1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/13(月) 23:47:14.73 ID:cgClIyBDO

-早朝、第七学区某所



削板「……暑い」


とある学生寮の一室、タンクトップとパンツの男が汗だくで目を覚ます。

部屋のクーラーは微動だにしていない。

昨晩は大規模停電でクーラーが使えなかった。

だが、どのみちこの男はこの夏に入ってからというものクーラーなど使った試しがない。

「夏は暑くて当たり前。大絶賛地球温暖化の中でクーラーを使うなど根性なしの所業だ」

というのがこの男の思想だ。

しかし、暑いものは暑い。


削板「むう…シーツもタンクトップもビシャビシャだな。洗っておくか」


ムクリ、と起き上がりタンクトップを脱いで丸め、ベッドから降りてシーツも丸める。

そのまま脱衣室に行って洗濯カゴへ無造作に投げ入れる。


削板「ん~、なかなかいい朝だな! マットも干すか!」


クソ暑い朝=いい朝という等式が彼の中では成り立つ。

だから気分は爽快だ。マットも干そうという気分にもなる。

パンツ一枚でマットも丸めてカーテンと網戸を足で開ける。


削板「ハッハッハ! やはりいい天気……」


最初に目に入ったのは清々しい青空。

しかし、次に目に入ったのはなぜか彼の正装着。


削板「……白ラン……干してたか……?」


だが、彼の白ランにしては小さい。というか白ランは持ってても白い被り物など持ってない。

すると急に白ランが頭上げる。


白ラン「……ご飯くれると嬉しいな」

削板「白ランがしゃべっただと!?」




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1368456434

引用元: とある根性の旧約再編 

 

 
2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/13(月) 23:48:30.54 ID:cgClIyBDO


白ラン「私はハクランなんて名前じゃないよ。インデックスって言うんだよ」

削板「…インデックス?」

インデックス「うん」


………まだ寝呆けてるのか? イヤ、夢と現実の違いくらい分かる。


インデックス「ねえ」

削板「む?」

インデックス「ご飯……くれると嬉しいな」

削板「……とりあえず朝メシ食うか」

インデックス「うん!」


一旦マットは置き、小さな少女を部屋に入れ、半袖短パンジャージを着て、削板軍覇は厨房に向かった。



3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/13(月) 23:49:29.51 ID:cgClIyBDO

-30分後


インデックス「お、美味しいんだよ! スゴく美味しいんだよ!」バクバクバクバク

削板「ハッハッハ! いい食べっぷりだ!! 根性あるな!!」ガツガツガツガツ

インデックス「こんな美味しい料理はじめてなんだよ!」バクバクバクバクバクバク

削板「むう! これは足らんな! もっと作るから待ってろ!!」スクッ

インデックス「ご飯!! お代わり!!」

削板「スマンが炊いたのはそれで終わりだ! パン食えパン!!」ジャーッジャッジャッ!

インデックス「了解なんだよ!」ムシャムシャムシャムシャ




4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/13(月) 23:50:38.42 ID:cgClIyBDO

-一時間後



「「ごちそうさまでした!」」

インデックス「プハッ、お腹いっぱいなんて久々かも!」


満足気にお腹をさするシスター。その顔はこの上なく幸福そうだった。


削板「そうかそうか! こっちも作り甲斐があったぞ! 根性ある朝メシだったな!」


同じく腹をさする高校生。その顔もニカリと笑っていた。


インデックス「……今さらだけどこんなに食べちゃってよかったのかな?」

削板「かまわんかまわん! 昨日の停電のせいで食料の保存が利かなくてな!
   捨てるよりは百万倍マシだ! 何より朝から全力投球というのは素晴らしいからな!」


少々申し訳なさそうな表情をしたシスターの不安を削板は右手を振って笑い飛ばす。

事実、この真夏に融けかかった氷でこれ以上食材を保存するのは難しかった。

何より、よく食べてよく動いて良い根性を育むべし、が削板軍覇のモットーだ。


インデックス「……よく分かんないけど、悪いコトしてなかったみたいでよかったんだよ!」



6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/13(月) 23:52:51.81 ID:cgClIyBDO

削板「さてと、腹も膨れたところでだ」

インデックス「うん?」

削板「とりあえずお互い自己紹介しないか?」


文字通り同じ釜のメシを食った仲になった訳だが、二人は互いのことを何も知らない。

おまけにベランダに干されていた少女など削板の波乱万丈な人生にも現れたことはないので削板は興味津々だった。


インデックス「うん!」


そして、それはこの白い少女も一緒だった。


削板「ではまず俺からだな! 学園都市が誇るLevel5の第七位!【ナンバーセブン】こと削板軍覇だ!! よろしくな!」

インデックス「分かった。よろしくね、ぐんは!」

削板「おう!」

インデックス「ところでぐんは」

削板「おう?」

インデックス「Level5ってなに?」

削板「…おぉう?」

インデックス「?」

削板「いやいや、Level5はLevel5だ」

インデックス「…だから何? それ」

削板「…もしかして、学園都市の人間じゃないのか?」

インデックス「うん」

削板「なるほど。道理で銀髪碧眼の外人か。いいか? この学園都市には超能力者がいるんだ」

インデックス「へー」

削板「それで、その頂点が180万人の学生の中で7人しかいないLevel5! その第七位【ナンバーセブン】がこの俺だ!!」


ビシィ! と立ち上がりながら決めポーズを取る削板。

完全にキマった。


インデックス「……ふーん」


だが、シスターのテンションはこれと言って上がりはしなかった。


削板「…なんだ、リアクション薄いな」

インデックス「だってビリッケツなんでしょ?」

削板「な!? い、イヤ、違うぞ! 頂点だ頂点!」

インデックス「7人中7位なんでしょ?」

削板「」

インデックス「ビリッケツなんだよ」

削板「」orz

インデックス「じゃあ次は私の番だね」




7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/13(月) 23:54:00.54 ID:cgClIyBDO

