1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 01:28:07.70 ID:f//a7Qnm0
初投稿です。

星奈×夜空の百合ssです。

地の文で書かせてもらいます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1357403287

引用元: 星奈「と、友キスの練習よ!」 夜空「はあ?」 

 

僕は友達が少ない 10 (MF文庫J)
平坂 読
KADOKAWA/メディアファクトリー (2014-06-05)
売り上げランキング: 22,701
2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 01:31:26.24 ID:f//a7Qnm0
 ◆  隣人部 部室

放課後の気だるい陽気を孕んだ空気が、その一室で感じる温度。

けれどそれ以上に、私たちの体温と吐息が異常なほどの熱を持っていた。

星奈「じゃあ、いくわよ」

夜空「さっさと済ませろ、バカ肉」

3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 01:34:49.21 ID:f//a7Qnm0
いつも通りの悪態も、けれど今だけは少しだけ語調が弱々しく感じる。

ソファーで隣り合う私たちは、お互いに肩が触れ合うまで距離を詰めていた。

これほどまで至近距離で彼女を感じるのは、ともすれば初めてかもしれない。

三日月夜空と、これほどまでに近づくのは。

私の手に重ねられた彼女の右手が少し汗ばんでいるところを見ると、

やっぱり彼女も緊張しているのだろうことが分かった。

――そっか、夜空も緊張してるんだ。

それが分かると、ツンとした彼女の言動も途端に可愛く感じられる。

潤んだ唇は微かに震え、余計に意識がそこに向いてしまう。

そんな様子を逐一観察していると、

夜空「なにをぐずぐずしてるんだ!さっさと済ませろというのが分からないのか、肉」

星奈「わ、分かってるわよ、バカ夜空」

怒られてしまった。

4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 01:39:44.38 ID:f//a7Qnm0
星奈「あ、あのさあ、夜空。引き返すなら今のうちよ?」

夜空「うるさい、はやくしろ!」

星奈「分かった、分かったから……。じゃあ、その、……目、閉じなさい」

夜空「はあ!?そこまでする必要があるのか?」

星奈「だ、だって、こういうのは雰囲気も大切だってあの本に書いてあったんだもん!」

しばらく夜空は「っく……」と悔しげに歯噛みすると、

夜空「わかった!これでいんだろう!」

苛立った様子で眉間にしわを寄せつつも、しっかりと両の瞼を閉じた。

完全に無防備の呈を晒す夜空を前に、私は心臓の鼓動が静まるのを待って、

同じように私も瞼を閉じる。

5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 01:47:37.57 ID:f//a7Qnm0
そうして、

「っんぅ……」

「んっ……」

お互いの唇が触れ合うと、予想外の柔らかさと心地よさに、思わずお互いに声が漏れた。

ほんの一秒にも満たない、わずかな接触だった。

唇が離れると、ほとんど同じタイミングで瞼を開いたから、自然と視線もぶつかる。

夜空「も、もういいだろう?これ以上は付き合いきれん」

そう言って、ソファーに下ろしていた腰を上げた。

星奈「待って!」

そのまま立ち去ってしまいそうだったので、私は思わず重ねられていた手を強く握った。

夜空「なんだ?もう十分だろう」

星奈「ダメ」

夜空「はあ?」

星奈「一回くらいじゃ、全然練習にならないから」

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 01:49:05.83 ID:f//a7Qnm0
掴んだ夜空の右手を強引に引っ張り、私は再び夜空と顔を付き合わせた。

星奈「だから、もう一回」

 
――どうしてこうなった?



7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 01:55:31.04 ID:f//a7Qnm0
  ◆   数時間前

帰りのホームルームを終えると、もうほとんど習慣となってしまったように無意識的に、

私の足は隣人部の部室へと向かう。

あそこは、この学園内で唯一私が素を出せる場所だ。なにせ、人目を憚らずに美少女たちとの

(ゲーム内での)恋愛を楽しめる所なのだ。

家でさえ、気を使いながらでしかそれを楽しめない私にとっては安住の場所。

そうして部室の扉を開くと、

夜空「……」

仏頂面でなにかの雑誌へと視線を落とすアイツがいた。

星奈「なによ、あんた一人なわけ?小鳩ちゃんは?」

夜空「……」

星奈「ち、ちょっと!シカトは無いんじゃないの!?」

夜空「ああ、肉か。いたのか」

星奈「……はあ、もうホントムカつく!」

夜空「……」

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:00:16.20 ID:f//a7Qnm0
私は呆れながら肩にかけたスクールバックをソファーの脇へと下ろすと、

