: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:44:51.95 ID:H/bbEBno0



・廊下



一方(ったく……こンな事して意味あンのかね)



ふと、一方通行の脚が止まる。



一方(……)スタスタ







一方「……よォ」

天使「……」




216: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:46:44.19 ID:H/bbEBno0



自分から話しかけた癖に何とも無愛想な声だろうか。
完全に喧嘩を売ってるようにしか見えない。

そんな彼は天使の後ろの席に腰掛けた。


一方「……」

天使「……」

一方「……オマエさァ」

天使「なに?」

一方「名前、何つゥンだ?」

天使「どうしたの急に」

一方「だってオマエ天使じゃねェンだろ? ならこれから何て呼びゃ良いンだよ」

天使「……」

一方「……」

天使「……立華。立華かなで」

一方「……ふゥン……」




217: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:49:04.25 ID:H/bbEBno0



かなで「……」ジッ

一方「……」

かなで「……」ジッ

一方「……なンだよ」

かなで「あなたの名前は?」

一方「……アクセラレータだ」

かなで「……そう」



それきり二人は全く会話せずに、ただただ時間だけが過ぎていった。





218: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:50:42.51 ID:H/bbEBno0





一方「……」

かなで「……」

一方「そォいや俺も麻婆豆腐食ったンだけどよォ」

かなで「……」ピクッ

一方「案外イケるモンなンだな」

かなで「……」

一方「……」

かなで「ねぇ」

一方「あァ?」

かなで「……あなた今、お腹空いてる?」

一方「まァ、そこそこな」

かなで「……」ガタッ

一方「?」




219: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:53:51.78 ID:H/bbEBno0



かなで「……」スタスタ

一方「オイ、どこに――」

かなで「何してるの?」

一方「は?」

かなで「行かないの?」



最高峰の頭脳は、今のこの状況を必死で理解しようとする。



一方(麻婆豆腐の話の後に腹減ってるか聞かれ、そして『行かないのか』っつゥ台詞……立華の好物はあの麻婆だっつゥところから考えて……)


そして一秒と掛からず、彼の頭脳は「食堂」というキーワードを弾き出した。


一方(ぎゃはっ……余裕なンだよォォォ!)


この場に似つかわしくない悪人面で彼は笑い、天使の後に付いていった。




220: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:56:10.46 ID:H/bbEBno0



・食堂



かなで「……」

一方(……相変わらず赤ェなオイ)

かなで「……いただきます」モグ

一方「……」モグ

かなで「……」

一方「……」





かなで「……美味しい」

一方(相変わらず辛ェなオイ……)




221: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 19:58:06.56 ID:H/bbEBno0




一方「……」モグモグ

かなで「……」モグモグ






直井「―――立華さん」






一方「……」ピクッ

かなで「……」





222: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 20:01:03.88 ID:H/bbEBno0



直井「こんな時間に何をしてるんですか?」

一方「見りゃ分かンだろ。飯食ってンだよ」

直井「……休み時間の食事は校則違反だ」


一方通行の睨みにも全く怖じ気づかずに歩み寄る直井。


かなで「……忘れてた」

一方「はァ?」

かなで「そうだったわ。校則違反になるの、忘れてた」

一方(コイツ、本気で忘れてたンだろォな……)





直井「連れていけ」






223: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 20:03:24.18 ID:H/bbEBno0







・(独房のような)反省室



一方「ちっ。あの三下共、手ェ出せねェからって調子に乗りやがって……」

かなで「……」

一方「ここがどこだか知らねェが、こんなチャチな独房で閉じ込めたつもりかァ?」

一方(能力使用モードは……もって一分か。ちっ、こンな事なら充電しときゃ良かったぜ)カチッ

かなで「待って」



天使が一方通行と扉の間に立ち塞がった。



かなで「……何をするつもり?」

一方「扉ァ吹っ飛ばしてここから出る。当然だろが」

かなで「ダメよ」

一方「は?」




224: ◆A8/TIJ786I 2012/02/02(木) 20:05:37.02 ID:H/bbEBno0



かなで「学校の備品を壊すのは校則違反だから」

一方「……いや、でもなァ」

かなで「これで反省になるなら、仕方ないわ」

一方「……」

かなで「……眠い……」

一方「……ちっ」カチッ



早くもベッドの隅で寝息を立てている天使を見て、一方通行は頭を掻く。



一方(ったく。調子狂うぜ……)

一方(まァ、こっちも急いでる訳でもねェが……)



そして彼もベッドに横になり、すぐに寝息を立て始めた。







231: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:06:23.92 ID:n7zyJVMI0







―――ズズン……。




一方(……ン……? なンだ今のは。爆発みてェな……)



起き上がって耳を凝らすと、小さく銃声らしきものも聞こえる。



一方(まさか……戦闘か?)





『ザザッ……くん!ザーッ一方くん!』





一方(あァ?)


一方通行はポケットから存在を忘れかけていた無線機を取り出す。




232: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:09:03.97 ID:n7zyJVMI0



一方(仲村、か?)

『一方くん!聞こえる!?』

一方「あァ、聞こえてる」

『聞いてる事を願うわ……ねぇ一方くん』

一方(あァ? こっちの声は届いてねェのか?)

『聞いて。直井文人は……あたし達と同じ魂を持った人間よ!』

一方(ンだと……?)

『表で模範的、裏で悪事を働く―――そうやってバランスを取って、消えないようにしてたって訳よ』

一方(……ンな事してなンの意味があンだよ)

『抑止力になってた天使が失脚した事によって彼は自由になった。こっちではもう戦いが始まってるわ』

一方(……)

『一般生徒を盾にして……一方的な戦いよ……』




233: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:11:23.74 ID:n7zyJVMI0



『あたしね、天使は幽閉されてる思うの。それに……あなたは今、天使と一緒にいるんじゃないかって』

一方(……あァ。当たってンぜ)チラッ

『ねぇ、一方くん。天使を連れて来て!この戦いを終わらせるには天使の存在が必要なの!』

一方(……)

『……時間がないわ。グラウンドに来て!』



それきり、音声は途絶えた。



一方(……ちっ。いつの間に面倒な事になってやがンな)




234: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:17:09.83 ID:n7zyJVMI0



一方「―――オイ、起きろ」

かなで「……ん……」

一方「立て。こっから出る」

かなで「……でも」

一方「イイから来い」カチッ



チョーカーのスイッチを入れて扉に近付き、軽く叩く。
それだけで分厚い扉は凄まじい音を立てて吹き飛んだ。





かなで「校則違反……」

一方「……見逃せ。行くぞ」





235: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:19:54.60 ID:n7zyJVMI0





・校庭



一方「オイオイ、なンだこりゃァ……」

かなで「……」



大雨の中グラウンドに駆けつけた二人が見たもの。それは血の海だった。

いや、比喩ではない。

見慣れた制服を着た少年少女達が血だらけでそこら中に倒れている。



直井「……」グイッ

日向「ぐあっ……!」




236: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:21:35.23 ID:n7zyJVMI0



二人に気づいた直井は、若干の驚きを浮かべながら二人に向き合った。



直井「どうやってあそこから脱出した……?」

かなで「……壊した」

直井「……何年掛けて作ったと思ってるんだ」

かなで「壊したのは彼よ」ユビサシ

一方「……」




237: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:26:27.43 ID:n7zyJVMI0



直井「全く、余計な事をしてくれる……」

一方「ハッ!つゥかあンなンで閉じ込めたつもりだったンかよ?」

直井「……」



空気が張りつめる。雨の音すら聞こえていないようだった。



直井「……立華さん、生徒会長としてあなたに命令します。彼を捕らえろ」

かなで「……」




238: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:28:22.08 ID:n7zyJVMI0



しかし、天使は動かない。



一方「……残念だったな三下。コイツもどっちが敵だか分かってるみたいだぜェ?」

かなで「――handsonic」

直井「……愚かだな。神に逆らうとは」

かなで「……」

一方「神、だと?」

直井「あぁ。僕は神だ」



雨の中、直井は続ける。




239: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:30:12.18 ID:n7zyJVMI0



直井「ここは神になる者を決める場所……君たちには神になる機会が与えられていたんだ」

日向「ぐっ……そ、そんな事……」

直井「ここにいる連中は皆一様に酷い人生だったろう? それこそが神になる条件なんだ」

一方「……下らねェ。神なンざいてたまるかよ」

直井「ふっ。信じられないのか……?」スタスタ



そして彼は地面に倒れ伏している一人に近付く。



一方「……!」



赤紫の髪に女子の制服……それは、ゆりだった。




240: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:31:44.39 ID:n7zyJVMI0



一方「オマエ……ッ!」


しかし一方通行がチョーカーに手を伸ばし一歩踏み出した瞬間、周りにいる数人のNPCに銃を突き付けられた。



ゆり「……何、よ……!」キッ

直井「君は今から成仏するんだ」

ゆり「……っ!」

直井「岩沢まさみを覚えているだろう? 彼女は無惨な人生を過ごし、この世界で夢を叶えた。だから消えた……成仏出来たんだ」

日向「え……?」

直井「君も今から成仏する……幸せな夢さ」

ゆり「あなたはあたしの過去を知らない……!」

直井「知らなくても可能なんだ……僕の催眠術で」





241: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:35:03.82 ID:n7zyJVMI0



一方(催眠術、だと……?)



一方通行は自分に銃を向けている、目が虚ろなNPCを見て確信する。



一方(能力使用可能はあと十五秒ってとこか……)






直井「さぁ、目を閉じるんだ。貴様は今から幸せな夢を見る……」キィィン

ゆり(っ……!そんな……まさか……)











242: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:38:45.79 ID:n7zyJVMI0










――お姉ちゃん!



ゆり(あ……あの子達だ……)



――お姉ちゃんっ!



ゆり(……違う、嘘だ……そんな幸せそうな顔しないで……)



ゆり(あたしは守れなかったのよ……一人ずつ死なせてしまったのよ……)



ゆり(誰も残らなかった……なのに……!)






―――私、お姉ちゃんがお姉ちゃんでよかった!






ゆり(そんな……そんな……! やめてぇぇぇぇぇっ!!)






243: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:41:10.83 ID:n7zyJVMI0







一方「―――ざっけンじゃねェぞクソ野郎ォがァァァァァ!!」








244: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:44:49.72 ID:n7zyJVMI0



直井「!」



直井が反応するより早く、一方通行はチョーカーのスイッチを入れる。

そして目にも止まらぬ速さで自らの銃を抜き、杖を支点にしてNPC達の「銃のみ」を撃ち抜いた。



直井「なっ……!」



直井が完全にこちらを向いた時には、一方通行の姿は眼前に迫っていた。



一方「オラァ!!」




245: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:46:42.49 ID:n7zyJVMI0





直井「ぐっ!」



彼は、直井を地面に叩き伏せる。



一方「……」カチッ


直井「……」


一方「―――ふざけンじゃねェよ……!」ギリッ


直井「な、何がだ……」


一方「オマエは人生をなンだと思ってやがる!!」





246: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:49:26.10 ID:n7zyJVMI0





一方「オマエらの生きてきた記憶は本物だろォが!」





“―――あなたは既に誰も辿り着けない位置にいます。なのに何故それ以上の力を望むのですか? と、ミサカは疑問を抱きます”





一方「何一つ嘘なンざねェ、どいつもこいつも!懸命に生きてきたンだ!!」





“だからもうミサカは誰一人として死んでやる事は出来ない、ってミサカはミサカは―――”





一方「そンな奴らの人生をオマエらみてェな奴が上塗りしようなンざ、絶対に許さねェ……ッ!!」





“―――では、実験を開始します”





一方「オマエの人生だって本物だった筈だろォが!!」


直井「!」






247: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:51:30.19 ID:n7zyJVMI0





……兄は、死んだ。

陶芸の名手の家に産まれてしまった、僕と双子の兄。

兄は幼くして才覚を発揮し、逆に僕は部屋に籠って一人遊ぶ毎日だった。

親からも誰からも期待されない、意味のない人生。

「死んだのはお前だ」、そう空は告げていた。

死んだ兄に代わって厳しい陶芸の修行を行う毎日。

いつしか父は床についた。

僕の腕じゃ工房は持てないし一人立ちも出来ない……。

僕は一生父の世話をしなきゃいけないのか……?

これからずっと、兄の代わりの人生なのか……?

神様……!





248: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:53:51.96 ID:n7zyJVMI0





……あの時死んだのは、本当に兄じゃなくて僕だったんだ。

最初から、父と兄しかいなかった……。

僕の人生は全部偽りだった……。

僕はどこにもいなかったんだ……。






249: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 00:58:39.19 ID:n7zyJVMI0





一方「……オマエの人生だって、本物だった筈だろォが……!」ギリッ


直井「……何を知った風に……」


一方「……例え同じ人間が何万人いよォとも、意味のない人生なンてありゃしねェ……」


直井「……」


日向(一方……?)


ゆり(一方、くん……?)





250: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 01:00:45.19 ID:n7zyJVMI0




かなで「……」


一方「最初から全て決められてる人生なンざ……クソくらえだ」


直井「なら……あんた認めてくれるの? この僕を」


一方「……当然だろ。オマエはここにいるンだからよォ」


直井「……!」






251: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 01:04:13.98 ID:n7zyJVMI0






直井(あぁ……ずっと欲しかった……)




―――やった!兄さんに勝った!




直井(一番聞きたかった言葉……)




―――ふっ。文人もやりおる……




直井(……僕を、認めてくれる言葉……)






252: ◆A8/TIJ786I 2012/02/03(金) 01:05:46.59 ID:n7zyJVMI0





……雨は、止んだ。






263: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 16:44:48.54 ID:Vc7TRFMa0



・対天使用作戦本部



ユイ「ねぇ先輩!新技かけさせて下さいよぉ!」

日向「……」



TK「One,two here we go let's dance!! 」

松下「なるほど、分からん」



藤巻「……ZZZ……」



高松「……」クイックイックイッ



ぬいぐるみAがあらわれた!

ぬいぐるみBがあらわれた!

ぬいぐるみCがあらわれた!


大山「可愛いね、椎名さん」

椎名「あ、あさはかなり……」

大山「えっ」





265: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 16:46:32.53 ID:Vc7TRFMa0



ユイ「もういい!大山先輩にかけよーっと」スタスタ

日向「……ったく、ここは小学校かよ。ガキばっか集まんなぁ」

直井「―――貴様、それは僕に言ってるのか? 僕は神だぞ」

日向「お前まーだそんな事言ってんのか……一方に説教くらって大泣きしてた癖によぉ」

直井「誰が泣いたって?」ズイッ

日向「うおっ!?」

直井「泣くのは貴様だ。さぁ、両面テープの有能さに気付くんだ……」

日向「!」

直井「両面テープに劣る自分の不甲斐なさを……嘆くがいい」キィィン




267: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 16:48:50.53 ID:Vc7TRFMa0



日向「りょ、両面テープ……どっちにも貼れる……裏表がない奴だ……素晴らしい!なんて使える道具なんだ!? それに比べて俺はぁぁぁぁ!!」

直井「ふっ」

一方「―――オイ、腹いせに催眠術使ってンじゃねェよ」ガシッ

直井「あ、一方さん!おはようございます!」



<ウワァァァァァン!! オレハツカエナイコダァァァァ!!



一方「なンだよこのアホみてェな光景は」

直井「違うんですよぉ。向こうから突っかかって来て、僕はなるべく穏便に……」

一方「いや、アイツ膝まづいて大泣きしてンぞ」




268: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 16:52:08.04 ID:Vc7TRFMa0





そして。


ゆり「――で、報告って何?」

高松「本日の食券が不足しているとの事です」

藤巻「どうする? トルネード行っとくかぁ?」

ゆり「……いや、今日のオペレーションは『モンスターストリーム』よ」

一方(……ンだそりゃ?)



大山「うわぁぁぁぁ!!」

松下「ついに来よったか!!」

TK「絶望のcarnival……」

野田「ふん。面白い……!」

藤巻「腕が鳴るぜ、おい!」




269: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 16:53:50.33 ID:Vc7TRFMa0



一方「オイオイ、この世界にゃモンスターなンてモンがいンのか?」

高松「ええ。河の主です」

一方「……あ?」

日向「ちょっと歩いた所に川原があるだろ? そこで食糧の調達、って訳だ」

一方「……それって只の河釣りなンじゃねェの?」

日向「そうだけど、それがどうかしたか?」

一方「……」



……コイツらアホだ。

なんとまぁ今さらである。





270: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 16:56:57.33 ID:Vc7TRFMa0



一方「あァ、俺ァパス。面倒臭ェ」

日向「え?」

直井「一方さんが行かないなら神である僕も残ろう」

ゆり「ダメよ。皆で行かないと」

一方「眠ィ。だりィ」



全くをもって協調性の無い男である。今までそこそこ上手くやっていけてたのが不思議なくらいだ。



ゆり「良いから来なさい。特に一方くんの力は必要になるかも知れないんだから」

一方(……河釣りごときで能力使ってたまるかよ)

直井「さっきから偉そうに……貴様、一体何様のつもりだ!?」

日向「いや俺達のリーダーだよ!?」




271: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 16:59:59.58 ID:Vc7TRFMa0



一方「あァ、じゃァ俺の代わりに天使連れてけよ。アイツなら役に立つだろ?」

日向「おいおい、何言ってんだよ」

一方「アイツ普通に無害だし」

野田「だがまがりなりにも元生徒会長だぞ!?」

高松「副会長もいますが」

直井「その通りです。だがそれ以前に僕は神だ」

藤巻「お前はうるせぇよ!」

ゆり「……はぁ……」



ゆりは完全に行く気0な一方通行に対して軽くため息をつく。




272: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:02:35.25 ID:Vc7TRFMa0



ゆり「分かったわ。じゃああの子を連れて行きましょ」

野田「正気かゆりっぺ!」

ゆり「一方くんの言う通り彼女はもう無害だしね」

直井「そういう事だ。さぁ、さっさと神である僕と一方さんに貢ぎ物を―――」

一方「仲村」

ゆり「何?」

一方「鬱陶ォしいからコイツも連れてけ」

ゆり「……じゃ、そうするわ」ガシッ

直井「えぇ!何この扱い!?」ズルズル



直井を完全に無視し、一方通行は既にソファに横になっていた。




273: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:04:51.28 ID:Vc7TRFMa0




一方(……)



一人残った一方通行。
普段ならこの対天使用作戦本部(っていうか校長室)は賑やかなせいで、一人でいると妙に広く感じる。

別に寂しいとかそういうのじゃないけど。



一方(……眠ィ……)






274: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:06:35.33 ID:Vc7TRFMa0








* * * * * * * * * * * * *










275: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:09:07.21 ID:Vc7TRFMa0







……これで、本当に終わったンだな。ならもォ思い残す事ァねェか……。





“―――ダメだよ!ダメ!いかないでってミサカはミサカは……!”





悪ィな……やっぱり俺にハッピーエンドは似合わねェみてェだ……。





“そんな事ない!あなたはもう……!”





オマエらはもう自由だ……薄汚ねェ連中に利用される事も二度とねェ……





“ミサカには、ミサカ達にはあなたが必要なの!”





……こンな奴と一緒にいてくれて、ありがとな……





“待って……ダメだよっ……!”






……幸せに、なってくれ……







276: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:11:15.32 ID:Vc7TRFMa0







一方「……ン……」



一方通行は、ゆっくりと体を起こした。
日は既に暮れていて、校長室は夕日の赤に染まっている。



一方(今のは……夢、か……?)



