一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」3 
517  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:43:57.97 ID:A2g0p8Ya0

一夏「…………なあ、友矩?」

友矩「何だい?」

一夏「俺は間違ってるのかな?」

友矩「最善の選択をしたのなら結果がどうであろうと間違ってません」

友矩「結果だけが正当だと言うのであれば、大東亜戦争はまさしく正義の戦争でしたね。欧米諸国はまさしく悪ですよ」

一夏「あ、うん。まあ、たくさんの人が死んじゃったけど現在の世界を結果的に創ることになったからな」

友矩「大切なのは反省すること――――――自分が常に正しいと思っているのはむしろ危ない兆候だと思うね」

友矩「迷うっていうことは、それだけ多面的な見方や己の至らぬところがわかっていることに他ならないから」

友矩「この世は諸行無常――――――それが唯一不変の真理」

友矩「だから、それを弁えた上での状況に応じた判断ならば僕はそれでいいと思ってる」

友矩「一夏は進んで人を不幸にしたいと思って選択をしているわけじゃないよね?」

一夏「それは当然だろう」

友矩「なら、それでいいんです。世の中、必ず答えが出ると思い込んでいる輩のほうが頼りにならないのでそれでいいです」

友矩「『できないできない』と苛まれながらも、それでもできることを尽くして実績を重ねてきた人間のほうが何千倍も尊いですから」

一夏「…………フッ」

一夏「ホント、友矩には助けられてばっかりだよ」

友矩「僕としても、刺激に満ちた毎日を送れて嬉しいですよ。――――――これも修行だと思えば自分が磨かれるからね」ニコッ

一夏「ホントにごめんなさい……」

友矩「うん。ようやくだよ。一夏が反省して自分を改めるようになったのを感じるのは。長かったな~。5年ぐらいかな?」

一夏「よく頑張ったよ、俺のような“童帝”相手にさ」

友矩「人を変えるっていうのがどれだけ難しいことかわかってない人が世の中 多すぎるから」

友矩「…………一夏のヒトタラシとしての才が教育に向けられれば最高だったんだけどね」


518  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:45:34.19 ID:A2g0p8Ya0


一夏「やっぱり、――――――ついていけないよな?」

友矩「残念ですけど」

友矩「僕たちは織斑先生が学園を離れている間の警備を担当します」

友矩「現地に向かうのは、この度 IS学園の職員の一人になった一条千鶴“シーカー”です」

一夏「だよな。IS学園の隔絶された環境ならまだしも、広々とした環境の中で接近戦しかできない『白式』は動かせない」

友矩「それに『風待』に織斑先生が乗り換えたという話は広まっているので尚更『白式』は姿を見せられません」

一夏「何もなければいいんだけど」

友矩「…………7月7日」ボソッ

一夏「………………」

友矩「何かあるようにしか思えませんがね」

一夏「束さんはどうしてIS〈インフィニット・ストラトス〉を開発したんだろう?」

友矩「きみの姉が最初のパイロットだったのにきみが知らないはずがないんだけど」

一夏「そうなんだよ……」


一夏「どうして10年前のことが思い出せないんだろう」


一夏「そもそも、俺には元々 IS適性は無かったんだよ。ISに触っても何にも。それが去年になって突然――――――」

友矩「試してみませんか?」

一夏「え」

友矩「――――――『仮想世界の構築』を」

一夏「へ」

友矩「ですから、今度は『あなたの仮想世界の構築』を始めませんか?」

友矩「僕としては最初からこっちの方をやっていたほうが早く“答え”に辿り着いたんじゃないかって思う」

一夏「…………できるのか、そんなことが?」

友矩「僕は篠ノ之 束が一夏に何かをしたんじゃないかって疑ってる」

一夏「なんだって?」

友矩「一夏、これだけは聞かせて欲しい」


――――――篠ノ之 束を討つ覚悟はあるかい?


一夏「…………!」アセタラー

友矩「一夏にしてみれば『1つ上の幼馴染を再起不能にする』ってことだけど、“ブレードランナー”としてやってくれるのか?」

一夏「…………幼馴染を、『束さんを討つ』か」


――――――やるよ、俺。


519  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:46:33.47 ID:CuqLu7mj0

友矩「そうですか。それを聞いて安心しました」

一夏「あくまでも、あくまでもだよ? それをやれと言われたらやるまでのことだよ、“ブレードランナー”だから」

一夏「けど、“ブレードランナー”として手段は可能な限り選ばせてもらう」

友矩「そうですか。それでいいです」


束 『お前はいっくんには必要ないし、箒ちゃんの幸せも邪魔する!』

束 『どうして……、何がみんなを変えちゃったっていうの!? どうしていっくんも箒ちゃんもちぃちゃんも昔のように優しくなくなったの!?』

束 『そんなのちぃちゃんの思い違いだよ! 私はみんなと輝かしい未来のために頑張っているんだよ!』


友矩「………………」

一夏「束さんは身勝手過ぎる…………自分だけ好き勝手に生きて家族を不幸にしておいて」

一夏「…………止める理由ならいくらでもある」

一夏「だから、その時が来ても――――――、俺は大丈夫だよ、友矩」

友矩「わかりました。その心こそまさしく――――――、」


友矩「――――――人としての情けを断ちて、」

一夏「――――――神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬り、」

友矩「――――――然る後、初めて極意を得ん」


友矩「だね」

一夏「ああ」

一夏「現地のことは千鶴さんや千冬姉にまかせて、ただ無事を祈ろう」

友矩「はい(――――――果たしてやれるのだろうか? “アヤカ”、きみが最後の頼りだ)」

友矩「(IS〈インフィニット・ストラトス〉が相手ならば、『落日墜墓』で撃ち落とさざるを得ない)」

友矩「(託したよ! 一夏の中の“人を活かす剣”の極意を垣間見たというのであれば――――――!)」


それから、学年別トーナメント前後で内部粛清がなされたIS学園の再編成が一通り終わり、

7月上旬の1年生が経験する楽しい楽しい学年行事である臨海学校の日を迎えることになる。

一夏たち“ブレードランナー”は学園の警備のために残り、“シーカー”一条千鶴が織斑千冬と専用機を共有して現地での警備につくことになった。

臨海学校とはあるが、あそこでもISの訓練はあり、1学年4クラスの生徒に数少ない訓練機を乗り回させる忙しい日々になるのは間違いない。

そして、――――――予想される篠ノ之 束の出現。

いったいどちらに――――――否、どちらに対しても仕掛けてくる可能性があり、どちらとしても気が抜けない日が続くことだろう。

その時 何が起こるのか――――――、そのことはまだ誰も知らない。


520  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:47:35.85 ID:CuqLu7mj0

第9話 登場人物概要

朱華雪村“アヤカ”
Aサイドの主人公。世界観の中心となる存在であるが、今回は織斑一夏の女性関係が中心となる番外編なので目立たない。
しかし、学年別トーナメントでの活躍が評価されて、徐々に待遇や周囲の態度が良くなりつつある。

『最弱最強』の存在として秘密警備隊“ブレードランナー”からも一目置かれるIS学園最大の抑止力であり、
単一仕様能力『落日墜墓』によるPIC無効攻撃が非常に強力であり、解禁すれば誰よりも圧倒的優位に立てるようになっている。
しかし、『落日墜墓』の副作用のことを考えても非常事態以外では絶対に使わないようにしているので、
ただの色違いの『打鉄』を専用機にしているために他の専用機持ちとは実力・戦力ともに大きく差を付けられている。
また、『打鉄弐式』という上位互換の登場で、得意の格闘戦も絶対ではなくなり、日本政府の期待をとにかく裏切り続けている。
しかしながら、『PICカタパルト』を利用した必殺技『昇龍斬破』が決まれば逆転も狙えるので戦う側としてはかなり恐ろしい存在である。
更には、“彼”に合わせたパッケージが2つも送られているので実際の攻撃力は凄まじく上がっている。――――――攻撃力だけは。

仮想世界『パンドラの匣』の開拓も進んでおり、一夏との直接の心の交流『相互意識干渉』によって明るく感化されていき、
一夏の前だと物凄くいい笑顔を見せるようになり、物語開始時と比べると全くの別人のようになっている。
今回 発覚した新事実から徐々に“彼”の出自と“男でISを扱える理由”の真相へと近づいていくことになる。


篠ノ之 箒
「IS〈インフィニット・ストラトス〉の真のヒロイン! モッピーなんて言わせない!」
それが今回の篠ノ之 箒であり、今回の設定によって嫉妬魔を通り越して昔話に出てくるようなお姫様になっている。
一夏の相棒である友矩との問答によってある程度は一夏との間の確執に決着をつけて吹っ切れてはいるものの、
まだ“篠ノ之 箒”である日々が3ヶ月程度しかないために“自分”としての確固たる足跡がないことから、
あるいは自分を慕っていた雪村が徐々に人間らしさを取り戻して交友関係を自分から押し広げていき、彼だけの交友関係を築き始めていることに、
次第に自身が雪村のおまけとして存在を忘れられるだろう疎外感と危機感を抱き始めており、まだまだ情緒不安定である。

原作を踏まえてのこれからの流れを考えると、――――――さてどうなることやら?


521  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:48:04.96 ID:A2g0p8Ya0

セシリア・オルコット
セシリアは力をためている。――――――以上。
元々の接点が希薄な上にラノベ業界屈指のこれ以上にないほどのチョロイン振りを発揮したので、かえって周りがしっかりしてくると見せ場がない。
そして、搭乗機も『打鉄』しか学園の訓練機がない中での遠距離射撃機という嫌味全開の英国面の機体である。

ただし、第1部(アニメ第2期)においてはメインヒロイン:篠ノ之 箒と並ぶほどの出番となる予定なので、
オルコッ党の方々はその時まで息を長くしてお待ちになっていただけると幸いです。


凰 鈴音
今回から徐々に“アヤカ”とは仲良くやっていく描写が徐々に増えていく。

こちらもセシリア・オルコット同様に「力をためている」のであんまり序章(アニメ第1期)では出番が少ない。
ただし、恋の勝負はほぼ篠ノ之 箒がぶっちぎりで首位独走なので、約束が――――――そもそも一夏にまだ再会すらしていない!
やっぱり、2組の娘はニクミーだった…………いや待て、まだ勝負は始まったばかりだ(焦り)


シャルロット・デュノア
――――――妾の娘は見た!
原作や二次創作で大人気の彼女だが、この世界線だと彼女に対しては容赦ない。
優秀なIS乗りであり、男子と見紛う絶世の美少女であることは確かなのだが、一番の地雷女とアンチからは言われている。
原作でも、デュノア社の問題についてはあれ以来 特に語られておらず、根本的な解決になっていないことから一夏に批判が集まる。
そもそもシャルロット・デュノアの変装に関する国家規模の評判がわからないためにどう捉えたらいいものか…………

今作の織斑一夏がIS学園の外部の人間であり、“アヤカ”同様に彼女を守ることができないのに、
どうやって逃げ出してきたシャルロット・デュノアを一夏がIS学園に無事に送り返すことができたか――――――、
そこに記憶を消しただけでは消えない何かが残り続けることになった。


ラウラ・ボーデヴィッヒ
――――――カリスマブレイク!
おそらくIS〈インフィニット・ストラトス〉二次創作でほぼ唯一の決め台詞崩壊になったことだと思う。
“童帝”からすれば別にラウラ・ボーデヴィッヒのような娘は初めてでも何でもなく、しかも事前にどういった娘なのか察しが付いていたので、
今回のように威圧感も何もないまま、あっさり骨抜きにされてしまう。

今作の織斑一夏については非常に複雑な感情を抱いていたのだが、一夏が事前に打った布石によって大きく性格が変わっていたので、
いろんな意味で織斑姉弟には頭が上がらなくなっている。
3年前の『トワイライト号事件』について関係者としてよく知っており、織斑一夏がそこで何をやったのかを追究していた。
そのためにある程度は織斑一夏に対する怨みも原作と比べればずっと薄れており、『更識 簪誘拐事件』を踏まえて、
今回の織斑一夏への訪問は自身の感情を整理する意味でも重要な転換点となる。


更識 簪
災難だったけれども囚われのヒロインとして覚醒した人。
アニメ第2期の後半から登場するヒロインなのだが、ご覧のとおり臨海学校前から本格参戦である。
今作のオリジナル設定として、“更識家”周辺の内情が描かれることになり、
“暗部に対する暗部”として役割が被る秘密警備隊“ブレードランナー”との対比がなされることになった。

いろんな意味で第1部(アニメ第2期)の展開に向けるにあたって重要な役割を担うキャラであり、
後述の“襟立衣”や彼女の姉である“更識楯無”との確執がドラマの中心として展開されることになる。

今作の『打鉄弐式』は荷電粒子砲も第3世代兵器も搭載していない なぎなた1本で戦う高速格闘機であり、
いろんな意味で因縁がある“アヤカ”の『打金/龍驤』とは対比がなされ、良き先輩キャラとして『友達』としては頻繁に登場するようになる。

522  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:49:20.86 ID:CuqLu7mj0

織斑一夏
やってくれました、この“童帝”くん。
順調に専用機持ちを攻略しており、手を付けてないのは今作では極めて影が薄いセシリアだけである。
Bサイドの主人公であるが、本編であるAサイドの主人公である“アヤカ”の存在感を完全に食う貫禄の原作主人公(?)である。
なるべく原作の織斑一夏らしさを残しつつ、(23)としての貫禄が出るようにしているがどうだったであろうか?

彼の人格が問題視される場面以外はまさしく“童帝”としての包容力と対応力を発揮しており、大人としての力強さも見せつけている。
これがもし(15)ならば読者も見る目が違ったのではないかと思う。
筆者はジュブナイルは否定しないが、若者の人間離れやセカイ系な展開が好きではないガチガチのストーリー性重視の人間なので、
どうしても少年が特別な力を持つ場合だとそれ相応のリスクを背負わせてしまいがち、あるいは頼れる師の存在を用意したがるので、
いったいどうやってこの一夏が中学・高校時代も●●を貫けたのかは疑問であるが、特に何の加護もなしにほぼそのままの性格で出せたのは新鮮であった。

筆者はISの二次創作で実に5人も一夏の可能性について描いてきてしまった物好きだが、
実は初めてIS〈インフィニット・ストラトス〉アニメで触れた時から、織斑一夏という類を見ないキャラクター性に妙に引っかかるところがあり、
各所から『主人公として魅力がない』『物凄く受け身で怠惰な主人公』『こいつに女がよりつくのはあり得ない』と酷評を受けまくっている彼だが、
どうもこの織斑一夏というキャラは種死の真・飛鳥のように設定上はかなり良い素材で『友達としては本当に良い人』なのだ。
そして、最近になって織斑一夏というキャラクター性が――――――、

――――――釈迦十大弟子の多聞第一:阿難陀に重なることに気づいた。

きっとこいつは阿難陀の生まれ変わりに違いない。筆者はそう思うのだ。
おそらく少年時代は世俗の煩悩に苦しめられるのが宿命なのだろうが、25歳ぐらいにきっと求道者としての道に入り 大成するキャラなのだと思う。
だから、小説サイトでの二次創作で定番のジャンル:二人の男子なんかでは強烈な個性のオリ主の噛ませ犬にされるのだが、それは当然だと思っている。
物語としては情けない主人公の一人なのかもしれないが、ああいった特殊性を考えるとこういった人物は歳を取るほどに魅力的になるのだと思う。
世界宗教の宗祖にせよ、空海にせよ最澄にせよ、求道者としての道を始めたのは成人になってからのことを考えるとそう思えるのだ。
そこまで原作が続くのかは疑問だが、そういった可能性を秘めているのだと筆者は一人感じているのだが、どうであろうか?
それを待てるかどうかは『可能性の獣』の物語のテーマであるそれに通じるものがあるのではないだろうか? そう思わなくても個人の自由だけれども。


夜支布 友矩
織斑一夏の相棒・同性のベストパートナー・内助の功。
友矩の存在が今回のテーマである“人を活かす剣”の案内役・解説役となっており、現在のところ織斑一夏と篠ノ之 箒を教化している。
篠ノ之 箒との婚約の仲立ちをしたわけも、友矩から見ていいこと尽くめだから許した――――――誘導したところがあり、

1,面倒な問題をこれで解消したかったから(篠ノ之 箒が心変わりする可能性もあり、問題の先延ばしのようで実に合理的)

2,篠ノ之 箒に長期的な目的意識を与えることで織斑一夏にふさわしくならんと彼女自身の成長を願ったから

3,その結果 約束が果たされた場合は、人生の大半を“一夏と添い遂げる”ために磨いてきた女傑に育っている

4.そもそも約束が果たされる頃には箒も卒業しているし、ISに対する社会的な情勢も大きく変わっている

5,“童帝”くんに女性関係の節操の無さを自覚させ、自重させるため

6,日本政府としても織斑一夏も篠ノ之 箒も確保しておきたい人物なのでこの結婚は年の差婚であろうとも有益

7,“童帝”くんが一生“童帝”を貫いて多くの女性を未婚にして我が国の出生率の大幅な低下を招かないため

これからも織斑一夏にいいよる女が出てきても、友矩(舅)と千冬(姑)の存在に耐えられない人間はそれだけで振るい落とされることになる。
それによって、織斑一夏の健やかなる人生と“ブレードランナー”としての活躍が保証されることになり、
織斑一夏に人生を捧げている――――――その言葉のとおりに公私共に尽くしている。

状況は描写していないが、今のところ秘密警備隊“ブレードランナー”は日本政府やIS学園に不信感を強めており、どれくらい危機的状況かは推して知るべし。

523  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/10/21(火) 09:49:53.84 ID:A2g0p8Ya0

“襟立衣”
“某教授”の『大いなる遺産』を求めてさすらう謎の青年。
その素顔は謎に包まれているが、“更識楯無”に復讐する意思は明確にしており、間もなくIS学園に接触してくるだろう怪人物。
目的のためなら手段を選ばず、10万円をポンっと渡すぐらいの思い切りの良さがあり、『リムーバー』を持っているので――――――。
ただし、復讐に関係ない人物を巻き込むことを避けているところがあり、自身を『妖怪』と名乗っているわりには外道に徹しきれない甘さがある。

こちらも更識 簪 同様に第1部(アニメ第2期)から本格参戦する人物であり、今作の“更識家”に関するオリジナル設定の中核を担う。


ヒント1:“パンドラの匣”について言及されているあたりを振り返ると――――――?
ヒント2:今作のモデルとなった作品を考えれば彼が何なのか丸わかりです

※わかったとしてもそれとなくぼかしていただけると幸いです。ネタバレしないでね。


織斑千冬
今作では汚名返上のために原作以上に頑張っている人物。
中道左派として学園生徒の保護を第一にして内部粛清を行っており、自身が公職追放した人員の不足による組織の再編で大変忙しい。
使える機体の制限や人員の慢性的な不足によって、精鋭部隊などの生徒による自衛体制の確立は元々行っているのだが、
相手が相手だけになかなか成果が出せず 指揮官としての管理運用能力を問われていたが見事に責任転嫁して難を逃れている。

しかし、これからのIS学園は世界中からのスパイでひしめくことになり、序章(アニメ第1期)ではまだそこまで描かれていないが、
徐々にIS学園内での左派と右派の派閥抗争が激化していく運命にある。
なお、『こんな内部抗争でゴタゴタな学園でよく解体されずに無事なもんだ』と言われれば、
ホグワーツ魔法魔術学校とか学園都市などの一般生徒にとって極めて危険な場所が小説界には多々あるので、
大多数がこの世界の超兵器であるISに触れることすら難しいことを考えると極めて安全だし、死人も出てないので健全。間違いない(半ギレ)
良くはないんだけど、どうしようもない…………

ただし、原作ラノベでの彼女が入学初日に戸惑う実の弟に対して放った発言の中にとんでもないものがあり――――――。



525 </b> ◇G4SP/HSOik<b>[saga sage] 2014/11/18(火) 08:45:56.57 ID:VQgPk04n0

第10話A “アヤカ”の剣  -福音事件・表-
Sword of IS-killer the Revelation






雪村「はあはあ………………」ゼエゼエ


少年は深山樹海に逃げ込んでいた。

逃げる理由はただ1つであった。


――――――殺される!


雪村「くっ…………」ガサガサ

雪村「…………どこまで逃げれば逃げ切れる?」アセダラダラ

雪村「できるだけ遠いところへ……」ゼエゼエ


少年は自分が殺されることを知って脱兎の如く駆け出していた。

少年の心を支えてきたあの仮面の守護騎士は今は離されており、とても自分の命が助かるように思えなかったからだ。

道無き道を遮二無二に走りこみ、深い森の中へと――――――いっそこのまま消えてしまいたいという念に駆られながらも、

少年には“死”という選択肢はなかった。『とりあえず生きて、とにかく死なない』のが一種の強迫観念になっていたのだ。

そして、初めて覚えた孤独な孤独の感覚――――――孤独な群衆とはまた異なる人気が全く感じられない中で覚えた孤独感。

だが、一昔前の少年だったらそんなことを意にも介さずにどこまでも少年らしくあったことだろう。

しかし、今の少年には孤独な孤独と孤独な群衆の違いがはっきりとわかるようになっていた。

それによって、少年の心は新たな痛みを新体験することになるのだ。


だが、少年の心は新体験のこの孤独な孤独の痛みによって徐々に封印されてきた潜在意識が呼び覚まされていったのだ。


526  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:47:47.41 ID:VQgPk04n0

なぜならば――――――、

雪村「…………昔、こうやって『何もかもを捨てて遠くへ逃げたい』って思ったことがあったっけ」

雪村「人知れず、ひっそりと生きて――――――」

雪村「そう、人並みだなんて最初から僕には無かったんだから」

雪村「でも、僕はそれを……、そのチャンスを自分で見送ってしまって――――――」

雪村「………………え」

雪村「どうして『そんなことを考えたこと』を憶えているんだろう?」

雪村「だって、僕にだって『家族』はいたんだじゃないのか?」

雪村「でも…………」

雪村「(そうだ。いくら記憶が消されてもそうでなくても、PTSDのように強烈な体験や薬物中毒のフラッシュバックのように、)」

雪村「(顕在意識が認識できなくても潜在意識が憶えているだなんてことは学術的にも認められていることじゃないか)」

雪村「(なら、僕は『家族』に対して何の感慨を覚えないのは、僕にとって『家族』なんてその程度のものだったからなのかな?)」

雪村「(そう、『家族』にだっていろいろある)」

雪村「(篠ノ之 箒の家庭とシャルロット・デュノアの家庭のどちらも『家族』だ。『家族』が必ずしも吉事の象徴ではあるまい)」

雪村「それでも」

雪村「(それでも確かに、僕ははっきりと『そういうことを考えたこと』を憶えている)」

雪村「(そうすることがどういうことなのかは具体的にはわからなくても――――――、)」

雪村「(――――――そうした結果、残された『家族』がどうなるかはなんとなく理解していた。説明を受けていたかもしれない)」

雪村「けれども、僕はそうしてでも自由に憧れていた頃があった…………?」

雪村「…………?」

雪村「待てよ? そもそも僕に『家族』なんていたのか? 僕が孤児だった可能性はどうなんだ?」

雪村「――――――僕を縛り上げるために『家族』が存在していた?」

雪村「………………」

雪村「一夏さん、僕は――――――」

527  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:48:50.67 ID:VQgPk04n0


ビュウウウウウウウウウウウウウウウン! バサバサバサ・・・


雪村「!」ビクッ

雪村「うぅううう…………」 ――――――突き抜ける疾風!

雪村「…………今のが、『銀の福音』というやつだったか?」

雪村「やっぱり、あの予知は本物だったんだ…………」

雪村「僕が今頃 旅館に残り続けていたら――――――」アセタラー

雪村「とにかく、『知覧』が囮になっている間に逃げないと…………」


雪村「どうして僕にIS〈インフィニット・ストラトス〉を使う力があったのか…………それさえなければ僕は『家族』と一緒に」ポタポタ・・・


孤独な力無き少年はただただ逃げるしかできなかった。それが少年の精一杯である。

だが、これまでただ流されるだけだった少年にとっては大きな一歩であり、

“世界で唯一ISを扱える男性”として行儀よく飼い殺されるよりは遥かにマシだった。

ただ、少年の少年なりの自由を勝ち取るためにその逃避行の果てに力尽きて屍を晒そうとも、

――――――『それが本望』と思えるほどに、

顔は涙に濡れて割り切れない思いを抱えながらもその脚は力強い一歩を深い森の中の道無き道に刻んでいったのである。


――――――なぜ少年は逃げているのか?


それは“アヤカ”と呼び親しまれた1年1組のマスコットである“彼”が自分らしさや自分であるために必要なものを守り通すためであった。

そう、“アヤカ”として初めは空っぽだった“彼”の中にはこれまでになかったもので満たされるようになり、

同時に、“アヤカ”らしさ――――――自分らしさもこれまでの日々の中で表現されていっており、

それは生きながらにして死んでいた“彼”の人生においてはまさに――――――!


だからこそ、少年は人知れず人気のない道無き道を突き進むことを決心したのである。



528  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:50:00.31 ID:VQgPk04n0


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――


――――――臨海学校、7月6日:1日目


山田「今11時です! 夕方までは自由行動! 夕食に遅れないように旅館に戻ること!」

山田「いいですね?」


一同「ハーイ!」


雪村「………………」ボケー(パラソル付きビーチベッドに寝そべっている)

箒「おい、雪村あああああああ!」ダダダダダ!

雪村「!?」ビクッ

箒「お前、せっかく海に来たのにビーチベッドとはどういうことだぁー!」

雪村「…………読書の邪魔をしないでくれませんか?」

箒「ほう? 臨海学校前に出されたあれだけの宿題もさっさと終わらせてせっせと読書か。それは感心だな」

箒「だが、お前は空気を読め! たまには馬鹿みたいに頭を空っぽにして遊ばないとダメなんだからな!」ガシッ

雪村「…………うっ、わかりました」シブシブ

箒「よろしい」

箒「よし、棒を持て!」

雪村「棒倒しですか」

箒「お前が満足できるような遊びをわざわざ考えてやったからな? 覚悟しろ」

雪村「………………」


529  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:52:00.54 ID:VQgPk04n0

――――――エクストリーム スイカ割り


女子「見て、あれ! 凄く逞しい…………」

女子「“アヤカ”くんって脱ぐと凄かったんだ…………」

女子「うぅんセクシィー」


箒「さて、ちゃんと見えてないな、雪村?」

雪村「………………はい」(目隠し)

箒「お前も見ただろうが、この日のために業者に頼んで砂浜にコースを造ってもらったのだ」

箒「ほぼ一直線でガードレール代わりの砂の城壁も完備してある」

箒「お前にはおよそ100m先にあるスイカを幅5mの道に沿って目隠しで進んでもらう」

箒「制限時間は10分で、ガードレールから向こうに両足を出した場合も失敗だ。もちろんISも使用不可だ。ハイパーセンサーは使うなよ」

箒「なお、障害物もたくさん用意されているぞ。不特定多数による水鉄砲や、声援に見せかけた誤情報を流すギャラリーもボチボチ」

箒「わかったか?」

雪村「とりあえず、前に進めばいいんでしょう?」

箒「ああ。今 居るところは確かに前を向いているぞ」

雪村「それじゃ始めてください」

箒「よし! カウント5だ! 始めてくれ!」

雪村「………………」


――――――5、4、3、2、1、スタート!


雪村「………………」スタスタスタ・・・


――――――
実況「始まりました、エクストリーム スイカ割り」

実況「今回はマイクで実況してしまうと“アヤカ”選手にも丸わかりなので肉声で聞こえない程度にさせていただきます」

実況「解説は、“アヤカ”選手とは“母と子の関係”の抜群のチームワークで学年別トーナメント決勝まで上り詰めた篠ノ之 箒さんです」

箒「よ、よろしく頼む……(どうして私が解説席なんだ…………私がそれだけ雪村を理解していると見られているからなのか?)」

実況「早速ですが、躊躇うことなく“アヤカ”選手! 早歩きで一直線に歩き出した!」

箒「常人から見ると、目隠ししているのによくあれだけの速さで踏み込めると思うだろうが、」

箒「雪村は単純な発想で手っ取り早く目標を果たすことだけを考えている」

箒「つまり、ガードレールに当たったらそれを伝って進んでいけば安全に辿り着けると踏んだのだろう」

実況「なるほど! では、ガードレールに当たったらそれを伝っていくだけでスイカの元へ辿り着けちゃうんですか?」

実況「それに気づくとは“アヤカ”選手はさすがの慧眼ですが、これではあっさり勝負がついてしまうのでは?」

箒「安心しろ。その辺は抜かりはない」
――――――

530  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:53:03.09 ID:VQgPk04n0

――――――10m 右ガードレール直前


雪村「…………お」(左足の先端に砂の壁のようなものが当たる)

雪村「(コース右端のガードレールについたようだな。後はレール沿いに進めばあっさり着くな)」

雪村「………………!」

雪村「うわっ!?」バタン!

雪村「…………!?」

雪村「(マズイ、たぶん胸の辺りで押し潰したのはガードレールだ! 落ち着いて起き上がって方向感覚を見失わないようにしないと!)」

雪村「…………っと」オソルオソル

雪村「(けど、今のはいったい?)」

――――――
実況「おっと! “アヤカ”選手、転倒してガードレールに倒れこんだ~!」

箒「両足がコースから出たら失格だが、雪村のことだ。慎重に起き上がることだろう」

実況「何が起きたんですか?」

箒「ああ。ガードレール沿いに進めないように落とし穴や段差を用意させてもらった」

箒「他にもガードレールが微妙に湾曲させて あらぬ方向に進んでしまうようにもしてみた」

実況「あ、確かに20m地点では左のガードレールがコース真ん中に伸びていってますねぇ!」

箒「それを20m毎に交互に置いてネズミ返ししているわけさ」

実況「おお! ガードレールを使うという楽な作戦はこれで使えなくなったぞー! 目隠しされてる身としてはわかっていても回避は困難!」


鈴「へえ、おもしろそうなのやってるわね」

鈴「何々? 『水鉄砲でおもいっきり狙ってOK』――――――なるほどねぇ」ニヤリ

シャル「“アヤカ”~! そのまままっすぐー!」

セシリア「“アヤカ”さ~ん! もうちょっと左を向けば真正面に進めますわ~!」

本音「“アヤヤ”~、もうちょい右、右~」

相川「ちょっとあんた、テキトーなこと言ってるんじゃないわよ」

谷本「ふふ~ん! せっかくだから楽しまないとね?」ニヤリ
――――――

531  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:53:57.76 ID:VQgPk04n0

――――――30m 右ガードレール沿いに慎重に進む


雪村「………………」

雪村「?」

雪村「………………」ジャリジャリ(立ち止まって棒で辺りを探りを入れる)

――――――
実況「おっと、何を感じ取ったのか、持っていた棒で床を探り始めたぞ~」

箒「さすが雪村だな…………並外れた直感力だな」

箒「いや、コースを一度眺めて30m付近に何か埋まっていることを悟っていたのか?」

実況「え、何が埋まっているんですか、あの辺は?」

箒「あの辺りには確か――――――、」パラパラ・・・

箒「そう、踏むとガードレールの城壁に隠されたオーディオプレーヤーからガラスが割れる音が唐突に鳴るんだ」

実況「え、それって効果あるんですか?」

箒「雪村の想像の上を行かないと罠なんて意味ないぞ」

箒「ここが砂浜の上だからこそ、あり得ないような怪奇音には敏感になるはずさ」

実況「な、なるほど……」

実況「でも、スイッチを不意に踏んでくれないと意味無いですよね、それ」

箒「ああ。見事にスイッチを看破されてしまったな」


ガラガラガッシャーン!


観衆「きゃーーーーー!」

鈴「び、ビクッたぁ……」ビクッ

シャル「突然、ガラス棚が割れる豪快な騒音がきたらそりゃ驚くって……」ドクンドクン

セシリア「わ、私は突然 みなさんが驚いたのに驚いたのであって、別に私は音に驚いたわけではなくってよ……?」アセダラダラ

鷹月「む、無防備に構えていた私たちのほうがビックリよ……」ドクンドクン

谷本「うぅ……、肝腎の“アヤカ”くんは身構えていただけあって全然動じてないし……」ドクンドクン

本音「あ~、びっくりした~」ドクンドクン

相川「し、心臓に悪い……」ドクンドクン
――――――

532  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:55:27.22 ID:VQgPk04n0

――――――40m 右ガードレール:死出の緩やかなカーブゾーン


雪村「………………」

――――――
実況「さて、最初は左にあった死出のカーブゾーンですが、今度は20m後に右側に登場だー!」

箒「これで終りとなるか、雪村!」

箒「ちなみに、カーブしたガードレールをそのまま直線上に進むとコースアウトするように反対側のガードレールが一部撤廃されているぞ」
――――――

雪村「………………」

――――――
相川「あ、“アヤカ”くん! 危ない! ガードレールが曲がってるよー!」アセアセ

谷本「“アヤカ”くん、そのままそのままー!」ニヤニヤ

簪「“アヤカ”! 今、道の真ん中!」

鈴「“アヤカ”! そのままよ! そのままー!」


実況「見事に外野が2つに割れましたね」

箒「そのほうが面白いから今はそれでいい……」

実況「え」

箒「いや、さすがに難しすぎたかと思っただけだ」

箒「雪村でもこれはさすがに無理だろう」


セシリア「あら!?」

シャル「あ、停まった?」

鈴「あ、“アヤカ”~! どうして停まったのよ~! そのまま、そのままよ~!」

相川「“アヤカ”くん! 戻って! ここは戻ってガードレールを跨いで!」


箒「…………雪村?」

実況「おっと、“アヤカ”選手! まだ死出のカーブゾーンの道が途切れてないのに立ち止まった!」

実況「周りのガヤからの情報を信じる気になったのか、しかし 実況席でもガヤがうるさくて聞き取れないのに、」

実況「コース両サイドからのガヤを聞き分けることができているのでしょうか~!」
――――――

533  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:56:02.79 ID:VQgPk04n0

雪村「………………」キョロキョロ

雪村「………………」クルクル

雪村「………………」スタスタ・・・

雪村「…………!」ピタッ

雪村「………………」クルクル

――――――
実況「どうやら死出のカーブゾーンの果てまで来てしまいましたー!」

箒「だが、おかしくないか?」

箒「普通ならガードレールが途切れていることに気づいて、もう少し先まで踏み込むなり 安全に引き返すなり あるはずなのに、」

箒「雪村はどうして真正面を向くことができているんだ!?」
――――――

雪村「………………」


『馬鹿な! その角度ならスイカとは真正面だ! もしかして、もしかするのか……!?』

『どうしてそのまま踏み込まないの?! そのままコースアウトしちゃえばいいのに…………!』

『引き返せ! 引き返せ! そのまま引き返して残り時間まで彷徨っていればいいのに……!』


雪村「………………フフッ」

雪村「――――――!」バッ

――――――
実況「は、走ったああああああ!」

実況「実況席ではわかりづらいですが、おそらくコース中央をゴールライン中央にあるスイカ目掛けて一直線かー?!」

箒「ば、馬鹿な!? 目隠しは3重にもして見えてるはずがない!」

箒「だ、だが! 50m地点の中央にはこうした万が一に備えて縦長のすり鉢状の浅く広い落とし穴がある!」

箒「それに嵌まりさえすれば、再び転倒して方向感覚が失われるはずだ!」
――――――

534  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:56:50.40 ID:VQgPk04n0

――――――50m前 中央:落とし穴


雪村「………………」ダッダッダッダッダ!


『雪村! もうそろそろお前は落とし穴に嵌るぞ、嵌るぞー!』

『50mを過ぎたら水鉄砲解禁! “アヤカ”の顔に思いっきり水鉄砲 中てたげる!』

『嘘!? このままゴールのスイカまで一直線じゃない! ダメダメダメ!』


雪村「うおおおおおおおお!」バッ!

ピョイーン!

雪村「くっ…………」ドサァ

雪村「ふぅ……」ヨロヨロ・・・

雪村「はっ!」ガバッ! ダッダッダッダッダ!

――――――
観衆「お、おおおおおお!?」

パチパチ、パチパチパチパチ・・・!

実況「い、今! 何mぐらい跳んだんのでしょうか!?」

鷹月「確か、城壁の櫓で5m刻みだったはずだから、ざっと7m以上は跳んだんじゃ……?」

実況「じ、実に見事な走り幅跳びでした! しかも、素足で砂の上からですよ、これが! これは高校記録を狙えるレベルじゃないでしょうか!?」

箒「た、確かに凄かった……(さすがだな、雪村……)」ドクンドクン

箒「49-51mの2mの長さの落とし穴を余裕で跳び越して行ったようだな……」

箒「(だが、どういうことだ!? さすがに落とし穴があることもその正確な位置もわからないはずだ、一見しただけじゃ!)」

箒「(まさか、雪村は1部しかないはずのこの資料を盗み見ていたのか!? いや、私も今 もらったばかりだからそれはあり得ない!)」


鈴「ハッ」

鈴「ま、待ちなさーい、“アぁヤカ”ー! 私の水鉄砲を喰らいなさーい!」タッタッタッタッタ!

谷本「おっと、思わず見惚れてた……! せっかく何だし楽しまないとね!」タッタッタッタッタ!

セシリア「“アヤカ”さんには悪いですが、体の良い射撃訓練の的になってもらいますわ!」ジャキ

シャル「意外とみんな容赦ないんだね……」アハハ・・・

簪「まあ、“アヤカ”は気にしないとは思うけど……」

本音「カンちゃんも一緒にやろ~」

簪「で、でも…………」

相川「砂の上でも脚 速ーい……(それにしても夏は陽射しがきついなぁー)」
――――――

535  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:57:53.06 ID:VQgPk04n0

――――――90m前 中央:最後の難関


雪村「………………」ダッダッダッダッダ!

――――――
鈴「くっ、待てぇーい!」プシュー!

セシリア「くっ、今度こそ中てますわ!」プシュー!

谷本「目隠しで砂に足を取られてこの数なのにほとんど躱されるなんて……」ゼエゼエ


実況「ホントに目隠しをしているのか疑わしいほどの凄まじい動きです!」

実況「コース前半は慎重に進んではいたものの、コース後半からは7m超の走り幅跳びで観衆を魅了した後、」

実況「コース中央にはもうトラップが仕掛けられていないので、このままゴールまで一直線なるか!?」

箒「まさかこうなるなんてな…………(ラウラと一緒に考えたコースだけどやっぱり雪村は私たちの想像の遥か上を行った!)」

箒「だ、だが! 最後の10mからはガードレールが半円状になってその中央のスイカが置かれている台座まで直接辿り着かないといけないぞ!」

箒「最後の90m地点から急に段差となっているから、そこで足を踏み外すはずだ!」

箒「これはスタート直後に装置で高さをつけたから、50m地点の落とし穴のようにはいかないぞ!」
――――――

雪村「………………」ダッダッダッダッダ!


『90m地点で雪村! お前は装置で造られた段差で盛大にこける! そろそろだな……』

『いつの間に段差なんてできた――――――そうだ! そこでこけたところを思いっきり水鉄砲で中ててやるのよ!』

『ああ! このままだと本当に一直線でスイカのところまで辿り着いちゃう!』


雪村「………………フフッ」ダッダッダッダッダ!

雪村「――――――1,2,3,4,5!」バッ!

ピョイーン!

雪村「くぅ……」ゴロンゴロンゴロン・・・コツン

雪村「ふぅ……」ヨロヨロ・・・

雪村「………………」ペチペチ

雪村「はああああ!」ブン!

バチャ!


ピーーーーーーーーーーーーーー!


536  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:59:10.35 ID:VQgPk04n0

――――――
観衆「」

実況「」

箒「」


実況「げ、ゲームクリアー! “アヤカ”選手、見事にエクストリーム スイカ割りを制しましたぁー!」


観衆「お、おおおおおおおお!」パチパチパチ・・・

箒「ば、馬鹿な!? ラウラ、私は夢でも見ているのか!? 制限時間が半分以上残るだなんてそんなのあり得ない……!」

ラウラ「そうだ、あり得ない……! 我が『黒ウサギ部隊』の頭脳を結集したコースがこうも容易く攻略されるとは!」モゴモゴ

箒「うおっ!? 何だタオルお化け――――――って、その声、ラウラか?」ビクッ

ラウラ「あ、ああ……。しかし、目隠しにハイパーセンサーも使ってないのにどうしてあれだけの動きが…………」モゴモゴ(タオルお化け)

ラウラ「というより、明らかに眼が見えてる以上に何があるのか最初からわかっていたような動きだったぞ、あれは……」モゴモゴ

箒「け、けど! これを企画したのは私とお前とお前のところの隊員しかいないだろう? 企画書もこれしかないし……」

ラウラ「私もわからん。せっかくガードレール沿いに大量の罠を仕掛けたというのに、」モゴモゴ

ラウラ「まさか文字通りに中央突破されるとは予想外だった……」モゴモゴ

ラウラ「そもそも、人間というものは視覚の補正で身体の向きを無意識に修正している――――――」モゴモゴ

ラウラ「だから 視覚を封じられれば、正確な向きを維持したまま進むことなど至難の業だというのに……」モゴモゴ

ラウラ「その場で足踏みしているだけでも人間の身体の向きは回転していくというのに、何ということだ…………」モゴモゴ

ラウラ「だがそれ以前に、40m地点の死出のカーブゾーンでどうやってゴール地点の正確な向きがわかったというのだ!?」モゴモゴ

箒「ああ。ホントだよ…………(私は改めて雪村の潜在能力の凄さというものを痛感するのであった……)」
――――――

537  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 08:59:46.94 ID:VQgPk04n0

雪村「あ、いいスイカだな…………しっかりとした甘みがある」ボリボリ

箒「な、なあ、雪村? 私たちとしては雪村にも楽しんでもらえるように趣向を凝らしたつもりなんだが、――――――完敗だよ」

箒「教えてくれないか? どうやって罠の正確な位置がわかったんだ? 明らかにわかっていたよな?」

雪村「うん?」

ラウラ「そ、そうだぞ! あれを無意識にやっていたとするならば、貴様は正真正銘の怪物だ!」モゴモゴ(タオルお化け)

ラウラ「私は上空から今後の部隊訓練の参考として撮影していたが、途中から明らかに動きがおかしかったぞ、貴様……!」モゴモゴ

雪村「そうなんですか?」

ラウラ「当たり前だ! コースを見ろ!」モゴモゴ

雪村「?」チラッ

――――――
相川「え!? コースアウト!? いつの間に!?」 ――――――死出のカーブゾーンに乗せられる!

谷本「きゃ~! 助けて~!」 ――――――落とし穴にはまる!

本音「こっちでいいんだよね~?」 ――――――位置がわからなくなり、コースを逆走中!

