◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:41:20.55 ID:VDZPPCed0

              第一期REWRITE                            第二期REWRITE

初期ランクS:
一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」
Supreme:   →Succession: 
ジャンル:武侠伝説

初期ランクA:落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない」
Abnormal:   →Argument: 
ジャンル:世界戦略&貴種流離譚

初期ランクB:原作。シナリオ展開の基準。描写はアニメ準拠
Basic
ジャンル:ハイスピード学園バトルラブコメ

初期ランクC:ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」
Chicken:    →Challenger:
ジャンル:タクティクスアドベンチャー(セル画時代の荒野のヒーローアニメ風)

…………………………………………………



…………………………………………………

番外編:一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」
Re-Born:   →Re-Bound :
Encore
ジャンル:国際スポーツドラマ

剣禅編:一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」   →第1部
序章:                   ←―――――――――――――“今作”
ジャンル:近未来剣客浪漫譚

…………………………………………………



…………………………………………………



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408750870
IS<インフィニット・ストラトス>2 OVA ワールド・パージ編 [Blu-ray]
オーバーラップ (2014-11-26)
売り上げランキング: 543
◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:43:06.78 ID:M0CqjG740


  


               ――――――お詫び――――――

前作にあたる番外編のアンコールを次に投稿する予定でしたが、それを変更して剣禅編:織斑一夏(23)の物語をお送りさせていただきます。
結局 本放送が終了して最新刊が発売したにも関わらず肝腎な情報が得られず、このまま第2期OVA発売まで待つのは落ち着かず、
最終的にまたまた新たなIS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作を始めてしまいました。

番外編のアンコールの内容が第2期の内容に深く関わってくるので、最初はちゃんと原作で情報が出るまで待っていたのですが、
『黒騎士』と『ゴールデン・ドーン』の詳細がアニメ第2期のDVD&Blu-ray Discの予約特典で明かされたので、
おそらく修学旅行については大幅加筆修正して脚色した展開に持ち込んで誤謬がないように描写すればいいという結論に至りました。

しかし、そうすると今度はワールドパージ編の描写に困ってしまい、そこだけはOVAの発売まで待つことにいたしました。
よって、筆者のIS〈インフィニット・ストラトス〉第2期の二次創作の投稿は遥か先になるということだけは明言しておきます。




今後のシリーズ構想              NO
第1期→第2期―――(原作進展があったか?)――→第3期(捏造)
               |   YES
                ――――――――→第3期(原作沿い)

筆者のIS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作シリーズ全体の大まかな構想
全て3期構成とし、全ての二次創作第2期が終わるまでに原作の進展がなければ、第3期を捏造してそれぞれの世界の決着を描こうかと思います。
基本的に、自分の中では織斑一夏は長生きできない人間――――――というより、はっきりと致死量のダメージを負わされているので実際にそうなのだろう。
よって基本的には、独力では絶対に不幸になるのは確定であり、一夏も一夏で死に急ぐので、違うのは『どんな人間と最後を迎えるのか』の差になってくる。

特に、ランクC:ザンネンな一夏はまさにそれであり、ネタバレですが彼に関してはすでに過酷な運命が目白押しである。
すでに第3期まで具体的な敵と戦いの内容は構成済み。頭文字Cに基づいたあっと驚く命を張りまくるハラハラドキドキな展開である。
彼も彼で凄まじい進化を遂げるが、その分 それ以上の厄難に苛まれていくことになる。
“ザンネンな”じゃなくて“死と隣り合わせの”“カワイソウな”のほうがしっくり来るぐらい。
できることなら改題したい…………新装版として改めて一から投稿すべきか?

基本的には初期のヒロイン5人は一夏のアレになるのだが、更識姉妹以降は攻略されるかどうかは状況次第である。
なにせ、最初から『打鉄弐式』が完成している場合もあるので、そうなれば織斑一夏に対する確執と執着もないので絡みづらいのだ。
更識 簪では組が違うだけではめげない鈴ほどの気概もないので、“同じ専用機乗りの仲間”程度にしかならない気がする。憧れぐらいは持っているだろうが……

◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:44:28.16 ID:M0CqjG740

今回のIS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作の剣禅編は、作品の前提を覆す野心的なものとなっております。

          ・・・・・・・・・・・
――――――なんと、織斑一夏の年齢が23歳であるという風変わりな設定!


駄作と終わるか、最後まで読んでいただいて心の片隅に残るか――――――。

つまり、今作はジャンル:織斑千冬世代――――――織斑千冬と同年代の人間を主役に据えたものなのですが、

その織斑千冬と同年代の人間の主役というのが、――――――実の弟:織斑一夏

という、IS〈インフィニット・ストラトス〉の一種の禁忌・パラドックスを取り扱ってみました。

なので、厳密にはジャンル:織斑千冬世代でもなければジャンル:二人目の男子でもないジャンル:その他な内容となります。


第2期OVAが11月発売予定 → 筆者のIS〈インフィニット・ストラトス〉第2期の二次創作が進まない
→ 新しいアイデアが閃く → 今までにない画期的な状況の中で織斑一夏がどんなふうになるのか描こう(=『前作で第1期の二次創作は最後』宣言 破棄)
 → 織斑一夏を織斑千冬世代にしてみよう→ジャンル:織斑千冬世代
  → しかし、そうなると必然的に高校生にはできないのでIS学園が不要な設定に
   → なら、織斑一夏の代わりに“世界で唯一ISを扱える男性”を出してしまおう → ジャンル:二人目の男子
    → と思ったけど、織斑一夏が前提として高校生でないので“二人目”ですらない → ジャンル:二人目の男子?
     → わかった。いっそのこと、群像劇と陰謀劇にして既存のジャンルや作風に囚われないものにしよう → ジャンル:その他
      → それが今作 『剣禅編』となる。

――――――

織斑一夏が23歳の理由

1,歳の離れた姉弟設定をなくすため
2,『モンド・グロッソ』本会場で現役時代の千冬を応援する姿が描きたかった
3,IS〈インフィニット・ストラトス〉でまだ描かれていない恋模様を描こうと野心的になった
4,IS学園教員の意地・生徒の健全な成長・大人から見えるIS〈インフィニット・ストラトス〉観を描くため

そこで、織斑千冬の年齢がどれくらいなのかを特定しないとこの一夏(1個下の弟)の設定ができないので考察してみた。
手掛かり
1,織斑一夏は小学校入学以前の記憶が無い・両親の写真などの記録もない
→この時、年齢の操作が行われていないとすれば、織斑一夏は9月生まれなので満年齢5歳の時に順当に小学生になっている。

2,高校時代には織斑千冬がIS乗りになっていたらしい
→しかし、織斑一夏は中学時代の千冬の記憶があるために、少なくとも織斑一夏が小学校入学した際には織斑千冬は中学生だったことがうかがえる。
→そこから、織斑千冬が順当に進級・進学をしていたとするならば、満12歳から満14歳であった可能性が高い。
→織斑一夏が満5歳に対して、千冬が満12歳から満14歳の間――――――よって、歳の差:7~9歳となる。

3,10年前の『白騎士事件』
→これがIS〈インフィニット・ストラトス〉最大の謎設定であり、これ以降の10年間で――――――、
・第3世代型ISの開発が着手されて、
・第2回『モンド・グロッソ』があって、
・1年とちょっとの間 千冬がドイツ軍で教官をして、
・世界唯一のISドライバーの教育機関:IS学園が開校されて、
・その学園の名物教師に千冬がなっている

参考サイト:IS〈インフィニット・ストラトス〉の年表の考察
http://misterk.web.fc2.com/is.html


参考サイトの表を見ながら、改めて織斑千冬の年齢を考察すると歳の差:9歳の最大差が妥当に思えた。
しかし、どうもこちらの認識と噛み合わないところがあり、物語を進める上では些細なことだが、姉弟関係を語る上では重大な齟齬なので要確認。
また、アニメ第2期の織斑一夏の回想シーンでもなかなかの矛盾描写があり、特定は困難である。
なぜこの作品の登場人物は誕生日や年齢などの基本的な情報がほとんど公開されていないのか…………「10年前」とか過去の表現がたくさんあるのになぜ?
◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:45:59.52 ID:M0CqjG740


読む前の注意
・IS〈インフィニット・ストラトス〉のアニメ第1期に準拠した内容となっており、視聴済みであることを前提に話を進めます
・織斑一夏と千冬の関係性に大幅な変化が加えられており、成人のおっさんな一夏なんて見たくない方はブラウザバックを推奨します
・織斑一夏の年齢が23歳に引き上げられたことをベースに原作の内容を脚色しておりますので、基本的な物語の流れは変わりません
→ 一夏が23歳のただの社会人なのでムチャが出来ないです。もどかしいけれども、いざ動いたらたいていの難事を解決する仕事人です
・群像劇でかつ陰謀劇なので長いです。1話当たりの長さも異なっていて、場面が目まぐるしく移り変わってダルいです
→ 状況の整理をしながら少しずつ読み進めていくことを推奨します
 → 本作のプロットのコンセプトは「謎」であり、その真相が原作とは根本的に設定が異なる場合があります
・犯罪臭がそこはかとなく漂う極めて健全な内容です
 → だって、原作の織斑一夏(15)に対して剣禅編の織斑一夏(23)だからね

・IS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作ですが、ジャンル:ハイスピード学園バトルラブコメでないことを頭に入れてください
・物語の前提として“世界で唯一ISを扱える男性”が別に登場します
→ オリジナルキャラやオリジナル設定が山ほど登場するのでそういうのが苦手な人もブラウザバック推奨 (お構いなしだと思うけど、一応)
 → 織斑一夏が“世界で唯一ISを扱える男性”ではなくなっているので周囲の反応や関係性がまったく違います
  → 特に、織斑一夏だったからこそイキイキするキャラなんかは今作ではその分が差し引かれて扱いが酷いです
・ネタバレ:篠ノ之 束こと“束えもん”が激おこぷんぷん丸になるぐらいの出来事が起こります(『序章』でやるとは言っていない)

・稀に文字列の上に・・・や半角カタカナみたいなのが付いていると思いますが、それは傍点やルビでして、掲示板の字詰めの仕様で潰れたものです
・息遣いや区切りを表現するために半スペース、――――――、…………を多用します
・投稿している掲示板に合わせて文字列が1行で収まるように文章を作っているので、やたら改行が多いことはご容赦ください
・なるべく推敲に推敲を重ねて誤植がないようにしていますが、間違いを見落とす時は見落とすのでご容赦ください
→ 過去の誤植を見る限りだと、セリフを微妙に直した時の消し忘れが多いようです。大筋に影響するほどの間違いはなかったはず…………
・今までと異なって完成してからの投稿ではありませんので、毎週の投稿とはならない可能性が高いです
→ 本作が第2期OVA発売までの繋ぎであることや、今後の筆者の二次創作投稿についてお知らせ・報告する手段として利用しているだけなので
 → 欲を言えば、既存のジャンルに囚われない本作に対する反応を多く見たいがためにノロノロと投稿したいところがある




さて、前置きが長くなりましたが――――――、
それでは『織斑一夏が織斑千冬世代』という着想をルーツにする、

剣禅編:一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」

の『序章』(アニメ第1期)をご覧くださいませ。


「目覚めろ、その魂」

「真実を惑わせる鏡なんて割ればいい」

「きみのままで変わればいい」

「きみのために進化する魂が願っていた未来を呼ぶ」

「僕は青空になる」


◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:47:42.44 ID:VDZPPCed0




今作のイメージ
Alive A Life
https://www.youtube.com/watch?v=Gtu_H2I1gIo


◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:49:33.09 ID:M0CqjG740

『序章』
第0話B ブリュンヒルデとその弟
Siblings


――――――IS学園、行くのかい?


一夏(23)「ああ、行くよ。――――――千冬姉のところに」


一夏「それにさ、“俺と同じ存在”を放っておくわけにもいかないからさ?」

一夏「もしかしたら不慣れな場所に放り込まれて戸惑っているかもしれないし」

一夏「その苦しみをわかってあげられるのは俺しかいないはずなんだ」

一夏「だから――――――」

友人T「そう。そうか、わかったよ」

友人T「けどね? 僕としてはね、一夏?」

友人T「きみにはISとは程遠い世界にいてもらったほうが安心なんだ」

友人T「第2回『モンド・グロッソ』決勝戦直前、きみが誘拐されるのを看過してしまったことを僕はずっと悔やんでるんだ」

友人T「そのせいで、きみの姉さんは連覇は確実視されていたのに試合放棄をせざるを得なかった…………」

一夏「…………気にするなって、“友矩”。あれは不可抗力だったんだ」

一夏「俺もただでは捕まらなかったけど、一人の力ではどうしようもなかった…………」

一夏「逆に誰かが攫われて救いに行ける力があるとしたら、俺も大切な人のために千冬姉と同じく全てを捨ててでも助けに行ったはずだ」


◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:50:56.56 ID:VDZPPCed0

友矩「そうか。姉弟揃って献身的で麗しいものだよ」

友矩「けど、それはつまり『他人の全てのために自分の全て――――――自分と関わっている人たちを犠牲にすることを厭わない』ってことでもあるんだ」

一夏「それは――――――」

友矩「きみならやりかねない」

友矩「一夏は、僕と千冬さんが離れた場所で溺れていたらどっちを助けに行く?」

友矩「大切な友人と大切な家族――――――他人と身内、そのどちらを優先してしまうんだ、きみは?」

一夏「………………」

友矩「となれば、僕はついていかないほうがいいかな?」

一夏「それは…………」

友矩「けど、そんなのはこれから生きていくうちにどこであろうとも遭遇する可能性が決してゼロではない事態だよね?」

友矩「――――――1人では救えない2つを2人でなら1つずつ救えるかもしれないね」

一夏「!」

友矩「僕は一夏についていくよ」

一夏「友矩!」

友矩「それじゃ、行ってみようか」

一夏「ああ!」


この物語は、望まざる力を与えられた3人が未来に向けて精一杯それぞれの一歩を踏み出していく新たな人生の序章に過ぎない。

ある者は、全てを失い 心さえも蝕まれて『人間』ではなくなり――――――、

ある者は、力を持つことの意義を理解していき――――――、

またある者は、真なるものを探し求めて旅立つ――――――。


そして、少女は少しずつ大人の階段を昇る――――――。





◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:51:54.65 ID:M0CqjG740

登場人物概要 第0話B:織斑一夏(23)たち“ブレードランナー”

織斑一夏(23)
改変度:S
日本で確認された“ISを扱える男性”であるが、その存在は秘匿されている。
“織斑一夏”であって“織斑一夏”じゃないキャラであり、原作との変更点として姉である織斑千冬と歳の差が1つしかない。
外見的な特徴としては、成人となって身長178cm(原作:172cm|千冬:166cm)であり、とある理由から部分的に白髪になったので染毛している。
やはり、昔のことはよく覚えていないが、過去を振り返らずに親友である友矩と一緒に現在を精一杯生きて、日々 充実感を得ていっている。


ヤギウ トモノリ
夜支布 友矩(23)
織斑一夏の大学時代の親友であり、ルームメイト。現在は凄腕のシステムエンジニア。
幹部自衛官の兄と今年 高校生となる弟がいる。
物静かで宝塚に出てくるような美形であり、イケメンの一夏と一緒に居るので、男と女のカップルに間違えられることが多々あった。


五反田 弾(23)
改変度:S
織斑一夏の中学時代からの悪友。ローディーに就業している。
歳の離れた妹:蘭がおり、溺愛している。
3人の中ではチャラい印象が強いが、それでも端正な顔つきなのでモテる分にはモテた。

この人も織斑一夏と同じように年齢を引き上げさせてもらいました。
オリジナルキャラだけで彼の周辺を固めるのは親近感がないので原作キャラである彼に登場してもらった。
織斑一夏の設定を変えるのは二次創作では日常茶飯事だが、彼に関しては主人公補正無しでどうとでも人物設定を違和感なく変えられる素地があり、
そういう意味では絶妙な人物設定だな、――――――五反田 弾って!



◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:53:10.45 ID:M0CqjG740

第1話A 世界一幸運で不運な男
The Luckiest Unluckiest MAN

――――――4月

――――――IS学園


山田「みなさん、入学おめでとう!」

山田「私は副担任の山田真耶です」

一同「………………」

山田「あ……、え…………?」オロオロ

山田「あ、今日からみなさんはこのIS学園の生徒です」

山田「この学園は全寮制――――――学校でも放課後でも一緒です」

山田「仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」

一同「………………」

山田「じゃあ 自己紹介をお願いします……。えっと、出席番号順で――――――」





山田「えと、次は――――――、」

山田「あ、“アヤカ? ユキムラ”くん?」

周囲「!」


「先生、それは“アヤカ”じゃなくて“ハネズ”です。“あ”から始まって“は”まで行ったのですから順番から言って“あ”から始まりませんよね?」


山田「あ、ごめんなさい! それじゃ、“朱華雪村”くん、自己紹介をお願いします」

周囲「!」ドキドキ

   ハネズユキムラ   ・・・・・・・・・
朱華「朱華雪村です。見ての通りの男です。よろしくお願いします」ニコー


周囲「………………?」ゾゾゾ・・・

箒「…………あいつが“噂の男子”(何だろう? 私と似たようなものを感じるな)」

セシリア「…………何でしょうか、あの笑みは?(日本人特有の薄ら笑いとは違って何やらゾッとするような作り笑顔ですわね……)」

山田「あ、ありがとうございました……」ニコニコー

山田「それでは、次――――――」

朱華「…………ハア」


ガララ・・・

10  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:55:41.08 ID:VDZPPCed0


千冬「フッ」


周囲「!」

山田「織斑先生、会議はもう終わられたのですか?」

千冬「ああ。山田先生。挨拶を押し付けてすまなかったな」

箒「千冬さん」

セシリア「おお……!」

周囲「」ドキドキ


千冬「諸君、私が担任の織斑千冬だ。きみたち新人を1年で使い物にするのが仕事だ」


周囲「キャーーーーーーーーーー!」

女子「千冬様よ! 本物の千冬様よ!」

女子「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです、北九州から!」

女子「私、お姉様のためなら死ねますー!」

キャーキャー、ワーワー、ガヤガヤ・・・!

箒「千冬さん」ホッ

千冬「毎年 よくこれだけ馬鹿者が集まるものだ。私のクラスにだけ集中させているのか?」ヤレヤレ

千冬「ん」チラッ

朱華「………………」

千冬「そうか。お前が“世界で唯一ISを扱える男性”だったな」

千冬「名は何と言ったかな? ――――――“アヤカ”だったか?」

朱華「…………さっきも言われた」ボソッ

千冬「ん? 何か言ったか? ――――――って、うるさいぞ、お前ら。静かにしろ」

周囲「ハーイ」

山田「あ、織斑先生。この子は“ハネズ ユキムラ”くんですよ」

千冬「わかった。“アヤカ”だな」

朱華「違います」

千冬「うるさい。見るからになよなよとしているお前など“アヤカ”で十分だ。“ハネズ”など人の名前でもない。“ユキムラ”も似合わん」

千冬「よって、今日からお前は“アヤカ”だ。いいな」

朱華「だから、違います――――――」

千冬「私がそう言っているのだ。返事は全て『はい』だ。馬鹿者」ゴツン!

朱華「あぅ!?」ガン!

周囲「キャーーーーーーーーーー!」

女子「ああ いいな、“アヤカ”くん! 早速 千冬様からご褒美をいただいているわー!」

女子「悔しい! けど何だか、“アヤカ”くんとお姉様のやりとりに不思議と魅力を感じてしまったわー!」

女子「お姉様-! “アヤカ”くんだけじゃなくて私にも叱って、罵ってー!」

女子「そして、時には優しくしてー!」

キャーキャー、ワーワー、ガヤガヤ・・・!



11  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:57:34.31 ID:M0CqjG740

千冬「で? さっさと『はい』と言えんのか、お前は?」

朱華「………………」

千冬「ほう? なかなかに強情なやつだな。思っていたよりも芯は堅いようだな」

千冬「だが、このIS学園に来て私が担任になった以上は――――――、お前たちもよく聞け!」

千冬「諸君たちには、ISの基礎知識を半月で憶えてもらう」

千冬「その後 実習だが、基本動作は半月で身体に染み込ませろ!」

千冬「いいか? 『良い』なら返事をしろ! 良くなくても返事をしろ!」

周囲「ハイ!」

朱華「ウグググ・・・」

千冬「ん!」グググ・・・

朱華「ウグググ・・・」

千冬「反抗的な態度をとっていても身のためにはならんぞ?」


――――――ならいっそこの場で殺してくれ。


千冬「…………?」

千冬「何か言ったか?」グググ・・・!

朱華「あ! ああっ!? ああ…………!」

箒「どうしてそこまで…………」

セシリア「あの“ブリュンヒルデ”がここまで手心を加えていらっしゃるのに、何ですの、あの態度は?」

周囲「キャーーーーーーーーーー!」

千冬「何度も騒ぐな、バカ共!」パッ

朱華「うぁ…………」グッタリ・・・

千冬「自己紹介を続けるぞ、山田先生」

山田「あ、はい」

千冬「それと、“アヤカ”。お前のことはどうやらきっちりと躾けておかないといけないようだから、」


千冬「放課後は覚悟していろよ?」


周囲「!」ピクッ

千冬「――――――もう騒ぐなよ?」ジロリ

周囲「…………!」

朱華「…………わかりました」ニヤッ

千冬「?」

千冬「まあ よろしい。では――――――」

箒「………………“朱華雪村”」



12  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 08:58:45.05 ID:VDZPPCed0

山田「みなさんも知っている通り、ISの正式名称はインフィニット・ストラトス。日本で開発されたマルチフォームスーツです」

山田「10年前に開発された当初は、宇宙空間での活動が想定されていたのですが、現在は停滞中です」

山田「アラスカ条約によって軍事利用も禁止されているので、今は専ら競技用――――――スポーツとして活用されていますね」

山田「そしてこのIS学園は、世界で唯一のIS操縦者育成を目的とした教育機関です」

山田「世界中から大勢の生徒が集まって操縦者になるために勉強しています」

山田「様々な国の若者たちが、自分たちの技能を向上させようと、日々努力をしているんです」

山田「では、今日から3年間しっかり勉強しましょうね」

周囲「ハーイ!」

朱華「………………」

山田「あ、えと“ハネズ”くん――――――」

千冬「山田先生、“アヤカ”と呼んでやれ」

山田「え? それは――――――」
             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朱華「もうそれでいいです。別に“朱華雪村”の名前に愛着なんてありませんから、呼びたいようにどうぞ」

周囲「イジケチャッター」

箒「…………え?(何だろう? 急に“朱華雪村”という人間に親しいものを感じた?)」

山田「そ、それじゃ“アヤカ”くん?」

山田「ここまでで疑問に思ったことはありませんでしたか?」

朱華「――――――『疑問』」

朱華「それじゃ、はい」

山田「はい。何です?」


朱華「ここって女子校ですよね? 僕は3年間 どう生きればいいのでしょうか?」


山田「え? あ、それは、その…………」

箒「………………」

ザワザワ、ヒソヒソ、アセアセ・・・

千冬「安心しろ、“アヤカ”」

千冬「この学園はあくまでもISドライバーの教育機関であるが故に、“IS適性がある人間”なら誰でも入学できることになっている」

朱華「ですけど、女子校ですよね?」

千冬「確かにな。だがそれは、自然なことだ」

千冬「これまで『ISに乗れるのは女だけ』という事実に基づいて、不必要なものが取り除かれて空いた部分を有意義に使っているのだ」

千冬「しかし、その事実が覆された以上は男女共学のための改革も視野に入れている――――――」

朱華「………………」

千冬「不満そうだな?」

朱華「別に」

朱華「ただ、訊くべきことがやまほどありますから、せっかく担任が放課後に時間をとってくださることを思い出しましたのでもう十分かと思っただけでして」

千冬「そうだったな。楽しみにしているようで何よりだ」ニヤリ

周囲「(――――――『楽しみにしている(意味深)』)」ゴクリ

朱華「………………」



13  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:00:08.04 ID:M0CqjG740

――――――業間


朱華「………………」ボケー

箒「…………朱華のやつ、授業中以外は本当に無反応だな」

箒「あ」


セシリア「ちょっとよろしくて?」


朱華「………………」(反応がない)

セシリア「むっ」

セシリア「あの!」

朱華「………………何? そんな大きな声を出さなくてもちゃんと聞いてるよ」(ある一点を見据えたまま)

セシリア「まあ 何ですの、その態度!」

セシリア「私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないのかしら?」

セシリア「それ以前に、人と話をするのならばちゃんと顔をこっちに向いてくださらない? それは人として当然のことですわ!」

朱華「………………話って何?」(そっぽを向いたまま)

セシリア「…………強情ですわね。さすがは織斑先生の温情を袖にしただけのことはありますわ」ムッ

周囲「!」ビクッ

セシリア「織斑先生の手を煩わせることもありませんわ!」

セシリア「このイギリス代表候補生:セシリア・オルコットがこの礼儀知らずに礼儀というものを教えてさしあげますわ!」

朱華「…………そう」(相変わらずそっぽを向いたまま)

セシリア「うっ……(――――――とは言いましたものの、このままではますます本題に入れませんわ!)」

セシリア「(なんて忌々しい! 私がこんな下賤の輩に合わせなくてならないなんて…………)」

セシリア「ゴホン」

セシリア「しかし、それはまとまった時間にいたしましょう」

セシリア「――――――昼休み! 私についてきなさい!」

朱華「………………」

セシリア「――――――“アヤカ”!」イラッ

朱華「………………わかりました。用もございませんし、黙って従います」

セシリア「…………親の顔を見てみたいですわ」イライラ

周囲「ホッ」


14  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:01:16.28 ID:VDZPPCed0

セシリア「では、本題に入りますわ」

朱華「………………」

セシリア「あなた、私 セシリア・オルコットのことを当然 知っておりますわよね?」

朱華「…………知りません。あなたがどれくらいの有名人かなんて僕の人生には関係ないので」

セシリア「あ、あなた――――――!」イラッ

セシリア「イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を――――――!」ギリッ

朱華「……はい、『イギリスの代表候補生にして入試主席のセシリアさん』が、何?」

セシリア「あっ、ぬぅ……(抑えるのですわ、セシリア・オルコット! 話すのが疲れたからといってこちらから話を切り上げてしまっては――――――!)」

セシリア「ゴホン」

セシリア「私は国家代表候補生――――――それすなわち!」

セシリア「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出される“エリート”のことですわ」

朱華「…………へえ」ピクッ

セシリア「…………あ」フッ

セシリア「そう、“エリート”ですわ!」

セシリア「本来なら私のような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡――――――幸運なのよ!」

セシリア「その現実をもう少し理解していただける?」

朱華「………………」


「………………………………プッ」


セシリア「」カチン

朱華「………………」(依然としてそっぽを向いたまま)

周囲「?」

箒「…………!」


――――――その時、セシリアの中での何かがキレた。



15  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:02:04.88 ID:M0CqjG740

セシリア・オルコットはこれまで相手にしたことがないやりづらい相手に持てるだけの誠意を持って接し、

その結果、微かではあったがようやくこちらに興味を示してくれたのか、“アヤカ”が反応を示したことに味をしめたセシリアではあったが、

最終的に返ってきた反応は、――――――『鼻で笑う』であった。

いや それは、まるで死んでいるかのように反応が薄い“朱華雪村”という人間の相手をするのに疲れきったセシリアが見た幻だったのかもしれない。

そして周囲は、セシリアと“アヤカ”の対面をおっかなびっくりに興味深そうに遠巻きに見ているだけで、

これだけ近くで注意深く観察しないと気づけない 死体のように無反応で在り続ける“アヤカ”の微細な反応の変化に気づいていないのだ。

仮に“アヤカ”が『鼻で笑った』ことが事実だったとしても、未だに為人がわからない以上は『どうして鼻で笑ったか』の判断材料はゼロに等しかった。

相手を無視しているように見えてもちゃんと話は聞いてるし、人を馬鹿にしている印象よりも得体の知れない薄気味悪さのほうがずっと強いのだ。

しかしながら、常識ある一般人ならばこれまでの“アヤカ”の無礼な態度に怒り狂うか呆れ果てて当然のものであり、セシリアはむしろよく頑張った。

だが、無理をおして付き合い通そうとしたためにジリジリとフラストレーションが溜まっていき、“アヤカ”に対する否定的な感情が募っていく。


結局、セシリアが“世界で唯一ISを扱える男性”である“アヤカ”に対して何を話そうとして近づいてきたのかと言えば、

端的に言えば、『世界に467しかないISの専用機を与えられている代表候補生であることの自慢話と一躍世間を騒がせている“時の人”との各付け』である。

言うなれば、『自分よりも目立っているぽっと出の生意気なやつの鼻を明かそう』と思って近づいたというわけなのだが、

結果としては、――――――無残なものであった。


朱華『…………知りません。あなたがどれくらいの有名人かなんて僕の人生には関係ないので』


最初のこの一言で『お前など眼中にない』とバッサリ切り捨てられており、己の沽券を示そうとしたセシリアには取り付く島がなかった。

そこからセシリアは 必死になって彼の興味を引いて己の沽券を示そうとし、ようやく反応らしい反応があったのでそこから踏み込もうとした矢先――――――、


『………………………………プッ』


――――――『鼻で笑われた』のである(セシリアの幻聴だった可能性があるが)。

ここまで解説すればわかるだろうが、プライドの高いセシリアのこの時の心境はこういうことになるはずである。


――――――弄ばれた!


16  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:04:10.01 ID:M0CqjG740

セシリア「あなたって方はあああああああああああ!(――――――『ブルー・ティアーズ』!)」

周囲「!?」ビクッ!

箒「ISの――――――!」ガタッ!


セシリア「謝りなさい! これまでの非礼の全てを這いつくばって詫びなさい!」ゴゴゴゴゴ(顔真っ赤にして怒り狂う)


朱華「………………」(だが、まるで動じない)

セシリア「…………あなた、恐ろしくないの?(明らかに『何かがおかしい』、――――――この人は!)」アセタラー

朱華「………………ん?」チラッ

朱華「………………」(そして、元通り)

セシリア「!」イラッ

朱華「ん?」

セシリア「…………あ(ようやく反応がありましたわね!)」


朱華「どうしてあなたが怒ってるんですか?」キョトーン


セシリア「あぁ!?」ギロッ

セシリア「あなた、本気で言って――――――」ゴゴゴゴゴ


箒「や、止めろ!」


セシリア「!?」クルッ

朱華「…………?」ピクッ

周囲「!」

箒「あ…………」


17  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:07:40.56 ID:VDZPPCed0

箒「と、ともかく! いくらこの男が無礼千万だとしても丸腰の相手を脅すのだけはダメだ!」

セシリア「!」ギロッ

箒「…………!」アセタラー

セシリア「………………ハア(――――――解除よ、『ブルー・ティアーズ』)」

箒「あ……」ホッ

セシリア「そうですわね。いくら侮辱されたとしても限度というものがありましたわ」

セシリア「…………礼を言いますわ」

箒「い、いや――――――ん? ――――――『侮辱された』?」

箒「ちょっと待ってくれ。私は一部始終をずっと見ていたが、こいつが何をどう『侮辱した』というのだ?」
   ハネズ
箒「“朱華”は少し反応したことはあっても終始 無反応ではないか」

セシリア「え、それは――――――え?」キョロキョロ

周囲「………………?」

セシリア「それでは…………、あれは私の勘違い?」

セシリア「…………それは、申し訳ありませんでしたわ、えと“アヤカ”さん」シュン

朱華「………………」(死体に何を言っても無駄だった)

セシリア「あ、あの…………」

箒「……もう よせ。こいつはそういうやつなのだろう。このままだと泥沼にはまってしまうぞ」

セシリア「…………わかりましたわ」トボトボ・・・

箒「だが、よく聞いておけ、“朱華”」

朱華「………………」

箒「お前がやっていることは人として最低の振る舞いだ。だから――――――」


朱華「…………」ジロッ


箒「…………!」ビクッ

セシリア「なっ!」

周囲「キャー! ウゴイター!」

箒「び、びっくりさせるな! 急にこっちに顔を向ける――――――反応するもんだから驚いたではないか!」ハラハラ


18  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:09:06.16 ID:VDZPPCed0

朱華「ねえ、教えてくれるかな?」(箒の目を見て話しかけている!)

箒「な、何だ? 今までずっと黙りこんでいたくせに……(何だろう? この眼は――――――まさか、『私に何かを期待してる』とか?)」

朱華「僕のような“人として最低の人間”って、――――――生きてちゃいけないんだよね?」

箒「は?」


――――――なんでこんな最低の僕は生きてるんだろう? 生きてることを許されてるんだろう?


箒「な、何を言って――――――(何だ この物言いは? まるで――――――)」

朱華「答えてくださいよ」


――――――どうして僕のような最低の人間を殺さずに 僕の家族を殺したのですか?


一同「!?」

朱華「答えてくださいよ! 礼儀というものを教えてくれるんでしょう! 礼儀というものを知ってるんでしょう!?」

朱華「ねえ!?」ポロポロ

箒「あ、ああ…………」

セシリア「あ………………」

周囲「ヒソヒソ」オロオロ



衝撃の告白に誰もが凍りついてしまった。

死体のように反応がないと同時に感情がないと思われた彼だったが、いざ口を開かせてみると狂乱に歪んだ彼の叫びが響き渡った。

そして、魂の奥底で苦痛に歪んでこれでもかと面を歪ませて慟哭する“朱華雪村”の姿に、ようやく誰もが悟ることになったのである。


――――――彼が背負ってきたドス黒い闇の存在を。


彼の存在は言うなれば、――――――“虚無”であったのだ。気安く触れていいような存在ではなかったのだ。

ましてや、人間社会の光明面しか知らないような人生経験の乏しい年頃の少女たちの手に負えない存在だったのだ。

それに誰もが気づいた時、彼から放たれるドス黒い闇の瘴気に当てられて――――――、


しかし、次の瞬間の後には誰もがそのことを忘れてしまうのであった…………



19  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:10:05.09 ID:M0CqjG740

新聞部「みなさーん! こちらに注目してくださーい! 新聞部でーす!」

一同「!?」

箒「はあ――――――?(今 このタイミングで――――――?)」

朱華「!!」


パシャパシャパシャパシャパシャ・・・・・・


新聞部「…………はい」

新聞部「撮影が終わりましたよー」

新聞部「――――――1年1組、“唯一の男子”がいていいね!」

セシリア「へ――――――そう、そうですわね」ニコッ

箒「あ、ああ…………」

周囲「写真 見せてー」ガヤガヤ

新聞部「はいはい。順番順番――――――」

朱華「?」

朱華「あれ、次の授業の準備をしてないな……」スタスタスタ

朱華「…………おかしいな? 何をやってたんだろう、僕は」



――――――やれやれ、自殺防止の監視員の仕事も楽じゃないよ。



20  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:11:36.24 ID:VDZPPCed0

――――――それから、放課後


千冬「この部屋がよかろう」

朱華「…………和室」

千冬「人払いはしてある。互いに遠慮なくいかせてもらおうか」

朱華「………………」


バタン! ――――――『立入禁止』


女子「今、和室に入っていったね」

女子「茶道部の部室だったわよね」

女子「そうよ。千冬様は茶道部の顧問をしていらっしゃるのよー!」

女子「ああ! お姉様の[ピーーー]を煎じて飲みたいですわ」ウットリ

女子「さあ! 新聞部から借りてきたICレコーダーで意味深な音源を得るわよ!」


ワイワイ、ドキドキ、ウズウズ・・・!


箒「大丈夫なのか、この学園…………」

箒「でも、――――――“朱華雪村”」

箒「なぜだろう? どうしてやつのことがこんなにも気になるのだろう?」

箒「それに、イギリス代表候補生のセシリア・オルコット――――――」

箒「彼女からはなぜか親しげに話しかけられたし、私自身もそれを違和感なく受け入れていたな…………」

箒「ま、まあ! 初日にしては上出来だったんじゃないかって思うぞ! よし!」

箒「しかし、“朱華”のやつ、大丈夫なのか――――――」



――――――30分後


「アッーーーーーーー!」


箒「!?」

女子「おおう!?」

女子「こ、これは、ついにぃ――――――!」

女子「早速 ヤッてるわね!」(意味深)ドキドキ

女子「これは、――――――捗る!」グッ

箒「な、中でいったい何が――――――!?」ハラハラ

箒「ぶ、無事でいろよ、――――――“朱華”」オロオロ





21  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:12:42.79 ID:VDZPPCed0

――――――翌日


朱華「………………」

山田「IS 〈インフィニット・ストラトス〉は 操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます」

山田「ISには意識に似たようなものがあって、お互いの対話――――――」

山田「つまり、『一緒に過ごした時間でわかりあえる』というか、」

山田「操縦時間に比例して IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

山田「ISは道具ではなく、あくまで“パートナー”として認識してください」

山田「ここまでで、質問のある人は?」

女子「質問! “パートナー”って“カレシカノジョ”のような感じですか?」

山田「――――――!?」

山田「そ、それはその…………どうでしょう」

山田「私には経験がないのでわかりませんが、えっとえっと…………」オロオロ

周囲「アハハハハハ」

山田「あ」

朱華「………………」

山田「えと、“アヤカ”くん? 今のところ どうですか? 授業についてこれますか?」

朱華「…………大丈夫です」

山田「そうですか……(反応が乏しいですけど、ちゃんと聞いてはいますね。よかった……)」

山田「でも、私は“アヤカ”くんの副担任でもありますから、授業以外のことでも気軽に訊ねてくださいね」

朱華「…………はい」

山田「はい。では、授業を続けますね――――――」

箒「…………」ジー



22  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:13:38.76 ID:M0CqjG740


キンコンカンコーン!


朱華「………………」(まるで屍のようだ)

箒「ちょっといいか? 話がある」

朱華「…………誰だっけか?」ピクッ

箒「――――――“篠ノ之 箒”だ、“朱華”」

朱華「――――――『篠ノ之』?」ムクッ

箒「どうだ? 話を聞く気になったか。なら ついてこい」

朱華「…………わかった」ザッ

周囲「!」

女子「篠ノ之さんが行った~!」

女子「まずはどんなふうになるか様子見よ! ついていきましょう!」

女子「おおー!」

セシリア「あら……」




23  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:15:40.11 ID:M0CqjG740

――――――屋上


朱華「話って何ですか?」

箒「1つ聞きたいことがある」

朱華「?」

箒「お前はもしかしてなのだが――――――、」


――――――重要人物保護プログラムを受けているのか?


