1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:24:52.12 ID:tHDCBI9+0
ある日のレッスンスタジオ

モバP「お疲れ様です、差し入れもってきましたっと」

菜々「わっ、とと、す、すみませんプロデューサーさん、失礼しますっ」

モバP「あ、差し入れお前の分もあるぞーって、行っちゃった」

真奈美「ん、プロデューサーか、レッスンの方は終ってるぞ、それとも何かあったのかい?」

モバP「お疲れ様です真奈美さん、いや頑張ってるだろうと思って差し入れの方を持ってきたんですが。菜々、何かあったんですか?随分と慌ててたみたいなんですが」

真奈美「ふむ、そのことで丁度君に聞きたい事があったんだ実はさっき……」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365931491

引用元: 安部菜々「当時は若く、お金が必要でした」 

 

THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 018 安部菜々
安部菜々(CV:三宅麻理恵)
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2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:25:29.11 ID:tHDCBI9+0
ちょっと前

菜々「~~~~~♪~~~~~♪っと、今日はこの辺でお終いにしよ……ッ!?誰ですか!?」

真奈美「おっと失礼、盗み聞きをするつもりはなかったんだがね、見事な発声だと思って見学させてもらっていたんだが、不味かったかな?」

菜々「き、木場さんでしたか、いやいやいや、外国仕込のボイトレに比べたら菜々のお遊びみたいな発声練習、対したものでは」

真奈美「その私から見ても対したものだと思うんだがね、そのアイドルがするには随分とハードな発声を、大して顔色も変えずにやる様は」

菜々「そ、それはですね、菜々の目標はトップアイドルになるのもそうですけど声優さんになるのが元々の夢でして、その為にこう頑張って自主トレなんかをですね・・・・・・」

真奈美「ほう、なるほど、声優になるとあれば確かにボイトレは重要だ、アイドルになる以前から個人的に続けていたというのにも納得しよう。
    だがね菜々君、君のしている発声練習は、声優がするにしても少し不自然だ。
    そうだね、まるでオペラや舞台役者のように舞台の上から客席に向けて声を通す為の物のように聞こえるんだがそれは 菜々「あーっと!」

菜々「そうでした、菜々これから事務所でちひろさんにお給金の事で確認しなきゃいけないことがあったんでした、というわけでスイマセン木場さんお先に失礼しまーす!」

真奈美「なっ・・・・・・逃げられた、か。それにしてもあの声量、1年や2年で付くものでは……」

3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:26:38.85 ID:tHDCBI9+0

現在

真奈美「ということがあってね」

モバP「は、はあ、菜々は突っ込みに焦って逃亡。で真奈美さんは菜々が年齢どころか芸歴も誤魔化している、と」

真奈美「そこまでは言っていないさ、ただ、あれだけの声量を、高々17歳の少女が、デビュー前に多少自主トレをしていたとしても1年や2年の練習量で出せるというなら。
     彼女はテレビタレントとしての才能以上に舞台に立つ仕事の方が向いている筈だ。尤も、あれは只の才能で片付けていいものじゃあないと思うがね」

モバP「ほう、というと?」

真奈美「今の時代、発声のトレーニング法も、目指す業種に合わせて大分細分化されている。彼女のトレーニング方は、声優を目指して自主トレの為始めたというが。
     素人が自分で編み出したにしては、トレーニングの方法が良く出来すぎている。
     ならプロの講師に教わったと見るべきだが、声優に求められている声の出し方にしては些か声量過多だったからね。
     彼女、あれだけの発声が出来るようになるまでのトレーニングを、どこかで施されてきた筈だ、と思ってね」

モバP「なるほど、ただ俺のほうも、あのウサミン星のほうのプロフィールしか渡されてないんですよ。
    まあアイドル活動に必要なのはむしろそちらのほうですし、経歴の方も社長が何も言わなかったから大丈夫だと思いましてね。
    今まで本当にあるべき全うなプロフィールや経歴のほうは確認してなかったんですが、ただそう言われると気になりますね、判りました今度調べて……」

真奈美「いや、それには及ばないよ、何か知っていればと思ってね、わざわざ隠そうとしているものを穿り返す趣味はないさ。
     今のところ事務所の害になるような秘密では無さそうだしね」

モバP「そうですか、真奈美さんがそう言うならそういうことで、っとこれ差し入れです、ちょっとぬるくなっちゃいましたけどはい。
   
    スタミナドリンク」

真奈美「・・・・・・君、これはもしかして」

モバP「言わないでください、エナドリ頼むつもりが発注ミスしちゃったとかないですから」

4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:27:38.74 ID:tHDCBI9+0
事務所

菜々「ただいま帰りましたー」

泰葉「あ、お帰りなさい菜々さん」

菜々「ただいまです泰葉ちゃん」(泰葉ちゃん、か、大丈夫だとは思うけど、出来れば二人きりは遠慮したいな……)

ちひろ「お帰りなさい菜々ちゃん」

菜々「ただいま戻りましたちひろさん」(よかったちひろさんも居るなら安心かな?)

