1: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:21:50.63 ID:L9BMRJ4y0
真美も亜美も、ひとしきり泣いた。
だって、信じられないっしょ。あんなこと。
真美とやよいっちがデパートでライブをしているとき。
現れた不審な男は、ナイフを持って真美へひとっ走り。
兄ちゃんが真美の前に立ちはだかって、命がけで真美を救った。
春香「…………プロデューサー、さん……」
男はその場で逮捕され、兄ちゃんは倒れた。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361107310
引用元: ・亜美「ふたりじゃなきゃ、笑えない」
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2: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:22:25.86 ID:L9BMRJ4y0
兄ちゃん、死んじゃった。
この間まで事務所でお仕事をしていた兄ちゃんが。
イタズラしても笑っててくれた兄ちゃんが。
みんなと楽しそうに笑い合ってた兄ちゃんが。
いま、告別式の朝。
中央の棺の中では、兄ちゃんが安らかな笑顔で眠ってる。
亜美達、大勢を置き去りにして、兄ちゃんは遠い彼方へ旅立った。
『お前らがトップアイドルになるまで、絶対面倒みるからな!』
うそつき。
兄ちゃんの、ばーか。
ばーか。
3: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:22:56.20 ID:L9BMRJ4y0
美希「ミキ、また頑張るの」
美希「だって、キラキラしてないと、空でハニーが怒るから」
ミキミキはホールを出たすぐ横で、りっちゃんと話していた。
律子「美希。仕事なら、いつでも休みを」
美希「ううん、いらないよ」
律子「……そう」
美希「今休んだりすると、寂しくなっちゃう……って思うな」
そういうと、ゆっくりとミキミキはホールに戻る。
律子「…………亜美?」
見つかっちった。
4: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:23:28.20 ID:L9BMRJ4y0
亜美「ねぇ、りっちゃん。……兄ちゃんの次のプロデューサーは、呼ぶの?」
律子「ええ。…………でも四十九日が終わるまでは、このままで行こうと思ってる」
亜美「大丈夫なの?」
律子「12人面倒見るくらい大丈夫よ。少しの間は」
亜美「でも」
律子「プロデューサーは9人も面倒見てたんだから」
亜美「……りっちゃん、無理しないでね」
律子「……亜美らしくないわねぇ。こんな時こそ、アンタと真美には元気でいてくれなきゃ困るのよ」
亜美「…………うん」
5: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:24:14.53 ID:L9BMRJ4y0
律子「ほら、もうすぐ式が始まるわよ。戻りましょう」
ホールには見慣れない顔もいっぱい。
兄ちゃんの友達かな、あとお父さんお母さん?
兄ちゃん、親不幸者っしょ。
春香「……亜美、隣に座って?」
はるるんが手招き。その周りにはみんなが座って俯いている。服は真っ黒。
まこちん、ゆきぴょん、お姫ちん。ミキミキ、千早お姉ちゃん、いおりん、ひびきん。
はるるん、やよいっち、あずさお姉ちゃん。りっちゃん、……真美。
亜美「うん。……んしょ」
春香「なんか、実感持てないよ」
真「うん、そうだね。……今でも、ひょっこり向こうから出てきそうだよ」
はるるんの後ろに座るまこちんは、疲れた顔をしていた。
6: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:24:45.77 ID:L9BMRJ4y0
やよい「プロデューサーは、真美のことを助けて刺されましたけど、
あのときのプロデューサー、かっこよかったんです」
亜美の左隣から、やよいっち。
そうだ。やよいっちはあの場所にいたんだよね。
亜美「……兄ちゃん、亜美達のこと見ててくれるかな」
貴音「亜美。あの方は必ず、見守ってくださっています。
わたくし達をトップアイドルにする、と約束されたのですから」
亜美「……そうだね」
兄ちゃんはうそつきだ。
だから、せめて見ていて欲しい。自力で這い上がる様を。
そう思うのは、自分勝手かな?
『まもなく、故・――――様の、告別式を執り行います…………』
7: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:25:16.32 ID:L9BMRJ4y0
焼香は、はるるんとやよいっちと、3人で済ませた。
やり方がわからなくてはるるんの方を見たら、目があった。
結局、やよいっちに教えてもらった。さすがお姉ちゃん。
春香「私たちが、最初だったんだね」
焼香台を見ると、あずさお姉ちゃんとりっちゃんと真美が立っていた。
やよい「そうみたいですね」
亜美「まあ、親族の席に座ってるからね」
春香「プロデューサーさんのお父さんが、ぜひ765のみんなをここにって言ったみたいだよ」
亜美「いいオヤジさんですなぁ」
やよい「プロデューサーのお父さんですから」
8: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:25:47.27 ID:L9BMRJ4y0
その後も式は進んでいった。
棺の中の兄ちゃんは真っ白な顔で、魂が抜けた表情をしている。
綿で形作られた袴を着て、ただただ眠っている。
花を納める間、少し泣いてしまった。
ピヨちゃんと社長は、普通の席に座っていたみたい。
……泣いていた。
『それでは、ご出棺となります』
兄ちゃんを乗せて、霊柩車は雄叫びをあげる。
泣いてしまった。
泣いたら、兄ちゃんが死んだことを認めなければいけなくなる。
…………兄ちゃんは生きていると、まだどこかで思っていたかった。
9: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:26:27.01 ID:L9BMRJ4y0
―
火葬は親族だけで、といわれていた。
亜美達はりっちゃんと社長に連れられて、近くのファミレスに入る。
三つの席に分かれた。亜美は、真美とりっちゃんと社長のいる席。
高木「彼の後任は、考えていないよ。入るとしても、当分先だろうね」
律子「プロデューサーのやりかけの仕事は、私がやっておきます」
