一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」1
234  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:26:49.39 ID:lpEXoONP0

――――――学年別トーナメントまで1週間となろうとしていた頃、


箒「雪村、そろそろトーナメントの受付が終わってしまうぞ、早く決めてくれ!」

箒「(頼む、雪村! 私は何が何でも優勝しなければならないのだ! お前以外に組める相手がいないのだ!)」

シャル「ここはやっぱり、同じ“男子”同士で組もうよ、ね? ね?」

シャル「(箒もいいけど、やっぱり“アヤカ”以外にパートナーは考えられないよ! それに女の子を選んだら選んだらで――――――)」

雪村「どうしよう」

ラウラ「『より実戦的な模擬戦闘を行うために、二人組での参加を必須とする』――――――、」

ラウラ「“アヤカ”、お前が誰と組もうが私には関係のないことだがな」チラチラッ

鷹月「やっぱり“アヤカ”くんは人気者だよね」

セシリア「そうですわね……(どうしましょう? 私、タッグ戦のパートナーがまだ見つかりませんわ……)」

セシリア「(とりあえず、最初に訓練相手を務めてくださった“アヤカ”さん辺りを選ぼうと思ってましたけど、これは――――――)」

谷本「やっぱり“男子”同士ってことで、デュノアくんと組むべきだと思うな。これぞ正統派って感じで」ウキウキ

相川「いやいや、ここは“母と子の親子”の協力プレイでいくのが王道だよ!」ドキドキ

本音「おーおー」ワクワク

谷本「でも、最近のボーデヴィッヒさんも“アヤカ”くんに気があるって感じだしな~」ウーム

相川「ここでまさかの“師弟”コンビ結成!?」

セシリア「それはまた強敵ですわね……(そうですわねぇ……、正直に言えば誰と組んでも同じですけれど――――――、)」

セシリア「(もし“アヤカ”さん以外で選ぶとしたら……、箒さんが良いでしょうか?)」

雪村「………………」(ロダン作:考える人)

シャル「ああ……、また考えこんじゃったよ。こうなったら長いんだよね……」チラッ

箒「そうだな……」
・・・・・
シャル「(どうしよう? こうなったら本当に箒にパートナーを頼もうかな? 箒だったら万が一でも大丈夫だと思うんだ)」

ラウラ「優柔不断だな。戦場で決断を下せない役立たずな人種のすることだ」チラッ

箒「ああ まったくだ。まったくその通りだとも」

ラウラ「(誰と組もうと『シュヴァルツェア・レーゲン』1機で制圧できるが、“アヤカ”以外に組みたい相手がいるとすれば――――――、)」

ラウラ「(そうだな。他とは違って少しは骨がありそうな篠ノ之 箒が良かろう。“アヤカの母親役”としての優れた精神力で他よりはまだマシだろう)」

鷹月「みんなは誰と組みたいと思ってるの?」

谷本「そうねぇ、私としては“アヤカ”くんとデュノアくんの黄金コンビが鉄板だから――――――、」

谷本「篠ノ之さん辺りと組んでみたいかな? 聞けば、女子剣道全国大会優勝している腕前らしいし」

相川「ああ! 私も篠ノ之さんがいい! だって、“篠ノ之博士の妹”なんだよ? 何かこう……、あるかもよ?」

相川「でも、もちろん“アヤカ”くんには篠ノ之さんと組んでもらいたいけどね」

鷹月「私もルームメイトして『篠ノ之さんと組みたいなー』っと思ってたけど、この分だと篠ノ之さんも難しそうね……」ハア

本音「おお! “アヤヤ”もシノノンも人気者ー!」

谷本「あ、確かに! デュノアくんも凄い人気だけど、1年1組のマスコットかどうかで言ったら断然“アヤカ”くんの方よね」

相川「そうそう! だからこそ、1組を代表するペアって意味で『“母と子の親子”コンビでいってもらいたいな』って」

セシリア「むぅ…………(一応 クラス代表は私ですけれど、確かに名物としてお二人の関係のほうが知名度が上ですわね…………)」

235  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:27:28.74 ID:D7BqUz5q0

本音「ねえねえ、“アヤヤ”~」

雪村「何ですか?」


本音「“アヤヤ”が一番 信頼してる子を選べばといいと思うな~」


雪村「なるほど」

小娘共「!?」

シャル「え、ちょっと待って! 『なるほど』って――――――」

雪村「?」

シャル「あ、えと……、今まで“アヤカ”くんはどういった基準でパートナーを選ぼうとしていたわけ……?」

雪村「………………」


雪村「わかりません」シレッ


一同「!!!?」ズコー

箒「はあああああああああああああああ?!」

セシリア「それはいったいどういうことですの!?」

シャル「選択基準がわからなかったから、今までずっと答えが出せずにいたってわけ?!」

ラウラ「『下手な考え、休みに似たり』とはどうやらこういうことを指すらしいな……」

本音「な~んだ。それじゃこれですぐに答えが出せるね、“アヤヤ”」

雪村「そうですね」

小娘共「!」

236  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:28:11.36 ID:lpEXoONP0

鷹月「そ、それで? 今のところ、誰が一番 信頼している人 なのかな?」ドキドキ

谷本「これってたぶん、訊くまでもないことだと思うんだけどな…………」

相川「うん」

雪村「はい。それはもちろん――――――、」


雪村「ハジメさ――――――」ピタッ


シャル「え」

ラウラ「む?」ピクッ

箒「なに? 今、“ハジメ”と言ったのか……?(ちょっと待ってくれ? “ハジメ”なんて人が居たか――――――)」

一同「…………?」

雪村「………………」

セシリア「あの、今 何とおっしゃったのでしょうか? もう一度おっしゃってくださりませんこと?」

雪村「………………」


雪村「やっぱり“初めての人”しか思いつかなかった」


小娘共「!」

一同「!」

谷本「ああ……、やっぱりね」

相川「そうだね、うん。――――――“初めての人”か。良い響き……」ウットリ

鷹月「ここまではっきり言われたら――――――うん、これは予定調和ね」ホッ

谷本「そうそう。この場合の“アヤカ”くんの“初めての人”って言ったら、もう」

本音「おめでとー」


学年別タッグトーナメント:朱華雪村&篠ノ之 箒“母と子の親子”ペア 結成!


ちなみに、この時点での信頼度パラメータ
朱華雪村“アヤカ”からの信頼度
ハジメ >>> 篠ノ之 箒 >>>>>> ラウラ・ボーデヴィッヒ >>> セシリア・オルコット >>>>>> シャルル・デュノア >>>>>>2組

篠ノ之 箒からの信頼度
朱華雪村 >>>>>> シャルル・デュノア >>> セシリア・オルコット >>> ラウラ・ボーデヴィッヒ >>>>>>2組

237  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:29:17.23 ID:D7BqUz5q0

――――――その夜


箒「ど、どうだ?」ドキドキ

雪村「………………」モグモグ

雪村「自分では美味しいと思うの?」

箒「あ、ああ! それはもちろん! そうでなければ失礼だからな」

雪村「そう」

箒「で、どうなのだ?」アセタラー


雪村「美味しかったです。ごちそうさまでした」


箒「!」

箒「あ、ありがとう! 雪村!」

雪村「バター醤油かカラシ醤油を使うといいかもしれませんね」

箒「なに? そうするとますます美味しくなるのか?」

雪村「そう思います。このままでもいいのですが、味付けが薄いので風味豊かにするのならばバター醤油を入れるといいと思います」

箒「な、なるほど……」


ラウラ「話がある、“アヤカ”」ガチャ


雪村「?」

箒「ラウラ・ボーデヴィッヒ!?」

箒「め、珍しいな……。それと、ちゃんとノックしてから入れ」

雪村「何?」

ラウラ「お前が一番に信頼している相手を言おうと――――――」

箒「何だ、ラウラ? 雪村が決めたことに今更 不平を言いに来たのか?」ムッ

ラウラ「…………そうではない」プイッ

箒「今の間は、何だ?」

ラウラ「『そうではない』はないと言った。まずは聞け」

箒「……わかった」

雪村「………………」

238  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:30:49.19 ID:lpEXoONP0

ラウラ「それで“アヤカ”、お前は最初に挙げようとしたな?」


――――――“ハジメ”という名を。


箒「え」

雪村「…………それで?」

箒「あ……(雪村がこういう受け答えをする時はたいていそれが真実の場合――――――!)」

箒「だとすれば――――――(え? “ハジメ”? どこかで聞いたような名だが、いったいどこで聞いた?)」

ラウラ「それは肯定ということだな? 明確な否定が無ければ、そう受け取らせてもらおう」

雪村「………………」

ラウラ「……そうか。お前も“ハジメ”という人間には少なからぬ恩義があるというわけか」

箒「え? え?(あれ? でも、これが真実だとするならば、雪村は私よりもその“ハジメ”って人を――――――)」

ラウラ「訊きたい点はそこだ」

雪村「…………!」


ラウラ「どうしてあの場で真っ先に“ハジメ”の名を挙げたのか、だ」


箒「あ」

239  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:31:33.91 ID:D7BqUz5q0

ラウラ「そう。あの時に求められた答えはISドライバーでなければならない」

ラウラ「私が知っている“ハジメ”は紛れも無く青年男性だったが、もしそれと同一人物であるとするならばどうしてその名が挙がる?」

雪村「………………」

ラウラ「“ハジメ”は私をIS学園に送り届けてくれた時に、自分の代わりに『お前を守って欲しい』と願っていた」

箒「…………そうだったのか(教官と慕っている千冬さん以外にもそう言われていたから、ラウラは雪村に対しては――――――)」

ラウラ「私には、お前と“ハジメ”には最初から何らかの繋がりがあるように思えた。ただの偶然では片付けられないような何かをな」

ラウラ「考えられることは幾つかある」

ラウラ「“ハジメ”という男が生身でIS相手に戦えるだけの類稀な戦闘能力を持っていることだ」

箒「え」

ラウラ「驚くようなことではない。現に織斑教官も十分な装備さえあれば生身でISを圧倒するだけの戦闘能力を発揮されるのだからな」

箒「さ、さすがは姉さんと張り合うことができた御仁だ…………」

ラウラ「しかし、やはりこう考えるといまいち説得力に欠ける」

ラウラ「ISを倒せるのはやはりISでしかなく、素人のお前でもそれがどういう意味なのかをもう十分に理解しているはずだ」

雪村「………………」

ラウラ「よって、生身で強いだけではお前が真っ先に信頼している人物に挙げられるはずがない」

ラウラ「そもそも、“ハジメ”はIS学園にはなかなか来れないからこそ、私にお前を守るように願ったのだからな」

箒「…………」ゴクリ

ラウラ「だが、こう考えることもできる」

ラウラ「生身でISと戦える“ハジメ”とはIS学園で頻繁に会えるようになった――――――、とするならば可能性も見えなくもない」

雪村「………………」アセタラー

ラウラ「しかしながら、これも説得力に欠ける話だ。まだ足りない」

箒「な、なぜ? “ハジメ”という人物は千冬さんと同等の戦闘力を持つのだろう?」

箒「私は会ったことはないが、凄い人なのだろう…………?(――――――待て、本当にそうなのか? 私の場合は?)」

ラウラ「もう結論を言ってしまっていいだろう。今までの前提からして間違ったものだからな。これ以上は時間の無駄だ」

雪村「…………!」


ラウラ「“ハジメ”もお前と同じ“ISを扱える男性”なのだろう?」


箒「なんだと!?」

雪村「………………だとしたら?」アセタラー

箒「雪村……?(ちょっと待ってくれ。その受け答えの仕方は――――――)」

ラウラ「相変わらず、わかりやすい反応だな」フッ

240  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:32:17.07 ID:D7BqUz5q0

箒「ちょっと待って欲しい! 何を根拠に――――――」

ラウラ「根拠だと? “朱華雪村”という存在自体がその根拠だろうに」

箒「え」

ラウラ「“世界で唯一ISを扱える男性”――――――いや、今では2人も居るようだが?」

箒「あ、ああ――――――!?」

ラウラ「そういうことだ」

ラウラ「そして、おそらく“ハジメ”の正体は――――――、」


――――――2年前に日本に現れたとされる“世界で唯一ISを扱える男性”なのだろう。


箒「え? ――――――『2年前に日本に現れた』?」

雪村「………………そうなんだ」

ラウラ「さすがにそこまでのことはお前でもわからないか」

ラウラ「当然だな。今では単なるデマや都市伝説の類として扱われているものだが、当時の世界を震撼させた大発見だったのだからな」

ラウラ「その真偽を確かめるべく、世界中の諜報機関や犯罪組織が総力を上げて日本に続々と潜入調査をしたぐらいだ」

箒「そんなことが…………(私は6年間はずっと重要人物保護プログラムを受けていたからそんなことは全然――――――)」

ラウラ「そして、その動きを察知して日本政府は奪取されないためにあらゆる手段を講じてその存在を隠蔽したのだ」

ラウラ「だから、“ハジメ”の素性を知らないこと自体には何の矛盾はない」

箒「ん? 待て、それが真実ならどうしてお前はそれを知っている? 事実だと受け止めている?」

雪村「………………」

ラウラ「フッ、我がドイツ軍の情報部の情報網を甘く見ないでもらいたい」ドヤァ

ラウラ「第2回『モンド・グロッソ』で織斑教官の身に何があったのかさえも知り尽くしているのだからな、我々は」

箒「な、なに!? 千冬さんが現役引退を余儀なくされたというあの謎の棄権の真相を知っているというのか?!」

ラウラ「そうだ。しかし、これは口外禁止だ。これ以上は言うつもりはない」

箒「…………そうか」

ラウラ「どうだ? 会っているのだろう、今も。――――――“ハジメ”と」

箒「…………!」ゴクリ

雪村「………………」


雪村「答えられません」


箒「雪村!? この状況で『できない』っていうのは――――――」

ラウラ「フッ、やはりな」ドヤァ

箒「ラウラ……(凄いやつだ。私ではここまでの真実に辿り着くなんてことは到底――――――)」

箒「(だが、だとするならば! 私はいったいどこで“ハジメ”という名を聞いたのだ!?)」

箒「(たぶん、私はその“ハジメ”って人に会っている! 雪村は何も言わなかったけれど確実に会っているんだ! 思い出せ、思い出すんだ……!)」

雪村「………………」

241  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:33:46.93 ID:lpEXoONP0

雪村「今度はこっちが訊いていいかな?」

ラウラ「何だ?」


雪村「好きなんですか、“ハジメ”さんのことが?」


箒「あ」

ラウラ「………………何だと?」

雪村「ですから、好きなんですか? ――――――“ハジメ”さんのこと。そうなんですよね?」

ラウラ「な、なななな何を言い出すのだ、貴様は!?」カア

箒「ああ……、確かに」ナルホド

ラウラ「き、貴様も言うか!?」

箒「さっきから話を聞いてると、“ハジメ”って人に会いたい一心で雪村に聞き込みをしているようにしか思えなかったし」

雪村「……」ウンウン

箒「それで、一番に決め手は――――――、」


――――――『自分の代わりに雪村を守って欲しい』って願いをラウラが聞き入れているところが、特にな。


ラウラ「ば、馬鹿なことを! この私が、こここここ恋をしているとでも言うのかぁ?! ななな軟弱な……!」ドクンドクン

箒「大丈夫だ、ラウラ。私にも覚えのある感情だ」ポン

箒「私も9つ上の相手を慕っているし、年頃の女子にはよくあることだ。恥じることはないぞ」ニコニコ ――――――まるで母親のような慈愛に満ちた笑顔!

242  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:34:26.94 ID:D7BqUz5q0

ラウラ「な、何だその笑みは!?」ドキッ

ラウラ「わ、わわわ私は高潔なドイツ軍人だ! ドイツ軍人はうろたえない! うろたえないのだ!」アワワワ・・・

箒「だって、ラウラは私と同じように自分が認めた相手にしか心を開けないタイプの人間だろうし――――――、」

箒「しかも、“ハジメ”って人を ラウラの中では唯一 慕っている千冬さんと同格と見なしているようでもあった」

箒「そして 推測するに、おそらく一度しか会っていないだろう相手の願い事を聞き入れて叶えているだなんて、生半可なことじゃないぞ?」

ラウラ「そ、そうなのか?」ドキドキ

ラウラ「こ、これが『恋』――――――私は恋をしていると言うのか? 初対面の黒服に?」ドキドキ

箒「よしよし、ラウラ。聴かせてごらん。“ハジメ”って人はどんな人だったんだい?」ニコニコ

ラウラ「え、えと……、そ、それはだなぁ――――――」モジモジ

雪村「………………」アセダラダラ

雪村「……………………」ソロリソロリ・・・

箒「おい、雪村!」

雪村「!?」ビクッ

箒「お前、“ハジメ”って人と会ってるんだろう? ラウラの力になってやれ。お前のことを鍛えてやっているんだぞ」

雪村「いぃ!?」アセダラダラ


雪村「それはダメ!」アセアセ


箒「なぜだ!」

雪村「…………答えられません」

ラウラ「……そうか、それは残念だ。――――――また会いたいな」ドヨーン

雪村「あ、ああ……!?」ドキッ

箒「雪村!」

雪村「…………うぅ!」ブンブンブン (必死に首を忙しなく横に振り続ける!)


雪村「は、“ハジメ”さん…………」ガクブル



243  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:34:59.97 ID:lpEXoONP0

―――――― 一方、その頃


ジュージュー!

一夏「その肉 もらったあああああああ!」パシッ

弾「あ! それは俺が焼いてたやつ――――――!」

友矩「野菜もちゃんと食べるんだよ」

一夏「わかってるわかってる!」ハフハフ・・・

一夏「…………!」

弾「どうした? 喉でもつまらせたか?」

一夏「ビャックッショイ!」バッ

弾「うぇ…………」

一夏「…………!」ゴホゴホ

友矩「落ち着いて食べなさい。むせてるじゃないか」

一夏「いや……、むせたわけじゃない。急にくしゃみが…………」ゴホゴホ

弾「またどこかの誰かが一夏のことを噂にしたんじゃないの?」

友矩「一夏の人脈は凄いからね。特に“童帝”としては――――――」

一夏「……そうかも」

弾「有名人は辛いなぁ……」

一夏「…………フゥ」

弾「あ、そんじゃこの肉 貰いっと」ヒョイ

一夏「あ! 弾!?」

弾「お返しだっての!」

友矩「こら! ちゃんと取り分は分けてあるんだから喧嘩しない!」

ジュージュー!


244  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:35:34.83 ID:D7BqUz5q0

――――――同時刻、某所


シャル「これは?」

「このバイアルを“アヤカ”に使え」

シャル「何ですか、これは?」

「お前が知る必要はない」

シャル「………………」

「お前は同じ“男子”であるという優位性を与えられておきながら、“アヤカ”から信頼を得ることは遂に叶わなかった」

「これ以上は待つだけ無駄だと判断した」

シャル「それは! “男子”への風当たりが強かったせいで――――――」

「言い訳は無用だ。そもそも当初の計画では“男子”を登場させる必要性などなかったのだ」

「それをデュノアの愚か者の世迷言に乗せられたばかりに、無駄に計画遂行をより困難な状況へと導いたのだ」

「これが最後のチャンスだ。家を思い、実の親を思う気持ちがあるのであれば、やるべきことを果たせ」

「そうすれば故郷に帰れる。“ISを扱える男性”などという妄想の後始末はこちらでする。晴れて自由の身となるわけだ」

「そしてその後だが、高いIS適正を活かして今後も我々の許でテストパイロットをしながら慎ましく暮らしていけばいい」

シャル「…………そうですか」

「これを速やかに“アヤカ”に使うのだ」

シャル「……わかりました」


シャル「(ごめん、箒。やっぱり僕には勇気の一歩を踏み出すだけの力なんて無かったよ…………)」グスン



245  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:36:10.20 ID:D7BqUz5q0

――――――学年別トーナメントまで残り7日を切った頃、


ラウラ「………………」スタスタ

ガヤガヤ、ワイワイ、ワーワー

「ねえ聞いた? 結局“彼”、デュノアくんと組まずに“篠ノ之博士の妹”と組んだんだって」

「ええ!? あんな子と!? “篠ノ之博士の妹”であることを鼻にかけてるような嫌味な子と?」

「“男”同士って画になるのに――――――、わかってない連中ばかりよね、1組は」

「別にいいじゃない。あんな根暗な男子のどこがいいっていうのよ?」

「そうそう。しかも、『専用機を黄金色に塗り替えた』って言うじゃない。ああ見えて自己主張の強い性格だったのよ」

「うっわ…………」

「ある意味、計画通りだったんじゃないの?」

「どういうこと?」

「暴走事故を引き起こして訓練機を自分のものにしようとしたってことよ」

「そっか! 学園としても『貴重なISを凍結させるよりは――――――』ってことね」

「そう考えたほうが辻褄が合うわね」

「“呪いの13号機”の噂を巧妙に利用した計画的犯行ってところね」

ガヤガヤ、ワイワイ、ワーワー

ラウラ「…………不快だな」

ラウラ「客観的事実に基づかない憶測から論を展開していくだけの無責任なだけの言葉など…………」ギリッ

ラウラ「第2回『モンド・グロッソ』決勝戦――――――、織斑教官がどんな思いで試合放棄をしたのかを知りもしないで!」

ラウラ「そもそも、こいつらの論は原因と結果が逆転している。事実と異なる誤ったものだ」

ラウラ「“呪いの13号機”の噂など、暴走事故が起きてから盛んに言われるようになったものだと調べはついている」

ラウラ「結局は、己の賢しさを顕示するためにそれらしいことを取り繕って言っているだけに過ぎない」

ラウラ「そこには、真実を追い求める誠の精神などありはしない」

ラウラ「ただ単に、事件に託けて日頃の不平不満を誹謗中傷に変えて発散させ、自己顕示欲を満たしたいがために関心を寄せていただけに過ぎない」


ラウラ「…………私も教官にお会いするまではそんな最低な人間だったからな」



246  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:36:47.30 ID:lpEXoONP0






「――――――今ではそのことがよく理解できます、織斑教官」

「“アヤカ”というよくもまあ不出来な教え子を授けていただいたことで、私は新兵を鍛えあげるために初めて他の人間について考えられるようになりました」

「しかし、思えば私も適正強化手術に失敗してISを動かすことが叶わなかったものです。今でこそ教官の教育の賜物で部隊最強ではありますが…………」

「ええ。PICコントロールがうまくいかずに未だにマニュアル歩行でしか移動ができないような“アヤカ”のことを実は笑えないのです、私は」

「本当に、“アヤカ”はあの頃の私にそっくりです」

「ですが、私と“アヤカ”の関係が昔の教官と私の関係と同じであるのならば、」

「――――――これから先の“アヤカ”の成長が楽しみでなりません」

「“篠ノ之博士の妹”篠ノ之 箒が何故 あそこまで無知で無力で無気力な男に尽くしていたのか、何を感じていたのか――――――、」

「今の私にはよく理解できます、教官」

「そう思った時、私は初めて私が率いている部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』のことを省みることができたのです」

「私の副官が日頃からどんなふうに隊員一同に気を配っていたのかを訊ねて、ただ強いだけの自分を恥じ入りました」

「そして、『私にはもっとやるべきことやできることがあるのではないか』という探究心が芽生え、今までになかった意欲が湧いてきたように思えます」

「まだまだ、私には教官の強さの真髄というものがはっきりとは見えませんが、」

「今回の“アヤカ”の教育でたくさんのことが得られ、少しでも教官の真の強さに近づけたのではないかと思っております」

「素敵な出会いをありがとうございました」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――織斑教官へ、ラウラ・ボーデヴィッヒ


247  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:37:28.08 ID:D7BqUz5q0

――――――時は移り、学年別トーナメントまで残りわずかとなろうとしていた頃

――――――放課後


箒「今日も見事だったぞ、雪村! まさに阿吽の呼吸だったぞ!」

箒「今の私とお前なら負ける気がしないな。――――――専用機以外なら」

雪村「はい」

谷本「とほほほ……、やっぱり“アヤカ”くんも篠ノ之さんも半端じゃなく強い…………」

相川「そして、さすがは“親子”なだけあって、息もバッチリだったしね……」

鷹月「うん。専用機とさえ当たらなければ向かうところ敵無しって感じだったよね」

本音「すごかったー!」

ラウラ「うむ。相変わらずマニュアル歩行しかできない点が足を引っ張っているが、格闘戦では負け無しだな」

雪村「ありがとうございます」

箒「しかし、どうして雪村はPICコントロールがここまで極端に下手なのだろうな? IS適正は私よりも遥かに高いというのに……」

ラウラ「IS適正などいいかげんな指標だ。訓練次第で引き上げることも引き下げることもできるぐらいだからな」

箒「そうなのか」

ラウラ「現に私は、適正:CからAに上がっているのだからな」

雪村「へえ」

箒「想像できないな……」

ラウラ「そ、想像などしなくていい……」プイッ

箒「わかっている、ラウラ」

ラウラ「う、うむ。助かる……」

雪村「………………」


「……………………フフッ」


鷹月「何だかボーデヴィッヒさん、すっかり篠ノ之さんとも仲良くなった感じだよね」

相川「やっぱり、“子供を成長を願うお母さんと先生の関係”だから通じ合うものがあるのかもよ?」

谷本「ふむふむ。『子は鎹』っていうのもただの都市伝説ってわけでもないねぇ」

本音「やっぱりシノノンは“お母さん”だー!」

248  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:38:43.25 ID:lpEXoONP0

ラウラ「ところでだ」

箒「何だ?」

雪村「………………」

ラウラ「シャルル・デュノアはどうした? 最近 一緒じゃないようだが」

箒「ああ…………」

雪村「………………」

箒「最近 付き合いが悪い感じだったよな、雪村?」

雪村「うん」

鷹月「言われてみれば、そうだよね? デュノアくん、どうしちゃったんだろう、最近……」

谷本「まあ、デュノアくんは競争率が高過ぎるし、優しい性格だから誰と組むかで相当悩んでるんじゃないのかな?」

相川「でも、今年からタッグマッチに変更ということで学園側が参加申し込みの期限を延長してくれたけど、間に合うのかな?」

ラウラ「やつは秘密特訓でもしているのか?」

箒「わからないな。タッグマッチのパートナーはそもそも決まったのだろうか? 心配だな(――――――あいつも不器用なやつだから)」


249  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:39:26.99 ID:D7BqUz5q0

ラウラ「私は誰と組んでも構わないがな」

雪村「そう」

箒「おいおい、ラウラ――――――」

ラウラ「『組まない場合は抽選で決められる』――――――ということは、ダイヤモンドの原石とめぐりあう可能性があるというわけだ」

一同「!?」

雪村「………………」

本音「お~! 何だか詩的な表現!」

谷本「な、何かますます、初めて会った時どんな人だったか、思い出せなくなってきたんだけど…………」

鷹月「そっか。考えようによっては自分と接点のない人と組む新鮮味もあるってわけか」

箒「およそラウラのイメージに合わない言葉が飛び出してきたぞ!?」

ラウラ「な、なんだと?! 私は祖国でドイツ軍最強のIS部隊の隊長をしているのだ! どこがおかしい!」

相川「ううん。そういうのって素敵なことだと思うよ、私は」

ラウラ「え」

谷本「うんうん。1年で最強と噂されてるボーデヴィッヒさんがこんなにも暖かい心を持った人だっていうことがものすごく――――――、ね?」

鷹月「何だかんだで、一般生徒の私たちにもちゃんと指導してくれてるから、――――――嬉しいよ」

ラウラ「………………」

ラウラ「フッ」キリッ

本音「あれ~、今のって織斑先生の真似~?」

谷本「あ!」

ラウラ「む?」

箒「そういえば、誰かに似ていると思っていたら――――――」

相川「確かに!」

谷本「そう思うと、アレだよね? アレ!」

鷹月「うん。そっか。だから、どこか背伸びしている感じがちょっと…………、ね?」クスッ

相川「なぁんだ、ボーデヴィッヒさんもそういう年頃なんだね~」ニコニコ

本音「中二病患者なのだ~!」

一同「…………」ニコニコ

ラウラ「な、何なのだ、この微妙な空気は…………?」←生まれながらの軍人なので世事に疎い

箒「…………『中二病』?」←6年間 まともな人生を送ってこなかったので世事に疎い

雪村「………………?」←論外なので世事に疎い



シャル「………………箒、“アヤカ”ぁ」グスン



250  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:40:09.45 ID:lpEXoONP0

――――――その夜


雪村「……」

雪村「…………」

雪村「………………」

雪村「……………………」


コンコン!

