1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:24:59 ID:kdF.A7ik
魔王城まであとわずか、という地点にて――



老勇者「ぐぅっ……!」ガクッ

勇者「お、おじいちゃん!?」

勇者「どうしたんだよ!? しっかりしてくれ!」

老勇者「ゴホッ、ゴホッ……!」

老勇者「う、うぅ……」

老勇者「ワシは……もうダメじゃ……」

勇者「おじいちゃん!」

引用元: 老勇者「ワシは……もうダメじゃ……」勇者「おじいちゃん!」 

 

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2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:29:38 ID:kdF.A7ik
老勇者「き、聞くのじゃ……」

老勇者「ワシらの一族は……かつて魔王を滅ぼした勇者の末裔、じゃが……」

老勇者「ワシの息子が病で早くに死んでしもうたために……」

老勇者「お前は若くして、勇者として魔王討伐を命じられてしもうた……」

老勇者「そしてワシは……才能はあるが経験は少ない、お前をサポートすべく……」

老勇者「お前に……同行させてもらった……」

老勇者「じゃが……どうやら、それもここまでのようじゃ……」

老勇者「寿命が……来たようじゃ……」

勇者「寿命って……縁起でもない!」

3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:31:11 ID:kdF.A7ik
老勇者「すまん、かったのう……」

老勇者「ワシは若いお前の足をひっぱり続け……」

老勇者「なんの役にも立てなかった……」

勇者「そんなことないよ、おじいちゃん!」

勇者「おじいちゃんの知識の豊富さには、俺もずいぶん助けられたよ!」

老勇者「優しいのう……お前は……」

5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:33:34 ID:kdF.A7ik
老勇者「そんな優しいお前と……二人で旅ができて楽しかった、わい……」

老勇者「お前は……最高の孫じゃったよ……」

勇者「俺もだよ! すっごく楽しかった! おじいちゃんは最高の祖父だよ!」

勇者「だからもうダメだ、なんていわないでくれよ!」

老勇者「ふ、ふふ……ありがとうよ……」

6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:36:05 ID:kdF.A7ik
老勇者「ううっ……ゲホゲホッ!」

老勇者「最期に……これだけは伝えとかねばならん……」

勇者「なんだい……?」

老勇者「剣技の極意……についてじゃ……」

老勇者「力まず、迷わず、そして魂を込めよ……」

老勇者「抽象的な言葉じゃが……今のお前になら……理解できるはずじゃ……」

勇者(力まず、迷わず、魂を込める!)

勇者「うん……理解できたよ!」

7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:40:44 ID:kdF.A7ik
老勇者「あ、あと……」

勇者「うん!」

老勇者「魔王は……いかなる攻撃をもはじく、黒いマントをはおって、おる……と聞く」

老勇者「戦う時は……なんとしても、あれをはぎ取るのじゃ……」

老勇者「接近して、マントのみを狙うように、剣で振り払えば……」

老勇者「はぎ取ることができるはずじゃ……」

老勇者「一度はぎ取れば……再び装着することはかなわん、らしいからのう……」

勇者「黒いマントだね!? 分かったよ、おじいちゃん!」

8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:43:21 ID:kdF.A7ik
老勇者「それと……」

勇者「まだあるのかい!?」

老勇者「魔王を倒したら……お前は、姫と結婚するべきじゃ……」

老勇者「お前が姫を好いておることも、また、姫がお前を好いておることも……」

老勇者「ワシの目には明らかじゃからのう……」

老勇者「きっと……国王陛下も許して下さるじゃろうて……」

勇者「おじいちゃん……」

9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:46:02 ID:kdF.A7ik
老勇者「う……ゲホゲホッ、ゴホッ!」

老勇者「……これでもう、思い残すことは……ないわい……」

勇者「!」

老勇者「もうお前は一人でも、大丈夫じゃ……」

老勇者「さ、ら、ば……」

老勇者「……」

勇者「おじいちゃん……!?」

勇者「おじいちゃあああああんっ!!!」

10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:48:35 ID:kdF.A7ik
老勇者「うう……」