高木「うむ。……少しお手洗いに行ってくるよ」
社長が席を立つ。
律子「ねえ、真美。大丈夫?」
真美は朝から、全然喋っていない。
真美「……」フルフル
首を横に振った。
律子「そうよね。大丈夫なわけ、ないわよね」
10: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:26:58.38 ID:L9BMRJ4y0
真美「兄ちゃんは、生きてるよ。死んでなんかない」
亜美「え……?」
真美「死ぬわけないよ」
律子「真美。私たちは、受け止めなきゃいけないの。だって」
真美「兄ちゃんは生きてるんだよ」
律子「ねえ真美。私たちはもっと活躍して、プロデューサーに安心してもらわないと」
真美「生きてるよッ!」バン
真美がテーブルを叩くと、騒がしかった店内は一瞬静まり返った。
亜美「真美、亜美達は兄ちゃんに」
真美「……うるさい」
11: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:27:48.48 ID:L9BMRJ4y0
律子「そうやって落ち込んでばかりいたら、プロデューサーが報われないわよ」
真美「…………兄ちゃんは、真美を守ってくれた」
真美は涙を目に浮かべた。
真美「生きてるんだよ」
亜美「……」
真美「それに、まだ……」
亜美「……?」
真美「…………帰る」
律子「ちょっと、真美!」
真美「ついてこないで! …………亜美も」
高木「お待たせ。……あれ、真美君はどうしたのかね?」
律子「…………帰っちゃいました」
高木「帰った?」
亜美「……」
12: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:28:20.58 ID:L9BMRJ4y0
――――
それ以来真美は部屋にこもりきりになった。
亜美はといえば、閉め出されていて今では両親の寝室で寝て起きている。
当然、芸能活動も真美は休んだままだ。
ミキミキやはるるんは、もう仕事をしているというのに。
亜美「おはよー」
だから亜美は、ひとりで事務所に行く。
律子「おはよ、亜美」
小鳥「おはよう」
千早「おはよう」
響「はいさーい」
真「おはようっ」
みんなが真美を探してから亜美に挨拶することも、もう分かってる。
13: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:29:07.38 ID:L9BMRJ4y0
『生放送、あさワントーク。ゲストはアイドル、星井美希さん!』
真「律子。春香が来たらレッスンに行っていいんだよね?」
律子「ええ、いいわよ」
『おはよーなのー! 今日はよろしくねー!』
千早「……我那覇さん」
響「ん?」
千早「リモコンを取ってもらってもいいかしら?」
響「うん、はいっ」
千早「ありがとう」ピッ
『――なんですね。続いては萩原雪歩さんの新曲「Little Match――』ピッ
亜美「千早お姉ちゃん、何を見たいの?」
千早「普通のニュースよ。あの番組はトークになると、ニュースをやらないから」
『――比奈りんのギリギリアタック! 今週はこちらの商店街にお邪――』ピッ
『――ロ所属のJupiter、バレンタインに伊集院君が脱ぐハプニン――』ピッ
亜美「今って、そういう時間だから……多分やってないよ」
千早「……そう。じゃあ美希のトークにしましょうか」ピッ
『――うしてあなたは、赤い洗面器なんて頭にかぶって歩いているのですか? ってね』
14: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:29:44.79 ID:L9BMRJ4y0
春香「おはようございまーす」
真「おっ、来た来たー! 春香、レッスン行こう! レッスン!」
春香「ええ~? 早いよう」
律子「真、もうちょっと時間にゆとりってものをね」
真「はいはい! はいさい!」
響「はいさい関係ないだろ!?」
千早「ふふっ、賑やかでいいわね」
兄ちゃんがいれば、この中心に居たんだろうな。
ふと、そんなことを考える。
純粋に笑えない自分に嫌気が差した。
真美すら救えない自分に。
15: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:30:20.76 ID:L9BMRJ4y0
真「いってきまーす」
春香「あわわ、行ってきます!」
小鳥「はい、いってらっしゃい」
千早「転ばないようにね」
響「体動かしなよー!」
真「へへっ、言われなくてもね!」
ガチャン
千早「……亜美、元気ないでしょう?」
亜美「へっ!?」
千早お姉ちゃんから突然声をかけられて、身体がビクンとした。
千早「なんだか、あんまり笑っていないから」
亜美「そ、そんなことないYO→! メチャンコ元気だよ!?」
千早「なら、いいのだけれど」
『このジェノベーゼを作ったのは、お前かぁー! って、客席に悲鳴が響いたの……』
16: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:30:54.24 ID:L9BMRJ4y0
元気なわけ、ないよ。真美があんな状態なのに。
元はといえば、兄ちゃんが居なくなって。
千早「…………真美のこと」
亜美「え?」
千早「真美のこと、気にしないでいいと思うわ」
亜美「どう、して?」
千早「今真美のことを気にしながら仕事すると、亜美まで壊れちゃうんじゃないかって」
亜美「……真美は壊れてなんかないよ」
千早「……言い方が悪かったわね。亜美まで、元気がなくなってしまうんじゃないかな、って」
亜美「うん……」
千早お姉ちゃんは目線をテレビから動かさない。
千早「私、力になりたいの。亜美と真美の」
亜美「力?」
千早「でも、今はまだ時期じゃない。……亜美が真美を説得しなきゃ行けないんだと思う」
亜美「説得……」
17: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:31:36.41 ID:L9BMRJ4y0
律子「千早」
千早「なに?」
律子「真美は、言葉を聞いて立ち直れるほど大人じゃないのよ」
千早「いいえ、大人よ」
律子「え?」
千早お姉ちゃんはりっちゃんをまっすぐ見た。
千早「真美は大人よ。大人じゃなきゃ、アイドルなんて出来ない」
律子「……」
亜美「千早お姉ちゃん……」
千早「春香や美希は、プロデューサーに心酔していたわ。
それでも二人は、今日も仕事をしてる」
『そんなのありえないのー! って感じだったな』
千早「真美だって、きっと立ち直れるはず」
律子「……そう、かもしれないわね」
