11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 04:31:23.70 ID:9Dqm7UADO
京極堂シリーズとsteins;gateのクロスになります

更新は不定期なのでゆっくり待ってください

1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 03:54:09.54 ID:9Dqm7UADO
――やっと、会えた――

「だから助手でもクリスティーナでもないというとろうが」

――彼の言うとおりなのか、私を助けてくれた人に会えば全てが分かるというのは――

引用元: 岡部「ぬらりひょんの戯」 

 

2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 03:56:27.32 ID:9Dqm7UADO
二週間前

私は榎木津ビルの三階にある、薔薇十字探偵社へときている。

扉は少し仰々しいような雰囲気をだし、一見さんを断っているかのようだ。

彼にお礼を言うまではアメリカには帰れない。だからこれくらいは大丈夫。

そう自分に言い聞かせ、重い扉を開きその中に入っていく。

紅莉栖「すみません。人捜しを頼みたいのですが」


3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 03:59:16.13 ID:9Dqm7UADO
「」

紅莉栖「すみません。誰かいらっしゃいますか」

返事が無いが、留守なのだろうか?
受付にはひとがいなく、閑散としている。

「和寅……はそう言えば今いないのか使えん奴め、ちょっと待ってな」

奥から声が聞こえ、それに続きガサガサとした音がなり始めた。
依頼人を待たせるような所で大丈夫なのか。と心配になったが
それでも……私は彼を見つけるまでは諦めてはいけない気が
彼にお礼を言わなければいけない気がする。
だから藁にもすがる思いでここに来たのだ。

4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 04:07:09.15 ID:9Dqm7UADO
そんな決意をしていると声の主はやってきた。
彼はこっちに来るなりずっと黙ったまんまだ。
第一印象は格好いいけど変な服を着た人。

紅莉栖「あの、人を探してもらいた……」

格好いいけど変な服を着た人「全く、こんな奇天烈な事態になったから何事かと思っていたらお前らのせいか」

何が何だか解らないけど会って早々に怒られたことは確か。

紅莉栖「えっと……ここの方ですよね?」

格好いいけど変な服を着た人「ああ、榎木津礼二郎だ」


5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 04:10:20.35 ID:9Dqm7UADO

榎木津「まあ、そのぶんお前達は大変な思いをしてきているらしいから寛容な心で許すがな。感謝しろ」

榎木津「それと一つヒントをあげると、きっと彼に会えれば君が抱えている悩みも、君が疑問に思ってることも全部解決する」

あれ、来たとこ間違えたかな。私は探偵事務所に来たはずなのに、いつの前に占いの館に来てしまったんだろう。
考えが明後日の方向に飛んでいくと、予言者のように彼は断言する。

榎木津「白衣の彼は秋葉原にいるはずだ」

榎木津「一つ老婆心ながら助言を与えるが、父親には素直な気持ちを伝えた方がいいぞ」

紅莉栖「あ、ありがとうございます」

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 04:15:37.33 ID:9Dqm7UADO
榎木津「これ以上、面倒ごとに巻き込まれたくはないから依頼は受けないぞ」

紅莉栖「そうですか……」

結局勢いに圧倒され、ヒントと助言を貰っただけで依頼は受けてくれなかったけれど、この人は一体何を知っているのだろうか。
何も分からないまま私は探偵事務所を去った。


7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 04:19:43.95 ID:9Dqm7UADO
――――
―――
――

シュタインズゲートへ到着し、紅莉栖と出会ってから3日後、世界線が変わった。
いや、正確には俺自身の手で変えられた。
着たのは2025年からきた三通のメール
内容は

「魔眼無くせα」
「になったから」
「クラッキング」

「……どういうことだ?そうだ、まゆりは!!」

震える手でまゆりの番号を呼び出す。


8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 04:22:21.51 ID:9Dqm7UADO
まゆり「トゥットゥルー、まゆしぃです。」

岡部「まゆり!!無事か?」

まゆり「どうしたの、オカリン」

岡部「……いや、なんでもない」

まゆり「今日ね、新しいコスをふぶきちゃんのとこに届けに行くから、まゆしぃはラボに行けないのです。」

岡部「ああ、わかった。……気をつけて帰れよ」

まゆり「うん、またねー」

いつものように脳天気な声で電話は切れた。

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 04:24:48.87 ID:9Dqm7UADO
どうやらまゆりは無事らしいが、いつ世界がまゆりの死に収束するか分からない限り、早くシュタインズゲートへと戻らなくてはいけない。
だがIBN5100をどうやって手に入れればいいのかが分からない。
取りあえず柳林神社へと行ってみなくては。
そうし考えているうちに携帯に着信がなった。
発信者は不明。

岡部「俺だ」

???「あ、オカリンおじさん、声若いねー」

声に聞き覚えがあった。
どの世界線でも同じで、それはさながら医者が余命宣告するかのような絶望と、治療法が出来たのを伝えるかのような希望の象徴でもあった。

岡部「鈴羽か」

鈴羽「えっ、どうして分かるの?」

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 04:28:39.55 ID:9Dqm7UADO
電話越しでも驚いているのが伝わり、少しだけ緊張が緩む。

岡部「このパターンは前にあったからな」

鈴羽「そっか、なら話が早いよ。ラジ館屋上で待ってるから」

そういうと電話は切れた。鈴羽がここにいるってことは、タイムマシンが造られたということであり
世界、もしくはまゆりか紅莉栖に何らかの事が起きたということだ。



ラジ館屋上の扉を開けると、α世界線の時よりも子供っぽい雰囲気を持った鈴羽がIBN5100を持ち、待っていた。

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/06(水) 17:02:29.14 ID:1nyJ4fxDO
鈴羽「きたきた、おーい、オカリンおじさん」

岡部「鈴羽か、一体これはどういう事だ?」

鈴羽「それがさ、私にもよくわからないんだよね。2025年の夏あたりからおじさん、なんか変な研究始めたかと思ったら9年でお父さんとタイムマシン造っちゃうし、それでこの機械を2010年のおじさんに渡してくれとかいうし。」

岡部「なら、お前が来たのは2034年からということか?」

鈴羽「あったりー」

他の世界と違い、ここにいる鈴羽は未来を変えるというような強い意思を持って来たのではなく、お使い感覚で来たためなのか無邪気に話す。

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/06(水) 17:05:59.05 ID:1nyJ4fxDO
岡部「2034年はどうなっている?」

鈴羽「SERNがタイムマシンを開発してるって噂があるけど、それ以外は平和そのものだよ」

鈴羽「そうそう、おじさんとお父さんも一時期SERNで働いてたらしいけど、首になったんだって」

岡部「俺とダルがSERNに……。じゃあ、まゆりか紅莉栖に何かあったか?」

「紅莉栖?その人のことは知らないけど、まゆりおばさんは元気にしてるよ」

俺の知っている年号とちがう。
それにまゆりや俺はまだ生きていて、鈴羽が紅莉栖のことを知らないということは、αになったけれど少し違う世界線ということになる。

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/06(水) 17:11:23.45 ID:1nyJ4fxDO
鈴羽「それと、未来のおじさんから伝言預かってるよ」

鈴羽「ゴホン、そこにいるお前は、βの俺に食われた。マッドサイエンティストならなんとかするんだな。フゥーハッハッハッハ」

岡部「……それは、俺のマネか?」

鈴羽「似てるでしょ」

似ている似ていないの問題ではなく

岡部「これは、酷い」

鈴羽「と、とにかく、IBM5100も渡した、伝言もした。これで任務完了っと」

岡部「ああ、ありがとな。鈴羽」

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/06(水) 17:17:10.15 ID:1nyJ4fxDO
鈴羽「やることもやったし、未来に帰るよ」

岡部「もう少しゆっくりは出来ないのか?」

鈴羽「私がここにいることで未来が変わっちゃったら、おじさんがやってきたことが無駄になっちゃうかもしれないし、それにおじさんの若い頃を見れたから十分かな」

岡部「そっか、ご苦労だったな鈴羽。ありがとう」

鈴羽「うん。じゃ、また7年後に」

淡白な会話を終え、鈴羽は未来へと帰っていった。
俺はダルに協力を仰ぎ、鈴羽が帰った4日後にエシュロンへのクラッキングを行い、元のシュタインズゲートへと戻ることができた。

19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/06(水) 17:19:06.58 ID:1nyJ4fxDO
α世界線といっても、まゆりは死んでなかったし、紅莉栖はラボメンにはなっていなく、またSERNにまだ嗅ぎつけてなかった。

それに俺とダルは一時期SERNの研究員になっていたが首になったらしい。

それはこの世界での初Dメールが四日前についたためバタフライエフェクトが起き、それにより本来のαとは異なる未来を歩み始めたためだと思われる。

20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/06(水) 17:52:41.66 ID:1nyJ4fxDO
そのDメールにSERNは気付いたが俺とダルは気付かず、訳も分からないままSERNに協力をさせられたはずだ。
だから利用価値はないと判断され首となった。

タイムリープマシンは出来なかったから、ラウンダーが突入するということにもならなかったのだろう。

ここを仮にα+と名付けたが、未来の俺はリーディングシュタイナーを消す方法を考えさせるためだけにこのDメールを送り、α+世界線に移動させ、さらにタイムマシンを造ったということになる。

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/06(水) 18:01:31.19 ID:1nyJ4fxDO
――――
―――


岡部「何をそんな不満そうにしているのだ助手よ」

紅莉栖「うるさいぞ岡部!あんたが買い物について来いって言ったから少し嬉かったのに、橋田には出くわすし、しかも岡部が私の話を上の空で聴いていたから苛ついてる訳じゃないんだからな。それと助手じゃない」

ダル「つまり牧瀬氏はオカリンと2人っきりで買い物したかったというわけですね。いつもどうりのツンデレ、イライラしてきたお」

紅莉栖「だまれ、HENTAI。誰がツンデレだ」

私と岡部が再会してから二週間が経つ。最初こそ白馬の王子様のように見えたのだが、それは会って一週間経ったら見事にそげぶされた。


22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/06(水) 18:03:29.25 ID:1nyJ4fxDO
そげぶされた後に残ったのは厨二病で独善的な自称狂気のマッドサイエンティスト()の鳳凰院凶真。
と仲間思いで時々何かに悩んだように、遠い目を無意識にしている岡部倫太郎。
一週間そこらでそこまで分かってしまうほど彼に惹かれている自分。

それに有るはずのない記憶……

彼に会えば解決すると言ったのはエセ占い師の探偵で、いや、別にそれを頭から信じているわけではないけど、会えば会うほど分からなくなってくる。


岡部「どうした。まだ怒ってるのか紅莉栖よ」

紅莉栖「いやちょっと考え事を、てかいま紅莉栖って」

23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/06(水) 18:06:08.04 ID:1nyJ4fxDO
岡部「まあいい。俺はこれからルカ子の修行の面倒を見に行くとするが、ダルとクリスティーナはどうする」

ダル「こんなラブチュッチュッ空間にいられるか。僕はメイクイーンという名の自室にこもらせてもらおう」

岡部「ダル、それは死亡フラグだぞ」

紅莉栖「私は着いてくわ。岡部といっしょ……余り漆原さんと話す機会なかったから、ちょっと話してみたいし」

ダル「外だから殴る壁がない件について」

岡部「……何を言ってるんだダル。まあ、ついて来るが良い助手よ。貴様にも清心斬魔流の修行というのを見せてやろうではないか。フゥーハッハッハッハ」

紅莉栖「いや、それはいいわ」

とりあえず、私が持っている記憶と気持ちを考えるのは保留にして、今は彼の事をもっと知りたい。

27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 01:24:21.84 ID:oNKGVNMDO
――――
―――


参った。道に迷ってしまった。
君は自分の家かここにしかいないけど、本格的にモヤシになってしまうぞ。
なんて言われて強制的にお使いに出されてしまい、来た秋葉原。
大体私はこういった雰囲気の場所が苦手なんだ。
だからと言って新宿や渋谷といった所には絶対に行きたくはないけれど。
しかも何だ。古本関係の届け物かと思いきや神社への届け物とは。

関口「そんぐらい自分でやってくれよ、京極堂」

そんなことを考えながら私は1人ごちた。

28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 01:27:34.03 ID:oNKGVNMDO
それにしてもこの柳林神社というのは、随分とわかりずらい所にある。

くるくると地図を廻しながら今自分のいる所在を確認していると、やけに大きな声で言い争いしている男女が見える。

人に道を聞こうにも、話しかけるのは苦手だし、ましてや白衣を着た男や気の強そうな女性なんて怪しい人達にはまず話しかけられない。

気の強そうな女性「どうかなさいましたか?」

これは、不運なのかそれとも僥倖と言っていいのか、先程の気の強そうな女性と白衣を着た男が話かけてきた。

29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 01:32:19.03 ID:oNKGVNMDO
関口「あ、あの、すいません。柳林神社というのはここからどの様に行けば良いんでしょうか」