その鞄の奥へと隠すように仕舞っておいたた新作ゲームを取り出した。

そこで私は、何を血迷ったのか、

星奈「ねえ夜空、えっと、昨日出た新作のゲームがあるんだけど、あの、一緒に、どうかな?」

きっと夜空が本当に友達であったなら、「うん、いいよ!一緒にやろう!」なんてことになるんだろうけれど……、

夜空「……」

バカ夜空ときたら、これだ。だから友達ができないのよ!

星奈「ふん!」

まあ分かっていたことであったから腹をたててもしょうがない。

夜空相手に一々落ち込んでいたら、心が持たないわよ……。

…………。

…………一緒にやりたかったのになあ……。


9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:05:12.29 ID:f//a7Qnm0




そうしてしばらく、部屋の中ではテキストを読み進めるためのコントローラーの音と、

夜空が時折雑誌のページをめくる音だけで、当然、会話らしい会話なんてのも皆無だ。

一時間ほどして、その沈黙の空気に耐え切れなくなった私は画面から視線を外し、

横目で盗み見るように夜空の様子を覗う。

見ると、夜空は雑誌を開いたままソファーに寝入ってしまったようだ。

その無防備な寝顔は、普段の険しい表情とはもはや別物だった。

潤んだ唇から規則正しく繰り返される寝息と、それに合わせて胸を微かに上下させている。

私ですら思わず可愛いと感じさせてしまう。

そういえば、さっきからコイツは何を読んでいたんだろう?

気になって、私は読みかけの雑誌を拾い上げ中身を見てみる。

どうやら十代向けのファッション雑誌らしい。けれどそこで、気になるページを発見した。

星奈「……」

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:10:08.45 ID:f//a7Qnm0

思わず目を惹かれ、じっくりと読み耽っていると、

夜空「おい肉、何をしている?」

……っ!

星奈「う、うわああああぁぁぁ!」

起き抜けに、夜空は私の手からその雑誌を奪い取った。

星奈「急に起きないでよ、ビックリするじゃない!」

夜空「寝ている間に私の私物を勝手に奪うとは、肉も落ちぶれたな」

星奈「なんとなく気になったから、読んでみただけよ」

夜空「……ふん」

奪い取った雑誌を夜空は強引にカバンの中に仕舞う。

夜空「貴様は黙っていかがわしゲームに発情していればいいんだ」

星奈「別にいかがわしくはないわよ。純愛モノよ、純愛モノ!対象年齢も十五歳以上だし」

夜空「知るか!」

そうして夜空は再び私に背を向けソファーへ横になった。

どんだけ私と話したくないのよ、コイツは……。

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:15:03.07 ID:f//a7Qnm0
夜空は数分もすればまたさっきと同じように寝息をたてはじめた。寝るの早過ぎ。

星奈「おーい、夜空」

夜空「……」
 
分かってはいたけれど、実際に無視されると腹が立つ。

ちょっと悪戯でもしてやるか。

私は夜空が横たわるソファーの縁に腰をかけた。すると、夜空の寝顔がよく見える。

まあ、言いたくはないが、私の次くらいには美人じゃないのかしら、この子。

端整な顔立ちと、白く滑らかな柔肌。そしてその中でもとりわけ私の目を引いたのは、

控えめに膨らんだ、薄桃色の唇。

しばし触れてみたいという衝動に駆られる。

いや、ダメだ。ここでもしコイツが起きてしまえば、それをネタに一生弄られるに決まっているんだから。

自分から弱味の種を蒔いてどうする。

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:19:35.71 ID:f//a7Qnm0
……けれど。

その唇から意識を外すことがどうしてもできない。どうしてだろう?