18: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:32:15.27 ID:L9BMRJ4y0
―
AD「小町さん、お疲れ様でした」
律子「お疲れ様です、ありがとうございました」
りっちゃんの挨拶に続いて、3人で「ありがとうございました」と元気に挨拶。
スタッフの人には「大変だったね」なんて声をたくさんかけられた。
律子「番組のプロデューサーと話してくるから、先に戻ってて」
楽屋に向かうまでのテレビ局の廊下。
あずさ「……真美ちゃんは、元気そう?」
亜美「どうだろうね。亜美も、ここ二週間は顔を見てないからさ、わかんないよ」
伊織「お風呂とかトイレはどうしてるの?」
亜美「夜遅くに入ってるみたいだよ」
伊織「そう……」
あずさ「プロデューサーさんだったら、どうしたのかしらねぇ」
伊織「あずさ、プロデューサーが生きてたらこんなことは起きてないわよ」
あずさ「……そうね」
19: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:32:50.66 ID:L9BMRJ4y0
ガチャ
伊織「ねえ」
亜美「?」
伊織「私に、何が出来るのかしら」
あずさ「え?」
伊織「真美に、なんて言えばいいのかしら」
あずさ「……難しいわね」
亜美「『兄ちゃんに顔向け出来ないぞ』、とか」
伊織「ダメよ、真美はプロデューサーが死んだこと、信じてないもの」
亜美「……」
あずさ「『プロデューサーさんが、そばにいる』とか」
伊織「…………真美は、それで笑ってくれるのかしら?」
20: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:33:28.52 ID:L9BMRJ4y0
―
結局何も思いつかないまま、亜美達は事務所に戻った。
お姫ちんとひびきん、はるるん、ゆきぴょんが居た。
呟いてみる。
亜美「ねえ、みんな」
春香「?」
亜美「真美を笑顔にしたいんだ」
雪歩「笑顔……」
亜美「立ち直ってもらって、それで……また、歌いたいんだ」
響「…………亜美」
貴音「ならば」
亜美「お姫ちん……?」
貴音「わたくしに、考えがあります」
21: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:34:13.61 ID:L9BMRJ4y0
お姫ちんの考えは、突飛なものだった。
今度やるドラマから思いついたらしい、なかなかなアイデア。
春香「確かに、亜美ぐらいにしか出来ない作戦だよね。
……でも、貴音さん。実の妹がそんなことやっても、バレちゃうんじゃ?」
貴音「それは運次第です。ですが、真美ならばきっとこれで立ち直れると、信じます」
――題して「双海真美・さわやか笑顔計画」。
動き出した。
響「よし、協力するぞ!」
雪歩「がんばりますっ!」
伊織「真美を笑顔にしてやろうじゃないの!」
あずさ「上手くいくように頑張りましょうね~」
亜美「みんな、ありがとう……!」
貴音「亜美、礼は全てが成功してから、ぜひ言って下さい」
亜美「う、うん」
22: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:34:53.04 ID:L9BMRJ4y0
―
それは今夜から始まる。
閉ざされた部屋のドアをノックすることから、スタートするんだ。
かつて入り浸っていた亜美と真美の部屋。今では、厚い壁に見える。
コンコン
亜美「……真美、真美」
物音がした。
亜美「真美、ドアを開けてくれないか」
ガタン、と言った。
亜美「頼む、真美。お前だけが便りなんだ」
ガチャ、と解錠される音がして、ドアが開く。
真美「――――亜美?」
随分とやつれちゃったね、真美。
髪ももう、纏めなくなったんだね。
亜美「真美、落ち着いて話を聞いてほしい」
真美「……なに?」
これから始まるすべての出来事が、うまくいくことを祈るしかない。
亜美「――俺は、お前のプロデューサーだ」
お姫ちんが提示した計画……それは、亜美が兄ちゃんを演じることだ。
23: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:35:32.96 ID:L9BMRJ4y0
真美「――――?」
亜美「信じてくれないかもしれないが、亜美の身体に入り込んでしまったみたいなんだ」
真美「にい、ちゃん」
亜美「気づいたら、こうなってて……」
真美「にいちゃんっ!」
押し倒された。低い温度の廊下、肌が触れる。
真美「にいちゃんっ、にいちゃんなんだよね!?」
真美は亜美――兄ちゃんをぎゅっと抱きしめて、何度も「にいちゃん」と言った。
泣いている。
亜美「あ、ああ」
真美「にいちゃん……! にいちゃん、にいちゃん!」
亜美「ま、真美! 落ち着け!」
バッ、と身体を離した。
24: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:36:02.70 ID:L9BMRJ4y0
真美「……?」
亜美「お前らのこと、ずっと見てたんだ。それで……真美に、迷惑かけちゃってるって思って」
真美「迷惑なんかじゃないよ、にいちゃんは、真美のことを守ってくれた……」
亜美「でも、真美は引きこもりがちになっちゃったろ」
真美「…………だって、にいちゃんがいないから」
亜美「悪かった、真美。俺はいつもお前らのこと、見てるよ」
真美「…………うん」
亜美「だから、安心して外に出てくれ。歌ってくれ。踊ってくれ。笑ってくれ」
真美「………………うん」
すらすらと言葉が出てくる。
これは、兄ちゃんの皮を借りた亜美からのメッセージだよ、真美。
亜美「それで――――」
真美「?」
亜美「亜美がさっきから、喋ってくれないんだ」
真美「へ?」
26: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:36:41.42 ID:L9BMRJ4y0
亜美「亜美の身体に入り込んでから、亜美の反応がない」
真美「……亜美が?」
亜美「どうすれば……」
真美「亜美を起こす時はね、いっつもこうやってんの」
そう言うと真美は、亜美のほっぺたをおもいっきりひっぱった。
よく知ってるよ。
亜美「いたっ」
真美「あ、亜美?」
ここは”亜美”の方がいいのか。
亜美「――――あれっ、真美?」
真美「さっきまでね、兄ちゃんが亜美の身体の中にいたんだよ」
亜美「へっ! そなの!?」
真美「うん」
真美が笑う。欠片も疑ってない。