彼は首元のチョーカーに触れる。
明確な理由は無く、ただ、なんとなく……。










日向「おーい一方!」バターン






277: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:13:19.84 ID:Vc7TRFMa0



一方「あァ?」

日向「グラウンドで河の主捌いて一般生徒に振る舞ってるから、お前も来いよ!」

一方「……」

日向「どうした?」

一方「……いや、なンでもねェ」

日向「ふーん? ま、来るだろ?」

一方「……ちっ。面倒臭ェな……」



そう呟きながら、一方通行は立ち上がった。




278: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:14:58.70 ID:Vc7TRFMa0








* * * * * * * * * * * * *











279: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:16:26.69 ID:Vc7TRFMa0





野田「……おい、そういえばゆりっぺは?」

日向「あいつがこんな慈善活動に参加するかぁ?」

藤巻「どーせまた高みの見物だろ。つーかお前らも片付け手伝え!」

一方「だりィ」

かなで「……」





ドサッ。





一方「ン?」

日向「あ?」




280: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:18:32.74 ID:Vc7TRFMa0


音のした方向に目をやると、そこには傷だらけのゆりが膝を付いていた。



日向「!」

藤巻「ゆ、ゆりっぺ!」

ゆり「……くっ……!」

野田「どうした!誰にやられた!?」

ゆり「……天使……」

藤巻「んだと!?」



その場にいる全員の目がかなでに向く。



かなで「……」

一方「いや、でもコイツはずっと俺らといたぞ?」

野田「じゃあ一体どこのどいつが―――」

ゆり「―――っ!」キッ




281: ◆A8/TIJ786I 2012/02/05(日) 17:20:25.82 ID:Vc7TRFMa0


ゆりは月を睨み付ける。
というより、月を睨み付けているように見えた。


日向「え!?」

藤巻「おいおい……」

野田「どういう事だ、これは……」



ゆりが睨み付けていたのは、月ではなく満月を背に立つ一つの影だった。



一方「……」

かなで「……」







そしてそれは―――





天使「……」





紛れもなく、天使だった。





288: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:29:23.19 ID:93CwqvcW0



戦線メンバーの目の前に舞い降りた天使。



天使「皆で夜遊び……なら、お仕置きね?」



handsonicを起動させ、天使は歩み寄る。



日向「おいおい!どーすんの!?」

藤巻「こっちに来るぜ!?」

野田「ゆりっぺ!どうすれば良い!?」

ゆり「くっ……」



だがゆりが答える前に、横から白い少女が飛び出した。




289: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:31:01.01 ID:93CwqvcW0





かなで「……」バッ

天使「……」バッ









―――ドスッ!!







290: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:33:13.98 ID:93CwqvcW0








* * * * * * * * * * * * *









291: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:36:21.88 ID:93CwqvcW0



・医局(閉鎖中)保健室



一方「……」

高松「一体どういう事ですか?」

日向「同じ奴が二人……そんな訳わかんない世界になっちまったのか?」

ゆり「……理由はあるわ」

野田「どんな?」

ゆり「この前天使エリアに侵入した時に、見た事のない能力が幾つかあった」


皆ゆりに注目する。


ゆり「その一つ、『harmonics』ってスキルが発動していたのよ」

松下「どんな能力なんだ、それは」

一方「『harmonics』……和音連結か。同じ奴が二人っつゥ状況から考えて、分身を作り出す能力ってとこか」

高松(私の台詞なのですが……)

ゆり「その通りよ」




292: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:39:36.98 ID:93CwqvcW0



大山「分身、かぁ……」

日向「でもそっくりそのままじゃないって感じだったぞ?」

藤巻「やたら好戦的だったしな」

一方「つゥかそもそもコイツの能力は『Guard skill』だろォが。ありゃァ自衛用だ」

ゆり「……」




直井「全く。無能な集団だな貴様らは」




野田「あ?」

藤巻「んだと?」




293: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:43:14.42 ID:93CwqvcW0



直井「……あ、勿論一方さん以外ですが」

一方「……」

ユイ「基本アホの集まりですから!」

直井「可能性を一つ教えてやろう」


直井は意味もなくゆりに向かってビシッと指を差した。


直井「その分身を発生させたのが、強い攻撃の意思を持っていた時だったとしたら……」

ゆり「――あの時ね」

高松「あの時、ですか」

松下「あの時か」

大山「あの時……」

藤巻「あの時かよ……」

日向「あの時か……」





一方「いや、どの時だよ」




※オペレーション中、川の主に喰われそうになったメンバーを助ける為にかなでが川の主を八つ裂きにしました。




294: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:46:35.40 ID:93CwqvcW0



日向は一方通行に『モンスターストリーム』のオペレーション中に起こった事の顛末を伝える。


一方「……へェ、そンな事があったのか」

日向「ったく。かなり大変だったんだぞ?」





ゆり「じゃあ話を戻すわ」

高松「成る程。その時の本体の命令に今も従っている……という事ですか」クイッ

一方「コイツが強い攻撃の意思を持つ事なンざあンのか?」

ゆり「…………あなたやけにこの子を庇うのね」

一方「……」

ユイ「白いもの同士、惹かれ合うところがあるんじゃないですか?」

一方「殺すぞ」ギロッ




295: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:51:22.36 ID:93CwqvcW0



大山「――それで、今の問題は何なの?」

野田「天使の分身と戦う方法か?」

直井「馬鹿か。消す方法だ」

松下「その子が意図的に出したのなら、意図的に消す事も出来る筈だろう」

一方(いや、意図的にどォこォ出来ンならこうしてやられちゃいねェ。無意識の内の発動、か?)

ゆり「恐らく無意識の内の発動よ。だから彼女には消せなかった」

藤巻「おいおい待て!あんなのが居続ける世界になんのかよ?」

ゆり「今は見逃されてるけど、明日からは許されない。模範的な行動を外れたらすぐ昨日みたいに戦いになる……」

日向「もしかして最悪の状況じゃねぇかこれ?」

ゆり「…………少し時間をちょうだい」




296: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:53:13.41 ID:93CwqvcW0



一方「……どォやってその時間を作るンだ」

ゆり「授業に出て。そして真面目に受けるフリをして」



緊張した空気が保健室中に広がる。



ゆり「分身にバレないように、とにかく他の作業に没頭して。真面目に聞いたら消えかねないわ」

日向「……」

ユイ「……」

ゆり「そして一日持ちこたえて」

松下「……」

大山「……」







ゆり「……誰一人消えずに、再び会える事を祈るわ!」






297: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 00:57:14.22 ID:93CwqvcW0






・女子寮 天使エリア



ゆり「……」カタカタ



harmonics←
distortion
handsonic
delay



ゆり「んー……もう分身するのは分かったわよ……」ブツブツ

ゆり「どうにか片方消えないかしら―――あれ?」



机の端には、「ANGEL PLAYER」と書かれた分厚い本が置いてあった。



ゆり「マニュアルね。げっ、全部英語……時間が無いってのに……」

ゆり「あら? これは――」




298: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 01:00:50.11 ID:93CwqvcW0



harmonics
absorb←
distortion
handsonic
delay


「absorb」をクリックすると、二つの分身が一つになるエフェクトが表示された。



ゆり「やった!本来この命令に繋がって勝手に消える筈だったのね!」



ゆり「……でも、その発生条件は……?」ペラペラ



ゆり「……」ペラペラ



ゆり「……」



ゆり「分からない……いっそパソコンごと壊しちゃおうかしら……」



ゆり「……」




299: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 01:03:20.06 ID:93CwqvcW0



ゆり「……あーもう!分かるプログラムに書きかえてやる!」カタカタ

ゆり「とっとと消えろ、time waitは十秒!どうだ!」


画面に再び二つの分身が一つに戻るエフェクトが表示される。


ゆり「ふぅ。なんとか間に合ったわね……ん? 何これ――」



harmonics
timewait
absorb
howling←
distortion
handsonic
delay



ゆり「増えてる……!?」

ゆり(『howling』……分身が考えたのかしら? 消したいところだけど最小限の修正に留めないと……)




300: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 01:06:40.72 ID:93CwqvcW0





ゆり「……」カタカタ


ゆり「……」カタカタ


ゆり「……これでよし!これであの子がもう一度『harmonics』を使ってくれれば、分身は本体に戻るわ」






301: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 01:08:05.64 ID:93CwqvcW0








* * * * * * * * * * * * *









302: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 01:09:21.90 ID:93CwqvcW0





・保健室



ゆり「!」



天使エリアへの侵入を終え、再び保健室に向かったゆり達の眼前に広がったものは―――。



ゆり「しくった……!」



切り裂かれたカーテン、割れた窓硝子、床に散らばった本や書類。

無残にも荒らされた部屋だった。




303: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 01:12:22.05 ID:93CwqvcW0



日向「おい、こりゃぁ……」

大山「どこかに出掛けたんじゃないの?」

一方「こンなに荒らしてか?」

直井「この乱れようは拐われたとしか思えない……貴様、何をした?」

ゆり「貴様って……。プログラムを書きかえたのよ」

高松「そんな事が出来たのですか」

ゆり「付け焼き刃だけどね。でも予想以上に手を打ってくるのが早いわ……あの子を隠されたら打つ手は無い」

松下「どうする?」

ゆり「探すしかないじゃない」

高松「凶悪な天使の目を逃れつつ……ですか?」





304: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 01:14:47.98 ID:93CwqvcW0



藤巻「授業を受けるフリだけで精一杯だったってのによぉ……」

日向「陽動がどれだけ持つかだな……」

ユイ「え? 陽動って私ですか?」

日向「お前何の為にガルデモ入ったんだよ」

ユイ「岩沢さんに憧れて……」

日向「ガルデモは陽動の為にあんだよ!」

ユイ「いやいやいや!無理っす!あんなの相手に陽動とか無理っす!」

ゆり「まぁ、まだいいわ。まずは今出来る事をしましょう」



ゆりは全員に向き合う。



ゆり「総員に通達!天使の目撃情報を集めて!」







305: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 01:19:18.90 ID:93CwqvcW0






そして。




・体育館内



ゆり「迅速に集められた情報から、幽閉場所はギルドの可能性が高いと分かったわ」

一方「となると……最深部だろォな」

ゆり「その通り」

日向「またここに潜れってかよぉ……」

藤巻「前回はほぼ壊滅状態だったぜ?」

野田「ふん。何を臆してるんだ?」

一方「真っ先にくたばった奴が何をほざいてやがンだよ」




306: ◆A8/TIJ786I 2012/02/06(月) 01:23:21.97 ID:93CwqvcW0



ユイ「皆さんの為に精一杯演奏します!根性見せます!」

ゆり「あんなのにかかっちゃ陽動なんて瞬殺よ。今回は陽動なし。正々堂々といくわ」

松下「天使と戦いながら……か」

TK「Are you serious ?」

ゆり「いい? 作戦は、ギルドに降下してその最深部にて天使のオリジナルを保護する事」

大山「う、うん……」

椎名「……」

高松「……」クイッ






ゆり「オペレーション、スタート!」







311: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:25:10.63 ID:g7kHd9cn0



・ギルド連絡通路 B4


日向「おっ、前のトラップは放置されたままだな。ラッキー」

ユイ「あの、こんな所で天使に出くわしたらどのみち漏れそうなんですけど……」

日向「構わん」

ユイ「構って下さいよぉ!」




一方「……ン?」

ゆり「っ!」

ユイ「ひいっ!?」ビクッ




312: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:27:37.52 ID:g7kHd9cn0



天使「……」


通路の奥から、ゆっくりと天使が歩いてきた。



ゆり「早速現れたわね……皆、撃って!」

天使「……」ダッ



猛スピードで突撃してくる天使。
突風の如く戦線メンバーの間を縫うように通っていく。



日向「うおっ!?」

ゆり「速い……!」



そして、彼らの持っている重火器はまるで野菜か果物のようにバラバラになった。




313: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:29:44.48 ID:g7kHd9cn0



ゆり「まだハンドガンがあるわ!」


そう叫んで手榴弾を天使に向かって投げる。


天使「――Guard skill――distortion」


天使は爆風に飲まれた。
その隙を見逃さず、メンバーは一斉射撃を行う。



ゆり「意外に早くけりがつきそうね……」

一方(っ……この気配は……!)



一方通行が後ろを向くと同時に、ドスッという不愉快な音が響いた。




314: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:32:08.35 ID:g7kHd9cn0



野田「ぐあっ……!」



ゆり「!?」

松下「野田っ!」

野田「な……に……!?」ドサッ




天使「……」




そこには……そこにも、天使が立っていた。




315: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:34:00.72 ID:g7kHd9cn0



大山「こ、これどういう事!?」

TK「Oh,dear……」

日向「オリジナルか!?」

一方「いや、分身だ」

ユイ「な、なんでもう一人いるんですかぁ!?」

高松「敵が増えた……という事ですね……」

藤巻「……どうでもいいが、また真っ先にやられたなアイツ」

椎名「あさはかなり」

野田「」チーン



天使「……」スタスタ



ゆり「っ!撃って!」

日向「後ろの奴はどうすんだよ!?」ダンダンダンッ

ゆり「それどころじゃないでしょ!」ダンッダンッ




316: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:38:19.93 ID:g7kHd9cn0



天使「―――忙しそうね」

ゆり「くっ!」

一方「……」



一体目の天使も、砂埃の中から再び姿を現す。



ゆり(前も後ろも天使……どうする……?)

松下「ゆりっぺ!もう残弾が……」ダンダンッ

ゆり「入り口を塞ぐわ!ついてきて!」ダッ

日向「了解!」ダッ



二体目の天使の横を抜け、戦線メンバーは扉に雪崩れ込んだ。




317: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:41:12.45 ID:g7kHd9cn0





・ギルド連絡通路 B5



日向「あー……これじゃあ前の降下作戦よりタチ悪いぜ……」

高松「何故二体目が……?」

一方「分身はhandsonicだかdistortionだか使うンだ。harmonicsを使えたって不思議じゃねェだろ」

直井「全く無能な奴らだな……あ、勿論一方さん以外ですが」

一方「……」

直井「僕が問題点を纏めてやろう」

ゆり「……よろしく」




318: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:43:40.26 ID:g7kHd9cn0



直井「問題は二つある。まず何体分身が作られたのか。分身が分身を作れるなら数に限りが無くなる」

大山「で、でもゆりっぺがプログラム書きかえたんでしょ?」

高松「そうですね。それならば消えるのを待っていた方が良いかと……」

直井「せっかちな愚民供だな。それが二つ目の問題なんだ」

藤巻「あ?」

直井「……もしプログラムを書きかえる前に、分身を大量生産していたら?」

日向「!」




319: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:48:19.05 ID:g7kHd9cn0



松下「そ、それは……」

直井「ふん、ようやく気付いたか。僕達がここに来る事が分かっていて、既に分身を量産し……ここに配置させていたとしたら?」

TK「……Trap」

直井「そう。罠だ」

一方「……」

直井「既に背後に二人。そしてこれからも……」

日向「うぉ、想像したくねぇ……」

松下「閉じ込められたという事か」

藤巻「くそ……武器の補充も出来ねぇっつーのによぉ!」




320: ◆A8/TIJ786I 2012/02/07(火) 16:52:07.17 ID:g7kHd9cn0



高松「そんな事をして一体何が目的なんでしょう……」

一方「そりゃ完全な服従だろォよ」

ゆり「そうね。それが彼女の使命だもの」

藤巻「大人しく消されるのを待てって事かよ!」

大山「そんなのやだよ!」

日向「はっ。俺達を一掃するには最っ高の作戦だな……」

ゆり「……行くわよ」








ユイ「ていうか全部ウサ先輩がやっつけちゃえば良いんじゃ……」

ゆり「ユイ。それは言っちゃダメよ……」




325: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:03:49.46 ID:uLu0aaYj0



・ギルド連絡通路 B10



天使「……」

ゆり「また現れた……!」

大山「三体目……」

松下「……弾が勿体なかろう」スッ



銃を構えたゆりを制止し、松下はメンバーの前に立つ。
そして、天使に向かって飛びかかった。


ゆり「松下くん!?」

日向「松下五段!!」



天使の刃に貫かれながらも、松下は天使を地面に押さえ込んだ。



松下「い、行け!俺の意識がある内に……!」

日向「なんだよその死に際だけ良い奴みたいな台詞!?」




327: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:06:04.25 ID:uLu0aaYj0



ゆり「今のうちに行くわよ!」

日向「あ、あぁ!」

藤巻「耐えろよ松下五段!」



松下「あとは任せたぞ……みん……な……」








・ギルド連絡通路 B11



ゆり「彼の犠牲は無駄にしない……。彼のお陰で分かったんだけど、天使を抑えるにはあれが一番有効ね」

大山「えぇ!?」

高松「一体につき一人の犠牲で済む……という事ですね」

ユイ「ぎっ、犠牲ですかぁ!?」

ゆり「松下くんに教わった柔道が役に立つ日が来たわね……」




328: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:09:00.46 ID:uLu0aaYj0




・ギルド連絡通路 B12



天使「……」



日向「四体目……!」

TK「It's my turn」



次はTKがメンバーの前に立つ。



TK「Get chance and luck!」タッタッタッ



ドスッ。



皆「「「ティ――――ケ――――!!」」」

一方「なンだよこの展開」




329: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:12:40.06 ID:uLu0aaYj0





天使「……」

高松「この私の肉体……使う時が来たようですね!」クイッ



ドスッ。



皆「「「高松ぅぅぅぅぅ!!」」」






* * * * * * *






天使「……」

藤巻「へっ……いつまでもビビってる訳にゃいかねぇよなぁ!」



ドスッ。



皆「「「藤巻ぃぃぃぃぃ!!」」」






* * * * * * *






天使「……」

椎名「あさはかなり……あさはかなりぃぃぃ!!」



ドスッ。



皆「「「椎名ぁぁぁぁぁ!!」」」





330: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:15:15.36 ID:uLu0aaYj0





直井「―――さぁ、僕の目を見ろ。貴様はピエロだ……」キィィン

大山「あ……」

直井「ほら、あんなところに寂しげな目をしてる女の子がいるよ……」



天使「……」



大山「あ、いっけない!本当だ!おーい!」タッタッタッ

大山「僕が楽しませてあげr」



ドスッ。



日向「大山ぁぁぁぁぁ!!」

一方「……オマエ、イイ性格してンな」

直井「違うんですよぉ一方さん、言葉の綾です。今度は僕が行きますから!」




331: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:18:36.45 ID:uLu0aaYj0




ドスッ。



ゆり「……」

一方「……」

日向「おいおい、誰か何か言ってやれよ」

ユイ「いやー、でも私あの人の名前知らないですし……」

一方「くっだらねェ」

ゆり「……さぁ、行きましょう」






332: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:22:23.74 ID:uLu0aaYj0





天使「……」



日向「あーあ。もうこれで何体目だよ……」

一方「……ンじゃ、そろそろ俺が行くか」スッ

日向「待て待て。俺が先に行く。お前は残れ」

一方「あァ? なンでだよ」

日向「なんか知らねぇけど、あの子はお前を待ってる気がするからだよ」

一方「なンだそりゃ」

日向「だからお前は進め。じゃあな」スタスタ

一方「……」

日向「……あ、それと―――」




333: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:25:12.44 ID:uLu0aaYj0





ユイ「さっさと行かんかぁぁぁぁぁい!!」ゲシッ

日向「うわぁぁぁぁぁ!!」



ドスッ。



ゆり「……」

一方「……」

ユイ「待っててね……ひなっち先輩!」ウルウル

一方「オマエもイイ性格してンな……」




334: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:28:31.33 ID:uLu0aaYj0




・ギルド最深部



ゆり「あなた達は天使のオリジナルを見つけ次第、harmonicsの発動を促して」

一方「俺が分身と戦った方がイインじゃねェのか?」

ゆり「日向くんも言ってたでしょ? あの子はあなたを待ってる気がする……って」

ユイ「私も戦いますよー!?」

ゆり「弱すぎて話にならない」

一方「だな」ハッ

ユイ「話にして下さいよぉ!」

ゆり「……行きましょう」バッ

一方「……」カチッ




335: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:30:18.20 ID:uLu0aaYj0





一方「よっと」

ゆり「ふー……」


大きなクレーターを滑り降りた三人。


ゆり「あら? ユイは?」

一方「……そォいや滑ってる途中で短ェ悲鳴が聞こえたよォな……」カチッ

ゆり「天使の餌食か……可哀想に。すぐ助けてあげるわ」





ユイ「」チーン





336: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:32:32.35 ID:uLu0aaYj0



ゆり「またあたし達だけになっちゃったわね……」スタスタ

一方「そォだな―――ン?」ピクッ

ゆり「!」



天使「……」



ゆり「一方くん!あなたは早くオリジナルを!」

一方「あァ」



ゆりはハンドガンをしまい、ナイフを取り出した。

そしてそれと同時に天使はこちらに飛んでくる。




337: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:34:13.36 ID:uLu0aaYj0



ゆり「とりゃぁぁ!」ブンッ

天使「……」



天使の攻撃をかわしつつ、片腕を掴んで思い切り投げる。
そして追い打ちをかけるように手榴弾を投げつけた。

しかしそれでも天使は無傷で立っていた。



ゆり「しぶとい……!」

天使「……」スッ

ゆり「!」



両腕を上げ、見たことのない構えをとる天使。



ゆり「一方くん!耳を塞いで!」


一方「……あァ?」




338: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:36:45.35 ID:uLu0aaYj0



ゆり「とりゃぁぁ!」ブンッ

天使「……」



天使の攻撃をかわしつつ、片腕を掴んで思い切り投げる。
そして追い打ちをかけるように手榴弾を投げつけた。

しかしそれでも天使は無傷で立っていた。



ゆり「しぶとい……!」

天使「……」スッ

ゆり「!」



両腕を上げ、見たことのない構えをとる天使。



ゆり「一方くん!耳を塞いで!」


一方「……あァ?」




339: ミスった…… 2012/02/08(水) 00:38:16.54 ID:uLu0aaYj0



天使「――Guardskill――howling」



そう唱えた次の瞬間、耳を劈く超音波のようなものが天使から発せられた。



一方(……反射っと)