気が付くと私は、夜空の顔に自分の顔を寄せ、じっくりと舐るようにその寝顔を凝視していた。

近づくたびに、胸が締め付けられるような感覚が私を襲う。

あと、少し。ほんの僅か数センチ近づければ……。

――別に、触れようと思ったわけではない。ただほんの少し、

もう、あと数センチだけ距離を詰めれば、彼女の唇に触れられるのだろう、と、

そう考えただけ。そう、思っただけのはずだったのに……。

星奈「……っ!」

その接触は柔く優しく、私の唇に訪れた。

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:25:19.43 ID:f//a7Qnm0
あれ?

おかしくない?

この感触って、……え?

――…………う、……うわあ……。

そうして私は取り返しのつかないことをしてしまったという事実を受け入れるまでには、

しばらくの時間を要した。

やっちゃった。完全にやらかした。これはもう、本当に、取り返しがつかない。

――いや、まだだ。

この事故で失ったものは、私と夜空のファーストキスだ。

だがしかし、それは本人が気が付いていなければ何も起こらなかったのと同じ。

事象は観測者の認知があって初めてその存在を許されるのだ。

夜空はさっきからずっと可愛く寝息をたてて眠っている。

つまり、夜空さえその事故の存在に気が付いていなければこの事件は永遠に闇の中へ――、

夜空「……そうまでして私を穢したかったのか。この愚肉は」

まあ、そうなるわよね。気づいてないわけ、ないもんね!

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:30:36.36 ID:f//a7Qnm0
さあ、どうしよう。

この際いっそ正直に謝るのが得策なのだろうけれど、

私のプライドがそれを許さなかった。

星奈「フン!敵の前で無防備を晒したアンタが悪いのよ」

我ながら、この言い草はどうかと思う。どう、というか、もうどうしようもない……。

夜空「…………」

そんな愚にもつかない言い訳を並べる私に、彼女はもはや返す言葉すらないと言わんばかりに、

そのジト目で視線をぶつける。

星奈「…………っ」

夜空「…………」

しばらくの間、気の重い沈黙が続くと、

夜空「帰る」

星奈「え?」

夜空はそう言いながら先程まで広げていた雑誌を仕舞うことすらせず

いそいそとカバンを掴み、席を立った。

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:37:20.50 ID:f//a7Qnm0
夜空「帰るのだ。当然だろう?私の○○を慮ってのことだ」

星奈「どういうことよ、それ!」

夜空「皆まで言わす気か、この○○め!貴様の○○はとうに知れた。

もはやここにいる理由はない。むしろ帰る理由しかない」

星奈「っく……」

いつもの非情な毒舌が、今日は尚深く突き刺さる。

まともな反論も浮かばず、私はただ歯痒く押し黙るだけ。

夜空「じゃあな変態」

星奈「……ま、待ちなさいよ!」

右手を掴み彼女を引き止める。けれど、その手は容易に振り払われる。

すると、摂氏零度を詰め込んだような彼女の視線が私を射抜いた。

夜空「触るな。汚れた肉め」

星奈「っ……」 

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:42:27.93 ID:f//a7Qnm0
いつにも増して鋭く尖った目つきに、思わず視線が逸れる。

逸らした視線の先に、夜空が先程まで読んでいたあの雑誌があった。

――そうだ、あれのせいだ。

星奈「あれ!」

私が指差すほうへ、夜空も向く。

星奈「あ、あれに書いてあったの!『友キス』って」

夜空「はあ?」

訝しげに眉根を顰める夜空。

星奈「と、友キスの練習よ!友達ができた時のために、ね」

夜空「はあ?なあ、待て。そもそも何だ、『友キス』って?」

何で知らないのよ。読んでおきなさいよ、ちゃんと。

星奈「え、えっと、あれよ。なんか、友達の間での挨拶みたいなものなの。

この前、理科が持ってきた変なゲームでも、友達同士でキスしていたでしょう?