27: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:38:36.09 ID:L9BMRJ4y0
――――
貴音『信用させるために、一度プロデューサーから亜美へと、意識を戻します』
春香『戻す、って?』
貴音『例えば、プロデューサーとして「亜美がいない」などと言い、
一度亜美に戻った後で、もう一度プロデューサーに戻ります』
響『それをやって、どうなるんだ?』
貴音『真美の信用度が上がるでしょう。目の前で妹とプロデューサーに変わる瞬間を見れば』
亜美『なるほど』
――――
28: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:39:15.73 ID:L9BMRJ4y0
亜美「あれ、なんだか眠くなってきたよ……」
真美「へっ、亜美?」
亜美は寝たふりをして、すぐに”兄ちゃん”になる。
亜美「……よかった、さすが真美」
真美「あ、兄ちゃん?」
亜美「ああ。今は寝ちゃったみたいだけどな。聞こえるよ、いびきが」
真美「あはは、亜美の?」
亜美「そう、亜美の」
真美「そっか」
真美はしばらく黙って、
真美「部屋、入る?」
亜美「……ああ」
29: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:40:15.02 ID:L9BMRJ4y0
二段ベッドの上段が、真美。下段が、亜美だった。
下段には物が散乱していて、とても寝れそうじゃあない。
真美「ごめんね、ちらかってて」
亜美「いや、いいんだ。……こもってからずっとこうなのか?」
真美「見てたんじゃないの? そうだよ」
亜美「さすがに部屋までは入れないだろ。……そうなのか」
真美はぎゅーっと亜美のうでに抱きつく。
真美「ねえ、にいちゃん」
亜美「ん?」
真美「なんか今日は疲れちゃったから、もう寝るよ」
亜美「ああ、それがいい」
真美が寝たら、早速お姫ちんに――。
真美「だからさ」
亜美「ん?」
真美「一緒に寝て?」
30: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:41:56.03 ID:L9BMRJ4y0
添い寝のお誘いだったが、真美は数秒で寝入ってしまった。
安心感かなんなのかは分からないけど。
二十分ぐらい横で寝ていて、時期を見てベッドから降りた。
部屋を出て、トイレの中で、携帯を開く。
亜美「……もしもし」
『もしもし、成功しましたか?』
亜美「ああ」
貴音『それは、良かった』
電話報告。それが、お姫ちんの作戦の中に含まれていた。
真美に聞かれても大丈夫なように、亜美は”兄ちゃん”のまま。
貴音『真美は、どんな様子だったのですか?』
亜美「そうだな、最初は俺を抱きしめて、添い寝だな」
貴音『なるほど。心を許したのですね』
亜美「ああ。なあ……貴音」
貴音『なんでしょう?』
亜美「…………本当に、やるのか?」
貴音『………………最終的な判断は、亜美にお任せします」
31: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:42:29.29 ID:L9BMRJ4y0
――――
貴音『まず、亜美がプロデューサーのフリをして真美と会話をします』
亜美『……え?』
貴音『あの状態では、きっと真美が心を開けるのはプロデューサーだけでしょう』
亜美『それでどうして、亜美が兄ちゃんのマネッコをするの?』
貴音『特技がモノマネなのは、この事務所では亜美と真美だけです』
亜美『…………うん』
春香『確かに、亜美ぐらいにしか出来ない作戦だよね。
……でも、貴音さん。実の妹がそんなことやっても、バレちゃうんじゃ?』
貴音『それは運次第です。ですが、真美ならばきっとこれで立ち直れると、信じます』
響『なるほど。それで、どうするんだ?』
亜美『え?」
響『だって、そのまま亜美が一生プロデューサーを演じるわけにも行かないだろ?』
貴音『そこ、なのですが……』
32: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:43:22.89 ID:L9BMRJ4y0
貴音『しばらくして、亜美がプロデューサーとして、真美を探ります。
もうプロデューサーが居なくても活動できると判断した場合は、成仏ということにして
ゆっくりと真美とプロデューサーを離していきましょう』
亜美『…………どうやって判断するの?』
貴音『一言、聞くのです。
「真美のことは、俺がずっと見守っててやるから、亜美に身体を返してもいいか」と』
亜美『……分かった、頑張るよ』
響『よし、協力するぞ!』
雪歩『がんばりますっ!』
伊織『真美を笑顔にしてやろうじゃないの!』
あずさ『上手くいくように頑張りましょうね~』
――――
33: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:44:16.15 ID:L9BMRJ4y0
もし、真美が「嫌だ」と。「一緒にいて」と言えば。
亜美は、一生兄ちゃんのままだ。
お姫ちんは、みんなの前でこの可能性のことは口にしなかった。
亜美「ふー……」
どうなるかわからない。
真美が、立ち直ってくれるか、くれないか。
どちらにせよ、亜美は兄ちゃんになるだけだ。
34: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:45:14.72 ID:L9BMRJ4y0
真美「……おはよう」
亜美「おう、おはよう真美」
真美「っにいちゃん!」
朝。真美は”兄ちゃん”を強く抱きしめる。
亜美「おいおい、元気有り余ってるな。外、いけるか」
真美「うん。……事務所に、行きたい」
亜美「分かった。行こうか。
でも、俺が亜美の中にいることは内緒な」
真美「分かった」
真美は”兄ちゃん”と手をつないで、家を出た。
35: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:45:44.92 ID:L9BMRJ4y0
真美「おはよー」
亜美「おはおはー」
律子「真美!」
千早「真美!?」
春香「まみっ」
貴音「……真美」
真「真美!」
真美のもとへ、みんなが駆け寄ってくる。
真美は笑いながら一人一人と挨拶を交わした。
事務所では、亜美が出てきていることになっている。
春香「とりあえず、クッキー食べよう♪」
真「みんなにメールしないとっ」
貴音「良かったですね」
律子「良かったわ……本当に」
