1: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:49:06.55 ID:awdPf2z80
 
 
※地の文あり
 
 


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引用元: 晶葉「無邪気な王子と天才の姫」 

 

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2: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:49:47.53 ID:awdPf2z80
―――西園寺家―――

『おお、姫よ。どうして貴方は元気がないのですか?』

『上手くピアノが弾けないからです』

『ならば私が貴方に魔法をかけて差し上げましょう!』

『まぁ!王子様は魔法使いだったのですか?!』

『ではご覧あれ……スリー、ツー、ワン!』

『……?』

『あ、あれ。スリー、ツー、ワン!』

『……』

カットカットー

柚「あれー?おっかしいなー」

晶葉「しっかりしてくれ柚……これで何回目だ?」

3: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:50:48.69 ID:awdPf2z80
柚「ごめんごめん。わかってはいるんだケド。どうにもマジックが成功しなくて」

晶葉「本当に柚が王子でよかったのか?」

柚「むー。酷いなー、晶葉ちゃん。アタシ、一度ナイト様をやった事あるんだよっ?」

晶葉「ナイトと王子様は違うだろう」

柚「似たようなものだよ!それに、今回の王子様は確かにアタシが適任だと思ってるんだっ♪」

晶葉「天真爛漫で無邪気な王子様、だったか」

柚「そーそー。ほら、ピッタリじゃない?」

晶葉「まぁ、イメージは一致しているな」

柚「でしょー」

晶葉「流石に20回もマジックを失敗していると見てみろ。スタッフと監督の顔も引きつっているぞ」

4: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:53:20.38 ID:awdPf2z80
柚「おっかしーなー。出来ると思ったのにっ」

晶葉「……試しに訊くが、簡単なマジックでもいいから、とにかくやった事あるのか?」

柚「ない!」

晶葉「ないのに今回のドラマの王子役を引き受けたのか……台本にもやると書いてあっただろう」

柚「だってできると思ったんだもーん」

晶葉「……お前は少し練習してこい。今日は撮影するシーンをPやスタッフと相談して変えてもらおう」

柚「ラジャー!」

晶葉「……心配だ」

5: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:53:55.32 ID:awdPf2z80
―――数時間後―――

柚「今日の撮影も終わった終わったー!」

あい「お疲れ様、柚君」

柚「お疲れ様ですあいさんっ」

あい「柚君の方、撮影がなかなか進んでいないようだけど大丈夫かい?」

柚「実はアタシがマジックでいつも失敗しちゃって……」

あい「ふむ。マジックか」

柚「そうだっ!あいさん、あいさん、あいさんはマジック、できないんですか?」

あい「私か?やった事はないな……」

6: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:54:43.50 ID:awdPf2z80
柚「そうですか……もしできるんなら、教えてもらおうと思ったんだけどなー……」

あい「レナ君にでも教えてもらったらどうだ?」

柚「レナさんに?」

あい「ああ。彼女なら、簡単なトランプマジックはお手の物だろうし、それなりに難しいものもできるはずだ」

柚「ほうほう!それなら膳は急げ!レナさんはどこにいるんですかっ?」

あい「確か今日は事務所にいると言ってなかったかな」

柚「本当ですか!?じゃあアタシ、急いで事務所に帰ります!」

あい「気をつけたまえよ」

柚「はいっ。あいさん、ありがとうございました!」

あい「お礼を言われるほどの事でもないさ」

7: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:55:31.08 ID:awdPf2z80
―――廊下―――

ポロン……ポロン……

柚「んっ?」

ポロン……

柚「……ピアノの音かな?」

ポロロン……ポロン……

柚「撮影場の方から聞こえてくるけど……あれ?でももう撮影場には誰もいないよね……?」

ポロロン……

柚「これはこれはもしかしてっ。西園寺家に住み着く悪霊!?」

ポロン……ポロン……

8: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:56:47.16 ID:awdPf2z80
柚「ふっふっふー……アタシの好奇心は、恐怖を遥かに上回るのだっ」

柚「いざ、ご開帳~♪」ギィィ

晶葉「……」

柚「あ……れ……?晶葉ちゃん?!」

晶葉「……っ?!誰だっ!」

柚「あ、アタシだよ。柚だよ」

晶葉「柚か……どうしたんだ?忘れ物でもしたか?」

柚「ううん……ピアノの音が聞こえてきてたから、もしかして幽霊かなって」

晶葉「……そうか」

柚「晶葉ちゃん、ピアノも弾けたんだねっ」

晶葉「別に前から弾けたワケじゃないぞ。ドラマの撮影で使うというから、練習してここまで弾けるようになっただけだ」

柚「練習?晶葉ちゃんが?」

9: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:57:53.44 ID:awdPf2z80
晶葉「……悪いか?」