そんな感じよ」

19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:47:17.23 ID:f//a7Qnm0
よくもまあ、こんなに虚言を滔々と垂れ流せるものだなあと、我ながら褒めてあげたくなる。

実際にあの雑誌には『友キス』なんて言葉が書いてあって、女の子どうしでキスし合っている

写真なんかもあったけれど、まさかそれが最近の女子高校生の間で流行っているとは、

とても思えない。っていうか、ネタ記事よね、あれって……。

夜空「ふぅん……、なるほど。『友キス』か」

顎に手を添え思案顔の夜空。

星奈「もし友達ができたら、困るじゃない?『友キス』の一つもできないようじゃさ」

夜空「貴様の練習台にさせられたのは不本意ではあるが、まあ、この部の活動として認められなくはない、……か?」

この娘はひょっとするとバカなんじゃないか?と疑わせるほど、

私が嘯いた虚言を彼女は簡単に信じてしまった。どんだけ友達に飢えてるのよ、あんたは。


20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 02:57:19.72 ID:f//a7Qnm0
まあなんにせよ、この場を凌ぎきれたことには変わりない。

あと少し間違えば、私はこの部室どころか、この学校にでさえいられなくなっただろう。
 
理事長の娘だとか、そんなことに関わりなく。

冷えた肝が落ち着きを取り戻した、その直後だった。

夜空「だが、私がされるばかりなのが割りに合わないし、癪だ。

私も、その『友キス』とやらを試させてもらう」

星奈「疑うまでもなく、アンタはとんでもなくバカのようね!」

どうしてそういうことになるのよ!

星奈「そうだ!アンタには『友ちゃん』っていう(エア)友達がいたじゃない。

練習ならその娘とすればいいでしょ?」

夜空「バカな、友ちゃんは本当の友達だ。練習台にさせられるわけないだろう」

星奈「じゃあなんで私はいいのよ?」

夜空「貴様となら、別に構わないさ」

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 03:03:11.68 ID:f//a7Qnm0
え、ええっと、それってどういう……?

夜空「肉を食べるときは否が応でも口に付けなければならないのだから、今更唇が触れたところで、

どうということはないだろう?」

星奈「どんな理屈よ!」

夜空「まあ牛脂が多少厄介ではあるが、それくらいなら我慢してやるぞ」

いつもの加虐的な表情だったならばまだよかったのだけれど、

いたって真面目な面持ちなのだから始末が悪い。

星奈「もうっ、なんでこうなるのよ……」

後悔と屈辱で泣きそうになるのを堪える。

夜空「いいからさっさとそこへ座れ、牛肉」

私の都合などお構いなしの様子らしい。

仕方ない、か。事故とはいえそれなりに罪悪感もあるし……。

――それに、まあ、夜空なら……。

私は言われるがままに、先程まで夜空が横になっていたソファーへと腰掛けた。

22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 03:10:21.53 ID:f//a7Qnm0
夜空「で?これでキスすればいいのか?」

言いながら、夜空の顔が私の目の前へと距離を狭める。

――ええ!?速くない?

星奈「ち、違う、えっと、その前に色々準備があるの!」

夜空「なんのだ?」

心の準備とか、かしら?

とにかく、時間を稼がなければ……。

星奈「まあ、あれよ。最初は、こう、雰囲気作り、みたいな?」

夜空「みたいな、って……。寝込みを襲うような女が何を言っている」

星奈「それはもういいから!」

私は一旦腰掛けたソファーから立ち上がり、窓の外を見る。

誰もいないのを確認すると、すぐにカーテンを閉めた。

次に、部室の扉を空け廊下も確認。こちらにも人はいない。扉を閉め鍵をかける。

23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 03:16:18.86 ID:f//a7Qnm0
夜空「貴様、いったい何をしている?」

星奈「仮にも『友キス』の練習だとしても、誰かに見られたら色々とアレでしょ?」

夜空「まあ、それは、確かに」

最後に部屋の明かりを消した。

夜空「明かりも消さなければいけないのか?」

星奈「うん、ダメなの」

これは単に、私が恥ずかしいからだったりする。

遮光の弱い薄布のカーテンから漏れ出るように射す西日が、その部屋の唯一の明かり。

いつもの部室とはまったく違う世界が、そこにはあった。

私は再びソファーへと戻ると、夜空の手を握った。

夜空「な、なんだ、肉。気持ち悪いな」

星奈「仕方ないでしょう?……あくまで、練習なんだから」

24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 03:18:55.99 ID:f//a7Qnm0
胸の鼓動が煩わしいくらいに、ドクドクと打ち鳴らされている。

