一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」2
361  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:27:41.28 ID:3zEhG37Z0

――――――その夜


ラウラ「…………結局、決勝トーナメントは無期限中止だ」

ラウラ「第3アリーナでも同じようにテロが起きた以上は、決勝トーナメント進出できた者全員に賞を与えてうやむやにするそうだ」

雪村「そうですか」

箒「……そうか」


ラウラ「残念だったな。優勝できなくなって」


箒「あ」

ラウラ「私が教官より与えられた任務は『“アヤカ”をベスト8に入れること』――――――故に、私だけ目標を達成したようだ」

ラウラ「すまなく思う」

雪村「………………」

ラウラ「お前は、その……、振り向かせたい相手のために――――――」

箒「…………いや、そんなことはもう気にしてない。ああ 気にしてない」

箒「特別病棟に運び込まれたみんなのことを思うと、私だけ助かったことが何よりの褒美みたいなものだし……」

箒「それに、雪村が無事でとりあえずホッとしているよ…………まったく、お前というやつは」フフッ

雪村「………………ホッ」

ラウラ「そうだな。どこまで信用していいのか困るぐらいだな。あんな隠し球を持っていたとは驚きだよ」フフッ

雪村「けど、これでシャルル・デュノアの正体は公然のものとなるね」

箒「あ」

ラウラ「しかたがないだろう。今回の一件にデュノア社が絡んでいるのは間違いないことだからな」

箒「え、ラウラ――――――?」

ラウラ「どうした? 私がシャルル・デュノアが性別詐称していることを知らないとでも思ったのか?」

ラウラ「そもそも学園側がその事実を伏せていたのだ。よくこんな茶番を興じることができたものだな」

ラウラ「まあ、おそらくはハニートラップを狙ってのことだったのだろうが、」

ラウラ「――――――こいつ相手にそんなものが通用するわけがなかったな」

雪村「………………?」

箒「た、確かにな……(――――――『ハニートラップ』ぅ!? 何を言い出すのだ、こいつは!)」ドキドキ

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363  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:28:58.28 ID:JZmH5Y3h0

――――――大会後の休日(予備日の2日間)


鈴「結局、何がどうなったって話よ?」

雪村「わかりません。クラス対抗戦の時と同じです」

鈴「あ、ああ…………そう(そう言われちゃ、私も口止めされてるからこれ以上は………………)」

雪村「ところでどうしたんですか、2組の…鈴さん? 僕なんかに相手をして。珍しい」

鈴「ああ……、あんたにはそこそこ期待してたのよね」

鈴「あのドイツの生意気な少佐殿を倒してくれることをね」

鈴「なぜだかわからないけれど、あのセシリアにも奇跡的に勝利したことなんだし、ラウラ相手にも何かしてくれるんじゃないかって」

鈴「――――――『楽しみにしてた』ってわけ」

雪村「そうなんですか」

鈴「あんた、最初に会った時と比べてずいぶんと変わったわね。少しはマシになったって感じ」

雪村「そうですか。ありがとうございます」

鈴「もしかして、あんた……、今までわざと手を抜いてきたとかないでしょうね?」ジー

雪村「いえ。必要に応じて全力は出してきたつもりですが」

鈴「いちいち引っかかる言い方するわねぇ……(なるほど。そういう意味では確かに嘘はついてないわねぇ……)」

鈴「けど、わかった」

雪村「何がです?」


鈴「あんたはこれから私のライバルってことよ。覚悟なさい」


雪村「???」

鈴「…………そこは察しなさいよ。締まらないわねぇ(――――――何か“あいつ”に似てるわね、ところどころというか)」

雪村「えと……」

鈴「 だ か ら !」

鈴「あんたも立派な専用機持ちだってことをこの私が認めてあげたって意味よ」

鈴「私は1年ぐらいで代表候補生になったっていうのに、あんたは2ヶ月だけで訓練機なんかでここまで強くなってぇ!」

鈴「私はあんたに将来的に追い抜かれないように意識してるってわけ。最新鋭の第3世代機に乗って旧式の訓練機上がりに負けちゃ立場がないでしょう」

鈴「今はPICコントロールが下の下で歩くことしかできなくても、セシリアに使った瞬間移動みたいなアレを自在に使いこなせるようになったら厄介だし」

鈴「たぶん、あんたが今年の入学生の中で一番の成長株だって周囲から注目されてるんじゃないの?」

鈴「私、絶対にあんたにだけは負けないから、見てなさいよ!」

鈴「ふん!」


スタスタ・・・・・・


雪村「…………何だったんだろう、あれ?」

雪村「けど、僕の評判が上がって周囲に迷惑が掛からなくなるのであれば――――――」

雪村「さ、特別病棟に行こうか」

364  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:30:46.18 ID:JZmH5Y3h0

――――――特別病棟


千鶴「あら、英雄さん。おはよう」

雪村「おはようございます。誰ですか?」

千鶴「あははは、さすがにまだ知らないわけか。――――――助けてやったのになぁ(まあ あの状況だとしかたないけど)」

雪村「――――――『助けてもらった』?」

雪村「いち――――――ハジメさんの仲間ですか」

千鶴「……うん、そういうことよ」

千鶴「一条千鶴よ。これからハジメと一緒にやっていく仲間だから覚えておいてね」

雪村「わかりました、千鶴さん」

千鶴「けど、まさかVTシステムがこれほどまでに仕掛けられていたなんてね……」

雪村「被害者総数:第4アリーナで9人、第3アリーナで4人ですか」

千鶴「そう。まさか13機も仕掛けられていただなんて、明らかな内部犯行よね」

千鶴「まあ、だいたいはこの一件で不穏分子は粛清されたのだけれど、これからの学園経営は大きく響くわね」

雪村「それを招いた僕はこれからどうなるんです?」

千鶴「どうもならないわ。これはあなたが訪れる以前からの問題であって、安心してこれまで通りに学生生活を送りなさい」

千鶴「日本を標的にしたアラスカ条約によってIS学園の運営は全て日本国の負担にはなってはいるんだけれども、」

千鶴「逆にそれが今回の場合は大きな味方になっていてね」

千鶴「もしIS学園を解体するようなことになれば、アラスカ条約に従ってあらゆるIS関連技術を公表しなければならない義務が適用されて――――――」

雪村「そうですね。IS学園所属として登録された機体に関する技術は3年間独占していていい権利があるわけですからね」

千鶴「それに、IS学園を接収したとしてもその運営費は馬鹿にならないわけだから、『白騎士事件』以降の混乱で大打撃を受けた各国に維持なんかできないわ」

千鶴「日本だけなのよ。得をしたのは」

千鶴「超大国同士の冷戦の最終的な勝者が日本であるように、世紀末の前後から我が国は名実共に世界一の国家になっているわけ」

千鶴「パックスジャポニカ――――――それを抑止する目的でアラスカ条約があるぐらいに日本は強いわ」

千鶴「むしろ、今回の一件で責められるべきなのはフランスのデュノア社であり、主犯格としてきっちり責任は押し付けてあるわ」

千鶴「それのせいなのかはわからないのだけれど、今朝方 デュノア社の工場が爆破されたというニュースが届いているわ」

雪村「そうなんですか」

千鶴「それで、VTシステムの被害に遭った娘はみんな意識を取り戻したわ」

千鶴「ただ、VTシステムによる後遺症が残っているかどうかの検査のためにまだまだここで療養してないといけないんだけどね」

雪村「それはよかったです」ホッ

365  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:31:49.41 ID:3zEhG37Z0

千鶴「ところでさ?」

雪村「?」


――――――昔のこと、思い出したい?


雪村「…………?」

雪村「どういう意味ですか?」

千鶴「そのままの意味よ。今のあなた――――――“朱華雪村”である以前の記憶を取り戻したいと思わない?」

雪村「ああ そんなことですか」


雪村「必要ありません」


千鶴「どうして? あなたの家族のことは気にならない?」
   ・・・・・・・・・・
雪村「僕には居ない設定です」

千鶴「…………そう。強いね」
                              イマ
雪村「諦めただけです。僕が欲しいのは過去でも未来でもなく、現在ですから」

雪村「それに、僕は現在の関係がとても気に入っている。だから、卒業するまで大事にしておきたい」

千鶴「そっか。現在こそが満ち足りているのなら野暮な提案だったわね。ごめんなさい」

雪村「いえいえ」

千鶴「“2年前に現れた世界で初めてISを扱えた男子”――――――本来『青松』に乗るべきだった類稀なる剣の才を持った少年」

千鶴「それがまさか、この土壇場になって才能を開花させるなんてね」


――――――周囲に花粉を撒き散らす松の木が2年の時を経てようやく実を結んだのね。

                                ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・
雪村「僕が“朱華雪村”である以前のことなんて忘れましたよ(へえ、『白式』って元々 僕専用の機体だったんだ……)」

雪村「というか、思い出そうとしても本当に何も憶えてないんです。何となくとしか本当に憶えてなくて」

千鶴「それは確かに過去も未来もないわね(自殺防止のために記憶を消されているわけなのよね。ただ生かされているだけ――――――)」
                                             ・・
366  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:32:34.84 ID:JZmH5Y3h0

雪村「そういえば、シャルル・デュノアはどうなるんです? デュノア社の刺客として送り込まれた彼女は」
   ・・
千鶴「彼女なら大丈夫よ。情状酌量の余地があるし、人権団体様に檄文を飛ばしたから手厚く保護されるわ」
                  ・・
千鶴「まあ、この学園に残るかどうかは彼女次第だけれど」

雪村「そうですか」

千鶴「やっぱり、――――――嫌いかしら?」

雪村「別に。嫌いなのは子供にそうさせている連中であって、『子供の罪は大人の罪であっても大人の罪は子供の罪じゃない』から」

千鶴「そうね。そうよね。優しいのね」

雪村「ただムカついたのは『僕と同じ存在を騙るのならばそれ相応の苦しみを味わい尽くしてもらわないと』と思いまして――――――」

雪村「やらされているとはいえ、無性に腹がたちましたね。あの程度で不幸を気取るとかふざけてるからつい、ね?」

千鶴「あららら、…………逆鱗に触れちゃったわけね。道理で大会前にシャルル・デュノアが不安定になっていたわけか」


雪村「その点で、“あの人”は本当に暖かった。僕の人生最大の幸運というのは“あの人”に会えたことだと思っています」


千鶴「よかったわね。私としても“その人”があなたの真の同胞であったことが何よりの救いだったわ」

千鶴「これからも精一杯生き延びて現在を楽しみ抜いてね?」

千鶴「じゃあね。呼び止めてごめんなさい」

雪村「ありがとうございました。さようなら」

千鶴「うん」

コツコツコツ・・・

雪村「……あ、そうか(あの時の射手が千鶴さんだったのかな? 一瞬しか見えなかったけれどあの状況で居たのはそれぐらいしか――――――)」

367  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:33:29.38 ID:JZmH5Y3h0

雪村「さて、そろそろ面会の時間かな? みんなのところに行かないとな。早めに来といてよかった」

箒「おお、雪村。ずいぶんと遅かったではないか」

雪村「ごめんなさい。人と話していました」

箒「そうか。ならしかたないな。早く行くぞ」

雪村「うん」

コツコツコツ・・・

本音「あ、きたきた~。“アヤヤ”とシノノン いっしょ~」

相川「やっぱりか。うん、“親子”一緒なのが一番だよね~」

箒「…………諦めたことだが、未だに慣れないな」

ラウラ「遅いぞ、お前たち」

セシリア「まあまあ、約束の時間には間に合っていますし、そう目くじらを立てずに」

谷本「そうだよ、ラウラ。それにここでは『静かに』」シー

ラウラ「む、すまない」

鷹月「それじゃ、そろそろ行くよ」

セシリア「それでは、みなさんのお見舞いに参りますわ」

箒「え、セシリア? その籠に入っているのは全部――――――」

セシリア「はい。祖国でもイチオシの高級フルーツですわ」

ラウラ「私も微力ながら祖国で評判の菓子を――――――」

相川「ひゃー、やっぱり代表候補生って凄いよねぇ」

谷本「だから、『静かに』!」シー

雪村「………………フフッ」

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー

雪村「あ」


黒服「――――――」グッ

千鶴「――――――」ニッコリ


雪村「……フフッ」

箒「雪村、行くぞ」

雪村「はい」


――――――僕は生きている。“普通”に現在を生きようとしている。


それがどれだけありふれていて、どれだけ尊いことなのかを噛み締めている今日このごろ――――――。

“特別”に憧れていた自分は遠い彼方、“普通”を求めて喘いできた自分も過去のものとなり、今、確かに僕は“幸福”の中に包まれていた。

この“幸福”な日々がいつまで続くのかはわからない。けど、過去の自分にも未来の自分にもなかったものを現実の僕は持つようになった。


――――――そう、僕は“僕”として足掻き続けることを決意したのだ。




368  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:34:10.87 ID:3zEhG37Z0

第7話B 大きく疑い、大きく信じ抜く魂
PURSUIT of the Truth

――――――話は遡り、


ヒュウウウウウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!


シャル「…………よいしょっと」シュタ

岸原「おっとっと……」ヨロッ

夜竹「あれ? デュノアくんにリコリン? それに――――――」

四十院「さて」シュタ

国津「よいしょっと」シュタ

ラウラ「決勝トーナメントのメンバーが勢揃いということか」

箒「どういうことだ? 私の機体の交換のために待っていたのではなかったのか?」

夜竹「え」

ラウラ「やるのならば、さっさとやればいいものを……(何だ? 何かがおかしい……!)」

雪村「………………」キョロキョロ

ラウラ「どうした、“アヤカ”? 何か感じるものがあったのか?」

ラウラ「それとも、このまま乱戦と洒落込むか? そのほうがおもしろくていいがな」

夜竹「え」ビクッ


――――――
1「さあ、楽しいショーの始まりよ」ピッ
――――――


・・・・・・・・・・・・ドッゴーン!


雪村「――――――!」ゾクッ

雪村「!」クルッ

一同「?」

シャル「どうしたの、“アヤカ”くん?」

箒「どうしたというのだ? まさかまた――――――」

雪村「あっちの方――――――、何かが起こった」

ラウラ「『あっち』――――――?」クルッ


――――――第3アリーナの方角



369  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:34:56.97 ID:3zEhG37Z0

――――――第3アリーナ


――――――
観衆「ワーーーーーーーーーーーー!」

実況「さあ、今年からツーマンセルに変更されての学年別トーナメントですが、いよいよ決勝戦となりました!」

実況「ツーマンセルに変更されようともこれまでの3年間で培ってきた友情の力で乗り越えて、学園最強の称号を手にするのはどちらなのか!」

実況「最後の晴れ舞台! 勝利の栄光を手にするのは果たして――――――」
――――――


ドッゴーン!


――――――
観衆「?!」

実況「な、何事!? 突然、アリーナで爆発が発生!?」

ザワ・・・ザワ・・・

実況「みなさん、落ち着いてください!」
――――――

2「さて、二正面作戦開始よ」

2「さあ、出てきなさい。千冬様に取り付く寄生虫!」

2「私が千冬様をお救いしますわ!(そして、第4アリーナで“アヤカ”を始末して――――――)」

――――――


370  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:35:44.09 ID:JZmH5Y3h0

――――――第4アリーナのどこか


弾「第3アリーナで謎の爆発――――――」

弾「どうするよ? これ、明らかに誘ってるんじゃないのか? 素人の俺でもわかるぜ」

弾「“アヤカ”がいる一番警備が厳重な第4アリーナから人を追い出して、その隙に兵力を投入するつもりなんだろう」(黒服)

友矩「これはどうするべきか――――――千鶴さんの指示を待つしかないですね」(黒服)

一夏「第3アリーナ――――――今、3年生の部の決勝戦が行われている頃だけど……」(黒服)

友矩「大会運営本部は何をやっているんだ?(内部粛清の影響で人員が足りなくなったのか? いや、そんな単純な理由ではないはずだ)」

一夏「今日 何か仕掛けてくるとは思ってはいたけど…………」

友矩「敵の狙いはどこにあると思います? 騒ぎを聞きつけてノコノコと第3アリーナに駆けつけようとする黒服が狙いでしょうかな?」

一夏「…………!」

弾「警備員を増員したのが仇になったか。応援要請無しに駆けつけるのはおかしいもんな」

弾「――――――ん? まるで“ブレードランナー”の正体を敵が知っているかのような言い方じゃないか」

友矩「内部粛清の結果 その可能性が浮上しました。最悪の状況を想定して行動しなければならないわけです」

弾「うぅ……、一夏が駆けつければすぐに事態は解決するっていうのに何だってこんな手間暇 掛かるんだよ」

友矩「『ISに対抗できるのはISだけ』――――――つまり、こちらにしても敵にしても前提として『ISを使うからISを使わざるを得ない』わけなのです」

友矩「ISを扱える“アヤカ”を始末するために戦車や戦闘機を用意してもいいでしょうけど、それをIS学園まで持ってくることは難しい――――――」

友矩「となれば、そんな環境の中で守られている“アヤカ”を始末するにはやっぱり刺客もISを使わざるを得ないんです」

友矩「つまりそれは、“アヤカ”を始末しようと送られてきたISテロリストを始末しようとしている“ブレードランナー”も同じことなのです」

弾「な、なるほどね。“殺し屋の殺し屋”のこっちとしても“殺し屋”として“殺し屋”と同じ条件を背負わされているわけね……」

友矩「特に、こちらとしては正体を知られてはならないという頭がオカシイ制約を課されているので余計に神経を使うんですよ」

友矩「そんなに知られるのが嫌なら、最初からこんな仕事をさせなければ良いものを…………」

一夏「結局 どうなんだ? 俺たちはこのまま待機でいいんだな?」

友矩「ええ。こういう時のために精鋭部隊が組織されてるんです。ただでさえ戦力が足りてないのですから自分たちのことは自分で守ってもらわないと」

一夏「それで何とかなればいいんだけど」

友矩「…………そうですね。精鋭部隊に鎮圧される程度の陽動じゃ意味がないことは敵としてもわかっているはずです」ピピッ!

371  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:36:54.90 ID:3zEhG37Z0

友矩「さて」ピッ

――――――
千冬「急いで駆けつけてくれ!」
――――――

友矩「!?」

友矩「何が起こりました!?」

一夏「え……」

――――――
千冬「私のVTシステムだ。並みの生徒では太刀打ち出来ない。しかも 4機確認された。応援を頼む」
――――――

友矩「なんですって?!」

弾「――――――『私のVTシステム』?」

一夏「友矩!」

友矩「くぅううう……(やられた! そうか、敵の狙いは最初からそこにあったのか!)」


友矩「(長い時間を掛けて訓練機にVTシステムを仕込んで学園のISの強奪も狙っていたのか…………)」

友矩「(それがたまたま、“世界で唯一ISを扱える男性”なんていうのが出てきたからついでにその始末に使う気で――――――)」

友矩「(となると、ほとんどの訓練機に仕掛けられていたのではないのか? どうなんだ、その辺は?)」

友矩「(だが、ならなぜVTシステムほどのものを“アヤカ”がいる第4アリーナで使わない?)」

友矩「(いや、どれくらいの数のVTシステムを用意していたのかは知らないけど、そこをハズすような間抜けが相手とも思いたくない)」

友矩「(――――――やはり、本命は“アヤカ”の始末だ、これは!)」

友矩「(そうだとも! 第3アリーナは大変な状況になっているけれど、第4アリーナだって試合がいつまで経っても始まらない異常事態だ)」

友矩「(それが数分前にどういうわけか、選手全員が場に出てきて、何もわからないまま立ち往生しているんだ)」
            ・・・・・・
友矩「(これって明らかにそういうことなんじゃないのか!?)」

友矩「(間違いない! これは陽動だ! どちらも避けて通れないような完璧な陽動だ――――――!)」

友矩「(けど、困難を超越することこそが“ブレードランナー”の役目だ!)」


372  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:37:55.31 ID:3zEhG37Z0

一夏「友矩……?」

友矩「“ブレードランナー”! 無理難題を押し付けられたみたいですよ」

一夏「!」

友矩「敵は間髪入れずにこの第4アリーナで何かをしてくる!」

友矩「それを承知で、第3アリーナまで行ってきて早急に鎮圧して戻ってこい――――――今回の戦いはそういうことです」

弾「時間との勝負ってことか、それは!?」

一夏「…………!」

一夏「なら、俺はすぐに行く!」

友矩「行って! 手遅れかもしれないけれど第4アリーナを封鎖してみます!(制約さえなければこんなことには――――――)」

友矩「使いたくはなかったけど、“ブレードランナー”の特権として学園のセキュリティを掌握させてもらいます!」

弾「お、俺は――――――」

友矩「弾さんはこの中継器を第3アリーナに持って行ってください! 僕はここからできるかぎりのことをしますから!」

弾「わかったぜ! 運び屋としての最善は尽くす!」ガシッ

弾「よし、待ってくれ、一夏よおおおおお!」

タッタッタッタッタ・・・

友矩「どこかに居るはずだ! このアリーナのどこかに“アヤカ”の喉笛を虎視眈々と狙う刺客が!」カタカタカタ・・・

友矩「そいつを閉じ込めてしまえば時間稼ぎにはなるはずだ!(――――――“ブレードランナー”に失敗は許されない!)」カタカタカタ・・・

友矩「普通のIS乗りじゃVTシステム機4体の相手するだけでも大変なんだから急げ!(まあ、それに打ち勝つのが当然だと思ってやらないと!)」カタカタカタ・・・

友矩「にしても、大会運営本部はどうなっているんだろう? まさか、すでにテロリストの手中に落ちているというのかな?」カタカタカタ・・・

友矩「いや、そもそも大会運営本部はどこにあるんだ? 大会直前に内部粛清が行われて再編成されたはずだけど――――――」カタカタカタ・・・




「ふふ~ん。何か楽しそうなことになってるよね~。これってもしかして楽しんじゃっていいってことなのかな~。あはははうふふふふ……」


373  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:38:38.29 ID:JZmH5Y3h0

――――――第3アリーナ


「キャアアアアアアアアアアア!」ガヤガヤ・・・

「ニゲロオオオオオオオ!」ガタガタ・・・

「ワアアアアアアアアアアアアア!」ドタバタ・・・


弾「派手にやってるじゃないか、テロリストめ!」

一夏「千冬様はどこ? もう突入してるんじゃなかったのか?」キョロキョロ

一夏「しかたがない。時間が押してるんだ。俺だけでもやらないとか!」タッタッタッタッタ・・・

――――――
千冬「ええい、しつこいぞ。私も暇じゃないんだ!」

教員「そんなこと言わずに何とかしてくださいよ! 現場責任者として各国のお偉方に何とか言い聞かせてください!」

千冬「どけ! 現場責任者だからこそ目の前に現れた脅威を取り除こうと必死になっているんだ! 私に構うな!」

教員「そんなこと言って、織斑先生は私に責任転嫁しようって気なんでしょう!」

千冬「このアリーナでもしものことがあった時にどうするのか決めるのがお前の役目だろうが。お前こそ責任転嫁するんじゃない!」

千冬「いいかげんに手を放せ! こんなことをしている暇があるんだったらお前も修理中の『打鉄』にでも乗って援護しろ!」

教員「そ、そんな! 私なんかが“ブリュンヒルデ”に敵うわけないじゃないですか!」

千冬「」カチン

千冬「当て身」ドスッ

教員「きゃっ」

教員「」バタン

千冬「くそ、手間取らせるな、馬鹿女が(内部粛清のツケが早くも出てきたか。自己保身しか考えられないこんなやつに――――――!)」

千冬「くっ、一夏よ……」
――――――

一夏「で、あれがVTシステムってやつか。ふざけやがって(あの動き――――――第1回『モンド・グロッソ』の千冬姉そのままじゃないか!)」

一夏「弾はここまでいい。これ以上は巻き込まれないように一緒に避難していてくれ(世の中にはこんなふざけたものまで存在するんだな!)」

弾「…………わかったぜ。中継器を運ぶのだけがお役目だったからな」

弾「急げよ!」

一夏「ああ(3年の精鋭部隊はよく粘っているけれど、4人の千冬姉相手じゃ圧倒されるのも当然か…………完全に逃げ腰じゃないか)」


タッタッタッタッタ・・・



374  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:40:16.23 ID:JZmH5Y3h0

一夏「さて――――――」キョロキョロ

一夏「確かこの辺だったか?(この辺で展開すれば正体がバレないはずだったな。周囲に人影なし!)」

一夏「来い、『白――――――っ!?」ビクッ

バキューン!

一夏「…………うぅ!?」ズキン!

2「こんにちは、死ね」バキューン!

一夏「くっ!(右腕をかすったか…………)」ササッ

一夏「…………待ち伏せされていた!(どうする――――――いや、考えるまでもないか。すぐに終わらせて――――――)」ズキンズキン


2「出てきなさい。さもなければこの親子がどうなってもいいの? 千冬様にたかる寄生虫!」ジャキ

幼女「た、助けてぇ…………」シクシク BIND!

母親「だ、誰か 助けてください!」ガタガタ BIND!


一夏「な、なにぃ!?(――――――人質だとぉ!? くっ、しかも一般人じゃなか! 招待券をもらった学園関係者か来賓の身内か?)」

一夏「くそっ、時間が押してるってのに!(いや、友矩が言うようにこれが敵の陽動作戦なんだからこれぐらいして時間稼ぎするのは当然か?)」

一夏「ちっ(けど、“アヤカ”だってただじゃやられないぞ。なんてったって単一仕様能力があるからな。俺と同じIS殺しの力が――――――)」ズキンズキン

――――――
友矩「“ブレードランナー”!」
――――――

一夏「どうすればいい、“オペレーター”……」アセタラー

――――――
友矩「『待ち伏せされていた』ということは完全に正体が割れている可能性が非常に高いです」

友矩「けれども、今回は相手が単細胞だから逆に何とかできる可能性があります」

友矩「――――――『千冬様』と口走りましたから」ニヤリ
――――――

一夏「!」

――――――
友矩「人質に関しては救出さえできれば『ニュートラライザー』で記憶を消しますので、思いっきり吐露してください」
――――――

一夏「え、マジで?」

――――――
友矩「はい。使えるものは何でも使いましょう」ニヤリ

友矩「きみがどれだけの想いを抱いているか――――――格の違いを見せるんですよ」

友矩「それが――――――」
――――――

一夏「――――――“人を活かす剣”ってやつだもんな!」ウズウズ!

一夏「よし!(お、痛みも引いてきたか。もうちょっと続いてくれれば迫真の演技になったろうけど、やるっきゃない!)」

375  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:41:20.75 ID:3zEhG37Z0

2「どうしたのかしら? 銃弾を受けて腰が抜けたのかしら?」

黒服「こっちへ来て確かめてみたらどうだ?」ゼエゼエ

2「いいえ、遠慮しとくわ。誰が薄汚い男のところへいくもんですか」

2「さあ、織斑一夏! 姿を現しなさい! 苦しまないように1発で楽にしてあげるわ」ジャキ

黒服「――――――『織斑一夏』だと? 人違いだ!」ゼエゼエ

2「しらばっくれるんじゃないよ! 千冬様の汚点! 出てこないのなら――――――」ジャキ

幼女「いや! いやああああ!」

2「うるさいぞ! このガキ!」

母親「や、やめてください! この娘だけは手を出さないでぇ!」

黒服「やめろ! その人たちは関係ない! 放してやれ! 目的は『織斑一夏』なんだろう!」ゼエゼエ

黒服「それに、脚がブルっちまってほんとに動けねえんだって!」ゼエゼエ

2「本当かどうかはすぐにわかるわ! 千冬様の栄光を汚した罪人には報いが必要だわ!」

黒服「わかった! 俺が『織斑一夏』だ。そういうことでいいんだろう!」ゼエゼエ

黒服「来いよ! 銃なんて捨ててかかってこい。腰が抜けた今ならお前でも勝てるぞ」ゼエゼエ

黒服「楽に殺しちゃつまらないだろう?」ゼエゼエ

黒服「ナイフとか突き立てて、千冬様の汚点である『織斑一夏』をこの手でメッタ刺しにして苦しみもがいて死んでいく様を見るのが望みだったんだろう!」
                                       ・・・・・・・
黒服「そうじゃないのか? そうじゃなかったらわざわざ赤の他人を人質に使うなんて不確実なやり方に打って出るはずがないだろう!」ゼエゼエ

黒服「俺は別にその二人が死んだってどうだっていいんだよ! どうせこの事件は闇に葬られんだから!」

母親「ええ!?」

2「………………!」

2「……まあいいわ。ここまでくれば人質なんて邪魔なだけよ」

2「それに、この狭い通路で有利なISを持っている私が剣しか使えないような欠陥機に負けるもんですか!」コツコツコツ・・・

母親「あ……」

幼女「お、お母さん……」

母親「良かった、良かった…………」

母親「さ、早く――――――!」

幼女「う、うん!」

タッタッタッタッタ・・・

黒服「…………ホッ」

――――――
友矩「単細胞で何より――――――おめでたい女ですな。人質は行ってくれたことだし、後はどうとでも」
――――――

黒服「まったくだ……(第2段階へ――――――ここからだ!)」イライラ

      ・・・・・
――――――俺の千冬姉に汚えものを向けるんじゃねえ!


376  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:43:23.57 ID:JZmH5Y3h0

2「そうよ。うふふふふふ!」ニタニタ

2「この手で、この手で千冬様をお救いできるのですわ!」

2「死になさい、死になさい! 待っていてください、ああ 千冬様ぁ……」トローン!


一夏「へえ、お前は千冬姉のことをそんなに愛してるんだな」


2「当然よ。千冬様は強く、美しく、全てを兼ね備えたお人よ!」

2「それをあなたが――――――!」

一夏「けど、お前のことなんて千冬姉は知らねえよ! お前の愛なんていうのは絶対に届かねえよ!」

一夏「そんなのは自己満足の[ピーー!]って言うんだよ! 人の姉を[ピーー!]の●●●にするんじゃねえよ!」ゴゴゴゴゴ

2「!?」ビクッ

2「ふ、ふざけないで! 私の千冬様への愛がそんな低俗なものなんかじゃないわ!」

一夏「だったら、お前は千冬姉をどこまで愛せるっていうんだ!」

2「私は! 千冬姉の汗や涙だって着ていた服や残り湯だって愛せます!」

一夏「はん! その程度かよ! 俺はすでに千冬姉の脱ぎたての服で[ピーー!]したり、残り湯だって毎日[ピーー!]いたぜ?」

2「ううん?!」

一夏「どうした? お前はしていない――――――俺はしているぞ? 格付けは終わったな?」

2「くっ、この下衆が――――――」

一夏「おいおい? お前がやろうとしていたことをやっていた俺を『下衆』って蔑むのなら、」

一夏「お前は嘘を言ったのか? ――――――千冬姉のことで!」ギロッ

一夏「千冬姉に恥ずかしくないと思わないのか! 俺を辱めるためだけに利用したっていうのか! お前にとっての千冬姉は利用するものなのか!?」

2「うっ…………!」

2「わ、私は! 千冬様の全てを愛しておりますわ! 千冬様のへそも脇も脚もお顔も耳もうなじも全部――――――!」

2「そう! 千冬様を誰よりも深く愛し、誰よりも優しく情熱的に気持ちよくしてさしあげることができますわ!」ドキドキ

2「千冬様に求められたら、私、お断りできませんわ……!」トローン!

一夏「お前、そんなこと言って、千冬姉の[ピーー!]がどこにあるのか知ってるのか?」

2「え」

377  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:45:24.11 ID:JZmH5Y3h0

一夏「千冬姉の[ピーー!]はあそこだぜ? 千冬姉は意外と[ピーー!]だからよ? そこをああしたり、こうしたりするとだな――――――」

2「う、嘘よ! 千冬様がそんな――――――」

一夏「お前、また嘘を言ったな! 『千冬姉の全てを愛している』と言っておきながら!」

2「…………うっ!」

2「違うのよ! これは嘘よ! 私を貶めるための口から出任せ! 千冬様がお前のような男に、男に――――――!」ブルブル

2「そ、そうよ! あなたは千冬様の汚点である“織斑一夏”! 千冬様の弟でありながら――――――」

2「え」ピッ

2「ちょっと待って? だって、あ、あなたは千冬様の実の弟で――――――?」

一夏「どうしたんだよ?」ニヤリ

――――――
友矩「…………トドメを」
――――――

一夏「ああ(――――――思い知れ!)」ボソッ


一夏「俺は千冬姉と結婚の約束をして恋人のキスだってしてるんだよ」


2「!!!!?!??」

一夏「だから、俺はそろそろ千冬姉と[ピーー!]しようって――――――」ピン!

2「ハッ」

2「ふ、ふふふふ……」 ――――――1!

2「と、とんだ食わせ者ね。そうか、あなたが“織斑一夏”のはずがありませんわね……」ニコニコー ――――――2!
         ・・・・・・・・・・・・・・・・・
2「そう。こいつは日本政府が用意した織斑一夏の影武者――――――」 ――――――3!

一夏「――――――!」ヒュッ!

2「そうじゃなければち、千冬様とその血を分けた実の弟が[ピーー!]するだなんて発想が――――――」 

コロンコロン・・・ ――――――4!

2「!?」

一夏「――――――!」シュッ


ピカァーン!


一夏「――――――!」ズドン! (掴みかかって腹に強烈な膝蹴り!)

2「かっはぁ…………」(口から赤色の液体が飛び散る)

2「き、貴様ぁ…………」モガモガ

2「」ガクッ

一夏「――――――4秒だ」ジロッ

――――――
友矩「残念。今のは4.1秒――――――遅れましたね」
――――――

378  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:46:56.86 ID:JZmH5Y3h0

一夏「馬鹿な女だな。人間、人を本気で愛するとなったら何だってできるってことを知らないんだ」

一夏「ようやくタクティカルベルトが活躍してくれたな……」

一夏「けど、ちょっと汚れちゃったな。臭い(――――――ずいぶんと中身をやっちゃったようだな)」クンクン

――――――
友矩「確実に再起不能にしてください」
――――――

一夏「ああ。発信機と小型爆弾付きの手錠もな」ガシャン

2「」BIND!

一夏「人を殺すこと以上に罪深いことはない。武器を持って人を脅してその生命を脅かしたその咎は決して安いものじゃないぞ?」

一夏「けど、安心してくれ。俺はどんなことがあっても命だけは助けてやるから」ジー

一夏「そう、命だけは」

一夏「――――――抜刀! ふんっ!」ブン!

ズバーン!

――――――
友矩「これが“ブレードランナー”です」
――――――



379  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:47:45.82 ID:3zEhG37Z0

――――――そして、


千冬?「――――――!」ブン!

精鋭部隊P「きゃああああああ!」(戦闘続行不能)

千冬?「――――――!」ブン!

精鋭部隊Q「うぅ…………!」(戦闘続行不能)

精鋭部隊R「先生方でも無理なの!?」(機体放棄)

千冬「どけ、お前たち」

精鋭部隊R「織斑先生!」

千冬「遅れてすまなかった。馬鹿女にお偉方の面倒を押し付けられそうになって手間取ってしまった!」

千冬「幸い、戦闘続行不能になった者を追撃するようなプログラムは組まれていないようだな」

精鋭部隊R「はい。敵に情けをかけられてしまいました…………」

千冬「いい。こんなものが現れるなんて誰が予想できた? 今は命があることを感謝しつつ別の方面で混乱を鎮めるのに尽力してくれ」

精鋭部隊R「わかりました!」ビシッ

タッタッタッタッタ・・・

一夏「千冬姉!」(謎の身長178cmの仮面美女ドライバー)

千冬「うおっ!?(――――――どういうことなのかはわかってはいるが、実の弟がしていると思うと気持ち悪い!)」

一夏「『先行する』って言ってったのどうしてまだ突入してないんだよ!」

千冬「……大人の事情だ」

千冬「そういうお前こそ、私が居なくてもすぐに鎮圧してくれると思っていたのだが」

一夏「テロリストの主犯格に待ち伏せされていた。人質を用意していた」

千冬「――――――何とかしたんだな?」

一夏「ああ。友矩の適切なオペレートで何とかISを使わせる前に無力化した。人質も逃すことができた」

千冬「フッ、ならいい」

千冬「さっさとこのくだらん騒ぎを鎮めるぞ」

一夏「ああ! どうやら本命の第4アリーナでも同じことが起きてるらしいから、急がないとな!」

千冬「なら、今こそ――――――、」


一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」


――――――人としての情けを断ちて、

――――――神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬り、

――――――然る後、初めて極意を得ん。


斯くの如くんば、行く手を阻む者、悪鬼羅刹の化身なりとも、豈に遅れを取る可けんや。


一夏「来い、『白式』!」

千冬「借り物だが、力を貸せ! ――――――『風待』!」


ヒュウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウン!


380  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:48:36.34 ID:JZmH5Y3h0

精鋭部隊P「う、うぅ…………」

精鋭部隊Q「攻撃してこないのはありがたいことだけど――――――ん?」

千冬?「――――――!」

千冬?「――――――!」

千冬?「――――――!」

千冬?「――――――!」

ヒュウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウン!

精鋭部隊P「あ、あれは――――――」ヨロッ

精鋭部隊Q「お、織斑先生!」ゼエゼエ

千冬「ご苦労だった。後は私とこいつに任せろ」シュタ

一夏「………………」シュタ(いつもの覆面姿――――――というか、ISスーツのモデルが変わっただけで普段通りの装備である)

精鋭部隊P「機体を交換なさったというわけですか……」

千冬「ああ。さすがに剣しか使えないのはどうかと思うのでな」

精鋭部隊Q「そちらの方は?」

千冬「試しに乗せてみた。ここで活躍してくれなければ用はない」

精鋭部隊Q「そ、そうですか。この場はおまかせします……」(機体放棄)

精鋭部隊P「どうか、あの娘たちを救ってください」(機体放棄)

一夏「…………まかせておけ」(重みのある女性の声)


こうして、『G2』と『G3』を駆った織斑姉弟が“ブリュンヒルデ”4体と対峙することになった。

この時、第4アリーナでは1年生3人で8体(本当は9体)もの“ブリュンヒルデ”と指揮官機であるテロリストと対峙しており、

あちらが圧倒的不利な戦いを強いられていたのと比較すると、読者にとってこの戦いの結果は容易に見えていることであろう。

たとえ2対4で相手が“ブリュンヒルデ”であろうと、織斑姉弟が負けるという可能性は万に一つ感じることはないだろう。

そうなのだ。なぜならば――――――、


381  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:49:20.59 ID:3zEhG37Z0

一夏「さて、俺が3体倒す。千冬姉はゆっくりしていてくれ」コキコキ

千冬「馬鹿を言うな。私が3体だ。もしくは4体だ」メラメラ

一夏「いくらあの偽物とは違う本物の雪片の複製品を持っているにしても、それを持っているのは『風待』であって昔のように一撃必殺ができないぜ?」

千冬「フッ、見ていろ! これが『風待』の単一仕様能力!(頼む、うまくいってくれ! 応えてくれ、私の――――――)」


――――――いや、違う! 大きく疑い、大きく信じ抜くこと!


千冬「それが――――――!」


――――――単一仕様能力『大疑大信』!


千冬「はああ!」ブン!

一夏「!」


――――――
……「――――――」ウゴゴゴ・・・
――――――


千冬「ふん」ドヤア (見覚えのある光の剣を発現させてご満悦のご様子)

一夏「まさか、これは――――――」

――――――
友矩「『風待』の後付装備で入れられた雪片壱型が――――――!」
――――――

一夏「これは、――――――かつての千冬姉の『零落白夜』!」

千冬「先に行かせてもらうぞ」ヒュウウウウウウウン!

一夏「ちょっ、そんなのありかよ!?」

一夏「って、俺だってやってやるさ!(――――――3年前とまったく変わらない千冬姉の偽物なんかに遅れはとらねえ!)」ヒュウウウウウウウン!


――――――血の宿命を打ち克ちて、

――――――姉に逢うては姉を斬り、自分に逢うては自分を斬り、

――――――然る後、初めて命を果たさん。


斯くの如くんば、行く手を阻む者、悪鬼羅刹の化身なりとも、豈に遅れを取る可けんや。


382  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:50:28.02 ID:JZmH5Y3h0


ズバーン! ズバーン! ズバーン! ズバーン!


千冬?「」ドサァ・・・

一夏「この程度か。俺たちがいつまでも3年前と同じだと思ったら大間違いだ」

一夏「こいつらには心がない! 進歩向上の精神がない! ISにすら心はあるというのに!」

一夏「努力もしない、訓練もしない、心がないから協力も工夫もない。“最強”というただそれだけの称号に溺れてそのまま使ったのが大間違いだ」

一夏「だから、VTシステムなんて3年前から俺と千冬姉の敵じゃないんだよ。――――――トワイライト号の時から何も変わっちゃいない!」

千冬「フッ、2対2か。腕を上げたな」

一夏「この場は頼みます!」タッタッタッッタッタ・・・(IS解除 → 黒服)

千冬「ああ!」


こうして、出せば全てが解決するジョーカー、あるいはデウス・エクス・マキナのごとく第3アリーナの事変は出て1分足らずで鎮圧された。

元々の実力からして織斑姉弟は“ブリュンヒルデ”と呼ばれていた頃の織斑千冬など過去の存在にしてきているのだ。

更には、VTシステムによって取り込まれてしまったパイロットを斬り捨てることなく卵の殻だけを破るように丁寧に出してあげる余裕すらあるのだ。

それでもVTシステムで創りだされた“ブリュンヒルデ”が徒党になって掛かってくれば厄介なことには違いなかったのだが、

一夏が指摘するようにVTシステムで創りだされた“ブリュンヒルデ”には心がなかった――――――協力や工夫などの発展性などあるはずがないのだ。


383  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:51:08.16 ID:3zEhG37Z0


――――――この“ブリュンヒルデ”は基本的にISバトルにおける競技規定に則って1人ずつ相手にしようと動くようにプログラムされている。


だが、織斑姉弟は複数まとめて叩き潰そうと立ち回るので、そうするとVTシステム機からすると1対2の戦いになってしまい、

あくまでも“ブリュンヒルデ”としてのVTシステムは1対1の戦い方しかできないためにどちらを攻撃するかの判断に時間を掛けてしまうのである。

普通なら、『こちらは4人いるので4対2で圧倒的に有利』と考えるはずである。読者も客観的に見てそう考えていたはずである。

しかし、VTシステム機は『特に命令がなければ自動防衛プログラムに従うだけ』という非常にシンプルな思考回路であり、

どういうことかと言えば、こういうことである。これが一夏の言う『心のない』動きというものである。


――――――VTシステム機が連携しているように見えるのは、ただ単に他のVTシステム機が襲ってこないから反撃しないだけ。


つまりは、そういうことなのである。まさしく『物の数ではない』のだ。

もっとわかりやすく言うと、VTシステム機は自分以外に味方はいない――――――そういう立ち回りをしているのである。

よって、4体いるようでも実質は具体的な命令が無ければ完全に木偶人形であり、攻撃する意思を見せなければそこに存在するだけなのである。

だから、慎重に1体ずつ捕捉していけば、1体ずつ誘い出して各個撃破も容易であり、ただでさえ『モンド・グロッソ』仕様なので拍車が掛かる。

しかし、VTシステムはアラスカ条約ですぐに禁止された技術であり、その存在に触れた人間は極わずかであることから普通はそれを知らないわけである。

むやみやたらに銃口や剣先を向けてしまうことによって、専守防衛に徹していたVTシステムに先制攻撃の口実を与えてしまったわけである。

だが、そういったVTシステムの性質さえ知っていれば“ブリュンヒルデ”の数など大した問題ではなかった。

ついでに言えば、テロリストの側もVTシステムの詳しい動作原理や思考回路を理解しておらず、

また、突入前に一夏が具体的な命令を下せるテロリストを再起不能にしていたので、地上最強の織斑姉弟からすればあんなのは“ただのカカシ”である。

後は、それを正面から捻じ伏せるだけの実力があれば、瞬殺しつつ各個撃破など実に容易い問題だったというわけである・

もちろん、“ブリュンヒルデ”が弱いわけではないが、こればかりは『相手が悪かった』としか言い様がない結果である。


こうして、第3アリーナのVTシステム騒ぎはあっさり鎮圧されたわけなのだが、

しかし、“ブレードランナー”一夏としてはそれで終わりではなかった。

同じように、本来 最も力を入れて守るべき第4アリーナから引き離されて、そこにいる“彼”が今も襲われているのだ。

立ち回り次第で単一仕様能力『落日墜墓』によってどんなISも無力化できるだろうが、何が起こるかなんてわからないために駆けつける必要があった。

それ故に、“ブレードランナー”の節約癖でISでそのまま飛んでいけばいいのにわざわざ解除して己の脚でその場を後にしたのである。


――――――時間との戦いは終わってはいないのである!