勇者「え!?」

老勇者「どうやら、もう少しだけ……力が残っておるようじゃ……」

老勇者「魔王のところまではたどり着けんじゃろうが……」

老勇者「あとほんのわずかの間だけ、お前とともに旅をさせてくれんか……」

勇者「分かったよ、おじいちゃん!」

11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:50:52 ID:kdF.A7ik
魔王城――

老勇者「魔王城は……広大な迷宮になっておるが……」

老勇者「魔の瘴気が濃い方に進めば……魔王のところに……たどり着けるはずじゃ……」

老勇者「ワシらの先祖である、勇者はそうやって魔王を探し出した、というからの……」

勇者「なるほどね……」

老勇者「ゆくぞ……!」ヨタヨタ…

勇者「……うん!」

12: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:53:11 ID:kdF.A7ik
老勇者「あちこちにある……魔王の石像は……ただの石像ではない」

老勇者「トラップ、じゃ……」

勇者「トラップ!?」

老勇者「うむ、近づくと……強力な、魔法攻撃を放ってくる……」

老勇者「なるべく……近づかぬよう、進むのじゃ……」

勇者「分かったよ!」

13: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:55:07 ID:kdF.A7ik
勇者「敵が来たよ、おじいちゃん! 気をつけて!」

老勇者「ゴホッ、ゴホッ、う、うむ……」

老勇者「魔王の城ともなると……魔族も強力じゃ……!」

老勇者「出し惜しみはせず……常に全力でいけい!」

老勇者「そ、その方が……かえって力を消耗せずに、すむ……!」

勇者「分かったよ、おじいちゃん!」

勇者「でやっ!」ビシュッ

老勇者「どうりゃっ……!」ザシュッ

14: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 01:57:23 ID:kdF.A7ik
老勇者「どうやら……ここが魔王の部屋のようじゃな……」

勇者「うん……!」

勇者「おじいちゃん、あとは俺が――」

老勇者「いや……ワシももう少しだけ、働けそうじゃ……」

老勇者「せめて、お前の盾になって、死のう……」

勇者「そんなっ!」

老勇者「頼む、ワシの最期の願いじゃ……。付き合わせてくれい……!」

勇者「おじいちゃん……」

老勇者「ゴホゴホッ、さぁ突入じゃ……!」

15: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:01:19 ID:kdF.A7ik
魔王の部屋――

魔王「クックック……ようこそ、勇者たち」

魔王「かつて私を滅ぼした勇者は、歴戦の勇士といった風貌の豪傑であったが」

魔王「今の勇者は、老いぼれと若造の二人組とはな! 笑わせてくれる!」

魔王「すぐさま返り討ちにし、世界を手中に収めてくれるわ!」

勇者「なにを!」

勇者「現代の勇者である俺が、お前を叩き斬ってやる!」チャキッ

老勇者「ゆくぞぉ……!」ヨロヨロ…

勇者「おじいちゃん! 俺より前に出たら危ないって!」

16: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:03:07 ID:kdF.A7ik
老勇者「とりゃあっ……」ヒュバッ

魔王「しまった! こいつ、私のマントを……!」

魔王「おのれぇぇぇっ! ――消えろ、老いぼれめ!」バチバチ…



ズドォンッ!!!



老勇者「ぐはぁぁぁっ!」ドサッ…

勇者「お、おじいちゃぁぁぁんっ!!!」

17: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:06:26 ID:kdF.A7ik
魔王「あんな老いぼれにマントをはぎ取られるとは……油断したわ」

魔王「まぁいい。私の魔法が直撃し、老いぼれはくたばったし、あとは若造のみ」

魔王「マントなどなくとも十分倒せる相手だ!」

魔王「キサマを片付ければ、勇者の血筋は絶えるというわけだ!」

勇者「くっ……!」

勇者「よくも、おじいちゃんを……! 俺の大好きなおじいちゃんを……!」

勇者「許さないぞ、魔王!」

魔王「吼えるな、青二才の分際で! さぁ、かかってくるがいい!」

18: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:09:26 ID:kdF.A7ik
老勇者「どうやら……もう少しだけ、頑張れそうじゃ……」ムクッ

勇者「えっ!?」

魔王「なにぃっ!?」

老勇者「どうりゃっ……!」



ズバンッ!