その他「きゃああああああああ!」 ――――――ガードレール沿いの各種トラップに引っかかる!
――――――

雪村「ずいぶんとえげつないトラップが仕掛けられていたんですね」

箒「今のところ、50mを越えられた人間は半分もいないぞ。大抵は20m毎に左右交互に設置してある死出のカーブゾーンで詰まる」

箒「それなのに雪村は初見でそれに引っ掛かったのに、むしろ中央で途切れていることを逆手に取ってスイカまでの理想的な直線距離を結んだ」

箒「どうやってそれができた? 帯にゴーグルにアイマスクの3重掛けの目隠しをしてどうしてスイカの方向がわかった?!」

雪村「――――――勘?」

箒「ああ…………」

ラウラ「もう私は驚かない――――――『驚かない』と言ってみせたはずだ……」モゴモゴ

雪村「ま、最終的には勘ですけど、コースに対して水平かどうかを知る手掛かりはいくつもありましたよ」

ラウラ「な、なに?」モゴモゴ

雪村「例えば、今は12時近くですけど太陽の陽射しの感覚や両側から聞こえるガヤで向きは確実にわかりますね」

ラウラ「まあ、それぐらいは普通だろう。――――――そんなことを聞きたいんじゃない」モゴモゴ

雪村「コースを一度見ていたから?」ボリボリ

ラウラ「それだけじゃないだろう」モゴモゴ

538  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:01:54.56 ID:VQgPk04n0

山田「――――――驚きましたね」

千冬「ああ。ISドライバーの枠だけでは収まらないような驚くべきセンスの塊だな」

千鶴「でも、“彼”はその全てを曝け出すことを極端に恐れている――――――」

千冬「しかたないな。自分でも知らない自分の潜在能力に苦しめられてきたのだからな……」

千鶴「明日は7月7日ですけど――――――、どうします、防衛司令官?」

千冬「私が出よう。山田くんは後衛、千鶴は後方で指揮を頼む」

山田「わかりました!」

千鶴「わかったわ。仰せのままに」

ザワザワ、ジロジロ、ワーワー

生徒「わぁー、織斑先生に山田先生、それに一条先生だぁー!」

生徒「みんな、グラマラスで素敵よねー」

生徒「織斑先生は美しくて、山田先生はかわいくて、一条先生はカッコイイ!」

ワーワー、ガヤガヤ、ワイワイ

千冬「では、私たちも今は――――――」

山田「はい」

千鶴「ええ」

ラウラ「おお、織斑教官! 教官はいつ見てもお美しい」モゴモゴ(タオルお化け)

千冬「うん? 何だ、このタオルお化けは? ――――――脱げ、ラウラ」

ラウラ「あ、いえ! 私はこれで――――――」ススス・・・

千冬「『脱げ』と言ったら、脱ぐんだ。ほら!」ガシッ

ラウラ「ほわっ!?」バサッ

ラウラ「う、うう…………」カア

千冬「ほう? お前にしてはいい趣味だな」ニヤニヤ

箒「そう思いますか、織斑先生。雪村と同じくみんなが選んだものをちゃんとラウラは着てくれているんですよ」

ラウラ「し、しかたなくだ、これは……」モジモジ

ラウラ「べ、別に、私自身が『可愛い』と思ったから着てやっているわけじゃないのだからな? か、勘違いをするなよ!」ドキドキ

千冬「ほう? お前もそういうことを気にするようになったか」

千冬「年頃だな」ニコッ

ラウラ「あ」

ラウラ「…………はい」ホッ

539  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:02:25.99 ID:VQgPk04n0

雪村「――――――優しい顔、してるね」

ラウラ「え」

ラウラ「ああ、そうだな」

雪村「何言ってんの? ――――――『ボーデヴィッヒ教官が』ですよ」

ラウラ「……私が?」

箒「そうだな。最初の頃のおっかないイメージは完全になくなって、織斑先生譲りの頼りがいのあるキャラになったもんだ」ウンウン

箒「何か騒動を起こしてくれるんじゃないかと思っていたが、ラウラはちょっと無愛想なだけのヒーローだったからな」

千冬「どうだ? こいつを過去の自分だと思って育ててみた結果、自分にとっても得るものがあったんじゃないか?」

ラウラ「はい。“アヤカ”の教育は得るものが多くあったように思えます」


千冬「これからも私に代わって“アヤカ”のことを頼むぞ、ラウラ」


ラウラ「はい! おまかせください!」ビシッ

箒「…………?」

雪村「………………」

山田「………………」

千鶴「それじゃ、千冬。あっちでビーチバレーでもやらない?」

千冬「そうだな。お前たちも来い」

雪村「やだ」

箒「え」

千冬「……なんだと?」

ラウラ「おい、“アヤカ”!」

雪村「僕はここでスイカを食べてるんだ。邪魔しないでください」ボリボリ

千冬「……ほう、懐かしいな。私の言うことをここまで聞かない生徒としてはお前が間違いなく一番記憶に残るだよ」

山田「あ、あははは……」

箒「雪村は相変わらずだな」フフッ

セシリア「そうですわね。最初に会った時からあの千冬さんの言うことに真っ向から反発して痛い目に遭ってましたわね」クスッ

セシリア「何と言うか、始業日のことがいろんな意味で“アヤカ”さんの為人というのが強く印象に残ってますわ」

箒「そうだな。あいつは本当に最初は無愛想で物を知らないやつだったよ」

セシリア「はい。人ってこんなにも変われるものなのですね」

箒「…………そうだな。『こんなにも』な」

540  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:04:34.37 ID:VQgPk04n0

箒「(そう、10年前に姉さんがISを開発してその4年後に重要人物保護プログラムの暗黒の6年間――――――)」

箒「(なんだか遠い昔のようにさえ感じてしまうな、――――――重要人物保護プログラムでの苦しみの日々のことを)」

箒「(今になって考えてみると、1年前の今頃は私は唯一の取り柄だった剣道でがむしゃらに全国大会を勝ち進んでいた時だったな……)」

箒「(あの頃の私は人よりも身体能力に恵まれていたから剣道の理念などかなぐり捨てた力押しで中学剣道の頂点に立ってしまった……)」

箒「(人より卓越した鋭い剣捌きで一気に相手を切り崩すのが私の戦い方であった。人それを邪剣だとか暴剣と言い、)」

箒「(とにかく、相手を叩き斬るつもりであらん限りの力で竹刀を相手に叩きつけ、)」

箒「(相手が痛さのあまりに立ち往生してもひたすら有効打突を連続させ、相手が倒れこもうが容赦なく面を叩き込んだ――――――)」

箒「(いったい私は何人の人間を剣道で傷つけてきてしまったのだろう?)」

箒「(ただただ自分に許された唯一自分のものと言えた剣道で全国優勝して得たものは賞賛も何もない虚しいだけの経歴と満たされない自分だった)」

箒「(その時、審判団の中にいた剣道七段の一人の先生のにこやかながらも含みを持った視線を浴びて、私は初めてハッとしたのだ)」

箒「(――――――私が尊敬している父:篠ノ之 柳韻が見ていたら私のことをなんと叱りつけるのかを)」

箒「(そしてもう1つ、一夏のやつは千冬さんに比べたら気迫の差で負けていたらしいのだが、いつもいつも楽しそうに剣道をしていた姿を思い出したのだ)」

箒「(私が全国優勝してようやく得たものはまさしく重要人物保護プログラムの中で歪んでしまった私の剣――――――己自身の精神の自覚だったのだ)」

箒「(それから私は自分を抑える努力をするようにはしてきたのだ)」

箒「(一夏との結婚の約束のこともあったし、何より尊敬している父に恥ずかしくないような一人の武士として大成できるように…………)」

箒「(今はどうなのだろうか? 私はちゃんと自分を抑えられているのだろうか? 見失わずにいられたのだろうか?)」

箒「(学年別トーナメントの時の私は満点だったと言えるのだろうか? ――――――それは誰も答えてはくれない)」

箒「(けれども、ただ間違いなく言えることがある)」


――――――去年よりも現在のほうが楽しい。


箒「(気の置けない友達だってこんなにもできたし、まさか専用機持ちのみんなからこれほどまで仲良くなれるだなんて思わなかった)」

箒「(それに、“彼”――――――朱華雪村という私と同じく姉さんが開発したISで苦しんできたこの少年との出会い)」

箒「(思えば今までだってそうだったし、今日のエクストリーム スイカ割りでも、いつも雪村は私たちの想像を遥かに超える何かを見せてくれた)」

箒「(そう。そのことを思えば、きっと私は大丈夫なのだとそう思えたのだ。――――――雪村が出してきた実績を見てくると)」

箒「(むしろ、雪村との繋がりを意識するのであれば、ISエンジニアとして雪村を支えていく道に専念していくのもありなんじゃないかと思えてきたぞ)」

箒「(私はどうせ適性がランクCなんだし、雪村はこれから同じ『打鉄』乗りの更識 簪とよろしくやっていくことになるだろう)」

箒「(なら、整備科に入って雪村の専属エンジニアになってチームを組み続けるのも悪くないかもしれないな)」

箒「(なんだかこの学園に入ってからそればっかりだな。雪村のことで一喜一憂し続けてそれでも前に進んで来れたんだから)」

箒「(本当に今の私は雪村ありきな思考に陥っていて、それで大丈夫なのかと不安になる時があるけれども、)」


――――――『何とかなる』そう信じていればいいんだ。私は雪村のことをどこまでも信じ抜いて足りないところを補ってさえいれば。


541  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:05:57.65 ID:VQgPk04n0

箒「よし、食べ終わったな。さっさと行くぞ」

雪村「えー、やだー」ボリボリ

箒「いいからくるんだ!」

箒「うん、雪村? スイカの種が見当たらないがどうした?」

ラウラ「確かに。あの黒いのが見当たらないぞ」

雪村「ん?」

箒「まさか、お前はスイカの種も全部食べる派なのか!?」

ラウラ「どうしたのだ、箒よ? そこまで驚くようなことなのか?」


鈴「ふふふふ、スイカの種はね? 飲み込んじゃうと身体の中で成長して身体の隙間という隙間からツタが生えていって――――――」


ラウラ「?!」ゾクッ

雪村「何言ってんだ、この2組の人?」ジトー

箒「おいおい、鈴。こいつがそんなことでビビると思うか?」

鈴「まあね。言ってみたかっただけ~」

ラウラ「…………」アセダラダラ

雪村「それじゃ、お手洗いに行ってきます」スタスタスタ・・・

鈴「待ちなさいよ。私もついていくわ」

雪村「は?」ピタッ

箒「!」

箒「そうだな。お前が逃げ出さないように待っていてやるから感謝しろよ?」

雪村「…………げ」

鈴「あんたを逃がしたら千冬さんに酷い目に遭わされるんだから、私のためにおとなしくビーチバレーしなさいよね!」

ラウラ「そ、そうだぞ、“アヤカ”よ! その前に催吐剤で飲み込んだものを吐くんだ!」アセダラダラ

雪村「は? ――――――『催吐剤』?」

鈴「え」

箒「ら、ラウラ……?」

ラウラ「“アヤカ”! お前はスイカの種をあれだけ飲み込んでしまったのだろう!? 胃の中にあるうちに吐き出すんだ!」

ラウラ「でないと、手遅れになってもしらんぞおおお!」アセダラダラ

鈴「え、もしかして、このドイツ代表候補生は――――――」アセタラー

箒「…………鈴の与太話を真に受けてしまったようだな」ヤレヤレ

542  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:06:49.15 ID:VQgPk04n0

雪村「大丈夫ですって、教官。スイカの種はゴマと同じように1つ1つ噛み砕いて食べてますから」

鈴「か、噛み砕いて――――――!?」

箒「そういえば、スイカを食べているのに妙に顎が動いていると思ったら…………」

雪村「ナッツを食べて身体からナッツの木が生えたという奇怪な話は聞いたことないでしょう?」ヤレヤレ

ラウラ「いや、しかし! 万が一ということがある!」


ラウラ「私は教官としてお前を守る義務がある!」


箒「…………!」

鈴「…………へえ」

雪村「…………ありがとう」ボソッ

ラウラ「へ」

雪村「それじゃ、行ってきます」スタスタスタ・・・

雪村「それと――――――、」クルッ


雪村「よく似合ってますよ、その水着姿。教官」ニッコリ


ラウラ「!」

ラウラ「…………“アヤカ”」ホッ

鈴「あ、うまいこと言ってごまかそうたってそうはいかないんだからね! 待ちなさいよー!」タッタッタッタッタ・・・

箒「雪村のやつ、本当にいい笑顔を見せてくれるようになったな……」

箒「ん? ラウラ?」

ラウラ「…………なあ、箒よ?」テレテレ

箒「どうした?」

ラウラ「どうして今の私は思わず顔を下に向けたのだろう? それにこの頬が緩む感覚は――――――」

箒「…………ハア」

箒「簡単なことじゃないか、そんなの」ニコッ


箒「織斑先生と同じ喜びと達成感をお前が感じているからだろう?」


ラウラ「…………!」

ラウラ「私は……、私は織斑教官と同じような笑顔ができているのだろうか……?」

箒「少なくとも、お前の雪村を見る目は織斑先生と同じものがあったように思うぞ」

ラウラ「……そうか。そういってもらえてようやく織斑教官の強さの秘訣に迫れるようになったのだと安心したよ」

箒「…………『千冬さんの強さの秘訣』か」

箒「…………大丈夫だ。私もラウラと同じなんだ。ラウラと同じように誰かのために頑張っているのだから」ブツブツ


543  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:08:20.66 ID:VQgPk04n0

――――――夕暮れ


ザー、ザー、ザー

千鶴「さて、これから特別講義よ」

千鶴「――――――【打金/龍驤】を展開して」

雪村「わかりました」ピカァーン!

雪村「はい」(IS展開)

千鶴「それじゃ、軽く海の方へ進んでみて」

雪村「はい」ガコンガコン

雪村「くっ……なかなか歩きづらい」ザッザッザッザ・・・

千鶴「そのままそのまま」

雪村「はい」バチャバチャ・・・

千鶴「…………止まって」

雪村「はい」ピタッ

ザー、ザー、ザー

千鶴「普通ならPICが働いて水上飛行に移行するはずなのに、“アヤカ”くんの場合は普通に沈んでるわね……」

雪村「ハア…………」

千鶴「どうして、ISの基本システムであるPICが頑なに作動しないのかしらね?」

雪村「訊かれても困ります」

千鶴「まあそうなんだけど」

千鶴「けれど、9月下旬の『キャノンボール・ファスト』に向けて空中戦ができるようになってないとそろそろ困る時期に入っているわけなの……」

雪村「学園の都合を言われても困ります」

千鶴「……そうね」

千鶴「確か、プールでもダメだったのよね」

雪村「はい。沈みました。世にも珍しい光景として学内でちょっとした話題になりましたね」

千鶴「…………この分だと、明日の訓練は不参加かしらね」ハア

千鶴「飛べないパワードスーツを着ていたほうがこういった環境では逆に危ないものね。そもそもISである利点がまったくない」

雪村「そうですか」

544  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:09:36.10 ID:VQgPk04n0

千鶴「過去にも空を飛ぶ感覚を掴んでもらうために、専用機の背中に乗って飛んでもらったり、グライダーをさせてみたりしたけど、」

千鶴「…………どれも効果がなかった」

千鶴「やっぱり、心理的な拒絶反応が一番ってことね」

雪村「だから、何ですか? 僕はグライダーに乗った憶えは無いですよ?」

千鶴「“朱華雪村”である前の“彼”のことよ」

雪村「…………やっぱり」

千鶴「――――――『やっぱり』?」

雪村「変だと思ってた。記憶が綺麗になくなってるんだから」

雪村「でも、そんなことを教えて何になるんです? どうせまた“僕”のことを消すんでしょう?」

雪村「いや、もう“生きたこの身体”には用がないのかもしれない。後が無いのかもしれない」

雪村「まあ、楽しかったよ。それで十分」

千鶴「…………そう」

雪村「どうせ屠殺される瞬間だって記憶が消されるんだから、もう何も怖くない」

ザー、ザー、ザー

千鶴「日本政府のやることなすことが尽く裏目に出て、教育指導者としてはほとほと弱ったわね」

千鶴「学年別トーナメントで華々しい活躍をしてくれたのはいいんだけれど、その後は芳しくなくって、」

千鶴「あなたに合わせた専用パッケージも用意してもらったけれども、専用機持ち同士の模擬戦で勝ち星は未だに上がらず、」

千鶴「ISの基本であるPICコントロールがままならないまま卒業までいってしまいそうな予感すらある」

千鶴「だから、世間一般では『男性ドライバーはやはり欠陥品』と囁き、馬鹿なフェミニストたちがますます馬鹿な風潮を拡める」

雪村「興味ないですよ、そんなこと」

雪村「誰も泣き叫ぶ“彼”を助けようとはせず、“彼”の全てを剥ぎとっていったっていうのに、」

雪村「自分たちは都合よく『人のためだ』『世のためだ』とか言って、“彼”に代わって今度は“僕”にまでそんなことを求めるんですか」

雪村「無駄ですよ。“彼”にできなかったことがどうして“僕”にできるんですか? できていたら、最初から“僕”は存在しなかったんだ」

千鶴「………………」

雪村「生まれた時から“僕”はこうだったんだ。“彼”や“その次の彼”が何を思っていたかなんては記憶が消されても感覚としてわかる」

雪村「放っといてくださいよ、もう!」

雪村「僕は『周りから何かをしてもらいたい』だなんて思ってませんから」

雪村「周りが何かする度に“僕”のところから行き掛けの駄賃とばかりに“僕”のものを持って行くんだ。泥棒なんだよ、みんな!」

千鶴「………‥学年別トーナメントで芽生えた不信感はここまで肥大化していたか」

千鶴「当然か。人の心を大切にしない世の中――――――孤独な群衆が織りなす社会が一人の少年に与えるものなんてそんなものか」

545  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:10:15.54 ID:VQgPk04n0

千鶴「けれど、“アヤカ”くん?」

雪村「…………?」

ザー、ザー、ザー

千鶴「あなたは変わった。社会に対する怒りを初めて見せてくれたし、喜んだり、悲しんだり、笑ったりするようにまでなった」

千鶴「“アヤカ”である前のあなたは本当に生きながらにして死んでいたのだから」

雪村「………………」

千鶴「……傲慢よね。何の後ろ盾もない子供に『宿命を受け容れろ』だなんて言うのは」

千鶴「それこそ、大人がやるべきことなのに…………」

雪村「そうですか」

千鶴「…………簡単に『信じろ』とは言わない」

千鶴「けれど、少なくとも私や千冬があなたのために奔走していることだけは憶えておいて欲しいの」

雪村「好きにやってください。――――――どうせ卒業したら“僕”は用済みなんだから」

千鶴「……一夏くんがどれだけ凄いのかがよくわかった」


546  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:11:39.07 ID:VQgPk04n0

――――――旅館:朱華雪村 様1名様の寝室


雪村「で、なんでみんなここにいるの?」

本音「さあ、早くお布団を敷くのだ~」

雪村「え、やだ」

相川「え?!」

谷本「布団、敷かないの!?」

雪村「枕さえあれば、後はバスタオルだけでいいです」

鷹月「な、何とも経済的だね……」

箒「そんなわけあるか、馬鹿者!」

雪村「ええ? どう寝るかなんて人それぞれでいいじゃないですか」

雪村「シーツを掛けるのが面倒だからいいじゃないですか」

箒「弛んどるぞ、雪村あああああ!」

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

簪「えと、今日ここでみんなで映画鑑賞会ってことでいいんだよね?」ドキドキ

雪村「だったら、ここじゃなくて他でやればいいじゃないですか」

谷本「いやいや。この部屋じゃないといけない理由がありましてな~」

相川「だって、“アヤカ”くんの部屋はこの旅館のファーストクラスなんだよ!」

本音「テレビもでっかいし~、部屋もおっきいし~!」

鷹月「そうそう。もしかしなくても先生たちの部屋よりもリッチなんだから」

箒「それを一人部屋だぞ、一人部屋! お前一人だけにしておいたら何をしでかすかわからんからな」

雪村「…………もう勝手にして」

雪村「はい。これで何でも好きなものを買って盛り上がって」スッ ――――――二千円札

相川「え、いいの?」

本音「レア~」

雪村「カネなんて要らないぐらいもらってるし、そして 僕には使い道がわからないから」

谷本「そ、それじゃ! お言葉に甘えて一緒に映画を楽しも~!」

本音「お~!」

鷹月「それじゃ、時間もギリギリだし、急いで売店で買ってこよう」

タッタッタッタッタ・・・


547  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:12:16.86 ID:VQgPk04n0

簪「………………」

箒「………………」

雪村「それじゃ、僕は――――――」ゴロン

箒「おい」


箒「寝るんじゃないぞ、雪村? これから始まるんだから、な?」ギロッ


雪村「!?」ビクッ

簪「はは、本当に“アヤカ”と箒は仲が良いね」クスッ

簪「今日の『コマンドー』の主役:メイトリックス大佐みたいだね、箒って」

箒「え?」

簪「まあ、見てればわかるから」ピピッ

簪「実況板は今年も賑わってるなー」

箒「ほらほら、お前はこっちの座椅子に座っていろ」

雪村「…………まあいいか、たまには」


「………………………………フフッ」


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――


548  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:13:09.63 ID:VQgPk04n0

――――――どことも知れない世界


雪村「…………?」

雪村「………………」キョロキョロ

雪村「…………『知覧』!」ビシッ


雪村「………………」


雪村「どこだ、ここは?」

雪村「…………旅館じゃないのか?」

雪村「………………」

スタスタスタ・・・パチッ

雪村「…………!」チカチカ


“アヤカ”が目を覚ました時、そこはどこともしれない薄暗い客室の中であった。

薄暗いのはただ単に消灯をしていただけに過ぎなかったのだが、日の出の時間と目覚めるのが日常的な“アヤカ”には奇異に思えた。

そして、すぐにここが臨海学校で利用している旅館ではないことに気づいた。


549  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:13:59.76 ID:VQgPk04n0


――――――まさか拉致されたのか?


“アヤカ”は良くない想像が脳裏を駆け巡りながらも冷静に状況を探ることにした。

だが、すぐにハッとなって気づいたのだ。


――――――現在 自分が居る場所は大型客船の中なのだと。


“アヤカ”は憶えていた。大型客船で揺れる感覚というものを。

証拠に、部屋の明かりを点けると窓の外の臨海都市の夜景がはっきりと認識できた。

その夜景の光が水面を照らし、洋上にいる――――――船の中に居ることが証明されたのだ。次いでに間断のない微振動も感じられる。

それから、“アヤカ”は落ち着いて部屋を見渡した。

IS学園の寮室と同じぐらいの清潔感と高級感のある綺麗に整った客室であり、ベッドが2つ置いてあった――――――。

通路側の手前のベッドは先程まで自分がぐっすりと使っていたベッドであり、布団と布団の間には熟睡してできた湿っぽさと暖気が篭っていた。

一方で、窓側のベッドにはそういった感覚は残ってなかったが、ベッドの上には女性物と思われるバッグが無造作に置かれていた。


――――――どういうことなのだろう?


“アヤカ”は自分が拉致されたものだと思い込んでいた。証拠に自分の専用機である『知覧』の待機形態である『黄金の腕輪』が無いのだ。

もちろん、『知覧』に呼びかけても何も返事は返ってこない。そんなのは起きた瞬間の違和感ですぐに悟っていた。

だが、自分が眠っている間に拉致されたという事実になぜか疑問を持つようになっていた。

昨夜はみんなで『コマンドー』を見ていたのだ。映画が見終わったのは深夜であり、近くには豪華客船が泊まるような大きな港もないはずなのだ。

一夜のうちに豪華客船の中に連れ込まれていたという非現実的な状況にまず“アヤカ”は疑問を持った。

しかしすぐに、実は『一夜のうち』ではなく、『何日も眠り込んでいた』のではないかという推察が浮かんできた。

なぜなら、窓の外に夜景の光が見えるということは、間違いなく朝方の深夜ではなく、人々がまだ起きて活動している夕方の夜を意味するのだから。

つまり、もしかしたら自分は臨海学校の2日目を迎えていたかもしれないが、記憶をふっとばされてここに拉致されたのではないか――――――。

そういう結論に“アヤカ”は至った。――――――臨海学校初日から数日は経っていることも覚悟した。


だが、拉致されたにしてはおかしな点がありすぎた。以前に『更識 簪 誘拐事件』があっただけに今の状況で腑に落ちない点がいくつも思い浮かんだ。


そもそも、どうして豪華客船の客室で熟睡できていたのか――――――、こうして何事も無く目を覚まして外へ出る自由すらあったのだ。

普通なら人質らしく身体の不自由を伴うはずではないのだろうか?

あるいは、自分の身体の秘密などがすでに解析済みになって用済みになったから、豪華客船に放置されることになったのか――――――。

何にせよ、情報が少なすぎた。現在がいつどこで何のためにどのようにして誰によってもたらされたものなのかが掴めない。

よって、“アヤカ”はとりあえずは窓側のベッドに置いてある女性物のバッグは無視して、手を付けても問題なさそうところから探索を始めた。



550  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:16:03.15 ID:VQgPk04n0


だが、妙な既視感があることに徐々に徐々に気づいてことになった。


そもそも、窓の外の夜景――――――。確かあれは――――――。

そう思った時、“アヤカ”はカレンダーを探し始めた。いや、カレンダーじゃなくても現在の年月日が示されているものがあればそれでよかった。

そして、こういったホテル施設にはベッド付近に目覚ましタイマーが備え付けられているのが普通であることを思い出し、ベッドを見た。


雪村「え……」


“アヤカ”は目覚ましタイマーを見つけることができた。デジタル時計は確かに夕方を示していた。

しかし、その脇に表示されている年月日は――――――、


雪村「――――――『3年前』?」


そうなのだ。間違いなく目の錯覚でも何でもなくそう表示されていたのだ。

だが、こんなことはあり得るのだろうか?


――――――これが本当ならば過去にタイムスリップしたことに他ならないのだ!


しかしながら、“アヤカ”は妙にそのことに納得してしまっている自分がいることに驚きと落ち着きを持って認識することになった。

なぜなら、“アヤカ”としては思い当たる節があるのだ。――――――この世界の正体について。


551  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:16:59.42 ID:VQgPk04n0

そう――――――、


――――――仮想世界“パンドラの匣”


ここは仮想世界“パンドラの匣”の中の“彼”の記憶の断片――――――1つの時代なのではないかと思い至ったのだ。

そう考えるのならば、現在 感じているこの既視感や現実感の無さにも納得がいった。

だが、いつものそれとは全く違うことにすぐに気付かされた。

まず、仮想世界“パンドラの匣”は“アヤカ”の意識を眠らせている間に構築されているものであり、自分で自分の記憶の世界を見て回れないのだ。

また、いつも自分を守ってくれるあの仮面の守護騎士の気配もなかった。同時に、邪悪な者の気配も感じられなかった。

だとしたら、現在の自分が体験しているこの過去の世界は何なのだろうか?

可能性としては、ここは“彼”の世界ではなく、“彼”ではない他の誰かの記憶の世界という可能性も考えられた。

話の辻褄を合わせるとしたらそうとしか考えられなかった。

そう、“アヤカ”は改めて窓を見た――――――いや、窓ではなく窓に反射して見える自分の顔を見た。


そこに映っていたのは“アヤカ”自身の顔ではない、別の誰かの顔だったのだから…………。


部屋に備え付けの洗面所の鏡を見ても結果は同じだった。


552  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:17:37.92 ID:VQgPk04n0

そして――――――、

ガチャ

雪村「……!」

女性「あ、起きてたんだ。なら早く来て」

女性「準決勝も終わってついに決勝戦なんだから」

雪村「あ」

女性「ほらほら。すぐに顔を洗って」

女性「ん? どうしたのよ、××××?」

雪村「あ、あなたは…………」ドクンドクン

女性「どうしたのよ? まだ寝ボケてるの?」

女性「私はあなたの――――――」






553  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:18:18.34 ID:VQgPk04n0

――――――――――――

―――――――――

――――――

―――


チュンチュン、チュンチュン・・・


雪村「ハッ」

雪村「………………」

雪村「…………今日は200X年7月7日」ピッ

雪村「………………」

雪村「…………あの人は、いったい?」



554  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:19:06.34 ID:VQgPk04n0

――――――臨海学校、7月7日:2日目

――――――-08:00頃、朝食


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

雪村「…………」ムシャムシャ

箒「それで、今日の特別訓練でお前はどうなるのだ?」

雪村「飛べないから見学」

箒「そうか」

雪村「では、ごちそうさまでした」ゴトッ

箒「ああ」

スタスタスタ・・・

鷹月「あ、篠ノ之さん」

箒「あ、どうしたのだ、鷹月さん」

鷹月「織斑先生が話があるって」

箒「わかった。教えてくれてありがとう」ニコッ


555  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:20:11.85 ID:VQgPk04n0

雪村「さて、今日は見てるだけで暇になるだろうし、読書の続きでも――――――」スタスタスタ・・・

ドクン!

雪村「――――――っ!?」ガクン!


『どうしてお前は箒ちゃんの隣にいるわけ? お前は箒ちゃんには必要ないのに』


雪村「…………この感じ!」アセダラダラ

雪村「――――――『今から4時間後』?」

雪村「………………」ゴクリ

雪村「一夏さんはいない。ここでは誰も守ってはくれない」

雪村「………………」

雪村「………………あ」チラッ


――――――目に留まったのは、これからの校外特別実習のために配られた旅館周辺の拡大マップ。


雪村「………………」ジー

旅館の女将「おはようございます、“アヤカ”くん」ニッコリ

雪村「……おはようございます。ごちそうさまでした」

女将「はい。おそまつさまです」

女将「ところで、なんだか気難しそうなお顔をして地図を見てらしたようですけど、ちょっと大丈夫かしら? 汗も垂れて……」

雪村「すみません」

女将「はい」

雪村「釣り堀って確かありましたよね?」

女将「はい」

雪村「それってこの地図だとどの辺ですか?」

女将「はい。この辺です」

女将「もしかして、釣り堀で釣りをお楽しみになりたかったのですか?」

雪村「はい。ぜひとも――――――」クラッ

女将「あ! 大丈夫!?」

雪村「………………あれ?」ダラーン

女将「“アヤカ”くん!?」

雪村「な、なんだろう…………力が抜けて?」

女将「今日の実習はお休みになったほうがいいわ! 私から織斑先生に言っておきますから、――――――部屋まで歩ける?」

雪村「わかりません」

女将「誰か!」



「………………………………フフッ」



556  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:21:08.54 ID:VQgPk04n0

――――――09:00頃、校外特別実習


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

本音「あれ~? “アヤヤ”はどこ~?」キョロキョロ

相川「あ、ホントだ。確か『今日は見学』って言ってたよね?」

谷本「間違えて、専用機持ちの方に行ったとか? いや、もしかしたらこの人混みの中に紛れ込んでいるのかな?」

鷹月「あ、山田先生? “アヤカ”くんはどうしたんですか?」

山田「ああ……、それが“アヤカ”くんはつい先程 調子を崩してしまったようでして、部屋で安静にさせています」

相川「ええ!?」

本音「だ、大丈夫かな~、“アヤヤ”?」

谷本「まあ、無理させて何かあったら大変だし、見学だったんだし、これでよかったんだよ、きっと」

相川「うん。そうだよね……」

本音「お見舞いにいこ~」

鷹月「あと、篠ノ之さんが専用機持ちのほうにいるのはどうして何ですか?」

谷本「そう言えば!」

山田「わかりません。織斑先生の判断ですから」

鷹月「そうなんですか」


鈴「どうして、箒がこっちにいるのよ?」

箒「さあ? 今日の朝、織斑先生からこっちに混ざるように言われただけで……」

セシリア「もしかしたら、箒さんの実力がそれだけ高く評価されていることの表れなのでしょうか?」

箒「そうか?」

ラウラ「しかし、学園の訓練機をこれだけ運び込んで一斉に飛び立つのか。国家レベルの合同軍事演習と見紛うほどの規模だな」

簪「時間がほとんどないからね。それに9月の『キャノンボール・ファスト』に向けた訓練とも言えるものらしいし」

シャルロット「基本的にはこの辺一帯の屋外を自由に飛び回るんだよね?」

簪「うん。スコアオリエンテーリングに近くて、四方の山や海にポイントがあってそれを取得して制限時間内に帰ってくるって内容」

簪「そして、先生たちは生徒が遭難しないように各所に配置されているわけ」

ラウラ「なるほどな。これは楽しめそうだな」

鈴「けど、専用機持ちとしてはパッケージのデータ取りと現地での量子化の訓練の意味合いがあるからそっちがメインよね」

箒「ますます、私がこっちに混ぜられている意味がわからない……」


557  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:22:38.29 ID:VQgPk04n0


千冬「みんな、静かに!」


一同「!」ビシッ

千冬「これより、ISの非限定空間における稼働試験として野外でのIS運用をやってもらう」

千冬「ルールは簡単だ。ここを中心にして東西南北に散らばった4つのポイントにISを接触させてそれを取得して帰ってくればいい」

千冬「ただし、ポイントは最低でもそれぞれのエリアに4つ以上は存在し、有効になっているポイントに逸早く接触しないと取得できない」

千冬「一人当たり15分でやってもらう」

千冬「なに、ISの機動力やハイパーセンサー、それと基本操作を活かせば5分以上は余るコース設計だ」

千冬「次いでに、この稼働試験はレクリエーション競技としての側面もある」

千冬「ポイントを取得するごとに1得点。つまり4点満点だが、時間切れになった場合は2点減点だ」

千冬「時間切れになりそうになったら、スタート地点であり ゴール地点であるここに戻って試験を終了してもらってもかまわない。減点はない」

千冬「だが、こういった得点設定がどういった意味を持つのかは理解できるな、小娘共?」ジロッ

一同「…………!」

千冬「そして、エネルギー切れ、あるいはコースアウトした場合は、4点減点だ。――――――問題外だ」

千冬「得点が2点未満の連中には補習を、0点の連中には特別指導をしてやるから覚悟しろよ?」ギロッ

一同「…………!」ゴクリ

千冬「専用機持ちにはそれぞれの課題が各国から与えられている。それをこなすことが今日の試験だ」

千冬「試験が終わった生徒や順番待ちの生徒は各々の判断で旅館に戻って休んでよし。昼食もいつ食べるかは自分で決めろ」

千冬「ただし、遅刻した場合は試験資格を剥奪する。これは一切の例外を認めない」

千冬「また、他の生徒や旅館の迷惑になるような行為や試験中の妨害行為も認めない。発覚次第 厳罰に処す」

千冬「説明はだいたいこんなところだろう。今朝方 発表された番号順に各自ISを装着して開始するように」

千冬「では、始め!」

一同「はい!」



558  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:23:35.81 ID:VQgPk04n0


バタバタバタ・・・・・・


箒「………………」

千冬「では、専用機持ちは海岸に移動して、そこに送り届けられるパッケージと指令書を受け取ってそれぞれの課題をこなすように」

専用機持ち「はい!」

箒「あ、あの……!」

千冬「篠ノ之、お前は特別課題だ」

箒「え」

箒「それは、どういう…………」

千冬「では、大会本部。専用機持ちの面倒は3人で見ておきますので」

教員「はい。お願いします」

山田「それでは、専用機持ちのみなさんは私についてきてくださいね~」

千鶴「パッケージの扱いなら第2世代ドライバーの私の専門ね」

千鶴「ほらほら、行くよ」

箒「は、はい…………」

千冬「…………さて、どう出てくる?」


――――――篠ノ之 束!


559  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:24:20.79 ID:VQgPk04n0

――――――09:30頃、


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

相川「……終わった終わった」フゥ

本音「おつかれ~」

谷本「どんな感じだった?」

相川「うん。確かに15分も掛からずにあっちこっちいけるんだけど、ポイントの設置場所が結構イジワルだったよ……」

相川「確か、西の方面だと森の中に広く散っていて木々の間を分け入っていかないといけないし、」

相川「北は祠っていうか4つある何かに入っている有効なポイントを逸早く取得しないといけない」

谷本「――――――『祠』? それって百葉箱のことじゃない?」

相川「あ、それそれ!」

相川「で、東はロッジの屋根にポイントが設置されてた」

相川「南の海の方のポイントはブイについていて、これが一番大変だったかな?」

谷本「なるほどなるほど」

谷本「でも、これって最初の人ほど不利なものじゃない? こうやって後の人はポイントの大まかな場所がわかっちゃうわけだし」

相川「そうでもないよ。先生がポイント付近を必ずいるからそれを目印にしていたかな」

谷本「そっか」

相川「それに、ポイントの切り替わりが早かったからあっちこっちを右往左往させられてそれで時間ギリギリまで掛かったんだよね……」

谷本「なるほど、『ポイントの切り替わりが一番の脅威』で、『ポイントの近くには必ず先生がいる』っと」

谷本「それでも、4点満点でゴールできたんだから、凄いじゃない」

本音「うんうん」

相川「それじゃ、私は一足お先にシャワーを浴びてくるね」

谷本「私は基本操作の確認をしてこようかな?」

本音「“アヤヤ”のお見舞い!」

相川「うん。そうだね」

谷本「行こう行こう!」


スタスタスタ・・・・・・


560  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:25:13.87 ID:VQgPk04n0

―――――― 一方、その頃、

――――――釣り堀


雪村「こんにちは」

父親「おや、男の子かい? 珍しいな」

父親「確か昨日今日明日とあのIS学園の花も恥じらう乙女たちが臨海学校で泊まっているのは知ってたけど、私たちの他にも家族連れがいたのか」

子供「ぱぁぱ……」

父親「ああ、大丈夫。父さんと一緒に釣ろうね」ニッコリ

雪村「………………」

雪村「どんな感じですか?」

父親「うん? まあ、釣りなんてあまりしたことないからそんなには釣れてないかな」

父親「でも、こうしてたまに家族と一緒にのんびりとしていられる今のこの時を楽しんでいるからそれでいいんだ」

父親「それに、ここで釣った魚は基本的にはキャッチ&リリースで、捌いてもらう場合は別途料金がかかるからね」

雪村「そうですか」

雪村「………………」ジー

父親「………………」

ピクッ

子供「!」

子供「ぱぁぱ!」

父親「よし!」グイッ

雪村「…………がんばれ」

バシャーン!

子供「ぱぁぱ!」キラキラ

父親「よし!」グッ

雪村「………………」チラッ


――――――魚取り網


雪村「それじゃ、引き続き楽しんでいてください」

父親「ああ、ありがとう」

雪村「………………」バッ ――――――魚取り網を素知らぬ顔で持っていく

スタスタスタ・・・

父親「…………あの子、どこかで見たことがあるような気がするねぇ」

子供「ぱぁぱ!」ニコニコ

父親「我が子もそんなふうに誰かに憶えていてもらえるような子に育って欲しいものだよ」

父親「さあ、もう1回!」バッ

子供「ぱぁぱ!」ワクワク

ポチャ


561  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:26:09.11 ID:VQgPk04n0

――――――10:00頃、


セシリア「そちらの方はどうでして?」

鈴「まだね。野外で量子化格納させるだなんて手持ち無沙汰よね」

ラウラ「私のパッケージはすでに量子化が終わっている」

鈴「うそっ、速い!」

ラウラ「とは言っても、大した強化ではないのだがな。砲撃戦特化にレールカノンが追加されるだけだ」

シャル「僕のも追加装備のセットって域をでないかな」

簪「私のは『打鉄弐式』の第3世代兵器『山嵐』のアップデートだったし。でもこれで、私の機体も本当の意味で第3世代機になったよ」

ラウラ「ほう、それは楽しみだな。日本が誇るあの第3世代機が――――――」


専用機持ち「ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!」


箒「………………」

千冬「退屈か?」

箒「いえ、そんなことは…………」

千冬「今のうちによく見ておけ。いずれ必要になってくることだろうからな」

箒「え、ちょっと待ってください」

箒「私は専用機持ちではないですよ?」

箒「それとも、私が専用機持ちに選ばれたということなのですか?」

千冬「………………」


562  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:26:55.70 ID:VQgPk04n0

―――――― 一方、その頃、

――――――旅館:朱華雪村 様1名様の寝室


トントン! ザァー

本音「“アヤヤ”~?」

相川「こら! 寝てるかもしれないんだから声を小さく!」

谷本「返事がないね。本当に寝ているのかもね」


「………………………………………………」


本音「どうする~?」

相川「『どうする~?』って、あんた……」

谷本「とりあえず、そろそろ順番が来てるかもしれないから私は先 行くね」

本音「あ、私も私も~」

相川「それじゃ、お見舞いカードを置いてっと」

相川「元気になってね、“アヤカ”くん」ニッコリ

スゥー、ストン!


「………………………………………………」



563  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:28:23.57 ID:VQgPk04n0

――――――10:30頃、


鈴「ああ暇だな……」

セシリア「そうですわね」

千冬「ほう? 暇そうだし、少しばかり聞いてもらいたいことがあるが、どうだ?」

鈴「いっ……」ビクッ

セシリア「い、いえ、それほどでは…………」

千冬「ボーデヴィッヒ、デュノア、更識」

ラウラ「はい!」ビシッ
シャル「はい」
簪「はい」

千冬「パッケージの量子変換に調整は終わったか?」

シャル「すでに完了しています」

ラウラ「しかし、どうして待機命令を……?」

簪「………………」

箒「………………」

千冬「実は――――――」


「やああああああああああああほおおおおおおおおおおおおお!」


一同「!?」

千冬「………………!」

千鶴「来ましたか。『風待』は預けておくわね」

千冬「ああ」

箒「う……」サッ

束「ちぃいいいいいいいいいいいいいちゃああああああああああああん!」ヒューーーーーーーン!

千冬「ふん!」ガシッ

束「やあやあ会いたかったよ、ちぃちゃん! さあハグハグしよう、愛を確かめ合おう!」ギュゥウウウウウ!

千冬「うるさいぞ、束」

束「相変わらず容赦の無いアイアンクローだね」スッ

束「じゃじゃーん!」

束「やあ」

箒「どうも……」

564  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:29:03.44 ID:VQgPk04n0

束「いっひひーん」

束「久し振りだねー。こうして会うのは何年振りかなー? 大きくなったねー、箒ちゃーん!」ワキワキ

束「●●●●が――――――」

箒「!」イラッ!  

箒「ふん!」バキーン! ――――――ハリセンのごとく木刀で突き飛ばす!

束「わー」(棒読み)

箒「殴りますよ?」

束「殴ってから言ったー! 箒ちゃん、ひどーい!」ウルウル

束「ねえ、ちぃちゃん、ひどいよねー?」


千冬「…………お前は自分の妹や家族にした仕打ちを何とも思わないのか?」ジロッ


束「おー、ちぃちゃん、こわいこわいー」

千冬「ボーデヴィッヒ、こいつを拘束しろ」

ラウラ「え」

シャル「お、織斑先生……?」

千冬「………………ハア」

束「残念でしたー、ブイブイ!」

千鶴「ままならないものね(――――――機を逃したか。あらかじめラウラには伝えておくべきだったわね)」

565  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:29:57.56 ID:VQgPk04n0

セシリア「あ、あの……、もしかしてこのお方は――――――」

鈴「そういえば、どこかで見たことがあるような――――――」

簪「まさか、この人って――――――」


束「私が天才の束さんだよ、ハロ~」


束「終わり~」

鈴「“束”って――――――」

シャル「“ISの開発者”にして天才科学者の!?」

ラウラ「…………篠ノ之 束」

簪「えと、みんな……?」

千鶴「ちょっとちょっと、みんな? 代表候補生でしょう?」

千鶴「――――――顔ぐらいは見たことあるでしょう? IS関係の仕事してるんだから」

鈴「え、いや……、確かに『頭がその……、とんでもない』とは聞いてはいたけれどもさ?」

シャル「さ、さすがにこういう人だったとは思ってなくって…………」

ラウラ「『馬鹿と天才は紙一重』とかいうやつか、これは…………しかし」

566  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:31:28.22 ID:VQgPk04n0

セシリア「篠ノ之博士。私はイギリス代表候補生のセシリア・オルコットです――――――」

束「ぬっふふーん」キラリーン!