インデックス「私はシスター、インデックスって言うんだよ。
    バチカンじゃなくてイギリスの方だからその辺も理解してくれると嬉しいな」

削板「…なるほど、イギリスのシスターだな!」

インデックス「うん!」

削板「……それで、インデックス」

インデックス「うん?」

削板「本名はなんだ?」

インデックス「……うん?」

削板「いやいや、本名だ本名。俺は【ナンバーセブン】で削板軍覇。お前は【インデックス】で名前はなんだ?」

インデックス「あ、そういうことね。本名はIndex-Librorum-Prohibitorum。魔法名は【dedicatus 545】。『献身的な子羊は強者の知識を守る』って意味だね」

削板「ほう、ホントにインデックスって名前なのか」

インデックス「うん。ちょっと変かな?」

削板「イヤ、モツ鍋よりマシだと思うぞ」

インデックス「モツ鍋!?」

削板「ところで魔法名ってのはなんだ?」

インデックス「たぶんぐんはの【ナンバーセブン】と一緒なんだよ。それよりモツ鍋って? 人の名前?」

削板「おう。アイツは根性あるぞ」

インデックス「……やっぱり科学は分からないんだよ……」




10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/13(月) 23:55:49.74 ID:cgClIyBDO

削板「じゃあインデックス、お前はなんで俺ん家のベランダで干されてたんだ?」

インデックス「屋上から屋上に飛び移ろうとして失敗したんだよ」

削板「屋上から屋上に? イギリス流のシスターの修行か?」

インデックス「ジャパニーズ修験者と違ってシスターに荒行はそうそう無いんだよ。追われてたの」

削板「追われてた?」

インデックス「うん。魔術結社の連中にね」

削板「…ん?」


聞きなれない単語に削板は首を傾げる。

なんと言った? 魔術?


インデックス「あれ? 日本語がおかしかった? マジックキャバル。教会に属さないで少数人数でグループを組んだ魔術師のことだね」


どうやら聞き間違えたようではないらしい。

ほんの少し考え、ああ、と納得したように削板はポンと手を叩いた。


削板「ハッハッハ!違うぞインデックス。そいつらは能力者だ。魔法使いじゃない」


簡単な話だ。外部の人間から見れば能力も魔術に見える。

大方、自分の得た能力で天狗になっているタチの悪い連中にでも絡まれたのだろう。



12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/13(月) 23:57:02.36 ID:cgClIyBDO

インデックス「ううん、魔術師なんだよ」

削板「さっきも言っただろ? この街は超能力者の街だ。
   最近は能力者でもスキルアウト紛いの連中がいるからな。
   にしても根性の無い連中だ。こんな小さな女の子を付け狙うとは! そいつらの根性を叩き直して…」

インデックス「スキルアウトがなんなのか知らないけど、私を狙ってるのは正真正銘魔術師なんだよ!
    そもそも私が追われてるのは一年前からで、この街にたどり着くよりもずっと前からなんだよ!!」


自分の主張をまるで聞き入れない削板に腹を立ててシスターは声を張る。

その表情は真剣そのもので、とても嘘を吐いているようには見えなかった。


削板「……本当か?」

インデックス「シスターが嘘つくわけないかも!」



一瞬、間が空いた

そして



削板「………そうか。そうかそうか! ハッハッハ! この世界には魔法使いも存在するのか!」


削板軍覇は腹を抱えて大笑いした。


インデックス「……? さっきまで否定してた割には受け入れが早いんだよ」

削板「ハッハッハ! 実を言うとな、俺の能力は科学じゃよくわからんらしいんだ! だから思っていたんだ!
  もしかしたら俺は超能力者じゃなく違う何かじゃないかとな! そうか魔法使いか! ハッハッハッハッハッハ!」




14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/13(月) 23:58:34.75 ID:cgClIyBDO

削板「それで、インデックス。お前はなんで追われてるんだ?」

インデックス「……たぶん私が持ってる10万3000冊の魔導書を狙ってるんだよ」

削板「む? 10万3000冊?」

インデックス「うん。私は『魔導図書館』だからね」

削板「………? あー、図書館の、司書? なのか?」

インデックス「ううん。私は10万3000冊の魔導書を一字一句漏らさず全部覚えてるんだよ」


フフン、と純白の少女は得意気に胸を張った。


削板「………スゴいな。つくづく根性のあるヤツだな!」

インデックス「ふっふーん♪」


食い付く削板。ドヤ顔でさらに胸を張るインデックス。


削板「じゃあアレやってくれ! ビューン、ヒョイってヤツ!」

インデックス「え?」

削板「なんだったか……ウィン……ウィン…ウィンガーディアンオーガンジー?」

インデックス「???」

削板「とにかくアレだ。モノを浮かせるやつだ」

インデックス「…………えっと……私には魔力がないから魔術は使えないんだよ」



……再び静寂が訪れる。

一度信じたものをすぐに疑うことは彼のポリシーやら根性やらに反しているが……。


削板「……本当に魔法使いとかいるのか?」


さすがに疑わざるを得ない状況である。




15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/14(火) 00:00:02.14 ID:sLB/CbBDO