ゆり「……」



でも折角の新スキルなのに二人には効きません。



ゆり「たぁっ!!」

天使「!」



その隙を見逃さず、ゆりは天使の胸にナイフを突き立てた。



天使「気絶……しない……!?」

ゆり「え? 何? 耳栓つけてるから聞こえないのよぉ」

天使「っ……!」

ゆり「さ、大人しくしてなさい。もう一本のナイフで喉元かっ切ってあげるわよ?」ニコッ





340: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:41:17.78 ID:uLu0aaYj0





一方(……ン)



彼の目線の先には、かなでの姿が。



一方「オイ、立華」

かなで「っ……」

一方「大丈夫か?」

かなで「あなたは……」

一方「説明は後でする。一つ頼みてェ事があるンだが」

かなで「なに……?」

一方「harmonicsを使え。そうすりゃ分身が消える。出来るか?」

かなで「一回くらいなら……」



そういってかなでは目を閉じた。



かなで「Guard skill……harmonics……」



そして彼らの側に、分身の天使が現れる。




341: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:45:11.62 ID:uLu0aaYj0





天使「……プログラムを書きかえたようね」


一方「ハッ。どォやらこれでチェックメイトみたいだなァ?」


天使「そうかしら?」


一方「……あァ?」


天使「……数多くの冷酷な私が、その子の中に戻る」


一方「……」ピクッ


天使「そんな事になったらその子の人格はどうなるのかしら……?」




一方通行の紅い瞳が揺れる。




一方「オマエ……ッ!」






342: ◆A8/TIJ786I 2012/02/08(水) 00:48:55.80 ID:uLu0aaYj0







天使「timewaitは十秒。時間ね……」ニヤリ








351: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:07:02.69 ID:5YXK5yNL0



・対天使用作戦本部



ゆり「あの子、一度に沢山の分身と同化したんだって?」

一方「あァ」

高松「大丈夫なのですか?」

一方「さァな」

ゆり「……あたしのせいよ」

日向「おいおい、そんな事ねーだろゆりっぺ」

ゆり「……」




352: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:09:07.84 ID:5YXK5yNL0



高松「……これまでにない事です。あのような状態の天使は見たことがない」

大山「まさかこのまま目覚めないなんて事は……」

ゆり「それこそイレギュラーね。いつか目覚めて『ただ寝過ぎただけ』という結果に変わる……」

椎名「その時の彼女は、どの彼女なんだ?」

ユイ「……」

直井「……」

高松「……」

松下「……」

大山「……」







日向「うおおお椎名っちが喋った!!!」

藤巻「こりゃ相当重要な話だっつー事だぜ!!」




353: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:12:44.15 ID:5YXK5yNL0



ゆり「まさにそう。それが問題よ」

松下「それで、どっちの天使なんだ?」

大山「僕達と釣りをした方の天使じゃないの?」

高松「しかし分身の方が数は遥かに多いですし……」

藤巻「数で言ゃあ百対一くらいだぜ?」

日向「今もなんであいつが眠ってるのか……多分こう、沢山の意識があいつの中でせめぎあって酷い事になってるからじゃねーのか?」

ゆり「単純計算で元のあの子が目覚める確率は百分の一以下……」

松下「どうする?」

ゆり「手は打ってある。竹山くんを天使エリアに送り込んだわ」

日向「野田とTKは?」

ゆり「保健室の見張り」




354: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:15:15.98 ID:5YXK5yNL0



直井「天使エリアに侵入してデータを全て消し能力を封じる……か。だがそれも一時凌ぎにしかならないぞ」

ゆり「分かってるわ」

藤巻「マシンごと壊せば良いんじゃねぇのか?」

ゆり「ソフトもマシンもいくらでも代えはあるのよ」

藤巻「くっそ……」

ユイ「あれ? なんだか今日の皆さんは頭良さそうですよ? 悪いものでも食べましたか?」

ゆり「……」チラッ



ゆりは、杖をつきながら出入口に向かう一方通行を見る。



ゆり「……一方くん?」

一方「あァ?」

ゆり「どこに行くの?」

一方「……ちょっくら用事ができた。じゃァな」ガチャッ

ゆり「ちょ、ちょっと!」




355: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:17:42.46 ID:5YXK5yNL0





・医局(閉鎖中)保健室



野田「全く。何故この俺が天使を警護しなければならんのだ……」

TK「Who knows how long I loved someone」

野田「ぐああぁ止めろぉぉ頭が痛くなる!!」




カツン……




TK「……」ピクッ

野田「……ん?」




カツン……カツン……




356: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:19:06.15 ID:5YXK5yNL0




カツン……カツン……




野田「な、なんだこの音は?」




カツン……カツン……




TK「迫り来るnightmare……!?」





357: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:21:16.68 ID:5YXK5yNL0



TKは銃を、野田はハルバードを構える。



カツン……カツン……



野田「誰だ!」

TK「……」











一方「ちっ。うるせェぞ三下が」カツン


野田「って貴様かぁぁぁぁぁ!!」




358: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:24:51.76 ID:5YXK5yNL0




直井「おい愚民!気高き一方さんに向かって貴様とはなんだ!」

一方「……いやなンでオマエがいンだよ」

直井「僕はあなたとなら何処へでも行きます……!」

一方「きめェ」

TK「――♪――♪」

野田「で、何の用だ?」

一方「あァ。ちっとばかし立華……天使に用があンだが」

野田「奴はまだ目覚めていないぞ」

一方「ンな事ァ知ってる。入るぞ」





359: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:27:21.37 ID:5YXK5yNL0




一方通行は、未だに目を覚まさないかなでと向き合った。



一方「……」

直井「な、何をするつもりなんですか?」

一方「オイ、オマエは戻れ」

直井「そんなぁ!僕もここにいますよぉ!ねっ、一方さん!」

一方「うぜェ……じゃァせめて外に出とけ。どれだけ掛かるか分かンねェしな」

直井「『掛かる』?」

一方「あァそォだ。オラ、とっとと出ろ」



渋々直井は退室していく。




360: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:31:48.67 ID:5YXK5yNL0



一人残った彼は、ベッドの傍の椅子に腰掛け、チョーカーのスイッチを入れる。



一方「……さァてと……」カチッ



そして右手を伸ばし、かなでの額に触れた。
反射を切っている為、ひやりとしたかなでの体温が掌から伝わってくる。






一方「……百分の一だァ? 楽勝だっつゥの……!」ニヤリ







361: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:35:43.06 ID:5YXK5yNL0








* * * * * * * * * * * * *









362: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:38:17.15 ID:5YXK5yNL0







「「一方通行!」」



よォ。黄泉川、芳川……



黄泉川「よぉ、じゃないじゃん!」



はっ、みっともなく血相変えやがって。
折角人が身ィ粉にしてやったンだ……もっと喜びやがれ。



芳川「何言ってるの!あなたはいつもそうやって自分の事は二の次に―――」



……イインだよ。それで。



打ち止め「―――良くないよ!ってミサカはミサカは涙を堪えながら憤慨してみたり……!」

番外個体「そうだよ。とっとと治してくれないとミサカとしては張り合いがないんだから……」



打ち止め……番外個体……



打ち止め「だから……大丈夫だよね? こんなのへっちゃらだよね? ってミサカはミサカは……っ!」



ハッ……。



番外個体「ちょっと、なんか言ってよ第一位!」




363: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:40:46.47 ID:5YXK5yNL0



……オマエら、もう身体に異常はねェか……?



打ち止め「ミサカ達は大丈夫だよ。もう他のミサカ達も、皆……」



そォか。良かった……。

……本当に、良かった。



番外個体「ていうか自分の心配しろよ……バッカじゃないの……?」



……似たよォな事芳川に言われたばっかだっつゥの……。







…………。







……なァ、オマエら






364: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:42:51.54 ID:5YXK5yNL0



黄泉川「ど、どうした?」



……これで、全部終わったンだよな……?



芳川「えぇ。あなたが……あなた達が終わらせたのよ」

黄泉川「お前達の、お陰だよ」



……そォか。

これで、本当に終わったンだな。ならもォ思い残す事ァねェか……



打ち止め「―――ダメだよ!ダメ!いかないでってミサカはミサカは……!」



悪ィな……やっぱり俺にハッピーエンドは似合わねェみてェだ……。



打ち止め「そんな事ない!あなたはもう……!」





365: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:45:21.07 ID:5YXK5yNL0





オマエらはもう自由だ……薄汚ねェ連中に利用される事も二度とねェ……



打ち止め「ミサカには、ミサカ達にはあなたが必要なの!」



……こンな奴と一緒にいてくれて、ありがとな……



番外個体「バカ……なに臭い事言ってんのさ……!」

打ち止め「待って……ダメだよっ……!」



……幸せに、なってくれ……



黄泉川「おいっ!」

芳川「一方通行っ!」



…………



打ち止め「やだ!いやだよぉ……!」ポロポロ













366: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:50:14.05 ID:5YXK5yNL0











一方「―――っ……」



窓から射し込む日差しに顔をしかめる。



一方(……いつの間に……寝ちまったみてェだな)



と、ここで漸く自分の頭が優しく撫でられていることに気付いた。



一方「ン?」

かなで「……」



ベッドには、かなでが座っていた。




367: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:53:33.44 ID:5YXK5yNL0



一方「……よォ」


かなで「……」


一方「気分はどォだ?」


かなで「……凄く、良いわ」


一方「……そォかい」


かなで「……」




368: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:56:10.14 ID:5YXK5yNL0





かなで「……壮絶な戦いだった。この私が目覚めたのは奇跡」


一方「……」


かなで「あなたの、おかげ」


一方「……気づいてたのか」



一方通行は少しだけ意外そうな声を出した。




369: ◆A8/TIJ786I 2012/02/10(金) 23:59:06.51 ID:5YXK5yNL0




かなで「……戦ってる最中、ずっとあなたの顔が頭に浮かんでた」



そしてかなでは手を自分の胸に当て、続ける。



かなで「あなたに導かれるようにして、私は目覚める事が出来た」


一方「……」


かなで「あなたのおかげで、私は私でいられた」


一方「……」


かなで「……私を、助け出してくれた」






370: ◆A8/TIJ786I 2012/02/11(土) 00:02:06.06 ID:9k8eAVDX0





かなで「……だから、ありがとう」




かなでは優しく微笑む。




一方「……そォかい」




そうして彼は、気恥ずかしさを隠すように顔を背けるのだった。





371: ◆A8/TIJ786I 2012/02/11(土) 00:06:13.95 ID:9k8eAVDX0





一方(……良かった。)




一方(こンな人間のクズみてェな俺でも……アイツらを最後まで守りきれたンだな)




一方(……残ったアイツら全員を救う事が出来たンなら、俺の人生も捨てたモンじゃなかった)




一方(これで俺の罪が消えた訳じゃねェ。だが俺は……)




一方(……俺は、報われてたのか……)





ふと、一方通行は顔を上げる。






372: ◆A8/TIJ786I 2012/02/11(土) 00:09:23.45 ID:9k8eAVDX0



一方「―――なァ」

かなで「何?」

一方「思い残す事が無くなりゃァ消えるンだよな?」

かなで「そうだけど……」

一方「……」

かなで「……あなた、消えるの?」

一方「……」

かなで「……」

一方「……」










一方「……いや」






373: ◆A8/TIJ786I 2012/02/11(土) 00:15:37.76 ID:9k8eAVDX0




一方「まだアイツらが残ってる」


かなで「そう。あの人達とずっと一緒にいたい?」


一方「ハッ。むしろ……」


かなで「?」


一方「アイツらにも……なンだ、報われた気持ちってのを味わわせてェ」


かなで「……そう」


一方「俺ですら報われたンだ。アイツらだって報われねェとな」


一方「そンで仕舞いには一人残らずこっから消えられりゃ……」


かなで「…………うん。そうね」ニコッ






374: ◆A8/TIJ786I 2012/02/11(土) 00:19:27.28 ID:9k8eAVDX0







―――ありがとう、一方通行……。









383: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:22:23.55 ID:h9yx6jrM0




・焼却炉



かなで「……それで、最初は何をするの?」

一方「そォだな……あのクソガキにしとくか」

かなで「誰?」

一方「バンドのボーカルやってるガキだ」

かなで「……あぁ……」

一方「アイツが一番好き放題やってやがるからな。あとなンか切っ掛けがありゃいける筈だ」

かなで「……そう」




384: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:23:23.66 ID:h9yx6jrM0



―――戦うべき敵が消えた今、ゆりの目を掻い潜って動くのは難しい。

だからかなでは再び生徒会長の座に戻り、「冷酷な天使」として戦線メンバーと戦う事に決めた。

その一方で、メンバーを一人ずつ成仏させていくために一方通行と協力している。



かなで「――handsonic」



光る刃が出現する。



かなで「……」

一方「どォした」

かなで「……これだけじゃ天使らしくないと思うのだけど」

一方「はァ?」




385: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:25:54.14 ID:h9yx6jrM0



かなで「……あなたが思う天使のイメージって何?」

一方「俺かァ? ……そォだな、言葉にノイズが走ってて翼が生えてるってとこか」

かなで「分かった。やってみるわ」

一方「は?」



取りあえず話題を変えよう。



一方「まァとにかくだ。最初はあのガキを消す」

かなで「どうするの……?」

一方「そォだな……まずオマエがアイツにこォ言え―――」ボソボソ

かなで「……ふむふむ……」

一方「そンで、アイツのギターを取って来て俺に渡せ。そっから先は俺がやる」

かなで「……分かった」





一方「そンじゃ、早速いくぜェ」ニヤリ





386: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:27:37.59 ID:h9yx6jrM0





・空き教室



――♪―♪―――♪



ひさ子「ストップ!ユイ、そんなよれよれなギターじゃダメだ!」

入江「ユイ、歌うか弾くかどっちかに専念した方が良いと思うよ?」

関根「あー言えてる。今のままじゃダメだわ」

ユイ「えぇー!? 皆言うことキツすぎますよぉ!」

ひさ子「でも今度のは新曲だぜ?」

ユイ「岩沢さんは両方やってたのにぃ……」

関根「そりゃ岩沢さんはどっちも上手かったからねぇ」





ガララッ。






387: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:30:09.74 ID:h9yx6jrM0



かなで「……」



突然の来訪者(しかもよりによって天使)に、四人は戦慄する。



ユイ「!」

ひさ子「て、天使……!?」



かなではユイの正面に立ち、指を指して言った。






かなで「オマエのギターのせいでバンドが死ンでやがる。隅っこでカスタネットでも鳴らしとけ三下が」







388: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:33:39.54 ID:h9yx6jrM0



ユイ「……」

かなで「……」





間。





関根「い、今のバンドの弱点を一目で見抜いた!(言い方は酷いけど)」

入江「やっぱり音楽が分かるのよ!(言い方は酷いけど)」

ひさ子「やるなぁ、天使……(言い方は酷いけど)」






390: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:36:08.78 ID:h9yx6jrM0



かなで「そういう訳だから、このギターは没収ね」スッ

ユイ「」

かなで「それじゃ……」ガララッ



ユイは無言で崩れ落ちた。



ひさ子「おいっ!」

入江「だ、大丈夫!?」

関根「しっかりしてユイ!」

ユイ「……」





ユイ「……!」






391: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:37:44.51 ID:h9yx6jrM0



ユイ「待てやごらあぁぁぁぁぁ!!ギター返せぇぇぇぇぇ!!」



そしてすぐ目が覚めたように立ち上がったユイは、天使の後を追いかけていった。






入江「……」

関根「……」

ひさ子「……こりゃ一体何がどうなってんだ……?」




392: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:40:00.44 ID:h9yx6jrM0



そんなこんなで作戦通り、一方通行がギターを取り返したように見せました。



ユイ「先輩が天使から取り返してくれたんですね!」

一方「まァそンなところだ」

ユイ「……あ!それよりあいつはどこだこらぁぁぁぁぁ!!」

一方「何がこらァァァだ。相変わらず好き勝手やってやがンなオマエ」

ユイ「えっ、好き勝手? やってないよ?」

一方「は? ボーカルの座ァ射止めたじゃねェか」

ユイ「バントのボーカルなんて、やりたい事の一つに過ぎないもん!」

一方「……」




393: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:41:34.54 ID:h9yx6jrM0





・食堂前



二人は缶コーヒーを飲みながら同じベンチに腰かけている。



一方「……で、他に何がやりてェンだ?」

ユイ「そうだなぁ。やりたくても出来なかった事、沢山あるし……」

一方「……『やりたくても出来なかった』?」

ユイ「……うん」



ユイは視線を落とす。
そして数瞬間を置いてから、再び話し始めた。



ユイ「私……ある日ね、後ろから車にはねられてさ」

一方「……」

ユイ「歩く事も立つ事も出来なくなっちゃったんだ」

一方「……そォだったのか」

ユイ「介護無しじゃ生きていけないような身体で……お母さんにもいっぱい迷惑かけちゃった」




394: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:43:27.46 ID:h9yx6jrM0



ユイ「……」

一方「……」

ユイ「……だから、やりたくても出来なかった事、いーっぱいあるよ!」

一方「……そォか。で?」

ユイ「はい?」

一方「何がしてェンだ? 言ってみろ」

ユイ「そうだなぁ……野球とか!」

一方「野球ならこの前やっただろォが。まさかホームラン打ちてェとか言うンじゃねェだろォな?」

ユイ「良く分かってるじゃないですか!」

一方「ったく……で、他には?」

ユイ「サッカー!」

一方「サッカァ?」

ユイ「ブームだったじゃないですか!」

一方「いや知らねェけど」




395: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:45:21.47 ID:h9yx6jrM0



一方「まだあるのか?」

ユイ「後は……うーん……あ。プロレス!」

一方「はァ?」



こりゃ至難だな……。

一方通行は溜め息をつく。



一方「……」

ユイ「あれ? ウサせんぱーい?」

一方「……オーケェオーケェ。イイぜ。やってやろォじゃねェか……」

ユイ「へ?」




396: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:47:53.68 ID:h9yx6jrM0



一方「まずは……そォだな。すぐ出来そうなプロレスからやるか」スクッ

ユイ「え? え?」

一方「で、なンの技がイインだ?」

ユイ「あ、えっと……ジャーマンスープレックス!」

一方「」



……ジャーマンスープレックスってのはアレか。

こう、ガシッと掴ンでグンッと仰け反ってドスンとかます例のアレか。



一方「……なァ、普通に寝技みてェなのでイインじゃねェのか」

ユイ「いやいや!プロレスと言ったらジャーマンでしょう!」

一方「いや知らねェけど」




397: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:50:23.47 ID:h9yx6jrM0



一方通行は軽く舌打ちをする。



一方「……分かった分かった。オラ、やってみろ」

ユイ「え? 良いんですか!?」

一方「あァ。とっとと終らせンぞ」

ユイ「よっしゃぁぁぁぁ!」ガシッ

一方「おっ」



もともと一方通行はモヤs……もとい華奢な体型な為、わりと簡単に持ち上がった。



一方(意外に力あンなコイツ。こりゃ一発でいけンじゃねェか?)

ユイ「どっせぇぇぇぇぇい!!」ブンッ

一方(よし。これなら飛距離も出てる―――って投げてどォすンだクソガキがァァァァァァァァ!!)





ドズサ――ッ!!