384  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:51:56.98 ID:3zEhG37Z0

――――――第4アリーナのどこか


友矩「単一仕様能力で単一仕様能力をコピーしたというのか? そこまでできたのか、『大疑大信』の能力は!」

友矩「すると、コピー先は『白式』からか?」

友矩「いや、それは不可能だ! 雪片弐型と雪平壱型は内部構造が異なるし、『白式』の『零落白夜』は通常の単一仕様能力とは違う雪片弐型専用だ」

友矩「いくら『風待』でも『白式』の仕様通りの単一仕様能力を雪平壱型で真似することはできない!」

友矩「『零落白夜』を展開した雪片弐型を『大疑大信』で奪うのならば筋は通る。が、本質的に『暮桜』と『白式』の単一仕様能力は別物!」

友矩「すると、『風待』の単一仕様能力の性質から言って、認識できる範囲のどこかに『零落白夜』を使えるISが別に居たということになるのか?」


ウサミミ「ふぅ~ん。やっぱりこの学園のどこかに『暮桜』が眠ってるんだねぇ」


友矩「!?」ビクッ

ウサミミ「うふふふふ」

友矩「なに!? まさかあなたは――――――」


束 「私が天才の束さんだよ~! はろ~!」ニコニコ


友矩「――――――篠ノ之 束!」ガタッ

束 「そんなにびっくりする必要なんてあるかな~。オーバーリアクションだよ、それは」アハハハ!

友矩「何の用です……!」

束 「うん? そりゃあもう いっくんと箒ちゃんとちぃちゃんを応援しにだよ?」

友矩「では、どうして僕のところに?」アセタラー

束 「…………さあ、なんででしょう?」ジー

友矩「………………くっ!」ビクッ

友矩「ん」ピィピィピィ

友矩「馬鹿な! もう1機のIS反応――――――!(しかも、これは“アヤカ”が事前に看破して監禁させたたはずの――――――!)」チラッ

束 「ふふ~ん」

友矩「まさか――――――!」アセタラー


385  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:52:42.65 ID:JZmH5Y3h0

――――――
雪村「!」ピィピィピィ

雪村「あ……(これは、――――――間に合わない!?)」ビクッ

千冬?「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!

ズバーン!

雪村「ぐわああ!?(マズイ! ――――――エネルギーが! こんなにも早く!?)」

千冬?「――――――!」ブンブン!

雪村「ぐあっ!?」ズバーン!

千冬?「――――――!」ドン!

雪村「うわあああああああああああ!」ゴロンゴロン・・・(強制解除)


箒「雪村!?」

箒「馬鹿な! 全て沈黙したはず――――――」

ラウラ「もう1機――――――、もう1機、このアリーナに居たのか!」

箒「あ」ゾクッ


教員『や、やめて! ほ、ほんとに!』


箒「あれは、私が乗るはずだった機体なのか…………」アセダラダラ

ラウラ「“アヤカ”! 早く逃げるんだ!(どういうことだ!? あれは特別製なのか!? 真っ先に“アヤカ”を狙って――――――!)」

箒「雪村ああああああああ!」
――――――

友矩「“アヤカ”ぁあ!」

――――――
一夏「“オペレーター”! 第3アリーナの状況はどうなっている!」
――――――

友矩「!」カチッ(咄嗟にマイク機能をオフにする!)

束 「おお いっくん! おひさ~――――――あれ?」

友矩「“ブレードランナー”! そのまま搬入路から中へ入って! ゲートロックを全て解除します!」カチッ

束 「そういうことするんだ? なら――――――」ムスッ

友矩「急いでくれ! “アヤカ”は頑張ってくれたが、最後のVTの1機に追い詰められている!」カタカタカタ・・・

――――――
一夏「わかった!」
――――――

386  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:53:37.61 ID:3zEhG37Z0

友矩「遮断シールドレベルを通常に――――――なにっ!?」カタカタカタ・・・

友矩「遮断シールドの管理システムにアクセス制限だと!? システムは僕が掌握しているはずなのに――――――!」

友矩「ハッ」

友矩「何が望みなんですか、あなたは!」

束 「何のことでしょう?」フーフー

友矩「今すぐゲートロックを解除してください! このままだと“アヤカ”が――――――!」

束 「ヤダよ」

友矩「!!??」

束 「箒ちゃんに隣にいるのはいっくんで、いっくんの隣にいるべきなのは箒ちゃんなんだよ?」

束 「お前でもないし、あいつでもない。ちぃちゃんは居ていいけど、どうしてお前もあいつもいるわけ? 余計なんだよ」

友矩「!」

友矩「それが狙いか! 篠ノ之博士といえども、所詮はテロリストか!(けど、今 言うべきことは――――――!)」ギリッ

友矩「もう一度だけ言う! ゲートロックを解除してください! 今なら見逃してやったっていい!」

束 「ヤダ」

束 「お前はいっくんには必要ないし、箒ちゃんの幸せも邪魔する!」

友矩「どういう意味なんだ、それは!」

友矩「――――――待てよ?」

友矩「まさか、一夏が忘れていた篠ノ之 箒との結婚の約束のことか?」

束 「…………!」


束 「どうして世の中 思い通りにいかないんだろうね」



387  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:54:35.76 ID:JZmH5Y3h0


一夏「おい、どうなっている!?」タッタッタッタッタ・・・

一夏「ゲートが開いてないぞ、“オペレーター”! おい、“オペレーター”!」

一夏「どうした! どうして応答してくれないんだ!」

――――――

千鶴「“オペレーター”の代わって“シーカー”の私から指示を出すわ!」

――――――

一夏「千鶴さん!?」

――――――

千鶴「“ブレードランナー”! こっちは今 あなたとは斜向かいの第2ピットまで来ているわ」

千鶴「気懸かりだった 篠ノ之 箒が乗るはずだった機体にもVTシステムがやっぱり搭載されていて発動していたわ」

千鶴「そのせいなのか、厳重に監禁されていたはずなのに脱出していたの! それが最後の1機として“アヤカ”に襲い掛かってるの!」

千鶴「どういうわけなのか“アヤカ”を徹底的にマークしている!」

千鶴「今、“アヤカ”はあなたの目の前の搬入路の隔壁に追い詰められているわ!」

――――――

一夏「な、なに!(――――――センサーとディスプレイだけ展開!)」(部分展開)

一夏「『白式』! わかるか?」ピピッ

一夏「――――――“アヤカ”!(どうして壁際にもたれかかってジッとしてるんだよ! 逃げろ!)」ガタッ

――――――

千鶴「“ブレードランナー”! もう『零落白夜』でも何でもいいから隔壁を打ち破って直接入って!」

千鶴「私も狙撃してみるけど、これまで『シュヴァルツェア・レーゲン』が狙撃してきたのに一向に介さなかったから注意を引けないかも!」

千鶴「『シュヴァルツェア・レーゲン』のレールカノンも弾切れのようだから、今“アヤカ”を救えるのはあなただけなのよ!」

千鶴「急いで!」

――――――

一夏「くっ!(――――――抜刀!)」アセタラー

一夏「『白式』! 『零落白夜』最大出力――――――!」ジャキ

一夏「(イメージしろ! この隔壁を一瞬で貫く巨大な槍の姿を! 大丈夫だ、以前はアリーナの大地を崩落させたぐらいなんだ!)」

一夏「できないことなんて何もなああい!」

一夏「行くぞおおおおおおおお!」


388  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:55:18.98 ID:3zEhG37Z0

――――――

千冬?「――――――!」

雪村「(よく頑張れたんじゃないかな? こんな僕でも人は十分に救えたんだ――――――マッチポンプだけど)」

雪村「フッ」

千冬?「――――――!」ブン!

――――――

一夏「――――――脇を開けろおおおお!」ザシュ

――――――

雪村「!?」ドクンドクン

千冬?「――――――!?」

ガキーン!

雪村「あ……」

――――――

一夏「うおっと!?(この手応え! うまく偽物の攻撃を防げたってことか……? 血が付いてなければいいんだけど…………)」ビリビリ

一夏「けど、そんなの確認してる時間がねえんだ! こんな壁をぶっ壊すほどぉお――――――!」ジャキ

一夏「――――――今度は伏せろおおおお!」ザシュザシュ

――――――

雪村「!」サッ

ザシュザシュ!

雪村「うわっとと!(――――――何だ!? 後ろの隔壁から光の何かが!?)」

千冬?「――――――!」ビクッ

――――――

一夏「うおおおおおおおおおおおおおお!」ザシュザシュ

一夏「(ただ無心に突いて突いて突きまくって壁をぶち破れええええええええ!)」ザシュザシュ

一夏「今、助ける!(あれ? わざわざ突きまくる必要はあるかな? メッタ斬りにすればすぐに入れるんじゃ――――――いや、迷わない!)」ザシュザシュ・・・

――――――

千鶴「よし! 動きが止まってる! 今なら確実に当たる!」ジャキ

――――――

389  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:56:35.97 ID:3zEhG37Z0

ラウラ「“アヤカ”! ああ よくぞ、無事で――――――」

ラウラ「む、何だ? あの光は――――――」

バン! バン!

ラウラ「――――――後方より銃声!?」

ラウラ「!」


千冬?「――――――!」ドゴン! ドゴン!

雪村「!」

雪村「え、援護射撃? ――――――誰?(――――――ピットの方からの狙撃だ!)」

――――――

千鶴「間に合ってよかったわ(――――――にしても、)」ジャキ(IS用対IS用ライフルを匍匐射撃!)

千鶴「まさか、VTシステムがこんなにも用意されていたなんてね…………驚きを通り越して呆れたわ」

千鶴「さ、後は“アヤカ”くん次第というわけね」ヒュー

――――――

一夏「よし! とりあえず剣だけは渡せそうだ!」

一夏「それっ!」ポイッ

一夏「――――――受け取れ、“アヤカ”!」

――――――

コトン!

雪村「!」(その声が聞こえたと同時に、隔壁から薄青色の淡い光を放つ剣が落とされた)

雪村「その声――――――!(――――――光の剣! 夢の中で何度も見た無双の剣だ!)」

千冬?「――――――!」ブン!

雪村「――――――っと!」ドン!(咄嗟に飛び込んで攻撃を躱すと同時に光の剣を手に取り、そのままの勢いで力強く立ち上がる!)

雪村「これでぇええ!」ジャキ

千冬?「――――――!」ビクッ

雪村「終わりだああああああああああ!」ブン!


ズバーン!


ラウラ「!」

箒「!」

――――――

千鶴「…………!」

――――――

一夏「フッ、『壁際』の“アヤカ”が負けるかよ」

一夏「――――――『お前ならやれる』って信じてたぜ」

一夏「………………フゥ」


そう、勝負は決した。その結果がいかなるものかは言うまでもない。



390  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:57:24.35 ID:JZmH5Y3h0







雪村「………………」ヨロヨロ・・・

雪村「………………フゥ」ペタン! ――――――壁際!

――――――

一夏「伝説の光の剣を振るった感想はどうだ?」フフッ

――――――

雪村「また、助けてくれましたね…………今度は現実世界で」ハアハア

――――――

一夏「…………遅れて本当にすまなかった(そう、いろんなことがあって――――――あ、友矩は? どうして応答してくれないんだ?)」

――――――

雪村「いえいえ、本当に感謝しています。――――――結果が全てですよ」アセビッショリ!

――――――

一夏「そうか。それじゃ、俺は行くぜ。後処理が他にも残ってるんだ(そうだ。友矩からの連絡がつかない! まさか――――――!)」

――――――

雪村「はい。また会いましょう」ニコッ

雪村「今度は、仮想空間で――――――」


――――――“ブレードランナー”。


――――――

一夏「ああ。またな!」

一夏「さて、――――――友矩!(まさかとは思うが、無事でいてくれ!)」

タッタッタッタッタ・・・


391  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:58:24.39 ID:3zEhG37Z0

――――――第4アリーナのどこか


友矩「…………ぐぅうう」ゼエゼエ

千冬「退け。そして、二度と現れるな」ジャキ(IS展開)

束 「ちぃちゃん――――――それに『風待』か。私とちぃちゃんの『暮桜』の第2世代版という名の劣化版……」

千冬「聞こえなかったようだから、もう一度――――――」ジロッ

束 「どうして? どうしてちぃちゃんまで私の邪魔をするわけ?」

千冬「私はIS学園の現場責任者として、学園に仇なす者を成敗する義務がある」

束 「そんなのおかしいよ。本当はちぃちゃんだって今の学園を煩わしく思っているはずなんだよ?」

束 「どうして嫌な思いをしてまで守ってやろうとしてるわけ?」

千冬「それが大人というものだ」

千冬「それに、お前が弟や妹のために思ってやろうとしていることは今日まで“アヤカ”を害そうとしてきたテロリストの所業と何ら変わるところがない!」

束 「違う!」

千冬「違わない!」

束 「ちぃちゃんは嘘を吐いている!」

千冬「甘えるな! これまでは幼馴染としての誼で見逃してきたが、お前にはほとほと愛想が尽きるよ」ジロッ

千冬「それに、今の私の手には『零落白夜』があるのだぞ? これでお前の命ごと繋がりを解消しようか?」ジャキ

束 「どうして……、何がみんなを変えちゃったっていうの!? どうしていっくんも箒ちゃんもちぃちゃんも昔のように優しくなくなったの!?」

千冬「それは自分が招いたことだろう!」

千冬「お前には何も見えてないのか! 理解するだけの知能が足りてないのか! “世紀の大天才”が聞いて呆れる!」

千冬「弟も妹も現在を生きているんだぞ! 過去の世界の住人のお前に心を開くはずがない――――――いや、会って話をしてみたらどうだ!」

千冬「こそこそと自分の手を汚さないように自分が不要だと判断した“アヤカ”と友矩を亡き者にしようとした罪は消えないぞ!」

束 「そんなのちぃちゃんの思い違いだよ! 私はみんなと輝かしい未来のために頑張っているんだよ!」

束 「だから、過去の世界の住人じゃない! 私は逆に昔から未来に生きてるんだよ!」

束 「どうしてそれがわからないのかな!」

千冬「過去だろうと未来だろうと、現在の人間じゃないのならお前のことなんて誰が理解できる!」

千冬「お前のいう未来はいったいいつになったら現在に繋がるんだ!」

束 「………………」

千冬「………………」

392  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:59:02.14 ID:JZmH5Y3h0

束 「………………わかったよ。今はそう思ってもらっていいよ」

束 「けど、私がみんなを幸せにする! それだけは忘れないでよ」

千冬「くっ、だからその思い込みが周りを不幸にしているとなぜわからない!」

束 「ちぃちゃんは、今の世界は楽しい?」

千冬「そこそこにな……」

束 「そうなんだ……」ピッ

無人機「――――――!」

千冬「――――――IS!(しかも、クラス対抗戦で襲ってきた『例の無人機』と似通ったフォルム!)」

束 「それじゃ、今日は帰るね。今日は残念だったけど箒ちゃんが大活躍で良かったよ」

ヒュウウウウウウウン! ドゴーン! ガラガラガッシャーン!

千冬「くっ!」ガバッ

友矩「……すみません」

千冬「何を言う。お前が居てこその一夏だ」

千冬「お前の適切な判断処理が一夏と“アヤカ”を今日も救ってくれたんだ。感謝してもしきれんよ」

友矩「はは、そう思うのなら家事を少しでも覚えてください。せめて自分の下着だけでも取り込めるぐらいに…………」ニコッ

千冬「…………努力する。お前は私の姑か、逆だろう。まったく」フフッ




393  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 09:59:51.89 ID:JZmH5Y3h0

――――――その直後、


一夏「もう少しだ!(どういうことなんだ? アリーナのロックはもう解除されていいはずだが……)」(黒服)

一夏「ん」

ヒュウウウウウウウン! ドゴーン! ガラガラガッシャーン!

一夏「おわっ!?」ゴロンゴロン・・・

一夏「ぐはっ…………な、何が起こった?」(黒服サングラスが外れる)

束 「ああ! いっくんだああああああ!」ヒューーーーン!

一夏「は?! た、束さん!?」ドキッ

束 「もう会いたかったよ~、久しぶりにハグハグしよ~! 愛を確かめ合おう!」ボイーン1

一夏「うわっ!? ちょ、ちょっと! む、胸が当たって――――――(うわっ! やっぱり妹よりずっと大きいぞ、これぇ!)」カア

束 「ふふ~ん。やっぱり気になる~?」ニヤニヤ

一夏「お、俺も男ですから! は、離れてください!」

束 「はーい」シブシブ

一夏「そ、それよりもどうして束さんがここに?」

一夏「あ! そっか、箒ちゃんの試合を見に来たってことなんですか?」

束 「うん! 大正解なんだよ、いっくん」ニコニコ

一夏「そうなんですか。今日は災難でしたね」

束 「まあ、そうだね」

束 「けど、あの箒ちゃんが予選突破するぐらいの腕前になって、胸だって立派なものを実らせるようになったよね!」

一夏「ええ まあ…………(確かに大きくはなっていた――――――あ! また思い出しちまった、あの弾力!)」ドキドキ

束 「お、おお?」

一夏「ハッ」

一夏「な、何にも考えてませんよ!」アセアセ


束 「へえ、いっくんも箒ちゃんのこと ちゃんと意識してくれてるんだ」


束 「良かった」

一夏「へ? 何が『良かった』って?!」アセタラー

束 「ふふーん! 教えてあーげない」

一夏「え、ええ…………」

394  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:00:40.90 ID:3zEhG37Z0

束 「ねえねえ、いっくん いっくん!」

一夏「何ですか、束さん?」

束 「この大天才:束さんがいっくんのお願いを特別に1つだけ叶えてしんぜよう!」

一夏「え」

束 「さあさあ! 何でも言って。いっくんの願いなら何でも叶えてあげるから」

一夏「ああ…………」

束 「さあさあ! 何かお悩みのことがあるんじゃないかな。あるでしょう、いっぱい!」

一夏「あ、それじゃ――――――」

束 「うん! 何々?」


――――――VTシステムを根絶やしにしてくれませんか?


束 「……へえ」

一夏「今日は疲れましたよ。トワイライト号の時にも襲われましたけど、たとえ偽物であろうとも千冬姉の似姿で悪事を働かせるのは許せない!」

一夏「たぶん、デュノア社がこの一件に大きく絡んでいるはずだから、束さんが何らかの証拠を掴んできてくれれば――――――」

束 「了解了解! 合点承知の助! いっくんの願い、叶えてしんぜよう!」

一夏「ああ……、ありがとうございます」

束 「けど、本当にそんなお願いでよかったの? 『お金持ちになりたい』でも良かったんだよ?」

一夏「いや、俺は別にカネや名誉が欲しいってわけじゃないんだ」


一夏「ただ身近な人の笑顔のために、できることがあったらそれって最高のことだなって」


束 「いっくん……」

束 「良かった。いっくんは今も昔も“いっくん”のままだ……」ホッ

一夏「…………束さん?」

束 「それじゃ、いっくん! 私はいっくんのお願いを叶えるためにがんばるからね! またねー!」

一夏「あ、ちょっと! 千冬姉や箒ちゃんには会っていきましたか?」

束 「ふふふふ、それはまたの機会に」

束 「それじゃあねー!」

束 「忍法ドロロンの術!」ドロロン!

一夏「ぎゃっ! け、煙い……!(――――――なんでこんな狭い屋内で煙幕なんか!)」ゲホゲホ・・・

395  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:01:22.06 ID:JZmH5Y3h0

モクモク・・・・・・

一夏「来い、『白式』ぃ……!」ゲホゲホ・・・

一夏「………………フゥ(変装マスクさまさまだな)」

――――――
千冬「“ブレードランナー”! 状況はどうなっている!」
――――――

一夏「あ、千冬姉! VTシステム機は全て沈黙しました。今のところ、新しい動きは無いようです」

一夏「それよりも、早くアリーナのロックを解除してくださいよ。“オペレーター”に連絡しても反応がなくて困ってます」

一夏「早くみんなを出してあげてください! VTシステムに取り込まれた人たちも特別病棟に運ばないといけないから!」

――――――
千冬「ああ。今 制御が回復したようだ。すぐに開くはずだ」

千冬「それに、“オペレーター”も無事だ」
――――――

一夏「それは良かった」

一夏「あれ? 今、千冬姉は何て言った――――――?」

――――――
千冬「どうした? 不明瞭なことがあるのか? 緊急でないのなら状況の整理のために一度集合してくれ」

千冬「そうだな。場所は――――――」
――――――

一夏「あ、ああ…………(まあいいや。今は一刻も早く事件の後処理をしないといけないからな!)」

一夏「よし! これから向かいます!」



396  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:02:22.52 ID:JZmH5Y3h0

――――――その夜

――――――地下秘密基地


一夏「結局、大会は無期限中止か。惜しかったな、もしかしたら“アヤカ”と箒ちゃんにも優勝の目はあったかもしれないのに」

友矩「そうだね。おかげで一夏は九死に一生を得たわけだ(まさか、『これが一番丸く収まる結果』だなんて思ってないよね?)」ジトー

一夏「いっ」アセタラー

弾 「どういう意味だ、そりゃ?」

一夏「……何でもないです!(不謹慎だが、そういう意味では中止になってくれてホッとしてる自分がいるのが悔しい!)」

友矩「けど、今回の作戦で『“ブリュンヒルデ”が機体を乗り換えた』という情報が流れました」

友矩「これで“ブレードランナー”は“ブリュンヒルデ”である必要はなくなったので、活動は以前よりもしやすくなったはずです」

一夏「…………そうだな」

弾 「うん? どうしたんだよ、一夏? 何か元気ないじゃないか」

一夏「いや、大会が始まる前に超国家規模の陰謀を間近に感じてたわけじゃん?」

一夏「それを今日、俺たちは一網打尽にしてはみたけれども、これからどうなるんだろうなって」

一夏「敵を倒して『はい、オシマイ』ってわけじゃなくて、――――――これからなんだよ。本当に大変なのは」

友矩「そうですね。今回の計13機ものVTシステムの導入――――――それを看過してきた学園側の責任はどうなるのかと」

弾 「確か学園のISって専用機を除くと30機ぐらいなんだっけな。半分近くをやられていたとあっちゃなあ?」

友矩「それに、大会前の内部粛清の結果として学園職員の人材不足に陥って今日の接客のまずさをお偉方に酷評されているようですしね」ピピッ

友矩「まあ、口止めはされているようですから、VTシステムの騒ぎに関しては何も触れられていませんが」

弾 「不都合な真実を隠し続けていつまで保つかね?」

一夏「…………難しいな、人の世って」

弾 「どうしたんだよ、突然……」

一夏「いや、守られる側・襲われる側って普通は善良ってイメージじゃん? けど、こんなふうに俺たちにも隠していることがあると思うとさ?」

友矩「そうだね。自分が守っていた者が実はとんでもない悪事を働いていたとしたら、やるせないし、これまで通りにはいかなくなるよね」

弾 「ああ…………物語をひっくり返す分にはおもしろい展開だけれど、現実でそれをやられちゃ虚しくなるよな」

一夏「けどさ? だからこそ、考えるんだよ。――――――何が正しくて、何がいけないのかを」

397  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:03:03.35 ID:3zEhG37Z0


一夏「大きく疑って、大きく信じ抜く! これしかない!」


弾 「それって、確か『風待』の単一仕様能力の――――――」

友矩「ええ。参禅弁道における三要諦「大信根」「大疑団」「大勇猛心」の――――――簡単に言うと仏教を信仰する上で大切な3つの概念です」

友矩「それに由来するのが、日本最初の第2世代型IS『風待』の単一仕様能力『大疑大信』というわけです」

弾 「えと、具体的には?」

一夏「本当にこの人は『世のため、人のため』と口にした通りの腹積もりなのだろうか?」

弾 「なるほど」

友矩「もっと身近な例がありますよ」


友矩「本当に織斑一夏は心の底から人々を救おうとしているのだろうか? 本当は地位や人気取りのためにそう振る舞ってきているのではないか?」


友矩「とかね?」

弾 「あ、ああ…………!」

友矩「でも、どうです? 疑って疑って疑い抜いて真実に辿り着いた時、強い確信や信頼に変わってるでしょう?」

弾 「ああ! もうどんな時でも一夏は死ぬまでお人好しだってことは俺の中じゃ不変の事実だよ」

友矩「これが「大疑団」というものであり、ちゃんとした考証に基づいて疑うことは悟りへと繋がるわけなんだね」

友矩「疑うことは悪じゃありません。真実に辿り着く前に結論を出してしまう――――――早計であることが悪なんです」

友矩「で、後は信じ抜くだけだね。もっとも「大信根」っていう根源的な不変の事実や法則があるってことを確信していることが大前提だけど」

一夏「へえ」

弾 「え? お前も知らないのか?」

一夏「いや、俺はしっかりと考え抜くことを教わっただけで、別にそういった神様とか超越者のような哲学的なことは考えたことないな」

友矩「それでいいんですよ。しっかりとした考えを持って疑って、それから信じ抜くことさえできていれば」

友矩「それで、『風待』の単一仕様能力『大疑大信』は「大疑団」に基づいた能力というわけでして――――――」

弾 「はあ……、何か俺、どんどん賢くなっていってるような気がするな!」

友矩「ええ。僕もあなたの人選は正しかったという確信がありますよ?」

弾 「はははは、嬉しいこと言ってくれるねぇ」

一夏「ああ。弾は仲間だ! これからもよろしく頼むぜ!」

弾 「おうよ!」

一夏「さ、明日も早いんだ。今日はゆっくりと休ませてもらおうぜ?」


――――――役目を終えた“ブレードランナー”はしめやかに鞘に戻るぜ。



398  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:04:02.33 ID:JZmH5Y3h0

――――――それからの日々、


一夏「そうか。デュノア社は実質的にお取り潰しか。いくつかの工場で謎の爆発事故が起こってもいるし、踏んだり蹴ったりだな」

友矩「ま、当然の報いだね」

弾 「けど、これで一躍 良くも悪くもシャルロット・デュノアちゃんは時の人になったわけだ」

弾 「いろいろと大変だろうな。俺はかわいそうだと思うし、守ってあげたいけれど、そうだと思わない人間も確実にいるわけだからな」

一夏「彼女、学園には残るみたいだな」

一夏「フランス最大のIS企業のデュノア社の没落で祖国は大変だけれども、人権団体の働きかけで公式サポーターがついてひとまずは安心か」

友矩「そうだね。IS適性は高い上に代表候補生としての実力も十分。美男子の子役に見間違えられるぐらいの美貌だからすでに人気はあるようだね」

弾 「そういう友矩も宝塚に出てくるような美人さんだろうが。黙って一夏と並んでいたらカップルのようだっていうのが評判だろう?」

一夏「お、俺と友矩は別にそんな…………」テレテレ

弾 「どうしてそこで言葉を濁すんだよ…………そこが真実味を持たせてしまう原因だろうが」ヤレヤレ

友矩「そういう弾さんも、中学時代の同窓生から話を聞くに、やっぱり一夏とデキていたのではないかという評判ですか?」ニヤリ

弾 「な、なんだとぉおおおおお!? う、嘘だろう!?」

友矩「今日に至るまで何人の女性からお付き合いのお誘いがあったと思うんですか?」

友矩「それに、中学時代の方々の話をまとめると、一夏と弾さんはセットで数えられるぐらいに一緒に居たという印象だそうです」

弾 「お、おホ だちじゃねえよ、俺はぁ…………」

弾 「そ、それに! 俺に言い寄ってくる女性は確かにキレイどころは多かったけれど、ピンと来るものがなかったんだよ!」

一夏「何だ? 蘭以外の女性とは付き合いたくないってことか? 弾らしい!」クスッ

弾 「シスコンのお前に言われたくはねえよ、それ……」

友矩「ま、何にせよ、思ったよりも学年別トーナメントの影響は少なかったということだね」

一夏「そうだな。特にIS学園が罰せられたというような情報もないしな」

一夏「平和で何よりだ」

弾 「そうだな(なんか不気味な感じもするけどな……)」

399  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:05:02.89 ID:3zEhG37Z0

弾 「ところで、――――――あのラウラちゃん! 結構な人気のようでよ? ファンクラブができてるらしいぜ?」

一夏「へえ、それは良かった。ラウラちゃん、約束は守ってくれてるんだね、ちゃんと」フフッ

弾 「ブロマイド出たら、買ってあげようぜ! インフィニット・ストライプスにも出たら必ず買おう!」

一夏「そうだな。これから楽しみだよ」

一夏「そうだ。知り合いの子のものは全部買っておかないとな!」

一夏「ラウラちゃんと、――――――それから“アヤカ”に、シャルロットに、鈴ちゃんに、箒ちゃんに、いろいろ!」

友矩「『いろいろ』増えなければいいね?」ニコニコー

一夏「あ…………」ビクッ

弾 「…………一夏だもんな。ふとした拍子で『知り合いの子』が増えちまうんだろうなぁ」

一夏「あ、えと……」アセアセ

一夏「そ、そうだ! 俺、第1期日本代表のブロマイドやポスターの類は関係者として全部持ってるから秘密基地に持ってくるよ!」

一夏「あのまま埃まみれにしておくよりもいいし、第一 華やかになるし、やる気が出るとかあるはずだ!」

弾 「ああ ずりい――――――でも、許す! やろうぜ、それ! 全部出せ!」

友矩「そうか。確かに一夏は関係者としていろいろ貰ってるんだもんね」

友矩「――――――肉体的関係も」

一夏「だああ違うって! 俺はただ単に千冬姉御用達のマッサージ師として公式サポーターだっただけだぁ!」

弾 「ははは、わかってるって、一夏。いちいちキョドるなよ。そんなんだから からかわれるんだぜ、“童帝”?」クスクス

一夏「うるさい! 弾だって友矩だってそうだろうに!」

友矩「だったら、学習すればいいじゃないですか」

友矩「『女の子のあられもないウフフな姿や見えちゃいけないウヒョーなものを不可抗力で見てしまい――――――、」

友矩「――――――馬鹿正直に見てしまったことをあからさまにしてそのまま女性から制裁を受ける』ような芸術的な反応はしなくなったじゃない」

一夏「あ、うん…………確かに」

弾 「まあ、確かに中学時代からありましたわな~」

弾 「『一夏と近くにいるとラッキー   にありつける』って噂されるようにもなったんだけど、同時に『必ず制裁を食らう』とも言われてな」

弾 「当時の色を知ったばかりの若き雄たちは危険と知りながら秘境を目指して一夏と一緒に果てていったものだ……」

友矩「その巻き添えを常に受けてきたのが五反田 弾というわけかな?」

弾 「うん。その辺は否定しない。――――――けど、俺と一夏の関係は入学した時からだから噂が出る以前だから安心してくれ」

一夏「そ、そうだったのか…………そんな頃から俺はそんなふうに思われていたのか」

弾 「ああ。俺だって変だって思ってたもん!」

弾 「エ エ 魔神でも憑依していたのか、やたら女子が着替えしているところに突入したり、突風が吹いて女子のスカート全部がめくれたり!」

弾 「思えば、その頃から“童帝”としての片鱗はあったんだな…………」

友矩「けど、一夏は馬鹿だから基本的に痛い目に遭わないと自分から変えようとしないからね! ふん!」

一夏「わ、わかってるつもりだ。――――――それが俺の悪いところだって」

友矩「大学時代に強烈なメンヘラにパンチラをわざとされてそれを口実に関係を迫られてようやく改めたんだもんね!」

弾 「ま、マジかよ……(『羨ましい』って反射的に思ったけど『あの一夏が心を入れ替えるぐらいヤバかったんだろうな』って気づいてしまった……)」

一夏「あまり思い出したくない…………俺の仮想世界を作ったら絶対に出てきそう!」ガタガタ

400  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:05:42.70 ID:JZmH5Y3h0

友矩「世の中 広いというわけだね。このノータリンを震え上がらせるようなとんでもない出会いがあったり――――――」

弾 「…………そうだな。想像もつかないぜ」

弾 「というか、こうして俺たちが“ブレードランナー”として活動しているのも、実際に犯罪を鎮圧して人を救ってるのもな」

一夏「ホント、嵐が過ぎ去って平和になったもんだなぁ」

友矩「はたして、そうなんでしょうかね。あるいはその平和は長続きするんでしょうかね」

一夏「ん?」

友矩「学園はVTシステムの濫用の件で今後厳しく管理するように言われましたし、」

友矩「内部粛清の結果、学園組織の人材が不足して今 組織の再建で大変なんですよ」

一夏「あ」

弾 「何かありそうだな……」

友矩「今週、学年別トーナメント以来初めての仮想世界の開拓が行われますが、ここにも何か入ってきそうな気がしますね」

友矩「“パンドラの匣”と呼ぶことになった仮想世界には、“アヤカ”がなぜISを扱えるのかの真相があるとされています」

友矩「それ故に、この極秘プロジェクトは“全てを与えられた者”の名を冠することになったのです」

弾 「けど、さすがに一夏以外の人間にやらせることなんてできねえんだろう?」

弾 「心の世界ってわけなんだからさ? “アヤカ”が信用しない人物にとっては地獄のようなところだろう」

一夏「確かにそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

一夏「俺以外 電脳ダイブした人間がいないんだし、“アヤカ”自身も心を開き始めているから何とも…………」

友矩「予断は許されない状況がまだまだ続きますね」

一夏「けれど、確実に言えることは1つだけある」

弾 「お? 何だ?」


――――――これからも“人を活かす剣”が全てを解決するってことだ!


友矩「ええ」

弾 「おうよ」

一夏「一人では至らない身だけど、」


――――――これからも力を貸してくれ、みんな!


「おおおおおおおおおお!」


1つの戦いは終わり、また新たなる戦いの幕が開ける。

しかし、今しばらくは戦士に休息と英気を養う時間を――――――。

そして再び、戦いの舞台へと駆け出していくのだ。


行け、“ブレードランナー”! 次なる災厄の根源を断ち切り、人々の平穏な明日のために――――――!



402  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:07:39.56 ID:3zEhG37Z0

第7話 登場人物概要

朱華雪村“アヤカ”
実年齢:17歳(戸籍上:15歳)
IS適性:A
専用機:『打鉄/知覧』“呪いの13号機”→『打金/龍驤』“黄金の13号機”

“世界で唯一ISを扱える男性”であり、織斑一夏とは違って力を持ってしまったことで全てを奪われて無気力となった少年。
本編開始以前:2年前にIS適性があることが確認されており、そのことで一時期『 “世界で唯一ISを扱える男性”の登場』という怪情報で世間を騒がせた。
そのことはデマや都市伝説として早急に収束したのだが、実際は女尊男卑を推進する過激派女性人権団体によって迫害されて社会的に抹殺されていた。
また、日本政府がその存在を独占するために、あるいは世界各国からのスパイが押し寄せていたために、重要人物保護プログラムを受けざるを得なかった。
その過程で何の罪もなかったのに家族とは離れ離れになってしまい、謂れのない悪逆非道の限りを受けてしまい、精神崩壊を起こして無気力状態となっている。
その体験が仮想世界“パンドラの匣”における“魔王”や魔物たちのモチーフとなっている。

作中における“彼”とは、現在の朱華雪村“アヤカ”を含む不幸な運命を背負わされた少年を一括した表現として使われている。

基本的には“彼”に関する全てが重要人物保護プログラムによって与えられた偽情報であり、もちろん“朱華雪村”なる氏名も偽名である。
“朱華雪村”は一番新しい偽名であり、しかたがないとはいえ無気力・無愛想・無反応に付き合いきれなくなった担当官が皮肉と嫌味たっぷりにつけた偽名であり、
“朱華”とは“ニワウメあるいはニワサクラ=唐棣”“禁色の1つ”であり、“雪村”とは“雪に閉ざされた隠れ村”“同じ読みの“幸村”との対比”としている。

世間的な常識は失われてはいるものの、同じ“ISを扱える男性”織斑一夏とは違って他人の感情には敏感であり、
黙ってはいるが、周囲の人間関係に関しては積極的に調べる意思さえあれば完璧に把握できるぐらい洞察力にも優れている。
その織斑一夏に対しては自分の周りの女の子の心を次々と鷲掴みにしていく様を前にして驚き呆れながらも嫉妬なんてはしておらず、
一夏自身が“童帝”としてのスケコマシの才を制御できずに苦悩していることを非常に心配している。
自分と同じく望まずして得てしまった過ぎたる力に振り回されながらも力強く前を向いて生き、自分に対しても手を差し伸べてくれるために、
「相互意識干渉」がなくても、自身の持ち前の洞察力と一夏の持ち前の至誠から織斑一夏に対しては絶対の信頼と尊敬を抱いている。
ただ、電脳ダイブしていく中での「相互意識干渉」があって加速度的に一夏を通じて人間らしさを取り戻しつつあるのも事実である。


“織斑一夏”の代替キャラ・関連キャラとして命名されており、

苗字=織物業・繊維業関連のもの=“朱華”=“唐棣”=“禁色”
名前=季語+数字に関連するもの=“雪村”=“秋の季語+村八分”

迫害されてきた・社会的に抹殺されてきたことを暗示させるネーミングとしている。
また、他にも――――――、

“朱華”=“アヤカ”=“女っぽい(=男扱いされてない)”=“IS乗り”
“朱華”=“ハネズ”=“跳ねず”=“飛べなくなる”=単一仕様能力『落日墜墓』の暗示
“朱華”=“ハネズ”=“刎ねず”=死にたくても死ねない
“朱華”=“唐棣”→“棣”=“隷”=日本政府の監視下、“朱”=“血の色”
“織斑一夏”と苗字と名前の末の音韻(ムラ、カ)が逆=待遇の差、境遇の違い

やはり、ろくでもない由来が込められており、『存在自体が冒涜的』というわけである。

戸籍上は15歳されているが、実際は17歳なので本編における3年生たちと同い年であり、箒たちより年上である。
しかし、IS適性が発覚してからの悪夢の2年間で全てを奪われて虚無感に苛まれて無為に生きてきたので、
“彼”の時間は15歳で止まっているのであながち“彼”が15歳というのは間違いでもない。

日本政府としては“世界で唯一ISを扱える男性”である“彼”を利用してIS業界における地位を確固たるものにしようとするが、
本人は死んだようにやる気がないために扱いに困ってしまい、貴重な専用機を率先して与えてデータをとることすら思わなくなっていた。
『白式』は本来 非凡な剣の才を持つ“彼”のために調整と開発が進められていた機体だったが、当初の開発目的である「第1形態で単一仕様能力」を実現できず、
搭乗予定の雪村の専属となる案すらも白紙となったので『白式』も開発中止となり、長らく放置されることになった。
その後、“ブリュンヒルデの弟”織斑一夏の登場によって『白式』は一夏の手に渡るのだが、
政府の織斑一夏の扱いが極めて慎重(?)になっていたのも、朱華 雪村の尊い犠牲とその反省によるものである。

403  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:08:29.63 ID:3zEhG37Z0

篠ノ之 箒
もはや『誰これ』レベルで青春を謳歌している普通の女子高生。
ちょっと特別なのは『姉がIS開発者であること』『“アヤカ”の母親役』『想い人が9つ上』『一家離散の憂き目に遭ったこと』ぐらいである。
思春期特有の肥大化していく自意識の中で得られるチャレンジ精神でグイグイ進んでいき、非常に明朗で快活な人物に成長している。やっぱり初めが肝心!
“アヤカの母親役”として安定した忍耐とコミュニケーション能力を得ており、更に元々が優れた身体能力に恵まれているので、
ラウラとは違った層からクラスの人気者となっており、“アヤカ”との“母と子”の微笑ましい関係から人脈を拡げていっている。
また、箒の持つ力強さが母性として還元されているので、暴力女としての短慮で粗野な印象は一切ないはずである。

今作における正真正銘のメインヒロイン故に優遇ぶりが過去最高となっているのだが、それだけには留まらない運命を辿ることになる。

彼女にとっての織斑一夏とは“近所の憧れのお兄さん”であり、姉と1歳違いであるために直接的な繋がりは原作と比べるとかなり薄い。
しかし、この一夏は織斑千冬に一歩劣るが相当な実力者であり、歳を重ねていることもあってめちゃくちゃ強いので原作以上に尊敬の念を持たれている。
また、姉からの冗談と一夏の天然ジゴロの口説き文句によって本気にしていることがあり――――――。