インデックス「あ、あー! 疑うんだね!? 私の話が全部デタラメだと思ってるんだね!?」

削板「……」

インデックス「目を逸らさないでほしいかも! 証拠ならちゃんとあるんだよ!」

削板「ほう?」

インデックス「これ! 私が着ているこの修道服!」


そう言ってインデックスは自分が着ている修道服を広げる。


インデックス「これは『歩く教会』って言って、教会における必要最低限の機能を抽出した、服の形をした教会なんだよ!」

削板「……?」

インデックス「つまり! この修道服は物理的害悪も魔術的害悪も何から何までぜーんぶ受け流して吸収しちゃう霊装なんだよ!」

削板「……マジか」


と、この男は少女が大声でわめきたてただけで信じてしまう。

そもそも10万3000冊の書物を丸暗記しているという時点でかなり眉唾物なのだが。

それでも彼は疑わない。

まあ根性があればできないこともないな、とものすごく大きくて大雑把な物差しで彼は物事を測るのだ。

これが彼の長所であり短所である。


インデックス「疑うなら試してみる? パンチでも包丁でもちょーのーりょくでもなんでも来いなんだよ!」

削板「む……」

インデックス「どうしたの?」

削板「悪いがお断りだ」

インデックス「へ?」

削板「俺は何もしてない女に手を上げるような根性のない真似はしないぞ!」

インデックス「……今はそーゆーコトを言ってるんじゃないんだよ! 実験なんだからそんなコトは関係ないかも!」

削板「ダメだ! これだけは曲げられん!」

インデックス「むー!」

削板「その代わりだ、お前の言うことは信用しよう。魔術は存在する。そうだな?」

インデックス「……釈然としないけど信じてくれるならよしとするんだよ」




16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/14(火) 00:02:10.59 ID:sLB/CbBDO


インデックス「さて、私はそろそろ行くね」


論争も一段落ついたところで、インデックスは玄関へと足を向かわせた。


削板「行くってどこにだ?」


そして、削板も立ち上がり、インデックスについていく。


インデックス「んーと、教会かな。できればイギリス式のがいいんだけど」

削板「教会に行けばお前はもう追われずに済むのか?」

インデックス「……たぶんね。そこでイギリスの本部と連絡が取れればこっちの勝ちなんだよ」

削板「そうか。なら教会まで送ろう。着替えるからちょっと待ってろ」

インデックス「ううん。ぐんはは来なくていいんだよ」

削板「そういう訳にもいかん。そんな物騒な話を聞いて放っておいては根性が廃る」


魔術の存在を認め、魔術師に追われていると知ってなお、削板はインデックスを送ろうとした。

その行動を受け、純白のシスターは少し驚いた表情をし、すぐに悲しい顔をした。


インデックス「……ぐんはは優しいね。でも、本当にいいんだよ。
     お腹一杯ご飯食べさせてくれた人にこれ以上迷惑をかける訳にはいかないから」

削板「だがな……」

インデックス「じゃあぐんはは」


ほんの少し間を空け、しっかりと削板の目を捉え、真剣な表情でシスターは言い放った。




18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/14(火) 00:02:46.05 ID:sLB/CbBDO











インデックス「私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」






19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/14(火) 00:04:45.24 ID:sLB/CbBDO


削板「っ!」


その言葉の重みのせいか、またはあまりにもリアルな雰囲気のせいか、削板は硬直した。


インデックス「……ご飯ごちそうさま。バイバイ」


ガチャリと扉を開け、少しだけ残念そうな表情をしたシスターは駆け足で削板のアパートを後にした。






20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/14(火) 00:06:18.43 ID:sLB/CbBDO




削板「……地獄の底、か」











「しょちょう! ヤダ! 私帰る! みんなのとこに帰る!」


「駄目に決まっているだろう。【発火能力】【電撃使い】は成功した。次は【水流操作】の君だ」


「はなして! ヤダ! 誰か助けて!」



「所長……」


「な、軍覇!? なぜここに!?」


「! ぐんはくん! 助けて!」


「所長……今の話は本当か?」


「な、なんのことだ?」


「【発火能力】【電撃使い】……最近転園したヤツと一人立ちしたヤツの能力だ」


「……」


「それがあんたの正体か」


「……見られしまったからには帰すわけにはいかん。取り押さえろ!」


「ふざけるな……ふざけるなああああああ!!!!」




21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/14(火) 00:07:28.13 ID:sLB/CbBDO



削板「……やっぱ、放っておけないな」


一度部屋に戻る。そして、ジャージを脱ぎ捨てる。

日章旗のシャツ、正装である白ラン、気合いを入れるハチマキ。

すべて身につけ、バシン! と削板は胸の前で右の拳を左の手のひらにぶつけた。




削板「【ナンバーセブン】削板軍覇、出陣だ」





67: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 18:51:48.81 ID:O9HDQcjDO

-第七学区、大通り



???『教会?』

削板「おう。できればイギリス式のヤツを教えてくれ」


午前中ですでに屋外は真夏日の気温を記録していた。

蒸し暑く、それでいて雲ひとつない炎天下。

燦然と輝く太陽の下、削板軍覇は女子高生と携帯電話で会話していた。

その女子高生の名は雲川芹亜。とある高校に在学する天才だ。


雲川『確か三沢塾の近くにイギリス式の教会があったはずだけど……』

削板「三沢塾か! ここからそう遠くないな!」

雲川『寝起きにそんなデカい声を聞かせるな。頭に響く……』

削板「寝起き!? もう9時だぞ!」

雲川『まだ9時だ。たまの休みに惰眠を貪って何が悪い』

削板「今は夏休みだぞ!」

雲川『私は夏休みもアルバイトで忙しいのだけど』

削板「それにしたって寝すぎだろう!」

雲川『だから……もういい。話が進まん』



68: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 18:52:47.77 ID:O9HDQcjDO