朱華「…………どうしてそう断言できる?」

箒「そうか。そうだったのか」

箒「簡単なことだ」


――――――私もそうだからだ。


朱華「へえ」

箒「たぶん 薄々気づいているとは思うが、」


――――――私の姉:篠ノ之 束はIS〈インフィニット・ストラトス〉の開発者だ。


朱華「そうなんだ」

箒「6年前、ISの軍事的有用性が証明されてから姉さんにしかISコアが造れないこともあって、私の家族は重要人物保護プログラムで各地を転々とさせられたのだ」

箒「だが、気づけば両親とは離されて暮らすことになり、姉さんは監視を逃れて3年前に最後のコアだけを残してどこかへ逃げてしまった…………」


24  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:17:32.72 ID:M0CqjG740

箒「…………辛い毎日だった」

箒「際限なく繰り返される転居、聴取、監視――――――」

朱華「だから 何?」

箒「あ…………」

箒「だから、私は“世界で唯一ISを扱える男性”として持て囃されている裏で苦しんでいるお前の気持ちをわかってやれると思うのだ……」

朱華「………………」

箒「う…………(違う。私が求めているのはこんな言葉でもそんな関係でもない! それをごまかしてどうする!)」


箒「要するに、――――――友達になって欲しいのだ!」


朱華「………………」

箒「あ、いや! 私は自分で言うのもなんだが、友達を作るのは得意じゃないし、どうも流行というものに疎くて――――――」アセアセ

箒「こ、こんなことを頼めるのは、――――――お前しかいないのだ!」

箒「な、なあ! 私と友達になれば少なくともお前は一人ではなくなる! 重要人物保護プログラムでの苦しみもわかってるから!」

箒「だから、――――――頼む!」

朱華「………………」

箒「た、頼む…………」

朱華「………………」

箒「うぅ…………(だ、ダメなのか?)」アセタラー


朱華「わかった」



25  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:20:26.97 ID:VDZPPCed0

箒「!」

箒「今、『わかった』と言ってくれたのか? 承諾してくれたのか!」ドキドキ

朱華「はい。はい? はい!」

箒「そ、そうか」ホッ

箒「けど、大きな声で返事をしてくれるのはありがたいが、どうしたのだ?」

箒「もしかして、『こういう時 どうしたらいいか』とかで自分の立居振舞に自信がなかったりするのか?」

朱華「え? まあ そうですね」


「………………フフッ」


箒「あ」

箒「それはそうだったな。男のお前にとってIS学園は居辛いだろうしな」フフッ

箒「よ、よし! お前のために私がよりよい立ち振舞の仕方を一緒に考えてやろうではないか」ゴホン

朱華「ありがとうございます」(無表情で抑揚もない声)

箒「むぅ……」

箒「私も人のことを言えたものじゃないとは思っているが、その無表情は辞めたほうがいいのではないか?」

朱華「どうするのです?」

箒「え? えと、それはだな――――――」


――――――
セシリア「箒さん、がんばってますわね」

セシリア「そして、相変わらずの無反応振りですわね、“アヤカ”さんは」

セシリア「あれではハードボイルドではなく、ただの根暗な人にしか見えませんことよ?」

セシリア「しかし、これからは箒さんが何とかしてくださることでしょう。改善を期待しますわね」

セシリア「さて、私もクラス代表として再来週のクラス対抗戦で勝つために訓練を始めませんと」

セシリア「確か、私の他の専用機持ちは日本最新鋭の第3世代機でしたわね――――――」
――――――


箒「それから、周りから“アヤカ”と呼ばれて本名を呼んでもらえないこの奇妙な少年との学園生活が始まるのだった」



26  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:21:18.30 ID:M0CqjG740

登場人物概要 第1話A 

ハネズ ユキムラ
朱華 雪村
年齢:15歳 身長:166cm 
IS適性:A
詳細は物語が進むに連れて明かされていくが、彼は篠ノ之 箒と同じく重要人物保護プログラムを受けており――――――。

今作における“世界で唯一ISを扱える男性”――――――実質的な主人公であるが、明らかに異質な存在として描かれている。目が死んでいる。
TRPGで言えば 「不定の狂気」状態に陥っている存在であり、それに関わっている人間もSAN値が削られるぐらい有害で瘴気をまとっている。

――――――彼とは深く関わってはならない。

関わるのならば、理解するよりも命令するに尽きる。理解しようとしてはならないし、必要なことは命令として実行させたほうが彼としてもやりやすい。

ちなみに、“世界で唯一ISを扱える男性”ではあるが、彼には専用機を与えられていない。
むしろ、日本政府のほうからも見放されて――――――あるいは別の理由から貴重な専用機を与えられていない。


篠ノ之 箒
改変度:S
正真正銘のメインヒロインであり、今作では異色の物語を送ることになる。
今作では織斑一夏の年齢が23歳という前提にたったことで、彼の存在を支えに生きてきた少女の生き様が大きく変わってきている。
そして、その一夏が同い年の同級生ではないために関係が希薄(=執着する必要がない)となっており、
それだけに本名でいられる開放感と心機一転できる期待感が強く、織斑一夏への執着心が薄いので、
普通の女子高生として生活しようという気力が彼女なりに充実しており、今まで見られなかった違った一面が花開くことになる。

自分と同じものを漂わせる朱華雪村に興味を持ち始めており、同時に過去の自分の危うさと脆さを思い出させるために気が気でならなくなっている。


セシリア・オルコット
改変度:A
チョロインの代名詞である彼女であるが、“世界で唯一ISを扱える男性”が織斑一夏ではないために別にチョロインでも何でもなくなっている。
ただし、やはり年頃の女の子ということもあって、“唯一の男子”である朱華雪村には自然と意識が向いて、何かと憎まれ口を叩きたくなってしまう。

それもそのはずであり、彼女が男嫌いになる要因となった入婿であった彼女の父親の腰の低さと雪村の無気力な姿が重なって見えており、
どうしても父親と比較してしまう傾向にあり、更には普段は別居状態の彼女の両親が死亡した際 なぜか一緒だったことも起因して、
生気が全く感じられない雪村を前にすると、どうしても生前の父親の情けなかった姿から父親の最期までも一気に思い出してしまうために、
父親に対して本当に悪く思っていなかった彼女の本性が浮き彫りとなり、それを必至に否定しようと無意識につらくあたってしまうのである。

しかし、雪村がとんでもない破綻者で、とある目的のために利用されたことによってトラウマを植え付けられてしまい、一瞬で態度を変えさせられてしまう。
それ故に、一応はチョロインとしての体裁は守られている…………のか?


織斑千冬(24)
改変度:B
唯一の肉親に対する愛情は相変わらずであるが、歳の差が大きく変わったために姉弟が置かれた状況も大きく変わっており、
一夏に対する態度も全体からすると微妙に変化しており、そこからが最大の変更点となる。
しかし、それ以外はほぼ平常運転をしており、さすが大人ということで少年少女が中心の物語においては変化はそこまで大きくはならない。

ただし、彼女自身はあまり変更がなくとも、一夏自身が織斑千冬世代になったことで当然 彼の交流範囲がその世代に重なるので――――――。


27  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:22:42.69 ID:M0CqjG740

第2話A ISの心、人間の心、人間でない者の心
Disaster

――――――クラス対抗戦まで残り数日


ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ・・・!


朱華「………………」(相変わらず死んだように動かない)

箒「あれから、少しばかりはちゃんと応対するようになったが――――――、」

箒「相変わらずだな、朱華は」

女子「もうすぐクラス対抗戦だね」

女子「そうだ。2組のクラス代表が変更になったって聞いてる?」

女子「ああ “何とか”って言う転校生に替わったのよね」

女子「うん。中国から来た子だって」

セシリア「ふん。私の存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

セシリア「返り討ちにしてさしあげますわ」ドヤァ

女子「今のところ、専用機を持ってるのは1組と4組だけだから 余裕だよ」


――――――その情報 古いよ!


一同「!」

朱華「………………」

鈴「2組もクラス代表が専用機持ちになったの! そう簡単には優勝できないから!」

箒「もしや、最近になって中国から転校してきたという代表候補生――――――?」


鈴「そうよ! 中国代表候補生:凰 鈴音! 今日は宣戦布告に来たってわけ!」ビシッ!


女子「あれが2組の転校生…………」

女子「中国の代表候補生…………」

周囲「ザワザワ」

セシリア「これはこれは、ご丁寧なご挨拶痛み入りますわ」

セシリア「私がクラス代表:イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ」

セシリア「クラス対抗戦――――――どちらが強く、より優雅であるか、教えて差し上げますわ」

鈴「もちろん、私が上なのはわかりきっているけど?」

セシリア「うふふ、弱い犬ほどよく吠えると言うけれど、本当ですわね」クスッ

鈴「どういう意味よ?」イラッ

セシリア「『自分が上』だってわざわざ大きく見せようとするところなんか典型的ですもの」

鈴「――――――その言葉、そっくりそのまま返してあげる!」プルプル

セシリア「あら、それができるかしらね?」ニヤリ


両者「…………!」ゴゴゴゴゴ



28  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:23:37.29 ID:VDZPPCed0

ザワ・・・ザワ・・・

箒「いきなり喧嘩腰か…………穏やかではないな」

周囲「ドウシヨー」オドオド

鈴「…………ん?(さて、どいつもこいつもやるようには思えないけど、この中に“例の人物”が――――――)」チラッ

セシリア「あ、私を無視しないでくださる――――――(もしや、その視線の先におりますのは――――――)」クルッ


朱華「………………」


鈴「あ、あんたが……、噂の“世界で唯一ISを扱える男性”ってわけ……?」ジロッ

朱華「…………ああ」(そっぽを向いたまま)

鈴「ちょっとぉ……! こっち 見て話しなさいよ、あんた!」

箒「あ、止めろ!」

鈴「何よ、あんた。私はこいつに話しかけてるんだけど」

箒「まあ 聞け」

箒「こいつは……、そういうやつなんだ! 最近 ようやく返事だけは確実にしてくれるようになったからそう責めないでやってくれ」

朱華「………………」

鈴「ふぅん…………」ジトー

朱華「………………」

鈴「………………ハア」

箒「むっ」

鈴「やれやれ、“世界で唯一ISを扱える男性”とやらを視てくるように無理矢理この学園に入れさせられたのに、」

鈴「こんな やる気の欠片も感じられない子が“それ”とはねぇ…………少しは出向いた手間賃に釣り合うだけの何かを期待してたけど、」

鈴「とんだ期待外れねぇ……」ハア

セシリア「あら、帰るのならば構いませんわよ?」

鈴「いやいや! 確かにそういった意味では無駄骨だったかもしれないけど!」

鈴「私は代表候補生なのよ。ここで存分に格の違いってものを見せてあげるわ!」

セシリア「ええ。どうぞどうぞ」オホホホ・・・

鈴「…………むかつくわね、あんた」ジロッ

セシリア「そういうあなたこそ 身の程を知りなさい」ジロッ


両者「…………!」ゴゴゴゴゴ



29  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:24:30.26 ID:M0CqjG740

箒「またか……」

箒「朱華、今度からちゃんと人と話す時は相手の方を見るようにしろよ?」

朱華「…………努力する」

箒「そうか」ホッ

女子「ねえ、最近 篠ノ之さん、“アヤカ”くんの世話が板についてきたよね」

女子「うん。これはこれで期待してもいいのかな?」ドキドキ

女子「でも、“世界で唯一ISを扱える男性”なんだから入学して早々 くっつかれたら困るのよね……」

女子「もうちょっと時間が欲しいわよね」

女子「こうなったら、私たちも『トライ・アンド・エラー』で行くしかないわ!」

女子「それを言うなら、『トライアル・アンド・エラー』だけどね」

女子「“アヤヤ”と仲良くなろー!」

女子「おおー!」


ガンッ!


鈴「あっ!? い、いったぁ……!」

一同「!」

朱華「………………」(まるでショールームに展示されているマネキンだ)

鈴「何すんの――――――あ」

千冬「もう ショートホームルームの時間だぞ」

鈴「ち、千冬さん……」

セシリア「へ?」

箒「…………『千冬さん』?」

千冬「“織斑先生”と呼べ」

千冬「さっさと戻れ。邪魔だ」スタスタ・・・

鈴「す、すいません……」

一同「………………」

朱華「………………」(精巧にできた人形のようにピクリとも動かない)

鈴「ハッ」カア

鈴「く、クラス対抗戦! 見てなさいよっ!」

鈴「ふん!」

ガララ・・・

セシリア「あ、あの……!」

千冬「何だ、オルコット? さっさと席に着け」

セシリア「だ、誰ですの? 織斑先生と親しい仲のように思えましたけど……」

千冬「関係ないことだ」

箒「私が知る限り あんな子が千冬さんの近くにいた憶えはないのだが――――――(となると、現役時代に会った子なのだろうか?)」

朱華「………………」



30  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:25:58.83 ID:M0CqjG740

――――――その夜


箒「朱華、話がある。いいか?(…………何か 変に意識してしまうな。い、異性の部屋を夜 訪ねるなんて)」コンコン

――――――
朱華「…………どうぞ」
――――――

箒「よし」ガチャ

箒「あ」


朱華「………………」ブン! ブン!


箒「素振り用の竹刀――――――(さすがに自分の部屋ではマネキンではないか)」

箒「それにしては――――――(――――――速い! 素振り用の竹刀で重々しく風を切る音すらしている!)」

箒「何をしているのだ?」

朱華「織斑先生からIS乗りとして恥ずかしくないように自主練と勉強をするように言われました」ブン! ブン!

朱華「そこに手引があります。それに従っています」

箒「ほう?」パラパラ・・・

箒「…………なるほど。月毎に課された訓練をこなさなくてはいけないのだな?」

朱華「はい。できなければ――――――」ブン! ブン!

箒「あ…………」


『アッーーーーーーー!』


箒「そ、そうか。大変だな、お前も……(あれはいったい何があったのかは気になるが、詮索しないほうがいいな…………)」アセタラー


31  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:27:36.07 ID:VDZPPCed0

朱華「………………」ブン! ブン!

箒「………………」

箒「なあ?」

朱華「何です?」ブン! ブン!

箒「もしかして、朱華って剣道全国大会に出るくらいの強者だったんじゃないのか?」

朱華「…………どうしてそう思うんです?」ブン! ブン!

箒「これも同じだ」


――――――私も去年 剣道で全国大会を優勝したからだ。


朱華「凄いですね」ブン! ブン!

箒「だから、これでも全国レベルというものは知り尽くしているつもりだ(――――――あまり思い出したくはないがな、“あの頃の私”は)」

箒「…………なあ、朱華」

朱華「………………」ブン! ブン!

箒「そこは返事をしろ。相槌を打て。不安になるだろう」

朱華「はい」

箒「よし」

箒「それで――――――、」


――――――私と一緒に剣道部に入らないか?


朱華「………………」ブン! ブン!

箒「あ、いや……、すぐに答えを出すのが難しい問いだったな」

箒「だが、この学園では生徒は必ず何らかのクラブに所属しなければならない」

箒「他に行く宛がないのなら、私と一緒にやらないか?」

箒「いや――――――、」


―――――― 一緒にやろう!


箒「な? いいだろう?」

朱華「………………」ブン! ブン!

32  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:29:06.84 ID:VDZPPCed0

箒「あ、あぁ………………(反応が遅いことはわかってはいるが、やはり即答してくれないと不安になるな……)」

朱華「………………」ピタッ

箒「あ」

朱華「………………」クルッ

箒「…………!」


――――――わかりました。一緒に剣道をやりましょう。


箒「!!」

箒「ほ、本当か! 聞き間違えではないな!?」

朱華「一緒に剣道をやりましょう」

箒「よし!」グッ


――――――わあ! 篠ノ之さん 大胆!


箒「!?」ドキッ!

朱華「………………」

女子「抜け駆けしちゃダメだよー」ニヤニヤ

箒「これは、違っ――――――」カア

箒「ええい! 覗き見などしおって! 不埒者!」バタン!

箒「いいか! お前とは何でもないのだから!」ゼエゼエ

箒「私とお前は“友達”だぞ。“友達”なのだからな!」

朱華「はい」

箒「うむ。なら、朝練とかも一緒にやろう。そうしよう。それから――――――」ウキウキ


「………………フフッ」


33  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:30:12.62 ID:M0CqjG740

――――――それから、


朱華「………………!」ブン!(剣道着)

相手「きゃっ!」バシィン!


箒:主審「――――――止め!」(剣道着)


箒「大丈夫か!?」

相手「うぅ…………」バタンキュー

剣道部員「ダメだわ。これは休ませたほうがいいわね……」

剣道部員「これで3人目か…………やるわね、“噂の男子”」

剣道部員「戦った相手全員がノックアウトって――――――」アセタラー

ザワ・・・ザワ・・・

箒「おい! 朱華!」

朱華「………………はい?」

箒「……返事をしたのは、まあ 褒めてやる」

箒「そして、最初の試合は――――――、一太刀浴びせただけで相手を失神させてしまったから口を挟むことができなかったし、」

箒「次の試合もお前の強烈な小手で相手が連続して竹刀を落とし続けたから何も言えなかった」

箒「だが、さすがに3回も試合を見続けていたらおかしいと気づくぞ!」


箒「なぜ声を出さない!? お前はこの試合だけでも20回以上は文句のつけようがなく一本をとれる完璧なものを打ち込んでいたのだぞ!?」


箒「実力の差は歴然だ――――――いや、もはやお前の実力の程は誰もが認めるところだ」

箒「だが、それでも一本とするには打突・残心――――――そして 気合がないと認められん」

箒「あれだけ見事な面打ちができているのだから『めぇえええええええんん!』と叫ばんか!」

箒「(そう。こいつの剣道を見ていると本当に“去年の私”の姿と重なってしまって――――――)」アセダラダラ

朱華「………………」


34  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:31:31.11 ID:M0CqjG740

箒「?」

箒「まさか……、それも重要人物保護プログラムの都合でやらされている演技なのか?」ヒソヒソ

箒「そんなの気にするな。声を出せ、声を!」ヒソヒソ

朱華「………………」

箒「???」

箒「何か……、考えがあってのことなのか?(最近になってわかってきたことだが、朱華はYESかNOかは絶対に答えてくれる。それなら――――――)」ヒソヒソ

朱華「はい」

箒「それは……、いったいどういうことだ?(おお。やはり答えやすい質問をすれば必ず答えが返ってくる――――――)」ヒソヒソ


――――――そうすれば、試合を長く続けられます。より多く剣を振るうことができます。


朱華「何か問題がありましたか?」

箒「はぁ!!??」


――――――篠ノ之 箒は凍りついた。

今 明らかに、剣道をやっている者とは思えないような悪魔じみた発想が出てきたのである。

つまり、結論から言えば、朱華雪村という剣士はわざと『有効打突とならないように』声を出さずにひたすら相手を叩きのめしたというのである。

発想が狂っている。普通は試合に勝つために『有効打突をとって』一本をとるのが正道であり、場外などの反則による2回による一本など邪道である。

はじめは『有効打突以外の手段で』一本をとろうとする驕った戦い方をしているのかと箒は疑ったのだが、

その割には、正々堂々と圧倒的な剣捌きで誰が見ても『彼が勝つのが当たり前』だと思わせるぐらい鮮やかな手並みであったのだ。

その実力は紛れも無く国内有数の実力者であることは疑いようがなく、そんな人物に邪剣を使うような発想や必要性はまったく感じられなかった。

だからこそ、篠ノ之 箒は『自分のほうが間違っているのではないか』と疑ってしまうぐらいに思い悩んだ。理解が出来ず苦しんでいた。


ところが、問題の当人から伝えられた真相は彼女の常識など置き去りにした人外の領域から導かれたものであった。


そして、頭が真っ白になってからしばらくして悟った。

つまり、――――――この男は『最初から勝つ気がない』のである。『有効打突をとるつもりがない』ということはつまりはそういうことである。

試合に勝つ気などまったくなく、ただ純粋に『剣道している時間を少しでも続けていたい』がために『勝つ気がない』――――――『有効打突をとらない』のだ。


――――――まさしく悪魔の発想であった。明らかに正気の沙汰ではない。


さっきの試合は見ていて相手が哀れに思えるほどにこの男の容赦無い強烈な一撃を20回も食らわされて気力だけで立っているような状態にまで追い込まれていた。

そう、一見すれば一方的なイジメでしかなく、実際に両者の間にある力量差は著しく、剣道部のエースの一人をこの無名の1年生はコテンパンにしたのである。

しかし、それは素直に賞賛されるようなものではなかった。――――――いや、ただ 声を出していないだけで極めて真っ当な戦い方をしていた。

正々堂々戦っているのだけれど邪道であり、ところが当人はまったく純粋に剣道をやろうとしているのに試合という形式がそれを邪魔して――――――、

いや、試合なのに勝とうとしないことこそがおかしい――――――否、相手の方から棄権や反則になっているから結果として試合には勝っていて――――――、

いやいや、真剣勝負の世界でならば無言の下に見事に斬り捨てているわけだから――――――いやいやいや、これは剣道であってそういうのとは――――――、

そもそも、こいつはただ剣道がしたいがために試合を無駄に長引かせようとしていて――――――『剣道を楽しむ』とはどういうことだ? 

ただ勝てばいいのだろうか? いや、そんなはずがない。それとも――――――? 真剣勝負とはいったい――――――?


グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル・・・・・・



35  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:32:41.54 ID:M0CqjG740

箒「…………あぁ」クラッ

朱華「どうしました?」

箒「いや、何でもない。何でもないんだ…………」

箒「先輩方、さすがに3試合連続だったので私も朱華も疲れましたので休ませてもらいます」

剣道部員「そ、そうね……」

剣道部員「お疲れ様。休んでいてちょうだい」

剣道部員「それじゃ、次は私が行こうか」

剣道部員「――――――私を倒せる者はおるか!」

剣道部員「ここにいるぞ!」

箒「行くぞ、朱華……」

朱華「はい」


スタスタスタ・・・





36  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:34:21.38 ID:VDZPPCed0

ジャージャー

箒「…………フゥ」(洗顔して汗を拭い、火照りを冷ます)

箒「何だろう? この気分は…………」ゴシゴシ

箒「私はとんでもないやつの相手をしているのかもしれないな…………」

箒「(そう、彼は“世界で唯一ISを扱える男性”――――――つまりは私と同じく姉さんによって運命を狂わされた者)」

箒「(私が感じたこの気持ちはたぶん――――――)」

箒「!?」ウッ

箒「オゥエェエエェェ…………(頭が、痛い…………)」


――――――あ~あ。境遇が似た者同士、今度はうまくいくかと思ったけど、やっぱりこうなっちゃうか。


箒「!?」

新聞部「ども、新聞部でーす!」パシャッ

箒「待て! 今の言葉は――――――あ」


パシャパシャパシャパシャパシャ・・・・・・


箒「…………」ポケー

新聞部「はい。これで4月分の各クラブの写真は十分に撮れましたー」

箒「ハッ」

箒「そ、そうか。私のなんかでよかったのか?」

新聞部「いえいえ。そんなことはありませんよ?」

新聞部「だってあなたは、今 世界で話題の“世界で唯一ISを扱える男性”を見事に剣道部に勧誘したんですから」

新聞部「そりゃあ、注目されますよー」

新聞部「これからどんなふうに二人の仲が進展していくのか――――――、もね」フフッ

箒「あ、ああ…………そういう関係じゃないんだがな(私には幼い頃の約束ですでに――――――)」

箒「それじゃ、行っていいか?(さすがに朱華も剣道場に戻ってるだろうしな)」

新聞部「はい。ご協力ありがとうございましたー」ニコニコ


スタスタスタ・・・


新聞部「…………彼女でも無理か。いい線いってるんだけどなー」

新聞部「でも、彼の相手をしてあげられているのが今のところ あなただけだったから、これからも頑張ってもらうために――――――、ね」

新聞部「…………ああ さすがに今回のは最悪だったな」

新聞部「証拠隠滅のためとは言え、――――――この嘔吐物の始末! それも1分で片付けるなんてさ」
                                     サンチチョクソウ
新聞部「彼女のおかげで自殺スイッチが入らなくなったと思ったら、今度は彼女をSAN値直葬させる神話生物モードを発動させるなんて……」


新聞部「『存在自体が冒涜的』とは、“世界で唯一ISを扱える男性”という今世紀最大のイレギュラーと照らし合わせてよく言ったものね」


新聞部「――――――ううん、違う」

新聞部「“世界で唯一ISを扱える男性”になってしまったから『冒涜的』になってしまった――――――」



37  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:35:22.04 ID:M0CqjG740

――――――そして、数日が経って


セシリア「――――――評判、お聞きましたわよ」

朱華「…………何のこと? それに評判というものは僕が作るものじゃない。僕は僕のことしか知らない」

セシリア「…………まあ その通りですわね(最初の頃に比べるとちゃんと受け答えをしてくださるようになりましたわね)」フフッ

セシリア「コホン」

セシリア「先日、箒さんに連れられて剣道部で大暴れしたそうですね」

セシリア「『剣道部の主力である3人を一本も取られることなく圧勝した』とか」

朱華「そうですね。僕としては久々の剣道を楽しみたかっただけで勝つ気なんてなかったのですが、なぜか勝ってしまいました」

セシリア「へ? 今 何と――――――?」

朱華「………………」

セシリア「……まあ 用件を言いますわ」

セシリア「そんなあなたの腕を見込んで、お願いがあるのですが」

朱華「…………何?」






38  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:36:13.28 ID:VDZPPCed0

――――――アリーナ


セシリア「どうですか? 久々に乗ったISの感覚は?」

朱華「よくわからない」ガコンガコン

セシリア「……まあ そうですわね。搭乗時間なんて1時間も無かったでしょうから(本当にISを動かしてますわね…………この目で確かめるまでは半信半疑でしたわ)」

朱華「…………『打鉄』。世界シェア第2位の国産機」


千冬「気分はどうだ、“アヤカ”?」


セシリア「織斑先生! 使用許可をこんなにも早くしてくださってありがとうございます」

千冬「気にするな。私も公私共々 早めに“アヤカ”を乗せておきたかったからな」

千冬「“アヤカ”。お前には優先的に機体を回してもらえるように許可が降りた。遠慮なく乗り回してくれ」

朱華「………………」

千冬「…………なるほど。確か お前は剣道部に入部したのだな」

千冬「だから、剣道部の稽古とこれからのISの訓練の板挟みになって答えられない――――――そういうわけか」

朱華「はい」

千冬「まるでコンピュータレベルの判断処理能力だな」

朱華「………………」

セシリア「それって…………(それはつまり、“コンピュータ”と同じということ――――――?)」

千冬「オルコット」

セシリア「はい」

千冬「こいつを訓練に付き合わせるのは具体的にはいつまでのつもりなんだ?」

セシリア「え? あ、今日と明日あれば十分かと思います」

セシリア「近距離戦闘での防御を確かめておきたいと思いまして」

千冬「なるほど。それなら乗りたてのこいつでも十分に相手が務まるだろうな」

朱華「………………」

千冬「では、まず私が基本的なISの動作を説明する。オルコットは補助に回れ。ひと通りできるようになったら好きにしろ」

セシリア「わかりました、織斑先生」



39  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:37:06.86 ID:M0CqjG740

――――――1時間後


千冬「まあ 地上で近距離戦闘をする上で必要なことはこれで十分だろう」

千冬「“アヤカ”。オルコットはお前との掛り稽古をご所望のようだから、相手の要望に合わせて剣を振るえ。いいな?」

朱華「わかりました」ジャキ

セシリア「では、まずはそこからこちらまで上昇せずに斬りつけてみてくださいな」

セシリア「(さて、いくら剣道――――――つまり近距離戦闘に長けているとはいえ、ISにおいては所詮は初心者ですわ!)」

セシリア「(クラス対抗戦で戦うことになる中国と日本の代表候補生の練習代わりとはいきませんが、まあ これで何とかいたしましょう)」

千冬「“アヤカ”、理解したな?」

朱華「はい」

千冬「では、好きなタイミングでいけ――――――」パン!


朱華「………………うっ!」ヒュウウウウン!


セシリア「いきなり――――――!?(なかなかに素晴らしいアイデアと反応速度ですけれど――――――!)」

セシリア「ふん!」ヒュン!

朱華「………………」ブン! ブン! ブン! ブン!
                               ・・・・・・・・・・・・・・・・・
セシリア「甘いですわ!(そう! なかなかにいい攻撃ですわね! シールドバリアーを掠めるギリギリを――――――へ!?)」

朱華「………………」ブン! ブン! ブン! ブン!

セシリア「え?(この人――――――!? まさかシールドバリアーの範囲を正確に――――――!? いえ、そんなことが――――――!)」ヒュンヒュン!

セシリア「くっ!(けど、そう考えますと一度もペースを崩さずにこうも連続攻撃し続けられているのは――――――!)」ヒュンヒュン!

セシリア「あっ!?」ゴン!


――――――壁っ!?


セシリア「し、しまった……(まさか ここまで下がっていただなんて――――――そんなつもりは全くなかったのに!?)」ゾクッ

セシリア「ハッ」

朱華「………………」ブン! ブン! ブン! ブン!

セシリア「なっ!?」


千冬「…………本当にコンピュータと同レベルの判断処理能力だな」


朱華「………………」ブン! ブン! ブン! ブン!

セシリア「ど、どうして、どうして――――――!」ポロポロ・・・


――――――どうしてわざと攻撃を外してますの!?



40  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:38:41.52 ID:VDZPPCed0

セシリアは戦慄した。

最初のうちは、朱華雪村の剣の腕は確かな冴えを見込んで訓練相手に選んだのだが、

所詮はISを装着した状態では初心者でしかなく、熟練した機体の運び方や機体性能の差で容易に攻撃が避けられていると思っていた。

しかし、時折 本当に当たるのではないかと思う会心の一撃や感心するぐらい絶え間ない連続攻撃によって自然と後退する足は速められ、

気づけば 背負うつもりのなかったアリーナの壁にまで後退――――――否、追い詰められていたことをセシリアは今更ながら認識した。

さすがに壁際であれだけの鋭さと速さで繰り出される重たい攻撃の数々を回避し切るのは代表候補生であるセシリアですらも無理と結論付け、

剣道部のエースたちを試合続行不能に追い込んきたという痛烈な一撃を覚悟していたのだが、振り下ろされた太刀は一切当たることがなかった!


――――――どういうことか?


簡単なことである。実に単純明快である。


――――――朱華のほうから攻撃を外していたからである。それも全部。


壁際に追い込まれて身動きができなくなって身を縮めてしまったセシリアに攻撃が当たらないように、尋常ではない鋭さと速さで以って虚空を薙いでいたのだ。

しかも、セシリアの側からでしか認識できないはずのシールドバリアーの境界スレスレを芸術的なまでに掠めているのだから、わざとやっていることは明らかであった。

しかし、それを認めた場合はもっと重大な問題に直面することになったのである。


――――――どういうわけか、朱華雪村にはこちら側のシールドバリアーが見えているだけじゃなく、完璧にこちらの動きを読んでいたことになるのだ。


あれだけの質と量を持つ攻撃を全て外しているということは、裏返せば そうするだけの技量があるということに他ならないのだ。

実際に 戦場においては、敵兵を殺すよりも生かして無力化するほうが遥かに難しいものである。

なぜなら、敵兵を生かしておいたら必ず敵にとってのチャンスがめぐり、それすなわち逆襲を受けてしまうからだ。

セシリアとしても『相手が初心者だから』と油断していたところは多分にあった。

心の何処かで朱華に対してISドライバーとしての力量差を誇示して鼻を明かそうと思っていたところがあった。

ところが、セシリアが想像していた以上に朱華の技量が高かったことに逆に心底驚かされてしまうのであった。

これほどの力量を持っているのだとすれば、おそらく格闘戦だけ見れば代表候補生に匹敵するものを持っているのは確実である。

しかし、それ以上にセシリアを怯えさせたのは――――――、


――――――黙っていればその強さを悟られることもなかったのに、いつまでも当てるつもりのない攻撃を延々と繰り返す様であった。


41  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:39:34.56 ID:M0CqjG740

何が何だか分からない――――――それがイギリス代表候補生:セシリア・オルコットが抱いた恐怖であった。

掛り稽古だったとはいえ、初心者でありながら代表候補生を追い詰めるだけの力量を持っているのに、その力の使い方がまるで理解できなかった。

普通の人間ならば、見せびらかして誰かに自慢するために力を振るうか、本当に大事な局面までとっておくものである。

それなのに、今 セシリアの目の前で玩具の人形のように延々と当たらない攻撃を繰り返す彼の姿にはそういった人間らしい感情というものがまるで感じられない。

ただ 黙々延々と、疲れも知らない機械のように剣を正確に振り回し続けているだけであった。――――――しかも汗水垂らさず 無表情で。


――――――不気味すぎて怖い!


この時のセシリアはすでにまともな思考はしておらず、本気を出されていたらメッタ斬りにされていたかもしれないという現実的な恐怖はすでに消え去っていた。

もっと言えば、壁際に追い詰められて回避不能となってすぐにでもメッタ斬りにされるかもしれない――――――、

目の前で物凄い勢いで延々と見せつけられている・繰り出されている太刀の嵐ですらもとうの昔に眼中になかった。見えなくなっていた。

あるのは、他者には不可視のシールドバリアーを掠めるように正確に、素早く、何度も剣を繰り出すだけの人の姿をした精密機械への恐怖――――――!

人間だと思っていた存在が 実は人間の姿を精密機械だったことに気づいて(?)、サイバーパンクなホラー気分を味わっていたのである。


42  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:40:22.25 ID:M0CqjG740


千冬「――――――止め! 掛り稽古はそこまでだ」パンパン!


朱華「………………!」ピタッ

朱華「………………フゥ」

セシリア「あ…………」ポロポロ・・・

朱華「さすがに疲れました……」ハア・・・


朱華「それで、どうしてセシリアさんは泣いているのでしょうか?」


セシリア「あ、え…………?」

千冬「…………代表候補生といえども所詮は小娘ということか」


新聞部「はいはーい! し、新聞部でぇーす……!」ゼエゼエ


セシリア「へ?」

朱華「また会ったような――――――」

千冬「…………ご苦労なことだな」


パシャパシャパシャパシャパシャ・・・・・・



43  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:41:28.74 ID:VDZPPCed0

――――――クラス対抗戦、当日


セシリア「“アヤカ”さんのおかげで近距離戦闘での対応がだいぶ上達しましたわ」

セシリア「感謝いたしますわ」ニコッ

朱華「どういたしまして」ニコー

セシリア「来月の学年別個人トーナメントで活躍できることを期待しておりますわ(最初と比べてだいぶ良くなってまいりましたわね)」

セシリア「それでは、観客席から私の勇姿をご覧になっていてください」

朱華「わかった」


タッタッタッタッタ・・・


朱華「………………」

箒「そこにいたのか、朱華」

朱華「………………」チラッ

箒「そうか。試合前にセシリアの様子を見に行っていたのか」

箒「何だかんだ言って、朱華も少しずつクラスのみんなと仲良くやっていけるようになったな」

箒「うん。よしよし」ニコニコ


朱華「ありがとう」


箒「…………へ?」

朱華「ありがとう」

箒「あ、ああ。――――――えと、何に対して『ありがとう』なのだ?」

朱華「あなたが“僕の友達”になってくれたこと。剣道部に誘ってくれたこと。礼儀を教えてくれたこと」

箒「ああ……、そういうことか」テレテレ

箒「どういたしまして」ニッコリ


44  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:42:41.31 ID:VDZPPCed0

箒「さあ! みんながお前のために席を開けてくれているはずだ。早く行こう」

朱華「はい」


「あの……、すみません」


箒「え」

朱華「………………」

「ここに来るのは初めてで――――――」

箒「…………来賓の方ですか?(あれ? 何かどこか会ったような…………それも物凄く懐かしい感じがする?)」

「ま、まあ そんなとこ。SPってやつだよ」

箒「それなら……、えと――――――」
                   ・・・
「ああ……、違うんだ。第1管制室にいる千冬姉に会いに行かないと――――――」

箒「え? ――――――『千冬姉』?」

「あ!? いや、違うんだ。織斑先生と面会しないといけなくて――――――」アセアセ

箒「え? え?」

朱華「………………」

箒「あれ? もしかして、あなたは――――――」

「…………!」


――――――そこにいたの、ハジメ。


「あ」

「もう! 勝手に離れないでよ。地図も持ってないのにあっちこっちぶらつかれたら探すのに一苦労なんだから」’

「ああ ごめんごめん……」

箒「あ、あの…………」

「ハジメの馬鹿がお騒がせしました。どうぞ、我々のことはお気になさらず。――――――では」’
          ・・・・
「そ、それじゃあな、箒ちゃん――――――あいたっ!? 何するんだよ!」

「もう何も喋らないで!」’

箒「え!? やっぱり、あなたは――――――!」

箒「待って! 待ってくれ――――――!」

朱華「………………」


45  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:43:34.00 ID:M0CqjG740


鷹月「篠ノ之さん! “アヤカ”くん!」


箒「!」

本音「“アヤヤ”~!」

谷本「何してるの! 早く早く~! 試合 始まっちゃうわよ!」

相川「さあさあ!」

箒「あ、私は――――――」オロオロ


朱華「また会える」


箒「え」

朱華「また会えるさ」

箒「………………」

箒「そうだな。そう信じよう」フッ

箒「けど、意外だな。お前にそういってもらえるなんて」

朱華「………………」スタスタ

箒「ま、そういうところはまだまだ直ってないけどな」フフッ



参考:原作におけるIS〈インフィニット・ストラトス〉1年1組の面々と席順
http://livedoor.blogimg.jp/animega_hz/imgs/b/e/be1e2e42.jpg


46  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:44:31.37 ID:M0CqjG740




「『馬鹿』って何だよ、『馬鹿』って」

「考えなしに行動して何度も失敗しているくせに一向に反省しようとしないから『馬鹿』って言うんだよ!」’

「過ちて改めざる、是を過ちと謂う」’

「危うく正体が見破れそうになっていたじゃないか!」’

「あぁ……、それはその…………」

「本当にきみは僕がいないとダメなんだから……」’ハア

「そういえば、大学時代もそんな感じだったな」ニコッ

「反省してください」’

「あ、ああ! 今度はこんなことにはならないようにするから、な?」

「(そう言わせて、何回 裏切られたことか…………)」’

「(でも、そういった細かいことを気にしない彼の寛容さや包容力が魅力でもあるんだけどね)」’

「おーい! 見つかったかー? どこ行ってたんだよ! もうすぐ試合が始まるぞー!」”

「ああ 悪ぃ悪ぃ! トイレ 行ってすぐ戻ろうとしたら、なぜか外に出ちゃってさ――――――」

「何だそりゃ? お前の姉さん、カンカンだぞ!」”

「うげっ! こりゃやべぇ! 急ぐぞ!」アセアセ

「道草食っていたのは誰やら」’ヤレヤレ


47  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:45:50.13 ID:M0CqjG740

――――――観客席


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー

朱華「………………」(ただの置物)

箒「さて、クラス対抗戦――――――早速だが、出会って早々 火花を散らしていたイギリスと中国の代表候補生同士の戦いとなったな」

鷹月「そうね。どっちが勝つのかしら?」

相川「けど、4組の専用機持ちってのが何なのか気になるよね」

本音「ああ……、残念だけどカンちゃんの機体は――――――」

谷本「ねえねえ、“アヤカ”くん。オルコットさんの練習相手になってあげてたんでしょう? どんな感じだった?」

朱華「ずっと僕が攻撃してセシリアさんが受けに回るだけだった」

谷本「ふむふむ。なるほど。中国の第3世代機が格闘機だから“アヤカ”くんで練習したというわけね」

箒「…………だが、朱華の剣の腕はおそらく日本有数だ。もしかしたら代表候補生よりも斬り合いになったら強いかもしれない」

相川「ええ!? そうなの?!」

朱華「わからない。代表候補生の程度が僕にはわからない」

本音「“アヤヤ”は正直者ー」

鷹月「そうだよね。私たちも実感としてどれくらいの差があるのかわからないし」

鷹月「でも、訊かれたことには本当に正直に話してくれるよね。そういうところに好感が持てるかな」

谷本「ところで、――――――“アヤカ”くんのことをどうして“アヤヤ”と呼ぶの?」

本音「えー? “アヤヤ”のほうが言いやすいよー」

谷本「まあ 確かに」

朱華「“アヤカ”を崩して書くと“カ”が“ヤ”に見えないこともないから“アヤヤ”になったのでは?」

谷本「ああ なるほどね――――――って!」

周囲「キャー! シャベッター!」

朱華「………………」

箒「いやいや! 朱華はちゃんと受け答えするようになっただろう! いいかげんにしろ!」

鷹月「そういう篠ノ之さんも、初めて見た時の硬い印象がすっかりなくなっているよね?」

箒「え? あ、いや……、最初の頃は少しばかり緊張していただけだ」モジモジ

箒「(そう、何だかんだでこの少年“朱華雪村”もそうだが、私自身も特にわだかまりもなくこうしてみんなと仲良くやれている)」

箒「(IS学園に入れられた時は嫌で嫌でしかたがなかったが、入ってみれば何とかなるものだった)」

箒「(それに、今回の入学は幸か不幸か、運命の皮肉か、私自身が“篠ノ之 箒”――――――本名でいられることもあって気がずっと楽だった)」


――――――それでは、両者 規定位置に着いてください。


谷本「あ、オルコットさんの蒼い機体『ブルー・ティアーズ』が出てきたよ」

鷹月「同じように、2組のも出てきた」

箒「あれが、中国最新鋭機――――――」

朱華「………………」


48  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:46:55.25 ID:VDZPPCed0

――――――第1ピット:管制室


千冬「さて、今年は専用機持ちが3人も入ったわけだが――――――」

山田「そうですね。現在、第3世代への過渡期に入っていますから、運用データを採るために積極的に送り込んでいるのでしょう」

千冬「乗っているのは代表候補生の中でも指折りの天才児ばかりだ」

千冬「だが、基本的に実戦経験が不足しているスタンドプレーにしか使えないようなひよっこ共でしかない」

千冬「まあ 次世代機の制式採用を巡って少しでも機体の良さを魅せつけるためにそういった我の強い小娘を専用機持ちに選出している面もあるがな」

山田「まずは――――――というより、唯一の専用機持ち同士の戦いですが、どちらが勝つと思いますか?」

千冬「さあな」

千冬「だが、ISバトルにおいては機動力が何よりも重要だ」

千冬「なにしろ ISの機動力に対してアリーナは狭いから、場合によっては機動力のある格闘機の独壇場となる可能性が大きいのだからな」

山田「それって、現役時代の織斑先生のことですね」

千冬「余程のことでもない限りは射撃機が不利であることは間違いない。経済的な面から考えても射撃機は敬遠されがちだしな」

千冬「更に、第3世代型ISというものは基本的には『単一仕様能力以外のISの特殊能力を一般化した第3世代兵器』を搭載した機体を言う」

千冬「つまり、ISにしかできない摩訶不思議兵器を実現するために多大なエネルギーを消耗する――――――燃費は第2世代機を下回るという難点があった」

千冬「それ故に、第3世代型ISは2つの系統が存在することになる」

千冬「1つは、『ブルー・ティアーズ』のような第3世代型ISの定義通りの特殊武装を主力にした燃費の悪いタイプ――――――」

千冬「そしてもう1つは、中国の第3世代型IS『甲龍』のような革新性よりも燃費と安定性を重視したタイプだ」

山田「はい」

千冬「そして、『ブルー・ティアーズ』はISバトルにおいては不利とされる射撃特化機――――――」

千冬「『甲龍』は格闘寄り万能機といったところだ」

千冬「ならば、私がいったことを総合すれば おのずと優劣ははっきりすることだろう」


49  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:47:35.87 ID:M0CqjG740

――――――アリーナのどこか


「え? お前……、本当にこれ、着るの?」”

「し、しかたないだろう! こ、これも任務の一環なんだし!」

「何もなければ見せつけることにはなりませんよ」’

「そうそう。黙って待っているだけで報酬が上乗せなんだぜ? できるなら何も起きないでいて欲しいな」

「だろうな。いくら任務とはいえ、男のお前がこんなのを着て 有事に対応しないといけないんだからよ」”

「しっかし、本当に女の子しかいない夢のような場所だよな、ここ!」”

「女子校ならばありふれている状況だと思いますよ」’

「だとしてもだ! やっぱりそんな場所にいると思うと、こう ビ ビ に感じるものが……!」”

「あれ? お前の妹ってミッション系のお嬢様学校じゃん。そんなのしょっちゅう感じてるんじゃないのか?」

「あほか! そんなしょっちゅう我が愛しの妹の学び舎に通えたら、こんなこと 言わねえっての!」”


――――――試合開始!