原作では、織斑一夏に執着したせいでIS学園入学当初の態度は傍から見れば 最悪なものになってしまっており、
しかしながら、“織斑一夏”こそが彼女にとっての全てであったことから、他がどうなろうと知ったことではなかった。
後に、元凶たる姉から誕生日プレゼントとして贈りつけられる専用機『紅椿』も 彼女からすれば織斑一夏と親しくなるために必要な道具という認識でしかなく、
戦意喪失した際にはその機体の重要性を考慮することなく躊躇いなく放棄しようと思ったぐらいに傍から見ると身勝手で横柄な人物である。
ここまで書くとそれは“依存”でしかなく、織斑一夏がいないほうが箒にとって全面的によかったのではないのかと思われるのだが、
実際はお節介焼きな彼の存在に心の安らぎを得ており、状況としても彼女が“本名”のままに生活をし 心機一転が図れる時期でもあったので、
彼のお節介な性格と彼を通じての縁で得た強敵たちによって確実に良い方向へと変わりつつある。――――――結果論ではあるが読み物としてはそれでいい。
――――――が、それでも悪い意味で頑固者であり、『福音事件』で一夏が瀕死になる過失を味わっていなければ到底変われなかったかもしれない。

やはり分岐点は、最初に勇気を振り絞って“アヤカ”と“友達”になることを自分から始めたことだろう。――――――最初が肝腎!
最初を逃したら関係が定着して、どちらとしても声をかけづらくなるので、高校デビューとしては最高のスタートダッシュであった。
そのおかげで、周囲からは“アヤカ”のような子にも積極的にふれあおうとする頼り甲斐のある人と見られ、非常に好印象となった。
そこからどんどん調子づいていき、最終的にはラウラを感服させて、“母親”として“アヤカ”を信じ抜く強い精神力を備えるようになった。
(ただし、一夏からは“姉の友人の妹”としか相変わらず思われておらず、やっぱりいろいろとやきもきさせられている)


セシリア・オルコット
深窓の令嬢――――――高嶺の花としてド底辺の存在である“アヤカ”との絡みはほとんどない。今作随一で原作よりも影が薄いキャラである。
搭乗している機体が遠距離射撃機なので訓練相手としても余計に絡みづらく、その距離感がそのまま出番の少なさに繋がっている。

前作の番外編では先輩キャラとして安定した精密射撃による支援で存在感を発揮していたが、
今作の剣禅編では“世界で唯一ISを扱える男性”朱華雪村こと“アヤカ”がいろんな意味で恵まれているので彼女の手を借りる必要がない。
ただし、“アヤカ”の特殊性を受けてセシリアも今までにはなかったリアクションをとっており、新鮮な一面が見られたはずである。

しかしながら、やはりチョロインはチョロインだった…………


凰 鈴音
2組――――――だけではなくなり、今作では同じ接近格闘機乗りの“アヤカ”をライバル視するようになっており、
“アヤカ”の成長性を誰よりも注目しており、将来を見据えた訓練に励むようになっている。

やはり、鈴は友達にするなら良い性格なので、ちょっとしたきっかけがあれば、すんなり友人となって頼りになることだろう。
原作での幼馴染であることを変に強調して自分から壁を作ってしまうような一面はなくなっているので、
適度な距離感を保つ良き友人として“アヤカ”から信頼されていく。

404  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:09:14.01 ID:JZmH5Y3h0

シャルロット・デュノア
今作で一番扱いがぞんざいな人。
影が薄いだけならばそれでいいのだが、“アヤカ”からは信用されていなかったので助けられることもなかった。
実際に直面すれば当然といえば当然の扱いかもしれないが、原作との落差が大きいことに堪える人も多かったのではないかと思う。
やはり、物語として盛り上げるのに必要なのは、馬鹿と言われようがお人好しで行動力のある主人公だということなのであろう。

本質的に篠ノ之 箒と同じように他人に依存しないと生きていけないが、今作では箒の方から不器用と言われるぐらいに差が付いている。
子供なので他人に依存しないと生きていけないのは当然のことなのだが、シャルはイメージとして理知的でどこまでもあざとい印象があるが、
“妾の子”として生来的にどこか捻くれているので、織斑一夏相手ならばそれでいいかもしれないが、“アヤカ”に対してはまったくの逆効果であった。
“アヤカ”の方がぶっちぎりで不幸なので、その程度の不幸な境遇では共感してもらえず、自分にすがろうとするシャルを鬱陶しく思っていた。
篠ノ之 箒だから“アヤカ”は心を開いたのであり、もしシャルと最初に会っていた場合は間違いなく“アヤカ”は変わらなかった。

今作における箒とシャルとの差がどこでついてしまったのかと言えば、
“アヤカ”とふたりきりになってカミングアウトした際に――――――、
・箒は自分の内面をさらけ出して“友達”になることを精一杯必死になって勇気を振り絞ってくれた
・シャルロットはそこで言った言葉が“亡命”であり、結局は本名も明かさずに表層的な関係に終わらせてしまった
人間不信で警戒心の強い“アヤカ”に対してどちらが信頼に値するのか、よっく考えてみれば当然の反応だと思われる。

ただし、これからはシャルロット・デュノアとして新たな関係が築かれていくのでどうなっていくかはこれから次第である。
別に、結果的に助けなかったからといって“アヤカ”としては自分から拒絶していたわけじゃなく、
「助けて」と言ってくれなかったから助けなかっただけであり、“アヤカ”自身に道徳心や正義感が完全にないというわけではない。
人間不信になった結果、どこまで踏み込んでいいのかわからなくなったために、“鏡”のように相手の態度そっくりそのまま返しているだけである。
そういう意味で、内面を見せようとしないシャルに辛辣に当たるのは当然であり、シャル自身も他人を信用していなかったわけである。
原作でシャルが一夏に惚れ込むのも、ひとえに一夏の方からシャルを信用して親身になったからシャルは心を開いたのであり、
今作ではその逆で、自分から“アヤカ”を信用しなければならなかったのにそれができなかったために、最悪な運命だったわけである。


ラウラ・ボーデヴィッヒ
ドイツから来たスーパーヒーロー。
織斑姉弟があまりにもヒーローしているのでその弟子もかなり正義感の強い人柄に変わっている。
今のところ、教官の汚点である織斑一夏とは会ってすらいないのだが、会ったとしても原作ほどの恨みの念をぶつけることはまったくないだろう。
来訪初日の送迎での“ハジメ”との出会いを起点にして、何を考えているのかまったくわからない“アヤカ”とのふれあいや、
『ISが全てではない』と言い切った篠ノ之 箒との邂逅で、彼女の内面や価値観もずいぶんと変わっており、ラブパワー無しで成長を遂げている。

その代償として、原作の無知+ラブパワーによる銀髪の天使は存在せず、硬派な印象がひときわ強くなっている。
その失われたラブパワー分がどこへ流れていってしまったのかというと――――――。
今作ではファンクラブができるぐらいの人気者であり、セシリアの数少ない存在感を食う勢いで箒と並んで物語的にもツートップになっている。


更識 簪
原作よりも出番が多くて扱いが良い人。
むしろ、原作が酷すぎるといっても過言ではない日本代表候補生の最新鋭の第3世代機の専用機持ち。
だって、IS大国:日本の最新鋭の国家の威信を賭けた第3世代機が完成されずに放置されてるってどういう扱いよ!?
地味で内気でウジウジしていてダメな子の印象が強すぎるが、今作では代表候補生として“アヤカ”を圧倒するだけの技量を見せつけており、
原作でも大会が中止されることがなければこうやって地味に存在感をアピールする機会を得られて、幾分かは気分が晴れていただろうに…………

当初は“アヤカ”に対して良い感情を持っていないのだが、実は“アヤカ”とはこれから仲良くなっていくことになる。


405  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:10:46.20 ID:3zEhG37Z0

織斑一夏(23)
IS適性:B
専用機:第3世代型IS『白式』

今作の裏の主人公であり、要所要所で表の主人公である“アヤカ”を助けている正真正銘の陰に生きるヒーロー。
原作と比べて――――――も何も、『原作の一夏が社会人になったらどうなるのか』という姿を具現化した存在なので、
当然ながら原作の一夏よりも全面的に遥かに完成された人間性になっているのは疑いようがない(間違っても『そのまま社会人だったら』ではない)。
もちろん、欠点も引き継がれており、相変わらず学ばない馬鹿であり、深く物事を追求せず、判断は他人任せな無責任なところが残り続けている
極めつけは、学年別トーナメントで再会した篠ノ之 束を久しぶりの幼馴染として登場から何まで怪しさ満点なのにのほほんとお喋りして見送った点。
さすがに経験と失敗を重ねて、良き友人を得ていく中で少しずつ自分の性質を自覚していき、少しは改善していくようにはなってはおり、
一方で、そういった彼の人間性が問われるような事態にならない限りは、実に他人が羨む・嫉妬する・崇拝するレベルの高性能ぶりであり、
現代を生きるのに必要な全てを兼ね備えた“童帝”として織斑千冬に比肩する存在として描かれる。

実の姉であり 唯一の肉親である織斑千冬に対して並々ならぬ想いを抱いている真性のシスコンなのは確かであるが、
それを自分の姉の熱心なファンの心を正面から叩き潰すための口実で[ピーー!]なことや[ピーー!]なことまでしたと放言する、悪い意味で大物である。大人げない。
繰り返すが、この織斑一夏は(21)ではなく(23)である。ニーサンである。
だが一方で、“人を活かす剣”――――――“ブレードランナー”に必要な柔軟な発想や冷徹さ、フラグクラッシャーとしての豊富な経験もあるので、
学年別トーナメント最終日にテロリストの動揺を誘うために吐露した[ピーー!]な内容がどこまで本当なのかは読者の想像におまかせする。

断言できることは、――――――仮に織斑千冬が悪の道に走ったと判断した場合は、たとえ最愛の人であろうとも斬り捨てる覚悟を持っていることであろう。

原作よりも実力がある以上に、原作でもあった攻撃性が遥かに増しているのがこの(23)であり、血を見ることもやむなしの非情さが大きな違いといえる。
もちろん平和的手段による解決を強く望んではいるものの、“ブレードランナー”として与えられた任務を全うするために、
自分でそうすべきだとしっかりと考え抜いた上での決断なので、やるとなったらやり遂げる意思の強さに結びついている。
それでいて、正しく人間らしい愛の精神を持ち続けていることは“アヤカ”との交流で証明されていることである。

ただし、“アヤカ”から“織斑一夏”や“ハジメ”に恋焦がれている少女たちの姿を傍目に見ていてハラハラさせられているように、
一夏の影響力は良くも悪くも一般人から逸脱した巨大なものであり、その非凡な存在感が姉と同じく世界に大きな波紋を呼ぶことになる。

“ブレードランナー”とは『白式』を含めた彼自身のコードネームであり、基本的にISを使用している時はこれで呼ばれる。
代表的な偽名は“皓 ハジメ”であるが、変装の使い分けができていないので偽名も使い分けできておらず、これが後の事件の温床となる。


夜支布 友矩
織斑一夏がいずれ出会うであろう人生のベストパートナーであり、織斑一夏の欠点も長所も全てを認めて尽くす内助の功。
織斑一夏の足りないところを埋められる多才であり、基本的に織斑一夏(23)は友矩がいないと対外的な仕事でだいたい失敗するので必要不可欠となっている。
やはり、織斑一夏と一緒にいることで呆れることも苛立つことも多いわけなのだが、織斑一夏の能力と独特の感性を活かすように付き合っているので、
常人が受けるストレスを3分の1程度に抑えており、自身も学が深いので常人がストレスと感じるものをそう受け取らない高い精神力を持っている。
そうでもなければ、“童帝”織斑一夏の側に居続けて、その馬鹿さ加減に疲れ果ててしまうか、
コンプレックスに苛まれ続けてしまうかで、早々に彼の許から離れていってしまうことだろう。
そういう意味で、織斑一夏も直感的に夜支布 友矩の存在のありがたさを理解しており、末永い付き合いになることを願っている。

“ブレードランナー”のブレインであり、コードネームは“オペレーター”。
代表的な偽名は特になく、必要に応じて偽名や役柄を使い分けている生粋の裏の仕事人であり、一夏と違ってちゃんと立居振舞も性質も変えている。
某動画サイトのアカウントを6つ以上使い分けて見たい動画をアカウントで種類分けしたり、
某オンラインゲームでマルチアカウントで自分だけのパーティを組んで専用コントローラーとディスプレイで同時プレイできたりする超人である。

406  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:11:22.22 ID:JZmH5Y3h0

五反田 弾(23)
織斑一夏(23)の設定のために年齢を引き上げられた人。そうしなかったら接点がないので出番が皆無だった。
ローディーとして勤務する傍ら、一般人として“ブレードランナー”の面々との反応の差を描くのに役立っており、
この人が居るか居ないかで読者の内容の理解が大きく差が出ることは想像に難くないことだろう。
専門家だけの軍団になると一般人にはわからない独自の世界に閉ざされがちなので、こういった素人も時として物語の解説役として必要というわけである。
そういう意味では、非常に重宝しているキャラである。

“ブレードランナー”のアキレス腱であり、コードネームは“トレイラー”。
トラックもリムジンも運転できる一級運転手であり、主な役割としては“ブレードランナー”を作戦領域に運ぶ――――――それだけだが、
秘密警備隊“ブレードランナー”としてはそれが極めて重要な要素なので、輸送役の彼の責任は意外と重たく、それだけ信頼されているわけである。


一条千鶴
IS適性:S
専用機:第2世代型IS『風待』

織斑千冬や山田真耶の同期の第1期日本代表候補生であり、現在は織斑千冬の弟:一夏の仕事仲間という奇縁の持ち主。
織斑千冬の格闘能力と山田真耶の射撃能力に匹敵する卓越した戦闘能力を持つが、
二人と比べて頭であれこれ考えてしまうところがあるために、適性としては指揮官や工作員のほうが向いていたために“ブレードランナー”となる。

秘密警備隊“ブレードランナー”の性格上、自身が先代“ブレードランナー”だったことは一夏たちには明かしておらず、
また、最重要機密である朱華雪村の素性についても知っているらしく、今作における謎の一方面についてほとんど知っているキーキャラクター。
さすがに、“ISがどうして女にしか扱えないのか”みたいな方面についてはお手上げであるが、情報通なのは間違いない。

元祖“ブレードランナー”として現在は秘密警備隊の副司令であるが、対応力の乏しい二代目“ブレードランナー”を補佐するために復帰。
コードネームは“シーカー”であり、秘密警備隊の主役である“ブレードランナー”の称号と役割は後輩に譲って、
本人は柔軟な作戦能力と卓越した戦闘能力でISが無くてもたいていのことをやり遂げてしまう凄腕工作員として暗躍する。
生身でIS用の太刀や狙撃銃ぐらいは扱うことができ、生身で幅広いIS用武装を扱えるのはこの人ぐらい。
原作でも、生身でISの武装を使っているのは千冬の他に、ナターシャ・ファイルスも確認されている。


407  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:12:21.00 ID:3zEhG37Z0

織斑千冬(24)
IS適性:S
専用機:無し

初代“ブリュンヒルデ”としてその名を刻む女傑。
今作では実の弟である一夏が(23)になったので歳が非常に近く、それだけより親しい間柄になっていることもあって、
基本的に対等の存在として一夏(23)を扱っており、唯一の肉親であることを抜きにしても最も信頼しあっている。

しかし、自分が姉であるという強い自覚から弟を養っていくために働きに出ているために隣にいることは極端に少なくなっていた。
それ故に、大学時代に弟が得た親友である夜支布 友矩の存在にちょっとばかり妬いているところがあると同時に、
自分に代わって公私ともに密接に弟に尽くしてくれている友矩にも強い信頼を置いている。
小姑として友矩にいろいろと言ってみたいことがあるのだが、家のことを握られているので友矩にはなかなか強く出られない。
五反田 弾(23)に対しては、原作と違って歳が近いためにそれなりに交流があり、顔馴染みとして一定の信頼は置いている模様。

一夏の歳が近くなったために、幼少期の養育の苦労が軽減されたのか、対等の存在としての付き合いの影響からか、
彼女自身も弟が掲げている“人を活かす剣”の思想が根付いており、相変わらず立場に縛られて身動きがとれない場面が多いが、
今作では明文化されない影の努力や配慮がうかがえるようにしてみた。

前作:番外編と比べると、彼女自身の人間性が総合的に大きくなっているので安定感が抜群である。
そもそも、番外編では大人がISで戦えない苦悩とそれを補う大人の知恵や教育指導が大きなテーマとなっているのだが、
今作では“ブレードランナー”という学園のためにISを自由に使える大人の味方が登場しているので、
千冬としても読者としても今までになかったとてつもない安心感のようなものを覚えたのではないかと思われる。
剣禅編はまさしく「健全」で安心できることがテーマであり、『大人が本気を出したらこうなる』という例を示せたのでないかと思う。
ただしバランス調整で、今作はヒーロー活劇らしく『ダメな大人が大惨事を招いてくれる』のでスリルは損なわれていない。


篠ノ之 束
今作では学年別トーナメントの段階で登場した全ての元凶。
しかし、明らかに従来作とは態度が異なっており、勘の良い読者ならばこの違いがどこから出てきたのかすぐに思いつくはずである。
だってねぇ? ジャンル:織斑千冬世代 なのに、今作最大の変更点というのが――――――。

今作の篠ノ之 束はかなり感情的であり 同時にどこか冷めた態度を取り続けており、原作の唯我独尊で他人のことなどお構いなしの態度とは何かが違っている。
現時点では情報は少ないが、間違いなく今作の謎に絡んでくるキーキャラクターであり、これからどう出てくるのかご期待ください。
最初から悪の権化として暴れてもらいます。


408  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:13:09.97 ID:JZmH5Y3h0

第2世代型IS『打鉄/知覧』“呪いの13号機”→『打金/龍驤』“黄金の13号機” 
専属:朱華雪村“アヤカ”
攻撃力:D+無いとは言わないが、格闘戦は搭乗者の力量に左右されるので
防御力:A+第2世代型IS最高の防御力に加えて、“アヤカ”の天性の操縦センスによる防御センス
機動力:D-機動力は最低ではないが、PICの基本移動ができずにマニュアル歩行に頼っているので機動力は実際には最低クラス
 継戦:D+単一仕様能力『落日墜墓』の自在性により、攻撃手段にバリエーションがある
 射程:A 単一仕様能力『落日墜墓』の最大射程
 燃費:S 単一仕様能力『落日墜墓』の圧倒的なエネルギー効率と出力調整に加えて機体そのものが低燃費

コアナンバー36。所属番号『13号機』であることも合わせて、4+9=13,4×9=36となる忌み数通りの不吉な経緯を持った機体。
一般機としてのリミッターが解除された状態となり、銀灰色の部分が黄金色に変化しているのが特徴であるが、機体の基本性能に実は変化がない。
金色の『打鉄』というガラリと印象が変わった機体色故にそれが“アヤカ”のパーソナルカラーとして認知されることになっていく。
カラーリングの違いで印象が大きく変わる例として、制式採用のネイビーグリーンの『ラファール』と競技用のオレンジカラーのシャルルの『ラファール』がある。
色が黄金色なので、巷では『打金』“黄金の13号機”などと呼び替えられることになる。
劇中においても目覚ましい活躍をしたことから、日本政府としても新たな研究対象として『知覧』用にパッケージを送りつけることになる。
ついでに、日本政府が宣伝のためにコードネームを与えており、公式での通称は『龍驤』となり、次第に“彼”も周りもそう呼ぶようになる。

「初期化」(=フィッティング)された一般規格の通常の第1形態から無理矢理リミッターを外した状態へと『進化』したことによって、
外見こそ銀色の部分が金色に変わっただけに見えるが、リミッターが外れたことで「最適化」(=パーソナライズ)ができるようになったことにより、
実は外観そのままに第2形態に形態移行したことになっているらしく、単一仕様能力『落日墜墓』が発現するに至っている。
そのために、機体性能自体は何も変わってないが総合的な戦闘能力は爆発的に向上している。

また、明らかに空戦用パワードスーツ:IS〈インフィニット・ストラトス〉とは思えないような機体運用が特徴的であり、
後述の『PICカタパルト』で垂直方向にPICで移動しているISがパイロットが認識できる範囲で近くにいれば、
重力下でジャンプひとっ飛びでビルからビルへと飛び移れるような超人のような戦いが可能となっており、その動きはさながら飛蝗のようである。
ただし、スラスターによる縦の動きや横の動きは鋭くても、PICに依存する箇所では本当にダメ。ランクAが泣くぐらい悲惨。
それ故に、動きこそ普段はPICが使いこなせてないのでマニュアル歩行でノロノロだが、単一仕様能力を通常戦闘では使用しない制約から、
唐突に『PICカタパルト』で高速で垂直に飛び上がって頭上をとってからの後述の単一仕様能力『落日墜墓』で自由落下しながら地面に敵機を叩きつける、
――――――『昇龍斬破/ライジングドラゴン』が実質的な必殺技となっており、ISバトルマニアを唸らせるロマン技のために人気が沸騰する。

409  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:13:46.93 ID:3zEhG37Z0

単一仕様能力『落日墜墓』
あまりに強力な効果のために“アヤカ”は最終手段としてしか使わないようにしている、筆者の二次創作で登場する中で究極のIS殺しの1つ。

たまたま“13番”という番号を割り振られて、往々にして乗り継いできた生徒たちが負けた原因を『13番だから』という理由にして責任転嫁し、
それが一種の伝統や習慣として定着していった結果、同じISなのに『13番』というたったそれだけの理由で不当な扱いを受け続けたコアナンバー36の自我が、
無言のうちに生徒たちのいわれのない恨み辛みや悪意を吸収して、実際に搭乗者を無意識のうちに敗北に引き込む“そういうもの”になっていた。
そんなところに、同じ“IS適性がある人間”なのに迫害を受け続けて人間不信に陥っていた“アヤカ”が搭乗したことによって感応しあい、
最終的に“アヤカ”がコアナンバー36と「深層同調」に成功したことによって第2形態移行したと同時に発現している(気づいたのはもう少し後)。

つまり、くだらない理由で不当な扱いを受けてきた“アヤカ”とコアナンバー36がISに復讐するために編み出した単一仕様能力である。
『知覧』がこの時 伝えるエネルギーに負の感情や雑念を載せたものをアンチエネルギーと呼んでおり、
これ自体は非常に弱々しい無害そうなエネルギーであり、相手のISのシールドバリアーを打ち消すどころか吸収されてしまうほどであるが、
お気持ち程度のエネルギー消費で情報付加できるので燃費が異常に良い。
また、これ自体もISが持つPICのちょっとした応用であるが、アンチエネルギーそのものを指向性を持たせて直線上なら認識できる範囲まで飛ばせる。
そして、このアンチエネルギーを吸収したが最後であり、「深層同調」できるだけの高度な認識力がない限りは、
普通では認識できない次元で搭乗者が意図しない強烈な念がISのシールドエネルギー帯を渦巻き、
取り込まれたエネルギーの中を循環してアンチエネルギーがコアに到達するので、コアの調子があっという間に悪くなって、PICが使えなくしてしまうのだ。

ISと搭乗者の間のコミュニケーションを“アヤカ”とコアナンバー36が受けてきた強烈な負の思念で阻害して操縦不能にしてしまうのである。

シールドバリアーなどはISが『自分の身体を守るために』自動的に発動させているものであるので問題なく使えるが、
PICの効果は基本的に『搭乗者の意思をISが受け取って調整・実現している』ものなので、
ISと搭乗者 間の意思疎通を阻害された場合、突如としてPICが完全停止して機能しなくなるというのはそういうことである。
この原理を解析できる人間はまずいないので、『PIC無効化攻撃をしてくる』とはわかっても根本的な対策ができないのである。
一方で量子化武装の展開は、ある程度の「最適化」された履歴やパターンが実装されているためにパスが別に繋がり続けているので問題なく使える。
完全にパターン・コマンド化された移動ならば問題ないが、PICによる空間移動だけは常に任意で動かさざるを得ないものなので阻害されるわけである。

恐るべきは一瞬でコアと搭乗者とを分断してしまうほどの強烈な念であり、辛うじてISコアにしか効かない程度ですんでいるが、
これが鋭い感性の人間だったり、送り込まれるアンチエネルギーの濃度が異常に濃かったりする場合は搭乗者にも悪影響を与えてしまう恐れがあるのだ。
また、アンチエネルギーの性質でISの装備に任意で付加させることができるので、接近戦で鍔迫り合いになってもアンチエネルギーは伝わってしまうし、
機関銃の弾に付加してしまえば1発でもかすってしまえばそれでPICが急停止して身動きがとれなくなるのでそこから一方的に蜂の巣にしてしまえる。
更に、アンチエネルギー自体が元々“悪意”というとらえどころのないものなので、
アンチエネルギーそのものを飛ばす場合は認識できる範囲で自由な形で直線上に飛ばせるので、見えないし 避けられない。
→ ISから供給されるエネルギーとして物質界に顕現している都合上、物理的な性質で最低でも弾丸と同じぐらいの速さでしか飛ばないのが唯一の欠点か。
→ 光の速さで飛ばないノロノロビームだとしても、『PICカタパルト』や射出手段の工夫でいくらでも速く飛ばすことが可能。
 → “アヤカ”は『PICカタパルト』で相手をフォーカスして自分とを一直線に結んでアンチエネルギーを飛ばしているので相手が静止状態ならば必中である
アンチエネルギーの距離による減衰はかなり緩やかであり、認識できる限りの直線距離ならどこまでも飛んで行く
→ 認識を止めたその時が最大射程であり、シールドバリアーに直撃しなければそこでアンチエネルギーは霧散してしまう
→ ただし、直線上にしか飛ばないので遠くにいる相手を狙うのはそもそも難しい(フォーカスした相手が静止状態ならば必中である)


このように、『零落白夜』のバリアー貫通攻撃と同等以上に非常におぞましい攻撃なのである。
それ故に、PICが使えなくなるという掟破りの表層的な効果の濫用を心配して“アヤカ”が使いたがらないだけではなく、
本質的に自分と同じ心の闇を相手にも植えつけることを忌避して使いたがらないのである。

ただし、元々が弱々しいエネルギーなので、取り込んだエネルギーの部分を消費してしまえば、一過性ですぐにPICが回復してしまう。
そのために『落日墜墓』を使うとなれば、連続してアンチエネルギーを注入し続けて相手のPICを封じてしまう多撃必倒が基本戦術となる。
また、この性質のために燃費が良いISほど『落日墜墓』の効果が長続きしてしまい、燃費の悪いISほど『落日墜墓』に強いという性質がある。
しかしながら、それはどちらとしても短期決戦を挑まないと『落日墜墓』に抗えないという意味であり、
まさしくIS〈インフィニット・ストラトス〉によって虐げられてきた“アヤカ”とコアナンバー36の復讐であり、『日は落ち、墓へ墜ちる』能力なのである。

410  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:14:29.30 ID:JZmH5Y3h0

解説別口 実際的な説明が欲しい方へ
――――――――――――――――――
自身のシールドエネルギーを不可視のアンチエネルギーに変換する能力であり、アンチエネルギーが直撃すると自機以外のISのPICが一定時間 効果を失う。
つまり、ISの基幹システムを担うPICを失うことによって浮遊能力や低重力、反重力も失うので、ISは結果的に墜落することになる。
あるいは、自重に押し潰されることになり、場合によってはそれで自壊する場合がある(PICが無効なだけで剛体化は解除されていないのでそこまでいかないが)。
『白式』の単一仕様能力『零落白夜』がシールドバリアー無効攻撃なら、こちらはPIC無効化攻撃であり、違ったベクトルで対IS用究極兵装となっている。
『零落白夜』は雪片弐型でしか使えないが、『落日墜墓』はパイロットのイメージ通りにアンチエネルギーを成形できるために応用性が比類ない。
アンチエネルギーをデコピンで飛ばすことやマニピュレーターにまとわせて直接 掴むことでもISのシールドエネルギーに接触させれば効果は必ず瞬時に現れる。
また、『紅椿』のエネルギーブレード『雨月』『空裂』と同じ要領で武器にまとわせて射出するような使い方ができる。
射程やPIC無効時間は出力に比例し、『打鉄』が持つ太刀の刀身いっぱいにアンチエネルギーをまとわせて力いっぱい射出して地上からアリーナの天井まで届き、
ミリレベルのエネルギー出力でもゼロコンマ秒は必ず相手のPICを無効化できるので凄まじくエネルギー効率が良い。
一瞬でもPICが切れると、高速戦闘になれているベテランパイロットほど取り乱すことになり、それだけでも相手に与える動揺は大きい。
更に、不可視・無反動でかつアンチエネルギーなので計測・察知できず、基本的に回避不可能な攻撃なので、気づいた時には自由落下という恐怖の能力である。
PICを無効化するので、それを応用した『AIC』をはじめとした数々の第3世代兵器も真っ向から叩きつぶせてしまえるので実際に強力無比である。
PICを失ったISはまさしく鉄屑を背負っただけの人間でしかなくなり、持ち前の機動力を活かせずに袋叩きや蜂の巣にされてすぐに撃破に追い込まれることだろう。
この能力が本領を発揮するのは機関銃などで弾幕を張った時であり、アンチエネルギーをまとった弾丸を1発でももらっただけで一瞬でPICが無効化されるので、
PICを失ったその一瞬の隙に連続で畳み掛けて身動きがとれないうちに次々とアンチエネルギーを撃ちこんで完封することが実に容易である。
ISは空戦用パワードスーツであり、空中での展開を前提とした装備も多いためにこの能力の直撃を受けた場合はそれで敗北が確定する機体が存在する。

ただし、激しくエネルギー消費をしている機体に対してはPICコントロールを奪うほどの干渉力が働かないようである。
つまり、『零落白夜』発動中の『白式』に対してはまったく通用せず、あるいは出力最大時の『紅椿』にも通用しない。
またまた、高出力の重たいエネルギー兵器を連発している浪費状態の機体に対しても効果が無効化されてしまうし、
絶対防御などが発動して急激なエネルギー消費をしているダメージ状態でも『落日墜墓』の効果は途切れるので、
よって、賢い戦い方としては一撃必殺ではなく多撃必倒でPICを継続して封じてハメ殺しするのがセオリーとなる。
しかし、そもそもエネルギー消費の激しい燃費の悪い武器を好き好んで搭載している機体は数少なく、それだけで対策は難しいものとなる。
また、よしんばこの単一仕様能力に対抗できる能力を持ったISでもエネルギー消費を続けなければ対抗できないので短期決戦を挑まざるを得なくなる。
それ故に、あらゆるISに対して互角以上に戦えるという点では驚異の単一仕様能力であり、海上や底なし沼の上で相応の出力で直撃を受ければ溺死は免れない。

しかし、『落日墜墓』の能力がいくら凄くてもそれを発現させている機体が『打鉄』である上にパイロットの“アヤカ”にはPICによる基本移動がままならず、
そもそもの機体性能や機体相性の差でこの能力を活かせないまま撃破される可能性が非常に大きいのが最大の弱点である。
また、直撃すれば自機以外のISのPICを無差別に無効化するので、基本的には1対1にしか向かないし、直撃したかの判定は実際に墜落するまでわからない。
結果として、PICを使いこなせる相手をPICが使いこなせない自分以下の機動力に制限するための能力であり、それを使ってようやく互角の戦いができるのである。
そういう意味では、ハイリスクハイリターンの『白式』よりも相手を選ぶ可能性が高い(『白式』は誰であろうとトップクラスのスピードで踏み込める)。
また、『PICを無効化するだけ』の能力とも言えるので、織斑姉弟のように生身でISと互角に戦える超人やPICに依存しない武装には終始不利となる。
――――――
411  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:15:09.04 ID:3zEhG37Z0

『PICカタパルト』
“アヤカ”が発見した、自身と認識できる範囲の対象のPIC力場を合わせて自身の慣性移動能力を増幅させるIS共通能力……らしい。
本来、慣性移動しかできない宇宙空間で推力を失うことはすなわち身動きがとれなくなり、そのまま死に繋がっており、、
それを克服するための手段の1つとして用意されていたのではないかと、夜支布 友矩は推測している。

基本的に自分と相手のPIC力場を結びつけるためにフォーカスする必要があり、対象を認識できる範囲でしか効果を発揮できない。
しかし、効果は既存のIS運用法に革新をもたらすほどのものであり、宇宙空間での長期運用を容易とするほどの能力を持つ。
逆に、重力下での運用には厳しいものがあり、それ故に発見されてこなかったというわけである。
完全に宇宙空間で使われることが前提なので、『これ』に気づいて、更には使いこなせる人間は今のところ“アヤカ”しかいない。

1,自分と相手のベクトルを合成して、その合成ベクトルで自身を射出する
言うなれば、フォーカスした相手の今現在のスピードをそっくりそのまま自分の今現在のスピードに足して高速移動することが可能。
ただし、カタパルトと呼ばれる所以は計算通りの合成ベクトルの勢いで吹っ飛ぶさまであり、
その速度に対応していなければそのまま昇天もあり得るという危険極まりない運用ができてしまえるところにある。
仮に亜光速と亜光速の機体同士でこれを行った場合は光の速さを超えることができるかの答えを見ることができてしまえる。

本編においては、重力の影響とPIC移動ができないハンデで、垂直方向に動いている相手(今のところセシリアのみ)にしか“アヤカ”はできなかったが、
それが『昇龍斬破』という“彼”固有の必殺技として認識されるようになり、その発動条件が周りにはわからないために迂闊な動きをしなくなったので、
非常事態での死闘になればアンチエネルギーを飛ばして『落日墜墓』しやすい環境へと変遷していくことになる。

それ故に、“アヤカ”独自の抑止力として『PICカタパルト』の技術と単一仕様能力『落日墜墓』はセットとなっており、
普段は『PICカタパルト』による必殺技『昇龍斬破』と予想もつかない挙動で警戒させて相手の動きを鈍らせて『昇龍斬破』できるように相手を誘い込む。
非常事態においては素知らぬ顔で『落日墜墓』で相手のPICを封印してすぐさま鎮圧させることができるのに一役買っている。
特にこの恩恵によって、IS学園では箒とラウラしか『落日墜墓』を実際に見たものはいないのだが、
ラウラはどれだけ“アヤカ”が模擬戦で負け続けても一切信頼を損なうことはなく、周囲も“アヤカ”の実力を認め続けることになる。


-必殺技『昇龍斬破/ライジングドラゴン』
『PICカタパルト』による垂直急上昇で高所の相手に急接近する、今のところ“アヤカ”専用の必殺技。
PIC力場を合成して相手と一直線に自分を結んで吹っ飛んでいくので、鈍重な黄金像が突如として自分めがけて飛んできたら誰でもビビる。
接近戦の鬼とも評される“アヤカ”に近づかれたら代表候補生でもほぼ負けは確定であり、まさしく必殺技として“アヤカ”を象徴する奥義となっている。

模擬戦においては、直接の殴打や掴み技は禁じ手なので『PICカタパルト』で近づいたらほとんどの場合、
『落日墜墓』をまとわせた太刀の袈裟斬りで相手の肩や首に剣を当て続けて1秒ほどPICを使用不能にして相手を軽いパニック状態に陥れて、
自身もPICのベクトルを垂直方向に修正して一緒に自由落下して地表に叩きつける流れが一般的となる。
相手はPICが停止しているのでIS本来の重量のまま落ちるのでスラスターを噴かせても十分な推進力が得られず地面に激突し、
自分はPICが生きているので地面に激突する前に余裕を持ってスラスターを噴かせて危うげなく着陸して一方的なダメージを与えられるわけである。

最近では、『PICカタパルト』とPICの低重力化を応用して、相手のベクトルを盗んで跳躍力や追尾性の強化などができるようになっており、
明らかに元が『打鉄』だとは思えないようなアクロバティックで機敏な動きができるようになり、動き回るISほど『知覧』の機動力が強化される傾向にある。
何にせよ、相手のベクトルを利用して効果を得るために高度をとって大きく動き回るIS相手だと実に戦いやすい。
逆に、空中でまったく動かない敵に対しては『落日墜墓』で墜落させれば勝利は確定なので隙がない。

――――――ただ、いろいろな制約からきれいに『昇龍斬破』を決めて模擬戦で勝利すること自体が稀なのだが。

2,自分と相手のPICのベクトルを融通する
これは言うなれば、身動きがとれなくなった対象をPIC力場を介して引き寄せることに使える。――――――無重力空間ならば。
1の効果は実際には2の効果の一端でしかないのだが、重力下で“アヤカ”が使う分には1しか使えないのであまり気にしなくていい。
おそらく、本編ではまったく使い道がない。――――――無重力空間で戦うことがなければ。


412  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/09/23(火) 10:16:00.63 ID:3zEhG37Z0

第2世代型IS『風待』Ver.5.0 第2形態
専属:一条千鶴 元祖“ブレードランナー”
攻撃力:B+接近格闘機だが、拡張領域で携行可能となった大型火器の恩恵で火力が高い
防御力:B+後の世界シェア第2位となる『打鉄』の基となる機体故に当時としては破格の重装甲だった
機動力:A+旧式機であるが、日本初の第2世代型となる『暮桜』の後継機でかつ第2形態なので機動力は『白式』に匹敵するほどになる
 継戦:B+拡張領域を生かして豊富な武器を使い分けられる。「高速切替」にも対応している
 射程:B+豊富な火器によって射程は自由自在。これが第2世代型である
 燃費:A-第2世代型初期の機体はみな低燃費であり、この機体が重装甲であるために燃費はいいが、武器切替によるエネルギー消費が多くなる

今作で登場したばかりの『G2』であるが、あまりにも力量差がありすぎたために『零落白夜』をコピーして使ったぐらいしかわからないことだろう。
現在は第2世代から第3世代に移る過渡期になるが、着々と基礎の近代化改修がなされて性能そのものは並みの第3世代型IS以上の性能があるわけだが、
第3世代型ISの定義が『イメージ・インターフェイスを利用した第3世代兵器を搭載したIS』という大雑把なものなので、
定義通りに考えれば、第3世代兵器を搭載していない第2世代型の新型の超高性能機が存在していても別におかしくない。
その1機が『風待』であり、旧式でありながら新型であるというとんでもない経歴の機体であり、
“ブレードランナー”として、最初の第2世代型ISとして様々な運用試験が行われ続け、基本的にどんな装備でも受け付ける仕事人なISコアに仕上がっている。
むしろ、現在の第3世代型ISは実験機がほとんどであり、軍事的有用性で言えば普通に銃火器を積んだ第2世代型ISのほうが戦術的に圧倒的に強い。
(それでも、どれだけ強力な弾丸を使っても一撃でISを墜とせないのでコストパフォーマンスが悪く、経費削減のために格闘武器が多く普及した)


特殊装備
「一般機化」のリミッター
通常は一般機などに組み込まれるリミッターであり、「最適化」させないための装置であるが、
専用機の場合は「最適化」して「形態移行」してもらうために普通は取り付けないものである。ましてや、第2形態の機体に取り付けるものでもない。
しかし、一条千鶴の『風待』は、専用機がない織斑千冬のために貸し与えるために特殊な使い方をしており、
常識に囚われない“ブレードランナー”らしい運用の仕方がなされることになった。


単一仕様能力『大疑大信』
またの名を『大義大震』であり、簡単にいえば、――――――相手のISから後付装備の所有権を奪う能力であり、
勝手に相手の後付装備を遠隔展開して使ってみたり、本来の所持者に対して後付装備の使用制限を一方的にしたりと、『ラファール』殺しな能力である。
『零落白夜』や『落日墜墓』と同様に、搭乗者の認識の範囲が卓越していれば能力の適用範囲まで拡大し、
ついには単一仕様能力までもコピーしてしまうことさえも可能なようであり、
乗り手の認識力次第でどんなことでもやってしまえるという、これまた単一仕様能力の究極とも言えるものの1つである。
ただし、標準装備とされるものは相手のISがそれを『生来的に自分の身体』だと認識して解除させることが難しいので(原則的にできないわけではない)、
発現当初はまだ第1世代から第2世代への過渡期だったために役に立たなかったのだが、5度の「最適化」と「形態移行」によって再び発現し、
第2世代型が普及しきったご時世において最も力を振るう単一仕様能力となった。

千冬が『大疑大信』を扱いこなせないのは、まさしく千冬が『暮桜』ばかりにしか乗っていなかったがために他の機体の仕様がわからない点であり、
相手の装備を奪い取るのに必要な認識力が大きく欠けているために(実際はVTシステム機相手だったので後付装備を奪うことはできないのだが)、
気力とド根性と乗り慣れた感覚から無理やり、かつての『暮桜』が使っていた『零落白夜』の光の剣を後付装備の雪片壱型で再現するしかなかった。
むしろ、千冬は『零落白夜』一辺倒であり、それしか使いこなせないために(そもそも借りている機体が第2形態なので余計に使いこなすのが難しい)、
千冬では『大疑大信』の持つポテンシャルの全てを引き出すことができない――――――逆に単一仕様能力『零落白夜』のコピーはできた。

そういうわけで、実に乗り手によって一長一短にしか戦力を引き出せない単一仕様能力であり、千冬のように一辺倒では半分もポテンシャルを引き出せず、
一条千鶴のように幅広い分野の装備に精通した万能型のドライバーでないと『大疑大信』でできることは非常に限られてくる。
しかし、逆を言えば ある一定の十分な認識力さえあれば、単一仕様能力さえもコピーしてしまえるので誰でも一定の戦力強化が望めるとも言える。
何にせよ、秘密警備隊“ブレードランナー”の幅広い作戦領域で活躍するのには千冬では不適任なのは確かであり(ただの格闘機として使う分には問題ない)、
それぞれが培ってきた人間性と真実が問われるのが『大きく疑って、大きく信じ抜く』単一仕様能力の真相というわけである。


415  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:09:33.55 ID:CuqLu7mj0

――――――仮想世界“パンドラの匣”


――――――
友矩「――――――2時の方向!」
――――――

一夏「はああああああああ!」ブン!