柚「んーん?晶葉ちゃんって、天才だから練習なんて必要ないんじゃないカナって」

晶葉「……私は、多分、柚が思っている以上に天才ではない」

柚「え?」

晶葉「アイドルの世界に入るまで、私は一番天才だと思っていたんだ。だが実はどうだ。私以上の天才がそこにはゴロゴロいた」

晶葉「マキノや泉はその典型的な例だろう。正直私は、二人に勝てる気がしない」

晶葉「勉学に限った話じゃない。夕美は言わば花の天才だし、智香は応援の天才だ」

晶葉「このプロダクションには、天才だらけだった。……柚だって、そうだ」

柚「アタシが?天才っ?流石にそれはナイって!」

10: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 21:59:43.05 ID:awdPf2z80
晶葉「その無邪気さと天真爛漫さは、私は手に入れようと努力しても絶対に手に入れる事はできない」

晶葉「だから柚は無邪気の天才だよ」

柚「……なんかそこまで言われると照れるナ」

晶葉「そうやって考えて、思ったんだ。今回のドラマを期に、私も変わろうと」

晶葉「まずはいつも頼りにしていたロボットは、今回一切使わないようにした」

柚「そういえば晶葉ちゃん、確かに今回はロボットとか全然出して来ないね」

晶葉「全て自分の力で、やり遂げようと思ったんだ。そうする事で、別の視点から見た池袋晶葉が見えるのではないか、とな」

柚「別の視点から見た自分かぁ……」

11: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:01:41.40 ID:awdPf2z80
晶葉「だが……やはり、ロボット無しで0から努力するのは大変な事だな。身に染みてわかったよ」

柚「でも、さっきの演奏は上手だったよっ」

晶葉「ありがとう。だが、これじゃダメなんだ。私の求めている演奏とは、程遠い」

柚「……努力家で天才な姫」

晶葉「今回のドラマの私の役柄の話か」

柚「なんだ。晶葉ちゃんも役、ぴったりだねっ」ボソッ

晶葉「何か言ったか?」

柚「んーん、別にっ。それじゃあまた明日も撮影、頑張ろうね♪」

晶葉「ああ。また明日」

12: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:03:36.06 ID:awdPf2z80
―――翌日―――

『それではお礼に、私がピアノを弾いて差し上げましょう』

『本当かい?それは嬉しいな』

『では、聞いてください』

~♪~♪

『……素晴らしい音色だ』

カットカーット

柚「えっ!?あ、アタシ何か間違えた!?」

晶葉「……いや、今回のは柚じゃない」

柚「アタシじゃないなら一体なんで……」

13: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:04:24.43 ID:awdPf2z80
監督「池袋君。もう一度弾いてみてくれ」

晶葉「はい」

~♪~♪

監督「……」

柚「(綺麗な演奏……だよね……?)」

監督「……わかった。もういい」

晶葉「……はい」

監督「晶葉君。もう少し……だな」

晶葉「……」コクリ

柚「い、今の凄くよかったと思うんですケド、あれじゃダメなんですかっ?」

監督「ダメじゃない。ダメじゃないが、合格点ギリギリだ」

14: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:05:48.44 ID:awdPf2z80
柚「何でですか。凄く綺麗だったじゃないですか!」

監督「綺麗だからこそ、ダメなんだ」

柚「え……?」

監督「池袋君の演奏には……感情が、見えない。ただ弾いているだけにしか見えないんだ」

監督「質問だ。今のシーンは、どんなシーンだい?喜多見君」

柚「え、えっと……王子様が屋敷に忍び込んで、姫様を手品で泣き止ませた数日後、お礼として姫様がピアノを披露するシーンです」

監督「そうだ。なのに、綺麗なだけで……感謝や嬉しさが伝わってこない演奏なんておかしいだろう」

柚「……」

晶葉「柚。いいんだ。上手く弾けていないのは、私が一番よくわかっている」

柚「晶葉ちゃん……」

監督「ところで喜多見君の方はどうなんだい?」

柚「あ、アタシはー……そのー……鋭意練習中、です」

監督「……早めに頼むよ」

柚「はい……」

15: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:07:52.93 ID:awdPf2z80
―――廊下―――

柚「ドラマのシーン沢山取ったから、遅くなっちゃったっ。早く帰らないと」

ジャーン!!

柚「な、ななな、何今のっ?!」

柚「……気のせい?」

~♪~♪

柚「……この、音楽って」

ジャーン!!