398: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:53:18.17 ID:h9yx6jrM0





一方「……」ギロッ

ユイ「ごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」

一方「……」

ユイ「……」

一方「……オマエ、もしかしてブリッジ出来ねェのか?」

ユイ「……!」

一方「図星かよ……ちっ。じゃァそっから練習だな」

ユイ「ごめんなさい……」






399: ◆A8/TIJ786I 2012/02/15(水) 19:56:41.16 ID:h9yx6jrM0





そしてそれからも一方通行は掴まれては投げられ、掴まれては投げられを繰り返し。

数時間後に漸く成功するまで何回も何回も投げられたのだった。




一方(……)




そして激痛の中、彼は考える。







なンで首から上だけでも反射を適用させてなかったンだアホか俺は……と。








407: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 22:51:03.24 ID:M7UxIc9N0



・自販機前



一方「……さァてと。次はサッカーか?」

ユイ「うん!もちろん五人抜きだよ!」

一方「はァ?」

ユイ「マラドーナだよ!」

一方「いや知らねェけど」



彼は軽く溜め息をつき、早くも空にした空き缶をゴミ箱へ放り投げる。



一方「ちっ……分かった。ちィっとばかし待ってろ」




408: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 22:53:26.37 ID:M7UxIc9N0





・男子トイレ



日向「どうした? こんなところに呼び出して」

一方「実はなァ、仲村にはまだ伝えてねェンだが……天使からこンな手紙が来やがった」



彼が出した手紙に、日向・野田・藤巻・TKは一斉に目を向ける。



野田「どれどれ……」





―――――――――――――――――――

女一人に勝てねェとかオマエらそれでも
タマついてンのかァ?

笑わせンな三下共が。

まァそれでも自分達が男だってほざくンなら、放課後グラウンドに来やがれ。

スポーツマンシップとやらに則って
その女々しい根性叩き直してやンよ。


天使

―――――――――――――――――――




409: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 22:55:15.27 ID:M7UxIc9N0



野田「……」ピキッ

藤巻「……」イラッ


分かりやすくキレてるアホ二人。


日向「おいおい何だよこれ。本当にあいつが書いたのか?」

野田「やってられるか。ゆりっぺに報告する」

一方「待て。そりゃ無しだ」

野田「なぜ」

一方「見ろよ、こりゃァ俺ら男に対しての挑戦状なンだ。女の手ェ借りるなンざ恥だろォが」

藤巻「……ちっ。そりゃ確かに言えてるぜ」

一方「つゥ訳だ。アイツには言うな」

野田「……」

日向「じゃ、この五人で行くか」

TK「Catch you!!」




410: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 22:57:53.03 ID:M7UxIc9N0




・グラウンド



校庭に到着した五人。
だがそこに天使の姿はなかった。

その代わりに―――。



ユイ「遅かったな野郎共!」

日向「あれ? ユイじゃん」

藤巻「なんであいつが居るんだよ」

野田「天使は?」

ユイ「勝負だてめーらぁ!」ダッ



サッカーボールを勢いよく蹴りだし、ユイは無人のゴールへ走る。



一方「――分かったぞ」

日向「何がだ?」

一方「あの手紙書いた奴ァアイツだ。普段から不甲斐ない俺らに辟易してやがったンだ」

日向「何ぃ!?」

一方「ぎゃはっ!上ォ等ォだぜ……アイツにゴールを決めさせンな。この勝負絶対ェ勝つぜオマエらァァァァァ!!」




411: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 22:59:43.78 ID:M7UxIc9N0



日向「……」

TK「……」

野田「……」

藤巻「……」

一方「……」

野田「まぁ、よく分からんが……」










野田「……分かったぁぁぁ!!」ダッ

藤巻「舐めんじゃねぇぞ!!」ダッ

TK「Tatch me if you can !?」ダッ

日向「しゃあ!キーパーは俺がやってやんよ!」ダッ





一方(……あァ、コイツらがバカで良かった)




412: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:01:10.48 ID:M7UxIc9N0



ユイ「っしゃあ――!かかってこんかぁぁぁぁぁい!!」タッタッタッ

野田「ふん!下手くそなドリブルだな!」タッタッタッ



一方(……)カチッ



野田「隙ありぃぃぃぃっ!!」バッ

ユイ「!」

一方(……ベクトル操作)コツン

野田「ぬぐはっっ!!?」ズザー



一方通行(アクセラレータ)の能力によってかなりの速度で小石が蹴り出される。
そしてそれは野田の左頬に強かに当たった。




413: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:02:39.57 ID:M7UxIc9N0



野田「な、何事だ……!?」

ユイ「一人目ぇぇぇ!!」



更に勢いをつけて、ユイは残りのメンバーに向かう。



藤巻「バカ野郎!何やってんだ野田ぁぁぁ!!」タッタッタッ

ユイ「次はてめーかぁぁぁ!」

藤巻「はっ!貰ったぜ!!」バッ

ユイ「せいやぁぁぁ!!」ゲシッ

藤巻「いってぇぇぇぇぇ!!今のレッドカードだろ!?」

ユイ

414: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:06:31.74 ID:M7UxIc9N0


ユイ「次は誰だぁ!?」

藤巻「くそ……TK!一方!頼んだ!!」

ユイ「うおおおお!!」タッタッタッ

TK「I need you !! Fooooo!!」バッ



華麗なスライディングで見事ユイからボールを奪うTK。
流石TKだ。どこぞのアホや噛ませとは大違いである。



一方(……ベクトル操作)

TK「!?」



しかしそれも突然起こった突風によって阻まれる。
流石のTKも自然の力には勝てないようで、無様に吹っ飛んでいった。




415: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:09:04.67 ID:M7UxIc9N0



ユイ「残りは……一人だな!」

日向「くっ……」



二人は丁度PKのように向き合う。



日向「いやおい一方!お前も参加しろよ!」

一方「飽きた。だりィ」

日向「まだ何もしてねーだろーが!?」

ユイ「お喋りはそこまでにしな!」

日向「っ……!」




416: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:10:51.17 ID:M7UxIc9N0





ユイ「喰らえ!!必殺『スーパーベクトルアクセラギロチンシュート』!!!」



ドッギャァ―――z___ン !!



日向「俺をぶっ飛ばしたいのかゴールを決めたいのか(効果音的な意味でも)ツッコミ所の多いシュートが来やがったぁぁぁぁぁ!!」






417: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:12:34.11 ID:M7UxIc9N0



野田藤巻「日向ぁぁぁ!!」

日向「ちっくしょぉ!止めてやんよ!」



一方(……ベクトル操作っと)



突然、有り得ない回転がかかり、とんでもない曲がり方する。





日向「――ちょ、うっそぉ!?」バッ





ボールは、ネットに吸い込まれていった。





418: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:14:44.56 ID:M7UxIc9N0



ユイ「や、やった……!」

一方(……まァ、こンなモンか)カチッ

ユイ「やったぁぁぁぁぁ!」



そんな二人を他所に、隅で肩を落とす男四人。



日向「ま、マジかよ……」

野田「俺達が、負けた……!?」

藤巻「しかもユイ一人にだぜ……」

TK「Sudden death……」



かける言葉が見つからないとはまさにこの事である。




419: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:15:59.55 ID:M7UxIc9N0





そして陰ながら同じように肩を落とすもう一人。



かなで(……せっかく来たのに何もしてない……)






420: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:18:17.56 ID:M7UxIc9N0





そして……。



・野球場



一方「―――で? どこまで飛ンだらホームランだ?」

ユイ「そりゃフェンス越えっしょぉぉぉ!」ビシッ

一方(格好だけは様になっちゃァいるが……)



まァとりあえず思いっきり当ててみろや、なんて言ってボールを投げる一方通行。



ユイ「どっせぇぇぇぇぇい!!」カキーン

一方「……」パシッ

ユイ「……あらら」

一方(……非力だな。こりゃしンどそォだ……)




421: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:19:44.76 ID:M7UxIc9N0





そして。



一方「下半身は安定させろ!」ブンッ



ユイ「はいっ!」



一方「ボールをよく見ろ!」ブンッ



ユイ「はいっ!」



一方「振り遅れてンぞ!」ブンッ



ユイ「はいっ!」




422: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:20:37.13 ID:M7UxIc9N0



一方「ちゃンとバットの真芯で捉えろ!」ブンッ



ユイ「はいっ!」



一方「力み過ぎンなよ!」ブンッ



ユイ「はいっ!」



一方「ボールの上叩くな!真芯で捉えろっつっただろォがァ!!」ブンッ



ユイ「ひゃ、ひゃい!」



一方「ぎゃはっ!打てるモンなら打ってみやがれェェェェェ!!」ブォンッ



ユイ「ちょっ、なんかスイッチ入っちゃってませんか!?」




423: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:22:54.11 ID:M7UxIc9N0










ユイ「……」ゼェハァゼェハァ

一方「ちっ、暗くなって来やがったか。今日はここまでだな」

ユイ「うっす……お疲れっす……」ゼェハァ



ユイを見送り、そこらじゅうに散らばったボールを拾っていると、聞き慣れた声がした。



日向「―――何やってんの、お前ら?」

一方「……ン」



バッターボックスには、バットを持った日向が立っていた。




424: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:24:30.58 ID:M7UxIc9N0



日向「よっ」

一方「日向……」



日向は二、三回バットを振り、構えを取った。

それを見て一方通行は軽く笑う。



一方「ハッ。この俺とやろォってのかァ?」

日向「ま、良いじゃねーか。フルスイングなんて随分してねーしな」

一方「そォかい。ンじゃ、一球勝負な」

日向「あぁ」




425: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:26:00.24 ID:M7UxIc9N0



一方「そンじゃ、行くぜ」

日向「来い」

一方「オラァ!」ブンッ



そして夕焼けの空に、小気味良い金属音が響いた―――













―――とはいかずに、ボールは後ろの壁に突き刺さった。



日向「」

一方「ハッ。俺の勝ちだな」カチッ




426: ◆A8/TIJ786I 2012/02/19(日) 23:28:14.66 ID:M7UxIc9N0



日向「お、お前今の能力使っただろ!?」

一方「記憶にございませン」

日向「嘘つけーい!壁にボール突き刺さってますけどねぇ!?」

一方「知りませン」

日向「ここは流れ的に俺がホームランでも打つべきだろ!」

一方「分かりませン」

日向「くっそぉ……大人げねーぞ……」

一方「まァ、とにかく俺の勝ちだな」ニヤリ




434: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 22:57:48.52 ID:KXChYLfv0



そして、翌日。

同じく二人はグラウンドにいた。



ユイ「……」

一方「オラ」ブンッ

ユイ「とりゃ!」スカッ

一方「どォした。振れてねェぞ」ブンッ

ユイ「せいっ……!」スカッ



勢い余ってそのままユイは地面に膝をついた。




435: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 22:59:55.81 ID:KXChYLfv0



ユイ「……あ、あれ……?」

一方「……オマエ、ちょっと手ェ見せてみろ」

ユイ「い、嫌……」

一方「イイから見せろ」グイッ



絆創膏だらけの指。

彼がとったその小さな手は、少し震えていた。




436: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:01:16.47 ID:KXChYLfv0



そして絆創膏だらけの手を隠すようにして、ユイは立ち上がった。



ユイ「……もういいや。この夢」

一方「……諦めンなよ」

ユイ「ホームランなんて冗談みたいな夢だよ。こんなに身体動かせて……凄く楽しかったなぁ」



夕焼け空の下、大きく伸びをしながら歩き出すユイ。



ユイ「ありがとね。どうしてこんなことしてくれたのか分からないけど……」

一方「……」




437: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:01:58.25 ID:KXChYLfv0



一方「じゃァ……もう全部終わったのか?」


ユイ「へ?」


一方「やりたかった事、だ」


ユイ「…………ううん。まだある」


一方「ふゥン。言ってみろ」



杖に力を入れてゆっくりと彼も立ち上がる―――






ユイ「……結婚」


一方「!」






438: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:02:45.25 ID:KXChYLfv0



ユイ「結婚。女の最大の夢……」


一方「……」


ユイ「……でもさ、一人で立てもしないし歩けもしないこんなお荷物……誰も貰ってくれない」


一方「……」


ユイ「……神様って酷いよね。私の幸せ、全部奪っていったんだ……」




一方通行はユイの背中を、微かに震えているその小さな背中を見る。




一方「……そンな事、ねェよ」




439: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:04:58.92 ID:KXChYLfv0



ユイ「―――じゃあ先輩。私と結婚してくれますか?」


一方「ッ……!」



最高の頭脳を持ってる事だけが取り柄な癖に、気の利いた事の一つも言えない。

何も、言ってやれない。

彼はそんな自分に歯噛みした。



ユイ「……やっぱり無理なんだよ。一人じゃ何もできない、迷惑しか掛けないこんな私じゃ結婚なんて……」


一方「…………そンな事ねェよ」


ユイ「無理だよ……!私なんかを貰ってくれる、そんなバカでお人好しな人なんて―――」





440: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:06:53.52 ID:KXChYLfv0



一方「―――生憎だけどよォ」


ユイ「……?」





ユイの言葉を遮り、一方通行は顔を上げる。
そこには普段の彼からは想像できないくらいに優しい笑みがあった。





一方「……俺はそンなバカでお人好しな奴に心当たりがある」


ユイ「え……?」




彼は振り向かずに背後を指さした。






441: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:08:13.91 ID:KXChYLfv0





ユイ「な、なんで……」



日向「……」





そこには、日向が立っていた。






442: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:09:16.83 ID:KXChYLfv0





日向「……俺が……」



ユイ「え……?」



日向「……俺が結婚してやんよ!」



ユイ「!」



日向「これが……俺の本気だ」






443: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:10:31.32 ID:KXChYLfv0



日向はゆっくりとユイの元へ歩く。



日向「……ここにいるお前はユイの偽者なんかじゃない。ユイだ」


ユイ「……」


日向「もしまた六十億分の一の確率で出会えても、例えお前がどんなハンデを抱えてても……俺はお前の事を好きになってた」


ユイ「……でもユイ立てないよ? 歩けないよ?」


日向「どんなハンデでもっつったろ!」


ユイ「!」




444: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:11:58.56 ID:KXChYLfv0



日向「立てなくても、歩けなくても……たとえ子供が産めない身体だったとしても」


ユイ「……」


日向「ずっと……一緒にいてやる」


ユイ「!」


日向「……俺が、俺が結婚してやんよ」


ユイ「っ……!!」




445: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:14:24.13 ID:KXChYLfv0



日向「……どうだ?」


ユイ「……うん……」


日向「よし。決まりだな」


ユイ「…………ねぇ」


日向「ん?」


ユイ「その時はさ……ずっと私の介護してくれてたお母さんに、楽させてあげてね」


日向「任せとけ」


ユイ「……よかった……」




446: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:17:16.45 ID:KXChYLfv0





ユイ「日向……先輩」



日向「何だ、ユイ?」



ユイ「……私と、結婚して下さい」



日向「……あぁ」





―――夕焼け空の下、二つの影が重なった。






447: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:19:54.14 ID:KXChYLfv0





一方「……」



彼は眼を閉じ、静かにその場を後にする。







―――そして。



重なった影が再び二つに戻る事は、二度となかった。






448: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:22:05.68 ID:KXChYLfv0








* * * * * * * * * * * * *









449: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:23:05.35 ID:KXChYLfv0



・男子寮



日は既に暮れていて、辺りはもう暗くなっている。
暗い廊下を、日向は一人、歩く。




日向「……おう一方」

一方「……」




そして自室の扉の前には、一方通行が寄りかかっていた。




450: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:24:36.45 ID:KXChYLfv0




一方「アイツは……いったのか」

日向「あぁ」

一方「……なァ」

日向「いや、良かったんだよ。これで」



彼も一方通行の隣に寄りかかりながら言う。



日向「……ありがとな」

一方「あ?」

日向「お前のお陰であいつを満足させてやれた」

一方「……」




451: ◆A8/TIJ786I 2012/02/26(日) 23:26:15.42 ID:KXChYLfv0



一方「……オマエはどォするンだ?」

日向「俺も最後まで手伝うさ」

一方「そォか」

日向「まだまだ心配そうな奴らが残ってるからな!」

一方「……ハッ」





……こうして夜は更けていった。





464: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:42:35.48 ID:Yd46W4NH0



―――ザシュッ !!



野田「くっ……!」バッ

大山「……うぅ……」ブルブル



ハルバードを構えながら、未だに警戒を解かない野田。
そしてその傍らには何かに怯えるようにして震えている大山。





野田「……な、何だ……? 今俺は何を斬った……!?」






465: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:44:10.72 ID:Yd46W4NH0



ゆり「―――影?」

遊佐『はい』

ゆり「影って……影?」

遊佐『はい。今、駆けつけた野田さんが撃退しました』

ゆり(影を『撃退』……?)

遊佐『大山さん一人では危ないところでした』

ゆり「『危ない』、って……」



ゆりは無線機を切って机に置く。



ゆり(今、この世界で何が起きてる……?)




466: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:45:50.31 ID:Yd46W4NH0








* * * * * * * * * * * * *









467: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:47:10.26 ID:Yd46W4NH0



・学習棟 中庭



一方(さァてと。次は誰にすっかな……)

一方(立華の意見も聞いてみるか……)



缶コーヒーを傾けながら、一方通行は考える。

すると聞き慣れた声がした。





日向「よっ」

一方「……日向」




468: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:48:28.73 ID:Yd46W4NH0



しかも日向だけでなく、もう一人。



直井「一方さん!」

一方「……直井……」

日向「おまっ、ここで何してんだよ直井!」

直井「貴様こそどこから沸いて出た!」

一方「で、オマエらなンの用だ?」

日向「どこ行こうとしてんだよ?」

直井「どこに行こうとしてたんですか?」

一方「……」




469: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:49:10.57 ID:Yd46W4NH0



日向「どこだって良いだろ!」

直井「ふん。貴様のような愚民には関係ない!」

一方「……」



……コイツらなンだかンだ言って息合ってねェ?

コーヒーを飲み干しながら、一方通行はそんな事を思っていた。



日向「俺は一方に用があるんだよ!こいつがやろうとしてる事を手伝う為にな!」

直井「それこそ僕の仕事だ。貴様はさっさと消えろ……!」キィィン

日向「!」




470: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:52:11.96 ID:Yd46W4NH0



直井「さぁ……僕の眼を見ろ」キィィン

日向「……」

直井「貴様は掃除機のコードだ……ボタン一つで無様に巻かれるがいい―――」

一方「……」カツカツ

直井「―――って!帰ろうとしないでくださいよぉ!」

一方「ちっ。オマエらみてェに暇じゃねェンだよ……」

直井「いいじゃないですか!僕は力になりますよ!」

一方「オマエら、俺の目的分かってンのかァ?」

日向「あ、あぁ……分かってるよ」

直井「一人ずつ消していくんでしょう?」

一方「あァ。一人ずつ消していく」

日向「お前らが言うとアレな意味に聞こえるぞ……」




471: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:53:22.68 ID:Yd46W4NH0



一方「……つゥかよォ」


彼は軽く舌打ちして続ける。


一方「オマエ、もォ思い残す事ァねェンじゃねェのか?」

直井「僕はあなたと一緒にいたいんです!」

一方「きめェ」

直井「それに……そこの愚民より先に消えたくありません」

日向「んだとこら!」

一方「ンなくっだらねェ理由で―――」ピクッ



―――と、そこで違和感。



直井「?」

日向「どうした一方?」

一方(なンだ、この妙ォな感じは……)




472: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:55:20.48 ID:Yd46W4NH0



一方通行は直井の足下に目をやる。
そこには黒い影が蠢いていた。



一方「オイ、そりゃなンだ?」

直井「……え? うわぁぁ!?」バッ



振り向く前に、直井は影に取り込まれる。



一方(オイオイ、なンだこりゃァ……)

日向「な、なんだよこれ!?」

直井「ぐっ……何か、何か入って来ます……一方さん!」




473: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:56:05.12 ID:Yd46W4NH0



一方「ちィっ!」カチッ



チョーカーのスイッチを入れ、影から直井を無理矢理引き摺り出す。



直井「うっ!」ドサッ

日向「撃つぞ!」ダンダンッ



影に銃撃を浴びせる日向。



日向「おいおい!死ぬのかよこれ!?」ダンダンッ

一方「……」





474: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 01:57:03.17 ID:Yd46W4NH0



一方通行は強く地面を踏む。
操作された衝撃は、影の元へ収縮していき影を撃ち抜いた。



一方「……」カチッ

日向「……」



そして影は霧散していった。



日向「やった……のか?」

一方(なンだったンだ、ありゃァ……)












・屋上



遊佐「―――日向さん、一方通行さんの二名で撃退。全員無事です」

ゆり『了解』




475: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:10:55.40 ID:A104Gl/j0



・対天使用作戦本部



ゆり「二体目の出現。天使の新しいスキルと考えるのが妥当だけど……」

遊佐「しっくり来ませんか?」

ゆり「そうね……」

高松「……」

野田「どうすればいい、ゆりっぺ」



少し思案し、ゆりは静かに口を開いた。



ゆり「今後は単独行動を禁止。最低でも二人一組で行動すること」

大山「……う、うん」

TK「No friends , No life 」

日向(つーか松下五段は?)