――――――
シャル「ぼ、僕だけど……、今、大丈夫かな?」
――――――

雪村「どうぞ」

ガチャ

シャル「や、やあ……」

雪村「そろそろ来る頃だと思っていた」

シャル「へ」

雪村「ようやく僕と同じ感じになってきたね」ニヤリ

シャル「な、何のことかな? 何を言ってるのかわからない――――――」

雪村「日に日に容態が悪くなり、行動する気力が減退し、人相もずいぶんと変わった」

シャル「そ、そうかな……?」

雪村「まあ、僕のことをどうこうしようっていう密命を帯びてやってきた男装スパイならこうもなっちゃうよね?」


雪村「ごめんね。僕が“世界で唯一ISを扱える男性”でさ」


シャル「………………!」

シャル「やっぱり――――――いや、本当はどこまで知っているんだい、“アヤカ”くんは?」


雪村「初めてじゃないから。あなたみたいな人は」


シャル「『あなたみたいな人』…………(そうか。だから、最初から僕のことを――――――)」

シャル「そうなんだ……(おかしいよね? 本当ならば僕に“アヤカ”がすがるようになるはずだったのに、逆に僕がそうなるなんて…………)」

シャル「それじゃやっぱり、“2年前に現れた幻の男性ドライバー”っていうのは――――――」


雪村「それについては答えられない」


シャル「………………うぅ」

シャル「(どうしよう? 会話が全然続かないよ! これって“アヤカ”が僕のことを拒絶しているからなのかな……?)」

シャル「(だって、クラスのみんなや箒は当然として、あのラウラ・ボーデヴィッヒにさえ――――――)」

シャル「(それとも、僕が会話を続けやすくする努力を怠っているからなのかな…………)」

シャル「(た、助けて……、お、お母さん…………、僕はどうしてこんなところに居るんだろう…………)」グスン

251  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:41:04.79 ID:D7BqUz5q0

シャル「う、うぅ…………」ヒッグ・・・

雪村「………………」スッ(ハンカチを差し出す)

シャル「あ、ありがとう…………あ」グイッ

雪村「………………」 (シャルルの手を引いてベッドに腰掛けさせる)

シャル「ご、ごめんねぇ……、最初から最後までずっと迷惑ばかりで…………」

雪村「………………」ガチャ、バタン

雪村「どうぞ。アールグレイ」

シャル「ありがとう……」

シャル「はあ…………(ああ……、この柑橘の広がる爽やかな風味がいいよねぇ…………)」ゴクゴク

シャル「そういえば、いつもアールグレイだよね? 何かこだわりでもあるのかな?」


雪村「わからない。どうしてアールグレイなのか」


シャル「え」

雪村「記憶が曖昧なんだ。どうしてアールグレイを愛飲しているのかすら憶えていない」

雪村「アールグレイの芳香のリラックス効果を期待して飲まされるようになったのか、単純に気に入ったから飲み続けるようになったのか――――――、」

雪村「何もわからない。何もわからないんだ……」

雪村「シャルルは親の顔を憶えているかい?」

シャル「え!? う、うん……!(忘れてないよ、僕のお母さん…………)」

雪村「――――――それは良かったね」

雪村「僕は両親がどんな人だったのかさえ憶えてないんだ。両親がいたのかさえわからない……」

雪村「ただ漠然と『家族はみんな死んだ』としか聞かされていない……」

シャル「そ、そんな!? そんなことって――――――!?」

雪村「僕は誰なんだ? “朱華雪村”である以前の僕は誰なんだ……?」

雪村「けど、過去はもう振り返りたくない!」

シャル「え」

雪村「はっきりとは憶えていないけれど、思い出そうとするだけで心が凍りつくような感覚に襲われて――――――、」ブルブル

シャル「?!」


雪村「憎くなるんだよねぇ、シャルルみたいな存在が!」ゴゴゴゴゴ


シャル「ひっ」ビクッ

雪村「あ」

雪村「…………ごめんなさい」シュン

シャル「う、ううん……(い、今の眼って、本当に人間の眼だったの?! 思わず心臓が止まりそうになったよ……)」ガタガタ

252  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:42:39.25 ID:D7BqUz5q0

雪村「――――――ダメなんだ」

シャル「えと、何が?」ドクンドクン


雪村「同じ“男子”ならば、僕と同じかそれ以上の苦しみを味わい尽くしてボロ雑巾のようになってないのが妬ましくて――――――」ゴゴゴゴゴ


シャル「あ、ああ…………」ガタガタ

雪村「だからだよ。僕は待っていたんだ」


――――――自分が自分じゃなくなる前に幕引きをお願いしにね。


雪村「そのための準備もしてあるんでしょう?」

シャル「へ? へ?(――――――『自分が自分じゃなくなる前に』? それって“アヤカ”のことでいいんだよねぇ?)」

シャル「えと、何のこと……?(あれ? でも、どうにもニュアンスが違うような気が――――――)」

雪村「やっぱり僕は『存在自体が冒涜的』なんだ。居るだけで他人を不幸にする――――――」

雪村「もう嫌だ。自分というのが嫌になる本当に…………」

シャル「そ、そんなことないよ……! それは周りの人が勝手に――――――」

雪村「世間っていうのは鏡なんだよ」

シャル「――――――『鏡』?」

雪村「シャルル・デュノアもよく人の目に気にして生きているよね」

雪村「それは自分の行いが自分に返ってくることを理解しているから――――――、自分が周囲に対して『こう思われたい』からそうやって生きている」

雪村「結局、自分の評価や存在価値など他人から与えられるもの――――――世間が与えるものじゃないか」

雪村「その世間の前で身の振り方を決めるところなんて、鏡の前で今日一日の身形を気にする人間の姿そのものじゃないか」

シャル「………………」

雪村「どうして僕が“ISを扱える男性”になってしまったのか――――――、」

雪村「“ISを扱える男性”というものがどういうものなのか――――――、」

雪村「誰も知らないし、知ろうともしてくれない。そのくせ、罵声や妬み嫉みだけが返ってくるんだ」

雪村「だから、わかった」


――――――僕には存在する価値なんてないんだって。存在しちゃいけない存在なんだって。


シャル「そんなこと……!」グスン

253  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:43:40.94 ID:D7BqUz5q0

シャル「それを言ったら、僕だって――――――いや僕の方こそ存在しちゃいけない存在なんだよ…………」ポタポタ・・・

雪村「嘘だ」

シャル「え」

雪村「帰る場所があるじゃないか。僕と違って」ハア


――――――僕と違って。――――――僕と違って。――――――僕と違って。


シャル「あ、あ、ああ…………」ポタポタ・・・

シャル「うわああああああああああああああああああああ!」ダダダッ!


ガチャ、バタン!


雪村「あ」

雪村「………………」


雪村「殺してくれるんじゃなかったの?」


雪村「…………不幸だ」

雪村「どうして誰も殺してくれないんだ? 周りの人ばかり苦しんで、僕も苦しんで――――――」

雪村「僕のせいで苦しんでいるのか――――――、自分から苦しんでいるのか――――――、あれ? 何だかもうわからない」

雪村「ふは、ふはは、ははははははは…………!」

雪村「どうせ“朱華雪村”としての僕はここにいる間だけの存在…………」

雪村「何も残らず、これからもずっと虚無の人生を送り続けるのであれば――――――」



254  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:44:26.05 ID:lpEXoONP0

――――――翌日

――――――1年1組


雪村「………………」(相変わらず死んだように動かない)

箒「さて、学年別トーナメントまでもう間もないな。序盤に専用機持ちと当たらなければベスト8は固い!」

セシリア「…………箒さんと組めませんでしたから、私が見た中で筋が良さそうな方をパートナーに選びましたけれど、どうなることでしょう?」

ラウラ「…………む?」キョロキョロ


山田「おはようございます。みなさん、朝のホームルームを始めますよー」


一同「ハーイ!」

箒「珍しい……」

セシリア「織斑先生が出席を採るのではないのですね……(学年別トーナメントが間近ですからその関係でしょうか?)」

ラウラ「山田先生、シャルル・デュノアがまだ来ていません」

一同「!」

雪村「………………」

山田「あら、本当です! 誰かデュノアくんについて知りませんか? 風邪を引いたとか、大会前に祖国からお呼び出しがあったとか――――――」

一同「…………」

本音「でゅっちー、どうしたんだろうー」

谷本「でも、前々から何だか付き合いが悪くなった感じはしていたし…………」

箒「………………シャルル?」

ザワ・・・ザワ・・・

セシリア「先生、シャルルさんが心配ですわ。ここはクラス代表の私が様子を見に――――――あ」

一同「?!」


雪村「僕が見てきます」スクッ


一同「キャー、ウゴイター!」

箒「だーかーらー!」

箒「だ、だが……、確かに急にどうしたんだ、雪村?」

雪村「“男”の僕が見に行ったほうがいいと思っただけです」

箒「ああ……、そっか。それもそうだな」

セシリア「そ、そうですわね。“アヤカ”さん、お願い致しますわ」

山田「よろしくお願いします、“アヤカ”くん。織斑先生は今 手が離せないので」

雪村「はい」





255  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:45:33.06 ID:lpEXoONP0

――――――寮


雪村「…………プライベートチャネルでも応答しないか」

雪村「む」


ザワ・・・ザワ・・・


「いったいどこへ――――――」
アマ
「逃げやがったぞ、あの女ぁ!」

「あ」


雪村「………………」ジー


「み、見られたぞ!」

「しかも、よりにもよってあの野郎に――――――」

「退散するよ! どうせやつには――――――」


タッタッタッタッタ・・・


雪村「なんだ。あいつらも殺してはくれないんだ…………」

雪村「どいつもこいつも『邪魔だ邪魔だ』と汚らしい言葉を吐くだけの臆病者が勢揃いだな」

雪村「『不審者3人、シャルル・デュノアの部屋に侵入していた』――――――、っと」ピッ

雪村「さて――――――、」ガチャ






雪村「………………」

雪村「(わかっていた。昨日、僕を殺せなかったあの子に残された道なんて――――――)」

雪村「む」

ゴロゴロ・・・、ポツポツ・・・、ザーザー・・・

雪村「今日は一日 激しい雨になりそう……(…………ズブ濡れになって帰ってきそうだな)」

雪村「――――――別にいいじゃないか」

雪村「『自分』がなくなれば後はどんなふうにも生きていける。耐えられないのなら壊れてしまえばいい、僕のように」ググ・・・

雪村「そう、ただ生きてさえいれば…………」

256  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:46:36.00 ID:D7BqUz5q0


ザーザー、ザーザー、ザーザー


シャル「あ。――――――雨」

シャル「………………」

シャル「どうでもいいや、そんなこと……」トボトボ・・・


――――――どうせ僕には帰る場所なんてないんだし。


シャル「そうだよ、逆に考えるんだ。汚らしい僕にふさわしく『濡れちゃってもいいんだ』って」

シャル「結局 僕は、“アヤカ”に見透かされていたんだよね。――――――上辺だけ取り繕った醜い僕の本性を」

シャル「敵わないな……、僕なんかよりもずっと不幸な境遇の人と出会ってきたのに、どうして僕は――――――」


箒『私にとってIS〈インフィニット・ストラトス〉が全てではない』


シャル「本当に凄いな、箒は…………僕は全然ダメだよ」

シャル「………………ハア」

シャル「(僕、これからどこへ行けば――――――ううん。そんなこと考えたってしかたないよね)」

シャル「(大好きだったお母さんが死んじゃってからは、僕の人生は急転直下だったんだから。きっと地獄の底まで落ち続けるんだろうね……)」

シャル「(きっとそうなんだよ、うん。雨も冷たいし、風も冷たい――――――)」

シャル「(けど、それ以上に雨曝しの女の子に誰も見向きもしない世間の冷たさが一番に凍みるよ)」

シャル「(そうか。これが“アヤカ”や箒がISに関わったばかりに味わってきた寂しさや冷たさなんだ…………)」

シャル「(僕も父親がフランス最大のIS企業の社長じゃなければ、もう少しは――――――言っててもしかたないよね)」

シャル「(そうだよ、箒の言うとおりだった。僕が間違っていたんだ)」


――――――『白馬の王子様』なんてお伽話の中だけの存在だよ。


シャル「(そんなことはわかっていたんだ。待っているだけじゃ何も――――――)」

シャル「(でも、もう僕は――――――)」

シャル「………………」トボトボ・・・

シャル「………………寒い」ブルブル

シャル「………………」ハアハア

男性「おーい」

シャル「?」


――――――え?


男性「何やってんだよ。ズブ濡れじゃないか。見てらんないよ」パシッ

シャル「あ」


タッタッタッタッタ・・・・・・バチャバチャ・・・・・・


257  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:47:16.43 ID:lpEXoONP0

―――――― 一方、学園では


ザーザー、ザーザー、ザーザー

山田「では、切りもいいところなので今日はここまでですね」

山田「それでは、大会前なので訓練に身を入れるのはいいですけど、しっかりと休息もとってくださいね…………」

一同「ハーイ!」

ガヤガヤ、ザワザワ、ワイワイ・・・

雪村「………………」

谷本「しっかし、デュノアくんが大会前に調子を崩しちゃったのね……」

鷹月「やっぱり、誰と組むかで疲れちゃったんだろうね」

箒「うむ。大事を取って特別病棟に搬送されたらしいな。本番までに快復すればいいのだが」

箒「そうなんだろう、雪村?」

雪村「はい。特別病棟なら静かで面会謝絶できますから」

相川「そうだね。お見舞いには……、いかないほうがいいかもね」

本音「でゅっちー、大丈夫かなー」

セシリア「心配ですわ(――――――モテすぎるというのも酷な悩みですわね)」

ラウラ「………………」ジー

箒「どうした、ラウラ?」

ラウラ「“アヤカ”、お前は――――――」

キンコーンカンコーン!

雪村「………………」スタスタ・・・

ラウラ「あ」

ラウラ「………………!」スタスタ・・・



258  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:48:46.67 ID:lpEXoONP0



ラウラ「嘘なのだろう? シャルル・デュノアが体調を崩していたなどと……」

雪村「…………だから何?」

ラウラ「本当のところはどうだったのだ? 山田先生も隠し事が下手なようで動揺を隠せずにいたぞ」

雪村「………………」

雪村「………………」キョロキョロ

ラウラ「!」

ラウラ「………………」サッサッサササ・・・

ラウラ「……うん」

ラウラ「安心しろ。誰にも聴かれていないし、見られている気配もない」


雪村「僕が見に行ったら、不審者3人が部屋を荒らしていた。シャルル・デュノアはその前にどこかへ逃げていた」


ラウラ「…………!」

雪村「………………」

ラウラ「そうか。情報 感謝するぞ(私に話したということは山田先生、そして織斑教官にも――――――)」

ラウラ「当然だが、通報はしているんだろうな?」

雪村「見たこと全てをありのままに」

ラウラ「わかった。だいたい把握した。お前も気をつけろ(『学園内部に侵入して未だに捕まらない』ということは、これは――――――)」ピピッ

ラウラ「そして、私はお前の教官だ。欧州最強の最強の『シュヴァルツェア・レーゲン』の専属だ」

ラウラ「何かあれば必ず喚べ。わかったな?」

雪村「わかりました」

ラウラ「よし」

ラウラ「(教官、ハジメ。私は必ず“アヤカ”を守り通して見せましょう! たとえそれが学園を敵に回してでも!)」


―――

――――――

―――――――――

――――――――――――


259  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:49:55.61 ID:lpEXoONP0

雪村「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」ダッダッダッダッダ!

箒「雪村ああああああああああ!」


ガコン、バーーン!


3年生A「!?」ピィピィピィ

3年生B「なに!?」

3年生C「ぐおおおおおおおおおおおおお!?」チュドーン!

雪村「…………!」

箒「今のは――――――!」パァ


ラウラ「遅れてすまなかった」


箒「ラウラ!」

3年生A「――――――ドイツの第3世代型!」

3年生B「また、あいつ? ちょっと暴れ過ぎなんじゃないの、内外で!」

3年生C「くっそ~! いくら私でもAICの相手はできないよ!」

ラウラ「いつまで寝ている、馬鹿者! 手加減はそこまでにしてやれ」

3年生C「は? ――――――『手加減』?」

3年生A「…………?」チラッ

雪村「………………」

3年生A「…………こいつ、まだ眼が死んでない!(それに息も――――――)」

260  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:51:15.72 ID:D7BqUz5q0

ラウラ「どうする? このまま引くか、不正使用した機体を破壊しつくされて始末書だけじゃすまされないところまで行くか――――――、」

ラウラ「好きな方を選べ」ニヤリ

3年生B「3対2ね。これはさすがにマズイわね…………」


3年生B「けどね! 私たちにも引けない理由ってあるのよ! もう引けるわけないじゃない!」


3年生A「…………それもそうだ」

ラウラ「……愚かな」

箒「これは…………」

ラウラ「下がっていろ、篠ノ之 箒。邪魔だ」

雪村「………………」ジー

箒「くっ」タッタッタッタ・・・

箒「(せめて盾になれれば良いと思ったが、今度は私が足手まといになるのか……)」

ラウラ「(篠ノ之 箒――――――、さすがは“アヤカの母親”なだけはある。身を挺して時間を稼いでくれるとはな。その覚悟を無駄にはさせない!)」

3年生B「今よ!」

3年生C「うりゃああああああああああああああああ!」ヒュウウウウウウウウウウウン!

箒「なっ?!」

3年生C「捕まえた!」ガシッ

ラウラ「ちぃ!」

箒「は、放せっ!(なんてことだ! 本当に私は――――――!)」

3年生C「これで形勢逆転だよ?」(地上10m)

3年生C「どうする? 好きな方を選べよ?」ニヤリ


3年生C「もちろん、こいつを見殺しにして掛かってくるか、私たちの代わりにそいつの機体をぶっ壊すかだよ!」


ラウラ「……ええい(歩調の合わない味方など全体の連帯行動においては重荷でしかならないわけか!)」

箒「す、すまない、二人共……(私にも専用機があれば…………! 想いだけじゃ何も――――――!)」

雪村「………………」(地上)

雪村「――――――解除」(IS解除)

雪村「――――――!」ダダダダダ・・・・・・!

一同「!?」

ラウラ「“アヤカ”!?」

261  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:52:20.80 ID:D7BqUz5q0

3年生A「解除しただと? 確かにそうすればISの方は守られるけど――――――」

3年生B「生身で何をしようって言うの?」

3年生A「気をつけろ! 何かする気だ!」

3年生C「はあ? 確かに私の方に向かってはいるけど、地上10mまで上がれば――――――」(地上10m)

3年生C「は」

箒「――――――雪村?」


雪村「やあ」(懇親の『打鉄』部分展開の右ストレート!)


3年生C「え」

箒「ぬぅ(――――――危なっ!)」クイッ

3年生C「ぬぁっ?!」ボガーン!

箒 「……雪村!」ギュッ
雪村「………………」ギュッ

3年生C「ふざけやがって――――――あ、あら? 落ちる? 落ちてる? この私がああああああああああああ?!」ヒューーーーーーーーーーーーーーーン!

雪村「………………」ヒューーーーーーーーーーーーーーーン!
箒 「雪村、私たちも落ちてる――――――!」


ヒューーーーーーーーーーーーーーーン! ドッゴーン!


優勢・不利・膠着――――――状況は常に時と共に移り変わっていくもの。

多勢に無勢の“アヤカ”を救ってくれたのは、“彼の教官”となったラウラ・ボーデヴィッヒの『シュヴァルツェア・レーゲン』であった。

その性能は第3世代型ISの中でも現行最強クラスのウルトラハイスペック機として名高く、その参戦によって戦力差は一気に逆転するのであった。

しかし、戦いというのは純粋な戦闘力だけで勝敗が決まるわけでもなく、それ以外に持てる全てによって結果が左右されるものでもある。

“アヤカ”のために身を挺して駆けつけた非戦闘員を人質に取るというもはやなりふり構わない戦法を取られて、

『こちらが退却をすればよかった』と唇を噛み締めるラウラと、それで勝ち誇る下衆を尻目に、

何を考えているのかまったくわからない“世界で唯一ISを扱える男性”こと朱華雪村“アヤカ”が動いたのである。


――――――なんと、“アヤカ”は機体を解除して地上10mのところまで浮いて箒を人質にしているCに向けて駈け出したのだ。


262  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:53:41.06 ID:D7BqUz5q0

それには誰もが驚いた――――――というより、普通に考えてそこから何かができるように思えなかったので誰もが呆れたのである。

だが、さすがに二度も反撃を受けて懲りたのかそのまま真上に更に上昇して、人間では到底届かない高度までいって高みの見物をしようとする。

ところが、地上5mの時点で届くはずがないのでふざけてのろのろと上昇していると(拘束している人質を配慮した結果でもあるが)、

なんとそれよりも早くに生身の人間であるはずの朱華雪村“アヤカ”が目の前にすでにいたのである! しかも跳び越す勢いで!

ISを展開した痕跡どころか周囲の人間にも何があったのか理解するよりも早くに垂直に秒速10m以上の速さで跳び上がったとした考えられなかった。

言っている意味がわからないと思うが――――――、


要するに真下にいると思った地上の蚤が高度10m近くまで1秒足らずで跳び上がっていたのである。


目の前で起こったあまりにも現実離れした高度10mまで跳び上がる人間に呆気に取られていたが、その次の瞬間には顔面に『打鉄』の鉄拳を食らっていたのである。

これまたあり得ないような衝撃を受けて、頭の中が真っ白になってしまい、思わず人質を放してしまうのであった。

いや、両の腕を掴んで捕えた人質を盾にしていたのに、真正面から殴られるわけが――――――。

しかし、実際には人質の篠ノ之 箒は殴られる瞬間に全力で首を曲げて身体を揺らして鋼鉄のパンチを躱していたのである。

人質になったからといって、できることが完全に失われたわけではなかったのである。

そして、跳び越す勢いで同じベクトルに動く物体に殴打を加えるという成功確率何%未満のわけがわからない神業を食らって、

悪の『打鉄』はそのまま大地へと落ちて、正義の超人は囚われの姫君を空中で抱きとめるのであった。


――――――わずか5秒足らずの出来事であった。


殴られたのが原因なのか、PICコントロールがうまくいかなくなった悪の『打鉄』は先に落ちてしまう。ここまでいい。

しかしながら、生身の人間が地上10m以上から自由落下なんてするだけで無事でいられるはずがなかった!

“アヤカ”は大切な“初めての人”である箒を抱えたまま、跳ぶ勢いを失って重力に引かれていくのである!

実際に両者が落ち始めたのは数瞬の差しかなく、そんなのは単なる誤差の範疇であり、

肉眼ではほぼ同時に落下し始めており、辛うじて一人の人間を抱えた“アヤカ”のほうが後れて落ちているのだけは見える。


そして、痛ましいまでの大地の振動と土煙を上げて正義も悪も等しく地上へ激突するのであった。


263  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:54:33.18 ID:lpEXoONP0

3年生A「今 一瞬で何が起きたっていうの!?」

ズバーン!

3年生A「!?」(首筋に光の剣が当てられていた)


千冬?「ここまでだ、ガキ共」


3年生A「あなたは、――――――織斑先生(シールドエネルギーが無くなっている…………)」EMPTY

3年生A「ここまでのようね……」ハア(戦闘続行不能)

3年生B「そんな――――――!」ガタッ

3年生B「!」ビターン!

3年生B「な、何これ…………動けない」

ラウラ「これが『シュヴァルツェア・レーゲン』の第3世代兵器『停止結界』だ」

3年生B「何よこれ……、反則級よ…………」

ラウラ「これで」

ラウラ「だが――――――(“アヤカ”と箒はどうなった――――――!)」


土煙が晴れていき――――――、


一同「!」

ラウラ「…………!」ピィピィピィ

千冬?「無事だったか……」ホッ


3年生C「」

雪村「………………」

箒「た、助かったのか、私は…………?」ドクンドクン


――――――そこには『打鉄』を踏みつけて悠然と立つ黄金色の『打鉄』にお姫様抱っこされた美姫の姿があった。


264  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:56:53.79 ID:lpEXoONP0

箒「ハッ」

箒「し、死ぬかと思ったぞ、この雪村あああ!」ボカーン!

雪村「ぐっはぁ!?」

雪村「…………なかなか痛い」ズキズキ

箒「ふ、ふん! これはお前が軟弱だったからいけないのだからな!」フン!


3年生A「完敗ね…………何もかも」

3年生A「でも、――――――“あの子”」

3年生A「かっこいいじゃない(妬けちゃうわね。あそこまで必死に守ってもらえるなんてね……)」

千冬?「手錠など嵌めたくはなかったが」

3年生A「あら、ずいぶんと準備がいいのね、先生」ガシャン BIND!

ラウラ「無駄口を叩くな」

3年生B「これで何もかも終わりね…………」ガシャン BIND!

千冬?「そこをどいてくれ、“アヤカ”、箒」

箒「わ、わかりました……(あれ? 何か違和感というかいつもより優しい雰囲気がするっていうか…………)」

雪村「あ」

千冬?「ふん!」ズバーン!

3年生C「」(戦闘続行不能)

3年生C「」ガシャン BIND!

千冬?「…………フゥ」

ラウラ「織斑教官? いつまでISを展開しておられるのですか?」

千冬?「あ。ああ……」ピッ

千冬?「…………………………わかった」ピッ

ラウラ「……織斑教官?(ああ そうか。プライベートチャネルで何かを話されているからなのか)」

千冬?「すまないが、まだアリーナに敵がいるらしい。後のことは頼めるか、ラウラ?」

ラウラ「はっ! おまかせください!」

千冬?「外に出たら、こいつらを警備員に引き渡して寮の談話室で待機していろ。いいな」

千冬?「ラウラ、お前は本当によくやってくれたよ。感謝しているぞ」ナデナデ

ラウラ「あ、ああ……、そ、そんなことはありません……」テレテレ

ラウラ「私など、まだまだ教官には及びませんから」テレテレ

箒「…………ラウラも千冬さんの前だとあんな表情になるんだ」

箒「というか、千冬さんもいつになく優しいと言うか……(まあ こんなことが起きたんだ…………これぐらいは別におかしくないか)」

雪村「………………」ドキドキ

3年生A「はははは、――――――『人は見かけによらない』ってわけだ」BIND!

3年生B「それに今更 気付かされるなんてね…………もう遅い」BIND!



265  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:57:46.24 ID:D7BqUz5q0

――――――同じ頃、


教員「お、織斑千冬……!」

千冬「どうした? 私を倒せる者はいないのか?」

教員「く、くそぅ――――――う」

教員「」ガクッ

千冬「これで最後か」

「相変わらず、やることがエグいわね」

「内部粛清だったら、私がしてあげるのに」

千冬「すまないな。これは私がやらなければならないことだ」

千冬「この学園はあくまでも『IS適正を持つ者』のためにある教育機関だ。男であることを理由に差別することは校長も認めておられない」

「でも、機体は『私の』を借りるんでしょう?」


――――――『GENERATION-2』を。


千冬「ああ。すでに型落ちしている旧式機だが、性能そのものは第3世代機に引けを取らないのだろう?」

「もっちろん!」

「けど、『G1』ことあなたの『暮桜』は今 どこにあるのかしらね?」

千冬「……すまない」

「ま、好きに戦ってちょうだい。――――――けど、使いこなせるかしらね?」

千冬「私の『暮桜』の後継機ならば、勝手は同じだろう?」

「どうかしら? 第2世代型の雛形として設計された機体だから、『暮桜』にはないいろいろなオプションで操作感覚がまるで違うと思うんだけど」

「一応、国産第2世代機最初の『G2』という意味では、世界シェア第2位の『打鉄』は『この子』の末裔になるんだけれども」

「でも『打鉄』は、本当に『この子』の簡易量産機の末裔だから、操作は簡単だけれども大して強くもないわね」

千冬「御託はいい。『暮桜』の後継機にふさわしい性能があるのならそれ以外は何もいらん」

「そう。相変わらず、『雪片』1つだけで戦う満々ね」

「安心して。ちゃんと容れてあるから。パッケージも“アヤカ”くんのものも含めて用意してあるわ」

千冬「フッ、そうか」

千冬「しかし、まさかお前ほどの人間が派遣されてくるとは思いもしなかったよ」


――――――元祖“ブレードランナー”一条千鶴。


266  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:58:21.77 ID:D7BqUz5q0

千鶴「ふふっ」

千冬「今では秘密警備隊の副司令か」

千鶴「そういう千冬はIS学園の一教師」

千鶴「そして、『G1』『G2』の系譜を受け継ぐ『G3』をあなたの弟であり、私の後任である織斑一夏――――――」

千冬「――――――弟のこと、よろしく頼む」

千鶴「合点承知」

千冬「では――――――、」

カゼマチ
「お前の専用機:日本第2世代型IS初号機『風待』、借り受けるぞ!」


千鶴「そして――――――、」

カゼマチ
「日本第2世代型ISの原点にして頂点である『風待』、ここに再臨す!」


ドドーン!