ちひろ「それでねお給料の話なんだけど」

菜々「あ、はい菜々なら時間大丈夫ですよ?」

ちひろ「それがちょっとテレビ局の方とギャラの配分で行き違いがあったみたいで、ちょっと向こうと話し合いをしなくちゃいけなくなったからその話は後にしてもらえないかしら?」

菜々「あ、そ、そうですかそれなら仕方ないですねー」(あ、あれ、これってもしかしてウサミンピンチ?)

ちひろ「泰葉ちゃんもそういうことだから、プロデューサーさんが帰ってきたそう伝えといて下さい、行ってきます」

泰葉「解りました、いってらっしゃい」

菜々「は、は~い、いってらっしゃ~い」

5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:28:47.62 ID:tHDCBI9+0
菜々(二人きり・・・・・・泰葉ちゃんがうちの事務所に入ってからこの事態だけは避けていたのにッ。
   い、いえ待つのよウサミン、まだ泰葉ちゃんが"私"の事を知っていると決まった訳では・・・・・・)

泰葉「すいません、菜々さん」

菜々「は、はひっ!?」

泰葉「少しお話したいことがあるんですが、本当に大丈夫ですか」

菜々「あははー、レッスン帰りだったのでちょっと気が抜けてただけですからええもう大丈夫ですとも!」(何を言ってるんだ私ー!?)

泰葉「そうですか、なら単刀直入に伺います、何故貴方の様な人がここに居るんですか?菜々さん。
   
   


いえ、"安部先輩"?

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:30:26.20 ID:tHDCBI9+0
菜々「は、ははは、た、確かにアイドルとしてはちょび~っとだけ菜々は先輩ですけど、子役時代からの芸歴を考えると、今更改まって菜々の事を先輩なんて呼ばなくても・・・・・・」

泰葉「最初、この事務所で貴方を見かけたときは正直驚きました、私よりも早くから芸能界に居た貴女が、こんな新興のアイドル事務所で、新人アイドルとして所属してるなんて。
   正直な話目を疑いましたし、勘違いか或いは他人のそら似か勘違いかと思いました、あのレッスンを見るまでは。
   答えてください、あの新進気鋭の舞台役者だった筈の"安部奈々緒"がなんで安部菜々を名乗るアイドルとしてここに居るのか!」
   
菜々「な、なな、何を言ってるのかなー泰葉ちゃんは、それとも菜々、うっかりウサミン星からの電波を受信しちゃったかなーあれー? 泰葉「とぼけないで下さい」ごめんなさい……」

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:32:51.56 ID:tHDCBI9+0
菜々「い、いやでもね、泰葉ちゃんそれはね」モバP「ただいま帰りましたー、おどうした二人とも?」

泰葉「ッなんでもありません。今日はもう上がらせてもらいます、菜々さんまた今度」

菜々「あはは~……お、お帰りなさいプロデューサーさん」

モバP「なんだなんだ、喧嘩でもしてたのか?勘弁してくれよ、人数は兎も角、家の事務所はそんなに広くないんだから、一部で雰囲気が悪くなると全体が影響されちまうんだから」

菜々「喧嘩なんてしてませんよ、お仕事の事でちょっとお話に熱が入っただけで・・・・・・あれ?その袋何なんです?」

モバP「ならいいんだが……っとこれはだな、向こうで菜々に渡すつもりだった差し入れだ、ほれ」

菜々「スタドリ……プロデューサーさん、もしかしてこれ」

モバP「は、は違うし、アイプロで消費した分を補充した奴だし、フェスには元々参加する予定なかったから、別に予定とか何も狂って無いし?」 

菜々「はいはいそうですね、うあ……ぬるいですねこれ」

モバP「レッスンスタジオで飲んでればそうでもなかったんだがな、ところでちひろさんは?」

菜々「ああちひろさんでしたら――」

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:33:40.36 ID:tHDCBI9+0
後日 事務所