喋りながら声が消えてくのがわかる。

白衣を着た男「すまん。なんて言ったのだ」

白衣を着た男が聞き直してくる。
自分のことながら情けなさそうな奴だと思うが、その思考のせいで紡ぎ出す言葉は泥沼にはまっていく。

関口「い、いや、分からないなら良いんです。何でもないです。すいませんでした」

今度は言葉が早くなり、諦めたように地図へと目を落とす。

気の強そうな女性「えーと、柳林神社に行きたいんですよね?私達も今から行くので、良かったらご一緒に行きませんか?」

関口「いいんですか?あ、ありがとうごさいます」

30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 01:38:22.55 ID:oNKGVNMDO
助かった。
やはり一人ではたどり着けないのではないかと考えていたから、その申し出に素直に従うことにした。

関口「関口巽です」

気の強そうな女性「牧瀬紅莉栖です」

聞いたことがある、確か……

関口「牧瀬ってサイエンス紙に論文が載った、あの」

紅莉栖「ご存知でしたか、あれは研究室やチームの皆に恵まれてたお陰で出来たんですよ」

関口「いやいや、そんな謙遜をしなくても。では、そちらの白衣の方も研究室に属しているんですか?」

白衣を着た男「如何にも、未来ガジェット研究所の所長を勤めている鳳凰院凶真だ」

31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 01:45:09.56 ID:oNKGVNMDO
その男は腕を交差させながら、白衣をはためかせて鳳凰院凶真と名乗った。

関口「鳳凰院だなんてすごい名前ですね」

紅莉栖「いや、こいつの本名は岡部倫太郎だから。それに研究所といっても大学のサークルの様なものですし」

岡部「ぐぬぬ、助手の分際で……」

紅莉栖「本当の事でしょ」

関口「そ、その未来ガジェット研究所と言うところは何をしているところなんですか?」

岡部「よくぞ聴いてくれた。未来ガジェット研究所は世界の支配構造を変え、世界に混沌をもたらすような道具を造っているのだ」

紅莉栖「という名目の下、ガラクタを量産しているとこよ」

32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 01:49:40.45 ID:oNKGVNMDO
岡部「おのれ助手め、もしや貴様機関に寝返ったな」

関口「な、仲が良いんですね」

「「誰がだ!!」」

紅莉栖「こんな訳も分からない偽名使うような厨二病患者と仲がいい訳ないじゃない」

岡部「HENTAI小娘なぞ相手にしてない」

紅莉栖「誰が小娘よ、一学年しか変わらないじゃない」

岡部「大学生と高校生には、天と地ほどの差があるのがHENTAI小娘には分からないのだろうな」

紅莉栖「わかります。つまりこの年で大学を卒業した私の勝ちってことでFA?」

岡部「」

関口「は、ははは」

私は、二人の会話に苦笑いを浮かべることしか出来なく、この人達に着いていくと決めたことに少し後悔をし始めていた。

33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 01:58:10.52 ID:oNKGVNMDO
紅莉栖「そういえば、関口さんって何をやられてる方なのですか?」

関口「僕は一応作家みたいなものかな……」

紅莉栖「凄いですね。どんなジャンルをお書きになるのですか?」

関口「ミステリーとか……」

其処まで話すと話題が無くなってしまった。寧ろ初対面にしたらよく喋った方だと思う。

岡部「それで、関口とやら、柳林神社には何の用があるのだ?」

関口「友人に頼まれて、届け物を」

岡部「そうか、もうつくぞ」

34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 02:04:06.22 ID:oNKGVNMDO
自己紹介を粗方終えたら柳林神社についた。思ったよりも遠く無かったが、秋葉原の喧騒が全くなく、荘厳とまではいかないが、独特の雰囲気がそこにはあった。
きっとそれは表で掃き掃除をしている可憐な女性のお陰かもしれない。

可憐な女性「あっ、凶真さん。こんにちは。えーと、そちらの方は?」

関口「関口巽といいます。京極堂から届け物があるのですが、お父さんはいらっしゃいますか?」

可憐な女性「はい、今呼んできますね」

関口「いや、案内していただくだけで大丈夫ですよ」

可憐な女性「そうですか。すいません凶真さん、少し待っていただけますか?」

岡部「うむ。いってくるがよいルカ子」


35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 02:10:43.04 ID:oNKGVNMDO
京極堂からの届け物を渡してから帰って来ると、案内をしてくれた巫女の女性が刀を素振りをし、その隣に立っている岡部君と、それを遠目から見ている牧瀬さんというシュウルな光景を目にした。

関口「あれは……何をやっているんだい」

紅莉栖「清心斬魔流とかいう、ありもしない流派の修行らしいです。ったく、人を振り回す事だけは一流なんだから」

そう言って彼女はため息をつく。
きっと彼女も振り回されてる人の一人なのだろう。

関口「……周りを振り回す所とか何だか僕の知り合いを見てるようですよ」

紅莉栖「あなたも大変なんですね」

私と彼女は同時にため息をついた。

36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 02:20:07.48 ID:oNKGVNMDO
――――
―――


秋葉原で用をすませた私は、報告を兼ねて京極堂を訪ねていた。

京極堂「それで、道に迷ったり、変な人に着いていったりせずに無事に届けられたか?」

関口「開口一番でそんな言葉は聞きたくなかったな。第一、人を幼稚園児と一緒にしないでくれ」

京極堂「ほう、では君は今まで道に迷うことなく目的地に着き、やっかいごとに巻き込まれることなど無かったと言うのか」

関口「た、確かに今まではそういった事もあった。今回も道に迷い変な人にも会った。けれど、ちゃんと届けたし、やっかいごとには巻き込まれてない」

関口「それに、変な人って言っても道案内をしてくれた訳で、しかも一人は牧瀬紅莉栖さんだったし」

37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 02:24:03.37 ID:oNKGVNMDO
京極堂「へぇ。この前、論文が載ってた脳科学の牧瀬譲か。其れにしても、道案内をしてくれた人を変だなんて礼儀がなってないな」

関口「まあ、確かに言い過ぎたかもしれないな。悪そうな人達ではなかったよ」

関口「でも、初対面の人に、自分のことを鳳凰院凶真って偽名で名乗る人を変人と呼ばないで何て呼んだらいいんだ」

京極堂「……詳しく話してくれるかい?」

関口「なんだ、君が興味を持つなんて珍しいな。彼は大学生で未来ガジェット研究所というサークルの長をしているとか言ってたな。何でも世界の支配構造を変える道具を作ってるとかなんとか」

京極堂「……面白そうな話だ。その鳳凰院君と会うことは出来るか?」

38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/11(月) 02:31:05.07 ID:oNKGVNMDO
関口「柳林神社の巫女の方と友人のようだったから連絡は取れると思う」

京極堂「なら、次の日曜にでも呼んできてくれ」

関口「全く、君は人使いが荒いな」

京極堂が何故そこまで興味を持っているのかはわからないが、結局は

関口「わかったよ」

と答えるほかなかった。

京極堂「それと一つ勘違いをしているようだが、柳林神社の巫女。いや、巫女と言っては語弊があるな」

関口「彼女がどうかしたのか?」

京極堂「君は彼女という処から間違っている。彼は男性だよ」

関口「えっ」

そこからの記憶がなく、私は気がついたら自宅へと戻っていた。

43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 00:38:27.75 ID:dQ+OOd3DO
――――
―――


秋葉原で出会った関口と名乗る人物から話がしたいとの連絡があり、俺は今、待ち合わせ場所に行くために紅莉栖達と長い坂を上っている。

岡部「ついに我がラボが取材を受ける日がくるとはな」

紅莉栖「機関はいいんですか?鳳凰院さん」

岡部「確かに機関にも知られることになる可能性もあるが、それ以上にこれを見て我がラボの出資者が現れるかもしれないだろうが」

紅莉栖「あるあ、ねーよ」

ダル「どうでもいいけど坂長過ぎ。ピザにはつらいお」

紅莉栖「確かに、この坂は足が重くなるわね」

まゆり「ダル君、紅莉栖ちゃん。もうちょっとだから頑張って」

44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 00:41:11.93 ID:dQ+OOd3DO
岡部「まゆりは本当にげんき―」

そこまで言いかけて突然目眩が襲ってきた。
まさかまた世界線が変わり、シュタインズゲートから外れてしまったのか?
急いでまゆり、紅莉栖、ダルの無事を確認する。

岡部「皆無事か?」

紅莉栖「ええ、でも何この目眩」

まゆり「くるくるするよー」

ダル「無事じゃない、もう限界。ルイスちゃん今行くお」

まゆりも紅莉栖もそこにいたということは世界線が移動していないと取っても大丈夫だろう。

45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 00:46:00.26 ID:dQ+OOd3DO
岡部「安心しろもう見えてきた」

長い坂を登りきると、そこには堂極京とかかれた看板を提げている昔ながらの家があった。

岡部「着いたぞ。ここだ」

まゆり「どうきょくきょう?面白い名前だねー」

紅莉栖「このような場合は右から読むんじゃないかしら。多分京極堂という名前だと思うわ」

岡部「この中に我がラボの名を世界へと伝える伝承者がいるのか……」

紅莉栖「だから、ねーよ」

まゆり「ごめんくださーい」

岡部「まゆりっ、その偉大な一歩はラボの長であるこの俺の役目だろう」

まあいい、今日はこのラボが先ずは日本へとその名を轟かせることになるであろう記念すべき日だからな。

46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 01:09:46.78 ID:dQ+OOd3DO
京極堂と書かれた玄関をくぐるとまず、ずらりと並んだ本の多さに圧倒された。

岡部「これは……凄いな」

紅莉栖「発酵と漬け物の関係性、大乗仏教における寺院庭園の役割……流行に作用されない可愛らしいコーディネート秋冬編……色々あるわね」

ダル「この本、秋葉探しても見つからなかったやつだお」

まゆり「ほえー」

「気に入ったかい」

声のする方を見ると、そこには和服を着て不機嫌そうな顔をし、どこか浮き世離れした雰囲気を持つ、簡潔に表すとイライラしてる芥川龍之介のような人物が立っていた。

47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 01:17:59.60 ID:dQ+OOd3DO
岡部「あなたは?」

イライラしてる芥川龍之介のような人物「僕は中禅寺秋彦。この京極堂の店主だ」

岡部「ああ……えっと、岡部倫太郎です」

Mr.ブラウンとは違った怖さの為思わず素が出てしまった。

京極堂「ここではなんだから、あがりたまえ」

…………
……

京極堂「お茶を煎れてくるから、そこに座って待っていてくれ」

そう言われ通された座敷は、店とそう変わらない量の本で埋め尽くされ、その真ん中に関口さんが座っていた。


48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 01:32:23.99 ID:dQ+OOd3DO
関口「先日はどうもありがとう。助かったよ」

岡部「いえ、それよりも今日は取材と言うことでよろしかったんですよね」

関口「いや、今日呼んだのは取材の為ではないんだ」

岡部「ラボの話を聞きたいと言うのだからてっきり取材かと思ったのだが」

ダル「だから、そんな話無いって言ったろーが。こんな訳の分からんサークルを取材するメリットなんてないわよ」

岡部「ならば何故俺達をここに呼んだのだ?」

関口「個人的に詳しく話を聞きたかったのは本当だよ。騙すつもりは無かったんだ、すまない」

申し訳なさそうに関口さんは頭を下げる

49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 01:43:53.14 ID:dQ+OOd3DO
×ダル→○紅莉栖

まゆり「ああー猫ちゃんがいるー」

ダル「ぬこ!?こっちにおいで、お兄さんが愛でてあげよう」

ネコ「フシャー」

ダル「いてっ、引っかかれたお」

まゆり「乱暴はめっだよ。ほら、怖くないから」

ネコ「にゃー」

まゆり「いい子だねー」

ダル「流石はまゆ氏。天才か」

岡部「今日は何の話を聞きたいのですか?」

京極堂「それは、僕から話そう」

50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 01:49:44.33 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「粗茶だがどうぞ」

紅莉栖「ありがとうございます。そう言えば自己紹介がまだでしたよね。牧瀬紅莉栖です」

京極堂「関口から話は聞いているよ、未来ガジェット研究所の所長の鳳凰院凶真君と、助手の牧瀬紅莉栖さん。牧瀬さんはサイエンス誌に論文が載っていたね」

紅莉栖「そうですけど、助手じゃありませんから」

京極堂「そうか、そちらの二人は?」

岡部「こっちはラボメンNo.002の椎名まゆりだ」

まゆり「トゥットゥルー、椎名まゆりです」

膝に乗っていたネコを立ち上がり際、抱きかかえぺこりと頭を下げると同時に抱かれていたネコがニャーと鳴いた。

京極堂「へぇ、珍しいな。柘榴が僕以外の人間に懐くなんて」

51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 01:53:51.77 ID:dQ+OOd3DO
ダル「まゆ氏ぱねぇっす。さっき僕がぬこに触ろうとしたら手引っかかれたし」

紅莉栖「あんたから邪なHENTAIオーラが出てるのがわかったんじゃない?」

ダル「ひ、酷いお。僕はただぬこを愛でようとしただけだお」

紅莉栖「愛でようとした所からして邪なんだが」

ダル「ぬこはツンデレの起源、これすなわち萌の起源。ならば、ぬこは愛でるべき生き物。異論は認めぬ。それにしてもこのぬこ、ずっとまゆ氏の膝の上から離れんとは、うらやまけしからん」

岡部「訳わかんない事を言っているのはラボメンNo.003、スーパーハカーの橋田至だ」

ダル「トゥットゥルー、スーパーハッカーのダルしぃです」

京極堂「ああ、よろしく」

ダルの発言に眉一つ動かないとは、なんというスルースキルの高さ
いや、呆れてるだけか?