267  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 08:59:21.69 ID:lpEXoONP0

――――――その夜

――――――特別病棟

――――――ある3年生の病室


ピッ、ピッ、ピッ、ピッ・・・・・・

3年生α「」

雪村「この人が――――――?」
   ・・
3年生A「ええ。今のあなたの専用機『打金』に乗ってご覧の有り様になった、」


――――――3年1組の日本代表候補生:三浦智花よ。


智花「」

3年生A「とは言っても、代表候補生に選ばれたのは2年生の終わりになってからでね」

3年生A「私と智花はIS学園に入学する前からの友人でね。私がいつも智花を助けていた」

3年生A「入学したばかりの智花はまったくのド素人で、私よりも下手だったわね」

3年生A「ちょうど、今の“アヤカ”くんと同じようにPICコントロールが下手な子だったわ」

3年生A「けれども、3年前の海難事故に巻き込まれた時にとあるヒーローに助けられたことがきっかけで、」

3年生A「入学当初から人一倍 訓練に打ち込んでいって、この春に代表候補生にまでなれたってわけ」

雪村「そうだったんですか」

箒「それは、惜しい人を………………」

ラウラ「………………む?」

3年生A「ええ、まったくだわ。本当に……」

ラウラ「だからといって、法的根拠もなしに“アヤカ”を私刑にしようとはな」ジロッ

3年生A「だからよ。だからこそ、退学処分覚悟で殺るしかなかったのよ」


3年生A「――――――本当に大切な友人だったから」


3年生A「彼女がいったい何をしたっていうの? 誰よりも頑張って代表候補生にこの春になれたばかりだっていうのに…………」

3年生A「人間は感情の生き物なの」

3年生A「この行き場のない怒りを晴らすにはどうしたらよかったのか、私にはわからなかった」

箒「………………『行き場のない怒り』、か」

ラウラ「………………」

雪村「………………」

268  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:00:10.77 ID:lpEXoONP0

3年生A「ごめんなさい。本当に……」

3年生A「でも、よく考えてみたら、智花は復讐なんて望まないはずなのよね」

3年生A「妙に記憶に残っているわ」

3年生A「智花は自分を助けてくれたヒーローを真似て、どんなに悔しくても蔑まされても最後には笑っているのよ。屈託のない――――――」

3年生A「そう、智花だったらこの行き場のない怒りをどうにかする方法を実践していたから。それさえ教えてもらっておけば――――――」

雪村「………………」

3年生A「結局、復讐なんていうのは自分がやりたいことをするだけということ――――――、」

3年生A「そこには智花の気持ちなんていうのは入ってないってことが今更になってわかったわ」

3年生A「――――――『時すでに遅し』よね」

3年生A「襲ってから、――――――しかもコテンパンにされてから気づくだなんて馬鹿みたい」

雪村「そうですか」

3年生A「怒らないのね。そういうところも智花に似ている感じがして素敵ね」


雪村「他人がどう思おうと関係ありません。それが自分に返ってきた全てですから」


3年生A「…………そう。そう思うのならその無愛想な態度を止めないとこれからも酷いものが返ってくるわよ?」

雪村「努力します」

3年生A「頑張れ、後輩の男の子」

箒「…………雪村?(さっきの回答――――――、私にはひどく抵抗感を覚えたのだが、雪村に対してそう思ったのは久々だな……)」

269  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:01:21.79 ID:D7BqUz5q0

ラウラ「1つ訊きたいことがある」

3年生A「あら? 事情聴取なら済んだはずだけれど?」

ラウラ「いや、お前のことではない」

ラウラ「三浦智花とやらが、3年前に遭遇したという海難事故というのは『トワイライト号事件』のことか?」

雪村「………………?」

箒「ラウラ? それに、――――――『トワイライト号事件』?」

3年生A「ごめんなさい。そこまで詳しくは――――――」

ラウラ「3年前の第2回『モンド・グロッソ』決勝戦の日に現地近海で起きたシージャック事件のことだ」

箒「!」

雪村「………………?」

3年生A「第2回『モンド・グロッソ』決勝戦――――――、それって確か織斑先生が決勝戦で突然 姿を眩ませて試合放棄したってやつよね?」

ラウラ「…………その通りだ」

箒「あ…………(ラウラのやつ、訊いたのも忌々しそうにしているな)」

3年生A「あ……、確かに智花が遭遇した海難事件はその頃にあったような気がするわね」

3年生A「そういえば! 3年前に智花が海外クルーズに出かけたって覚えがある! その時のおみやげがもらったし! ちょうどその時期!」

3年生A「まあ、実際にその海外クルーズと『モンド・グロッソ』の時期が重なっていたかは本人に訊かないとわからないけど…………」

ラウラ「…………そうか。十分だ」

雪村「………………?」


ラウラ『第2回『モンド・グロッソ』で織斑教官の身に何があったのかさえも知り尽くしているのだからな、我々は』


箒「…………ラウラ?(まさか、あの時の千冬さんの試合放棄に『トワイライト号事件』とやらが関係していると言うのだろうか?)」

270  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:02:15.94 ID:lpEXoONP0
――――――
ガタッ
――――――

ラウラ「!」

ラウラ「誰だ! 扉に張り付いて盗み聞きしているのは!」クルッ

一同「!」

ラウラ「待てっ!(今の時間帯だと照明が落とされていて視界が悪い! ――――――ハイパーセンサー起動!)」シュタ!

スィー、ドン!

ラウラ「くっ」

キョロキョロ! キョロキョロ!

ラウラ「なんて逃げ足の速い――――――!(反応がない! くそ、今の装備では盗聴者の追跡は不可能だ!)」ギリッ

箒「ラウラ!」

ラウラ「…………逃げられたよ。何者かは知らないが今の内容全部を聴かれていたと考えていいだろう」

ラウラ「だが、今の内容を聴いて学園右派の連中に利するものがあっただろうか?」

箒「いや、ただ単に3年の先輩の身の上話を聴いて、ラウラがちょっとした質問をしただけだ」

ラウラ「そのはずなんだが…………」

3年生A「おかしいわね。確かに他の人に智花のことについて話したのは初めてだけれども、」

3年生A「別に隠していたことじゃないから、学園だってその海難事件のことについては知っているはずなんだけど…………」

ラウラ「だろうな」

ラウラ「となると、ただ単にミスを犯してすぐに退散したといったところだろうか?」

ラウラ「(盗聴器の類はこの部屋にはなかったし、盗撮カメラも無かった。この部屋は問題ないはずだとすれば――――――、だ)」

雪村「………………」ハラハラ

スィー、トン!

――――――
一夏「………………フゥ」(特別病棟の窓の外にワイヤーで張り付いている)

一夏「いやぁまいったまいった……」

一夏「まさか、『トワイライト号事件』のことが出てくるとは………………しかもその時に俺が助けたらしい少女がここの生徒になっていたなんて」

一夏「あんまり思い出したくなかったことだけど、やっぱりきっかけはラウラ・ボーデヴィッヒからか……」

一夏「まったく、俺にとって3年前は厄年だぜ」

一夏「『トワイライト号事件』のせいで俺は――――――」

一夏「違う。逆だよ。自業自得なんだ……」


――――――『トワイライト号事件』を引き起こしたのは他でもない俺なんだ。


271  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:03:23.81 ID:D7BqUz5q0

――――――シャルル・デュノアの病室


シャル「本当にごめんね。明日からは頑張れるからね」ニコッ

箒「そうか。それはよかった……(何だろう? 今まで見たことがなかったような笑顔がそこにあるんだが……)」

ラウラ「…………初戦敗退などしないように精々頑張るのだな」

シャル「うん!」

ラウラ「(やはり、あの二人――――――シロイとアカギという二人にナニカサレタ可能性があるな)」

雪村「………………」

箒「それじゃ――――――、」

ラウラ「む」パシッ

雪村「お」パシッ

シャル「あ」パシッ

箒「明日から学年別トーナメントとなるが、」


――――――優勝目指してファイっトオオオオオー!


雪村「おおおおお!」

シャル「お、おおおお!」ニコッ

ラウラ「…………おお」


千冬「静かにせんか、馬鹿者!」バン!


箒「ひっ、お、織斑先生!?」ドキッ

雪村「こんばんは」

ラウラ「織斑教官、違います! 私は――――――」アセアセ

千冬「……もういい。私も疲れている。ガミガミ言うつもりはない」

箒「ホッ」

ラウラ「も、申し訳ありません……」

272  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:04:24.96 ID:lpEXoONP0

千冬「それで――――――、」

千冬「どうだ、デュノアに“アヤカ”?」

千冬「明日から晴れ舞台として“男”のお前たちは否が応でも注目されることになるが、気分はどうだ? 緊張していないか?」

シャル「大丈夫です、やれます」

雪村「同じく」

千冬「……そうか。それは何よりだ」フフッ

千冬「ラウラ」

ラウラ「はっ」ビシッ

千冬「変わったな。――――――いい方向に」

千冬「期待しているぞ」

ラウラ「はい! 教官のご期待に添えるよう全力を尽くす所存です!」

千冬「篠ノ之」

箒「はい」

千冬「大きくなったな。その成長振りを私に見せてくれ」

箒「はい!」

千冬「私だけじゃなく、お前のご両親に見せるつもりで事に当たれ」

箒「はい!」キラキラ

千冬「………………ん?(どうしたと言うのだ? 何だ、このみなぎっている様子は…………)」

箒「(ふふふっ! 私にも運が巡ってきた! 優勝の可能性も雪村の頑張り次第で不可能ではなくなった!)」

273  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:04:50.23 ID:D7BqUz5q0


箒『つ、付 き 合 っ て も ら う ! 』


千冬「――――――」

箒「(専用機相手に『打鉄』でどう勝てばいいのかわからなかったが、雪村のあの能力をうまくいかせば――――――!)」

千冬「――――――」

箒「(勝てるぞ! あのセシリアや2組の代表候補生を倒せるビジョンが私には見えるぞ!)」

千冬「――――――!」

箒「ふふふふ……」ニヤニヤ

千冬「おいっ!」ガン!

箒「あうっ!?」

千冬「篠ノ之、お前は決戦を前にしてどうも浮かれているようだな?」

箒「あ…………」カア

雪村「………………」

箒「す、すまない、雪村。私がちゃんとしなければならないのに、こんなんで」


雪村「大丈夫です。僕は勝ち負けは気にしませんので」


箒「!」ビクッ

箒「だ、ダメだぞ! やるからには優勝だ! もしやる気が無いなら私が優勝できるように力を貸せ! 力を貸してくれ!」

雪村「…………?」

雪村「わかりました。そのように致します」

千冬「本当に大丈夫なのか、これは…………」ヤレヤレ

ラウラ「足手まといになるとしたら箒のほうだろうな、これは」

シャル「ははははは」ニコニコ

――――――
一夏「ラウラちゃんもシャルルくんも、箒ちゃんも“アヤカ”も、みんな笑顔だな」フフッ

一夏「箒ちゃんと“アヤカ”はこの学園に来たばかりなのに、本当にいい方向に変わっていってるな。これからが楽しみだな」

一夏「ラウラちゃんとシャルルくんの場合は、騙しているようで心苦しいけど…………」

一夏「さて、明日からだな。何もなければいいのだが――――――」


――――――“ブレードランナー”はしめやかに次の戦場へと駆けていくぜ。


274  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:05:35.70 ID:lpEXoONP0

第5話B 龍が如く
RISING DRAGON

――――――学年別トーナメントは白熱中!

――――――第4アリーナ


ガキーン!

相川「きゅあ!」(戦闘続行不能)

雪村「………………」

谷本「やっぱり、こうなるのよね…………」アハハ・・・(戦闘続行不能)

箒「悪いな。私には勝たなくてはならない理由があるのだ」ドヤァ

――――――
「おおおおおおおおおおお!」パチパチパチ・・・
――――――

箒「ふふふ……」

谷本「その理由っていうのも、9歳上のカレシに振り向いてもらうためなんだよね?」ニヤニヤ

箒「!?」カア

箒「う、うるさーい!」カア

箒「よくも喋ってくれたな、雪村!」

雪村「…………!」ビクッ

相川「そう叱らないであげて。“アヤカ”くんは訊かれたことを素直に答えてくれただけなんだから」

箒「うぅ それはそうだが…………」

谷本「とにかく、――――――『ナイスファイト!』だったよ」

相川「うん。二人ならベスト8なんて余裕 余裕!」

谷本「それじゃ、私たちはこれから応援席に行くから、簡単に負けないでよ!」

箒「………………」

箒「ああ。目指すは優勝! 見ていてくれ!」

相川「“アヤカ”くんもね!」

雪村「はい。優勝目指します」

箒「うん」

箒「では、――――――対戦ありがとう、二人共!」

275  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:06:05.95 ID:D7BqUz5q0
――――――
実況「強い! 強すぎる! 圧倒的な強さで2回戦突破だあああああ!」

実況「抜群の剣技、抜群の連携、抜群の存在感!」

実況「“篠ノ之博士の妹”こと篠ノ之 箒とぉー!」

実況「黄金の専用機を駆る“世界で最初に発見されたISを扱える男性”アヤカ ユキムラああああ!」


「わあああああああああああああ!」パチパチパチ・・・


本音「かなりうるさいかな~」(初戦敗退)

鷹月「うん。盛り上がってくれるのはいいんだけどね……(“ハネズ ユキムラ”だけど、初見じゃ読めないよね……)」(初戦敗退)

セシリア「さすがは、一般生徒の中では最強と名高いコンビですわね」

セシリア「まあ、空中戦を展開できない初心者同士の戦いで最強でしても、代表候補生の私には及びませんけどね」ドヤァ

シャル「でも、二人の注目度は凄いよね。二人の試合になる直前に観客席の人口密度が急上昇したんだから」

セシリア「むぅ…………」

ラウラ「まったくだ。こちらとしては我が国の最新鋭機の凄さを実績と共に印象付ける絶好の機会だというのに、」

ラウラ「観衆の関心の全てを“アヤカ”に持って行かれた感が否めないな」

シャル「まあ、僕たち専用機持ちが相手だとあっさり勝負が着いちゃうからね。その分、よく見てもらえる時間は短くなるし」

セシリア「そうですわね。強すぎるというのもなかなか――――――」

ラウラ「それに、一般機に紛れて“アヤカ”専用の黄金色の機体がいるのだ。パーソナルカラーとしてこれほど鮮烈なものはあるまい」

ラウラ「そして、まるで黄金像や城の中に飾ってある甲冑のように微動だにしない異様な立ち回りも注目の的だ」

ラウラ「迂闊に近づいたが最後――――――、眠れる獅子を起こしてしまったかのように息をつかせぬ猛攻撃が始まる!」

セシリア「………………」アセタラー

シャル「…………本当だね。あそこだけレベルが全然違うって感じだよ」

シャル「本当に同じ『打鉄』なのか疑ってしまうぐらい――――――あの『打鉄』であそこまでやれるのかと思うぐらいに」

ラウラ「そして、浮き足立ったやつを無難な操縦能力と格闘能力を持つ箒が邀撃する――――――」

ラウラ「格下しかいない訓練機相手ならばこれ以上のない良い作戦と能力だな」

ラウラ「だがもちろん、格闘能力だけ見れば代表候補生クラスなのは否定しようのない事実だがな」
――――――
276  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:07:17.51 ID:lpEXoONP0

――――――アリーナのどこか


一夏「盛り上がってるな」

弾「おう。あの少年も元気にやっていることだし、今のところは問題が起きてないから見てるだけの作業で助かるわ」

友矩「そうですね」

友矩「ですが、長丁場ですよ。7日にも渡る学園随一のビッグイベントなのですから」

弾「うんうん。わかってるって。俺もトラックで長距離運送なんて結構やってるし、いつ頃に休息を挟むかなんてのもわかってるつもりさ」

一夏「けど、“アヤカ”の剣技っていうのはどっかで見たことがあるんだよな……」

友矩「そうですね。重要人物保護プログラムを受けて名を変えて生きてきたのは事実ですが、そうなる以前の事跡に触れていた可能性はありますね」

一夏「そもそも、“アヤカ”はいつから重要人物保護プログラムを受けていたんだ?」

友矩「そこまではわかりませんね。相手が相手だけに国家の最重要機密事項に属していることですから」

友矩「ただ、可能性として挙げられるのは――――――、」


――――――“2年前に我が国で発見されたというISを扱える男性”の噂。


一夏「確かに聞いたことはあるけど、どこまで真実だったのか――――――」

弾「そうか? 俺たちがこんなふうに秘密警備隊として活動しているのと同じように、可能性としてはありなんじゃないかと思うんだが」

友矩「ええ。私もその線で調べてみたことはあるのですが、不自然なほどに情報が集まらなくてね」

一夏「それって――――――」

弾「――――――逆にますます怪しいな」

友矩「はい。――――――全てはそういうことです」

友矩「しかし、そのルーツを辿ることは我々にとっては何の価値もない情報ですがね」

一夏「そうだな(なんてったって――――――、))」


――――――仮想空間“パンドラの匣”に映しだされた“アヤカ”の人生の軌跡を体験してきているんだからな。


一夏「(そこは“静かな岡”に迷い込んだかのような“アヤカ”の心象風景と過去がそこにあったんだ――――――)」

一夏「(本人の記憶を直接 覗き見しているのだから、政府によって隠蔽された機密文書を閲覧させてもらう必要など無いわけで)」

一夏「(文書化された過程で失った“アヤカ”の何かを直接 電脳ダイブを通して体験してきているのだ)」

オーバーロード
――――――だが、そこで繰り返される“アヤカ”の記憶に潜む“魔王”との戦いは壮絶なるものである。


277  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:08:08.82 ID:D7BqUz5q0

一夏「………………フゥ」

友矩「大丈夫ですか? この前の“パンドラの匣”の開拓はまさしく死線でしたからね」

一夏「いや、大丈夫だ」


一夏「俺には“人を活かす剣”がある」


一夏「だから、迷わない。逆に、ますます心が強くなった気がするよ」

弾「俺はその辺のことにはノータッチだからわかんないけど、本当に大丈夫なのか?」

一夏「何ていうか、仮想空間っていうのは“精神と時の部屋”って感じでね」

一夏「“アヤカ”が辿ってきた人生を体感する中で、自分を試されるというか――――――」

友矩「それ以上は言わないでください」

一夏「あ……、すまん」

弾「わかった。今のでどれだけヤバイのかは理解した」

一夏「……そうか」

友矩「心拍数や脈拍、分泌量に異常はありませんね」ピッ

一夏「うん」

278  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:09:00.61 ID:D7BqUz5q0

一夏「けど、始まってみれば、――――――熱狂させているな、“アヤカ”」

友矩「そうですね。少し前まで『二度の暴走事故を引き起こした』ということで学園の大半から目の敵にされる忌み嫌われた存在でしたのに」

弾「ISバトルについて俺は何とも言えないけど、一目見て“彼”だとわかるインパクトとレベルの違いが人の心を惹きつけてるんだろうな」

弾「ギャップっていうのも客寄せには大事だけど、基本は第一印象――――――ビジュアルからだもんな」

弾「そのわかりやすい強さと存在感が今の歓声なんだろう」

一夏「そして、それを補佐する箒ちゃんの動きもいいな」

友矩「ええ。学園でも評判の“母と子”の関係だそうですからね」フフッ

一夏「ああ! 本当に!」フフフ・・・

弾「え? 何それ――――――」

コンコン! コンコン! コンコンコン!

弾「!」

友矩「どうぞ」

千鶴「差し入れを持ってきてわ」ガチャ

一夏「ありがとうございます」

千鶴「試合数が半分になったからと言っても、観ている方は長丁場の苦行だからね。ほどほどに羽根を伸ばしてもらって構わないわ」

弾「大丈夫ですって! 俺、長丁場は慣れてますから!(――――――こんなじっくりIS学園の美少女軍団を眺められる機会なんて無いんだし!)」

千鶴「あ」

友矩「…………どういう立場で我々の協力者として存在しているのか」ジー

千鶴「大丈夫よ、友矩くん。私はみんなの味方だから」

友矩「…………あなたも元日本代表候補生の一人なので一夏とは面識はあるようですが」

千鶴「そうよ。それで何が気に食わないのかしら?」

友矩「簡単な話ですよ」

友矩「協力者としてあなたの身元や経歴に探りを入れてみたところ、不詳なことが多過ぎましてね」

千鶴「あら、そうなんだ(――――――『さすがは夜支布一族の人間』と言ったところかしら)」

弾「よせやい。あの司令が派遣してきてくれたんだろう?」

弾「だったら、シロってことだろう? 俺みたいなやつでさえ入れたんだしさ」

友矩「『織斑千冬も信頼している』という点で信用はしておきましょう」

千鶴「よかった」ホッ

279  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:09:36.55 ID:lpEXoONP0

千鶴「けど、ちょっといいかしら?」

一夏「何です?」

千鶴「“アヤカ”くんの黄金色の『打鉄』について、専用機としてのコードネームを付けておきたいのだけれど」

千鶴「『“アヤカ”機』って言えばそこまでだけど、日本政府としては色違いだけどそれっぽい機体名で宣伝したいらしくてね」

千鶴「それに、世界でも稀有な反応を示した機体だからこそ、固有名をつけたいって話なのよ」

一夏「それなら“アヤカ”が最初に付けてますよ」

千鶴「へえ?」


――――――『知覧』ってペットネームがね。


千鶴「え」

弾「ううん? ――――――『チラン』? 『散らん』? 『治乱』?」

友矩「独特なネーミングセンスですね……」

千鶴「却下」

一夏「いや、これは俺のアイデアじゃなくて“アヤカ”自身が付けたものであって――――――」

千鶴「“彼”が自分の機体をどう呼ぼうと勝手――――――、」

千鶴「それと同じように、公的な名称としてこちらが何と呼ぼうと勝手――――――、」

千鶴「そういうことにしてくれるかな?」

一夏「は、はあ……」

千鶴「だから、政府の要望に応えるためにあの黄金色の『打鉄』のコードネーム、考えておいて、ね?」

弾「はいはーい!」

千鶴「はい。どうぞ」

弾「『黄金色の打鉄』――――――略して『打金』でいいんじゃないでしょうか!」

千鶴「却下。第一、最初の候補にあったわ。俗称としてはわかりやすくていいけれど、音が同じで混同しちゃうからダメ」

弾「はい……」

友矩「『それ』っぽいものですか……」ウーム

千鶴「どう? 後付の名付けだから渾名でもいいのよ」

一夏「それじゃ、さっきの戦い方の形容して『眠れる獅子』とか」

千鶴「…………一応 候補に容れておくけれど、日本男子が乗ってるんだから純日本風な感じにしてもらえると通りやすいと思うわ」

一夏「そうか。『獅子』っていうのはちょっと『打鉄』のイメージじゃないもんな」

友矩「まあ、焦ることはありませんよ」

友矩「今日は2日目の予選Bブロックですから、じっくりと“彼”がブロック優勝するまでの活躍を見ることができますよ」

弾「おいおい、ブロック優勝っていうのは無理なんじゃねえか? 確かに今のところは圧倒的だけどよ?」

弾「同じBブロックには、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットちゃんが居るんだぜ? 『ビット』使うんだぜ、『ビット』」

弾「――――――されど『打鉄』でどうやって勝つんだよ? 『眠れる獅子』のまんまじゃいい的だぜ?」

一夏「いや、“アヤカ”にはとっておきの奇襲攻撃がある。それが成功すれば『ブルー・ティアーズ』を一方的に倒せるはずだ」

弾「マジで!?」

弾「何をするっていうんだよ、あの黄金像が」

千鶴「さて、どうなることかしらね?」


※1日目から4日目までは4つの予選ブロックの勝者を決め、5日目は決勝戦。6日目と7日目はかつての個人戦の名残で予備日(休日)としている。
280  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:10:34.02 ID:lpEXoONP0

――――――そして、第3回戦(ベスト16)


箒「よし! 行くぞ、雪村!」ヒュウウウウウウウウウウウン! シュタ




雪村「うん」ノロノロ・・・




箒「あ、まだそこか。遠いな」

箒「…………PICによる浮遊ができないせいでピットから出撃できず、搬入路からノロノロと入ってくるのは見ていてカッコ悪いな」

箒「いっそのこと、規定位置まで歩いてきたほうが楽だったんじゃないんか?」

雪村「そうかも」ノロノロ・・・

箒「ん?」


簪「………………」ジー


箒「…………何だあの子?(妙に視線が鋭いような気がするな)」

箒「(確か4組の子だったな――――――雪村にまだ偏見を持っている子か? これまたやり辛い相手だな……)」

雪村「次から歩いて来よう……」ノロノロ・・・

箒「ああ。無駄に体力を使わされることはない」

雪村「ん」


簪「………………」ジー


雪村「………………」

箒「準備はいいか?」

雪村「うん」

281  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:11:13.67 ID:D7BqUz5q0


――――――試合開始!


簪「………………!」ヒュウウウウウウウウウウウン!

箒「――――――浮いた! それに速い!?(明らかに手慣れた動きだ! 一目で分かる! その明らかな違い!)」

簪「沢渡さん!」

沢渡「はいよ!」

箒「…………!(相方の方は私と同じかそれ以上にPICコントロールが上手い! フットワークはあちらが上か!)」

沢渡「行っくわよ!」ブン!

箒「くっ!」ブン!

ガキーン!

沢渡「っと……」ヨロッ

箒「(けど、打ち合いになったらこちらに分があると見えた!)」

箒「すぐに片付ける! 行くぞ!(そうでないと、雪村が危ない気がする!)」ブン!

沢渡「っとっとっと……」ヒョイヒョイ

箒「…………むぅ!?」ブン! ブンブン!

沢渡「うわっとと!」

箒「どうした!」ブンブン!

箒「(ちょっと待てよ? 確かにこちらのほうが押してはいるが、もう一人厄介そうな相手が居るのだぞ!)」

箒「(ここで手間取っていては――――――)」

箒「あ!」


雪村「………………!」

簪「動きが、鈍い!」ブン!

ガキーン!

雪村「……くっ!」ヨロヨロ・・・


箒「雪村――――――」

沢渡「隙あり!」ブン

箒「!」ブン!

ガキーン!

箒「やらせるか!」

沢渡「…………っと!(――――――やっぱ強い!)」アセタラー

箒「――――――付かず離れず、か(しまった。雪村と離れてしまった!)」アセタラー

282  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:12:05.22 ID:D7BqUz5q0
――――――
相川「ええ!? あの二人が何だか苦戦してるよ!」

ラウラ「なるほどな。上手い作戦だな」

ラウラ「空中戦ができない上に動きが鈍い“アヤカ”を自在のPICコントロールで撹乱して機動力で圧倒するか」

ラウラ「そして、自分が“アヤカ”の相手をしている間、箒には勝てずとも粘れる相手を宛てがうと」

谷本「これは意外な強敵…………『やってみなければわからない』っていうのは負ける場合にも言えたことか」

鷹月「でも、今の段階で空中戦ができるだなんて、あの子は――――――」

本音「だって、カンちゃんは日本代表候補生だよ~」

鷹月「え!?」

相川「ちょっと! それ どういうこと?」

ラウラ「確かに、それはどういうことだ?」

ラウラ「あれが4組の日本代表候補生:サラシキ カンザシだというのであれば、」


――――――なぜ専用機に乗っていないのだ?


ラウラ「確か、機体は『打鉄弐式』――――――『打鉄』の後継機の日本最新鋭の第3世代型ISのはずだぞ」

ラウラ「大会直前に故障でもしたのか――――――」

ラウラ「いや、今まで一度も聞いたことがないな、『打鉄弐式』の話は…………」

谷本「そうよ! あの子は4組のクラス代表の更識 簪!」

谷本「先月のクラス対抗戦が実験中のISの暴走事故で第1試合で中止になったせいで印象に残らなかったけれど、」

谷本「名前は確かに載ってたわ」

相川「でも、結局 『打鉄弐式』の姿を目にすることはできなかったよね……」


本音「目にするも何も、完成してないからそれはできないのだー」


一同「!?」

鷹月「そ、そうなんだ……」

相川「あんた、妙に詳しいのね」

本音「だって、私はカンちゃんのお世話係だからー。でも最近は、カンちゃんに構ってもらえない」

ラウラ「なるほどな。元々の私的な交友関係からそのことは前もって知っていたわけか」

ラウラ「だが、――――――どういうことだ、これは?」

谷本「ホントね。敵とはいえ、私たちの国の代表候補生なんだからちゃんと専用機に乗って戦ってもらいたかったわ」

相川「『完成してない』ってどういうことなんだろう? 学年別トーナメントの日を迎えちゃったよ?」

ラウラ「他国の事情とはいえ、何かがおかしい(そう、それは大会前に一般人を拉致しようとテロリストを待機させていた学園としてもな)」
――――――
283  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:13:26.16 ID:lpEXoONP0

簪「やあああああああああ!」ブン!