束「さあ! 大空をご覧あれ!」ビシッ

一同「!?」

簪「織斑先生! 上空から何か――――――」

千冬「…………わかっている。――――――IS反応」

千鶴「まあ、“ISの開発者”が妹に贈るものなんて、だいたい予想はできるものなんだけどね」

箒「ね、姉さん……?」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン! ドーーーーーーーン!


一同「…………!」

千冬「浮遊コンテナ……(――――――PICの応用技術か)」

束「じゃじゃーん!」

束「これぞ、箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る、束さんお手製だよー」
  
束「なんたって『紅椿』は、天才:束さんが造った第4世代型ISなんだよー」

一同「!?」

千鶴「…………あり得なくもないか(――――――あの『無人機』のことを考えれば)」

ラウラ「『第4世代』…………!?」

セシリア「各国で、やっと第3世代型の試験機ができた段階ですわよ……」

シャル「なのに、もう…………」

束「そこがほれー、――――――『天才:束さん』だから」

567  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:32:00.50 ID:VQgPk04n0

束「さあ、箒ちゃん。今からフィッティングとパーソナライズを始めようか」

箒「え」

千冬「………………」

箒「もしかして、――――――織斑先生?」

千冬「…………さあ、篠ノ之」


――――――選んでくれ。


箒「え」

専用機持ち「?」

束「ん?」

千冬「私はこうするまでが最善だと考えて行動したが、ここから先はお前次第だ」


――――――お前が専用機持ちになって“アヤカ”と同じものを背負う立場になるか否かを。


箒「!」

ラウラ「………………」

鈴「そういえば、今日は体調を崩して寝込んでたわね……」

セシリア「そうですわね……」

シャル「“アヤカ”…………」

簪「………………」

束「…………あの“純粋種”ねぇ」ボソッ

568  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:34:34.37 ID:VQgPk04n0

千鶴「篠ノ之博士? 約束通り、ISコアをこちらに渡してください」

束「はいはい。名前がちぃちゃんに似ているニセモノさん」ヤレヤレ ――――――「アタッシュケース」を渡した!

鈴「うえっ!?」

セシリア「まさか、467個以降のナンバー――――――?」

千鶴「………………12個だけ」パカッ

千鶴「ISを発表してから失踪するまでの7年間で467個のコアを提供してくれたんだから、」

千鶴「もう200個ぐらい、今日までの3年間で造ってあるんじゃないの?」

束「ちちちち」

束「いくら天才:束さんでも『コアを造るために生くるにあらず』なんだよーだ」

束「この『紅椿』を造るのにだって、それなりの歳月と手間暇が掛かってるんだからねー」

千鶴「…………しかたありませんね」

千鶴「その『紅椿』を含めて13個の新規コアを得られただけでも収穫ですからね」

千冬「束、お前の用事はこれで終わりだな。とっとと帰れ」

束「えー!? せっかくまた会えたのに冷た~い!」

千冬「たった1ヶ月前の混乱の中で会っただろう」

セシリア「え」

鈴「――――――『1ヶ月前の混乱』?」

シャル「確か、1ヶ月前にあったことって――――――」

ラウラ「――――――学年別トーナメント」

箒「え?!」ゾクッ

箒「ね、姉さん!? 千冬さん!?」

束「ええ? 今なら天才:束さんによる全面バックアップの「最適化」してあげるサービス付きだよ~?」

千冬「そんなもの要らん。専用機持ちなら自分の手でISと理解を深めていくものだ」

束「そんなこと言って、ちぃちゃんだって私の手を借りなかったらろくにISを動かせなかったくせに」

束「さあ、箒ちゃん! ハッピーバースデーだよ! この束さん特製の最強IS『紅椿』を受け取って!」

千冬「…………私からは命令することはできない」

千冬「が、――――――熟慮しろ。お前はどう考えている?」

箒「え……」

千鶴「(今回の件に関しては、ISコアや最新技術を絞れるだけ絞りとってくるように、)」

千鶴「(千冬の手で再編された学園上層部からの命令されているから表立って受取拒否はできない)」

千鶴「(けれど、千冬も行き当たりばったりなところが大きいよね)」

千鶴「(事前に伝えておけばうまくいっただろうに、『子供を守るのが大人の務め』だなんて言って、)」

千鶴「(台風の目にいる要注意人物を無視して独力で解決しようと力んでいたんだから……)」

千鶴「(遅かれ早かれ、篠ノ之 束からは逃げられないこの少女のために、)」

千鶴「(もっと早くにしてやれることはあったでしょうに…………)」

箒「ああ………………」ドクンドクン

569  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:36:16.56 ID:VQgPk04n0

箒「(どうして、要らないと思えるようになったものが今更になって与えられるのか…………)」

箒「(ようやく諦めがついて、これからの生き方についてもある程度まとまってきたというのに…………)」

箒「(私は2年生になった時に整備科に転入して、雪村とチームを組む気でいたというのに…………!)」

箒「(確かに専用機持ちとしては潜在能力は高いけど弱い雪村を守るために力を欲した……)」

箒「(けれども、安易に専用機持ちになることの浅はかさをこれまでの交流の中で理解してきたんだ)」

箒「(この前の『更識 簪 誘拐事件』のように専用機持ちを狙った犯罪で起こったんだ)」

箒「(私にそれが耐えられるのか?)」

箒「(それに、私は一夏と新しい結婚の約束を結んだ)」

箒「(それは『私が社会人として独り立ちしてから』という条件ではあったが、)」

箒「(私が大人になるまでおよそ10年なのだから、ISに対する世界情勢だって変わってるはずなんだ)」

箒「(きっとその頃には、“ISの開発者”である篠ノ之 束の家族に対する追及の手も緩むはずだし、)」

箒「(何よりも私は、このIS学園で“篠ノ之 箒”として普通の高校生として学園生活を送ることを決めていたんだ)」

箒「(そう、――――――『普通の生活』『人間として当たり前の日常』を私は望んでいたんだ)」

箒「(それは“朱華雪村”と呼ばれた“世界で唯一ISを扱える男性”――――――)」

箒「(“世界一不幸な男性”との出会いの中でより一層強く望むようになったことなんだ)」


――――――私は別に専用機持ちじゃなくったっていい!


箒「(下手に専用機持ちになって悪目立ちするのは私の性分にも合わないし、)」

箒「(一夏との結婚のことを考えたって、静かで誰にも邪魔されない穏やかな日々が続けばいいと思っている!)」

箒「(そうだとも! 一度決めたことを曲げて何が武士か! 『武士に二言はない』だ!)」

箒「(今の私は“篠ノ之 箒”だ! もう流されて生きていくことだけはごめんだ!)」

570  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:38:09.63 ID:VQgPk04n0

箒「…………よし」コホン

束「さあさあ!」ニコニコ

千冬「………………篠ノ之」アセタラー

箒「姉さん、私は――――――」


山田「大変です!」タッタッタッタッタ


一同「!」

山田「織斑先生ー!」ハアハア・・・

山田「これを!」スッ

千冬「…………特命任務レベル:A」

千冬「――――――『現時刻より対策を始められたし』」

千鶴「――――――『特命任務レベル:A』ですって?(――――――“最重要機密事項”の処理!)」

山田「それと……」ゴニョゴニョ

千冬「?」

千冬「…………!」

千冬「なんだと!?」ガタッ

千鶴「どうしたの、千冬?!」

千冬「…………この作戦、お前にまかせる」スッ

千鶴「…………!」

千鶴「これって――――――」アセタラー

千冬「そうだ。使えるものは使わなければいけないわけだが――――――、」ヒソヒソ


――――――“アヤカ”が脱走した。


千鶴「!」

千冬「……仮病を装っていたようだな」ヒソヒソ

千冬「時間がないぞ。班分けを急いでくれ」ヒソヒソ

千鶴「専用機持ちはみんな対策班に回して! 捜索班は余った先生方で――――――ダメ! これは先生方に海上封鎖をさせる必要があるわ」ヒソヒソ


千鶴「相手が水爆装備だなんて表沙汰にしたら国際社会が崩壊するわ!」ヒソヒソ


千鶴「いえ、IS学園そのものが国際社会の縮図なのだから、左派と右派の過激派に知られたらとんでもないことに――――――!」ヒソヒソ

千鶴「そもそも、この事案が学園上層部からの指令ならば、今頃は――――――!」アセダラダラ

千冬「…………一夏」アセタラー

571  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:38:44.86 ID:VQgPk04n0

箒「お、織斑先生?」

千冬「テスト稼働は中止だ」

千冬「お前たちにやってもらいたいことがある」

専用機持ち「?」

千冬「山田先生! ――――――特命コード発令! 校外特別実習の一切を中止! その他は全員 旅館で待機!」

山田「わかりました!」

タッタッタッタッタ・・・

千冬「…………一夏、“アヤカ”!」ギリッ

束「ふふーん」ニヤリ

束「ねえねえ、ちぃちゃん ちぃちゃん!」

束「私の箒ちゃんへの誕生日プレゼントはどうすればいいのかな?」

千冬「それは…………」

千冬「くっ」


――――――許せ、篠ノ之 箒。


572  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:39:21.21 ID:VQgPk04n0

――――――渓流にて


ザーーーーーーーーーーーーー

バチャバチャ、バシャーン! ピクピク!

雪村「…………っと!」 ――――――「魚取り網」を使った!

雪村「これがイワナってやつか。木彫でよく見るやつだよな」

雪村「確か、こいつはヘビすら飲み込むんだってな」

雪村「それじゃ、――――――『さようなら』だ」スッ

パクッ

雪村「よし。行け」バシャ ――――――「イワナ」をにがした!

雪村「………………」

雪村「これで何とかなる。そう信じよう」 ――――――何もない右腕を見る。

雪村「そう、『さようなら』だ」


――――――雪村!


雪村「…………今まで、ありがとう」

雪村「みんな、無事で」

雪村「生きていたら――――――」


タッタッタッタッタ・・・・・・・・・・・・


573  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:40:12.80 ID:VQgPk04n0

――――――11:00頃、

――――――旅館


谷本「急に実習が中止になるだなんてね……」

鷹月「ちょうど私が挑戦している時だったからびっくりだよ」

鷹月「…………空から降ってきたあの物体は何だったんだろう?」

相川「けどけど! そんなことよりもだよ!」


本音「“アヤヤ”~、どこへ行っちゃったの~? 帰ってきて~」グスン


鷹月「女将さん……、青褪めてたね」

相川「どうして突然“アヤカ”くんは………………私たちに何か不満があったのかな?」グスン

谷本「…………わからない」

谷本「けど、先生たちも捜索に出たことだし、吉報を待つことにしよう――――――、『吉報が来る』って信じていよう」

相川「う、うん…………」グスン

鷹月「専用機持ちのみんなも帰ってきてないのよね?」

谷本「そうだね。篠ノ之さんもまだ一緒ってことか…………」

谷本「いったいどうして――――――、何があったっていうのかしら?」


574  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:40:57.34 ID:VQgPk04n0

――――――対策本部


千冬「2時間前、試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発にあった第3世代のIS『銀の福音』が制御下を離れて暴走――――――」

千冬「監視空域より離脱したとの報があった」

千冬「情報によれば、――――――無人のISということだ」

千冬「その後、衛星による追跡の結果、『銀の福音』はここから2キロ先の空域を通過することがわかった」

千冬「時間にして50分後――――――」

千冬「学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」

小娘共「…………」

千冬「教員は学園の訓練機を使用して、空域および海域の封鎖を行う」
                    
千冬「よって、本作戦の要は――――――、」


――――――専用機持ちとこの私が担当する。


箒「!」

ラウラ「織斑教官自ら――――――!」パァ

鈴「なんだか知らないけれど、千冬さんが出るんだったら楽勝よね」

シャル「そうだね」

セシリア「――――――4月のクラス対抗戦 以来ですわね」

簪「…………よかった」ホッ

575  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:42:32.75 ID:VQgPk04n0

千冬「それでは作戦会議を始める。私が出る以上は一条先生に今回の作戦の指揮を執ってもらう」

千鶴「では、意見があるものは挙手するようにお願いします」

セシリア「はい! 目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

千冬「ふむ」

千冬「だが、決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視が付けられる」

千鶴「今回ばかりは法外な要求でもやらなくちゃいけないの」

小娘共「」コクリ

セシリア「了解しました」ピピピピッ

箒「………………」

セシリア「広域殲滅を目的とした特殊射撃型――――――私のISと同じオールレンジ攻撃を行えるようですわね」

鈴「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。――――――厄介だわ」

シャル「この特殊武装ってやつがクセモノって感じはするね。連続しての防御は難しい気がするよ」

ラウラ「……このデータでは格闘性能が未知数だ」

ラウラ「偵察は行えないのですか?」

千冬「それは無理だな。この機体は現在でも超音速飛行を続けている」

千冬「アプローチは1回が限界だ」

山田「1回きりのチャンス――――――ということは、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

セシリア「――――――『たった一度きりのチャンスで一撃で仕留めろ』ですか?」

簪「いくらISでもそれは無茶な――――――」

箒「いや、雪村がいたらきっと…………」

鈴「え?」

箒「あ」

箒「なんでもない……(寝込んでいる雪村が戦力には数えられないのが何とももどかしい)」


――――――単一仕様能力『落日墜墓』


箒「(雪村の『落日墜墓』さえ決まればどんなISだろうとPICが無効化されて墜落するのだから無力化されたに等しいのに…………)」

ラウラ「くっ」

ラウラ「(そう、雪村の『落日墜墓』はおそらく射程は思った以上に長いはずだ)」

ラウラ「(その場合は、私の『停止結界』よりも今回の作戦においては遥かに威力を発揮してくれるはずなんだが…………)」

ラウラ「(無理強いするしかないのか? だが、おそらくはイメージ・インターフェイス同様に思考力に左右される単一仕様能力に違いないから、)」

ラウラ「(調子が悪くて思考が定まらないのであれば、『落日墜墓』も以前に見せてくれたあの破壊力は発揮できないやもしれんな……)」

576  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:44:13.33 ID:VQgPk04n0

ラウラ「ん?」

ラウラ「ちょっと待ってくれませんか、教官」

千冬「……どうした?(さすがに気づいたか、ラウラ)」

ラウラ「衛星画像に写っている今回の撃破目標の背中にあるウェポンコンテナは何ですか?」

山田「…………!」アセタラー

シャル「え」

簪「あ、ホントだ」

鈴「うん? 何かのオプション装備?」

ラウラ「教官。今回 暴走したという『銀の福音』は何の試験運用がなされていたのですか?(どこで見たことがあるぞ、あのコンテナ……)」

箒「………………」

千冬「いや、そのようなデータは添付されていなかった」

ラウラ「本当なのですか、それは?」

千冬「……ああ」


千鶴「話が逸れてる。次の段階に進ませてもらうわ」パンパン


ラウラ「え」

千鶴「あれが何であろうと実際に処理をするのは千冬なんだから、世界最強の“ブリュンヒルデ”を信じてなさい」

ラウラ「……わかりました」

千冬「……助かった」ヒソヒソ

千鶴「……証拠隠滅に起爆なんてさせないようにね」ヒソヒソ

千鶴「それで、話は確か『アプローチは1回きり』ってところで逸れたのよね?」


千鶴「一撃必殺に関しては問題ないわ」


シャル「え」

ラウラ「ハッ」

ラウラ「まさか……、『織斑教官が出る』ということは――――――」

577  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:45:25.13 ID:VQgPk04n0

千鶴「詳しい説明はこの際 無しよ」

千鶴「けれど、第1回『モンド・グロッソ』IS世界大会の総合部門優勝者“ブリュンヒルデ”織斑千冬とその専用機『暮桜』の単一仕様能力はわかるかしら?」

鈴「あ」


簪「――――――『零落白夜』ですね」


セシリア「…………あの光の剣」

千冬「そうだ。私の今の専用機『風待』にはその『零落白夜』を単一仕様能力として再現してある」

山田「単一仕様能力『零落白夜』とは、自らのシールドエネルギーをアンチシールドエネルギーに変換するバリアー無効化攻撃のことです」

山田「難点は、説明したとおりに発動には自らのシールドエネルギーを消費しないといけませんので長時間の使用ができないこと――――――、」

千鶴「それと、発動媒体が接近ブレード『雪片壱型』だから直接 相手のISに中てないと意味がない」

千鶴「今回の場合だと、超音速飛行している相手に直接 光の剣を中てなくちゃいけないからそこが問題よ」

千鶴「けれど、中てることさえできれば、どんなISのどんな防御機構であろうと絶対防御すら貫通して破壊できる」

小娘共「!?」

千鶴「――――――特徴は以上よ」

千鶴「よって、今回の作戦の概要とは――――――、」


超音速飛行している撃破目標に対してエネルギーと引き換えにして発動するバリアー無効化攻撃を直撃させて無力化すること。


578  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:47:24.89 ID:VQgPk04n0

千鶴「しかし、ここで世界最強の“ブリュンヒルデ”一人では任務遂行不可能な大きな問題が浮かび上がるのよね」

シャル「――――――どうやってそこまで織斑先生を運ぶか」

シャル「エネルギーは全部 攻撃に使わないと難しいと思います」

千鶴「そういうこと」

ラウラ「目標に追いつける速度のISでなければならないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

千鶴「こんな時のためにちゃんと超高感度ハイパーセンサーは『風待』に容れてあるし、パッケージも高速戦闘用にしてある」

千鶴「万全の備え――――――には程遠かったけれど、こういった非常事態に対応するだけの汎用装備は搭載済みよ」

千鶴「ただ問題なのは――――――」

千冬「具体案が思いつかなければ、――――――たった2キロ先だ。今、ボートを手配してもらっているからそれで近づくことも考えている」

箒「私は……………(成り行きで私もここにいるが、私にできることなんて何もないじゃないか)」

箒「(いや、無くはないのか? 可能性としては――――――、)」


束『これぞ、箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る、束さんお手製だよー』


箒「(――――――何を考えているんだ、私は!)」

579  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:48:14.40 ID:VQgPk04n0

セシリア「織斑先生! ここは私の『ブルー・ティアーズ』の『ストライク・ガンナー』で――――――」バッ

簪「私も! 私の『打鉄弐式』は元々 高速戦闘を目的としていますから――――――」バッ

束「まったまった!」

一同「!」


束「その作戦は、ちょっと待ったなんだよー」ヒョコ


千鶴「また出たわね……(――――――天井裏から)」

束「とーーーー!」ピョイーン、シュタ

束「ちぃちゃん、ちぃちゃん!」

束「もっと凄い作戦が、私の頭の中にナウプリンティング~」

千冬「……出て行け」

束「聞いて聞いて!」ユサユサ

束「ここは断然、『紅椿』の出番なんだよ!」

千冬「なにっ!?」

一同「!」

箒「…………!」

千鶴「そう、この作戦における最大の問題とは――――――、」


――――――撃破目標がどういう目的ではるばるハワイからわざわざ私たちの近くを通りすぎようとしているのか。


千鶴「(アメリカ軍が何を想定して運用試験をしていたかは想像がつくけれど、今は時間がないから追求は後にするとして、)」

千鶴「(そして、今日が7月7日であり、その日にこれまで進んで姿を見せようとはしなかった篠ノ之 束が姿を現し、)」

千鶴「(第4世代型ISを実の妹の誕生日プレゼントと称して贈ってきた直後に――――――!)」

千鶴「(…………何か作為的なものを感じざるを得ないではないか!)」ジロッ

束「うふふふ、あははははは」ニコニコ

箒「…………まさか私がやるのか?」アセダラダラ


580  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:50:17.73 ID:VQgPk04n0

――――――11:30 作戦開始!


箒「………………来てしまったか」(『紅椿』専用ISスーツ)

千冬「…………緊張しなくていい」(織斑千冬専用ISスーツ)

千冬「お前はただ私を運んでいけばいいのだからな」

千冬「超音速飛行も本番とは行かなかったが、スピードの感覚にも慣れたはずだ」

箒「は、はい……」

千冬「安心しろ。暴走した『銀の福音』は必ずこちらに喰らいつくはずだ」

千冬「そうなれば、巡航速度こそ超音速かもしれないが、戦闘速度までも最高速を維持できる道理はない」

千冬「接近戦に持ち込むことができれば、私の『零落白夜』でやつを仕留められる」

千冬「先行させたお前の先輩方の援護もある。少しばかり囮としてこちらの注意を逸らしてくれるだろう」

千冬「その一瞬を突くぞ!」

箒「はい(――――――結局は、こうなるのか)」


――――――“白に並び立つ者”。


箒「それが第4世代型IS『紅椿』」

箒「これが、私の専用機となるのか……」


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――


581  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:52:01.69 ID:VQgPk04n0

千冬「よし、総攻撃だ」

千鶴「え」

山田「へ」

束「わーお! ちぃちゃんったら大胆!」

千冬「海上封鎖に飛ばしている口が堅い使える教員も海上封鎖を放棄させて攻撃に参加させろ」

山田「待ってください! 『ラファール』の性能では『銀の福音』に蹴散らされてしまいますよ! 武装も不十分ですし」

千冬「囮に使え。そもそも『銀の福音』が予測コースから転進を始めたらどうしようもなくなるのだからな」

山田「うっ」

千鶴「まあ、残り50分未満でここから2キロ先の空域を通過することがわかっている相手を待ち伏せするなんてわけないわね」

千鶴「高高度の相手を狙うのなら、幸い『シュヴァルツェア・レーゲン』と『ブルー・ティアーズ』という優秀な機体が揃ってるからね」

千冬「ボートは確保できたな。それでオルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、更識には先に出てもらう」

千冬「その間に、私は篠ノ之の『紅椿』に少しでも鍛錬をつけさせる」

千鶴「またまたそんな無茶苦茶なことを…………」

千鶴「やるならエネルギー補給の手間暇もちゃんと頭に入れてからにしてね」

千鶴「それで?」


――――――答えも聞いてないのに無理やり乗せるわけ?


千冬「…………緊急事態なんだ」

千鶴「事の重大さはよくわかってますよ」

千鶴「けれど、あの子は専用機持ちになることには消極的だし、自分とほとんど同じ境遇の“アヤカ”への迫害を鑑みて悪目立ちしたくないはずよ」

千冬「今回だけだ」

千鶴「そう」

千鶴「なら、さっさと動いて。今回の作戦の要である千冬がやらないことには何も始まらないんだから」

千冬「わかってる」

千冬「行くぞ、束」

束「は~い」


タッタッタッタッタ・・・


582  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:52:41.80 ID:VQgPk04n0

千鶴「山田先生、“アヤカ”の捜索はどうなってますか?」

山田「それが……、まだ見つからないんです」

千鶴「なぜ今になって脱走したのかはわからないけど、本気で逃げ出したのならステルスモードを使うことぐらい想定内よ!」

千鶴「ISが持てる機能の全てを使って隈なく探して! 音響でもいいし、動体反応でも熱源反応でも!」

千鶴「何を手間取ってるのよ! 少なくとも9時頃に脱走したはずなんだからせいぜい2,3時間! 行ける範囲も当然 限られてくる!」カタカタカタ・・・

千鶴「もっと頭を使って!」カタカタカタ、カタッ!

千鶴「ほら! この周辺の地形と一般男性の平均的な行動範囲を照合した地図よ! こうやって探しなさい!」ピピッ

千鶴「こんなの生徒たちにやらせた校外特別実習の応用じゃない! 先生なら先生らしく、この程度の探しもの さっさと終わらせなさい!」

千鶴「…………ハア」

山田「さすがは一条先生ですね」

千鶴「山田先生? ISがアラスカ条約で軍事利用が明確に禁止されていることに馬鹿正直に固執して、ISバトル専用の玩具として扱うのはどうかと思うわよ」

山田「そんなつもりは…………」

千鶴「ISは元々 宇宙開発用として造られた画期的な発明だった……」

千鶴「それをこんなくだらない軍事利用なんかして、自分たちのフロンティアを閉ざしているだなんて…………」


――――――何もかも『白騎士事件』のせいよね、これも。


583  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:54:06.76 ID:VQgPk04n0

千冬「さて」

束「やっほー」

セシリア「織斑先生。それに篠ノ之博士……」

ラウラ「最終的な作戦内容がお決まりになったのですね」

千冬「オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、更識」

セシリア「はい」ビシッ
シャル「はい」
ラウラ「はい」
簪「はい」

千冬「お前たちは先にボートで沖に出て待ち伏せろ。敵の注意を引け。たった2キロ先の空域だ」

千冬「基本的に得意距離から援護を適宜行ってくれていればいい。デュノアはパッケージ換装で得た防御機構でボートを守れ」

シャル「わかりました」

千冬「では、そういうことだ」

鈴「あ、ちょっと待ってくださいよ」

鈴「私は?」

千冬「お前は万が一の時のための予備兵力として、対策本部の警護に当たれ」

鈴「ええ…………」

千冬「時間がないんだ。教師の言うことには全て『はい』と答えろ!」

鈴「は、はい!」ビクッ

セシリア「あ、でも、そうなると織斑先生の機体を輸送するのは――――――」

584  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:54:35.97 ID:VQgPk04n0

千冬「篠ノ之」

箒「…………はい」

千冬「すまない。後生だ。今回だけでいい」

千冬「――――――『紅椿』に乗って私を戦場まで送り届けてくれ」

束「ええ……、ちぃちゃん、それひどくなーい?」

千冬「黙れ。正式には学園が『紅椿』を貰い受けるのであって、『篠ノ之 箒の専用機になるかどうかまでは保証できない』と言ったはずだ」

束「ふ~んだ! 箒ちゃんのデータはすでにある程度入れて標準化しているから箒ちゃん以外には絶対に合わないようにしてあるからいいもーん!」

千冬「この際、1回だけ乗ってそれっきりでもいい。それで機体とコアは有効活用させてもらう」

箒「…………『今回だけ』」

鈴「あんた、覚悟がないなら辞めときなさい。実戦も専用機持ちも遊びじゃないんだから」

箒「いえ、わかりました。やらせてください」

鈴「……ホントに大丈夫?」


――――――私は、望まない理由でIS乗りになり、専用機持ちにまでなり、数多の死線を潜り抜けてきた一人の少年のことを知っている。


箒「私は大丈夫だ(――――――それと比べたら)」グッ

束「わーいわーい! 箒ちゃんの晴れ舞台デビューだよ、イエイ イエーイ!」

千冬「……すまないな」

箒「気にしないでください」

箒「それよりも時間が押してるんでしょう? 急ぎましょう」

千冬「そうだな」

束「『紅椿』の調整は7分もあれば余裕だねー!」

千冬「よし! では、別れろ!」

一同「はい!」


585  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:55:34.04 ID:VQgPk04n0


バタバタバタ・・・・・・


千冬「では、篠ノ之」

箒「はい」

束「今度こそ、ハッピーバースデー、箒ちゃん!」ニコニコ

束「あ、それと、このISスーツに着替えてねー。これも束さんお手製のオリジナルISスーツなんだから」

箒「う、うん。あ、ありがとうございます……」

箒「(そうだ。まだ一夏からもらった誕生日プレゼントを開けてなかったな。忘れるところだったな)」

箒「(そう、私の誕生日である今日の夜にでも開けて、雪村やみんなに自慢するつもりだったが――――――)」

箒「(またまたとんでもない誕生日プレゼントをもらうことになったな、私は……)」

箒「(雪村は今、どうしてるんだろう? 雪村がこの場にいたら何て言うのだろう?)」



586  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:56:23.31 ID:VQgPk04n0

束「箒ちゃんのデータはほとんど先行して入れてあるから、後は最新データに更新するだけだね」ピピッピピッ

千冬「――――――そうか。ボーデヴィッヒたちは沖に出れたか。わかった」

束「はい、フィッティング終了! 超速いね、さすが私!」ピッ

鈴「え、もう終わったの……?」

束「それじゃ、試運転を兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよー」

千冬「次いでに、今回のお前の役割は兵員輸送だから肩を貸してもらうぞ」ガシッ(IS展開:第2世代型IS『風待』)

箒「あ、はい!」

束「ふふん! ちぃちゃん、身を以って『紅椿』の凄さを噛みしめるのだぁー!」

千冬「…………いくらお前でも『あれ』以上の機体を造れるものか」ボソッ

箒「え」

千冬「篠ノ之、準備はいいか? こっちはいいぞ」

箒「あ、はい。それでは飛んでみます」

箒「…………行くぞ、『紅椿』」ヒュウウウ・・・


ヒュウウウウウウウウウン!


鈴「何これ、速い!」

束「どうどう? 箒ちゃんの思った以上に動くでしょー」
――――――

箒「ええ、まあ……」

箒「これが、第4世代の加速――――――(この機体速度といい、反応速度といい、切れといい、――――――『打鉄』の比じゃない!)」

箒「凄い! 本当に空を自由自在に意のままに……!(これが姉さん仕込みの「最適化」の精度か。ランクCの私が代表操縦者になったかのようだ!)」

千冬「………………お前でもこの程度の機体しか造れないのか(――――――私からすればまだまだ地味過ぎるがな)」ボソッ

千冬「篠ノ之、巡航形態はわかるな?」

箒「はい。頭から突っ込むやつですよね」

千冬「そうだ。その形態でいろいろと動き回ってみろ。私はお前の背中から剣を振り下ろす練習を行う」

箒「わかりました!(――――――行け、『紅椿』!)」

587  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:57:17.72 ID:VQgPk04n0


ヒュウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウン!


束「うんうん。いい感じいい感じ!」

束「けど、それだけじゃないんだよねー」ニヤリ

束「それー、ポチッとな」ドドドドド! ――――――多連装ミサイルランチャー 量子展開!

鈴「へ?!」

鈴「危ない、二人共!」
――――――

千冬「!」ピィピィピィピィ

千冬「何のつもりだ、束!?」

箒「織斑先生!」ビクッ

――――――
束「箒ちゃん。――――――『空裂』と『雨月』、使ってみてよ」

束「これぐらいならなんてことないから」

束「さあさあ!」
――――――

箒「くっ、姉さん!(――――――『射撃性近接ブレード』? 確かにどうにかなりそうなイメージが湧いてくる)」

箒「ええい、ままなれよ!(――――――何が『射撃性』だかわからんが行っけえええ!)」ジャキ ――――――抜刀!

箒「はあああああああ!」ブン!

シュババババババ・・・!

千冬「こ、これは…………」

箒「おお…………!(こいつは凄い! 格闘機でありながら遠距離戦闘もこなせる万能機じゃないか!)」

千冬「篠ノ之、エネルギーの消費はどれくらいだった?」

箒「え、あ…………」

千冬「確かに性能はいいが、それ相応の出力である以上は封印確定だな」

千冬「だが、飛び道具の存在は無いよりはマシだ。むしろ、自衛する意味ではありがたい。ここぞという時にうまく使ってくれ」

箒「はい!(…………他にもいろいろ攻撃に使えるようだな。けど、こういうのって雪村が乗ったほうがずっと強いんじゃないのか?)」


―――

――――――

―――――――――

――――――――――――


588  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:58:07.18 ID:VQgPk04n0

――――――
千鶴「調子はどうかしら?」 ――――――プライベートチャネルによる秘密会話
――――――

千冬「問題ない。束が造っただけあってとんでもない性能の機体だったぞ、あれは」

千冬「――――――『兵器としてのISとしては』だがな」

千冬「では、予定通りに作戦を開始する」

――――――
千鶴「そう」

千鶴「それと一応、海上封鎖の効果はあったことを報告しておくわ」

千鶴「3番機が密漁船を拿捕したから、作戦終了まで監視に回しておくわ」

千鶴「手早く片付けてくれると助かるわね」
――――――

千冬「そうか。他に変わったことは?」

――――――
千鶴「特にはないけど、今回のはあっさり終わるような事件とは思えないわ」

千鶴「――――――10年前」

千鶴「10年前の『白騎士事件』にそっくりだと思わない?」
――――――

千冬「…………そうかもな」

――――――
千鶴「私は今回の暴走事件に作為的なものを感じずにはいられない」

千鶴「誰とは言わないけれども、この状況を計算尽くで作り上げられる唯一の存在を私は知っているから」

千鶴「気をつけて。――――――もちろん、水爆にも気をつけて」
――――――

千冬「わかっている」

千冬「では、始めるぞ、篠ノ之」

箒「はい」


千冬「力を貸せ、『風待』!」

箒「行くぞ、『紅椿』」


ブゥウウウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウン!


――――――
千鶴「そういえば、篠ノ之 束はどこへ行ったのかしら?」
――――――


589  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 09:59:02.12 ID:VQgPk04n0

――――――同じ頃、


ヒュウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウン! ――――――旅館近辺の一帯を飛び回る教員の『ラファール・リヴァイヴ』!

束「お、箒ちゃんとちぃちゃんが行った頃だね。うんうん」

束「さて、今の内に幻の珍獣でも探しに行きましょうか」

束「この天才:束さんに掛かれば、これだけのISが動員されてもまったく見つけられないステルスモードのISでも余裕 余裕!」

束「ほっほう? あちらの方角ですかな、ですかな?」ピコンピコン!

束「…………うん? 何かレーダー上で妙な動きをしている気がするけど何かな~?」

束「う~ん、この天才:束さんでもわからないこの動き――――――」

束「まあいいや! 百聞は一見に如かず――――――、ガンガン行こう~!」

束「お~!」


タッタッタッタッタ・・・












雪村「…………もう少しで4時間が経つか」ゼエゼエ

雪村「はたして、4時間が過ぎても僕が殺されずにいられるのだろうか?」

雪村「とにかく、今日 起こる災厄をやり過ごせば、後は狼煙を上げて終了だ」

雪村「それまで捜索に来ているISの空の目、捜索隊の地上の目、篠ノ之 束の悪魔の目の、3つの目――――――」

雪村「逃げ場なんてないのは百も承知。たった3,4時間の間をこの森の中でやり過ごせばいいだけのことなんだから」

雪村「しかし、――――――篠ノ之 束か」

雪村「僕のことを邪魔だって言うんだったら、IS適性の問題を何とかしてください…………普通の人間に戻してくださいよ」

雪村「どうして今まで僕のことを放っておいていたのに、今になって僕のことを――――――」

雪村「やっと居心地がいいと思える場所ができたのに…………、こんなのあんまりだ!」

雪村「………………ハア」

雪村「そろそろ行くか」ゼエゼエ

雪村「こんなんでもやっぱり生きていたいから。殺されたくはないから」ドクンドクン

雪村「…………失ってみて初めてわかる もののありがたさ」

雪村「何も無かった頃の僕と今の僕ってどっちが弱々しいんだろうな?」ゼエゼエ


スタスタスタ・・・タッタッタッタッタ・・・・・・



590  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:00:24.10 ID:VQgPk04n0

――――――作戦領域


箒「見えました、織斑先生!」

千冬「よし。もっと高度をとれ。高高度からの奇襲で一気に仕留める(あれが『銀の福音』…………アメリカ版『白騎士』のようだが、さてどうかな?)」

――――――
千鶴「真打ちが目標を確認!」

千鶴「海上の陽動部隊、攻撃開始!」

千鶴「無人機だから遠慮することはないわ!」
――――――

教員「まさか、こんなことが起きるだなんて…………」アセタラー

シャル「それじゃ、気をつけて! 船は僕が守るから」

セシリア「行きますよ、簪さん!」(ステルスモードで空中待機:解除)

簪「うん!」(ステルスモードで空中待機:解除)

ヒュウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウン!

セシリア「強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』――――――量子変換率は完全ではありませんけど、」

セシリア「『スターダスト・シューター』と超高感度ハイパーセンサーなら間に合っておりますわ!」バヒュン! バヒュン!

簪「『打鉄弐式』の第3世代兵器:8連装誘導ミサイルポッド『山嵐』……!」ピピッピピッピピッ

ラウラ「よし! 砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』の出番だ!」

ラウラ「てえええええええええええ!」バン! バン!

ラウラ「(あのウェポンコンテナの中身が気になるが、今は織斑教官がやり切ることを信じて――――――!)」


銀の福音「――――――!」ヒュン!

銀の福音「――――――!」シュババババババ!


ザバーンザバーン!


教員「き、来たぁ……!」ドクンドクン

シャル「この程度のエネルギー兵器なら――――――!」

シャル「今日 送られてきた、この防御パッケージ『ガーデン・カーテン』で余裕で!」

ラウラ「どうやらやつの大型スラスター――――――(あれ自体が多連装レーザー砲になっているようだが――――――、)」

ラウラ「てえええええええええええ!(――――――高高度からの面制圧用の拡散攻撃ではなぁ!)」バン! バン!

591  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:01:05.87 ID:VQgPk04n0

簪「もう少しで、『山嵐』の射程内――――――!」ピッピッピッ・・・

セシリア「あまり無理はしないでください、簪さん!」ピィピィピィ!

セシリア「――――――来ましたわ!」

銀の福音「――――――!」シュババババ!

簪「あの数なら、こう動いて、――――――こう!(――――――『不動岩山』展開!)」

銀の福音「――――――!」

簪「…………シールドパッケージ『不動岩山』!」

セシリア「広域防壁………………いつの間にあんなパッケージを?」

簪「一撃の威力が低ければ落ち着いて『山嵐』のデータ入力に専念できる!」ピピッピピッピピッ!

簪「データ入力完了! ――――――『山嵐』!」シュババババ!

銀の福音「――――――!!」ビュウウウウウン!

簪「……さすがに速い!(でも、『山嵐』のデータ入力している間の無防備を補うための『不動岩山』だったけど、いい感じ)」アセタラー

セシリア「いえ、そこですわ!」バヒューン!

銀の福音「!!!!」ドーン!

セシリア「一撃、入りましたわ!」

簪「これで――――――!」

ラウラ「――――――終わりだ!」

銀の福音「――――――!?」


ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!


千冬「はああああああああああああ!(――――――『零落白夜』!)」ジャキ
箒「いっけええええええええええええ!(これで決まれええええええ!)」


ズバーン!


――――――垂直降下! 『零落白夜』の光の剣が紅の弾丸と化した『紅椿』に乗って迸る雷光のごとき一閃となって『銀の福音』を斬り裂く!


592  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:01:41.04 ID:VQgPk04n0



作戦はあっけなく終わりを告げようとしていた。

史上最強の兵器:IS〈インフィニット・ストラトス〉といえども、同じIS相手に多勢に無勢ならあっさり討ち果たされるものである。

更に、超音速飛行を特徴とするアメリカの戦略級IS『銀の福音』は今回は背中に大型のウェポンコンテナを背負っていたので、

巡航形態においては超音速飛行による抜群の機動力を見せるのだが、いざ戦闘となれば本来存在しないウェポンコンテナの重量に引き摺られて、

多連装レーザー兼用ウィングスラスター『銀の鐘』によるイグニッションブーストに匹敵する瞬発力こそは目を見張るものの、

それでもどこか、超高感度ハイパーセンサーを搭載したISにははっきりと隙と見える緩慢な一瞬が浮き彫りとなっていた。

今回はまさしく、懸念事項であったウェポンコンテナが逆に勝利の鍵となっており、ウェポンコンテナだけの切除なんてみみっちいことは言わずに、

『銀の鐘』とウェポンコンテナを切り離すのではなく、本体と『銀の鐘』を切り離してウェポンコンテナごと翼を剥ぎとったのである!

さすがは“ブリュンヒルデ”織斑千冬といったところであり、超音速で垂直降下している最中に見事に切り分けたのである。

ここ一番の勝負所では無類の強さを誇るのが織斑千冬であり、それを実現させた集中力と勝負運の強さはまさしく神の領域に入っていた。

しかしながら、実はこの時点でもう一人――――――、その神の領域に等しい荒業をやらされていた少女がいたことはあまり注目されていない。

593  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:02:44.31 ID:VQgPk04n0

――――――
千鶴「…………!」

鈴「……やったの?」

山田「…………ええ、きっと」


千鶴「千冬……、思い切りが足りなかったようね(まあ、作戦はもう終わったようなもんだけど)」


鈴「え!?」

山田「あ!」
――――――


ヒューーーーン! ザッパーン!


教員「やった――――――え?」

シャル「あれって、『銀の福音』の翼とウェポンコンテナ……」

ラウラ「ということは――――――!」ギリッ


銀の福音「!!!?」 ――――――特徴的な大型ウィングスラスターが切断! 戦力の大半を消失!


千冬「…………仕留め損なったか(本当なら上半身と下半身が2つに分かれるはずだったのだが、なまったものだな)」

箒「だ、大丈夫なんですか?!」ドクンドクン

千冬「問題ない。『銀の福音』の装備はあのウィングスラスターだけだ」

千冬「それを失った後は、あんなのはただの七面鳥だ」

千冬「――――――本部、座標は特定できてるな?」

――――――
千鶴「ちゃんと記録してあるわ。すぐにでも専門業者にサルベージに向かわせるから、とっとと片付けて」
――――――

594  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:03:34.87 ID:VQgPk04n0

千冬「全機、目標を完全に撃破せよ! もう一度 私と篠ノ之がトライする!」

一同「了解!」

千冬「篠ノ之、もう一度だ! すでにやつの翼はもがれた。この勝負は決まったも同然だ!」

箒「は、はい!」ドクンドクン

ラウラ「――――――攻撃再開!(懸念だったあのウェポンコンテナは無力化されたか。さすがです、教官)」

ラウラ「てええええええええええ!(あまりにもあっけなさすぎる気がするが、――――――当然の結果でもあるか!)」バン! バン!

セシリア「あまり狩りは好みませんが……、私、これでも得意でしてね!」バヒュン! バヒュン!

簪「袋叩きはあまり気が進まないけれど、――――――データ入力完了! 『山嵐』!」シュバババ!

教員「いけえええ! やれええ! やっつけろおおおお!」

シャル「はははは……(最初はどうなることかと思ったけれど、世界最新鋭の機体に“ブリュンヒルデ”までいたらこうもなるか)」

銀の福音「――――――!」ヒュンヒュン!

銀の福音「!!!?」ドゴンドゴーン!

銀の福音「!!!!!!」ドッゴーン!


ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!


千冬「これで最後だああああああああ!(――――――遅い!)」ジャキ
箒「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


銀の福音「――――――!」ガシッ、バジジジ・・・

箒「え」

千冬「なっ!?」


ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン! ザバーン!