「!」

「試合が始まったようですね」’

「へえ、イギリスの『ブルー・ティアーズ』と中国の『甲龍』――――――って、おい!」”

「あ! あれって――――――!」

「確か去年 祖国に帰っていった本場中華料理屋の娘さん――――――」’

「――――――“鈴”じゃねえか!」”

「あいつ、代表候補生だったのか?」

「今 調べましたところ、わずか1年で代表候補生にまで上り詰めた逸材だったようです」’

「マジかよ。あの鈴がねぇ…………」”

「あいつが、代表候補生…………」



50  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:48:21.97 ID:M0CqjG740

――――――アリーナ:試合場


鈴「どうしたの? 息が上がってるんじゃない?」

セシリア「くっ」


――――――戦いはセシリアの劣勢となっていた。

互いに攻撃がうまく通らない消耗戦となってくると、燃費の悪いセシリアの『ブルー・ティアーズ』に対して燃費の良い凰 鈴音の『甲龍』とで差が出てきたのだ。

更に、『ブルー・ティアーズ』の同名の第3世代兵器『ブルー・ティアーズ』と『甲龍』の衝撃砲『龍咆』では手数や取り回しにも差があり、

様々な面で――――――戦略的にセシリアの『ブルー・ティアーズ』は最初から不利であり、それが目に見える形となって現れたのだ。

そもそも、ストッピングパワーと制圧力を両立していない射撃機など、ISバトルにおいてははっきりいって弱い機体であり、

かつて暗号名「水槽」やパンジャンドラムなどのキテレツ――――――独創的な兵器を開発してきた伝統あるイギリスらしい、

独自分野を切り開くつもりで送り込んだ機体がISバトルにおいては根本的にダメ要素を詰め込んだような機体に仕上がっていたのである。

単機でのバトルが主流のIS学園に送り出しているのに、――――――狙撃機(=支援機)とはこれいかに? 

アリーナも空間的には広いが平面的には1キロにも満たないのだ。これでどうやって相手から気付かれない遠方から安全に狙撃するというのだろう?

弾速が速いとはいえ、一撃死があり得ないISバトルにおいては、致命傷を与えられない精密射撃特化は有意義ではない。

おそらく、鈍重な『打鉄』レベルの機動力の低い機体か接近戦しかできない機体を仮想敵としていたのかもしれない。

だとしたら、第3世代へと移り変わって他の専用機の高性能化が進んで必然的に機動力も底上げされていくことを見越していなかったのだろうか?

やはり、どこか抜けているイギリス製の機体であった。


一方で、中国最新鋭機の『甲龍』はある意味においては中国らしい中途半端――――――革新的でもなく前衛的でもない落ち着いた性能となっていた。

それでも、基本性能は日本の傑作機である『打鉄』を軽く凌駕する性能を持っており、ISバトルの基礎をおさえたような扱いやすい機体となっていた。

ISバトルで相対的に有利な格闘戦に強く、中距離まで連射も貫通弾も自在で低燃費で撃つことができる『龍咆』で安定感は抜群である。

革新的な装備を開発できなかったことの裏返しだとしても、ISバトルで主流の接近戦に強く 持久力や継戦能力に優れる機体であり、

ISバトルという競技においては無難にまとまった強い機体といえた。――――――第3世代兵器の評価は別として。



セシリア「………………」ゼエゼエ

鈴「何よ、もう壁際じゃない! 逃げ回るのだけが得意のようね!」

鈴「でも、これで終わりよおおおおおお!」ヒュウウウウウウウウン!

セシリア「ですが――――――!」

鈴「?!」

セシリア「掛かりましたわね!(――――――そう! 『壁際』ですわ! 高度も十分!)」


機体性能だけで評価すれば確かに『ブルー・ティアーズ』は弱いし、『甲龍』は強い。それだけで一般的な優劣は決まる。

しかし、ISは自律稼働しているロボットではなく、人間が装備して効果を発揮する空戦用パワードスーツであり、

それはつまり、機体の有利不利を活かすも殺すもドライバー次第であり、実際には一筋縄ではいかないのが現実ということであった。


51  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:50:15.26 ID:VDZPPCed0

――――――
相川「マズイよ、マズイよ……」

谷本「がんばれ、セシリア!」グッ

箒「あの『甲龍』から放たれる何やら見えないもので『ブルー・ティアーズ』が壁際まで追い込まれたな……」

本音「衝撃砲かなー?」

谷本「“アヤカ”くん! ボーッとしてない応援しよう! このままだと――――――」


朱華「大丈夫。次には背後をとる」


鷹月「え」

箒「もしや、朱華がセシリアに秘策か何かを――――――?」

鷹月「あ、あれ!」

周囲「!」

朱華「………………」
――――――



セシリア「行きなさい、『ブルー・ティアーズ』!(――――――これが“アヤカ”さんとの訓練でひらめいた奇策!)」

鈴「でえええええええええええい!(――――――この土壇場でお得意の第3世代兵器の『ビット』?)」ヒュウウウウウウウウン!

鈴「(ああ びっくりした…………ただのハッタリじゃない!)」

鈴「(すでに4基の『ビット』に囲まれてるけど、撃たれる前に仕留めればそれまで! この至近距離なら尚更!)」

鈴「(静止状態でそれを使うだなんて自らの足を封じたも同然! このまま押し切る――――――!)」

セシリア「…………!(『ブルー・ティアーズ』は敵機を包囲した! そして、まだ敵の刃は届いてない!)」

セシリア「勝ちましたわ!(――――――そう信じて、『スターライトmk?V』およびPIC、カット!)」フラァ

鈴「でえええええええ――――――っ!?(何? あのドデカイ ライフルを解除した? どういうつもり――――――)」ブン!

セシリア「………………!」パッ

鈴「なっ!?」

スカッ

セシリア「今です!(――――――『ブルー・ティアーズ』! 敵を撃て!)」パチン!

鈴「きゃあああああああああ!?」ボゴンボゴーン!

セシリア「そして――――――!(――――――『スターライト』!)」ジャキ

ガコン!

鈴「うわぁ!?」ドスーン!

セシリア「チェックメイトですわ」ニヤリ

52  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:51:13.34 ID:M0CqjG740

――――――
観衆「おおおおおおおおお!」

本音「スゴイスゴイ!」

朱華「………………」

相川「え? 何々?! 今のどうやったの?!」

谷本「2組の攻撃を間一髪で高度を下げて躱した! そして、下から回りこんで背後をとったんだ!」

鷹月「どうして第3世代兵器を使用している『ブルー・ティアーズ』が行動できたのかしら?」

箒「そうだな……。第3世代兵器はイメージ・インタフェースを使用している都合上、PICと脳波コントロールが被って動けなくなるものだと聞くが」


朱華「けど、使えないものを使わないようにはできる」


本音「ふぇ?」

谷本「ああ! そっか!」

谷本「ISはPICで空を飛んでいる――――――けど、イメージ・インタフェースを使っている最中は使えなくなる」

谷本「それでも、PICそのものは生きてるから空中で静止し続けることができてるんだ」

箒「!」

箒「そうか! PICそのものを切れば自由落下する! そうすればイメージ・インタフェースを使いながらも機体位置を下方向にはずらすことはできるんだ」

鷹月「けど、結構な賭けだったよね。あともう少し遅かったら当たっていたもんね」

谷本「そこは、『さすが代表候補生』ってことで」

谷本「攻撃を躱した一瞬であらかじめ展開していた『ビット』で攻撃した一瞬で、PICを回復して更にはあのおっきなライフルで――――――」

相川「逆に中国の代表候補生を壁に追い込んだんだ!」

本音「おー、“アヤヤ”の言うとおりー!」

周囲「!」

朱華「………………」(目を開けながら眠りこけているかのように身動ぎ1つしていない)

周囲「(凄いんだ、彼って……)」

箒「…………さすがだな、朱華雪村」ジー

谷本「さて、これで相手は背中にライフルを押し付けられて身動きが取れないし、初戦は1組が勝利ってわけね!」

相川「これは優勝 間違いなしね!」

周囲「ワーイ!」

鷹月「…………?」

鷹月「ちょっと待って、みんな!」

周囲「?」

箒「あ!」
――――――

53  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:52:35.25 ID:VDZPPCed0

セシリア「さあ、これでフィナーレですわ!」バヒュンバヒュン!

鈴「…………っ!」

鈴「なめんじゃないわよ!」

セシリア「!?」

セシリア「きゃああああああああ!(真後ろを攻撃してきた!? そんなまさか――――――?!)」ボゴンボゴーン!

セシリア「くっ!」ゼエゼエ

鈴「や、やるじゃない、あんた……!」ゼエゼエ


――――――
相川「え?!」

谷本「真後ろをとっていたのにセシリアが怯んだ?!」

箒「だが、セシリアの『ブルー・ティアーズ』のような誘導兵器はなかったではないか!」

本音「そっかー、『あれ』があの位置だと真後ろにも攻撃できるんだー」

相川「あー! これで勝ったと思ったのにぃ!」

鷹月「?」チラッ


朱華「………………」スッ


周囲「!?」

本音「立ったー、“アヤヤ”が立ったー!」

相川「び、びっくりしたー」

鷹月「ど、どうしたの、“アヤカ”くん?!」

箒「いや、だから! なんでそんなに朱華の動きにオーバーに反応するのだ、お前らは――――――」

朱華「………………」(アリーナ上空をジッと見つめている)

箒「――――――何が見えるのだ、朱華?」


朱華「光、大きくなって――――――」


箒「へ?」

周囲「???」

鷹月「あ! 試合の方も決着が――――――」
――――――


――――――バリィーーン! ピカーン! ドッゴーン!


鈴「何……?」ゼエゼエ

セシリア「何!? 何が起きましたの!?」ゼエゼエ


54  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:54:03.98 ID:M0CqjG740

――――――
山田「システム破損! 何かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです!」

千冬「――――――試合中止! オルコット! 凰! ただちに退避しろ!」

千冬「…………後のことはまかせた」
――――――
周囲「何? 攻撃が逸れたの?」

周囲「地震?」

ザワ・・・ザワ・・・

相川「い、今のって…………」

本音「おっきな光の柱が『バリーン! ピカーン! ドッゴーン!』って降ったー!」

箒「だいたいその認識であってはいるが……、これはいったい?」アセタラー

朱華「………………」


アナウンス「非常事態発生! リーグマッチの全試合は中止!」

アナウンス「状況はレベルDと認定! 鎮圧のため、教師部隊を送り込みます」

アナウンス「来賓、生徒はすぐに避難してください!」


箒「な、なにぃいい?!」

鷹月「シャッターが!」

周囲「キャーーーーー!」

55  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:55:08.12 ID:VDZPPCed0

相川「何だかよくわからないけど、私たちも避難しよう!」

谷本「そうだよ! 早く行こう、“アヤカ”くん!」

朱華「………………」

箒「おい、朱華! アリーナ天井の遮断シールドが破られたのだぞ! となれば、この観客席も危ないぞ!」

朱華「先に行ってください。どうせすぐに脱出できるわけないんだから」

箒「え」

谷本「どういうこと、“アヤカ”くん?」

朱華「声が小さくならない」

鷹月「?」

箒「…………?」


ドタバタ、ワーワー、キャーキャー!

ドタバタ、ワーワー、キャーキャー!

ドタバタ、ワーワー、キャーキャー!


箒「確かに そんなような気はするが……」

朱華「いつまでも声が小さくならない――――――」

鷹月「!」

鷹月「――――――ということは、『アリーナから出られなくて立ち往生してる』ってこと!?」

相川「それって、『出口が塞がってる』ってこと?」

谷本「これって……、ヤバくない?」

箒「だ、だからといって、ここにいても攻撃に巻き込まれる可能性は高いだろう! 少しでもこの場から離れるべきだ!」

本音「そうだよー、“アヤヤ”」

朱華「わかった」

箒「よし!」

鷹月「とはいっても、どこへどう逃げたら――――――」ウーム

バタバタ・・・・・・


56  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:56:46.16 ID:VDZPPCed0




















どれくらいの時間が経ったのだろうか――――――、





――――――スパーン!





朱華「………………!」ピクッ

箒「?」

箒「どうした、朱華?」

朱華「………………」ダッ!

箒「な、何をしている!? 自分から災いの近くに行くやつがあるか!」

朱華「………………!」

本音「“アヤヤ”、耳を宛てて隔壁の向こうの様子を聞き出そうとしてるのかなー?」

相川「でも 隔壁って、あれだけ分厚いんだよ? 耳を当てて中の様子なんて聞こえるもんかな?」

57  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:57:46.02 ID:M0CqjG740

箒「いいかげんにしろ、朱華! いいから来るんだ!」グイッ

朱華「終わった」

箒「は? 今度は何だ?」

朱華「全て解決したみたい」

箒「へ?」


ドタバタ、ワーワー、キャーキャー!

ドタバタ・・・、ワーワー・・・、キャーキャー・・・!

ドタバタ・・・・・・、ワーワー・・・・・・、キャーキャー・・・・・・!


本音「あー、声が遠のいてくー!」

鷹月「ということは、『脱出できるようになった』ってこと……だよね?」

相川「なぜだかわかんないけど早く出ようよ、みんな!」

谷本「そうよ! 篠ノ之さんも“アヤカ”くんも急いで!」

箒「あ、ああ!」

朱華「………………」

箒「…………わかっていたのか、このことが?」

朱華「感じただけ」

箒「え? 『何が』だ?」


朱華「何かを斬ったような感覚が胸に響いた」


箒「???」

箒「何だかわからないが、『お前の勘がそう告げた』ということか? ともかく出るぞ!」

朱華「ああ」

朱華「………………」
――――――

58  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:58:41.76 ID:M0CqjG740


セシリア「あ、あなたはいったい……?」

鈴「見覚えがある姿だけど…………」


千冬?「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

千冬?「厄介事はこれっきりにして欲しいものだ」(左手を忙しなく震わせている)

千冬?「後のことは鎮圧部隊に任せる」


セシリア「その声! もしや――――――」

姿「ち、千冬さん!?(あれ? 何かそれにしては――――――)」


千冬?「ではな。今日の試合は全学年中止だ。鎮圧部隊と合流次第、お前たちも休んでいいぞ」


ヒュウウウウウウウウン!


セシリア「お、織斑先生にあのような専用機が与えられていただなんて、初耳でしたわ」

鈴「わ、私も……(でも、どこか違和感を憶えたのよね…………『どこが』とは言えないんだけど)」





59  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 09:59:26.32 ID:VDZPPCed0

――――――それから、


箒「結局、あの事件は『実験中だった機体の暴走事故』という無理矢理な形で処理されていた」

箒「私たち一般生徒は、事件発生直後に隔壁によって現場の様子は一切知ることが出来ず、」

箒「現場に居合わせたセシリアと凰 鈴音も決して詳しい内容を語ろうとはしなかった」

箒「しかし、全学年で同時並行して行われていたクラス対抗戦において、これとは別にとある事件が起きていたことはあまり知られていない」

朱華「………………」

――――――――――――

―――――――――

――――――

―――



60  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:00:07.00 ID:VDZPPCed0

クラス代表「さてさて――――――」(物理装着)

クラス代表「…………?」

クラス代表「何、この感覚…………」ドクンドクン

クラス代表「う、う――――――」

整備科生徒「どうしたの?」


クラス代表「うわぁあああああああ!」


周囲「!?」

整備科生徒「た、大変! 医療班、すぐに来て!」

整備科生徒「大丈夫? 物理解除できる?」

クラス代表「う、うぅう…………」ヨロヨロ・・・

クラス代表「ハッ」ビクッ


クラス代表「う、うわあああああああああああああああああああああああ!」


整備科生徒「?!」

整備科生徒「きゃあああああああああああああああああああ!」

教員「!」

教員「いかん、精鋭部隊! 取り押さえろ!」

精鋭部隊「いったい何が……!?」

精鋭部隊「ええい! 落ち着け!」

クラス代表「うわあああああああああああああああああああああああ!」


―――

――――――

―――――――――

――――――――――――


61  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:00:45.97 ID:M0CqjG740

箒「この話は剣道部の先輩から聞かされた話で、――――――いつも通りに訓練機に乗った瞬間に気分の不調を訴え、唐突に暴れ出したという」

箒「そして、そのクラス代表は取り押さえられた後に特別病棟に運ばれていったが、そのまま意識不明となったそうな」

箒「原因不明で、宛てがわれた『打鉄』に何らかの重大な不備があったとして徹底的に調べられたそうだが、特に異常らしい異常はなかったという」

箒「ただ、話の中で気になっていた点があったのだが、それは――――――」


――――――その『打鉄』は朱華雪村に優先的に貸出されていた機体だったということ。


箒「それぐらいしか、特にめぼしいことは何もなかった」

箒「もちろん、クラス対抗戦前の数日には貸出が禁止されて整備科生徒の手によって点検もしっかりなされていたのだ」

箒「それ故に他に思い当たる節もなく原因不明というわけなのだが、」
          ・・・・
箒「私はどうしてか、そのことが物凄く心に引っ掛かっていて――――――」

朱華「………………」

箒「真相はどうなのかはわからないが、なぜかその薄ら寒さが朱華のイメージと重なってしまうのだ」

箒「いったいどうしてなのかはわからないが、――――――そう思っているのはやはりいい気分ではないので、」

箒「私と朱華はこうやって部活帰りの夕焼け空をただ眺めているだけなのだ」

朱華「………………」


62  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:01:32.75 ID:M0CqjG740

――――――地下秘密区画


山田「やはり、無人機ですね」カタカタカタ・・・

山田「登録されていないコアでした」

千冬「そうか……」

山田「ISのコアは世界に467しかありません」

山田「でも、このISにはそのどれでもないコアが使用されていました」

山田「いったい…………」

千冬「…………」

山田「それに、無人機の襲撃の影に隠れてしまいましたが、」

山田「訓練機に乗って突然の暴走――――――」

山田「こちらの方で調べてもやはり何も異常は見受けられませんでした」

千冬「思い当たる節は、その機体には“あいつ”が乗り続けていたことだが、数日前には返却されて整備されているからその線はないか」

千冬「そもそも、訓練機には「最適化」の機能をオフにしてあるから、パイロットの癖や傾向を学び取る能力はないはずだ」

山田「そうですよね……」

千冬「いったい何が起きたと言うのだ……」



「これは、もしかしたらとんでもないことになっているのかも…………」

「そう、ISにも心はある。だとしたら――――――」

「――――――『存在そのものが冒涜的』か。本当に『そんなもの』になっていたのかもしれないわね」


63  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:02:34.82 ID:M0CqjG740

登場人物概要 第2話A

朱華雪村
基本的に人付き合いが苦手――――――どころではないのだが、篠ノ之 箒という世話人がついたことで徐々にIS学園に適応していく。
箒の推測では『国内有数の少年剣道家だったのではないか』と思われるほどの卓越した剣技と知見を持っているが、本人が操り人形なのでなかなか見る機会がない。
“世界で唯一ISを扱える男性”というとてつもなく貴重な存在であるが、普段はマネキンのような存在なのでその重要性もあとかたもなく打ち消され、
『1年1組という小さな枠組みの中のマスコット』として奇妙な親しみと敬意を以って愛でられる存在に落ち着くことになった。
とにかく不思議・奇妙・異様などの言葉しか出てこない不思議系キャラとしての不動の地位を確立しているのは確かである。
周囲も、不思議と彼を思春期真っ只中の健全男子とは思っておらず、篠ノ之 箒との関係性から子供扱いされているのかもしれない。


篠ノ之 箒
コミュ障の子守を担当することになって、女子力(母性)に磨きがかかっているという他では絶対に見られない一風変わった篠ノ之 箒である。
今作では、普通にクラスの友人も多く、異性に対する悩みの種があまりないので煩悩に苛まれる場面が一切なく、極めて健全な毎日を送れている。
というか、完全に朱華雪村との関係は母と子の関係であり、それが周囲に認知されていくことになり、本人も朱華のことを我が事のように考えるようになっている。
これもまたISに関わったことで重要人物保護プログラムを受けた者同士による『傷を舐め合う道化芝居』なのだろうが、
何だかんだで朱華雪村が徐々に真っ当な対応をしてくれるようになってくれることに手応えとやり甲斐を感じつつあるので穏やかながらいい刺激になっているようだ。


セシリア・オルコット
今作においては、存在感が極めて薄い人。どれくらい薄いと言えば、『ブルー・ティアーズ』の蒼さが無色になるぐらい希薄。
現在のところ、朱華雪村はクラスのマスコット、篠ノ之 箒は彼の母親役、セシリア・オルコットはただのクラス代表という位置づけなので、
特に朱華雪村との接点はない。もう1人のクラスの顔役に収まりつつある箒とは信頼できる間柄として一定の距離感を保ちつつあるが。


凰 鈴音
今作ではまさしく『2組』。――――――以上。


64  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:03:18.49 ID:VDZPPCed0

第2話B 出動! 仮面の守護剣士
"Blade Runner" the Mysterious Guardian

――――――4月半ば

――――――五反田食堂


弾「いやぁー! 久々の我が家の飯は美味い!」

一夏「ああ。上京していたから本当に久々だぜ!」

友矩「それでも、何度か僕も連れてここに来たよね」

一夏「何だか『帰省したら必ずここ!』って感じで、ここで飯を食って初めて『帰ってきた』って実感が湧くぜ」

蘭「そうなんですか、一夏さん!」パァ

一夏「ああ。蘭ちゃんもずいぶん大きくなったな。来年はもう高校生か」

蘭「は、はい……」テレテレ

蘭「あの、一夏さん? またいつかのように“家庭教師”をしてくれませんか?」モジモジ

一夏「ああ…………どうしよう」

弾「な、何を言ってるんだ、我が愛しの妹よ! お兄ちゃんが居るだろう!」アセアセ

蘭「いや、お兄なんかよりも有名私立のK大卒の一夏さんのほうがずっと頼りになるし」

弾「のおおおおおおおおおおおお!」ガビーン!

弾「おおう……、これが反抗期というやつなのか…………」orz

蘭「ああもう! お兄ったらいっつもそう――――――」

一夏「なあ 友矩? また家庭教師でバイトしても大丈夫かな?」

友矩「そこは難しいですね。非常事態への迅速な対応が求められてますから」

一夏「でも、意外と暇なんだよな、毎日……」

友矩「それなら、副業として非常勤高級マッサージ師として働きますか? 予約制で顧客の管理もしやすいですよ?」

一夏「うぅん……」



65  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:04:00.85 ID:VDZPPCed0

――――――織斑一夏 生家


弾「それじゃ、ローディーの業務に戻るから、“仕事”が来たらまた会おうな」

一夏「ああ。送ってきてくれてありがとな」

友矩「では、また」


ブゥウウウウウウウウウウウン!


一夏「懐かしいな」

一夏「相変わらず、郵便受けには溢れるばかりの配達物が詰まってるな…………」

友矩「きみの姉は初代『モンド・グロッソ』総合優勝者“ブリュンヒルデ”だからね。歴史に名を刻む伝説的な人物だ」

友矩「だけど、きみも巷でかなりの有名人だからね。――――――“スケコマシ”だけど」

一夏「え?」

友矩「僕ときみは大学で知り合った仲だけど、大学のサークル活動できみは大学や地域から注目されるぐらいの知名度を得ていたじゃないか」

友矩「バレンタインデーの贈り物が山ほど贈られ、男子の羨望と嫉妬を一身に受けながらも、きみはそれを気にすることなく、」

友矩「律儀にホワイトデーだけで全てのお返しを達成したんだからさ」

友矩「しかも、きみにプレゼントしてきた相手というのも凄い顔触れで、」

友矩「大学の友人・後輩・先輩はもちろん、OBやら教授やら用務員のおばさんやら何まで――――――」

友矩「果ては、保護者や地元の名士の人妻や地域の高校生やら中学生やら、よりどりみどりだったね…………」

一夏「あんなの 付き合うだけでも大変なだけだ~」

一夏「こっちの経済状況を考えてプレゼントしてくれよな~! お返しのプレゼント代で貯金が吹っ飛んだんだから!」

友矩「けど、その偉業が1つの伝説となり、女に不自由しないのに身銭を切るぐらい誠実であり続けるきみを――――――、」


――――――人は“童帝”と呼んだ。


一夏「相変わらず酷いネーミングだよな」

友矩「そして、やがて大学では“童帝”に対する態度によって2つの男子の派閥が生まれることになった」

友矩「1つは、ありとあらゆる女性からの寵愛を受ける“童帝”に対して嫉妬の炎を燃やすアンチ」

友矩「もう1つは、“童帝”の近くにいることでそのおこぼれを得ようとするプリーザーだ」

友矩「そんなわけで、きみの周りには自然と人が集まっていった……」

一夏「そんなのがいたような、いなかったような…………」

友矩「きみは興味なかっただろうけど、学園の中心として常々マークされ続けていたんだからね」

一夏「…………う~ん。でも結局、最初から最後まで俺の側に居てくれたのは友矩だけじゃん」

友矩「そうだね。それで常々 僕は『一夏の本妻』だとか『ホ 』だとかからかわれたもんだ」

友矩「きみの寵愛を受けようとする女性陣からの嫉妬が痛かったなぁ…………」

友矩「でも、きみというやつは『女よりも男』『恋愛よりも友愛』だったからね。僕以外にもそういった被害に遭っていた子がいてね――――――」

一夏「何の話だ?」

友矩「そして、肝腎な話をしている時に限って一人妄想に耽って聞き流しているだもんな……」ハア


66  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:04:53.30 ID:M0CqjG740

一夏「さて、こうやって長期休暇をもらわないと帰ってこれなくなった我が家だけど――――――、」

一夏「千冬姉、ちゃんと部屋の整理ができてるかな?」

友矩「1歳違うだけで、ずいぶんと差が開くものだよね」

一夏「そうなんだよ。男の俺が頑張らなくちゃいけなかったのに、千冬姉も『自分は女ではない』って言い張ってさ?」

友矩「しかし、幸いにもきみの姉が高校生にしてプロのISドライバーとして収入を得られることになったから、生活はそれ以降 安定していったんだよね」

一夏「そうなんだよな…………けど、それのせいで千冬姉は家を空けることになって、俺が留守番役が固定化されていって――――――」

一夏「ついでに、そんな姉を労るために美味しい料理や上手なマッサージのやり方を覚えるようになって――――――、」

一夏「それでますます、千冬姉は家ではグウタラになっちゃったんだよな……」

一夏「いや、俺のために体を張って稼いできてくれてるんだから、俺からは特に言うことはないけど…………」

一夏「いざ 上京してアパート暮らしになる時、俺は自分のことよりも家のことがメッチャクチャ心配になったんだよな」

一夏「千冬姉って生活能力が皆無だし…………まあ 千冬姉は家を空けている期間のほうが長いから家事の心配はほとんど要らないんだけどさ?」

一夏「けど、たまに帰ってきた時が心配で心配で…………」

友矩「結局、過去何度か家に帰ってきて悲嘆に暮れることになったわけで――――――覚悟を決めよう」

友矩「いつまでも玄関前で立ち往生しているわけにはいかないよ?」

一夏「あ、ああ…………」

一夏「さて、――――――パンドラの箱を開けるとするか」ガチャリ

友矩「…………今回はどんな感じなんだろうね」



「一夏! 冷蔵庫にあるものは全部捨てよう! いつの卵だ、これ!? 他にも牛乳とか腐ってるよ!」’

「友矩! なんで風呂場があんなにカビてるんだ!? それに床が薬剤をこぼしたのか傷んでやがる!」

「一夏! このコンセントに刺さっていたプラグ、埃 被りに被って漏電してる! それに、あっちこっち埃塗れじゃないか!」’

「友矩! 何だ、この洗濯物の山は!? それに布団から強烈な臭いが――――――!」

「一夏ああああ!」’

「友矩いいいいいい!」


67  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:05:53.32 ID:M0CqjG740

――――――日没


一夏「」グデー

友矩「」グデー

一夏「毎度ながら、千冬姉の生活能力の無さは殺人級だぜ……」

友矩「まったくもって同意。毎回毎回、これはひどすぎる…………」

一夏「あ、もうこんな時間だ。今日は泊まってくか?」

友矩「そうさせてもらうよ。干した洗濯物も取り込んでないし、明日はちょうど燃えるゴミの日だしね」

一夏「それじゃ、友矩。洗濯物を片付けてくるから、今夜の晩御飯 頼む」

友矩「うん、わかった。何が食べたい、一夏?」

一夏「まかせる。友矩の料理は本当に美味いからな」

友矩「それじゃ、買い出しに行ってくるよ」

一夏「ああ。行ってらっしゃい。楽しみに待ってるぜ!」

友矩「うん」


それから二人はいつもどおりに一夜を共にするのであった。



68  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:06:53.22 ID:VDZPPCed0

――――――数日後


一夏「――――――『クラス対抗戦』?」

友矩「そう。そこで今年の入学生の将来を占う場となるんだ」

友矩「普段なら乗りなれないその他大勢に対して国家代表候補生が共通の訓練機に乗ってクラス代表として戦うんだけどね」

友矩「今って第3世代への過渡期ということで各国で第3世代兵器の実験機が大量に造られているでしょう?」

一夏「そうだったな。それで財政危機に陥っている国が劇的に増えて世界的な社会問題になっていたよな。――――――マスコミは報じないけど」

弾「うんうん。あんまり言いたくはないけど、その金策として『代表候補生のアイドル活動を奨励させてる』って陰で言われるぐらいだもんな」

友矩「だから、今年は世界最新鋭の第3世代型ISが3機も学園に送り込まれているわけです」

友矩「確認されてるのは、イギリスと日本、それから中国だね」

一夏「ふぅん」

弾「…………『中国』か」

友矩「というわけで、IS学園としても日本政府としても万が一に備えて、僕たち“ブレードランナー”に警備に就いていてもらいたいと」

友矩「クラス対抗戦当日は、IS業界の業界人が来賓として出席されるので――――――」

一夏「わかったわかった」

一夏「要は、秘密警備隊“ブレードランナー”の趣旨に従って、なるべく穏便に『IS学園の平和な日常を守れ』ってことなんだよな?」

友矩「ま、そういうことです。それさえわかっていれば事の重大さの大小なんて関係ないですね。説明もこれぐらいでいいでしょう」

友矩「けど、この任務は――――――」

弾「ま、頑張るのは一夏だから、俺としては楽でいいんだけどさ?」

一夏「そりゃあ無いだろう、弾?」

友矩「事実でもあります。僕たちは正規の警備員では無いのでおおっぴらに活動できないからこそ、あなたを立てて行動しているのですから」

一夏「うん…………そうなんだけどさ」

弾「ああ……、悪かった」

69  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:07:59.13 ID:VDZPPCed0

弾「…………ところでさぁ?」

一夏「どうした、弾?」

弾「俺たちってどういう立場でIS学園に入り込むんだ? 非正規ってことはIS学園の連中も知らないんだろう、俺たちのことは」

友矩「そうですね。僕たちは日本政府直属の部隊で、IS学園においても僕たちの存在を知っているのは織斑先生や学校長などごくわずかです」

一夏「千冬姉…………」

友矩「ですから、表向きは日本政府からの査察官として行動することになりますね」

友矩「もちろん、僕たちが活動に専念できるように本物の査察官を複数付けてくれるそうです」

弾「となると、変装するってわけか」

友矩「ええ。基本的には黒服に変装していれば大丈夫でしょう」

弾「そっか」

友矩「くれぐれも粗相がないようにお願いしますよ?」ジー

弾「!」ビクッ

弾「わ、わかっております、ちゃんと!」ビシッ

一夏「へえ」

70  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:08:50.28 ID:M0CqjG740

友矩「そうだ、一夏」

一夏「何?」

友矩「今の装備のままでISを展開したら即 正体がバレるから『日本政府が用意した新しいISスーツに着替えるように』と指令を受けている」

一夏「そうなのか。それじゃ早速試さないとな」

友矩「ISスーツはゲスト用のロッカーの中に入れたから」

一夏「わかった」

弾「う、ううん?」

スタスタスタ・・・

弾「………………」

友矩「どうしました、弾さん?」

弾「ふと思ったんだが、新しいISスーツってもしかして――――――」

友矩「ええ。あなたの想像通りだと思いますよ」

弾「…………マジかよ」

弾「まあ……、IS学園にいる“世界で唯一ISを扱える男性”以外の男のIS乗りの存在は絶対に隠さなくちゃならないから、理由はわかるんだけどさ……」

弾「しかも、表向きだと“ブレードランナー”の正体は――――――」


「なんだぁこりゃあああああああああああああああ!?」


友矩「…………そういうことです」
        ・・・
弾「何もわざわざ実の姉に似せる必要はあるのかな……」

友矩「けど、そうすることによって相互不信による世界的な不和や混沌を未然に防げるのならば――――――!」

弾「なら、涙を呑んでやってもらうしかないな(けど、俺はそのおかげでIS学園という地上の楽園にぃ――――――!)」

友矩「どうしました、一夏? 早く来て見せてくださいよ」


「だって、これって――――――」


友矩「『だって』も何もないですよ。それを着ないと実際の警備活動ができません」

弾「一夏、大丈夫か? 無理ならやめればいいじゃんか」


「いや、わかってはいるんだ! こうするのがベストだっていうのは…………」


弾「…………こう言っちゃ難だが、何かいけない趣味に走らなければいいんだがな」

友矩「恥も外聞も、そして我執をも捨てて大道を成しなさい」


――――――そこに人を活かす剣はありますよ。


「あ、ああ!  、 間が、 間があああああああああああ! 痛ってえええええええええ!」


71  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:09:27.06 ID:VDZPPCed0

――――――クラス対抗戦、当日

――――――IS学園

――――――クラス対抗戦、開会前


査察官「では、ここは我々に任せて有事の対応を頼むぞ、“ブレードランナー”」(黒服)

一夏「はい。任せてください!」(黒服)

弾「へえ、ここがIS学園か…………」ドキドキ(黒服)

査察官「おい!」

弾「あ、はい!?」ビクッ

査察官「仮にも日本政府の代理人の一人としてここにいる自覚を持て」

査察官「サングラス越しにもお前の下心は透けて見えるぞ」ギロッ

弾「は、はいぃ!」ビシッ

友矩「では、僕たちは1年生の大会会場に向かいましょう」(黒服)

査察官「頼んだぞ」

査察官「今年は最新鋭の第3世代機見たさに来賓席には弱小企業も詰め寄っている。それぐらい重要なイベントなのだ」

査察官「それだけに良くないことが起こりそうなのは明白だ」

査察官「学園の教師部隊にもなるべく存在を知られないように用心するのだぞ」

一夏「はい!」

一夏「では!」

査察官「うん」



72  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:10:52.02 ID:VDZPPCed0

――――――第1アリーナ 第1ピット:管制室


山田「あ! 一夏くん!」

一夏「久しぶりですね、真耶さん」スチャ(サングラスを外して笑顔で応える)

山田「ええ、本当に……」モジモジ

一夏「そして――――――」


千冬「ようこそ、IS学園へ」


一夏「来たぜ、千冬姉」

千冬「ここでは“織斑先生”だ。馬鹿者」フフッ

一夏「はい。“織斑先生”」ニコッ


弾「お、おおう!? だ、誰なんだ、あの胸に2つメロン入れてるメガネさんは!?」ヒソヒソ

友矩「彼女は山田真耶――――――かつての第1期日本代表候補生の一人で、織斑千冬の同期の中でも随一の射撃能力を持った実力者です」ヒソヒソ

弾「そうだったのか……」ヒソヒソ

弾「で、なんで一夏とあんなに親しそうなんだ?」ヒソヒソ

弾「ま、まるでフィアンセが帰ってきた時のようなすっごくいい笑顔じゃないか! 顔を赤らめてよ!」ヒソヒソ

友矩「しかたありません。一夏は姉の公式サポーターの一人として訓練場を訪れたことがありますから」ヒソヒソ

友矩「その縁で初代の日本代表候補生のほとんどの方とパイプを持っているのです」ヒソヒソ

弾「な、なにぃいいいいい?!」ヒソヒソ

友矩「彼の公式サポーターとしての役割は高級マッサージ師でして、織斑千冬が絶賛したことから彼のマッサージを――――――」ヒソヒソ

弾「それ以上 何も言うなあああああああ!」ヒソヒソ


73  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:11:36.13 ID:M0CqjG740


千冬「そこ、何をヒソヒソと話している?」

弾「あ、いえ。お久しぶりです、織斑先生」

千冬「ああ。五反田食堂のところの――――――」

千冬「本当に久しぶりだな。面と向かってこうして話し合う関係になるとは思いもしなかったよ」

弾「あ、はい。俺としても本当に人類の半分以上が踏み込むことができない場所に入れたことが今でも半信半疑です」

千冬「こんな弟だが、これからもよろしく頼むぞ」フフッ

弾「え、ええ! 是非とも一夏のことはまかせてください!」

弾「(ああ 良かった。一夏のやつと一緒にいてようやく報われたような気がする!)」

山田「それでは、五反田さん。しばらくの間 モニターの監視をお願いします」

山田「ここ以外でも監視は厳重に行われてはいますけれど、人手は多いに越したことはありませんから」ニッコリ

弾「は、はいぃ! おまかせください!」

弾「(ウヒョー! モニターには可愛い子ちゃんばっかり映ってるじゃん!)」チラッ

山田「?」

弾「(それに、隣には男のロマンが詰まったものが――――――)」ドクンドクン


千冬「友矩か」

友矩「はい」

千冬「その……、いつもいつも弟が世話になっている」

友矩「好きでやってることですから」

千冬「そうか。私もできることならば一夏と共にありたいものだが、いかんともしがたい」

千冬「お前のことを羨ましく思うよ」

友矩「これからはどうなんです?」

千冬「そうだな。少しは良い方向に変わると信じてるよ」

友矩「そうですか」ニッコリ



74  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:12:17.11 ID:M0CqjG740

千冬「さて、遠路遥々ご苦労だったな。コーヒー1杯飲んでリラックスしてくれたまえ」

弾「あ、ありがとうございます!(うっは~! あの千冬さんが俺のためにコーヒーを淹れてくれてるよ! 安物でもすっげー感激する!)」

友矩「あ」

一夏「なあ、千冬ね……織斑先生」

千冬「どうした? まだ時間に余裕があるからブリーフィングは少し待て」

一夏「そうじゃなくてさ、『コーヒーの好みが変わったのかなぁ?』って……」

千冬「…………うん?」

山田「先生。あ、あの……、それ、塩なんですけど」

千冬「え」

千冬「あ…………」カア

弾「おおっと……!(…………これは貴重なものを見たぞ!)」

友矩「おや、弟さんと一緒に働けることに内心 感激していたわけですか。本当に喜ばしい限りですね」ニコニコ

山田「そうだったんですか~! これからも一緒の時間を過ごせると、……その、いいですよね」モジモジ

千冬「ま、待て! これは、単純に見間違えただけだ! わかったな!」ドキドキ

山田「は~い」ニコニコ

友矩「素直じゃありませんね」ニコニコ

千冬「むぅ」

一夏「やっぱり千冬姉は“千冬姉”だったんだ……」クスッ

千冬「!」

千冬「ち、違うぞ、一夏! これはだな――――――」アセアセ


姉弟「――――――」


山田「あらあら、口調も態度もすっかり――――――」ニコニコ

弾「良い物 見られたな~(何か今日は感激するようなイベントばかりだな、おい! 来てよかった……)」ニコニコ

友矩「こういう時でないとゆっくり話すこともできませんから、これはこれはいいんです」フフッ


――――――素直が一番ですよ。



75  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:13:25.50 ID:VDZPPCed0

千冬「さて、一通りの説明はすんだか」

弾「あの……、専用機持ちが狙われるから俺たちが呼ばれたってのはわかってるんですけど――――――」

山田「どうしました、五反田さん」

弾「戦力比がおかしくないですか?」

弾「なんで最新鋭の第3世代機同士の対戦がある第1アリーナの防衛戦力が少ないんですか!? 一番大切なのはここですよね!?」

山田「それは――――――」

友矩「単純なことです」

友矩「“ブレードランナー”の実力をそれだけ高く評価している――――――、ということです(けど、今回のは明らかに――――――)」

一夏「そうなのか?」

千冬「まあ そういうことだな。通常の防衛戦力の何倍かを具体的な数字で表現されたらそれは戸惑うだろうが」

友矩「次いでに言うと、ほとんどの学園関係者にも『“ブレードランナー”の正体は織斑千冬』だと言い含めてあるので」

弾「……なるほどね」

千冬「次いでに言えば、非常事態への備えと自覚は2年生からは自主的になされている」

千冬「他にも、非常事態の交代要員も優秀な生徒を募って精鋭部隊を組織してあるから、危機管理に関しては十分だ」

千冬「むしろ、入ってきたばかりでまだ何も知らないひよっこ共の安全確保のほうが難しい」

一夏「そうなんだ」

千冬「ああ。非常事態において重要なのはちゃんとこちらの指示に従って避難してくれるかどうかにかかってくるからな」

千冬「こちらの指示を聴かずに、手前勝手で不見識な危機意識であることないこと吹聴してパニックを起こされたらたまったものではない」

友矩「そう、助かってもらいたい方と助けてもらいたい方の相互の信頼と連携がないと救助というものは成功しないわけです」

弾「そうだな。それはそうだ」

一夏「なんだ、当たり前のようなことだよな、うん」

友矩「…………一夏」ハア

76  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:14:20.13 ID:M0CqjG740

一夏「どうしたんだよ、友矩? 急に溜め息なんてついて」

友矩「一夏、僕はきみがどういう人間なのかはよくわかっているつもりだけど…………」

一夏「?」

千冬「なるほどな(お前も相当苦労してきたというわけか。いつもいつもすまないな)」

一夏「千冬姉も何だって言うんだよ」

千冬「『そういうところが』だ」ゴツーン!