52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 01:58:01.10 ID:dQ+OOd3DO
岡部「それで話を聞きたいとはどういうことなんですか?」

京極堂「まあ、それは追々分かることだから今はいいだろう」

は、はぐらかされた……
人を呼んどいてなんという態度だ、怖いから口には出せないが

京極堂「じゃあ、関口君。少し、彼等と話をしてくれないか」

関口「そうは言われても何を話したらいいんだ?」

京極堂「是だからコミュニケイション不足の人間は……何時もしているような話を彼等にしてくれればいい」

この人はさっきから強引すぎるだろ。
いや、怖いから口には出せないけど


53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 02:00:27.71 ID:dQ+OOd3DO
関口「そんなムチャな……とりあえず、京極堂と何時もしているような問答でもしてみようか」

紅莉栖「それって、討論みたいなものだと捉えて良いんですよね?」

紅莉栖の顔がニヤリとなった。少し可哀想だがああなっては止めることは出来ないだろうな。

関口「そんなに堅いものじゃないけどね」

56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:04:54.69 ID:dQ+OOd3DO
――――
―――


20分ぐらいの問答の中で分かったことは、関口さんは着目する点は面白いとは思ったけれど論に穴があり、どこか負け癖のようなものが漂っている感じを受けた。

紅莉栖「それは違うわよ」

紅莉栖「その主張だと前に言ったのと矛盾してるわ」

紅莉栖「実際にそれを証明できる事象はあったの?」

紅莉栖「熱膨張って知ってるか?」

ロンパ
ロンパ
ハイ、ロンパー

関口「」

岡部「助手が輝いて見えるな」


57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:06:53.51 ID:dQ+OOd3DO
ダル「関口氏むちゃしやがって……」

私が論破するたびに岡部は嬉しそうに頷いている。
どうせラボの一員がどうのこうのとでも考えているのだろうけれど、参加してきたら岡部も論破してやるのに。

関口「どうも、僕では力不足みたいだ。京極堂」

先ほどよりも憔悴した表情で関口さんは中禅寺さんもとい京極堂さんに匙を投げた。

京極堂「君がボロカスにやられてる処をもう少し観ていたかったが、しょうがないな」

関口「京極堂……君って奴は……」

京極堂「牧瀬さん。心というのは何処にあるかは知っているかい」

話相手が京極堂さんへと変わる。


58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:09:47.95 ID:dQ+OOd3DO
紅莉栖「一般的には解明されてませんが、心というのは、脳の電気信号によって起こる主観的な感情の変化を一般の人々が分かるように説明する単語だと、私は解釈しているわ。よって脳にあるのだと思います」

京極堂「じゃあ、虫の知らせや第六感と呼ばれるものはどういう原理だと思う?」

紅莉栖「直感というのはなんの脈絡も無いように思えるけどその実、深層の方では経験等から情報を得ているもの」

紅莉栖「例えば、突然電話がかかってきて、なんか嫌な予感がすると思いながら出たら、案の定余りいい話ではなかった」

紅莉栖「これは自分に電話してくる友人たちの数やその時間帯、その時間帯に自分にかかってくる電話の重要度など今までの経験を総合して判断しているから事前に予感できた」

紅莉栖「これは虫の知らせの他にも、デジャヴや既視感と同じ様な原理でなっている。と言った所かしら」

59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:12:26.60 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「なるほど。やっぱり牧瀬さんは関口君なんかよりも話しがいがある。なら誰もいないはずの道なのに、後ろから着いてきている人がいるのがわかる」

京極堂「真剣になってる人の前に立つと圧迫感を感じる。電車の中で寝ていたのに、自分が降りる駅になると目が覚める」

京極堂「こんな第六感、言葉を換えると気配になるね。それに人間の意識という概念」

京極堂「君がさっき説明したのは、あくまでも側面的なもので全体的なものではない。これらのことの中には経験則だけでは説明できないものがあるからね」

京極堂「其れを踏まえてもう一度聴くが、牧瀬さん。第六感や虫の知らせ、それに意識はどの様な原理で成り立っていると思う?」

反証と事例を上げ、力ずくで論破させていく
この人は今まで話してきた人より確実に、ディベートが上手だ。
それこそ学会で寝ぼけているだけの教授とは比べものにならないくらいに

60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:14:14.67 ID:dQ+OOd3DO
紅莉栖「さっきのいった話の中で説明できるのは、表情であったり、声であったりで確認できる圧迫感だけかもしれない」

紅莉栖「確かに脳科学の分野でもそう言ったものは完全には解明されてないけれど、だからと言ってそれが脳からの信号でないとは言い切れないんじゃない?」

京極堂「いや、まず脳科学に当てはめて考えること自体がナンセンスなんだよ」

京極堂「話は変わるけどニュートリノってすごいと思わないかい?」

紅莉栖「いきなりなんの話ですか?」

脳科学をナンセンスと言われ、いきなり話を逸らされた事に苛立ちを感じたから、投げかけた言葉も刺があるようになってしまった。
けれど京極堂さんはそれを意に返さないように答える。

61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:17:08.53 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「電子よりも小さい物質が有るなんて実際に観測されるまでは理論、推論だけでしかなかった。しかし、事実それが存在した」

京極堂「でも、もしニュートリノよりも小さい物質が有って、それが気配や記憶というものをなしていたとしたらどう思う?」

京極堂「実は僕達はその極小のものを無意識で垂れ流し、観測しながら生きているんだ」

京極堂「その極小のものが既視感や気配、第六感、更には記憶や心、意識といったものを司っているのだとしたら、今までの僕の論に矛盾点は無くなる」

紅莉栖「確かに超ひも理論のような考え方は存在するのも事実」

紅莉栖「それでも、今の物理学ではそれを証明する事は出来ない。それに……」


勿体ぶったように一呼吸置いてから話す

62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:21:38.10 ID:dQ+OOd3DO
紅莉栖「私が書いた論文の内容を知ってますか?」

京極堂「確か、側頭葉に蓄積された記憶に関する神経パルス信号の解析だったかな」

紅莉栖「そうです。脳の働きはすべて、神経パルスによる電気信号。私の研究チームはどの電気信号がどの記憶と関係してるかを解析してそれを論文にしたの」

紅莉栖「今や、記憶は海馬に刻まれた神経パルスの電気信号と言うことは分かってるのよ」

見える、数分後にはぐうの根も出ずにうなだれている光景が
勝ったッ!第三部完!

63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:24:45.77 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「ならばなぜ、心臓移植した患者が、あるはずのないドナーの趣味、嗜好の記憶を持っているという事例がある?」

京極堂「それは心臓にもそういった機能が備わっていると言う証明にはならないかい?そしてそれは心臓だけでなく全身に備わっているといっても可笑しくはないと思うが」

確かに実例は存在している……
まさか脳科学以外の所から引っ張ってくるとは思わなかった。

紅莉栖「……っ、それは、あくまでも事例が存在するだけであって、記憶の場所が違うところに有るという証明には理論も考察も何もかもが足りないじゃない」

紅莉栖「それに、仮に心臓にそういった機能があったとして、だからと言って記憶が極小のもので、それが体に刻まれているだなんて理論は飛躍しすぎよ」


64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:27:46.84 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「確かに僕が牧瀬さんの立場であったならそういう風に答えるかもしれない。でも君も体験してるはずだよ」

紅莉栖「体験?そんな事をした覚えなんて無いけれど」

京極堂「牧瀬さん。君は胡散臭い探偵の所に行って依頼を頼んだ時色々言われただろう?」

そういえば、あの探偵は私の知らないことまで知っているような雰囲気だったけれど

紅莉栖「なんでそれを知ってるんですか?」

京極堂「あそこの胡散臭い探偵、榎木津とは知り合いなんだ。彼には人から出ている記憶をみることができる」

岡ダま「ナ、ナンダッテー」

京極堂「……まあ、その人間の記憶全てが見れる訳でなく、見ることが出来るのはあくまで断片的な、言ってしまえば記憶の残滓といったようなものだ」

65: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:30:30.10 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「その時彼奴は、人から流れ出てくる記憶を観測する事ができる」

確かにあの時の探偵は、岡部が秋葉原に居ることも、私が父親との仲に悩んでいたことも知っていた。

いくら探偵だって私が親子関係で悩んでいたことまでは調べられないし、大体あそこには予約を取っていなかったのだから、私が来ること自体知らなかったはず。

……これは負けたのかもしれんな。


紅莉栖「……納得はしないけど、榎木津さんみたいに記憶を見ることが出来る人間がいることや、そういった不思議なことがあるっていうのは理解した。けど、何でこの話を私逹にしたのかが分からないんですが」


66: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:32:00.40 ID:dQ+OOd3DO
縁側から風が吹き、髪を撫でる。

「それは違うよ牧瀬さん。この世には不思議なものなど何もないのだよ」

それと共に、既に季節を過ぎてしまった庭先の風鈴がちりんと音を立てた。

67: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:37:09.05 ID:dQ+OOd3DO
――――
―――


京極堂「一見、不思議なことに見えても、全てには意味がある。その事を僕は知ってもらいたくて例を上げたんだ」

どうやら紅莉栖と京極堂の議論は多少強引な進め方であったとは思うが、京極堂に軍配が上がったようだ。
しかし、あの三週間の中で紅莉栖は意識や心の場所はまだわかっていないと言っていたはずだが、なぜ今は脳の信号だと言い切ったのだろうか。

京極堂「そしてこのことを踏まえて鳳凰院君、いや岡部君に聞きたいことがある」

岡部「っえ、俺にですか?」

京極堂「この世界線はどうなっているんだい?」

68: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:39:53.20 ID:dQ+OOd3DO
いきなり出てきた聞き慣れた単語
できれば一生聞きたくは無かったが……

岡部「っっ、どうしてあなたがその事を?まさかセルンの関係者……」

京極堂「いや、僕は世界線が変わる前と後の記憶を持っているんだ」

京極堂「私と妻、榎木津と関口君とかは、世界線が変わる前、戦後の時代に生きていた人間なんだ」

リーディングシュタイナーは誰にでも備わっているが、世界線変動前後の記憶を持っている人がいるとはな。
しかも変わる前は戦後に……

岡部「ちょっ、待って下さい。それはおかしいんじゃないですか?」

岡部「俺が送ったDメールは、紅莉栖が刺されたという内容で、そこにはそれ以前の歴史、つまりは京極堂さん逹にはバタフライエフェクト、因果が絡んでないはずでは」


69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:43:14.44 ID:dQ+OOd3DO
紅莉栖「私が刺されたってどういうこと?」

訳が分からない。
確かに世界線を変えるという行為は何が起きるか分からないが、Dメールを送る前には干渉しないはず。

京極堂「Dメールが何なのかは分からないが、そもそもの前提としてそれが間違っているとは言えないかい」

岡部「どういうことですか?俺がジョンタイターから聞いた2036年においての理論は、世界線は毛糸のような繊維の一本々になっていて、それが重ね合わせの原理として存在をしている」

岡部「そこから行動を選ぶと分岐していくという、言わば、多世界解釈とコペンハーゲン解釈のいいとこどりというようなもので、それは2036年時にはスタンダードな考えと言われていたんですよ」

ダル「説明乙」

岡部「ええい、茶化すな」

70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:45:27.27 ID:dQ+OOd3DO
岡部「つまりは分岐する前の状態は変わらない。俺達は戦後直ぐでの過去改変は行ってないからそれはありえない!」

紅莉栖「いや、ちょっとまって、世界線?ジョンタイター?何これ?ドッキリ?」

まゆりは何時もと変わらずニコニコしているが、紅莉栖は何が何だかわからず困惑している様子だし、ダルは関口さんにゴニョゴョ話しかけている。

大方、京極氏も厨二病だったん?
みたいな事を言ってるのだろう

だが今は紅莉栖やダルに説明するよりも先に聞いておかなければならない事がある。
もしかしたらリーディングシュタイナーや世界線が何なのかを知ることが出来るかもしれない。