魔物「アガァアアアア…………!」ズバーン! ビチャ・・・


魔物「」モクモク・・・ ――――――異形の存在は黒い煙となって立ち消えていく

一夏「……他に反応は?」

――――――
友矩「これで全てです」
――――――

一夏「そうか」チラッ


雪村「………………」(ISを展開した状態だがその場に座り込んでまったく動かない)


一夏「気づいてるか、友矩?」

一夏「――――――今日も一段とブラックホールに近づいたもんだな」

一夏「IS学園の寮室から始まって、津々浦々と日本各地を進んでは来たが、その度に魔物や“魔王”が強くなってきている気がする」

一夏「もちろん、多少強くなったところで大した脅威じゃないんだ」


――――――なんてったって、俺には『白式』と“人を活かす剣”があるからな。


416  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:10:42.30 ID:A2g0p8Ya0

一夏「けれども、いくらデビルメイクライみたいなことがこの仮想世界でできるようになっても。」

一夏「俺は悪魔と人間のハーフじゃないから、さすがに度重なる精神攻撃でクラクラするようになってきたぞ……」ウーム

一夏「ちょっとRPGよろしく――――――、レベリングで精神力の強化をしないとマズイよな……」

一夏「最初の時も勝手がわからなかったのもあったけど結構ヤバかったもんな……」

――――――
友矩「それは当然かもしれません」

友矩「魔物の正体は本人としては思い出したくもない記憶の欠片ですから、その記憶を元にした仮想世界の構築に対する拒否反応でしょう」

友矩「特に今のところ 感触から言って、まだ“アヤカ”が心の傷を受けた遙か後の廃人としての時期だと推定されます」

友矩「廃人とはいっても、周囲からの悪意や印象に残ったことは朧気ながらも認識していたようです」

友矩「人間というものはペタバイトの記憶容量を持っていると言われますし、それが本当ならどんな些細なことだろうと認識したものは忘れないはずです」

友矩「要は、それを思い出せるかどうかは、その記憶の引き出しの開け方と取り出し方 次第というわけです」

友矩「そして それとは別に、薬物中毒者が更生してもふとした拍子で禁断症状が再発するフラッシュバック現象が存在するように、」

友矩「頭が忘れていても、頭以外のところが記憶した危険情報に対しては先立って身体に危険信号を送るものも存在します」

友矩「ですから、『ニュートラライザー』による記憶抹消も原理的には記憶そのものを消しているわけじゃなく、奥深くに封印しているだけ――――――」

友矩「ふとした拍子にフラッシュバックする可能性もあるわけなんです。ハードディスクのデータを完全抹消できないのと同じように」

友矩「確実に記憶を消したい――――――否、見つからないようにしたいのならば、ハードディスクの処分の方法と同じく、」

友矩「替わりのデータで容量をいっぱいいっぱいにして検索効率を著しく落とすことが対策となりましょうか」

友矩「この電脳ダイブでは、脳に封印された忌々しい記憶を引き摺り出し、身体に刻まれた恐怖の体験を揺さぶり起こしているわけですから、」

友矩「“アヤカ”本人の意識は眠ってはいても、多大なストレスになっているはずです」

友矩「それは、“アヤカ”が電脳ダイブから帰還した時に多量の汗と高い心拍数になっていることからも予測できます」

友矩「ですから、次の領域の構築が終わったらアレを必ず忘れずにやってください」

友矩「それが、この領域を征服した証となります」
――――――

一夏「ああ。メンタルケアは大切だよな」

一夏「最初はIS学園の寮の一室の狭い空間から始まっていったのに、今では下手なオープンワールドゲームよりも遥かに広大な世界を築きやがって……」

一夏「でも、そこに人は誰一人として存在しないんだよな」


一夏「――――――空虚な世界。ただ広いだけの世界だ」


417  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:12:49.73 ID:CuqLu7mj0

一夏「ここはもう仮想空間と呼ぶべき規模は超えて、ここは“アヤカ”そのものを体現した世界となったよ」


――――――仮想空間“パンドラの匣”


一夏「新たな領域が開放される毎に彼方のブラックホールへ続く道が延びていく」

一夏「おそらく、あのブラックホールこそが“アヤカ”の壊れた心の象徴であり、その先に――――――、」


――――――なぜ“アヤカ”がISを扱えるようになったのかの答えが待っている。


一夏「ただ漠然とそう言われているだけだけど、ブラックホールを越えてホワイトホールに通じる特異点が存在するんだろうな」

――――――
友矩「実際には、ブラックホールは超重力の塊ですから物理的には“無”しか存在しないんですけどね」

友矩「ただ、魔物のデザインやこの世界の構造からして――――――、」

友矩「“彼”が普通の子供だった頃にプレイしていたと思われる某世界的コンピュータRPGの影響が随所に見受けられます」

友矩「領域と領域とを結ぶ接点が鏡なところからしても、ここは言うなれば『幻の大地』という名の“アヤカ”にとっての現実――――――」

友矩「そう考えれば、“彼”の原初的な悪意に対する捉え方があのブラックホールというわけなのでしょう」
――――――

一夏「すると、『狭間の世界』ってのがあるのかな?」

一夏「ここ最近は一段とブラックホールの引力が強くなってる気がするな」

一夏「それどころか、出発地点であるIS学園を出る時が一番 気を使うな。出落ちしないかヒヤヒヤするぜ」

一夏「ちょっと前までは鈴ちゃんの姿をした魔物やシャルロットの姿をした魔物にも出くわしたもんだ。あれにはちょっと驚かされたよ」

一夏「まあ、IS学園が“アヤカ”にとって一番新しい現在だからこそ、魔物も“魔王”も多少は更新されて再配置されちゃうんだけどね」

一夏「けど、今回はやたら子供よりも大人の魔物が多かったな」

――――――
友矩「ええ。学年別トーナメントにおけるIS学園内外からの襲撃に思うところがあった――――――そう考えるのが必然です」
――――――

一夏「大人の姿をしていると思ったらVTシステムの千冬姉もどきに化けてくるんだもんな……」

一夏「ただ、“アヤカ”からすると単一仕様能力『落日墜墓』があるから雑魚って認識らしいからメチャクチャ弱かったけど」

一夏「最後の一人だけだったな、手こずったのは。小賢しく後ろに回りこんで不意討ちを執拗に狙ってくるやつが混じっていた」

一夏「――――――あ、テキストデータを送ってくれ。今日は何だ?」

――――――
友矩「はい。今 送りますね」カタカタカタ・・・

友矩「第4アリーナで“アヤカ”を窮地に追いやった最後の1機に対する印象でしょうね」

友矩「まさしく背後からの不意討ちで“アヤカ”の『知覧』を強制解除させるほどに追いやりましたから」
――――――

418  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:14:20.92 ID:CuqLu7mj0

一夏「でも、そう思うと最近の“アヤカ”はまた一段と人間不信の色が強くなってきたな」

一夏「今度のやつは――――――、あれは真耶さんだと思う。いつもヘラヘラ笑っていて遠くからジッと眺めているだけっていう魔物だったけど」

――――――
友矩「…………一応、“プロジェクト・パンドラ”の一員としてちゃんと支援してくれているんだけどね」

友矩「それをわかっていないのか、あるいは“アヤカ”がイラッときたんでしょうね。――――――頼りがいがないから」

友矩「ここのところの魔物のデータベースを眺めていると、1週間のうちに何があったのか丸わかりだね」
――――――

一夏「うん。魔物っていうのはそんなもんなんだけどさ?」

一夏「けど、さすがは“魔王”といったところだぜ」

一夏「記憶領域の最終プロテクトという意味なのか、それとも“アヤカ”が潜在的に抱いているその場その場の最大限の恐怖を体現した存在なのか、」

一夏「まさか、仮想世界で本格的な対IS戦闘をするだなんて思わなかった」

一夏「空中戦なんて久々だぜ――――――飛びすぎるとブラックホールの引力に捕まってしまう点でかなり神経を使う」

――――――
友矩「恐ろしいISでした。空想とはいえ、実際に存在していたら第3世代型ISなど――――――」

友矩「いえ、人型ISなど駆逐されてしまいかねないような大物が相手でしたね」

友矩「しかし、――――――さすがは“ブレードランナー”です」

友矩「よくぞ、5m級の東洋龍型ISを初見で撃破してくれました。“ドラゴンスレイヤー”にふさわしいですよ」
――――――

一夏「いや~、口からは火炎放射、両手からは『AIC』って何なんだよ、あれぇ?」

――――――
友矩「敵ISを両手の『AIC』で拘束した後に火炎放射で直接 パイロットを焼き殺す――――――考えられる上で最凶の攻撃ですよ」
――――――

一夏「動きがまんま『まんが日本昔ばなし』の龍みたいなトロさだったから何とかやれたけどさ――――――『零落白夜』はホント偉大!」

一夏「“アヤカ”がこれからISの知識を深めていく毎にあんなのとまた戦わないといけないと考えると凄く複雑……」

一夏「それに、“魔王”っていうのは何だか最近はISか何かの超常的な巨悪がモチーフになってきているから尚更だよ」

――――――
友矩「しかたありません。IS適性があったばかりに“彼”は自身の存在を奪われ、“アヤカ”に貶められたのですから」

友矩「“彼”にとっての“魔王”というのは、今も昔もIS〈インフィニット・ストラトス〉なのです」

友矩「そういう意味では、普段はできないような対IS戦闘ができて質の良い訓練になってませんか?」
――――――

一夏「一応 仮想世界とはいえ、こっちとしては命懸けの戦いをしてるんだけどな? ――――――廃人になるかどうかの」

――――――
友矩「大丈夫です、――――――“ブレードランナー”は負けません」

友矩「ISも仮想世界も脳波制御――――――精神の世界ですから、精神力が強い者が最終的な勝者となるのですから」

友矩「あくまでも魔物や“魔王”たちの攻撃は物理攻撃に見せかけた精神攻撃であり、」

友矩「“アヤカ”としても勇者に打倒されるべき悪の似姿だからこそ、基本的には一撃入れば倒せるような雑魚ばかりです」

友矩「気を強く持つことです。一撃で倒せると信じていれば実際にその通りでした」

友矩「気後れしたり、圧倒されたりすると魔物が強くなることもわかりました」

友矩「ですから、私は言い続けます。確信しています。信仰しています」


――――――“ブレードランナー”は負けない。


友矩「とね」
――――――

419  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:15:10.42 ID:A2g0p8Ya0

一夏「………………フゥ」

一夏「やっぱり友矩と喋っていると気分が落ち着くよ」

一夏「さっさと終わらせて現実に帰りたい気持ちもあるけど、こうやって喋っていくうちに気力が回復していくぅ~」

――――――
友矩「テキストの内容はもう読みましたか?」
――――――

一夏「ああ。なかなかおもしろいのを選んでくれたな」

一夏「大学時代はこういったものは教養として必要だったからただ読んでいただけだけれど、」

一夏「こうやって相手に言い聞かせながら振り返ってみると、『ああ なるほどな~』ってつくづく実感させられるになって楽しいんだよ」

一夏「これが電脳ダイブで疲れた心と体を癒やす最高のエリクサーだよ」


――――――聞こえてるか、“アヤカ”?(イチカは『5分でわかる世界の名著シリーズ4.txt』を読んだ!)


一夏「今日もおつかれ! 恒例の世界の名作コーナーの時間だぞ! 今回もおもしろい一節を取り上げるから良く聞いてくれよな」ニッコリ

一夏「今日 紹介するのは――――――、」

雪村「…………………」

一夏「――――――でね? 何て言うんだろう? 解説にはこう書いてあって――――――」

雪村「…………………」

一夏「――――――他にもこんなのがあってだな?」

雪村「…………………」

――――――
友矩「――――――間もなく5分」
――――――!

一夏「――――――おっと、そろそろまとめないとか」

一夏「つまり、今日のはこういうこういうことで、“アヤカ”には――――――」

雪村「…………………」

一夏「――――――はい。きっかり5分の世界の名作コーナーでした!」

一夏「拍手~!」パチパチパチ・・・

雪村「………………」

――――――
友矩「――――――残念。5分1秒」
――――――

一夏「ちぇっ!」

一夏「それじゃ、“アヤカ”? 今回の電脳ダイブもこれで終わり。次また会う時まで元気でな!」

雪村「………………」

――――――
友矩「では、現実世界へと帰還します。目を瞑って――――――」カタカタ、ピッ
――――――

一夏「さて…………」

雪村「………………」

420  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:16:09.61 ID:A2g0p8Ya0

――――――
友矩「――――――帰還」

友矩「これで今回の電脳ダイブは終了いたしました」

友矩「今回のデータのオリジナルはこちらのサーバに格納し、コピーした巨大なデータを解析して後日 レポート共に提出いたします」

友矩「これが電脳ダイブの流れとなります」

千鶴「なるほどねぇ」


一夏「――――――うおっ!?」ガバッ


友矩「そして、“ブレードランナー”と“アヤカ”が目覚めたのを確認して撤収となります」

千鶴「あ、ちゃんと向こうも目覚めてくれたわね。良かった」

友矩「おつかれ、一夏」モミモミ

一夏「ああ 今日もしんどかった…………」ゴクゴク

千鶴「けれど、アイデアの塊である“アヤカ”があんなISを架空で生み出していたなんてこと、あまり報告したくはないわね」

一夏「………………」フキフキ

友矩「結局、どうなるんですか? この極秘プロジェクトに介入はされるんですか?」モミモミ

千鶴「いずれはね。内部粛清で人員が減ったことだし、IS運用のノウハウも整ってきたから世界としてもIS学園の掌握を狙っている」

友矩「厄介だね。良くも悪くも特殊国立高校であるIS学園に大量の部外者が入ってくるのだから」

友矩「しかも、今の時代だと簡単に国籍の変更や資格の互換が認められているから、今度はより堂々と外国人スパイが潜り込んでくるぞ……」

千鶴「そうなのよねぇ。ISコアの割り振りの偏りや人気のISドライバーのところにこぞって移民が殺到するもんだから、ね?」

一夏「だとしても、やることは結局 変わらないんだろう? ――――――よっと」

                       ブレードランナー
――――――たとえ何があっても“人を活かす剣を司る者”として“アヤカ”は俺が守る! 守ってみせる!


421  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:16:57.28 ID:CuqLu7mj0

第8話A 『打金/龍驤』対『打鉄弐式』
Open Your Heart

――――――6月


雪村「えと……」

山田「つまり、“アヤカ”くんの学年別トーナメントでの活躍が認められて、専用パッケージを2つも用意してもらったんですよ!」

箒 「良かったな、雪村! これで模擬戦の成績も何とかなるんじゃないのか?」

ラウラ「うむ。これで少しは専用機持ちとの戦力差が埋まればいいのだがな」

雪村「へえ」←全戦全敗中(セシリア:× 鈴:× シャルロット:× ラウラ:×)

鈴 「あんた、ホントにどうでもよさそうにしてるわよねぇ」


――――――雪村の実力だけで戦った場合、

雪村の強み:接近戦の鬼。剣をもたせれば代表候補生に匹敵するセンスの塊

雪村の欠点:機動力が最低。未だに歩いてしか移動できないのでいい的である。ISなのに飛べないのが最大の弱点である

セシリア:根本的に機体相性が最悪。焦れて相手が近寄ってこない限り、飛べない雪村に勝ち目なし

鈴:同じく接近格闘機なので普通に戦えば雪村が勝つ可能性があるが、連射力に優れる『龍咆』で完封される

シャル:「高速切替」を駆使した戦術「砂漠の逃げ水」のように付かず離れずの戦い方をされる相手が特に苦手

ラウラ:雪村の教官。全距離万能で何よりも『AIC』を防げないのでやはり完封される


鈴 「(これって明らかに日本政府が宣伝している“アヤカ”を贔屓にした支援よね……)」

鈴 「(そりゃあ 確かにタッグトーナメントでベスト4までいっちゃったんだから急に態度が良くなるのも納得だけど、)」

鈴 「(やっぱり本質的に、乗ってるのが『打鉄』でPICコントロールも未熟な初心者じゃ、代表候補生と差がありすぎるのよねぇ……)」

鈴 「(タッグトーナメントの時はルールに助けられていたところが大きかったわけであって1対1で勝ったわけじゃない――――――)」

鈴 「(そんなわけで、タイマンになればこの通りあっさり負けるわけだから、日本政府も頭を抱えているわけね)」

鈴 「(だから、手っ取り早く勝たせるために力押しを始めたわけか……)」

鈴 「(けれど、剣を握らせたら間違いなく私よりも強いわけだから、格闘戦を避けて『龍咆』を使うしかない――――――)」

鈴 「(そうすれば簡単に勝てるんだけれど、それってなんだか実力で勝てないから武器に頼ってるみたいで悔しい!)」

鈴 「(総合的に見て、最弱の機体に最弱のドライバーが乗っているだけなのに――――――、)」

鈴 「(そんなやつを真正面から倒すことが私の中の最大の目標になりつつあるだなんて不思議なもんね……)」

422  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:18:05.12 ID:CuqLu7mj0

山田「それででしてね? こちらに契約のサインを――――――」

雪村「はい」カキカキ

山田「あ、本当に字が綺麗ですねぇ」

箒 「(しかし、実際のところは雪村が本気になれば専用機持ちの誰よりも強い可能性がある)」

ラウラ「(学年別トーナメント最終日で見せてくれた『日は落ち、墓へ墜ちる』能力はまさしく脅威だな……)」

ラウラ「(能力の詳細は決して語ってはくれなかったが、――――――あれは明らかにPIC無効化攻撃の類だった!)」


――――――雪村が単一仕様能力『落日墜墓』を使った場合、

能力の強み:使ったエネルギーを自在に成形でき、その分だけPIC無効時間が伸びる。カス当たりでも当たりさえすれば必ずPICが無効になる

能力の欠点:特にない。強いて言うならば、チャージ式なので遠くのISほど効果が薄くなる

セシリア:墜落する。反撃できない。その隙に叩きのめされて二度と飛び立てなくなる――――――当たればの話だが

鈴:『龍咆』が使えなくなる上に青龍刀『双天牙月』を振り回すのがやっとになる

シャル:携行火器自体は問題なく扱えるが、PICが使えなくなるので地上滑走ができなくなり、「砂漠の逃げ水」戦法が完全に機能しなくなる

ラウラ:プラズマブレード以外使用不能


ラウラ「(本当に驚いたものだな。単一仕様能力という切り札を隠し持っていたことには)」

ラウラ「(しかし、それを率先して使おうとしないのは“アヤカ”の優れた自制心によるものなのだろうな)」

ラウラ「(この能力の存在が世間に知れ渡れば、ISの戦術的・戦略的価値が急落するというものだ)」

ラウラ「(当然だ。IS〈インフィニット・ストラトス〉は人間大サイズで自在に三次元空間に位置することが売りの兵器だ)」

ラウラ「(その空戦用パワードスーツが飛べなくなったならば、安全性はおろかその辺のパワードスーツと変わらない兵器にしかならない)」

ラウラ「(いや、最近の機体はPICを前提とした兵装が普通だから、PICが切れれば自重に押し潰されるような本来はそういった鉄の塊ばかりだ)」

ラウラ「(だから“アヤカ”は表立って使いたがらないのだろう。今後も模擬戦で使うようなことはまずあるまい)」

ラウラ「(そうだな、“アヤカ”としては世間への影響よりもそっちの心配をしているに違いないな。それが無益な闘争を避けるあいつらしい在り方だ)」

ラウラ「(私でもPICを切った場合の『シュヴァルツェア・レーゲン』を満足に動かせないのに、その上で墜落させる危険性まであるのだ)」

ラウラ「(それはかつて“アヤカ”自身が学年別トーナメント前日の襲撃で“アヤカ”自身が受けた苦しみでもあるし、絶対にやらないだろうな)」

ラウラ「(そう考えると、実に理に適ったISの使い方をしているものだな。――――――抑止力としてのみISを運用するさまは)」

ラウラ「(本来、ISの登場によって女尊男卑が加速した原因として、ISをそういった身近な暴力に対する抑止力に使えることを期待されたからこそだ)」

ラウラ「(しかし、実際には世界にたった467個しか用意されず、そのほとんどが軍用として利用されているのが現実だ)」

ラウラ「(そして、その数少ないISが旧来の核兵器に変わる抑止力として機能している現状を踏まえると、実際にこれこそが抑止力の在り方だ)」

ラウラ「(核兵器など必要ない要人暗殺に非常に向いた性能を持つのがISだからな。逆に要人警護にも向くのがISでもあるわけで――――――)」

423  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:19:47.35 ID:A2g0p8Ya0

山田「それでは、第1アリーナの整備室でパッケージの量子化をしてみましょうか」

雪村「わかりました」

雪村「ところで、1ついいですか?」

山田「何ですか?」


雪村「どうして、日本代表候補生である更識 簪より僕のことばかりかまうんですか?」


山田「そ、それは、その…………」

箒「ゆ、雪村……(どうして自分から地雷を踏みに行くようなことを――――――)」

ラウラ「そうだな。なぜ日本代表候補生:更識 簪は専用機をいつまで経っても出そうとしないのだ?」

鈴「あ、確かにそうねぇ。“アヤカ”としてはそこが不服みたいね」

山田「…………困りましたねぇ。これは日本政府から口止めされていることなんですけど」

雪村「どうせまた、僕を目眩ましにしてお茶を濁そうってつもりなんでしょう、日本政府は」ジトー

山田「…………そう言われるときついですね(うぅ……、ズキズキ胸に刺さっちゃう! カミソリのような言葉ですぅ)」アセタラー

雪村「まあ、いいですよ。政府にはそれなりの考えがあってあえてそういうふうにしているのでしょうし」

雪村「僕には関係ないことですし、忘れてください」

雪村「それじゃ、指導をお願い致します」

山田「は、はい……」ニコニコー


スタスタスタ・・・・・・


箒「雪村のやつ、やっぱり学年別トーナメントで4組の代表候補生に何か嫌味でも言われたのかな?」

鈴「さあね? そんなことを気にするようには思えないんだけど?」

ラウラ「筋を通したい性格なのだろう。――――――SAMURAIというやつじゃないのか?」

箒「そうだな。雪村のやつはスポーツ剣道とは懸け離れた常人には理解し難い剣ではあるが、」

箒「人の生死に関わる問題になったら、率先してみんなを守ろうとする強い意志を見せてくれた。――――――自己犠牲的な面が強いがな」


雪村『僕が死ねばみんなを助けてくれるのか?』


箒「…………あんなことは二度と言わないで欲しいものだ」グッ

ラウラ「うむ。本当に昔の私にそっくりだ。自分の関心のあること以外まったく興味を示さず、それで満足しているな」

鈴「そうなんだ」

424  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:20:29.84 ID:CuqLu7mj0

鈴「けど、打算的な意味合いからしても、ただでさえ日頃いろいろなことで睨まれているんだから、」

鈴「今年の日本代表候補生を差し置いて政府から優遇されていることに危機感を覚えているのもあるかもね」

ラウラ「何にせよ、パッケージのコンセプトにもよるが、」

ラウラ「ISの基本であるPICコントロールが上達しない“アヤカ”に何を渡しても無駄に思えるが……」

鈴「当然、元々の機体性能差っていうのもあるんだけど、乗っている機体も元が訓練機だし、どう足掻いても初心者だものねぇ……」

鈴「直接的に身体を使うところでは代表候補生並みなんだけど、そこしか取り柄がないわけだから」

ラウラ「だが、PICコントロールができないハンデを背負っている代わりに、卓越したセンスの塊だ」

ラウラ「あれが、一般程度の基本操作を完璧にできるようになったら、同一条件下で戦ったら我々も危ういかもしれんな」

鈴「そう、だからこそ模擬戦で圧勝しても勝った気がしないのよね……」

鈴「『普通に最弱だけど実際は最強』みたいな相反するようなレッテルみたいなのがあって接近戦で勝たないと格の違いってやつを示せない……」

ラウラ「そういった潜在能力の高さという意味では、競争相手としては非常に厄介な相手であることには間違いない」

箒「なんだ、べた褒めじゃないか、二人共」

鈴「…………そう聞こえる?」

鈴「結果が全てなはずなのに――――――、勝つのなんて余裕なのに――――――、PICもまともに使いこなせない初心者なのに――――――、」

鈴「――――――勝っても嬉しくないのよ。ただそれだけよ」

ラウラ「『試合に負けても勝負に勝つ』ことだけを目的としているから世俗的な勝ち負けなんかに見向きもしないところが厄介だと私は思っている」

ラウラ「あいつには『試合に負けて悔しい』というような感情が一切見えない」

ラウラ「私が勝つのは当然だが、私ですら実力以前に機体の性能差で勝ったみたいですっきりしないんだ」

箒「そうなのか? 私は割りと楽しんでいるんだがな」

鈴「そりゃそうでしょう? あんたの場合は実力もある程度 近くてあいつの弱点を突ける武器がなくて毎回が本気の勝負なんだろうから」

ラウラ「そういう意味では、――――――本当に楽しそうだな、訓練機に乗っている連中は」

ラウラ「“アヤカ”と箒というわかりやすい目標と訓練して、勝てずとも日に日にいろいろ改善点が見つかっているようだからな」

ラウラ「最近、私は『自分が強すぎてつまらない』という感情を覚えたぞ。これが更なる強さに必要な感情だと教官に教わった」

鈴「ちぇっ、それは私に対する嫌味? ま、いずれはあんたのことをあっと驚くやり方で叩きのめしてあげるけど」

ラウラ「フッ、貴様が2歩進んで強くなっている間に私は3歩進んでより強くなっているから諦めろ」

鈴「言ったわね! 今はあんたが勝ってるけど、最終的には私が勝つんだから!」

箒「何だかんだ言って、最初の頃の刺々しい印象は二人から薄れたものだな」フフッ

箒「さて、雪村に送り届けられたパッケージがどういうものなのか見てくるか」


425  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:21:48.62 ID:CuqLu7mj0

――――――整備室


山田「そうです、ここに待機形態のISを置いてスイッチを押すと綺麗にセッティングされるんです」

雪村「なるほど」ピッ

――――――作業台に展開される『打金/龍驤』“黄金の13号機”

山田「待機形態にできない一般機の場合はリフターに乗せられた状態でこの整備スペースに搬送されます」

山田「基本的にISエンジニアを目指す人の場合はこの端末を操作してデータ入力とかするんですけど、」

山田「“アヤカ”くんはドライバー専門なので、後はすでに整備スロットに格納されたパッケージの入った箱の中身を確認して、」

山田「一緒に添付されてきた量子変換用のデータディスクを読み込んで画面の指示通りに進めればOKなんです」

雪村「なるほど、さすがは世界シェアNo.2の『打鉄』だ。驚くほど早くにインストールとやらが終わりそう」ピピッピピッ

山田「あ、残念ながら量子変換という作業はISにとって極めて大切な作業なので、しばらくはこのままですよ」

雪村「うん?」

山田「ISと一般に呼ばれているものは、ISコアと呼ばれるものを中心によって構成されているのはわかってますよね?」

雪村「はい」

山田「一般にフレーム――――――つまり、パワードスーツとしての骨組みや標準仕様を定着させる作業は「肉付け」とも呼ばれていて、」

山田「ISコアがそれを自分の身体だと認識する――――――つまりこれも「最適化」が行われるわけでして、」

山田「コアによっても装備の選り好みというのもあるわけでして、それによって量子変換が完了するまでの時間が変わるわけなんです」

雪村「そうなんだ」

山田「もちろん、コアと装備の間の相性や量子変換する装備の総量によっても「肉付け」にかかる時間は変わりますが、」

山田「『打鉄』は我が国が誇る世界No.2のシェアなだけあって、こういった量子変換にかかる手間がほとんどない点でも優秀なんです」

山田「また、柔軟なOSに拡張性のある基礎設計ですからパッケージも作りやすく、現在のところ専用パッケージの種類も世界一なんです」

雪村「そうですか。なら、今回の肉付け作業もパッケージが対象ですから、比較的短時間で終わるわけというですか」

山田「はい」ニコッ

山田「次いでに、ISエンジニアを目指す整備科の人にはここで出力調整の仕方や実際の設備の利用の仕方などを学んでもらってます」

山田「そして、3年生になるとドライバーとエンジニアでチームを組んでいろいろなレクリエーションに一緒に挑戦することになっています」

山田「“アヤカ”くんも、信頼できるエンジニアと組んで最高のチームで様々なことに挑戦していってくれると嬉しいです」

雪村「はい」ピピピッ

426  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:22:20.92 ID:A2g0p8Ya0

雪村「お、予測時間は――――――出ました」

雪村「さて、何して待っているもんなんですか、これ?」

山田「作業中に離れる場合はトップレベルのセキュリティロックが掛かるようになってます」

山田「その待機形態の擬態アクセサリーを入れた装置には鍵がついてますよね?」

山田「これを引き抜くと利用カードが一緒に発券されて、同時にこんなふうに一切の操作を受け付けなくするようにプロテクトが掛かるんです」

雪村「そして、作業を再開する場合はこの鍵を挿してカードを読み込ませると?」

山田「はい。ですから、整備をする時はなるべく落ち着ける時にやりましょうね」

山田「ただし、長時間の作業はいけません。適度な休憩は絶対です」

雪村「はい。わかりました」

山田「あと、精密作業中以外――――――たとえば量子変換待ちなどの場合は端末の中に映像資料などが入ってますので、」

山田「それを見ながら待っていてもいいですし、別な作業やDVDの持ち込みなんかもしててもいいですよ」

山田「ただし、騒がしくするのは厳禁ですのでヘッドホンは必ずしてください。ここにありますから」

山田「こんなところでしょうか?」

山田「以上が、この学園の整備室の簡単な説明でしたけど、大丈夫ですか?」

雪村「大丈夫です。次に利用する機会はほとんどないと思いますので」

山田「そうですか」

山田「あ、そうでした!」

山田「このフラッシュメモリーに“アヤカ”くんに宛てた今回のパッケージの取扱説明書のデータが入っているので必ず目を通しておいてくださいね」

山田「それじゃ、私はちょっと用事がありますので量子変換が終わる頃には戻ってきますね」

雪村「わかりました」


スタスタスタ・・・・・・


427  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:23:02.03 ID:CuqLu7mj0

雪村「さて、早速だけど――――――」サッ(フラッシュメモリーに入っているパッケージの取扱説明書のデータを参照する)

雪村「………………」ジー

雪村「へえ、これはいいな。格闘用パッケージ『青龍』に、砲撃用パッケージ『赤龍』か」

雪村「これを造ってくれた人は相当 僕のことを研究しているようだね。『知覧』に足りてないものを一通り補ってくれている」

雪村「『打鉄』の太刀は汎用性が高くて扱いやすいけど、小回りや射程なんてものはないからね」

雪村「だから、接近戦での手数や遠距離戦に対応した武器があると助かる――――――」

雪村「けど、こんなもんもらったって別に嬉しくはないんだけどね……」


ウィーン! ガコン


簪「あ……」

雪村「…………なるほど」ブツブツ・・・

簪「………………ムッ」

簪「………………」コツコツコツ・・・(定位置の整備スペースを陣取る)

簪「………………」コトッ(そして、手慣れた様子で専用機の整備を始める)

簪「………………」ピピッピピッピピッ・・・

雪村「…………当然だけど燃費がこれだけ下がるのか。何もできないよりはマシってこと?」ブツブツ・・・

簪「………………」ピピッピピッピピッ・・・

雪村「…………なるほど。『青龍』は剛体化技術を応用した多節棍で、鞭としても使えるか。それを2つ」ブツブツ・・・

簪「………………」ピピッピピッピピッ・・・

雪村「…………次に『赤龍』は何の変哲もない高射砲か。『ブルー・ティアーズ』のあれよりデカイけどこれは普通に使える」ブツブツ・・・

簪「………………」ピピッピピッピピッ・・・

雪村「…………そう、連射式のほうが『アレ』の効果が及びやすいことを踏まえれば最良の選択と言わざるを得ない」ブツブツ・・・

簪「………………」ピピッピピッピピッ・・・

雪村「…………けど、展開と発射、取り回しの悪さからやっぱりISバトルには向かない代物か」ブツブツ・・・

簪「………………」ピピッピピッピピッ・・・

雪村「…………へえ、肩の盾をまるごと照準器に替えちゃうんだ。シールドバリアーが前提の大胆な設計だな」ブツブツ・・・




428  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:24:05.83 ID:CuqLu7mj0

――――――1時間ぐらいが経って、


山田「お待たせしました、“アヤカ”くん」

雪村「あ、山田先生。パッケージの量子変換が終了しましたよ」

山田「あ、ちょうどですね。よかったです」

簪「………………」ピピッピピッピピッ・・・

雪村「先生、『青龍』の方はすぐに終わったんですけど、『赤龍』の容量が凄まじいんですけど……」

山田「ああ……、確か高射砲――――――」

簪「………………」ピピッピピッピピッ・・・

山田「それでは、不満な点はありませんか? 無ければ、一部機能を更新した形態で今度からは訓練に励んでもらいますからね」

雪村「わかりました」

山田「それでは、更識さんのお邪魔にならないように静かにこの場を後にしてくださいね」

雪村「はい」チラッ

簪「………………」ピピッピピッピピッ・・・

雪村「………………」ジー

山田「どうしました、“アヤカ”くん?」


雪村「何やってるんですかね、彼女」


山田「え」

簪「………………」ピタッ

山田「何ってそれは専用機の整備を――――――」

雪村「確か、この機体が『打鉄弐式』だったっけ? 競技用の試作機として明るめの色が使われていて印象がずいぶん違う」

山田「はい。更識さんのパーソナルカラーです。デュノアさんの『ラファール』のと同じです」

雪村「最終調整をしているわけなんですか、これは? ――――――たった一人で?」

山田「え? そ、それは…………」

雪村「あの、更識 簪さん」スッ

簪「…………何?」


雪村「友達になりませんか?」


山田「!」

簪「………………?!」

429  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:24:59.54 ID:A2g0p8Ya0

雪村「友達になりませんか?」

簪「……どういうつもり?」

雪村「何となくです」

簪「…………イヤ」

雪村「友達になりませんか?」

簪「…………『イヤ』ってさっき言ったよね?」

雪村「友達になってくれませんか?」

簪「…………ふざけてるの?」

雪村「何となくですけど、まじめです」

簪「………………」

山田「え、えと…………」オロオロ

簪「わかった。なってあげる。――――――不本意だけど」ハア

雪村「ありがとうございます」

簪「それで、友達になってあげたけれど何がしたいの?」ジトー

雪村「友達だからこそ言わせてもらいます」


――――――いつまでもそんなことをしているのは時間の無駄だと思います。


簪「…………!」

山田「!?」

雪村「ですので、ここは素直に――――――」

簪「――――――!」カッ

山田「あ」


バチィン!


雪村「……………」

山田「更識さん!?」

簪「あ」

430  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:26:07.12 ID:A2g0p8Ya0

簪「……ふ、ふん」

簪「私には、あなたを殴る権利がある」ググッ

雪村「……そうですか」ヒリヒリ

簪「どうして、私よりもあなたのほうがこんなにも優遇されるの?」

簪「今日だって私が必死に未完成の専用機を完成させようとしている傍らで、」

簪「特別誂えのパッケージをもらってのんきに量子変換が終わるのを待っていて…………」ブルブル

簪「学年別トーナメントの時だってそうだった」

簪「専用機が完成していないから他の専用機持ちに注目が集まるのはしかたないと思ってた」

簪「けど……!」

簪「それ以上に“呪いの13号機”をモノにして自分色の黄金色に染め上げたあなたが全てを掻っ攫っていったのだけは許せなかった」

雪村「………………」

簪「どうして!? 頑張って代表候補生にもなったのに、どうして私はいつもこんな目に遭うの?!」

簪「どうして私はここの生徒会長までやっている姉のように何をやってもうまくいかないの?!」

簪「前に進めたと思ったら、次から次へと――――――!」グスン

山田「更識さん……」

山田「お気持ちはわかりました。けれども、暴力は――――――」


雪村「山田先生は帰っていいですよ。これは『友達』の間で起きたただの喧嘩ですから」ニコニコー


山田「え!?」

簪「!?」

雪村「ただの喧嘩に日頃 多忙であらせられる山田先生がお手を煩わせる必要がございません」

雪村「僕のことはもういいですから、先生は先生のことをなさってください」

山田「え?! で、でも、私は先生として――――――」

雪村「大丈夫ですから。本当に」ニコー

山田「え、えと、その…………」

雪村「………………」ジー

山田「わ、わかりました。監視カメラもありますし、くれぐれも指導を受けないようにしてくださいね、二人共……」

山田「それでは、また明日……」

雪村「はい。ありがとうございました、山田先生」ニコー

簪「………………え」アゼーン


ウィーン! ガコン


431  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:27:32.56 ID:CuqLu7mj0

雪村「それじゃ、喧嘩の続きでもしましょう」

簪「…………!」

簪「な、何なんの、あなたは…………」アセタラー

雪村「何って、――――――友達ですけど何か? 友達だから喧嘩なんですけど?」

簪「な、何を言っているのか、さっぱりわからないんだけど…………」

雪村「………………」

簪「…………な、何?」

雪村「見たところ フレームは完成しているようですけど、最終調整は終わってるのですか?」

簪「…………終わってない。終わってるのは本当にフレームだけ。スラスターや搭載火器の調整は全然」

雪村「変なの。ま、日本政府に何か考えがあってあえて放置しているんだろうけど」

簪「何それ、ふざけてるの?」

簪「私はあなたの踏み台なんかじゃない……!」ブルブル

雪村「あなたがどう思うかじゃなくて、周りがどう思うかだと思いますけどね」

雪村「ま、僕としてはあなたがどうなろうと知ったことではありませんし、政府に養われている身として文句を言うつもりはありません」

簪「…………っ!」

簪「さっきから何なの! 私を馬鹿にしたいだけなの!?」ググッ

雪村「違います、喧嘩です」

簪「――――――『喧嘩』?」

雪村「僕は『友達』として僕が思うところがあって言いたいことを言わせてもらいます」

雪村「そして、『友達』のあなたはそれに思いっきり噛み付けばいいんじゃないんでしょうか?」

雪村「これは『友達』の間で起こるしょうもない喧嘩ですから、別に討論がしたいわけでもなんでもないです」

雪村「互いに思っていることを好き放題言い合うだけのことです」

雪村「なので、僕は『友達として』好きに言わせてもらいます」


――――――素直に人を頼るべきだと思います。


簪「…………!」

雪村「それで、さっさと機体を完成させて訓練機の空きを1つ増やしてあげたほうがみんなも喜んでくれると思います」

簪「…………最低」

432  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:28:18.22 ID:A2g0p8Ya0

雪村「あなたにとって『最低』な結果ってどういう状況なんですか?」

簪「え」

雪村「僕に悪口を言われたことが『最低』なんですか?」

雪村「僕としては、専用機が完成しないままのほうが『最低』のような気がします」

雪村「ま、世の中には『ISが全てじゃない』と言い切る人も居ましたし、あなたもそういう口なんでしょうね。つまりは」

簪「………………帰って!」

雪村「…………」

簪「私をイジメてそんなに楽しいの……? そんなこと、そんなことわかってるよぉ…………」ポタポタ・・・

雪村「過ちて改めざる是を過ちと謂う」

簪「帰って! 帰ってよぉ!」ポタポタ・・・

雪村「あ、間違えた」


――――――過ちては改むるに憚ること勿れ。


雪村「それでは、言いたいことを言ったので帰ります。さようなら」


ウィーン! ガコン


簪「うぅ…………」グスン

簪「わかってる、わかってるの……、そんなの言われなくたって…………」ポタポタ・・・

簪「けど、どうしろっていうの……?」ポタポタ・・・

簪「う、うぅ…………」ポタポタ・・・



433  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:28:58.75 ID:A2g0p8Ya0

――――――


雪村「あ」

箒「………………」

雪村「パッケージの量子変換は終わりましたよ。明日からトライアルに入ります」

箒「…………少しは前進した。お前の言いたいこともわかる。お前なりの気遣いというものが感じられる」

箒「けれども、もっと自分を大切にしろ。人から恨まれないような言い方を研究しろ」

雪村「………………」

箒「それとも、お前はあえて憎まれ役を買って出ているのか?」

箒「そんなことしなくていいんだぞ、雪村!」


箒「お前、やっと自分から『友達』を作るようになったのに、最初の友達にあんな言い草はないだろう!」


箒「お前の言いたいことは本当によくわかる」

箒「けれども、言葉遣いだけで白が黒に、黒が白に変わるものなんだぞ。人間は感情の生き物だから」

箒「いくら正論でも、自己犠牲的――――――いや、自分を大切にすることすらできないモノの考え方から出た言葉じゃ誰も納得してくれないぞ」

雪村「………………」

箒「なあ、もういいだろう? 学年別トーナメントの時はどうしようもなかった。私自身も罠にハメられそうになってそりゃ恨んださ」

箒「けれども、千冬さんたちが頑張って組織の再編を行っているから、今度はそれに期待しよう」

箒「最近のお前は周囲の大人に対して凄く不信に満ちた眼をしているぞ」

箒「一方で それに反するかのように、お前はクラスメイトに対しては物凄く優しくなった」

箒「ここ最近の評判はトーナメントでの活躍もあってジワジワ良くなってきているし、それは良いことなんだ。私も嬉しいぞ」

雪村「………………」

箒「だから、もっと自分を大切にしてくれ。お前がまた無茶をしでかさないか私はハラハラさせられているのだからな?」

箒「私やみんなを想うのなら、頼む!」

雪村「…………わかりました。努力します」

箒「よし」ホッ


「………………………………フフッ」




434  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:30:29.04 ID:A2g0p8Ya0

――――――休日

――――――デパート街:スポーツ用品店


雪村「………………」

箒「ほら、こんなのはどうだ?」ワクワク

シャル「うんうん、こういうのなんか似合うんじゃない?」ドキドキ

雪村「………………」

相川「ほらほら、やっぱり男の子ならこういうスタイリッシュなものがいいよね?」

谷本「いやいや! ここはあえてT字のきわどいやつを――――――!」

本音「きぐるみもいいよ~、“アヤヤ”~」

雪村「…………ねえ?」


周囲「ねえ、もしかしてあの子って――――――」ジロジロ

周囲「ち、ちくしょう! あんなにたくさんの美少女を侍らせやがってぇ……」ジロジロ

周囲「リア充爆発しろ! おのれぇええええ!」ジロジロ

周囲「女の水着を選ぶ男は見たことあるが、男の水着のために大勢の女の子が選んでいるところなんて初めて見た…………」ジロジロ

周囲「女に選ばせるだなんて相当ダラシのないダメ男なんだろうな~。お~、かわいそうに…………」ジロジロ


箒「どうした、雪村? こっちのほうが良かったか?」

雪村「僕は別に荷物持ちで良かったんですけど」

箒「な、何を言うか!」

シャル「そ、そうだよ! “アヤカ”は学園指定の水着しか持ってないって言ってたじゃない!」

雪村「だから、ラウラ教官と同じように新しい水着を買う必要なんて――――――」

箒「買え! 学園指定の水着なんて没個性のものなんか捨ててしまえぇ!」クワッ!

シャル「そうそう! ただでさえ“アヤカ”は見てくれで損してるのにこういうところで気を配らなかったらますます負の引力に囚われたまま!」クワッ!

雪村「うぉ……?!」ビクッ

相川「そうだよ! せっかく“お母さん”が選んでくれるって言ってくれてるんだよ! 親の心を踏みにじっちゃかわいそうだよー!」

谷本「そうそう! ついでにボーデヴィッヒさんの水着も選ぶ作業が待ってるんだからね」

本音「“アヤヤ”もきぐるみ どう~?」

435  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:31:45.54 ID:CuqLu7mj0

雪村「何だっていいですよ。水着なんて臨海学校でしか着ないだろうし」

箒「……お前!」カチン!