595  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:04:19.47 ID:VQgPk04n0




それはほんの些細なことであった。

結果としては目標の撃破に成功しているので問題はないのだが、最期に『銀の福音』は――――――、


超音速の垂直降下で振り下ろされた織斑千冬の『零落白夜』の光の剣が胸を斬り裂いたところを一矢報いらんとばかりに掴んだのだ。


もちろん、掴んだところで超音速で垂直降下している織斑千冬に釣られて握られた光の剣も海面へと突っ込む方向に力が働いているので、

そのまま『銀の福音』も一緒に海面へと突っ込むことになったのだが、千冬を驚かせた後すぐに手を放したのであった。

千冬の駆る『風待』を乗せた専用機デビューの篠ノ之 箒の『紅椿』はISの基本動作である「完全停止」を行って海面に激突する前に空中に静止した。

一方で、引き摺られた勢いのままに『銀の福音』は水柱を立てて海の中へと吸い込まれていったのである。

596  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:05:03.34 ID:VQgPk04n0

教員「え、今 何が起こって――――――!」

シャル「先生、捕まってください! 船が揺れますから!」ガシッ

教員「え」フワァ

シャル「っと」フワァ・・・

セシリア「『銀の福音』が海に沈んだということは――――――」

簪「うん。『PICが停止した』って証拠だよね。つまり――――――」

ラウラ「教官! やりましたね!」

箒「…………フゥ」

千冬「…………本部」

――――――
千鶴「――――――IS反応は数秒前に1つ消えたわ」

千鶴「おそらくは…………」

千鶴「でも…………」
――――――

千冬「ああ。最後の最後に『零落白夜』の光の剣を掴んでくるなんてさすがに予想外だった」

千冬「――――――無人機だったんだよな?」

千冬「それにしては、人間的な思考・行動パターンが滑らかだったような気がする」

――――――
千鶴「戦略級ISの存在は、戦略原潜と同じく存在自体が秘密の扱い――――――、」

千鶴「アメリカがしぶしぶ提出してきた『銀の福音』のスペックカタログには詳しいことは何にも書かれてなかったけど、」

千鶴「いくらIS登場以前から無人機の実用化を目指していたとはいえ、非常に高度な政治的判断を機械にまかせることには今も懐疑的よ」

千鶴「それに、ISの無人機化はクラス対抗戦で例の『黒い無人機』が確認されるまでは机上の空論とすら言われてたの」

千鶴「となれば、アメリカがイスラエルと共同開発で造り上げたこの機体の無人機化は、」

千鶴「おそらくはテストパイロットの動きをパターン化した――――――VTシステムと本質的に同じ技術が使われてるように思える」

千鶴「けれど、あの『黒い無人機』の人間離れした非人間的な動きと比べてみて、どちらにも利点と欠点があるのはわかる?」

千鶴「これまた、厄介な事実が明るみに出たわね」

千鶴「それでも、国内の数少ないISコアを無人機にあてて、最高級のステータスを得ている代表候補生たちが黙っていられるのかしらね」
――――――

千冬「さあな。アメリカとしてはこのことをどう処理するつもりなのか、高みの見物といこうか」

597  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:05:50.30 ID:VQgPk04n0

――――――
千鶴「これ以上の長居は無用ね」

千鶴「専用の装備と調整を施さないと、ISでサルベージはできないものね」

千鶴「――――――ただね?」
――――――

千冬「どうした?」

――――――
千鶴「一応『エネルギーが自然回復した時のために何人かは残って欲しい』っていうのが今回の作戦指揮官の意見というわけ」
――――――

千冬「なぜだ? すでにやつのエネルギーは空になっているのだろう?」

千冬「それに、『零落白夜』で剛体化が剥がされた損傷箇所に浸水してるだろうから、自然回復したエネルギーは損傷箇所の修復に使われるはずだ」

千冬「そして、ISが金属の塊である以上は水の上にも自然には浮かばないのだぞ? 沈没は確定だ」

――――――
千鶴「千冬? あなたはISが形態移行する物理的条件というものを認識したことはあるかしら?」
――――――

千冬「さあな。束ですらその進化する条件がわからないのに私にわかるはずないだろう?」

――――――
千鶴「でも、ヒントはある」

千鶴「形態移行した時にエネルギーが完全回復するってあるじゃない」
――――――

千冬「………………!」

――――――
千鶴「私はね、あなたが今 使っている『G2』を何度も「初期化」と「最適化」を繰り返して形態移行を何度も体験してる」

千鶴「そして、単一仕様能力は必ずしも発現はなかったけれども、エネルギーの回復だけは絶対だった」

千鶴「だからね? ISっていうのは――――――、」


千鶴「実は、動植物と同じように自らが進化していくための余剰エネルギーを溜めているんじゃないかっていう話よ」


千鶴「人間なら、筋肉とは別に脂肪としてエネルギーを蓄えているじゃない? それと同じようにISもエネルギーを実は余分に蓄えているはず」

千鶴「そして、それは自らの存在が脅かされる時に一気に使われる――――――」

千鶴「そう、飢えた時に脂肪を分解してエネルギーにして生命活動を維持させるように、」

千鶴「更に、絶体絶命において人が火事場の馬鹿力を発揮するがごとく――――――、」

千鶴「――――――不死鳥は墓地から何度でも舞い戻り、より強くなって帰ってくる」
――――――

千冬「…………わかった」

千冬「サルベージ船を急いで派遣してくれ」

――――――
千鶴「もうしてある」

千鶴「ただ、急なことだし、数時間は掛かる」

千鶴「それまで、適度な緊張を維持し続けられるかが問題」

千鶴「それに、これが私の杞憂であれば徒労に終わることだし、――――――現場指揮官としてはどう思うの?」

千鶴「対策班はこれで撤退する? それとも海域に残留するなら食事や補給をどうするかを考えて」
――――――

千冬「……そうだな」チラッ

598  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:06:57.74 ID:VQgPk04n0

教員「いや~、おつかれさまです」

シャル「おつかれ、箒」

セシリア「よくがんばりましたわ、箒さん!」

箒「あ、ああ…………」ドクンドクン

ラウラ「よくやったぞ、箒。初の実戦で、しかも乗って間もないのにあそこまで仕上げるとは大したものだ」

箒「そ、そうか? みんなの援護と織斑先生の適切な指導があったからやれたんだ。みんなも凄かったよ」ドクンドクン

箒「(しかし、実際に『銀の福音』にあれだけ肉薄できたのは、雪村がやっていた『PICカタパルト』のおかげなんだよな)」

箒「(ぶっつけ本番でやれるとは思わなかったけど、確かに『PICカタパルト』はこれまで発見されてこなかっただけあって感覚が掴めなかったけど、)」

箒「(雪村が言うフォーカスっていうことを意識し続けると自然と対象のISと自分とが視えない何かで繋がれたような感覚がするようになったんだ)」

箒「(とにかく、私が『銀の福音』に喰らいつく――――――それだけに専念させられていたことが幸いしたのかもしれない)」

箒「(なんとなくだが、相手のベクトルというものを身体で感じられてどう動くのかがほんの少しだけ先読みできるような感覚すらしていた)」

箒「(おかげで、雪村の場合は縦の動きにしか『PICカタパルト』の恩恵を受けられなかったけれども、)」

箒「(普通のISで『銀の福音』相手に『PICカタパルト』を使うとなると、相手の速力も足し合わさってとんでもない速さで自在に動き回れる!)」

箒「(これは確かにとんでもない技術だ、『PICカタパルト』。言わないほうがいいかもしれないな)」

箒「(極論、1対1の状況なら『PICカタパルト』で相手の機動力を自分のものにできてしまうから現在 流行りの高機動型ISが陳腐化するしな)」

箒「(それに、――――――これは雪村だけの強みにしておきたいから)」

簪「それで、箒としてはこれからどうするつもりなの?」

箒「え」

簪「いや、専用機持ちになるのかなって……」

セシリア「……そうでしたわね」

箒「あ…………」チリンチリン


――――――左手の金と銀の鈴。これが第4世代型IS『紅椿』の待機形態である。


箒「………………」

簪「やっぱり、お姉さんからの贈り物だし、名残惜しい?」

箒「…………わからない」

シャル「ねえ? 確か、『紅椿』と合わせて13個のコアがIS学園のものになるって話だったらしいけど……」

ラウラ「確かにそのように聞いたぞ。3年前に篠ノ之博士が失踪してから途絶えていたコアの供給が行われたのだから、世界が驚愕するだろうな」

セシリア「しかし、問題はその13個のコアの帰属先ですわ」

セシリア「IS学園が超国家組織とはいえ、日本国の所属であることはアラスカ条約で明記されてますし」

ラウラ「いや、それ以前に、学園が鹵獲したテロリストたちの『ラファール』6機の流出先を明らかにしない限りは分配はできないな」

シャル「う、うん……」

教員「そういえば、そうだったよね…………嫌な事件だったね」

ラウラ「いったいどこの国がテロリストと通じているのか、今 一度 全てのISコアの所在を洗い出す、史上最も厳粛な確認作業が始まるだろうな」

ラウラ「それに、アメリカもこんな暴走事件を起こした以上は強気な発言はできんだろう」

ラウラ「………………あのウェポンコンテナのことも追及させてもらうとするか」ボソッ



599  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:07:43.88 ID:VQgPk04n0

――――――12:00頃、

――――――対策本部


山田「学園上層部に作戦成功を報告いたしました」

千鶴「うん。普通ならこれで終わり(――――――そう、これでこれ以後の展開についての責任は少しでも回避される)」

千鶴「凰、警戒態勢は一応これからも続くことになるけど、おそらくはもう大丈夫でしょう。昼食を摂ってきなさい」

鈴「わかりました」フゥ

スタスタスタ・・・・・・

千鶴「…………篠ノ之博士は現在どこにいる?」

山田「今、確認しますね」ピピッピピッ

千鶴「それと、――――――まだ見つからないの?」ジロッ

千鶴「何をやってるの、捜索班は! そんなんじゃ生徒たちに示しがつかないよ!」ギリッ

千鶴「ん」

山田「え?! ディスプレイが歪んで――――――」

バチ、バチチ・・・・・・クァwセdrftgyフジコlp;@:「」

千鶴「――――――クラッキング!?」

千鶴「データの一切を消去して! 急いで! さっきまでのことを外部の人間に知られるわけにはいかない! 強制終了も!」

山田「は、はい!」アセアセ

教員「ひぃいいい!」アセアセ

千鶴「無理なら物理で! 早急に処分して! 急いで!」アセアセ

千鶴「いったい何が?! どこからの不正アクセスなの!? まさか学園で何か――――――!」アセタラー


ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン! ガサガサガサガサアアアアアアア! ドッゴーン!


千鶴「!」ビクッ

千鶴「全員、窓の近くから離れて!」

千鶴「くっ……」

一同「!?」

602  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:10:56.51 ID:VQgPk04n0

それは普通ならお昼時を迎える頃であった。それはまさしく『青天の霹靂』と言えるものであった。

『銀の福音』討伐作戦も一段落して、サルベージ船を緊急出動させて、海に沈んだ『銀の福音』とウェポンコンテナの回収を急がせ、

サルベージ船が来るまで洋上で警戒することになった対策班の実働メンバーの許に弁当を持たせて輸送する手筈を整え、

海上封鎖中に拿捕した密漁船の引き渡しの準備もし、できるだけ今回の事件が内外に知れ渡らないように腐心していた。

それが終わってからは、『銀の福音』対策班としての活動もこれで一息がついたのだが、

それとは別に並行して行っていた、世界で唯一ISコアを開発できる篠ノ之博士と世界で唯一ISを扱える男性“アヤカ”の捜索に集中することになった。

篠ノ之博士に関しては最初にラウラが拿捕できなかった時点で半ば諦め半分でやらせていた。

なにせ、3年前に日本政府に重要人物保護プログラムという名の監禁状態から467個目の最後のコアを残して忽然と姿を消し、

それ以来、世界中のあらゆる国家や組織が総力を上げて捜索しているのにその尻尾を掴むことすらできていないのだ。

世界規模の諜報機関の総力を上げて捕まえられないような存在をどうやってその1割にも満たない今の人員と装備で確保できるだろうか?

なので、新規のコアを新型IS『紅椿』を含めて13個だけ得られただけマシと納得させられていた。


しかし、一方でまったくの謎なのが“世界で唯一ISを扱える男性”こと朱華雪村“アヤカ”の突然の脱走である。

織斑千冬に代わって指揮官を代行している一条千鶴は実は“彼”の出自について全てを知っていた。

それでも、“彼”のことについて知っているのであって、現在の“アヤカ”や“それに至るまでの様々な彼”については詳しく知っているわけではなく、

また、秘密警備隊“ブレードランナー”の一員ではあるものの、“アヤカ”の一条千鶴への好感度はあまり高いとは言えないものであった。

おそらくは、良くて“顔を合わせた程度の関係”であり、彼女の仕事の後輩となる織斑一夏の“世界で最も信頼できる間柄”にはとても及ばない。

そのことは彼女が実施した昨日の夕方における特別講義で明らかとなった事実であり、自身も周りの大人とさして変わらない存在だと――――――。

だからこそ、初代“ブレードランナー”一条千鶴は現“ブレードランナー”織斑一夏に期待する他なかったのである。


――――――やはり、“ISを扱える男性”を救えるのは“ISを扱える男性”しかいないのだと。


603  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:12:14.68 ID:VQgPk04n0

織斑千冬ほどではないが、“彼”については優先保護対象でもあるために信頼関係を築いておきたいのだが、それもうまくいかず 頭を悩ませていた。

そこに、唐突な脱走が発生し、一条千鶴は一人の人間として少し自信を失いかけていた。――――――『自分のせいなのではないか』という不安。

思えば彼女は、織斑千冬に匹敵するISドライバーとしての能力を持っていながら織斑千冬のような栄光の道を歩むことなく、

秘密警備隊“ブレードランナー”としての裏活動とそれに託けた第2世代ISの開発のためのテストパイロットを長年してきた。

彼女自身はそのことに不満があるわけではなく、むしろ祖国の発展に貢献できたことに揺るがぬ誇りを持っているのだが、

彼女も初めは織斑千冬と同じく若くして第1世代のISドライバーとして抜擢されて活躍していたわけなのだが、

仕事一筋に生きて多感な思春期を犠牲にしてきたことに思うところがないわけではなく、思春期男子との付き合いに彼女らしからぬ妙な力みがあった。

今でこそISはこの世の中では当たり前のものとして受け容れられており、IS乗りであることが女性としての最高のステータスとさえ言われているが、

その裏にはIS産業の発達のために青春を捧げた若き戦乙女たちの汗と血と涙の努力があったことはあまり語られない。

もちろん、織斑一夏という同年代のあまりにも身近すぎる男性はいたが、残念ながら織斑一夏は一条千鶴ら第1期国家代表候補生たちの永遠の憧れであり、

そもそも織斑一夏自身が非常にストイックで色気がないので一般的な男性像とは掛け離れていて全くの別の聖なる存在と認識させられていた。

彼女としても恋愛よりも己が成すべきことに誠心誠意を尽くすほうだったので、山田真耶のような好意には至らずとも歳下ながらも敬意を払っていた。

だが、第1世代ISドライバーのほとんどが政府が奨励し始めたベンチャー企業に革新の期待を抱いて応募したというような風変わりな乙女が主だったために、

ISドライバーに任命されてからまともな同年代の男付き合いは、織斑千冬の弟である織斑一夏ただ一人である可能性が非常に高かったわけである。

無論、織斑千冬のように普段は高校生として学業に勤しみながら学校が終わってからベンチャー企業に通い詰めるという子が圧倒的に多かった。

そんなふうに当時ISなどという新興産業に積極的に開発協力を申し出る先見性のある風変わりな乙女たちにまともな男付き合いなどあるわけがなかった。

だからこそ、一条千鶴ほどの者ともあろう裏工作の専門家は“アヤカ”という一人の少年との付き合いに自信を失いかけるところがあったのだ。


わからないのだ。“アヤカ”がかなり特別だとしても“彼”が望んでいるのは『年相応の普通の扱い』であるがゆえに御しきれないのだ。


これが第1世代ドライバーの多くが顔役として在籍しているIS学園の共通の意外な弱点であり、

“彼”のために『年相応の普通の扱い』をしてあげようとしても、それがどういうものなのかがわからないので的外れな対応になりがちなのである。

もっとも、男性差別的な第2世代以降の人間が学内で主流となっていたので、そもそもそういった配慮をしようという人間すら少なかったのだが…………

そういった意味では織斑一夏こそが一番の適任者であり、できる限りは一緒にさせてあげるのがベストだったのだが――――――。

604  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:13:18.88 ID:VQgPk04n0


千鶴「…………ぶ、無事かしら、みんな?」ヨロヨロ・・・

山田「は、はい……」アセダラダラ

教員「い、今のはいったい…………?」オロオロ

千鶴「端末は使える?」

山田「だ、ダメです! さっきの轟音に気を取られている隙にクラッキングされ尽くされたようです…………」

千鶴「なら、しかたない。訓練機を使って代わりにして。対策班と捜索班の連絡がつかないままでいるのはマズイから」

千鶴「システムを復旧できるのならそっちもやって」

千鶴「そして、手が空いているのはみんな、私と一緒に外の状況を確認を!」

教員「はい!」

教員「しかし、さっきの衝撃はまさか――――――」

千鶴「その『まさか』だと思うわ」

教員「そんな!? IS反応は確かに消えたはず――――――!」

千鶴「言っててもしかたないわ」


千鶴「第2形態移行をしていたのであれば、何が起こっても不思議じゃない」


千鶴「それよりも、さっきのソニックブームで怪我人が出ていないかを早く確認しないと!」

千鶴「あなたは訓練機の1機を使って旅館全体の損傷がどれほどのものかを見て回って! 屋外で怪我人がいたら確保するようにね」

教員「はい!」

千鶴「私は女将さんたちや生徒たちの安否確認を済ませるから」

千鶴「きびきび動く!」

教員「はい!」


タッタッタッタッタ・・・・・・


605  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:16:52.16 ID:VQgPk04n0

千鶴「…………最悪なシナリオ運びだわ」

千鶴「(あの状況で第2形態移行したとして、進化の方向性としてもっとも適切なものと言えば――――――、)」

千鶴「(海上で展開している対策班の包囲からの脱出と水中での行動制限の解除のこの2つかしらね!)」

千鶴「(おそらく千冬たちは旅館のほうで何が起きたのかも知らずにサルベージ船と弁当が届くのを今ものんびりと待っているはず)」

千鶴「(となれば、潜航能力を持つように『銀の福音』は進化して何らかの目的を持ってこの旅館にまで接近した――――――)」

千鶴「(となれば、いったい何が目的なの、それは!? 少なくとも水爆の運用試験に関係するものじゃないのは確か)」

千鶴「(――――――篠ノ之 束が別な目的を与えて暴走させたとしか考えられない!)」

千鶴「(けれども、それは『紅椿』のデビュー戦と篠ノ之 箒への動機付けに相応しい相手として用意しただけじゃないの?)」

千鶴「(それ以上はわからないわね)」

千鶴「(けど、今度は山のほうの捜索班が暴走した『銀の福音』に狙われることになる! すぐにでもやり過ごすように指示したかったけど……!)」

千鶴「(通信手段の復旧までうまいこと頭を働かせてやり過ごして欲しいわね)」

千鶴「(そう――――――、)」


――――――“アヤカ”のように。


千鶴「(…………え、『“アヤカ”のように』自主的に危機回避をしろ?)」

千鶴「(まさか、――――――“アヤカ”は知っていた?! こうなることが!?)」

千鶴「(でも、あの聡明な子がこの状況で逃げ出すことが極めて困難なことを理解していないはずがない)」

千鶴「(逃げ出すのであれば、みんなが寝静まっている深夜に出た方がずっと遠くへ逃げられるはずなのに…………)」

千鶴「(それが、今朝方になって逃げ出す決心がついたかのような“アヤカ”らしからぬ横着ぶり――――――)」

千鶴「あ」


千鶴『第2形態移行をしていたのであれば、何が起こっても不思議じゃない』


千鶴「私としたことが、――――――見落としていた!」ギリッ

千鶴「(確かに『龍驤』“黄金の13号機”は第2形態であり、単一仕様能力『落日墜墓』の存在があった)」

千鶴「(けれど、それ以外の点では基となる『打鉄』の色違いという程度で、単一仕様能力の追加しかなかったとばかり――――――!)」


――――――どうしてコア固有能力の存在を疑わなかったの、私は!


606  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:17:37.22 ID:VQgPk04n0

千鶴「(“アヤカ”と『龍驤』の間にどんな接点があって、“呪いの13号機”から“黄金の13号機”になったのかは未だにわからない)」

千鶴「(けれど、確かに二人の間には確かな接点と共通認識があって、『龍驤』は“アヤカ”をマスターとして認めたらしい)」

千鶴「(かつての“呪いの13号機”――――――噂によれば、あの訓練機に乗ると負けやすいというジンクスがあったらしい)」

千鶴「(ISにも心はあるの。一般機化のリミッターが搭載されていてもコア自体がどう思うかまでは強制できない)」

千鶴「(だからこそ、定期的にISコアを調教して最低限 供給された装備を格納してくれるように調整する必要がある。反逆しないようにするの)」

千鶴「(おそらく、“呪いの13号機”という存在に仕立てあげたのは他でもない口の悪い生徒たちのおかげかしらね)」

千鶴「(この学園に来て最初に習わなかったかしら?)」


「ISには意識に似たようなものがあって、お互いの対話――――――」

「つまり、『一緒に過ごした時間でわかりあえる』というか、」

「操縦時間に比例して IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

「ISは道具ではなく、あくまで“パートナー”として認識してください」


千鶴「(コアナンバー36“呪いの13号機”は人間のネガティブな感情を多く学び取って歪んでしまったものなのかもしれない)」

千鶴「(だから、“彼”の成れの果てである“アヤカ”に強い興味を持つことになったのかもしれない)」

千鶴「(なら、コアナンバー36が持つことになったコア固有能力というものは――――――!)」

千鶴「(これは篠ノ之 束ですら辿り着けない実に興味深い進化の在り方ね)」

千鶴「けど、今すべきことは教員の一人として――――――」



607  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:18:30.52 ID:VQgPk04n0

――――――渓流


ザーーーーーーーーーーーーー

束「…………おっかしいなぁ? この束さんの頭脳を持ってしても理解できないなー」

束「どこに『龍驤』“黄金の13号機”が隠れているのかな~?」

束「IS反応は確かにこの川の周辺に出てはいるけれど、もうちょっと探知機の精度を上げないとこりゃダメかな」

束「この束さんの目を以ってしてもすぐに見つけられないだなんて、少しばかりあの子のことを侮っていたかもしれないね」

束「………………忌々しいよね」

束「私はISの生みの親なんだよ? それなのになんで箒ちゃんにまとわりつく虫なんかに後れを取ってるわけ?」

束「“純粋種”だか何だか知らないけど、私がいっくんと箒ちゃんのためにしてあげようとしたことをことごとく邪魔してさ!」

束「ああもう! どうして世の中、私の思った通りに行かないんだろう……」

束「いっくんもあの子を助ける必要なんてないのにどうして――――――あってはならない存在だって言うのに」


ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!


束「!」 ――――――迫るソニックブーム!

束「全く持って不愉快だよ」ギロッ(シールドバリアー展開)


銀の福音「――――――!」(第二形態)


束「あーあ、こりゃあ完全に私のミスだね」 LOCKED!

束「攻撃目標をコアナンバー36にするんじゃなくて、“純粋種”に設定しておけばよかった」

束「たまたま近くに居たからって攻撃目標をするだなんてポンコツAIだよね、まったく」


銀の福音「――――――!」シュバババババ!


束「よっとっとっと! ほいさっさ!」ヒュンヒュン!

束「私もISを持ってくればよかったな」 量子展開:多連装ミサイルランチャー!

束「ばーん!」 量子展開:戦略級レーザー砲!


銀の福音「――――――!!」ビュウウウウウウウウウウン!


608  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:19:06.82 ID:VQgPk04n0

その頃、この世界の命運を握るキーパーソンである篠ノ之 束は少し前まで“アヤカ”が一人訪れていた渓流で立ち尽くしていた。

篠ノ之 束のステルスモードすら看破するISレーダーには確かにこの近くにコアナンバー36の反応があるのだが、

さすがに範囲拡大にも限界があり、ISの生みの親である篠ノ之 束のアクセスにもコアナンバー36が応答しないので、

こうして世紀の大天才は今まで体験することも久しかった長時間の肉体労働を強いられることになった。

この渓流にコアナンバー36『龍驤』が隠れていることはわかったのだが、篠ノ之 束の目的はコアの方ではなかった。

そんなことはISレーダーの反応ですぐにでもわかりそうな気もするのだが、レーダー上では微かにISの座標が揺れているのである。

それ故に、篠ノ之 束はどこかに息を潜めて隠れているものだと考えていた。

だが、実際に反応している座標近くまで来るとすぐに自分の考えが誤りであることに気づいた。

この渓流に人が隠れられそうな場所は無かったのである。

もしかしたら少し離れた茂みの方に隠れているのかと思い、あらゆる手段を使って探しまわるのだが、

最終的に自分は完全に裏を掻かれたのだと悟ることになったのである。

その時、篠ノ之 束には今まで感じたことがない言い知れぬ苛立ちが募っていた。


――――――どうして私ばかりこんな目に遭うんだろう?


609  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:20:03.25 ID:VQgPk04n0





教員「まったく、かくれんぼは終わりだよ(――――――危ない危ない。街の方まで飛んでっちまったけどこれで結果オーライだな)」ヒュウウウウン!

雪村「はい」 ――――――魚取り網をフリフリ振っていた。

雪村「その前にいいですか、2,3点」

教員「何かな? これから本部に連絡を入れてきみの無事を報告するんだけど(そうそう、これで叱られずにすむぞ)」

雪村「現在時刻を教えてください」

教員「今は12時過ぎだね」

教員「ん? お! 驚いたよ。大した持久力じゃないか。こんなところまで来られるだなんて――――――、やっぱり男の子というわけなんだね」

雪村「もう1つです」

雪村「専用機持ちは旅館に帰ってきましたか?」

教員「どうした? もしかして、愛しのあの子と一緒にいられなかったから癇癪を起こしてここまで逃げたってことなのかい?」

教員「案外かわいいやつじゃないか、きみぃ(ほほう、“母と子の関係”ねぇ? そういうこと?)」ニヤニヤ

雪村「どうなんですか?」ジトー

教員「…………何だこの目は?」

教員「ちょっと待ってくれ。すぐに問い合わせてみるから」ピピッ

教員「…………本部? 本部、応答してください」

教員「なぜ出ない?」

雪村「僕のことを探しに来ている人たちは?」

教員「…………あれ? 誰も出ないぞ? どういうことだ、誰一人として応答してくれないだなんて」

雪村「じゃあ、旅館に電話を掛けてください」

教員「わかった」ピポパ・・・

教員「本部が応答しないだなんてどういうことだい? 昼飯を食べに誰もいなくなったってことなのかな? んな非常識な!」プルルル・・・

ガチャ

教員「あ、もしもし? 今日宿泊しているIS学園の織斑先生か一条先生に繋いでもらえませんか――――――」

雪村「…………やっぱりあれは『銀の福音』で、結果として討伐は失敗したってわけか」

雪村「そして、捜索に来ていたISはこの人のを除いて全て『銀の福音』に撃墜されたか」


――――――結局、手は尽くしても犠牲なしには僕は存在していられないのか。


610  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:21:17.20 ID:VQgPk04n0

――――――旅館


千鶴「…………そう、見つかったの。それは良かったわ」

千鶴「さっき渓流の辺りで戦略級レーザーやミサイル攻撃が観測されたでしょ? 旅館上空からも見えたわ」

千鶴「あなたはその子を連れて街の方へ逃げて。旅館のみんなも避難させるつもり」

千鶴「どうもIS学園で何らかの大規模なネット犯罪が起こったらしくて持ってきた端末が全てダメになった」

千鶴「だから、こうやってプライベートチャネルでの通信しか行えないわ」

千鶴「――――――専用機持ち? ちゃんと呼び戻してるから」

千鶴「とにかく、あなたはその子の安全を確保して。それができたら不問にしてあげるから」

千鶴「それじゃ、ここからは一切の通信を断って街の電話から掛けてね」

ガチャン

千鶴「………………」

女将「ど、どうでしたか?」アセアセ

千鶴「安心してください。“アヤカ”くんは見つかりました。一足先に街の方まで避難させておきます」

女将「そう、良かった……」ホッ

山田「それで、どうしましょうか?」

千鶴「相手は最新鋭の戦略級IS――――――、専用機持ちじゃないと話にならないわ」

千鶴「問題なのは、それと戦っている何者かとの戦闘がどの方向へと移り変わっていくかなのよね。離れていけばより安全にはなるけれど――――――」

千鶴「避難したいのはやまやまだけど、旅館の送迎バスとクルマだけじゃ数が足りないし、待たされる方はパニックになっちゃう」

千鶴「幸い、IS学園の生徒たちはお昼時だったから館内で昼食をみんなで食べていたから怪我人は出てなかったからいいけど、」

千鶴「旅館へのソニックブームの被害が甚大ね。来年の臨海学校は中止かしら」

女将「いいのです。この旅館にいる全員が無事であるのならば」

千鶴「しかし、これまたIS学園の評判を落とすような出来事になってしまったわね…………」ハア

山田「第二形態移行というイレギュラーが発生したのはしかたがないと思います」

千鶴「それは対策班としての言い分であって、この学園に生徒を預けている保護者の方々や出資者の皆様方は納得しないでしょうね」

千鶴「ホント、ISって史上最強の兵器よねぇ……」

千鶴「現代戦争である非対称戦争に最も適した能力と汎用性を有する兵器――――――」

千鶴「戦車や戦闘機が出動できないこんなところで暴れられたら蹂躙されるのも簡単ね」

千鶴「ともかく、避難の準備とあっちで起こってる戦火がこっちに飛び火しないようにしっかり観測しておかないとね」

鈴「私を行かせてください、先生! 私は世界最新鋭の第3世代機の専用機持ちなのよ!」

千鶴「行って殺されてくるんだったら止めはしないわ」

鈴「…………!」ゾクッ

千鶴「今のあなたは最後の盾として専用機持ちが沖から帰ってくるまで旅館の警備と監視をしてればいい」

千鶴「それに、あなたの今の装備をあの山林地帯に放たれたら山火事になって何もしないよりも早くに旅館が焼かれるしね」

鈴「!」

鈴「わ、わかりました……」シュン

千鶴「さあ、どうする? ――――――“ブリュンヒルデ”織斑千冬?」


611  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:22:14.67 ID:VQgPk04n0


ブゥウウウウウウウウウウン! ザァアアアアアアアア!


教員「うわっ、山の方からまたミサイルやレーザーが!」

千冬「…………どういうことだ、束?」

箒「…………姉さん」

セシリア「――――――よし! やっと『銀の福音』の姿を捉えられましたわ!」

千冬「うん」

シャル「これって、――――――光の翼?」ピピッ

ラウラ「おそらくはあの攻防一体のスラスターの代用としているのだろう」

簪「となれば、展開しているだけでも相当エネルギーを消耗していくはずだけど……」

千冬「つまりは、最後の悪足掻きといったところだな」

箒「でも、どうして姉さんが『銀の福音』に――――――?」

千冬「わからん」

千冬「だが、おそらくやつにとっても今の状況は想定外のはずだ」

ラウラ「どうします?」

千冬「作戦は同じだ。私と篠ノ之による一撃必殺を狙う」

千冬「ただ、今度は状況が大幅に変わってより困難な状態となっている」

千冬「だが、束が応戦しているからその隙を狙うことができるはずだ」

千冬「よって、本作戦では篠ノ之とオルコットと私で行く」

千冬「残りの者は旅館の防衛に当たれ」

一同「了解!」

教員「そろそろ浜ですよ」

千冬「よし、行くぞ!(――――――気が進まないが、一応は助けてやらんとな)」

箒「……姉さん(今、助けに行きます!)」チリンチリン


612  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:23:38.00 ID:VQgPk04n0

――――――そして、激戦区へ


ザーーーーーーーーーー

束「…………いくら私が細胞レベルで特別だからって実は体力まではそうでもないんだな~」ゼエゼエ

銀の福音「――――――」

束「けど、そっちも息切れのようだね? ふふふふ」

束「(1分でいいから入力するチャンスが掴めれば、こんなやつ ハワイに今すぐにでも送り返してあげるっていうのに…………!)」

束「(ホント、今日は厄日だね。箒ちゃんの誕生日だって言うのに……)」

束「(いっくんはここには居ないし、ちぃちゃんは『暮桜』のバチモンに乗ってるし、この天才:束さんが裏を掻かれるし――――――)」

銀の福音「――――――!」ビュウウウン!

束「ホント、不愉快な世界だよね」シュッ

束「(近づいて来てくれれば解体してあげられるのに相手は遠距離戦重視だし、面白くないよね、こんなの)」


銀の福音「!!??」ドーン!


束「あ」

セシリア「やはり、所詮は無人機ですわね」

ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

千冬「いいかげんに沈めええええええええ!」
箒「はああああああああああ!」


ガキーーーーーーーン!


613  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:24:21.54 ID:VQgPk04n0

銀の福音「――――――!」ググググ・・・ ――――――『零落白夜』の光の剣を掴む!

千冬「大した学習能力だな!(だが、これならどうだ――――――!)」

箒「掴んだぞおおおおおおお!(このまま川を滑って――――――!)」ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

銀の福音「!!!!」

バッシャーーーン! ザアアアアアアアアアアアアア! ビチャビチャビチャ! ドッゴーーーーン!

束「おお! ちぃちゃん、箒ちゃん!」パァ

千冬「滝壺ならば自慢のエネルギー兵器もうまく使えまい!」ビチャビチャビチャ

銀の福音「!!!!??」ビチャビチャビチャ

箒「千冬さん!」ビチャビチャビチャ

千冬「ああ! これで最後だ!(――――――イグニッションブースト『ゼロ距離』!)」ググッ、ビュウウウウン! ザシュ! 

銀の福音「!!!!!!」ビクン!

千冬「………………!」ビチャビチャビチャ

箒「………………!」ビチャビチャビチャ

銀の福音「………………!」ビチャビチャビチャ


ザーーーーーーーー、ビチャビチャビチャ、ガクッ


銀の福音「」ビチャビチャビチャ

箒「………………終わった?」ビチャビチャビチャ

千冬「…………今度こそ終わったな」ビチャビチャビチャ

束「IS反応消滅! やったね、ちぃちゃん! 箒ちゃん!」ニコニコ


ザーーーーーーーーーーー


614  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:25:16.89 ID:VQgPk04n0




――――――『銀の福音』は完全に機能を停止した。


コアの破壊にまでは至ってないが損傷レベル:Dを突破し、第二形態移行をしたばかりでそれなのでもう復活することはなかった。

本当ならば第4世代型IS『紅椿』に迫る勢いの凶悪な性能を誇るはずの『銀の福音』第二形態移行なのだが、

二度目の撃破もまたもや『銀の福音』に課せられた状況要因に大きく助けられることになったのである。

まず、篠ノ之 束との戦いを強いられたこと。

2つ目に、『銀の福音』の最優先行動目標が最優先撃破対象の完全排除であったこと。

3つ目は、鬱蒼とした山林地帯を低空で飛び回っていたことであった。

これらの要素が噛み合わさって、『銀の福音』が最も得意とする広域殲滅と超音速飛行がまったく活かされないまま葬られたのである。

一人で基地戦力をまかなえる篠ノ之 束の尋常ではない弾幕相手に『銀の福音』は最優先撃破対象の完全排除に固執させられていたことによって、

視界が確保しづらい鬱蒼とした山林地帯を低空で飛び回らざるを得ず、開けた渓流から森の中に逃げ込まれてしまったら、

『銀の福音』の大型スラスター兼用第3世代兵器『銀の鐘』の誘導レーザーもなかなか機能しなかった。

しかも、『銀の福音』の武器はそれしかなく、広域殲滅にしか特化していないので精密射撃性は重視されておらず、

篠ノ之 束のような人外の運動能力を発揮する単一目標を排除するのはかえって不向きだったのである。しかも、シールドバリアーで防備も完璧。

そして、本当は最優先撃破目標であるコアナンバー36の完全排除に集中したいのだが、

『銀の福音』にはこういった自然環境の中で目標を見分けるためのスキャナーや知識が入っていないのでISレーダーだけを頼りにうろちょろするハメになった。

まさしく適材適所とはまったく正反対の機体性能をまったく活かせない戦況だったので、三度も同じ手に掛かってついに息の根を止められたのであった。

しかも今度は、二度と復活できないように最初から『紅椿』が『銀の福音』を掴んで渓流まで落下し、

そのまま渓流を遡って滝壺に『銀の福音』を激突させ、エネルギー兵器を大きく減衰させる滝に打たせて大きく戦力低下を図ったのである。

そして、ダメ押しとばかりにすでに胸に突き刺さった『零落白夜』の光の剣を『風待』がイグニッションブーストをゼロ距離で放ったことにより、

一撃必殺の『零落白夜』の光の剣が深々と『銀の福音』の胸を貫く、『銀の福音』が押し付けられている岩盤をも抉ったのである。


――――――これが後に『福音事件』と呼ばれるIS事故の結末であった。


なぜ暴走した『銀の福音』がハワイ沖から日本の旅館をわざわざ襲撃したかについては真相は闇に包まれている。

だが、その事件の影で起きていた“世界で唯一ISを扱える男性”朱華雪村の脱走と専用機の喪失との相関関係を疑うものは存在した。

しかし、そのことについてもまた不明瞭な点が多く、どちらにせよ、真相は杳として知れないのであった。


615  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:27:04.89 ID:VQgPk04n0

――――――事件の日の夜

――――――市街のホテルにて


雪村「みなさん、お疲れ様でした」

簪「あ、よかった。元気そうで」

セシリア「“アヤカ”さんもご無事で何よりですわ」

鈴「とんだ災難だったわね」

ラウラ「このツケはいずれアメリカには払ってもらおう」

シャル「ホントだよ」

箒「雪村。ほら、お前の荷物だ」

雪村「ありがとうございます」

箒「ん?」

雪村「どうかしましたか?」

箒「雪村、右腕の黄金の腕輪はどうした?」

鈴「あ、ホントだ。何か違和感があると思ったら、それが無かったのね」

ラウラ「どうしたのだ、“アヤカ”? 専用機は?」

雪村「専用機ですか?」


――――――失くしました。


小娘共「!?!!!?!?」

616  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:27:54.86 ID:VQgPk04n0

箒「ゆ、雪村!?」

セシリア「た、大変ですわ! 急いで探しませんと!」アセアセ

鈴「そうよ! あんた、私の国でそんなことしたら処刑よ、処刑!」アワワワ・・・

シャル「そうだよ! 落ち着いていつ頃からなくなったことに気づいたか思い出していこう!」アセタラー

ラウラ「待て待て待て! 待機形態のISはシールドバリアーで本人の意思でしか外せないはずだぞ!」

簪「そ、そうだよ! そこからしておかしいよ」

小娘共「………………!」

雪村「どうかしましたか?」

箒「…………雪村?」

セシリア「あ、あなたって人は…………」

鈴「まさか、そんなことまで平然と行えるやつだっただなんて甘く見ていたわ…………」アゼーン

シャル「…………予想の斜め上をいつも行くよね、“アヤカ”は」アセタラー

ラウラ「なぜだ? なぜそんなことになった!?」

簪「わけを教えて」

雪村「ですから、失くしただけです。理由なんてありません」

小娘共「!?!?」

セシリア「もうついていけませんわ……」

鈴「それを悪びれずに平然と言い切ってる時点で本物だわ……」

シャル「“アヤカ”にとってはやっぱり簡単に捨てられるものなんだ……」

ラウラ「お、織斑教官に何と言ってお詫びすればいいか――――――」

簪「………………みんな?」

箒「…………いや待てよ?(――――――雪村がそう簡単に手放すものだろうか?)」

617  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:29:00.73 ID:VQgPk04n0

雪村「それよりも、箒さん。左手のそれは?」

箒「あ」

簪「そ、そういえば、箒はこれからどうするの?」

箒「そういえば、そうだった…………」

箒「ハッ」

雪村「………………」ジー

箒「ゆ、雪村……?」

雪村「………………」ジー

箒「…………!」

箒「(もしかして雪村は私に答えを求めているのではないのか?)」

箒「(成り行きとは言え、私は『銀の福音』討伐が終わってからも何食わぬ顔で姉さんからもらった『紅椿』を持ち続けている――――――)」

箒「(雪村はあえて『専用機を捨てる』という離れ業をやってのけて、私の覚悟を試そうとしているのではないか?)」

箒「(そう考えると、ここまで雪村が平然としていられることに納得がいく!)」

箒「(だって、雪村にとってやっぱりあの“黄金の13号機”は特別だろうし、これまでだって危機的状況を迎えてきたんだから!)」

箒「(ISスーツを着替える手間暇のことを考えても、専用機持ちであることの利点のほうがずっと大きいはずなんだ)」

箒「(となれば、問題は雪村ではなく、私自身がこれから専用機持ちとしてやっていく覚悟を決められるかの問題ではないのか?)」

箒「(おそらく雪村はそれを心配してこんな茶番をしてまで私に問いかけているに違いない!)」

箒「(そっか。――――――よし! お前の気持ちはよくわかったぞ!)」

618  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:30:03.02 ID:VQgPk04n0

箒「――――――雪村」

雪村「はい」

小娘共「………………!」

箒「こんな茶番をお前にやらせてしまって、…………すまないな」

雪村「いえ」

小娘共「?」

箒「それで、よく考えてみたんだ」

箒「この金と銀の鈴を手放したとしても、これの帰属先はIS学園だから、第4世代型ISの実証機として重点的に研究が進められると思うんだ」

箒「けど、この機体はすでに私をマスターとして「最適化」が進められていて、他の人間が扱うことは難しくなっているらしいからな」

雪村「そうですか」

箒「それに、今回の件で私も雪村――――――お前と同じくISからは逃げられない人間だってことがよくわかったよ」

箒「それならば、私も受け容れていこうと思う。――――――この運命を」

雪村「………………」

箒「私は専用機持ちになる。それでお前や学園のみんなを守っていこうと思う」

小娘共「………………」

雪村「そうですか。後悔がないようにしてくださいね」

箒「わかってる。今日のことだって全部 織斑先生がやってくれたことだし、私がやれたことなんてほとんどなかった」

箒「だからこそ、力を合わせて今の生活を守っていこう、雪村」スッ

雪村「………………」

箒「ど、同意なら、早く握手しろ。これから私はお前と同じ立場の人間になるのだからな」プイッ

雪村「はい」パシッ


ギュッ



619  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:30:48.35 ID:VQgPk04n0

箒「あ…………」

雪村「?」

箒「いや、お前の手ってこんなにも大きかったんだなって、今更ながらそう感じた。もっと頼りない感じだと思ってた」

雪村「…………そうですか」フフッ

箒「私はお前のことを頼りにしてるし、お前のことならよく理解してるつもりだ」

箒「だから、お前も私を頼れ。お前の背中は私が守るから」

雪村「はい」ニコッ

小娘共「………………」フフッ

セシリア「やっぱり、“アヤカ”さんには箒さんが一番ですわね」

鈴「そっか。これまた強力なライバルが出現したわねぇ。ま、負けるつもりはさらさらないけどね」

シャル「僕も今の生活を守るために力いっぱい協力するから、僕を仲間に入れて欲しいな」

ラウラ「今こそ織斑教官に教わった全てを活かす時だ! 今日のような事件を繰り返してはならない!」

簪「私も代表候補生! かっこいいところをみんなに見せないとね!」

箒「よし、みんな! 円陣を組んでくれ!」

雪村「お、おお……?」

鈴「いいわよ!」

簪「うん! やろうやろう!」

セシリア「たまにはこういうのも悪くありませんね」

シャル「それじゃ、僕は箒と」

ラウラ「私は“アヤカ”とだな」

箒「よし、やるぞおおお!」


「えいえいおおおおおおおおおおお!」


620  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:32:37.73 ID:VQgPk04n0

千冬「やれやれ、まったくこれだからのガキの相手は疲れる」

千冬「ホテルの駐車場で何をやっている? そもそも篠ノ之はあんなことを率先してするような熱いやつだったかな?」ヤレヤレ

山田「なんだかんだいって、篠ノ之さんの仲間入りがすんなりいってよかったですね」ニコニコ

千鶴「けれど、彼女自身が言うようにこれから過酷な人生が待っているわね」

千冬「そうだな……」

千冬「今回の『福音事件』といい、多忙な毎日がこれから続きそうだ」

千鶴「あまり根を詰めすぎないようにね。たまには弟くんにうんと甘えていいのよ?」

千冬「…………わかっている」フフッ

千鶴「ま……、その弟くんもIS学園で大立ち回りをさせられていたようだけどね」


千鶴「けれど、肝腎の『龍驤』の捜索はどうするつもり?」


千冬「そんなのは簡単だ。“アヤカ”自身に責任持ってやらせておけばいい」

千冬「どうせ明日は臨海学校最終日だったんだし、その日のうちに保護者同伴で探しに行かせればいい」

千冬「――――――『見つけるまで帰ってくるな』と言ってこい」

千冬「こっちは『銀の福音』に撃墜された捜索班の救助や被害の全容の確認で忙しかったんだから、責任が少なからずある“アヤカ”にやらせろ」

千鶴「はいはい。それじゃ捜索に協力してくれる人を集めてくるわね」

千冬「そうだ。それと死ぬほど心配してくれた女将さんに謝らせるという大事な責務が残っていたな。それもやらせないとな」

千冬「あーあ、めんどくさくて酒でも飲んでないとやってられん」

千冬「ちょっとホテルのバーで飲んでくる」

山田「い、いけません! 織斑先生!」

千鶴「それじゃ、またね」


621  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:33:20.23 ID:VQgPk04n0

















コンコン、・・・ガチャ

箒「雪村か?」

雪村「言い忘れていたことがあったから」

雪村「今日は7月7日――――――」


――――――お誕生日おめでとう、篠ノ之 箒さん。


622  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:34:50.68 ID:VQgPk04n0

――――――翌朝:7月8日

――――――渓流


ザーーーーーーーーーーーーー

バチャバチャ、バシャーン! ピクピク!