36: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:46:20.74 ID:L9BMRJ4y0
仕事が始まれば、亜美と真美は別行動が多い。
真美はやよいっちやみんなと組んで、亜美は竜宮小町で。それがメインだからだ。
仕事中は遠慮すること無く双海亜美でいられた。
お姫ちんに言っておきながら、今更兄ちゃんのマネッコが難しいだなんて言えなかった。
車での移動中。
あずさ「――だったんですよ~」
律子「へぇ、つまり柔道なんですね」
プルルルル
亜美「あっ……電話」
伊織「律子、ラジオ消して」
律子「はーい」カチッ
亜美「もしもし?」
『もしもし、にいちゃん』
亜美「……真美か」
37: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:47:15.60 ID:L9BMRJ4y0
真美だった。
真美『真美ね、お仕事チョー頑張ったよ!』
亜美「そうか、偉いな。亜美も頑張ってるみたいだよ。今は寝てるけど」
亜美が寝ている時、兄ちゃんが出てくる。そういう設定。
強制的に出てくるのも、ありえる。
真美『えへへー。事務所でいっぱい褒めて貰うねっ』
亜美「ああ。……周りには誰も居ないのか?」
真美『えっ? ああ、やよいっちがいるけど、気づいてないよ』
亜美「そうか」
あずさ「…………」
亜美「頑張れよ。じゃあな」
真美『あ、ちょっとまってにいちゃん』
亜美「ん?」
38: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:48:11.21 ID:L9BMRJ4y0
真美『あの時、言えなかったことを……もう一度、言わせて』
あの時言えなかったこと? あの時っていつ?
何を言えなかったの?
どう答えていいのかわからない。”あの時”を知らないからだ。
なぜ知らないのか?
亜美は、兄ちゃんではないからだ。
真美『真美ね』
亜美「ああ」
真美『にいちゃんのこと、大好き』
亜美「――――」
真美『ライクじゃなくて、ラブの方でね』
亜美「――ぇ」
真美『そんじゃあね! 答えは聞いてないっ』
ツー ツー ツー
亜美「…………」
なにそれ。
39: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:49:01.88 ID:L9BMRJ4y0
あずさ「どうしたの? 亜美ちゃん」
亜美「…………あずさ、お姉ちゃん」
あずさ「?」
亜美「どうしよう…………」
伊織「……亜美?」
律子「え?」
亜美「真美が、兄ちゃんのこと、好きだって」
あずさ「…………」
伊織「え?」
律子「……?」
亜美「どうしよう……」
それって、亜美が答えていいの?
たとえ、兄ちゃんの解答と違っても。
40: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:52:54.65 ID:L9BMRJ4y0
電話をした。お姫ちんならば、上手く行けば対処法を教えてくれるかもしれない。
『……はい』
亜美「もしもし、お姫ちん!」
貴音『どうしました? 焦っているようですが……』
亜美「あのね、真美が」
貴音『真美が?』
亜美「真美が、兄ちゃんのことを好きだって」
貴音『…………?』
亜美「真美は、亜美が兄ちゃんだって思い込んでいる。
兄ちゃんが刺される直前に、真美は言いかけてたみたいで」
貴音『…………そう、ですか』
亜美「どうすれば、いいのかな? それって、亜美が答えても」
貴音『…………亜美』
亜美「なに……?」
貴音『……これは、あなたが選ぶべき選択肢です。
【真美を騙し続けて、笑顔を見る】未来と、【真美に真実を告げて、前を向いてもらう】未来です』
41: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 22:57:38.52 ID:L9BMRJ4y0
亜美「え……?」
貴音『…………亜美はこれから、どちらかを選ばないといけません』
亜美「それって、亜美が兄ちゃんのかわりに、告白しなきゃいけないの?」
貴音『そうするか、もうひとつ』
亜美「…………全部ウソだったって、言うの?」
貴音『出来るだけ、そんなことはしたくありません。ですが、愛情はとても繊細なもの』
亜美「…………だったら」
貴音『真実を告げたほうが、真美にとっては幸せかもしれません』
42: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/17(日) 23:02:04.87 ID:L9BMRJ4y0
亜美「そんなの……」
貴音『…………すみません』
亜美「え?」
貴音『わたくしの、見誤りです』
亜美「……お姫ちんは悪くないよ」
貴音『…………すみません』
亜美「…………亜美が、どうしたいか決めていいんだよね?」
貴音『………………はい』
亜美「だったら、亜美は」
貴音『…………』
亜美「亜美は、真美に幸せになって欲しいから」
伊織「…………」
亜美「選ぶよ」
46: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:37:40.64 ID:vMdP7m1b0
亜美「…………ウソをつく」
貴音『…………』
亜美「…………それが、亜美にとっても真美にとっても、兄ちゃんにとっても幸せだと、思う」
伊織「…………どうすんのよ」
亜美「…………伊織、あずささん、律子」
律子「……」
亜美「…………兄ちゃんっぽいかな?」
あずさ「亜美、ちゃん」
亜美「亜美は兄ちゃんになるよ」
伊織「…………」
47: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:38:10.53 ID:vMdP7m1b0
律子「ただいま戻りました」
事務所に帰ると真美はソファに座っている。
近くにはお姫ちんが居たが、真美は事務所に一人きりだと思っているらしい。
真美が誰かと二人の時に必ず出すお茶を、出していなかった。
りっちゃん達は社長室に消えた。
真美「にいちゃんっ」
亜美「おっす、真美」
真美が抱きついてくる。
真美「待ちくたびれたよ、にいちゃん」
亜美「悪かったな」
笑顔で甘える真美。
これで良かったんだ。
真美「真美ね、気持ち、伝えるよ」
真美は亜美の胸から離れた。
48: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:38:52.03 ID:vMdP7m1b0
ついに、亜美が亜美でいられなくなる瞬間がやってくる。
静かに唾を飲み込んだ。
真美「でもね」
えっ?