雪村「…………うわっ!?」ズバーン!


箒「雪村!」ブン!

沢渡「うわっはっ!」ズバーン!

箒「あともう少し――――――!(くっ! いいかげんに倒れろ……!)」アセタラー

沢渡「ま、まだまだ……!(そう! 焦らして焦らして勝利を掴むのよ!)」ピィピィピィ WARNING!


雪村「うぅ…………」ズサー

簪「やっぱり、こんな程度なのよ」

簪「どうしてあなたなんかが…………!」ジャキ

簪「でも、これで私の――――――!」ブン!

雪村「!」


破竹の勢いで勝ち上がってきた1年1組を代表する金銀の“母と子”コンビは、4組の日本代表候補生:更識 簪に追い詰められていた。

まだこの時点だと、空中戦をこなせる生徒も数少なく、PICを駆使して機動力に差をつけている生徒が勝ち上がる傾向にあった。

篠ノ之 箒はその点では順調に技能を身に着けていっており、生来の剣道の実力もあって一般生徒の中ではすでに上位の実力者になっていた。

一方で、黄金の『打鉄』こと『知覧』を駆る“アヤカ”は、PICコントロールが最低クラスで未だに地上滑空すらできないので機動力に難があった。

格闘能力こそは代表候補生クラスと評価されている“彼”と、本物の代表候補生である更識 簪が戦った場合では“彼”には分が悪いのである。

それ故に、簪の巧みな機体捌きによって“アヤカ”の攻撃がことごとく空振りになり、そもそも“アヤカ”は飛べないので真上を取られたらやられ放題であった。

これこそがIS〈インフィニット・ストラトス〉が史上最強の兵器であることを端的に示した場面でもあった。

そして、近接戦闘が得意なだけの素人と十分な訓練を受けた代表候補生との技量の差というのが結果に集約されてもいたのである。


だが、代表候補生:更識 簪の巧みな空中からの強襲によってたまらず押し倒されて追い詰められた“アヤカ”がとった行動は――――――!

284  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:14:18.96 ID:D7BqUz5q0

雪村「はああああああああああ!」ムクッ1 ブン!(上半身だけ起こしてオーバースローに唯一の得物である太刀をぶん投げた!)

簪「!?」ヒュン!

簪「追い詰められて剣を投げてくるなんて」

簪「でも、そんなのは――――――」

簪「ハッ」

――――――
観衆「!?」
――――――

――――――第4ピット


セシリア「ふぇ!?」(対戦準備中)

セシリア「あ、“アヤカ”さん!?」
――――――

箒「トドメだあああああ!」ブン!

沢渡「きゃあああああああああ!」ズバーン!

沢渡「うぅ ここまでのようね……」(戦闘続行不能)

箒「今 行くぞ、雪村――――――」クルッ

箒「え」


簪「ふ、ふざけてるの?!(――――――マズイ! 沢渡さんがやられた! 急がないと!)」

簪「ま、待ちなさい!」ヒュウウウウウウウウウウウン!


雪村「………………!」ゴロンゴロンゴロン・・・


仰向けになって無防備になっていたところにトドメを刺そうと簪が勢い良く突っ込んで来たところに、

“アヤカ”は上半身だけ起こしたと同時に剣を振りかぶってそのまま突っ込んでくる鋼鉄の猛禽に向けて投げ込んだのである!

これにはさすがの代表候補生:更識 簪も反射的に緊急回避してしまい、攻撃それ自体は難なく回避することに成功した。

しかし、これで“アヤカ”の黄金の『打鉄/知覧』の武器はなくなり、ここからは逃げ惑うしかなくなった。

ちょうどその頃、簪のパートナーである沢渡美月は中学剣道日本一の篠ノ之 箒によく持ちこたえ、囮としての役割を全うしていた。

総合的な力量では簪が勝っていたが、パートナーの沢渡には篠ノ之 箒や“アヤカ”に匹敵するほどの地力はなかったので良くて時間稼ぎにしかならない。

それ故に、実は両者にとってどちらのアタッカーが先にパートナーを倒せるかの競争となっており、そういう意味では簪は戦術的に敗北してしまっていた。

また、高い機動力で撹乱しながらダメージをチクチク奪っていく簪に対して、真っ向から叩き潰そうとする箒とではダメージレースに差があり、

受ける側も格闘能力が代表候補生クラスの“アヤカ”に対して、篠ノ之 箒よりPICコントロールが上手い程度の沢渡とでは競走結果に差が大きく現れた。

当然、部分的な1対1では優勢だった簪でも、全体的な2体1に追い込まれたことによって大きく焦り出すのであった。

ダメージレースも大きく差を付けられ、すぐに全体を1対1にすることも叶わないのだから。

そういう意味では、この試合のMVPは間違いなく篠ノ之 箒であり、彼女の抜群の猛攻撃が結果として時間の勝負に勝たせたのである。

しかし、日本代表候補生:更識 簪の華麗な空中戦や篠ノ之 箒の圧倒的な猛攻撃の評価など、最後の“アヤカ”の奇行に全て注目が掻っ攫われるのであった。


――――――“アヤカ”は壁際に向けて地上をローリング移動していったのだから!


285  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:15:21.54 ID:lpEXoONP0

――――――アリーナのどこか


弾「何だ ありゃああああ!?」

一夏「ISでローリング移動…………」

一夏「――――――新しい!」

友矩「なるほど。理に適っている!」

弾「えええええええええ!?」

友矩「“アヤカ”はPICコントロールによるホバー移動ができないがためにマニュアル歩行しかできず、圧倒的に鈍足の黄金像でした」

友矩「しかし 原始的ながら、武装解除と認められない範囲まで余分な装備を部分解除すれば、ISでもああいった行動は可能となります」

友矩「しかも、大地という強固な盾を背にしつつ、あの低姿勢での移動なので被断面積は大幅に減少し、格闘戦では高い回避力を発揮します」

弾「マジかよ!?」

一夏「でも、PIC移動ができなくても低重力化は働いているし、残った脚部がでかすぎるからローリングするのはかなり難しそうだぞ?」

弾「だな。よくあれでローリングできるもんだぜ……」

弾「というか、その直前に『ムクッと上半身だけ起こして同時に剣を振りかぶってスッポ抜けて投げつける』という神業もさらりとやっていたな…………」

友矩「あれで得物は失いましたが、この奇策によってパートナーが駆けつけるまでの時間は大いに稼げているはずです」

一夏「本当だぜ! 空戦用パワードスーツがすることじゃない!」プククク・・・

弾「いや、お前のIS運用も大概おかしいから。やってることが仕事人じゃねえか」

友矩「まあもちろん、生身でやった方がいいという考えがありますが、今はISバトル中なので全解除したら棄権扱いなのでね」

弾「ああ そっか……」

友矩「でも、そろそろフィナーレかな?」

友矩「ISバトルでは基本的にはどちらかが倒れるまで続けることになりますが、」

友矩「そうすると場合によっては死闘となって、相手を倒したと同時に意識が遠のいて、脳波制御ができなくなってそのまま墜落――――――」

友矩「――――――なんてことを防止するために、比較的短時間の試合時間で奪ったダメージ量で勝敗を決することになります」

友矩「もちろん、これはタッグマッチなのでわかりやすく撃墜数がダメージレースの数値よりも優先されますけどね」

弾「――――――2対1か」

弾「しかも、あんな奇行を繰り出せるぐらいピンピンしているんじゃ戦闘続行不能に持っていくのは無理そうだな」

一夏「ああ」

一夏「更識 簪って娘も『さすがは代表候補生』ってことで高い実力を発揮して、“アヤカ”を追い詰めてはいたけれどもね……」

弾「しかたねえな。今回ばかりは『金銀コンビの完成度が高かった』ってことで」

友矩「そうですね。篠ノ之 箒の奮戦が勝敗を決しました」

一夏「強いな、箒ちゃん(本気で優勝を取りに行ってるぞ、これぇ…………)」アセタラー

友矩「…………もし、優勝までしてしまったらどうする気なんでしょうね?」ジトー

一夏「うぅ…………(や、やめてくれぇ! これ以上の面倒事は御免被りたい!)」


286  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:16:12.11 ID:D7BqUz5q0

簪「ま、待てぇ!(今、無防備のこの男にトドメを刺すことができれば、私は無傷だからダメージレースで勝ってそれで逆転――――――)」アセアセ

雪村「………………」ゴロンゴロンゴロン・・・

雪村「!」ピタッ ――――――壁際!

簪「――――――追い詰めたよ!」

雪村「………………」ニヤリ

雪村「――――――抜刀」ジャキ

簪「あ!(どうして失ったはずの武器が――――――!?)」

簪「ハッ」

簪「しまった!?(わざと剣を遠い方にまで投げ飛ばしたのは、展開限界範囲まで離すため!? そうすれば自動的に武器が回収される――――――!)」

雪村「………………」(壁を背にして太刀を堂々と構える黄金像)

簪「(ただ逃げ回って時間稼ぎをするための布石じゃなかった?! 追い詰められたのは、実は私――――――!?)」アセタラー

簪「(そして、アリーナの壁を背にして機動力で撹乱する戦法ができなくなった――――――)」


――――――護身 完成!


箒「雪村ああああああ!」ヒュウウウウウウウウウウウン!

簪「あ、ああ…………」

箒「ま、間に合った…………(くそっ! さすがは代表候補生だった! 同じ『打鉄』なのに追いつけなかったぞ……)」ハアハア

箒「だ、だが……、ここまでだな?」ジャキ!

簪「ま、まだよ! 私は代表候補生――――――」


――――――試合終了!


簪「あ…………」ガクッ

箒「………………よし。やったな?」グッ

雪村「………………」グッ


――――――勝者、篠ノ之箒・朱華雪村!


――――――
観衆「わあああああああああああああ!」パチパチパチ・・・
――――――

――――――第4ピット


セシリア「まさかあのような――――――」

セシリア「いえ、相手にとっては不足はないですわ! ――――――“アヤカ”さん、箒さん!」


「――――――セシリア・オルコット、鏡 ナギは次の試合の準備をしてください」


セシリア「さあ、私もサクッと勝って予選決勝で相見えましょうか」

セシリア「来なさい、――――――『ブルー・ティアーズ』!」
――――――

287  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:17:41.25 ID:D7BqUz5q0

――――――アリーナのどこか


弾「凄かったな、最後の最後まで……」

友矩「ええ。計り知れない潜在能力がありますね、“アヤカ”には」

一夏「もしかしてあそこまで戦えたのは――――――、」


――――――仮想空間で俺の戦い方を学んでいたのでは?


友矩「…………!」

弾「そうなのか?」

一夏「俺、“アヤカ”の専用機の愛称なんて聞いたことないのに、『知覧』の名前を出されて直感的にそれだと理解できていたし、不思議と話が噛み合うんだよ」

一夏「そして、あまり話したことも互いの過去についても知らない同士なのに、強い信頼や親しみというものを感じていたから……」

友矩「…………そうですか」

弾「『そうですか』って……」

友矩「可能性としては十分にありえます」

友矩「ISコアがコア・ネットワークを介して独自に情報交流を行なっているとの研究報告もあり、」

友矩「特に、電脳ダイブで頻繁に密に接触をしているので――――――」

弾「それって『情報が漏れてる』ってことじゃねえのか?」

友矩「確かに。このまま放置しておくのは危険極まりないことですね」

友矩「しかし、『ISにも心がある』ことを踏まえると、言って聞かせれば何とかなるかもしれませんがね」

弾「なんかいいかげんだな……」

友矩「ISというものは乗馬に喩えられるものなんですよ? 馬のことを完璧に扱いこなせる人間はそう多くはない――――――」

友矩「そもそも、開発者である篠ノ之博士自身が『ISが女性専用である理由』を把握していないぐらいなのです」

友矩「これぐらいわからないことがあったってしかたがないじゃないですか。もちろん看過できない問題ですけれど」

弾「そうか。それもそうだったな」

288  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:19:27.31 ID:lpEXoONP0

一夏「なあ、付け加えてもう一つ気づいたことがあるんだけど」

弾「今度は何?」


一夏「もしかして、『知覧』が空を飛べないのって俺のせいなのかな?」


友矩「え」

弾「またまた、変なことを言ってるな……」

一夏「いや、俺って“ブレードランナー”じゃん?」

弾「ああ。お前は“ブレードランナー”だな。俺はお前のアキレス腱で、友矩がブレインだ」

友矩「あ」

友矩「なるほど、その可能性も無くはないかもしれませんね」

一夏「だろう?」

弾「え? どういうことだよ? お前たちばかりわかるっていうのは何か辛いぞ」

友矩「先程のコア・ネットワークを通してIS同士で情報交流を行っていることは説明しましたよね?」

弾「ああ」

友矩「つまり、一夏と『白式』の普段の戦い方を『知覧』が学んでいることが真とするならば、」


―――――― 一夏と『白式』の普段の戦い方ってどういうものになりますか?


弾「あ!」

一夏「わかってくれたか?」

弾「ああ」


――――――だって、お前は“ランナー”だもんな!」


弾「そういうことか――――――って、これってISでは致命的なことなんじゃ?」

友矩「そうなりますね」

友矩「情報を照合してみたところ、最初の頃は問題なく地上滑空ができていたようなんですが、」

友矩「仮想空間の前後から使わなくなり、今では完全にマニュアル歩行でしか動けなくなっていますね」

友矩「この曖昧な記録だけでコア・ネットワークによる情報交流が原因で『知覧』がああなったのかは断定できませんけれど」

289  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:20:01.44 ID:D7BqUz5q0

一夏「もし、事実ならばどうしよう?」

弾「なあ、それってお前が責任を感じるべきことなのか?」

一夏「?」

弾「ISっていうのはどこまでいったってパワードスーツなんだからさ? 結局は搭乗者の意思によって動かされるもんだろう?」

弾「だったら、最終的にそうしようとしているのは搭乗者である“アヤカ”の責任だと思うぞ」

一夏「それは…………」

弾「それに、ISに言って聞かせることができるんだったら、そうする努力をすればいいじゃないか」

弾「そうしないのはやっぱり怠慢だと思うな、俺は」

一夏「………………弾」

友矩「………………」フフッ

弾「けど、次は間違いなくセシリアちゃんとの戦いだろう? 本当に勝てるのか?」

一夏「可能性は無くはない」

友矩「本日最後の試合がどう転ぶか、見守ってあげましょう」

弾「ああ……(正直に言うと『セシリアちゃんに勝ってもらいたいなぁー』って)」

弾「(けど、ホモじゃねえけど“アヤカ”がどう戦うのかについても、ちょっと男としては期待しているところがあるんだよな……)」

弾「ううん……(――――――どっちも頑張れ!)」



290  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:20:49.07 ID:lpEXoONP0

――――――第4回戦 予選Bブロック決勝戦(ベスト8)


セシリア「まさか、“アヤカ”さんがここまで勝ち上がって来るだなんて――――――、始めの頃を思えば驚嘆に値しますわ」

箒「私もだ。私もここまで行けるとは思ってもみなかったぞ」

雪村「………………」

セシリア「しかし、ここからが本当の強者の戦場ですわ!」

セシリア「格闘戦だけがISバトルではないことを教えて差し上げますわ!」ジャキ

箒「頼むぞ、雪村! お前が勝利の鍵なんだからな」

雪村「わかっています」


――――――
実況「さあ、本日最後の試合です! 予選Bブロック決勝戦です!」

実況「ここでぇ、まさかまさかの1組のエースタッグ同士が激突だぁー!」

実況「金銀カラーの『打鉄』コンビ! 銀の篠ノ之 箒と金の“アヤカ”だぁー!」

観衆「わああああああああああ!」

実況「対するは、イギリス代表候補生にして最新鋭の第3世代機を駆るセシリア・オルコット!」

実況「――――――と、陸上部の鏡 ナギ!」

観衆「わああああああああああ!」

シャル「さすがに注目度の高い組み合わせなだけに、凄く混みあってきたね」

鷹月「そうだね。篠ノ之さんもよく戦ってる!」

相川「凄い集客力よね! 今日の主役は間違いなく“アヤカ”くんよ!」

谷本「こりゃあ、勝っても負けても祝ってあげないとね!」

本音「おー」

ラウラ「うむ。我が不肖の弟子ながらよく戦ってくれた」

ラウラ「予選Bブロックの決勝まで来れたということは、ベスト8には入れたか。これで一応の目標は果たせたな」

ラウラ「後は どこまでいけるのか、私に見せてくれ、“アヤカ”」

ラウラ「(まあ、優勝するのはまぎれもなく織斑教官の直接の教えを賜って最強になれた私なのだがな)」

ラウラ「(もちろん、敵対した場合は容赦はしないぞ)」

鈴「まさか、“あいつ”がここまでやるやつだったなんてね……」

簪「………………」
――――――


――――――3,

セシリア「行きますわよ」(高度10m)

――――――2,

箒「行くぞ、セシリア!(――――――頼むぞ、雪村! 私を優勝に導いてくれ!)」(地上)

――――――1,

雪村「………………」(地上)


――――――試合開始!


こうして学年別タッグトーナメント2日目、予選Bブロック決勝戦の戦いの火蓋が切って落とされた!


291  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:21:30.47 ID:D7BqUz5q0

セシリア「はあっ!」バヒュンバヒュン!

雪村「………………!」ピィピィピィ LOCKED!

箒「やはり開幕の先制攻撃――――――雪村!」

雪村「はっ!」ザシュッ! ヒュン!

セシリア「…………え!?(まさか、ISであんな動きができるだなんて――――――!)」

箒「よし、今のうちに――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウン!


――――――
観衆「おおおおおおおお!」

実況「おおっと! 専用機とは言え、色違いの『打鉄』で見事に“アヤカ”! 『ブルー・ティアーズ』の先制攻撃を躱したあああああ!」

シャル「さ、さすがは“アヤカ”くんだよ……」

相川「剣を地面に突き刺して、それを軸にして空中で前転して躱した?!」

谷本「なるほど、棒高跳びの要領で素早く位置を変えたんだ」

ラウラ「PICによる低重力化を活かした跳躍運動か。だが、生半可な身体能力でやれば怪我の元だな」

鷹月「それって素直に凄いってことなのよね?」

ラウラ「セシリアめ。簡単に思考が読まれているぞ」

ラウラ「“アヤカ”がただの的だと思い込んで速攻で片付けようとしていたのだろうが、むしろ“アヤカ”が囮となって――――――」

本音「おー、シノノンがあっちに飛びかかるー!」

ラウラ「賢明だな。“アヤカ”たちからすれば撃破数を稼いで後は逃げ回るしか勝算はないだろうからな」

ラウラ「あの程度の仕上がりで第3世代機だが、『打鉄』を一蹴するぐらいの性能差はある。真っ向勝負などできるはずがない」

ラウラ「そして、セシリアからすれば格闘戦に持ち込まれれば援護したくても誤射する可能性が大きくて容易に援護射撃ができないだろう」

ラウラ「やはり、剣の腕から言っても今回も箒が数段上手だしな。程なくして勝ち星を上げるであろう」

ラウラ「そして、“アヤカ”は“アヤカ”で変幻自在の機体捌きでセシリアの予測を裏切る動きで被弾を抑えている」

ラウラ「戦術的には、完全に“アヤカ”たちが勝っている――――――その前の4組のほうがよほど強敵だったな」

鈴「そううまくいくかしらね?」

ラウラ「ん? 貴様は2組の――――――」

鈴「中国代表候補生:凰 鈴音よ。あんたとはDブロックでやりあうことになってるの」

ラウラ「ふん。中国の『甲龍』か。どの程度のものかな」

鈴「そういうあんたこそ、ヨーロッパ最強を吹聴して回っているみたいね」

ラウラ「当然だな。私は織斑教官の教えを賜って最強なのだからな」

鈴「別にあんたが“ブリュンヒルデ”ってわけでもないのに、どうしてそこまで偉そうなのか理解できないわね」

ラウラ「なんだと?」

鈴「――――――『虎の威を借る狐』ってね」

ラウラ「……そうか。楽しみに待っていろ」

鈴「待ってあげるわよ」

両者「ふん!」
――――――

292  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:22:35.34 ID:D7BqUz5q0

セシリア「まさかここまでやれるなんて…………(速攻で“アヤカ”さんを沈めて圧勝するという当初の作戦が台無しですわ!)」バヒュンバヒュン!

セシリア「けど!(――――――躊躇っていられませんわ! 私は代表候補生! 祖国の栄誉のために勝つ義務がある!)」ピタッ

雪村「…………よっと」ヒョイヒョイ

雪村「――――――次」

雪村「………………攻撃が止んだ?」


箒「はあああああああああああああ!」ブンブン!


雪村「………………」

セシリア「あまりインファイトは得意ではありませんけれど、確実に当てるためには――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウン!

雪村「!?」

セシリア「はあああああああああああ!(この機体の第3世代兵器『ブルー・ティアーズ』には2種類の『ビット』がついています!)」ヒュウウウウウウウウウウウン!

セシリア「(1つは、4基の『レーザービット』! イメージ・インターフェイスで相手の周囲に攻撃砲台を射出するもの!)」

セシリア「(しかしながら、4つを同時に操作する特性上精密操作はできず、その軌道は見る人が見れば読まれやすい!)」

セシリア「(特に、勘の鋭い“アヤカ”さんは真っ向から私の狙撃を奇抜な操縦で簡単に回避してしまうのだから――――――!)」

セシリア「――――――ここはもう1つの『ミサイル・ビット』の出番ですわ!」バンバン!

雪村「!!」

雪村「…………くぅ!」ザシュッ!


チュドーン!


箒「!」

箒「――――――雪村!?」

鏡「やああああああ!」ブン!

箒「――――――っと」ガキーン!


セシリア「…………さすがに一筋縄ではいきませんわね」

雪村「…………くぅうう」ヨロヨロ・・・

雪村「………………勝った」ニヤリ


セシリアの駆る『ブルー・ティアーズ』の放った『ミサイル・ビット』が炸裂して起きた爆煙の中、“アヤカ”は勝利を確信するのであった。


293  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:23:19.18 ID:lpEXoONP0

――――――アリーナのどこか


一夏「まさかのトップアタック!」

友矩「さすがは代表候補生ですね。効率良くダメージを奪う手段を心得ている」

弾「急降下して一気に『知覧』に近づいたと思ったら、腰のミサイルをロケット砲のように対地攻撃した! 今のマジでかっけー!」

友矩「あの『ミサイル・ビット』もイギリスの第3世代兵器『ブルー・ティアーズ』の一種で、」

友矩「誘導弾として正しく機能させるためには第3世代兵器らしく、動きを停めなければなりませんが、」

友矩「今回のように、動きが鈍い対象ならば『ミサイル』をロケット砲のように爆撃するのもありというわけですね」

友矩「…………これは厳しい戦いですね」

一夏「ああ」

弾「いやいやいや! 元々 性能差や技量差があるんだからこれぐらい厳しくて当然だろう! むしろ、勝てないのが普通だから!」

弾「――――――“アヤカ”がおかしいだけで、ここまで開幕直後の初撃で一方的に打ちのめして完勝してきてるんだよ、セシリアちゃんは!」

弾「そういう意味では、もう敢闘賞は“アヤカ”のものだよ。おかげで、イギリス代表候補生の本気を見ることができたしな」

友矩「しかし、咄嗟に剣を地面に突き刺して盾代わりにしてその上で防御姿勢もとっていましたから、大ダメージにはならなかったようですね」

一夏「ああ。それも無誘導弾として使っているということは狙いも大雑把になるってことだから、着弾点が疎らになってくるはずだ」

一夏「しかも、空中とは違って地上では受けた衝撃を大地に伝わらせて発散させることができるからな。まだまだ粘れるぞ、これなら」

一夏「戦いはまだわからないぞ、弾」


――――――あっちの方から近づいてきてくれるようになったからな。


294  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:24:36.21 ID:lpEXoONP0


チュドンチュドーン!

雪村「くっ…………」ハアハア

セシリア「粘りますわね…………乗り手次第で第2世代最高クラスの防御力がここまで鉄壁だなんて(けど、これなら確実なダメージを与えられますわ!)」ハアハア

セシリア「しかし――――――!」チラッ


箒「はああああああああああああああ!」ブン!


セシリア「今のままでは、ナギさんが先に箒さんに倒されてしまいますわ(そうなっては、“アヤカ”さんの前の試合と同じ結果に――――――!)」

セシリア「何としてでも“アヤカ”さんを先に攻略しなければ!(ならば、クラス対抗戦でしたように『スターライト』で――――――!)」

セシリア「!」ゾクッ

セシリア「だ、ダメですわ……、“アヤカ”さんに接近戦を挑むだなんて…………」アセタラー

セシリア「(そもそも、“アヤカ”さんの剣の腕はもちろん、一番の脅威は足掻きですわ)」

セシリア「(“アヤカ”さんを一番に追い詰めた4組の代表候補生が敗けたのも、“アヤカ”さんの卓越したセンスによるもの――――――!)」

セシリア「(もし“アヤカ”さんがよろけて転倒したところを『スターライト』のゼロ距離射撃で身動きを封じたとしても、)」

セシリア「(次の瞬間には、――――――その時 不思議なことが起こって逆転負けしてしまうビジョンが見えてしまいますわ!)」アセタラー

セシリア「…………ここはできるかぎりのことをするしかありませんわ(『ミサイル』の残弾も残り僅か――――――)」

セシリア「行きますわよ!」ヒュウウウウウウウウウウウン!

雪村「…………!」ジャキ


そして、努めて平静に確実に安全にダメージを奪って撃破圏内に持って行こうと決心したセシリアが改めて強襲する!

空中戦ができない“アヤカ”の『知覧』は地上で後退りしながら時間稼ぎに徹するために全身の神経を集中させていた。

状況としては、この前の3回戦と同じく、戦術的に自分が生き残れば相方が敵を倒してくれるのでそれで2対1の判定勝ちに持ち込める――――――、

さっきと全く同じ試合展開になりつつあった。違うのは、相手がダメージを大きく奪ってくる上に『打鉄』とはケタ違いの機動力で飛び回ってくること。

しかし、ミサイルの直撃を受けて場合は大ダメージは避けられず、一気に突き崩される可能性があり、前回よりも遥かにリスキーな駆け引きとなっていた。

295  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:25:35.59 ID:D7BqUz5q0


チュドンチュドーン!

雪村「ぐっぅわあああ!」

セシリア「やりましたわ!(――――――まずは直撃! この調子でいきますわ!)」ヒュウウウウウウウウウウウン!


――――――そう思った瞬間である!


セシリア「!」ビクッ ――――――目の前にアリーナの壁!

セシリア「あ、危ない!(――――――「急停止」!)」 

セシリア「い、いつの間にか、アリーナの端まで――――――(――――――『壁際』!?)」

雪村「――――――!」

セシリア「…………!?」ゾクッ


セシリア「“アヤカ”さんは――――――」クルッ


セシリア「いない!? いったいどこへ――――――!?」キョロキョロ

セシリア「…………?」

――――――
観衆「――――――!」(ある者はセシリアと同じように困惑している中――――――、)

観衆「――――――!!」(セシリアの方に向けて指差し、必死に言葉を送り届けようとしていた)

観衆「――――――!!!」(そして、それが1秒にもならないうちに増えていく!)
――――――

セシリア「え? ま、まさか――――――」

ヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!

雪村「はああああああああああああああああああああああ!」ブン!

セシリア「嘘でしょう……!?(どうして私の上から――――――!? だって、今 私は10m以上は――――――!)」

セシリア「あ、きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

ヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!

雪村「はああああああああああああああああああああああ!」

ドッゴーーーーーーーーーン!


――――――勝敗は決した。


――――――
実況「」

観衆「」

一同「」
――――――







――――――試合終了! 勝者、篠ノ之 箒・朱華雪村!


296  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:26:40.08 ID:lpEXoONP0

――――――アリーナのどこか


友矩「決まった…………」

一夏「………………」ブルブル

弾「い、一夏?」

一夏「うおおおおおおおお!」


――――――“アヤカ”が勝った! 決勝トーナメント進出、おめでとう!