箒「で?」

雪村「何です?」 ――――――「魚取り網」を使った!

箒「お前はまじめに探す気があるのか?」

雪村「はい」 ――――――「イワナ」を捕まえた。

箒「それがどうしてこの場所に来て魚取りなんか――――――」

雪村「ほら、見つかった」 ――――――右腕には黄金の腕輪がいつの間にか嵌められており、夏の太陽の光に照らされて眩しい。

箒「え?!」

雪村「さ、帰りましょう」 ――――――「イワナ」を逃した。

箒「こ、こんなあっさり――――――」

箒「や、やっぱり、ここまでお前の計画通りってやつだったのか?」

雪村「たまたまうまくいっただけです」

箒「………………」

雪村「…………どうかしましたか?」

箒「いや、お前はホントに食えないやつだよ」

箒「まるで姉さんのように普段から何を考えているのかまったくわからないんだけれども、」

箒「でも、それでいいと思ってる」

雪村「………………」

箒「さ、やるべきことが終わったのなら、帰ろうか」

箒「そうだ。滝壺のあそこで私と千冬さんが『銀の福音』の仕留めたわけで――――――」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウン! ドーーーーーーーーーーーーン!


無人機「――――――!」

箒「………………な、なにっ!?」

雪村「………………鉢合わせたか」

無人機「――――――!」ジャキ

箒「――――――『紅椿』!」

雪村「くっ!(――――――『知覧』!)」

ジャキ、バーン!

無人機「!!!!」ドゴーン!

箒「――――――援護射撃?」(『紅椿』展開)

雪村「!」(『打金/龍驤』展開)


千鶴「せっかく気分良く帰れると思ったのにね。いったいどこのISかしらね?」ジャキ(本来の持ち主の許で『風待』展開!)


623  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:35:46.33 ID:VQgPk04n0

箒「一条先生! 『風待』ですか?」

千鶴「そうよ。『風待』は私の専用機だったから千冬もなかなかに苦戦したんじゃないかしら?」

千鶴「やっぱり、ここに何かがあったわけね?(まさか待機形態を調節して――――――例の『黒い無人機』のマイナーチェンジ版か)」チラッ

雪村「………………」

無人機「――――――!」

千鶴「おっと! どうやら、生きて返すつもりはないようだから、――――――3人で一気に畳んでしまいましょうか」ヒュウウウウウウウウウウウン!

千鶴「やれる?」バン! バン!

無人機「!!!?」ドゴンドゴーン!

箒「やれます!」

雪村「問題ありません」

箒「行くぞ、雪村!(――――――私で『PICカタパルト』を使え!)」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!

雪村「はあああああああ!(――――――フォーカス! 捉えた!)」ヒュウウウン!

無人機「――――――!!」


さあ、この物語『序章』における最後の対決はもはや消化試合となっていた。

相手は4月のクラス対抗戦に乱入してきた『黒い無人機』こと『ゴーレム?T』のマイナーチェンジ機なのだが、

あの時とは状況が全く異なり、『無人機』が圧倒的不利な状況であった。

なにせ、今回の相手は消耗状態の代表候補生2人ではなく、消耗なしの専用機持ち3人が相手という大きな違いがあり、

しかもその3人の中身は、篠ノ之 束がプレゼントしたばかりの世界最新鋭の第4世代型IS『紅椿』を駆る篠ノ之 箒に、

初代“ブレードランナー”一条千鶴の日本第2世代型ISの原点にして頂点の『G2』こと『風待』に加えて、

締めは、単一仕様能力『落日墜墓』によるPIC無効化攻撃が使える“アヤカ”の『打金/龍驤』までいるのだ。

この時点で戦力は段違いであり、しかも戦場が障害物無しのアリーナではなく、山林地帯の中の滝壺近くの開けた渓流であったのだ。

つい先日、この場所でアメリカ第3世代型IS『銀の福音』が大いに苦戦したばかりであり、

同じく広域殲滅を目的とした『ゴーレム?T』のマイナーチェンジ機も、地形を巧みに利用してチクチク攻撃を中ててくる『風待』に対応しきれなかった。

また、『ゴーレム』の戦略級レーザー砲に匹敵する出力の武器こそ他の3機は持っていなかったものの、

第4世代型IS『紅椿』の機動力は『ゴーレム』の圧倒的な瞬発力をも上回り、射撃性近接ブレードの二刀流によって付かず離れずの攻撃を維持できていた。

そして、この戦いで最も猛威が振るったのが、何を隠そう鈍足と評判の“アヤカ”の『打金/龍驤』であり、

臨海学校前に日本政府から受け取って量子変換していた彼専用パッケージがついにその真髄を見せたのである!

624  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:37:13.37 ID:VQgPk04n0

雪村「――――――高射砲『赤龍』!」バババババババ!

無人機「――――――!」ヒュウウウン!

千鶴「へえ、高射砲ね! なかなかいい選択じゃない! ――――――そこっ!」バン! ――――――グレネードランチャー!

箒「今だ!」ブン! ブン! ――――――射撃性ブレード二刀流による高出力エネルギー攻撃!

無人機「!?!?!?」ドゴンドゴーン! ドッゴーン!

千鶴「で、『龍驤』には他に何か良い武器ないわけ?(――――――単一仕様能力『大疑大信』!)」

千鶴「あ、いいものがあるじゃない。借りるわね!」

雪村「あれ? 何かが無くなったような感覚が――――――」

雪村「あ」

千鶴「――――――多節棍『青龍』!(これはシールドバリアーの匙加減でいくらでもしならせることができる半エネルギー兵器だから――――――!)」

箒「一条先生! 近すぎます!」

無人機「――――――!」ブン! ――――――ストレートパンチ!

千鶴「大丈夫!」ヒョイ ――――――豪腕を掠らせながら懐に飛び込んだ!

千鶴「こんなふうに脇から首を――――――、絞める!」ギュゥウウウウウウウウウウ!

無人機「!!!!??」グググググ、バキッ! ――――――首と左肩があらぬ方向に向くようになった!

箒「す、凄い。一瞬で接近戦を制して裏に回りつつ首を絞めた!」

雪村「なるほど、あんな使い方ができるのか…………ISのシールドバリアーも中身まではやっぱり守ってはくれないか」

625  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:38:08.27 ID:VQgPk04n0

千鶴「はい、このまま滝壺へダイブ!(イグニッションブースト!)」ビュウウウウン!

無人機「!!!!!!??」

千鶴「落下予測!」

雪村「!」ピピピピ・・・

雪村「撃ちますよ、離れて!(――――――単一仕様能力『落日墜墓』発動! 高射砲の1発1発に込めて!)」 LOCK ON!

雪村「行っけえええええええ!」バババババババ!

千鶴「はい、さようなら」ヒョイ

無人機「!!?!?!」ヒューーーーーーン、チュンチュンチュンチュン!

ザッバーン!

無人機「!?!?!?」ブクブクブクブク・・・・・・――――――水没!

千鶴「へえ、学年別トーナメントで3対9をこなしただけの威力はあるわね、『落日墜墓』」

箒「PICが無効化されて、滝壺から浮かび上がることができなくなっている!(凄い、凄いぞ、『落日墜墓』!)」

千鶴「なら、一気にとどめを刺すわよ!」

雪村「………………!」ジャキ! キュイイイイイイイイイイイン! キュウウウウウウウウウウン! ――――――対空砲を構えながらローラーダッシュ!

箒「いつもいつも難儀だな、雪村(何か使えるものはないか? 雪村の『PICカタパルト』専用に使える――――――あ、これは使える!)」

箒「雪村! この2つを使え!」 ――――――展開装甲ビット2基を縦と横に射出!

千鶴「?」

雪村「……ありがたい!(――――――フォーカス!)」ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!

千鶴「――――――『龍驤』が飛んだ!?(けど、明らかにスラスター推力による加速ではない!? いったい何が――――――?)」

雪村「うおおおおおおおおお!」ジャキ! バババババババ!

箒「永遠に滝壺の中に沈んでいろ!」ブン! ブン!

千鶴「けど、よくわからないけれど、さすがは“母と子の関係”ね!(空飛ぶ高射砲による対地攻撃とはこれまた珍妙な――――――)」バァン!


チュンチュンチュンチュン! バァン! バァン! チュドーーーン! ザッバーン!


626  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:39:18.59 ID:VQgPk04n0

千鶴「――――――IS反応の消失を確認。お疲れ様でした」

箒「どうだ? 空を飛んでいる感覚は?」

雪村「お、降りるまで切らないでください…………できるだけゆっくり降ろしてください」ガタガタ

箒「しまらないな、もう(――――――まあ、一度 自由落下を経験させられたんだ。その怖さをまた味わわせるわけにもいかない)」フフッ

箒「ほら、私の胸に飛び込んでこい」

雪村「は、はい…………じゃあ解除」フワッ (IS解除)

雪村「おっと」ヒュッ、ドサッ

箒「よし、降りるぞ、雪村」ギュッ

千鶴「あらあら。そうやってると本当に“母と子の関係”ね」ニコニコ

箒「え!?」カア ――――――『紅椿』の箒が“アヤカ”を抱っこ!

箒「いや、こうするのが一番負担が掛からない降り方であってだな――――――」


雪村「いつかの時と逆になりましたね」フフッ


箒「え?」

雪村「ほら、学年別トーナメント前日だったかに」

箒「あ、そういえば――――――!」


そう言われてみて、篠ノ之 箒は思い出した。

――――――――――――


土煙が晴れていき――――――、


一同「!」

ラウラ「…………!」ピィピィピィ

千冬?「無事だったか……」ホッ


3年生C「」

雪村「………………」

箒「た、助かったのか、私は…………?」ドクンドクン


――――――そこには『打鉄』を踏みつけて悠然と立つ黄金色の『打鉄』にお姫様抱っこされた美姫の姿があった。



箒「ハッ」

箒「し、死ぬかと思ったぞ、この雪村あああ!」ボカーン!

雪村「ぐっはぁ!?」

雪村「…………なかなか痛い」ズキズキ

箒「ふ、ふん! これはお前が軟弱だったからいけないのだからな!」フン!

――――――――――――
627  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:40:12.15 ID:VQgPk04n0

箒「そうか、あの時の――――――」

雪村「………………」ニコニコ

箒「なんだか懐かしいな。1ヶ月ぐらい前の話だっていうのに、ずいぶん昔のように思える」フフッ

箒「どうだ? 今の私は『足手まとい』か?」

雪村「いいえ。とても心強いです」

箒「そうか」

箒「なあ、雪村?」

雪村「何?」


箒「生きててよかったな、今日まで」ニッコリ


雪村「はい」

千鶴「そうね。死んだら元も子もないし、今日を生きる喜びにすら辿り着かなかったかもしれないしね」

千鶴「“パンドラの匣”の中に最後に残ったのがエルピスなんだし」

箒「――――――“パンドラの匣”」

雪村「………………」

千鶴「“アヤカ”くんは自分の中の“パンドラの匣”――――――“自分の可能性”を信じられるかな、今は?」

雪村「信じ抜くことにしました、今は」

千鶴「そう、それは良かったわね(やっぱり一夏くんじゃないと素直な受け答えはしてはくれないか、まだ……)」

628  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:41:17.98 ID:VQgPk04n0

千鶴「さあ、空から眺める初めてのあの朝日の感想はどうかしら?」

雪村「………………」

箒「綺麗です」

千鶴「あら?」

箒「あ、忘れてません?」

箒「私は昨日 専用機持ちになったばかりですよ? “アヤカ”もこうやって空を飛んだのは今日が初めてだし」

千鶴「そう。それじゃ、二人にとっての初めてのこの7月8日の朝日が二人の新しい門出を祝う光となるのね」

雪村「――――――『新しい門出』」

箒「――――――『門出を祝う光』って、そんな大袈裟な」ハハッ

箒「けれど、確かに昨日は私の誕生日で、姉さんにとんでもないプレゼントをもらって、成り行きで専用機持ちになってしまったけれども、」

箒「今度は私もお前と肩を並べてみんなを守っていくからな、雪村」


―――――― 一緒に背負って越えていこう、この運命を。




少女は少年に出会った。少年も少女に出会った。

少女は失われた少女の時代を取り戻していき、孤独に苛まれてきた少年は孤独と決別し、

停まっていた時間の歯車を二人で動かし、未来に生きる覚悟を決めた。

しかし、“パンドラの匣”から飛び出た厄難は二人の進む道を大きく阻んでくることだろう。

それでも、二人は未来へのエルピス――――――“可能性”を信じてこの道を進むことを決めたのである。


7月7日翌日の二人の新しい門出を祝う朝の陽射しを浴びて、いよいよ物語は大きく動き出す。


今年の4月、IS学園の始業日から始まった――――――、

“史上最強の兵器:ISの開発者の妹”と“世界で唯一ISを扱える男性”こと“アヤカ”の二人の新生は始まったばかりなのである。

そして、その裏で二人を支える“仮面の守護騎士”の導きもまたその真髄をまだ見せてはいない。

全ては『人を活かす』そのために――――――。


――――――目覚めよ、その魂!
                                          『剣禅編』 『序章』Aサイド 完


629  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:45:16.75 ID:VQgPk04n0

これまでの話の整理:『序章』A


朱華雪村“アヤカ”
実年齢:17歳(戸籍上:15歳)
IS適性:A
専用機:『打鉄/知覧』“呪いの13号機”→『打金/龍驤』“黄金の13号機”

原作本編にあたるIS学園での日々を描くAサイドの主人公であるが、原作とはまったく無関係なぽっと出の本作オリジナル主人公。
未だに“彼”の素性に関する情報が一切出てこないのだが、すでに“アヤカ”としての人生観を確立することに成功しているので、
物語初期と比べて物凄く人間らしい喜怒哀楽を見せるようになった(ただし、常識が欠如しているので度肝を抜かす爆弾発言が未だに多い)。

基本的にこれからの戦いはどう足掻いてもISの性能が全てを左右する性能バトルに入っていくのでご了承ください。
筆者としては原作でまったく描かれなかった一般機乗りの視点を二次創作で詳しく描こうと野心的になり、
その結果、織斑一夏の目眩ましとして用意された“アヤカ”というセンスの塊を通して一般機乗りのISバトルの可能性を模索したが、どうであっただろうか?
筆者は“アヤカ”が一般機乗りとして苦戦していた頃のほうが物語としては面白かったのではないかと思っている。
なにせ、IS世界が性能バトルだからこそジャイアントキリングにカタルシスを感じるわけであり、“アヤカ”が独特の強みを持った機体に乗った時点で、
バトルものとしての駆け引きやギリギリの接戦というものは存在しなくなるので、そうなったら人間ドラマで話を盛り上げる他なくなるので。

篠ノ之 箒に対しては周りから言われている“母と子の関係”であり、“学園生活を共にするパートナー”としての最高の信頼関係を築いており、
篠ノ之 箒が織斑一夏に慕情を募らせていても、“アヤカ”としてはそれ以上は求める気はなく、素直に二人の関係が成就することを願っている。
元々、常識が一度崩壊しているので、恋愛という概念を理解しておらず、家族に関する記憶も消されているのでそういうものだと認識している。
ただし、“アヤカ”にとっての一番は織斑一夏であり、その次に篠ノ之 箒が来るという決定的な序列があり、
“アヤカ”にとって織斑一夏は“人生の師匠”であり、篠ノ之 箒は“学園生活を共にするパートナー”なので格差があるのも頷けるだろう。

しかし、根源的な人間不信は治っておらず、基本的に周囲の大人に対して信用はしても信頼は絶対にしない。


篠ノ之 箒
本作の正真正銘のメインヒロイン。やったぜ、モッピー!
『あくまでも織斑一夏 一筋にする』というコンセプトの下に、
オリジナル主人公である彼女と似たような境遇の“アヤカ”との交流と苦悩と成長とが本作の大きなテーマであり、
篠ノ之 箒に織斑一夏ではない他の男が寄り付いていた場合のIFを健全に取り扱ってみたのが本作である。
筆者が掲載した前作:番外編の彼女と比べたら物凄く優遇されている(代わりにチョロインやセカンド幼馴染の存在感が全くない)。

『序章』終了時点では、『紅椿』との単一仕様能力『絢爛舞踏』が発現しておらず、代わりに『PICカタパルト』を習得している。
また、性格も極めて落ち着いたものとなっており、自分以上に無茶をしでかす“アヤカ”とのふれあいで自然と独善的な傾向も抑えられており、
そんな“彼”とは“母と子の関係”によって1年1組の名物となり、人望がかなり高い存在となっている。

ここで独白すると、筆者がIS〈インフィニット・ストラトス〉を見るきっかけになったのがキービジュアルの彼女に目が行ったから。
それからISのアーマードコアネクストと武装錬金を足して2で割ったような便利設定にアラジンの魔法のランプのような魅力を感じて見続けたのだが、
いつの間にか彼女については興味を持たなくなっており、筆者がこうして二次創作をする度に『生きにくい娘』だとずっと思われる始末でした。
なので、篠ノ之 箒の中の人が演じている某生徒会長とはいかずとも、明るく楽しく前向きに生きている様子を描こうと思った次第である。
原作の方向性からすれば織斑一夏に年がら年中固執しない点でまったくの邪道かもしれないが、
だって、他の二次創作だとあまりにも扱いが酷いので1つぐらいはこんな二次創作があったっていいんじゃないかと――――――。
公式ゲームのイグニッション・ハーツもどうしてああなった…………。


630  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:47:01.05 ID:VQgPk04n0

セシリア・オルコット
『序章』では影が薄いが、『第1部』からはメインイベントであるキャノンボール・ファストがあるので乞うご期待。
しかし、このセシリア・オルコットに対して納得がいく関係付けができてる二次創作を筆者は未だに見たことがなく、
ジャンル:二人目の男子でも何だか扱いに困っている作品が多く見られるような気がする。
おそらくはビジュアル面で原作人気でシャルロット・デュノアに次ぐ人気キャラ故に、
まじめに二次創作すると物語上は本当にどうでもいい扱いになりがちなので、この物語において最も扱いに困った人物であり、
原作では代表候補生制度やISバトルの導入を司っているわけなのだが、それは別に一夏がしっかり勉強していれば説明されることもなかったことであり、
筆者の過去作にもセシリアとのクラス代表決定戦が回避された例があり、1組に専用機持ちが極端に多すぎるせいでその優雅な存在感が埋もれてしまう。
ただ、キャノンボール・ファストのエピソードが原作に挟まれていたおかげで、筆者としては『第1部』での次回での彼女の扱いには困らずにすんだ。

狙撃にだけに徹していれば抜群の援護能力を持っている『ブルー・ティアーズ』のおかげで、割りと戦いでは重宝されている。
ただし、1対1の戦いだと明らかに劣っているのは原作でもその通りであり、世界に467機しかないうちの専用機補正でどうにかなっているが、
いつも思うが、確かに命中率を上げるために敵に接近するのはいいけれど、明らかな支援機でどうやってISバトルで勝てというのだろうか?
そこが見事に英国面らしいというか何と言うか、第3世代型ISの歪さを物語っているというか…………
一撃必殺ができないISでの狙撃機でかつ狭いアリーナでかつBT兵器以外の搭載を認めない見事なライミーっぷりに振り回されて哀れな……


凰 鈴音
登場当初は完全なニクミーであったが、徐々にその独特な存在感を発揮する、かなりの確率で姓を誤字されまくる人。
ただ、我の強い小娘共の中で内気な更識 簪と比べてもあまりに普通なので逆に使いどころに困る人物であり、
イマイチ、セカン党が歓喜するようなシナリオ展開が思いつかないので、原作での新メインイベントが待たれる。
セシリアと鈴は序盤から登場するものの、主人公が織斑一夏じゃない場合は本当に他人でしかなく、イベントが流されてしまうのだが、
セシリアにはキャノンボール・ファストの一件があるのに、今のところ鈴には転校直後しかイベントがないので最も不遇。

専用機も国柄をよく表しているというか、独特の強みを感じられない癖のない機体なので、今作の『福音事件』でも唯一お留守番に使われる始末。
いや、性能は無難で癖がないのはいいんだけれど、衝撃砲という名の空気砲ではエコなんだろうけど環境依存しまくってなかなか――――――。
しかし、連射が効く上に大気を操作する能力ゆえに意外と武器の相性ではIS学園最強の生徒会長相手には有利だったりする。
アニメ版準拠なので腕にも装備されている衝撃砲の存在は無かったことになっている。


631  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:47:31.63 ID:VQgPk04n0

シャルロット・デュノア
二次創作で最も人気でかつバリエーション豊富な展開が描かれるIS屈指の人気キャラ。あざとい。
ただし、情け容赦ないキャラと同部屋だと普通に助けてもらえないことがあるので、その辺の落差が本当に激しいキャラ。
このデュノア社騒動も二次創作では大人気の素材であり、デュノア社社長が何を思って“シャルル・デュノア”なる偽装工作をやらせたかで、
外道説、善人説、無能説などいろいろと脚色され、原作では曖昧になっているシャルロットとデュノア社の確執についても展開が変わってくる。
筆者としても、荒唐無稽な“2人目の男子”作戦をいろいろ考えて楽しませてもらってます。

原作では『織斑一夏(15)がいるからIS学園に残る』という選択をしているために、織斑一夏(23)の場合だとその理屈が通用しないので、
今作ではかなり存在感が薄れており、あざとい印象もない当たり障りのない普通の優等生となっている。
一方で、誰かにすがらないと本質的に生きていけない性格なので、今作では篠ノ之 箒と“アヤカ”との友情に生きている面が強い。
しかし、やはり織斑一夏(23)に対する念は強かったらしく、記憶が消されても身体やDNAがそれを憶えているので、
織斑一夏(23)絡みになると急に存在感が強くなるので、今後の彼女の人生行路はどうなることやら


ラウラ・ボーデヴィッヒ
織斑姉弟との因縁が原作で詳しく描かれているので二次創作ではあまり目立った改変が存在しないキャラ。
ただ、優秀なドイツ軍人としての経歴はあまり注目されない死設定となっている(ISがあらゆる軍事力を過去のものにした説を採るなら問題ないが)。
また、遺伝子強化試験体という生まれについては本編では誰にも喋っていないので、クロエ・クロニクルとの因縁以外で言及されるかもわからない。

今作では、織斑千冬の教育が行き届いており、織斑一夏も彼女に準じる武勇伝を持っているために、
織斑千冬による指導後の性格に大きな変化があり、代表候補生らしく気高くも要領の良い心強い味方として存在し続けている。
学園で暴力を働いたり、VTシステムで暴走したりはしていない(ただし、無断外出などはしている)。
篠ノ之 箒と並ぶ“アヤカ”の教官として大立ち回りをしており、本作においてはメインヒロインを除けばAサイドでダントツの存在感を誇る。

彼女の専用機は、第3世代兵器『AIC』 通称『停止結界』よりも遥かに厄介なワイヤーブレードのおかげで戦闘能力は抜きん出ている。
実際に『AIC』よりもワイヤーブレードのほうが原作でもアニメでも強そうに描かれており、
原作では普通に『白式』の装甲を削り取っているので明らかにISバトルで『零落白夜』並みに使っちゃまずい武器のような気がする。

※剛体化の設定は、筆者のIS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作で共通しているオリジナル設定です。
アニメ版では『零落白夜』以外で装甲が削られる描写が一切出てこないことから、単純でわかりやすくISの防御力の凄さが伝わるので採用しました。


更識 簪
織斑一夏(15)が存在しなければ、確実に今年の新入生で抜きん出た存在となるはずだった逸材。
内気なナードのメガネっ娘の印象から地味な存在に思われがちだが、
二次創作の界隈では織斑一夏の嫁としては一番の安牌と評価されたり、代表候補生としてもラウラを除けばトップクラスのドライバーと推察されたり、
掘り下げていけば、これまで5人の小娘共と比べて抜きん出た特長が見つかっている。
ただ、アニメ第2期からの登場なので、そこまで至っていないことから姉共々登場しないことのほうがずっと多いので、やはり不遇。
また、イジケル前の性格なので、こうだった可能性は大きいが、原作からすればキャラ崩壊しているとも言えるなかなかに難しい立ち位置。

本作では専用機持ちだけの初のイベントとも言える臨海学校に専用機の一応の完成が間に合っているので、
“世界で唯一ISを扱える男性”への確執はすでに解消されており、“アヤカ”の機体が『打鉄』なので互いに参考になるところが多く、
篠ノ之 箒やラウラ・ボーデヴィッヒとは違った面から“アヤカ”の心強い味方となっている。


632  ◆G4SP/HSOik[saga sage] 2014/11/18(火) 10:49:00.98 ID:VQgPk04n0

第2世代型IS『打金/龍驤』“黄金の13号機” 専用高機動パッケージ『双龍』換装型
専属:朱華雪村“アヤカ”
攻撃力:C+高射砲『赤龍』と多節棍『青龍』による距離と手数が補われた
防御力:A-両肩の装甲が高射砲『赤龍』のための各種センサー類に換装されたために防御力は低下
機動力:D+ローラーダッシュが追加されて陸上移動はマシになったが、それでも空戦能力は皆無なので機動力は実質的に最低クラス
 継戦:C+武器が追加されたので平均的な万能さを獲得
 射程:S 高射砲『赤龍』による長距離射撃が可能となる
 燃費:A+武器の使い分けによるエネルギー消費が出てきたが、総合的な戦闘能力の上昇と比較すれば微々たるもの

第8話A にて、学年別タッグトーナメントでの活躍と専用機持ち同士による1対1の模擬戦での全戦全敗の記録から、
日本政府が今更になってPRし始めた『打金/龍驤』と“世界で唯一ISを扱える男性”の評判が落ちないように、
急遽 特別誂えで“彼”の特性にあった武器が添付された高機動パッケージ『双龍』を換装した形態の“黄金の13号機”。

最大の欠点だった機動力は、ローラーダッシュとターンピックによる足回りの追加装備によって陸上移動能力の強化が施され、
ISのPICが使いこなせずに徒歩で動き回っていた鈍足さが少しばかりマシとなった(機動力が最低クラスなのは変わっていない)。
最も苦手だった射撃戦では、ローラーダッシュと両肩の盾を換装した各種センサー類の併用による高射砲『赤龍』による遠距離射撃が可能となり、
弾薬費の関係で多くは注ぎ込めないが全IS中トップクラスの対空迎撃能力と射程を得ることになり、単一仕様能力『落日墜墓』がいよいよ猛威を奮う。
最も得意だった接近戦では、剛体化技術を利用して硬軟自由自在の半エネルギー兵器:多節棍『青龍』×2による豊富な行動が可能となり、
基本的に接近戦はこれまで通り『打鉄』の標準装備:近接ブレード『葵』で戦うが、手数や搦め手が必要な時に重宝される。

所々で、ドイツ第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』と似通った役割の装備や運用となっており、
同じ陸上砲撃機に分類されることとなるが、基本的には世界最新鋭のウルトラハイスペック機と比べるまでもなく下位互換の評価が下されている。
しかし、継戦能力や燃費に関して言えば『龍驤』が勝っているので、どちらが実用的かは戦況によるところが大きい。
実際、乗り手の力量(単一仕様能力込み)次第では、『打鉄』の派生機である本機でも第3世代機を超える戦果も狙えるのが恐ろしいところ。
この点が、『打金/龍驤』の派生元となる世界第2位のシェアを誇る日本国産の傑作機『打鉄』の基本設計の優秀さを物語っている。

基本的に、単一仕様能力『落日墜墓』を発動させて高射砲『赤龍』で敵ISに1発でも弾を命中させれば、
それで相手のPICを封じられるのでそれで実質勝ったも同然なので、このコンボは本当の脅威以外には封印となっている。
なので、これだけの装備が追加されても肝腎の専用機持ち同士の1対1の模擬戦では相変わらず勝ち星1つ上げられていない。
ドライバーの特性でPICコントロールが未だに不自由なので、本質的にISバトルにおいては単機で勝てる仕様の機体ではなくなっており、
『シュヴァルツェア・レーゲン』と同じ陸戦砲撃機ではあるものの、『ブルー・ティアーズ』と同じ支援機としての性格が非常に強い。
最適なパートナー機体は言うまでもなく篠ノ之 箒の『紅椿』であり、展開装甲ビットを本機の『PICカタパルト』に利用すれば、
他者依存で『龍驤』でも擬似的に空を飛ぶことも可能であり、その場合のコントロールは『紅椿』に大きく委ねられる。


装備
・近接ブレード『葵』
・IS用連結高射砲『赤龍』+ 射撃管制装置群『龍玉』×2
・半エネルギー多節棍『青龍』×2
・ローラーダッシュ+ターンピック
・背面強化スラスター(今のところ、デッドウェイトの死装備なので展開すらされてないキャノンボール・ファストを見越した装備)

特技
・未確認技術『PICカタパルト』 必殺技『昇竜斬破』
・単一仕様能力『落日墜墓』
・コア固有能力『??????』

634  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:12:18.20 ID:RGK9H7Jp0

第10話A+ ひと夏の想いでに焦がれる多重奏・表
Lightside Bloom

――――――織斑邸


ミーンミンミンミーン! ミーンミンミンミーン!

シャル「………………」ゴクリ

シャル「大丈夫、大丈夫……」

シャル「『今日は家に居る』って言ってたんだから」ドクンドクン

シャル「…………うう」ソー ――――――インターホンにおそるおそる指を伸ばす!

シャル「………………うう」ソー

シャル「え、えい!」ポチッ

ピィンポーン!

シャル「あ……」ドクンドクン

シャル「よ、よし!」


一夏「あれ? シャルロットちゃんか?」(両手には袋いっぱいに膨らんだ買い物袋がある)


シャル「ハッ」ビクッ

シャル「へ!? へ、へ、うわああああ!?」

シャル「い、一夏さん?!」

シャル「あ、あの……、ほ、本日はお日柄もよく!」

一夏「は」

シャル「――――――じゃなくて、あの……、」

シャル「IS学園のシャルロット・デュノアですが、織斑さんはいらっしゃいますか?」モジモジ

一夏「何 言ってんだ、シャルロットちゃん……?」

シャル「ふわぅううう……」アセアセ

シャル「き……、」

一夏「『き』?」


シャル「来ちゃった」ニコー


一夏「………………」

シャル「(うわぁ……、僕の馬鹿、僕の馬鹿! 何 馴れ馴れしく一夏さんにこんな大胆なことを…………!)」

シャル「(そりゃ、確かに一夏さんは僕の後見人をしてくれてるアルフォンスさんとは仲良しだし、)」

シャル「(アルフォンスさんも熱烈に僕と一夏さんとの関係を薦めてくれてるけどさ!)」ドキドキ

635  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:13:20.03 ID:RGK9H7Jp0

一夏「そうか。じゃあ上がっていけよ」

シャル「上がっていいの!?」パァ

一夏「遊びに来たんだろう? それとも、別に予定でもあるのか?」

一夏「俺がこっちに来ているのを知ってるってことは、千冬姉から日にちを聞いてここに来てるってことだろう? 違うのか?」

シャル「ううん! 無い! 全然! まったく! 微塵もないよ!」 ――――――身体全体を使って表現する!

一夏「ははは、変なやつだな~」(直球)

シャル「あはは……(――――――『変なやつ』って言われた)」ニコッ


箒『――――――ちゃんと結婚してくれるか? 私は千冬さんとなら同居してもいい! 私だってISドライバーなんだから!』


シャル「………………」

シャル「(――――――ごめんね、箒)」

シャル「(………………箒との関係のこともあるけれど、やっぱり僕はこの人のことが気になるから)」

ガチャ

一夏「あ」


友矩「そうですか。どうぞどうぞ、くつろいでいってくださいね、シャルロットちゃん?」ニヤリ


友矩「ふふふふ」ゴゴゴゴゴ(三角巾にエプロン姿の実に所帯染みて滲み出るオーラ!)

シャル「いっ」ゾクッ

友矩「――――――『来ちゃった』からにはちゃんとおもてなししてあげませんとねー」ニコニコー

シャル「…………あ」


――――――――――――

箒「だから ほら、早く。私を強く抱きしめてくれ……」ドクンドクン

一夏「…………まさか9歳も歳下の子と情熱的な抱擁をすることになるとは思わなかったよ」ドクン

一夏「こうでいいか?(うぅ、こうして見ると本当に綺麗になったな。いい臭いもするし、この胸の膨らみと弾力…………)」ギュッ

箒「ああ………………」ドクンドクン

箒「そうだ。もっと、もっとだ……」ドクンドクン

一夏「…………だ、大丈夫なのかよ?(うわっ、凄く色っぽい…………股倉のあたりに血流がいっちゃうよ、これは!)」ゴクリ

友矩「………………」グースカースヤスヤー

一夏「(…………友矩ぃ! 早く止めてくれぇ! 友矩としてはどこまでがセーフなのぉ?!)」アセダラダラ

――――――
シャル「ああ…………」ドキドキ
――――――」

友矩「………………!」チラッ

――――――
シャル「…………!」ビクッ
――――――

友矩「………………」グースカースヤスヤー

――――――――――――

636  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:13:47.91 ID:RGK9H7Jp0


シャル「ひゃ!?」アセタラー

シャル「え、えと…………(うわぁ! 聞かれてた聞かれてた聞かれてた聞かれてた~!)」アワワワ・・・

一夏「うん。どうしたの、シャルロットちゃん?」

シャル「な、何でもないよ、一夏さん?」ニコニコー

シャル「(ぼ、僕の馬鹿ぁ! 何 忘れてるのさ! 一夏さんの隣にはこの人がいるってことをおおおおおおおお!)」トホホホ・・・

シャル「(やっぱり、箒って凄いや…………この人がいる前であんな大胆なこと、よくできたもんだよ)」

シャル「(そう、箒が言うように『最初の一歩を踏む勇気』ってやつが僕には足りてないのかな?)」

シャル「(これが箒と僕との差ってやつなのか。ホントに箒って凄いな…………)」


箒『お前も案外 不器用なやつなんだな、私が言うのも難だが』

箒『ああ。最初の一歩を踏み出す勇気が一番難しいんだけどな』

箒『けど、その一歩さえ踏み出すことが覚えれば、あとはもう行くところまで行くさ』フフッ


箒『よ、喜べ! 私のような見目麗しい女の子が長年お前を恋い慕ってるんだぞ……?』ドクンドクン

箒『…………これからもずっとな』イジイジ

箒『お前も人間として感謝の念を持つのなら、いつかちゃんと私に恩返しをしろ』モジモジ


箒『およそ20年近く一途に想い続けることになるんだ。私がどれだけ本気だったのかを周りの連中に見せつけてやるんだ』




637  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:14:48.31 ID:RGK9H7Jp0


シャル「ああ…………」キョロキョロ

シャル「(ここが織斑先生と一夏さんの家か…………マンションとは違ったこのマイホーム感がたまらない)」

一夏「はい。いつものアールグレイ」コトッ

シャル「う、うん。ありがとう」

シャル「ああ ホント……、この味 好きだな」ゴクッ

シャル「(一夏さんっていい旦那さんになりそうだよね。――――――だ、旦那さんか)」ドキドキ

シャル「(あ、憧れたって別に罰は当たらないよね? だって、織斑先生の弟さんだし、カッコイイし、朗らかで優しいし……)」

シャル「(ぼ、僕にだってまだチャンスはあるはずだよね! アルフォンスさんだって応援してくれてるし!)」

シャル「(一夏さんと二人っきり――――――妙にその響きが僕を捉えて放さない。どうしてなんだろう、この気持ち?)」

シャル「けど――――――」チラッ


一夏「友矩、今日のホームパーティの準備は大丈夫か?」

友矩「うん。前にちゃんと整理整頓しておいたおかげですぐにバーベキューできるよ」

一夏「よし、今日はIS学園御一行様だからな」

一夏「甘いモノの準備はちゃんとできてるか?」

友矩「できてるよ。今日はティラミスとパンプキンパイとシフォンケーキ」

一夏「うんうん。やっぱり我が家の調理場は広いし整っていて料理が捗るな」

友矩「大学時代、パーティ専用の別荘と言われたぐらいだもんね。――――――誰もいないから」

一夏「…………今年も俺んちで同窓会やるのかな? 勘弁してくれよなー、神社の集会所だけにしてくれよな」

友矩「いつものことじゃない」

一夏「それもそうだな」

友矩「ま、一夏は僕がいないとこんなハードスケジュール一人でこなせないんだけどね!」

一夏「それを言うなって! お前も俺がいなきゃダメなくせに!」

男共「ははははははは!」


シャル「うう…………」ジー

シャル「(すでに僕が入り込む余地がまったくないのが辛いところ……)」トホホホ・・・

シャル「(母さん、アルフォンスさん……。僕に『最初の一歩を踏む勇気』をください……)」

638  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:15:32.94 ID:RGK9H7Jp0


ピンポーン!


シャル「あ」

一夏「あ、セシリアさんが来たのか」

シャル「ええ?!」

友矩「……一夏? まだ顔を合わせたことはなかったんじゃ?」

一夏「ついさっき買い物の途中で会ったんだよ」

友矩「え」(嫌な予感しかしない)

一夏「それじゃ、お出迎えするよ」

友矩「う、うん……」

シャル「お母さん、アルフォンスさん…………」トホホ・・・



セシリア「ど、どうも、ごきげんいかがかしら、一夏さん?」ドキドキ

一夏「ようこそ、セシリアさん。ここが“ブリュンヒルデ”織斑千冬の実家ですよ」ニッコリ

一夏「あ、ちゃんと片付けてありますから、安心してくださいね」

セシリア「は、はい」ドキドキ

一夏「うん? あっ、そう緊張しなくていいぞ? 千冬姉はまだ帰ってきてないから」

一夏「それとも、日本の邸宅にお邪魔するのが初めて? それなら靴を脱いでスリッパを履いてくれればそれでいいからね」

セシリア「わかりましたわ、一夏さん」ニッコリ

ガチャ

セシリア「あら」

シャル「あううう……」ドヨーン

セシリア「まあ、シャルロットさんが一番乗りでしたのね。先を越されましたわ」

一夏「それじゃ、セシリアさん? 傘はこっちに置いて、こちらの席にお座りになって、靴はここで脱いで、こっちのスリッパを――――――」

セシリア「は、はい……」ドキドキ

友矩「明らかに初めて会ったばかり距離感じゃなーい(まあ、一夏の方からは会ってはいるし、為人はよくわかってはいたけど)」(悟り)

シャル「はあ…………(そうだった。今日は『学園のみんなで織斑先生も交えてホームパーティをしよう』って話だったよ……)」トホホホ・・・

セシリア「あら、こちらの方は?」

友矩「お初にお目にかかります、夜支布 友矩です。織斑一夏のルームメイトです」

セシリア「ご丁寧なご挨拶 痛み入りますわ。私は、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ」

セシリア「それであなたは一夏さんの『ルームメイト』ですか。一夏さんと同じく素敵な方ですわね」

セシリア「こちらこそよろしくお願い致しますわ」ニコッ

セシリア「(『ルームメイト』――――――いったいこの方は一夏さんとどういう関係なのかしら?)」


639  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:16:24.05 ID:RGK9H7Jp0

セシリア「これ、美味しいと評判のデザート専門のケーキですわ」

一夏「お、ありがとうございます」

セシリア「それと、これは私のメイドが手土産にと贈ってくれたアールグレイのセットですわね」

一夏「え」

シャル「――――――『アールグレイ』!?」

友矩「――――――『メイド』!?」

セシリア「あら、どうしましたの、みなさん?」

一夏「あ、いえ、実は俺もアールグレイを嗜んでまして――――――、試しに俺んちのアールグレイ、飲んでみません?」コトッ

セシリア「まあ、それではいただきますわ」

セシリア「私、フレーバーティーはあまり飲みませんけれど、アールグレイだけは比較的良く飲みますのよ」

シャル「………………」ゴクリ

友矩「…………すぐにわかるはずだ」

セシリア「では、いただきますわね」ゴクッ

一夏「…………どう?」ジー

セシリア「!」ドキッ

友矩「…………!」

セシリア「え、え!?」

シャル「ど、どう? 僕、凄く気に入ってるんだけど、美味しいでしょう?」


セシリア「こ、この味って、チェルシーの淹れるアールグレイとそっくり――――――」


一夏「!」ガタッ

友矩「すみません、セシリアさん! 早速ですが、手土産のアールグレイのセットをここで開けていいですか?」

セシリア「か、かまいませんことよ……(きゅ、急に顔色を変えてどうしたのかしら、みなさん……)」

友矩「一夏!」

一夏「あ、ああ……」


スタスタスタ・・・、バッバッバババ!