泰葉「舞台のお仕事、ですか?」

モバP「そうだ、芝居の仕事は泰葉にとっては嫌な思い出が多いかもしれない。けど今回来た仕事はあくまでアイドル岡崎泰葉へのものだ。
    当然俺もできる限りのことはするどうだ受けてくれるか?」

泰葉「……そう、ですね、少し不安ですけど、プロデューサーさんが取ってきたお仕事ですから、そこを信じてそのお仕事お受けします」

モバP「そうか!テレビでの芝居と色々と勝手が違って苦労すると思うが、一緒に頑張っていこう!」

泰葉「はい!……ッ!……プロデューサーさん、でしたら頼みたいことが一つ」

モバP「お、早速か、なんだ、言って見ろ」

泰葉「はい、舞台でのお芝居の参考の為に、実際にプロの劇団の方が舞台でお芝居をしている映像を、資料として探してきて欲しいんです」

モバP「なんだそんなことか、言われなくても既に幾つかピックアップしてあるんだどうする、今すぐ見るか?」

泰葉「いえ、私が探し出してきて欲しいのはある劇団さんの映像なんです」

モバP「ベテラン名子役の岡崎泰葉直々のご指名か、それで探してきて欲しいって言うのはなんていう劇団のなんだ」

泰葉「そういう茶化しかたは、嫌いです。私が探してきて欲しい劇団の名前は――」

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:34:34.63 ID:tHDCBI9+0
翌日 事務所

モバP「遅くなりましたー、ってちひろさん今日は午前様だって言ってたし社長は営業先と飲み会、となるとこんな時間に誰も居るわけないか」

モバP「ふぅ、疲れた、まさか泰葉ご指名の映像を見つけるのに丸一日掛かるとは、3年前に解散した劇団だって言うならそういってくれれば良かったのに」

モバP「しっかし、ほんとわざわざ指名するって、この劇団に何かあるのか、泰葉も俺に目を通しとけって言ってたし一体……」

モバP「まあいいや、このままここで見てしまえ、えーとデッキのリモコンはと、あった、再生」

モバP「お始まったか、さてさて何がでるかなっと、……ッ!?これは!!そうか泰葉の奴、これを見せたかったんだな!」

モバP「となると、真奈美さんの話とも辻褄が合うぞ……ここまで知ったからには本人に確認するしかないな」

モバP「なんで菜々が、舞台の上でこんな鬼気迫るような見事な芝居をしているのかを!」

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:35:51.12 ID:tHDCBI9+0
さらに翌日

菜々「ただいま戻りましたー」

モバP「おかえり菜々、お疲れさん」

菜々「いえいえ~、今の菜々にとって、あの程度の営業は朝飯前です!それで何か大事なお話があるそうで……」

モバP「ああそれなんだが、奥の部屋を取ってある、そこで話そう」

菜々「う、なんだか本当に大事なお話みたいですね」

モバP「まあな、お前にとってあんまり聞かれて欲しくないだろう話だからな、っと念のため鍵を閉めて」

菜々「うう~……鍵まで閉められてそんな風に言われると、菜々ここから逃げ出したくなっちゃうんですが」

モバP「まあそう言わずに座れって、さて話をする前に菜々、お前に見てもらいたいものがあるんだ」

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:38:02.14 ID:tHDCBI9+0
菜々「見てもらいたいものって、そのポータブルプレイヤーの事ですか?う~ん菜々、特にフライデーされるようなスキャンダルを起こした覚えは……ッ!?」

モバP「そこに映ってる一番背の小さい女優、いや"子役"といったほうが正しいか、それお前だろ、菜々」

菜々「な、なにいってるんですか、他人の空似ですよ他人の空似」

モバP「まだ新米が取れない若造だけどな、歳がいくつか若かろうと、担当アイドルを見誤るかよ、プロデューサー舐めんな」

菜々「あ、うう……」

モバP「別に責めてる訳じゃないんだ、ただどうしてこの事を黙っていたのか。この映像を見た後お前の全うな方のプロフィールも確認したけど、舞台歴なんて微塵も書いてないじゃないか」

モバP「なあ菜々、芸能界ってのは芸歴がモノを言う世界だ、この浮き沈みの激しい業界でそれだけの間食っていけるだけの実力とイコールとも言えるからだ。
     むろん長いだけじゃ駄目だが、その映像を見る限り、お前には芸歴に見合うだけの実力がちゃんと備わっている芸能人に見えるんだ。
     それはお前がトップアイドルを目指すうえで強力な武器になりえるんだよ。でもそれも、お前をバックアップしてくれる周囲の人間に知らせて始めて本領を発揮する武器だ。
     それをわざわざ隠すって事は隠すなりの理由があるとは思う、だがな、それならせめて隠す理由位は教えてくれないか?
     それとも、ここまで知ってしまっても、お前は俺に何一つ教えてくれないのか?その程度の信頼しか俺達の間には築けて無かったって言うのか!?」