雪村「!?」ビクッ


箒「お前は何てことを言うのだ! 今年の夏休みはたくさんの思い出を作ると誓ったではないか~!」ゴゴゴゴゴ


相川「そうだよ! “アヤカ”くんには夏休みになったら絵日記を提出してもらうんだからね! もうすでにノートは準備してあるんだから!」

谷本「それで中身のない夏休みを送っていたら罰ゲームだよ! 学園祭の出し物で覚悟なさい!」

本音「“アヤヤ”はどうなっちゃうんだろ~」ニコニコー

雪村「何それ? そんな話、聞いたことがない――――――」ゾゾゾ・・・

シャル「言ったよね、みんな?」ニコニコー

箒「ああ。言ったな」

相川「うん。言った」

谷本「そうそう。言った言った」

本音「言い逃れはできないのだ~」

雪村「…………なんでこんなに話が盛り上がっているの?」

箒「さあ、男なら『正々堂々!』潔く選んでもらおうか?」

雪村「ええ…………」

雪村「んじゃ、一番安いやつで――――――」

シャル「“アヤカ”~?」ニコニコー

相川「確かに家計簿的には優しい選択だけれど、それとこれとは違うと思うけどな~、今 求められているのは」ニコニコー

雪村「…………どれも似たようなものにしか見えない」

谷本「嘘~!? だって、海パンの丈だってこんなに違うし、ワンピースのダイバースーツみたいなやつだってあるんだよ?」

雪村「水着で最高級なのはISスーツでしょう? ほら――――――」ピカーン!

周囲「!」

雪村「何がどう違うっていうのさ?」(ISスーツに早着替え!)

周囲「おお!」

箒「“アヤカ”、無断でISを使用するな。たとえ着替えただけだとしても装備の展開に含まれる行為だぞ、それは」

雪村「う~ん」ピカーン!

436  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:32:38.17 ID:A2g0p8Ya0

雪村「僕のことは後回しにしてラウラ教官のやつを選んだほうがいいんじゃないかな?」(私服に早着替え!)

箒「そういうわけにはいかん! お前はいつも自分のことを二の次にして損してばかりなんだから!」

シャル「でも確かに、いつまでもこうしているわけには――――――」チラッ

谷本「けどねぇ、学年別トーナメントのパートナー決めの時と同じようにはいかないもんねぇ。こればかりは本当に“彼”自身の感性の問題だし」

相川「本当だよね。あまりに控えめな性格だと逆に損するよ?」

本音「ならいっそ、“アヤヤ”が選ばなければいいんじゃないかな~?」

谷本「は」

相川「あんた、それはちょっと――――――」


雪村「なるほど、一理ありますね。わかりました、そうします」


箒「え?!」

シャル「わからない……、“アヤカ”の考えが全然わからない…………」

箒「ぐ、具体的にはどうするつもり――――――あ」

雪村「………………」トコトコトコ

周囲「?」


雪村「すみません、僕の水着を選んでくれませんか?」パシッ

男子A「え、俺?!」ビクッ(――――――年頃の男子高校生!)


周囲「!!!?」

小娘共「えええええ!?」

437  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:33:29.56 ID:CuqLu7mj0

雪村「はい。お願いします」グイッ

男子A「いや、でも、ちょっと――――――痛い痛い! わかったわかったから!」ギリギリギリ・・・

男子A「お、お前たちも見てないで手伝ってくれー!」

男子B「わ、わかった!(あれ? もしかしてこれ、天下のIS学園の子とメルアド交換するチャンスじゃね?)」

男子C「よ、よし! センスのいいところを見せてやる!(うっひょー! 野郎はどうでもいいけどお近づきになる絶好のチャンスじゃん!)」

箒「え、えっと…………(何だろう? これが“思春期男子”というものの視線なのだろうか? 何か寒気を催す…………)」

雪村「こっちの篠ノ之さんが選んでくれたのはこういうので――――――」

男子A「なるほど、結構イイ感じじゃん? 値段もそう高くないしさ?(なんで俺がこんなことに!? でも、断ったら周囲の視線が痛いし!)」ハラハラ

男子B「う~ん、候補としては有力だと思うぞ(へえ、『篠ノ之さん』か。●●●●でけー! 物凄い美人さんじゃん! メルアドメルアド!)」ドキドキ

男子C「でも、今年の流行はこういうのだし――――――(女性の水着のことはわからないけど、男用の知識なら自信があるからこれでアピール!)」ドキドキ

雪村「なるほどなー」

箒「ほ、ほう……」

シャル「…………へえ、“アヤカ”ってそういうことができるんだ」

相川「そっか。“アヤカ”くん、『男らしい水着』って感覚自体がわからなかったんだ……」

谷本「だから、年頃の男子高校生を捕まえて意見を聞いて参考にしようとしたんだ。初歩的だけどスゴイ発想よね……」

本音「“アヤヤ”は実は打算的~?」

相川「それはないない」

谷本「トーナメントの時と同じで、自分の中で基準がなかったから意見をもらっているだけで『打算的』とかそういうのじゃないと思うけど?」

シャル「でも“アヤカ”って、結構 人を見る目があるから無造作に選んだように見えて、絶対に断れない無難な相手を捕まえたのかもね」

相川「ああ…………」

谷本「確かにそれぐらい“アヤカ”くんならやっちゃえる気もするけど、別に悪いところなんてないし別にいいじゃない」

本音「“アヤヤ”はスゴ~イ! それが真実」

シャル「うん。そうだね」


雪村「わかりました。これにしておきます。ありがとうございました」ニコニコ


箒「ようやくか」

箒「けど、鷹月さんはどうしたんだろう? 遅いな」

鷹月「み、みんな~!」タッタッタッタッタ・・・

箒「あ、鷹月さん。もう雪村の水着は決まったぞ。遅れて来るとは聞いていたが、どうしたんだ?」

鷹月「そ、それが――――――!」ゼエゼエ

雪村「………………!」



438  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:35:58.88 ID:CuqLu7mj0

――――――デパート街:賑わうメインストリート


一夏「さて、箒ちゃんのプレゼントはこれでいいかな~?」(ランニングシャツ+スポーツバイザー)

弾「一夏にしてはずいぶんと決断が早かったな」(私服)

一夏「まあな」

友矩「それは当然だよ。大学時代に一夏はバレンタインデーの贈り物を一日で全員返済したぐらいなんだから」(変装:ビジネスマン)

友矩「時間と労力と輸送面の問題から、近場のギフトショップで誰それに合いそうなものをパッと選び取って即渡しに行ったことがあるんだもん」

友矩「“世界で最も忙しいバレンタインデーの一日を送った人間”と言っていいね」

弾「かぁー、さすがは“童帝”だわな。次元が違い過ぎる」

一夏「よせよ。こんなくだらないことばかりが特技だなんて人に誇れるわけじゃないんだし、苦しいだけだぞ?」

弾「それでも、自信持って『あの子にふさわしいのはコレだ!』みたいなのをできたら最高だと思わねえか、おい」

弾「それに『くだらない』ってことはねえだろう?」

一夏「そうか? 大切なのは『プレゼントを渡す相手にまず渡せるか』どうかだろう?」

弾「え」

一夏「だって、『相手にプレゼントを渡す』よりも『プレゼントを渡す相手が今日も元気』なほうがずっと嬉しいだろう?」

弾「………………確かに」

友矩「見えているものが違い過ぎるよ、一夏。もうちょっと俗な考え方に戻って」

一夏「え、そんなにズレてた?」

友矩「はい。一夏の優しさはまさしく本物ですが、聖な考え方に偏っていて俗人に理解されるには経験や思慮が足りてませんよ」

友矩「ただでさえ一夏の場合は、“織斑千冬の弟”であるだけじゃなく“童帝”でもあるわけですから他人から悪く言われたことがあまりなく、」

友矩「そして、友人にも恵まれていたので、結果として一夏は世間で跋扈している卑俗な価値観というものを吸収していません」

友矩「だから、一夏は本当に心の底から人間の善性を信じているけれども、世間の人間からすれば甘言ばかり弄する夢想家にしか見えてません」

一夏「………………」

友矩「その証拠に、この歳になってようやく一夏の純粋さと善良さを理解できた人間がここに一人――――――」チラッ

弾「あ」

一夏「…………あ」

弾「……その、何だ? すまん」

一夏「いや、気にすることじゃないって! 俺は恵まれていた――――――箱入り息子だったってだけ…なんだろう?」

友矩「結果的にはそうなります」

友矩「何も悪いことはせず、悪事に触れることもなかった類稀なる純粋な心の持ち主が実社会に出て、俗世の垢に足を取られる――――――」

友矩「まあ、僕と知り合った頃に比べればだいぶ柔軟な発想や行き届いた配慮ができるようにはなりましたけれど、」

友矩「生まれてから20数年――――――、染み付いた善人根性は血となり肉となって容易くは俗世の欲には染まらなくて今 困っているんですがね」

弾「別に、それって悪いことじゃ――――――」

友矩「ええ。悪いことじゃありません、決して。むしろ、盛大に褒め称えられるべきものですよ」


友矩「けれど、良いことを良いことだと素直に褒め称えてくれる人は今の世の中にどれだけいるのでしょうね?」


439  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:37:01.71 ID:CuqLu7mj0

弾「…………難しいな、世の中って。何か本当にごめん」

一夏「いや、友矩がそう言ってるだけで、俺は特にそういったことは考えてこなかったから。気にしてないぞ、弾」

弾「はは、人を疑うってことを全然してこなかったんだもんな、一夏のやつは!」ニコッ

友矩「ええ。痛い目に遭ってからでしか変われなかったのは当然のことですね!」ニッコリ

一夏「う、うるさい! 俺だって狙ってやっているわけじゃないんだぞ! ただ人として正しいことをだな――――――、そう!」


一夏「人の嫌がることはせず、人がやって欲しいと思ってることをしてあげて、人がやりたがらないことを率先してやってきただけなんだよ!」


弾「…………いや、それさ? 男の俺でも家に置いときたくなるような理想の人間像なんですけど」

友矩「はい。女であれば『こんな旦那様が欲しい』と思うぐらいに家事万能で、しかも一夏個人の人格が問題視されないところでは完璧超人ですから」

弾「同情するぜ、心の底から。どうして『天は二物を与えず』なのか…………」

友矩「おまけに、無駄に顔が整っていて 姉が“ブリュンヒルデ”と来てますから、ますますモテない理由がない!」

弾「何て言ったっけかな? 魔法の泣きぼくろで主君の妻との禁断の恋で身を滅ぼしたとか…そういう神話の騎士がいたよな?」

一夏「…………俺は一生 女難がつきまとうって言うのかよ、友矩ぃ!?」

友矩「おそらくは。別に、今に始まったことじゃないでしょう?」

友矩「それに、もう一夏は善人らしさを積み上げ過ぎちゃったからもう変えようがないね」


友矩「――――――きみは“童帝”になってしまったのだから」


一夏「うおおおおおおお!」ズーン

弾「うん、本当に同情する。むしろ、世の中の人間って『正義の味方』とか『英雄』ってやつに甘えすぎなんじゃないの?」

弾「もうちょっと、こうさ? 一夏と同じ視線に立とうと肩を並べて頑張った子とかいなかったわけ?」

友矩「いません。最初から最後まで居たのが僕ですから」

弾「………………そうか」

友矩「それで、さっきの問いかけだけどね?」


友矩「だって、そのほうが楽ですから」


弾「――――――『楽』?」

友矩「役割を押し付けていれば、自分はその役割――――――つまりは義務と責任を負わなくていいわけで。努力しなくてもいいと考える」

友矩「そして、自分は役割を対象に託して対象の存在価値を認知してあげているわけですから、そりゃあワガママで無責任にもなりますよ」

友矩「本質的に、自分では何もしようとしないくせに『上から目線で対象を思い通りの存在にしよう』という意識が働いてますから」

弾「……わかる、その一方的な期待感と無責任さ。まさしく最初の頃の俺だわ」

440  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:37:44.86 ID:A2g0p8Ya0

友矩「幸か不幸か、一夏の鈍感さはそうしたイヤらしい感情にも疎かったからこそ、ここまで善性を強固なものにできたわけであって、」

友矩「果たして、『鈍感じゃない一夏』が“唐変木の一夏”に勝るかどうかは僕には到底思えないのが現実です」

弾「一長一短ってわけなんだな…………そう思うと、欠点は多いけれど今の一夏で良いのだと思えてきたぞ」

友矩「十分すぎます。“である責任”だとか“としての責任”だなんて基本的人権の尊重の原則に反する謳い文句ですよ」

友矩「どんな性格の一夏にだろうと生き方を選ぶ権利はあるし、」

友矩「たとえ多数決の原則であろうとも他者の人権を侵害する権利はあらゆる個人・団体・国家にも存在しない」

友矩「もちろん、今の仕事だって一夏が自分の意志で選んだことなんだ。そこはきっちりと責任を果たしてもらうとしても――――――、だよ?」

弾「そうだな。一夏だって仮面を脱げば普通の人間なんだ。一夏にとっての日常があるはずなんだ」

弾「だからこそ、俺たちもしっかりと自分たち自身の置かれた状況を見つめないといけないんだな」


友矩「ええ。非常に複雑な状況ですから。場合によってはIS学園が――――――」


弾「あれ? 一夏のやつ、どこ行った……?」キョロキョロ

友矩「…………獲物を求めてまた彷徨いだしたか?」ヤレヤレ

弾「………… 一夏だもんな、その可能性が高いか」ヤレヤレ

友矩「とりあえず、すぐに連絡を入れておけば――――――」ピポパッ


ただいまお掛けになった電話番号は現在使用されていないか、電波が届かない――――――


友矩「…………また一人、どこかのうら若き女の子の純情が弄ばれたな」

弾「友矩が言うなら間違いないな」

友矩「馬鹿なこと言ってないで探しに行くよ!」

弾「おうよ!(ん? 今、時刻は――――――)」チラッ

弾「――――――って、大事な用があったんだ!」ガタッ

友矩「何です? 確か『ちょうどいいから――――――』何とか言って僕たちと買い物していたんだよね?」

弾「そうなんだよ! 実はな、妹の蘭が『“中3の夏は特別”だからなんか新しい水着を買いたい』って言ってきてよぉ!」

弾「だから、俺は蘭の荷物持ちをしてやらないといけないんだった、そうだった!」

弾「蘭のやつ、俺のクルマに何でも入るからってかなり買い込むつもりなんだろうなー」

友矩「時間は大丈夫なの?」

弾「えと、うわっ! もう10分前じゃないか! やべー!」アセアセ

弾「悪いが、友矩! 一夏の面倒は任せた! 俺はこれでさよならだ!」ダッ

友矩「お達者で」ニコッ

タッタッタッタッタ・・・

友矩「さて、あの唐変木はふらふらとどこへとほっつき歩いているのか…………」

友矩「さすがにストリートは人が多くて、これじゃすぐに人を見失うわけだね」

友矩「こういう時は下手に動かずに相手の方から帰ってくることを期待したほうがいいけれど、」

友矩「――――――嫌な予感がする」

友矩「こういう時 たいてい一夏が何かをやらかすから、僕が駆けつけておかないと被害が広がるばかりだ!」

友矩「本当に、一夏ってやつは……! まったく…………」フフッ



443  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:40:23.98 ID:A2g0p8Ya0

――――――某所にて


???「おい、お前ら」

不良A「あぁん?」

不良B「何だおめえは?」

不良C「見ねえ顔だな」


???「10万やるから、この写真の娘を拉致ってこい」ポンッ


不良共「?!」

???「その娘は駅前のレンタルビデオ店に明日、借りたDVDを返却しに来るから、人目の付かない場所に連れて来い」

不良A「うっひょー! ほ、ホントに10万円ポンっとくれるのかよ!?」

不良B「そ、それにす、すげえ美人じゃねえか! メガネ掛けて内向的な印象だけど、少し化けの皮が剥いでやれば――――――」ジュルリ

???「そいつには少し野暮用がある。それがすめばお前たちにくれてやる。好きにすればいい」

不良B「ま、マジかよ! 俺の好みど真ん中だし、これは楽しみだなぁ…………ぐへへへへ」

不良C「待てよ。『拉致ってこい』なんて簡単に言ってくれるが、無理難題じゃねえのかよ?」

不良C「そもそも『人目の付かない場所』ってったって、駅前のレンタルビデオ店なんてもろ人目のつく場所じゃねえかよ」

不良C「こんな娘一人どうにかするのはなんてことねえけど、連れ込む場所と経路がなくっちゃやりようがねえだろうがよ」

???「そこを何とかしろと言っている」

444  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:41:14.13 ID:CuqLu7mj0

???「10万じゃ足りないのなら成功した後に追加で10万増やしてやる。やれ」チラッ(10万円の札束をまた取り出してチラつかせている)

不良A「マジかよ、大将! 絶対やってやるさ!」ニタニタ

不良B「そうだぜ? これはヤらなきゃ損だぜ」グヘヘヘ

不良C「………………わかったぜ、大将」

???/大将「そうか。やれよ?」

大将「ほれ、麻酔ハンカチや猿轡、それに手錠だ。鍵もあるはずだ。これで確実に連れて来い」

不良B「お、おおう!? 本格的な拘束プレイができるし、拉致も簡単になるぜ、こいつぁー!」グヘヘヘ

不良A「これなら女1人連れ込むのはホント簡単だぜ! それで20万かよ……!」ニタニタ

不良C「…………大将、やっぱり何か隠してないか?」

大将「質問はYesかNoかだ」


大将「お前たちはやるのか、やらないのか――――――」ジロッ


不良共「!?」ビクッ

不良A「や、やらせていただきます、大将!」ニタニタ

不良B「こいつがやらなくても、俺たちだけでもヤらせてもらいますぜ、大将!」グヘヘヘ

不良C「…………善人ぶるつまりなんて今更ねえよ。ヤれるもんならヤっとくぜ」

不良C「今の世の中 女尊男卑だなんだ言われていても、女は子宮でしか物事を考えられない馬鹿ばっかりなんだからよ?」ニヤリ

大将「そうだな。女なんてものは――――――世間なんてものはそんなもんだろう」

大将「(そう、――――――貴様らのような連中もまた然りだ)」

―――

――――――

―――――――――

――――――――――――


445  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:42:29.51 ID:A2g0p8Ya0

――――――人目の付かない某所


簪「う、うぅ…………」ガシャガシャ

簪「へっ!?」ガシャガシャ

簪「て、手錠……?」ゾクッ

簪「う、ううぅ…………!」ジタバタ

簪「う、動けない…………」ジタバタ

大将「お目覚めかな?」

簪「あ、あなたは――――――!」ビクッ


大将「俺からの用はただ1つだ」(ガスマスクで完全に顔を覆い隠し、ぶかぶかな軍服のレプリカで輪郭を曖昧にさせ、変成器による抑揚のない声)


簪「な、何……? こ、こんなことをして、ただですむと思ってるの…………?」アセタラー

大将「なぁに、いかに代表候補生の専用機持ちだからといって所詮は小娘だ」

大将「しかも、自分からなりたくてなったってわけでもない、およそIS学園の生徒とは思えないような怠惰な小娘だ」

簪「………………!」

大将「お前の言い訳なぞ聞きたくもない。世間様はそういう目で見てるってことだ」

簪「何なの、いったい……!」

大将「まあ、俺の用なんてのはただ1つだ」


――――――お前の専用機『打鉄弐式』の設計開発を行った今は亡き“某教授”の『遺産』の在り処を知らないか?


簪「え?」

大将「知らないのか? 知らないのなら身体に聞くまでだがな!」バッ

簪「――――――『打鉄弐式』!」ピカァーン!


更識 簪は誰もが羨む日本代表候補生である。彼女には467しかない存在しないうちの1機を与えられていた。

身の危険を感じ、簪は自らを守る史上最強の鎧に呼びかける!

その瞬間 眩い光を放ち、更識 簪という少女を縛り付けていたありとあらゆる鎖が引き千切られ、瞬間に解放されたのだが、

“大将”と呼ばれる謎の青年はそれを待っていたかのように、――――――あるものを取り出した。

それは――――――、


446  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:43:16.29 ID:CuqLu7mj0

大将「それを待っていた!」スッ

簪「へっ!?」

ペタッ

簪「きゃああああああああああああああ!」バリバリバリ・・・

大将「さすがは『リムーバー』だぜ。高いカネを払って得ただけのことはある」

簪「う、うぅうううう…………」バタン

簪「ハッ」

簪「ど、どうして!?」

大将「お前の専用機はこいつに吸い取られたわけだ」

簪「そ、そんな…………」

簪「か、返してぇ…………!」

大将「ふん」フミッ!

簪「あっ」ビターン

大将「お前ごとき小娘なぞこうやって足先で背筋を抑えられただけで、この通り 身動き一つできなくなるわけだな」

大将「まあ、安心しろ。開発を見放されたような欠陥機になんか用はねえよ」

大将「それよりも、お前を専属に任命した“某教授”の『大いなる遺産』のデータが入っているかが重要だ」

大将「よっと(――――――エネルギーバイパス開放。隠されたデータを明らかにせよ!)」

大将「…………え?(未完成機とはいえ、中身スカスカじゃないか…………何と哀れな)」


謎の男:“大将”は『リムーバー』と呼ばれるものを即座に展開された『打鉄弐式』に取り付けたのである。

瞬間、脳髄を灼くような痛みが簪の身体を駆け巡り、史上最強の鎧をまとった身体が大地に伏してしまうのだった。

更に驚いたことに、身体を起こそうと手を大地につけた時に、更識 簪は初めてISが強制解除されていたことに気づいた。

しかも、強制解除されただけならばすぐに精神集中して機体を虚空より呼び戻せばいいのだが、彼女の鎧の待機形態である水晶の指輪がないのだ!

ISの待機形態は一見するとあらゆるものに擬態してファッションアイテムにもなっており、中には簡単に盗まれやすそうなものすらあるのだが、

実は盗まれやすそうで物理的に盗むことができない目に見えない力が密かに働いているのである。

待機形態のISはドライバーと密着する部分においてシールドエネルギーを局部展開して皮膚に癒着しており、

無理やり引き離そうとしてもシールドエネルギーの剛体化が適宜適用されて生半可な手段では奪い取ることは難しいのだ。

よって、ドライバーが分離することをISに命令しなければ、剛体化によってエネルギーが尽きるまで絶対にISは奪えないのである。

しかし、だからこそ 簪は震撼する他なかった。

絶対に奪えないはずのISがこうやって現に奪われてしまったのだから。

目の錯覚や何かの誤認だとしても、簪がいくら念じてもいつもの感覚や反応が返ってこないことでその事実は確定してしまったのであった…………


447  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:45:15.90 ID:A2g0p8Ya0

簪「あ、ああ…………」ポロポロ・・・

大将「………………ハア」

大将「ま、それが当然の反応か。世界に467しかないISの専用機持ちなのに――――――、」

大将「命よりも大切な機体をまんまと奪われてしまったのだからな」

大将「今のお前はただの小娘だ。ISが無ければ何もできないわけだからな」

大将「いや、お前は全てを“更識家”に与えられてきただけの空っぽな娘か?」

簪「!」ビクッ

簪「どうして、それを…………!?」

大将「ふふふふ、この際 はっきり言っておくとおもしろいかもな」

大将「聞きたいか?」

簪「え」

大将「聞きたいか? 聞きたくないのか? ――――――はっきりしろ!」ジロッ

簪「ひっ」

簪「う、ぅう…………」グスン

大将「沈黙は肯定ととるぞ? 言うぞ、言うぞ?」


――――――俺は“更識楯無”に人生をメチャクチャにされた人間なんだよ。


簪「お、お姉ちゃんに!?」

大将「…………本当に何も知らないのか」ボソッ

大将「そうだ。お前が今 苦しんでいるのも“更識楯無”ってやつのせいなんだよ」

大将「つくづく運が無かったな?」

大将「そもそも、俺としてはお前なんかどうでもよかったんだよ。恨みがあるのは“更識楯無”なんだからさ」

448  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:46:34.97 ID:A2g0p8Ya0

大将「けれども、“更識楯無”に復讐するにはどうしても『大いなる遺産』ってやつが必要だから、『それ』を探しているんだよ」

簪「…………『大いなる遺産』?」

大将「そう、お前の専用機を開発した世界有数の大天才である“某教授”が残したとされる次世代技術のアイデアの数々さ」

大将「俺は『それ』を探し求めている」

大将「だから、“某教授”の『遺産』の1つである『打鉄弐式』に何らかの設計図が隠されているんじゃないかと思い、」

大将「――――――お前は巻き込まれたわけだ」

大将「で、結果として、『打鉄弐式』に内蔵されていたデータは吸い上げた」

大将「俺の用事はそれで終わりだ。後はそれを丹念に調べあげる作業だけだな」

大将「専用機が返して欲しければ、返してやるよ」


大将「ほら。大っきくて綺麗な玉だろう? これがISコアってやつだ」


簪「…………ああ」

大将「こんな摩訶不思議な玉に人殺しの道具が山ほど入るんだから驚きだよな。いったいどこに格納されてんだろうな?」

大将「ま、そんなことは知らずとも使うことはできるんだし、どうでもいいことだな」

簪「………………」

大将「どうする? 返して欲しいか? 俺は別に『遺産』の手掛かりさえ手に入ればお前にもう用はねえんだ」

大将「お前なんか“更識楯無”と比べれば何の価値もないただの小娘なんだからな」


――――――“更識楯無”と比べれば何の価値もない


簪「!」

簪「うぅ…………」ポタポタ・・・

大将「言い返すことすらできないのか? そんなんで自国の最新鋭機の広告レディが務まるのかよ?」

大将「どうしてこんなのが専用機持ちになったのかねぇ? 今年は全体的に代表候補生が少ないって話だったけど」

大将「それもやっぱり、“更識家”のゴリ押しで決められた人事なのかな?」


大将「とっとと決めろよ! お前、それでも代表候補生なのかよ! 世の中はお前の母親じゃねえんだ! 自分のことは自分でやれよ!」


449  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:47:37.68 ID:CuqLu7mj0

大将「お前は“更識家”の操り人形なのかよ! 人形ならこのまま這い蹲ってろ! 人間なら人間らしく自分で立ち上がってみせたらどうだ!」

簪「!」

簪「か、返してください……、お願いします…………!」ポタポタ・・・

大将「ほらよ。まったく手間のかかる……」

コロンコロン・・・・・・

簪「――――――『打鉄弐式』、待機形態」

簪「…………ホッ」(右手中指にクリスタルの指輪)

大将「あばよ、それでもう自分の身は自分で守れるな」ポイッ(床に10万円の札束が投げ捨てられる)

簪「え」

大将「そうだ、“更識楯無”に会ったら俺のことを伝えてくれ」


――――――俺の名は“襟立衣”だ。


簪「――――――え、『襟立衣』?」

大将「そうだ。鞍馬天狗の法衣が妖怪化したものだ。俺は『それ』だ」

大将「だから、俺は人間じゃない。――――――以上」

大将「じゃあな、元気でな。“更識楯無”に近々復讐しに参るのでよろしく。その時は見て見ぬ振りをしてもらえると助かる」

簪「…………!」


スタスタスタ・・・・・・


簪「………………ホッ」ゴシゴシ

簪「…………私は、代表候補生」

簪「……でも、私はどうすればいいの?」


――――――少女は一人部屋に取り残され、迷惑料としてなのか 投げ捨てられた10万円の札束を見て、何とも言えない気持ちに沈んでいた。


とりあえず、自分の貞操を汚されず、しかも命よりも大事な専用機は無事に取り返すことができた――――――いや、そうでもないのだが。

とにかく、更識 簪は一息つくことができた。ISさえ取り戻せば並み大抵のことでは崩せない難攻不落の身と化すのだから。

その前提は先ほど音を立ててスパークとなって打ち崩されたばかりなのだが、今の自分を守る絶対にして唯一の鎧なので無いより遥かにマシであった。

そうした専用機持ち特有の余裕というのか慢心というのか、更識 簪はすぐにこの場から逃げ出すことよりも物思いに耽ることになった。

何かあればISを展開して逃げ出す余裕があるのだ――――――さっきみたいな例外は確率的にもう会うこともないと無意識に言い聞かせて。


450  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:48:41.72 ID:A2g0p8Ya0

更識 簪はずっと考えた。自分がどうしてこんな目に遭ったのか――――――。

そうした張本人は自分の姉である“更識楯無”に対する復讐のために必要な――――――、

更識 簪も大変お世話になっていた“某教授”の『大いなる遺産』を求めて、『遺産』の1つである『打鉄弐式』の奪取を企てていたようだった。

しかし、“襟立衣”と名乗った謎の男は更識 簪を巻き込んだこと自体は不本意だったらしいことはどういうわけか伝わってくるのであった。

本当ならただただ自分を理不尽な目に遭わせただけの憎いだけの犯罪者にしか過ぎないのだが、

手段はともかく、物凄く不器用ながらもこうしてわざわざ問答無用にISを返すのではなく、将来性を案じて『自分の意思で取り戻させる』という、

明らかに『目的のためには手段を選ばない』『他人の意思を尊重しない』更識 簪がよく知るヒールやヴィランとは違った趣があったのだ。

自身も姉に対してのコンプレックスがあるせいなのか、“襟立衣”に同情したくなる、あるいは姉の欠点を見出したい気持ちがどこかしら存在しており、

迷惑料として床に投げ捨てた 少なくとも一般庶民の感性が残っている更識 簪にも大金と思えるたった10万円の札束には、

“襟立衣”の人間としての情が確かに込められているように被害者であるはずの少女にはなぜかそう思えた。

去り際に“襟立衣”は自身を『妖怪』と称し、『人間じゃない』と言い放ったのだが、

確かにガスマスクで顔を隠し、ブカブカの服で輪郭を覆い、声までも偽っていた“襟立衣”には『人間』としての素顔がもうないのかもしれない。

少なくとも、更識 簪という少女は“篠ノ之博士の妹”がどういう人生を歩まされていたのかもそれとなくは聞かされており、

そのことから“襟立衣”が世間を堂々と出歩くこともできなくなって社会的に抹殺されたことの悲哀と哀愁というものを感じ取っていた。

少なくとも、そういうキャラ設定の物悲しき宿命を背負った悪役の存在を彼女は特撮ヒーロー番組の中で見出しており、

今の気分はまさしくヒーロー物に出てくる 敵にも理解を示し涙する 心優しき囚われのヒロインのような感覚であった。

しかし、ちょっとばかり悦に浸っていた囚われのヒロインは次のことをすぐに思い出していた。


襟立衣『お前は“更識家”の操り人形なのかよ! 人形ならこのまま這い蹲ってろ! 人間なら人間らしく自分で立ち上がってみせたらどうだ!』


そう、明らかに“襟立衣”は少女のことを“更識家”の『操り人形』として蔑んでいたところがあった。

そして、少女は『そうするより他に道はない』とばかり思い込んでいたのだが、奪われて返された『打鉄弐式』のことで振り返ってみると、

今の自分はまさしく人形師を失って這い蹲っているだけの『人形』そのままではないかと思い至ったのである。

今は亡き“某教授”の『遺産』である『打鉄弐式』を開発してくれるように申し出てくれる人が出るのをずっと待っていたのが自分であり、

もちろん、代表候補生としての挟持から無理やり引き取って一人で出来る限りのことはしてはいたものの、

やはり自分はドライバー専門なので、荷電粒子砲などの精巧な武器の開発などできるはずもなかった。

元より“某教授”以外にできなかったものをただのISドライバーである自分に完成させることなどあり得ない話である。

しかし、ふと思った。


――――――『別に完璧じゃなくてもいいのではないか?』と。


451  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:49:32.18 ID:CuqLu7mj0

フレーム自体は完成しているし、できていないのは荷電粒子砲や第3世代兵器のミサイルポッドぐらいである。スラスター調整もまだまだであるが。

しかし、普通に使う分には 今回やったように普通に展開して自衛にも使えるぐらいには完成はしていたのだ。

そう考えてみれば、ひとまずはISバトルにも耐えられるように高速格闘機として完成させることは何とかできそうな気がしてきた。

そう、これ以前に言われていたことがあった。


雪村『あなたにとって『最低』な結果ってどういう状況なんですか?』

雪村『僕としては、専用機が完成しないままのほうが『最低』のような気がします』


そう、唐突に『友達』になることを強要してきて、言いたい放題 言って自分を泣かせてくれた、いろんな意味で憎たらしい少年の言である。

少女はそれに対して『そんなことはわかっている』と忌々しく反駁してみせたのだが、

『最高』――――――『打鉄弐式』が“某教授”の設計通りに開発されるのが不可能となった時点で、

『最低』――――――『打鉄弐式』が完成できずに専用機持ちなのにずっと訓練機に乗るしかないという現実が迫る中で、

少女が選ぶべる より良き将来の実像というものが少しずつヴィジョンとして浮かんできていたのである。

そう思うと――――――、そう振り返ると――――――、そう気づくと――――――、


簪「………………そう、こんな感じでやればきっと!」ピピッピピッピピッ

簪「あ」ピタッ

簪「あ、ああ…………!」

簪「私は…………」グスン

簪『いつか、私のところにも来てくれると思ってる』

簪『――――――私を見てくれる、助けてくれるヒーローが』


実は、更識 簪が求めているヒーローの実像に非常に近いものがとても身近にいたではないか!

そう、“アヤカ”はやり方がぶっきらぼうだが 凄く素直に真摯に正確に現状を打開するための意見を出してくれていたし、

“襟立衣”は犯罪者なので論外と言いたいところなのだが、それでもちゃんと自分の経歴を知った上で気遣ってくれていた。

そもそも、自分は世界最強の鎧を常に持ち歩いて常人の数十倍の自衛力を持っているので助けられる側に入ることは普通ないのだ。

むしろ、自分こそが他人を助けるべき立場にあるヒーローに祭り上げられる存在なのだ。


――――――目が覚めたような気分だった。


自分はもう囚われのヒロインではなく、みんなから頼りにされるヒーローになっていたのだ。

それにずっと気付いていなかったのが自分であった。助けを求める側ではなく、求められる側に移っていたのだ。

そして、囚われのヒロインも悲しき宿命を背負った敵役に心から同情してどうにかして彼の者も救われるように働きかけるようになるのがテンプレである。


――――――なんだかやれそうな気がしてきた。


“襟立衣”や“アヤカ”という変人に実際に次々と泣かされたのだが、すでに少女の心には涙の跡はなかった。

同時に、“更識家”の『操り人形』としての日々も終わりを告げることになった。少女にとっては何かと重荷になっていただけに気分が楽になっていた。

実際に、更識 簪自身も“更識家”の実態というものを知らず、一般庶民と変わらぬ生活の中に旧家のしきたりがのしかかっていたので、

“襟立衣”という『妖怪』からの言葉は魔性の甘美な響きと共に、それ以外の道を知らなかった小さな少女の心を魅了していたのである。


――――――それが吉となるか凶となるかは まだ誰も知らない。


452  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:50:38.67 ID:CuqLu7mj0


――――――どれくらい時が経ったのか?


コツコツコツ・・・・・・


簪「…………!」ビクッ

簪「お、お願い! ――――――『打鉄弐式』!」ピカァーン!

簪「…………あ、よかった」ホッ

簪「だ、誰…………?」ドクンドクン


「あ、よかった! もう怖いことなんかないぞ(――――――あれが『打鉄弐式』か)」


簪「え」

一夏「大丈夫か、簪ちゃん!」

簪「え、えと……(織斑先生にそっくり……?)」

一夏「俺は、織斑一夏だ。織斑千冬の弟だ……!」ゼエゼエ

簪「お、織斑一夏……(――――――『織斑先生の弟』、か)」ホッ(IS解除)

一夏「よかった! よかったよ!」ムギュウウ!

簪「あ」ドクン

一夏「怖いことはなかったか? 痛いことはなかったか?」ナデナデ

一夏「ハッ」

一夏「泣いた跡があるじゃないか! 何をされたんだ!?」

簪「………………うぅ」グスン

一夏「あ……、ごめん」

一夏「今はそれどころじゃないもんな――――――けど、もう大丈夫だ」ギュッ

簪「………………うぅ」グスングスン


箒「ぶ、無事かあああああ、簪ぃいいいいいい!」タッタッタッタッタ・・・


簪「あ……」

箒「はあはあ……、よ、良かった…………」ゼエゼエ

箒「何も、されて、ないな……?」ゼエゼエ

一夏「ああ。箒ちゃん。幸い、大事に至ってないようだ」

箒「そ、そうか……」ホッ

453  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:51:58.55 ID:A2g0p8Ya0

簪「確か、篠ノ之さん? どうして――――――?」

箒「鷹月さんが妙な男2人組にお前が麻酔ハンカチか何かで眠らされてカラオケ店に連れ込まれたのを見ていてくれたんだ」

箒「そしたら、一夏も見ていてくれて――――――!」

一夏「ああ。雑踏の中で男2人が女の子を連れていたのが見えてな。それに鷹月さんが尾行していたのも見えて」

一夏「俺は鷹月さんと一緒にカラオケに入ったんだけど、男2人は部屋に入ってなくて見失って――――――」

一夏「だから俺は、鷹月さんに専用機持ち同士の通信ネットワークで追跡するように言ったんだ……!」

箒「けど、まだ『打鉄弐式』のプレイベートチャネルは雪村とシャルロットのどちらも未登録で当てが外れたんだ……」

一夏「俺はカラオケに残って のこのこと部屋にやってきた暴漢2人を締めあげてたんだけど、匙加減を間違えて気絶させちまった……」

一夏「そこに、急に“アヤカ”から連絡が入って、ここだってわかったんだ」


一夏「“アヤカ”に礼を言っておけよ」ニコッ


簪「え? あ、“アヤカ”が……?」

一夏「そうだよ。“アヤカ”がここだって割り出してくれたんだ……」

一夏「“アヤカ”が特定してくれなかったら、簪ちゃんを泣かせた色情魔に今頃は――――――いや、言うまい」

一夏「ともかく、無事でよかったよ」

一夏「さあ、早くこんなところは出よう。警察にはもう連絡してある。怖いことなんてないぞ」

簪「う、うん……」ギュッ

一夏「本当に良かった…………」

箒「………………」

タッタッタッタッタ・・・

シャル「もう大丈夫?」

箒「ああ。こんなことに付き合わせてしまって悪かったな」

箒「ISは一人用なのに、私と一夏を担いで飛んでいくだなんて無茶を……」

箒「それに、ISの無断使用にも抵触させてしまった……」

シャル「ああ 大丈夫だよ、箒。人助けに役立ったんだから、そう悪くは言われないって」

箒「そうか。それならいいのだが…………」

454  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:52:41.22 ID:CuqLu7mj0

シャル「でも、あの人――――――」


一夏「大丈夫か? ちゃんと歩けるか?」

簪「う、うん。大丈夫……」ドキドキ


箒「あ、ああ……、あれか。あれは――――――(しかたがないとはいえ、私の将来の伴侶が他の女の子とああやっているのは少し妬けるな……)」

シャル「――――――どこかで会ったことがあるような気がする」

箒「え」

シャル「あ、何でもない。何でもないよ」ニコッ

シャル「(――――――『織斑一夏』か。“織斑先生の弟”、か)」

シャル「(何だろう? あの人の笑顔や仕草を見ていると何か大切なことを忘れているような気がしてならない……)」

シャル「(何なんだろう、この気持ちって…………)」ドクンドクン


『何やってんだよ。ズブ濡れじゃないか。見てらんないよ』パシッ


シャル「(そう、あんなふうに一緒に連れ添ってもらったような…………)」

シャル「ハッ」

シャル「(――――――今のは?)」

箒「おい、大丈夫か?」

シャル「え」

シャル「あ、うん。念の為にこの辺り一帯をスキャンしていただけだから」

箒「……そうか」

箒「(そういえば、シャルロットの一夏を見る目はなんだか変だった気がするな…………)」イライラ

箒「(まさかとは思いたくないが、まさかとは思いたくないが――――――!)」

シャル「(とりあえず、…………撮っちゃった)」ドクンドクン



455  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:53:18.02 ID:CuqLu7mj0

――――――その後、


簪「あ」

一夏「あ、終わったんだ、事情聴取」

簪「どうして、ここに?」

一夏「『どうして?』って……、あんなことがあったのに女の子を一人にしておくだなんてできないよ」

一夏「ほら、まだご家族の方やIS学園からの迎えも来てないようだし」

簪「あ…………」ポー

一夏「………………」

簪「………………」

一夏「そうだ! もう時間もこんなだし、お腹すいてないか?」

簪「え? う、うん……」

一夏「そうか。それじゃ、飯でも食べに行かないか?」

簪「え」

簪「えええええええええ!?」カア

一夏「どうしたんだ?」

簪「え、えと……、ど、どうして?」モジモジ

一夏「また『どうして?』って――――――、馬鹿だな~、お前~」


一夏「みんなで食べる食事は美味いだろう?」ニッコリ


一夏「迎えを呼んだってんなら、出前 頼もうぜ!」

一夏「えと、ピザとかパエリアでも何でもいいぜ! ほら、クーポンだってこんなにあるし!」

簪「わあ…………」ゴクリ

簪「あ」

簪「で、でも……!」

一夏「遠慮するなって。俺は“千冬姉の弟”だから千冬姉の教え子なら大切に扱わないといけないしさ」

一夏「あ、割り勘でいいなら別にいいぜ? 奢って欲しいんだったらそれでもいいし」

一夏「早く決めてくれ。俺、腹が減って減ってしかたないんだよ。ほら」グー

簪「じゃ、じゃあ、このピザで…………」オドオド

一夏「よし。こいつだな? ドリンクは何つける? サイドメニューは?」

簪「え、えと……、んんそれじゃ――――――」

一夏「よしよし――――――」


456  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:54:08.85 ID:A2g0p8Ya0


一夏「警察も気を利かせてくれて助かったぜ」モグモグ

簪「う、うん……」パクッ

一夏「やっぱ美味いな! たまに食う分には本当に美味いな、これ!」

簪「そ、そうだね……」パクッ

簪「あの……、一夏さん?」

一夏「ん?」


簪「今日は本当にありがとうございました」


簪「その……、何とお礼を言ったらいいのか、――――――情けないですよね、こんな代表候補生で」

一夏「何のことだ?」

簪「私、別に代表候補生になりたくてなったわけじゃないんです」

簪「家の方針で、姉も私もプロのIS乗りになるようにと育てられてきて…………」

一夏「そうだったのか。ずいぶん気合が入っているな――――――」

一夏「そう言えば、お前の姉って確か“更識楯無”って名前で、現ロシア代表だったような――――――」

簪「はい。凄い人です。私なんか足元に及ばないぐらい凄い人…………」

一夏「なあ、簪ちゃん?」

簪「何です?」


一夏「どうしてそんなに姉と比べたがるんだ?」(圧倒的女性経験を誇る“童帝”による抜群の人生相談!)