岡部「後で説明するから少し待っていてくれ」


71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:49:01.66 ID:dQ+OOd3DO
ダル達を黙らせ、京極堂さんに続きを促す。

京極堂「……世界を分岐させるということでなく構築、創り出すと考えるんだ」

岡部「構築ですか……」

京極堂「そうだ。さっきのコペンハーゲン解釈に当てはめると、観測する前に存在した可能性があるかもしれない世界線に君は何回か移動をしていることになる」

京極堂「だが、観測してしまっているという時点で話はおかしくなってくる」

岡部「どういうことですか?」

京極堂「君が観測者と言うことは君が観た事は確定していないとおかしい。それにも関わらず世界線は変動した」

岡部「でもそれは可能性世界線だったから過去を変えてしまえば、違う可能性が生まれて」


72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:52:43.92 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「しかし、観測するという行為は事象の決定付け、可能性の世界を可能性のままにして結果を一つにすること。だから結果を認識してしまえば?」

岡部「可能性世界線の崩壊……」

京極堂「そう、世界線が変わる前後のことを誰もが知らない、観測出来なければ可能性の中の世界は有り得るが、君や僕と言った人間がいることによって結果は一つへと収束し、可能性は破棄され世界は固定されないと可笑しい」

岡部「しかし、その点は多世界解釈でクリアできるのでは無いのですか?」

京極堂「そこが、問題なんだ。多世界解釈は観測の有無に関わらず、世界は無数に存在していると主張している」

京極堂「一方、コペンハーゲン解釈は一点に収束する前の状態を観測することができないから、確率的解釈により、偶々この状態になっているものとしている」

73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:55:11.25 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「この二つの矛盾点は、前者では常に世界は隣合わせで進んでいて干渉することは出来ないということに対し、後者では結果として世界は一つとしている点だ」

京極堂「それに対して君が行った行為は、世界に干渉し、結果を一つとしないという両方の解釈の基盤となる部分を否定した」

京極堂「これは、いいとこ取りと言う言葉で済ませれるようなものではない」

岡部「ならば、俺が行った世界線の構築と分岐はどういった違いが」

京極堂「君が行っていたのは一度崩壊した可能性世界の構築と移動だ」

岡部「結局それではコペンハーゲン解釈と変わらないのでは?」

74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:58:01.28 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「それでは僕や関口といった人間はこの時代に存在しない事になる」

京極堂「しかし、君がもう一本の世界線を創り出してしまえば、君が変えたい事やそれに関係する事以外の君が知り得ないことは不確定性原理により未確定」

京極堂「だから新たな世界線にはいないはずの人間がいたり、いるはずの人間がいない、ということは何の問題もなく起こり得るだろう」

岡部「……分岐ではなくて構築……。なら俺がDメールを使って行って来たことは」

京極堂「世界を創り出すこと、言い方によっては神の行為だったということだ」

京極堂「ただ、君が観測したものを変えてしまうことは難しかったはずだけどね」

岡部「確かにそうだったが、ならばそれはなぜ?」

75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 12:59:27.54 ID:dQ+OOd3DO
京極堂「さっき僕が可能性の中の世界の構築と言ったけど、いくら君が新たな世界を創り出す事が可能な道具を持っていたとしてもだ」

京極堂「観測者が観測したそのときに、形、性質が決まる。其れまでは確率的にでしか判断できない。だが、観測したものは確定してしまう」

岡部「しかし、それでは」

京極堂「話が堂々巡りしてしまう」

京極堂「だから君が想像し創造する世界と確定世界の修正力。どちらが重要な糸かに置いて世界は選択された」

京極堂「きっと、大きな事象であったり、世界という糸にとって必要なこと以外は君が世界に関与する隙があった。神はサイコロを振るということだ」

76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 13:02:11.16 ID:dQ+OOd3DO
岡部「な、なるほど」

つまり、俺が創った可能性世界の糸と確定した世界の糸。
どちらがより世界にとって重要な要素をはらんでいるかにより世界は選択された。

確かに、ダルがアクセスバトラーズでの対フェイリス用に送ったDメールは、何の因果を持つ事が出来なかった。

多世界解釈とコペンハーゲン解釈で考えても、Dメールは過去に送ることができ、例えそれが受け取った側の任意によって世界を変動させたとして
Dメールを受け取った事実はダルの中に存在するはず。
しかし、ダルはメールを受けとった事実を覚えていなかった。

もし、これが世界の選択によって変動を行っているとしたら、世界は変わらない事を選び、ほんの少しの世界線変動も起きなかった為
ダルはメールを受け取ったことを覚えていないとしたら……辻褄は合う。

77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 13:13:07.12 ID:dQ+OOd3DO
コペンハーゲン解釈と多世界解釈のいいとこ取りというよりかは、意思説と運命論の妥協点と言ったところなのかもしれない。


ダル「言ってる意味が全くわからない件について。エロゲでとは言わないけど、分かり易く教えてエロい人ー」

岡部「えっと、だな……ゲームに例えると、勇者が俺で、物語の選択肢が世界線」

岡部「選択肢を選ぶ行為をDメールで決定するが、魔王を倒す事がアトラクタフィールドで決まっている。プレイヤーがダル及び世界とする」

岡部「勇者に意志つまり、観測する能力がなければ、プレイヤーが道中で違う行動をとって世界線が変更したとしても」

78: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/17(日) 13:16:38.52 ID:dQ+OOd3DO
岡部「アトラクタフィールドにより、予定調和通り魔王を倒し、エンディングを向かえるが、勇者に意志があった場合」

岡部「道中好き勝手に行動、つまり勇者が物語である世界線を作り上げ、何やかんや魔王の所までたどり着いた」

岡部「そこで世界の半分をやると言われ、貰う選択を勇者がした時に予定調和の世界が崩壊する」

岡部「プレイヤーであり、世界であるお前は選択をする。一つは勇者を認めずリセットをして魔王を倒させるまで物語を繰り返す。これがアトラクタフィールドの縛り」

岡部「もう一つは、面白そうだからと勇者の選択をそのままに、勇者が勝手に作ったエンディングを見る……みたいな感じだな」

京極堂「それに補足をすると、勇者は道中好き勝手に行動をしたから、立ち寄ってない街があるかもしれない」

京極堂「プレイヤー、つまり世界は立ち寄ってない町の住人を適当に想像する。それが住人Aであり、僕達ということだ」

ダル「なるほどなー……僕だったら住人Aから住人Zまで、色んなおにゃのこがいる街を想像するお」

岡部「勝手に想像でも何でもしてくれ……」

83: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:08:15.49 ID:fJ7phTSDO
京極堂「それはそうと岡部君、君の行った世界線の変更はどのような方法で、どの様な体験をしてきたのかを教えてくれないか」

岡部「そうだ!何故俺やジョンタイターのこと、世界線のことを知っていたのです?」

京極堂「この時代にはインターネットっていう便利なものがあるからな。状況を把握するために使っていたら@チャンネルに辿り着いて、そこで君たちが興味深いやりとりをしていたから覚えておいたんだ」

岡部「ああ、それで……」

京極堂「しかし面白いものだ。私が他の世界の記憶を思い出したのは7月28日だが、それ以前の記憶も持ち合わせているというのは」

84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:12:06.84 ID:fJ7phTSDO

紅莉栖「世界線……でも確かにあの時の岡部は……クリスティーナという言葉……私の論文……」ブツブツ

関口「僕が戦後の人間……じゃあ涼子さんは……そもそも一作家に何であんな事が……この時代に廃墟のような場所……」ブツブツ

ダル「何かさっきから2人ともブツブツ言ってるし、僕たちも何か反応したほうがよくね、まゆ氏」

まゆり「大丈夫だよダル君。まゆしぃには京極堂さん達が話してることはさっぱり分からないのです。それに喋ったのだって、ナンダッテーだけだし。それにしてもこのお菓子おいしいねー」

岡部「……この際だ、ダルとまゆり、紅莉栖も聞いておいてくれ、俺が体験した一番長い三週間を」

岡部「始まりは、適当に改造した電子レンジと、一通のメールからだった……」


85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:15:41.45 ID:fJ7phTSDO
…………
………


話が終わる頃には、日は傾きかけ、何度ものどを潤そうとした為に、入っていた白湯とそう変わらないお茶は既に無くなっていた。

「で、確定してしまった未来を抜け出し、シュタインズゲートに辿り着く事が出来たというわけだ」

萌郁とMr.ブラウンがラウンダーであったこと、俺と紅莉栖の関係を除いて話し、そう締めくくると
一方では納得したような顔をしていたり、また一方では、何かを懸命に考えているような仏頂面を浮かべる者
ネコを膝に乗せながら目を潤ませている顔など、様々な表情が俺を見ていた。

86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:19:34.71 ID:fJ7phTSDO
紅莉栖「そんなことが……」

岡部「信じてもらえるなんて事は思っていない。だが、それでも話したのは俺一人では抱えきれなかったからなのかもしれないな」

そう、ただ単にこの重みを誰かに渡してしまいたかったのかもしれない。
ありとあらゆることをこの夏に経験して成長した気になっていただけで、本当は今にも世界を好き勝手に変えていったという事実に押しつぶされてしまいそうだった。

そんな俺に凛とした眼差しで、それはどの世界線でも変わらなく俺を見据え

紅莉栖「いえ、信じるわ。」

と言い切った。


87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:22:01.93 ID:fJ7phTSDO
岡部「こんな荒唐無稽な、妄想も甚だしいような話を何でそんな簡単に……」

紅莉栖「正直なところ、色々な情報がありすぎて頭がついていけてないのかもしれないけど、でも私の中にあるはずのない記憶があるのは事実」

紅莉栖「京極堂さんの話のおかげの所もあるのかもしれないわ。それに助けてくれたときの状況、仮説として信じるにはそれで十分よ」

そういってはにかんだ紅莉栖は余りにも綺麗で……

岡部「そうか……ありがとう。でも俺は、鈴羽、フェイリス、るか子、萌郁の、そして紅莉栖の想いを捨ててここに来た」

岡部「それに、京極堂さんや関口さん達を違う時代に生きていることにしてしまった。本当にすまない」


88: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:25:05.81 ID:fJ7phTSDO
京極堂「君はセルンのディストピア、それに第三次世界大戦、それが起こらないであろう世界線に変えてくれただけで十分だ。戦争なんて馬鹿らしいものは、やらないに越したことはないからな」

紅莉栖「岡部は私が死ぬはずだった未来を変えてくれた。世界線を越えてまで。それを許せない訳ないじゃない」

ダル「鈴羽がタイムマシンに乗るようなことがない世界、それが創られただけでも充分すぎるほどだお」

ダル「それに娘がいるってことは僕にも可愛い三次元の嫁ができるってことですし、お寿司」

関口「僕にはそもそも戦後の記憶なんてないから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ」

まゆり「えーとねー、まゆしぃはお話を全然理解できなかったけど、オカリンはクリスちゃんとまゆしぃを助けてくれるためにがんばってくれたんだよね」

まゆり「それだけでまゆしぃは大勝利なのです」

89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:29:58.92 ID:fJ7phTSDO
正直どんな言葉を言われるかが少し怖かった。
それでも皆が赦すと言ってくれて……

岡部「ありがとう」

感謝の言葉を口にしたら思ったよりも震えていた。
紅莉栖が生きてさえいれば、まゆりが笑って過ごすことができていればそれでいい。

そう思って行動したことが、手の中にあるのを改めて実感して。
気がついたら視界がぼやけていた。

ダル「ちょっ、泣くとかオカリン豆腐メンタルすぎだぜjk」

まゆり「えっへへー、オカリンは泣き虫さんだねー」

岡部「う、うるさい、これは涙などではない。そうこれは、俺の中のラグズが暴れ、抑えきれずに出てきてしまったのだ」

紅莉栖「全くこの厨二病患者は」

岡部「とにかくだ。まあラボメンの皆には迷惑をかけた。だが、これからもラボに誠心誠意尽くしてもらうがな。フゥーハハハ」

90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:33:48.17 ID:fJ7phTSDO
京極堂「……鳳凰院君、まだ君には話していない心配することがあるのでは?」

岡部「……っ」

いきなり核心を突く言葉。
世界を変えることと比べればちっぽけな悩み。
それら全てを見透したような視線を京極堂さんは投げかける。
この人には謎が多すぎる。
なぜこんなにも多くのことに対する造詣が深いのか。
あの牧瀬紅莉栖を力業だが論破していく程の話術。
驚きと共に、恐ろしさを覚えたのも事実だった。

岡部「なにを言っているかが、よく分からないのだが」

そう、これはきっと世界を変えてしまったことへの罰。
それにタイムリープを作ったときの技術を使えば問題はきっと無いはず。

91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:36:04.38 ID:fJ7phTSDO
京極堂「君の中にあるリイディング・シュタイナアは、他の世界線から来た君が今いる君の記憶を上書きしてしまうという点は分かっているよね」