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:39:32.04 ID:tHDCBI9+0
菜々「……あ~、はい、はい、はい!解りました、も~観念します、全部お話しますから、その泣きそうな顔を辞めてください!」

モバP「本当か?社外秘のプロフィールにも書かれてないような事ってことは、社長も知らないような話なんだろ?」

菜々「といいますか、実はですねぇ社長さんには事情を話した上で、あのプロフィールの記載を許してもらっているといいますか。
    まあそれも元はといえば総て私の我侭からなんですですから、私が話したいと思えば他の誰にも許可は要らないんですよ。
    ああでも、誰々には話しましたっていう報告だけはしておいたほうがいいかもしれませんね」

モバP「わかったそっちのほうは後で俺のほうから社長に伝えておくよ」

菜々「そうですか?じゃあお願いするとして、私がその映像の中で、役者として舞台に立っている事を説明するには、私の生い立ちから話さないといけません」

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:46:28.71 ID:tHDCBI9+0
菜々「え~っとですね、菜々のお父さんは舞台俳優さんでしてで、お母さんとは職場恋愛みたいな形で結婚したそうです。
    その後菜々が生まれて、お母さんは勤めていた劇団のお仕事を辞めて家庭に入って、お家でお父さんのお仕事を応援するようになったそうです。
    それでですね、お父さんは興行や稽古の後には必ずといっていいほど呑みに出かけるような人だったそうで、全部伝聞系なのはですね、菜々が4つか5つ位の頃になりますかね。
    その日も、繁華街に出かけて、同僚の方と呑んだその帰りに、ひき逃げに遭って死んじゃったそうです」

菜々「父が死んだショックで、母はしばらくの間まともに生活することは出来ませんでした。
    その間の難しいことは全部両親に縁のある座長さんがやってくれて。ただ昔ながらの芸人気質だったみたいで、まとまったお金は持たない人だったらしくて。
    貯金とかはほとんどなかったそうです。けど、幸いにも劇団の人が何くれとお世話をしてくれて、私も良く劇団の方へは父に着いていっていたので。
    それもあってか劇団の方々には家族のように良くしてもらってました」

菜々「そんな時です、私が安部菜々緒という芸名で舞台のお仕事を始めようと思ったのは。
    当時は、自分がお芝居をすることで、死んだ父に代わって、母を元気付けたいという思いがあってのことでした」

菜々「尤も、大きくなるにつれて、母と自分の食い扶持を稼ぐためにって、目的も変わっちゃったんですけどね」

菜々「そうして劇団でお仕事を続けていく日々は菜々にとっては、苦しくも楽しい日々でした、あの日が来るまでは」

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:48:44.74 ID:tHDCBI9+0
モバP「……2009年の政権交代、か」

菜々「はい、菜々の居たような劇団は、通常の興行の収入だけでやっていけた演劇業界の最盛期と違い、お客さんや後援会からの寄付。
    それから地域の演劇鑑賞会からの収入などで賄っていました。
    それらの活動資金の中でも柱とも言えたのが、国……文科省からの助成金でした、まあ当時の菜々にはまだ良く判らなかったんですけどね」

モバP「当時の新政権はたしか、そこらへんの助成金をばっさりカットしてたな、そしてその結果」

菜々「私の居た劇団は、劇団員へのお給金の支払いどころか、興行を新たに行うだけの体力も無くなり、解散することになりました」

モバP「当時のそれで終戦直後に興った名のある劇団すらも、結構な数が畳まざる終えなくなったらしいな。
    だが菜々、調べたところお前の居た劇団は、解散に前後して個人のスポンサーが付いた大きな劇団に半分近く吸収される形で生き残ったみたいじゃないか?」

菜々「はい、確かに菜々にも移籍のお話は持ちかけられました」

モバP「ならどうして」

19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:50:21.82 ID:tHDCBI9+0
菜々「菜々の方から、お断りさせてもらったんです、別に自分が辞める代わりに別に人を拾って頂くとか、自己犠牲じゃあありません」
   ただ当時は若く、お金が必要でした」