藤巻(山籠りだとよ)




476: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:11:50.75 ID:A104Gl/j0



一方(ハッ。あンな雑魚一人で余裕だろォが)

ゆり「ダメよ一方くん」

一方「」

椎名「あさはかなり」

ゆり「―――という訳で、影を天使とは別の敵対勢力として対処する」

高松「……」クイッ

大山「……」

ゆり「全員、常に警戒体制でいるように」

日向「了解」

直井「ふん……」

遊佐「……ゆりっぺさんは?」

ゆり「ゆりっぺさんは考えられ得る可能性を潰しとくわ」




477: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:13:57.59 ID:A104Gl/j0





・中庭



ピンポンパンポーン



一方(ン?)



『生徒会長の立華かなでさん。今すぐ生徒会室まで来て下さい。繰り返します―――』



日向「なぁ、これゆりっぺの声だよな?」

直井「……あの女、どういうつもりだ?」

一方「ちっ。やろォとしてる事がバレたら面倒ォだな……」

日向「やべぇな、行くぞ!」





478: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:15:28.34 ID:A104Gl/j0



・生徒会室



かなで「……」

ゆり「……なんであなた達まで来てるのよ」

一方「別にどォでもイイだろォが」

ゆり「……」

直井「元生徒会長、及び現副会長の僕が許可しました」

ゆり「なんであなたの管轄なのよ」

直井「ここは生徒会室ですから」

ゆり「……まぁいいわ」




479: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:17:37.41 ID:A104Gl/j0



ゆり「単刀直入に聞くわ。影はあなたが作ったプログラムなの?」

かなで「……影? 知らない」

ゆり「最近プログラミングしたのはいつ?」

かなで「一昨日」

ゆり「時期的にはピッタリね……その内容は?」

かなで「……翼」

ゆり「翼?」

かなで「あと、ノイズ。これは無理だったけど……」

ゆり「????」





一方(アイツ律儀に作ってたのかよ……)





480: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:18:50.58 ID:A104Gl/j0



ゆり「……翼って、飛べるの?」

かなで「ううん」

ゆり「じゃあなんでそんなの……」

かなで「……天使のイメージは翼だって言われたから」

一方(立華ァァァ!なァに素直に教えてンですかァァァ!?)

ゆり「言われた……って、誰に?」

かなで「―――」





直井「――それは僕です」






481: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:19:57.69 ID:A104Gl/j0



ゆり「あなたが?」

直井「えぇ。元生徒会長、及び現副会長の僕がそう提言しました」

ゆり「……なんで?」

直井「生徒会長に翼が生えれば箔がつくと思いまして」

ゆり「つくの?」

直井「えぇ……」






直井「生徒会長に」






直井「翼」






直井「相応しいかと」






ゆり「……」

日向(あいつアホだな)

一方(……)




482: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:21:51.72 ID:A104Gl/j0



ゆり「……じゃあ翼の件はそれでいいわ。でもノイズっていうのは何よ」

直井「それも僕の考えです」

ゆり「……あ、そう」

直井「言葉にノイズが走っていた方が何かと便利でして」

ゆり「……一応聞くけど、何で?」

直井「その方が生徒会長としての威厳が保てるんです。生徒会長という立場上、大勢の前で話す機会が多いもので」

ゆり「聞き取れないなら逆効果じゃないの?」

直井「ふっ……そうでもありません。人間という生き物は、なまじ聞き取れないと聞きたくなる。
あえてノイズを走らせる事によって生徒会長の話をよく聞き取ろうとしてくる」

ゆり「……」

直井「つまりその内、皆ノイズ有無に拘わらず真面目に話を聞くようになるんです。どうですか? 中々の妙案でしょう」

ゆり「……」

日向(これは無理あるだろ……)

一方(……)




483: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:24:04.16 ID:A104Gl/j0



ゆり「じゃあそれももう(どうでも)いいわ。……立華さん」

かなで「?」

ゆり「部屋に入らせて貰うけど、いいかしら?」

かなで「……いい」

ゆり「……そう」



そう言ってゆりは無線機を取る。



ゆり「竹山くん? 始めて」

竹山『了解しました。あと僕の事はクライストと――』プツッ

ゆり「……それにしても、随分と従順に言うことを聞いてくれるのね。冷酷さなんて微塵も感じないわ」

日向(!)

一方(……ちっ。無駄に鋭ェ奴だ)




484: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:25:44.97 ID:A104Gl/j0



直井「いいえ冷酷です。今日は二回程刺されましたし」

ゆり「え、何で?」

直井「会長は機嫌が悪いと近くにある物を刺すんです。副会長という立場上傍にいる事が多くて、よく刺されます」

ゆり「……」

直井「今朝も刺されてから暫く内臓が飛び出たままでした―――まぁ尤も、今は機嫌がいいようですが」

かなで「……」

ゆり「……」

日向(アホだ。アホだ。アホだ)

一方(……くっだらねェ……)




485: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:27:17.77 ID:A104Gl/j0



すると、再び無線機が鳴った。



ゆり「竹山くん?」

竹山『ゆりっぺさん。プログラムは新たに一つ加えられていましたが、単なる装飾品のようなものです』

ゆり「……」

竹山『その他も普段と特に変わらないものです。どうしますか?』

ゆり「……」

かなで「……」

一方(ちっ。消すつもりかァ? また最初から―――)



――ァァン……



一方(―――ン?)ピクッ




486: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:29:15.71 ID:A104Gl/j0



直井「一方さん?」

ゆり「どうしたの一方くん?」

一方「今、銃声がした」

日向「は? 銃声なんて―――」



言い終わる前には、既に一方通行は廊下に出てグラウンドを見下ろしていた。



日向「お、おい!あそこ……!」

ゆり「!」



グラウンドには、数人の戦線メンバーを囲うように、大量の影が蠢いていた。




487: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:31:21.15 ID:A104Gl/j0



ゆり「あれが影ね……!」バッ

日向「なんだよあの数―――っておい!ゆりっぺ!」



ゆりは廊下から飛び降り、グラウンドに向かう。



日向「うぉ、凄ぇ……」

一方「ハッ。こりゃイイ運動になりそォだな!」カチッ



そして一方通行もチョーカーのスイッチを入れ、手すりに飛び乗った。



かなで「―――待って」

一方「ン?」

かなで「私はどうすればいい?」

一方「……好きにしろ」




488: ◆A8/TIJ786I 2012/03/10(土) 02:33:32.13 ID:A104Gl/j0



かなでは無言で頷く。

そして次の瞬間、彼女の背中から純白の翼が展開された。



日向「……!」

直井「……こ、これは……」



それを見て二人は言葉を失う。
真っ白な翼を携えた彼女は、容姿も相まって文字通り天使に見えた。





一方「……ンじゃ、行くか」ニヤリ






495: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 17:53:26.71 ID:33pX4ZhD0



・グラウンド



野田「ぬりゃあぁぁぁぁ!!」ブンブンブンッ


TK「Foooooooo !! 」ダンダンッ


椎名「……はっ!はっ!」ズバッ




戦線メンバーの中でも特にキャラが立っている三人。




ゆり「あなた達!大丈夫!?」ダンダンッダンッ

日向「にしても凄ぇ数だなオイ!」ダダンッ

直井「……ふん。神の御前だ、ひれ伏せ!」ダンダンダンッ




496: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 17:54:23.86 ID:33pX4ZhD0



野田「加勢など要らんぞ」

日向「ま、そういうなって!」バッ




TK「I kiss you !! 」


遊んでるのか本気なのかよく分からんTK。




椎名「あさはかなり……」


こんな状況でもあさはかさを忘れないな椎名。




かなで「……」スタスタ


そして、歩きながら虫を払うかのような仕草で次々と影を消していくかなで。




497: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 17:56:11.32 ID:33pX4ZhD0



直井「邪魔だぞ貴様!神の進行方向に馴れ馴れしく出てくるな!」

日向「うるせぇ!こんな混戦なんだから仕方ねーだろ!」

直井「これだから愚民は……影もろとも貴様も処分してやろうか?」

日向「あーはいはい!これから気をつけますよっと!」

ゆり「ちょ、あなた達ふざけてないで援護しあいなさいよ!」




――ダンッ !!




ゆり「!」

椎名「っ!」

野田「なんだ!?」




498: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 17:57:16.78 ID:33pX4ZhD0



そこにいる全員が感知できる程の大きな振動。

そして次の瞬間、周りの影は全て崩れ去った。





一方「ちっ。やっぱ手応えねェなコイツら……」スタスタ

日向「おぉ一方。チート能力ですね相変わらず」

直井「流石です一方さん!その凛々しいお姿にもう僕は感無量です!」

野田「……ふん」

ゆり「一気に持ってっちゃったわね」

かなで「……」




499: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 17:58:36.50 ID:33pX4ZhD0



椎名「……これは悪夢か」

TK「誘い乱れるcarnival……」

野田「一体何だあの数は」

日向「あー疲れた!」

直井「全く、愚民め」

ゆり「それにしても……」チラッ



ゆりは無言で立っているかなでに目を向けて言う。



ゆり「……まるで味方ね」

かなで「……?」

一方「……」




500: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:01:05.00 ID:33pX4ZhD0





藤巻「おぉ――――い!!」タッタッタッ



すると、グラウンドへ向かって藤巻が走ってきた。



ゆり「藤巻くん」

野田「何の用だ? もう加勢は要らんぞ」

日向「どうしたんだよ?」

藤巻「やべぇぞ……高松が……」

ゆり「高松くんが?」

藤巻「高松がやられちまった!」




501: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:02:23.89 ID:33pX4ZhD0





・対天使用作戦本部



藤巻「高松の奴、おかしくなってやがったぞ……前からおかしい奴だったけどよぉ」

日向「何なんだよさっきの反応!俺達の事全部忘れちまったみたいに―――」

ゆり「……」

一方「……オイ、仲村」

ゆり「何?」

一方「言えよ。それとも言いにくいなら俺が言ってやろォか?」

野田「は?」

ゆり「……」

大山「ゆ、ゆりっぺ?」

ゆり「…………高松くんは、NPCになっちゃったのよ」




502: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:02:56.45 ID:33pX4ZhD0





・対天使用作戦本部



藤巻「高松の奴、おかしくなってやがったぞ……前からおかしい奴だったけどよぉ」

日向「何なんだよさっきの反応!俺達の事全部忘れちまったみたいに―――」

ゆり「……」

一方「……オイ、仲村」

ゆり「何?」

一方「言えよ。それとも言いにくいなら俺が言ってやろォか?」

野田「は?」

ゆり「……」

大山「ゆ、ゆりっぺ?」

ゆり「…………高松くんは、NPCになっちゃったのよ」




503: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:04:58.92 ID:33pX4ZhD0



TK「!」

大山「な……っ!?」

藤巻「何だよそりゃ!」

椎名「……」

日向「じゃあ何か!? あいつは永遠にこの世界に居続けなきゃならねーのかよ!?」

一方「……」

ゆり「……そうなるわね」

野田「!」

日向「なんだよそれ……!それって死ぬより酷くねぇか!?」

ゆり「……」




504: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:05:57.73 ID:33pX4ZhD0



藤巻「くっそ!これもあの影のせいなんだろ!?」

一方「……みてェだな」

椎名「しかも影は増殖しているようだが?」

野田「こんな事が起こり得るのか、この世界で……!」

TK「……」

ゆり「……」

大山「どうすればいいの!? ねぇ、ゆりっぺ!」

ゆり「……」







505: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:06:36.37 ID:33pX4ZhD0






・体育館



ゆり「今この世界で異変が起きてる……まんまで悪いけど、影と呼んでるわ」

ゆり「その『影』に喰われた者は魂を失う。そして……NPCと化す」



全員集合した戦線メンバーの空気が張り詰めた。



ゆり「遊佐さんに告げてもらったように、集団行動で身を守ってもらうしかない」




506: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:08:26.92 ID:33pX4ZhD0



ゆり「―――でも、こうした危機に瀕する中、この戦線に別の思想を持つ者達が現れ……新たな道に導こうとしてる」

一方(……気づいてやがったか)

ゆり「なので、そちらの代表として……一方くん。堂々と胸の内を語ってもらえるかしら」



視線が一斉に一方通行に集まる。



一方「……」

直井「……バレてましたね」

日向「ほら、行けよ」

一方「……チッ」




507: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:10:46.57 ID:33pX4ZhD0



彼は全てを話した。

思い残す事が無くなれば消えるという事。
どんな人生でも、どんな人間でも報われるという事。



モブA「ふざけるな!そんな事があってたまるか!」

モブB「そうだ!そうだ!」

一方「じゃァ何か? オマエらは影に喰われて永遠にここにいるのが望みなのか?」

モブA「ぐっ……!」

一方「オマエらが無様に喰われてェっつゥなら止めねェよ。勝手にしやがれ」

モブB「そんな事……ある訳……」

日向「―――あったんだよ」



日向も一方通行の隣に立つ。



日向「ユイは、それを見つけた。こんな俺みたいな奴でも……あいつに、それを与える事ができた」




508: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:11:31.25 ID:33pX4ZhD0



直井「―――僕もです」



ゆっくりと直井も歩み寄る。



直井「まぁ僕は神ですが……それでも、一方さんだけが僕に人の心を取り戻させてくれた」

ゆり「―――どの道を選ぶかは皆に任せるわ」

モブA「ゆりっぺは? ゆりっぺはどうすんだよ?」

ゆり「あたしはいつだって勝手だったし、あなた達を守れはしないし―――」



ゆりは軽く笑った。



ゆり「―――あたしのしたいようにするだけよ」






509: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:12:39.49 ID:33pX4ZhD0





・焼却炉



一方「で、なンの用だ?」

ゆり「その子、影の迎撃に当たらせなさい」

かなで「……」



ゆりはかなでを指差して言う。



ゆり「見てた限りだとそっちの方が得意そうよ」

一方「……まァ、確かにな」

日向「ま、ゆりっぺの目は欺けんわな」

ゆり「……リーダーがこんな事言うのもなんだけど、影と戦うにはその子の力が必要なの」

一方「……」

ゆり「そして、あなたの力もね」

一方「ハッ。俺ァ新人だぜェ?」





510: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:15:09.93 ID:33pX4ZhD0



日向「天使なだけにそりゃ適任だな……」

ゆり「その子、天使じゃなくて人間よ? あたし達と同じ」

日向「―――え!? マジで!?」

ゆり「気づかなかったの?」

直井「神は全てお見通しだったがな……」カタカタ

一方「手ェ震えてンぞ」

日向「お、おい一方!お前は驚かねーのかよ!?」

一方「イヤ、俺ァ前に聞いた事あるしよォ」

日向「」

ゆり「あら、そうだったの」

日向「じゃ、じゃあ何でその子はここにいるんだ? 生徒会長なんかやってたのに消えねーなんて……」

ゆり「彼女なりの理由があるんでしょ?」

かなで「……」




511: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:16:02.42 ID:33pX4ZhD0



一方「ンで? オマエはどォすンだ?」

ゆり「確かめてみたい事があるの。場合によっては影とも戦わないと」

一方「……そりゃまた」

日向「危険過ぎるだろ!」

ゆり「仕方ないじゃない。皆も考える時間が必要よ」

一方「……」

ゆり「戻って来たとき、皆が消えて……無事この世界から去っていたら、あなたのお陰だと思っておくわ」

一方「……」

日向「―――いや、俺は待ってる」

ゆり「日向くん……」

日向「なーに淋しい事言ってんだよ。二人から始まった戦線だろ? 最後まで一緒だ」

ゆり「っ……バカね。一人でいたら影にやられちゃうわよ」




512: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:17:22.30 ID:33pX4ZhD0



日向「大丈夫。一方も一緒に残るから、な!」

一方「……チッ」

直井「尊き一方さんが残るなら神である僕も残ろう」

日向「……」

直井「おい愚民!何だその目は!」

一方「うざってェな。騒ぐンじゃねェよ」



三人のやり取りを見てゆりは俯く。そして呟くように言った。



ゆり「……あなた達、ホントにバカよ……」






513: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:19:36.44 ID:33pX4ZhD0





「敵襲!敵襲だー!」



日向「!」

ゆり「かなでちゃん、お願い」

かなで「……」コクッ

ゆり「……一方くん」

一方「なンだ」

ゆり「……皆を、守ってあげて」

一方「……」



一方通行は無言で答える。




ゆり「―――じゃ、また会えたら会いましょ!」





514: ◆A8/TIJ786I 2012/03/22(木) 18:21:13.46 ID:33pX4ZhD0





日向「―――ゆりっぺ!!」



ゆりの足が止まる。



ゆり「ふふっ。酷いあだ名……でも、そのお陰で皆に慕われたのかもね」

日向「……」

一方「……」

ゆり「……ありがと」



そして軽く手を振り、ゆりは走っていった。




521: ◆A8/TIJ786I 2012/03/25(日) 20:49:40.00 ID:UIYZ9Ras0



・対天使用対策本部



ゆり(今この世界のどこかにこの状況を楽しんでる……そんな神を気取った奴がいる)

ゆり(そんな奴を許す訳にはいかない……)



ゆりが武器の手入れをしていると、ふと扉が開いた。



遊佐「……こんばんは」

ゆり「あら、遊佐さん。どうしたの?」

遊佐「……」



遊佐は無表情のままソファに腰掛ける。




522: ◆A8/TIJ786I 2012/03/25(日) 20:53:03.61 ID:UIYZ9Ras0



遊佐「……行くんですね」

ゆり「えぇ」

遊佐「……そうですか」

ゆり「まぁ、ゆりっぺさんに任せときなさい」

遊佐「……」



只でさえ静かだった校長室が更に無言になる。
ゆりが銃器の手入れをする音だけが響く。



遊佐「……」

ゆり「……」

遊佐「……ゆりっぺさん」

ゆり「何?」

遊佐「今までありがとうございました」

ゆり「あら、先に言われちゃったわね」



そう言って、ゆりは少しだけ残念そうに笑った。




523: ◆A8/TIJ786I 2012/03/25(日) 21:00:01.20 ID:UIYZ9Ras0



遊佐「ゆりっぺさんや他の皆さんに囲まれて……毎日がとても充実してました」

遊佐「一応は戦っていた訳ですから一概に全てが楽しかったとは言いませんが……」

遊佐「……それでも私は、皆さんの事が大好きでした」



遊佐は微かに、しかし確かに笑顔を見せる。



ゆり「……あたしの方こそ、ありがとね。あなたがいてくれて本当に助かったわ」

遊佐「恐縮です」



そう言って遊佐はインカムを外し、静かに校長机の上に置いた。

そして軽くゆりに一礼する。




524: ◆A8/TIJ786I 2012/03/25(日) 21:07:47.16 ID:UIYZ9Ras0



遊佐「では、私はもう行きます」

ゆり「……そう」





もう二人の視線が合うことは無かったが、二人の口許は自然に曲線を描いているようで。





遊佐「……お気をつけて。ゆりっぺさん」

ゆり「えぇ。ありがとう」





ガチャリ…………バタンッ。










ゆり(……本当に、ありがとう)