それはβ世界線の俺が危惧していた事。
Dメールを使い世界線を変えてまで俺に伝えたかった事だった。

岡部「はい。でも鈴羽のいう理論や、さっき議論した中での理論でも、世界は一つ。だから他の世界線から自分が来ることはないはず」

大丈夫、出来るだけ不安になっているのを悟られないように答えられた、と思う。
俺はこれ以上望んではいけない。
一人でも解決することができる問題だから。
ラボメンの皆に心配はかけさせたくはない。

92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:41:12.66 ID:fJ7phTSDO
京極堂「きっと、君が世界線を移動してくる前の君もそう思っていたと思うよ。それに、それは理論であり、真理ではない」

京極堂「実験しようとしても、世界線が変わったら君や僕の記憶以外の事は無かったことになる。結局、机上の空論で確かめるすべはないんだ」

確かにそうだ。いつか紅莉栖が言っていたがこの理論があっているという事実は確認しようがない。

岡部「……話してて思ったんですけど」

京極堂「なんだい?」

岡部「やっぱり、違う世界線の自分に乗っ取られると言うことは無いのではないでしょうか?」

β世界線の俺が送ったらしいDメールが、イタズラへと収束してくれることを望ながら続ける。

93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:43:46.47 ID:fJ7phTSDO
岡部「俺は、世界線を移動した先でタイムリープをしました。その後、俺が世界線を移動してきた時刻になっても自分に乗っ取られることはなかった」

岡部「これって多世界がない。つまり、この俺の主観では世界線間を移動できても、違う世界線から自分が来ることが無いことの証明にはなりませんか?」

京極堂「……確かに、僕のいった解釈とその事実は矛盾するかもしれない。だが、こういう解釈も出来る」

京極堂「構築した岡部君に、世界は引っ張られて出来る。帰属として、世界線を移動してくる君と、タイムリープをしてきた君は全くの同一人物」

京極堂「しかし、話の最後に出てきたムービーメールを送ってきた君はムービーメールを送って世界を構築する方にある。よって世界からしたら帰属は異なる」


94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:46:40.73 ID:fJ7phTSDO
京極堂「能動的に世界を動かした方に君の意識が引っ張られて行くとしたら、タイムリイプをした先で君がやってくる時刻になっても君に意識が上書きされない」

京極堂「もしくは、君の話だと未来の岡部倫太郎を観測してしまっている。その結果、その世界の岡部倫太郎が存在していたのは確定事項」

京極堂「観測をしてしまっているため可能性世界は崩壊を起こし、今未来を変える手段を持たない君はリイディング・シュタイナアを消さない限りはその呪縛に縛られている」

岡部「……なるほど、理論として展開はできるかもしれない」

京極堂「それに、やっぱり君が行っていたのは世界線の構築だという事にしてしまえば、シュタインズゲエトの説明も出来てしまうんだ」

岡部「な…に…?」

95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:49:01.35 ID:fJ7phTSDO
京極堂「そもそもアトラクタフィールドの及ばない唯一の世界線、どの世界線からも独立している一本の糸だなんて御都合主義もいいところだとは思わないのかい?」

確かに、世界線変動率が0.08%そこら変わった所で、世界大戦が起きず、57億人が死なない世界線に移動できる、というのは少しおかしいとは思っていた。

京極堂「でも、君の観測の及ばない所の世界を、君自身によって創ってしまえば、そこはシュタインズゲエトと呼ぶに相応しい世界線になるんじゃないか」

京極堂「それにさっきも言ったが、不確定性原理は観測する行為自体が対象に影響を与える。という結果を導き出してしまった」

京極堂「これが示唆する極論としては、世界は過去を含めて観測者が観測した時点で遡って創られたということだ」


96: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:50:19.89 ID:fJ7phTSDO
京極堂「この場合、君が観測者になるからこの世界は君が創りだしたことになる」

岡部「なるほど……でも、Dメールが新たな世界を創り出したことと、多世界解釈は関係ないように思えるんですが」

京極堂「いいか、岡部君。僕がいいたかったのは、こんな風に何の研究もしていない僕なのにそれなりの説得力を持たせてしまえば、其れが仮説として成り立ってしまうという事の危険性だ」

京極堂「さっき言ったのは量子力学の極論であり、合っている合っていないは分からないし、信じる信じないは君次第だ」

京極堂「だけど合っている、合っていないは二の次として、こういった可能性が出てくる。ということは、多世界解釈や可能性世界の崩壊による決定事項があるということが絶対に間違っているという保証はどこにも無いんだ」


97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:53:19.53 ID:fJ7phTSDO
京極堂「だから、世界を変える術を持っていない今の君には、未来から来る可能性のある岡部倫太郎に対してこのリイディング・シュタイナアの対策が必要になるんだ」

京極堂「まあ、僕としては世界は一つの方がいいと思うけどな。そうでなくては前の世界線のまゆりさんは助からないし、世界大戦も起こってしまうから少しだけ寝付きが悪くなる」

紅莉栖「そっか、もし多世界解釈によって世界が構成されていて、他の世界線が存在してしまったら」

紅莉栖「もしくはさっき京極堂さんが言った世界の帰属の仮説が合っていたとしたら、他から来た岡部に全部塗り変わられてしまうってことか。……なんでそんな問題を黙っていた」

詰問するような口調で紅莉栖は問いかけてくる。

98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:54:41.71 ID:fJ7phTSDO
岡部「お前はこんな話いきなり言って信じたか?これは好き勝手に世界を変えた、俺への罰だ」

岡部「それにタイムリープの時に使用したVR技術と神経パルス信号を使えば記憶の保存が可能になり、それを他の世界からやってきた俺に送れば解決する問題だろ?」

紅莉栖「ちがう!!例えば10年後に違う世界線からきた岡部がいたとしたら、10年という歳月は岡部という人格、意識を変えていくには充分な時間よ」

紅莉栖「だからきっとその装置を使っても今までいた岡部はきっとどこにもいなくなる。そしてその行為は、人格の乗っ取り以外の何者でもない」

99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 02:59:46.31 ID:fJ7phTSDO
何でここまで俺のことで必死になる。
SERNの隠していた陰謀を知ってしまい、まゆりが死んでしまうことに対策を二人で練ったことや、父親のことを相談された事などと、あの時の状況は、いわば吊り橋理論が起こるような状況で……

対して今の俺は紅莉栖の興味を示せるようなものは何もなく、ただ毎日を過ごしていただけ
そんな俺のことにここまで必死になってくれる理由が見つからない。

岡部「なぜ、そこまで心配してくれるんだ」

紅莉栖「当たり前じゃない。その岡部の言った世界線の記憶は私にはないかもしれないけど、この世界で私を助けてくれたのは事実で、そんな恩人を心配するのは当然よ」

紅莉栖「それに私にとっては白馬じゃなくて白衣でも王子様みたいな存在だから…」ゴニョゴニョ

岡部「ん、何か言ったか?」

紅莉栖「な、何でもないわよ。ただあんたは独りじゃないんだから、もっとラボメン達を頼ってもいいんだからな」


100: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 03:01:44.19 ID:fJ7phTSDO
本当は白衣の王子様と言ったことは聞こえていた。
しかし、聞こえていたら紅莉栖からどんな口撃を受けるかわかったもんじゃないから聞かなかったことにした。
決してこっぱずかしさに負けた訳ではない。
二度言うが、決してこっぱずかしさに負けた訳ではない。

京極堂「なるほど橋田君。これがインターネットで見た、メシマズという状況なのか」

ダル「そうであります。そしてこのようなイライラする状況では壁や床を殴る、所謂壁殴りを行うのが一般的です隊長」

ダル「ただ、外出時にそういった場面にあった場合、壁、床が無いからって地面を殴ってしまったら、マグマが吹き出る可能性があるので地面を殴る場合は細心の注意をして殴ることをオヌヌメします」


101: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 03:05:13.85 ID:fJ7phTSDO
京極堂「ほう、なら関口君みたいな壁を殴る筋肉のないもやしはどうすればいいんだい?」

関口「京極堂。その言い方は酷いんじゃないか」

京極堂「事実を言ったまでのことだよ」

ダル「その場合は壁殴り代行に依頼をすれば近所の壁を無作為に殴ってくれるので問題はないです」

ダル「もしくは、壁を殴りたいけどその筋肉がないというそこのあなた」

ダル「私が開発した未来ガジェット試作品パンチ力増強グローブversionプロトタイプなら」

ダル「どんな分厚い壁もほら、ごらんの通り」

まゆり(イメージ映像)「えいっ♪」ドゴォ

ダル「まるでプリンを砕くかのように破壊できるんです」

102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 03:08:08.05 ID:fJ7phTSDO
まゆり「えっへっへー、べんりだねー、でもダル君。お高いんでしょ?」

ダル「それが今ならなんと、定価1480円のサイリウムセイバーをお付けして2480円でお届けいたします(送料は別途)」

関口「おおー」

ダル「あなたもこの機会にぜひ、壁をプリンにする感触を味わってみてはいかが」

まゆり「ええっと、本商品は人を感知すると自動ですとっぱーがかかりますが、決して人に向けないでください」

何を話してるんだこの人は
そして、なに小粋なアメリカ風通販をやってるんだ我が頼れる右腕。
それにあんな物いつ作った。

103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/19(火) 03:10:06.66 ID:fJ7phTSDO
京極堂「関口君、君は小説など書いていないで、壁殴り代行の仕事をした方が、少しは筋肉がついていいんじゃないか?」

関口「大きなお世話だ。しかし、そんな仕事があるなんて知らなかったな」

岡部「そんな仕事はない。そしてダルに乗らなくていい」

京極堂「兎に角、その方法を使うのは余り得策ではないように思える。そこでだ、僕に任せてくれないか」

岡部「なにか、いい方法でもあるのですか?」

京極堂「あるさ。君に取り憑いたものを祓ってしまえばいい」


106: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 21:38:16.14 ID:9hayspGDO
取り付いた?払う?訳が分からない単語が聞こえたが、もしかして宗教家か?
こんな話を信じ、議論してきたのも、祓うと言ってお金を巻き上げるつもりだったからなのか。
一回そう考えてしまうと今までの議論も全て怪しいものだという疑念が渦巻く。


紅莉栖「ちょっと待って、祓うってどういうこと」

京極堂「そのままの意味だよ。岡部君に取り憑いている妖怪を祓うんだ」

紅莉栖「意味が分からないんですけど、あなた一体何者?」

いいたかったことは全部紅莉栖が言ってくれたから、そこまででかかった言葉を俺は飲み込み話を聞くことにした。

107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 21:40:06.02 ID:9hayspGDO
京極堂「僕は俗に陰陽師と呼ばれる部類に属するね」

紅莉栖「は?」

陰陽師……ファンタジーの中でしか聞いたことがないし、そんなものが今の日本にいるとは信じられない。

京極堂「祓う前に聞いておきたいんだが、君がそのリーディング・シュタイナーが目覚めたきっかけの出来事がなにか予想はついているか?」

いきなり振られて戸惑ったが、違う世界線でまゆりに言われた言葉を思い出した。

岡部「確か……1999年から2000年にかけて40度の高熱を出して一週間ぐらい倒れたことがあります。その時の感覚とリーディング・シュタイナーが発動したときの感覚が似てたから、もしかしたらそれかも……とは……」

108: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 21:43:40.49 ID:9hayspGDO
京極堂「やはりそうか」

なにやら、京極堂は頷いているがなにがどうなっているのかがさっぱりわからない。

紅莉栖「なにがなんだか話が見えないんですが」

京極堂「単刀直入に言おう。岡部君、君にはぬらりひょんが取り憑いている」

岡部「なん……だと……」

いやいや、何で俺にそんな大それた妖怪が憑いているんだ。
我が右腕がぁ、とかのレベルじゃないだろこれ。
でもどうせだったら北欧神話やギリシャ神話の悪魔がよかった。

……なんて厨二病を煩ってる場合じゃないな。
と一人で考えているとさっきまで猫と戯れていたまゆりが口を開いた。

109: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 21:47:57.72 ID:9hayspGDO
まゆり「ぬらりひょんって妖怪の偉い人なんでしょー。そんなに危ない妖怪さんがオカリンに取り憑いてるの、まゆしぃは心配なのです」

京極堂「その認識は少し間違っているよ、椎名さん。ぬらりひょんは妖怪の総大将ではないんだ」

まゆり「えぇー、そうだったの?じゃあオカリンについてる妖怪さんはどんなのなの?」

京極堂「そうだな……元々のぬらりひょんは岡山県の伝承では海坊主のようなものとして伝えられている」

京極堂「瀬戸内海に浮かんでいる人の頭ぐらいの大きさの妖怪で、ぬらりとすり抜け、ひょんと浮かんでくるからこの名が付いたようだ」

京極堂「また、秋田県にも伝承があり、其処では百鬼夜行のなかの一妖怪という位置付けだったようだな」

110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 21:54:31.93 ID:9hayspGDO
京極堂「これは、菅江真澄遊覧記の中に書かれている。ぬらりは滑らか、ひょんは思いがけないという意味でその名前から捕らえ所のない妖怪という位置付けをされた」