魔王「ぐがぁっ!?」

19: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:13:24 ID:kdF.A7ik
魔王「な、なんだとぉ……この私が……!」

魔王「あんな老いぼれの一撃で……再び滅びると、いうのか……!?」

魔王「ぐわぁぁぁぁぁ……っ!」ボシュゥゥゥゥゥ…

シュゥゥゥゥ……




勇者「あ……死んじゃった……」

老勇者「ハァ、ハァ、ハァ……」ゴホッゴホッ

勇者「お、おじいちゃん……」

20: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:16:55 ID:kdF.A7ik
老勇者「なんとか、奇跡的に……魔王は倒せた……」

老勇者「しかし、今度こそ……これまでのようじゃ……」

勇者「しっかりして、おじいちゃん!」

勇者「せっかく魔王を倒したんだ。だからおじいちゃんも国に帰ろう!」

老勇者「いや、どうやらこの魔王城で……ワシは朽ちるらしい……」

老勇者「お前はワシの分まで……平和になった世界を生きる、のじゃ……」

老勇者「うぅっ……!」ゲホッ

老勇者「……」

勇者「おじいちゃぁんっ!!! ……くっ!」

21: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:19:06 ID:kdF.A7ik
老勇者「じゃが……」

勇者「えっ!?」

老勇者「せめて、お前の結婚式ぐらいは見てから死なんとな……」

老勇者「王国へ戻る、としよう……」ゴホッゴホッ

勇者「う、うん! すぐ戻ろう!」

22: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:21:43 ID:kdF.A7ik
城――

国王「よくやってくれた、勇者と老勇者よ!」

姫「勇者様! お待ちしておりました!」

勇者「姫……。そんなに喜んでくれるなんて、嬉しいよ」

老勇者「ふふ……姫も心細かった、のじゃろう……」ゲホッ

姫「私、信じてました……あなたたちなら魔王を倒せるって……」

勇者「ありがとう……」

23: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:23:16 ID:kdF.A7ik
勇者「姫……俺と結婚してくれるね?」

姫「はい、もちろんですわ!」



国王「勇者が相手ならば、余も異存はない。さっそく式を挙げようではないか!」

老勇者「感謝致します……陛下……」

老勇者(ふ、ふふ……これで心おきなく死ねる、わい……)

24: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:26:45 ID:kdF.A7ik
教会――

神父「死が二人を分かつまで、愛し合うことを誓いますか?」

勇者「誓います」

姫「誓いますわ」

神父「では、誓いのキスを……」

姫「勇者様……」

勇者「愛してるよ、姫……」チュッ…



老勇者「ふふ……幸せになるのじゃぞ……。 ――うっ!」

25: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:29:03 ID:kdF.A7ik
老勇者「ううっ……!」ドサッ…

勇者「お、おじいちゃん!」



ザワザワ…… ドヨドヨ……



老勇者「美しく着飾った……二人を見届けられて、ワシは、満足じゃ……」

老勇者「こんなところで死ぬのは、二人に悪いが……ワシはここまでのようじゃ……」

老勇者「子を作って……温かい家庭を築くんじゃ、ぞ……」ガクッ

姫「ああっ、老勇者様!」

勇者「おじいちゃん……! おじいちゃぁぁぁんっ!!!」

26: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/07/03(金) 02:32:40 ID:kdF.A7ik
老勇者「……うう」

勇者「おじいちゃん!?」

老勇者「どうやら……もう少しだけ……生きられ、そうじゃ……」

老勇者「せめて……ひ孫の顔ぐらい見てから……死なんとな……」

勇者「……」



ちなみにこの時、勇者17歳、老勇者70歳。

なお言い伝えによれば、老勇者は100歳まで生きたといわれている――







おわり