真美の目はまっすぐと亜美を見据えていた。
真美「真美、先ににいちゃんがあの時言いかけていたこと、聞きたいなぁ」
あの時言いかけていたことって、何?
混乱してくる。
真美「言って?」
真美は腕を亜美の首もとまで伸ばした。
亜美「えっ、と…………」
49: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:39:22.65 ID:vMdP7m1b0
真美は顔を耳に近づけて、呟く。
真美「いえるわけないよね」
亜美「え?」
真美が顔を離す。笑っているような、泣いているような顔。
真美「言えるわけないよ、亜美。にいちゃんはそんなこと、言ってないから」
亜美「…………え?」
真美「にいちゃんじゃないよね?」
亜美「…………な、なんで」
なんで気がついてるの?
50: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:39:53.23 ID:vMdP7m1b0
真美「……お姫ちんがいるのにどうして正体を隠さないの?」
亜美「…………あ」
お姫ちんに、気づいてた?
目をやると、お姫ちんは驚いた表情をしていた。
亜美「……貴音は知ってたんだよ、俺のことを」
真美「…………まだ、真美のことをバカにし続けるの?」
亜美「っ! そんなこと……」
しまった。
真美「…………きょう、ひびきんが話してるの、聞いちゃったよ」
51: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:40:29.69 ID:vMdP7m1b0
真美「わかんないよ」
亜美「…………」
真美「にいちゃんは、やっぱり、もうどこにも……」
亜美「…………」
真美「…………ゴメン」
亜美「…………ぇ」
真美「…………バカになんか、してないよね。
亜美達、真美のこと考えてくれて」
貴音「あの、真美」
真美「……にいちゃんから、答え、聞きたかったな……」バッ
バタン
52: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:41:05.58 ID:vMdP7m1b0
亜美「真美っ……」
貴音「……見透かされていましたか」
亜美「……うん」
貴音「…………真美は」
亜美「真美は多分、うちにいったよ」
貴音「…………亜美、わたくしに家に行かせてください」
亜美「…………え?」
貴音「真美の笑顔を、まだ見ていません」
亜美「…………笑顔計画は失敗じゃあ……」
貴音「いいえ。まだ計画は続いていますよ」
53: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:41:41.67 ID:vMdP7m1b0
お姫ちんは、兄ちゃんのデスクに近寄り、机上を撫でた。
亡くなったときのまま、りっちゃんとピヨちゃんが残してある。
貴音「ファイル、ですね」
赤いファイルを手にとった。マジックで「高槻やよい、双海真美」と書かれている。
お姫ちんは微笑みながら、ファイルのページをめくった。
貴音「『2月14日、バレンタインライブ』」
亜美「…………」
貴音「『会場は湘南ショッピングタウン。最高のステージにする!』」
亜美「バレンタインだったね、兄ちゃんの命日」
貴音「もう、2月も終わってしまいます」
当然、バレンタイン以降も兄ちゃんはスケジュールを書いていた。
お葬式の日の撮影は、キャンセルしたんだっけ。
54: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:42:42.53 ID:vMdP7m1b0
貴音「『2月17日、美希、雑誌表紙』」
亜美「……ミキミキ」
ミキミキ、ずっと泣いてた。
事務所で、誰かにあたるわけでもなく、ただただ泣いていた。
はにぃ、はにぃ、おきてよって。
兄ちゃんの実家で、顔を見て泣きじゃくった。
貴音「『2月19日、春香、スイーツTVロケ』」
亜美「……はるるん」
はるるんは、泣くと言うより、放心状態だった。
ミキミキと顔を見に行っても、静かにお線香をあげただけ。
お通夜の日かな。ホールに入って兄ちゃんの遺影を見たら、
泣き崩れたんだよね。
千早お姉ちゃんは「心酔」って言ったけれど……、
ふたりとも、兄ちゃんに明確な好意を抱いてた。
でも、今は辛い顔一つ見せずに仕事をしている。
55: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:43:22.71 ID:vMdP7m1b0
ミキミキやはるるんは、完全に立ち直った訳じゃない。
でも、ある程度「兄ちゃんはもういない」という事実を受け止めている。
真美も、兄ちゃんを好きだった。
……なら、真美だってまた笑えるはずだ。
亜美「真美……」
貴音「さて……。参りましょうか」
お姫ちんが、手を繋いできた。
あったかくて、優しいてのひら。
真美の手も握りたいって、ふと思った。
56: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:44:20.11 ID:vMdP7m1b0
―
貴音「お邪魔します」
静かな家だ。
親は医者だし、昼間はいない。
多分、真美とは電車2本差ぐらい。
階段をのぼる。すぐ、重い扉が見えた。
昨日、ここから始まった計画は、半日も持たなかった。