京極堂「容姿については、図画百鬼夜行や百怪図巻、化物づくしなどといった書物で、老人が着物を着ているように描かれ、それが定着していった」

岡部「じゃあ、今俺たちが思っているぬらりひょんはどこから来たのですか?」

京極堂「ぬらりひょんが妖怪の総大将というような解釈がされたのは藤沢衛彦が著書の中で言っていて、それを所謂サブカルチャアが取り上げたのが原因だといえるな」

111: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 21:56:46.14 ID:9hayspGDO
京極堂「1972年に、いちばんくわしい日本妖怪図鑑という本が出て、その中でぬらりひょんは人の家に上がりこんで座り込むという表現がでてきたため、その後、ぬらりひょんの認識が少しずつ変わっていくことになる」

京極堂「まあ、この解釈はきっとぬらりひょんが家の中で座っている描写から想像したのだろうけれど」

そう言って京極堂は一冊の本を目の前に置いた。

京極堂「これは百怪図巻の写本になる。そしてこれがぬらりひょんの姿だ」

頭をつき合わせ覗き込みその姿を見る。
思っていたのと似ていたが、しかしこれは総大将と言うよりも寧ろ……

まゆり「なんかおじいちゃんみたいだねー」

そんな雰囲気しか感じられなかった。

112: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 21:58:42.49 ID:9hayspGDO
京極堂「こんな感じで、だから今のぬらりひょんは人間の認識をずらし、恰も其処にいないかのようにすることができ、だから人の家に上がり込むことが可能になる」

京極堂「捕らえ所のない妖怪の総大将といった解釈がされているんだ」

岡部「なるほど」

よくここまで著書名や内容を空ですらすら言えるな。
本当に陰陽師だから言えるのか、それとも騙すための方便なのか俺には判断する材料がない。

関口「お、岡部君」

声がする方を向いたら関口さんが喋ろうとしている。
確かにこの人は詐欺師という印象はないが……

113: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 22:01:23.48 ID:9hayspGDO
関口「僕が柳林神社に用事があって行ったけどね。あれは京極堂に頼まれた品を渡しに行ったからなんだ」

関口「こ、此奴は古本屋で神社の神主で陰陽師なんだよ。心配なら柳林神社に連絡をしてみるといいと思う」

岡部「すいません。じゃあ、ちょっと失礼します」

そういえば、確かに京極堂から届け物がどうのこうのといっていた気がするし、それにここまで言っているのだからその可能性はないといってもいい。
だがMr.ブラウンがラウンダーであったように念には念を入れて確認しておないと。

ルカ子の番号を押し呼び出し音がなる。

114: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 22:09:00.70 ID:9hayspGDO
岡部「俺だ」

るか「お、おか、凶真さんどうしました?」

岡部「京極堂という名前に覚えはあるか?」

るか「えーと、確かお父さんの知り合いにそういう名前の方がいたと思います」

岡部「すまないが、お父さんに代わって貰えないか」

るか「は、はい!!おとーさーん。凶真さんがお話があるそうです」

栄輔「もしもし」

岡部「どうも岡部です」

栄輔「やあ凶真君、なんの用かな?」

岡部「いきなりすいませんが、京極堂という人物に心当たりはありますか?」

115: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 22:15:41.43 ID:9hayspGDO
栄輔「ああ、中禅寺君の事だね。彼がどうかしたのかい?」

岡部「彼は……その、どんな人なんでしょうか?」

栄輔「そうだね……変わった人なのは確かかな。武蔵晴明神社という所の神主と古本屋の店主でもあって、京極堂はその店の名前だよ。私も偶に使わせてもらってるけど色々面白い本が置いてあるね」

岡部「彼が陰陽師と言う話を聞いたことはありますか?」

栄輔「実際に見たことはないけど話は聴いたことがあるよ。なんでも憑き物落としをしてるとか」

岡部「そうですか。ありがとうございました」

116: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 22:22:00.13 ID:9hayspGDO
ルカパパまでグルになって騙すことにメリットは無いだろう。それに彼は神職の人間ということもわかった。

紅莉栖「どうなの?岡部」

京極堂「僕が詐欺師だという疑いははれたかな?」

岡部「ルカ子のお父さんに聴いてみたが、どうやら本当らしい」

紅莉栖「驚いたわ。日本にはそういう人がまだいたなんて」

ダル「凄すぎワロタ、ちょっと握手してもらっていいっすか」

岡部「疑ってしまい申し訳ございませんでした」

京極堂「いや、良いんだ。人をすぐに信じてしまうよりはよっぽどいい」

ダルをスルーしながら不機嫌な表情をした京極堂は言った。

117: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 22:32:01.40 ID:9hayspGDO
岡部「それで、俺の中にいるぬらりひょんはどうやってこんな事をしているのですか?」

京極堂「さっきも言ったけど、ぬらりひょんの認識が変わってきてる。今回は人の家に忍び込むのに気づかれない、つまり他の人間には見えない場所にいるという特徴から来ている」

京極堂「気付かれることなく観測していく、人の目や世界から隔離された存在。其れが取り憑く事によって、他の人が認識している世界とずれた世界の記憶を保持することができたんだろうな」

京極堂「だからそいつを祓ってしまえば、君のリーディングシュタイナーは御役ごめん。晴れて他の世界の君に上書きされる事も無くなるわけだ」

岡部「なるほど、……ちなみにおいくらぐらいかかりますか?」

隣にいる紅莉栖から、ため息が聞こえてきたが大学生にとっては重要なことなのだ。

118: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/01(金) 22:35:38.92 ID:9hayspGDO
京極堂「今回は金はいらない」

岡部「えっ、いいんですか?」

京極堂「ああ、相場だと大学生では到底払うことは出来ない。まあ、今回は私が興味を持ったことだからな」

岡部「ありがとうございます」

京極堂「ただ準備かあるから来週の日曜に指定した所にきてくれ」

岡部「わかりました。では今日はこの辺で」

京極堂「そうだ……最後に一ついいか?」

岡部「何ですか?」

京極堂「君は、後悔をしてるか?」

岡部「……いえ」

京極堂「ならばいいんだ」

その時の視線が責めているような気がして、京極堂から帰っている時も頭から離れなかった

121: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 11:19:29.68 ID:q5zGf7yDO
――――
―――


まゆりを送り届けラボに戻る頃には十時を過ぎていた。

岡部「ダルと助手はまだ帰らないのか?」

ダル「ぶっちゃけ、多くのことを詰め込み過ぎたからパンク寸前ってゆーか、もうこのまま寝たい感じなんだよな」

紅莉栖「私はもう少し詳しく岡部の世界線の話を聞きたいかな。今いるホテル、ここから近いから歩いても帰れるし」

ダル「僕は難しい話はもうお腹一杯だからパスで」

岡部「そうか。では、このドクペを飲み終えたら、助手には下のベンチで説明する」

紅莉栖「じゃあ先に行ってるから」


122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 11:23:00.34 ID:q5zGf7yDO
そう言い、先に下へと降りていく助手を横目で見ながら冷蔵庫へと手を伸ばす。

岡部「ふぅ、頭脳労働の後のドクペは最高だな」

ダル「牧瀬氏と京極氏の議論に圧倒されて、隅の方でプルプル震えてた件について」

岡部「あ、あそこで俺が乱入したら二人とも論破してしまうからな。だから助手に任せたのだ」

ダル「はいはい。それにしても京極氏は凄かった。陰陽師で本屋って主人公スペック高杉。牧瀬氏も論破されるし」

岡部「……それなんだが、多分助手はわざと論破され聞き役になってたかもしれない」

ダル「それマジ?ソースは?」

岡部「前に助手と話していた時は精神の所在については分からないと言っていた。そう簡単に意見は変わらないだろう」

123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 11:28:10.08 ID:q5zGf7yDO
ダル「つまり、どういうことだってばよ?産業で」

岡部「敢えて論破されることによって
俺らにも話を分かり易くする
テクニックじゃね?」

ダル「おk。把握」

岡部「ドクペも飲み終わったことだ、俺は紅莉栖に説明してくるから、寝るならソファー使っていいぞ」

ダル「あいよ。……そうだ、オカリン知ってるか」

岡部「なにをだ?」

ダル「僕はバッドエンド、デッドエンド、ノーマルエンド全部好きなんだけどさ、実はハッピーエンドが一番好きなんだぜ(キリッ」

岡部「……それはエロゲの話か?」

ダル「いろいろだお……何にせよ鈴羽やまゆ氏、牧瀬氏をありがとな」

124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 11:35:06.34 ID:q5zGf7yDO
岡部「いや、俺は何もできなかったよ。過去を変えることに振り回されていただけだっただからな」

ダル「それでもだお」

岡部「そうか……」

ダル「だから、ハッピーエンドから遠いとこにいるなら僕にも相談をしてくれてもいいんだぜ。べ、別にアンタの為じゃないんだけどな」

少しだけダルがかっこ良く見える……

岡部「ああ、ありがとう」

ダル「それともう一つ」

ダル「三次元のくせにギャルゲー、エロゲーの主人公になる奴は許さない。絶対にだ。しかもハーレムルートなんてのはもっと許さない。絶対にだ」

……やっぱりダルはダルだった。

岡部「大事なことだから二回言ったようだが、なった覚えもないし、なる予定もない」

ダル「一人に決めないと、Nice boat.になるから気をつけろよ」

125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 11:39:06.22 ID:q5zGf7yDO
ダルの言葉を背にして階段を降り紅莉栖の後を追う。

紅莉栖「遅いぞ」

岡部「すまん。ダルのエロゲ説教を聞いてた」

紅莉栖「なんなのそれ……まあ、いいわ。それよりも岡部が体験してきた世界線の話をもっと詳しく教えてくれる?」

世界線を漂流していたころから何度も紅莉栖に説明をしていたため、そう時間はかからず説明が終わった。
青森の事やβ世界線に移動する前日の事、萌郁達のことは結局省いたが

紅莉栖「カーブラックホール、アトラクタフィールド理論、世界線、タイムリープ、バタフライ効果……」

紅莉栖「確かに話の辻褄は合うし、それに私の書いたタイムマシンについての論文を知っているということは本当だったって訳ね」

126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 11:42:59.35 ID:q5zGf7yDO
岡部「なっ、あの時の説明で助手は信じていなかったのか?」

紅莉栖「信じてなかったわけじゃないわ。ただ岡部が何か隠しているような気がして」

萌郁やMr.ブラウンの事を話しても良いことはない。それにこの世界の紅莉栖とは、一から始めたかった。
確かに記憶が戻ってほしいとも思った事もあるが、苦しい思い出は無いに越したことはないから

紅莉栖「それにしても、よく心が壊れずにやってこれたわね」

岡部「ああ、良くできた助手が何度も助けてくれたからな」

紅莉栖「じ、じじ助手じゃねーし、仮に助手だとしたら所長を助けるのは当たり前だし。はい論破」

127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 11:48:18.43 ID:q5zGf7yDO
岡部「助手じゃないのに、助手だったら所長を助けるって矛盾してないか?」

紅莉栖「う、うるさい」

その高圧的な態度も、いつもは冷徹といってもいいほどなのに、慌てると反応が面白くなるのも、どの世界線でも紅莉栖を構成する要素の一つで
あの時のように、この場所で説明している状況やらなんやら全てが嬉しくなってしまって、少し笑ってしまった。

紅莉栖「何が可笑しいのよ!?」

岡部「いや、なんでもない」

紅莉栖「まったく、訳がわかんないわ……岡部、一つだけいい?」

岡部「どうした?」


128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 11:52:14.44 ID:q5zGf7yDO
紅莉栖「何で自分が死にそうになってまで私を助けてくれたの?」

岡部「それは、助手を助けて、中鉢論文を消さないと57億人が死んでしまうと聞いたからな」

紅莉栖「そう……そうよね……」

本当はもう少し閉まっておきたかった感情だ。……けれども、そんな顔をされたら

岡部「本当の理由を知りたいか?例えそれがどんな結果を生み出すことになっても」

紅莉栖「う、うん」

岡部「なら、目を閉じるんだな」

紅莉栖「……これでいいの?」

前の世界線の紅莉栖を忘れないように
でも、この世界線の紅莉栖と一から始めるために……

129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 11:56:47.16 ID:q5zGf7yDO
紅莉栖「……おでこなんだ」

岡部「嫌……だったか?」

紅莉栖「そうじゃなくて、口じゃない……って言わせんな、恥ずかしい」

岡部「これは俺なりのけじめだ。これからこの世界の紅莉栖と生きていきたいというな」

紅莉栖「おかべ……」

目が潤んでいる。なにこの可愛い生き物。
目に吸い寄せられるように顔が近づいていった時

ダル「おいこら、二階までだだ漏れ、メシマズってレベルじゃねーぞ。大体、おでこってなんなんだお。甘々の少女マンガですか、次は芋けんぴでもとるんですか、ちくしょー」

という怒号と共にDメールを送った時のような揺れがビルを襲った。


130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:02:25.27 ID:q5zGf7yDO
――――
―――