雲川『それで? なんで急に教会だ? 神に懺悔するタイプには見えないけど』

削板「人探しだ。シスターを探してる」

雲川『……なるほど。だからイギリス式という条件付きか』

削板「まあな」

雲川『先に言っておくけど、修道女に恋愛はNGだぞ』

削板「? ああ、それがどうした?」

雲川『……ああ、スマン。お前を浮いた話でからかおうとした私が馬鹿だったな。
   とりあえず教会に着いたらそこで残りの教会の住所を聞け。うろ覚えの私よりはよっぽど正確な情報が聞けるはずだけど』

削板「分かった! ありがとな!」

雲川『ああ』



69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 18:56:00.40 ID:O9HDQcjDO

-第一学区、某所



プツッ、と携帯電話は切れてしまった。

大きな窓から明るい学園都市の風景が見えるビルの一室で、雲川芹亜は軽くため息をついた。


雲川「相変わらず暑苦しいヤツだ。真夏だから余計暑苦しい」


携帯電話を制服のスカートにしまい、もうひとつため息をついてから雲川は部屋の主に目を向ける。


雲川「それで? 休みだというのに叩き起こして呼びつけた理由を聞きたいけど?」


窓を背景に置かれたデスクとチェア。

そのチェアの背もたれを ギ、と鳴らして部屋の主である学園都市統括理事会の1人、貝積穂継は喋りだす。


貝積「すまないね。ちょっと相談に乗ってほしい」

雲川「それが仕事だ。聞こう。その代わり代休はしっかり一日分もらうけど」

貝積「かまわないよ。実は明け方から理事会全体に通達が来た。そのことについて少し聞いてもらいたい」

雲川「ほう?」

貝積「……魔術、って信じるかね?」




70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 18:57:26.85 ID:O9HDQcjDO

-第七学区、イギリス清教分教会



削板「たのも――――――――う!!!」


どぉん!!と教会の巨大な扉が勢いよく開き、わんわんと削板の大声がこだまする。

なぜ教会を訪ねるのに道場破りのような突撃をするのか。

きっと理由はその時の彼のテンションやら勢いやら根性やら色々である。


???「な、何事ですか!?」


すると奥からあわてて初老の神父のような男がバタバタと現れた。

特殊な力を持つ学生がいるこの都市では度が過ぎたヤンチャは日常茶飯事だが、あくまでも教会の外での話だ。

神聖な教会で騒音が鳴り響くなどなかなかない。


削板「お、えーと、神父様? 司祭様?」

神父「一応私は神父ですが…」

削板「そうか! 俺は削板軍覇だ! よろしくな!」

神父「は、はあ、どうも…」

削板「おう! それでな、神父様、今人を探してんだが聞いてもいいか!?」

神父「え? ええ。人を探しに来られたのですか?」

削板「ん? おお、そうだぞ」

神父「なんだそうでしたか。いきなり大声で入って来られましたので暴漢かと思いました」

削板「む、それはスマン!」

神父「いえいえ。それと、できればお声はもう少しお静かに。神聖な場所ですので」

削板「分かった」

神父「ご理解いただいて何よりです」

71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 18:58:46.59 ID:O9HDQcjDO

神父「して、尋ね人というのは?」

削板「ああ、インデックスっていうシスターなんだけどな」

神父「!」

削板「おっ、知ってるのか」

神父「……そうですね。あー、英国本部に珍しい名前のシスターがいる、という程度には」

削板「そうか。それで、そいつがイギリス式の教会を探してるっていうから来たんだが、来てないか?」

神父「……いえ、こちらには訪れていません」

削板「むう、どこかですれ違ったか……それとも違う教会に行ったのか……?」

神父「あなたから連絡は取れないのですか?」

削板「取れないんだ。そもそも連絡先も知らん」

神父「そうですか……失礼ですが、どういったご関係で?」

削板「同じ釜のメシを食った仲だ!」

神父「おや、同業者でしたか」

削板「ん? イヤ、俺はただの学生だぞ?」

神父「……はあ?」



72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 18:59:58.26 ID:O9HDQcjDO

削板「とにかくな、そいつどうやら追われてるらしいんだ」

神父「!? なんと、物騒な」

削板「まったくだ。シスターを襲うなんざ根性が腐ってやがる。
   だから、白い修道服で銀髪の小さいシスターが来たらかくまってくれないか?」

神父「……ええ、もちろんですとも」

削板「そうか! それと、もしインデックスが来たら俺に連絡をくれ!」

神父「承知しました」

削板「うし、じゃあこれ俺のケータイ番号な! それと、ここの他の教会の住所って分かるか?」

神父「……ああ、それでしたら私の方で聞いておきましょう。幸い、他宗派の連絡先も存じておりますので」

削板「お、いいのか!?」

神父「ええ。ですから貴方は外を探してください。本当に追われているのなら、きっとお困りになっているでしょう」

削板「そうか! じゃあなにか分かったら連絡をくれ!」

神父「ええ。もちろんですとも」

削板「よし! じゃあ俺は行くぞ! ありがとうな、神父様!」

神父「どういたしまして。あなたとシスター・インデックスに神のご加護が」


あらんことを、と言う前に削板軍覇は目にも止まらぬスピードで立ち去ってしまった。


神父「……【禁書目録】の学園都市侵入、さらに追われている、か」

神父「……『必要悪の教会』……イヤ、直接本部に連絡ですね。
   案件が案件な上に【禁書目録】を科学サイドが追っている可能性もあります」

神父「追っているのは十中八九『必要悪の教会』の構成員だと思いますが……
   念には念を。あの少年がイレギュラーになる可能性も十分にあります」




73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 19:01:22.95 ID:O9HDQcjDO