柚「うわっ、な、何してるんだろ……晶葉ちゃん……」

柚「……少しだけ、様子を見てこよう!」

柚「お邪魔しまーす……」ギィ

16: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:09:24.05 ID:awdPf2z80
晶葉「くそっ!」ジャーン!!

柚「わっ!?」

晶葉「……わかってる。わかってるのにどうして……!」

晶葉「どうしてこんな……!!」

晶葉「……くっ。自分の思い通りに行かないというのは、こんなにも……!」

柚「……晶葉、ちゃん」


17: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:11:43.81 ID:awdPf2z80
その時、アタシは思ったんだ。

やっぱり晶葉ちゃんは天才だって。

どこまでも自分の理想を追い求めて、他人がどうであれ、自分が納得しない限り妥協はしない。努力し続ける。

ロボットだってそうだよ。いつもそうだったじゃん。

自分が満足できないから、ライブで使わなかったロボットが沢山あるの、実は知ってる。

晶葉ちゃんの研究所に秘密で入った時、その欠片達を見ちゃったんだ。

その時は、何でそんな事してたのかわからなかったけど、

今なら分かるよ。

だから、アタシはそんな人を支えたいんだっ!

あの無邪気な王子様のように、悩んでる姫を、助けたいんだっ!

そしてアタシは晶葉ちゃんへ向かって駆け出した。

18: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:13:52.54 ID:awdPf2z80
柚「おお、姫よ。どうして貴方は元気がないのですか?」

晶葉「え……?」

柚「ピアノが上手く弾けないのですか。ならば私が魔法をかけてあげましょう!」

晶葉「ゆ、柚」

柚「では……ご覧あれ!スリー、ツー、ワン!」


19: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:16:31.99 ID:awdPf2z80
ばっ、と。

突然現れ、ドラマの台詞を叫ぶ柚に呆気に取られる私の眼前に、花びらが舞った。

それは、ドラマで王子様が姫に対して行ったマジックだ。

色とりどりの花びらを、手を振っただけで空に散らせる。

そのマジックは、今まで一度たりとも成功した事はなかったはずなのに。

「出来た……へへっ、どうだ!」

無邪気な王子は、そう言って花びらの中で笑った。

ひらり、と鍵盤に置かれた私の手に桜の花びらが舞い落ちる。

……そうか、私は一つ間違えていたのだな。

柚は無邪気の天才なんかじゃない―――人を、笑顔にする天才だ。


20: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:18:43.77 ID:awdPf2z80
晶葉「……いつ、出来るようになったんだ?」

柚「今!」

晶葉「わかった。質問を変える。いつ、練習したんだ?」

柚「事務所でレナさんに教えてもらってね!あと実はドラマの撮影やってる最中もずっと、道具を袖の中に仕込んでたり」

晶葉「……やるじゃないか」

柚「いい気分転換になった?」

晶葉「もちろんだとも。これは私も負けていられないな」

柚「そか、ならよかったっ」

晶葉「……なぁ、柚」

柚「なにー?」

21: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:21:06.06 ID:awdPf2z80
晶葉「今回のドラマの王子様、やっぱり柚が適任だ」

柚「アタシも、今回のドラマの姫は、晶葉ちゃんが適役だと思ったよっ」

晶葉「……そうか。なら期待に答えるため、努力しないとな」

柚「もしかして、まだ続けるの?」

晶葉「ああ。まだまだ足りないからな」

柚「そっか。晶葉ちゃん、ファーイトっ!」

晶葉「ふふ、明日柚の度肝を抜かしてやるから覚悟しておくんだな」

柚「楽しみにしてるっ!じゃあね!」

晶葉「……さて、私は王子様にふさわしい姫にならなくてはな!」

22: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:21:44.62 ID:awdPf2z80
―――翌日―――

『それではお礼に、私がピアノを弾いて差し上げましょう』

『本当かい?それは嬉しいな』

『では、聞いてください』

~♪~♪

柚「…………」

カットカーット

晶葉「おい柚。台詞を忘れたのか?」

柚「ご、ごめん……なんか、凄かったから何も言えなかった」

晶葉「だから言っただろう。明日、柚の度肝を抜かしてやると」

23: ◆uCbLPg/WnY 2015/03/04(水) 22:23:39.77 ID:awdPf2z80
柚「……流石、天才だね」

晶葉「というよりは……そうだな」

柚「?」

晶葉「柚がピアノが上手くなったと感じるのはきっと……誰かさんに感謝の気持ちを込めて、ピアノを弾けるようになったから、かな」

晶葉「なぁ……王子様?」

柚「……ふふっ。そうだね、姫様」



おわり