セシリア「あの、いったいどういうことなのでしょうか? アールグレイにいったいどういった因縁が…………」

シャル「そっか。セシリアはまだ知らないんだよね」

シャル「実は、これは“アヤカ”のことで――――――」

シャル「(僕もなんだけどね。――――――アールグレイとの因縁ってやつは)」

シャル「(飲んでいると、何か大切なことを忘れているような気がしてきて、切なくなってくるんだよね…………)」

640  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:16:56.88 ID:RGK9H7Jp0


パカッ


一夏「!」

友矩「どう?」

一夏「…………これだ。たぶんこいつで間違いない」

友矩「これで『3年前のトワイライト号事件』について訊けば、おそらく全てがはっきりする」


友矩「――――――『トワイライト号事件』に乗船していた誰かが“彼”という可能性!」


友矩「本当なら日本政府が全てを知ってるんだから、僕らがこんな探偵ごっこをしてまで真実を追いかける必要はなかったんだ……」

友矩「そして、『トワイライト号事件』において禁忌のシステムが初めて確認されて、最重要機密事項と化して――――――」

友矩「けれど、これも“パンドラの匣”の奥に封じ込められている真相に辿り着くための重要な手掛かりだ……」

友矩「まさか、こんなにも世界が狭いだなんて思いもしなかったよ……」

一夏「ああ……」


――――――俺、何か巨大な運命というものの存在を強く感じてるよ。


一夏「俺はもう『トワイライト号事件』から一生 逃げることができないのかも……」

友矩「…………一夏」ポンッ

一夏「友矩?」

友矩「たとえどんな事実がそこにあったとしてもそれは所詮は過去でしかないんだから」

友矩「一夏は今 すべきことをやっていればいい」

友矩「だから、一夏は今の内にセシリアにそのメイドと『トワイライト号事件』の関係を確かめて、」

友矩「そしてすぐに、今日のホームパーティの準備に取り掛かって」

一夏「……わかった、友矩。まったくもってその通りだよ」


641  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:18:09.27 ID:RGK9H7Jp0

――――――庭:ウッドデッキ周辺


一夏「よし。バーベキューの準備はできたぜ」

友矩「テーブルにイスに取り皿――――――その他諸々の準備も完璧!」

一夏「まったくもう! みんなして、俺の実家をパーティ会場にしやがって」

友矩「おかげで、団体様20名がお越しになっても対応出来るだけのイスとテーブルが寄贈されたんだからいいじゃない」

一夏「千冬姉さまさまだぜ……」

一夏「………………」キョロキョロ

友矩「どうしたの?」

一夏「どうやって千冬姉はこんなにも大きなマイホームを建てられたんだろう?」

友矩「……10年以上前の記憶が欠落していることについて?」

一夏「ああ。千冬姉は頑なに両親のことを話してはくれないし、今はこうやって自立できてるからもう気にならなくなったけど、」

一夏「それでも、帰ってくる度に『俺の家ってこんなにも大きかったんだー』って驚いて、昔のことが気になりだすんだ……」

友矩「一夏」

一夏「わかってる。今の俺にはまったく関係ないことだし、考えてもしかたがないことなのはわかってる」

一夏「ただ、『そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか』って思っただけで」

友矩「………………」

一夏「悪い。さっきからウジウジと。らしくないよな」

一夏「それじゃ、こっちのピクニックテーブルにパラソルを差してくれよ」

友矩「ああ」


「いぃーちかぁー!」タッタッタッタッタ・・・!


友矩「うん?」

一夏「この声は――――――!」


鈴「いええええい!」ピョイーン!


一夏「おお?!」

鈴「久しぶり、一夏!」ギュッ

一夏「どこ乗ってんだよ、お前!」フラフラ・・・

鈴「ふふん。移動監視塔ごっこってやつ?」ニコニコ

友矩「相変わらずだな、鈴ちゃんは」

鈴「そういうあんたこそ! いつまで一夏と一緒にいるつもりなのよ! ベタベタと!」

鈴「あんたは一夏と千冬さんの母親なわけ?」

友矩「ずいぶんな言われようだな……(ああ 改めて見ると、――――――わかりやすい娘だな~)」

鈴「それに、せっかくご贔屓にしていた中華料理屋の看板娘がわざわざ会いに来てやってるのに、一夏からは何かないわけ?」

一夏「こんなんで感動もヘッタクレもあるか! いいかげんに降りろ!」ジタバタ

鈴「はーい」ピョイン、シュタ

642  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:19:12.81 ID:RGK9H7Jp0

友矩「まったく、何の連絡も無しにこの街から居なくなって、急にまた何事も無かったかのように出てこられたら感動も何もあったもんじゃないね」ジロッ

鈴「そ、それは……、悪かったわよ」

一夏「……でも、こうやってまた元気な姿で会えたんだし、特にわだかまりもなく前と同じように付き合えるんだったらそれでいいさ」ニコッ

鈴「う、うん。あ、ありがと……」

鈴「で、でも……、『前と同じ』ってわけにはいかないのよね……」モジモジ

一夏「へ」

鈴「あ、何でもないわよ、馬鹿ぁ」

一夏「そうだ、中国の代表候補生なんだっけ、今? しかも、専用機持ちの!」

鈴「なんだ、知ってるんじゃない! 知ってるんだったら私の応援に来なさいよね。招待券だって贈ってあげたのに」

一夏「ごめんごめん。俺も社会人で勤勉だからさ?(――――――鈴ちゃんが頑張ってるのはクラス対抗戦で具に見ていたし、これで勘弁な)」

鈴「あ、そっか。あんた、今 23歳になるんだっけね。――――――私と9つの違いか」ボソッ

一夏「え」アセタラー

鈴「え、ううん。何でもない。こっちの話よ、こっちの話……」モジモジ

友矩「やっぱりねー」(察し)

一夏「にしては、代表候補生にもなったのにあんまり変わってないような――――――ま、1年しか経ってないし当然か?」ジロジロ

鈴「」イラッ

友矩「あ」(察し)

鈴「ふんっ!」バキッ

一夏「あうっ!?」

鈴「なんてこと言うのよ、あんたはぁー!」ウガー!

一夏「ええ……」グハッ

友矩「言葉はもっと選びましょうね、一夏」

一夏「ま、マジかよ……? い、いったい何に引っ掛かったんだ…………(悪い意味での高校デビューとかしてなくてホッとしただけなのに…………)」

鈴「はあ……、やっぱり一夏は一夏だった…………」ハア

鈴「けど、――――――『帰ってきたんだな』って」フフッ


※第1期OVAの冒頭を見ると、いかに織斑邸が広いかがよくわかります。ウッドデッキ付きで家を取り囲むように広々とした庭までついてます。

643  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:20:00.92 ID:RGK9H7Jp0


セシリア「そろそろ お時間でしたわね」

シャル「そうだったね」

鈴「くぅー、せっかくの感動の再会の余韻を味わう時間が…………(――――――先に二人が来ていただなんて予想外!)」

ピンポーン!

一夏「お、来た来た!」

スタスタスタ・・・・・・ガチャ


箒「よ、よう、一夏……」モジモジ

ラウラ「こ、この前は世話になったな……」イジイジ

簪「こ、こんにちは……」ドキドキ

雪村「………………一夏さん」ハラハラハラ 


一夏「おう、よく来てくれたな、みんな」ニッコリ

一夏「千冬姉はまだ帰ってきてないけど、ホームパーティを始ようぜ!」

箒「お、おう! 今日はみんなで楽しもー!」ニコー

ラウラ「あ、ああ!」ニコー

簪「う、うん!」ニコー

雪村「…………助けてください、友矩さん」

友矩「あれ? もしかして、一夏って1年の専用機持ち全員攻略してない?(――――――世界を股にかけるロリコン確定?)」


織斑一夏への好感度

篠ノ之 箒:「私が立派な社会人になったら結婚してくれ!」

セシリア・オルコット:素敵な殿方(ついさっき会ったばかりとは思えない距離感)

凰 鈴音:親公認。年頃の女子が年上の男性の家に何度も入り浸る

シャルロット・デュノア:記憶が消えてもアールグレイで繋がる幻想的な慕情

ラウラ・ボーデヴィッヒ:織斑一夏の男の大器に知らず知らずに魅了される

更識 簪:誘拐事件で助けてくれた上にアフターケアまでしてくれたみんなのヒーロー

朱華雪村:最も信頼している人物 =“仮面の守護騎士”織斑一夏


644  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:20:42.17 ID:RGK9H7Jp0

箒「ところで、なぜ3人は先に来ていたんだ?(まさかとは思いたくはないが――――――)」

シャル「ぼ、僕は、その……、遅刻しないように早めに来ていたら一番早く着いちゃって……」アハハ・・・

セシリア「私も今日のために予約していたケーキを取りに行く都合で、早めに参らせていただきましたわ」

鈴「何? 悪い? 私はね、一夏の家には何度も遊びに来ていた仲なのよ?」

箒「なにっ!?」

小娘共「!?」ジロッ ―――――― 一斉に一夏の方を見る!

一夏「!!!?」ビクッ

簪「みんな、やっぱり気になってたんだ。そうだよね」

雪村「…………またですか、一夏さん」(呆れ)

鈴「それだけじゃないわ」

鈴「一夏はしょっちゅうウチに来て食事してたのよ。私がこの街に引っ越してきた時からね」ドヤァ

箒「一夏! どういうことだ! 聞いてないぞ、私は!」

友矩「一夏?」ニコー

一夏「…………!」アセタラー

一夏「まあ落ち着け、みんな!」コホン

一夏「よく鈴の実家の中華料理屋に行ってただけだ……」アセタラー

一夏「確かに出来た当時は本場中華料理ってやつにメチャクチャはまってよ? よく通い詰めてたわけでしてぇ…………」アセアセ

箒「なにっ、――――――店なのか」ホッ

シャル「お店なら何もおかしなところはないね」ホッ

小娘共「ホッ」

雪村「…………フゥ」

鈴「………………」ムスッ

一夏「え」ビクッ

友矩「わかった、一夏?(年頃の乙女は気になってる男性が身近な同性と付き合っていることに生理的な嫉妬心を覚えるものらしいんだよ?)」ジロッ

一夏「わかった。助けてくれ、友矩ぃ……(たかだか飯を食いに行くだけでこの反応――――――、世知辛い世の中だよ)」トホホ・・・

箒「なら、私の勝ちだな、凰 鈴音」

一夏「は」

鈴「はあ?」ジロッ

箒「私は一夏とは生まれた時からの付き合いなのだからな」ドヤァ

鈴「なんですって?!」

小娘共「!!」

一夏「やめてくれええええええええ! 油を注ぐのは鉄板の上だけにしてくれえええ!」ガバッ


※“童帝”織斑一夏は大学時代に血で血を洗う修羅場や血を見るような地獄を何度も味わっているので痛い目に遭った分だけ経験値が積まれています。


645  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:21:57.19 ID:RGK9H7Jp0

一夏「ゼエゼエ」

一夏「まったくもう! 人の家に来て喧嘩はやめてくれ!」ゼエゼエ

箒「す、すまない、一夏」

鈴「わ、悪かったわよ……」

一夏「そういえば、箒ちゃんと鈴ちゃんはわかる気がするけれど、」

一夏「どうしてみんな 俺ん家に来たんだ? ――――――あ、ホームパーティの準備はすんでるよ」

箒「そんなの決まっているではないか」

鈴「そうよ。久々にあんたの顔が見たくなったから来たのよ」

一夏「いや、二人には聞いてないよ」

箒「気のせいか? やけに私への扱いがぞんざいではないか?」

一夏「そんなつもりは――――――」

鈴「それとも何? いきなり来られると困るわけ?」

鈴「――――――●●いものでも隠すとか」ニヤリ

一夏「いや、俺はマンションにだいたいの私物は持ってってるから」

鈴「え」

箒「ああ、確かにな」

鈴「え!」

シャル「そうだね。ここも大きくて素敵なところだけど、あっちのマンションも立地条件が良くて違った趣きがあるよね」

ラウラ「そうだな。居心地がいい場所だったな」

鈴「え?!」

一夏「むしろ、見られて困るのは千冬姉の方――――――」


雪村「――――――それ以上はいけない!」


一夏「え、“アヤカ”?」

一同「!!??」

雪村「………………」

646  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:22:36.67 ID:RGK9H7Jp0

鈴「そ、そうね……。千冬さんの名誉のためにこれ以上は言わないでおいてあげる……」アセタラー

友矩「うん。それが賢い選択だね(よくやった、“アヤカ”。悪い話の流れをきみが言うことで断ち切れたぞ)」ニッコリ

鈴「ん?」

セシリア「え?」

友矩「どうかしましたか?」ニコニコ

鈴「………………ううん」アセタラー

セシリア「な、何でもありませんわ……」アセタラー

一夏「そういえば!」

友矩「あ」

一夏「箒ちゃん、似合ってるな、それ」

箒「!」 ――――――ポニーテールを結う白のリボン!

箒「あ、ああ……」テレテレ

セシリア「そういえば、リボンが変わってましたのね。確か前は緑色でしたかしら」

箒「そうだぞ。ラウラとシャルロットならわかるだろう? この前 もらったアレだ!」ニッコリ

ラウラ「おお、そうだったのか!」

シャル「へえ、それを誕生日に?」

箒「そういうことだ。大切に使わせてもらっているぞ、一夏」ニッコリ

一夏「そりゃよかった」ニッコリ

鈴「むむむ!」ムスッ

友矩「情報量がいくら多いからって脇道に逸れすぎ!(しかも、その度にあっちではアゲて、こっちではサゲてしまうから爆弾処理が大変だ!)」ハラハラ

雪村「…………大変ですね、ホントに」ハラハラ

簪「……一夏さんってこんな人かぁ(普段はこんな感じでも、いざとなったら――――――)」フフッ


647  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:23:23.75 ID:RGK9H7Jp0

友矩「話を戻そうか」

一夏「あ、うん。何の話だったっけ?」

友矩「みんなが今日のホームパーティに参加してくれた理由について」

一夏「あ、そうだった そうだった」


セシリア「私は“ブリュンヒルデ”織斑千冬先生の生家を訪ねる貴重な機会として参らせていただきましたわ」

セシリア「(それに、チェルシーと一夏さんの接点について興味が湧きましたことですし、何か土産話となるものを得て帰りたいものですわ)」

シャル「僕は機会があればまた『一夏さんとお話できたらなぁー』って」アハハ・・・

シャル「(それで、僕が感じている一夏さんへのこの感情の正体がわかるといいな…………)」

ラウラ「私が尊敬している二人の偉人の家ということで興味がある」ゴクゴク

ラウラ「(さて、マンションの時は織斑一夏の常に隣にいるあの男が目を光らせていたから探れなかったが、ここならどうだ?)」

簪「私は、この前のお礼がしたくて……」モジモジ

簪「(よかった。一夏さんは私生活でもカッコイイ人で。私も代表候補生なんだからこの人を見習って頑張らないと)」

雪村「僕はただの付き添い 兼 荷物持ち。別に来たいと思っていたわけじゃないです」

雪村「(だって、一夏さんとは学園でちょくちょく会ってるし)」


一夏「そうか。なるほど、なるほどね」

一夏「千冬姉は正午になってから来るかな。午前の仕事が終われば直帰だったはずだから」

一夏「ただ、この人数だとあっという間に食材が切れて間が保たない気がするな」

友矩「じゃあ、正午になってからバーベキューを始めようか」

一夏「そうだな。外は暑いし、家の中で何かするか」

小娘共「賛成!」

箒「(当たり前だ! わざわざ一夏が帰省している日を狙って来たのだ)」

箒「(いつまた会えるとも知れないのだから、会える時にはしっかりと会っておくのは、その……、婚約者の勤めだろう?)」

鈴「(外に出て 五反田兄妹にでも出会ったら台無しじゃない、馬鹿ぁ!)」

鈴「(それに、まさか専用機持ち全員が一夏に興味があるだなんて知ったからには、――――――ますます退けない!)」

一夏「さて、この人数でやれることっていうと――――――」


648  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:24:27.54 ID:RGK9H7Jp0

――――――ボードゲーム:バルバロッサ


ラウラ「ほう? 我がドイツのゲームだな」

一夏「ああ。他には『トランプ』とか『ジェンガ』でも良かったけど、せっかくだし、ここはドイツのやつで」

鈴「確か、カラー粘土でいろいろ作って、それが何か中てるゲームよね」

友矩「カラー粘土の色は4つしかないけど、1色ごとに2つあるから――――――、」


一夏、友矩、雪村 男×3 箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪 女×6 = 計:9人


友矩「僕がゲーム進行――――――ゲームマスターを務めますから、2人1組になって4組になって競争してもらいまーす」

小娘共「!?」

一夏「え、友矩?!」アセタラー

雪村「………………!」ハラハラ

友矩「はいはーい! カラー粘土4色8個はこのブラックボックスの中に入ってま~す!」

友矩「一夏と組みたいのなら、一夏と同じ色を引かないとねー」

小娘共「!」

雪村「…………ホッ」

一夏「なんだ、それなら大丈夫だな」フゥ

箒「こ、ここは一夏の……として絶対に同じ色を引くっ!」グッ

セシリア「まあ、私としては誰でも良いのですけれど……」ハラハラ

鈴「一夏と組むのは私なんだからね!」フフン

シャル「できれば一夏さんと組みたいけれど…………」ドキドキ

ラウラ「誰と組もうと結果は見えているがな」ドン!

簪「……ここは狙ってみる!」ビシッ

649  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:25:05.04 ID:RGK9H7Jp0

友矩「さあ、最初に引くのは誰かな?」

小娘共「………………」チラッチラッ

雪村「それじゃ、僕から行きます」

箒「あ、雪村」

友矩「はい」

雪村「…………」ゴソゴソ、バッ


――――――青


セシリア「まずは青ですか」

鈴「次は誰が行く?」

シャル「………………」


一夏「それじゃ次は俺が(俺が動けばみんなも動く!)」


友矩「ん!?」

ラウラ「え」

一夏「よいしょっと」ガサゴソ

一夏「じゃじゃ~ん」バッ


――――――青


雪村「え」

友矩「一夏?」

一夏「えええええええええええええ!?」

小娘共「!!!!??」ガタッ

鈴「ノーカンよ、ノーカン!」

箒「よりにもよって、男同士でくっつくとはどういうことだ!」

友矩「……まあまあ! 優勝したペアにはここにいる誰か一人に倫理的に問題がない範囲で自由にしていい権利を差し上げますので」ニコニコー

友矩「(ここに来て話を拗れさせるわけにはいかない! ったく、なんでこう簡単に導火線に火を点けることが簡単に起こる!?)」アセアセ

箒「そ、そうか。それなら問題ない」ホッ

鈴「絶対に勝つわよ! 足を引っ張るんじゃないわよ!」

一夏「ちょっと待ってくれ、友矩! 何だそのルールは?!」

友矩「やだなー、空気を読まない結果を招いたきみへの罰ゲームに決まってるじゃないですかー」ジトー

一夏「友矩ぃいいいいいいい!」

雪村「ごめんなさい……」

一夏「いや、お前は謝る必要なんてないからな! な!」アセアセ


650  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:25:47.16 ID:RGK9H7Jp0

――――――組み合わせの結果

お昼前のボードゲーム:バルバロッサ


ゲーム進行(GM):友矩

1,青:一夏 & 雪村

2,赤:箒 & 鈴

3,黄:シャルロット & ラウラ

4,緑:セシリア & 簪


ハウスルール

1,プレイする順番はペアが決まった順から

2,ペアで情報を共有してもいいがターン毎に交互にプレイすること

3,プレイの持ち時間は1分

4,粘土細工について質問する時は必ず製作者を名指しすること。「これ」とか「それ」で指定してはならない

5,回答が正式名称でなくても、GMの判断でおまけすることがある(あらかじめGMが製作者に回答の許容範囲を確認済み)

6,みんな初心者なので、質問マスでの回答権は質問終了後も消失しない

※8つそれぞれの粘土細工の製作者は異なるために、誰がどれを作ったのかを覚えておくこと


651  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:26:32.35 ID:RGK9H7Jp0


友矩「さて、ここでボードゲーム:バルバロッサについてご説明しましょう」

友矩「“バルバロッサ”とはイタリア語で“赤髭”を意味し、神聖ローマ帝国皇帝:フリードリヒ1世に由来します」

友矩「このボードゲーム:バルバロッサは『2つのボード』にプレイヤー分の『カラー粘土』に『ダイス』という珍しい構成なのが特徴ですね」

友矩「『2つのボード』のうち、片方はメインボード、もう片方は得点・宝石チャートボードと呼ばれており、」

友矩「基本的には正六角形でそれぞれの辺にイベントマスがついたメインボードを使って遊びます」

友矩「つまり、メインボードにはたった6つのマスしかなく、それを延々とダイスを振ってぐるぐると回ることになります」

友矩「この正六角形のメインボードの中央にカラー粘土で作った何かをそれぞれ見せ合うわけです」

友矩「さて、イベントマスは4種類」

友矩「まず1つ目は、ドラゴンマス。停まったら自分以外のプレイヤーに1得点」← 重要!

友矩「次に、宝石マス。ここでは宝石が1つもらえ、この宝石をサイコロを振る前に消費することで使った分だけ進めるようになります」

友矩「ドラゴンマスと宝石マスはそれぞれ2つずつ用意されており、全6マスのメインボードの半分以上を占めるわけなのです」

友矩「さて、残り2つがこのバルバロッサの肝となります」

友矩「1つは、小人マス。ここで粘土細工を1つ指定してその粘土細工の正式名称の中の1文字を質問者に開示します」

友矩「もちろん、ゲーム進行の僕にあらかじめ粘土細工が何なのか伝えてあるので、嘘を言った場合はしっかりと罰を与えますのでご安心を」

友矩「そして、もう1つは質問マス。粘土細工を1つ指定して質問し、『まったく違う』『的外れ』と言われるまで質問ができます」

友矩「この時、粘土細工が何なのかがわかれば回答をし、製作者にだけ聞こえるように答えましょう。ハズレでも減点はないのでご安心を」

友矩「注意すべきは、『まったく違う』と言われた時点で質問権や回答権を失うので、少し質問したらすぐに答えに行くのがいいでしょう」

友矩「ただ、ハウスルールで回答権は残るようになっているので、質問権を失うまで心置きなく質問できるので難しく考えなくていいです、今回は」

友矩「このゲームの勝利条件ですが、こうしてメインボードでのやりとりを繰り返していく中で、」

友矩「もう一方のチャートボードで、得点チャートの渦巻の中心に最初にゴールした人が勝利となります」

友矩「そして、粘土細工のクイズで最初に正解した人には5点、次点で3点もらえるようになっています」

友矩「正解が出た時には、その証の矢を粘土細工に刺します。2本までしか刺せませんので、それ以降はその粘土細工への回答権を失うことになります」

友矩「そして、この矢が刺さった時には製作者にも得点が入るのですが、最初や最後に中てられた場合は減点になるので、」

友矩「粘土細工は初見ではわかりづらく、中盤戦での説明で理解されるようなわかりやすさを兼ね備えていないと首位独走は難しいでしょう」

友矩「また、矢が13本刺さった場合でもゲームは終了となり、その時点で最も得点が高かったプレイヤーの勝利となります」

友矩「最後に質問者が回答中以外ならいつでも回答に挑戦できる呪いのチップも存在します」


652  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:27:07.22 ID:RGK9H7Jp0

要約 -バルバロッサ-

・メインボード
マスは6つのみ。時計回りに「質問」「宝石」「ドラゴン」「小人」「宝石」「ドラゴン」→「質問」のループとなる。
また、その中央にそれぞれの粘土細工を置いて見せ合うことになる。

・カラー粘土の粘土細工と矢
製作者はゲーム進行役にそれぞれが何なのかを正式名称を書いて知らせる義務がある。
正解した場合には粘土細工に矢が刺さり、最初に正解したら5点、次点で3点となり、それ以降は回答することができなくなる。
つまり、このゲームだと正解者が2人までという厳しい制限があり、ここで差が付けられるわけであり、
正解を言えない人間はドラゴンマスからの得点しか受けられないという極めて過酷なゲームである。
しかし、このゲームの采配だと1~2本目、12~13本目の矢を刺された製作者には-2点、7~8本目には+2点というふうに得点が課せられるので、
一見するとわからず、中盤戦になってようやく分かる程度のわかりやすさを兼ね備えた意匠じゃないといけない。
13本目の矢が刺さった時点でゲーム終了となり、その時点で最も得点が高かったプレイヤーの勝利となる。

・ダイス
メインボード6マスをぐるぐる廻るのに使用。

・宝石
ダイスロール前に消費することで、その分だけマスを進められる確定ダイスの効果を持つ。
デフォルトで12個持って開始し、上限は13個であるが、メインボードが6マスしかないので最初から12個も必要かは不明。
ただし、勝利条件がデフォルトで30得点でかつ自ら得点するには正解するしかないので、序盤からガンガン使っていると確実に足りなくなる。

・呪いのチップ
質問マスにいなくても回答権を得られる。ただし、質問マスにいる質問者が回答権を得た場合は使えない。
そもそも、宝石を最初から12個持っているので質問マスには浪費しない限りは狙って停まれるので序盤は使うべきではない。

・チャートボード
宝石の所持数が13,ゴールとなる得点が30のマスとして表現されている。
つまり、基本的な勝利条件は30得点することである。

得点方法
・ドラゴンマス
“踏んだ人 以外”が1得点。
なので、絶対に踏むべきではないマスであり、ドラゴンマスをどれだけ回避できるかで徐々に差が出てくる。

・回答が正解する
1つの粘土細工について最初に正解すれば5点、次に正解できれば3点。それ以降は回答権は得られない。
これが主要な得点源であり、他の得点源は副産物としてもらえるおまけでしかないので、答えられない人間はただただ淘汰されるのみ。

・正解時に刺さった矢が5~9本目の場合はその製作者に得点が入る
逆に、1~3本目と11~13本目は減点になる。4本目と10本目は無得点。
つまり、中盤に近いほどプラスの得点になる凸状の矢のボーナス分布となっている。


653  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:27:45.82 ID:RGK9H7Jp0

――――――ゲームの様子:1ターン目、赤チームの様子から


赤:箒「では、ラウラに質問するぞ」 ――――――質問マス

黄:ラウラ「受けて立とう」

GM:友矩「さて、ラウラちゃんが作ったのはこの巨大な粘土細工! これは何なのでしょうか!」

GM:友矩「(GMだから僕はわかってるけど、これは中てるのは難しいだろうな。――――――逆に)」

赤:箒「Q.それは地上にあるものか?」

黄:ラウラ「A.うん」

赤:箒「Q.人間より大きいか?」

黄:ラウラ「A.そうだ」

赤:箒「Q.人間が作ったものか?」

黄:ラウラ「A.Nein」

赤:箒「え」

GM:友矩「『いいえ』と言われたのでここでの質問権は以上となります」

黄:ラウラ「質問終了。答えてもらおう」

赤:箒「………………ムゥ」

赤:鈴「頑張りなさいよね、あんた! 負けたら承知しないわよ!」

赤:箒「わかっている!」

赤:箒「あ!」


赤:箒「――――――『油田』だ!」


黄:ラウラ「違う」

赤:箒「あ……」ガクッ

一同「(なぜ『油田』……?)」

GM:友矩「こらこら、回答はGMである僕と製作者だけにしか聞こえないようにしてくださいね」

赤:箒「あ、すみません……」

黄:ラウラ「少々難しかったようだな」

GM:友矩「難しすぎても減点になる可能性があるので、回答する順番には気をつけよう」

654  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:28:56.79 ID:RGK9H7Jp0

黄:ラウラ「では、次は私のターンだな」

黄:ラウラ「ダイスロール!」 ――――――3

黄:シャル「小人マスだね」

黄:ラウラ「うむ。ここでは回答の1文字を訊くことができる」チラッ

黄:ラウラ「(しかし、ゲーム開始早々の青チームの動き――――――さすがに一夏はやり慣れているだけあって小人マスから攻めてくるな)」

黄:ラウラ「(おそらく“アヤカ”も一夏にならってすぐには質問マスには行かずに、宝石を使って確実に小人マスを周回する可能性が高いな)」

黄:ラウラ「よし、ここは“アヤカ”。お前に質問しよう」

青:雪村「どうぞ」

GM:友矩「あ」

青:一夏「…………ラウラちゃん」

赤:鈴「ねえ、あれって――――――、まさか違うわよね?」アセアセ

赤:箒「あ、当たり前だろう! 雪村が●●なものを公然と造るものか!」

赤:箒「というか、GMの友矩さんや一夏が止めないんだから、きっとあれは健全なものに違い…ない」


雪村の粘土細工:2個の球の真ん中に棒を立てたもの


赤:鈴「そこは嘘でも言い切りなさいよ……」

黄:ラウラ「では、Q.一番最初の文字を見せてくれ」

青:雪村「はい」カキカキ、スッ

黄:ラウラ「……うん?」

黄:シャル「何だった、あれの頭文字?」

黄:ラウラ「いや、まだわからん…………何だ、あれは?」

青:一夏「…………“アヤカ”もやるもんだな」ヒソヒソ


雪村の粘土細工:『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じぇねーか、完成度高けーなオイ』


青:一夏「こんなもの 答えられるか! 友矩もなんでこんなもの認めちゃうんだよ!?」ヒソヒソ

青:雪村「大丈夫です。部分点として『大砲』でも可なので」ヒソヒソ

青:一夏「いや、それでも直立させるとか――――――、どうなんだ、これは?」ヒソヒソ

青:一夏「相手はIS学園のお嬢様たちなんだぞー!」ヒソヒソ

青:一夏「というか、この女尊男卑の世の中であのマンガ よく発禁にならなかったなー!」ヒソヒソ

青:雪村「しかし、これで勝利は堅いです」ヒソヒソ

青:一夏「何 言ってんだ! 終盤までわからなかったら-2点だぞ!」ヒソヒソ

青:雪村「落ち着いてくださいよ。1つの粘土細工に2本しか矢が刺さらず、13本目でゲーム終了ならば――――――、」ヒソヒソ

青:雪村「現在 場に出されている粘土細工は8つですから、16回刺せる余地があるってことじゃないですか」ヒソヒソ

青:一夏「あ」ヒソヒソ

青:雪村「つまり、僕の粘土細工が最後の最後までわからなければ別に減点はされないわけですよね?」ヒソヒソ

青:雪村「それに、正式名称もとてつもなく長いわけですから、小人マスで探りを入れることはほぼ不可能」ヒソヒソ

青:雪村「そして、相手はIS学園の生徒――――――しかも専用機持ち。考えられる上で最高の手だと思いませんか?」ヒソヒソ

青:一夏「そうか? 必ずしもIS学園の生徒が高家の出身とは限らないぞ……」ヒソヒソ

655  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:29:42.35 ID:RGK9H7Jp0

緑:簪「宝石を使って質問マスまで行きます」

GM:友矩「はい。使った分だけチャートボードの宝石チャートを残数と同じ場所に動かしてください」

緑:簪「動かしました」

GM:友矩「では、誰に質問しますか」

緑:簪「“アヤカ”です」

青:雪村「!?」

青:一夏「…………そういえば、簪ちゃんは旧家にしきたりに縛られている以外は庶民派だったな」

GM:友矩「最初の質問は何ですか?」

緑:簪「あ、回答します」

黄:ラウラ「なに?! まだ何の情報も出てないのに、あれが何なのか一目でわかったのか!?」ガタッ

青:雪村「!!!?」アセタラー

GM:友矩「では、回答者と製作者はキッチンまで来てください。そこでGMが付き添いで答え合わせを行います」

GM:友矩「なお、完答できなかった場合でも規定の得点よりも低くなりますが、」

GM:友矩「ハウスルールでGMの判断で部分点も認めることがありますので、それで矢を刺すかは回答者が選択してください」


緑:簪「――――――!」

青:雪村「…………正解」

GM:友矩「おめでとう!」パチパチパチ・・・

一同「!?」


緑:簪「やったよ、セシリア! 5点ゲット!」

緑:セシリア「素晴らしいですわ、簪さん!」

赤:鈴「こ、これは意外な強敵!」

赤:箒「更識 簪――――――、だてに専用機持ちではないということか!」

黄:ラウラ「どういうことだ!? どうして頭文字があれなのにわかったんだ?! 部分点でもないのだろう?」アセアセ

黄:シャル「お、落ち着いて、ラウラ! 勝負はまだ始まったばかりだから!」

青:雪村「………………ハア」ガックリ

青:一夏「まあ、気を落とすなって。次はお前の番なんだから」ヨシヨシ

GM:友矩「最初の1本目の矢が青チームに刺さったので2点減点ですが、まだ得点してないので減点は無しでいいです」

緑:簪「あ……」

緑:セシリア「気になさらないでください、簪さん。現時点でトップは私たちなのですから」

GM:友矩「まだ誰も得点していない時はゆっくり情報集めをするのが定番です。勇み足でしたね」

656  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:30:50.60 ID:RGK9H7Jp0

GM:友矩「では、2ターン目です。青チーム、前の人と交代してプレイしてください」

青:一夏「“アヤカ”の番だぞ」

青:雪村「くぅ…………」キョロキョロ

青:雪村「お」

青:雪村「宝石を使って質問マスへ!」

GM:友矩「では、チャートボードの宝石の数を減らしてから、質問相手を指定してください」

青:雪村「相手は更識 簪さん!」ビシッ

緑:簪「!」


簪の粘土細工:何かの覆面ヒーローのバストアップか? とても精巧にできている(ただし、緑一色なので輪郭や配色がわかりづらい)。


緑:セシリア「さっきの仕返しですか、“アヤカ”さん!?」

赤:箒「なるほど、宝石は序盤で使っておいたほうがいいのか」フムフム

GM:友矩「質問をどうぞ(これは渋いぞー、簪ちゃん! だけど、ある意味においてはISと比肩するような“夢 戦士”だよね、それ)」

青:雪村「Q.それは結構旧いマンガの変身ヒーローですよね?」

緑:簪「え!?」ビクッ

GM:友矩「正直に答えてください」

緑:簪「A.うん。そう」

青:雪村「Q.原作は石森章太郎ではない」

緑:簪「A.うん」

青:雪村「Q.『ドリムノート』という単語に聞き覚えはある?」

緑:簪「A.うん。出てくるよ(ああ……、これはやられちゃったね……)」

緑:簪「(でも、嬉しいな。結構旧いけれどもこのヒーローは私にとってはアラジンの魔法のランプのような夢が詰まってたから)」

青:雪村「回答します」

GM:友矩「では、キッチンまで」

緑:簪「はい」


青:雪村「――――――」

緑:簪「正解だよ」

GM:友矩「おめでとうございます」パチパチパチ・・・

一同「おお!」


657  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:31:33.68 ID:RGK9H7Jp0

GM:友矩「意外な趣味が発覚したもんだね(今日は“アヤカ”について新たな発見が次々と見つかっていくもんだね……)」

青:雪村「やりました」ドヤァ

青:一夏「凄いな。何だったんだ、あれ?」

赤:箒「やはり、雪村と簪は相性がいいのか……」

GM:友矩「では、1本目の矢を刺してください。それで青チームには5点です」

青:雪村「それじゃ」ソー

緑:簪「あ、うん。気にしないで」ニッコリ

GM:友矩「累計2本目なので、緑チーム2点減点!」

緑:簪「ごめん、セシリア」

緑:セシリア「大丈夫ですわ、簪さん。まだ勝負は始まったばかりですから」

緑:セシリア「さあ、次はあなたの番ですよ、鈴さん」

赤:鈴「一夏と“アヤカ”の青チームが首位か」

赤:鈴「ここは私も宝石を使って質問マスへ! 情報を集めるわ!」

GM:友矩「では、宝石チャートを動かして、質問相手を選んでください」

赤:鈴「それじゃ、私は――――――」




658  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:32:18.44 ID:RGK9H7Jp0

――――――正午

――――――庭:ウッドデッキ


一夏「よし、バーベキューやるか!」

一同「おおおお!」

鈴「一夏、ここは私にまっかせなさーい!」

一夏「うん?」

鈴「一夏が大好きだった本場中華料理の味ってやつを今ここで思い出させてあげるから!」

一夏「おお! 道具一式 持ってきていたのか」

鈴「キッチン、使わせてもらおうわよ」

一夏「ああ」

鈴「――――――」ニヤリ

箒「むむむ!」

箒「一夏、私に手伝えることはないか?」

一夏「うん? それじゃ、すでにカットしてある食材を串に刺して炙ってくれ」

箒「え」

友矩「やっと火が安定した……」パタパタパタ・・・ ――――――団扇で火を煽ぐ!

一夏「ほら、バーベキューってアメリカのものだろう? みんな、初めてだろうし、手本を示してやってくれよ」

箒「あ!」

箒「一夏……(わざわざ私を選んでくれるとは――――――)」ニッコリ

箒「よし、わかったぞ。この私がみんなにバーベキューのやり方を教えてやろう!」

箒「いいか? この串で材料を刺してだな――――――」

シャル「へえ、ここにある食材を自由に串に刺して焼くんだ」

セシリア「いかにもアメリカ人が好みそうなものですわね……」

ラウラ「なるほど、これがバーベキューか」

簪「何だかワクワクするなー、こういうの」ニコニコ


659  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:32:56.79 ID:RGK9H7Jp0


ワイワイ、ガヤガヤ、ジュージュー!


箒「しかし、カボチャにピーマンに人参にじゃがいもにさつまいもにさやえんどうに、果ては茄子やトマトもあるのか」

一夏「そいつは大学時代の友人が毎年 贈ってくれる採れたてだぜ! 生で食べても美味いんだな、これが!」カプッ!

友矩「注目! こっちにはかの有名なナポレオンやビスマルクが愛好した牡蠣もございますよー!」

セシリア「まあ、牡蠣ですか!」(さすがに串に刺して齧り付くなんて淑女にはできないので普通に焼いて食べている)

シャル「うん。牡蠣って美味しいよね!」

ラウラ「なに、ビスマルクが愛好した食材とな!」

箒「よし」

簪「あ」

箒「い、一夏!」ドキドキ

一夏「なに?」ジュージュー

箒「あ、あ~ん!」スッ ――――――バーベキューの串焼き!

一夏「お、おお! あ、ありがとう、箒ちゃん……」モグモグ

小娘共「!!」

雪村「はい、友矩さん」スッ ――――――バーベキューの串焼き!

友矩「お、ありがとう、“アヤカ”くん」モグモグ

鈴「みんな~、酢豚 できたわよ――――――って、何してんのさ、あんたは~!?」

箒「ち、違うぞ、これは! 私たちのために調理を続けている一夏の腹を満たしてやろうとだな――――――」アセアセ

友矩「…………見せつけるんじゃなかったのか、箒ちゃん?」モグモグ

雪村「焼きナス 美味しいです」モグモグ

一夏「よし、鈴の中華料理もできたようだし、俺もこの辺にして食事に専念しよっかな~」

鈴「はいはい、酢豚 食べなさいよ、酢豚~!」

箒「い、一夏。お前の分は皿にとっておいてからな」ドキドキ

一夏「ああ。ありがとう」ニッコリ

鈴「――――――!」ジロッ

箒「――――――!」ジロッ

両者「…………!」バチバチバチ・・・

両者「ふん!」


660  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:33:50.32 ID:RGK9H7Jp0


ワイワイ、ガヤガヤ、ジュージュー!


一夏「ここにトウモロコシがあります」

一夏「普通のトウモロコシは焼いても表面が焦げるだけなんですが、」

一夏「このトウモロコシを油を引いた鉄板の上に投げ入れて数秒間炒ると――――――」

シャル「なになに?」ワクワク

パン! パンパン!

セシリア「きゃあ!? トウモロコシが爆発しましたわ!?」ビクッ

ラウラ「な、何だこれは?!」ドキドキ

一夏「はい、ポップコーンの出来上がり!」

鈴「ヨーロッパだとポップコーンはポピュラーじゃないわけね。こんなので心を弾ませるなんて」

箒「バルバロッサの時も思ったが、こういうところでも文化の違いというものが出てくるわけなんだな」

ラウラ「ん、大した味ではないな。油でギトギトではないか」パクッ

一夏「まあ 焦るなって! この秘伝のキャラメルソースを絡めると格別なんだぜ!」

シャル「ああ すっごく甘くていい薫り……!」クンクン

簪「肉汁たっぷりの薫りも良かったけど、こっちも食欲がそそるね」

セシリア「ああ……、一夏さん。いただいてもよろしいですか?」

一夏「うん。火傷しないようにね」

セシリア「は、はい!」フゥーフゥー、ハムッ

セシリア「!」

一夏「どう? 織斑一夏特製の秘伝のキャラメルソースとの相性は!」

セシリア「お、美味ひい、ですわ……」ウフウフフフ・・・

シャル「僕、これ 好きだな……」ウットリ

簪「ホントにね……」ニコニコ

ラウラ「少々甘ったるいが、これは未体験の美味しさだな……」バクバク・・・

セシリア「世の中にはこんな極上のお菓子が存在するだなんて知りませんでしたわ!」キラキラ

一夏「お菓子ってほどのもんじゃないけどさ? 喜んでもらえたんなら嬉しいぜ」ニコッ

セシリア「帰ったら早速 これと同じものを作らせませんと!」

セシリア「一夏さん! どうかその秘伝のキャラメルソースを伝授してくださらない!」キラキラ

一夏「いいぜ。俺もセシリアさんのとこのメイドにこのアールグレイの作り方を教わったんだし、おあいこってことで」

セシリア「ああ……!」ウットリ

箒「……一夏?」ジトー

鈴「ねえ、セシリアってあんなキャラだったっけ?」

雪村「………………」ハラハラ

友矩「マシュマロ 食べる?」スッ

雪村「いただきます」パクッ

一夏「おっと! 食事を引き立てるミュージックを忘れてたな!」

一夏「スイッチ オン!」カチッ


661  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:34:29.12 ID:RGK9H7Jp0


♪ ワイワイ、ガヤガヤ、ジュージュー! ♪


千冬「おうおう、我が家に帰ってきてみれば歓談の声が行き交い、心を和ませる音楽が流れ、ヨダレが出そうな臭いが立ち込めているな」

千冬「どうやら、この小さな庭に宮殿が建ったようだな」フフッ

小娘共「織斑先生!」

一夏「おかえり、千冬姉」

一夏「ちょっとばかり遅かった気がするけど、はい。千冬姉の分だぜ」

千冬「ああ……、ちょっと待ってくれ。この日照りの中で帰ってきたばかりだ」

一夏「じゃあ、シャワーを浴びた後にお茶でも淹れよっか。熱いのと冷たいの、どっちがいい?」

千冬「そうだな、外から戻ってきたばかりだし、冷たいものをもらおうか」

一夏「わかった」

一夏「それじゃみんな、ちょっと」ニコッ

ガチャ、バタン

小娘共「………………」

箒「そうだ、一夏は――――――」グッ

鈴「…………やっぱり、あの千冬さんが最大の難敵よね」アセタラー

シャル「何なの、この雰囲気…………」アゼーン

セシリア「まるで夫婦みたいですわ……」シミジミ

ラウラ「自宅での教官はこういう感じなのか」ジー

簪「………………」ドキドキ

雪村「流れが止まった」モグモグ

友矩「一夏が抜けるといつもこうだよ、“アヤカ”くん」ジュージュー!