一週間後

京極堂が待ち合わせに指定した所はラボだった。
京極堂曰わく、君たちのラボを見てみたいから、らしい。
今はラボでまゆり、ダル、紅莉栖の4人で待っている。

てっきり神社で行うものだと思ってたから少し意外だった。

ダル「@ちゃんのオカルト板に実況スレ立てていい?」

岡部「ダルよ、少しは自重しろ」

紅莉栖「でも、興味深いわね。どうやって祓うのかしら」

まゆり「陰陽師だって、すごいねーえっへへー」

131: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:04:53.23 ID:q5zGf7yDO
岡部「ああ、まだそういった者がいるとは思わなかったな」

まゆり「でも、オカリンも高校生の頃、俺は陰陽師だったんだー、陰謀ごぼう説がどうとかって言ってたよね」

岡部「陰陽五行説な」

紅莉栖「へぇ、それだったら自分で祓えば良かったんじゃない。鳳凰院さん」

岡部「人の古傷をほじくって楽しいか?クリスティーナよ」

そんなやり取りをしていたら、ラボのドアがノックされた。

京極堂「お邪魔するよ」

入ってきた京極堂は、両胸に五芒星の入った黒の着流し、黒の足袋と赤い鼻緒以外は黒の下駄という格好をしていた。

132: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:07:53.97 ID:q5zGf7yDO
ちょっとかっこいい……

京極堂「ラボの中を拝見するがいいか?」

岡部「あ、はい。構いませんよ」

京極堂はぐるぐるとラボの中を見渡す。

京極堂「窓開けるぞ」

窓が開くと少し涼しくなった風がラボの中を通る。

京極堂「それでは、始めようか」

京極堂の雰囲気に誰一人、言葉を発する事が出来ないが、意に介さないように唱え始める。

133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:12:22.89 ID:q5zGf7yDO
高天原に神留座す。神魯伎神魯美の詔以て。
皇御祖神伊邪那岐大神。
筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に
御禊祓へ給ひし時に生座る祓戸の大神達。
諸々の枉事罪穢れを拂ひ賜へと申す事の由を
天津神国津神。
八百萬の神達共に聞食せと恐み恐み申す。

134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:14:30.22 ID:q5zGf7yDO
歌うような口調で朗々と読み、パンと両手を鳴らすと同時に部屋の中に風がふく。
全く理解が出来ないが祝詞と言うのだろう。

京極堂「今のは祓詞と言って、前段階といったものだ」

京極堂「次のは儺祭詞といって、追儺。つまり悪鬼や悪霊を追放する鬼やらいという儀式で使われる」


135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:20:12.59 ID:q5zGf7yDO
「今年今月、今日今時、時上直府、事上直事
時下直府、時下直事、及山川禁氣、江河谿壑
二十四君、千二百官、兵馬九千萬
衆諸の前後左右に位置りて
各、その方のまにまに
あきらかに位を定めて候ふべし。
大宮の内に、神祇官の宮主の
いはひまつり敬ひまつる
天地の諸の御神たちは
平らけくおだひにいまさふべし」と申す。
事別きて詔りたまはく
「穢悪はしき疫の鬼の
處處村村に蔵り隠らふるをば
千里のほか、四方の堺
東の方は陸奥、西の方は遠つ値嘉
南の方は土佐、北の方は佐渡より彼方處を
汝等疫の鬼の住處と定めたまひ行けたまひて
五色の賓物、海山の種々の味物を給ひて
罷けたまひ移したまふ處處方方に
急に罷き往ねと追ひたまふと詔るに
奸ましき心を挟みて、留まり隠らば
大儺の公・小儺の公
五の兵を持ちて、追ひ走り刑殺さむものぞと聞しめせ」と詔る。


136: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:26:08.15 ID:q5zGf7yDO

紅莉栖「岡部、大丈夫?」

岡部「……ああ、何ともない」

紅莉栖「京極堂さん、もう終わっ――」

紅莉栖がそう言いかけた時

京極堂「岡部倫太郎!!」

と、怒鳴るような声がラボに響く。

京極堂「君は独善的な行為をもってして、世界を変えた。その行為に君は未だに罪悪感を持っている」

京極堂「あの時、単なる好奇心で行うべきではなかったと。その代償が今に降りかかっているのではないか。と」

137: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:30:31.88 ID:q5zGf7yDO
京極堂「そして、これは誰に赦されようとも自分自身が背負わなくては行けない十字架。でも自分のしてきたことを誰かに知って、認めて、赦して欲しいと」

一転低く小さい声で吐き捨てるようにいう。

京極堂「与えられた玩具を好き勝手にしたあげく、取り返しがつかなくなって泣きわめく」

京極堂「尻拭いを自分でしたのは評価すべきかもしれないが、今度は大人になった気でいる」

京極堂「また、一人で出来ると勘違いをして抱え込む。その結果が行き着く先は既に体験したはずでは無いのか?」

京極堂「君のそんな幼稚な考えは反吐が出る」

ダル「ちょっ、京極氏いいすぎなんじゃ」

京極堂「そうだろう?仲間だとか言っておきながら追いつめられるまで相談をしない」

京極堂「巻き込みたくないは信用してないと同義語になるんじゃないか?」

まゆり「違うよ、オカリンはっ」

138: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:37:34.19 ID:q5zGf7yDO
京極堂「君達も同じだ」

京極堂「話してくれるのを待つと言うのは都合のいい言葉だよ」

京極堂「心配をしている。何時でも味方だ」

京極堂「そんな気持ちを持ちながら日常でいられるからな」

京極堂「そう考えると仲間ごっこをしたかったのは君達も同じと言うことだ」

それは、違う
反論をしようにも声が出ない。体が動かない。

紅莉栖「違うっ!!岡部は……私達は……」

京極堂「君達の器用さは何時か仲間を傷つける」

京極堂「今の君達の関係は明瞭なようでその実、曖昧すぎる」

京極堂「捕らえ所が無いんだよ。ぬらりひょんみたいに」

続けて京極堂は唱える。

139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:40:16.04 ID:q5zGf7yDO
天照皇太神の宣はく
人は則ち天下の神物なり
須く掌る静謐心は則神明の本主たり
心神を傷ましむること莫れ
是の故に
目に諸の不浄を見て
心に諸の不浄を見ず
耳に諸の不浄を聞きて
心に諸の不浄を聞かず
鼻に諸の不浄を嗅ぎて
心に諸の不浄を嗅がず
口に諸の不浄を言ひて
心に諸の不浄を言はず
身に諸の不浄を触れて
心に諸の不浄を触れず
意に諸の不浄を思ひて
心に諸の不浄を想はず
此の時に清く潔き偈あり――――

140: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:44:14.72 ID:q5zGf7yDO
――ほんのちょっとでもラボメンの一員になれて……よかった
…お願い。未来を変えてほしい――

――きっとまた、会おうな!
とにかく僕は頑張るから……鈴羽も、頑張ってな!――

――私は、もうにげたくないから
それじゃ、バイバイ……パパ――

――女の子だったボクのこと、覚えていてくれますか?
さようなら。ボクの……好きな人――

――ごめん……なさい……私にとって……は……FBしか……いなくて……
私にとって……の……居場所……そこだけで……――

――まゆしぃはオカリンの重荷にはなりたくないよ
やっと、まゆ……しぃ、は……オカリンの役に……立て……たよ……――

――忘れないで、あなたは一人じゃない。私がいる
私は、いつだってあんたの味方よ――


141: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:45:34.31 ID:q5zGf7yDO
俺は何を勘違いしていたのだろう。
ダルと共に造ったから
鈴羽が来てくれたから
フェイリスが決断してくれたから
ルカ子が慕ってくれたから
萌郁が自分から動いたから
まゆりを助けることを道標にしたから

……紅莉栖が支えてくれたから

何時も一人で抱えてた物を軽くしてくれたのが皆だった。
だからこの世界線へとこれたんだ。



142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:47:51.08 ID:q5zGf7yDO
――――万物の霊と同体なるが故に為す所の願として成就せずといふことなし
無上霊宝 神道加持


京極堂が言い終わると同時に強烈なめまいに襲われた。

岡部「あ、ぐぅぅあぁぁああ」

タイムリープをしたときや世界線を移動した時の痛みや疼きとは比べ物にならない。
何者かが脳の中を作り替えているような、針が生き物になって頭の中を暴れ回っているような痛みだ。

痒い、かゆい、カユイ
痛い、いたい、イタイ
頭を割ってくれ
かき回してくれ
いっそのこと殺してくれ

143: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 12:50:50.39 ID:q5zGf7yDO
痛みも増し、天と地がぐるぐると回る中で、はっきりと観測した。
まるでずっとそこにいたかのように
何の違和感も感じられなく
見せて貰った絵そのままの姿で立っていた、ぬらりひょんを

岡部「っ……こいつ……がぬらりひょん……か……」

なんとか絞り出した言葉にまゆりが反応する

まゆり「何を言ってるのオカリン?」

まゆり「この人は最初からいたよ」

岡部「なん……だと……」

意識はそこで途切れた――

146: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:24:51.61 ID:q5zGf7yDO
―――
――


目が覚めたら昼を過ぎていて、紅莉栖から事の顛末を聞いた。
どうやら、まゆりや紅莉栖、ダルはぬらりひょんが現れた時は最初からそこに居たように感じ
祓われた時にそれがぬらりひょんだったと理解したらしい。

その後、紅莉栖は京極堂に会ってくるといい、ラボを出て行った。
まゆりは家の用事が有るらしくラボにはいない。
そして、俺とダルは今メイクイーンに来ている。


147: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:26:32.50 ID:q5zGf7yDO
ダル「でもさ、牧瀬氏が安静にしてろって言ってたけど大丈夫なん?」

岡部「ああ、ラボには余り居たくなかったからな」

フェイリス「お待たせしましたニャンニャン。アイスコーヒーになりますニャ」

ダル「うはー、フェイリスたんの目を見てまぜまぜで僕がやばい。これで後一年は戦えるお」

岡部「それなら、メイクイーンには一年間行かなくても平気だな」

ダル「それは、無理。オカリン風に言うなら、どんな事をしても僕がメイクイーンに来てしまうことこそが、シュタイン何たらの選択」

フェイリス「そういえば凶真。最近来なかったけど何かあったのかニャ?」


148: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:28:49.73 ID:q5zGf7yDO
覗き込むようにしてくるフェイリスと目が合う。
チェシャ猫の微笑みと呼ばれている彼女の特殊能力であり、彼女には嘘や隠し事が通用しない。……ならば

岡部「いやなに、ただもう一人の自分に奪われそうになった記憶を取り返すために師の処へ教えを請いに行ってたのだ」

フェイリス「ニャニャ!!まさか凶真、ムネモシュネの理に囚われてしまったのかニャ!?」

フェイリス「それにゃらフェイリスに言ってくれれば、ムニンをオーディンの処へと使わせて凶真をその理から解放してあげれたニャのに」

岡部「いや、俺が囚われていたのはぬらりひょんだそうだ」

フェイリス「……かっこ悪いニャ」

149: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:32:09.32 ID:q5zGf7yDO
肩をがっくりと落とし、俺の作戦通りにフェイリスはこの話に興味を失ったようだ。

フェイリス「まあ、いいニャ。いつか凶真が最終聖戦を戦うときはフェイリスも一緒に行くから、秘密にしたって暴いてみせるニャ」

ダル「フェイリスたんに秘密暴かれるとか、なんというご褒美。ぜひ僕の秘密の場所も暴いてください、お願いします」

フェイリス「HENTAIさんはお断りニャ」

ダル「ぐはっ」

血を吐くふりをしてバタンとダルが机に倒れ込む。というか音がうるさい。

岡部「いいのか?隠している秘密を暴いたら地獄へと道連れになってしまうかもしれないぞ」


150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:37:22.80 ID:q5zGf7yDO
フェイリス「ニャフフ、凶真の周りには待ってる女の子が多いニャ。にゃからフェイリスは心機一転、チャンスは待たないで捕まえに行くことにしたニャ」

手を獲物を狙う猫のようにさせ、笑いながら答える。

フェイリス「それに、もし地獄へ行ったらメイクイーン+ニャン2の支店を出して閻魔様も虜にするから平気ニャン」

岡部「全く、お前には敵わないな」

フェイリス「だからね、凶真。誰かを頼ってとは言わないよ。一人で抱えていこうとしてもこれからは私や皆が勝手に持つから」

フェイリス「凶真には、ラ・ヨーダ・スタセッラは必要ないニャ」

151: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:43:59.40 ID:q5zGf7yDO
一瞬だけネコミミを外したように見えたが、次の瞬間には口調も元に戻っていた。

岡部「ああ、ありがとな。フェイリス」

フェイリス「ご主人様を元気付けるのもメイドの役目ニャ」

岡部「そうか、じゃあそろそろ出るよ」

フェイリス「ダルニャンはどうするのかニャ?」

気絶している振りが、いつの間にか本当に気絶してしまったらしい。
固有結界がどうだの、爆発がこうだのという譫言を繰り返している。

岡部「綺麗な顔をして気絶してるだけだからほっとく。これ、俺とダルの分の会計な」

フェイリス「さっすが凶真、太っ腹だニャ。それでは、いってらっしゃいませ、ご主人様」

152: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:46:29.53 ID:q5zGf7yDO
メイクイーンを出て歩きながら考える。
β世界線の俺はどんな気持ちでDメールを送ってきたのだろう?
あいつはラボメンの願いを無かったことにしてあの世界線までたどり着き
紅莉栖を助ける事に失敗し
全てを俺に託し
今度は俺のために自分の存在すら無かったことにした。

俺があいつなら出来ただろうか?