-第一一学区、裏通り



???「なに? 小さいシスター?」

削板「おう。見なかったか?」



教会方面を神父に任せた削板は学区を移し、第一一学区の裏通りにあるスキルアウトの根城に来ていた。

ここのリーダーである横須賀こと『内臓潰し』こと『対能力者戦闘のエキスパート』ことモツ鍋とは根性仲間である。

曰く、ともに弛まぬ鍛練で己の根性を根性入れて磨きあげて立派な根性に根性していく仲間である。


横須賀「見ていないな。というかスキルアウトの溜まり場にズカズカ入りこんで来るな。」

削板「ん? なんか悪かったか?」

横須賀「お前にボコられた連中もいるんだぞ? そういった連中がお前に御礼参りしようが俺は一切手出しは……」

スキルアウト「削板さんこんちゃーすっ!!」

スキルアウト「お久しぶりです削板さん!!」

スキルアウト「珍しいッスね! 次の番付ッスか!? 大食いとかいいんじゃないッスかね!」

削板「む! アリだな! それでいくぞ!」

スキルアウト「っしゃあ! ぜってぇ負けねぇッスよ!」

横須賀「……」

削板「よし! じゃあ来週な! 俺はちょっとモツと話がある」

スキルアウト「わかりやした! 失礼します!」

スキルアウト「削板さんお疲れッス!」

スキルアウト「横須賀さんお先失礼しやす!」

削板「おう! また来週な! ……で、なんだったか」

横須賀「……イヤ、なんでもない。」

削板「?」




74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 19:03:11.23 ID:O9HDQcjDO

横須賀「で、お前はなんでシスターなど探している?」

削板「どうもそのシスターが魔法使いに追われてるらしいんだ」

横須賀「は?」

削板「そいつもいい根性していてな。なんと10万3000冊の魔導書を丸暗記した上に俺とタメを張る食いっぷりで」

横須賀「なに? なんて?」

削板「とにかく根性あるシスターが追われてるから助けてやろうと思ってな!」

横須賀「……正直訳が分からん。……だが、シスターが追われてるんだな?」

削板「おう」

横須賀「……魔法使いに?」

削板「おう」

横須賀「……面白い。つまり『封印の剣』だな?」

削板「おう?」

横須賀「ふっふっふ、ベルン軍に追われているエレンを助けるべくお前は動いているわけだ。
    さしずめ俺はフィレ軍に合流するディーク傭兵団。シャニーは論外だとしても俺はワードやロットで収まる器ではないぞ。」

削板「……何を言ってんのか分からんがとにかくそのシスターを見つけたら連絡をくれ。
   お前の仲間にも協力してもらいたいんだが頼めるか?」

横須賀「おう。ぷらぷらしてる連中にも声をかけてみよう。ライブの杖は自分には使えないしな。」

削板「? まあいい。恩に着る!」

横須賀「ふっふっふ……まさか本当にそんな世界があったとは……
    ドラゴンナイトやペガサスナイト…マムクートが出てきたらどうすっかなー。あの回転斬り間近で見てーなー…」

削板「?」




75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 19:05:18.76 ID:O9HDQcjDO

-夕刻、第七学区裏通り



削板「原谷は……ダメか。補習だったからずっと学校か」


各学区の裏通りやスキルアウトの溜まり場などの捜索は横須賀に一任し、削板は表通りを中心に走り回った。

道中、仲間である原谷矢文にもメールで連絡したが返事は遅れて返ってきた上にいい内容ではなかった。


削板「神父様もダメ。モツからも連絡なし。……どこ行ったんだ? インデックス」


先ほどの神父曰く、どの教会にもインデックスは姿を現さなかった。

横須賀たちも恐らく見つけていないはずだ。

根性あふれるまま各学区をすべて走り回ってみたが、どこかの学区でかろうじて巫女らしき人物を見かけたのみ。

こうなってくるともはやお手上げである。


削板「なんで見つかんねぇんだ……俺に根性が足りないせいか!?」


ハッ、と顔を上げる削板。

彼にとって結果の原因はよかれあしかれ全て彼の根性に返ってくるのである。


削板「そうに違いねぇ! そうと分かればもう一周! もっと根性いれて学園都市を回るのみ!!」


パァン! と自分の頬に両手で気合いを入れる。

自らに喝を入れることで力が漲る。根性が溢れる。


削板「っしゃああああああ!!! 行くぞおおおおお!!!」


踊る血肉に沸き上がる根性を注入し、削板軍覇は天に向かって吠えた。



76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 19:06:34.11 ID:O9HDQcjDO

ところで


削板「お?」


その視界に高層ビルの屋上から飛ぼうとするシスターが映った。

そのシスターは間違いなく削板が探していた純白のシスター。


削板「お、おい! インデッ」


名前を言い切る前にインデックスが飛び降りる。

さらにそのうしろから別の黒髪の女が間髪入れずに飛び降りる。


削板「!?」


そして、あろうことか後から飛び降りた女は手に持っていた自身の身長よりも長い日本刀でインデックスを背後から斬り付けた。


インデックス「ッ!」


その威力故か、インデックスの身体は重力加速度をはるかに超える速さで地面に吸い込まれていく。

とんでもない速さで落下していく彼女はぎゅっと目を瞑り、衝撃に備えた。

そして、一連の追撃を見ていた削板は考えるよりも速くインデックスの落下地点へと駆け出した。



77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 19:08:53.55 ID:O9HDQcjDO

とさり、と。

表現するならこのような感覚だった。


インデックス「……?」


思わずインデックスは辺りを見回す。

如何に『歩く教会』を身につけているとは言え、あのスピードでコンクリートに叩きつけられてこのような感覚を得られるのだろうか?