簪「え? だって、みんなそうだって――――――」

一夏「みんながそう言ってるだけだろう? 別にそんなの気にしなければいいじゃないか」

一夏「ああ……、何て言えばいいんだろう? ――――――そう、」


一夏「どうして自分で自分を下に見ちゃうんだ?」


簪「え」

一夏「だって、代表候補生になれたのはまぎれもなく簪ちゃんの努力と才能の結果なんだろう?」

457  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:55:02.08 ID:A2g0p8Ya0

一夏「俺は千冬姉っていう“世界最強の姉”を持ってはいれるけれども、千冬姉も最初から世界最強だってわけじゃなかったんだ」

一夏「確かに圧倒的な強さではあったさ。完全無欠の強さって言うぐらいに圧倒的だったさ」

一夏「けれどもね? 千冬姉ってああ見えて家事全般 全然できないんだよな」ハア

簪「え」

一夏「わかる? 千冬姉ったら俺がいなかったら世界最強の実力を発揮できずに初戦敗退しそうだったんだぜ、最初の『モンド・グロッソ』」ヤレヤレ

簪「ふぇ!?」

一夏「千冬姉は本当にダラシないからな。仕事の時はきっちり締めるんだけど、家じゃゆぅるゆる過ぎてゴミ屋敷にしてくれるくらいだ」

一夏「そんな人が世界最強で世界中の憧れで、世界唯一のISドライバー専門の教育機関;IS学園の名物教師なんだよ?」

一夏「簪ちゃんの姉がどういう人かは知らないけど、現役ロシア代表の彼女にだってできないことや人には言えないところがいくつもあるでしょう?」

簪「あ、……うん」ホッ

一夏「簪ちゃん? 簪ちゃんにはいいところがたくさんあるんだって! 悪いところを打ち消すぐらいあるんだよ」

一夏「そうでなかったら、実力だけじゃなく品格の高さも求められる代表候補生になれるわけがないもん」

一夏「それにな、ISドライバーで求められる3要素である、実力・品格・容貌の全てを取り揃えていることには違いないんだ」

一夏「だから、『簪ちゃんは可愛い!』――――――それが世間の答えだ」

簪「!?」ドキン!

簪「え、え、えと、あのその…………」ドキドキ

一夏「自信を持って! 不安になったことがあったらまた励ましてあげるから! な?」

一夏「俺、応援してるから! 見てるからな!」

一夏「簪ちゃんのブロマイドが出たら必ず買うし、雑誌にも載ったら教えてくれ!」


一夏「なんてったって、簪ちゃんは俺たちの国の代表候補生なんだから。頑張ってもらわないと」ニッコリ


簪「…………!」

簪「………………」

簪「うん。私は代表候補生だね。そう、私は確かに日本代表候補生――――――」

簪「ありがとう、一夏さん」ニコッ

一夏「よかった。笑顔が見られた……(全力で励ましてあげたけど、一応の結果が出たな。これでしばらくは大丈夫だろう)」ホッ

簪「ああ…………」ドクンドクン


458  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:56:09.91 ID:CuqLu7mj0


一夏『あ、よかった! もう怖いことなんかないぞ』ホッ

一夏『今はそれどころじゃないもんな――――――けど、もう大丈夫だ』ギュッ

一夏『さあ、早くこんなところは出よう。警察にはもう連絡してある。怖いことなんてないぞ』


簪「(いつか、私のところにも来てくれると思っていた)」

簪「(そして――――――、私を見てくれる、助けてくれるヒーローがようやく来てくれたんだ)」

簪「(けど、私も代表候補生――――――私もみんなから希望を託されている一人なんだ)」

簪「(だから、ヒーローからもらったものを今度はみんなに伝えられるようにしないと!)」

簪「私、頑張ります……!」

簪「代表候補生として、日本の誇りとして、“ブリュンヒルデ”織斑先生に少しでも近づけるよう心を改めて頑張ります……!」

一夏「よく言ってくれた! 千冬姉もきっと喜ぶだろうよ」

459  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:56:39.23 ID:A2g0p8Ya0

一夏「さて、――――――あ、最後のシュリンプか」サクッ

簪「どうしました、一夏さん?」

一夏「はい、あーん」

簪「へ」

一夏「ほら、こういうのあんまり食べないんだろう? 俺ばっかり食べてた気がするからな」

簪「え、いや、あの、それって――――――(――――――これってか、間接キス!?)」オドオド

一夏「これも1つの挑戦だ! よく味わって食べてくれよ」ニコッ

一夏「ほら」グイッ

簪「あ……、あーん」ドキドキ

パクッ

簪「ああ…………」ポー

一夏「どうだ?」

簪「プリップリです…………美味しい」ドクンドクン

一夏「だろう? 俺もエビを捌くことはあるけど、やっぱりエビはこのプリップリッ感がいいんだよな!」

簪「……はい」ニッコリ

一夏「最初の1歩は怖いだろうけど、1歩踏み出したら後は流れに任せればなんとかなるって」

一夏「そこから後は、新しい世界へどんどん進んでいけるから」ニコッ

簪「……はい」ドクンドクン


それから担任の先生と1年の寮長である織斑先生が引き取りにやってきたのだが、それまでずっと少女は青年と言葉を交わし続けた。

後で伝えられたことなのだが、警察の人たちは空気を読んで二人の空間に割って入れないほどにアツアツな模様が繰り広げられていたらしい。

――――――少女はひどく赤面した。

しかし、少女のこれまでの憂いに満ちた表情は消え去っており、そこには躍動感と情熱がみなぎっていたという。

そして、青年の実の姉である織斑先生は嬉しいような呆れたような何とも言えない笑顔を少女に見せていたという。

――――――少女はまたしても赤面した。

だが、少女はすでに今日 自分の身に起きた恐ろしい出来事にはもう恐れを抱かなくなっていた。その場の勢いに呑まれて明るい光が身を包んでいた。

なぜなら今日の出来事で、自分のことを大事に思ってくれる温かな心の存在について実感し、更には自分が今 成すべきことが何なのかも悟ったからだ。

次いでに、怪我の功名というのか――――――ずっと憧れだったヒーローの存在を得ることができたのだから。

『あの人に自分が輝いている姿を見ていてもらいたい』――――――少女の小さな心は広い世界へと拡がり、駆け出していく。

『忘れられないこともあった。けれども今は、この躍動感と情熱に身を委ねていたい』――――――少女はやがて新たな大地に至るのであった。



460  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:57:33.61 ID:A2g0p8Ya0

――――――それから後日、

――――――アリーナ


ヒュウウウウウン!

雪村「あ」

箒「おお!」


簪「“アヤカ”、1つ手合わせしてくれない?」


雪村「いいよ」

箒「おお! ようやく完成したのか!」

簪「うん。とりあえずできる範囲まで完成させてもらった」

簪「そういう意味では不完全な状態だけれど、それでも十分に戦える性能にはなってると思う」

箒「そうか」

箒「雪村、油断するなよ」

雪村「いつだって勝負は真剣ですよ」ジャキ

箒「そうだったな」ニコッ

相川「黄金色の『打鉄』と第3世代仕様の『打鉄』が相打つ! これはどうなるかな!」

本音「カンちゃん、“アヤヤ”~、頑張れ~」

谷本「へえ、更識さんのISって『打鉄』の発展型なんだ。見慣れた色とは打って変わった水色だから何だか新鮮」

シャル「そうだね。カラーリング1つで受ける印象ってずいぶん変わるからね」

ラウラ「ようやくか。ようやく日本が誇る最新鋭機のお披露目か。ずいぶんゴタゴタとした内情があったのだろうな」

鈴「ま、ライバルがどれだけ増えようとも、その全てを叩きのめすまでだけどね!」


簪「全員 退避したね? カウント始めるよ?」

雪村「どうぞ」


――――――3、2、1、スタート!


簪「やああ!」ヒュウウウウウン!

雪村「…………!」ブン!

ガキーン!


――――――戦いは始まった。


これは公式戦でも何でもないが、『打鉄弐式』のデビュー戦となるとても大切な模擬戦となった。

一方で、対戦相手である“アヤカ”の専用機となった“黄金色の13号機”『打金/龍驤』がパッケージ装備した時の初めての模擬戦でもあった。

両機とも、学園訓練機として採用されている『打鉄』から独自に発展した日本が誇るISとなっていた。

しかし、両機は同じ『打鉄』から発展した機体であっても、その機体特性はまさしく正反対のものであった。


461  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:58:29.70 ID:CuqLu7mj0

日本代表候補生:更識 簪の専用機『打鉄弐式』は、“第3世代仕様の『打鉄』”と評されるものであり、

IS技術の進歩や設計思想の変化から、扱いやすさは二の次で国産で量産を前提とした高速戦闘に耐えうる機体として設計されていた。

さすがは『打鉄弐式』とつくだけあって、先代『打鉄』のパッケージをそのまま使えるというユーザーフレンドリーな設計がなされていた。

つまり、今 “アヤカ”の機体である『打金/龍驤』が装備しているパッケージも特に難しい調整なしに使えるというわけである。

一応、名目上は高速戦闘もできることが前提であり、その代償に極度の軽量化による安定性と防御力の低下を招いていたが、

量産化の暁には、先代『打鉄』と同レベルの防御力と安定性を追求したパッケージも検討されているので、

拡張領域の搭載でパッケージの換装で幅広い用途に対応できることが売りの第2世代型ISの傑作機である『打鉄』の後継機の面目躍如となることだろう。

一方で、これまでなぜこれだけのメリットを備えた『打鉄弐式』が放置されてきたのかと言えば、政治的な理由の他に直接的な理由が存在した。


――――――『打鉄弐式』の設計開発を担当した“某教授”がすでに他界していたからなのである。


現在、第2世代から第3世代への過渡期に技術的に移り渡る時期なのだが、

第3世代機の定義であるイメージ・インターフェイスを利用した第3世代兵器の開発で各国が四苦八苦している状況を鑑みれば、

第3世代型ISを設計開発できる人間はそれだけで世界最高峰の頭脳を持った一握りの天才なのは想像に難くない。

なので、その第3世代型の生みの親が志半ばで斃れてしまえば、開発したくても技術的に続けられなくなるのは当然の話であろう。

“某教授”が組み込もうとしていたのは、ISでも実現が難しいとされる荷電粒子砲であり、それの実用化に漕ぎ着けようとしていた。

これが実現すればIS技術の飛躍的な発展が見込まれており、それだけに発表当時は世界を驚愕させた超高性能機なのである『打鉄弐式』は。

また、“某教授”が直々に『打鉄弐式』のパイロットを選考して選ばれたのが更識 簪なので、実際は凄まじく名誉ある専用機持ちなのである。

しかし、その“某教授”がこの世を去ったことにより、その目論見はたちまちに崩れてしまうのであった。

誰も“某教授”の設計開発を継ぐことができず、更には造り替えることも憚られたので誰も手を付けることがなかったのだ。

なにせ世界最高峰の頭脳を持つ“某教授”の『大いなる遺産』を改悪したという不名誉を嫌でも被るので誰もその後の開発を受け持とうとはしないのだ。

そこに、政治的な理由が入り込んで何の罪もなかった更識 簪は大いに振り回されることになったのである。

462  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:59:03.24 ID:A2g0p8Ya0


――――――“世界で唯一ISを扱える男性”こと朱華雪村“アヤカ”の登場であった。


“彼”の存在はそういった日本政府にとって不都合な諸事情を隠すには打ってつけであった。

事実、“彼”の存在はいろんな意味で鮮烈であり、その存在感は学園に派遣されてきた各国の代表候補生の注目を呑み食らうほどであった。

それ故に、政治的な理由を除いても日本政府としては『打鉄弐式』は無かったことにしようと画策していたようである。

しかし、『“某教授”の『遺産』である『打鉄弐式』の開発を独りでも続ける』と更識 簪が強く言うので下げ渡すことになる。

なぜなら、とりあえずは日本政府は正式に専属ドライバーに受領させたというポーズを創りたかったことが第一である。

また、“某教授”以外のIS技術者がどれだけ逆立ちしても開発不可能な機体をただの専用機持ちにできるはずもないと思われたからだ。

おそらく、世界各国の最新鋭機である第3世代型ISの生みの親たちに泣きついて、よしんば開発協力を取り付けたとしてもまず無理であろう。

それだけの技術力――――――何十年先をあまりにも先取りしすぎた天才設計に誰もが匙を投げるだろう。

なので、放っておいても時が経つに連れて『打鉄弐式』と更識 簪の存在は埋没していくだろうという腹積もりである。

次に、日本政府としても更識 簪は確かに実力・品格・容貌――――――その全てを一定水準を超えた逸材ではあるものの、

基本的に国家を代表するアイドルに向かない性格や趣味の持ち主であり、何よりもあの“更識家”の人間だったからだ。

“某教授”が見出さなければ、おそらくは代表候補生に選出されたかどうかも怪しいぐらいに“更識家”は疎まれていた。


――――――それはなぜか?


その答えは今は明かされないものの、更識 簪の姉である“更識楯無”が現役でロシア代表になれていることも関係しているようである。


463  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 08:59:46.48 ID:CuqLu7mj0


雪村「……ちぃ!」グサッ

簪「やああ!」ブン!

雪村「くっ!」ガキーン!

簪「そう、そこっ!(――――――背後、もらった!)」ヒュウウウウウン!

雪村「――――――背後!(――――――ターンピック!)」キュイイイイイイイイイン! キュウウウウウウウウウン!

簪「はっ!?」ビクッ

雪村「はあ!」ブン!

簪「くっ……」ヒュウウウウウン!


雪村「………………」ゼエゼエ

簪「………………」ゼエゼエ

雪村「…………『甲龍』以上のすばしっこさ」ゼエゼエ

簪「…………まさかパッケージでローラーにターンピックを入れているだなんて」ゼエゼエ

雪村「さすがは代表候補生だな……」ゼエゼエ

簪「やっぱり、簡単には勝たせてはくれないか……」ゼエゼエ


――――――
観衆「おおおお!」

セシリア「みなさん、お揃いですこと」

箒「ああ セシリアか。ついに4組の代表候補生の専用機がお披露目だぞ」

セシリア「まあ! 新たなライバルの出現ですわね」

ラウラ「…………さすがは『打鉄弐式』だな。圧倒的な機動力と空戦能力だ」

ラウラ「それに、学年別トーナメントで見せた操縦センスで“アヤカ”をイヤというほどに追い詰めているな」

シャル「けど、“アヤカ”の方もパッケージで機体を強化してあるからただではやられないよね」

鈴「…………空戦用パワードスーツで地上滑空もできるのに、ローラーを使ってるだなんて何かマヌケよね」

谷本「まあねぇ。この時期になってもPICコントロールが不完全なのは本当にごくわずかだしね」

相川「で、でも! 『できないんじゃなくて、ここぞという時のために使わないだけ』なんでしょう?」

谷本「どうなんだろうね、そのへんは」

箒「………………」

箒「(雪村としては『PICカタパルト』で高所に飛び移る相手を狩るのが得意なんだけど、)」

箒「(今回のように接近戦主体で付かず離れずの低空飛行で迫る相手にはほとほと苦手なようだな…………)」

箒「(ローラーダッシュで機動力は以前の数倍確保されても、それでもISの通常の機動力には劣るしな……)」

箒「(しかも、『打鉄弐式』の武器は細身のなぎなたで、リーチと取り回しを活かしてチクチクと刺してくるのが地味に威力を発揮しつつある)」

箒「(雪村も他の子に比べれば圧倒的な速さで太刀を振ってはいるが、大きい分だけ軌道も読まれやすいし、隙も大きいからな……)」

箒「(そういう意味では、『打鉄弐式』という機体はなかなかに強い機体ではないか)」
――――――

464  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:00:24.67 ID:A2g0p8Ya0

さて、戦いは『打鉄弐式』が優勢で進んでいた。

様々な要因はあるものの、戦いにおいては何よりも機動力が重要視されるので、機動力が圧倒的に高い『打鉄弐式』が優勢になるのは当然であった。

まず、元々の機動力で『打金/龍驤』では第3世代仕様の高速戦闘対応の『打鉄弐式』に敵うはずがない。

そして、元々の搭乗者同士の間のPICコントロールの精度が段違いなので、接近戦における機体の機動力に圧倒的な差が出ていた。


というより、これが代表候補生と一般生徒との力量差というものである。


更に、重たい一撃よりも確実に当たる軽い一撃をチクチクと浴びせてくるのだから、鬱陶しいし、削られていく感覚に嫌気が差すだろう。


――――――今回の『打鉄弐式』に搭載されている武器はこのなぎなた『夢現』だけであった。


『打鉄弐式』の標準装備として搭載が予定されていた荷電粒子砲や第3世代兵器などの未完成の兵装は全てオミットしており、

ひとまず高速格闘機として『打鉄』の高速戦闘仕様としての性格を前面に出したわかりやすい機体に造り替えていた。

開発協力はもう取り付けているのでここから徐々に本来の『打鉄弐式』に近づける予定であった。 


――――――しかし、武器がなぎなた1つだと思って侮るなかれ。


軽い一撃とは言っても、『打鉄弐式』のなぎなた『夢現』は超振動ブレードであり、

『打鉄』の実体剣とは全く異なり、チェーンソーのようにブレード表面の微粒子の振動で斬り裂き、本体に触れれば大ダメージが狙える代物であった。

ただし、実際にはシールドバリアーにすぐに弾かれて本体に超振動ブレードが届くということはほとんどない。

届いてしまったら、痛いどころじゃ済まされない大惨事になりかねないのでISが丹念に全力で弾いてくれるのだ。

ISのシールドバリアーは人体に有害な物理エネルギーの接近を発散あるいは弾く性質があるので、

シールドバリアーの設定が過敏である程に超振動ブレードに反応しやすく、弾く性質が強くなっていくのだが、

この時 シールドバリアーは物理的に触れるぐらいに高濃度エネルギー層を形成しているのでエネルギー消耗が凄まじく、

半ば実体化したバリアーの層に超振動ブレードが押し付けられるほどに斥力が強くなる代わりにエネルギー消耗も激しいのだ。

実は、これが回避重視の高速戦闘をしている時により多くのダメージを蓄積させるのに非常に有効な武器となっており、

確かに高速戦闘では超振動ブレードを押し付けるほどの余裕はないし、そもそも斥力で弾かれてしまうのだが、

当てれば確実に実体武器を軽く当てた時よりもシールドバリアーが過敏に反応するので、

少ない物理エネルギーでシールドバリアーを削り取るには非常に有効な攻撃手段なのである。

シールドバリアーの斥力のことを考えても、格闘武器ならば質量が大きい武器を使うのであれば直接的なダメージは断然そちらが大きいものの、

高速化するISバトルにおいてはまず当てることすら難しいし、隙も大きいし、パワーアシストがあるとはいえ 労力も積み上げていけば辛いものがある。

一方で、超振動ブレードならば軽くでも当てさえすれば、労力以上のダメージを与えることが手軽に出来てしまえる。


要するに、大きな力で振るうなら実体ブレードが効率的で、小さな力で振るうなら超振動ブレードがダメージレースで有利となるわけである。


地味ながらも着実にダメージを重ね、コンセプト通りの機動力で自在に相手を翻弄する『打鉄弐式』の動きは実に見事なものである。

“アヤカ”の『打金/龍驤』がパッケージ換装で機動力を強化していなかったら“アヤカ”の力量を持ってしても惨敗は免れなかっただろう。

それだけに機動力の差はそのまま攻撃力や防御力の差に繋がっていたのであった。

“アヤカ”としても超振動ブレードというものがいかなるものかがわかっていなかったので、

超振動ブレードのなぎなた『夢現』を掴んで無力化しようと思ったところ、取ろうとしてもどういうわけか何度も自分のシールドに強く弾かれてしまい、

そうこうしているうちに、大した威力で突き出されてもいないのに異常にエネルギーの減りが早いことに警告音が鳴り響いてから気付かされるのであった。

465  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:01:03.24 ID:CuqLu7mj0


雪村「…………なっ!?(いつにの間にこんな減っていた!? おかしいぞ、この減りは――――――!)」WARNING! WARNING!

簪「……さすがに初心者相手に超振動ブレードはやり過ぎだった(けど、これなら十分に戦えることはよくわかった!)」ブン!

雪村「くっ…………(これは完全に敗けたな。元々 1対1の勝負ではこの人には負けていたんだ。当然のことか…………)」ザシュ

簪「これで――――――、」ヒュウウウウウン! (――――――とどめとばかりに急上昇して、)

雪村「――――――むっ!(――――――垂直上昇! もらった!)」フワァアアアアアア!

簪「とどめ――――――えっ!?」ビクッ

雪村「でやああああああああああ!」ブン!(――――――いつの間にか『打金/龍驤』も『打鉄弐式』と同じ高さにまで急上昇!)

ガキーン!

簪「きゃああああああああ!」ヒューーーーーーーーーン!
雪村「これで――――――えっ!?(エネルギーが減ってる!? どうして――――――あ)」WARNING! WARNING!


ヒューーーーーーーーーン! ドッゴーーーーーーーン!


簪「う、うぅ…………」

雪村「…………そうか、そういう武器だったのか(あのブレードに太刀を当てるだけでもシールドエネルギーを奪われるのか…………)」EMPTY

雪村「これは迂闊だった……(半エネルギー武器とかいう類の武器であったか、あのなぎなたは…………)」(戦闘続行不能)


――――――勝者、更識 簪 !


――――――
本音「おおー、カンちゃんが勝ったー!」

観衆「おおおおおおおおお!」ザワザワ・・・

セシリア「見ましたか、今の……」ブルブル

鈴「見たわよ……」

鈴「結局、代表候補生との実力差が明らかになったいつもどおりの負けだったけど、相変わらず油断ならないわよね、あいつ……」

セシリア「いったいどうやったらあれほどの速さで急上昇が可能となるのでしょうか…………」

谷本「まったくもって謎の動きだったよね、今の…………あれがトーナメントの時にセシリアにやったやつなんだろうけど」

相川「やっぱり“アヤカ”くんは天才なのかも……」

セシリア「『天才』……、そうかもしれませんね(実際に対峙したら対応不可能のまさに必殺の一撃ですわ! いつ発動するかわからない……)」

箒「くっ、久々に雪村の必殺技『昇龍斬破』が決まったと思ったのにどういうことなんだ? なんでやってる最中に敗けたんだ……?」

ラウラ「おそらく、『打鉄弐式』の斧のような槍のブレードにエネルギーが充填されていたのだろう」

ラウラ「格闘用エネルギー兵器の特徴は、接触した瞬間だけエネルギー放出がされ、瞬時に高いダメージ効率がなされることだからな」

ラウラ「だからこそ、『シュヴァルツェア・レーゲン』のプラズマブレードも安全に取り扱えるわけだ」

ラウラ「“アヤカ”は最後の最後にあのブレードを軽く当てられて、それでエネルギー切れになったのであろう」

ラウラ「しかし、さすがは“アヤカ”だな。ただでは転ばなかったな(そう、場合によってはそこから勝ちを拾えたかもしれないぐらいに……)」

シャル「うん。――――――『一矢報いた』って感じだね」

箒「あ、ああ……!(凄いものだな、やっぱり代表候補生というのは…………私の無力さを今更ながら感じてしまった)」
――――――

466  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:02:02.09 ID:CuqLu7mj0

雪村「立てますか?」スッ(IS解除)

簪「あ、ありがとう…………」ガシッ(IS解除)

簪「試合には勝ったのに、最後の最後に観客の注目を浴びるのは結局は“アヤカ”なんだ……」ヨロヨロ・・・

雪村「生まれついての呪いです」

簪「……そうなんだ」

雪村「………………」

簪「………………はは」

雪村「?」

簪「相変わらず“アヤカ”っておもしろいよね」クスッ

簪「勝っても負けても平然な顔をしているのに、試合している間だけは真剣な表情をいつも絶やさない…‥……何だか楽しい」

雪村「そうなんですか?」

簪「私にはそう見えたよ」

雪村「……そうかもしれませんね」フフッ

簪「うん。きっとそうだよ」

簪「また、手合わせしてくれるかな?」

雪村「――――――『友達』ですから、いつでもどうぞ」

簪「あ」

簪「…………ホッ」

簪「ありがとう、“アヤカ”」ニコッ


――――――友情の握手!


ワアアアアアアアアア! パチパチパチ・・・



467  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:02:51.69 ID:A2g0p8Ya0

――――――某所


友矩「今回の『更識 簪誘拐事件』でいろいろ謎が出てきたね」

一夏「ああ」

一夏「まず、――――――Q1.『どうやって“アヤカ”が監禁されていた場所をピタリと探り出せたのか』だな」

一夏「あれは完全に天性の直感のようなものだったと思っている」

友矩「方角と距離をほぼ完璧に言い当てていたんだから、明らかに何かを察知する能力が『知覧』にはあったんだと思う」

一夏「けど、そんな能力はどこにも載ってなかったじゃないか」

一夏「単一仕様能力でさえもシークレットファクターとしてちゃんと詳しいデータが表示されるんだぜ?」

友矩「あるいは、ISのハイパーセンサーによって脳開発が進んで本人の能力として未来予知ができるようになったとか?」

一夏「…………あり得ない話じゃないかもな、それも」

友矩「IS〈インフィニット・ストラトス〉の摩訶不思議な能力の解明のための第3世代だけど、そういったところの解明はいつ進むのか…………」


一夏「次に、――――――Q2.『“襟立衣”という謎の人物』のことだ」

友矩「被害者の証言からわかっていることは――――――、」


――――――ISに精通した男性であること、

――――――非常に用心深く用意周到で果断即決な人物、

――――――アラスカ条約で禁止されている『リムーバー』を何らかのルートで獲得してきた裏社会の住人、

――――――“更識楯無”に復讐するために“某教授”の『大いなる遺産』とやらを探し求めていること、


友矩「こんなところかな?」

一夏「それと、10万ポンっと渡すぐらいの気前の良さがあるみたいだな」

友矩「しかし どうも、誘拐を目撃している鷹月さんからの証言だと、カネを渡して他の人にも目撃証言をあげさせていたようだね」

一夏「何だそりゃ? 使い捨てる気満々じゃねえか」

友矩「ええ。手段は選ばなくても人は選んでいるようで、そこからあくまでも『人間』としての仁義は守り通す無頼の徒のように思えますね」

一夏「それじゃ、“更識楯無”に本当に何かされたから“襟立衣”は犯行に及んだのか?」

友矩「まあ、どこまで本当かはわからないけどね」

友矩「ただ、展開中のISを奪える『リムーバー』を所持していたことから、確実に裏組織との繋がりがあることは確かで、」

友矩「そして、『“更識楯無”に報復する』ことを宣言していることから、IS学園に何らかの形で接触してくるのは間違いない」

友矩「少なくとも、危険人物として“ブレードランナー”の討伐対象に入るのは時間の問題だね」

一夏「…………不気味なやつだな、“襟立衣”」

友矩「自身を『妖怪』と騙るか――――――まさかな?」

一夏「…………友矩?」

友矩「確証は持てませんが、“襟立衣”がどうして“某教授”の『大いなる遺産』を狙っているのかを考えてた」

468  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:03:54.54 ID:A2g0p8Ya0

友矩「そもそも『大いなる遺産』って何のことかわかる?」

一夏「いや。そんなの初めて聞いたよ」

一夏「確かに昨年“某教授”が死んだっていうニュースで日本中が大騒ぎになったさ」

一夏「でも、『遺産』なんてものが話題に上がったことなんてないぞ?」


友矩「――――――日本政府は“某教授”の死後、自衛隊の特殊部隊を動員して“某教授”周辺の施設や生家を取り押さえた」


一夏「え」

友矩「日本政府が躍起になって“某教授”の遺稿の洗い出しをして、果ては墓荒しまでしたという噂だよ」カタカタカタッ

友矩「おそらく情報統制されてその真偽は明らかにはならなかったけれど、この掲示板のようにその当時の噂がちゃんと残ってる」カチカチッ

友矩「“某教授”はISの生みの親:篠ノ之博士に匹敵するとも言われた人物であり、」

友矩「IS設計技師になる以前から様々な発明を手がけていた稀代の天才だった…………」

友矩「その“某教授”が不可解な死を遂げたことから様々な憶測が行き交ったわけだね」

友矩「その中の死因の1つとして――――――、」


――――――“更識家”の人間を『打鉄弐式』の専属パイロットに選出したから。


友矩「――――――なんてものがある」

一度「どういうことだ、それ……」ゾクッ

一夏「どうしてそこで“更識家”が出てくるんだ? そもそも“更識家”って何だ?」

友矩「“更識家”ねぇ……」

一夏「何か知ってるのか?」

友矩「“更識家”の人間とはあまり関わるべきではないね」

友矩「はっきり言っておくと――――――、」


友矩「“ブレードランナー”の同業者:『暗部に対する暗部』――――――それが“更識家”」


469  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:04:40.20 ID:CuqLu7mj0

友矩「簡単に説明すれば、諜報機関:インテリジェンスに対する防諜機関:カウンターインテリジェンスを代々生業としてきた家系だよ」

一夏「そっか。カウンターインテリジェンスなのか」

一夏「つまり、忍者の家系ってことなのか?」

友矩「さあ? けれども、その一門がIS業界に影響力を持ち始めた――――――」

友矩「更識家の当主は代々“更識楯無”の名を襲名しており、今の更識家当主は17代目でIS学園現生徒会長だね。ロシア代表操縦者で有名だ」

一夏「え」

友矩「疑問があるなら言ってご覧」

一夏「カウンターインテリジェンスの人間がそんな堂々と生徒会長をして、ロシア代表になっていていいんですかね?」

一夏「それに、カウンターインテリジェンスなのに思いっきり“更識楯無”を名乗ってていいんですか?」

友矩「わかりません」

友矩「ただ、あの若さで17代目にさせられた業を思うとね……」

一夏「た、確かに。17代も続く由緒正しき家系の人間にしてはずいぶんと若すぎる人選って気がするな」

一夏「ロシア代表になれたところを見てもそれだけでもとてつもなく優秀なのはわかるけれど……」

友矩「いえ、一応は僕たちと同年代の16代目がいたのですがね……」

一夏「何だ? “アヤカ”や箒ちゃんと同世代の娘に譲らないといけないような何かがあったっていうのか?」

友矩「はっきり言えば、16代目“更識楯無”が原因で“更識家”が没落したって話――――――」

一夏「ど、どういうことだ、それ……」

友矩「具体的なことはわからない。あっちも曲がりなりにも秘密警備隊“ブレードランナー”と同じく謎に包まれた機関だからね」

友矩「ただ、今回の日本代表候補生:更識 簪に対する日本政府の対応を見ると“更識家”への報復の意味も込められている気がするんだ」

一夏「…………何の罪もないじゃないか、簪ちゃんには」

友矩「そうかい? 結局、更識 簪が代表候補生になれたのも少なくとも家の力があってこそだと思うけどね」

友矩「特に、彼女自身が代表候補生になりたくてなったのかはわからないけれど――――――、」

友矩「僕は実は『更識 簪のほうが本当の当主』のような気がするんだけれども、そのへんはどう思った?」

一夏「内向的なか弱い普通の女の子だと思いました」

一夏「でも、あれで日本代表候補生だから見かけによらないと思うのが普通だよな?」

友矩「そう。日本代表候補生に選ばれるだけの実力・品格・容貌があるわけだからどこまでが本当なのかはわからない」

友矩「――――――“更識家”の人間だけにね」

一夏「…………そう考えると、確かに姉と比べられるのも当然かもしれないな」

一夏「レッテルを貼られてばかりの人生なんて俺は嫌だぜ……」

470  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:05:20.38 ID:A2g0p8Ya0

一夏「ともかく、“襟立衣”が生徒会長を狙っていることをIS学園の用心棒になった千鶴さんにも知らせておかないと!」

友矩「もう知らせた」

友矩「問題は、『リムーバー』のような闇兵器を擁するような輩に対してどこまで協力体制を整えられるかだよ」

友矩「もっとも、IS学園が世界一のセキュリティを持っていたとしても簡単に破られるんだけどね」

友矩「この世の中、秩序を破ろうとする力のほうがとてつもなく強大なようだから」

一夏「けど、悪が栄えた試しはないんだろう?」

友矩「恒久的な平和が人類の歴史になかったように、1つの時代の中心となった組織や主義主張が永遠無窮ではなかっただけのことだよ」

友矩「そもそも“悪”とは何だい?」

友矩「僕たちに周りにいるのは“悪”ではなく、“敵”なんじゃないのか?」

一夏「…………!」

友矩「悪は確かに滅びるかもしれない。それを悪と決めつけた正義の軍勢にたまたま負けるだけのことだから」

友矩「けれども、どんな組織や団体でも複数の人間がいれば大小様々な対立は必ず起きる」

友矩「敵は自分たちの外にも内にも無限に湧いて出るんだ」

友矩「現に、クラス対抗戦では『黒い無人機』という外部からの敵が堂々とやってきたことだし、」

友矩「一方で 学年別トーナメントでは、すでに静かな侵略が敵によって進められていたことが明らかになった」

友矩「『敵=悪』ならば、外だけじゃなく内にも敵を作る人間はやはり本質的に誰でも悪である素質を持ってることにならないかい?」

一夏「………………」

友矩「IS学園という組織はもう再編不可能なぐらいに互いの信頼関係がグチャグチャだよ……!」

友矩「近い将来、必ずIS学園は崩壊する――――――内憂外患で組織が組織として機能しなくなるだろうからね」

一夏「…………なら、“ブレードランナー”の俺は何をすればいいんだ?」

一夏「たった一人、“人を活かす剣”が使えるからって俺にはこれから何ができるって言うんだ?」

友矩「………………」

一夏「教えてくれ、友矩。お前は俺の“ブレイン”なんだ! お前が答えをくれなかったら俺は何もできない…………」

友矩「――――――待つしかない」

友矩「わからないことだらけなんだから、僕たちにできることは『わかるようになるまで待つ』しかない」

友矩「たとえ手遅れであろうとも、僕たちがやってきたこれまでのこと全てがその場その場のベストを尽くすことだった」

友矩「なら、先が見通せない今の状況でもできることをやっていくしかない――――――僕はそう思う」

一夏「…………そうだな」

一夏「結局、俺はただの剣客――――――政治家や軍隊の司令官ってわけじゃないんだ」

一夏「大局的な判断を下す人は別にいて、俺たちはそれに従うだけだった」

一夏「けれども、それに従うかどうか、どう取り組むのかだけは常に俺たちの判断で行ってきたことだったな……」

友矩「はい。今は日本政府やIS学園に対して不信感が拭えないけど、成り行きを見守るしかない……」

一夏「ああ……」


――――――どうか、どれだけ苦しくても今日より素晴らしい未来がやってきますように。


471  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:05:57.45 ID:CuqLu7mj0

――――――IS学園


簪「はい。ちょっとしたお礼」

雪村「…………カップケーキ」

簪「“アヤカ”が私をいろんな意味で助けてくれたから、そのお礼」

雪村「そうですか」フフッ


――――――『友達』っていいね。


簪「うん!」ニコッ

簪「同じ『打鉄』乗りとしてこれから一緒に頑張ろう!」

簪「私の『打鉄弐式』もこれからどんどん強くなっていくから!」

雪村「はい。パッケージの共有ができますからいろいろと試行錯誤ができて楽しくなりそうですね」

簪「うん!」


472  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:06:48.02 ID:CuqLu7mj0

箒「………………」

シャル「どうしたの、箒?」

箒「あ、いや、何でもない……」


雪村「――――――」

簪「――――――」


シャル「あ、“アヤカ”と簪――――――」

箒「………………」

シャル「………………」

シャル「もしかして、――――――嫉妬?」

箒「そういうわけじゃない! 私には許婚がいるんだからな!」

シャル「けど、……寂しいんだ」

箒「え」

シャル「だって、“アヤカ”と箒って“母と子の関係”だし、“アヤカ”にとっても箒にとっても『初めての友達』ってわけなんでしょ?」

箒「…………ああ」

箒「雪村が自分から『友達にならないか』って簪に言った時、私は嬉しいような悲しいような気持ちになった」

シャル「………………」

箒「…………なんでだろう?」

箒「雪村が自分から『友達』を作るようになったのに、どうして素直に喜べなかったんだろう?」

箒「それに、どうして私は簪が誘拐された時に無理についていこうと思ったのだろう?」

シャル「………………箒?」

箒「私は何を期待してシャルロットの『ラファール』の背にしがみついてまで駆けつけたのだろう……」

箒「許婚の一夏とは結果としてたまたま一緒になれたから嬉しかったけれど、私は一夏と一緒になれるなんて知らなかったんだ……」

箒「…………私は何を期待していたのだろう?」

シャル「…………ねえ、箒?」

箒「…………シャルロット?」


シャル「たぶん、それが『子が独り立ちしていく』ってことなんじゃないかな?」


箒「え」

シャル「僕も子供だからね、母親の気持ちってわかんないけど、少なくとも嫉妬じゃないっていうのなら、きっとそれは――――――、」


――――――『“アヤカ”はもう大丈夫』だってことなんだろうね。


473  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:07:34.13 ID:A2g0p8Ya0

箒「あ」

箒「…………そうなのか」

箒「私はもうあいつにかまってやる必要はないのか……」

シャル「…………たぶん」

シャル「けど、これからは違うんじゃないかな?」

箒「どういうことだ?」

シャル「本当の意味で『友達』になるべき時期に来たんじゃないのかな?」

箒「え」

シャル「だって、“アヤカ”と箒の関係は“母と子の関係”って喩えられるような――――――、」

シャル「箒が“アヤカ”を支えて、“アヤカ”は箒の支えを必要とした関係だったでしょう?」

シャル「けど、もう“アヤカ”を箒が常に支えてあげる必要はなくなったんだと思う」

シャル「これからは互いに支えあう真に対等な関係を目指していけばいいんじゃないかなーって僕は思うんだ」

シャル「僕もその……、“シャルル・デュノア”だった頃は本当に“アヤカ”に頼りっぱなしだったんだし」

箒「ああ…………」

シャル「僕はそう思うな。“シャルル・デュノア”にとって“アヤカ”はIS学園での毎日の営みの中で1つの柱になっていたことだし」

箒「……あ、そうか」

箒「私も朱華雪村という風変わりな少年と一緒にIS学園で高校デビューをしようと思って…………」

箒「……そうか。ちょっとばかり早かったが次の関係に移っていかないといけないのか」

箒「(けれど、おそらく『次の関係』では、私はもう雪村たち専用機持ちとの接点を失っていくものなんだろうな……)」

箒「(雪村がどうして更識 簪を『友達』に選んだのかはわからない)」

箒「(ただわかることは、同じ『打鉄』から発展した機体同士の共通性から簪が私の立ち位置に取って代わるということだ)」

箒「(今年は専用機持ちが特別多いことから、キャノンボール・ファストとかの特別行事も専用機限定の種目が用意されるらしい)」

箒「(そうなれば、もう私は用済みだ。雪村とは疎遠になっていくことだろうな)」

箒「(私はただの一般生徒だ。IS適性も高いわけでもないし、代表候補生と比べるべくもない凡才だ)」

箒「(一方で、雪村はセンスの塊だ。独特の個性や周囲が仰天するような発想がある。それどころか代表候補生に匹敵する接近戦の鬼だ)」

箒「(確かに雪村と私とでは親しいものはあるが、それは『友達』になるきっかけにすぎない)」

箒「(私はこれからも雪村から『友達』だと――――――必要だと思ってもらえるほどのものはきっとない……)」

箒「(結局、私はまた取り残されてしまうのだろうな………………私は“私”として誰かに求められてきたわけじゃないんだ)」

箒「(『“私”だから』できたことなんて本当にあったのだろうか………‥)」

474  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:08:16.54 ID:A2g0p8Ya0

シャル「ねえ、箒? 頼みがあるんだけどいいかな?」

箒「何だ、『頼み』って? 私にできることなら出来る限り――――――」

シャル「織斑一夏――――――」

箒「!」


シャル「この前 お世話になった“織斑先生の弟”さんのところに行きたい」


シャル「い、いいよね?」オドオド

箒「そ、それまたどうして……?(――――――まさか!? 『まさか』なのか?!)」アセタラー


ラウラ「ほう、シャルロットもあの男に用があるのか」


シャル「…………!」

箒「ら、ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

ラウラ「私も“織斑教官の弟”というものがいかなる存在なのかを知っておきたい。この前の『誘拐事件』では活躍だったそうだが……」

ラウラ「便乗してもかまわないな?」

シャル「あ、うん。いいよ」

箒「あ、ああ。私も別に構わないが、あいつは職業不詳で神出鬼没だから日取りを決めるのも難しいぞ」

ラウラ「なら、織斑教官に訊くのが一番だろう。――――――曲がりなりにも肉親なのだから」プイッ

箒「ラウラ……?(シャルロットはまだわからないが、ラウラはまだ安全か? 気をつけておかないとな……)」

ラウラ「ともかく、連れて行ってくれ」

箒「……わかった。雪村もいたほうがいいか?」

シャル「うん。僕としても同性の知り合いを連れてきたほうが向こうとしてもやりやすいと思うな」

ラウラ「……そうだな。ぜひそうしてくれ」

箒「?」

箒「それじゃ、千冬さんに訊いてそれでダメだったら諦めてくれ。いいな?」

シャル「うん」

ラウラ「致し方あるまい」

シャル「(良かった。これでずっと気になっていたあの人が僕にとって何なのかがわかるかもしれない……)」

ラウラ「(認めたくないことだが、これで織斑一夏の正体が“2年前に現れたISを扱える男性”かどうかがわかる……!)」

箒「(一夏……、私はお前の許婚だよな? 私のことを裏切ったりはしないよな、一夏よ……)」


475  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:09:11.16 ID:CuqLu7mj0

第9話B 二人の接点
―――――― 3 years ago and NOW

――――――XXXX駅すぐ近く:一夏の高級マンション


一夏「今日の予定は何だったっけ?」

友矩「特に何もないかな」

友矩「あ、特売タイムセールが同時刻に2つあるんだったね」

一夏「『特売』――――――あ、そうだ! だから『二手に分かれて買いに行く』って話だったな!」

一夏「確か俺はこっちのやつに行けばよかったんだったな?」パラパラ・・・

友矩「うん。今日を逃すといろいろと不都合だから絶対に買い逃がさないでね」

一夏「わかってるって!」

友矩「それじゃ早く行こう。タイムセールだからきっと多くの人が今か今かと待ち構えているかも」

一夏「ああ。遅れるわけにはいかないな」

友矩「あ」

一夏「?」

友矩「一夏、――――――何だか嫌な予感がする」

一夏「何だよ、また?」

友矩「僕の直感はほとんど当たることがわかってきた」

友矩「忠告しておくよ」


――――――今日、一夏はまた女絡みで苦労するよ。


476  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:09:48.89 ID:A2g0p8Ya0

――――――1時間ぐらい経って

――――――マンション:フロント


一夏「今日も手強かったぜ。さすがは家計と戦い続ける歴戦のおばちゃんたちだったぜ……」ゼエゼエ

一夏「けど、友矩の予言は外れたぜ。俺は勝ったぞ。いつまでも昔の俺だと思うな――――――」

一夏「ん!?」ビクッ


箒「どこへ行っていたんだ、一夏!」

ラウラ「なるほど、この男が“織斑教官の弟”で“篠ノ之 箒の嫁”というわけか……」

雪村「教官、“嫁”じゃなくて“婿”です」

シャル「………………」


一夏「ななななななんでみんな来てるのぉ!?」

一夏「(どういうことだ、これ!? マズイよ、友矩はまだ帰ってきてないよ! 俺一人で相手にできるはずがない……!)」

一夏「(“アヤカ”はまだいいんだ、“アヤカ”は!)」

一夏「(――――――他がヤバイ! 他が!)」

一夏「(箒ちゃんは俺と結婚の話がどうとかで非常にメンドクサイ! “童帝”だと言われ続けてる俺が言うんだからそうに違いない)」

一夏「(そして、新しくやってきたお客さん二人がとにかくヤバイ!)」

477  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:10:33.89 ID:CuqLu7mj0


ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。貴様が織斑教官の弟ならば知っていよう」ジー


一夏「あ、ああ……、織斑一夏だ。よろしく……」ニコー

一夏「(どうしよう、何か探ってるような目つきだぞ、これ……)」

一夏「(俺がラウラちゃんと面と向かって接触したのは確か2回だ)」

一夏「(ラウラちゃんをIS学園に送り迎えした時と、シャルロットちゃんを送った帰りに助けてもらった時だ……)」

一夏「(まさか変装がバレた――――――うん、可能性は大きいな。“アヤカ”にバレたんだ。その可能性は大きい!)」


シャル「あ、あの……、シャルロット・デュノアです。こ、こんにちは……」


一夏「あ、ああ……、何かいろいろと大変だったみたいだねぇ……」

一夏「(そして一番の爆弾は、俺が一度このマンションに連れて来たことがあるシャルロットちゃん!)」

一夏「(『ニュートラライザー』であの時の悲しい記憶の一切は消した――――――というよりは記憶の奥底に封印したわけだけど、)」

一夏「(もしかして、『更識 簪誘拐事件』で会った時に何か思い出したのか!?)」

一夏「(もしや 俺の身体から“童帝”特有のフェロモンが散布されていてそれで思い出したとかか!?)」


一夏「(…………友矩ぃ、またお前の予感が的中したな!)」

一夏「(ああもう! なんで俺はこんなに女難に見舞われないといけないんだぁー!)」

一夏「(不幸だぁ……)」

ラウラ「………………」

ラウラ「(何だこの、嘘ともホントとも判然としない表情は…………)」

シャル「………………」

シャル「(やっぱりこの人から何かを感じる…………)」



478  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:11:15.55 ID:A2g0p8Ya0

―――――― 一夏の高級マンション


ラウラ「ほう、よくわからんが 日当たりが良くてこの開放感――――――いい部屋だということはわかる」

雪村「素敵なお部屋ですね」

一夏「あ、ああ……、友矩が見つけてくれたんだ……」

箒「そうそう、いい部屋なんだぞ」ウンウン

シャル「もう箒ったら嬉しそうな顔しちゃって~、夫婦の営みを頭の中でもう描いているのかな~?」ニコニコー

箒「ひ、冷やかすな~!」カア

一夏「だ、だから! 『結婚するにしても社会人になってからだ』って言ったよね、お兄さん!?」

箒「う、うるさい! お前はいつになったら私と交わした約束を思い出してくれるのだー!」

一夏「そ、そんなこと言われても…………」

一夏「ハッ」

ラウラ「………………」ジー

一夏「な、何かな?」

一夏「あ、そうだ! せっかく来たんだからもてなさないとな……」

雪村「て、手伝いますよ、一夏さん……」ハラハラ

一夏「あ、そうかい、“アヤカ"? じゃあ頼もうかな――――――」

箒「わ、私もだ、い、一夏……」ドキドキ

一夏「い、いや! 先着順! 先着1名で十分だから、な?」

一夏「それよりもだ! ――――――そんなことはないと思うけど、家探しなんてしないよね?」アハハ・・・

シャル「え? べ、別に僕たちはそんなことするつもりは――――――、ねえラウラ?」

ラウラ「………………」

シャル「…………ラウラ?」

箒「……わかった。何やらラウラが気難しそうにしているから私たちで何とかしてやろう」

ラウラ「…………!」

シャル「う、うん。どうしたの、ラウラ? そんなおっかない顔をして――――――」

ラウラ「…………どっちなんだ? 確証が得られない」

シャル「え」

ラウラ「いや、何でもない…………すまなかった」


479  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:11:56.15 ID:CuqLu7mj0


雪村「…………いつもこんな感じなんですか?」ヒソヒソ

一夏「え、何だって、“アヤカ”?」ガサゴソ (買ってきた品物の整理と冷蔵庫からいつものアレを取り出し、食器棚からグラスをおぼんに用意する)