530: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:27:03.33 ID:FCRLIiKU0



・対天使用作戦本部



直井「じゃあ僕らも行きましょう」

日向「ちょっと待て!なんでお前が仕切ってんだよ!」

直井「はっ。簡単な消去法だ」

日向「あ?」

直井「気高き貴族である一方さんの御手を煩わせる訳にはいかない。貴様は無能で使い物にならない。となったら僕しかいないだろう?」

日向「んだとこら!」

一方「うるせェよ。立華が今時間を稼いでンだ。この隙に他の奴らンとこ周るぞ」

直井「はいっ!」

日向「お前ホント態度違うよなぁ……」




531: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:29:46.76 ID:FCRLIiKU0





ひさ子「……」

関根「……」

入江「……」



部屋を出ると見慣れた三人が待っていた。



一方「……なンか用か? オマエら」

関根「私達はもう……良いかな、ってね」

一方「あァ?」

入江「踏ん切りがついた、っていうか……」

ひさ子「あんたの話を聞いて、納得しちゃったんだよ」

入江「まぁ、ボーカルいなくなっちゃったし」

関根「岩沢さんとユイの代わりは、もういないからね」





532: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:31:04.73 ID:FCRLIiKU0



ひさ子「……でもさ、他の奴らは大変だぜ」

一方「だろォな」

ひさ子「やるんならやりきってくれよ。あたしらを説得したんだからさ」

一方「……あァ」

ひさ子「あたしらはさ、本当は有りはしなかった青春を楽しめた。それでもう充分なんだ」

一方「……そォか」

ひさ子「んじゃ、もういくわ。後の事は知らない。全部あんた達に任せたよ」

入江「今までありがとう」

関根「またね、一方さん!」




533: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:34:43.55 ID:FCRLIiKU0



ひさ子「じゃあな、一方」スッ



ひさ子は拳を向ける。



ひさ子「あんたとの麻雀、楽しかったぜ!」

一方「ハッ。またいつでもかかって来いよ」







コツン……。








534: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:37:20.82 ID:FCRLIiKU0







一方「……」

直井「下々共のお見送り、お疲れ様です」

日向「お前絶対ろくな死に方しねぇぞ……もう死んでっけど」

直井「何だと貴様!」

一方「―――ッ!」ピクッ




彼は即座にチョーカーのスイッチを入れる。
そして喧嘩をしている日向と直井の襟首を掴み、自分の後ろに投げた。




日向「いって!」ズザー

直井「なっ!?」ズザー




535: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:39:19.55 ID:FCRLIiKU0



次の瞬間、さっきまで二人がいた廊下の壁が崩れ、影が飛び出て来た。



直井「!?」

日向「うおおお!!」

一方「ぎゃはっ!来やがれェェェェ!!」

日向「いや待て待て!こんな狭い廊下で能力使うつもりかよ!?」

一方「あァ? 俺の勝手だろォが」

日向「止めて!俺らにも被害来そうだから止めて!」

一方「ならどォしろって―――」

日向「と、取りあえず一旦退こう!な!」

一方「ちっ……」




536: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:40:29.18 ID:FCRLIiKU0



・校舎外



一方「……」

直井「!」

日向「おいおい……なんだよこりゃ……!」



下駄箱から一歩外に出ると、そこには既に影の大群が待ち構えていた。



直井「こ、こいつらなんて数だ!」

日向「畜生!やるしかねぇか!」チャキッ

一方「ハッ。オマエらの出番なンざねェっつゥの」



周りには数えるのが億劫になる程の影。
それらに相対しながらも、学園都市最強は不敵に笑う。




537: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:42:59.62 ID:FCRLIiKU0



一方「さァて、来やが―――」



彼が首元に手をかけそう言いかけた時、一つの影が真っ二つに割れた。



一方「あァ?」

日向「あ、あいつ……!」

野田「ふん……他愛もない」ジャキッ



そこにはアホ……もとい、野田が立っていた。



直井「野田!なんでここに―――」

?「ぬりゃああああ!!」



更に渋い声と共に上空から一人の男が落ちてきた。




538: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:45:19.75 ID:FCRLIiKU0



松下(痩)「一体なんだこの状況は……この世界に何があった?」

一方「……」

野田「ま、松下五段か……?」

日向「いやお前こそ何があったんだよ……」



次の瞬間、日向の背後まで迫っていた影が蒸発する。



大山「後ろがガラ空きだよ日向くん!」

日向「お、大山ぁ!」

大山「取り柄が無い僕だけど……いや、だからこそここで活躍するよ!」

日向「おっしゃあその意気だ!」ダンダンッ




539: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:48:24.28 ID:FCRLIiKU0



藤巻「待ちやがれ!」ザシュッ



(初めて)その長ドスを抜き、藤巻も現れる。



藤巻「この俺も忘れてもらっちゃ困るぜ!」

直井「藤巻……!」

藤巻「見てろよ影ども!最後に―――」

TK「―――Fooooo !!」



だが途中で現れたTKに遮られる。それでこそ藤巻である。



TK「Hold me tie !!」ダンダンダンダンッ




540: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:51:27.64 ID:FCRLIiKU0



そしてそれに続いて――



椎名「はっ!!」ザシュッ

日向「おぉ!椎名っち!」

椎名「……あさはかなり」

日向「いよいよ役者が揃って来やがったぜ!」ダンダンッ

直井「全く。愚民共は群れる事しか出来ないようだな!」ダンダンッ

一方「……ハッ」



野田「せいっ!!」

藤巻「おらぁ!!」

松下「そぉい!」

大山「皆!お互いに攻撃しないように気を付けて!」

TK「I kiss you!」

椎名「あさはかなりぃぃ!」




541: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:54:00.02 ID:FCRLIiKU0



そうして彼は、一方通行はチョーカーのスイッチを入れ、叫ぶ。



一方「『死ンだ世界戦線』!!」



そしてそれに合わせて、強く地面を踏んだ。
周りの影が一瞬にして崩れ去り、戦線メンバーの視線が一方通行に集まる。

彼は静かに口を開いた。





一方「―――行け。オマエらの、リーダーの所に」




542: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:57:10.53 ID:FCRLIiKU0



日向「は? 何言ってんだよ!つかお前はどうすんだ!?」

一方「こいつらァ俺が一人で片付ける」

松下「やめろ!無茶だ―――と言いたいところだが……」

大山「うん……」

藤巻「こいつならやりかねねぇな……」

野田「……ふん」

直井「当然だ。この御方を誰だと思ってる」

日向「なんでお前が偉そうなんだよ」

椎名「あさはかなり……」




543: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 00:59:45.31 ID:FCRLIiKU0



一方「アイツは――仲村は、恐らく旧ギルドに向かってる」

日向「で、でも……お前、電池とか大丈夫なのか?」

大山「そうだよ!こんなに数がいるんだよ!?」

TK「Crazy for you ?」



再び影が増殖していく。



一方「オマエら戦線が始めた戦いだろォが。オマエらが終わらせろ」

松下「だが……」

日向「お前だって仲間だろ!」

藤巻「そうだ水臭ぇぜ一方!」

一方「アイツに頼まれたンだよ。オマエらを守ってくれってな」

野田「ゆりっぺに!?」

一方「オラ、とっとと行け。邪魔だ」




544: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 01:02:52.93 ID:FCRLIiKU0



日向「……分かった!絶対に負けんなよ!行くぞ皆!」ダッ

大山「う、うん!」ダッ

野田「待て日向!なぜ貴様が仕切る!?」

TK「Good luck rabbit!」ダッ

椎名「任せたぞ!」ダッ

直井「一方さん!僕はあなたと一緒に居ますよぉ!」

一方「うぜェ。邪魔だっつったろ」

直井「」

松下「ほれ。行くぞ」ガシッ

藤巻「暴れんなよ自称神様よぉ」ガシッ

直井「は、放せ!僕は神だぞ!一方さ―――ん!」ズルズル




545: ◆A8/TIJ786I 2012/03/26(月) 01:07:01.04 ID:FCRLIiKU0







一方(……全員行ったか)



彼は軽く頭を掻き、溜め息をついた。

周りには影。影。影。



一方「さてと……そンじゃまァ、始めっか」



そう彼が呟くのと同時に、隣に何かが着地する。



かなで「……」バサァッ

一方「立華……」

かなで「私も、手伝う」

一方「……ハッ。足引っ張ンじゃねェぞ」

かなで「……」コクッ





そして二人は同時に大地を蹴った。






550: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:19:08.15 ID:wHwm6CnJ0




・ギルド連絡通路 B13



ゆり「ハァ……ハァ……」



影の多さに辟易しながら、ゆりは壁に寄りかかる。



ゆり(全くもう……キリが無いわね……!)

ゆり(あんな数、ハンドガンだけじゃ乗りきれない……)

ゆり(一体どうすれば……)



すると、物陰から見知った顔が出てきた。



チャー「……ゆりっぺ」

ゆり「チャー……!」




551: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:20:13.62 ID:wHwm6CnJ0



ゆり「なんであなたがここにいるの?」

チャー「……」



彼は何も言わずに、持っていた機関銃をゆりに渡した。



チャー「……使え。その装備だけでは心許ないだろう」

ゆり「あ、ありがとう」

チャー「なぁに」



彼は溜め息をつくように軽く笑い、ゆりが向かう先の逆に向かって歩き出す。


そして、ふと足を止めて口を開いた。




552: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:21:31.94 ID:wHwm6CnJ0



チャー「……戦いが終わるんだな」

ゆり「……えぇ」

チャー「……そうか……」

ゆり「今までありがとう。あなたがいなければ何も始まらなかったわ」

チャー「……いや。馬鹿が一人いただけさ」



そう言って彼は再び歩き出す。



チャー「ゆりっぺ!」

ゆり「……何?」

チャー「……後は、任せたぞ」

ゆり「えぇ。任せて」

チャー「……ふっ」





今度こそ彼は笑い。

そして彼は、暗闇へ歩いていった。






553: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:23:39.25 ID:wHwm6CnJ0







ゆり(……さぁ、行くか)



薄暗い道を、ゆりは一人歩く。



ゆり(今頃、皆は何してるのかな……?)



ふと振り返る。



ゆり(大して離れてないのに……皆、凄く遠い所に行っちゃったような気がする)



ゆり(……)





554: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:25:00.78 ID:wHwm6CnJ0



ゆり「!」



またしても影が大量に現れた。
即座にゆりは銃を構える。



ゆり「全く……!しつこいわね!」



そう叫び、銃を乱射する。



ゆり「……消え、ろ……消えろ!消えろ消えろ消えろっ!!」





そして背後に迫る影が一つ―――。





ゆり「!!」






555: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:29:11.27 ID:wHwm6CnJ0






・食堂





かなで「―――!」



数多の影を蒸発させながら、かなでは振り返った。



かなで(……ゆり……?)








556: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:30:44.51 ID:wHwm6CnJ0







・ギルド連絡通路 B13





ゆり(……ん……)



ゆり(あれ? あたし、影に……)





ゆっくりと目を開ける。

そこには―――





日向「よっ。リーダー」

松下「待たせたな、ゆりっぺ」

大山「大丈夫?」

野田「怪我はないか!? 大丈夫なのかゆりっぺ!!」

藤巻「あーうるせぇぞ野田!」




557: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:34:24.79 ID:wHwm6CnJ0



ゆり「えっ、あなた達……どうしてここに!?」

日向「お前を助けに来たんだよ。決まってるだろ?」

椎名「愚問だな」

TK「yeah !!」

直井「ふん。僕はそんなつもりは毛頭無いがな」

藤巻「お前は空気読め。わりとマジで」



こんな時でもいつもと変わらない戦線メンバーを見て、半ば呆れたように笑うゆり。



ゆり「ていうか、他の戦線メンバーはどうなの? 上の影はまだ増殖してるんでしょ?」

日向「あぁ、心配すんな。あいつに任せてきた」

ゆり「あいつ……?」






558: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:37:19.48 ID:wHwm6CnJ0







一方「―――オラァ!!」



一方通行は、強く地面を踏んだ。

その衝撃は逃げまとうNPCを避け、正確無比に影のみを撃ち抜く。



一方「ぎゃはっ!頭数揃りゃイイってモンじゃねェぞ雑魚がァ!!」



影はプログラムでありそしてそれを既に解析した彼は、もはや一方的に影を殲滅する。



一方「さァァァて!!どっちが先に燃料切れになンだろォなァ!?」








559: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:39:57.81 ID:wHwm6CnJ0







ゆり「……そう。一方くんが」

日向「あぁ。あいつが俺達に任せてくれたんだ―――『お前らで始めた戦いはお前らで終わらせろ』ってな」

直井「まぁ僕も本来は一方さんと共にいるべきだったんだが―――」

松下「さーて、行くか」ガシッ

藤巻「お前マジで黙ってろ!」ガシッ

直井「き、貴様ら!!僕は神だぞ!? 気安く触るな!!」

野田「ふん……」



そしてゆりは立ち上がり、メンバーと向き合って言った。





ゆり「―――死んだ世界戦線!」






560: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:43:44.67 ID:wHwm6CnJ0



ゆり「恐らく……これが我々、戦線の最後のオペレーションになるわ」

日向「……」

大山「うん……」

ゆり「影と戦ってくれてる一方くんやかなでちゃんの為にも……あたし達が戦いを終わらせるのよ」

椎名「承知した」

松下「応ッ!」

TK「応ッ!」

藤巻「へへっ。最後くれぇ皆で華々しく散ろうぜ!」

大山「……いや、散っちゃ駄目じゃない?」

藤巻「ん? それもそうだな。じゃあなんて言ゃいいんだ?」

松下「有終の美を飾る……とかじゃないか?」

野田「そんな小難しい言葉は使うな。普通に『頑張る』でいいだろう」

日向「でもそれじゃ小学生みたいじゃね?」




561: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:46:13.24 ID:wHwm6CnJ0



野田「小学生だと!?」

TK「I coming home」

藤巻「じゃあ『背水の陣で挑む』的なのはどうだ?」

日向「それも何だか気持ちで負けてねーか?」

松下「『死ぬ気で挑む』というのは?」

大山「僕達って死なないよね?」

松下「それもそうだな……」

直井「……全く。『麗しき一方さんと神である僕に一生遣える愚民共の一世一代の挑戦』しかあり得ないだろう」

日向「長ぇよ!長ぇし喧嘩売ってんだろそれ!?」





ゆり「そんな事どうでも良いからさっさと行くわよ馬鹿共!!」

椎名「……あさはかなり」




562: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:48:46.02 ID:wHwm6CnJ0





・ギルド最深部



ゆり「影が守るように集まってる……あそこね」

大山「う、うわ……凄い数だね……」

野田「ふん。やりがいがあるな」

日向「どうする? 手榴弾とか持ってくりゃ良かったぜ……」

松下「それか一方か天使がいればな……」

TK「Enemy in the shadow!」

藤巻「ありゃしんどいぜ?」

ゆり「そうね……」

椎名「―――私に任せろ」




563: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:51:02.45 ID:wHwm6CnJ0



ゆり「え?」

椎名「まずは私が行く」

藤巻「マジかよ!」

松下「な、何か作戦があるのか?」

椎名「あぁ。任せておけ」

大山「本当に大丈夫なの?」

日向「椎名っちなら大丈夫な気がしないでもないけどな」

椎名「では……はっ!!」バッ

直井「跳んだ!?」

藤巻「椎名が跳んだ!!」

椎名「私に着いて来い!」シュタタタ

ゆり「椎名さん!?」




564: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:52:46.63 ID:wHwm6CnJ0



日向「あれ? あれってただ特攻してるだけじゃね?」

大山「……」

TK 「……」

藤巻「作戦ねぇのかよ!!」

ゆり「……」バッ



律儀に突っ込んでる数名をよそに、即座にゆりも飛び出した。



松下「ゆりっぺ!」

藤巻「おいおい!」

野田「……要するに真っ向勝負という事か。分かりやすくていい!!」バッ



そして野田も続く。
ていうか野田がここまで生き残ってんの奇跡じゃね?





565: ◆A8/TIJ786I 2012/03/28(水) 17:55:37.28 ID:wHwm6CnJ0



TK「Coming soon!yes!」バッ

松下「仕方ない、行くしかないか!」バッ

藤巻「上等じゃねぇか!」バッ

大山「ぼ、僕も行くよ!」バッ



そしてTK、松下、藤巻、大山も続く。



日向「……」

直井「……なんだその目は」

日向「いや、お前は行かねーのかなーって思って」

直井「僕は貴様が逃げ出さないよう見張っているんだ。貴様こそさっさと行ったらどうだ?」

日向「あぁそうですかそうですか。じゃあ行くわ」バッ

直井「……」





直井「……」





直井「……ちっ、愚民共め。神が戦いというものを教えてやろう!」バッ




そして結局直井も飛び出していった。




569: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:25:28.68 ID:AslUuwk/0



野田「せいっ!ぬりゃあああああ!!」ブンブンブン

TK「watch out!」

藤巻「うぉっ!危ねぇぞ野田!」

日向「気ぃつけろ!俺達にも当たるだろーが!」

直井「神に向かってなんたる無礼だ!」

野田「ふん。関係ない」

大山「ちょっ、皆!最後くらい協力しようよ!」

ゆり「良いのよ。あの連中はあれくらいで」

椎名「……ゆり、先に行け」

松下「ここは俺達に任せろ」

ゆり「……分かったわ。お願い」




570: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:27:04.92 ID:AslUuwk/0





・第二コンピュータ室



ゆり(馬鹿にしてる……!)


ゆり(でも、ここに……)




ゆっくりと扉を開ける。
「第二コンピュータ室」の通り、中では多くのパソコンが稼働していた。




男「……よくここまで辿り着けましたね」




571: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:30:46.50 ID:AslUuwk/0



ゆり「……表にこれ見よがしにプレート貼ってあったじゃない」

男「ここは学校ですから」



謎の男は笑う。



ゆり「……あなたもプログラムで動いているのね」

男「お察しの通りです」

ゆり「……」



一息つき、ゆりは口を開いた。



ゆり「……本題に入るわ」

男「……」

ゆり「あなたにとって世界に何が起きたの?」

男「愛が生まれました。この世界にあってはならない愛が……」

ゆり「え? 愛?」




572: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:31:55.01 ID:AslUuwk/0



男「そう、あってはならない愛です。この世界はいずれ卒業していかなければならない場所なのでね」

ゆり「……そしてそれを修正する為の影。影を使ってのNPC化……」

男「ご明察です」

ゆり「……何が正解なんだか……」

男「……」

ゆり「……」



なんとも言えない空気が張り詰める。



男「……ここまで辿り着いたあなたなら」

ゆり「え?」

男「あなたなら、本当の答えを見つける事が出来るかもしれません」

ゆり「あたしが……?」

男「えぇ」

ゆり「この世界の神にでもなれると……?」

男「言い換えれば」




573: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:34:09.09 ID:AslUuwk/0



ゆり「……」

男「……」



数瞬の沈黙のあと、ゆりは男に銃を向けた。



男「なんでしょうか?」

ゆり「……」

男「……大きな愛を感じます。あなたから……」

ゆり「……」



ゆりは男を睨み付ける。

そして言った。





ゆり「―――くっだらない」






574: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:37:19.97 ID:AslUuwk/0



男「……はい?」

ゆり「神なんてもうどうでもいい。あたしがここに来たのは……皆を守る為なんだから」

男「……発生源はあなたでしたか。それで、何をしようと?」

ゆり「全てのマシンをシャットダウンしなさい。今すぐ」

男「……いいんですか?」

ゆり「……」

男「時間はたっぷりありますよ。それこそ永遠に」

ゆり「……教えてあげる」




銃を持つ手に力がこもる。

ギリッ、と奥歯が鳴る。





ゆり「人間は、たったの十分だって我慢してくれないものなのよ!!」






575: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:41:18.26 ID:AslUuwk/0






・グラウンド




一方「……あァ?」


かなで「……?」ピクッ




二人は同時に空を見上げた。

周りの影は、倒しても倒しても湯水の如く溢れていた影は、綺麗さっばり消え去っていた。




576: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:43:55.24 ID:AslUuwk/0



一方「……どォなってやがる」

かなで「……?」



彼はかなでに目を向けるが、かなでも首を傾げるだけだった。



一方(……まさかアイツら、やったのか?)