菜々「政権交代が起こる少し前から、お母さんが病気に掛かったんです。ショックから立ち直ってからは、座長さんにお願いして、劇団のお仕事に復帰させていただいたんですが。
    私の、役者としてのささやかなお給金と併せても、満足に貯金のなかった女二人の生活は厳しいものがありました、その無理が祟って、倒れたんです。
    小学校に上がる前から劇団のお仕事をしていたといっても、当時の菜々は、まだ芸歴で言ってもまだ一桁、加えて中学も卒業してない子供。
    スポンサーさんが付いていてもお話を持ちかけてくださった劇団さんもそれほど経営に余裕があるわけではありません」

菜々「そんな状況で菜々が貰えるお給金じゃあ、到底手術費用を稼ぐことは出来ません。
    だから、移籍の話をお断りして、舞台の仕事を辞める退職金代わりに、お母さんの手術費用を肩代わりして貰ったんです」

モバP「そんな事が・・・」

菜々「幸いにも手術は成功して、お父さんが死んでから始めたささやかな貯金を切り崩しながら、新聞配達のバイトをしてなんと生活してました。
    でもそんな時、劇団に居た頃応援してくださっていたお客さんの一人が、吸収された団員の面子に私の姿が無い事に気付いてくださって。
    座長……今じゃ元座長さんになっちゃいますけど……さん伝いに、経営しているメイド喫茶のお仕事を紹介してくださって」

モバP「それで、スカウトしたときのあのメイド喫茶で働いてたのか」

菜々「はい、学校からちゃんと許可を頂いて、午後と土日はメイド喫茶でお仕事をしながら、入院しているお母さんの為に、自慢じゃないけど頑張りましたよー?
    お陰で、高校には行けてないんですよね私、お金の問題もそうですけど、子供の頃から劇団のお仕事もあって、お勉強はさっぱりで、出席日数も足りてないから内申点もぼろぼろで。
    だから、この前の制服コレクションのお仕事のとき、菜々ちょっと焦ったんですよ?
    流石に中学の時の制服はもうきれませんし、メイド喫茶時代のお友達にも手伝ってもらいましたけど、劇団時代の衣装作りの腕が落ちてなくて良かったです。
    まそう言う訳で高校にはいけませんでしたけど、まともにいけなかった学校生活の事、少し懐かしんじゃいました」

20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:52:32.43 ID:tHDCBI9+0
モバP「じゃあリアルJKっていうのは」

菜々「嘘っ、て事になっちゃいますね……あ、でもでも、菜々が17歳って言うのはほんとにほんとですよー」

モバP「今までの話が作り話で無い限り、今更そこは疑ったりはしないさ、でも17にしてはお前、随分と昭和の文化に詳しいよな」

菜々「あ~それはですね、劇団ってどうしても所属する人もお客さんの層も年上や年嵩の人たちに成りがちで、そういう人たちとずっと過ごしていると自然と昔の知識が付いちゃったんです。
    あとアキバのメイド喫茶にも3年とはいえず~っと居ましたから、アキバ系の知識と昭和や平成10年代までの知識にはちょっとばかし自信がありますよ。
    まあそのかわりといってはなんですけど、歳相応の若者文化~見たいなのは判んないんですけどね。
    ほら、小学生とかって中のいい友達とかとは放課後、お外やお家に御呼ばれして一緒に遊んで始めて仲良くなれるみたいな節があるじゃないですか?
    菜々劇団のお稽古で忙しくてそれ程仲のいいお友達って出来なくて……
    あ、虐められてたわけではないですし、今ではちゃんとメイド喫茶時代の同僚の子とか贔屓にしていただいたご主人様とか、それに事務所の皆とかちゃんとお友達はいますからねっ!」

モバP「い、いやそこまで心配はしてない……てかそういう理由があるならなんで一々挙動不審になったりするんだ?」

菜々「あ~あれはですね、菜々なりに自分の知識に偏りがあるという自覚はあったので、歳相応の反応を求めらた時に何時か絶対ボロがるなぁと。
    だからですね"ボロがでるなら、その襤褸を体のいい隠れ蓑にしてしまえ"と思いまして!お正月の時といいお月見の時といい、この前の制服コレクションの時も!
    どうでしたか、菜々の舞台仕込の度胸と演技は?まあ思いのほか鯖読みキャラの受けが良かったのは、嬉しいやら悲しいやらで……
    プロデューサーさん、菜々ってそんなに17歳より老けて見えるんですかね?」