雪村「女性関係で本当に苦労なさってるんですね」ヒソヒソ

一夏「……そうなんだよ」ハア(グラスに氷を容れ、ストローを1本ずつ挿していく)

雪村「さっきの『家探しなんてしないよね?』ってどっちの意味だったんです?」ヒソヒソ

一夏「え?」ピタッ

雪村「――――――『僕たちの秘密を探られないように釘を差した』のか、」ヒソヒソ

雪村「――――――それとも本当に『ボーデヴィッヒ教官の緊張を解こうと思って言ったジョーク』だったのか」ヒソヒソ

一夏「えと…………」ガサゴソ(最後に買い物袋を畳んで整理整頓をてきぱきと終える)

雪村「あ、どっちもですね」ヒソヒソ

一夏「あ、わかる?」コトッ

雪村「1つの言葉の裏にいくらでも思惑を重ねることはできますから」ヒソヒソ

雪村「重ねたトランプと同じです。上から見ると1枚のカードのようにしか見えないけれども――――――」ヒソヒソ

一夏「よし。じゃあ、これを向こうに運んでってくれ(――――――相変わらず鋭い子だ。いや、俺との『相互意識干渉』の賜物か?)」

雪村「はい」

スタスタ・・・

一夏「………………」

一夏「仮想世界の構築をする以前と比べれば本当に明るい子になったよ……」

一夏「けれども、最初のように人を信じるということをまた諦めつつある。今度はごく狭い交友関係の中だけで生きようとしているな……」

一夏「しかたがないとはいえ、せっかく心を開いてくれたんだから、もっと多くの人と信愛を結べるようになっていって欲しいな……」


480  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:13:08.12 ID:A2g0p8Ya0

一夏「おまたせ」

箒「遅いぞ、一夏」

一夏「だったら、『来るなら来る』って連絡してくれよ」

一夏「そうすれば、特売タイムセールにみんなを連れて行ってもっと品物を買えたんだから」

箒「し、しかたがないだろう! そもそも私はお前がマンションに居るのか実家に居るのか、出張しているのかなんてわからないんだから」

箒「千冬さんに訊いたら『たまたま今日はマンションに帰っている』と教えてもらったから、急いでやってきたんだから」

一夏「ああ そう……」チラッ

ラウラ「………………」ジー

雪村「………………」ハラハラ

箒「しかし、一夏? お前は客人に対して買い物を手伝わせる気だったのか?」

一夏「だってそりゃ、2人ぐらいだったらもてなす備えはしてあるけど、まさかの倍の4人も来るだなんて思わなかったぞ」

一夏「だから、昼飯なんてのも冷蔵庫の中身を掻き集めて5人・6人分まかなえるか心配だ」

箒「あ、なるほど。それは確かに悪いことをした…………反省する」

ラウラ「………………この言葉足らずな物言いは本当にそっくりだ。だがしかし、そうなるとだな――――――」ブツブツ

シャル「さっきから本当に大丈夫、ラウラ?」

ラウラ「私は至って平常だとも」

シャル「そう……」

481  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:13:49.85 ID:CuqLu7mj0

シャル「あ、それじゃいただきます――――――」ゴクッ

シャル「!」ピタッ

シャル「………………」

箒「ん? どうしたのだ、シャルロット?」

一夏「…………あれ?(確かこれってアールグレイだった気がするな。あの日も確か寝る前にアールグレイ――――――)」アセタラー

シャル「あ、何でもないよ、何でも……」ニコッ

シャル「………………」

箒「いや、そうは言われても急にそんな食い入る様に見たら誰だって気になるだろうが」

一夏「えと、何か不満なことでもあったかな……?」アセタラー

シャル「う、ううん! とっても美味しいよ、この……、――――――アールグレイ?」

箒「ああ。本当に美味いアールグレイだが、何かあったのか?」

シャル「えと、何て言うんだろう? ――――――とても懐かしいような感じがして」

一夏「え」アセタラー

シャル「この爽やかな柑橘の香りとか、風味とか、感覚とか何やら全て――――――」

ラウラ「………………」ジー

一夏「…………!(うわっ、ラウラちゃん? いつまで疑惑の目をこっちに向けてるの!?)」アセタラー


雪村「べ、別にアールグレイなら僕のところでよく飲んでたじゃない……」ハラハラ


シャル「あ、確かに…………久々に飲んだから妙に感動してるのかな?」

ラウラ「…………?」スッ、ゴクッ

ラウラ「あ、これは確かに美味いな……」

一夏「…………ホッ(――――――“アヤカ”、Good Job !)」

雪村「…………ホッ(ちょっと一夏さん! シャルロットに何をしたかは知りませんけど、表情に出てますよ! ――――――『何かした』って!)」

箒「確かに。私もアールグレイはしばらくぶりに飲んだ気がするな」ゴクッ

箒「ふぅ、いい味だな」カランカラン

482  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:15:04.55 ID:CuqLu7mj0

雪村「さて、それじゃ僕もいただきます――――――」ゴクッ

雪村「!?」ピクッ

雪村「あ…………」

一夏「うん? 今度は“アヤカ”か!? どうした、俺の作ったアールグレイが不味いのか!?」アセアセ

箒「え? そんなことはないと思うが、どうしたのだ?」

雪村「………………」

シャル「ど、どうしたの? また何か閃いたことでもあったの?」

シャル「(そういえば、“アヤカ”の機体が“黄金の13号機”になったのも今日のように箒が一夏さんの家に遊びに行っていた時だったっけ……)」

ラウラ「“アヤカ”、どうしたというのだ?」

雪村「………………」


――――――どこかでこの味を覚えている。


一同「!」

雪村「どこだろう? これって一夏さんの手作りですよね? 市販品のやつをそのまま入れたってわけじゃないですよね?」

一夏「あ、ああ! それは確か3年前の――――――っ!」アセタラー

ラウラ「…………?(――――――『3年前』だと?)」

一夏「(ダメだ、言っちゃいけない! 俺がアールグレイを飲むきっかけになったのは他でもない『あの日』だ――――――!)」

箒「そ、そうだったのか? 雪村がいつも飲んでいるあれとの違いがあまり感じられないのだが……」

雪村「ずいぶん違いますよ。まず、僕のは使ってる水が水道水で。こっちのはミネラルウォーターなんでしょう?」

一夏「ああ。その通りだとも……」

シャル「本格的なアールグレイを作り方を誰かから教わったってわけなんですか?」

一夏「うぅん……(どこまで言っていいのかな? とりあえず『本場イギリス人のメイドに教わった』ぐらいは言っていいか?)」

483  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:15:33.99 ID:A2g0p8Ya0

一夏「ああ。ある縁でイギリス人のメイドさんにごちそうになってとても気に入ったから無理を言って製法を教えてもらったんだよ」

一夏「それがこのアールグレイで、日本であの味を再現するのに材料を揃えるのが大変だったぜ」

箒「え、『イギリス人のメイド』から?」

シャル「そうなんだ」

一夏「大学生の頃の話さ。これでも俺は交友関係は広くて、その中のフレーバーティーに通じてる知り合いの力を借りて何とか再現したってわけさ」

ラウラ「…………確か、『あの事件』の乗客にイギリス人がいたような気がするな」ボソッ

雪村「――――――『イギリス人のメイド』」


――――――はい、どうぞ。お二人の分ですよ。


雪村「あれ、何だろう? 頭の中で何かそんなような人の面影が朧気ながら見えたような気がする……」

雪村「(それに、もっと大切な何かを僕は忘れている――――――?)」

箒「本当か、雪村!?」

雪村「でも、はっきりとは思い出せないし、そもそもその人の名前も知らない」

ラウラ「では、イギリスの名門貴族様に『3年前』に日本人の少年にアールグレイを振る舞った覚えのあるメイドを探すように言ってみたらどうだ?」

一夏「?!」ゾクッ

箒「お、おお! ま、まさかこんなところで雪村の記憶に関する手掛かりが得られるとは思わなかったぞ」

シャル「そうだね!」

一夏「…………いや、そんなはずがない」ブツブツ

一夏「(“アヤカ”があの船に乗っていた!? もしかしたら会っていた!? 馬鹿な、そんなはずが……)」

一夏「(だったら、その後に整形手術でもして顔が変わったとでもいうのか?!)」

一夏「(――――――そう考えると、確かに重要人物保護プログラムでそうなった可能性はある! ゼロとは言い切れない!)」

一夏「(すると、あのブラックホールを超えた先に『あの日』の光景が封印されてる可能性があるってことなのか?)」

一夏「(けど、何だって『3年前のあの日』の出来事がここまで尾を引いてるっていうんだ!)」

一夏「(確かに『あの日』は俺にとっても忘れられないような、忘れてはいけない日だったけれども…………)」

484  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:16:34.19 ID:A2g0p8Ya0

雪村「…………わからない。ただの偶然や思い込みかもしれないけど、」

雪村「一夏さんの本場イギリス仕込みのこれを飲んだ瞬間に、僕が飲むアールグレイの起源のようなものが垣間見た気がする……」

シャル「でも、それは意外な真実かもしれないよ?」

シャル「『記憶と臭いっていうのは関連が深い』っていう学説を聞いたことあるから」

箒「そうだな。効率的な勉強方法に『臭いで印象づける』っていうのがあった覚えがあるぞ」

ラウラ「なるほどな…………この柑橘の香りと風味が記憶喪失になる以前の“アヤカ”の手掛かりとなるわけか」

一夏「何か凄いことになってきたな……」


友矩「――――――プルースト効果だね、それは」


一同「!」

一夏「あ、友矩ぃ」ホッ

シャル「あ…………」


『…………雨の日になると、捨て犬を――――――がちょーん!』


シャル「へ」

友矩「がちょーん!」アヘェ

箒「は」

ラウラ「?!」ビクッ

雪村「………………」


一同「………………」


485  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:17:35.19 ID:A2g0p8Ya0

友矩「あれぇ?」

一夏「何やってんだよ、友矩? 出合い頭にギャグをかまして完全に滑ってるじゃないか……!」ヘラヘラ

友矩「残念! カッコよく入ってきた最初の印象を吹き飛ばすような破壊力ある落差をお見せしたかったんだけどね……」ヘラヘラ

シャル「あ、ははは…………(――――――あれ? 僕、何 考えてたんだっけ?)」

シャル「(『…………雨の日になると、捨て犬を――――――』を何だっけ? 『――――――がちょーん!』なわけない!)」

シャル「(そもそも 何のセリフだっけ、これ? まあいいや)」

一夏「すまないな、友矩。突然の来客で買い物量を増やしちゃって」

友矩「別にいいんだよ、そんなこと(――――――決まった! シャルロット・デュノアに対する人力『ニュートラライザー』は成功だ)」ニコッ

友矩「それに、きみと僕の仲じゃないか。こんなこと、大学のルームメイト時代と何も変わってないじゃない」

一夏「それはそうだけどな。そっちのやつは俺が入れとくよ」

友矩「うん。頼むよ」

一夏「ああ」


ワキアイアイ、テキパキ、サッサッサッサッサ


一同「………………」

友矩「あ、ごめんね。話の腰を折っちゃって」ニッコリ

シャル「あ、いえいえ! こちらこそ突然 お邪魔しちゃいました!」アセアセ

箒「ああ…………」

友矩「どうしたのかな、箒ちゃん?」

箒「あ、いえ! わ、私も、突然 押しかけてしまってご迷惑をお掛けしたようで本当にすみませんでした……」

友矩「気にしなくていいよ、そんなこと」フフッ

箒「うぅ…………(何だこれ?! ――――――さっきの一夏と友矩さんのやりとり! まるで『夫婦水入らず』のそれではないか!?)」ガビーン!

ラウラ「ほう、これが日本における夫婦の営みというやつか……(クラリッサが教えてくれた通りだな……)」

友矩「そういえば確か、見たことがある顔だね」

友矩「世界的にも有名になった元“二人目の男子”シャルロット・デュノアちゃんに――――――、」

シャル「…………!」

シャル「はい。その通りです……(そうだよね。僕がみんなを騙してきた罪は一生消えない……)」

友矩「ドイツ軍将校の娘で、特別待遇で幼少期からIS乗りとなるための教育部隊兼特殊部隊の『黒ウサギ隊』出身のラウラ・ボーデヴィッヒちゃんだね」

ラウラ「…………正確には『黒ウサギ隊』はIS〈インフィニット・ストラトス〉を専門に運用する実験的な特殊部隊であって、」

ラウラ「ドイツで行われている軍主導の少女ISドライバー養成プログラムとは別物だ」

ラウラ「私のような最初の世代がISの運用データの収集を行う目的で設立された実験的な『黒ウサギ隊』に優先的に回されただけであって、」

ラウラ「『黒ウサギ部隊』が教育部隊というわけではない――――――」

ラウラ「まあ、養成プログラムの成果として大々的に宣伝されているから誤解されるのも致し方ないか」

箒「なるほどな。私と同じ歳で少佐という階級をもらえていたことがずっと疑問だったけど、そういう国家事業があったのか……」

486  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:18:26.19 ID:CuqLu7mj0

友矩「それで? 『プルースト効果』で『ある特定の臭いによってそれにまつわる記憶を誘発された』ってのは何かな?」

シャル「あ、それが、“アヤカ”が一夏さんのアールグレイを飲んだら何かを思い出せそうになったようでして…………」

雪村「………………」

友矩「そっか。一夏が大学時代にごちそうになったという本場イギリスのアールグレイが――――――」

ラウラ「何かそれ以上の詳しいことを教えてはくれないか?」

箒「…………ラウラ?(そういえば、やけにラウラが積極的だな。“敬愛する織斑教官の弟”に興味津々だな)」

友矩「いや、僕は残念ながらその場に立ち会ったわけじゃないから、一夏以上のことはまったく知らないよ」

ラウラ「…………そうか、そうですか。ありがとうございます」

友矩「一応 僕と一夏は日本のIS事業の公式サポーターでもあるんだ」

友矩「他国の代表候補生に肩入れはできないけど、日本が誇る“世界で唯一ISを扱える男性”である“アヤカ”くんにはいくらでも力を貸せる」

友矩「だから、こっちとしても“アヤカ”くんの悩みになら できるだけ応えようと思う」

箒「ありがとうございます、友矩さん」

雪村「ありがとうございます」

シャル「良かったね、“アヤカ”。これで本当のきみに――――――」

友矩「けど、訊いていいかな?」

一同「?」

雪村「………………」


――――――本当に思い出したい?


箒「へ」

シャル「どういうことですか?」

ラウラ「…………?」

雪村「………………」

487  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:18:53.64 ID:CuqLu7mj0

友矩「簡単な話だよ」

友矩「今の“彼”は“アヤカ”くんという存在であって、まさかそれが本名だとは思ってないでしょう?」

シャル「あ…………」

箒「で、でも! 本当の自分を取り戻したいと思うのが普通だと思います」

友矩「――――――『普通』か」ボソッ

箒「あ!」ゾクッ

雪村「………………」

箒「すまない! お前の気持ちを考えてなかった! すまない……!」

雪村「いえ、気にしてません。ありがとうございます」

ラウラ「…………この男、一夏とは違った意味で侮れない何かを感じるな」ボソッ

友矩「それで、本当に思い出したい?」

箒「あ、雪村……」

雪村「………………」


――――――そこまでしてもらう必要はないと思ってます。


一同「………………」

友矩「そうか。一応は調べさせてもらうよ? ――――――日本政府に訊けば早い話なんだけど、世の中 そううまくはいかないから」

雪村「はい。よろしくお願いします」

箒「…………『日本政府』か」ギリッ

シャル「…………日本もいろいろあるんだね」

ラウラ「………………おそらく、この男は“アヤカ”についてはより多くを知ってはいるが、全てとまではいかないようだな」ブツブツ



488  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:19:32.98 ID:A2g0p8Ya0

――――――昼食


一夏「今日は腕によりをかけて作ったぜ!」コトッ

箒「お、おお!」パァ

シャル「わあ、美味しそう!」キラキラ

ラウラ「…………思わず食欲をそそられたな(――――――ほう、いろんなパスタがボウルにたくさん!)」ドキドキ

雪村「………………フフッ」

友矩「今日は即席で簡単に作ることができる本格イタリアン料理です」

友矩「とはいっても、パスタ各種をメインにして少々のパンにミネストローネにカプレーゼを添えただけの手抜きなんだけどね」

箒「そ、そんなことはないですよ! この“輪切りトマトにハーブと白いの”を載せたやつなんて高級感溢れてますよ」

一夏「箒ちゃん、それが“カプレーゼ”だ。白いのはモッツァレラチーズで、ハーブはバジリコ――――――いわゆるバジルってやつだ」

一夏「で、確か“カプレーゼ”ってやつはイタリア語で“カプリ島風のサラダ”って意味だったな」

一夏「とにかく、バジルとトマトは相性が良いんだ。手軽だし、一度 味わってみてくれ」ニッコリ

箒「お、おお!」

ラウラ「こっちの黒いパスタは何だ……?」ウワァ・・・

一夏「そいつは“ネーロ”だな。イカスミパスタだ。“ネーロ”はイタリア語で“黒”って意味だから見た目通りだろう?」

ラウラ「こ、こんなものを食べたら口の中が真っ黒になるではないか!」

一夏「まあ、それはしかたないことだけど、味の方は保証するぜ。口洗いも用意したから気にせず食べてみてくれよ」

ラウラ「そ、そうか。こんなものをイタリア人は食すのか…………旧大戦で負けるのも納得だな」ブツブツ

シャル「い、一夏さん! こっちのは何かな?」

一夏「あ、これは日本独自の“たらこスパゲッティ”だな。バターとたらこっていうタラの卵巣をまぶした2つの風味のマリアージュがイチオシだぜ!」

シャル「へえ、あっちの“ネーロ”とは対照的なピンクだよ、ピンク!」

一夏「さ、ジャンジャン食べてくれよ! 飲み物はアールグレイと缶コーヒーぐらいしかないけど勘弁な!」


雪村「本当に美味しいです。ありがとうございます」ニッコリ


友矩「どういたしまして。お口にあったようで何よりです」ニコッ

小娘共「?!」ドキッ

一夏「どうした?」

シャル「今、本当に物凄くいい笑顔だったよね……?」ドキドキ

箒「あ、ああ。久々に見たよ、雪村の満面の笑み…………」ワクワク

ラウラ「…………やはりこの男はそうなんじゃないのか? いや、そうだとしてもだな、しかし――――――」ブツブツ・・・


――――――こうして大人と子供の交流がなされていった。



489  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:20:18.95 ID:CuqLu7mj0

――――――食後


シャル「お、お腹いっぱい……」ウットリ

ラウラ「口の中からイカスミが出せそうな気がするな、今なら…………(まさかあそこまで美味いとは思わなかった……)」ゲフッ

友矩「お粗末様でした」ニコニコ

一夏「そういえば、そろそろ臨海学校だったな」

箒「ああ。7月の6日・7日・8日の2泊3日だったな」

一夏「そっか、やっぱり渡せそうにないか」

箒「え」

一夏「いやさ? 7月7日って箒ちゃんの誕生日だろう?」

一夏「だから、先に渡しておこうと思ってな――――――」スッ

箒「え?!」

一夏「ちょっと早過ぎるけど――――――、」


――――――誕生日おめでとう、箒ちゃん。


箒「おお…………!(こ、これって何だろう!? すぐに開けて中身を見たい――――――!)」グスン

一夏「あ、あれ?! ど、どうして涙なんか――――――!?」アセアセ

箒「あ、いや……、6年振りだよ。こうやって家族以外の人間から誕生日プレゼントをもらうだなんて…………」ポロポロ・・・

箒「あ……、こんなにも嬉しいものだったんだ、誕生日って……(悔いがあるとすれば、早めの誕生日祝いってことだけど そんなのは――――――)」グスン

シャル「箒……」ホッ

ラウラ「誕生日か……」

雪村「…………良かったね」


友矩「はいはい。サプライズはまだまだあるんだよ~?」


シャル「え、何々?!」

箒「ん?」

友矩「はい。ハッピーバースデー!」

友矩「ぱんぱかぱーん!」

ラウラ「おお!」

雪村「………………フフッ」


――――――甘さ香るバースデーケーキ!


490  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:21:23.51 ID:CuqLu7mj0

箒「え、えええええええ!?」

箒「きゅ、急にお邪魔したのに、ここまでするんですか?!」

友矩「うん。祝い事はみんなで共有し合わないとね」


友矩「特にここにいる人たちはこういうことに不慣れな気がしたからね」ニッコリ


一同「…………!」

一夏「どうした、みんな?」

箒「あ、いや、何でもない。お二人のお気遣いに思わず感極まって言葉が出なくなってました……」← 6年間 重要人物保護プログラムのせいでできなかった

シャル「う、うん! 僕もびっくりだよ!」← 2年前に最愛の母を亡くし、冷淡な父の許で操り人形のように過ごしてきた

ラウラ「こ、こういう時 どうすればいいのかわからないのだ」← 個人的な誕生会に参加したことが生まれてから一度もない

雪村「僕の誕生日っていつでしたっけ?」← 記憶改竄・人格崩壊・戸籍偽造のために本当に覚えていない

友矩「それじゃ、このホールケーキはお土産に持って帰ってね」

友矩「みんなが今日 食べる分はこっちのワンカップのやつだよ!」

友矩「ほ~ら、ぱんぱかぱーん!」


――――――今度は1皿分の色とりどりの個性的なケーキが人数分+1 箱に詰められていた!


箒「おおおおお!」ワクワク

シャル「ここまでしちゃうんですか!」キラキラ

ラウラ「驚きの連続だな…………これは本当に現実なのか? 夢じゃあるまいな?」ドキドキ

雪村「…………凄いなぁ」

一夏「お腹いっぱいでも、これぐらいなら『甘い物は別腹』で入るだろう?」ニッコリ

箒「あ、でも…………」アセタラー

一夏「何? 本当にお腹いっぱいなら持ち帰ってくれ。それができるようなものを選んできたから」

友矩「――――――僕がね」ジトー

一夏「あ、うん……、そう、友矩が」アセタラー

491  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:21:54.89 ID:A2g0p8Ya0

箒「う~む(このまま食べてしまっていいのだろうか? カロリーどれくらい摂取してしまったんだ、私は!?)」アセタラー

箒「(――――――食べたい! けれども、これは確実に太る! 太ってしまったら一夏に愛想尽かされるのではないのか!?)」ハラハラ

箒「あ、そうだ! お前たち、先に選んでくれ。私はいっぱいもらったからもう十分だよ」ニコー

シャル「そ、そう? そ、それじゃ、お言葉に甘えていただこうかな?」

シャル「(やっぱり男の人ってたくさん食べるんだよね…………お昼のイタリアンなごちそうでもうお腹いっぱいだよ)」

ラウラ「…………もう食べたくない。少し休ませてくれ」

ラウラ「(おのれ、“ネーロ”! 私がいくら“黒”が好きだとは言ってもここまで苦しめてくれるとは…………!)」

一夏「ちょっと作り過ぎたかな、昼の……」

友矩「しまった! 相手が成長期の悩み多き乙女であることを忘れていた…………僕としたことが(食欲よりもダイエットな年頃だった!)」

雪村「あ、これ、もらっていいですか?」

シャル「あ、うん。いいよ(――――――あ、僕が狙ってたやつ! 完全に出遅れた!)」ニコニコー

ラウラ「好きにしてくれ(私にとっては箱の中のケーキ全てが未体験でどれであろうと楽しみなのだ。――――――くれてやる)」

箒「あ、ああ! お前は男なんだから遠慮するな(くぅ、こういうのは最初に選べないとハラハラさせられてしまうものだな……)」ニコー

雪村「あ、これは美味しいな……」フフッ

一夏「あ、喜んでくれたようで何よりだ」ニッコリ

友矩「やっぱり成長期の男子はよく食べるわ…………なんで成長期の女子ってダイエットなんてしたがるんだろう?」

箒「…………うっ!(なんと美味しそうに食べてくれるのだ、雪村! んんんん我慢できん!)」ウズウズ

箒「と、とりあえず、自分の分だけは先に取っちゃおうか?」ニコニコー

シャル「う、うん! そうだね! 後の人に悪いしね!」ニコニコー

ラウラ「そ、そうだな(少なくともハズレはないはずだ。“ネーロ”のようなゲテモノもイケたんだし、きっと新しい世界が――――――)」ワクワク



492  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:22:51.36 ID:A2g0p8Ya0

――――――食後のデザートも終えて、


箒「やってしまった…………(食欲に負けてしまった……何たる気のたるみ…………)」orz

一夏「もう十分だよな。片付けるぜ」

シャル「ご、ごちそうでした……(本当に美味しいものがいっぱい出されたから大変だよぉ……)」ニコニコー

ラウラ「うむ! 大変美味であった!」キラキラ

雪村「へえ、ボーデヴィッヒ教官もそんな顔するんだ」

ラウラ「へ」

ラウラ「いや、貴様の見間違えだ。私はいつでも臨戦態勢だ」キリッ

雪村「そうですか」

箒「こうなれば! 摂り過ぎたカロリーを燃やすために訓練を今まで以上にやるぞ!」メラメラ・・・

箒「付き合え、雪村!」

雪村「ん? ああ はい」

友矩「箒ちゃん。それじゃ、ちょっと重たいけど おみやげね。忘れないでね」

箒「あ、はい。本当にありがとうございます。突然 お邪魔してこんなにもてなしてくださるなんて……」

友矩「気にしないで。僕たちはIS事業の公認サポーターだからね」

友矩「それに、いつも一夏や仕事仲間との食事っていうのも味気ないし、こうやって機会を設けてパーッとやりたかったところもあるんだ」

友矩「そういう意味では実に華があったね。世界が誇る美少女がこんなにも――――――、ね?」

箒「そうですか(――――――羨ましいことをしているのに『飽きた』と申すか、友矩さん!)」

友矩「それじゃ、他に用はないかな?」

一夏「あ、ラウラちゃん。ほっぺに薄くイカスミが付いてるな」

ラウラ「ん」

ラウラ「あ」

一夏「ちょっと我慢してね」スッ

箒「い、一夏!?」ドキッ


ラウラ「はぅ!?」ドキッ(温かいおしぼりでラウラの頬についていた“ネーロ”のイカスミを優しく拭った)


一夏「ほら、これで取れたぞ」ニコッ

ラウラ「あ。ああ…………」ヘナヘナ・・・

一夏「?」

箒「い、一夏……!? は、破廉恥だぞ!(――――――う、うらやま…けしからん!)」ワナワナ

友矩「一夏の馬鹿……!(どうしてわざわざ相手を刺激するようなことを平気でやれるのかな、きみぃ?!)」アセタラー

シャル「…………ラウラが蕩けた(あ、何だろう? 僕、あの表情を見て 何を思った……!?)」キュン


493  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:23:27.37 ID:CuqLu7mj0


黒服『あ、ちょっといいかな、ラウラちゃん?』

ラウラ『?』

ラウラ『別に構わないぞ』

黒服『じゃあ、ちょっと我慢しててね』スッ

ラウラ『はぅ!?』ドキッ(温かいおしぼりでラウラの頬についていたアイスクリームを優しく拭った)

黒服『はい。これでほっぺについたアイスクリームはちゃんととれたはず』

ラウラ『おぉ………………』ドクンドクン

黒服『それじゃ、アイスクリームを最後まで食べちゃって』

ラウラ『あ、ああ!』ドクンドクン


ラウラ「(どういうことだ?! 心臓がずっと高鳴っている! 私は最強の軍人としてどんな状況でも冷静でいられる訓練を受けてきた!)」ドクンドクン

ラウラ「(そ、それなのに、どうしてこんなにもドキドキしているのだ?!)」ドキドキ

ラウラ「(こ、これが『恋』――――――私は本当に恋をしていると言うのか? 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な…………)」ドキドキ

ラウラ「(いや待て! 私は織斑一夏と会ったのは今日が初めてで――――――こいつは多分“ハジメ”とは違うはずなんだ!)」

ラウラ「(そう、どうもこいつは嘘や隠し事が下手なようで自分に正直な人間だということはすぐにわかった)」

ラウラ「(確かに織斑一夏と“ハジメ”は私の記憶が正しければあまりにも共通項が多く、普通はそれで同一人物だと断定できるが、)」

ラウラ「(それにしてはあまりにも迂闊過ぎる! “アヤカ”を陰から見守っている“2年前に発見されたISを扱える男性”にしては迂闊!)」

ラウラ「(隠す気がないのか?! いや、織斑一夏は腐っても“織斑教官の弟”だ! 私以上にISに触れる機会はあったはずだ!)」

ラウラ「(それが堂々と一般人としての生活をのほほんと送っているということは、やっぱり違うのか?)」

ラウラ「(“アヤカ”との接点はすでに篠ノ之 箒と一緒に外出した時に会ったというアリバイがあるからもはやどうとも言えないし)」

ラウラ「(そうだとも! どうして私はここまで織斑一夏という男性に気を許してしまったのだ!?)」

ラウラ「(“ハジメ”とは違う! “ハジメ”とはちゃんとふれあいがあって私は心を許したという過程がある!)」

ラウラ「(それなのに私は、あまり深く突っ込んだ話し合いもしてないのに織斑一夏に触れられることを悪く思わなかった……)」

ラウラ「(どういうことなんだ!? やっぱり“ハジメ”と織斑一夏は同一人物だと考えたほうが筋が通るのか!?)」

ラウラ「(いや、そんなはずがない! “ハジメ”はまさしく裏稼業の人間としての風格があった!)」

ラウラ「(それに対して、私の心を今 動揺させている織斑一夏とかいう男は、お気楽で脳天気で私を人目見て壁を作っていた! 怖気付いていた!)」

ラウラ「(何がどうなっているのだ!? 私の確固たる確信はどうなってしまったのだ…………織斑教官!)」

ラウラ「(ん? ――――――『織斑教官』?)」

ラウラ「(そういえば、織斑教官が私に言っていたことがあったような気がする)」

ラウラ「(そう――――――、)」


――――――弟に会うのなら覚悟をしておけ。あいつは女性の心はわかってないのに不思議と女性を虜にする魔性の持ち主だからな。


ラウラ「(まさか!? この私がこの男の虜になったというのか!? ――――――初対面の相手に!? 恐るべし、織斑一夏!)」

ラウラ「(いや、待て待て! クラリッサの愛読書で私も少しは恋愛というものを理解しているが、)」

ラウラ「(女性が恋に落ちる定番イベントなんてまったく無かったし、私はただ“ネーロ”を食べて腹いっぱいになっただけではないか!)」

ラウラ「(そ、それがさっきのやつで私は、私は恋に落ちたのか? それとも違う感情なのか?!)」

ラウラ「(うぅ~わからん! ともかく! 今の私を支配しているこの胸の高鳴りの正体を究明しないと落ち着かん!)」


494  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:24:08.38 ID:CuqLu7mj0


ラウラ「…………」ハアハア

一夏「だ、大丈夫か!? 何か息が荒いようだけど――――――!?」

ラウラ「織斑一夏。まさか本当にお、お前が――――――」ドクンドクン


箒「一夏! 破廉恥なことをするなら許婚の私にだけしろおおおおおおお!」ギュゥウウウ!