二回ノック。
亜美「……真美、ただいま」
返事はない。
亜美「……真美、あのね」
57: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:44:51.63 ID:vMdP7m1b0
亜美「聞いてほしいことがあるんだ」
「……」
感じる。真美の息づかいを。
亜美「兄ちゃんが亡くなってからお葬式までのミキミキとはるるん、覚えてるっしょ?」
「……」
亜美「……特に、兄ちゃんの実家に行ったときの二人」
貴音「……」
亜美「みんな悲しがってたけどさ、あの二人は印象に残るよね」
「……」
58: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:45:23.73 ID:vMdP7m1b0
――――
P母「顔を、見てあげて」
律子「はい……。っ!」
美希「はにぃ……?」
春香「……」
美希「はにぃ、ミキだよ。ミキがきたよ」
貴音「……あなた様」
美希「はにぃ、はにぃ。おきてよ」
伊織「……なんで、死ぬのよ」
美希「……ねえ、はにぃ。…………わらってよ、めをあけてよっ!」
春香「……………………」
やよい「…………いやです」
――――
59: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:46:03.31 ID:vMdP7m1b0
亜美「亜美、思うんだけどさ」
「……」
亜美「ミキミキもはるるんも、兄ちゃんのこと、好きだったと思うよ」
「……」
亜美「二人は思いっきり泣いてたから」
「……」
60: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:47:17.02 ID:vMdP7m1b0
――――
亜美「大きい式場だね」
春香「…………ぁ」
雪歩「……春香ちゃん?」
春香「……やだ……わたし、なんで…………プロ、デュー……」ガン
千早「春香ッ!」
春香「いやだ…………いや…………!」
千早「春香、落ち着いて! 大丈夫よ」
――――
61: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:47:53.10 ID:vMdP7m1b0
亜美「でもさ」
貴音「……」
亜美「二人とも、受け入れて仕事してるよ」
「……」
亜美「兄ちゃんに見守ってもらうために、絶えず笑顔で」
「……」
亜美「ねえ、真美」
「……」
亜美「お願いだよ、またアイドルやろうよ」
「…………」
62: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:48:23.25 ID:vMdP7m1b0
亜美「亜美、真美とキラキラしたい」
「…………ミキミキじゃないんだからさ」
亜美「っ! 真美」
「…………なに?」
亜美「ドア、あけて」
貴音「……」
「…………やだ」
亜美「…………なんで」
「…………正直真美ね、気が狂いそうなの」
亜美「…………」
63: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:48:59.89 ID:vMdP7m1b0
「…………にいちゃんのいない事務所が、寂しくてさ」
亜美「…………うん」
「…………耐えられないんだ、にいちゃんがいないって」
亜美「…………」
「…………だからもう、ほっといて」
貴音「……」
亜美「……真美」
64: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:49:32.29 ID:vMdP7m1b0
「…………」
亜美「……お願い、ここをあけて」
「…………」
亜美「……ねえ、真美」
「…………」
亜美「……真美お姉ちゃんっ!」
「っ!」
亜美「……お姉ちゃんがそんなんでどうすんの!?」
「…………」
亜美「真美、お願いだから――――」
ぐらり、と視界が揺れた。
65: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:50:15.81 ID:vMdP7m1b0
亜美「――――貴音」
なにもしゃべれない。
貴音「……ひさかたぶりです、あなた様」
亜美「俺を呼び出すのが狙いだったのか?」
身体がまるでのっとられたみたいに、
自分の意志じゃ動かせなかった。
貴音「…………真美を笑顔にできるのは、あなた様だけです」
亜美「……そうか」
亜美はごほんと咳払いをした。
いや、亜美じゃないか。
それにしても、お姫ちんって何者なんだろ。
亜美「……真美」
「…………え?」
亜美「答えるよ、真美」
66: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:51:15.65 ID:vMdP7m1b0
「…………何、言ってるの? 亜美」
亜美「貴音に協力してもらってな。亜美の身体を借りてはいるが……」
「…………にいちゃん?」
亜美「ああ」
貴音「…………」
「…………亜美、いい加減にしてよ」
亜美「ウソじゃないぞ、真美。試してもらってもいい」
「…………あの日」
亜美「え?」
「あの、バレンタインライブの日。真美が兄ちゃんとした約束はなに?」
兄ちゃんは何も言っていないんじゃなかったっけ?