というか、コンクリートが無事で済んでいるということがありえるのだろうか?

ましてや自分の身体が地面から少し浮いた状態を維持できるのだろうか?

あり得ない。彼女一人なら。

だが、彼女は


削板「おい! インデックス!!」

インデックス「……え? ぐ、ぐんは!?」


【ナンバーセブン】に腕の中でしっかりと抱き止められていた。


削板「大丈夫か!? 今お前刀で斬られて……」

インデックス「あ、うん。『歩く教会』を着てたから、じゃなくて!」

削板「じゃないのか!? やっぱりケガしてんのか!?」

インデックス「違うんだよ! 降ろして!」

削板「あ、そうか」


ストン、と足からゆっくりインデックスを降ろす。

確かに削板から見ても大ケガをしたような跡はなかった。


削板「おお……、本当に根性あるな、その服」

インデックス「今はそんなコトどうでもいいんだよ! 早くここから逃げて!」

削板「む、そうはいかん。ようやく見つけたんだしな。こっからは俺も参戦だ」

インデックス「ダメだってば! ぐんはを巻き込むわけには」

78: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 19:11:40.19 ID:O9HDQcjDO

???「残念だけど、もう巻き込んでるよ」


低く、小さな声が聞こえた。

しかし小さな声の割りにはしっかりと二人の耳に届いていた。

その声の主を見つけた瞬間、インデックスの顔からスッと血の気が引いた。

そして、削板も同様に声の主を見た。

10mほど先にいたのは赤い長髪で長身の神父。

タバコをくわえ、顔には妙な刺青、手にはいくつかの指輪が嵌められていた。


???「彼女をこちらに渡してもらおうか。そうすれば君のことは見逃してあげてもいい」


ふーっ、と不良神父はめんどくさそうに紫煙を吐きながらこちらへと歩み寄ってきた。

そして、若干イライラしたような眼で二人を見据えていた。


削板「コイツか? インデックス。お前を追いかけ回している魔法使いとやらは」


ギロリ、と削板は不良神父を睨み付ける。


???「! 残念だ。どうやらキミを生きて帰すわけにはいかなくなった」


瞬間、不良神父を纏うオーラが変わる。

素人肌にもわかるほどの痛いまでの殺気。

それが目の前の男から発されている。


79: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 19:12:18.39 ID:O9HDQcjDO

インデックス「逃げてぐんは! 相手はプロの魔術師なんだよ! 勝てるはずがない!!」


それを受けてインデックスも焦りはじめる。

相手の実力はこの一年で嫌というほど味わってきた。

とても一学生がかなう相手ではない。


削板「ごめん被る。根性なし相手に向ける背なと持ち合わせとらん」


しかし、彼は頑として動かない。

全身全霊で無理矢理服を引っ張って動かそうにもびくともしなかった。


???「【Fortis931】…古くさい習慣でね。魔法名をいちいち名乗らないと殺しができないんだよ。
    ちなみに、ボクの魔法名の意味は『我が名が最強である理由をここに証明する』だ。名乗ったからには手加減はできないよ」


ボゥ、と不良神父の手に大きな炎が生まれた。


削板「ふん、根性なしが一丁前に名乗り上げか。なら、俺も名乗らせてもらうぞ。学園都市が誇るLevel5の」


80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 19:17:26.74 ID:O9HDQcjDO

???「『巨人に苦痛の贈り物』!!」


ゴッ、と巨大な火球が削板に迫る。

相手の名乗りなどなんの気にも留めず、不良神父は削板を狙った。

削板の近くにいたインデックスは万事休すとばかりに目を瞑った。

1mほどの大きさのある火球は削板たちを丸呑みに

することはなく、パァン、と弾け飛んだ。





???「……は?」


思わず不良神父から声が漏れた。

何が起きた? 魔術に対する干渉か?


インデックス「……?」


だが、唯一それができる可能性がある彼女もキョトンとしている。

ならば、可能性があるのは――?


削板「……か弱いシスターを散々追いかけ回した挙げ句、名乗りの途中に不意討ちか。どこまで腐った根性してやがる」


この学生? バカな。

たしかにさっきとは姿勢が変わっているが……拳を前に突き出しただけで魔術が弾け飛んだというのか?