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:54:42.48 ID:tHDCBI9+0
モバP「ははは、そんな事はないさ。見た目だけならそれよりも断然若く見えるし。ただ今の話を聞く限りでは、普通の17歳とは比べ物にならないくらいの苦労をしてきてるみたいだから。
    そういった人生経験は多分ファンの皆にも隠し様もないからな、そういうところが菜々の事を17歳にしては大人びた女性に見せてるんだと思う。
で、だ。菜々が今まで苦労してきた事は十分に伝わった、それで、お母さんは今はどうしてるんだ?」

菜々「……あ~あ、折角話を逸らしたのに、聞いちゃうんですか?」

モバP「う、すまん、そういう風に言うってことは」

菜々「はい、手術を受けて1年半くらいですか、手術自体は成功したんですが、それ以外ももうボロボロな状態で、結局そのまま良くならずに亡くなりました。
    お父さんが死んだときも、親戚みたいな人は誰も尋ねてこなかったので、お母さんのときも同じで、お世話になった劇団の人達。
    それにお世話になっていた菜々のファンだったお勤め先の経営者さんも呼ばせて頂いて。
    こじんまりとお葬式を上げてそれっきり、いや~我ながら一歩間違うと天涯孤独の身だったという訳みたいです」

モバP「そうか、じゃあお月見のときの電話の件は……」

菜々「電話じゃあ勿論ないです。電波、というと言い方が悪いですが、まあ夢枕にね、立ってくれたんです。
    菜々がこの事務所に来て始めて主役を飾るイベントだったから、ですかね、きっと見に来てくれたんだと思います」

モバP「そう、だったのか今更掛ける言葉は見つからないが、その大変だったな」

菜々「まあそうですけど、菜々個人の感想としては、生活こそ苦しかったですけど、不幸中の幸いといいますか、人の縁と楽しい職場には恵まれましたから、強がりではなく辛くは無かったです。
    ただ、お母さんにはもっと楽をさせてあげたかったなぁと思うくらいで。
    まあこうしてアイドルウサミンとして頑張っているのも、お母さんの供養になるのかって思うのが理由の一つなんですけど」

24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:55:47.21 ID:tHDCBI9+0
モバP「お母さんの遺言が、アイドルになれって内容だったのか?なら俺は菜々のお母さんにお礼を言わなくちゃいけないな。
菜々みたいな才能のある子を正しくアイドルの道へと導いてくれたんだから」

菜々「あはは~そこまでピンポイントじゃないんですけど、死ぬ前にお母さんから聞いた最後の言葉が、もうお母さんの為に無理をしなくていい、自分のやりたいことをやりなさいって。
    その時はなんだか縁起でもない気がしたから、全然無理なんてしてないよって、笑って誤魔化したんですけど。
    今思えば、あの時お母さんは自分がもうすぐ死んじゃうって判ってたのかな……

モバP「菜々……」

菜々「あ~えと、それでですね、殆ど必要に迫られてですね劇団で役者さんの真似事みたいな事をさせて貰っていた訳ですが、そんな菜々にも一応夢みたいなものは持ってまして。
    舞台でやってる楽しいお仕事を、テレビでして、もっと沢山のお客さんに喜んでもらいたい、アイドルになってみたいって。
    でも菜々にも流石にこのアイドル戦国時代に、アイドルとして裸一貫で乗り込んで生き残れるとは到底思えなかったんでこっちはちょっと諦めかけてました」

モバP「まあ確かに、下手な事務所に飛び込みで入っても、満足に売り出されないまま鳴かず飛ばずで終るほうがあり得る話だものな」

菜々「そうですよね、で、それからですねぇ、アキバで過ごすうちにまあ菜々も人並みに以上にはアニメとかゲームに触れまして、それで声優さんにもなりたいなぁって。
    で、声優さんになるには、舞台役者さんのほうから成るのと、今だと声優事務所さんの方へ入って直接の声優になる2種類が大体なんですよね。
    ただ菜々、今更舞台の世界に戻るのは流石に出戻りというか恥ずかしいなぁと。
    でも直接声優事務所さんの方へ伺うのも、発声法とか体力づくりとか、昔の経験はありますけど流石にブランクもあるし今すぐにはなぁと思って。
    メイド喫茶に勤めさせていただく傍ら自主トレに励んでいたんです。そんな自主トレ期間中の菜々に声を掛けてくださった方が居たんです」

モバP「俺だな」

菜々「はい、その通り。まさか無理かなって思ってたアイドルデビューの夢の方が叶うなんて思っても見なくて、お仕事の方もとっても素敵で楽しくて。
   あ、勿論声優さんになることも諦めた訳じゃあないですよ?でも今は声優もアイドルも両方やりたいなって。
   そうやって菜々が思いっきり楽しくお仕事できていたら、天国のお父さんとお母さんも安心するかなって」