弾「……おお! セシリアちゃんが敗けちゃったのは悔しいけど、ホントにおめでとうだぜ!」パチパチパチ・・・

友矩「…………お静かに」シー

一夏「……あ」

弾「ああ……」

友矩「あれはいったい――――――」カタカタッカタッ

弾「あれさ、少なくても観客席よりも高いところを飛んでたセシリアちゃんを叩き落としたんだよな?」

友矩「ええ。少なくても10数m以上はあるところに、一瞬で跳び上がったとしか――――――」カタッ

友矩「あの一瞬の“アヤカ”の動きが載っているとしたら、この定点カメラからの映像しかありませんね」ピッ

一夏「始まった」






297  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:27:31.64 ID:D7BqUz5q0

友矩「………………」

弾「………………」

一夏「………………」

弾「なあ、一夏?」

一夏「どうした?」

弾「これがお前が言っていた勝算ってやつなのか?」

一夏「ああ。一昨日“アヤカ”は、10m近く浮いているISに上昇しながら顔面に拳を叩き込んでいた」

弾「何それ?! “昇竜拳”かよ!? 確かに昇竜拳はロックマンでも最強の対空攻撃だったけどさ!」

一夏「懐かしいな。確かにやりようによっては昇竜拳になるな」

友矩「これは垂直方向のイグニッションブーストなのか? だが、1秒未満で10数mも行けるのか?」

友矩「それに、イグニッションブーストに必要なエネルギーチャージなんていつやっていた?」

友矩「空襲を受けている間でエネルギーチャージを維持できていたというのか? 直撃を受けていたのに暴発しなかった?!」

友矩「それともこれは、『知覧』の特殊能力によるものなのか?」

友矩「ウーム」

一夏「そういうのは後にしないか?」

友矩「え」

一夏「どうせこれから2日間は“アヤカ”は暇になるんだし、その時に本人に聞けばいいじゃないか」

友矩「…………そうだったね。それもそうだね」フゥ

一夏「それじゃ、今日の試合は以上だ! 予選Bブロック通過は“アヤカ”と箒ちゃんの金銀コンビぃ!」

弾「おおおおお!」パチパチパチ・・・

友矩「まずは、『予選突破おめでとうございます』と」パチパチパチ・・・

友矩「それじゃ、撤収しましょう!」

弾「――――――身形を整えて!」(黒服)

一夏「――――――『学園島の地下秘密基地で待機』っと」(黒服)

友矩「2日目もお疲れ様でした!」(黒服)



298  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:28:41.28 ID:D7BqUz5q0

――――――その夜

――――――地下秘密基地


弾「そういや、千鶴さんから宿題があったっけな」

弾「『知覧』に替わる機体名がな。純日本風っていう注文付きで」

弾「そこで俺は考えた!」


――――――“昇竜拳”からとって『昇竜』だ!


一夏「おお! かっこいい!」

弾「英語で言えば、――――――『ライジングドラゴン』!」

一夏「それに“昇竜拳”はまさしく日本原産だからな。これなら文句はないはず!」

友矩「同じ意味で、『龍驤』というのはどうでしょうか? これは“伏竜”こと諸葛孔明の栄達に由来した言葉です」

弾「うへっ……、総画数 多すぎぃ…………」

一夏「でも、こっちもかっこいいな!」

弾「なるほどな。今日の試合を見ていてあれはまさに“龍が昇り立つ様”だった」

弾「そう考えれば、“アヤカ”を“龍”に喩えるのも悪くないかもな」

友矩「それでは早速、2つを提案しておきましょう」カタカタッカタッ

友矩「さて、どうしましょうかね?」

一夏「何がだ?」

友矩「“アヤカ”への聞き込みだよ。あの“昇竜拳(仮)”がどういう原理で行われているものなのかを聞いておかないと」

友矩「それと、コア・ネットワークを介して情報が漏れているのかも」

一夏「ああ…………」

弾「けど、話に参加できるのは一夏と友矩なんだろう? 俺は面識がないから話にならないし」

友矩「そうだね」

友矩「けど、明日は予選Cブロック――――――、“ブレードランナー”として待機していないといけないんだけどね」

弾「ああ そっか。それで――――――」


――――――そういうことなら私が代わってあげる。


一同「!」

299  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:30:21.13 ID:D7BqUz5q0

千鶴「宿題をちゃんとやってくれてありがとね」

友矩「―――――― 一条千鶴!」ガッ

弾「ど、どうしてここが――――――!?」

一夏「………………」ジー

千鶴「おお 怖い怖い!」

千鶴「けど――――――、」


――――――戦えば必ず勝つ。


一同「!?」

一夏「………………」

弾「ど、どうするよ?」

友矩「…………答えよう」


――――――此れ兵法の第一義なり。


友矩「………………」

千鶴「それじゃ――――――、」


――――――人としての情けを断ちて、


友矩「では――――――」

一夏「俺が言うよ」

友矩「…………わかった」


――――――神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬り、


千鶴「――――――然る後、初めて極意を得ん」

弾「おお!(へえ、ここまで初めて聞いたけどあのセリフってこれだったんだ)」

300  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:31:26.82 ID:lpEXoONP0

千鶴「ちゃんと合言葉として機能しているようね」

友矩「あなたも“ブレードランナー”の一員だったということか」

一夏「ただの協力者じゃなくて、本当の増援か」

友矩「それで、『あなたが代わりをする』とはどういうことでしょう?」

千鶴「言葉通りよ。何かあったら私が何とかするわ」

弾「まさか――――――!」

一夏「――――――専用機持ち!」

千鶴「ご名答! 私も『G2』でいくわ」

友矩「――――――『G2』!」

一夏「確か、俺の『白式』が『G3』――――――つまり、国産初の世代機を意味するものなら!」

弾「日本初の第2世代型IS――――――なんて骨董品を!?」

千鶴「こらっ」ポカッ

弾「うはっ?!」ボガーン!

千鶴「『骨董品』は酷いわよ。『G2』は今も現役――――――骨董品なのは『G3』のほうよ」

弾「あ、はい……」

友矩「『G2』――――――『風待』ですか。これまた“ブレードランナー”に打ってつけの機体ですね」

友矩「ただ、単一仕様能力がピンポイント過ぎて効果がなかったという話ですけど」

千鶴「そう。けど今は、第2世代型ISが普及しきって第3世代へと移る過渡期――――――!」

千鶴「今のISはみんな後付装備を搭載しているから、私の『風待』がいよいよ猛威を奮う時が来たのよ」

友矩「まさに、――――――『風待』! ついに追い風が吹いてきたということですか」

千鶴「そう。これからは私も前線に出るわ。2機揃えば今までできなかったことにも専念できるようになる」

弾「うっひょー! これは心強い味方だ!(しかも、元日本代表候補生なだけあってナイスバディ! 眼福だぜ!)」

一夏「…………かつて千冬姉と肩を並べたあなたとこうして共に歩むことができるなんて」

千鶴「そうね。互いに大きくなったわね、一夏くん?」

一夏「これからよろしくお願いします」パシッ

千鶴「まかされた」ギュッ ――――――握手!

千鶴「私の『風待』の単一仕様能力も対IS用に特化した能力だから『白式』とは肩を並べられる能力だけれど、」

千鶴「第1形態で単一仕様能力を使える弊害で拡張領域が使えないあなたを、拡張領域を初めて搭載した第2世代型の私が補うわ」

友矩「なるほど。一撃必殺の一夏と対応力の千鶴さんですか」

友矩「秘密警備隊“ブレードランナー”としては最高の戦力ですね」

弾「おお! 何だかワクワクしてきたぜ!」

301  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:32:23.04 ID:D7BqUz5q0

千鶴「ところで、一夏くん?」

一夏「はい?」

千鶴「マッサージ、お願いしていいかしら?」ウッフーン

弾「!?」ドキン!  ――――――「ワーオ」

一夏「わかりました。けど、ここは本当に何もないので。最初に比べると物は持ち込んだんですけどね」

友矩「そうですね。これから1つぐらいベッドを用意したほうが良さそうですね。寝る時は銀マットにシュラフ、枕だけの侘しいものですから」

弾「あ、あの……!」ドキドキ

一夏「どうした、弾?」

弾「お、俺もマッサージして差し上げたいと思いまして――――――(ダメで元々! こんなチャンスはめったにない!)」

千鶴「へえ? 弾くんもできるんだ?」

弾「あ、いえ……、俺、“運び屋”ですから今日のような任務だと手持ち無沙汰になってしまいまして、それで――――――」ドキドキ

千鶴「ああ そういうことね。そうよね、それなら喜んで練習台になってあげるわよ」

弾「!?」

弾「あ、ありがとうございます!(いぃやったああああああああああ! “ブレードランナー”に入ってよかったああああああ!)」

友矩「…………五反田さん?」

弾「ハッ」アセタラー

友矩「程々にね?」ニコニコー

弾「……はい」


――――――こうして大会2日目の夜が更けていくのであった。


斯くの如くんば、行く手を阻む者、悪鬼羅刹の化身なりとも、豈に遅れを取る可けんや。


302  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:33:58.07 ID:lpEXoONP0

第6話A 安息
BREAK

――――――大会2日目の夜

――――――食堂


谷本「それでは、今日もお疲れ様でした!」

谷本「そして、“アヤカ”くんに篠ノ之さん――――――!」


――――――決勝トーナメント進出、おめでとう!


「おめでとう!」パーン!

シャル「おめでとう!」パチパチパチ・・・

ラウラ「これでベスト4だ。――――――当然だな。私が指導したのだからな」ドヤァ

セシリア「おめでとうですわ……!」パチパチパチ・・・

雪村「大丈夫?」

セシリア「ええ。私は代表候補生ですから、あれぐらいのことでへこたれませんわ」

セシリア「しかし、あんな奥の手を隠していただなんて…………(今までの鈍重さはフェイクでしたのね。まんまとしてやられましたわ……)」

本音「最後のアレ 凄かったもんねー」

箒「私も何が起きたのか、わからなかったぞ。『急に後ろのほうで凄い音がした』って思っただけで――――――」

相川「今日の試合のハイライトシーン、最後のアレだけカメラに収まらなかったんだよね」

鷹月「そうだね。アリーナの壁際で1秒前後の一瞬の出来事だったからね。撮影カメラも追っていけなかったんだろうね」

セシリア「――――――『壁際』」

セシリア「……そうですわね」アセタラー

セシリア「しかし思えば“アヤカ”さんの戦い振りは、本当に空中からでは見えてこない発想が詰まっておりますわね」

セシリア「(――――――『壁際』とか、――――――『壁際』とか、――――――『壁際』とか!)」

相川「そうよね。3回戦で戦った4組の日本代表候補生の時も壁際まで逃げて、壁を背にして『護身 完成!』って感じだったし!」

谷本「セシリアの場合も、知らぬ間に壁際まで大きく移動していたことに驚いていたところを、背後から急上昇してそのまま叩き落としたって感じ」

箒「私たちよりも格上の代表候補生たちが揃いも揃って壁に阻まれたというわけか」

セシリア「悔しいですが、そうですわね……」

シャル「でも、追撃せざるを得なくした“アヤカ”くんの元々の動きも凄かったよね」

本音「まさしく変態機動だったのだー」

鷹月「「専用機化」して「最適化」された結果なんだろうけど――――――」

セシリア「あれは明らかに『打鉄』の動きではありませんでしたわ! 別の何かでしたわ!」

シャル「まるで、大地の祝福を受けているかのような縦横無尽の動きだよね。『地に足をつけていてもまだまだ人間にはできることがいっぱいある』って感じ?」

箒「おお。ずいぶん詩的なことを言うのだな、シャルルは」

相川「でも、確かにそうかも。急に横になって転がり始めた時はどうしたことかと目を疑ったけど、あれで壁際まで逃げ切ったんだもんね」

谷本「ホント、“アヤカ”くんと居ると目から鱗が落ちるようなことの連続でハラハラさせられるわ」

セシリア「そうですわね(思えば、最初に会った時から私はカルチャーショック以上の何かを受けましたことですし……)」

303  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:34:54.72 ID:D7BqUz5q0

雪村「でも、一番の力はパートナーでしたけどね。僕が囮になっている間に敵を抑えてもらえたので本当に気が楽でした」

ラウラ「そうだな。“アヤカ”の実力を最大限 発揮させられた箒の奮闘は賞賛に値するものだったぞ」

セシリア「そうですわ……。箒さんがしっかりとナギさんに張り付いてくれたおかげで、こちらとしては“アヤカ”さんに銃口を向ける他ありませんでしたし……」

箒「そ、そうか? 言うほどのものでは思っていたのだが……」テレテレ

シャル「そう謙遜することかな? 事実、3回戦は篠ノ之さんが相方を倒したおかげで勝ったんだし、ね?」

谷本「いやぁー、“親子”揃って剣の鬼だったのには驚いたわぁ~」(2回戦の対戦相手)

相川「二人とまともに戦って勝てるのはたぶん代表候補生ぐらいだけだよ。あ、その代表候補生は――――――」(2回戦の対戦相手)

セシリア「…………むぅ」(4回戦の対戦相手)

箒「そういうことなら、素直に賞賛を受けておこうではないか……」ウルウル


――――――初めてだよ。ここまで人から褒めてもらえただなんて。


鷹月「え、篠ノ之さん?」

箒「あ、いや……、目にゴミが入っただけだ…………気にするな」ニコニコ

雪村「………………」

セシリア「あら、どうしましたの、“アヤカ”さん」

箒「な、何だ、雪村? 言いたいことがあるのなら、はっきり言え」


雪村「ありがとう、………………いつもありがとう」ニッコリ


一同「?!」ドキッ

箒「あ」

一同「キャー! ワラッター!」

箒「だーかーらー!」

谷本「何!? 今の笑顔の破壊力――――――!」ドキドキ

相川「見ているこっちまで笑顔になっちゃいそうな素敵な笑顔だったよね!」ドキドキ

鷹月「そうよ! よく見たら、素材は良いんだし、今まで本当に損してきたって感じよね!」ドキドキ

本音「みんな、ギャップ萌えってやつなのだー」ニッコリ

シャル「本当に最高の笑顔だったよ、“アヤカ”くん」ニコニコ

セシリア「本当に最初の頃と比べて変わりましたわね、“アヤカ”さん」ニッコリ

ラウラ「あ、あ…………(何だというのだ、今の衝撃は!?)」ドキドキ

一同「(でも――――――、)」


箒「雪村。お前、そんな笑顔もできるようになっていたのか。何か見違えるようになったな」


雪村「そうなんですか? 何かろくでもない表情を浮かべてしまったのではないかと怖くなりましたけど」

箒「ううん。今まで最高の笑顔だったぞ」ニッコリ

箒「ほら、もう一度!」

雪村「そういうあなたの笑顔も、素敵ですよ」

箒「なっ!?」カア

一同「(やっぱり、“母親”の存在って偉大だなー)」

セシリア「これは完敗ですわね(――――――クラスのマスコット、名物コンビという意味では)」フフッ

304  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:35:43.23 ID:lpEXoONP0

パシャパシャパシャ・・・

箒「あ」


新聞部「じゃじゃーん! 新聞部でーす!」


新聞部「いやぁー、――――――最高の笑顔、ごちそうさまでした」ニコニコ

雪村「………………!」

雪村「黛 薫子副部長じゃないんですね」

新聞部「まあね。なんてったってこの大会はそれぞれの学年ごとで特集記事を組まないといけないからね。新聞部は大忙しよ」

新聞部「それで今日は今大会のダークホース:“アヤカ”くんと篠ノ之さんのツーショットをお願いしまーす!」

一同「おおおおお!」パチパチパチ・・・

雪村「………………そうですか(この人、本当に新聞部なのかな? 違った何かを感じるんだけど…………)」

箒「わかりました。よし、雪村――――――!」

雪村「はい」



パシャパシャパシャ・・・



305  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:36:31.36 ID:D7BqUz5q0

新聞部「うんうん。ツーショットの方も集合写真もいい感じいい感じ!」

新聞部「笑顔の花が一面に広がってる感じで」

新聞部「これは新聞部のブログのトップになるわー」

雪村「これで以上ですか?」

新聞部「そうそう! もう1つあるのよ。それも“アヤカ”くんとデュノアくん宛にね」

シャル「僕も、ですか?」

新聞部「ああ……、やっぱり知らないんだ。――――――しかたないか、大会で忙しいもんね」

新聞部「それで、これは寮長から伝言でね?」


――――――男子用の大浴場が本日オープンなのよ!


雪村「へえ」

シャル「そうだったんですか」

箒「前々から改築工事をしていると思っていたら、そんなのを造っていたのか」

新聞部「そうよ。これが大浴場の案内」ペラッ

雪村「………………」ジー

シャル「………………」

新聞部「篠ノ之さん。間違っても“親子”で入らないでねー!」

箒「なっ!? 何を言うか、不埒だぞ!」カア

谷本「そうよね! 篠ノ之さんには将来を誓い合った相手がいるんだからねー」

相川「篠ノ之さん! 私、応援してるからね!」

本音「シノノンは純粋~!」

箒「い、言わないでくれー!」カア

新聞部「いやぁー、1組は本当に楽しいわねー」

シャル「はい」ニッコリ

新聞部「それじゃ、明日はCブロック! 頑張ってね~」

一同「ハーイ!」

タッタッタッタッタ・・・

箒「うぅ…………」

一同「」ニヤニヤ

306  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:37:23.56 ID:D7BqUz5q0

雪村「ところで、今の新聞部部員は誰なんです?」

谷本「え」

相川「さあ?」

セシリア「よくお見かけするような気はいたしましたけど、確かにどなたなのでしょう?」

鷹月「少なくとも、合同実習の時にはいなかったから1組と2組の人じゃないと思うけど…………」

雪村「………………」

箒「ま、まあそんなことはどうでもいいではないか!」

箒「ほらほら! あの人が言うように明日はCブロックのみんなだぞ! 準備はできてるか? 寝坊はするなよ」

一同「ハーイ!」

谷本「負け組の私たちはやることないんだけね……」

相川「クラスのみんなの応援があるじゃない!」

本音「みんな、頑張れ頑張れー。ファイトー」

ラウラ「“アヤカ”、明日は私に少し付き合え。私が勝つのは当然だが、日々の訓練を欠かすわけにはいかないからな」

雪村「わかりました」

女子「明日はデュノアくんの出番だよ!」ワクワク

シャル「うん。頑張るからね」ニコッ

女子「キャー! デュノアクーン!」

シャル「うん。頑張るから、 僕」





「いやぁー、まさかここまで変われるなんてねぇ…………何だか私まで報われた気分だわ-」

「“あれ”のどこが『存在自体が冒涜的』なんだろうね。あんなに素敵な笑顔を作れるのに…………」

「“あれ”を『存在自体が冒涜的』に足らしめていたのはやっぱり自分たちじゃないのかな」

「結局は、正当な評価とは別に『そういうものであれ』と圧力を掛けて“本物の怪物”に育て上げてしまうのが世間ってことなのね…………」

「でも、“怪物”になったとしてもそれを『人間』に戻せるのも周囲の人間の暖かさか。ちょっとばかりウルって来たね……」


307  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:38:58.53 ID:D7BqUz5q0

――――――その後


チャプン

雪村「……」

雪村「…………」

雪村「………………」

雪村「……………………」

ガララ・・・

シャル「へえ、これが日本式の大浴場なんだ」

シャル「やっぱりここにいたね、“アヤカ”くん」

雪村「………………」

雪村「良い人が見つかったようで何よりです」

シャル「!」

シャル「……凄いんだね、そこまでわかるんだ」

雪村「僕もそうですから」


――――――自分では何も決められない人間だから。


雪村「だから、人にすがるしかない」

シャル「あ」

シャル「…………うん。そうだね」

シャル「いつまでもそうじゃいけないのに――――――」

雪村「それがいけない」

シャル「え」

308  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:39:28.31 ID:lpEXoONP0

雪村「できることなんて自分には無いのに、やろうとするから傷つく」

シャル「それじゃ……、どうすればいいの?」

雪村「『その時』が来るまでその人に縋っていればいいじゃないか」

雪村「決して疑わず、最後の最後までその人のことを信じていればいい。何も考えずに」

雪村「できもしないのに賢しく振る舞おうとするから苦しむのだから、嫌なことはずっと忘れていればいい」

シャル「………………」

雪村「――――――『そうじゃないか』って僕は思い始めた」

雪村「大切なのは『今まで』でもなく、『これから』でもなく、『その日を摘めるかどうか』にあると思う」

雪村「――――――特に、僕のように先の見えない人間ほど」

シャル「――――――『その日を摘めるかどうか』?」


雪村「自分が精一杯やれる限られたことに全力を尽くせばいい」


シャル「!」

シャル「……ど、どうしたの? 本当に変わったみたいだけど」

雪村「わからない。ふとそう思えるようになっただけで」

シャル「そうなんだ……」

シャル「僕ね、今 “アヤカ”くんが言ったことと全く同じことをある人に言われて立ち直れたんだよ?」

雪村「そうなんですか?」アセタラー

シャル「そうなんだよ」

309  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:40:51.80 ID:lpEXoONP0

チャプン

シャル「ああ……、温かい(ちょっと熱い気もするけど、気持ちいいや)」

雪村「………………」

シャル「何 考えてたの?(“アヤカ”だってわかっていても、やっぱりちょっと緊張するな…………こっちの方を向いてくれないのも寂しいけど)」


雪村「…………“ハジメ”って人のことを考えてた」


シャル「!?」ドキッ

シャル「うえええええええええ!?」

シャル「ど、どうしてその人の名前を!?」

雪村「あ……、そうなんですか。たぶん、シャルルの言う“ハジメ”とは違う人と思いますけど」アセタラー

シャル「そ、そうだったんだ。ああ びっくりした……」ドクンドクン

雪村「………………」プイッ

シャル「あ」

雪村「……何?」

シャル「み、見たでしょ?」

雪村「……何を?」

シャル「え? えと、それは――――――」

雪村「………………」

バシャーン!

シャル「きゃっ!」

雪村「………………」スタスタスタ・・・ (十分に湯船に浸かったのか、引き上げて最後に身体を洗う)

ジャージャー!

シャル「あ……」チラッチラッ

雪村「…………お前、見ているな」

シャル「ご、ごめんなさい!」

雪村「…………変な子」

シャル「あ、“アヤカ”に言われたくは無いよ、それは――――――!」バシャーン!


310  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:42:10.28 ID:D7BqUz5q0

――――――
箒「こ、ここが男子用の大浴場か」ドキドキ

箒「雪村め、いつまで入っているつもりだ……(あ、トイレがあるのか。これで用を足しに行くのが楽になるな)」

箒「千冬さんから大事な話があるというのに…………」

箒「石鹸を踏んでひっくり返ってのびてなければいいのだが」

箒「そう! 決して私は疚しい思いがあって入ってきたのではないのだからな!」


雪子『――――――お背中、お流しいたしますわ』ポッ


箒「…………うぅ」カア

箒「違うんだからな!」
――――――

ガララ・・・

箒「雪村? いつまで入っている――――――」

シャル「え」

シャル「きゃっ」ザッパーン!

箒「――――――シャルル?」

雪村「………………」ジャージャー

箒「う、ううん? え? 今、シャルルの胸――――――」

シャル「ど、どうして箒が入ってくるの!? やっぱり“親子”だから?!」アセアセ

箒「いや、違うぞ、決して!」アセアセ

箒「わ、私はいつまでも入浴し続けている雪村を心配してだな――――――」アセアセ

シャル「そんなの絶対おかしいよ、箒ぃ!」アセアセ

箒「う、うるさーい!」

箒「そ、それよりもシャルル、お前――――――」

シャル「う…………」ドキッ

雪村「………………」ジャージャー

雪村「あの、いいですか?」キュッキュッ

箒「!」

311  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:43:02.09 ID:lpEXoONP0

シャル「な、何かな、“アヤカ”くん?」

雪村「僕、そろそろ上がりたいんですけど」

箒「あ、ああ…………(男の人の背中ってあんな感じなんだ…………)」ジー

シャル「ちょ、ちょっと待って、“アヤカ”くん! この状況で一人にしないで!」

雪村「やだ」

シャル「」

雪村「で、どうしてそっちもいつまでもどいてくれないんですか?」ムスッ

箒「あ、いや! お前の背中が存外大きくて――――――(え? あれ? 私、何を言って――――――)」

雪村「……そうなんだ。――――――『さすがは家族』ってことですね」プイッ

箒「いや、違う! 私は雪子おばさんとは違うぞ!」アセアセ

雪村「もういいですよ。ここで着替えるから!」


雪村「――――――展開!」ピカーン!


雪村「それじゃ、シャルル。さようなら」スタスタスタ・・・(ISスーツ)

箒「ま、待て!」ガシッ

雪村「今度は何ですか? さっさと部屋に戻りたいんですけど」ジトー

箒「いいか? 私はな――――――」

シャル「ははは、相変わらずだよね、“アヤカ”は…………」クラッ

シャル「あ、あれ……? 頭の中が――――――    」フラッ

ザッパーン!

雪村「!」

箒「シャルル!?」

シャル「」ブクブク・・・

箒「あ、雪村!」

雪村「…………!」シュタ

雪村「――――――『知覧』!」

バシャーン!

雪村「のぼせたか。――――――ちょっと熱すぎるから」(湯船に沈んだシャルルを素早く掬い上げた!)

シャル「ゴホゴホ・・・」

箒「だ、大丈夫か、シャルル!(あ、やっぱり――――――)」

箒「雪村! 早く脱衣所に連れて行ってやってくれ。そこで身体を冷やしてやろう」

雪村「わかりました」ガコンガコンガコン!

シャル「うぅ…………」バタンキュー

箒「………………」


箒「――――――信じよう。雪村がそうしたように」


箒「――――――って!」

箒「男の雪村に何をやらせようとしているのだ、私はあああ!」

箒「雪村! それは私がやるから! お前はさっさと千冬さんのところに行けえええ!」

312  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:44:17.90 ID:lpEXoONP0

――――――それから、

――――――大会3日目 予選Cブロック


――――――
実況「予選Cブロック通過、おめでとうございます!」

実況「予選通過は、“ブロンドの貴公子”シャルル・デュノアぁー!」

実況「と、同じく1組の“リコリン”と呼んで欲しい岸原理子ぉー!」
――――――

シャル「はは……」ニコニコ

――――――
観衆「わあああああああああああ!」

セシリア「さすがですわね、シャルルさん」

箒「あれは、私も雪村も苦手とするタイプだな……」

箒「対策が必要だな。「高速切替」による変幻自在の付かず離れずの戦法こそが一番 雪村が苦手とするものだからな」

ラウラ「そうだな。第2世代型だが、実力はまあ悪くない上に武装も充実しているから“アヤカ”では厳しいものがあるな」

谷本「というか、リコリン! あんまり活躍してなーい!」

ラウラ「予備装備の遠隔展開で少しばかり援護射撃をしていた程度か。外しまくっていたが」

相川「でもでも、武器を分けてもらえるっていうのは何か良いよね」

谷本「そうそう。男と女で共同作業してるって感じでね」

箒「………………『男と女』か」

鷹月「どうしたの、篠ノ之さん?」

箒「いや、なんでもない。なんでもないんだ」

鷹月「そう? なら、いいんだけど(昨日からどうしたんだろう、篠ノ之さん?)」
――――――

313  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:46:12.50 ID:lpEXoONP0

――――――アリーナのどこか


一夏「そっか。シャルロットちゃんの正体が箒ちゃんにバレちゃったわけ…………」

友矩「いったい何人のJKとフラグを立てれば気が済むんでしょうね、ロリコンさん?」ジトー

一夏「俺はロリコンじゃねえ! ただ誠実に振る舞ってきただけだぁ!」アセアセ

友矩「そして、“アヤカ”と篠ノ之 箒が優勝したらどうするつもりなのか、腹は決まりましたか?」

一夏「勘弁してくれぇ…………」

雪村「明日はDブロックですね。ラウラさんと鈴さんの戦いです」

一夏「そ、そうだな……」アセタラー

友矩「この調子で、1年の専用機持ち全員を攻略したらロリコンだって認めてくださいね?」

一夏「うるさい!」

一夏「でも、やっぱりコア・ネットワークを通じてか、互いの情報や認識を共有しあってる感があるな」

雪村「はい。自然と一夏さんの人生観をものにしていたようで、シャルロット・デュノアに『一夏さんと同じことを言っていた』と言われました」

一夏「そっか。良い方向に働いてくれたようで嬉しいよ」

雪村「はい」

雪村「やはり人は、教え導いてもらわなければただの動物です。叡智があってこその人ですね」

一夏「ああ。俺も“人を活かす剣”が無ければただの“千冬姉の弟”に過ぎなかったかもしれない」

友矩「いえ、“童帝”です」

一夏「だから、茶々入れるのやめて! “アヤカ”が見てるから!」

雪村「本当に一夏さんと友矩さんは互いのことを信頼しているのですね」フフッ

一夏「ああ そうだよ! そうでなけりゃ、こんな暴言の毎日に耐えられるわけがない!」

友矩「ええ。これが毎日の日課ですから。呆れながらも罵るというのはちょっとしたエンターテイメントですよ、ホント……」ニッコリ

友矩「それじゃ、必要なことは十分に聴けました。今日はこれでいいです」

友矩「健闘をお祈りしています」

雪村「ご助言をいただけませんか?」

友矩「それはできません」

一夏「…………悪いな」

友矩「けれども、――――――『作戦自体は悪くはありません』それだけは言っておきましょう」

雪村「ありがとうございます」

雪村「では」


ガチャ、バタン!