一夏「あいだっ!?」

千冬「『“織斑先生”と呼べ』と言ったはずだ。気を抜いてすぐ忘れたのだな」

一夏「あ、ああ…………」

千冬「他に訊きたいことはないか? 時間も結構経ったが、まだ時間に余裕はあるぞ」

弾「あ、大丈夫です。後は一夏がやってくれますから」
                       ・・・
一夏「あ、ああ! そうだとも! 見ていてくれ、千冬姉――――――」

一夏「あ」

千冬「やれやれ」

千冬「先にトイレに行って来い。男子用のトイレは限られているからな」

一夏「わ、わかりました、織斑先生…………」

スタスタスタ・・・

千冬「さて、何も起こらなければそれでいいのだがな」

山田「はい」

友矩「…………あれ?」

弾「どうした、友矩?」

友矩「何か重要なことを忘れているような――――――」

千冬「何だ、それは? 心配事や厄介事はさっさと解決して任務に集中しろ」

友矩「わかってます(今回の任務に対する不満のことじゃない――――――)」

友矩「(僕はさっき何を心配したんだ? 『一夏が一人でトイレに行けるか』ってことか?)」

友矩「(それは問題ないはずだ。仮に一夏が迷ったとしても、ここからのモニターでアリーナ内部の様子は全部把握できる。それで迎えに行ける)」

友矩「(だけど、一夏と長年の付き合いをして様々な修羅場を傍から目撃してきた僕の直感が告げている!)」


――――――『一夏はきっと何かをやらかす』と!


77  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:15:50.14 ID:M0CqjG740

――――――試合開始10分前


一夏「や、やっべえ……」(黒服)

一夏「今、俺 どこに居るんだよ……!」

一夏「最初に友矩が連れてきたように入り口まで出てみて、」←そこからして間違えている

一夏「そこから入り直しているはずなのに、なんで管制室に辿り着けないんだよ!」

一夏「まずい! もう試合開始までほとんど時間がないじゃないか! もう配置についてないといけないのに――――――!」アセアセ

一夏「あ!」



少年「………………」

少女「そこにいたのか、朱華」

少年「………………」チラッ



一夏「あ、良かった。まだ観客席に行ってない生徒が居たよ」ホッ

一夏「あれ? でも、白ズボンで身長も割りと高い子だな」

一夏「ハッ」

一夏「もしかして、“彼”がそうなのか!?」

一夏「そっか。ちゃんとこんな時間まで付き添ってくれている女の子がいるんだ」

一夏「…………良かった。ひとまずは安心だな」フフッ

一夏「一人で孤立しているじゃないかって思ってたけど、あの様子だと信頼できる相手がいたようだ」

一夏「良かった良かった――――――ん?」

一夏「あの髪型――――――!」

一夏「もしかして――――――」ダッ

一夏「ハッ」ピタッ

一夏「だ、ダメだ! 見知った顔だからって迂闊に飛び出ちゃダメだ!」

一夏「それに、俺はすぐにでも行かないと行けないんだ! だから、慎重に道を聞かないと!」アセアセ


78  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:16:42.91 ID:VDZPPCed0


少女「さあ! みんながお前のために席を開けてくれているはずだ。早く行こう」

少年「はい」


一夏「あの……、すみません」(黒服)


少女「え」

少年「………………」

一夏「ここに来るのは初めてで――――――」

少女「…………来賓の方ですか?」

一夏「ま、まあ そんなとこ。SPってやつだよ」

少女「それなら……、えと――――――」
                     ・・・
一夏「ああ……、違うんだ。第1管制室にいる千冬姉に会いに行かないと――――――(あ、やべっ…………)」

少女「え? ――――――『千冬姉』?」

一夏「あ!? いや、違うんだ。織斑先生と面会しないといけなくて――――――」アセアセ

少女「え? え?」

少年「………………」

少女「あれ? もしかして、あなたは――――――」

一夏「…………!(ヤバイヤバイヤバイ! こんなところで道草食っている暇はないってのに――――――!)」


友矩「そこにいたの、ハジメ」


一夏「あ」

友矩「もう! 勝手に離れないでよ。地図も持ってないのにあっちこっちぶらつかれたら探すのに一苦労なんだから」’

一夏「ああ ごめんごめん……(また助けられたな、友矩…………心の友よ!)」

友矩「あ、あの…………」

友矩「ハジメの馬鹿がお騒がせしました。どうぞ、我々のことはお気になさらず。――――――では」’
            ・・・・
一夏「そ、それじゃあな、箒ちゃん――――――あいたっ!? 何するんだよ!」

友矩「もう何も喋らないで!」’

少女「え!? やっぱり、あなたは――――――!」

少女「待って! 待ってくれ――――――!」

少年「………………」



79  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:17:26.05 ID:M0CqjG740



一夏「『馬鹿』って何だよ、『馬鹿』って」

友矩「考えなしに行動して何度も失敗しているくせに一向に反省しようとしないから『馬鹿』って言うんだよ!」’

友矩「過ちて改めざる、是を過ちと謂う」’

友矩「危うく正体が見破れそうになっていたじゃないか!」’

一夏「あぁ……、それはその…………」

友矩「本当にきみは僕がいないとダメなんだから……」’ハア

一夏「そういえば、大学時代もそんな感じだったな」ニコッ

友矩「反省してください」’

一夏「あ、ああ! 今度はこんなことにはならないようにするから、な?」

友矩「(そう言わせて、何回 裏切られたことか…………)」’

友矩「(でも、そういった細かいことを気にしない彼の寛容さや包容力が魅力でもあるんだけどね)」’

弾「おーい! 見つかったかー? どこ行ってたんだよ! もうすぐ試合が始まるぞー!」”

一夏「ああ 悪ぃ悪ぃ! トイレ 行ってすぐ戻ろうとしたら、なぜか外に出ちゃってさ――――――」

弾「何だそりゃ? お前の姉さん、カンカンだぞ!」”

一夏「うげっ! こりゃやべぇ! 急ぐぞ!」アセアセ

友矩「道草食っていたのは誰やら」’ヤレヤレ


80  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:18:17.79 ID:VDZPPCed0

――――――第1アリーナ 競技場第1搬入路:控え室


弾「え? お前……、本当にこれ、着るの?(最初はあまりの衝撃で記憶が吹き飛んだけど、改めて見ると――――――)」ドンビキー

一夏「し、しかたないだろう! こ、これも任務の一環なんだし!」カア

友矩「何もなければ見せつけることにはなりませんよ」

一夏「そうそう。黙って待っているだけで報酬が上乗せなんだぜ? できるなら何も起きないでいて欲しいな」アセタラー

弾「だろうな。いくら任務とはいえ、男のお前がこんなのを着て 有事に対応しないといけないんだからよ」

弾「しっかし、本当に女の子しかいない夢のような場所だよな、ここ!」

友矩「女子校ならばありふれている状況だと思いますよ」

弾「だとしてもだ! やっぱりそんな場所にいると思うと、こう ビ ビ に感じるものが……!」

一夏「あれ? お前の妹ってミッション系のお嬢様学校じゃん。そんなのしょっちゅう感じてるんじゃないのか?」

弾「あほか! そんなしょっちゅう我が愛しの妹の学び舎に通えたら、こんなこと 言わねえっての!」


そして、彼ら“ブレードランナー”の待機場所である入場口に一番近い控え室に辿り着いた一夏はISスーツを着ることに躊躇いを見せつつも着替え始めた。

大の男2人が見ている中で衣服を脱ぎ捨て、持ち込んでいた“ブレードランナー”専用のISスーツをまとった姿は凄かった。

なにせ、“ブレードランナー”=“ブリュンヒルデ”織斑千冬だという認識を周囲に植えつけるために、

体格がまったく違う弟の一夏に胸や腰、肩周りを女性らしく見せるためにピチピチのISスーツに偽 などが付けられていたのだから。

しかも、肌を晒さないための全身を覆うフルスキンであり、キュウキュウと全身を締め付けてくるので着るのは本当に手間がかかるし、苦しみさえあった。

特に、女にはない部分である男の 間のあれは万が一勃起したら確実に疑われるので、ファウルカップの部分に合わせながら着るのだが、

それがフルスキンのピッチリスーツのワンピースなのだから難しいの一言。ツーピースなら上と下にわけて落ち着いて着ることができるのだが…………。

そして、ただでさえ肌に密着するピッチリスーツなので男のあれが引っ掛かってばかりなのだ。肌触りもよくないのであれが擦れて気になる。

更にはっきり言えば、ISには展開したと同時に瞬時に格納されたISスーツに着替える機能がついており、それを使えばこんな苦労はせずに済む。

――――――そう、こんなのは時間の無駄である。

だが、そのほうがあまりにも楽すぎて、あらかじめこの織斑千冬擬態用ISスーツを着ようという努力をしなくなるためにこうして無理矢理やらされているのである。

量子展開によるものはどこでも瞬時に行えるという利点がある代わりに、その分だけエネルギーを消耗するので万が一の可能性を考えて無駄遣いが憚られたのだ。

そんなわけで織斑一夏は、身長と顔以外は完璧にナイスバディの丸みを帯びた身体つきの女性になっていたのであった。

もちろん、これは彼の姉であり 抜群の美貌をも兼ね備える世界最強のIS乗り“ブリュンヒルデ”織斑千冬をモデルにしているので、

顔と身長――――――そして、素肌を晒していないことを気にしなければソソるものがあった。首から下の写真をネット上に流せばそれはもう大反響だろう。

――――――がやはり、下心が人並み以上の五反田 弾でも親友が女装していることにはさすがに何とも言えぬ拒絶感があり、

何よりも女装をさせられている一夏自身もこのISスーツにはいろいろと思うところがあった。

着心地や着づらさ、男が女の格好をすることの不自然さもあったが、そんなのは任務として割り切ることは簡単だった。織斑一夏はそういう人間だから。

だが、織斑一夏が一番に問題としているのはそんなことではなかった。そう、そんなことなんかではない。

このスーツのモデルが世界最強のIS乗り“ブリュンヒルデ”織斑千冬であるということが彼にとっては――――――、


81  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:19:07.68 ID:VDZPPCed0


――――――試合開始!


一夏「!」

友矩「試合が始まったようですね」

弾「へえ、イギリスの『ブルー・ティアーズ』と中国の『甲龍』――――――って、おい!」

一夏「あ! あれって――――――!」

友矩「確か去年 祖国に帰っていった本場中華料理屋の娘さん――――――」

弾「――――――“鈴”じゃねえか!」

一夏「あいつ、代表候補生だったのか?」

友矩「今 調べましたところ、わずか1年で代表候補生にまで上り詰めた逸材だったようです」ピピッ

弾「マジかよ。あの鈴がねぇ…………」

一夏「あいつが、代表候補生…………」(擬態ISスーツ)


首から下だけ見れば絶世のプロポーションを持つが、実際はれっきとした男である織斑一夏が前のめりになるような未体験の胸の重さに難儀している中、


――――――最初の試合が始まった。


そして、見知った顔がモニターに現れて、今の自分たちが秘密警備隊“ブレードランナー”としてこの場にいる奇跡を再確認するのであった。


82  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:19:45.51 ID:M0CqjG740

彼ら“ブレードランナー”は特に指定がなければ特定の対象を意識するということはほとんどない。

むしろ、平和な日常を脅かす脅威の排除こそが彼らの主任務であり、その性質上 撃破対象や任務遂行に必要な要素を事細かく研究して意識するものである。

逆に、敵の撃破を軸とした作戦行動が主であることから、護衛や防衛という要素が皆無であった。秘密警備隊ゆえに安易に姿を見せるわけにもいかないからである。

それ故に、彼らとしては自分たちの役割の遂行に必要な物だけを知っていればよく、その任務の内容も特殊作戦が主なのでそれに意識を集中せざるを得ない。

つまり 野球で例えるならば、“ブレードランナー”とはここ一番の難局にかっ飛ばす代打であり、その時の監督の采配に忠実に従う義務がある。そういうわけである。

またまた彼らは、世界中の政治や経済などの話題の収集は欠かさないものの、IS学園に誰が在籍しているかなどはほぼ無関心であった。

あるいは、ISに関する事柄でも乗り手よりも機体の情報のほうが優先されるべきものであり――――――競馬においても騎手よりも馬のほうに目が行くものであろう。

それと同じことであり、客観的に『戦力がどの程度なのか』しか興味を持たないものである。

国際IS委員会に提出されているIS学園に送り込まれた最新鋭機の情報などあてにならないものであるし、

第一 彼らの任務においてそういった各国の最新鋭機を積極的に排除するといった任務が起きるとは思えない。戦わない相手の情報など無価値である。

仮に秘密警備隊“ブレードランナー”の任務全般における護衛対象を定義したとしても、

彼らの護衛対象は『日本国土全体あるいは邦人全て』であり、IS学園という限定された範囲だけを取り扱っているわけではないのだ。


それ故に、まさか中国代表候補生でかつ中国最新鋭機のパイロットに顔馴染みのあの子がなっていたという事実に驚かされたのである。


1つだけ申し開きをすれば、“ブレードランナー”において一番の俗物の五反田 弾は意外と知っていそうな気はするだろう。

彼自身もIS乗りの可愛い子ちゃんを愛でる趣味はあった。インフィニット・ストライプスというIS乗り専門のグラビア雑誌も結構買ってもいる。

IS乗りというものは世界に467しかないISに乗れる、いわば国家を代表するアイドルともなるので、基本的なルックスの良さも基準に公然と含まれているのだから、

IS乗りに関するグラビア雑誌を買い漁れば、――――――出るわ出るわ、各国ご自慢の美少女が誌面に所狭しにいつでも拝むことができるのだ!

それ故に、代表候補生ともなれば当然ながらグラビア雑誌に十中八九載るぐらいの美貌は保証されているので、

いつも通りに弾がインフィニット・ストライプスなどのグラビア雑誌を買っていれば事前に中国代表候補生:凰 鈴音の存在を知れていたかもしれない。

しかし 残念なことに、ここしばらくは“ブレードランナー”の一員としての日々にまだ慣れてない多忙な日々を送っていたので世間の動きを見忘れていたのである。

更に言えば、この中国代表候補生:凰 鈴音はたった1年で代表候補生になったという真性の天才ではあるものの、彗星のごとく現れたのでそれ故に知名度が低く、

もう少し時間を置けば、今年の中国代表候補生として各メディアへの露出も増えて世間からの認知の定着も大いに進んだはずだった。


こうした数々の要因が重なって、今日初めて“ブレードランナー”の面々は自分たちと同じようにISというものに深く関わるようになった“鈴”の存在を知り、

同じく、今月になるまで“ブレードランナー”ですらなかった一同の人生の移り変わりというものをしんみりと思い返すことになった。

特に、一夏と弾にして見れば思うところはいろいろあった。弾にすれば妹の友人の一人だし、一夏にすればある少女と入れ替わりに現れた子であったし…………


83  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:20:42.50 ID:M0CqjG740

一夏「なあ」(首から下はピッチリスーツの織斑千冬の身体)

友矩「何?」

一夏「どっちが勝つと思う?」

友矩「…………意外だな」

一夏「へ」

友矩「何でもない」

友矩「それで、どっちが勝つかという予想だけど――――――、」


友矩「少なくとも、あの『ブルー・ティアーズ』って機体は対戦環境を全く意識してない欠陥機だから、鈴ちゃんが負けることはほとんどないんじゃないかな」


弾「そうなのか!(山田真耶さんに比べればちっちゃいけど、あのイギリス代表候補生のお嬢さんもなかなかだけどさ――――――)」

一夏「どういう意味で欠陥なんだ?」

友矩「簡単に言えば、――――――狙撃手って後衛のポジションでしょ? 遮蔽物の無いアリーナでの1対1でどうやって後衛のポジションにつくの?」

弾「ああ……、なるほどね。確かに機体よりもデケえライフルとか『ビット』に目を奪われたけど、それが真価を発揮するのは遠距離戦だもんな」

一夏「昔のRPGで前列と後列の概念があるものでも、前列にキャラがいなければ後列にはパーティを配置できないもんな」

弾「何ていうか、第1回『モンド・グロッソ』を再現した『IS/VS』とまったく同じだな」

弾「――――――ISでは射撃機よりも格闘機のほうが有利ってのは」

一夏「そうそう。十分に怯ませることができれば一方的に倒せるもんだけど、シールドバリアーに阻まれて威力が殺されてちゃねえ?」

一夏「俺も千冬姉が現役時代の『モンド・グロッソ』の大会会場まで出向いて直に見ていたから、よく知っていたはずなんけどな…………」

友矩「『それでも遠い世界のことのように感じていた』からこそ、そこまで意識することはなかったんでしょうね」

一夏「……そうだな。その通りだ」


一夏「(どうして俺にISを扱える力が芽生えたんだろう? 今までだって千冬姉の側に居てISに触れたことはあったのに――――――)」


一夏「けど、どうして鈴は急に1年前に国に帰った上に、IS乗りになったんだろうな?」

弾「さあな? でも、いいスカウトマンに声を掛けてもらったようで何よりじゃないか」

一夏「まあ そうだな。IS乗りっていうのは今の御時世だと最高級のステータスだからな」

友矩「でも、鈴って子は勝ち気に逸る性格だから、追い詰めたところで気を抜くところがあるんですよね……」

一夏「ああ…………」

弾「そういえばそうだった。今は鈴が英国淑女の金髪ロール;セシリアちゃんを圧してるようだけど、何か危うい感じがするよな」

一夏「そうだな。最後まで気を抜かなければいいんだけど…………」



84  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:21:30.51 ID:VDZPPCed0

弾「あ! セシリアちゃんがあともう少しで壁際まで追い込まれる!」

友矩「やはり基本的な相性に従えば、こんなものですか(けど、何かがおかしい――――――ああ そうか)」

一夏「鈴が勝つか」

弾「どっちにも負けて欲しくないな…………やっぱり可愛い子には笑顔が一番なんだしさ」

友矩「けど、あからさますぎるんです」

一夏「へ?」

友矩「どうして逃げ撃ちが主体の狙撃機が壁を背にしてしまう愚行を犯したのか、なぜ自らそこへと逃げこんでしまったのか――――――」

友矩「自分の機体の特性をしっかりと把握していれば、追い詰められないように回りこむことを基本にするものです」

弾「そうか? 鈴の押しが強くて下がらざるを得なかったように見えたけど? ほら、手数なんて凄いじゃん」

一夏「けど、乗ってるのは代表候補生っていうプロなんだろう? アリーナで戦うことを意識していないはずがない」

弾「となると、――――――『罠だ』って言いたいのか、友矩?」

友矩「ええ。兵法においてもわざと弱点を作って、そこに相手の意識を誘導し、有利な対策を容易に講じる策があります」


友矩「兵法三十六計の1つ『上屋抽梯』――――――『屋根に上げて梯子を外す』」


友矩「これは間違いなくそれですね。たぶん、この限定的な状況を逆手に取った何かをするはずです」

友矩「それが奇形奇策というものですから」

弾「うん……、そうかもしれないな」

弾「鈴のやつ、男勝りというか怖いもの知らずというか、とにかく勇敢な性格なのは素直に褒められるものだけど、」

弾「でも、中国の歴史を紐解いてもそういうやつって大抵は猪突猛進になりがちなんだよな…………」

弾「三国志の関羽や張飛もその武勇や人柄を褒め称えられて根強い人気を誇ってるけど、同じ五虎将の趙雲のようには長生きできなかったしな」

一夏「樊城の戦いとその報復戦の夷陵の戦いだったっけ?」

弾「ああ――――――って!?」

一夏「これは――――――!」

友矩「――――――『さすがは代表候補生』と言ったところか」

85  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:22:32.57 ID:M0CqjG740

――――――
セシリア「さあ、これでフィナーレですわ!」バヒュンバヒュン!

鈴「…………っ!」

鈴「なめんじゃないわよ!」

セシリア「!?」

セシリア「きゃああああああああ!」ボゴンボゴーン!

セシリア「くっ!」ゼエゼエ

鈴「や、やるじゃない、あんた……!」ゼエゼエ
――――――


弾「てっきりセシリアちゃんの逆転勝利かと思ったけど、鈴のやつもやるな!」

一夏「ああ!」

友矩「なるほど。そういう使い方をするのか(――――――これは斬新な発想だ。天晴だよ)」ジー


86  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:23:11.52 ID:VDZPPCed0

友矩「(けど、こんな博打は代表候補生に思いつくようなものではない。特に、プライドの高そうな英国淑女の固い頭では)」

友矩「(それに、見たところ 躊躇いがなかった。おそらくこれ あるいはこれに似た訓練を十分にしてきたんだろうね)」

友矩「(そして、アリーナの壁際まで誘い込んで逆に追い込む戦法自体が限定的でISバトルでは有意義なものとはみなされてこなかった)」

友矩「(つまりそれは、これまで既存のISバトルの戦術理論に『壁を有効活用する』という発想がなく、今のは間違いなく独自の戦術だったと言える)」

友矩「(それは当然だ。ISの機動力は従来兵器を遥かに凌駕していて、このアリーナを所狭しと飛び回るのだから)」

友矩「(となれば、それを正規の訓練で絶対にするはずがなく、壁際に追い込まれること自体が『ブルー・ティアーズ』の敗北を意味していたはずだ)」

友矩「(だとすると、代表候補生:セシリア・オルコットほどの熟練者がこの学園で壁際に追い込まれたという経験をしたことがあるということ!)」

友矩「(そうでなければ、まじめに壁際に追い込まれた窮地をチャンスに捉えるあの戦法の有用性を彼女自身が見出さなかったはず)」

友矩「(それが意味するところは、――――――新年度早々 この1ヶ月未満でそこまで追い詰めた人物がいたということだ!)」

友矩「(最初から策として授けられていた可能性もあるけど、それなら根本的な機体相性の不利を補ったほうが確実だし、見せびらかすには早過ぎる)」

友矩「(なぜなら、一度見せた戦法は必ず相手のノウハウに蓄積され、二度目は必ず対策をされて二度と通じることはないからだ)」

友矩「(どれくらいのハンデをつけたのかはわからないけど――――――、」

友矩「(格闘戦においては重量とドライバーの身体能力が物を言う。これによって搭乗経験が少ない強者でも可能性は拡がった)」

友矩「(そして、格闘機となれば、ここ:IS学園の訓練機『打鉄』以外にそれらしい機体はない)」

友矩「(つまり、『打鉄』の攻撃をひたすら捌き切る掛り稽古をしていた中で、冴え渡る剣捌きを見せつけた初心者がいたはずだ)」

友矩「(少なくとも、まだ4月の段階ではクラスの結束は薄いけどクラス対抗戦もあることで、他のクラスの人間に訓練を頼むことはしないはず)」

友矩「(あるいは、上級生に訓練を頼み込んだという可能性もあるが、同じ国の専用機持ちならまだしも、上級生の専用機持ちはわずか3人だけだ)」

友矩「(そして、その線も的外れだろう。これまで壁際を利用する戦術が注目されたという話なんて僕が調べた限りは一度も目にしたことはない)」

友矩「(そういうわけで、上級生も違う。壁に追い込まれたら基本的に不利であることが今日まで常識的だったのだから尚更)」

友矩「(だから、僕の推測ではセシリア・オルコットが代表を務める1年1組の中に凄まじい剣士がいた可能性が高い)」

友矩「(1年1組31人の中の誰かがそうだというわけか――――――)」

友矩「(けど、始業式から2週間後のこの短期間にISを満足に動かせる子は代表候補生以外に存在しない。今年はギリギリ4人しか居ないという状況だけど)」

友矩「(すると、セシリア・オルコットが興味を持って訓練相手として選び、かつ学園側も積極的に機体を貸し出してくれるほどの人物――――――)」

友矩「(もしかして、織斑先生が預かった――――――、)」


――――――あの“世界で唯一ISを扱える男性”がそうだと言うのだろうか?


友矩「(情報が少なくてまだ何ともいえない推論だけど、たぶんそのほうがかえって納得がいく結論に辿り着くかもしれない)」

友矩「(僕は一夏の付き人としてISの世界にやってきたけど、それよりずっと前から一夏はISとの関わりが深かった)」

友矩「(そして、自分の姉がその道の第一人者であり、それ故に男の中では誰よりもISに近しく感じるものがあったけど、)」

友矩「(ISはそもそも男が扱うことができなかったからこそ、近くて遠い世界のように一夏は感じ続けていた)」

友矩「(けど、いざ一夏がIS乗りになったからといって、突然 その世界のことについての常識や理解が備わるわけがない)」

友矩「(それと同じように、むしろISを扱えないはずの何も知らない男子のほうがこのプロファイリングの正しい答えを導くのではないか?)」


友矩「(そう、試合開始前に僕が一夏を迎えに行った時に一瞬だけ目にしたあの少年の奥底の知れない不気味さが『そうなのだ』と――――――)」


87  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:23:54.53 ID:M0CqjG740

一夏「手に汗握るな……」ググッ

弾「さあ、どっちが勝つ!?」

友矩「これはもう勝負の行方はわからなくなった――――――」


――――――――――――――――――
――――――バリィーーン! ピカーン! ドッゴーン!
――――――――――――――――――ブツッ!


弾「映像が途切れ――――――いや その前に!」

弾「――――――何だったんだ、今の光は?!」

友矩「システム破損! ――――――レベルD!?」カタカタカタ

一夏「な、何がどうなったって?」

――――――
山田「システム破損! 何かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです!」

千冬「――――――試合中止! オルコット! 凰! ただちに退避しろ!」

千冬「…………後のことはまかせた」
――――――

友矩「これはもうやることは1つです、一夏!」

一夏「!」

弾「そうか。いよいよ来てしまったのか、この時が……」アセタラー

友矩「これから我々は独自行動に移ります!」


――――――秘密警備隊“ブレードランナー”、只今より対策を講じる!



88  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:24:31.98 ID:VDZPPCed0


アナウンス「非常事態発生! リーグマッチの全試合は中止!」

アナウンス「状況はレベルDと認定! 鎮圧のため、教師部隊を送り込みます」

アナウンス「来賓、生徒はすぐに避難してください!」



ドタバタ、ワーワー、キャーキャー!



弾「上の観客席から凄い足音と悲鳴が――――――(待っていてくれ、今 助けてやるからな! ――――――主に一夏が)」

友矩「一夏、未確認のIS反応:1! 他の攻撃目標は無し!」

一夏「待て、――――――『未確認』?」

弾「それってどういうことだよ!? 国際IS委員会にISコアの利用状況は逐一報告されていて、『未確認』なんて存在しないはずだろう?」

友矩「そんなことの追求は今の状況を収束させることと何ら結びつくところがありません!(=今 忙しいから話しかけてくるな!)」ギロッ

弾「…………あ、ああ。すまない」

一夏「……それで、そのISってのはどんなやつなんだ?」

友矩「現場の『ブルー・ティアーズ』と『甲龍』の2機からの映像を表示!」カタカタカタ

友矩「!?」パッ

弾「――――――何だコイツは? めちゃくちゃ腕がでかい!」

弾「それに、今の一夏と同じようなフルスキンじゃないか!」

一夏「確かに…………」


“ブレードランナー”としての本業を開始した彼らは、まず状況把握のためにその場に留まり、現時点でわかる情報を集めていってハッと息を呑んだ。

こういった緊急事態のために控え室に持ち込まれていた臨時の装置や機材を友矩が的確に運用し、すぐに様々な情報が集まっていった。

その中で最も肝腎な情報である 今回の襲撃者=撃破目標がいかなる兵器なのかを逸る気持ちを抑えて一夏は友矩からの報告を待っていた。

そして、『相手はIS』『その数:1』であることが判明し、いよいよ『零落白夜』のIS殺しの真剣を振るうことになったのだと覚悟を決めた。

それと並行して、アリーナ全体の遮断シールドレベルが外部からの不正アクセスによってレベル4に設定されたことが判明し、

これはアリーナのあらゆる障壁や電子錠がロックされた状態となったことを意味しており、簡単に言えばアリーナに居た全員が閉じ込められたわけである。

それ故に、避難したくても誰も彼も避難できない状態となっており、何の罪もない人々がセキュリティの牢獄に閉じ込められ、やられ放題であった。

そのクラッキング行為を中継しているのが、今回の襲撃者である『撃破対象』であることは状況から類推しても明白であった。

だが、不思議なことに通信妨害などはされておらず、こうしてアリーナの管理システムを乗っ取られた状態でも普通に正規のアクセスで情報を引き出せていた。

友矩としてもそれを不可解に思いながらも、競技場に取り残された代表候補生2人のISからの生中継の映像を共有することに成功する。

そして、アリーナの天井まで昇り立つ濃い黒煙とグラウンド地下の基盤が引火して燃え上がる炎の中から異形の影が映しだされた。

――――――否! それは影ではなく実体であり、その姿形は既存のISとは一線を画す意匠であった。

異様に肥大化した巨大な豪腕を持った『黒き巨人』とでも形容すべき機体であり、パイロットの正体を隠すためにフルスキンで顔まで覆っていた。


89  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:25:44.59 ID:M0CqjG740

友矩「…………!」ピピッ

友矩「先程のこの『黒いIS』が最初に放ったと思われる天井の遮断シールドを貫いたエネルギー量は戦略兵器並みです!」

一夏「えと、『戦略兵器並み』か……」

友矩「簡単に言えば、直撃したらISごと蒸発するという即死レベルのものです」カタカタカタ

一夏「?!」

弾「お、おい!? 嘘だよな!? なあ!?」

弾「だって、世界最強の兵器なんだろう、ISって!」

友矩「残念ながら、現にアリーナの天井の強固なバリアーが破壊されています。それが何よりの証拠です」

友矩「それに、ISが世界最強の兵器ならば、相手も同じくISとなればどうなるかはわかりますよね?」

弾「う…………」

弾「お、おい、一夏……?」


一夏「………………」


弾「一夏?」

弾「あ! セシリアちゃんや鈴が危ない!(――――――ああ! 神様!)」ガタッ

友矩「それにしても、あれほどの出力のエネルギー兵器を使いこなせるISとは――――――」

弾「何とかしてくれよ! 何とかなってくれよ!」ウルウル

一夏「…………弾」


90  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:26:21.98 ID:VDZPPCed0

そして、彼らがとにかく慎重かつ確実に“ブレードランナー”としての務めを果たすために、更なる状況把握と敵戦力の分析していると、

驚愕の事実が次々と客観的な情報から明らかになっていき、“ブレードランナー”結成して1ヶ月足らずで大きな壁にぶつかることになった。

黒煙が徐々に晴れていき、『撃破対象』の一方的な攻撃にとにかく逃げ惑う代表候補生2人それぞれの揺れる視界の中で、

『撃破対象』が最初に放った巨大な光がアリーナの大地を撃ち貫いた跡のぼっかりと開けられた地下への大穴が一瞬ながらも一夏には見えた。

基本的にこういったアリーナの地下は更衣室やシャワー室などのアリーナを利用する人たちのための設備で埋まっているのが相場である。

一夏は真剣な面持ちでそんなことを思い出しながら、思っていたよりも地下と地上を分かつ人工の大地が薄っぺらに見えたことに妙な感慨を持った。

しかし、いつまでもこうしているわけにはいかなかった。初期対応が完全に出遅れてしまい、事態は刻一刻と悪い方へと流れていくのだから。

今も共有して見続けているパイロット視点の映像からは、激しく揺れる視界の中でこちらに大迫力で光の奔流が所狭しと押し寄せてくる。

そして、顔こそ見えないものの、消耗しながらも気張る代表候補生2人の息苦しさやそれでも揺らがぬ闘志が伝わってきていた。

この場において自身の役割をまったく活かせない弾としては、実際に“ブレードランナー”として働く一夏やオペレーターである友矩が何も出来ず、

ただ時間が無慈悲に過ぎていく――――――死のカウントダウンが迫っていることに、言いようのない苛立ちを募らせていた。


誰に対して――――――? 何に対して――――――?


それは、世界最強の姉を持つ当代随一の“ISを扱える男性”だが、何も出来ずにただ突っ立っていることしかできてない正義の味方:織斑一夏だろうか?

それとも、“ブレードランナー”織斑一夏の全力を引き出す役割を背負った、そのくせ この土壇場において上策を思いつけない夜支布 友矩か?

はたまた、自分たちのようなこれまでISと無関係に生きてきた一般人を巻き込んでこんな厄介事に巻き込んだ日本政府に対して怒りを抱いているのか?


――――――そうではない。


五反田 弾は理解していた――――――が、やはり焦りからどうしても悪い方へ悪い方へと考えが流れてしまいがちであり、

そんなふうに燻ってしまう 何の力を持たない一般人でありながら偉そうなことを毒づきそうになる自分の心の弱さを恥じ入っていた。

わかってはいるのだ。ここにいる誰もが、そして自分自身も含めて一生懸命だっていうことは。


91  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:27:21.41 ID:M0CqjG740

友矩「“ブレードランナー”。相手は強力どころではない大量殺戮兵器です」

友矩「しかも、鈍重そうな見た目に反して加速性能は極めて高いらしく、迂闊に攻撃を仕掛ければ逆に返り討ちに遭うことでしょう」

弾「どうすんだよ、一夏! こんなの洒落にならねえぞ!」

弾「トレーラーに格納された敵機をトレーラーごと貫いて無力化したり、爆弾解体して爆弾テロを防いだりしてきたけど、今回は本当に危ねえぞ!」


一夏「けど、誰かがやらなくちゃいけないんだ」


弾「一夏…………(俺、今までずっとお前のことが羨ましいとばかり思ってきたけど、――――――立派だぜ、俺なんかより遥かに)」

一夏「教えてくれ、友矩! 俺はどうすればいい? 俺はどこでどう頑張ればみんなを救える!?」

友矩「……前提として、生徒や来賓の方々の避難が最優先事項です」

友矩「そして、レベル4の完全封鎖状態なので、脱出すらできない状態となっています」

友矩「となれば、あれだけの出力のエネルギー砲を人がいる方に向けて撃たせるわけにはいかない」

友矩「代表候補生の2人もそのことを理解して高度をとって戦っている」

弾「…………!」アセタラー

友矩「けど、障壁によって全ての通路を塞がれているから、避難できずに難儀しているのは僕たちとしても同じ――――――」

友矩「対応を誤れば、この部屋ごと僕たちが蒸発することになりかねません」

一夏「くっ」


92  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:28:17.82 ID:VDZPPCed0

客観的な情報を集めれば集めるほど、状況は絶望的だということの理解が深まっていく。

学園から最大戦力として大幅な期待を寄せられている“ブレードランナー”などとんだ笑い草である。

ここで一番に問題だったのは、彼ら“ブレードランナー”がいる位置であり、彼らもまた隔壁によって通路を閉じられ満足に避難ができずにいた。

彼らのいる控え室の付近をあれだけの出力のエネルギー砲で攻撃されたらただではすまないことは明白であるし、

そもそもアリーナの1階部分を広範囲に破壊されたら風通しこそよくなるが、それでその上にある観客席が崩落する恐れがあった。

だからこそ、相手よりも高く高度をとって射角を鈍くしてなるべくアリーナを損壊させないように代表候補生2人が必死に立ち回っているのである。

ならば、『撃破対象』が二人に気を取られて天を仰いでいるうちに突入してしまえばいいように思われたが、

その出入口を無差別・無慈悲に人を閉じ込める牢獄の隔壁で塞がれているので、どうやっても突破するのに手間取ってしまい、どうやっても気づかれてしまう。。

となれば、容易に最悪の事態が引き起こされてしまい、ここまで時間稼ぎをしてくれている代表候補生2人の努力を無に帰すことになってしまう。

これがもしピットから出ることになれば最初から高度も十分であり、ある程度の空間も確保されていたのでさっさと退治に行けた。

だがしかし、そういう発想は秘密警備隊“ブレードランナー”にはなく、人目を避けて活動する秘密主義だったからこそ今の状況へと完全に裏目に出たのである。

あれもダメ、これもダメ――――――、いろいろなしがらみに囚われて思うように動けなくなっていたのだ。

そもそも、秘密警備隊“ブレードランナー”は秘密裏に敵を排除することだけが仕事なので、こうした防衛任務は極めて不得手であった。

今回の采配というのは“ブレードランナー”の作戦能力や得手不得手を無視して実よりも名を重視した明らかな配置ミスであった。

“ブレードランナー”は縛られてはいけないのである。いつでも鞘から刀を抜いて斬り伏せることができるようにしなければ真価を発揮できないのである。

今の“ブレードランナー”は得物である刀を鞘から抜くことができないぐらい雁字搦めに縛られており、とても戦える状態ではなかった。

だいたいにして、“ブレードランナー”の唯一の戦力である織斑一夏の専用機『白式』は一撃必殺の剣しか扱えないがために、

唯一最大最強の取り柄であるそれを十全に活かせる状況を造り出す努力が求められていたのに、対応を見誤った結果、何とも情けない状況に追い込まれていた。

そして、“ブレードランナー”は織斑一夏一人では決して成り立たず、夜支布友矩、五反田 弾らの協力があって初めて力を発揮する。

それ故に、単身ならばある程度の無茶を冒してでも飛び出していけるが、飛び出たところを砲撃されたら隔壁に阻まれている二人は逃げようがない。

隔壁を破壊して二人を先に逃すという考えもあったのだが、それをやると『どこどこの隔壁が破壊された』という情報がアリーナのメインシステムに報告され、

今のところ アリーナのセキュリティを乗っ取っているだけに過ぎなくとも、相手はそれぐらいのことを朝飯前でやってのける凄腕クラッカーなのは確実で、

まず間違いなく アリーナ全体の監視カメラの映像なども絶対に覗いており、すぐにこちらの存在が察知されてしまうことだろう。

そうなってしまったら、中で暴れまわっている『黒いIS』を確実に撃破するための奇襲の成功確率が著しく低下してしまう。


93  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:28:59.78 ID:M0CqjG740


雁字搦めの“ブレードランナー”のまとめ
1,居る場所がまずい。1階部分でしかも競技場出入口のすぐ近くなので戦略級レーザーが飛んできたら一夏は助かっても二人が消し炭になる
→更には、飛び出た『白式』の上昇が速く、敵機の攻撃までのラグが大きくないと、上昇している時に観客席に攻撃が直撃する危険性がある
→素直にピットや管制室に控えていれば観客席よりも高度はあったので躊躇いなく出撃可能だった

2,秘密警備隊“ブレードランナー”としての秘密主義と任務の完全遂行を重視する姿勢から慎重になりがち
→日本政府からの意向で無理難題を押し付けられた弊害。そんなに秘密にしたいなら最初から活動させるべきではない
→また、“ブリュンヒルデ”織斑千冬を演じる必要もあり、無駄にハードルを上げている

3,“ブレードランナー”の唯一の戦力『白式』は撃破対象を排除するためだけの性能しかないので、防衛任務は極めて不向き
→2の項と合わせて出入口近くに詰めていたわけだが、それがかえって現在の雁字搦めの状況に追い込む結果になった
→『白式』の単一仕様能力『零落白夜』の一撃必殺の存在が難局を更に難局に押し上げており、ハイリスクハイリターンの博打が戦術の基本になってすらいる

4,『撃破対象』の予想外の火力と性能
→アリーナの遮断シールドを正面から破壊する大出力兵器など確認されてなかったので、こればかりはさすがに想定外であった
→また、専用機持ちの代表候補生2人を相手に圧倒するとてつもない性能と技量を持っており、迂闊に加勢するのも危険であった


結論:秘密警備隊“ブレードランナー”としての秘密主義さえ無ければ初期対応の遅れもなく、ここまで対応に難儀しなかった
→そもそも唯一の戦力である『白式』の単一仕様能力『零落白夜』の一撃必殺の存在もまたハイリスクハイリターンの博打を招いた
→だからこそ、少しでも博打が成功するように隠密活動をメインにしてきたのに、それに反する作戦内容のために大苦戦



94  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:30:12.51 ID:VDZPPCed0

友矩「消耗しているとはいえ、代表候補生2人相手に単機であそこまで有利に戦いを進めていることを踏まえても、」

友矩「圧倒的な機体性能もさることながら、パイロットのほうも相当頭がいい」

友矩「おそらくこのままノコノコ飛び出していっても、十中八九 返り討ち――――――」

弾「け、けどよ! あの『黒いの』の武器は両手や両肩のビーム砲だけなんだろう? 一夏が加勢して三方から攻めりゃどうにかなるんじゃねえの?」

友矩「そうかな? あのISに乗っているのがどの程度のパイロットかはまだわかりませんけど、」

友矩「本当に頭がいいパイロットだったとしたら、むしろ一夏が加勢したほうが被害が増えるかもしれない」

弾「え」

友矩「まず、ISはシールドバリアーによって一撃死があり得ないことが常識だけど、今回の敵はその常識を上回る」

友矩「となれば、戦略級レーザーで丁寧に1機1機じっくりと狙いを定めて攻撃するやり方に切り替えたほうが確実に対象を始末できるようになる――――――」

弾「いや、むしろそれこそ味方が多いほうが有利になるんじゃ――――――」

友矩「ISバトルという個人競技のスポーツ選手を集団戦の戦力に数えちゃいけない!」

弾「!?」

一夏「どういうことだ?」

友矩「そのままの意味ですよ」

友矩「さっきまで互いの誇りを賭けて戦っていた二人が一緒に戦うのならまだ信用できます。実質的に1対1対1の三つ巴の戦いが続きますから」

友矩「けれど、味方が増えるということは今の消耗しきった彼女たちからすれば、」

友矩「これまで張り詰めていた緊張感が一気に解かれてしまい、注意力散漫になって不慮の直撃で即死する可能性が飛躍的に高まるはずなのです」

友矩「特に、一夏」

一夏「…………?」

友矩「“ブレードランナー”とは“ブリュンヒルデ”織斑千冬のことだよね?」

一夏「……あ! そうか」

弾「ああ……、そりゃ確かに世界最強のIS乗りが駆けつけてくれたらホッと一息つきたくもなるよな……」

95  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:30:47.57 ID:M0CqjG740

一夏「それじゃ、俺はどうすれば――――――」

友矩「なるべく気付かれずに近寄って、イグニッションブーストを使って急接近して『零落白夜』で一撃必殺する!」

友矩「おそらく、いくら『黒いやつ』の全速力の緊急回避でも『白式』の加速力には敵わないはず」

弾「けど! あっちこっちで隔壁が降りてあまり動けないのの、どうやってアリーナに進入するんだよ! その前提が――――――」

友矩「それは…………」

一夏「なあ、友矩」

友矩「?」

一夏「俺さ、思ったんだけど――――――、」


――――――“人を活かす剣”って1つのことに囚われない無想の剣のことだよな?