???「キミは一体」

削板「黙れ根性なし。俺は今相当頭にキてんだ」


目の前の学生から出る空気が変わる。

なるほど、言葉の通り殺気というよりも怒気が溢れている。

―――どうやら一筋縄でいくような相手ではなさそうだ。


削板「いくぞ魔法使い! てめえの歪んだ根性を徹底的に叩き直してやっから覚悟しろ!!」

???「……いいだろう。プロの魔術師相手にケンカを売ったことを後悔させてやる!」

98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:34:23.74 ID:e++sKXBDO

インデックスを追い、削板の前に立ちはだかる魔術師の名はステイル=マグヌス。

得意としている魔術はルーンを使用した、炎を中心とした魔術である。

その魔術を用いた彼の戦闘能力は凄まじく、いくつもの魔術結社を文字どおりに灰塵に帰してきた。

また、使用する魔術は炎に限らず、ルーンを使用した魔術全般において高度な魔術を繰り出せる。

挙げ句の果てには弱冠14歳にして新たなルーン文字を2つも見つけ、オリジナルの魔術すら編み出してしまう天才である。

その彼にとって、目の前にいる学生はイレギュラーであれど障害ではない。


ステイル「こちらとしてももう時間がなくてね。ここで彼女を確実に捕らえるために入念に準備をしてきた」


バッ、とステイルは右手を掲げる。

先ほど完全に魔術を消し飛ばされたにもかかわらず、未だ余裕が見てとれた。


削板「……準備?」

ステイル「そうさ、超能力者。キミ達のような才能溢れる者と違って、ボク達凡人はそんなところでしか差を埋められないからね」

99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:36:29.30 ID:e++sKXBDO

インデックス「ぐんは、気を付けて」

削板「お前は下がってろ。だが、あんまり離れすぎるなよ」

インデックス「うん」


インデックスは素直に頷き、戦闘の邪魔にならないように削板の後方に下がった。

どこか不安そうではあるが、この男の未知数の可能性に賭ける気にはなったようだ。


ステイル「――顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」


そして、ステイルが勢いよく手を振り下ろす。


ステイル「【魔女狩りの王】!」


ボォウ! と巨大な火柱が立ち上る。

その熱量故か、火柱は赤々ととてつもない光を発し、思わず削板は腕で眼を覆った。

すぐにその腕を下ろすと、そこには燃え盛る炎に身を包んだ巨人がいた。


削板「な!?」


端的に表すならば、マグマが巨人の形をしており、その全身から火を噴いている。

巨人の体長は3~4mほどもあり、手にはその体長の半分ほどの大きさの巨大な十字架が握られている。

身体そのものが流動体のようになっているせいか、顔も定まっておらず、それが余計に不気味に見える。



100: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:39:21.10 ID:e++sKXBDO

ステイル「行け! 【魔女狩りの王】!」


その言葉を受けて【魔女狩りの王】は地面を滑るように動きだす。

その速さは先ほどの火球よりも速く、あっという間に削板との距離が詰まる。


削板「スゴい…」


そして、削板もそれに反応し、即座に腰を落として拳を引く。


削板「パンチ!」


ゴパァ! と【魔女狩りの王】に巨大な風穴が空いた。

体当たりにきた巨人へ大きく一歩を踏み出し、腹部へ渾身のカウンター。

その桁外れの威力を誇示するかのように、巨人の腹部は吹き飛んでしまった。

だが、巨人は何事もなかったかのように削板を丸焼きにしようと覆いかぶさってきた。


削板「っ!?」


体重を前から後ろへ、バックステップで削板は躱そうとする。

その瞬間には空いた風穴は既にふさがっていた。


ステイル「逃がさないよ!」


削板は【魔女狩りの王】の懐から一度のバックステップで5mも飛んでみせた。

100からマイナス100へ。反対方向への体重移動込みでこの移動距離は驚愕に値する。

だが、削板の頭上には炎を噴き出すマグマのような巨大な十字架が迫っていた。


削板「!」


間合い、タイミング、速度、すべてが完璧である。

いくら削板でも避ける術はない。


ステイル(もらった!)


蓋を開けてみれば予想通り。彼はイレギュラーであれど障害にはならなかった。

ステイル=マグヌスは勝利を確信した。




101: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:40:45.42 ID:e++sKXBDO





ステイル「……?」


振り下ろしたはずの十字架が途中で止まった。


ステイル「……!?」


否、動かない。


削板「お、おお…」


【魔女狩りの王】が振り下ろした十字架は、あろうことか削板に素手で掴まれている。


削板「おおおおおおおお」


さらにあり得ないことに、削板は十字架ごと【魔女狩りの王】を地面から引っ込抜き、身体全体を使って振り回す。


ステイル「」


あまりの出来事にステイルは開いた口がふさがらない。ポロリとタバコが唇から離れて落ちていった。


削板「おおおおおおおおおおらああああああああああああ!!!」


一回転、二回転、三回転と振り回したところで、削板は【魔女狩りの王】をステイル目がけてハンマー投げの如く、ブンと投げ飛ばした。


ステイル「は!?」


寸でのところで正気を取り戻したステイルは身を翻す。

【魔女狩りの王】はステイルの鼻先をかすめ、そのまま路地裏を背中から滑っていく。

更に数mいったところでビル壁に激突し、轟音と共に粉々になった。



102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:43:18.64 ID:e++sKXBDO

インデックス「」

ステイル「」


【魔女狩りの王】がぶつかった壁は熱と威力で歪に穴が空き、周りには焦げ跡ができていた。

あまりの出来事に魔術の世界に身を置く2人は立ち尽くした。

10万3000冊の魔導書のどこにこんな魔術の破り方が記載されていただろうか。

かつて水で風で物理で魔術で【魔女狩りの王】を止めようとした敵は数あれど、掴んで投げ飛ばした敵がいただろうか。


削板「はーっはっはっはっはっはっ! いいな! いい根性だ!」


その無茶苦茶な攻略をやってのけた時代錯誤な白ランは大声で高笑いしていた。

両手からは火傷のせいか、はたまた別の何かのせいか、妙な煙が出ている。


削板「やられても進み続けるその根性! 火傷するほど熱くたぎるその根性! 尊敬に値するぞ!」


粉々になった身を集め、再び元の身体へと戻っていく【魔女狩りの王】を見ながらハチマキをなびかせた漢は満面の笑みを浮かべた。


削板「だからこそ納得できん。なぜお前ほどの漢がこんな根性なしの舎弟に収まっている!」

ステイル「ふざけるのも大概にしろ!」


あまりに奇想天外で的外れな言動にとうとうステイルがツッコミを入れた。


ステイル「なんなんだ……一体何者なんだキミは!」


その言葉を受け、白ランの漢は威風堂々、声高らかに名乗りあげる。


削板「ならば教えてやろう。180万人の学生の頂点! 7人しかいないLevel5の第七位!【ナンバーセブン】削板軍覇だ!」


ドッパァン!! と削板の背後で赤青黄の3色の煙が盛大に立ち上り、白ランとハチマキをはためかせた。



103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:45:42.62 ID:e++sKXBDO

ステイル「……」


しかし、この名乗り上げはステイルにとって意味をなさなかった。

学園都市の超能力者の第七位と言われても何がどうスゴいのかまったくピンとこない。


ステイル(……落ち着け。目的を忘れるな)