314  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:46:49.98 ID:D7BqUz5q0

一夏「………………」

友矩「どう思います? 最初の頃と比べればすっかり明るくなりましたが」

一夏「それでも不十分だよ。根源的なところで諦めてるから」

一夏「それが、仮想空間“パンドラの匣”における“魔王”とブラックホールの存在だ」

友矩「…………仮想空間の開拓もだいぶ進んだ」

友矩「痛ましい過去の傷痕を思えばこれでも大きく前進してはいるんだけどね」

友矩「根源に至るまではまだ遠いか……」

一夏「ああ。だから、これからも電脳ダイブは続けるべきだ」

一夏「俺との心のふれあいで心の内側から救うことができているのに、ここで止めたらそれ以上 次へは進めない」

一夏「それに、箒ちゃんたちとのふれあいで心の外側が満たされつつあるんだ。外も内も満たしてやらないと」

一夏「俺にしかできないことなんだ、これは。だから やり通す!」


――――――同じ“ISを扱える男性”である俺が“アヤカ”を守るんだ。


友矩「その心が、“アヤカ”の孤独な心に光を灯したんだね」

友矩「(そう。コア・ネットワークを介して伝わるのは情報だけじゃない)」

友矩「(それが「相互意識干渉」と呼ばれる現象であり、コア・ネットワークを通じて搭乗者同士の心を結びつけるという)」

友矩「(でも、人の心を救うのに「相互意識干渉」なんていうのは絶対に必要ではないんだ)」

友矩「(きっと一夏ならば、生の人間生活の中でも“アヤカ”の心を救ってあげられただろう)」

友矩「(そしてそれは、特別な資格など必要ない。現に篠ノ之 箒はISを使わずにそれをやってのけている)」


――――――『ISにも心がある』が故にコア・ネットワークが発達する以上、『心を持つ人間』にできない道理はないからだ。


友矩「心を信じることを諦めてはいけない――――――。そうだろう?」

一夏「ああ。どんなに人間の中の悪に絶望しても、『捨てる神あれば拾う神あり』だ」

一夏「でなければ、道徳や大道は廃れて人間は畜生・修羅・餓鬼に身を貶し、この世はとっくの昔に地獄と化していただろう」

一夏「だから、まだ信じてる」


――――――これから人類がどうISと一緒に未来を歩めるのか、より良き選択をしてくれることを。


315  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:48:26.75 ID:lpEXoONP0

――――――大会4日目 予選Dブロック


鈴「こ、ここまで相性が悪いだなんて…………」(戦闘続行不能)

ラウラ「所詮はここまでだ」

ラウラ「貴様も織斑教官とは接点があるようだが、同じと思わないで欲しいものだな」

鈴「くっ」

ラウラ「フッ」


――――――試合終了!


――――――
実況「お疲れ様でした!」

実況「これにて、学年別タッグトーナメントの予選が終了!」

実況「例年ならば、今日と明日でそれぞれの予選ブロックの準決勝と決勝戦が行われるのですが、今年からは明日で決着となります!」

実況「さあ! 今年は例年と比べて代表候補生こそは少ないものの、専用機持ちが多く入ってきた!」

実況「それ故に、専用機が大会を総なめにするのかと思いきや、Bブロックではその専用機持ちを打ち破った猛者も現れています!」

実況「さあ、勝つのは誰なのか!? 明日は決勝トーナメント! お見逃しなく!」


観衆「おおおおおおおおおお!」


箒「ついに明日だな!」

雪村「はい」

谷本「ベスト4は1組が総なめね!」

鷹月「でも、デュノアくんやボーデヴィッヒさんをどうにかしないことには優勝は難しいかも」

シャル「ははは……。決勝トーナメントがどういった組み合わせになるかはわからないけど、その時は覚悟してね」ニコニコ

箒「そこが問題だな(やはり、最後まで立ち塞がるか、――――――専用機持ち!)」ムムム・・・

相川「頑張って、篠ノ之さん! 優勝してカレシを振り向かせるんだよ!」

箒「ああ! 何としてでも勝つぞ、雪村!」

雪村「はい……」アセタラー

箒「(しかし、――――――何だろう? 嫌な胸騒ぎが収まらない)」

箒「(トーナメントの前日に、シャルルやラウラが無断外出したことや雪村が襲われていたことを考えると、)」

箒「(どうしても何かが起こりそうな気がしてならなかった…………このまま無事に終わるようには思えなかった)」

箒「(それに、シャルルが男装して雪村に接近しなければならなかった陰謀を目の当たりにしてますます――――――)」

雪村「………………」

箒「(雪村は何も言おうとはしない。たぶん、雪村としてはいつもどおりのことなのかもしれない)」


――――――私もそうだったから。


箒「(だからこそだ。だからこそ、ようやく得られたここでの平穏な日々を奪わせるわけにはいかないのだ!)」

箒「(雪村、もうお前を独りにはさせない――――――そう誓ったのだから!)」

316  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:49:05.39 ID:D7BqUz5q0

箒「(けど、ISに対抗するにはISしかない)」

箒「(――――――が、一般生徒の私では専用機などとてもじゃないが無理だろう)」


――――――いや、可能性は無くはない。“あの人”がいる。


箒「(けど、そうすることはどうなのだろう? 身近な人を守るためとはいえ、かえって事態を悪化させるのではないのだろうか?)」

箒「(専用機――――――それも現在 最新鋭の第3世代型をも超越する機体をものにできたら、私も雪村も安息を得られるのだろうか?)」

雪村「――――――」

箒「………………」

雪村「お話があります」ポンポン

箒「あ」

箒「す、すまない。私がこんなんでは勝てるものも勝てないな」


――――――勝ちたいですか? どんな手を使ってでも。


箒「え」

雪村「勝ちたいですか?」

箒「そ、そりゃあ勝ちたいけど、――――――何をするつもりなのだ?」

雪村「それをお話したいので、場所を移させてください」

箒「…………わかった」

スタスタスタ・・・

谷本「お! 早速、明日の対策会議に行ったようね!」

相川「邪魔にならないようにしてあげないとね! もしかしたら優勝しちゃうかもしれないんだから!」

鷹月「それで、大会が終わったらまたまたお祝いをしてあげなきゃね!」

本音「おー!」

シャル「ふふふ」ニコニコ
――――――

317  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:50:34.94 ID:lpEXoONP0

――――――対策会議


箒「それで、何をする気なのだ?」

雪村「これはまだ(学園の)誰にも言っていないことなのですが――――――、」


――――――『知覧』には単一仕様能力があります。それで勝ちに行きます。


箒「?!」

箒「え」

雪村「………………」

箒「ちょっと待ってくれ!」

雪村「……何です?」

箒「た、『単一仕様能力』って、確か第2形態移行をして初めて得られるものじゃ――――――」

箒「そ、それに! 第2形態になったとしても発現した実例が少ないという、――――――『あれ』か?」

雪村「はい」

箒「そ、それって、セシリアとの戦いや前々で使ったあの急上昇のことか?」

雪村「いえ、あれは相手のPICとこちらのPIC力場を結びつけた『PICカタパルト』ですが?」

箒「は? 『PICカタパルト』? 初めて聞く技術だが……」

雪村「そうなんですか? 相手のPIC力場と自分のPIC力場を結んで相手のPICエネルギーと合体させて自分のPICを強くするって技術…………」

箒「え? そんなのがあるなら、どうして今までノロノロと――――――」

雪村「あれは仕様です。僕はどういうわけか自分のPICをうまく使いこなせないのが事実です」

雪村「最初は移動に使えるのかと思ったのですけれど、水平方向へは難しいようです」

雪村「あくまでも『PIC』はベクトルの向きを調整するものであり、推力は重力やスラスターに依りますから」

雪村「ですから、垂直方向には大きく移動できます。相手が自分より高所にいることによる位置エネルギーと重力をPICの反重力で逆転させて真上に加速しますから」

箒「なるほど、わからん(――――――口で言われただけでは何ともいえないものだな)」

318  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:51:48.51 ID:D7BqUz5q0

箒「と、ともかく高所の相手はその『PICカタパルト』で急接近できるということなんだな?」

雪村「要するにそうです。空中戦を得意とする相手にしか使い道がありません」

箒「そうだな。すると、明日の戦いでは期待できないか。シャルルもラウラも地上戦寄りだからな……」

雪村「それと、ベクトルを利用するものなので相手がある程度の垂直の動きをしている最中でないと利用できません」

箒「なるほど、一昨日のセシリアの一撃離脱戦法は、縦の動きが大きかったから『PICカタパルト』ですぐに追撃できたというわけか」

雪村「はい。ベクトルさえ感知できればそれが微々たるものでもこちらのスラスターで推力強化でき、元々のベクトルが大きければもっと速く動けます」

箒「ほう。となると、相手のPICを密かに利用していることになるから、場合によっては相手のPICを完全停止させられるのではないか?」

雪村「…………どうなんでしょう?」

雪村「確かに物体の上昇が止まる時というのは物理の垂直投射の計算でもあるように、物体が最高速に達した瞬間です」

雪村「つまり、相手がPICによる垂直上昇が最高速に達した瞬間に停止する――――――いえ、垂直投射とPICの揚力は別物ですね」

雪村「忘れてください。ともかく『PICカタパルト』を使って相手の動きを封じるのは難しそうです」

箒「そうか」

雪村「それに、単純に言うと『PICカタパルト』では相手の推力とこちらの推力を合計したベクトルを得るので――――――、」

雪村「カタパルトの名の通りに、放っとくとそのままの勢いで遥か彼方へと飛んでいってしまうんですよ」

箒「ああ……、そういう原理か。ようやく理解した。確かに使いどころが難しいな」

雪村「いえ、『PICカタパルト』のフォーカスを外して重力方向に修正して減速しながら上昇して高度を調整して、」

雪村「PICの低重力化とスラスターを噴かせて勢いを落としていけば無事に降りられますけどね」

箒「だから、相手よりちょっと高いところまで昇ってそこから無事に着地できたのか(あれ? そんなことを考えながら実践していたのか、雪村は?)」

雪村「降りる時はスラスターをもっと噴かせれば安全に降りられますけど、そうなると空中でもノロノロでいい的なので状況に応じてます、はい」

箒「…………そうか(しかし、本当に雪村は凄いな。こんなのはたぶん姉さんですら発見していない大発見だぞ!)」

箒「あ」

雪村「?」


箒「そうか、『PICカタパルト』がこれまで発見されなかったのは元々ISが空を飛べるせいだったからか……」


雪村「そうかもしれませんね」

箒「――――――『飛べないからこそ見えてくるものもある』わけってことか」

箒「あれ?(でも、これが単一仕様能力ではなく、どのISにも共通した能力ならば――――――)」

319  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:53:35.68 ID:lpEXoONP0


雪村「で、話を戻しますけど」


箒「あ。単一仕様能力の話だったな。そういえば――――――すまない」

雪村「いえ」

雪村「それで、僕と『知覧』の単一仕様能力なんですが、」


――――――『落日墜墓』と言います。


箒「――――――『ラクジツツイボ』?(――――――『落日』? ――――――『追慕』?)」

雪村「漢字で書くとこう――――――」サラサラ

箒「何やら不吉な意味合いが込められているような気がするが……」

雪村「そうかもしれません(なぜなら――――――、)」


――――――なぜならば、これまで“同じもの”に虐げられてきた者同士が歩み寄って生まれた能力なのだから。





320  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:54:11.88 ID:D7BqUz5q0

――――――某所


1「不愉快だねぇ……!」

2「まったくですわ!」

2「これで織斑一夏の手によって4機ものISを失う結果になったのですから!」

3「………………」

1「あんたとしては、さぞ愉快なことだろうねぇ?」

3「組織の痛手になっていることで喜べるものですか」

3「どうするつもりなんですか? 期日を過ぎてまだやるのですか? ――――――4機も失って」

2「そ、それは…………」

3「…………この件に関しては、次は“土砂降り女”に任せてみると案が出ていますが」

1「!!」

1「クソ食らえだっ!」

1「こうなったら、アレをやるしかない!」

3「――――――『アレ』とは?」

1「アレだよ、アレ! こうなったら学園の信用をゼロにしてやる!」

3「まあ、何をしようが勝手ですが、期日を過ぎた上での行動がどういう結果を招くのかをよくよくお考えになってください」

3「ここで諦めれば、それ以上マイナスになることはもうありませんから」

1「馬鹿か! マイナスのままで終わったらオシマイだろうがよ!」

1「組織での私の地位やメンツってのはどうなるっていうのさ!」

2「そうですわ! 私たちしか千冬様をお救いできないのですよ!」

3「…………織斑千冬が最も愛する者を手に掛けようとする者に言えたことか」ボソッ

3「(やはり、この2人には消えてもらいましょう。IS4機を失うだけじゃなく、野放しにしておくとそれ以上の被害が出てしまう……!)」

3「(そもそも、こんな野蛮人に世界をどうこうするということができるはずもない。それができるだけの忍耐や知性が備わっていない)」

3「(…………織斑一夏、組織の人間としては看過できない宿敵ですが、個人的にはこれからも正義の味方として君臨し続けて欲しいですね)」


1「ふふふっ! こうなったら、目撃者は“男”と一緒に全て皆殺しだ!」

2「喜びなさい。歓喜に打ち震えなさい! これからたくさんの千冬様にたっぷり可愛がってもらえるのですから」

3「では、事が成就することをお祈りしています(――――――どう足掻いても次はもう無いですけれど)」


321  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:55:34.14 ID:lpEXoONP0

第6話A これからの物語について重要な概念

・左派(革新派)と右派(保守派)の闘争
IS世界における最も大きな派閥であり、自然と全世界の女性はこのどちらかに属するとされる。
簡単に言えば――――――、

――――――Q.男がISに乗れることに肯定か、否か?

に対する反応や回答で分類されるために、どちらに属するかは一目瞭然である。
すなわち――――――、

左派:寛容、男女平等、男性
右派:拒絶、女性優越、女性

であり、IS学園内でも朱華雪村に対する反応でその違いが理解できるはずである。
織斑千冬や学園長は中道左派であり、積極的に働きかけることはないが女尊男卑体制維持には消極的である。


・仮想空間『パンドラの匣』の開拓と争奪戦
物語の裏事情の中心となっていく、国際IS委員会の指示で織斑千冬が地下秘密区画にある当時最高峰の大型サーバに電脳ダイブさせて築きあげた、
“朱華雪村”の心象世界を描いた仮想空間――――――通称:“パンドラの匣”である。

『パンドラの匣』には“世界で唯一ISを扱える男性”誕生――――――ひいてはISが女性にしか扱えない秘密を探るヒントが隠されているとされ、
5月から週一で少しずつ慎重に仮想空間の構築を進めていき、第1期が終わる前にはすでに8割ぐらいは構築は完了していたとされる。
このプロジェクトは様々な人間の思惑が詰まった次世代への希望が込められて“プロジェクト・パンドラ”と呼ばれ、サーバも“パンドラの匣”となった。

つまり、前述の左派と右派の闘争において重要なキーアイテムとなっていることは理解できることだろう。
左派は純粋なISの構造解明や男女格差の是正のために『パンドラの匣』の開拓を希望し、
右派は女尊男卑の世界を維持するために頑なに『パンドラの匣』の開拓に反対する。

しかし、『パンドラの匣』へのアクセス権はISによる電脳ダイブしか実現せず、
迂闊に外部からアクセスするとあらゆるコンピュータがクラッシュするというウイルスやバグに満ちた世界である一方で、
過去の電脳ダイブの例で貴重な専用機持ちを廃人にし、使われたコアも修復が不可能になる危険性があるという面から開拓には慎重になる意見がある。

だが、織斑千冬は決行した。そして、彼女にそうすることを命じた者がいるのだ。

そこにはどんな思惑が込められているのか、今はまだ闇の中にあり、杳として見ることはできない…………


322  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 09:56:12.31 ID:D7BqUz5q0

・仮想空間『パンドラの匣』
そこは“朱華雪村”を含む“彼”の人生の全てが記録される場所であり、IS学園を出発点としてブラックホールを背景にした暗黒の世界観となっている。
基本的に構築した時の“彼”の精神状態が逐一反映されているために、新たに更新された場所はその時の精神状態によって全体的に不安定になることもある。
ブラックホールの引力が強い場所が存在し、ブラックホールに呑み込まれた場合はそのまま精神が消滅してしまう危険性があり、
また、“彼”が抱いているイメージがそのまま電脳ダイブしたパイロットたちに襲い掛かってくるのでISや適切なオペレートなしに進入するのは極めて危険。

その世界はまさしく“世界中の悪意に満ちた世界”であり、“彼”が抱く人間不信のイメージを克明に描いた世界でもある。


時系列で言うと“彼”が“世界で唯一ISを扱える男性”であったことから“世界中の悪意に満ちた世界”に堕とされているので、
必然と“彼”の過去へと遡っていく大きな一本道の世界となっており、最新の領域に“彼”を連れて行き、
そこで構築させることで新たな領域への道が開かれるRPGのような世界観であり、事実 “彼”が幼い頃にやったゲームに影響されている。

“彼”が領域に入ることで“彼”の無意識から生み出される悪意の象徴である魔物や“魔王”の存在が開拓の邪魔をしに現れる。、
この仮想空間の構築では、“彼”の奥に封印されている忌まわしい記憶の欠片を引っ張りだすことになるので、
その作業風景は、“彼”の中から“パンドラの匣”で形を持った悪意から“彼”を物理的に守って作業を中断させないようにする攻防戦となる。
“彼”の中にある悪意が“彼”自身を襲う理由は、そういうものだという認識と思い出したくないが故に作業を中断させようという“彼”自身の無意識による。
織斑一夏はそうした電脳世界において一人で何度も物理的に“彼”を守り切っており、
その行為と意思がこの世界に満ちている“彼”の無意識に届き、“ブレードランナー”織斑一夏への絶対の信頼へと繋がっている。

つまり、『パンドラの匣』の開拓の終着点とは、“彼”の人生と数々の迫害の日々の体験を超えなくてはならず、
それ故に、“彼”が“世界で唯一ISを扱える男性”であることの真実は“世界中の悪意に満ちた世界”を超えた先にあるのだ。

電脳ダイブは、元々はISドライバーの潜在意識をデータとして記録させたり、直接的に精神干渉したり、
意識不明になったISドライバーの記憶をISを通して記録したり、呼びかけたりできる技術として研究が進められていたが、
下手をすれば廃人や洗脳に陥る危険性からアラスカ条約で全面的に禁止された技術である。

今作では、その電脳ダイブを通して構築された虚構の仮想空間が物語の大きな舞台装置として徐々に影響を与え始める。
また、コア・ネットワークや「相互意識干渉」「深層意識同調」「非限定情報共有」などの無意識のコミュニケーション概念が取り上げられており、
これこそが今作「近未来剣客浪漫譚」における最大のテーマであり、信じるやつがジャスティスとなるのか遙かなる問い掛けとなる。


・“魔王”オーバーロード
『パンドラの匣』の中で“彼”の無意識が創造した“世界中の悪意そのもの”である。
この呼称は『パンドラの匣』開拓を最初期から勤めていた織斑一夏が“この世全ての悪を総括する魔王”に例えて名付けられ、後に公的に用いられたもの。
しかし、誰の心にも“魔王”という存在は潜んでおり、そのことを責めることができない不満から生まれた理想の純粋悪であるために、
少なくとも人間の姿をしておらず、見るもおぞましい化け物の姿をとっていることが普通である。幻惑するために人の皮を被ることもある。
この辺が“彼”の良心というか、本当に周囲の人間がそうとしか見えなくなった“彼”の悲哀の最たるものであるが、
一夏としてはそれが人間ではなく理想の純粋悪であるが故にたまらない斬り捨てることができ、開拓の大きな助けとなっている。
というか、電脳世界における存在ではあるが、“アヤカ”の感情の揺れ幅や領域によって弱くなったり、強くなったりするので、
密かに一夏の訓練相手となっており、電脳ダイブにおける仮想空間の開拓がISの訓練になっている(ISは脳波制御で電脳世界も脳波制御の世界である)。

基本的に、領域ごとにそれぞれの“魔王”が存在し、その性質や凶暴性も様々。領域ごとに存在し、その領域から出てくることがない。
一度 消滅させればその領域には更新されるまで登場しなくなるが、“彼”が嫌なことを思いを患って領域を通過していると復活する場合もあり、
“パンドラの匣”の世界は始まりから終わりまでが大きな一本道なので、最新の領域で復活されるとまた倒さないといけなくなるので厄介である。

『戦えば勝つ』の下りにある『神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬り』、
『斯くの如くんば、行く手を阻む者、悪鬼羅刹の化身なりとも、豈に遅れを取る可けんや』
“ブレードランナー”の合言葉に採用されているこの節が、織斑一夏の鋼のメンタルの根幹となっており、今作における強さの秘訣となっている。

323  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/08/30(土) 10:00:03.64 ID:D7BqUz5q0

一条千鶴 元祖“ブレードランナー”
専用機:第2世代型IS『風待』
ランク:S 
 格闘:A 射撃:A
 回避:A 防御:C
 反応:A 機転:C
 練度:S 幸運:C

織斑千冬とは同期の元第1期日本代表候補生の一人であり、織斑一夏とは顔馴染みである。
織斑千冬と山田真耶の能力を足して2で割ったような万能型であり、それ故に表舞台『モンド・グロッソ』には織斑千冬を送り出し、
彼女には裏舞台で様々なISや新技術の試験運用、あるいは非正規の任務に就く道が与えられ、彼女もそれを誇りに生きている。
こう書くと、織斑千冬が格下のように見えてくるが千冬の『暮桜』が当時最強だった事実は揺るぎなく、
当時としては接近格闘機ではない新しい形のISの模索が進められていたので、時代のニーズに応えた結果がそうなっただけで、
どちらも一級品のドライバーであり、競技選手の道に千冬が、技術開発の道に千鶴が進んだにすぎない。

秘密警備隊“ブレードランナー”の副司令であり、本人もかつては元祖“ブレードランナー”として専用機『G2』こと『風待』を駆って暗躍していた。
“男”である織斑一夏とは違って性別を偽る制約がなく、拡張領域が使えない『白式』とは違って『風待』は拡張領域を活用できているために、
任務遂行そのものは自由度が高く、彼女の優れた対応力によって着実に遂行されてきた。
しかし、“男”であるという意外性から警戒されづらいのが一夏であり、『零落白夜』という一撃必殺を持っているのが『G3』こと『白式』なので、
一概にどちらが優れているかは言えないぐらいに、能力や得意分野が差別化されている。

それ故に、思った以上に後任“ブレードランナー”である織斑一夏が仮想空間の構築や今までになかった新たな脅威の対応に忙殺されたために、
任務に専念できるように増員することが決まり、再び“ブレードランナー”として愛機である『風待』と共に前線に復帰することになる。
ただし、織斑一夏の根本的な制約である“ブレードランナー”=“ブリュンヒルデ”の構図の足かせに彼女も悩まされることになり、
IS学園防衛の最高責任者の織斑千冬の名誉のために自身の専用機を貸し与えることになるのだが、織斑千冬を二人出現させるにはいかなくなったので、
織斑一夏には新しいISスーツを着せることになり、織斑千冬の象徴でもある『零落白夜』のことであの手この手で小細工をすることになる。
自身は諜報員として無理はしない程度に狙撃や尾行などの裏方に従事することになる。


第2世代型IS『風待』Ver.5.0 第2形態
専属:一条千鶴 元祖“ブレードランナー”
攻撃力:B+接近格闘機だが、拡張領域で傾向可能となった大型火器の恩恵で火力が高い
防御力:B+後の世界シェア第2位となる『打鉄』の基となる期待故に当時としては破格の重装甲だった
機動力:A+旧式機であるが、日本初の第2世代型となる『暮桜』の後継機でかつ第2形態なので機動力は『白式』に匹敵するほどになる
 継戦:B+拡張領域を生かして豊富な武器を使い分けられる。「高速切替」にも対応している
 射程:B+豊富な火器によって射程は自由自在。これが第2世代型である
 燃費:A-第2世代型初期の機体はみな低燃費であり、この機体が重装甲であるために燃費はいいが、武器切替によるエネルギー消費が多くなる

日本初の第1世代型IS『暮桜』こと『G1』の後継機として開発された日本初の第2世代型IS『G2』であり、基本的に『暮桜』+「拡張領域」という認識でいい。
それ故に、分類としては接近格闘機ではあるが、拡張領域の試験運用を重点においた実験機の趣が強く、
射撃武器に対する耐性の強化で装甲が追加されて、自身も火器管制システムが搭載されて射撃戦もこなせるようになっている。
実は、「初期化」を何度も繰り返して洗練されていった経緯があり、それ故に現在の『風待』はVer.5.0第2形態となる。
洗練されていく過程の中で、『打鉄』の原型となる形態なども残しており、言うなれば“第2世代型の母親”とも言えるISでもある。
現在は第2世代から第3世代に移る過渡期になるが、着々と基礎の近代化改修がなされて性能そのものは並みの第3世代型IS以上の性能はあり、
それはつまりは、設計された当初の機体の面影はまったく残していない――――――『暮桜』とは懸け離れた機体設計へと変遷したということである。

そうして熟成されたノウハウによって単一仕様能力を獲得しており、「一般機化」するリミッターを付けることで他人にも利用できるようになっている。
しかし、第2形態への移行というものはISの搭乗者との「最適化」が一定水準を超えた時に起こる――――――搭乗者の特性を大きく反映させているので、
専用機を「一般機化」するということは別の搭乗者に本来の搭乗者と同じだけの力量や癖を要求するためにそれに特化した訓練を積まないと扱いこなせない。
今作においての最初の登場は、織斑千冬が学園防衛の最高責任者としての存在感を発揮するための茶番のために貸し与えられることになるが、
さすがは一流のISドライバーというだけあって、他人の機体でもそれなりに戦うことができた。

名の由来は、『G1』が『桜』だったので『G2』は『風待草』=『梅』である。『G3』もこれに因んだ名付けがされていたのだが…………


特殊装備
「一般機化」のリミッター
通常は一般機などに組み込まれるリミッターであり、「最適化」させないための装置であるが、
専用機の場合は「最適化」して「形態移行」してもらうために普通は取り付けないものである。ましてや、第2形態の機体に取り付けるものでもない。
しかし、一条千鶴の『風待』は、専用機がない織斑千冬のために貸し与えるために特殊な使い方をしており、
常識に囚われない“ブレードランナー”らしい運用の仕方がなされることになった。


単一仕様能力:????
一条千鶴 曰く「『白式』と肩を並べられる対IS特化」「拡張領域の普及でようやく真価を発揮できるようになった」能力とのこと。
リミッターのおかげで、千冬でも扱えるようになっているがノウハウがないのでさすがに使いこなすことはできないようだ。

328  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 08:53:31.06 ID:3zEhG37Z0

第7話A 日は落ち、墓へ墜ちる
SETTING SUN of Graveyard

――――――大会5日目:決勝トーナメント

――――――第2ピット


箒「いきなりラウラと戦うことになるのか……」

雪村「………………」


本日の内容
――――――
第1試合:Bブロック VS.Dブロック

第2試合:Aブロック VS.Cブロック

第3試合:3位決定戦

第4試合:優勝決定戦
――――――


箒「大丈夫か?」

雪村「問題ありません。単一仕様能力『落日墜墓』があれば勝てます」

箒「――――――『落日墜墓』か」

箒「『日は落ち、墓へ墜ちる』――――――何度聞いても不吉なものだ」

箒「そして その効果も、これまで雪村が使おうとしてこなかっただけのことはある」

箒「(確かに、『落日墜墓』が決まればどんなISでも簡単に倒せるだろう)」

箒「(しかし、勝たなければならない理由があるとはいえ、そんなものを使わせて勝利を得て大丈夫なのだろうか?)」

箒「(けど、それ以外にここまで勝ち上がってきた専用機持ちに勝つ見込みはない)」

箒「(――――――覚悟を決めろ! 元々 専用機持ちに対しては負けて当然の考えでいたんだぞ、“アヤカ”と組むまでは)」

箒「(そして、“アヤカ”は見事 持てる全てを使ってこれまで対峙してきた代表候補生を打ち破ってくれたんだ)」

箒「(今更、私がその頑張りを否定してどうする!)」

箒「(それに、雪村だからこそ『PICカタパルト』を発見できたのだ。ならば、単一仕様能力だって積極的に活用しても文句はあるまい)」

箒「(だいたいにして、訓練機に向かって性能が何割増しの世界最新鋭の第3世代機が圧倒的な戦力差をつけて我々に迫ってくるのだぞ!)」

箒「(それが当然のものとみなされているのだから、こっちとしてもやり過ぎるということなんてないはずだ!)」

箒「よし!」

329  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 08:54:52.80 ID:JZmH5Y3h0

箒「そろそろ時間だな。――――――装着だ」

箒「行くぞ、雪村! 今回の登場は私に送られていくか?」

雪村「それでかまいません」

整備科生徒「準備できてます」

教員「がんばってください」ニヤリ

箒「ありがとうございます」スタスタスタ・・・

雪村「…………?」

雪村「ハッ」


雪村「――――――『知覧』!」(IS展開)


教員「へ!?」

整備科生徒「何!?」

箒「――――――雪村?!」


雪村「はあああああああああああ!」ズバーン!