友矩「あ、最後の牡蠣だよ。はい」スッ

雪村「ありがとうございます」パクッ


662  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:36:09.39 ID:RGK9H7Jp0

――――――10分後、


小娘共「………………」ウズウズ

雪村「凄いですね。一夏さんが抜けるとあっという間に活気がなくなりました」

雪村「会話がなくなりました。食欲がなくなりました。笑顔がなくなりました」

友矩「まあ、それが一夏の人間としての器の大きさの何よりの証明だね」モグモグ

友矩「こればかりは本当に生まれ持った才能、あるいは呪いと言えるものだからね」

雪村「――――――『呪い』ですか」

友矩「うん。自分や周りの人の喜びや幸せに繋がらないなら、それは無自覚の悪意の塊でしかなく傍迷惑でしかないからね」

友矩「難しいんだ、これが。自分が立派であろうと努めても周りの人間が自分という存在に毒されることを克服するのはもっと難しいからね」

友矩「一夏は最近になってようやくそれを自覚し始めたから、これからはマシになっていくとは思うけど」

雪村「………………」

友矩「…………臨海学校の時はすまなかったね。守ってやれなくて」

雪村「いえ、あれはしかたがなかったことですから気にしてません」

友矩「――――――大人に対して不信を抱いているのはよくわかる」

友矩「僕たちも同じように、学年別トーナメントの時からIS学園を信用しなくなったから」

友矩「けれども、組織や立場に縛られている以上はこれからも表立った助けはできそうにない」

友矩「結局、きみが嫌ってる大人の力を活かさないとこの先 生き残ることは難しいだろう」

雪村「わかってます、それは。いつもいつも一夏さんはすまなそうにしてますから」

友矩「…………そう」

友矩「それでね? 一応、“彼”のことについての調査も今日になって進展が得られたから」

友矩「詳しいことは後日まとめておくから、もし見たくなったら言ってね」

雪村「わかりました。いつもいつもありがとうございます」ニッコリ

友矩「一夏が一生懸命になれるわけだよ、――――――その笑顔」ニコッ


663  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:36:46.96 ID:RGK9H7Jp0


ジリジリジリジリ・・・


セシリア「少し日照りも強くなってまいりましたし、涼ませてもらいますわ」

ラウラ「そうだな。日本の暑さはドイツのそれとは何かが違い過ぎる……」アセタラー

鈴「あ、私も私も……」

友矩「そうだね。それじゃ遠慮することはないから、涼んでおいで」

シャル「あ、僕……、少しトイレに…………」スッ

友矩「うん。行っておいで」

友矩「僕たちは少し片付けをしておこうか。飲み物も温くなってきたしね」

簪「あ、手伝います」

雪村「僕も」

箒「私もだ」

友矩「それじゃ、まずは空のボールやペットボトルを――――――」


テキパキ、テキパキ、テキパキ・・・


簪「終わりました」

友矩「ありがとう」

箒「あっという間に片付きましたね」

雪村「………………フゥ」

友矩「そりゃあね。何度もここでホームパーティをしていたら嫌でも手際が良くなっていくよ」

箒「…………『何度もここでホームパーティ』」ボソッ

友矩「そうだ、箒ちゃん」

箒「あ、はい」ビクッ

友矩「今年の篠ノ之神社の夏祭り――――――、来るよね?」

箒「はい!」ビシッ

友矩「そう。それじゃ頑張って」ニコッ

箒「ありがとうございます」ニコッ

簪「?」

友矩「ああ。盆に箒ちゃんの実家である篠ノ之神社で夏祭りが開催されるんだ」

友矩「“アヤカ”くん、来なよ。一度は来たんだし、僕たちも来るから、ね?」

雪村「わかりました」

箒「そうか。来るのか…………これは張り切ってやらないとな」グッ

友矩「どうだい、簪ちゃんも? 友達を誘ってどうにか“アヤカ”くんと一緒に来てやってくれないかな?」

簪「あ、はい。――――――盆ですか? わかりました。その後に私も実家に帰ろうかと思います」

友矩「うん。それがいい。ありがとう」

友矩「良かったな、“アヤカ”くん。今年の盆はみんな一緒に居てくれるぞ」ニコッ

雪村「ありがとうございます。何から何まで」

友矩「さて、これからホームパーティの続き、どうしようか――――――」


664  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:37:35.21 ID:RGK9H7Jp0

――――――

鈴「はあ……、生き返るぅ…………」

セシリア「そうですわねぇ……」

ラウラ「ああ……」

ガチャ

一夏「あ、みんな」

千冬「ああ お前たちか」

一夏「千冬姉、寒くない?」

千冬「大丈夫だ。これくらい」

一夏「はい」スッ ――――――流れるような所作で椅子を引いてあげる

千冬「ああ」 ――――――そして、流れるようにゆったりと腰掛ける

一夏「それじゃ、冷たいのだったな」

一夏「はい」コトッ

千冬「うむ」

千冬「ああ……、お前の淹れた茶は最高だな」フフッ

一夏「そんなに褒めたって何も出ねえよ、千冬姉」ニコニコ

小娘共「…………」ジー

一夏「うん?」

小娘共「ハッ」

一夏「そうだった。デオドラントやタオルを用意するから待ってて」

一夏「あ、それともシャワー浴びてく?」

セシリア「あ、いえ、そこまでお世話になるつもりはございませんわ」

一夏「遠慮するなって。そうしたほうが確実だぜ?」

セシリア「え、ええっと…………」

鈴「確かに使わせてもらったことはあるけど、さすがにみんながいる前でそれは…………」

ラウラ「う~む、悩むな」

665  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:38:28.85 ID:RGK9H7Jp0

ガチャ

シャル「あ、おじゃましてます……」

千冬「ああ、デュノアか。そこまで畏まらなくてもいいぞ」

千冬「気にするな。ここは私と一夏の家だが、今はお互い別々に暮らしているから誰が言ったか実家が別荘のような感じになっている」

千冬「だから、ここにいると体の芯から力が抜けていくようだ……」フゥ

一夏「今、仕事がとっても忙しいんだっけ? いつもいつもお疲れ、千冬姉」

千冬「気にするな、それが私の生業だ。私が死んでもお前が暮らしていけるだけの蓄えはあるからな」

一夏「縁起でもないことを言わないでくれよ、千冬姉」

千冬「そうだな。こんなことはガキ共の前で言うつもりは無かったんだが……」フゥ

千冬「やはり、ここが一番 落ち着くところだよ」ホッ

一夏「千冬姉ったら……」フフッ

千冬「おっと、すまない。ちょっと席を外すぞ……」

一夏「あ、トイレか」

千冬「馬鹿……。わかっていてもそういうことは言うな。恥ずかしい」

一夏「あ、ごめんごめん」ニコッ

ガチャ、バタン

小娘共「………………」ジー

一夏「ん? どうかしたか?」

シャル「一夏さん。なんだか織斑先生の奥さんみたいだった」ムスッ

一夏「え?」

鈴「あんた、相変わらず千冬さんにべったりねぇ」

一夏「普通だろう? 姉弟なんだし」

鈴「はあ……、そう思ってんのはあんただけだよー」

一夏「はあ? どういう意味だよ?(――――――家族が助けあって生きていくことがそんなに変に見えるのかな、この娘たちは?)」

一夏「馬鹿なこと言ってないで、シャワー浴びてこいよ。冷えたら大変だろう? 俺はデオドラントとタオルを用意しておくから」

鈴「あんた、まだそれ言うわけぇ?」ヤレヤレ

シャル「ど、どうしようかな? こ、ここはお言葉に甘えても……」ドキドキ

セシリア「私の両親にもあんな頃があったのでしょうか……」シミジミ

ラウラ「…………織斑教官があんなにも窶れて見えたのは初めてだ」ボソッ


666  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:40:29.46 ID:RGK9H7Jp0

――――――それから、大人3人の相談室

――――――織斑一夏の場合、


一夏「そうか。気のいい親父さんだったんだけどな……」

鈴「…………そうなのよ」

一夏「それで、最後に親父さんが残した秘伝のレシピの解明に乗って欲しいと?」

鈴「うん。それをものにしないと、父さんのことを乗り越えたことにはならないから」

一夏「そっか。俺も料理には詳しいことだし、そっちの方面でも顔が利くから、できるの限りのことをしてみようと思う」

鈴「いつもいつもホントにありがとね。最初にあんたが弾と一緒に来てくれたあの日のことを思い出すわ」

一夏「そうだな……(弾と一緒に敵情視察に来て3人前を注文して、それから本場中華料理にハマっただなんて言えない……)」

鈴「最初は日本で経営やっていけるのか不安だったけど、一夏がほとんど毎日のように来て家計を支えてくれたし、」

鈴「芋蔓式で一夏の友人たちも店に来るようになったから、こっちとしては本当に大助かりだったんだから」

一夏「美味いもんは美味いんだから他の人にも紹介しておかないと罰が当たるだろう?」

鈴「うん。ホントありがとね、一夏」


鈴「ねえ、一夏さ? ――――――約束、覚えてる?」


一夏「――――――『約束』?」

一夏「あ、あれか? 『鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を――――――』」

鈴「そ、そう。それ!」ニッコリ

一夏「『――――――奢ってくれる』ってやつか?」

鈴「はい……?」ジトー

一夏「…………!」アセタラー

667  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:40:59.55 ID:RGK9H7Jp0

一夏「ごめん。やっぱり憶えてない。ホントごめんな(ダメだ。ここは素直に謝っておくべきだな)」←“童帝”としての豊富な女性経験

鈴「そ、そう……(しかたないか。父さんも冗談半分に言ってたところがあったし…………)」

一夏「それに、そういった約束事って大学時代にたくさんしてきたからさ? 何か俺の中でごっちゃになってるっぽいしな」← 余計な一言

鈴「はあ……? ――――――『大学時代にたくさん』?」ギロッ

一夏「あ、あれ? 何か目が不機嫌そう――――――」アセアセ

鈴「サイテー」

一夏「いっ」アセタラー

鈴「もう馬鹿ぁ!」ブン! ――――――思わず繰り出されるISパンチ!

一夏「――――――!」シュッ

鈴「へっ」

一夏「――――――!」バッ、ギュッ

鈴「あ」

一夏「まったく何やってんだよ。今の、生身の人間が受けたらホントに危なかったぞ」 ――――――殴られる前に二の腕を取り押さえて抱き寄せる!

鈴「あ、え……?(今、一夏に抱き寄せられて――――――)」ドクンドクン

一夏「反省してる?」

鈴「え、う、うん。反省してる……(ああ……、一夏の臭いだ…………)」クンクン

一夏「お、おいおい? どうした? もう両手は放したぞ? もしかして力を入れ過ぎてどこか痛めたか?」アセアセ

鈴「………………」ギュッ

一夏「おい! いつまで俺の腹に顔を沈めてるんだよ! 酸欠になるぞ!」アセアセ

鈴「………………一夏ぁ」

一夏「おーーーーい!」



668  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:41:36.79 ID:RGK9H7Jp0

――――――織斑千冬の場合、


千冬「今までありがとな、篠ノ之」

箒「い、いえ。当然の事をしたまでです」

千冬「最初はどうなることかと思っていたが、――――――いい子に育っているな、“アヤカ”は」

千冬「あの子の今の笑顔は私だけでは到底成し得なかったことだ」

千冬「教育とは教師だけが司るものではない。教師の一人として感謝の言葉を贈りたい」

箒「大袈裟ですって。千冬さんだって裏でいろいろ雪村のためにやってきたんじゃないかと思います」

千冬「まあな。今年の新入生は最も手間が掛かるガキ共でいっぱいだったよ」

千冬「けれども、それだけ魅力的な発見も喜びもあったことだし、少しは楽しませてもらってるよ」

千冬「しかし、――――――本当に良かったのか? 成り行きとはいえ、『それ』を持ち続けることは怖くはないか?」

箒「あ」チリンチリン

箒「………………」

千冬「“アヤカ”と同じく『テストパイロットとしてその機体をIS学園から借りている』という体裁で良かったのか?」

箒「大丈夫です。どうせ姉さんからは逃げられないようですし、“アヤカ”と一緒にこの運命を乗り越えていこうと思います」

千冬「…………強くなったな。顔付きもだいぶ変わった」

箒「そうですか?」

千冬「ああ」

千冬「もしかしたら、本当に束の妹が私の――――――ふふふふ」

箒「え?」

千冬「何でもない。あんなにも小さかった娘がこうもなるとは、私も歳をとったものだな」フフッ

箒「え!? いや、千冬さんはまだ20代半ばですよね!?」

千冬「そういえば、おばさんにはもう会ってるんだったな?」

箒「はい。初めて家に帰ったその時に一夏とまた会えたんです」

千冬「そうか。思ったよりも元気そうで何よりだ」

千冬「正直に言えば、お前と“アヤカ”の面倒を見ることが決まった時、一番の悩みの種だったからな」

千冬「だが、私から心配するようなことはもうないな」

千冬「これからも手の掛かるガキ共のことをよろしく頼む」

箒「はい! 織斑先生」ビシッ

千冬「ああ」フッ



669  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:42:40.10 ID:RGK9H7Jp0

――――――夜支布 友矩の場合、


友矩「これ、使えそうかな?」ピピッピピッ

簪「何です、これ?」

友矩「『打鉄弐式』の第3世代兵器『山嵐』用の軌道パターンのショートカット集」

友矩「これを組み込めば、手動入力の手間が省けるよ」

簪「あ、ありがとうございます!」

友矩「なに、ソフトウェア関連ならこの程度のことぐらい簡単さ」

友矩「――――――板野サーカスを参考にして作っただけだし」

簪「おお! 凄いですよね! 憧れちゃいます!」キラキラ

友矩「いやぁ、こんな女尊男卑の風潮と言われてる中でシリーズ25周年記念の13年振りのTVシリーズとは――――――、全話見た?」

簪「はい! 当然です!」

友矩「第3世代兵器の欠点といえば、イメージ・インターフェイスとPICとで脳波制御が被ってどちらかの機能が使えなくなるということだけど、」

友矩「その欠点は、こうやってイメージ・インターフェイスのコマンドにショートカットを付け足していくことである程度は解消されていくわけだね」

友矩「おそらくは、イギリスのティアーズ型もショートカットを入れたBT兵器の実装に追われている頃だろうけれど、」

友矩「我が国の『打鉄弐式』に関しては、一度は開発を打ち切られたから本来受けられるはずの支援が途絶してしまったわけであり、」

友矩「それを鑑みて、日本IS産業公式サポーターの僕から率先して今年の我が国の代表候補生を支援することにしてみた」

簪「本当にありがとうございます!」

友矩「あとは、荷電粒子砲が実現できれば“某教授”の無念も晴れるんだろうけどね…………」

簪「はい。惜しい人を亡くしました…………」

友矩「ま、我が国としてはもう次の第3世代機の開発着手に至ってるんだけどね?」

友矩「それでも、『打鉄弐式』は今年度の国際IS委員会での査定に使われる予定だった機体だから、できるかぎり結果を残してもらわないとね」

簪「はい! 頑張ります!」

友矩「いい表情だね」

670  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:43:07.11 ID:RGK9H7Jp0

友矩「“某教授”が残した荷電粒子砲の実装研究は他に任せるとして、荷電粒子砲の代わりになりそうな装備を募集してみたよ」

友矩「するとだ。『打鉄弐式』の売りである先代『打鉄』とのパッケージの互換性でいろいろな改良プランが集まっている」

友矩「日本政府としては“世界で唯一ISを扱える男性”のPRに追われて、今年度の代表候補生のことはメンツに賭けてとことん無視する構えのようだけど、」

友矩「民間企業としては『打鉄弐式』の再開発プロジェクトの協力に名乗り出た企業が少なくとも5社は確認されていて、」

友矩「新生『打鉄弐式』の標準装備の座を巡って、売り込みのチラシが来ているよ」

友矩「他にも、倉持技研からの鞍替えのお誘いもちらほら見えるね」

簪「………………」

友矩「本当は日本政府が責任持ってこういうのを斡旋して欲しいところなんだけど、しかたないね」

簪「……うん」

友矩「しっかし、――――――話は戻すけど、あの主人公の最後の告白はどうかと思うんだよね」

簪「そうですね。あんな曖昧な答えじゃ視聴者としても台本を渡された声優さんとしても納得がいかないと思います」

友矩「うん。僕としても身近にそういうやつがいるから、尚更この結末に呆れちゃってね――――――」

簪「あ」(察し)

友矩「彼は歌バカじゃなくて、初代主人公のセルフオマージュなんだからそこははっきりさせないとダメでしょ」

簪「でも、セルフオマージュを徹底したらヒロイン共々 謎の失踪を遂げちゃうことになっちゃうかも…………」

友矩「どうなるんだろうね、今年の映画は? やっぱり『愛・おぼえていますか』のように劇中作として表現が変わっちゃうのかな?」

簪「11月が楽しみです」

友矩「うん。でも、やることいっぱいだよ、代表候補生?」

簪「わかってます! 頑張ります!」ビシッ

友矩「よしよし。それでこそ日本代表候補生だ」ニッコリ


671  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:44:12.87 ID:RGK9H7Jp0


一夏「さて、4時半の町内放送も流れたことだし、どうしよっか?」

友矩「みなさんはこれからどうします? ――――――泊まっていきますか?」

シャル「え、いいの?!」キラキラ

セシリア「さ、さすがに、それは………………(どうしましょう!? こんなにも貴重な時間が続くのでしたら念入りに準備をしておけば良かったですわ!)」

千冬「私は別にかまわんがな。寝る時はこのリビングか和室で寝てもらうがな。――――――なに、いつものことだ」

鈴「え」

箒「それって、どういう…………」ハラハラ

一夏「ああ。大学時代の友人たちとホームパーティすると、酒を飲み出すやつもいてさ?」

一夏「酔い潰れて、そのまま俺んちで夜明かしするっていうのが定番の流れになりつつあるんだ」

一夏「完全に我が家を公共の別荘地か何かに仕立て上げようとしているのか、」

一夏「ホームパーティのセットだけじゃなく、必要以上の寝道具も押し付けられているんだよ…………」

一夏「おかげで、こっちで布団の管理までやらされていい迷惑だよ」

友矩「でも、面と向かって断ることもできず、ちゃんと手入れしたばかりだよね、今日も」

一夏「ああ」


友矩「今日も僕は一夏の部屋で寝泊まりだね」


一夏「そうだな」

小娘共「!!?!」

ラウラ「ん?」

簪「え、みんな……?」

千冬「…………小娘共が」ヤレヤレ

雪村「………………」ハラハラ

672  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:45:40.79 ID:RGK9H7Jp0

一夏「ん、どうかしたか?」

鈴「ちょっ、ちょっと聞き捨てならないわ! 何よ、それ!」

箒「そ、そうだぞ、一夏! ど、どうして男同士で一緒に寝ているんだ…………!?」アワワワ・・・

シャル「い、一夏さんってもしかして――――――」アセタラー

一夏「は?」

ラウラ「そこまでおかしいか? 私たちだって学園では二人一部屋で寝食を共にしているではないか」

セシリア「あ」

千冬「お前たちは男というものを知らなすぎるぞ。そんなんでは目をつけた男に逃げられるぞ」ニヤニヤ

小娘共「………………」カア

鈴「か、確認しますけど、友矩さん」

友矩「はい」

鈴「一夏の部屋で寝泊まりする時はどのようにして寝ていらっしゃるのでしょうか?」ガチガチ

友矩「床に枕と銀マットを敷いてシュラフかな。それでいろいろと今日あったことや明日のことを話し合って眠るんだ」

一夏「どうしたんだよ、みんな? 俺と友矩は大学時代からずっとルームメイトだぞ? 一緒に寝るだなんて俺にとっては生活の一部だぜ?」

セシリア「ああ……、『ルームメイト』って大学時代からずっと――――――え?(ということは、――――――現在も?)」

箒「ああ…………(なんということだ……! これが『正妻の余裕』というやつなのか!?)」

シャル「あわわ…………(やっぱり友矩さんが一番の強敵!? というか、織斑先生といい、ライバルが多すぎるよ……)」

ラウラ「なるほどな……(二人がどういった仕事に就いているかは未だに見えないが、抜群の信頼関係にあることはよく伝わってくる)」

鈴「ど、どうして一夏の周りにはこうもやりにくい相手ばかり…………(千冬さんといい、大学時代の友人といい――――――!)」

雪村「…………友矩さん?」チラッ

友矩「ここは徹底的にやらかしてもらったほうが後々の都合がいいからねー」ニコニコー

雪村「ああ…………(一夏さんの半身たる友矩さんが言うのなら、今はそれに従っておこうかな?)」

箒「い、一夏……!」ドクンドクン

一夏「お、おう……」


箒「今日は私と一緒に寝ろ!」カア


一夏「え?」

小娘共「!?」ドキッ

673  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:46:32.10 ID:RGK9H7Jp0

一夏「ちょっと何を言ってるのかさっぱりわからないよ、お兄さん!?」アセアセ

箒「わ、私は一夏の嫁なんだぞ! 一緒に寝ないのはおかしいではないかぁー!」ドクンドクン

セシリア「え!? この方が箒さんの――――――!?」

シャル「………………」

鈴「はあ!? 何言っちゃってるわけ、この人!?」ギロッ

友矩「(よし、これで篩いに掛けられるな。何人脱落するかな?)」

一夏「ちょっと何か勘違いしてない?!」

一夏「確かに大学時代の友人たちには女性だって当然いたけど、ちゃんと男女別々に寝かせてたから!」

鈴「――――――『当然』ってなによ! 自分がモテモテだって自慢したいわけ!?」

一夏「そこ、噛み付くとこ!? 俺、社会人だよ! この狭い世界のうち半分と関わりを持たずにどうやって暮らしていけって言うんだよ!」

箒「なら、どうして友矩さんとは一緒の部屋なのだ?!」

一夏「いや、言っている意味がまったくわからないんだけど!」

一夏「俺と友矩はルームメイトで、――――――家主だぞ、俺たち!」

鈴「はああああ!? それ、どういう意味よ!」

一夏「ど、『どういう意味』って、そりゃあ…………」

鈴「どうしてそこで言葉に詰まるのよ……!?」ハラハラ


一夏「と、とにかく! 男女七歳にして席を同じゅうせず! 年頃の女の子が妄りに男の人の部屋に入るもんじゃありません!」


小娘共「え?」

一夏「え?」

ラウラ「?」

簪「…………大変だね、ヒーローってのも」アハハハ・・・

674  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:47:41.60 ID:RGK9H7Jp0

一夏「あれ? 俺、何か間違ったこと言ったかな?」

セシリア「いえ、そんなことは…………(しかし、たくさんの女性とお付き合いしていると思うと、どうも邪推してしまって――――――)」

シャル「…………わかってる(だからこそ、一夏さんは篠ノ之 箒という少女が一生を懸けて愛し続ける人なんだって)」

一夏「なあ、友矩? 俺、正論 言ってるはずなのに、どうしてここまで聞き入れてもらえないのかな?」

友矩「それは、あなたが“童帝”だからです」ジトー

雪村「信用されないっていうのは『それだけ前科がある』っていうことの証拠じゃないんですか?」ジトー

一夏「“アヤカ”までえええ!?」

箒「一夏っ!」

鈴「一夏ぁー!」

一夏「うあっ!?」ビクッ


千冬「 や か ま し い !」


一同「!」

千冬「教師の前で 行を期待するなよ、15歳?」ジロッ

小娘共「…………!?」アセタラー

ラウラ「???」

簪「ははは……、まるでマンガみたいな展開だよね…………」

675  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:48:29.66 ID:RGK9H7Jp0

千冬「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」ハア

千冬「なら、――――――いいだろう、小娘共」ニヤリ

小娘共「?」

千冬「一夏、友矩、“アヤカ”」

一夏「なに、千冬姉?」

友矩「あ」(察し)

雪村「?」


千冬「全員一緒で寝ようではないか」


一同「!!?!」

一夏「ちょっと、千冬姉?! 何を言って――――――」

友矩「そうですね。それがいいですねー」(棒読み)

一夏「いっ、友矩まで?! なんで――――――?」アセダラダラ

ラウラ「ほう、それは楽しそうだな。寝間着は持ってきていないがISスーツに着替えれば寝苦しくはなかろう」

セシリア「その手がありましたか!」キラキラ

簪「これは、凄いことになりそう……」ドキドキ

一夏「は」

鈴「げっ…………」アセタラー

箒「なぜこうなるのだ…………」ズーン

シャル「問題をややこしくした張本人が言うことかな……?」トホホ・・・

一夏「………………“アヤカ”も何か言ってくれ」(棒読み)

雪村「僕は寝るところがあれば何だっていいです」

千冬「――――――だそうだ、我が愚弟?」

一夏「あ、はい(…………どういうことなの? こんなこと初めてじゃないか、千冬姉?)」

千冬「なら、――――――このまま泊まっていくか、――――――夕食まで居るのか、――――――今から帰るか、」

千冬「ちゃんとそれぞれ連絡しておくように。私からは以上だ」

小娘共「はい!」ワクワク

千冬「…………………………フゥ」

雪村「…………?」

友矩「…………わかるか。――――――疲れてらっしゃる」


ホームパーティは一旦これにて解散となり、19時からの夕方の部とそれ以降のお泊り会に向けて各自 自由行動となった。


676  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:49:10.55 ID:RGK9H7Jp0

――――――19:00 ホームパーティ:夕方の部


一夏「お、似合ってるね、セシリアちゃん」← 夕食と朝食の買い出しに男3人で出かけてきた

セシリア「そ、そうでしょうか?」← よく考えたらISスーツで寝るのもどうかと思い、近くのデパートでお泊り会の装備を調達

箒「ぬぅ、即金で着替えを買ってくるとは、――――――これが代表候補生か」← 実家まで戻ってお泊り会の準備を整えてきた

鈴「しまった。私もこの機会に新しい服を買っておけばよかった……」← 織斑邸に残って家捜ししようとするも千冬に睨まれる

簪「あ、もうこんな時間か」← 友矩からもらったデータの解析に没頭していた

シャル「ほらほら、ラウラもこれを着て」← セシリアと一緒にお泊り会の装備をラウラのものも一緒に調達

ラウラ「い、いいのか、シャルロットよ? あ、ありがとう……」← 織斑教官と一緒の時間を過ごした

千冬「さてさて、時間が来たか」← 久々の我が家のリビングでくつろいでいる

友矩「ちょっと待っててくださいねー」← ボディーソープやシャンプーを主に調達

雪村「…………フフッ」← やることもないので一夏と友矩に付き従い、充実した男だけの時間を過ごした


ワイワイ、ガヤガヤ、グツグツ・・・


シャル「何作ってるの、一夏さん?」

一夏「昼はバーベキューだったから、夜は軽食中心で行こうと思ってな(明日の朝は和食の予定だから下ごしらえが大変だぜ)」

箒「一夏! それなら私も――――――あ」アセタラー

一夏「どうした、箒ちゃん?」

箒「また食べ過ぎた…………この前 マンションに来た時も私の誕生日祝いであれだけ食べてしまったというのに」ズーン

シャル「あ……、今日も極上デザートを振る舞われったっけな…………」ズーン

一夏「あははは…………今度は食べ過ぎないようにね?(また飯テロをやってしまったな……)」アセタラー

箒「できるか、そんなこと!」

一夏「ええ…………」

箒「ああ こういう時でしか一夏の手料理を食べられないというのに、どれもこれも美味しいというのに…………ああ」


セシリア「今度は何ですの?」

友矩「昼はガッツリ食べたので、夜はサンドイッチを中心にした手軽なビュッフェということで」

友矩「昼のバーベキューと同じように、今度はパンに具を挟んで、主菜や副菜、スープ、デザートをご自由に組み合わせて召し上がってください」

セシリア「わかりましたわ」ニコッ

鈴「セシリア? あんた、サンドイッチぐらいは自分で作って食べられるわよね?」ニヤニヤ

セシリア「あら、それは我が国への侮辱と受け止めてもよいのかしら?」ジロッ

鈴「さあね? ちょっとイギリスの大貴族様がどんなサンドイッチを手ずから作るのかちょっと興味があるだけよ」ニヤリ

セシリア「まあ! 見てなさい!」


千冬「騒がしいやつらだな」モグモグ

ラウラ「まったくもってその通りですね、教官」モグモグ

雪村「………………」モグモグ

簪「あ、隣 いいかな?」

雪村「どうぞ」モグモグ

簪「その……、今度の盆に行われる篠ノ之神社での夏祭りに一緒に行くってことだったけど――――――」


677  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:49:45.29 ID:RGK9H7Jp0


夕食の時間もあっという間に過ぎて――――――、


セシリア「ごちそうさまでした……(少し、食べ過ぎましたかしら……?)」

鈴「ちょっと眠たくなってきたわね……」フワァー

一夏「そっか。それなら、早く布団を敷いてあげないとなぁ…………」アセタラー

箒「――――――!」ムカムカ

一夏「えと、俺たちはホームパーティセットの片付けをしないといけないから――――――、」チラッ

一夏「千冬姉! 和室に布団を敷いてきてくれる?」

千冬「私か?」

一夏「布団を敷くぐらい、なんてことないよな?」ハラハラ

千冬「馬鹿にするな。私は子供じゃないぞ、一夏」

一夏「う、うん。そうなんだけど…………」

ラウラ「一夏、心配する必要はない。私が教官の援護を行う」

一夏「あ、そう? それなら大丈夫かな?」

スタスタスタ・・・・・・

一夏「…………大丈夫かな?」

友矩「一夏、早く片付けよう! 明日の朝までピクニックテーブルとか出しっ放しになっているのを見るのはゲンナリするし――――――」

友矩「あ、そうだ」

友矩「まず、先に和室に布団を敷いて、お客様方には順々にお風呂に入ってもらって、」

友矩「その間に僕たちだけでホームパーティセットの後片付けをしていたほうが安全だね」

一夏「あ、そうだな。食器洗いはまかせるとして、さっさと安全を確保にしに行かないと!(そうだとも。『この手順』が大事なんだ!)」アセタラー

一夏「みんな! 和室に布団を敷いてくるから、食べ終わった人はシャワーを浴びて和室で寝る準備をしてくれ」

友矩「食べ終わったら食器などはそのままでけっこうです。僕たちが片付けますので」



678  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:50:23.26 ID:RGK9H7Jp0

――――――和室


一夏「で、――――――千冬姉?」

――――――――――――
――――――――――――
千冬「なんだ……?」
ラウラ「うう…………」

一夏「どうしてふすまが外れて、布団に潰されかかってるのかな?」

一夏「ほら、友矩!」ポイポイ

友矩「よいしょっと」ドサドサ

一夏「これで大丈夫。何やってんだよ」ヒョイ

千冬「すまないな」ヨロヨロ

一夏「…………千冬姉?」

千冬「ちょっとばかり羽目を外しすぎただけだ。気にするな」

ラウラ「そうでしたか? 少しお疲れのようにお見受けしますが」

千冬「余計なことは言うな」

一夏「…………千冬姉」

友矩「………………一夏」

一夏「なに?」

友矩「後のことは僕にまかせておいて」


友矩「一夏はお姉さんのことを労ってあげて」


千冬「なっ」カア

友矩「布団もだいたい敷き終わったし、掛け布団や枕は各々勝手に持ってってくれるだろうから」ピチッ ――――――外れたふすまを元通りにした。

一夏「…………わかった」

千冬「待て、私は――――――」

一夏「さあ、千冬姉!」ドーン!

千冬「うおっ!?」ドサッ

ラウラ「!?」

ラウラ「お、織斑教官がいとも簡単に倒された!?」

千冬「お、おい……」


一夏「マッサージの時間だ、千冬姉」ニッコリ




679  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:51:47.51 ID:RGK9H7Jp0

――――――和室 前


セシリア「あら? どうなさいましたの?」

簪「和室ってここじゃなかったっけ?」

鈴「しー」
箒「………………」
シャル「………………」ドキドキ

セシリア「?」

簪「そういえば、一夏さんは――――――」

――――――
「千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?」

「そんなわけあるか、馬鹿者……」’

「あ……! 少しは加減をしろ……」’

「はいはい。じゃあ、ここは?」

「ま、待て、そこは…………や、止め――――――」’

「すぐに良くなるって。だいぶ溜まっていたみたいだしね」

「ここは?」

「そ、そこは、ダメだって言って…………」’

「ごめんごめん」

「でも、気持ちいいんだよね、千冬姉?」

「そっちこそ、やけに気合が入っているではないか」’ハアハア

「やっぱりその……、大切な人には俺の手で気持ちよくなってもらいたいから……」

「ば、馬鹿……」’

「そう言って、ラウラにも手を出しておいてよく言う……あん」’

「久しぶりだったからちょっとやりすぎちゃったな。それにラウラちゃんの方から初めてを求めてきたんだし、千冬姉だって止めなかっただろう?」

「千冬姉だって教え子のラウラちゃんが気持ちよくなっていくさまを隣で見ていて、本当は自分もああなっていくのを楽しみにしてたんだろう?」

「それはそうだが……うぅ」’

680  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:52:44.44 ID:RGK9H7Jp0

「……そうするのは私だけにしておけ」’

「そうしたいのはやまやまだけどさ? (周りの人間が)抑えきれなくて――――――」

「まったく困ったもんだな、お前の(周りの人間)は」’← 姉弟揃って追っかけがいるほどの人気者です

「今一度、姉として弟の立場というものをわからせてやらないといけないな」’

「今ここでそんなこと言われても説得力ないよ、千冬姉?」

「あん……んくっ」’

「ダメだ、力が抜ける……」’

「そうそう、それでいいんだよ、千冬姉。力を抜いて楽になって。あとは俺にまかせて、自分の身体に素直になってくれれば」

「千冬姉は少し頑張り過ぎだよ。俺はもう23の社会人だぜ? 給料だって千冬姉に比べたら少ないけど、今度は俺が千冬姉のために――――――」

「馬鹿を言うな。お前に全てを委ねてしまったら、いったい私に何が残る?」’

「――――――何の取り柄もない ただお前を愛するだけの女になるだけだ」’

「!」

「そんなことあるわけ――――――」

「私はすでにお前に身も心も捧げたのだ。すでに私はお前のものなんだ。お前の色に染まりきったな。今更 普通の女には戻れんよ」’

「だが、私に縛られる必要などない。たまに帰ってくるだけでいいんだぞ? 私は十分だよ、十分過ぎる」’

「なんでだよ! そんなこと言わないだろう、千冬姉は!」

「こうしている時もいつもの態度を崩さずに、逆にやり返して俺の方を悲鳴を上げさせるような、そんな人じゃないか――――――」

「なぜだか懐かしく感じるな。最初の頃は凄まじくヘタクソだったから私が手本を実践してやったら大袈裟に悲鳴を上げていたな」’

「あれはもうやめて! あまりの刺激に何度も意識を失いかけたから!」

「それでは私が楽しめないではないか」’

「うう 悔しい! 男として恥ずかしい…………」

「俺はいつになったら千冬姉から一人前の男として認められるんだ」

「ならなくったっていい。私の前では昔のままのお前でいていいんだぞ」’

「だったら、千冬姉だって俺の前では昔のままの千冬姉でいてくれよ」

「いいのか、そんなことを言って? 今度はこっちから行くぞ?」’

「あ、調子が戻ってきたみたいじゃないか、千冬姉」

「そうだな。どうやらまたお前に元気をわけてもらったようだな」’

681  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:53:50.89 ID:RGK9H7Jp0

「それはさておき――――――」’

「………………!」

「さっきの礼だ。今度は私がお前を楽しませる番だ」’

「げっ!」

「あ、俺! 後片付けに行かなくちゃ――――――あぐっ」

「ふふふふ、こうされるのも実に久しぶりだな、一夏よ?」’

「お前はこうされるのが気持ちいいんだろう? ほら」’

「や、やめて! 変な声 出ちゃう!」


ドンドン!


「!」

「!」’

――――――
「部屋の準備はできましたか?」
――――――

「あ、大丈夫! けど、枕やシーツなんかは自分でやってくれると助かる!」

「ちっ、ここからがおもしろいところだったのにな」’

「まあ、今日は客人が来てるんだ。この辺で止めにしておくか」’

「入ってどうぞ」


サァー


千冬「すまないな。少しばかり羽根を伸ばし過ぎていたな」

小娘共「………………」カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

一夏「ん? どうしたんだ、みんな?」

雪村「さあ」(すっとぼけ)

682  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:54:26.61 ID:RGK9H7Jp0

一夏「あ、雪村もマッサージやってく? 憶えておいて損はないぜ」

雪村「いいんですか?」

一夏「ああ。いいとも」

一夏「あ、その前に男はこっちで、女はこっちね」

一夏「それと、ラウラちゃんは端の方に寝かせておいたから」

ラウラ「スヤスヤー」グッスリ

雪村「気持ち良さそうに寝てますね」

一夏「ちょっとやり過ぎたかなー」

一夏「マッサージ 初体験らしいし、俺も久しぶりだったからウォーミングアップに全身全霊を込めてやったらあっという間に寝ちゃった」

雪村「凄いですね」

小娘共「ああ………………」ゴクリ

千冬「こう見えて、こいつはマッサージがうまい」

小娘共「(…………知ってます)」

千冬「順番にお前たちもやってもらえ」

千冬「次いでに言えば、こいつは私と同年代の第1世代ISドライバー御用達の高級マッサージ師としても有名でな。プロ級の実力はある」

一夏「いやぁ、それは昔のことだって。今やったらセクハラで捕まる可能性が高いから顔馴染み以外にはやらないことにしてるんだけど……」

小娘共「!?!!」

簪「え、えと、ど、どうしようかな……?」ドキドキ

一夏「ま、今から俺は後片付けだから、みんなは順次 風呂に入って汗を流してそのまま寝ていてくれてかまわないから。おやすみー」サササッ!

箒「え」

鈴「あ、ちょっとぉ! 待ちなさいよ!」

セシリア「お待ちになってください、一夏さん!」


タッタッタッタッタ・・・・・・ガチャバタン


シャル「ああ…………」

千冬「さて、私も寝る前に明日の準備を済ませておくか」

千冬「お前たち、明日になったら帰れよ。私も一夏も仕事だからな」

千冬「消灯23時だ。――――――それ以上は言わなくてもわかるな?」

小娘共「はい……」

雪村「………………」

ラウラ「スヤスヤー」グッスリ

箒「羨ましいな、ラウラのやつ…………」ムゥ

箒「(でも、今ので一夏と千冬さんの互いに対する愛情の深さはよくわかったから――――――)」


683  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:55:30.21 ID:RGK9H7Jp0

――――――織斑一夏 逃走するも1時間足らずで、


箒「えと、先生?」

千冬「何だ、篠ノ之?」

箒「どうしてこの並びなんですかぁー!」

ラウラ「スヤスヤー」グッスリ

――――――――――――
           セ
ラ シ      シ
ウ ャ 箒 簪 リ 鈴
ラ ル        ア
――――――――――――
隙間(ゆったりと歩いて通れる程度)
――――――――――――

  雪 友 一 千
  村 矩 夏 冬

――――――――――――男は女性の安全のためにシュラフで包まる


千冬「不満なら、私たちは自室で寝ても構わんのだがな。そのほうが部屋を広々と使えて互いにくつろげるだろう?」

箒「わ、わかりました……」シュン

一夏「俺もその方がいいと思うなー………………友矩と雪村は俺の部屋で寝るとしてだな(みんなが寝静まるまで待ってたけど逃げ切れなかった……)」

鈴「どうして男同士で寝ようっていう発想から抜け切らないのよ、あんたはぁー!」

一夏「はあ? そっちこそ、年頃の女の子が健全な青少年と積極的に一夜を共にしようという発想がぶっ飛んでるじゃないか!」

鈴「は、はあ!? な、なななな何言ってんのよ、あんたは! ま、まままるで私の方がおかしいみたいじゃない!」カア

一夏「すまない、鈴ちゃん」

一夏「俺は過去にたくさんの人間と一夜を共にする機会があって、その度にろくでもないことがあったから、」

一夏「一種の人間不信になっているんだよ……」アセタラー ← この織斑一夏は“童帝”です

684  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:56:23.73 ID:RGK9H7Jp0

一夏「とにかく夜はなるべく千冬姉以外の女性と一緒に寝るのは相手の安全や名誉のために――――――」

鈴「わ、私が信用できないって言うの? そんな…………」ウルウル

箒「………………勝ったな」ニヤリ

鈴「…………あんたね!」ギロッ

鈴「喰らいなさい!」 ――――――枕投げ!

箒「!」ボフッ

箒「やったな!」 ――――――負けじと枕投げ!

鈴「きゃっ!」ボフッ

両者「ぐぬぬぬ」ゴゴゴゴゴ

一夏「…………この二人、なんでこんなに仲が悪いんだ?」

一夏「(大学時代の女性陣は少なくとも表立った反目は俺には見せない努力をしていたけど、全寮制スポーツ校ゆえの競争意識からなのか?)」

一夏「(いや、これはアレか? ――――――子供の喧嘩か? すると二人は似た者同士ってことなのか?)」

千冬「やはり、この二人か……(――――――『一緒にさせたくはない』と前々から思ってはいたが、ここまで意地の張り合いをするとはな)」ハア

千冬「やれやれ、これだからガキの相手は疲れるというのだ」

一夏「ここは俺が行くから、千冬姉はいいよ」

箒「こんのぉ!」 ――――――枕投げ!

鈴「喰らえぇ!」――――――枕投げ!

一夏「おい、やめないか、二人共」パシッパシッ

鈴「何よ、一夏! 今 私は身内贔屓で専用機持ちになったような生意気な娘に格の違いを教えようと――――――」

箒「一夏! いくらお前が寛容だからってすぐに手が出るような娘と一緒にいるのは止めといたほうが――――――」

一夏「あのな?」ヤレヤレ


――――――いいかげんにしろよ、小娘共が!



685  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:57:14.58 ID:RGK9H7Jp0

ジャーーーーーー

セシリア「………………フゥ」キュッキュッ

セシリア「日本のバスルームというものも悪くはありませんわね」

セシリア「小さいながらも機能美に溢れていて――――――」

セシリア「こないだの旅館において、日本では公共の場で水着を着ずに入ることに驚きましたけれども――――――、」

セシリア「露天風呂で火照った身体を夜風で冷ますのが妙に癖になってますわね……」

チャプン

セシリア「あ、いい湯加減ですわね」

セシリア「ふぅ」

セシリア「………………」


セシリア「――――――織斑一夏」


セシリア「私は――――――」

セシリア「(…………この気持ちは何でしょう?)」

セシリア「(織斑先生に弟さんが一人居るということはよく存じておりましたが、その程度にしか思っておりませんでした)」

セシリア「(ただ……、何というのでしょうか? さすがは弟さんというだけあって“ブリュンヒルデ”織斑千冬によく似ていて――――――)」

セシリア「(まさかあれほどまでに素敵な人とは思いもしませんでした――――――)」

セシリア「…………けど」

セシリア「(だからといって、私はあの方に何を求めているのでしょうか?)」

セシリア「(あの方はすでに箒さんの許婚ですし、お熱い仲のようにお見受けしますし…………)」

セシリア「(――――――結婚、か)」

セシリア「(イギリスの名門:オルコット家の主として家を存続させるためにいずれは私も男と結婚をして子を成さなければ――――――)」


『――――――何の取り柄もない ただお前を愛するだけの女になるだけだ』’


セシリア「――――――!」カアアアアア

セシリア「(な、何を考えていますの、私は! ――――――あれはただのマッサージですわよ、マッサージ!)」ドキドキ

セシリア「(で、でも、扉越しで声だけでしたけれども、普段の織斑先生からは想像もできないような甘い声――――――)」ドキドキ

セシリア「(も、もし、私があれを受けたらどうなってしまうのか――――――)」ドクンドクン

セシリア「(あの大きくて力強いあの手で私の身体を――――――)」ゴクリ

セシリア「…………か、身体が熱くなってまいりましたわね」ドクンドクン

セシリア「こ、これはその……、ちょっと身体が茹だってきただけでしてぇ…………」モゾモゾ


686  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:57:51.66 ID:RGK9H7Jp0


――――――パシッ


『!』ビクッ ――――――肩に手が当たる!