友矩「――――――『概ねそれで合っている』とだけ答えてみる」

一夏「なら、俺 うまいやり方を思いついたぜ」ニヤリ

弾「本当か、一夏!」

一夏「俺もイギリス代表候補生:セシリア・オルコットがやってみたように、」

一夏「俺も一度落ちてみて這い上がってみるさ」

友矩「…………どういうことです?(それは『高度をとって相手の下を潜り抜ける』ということか? しかしそれは――――――)」

一夏「確認するけど、“ブレードランナー”に求められているのは速やかなる脅威の排除なんだよな?」

友矩「はい。迅速に脅威を取り除き 早期解決させることによって、結果としてよりよく収まることを目的としています」

一夏「よし。だったら、もう拘る必要はない」


――――――人の命を救うこと以上に尊いものなんてないんだから。


弾「おお!」

一夏「それに、いつまでも女の子二人だけに任せてウジウジと二の足を踏んでいるのも、――――――『男が廃る』ってね!」フフッ

一夏「助けに行くぞ、今――――――!」ジャキ

弾「え? ちょっと待って――――――!(どうしてこの部屋の中で雪片弐型を構えるんだ!?)」

友矩「まさか、一夏がやろうとしているのは――――――(――――――そうか! その手があったか!)」


ズバッズバッ! ドゴーン!



96  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:31:29.09 ID:M0CqjG740



セシリア「くっ…………」ゼエゼエ

鈴「まだ生きてるわよね、あんた…………」ゼエゼエ

セシリア「と、当然ですわ……」ゼエゼエ

鈴「それで、先に落ちた方が“負け犬”ってことよね……」ゼエゼエ

セシリア「ええ……、そうですとも……」ニコニコー

鈴「格の違いってやつを見せてやるわ……!」ニヤリ

セシリア「ええ!」

鈴「行っくわよー!」


ヒュウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウン!


謎のIS「――――――!」

鈴「くっ!(――――――相変わらずの弾幕と威力! こっちの射程を完全に上回っていてそれでいて容易に近づけさせない!)」アセタラー

セシリア「…………エネルギーがもう残り少ない(精密射撃においてはこちらが勝っているにしても、威力と射程が断然あちらが上ですわ!)」アセタラー


クラス対抗戦初戦において乱入してきた謎のIS『ゴーレム?T』は筋骨隆々の逞しいと禍々しさを持ったフォルムをしており、『黒い巨人』の印象であった。

武器は腕部の大出力兵器と肩部の拡散兵器であり、厄介なことにこの場で必死に時間稼ぎをしている二人の代表候補生の機体よりも遥かに強い機体であった。

なにせ、威力も射程も手数も、搭載されている武器性能は完全に『ブルー・ティアーズ』や『甲龍』の上位互換に位置する兵装なのだから。

精密射撃性を無視すれば腕部の大出力エネルギー砲は『ブルー・ティアーズ』の大型ライフル『スターライト』の射程も威力も完全に凌駕している。

ISにおいては一撃必殺というものがごく一部の例外を除いて存在しない以上、手数や威力に乏しい狙撃機は弱い部類の機体でしかない。

一方で、肩部の拡散エネルギー砲は迎撃兵器としての精密さや範囲においては『甲龍』の『龍咆』に劣るが、威力と連射力が段違いであり、

機体そのものの重量と高い防御力による安定性によって接近戦においては必殺の迎撃兵器となっていた。

無論、破格の高出力ゆえに射程も威力も『龍咆』のそれを遥かに上回っているので、通常兵器として問題なく扱えるぐらいである。

よって、接近戦戦主体の『甲龍』は『ゴーレム?T』の肩部拡散砲の前では近寄ることすら難しく、攻撃を回避するために距離を取らざるを得ない。

すると、『甲龍』の射程外へと自ら退かせてしまうので鈴には『ゴーレム?T』にダメージを与えることすらできないのだ。

もちろん、ISにおける戦闘はアリーナを所狭しと飛び回って状況が瞬時に移り変わっていく高速戦闘なのでダメージを与える機会がなかったわけではない。

しかし、基本的な攻撃力と防御力の差は圧倒的であり、更には加速性能も『甲龍』を上回っているので危うく返り討ちに遭うところであった。

それ故に、鈴は迂闊に攻撃することができなくなり、後衛となったセシリアからの援護攻撃に期待したいところではあったものの、

元々 二人は本気で試合をしていた真っ最中だったので消耗が激しく、特にセシリアの『ブルー・ティアーズ』はエネルギー切れ間近であった。

となれば、二人にはもう『ゴーレム?T』を攻略する手立てはなく、ただそのことを認めないために攻撃回数を絞って騙し騙し時間を稼ぐ他なかったのだ。

しかし、それは終着点の見えないマラソンであり、あとどれくらい粘ればいいのかもわからないことから、疲労と共に徐々に高潔な精神は淀んでいった。

97  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:32:32.01 ID:VDZPPCed0

セシリア「…………ああ」ゼエゼエ

セシリア「(あとどれくらい待てばよろしいのでしょうか? これ以上はもう、エネルギーが持ちませんわ…………)」プルプル

セシリア「(楽に、なりたい――――――)」ボケー

セシリア「」ピィピィピィ

ゴーレム?T「――――――!」

鈴「そっち行ったわ――――――、」


鈴「――――――って、ちょっと、あんたあああ!?」


セシリア「ハッ」ピィピィピィ

セシリア「なっ!?(あ、あああああああああ!?)」ピィピィピィ

セシリア「くっ(ああ……、全速回避――――――!)」ヒュウウウウウウウウウウン!

セシリア「きゃああああああああ!」ボゴーン!

鈴「この馬鹿あああああああああああああああ!」ヒュウウウウウウウウウウン!

ゴーレム?T「――――――」

セシリア「ハッ」

鈴「もう! しっかりしなさいよね!」ガシッ

セシリア「あ…………」ピィピィピィ

鈴「あ」ピィピィピィ

ゴーレム?T「――――――!」ジャキ


そして、終わりが近づいた。

疲労の蓄積によって無意識にだが徐々に弱気になっていったセシリアの意識は現実世界から薄れていき、完全に棒立ち状態となっていた。

そこを見逃さなかった『ゴーレム?T』の容赦無い一撃が向けられた。当然ながら反応は完全に遅れていた。

鈴はセシリアの反応が遅れていたことに気づいて、思わずセシリアの方へと機体を飛ばすのであった。

セシリアの『ブルー・ティアーズ』は本体への直撃こそ避けられたものの、本当に機体すれすれを光の奔流が掠めていき、

『ブルー・ティアーズ』のスラスターを兼ねていた同名の第3世代兵器『ブルー・ティアーズ』の半分を一瞬で跡形もなく消滅させるのであった。

ISの装備はシールドバリアーによる剛体化によって破壊されることがあり得ないために、装備を消滅させられた場合のことは考慮に入れられてなかった。

それ故に、スラスターを兼ねる『ブルー・ティアーズ』を失ったことによって姿勢制御が不安定となり、セシリアは墜落するのであった。

もちろんスラスターはあくまでも加速器であり、ISが宙を浮いているのはPICによるものなのでコントロールを回復すれば姿勢制御を安定させることは可能である。

しかし、想定されていなかった装備の破壊と消耗しきって淀んだセシリアの今の精神状態ではとてもじゃないが墜落は免れないものであった。

そこを一時的に共同戦線を張っていた鈴が落下するセシリアを受け止めるのであったが、その隙を見逃す敵対者はいるはずがなかった。

そして、耳障りに鳴り響くアラート、こちらに向けられた両腕の大出力エネルギー砲を目の当たりにして、二人は死を覚悟するのであった。

98  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:33:18.79 ID:M0CqjG740

――――――
山田「オルコットさん! 凰さん!」ガタッ

千冬「くぅ…………」ギリギリ

千冬「!」

千冬「山田先生! あの『黒いやつ』の足元――――――!」

山田「へ!?」
――――――


だがその時、――――――大地が裂けた!


誇張表現でも無ければ、極度の緊張状態と生命の危機が招いた幻覚でも無い。それは管制室でモニターしていた教員たちにもはっきり見えいていたのだから。

アリーナのグラウンドを淡い光が地を這う稲光のように『ゴーレム?T』の足元を走ったかと思うと、

なんと、『ゴーレム?T』の足元が大きく崩壊し、『ゴーレム?T』の巨体は崩れ落ちるグラウンドと共に落ちていったのだ。


セシリア「え、ええ…………?」

鈴「な、何が起きたのよ……」



――――――スパーン!



――――――
少年「………………!」ピクッ

少女「?」

少女「どうした、朱華?」

少年「………………」ダッ!

少女「な、何をしている!? 自分から災いの近くに行くやつがあるか!」

少年「………………!」

女子「“アヤヤ”、耳を宛てて隔壁の向こうの様子を聞き出そうとしてるのかなー?」

女子「でも 隔壁って、あれだけ分厚いんだよ? 耳を当てて中の様子なんて聞こえるもんかな?」

少女「いいかげんにしろ、朱華! いいから来るんだ!」グイッ

少年「終わった」

少女「は? 今度は何だ?」

少年「全て解決したみたい」

少女「へ?」
――――――

99  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:34:28.79 ID:VDZPPCed0

そしてしばらくして、いったい何が起きたのかがわからず、何をしていればいいのかもわからず、ただ沈黙の時が流れると、

先程と同じように地を這う稲光が今度は小さな円を刻み、次の瞬間 グラウンドに円い穴を開けて勢い良く何かが飛び出してきた。

それは――――――、


ヒュウウウウウウウウウウン!


セシリア「あ、あなたはいったい……?」

鈴「見覚えがある姿だけど…………」


千冬?「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

千冬?「厄介事はこれっきりにして欲しいものだ」(左手を忙しなく震わせている)

千冬?「後のことは鎮圧部隊に任せる」


セシリア「その声! もしや――――――」

姿「ち、千冬さん!?(あれ? 何かそれにしては――――――)」


千冬?「ではな。今日の試合は全学年中止だ。鎮圧部隊と合流次第、お前たちも休んでいいぞ」


ヒュウウウウウウウウン!


セシリア「お、織斑先生にあのような専用機が与えられていただなんて、初耳でしたわ」

鈴「わ、私も……(でも、どこか違和感を憶えたのよね…………『どこが』とは言えないんだけど)」



ヒュウウウウウウウウウウン!

千冬?「任務完了、第1ピットに入る」

――――――
千冬「了解だ。よくやってくれた――――――」

千冬「と言いたいところだが、――――――よくも派手にやってくれたな、馬鹿者め」

千冬「これで第1アリーナは封鎖だな」

千冬「明日からの私の評判がどうなることか――――――」

千冬「…………だが、本当によくやってくれた。早く私の下に来て見せてくれ」フフッ


――――――その素顔を、“ブレードランナー”。



100  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:35:39.23 ID:M0CqjG740

――――――その後


一夏「やっべえ……、やり過ぎた」

弾「俺も目の前で起きた出来事がこの世の出来事か――――――、ホント 目を疑ったよ」

友矩「最優先事項は果たしたのです。文句を言われる筋合いはないです」

弾「まさか、あの状況を打開する秘策っていうのが――――――、」


――――――土竜作戦の超ゴリ押しだったんだなもんな。


査察官「ああ まったくだ」

査察官「宛てがわれた控え室に雪片弐型を以ってアリーナ地下への穴を開き、」

査察官「そこからアリーナ地下を駆け抜けて、隔壁じゃないところをぶち破って、『撃破対象』の足元まで無理矢理行ったのだからな」

査察官「後は、地上で戦っている2機からの情報と照合して『撃破対象』の位置を割り出して、大雑把に足元から奇襲をしかけたというわけだ」

友矩「良い作戦だったと思いますよ。結果として犠牲者はゼロで“ブレードランナー”の秘密も守り通せたのですから」

査察官「いろいろな制約が課されていた中でよくやってくれた」

査察官「が、それにしたって、何も知らない人間からすれば『織斑千冬が混乱に乗じて暴れまわった』としか思えないぐらいの破壊活動の跡なんだが…………」

友矩「あれがあの時のベストだったんです」

友矩「もしこの結果に不満を持つのならば、この報告書を読んで“ブレードランナー”の秘密主義を改善したほうが今後のためとなりますよ」

友矩「今回の一件は秘密主義を貫き通そうとした結果、初期対応が遅れて無用な損害が出たのですから」

査察官「ああ……、お偉方にはよくよく聞かせておくよ」

査察官「しかし、そもそもきみたち“ブレードランナー”の活動は秘密主義をモットーにしていながら、どうしてこんな破壊活動が付き物なのか…………」ハア

査察官「今回のアリーナの大破壊が特に酷かったが、それ以前の――――――、」

査察官「自分たちが乗っているトレーラーごと敵ISを串刺しにして専用トレーラーに穴を開けたり、」

査察官「爆弾解体のために冷凍本マグロの中に爆弾を埋め込んだり――――――」

友矩「ベストを尽くした結果です」

友矩「それにご不満があるのなら、それぞれのミッション毎に被害総額の許容範囲を提示してください」

友矩「こちらとしては『撃破対象』を丸一日野放しにした場合の被害を想定して、迅速に鎮圧するように行動を組み立てているので」

査察官「つまり、今回の第1アリーナの破壊活動も許容範囲に収まっているというのだな?」

友矩「当然です。あのまま『例の無人機』を野放しにしていたら、世界最新鋭の第3世代機2機と代表候補生の尊い生命が失われるばかりじゃなく、」

友矩「場合によっては、1日でIS学園を壊滅させるほどの戦略兵器を搭載していたのです」

友矩「そのことを思えば、犠牲者ゼロでアリーナ1つだけの損害ですんだだけありがたいことじゃありませんか」

友矩「他にも、あれだけのクラッキングを受けていながら、特にデジタル上での損害も見受けられませんでしたし」

査察官「……わかった。その意見はもっともだな。何とかしてみよう」

査察官「ではな。ご苦労だった、“ブレードランナー”の諸君。きみたちの司令によろしく」

友矩「はい」

一夏「お疲れ様でした」

弾「ああ 終わった……」ホッ

101  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:37:05.43 ID:M0CqjG740

友矩「さ、今日はお疲れ様でした」

一夏「お疲れ!」

弾「うんうん。大変な一日だったな……」

一夏「そうだな。クラス対抗戦は中止だもんな」

弾「いや、他にもいろいろあったろ?」

弾「人類の半分以上が訪れることがない地上の楽園に初めて訪れたりとか、」

弾「千冬さんの意外な一面を拝めたりとか、」

弾「一夏がついに女装デビューしたりとか、」

弾「一夏がこれまで以上の類を見ない破壊活動に勤しんだりとか、」

弾「とかとか」

一夏「あははは…………」

友矩「楽しいこと、苦しかったことが半々といったところ?」

弾「……そうだな。そんな感じだよ」

弾「そしてだな?」

一夏「?」

弾「俺、お前のことを見直したっていうか、その……、惚れたっていうか――――――」

一夏「は?」

弾「あ、いや!? そうじゃなくて――――――!」ドキッ


――――――初めて尊敬したよ。


一夏「どういう意味だ?」

弾「いや、今日という今日は本当に命を張って頑張ってくれた代表候補生たちだけじゃなく、俺たちも最悪の場合は命を落とす可能性があったろ?」

弾「俺、“ブレードランナー”の中じゃ運び屋の役割じゃん? やることがなくてさ――――――」

友矩「………………」

弾「だから、こんな時になって一夏のひたむきな態度というものを理解できたというかな……」

一夏「???」

弾「えと、だから、――――――昔、お前がきまじめに思っていたことや取り組んでいたことを散々からかったりしたろ?」

弾「その時は俺も馬鹿だったから、どれだけ一夏が真摯に取り組んでいたかなんて信じる気がなかったんだ」

弾「けど、今日みたいにたくさんの人の生命の危機に際して、臆することなく堂々とみんなのことを助けようと意気込んでたじゃん」

弾「“ブレードランナー”っていう役職や大義名分を得たからサマになっていたところもあるのかもしれないけど、」

弾「あの時のお前は俺には“本物のヒーロー”のように見えた。本当に『人類の平和と自由のために戦う愛の戦士』って感じでさ」

弾「だから、俺のようなチャランポランとは全然違うってことを、今日 俺は気づいてさ」


弾「だから、俺はお前に尊敬――――――心の底から尊敬してるんだ、一夏」



102  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:37:48.99 ID:VDZPPCed0

一夏「………………」

弾「………………」

一夏「別に、俺はそこまで高尚な人間だと思ってはないんだけどな」

弾「そこがお前の凄いところなんだよ、一夏」

一夏「え?」

弾「俺がおだててやったって、褒めてやったって、それを真に受けて調子に乗ることが全然ないじゃん」

弾「俺はローディーの仕事やってて、いろんなミュージシャンやマネージャーとか見てきたけどさ?」

弾「一流の人間ほど、腰が低いっていうか謙虚なもんなんだよ」

弾「だから、俺が保証してやる! ――――――『一夏は一流の精神の持ち主だ』って!」

一夏「………………」

一夏「ありがとう、弾。よくわかんねえけど弾の信頼を裏切らないようにこれからも精進していくさ」

弾「ああ! 頑張れ、一夏!」

友矩「これで“ブレードランナー”の結束は揺るぎないものとなったわけだ」

弾「おうとも!」

友矩「さて、我々は次なる指令として『翌日、学園島にある秘密基地で待機』というわけだけど、」

友矩「今日はパーッと焼き肉を食べに行こう! 手当としてもらった3万円で良い肉を食べて活力をつけるぞー!」

「おおおおおお!」」


こうして秘密警備隊“ブレードランナー”の活躍によって1つの事件が解決した。それはかつてない大事件であった。

しかし、これからも魔の手は平和な日々を侵しに伸ばされてくるだろう。今日のような事件がいつまた起きるかもしれない。

そのことを改めて認識し、“ブレードランナー”織斑一夏は関わる人全てを守り抜く決意を固めるのであった。

戦え、織斑一夏! 戦え、“ブレードランナー”! 人々の明日のために『零落白夜』の光の剣と共に――――――!



103  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:38:41.93 ID:VDZPPCed0

登場人物概要 第2話B

織斑一夏(23)
専用機:第3世代型IS『白式』
ランク:B 
 格闘:S 射撃:D
 回避:A 防御:D
 反応:A 機転:A
 練度:B-幸運:S

社会人に至るまでに数多の婦女子の心を掴んで離さず毒牙にかけてきており、とてつもなく罪作りな男である。
人間離れしたスケコマシの才を持つ一夏が社会人になったらもっと酷いことになるだろうということは、読者も想像つくことだろう。
今作では、織斑千冬と同じ時間を共有してきた弟というだけあって、女尊男卑の風潮など関係なしに磨かれた才知がすでに備われており、
数々のスケコマシとしての武器を使って老若問わず数多くの婦人たちを落としていく。
それ故に、巷では姉である千冬以上の有名人“童帝”であり、神と崇められ、悪魔と罵られるだけのスケコマシ伝説を残している。
その一見すると悪名高い風聞だけを聞けば相当な女誑しなのだと思われるが、本人は極めて素朴で淡白であり、色男ではなく優男である。

「ケータイのメモリが電話帳だけで全てを使う(アドレス交換した婦女子の数は数知れず)」
「日替わりで女を替えていってヒモとして満足に生きていける男(その気にさせられている婦女子も数知れず)」
「女をおとす三種の神器を持つ男(家事・奉仕力・ルックスを完備。おまけに“ブリュンヒルデの弟”なだけありガチで強い)」

今作 3人いる主人公の中では、タイトルキャラなのに裏主人公として活動しているが、
いつも通りに一夏の些細なミスから1つの物語へと合流していくことになる。
役割上 裏方にしか回れないはずの存在が表立って存在するということは――――――。
今のところ、表の主人公格である朱華雪村とは公的な接触はない。

ちなみに、姉の千冬よりも学歴は高く、有名私立大学のK大卒であり、学力自体は極めて高い。
また、大学を通じて爆発的に人脈が拡がっており、割りと彼が泣きつけば聞き入れてくれる人間が多いので馬鹿にならない強みとなっている。
なので、特に彼の人間性が問題となってくる場面以外では無類の強さを誇っており、別な意味で『世界最強』にふさわしいものを取り揃えている。
・織斑千冬に一歩劣るものの、卓越した身体能力
・K大卒のエリート
・圧倒的な人脈を誇る“童帝”
・人を活かす剣
・専用IS『白式』と単一仕様能力『零落白夜』
・彼に付き従い、陰となって支えるパートナー:夜支布 友矩

秘密警備隊“ブレードランナー”というのは具体的には彼あるいは専用機『白式』のことをまとめて指したコードネームであり、
“聖火ランナー”と同じように“専用機『白式』との単一仕様能力『零落白夜』の一撃必殺の光の剣をもたらす者”としての活躍を期待されている。
ISを全展開させて堂々と空中戦をやるようなことはほとんどなく、だいたいは暗殺に近い形で敵IS戦力の無力化を行うので『ランナー(奔走する者)』であっている。
ただし、彼もまた“ISを扱える男性”ではあるが、IS学園にいる“世界で唯一ISを扱える”朱華雪村を囮にして暗躍する存在故に、
彼の機体やISスーツは彼の姉である織斑千冬を想起させるような女性的なボディラインや装飾が施され、顔を隠すための仮面も用意されており、
IS学園にいる朱華雪村以外の“ISを扱える男性”の存在の秘匿も任務のうちだからこうなったとはいえ、織斑千冬になりきることには否定的である。
一方で、女装そのもの(偽 などの女性的膨らみを仕込んだISスーツ)には特に不快感は示してない模様(そこのところは任務と割り切っている)。

非正規戦における特殊戦闘の訓練しか受けていないので練度が高いようで実際は中途半端で、搭乗時間も未だに1年未満なのでIS戦闘は実はあまり得意じゃない。
本人の能力そのものは極めて高く、完成された大人(23)というだけのことはあり、呑み込みも早いのでこれから大きく化けることになる。

104  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:39:20.93 ID:M0CqjG740

夜支布 友矩
世界広しでいずれ現れるだろう織斑一夏(23)の同性のベストパートナー。
K大時代からの付き合いであるが、相性は最高であり、互いに足りないものを補える関係となっている。
彼そのものもK大のエリートなだけあってスペックは高く、本業であるシステムエンジニアだけじゃなくオペレーターやハッカーとしての技術も持つ。
それだけに、政府直属の秘密警備隊“ブレードランナー”にスカウトされるだけの力量はあり、一夏とは一蓮托生であることと腹を決めている。
穏やかではあるが、功名心や野心もあって一夏の近くに居続けているところもあり、ある意味においては彼が一番に一夏を利用しておこぼれをもらっている。

秘密警備隊“ブレードランナー”においてはオペレーターを担当し、司令部からの指令の受領や作戦の解析・立案なども担当している。
特に、作戦領域への進入・脱出を秘密裏に行うのは秘密警備隊として極秘任務に就く彼らにとっては最重要事項であり、
彼の存在こそが“ブレードランナー”のブレインとなっている。
“ブレードランナー”の側でいて導く彼もまた随伴者としての意味で“ブレードランナー”なわけである。


五反田 弾
普段はローディーとして運送業に勤しんでおり、ローディーの仕事柄 流行や情報に敏感であり、世事や流行に疎い一夏や友矩にその手の類の情報を提供している。
チャラい印象はあるが、中学時代からの悪友というだけあって一夏との絆は深く、かなり義理堅い性格である。
これまでは織斑一夏に対しては憧れや羨望、嫉妬などを持ってはいたが、命のやりとりする場面において毅然と純真であり続ける一夏の人柄を真に理解し、
同い年だが素直に尊敬の念を抱くようになり、より一層の尽力を誓うようになる。

あまり秘密警備隊“ブレードランナー”の作戦活動には貢献していないような印象はあるが、
彼の職業であるローディー同様に主役や裏方が現場で仕事ができるように手配するのが彼の役割であり、
主役と裏方の二人を『秘密裏に現地入りさせる』という重要な役割を見事に遂行している信頼できる逸材である。
“ブレードランナー”専用トレーラーやその他様々な車種を乗りこなせる敏腕ドライバーでもある。
彼のチャラい性格によって周囲を和ませ、それでいて『裏切ることが絶対にない』という絶妙な神経の持ち主なので信頼に値するわけである。
“ブレードランナー”=織斑一夏を運び入れる彼もまた“ブレードランナー”のアキレス腱である。


織斑千冬
高校時代にはプロISドライバーとして収入を得ており、その一方で最初からIS操縦の第一人者としてIS学園の教師になるための教育も進められており、
第2回『モンド・グロッソ』の後はドイツ軍でIS技術の指導をしている傍ら、ドイツの大学で短期留学して単位もとっている。
とにかくIS学園の名物教師として据えるために、政府からの指導でいろいろとあの手この手を尽くして教員を務めていた。

※IS学園は特殊国立高等学校なので、高等学校教員の免許を得ないと教師にはなれない。


105  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:40:18.90 ID:M0CqjG740

第3世代型IS『白式』
専属:織斑一夏
攻撃力:S 『零落白夜』による一撃必殺
防御力:B 装甲自体は他のISに比べれば多い
機動力:A 競技用の機体としては現行トップクラスの機動力
 継戦:E-剣1つしか使えない
 射程:E 辛うじて太刀の長さや機動力の高さで補っている
 燃費:E 『零落白夜』もそうだがスラスターの出力の高さもあって燃費最悪

いつも通り『第3世代型ISのくせに後付装備ができない』という欠陥機なので運用に難儀することになるが、今回は特殊作戦仕様機へと生まれ変わっていく。
本作においては『白式』の技術史的な立ち位置に設定が加えられており、“ブレードランナー”における機体コードが『G3』となっている。
これは単純に『白式』が日本における第3世代型ISの第1号であることに由来しており、『GENERATION-3』の略称である。
また、これによって『白式』が相当な骨董品であることにも納得がいくようになっているはずである(それでも第3世代への突入はここ1,2年のことだが)。
日本におけるIS開発は伝統的に最初のISである『暮桜』を『G1』とし、これを改良した日本で最初の第2世代型IS『G2』も存在している。
『白式』はその系譜を受け継いた接近格闘機であり、正しい意味で『暮桜』の後継機の後継機となっている。
しかし、イメージ・インターフェイスを利用した第3世代兵器を搭載することが第3世代型ISの条件であるために、
『接近格闘機にそんなものを積んだら戦いに集中できないだろう』という見識と世代最初の1機目は接近格闘機にするという妙な伝統から、
開発設計の担当者はあえて第3世代型の定義に逆らう機体設計を試みた。

すなわち、第3世代兵器とは単一仕様能力以外のISの特殊能力を利用した摩訶不思議兵器のことであるが、
『白式』には第3世代兵器においては避けられた単一仕様能力の安定した発現を試みたというあまりにも野心的過ぎるものであった。
第1形態であらかじめ決めておいた単一仕様能力を決まって発現できる機体を目指されたのがこの『白式』というわけである。

しかし、結果としてはあまりにも挑戦的すぎたために実現は叶わず、欠陥機として開発は凍結されることとなった。
それから時は流れて、織斑一夏の搭乗機として再調整を受け、実現されなかったはずの第1形態での単一仕様能力の発現を成功させ裏世界で注目されている。


106  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:41:52.20 ID:M0CqjG740
・近接ブレード『雪片弐型』 単一仕様能力『零落白夜』
織斑一夏にとっては非常に馴染みがあるIS用の太刀であり、なぜなら彼の姉である織斑千冬の現役時代の専用機『暮桜』唯一の得物が『雪片』だったからである。
基本的に『白式』の武器はこれしかなく、それ故に実質的に第1世代型IS程度の欠陥機である。
この『雪片弐型』1つで『白式』の拡張領域を全て使っていることがそもそもの原因なのだが、これはそもそも仕様である。
だが不思議なことに、汎用性の欠片もない拡張領域を無駄に埋めている『雪片弐型』の解除を『白式』のほうが拒否しており、そのために放置されることになった。
一夏のみならず、『白式』のほうも『雪片弐型』には強烈な愛着を持っているということなのであろう。

単一仕様能力『零落白夜』は、『白式』にあらかじめ設定されていた単一仕様能力であり、そのために『雪片』の後継作である『雪片弐型』が搭載されている。
明確な根拠があって『零落白夜』を狙って発現させようとしたものではないが、『雪片弐型』を持たせて『暮桜』のデータを学習させればできるのではないかという、
かなり非科学的なやり方で追究されていたのだから、失敗して当然かもしれない。

とにもかくも『零落白夜』はシールド貫通攻撃による一撃必殺が最大の特徴であり、『白式』の全てであり、空前絶後のバランスブレイカーである。
この存在によって「初期化」もできず、ズルズルと『白式』は存在し続けることになるのだが、『零落白夜』発動時の燃費は最悪である。
しかし、これはエネルギーブレード全般に言える傾向であり、むしろ実体ブレードとの切替ができると考えればプラズマブレードよりも優れていることになる。
“ブレードランナー”として暗躍する一夏にすれば一瞬で仕事が終わるので燃費の悪さは気にならない。

・ISスーツ 織斑千冬擬態スーツ
“ブレードランナー”=“ブリュンヒルデ”織斑千冬という構図を作って世間の目を欺き、
“世界で唯一ISを扱える男性”朱華雪村以外の“ISを扱える男性”織斑一夏の存在を隠蔽するために利用されている。
その発想自体が二律背反の欲張りであり、『織斑一夏の力を利用したいけど正体をバラすことがないようにしたい』という無茶を形どったものである。

首から下まで一体化したワンピースのフルスキンISスーツであり、キュウキュウなピッチリスーツなので着る方としてはかなり辛い。ファウルカップ付き。
また、織斑千冬の体型に見せつけるために胸や尻、肩などに膨らみを持たせてあり、織斑千冬の美貌(首から下まで)を完全再現している。
ただし、織斑姉弟の身長差が12cmもあるために、その大きな差を誤魔化すために、
『白式』の脚部パーツを普通よりも深めに足を突っ込ませており、逆シークレットブーツにすることで身長差の問題をある程度解決している
織斑千冬も協力者なのでサイズ違いのこれを持っている。

最後に、仮面――――――というより多機能バイザーで顔を覆っており、肉眼で見るよりもたくさんの情報を瞬時に集めることができる。
しかし、この仮面もいろいろとあれであり、織斑千冬に擬態するので彼女の頬部まで擬態するマスクやヅラももれなくついてくるのであった。
それ故に、仮面から覗かせている頬や唇、髪型も完璧なまでに擬態している。リップクリームもしっかりと彼女が使っているものが使われている。

ちなみに、男にはない豊満に膨らんだ部分にはいろいろな仕掛けが施されており、
ヅラの中には特殊作戦に利用するような針金などの小道具が仕込まれており、何だかモデルの人が誤解されそうなことこの上ない。
いや、便利といえば便利なのだが、それを着せられている実の弟としてはかなり複雑な気分が燻っている。

                       イコライザ
・外付装備(=アナログ後付装備群←→デジタル後付装備群:後付装備のこと)
今作の特殊作戦が主となる『白式』の特徴的な装備であり、量子化していない 直接身体で携行して使う生身の人間が使うような装備群の総称である。
基本的には直接的な戦闘にはおいては決まって役に立たず あるいは劣化品であり、特殊作戦の遂行や長期の任務遂行に必要な支援物資の携帯などに用いられる。

|・タクティカルベルト 
|拡張領域を利用できない“ブレードランナー”のために、原始的だが あらかじめ様々な小道具をストックできるベルトを付ければいいということで、
|急遽用意された高級素材のタクティカルベルトであり、『白式』を展開した際の高速移動にもストックさせたものが耐えうる設計となっている。
|基本的に“ブレードランナー”の撃破対象がISなどの通常兵器では対処できない相手が多いので、ハンドガン程度の貧弱な火器をストックする意味は無いが、
|“ブレードランナー”が遂行する特殊作戦を少しでも楽にするための小道具をポーチに容れて手軽に持ち運べるという利点がある。
|しかし、拡張領域に収納されているわけではないので剛体化せず、ベルトやストックしたものが普通に破損する可能性があるので注意が要る。
|また、拡張領域に量子化しているわけじゃないのでストックした分の重みがかかり、ストックしているものが丸見えのアナログ装備でもある。
|よって、基本的には作戦内容や状況に合わせてベルトの着用と装備の選択が行われる。


|・パイルバンカー 
|第2世代においては最強クラスの『盾殺し』の異名を持つIS用のロマン武器。『盾殺し』の異名を持つがISにおいてはこれ自体が盾として使える。
|しかし、“ブレードランナー”が使う場合においては後付装備にできないので、量子化ができず収納できず、剛体化がないので反動で自壊する可能性もある。
|いかにISのシールドバリアーの恩恵の1つである剛体化が素晴らしいのかを教えてくれるありがたい装備である。
|採用の理由は、攻撃力十分・排莢しない・操作が簡単・軽量――――――などなど。


|・グレネードランチャー
|『ラファール・リヴァイヴ』用の一般的なグレネードランチャー。グレネードランチャーは構造が単純でかつグレネードの種類を換えることで、
|様々な用途に対応できるために一般的な殺傷力を持つ炸裂弾以外にも冷凍弾や煙幕弾なども装填されて利用される。
|基本的に、『白式』には射撃管制装置が入っていないので通常の射撃戦がまったくできないのだが、
|グレネードランチャーに限って言えば、ある程度 飛距離が決まっており、ピンポイントに命中させる必要がないので汎用性と合わせて活用される。
107  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/08/23(土) 10:42:47.61 ID:VDZPPCed0


今作の物語の成分
・織斑姉弟の歳の差が縮まっていたら
・大人になった一夏と、健全な歳の差恋愛模様
・ただし、メインヒロインだけは特別コース←――――――重要
・もし“世界で唯一ISを扱える男性”が織斑一夏ではなかったら――――――?
・“として”の悲哀と宿命を乗り越える力
・ブレードランナー

「目覚めろ、その魂」


今作の構想
『序章』(アニメ第1期)→『第1部』(アニメ第2期)→『第2部』といった流れである。
序章:朱華雪村と織斑一夏の表裏の物語
朱華雪村は織斑一夏じゃないのでIS学園の人間がデレデレになることはない。
一方で、一夏のほうは大人になったせいでもっと酷い状況に陥っているが、大人としての立居振舞で何とか凌いでいる。
そして、朱華雪村と織斑一夏という特別な間柄の二人の間を行き交う篠ノ之 箒の視点が加えられている。



111  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:37:47.72 ID:VOafPGt10

第3話A 目覚める刃
The Edge of Rebellion

――――――5月


山田「今日はなんと転校生を紹介します!」

周囲「え、転校生?」ザワザワ

朱華「………………」(剥製人形のようだ)


シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」


シャル「みなさん、よろしくお願いします」ニコッ

周囲「お、男……?」

シャル「はい。こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転入を――――――」

周囲「キャーーーーーーー!」

シャル「え?!」ビクッ

周囲「二人目の男子! しかもうちのクラス!」

周囲「美形! 守ってあげたくなる系の!」

千冬「騒ぐな! 静かにしろ」

一同「…………」

千冬「今日は2組と合同でIS実習を行う。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合」

千冬「それから、“アヤカ”」

朱華「………………」ピクッ

千冬「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士だ」

千冬「では、解散!」

朱華「………………」(それっきり動く気配はなかった)

箒「…………やはり私がいないとダメだな、こりゃ」ハア



112  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:39:14.74 ID:6c5AavVa0

シャル「きみが“アネス”くん? 初めまして僕は――――――」←フランス人に“HANEZU”という名はなかなかに言いづらいようだ

朱華「………………」

シャル「……あ、あの?」

箒「シャルルとか言ったか?」

シャル「あ? う、うん……」

箒「呼びづらいんだろう? こいつのことはみんな“アヤカ”と呼んでいるからそう呼んでやってくれ」

シャル「あ、そうなの……」

箒「私は篠ノ之 箒だ。私はこいつの――――――」


――――――お母さん。


箒「!?」カア

シャル「へ」

本音「“アヤヤのお母さん”!」

谷本「そう、“お母さん”!」

相原「それで、“アヤカ”くんは“グレた息子”なの!」

本音「“息子”のことをどうかよろしくお願いしま~す」ペコリ

箒「なっ!?」カア

シャル「あ、あははは………………」アセタラー

朱華「………………」(まるで石像のようにピクリとも動かない)

113  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:39:49.85 ID:VOafPGt10

箒「ハッ」

箒「ほら、朱華。挨拶をしろ。初対面に対しては少しぐらい愛想よくしてみせろ」

朱華「…………わかった」

箒「よし」

朱華「初めまして、朱華雪村です」

箒「おい」

朱華「?」

箒「それだけか?」

箒「――――――『それだけか』と訊いている」

朱華「………………」クルッ

シャル「?」

朱華「至らぬところが多いですが、どうかお見捨てなきよう…………」

シャル「あ、うん」

箒「うんうん。まあ やればできるではないか」ドヤァ

周囲「ニヤニヤ」

箒「あ!」

箒「だーかーらー!」カア

周囲「ワーイ!」ワイワイ

シャル「ははは、これからよろしくね、篠ノ之 箒さん」ニコニコ

シャル「それと、“アヤカ”くん」

シャル「僕のことは“シャルル”でいいよ」

朱華「これからよろしく、シャルル」

シャル「うん。みんないい人そうでよかった」ホッ

朱華「…………それじゃ、急ぐ」

シャル「うん。案内してね、“アヤカ”くん」


タッタッタッタッタ・・・


セシリア「いってらっしゃいませ、“アヤカ”さん」ニッコリ



114  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:40:56.73 ID:6c5AavVa0

――――――IS実習


千冬「今日からIS実習を始めるが、その前に簡易戦闘を行う」

セシリア「簡易戦闘というのは?」

鈴「何? この場でクラス対抗戦の決着をつけさせてくれるの?」

千冬「慌てるな、馬鹿共。対戦相手は――――――」


ヒューーーーーーーーーーーーーン!