それは学年別タッグトーナメント5日目の決勝トーナメント開始前の出来事であった。

すでに、予選ブロックを勝ち抜いた猛者たちはそれぞれのピットで待機し、観客席も来賓席も最後の勝者が誰になるのかを見届けるために満席になっていた。

トーナメントの組み合わせも発表されて、選手には2時間前に最終調整として他のアリーナで30分だけウォーミングアップの時間を与えられていた。

そうして、いよいよ決勝トーナメント第1試合・準決勝1試合目の開始時刻になろうとしていた矢先――――――、


――――――篠ノ之 箒が搭乗しようとしていた待機状態の『打鉄』を“アヤカ”は突如として斬りかかったのである!



330  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 08:56:31.95 ID:JZmH5Y3h0

箒「な、何をするんだ、雪村!? 危ないじゃないか!」

整備科生徒「あ、ああ…………」ビクビク (腰が抜けた)

教員「ちょ、ちょっと“アヤカ”くん……?」アセダラダラ

雪村「…………替えてください」ジロッ

教員「は」


雪村「『機体を替えろ』と言っているんですよ、今すぐに!」ゴゴゴゴゴ


一同「!?」ゾクッ

教員「な、何を言って――――――」

整備科生徒「あ、あああ…………」ポロポロ・・・

箒「ゆ、雪村…………?(――――――『雪村が初めて怒った』だと? 何がどうなっているのだ?!)」アセタラー

雪村「………………」ギロッ

教員「ひっ」

雪村「できないのならば棄権します!」

教員「な、何のこと…………?」

箒「お、落ち着け、雪村! 何のことか全然わからないぞ! ――――――おい!」

雪村「できないのなら、あんたが乗れよ!」ガシッ (無抵抗の教員を乱暴に掴み上げる!)

教員「きょ、教員にこんなことをして、ただですむと思っているの……!?」グググ・・・

箒「やめろ、雪村!(誰に対しても無害だった雪村がここまで激昂するだなんて、どういうことなんだ?!)」

箒「あ……!」

教員「や、やめて! ほ、ほんとに!」(すると、途端に声を張り上げて嫌がる!)

箒「…………え?」


雪村「どうして嫌がるんですか? たかだか乗るだけじゃないですか?」ジロッ


教員「あ、ああ…………!」ポタポタ・・・

整備科生徒「あ、そうだ! ――――――精鋭部隊! 早く来てぇ!!」ピッ

箒「私はどうすれば――――――」オロオロ

箒「あ」


教員「あ」(『打鉄』のコクピットに無理やり入れられて物理装着させられた)


雪村「これでよし」ジトー

箒「…………雪村?」

331  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 08:58:09.40 ID:3zEhG37Z0

精鋭部隊A「何があった!」

精鋭部隊A「!」

整備科生徒「た、助けてぇ……」ポロポロ・・・

箒「あ……」オドオド

雪村「………………」(IS展開中)

教員「ああ…………」(ISに無理やり乗せられた)

精鋭部隊A「――――――そこの男か?」ジャキ

精鋭部隊B「そのようね」ジャキ

精鋭部隊C「やっぱり、所詮は“男”ってことか」ジャキ

箒「!」

箒「や、やめろ! きっと何かわけがあるんだ! 今からそれを――――――」

整備科生徒「きゅ、急に襲いかかって来たんですぅ!」

箒「誤解を招くようなことを言うな!」

精鋭部隊A「そう」ジャキ

精鋭部隊B「いい機会じゃない。ここで晒し者にしましょう?」

精鋭部隊C「賛成ね。『調子に乗ってくれた黄金ルーキー、暴力沙汰で逮捕』ってね」

雪村「………………」


「………………………………フフッ」


教員「ああ…………」

雪村「よっと」(IS解除)

精鋭部隊A「!」

精鋭部隊B「動くな! さもなければ撃つ!」

箒「何を言ってるんだ! 生身の人間だぞ!」

精鋭部隊C「関係ないね。犯罪者を野放しにするわけにはいかないじゃん」

箒「くっ……」

箒「――――――雪村!」

雪村「何です?」

箒「早く事情を説明するんだ! このままだとお前は――――――」


雪村「機体を交換してください」


箒「はあ?!」

精鋭部隊A「何を言っている、こいつ?!」


雪村「わかりませんか? 『篠ノ之 箒のために他の『打鉄』を持ってきてください』と言いました」


332  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 08:59:11.02 ID:JZmH5Y3h0

整備科生徒「じ、自分でパートナーの機体を攻撃してどうしてそんなことを言うの!?」

精鋭部隊B「………………?」

精鋭部隊B「なに、『自分でパートナーの機体を――――――』?」


雪村「そうしてくれなかったからこそ、暴力的手段で訴えるしかありませんでした」


精鋭部隊C「……なんだと? 寝言は寝てから言え」

箒「あ……(確かに、雪村はそのことで何か腹を立てていたようだが――――――)」

整備科生徒「確かに、そのことで突然キレて――――――」

教員「…………!」

精鋭部隊A「ハッ」

精鋭部隊A「先生、いつまでその状態で居るのですか? 何があっても我々で“アヤカ”を取り押さえますから安心して降りてください」

教員「………………!」アセダラダラ

精鋭部隊B「どうしました? 怯えることはありませんって! 私たちの実力は先生もよくご存知でしょう?」

教員「そ、それは…………」オドオド

精鋭部隊C「先生! ふざけてないで早く降りて、“アヤカ”の犯罪を学園に報告してきてくださいよ! こっちは待ってるんですから!」

教員「…………うぅ」

箒「……どういうことだ?」

パンパン!

一同「!」


雪村「わかりましたか? その『打鉄』は不良品です。すぐに新しい機体を準備してください」


一同「!?」

精鋭部隊A「つまり、――――――どういうことだ?」

箒「まさか、学園が私に嫌がらせをするつもりでいたのか! 機体から降りられなくして!」ジロッ

教員「!」ビクッ

整備科生徒「知らない! 私は何も知らない! 知らないから!」ガクブル

箒「………………」

精鋭部隊B「これは、きな臭いわね」

333  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 08:59:48.74 ID:3zEhG37Z0

精鋭部隊C「…………先生?」

教員「…………何?」

精鋭部隊C「いくら相手が憎いからって、自分の手を汚して相手を陥れようとするなんて最低ですよ」
            ・・・・・・・・・・・・・
教員「ち、違うの! 私はただそうするように言われただけで――――――!」

精鋭部隊C「へえ? そうなんだ」ジトー

教員「あ…………」

精鋭部隊C「もういい。この場は私が押さえておくから、このことを早く大会運営本部か現場責任者に知らせてきて」

精鋭部隊B「わかったわ」

精鋭部隊B「疑ってごめんなさいね」

雪村「いえいえ」

精鋭部隊A「あなたのことは気に喰わないけれど、大した嗅覚ね。もし学園に残り続けるのなら精鋭部隊に入らない?」

雪村「そういう道もあるんですね」

精鋭部隊A「そうよ。代表候補生に選ばれない二番手がやるような仕事だけれど、代表候補生とは違った教育が受けられるから」

雪村「考えておきます」

精鋭部隊A「生意気な答え方ね」

精鋭部隊B「行こう。もしかしたら他にも嫌がらせがいっているかもしれないわね」

精鋭部隊A「そうだな……」



334  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:00:51.91 ID:JZmH5Y3h0

精鋭部隊C「まさか、こんなことになるとはね……」

教員「くっ……」

雪村「………………」

箒「雪村?」

雪村「…………はい」

箒「その、つまり……、なんだ?」


箒「さっきのは、私を助けようとしてくれたんだよな? 私のために怒ってくれた――――――そういうことなのだな?」オソルオソル


雪村「はい……」シュン

箒「ど、どうした? そんな悄気た顔をして」

箒「確かに、こんなことになってしまったけれども――――――」


雪村「ごめんなさい。僕のせいです」


箒「え」

雪村「僕のせいで、“初めての人”であるあなたを危険に巻き込むところでした」

雪村「もう、大会どころじゃありません……」

雪村「何者かは知りませんが、僕の存在を消そうとなりふりかまわずやぶれかぶれになってきた……」ブルブル・・・

箒「…………あ」

雪村「………………」

箒「………………」


――――――その時、私には返す言葉が見つからなかった。


雪村はどうしようもないぐらい不器用なやつで、こんなふうにわざわざ危険を冒してまで人から誤解されるような振る舞いしかできなかった。

いや、雪村が危険を冒してまで仕組まれた罠の存在を明らかにしてくれなければ、私は何も疑わずに罠に引っかかっていたかもしれない。


――――――他にやり方がなかった。


雪村の言葉を信じきれずに罠に嵌って雪村の重荷になる自分が想像できてしまい、ここまで自分自身を恨めしく思ったことはない。

結局、私も雪村と同じく正直に思ったとおりにしか振る舞えない不器用な人間であり、自分の気持ちに嘘を吐いて『気にするな』と言えなかったのだ。

なぜなら、雪村がこれほどまでに過激な行動に移ったのも、そうしなければ私が納得できず罠に嵌っている未来しか想像できなかったからなのだろう。

そして、私自身も想像して『そうだ』と思ってしまっていた。



335  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:01:27.25 ID:3zEhG37Z0


――――――嫌な気分である。


助けてもらったけれど結果として後味の悪い展開にしかならず、『雪村はこうするほかなかった』と自分の不甲斐なさを私は責任転嫁しているのだ。

私がもっと聡明で『そうする必要はなかった』と言って『もっと私を信じろ』と笑って言い聞かせるだけのものを持っていなかったからだ。

結局のところ、雪村の善意を私は素直に受け取ることができなかったのだ。客観的に見れば雪村のコミュニケーション不足がそうさせたのだが、


――――――そうではないのだ。そうでは。


男なのにIS適性が見つかって重要人物保護プログラムで普通の人生を送ることができず、

――――――人には言えないような、――――――言ってもしょうがないような苦悩を背負ってきた少年に“普通”を求めてはいけないのだ。

“普通”でない以上は“普通”になれるように教え支えて見守ってやるべきなのに、人は情け容赦なく叩きのめしてダメにするのだ。

そもそも、どうして雪村は直前になって私が乗る『打鉄』に罠が仕掛けられていたことに気づいたのか、まるで謎であり、

おそらくは雪村が独自に発見した『PICカタパルト』で他の機体をフォーカス(=意識を向ける)してPICを共有できるように、

何気なくフォーカスしてみて雪村の勘の鋭さから直感的に通常の機体にはない何かを感じ取って異常に気づいたのではないかと思う。

しかし、不幸にも私が乗る間際であったために余裕がなく、結果として人に誤解されるようなものに終わってしまったのであろう。

そういう意味では、雪村はとことん運が無かった…………

いや、今にして思えば――――――、


――――――“朱華雪村”最大の不運というのが“ISを扱える男性”になってしまったそのことだろう。



336  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:02:10.28 ID:JZmH5Y3h0

――――――某所


千冬「――――――そうか。報告ご苦労だった」

千冬「試合は延長させてもらうぞ。これは徹底的に調べあげる必要があるな」

精鋭部隊A「わかりました」

千冬「山田先生」

山田「はい」

千冬「私は来賓の警護で動けない――――――となれば、だ」

山田「はい」

千冬「どうする?」


山田「明日の予備日に試合を延期して、今日中に内部粛清を完了させるほかないと思います」


千冬「うん。私もそう思う。現場の最高責任者としてそう報告させてもらおうか」

山田「わかりました」ピピッ

千冬「やつら、もはや手段を選ばないつもりか……」


千鶴「お困りのようね?」


千冬「……千鶴か」

千冬「ああ、面倒なことになった」

千冬「何が狙いかはわからんが、このまま黙ってみているわけにもいかん」

千鶴「そうね。“アヤカ”を排除したいのは確実なんだけれど、その手段や狙いがわからない以上は後手に回るしかないわね」

千冬「その上で、今日駆けつけてきたIS業界のお偉方の面倒を見なくてはならん。それも3つのアリーナのな」

千鶴「そうそう。3年にはスカウト、2年は途中経過、1年は成長株の見定めでそれぞれ忙しいものね」

千冬「“ヴァルキリー”クラスの警備員が何人居ても足りんよ、こんなのは」

千鶴「だからこそ、生徒の中から有志を募って精鋭部隊を組織して警備しているわけよね」

千冬「ああ そうだとも。そのほうが実社会では役に立つだろうからな」

千冬「今日もよく働いてくれたよ」

千鶴「そうね。今日は忙しくなりそうだから、もっと頑張ってもらわないと」

千冬「ああ」



337  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:02:52.71 ID:3zEhG37Z0

――――――第4アリーナ観客席


ザワ・・・ザワ・・・

セシリア「いったいどうしたというのでしょうか?」

谷本「始まらないわね……」

相川「ねー」

鷹月「……何かあったのかな?」
――――――

ラウラ「…………」

――――――
鈴「何やってんのよ、“アヤカ”のやつ! ラウラのやつが待ちぼうけ食らってるじゃない!」

鈴「あんたは私の代わりにあの生意気なドイツの代表候補生をギッタンギッタンにするのよ! このまま不戦敗になるわけ!?」フン!

簪「…………どうしたんだろう?」

実況「――――――大会運営本部、聞こえますか? 応答してください」ピピッ


ザワ・・・ザワ・・・


一方、開始時刻から10分経っても片方しか相手が出揃わず、第1試合が始まらないことで当然ながら静かに待っていた観衆たちがどよめいた。

普通ならばこの時点で、場に現れていない篠ノ之 箒・“アヤカ”ペアの不戦敗が宣告されるべきところなのだろうが、

学園側としてはそれは興行的にまずいと考えて不戦敗を認めず、それでいつまで経っても始まらないのかと邪推する者も出始めていた。

だが、それは来賓席に詰めているお偉いさんや各ピットの管制室で様子を見守っている教員たちも同様であった。

そして、何がどうなっているのかを訊くために大会運営本部に連絡を入れる者も現れていたが、どれも連絡がつかないのである。

他のアリーナでは、――――――2年生・3年生の試合はすでに始まっているらしく、それを知る者を起点に更に動揺が拡がっていた。


それから、本来の試合開始時刻から30分が過ぎ、同じ頃には準決勝2試合目も他では終わりを迎えようとしていた頃、ようやく事態は動き始めた。


338  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:04:11.55 ID:JZmH5Y3h0


ラウラ「…………」ピィピィピィ

ラウラ「…………ようやくか」ピクッ

夜竹「やっとか……」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!


箒「………………」シュタ

箒「よし。背中を貸すのはお前ぐらいなんだからな」

雪村「はい」

夜竹「おお! “アヤカ”くんが篠ノ之さんに背負われて出てきた!」

ラウラ「む………………他にも来るな」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!


シャル「…………よいしょっと」シュタ

岸原「おっとっと……」ヨロッ

夜竹「あれ? デュノアくんにリコリン? それに――――――」

四十院「さて」シュタ

国津「よいしょっと」シュタ

ラウラ「決勝トーナメントのメンバーが勢揃いということか」

箒「どういうことだ? 私の機体の交換のために待っていたのではなかったのか?」

夜竹「え」

ラウラ「やるのならば、さっさとやればいいものを……(何だ? 何かがおかしい……!)」

雪村「………………」キョロキョロ

ラウラ「どうした、“アヤカ”? 何か感じるものがあったのか?」

ラウラ「それとも、このまま乱戦と洒落込むか? そのほうがおもしろくていいがな」ニヤリ

夜竹「え」ビクッ


――――――
1「さあ、楽しいショーの始まりよ」ピッ
――――――


・・・・・・・・・・・・ドッゴーン!


雪村「――――――!」ゾクッ

雪村「!」クルッ

一同「?」

シャル「どうしたの、“アヤカ”くん?」

箒「どうしたというのだ? まさかまた――――――」

雪村「あっちの方――――――、何かが起こった」

ラウラ「『あっち』――――――?」クルッ


――――――第3アリーナの方角


339  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:05:24.14 ID:3zEhG37Z0

ラウラ「――――――大会運営本部、応答願う」ピッ

ラウラ「………………」

ラウラ「…………またか。何をやっているのだ? かれこれまた時間が過ぎ去っていくぞ」

夜竹「いつまでこうしていればいいのかしら……」

岸原「さ、さあ? とりあえず出るように言われただけで……」

シャル「うん。特に何かしろとは言われなくて――――――」

ラウラ「…………なんだと?」

箒「!」

箒「まさか――――――!」

雪村「…………しまった!」

夜竹「え」


――――――
1「さあ、始まりよ!」ピッ
――――――


夜竹「あ、あれ…………」ERROR

ラウラ「どうした?」

夜竹「な、何だかデータが書き換えられ――――――」ERROR ERROR 

夜竹「きゃあああああああああああああああああああああああああ!」ERROR ERROR ERROR ERROR

ラウラ「なっ!?」

岸原「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!」ERROR ERROR ERROR

四十院「い、いったい何が!?」ERROR ERROR ERROR

国津「う、うぅううううううう…………!」ERROR ERROR ERROR

シャル「うわああああああああああああああああ!」ERROR  ERROR ERROR

雪村「シャルル!? 夜竹さん! みんな!」

箒「早く機体から降りるんだ!(たぶん無理だと思うがこれは言わなくてはならない――――――!)」

ラウラ「な、何が起きていると言うのだ……!?(機体がパイロットを呑み込んでいく――――――!?)」

夜竹「た、助けて…………」ERROR ERROR ERROR

箒「く、くっそおおおおおおおおおお!(私だけが助けられたというのかああああああああ!)」

雪村「そうか。そのための罠だったのか……」

ラウラ「本部! 本部! なぜ応答しない!」

ラウラ「これは――――――!」ピィピィピィ


千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」


340  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:06:21.71 ID:JZmH5Y3h0

ラウラ「な、なにぃ!?」

箒「な、何だ、これは……? みんな同じに姿に――――――」

雪村「………………」アセタラー

ラウラ「これは『暮桜』!? 織斑教官が5人も!?」

箒「あれ全部が千冬さん――――――いや、コピーだって言うのか!?」

ラウラ「……これは『ヴァルキリートレースシステム』か!」

箒「――――――『ヴァルキリートレースシステム』?」

ラウラ「ハッ」

ラウラ「わ、私は何を……(何だ? 私はこれが何なのかを理解している? どういうことだ?)」

雪村「…………巻き込んだ、また」


――――――
1「そして、追加よ」ニヤリ
――――――


ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!

箒「あ、精鋭部隊……」

精鋭部隊A「な、何だこれは!?」

箒「こっちが聞きたいぐらいですよ!」

精鋭部隊C「機体を届けてやってようやく試合が始まると思いきや――――――」

雪村「あ…………!」ビクッ

ラウラ「なぜ本部は応答しない! それに、織斑教官はどちらに!」

精鋭部隊B「本部が応答しない理由はわからないわ!」

精鋭部隊B「けど第3アリーナでテロが起きて、織斑先生が向かわれたのよ。外は大騒ぎよ」

ラウラ「なんだと……」

ラウラ「ハッ」チラッ


雪村「ダメだ! あなたたちも早く降りてください!」


精鋭部隊A「え」

精鋭部隊A「ハッ」ERROR ERROR ERROR ERROR

精鋭部隊A「きゃあああああああああああああああああああああああああ!」ERROR ERROR ERROR

精鋭部隊B「な、何よ、これぇえええ!」ERROR ERROR ERROR

精鋭部隊C「ふおおおおおおおおおおおおおおお!」ERROR ERROR ERROR

箒「そ、そんな…………(まさか、この大会に使われる訓練機全てに――――――!)」ゾクッ


千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」


341  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:07:25.10 ID:JZmH5Y3h0

ラウラ「これで、8体か……(マズイな。このまま放置しておく訳にはいかない!)」

ラウラ「(VTシステムの危険性は、コピー対象の動きを完璧にトレースすることによって、搭乗者が生体CPU――――――部品として扱われることだ)」

ラウラ「(そして、搭乗者に「最適化」した安全装置も合わなくなり、しかも制御不能となって暴走状態に陥ってしまうのだ)」

ラウラ「ハッ」
         ・・・・・・・・・・・・
ラウラ「(だから、なぜ私はそれを知っている? 確か、アラスカ条約でも極秘事項に含まれるはずのそれを――――――)」


ガコーーーーーーーン!


箒「見ろ! 観客席や来賓席に障壁が――――――!」

雪村「…………搬入路も塞がれた!」

ラウラ「まさか、この状況は――――――!」アセタラー

ラウラ「一旦 距離をとれ!」

――――――
1「そう。これで心置きなく皆殺しにできる」

1「さて、このVTシステム機の特性はよっく把握しているわ」

1「だから、私が囮になって守ってもらわないとね?」コツコツ・・・・・・
――――――


状況は混沌へと突き進んでいった。

今日まで順調に進んでいたIS学園名物:学年別トーナメントはタッグマッチに内容を変えて5日目を迎え、いよいよ準決勝が始まるところまで行こうとしていた。

しかし、こと1年の部が開かれている第4アリーナでは30分経つまで何の予告も連絡もなく、みなが待ちぼうけを食らう結果になった。

そして、ようやく試合に出場する選手が出揃ったと思ったら、今度は決勝トーナメントに出る選手が勢揃いすることになり、

競技場の中の選手も、来賓席から見下ろしてる来賓も、ずっと見守り続けてきた観客も大いに混乱することになった。

だが、何か出し物でも始まるのかと周囲がようやく何でもいいから始まることを期待した矢先――――――、

アリーナに現れた8機のISのうち5機が激しいスパークと共にドロドロに溶けていき、別の何かへとメタモルフォーゼしていくのである!

それにはこのアリーナに居た誰もが驚くものの、30分間の静寂を打ち破る何かを期待してただただ見ているだけだった。

――――――否、もちろん異常が通報され、そこに精鋭部隊も駆けつけるのだが、その精鋭部隊3人全員が同じようにメタモルフォーゼしてしまうのである。

もはや、事態は収拾のつかないところまで行ってしまった。

極めつけは、いつの頃からか応答しなくなった大会運営本部であり、アリーナの遮断シールドレベルが4に設定され、

かつて4月のクラス対抗戦で起きたような無慈悲なセキュリティの牢獄に再び誰もが閉じ込められることになったのである。


そして、アリーナの中心に残されたのは3人と8体の“ブリュンヒルデ”織斑千冬の似姿――――――。




342  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:08:41.97 ID:JZmH5Y3h0


千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」

千冬?「――――――」


ラウラ「な、何もしてこないようだが、このまま放置しておくと人命に関わる……!」アセタラー

箒「まさか、学園の機体にこんなものが仕組まれていただなんて……(私は本当に雪村に守られていたのだな…………)」

ラウラ「そういう貴様はどうしてVTシステムに取り込まれなかったのだ?」

箒「それは……、雪村がそれを看破して修理が終えたばかりのこの機体に交換するようにしてくれたおかげなんだ」

ラウラ「なに?」


雪村「また僕のせいで…………」orz


ラウラ「……なるほど。もはや“アヤカ”が何をしても驚かない自分が恐ろしいよ」

箒「私はそうはいかなかったがな……(すまない。本当に雪村のやることには間違いがなかったのに…………)」

ラウラ「ん? ならなぜ、専用機のシャルルまで――――――」

箒「あ、確かに――――――(いや、なんとなくだけど『シャルルの機体に仕組まれていてもおかしくない』と思ってしまった……)」

ラウラ「――――――そうか。この襲撃を企てた連中の仲間だったというわけか」ギリッ

箒「あ……(ああ。きっとそうなのだろう。けど、そんなのはシャルルは望んでいなかったはずだ!)」


箒「みんな! 聞こえているのなら返事をしてくれ! みんな!」


千冬?「――――――」

箒「くっ」

ラウラ「無駄だ。VTシステムが発動したら最後――――――人間はISを動かすための部品となる」

箒「な、なんだと!?」

ラウラ「あれもISの1形態に過ぎない」

ラウラ「ならば、シールドエネルギーを空にすれば解除されるはずだが…………」

箒「し、しかし! あれ全部が千冬さんのコピーということは――――――!」

ラウラ「そうだ。ヴァルキリートレースシステムは『モンド・グロッソ』の部門優勝者である“ヴァルキリー”の動きを完全にコピーしている」

ラウラ「よって、目の前に8体もいるあれはまぎれもなく第1回『モンド・グロッソ』で総合優勝を果たされた織斑教官そのものだ」

箒「…………!」

343  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:09:50.11 ID:3zEhG37Z0

ラウラ「幸いにもこちらを攻撃してこないのは、おそらくは能力の再現だけで具体的にどうこうする命令を受けないと動けないのだろう」

箒「すると、ただの木偶人形ということなのか?」

ラウラ「いや、さすがに自動防衛システムぐらいはあるはずだ」

ラウラ「攻撃したが最後――――――“ブリュンヒルデ”の疾風怒濤の剛剣が一斉に襲いかかってくるはずだ」

ラウラ「この『シュヴァルツェア・レーゲン』の第3世代兵器『停止結界』を持ってすれば、“ブリュンヒルデ”相手でもなんとかなると信じたい……」

ラウラ「しかし、問題の相手が8体もいたら、『停止結界』や機体性能でどうこうできる問題ではない!」アセダラダラ

箒「た、確かに……」アセタラー

ラウラ「ここは撤退だ! 戦力を整えて撤退する他あるまい! 人命が関わっているとはいえ、この状況でできることなどない……」

箒「くっ……」


1「あら? そうはさせないわよ」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!

雪村「………………!」

ラウラ「――――――IS反応! しかも『未確認』だと!」ピィピィピィ

箒「まさか――――――!」ジロッ


1「そう、その『まさか』よ」


箒「貴様は!」

ラウラ「…………『ラファール』系列の機体か」

1「名乗る名はないわ」

1「だってあなたたち、ここで死ぬんだもん」ジャキ

箒「なにぃ!」

ラウラ「1つ訊かせてもらおう」

1「断る。あんたには貴重な機体と同志をやられた借りがあるんでね」

ラウラ「…………やはりか」

箒「ラウラ?」

ラウラ「箒、“アヤカ”。やつの相手は私が引き受ける。お前たちは撤退しろ」

箒「な、何を言うんだ!」

雪村「………………」スクッ

ラウラ「やつの狙いは私にもあるようだ。それならば――――――」

ラウラ「!」

箒「――――――って、雪村!?」


雪村「僕が死ねばみんなを助けてくれるのか?」

344  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:10:58.43 ID:JZmH5Y3h0

箒「何を言っているんだ! ラウラと言い、お前も!」

ラウラ「馬鹿なことを言うな、“アヤカ”! 私はお前の面倒を見ることを織斑教官に――――――」

1「はあ? 今更 何を言っているんだい?」

1「ここまでてこずらせてくれた礼に、みんなが敬愛してやまない“ブリュンヒルデ”の刃にかかって死ぬんだよ、みんなぁ!」

箒「げ、外道が……」

ラウラ「…………ターゲット・ロック(――――――先制攻撃を!)」ピピピピッ!

1「おっと。下手なことをするなよ、“ドイツの冷水”!」

1「私を怒らせたら、あんたが大好きで大好きでしかたがない織斑教官からたっぷりおしおきを受けることになるんだからよぉ?」

ラウラ「くっ……」

箒「で、何がしたい、結局!」

1「だから! 私をここまでコケにしてくれた連中に復讐して、IS学園の存在もろとも抹殺するってことだよ!」


雪村「言いたいことはそれだけか、臆病者め」ピカーン!


1「ああん?」ピクッ

箒「ゆ、雪村……?(さっきから普段の雪村から想像がつかないような強烈な言葉が次から次へと――――――)」

ラウラ「…………!」


雪村「殺れよ。殺せよ。自分一人では何もできないような口だけのやつに僕は殺せないぞ」(IS展開)


雪村「殺してくれるんだろう? だったら、早くしろよ、ノロマが」フフッ

1「……なんだと、こぞう」イラッ

1「だったら、望み通りに殺してやるよおおお!」

1「殺っちまいな!」

千冬?「――――――!」

箒「8体全部、一斉にこっちを向いたぞ!」

ラウラ「どちらにせよ、こうなるか――――――(織斑教官! ハジメ! たとえこの命がここで尽きようとも――――――!)」バッ

雪村「お前たち、…………『日は落ち、墓へ墜ちる』ぞ?」

箒「!」

ラウラ「?」

345  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:12:13.34 ID:JZmH5Y3h0

雪村「ボーデヴィッヒ教官。教官はあの『ラファール』を追い詰めることだけに集中してください」

ラウラ「……何をするつもりだ?」

雪村「そして――――――」

箒「わかった。例の作戦でいくんだな? お前を信じてるぞ」


――――――お前の『落日墜墓』で決めろ!