25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 18:56:44.91 ID:tHDCBI9+0
モバP「そう、か。でもいいのか、今の話を隠したままで」

菜々「い~いんですよっ!ウサミン星人は地球の皆に夢と希望を与えるのがお仕事なんですから。
    同情もそりゃ予定外に今でも少しは貰ってますけど……でもでも、同情ばっかりは嬉しくありません!
    ウサミン星人は皆の喜びが主食なんですから!いいんです!」

モバP「そ、そうか、そこまで言うならこの話はこのば限りにするよ。
あ、でも泰葉と真奈美さんには話といたほうがいいぞ、二人に人脈を使って探られたら、思わぬところからこの話が漏れ出すかもしれないからな」

菜々「うぐ、やっぱりそうですか、泰葉ちゃんには直接問い詰められたんですけど、真奈美さん……やっぱり気付かれてましたか」

モバP「はは、そのうち川島さんにも突っ込まれるかもな?」

菜々「菜々はリアルハイティーンだから、アンチエイジングなんてまだしてませんよぉ」

モバP「悪い悪い、とにかく、そういうことなら俺もびしばし仕事を入れていくからな、声優とアイドルの二束草鞋大変だろうが、やってやろう!」

菜々「はい、菜々も精一杯頑張りますから、これからも宜しくお願いしますねプロデューサーさん!」

モバP「おうとも!」 


32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 19:30:12.54 ID:tHDCBI9+0
泰葉「っと、こんな感じでどうでしょう」

菜々「いや~流石ですね、演技の方は文句無しです。
    ただ舞台とテレビじゃ見せ方が違うので、もうすこし身振りを大きくしてもいいと思います。
    それから、あとは発声ですね、こればっかりは一朝一夕じゃあ身につかないですから」

泰葉「やっぱり、安部先輩の様にはいきませんか……」

菜々「あうう~、泰葉ちゃんと私じゃあ身に付けた芸の種類が違いますからねぇ。
    私だって泰葉ちゃんみたいな繊細な演技や、カメラワークを意識した体のうごかしかたは出来ませんし……
    むしろ演技の経験があるアイドルにしては十分な声量はでてると思いますよ!」

泰葉「……そういってもらえると幸いです、でもやっぱり、安部先輩は凄いです、一つしか違わないのに。
   お母さんの言いなりでしか居られなかった私と違って、先輩はお母さんの為に頑張ってたんですもんね」

菜々「もう、またそうやって、そんなに菜々を困らせて楽しいんですか?
    一つしか違わないから菜々って気軽に呼んで下さいって言いましたよね?
    芸歴の事だって泰葉ちゃんが次のステップに上がるための準備をしていたのと比べて。
    私は目の前のお金をとって芸の道からドロップアウトしたようなものなんですから。
    それに、お母さんの為に頑張りたいという気持ちは、泰葉ちゃんだって一緒でしょう?」

泰葉「そう、だったんでしょうか。始めのころはお母さんに誉められるのが嬉しくて、撮影も頑張ってましたけど、それも……」

菜々「はーい、はいはーい!ならそれでいいと菜々は思いまーす!
    それに菜々だって、お仕事が楽しかったから頑張れてたわけで、辛くてもお母さんの為に頑張れた泰葉ちゃんの方が、ずっと立派だと思います!」

泰葉「安部、先輩」

菜々「あーもう、先輩禁止って言いましたよね!?大体泰葉ちゃんに先輩って呼ばれたらますます私のアラサーアラフォー疑惑ががが!」

33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 19:30:51.85 ID:tHDCBI9+0
泰葉「クスッ、すいません、菜々さん」

菜々「む~本当はちゃんづけが一番望ましいですが、まあ一足飛びに成果を望むのは辞めましょうか。
    にしても泰葉ちゃん良く私みたいな木っ端役者の事しってましたね?」

泰葉「あ、それはですね、その一時期お母さんが、同年代の芸能人の中で貴方の事を意識していた時期がありまして。
    何かにつけて、安部菜々緒ちゃんなら~と菜々さんの事を持ち出してきた時期があったんです」

菜々「は、はへぇ~そんな事が」

泰葉「それが母なりの発破の掛け方だったのか、単純に嫉妬してただけなのかは定かではありません。
    けどね、菜々さん、当時の菜々さんの演技には、本当に圧倒されるものがありました。
    お芝居を楽しんでいるキラキラとした輝きと、お母さんを元気付けたいという真っ直ぐな思いがきっと幼心にも届く力となって溢れていたんだと思います」