山田「うわああああああああああああああああああ!」

一同「!?」

シャル「え」←朱華の後ろに並んでいる

朱華「………………」(棒のように突っ立っている)

山田「ど、どいてくださあああああああああああい!」ヒューーーーーーーーーーーーーン!

周囲「こっちに落ちてくるぅうう!」タタタッ!

周囲「に、逃げろー!」

箒「あ、――――――朱華!」

セシリア「あ、“アヤカ”さん!?」

鈴「あ、あの馬鹿!?」

朱華「………………」(天を仰ぎ見てそのまま)


「……………………フッ」


シャル「“アヤカ”!」グイッ(IS展開!)

朱華「………………!」

箒「シャルル!」

山田「きゃあああああああああああああああああああああああああ!」ヒューーーーーーーーーーーーーン!


ドッゴーン!


箒「くっ……!」

周囲「………………!」

千冬「………………」


115  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:41:47.01 ID:VOafPGt10

土煙が晴れていき――――――、


朱華「………………」

山田「す、すみませんでした…………」

セシリア「や、山田先生?」

鈴「だ、大丈夫ですか?」

千冬「やれやれ、またアガってしまったのか、山田くん。そんなんだから代表候補生止まりだったんだぞ」

山田「す、すみません」

千冬「さっさと立て。今回ばかりは『熟練者でも失敗はつきもの』といういい見本だが、これ以上は起こすなよ」

千冬「さて――――――」チラッ


朱華「………………」

箒「大丈夫か、朱華!」

朱華「問題ない」

箒「馬鹿者! どうしてすぐに逃げなかった! シャルルが何とかしなかったら危うく衝突していたのだぞ!」

箒「それと、ちゃんとシャルルにお礼を言え」

シャル「あ、いや……、僕は当然のことをしたまでで――――――」

朱華「ありがとうございました」

シャル「あ、どういたしまして」

朱華「?」チラチラッ

シャル「?」

山田「?」

朱華「――――――同じ機体?」

シャル「あ、うん。そうだよ。僕のは山田先生が使っている『ラファール・リヴァイヴ』のマイナーチェンジ版なんだ」

シャル「ISバトルに特化した全距離万能型『カスタム?U』」

箒「確かに、色合いも明るいからそれだけで印象が変わっていたが、4枚羽がなくなってすっきりした印象だな。気づかなかったよ」


セシリア「よかったですわ。“アヤカ”さんに何ともなくて」ホッ

鈴「あいつ、実はとんでもない天才か馬鹿なんじゃ――――――」

千冬「さて、小娘共。さっさと始めるぞ」

セシリア「え? あの、『2対1』で?」

鈴「いや、さすがにそれは――――――」

千冬「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」

小娘共「…………!」ムッ

山田「準備出来ましたか?」

セシリア「いつでもいいですわ!」

鈴「第2世代型ごとき、軽くぶちのめしてあげる!」

千冬「では、――――――始め!」



116  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:43:06.64 ID:VOafPGt10

――――――結果、


山田「これで終わりです」バァーン!

小娘共「きゃああああああああああああああ!」チュドーン!


ヒューーーーーーーーーーーーーン! ドッゴーン!


セシリア「ううぅ……、まさかこの私が――――――!」

鈴「あ、あんたね……! 何 おもしろいように回避先 読まれてんのよ!」

セシリア「鈴さんこそ! 無駄にばかすか撃つからいけないのですわ!」

小娘共「グヌヌヌ・・・! ギィイイイイイイ!」

千冬「これで諸君にも、教員の実力は理解できただろう」

山田「」ニコッ

千冬「以後は敬意を持って接するように」

千冬「次に、グループとなって実習を行う。リーダーは専用機持ちがやること」

千冬「では 別れろ」


ワーワー! ザワザワ! ガヤガヤ!


朱華「………………」

箒「よし、朱華。せっかくだからシャルルのところへ――――――」

千冬「おっと、そうだった(確かめなければならんからな、――――――例の件について)」

箒「織斑先生?」

千冬「朱華。お前は私のところだ。ほら、来い」

朱華「わかりました」

箒「え? あの…………」

千冬「つべこべ言わずにお前も来い」

箒「あ、はい……」

シャル「あ………………」

周囲「デュノアくんの操縦技術 見たいなー」

周囲「ねえねえ! 私もいいよね?」


セシリア「では、順番に装着してみてくださいな」

鈴「勝手にあちこち触っちゃダメよ。怪我しても知らないからね」


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

――――――
教員:2名、専用機持ち:3名(セシリア、鈴、シャルル) 
一般生徒:63ー3=60名
     ↓
1グループ当たり:12人……多すぎないか?

合同なので、2組の教員(当然 IS乗り)もいるものだと考えたい……
――――――

117  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:44:50.35 ID:VOafPGt10








千冬「さて、次で最後だな」

千冬「――――――“アヤカ”!」

朱華「はい」スタスタ

朱華「――――――装着完了」ビシッ(物理装着)

周囲「オオー!」

箒「さすがに先に訓練していただけあって手馴れているな」

千冬「みんな、最終的にはあいつのように手早く物理装着をこなせるようになれ」ピピッ(最後に計器を操作して点検)

周囲「ハイ!」

千冬「(どうやら、特に問題はなかったようだな。あれは単なる事故だったということだな)」

朱華「一通り、終わりました」シュタ(物理解除)

周囲「速い!」

千冬「ご苦労だった(…………時間が少し余ったな)」

千冬「そうだな(――――――念には念を入れておくか)」

千冬「最後に1回だけ乗りたいものはいるか?」

千冬「ISの実力は搭乗時間に比例するものだ。少しでも上達したいのなら積極的になれ!」

周囲「ハイ! ハイ!」

千冬「うん。では、お前だ」

女子「やったー!」

周囲「ウウー!」

118  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:45:45.77 ID:6c5AavVa0

箒「…………機会を逃してしまったか」グムムム・・・

箒「ん?」

朱華「………………」ジー

箒「…………朱華?(視線の先にあるのは――――――)」

千冬「………………」チラッ


山田「」コクリ

山田「それでは、みなさん よく頑張りましたね」

山田「お疲れ様でした!」ニコニコ

山田「それでは、最後に私が乗ってみて、流れを確認しますね」(『ラファール』物理装着)


箒「???」

箒「おい、朱華――――――」

朱華「………………」

女子「よいしょっと」ガコン

女子「これでよし、っと」ジャコン(物理装着)

千冬「では、もう一度やってみせろ」

女子「はーい」

女子「…………あれ?」ガコンガコンガコン

箒「…………?」

朱華「………………」

千冬「どうした?」

女子「変です? 勝手に身体が――――――!」


シャル「ふぅ、なかなか大変だった…………」ドクンドクン

鈴「教えるっていうのも簡単じゃないわね」

セシリア「あら――――――?」


119  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:46:26.85 ID:VOafPGt10

千冬「山田先生! 取り押さえろ!」

山田「了解!」ヒュウウウウウウウウウウン!

女子「あ、あれえええええええ!? 勝手にISが動き出してるよおおおおおおおお!」ガコンガコンガコン!

箒「な、何が起きたというのだ?!」

周囲「何々?! 何が起きたの?」

千冬「くっ……(暴れだす程度ではないが、やはりこれも――――――!)」チラッ


朱華「………………」(立ったまま眠っているかのようにピクリとも動かない)


千冬「これは……、強制停止プログラムの導入も已む得ないか」

女子「お、おおおおお!? ――――――空を飛んでる!?」ヒュウウウウウウウウウウン!

山田「――――――ワイヤーネット、発射!」バァン!

セシリア「何が起きましたの、あれは?」

シャル「え? チラッと全体の様子は見ていたけど、特に異常なんてなかったよね?」

鈴「…………あれの前に乗っていたのは“彼”だったわよね?」

セシリア「え?」

鈴「ともかく、万が一に備えて私も加勢するわ!」(IS展開)

ヒュウウウウウウウウウウン!

セシリア「あ、私も!」(IS展開)

シャル「ぼ、僕も!」(IS展開)

ヒュウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウン!






120  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:47:18.52 ID:6c5AavVa0




箒「結局、IS実習の最後に起きた騒動はすぐに収まったのだが、」

箒「この一件によって、“彼”の周りの評判は徐々にだが落ち始めていった」

箒「今回の暴走だけならば単なる偶然の事故と片付けられたのだが、」

箒「つい先月、『上級生のクラス対抗戦において暴走事故があった』という噂が尾を引いており、」

箒「不幸なことに、どちらの件についても『朱華雪村が乗っていた』事実が槍玉に挙げられ、」

箒「今回の件でただの噂に過ぎなかったことが、今では確信へと変わり、“彼”をよく知らない人間たちは一様な恐怖を抱くようになったのだ」

箒「“彼”の普段の態度も大きく取り沙汰となり、何を考えているかわからない得体の知れない怪人物としてこれまでの歓迎の風潮に陰りが見え始めた」

箒「学園側もさすがに表沙汰にせざるを得なくなり、原因究明に乗り出して、根拠の無い噂による誹謗中傷を取り締まるように動き出した」

箒「学園側としてはあくまでも“彼”に責任はなく、それをちゃんと観測していたことを述べ、“彼”の保護に尽力する」

箒「しかし、その学園側も一枚岩ではないらしく、クラス対抗戦における暴走事故についても未だに原因不明という事実が漏れてしまい、」

箒「今回の件も原因不明であることから、このことと『“彼”が乗っていたこと』を結びつけて“彼”に原因を求める論調が多くの生徒の共通認識となっていた」

箒「1年1組の面々ぐらいだろう。――――――“彼”の存在について肯定的なのは」

箒「それぐらい“彼”には人望もなく、信望もなく、独りであった」

箒「“彼”の態度は少しずつ良くはなってはいるが、全体的な雰囲気は変わっておらず、入学当初とあまり違いを大きく感じられないことも原因だった」

箒「そして、担任の千冬さんは普段では絶対に見せないような溜め息をふと漏らしていたところを私は見てしまった……」

箒「どうやら人間というのは、一度 誰かの悪口を言い始めると次から次へと悪口を飛び火させて拡げていくものらしく、」


――――――今の学園の雰囲気は最悪だった。


箒「根拠の無い憶測だけの流言飛語が飛び交い、それを真実と捉えて前提にした誤った認識が更なる誤解を生み出してったのだから…………」

箒「その度に私は、もはや過去のものとなっていたはずの6年間の暗黒時代のことを鮮明に思い出してしまい、悪夢にうなされることがしばしば――――――」


「これはまいりましたね。記憶を消して事実関係が表層的に消失しても受けた印象までは無意識の深淵にあって忘れないものですから…………」


121  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:48:33.06 ID:VOafPGt10

――――――数日が経ち、


箒「朱華? 大丈夫か?」コンコン

箒「入るぞ?」ガチャ

箒「うっ………………床に散らばる手紙の数々(たぶん、これって――――――)」

朱華「どうしました?」(床に散らばる手紙など意に介さず、机に向かって勉強をしていたようである)

箒「いや、最近の学園はどうにも居心地が悪くてな」


朱華「あなたが“篠ノ之 束の妹”であることを悪く言われたんですね」


箒「!?」

箒「いや、そんなことは――――――」アセアセ

朱華「わかります」


――――――僕もその一人でしたから。


箒「あ」

朱華「でも、あなたは“あなた”ですし、僕はあなたに恩があります」

朱華「ですから、僕が憎ければどうぞお好きな様になさってください」

箒「…………いや、そういうわけじゃない。そういうんじゃないぞ、朱華」

朱華「でも、僕との関係があの暴走事故の原因だって疑っている人間も最近は多くなったようで――――――」

箒「言うな。それはもうどうしようもないことだろう?(そうだとも。誤解されやすいのはもうどうしようもないんだ)」

箒「けど、そんな私たちだからこうして仲良くなろうと互いに歩み寄ったのではないか」

箒「――――――結局、どうなのだ? 暴走事故の原因について思い当たることはないのか?」

朱華「わからない」

箒「まあ そうだよな……。そんなことはすでに織斑先生が聞き取りしていることだし」

朱華「ただ――――――」

箒「――――――『ただ』?」


――――――僕自身が自覚していない何かにISが触れた結果、暴走事故が起きたのではないかって。


箒「――――――『何か』」

箒「(『ISには心のようなものがある』って言われてはいる――――――けど、そんなのはただの迷信だ。AIの学習能力の高さに対する比喩に過ぎない)」

朱華「僕にはわからない」

朱華「ただ毎日を人間らしく生きるだけ――――――そうあるように考えているはずだから」

箒「そういう物言いからして普通の人間の物の考え方ではないのだがな……」

箒「(だが、重要人物保護プログラムによる苦痛でそうなったのなら――――――)」

コンコン!


122  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:49:19.00 ID:6c5AavVa0

シャル「失礼します!」ガチャ

箒「あ、シャルル! 急に突然――――――」

シャル「あ、あの! かくまって!」アセダラダラ

箒「な、何が起きたというのだ!?」

シャル「あの、えと…………(え? 何だろう、この床に散らばってるたくさんの手紙は――――――)」

朱華「…………好きにすればいいよ」

シャル「あ、ありがとう……」

箒「いったい何が起きたというのだ?」

シャル「それは、その――――――」

箒「ずいぶん憔悴しきった顔じゃないか」

箒「朱華、悪いが冷蔵庫のものを出させてもらうぞ」

朱華「どうぞ」

シャル「あ、ごめんね」

箒「まあ、まずはこれを飲んで落ち着け」

シャル「う、うん(あ、これってフレーバーティーかな? よく冷えた中で柑橘の風味が広がっていて心地いい……)」ゴクッ

箒「ところで、『かくまえ』だなんて――――――」

箒「もしかして、お前も男だから風当たりが強くなってきたのか?」

朱華「………………」

シャル「う、うん……」

箒「そうか。お前も災難だったな……」

箒「しかし、改めて考えると、どうして千冬さんはせっかく男2人なのに一緒の部屋にしなかったのだろうな?」

シャル「確かに、そうだよね(そのせいで、僕としては――――――)」


朱華「織斑先生がシャルル・デュノアでは相手が務まらないと判断したからだろう」


シャル「え!?」

箒「落ち着け、シャルル。こいつの言うことはいちいち真に受けてはいけない」

箒「言ってることが正しいかどうか、果たして自分がその通りだったのかを考えるようにしてから反応しろ」

箒「でないと、剃刀のような鋭い指摘の数々に心が抉られるぞ」

箒「こいつは不躾だからな。遠慮というものを知らない。それでいて言うことがたいてい的を射ているから余計に危ない」

シャル「あ――――――、うん。そうだね」

シャル「僕じゃとても“アヤカ”くんの相手は務まらなかった気がするよ」

シャル「さすがは“アヤカくんのお母さん”だね」ニコッ

箒「だーかーらー!」カア

朱華「フフッ」

シャル「あ」

シャル「今、“アヤカ”くんが笑った?」

箒「おお! そういうシャルルもだいぶ気が楽になったようじゃないか」

シャル「あ、そうだったね。ありがとう、二人共」ニコッ


123  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:50:20.47 ID:6c5AavVa0

――――――話が弾み、シャルルの身の上話になり、


箒「――――――そうか。デュノア社の御曹司のお前も大変だな」

シャル「うん……(本当はそれ以上のことで苦しんだけどね)」

箒「私も、姉さんが“ISの開発者”だったばかりに――――――」ハア

朱華「………………」ジー

シャル「?」

シャル「どうしたの、“アヤカ”くん?」

箒「何か発見でもあったのか?」


朱華「シャルルってやっぱり――――――いや、何でもない」


シャル「え、何? 気になるんだけど……」アセタラー

箒「そうだぞ。もしかしたらその言わなかった一言が現状を打開する一言になったかもしれないのだぞ」

箒「言うだけ言ってみろ。ここには私たちしかいない」

朱華「いや、ここで言うべきことではないと判断しただけ」

朱華「でないと、もっと状況が悪くなる――――――そう確信したから」

箒「そうか。お前がそこまで言うのなら忘れよう」

シャル「そう……(『言ったら状況が悪くなる』って、もしかして――――――でも、今じゃなくてよかった)」ホッ

シャル「でも、ありがとう、二人共」

シャル「おかげで、凄くに楽になったよ」

箒「私の方から寮長の織斑先生に頼み込んでおこうか?」

シャル「ううん。大丈夫。大丈夫だから、ね?」

箒「お前がそう言うのなら」

朱華「………………」

シャル「ありがとう、箒、そして“アヤカ”くん」ニッコリ



124  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:51:11.19 ID:VOafPGt10

――――――某所


山田「――――――『凍結』、ですか?」

千冬「ああ。それが結論だ。――――――コアナンバー36『13号機』は凍結だ」

山田「そんな! ただでさえ貴重なコアの1つを凍結しては――――――」

千冬「確かにそうだが、原因不明の暴走を引き起こしたコアを「初期化」してもその因子を確実に除去できたかは確認しようがない」

山田「それでは“アヤカ”くんはこれからどうするのですか!?」


千冬「よって、これからコアナンバー36『13号機』は“アヤカ”の専用機とする」


山田「!」
   ・・・
千冬「ある筋に調査を依頼したところ、『量産機としてのリミッターが解除されかかっていた』という報告があった」

山田「へ」

千冬「訓練には必ず私が付き添って状態の確認もしていた。“アヤカ”の方から何かしたということはまず考えられん」

千冬「おそらく、IS自身が『量産機であることを拒否しだした』のではないかと思うのだ」

山田「そんなことはこれまで――――――」

千冬「だが、ISにも心がある。乗り手を選り好みする趣味嗜好が少なからず存在する」

千冬「その最たるものが、形態移行や単一仕様能力だ」

千冬「だいたいにして、“世界で唯一ISを扱える男性”そのものが前例のない存在なのだ」

千冬「『前例がないから』といって、全ての可能性をたったそれだけの理由で看過するのは間抜けの発想だ」

山田「それって、つまりは――――――」

千冬「まあ まだ仮説でしかないが、そういうことだ」


――――――“アヤカ”は“世界で唯一ISを扱える男性”以上の存在である可能性が極めて高い。


千冬「それを確かめるために、“アヤカ”を電脳ダイブさせて仮想空間を造り上げる」

山田「!?」

山田「それは、学園上層部の――――――」

千冬「学園だけじゃない。国際IS委員会からの要望でもある」

山田「そ、そんな!? それでは“アヤカ”くんのプライバシーは――――――」

千冬「残念だが、“彼”にはそんなものは最初からない」

千冬「“あれ”はすでに人間としての全てを失った存在なのだからな……」

山田「………………」

千冬「そして、“彼”にはボディガードに宛てがう」

山田「……それは誰なんです?」


――――――あいつしかいないだろう、“彼”を真に理解してやれるやつなんてのは。


125  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:52:04.19 ID:6c5AavVa0

――――――休日

――――――篠ノ之神社


箒「ここが私の実家だ」

朱華「…………ここが」

朱華「――――――神社」キョロキョロ

箒「ああ。私はこの神社の住職の生まれでな、夏祭りや年末年始は大忙しさ」

朱華「それと、竹刀と竹刀の剣戟――――――」

箒「お、本当に耳がいいんだな」

箒「そうだ。境内には剣道場もあってな、私の父はそこの道場主を務めていた」

箒「娘の私が言うのも難だが、――――――本当に素晴らしい人で、私も父のようにありたいと精進を重ねてきたのだ」

朱華「――――――『父のように』か」

箒「…………?」

箒「まさか、IS学園に入学することで懐かしの我が家にこうして帰ってくることができるようになるとはな…………」

朱華「よかったですね」

箒「ああ。本当によかった――――――」

箒「ハッ」ゾクッ

箒「すまない! お前だってずっと独りだって言うのに私だけ――――――」


朱華「よかったですね」


箒「へ」

朱華「本当によかったですね」

箒「あ……、ありがとう」クスッ

朱華「フフッ」


コツコツコツ・・・・・・



126  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:52:52.86 ID:VOafPGt10

箒「しかし、本当に懐かしいものだな」

箒「私の家はこんな山奥にあったのかと思うぐらいに、森が生い茂っていて――――――」

箒「そうだ。夏祭りの時なんかに打ち上げられる花火の絶景スポットがあってだな――――――」

箒「それで、私は七夕の日のお願いごとを――――――」

朱華「………………」

箒「ハッ」

箒「すまない。延々とくだらないことを――――――」

朱華「続けて。僕は楽しい」

箒「あ……、ああ」ニコッ

朱華「あ、人がいる」

箒「ああ、それはそうだろう。参拝客だって住職もちゃんといるんだからさ――――――ん?」

箒「あれって――――――」

箒「あ……」ドクン

朱華「………………」


その時、少女の胸が大きく高鳴った。


雪子「また寄っておいで」ニコニコ

「ああ……、はい。雪子さん」アセタラー

雪子「どうしたのかしら、顔が赤いようだけれど……?」

雪子「さすがに5月ともなれば陽射しも強くなってきたことだし、お風呂に入っていかない?」

「お気持ちはありがたいんですけど――――――」ドキドキ
          ・・
「別にいいと思うよ、一夏――――――」’ジトー


――――――『一夏』。


箒「――――――『一夏』」

箒「――――――『織斑一夏』?」

「あ、ほら、人が見ていますし――――――うん!?」

「あ、あの娘と、それに――――――」’

「箒ちゃん!? 篠ノ之 箒か!?」

雪子「まあ!」

箒「あ、ああ…………」ポロポロ・・・

箒「ようやく、帰れた…………ようやく」グスン

箒「う、うう、うわあああああああああああああん!」

朱華「………………」スッ (ハンカチを黙って差し出す)

箒「ありがとう、朱華…………」グスングスン

127  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:54:08.54 ID:VOafPGt10

――――――それから、


一夏「何ていうか、本当に大きくなったな、――――――箒ちゃん(ああ あの箒の胸にあんな立派なものが実るとはな…………)」チラチラッ

箒「お、お見苦しいところをお見せしました……」

雪子「それぐらい気にしない気にしない。――――――家族なんだから」

箒「……はい」

朱華「………………」

雪子「それにしても、一夏くんも箒ちゃんもホントに大きくなった」

雪子「えと、一夏くんと箒ちゃんって歳 いくつだったっけ?」

一夏「え? そりゃ俺は23で、確か箒ちゃんは誕生日の7月7日を迎えてないから14だったはずだけど」

友矩「すると、9つの差ですね」

箒「よくもまあ、そんなことを覚えていたものだな」テレテレ

一夏「忘れるわけないじゃないか。――――――“大切な妹分”なんだしさ」

箒「………………『妹分』」ムムム

朱華「………………」

雪子「しかし、あの箒ちゃんがねぇ…………」ニヤニヤ

箒「へ?」

一夏「いやぁ俺も驚いたよ」


――――――まさか箒ちゃんがボーイフレンドを連れて帰って来るなんてねぇ?


箒「ええ!?」カア

雪子「お名前は?」

朱華「――――――朱華雪村です」ススッ(手帳を取り出して筆ペンで達筆に氏名とフリガナを書いてみせた)

雪子「まあ 達筆ですこと。お上手お上手」

雪子「なるほど、『雪村』というのは私の“雪”と同じなのねえ。ふ~ん」

一夏「初見じゃ絶対に読めないな」

友矩「そうですね。こんな珍妙な――――――」

朱華「なので、みんなからは“アヤカ”と呼ばれています」

雪子「へえ、“アヤカ”ね。そのほうがカワイイし、良いと思うわよ、“アヤカ”くん」

一夏「それじゃ、俺のことも“一夏”って呼んでくれ、“アヤカ”」

一夏「それと、隣にいるこいつは俺の相棒の“友矩”だ。大学時代の親友でな」

友矩「初めまして。夜支布 友矩です」

朱華「こちらこそよろしくお願いします」

雪子「まあ! 礼儀正しくて堂々としてるわね」

雪子「箒ちゃんったら、本当に素敵なカレシを――――――」ニッコリ


箒「あ、あの! 私の話を聞いてください!」バーン!


一同「!」ビクッ

朱華「………………」

128  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:54:55.52 ID:6c5AavVa0

一夏「び、びっくりするじゃないか、箒ちゃん」

箒「あ、その……、一夏が話をこじらせるのがいけないんだからな!」フンッ!

一夏「あははは…………」

友矩「それじゃ、“アヤカ”くんは箒ちゃんの何かな?」

雪子「うんうん何かな?」ニコニコ

箒「あ――――――(まずい! 学園での私たちの関係のことは――――――!)」

箒「(というか、自然に雪子おばさんと並んで話しかけてくる このヤギュウ トモノリとかいうやつは――――――)」

箒「朱華、お前は何も言うな――――――」


――――――篠ノ之 箒は“僕の母親”。


箒「」

一同「」

朱華「“母と子の関係”だそうです」

箒「オワッタ…………(――――――穴があったら入りたい)」ウルウル

一同「」

129  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:56:18.17 ID:6c5AavVa0

友矩「ハッ」

友矩「落ち着こう、うん。落ち着こう、みんな」アセアセ

一夏「あ、ああ。友矩の言う通りだぜ。ここは落ち着こうぜ」ドキドキ

雪子「そ、そうよねぇ」オロオロ


――――――まさか箒ちゃんがその年で子持ちだなんて、そんな馬鹿なことあるわけないわよねぇ。


箒「うわあああああああああああああ!(あらぬ誤解を受けてるううううううううううう!)」ジタバタ

一夏「おい、箒ちゃん! 落ち着けってぇ!?」

箒「もうオワリだあああああああああ!(一夏にこんな誤解を受けてしまって“約束”以前に私はどう顔を合わせれば――――――)」ドタバタ

友矩「それで、どういう意味で『母親』だって? 比喩でそう言ってるんでしょう?」

朱華「はい。篠ノ之さんには大変にお世話になっておりまして、『友達になろう』って声をかけてくださいました」

一夏「おお! あの箒ちゃんが積極的に!」

朱華「他にも、剣道部に誘ってくださいましたし、僕の至らぬところを丁寧にわかりやすくその都度 教えてくださいました」

朱華「おかげで、女子しかいないIS学園での日常もだいぶ楽になりました」


朱華「感謝してもしきれません」ニコッ


箒「ふぇ!?」ドキッ

一夏「そうか。そうだったのか……」

雪子「立派に成長してくれたんだねぇ……」グスン

友矩「よかったですね、雪子さん」スッ(ハンカチを差し出す)

雪子「うん。本当によかったよかった……」

箒「あ…………」

朱華「………………」

箒「なあ、朱華? さっき お前――――――」

朱華「何でしょう?」

箒「………………いや、何でもない」フフッ


――――――私は見逃さなかった。


あの時だけ、“朱華雪村”という少年が暖かな笑みを浮かべくれたことをくれたことを。

普段は決して語ることのないように思われた私への日頃の感謝の思いをこういった場面に伝えてくれたことだけでも感激だというのに、

あのとっておきの笑顔は本当に今日まで悩みながらも頑張ってきた私にとって神様が与えてくれたご褒美に思えたのだった。

――――――今日はとても良い日だ。吉日だ。
・・・・・・・・・・・・・・
私の頑張りが初めて報われた日であり、幼き日に将来を誓い合った二人がこうして再会することができたのだから。

まあ、もうちょっとおとぎ話のように感動的なものでありたかったが、わかっていたことだが 私にはそういった器用な真似はできそうもない。

ただただ、その日の感謝の思いでいっぱいで幸せで満ち足りていたのだから、これ以上の贅沢はバチが当たるというものだ。

あの時の私はとにかく暖かな祝福の中で満ち足りていたのだった。

130  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:57:22.05 ID:VOafPGt10

しかし――――――、


友矩「さて、そろそろお暇しようか」

一夏「そうだな。さすがに長居しすぎたことだしな」

雪子「そんなことはないわよ、一夏くん」

雪子「だから、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ――――――」グイッ

一夏「ええ……、それはさっきも言われたことなんだけど…………」アセタラー

友矩「雪子さん? また逢えますから、ね?」

雪子「で、でも…………」

箒「…………?」


――――――気のせいだろうか?


箒「あの……、雪子おばさん?」

雪子「あ、何かしら、箒ちゃん?」

箒「一夏が『行く』と言っているのですし、それに私と朱華が来たせいで引き留めてしまったようだし――――――」

雪子「そんなことはないわよね、一夏くん?」

一夏「いや、さすがにそこまでお世話になる気はありませんから…………」アセダラダラ

雪子「でも、さっきから汗をいっぱい流していることだし、やっぱりお風呂に入ってきなさいってば」

一夏「え、ええええええ…………(やっぱり、そこなの!?)」

友矩「では、シャワーだけを――――――」

雪子「そんなこと言わずにしっかりと湯船に浸かっていきなって」ニコニコ

雪子「そうだ、“アヤカ”くんもどう? 日頃 箒ちゃんがお世話になっているようだし、日頃の感謝の意味を込めて」

箒「え? 朱華もか!?」

雪子「そうそう、箒ちゃんもいつまでも“ハネズ”だなんて呼ばずに、“雪村”って呼んであげなさいよ」

箒「ま、まあ それぐらいなら、別にいいけど…………」

雪子「どうかしら?」

朱華「………………」


――――――『日頃の感謝』って具体的には?


箒「へ」

友矩「…………!」ゾクッ

一夏「何となくだが、――――――やばい選択肢を選んだことだけはわかるっ!」アセダラダラ

雪子「ああ……、そうだったわねぇ。結構ウブなのね」ニコニコー


雪子「――――――お背中、お流しいたしますわ」ポッ


一同「」

朱華「そうなんだ」

131  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:58:22.82 ID:6c5AavVa0

一夏「いやいやいや! さすがにそれはマズイって!」アセアセ

友矩「…………喰われる!?(そして、それを平然と受け流す朱華雪村!)」アセダラダラ

箒「雪子おばさん!? それってどういう意味ですか!?」カア

雪子「あら? 箒ちゃんにはちょっと早かったかしら?」

雪子「そうねぇ、箒ちゃんも好きな殿方のためにできるようになるといいから、一緒においで」チラッ

朱華「………………」

箒「だーかーらー!」

箒「『朱華は違う』と言っている!」

雪子「こらこら、“朱華”じゃなくて“雪村”。名前で呼んであげなって」

箒「あ、ああ うん」

箒「――――――って、そうじゃなくて!」

雪子「?」

一夏「ほ、箒ちゃん! 何とか言ってやってくれ! さっきから雪子さん、この調子で帰してくれないんだよ!」ガタガタ


――――――いくら将来を誓い合った相手だからって、裸になって、それも他の男がいる中でできるかあああああああ!


一同「」

箒「ゼエゼエ」

一夏「へ……?」

雪子「え!? まさか箒ちゃんも――――――」

友矩「ああ やっぱりぃ…………!(もうヤダ! 何なのこのスケコマシは!? 9つ下の娘にまで手を出していたのかぃいいいいい!?)」

朱華「………………」

132  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 08:59:26.08 ID:6c5AavVa0

雪子「ちょっとそれ……、どういうことかしら、箒ちゃん?」

箒「そ、そういう雪子おばさんこそ! わ、私の将来の相手に手を出すんじゃない!」

友矩「どういうことだい、一夏? まさかこんな一回りも下の娘にまでフラグを立てていただなんてね?」ニコニコー

一夏「え? 知らない! どういうことだよ、箒ちゃん!?」アセダラダラ

箒「な、なにぃ!? ――――――憶えてないというのか、一夏!?」

箒「だって、婚約指輪に……、き、キスまでしてくれただろう!」

雪子「ど、どういうことだい、一夏くん!?」

一夏「えと、――――――『婚約指輪にキスまでした』だって?」

一夏「うぅ、思い出せない。そんな衝撃的なことを忘れるはずがないんだがな…………」
・・・・・・・・
友矩「じゃあ一夏、それはたぶん一夏にとってはその程度の出来事と受け流していたんじゃないの?」ジトー

友矩「だって、大学時代のきみはそうやって数多くの女性を振ってきたんだからね?」

箒「なに……?」ゴゴゴゴゴ

一夏「え、ええ……、だって、憶えてないだもん、しかたないだろう? ねえ、箒ちゃん?」ニコニコー

雪子「さすがにそれは私でも擁護できないかな…………はい、箒ちゃん」ニコニコー

箒「ありがとうございます、雪子おばさん」ジャキ

一夏「ちょっと……、人に竹刀を向けるのは道義に反するんじゃ――――――」

友矩「…………一夏」

一夏「助けてくれ、友矩ぃ!」アセアセ

友矩「大学時代に数多の女性に愛され、“童帝”と呼ばれたきみでも少しは分別はあると思っていたけれど、」

友矩「さすがにこれは、言えることは1つだけだよ」


――――――馬に蹴られて死ね!


一夏「ちょっと、友矩まで――――――」アセダラダラ

雪子「…………一夏くん?」ニコニコー

箒「天誅うううううううううううう!」ゴゴゴゴゴ


一夏「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!」


朱華「………………」ゴクゴク

朱華「フゥ」

朱華「ごちそうさまでした」ニコッ


133  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:00:57.97 ID:VOafPGt10

――――――その夜


シャル「僕だよ、入っていい?」コンコン
――――――

朱華「どうぞ」

シャル「お邪魔します」ガチャ

朱華「粗茶ですが、どうぞ」

シャル「あ、ありがとう――――――柑橘の臭い」ゴクッ

シャル「これってアールグレイだよね? 柑橘のすっきり爽やかな甘みと香りにほどよく冷えていて本当に美味しいよ」ニコッ

朱華「それはよかったです」

シャル「…………男同士っていいもんだなぁ」

朱華「………………」

シャル「あ、それでね? 今、学園中で持ちきりの話なんだけど――――――、」


シャル「『例の13号機』を専用機として受領したって本当の話なの?」


朱華「――――――『例の』?」

シャル「ほら、学園で持ちきりになってる“呪いのコアナンバー36の13号機”のことだよ」

シャル「その……、“アヤカ”くんが乗ってたやつ」

朱華「それは事実」

シャル「ならさ? 僕と一緒に放課後にISの訓練をしない? 専用機があるから役に立てると思うんだ」


朱華「やだ」


シャル「え、ええ?!(ストレートに断れるなんてさすがに予想外!)」ガーン!

朱華「放課後は箒と剣道部の稽古がある」

シャル「で、でも! IS学園の生徒の本分はIS乗りとして大成することだよ! 専用機持ちになったんだし、これから積極的に乗らないと損だよ」アセアセ

朱華「僕がどう生きようとあなたには関係ないことです」

シャル「え、ええ…………(助けて、篠ノ之さん! やっぱり僕じゃ“アヤカ”くんの相手は務まらない!)」


朱華「ですが、それ以外の時間ならば問題はありません」


シャル「あ」ホッ

シャル「び、びっくりさせないでよ、まったく……」

シャル「もうイジワル~」


朱華「本当はそんなことを訊きに来たんじゃないんでしょう?」


シャル「!?」

シャル「え」

朱華「………………」

134  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:01:31.73 ID:6c5AavVa0

シャル「えと、僕のことはどこまで――――――」

朱華「………………」

シャル「…………わかったよ、“アヤカ”くん。本題に入らせてもらうよ」


――――――“2年前に日本で発見されたっていうISを扱える男性”ってやっぱりきみなの?


シャル「それを確かめたいんだ」

朱華「………………」

シャル「だって、きみの経歴を丹念に調べあげていくと全然噛み合わないだもん」

シャル「それに、2年前の発見の報が本当にデマだったとしても、いろいろと不自然な点が多いんだもん」

シャル「“アヤカ”くんって本当は“朱華雪村”って子じゃないんだよね? そうなんでしょう?」

朱華「………………それを確かめてどうなる?」

シャル「…………そのね?」


――――――フランスに亡命しない?


シャル「……そういう話だよ」

朱華「………………」

シャル「………………」ゴクリ

シャル「(さあ、これで僕に与えられた任務の1つはいよいよ終わりを迎える)」ドクンドクン

シャル「(どうなる? ――――――どう出る、“アヤカ”くん!?)」


朱華「信用できない。だから お断りします」


シャル「…………ああ やっぱりか(いきなりこんなこと言われても納得できるわけないよね……)」ハア

朱華「こんな三文芝居にあなたを付きあわせている組織のほうが信用できない――――――そういうことです」

シャル「え? それって――――――」

朱華「それと、“2年前に現れたというISを扱えたという男性”の存在ですが、」


朱華「――――――確かにいたのかもしれません」


シャル「え……(何その、他人事みたいな物言いは――――――?)」

朱華「けれども、それは今の“僕”のことではありません。人違いです」

朱華「では、そういうことで。おやすみなさい」

シャル「???」

シャル「あ、うん。ごちそうさまでした……」


シャル「(その時、僕は“アヤカ”くんに言われるままに部屋を出る他なかった…………不思議なほどに押し切られてしまうのだった)」


135  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:02:09.36 ID:VOafPGt10






―――――― 一方、その頃


箒「ふふ、ふふふふ……」ニタニタ

鷹月「今日はお楽しみだったんだね、篠ノ之さん……」アハハ・・・

箒「そ、そう見えるか? すまない」ウキウキ

鷹月「そりゃあ、ね?(いつもまじめな篠ノ之さんがいつになく頬が緩んでいて呆けていれば誰だって気づくよ)」ニコニコー

箒「ああ! どうすればこの顔の緩みを抑えられるというのだああああああ!」ウガー!