岡部「いや、止めよう」

今はただ、犠牲になってくれたあいつに感謝しよう。


153: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:50:17.37 ID:q5zGf7yDO
ユルセンゾ
ドカバキグシャーナノラ
ヤメルンダセナコズピィ

岡部「あれは……コスプレでもしているのか……?」

いつぞやか見た女とあどけなさが残る少女が変な剣を振りまわし、それを止めようとする気弱そうな男という奇妙な光景を見ながら携帯を取り出し呟く。

岡部「俺だ。機関の陰謀を打ち砕いた振りだな」

岡部「いや、今回の敵は自分自身だった」

岡部「大丈夫だ。俺の中にあったモノは、もう一人の俺と協力者によって全て消し去った」

岡部「これからどうするかだって?」

岡部「そうだな……世界を混沌に陥れるのもいいが……」


154: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:53:30.94 ID:q5zGf7yDO
岡部「仲間や大切な人を守るために少し休ませてもらおうとするか」

岡部「お世辞はよせ。貴様等は俺がいなくてもしっかりやっていけるだろう」

岡部「連絡はこれっきりになることを祈ろう」

岡部「では、エル・プサイ・コングルゥ」

なにも聞こえない携帯に呟き、しまう。


京極堂が言っていたことを思い出す。

―巻き込みたくないは信用していないと同義に値する―

其処だけは違うとはっきり言える。
大切だから、信用とかそういったのを通り越しても守りたいから、だから巻き込みたくなかったのだ。

でも、結局は皆に支えてもらっている。
それなら、一人で仲間達を守るためにあった厨二病には、少し休んでもらうことになるかもしれないな。

155: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 22:59:24.13 ID:q5zGf7yDO
――――
―――


結局岡部は倒れた次の日の昼に目を覚ました。
自分からぬらりひょんが出てきたことや、どうやって祓われたかということはよく覚えていないらしい。
今日は安静にしろと言って、私一人でお礼をいいにきている。それと疑問に思っていることを聴きに……

京極堂「すまないね。今、千鶴子は関口君とこの奥方と旅行に出掛けていてこんなものしか出せないんだ」

紅莉栖「いえ、お気遣いなく。先日は岡部を助けて頂きありがとうございました」

京極堂「いや、世界を救うことに比べたら何のこともない。今回は誰も死ぬことはなかったから精神的に楽だったしな」

精神的に楽とか楽じゃないとか、果たしてこの人にあるのだろうか?

156: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:07:37.68 ID:q5zGf7yDO

紅莉栖「で、結局岡部はどういう理由からリーディング・シュタイナーを発動させてしまったんですか?」

京極堂「単刀直入に聴いてくるね。牧瀬さんはぬらりひょんの仕業だと納得しないのかい」

理解はしたつもりだけど納得はまだ出来ていない。
大体ぬらりひょんが取り憑いているってどんな状況よ。

紅莉栖「私との会話をしているときに脳の機能を私達に疑わせる発言が多くて違和感を感じたのが最初です」

紅莉栖「それに、タイムリープマシンで抽出した記憶は2日という縛りはあったけれど完璧だったと岡部は言ってました」

紅莉栖「それって、記憶の保管場所が脳にあることの証明になりませんか?」

紅莉栖「京極堂さんが言っていた、記憶が身体全体に保存されているって仮説と矛盾しているとまではいかなくても、脳には完璧に記憶を保管する場所があることになる」


157: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:10:07.53 ID:q5zGf7yDO
紅莉栖「だから、あなたが少し強引にぬらりひょんのせいにしたがっているように思えたんです」

京極堂「確かに、タイムリイプマシンが出来ていたということは、記憶が脳にあったことの証明になる」

そう言って少し間が空いた後、京極堂さんは納得したような表情で口を開いた。

京極堂「……こんな仮説はどうだ?身体には記憶のバックアップとしての機能が備わっている。そして、それぞれに独立している」

京極堂「だから、条件反射、無意識といった行動がとれる。それに榎木津が断片的にしか記憶を見ることが出来ないのも、脳にある記憶でなく、身体の方から出ている記憶しか見れないから」

紅莉栖「バックアップ……確かにそれなら辻褄が合う……じゃなくて、結局はぬらりひょんがやったことかを聞きに来たんですけど」

158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:11:41.53 ID:q5zGf7yDO
関口「京極堂、そういえば君は昔僕に言ったろ。言霊によって害を取り除く、宗教家なら宗教家の言葉、科学者なら科学の言葉で、って」

関口「牧瀬さんは科学者。ならこの現象を科学的に説明すればよかったじゃないか」

この話は初耳だった。
もし、関口さんが言っていることが本当だと仮定すると幽霊も科学も同じと言うことになってしまう。
それでもこの人がどんな言葉でこの現象を科学的に説明するのかが気になった。

紅莉栖「すいませんが、岡部に起きたことを科学的な言葉で説明して貰えませんか?」

不機嫌オブザイヤーがあれば受賞できるぐらい、不機嫌な表情をしながら答える。

京極堂「……しょうがないな。リーディングシュタイナーが発現する原因の可能性は2つあった。一つは能力」

159: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:13:53.61 ID:q5zGf7yDO
京極堂「彼も言っていた様に、世界が変わっても自分だけが記憶を保つことができると考えると、世界が間違っていて彼の主観が正しいと言うことになる」

京極堂「もう一つは端的に言ってしまうと、脳の障害。世界が変わるというイレギュラアは多分今までで殆ど起きたことはないだろうが、世界が変わってしまった時に記憶が継続していると、生活を送る中で支障をきたす」

京極堂「だから脳は、前の世界線の記憶を封じ込めて、新たな世界に矛盾しない記憶を創り出す機能が、誰にでも備わっているという考えだ」

京極堂「岡部君はリイディング・シュタイナアは誰もが備わっていると言ったが、それは少し違う」

京極堂「正確には誰もが深層に他世界の記憶を有しているが、普段思い出すことはない」


160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:19:47.00 ID:q5zGf7yDO
京極堂「しかし、岡部君が体から出す他世界の記憶という極小の物質に当てられて、岡部君の近くにいる人が他記憶を思い出すと言うのが事の真相というわけだ」

紅莉栖「脳の障害?……なるほどそういうことか。どうして京極堂さんは岡部のリーディング・シュタイナーが能力でなく、障害によって引き起こされたものだというのが分かったのですか?」

京極堂「岡部君が起こした高熱。世界線を移動するときに伴う眩暈。タイムリイプという記憶を過去に飛ばす行為。これらを繋ぎ止めてみたらそう考えることが一番だったんだ」

関口「京極堂、なるべく僕にもわかるように説明してくれ」

京極堂「岡部君の場合は2000年に40℃近い熱を何日も出していたようだ。脳は40℃以上の高い熱を発すると細胞が失なわれてしまう危険がある」

161: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:22:57.64 ID:q5zGf7yDO
京極堂「その時に世界の矛盾に対して働きかける脳の機能が無くなってしまったと考えられる」

京極堂「また、世界線が変わった時に起こる眩暈。他の人には表れずに彼にだけ起こる現象だが、普通は脳が世界線が変わった事により記憶を再構築しようと働く」

京極堂「しかし、彼には上手く構築させることができず、機械でいう処理落ちをしてしまい結果、眩暈としてそれが表れると推測できるな」

紅莉栖「でも、それなら岡部や私にそう話しても問題は無かったんじゃないんですか?」

京極堂「本来、脳に起きた障害を取り除くのは、途方もない時間が必要になる。確かにこのように話したら君達はもっと早く理解できただろう」

京極堂「しかし、それだと君達は科学的に何とかしようとするはず。それではダメなんだ」

京極堂「科学の力では、どうリハビリしていげばいいのかや、リイディング・シュタイナアを発現させている脳の場所すら分からないのだから時間がかかりすぎる」

162: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:25:10.94 ID:q5zGf7yDO
紅莉栖「だからまず、私達に記憶の話をして概念を壊し、その後ぬらりひょんの仕業にしてなすりつける」

紅莉栖「さらにぬらりひょんの特徴を言うことにより私達に想像させ、ぬらりひょんの姿を見せることのできる状態にする」

紅莉栖「言葉を使い、祓うときに私達を一種の催眠状態や興奮状態にしてぬらりひょんを見せる」

紅莉栖「その後、その要因を取り除いたと認識、思い込ませ、世界が変わった後の記憶の変換を脳のほかの場所に補完をさせる。一種のショック療法だったということね」

京極堂「御名答。流石は牧瀬さん」

紅莉栖「それと、京極堂さんが不思議なものはないと仰ったのは、あるのは現象だけで、それを科学で説明するか科学以外で説明するかの違いだけだと言うことなんですよね」

163: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:35:28.59 ID:q5zGf7yDO
京極堂「そういうことだ。岡部君には悪いことをしてしまったかもしれないがね」

京極堂「彼の話を聞いていると、仲間の為だったら力を貸してもらうことも、自分を犠牲にすることもできる」

京極堂「でも、自分の為に力を貸してもらうことはせずに、抱え込んでしまう節があったから、少し言い過ぎてしまったかもしれない」

紅莉栖「いいんです。アイツは自分を大事にする感覚が抜けてましたから」

京極堂「いやあ、それにしても関口君には何度も説明してるのに、なかなか理解してくれなくてね。理解が早くて助かるよ」

関口「僕に何か恨みでもあるのかい。京極堂」

京極堂「まさか、昼間っから仕事場に入り浸られて商売上がったり、だなんて思ってやいないさ」


164: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:37:32.89 ID:q5zGf7yDO
関口「どうせ閑古鳥が鳴いているんだ。僕一人が此処に居ようと居まいと関係はないと思うけどな」

京極堂「そういえば、君は閑古鳥と諫鼓鳥どっちが正しいと思う?」

関口「今日日諫鼓鳥が鳴くの方はあまり使われない―」

このままだと二人のペースに呑まれて訊くことが出来なくなってしまうだろうから無理やりと間に入る。

紅莉栖「でも分からないことがあるんです。榎木津さんは、他人の記憶が見えるから記憶を保持しているというのは何となく分かるんですが、なんで京極堂さんは両方の記憶を持っているのですか?」

京極堂「それは、きっと私が祓う方の人間だからじゃないか」

しれっとした顔で京極堂さんはそう言いきった。

165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:39:46.58 ID:q5zGf7yDO
紅莉栖「……ぬらりひょんはあなたなんじゃないかって思えてきた」

聞こえない程度の大きさで私はつぶやく。

京極堂「とにかく今回は誰も傷つくこのなく解決してくれてよかった」

紅莉栖「後、一つだけいいですか?なんで岡部に協力しようと思ったんですか?」

京極堂「気にすることはない。私の……いや、ぬらりひょんの戯だ」

そう言って京極堂、いや中禅寺さんは、ほんの少し笑った気がした。

166: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/03(日) 23:44:59.54 ID:q5zGf7yDO
紅莉栖「そう……ですか。また日を改めて岡部と一緒に伺います」

京極堂「そうか、それじゃあ気をつけて帰りなさい」

紅莉栖「それと、またここにきても良いですか」

京極堂「今度は客として来てくれると有り難いな」

紅莉栖「はい、ではまた」

そうやりとりをして、京極堂と書いてある本屋を出て行く。
最後までよく分からない人だった。
論破もされてしまった。けれど、何故か悪い気はしなかった、と思う。

京極堂と書いてある看板を背にだらだらと長い坂を下っていく。
日除けになる影が何もない坂だが、風は涼しく夏の陰はなりを潜めて秋がきていた。

岡部が辿ってきた長い夏の出来事をいつか私が思い出すこともあるのだろうか。
そしたら、いつか平和な日常の中、笑いながら2人で話せる日が来てくれるといいな。

そう思いながら、私は坂を降りていく。
最初に来たときよりも心なしか私の足取りは軽くなっていた。

〈了〉