やっぱり、改めてこうやって彼女と向かい合うのは、少しばかり緊張する。

あまつさえ、これからキスしようというのだから、鼓動は余計に高鳴る。

夜空「顔が赤いぞ、肉」

星奈「うるさい、バカ夜空」

――そう、これはあくまでも練習なのだ。

だから……。

…………。

26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 03:21:52.96 ID:f//a7Qnm0



――そして今に至る。


夜空「もう一回?」

自分でも、なにをいっているのかよく分からなかった。

――え、えっと、もう一回?大丈夫か、わたし……。

夜空「あ、アホか貴様!何度もできるか、こんなことを!」

そういいながら、夜空は私を突き放し拒絶を示す。

そうりゃあそうよね……。

夜空「か、帰る!」

いそいそとカバンを担いで部室の扉に手をかける夜空。

星奈「あ、待ってよ、私も――」

夜空「いっしょに帰れるかっ!気マズイだろう!空気読めよバカ肉!」

27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 03:24:56.37 ID:f//a7Qnm0
「う、うん、そうよね、確かに」

「いいか、肉。このことは誰にも言うんじゃないぞ、わかったか!」

「わかった」

「絶対だぞ!?」

「わかったわよぉ!」

っていうか、誰にも言えないわよ、こんなこと……。

「じゃあな!」

夜空が去り、勢いよく扉が閉まる。


28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 03:28:25.36 ID:f//a7Qnm0
唇の感触は、今でもまだそこに残っている。

熱く火照った身体が、その証拠。

――もう一度だけ。

そんなバカなことを呟いた、私はどうかしている。

でも、やっぱり胸に中にあるのは、「もう一度だけしておけばよかった」という後悔の思い。

星奈「……ばっかみたい」

ほんの少しの寂寥を抱えながら、帰りの道を一人で歩いた。




END



38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 15:10:06.70 ID:f//a7Qnm0
◆翌日


小鷹「なあ、お前らさあ、なんかあったのか?」

星奈「は、はあ?なんのことよ」

翌日の放課後。

悶々とした気持ちのまま、それでもやっぱり私の足は隣人部の部室へと向かった。

夜空は私の顔を見るなり、バツが悪そうに目を逸らし、三十分ほどしたら帰っていった。

今日はさすがに小鷹や小鳩ちゃんもいる。昨日の状態が少し特殊だったのだ。

小鷹「夜空とケンカでもしたのか?――まあいつもしてるんだろうけどさあ」

星奈「……小鷹には、関係ない」

小鷹「そっか……。さっさと仲直りしろよな」

39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 15:16:01.40 ID:f//a7Qnm0
小鷹は私と夜空の間に、何かあったのだということをうっすらと察したのだろう。

そういうとこだけは鋭いんだから。

星奈「別に、いつもと同じように険悪よ、私たちは」

小鷹「険悪なのは知ってっけど、いつもみたいな罵り合いがねーじゃねえか」

星奈「…………も、もう、帰る!」

小鷹「夜空なら多分駅前の本屋にいると思うぜ」

星奈「……っ!」

だから、なんでそういう所だけは察しが良いのよ。

星奈「……あ、そう」

小鷹「はやく行ったほうがいいんじゃね?」

星奈「行くわけないでしょ、夜空のところになんか」

部室を出て、私が向かった先は駅前の本屋だった。 

40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 15:23:22.80 ID:f//a7Qnm0
◆駅前


駅前に並ぶ建物の一角、夜空がいつも本を買っている本屋。

いくつかの書籍コーナーを探してみたけれど、夜空は見つからない。

いないじゃないのよ、小鷹の嘘つき。

けれど、もしやと思って覗いてみたライトノベルのコーナーに、彼女がいた。

視線が合う。

夜空「っ!」

星奈「へー、夜空もラノベとか読むんだ」

夜空「っな、なんでお前がここに……!」

星奈「なんでって、別に……、偶然よ、偶然」

わざわざ家とは反対方向の駅にまで来ておいて、偶然も何もない。

夜空「…………」

星奈「あ、あのね、夜空」

さっき部室で私を見たときと同じように、夜空は気まずそうに視線を逸らし、私を無視して去ろうとする。

41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 15:31:13.01 ID:f//a7Qnm0
星奈「シカトしないでよ!」