一夏「うおっ!?(――――――せ、背中にむ、胸の弾力?!)」ボフッ

シャル「ほ、箒……?!」ドキッ

ラウラ「あ……」ドキッ

友矩「もうイヤだよ、“アヤカ”くん。箒ちゃんもたいがいだけどさ!」ハラハラ

雪村「………………大変ですね、本当に」ハラハラ

一夏「えと、急にどうしたんだよ、箒ちゃん?(お、落ち着け、織斑一夏! そ、素数だ、素数を数えろ! いや、円周率――――――!)」ガタガタ

箒「どうしてお前はいつもいつも他の女をたぶらかして!」

箒「……私の何がいけないというのだ?」グスン

一夏「だっだっだっだから! 俺が箒ちゃんと結婚するかなんてあり得ない話でしょう!」

箒「な、なにぃ!?」

一夏「あ」ゾクッ

友矩「(――――――もう一夏の馬鹿! 言葉足らずもいいところだよ!)」ガバッ

友矩「ま、まずは落ち着いて! これは何度も一夏が言っていることだよ!」

友矩「箒ちゃんはまだ16歳じゃないから結婚できないから! 法律的に! それに一夏は――――――」

箒「私はもう16歳だ!」

一夏「え!?」


箒「忘れたのか!? 今さっき私のためにバースデーケーキとプレゼントを渡してくれたではないか!」


一夏「待て待て待て! 気分は16歳でも法律的にはまだ箒ちゃんは15歳だから!」

友矩「ツッコむところそこじゃないでしょ、一夏!」

友矩「その理屈だと、1ヶ月も経たないうちに婚約じゃないか!」

一夏「あ、今の無し! 今の無し!」

ラウラ「」

シャル「」

雪村「………………神様、いるのでしたら、どうか一夏さんと友矩さんに神の叡智と安らぎをお与えくださいませ」ブツブツ



495  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:24:54.30 ID:A2g0p8Ya0

――――――リビングに専用機持ちたちを残して、別の部屋で1対1(第三者付き)で話し合うことに


箒「………………」ゼエゼエ

一夏「………………」ゼエゼエ

友矩「…………落ち着いた? それじゃ箒ちゃんからどうぞ」ゼエゼエ

箒「け、結局、一夏――――――お前はもしかして私では誰か、心に決めた人でもいるのか?」

一夏「あ、いや、そういうわけでもないんだ……」

友矩「なら、どういうわけなんですか、“童帝”さん?(だからどうして、そういう受け答えするのかな?)」ジロッ

一夏「そ、それはその…………」スゥーハァーー

一夏「――――――聴いてくれ、箒ちゃん」

箒「ああ。聴いてやるとも。それで私を納得させてくれ、頼むから……」


一夏「俺さ、ずっと1歳違いの姉に守られて育ってきたんだ」

一夏「苦しいことはいっぱいあったさ。家計や学費で大いに苦しんできたさ」

一夏「でも、中学時代の千冬姉はとにかくスケバンとして名を馳せるぐらい荒れていてな?」

一夏「その原因のほとんどが俺で、俺に悪い女が寄り付くのをよしとしなかったから、片っ端から他の女の子を泣かせてたよ」

一夏「それで、千冬姉は誰からも怖がられて浮いた噂が1つとしてないほど色恋沙汰とは無縁の孤高の存在になっていた」

一夏「別に品行方正ってわけじゃないんだけどさ? 今も“ブリュンヒルデ”として格が高過ぎるからお見合いも話もない」

箒「だから?」


一夏「俺、千冬姉を1人にさせるなんてできないよ」


一夏「俺が結婚して独り立ちしちゃったら千冬姉は1人になっちゃう」

一夏「でも、男勝りで家事もできないようなどうしようもない姉だから、どうしても俺は放っとけなくて……」

箒「…………一夏」

一夏「だいたいにして! 俺は上京して大学進学する時もそのことばかりが不安で不安でしかたなかったんだよ!」

一夏「そしたら案の定! 俺がいなくなった後の家はゴミ屋敷さ! 『ハウスキーパーを雇ってよ!』っていつも思うよ!」

一夏「千冬姉は確かに世界に通用するようなベストプロポーションのナイスバディだけど、」

一夏「それ以外は女性としての嗜みが何1つできないような、女性として底辺レベルのかわいそうな人なんだよ……」

友矩「………………」

一夏「そうなったのも全部 俺のせいなんだ……」

一夏「俺が学生時代――――――酸いも甘いもいっぱい学ばなきゃならない時期に、千冬姉が得るはずの青春の全てを俺に捧げて…………」

一夏「そして、千冬姉は立派に俺という一人の人間を育て上げてくれたさ。もう千冬姉の脛をかじる必要なんてないぐらいに経済的余裕もある」


一夏「けれど、それでいいのか?」


一夏「俺はずっと大学卒業前の就職活動の中でずっと悩んでた」

一夏「入ろうと思えば、大学時代に得たコネでいろんな有名企業や俺の実力で官公庁ぐらいは十分に狙えた。誘いの声もいっぱいあった」

一夏「けど、俺は全部断った。ある者はそれで俺を見限り、ある者は待ってくれることを約束して離れていった…………」

一夏「最終的に俺の側にずっと寄り添って道を示し続けてくれたのは友矩だけだった。友矩だけだったんだよ、今も一緒に居てくれてるのは」

箒「………………」

友矩「………………」

496  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:25:51.04 ID:CuqLu7mj0

一夏「友矩も馬鹿だよな? こんな俺なんか放っておいて一流企業の天才プログラマーになればよかったのに」

友矩「そしたら、行く先々で無自覚に女性を惑わせて手痛いしっぺ返しを喰らい続ける哀れな“童帝”を誰が支えるんだい?」

一夏「この通り、友矩は俺なんかに人生を捧げるつもりなんだぜ? ――――――『女だったらきっと求婚したんじゃないか』って思うほどだよ」

箒「………………そうだったのか」

友矩「なら、性別を換えてこようか? ISの登場で性転換技術は物凄く発達したことだしね」ニヤリ

箒「!?」ビクッ

一夏「友矩、心にもない冗談は言わないでやってくれ。本気にしちゃうだろう?」フフッ

箒「え……(――――――どっちの意味で?!)」アセダラダラ

一夏「ともかく、ごめんな。箒ちゃんの気持ちは凄く嬉しい」

一夏「束さんがあんなにも可愛がってた――――――あんなにも小さかった娘がこんなにも綺麗になって、…………俺も思うところはあるよ?」

一夏「(そう、どういうわけか中学以前の記憶が思い出せないけれども、束さんと箒ちゃんが仲睦まじかったことは覚えているぞ……)」

一夏「けど、俺の人生は千冬姉の無償の愛なしには絶対に成り立たなかったんだ」

一夏「それなのに、俺だけが人生の酸いも甘いも味わい尽くしたのに、青春の搾りかすのような千冬姉を一人にさせるわけにはいかない」

一夏「これってワガママなことかな? 俺なりの孝行のつもりではあるんだけどさ」

箒「………………そんなことはない。むしろ、立派だと思うぞ」

友矩「付け加えると、今はだいぶ廃れましたけど『優秀なISドライバーの子孫や兄弟姉妹はIS適性が高い』という俗説がありまして、」

友矩「特に“ブリュンヒルデ”や“その弟”ともなると、そのDNAサンプルは裏社会で高値で取引されることは容易に想像され、」

友矩「実は、一夏と千冬さんは日本政府から定期的なバイタルチェックや私生活及び人間関係の報告をさせられているんですよ」

箒「え」

友矩「ですから、仮に一夏が妻を迎えて子を成した時、生まれてきた我が子にどれくらいの期待と欲望がのしかかるか想像もできないんです」

友矩「なにせ、まだIS〈インフィニット・ストラトス〉が歴史の表舞台に登場してからわずか10年――――――」

友矩「ドイツの少女ISドライバー養成プログラムのようなものはあっても、二世ドライバーの存在はまだ確認されてないんですから」

友矩「どんなに小さな可能性であろうと、高いIS適性や男性ISドライバーの発現を渇望している連中にとっては、」

友矩「織斑姉弟はISの生みの親である篠ノ之博士の御一家以上に価値ある存在なのですから」

箒「………………」

497  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:26:44.64 ID:A2g0p8Ya0

友矩「まあ そこまで深刻に考えないでくださいよ」

友矩「箒ちゃんが社会人になっている頃には、ISが登場して20年ぐらいにはなりますから、」

友矩「その頃には、ティーンの二世ドライバーの登場や第3世代兵器の開発を通じたISのメカニズムの解明が進んでいるでしょうから、」

友矩「箒ちゃんは焦らずしっかりと社会人や家庭人としての教養と知性、知恵や技術を磨いておいてください」

友矩「この唐変木は間違いなく未婚のまま三十路を迎えてますから」

一夏「そう考えると、やっぱり人生って短いもんなんだなー」

友矩「いえ、そもそも歳の差が9つある時点で世代が完全に違うんですけど」

箒「…………信じてもいいのかな?」

友矩「逆に、今度は箒ちゃんの想いが試されるわけでもあるんですがね」

箒「え」

友矩「だって、人間にとって思春期というのは子供から大人になる多感な青年期でもあります」

友矩「社会人になったらそこである程度の身分と価値観が固定化し、よほどのことが無い限りはそれでこれからの人生は決まったようなものです」

友矩「けれども、箒ちゃんはまだ無限の可能性があります」

友矩「それを考えると、織斑一夏への恋慕もいつかは冷めてしまうことだって考えられるのですよ?」

箒「そ、そんなことは……!」

一夏「…………友矩?」


友矩「――――――この世で変わることのないただ1つの真実があります」


友矩「それが何かわかりますか?」

箒「え、えと……?」

498  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:27:28.83 ID:CuqLu7mj0

友矩「わかりますか?」

箒「…………“愛”だろう、それは?」

友矩「愛が不変ならば、夫婦愛が冷めて離婚なんてあり得ないし、昨日までの友人と殺し合うような悲劇も起こらないはずですね」

箒「うぅ……」

箒「なら、…………“心”?」

友矩「あなたは赤ちゃんの時の無垢なる心を今も持っていますか? 自分を酷い目に遭わせた家族に対して今も変わらぬ想いを向けてますか?」

箒「…………っ!」

一夏「おい、友矩? なんで禅問答なんてしてるんだよ?」

友矩「必要なことだからです」

友矩「これからも あったのかなかったのか わからないような無責任な結婚の約束に人生を縛られ続けるか――――――、」

友矩「約束に縛られ続けたこれまでから抜け出してこれからのことを自らの意のままに手探りで進めていくか――――――、」

一夏「それを15の齢で選択できるとは思えない」

友矩「あるいは――――――、」

箒「あ…………」

箒「(私は確かにこれまでずっと重要人物保護プログラムの辛い6年間も一夏との結婚の約束を思い出して耐え忍んできた……)」

箒「(けれど、それが実現しなくなった時に私に残るものは何だろう? 何をして生きてけばいいのだろう?)」

箒「(雪村だって、もう私を必要としないということはわかってる)」

箒「(だから、私はそれを『寂しい』と思った……)」

箒「(私にとっての学園生活とは『雪村との日々』と言っても過言ではなく、それが失われてしまったようで…………)」

箒「(なら、私の人生とは『一夏との約束のためにある』と言うことなのだろうか?)」

箒「(けど、またそれが実現しなくなったら、私は今度こそ何をして生きていけばいいのか――――――)」

箒「(私が、一夏がラウラにスキンシップというか何というかした時にそれを見たことを拒絶したいと強く思ったのも、)」

箒「(私が6年ぶりにようやく一夏と再会できた時に雪子おばさんの前で強く出たのも、)」

箒「(結局は、私が一夏という存在なしには生きられないから、そんな自分を守ろうとして――――――?)」

友矩「あるいは――――――、」


友矩「――――――嫉妬もするし、人一倍 愛されていたい、ずっと愛しい人には自分の側にいてもらいたい」

友矩「――――――そう思うほどに自分も他人も傷つけてしまう不器用な自分、ワガママな自分、自分が好きになれない自分」

友矩「――――――そんな自分の全てと上手く付き合い、より良く自分を治めていくか」


友矩「あなたが選べる道はこの3つです」

箒「…………!」

友矩「そして、『この世で変わることのないただ1つの真実』というものは何か?」

友矩「それは――――――、」


――――――『この世の中のあらゆるものは絶えず変わり続ける』ただそのことが絶対不変の唯一の真実なのです。


499  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:28:07.06 ID:A2g0p8Ya0

友矩「一人の人間のことを想像してみてください」

友矩「赤ちゃんの時と、小学生の時、花も恥じらう15歳の時と、OLの時と、母親の時と、中年おばさんの時と、おばあちゃんの時と――――――」

友矩「みんな、考えていることもできることも立場も内面性も興味関心も何もかも違いますね」

友矩「それは自分以外の他人にとってもそう。あるいは無生物にしてもそう。新築の家も10年もすれば値打ちは半分もありません」

友矩「あなたの姉が開発したIS〈インフィニット・ストラトス〉だってそう」

友矩「たった10年間で一応は第3世代まで来て、昔よりもできることやわかっていることが確実に増えていますね」

友矩「一方で、第1世代となって旧式化した機体はいずれは淘汰されています。旧きものは新しきものに置き換わっていくの世の常です」

友矩「1つの約束を人生の指針としてこれまで生きてきたあなたはそれが反故にされた時に人生に行き詰まってしまうことでしょう」

友矩「その時に、死ぬ間際の自分が『本当に後腐れもない素晴らしい人生であった』と誇れるような生き方が何なのか――――――、」

友矩「それを余裕がある時に少しずつ考えてみるのがいいでしょう」

友矩「結婚することが人生の終着点ではない。人生の完成ではありません。人生という物語の次の章に入っただけに過ぎないのです」

友矩「『結婚は人生の墓場』だと考えている馬鹿娘のほとんどは結婚してからの先の先まで考え抜いていないからそう考えるのです」

友矩「人生とは常に一人の手で記される孤独な物語――――――物語のアイデアは普段から意識して集めておくといいでしょう」

箒「………………はい」

友矩「…………フゥ」

一夏「…………友矩、箒」

友矩「(一夏が言うように、何も持たない15歳の少女に人生の決断を迫るのは極めて酷な話だ。だが――――――、)」


――――――そう、本当に一夏のことを愛しているのならばそれでいい。

――――――ただ、自分で自分を愛せないような至誠に悖る半端な愛しか貫けないのならば玉砕してしまえ。

――――――本当に人を愛して その人の為になるようなことができなければ、そんなのは愛念ではなく妄念でしかないのだから。


500  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:29:28.50 ID:A2g0p8Ya0

一夏「箒ちゃん……」

箒「なあ、一夏」

一夏「何?」

箒「プレゼント、ねだってもいいか?」

一夏「え? まあ、俺に出来ることなら何でも――――――」

箒「なら――――――、」バッ

一夏「あ」ドキッ


箒「私を思いっきり抱きしめてくれ。今だけでもいいから。力いっぱい抱きしめてくれ」


一夏「えと、それは……、――――――友矩?」チラッ

友矩「…………………」グースカースヤスヤー

一夏「友矩…………?(さっきまで起きてたんだから、どうしてそんなわかりやすい狸寝入りなんか…………)」

友矩「(さっさと想いを遂げてやれ、この甲斐性無しが! これで結婚問題は解消になるんだよ、カイショウだけに)」

一夏「…………いいのか?」

箒「――――――私とお前は将来を誓い合った仲だった」

箒「けれども、お前は忘れてしまった――――――それもこの世を支配する不変の真理とかいうやつのせいなんだろう?」

箒「だったら、もうそれでいいような気がした。――――――そう、いつまでも過去のことを思ってウジウジしているのは止めだ」

一夏「え」

箒「よ、喜べ! 私のような見目麗しい女の子が長年お前を恋い慕ってるんだぞ……?」ドクンドクン

箒「…………これからもずっとな」イジイジ

箒「お前も人間として感謝の念を持つのなら、いつかちゃんと私に恩返しをしろ」モジモジ

箒「私は何があってもお前のことがずっとずっと大好きでいるんだからな…………」ブルブル

箒「お前が忘れてしまったとしても、私はずっと想い続けてやる!」

箒「だから、お前が望んでるように、私が立派な社会人として家庭人として独り立ちできたら、」


箒「――――――ちゃんと結婚してくれるか? 私は千冬さんとなら同居してもいい! 私だってISドライバーなんだから!」


一夏「…………箒ちゃん」

501  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:29:59.08 ID:CuqLu7mj0

箒「また待たせることになるんだぞ? 私は姉さんのせいで6年間 重要人物保護プログラムで辛い日々を送らされて――――――、」

箒「いつの間にか家族と引き離されても、お前との結婚の約束だけはずっと忘れずに心の支えとして今日まで生きてきたんだからな!」

箒「そして、ようやくまた会えたのにお前は忘れていて――――――しかも、『姉のために結婚を見合わせる』だなんて言い出して!」

箒「私のようなイイ女、地球上のどこを探したっていないぞ? いるとしたらドラマの世界だけだ」

箒「だから、今度は7年か8年――――――また待ち続けることになるだろうけど、」

箒「それでもし私の一夏への想いがずっと変わらなかったら、――――――その時は今度こそ私とお前で夫婦の契りを交わしてくれ」

箒「およそ20年近く一途に想い続けることになるんだ。私がどれだけ本気だったのかを周りの連中に見せつけてやるんだ」

一夏「……箒ちゃん」

一夏「…………はは。これは千冬姉以上に恐ろしい相手が出てきたもんだ」

一夏「これがもし本当に実現したら、結婚してやらないわけにはいかないよな……? 千冬姉だって認めざるを得ないよ」

箒「どうだ、まいったか? 私は必ず一夏と並び立てるような立派な人間になってやるんだからな!」

一夏「わかったよ。これは一本取られたな(――――――友矩のやつ、箒ちゃんが俺に相応しいかどうかを見定めたな?)」

箒「だから ほら、早く。私を強く抱きしめてくれ……」ドクンドクン

一夏「…………まさか9歳も歳下の子と情熱的な抱擁をすることになるとは思わなかったよ」ドクン

一夏「こうでいいか?(うぅ、こうして見ると本当に綺麗になったな。いい臭いもするし、この胸の膨らみと弾力…………)」ギュッ

箒「ああ………………」ドクンドクン

箒「そうだ。もっと、もっとだ……」ドクンドクン

一夏「…………だ、大丈夫なのかよ?(うわっ、凄く色っぽい…………股倉のあたりに血流がいっちゃうよ、これは!)」ゴクリ

友矩「………………」グースカースヤスヤー

一夏「(…………友矩ぃ! 早く止めてくれぇ! 友矩としてはどこまでがセーフなのぉ?!)」アセダラダラ

502  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:30:40.72 ID:CuqLu7mj0

――――――
シャル「ああ…………」ドキドキ
――――――」

友矩「………………!」チラッ

――――――
シャル「…………!」ビクッ
――――――

友矩「………………」グースカースヤスヤー

友矩「(やれやれ、やっぱりシャルロット・デュノアは抜け目がない。ラウラと“アヤカ”を置いて自分だけ見に来ていたか)」

友矩「(――――――が、これで織斑一夏の毒牙に掛からずにすんだかな?)」

友矩「(しっかし、『さすがは“篠ノ之博士の妹”』と言ったところだね。姉妹揃ってとことん突き進む性格だ)」

友矩「(これはたぶん、一夏と結婚するのは彼女になるだろうなー)」

友矩「(なにせ、これまでのことやこれから背負うことになるだろう宿命を乗り越えられたのなら、)」

友矩「(確実にそこいらの女性では絶対に敵わない迫力と才知のある女傑に育つことになるだろうからね)」

友矩「(これはちょっとばかり背中を押しすぎたか? まあ、不安要素を排除する意味で背中を押してあげたんだけどね)」

友矩「(日本政府としても織斑一夏の結婚相手には十分過ぎると判断してくれるだろうね。“篠ノ之博士の妹”でもあるし)」

友矩「(それに一夏にしても、これに懲りて少しは女性付き合いというものを考えてくれるようになってくれるだろうし、)」

友矩「(それを思えば、一夏にせよ、篠ノ之 箒にせよ、――――――素晴らしい誕生日プレゼントになったんじゃないかな?)」

503  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:31:18.83 ID:A2g0p8Ya0

友矩「フゥアアアアアーーー」

一夏「!」

箒「あ」

一夏「…………フゥ」アセダラダラ

箒「あの……、その……、ありがとうございました……(そうだよ、この人が居たのにそんなの忘れていたよ、さっぱり……!)」カア

友矩「うん? そうかい。これからの学園生活――――――いや、人生そのものがいいものになるといいね」フワァアアア・・・

箒「……はい!」ビシッ

友矩「一夏も、これに懲りて覚悟を決めるんだね」

一夏「ああ。わかってるよ、友矩……」ドクンドクン

友矩「もちろん、遠く離れて会えない日々が続いていけば、激しい恋の炎もやがては消えていく――――――」

友矩「――――――『この世の中のあらゆるものは絶えず変わり続ける』わけだからね」

箒「………………」

一夏「………………」

友矩「そんな二人のために、婚約解消のメールアプリを作ってあげるよ」

友矩「使い方は簡単。3つのパスワードを正常に入力できた時に二人の間の愛の終局が宣言される」

友矩「それが届いた時にどうするかは当人たちの自由だよ。よりを戻そうと動いてもいいし、黙って受け入れるのもよし」

友矩「これが仲人として二人の仲を取り持った僕からの婚約祝いのプレゼントだ」

友矩「たぶん一夏の方はこれからも変わらない。最愛の姉が死ぬか結婚するかで変わるかもしれないけれどもそれは望み薄だろうね」

友矩「気をつけるべきは女性の方。女性は感情の生き物だから一時の情に流されやすいもの」

友矩「純潔を誓う修道女のように神を愛するがごとく、強い信念――――――それが自身の幸せであると肝に銘じ続けないとあっさり流されるかもね」

友矩「ともかく、まあ頑張って。恋のライバルは玉石混交 掃いて捨てるほどいるから心を大きく持ってより良く生きてね」


――――――人生航路の舵を取るのはその人だけの義務と権利であり、自分の意志で舵を取り続けることが自分が“自分”として生きた証である。


504  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:32:39.58 ID:A2g0p8Ya0

――――――それから、

――――――マンション:フロント


シャル「ごちそうさまでした。本当に楽しかったです…‥」

箒「ああ。シャルロットが何気なくお前の家に行きたいとせがんだ時からどうなることか思っていたが、」

箒「まさか意外な収穫が得られるとはな…………本当に」テレテレ

雪村「……僕も驚きました」

ラウラ「………………」

一夏「そうかい」

友矩「元気でね」

雪村「はい」

箒「それじゃ、また」

シャル「お邪魔しました……」ニコニコー

スタスタ・・・

一夏「………………」

友矩「………………」

友矩「詳しいことを聞かせてもらおうか」

一夏「ああ。どうも『3年前のあの日』――――――、俺たちが考えている以上のものが隠されているようだ」

友矩「…………そうだね」

友矩「でも、厄介なことになった」

友矩「ラウラ・ボーデヴィッヒとシャルロット・デュノアはきみの正体に気付き始めている」

友矩「どうにかして記憶を消しておかないと、今の段階だとこちらにとっては不利益を被る可能性が高い」

友矩「シャルロット・デュノアの方はまだいい。思い出されても比較的大したことのない内容だし、」

友矩「もしきみに好意を抱いていたとしても、今日のことで“自称:一夏の嫁”の篠ノ之 箒に遠慮して身を引くだろうし」

505  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:33:42.30 ID:A2g0p8Ya0


一夏「…………『結婚は社会人になってから』だって言ってるんだけどな」


友矩「あまりその言葉……、使わないようにしてくださいね」ジトー

一夏「え、なんで?」

友矩「…………都合のいいように前向きに積極的に楽天的に解釈することができる言葉だからですよ」

一夏「そ、そうなのか……」

友矩「はい。二度と言わないでください」

一夏「わ、わかった。努力する……」

友矩「…………心配だ」(諦め)

一夏「ん? そういえば、なんで今日のことでシャルロットちゃんが箒ちゃんに遠慮するって――――――んん?」

友矩「これだから“童帝”は…………」ハア

一夏「そ、そうか。友矩が何かそれとなく意識を逸らしてくれたということなんだな? そうなんだな?」

友矩「はい。彼女は協調性があるように見えて、結構 自分勝手で思い込みの激しいところがありますからね」

友矩「(そう、自分が好きになりかけた相手がやっぱり他人のものなんだって見せつけられたらショックだろうね)」

友矩「(明らかに気落ちしていた――――――もちろん、気取られないように振る舞ってはいるけれど“アヤカ”は気づいているな)」

友矩「(しかし、一番の問題と言うのは――――――、)」

タッタッタッタッタ・・・

一夏「!」ピクッ

友矩「…………!」

一夏「どうしたんだい? 何か忘れ物でも――――――」


ラウラ「織斑一夏、最後に話がしたい」


一夏「…………わかった」

友矩「急にどうしたんだい――――――」

ラウラ「貴様はついてくるな!」ジロッ

友矩「………………!」ピタッ

506  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:34:26.27 ID:CuqLu7mj0

一夏「な、何を言ってるんだ、ラウラちゃん?!」

ラウラ「さあ、行くぞ」ガシッ

一夏「ちょっと!?」グイッ

友矩「1つ約束して欲しい」


友矩「織斑一夏に何か害を及ぼした場合は、公認サポーターとして織斑千冬にこのことを悪く報告する」


友矩「制限時間は、――――――そうだな、午後6時までだ」

友矩「それまでに一夏から連絡が来なければ、――――――お前を告訴する!」ジロッ

友矩「見えるだろう、フロントの監視カメラが。約束はしたからな?」ゴゴゴゴゴ

一夏「と、友矩……?」

ラウラ「いいだろう。まあ そこまで時間は掛からない」

ラウラ「――――――あることを確かめるだけだ」

一夏「…………『あること』だって?(まさか、本当にラウラちゃんは――――――!)」アセタラー


友矩「行ってくればいい、一夏。どこまでもきみらしく堂々としていれば」


一夏「!」

一夏「わかったぜ、友矩!」

一夏「さあ、ラウラちゃん。どこへでも連れて行ってくれ」ビシッ

ラウラ「…………ああ、ついてこい」


タッタッタッタッタ・・・


友矩「……………訊くだけ無駄だと思うけどね」

友矩「(一夏は役者で言うならば、『役になりきる』――――――自分がその役の人物なのか、役の人物が自分なのか、)」

友矩「(それが判別できないぐらいに『役になりきる』トランス状態をマスターしているぐらいの役者だから、)」

友矩「(“皓 ハジメ”の記憶や経験は共有してはいるけれども、“織斑一夏”からすれば他人でしかないから感覚や感性は全くの別物!)」

友矩「(おそらくラウラ・ボーデヴィッヒは“皓 ハジメ”の正体が“織斑一夏”じゃないかと気づいてはいるが、)」

友矩「(直接 会ってみて、九分九厘 そうだと理性的に結論付けられても、残りの一厘で自信が持てなくなっているのだろう)」

友矩「(なぜなら、“織斑一夏”の時の一夏が“織斑一夏”としてありのままに生きているのと同じように、)」

友矩「(“皓 ハジメ”の時の一夏もまた“皓 ハジメ”にふさわしく――――――あるいは“そのもの”としてありのままに生きているのだから)」

友矩「(つまり、どっちも本物というわけだから、どちらかが偽物だと考えているラウラはその時点でドグマにハマっているわけだね)」


――――――これが“人を活かす剣”の境地の1つだよ。


507  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:34:57.06 ID:CuqLu7mj0

友矩「(仏説でいうところの『直指人心』――――――人心と仏心は本来 別のものじゃない)」

友矩「(仏心に至れば、見性の壁を越えて仏の叡智を得ることができ、その場その場で必要な知恵が授かるというもの――――――)」

友矩「(一夏が見性成仏して本当に悟っているかは僕は知らないけれど、)」

友矩「(剣禅一如を是とする“人を活かす剣”を目指していく中である程度 悟ったものがあったのかもしれないね)」

友矩「(一夏は馬鹿だけれども根は素直で純粋だからこそ、大根役者の演じ分けでもここまで誤魔化せたわけなんだから)」

友矩「(逆に、“アヤカ”はありのままに一夏の心に触れることができているから違和感なく見抜けたわけなのだろう)」

友矩「(まあ、電脳ダイブにおける『相互意識干渉』も多分にあったから――――――とも思われていたんだけれど、)」

友矩「(篠ノ之神社で会った時にすでに見抜いていたわけだから、まだ仮想世界の構築が始まってもいなかったんだ)」

友矩「(やはり“アヤカ”もまた剣禅一如の道を志していた少年剣道家だったのだろうな)」

友矩「(そのことは剣の実力や型破りな発想に現れ出ている。あれこそが剣禅一如がなせる悟りの業だろう)」

友矩「(しかし、剣禅一如が果たされていたとしても、この世はたった一人の人間の力でできあがったものではない)」

友矩「(『ローマは一日にしてならず』ならば、『歴史は一人の人生にしてならず』――――――!)」

友矩「(それに、空海や最澄、道元禅師や栄西が仏教的に偉いからといって現代社会で偉いわけでも何でもない)」

友矩「(悔しかったら、現代の政治家や銀行家にでもなって世界情勢に影響をもたらしてみせろー!)」

友矩「(できるわけないよね? そういった知識や教養がないわけなんだからさ)」

友矩「(昔の偉い人は当時の価値観において偉いわけであって、)」

友矩「(現代で偉大な人物というのは現代で必要とされていることや尊いことをなした人間のことだ)」

友矩「(だからこそ、現代の価値観に照らし合わせて――――――、)」

――――――何が正しいのか、――――――何をすべきなのか、――――――何が尊いのか、

友矩「(それを考え抜かなければならないんだ、今は……)」

友矩「一夏、それはきみだって同じだ」

友矩「“織斑一夏”としての最善の選択をして欲しい(――――――この際 もう結果はどうだっていいから!)」(諦め)


508  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:36:00.87 ID:CuqLu7mj0


一夏「…………大丈夫なのか、“アヤカ”たちから離れて?」

ラウラ「ああ。今日の目的が果たされていないことを告げたら送り出してくれた」

一夏「そうか。それは良かったよ」

ラウラ「…………」ピクッ

一夏「“アヤカ”や箒ちゃんからそれだけ信頼を寄せられているってことだもんね」

一夏「それに、最初 見た時のそのおっかない表情からは想像できなかったような可愛い顔も見せてくれたことだしな!」ニッコリ

ラウラ「?!」ドキン!

ラウラ「な、何を言っているのだ、き、貴様は……?!」ブルブル

一夏「え」

ラウラ「わ、私が、か、『可愛い』などと…………(な、なぜだ!? どうして私はこうも心を揺さぶられてしまう……!?)」ドクンドクン

一夏「え、だって可愛いじゃないか? 代表候補生に選ばれているお前が可愛くないわけないじゃん」

一夏「うん。“銀髪の天使”ってのが似合いそうだな」

一夏「ブロマイド 売ってないの? 今度 発売するんだったら必ず買うから教えてくれよな」ニッコリ

ラウラ「………………ぅうう!」カア

ラウラ「(ダメだ! 何をしているのだ、私は! 早く肝腎なことを訊かねば――――――、試さねば――――――!)」

ラウラ「お、おおお織斑一夏!」ビシッ

一夏「あ、はい」

ラウラ「き、貴様は何か勘違いをしているな!」キリッ

一夏「――――――『勘違い』?」

ラウラ「そうだとも! わ、私は、私は――――――!(――――――頑張れ、私!)」ドキドキ


ラウラ「わ、私は認めない…‥! 貴様があの人の弟であるなどと……!」カア

ラウラ「――――――認めるものか!」キリッ

一夏「俺もそうだったら良かったよ……」ハア


ラウラ「は」

一夏「何でもない」

ラウラ「おい、貴様! 普通 そこは私に腹を立てるとかあるだろう! こんな反応、どのMANGAにだって無かったぞ!」アセアセ

一夏「――――――『MANGA』? ああ ラウラちゃんもマンガ 読むんだ、意外だな」

ラウラ「そこじゃないだろう!」プンプン

一夏「うん。それで?」(女性経験豊富な“童帝”の圧倒的なあしらい力!)

ラウラ「…………わかった。口では貴様に勝てそうもない」ハア

ラウラ「(どうしよう。何を言ってもあしらわれてしまう! ――――――まるで“アヤカ”の時とそっくりだな、この徒労感は)」

一夏「どうしたの、ラウラちゃん? もっと言いたいことがあったんじゃないのか? ほら、時間も押してるし、遠慮なく言ってごらん?」

ラウラ「こ、このぉ…………!(わざとか?! 私が強く言い出せないことをわかって言ってるのか、こいつは?!)」


――――――真心こもった無意識の容赦ない言葉の包容力がラウラを襲う!


509  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:37:13.77 ID:A2g0p8Ya0

ラウラ「………………」スゥーハァーー

一夏「黙りこんじゃったけど、俺 何か間違ったこと言ったかな?(致命的なミスもしてないはずだけど、最善の選択でもなかったのかな?)」

ラウラ「(ダメだ。この調子だと私が“私”で無くなってしまいそうだ……)」ドキドキ

ラウラ「(口で聞き出すのが無理ならば、――――――しかたあるまい!)」スッ

ラウラ「(ここは身体に直接訊く他あるまい! さっきまでの礼だ――――――!)」ジロッ

一夏「なあ、ラウラ――――――っ!?」ビクッ

ラウラ「――――――!」バッ ――――――アーミーナイフ!


一夏「よっと」ササッ ――――――突き出されたナイフを一瞬で避ける!


ラウラ「なっ!?(――――――避けられた!? 馬鹿な、悟られていたはずがない! 私の必殺の一撃が!?)」

一夏「何を――――――!」バッ ――――――足払い!

ラウラ「あ!」グラッ

一夏「するの――――――!」ガシッ ――――――ナイフを伸ばした手を掴んでこちらに引き寄せて!

ラウラ「ああ!?」グイッ

一夏「――――――かなっ!」ギュッ ――――――ラウラの両脇から両手を出して拘束!

ラウラ「くぅうう……(馬鹿な! 最強の兵士であったはずの私がどうしてこんな輩に――――――!?)」

一夏「まったく、こんなことばかり得意になっても嬉しくないんだがな」 ――――――『見てから余裕』の対処!

ラウラ「うぅ……、お、降ろせ…………」ジタバタ ――――――178cmと148cmの身長差なので足が地につかない!

一夏「はい」パッ

ラウラ「え――――――っとと、あっ」(素直に放すとは思ってなかったので着地に失敗して両手をついてしまう)

一夏「あ、大丈夫か!」

ラウラ「――――――っうううう!」ムカムカ


ラウラ「――――――『大丈夫か』は貴様の方だろう!」


一夏「ええ!?」ビクッ

一夏「ど、どうしたんだよ、ラウラちゃん?」

ラウラ「おかしいとは思わないのか! 私はお前をナイフで刺そうと思ったのだぞ!」グスン

ラウラ「そんな相手に何事も無かったかのように平然と――――――!」ポロポロ・・・

一夏「な、泣くなよ……、な?」

ラウラ「泣いてなどいない…………」ポロポロ・・・


――――――何もかも敗けた。


510  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:38:06.85 ID:CuqLu7mj0

ラウラ「(私はどういうわけかそう思えてしまった。――――――兵士としてだけじゃない。それ以上の何かで『完全に敵わない』と悟ったのだ)」

ラウラ「(そして、敬愛して止まない織斑教官以上の何かを確かに感じ取っていたのだ、私は……)」

一夏「…………うぅん、よし!(――――――こう言おう!)」


一夏「わかってたから!」


ラウラ「え」

一夏「あの、だな? こういうことは別に初めてじゃないし、ラウラちゃんが本気じゃないことは最初からわかってた」

ラウラ「――――――『初めてじゃない』、――――――私が『本気じゃないこと』をわかっていた!? 最初から!?」

一夏「……驚くことはないだろう? でなかったら、見てから対処なんてできるわけないし」

ラウラ「――――――『見てから対処』!?」

一夏「え、えええ…………なんでそこまで驚くのかな?」← 壮絶な大学時代の修羅場を日常としていた“童帝”である

ラウラ「…………敵わないな」フフッ


ラウラ「さすがは“織斑教官の弟”――――――“織斑一夏”だ」ポタポタ・・・


一夏「えええええええええええ!?(ものの数分で『認めない』宣言撤回ぃいいいい!?)」

511  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:38:59.65 ID:CuqLu7mj0

一夏「あ」

ラウラ「な、何だ? 今度は何だ?」ドキッ

一夏「――――――『眼帯が涙で濡れてる』ってことはちゃんと視えてるんだ、両目とも」

ラウラ「え。あ……」ペタッ

一夏「外しなよ、――――――その眼帯。放っておいたら不潔だぞ。バイ菌が湧いて失明する恐れがある」

ラウラ「…………断る(くっ、これ以上 生き恥を晒すわけにはいかない!)」プイッ

一夏「どうして!」バンッ! ――――――壁ドン!

ラウラ「!?」ビクッ

一夏「どうしてなんだよ! 予備の眼帯を持ってないからなのか――――――いや、視えてるならする必要なんてないじゃないか!」ガシッ

ラウラ「あ!? や、やめろ、やめてくれ!」ジタバタ

一夏「外せ! こんなもの!」ポイッ

一夏「あ」

ラウラ「ぅううう!!!(――――――み、見られた! “出来損ない”の烙印を!)」グスン


――――――眼帯の下には涙を湛えた黄金色に不気味に輝く左目と赤の右目とのオッドアイだった。


一夏「………………」ジー

ラウラ「ど、どうだ! 気持ち悪いだろう! “出来損ない”だと思うだろう!」グスン

一夏「――――――“出来損ない”?(オッドアイのことを気にしてるのかな? それでイジメられてきたのかな? でも――――――)」


一夏「ラウラちゃんの眼、綺麗だな」ニコッ


ラウラ「え」カア

一夏「宝石みたいだ。世の中には、――――――いるんだな、黄金の眼をした娘なんて!」キラキラ

ラウラ「おおおお襲われたのはお前だというのに何を呑気な…………」プイッ

ラウラ「(『綺麗』って、初めて言われた……『綺麗』って――――――!)」ドクンドクン

一夏「そっか。頑張ったんだな、本当に」ナデナデ

ラウラ「ふぇ!?」ドキッ

一夏「そういうハンデを背負いながらも千冬姉の許で専用機持ちになれるぐらいに一生懸命やったんだろう?」

一夏「よく頑張ったよ。千冬姉としても喜んでいるよな、きっと」ニッコリ

ラウラ「あ…………」ポー


512  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:39:33.44 ID:A2g0p8Ya0

――――――ラウラは思い返した。

IS〈インフィニット・ストラトス〉が登場するまでは彼女は遺伝子強化試験体の最高傑作としてあらゆる軍事作戦に長けた最強の兵士であった。

しかし、ISが登場して以後の彼女は、IS適性強化として左目に『ヴォーダン・オージェ』という角膜型の電子デバイスの移植した際に、

性質上 何の副作用もないはずが、まさかの不適合のために本来は赤目の彼女の左目は金色に変色してしまうことになった。

しかも、これ以降は能力が制御しきれず最強の兵士としての評価が一転して“出来損ない”へと転落していったのである。

この『ヴォーダン・オージェ』は擬似ハイパーセンサーであり(それでもISのものと比べたら全くハイパーじゃない)、

原理的に視覚情報の高速処理を促すものであり、有視界戦闘が主となるであろうISにおいては非常に有意義な装備になるはずだった。

これが不適合――――――つまりは彼女の場合は『ヴォーダン・オージェ』を通して得たはずの視覚情報との整合がとれなくなったのだ。

これはコンマゼロ秒の精度が要求されるような世界においては致命的な齟齬であり、

軍事力の中心がISに移り変わろうとも、戦闘機乗りに戻ろうとしても、同じ遺伝子強化試験体の面々と足並みが合わなくなっていき、

戦争も数の理で動くのが効率的であることから、部隊作戦ができなくなった彼女は単体では最強の兵士であっても使えない人材となったのである。

そして、彼女のような少年兵の存在はISの存在を盾に正当化した経緯があるので、他の正規部隊に回すと何かと都合が悪い。

よって、IS乗りとして使えない彼女は“出来損ない”という烙印を押されることになったのであった。

いわば、左目の眼帯はその痛ましい過去を覆い隠すためのものでもあり、失明以上に厄介な副作用を抑えこむための原始的な装置であった。

戦うために生み出され、ずっと優秀な兵士であることを取り柄にしてきた彼女にとってこれ以上にない屈辱と苦しみの日々が始まったのだ。

しかし、『あの日』の出来事にドイツ軍が協力したことによってIS教官として招聘された織斑千冬によって彼女は変わった。変わり始めたのである。


――――――恐ろしいことに織斑一夏の言っていることはラウラにとって何1つ間違ってない。が、何かがおかしい!


513  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:40:38.22 ID:A2g0p8Ya0

ラウラ「ああ…………」ポー

一夏「うん、よしよし」ナデナデ

一夏「ん?」チラッ ――――――左腕の腕時計が目に入る

一夏「あ、やべ!」ドキッ

ラウラ「え」

一夏「あと5分もないじゃん!」

ラウラ「あ」チラッ ――――――時刻は午後5時55分!

一夏「そうだよ、もっと他に言うべきことがあったんじゃないのか?! ごめんよ、変なことに時間を使わせて!」アセアセ

ラウラ「ああ…………(確かにそうなのだが、そうだったのだが――――――、)」トローン


――――――何かもうどうでもよくなってきたな。


ラウラ「(そう、私はMANGAの女の子と同じように――――――、)」ドクンドクン

一夏「早く! もしかしたら友矩がどこかで俺たちのことを監視してるかもしれないから!」アセアセ

ラウラ「ああ…………」ボケー


――――――今ならはっきりわかる。私を包み込んでいるこの感情の正体が。


ラウラ「もういい。もういいんだ、一夏」

一夏「え」

ラウラ「…………今日はすまなかったな」

一夏「え」

ラウラ「私は本当はお前のことが憎かった。――――――教官に汚点を残させた張本人としてな」

一夏「…………!」

ラウラ「それに、教官にあんなにも優しい表情にさせる“織斑一夏”という存在が憎かった……」

ラウラ「私には到底できそうもないあの表情――――――私が憧れる織斑教官の強さに永遠に辿り着けないような気がして……………」

一夏「そうかな? 今のラウラちゃんはちょっとまだ険しいところがあるけど今は凄く優しい表情だよ?」ニコッ


ラウラ「…………そうさせてくれたのはお前なのか、始めから全部?」


一夏「違うよ、それは」

ラウラ「え」

一夏「ラウラちゃんが優しくなれたのも、優しくなりたいラウラ・ボーデヴィッヒが優しいラウラ・ボーデヴィッヒに出会えたからだよ」

ラウラ「え? ――――――『私が私に出会えた』?」

一夏「そう。やっぱり千冬姉の笑顔に憧れていたからラウラちゃんも笑顔になれたんだと思うよ」

514  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:41:30.25 ID:A2g0p8Ya0

一夏「結局は自分次第なんだよ。ラウラちゃんは素直で可愛らしい娘だからね。だから変われたんだよ」

ラウラ「……そうなのか?(また『可愛い』って言ったぁ……)」ドキドキ

一夏「考えてもみろよ」

一夏「オッドアイのことでイジメられて、イジケていたところを千冬姉に出会って変われたんだろう?」

一夏「もし、ラウラちゃんが千冬姉の指導をふまじめに受けていたらどうなっていたと思う?」

ラウラ「そ、それは確かに……、もっと落ちぶれていたな、確実に」

ラウラ「(そう、私は東洋人でありながら世界最強だったあの人から何が何でもノウハウを奪い取ろうと必死になって――――――)」

一夏「あるいは、ラウラちゃんは千冬姉の笑顔が気に食わないって思ったんだろう? その時に見限ればよかったじゃないか」

ラウラ「なっ、そんなことは――――――?!」

一夏「ほらね。本当に拒絶したいものならばその時点で千冬姉の教え子を辞めてるはずさ。そうだろう?」

ラウラ「あ…………」

一夏「ほら、本当に素直で可愛い娘だよ、ラウラちゃんは」

一夏「千冬姉としても教え甲斐のある娘だって思わず力を入れて指導したんじゃないか?」

ラウラ「ああ…………(どうしてそこまで私のことがわかるのだろう? “織斑教官の弟”だから?)」ドキドキ

ラウラ「(いや、そんなことはもうどうだっていい。どうだっていいんだ、今は)」


――――――憧れのあの人の弟に恋をしてしまったのだから。


ラウラ「 Ich lieve dich. 」ボソッ

一夏「ん? 何だって?」

ラウラ「な、何でもない……」ドクンドクン

ラウラ「(今はもうそれだけでいい……)」

ラウラ「(これからもまた会いに行けばいいんだから……)」

ラウラ「で、ではな、…………い、一夏!」ドキドキ

一夏「待てよ! 連絡なら今するし、駅まで送っていくって――――――」

ラウラ「私は代表候補生だ! 一人で帰れる!」

一夏「…………そう」


タッタッタッタッタ・・・


一夏「…………行っちまった」

一夏「とりあえずこれでいいんだよな? 現状での最善の選択をしたつもりだけど……」ピポパ・・・

一夏「俺は“俺”としての最善は尽くしたはずだ……」プルル・・・ガチャ

一夏「あ、友矩か?」

一夏「――――――ああ、ラウラちゃんなら一人で帰るって」



515  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:42:11.40 ID:CuqLu7mj0

ラウラ『すまない。私は織斑一夏に訊くべきことを訊いていなかった』

シャル『え』

箒『……そうか。行って来い』

シャル『え』

箒『どうした? いつまた会えるかもわからないのだ。お前も気になることがあるのなら行ってくればいい』

シャル『ほ、箒は行かないの……?』

箒『私か? 確かにできるならばずっと居たいが――――――ずっと居続けるためにふさわしい資格が今の私にはないからな』

シャル『……どういうこと、それ?』

箒『要するに、あれだ? あれ……』ドクンドクン

箒『そう、――――――『学生の本分は勉強だからしっかり勉強して出直せ』と言われたのだ……』ドクンドクン

シャル『………………へえ』

雪村『それで? 行くのですか、行かないのですか?』

ラウラ『私は行く』

シャル『僕は、いいや』

箒『そうか。ラウラ、気をつけてな。この前みたいな専用機持ちを狙った誘拐事件があったことだし』

ラウラ『安心しろ。私はそういった訓練を受けている。後れはとらんよ』

雪村『あ、教官。あの人に会うのなら一言』

ラウラ『何だ?』

雪村『あの人は間違いなく“織斑千冬の弟”ですから』

ラウラ『………………!』

ラウラ『そんな当たり前のようなことをなぜ言う?』

雪村『何となくです』

ラウラ『わかった。では、私は行くからな』

雪村『はい』

516  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:43:16.51 ID:CuqLu7mj0

――――――XXXX駅 IS学園行きモノレール乗車口


ラウラ「…………“アヤカ”、お前の言う通りだったな」

ラウラ「“織斑一夏”はまぎれもなく“あの人の弟”であった」

ラウラ「まったく同じ過ちを犯してしまったよ。“世界最強”である“あの人”を疑って食って掛かった毎日と…………」

ラウラ「さすがは3年前の“トワイライト号事件の影の功労者”だな」

ラウラ「織斑教官は彼を救うために決勝戦を放棄して駆けつけて――――――複雑だな」

ラウラ「そうしなければトワイライト号の乗員が皆殺しにされて、私と教官が出会うこともなかったんだ」

ラウラ「いや、それについてはクラリッサも同じことか…………クラリッサが織斑一夏の誘拐を阻止していたら最善の結果になれたのだろうか?」

ラウラ「しかし、『トワイライト号事件』で生身で立ち向かってISを倒したという噂は事実のようだな……」

ラウラ「フランス政府に新曲を発禁されて猛抗議したとある音楽家――――――、」

ラウラ「当時 トワイライト号に乗船していたアルフォンス・アッセルマンの曲には打倒ISと織斑姉弟の武勇を謳った歌詞だったらしい」

ラウラ「あの事件はVTシステムの存在が初めて確認され、『モンド・グロッソ』決勝戦の日でもあったから、」

ラウラ「政治的な理由で『トワイライト号事件』の真相は隠蔽された――――――」

ラウラ「しかし、ISの開発者の妹である篠ノ之 箒が生身でISを倒したという一夏の底力を見たらどう思うかな」フフッ

ラウラ「あ……」

ラウラ「しまった……(織斑一夏、この人は“篠ノ之 箒の許婚”だった…………)」

ラウラ「(そうか。どうも引っかかるような感じがしていたのは、私が応援していた箒の恋路を私自身が裏切ることを――――――)」

ラウラ「………………」ピポパ・・・

ラウラ「…………クラリッサのMANGAにもこんな感じの展開があった気がするな」グスン


ラウラ「クラリッサか? すまない、こんな時間に。実は――――――」