鷹月「何かすっかり垢抜けたって感じよね……」

鷹月「何ていうか、『子は鎹』って本当かもねえ」ドキドキ

鷹月「いいなー。私も“アヤカ”くんのお世話してみようかな?」

箒「(一夏に会えた一夏に会えた一夏に会えた一夏に会えた一夏に会えた!)」

箒「(わ、私はこれから一夏のところへ――――――!)」ドキドキ

箒「ふふ、ふふふふ…………」


136  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:03:51.36 ID:VOafPGt10

――――――週明け


山田「えぇと……、きょ、今日も、嬉しいお知らせがあります……」

山田「また一人、クラスにお友達が増えました」

山田「ドイツから来た転校生の、」


――――――ラウラ・ボーデヴィッヒさんです。


ラウラ「………………」

女子「どういうこと?」ヒソヒソ

女子「この短期間にまた転校生……」ヒソヒソ

箒「今度の転校生はどうも取っ付き難そうだな…………」チラッ

雪村「………………」(精神統一しているわけでもなく瞑想しているわけでもなくただボーっとしている)

箒「雪村のやつ、目の前に転校生がいるのに相変わらずどこ吹く風だな」ヤレヤレ

山田「み、みなさん お静かに。まだ自己紹介が終わってませんから――――――」

千冬「挨拶をしろ、ボーデヴィッヒ」

ラウラ「はい、“教官”」

セシリア「――――――『教官』?(それはもしや織斑先生の教え子だということでしょうか? なんて羨ましい)」


ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」ビシッ


一同「…………」

山田「あ、あの……、――――――以上、ですか?」

ラウラ「以上だ」チラッ

雪村「………………」(望遠鏡で遥か遠くを覗いているかのように焦点はここに定まらない)

ラウラ「おい、貴様」

雪村「…………僕のことか?」ムクッ

周囲「キャー! シャベッター!」

ラウラ「…………!?」ビクッ

ラウラ「ハッ」

ラウラ「……貴様、いつもそうなのか?」

雪村「それで何か?」

ラウラ「ゴホン」

ラウラ「不本意だが、教官から貴様の面倒を見るように言われている」

一同「!?」

137  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:04:37.88 ID:6c5AavVa0

シャル「それってどういう――――――」

ラウラ「“世界で唯一ISを扱える男性”だか何だかは知らないが、貴様のような何の覇気も感じられん素人相手に、」

ラウラ「ドイツ最強のIS乗りであるこの私が教鞭を執ってやるのだ」

ラウラ「ありがたく思うのだな。これは挨拶代わりだ」スッ

箒「なっ!?」


バシィン!


雪村「………………」

ラウラ「ほう? 案外タフなのだな。それとも恐怖で感情が死んでいるのか――――――」

箒「ちょっと待て、お前! いきなり手を上げるとはどういうことだ!」ガタッ

ラウラ「どこの誰だかは知らないが、これが私のやり方だ。口を挟まないでもらおうか」

箒「織斑先生!」

千冬「篠ノ之、これは私がやらせていることだ。いわば、特別メニューだ」

千冬「月末の学年別個人トーナメントでこいつがベスト8まで勝ち上がることを国が望んでいる」

千冬「そうなるように、それにふさわしい特訓相手を宛てがってやっただけに過ぎん」

シャル「本当に大丈夫なんですか?」

千冬「安心しろ。これはボーデヴィッヒにとってもいい経験になる」

千冬「期待を裏切らないでくれよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ?」

ラウラ「はっ! 教官のご期待に沿うように微力を尽くす次第です」

千冬「――――――だ、そうだ」

箒「………………」

シャル「…………“アヤカ”くん」

セシリア「…………箒さん」


138  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:05:47.46 ID:6c5AavVa0

――――――アリーナ


ラウラ「さて、“アヤカ”とか言ったか、貴様」

雪村「お好きな様にお呼びください。人がそう呼んでいるだけなので」

ラウラ「貴様、それが教官である私に対する態度なのか? もしや、これまでもその態度を以って織斑千冬に接してきたのではなかろうな?」

雪村「はい、その通りです、教官」

ラウラ「…………貴様、舐めているのか?」ギロッ

雪村「この場合の適切な振る舞い方がわからないだけです。どうかご教授してくださると大変助かります」

ラウラ「私はブートキャンプの教官ではないぞ」ギラッ

雪村「『ブートキャンプ』って何ですか? 教えてください」

ラウラ「ぬっ!(何だ、こいつは? ――――――今までにないダルさを感じた!?)」

ラウラ「そもそも貴様は、どういった意思を持ってこの場に存在しているのだ!」

ラウラ「どうしてIS乗りになった? ――――――言え!」

雪村「気づいたらIS乗りになっていました」

ラウラ「なっ!? ぐぬぬぬぬ…………」



139  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:07:07.29 ID:6c5AavVa0

箒「ラウラとかいうドイツの代表候補生、完全にドツボに嵌っているな」

セシリア「いったいどうなることかと思いましたけれど――――――」

シャル「やっぱり、篠ノ之さんって凄かったんだな……」

千冬「フッ、まだまだだな、ラウラも」

セシリア「あ、織斑先生……」

箒「もしかして、こうなることがわかってラウラに教官役を?」

千冬「まあ そういうことだ」

千冬「あと正直に言えば、私も暇ではないからな。ラウラにその役を押し付けた」

小娘共「!?」

千冬「どんなに理由を取り繕うとも、基本的に私は多忙でな。楽ができるのならば楽をするさ」

千冬「そして、『私のようになりたい』と言ってくるやつに私の仕事を肩代わりさせただけに過ぎん」
・・・・・・・・・・・・
千冬「こればかりは特別な資格は何も要らないからな」

箒「あ……(――――――『特別な資格は何も要らない』か。確かにそうかも)」

千冬「それに、様々な人間と触れ合うことで“朱華雪村”としての人間性が詰まっていくのだ。満更、悪いことでもなかろうて?」

千冬「篠ノ之、お前も“アヤカの子守”をやってみていろいろと気付かされたことがいっぱいあるだろう?」

千冬「私はそれをラウラ・ボーデヴィッヒにも期待しているからこそ、こうして “アヤカの教官役”を任せたのだ」

140  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:07:41.82 ID:VOafPGt10

千冬「これで納得しただろう? ではな」

シャル「わざわざそのことを説明するためだけに?」

千冬「おいおい? ちゃんと説明してやらなかったらお前たちは今回の件について不満を抱えたままだろう?」

千冬「そうなったら、いろいろと面倒なことになる」

千冬「だから、言葉を尽くしたのさ」

箒「あ……、ありがとうございました」


千冬「ま、ラウラも私が教鞭を執った当初はあんな感じの分からず屋だったのだから、私がどれだけ苦労させられたのかを思い知ればいい」


小娘共「?!」

千冬「はははははは」スタスタスタ・・・

シャル「何か、織斑先生の印象が少し変わった気がする……」

セシリア「そ、そうですわね。少なくとも優雅とは程遠いのですが、あの方がなさることはどこまでも晴れやかな印象がありますわ……」

箒「それはきっと――――――」

シャル「?」

セシリア「何ですの?」

箒「いや、何でもない」フフッ

セシリア「気になりますわ! 教えてください、箒さん!」

シャル「もしかして、“アヤカ”くんの面倒を見ている中で気づいたこと?」

箒「こればかりは教えらないぞー! 私だけの宝物だ! わーはっはっはっはっは!」タッタッタッタッタ!

シャル「ああ ズルい!」

セシリア「お待ちになってください、箒さーん!」

141  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:09:15.42 ID:6c5AavVa0




雪村「――――――何を当たり前のようなことを言ってるんですか?」

ラウラ「こ、この…………!(――――――教官、これが教官のお勤めなのですね?)」

ラウラ「(た、耐えるのだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ! 私はこれまでどんなに苦しい訓練にも耐えてきたのだぞ!)」

ラウラ「(教官がこれに毎日 耐え忍んでいるのならば、私がそれを肩代わりして教官の支えとならねば――――――!)」

雪村「さすがに、これまでの人生の中で『全裸待機』なんてしている人なんて見たことありません」

ラウラ「馬鹿な!? それでは私の副官の言っていたことは――――――」

雪村「もしかして僕の教官(=ラウラ)は僕よりも非常識で人の話を鵜呑みにして思考停止しているんですか?」

ラウラ「な、何を言うか!? 貴様こそ、貴様こそ――――――!」グググ・・・





――――――その夜


箒「それで、あのラウラとか言うやつと初めての訓練はどうだったのだ?」

雪村「うん。何か楽しかった。ずっとおしゃべりしているだけだったけど」

箒「ああ…………(ドイツ代表候補生:ラウラ・ボーデヴィッヒ、ご愁傷様だな……)」

雪村「思ったよりも楽しくなりそう」

箒「そうか。それはよかったな」

雪村「うん」

箒「ハッ」

箒「――――――す、凄い!」

雪村「?」

箒「(最初の頃は無口で無愛想で無礼だった雪村がここまでハキハキとモノを言うようになるなんて! 効果覿面だな)」

箒「(なるほど。確かに教育というものは教える側にも教えられる側にも発見があるというものだな)」

箒「(雪村ではないが、『楽しくなりそう』だ、これから――――――!)」ウキウキ

雪村「それで、ラウラさんって凄く変な人でして」

箒「お前よりも変なやつなんてこの世の中にいるか――――――あ、居たな」ハハハ・・・







ピッ

ラウラ「クラリッサ、私だ。自分に自信がなくなった…………どう対処すればいいのかまったくわからない」ウウウ・・・


142  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:10:09.05 ID:VOafPGt10

――――――それからの日々


何だかんだで、ドイツから来た国家代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒは凶悪そうな雰囲気に反して穏やかだった。

最初の自己紹介で雪村に手を上げたことでクラスから浮いており、誰からも一定の距離感が置かれるものだと思われていたが、

織斑千冬がラウラ・ボーデヴィッヒを“アヤカ”の教官役に宛てがったことで、ラウラには“アヤカ”との関係が結び付けられることになったのだった。

それ故に、ラウラは他にすることがなければ“アヤカ”の観察に終始することになり、やがて“アヤカ”の代表的な行動に注目することになった。

そうしたことから、ラウラは一部では“雪村のストーカー”と思われて生暖かい眼差しを向けられるようになったのである。

そして、学園において“アヤカ”はそんなことは意に介さず、用がなければ1ミクロンも動くことなくその場で固まっていることが常だった。

――――――ラウラは唖然とさせられた。

『時間を潰すために何かをする』――――――密林の狙撃手のように獲物を待ち続けているわけでもなく、

『ただ何もすることがないから何もしない』という常人ならば発狂しかねない行為を“アヤカ”は全く苦に思うことなく行えていたのだ。

試しにラウラも真似してみて、そして段々と頭が割れるような思いに襲われるのであった。


143  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:10:44.12 ID:6c5AavVa0

ラウラ「あ、頭がおかしくなりそうだ…………」ガーンガーン!

千冬「何をやっているのだ、お前は?」

ラウラ「あ、教官……。教官から託された新人教育を果たすために、“アヤカ”の観察をしていたのですが――――――」

千冬「なるほど。確かに適切な教育を施すためには普段の生活の様子を観察して、日頃の思考や癖を把握するのも大事だな」

ラウラ「教官、それで私も“アヤカ”が普段から行っているこの行為を真似してみて、」

ラウラ「“アヤカ”がどんな気持ちでこれを行っているのかを推し量ろうとしたのですが――――――」

千冬「そうか」

ラウラ「何もしないと身体が落ち着かず、思考に集中するとどんどんどんどんあらぬ妄想に没頭してしまって――――――」アセダラダラ

千冬「止めておけ、瞑想にも正しい所作がある――――――いや、あれは瞑想ですらない」

千冬「完全にこの世の世界とは意識を断絶しているのだ。そうとしか思えん」

ラウラ「!?」

千冬「あれを理解する必要はない。事前に説明してやらなくて悪かったな」

千冬「もう少しでお前のことを誤った道へと堕としてしまうところだった…………」

千冬「(そう、『頭を空にする』ということは何も全てが良い悟りを得させるものではないからな。文字通り『頭を空にする』のだから――――――)」

千冬「私自身、“アヤカ”の扱いにはだいぶ心を砕いている。そして、頭を悩ませてもいるのだ」

ラウラ「教官が、ですか?」

千冬「そういうお前も、私がドイツでお前たちの教官に就任した時はずいぶんと舐めた態度をとってくれたな?」ニヤリ

ラウラ「あ、あの頃は私は何も知らず――――――」アセアセ

千冬「それと同じだ。今のお前は私と同じ立場となり、その時のお前に“アヤカ”がなっているのだ」

千冬「“アヤカ”を少し前の自分だと思って、――――――心構えを説く必要はないから、さっさとISに乗せて訓練を始めろ」

千冬「月末の学年別トーナメントで目覚ましい活躍をさせてくれなければ、この私が恥を掻くからな?」ニヤリ

ラウラ「あ、――――――わかりました、教官!」ビシッ

千冬「くれぐれも無茶はするな。無理強いをして身体を壊すようなことになれば体調管理ができない間抜けな教官だと思われるからな」

ラウラ「はい!」

千冬「(これぐらいでいいだろう。私自身の名誉などどうでもいいものだが、この娘を誘導するにはちょうどいいお題目だ)」

千冬「(さて、これから問題となるのは、電脳世界において“アヤカ”の心象風景を写しだして仮想世界を構築することだが、)」

千冬「(電脳ダイブ自体がアラスカ条約で禁止されているものであり、それをアラスカ条約によって設置された国際IS委員会が命令するとは…………)」

千冬「(もちろん、禁止されるからにはそれなりの理由がある――――――が、だからこそ国際IS委員会が命令してきたことに怒りを禁じ得ない!)」グッ



144  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:11:34.14 ID:VOafPGt10

――――――アリーナ


雪村「………………展開」(IS量子展開)

雪村「なかなかに洒落てるじゃないか」ガチャガチャ

雪村「コアナンバー36の訓練機:第2世代型IS『打鉄』“呪いの13号機”――――――」

雪村「4×9=36、4+9=13」 

雪村「見事に忌み数字が並んでる」 4=シ=死、9=ク=苦

雪村「ふふふふふふ……」

雪村「そして、それを創りだしたのがこの僕か」

雪村「乗っただけでISを暴走させるなんて、やっぱり僕はおかしいんだろうな……」

雪村「さて、超国家機関:IS学園の訓練機をついに専用機として借り受けてしまうとは――――――」

雪村「最初の「専用機化」は終了している。待機形態は腕輪。これが第1形態」

雪村「基本的に初期形態から第1形態へと形態移行するわけだけど、よほど尖った経験を積まなければ設計通りの第1形態になるという」

雪村「そこから、第2形態・第3形態へと形態移行していく。――――――そこからは完全にパーソナライズして個人所有しなければ辿り着けない領域」

雪村「僕ができることなんてたかが知れていることだけれど、――――――これからよろしく」

雪村「そうだな。『呪いの13号機』というのもなかなか呼びづらい。それに『鈍いの重惨』とも読み替えられそうだし、変えよう」

雪村「何がいいかな? そもそも機体色がスポーツ用なのに地味目だからな…………」

雪村「13繋がりで『足利義輝』、『豆名月』、『薩摩芋』――――――」

雪村「日本国憲法第13条――――――『個人の尊厳』」





雪村「よしわかった。今日からお前は『知覧』だ。『知っている人はご覧になってくれている』――――――それがお前だ」


鈴「なんでやねん!」ズコー

雪村「…………?」

鈴「どうして仰々しく13繋がりで最後に『知覧』なるのよ! さっき辞書で確認したら、九州の南の鹿児島県の小さな町じゃない!」

雪村「どう思われようが関係ないです。その時々に相応しいと思ったものを名づけたまで」

鈴「ああ……、そう」ヤレヤレ

145  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:12:26.37 ID:6c5AavVa0

雪村「………………」ジー

鈴「な、何よ! 私だってここで訓練する気でいたんだからね。悪く思わないでよ」ドキッ


雪村「…………名前なんでしったっけ、2組の人?」


鈴「はあああああああああああああ!?」

鈴「これまでだってクラス対抗戦や合同実習の時に散々 呼ばれてたじゃない、私の名前!」

雪村「ごめんなさい。これまで全然興味がなかったのでまるで憶えてませんでした」

鈴「あんた、いい度胸してるわねぇ?」ニコニコー

鈴「せっかく専用機をもらった――――――まあ 学園の訓練機なんだけど! 『どうぞ 遠慮無くぶちのめしてください』ってことでいいのね?」ゴゴゴゴゴ

雪村「はあ 稽古をつけてくださるのですか。ありがとうございます」

鈴「こ、このぉ…………(これまでいろんな人間がこいつの相手をしてきてほとほと疲れきるのを見てきたけど、これは本当にメンドイ…………)」

鈴「あんた! やる前に訊くけど、ちゃんと空を飛べるようになってる?」

雪村「飛べません。最初はちょっとできていたのですけど、なぜか今はできなくて――――――」

鈴「ああ もう! それじゃ勝負にもならないからこっちも飛ばないであげる! これがせめてもの情けよ!」

雪村「ありがとうございます」

鈴「それじゃ、模擬戦! さっさとやるわよ! 覚悟なさい!」

鈴「それで、中国代表候補生:凰 鈴音の名を胸に刻みなさい!」

雪村「何? ――――――“ファン・イーリス”?」

鈴「違あああああああう!」

鈴「もう! “鈴”って呼びなさい! あんまり気安くされるのも嫌だけど」

雪村「ああ……、“鈴”か。そうですか、道理で本名の方を思い出せなかったわけだ」

鈴「…………こいつ、本当に疲れる」ハア




146  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:13:18.72 ID:VOafPGt10


――――――3、2、1、スタート!


鈴「はああああああああああ!」ヒュウウウウウウウウウウン!

雪村「………………」ブン!

ガキーン! ガキーン!

鈴「初心者にしては、初撃を防ぐだなんてやるじゃない(思った以上に攻撃が重たい! 『打鉄』の鈍重さが『甲龍』の格闘力を上回らせているってこと……)」

鈴「けど、今のは小手調べ――――――ん」

雪村「おっと、おっと、おっと…………」ガコンガコンガコン!

鈴「なんでマニュアル歩行なんてしてるわけ? 滑走できなさいよ……」

雪村「………………」ガコンガコンガコン! ジャキ!

鈴「…………まさか、ここまでダメなやつだったなんて思わなかったわ(飛行できないどころか滑走もできないなんてね)」ハア

鈴「世界に467しかない1つを専用機として貰い受け――――――借り受けてるのに、そのザマだなんて」

鈴「いいわ。格の違いってのを見せつけてさっさと終わらせてあげるわ」ジャキ!

鈴「それじゃ、――――――本番 行っくわよおおおお!」ヒュウウウウウウウウウウン!

雪村「………………!」

鈴「でえええええええええええい!」ブン!

雪村「………………!」ブン!

鈴「!!?!」ガキーン!

鈴「なっ!?(な、何!? さっきのと全然重みが違う!? 私と『甲龍』が押し負けた?!)」

鈴「くっ」

雪村「おっとっと……」ガコンガコンガコン!

鈴「???」

147  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:13:50.62 ID:6c5AavVa0

鈴「(どういうことよ? 格闘戦で相手を圧倒するには『質量』『速度』『姿勢』の3つが重要よね?)」

鈴「(いくら『打鉄』が鈍重でその分 どっしりしてるからって、『姿勢』を押し切る『勢い(=速度)』があれば崩すのなんか容易い――――――)」

鈴「(それが、その場に留まって振りかぶった一撃のほうが遥かに強いだなんて どういうことよ!?)」

鈴「(確かに格闘戦ではドライバーの力量がそのまま反映されるけれども、ISのパワーアシストで基本的な出力は一定のはず……)」

鈴「(この『甲龍』は最新テクノロジーをふんだんに取り入れて『打鉄』を完全に凌駕している機体なのよ。パワーだって何割増しの)」

鈴「(それがどうして、第2世代型IS相手に押し切られてるのよ!)」

鈴「(まさか、実はこいつの実力は代表候補生に匹敵するぐらいの才能があるとか――――――?)」

鈴「(――――――ないないない! だってこいつは、空も飛べないぐらいの凡人なのよ? 私なんて4,5回でいけたのに)」

鈴「(けど、こいつは“世界で唯一ISを扱える男性”であり、初めての合同実習の時に私の目の前でISを暴走させた張本人なのよ?)」

鈴「(――――――そうか! だからか! ――――――何かインチキを使っているから『甲龍』が訓練機なんかに!)」

鈴「そういうことね」ジロッ

雪村「………………?」ジャキ

鈴「あんた、インチキ使ってるでしょ! そうでなくちゃ『甲龍』が訓練機に負けるはずがない!」

雪村「そういうものなのか?」

鈴「まだ白を切るつもりなの!? いいかげんになさい!」

雪村「………………」

鈴「あんた! 1ミクロンも動くんじゃないわよ! 動いたら容赦なく『龍咆』でボコるから!」ギロッ

鈴「管制室! ちょっと来て、取り調べを!」ピッ

雪村「………………そういうことなら」ピタッ

鈴「は?」

雪村「………………」(石化した)

鈴「………………は?(本当にピクリとも動かない。まるで機能を停止した鋼鉄の機械のように…………)」

148  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:14:58.27 ID:VOafPGt10

――――――それから、


雪村「………………」

鈴「ホントのホントに何も異常はなかったっていうの!?」

教員2「残念ながら、本当に何も」

整備課生徒1「でも、性能差を覆せるなんてやっぱりおかしい!」

整備課生徒2「もう少し調べて――――――」

教員2「止めておけ。例の暴走事故だって原因不明だっていうのに、最初から疑ってかかるのはいけない」

教員1「他に何があると言うのですか!」

教員1「“彼”のせいで、代表候補生の1人が未だに意識不明なんですよ!」

教員2「けど、明確な証拠もない。そして、その責任を追及する方法もないではないか」

教員2「それに、学園が率先して“世界で唯一ISを扱える男性”を白い眼で見ているこの現状を政府に知られてしまったら、どうなる?」

教員1「ぐっ」

教員2「『男憎し』だか何だか知らないけど、生徒は生徒。区別など無い」

鈴「………………」

教員2「そもそも根本的な問いかけをしていないんじゃないか?」

一同「?」

教員2「おい、“アヤカ”」

雪村「はい」


教員2「お前はどういった感じで剣を振っていた?」


雪村「ちょっと浮いてPICを切って『知覧』に攻撃を任せて――――――」

一同「!?」

雪村「?」

教員1「何を言っているのかがわかんないだけど……」

雪村「ですから、だいたいのことは『知覧』に任せて僕はベストだと思う立ち回りを――――――」
・・・・
鈴「………………あんたが戦っていたわけじゃないの?」

雪村「どういう意味ですか?」

鈴「私が戦っていたのは『知覧』であって、あんたはその微調整役に過ぎなかったっていうの?」

雪村「あ、そういうことです。ああ よかった、そういえばよかったのか……」

鈴「はあ?」

雪村「?」

鈴「そんな馬鹿なことあるわけないじゃない! そんな馬鹿なこと――――――」プルプル

鈴「………………」

雪村「………………?」


千冬「やれやれ、大の大人も混じって何 一人の子 相手に本気になってる?」


一同「!」

鈴「ち、千冬さん……」


149  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:15:48.05 ID:6c5AavVa0

雪村「………………!」

千冬「探したぞ、“アヤカ”」

教員1「織斑先生……! 今、大切な話をしているので――――――」


――――――“アヤカ”に電脳ダイブさせる。


千冬「だから、今日はお開きだ」

教員1「電脳ダイブですって!?」

整備課生徒1「???」

整備課生徒2「???」

鈴「…………?」

教員2「そうですか」

教員1「――――――先生!?」

教員2「良かったじゃないですか。これで原因究明がはかどりますよ」

教員1「そ、それは…………」

千冬「そういうことだ。学園の大型サーバ1つを使わせてもらうぞ」

教員2「わかりました。良い結果が出ることを期待しております」

千冬「では行くぞ、“アヤカ”。これから週に一度、電脳ダイブで仮想世界を構築するぞ」

雪村「よくわかりませんが、よろしくお願いします」


鈴「あ、あの!」


千冬「何だ、凰?」

鈴「第3世代型ISが第2世代型に負けるってことは――――――いえ、同じ接近格闘機ならば世代を経たほうが――――――」

千冬「愚問だな。そんなのは乗り手次第だろう」

鈴「そうじゃなくて……」

教員1「基本性能を圧倒的に凌駕している『甲龍』が『打鉄』に接近戦で遅れをとるというのは――――――」

千冬「………………ハア」

千冬「お前たちは一からISというものを学び直したほうがいい」

千冬「ISはただのパワードスーツではない。乗馬に喩えられるものなんだぞ?」

千冬「ISの力はどこまでもISによるものだ。それをより活かしきったほうが勝つのは当たり前だろう」

千冬「こいつはそういった他力本願に優れていた――――――だから、勝っていたのではないか?」

鈴「…………『他力本願』?」

千冬「それを理解せずに、己の力を誇示するやり方だけを貫くのならばこいつには絶対に勝てないぞ。いずれそうなるだろう」

千冬「ではな。時間が押してるんだ。さらばだ」

雪村「それでは」

スタスタスタ・・・

一同「………………」
・・・・・・・・・・
鈴「だって、ISは人間が動かすものじゃない…………」



150  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:16:34.24 ID:VOafPGt10

――――――IS学園地下秘密区画


雪村「具体的にはどうすればいいんですか?」(電脳ダイブ専用シートに身を預けている)

――――――
千冬「専用機を介してお前の意識を電脳に直結させた後、こちらで誘導し、あるサーバにお前の全てを記録する」
――――――

雪村「そんなことができるんですか?」

――――――
千冬「ISには心がある。お前の心を――――――自分が気づいていないものも全て見ている。その性質を利用してISに仮想世界を構築させるのだ」

千冬「だが、電脳ダイブはお前の意識を直接 電脳世界に送り出すために、そこでの肉体の感覚は現実世界におけるお前自身の心そのものだ」

千冬「よって、電脳世界での肉体が欠損すれば、その痛みがお前の心を蝕むことだろう」

千冬「最悪の場合は、電脳ダイブによって廃人になる危険性がある。そして、ISコアも「初期化」しないと使い物にならなくなる」

千冬「だからこそ、表向きでは電脳ダイブ行為はアラスカ条約で禁止されている」
――――――

雪村「………………」

――――――
千冬「だが、安心しろ。電脳世界でのお前を守るのは他でもないお前自身の専用機だ」

千冬「お前は自分のISを信頼して全てを委ねていればいい」

千冬「それじゃ、始めるぞ」
――――――

雪村「…………はい」

――――――
千冬「――――――始めてくれ」


山田「……はい」

友矩「わかりました。微力を尽くしましょう」

一夏「…………“アヤカ”。もし何かあっても俺が助け出すからな」グッ
――――――

雪村「………………」


雪村「…………


雪村「……」」


雪村「」




151  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:17:35.70 ID:6c5AavVa0

――――――数時間後、


雪村「!」ガバッ

雪村「………………」ハアハア

千冬「ご苦労だった、“アヤカ”」(彼の側に立っていた)

雪村「…………疲れた」アセダラダラ

千冬「まあ そうだろう。だからこそ大事を取って週一で、少しずつ仮想世界の構築を進めるつもりだ」フキフキ(手ずからタオルで汗を拭ってあげる)

千冬「電脳ダイブではほんの些細なことが命取りになる可能性がある。一気に押し進めるのは危険だ」

千冬「今回はここまでだ。ゆっくり休んでくれ。寝坊はするなよ?」スッ(そして、タオルを渡す)

雪村「……はい」ゴシゴシ

雪村「あ」

千冬「どうした?」

雪村「帰り道がわかりません」

千冬「フッ、そうだったな。これから毎週ここに通い詰めるのだからデータをやろう」フフッ

千冬「そして、今日は私が送っていこう。最初だからな」

雪村「ありがとうございます」


スタスタスタ・・・











――――――
一夏「!」ガバッ

一夏「………………!」ゼエゼエ

山田「大丈夫ですか、一夏くん!」オロオロ

一夏「…………危なかった」ゼエゼエ

友矩「危うく取り込まれるところだったね……」アセダラダラ
                                                        オーバーロード
一夏「あ、あれが“アヤカ”の世界――――――、“アヤカ”が感じる世界の実相――――――、人の無意識の中に存在する“魔王”――――――」ゾゾゾッ

一夏「このまま仮想世界の構築を進めていったら――――――」

一夏「けど、これで少しは“アヤカ”も人間らしさを取り戻してくれればいいんだけど…………」フゥ

友矩「…………難しいよね」


――――――人の心と向き合うっていうのは。


――――――
152  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:18:54.04 ID:VOafPGt10

登場人物概要 第3話A

朱華雪村“アヤカ”
専用機:第2世代型IS『打鉄』 ペットネーム『知覧』 通称:“呪いの13号機”
ランク:A 
 格闘:A 射撃:E
 回避:E 防御:A
 反応:A 機転:A
 練度:E 幸運:E

専用機として学園の訓練機を日常的に貸し出された、世界的にも稀有な経緯で誕生した専用機持ち。
他の人間が一様に“彼”を“アヤカ”と呼ぶのに対して篠ノ之 箒だけが“朱華”と呼び続け、彼女が“雪村”に呼び改めたことから“雪村”表示に改まっている。
また、本筋の主人公である織斑一夏との接点もどんどん深まっていっており、これからの関係に乞うご期待である。
他人との関わり方を知らないことから他人と話している時はぶっきらぼうな言い方になっているのに対して、一人の時は普通に喋ることが確認される。

人から疎まれる才能の持ち主であり、基本的にメンドイ性格である。
それ故に、“彼”と接した人間は基本的には否定的な感情を持つことになり、そもそもの前評判でますます損することになる。
しかし、それを気にしなくなっているのが“彼”であり、とことん気にせずマイペースで在り続ける。
“彼”が乗った後に暴走事故が二度起きていることから1年1組以外の大半の学園関係者からは危険視されており、脅迫の手紙が送りつけられるぐらいである。
だが、それでもやっぱり気にしない。読んだところで何かが変わるわけではないことを見透かしているように。
一方で、“彼”のせいで何の罪もない噂の転校生かつ優等生であるシャルル・デュノアが肩身狭い思いをする羽目になっている。

――――――なにせまったく気にしてないから。良識がないから。何が正しいのかを見失っているから。

かなり淡々と綴って場面を省略しているが、“彼”以外の“ISを扱える男性”とされるシャルル・デュノアとはルームシェアをしていない。
そうしたのはもちろん寮長である織斑千冬であり、どう考えても同室にさせることはシャルル・デュノアにとってマイナスにしかならないからである。

かなりの教養があるのか、はたまた重要人物保護プログラムで津々浦々を転々とさせられた経験の賜物なのか、
貸し出された『打鉄』に『知覧』というペットネームを付けるぐらいの珍妙なネーミングセンスとウンチクを発揮している。
また、皮肉屋な一面も独り言に現れており、人前では努めて愚物を演じて、本当の性格は相当に暗いことを伺わせている…………
洞察力も非常に鋭く、実は“彼”の言葉の端々に相手の短所や欠点を突いたり、ピンポイントに神経を逆撫でしたりするものが自然と含まれている。

織斑千冬からは『他力本願を使いこなす天性の才能がある』と評価されており、ラウラ・ボーデヴィッヒの相手もいずれ務まると見られている。
IS乗りとしてはまさしく初心者でしかないが、ISに力を発揮させることに関しては代表候補生を軽く凌駕しているとのこと。
それ故に、“彼”のIS適性がランクAなのも頷けるものがあり、初心者だと甘く見ていると痛い目に遭うことだろう。
ただし、専用機が鈍重な『打鉄』なのでセシリアの『ブルー・ティアーズ』などの空中戦主体の射撃機には絶対に勝てない。機体相性までは覆せない。


153  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:19:49.73 ID:6c5AavVa0

篠ノ之 箒
改変度:S
メインヒロイン。この物語においては“アヤカ”の保護者――――――“母親役”がすっかり板についてきた。
彼女もそれを受け容れて得たものがあるらしく、“アヤカ”に対する態度に慈愛の念がこもるようになってきた。
ただし、あくまでも本命は別におり、“アヤカ”については彼女自身は恥ずかしがって認めていないが“母と子の関係”という言葉がしっくりくる関係になっている。
“アヤカ”を実家に連れてきたことで更にその関係が深まるのだが、同時に彼女にとって最も大切な存在との繋がりにも再び触れることにもなった。

しかし、“アヤカ”と繋がりが深いために、“アヤカ”と“呪いの13号機”の件で彼女も悪く言われるようになり、
“篠ノ之博士の妹”であることが取り沙汰されて、“アヤカ”ほどではないにしろ、彼女も暴走事故の関与が疑われている。
それでもそんな意見を持つ人は極一部であり、基本的には“アヤカの子守”あるいは物好きとして応援されているぐらいである。

今作では全面的に“アヤカ”の世話に終始しているためか、ISでの訓練も人並みにしかやっておらず、原作以上にIS搭乗の経験が浅い。
しかし、“アヤカの子守”を通じて剣道部の活動に精を出したり、積極的に“アヤカ”の人間関係の構築に奔走していたりするので、
その頑張りを周囲に認められて、一般生徒でありながら代表候補生並みに一歩抜きん出た存在として人望を集めることになる。
また、原作とは違って恋のライバルの仁義無き争奪戦がなく、馬鹿な想い人の動向に一喜一憂することがなくなっており、
普通の女子高生らしく晴れやかな青春期を送っており、性格も原作とは打って変わって頼り甲斐のある人間性に変わっている。


セシリア・オルコット
改変度:A
今作では影が薄い。織斑一夏と関わらなければ最新鋭機の専属パイロットという程度の人。
それでも、見下しているはずの男である“アヤカ”に対する態度は柔らかく、その“子守”をしている箒には敬意を払っている。
クラス代表やイギリス名門貴族:オルコット家の当主としての気品から黙っていてもその存在感を放ち続けているのだが、
“アヤカ”からすれば、積極的に関わることがなければ路端の石ころと同じ程度の認識である。


凰 鈴音
改変度:B
2組。
――――――以上。

番外編ではトップヒロインだったが、ここでは“アヤカ”との接点が一切ないのでまさしく赤の他人である。
原作でも噛ませ犬扱いされる場面が多く、初期ヒロインにおいて一人だけ2組なのを筆頭に不遇に次ぐ不遇に苦しめられているキャラである。
友人・腐れ縁ポジションとしては絶妙の位置に立っているのだが、幼馴染と同じくらいに噂の転校生の攻勢に圧されるものである。
しかし、今作ではヒロインズの大半が尽くモブに近い扱いなので、等しく不遇となっている。そもそも“アヤカ”とは友人ですらない。


シャルル・デュノア
改変度:A
原作では圧倒的な存在感を放つあざとい存在だが、“世界で唯一ISを扱える男性”が織斑一夏ではないばかりにその高貴な存在感が埋没している。
やはりハーレムものの主人公は織斑一夏ほどではないにせよ、好奇心や義理人情で人の中に踏み込む性格でないとどんなキャラもモブに変わり果てる。
なかなかに匙加減が難しいものである。主人公というのは“鎹”でなければならない――――――!

“もう一人の男子”でかつ優等生なので転校当初は“アヤカ”などという根暗な存在と比べられて高い人気を誇ることになるが、
何かと“アヤカ”と比べられて引き立てられて、異常なまでの期待感を背負わされて息苦しい毎日を送らされることになってしまう。
また、“アヤカ”との同室も望んでいたがそれが叶わず、寮室も引き離されているので気が重たくなっている。
それ故に、シャルル・デュノアの方からあんな発言が出るくらいに憔悴することになった。

“アヤカ”に対してはむしろ好印象なようで、特に積極的に踏み込んでくるわけではないが、それは逆にこちらにとっても気が楽であり、
“彼”に対しては自然と親近感を覚えており、また“彼の子守”である箒に対しては強い信頼を置いている。


ラウラ・ボーデヴィッヒ
改変度:A
“世界で唯一ISを扱える男性”が“教官の汚点”ではなくなっていることを踏まえて、なんと今作では“アヤカの教官役”として登場する。
そのせいか、これまで挑発的で凶暴な一面が鳴りを潜めることになり、割りと真っ当に先輩教官としての立居振舞をすることになった。
『“アヤカ”が以前の自分と同じ』であることを諭されたことから、生まれた小鹿のようにIS操縦が下手くそな“アヤカ”を気遣うようになる。
それと同時に、“アヤカ”に対しては底知れぬ潜在能力を見抜いており、適度な距離感を保つことになっている。

――――――『性格が違い過ぎる』だって?