夜空の手を掴む。振り解けないように、強く。

星奈「シカト、しないでよ……」

夜空なんて気に食わないし、腹が立つけれど、無視されるのは一番イヤだ。

星奈「なんか、言いなさいよ」

夜空「…………」

それでも夜空は、まだ口を開かない。

星奈「なんで黙って――」

夜空「場所を変えるぞ」

星奈「っえ?」

夜空「本屋でするような話でもないし、そもそも声がでかいんだよ、バカ肉は」

言われ周りを見てみると、私たち二人は注目の的のようだった。他の客達の視線を強く感じる。

夜空「隣のカフェでいいか?」

星奈「うん」

42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 15:41:55.10 ID:f//a7Qnm0
◆ カフェ


モカのホットを二つ注文して、それが運ばれてくるまでの二分弱の時間、

互いに押し黙ったままの重苦しい空気だった。

夜空「で、なんの用だ?偶然なわけではないのだろう?」

やっぱり、見抜かれていたか。

星奈「うん、小鷹が駅前の本屋だって言うから」

夜空「っち、余計なことを。――で、なんだ?」

星奈「さっきも言ったけど、ただ無視されるのが気に食わなかっただけよ」

夜空「それだけか。分かった、今後は普通に接するよ。これでいいか?」

星奈「…………っ」

43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 15:51:23.58 ID:f//a7Qnm0
いいわけないでしょ。

私が本当に言いたいの、そういうことじゃない。

まだ一口しか口を付けていないコーヒーの横に夜空はそれの代金だけ置くと、立ち上がった。

夜空「じゃあ、私は帰るぞ」

星奈「ちょ、ちょっと待って、まだ」

夜空「まだ、なんだ?」

星奈「え、えっと……」

悶々としたなにかが頭の中で混線して、言葉がうまく出てこない。

分からない。

この感情が、なんなのか。

確かめたい。

確かめるには……、

星奈「ちょっと、ついて来て」

私も立ち上がり、会計を済ませる。

夜空「あ、おい!」

44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 15:59:11.74 ID:f//a7Qnm0
◆公園


夜空「なあ、どこに行くかくらい教えろ」

星奈「ここよ」

夜空の手を引き、そこへ辿り着いた。

人の少ない、小さな公園。

そこのベンチに腰を掛ける。

星奈「アンタも座って」

夜空「…………」

言われるがままに、夜空は私の隣に座った。二人の手は繋がったまま。

だから、夜空の肩が自然に私の肩に触れ、どきりとする。

とりあえず人気のない所まで来たは良いものの、これから先のことなんてまったく考えてなかった。

何か歓談でも楽しむ雰囲気でもないし、どうすればいいのよぉ……。

45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 16:10:25.37 ID:f//a7Qnm0
夜空「…………」

夜空は相変わらず、機嫌の悪そうな顔で私を見ようともしない。

その横顔から見える、薄桃色の唇。

――って、こんな時に私は何をしてるのよ。

星奈「昨日の、アレの、ことなんだけど」

夜空「……ああ」

言わなくても分かるわよね。

私が「友キス」と偽ったそれのこと。

星奈「び、びっくりした?」

夜空「それどころじゃない」

星奈「そうよね……」

夜空「それが何だ?」

冷めた口調も相変わらずだ。

こんな時くらい、もうちょっと優しくてもいいじゃないのよ……。

46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 16:20:34.95 ID:f//a7Qnm0
星奈「あれ、嘘だから」

夜空「はあ?嘘だと?バカかお前は、嘘なわけあるか。私は確かに奪われたぞ、私のファーストキスを」

星奈「違う、そうじゃなくて。『友キスの練習』とかのこと」

夜空「それが嘘だと?」

星奈「うん、そう」

夜空「どういう意味だ?」

星奈「あの雑誌には『仲の良い友達同士なら普通に皆すること』だって書いてあったけど、
あんなの出鱈目もいいところよ」

ふざけて頬にするとかならまだしも、口と口のキスなんて、普通はありえない。

夜空「まあ、知っていたけれどな」

星奈「はあ!?」

夜空「普通に考えておかしいだろう?友達同士で口付けをし合うなんて」

星奈「っ!」

47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 16:32:03.61 ID:f//a7Qnm0

夜空「いや、そんな驚くことでもないだろう。お前も、まさか本気で私を騙し通せていたと思っていたわけでも……、

ああ、思っていたのか」

顔が羞恥でどうしようもないくらいに、火照り始めた。

なんでそんな飄々としていられるのよ!