菜々「あうう~、や、辞めてくださいよ~菜々はあの時本当に良くも悪くも夢中でお仕事していただけで、貧乏でしたしそんなたいそれた事きっと……」

泰葉「駄目です、私にとって安部菜々緒は尊敬すべき芸能の先達なんですから、勿論、アイドル安部菜々もですけど!」

菜々「う~、泰葉ちゃんの意地悪、こうなったら木場さんとトレーナーさんに頼んで、一番厳しいボイトレメニューを組んでもらいます~!」

泰葉「菜々さんが教えてくれるなら、私、それでも頑張りますよ?」

菜々「いいましたね~?覚悟していてくださいねー!」

 完

38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 20:56:35.70 ID:tHDCBI9+0
後日 事務所

真奈美「菜々君居るかい」

菜々「は~い、何か御用ですか木場さん?」

真奈美「頼まれていた泰葉君のレッスンメニューの件だ」

菜々「あ、はい、ありがとうございます」

真奈美「何、組んだのは殆どトレーナー氏で、私は少し意見を出しただけさ」

菜々「いえいえ、ことボイトレの事に限ればお姉さん達にも引けを取らないって、トレーナーさんも木場さんの事誉めてましたよ?」

真奈美「そうかい、この前の君の件といい、私のスキルも落ちていないようで安心するよ」

菜々「う、その件につきましては本当にすみませんでした」

真奈美「何、なんら実害を蒙ったわけでもないんだ、興味本位で嘴を突っ込んだ私のほうこそ謝らせて欲しい」

菜々「え~と、それについてはこの件を口外しない事と引き換えということで」

39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 20:57:13.09 ID:tHDCBI9+0
菜々「まあ木場さんが軽々しく秘密を漏らすような人ではないって信じてますけど……」

真奈美「私の心情を汲んで、それで痛みわけにしてくれる、という事だろう?」

菜々「ま、まあそういう事ですね」

真奈美「ははは、いやいや普通の17歳には出来ない事だよ」

菜々「ぶー、木場さんまでそうやって、菜々を年寄り扱いするんですね?」

真奈美「そういうつもりではないんだがね、とはいえ、その歳で巧くこういう形の賞賛を受け入れろというのも酷な話か」

菜々「そーですよー、そりゃあ色々ありましたけど、菜々は花も恥じらう17歳なんですから」

40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 20:57:39.83 ID:tHDCBI9+0
真奈美「全くもってその通りだな、それで泰葉君のレッスンメニューの事だが」

菜々「はあ、どれどれ……ふむふむ、確かに厳しくはなってますが、舞台役者さんのするそれと比べて不十分ですが、これわざとですね……」

真奈美「ご賢察の通りさ、アイドルや歌手の使う歌唱力の為の節を乗せる発声とは別のやり方で、舞台では声を出す必要がある」

菜々「まあそれも根っこの部分は一緒ですから、大して差は出ないでしょうけど」

真奈美「泰葉君ほどの演技力だとその僅かな違いで大きなバランスの欠如を生む」

菜々「かといって強引に舞台役者さんのような発声法を身に付けさせてしまえば、今後のアイドル活動にも支障が出るかもしれない」

真奈美「だからなるべく影響が出にくく、且つ声量がでるようなトレーニングメニューを組んだんだが、お見通しか」

41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/04/14(日) 20:58:37.78 ID:tHDCBI9+0
菜々「まあ一応菜々もそこそこ芸歴ありますし、小さい頃からやってますからねぇ、子供の頃覚えたことってちゃんと覚えてるっていいますし」

真奈美「加え学校にも通っていない君ならば、世間の学生達が勉学に当てるべき貴重な学習能力を、芸事の事に充てれると」

菜々「はい、プロデューサーさんやちひろさんが居るから、このプロダクションがピンチになることはないでしょうけど」

真奈美「その上に胡坐をかいて、与えられる事だけをやっていくだけでは不満、あるいは不安か」

菜々「いやー、それなりに苦労はしましたから」

真奈美「私も結構な経験はしたとは思うが、君の人生に比べたら、インストラクター付きの渓流下り程度の波乱万丈だと思えてくるよ」

菜々「だからそんな大したものではないですって、木場さんに比べたら私自身の命の危険はさほど感じませんでしたし……」

真奈美「……」

菜々「……」

真奈美「……この話はもうよそうか」

菜々「……そうですね」