貴音「”約束”は交わしたのでしょう」
そうなんだ……。てか、お姫ちん、亜美とも会話できるんだ。
67: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:51:58.19 ID:vMdP7m1b0
亜美「『これが終わったら、やよいと3人でチョコケーキを食いに行こうな』」
「…………」
亜美「ごめんな、約束守れなくて」
「…………」
亜美「幸せにできなくて、ごめんな。でも……俺はずっとみんなを見てる。真美を、見てる」
「…………にいちゃん」
亜美「765プロのみんなを、見守ってるよ」
次の瞬間、勢い良くドアが開いて、真美が亜美の身体へと飛びついた。
真美「にい、ちゃんっ」
亜美「おう、どうした真美」
真美「にいちゃんっ、にいちゃんっ!」
亜美「よーし、よし。身体は亜美だけど、胸使っていいから」
真美「うわあああああん!」
68: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:53:10.86 ID:vMdP7m1b0
真美「…………にいちゃん」
亜美「どうした」
真美「にいちゃんの、答えを聞かせて」
亜美「ああ」
兄ちゃんは亜美の口から、ゆっくりと。
亜美「俺は、双海真美のプロデューサーだ」
真美「……うん」
亜美「毎日真美を見てきた。だから、言うよ」
真美「……うん」
亜美「大好きだよ」
真美「…………にいちゃんっ!」
69: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:53:51.53 ID:vMdP7m1b0
お姫ちんは途中で「一階で待たせて頂きます」と階段を降りた。
亜美「寝ちゃったみたいだな」
ねえ、兄ちゃん。
亜美「どうした?」
なんで知ってるの、真美のキモチ。
亜美「ああ、真美がお前に電話してきたろ?」
うん。
亜美「その時、俺は真美のそばにいたんだ。事務所にな」
……兄ちゃん、本当にそばにいるんだね。
亜美「ウソはつかないよ、プロデューサーだからな」
ありがとう、兄ちゃん。
亜美「ん?」
兄ちゃんのおかげで、真美、またアイドル出来そうだよ。
亜美「……悪かった」
え?
亜美「俺が無様に死んだりしたから、みんなを……」
70: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:54:35.38 ID:vMdP7m1b0
…………うん、まあ、そうだよね。
亜美「……ごめんな」
でもさ、兄ちゃんは命がけで真美を守ってくれたんだからさ。
チャラにしてあげるよ。
亜美「……亜美」
そのかわり。時々でいいからさ、誰かの身体をこうやって借りて……。
亜美「…………そこらへんは、貴音に聞いてくれ」
ねえねえ、お姫ちんって何者なの?
亜美「……さあ、な。俺が視えるみたいだし」
すごいよねー。
亜美「生きてる時から、不思議な奴だとは思ってたけどなぁ」
71: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:55:20.87 ID:vMdP7m1b0
…………ねえ、兄ちゃん。
亜美「なんだ?」
ほんと、ありがと。
亜美「…………俺よりもさ」
ん?
亜美「俺よりも、きっといいプロデューサーが来るはずだ。だから、お前らは。
そのプロデューサーを受け入れて、優しくしてやってくれ」
……当たり前じゃん。
亜美「あ、でも……俺のことも、忘れないでくれたら、いいけどな」
…………兄ちゃんの、ばーか。
亜美「なんだよ、突然。あはは」
貴音「……あなた様?」
亜美「貴音……」
お姫ちん。
72: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:55:54.28 ID:vMdP7m1b0
貴音「真美は、眠っているのですか」
亜美「ああ、泣き疲れかな」
貴音「そうですか……」
亜美「どうしたんだ、貴音」
貴音「いえ……。それ以上亜美の中に入っていると、亜美の負担になってしまいますので」
負担?
亜美「ああ、分かった。そろそろ、出ることにするよ。ありがとな、亜美」
あ、兄ちゃん。
亜美「……どうした?」
貴音「……」
亜美も、兄ちゃんのこと大好きだよ。
亜美「…………おう」
73: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:56:24.09 ID:vMdP7m1b0
――
亜美「おっはよー!」
真美「おはおはー!」
『おはよー』
小鳥「おはよう、ふたりとも…………って、あら?」
春香「小鳥さん、どうしたんですか? ……あれ?」
千早「真美、髪の毛……」
真美は髪を結ばなくなった。ちょっとオトナっぽくなって生意気だ。
……亜美は結んだまま。
そうしてからの、初めての事務所。
真美「ああ、これ?」
真美は髪の毛を触る。
74: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:57:04.53 ID:vMdP7m1b0
美希「真美、カワイイの!」
真美「へへーん、オトナっぽいかな?」
やよい「かわいいなぁ」
伊織「……へえ、本当ね」
真「でも、どうして結ばないの?」
真美は「ふふーん」と笑って、
真美「あれは、もうやらないって決めたの」
真「え、どうして?」
真美「ヒミツだよーっ」
真「えー、教えてよぅ、真美ぃ」
75: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:58:02.41 ID:vMdP7m1b0
ガチャ
高木「うぉっほんっ! やあ、おはよう」
『おはようございまーす』
律子「なんと、今日は新しいプロデューサーが来てるのよ!」
美希「おぉー、なの!」
春香「うわぁ、どんな人なんだろう!」
雪歩「仲良くなれるといいなぁ……」
あずさ「かっこいいかしら~?」
ワイワイ ガヤガヤ!
76: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/02/19(火) 20:58:37.53 ID:vMdP7m1b0
律子「はい、静かにー!」
高木「それじゃあ、入ってきてもらおうか。おーい!」
真美「……新しいにいちゃんにも、いたずらしまくろうね、亜美!」
亜美「モチのロンだよ、真美!」
真美がニカッと笑い、髪の毛が揺れた。
――――あの髪型は、にいちゃん専用だもん!
まあ、そう言って笑われたら、
亜美だって納得するしかないよ。
やっぱり、二人で一つ。
亜美と真美。
ふたりじゃなきゃ、笑えないよね!
おしまい
次回 亜美「ふたりが笑って、乗り越える」
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