『何奴――――――』

『ハッ』


『お嬢さん、落とし物ですよ……!』’ゼエゼエ


『あ、はい……(――――――あ)』

『あれ? どうしたのかな? もしかして違った?』’ゼエゼエ

『あ! い、いえ! これは私の――――――あ』ジー ――――――思わず青年の顔を見る。

『?』’

『あ』ジー ――――――そして、ふれあう手と手の温もり

『えと、大丈夫だよね? それじゃあね、セシリアちゃん』’クルッ

『!』

『お待ちになってください!』

『あなたはもしかして織斑先生の弟――――――、』


――――――織斑一夏ではありませんか?



687  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:58:55.28 ID:RGK9H7Jp0

――――――再び、和室 前


セシリア「あら?」

友矩「あ、ごめんね。今、お説教中だから部屋に入っちゃダメなの」

セシリア「え、何がありましたの?」

友矩「簡単に言えば、一夏の『堪忍袋の緒がついに切れた』ってところかな」

友矩「――――――『親しき仲にも礼儀あり』で、箒ちゃんと鈴ちゃんは一夏の逆鱗に触れることになったってことかな」

友矩「それと、せっかくの休日を踏み躙られた腹癒せかな」

セシリア「…………それは、すみませんでした」

友矩「いやいや。怒っているのは『みんなが来てくれたこと』じゃない。むしろ喜んでる」

セシリア「では、何が?」

友矩「――――――『くだらないことで喧嘩をして周りを不愉快にさせた』ことだね」

友矩「…………気づいているかもしれないけれど、織斑先生は大変お疲れだ」

セシリア「…………はい」

友矩「それで、一夏としては――――――、」


友矩「せっかくの華やかで楽しいイベントを苦い思い出にさせたくないから怒った」

友矩「仕事をして疲れて帰ってきた姉に家に帰ってきてまで新たな苦労を背負い込ませるのを一番の禁忌としているから怒った」


セシリア「ああ…………」

友矩「いくらね? 一夏が天然ジゴロだとしても人生の大半をたった一人の肉親と一緒に過ごしてきたんだ」

友矩「大切な人をもてなす心だけはどんな時があってもぶれないのが織斑一夏なんだ」

友矩「それともう1つ――――――、」

友矩「本当に一夏が見限るっていう時は、――――――彼、物凄く陰湿になるから」

セシリア「え」

友矩「具体的に言うと、やっていることは一見するといつもと同じに見えるんだけど必ず違和感を覚えるんだってね」

友矩「そして、いつの間にか一夏からの除け者にされていることに自然と気付かされ、気付いた時にはすでに孤立している――――――」

セシリア「そんなことが――――――?」

友矩「さあね? 僕は大学時代のルームメイトになってかれこれ5年の付き合いだから自然と彼から離れていく人間の傾向はわかってはいるけどもね」

セシリア「そうなんですの……(5年間もずっと『ルームメイト』をしていた友矩さんもまた、一夏さんにとっては――――――)」

688  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 08:59:30.11 ID:RGK9H7Jp0

友矩「ところで?」

セシリア「はい?」


友矩「ちょっと熱くなかった? 湯加減は自分の好みにしてよかったんだよ?」


セシリア「ふぇ?!」ドキッ

友矩「顔、今も真っ赤だよ? 無理しなくてよかったのに」ジー

セシリア「え!? えええええええ!?」

友矩「はい、鏡」スッ

セシリア「!?」ビクッ


――――――だが、覗き込んだ鏡に映ったセシリアの表情は普段の肌色に落ち着いていた。


セシリア「!?!?」

友矩「………………予備軍か」ボソッ

セシリア「へ」ドクンドクン

友矩「それじゃ、すまないけどリビングで待ってて。それで次の娘に入らせて欲しい」

セシリア「わ、わかりましたの…………」スタスタスタ・・・・・・

セシリア「(い、今のはいったい――――――? ま、まさか――――――!?)」ハラハラ


友矩「ま、あの浴室を使っている人間なんていっぱいいるし、それこそ――――――(ホテルオークラの掃除メソッドを学んでおいてよかった)」



689  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:00:07.18 ID:RGK9H7Jp0

――――――消灯前


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー

トランプ大会 最終回:ババ抜き

鈴「さあ、一夏の番よ」

一夏「2者択一! ――――――南無三!」

鈴「ふっふふーん」

一夏「…………げえ!?」

鈴「それじゃ、はい」ヒョイ

一夏「あ」

鈴「よっし! あっがりぃ!」

一夏「くそー、敗けたなー。ここ一番で……」

シャル「あははは……」

千冬「これで確かお前が最下位になったな?」ニヤリ

友矩「はい。ここ一番で敗けちゃいましたね」

箒「さあ一夏! 悔しいがシャルロットのお願いを聞いてやれ」ムスッ

鈴「あ、そうだった……!(――――――自分が敗けるのと一夏が他の誰かの好きにされるのだったら後者を選ぶつもりだったのにぃ!)」

一夏「うぅ……、お手柔らかにな?」

シャル「え、僕?」

簪「うん。中盤のテキサスホールデムでの連勝が効いたね」

セシリア「惜しかったですわ……(――――――って、私が1番になっていたとしたら、一夏さんに何をお願いするつもりだったのかしら?)」

千冬「やれやれ、最初は私が快勝だったのに、勝負の世界というのはなかなかに難しいものだな」

一夏「それで、シャルロットちゃんは何がお望みかな?」

シャル「え、えと……、ど、どうしようかな?」モジモジ

千冬「言っておくが、消灯時間になったら、――――――寝ろ」ギロッ

シャル「あ、はいぃ!(い、急いで決めなくちゃ!)」

シャル「あ、それじゃ――――――」


690  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:01:06.79 ID:RGK9H7Jp0


ゴクゴク・・・・・・


シャル「…………フゥ」

シャル「やっぱり一夏さんのアールグレイはいいなぁ……」カランカラン

一夏「そんなに好きなら作り方を教えてやろうか?」

シャル「え、ううん。一夏さんが作ったのがいいなぁ」

シャル「またごちそうしてくれるかな? ダメ?」

一夏「そうか。そいつは嬉しいな」

一夏「いいよ。俺はいつでもアールグレイを作って待っていてやるからな。これぐらいはサービスでやってあげなきゃ」ニッコリ

シャル「ありがとうございます、一夏さん」ニッコリ

箒「…………ムゥ」

鈴「ぐぬぬぬ」

セシリア「チェルシーと言葉を交わすのが今から楽しみでなりませんわね」ニコニコ

簪「今日は本当に楽しかったなぁ」ニコニコ

ラウラ「スヤスヤー」グッスリ

千冬「フッ」

友矩「さ、歯磨きは忘れずにね。朝の8時には出てもらいたから7時ぐらいには起きてね」

小娘共「はーい」

691  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:01:51.39 ID:RGK9H7Jp0

雪村「あ、終わったんですか?」フワァー

一夏「あ、ごめんな、“アヤカ”。お風呂の栓は抜いてくれたか?」

雪村「はい。やっておきました」

千冬「さあさあ。とっとと寝るぞ。私の眠りを妨げたやつはどうなるか覚悟をしておけよ?」

箒「は、はい……」

鈴「わ、わかってますって……」

セシリア「…………あのお二人、どうしたのかしら?」

簪「えと、メガネはここに置いて――――――」ワタワタ

一夏「飲み終わった? もういい?」

シャル「うん。ありがとうございました。本当に美味しかったです」

一夏「そうか。寝る前にちゃんとトイレに行っておくんだぞ」

シャル「はい(やっぱりこの辺がちょっと残念かなって思うところはあるんだけれども――――――)」フフッ





友矩「では、23時――――――、消灯!」カチカチカチッ


友矩「さて、シュラフに包まって――――――っと」モゾモゾ

友矩「…………よし」スィーーーーーー

友矩「………………」



一同「………………………………」





692  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:02:32.17 ID:RGK9H7Jp0

ラウラ「スヤスヤー」

シャル「………………」

シャル「(やっぱり何か思い出すようなものがあるな。寝る前に飲むあのアールグレイが『決して初めてじゃない』ということを僕に告げている)」

シャル「(けど、何度 考えてみてもそれが何なのか全然わからない)」

シャル「(変なんだよね、ずっと『アールグレイ』『アールグレイ』『アールグレイ』――――――)」

シャル「(僕とアールグレイとの間に何があるの?)」

シャル「(確かにアールグレイは日本に来てから大好きになったけれど、それはこのIS学園に転校してからの日々の中で、)」

シャル「(“アヤカ”の部屋に行く度に振る舞われてきたからその良さに触れる機会があったわけであり――――――)」

シャル「(けど、アールグレイの話題をすると必ず一夏さんの存在がチラつくんだよね……)」

シャル「(そう、本当にただの偶然――――――、“アヤカ”と一夏さんがたまたまアールグレイを愛飲していたという繋がりがあって――――――)」

シャル「(いや でも、“アヤカ”と一夏さんはもしかしたら同じ人から振る舞われたアールグレイを飲んで愛飲するようになったかもしれないって、)」

シャル「(そんなふうに話が拡がっていっているんだよね、今)」

シャル「(そして、セシリアのメイドさんがそうかもしれないって――――――それが“アヤカ”の記憶の手掛かりだって)」

シャル「(考えれば考えるほどアールグレイで繋がっているんだよね)」

シャル「(でも、僕にとってのアールグレイの繋がりってやつは“アヤカ”との関係とかじゃないような気がするんだ、何となくだけど)」

シャル「(もっとこう…切ないもので、箒の許婚である一夏さんのことが寝ても覚めても気になるのと同じ感覚で――――――)」


693  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:03:22.00 ID:RGK9H7Jp0

シャル「………………」

シャル「(――――――何か不思議だな)」

シャル「(こんな風にみんなでお泊り会をするようになるだなんて思いもしなかった)」

シャル「(2年前にお母さんがいなくなってから血が繋がっているだけのあの人の許に引き取られてからの日々には帰りたくない)」

シャル「(でも、あんなような人がフランス最大のIS企業の社長だったからこそ、僕は曲がりなりにも代表候補生になれたんだよね……)」

シャル「(そして、僕はここにいるわけであり、あの人が僕に押し付けたものが今の僕を支えているんだ…………)」

シャル「(今では故郷の名士のアルフォンスさんが後見人になって僕の身分が保障されることになって晴れて自由の身になったんだけれど、)」

シャル「(僕は別にIS学園に入りたくて入ったわけじゃないから、アルフォンスさんが言うようにお母さんとの思い出の場所に帰ってもよかった)」

シャル「(でも、振り返るとお母さんがいなくなってから僕に残されたものは他でもないIS乗りの自分しかなかったから――――――)」

シャル「(ううん。それも理由の1つなのかもしれないけれども――――――、)」

シャル「(僕はIS学園に入ってかけがえのないものを得たから、僕はここに残りたいと思えるようになっていたんだっけ)」

シャル「(そう、箒と“アヤカ”という憧れの二人と、――――――“ハジメ”さんって人が僕を変えてくれたんだ)」

シャル「(思えば、僕って“アヤカ”にそっくりだよね。同じ『IS乗りとしての自分』しか残ってなくて――――――、)」

シャル「(何だか“アヤカ”はあんまり僕のことを好ましく思ってないようだけど――――――、)」

シャル「(“同類”だって思われたくないのかもしれないけれども――――――、)」

シャル「(僕は“アヤカ”とは良い友人になりたいって今では強く――――――ううん、今でも強く思ってる)」

シャル「(どうすれば“アヤカ”ともっと仲良くなれるのかな? “アヤカ”は僕よりもラウラや簪のような子とは仲が良いね)」

シャル「(でも、“アヤカ”が一番信頼している箒とはうまくやれているし、諦めずにがんばっていけば大丈夫だよね?)」

シャル「(そう、これは“ハジメ”さんが言ってくれたことなんだ)」


『生きている限り『不可能』という言葉はないよ』

『心を強く持て。それが今を変える力になるよ』

『自分が精一杯やれる限られたことに全力を尽くせばいい』


シャル「(そう言えば、“ハジメ”さんは今どうしてるんだろう? また会えるかな?)」

シャル「(――――――あれ? でも、僕はどういった経緯で“ハジメ”さんと会ったんだっけ?)」

シャル「(そもそも、どうして僕は学園から飛び出すなんてことを…………思い出せない)」

シャル「(でも、何だろう? 僕の中の“ハジメ”さんのイメージってどこか一夏さんとホントに重なるところが多くて、)」

シャル「(何か、何か感じるものがあるんだよね…………最初にマンションで会った時に初対面とは思えないような感慨が湧いて)」

シャル「(でも、もし一夏さんが“ハジメ”さんだったとしても、それならどうして名を偽ったのかがわからない――――――)」

シャル「(教えてくれてもいいと思うんだけどな……)」

シャル「ウーム」モゾモゾ


694  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:03:58.37 ID:RGK9H7Jp0

友矩「………………」

友矩「(さて、どうしようかな~? ここでシャルロット・デュノアの記憶を完全に消しておこうかな?)」

友矩「(でも、プルースト効果で印象づけられた記憶は『ニュートラライザー』では原理的に完全な抹消はできないんだよね~)」

友矩「(そもそも、人間の記憶構造っていうのはハードディスクと同じで一度書き込んだものを書き込んでない状態に戻すことはできず、)」

友矩「(一度 憶えてしまったことは検索効率が落ちるってだけで厳密には絶対に忘れないものだから)」

友矩「(となれば、思い出しそうになったから記憶を消し続けるのは難病再発防止のために劇薬を飲ませ続けるようなイタチごっこでしかない)」

友矩「(これを踏まえた上で一番確実な手というのは、記憶を改竄することで一度書き込んだものを別なものに変えるぐらいしかない)」

友矩「(彼女も専用機持ちだから電脳ダイブさせることができれば、それも可能だとは思うんだけれども、)」

友矩「(つまり、――――――現時点では実行不可能というわけだね)」

友矩「(…………考えるだけ無駄だったか)」

友矩「(しかし、本当に織斑一夏こと“童帝”の魔力は凄まじいな。魔法使いを超えてる)」

友矩「(念入りに記憶を消しても、“童帝”に一度心奪われた女性は図らずも一夏を本能的に求め続ける運命を背負わされるのか)」

友矩「(本当にかわいそうだよね、あれは。そうなったことが運命なのか、運命だからそうなったのか――――――)」

友矩「(まあ、どちらにしろ、一夏はまた一人 図らずも乙女の純情を弄ぶことになったんだ)」

友矩「(一夏は本当に呪われてる。一夏はただ誠実でありたかっただけなのに――――――)」

友矩「(だからこそ、僕は篠ノ之 箒との婚姻には大いに賛成なわけだ)」

友矩「(少なくとも篠ノ之 箒との密な関係が広まれば、それだけで一夏との関係を敬遠する人間が増えてそれだけ多くの女性の人生が救われるんだ)」

友矩「(そして、一夏は生涯を共にする伴侶なんて自分から選べるはずがないんだ。――――――最愛の人との関係もあって)」

友矩「(となれば、僕が何とかするしかないわけなんだけど、――――――何かとてつもなく嫌な予感がする)」

友矩「(果たして、この先 生き残ることができるのか――――――考えていてもしかたがない)」

友矩「(僕は僕の全てを織斑一夏という偉大な存在に捧げたんだ。一夏のブレインとして正しく導かなければ……!)」

友矩「(もしかしたら前世で実際にそういった関係だったのかも知れない。けど、大学時代のルームメイトとなったあの日から5年――――――)」

友矩「(僕は、僕の意思で、織斑一夏という一人の人間に一生ついていくことを決めたんだ)」

友矩「(こんな色欲魔の権化みたいな“童帝”と一緒にいたいのなら、せめて僕を超えるぐらいの気概と覚悟と良識を持った娘じゃないとね!)」



695  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:04:39.29 ID:RGK9H7Jp0

一夏「………………」

一夏「(――――――アールグレイ)」

一夏「(『3年前』――――――『トワイライト号事件』から全てが始まったって言うのかな?)」

一夏「(俺があのメイドさんから教わったこの味を守り続けた結果が、“彼”の過去の大きな手掛かりとなっていく――――――)」

一夏「(そして、今度はシャルロット・デュノアの人生にも影響を与えてしまった…………)」

一夏「(まいったな……、リラックス効果を期待してあの時の“シャルロット・デュノア”に飲ませたのがそもそものミスだったのかな?)」

一夏「(俺が作ったアールグレイを口に含んだ瞬間に“シャルロット・デュノア”の目はキラキラと輝きだしたんだ)」

一夏「(俺はその瞬間のことを今でも憶えている。忘れるはずがない)」

一夏「(やっぱり、シャルロットは俺の作ったアールグレイのあの味を今でもはっきりと憶えているんだ)」

一夏「(雨に打たれ続けていた少女は今も温もりを与えてくれたあの恩人をアールグレイを手掛かりに探し続けているんだろうな……)」

一夏「(自分でも嫌になるよ。――――――何が“童帝”だよ。人の心を本当に救えないで何が『人を活かす剣』だ!)」

一夏「(やっぱり話しておくべきなのかな? でも、そうなると彼女が“アヤカ”を毒殺しなければならなかった過去に向き合わせないといけなくなる)」

一夏「(俺も彼女に“アヤカ”と仲良くするように促した手前、そのことで学園から逃げ出した彼女を苛むのは本意ではない)」

一夏「(そうか。答えは決まってた。――――――思い出さなくていい、そんな一人の少女が背負うにはあまりにも重すぎる業なんて)」


一夏「(なんか今年になってから命のやりとりをするのが常態となってきてヘビーなことを考えてばっかだな……)」


一夏「(わかってはいたんだ。俺が去年 そういう人間になったことでこうなっていくだろうことは……)」

一夏「(“アヤカ”と俺、どっちが辛い? 重たい? 苦しい?)」

一夏「(――――――ダメだ、そんなことを考えてどうする!?)」

一夏「(“アヤカ”の存在を踏まえての俺なんだからさ? “アヤカ”とは違った比べようがない過酷な日々を与えられるのは当然じゃないか!)」

一夏「(だからこそ! だからこそ、俺は“アヤカ”の希望となれるように『人を活かす剣』を振るう覚悟ができたんだ)」

一夏「(――――――自分の存在が災いをもたらす者ではないことを自分自身に言い聞かせるために!)」


696  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:05:27.45 ID:RGK9H7Jp0


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――


ザーザー、ザーザー


男性「美味しい?」

少女「う、うん!」キラキラ ――――――ベッドに横たわりながらアールグレイを飲み干す

男性「そうか。もう1杯どうだ?」 ――――――そのベッドにイスを寄せてアールグレイを注ぐ

少女「い、いただきます……」ドキドキ

少女「………………」ゴクゴク

少女「…………フゥ」

少女「僕、好きだな、これ……」

男性「そうか。それは良かったよ」ニッコリ

男性「それじゃ、ゆっくりおやすみなさい。あっちの怖いお兄さんについては俺から言っておくから」

少女「…………」ギュッ

男性「………………何だ? 一緒に居て欲しいのか?」

少女「う、うん……」モジモジ

男性「まだまだ子供だな」ナデナデ

男性「しかたないな。寝付くまで一緒にいてあげるから」

少女「ほ、ホント……?」

男性「うん。眠たくなるまでいろんなことを喋ろうか」



697  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:06:03.29 ID:RGK9H7Jp0


ザーザー、ザーザー


一夏「………………」

シャル「スヤスヤー」グッスリ

一夏「ようやくか」

一夏「――――――変な娘だね」ナデナデ

一夏「今日は良い夢を見なよ」シュタ

一夏「…………この娘も唯一の肉親との思い出に生きるしかないのか」

一夏「俺と同じだな。俺もそのために生きてるようなもんだから」

一夏「さて、それじゃ」


スタスタスタ・・・・・・ガチャ、バタン


一夏「ようやく、寝かしつけることができたか……」

友矩「なるほど。状況が掴めたよ」

友矩「IS学園も一枚岩ではなかったようだね」

一夏「――――――というと?」

友矩「これはまた、“ブレードランナー”としての仕事が一段と険しいものとなった……」

一夏「…………!」


―――

――――――

―――――――――

――――――――――――


698  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:06:49.55 ID:RGK9H7Jp0

――――――深夜


ラウラ「う、うう~ん」ウツラウツラ

ラウラ「こ、ここは確か――――――」キョロキョロ

シャル「スヤスヤー」グッスリ

ラウラ「シャルロット?」

ラウラ「あ」

箒「スヤスヤー」
セシリア「スヤスヤー」
鈴「スヤスヤー」
簪「スヤスヤー」
友矩「スヤスヤー」
千冬「スヤスヤー」

ラウラ「そうか。私は一夏のマッサージを受けている最中に寝てしまったのか――――――」

ラウラ「!」カア

ラウラ「あ、あああ…………」ドキドキ

ラウラ「あ、あのようなことで取り乱すとはな、情けない…………」ドキドキ

ラウラ「な、なぜだ? どうして今もあの感覚に心臓が高鳴っているというのだ……」ドキドキ

ラウラ「うぅ…………」ハラハラ

ラウラ「少し喉が渇いたし、汗も酷いな…………」

ソロリソロリ・・・・・・

ラウラ「おお、これが教官の寝顔――――――いかんいかん、教官はお疲れなのだから起こさないようにしないと」

ラウラ「確か、シャワー室はあっちだったな――――――」

スゥー、バタン


――――――――――――
           セ
ラ シ      シ
ウ ャ 箒 簪 リ 鈴
ラ ル        ア
――――――――――――
隙間(ゆったりと歩いて通れる程度)
――――――――――――

     友    千
     矩    冬

――――――――――――男は女性の安全のためにシュラフで包まる


699  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:07:45.62 ID:RGK9H7Jp0

ラウラ「シャルロットめ。私が夜中に起きてシャワーを使うことを予期していたか」

ラウラ「ありがたく着替えさせてもらおう」

ラウラ「しかし、これで目がすっかり覚めてしまったな……」

ラウラ「そして、リビングには丁寧に私が起きた時のための夜食も用意されていると――――――」

ラウラ「少し外の空気でも吸ってこようか(自分のことがここまで筒抜けになっているのは、何だか――――――)」

スタスタスタ・・・・・・

ラウラ「うん?」

ラウラ「――――――靴が少なくなっている?」

ラウラ「――――――“アヤカ”の靴がない」

ラウラ「まさか!?」

ラウラ「くっ――――――」ガチャガチャ

ラウラ「…………ドアチェーンが掛かっている?」

ラウラ「リビングかどこかの窓から出て行ったんだな!」

ラウラ「一刻を争う事態だ! ――――――許せ!」


ガチャ、バタン! タッタッタッタッタ・・・!


ラウラ「現在時刻は午前4時になろうとしている頃か」

ラウラ「しかし、“アヤカ”はいったいどこへ――――――」ピピピッ

ラウラ「…………!」

ラウラ「こんな時にプライベートチャネルの通信?」

ラウラ「私だ」ピッ

――――――
雪村「どうしたんです、ボーデヴィッヒ教官? 突然 家を飛び出して」
――――――

ラウラ「“アヤカ”か!? 貴様、今 どこにいる!?」

――――――
雪村「あ、それなら僕はここですよ」パッ
――――――

ラウラ「あ……(――――――ライトの光!?)」チカチカ

――――――
雪村「や」

一夏「どうしたんだよ、ラウラちゃん」
――――――

ラウラ「――――――屋根の上」

ラウラ「…………人騒がせな」ホッ

ラウラ「しかし、やはり“アヤカ”と一夏の二人――――――」


700  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:09:10.55 ID:RGK9H7Jp0

――――――織斑邸:屋根


一夏「いやぁ、何事かと思ったよ、ラウラちゃん」

雪村「うん。家から何か黒いのが飛び出してきたのには驚いた」

ラウラ「う、うるさい! それはこちらのセリフだ」(着ぐるみパジャマ)

ラウラ「だいたいどうしてこんな夜中に屋根に上って、二人で何をしていたというのだ?」

雪村「何って、――――――天体観測?」

一夏「憶えておいて損はないぜ。ラウラちゃんも訊いてく?」

ラウラ「…………本当にそうなのか?」

一夏「え」

雪村「何ですか?」

ラウラ「1つ訊いていいか?」

一夏「何?」


――――――2年前に日本に現れたISを扱える男性のことについて。


雪村「………………」

一夏「――――――『2年前』、か」

一夏「それで? その噂について何を訊きたいんだよ?」

ラウラ「とぼけるな(あの時は未だかつて無い感情に呑まれて確かめられなかったが、今日こそは――――――)」

ラウラ「――――――答えろ、織斑一夏!」

一夏「…………」


ラウラ「お前がその“2年前に現れたISを扱える男性”ではないのか? だからこそ、“アヤカ”との繋がりがあるのではないのか?」


ラウラ「二人の様子を見ているとそうとしか思えないほどの関係の深さが見えてくる!」

ラウラ「だが、お前たちは数えるぐらいしか会っていないはずだ!」

雪村「…………!」チラッ

一夏「なるほど。賢い娘だね、ラウラちゃんは」

ラウラ「はぐらかすな! 今すぐに答えを言え!」


一夏「違うよ。それはラウラちゃんの勘違いだ。男の俺にIS適性なんてない。それはさんざん調べ尽くされたことだ」


ラウラ「そんなはずが――――――!(そうだ。そんなことは――――――)」

雪村「………………」

ラウラ「“アヤカ”! なら、お前は――――――」


雪村「誰だっていいじゃないですか、そんなの」


ラウラ「え」

雪村「現に、存在しない存在なんですから。少なくとも“彼”と“僕”は違う存在だし」

ラウラ「いや、それでは辻褄が――――――」シドロモドロ

701  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:10:08.08 ID:RGK9H7Jp0

一夏「なあ、ラウラちゃん?」

一夏「――――――本当に知りたいことってそれなのか? 噂の域を出ないし、今も生きているのかも怪しいそんな“彼”のことを」

ラウラ「そ、それは…………」

一夏「確かに俺は『3年前』ドイツ軍の情報部に助けられたことがあるから、ドイツ軍の情報網っていうのは世界一なんだと思ってる」

一夏「同じドイツ軍人のラウラちゃんもその伝手で2年前のそんな噂について感心があったのかもしれない」

一夏「けれど、仮に真実に辿り着けたとしてもそれは雑学知識が増えただけ――――――。ラウラちゃんはそれが望みなの?」

一夏「ちょっと、手段が目的化してないかな? 元々の目的は何だったの? ラウラちゃんは情報部の人間ではないよね?」

ラウラ「あ」

ラウラ「私は…………」

ラウラ「(そうだ。私がこのことにこだわり始めたのは――――――、)」


Auf Wiedersehen


ラウラ「私は――――――、」

ラウラ「そう、私は――――――、」


――――――もう一度“ハジメ”に会いたかった。ただそれだけだったのかもしれない。


ラウラ「………………」ドクンドクン

雪村「一夏さん?」ジトー

一夏「………………え」アセダラダラ

ラウラ「けれど、私はどうすれば――――――(私は今 隣にいる織斑教官の弟に、汚点に、私が知り得る中で最強の男に――――――)」クラクラ

雪村「………………」ジー

一夏「………………わかった」ゴクリ

702  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:11:08.49 ID:RGK9H7Jp0

一夏「な、なあ? ラウラちゃん? い、意外だなー、ラウラちゃんにも好きな人がいたんだー」

ラウラ「い、いいいや! 私は別にそういうわけでは――――――『ただもう一度だけ会いたかった』それだけであってだな?」アセアセ

一夏「確か何て言ったっけ、『彼』?」チラッ

雪村「――――――『ハジメ』って言ってませんでしたか?」ジトー

一夏「ああ! ――――――『ハジメ』! ――――――“ハジメ”ね!」

ラウラ「…………?」

一夏「ああ、よく知ってるよ! 俺もIS学園には公式サポーターとしてオープンハイスクールなんかで来てるから、たまに会うんだよね!」ハラハラ

ラウラ「ほ、ホントか!」パァ

一夏「そ、そうそう! この前、ラウラちゃんたち1年生が臨海学校に行ってたじゃない?」

一夏「その時、学園は本当に大変だったんだよ! でも、“ハジメ”をはじめとした精鋭たちのおかげで何とか騒ぎは収まったんだ」ニコー

一夏「か、かっこよかったぜ、“ハジメ”のやつ! なんてったって生身でISをどうにかしちゃうんだもんな!」

一夏「お、俺も世界最強の織斑千冬の弟としてあれぐらい戦えたら最高だって思ったぜ……」アセタラー

雪村「え、ちょっと……(あまりにも喋りすぎてませんか、“ハジメ”さん?)」チラッ

ラウラ「おおー!」キラキラ

雪村「え、あれ?(確か軍で英才教育を受けたドイツでナンバーワンのIS乗りだったよね? どうして何も疑わないの?)」

一夏「でも、あいつは本当に神出鬼没で俺も会う程度で話したことは一度もないんだよね…………千冬姉ならあるかもしれないけれど」

ラウラ「そ、そうか……」ホッ

一夏「あ……」ホッ

ラウラ「すまなかった。今までの非礼を許して欲しい」

雪村「…………?」

一夏「大丈夫? 俺は公式サポーターである以上はそうやすやすと他国の国家代表候補生に肩入れするわけにはいかないんだけれども、」

一夏「IS学園の生徒でかつ千冬姉の教え子だから、お前はその中でもとびっきり特別な存在なんだからな」ナデナデ

ラウラ「あ……」ポッ ――――――着ぐるみパジャマのラウラははにかみながらも嬉しそうな表情を浮かべた。

一夏「なんかでっかい子猫をあやしてる気分だな」ナデナデ

雪村「そうですね。シャルロットのチョイスですから周りからもそう見られているということなんでしょう」

ラウラ「…………やはりそっくりだ。この手の温もり」ドクンドクン




703  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:12:35.21 ID:RGK9H7Jp0

一夏「そろそろ夜明けだな」

ラウラ「そうだな」

ラウラ「ところで、二人はどれくらいこうしていたのだ?」

雪村「友矩さんと一夏さんが交代で寝ている所をちょっかいかけられないように見張って、みんなが寝静まった頃に連れてってくれました」

一夏「そうだな。3時間ぐらいかな」

ラウラ「ずっと星空を見続けていたというのか?」

一夏「まあ、天体観測の基本的な知識だとか、人生の先輩としてのアドバイスなんかも贈ったかな」

ラウラ「…………どのようなものだ?」

一夏「お、食いつくねぇ」

ラウラ「私は織斑教官を尊敬している。そして、その織斑教官が誇りにしている織斑一夏についても同様だ」

ラウラ「だから私は、織斑教官と同じようになりたくてお前のマッサージを受けてみたんだ」

一夏「そうか。――――――『千冬姉と同じようになりたくて』か」

雪村「確か、『名人と達人のどちらが素晴らしいか』なんて話してくれましたよね」

一夏「ああ。これは別に教わった話だから俺が思いついた話じゃないんだけどさ」


――――――『名人』っていうのは『有名人や著名人』って意味であり、『達人』っていうのは『その道に達した人』っていう境地のことなんだよね。


ラウラ「?」

一夏「まあ、西洋人には『道』って概念は理解しづらいかもしれないな」

一夏「でも、英語でも『道』を表す単語に"way"っていうのがあるけれど、」

一夏「不思議なことに普通に『road』って意味の他に、『道』にかなり近い『method』としての意味も含まれているんだよね」

一夏「だから、『道』については俺はこの"way"っていう単語に置き換えられることから説明してるかな」

ラウラ「なるほど。『道』とは『手段ややり方の形式』というわけなのか」

一夏「そう考えてくれていいよ」

一夏「だからね? 『名人と達人のどちらが素晴らしいか』という問いかけに関して言えば、」

一夏「断然『『達人』のほうが素晴らしい』っていうのが答えなわけ」

一夏「人生っていうのは1つの大きな旅路や航路によく喩えられるじゃない? その人生をより良く豊かにするための手段を日本では『道』といって、」

一夏「『達人』っていうのは、たとえばIS乗りならばIS乗りとして考えられる限りの誠意と努力を尽くした人間が『達人』って呼ばれるようになるんだ」

ラウラ「?」

一夏「『名人』=『達人』っていう構図も確かに成り立つかもしれないけれども、こう考えればいい」

一夏「『達人』と呼ばれるほどの腕前を持つ人の中で世の中で汎く知られているのが『名人』と考えてくれればいい」

一夏「でもだからこそ、『達人』∋『名人』っていう図式が成り立つわけであり――――――あ」

一夏「そうだ! ラウラちゃんはドイツ人じゃないか! なら、いい教科書がある!」


――――――オイゲン・ヘリゲルの『弓と禅』って本を読みなさい!


ラウラ「…………オイゲン・ヘリゲルの『弓と禅』?」

一夏「“ブリュンヒルデ”織斑千冬に近づきたいのなら読んでおくことをおすすめする」

ラウラ「…………わかった。探して読んでおこう」

704  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:13:31.81 ID:RGK9H7Jp0

ラウラ「ところで、『達人』とは具体的にはどういう人間のことなのだ? 具体的な特徴を挙げてはくれないか?」

一夏「ちょっとこれが何でもかんでも定義付けようとする西洋人には意識しづらいところなのかもしれないけれども、」


一夏「『最高の達人』は一見すると凡庸な人間にしか見えなくなるのが最大の特長かな」


ラウラ「!?」

雪村「…………あれ?(ちょっとまずくないかな、その説明は)」ハラハラ

一夏「いいか? 『最高の達人』っていうのは――――――、」


自分から力を誇示して無闇に周囲を脅かすようなことはせず、人との軋轢を生まずに、その優れた力を人を活かすためだけに使い、

普段は普通の人間とまったく変わらない平凡な生き方をして社会を一緒に支えていけるような謙虚でやる気に満ちて研鑽努力を惜しまず、

必要な時だけ己が持てる磨いてきた能力を『人を活かす』その一瞬のために使い、大したことを大したことじゃないように見せられる、


一夏「――――――そんな人間のことだ!」ドン!

ラウラ「………………」

一夏「あれ?」

雪村「説明がちょっと長過ぎますし、説明が被ってませんでしたか?(…………良かった。これなら変に疑われることはないかも)」

一夏「あ……、スピーチは苦手なんだよな、今も……」ハハハ・・・

ラウラ「……………………もしかして」


705  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:14:23.19 ID:RGK9H7Jp0

自分から力を誇示して無闇に周囲を脅かすようなことはせず、人との軋轢を生まずに、その優れた力を人を活かすためだけに使い、

――――――

ラウラ「どうしてそこまで私のことを気に掛ける?」

黒服「『どうして』って……、人とは極力 仲良くしたいと思うのが人の性だろう?」

ラウラ「私は戦うために生まれた戦士だ。私の前には敵と味方しかいない」

黒服「じゃあ、――――――俺は敵か? 味方か?」

ラウラ「………………」

黒服「味方に対してもそんな冷たい態度なのは寂しいだけだと思うけどな」

黒服「ラウラちゃんにだって大切にしたいって思える人がいるはずなのに、その人の前でもそんな固い態度なのは損だぜ?」

黒服「こう……、笑顔で接してくれたら誰だって気分がよくなるって」ニカー

――――――

706  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:14:54.79 ID:RGK9H7Jp0

普段は普通の人間とまったく変わらない平凡な生き方をして社会を一緒に支えていけるような謙虚でやる気に満ちて研鑽努力を惜しまず、

――――――

ラウラ「ほう、よくわからんが 日当たりが良くてこの開放感――――――いい部屋だということはわかる」

雪村「素敵なお部屋ですね」

一夏「あ、ああ……、友矩が見つけてくれたんだ……」

箒「そうそう、いい部屋なんだぞ」ウンウン

シャル「もう箒ったら嬉しそうな顔しちゃって~、夫婦の営みを頭の中でもう描いているのかな~?」ニコニコー

箒「ひ、冷やかすな~!」カア

一夏「だ、だから! 『結婚するにしても社会人になってからだ』って言ったよね、お兄さん!?」

箒「う、うるさい! お前はいつになったら私と交わした約束を思い出してくれるのだー!」

一夏「そ、そんなこと言われても…………」

一夏「ハッ」

ラウラ「………………」ジー

一夏「な、何かな?」

一夏「あ、そうだ! せっかく来たんだからもてなさないとな……」

雪村「て、手伝いますよ、一夏さん……」ハラハラ

一夏「あ、そうかい、“アヤカ"? じゃあ頼もうかな――――――」

箒「わ、私もだ、い、一夏……」ドキドキ

一夏「い、いや! 先着順! 先着1名で十分だから、な?」

一夏「それよりもだ! ――――――そんなことはないと思うけど、家探しなんてしないよね?」アハハ・・・

シャル「え? べ、別に僕たちはそんなことするつもりは――――――、ねえラウラ?」

ラウラ「………………」

シャル「…………ラウラ?」

箒「……わかった。何やらラウラが気難しそうにしているから私たちで何とかしてやろう」

ラウラ「…………!」

シャル「う、うん。どうしたの、ラウラ? そんなおっかない顔をして――――――」

ラウラ「…………どっちなんだ? 確証が得られない」

シャル「え」

ラウラ「いや、何でもない…………すまなかった」

――――――

707  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:15:29.44 ID:RGK9H7Jp0

必要な時だけ己が持てる磨いてきた能力を『人を活かす』その一瞬のために使い、大したことを大したことじゃないように見せられる、

――――――

ラウラ「(ここは身体に直接訊く他あるまい! さっきまでの礼だ――――――!)」ジロッ

一夏「なあ、ラウラ――――――っ!?」ビクッ

ラウラ「――――――!」バッ ――――――アーミーナイフ!


一夏「よっと」ササッ ――――――突き出されたナイフを一瞬で避ける!


ラウラ「なっ!?(――――――避けられた!? 馬鹿な、悟られていたはずがない! 私の必殺の一撃が!?)」

一夏「何を――――――!」バッ ――――――足払い!

ラウラ「あ!」グラッ

一夏「するの――――――!」ガシッ ――――――ナイフを伸ばした手を掴んでこちらに引き寄せて!

ラウラ「ああ!?」グイッ

一夏「――――――かなっ!」ギュッ ――――――ラウラの両脇から両手を出して拘束!

ラウラ「くぅうう……(馬鹿な! 最強の兵士であったはずの私がどうしてこんな輩に――――――!?)」

一夏「まったく、こんなことばかり得意になっても嬉しくないんだがな」 ――――――『見てから余裕』の対処!

ラウラ「うぅ……、お、降ろせ…………」ジタバタ ――――――178cmと148cmの身長差なので足が地につかない!

一夏「はい」パッ

ラウラ「え――――――っとと、あっ」(素直に放すとは思ってなかったので着地に失敗して両手をついてしまう)

一夏「あ、大丈夫か!」

ラウラ「――――――っうううう!」ムカムカ


ラウラ「――――――『大丈夫か』は貴様の方だろう!」


一夏「ええ!?」ビクッ

ラウラ「………………」ヨロヨロ・・・

一夏「ど、どうしたんだよ、ラウラちゃん?」

ラウラ「おかしいとは思わないのか! 私はお前をナイフで刺そうと思ったのだぞ!」グスン

ラウラ「そんな相手に何事も無かったかのように平然と――――――!」ポロポロ・・・

一夏「な、泣くなよ……、な?」

ラウラ「泣いてなどいない…………」ポロポロ・・・

――――――

708  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:16:06.13 ID:RGK9H7Jp0


ラウラ「………………ああ」

一夏「えと、ラウラちゃん?」

ラウラ「――――――そういうことか(そういうことなら全てに納得だな)」

一夏「?」

ラウラ「いや、何でもない」フフッ

ラウラ「――――――何でもないんだ」ニッコリ

一夏「お、いい笑顔じゃないか! どうしたんだ、急に?」

雪村「………………」

ラウラ「なあ、一夏? もっと話を聴かせてはくれないか、お前の口から」ニコッ

一夏「おう、いいぜ」

雪村「………………あ」

一夏「それじゃ、まずはラウラちゃんのことについて聴こうかな? そこから話を広げてみようかと思う」

ラウラ「ならば、私がドイツ軍IS配備特殊部隊:黒ウサギ隊の隊長であることから――――――」 ――――――そっと一夏の手に重ねられたラウラの手

雪村「…………ボーデヴィッヒ教官(――――――あなたもですか)」

雪村「一夏さん……、やっぱりあなたも僕と同じ『呪い』に掛かっているんですね……」


709  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:16:51.45 ID:RGK9H7Jp0


ピカーーー


雪村「…………!」

一夏「おお、朝日だぞ!」

ラウラ「おお! 日中の暑さを忘れるような打って変わった涼しさの中で迎える朝日か……」

雪村「はい」

一夏「綺麗だな」

ラウラ「そうだな。こんなにも冷涼で澄み切った空気なのにあの蒸し暑さに変じていくだなんて想像つかないな」

一夏「だろう? だから俺は、朝日を眺めるのが好きなんだ。いろんな場所でいろんな角度でいろんな高さで――――――」

雪村「どうしてですか?」


一夏「そりゃあ、こうやって屋根の上から眺める朝日っていうのもいろんな新発見があるだろう?」


雪村「え」

一夏「――――――陽はまた昇る」

一夏「それは毎日の営みの中において変わることがない見慣れた光景のように思えるけれども、」

一夏「こうやって朝日を眺めるのを少し変えようとすればそれだけで違った味わいが毎回あるもんなんだぜ」

雪村「!」


千鶴『そう。それじゃ、二人にとっての初めてのこの7月8日の朝日が二人の新しい門出を祝う光となるのね』

雪村『――――――『新しい門出』』

箒『――――――『門出を祝う光』って、そんな大袈裟な』ハハッ


雪村「…………陽はまた昇る」ドクンドクン

一夏「どうだ? 今日の朝日がいつもよりも違って見えたりはしないか?」

雪村「はい」ニコッ

一夏「“アヤカ”もいい笑顔をするようになったな!」ニコッ

ラウラ「そうだな」フフッ

雪村「そういうボーデヴィッヒ教官もです」

ラウラ「むっ! わ、私は……、いつも通りだ! 何度も言わせるな!」ドキドキ

雪村「ふふ、はははは……」ニコニコ

ラウラ「なっ、笑うな――――――って、“アヤカ”が笑った、だと?!」

一夏「やっぱり新発見っていつだって身近にあるんだよ」

一夏「そして、今の自分や世界を変えるきっかけなんていつだって――――――」

710  ◆G4SP/HSOik[sage saga] 2014/11/26(水) 09:17:55.28 ID:RGK9H7Jp0


ガチャ、バタン


千冬「やはり屋根の上にいたか、お前たち」

一夏「あ、千冬姉! おはよう!」

ラウラ「おはようございます、教官!」ビシッ

雪村「おはようございます」ニコッ

千冬「…………見違えるようになったな」フフッ

千冬「とっとと降りてこい。そんなパジャマをしているラウラは特にな」ニヤリ

ラウラ「ハッ」

ラウラ「そ、そういえば、そうだった…………(さすがにこの格好で衆目にさらされるのは恥ずかしい……)」カア

雪村「ふふふふ、はははははは…………」ニコニコ

ラウラ「だから、笑うな!」シドロモドロ

雪村「ごめんなさい」テヘペロッ

ラウラ「…………“アヤカ”? 貴様もずいぶんと生意気になったものだな?」ググッ

一夏「こらこら――――――」チラッ

千冬「………………」ニコッ

一夏「………………」フフッ



一夏「さあ、今日を始めようか!」





『剣禅』編 『序章』第10話A+ ひと夏の想いでに焦がれる多重奏・表  -完-