よく振り返ってみよう。今作の織斑一夏(23)の冒頭の発言と織斑千冬の対応を見れば、織斑姉弟の影響を受けているラウラだって変わる。

154  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:23:34.61 ID:6c5AavVa0

第2世代型IS『打鉄』 ペットネーム『知覧』“呪いの13号機” 
専属:朱華雪村“アヤカ”
攻撃力:D+無いとは言わないが、格闘戦は搭乗者の力量に左右されるので
防御力:A 第2世代型IS最高の防御力
機動力:D-機動力は低いが、最低ではないのに“アヤカ”はPICコントロールが下手なのでマニュアル歩行してしまう
 継戦:E 一応、アサルトライフルがあるようだが誰も使ってないので
 射程:E アサルトライフルを使わないせいで格闘1つだけ
 燃費:S 太刀しか使わない・出力も低い・防御力も高いの3点張り

コアナンバー36。所属番号『13号機』であることも合わせて、4+9=13,4×9=36となる忌み数に相応しい不吉な経緯を持った機体……らしい。
基本性能は一般機とまったく同じ平凡な訓練機であり、この時点では特に戦力の違いはないどころか、
“アヤカ”のPICコントロール精度が下の下でマニュアル歩行しかまだできてないので、フットワーク面で筋の良い同級生に大きく出遅れることになる。

電脳ダイブによる仮想空間の構築とデータ収集に専念できる専用機を元々から必要としていたこと、
この機体に偶然にも“アヤカ”が乗った直後に意識不明の重体に陥る暴走事故が起き続けたことからの隔離の必要性から、
何の罪もないが事件の元凶である朱華雪村の専用機として宛てがわれることになった。

“呪いの13号機”というのは、“アヤカ”が暴走事故を起こす以前から付けられていた仇名だったらしいが、暴走事故から通称として定着したものらしい。
つまり、“アヤカ”の出現以前から元々“曰くつきの機体”として敬遠されていたらしい。
オカルトの域を出ないが、極端にこの機体による勝率が低いらしく、この機体に乗ることになった生徒は大小差はあるものの決まって嫌な態度をとるとのこと。
しかし、詳細な戦績とその追跡記録による裏付けがないにも関わらず、誰もがそう納得していることに誰も疑問を持たない…………


補足事項 ルビがずれていたので
“魔王”=オーバーロード 
これからたびたび話にあがってくる電脳ダイブにおいて登場する概念。
一夏曰く、「人の無意識の中に存在する“魔王”――――――」であり、
今作では屈指の鋼のメンタルを持つ一夏を戦慄させるほどの存在であるらしい……

155  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:24:18.18 ID:VOafPGt10

第3話B 一夏の願い
Unknown THE Gentleman

――――――5月

――――――地下秘密基地


一夏「へえ、今度は学年別個人トーナメントなんてあるんだ」

弾「IS学園の公式行事の中では最大の目玉で、1週間ぶっ続けで行われる晴れ舞台ってやつさ」

弾「世界に467しかないうちの最大数をここが保有しているわけで、それはそれは輝かしい舞台だろうよ」

友矩「しかし、単純に考えて1学年120人を1対1ずつ試合をしたとなると、その総数は――――――、」

友矩「まず、2の乗数にしないと1対1の戦いが続かないので、120に最も近い2の乗数は2の7乗で128――――――」

友矩「つまり、単純計算で参加枠128のトーナメントとなり、7回勝ち上がらないと決勝戦にはなり得ない」

弾「うえっ!? 7回も勝たないといけないのか!?」

友矩「そして、試合数は3位決定戦も含めるのでそのまま128試合!」


→64(第1回戦)+32(第2回戦)+16(第3回戦)+8(ベスト8)+4(準々決勝)+2(準決勝)+1(決勝戦)+1(3位決定戦)=128


弾「だ、だりぃ…………(確か、1学年1つのアリーナで同時進行だから分割進行もできないんだっけな…………)」

弾「しかも、身内に贈られる招待券って1日だけしか有効にならないんだよな?」

一夏「あ、ホントだ」

友矩「それに加えて、トーナメント表は当日になって発表される上に、平日もお構いなしに開催されるので、」

友矩「家族が娘さんの応援に行くのはかなり難しく、それは来賓としても同じわけなんだね」

弾「ああ……、だから、その前座としてクラス対抗戦っていうのがあったわけね」

弾「クラス対抗戦に選ばれるのはたいてい代表候補生で、その年の最強候補でもあるわけだから」

友矩「そういうことだね」

友矩「日を追う毎に来賓席はガランとしてくるし、早々に敗退した選手たちも連休だと喜んで違った空気を醸し出す」

友矩「身体とボール1つあればすぐに再開できるサッカーと違って、ISは乗馬に喩えられるスポーツ故に調整が極めて大変――――――」

友矩「ましてや、人数分もまかなえずに乗り回ししているのだから、尚更だよ」

一夏「本当に専用機持ちって優遇されてるんだな」

弾「何を他人事のように言ってんだよ」

友矩「それで、今年からは時間の短縮のためにツーマンセルに変えるそうで」

一夏「そうか。となると、1枠2人になるわけだから試合数が人数の半分の半分になって第1回戦が32回に圧縮されるのか」

一夏「すると、圧縮された64回分 試合が無くなって試合数も半分に抑えられるってわけか」

弾「128と64では偉い違いだな」

友矩「それと、クラス対抗戦で損壊した第1アリーナの修理自体は来月中には終わるようで」

一夏「そっか。早いな。そいつはよかったよかった」

弾「(実は、『あの無人機』よりもアリーナを破壊して回った一夏が澄ました顔で言えたことじゃないんだけどな……)」

弾「それで、1年は第1アリーナの代わりに第4アリーナを使うってことなんだな?」

友矩「そういうこと。無駄にアリーナが多くて救われたね」

156  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:24:51.82 ID:VOafPGt10

友矩「近々、またIS学園に出動の予定が組まれているらしいよ。――――――大会とは別件でそれが何かはわからないけど」

弾「そうか。まあ そんな気はしていたよ。今度は以前のようにはならないと信じたいな」

一夏「そうだな。あそこまで苦戦したのは初めてだよ」

友矩「それもこれも、僕たち“ブレードランナー”の正しい運用の仕方をお偉方が理解していなかったからこその苦戦であって、僕たちに非はない」

一夏「また、『あんな無人機』みたいなのが来なければいいんだけど……」

友矩「それが一番の悩みだね……」

弾「まったくだぜ…………」

男共「………………」ハア
・・・
一夏「そうだ。本当に今更だけど、今度 篠ノ之神社にお参りしてこよう。IS学園にあの娘がいるって話だし、土産になるはずさ」

友矩「そうだね。気休めだろうけど、発願しないことには何も始まらない。意思表示や声明があって初めて理解されるものだから」

弾「そうかい。それじゃ俺は仕事に戻るよ」

一夏「ああ。いってらっしゃい」

友矩「事故には気をつけて」

弾「ああ、わかってるよ。それじゃあな」


スタスタスタ・・・


友矩「さて、それじゃ僕たちは『白式』の新装備の確認でもしようか」

一夏「ああ。パイルバンカーやグレネードランチャーの次が出たのか?」

友矩「今度のは後付装備ならぬ外付装備のタクティカルベルトだよ」

一夏「おお。ポーチがいっぱいついてるな」

友矩「ポーチ以外にもホルスターなどに換えることができて、目的に応じた適切な小物装備の選択ができるようになるよ」

友矩「今のところはないけど、長期任務で必要なサプリメントや水筒を容れたり、小道具なんかを持ち運んだりする時に便利なはずさ」

一夏「うんうん。どんどんできることが増えていくな」

友矩「それでも、“ブレードランナー”は“ブレードランナー”であってそれ以上でそれ以下でもないんだけどね」

一夏「…………『白式』の拡張領域が自由に使えたらここまで苦労はしなかったのにな」

友矩「それでも、第1形態から使える単一仕様能力『零落白夜』のおかげでここまでこれた実績もあるから余計に質が悪い……」

友矩「それじゃ、装着してみて着心地や感覚の変化を確認しよう」

一夏「ああ。よろしく頼むぜ」


157  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:25:27.66 ID:6c5AavVa0

――――――それから、


一夏「…………ここに鈴の親父さんが経営してる中華料理屋があったんだよな」

友矩「そうだね。この1年で何が起きたんだろうね」

友矩「その1年だけで鈴は中国代表候補生にまで昇りつめたんだから、相当な覚悟があったはずだよ」

一夏「確か5,6年前だったかな? 鈴がこの街に引っ越してきたのは」

友矩「僕は大学時代からの付き合いだからその辺のことはわからないけど、」

友矩「どういった経緯で彼女と知り合ったんだい?」

一夏「簡単だよ。『この街に新しい中華料理屋ができる』ってことだから、同じ中華料理屋の息子の弾と一緒に敵情視察しに行った時にな」

友矩「ああ なるほど。それで?」

一夏「それで、俺と弾はその時にできる限りの情報を聞き出すように一人3人前は注文してみたんだ」

一夏「意外なほどにぺろりと食べられたもんで、本場中華料理の味ってやつが一種のブームになって俺は自然と店に足を運ぶようになったんだ」

友矩「なるほど。常連客になったことから――――――」

一夏「そうそう。それで、鈴とは“常連客のあんちゃん”って感じで打ち解けていったわけさ」

一夏「そういえば鈴って、やっぱり本土を離れて異邦の学校に一人入れられていたわけだから、付き合い方がわからなくって孤立していたようだったな」

一夏「それで鈴や親父さんから『日本の慣習や礼儀作法を教えて欲しい』って頼み込まれたっけな」
・・・・・
友矩「…………へえ(まさかね? いや、そんな理由だけでそんなことになるとは思えないが――――――だけど、こいつは一夏だし!)」アセタラー

一夏「またこの店の中華料理が食べたかったんだがな…………」

友矩「それは残念なことで」

一夏「ああ……、言ってたら中華料理が食べたくなってきた。五反田食堂に行こう」

友矩「はいはい」


スタスタスタ・・・


158  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:26:24.08 ID:VOafPGt10

――――――五反田食堂


一夏「美味い!」モグモグ

友矩「そうだね」モグモグ

蘭「………………」ドキドキ

蘭「あ、あの!」

一夏「?」

蘭「あの……、家庭教師の件、考えてくれましたか?」モジモジ

一夏「ああ…………」チラッ

友矩「…………」(首を横に振る)

一夏「それがやっぱりダメなんだ。ごめんな」

蘭「……そう ですか」シュン

一夏「でも、今日は時間があることだし、蘭の宿題を見てやるぐらいはできるぜ? 何か困ったことはないか?」

蘭「あ…………(くぅうううう! どうして今日はこんなにもてきぱきと宿題を済ませてしまったのかしら! 私の馬鹿ぁ!)」

蘭「あ、大丈夫です! 私、生徒会長ですから! みんなの模範になるように頑張ってますから!」

一夏「そうか。立派になったな。あの蘭が生徒会長になるんだもんな。兄とは違ってホントにまじめな優等生だな」

蘭「あ、あはは……!(……違う! こんな益体もない話をしているだけじゃダメ! 何か少しでも新しい情報を――――――)」クスッ

友矩「一夏、今日はどうしようか? 実家に泊まるか? それとも――――――」

蘭「(――――――それだ!)」

159  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:26:51.27 ID:6c5AavVa0

蘭「あ、一夏さん?」

一夏「どうした、蘭?」

蘭「一夏さんの新居ってどちらでしたっけ?」ニコニコ

蘭「……いつか遊びに行っていいですか?」ドキドキ

一夏「そっか。まだ教えてなかったっけか」

一夏「XXXX駅降りたところすぐのマンションだ」

蘭「へ!?」

蘭「それって、確か今年できたばかりの高級マンションのことじゃ――――――」

一夏「へえ、そうなんだ。実家と似た感覚で駅前で交通の便があってスーパーにも近い場所を選んだんだけどな?」

友矩「まったく一夏は………………僕がいなくちゃ本当にダメなんだからね」フフッ

蘭「!?」

蘭「あの友矩さん?」

友矩「どうしたのかな、蘭ちゃん?」

蘭「あの……、友矩さんは一夏さんと――――――」

一夏「ああ 同居してるけど?」

蘭「!!!?」ガーン!

蘭「あ、あの、どうして…………」

一夏「だって、二人で住んだら経済的だろう? それに俺と友矩は一緒に組んで仕事することが多いしさ」

一夏「いやぁ、これが本当に楽でさ。俺が疲れた時は友矩が料理も洗濯も全部やってくれるから大助かりだぜ」

友矩「そして、細かい予定の確認をして一夏をちゃんと仕事場に送り出すのも僕の仕事となりつつあるんだけど…………」ジトー

一夏「あ…………すまん」

蘭「友矩さん、一夏さん…………」フラッ

蘭「(この人、ただでさえ 宝塚に出てくるような美形さんだから一夏さんと並んでいると男と女のように見えちゃうっていうのに――――――、)」

蘭「(まさか一夏さんとそんな関係にまでなっていただなんてぇ…………)」

一夏「あ、おい! 蘭!? どうしたんだよ!」ガシッ

蘭「(ああ……、一夏さんの声が遠くに聞こえる――――――)」


友矩「…………憧れに対する恋などすぐに冷めろ。憧れという現実と掛け離れたものに踊らされたって虚しいだけだよ」



160  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:27:33.33 ID:VOafPGt10

――――――休日


一夏「シャルル・デュノア。“二人目の――――――」(黒服)

弾「いや、お前がいるから“三人目”だろう?」(黒服)

友矩「政府からは非公式の存在として隠蔽されているので、世間的にはシャルル・デュノアは“二人目”です」(黒服)

弾「そうですかい」

弾「で? なんで俺たちが遠く離れた空港にいるんだ?」

一夏「誰かを迎えにいく任務か? けど、それは俺たちの作戦能力だと――――――」

友矩「大丈夫です。護衛対象の方が強いので」

一夏「!」

弾「それって、IS乗りが来るってことか!?(だって、そうだよな! IS乗りの一夏よりも強いとなれば――――――)」

友矩「そういうことです。ドイツから来た代表候補生を学園まで橋渡しするのが今回の任務です」

友矩「弾さん、運転には細心の注意を払ってください」

弾「お、おう!(代表候補生だって!? ということは、またまた美少女のご登場か! どんな子なんだろうな!)」ドキドキ

一夏「けど、どうしてわざわざ俺たちが迎えに?」

友矩「今回の護衛対象は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』。きみの姉さんに教えを受けた優秀な娘だそうです」

一夏「!!」

一夏「それって――――――」

友矩「一夏はあくまでもIS適性のない一般人の振りをしていてください。それが大前提です」

一夏「ああ……」

友矩「そして、護送中は『IS学園の風紀やマナーを教えこめ』とのことです」

一夏「???」

友矩「僕もそうすることの意味がわかりませんが、できるかぎり話し合ってみて『ラウラ・ボーデヴィッヒの人柄を報告しろ』ということなんでしょう」

友矩「とにもかくも、会ってみればその必要性が自ずとわかるのではないでしょうか」

一夏「…………そっか」

弾「えと、確か……、あの便じゃねえか? ドイツから来るんだったらフランクフルトからのだろう?」

友矩「そうですね。時刻としてもそれでしょうね」

友矩「では、迎えに行きましょうか」

一夏「ああ…………」


――――――ドイツか。あまり思い出したくないことも思い出すからできるならば触れたくはなかったんだがな。



161  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:28:10.21 ID:6c5AavVa0


ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」ビシッ


黒服「お、おう! ようこそ、ラウラちゃん!(うっへえ! 超小柄だけど精巧な人形みたいでめちゃくちゃカワイイ!)」”

黒服「(けど、眼帯ってどういうことだろう? もしかしてそういったハンデを背負って代表候補生になったってことなのかな?)」”

黒服「(くぅー! 健気じゃないか健気じゃないか! でもそのためか、目付きがすっごくきつい…………)」”アセタラー

黒服「ようこそ、いらっしゃいました」’

黒服「遠路遥々お疲れ様でした」

黒服「どうですか? 時間に余裕もありますし、空港内の見物をしていっても問題ないですよ」

ラウラ「必要ない。すぐに学園へと連れて行け」

黒服「わかりました。お車へとご案内いたします」’

黒服「では、こちらです、お嬢様」”ウキウキ

ラウラ「………………」ジー

黒服「……どうしました?」

ラウラ「貴様――――――いや、何でもない」スタスタスタ・・・

黒服「………………」


162  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:28:46.80 ID:6c5AavVa0

――――――移動中:リムジン


弾:運転席「………………」

友矩:助手席「………………」

――――――
ラウラ「――――――」

一夏「――――――」
――――――

弾「なあ、友矩?」

友矩「何です?」

弾「二人っきりにして大丈夫かな?」

友矩「それはどういう意味で? 運転に集中してください」

弾「え? そりゃまあ――――――って、安心しろ。俺は運転中は片時も気は抜かねえよ」

弾「けど、気になるだろう? あの“唐変木の中の唐変木”がIS学園についてどんな話をしでかすのかを」

友矩「それは気になるところではありますが、説明に必要な資料は最初から用意されてるのでそれを使って説明すればまったく問題ありません」

弾「それはそうなんだがよ……」

弾「常人には理解できない思考回路の持ち主だから、余計なことを言わないか心配で心配で……」

友矩「まあ それはありますね」

友矩「けれども、それは常人では思い至らないような新たな発見にも繋がっているからこそ、僕たちがその良さを引き出すのですよ」

友矩「決して一夏の感性は狂ってなどない。その違いを理解してうまく利用することを覚えるべきです」

弾「なるほどね。『自由な発想の持ち主として珍重するべき』ってわけか」

友矩「実際にアリーナをあれだけ景気良く破壊して回れる度胸やそこを進撃路に選ぶ発想があって『無人機』を撃退できたのです。それが何よりの証です」

弾「だな。あれには心底驚かされたぜ」

友矩「しかし、あれはどうにも女性を狂わす何かを秘めているらしい」

弾「それには同意だな。怪電波でも発信してんじゃねえの?」

友矩「彼なら有り得そうだね。大学時代に“童帝”と呼ばれたスケコマシ伝説の数々から言っても、生まれる時代が違っていれば英雄になれたかもしれない」

弾「ははは、だろうな!」

弾「けど、『英雄』っていうのはどんなに人から褒め称えられても最終的には人に殺されるもんだし、そう考えるとあんまり羨ましい生き方とは思えねえけどな」

友矩「そうですね。だからこそ、俗と聖の間の妙に位置する存在であるように僕たちが導かなければなりません」

弾「――――――『俗と聖の間』か。――――――哲学的だな」

友矩「それが“人を活かす剣”に必要なものですから」

163  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:29:22.03 ID:VOafPGt10

――――――
黒服「どうだい、ラウラちゃん? 一通りの説明はすんだけれど何か訊きたいことはないかな?」

ラウラ「………………」ジー

黒服「まあ 男の俺から言えることは少ないし、一人にして欲しいのならば次にパーキングエリアで前の席に移るぞ?」

黒服「カーテンも締めれば前の席からは見えなくなるし、完全防音でこちらから通信しなければ何も聞かれることはないから安心してくれ」

ラウラ「………………」ジー

黒服「???」

黒服「(いろいろあれこれ突っ込んだ質問をしてくるんじゃないかと身構えていたけど、彼女 ずっとこんな調子だな。ずっと不機嫌そう――――――)」

黒服「ハッ」

ラウラ「?」

黒服「そういうことか! これは失礼した――――――(そうだよな。代表候補生でも女の子だもんな。そういうことは言い出せないよな――――――)」ピッ
                ・・・・・・・・・・・
黒服「次 停めてくれ………………対象がガマンしてるから」

ラウラ「?!」カア

ラウラ「ちょっと待て――――――」
――――――

弾「了解! こっちも休憩に入らせてもらうぜ」

友矩「…………『ガマン』ですか」ハア

友矩「もうちょっと表現を模索して欲しかったですね……」ヤレヤレ




164  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:30:04.27 ID:VOafPGt10

――――――パーキングエリア


ラウラ「ほう? 日本の高速道路というのはこうなっているのか」

ラウラ「我が国のそれ(=アウトバーン)とはずいぶんと趣が違うのだな」

黒服「あ、ラウラちゃん。もうそろそろ臨海特区には着くけれど、船舶に乗り換えていくからまだまだ掛かるよ」

黒服「だから、ほら! アイスクリーム!」スッ

ラウラ「む、別に私は――――――」

黒服「ほら」グイッ

ラウラ「あ…………」

ラウラ「そ、そこまでするのなら、う、受け取ってやらんでもない……」オソルオソル

ラウラ「……」ペロッ

ラウラ「!」

ラウラ「…………美味い」パッチリ!

黒服「良かった。それとIS学園の寮は二人一部屋だからルームメイトになった人用におみやげも」

ラウラ「え?! こ、こんなにもらっていいのか!?」ドキドキ

黒服「今日はラウラちゃんが日本に初めて来た記念にね」

黒服「たくさんあるから学園に着くまでにいくつか食べちゃってもいいぞ」

ラウラ「…………あ、ありがたくちょうだいする」テレテレ

黒服「うんうん。これで入学はばっちりだな」

ラウラ「――――――おかしな男だな、お前は」フフッ

黒服「へ、そうかな?(あ、ようやく笑ってくれたよ)」

ラウラ「ここまで見ず知らずの護衛対象の世話する必要などなかろう?」

ラウラ「お前と私の関係などこれが終わるまでのそれっきりのものだ」

ラウラ「どうしてそこまで私のことを気に掛ける?」

黒服「『どうして』って……、人とは極力 仲良くしたいと思うのが人の性だろう?」

ラウラ「私は戦うために生まれた戦士だ。私の前には敵と味方しかいない」

黒服「じゃあ、――――――俺は敵か? 味方か?」

ラウラ「………………」

黒服「味方に対してもそんな冷たい態度なのは寂しいだけだと思うけどな」

黒服「ラウラちゃんにだって大切にしたいって思える人がいるはずなのに、その人の前でもそんな固い態度なのは損だぜ?」

黒服「こう……、笑顔で接してくれたら誰だって気分がよくなるって」ニカー

ラウラ「………………」

ラウラ「あ」タラー

ラウラ「た、垂れてきた…………!」アセアセ

黒服「あ、ごめん! 長話に付きあわせちゃって!」

ラウラ「うわっ! しまった!(ほっぺたにアイスクリームが――――――!)」ツーン!

黒服「ああ……、とりあえずアイスを食べきってからにしよう」

ラウラ「う、うむ……」ペロッ

165  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:31:05.39 ID:6c5AavVa0


    ペロ・・・・・・


ラウラ「マッターホルンのような形からドーム状になった…………(うぅ、手がギトギトしているな……)」

黒服「あ、ちょっといいかな、ラウラちゃん?」

ラウラ「?」

ラウラ「別に構わないぞ」

黒服「じゃあ、ちょっと我慢しててね」スッ

ラウラ「はぅ!?」ドキッ(温かいおしぼりでラウラの頬についていたアイスクリームを優しく拭った)

黒服「はい。これでほっぺについたアイスクリームはちゃんととれたはず」

ラウラ「おぉ………………」ドクンドクン

黒服「それじゃ、アイスクリームを最後まで食べちゃって」

ラウラ「あ、ああ!」ドクンドクン

ラウラ「(さっきから私はどうしたというのだろう? 普段なら他人に肌を触らせることなど絶対ないというのに…………)」



166  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:31:39.84 ID:VOafPGt10

友矩「見た?」

弾「ああ、見たぞ」

友矩「あれが彼のスキンシップだ」

弾「うらやま……けしからん! 完全に犯罪だぞ、この野郎! 1回りの年下の娘相手にあんなにも気安く――――――!」

弾「イリーガル・ユース・オブ・ハンズだ! 逮捕されろ、リア充!」

友矩「基本的に的外れな気配りしかできない彼だが、時折 狙いすましたかのように見事に相手の心を射止めることがある」

友矩「それ故に、数多の女性の心を次々と鷲掴みすることができたのだ」

友矩「言わば、スケコマシの才というのはあの『零落白夜』のように真芯を捉える力に求められてくるわけだ」

友矩「ポイントなのは最初から真芯を捉えることじゃなく、その他大勢と同じくらいの凡庸さだ」

友矩「その凡庸さがあることによって抜きん出た存在ではない親近感を、真芯を捉える力によって一歩抜きん出た特別感を同時に演出させる」

友矩「親近感と特別感という相反した実感を同時に演出させることで、深い信頼感を醸し出すというわけ」

友矩「最初から『強いぞ』『凄いぞ』オーラを出して相手を身構えさせるのではなく、油断させてから本丸を狙い撃つといった感じだね」

弾「なるほど。落としてから上げたほうが確かにカッコ悪いものもかっこよく見えるマジックが働くもんな」

友矩「今、おそらくあのラウラって娘は仕事以上の付き合いをしてくれた人は初めてで、それに感銘を受けているはずだよ」

友矩「そして、彼の懐の深さを直感的に悟り、だからこそあそこまで態度が柔らかくなっているんだと思う」

友矩「こればかりは本当に天性の才能だよ。技術だけじゃない。信頼に足る人物かどうか直感的に見極める判断を早めに促せるのはその才能に尽きる」

弾「そう聞かされると、本当に凄かったんだな…………」

友矩「そういうきみだってモテる分にはモテてたって話じゃないか。――――――リア充」ボソッ

弾「あ、それはその………………」

友矩「彼のように星の数ほどの女性を同時に相手にしていたわけでもないのに、――――――反省なさい!」

弾「…………面目ないです」

友矩「さて、僕たちの任務も港まで。そこからはIS学園からのお迎えがくる」

友矩「そこまで無事に辿り着けるように、気合を入れ直してまいりましょう」

弾「おお!」

167  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:32:18.87 ID:6c5AavVa0

――――――港まであと僅か


――――――
ラウラ「――――――」ニコニコ

一夏「――――――」ニコニコ
――――――

弾「ああ……、最初の固い感じはすっかりなくなったな(目付きが変わってるよ、この短時間でよ……)」

友矩「これこそが彼の最大の武器なのです」

友矩「『彼が泣きつけば財界の人間も動き出す』と言われてるほどですから、彼は実は凄いんですよ?」

弾「まさしく“童帝”だな。現代社会に必要なありとあらゆるものを取り揃えていやがる」

弾「生身の実力は世界最強の“ブリュンヒルデ”に準じるぐらいで、」

弾「それでいて、世界最強の兵器までも使えてそれを一方的に打ち勝つ必殺剣まであるんだから、――――――言うことなしじゃん」

友矩「けれども、その世界最強の能力をどう使いこなすかが最も難しい課題でしてね……」

弾「そうだな。バカとハサミも使いようだしな」

友矩「それを活かしきるために僕たちはここに居るわけで、誰一人欠けてはならないのです」

弾「うん。俺も事故を起こさないようにますます気をつけねえとな」

168  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:34:05.33 ID:6c5AavVa0

――――――
黒服「さて、そろそろ港に着く頃かな」

ラウラ「むぅ……、もうそんな時間か」

黒服「これから世界唯一のIS学園での毎日が始まるんだ。どうか楽しい日々であって欲しいな」

ラウラ「…………お前は来ないのか」

黒服「残念だけど、『IS学園にはこうして度々仕事で来る』って程度かな」

ラウラ「………………」

黒服「………………」

ラウラ「なあ、お前――――――」

黒服「何かな、ラウラちゃん?」


ラウラ「――――――名は何というのだ?」


黒服「!?」

黒服「それは、その…………」

ラウラ「わかっている。私とお前の関係なんてこれっきりのものだということは」

ラウラ「しかし、私はこうして国を離れて再び織斑教官の許で教えを賜る機会を得られたのだ」

ラウラ「いつかまた、こうしてお前とも会える日が来ないとも限らないではないか」

黒服「………………」スッ(通信スイッチに指を伸ばす)

ラウラ「押すな、貴様!」

黒服「…………!」ピタッ

ラウラ「お前はどことなく織斑教官に似ている」

ラウラ「お前となら、その、――――――“友達”というものになれる気がするのだ」モジモジ

黒服「…………ラウラちゃん」

ラウラ「………………」

黒服「………………」

黒服「わかった。二人だけの秘密だぞ?」

ラウラ「そ、そうか! できるならば、そのサングラスも外して――――――」

黒服「けど、俺からもお願いしたいことがあるんだ」

ラウラ「何だ? 言ってみろ」

黒服「IS学園にいる“世界で唯一ISを扱える男性”のこと、できることなら助けてやって欲しい。理解してあげて欲しい」

黒服「“彼”の側に俺は居てあげられないから、俺の代わりに助けてやってはくれないか?」

黒服「これが俺からのお願い。そして、できるかぎり楽しい思い出をIS学園で築いてきて欲しい」

ラウラ「………………」

ラウラ「わかった。善処しよう。――――――お前の頼みなら」

黒服「ありがとう」
――――――

169  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:34:41.32 ID:VOafPGt10

ガチャ

黒服「到着しましたよー、お二人共ー」”ニコニコー

ラウラ「あ」

黒服「…………もしかして待たせちゃった?」

黒服「1,2分ほど」’

黒服「あ……、こうしちゃいられない! さあ、ラウラちゃん。土産物 持って」ギュッ

ラウラ「あ、ちょっと――――――(あ、どうして私はこの男にこれほどまでに――――――)」

黒服「さあさあ(この野郎、ドイツの銀髪ロリ人形の綺麗ですべすべな手と自然な流れで繋ぎやがって…………!)」”

黒服「あちらの船です(きみはさすがだよ。最後の最後まで“彼”のことを気遣っていた――――――)」’

黒服「あの岸の向こうに見えるのがIS学園だぞ」

ラウラ「確認した(だが、まだ私はお前の名前を――――――!)」

ラウラ「(どうしてだろう? ずっとこの手を引いていってもらいたい気がした)」

教員「お、眼帯をした娘――――――、若干時間に遅れたけど余裕を持った日程だから問題ないか」

教員「こちらですよー!」


スタスタスタ・・・・・・



170  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:36:04.44 ID:6c5AavVa0

黒服「お疲れ様です。こちらの娘がドイツから来た――――――」

ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」ビシッ

教員「ああ……、はい。それじゃボーデヴィッヒさんはこちらへ――――――」

ラウラ「………………」チラッ

黒服「?」

ラウラ「………………!」ギリッ

ラウラ「……もういい」フン!

教員「どうしました? 早く船へ――――――(この娘、見た目に反して結構なお土産を持参してきて――――――)」

黒服「あ、ラウラちゃん。背中にゴミがついてた。ちょっと動かないでくれる?」

ラウラ「なに?」

教員「?」

黒服「………………」サワッ

ラウラ「!?」ビクッ

ラウラ「(く、くすぐったい!? いったい何を――――――)」プルプル


「H」「A」「J」「I」「M」「E」


ラウラ「“HAJIME”――――――」

ラウラ「!」

黒服「よし、とれた。これで大丈夫かな」

黒服「それじゃ、行ってらっしゃい! 楽しい学園ライフを送ってくれよな」

ラウラ「………………」

黒服「?」

ラウラ「……ああ。そうさせてもらおう」フフッ

171  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:36:52.18 ID:VOafPGt10

教員「もう大丈夫ですか」

ラウラ「ああ。手間取らせてすまなかった。案内してくれ」

教員「あ、はい(あら、思ったよりも可愛げのある娘じゃない)」ニコッ

教員「それでは、お疲れ様でした」

黒服「ああ(さて、これで仕事も一段落だな――――――)」


スタスタスタ・・・


ラウラ「………………」クルッ

黒服「あ」

ラウラ「――――――」フフッ


Auf Wiedersehen


そして、ドイツから来た銀髪の小柄な少女は本土と学園島を結ぶ定期便に乗って、目的の地へと辿り着くことになった。

「また会いましょう」という言葉と微笑みを残して、少女は未知の世界へと旅だったのであった。

これから彼女がどんな学園生活を送ってくれるのかはどこまでも気になるものであったが、そこからは彼女の道と弁えて風の知らせを待つことにした。

しかし、一夏としては本名を明かせなかったことがどうしても心残りであり、苦し紛れに“ハジメ”と名乗ったことに良心の呵責のようなものを感じていた。

けれども、“ブレードランナー”織斑一夏の人生は彼方に見えるIS学園をいつまでも見つめることだけが全てではなかった。

振り返れば見えてくるこれまでの景色の中で息づいている人々の全てを守るための遙かなる戦いが待ち受けていたのである。

そのことを再び自覚し、彼はまた一人の少女の心に太陽のような暖かい光を灯してあげた後、力いっぱい大地を踏みしめて来た道を引き返し、

それぞれの日常へと――――――それぞれの戦いの日々へと帰っていくのであった。


172  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:37:49.94 ID:6c5AavVa0

第4話A 光と影の交差する場所
VirtualSpace "Pandora's Box"


――――――学年別トーナメントまで残り2週間ほど

――――――放課後

――――――アリーナ


ラウラ「…………今日はここまでだ」

雪村「……ありがとうございました」ハアハア

箒「凄いじゃないか、雪村!」

シャル「うんうん。初心者とは思えない動きだったよ」

雪村「ありがとうございます」

箒「それに、ラウラも。さすがは代表候補生だ」

ラウラ「当然だ。私は織斑教官の教えを賜って最強になれたのだ。これぐらいのことは実に容易い」

ラウラ「そういう貴様らはこんなところで油を売っていていいのか?」

箒「?」

シャル「…………!」

ラウラ「確か貴様は、あの“篠ノ之博士の妹”らしいではないか」

箒「…………!」

ラウラ「――――――どういうつもりだ?」

箒「…………『どういうつもり』とはどういうつもりだ?」

ラウラ「貴様は“篠ノ之博士の妹”として――――――いや、だからこそ、この男に肩入れしているのか?」

ラウラ「見たところ、貴様はろくに訓練にやらずに、この男の世話ばかりしているようだが…………」

箒「それは…………」

シャル「箒…………」

箒「…………好きでやっていることだ」

ラウラ「そうか」

ラウラ「…………理解できなくはないが、どうにも納得がいかないな」

ラウラ「それとも、弱い者同士の傷を舐め合う道化芝居ということか?」

シャル「ラウラ――――――!」ガタッ

箒「いや、いいんだ、シャルル。お前が怒るようなことじゃない」

シャル「で、でも――――――」

ラウラ「ほう?」


箒「私にとってIS〈インフィニット・ストラトス〉が全てではない」


ラウラ「…………なに?」

雪村「………………」

173  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:39:15.36 ID:VOafPGt10

箒「確かに姉さんがISを開発したせいで、否が応でも私は“ISの開発者:篠ノ之 束の妹”になってしまったが、」

箒「私の人生には元々ISなどなかったことだし、私はこのIS学園で私が生きたいように生きることを覚えた」

箒「だから、別にISバトルの勝ち負けなんかに興味はない。人並みに使えればそれでいいと思ってる」

箒「私の適性などたかだかCだし、私よりも適性の高い人間など山ほどいるからな。今 努力したところで急に強くなれるわけでもない」

箒「けどな? だから私は、今までの私ができなかったことに挑戦しようと思っているのだ」

ラウラ「何だ、それは?」


箒「学園のみんなと一緒になることだ。独りにならないことだ。独りにさせないことだ」


シャル「――――――『独りにならない』、――――――『独りにさせない』」

雪村「………………」

ラウラ「…………なるほど。弱い奴は弱い奴なりに考えがあるということか」

箒「わかってくれたか」ホッ

ラウラ「この私に対して物怖じせずにここまで言い切ったやつはこの学園ではお前が初めてだ」

ラウラ「――――――敬意を表す」

シャル「…………箒!」

箒「ありがとう、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

174  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:39:54.46 ID:6c5AavVa0

ラウラ「………………」

雪村「?」

ラウラ「いや、“アヤカ”。お前は帰っていいぞ。お前たちもだ。これ以上は時間の無駄だ」

雪村「では」

箒「ああ。今日もお疲れ様」

シャル「それじゃ」

ラウラ「…………ああ」

スタスタスタ・・・・・・

ラウラ「………………」

ラウラ「…………教官、確かにあいつは昔の私と同じでした」

ラウラ「そして、おそらくは――――――」

ラウラ「ふふ、最初はどうなることかと思っていたが、やってみるとなかなかに――――――」


Auf Wiedersehen


ラウラ「ハジメ、私はちゃんと約束を守っているぞ」フフッ

ラウラ「たぶん、お前の正体は――――――」


――――――また会いたいな。


175  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:40:35.97 ID:VOafPGt10

シャル「これならベスト8も余裕だよ、“アヤカ”くん」

雪村「でも、PICコントロールが未だにうまくいかないから、射撃機と当たったらそれで終わってしまう……」

箒「それはどうしようもないことだな。ましてや乗り始めてすぐのトーナメントだからな…………」

箒「まあ 最初の1年はそういうものだと、見る方もわかっていることだし、本当の勝負は来年からだ。そう気を落とすな」

雪村「ありがとうございます」

シャル「…………ねえ、“アヤカ”くん?」オドオド

雪村「……何?」

シャル「その……、トーナメントで一緒に組むとしたら誰がいいの?」

雪村「………………」

シャル「ああ……、やっぱり――――――」

箒「どうしたというのだ、シャルル? 藪から棒に?」

シャル「あ、いや……、僕はその――――――」

箒「………………あれ?」

シャル「?」

箒「お前、少し見ない間に窶れてないか?」

シャル「そんなことは――――――」

箒「…………シャルル」ヤレヤレ

箒「お前も案外 不器用なやつなんだな、私が言うのも難だが」

シャル「…………?」

雪村「………………」

176  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:41:37.41 ID:VOafPGt10

箒「私はこの学園に来るまで“姉さんの――――――“IS開発者の妹”として執拗なまでの監視と聴取を受けてきたんだ」

シャル「…………そうなんだ(それっぽいことは以前にも、さっきラウラに言っていたけど――――――)」

箒「そのせいで、自分でも嫌になるぐらい荒んだよ」

箒「歳が10も離れた姉さんがISを開発したせいで、片田舎の神社の一家は世界中の人間の注目を集めてしまい、」

箒「姉さんを含む私の家族は逃げるように各地を転々とすることになった」

箒「けど、姉さんのせいで各地を逃げ回るようになったのに、姉さんは自重することなくあっちこっちで人に迷惑を掛けて――――――」

箒「最初から最後まで姉さんに振り回されて、気づけば父も母も姉さんとも離れ離れに暮らすことになっていた」

箒「おかげで、私は見ず知らずの人間を何人も親として接するように強制され、ニセの親子の間に交わされたことは常に姉さんのことばかりだった」

箒「そして、私は転校に次ぐ転校を重ねていく中で友達らしい友達もできず、」

箒「ニセの名前を与えられた私ではない私を次々と演じさせられ、誰の記憶にも残らない存在になっていった」

箒「回数を重ねていけばいくほど、私への政府の対応というものも酷いものになっていた…………」

雪村「………………」

箒「でもな、シャルル? そんな中で気付かされたことがあるんだ、ここに来て」

シャル「それは、何?」

箒「確かに最初こそは周りが変わって、自分のことを苛んでいるように思えることだろう」

箒「でも、それは違うんだ。――――――雪村との付き合いの中で私はそれを確信している」

箒「周りは何も変わることはない」


――――――変わったのはあくまでも自分だった。


箒「それはつまりは――――――、」


――――――自分が変われば世界が変わる。


箒「そういうことなんだ」

シャル「え…………」

箒「周りはごく自然な対応として私たちに接してきているだけに過ぎない」

箒「それを苦に思うのならば、原因は自分の中にあってそれを受け容れることから始めないと何も変わらないし、自分が救われない」

雪村「………………」

177  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:42:21.10 ID:6c5AavVa0

箒「こいつはな、シャルル? 入学当初は本当に最悪なやつだったよ」

箒「人の話はちゃんと聞いてはいるようだけど、それを態度に表さずにそっぽを向いたままで応対するし、口数も少ないし屁理屈も言うしさ」

箒「最初の頃のセシリアなんて雪村のことが大嫌いで仕方がなかったな」

シャル「………………そうだったんだ」

箒「だから、周囲の反応も今ほど肯定的なものではなかった。元々の雰囲気からして世界的な有名人にも関わらず期待されていなかったようだしな」

箒「けど今は、雪村のことをクラスのみんなが理解して気軽にふれあっている」

箒「これは雪村が少しずつ自分を変えていった結果なんだ」

箒「最近は暴走事故の件で以前ほどよく思われてはいないんだけど、暴走事故が起きる少し前までは学園の噂の的だったんだ」

箒「だから、『周りが悪い』『自分は悪くない』ってそこで立ち止まって『白馬の王子様が助けに来てくれるまでジッとしている』のは違うと思う」

箒「………………男のシャルルにこんなことを言うのは変かもしれないけど」

シャル「………………」

箒「今が苦しいのなら、今を変えるための何かを始めるべきだと思うんだ」

箒「雪村が今のようになれたのは、自分から変えようとみんなに立居振舞を教わったり、少しでもわかってもらえるように話しかけたりするようになったからだ」

箒「シャルルも、まずは誰かに自分の中の苦しさを話す努力をするべきだと思う。それは私でもいいし、少し頼りないがこいつにだっていい」

箒「同じ代表候補生のセシリアだっているし、世界一の織斑先生や山田先生だっているんだ」

箒「自分が話しやすいと思った人に思いきって声を掛けてみなって。それで自分が変われば世界の方から変わっていくから、な?」

シャル「………………」

シャル「……ありがとう、箒」

シャル「そっか。二人共、苦労してきたんだね……」

箒「ああ。最初の一歩を踏み出す勇気が一番難しいんだけどな」

箒「けど、その一歩さえ踏み出すことが覚えれば、あとはもう行くところまで行くさ」フフッ

シャル「そんな気がするよ、今の箒を見てたらさ」

シャル「(そうか。そういう考え方があるんだ……)」

シャル「(今の僕に必要だった答えがここにあったんだ…………)」ドクンドクン

雪村「………………」


「……………………フフッ」



178  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:43:23.08 ID:VOafPGt10

雪村「………………!」ピピッピピッ

箒「あ」

シャル「プライベートチャネルの通信だね」

雪村「……………」ピッ

――――――
千冬「“アヤカ”、週一の定期検診だ。夕食を摂ったらすぐに来い」

千冬「わかったな? 待っているぞ」
――――――

雪村「わかりました」ピッ

箒「何だって?」

雪村「週一で定期的な検査を受けることになりました。夕食は早めに摂らせていただきます」

箒「そうか。行って来い(――――――ということは、雪村にどうしてIS適正があるのかを本格的に調べることになったのか?)」

雪村「はい」

シャル「………………」ジー

箒「どうした、シャルル? 今からでも、私で良ければ相談に乗ってやるぞ?」

シャル「ううん。そうじゃなくてね」

シャル「本当に二人は『信頼しあってるんだな』って」

シャル「でも、それは恋人って感じでもないし、何だか本当に巷で言われている“母と子の関係”っていうのがしっくりくるよね」

箒「……もうそれでいい。私としても変に関係を疑われるより気分が楽だ」ハア

シャル「ははは……、箒ってその、何ていうか時々『男らしい』っていうか凄く堂々としていてかっこいいよね」

箒「そ、そうか? まあ 父のようにありたいと日々 精進してきたからな」

箒「そう思われてもしかたないか…………(やはり、『女らしくない』と思われているのだろうな…………)」ハア

シャル「?」

179  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:44:03.47 ID:6c5AavVa0

雪村「………………」ジー

箒「む? どうした、雪村? 早く着替えてきなって――――――」


雪村「お母さん」ボソッ


シャル「へ」

箒「は……」

雪村「………………」プイッ

タッタッタッタッタ・・・・・・

箒「あ、雪村…………!?」ドクンドクン

シャル「…………行っちゃった」

箒「何だったのだ、今のは……(びっくりして心臓が凄く高鳴ってる……)」ドクンドクン

シャル「もしかして、――――――『言ってみたかった』とか?」

箒「ハッ」

箒「も、もしかして――――――(…………雪村は察していたのだろうか? けど――――――!)」カア

箒「ああもう! 調子が狂う!」

箒「まったく、雪村め!」プンプン

箒「見てろ! 今度はこっちがびっくりさせてやるんだからな!」テレテレ

箒「行くぞ、シャルル。いつまでもここで油を売っていられるか!」

シャル「う、うん……(何ていうかやっぱり、安易に恋愛だとくくれない不思議な関係も素敵だよね……)」ニコニコ



180  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/28(木) 09:44:41.04 ID:6c5AavVa0

――――――夜

――――――地下秘密区画


雪村「………………」(電脳ダイブ専用シート)

――――――
千冬「さて、これで二度目の電脳ダイブとなるが、気分はどうだ?」

千冬「少しでも不調があるなら遠慮なく言え。1年は50週はあるのだからな、3年あれば150週だ」

千冬「今日できなければ、次にやればいいだけのことだ」
――――――

雪村「では――――――、」


――――――電脳ダイブの時についてくる人は誰ですか?


雪村「ただのサポートプログラムだと思えなかったのですが」

――――――
千冬「…………それは私だ」
――――――
・・・ ・・・・・・
雪村「それはあなたのことですか? それとも“織斑千冬”のことですか?」

――――――
千冬「………………」

千冬「…………なるほどな(さすがに感づいているか)」

千冬「(元々の素養もあるが、これまでの日々の中で他者への警戒心から洞察力が恐ろしく発達したと見える)」

千冬「安心しろ。どちらにせよ、お前の味方だ」

千冬「私を信じろ。私もお前を受け容れよう」
――――――

雪村「わかりました。始めてください」

――――――
千冬「ああ。それじゃ狎れを起こすといけないから、毎回毎回 馬鹿丁寧にいくぞ」

千冬「では、――――――始めるぞ」
――――――

雪村「…………!」


雪村「……」


雪村「」