かなで「……」

一方「……」カチッ



一方通行はチョーカーのスイッチを解除し、その場に乱暴に座り込んだ。




577: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:46:31.81 ID:AslUuwk/0





一方「……どォやら」


かなで「?」


一方「勝ったみてェだな」


かなで「……みたいね」


一方「……ハッ」






578: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:49:32.07 ID:AslUuwk/0





・第二コンピュータ室



ゆり「……」



パソコンの残骸。

生々しい傷跡が残る天井、床、壁。

大量の薬莢。



その中にゆりは腰を下ろしていた。






579: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:53:58.07 ID:AslUuwk/0



ゆり(これで……全部、終わったんだ……)


ゆり(きっと……皆は助かったはず。一方くんも、かなでちゃんも……)


ゆり(……皆、無事にこの世界から去っていけるはず……)


ゆり(……)


ゆり(それにしても、不覚だな……)


ゆり(お姉ちゃん、あんた達と同じくらい……皆のこと大切に思っちゃってた)


ゆり(あんた達が誇れるくらい、あんた達だけの姉でいたかったのに……)




580: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:56:59.69 ID:AslUuwk/0



ゆり(……)


ゆり(あぁ……どうしちゃったんだろ……)


ゆり(あたしを突き動かしてたモノが……消えていく)


ゆり(それが消えちゃったら、ここにいられなくなる……)


ゆり(皆と過ごしたかけがえの無い時間……)


ゆり(……あたしも、皆の後を追い掛けたくなっちゃうよ)


ゆり(……)


ゆり(……皆……)





ゆっくりと瞼が下がる。

段々と意識が遠退いていく。




581: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 00:59:42.89 ID:AslUuwk/0



すると、大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
そして見慣れたメンバーが雪崩こんでくる。



日向「やったんだなゆりっぺ!」

大山「って、うわっ!なにこの状況!」

藤巻「おいおい、残骸だらけじゃねぇか」

TK「Tasty hell!?」

直井「まるで爆発でも起きたような惨状だな」

野田「ゆりっぺ!どこだ!無事なのか!?」

松下「お、おい!あそこに倒れてるの―――」

椎名「!」



薄れていく意識の中、皆が自分の元に走ってくるのを捉えた。





ゆり(だ、駄目……もう少しだけ耐えて……)

ゆり(皆に……お礼を言わないと……)




582: ◆A8/TIJ786I 2012/03/29(木) 01:03:10.89 ID:AslUuwk/0



「ゆりっぺ!」

「おい、ゆりっぺ!」

「大丈夫かよ!?」

「ゆり!」

「影は消えたぞ!」

「ゆりっぺ!」





ゆり(もう……皆して……急かし過ぎよ……)







ゆりはゆっくりと目を閉じた。








ゆり(……)



ゆり(……最後に、あなた達を守れて良かった……)






591: ◆A8/TIJ786I 2012/03/30(金) 23:55:46.24 ID:c8vUM9dj0





「俺は、もう行こう」



―――おォ、そォか。



「ゆりっぺに宜しく言っておいてくれ」



―――あァ。



「……コーヒーばかり飲んでると、身体に良くないぞ」



―――そォかい。まァ、考えとく。



「じゃあ……達者でな」



―――オマエもな。松下。






592: ◆A8/TIJ786I 2012/03/30(金) 23:57:00.35 ID:c8vUM9dj0





「それじゃ、僕も行くよ」



―――あァ? なンだ、NPCかと思ったぜ。



「ひ、酷いよ一方くん!今さら過ぎない!?」



―――ハッ。冗談だ。



「……でも今から消えるっていうのに、不思議と怖くないんだよね」



―――そォかい。



「じゃあ行くよ。今までありがとう。ゆりっぺにありがとうって伝えて」



―――あァ、伝えとく。






593: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:01:54.97 ID:n3KgX/4I0





「……お世話になりましたね」



―――おォ。つゥかなンで上脱いでンだよ。



「NPCになっていたせいで活躍できませんでしたから!」



―――イイから服着ろ。



「プロテインを置いておくので良かったらどうぞ」



―――あァハイハイ。どォも。



「ではお先に。今までありがとうございました。ゆりっぺさんにも宜しくお願いします」



―――じゃあな、高松。






594: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:07:41.84 ID:n3KgX/4I0





「Next is my turn」



―――分かり易ィなオイ。



「?」



―――あァいや、こっちの話だ。



「We are the best team!愛してるぅぅぅ!!」



―――そ、そりゃどォも。



「Good night!」



―――おォ。オマエもな。






595: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:11:34.90 ID:n3KgX/4I0





「……んじゃそろそろ俺も行くぜ」



―――おォ、藤巻。



「結局お前にゃ一回も勝てなかったな、麻雀」



―――ハッ。当然だろォが。



「まぁ、リターンマッチは来世ってこった」



―――そォだな。



「そんじゃあな、一方。ゆりっぺにも宜しく言っといてくれや」



―――あァ。じゃあな。






596: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:17:04.65 ID:n3KgX/4I0





「……」



―――オイ、なンか言えよ。



「あさはかなり……」



―――オマエいっつもそれだな。



「……一方通行。お前とはいつか手合わせ願いたかったが、残念だ」



―――そォかい。まァ、もォ少し腕磨けば相手してやるよ。



「……ふっ。そうか……」



―――じゃあな。椎名。



「……あぁ。さらばだ」






597: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:19:03.13 ID:n3KgX/4I0





「一方」



―――よォ、野田。



「……俺は」



―――あァ?



「……俺は、ゆりっぺの為にしか動かないし動くつもりもない」



―――ハッ。そンな事ァ衆知だろォが。



「そのゆりっぺは、いつも俺達以上に大変な目に合ってきた」



―――出来の悪ィ生徒持つと担任は苦労するモンだろォよ。




598: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:22:42.54 ID:n3KgX/4I0



「そんなゆりっぺが、初めてあんな安らかな寝顔を見せた」



……。



「少なからずお前のお陰で、ゆりっぺが心から安心できた」



……。



「その事だけに関しては……まぁ、なんだ。感謝している」



―――ハッ。ありがとよ。



「……それだけだ。俺もそろそろ行く」



―――あァ。じゃあな。






599: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:24:20.95 ID:n3KgX/4I0








* * * * * * * * * * * * *









600: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:27:05.10 ID:n3KgX/4I0





・医局(閉鎖中)保健室




ゆり(ん……ここは……?)




まず目に入ったのが白い天井。

次に白い少年。




ゆり「あれ……一方くん……?」

一方「よォ」

かなで「……」

日向「よ。ゆりっぺ」

直井「やっと起きたか。全く……」

ゆり「かなでちゃん……それにあなた達まで……!」




一方通行、かなで、日向、直井。

全員がベッドの横に立ち、ゆりを見下ろしていた。




601: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:29:00.05 ID:n3KgX/4I0



かなで「おかえり。ゆり」

ゆり「あなた達……なんでまだ……」

日向「お前が残ってるじゃねーか。それに待ってるって言ったろ?」

ゆり「あ、う……」

直井「まぁ、起きるのが遅くてそのまま成仏するんじゃないかと期t……ヒヤヒヤしたがな」

日向「お前……いや、もう何も言うまい」

一方「……調子はどォだ」

ゆり「うん。なんだか凄くいいわ」

一方「そォか」




602: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:30:50.14 ID:n3KgX/4I0



日向「……でもまぁ、これで無駄にはならなかったな!」

かなで「……」コクッ

ゆり「え? 何が?」

一方「立華がやりたかった事だ」

ゆり「かなでちゃんが?」

かなで「……」コクコクッ

日向「あぁ。もう準備もしてあるから始めようぜ」

ゆり「準備……って、なんの?」

一方「行けば分かる」




603: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:34:33.78 ID:n3KgX/4I0







かなで「♪」スタスタ

直井「……」スタスタ

ゆり「……他の皆は?」スタスタ

一方「全員いった。無事にな」スタスタ

ゆり「そっか」

日向「そうそう!高松の奴もちゃんと正気に戻れたんだぜ!」

一方「最後まで相変わらず脱いでたけどな。アイツ」

ゆり「そっか。良かった……」

一方「……案外驚かねェンだな」

ゆり「まぁ、ね」




604: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:38:24.85 ID:n3KgX/4I0



かなで「ー♪ー♪♪」スタスタ

日向「でも皆なんだかんだ言って結構気に入ってたんだよな。ここでの暮らし」

ゆり「……そうね」



ふと、ゆりの脚が止まる。



直井「ん?」

日向「どうした、ゆりっぺ?」

一方「……」

かなで「ゆり……?」



全員が怪訝そうに視線をやると、彼女は校舎を見上げていた。





ゆり「……」





普段と変わらない外観。そして普段と変わらないチャイムの音。

普段と何も変わらない筈なのに、全てが違う……気がする。





ゆり「……そっか。もう皆、いなくなっちゃったのか……」




605: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:42:48.53 ID:n3KgX/4I0





……囁くような、小さな声。





ゆり「もう、会えないんだ……」





しかしそれは仲村ゆりという少女の純粋な気持ちそのもの、全てだった。





日向「ゆ、ゆりっぺ……?」

ゆり「―――!」ハッ



静寂を破った日向の声に、ゆりは息を飲む。



ゆり「……ご、ごめんごめん!あたし何言ってるのかしら……!」

日向「……」

ゆり「そ、そうよね。皆が報われたんだから寧ろ喜ぶべき事なのに……」

直井「ここに来て弱音とは……それでよくリーダーが務まったものだ」

日向「……お前こそホントに最後までアレなのな……」




606: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:45:33.94 ID:n3KgX/4I0



ゆり「……ちょっと哀愁に浸っちゃったみたい。ごめんね」

日向「ははっ。しっかりしてくれよリーダー」

ゆり「ふふっ。らしくなかったかしら?」



そしてゆりは笑い、再び歩き出した。
四人もそれに続く。



一方「―――仲村」

ゆり「なぁに?」

一方「……どいつもこいつも、最後はオマエに感謝してたぜ」

ゆり「……そっか……」










ゆり(……皆、こんなリーダーに付いてきてくれてありがとね。あなた達は最高の仲間で、友達よ……)






607: ◆A8/TIJ786I 2012/03/31(土) 00:49:40.41 ID:n3KgX/4I0





・体育館



ゆり「……卒業式?」

一方「あァ。立華がやった事ねェからやりてェらしくてな」



……まァ俺もやった事なンてねェけど。



かなで「……」コクコク

ゆり「へぇ……そうなんだ」

直井「……全く。神である僕にも準備を手伝わせるとは……」

日向「そんじゃ、早速始めようぜ!」






614: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:20:21.71 ID:+7vK/FjU0





日向「……開式の辞!」

一方「……」

ゆり「……」

かなで「……」

直井「……」

一方「……オイ、これ誰が言うンだよ」

日向「いやいや流れ的にお前じゃねーの?」

一方「なンでだよ。面倒臭ェ」

直井「貴様が言えば良いだろう」

日向「お、俺かよ!」

かなで「……」

ゆり「初っぱなからグダグダね……」




615: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:23:09.50 ID:+7vK/FjU0



日向「じゃあ……これより、『死んだ世界戦線』卒業式を始めます」

ゆり「……なんか普通ね。てっきりボケてくれるのかと思ってたわ」

直井「これだから空気の読めない愚民は……」ハァ

日向「お前ら俺に何を求めてんだよ!」

一方「うるせェな。とっとと始めろよ」

かなで「……」

日向「はいはい分かりましたよ!それじゃあ次は戦歌斉唱です!」

ゆり「戦歌? あたしそんなの作らせた覚えないけど……」

一方「立華が作ったンだと」

かなで「……」エッヘン

ゆり「あなた戦線に入ってないじゃない……」




616: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:25:32.19 ID:+7vK/FjU0



日向「まぁいいじゃん。細かいことは」

かなで「……」コクコクッ

ゆり「もう……」

日向「一方!ちゃんと歌えよ?」

一方「チッ……」

直井「いいからさっさと始めろ愚民!」





それから五人は訳の分からない麻婆豆腐の歌を歌い、卒業証書を授与しあったり……。



気づけば、日は暮れようとしていた。






617: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:28:29.53 ID:+7vK/FjU0



日向「えーっと次は、卒業生代表の言葉を一つ」

一方「……」

かなで「……」

ゆり「……」

直井「……」

日向「……一方、これくらいはお前が言えよ」

一方「俺かよ。代表なら仲村に―――」

ゆり「そうね。一方くんがいいわ」

かなで「……」




618: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:31:16.85 ID:+7vK/FjU0



一方「……チッ。やりゃイインだろ、やりゃ」

日向「おおっ!待ってました!」

直井「……」

ゆり「一言とかはダメよ? ちゃんと話してね」

一方「……」



一方通行はガシガシと頭を掻き、口を開いた。



一方「……最初会った時は、オマエにいきなり『ここは死後の世界だ』とかほざかれたなァ」

ゆり「……ふふっ」

一方「そンで天使と戦ってるとか宣った上に、メンバーはアホばっかだった」

直井「同感です」

日向「ぬぐっ……!」




619: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:35:31.25 ID:+7vK/FjU0



一方「……色ンな事があった」



彼は続ける。



一方「オペレーションっつゥ体でただ全員で遊ンでるだけだったり、訳分かンねェ作戦に力入れたり」

ゆり「あ、案外痛いところ突くのね……」

日向「なんか俺ら貶されてねぇ?」

かなで「……」

直井「……」

一方「ある奴に至ってはグラウンドで気障ったらしィ口説き文句を並べた事もあった」

日向「ぶっ!!」

ゆり「へぇー」ニヤニヤ




620: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:39:43.81 ID:+7vK/FjU0



一方「……だが……」



彼は暫し口をつぐむ。



かなで「?」

日向「?」

直井(一方さん……?)

ゆり「一方くん?」

一方「……だが……」





そして再び口を開き、言った。







一方「そォいう生活も……悪くは、なかった」






622: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:44:09.09 ID:+7vK/FjU0



一方通行は恥ずかしさを隠すように舌打ちをし、そして溜め息をつくように言った。







一方「……ありがとよ」







日向(一方……)

ゆり(一方くん……)

直井「……こちらこそありがとうございました!!」パチパチパチパチパチパチ

かなで「……」パチパチパチ




623: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:47:27.30 ID:+7vK/FjU0







日向「じゃあ次は閉式の辞だ。これはゆりっぺ、頼む」

ゆり「あ、あたし?」

日向「あぁ」

ゆり「分かったわよ……えっと、これにて『死んだ世界戦線』卒業式を終わります!」

日向「……」

一方「……」

かなで「……」

直井「……」




624: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:50:10.39 ID:+7vK/FjU0



日向「――っと、これで終わった訳だけど……」



日向が苦笑いしながら他の四人を見回す。
すると、直井が一歩前に歩み出た。




直井「女の泣き顔なんて見たくない。先に行く」




そして彼は一方通行の前に立ち、帽子を脱ぐ。

その顔は、涙に濡れていた。




日向「おいおい。お前が真っ先に泣いてんじゃねーか……」フッ




625: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:52:01.31 ID:+7vK/FjU0



直井「一方さん……っ!」

一方「おォ」

直井「一方さんがいなかったら……僕は、ずっと報われなくて……!」

一方「……」

直井「でも、あなたのお陰で……僕は、僕は自分自身を認める事ができました……」

一方「……そォか」

直井「……だから、僕はもう迷いません。ありがとうございました!」

一方「あァ。ゆっくり休め」

直井「本当に……ありがとう……!」




涙が一筋、床に落ちた。





626: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 00:56:43.76 ID:+7vK/FjU0







一方「……」

日向「さーて、今度は誰が泣く番だ?」

ゆり「別に泣かないわよ」



いつものように軽く言って、ゆりはかなでと向き合った。



ゆり「……かなでちゃん」

かなで「……」

ゆり「今までたくさん酷い事して、ごめんね」

かなで「ううん」

ゆり「あたし達、ホントはいい友達になれたのにね」

かなで「うん……」




627: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:00:25.87 ID:+7vK/FjU0



ゆりは悲しそうに笑う。



ゆり「……もう、お別れなんだね……!」

かなで「……うん……」



そして二人は抱き合った。



ゆり「さようなら。かなでちゃん」

かなで「さよなら。ゆり……」



数秒間の静寂の後、二人は離れる。

そして次にゆりは一方通行と日向に向き合った。




628: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:03:36.22 ID:+7vK/FjU0



ゆり「あなた達も、お別れね」

一方「……あァ」

日向「長い間ありがとな。リーダー!」

ゆり「ふふっ。こんな言い方も変だけど……皆、元気でね」

かなで「……うん」

日向「あぁ。お前もな」

一方「……オマエには色々と世話ンなったな」

ゆり「……ううん。こちらこそ」





630: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:07:29.64 ID:+7vK/FjU0



ゆりは笑った。

その笑顔は年相応のようで、でも凛としていて、でもどこか飄々としていて―――






ゆり「それじゃ、またどこかで!」






―――最後まで、彼女は笑っていた。






631: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:10:50.84 ID:+7vK/FjU0







一方「……」

かなで「……」

日向「……ま、俺だわな。順番的に言って」



欠伸をしながら日向は言う。



一方「俺が先でもイイぜ」

日向「何言ってんだよ。お前はかなでちゃんといてやれ」

かなで「……」

一方「……」




632: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:13:55.84 ID:+7vK/FjU0



日向「……ありがとな。お前がいなかったら、何も始まらなかった」

一方「……そォか。そりゃどォも」

日向「どいつもこいつも、何だかんだ言ってお前に感謝してたんだぜ?」

一方「……ハッ」

日向「お前には、何回も助けられたしな」

一方「……記憶にねェな」

日向「なーに恥ずかしがってんだよ!」

一方「別に恥ずかしがっちゃいねェよ」




633: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:17:16.46 ID:+7vK/FjU0



日向「……ははっ」

一方「何笑ってンだよ?」

日向「お前も笑ってんじゃねーか」

一方「……ハッ」

日向「……」

一方「……」




暫し無音になる二人。

でもどこかそれは居心地の良い沈黙のようで……。




日向「……じゃ長話もなんだし、そろそろ行くわ」

一方「……おォ」

日向「ユイに会えたら宜しく言っといてやんよ」

一方「あァ。頼ンだ」




634: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:20:36.56 ID:+7vK/FjU0



そして日向は一方通行の前に立つと、左手を上げた。



日向「ほれ」

一方「……なンだよ」

日向「いやいやハイタッチだよ!流れ的に分かるだろ!」

一方「いや全く」

日向「お前絶対わざとやってるだろ……」

一方「……ったく。オラよ」



ご丁寧に舌打ちをし、彼も左手を上げる。



日向「……うし!じゃあ行くわ」

一方「……」




635: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:24:50.16 ID:+7vK/FjU0







日向「じゃあな、一方!」



一方「じゃあな、日向」







――パシッ!