雪村「はい。援護をお願いします」

箒「まかせろ! お前の背中は私が守る!」ジャキ

雪村「それじゃ行きます、――――――先制攻撃!」ザシュ(太刀を大地に突き刺す!)

ラウラ「!」

雪村「はああああああ…………」ゴゴゴゴゴ

箒「す、凄い気迫だ……!(そういえば、相手に当たった時の効果は聞いたがそれがどういう手段なのかまでは――――――)」アセタラー

1「なに!?(何だ、あの構えは!? まだ私の知らない兵器が内蔵されているとでも言うのか!)」アセタラー

1「何だかわからないが喰らえ! 殺れ、操り人形たち!」

千冬?「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!

ラウラ「き、来たぞ……!(――――――速い! そして、物々しく迫る織斑教官のコピーたち!)」アセダラダラ

箒「雪村!(雪村を信じるんだ……! 今度こそ――――――)」ドクンドクン

雪村「はあああああああああああ――――――、」ゴゴゴゴゴ



雪村「デコピン」ピッピッ(VTシステム機に向けてデコピンをする! もちろん届かない!)



箒「は」

ラウラ「“アヤカ”?」

1「お、驚かせやがって! ここでコケオドシかい……!(ふざけやがって! そのままおっ死んじまいな!)」ドクンドクン

千冬?「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!



346  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:13:05.35 ID:3zEhG37Z0

3対9という素人が見ても圧倒的に不利な状況――――――、

しかも、代表候補生クラス3人と代表操縦者クラス8人(とテロリスト1人)という圧倒的な実力差があり、

まさに、“アヤカ”たちは絶体絶命の危機を迎えていた。

だが、“アヤカ”はいつになく大胆不敵な態度を以ってしてこれを単身で迎え撃つという常人には理解できない賭けに出た。

格闘戦の力量は確かに代表候補生を超えて代表操縦者に届くところがあるのかもしれない。

しかし、今回の相手はISの世界大会『モンド・グロッソ』の格闘部門と総合部門の覇者となった世界が認める“ブリュンヒルデ”が相手なのである。

何から何までその力量差は圧倒的なものであった。しかも、それが8体も襲いかかってくるという悪夢のような状況である。


だが、“アヤカ”は前回のセシリア戦同様に勝利を確信してさえいた。――――――この圧倒的に不利な戦力差でありながら!


太刀を大地に突き刺し、“かめはめ波”でも“北斗神拳究極奥義”でも放つかのように大仰に構えると同時に肌に刺さるような気を発散する!

ラウラは目の前に迫った危機的状況を打開する術が思いつかず、“アヤカ”の自信満々な様子を見てやむなく頼ってみたのだが、

やはり、“アヤカ”が何をするつもりなのか何も聞かされていないので、迫る8体の鬼神と“アヤカ”の気迫に押されて汗と震えが止まらなかった。

だが、ラウラとは違って篠ノ之 箒は“アヤカ”のことを今度こそ信じ抜く決意を固めて、すぐにでも逃げ出したい恐怖心を必死に抑えて毅然としていた。

そして、全てを“アヤカ”に委ねて結果を待つことだけを考えることにしたのであった。

周囲の誰もがこの状況を覆すだけのとんでもない何かの存在を想像しながら、固唾を呑んで見守ってしまっていたが、しかし――――――、


――――――放たれたのはデコピンだった。



347  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:13:53.03 ID:3zEhG37Z0


ラウラ「くっ……(――――――『停止結界』で少しでも多くのVTシステム機を捉える!)」ピィピィピィ

箒「………………雪村」チラッ

雪村「勝った」

箒「!」

ラウラ「!?」


千冬?「――――――!」ズコー


一同「?!」

雪村「………………フフッ」

1「なんだと!?」ビクッ

ラウラ「…………な、何が起きたというのだ!?」アセダラダラ

ラウラ「我々の目前に迫ってきた8体もの織斑教官のコピーが一斉にコケた?!(――――――『ISがコケた』だと!?)」

1「ど、どういうことなんだい!?(いくらコピーだからって素人じゃあるまいし、どうしてPICで浮いているISが急にコケるなんてことに…………)」

箒「こ、これが雪村の『落日墜墓』…………!」

雪村「さあ、行くぞ!」ジャキ

箒「あ」

ラウラ「ハッ」

雪村「おおおおおおおおおおおおお!」ダダダダダダ!

箒「わ、私も続く!」ヒュウウウウウウウン!

ラウラ「だが、これで活路が開けた!(――――――ここは“アヤカ”の言うとおりに、主犯格を墜とす!)」LOCK ON

1「ちぃ……!(嘘だろう? こんな馬鹿なことが…………何の魔法を使ったっていうんだい!)」ピィピィピィ LOCKED!




348  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:15:24.22 ID:3zEhG37Z0


雪村「はあああああああああああああ!」ブン!

箒「はああああああああああ!」ブン!

ズバーン! ズバーン! ズバーン! ズバーン!

千冬?「――――――!」ビターンビターン!

1「ば、馬鹿な! どうして起き上がれない! さっさと起きろよ!(まるで陸に上げられた魚のようにのたうち回っているぞ、おい?!)」

ラウラ「しぶとい!」ガコン、バーン!

1「ちぃ! ふざけんじゃないよ、この野郎! 今 死ね! すぐ死ね!」ヒュン!

1「死ねよやああああああああ!」バン! バン!

雪村「…………!(――――――直撃コース!)」ピィピィピィ


ラウラ「やらせない! この『シュヴァルツェア・レーゲン』がいる限り!(――――――『停止結界』!)」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!


ラウラ「フッ」

1「くっそ、『AIC』ぃいいいい!(実弾兵器は完全に防がれてしまう! これでどうやって勝てって言うんだい!)」プルプル

雪村「助かりました……」

ラウラ「お前の作戦通りだ。あいつは私が抑える。お前たちは早くVTシステム機のエネルギーを空にしてくれ!」

箒「わかっている!」ブン! ズバーン!

千冬?「――――――!」フワァ

箒「あ」

雪村「ふん!」ブン!

千冬?「――――――!?」ビターン!

箒「この! この!」ブン! ブン!

千冬?「――――――!」ビクンビクン!

ラウラ「まるで雉撃ちだな……(敵とはいえ、織斑教官の似姿がこうもあられもなくのたうち回って一方的に叩かれている様は――――――)」


現在、集団暴行が行われていた――――――集団が暴行されていた。

8体ものVTシステム機の“ブリュンヒルデ”のコピーたちは地上の蚤のようにのたうち回り、そこを容赦なく“アヤカ”と箒が叩きのめすのである。

それを妨害しようとするテロリストの『ラファール(亜種)』の攻撃は全て実弾攻撃なので、『シュヴァルツェア・レーゲン』の『AIC』で完全防御可能!

その隙に、再び飛び立とうとする蚤がいれば、そこを“アヤカ”が素早く叩き落として再び飛び立つ翼をもいでやるのである。

その光景はもはや地獄に行っても見ることができないような面白ショーと化していた。

第1回『モンド・グロッソ』総合優勝時の織斑千冬のデータをそっくり使ったVTシステム機は複製された通りの思考しかできないために、
   
まさかの『PICが機能しなくなる』という異常事態に対処できずに、ただひたすらにPICによる緊急離脱を試みようとして上半身が上向くのを繰り返すのだ。

その様は、まごうことなき“まな板の上の鯉”とも言えるものであり、飛べずにビターンビターンして足掻いている様が滑稽であった。

こいつらには人間が腹這いの状態から起き上がるように自分の身体を使って立ち上がろうという発想がないのだ。

そして、ズバーンという表現よりもペチペチと包丁でまな板の上の魚を叩いている感じでもあった。あるいはもぐらたたきのようでも――――――。



349  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:16:06.54 ID:JZmH5Y3h0

これはいったいどういうことなのだろう? “アヤカ”と『知覧』の単一仕様能力『落日墜墓』とはいったい――――――?

さて、その正体を探る上で重要な場面がすでに載せられているので、そこを振り返ってみるとその正体が掴めるはずである。

――――――
3年生A「気をつけろ! 何かする気だ!」

3年生C「はあ? 確かに私の方に向かってはいるけど、地上10mまで上がれば――――――」(地上10m)

3年生C「は」

箒「――――――雪村?」


雪村「やあ」(渾身の『打鉄』部分展開の右ストレート!)


3年生C「え」

箒「ぬぅ(――――――危なっ!)」クイッ

3年生C「ぬぁっ?!」ボガーン!

箒 「……雪村!」ギュッ
雪村「………………」ギュッ

3年生C「ふざけやがって――――――あ、あら? 落ちる? 落ちてる? この私がああああああああああああ?!」ヒューーーーーーーーーーーーーーーン!

雪村「………………」ヒューーーーーーーーーーーーーーーン!
箒 「雪村、私たちも落ちてる――――――!」
――――――
雪村「それじゃ行くよ、――――――先制攻撃!」ザシュ(太刀を大地に突き刺す!)

ラウラ「!」

雪村「はああああああ…………」ゴゴゴゴゴ

箒「す、凄い気迫だ……!」アセタラー

1「なに!?(何だ、あの構えは!? まさかまだ私の知らない兵器が内蔵されているとでも言うのか!)」アセタラー

1「何だかわからないが喰らえ! 殺れ、操り人形たち!」

千冬?「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!

ラウラ「き、来たぞ……!(――――――速い! そして、物々しく迫る織斑教官のコピーたち!)」アセダラダラ

箒「雪村!(雪村を信じるんだ……! 今度こそ――――――)」ドクンドクン

雪村「はあああああああああああ――――――、」ゴゴゴゴゴ



雪村「デコピン」ピッピッ(VTシステム機に向けてデコピンをする! もちろん届かない!)



箒「は」

ラウラ「“アヤカ”?」

1「お、驚かせやがって! ここでコケオドシかい……!(ふざけやがって! そのままおっ死んじまいな!)」ドクンドクン

千冬?「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!



千冬?「――――――!」ズコー


一同「?!」

雪村「………………フフッ」
――――――

350  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:17:21.60 ID:JZmH5Y3h0

ここまで読んでくださった熱心な読者ならば、いかに単一仕様能力『落日墜墓』がヤバイ能力なのかが理解できたであろう。

これこそが“アヤカ”が『使えば『シュヴァルツェア・レーゲン』にも勝てる』と大言できた理由であり、同時にこれまで封印してきた理由でもあった。


――――――『AIC/停止結界』はPICを発展させた武器である。


後は言わなくてもわかるはずである。また、衝撃砲『龍咆』もPICを利用した空間圧兵器なので――――――。

まさしく、朱華雪村“アヤカ”と“呪いの13号機”『知覧』の二人が歩み寄って生み出した究極の対IS用単一仕様能力の1つであり、

織斑一夏と『白式』の単一仕様能力『零落白夜』がバリアー無効化攻撃ならば、“アヤカ”と『知覧』の単一仕様能力『落日墜墓』は――――――!


『日は落ち、墓へ墜ちる』のはまさしくIS〈インフィニット・ストラトス〉のことだったのである。


そして、“アヤカ”の専用機として覚醒した黄金色の『打鉄/知覧』は、実は自力で「一般機化」のリミッターを解除したことによって、

外見こそは銀灰色から黄金色に変わっただけだが、内部では形態移行を果たしたことになっているらしく、それ故に単一仕様能力が発現したのである。


初期形態(未登場)→第1形態(訓練機)→第2形態(黄金色)


だが、『知覧』には秘密がまだまだあるらしく、現在も“アヤカ”の行動に関して不明なことがある…………

しかし、“アヤカ”と『知覧』の関係をこれまでの“アヤカ”自身の言動や奇行から推測すれば、自ずとわかるのではないかと思われる。

それでも忘れてはいけないのが、それ以外は普通の『打鉄』なので、1対1で全力で世界最新鋭の第3世代機と戦えばまず負けることであろう。

格闘戦だけならば代表候補生に匹敵するレベルなので『打鉄』の第2世代最高の防御力と安定性で粘れるだろうが、

射撃戦に移ってしまったら機動力が初心者の中でも下の下のレベルなので逃げることが叶わず、普通に蜂の巣にされてしまうのだ。

つまり、本質的に第3世代以降のISバトルにはとことん向かない機体であり、活躍するにはそれ相応のパートナーを宛てがう必要があるのだった。


だが、十分な援護が得られるのであれば、その時 ISキラーとしての本領を発揮する比類なき反逆の刃なのである!


351  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:18:34.91 ID:3zEhG37Z0

1「こんな、馬鹿な…………完璧だったはず。最強の戦力をこれほどにまで投じたというのに」BIND!

1「どうして負けてしまったのだあああああああ!」BIND!

ラウラ「黙れ」ボゴッ(――――――腹パン!)

1「ぐふぅ……!」BIND!

1「夢よ。そう、これはただの悪い夢――――――」BIND!

1「」ガクッ DOWN!

ラウラ「……貴様らの敗因はたった1つだ」


――――――“アヤカ”を本気にさせたことだ。


箒「はあ!」ブン!

千冬?「――――――!!!!」ガクッ

箒「機能を停止した! もう1回!」ブン!

スパーン!

箒「…………こうしないといけないのはわかっているが、あまり気分がいいものじゃないな」グググ・・・(薄くフルスキンを裂いて、腹をこじ開ける!)

箒「これは――――――」

夜竹「」

箒「夜竹さん! しっかりしろ! 今、出してやるからな!」

夜竹「うぅ………………」

ペチペチ! ガクッ

千冬?「」

雪村「これで終わり!」

箒「雪村! まずは夜竹さんを出すのを手伝ってくれ! なかなか出すのが難しいぞ、これぇ……」

雪村「わかりました!」


1「」

ラウラ「さて、私も救助活動に移るか――――――」ピィピィピィ

ラウラ「!」

ラウラ「“アヤカ”、後ろだ――――――!」

352  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:19:40.12 ID:JZmH5Y3h0

雪村「!」ピィピィピィ

千冬?「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!

雪村「あ……(これは、――――――間に合わない!?)」ビクッ

ズバーン!

雪村「ぐわああ!?(マズイ! ――――――エネルギーが! こんなにも早く!?)」

千冬?「――――――!」ブンブン!

雪村「ぐあっ!?」ズバーン!

千冬?「――――――!」ドン!

雪村「うわあああああああああああ!」ゴロンゴロン・・・(強制解除)


箒「雪村!?」

箒「馬鹿な! 全て沈黙したはず――――――」

ラウラ「もう1機――――――、もう1機、このアリーナに居たのか!」

箒「あ」ゾクッ


教員『や、やめて! ほ、ほんとに!』


箒「あれは、私が乗るはずだった機体なのか…………」アセダラダラ

ラウラ「“アヤカ”! 早く逃げるんだ!(どういうことだ!? あれは特別製なのか!? 真っ先に“アヤカ”を狙って――――――!)」

箒「雪村ああああああああ!」


雪村「ぐぅうううう…………」ズキズキ

雪村「!」ゾクッ

千冬?「――――――!」ブン!

雪村「うわっ!」ヒョイ

千冬?「――――――!」ブンブン!

雪村「うわああああああ!」タッタッタッタッタ!

千冬?「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!


353  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:21:24.84 ID:JZmH5Y3h0

箒「雪村!?」

箒「馬鹿な! 全て沈黙したはず――――――」

ラウラ「もう1機――――――、もう1機、このアリーナに居たのか!」

箒「あ」ゾクッ


教員『や、やめて! ほ、ほんとに!』


箒「あれは、私が乗るはずだった機体なのか…………」アセダラダラ

ラウラ「“アヤカ”! 早く逃げるんだ!(どういうことだ!? あれは特別製なのか!? 真っ先に“アヤカ”を狙って――――――!)」

箒「雪村ああああああああ!」


雪村「ぐぅうううう…………」ズキズキ

雪村「!」ゾクッ

千冬?「――――――!」ブン!

雪村「うわっ!」ヒョイ

千冬?「――――――!」ブンブン!

雪村「うわああああああ!」タッタッタッタッタ!

千冬?「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!


戦いは実質的に“アヤカ”と『知覧』の単一仕様能力『落日墜墓』によって制されたと言ってもいい。

“ブリュンヒルデ”を8体生み出して襲いかかったテロリストではあったものの、第3世代兵器を超越する単一仕様能力の前に敗北したのである。

そして、8体の“ブリュンヒルデ”と1人のテロリストを無力化して、ようやくVTシステムに取り込まれた1組や精鋭部隊のみんなの救助に入った時、


――――――生き残っていた悪魔が一直線に“アヤカ”を背後から襲ってきたのである!


さすがは“ブリュンヒルデ”であり、一瞬の隙で剣豪である“アヤカ”を振り向かせることなく、一方的に叩き斬ってしまったのである。

ISの剛体化に守られて細切れにされることはなかったものの、世界最強の斬撃を立て続けに食らってしまい、一瞬でISを強制解除させられてしまった。

よく背後から薙ぎ払われて大地に伏してしまう“アヤカ”であったが、今度は勢いよくスッテンコロリンと転がっていった。

そして、このVTシステム機は他とは何かが違うらしく、自動防衛システムより優先される何らかの命令に従って無防備の“アヤカ”に執拗に迫った!

容赦なく頭を潰そうと振り下ろされた剛剣を間一髪で躱して、堪らず“アヤカ”は一目散に駈け出していった。

その後をどこまでもどこまでも最後の“ブリュンヒルデ”は追いかけまわして、IS用の太刀を肉切り包丁のようにして“アヤカ”に襲いかかるのだ!

354  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:22:00.68 ID:3zEhG37Z0


――――――“アヤカの教官役”であるラウラはすぐに行動を開始していた。


しかし、『シュヴァルツェア・レーゲン』は空中戦は苦手であり、機動力も『打鉄』よりは高いが突出しているとは言えないものであった。

日本最初の世代機である『G1』こと『暮桜』の機動力は旧式ながら今も圧倒的であり、しかもレールカノンで狙い撃っても簡単に避けられるのである。

生身の“アヤカ”を救うべく、あの忌まわしい複製品を始末するために必死にヘイトを集めて最後のVTシステム機の注意を引こうとするが、

やはり何か特殊な措置が施されているらしく、偽の“ブリュンヒルデ”は容赦なく“アヤカ”を肉塊にするべく剣を振り続けていた。


――――――“アヤカの母親役”である箒はラウラに制されて人命救助に専念する他なかった。


悔しいことだが、『打鉄』には遠距離攻撃できる武装もないために援護ができず、機動力も劣るので助けに行くことすらできなかった。

今できることといえば、“アヤカ”と一緒に沈黙させてきた忌まわしい“ブリュンヒルデ”の皮を被った化け物の体内からみんなを救い出すこと――――――!

本当は一目散に“アヤカ”をこの手で守りたいという欲求に駆られながらも、必死に抑えて帝王切開して巻き込まれた人たちを救い出すのであった。

脇目で“アヤカ”の安否をつい確認して動揺してしまうのだが、ある時から一心不乱に太刀を振り下ろし、腹を引き裂いて中身を取り出す作業に没頭し始めた。


355  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:22:51.28 ID:3zEhG37Z0


――――――壁際!


雪村「うっ……(――――――搬入路の隔壁か)」

千冬?「――――――!」ジャキ

雪村「………………先生が乗ってるわけですか。そりゃあしつこいわけだ」

雪村「ここまでかな」フフッ


ラウラ「諦めるな、“アヤカ”ああああああああああああ!」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!


千冬?「――――――!」

雪村「(よく頑張れたんじゃないかな? こんな僕でも人は十分に救えたんだ――――――マッチポンプだけど)」

雪村「フッ」

千冬?「――――――!」ブン!


箒「くっ…………」ズリズリ・・・

精鋭部隊A「」

箒「…………雪村? ――――――雪村!?」


そして、“アヤカ”のささやかな死への抵抗として始まった競争もすぐに終わりを迎えた。

生身の人間とISとでは何もかもが違い過ぎて、逃げようにも相当入り組んだ場所に誘い込むことがなければ、振り切ることは不可能であった。

ましてやここはだだっ広いアリーナであり、遮蔽物など何もなく、まさしく狩場として打ってつけの場所でもあった。

唯一の可能性として、地上の搬入路に逃げ込めればさすがに大振りの得物は触れないと賭けに出たのだが、“アヤカ”の当ては外れたようだった。

“アヤカ”は壁際に追い詰められた鼠のようになり、目の前で圧倒的威圧感を放つ狩人にこのまま狩られようとしていた。


ああ……、これまで“アヤカ”を勝利に導き続けてくれた壁際で最期を迎えようとしていた。


それは、壁に囲まれた中でしか生きられない翼を持たない地上の生物としての宿命なのやもしれない。

人はそれ故に壁の遥か上を自在に飛んでいける鳥に憧れ、空への憧れを抱き続けてきた。

そして、その願いは空戦用パワードスーツ:IS〈インフィニット・ストラトス〉として形となり、

今まさに翼を得た新たな人類は捕食者となって、翼を持たない古き人間を駆逐しようとしていた。


――――――その時、不思議なことが起こった。


ガキーン!


箒「何が起きた?! 無事なんだろうな、雪村!?」

356  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:23:38.46 ID:JZmH5Y3h0


――――――脇を開けろ!


雪村「!?」ドクンドクン

千冬?「――――――!?」

ガキーン!

雪村「あ……」


――――――伏せろ!


雪村「!」

ザシュザシュ!

雪村「うわっとと!(――――――何だ!? 後ろの隔壁から光の何かが!?)」

千冬?「――――――!」ビクッ


その時、雪村に声が響き渡った。

その直後に、なんと背後の隔壁を貫いた聖なる光の剣が振り下ろされた人殺しの剣を受け止めていたのである。

それは雪村の脇をかすめて目の前で剣を振り下ろそうとしていた“ブリュンヒルデ”の剛剣を受け止めており、

雪村としては目の前に圧倒的な威圧感を放って迫る剛剣と息つく間もなく背後から脇を通って突き出された光の剣が急に現れたのだから、

その2つが激突しあって一命を取り留めたことよりも、前後より刃物で迫られた恐怖のほうが遥かに強く、生きた心地がしなかった。

そして、“ブリュンヒルデ”が怯んでいる隙に光の剣は隔壁の中へと引っ込んで一瞬のうちに再び声が響き、咄嗟に雪村は言われるがままに屈んでいた。

すると、隔壁をガンガン突き飛ばす勢いで光の剣が何度も前後したのである。伏せていなかったら容赦なく雪村の胴体にいくつもの穴が開いていた。

そして、その地獄突きに圧されて“ブリュンヒルデ”は攻めあぐね、ついには人間の頭ぐらいの隔壁の破片が飛び散った――――――。

357  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:24:39.19 ID:3zEhG37Z0

ラウラ「“アヤカ”! ああ よくぞ、無事で――――――」

ラウラ「む、何だ? あの光は――――――」

バン! バン!

ラウラ「――――――後方より銃声!?」

ラウラ「!」


千冬?「――――――!」ドゴン! ドゴン!

雪村「!」

雪村「え、援護射撃? ――――――誰?(――――――ピットの方からの狙撃だ!)」

――――――

千鶴「間に合ってよかったわ」ジャキ(IS用対IS用ライフルを匍匐射撃!)

千鶴「まさか、VTシステムがこんなにも用意されていたなんてね…………驚きを通り越して呆れたわ」

千鶴「さ、後は“アヤカ”くん次第というわけね」ヒュー

――――――

――――――――――――――――――
――――――受け取れ、“アヤカ”!
――――――――――――――――――

コトン!

雪村「!」(その声が聞こえたと同時に、隔壁から薄青色の淡い光を放つ剣が落とされた)

雪村「その声――――――!(――――――光の剣! 夢の中で何度も見た無双の剣だ!)」

千冬?「――――――!」ブン!

雪村「――――――っと!」ドン!(咄嗟に飛び込んで攻撃を躱すと同時に光の剣を手に取り、そのままの勢いで力強く立ち上がる!)

雪村「これでぇええ!」ジャキ

千冬?「――――――!」ビクッ

雪村「終わりだああああああああああ!」ブン!


ズバーン!


ラウラ「!」

箒「!」

――――――

千鶴「…………!」

――――――

――――――――――――――――――――――――
――――――フッ、『壁際』の“アヤカ”が負けるかよ。
――――――――――――――――――――――――


358  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:25:15.26 ID:JZmH5Y3h0

そう、勝負は決した。

最初に雪村が搬入路の閉ざされた隔壁にまで追い込まれていたところを、突如としてその隔壁を貫いた光の剣によって一難を逃れ、

更には弾幕射撃のように隔壁を穴だらけにした地獄突きによって容易に攻めこめないところを、背後より超精密射撃で狙い撃つ――――――、

そして、目の前に存在する“ブリュンヒルデ”という邪教の偶像を打ち壊すために、天は雪村に光の剣を渡すのであった。

それは台座に収まっている伝説の剣を引き抜くように荘厳なものではなく、隔壁より開けた穴より投げ入れられたものであったが、

殺人鬼と化した“ブリュンヒルデ”の非道なる一撃を間一髪で飛び込んで躱したと同時に光の剣を手にした雪村はいよいよ天機を得た。

勢いのままに力強く立った雪村に対して、“ブリュンヒルデ”は勢い余って壁際に追い詰められて振り返るまでの大変大きな隙を晒していた。

いや、『壁にぶつからないようにする』というアリーナを自在に飛び回るISバトルでは普通考慮しない事態に直面して判断が遅れて動きが鈍ったのだ。

そこを見逃す雪村ではなく、実力は“ブリュンヒルデ”に劣ってはいるが確かな実力を擁する“彼”からすればそれで勝利は確定していた。

再び地上にそびえ立つ壁は雪村の味方をし、その絶好の機会を仕損じるわけもなく、雪村の全身全霊の一撃必殺の一振りが炸裂した。

皮肉にもそれは“ブリュンヒルデ”『暮桜』の単一仕様能力『零落白夜』と同質の一太刀であり、偽りの存在はそれによって成敗されたのである。

359  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:26:10.19 ID:JZmH5Y3h0


雪村「………………」

千冬?「――――――!」

千冬?「…………!」

千冬?「……!」

千冬?「」バタン!

雪村「………………」ジャキ

雪村「…………フゥ」

雪村「ハッ」

雪村「…………フッ!」ドドーン!(光の剣を天に掲げる!)


一同「!!」


ラウラ「よくやったぞ、“アヤカ”!」

箒「ゆ、雪村……、ば、馬鹿者…………、心配させやがって…………」ポタポタ・・・

精鋭部隊A「…………う、うぅん?」

――――――

千鶴「さすがね。さすがは――――――」

――――――


戦いは終わりを告げた。3+2対9+1の圧倒的に不利な戦いはこうして少数の側の勝利に終わったのである。

圧倒的に不利と思われた戦いではあったが、雪村と守護の陰の刃がもたらした単一仕様能力によって覆されて最終的な勝利をもたらしたのである。

元々 第3世代兵器というのは単一仕様能力以外のISが備えている特殊能力を一般化しようという試みから始められた兵器群のことである。

そのことを踏まえると実用性はさておき、単一仕様能力を扱えるISのほうが基本的に高い次元に存在していることは理解できるはずである。

だが、単一仕様能力だけで勝てるほど現実は甘くはない――――――同じように最新鋭の第3世代兵器があれば必ず勝てるわけでもない。

今回の勝利は、己が持てる叡智と力量と精根を搾り出した結果による執念の勝利であり、

それをやりきった雪村の表情には安堵の表情とこの事態を招いておきながらも不謹慎ながら晴れやかなものが一時的に満ちていた。


360  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:27:06.13 ID:3zEhG37Z0









雪村「………………」ヨロヨロ・・・

雪村「………………フゥ」ペタン! ――――――壁際!

――――――
「伝説の光の剣を振るった感想はどうだ?」フフッ
――――――

雪村「また、助けてくれましたね…………今度は現実世界で」ハアハア

――――――
「…………遅れて本当にすまなかった」
――――――

雪村「いえいえ、本当に感謝しています。――――――結果が全てですよ」アセビッショリ!

――――――
「そうか。それじゃ、俺は行くぜ。後処理が他にも残ってるんだ」
――――――

雪村「はい。また会いましょう」ニコッ

雪村「今度は、仮想空間で――――――」


――――――“ブレードランナー”。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――役目を終えた“ブレードランナー”はしめやかに鞘に戻るぜ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――