ってということはつまり、騙されていたのは私の方だったのか。

星奈「じ、じゃあ、なんであの場では納得した振りしてたのよ!」

夜空「気まずいではないか!貴様に、じゃあ『友キスの練習』以外のどんな理由で私にキスなんてことをしたのか、

聞けばよかったのか?」

それ以外の、理由。

答えられない。そもそも言葉にならないから今こうして悶々としている。

50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 22:21:48.23 ID:f//a7Qnm0
星奈「理由は……、え、っと」

夜空「ほら、そうなるだろう?――だから一応、あの場ではそういうことにしておいたのだ」

星奈「あの場では?」

夜空「そう、その場しのぎだ。だから、聞かせろ」

ようやく夜空は私の方へ向き直り、目を合わせた。すると、私はそれから逃れるように、視線を逸らしてしまった。

真剣な眼差しで急に見つめられるのは、思いのほか恥ずかしい。

夜空「お前が、なんで私にキスをしたのかを」

改めてその問いを突きつけられると、余計に考えが纏まらなくなってしまった。

51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 22:25:23.40 ID:f//a7Qnm0

夜空。

ムカつくヤツ。

気に食わない。

私をいつもコケにして、楽しんでる。

そして、私と同じで、友達がいない。



色々な言葉が頭の中でこんがらがって、めちゃくちゃになっている。




――それでも、一つだけ確かなことは、





星奈「夜空、キスしよう」

53: 夜空と星奈が逆になっとる 2013/01/06(日) 22:30:00.63 ID:f//a7Qnm0
夜空「…………理由を聞こうか」

星奈「理由、か。――ごめん、正直分からない。でもね、これだけは分かる」

一つ小さく息をついて、私は告げる。

星奈「私は夜空と、キスがしたい。――理由にはならないかもしれないけれど、それが私の答え」

そんなでも一応、私のなりの答え。

夜空「言うに事欠いて、もう一度、か。バカだろう、お前」

星奈「私の嘘が最初からバレていて、じゃあなんで夜空はそのあと私とキスしたわけ?

もうあの時から夜空は『友キス』なんて嘘だって、わかっていたはずでしょう?」

夜空「そ、それは……」


54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 22:33:34.00 ID:f//a7Qnm0
星奈「私は答えたから、今度は夜空の番」

一度逸らしてしまった視線を、今度はちゃんと合わせて、私は握った夜空の手をさらに強く握る。

夜空の答えが、聞きたい。

夜空「私は…………」

言葉を紡ごうともがくように、唇が動く。

けれど、それ以上の言葉を発することを諦めた唇は、




夜空「……目を瞑れ」


55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 22:37:10.10 ID:f//a7Qnm0

星奈「なんでよ?」

夜空「いいから!さっさと目を瞑れ!」

星奈「分かったわよ、もう」

夜空「いいか絶対に開くんじゃないぞ」

星奈「わかったから」

夜空「じゃあ――」



――そうして私の唇と重なった。

56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 22:43:20.68 ID:f//a7Qnm0
唇に、またあの柔らかく、優しい感触が訪れる。

いやそれよりも、もっと深い、溶け合うような口付け。

そっと唇が離れ、私は目を開ける。

星奈「これが、夜空の答え?」

夜空「……ふん、知るか」

しばらく何も語らず、二人で沈黙を共有していた。

そして夜空が立ち上がる。

夜空「帰るぞ」

星奈「うん」

帰り道の間、二人がずっと手を繋いでいたことは、駅で別れるときに始めて気がついた。

その駅で別れるとき、夜空は、

「じゃあな、星奈」

そう言って背を私に向けたのだった。




そうしてまた、あの心地よい寂寥が胸の端で疼いた気がした。

57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 22:48:54.47 ID:f//a7Qnm0
終わりとなります。