体育館に、乾いた音が響いた。








636: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:26:49.39 ID:+7vK/FjU0







一方「……」

かなで「……」



無言になる二人。

一方通行は再び椅子に腰掛け、何となくかなでに目をやった。



一方「……」

かなで「……」



彼女は舞台上の、死んだ世界戦線の戦旗―――あるいはその空間そのものをじっと見つめている。





そして、ふと消え入りそうな声を漏らした。






637: ◆A8/TIJ786I 2012/04/02(月) 01:30:59.05 ID:+7vK/FjU0





かなで「―――ましいわ……」


一方「あァ? なンか言ったか?」





蚊の泣くような呟きに対して不自然なくらいの速さで反応する一方通行。

そんな彼に目をやって小さく微笑みながら、かなでは言った。







かなで「…………少し、歩かない?」








645: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 00:51:56.19 ID:9vc9s8PW0





・中庭



かなで「……」スタスタ

一方「……」カツンカツン






646: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 00:54:03.00 ID:9vc9s8PW0



一方「……」

かなで「……」

一方「……なァ」

かなで「何?」

一方「オマエの心残りってのは……なンなンだ?」

かなで「……私の、心残り?」

一方「あァ。なンだかンだ聞いた事ねェしな」

かなで「……そうね」





強い風が吹いた。

一方通行は煩わしそうに顔を伏せ、かなではその長い髪を押さえる。




647: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 00:58:16.70 ID:9vc9s8PW0



かなで「……私は、あなた達より先にこの世界に来てた」

一方「あァ」

かなで「そして色々な人と出会ってきた」

一方「……」





―――でも俺が最初オマエに会った時には、もうオマエは一人だった。

食堂でも、教室でも、俺達を止めに来た時でも……どんな時でも。

オマエは、いつも一人だった。





一方(……)



彼は再び顔を伏せた。

風はもう、止んでいる。




648: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:00:59.88 ID:9vc9s8PW0



一方「……」

かなで「……友達もできた。でも、皆……」

一方「消えちまった……か」

かなで「……そう。皆、私より先に消えていってしまった」

一方「……」



一方通行は理解した。



一方(こいつの心残り……それは……)

かなで「……だから私は、最後まで一緒にいてくれる友達が欲しかった」

一方「……」

かなで「最後は笑って送り出してくれる……そんな友達が」




649: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:04:45.88 ID:9vc9s8PW0



一方(……コイツは消えなかったンじゃない。消えられなかったンだ)

一方(今までの奴らは皆、自分を残して消えていった。そしてそれを何回も繰り返したンだろう)

一方(そうして、ずっと一人取り残されてきたのか……)



彼は額に皺を寄せ、かなでを見る。



一方(コイツは、立華は、ただ一人でいるのが嫌だっただけなンじゃねェか)

一方(ただ、一人消えてくのが怖かっただけなンじゃねェか……)



こちらに背を向けている為、彼女の表情は分からない。




650: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:08:57.66 ID:9vc9s8PW0



かなで「……だから」

一方「……」

かなで「最後まで一緒に、皆で消えていける友達がいるあなた達が……凄く羨ましかった」



ほんの少しだけ彼女の声が震えた気がした。



かなで「……本当に、羨ましかった」

一方「……ッ」




一方通行は歯噛みする。

そんな事にも気づいてやれなかった自分に、そしてずっと寂しく独り生きてきたかなでに。





651: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:12:46.08 ID:9vc9s8PW0



かなで「……これが、私の心残り」

一方「……そォか……」

かなで「でも、少しの間でもあなた達と居られたのは楽しかったわ」

一方「……」

かなで「形だけでも、私を加えてくれて――」










一方「――違ェ」

かなで「え?」

一方「違ェよ」




652: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:14:46.37 ID:9vc9s8PW0



一方「……オマエだって」

かなで「……」

一方「オマエだって、もォとっくに俺達の仲間だろ」

かなで「!」



かなでは目を見開く。



かなで「……そう、かしら」

一方「当然だろ。日向も仲村も最後までオマエの事心配してただろォが」

かなで「……」

一方「形だけじゃねェ。オマエも、もう戦線メンバーだ」

かなで「……」



かなでは小さく唇を噛んだ。




653: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:17:05.63 ID:9vc9s8PW0



かなで「……うん……」

一方「だから……その、なンだ」




彼は気恥ずかしそうに顔を背けながら言った。




一方「……俺は、最後までいてやる」

かなで「!」

一方「オマエが消えるのを、ちゃンと見ててやる」

かなで「……」

一方「だから……安心しろ」




かなでの綺麗な瞳が潤む。

いつも一人で歩いていた彼女にとって、彼の言葉は確かな救いだった。





かなで「……ありがとう……」






654: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:21:07.36 ID:9vc9s8PW0



かなで「……本当に、ありがとう……」

一方「ン。まァ気にすンな」




そんなかなでを、彼は不器用な手つきで撫でてやる。




一方「……落ち着いたか?」

かなで「うん。ありがとう」

一方「さっきから礼言い過ぎだっつゥの」

かなで「……ふふっ」




655: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:25:58.62 ID:9vc9s8PW0





かなで「……」


一方「……」




二人は暫く無言で見つめ合う。




かなで「……それじゃ」


一方「……あァ」


かなで「……」


一方「……」


かなで「また、会うことができたら……」


一方「ン?」






656: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:28:46.60 ID:9vc9s8PW0





かなで「その時は―――」


一方「……!」







強い風が吹いた。







かなで「―――さよなら。一方通行」








657: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:30:53.50 ID:9vc9s8PW0







一方「……」





彼はふと足元に目をやる。

そこには、真っ白な羽が一つ落ちていた。





一方「……」





何も言わずにそれを拾い上げ、空を見上げる。





一方(……天使、か……)





そして彼は、かなでと同じように微笑むのだった。





一方(……また、いつかな)








658: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:33:57.38 ID:9vc9s8PW0







・校長室





ガチャリ……バタンッ。





一方(……オイオイ。アイツら散らかし過ぎだっつゥの……)





―――ったく、最後の最後まで好き勝手しやがって。

私物にまみれた校長室を見て、そんな事を考えながら彼は校長机の椅子に座った。




659: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:37:01.64 ID:9vc9s8PW0



彼は途中で買った缶コーヒーを傾けながら、無人の校長室を見渡す。



一方「……」



壁にはハルバードが乱暴に立てかけてある。
つゥか壁削れてンじゃねェか。イイのかよ。


ソファーには着古した柔道着が丁寧に畳んで置いてある。
案外アイツ律儀なンだな。


反対側のソファーには長ドスが立てかけてある。なンか地味だ。


テーブルにはポテチ。
コンソメ味だかなンだか知らねェけど食いかけ放置してンじゃねェよ。


校長机には無線機にアクセサリーにプロテインの山。
前者二つはともかくプロテインとかバカじゃねェのかアイツ。


そンでもってところ構わず置いてあるぬいぐるみ。
オマエは特に散らかし過ぎだ。






660: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:42:07.56 ID:9vc9s8PW0



一方(……)



あれほど騒がしかった校長室。そして戦線メンバーの名残だった物。

それを見て少しだけ、ほんの少しだけ寂しさを覚える。



一方「……ハッ。感傷に浸るよォな柄じゃねェよな」



軽く笑って呟く。

しかしそんな言葉に返事が返ってくることは、もうない。





一方(……)







一方(……そンじゃ、そろそろいくか)







661: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:47:14.73 ID:9vc9s8PW0





一方(……)





彼はポケットから純白の羽を取りだし、机の上に置いた。

さらに缶コーヒーを持ち上げる。





一方(『死ンだ世界戦線』に……ってか?)








662: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:50:00.42 ID:9vc9s8PW0








―――そして。


いつしか純白の羽の隣に、空き缶が置かれていた。









663: ◆A8/TIJ786I 2012/04/03(火) 01:52:36.28 ID:9vc9s8PW0
一応これにて終了です。

見てくれた皆さん、ありがとうございました。

ABはしっかり2クールやって欲しかったですね。
そして禁書は早く三期来い。

という訳で、今まで本当にありがとうございました。



681: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 00:36:28.32 ID:Qw6vCJA90


それでは後日談始めます。

682: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 00:38:45.75 ID:Qw6vCJA90





「おーきーてー!!」





聞き慣れた大声。

眩しい日射し。



そして―――







打ち止め「とりゃー!ってミサカはミサカはダーイブ!」

一方「ぐおッ!?」





683: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 00:42:12.54 ID:Qw6vCJA90



一方「クソガキ……オマエいきなり何を……ッ!」プルプル

打ち止め「何回も呼んだのに起きないからだよーってミサカはミサカはお寝坊さんなあなたをたしなめてみたり!」

一方「……まだ十二時じゃねェか……」

打ち止め「まだじゃなくてもうだよー!」

一方「……」



一方通行は欠伸を噛み殺しながら頭を掻く。



一方「……」ボーッ

打ち止め「どうしたの? ってミサカはミサカはまだ寝惚けてるあなたをジッと見つめてみる」

一方「いやなンでもねェ。オラ、先にリビング行ってろ」




684: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 00:44:34.52 ID:Qw6vCJA90



一方「……」



寝室に一人残った一方通行。



一方(……眠ィ……)

一方(……つゥか昨日どうやって寝たンだっけか……)



暫く(と言っても数秒だが)彼は寝起きの頭を働かせるが、全く機能しない。



一方(……まァイイか)



結局まだ寝惚けてるのだろうと決めつけ、杖を片手に洗面所へ向かうのだった。




685: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 00:46:28.88 ID:Qw6vCJA90





・リビング



一方「……」



彼がリビングに行くと、番外個体と打ち止めがソファーに寝転びながらテレビを見ていた。



一方(……クッソ眠ィ……)



再び欠伸を噛み殺しながら、保護者二人の姿が見えない事を確認する。




686: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 00:49:09.29 ID:Qw6vCJA90



打ち止め「お寝坊さんなんだからーってミサカはミサカは世話の焼けるあなたを仕方なく思ってみたり!」

番外個体「ぎゃはは!こんなおちびに子供扱いされるとか第一位の立つ瀬ねぇwww」

一方「……ン、あァ……」



「いつも通りの」やり取り。



打ち止め「あれ? いつもなら直ぐ言い返してくるのに……」

番外個体「どうかした? もしかしてボケた? ねぇボケた? その年でボケちゃった?」

一方「うるせェな。眠ィンだよ」



そう言いながら冷蔵庫を開け、缶コーヒーを取る。




687: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 00:52:24.50 ID:Qw6vCJA90



一方「……ン?」

打ち止め「どうしたの?」

一方「いや……俺こンな銘柄のコーヒー飲ンでたか?」



ドサッとソファーに腰を下ろしながら、彼はふと言った。



番外個体「何言ってんのさ、もう一ヶ月くらいそれじゃん。ミサカでも知ってるっつーの」

打ち止め「あなたが気に入るなんて珍しかったよねってミサカはミサカは思い出してみる」

一方「……そォか」




688: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 00:56:34.67 ID:Qw6vCJA90



一方「アイツらは?」

打ち止め「あの二人なら朝から出掛けてるよーってミサカはミサカは伝えてみたり!」

一方「ふゥン」



それから暫く三人はテレビを見ていた。



一方「……」

打ち止め「あ、ねぇねぇ!このバンド最近有名になってきたんだよ!」

番外個体「いやいや。このモヤシっ子が音楽に興味なんて持つと思う?」

打ち止め「まぁそれもそうだけどってミサカはミサカは反論の余地に困ってみたり……」

番外個体「聞きもせずに反射しかねないよね―――」











一方「―――あァ、ガルデモか」

打ち止め「へ?」

番外個体「え?」




689: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 00:59:15.54 ID:Qw6vCJA90



一方「……ン?」



……あれ? 俺は今なンて言った?



打ち止め「え? あなたもガルデモ知ってるの!?」

一方「あ、いや。知らねェ…筈だ」

番外個体「ぎゃはは!似合わねぇー!」

打ち止め「案外ミーハーなのねってミサカはミサカはあなたが同じものに興味を持ってくれて嬉しかったり!」

一方「いや、そォいう訳じゃねェって」

番外個体「何言ってんのさ!しっかり愛称で呼んでたじゃんか」

一方「テキトーに略したらたまたま一致しただけだろ」

番外個体「Girls Dead Monsterだよ? もっと他に略し方あるだろっての!ぎゃはは!」





690: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:01:04.64 ID:Qw6vCJA90



一方「ハッ。そォいうオマエこそしっかりフルネーム覚えてンだなァ?」

番外個体「……あ」

一方「オマエもミーハーなンじゃねェか」

番外個体「ち、違うし!ミサカはただ過激な名前だから覚えちゃっただけだし!」

一方「あァはいはい」

番外個体「もう!何だよその目はぁ!!」






打ち止め「『My song』……良い歌だなぁーってミサカはミサカは絶賛してみたり……」




691: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:03:53.51 ID:Qw6vCJA90







一方「……」カツンカツン



結局一方通行は未だに寝惚けた(と決めつけた)頭をリフレッシュさせるため、気分転換に散歩をしている。
あとついでに新しいコーヒーを買いに。



一方(……)



打ち止め、番外個体、妹達。

そして黄泉川に芳川。



一方(なァンか妙な感じがすンな……気のせいか?)




692: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:05:35.99 ID:Qw6vCJA90



タッタッタッ……



一方「……」カツンカツン



タッタッタッタッ……



一方「……」カツンカツン



タッタッタッタッタッタッ……



一方「……」カツンカツン



タッタッタッタッタッタッタッタッタッ……



一方(……ン?)ピクッ




693: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:08:01.52 ID:Qw6vCJA90



「きゃっ!!」

一方「うォっ!?」



彼が反応した時には遅く、横っ腹に思い切り誰かがぶつかった。

相手は女の子のようだ―――身長が小さかった為、少女の頭がちょうど一方通行の下顎にヒットした。



「あいたたた……」

一方(ぐッ……なンなンだクソッタレがァァァ……!)



一言申してやろうとその転んだ少女を睨む。





一方「オマエ一体どこ見て―――」




694: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:11:52.16 ID:Qw6vCJA90



一方「―――ッ!」ピクッ



小柄な身体にピンク色の髪、腕や脚に付けたアクセサリー。



「ご、ごめんなさい!」

一方「……お、おォ……」

「よ、よそ見しちゃって……大丈夫ですか?」



またしても妙な感覚。

どこか、こう……懐かしいような。そんな感覚。



「た、立てますか!?」

一方「……あァ」



一方通行が杖をついているのを見て、少女は更に慌てながら謝る。




一方(……懐かしい? 何がだよ)




チッ……と舌打ちをして杖を持ち直す。

そして無言で踵を返そうとしたその時―――




695: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:13:18.96 ID:Qw6vCJA90





「――見つけたぞこらぁぁぁ!」



青い髪の男が走って来た。



一方「!」

「うげっ、もう追い付かれた!」



何やら困ってるピンク頭の少女と、またしても何かを感じる一方通行。



「ご、ごめんなさい!私はもう行きますんで!」

一方「オイ―――」

「それじゃ!」



少女は走り去って行く。




696: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:16:30.93 ID:Qw6vCJA90



「あんにゃろ……!あ、あの!あいつなんか迷惑掛けましたか?」

一方「……いや、別に」

「そ、そうですか。良かった……」



青頭の男は肩で息をしながら膝に手をつき胸を撫で下ろす。

どうでもいいが、今朝からの違和感によって悪人面に磨きがかかった一方通行を見ても全く怖がらない彼らは称賛に値するだろう。



「っと、こうしてる場合じゃねぇ!それじゃ俺も行きますんで!」

一方「……」



青い髪の男は先ほどの少女を追って走っていった。




697: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:20:57.06 ID:Qw6vCJA90





一方「……」



そんな二人が見えなくなるまで、彼はそこに立ち尽くしていた。

そして軽くため息をつき、呟く。





一方「……ったく。変わンねェな、アイツら―――」















一方(―――いや、だから俺ァ何を言ってンだっつゥの)






698: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:22:14.92 ID:Qw6vCJA90








* * * * * * * * * * * * *









699: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:25:00.06 ID:Qw6vCJA90





一方「……」カツンカツン



早速だが、一方通行は機嫌が悪い。

訳分からん違和感を無視してコンビニに向かうも全て飲み飽きた缶コーヒーしかなく。

今は少し離れたスーパーに来ているのだが……



一方(……さっきから一体なンなンですかァ!?)



もう一度言うが、彼は今機嫌が悪い。

それと言うのも、さっきから無意識のうちに大量のポテチをカゴに入れていたり、
これまた無意識のうちにプロテインの棚を凝視していたり。

そして挙げ句の果てにぬいぐるみのオマケ付きのお菓子を持って暫くつっ立っていたという体たらくである。





700: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:31:03.08 ID:Qw6vCJA90



一方「チッ……」



故に今の彼は般若のような形相、悪魔のようなオーラを纏っており、半径五メートル以内には誰も近づいてこない。



一方(とっとと買って帰るか……)



棚を開けて缶コーヒーを見渡す。
そして「新商品」と書かれた「なんとなく見たことがある」缶コーヒーを手に取った。



一方(新商品……これにすっかァ)



何十個も買い物カゴに放り込み、レジに向かう。







そしてその途中、彼の足が止まった―――






701: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:33:14.94 ID:Qw6vCJA90





一方「……」



彼の視線の先には、麻婆豆腐の棚。

甘口・辛口の麻婆豆腐や丼専用の麻婆豆腐、カロリーゼロ(?)の麻婆豆腐など、流石学園都市の品揃えである。



一方「……」



買い物カゴを一旦床に置き、彼は辛口麻婆豆腐に手を伸ばす。



それは無意識のうちか、あるいは―――










ふにっ。








702: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:34:45.91 ID:Qw6vCJA90





一方「……」



彼の視線の先には、麻婆豆腐の棚。

甘口・辛口の麻婆豆腐や丼専用の麻婆豆腐、カロリーゼロ(?)の麻婆豆腐など、流石学園都市の品揃えである。



一方「……」



買い物カゴを一旦床に置き、彼は辛口麻婆豆腐に手を伸ばす。


それは無意識のうちか、あるいは―――










ふにっ。








703: 重複すまぬ 2012/04/06(金) 01:36:54.19 ID:Qw6vCJA90



一方(……あァ? なンだこの感触は)



小さくて柔らかい何か。



一方「……」チラッ

「……!」



ゆっくりと隣に目をやると、小柄な少女が同じように麻婆豆腐に手を伸ばしていた。

そして視線が合う。





「あ……ご、ごめんなさいっ」サッ

一方「ン……あァ、悪ィな」サッ






705: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:40:25.12 ID:Qw6vCJA90



少女と向き合う。

小柄な身体に透き通るような白い肌、大きくて綺麗な瞳。
そして肌の色に合う綺麗な長い髪。

漫画の世界からそのまま出てきた天使ようなその少女を見て、一方通行は目を見開く。







一方(まただ……なンか知らねェが、俺は……)




一方(俺は、コイツと会った事があるよォな気がする)




一方(どこか懐かしいよォな気がする……)






706: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:42:40.98 ID:Qw6vCJA90





一方「……」



彼は軽くため息をつき、残り一つだった辛口麻婆豆腐を無言でその少女に譲る。



「いいんですか?」

一方「あァ」

「あ、ありがとうございます……」



少女は微笑んで頭を下げた。



一方「別に……買うつもりねェしな」

「そうなんですか……?」




707: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:44:04.39 ID:Qw6vCJA90





「……あ、あの」



そして意外な事に、少女の方から話しかけてきた。
前述の通り一方通行はいつにも増して悪人面になっているというのに。



一方「あァ?」

「麻婆豆腐、好きなんですか?」

一方「いや、別に好きって訳じゃねェけどよ」

「あ、そうですか……」

一方「……」

「……」




708: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:47:04.33 ID:Qw6vCJA90





一方「……なァ」

「はい?」

一方「……前にどこかで会った事あるか?」

「え? いえ、多分ないと思いますけど……」

一方「……そォか」




なンでまた俺はこンな事聞いてンだよ……。

いい加減に辟易した一方通行は床に置いた買い物カゴを持ち直し、歩き出した。





一方「……悪かったな。忘れてくれ」


「あ……いえ、こちらこそ……」





二人の距離が離れていく。






709: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:49:35.64 ID:Qw6vCJA90





「―――あ、あのっ」


一方「ン?」





彼の足が止まる。

少女は手にした麻婆豆腐を胸の前に持ってきて言った。







「……これ、ありがとう」








710: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:53:07.84 ID:Qw6vCJA90





少女のその優しい微笑み。





一方「……」





……やっぱりいつかどこかで見たような、そんな気がして。





一方「……あァ。気にすンな」





そして彼は再び歩き出していった。










―――さっきまでの機嫌の悪さは、綺麗さっぱり消え去っていた。






711: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:54:37.35 ID:Qw6vCJA90








* * * * * * * * * * * * *









712: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 01:58:04.30 ID:Qw6vCJA90







―――夜。





「―――今日の晩ご飯は麻婆豆腐じゃん!」

「やったー!ってミサカはミサカははしゃいでみる!」

「麻婆豆腐? ミサカそんなん知らないんだけど」

「私の分は大盛りでお願いね、愛穂」

「桔梗も手伝うじゃん!」

「いいのよ。私はどこまでも甘いから……」

「ヨシカワってば相変わらずだねってミサカはミサカは将来を不安視してみたり……」

「ぎゃはは!ミサカは違う意味であなたの将来が不安だけどねぇ?」

「こ、これから大きくなるもん!」




713: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 02:00:11.28 ID:Qw6vCJA90



「どうかなー? ミサカ不安で不安で仕方ないよー」

「絶対大きくなるんだから!ってミサカはミサカは宣戦布告!」

「ごめんねぇ、ミサカ末っ子なのに一番成長してて(笑)」

「むきー!!もう許さないってミサカはミサカは―――」

「いやーん(笑)」

「―――!」

「―――!」





ドタバタギャーギャー






714: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 02:04:55.14 ID:Qw6vCJA90







「全く、騒がしい奴らじゃん……」





……オイ、黄泉川。





「どうした一方通行?」





俺の分、辛くしといてくれ。





「……お前がそんな事言うなんて珍しいな。どういう風の吹き回しじゃん?」





……別に。

ただ―――





「ただ?」





――なンとなくだ。








715: ◆A8/TIJ786I 2012/04/06(金) 02:08:05.44 ID:Qw6vCJA90

という訳で、終わりです。


本当は全員出したかったんですが、もっと長くなりそうだったので止めました。

そしてこれにて本当に終了です。
今までありがとうございました。