フーッ、と長い息を吐いてステイル=マグヌスは気を落ち着かせる。

タバコが欲しいところだが、さすがに新しいタバコに火を点けている余裕はない。


ステイル(僕の任務はあくまで彼女の奪還。あんな得体の知れないものに構ってるヒマはない)


完全に復活した【魔女狩りの王】を呼び戻し、体勢を整える。

現状分かっていることは、相手はムチャクチャな超能力者であるが【魔女狩りの王】を完全に無力化することはできないということ。

度を超えたタフネスであり、なにかしらの飛び道具はあれど【魔女狩りの王】でも足止めはできるということ。

それだけ分かれば彼女を奪還するには十分だ。

この場には【魔女狩りの王】だけでなくあらゆるルーンを設置してある。

【魔女狩りの王】があの得体知れない何かを相手している間に別の魔術を発動し、彼女を捕縛して逃走。それで任務完了だ。


インデックス「信じられない……こんなことが……!」


幸い彼女はあの男のもとを離れている上にこれまでにないほど油断している。このチャンスを逃す手はない。

ステイル「……なるほど、思った以上に手強いね」

削板「フン、なら次は舎弟でなくお前が来い。これほどの漢が従っているんだ。お前もそれほどの器量があるんだろうな」

ステイル「……」


【魔女狩りの王】はステイルの魔術であって生命体ではないのだが、その間違いを訂正する気にもステイルはなれなかった。



104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:47:39.59 ID:e++sKXBDO

ステイルの作戦はこうだ。

【魔女狩りの王】を白ランに向かわせ、一定の距離を保たせ視界を塞ぐ。

ワンテンポ遅れてから捕縛用魔術を発動し、自身も『禁書目録』へ接近して物理的に捕らえる。

ターゲットが『歩く教会』を着ている以上、捕縛用魔術で捕らえきることは難しい。こればかりは物理的に抱えるしかない。

体力に自信はないが、すぐ近くで仲間が待機している手はずになっているのでさして問題にはならないだろう。

少々狭い通りではあるが、少なくとも【魔女狩りの王】を振り回せるスペースは空いてるのだ。

あの男と十分離れたところから抜き去り、その先にいる『禁書目録』を捕縛することも不可能ではない。


ステイル「……【魔女狩りの王】!」


再び【魔女狩りの王】が削板に襲い掛かる。

先ほど完全に粉々になったはずの身体は前回と比べてもなんら遜色なく動いていた。


削板「またお前か! いいだろう! 根比べなら負けんぞ!」


言うが早いか、削板は自身の前にある『見えない何か』を殴りつける。

その『見えない何か』は殴り飛ばされ、【魔女狩りの王】に直撃し、その身体を押し返す。

しかし【魔女狩りの王】もゆずらない。押し返されればその分進み続ける。


105: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:48:38.33 ID:e++sKXBDO

ステイル(今だ!)


頃合いを見計らってステイルが走りはじめる。

更に、走りながら魔術を発動する。


インデックス「きゃあ!?」


瞬間、インデックスの立っていた地面から巨大な光の筋でできた檻が出現し、インデックスの身体を囲った。


削板「! インデックス!」


ほんの一瞬、削板の注意がインデックスに向けられた。

その瞬間に【魔女狩りの王】が得物である巨大な十字架で横から削板に殴りかかる。


削板はそれを寸でのところで上から拳で殴り付け、地面にめり込ませた。

その戦闘を横目に、ステイル=マグヌスは離れたところから削板を抜き去る。


ステイル(よし!)


最大の難関は突破した。あとは『禁書目録』を捕らえるのみ。





106: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:51:27.69 ID:e++sKXBDO



削板「ちょっと待てええ!」


ドッパァン! と、先ほどの3色の煙が立ち上る。というよりも、広範囲に爆発した。


ステイル「ぐおああ!?」


その爆発により、ステイルの身体は吹き飛ばされ、壁に激突した。


インデックス「きゃあああ!?」


同じくインデックスも爆発に巻き込まれたが、奇しくもステイルが発動した魔術に守られたおかげでほぼ被害はなかった。


削板「今! 俺とコイツがタイマン張ってんだろうが! 勝負に水を差すな!」


ビシィッ、と削板はステイルに指をさして怒鳴りつける。

しかし、ステイルの方は打ち所が悪かったのか壁にもたれかかってノビていた。


削板「ったく、粋の欠片もないヤツめ。スマンな、邪魔が入った。……って」


改めて炎の巨人と対峙しようとしたのだが、気付いたら巨人はいつの間にかいなくなっていた。


削板「む? おい! どこ行った! まだケリはついてないぞ!」


辺りを見渡しなが叫ぶが反応はない。気配すらない。


インデックス「えっと……多分この人が気を失ったから魔術も切れちゃったんじゃないかな?」


おずおずとインデックスが削板の近くに来て遠慮がちに声をかけた。

見たところ特にこれといったケガもなさそうだ。


削板「ん? なんであの根性なしが気を失うとアイツが消えるんだ?」

インデックス「うんと、さっきのはあの人の魔術であって、生きてるわけじゃないんだよ」

削板「なに? ……そういえばアイツ一言もしゃべらなかったな」

インデックス「うん」

削板「なんだそうなのか! 久々に熱いヤツに出会えたと思ったのに!」


そう言うと、削板は地団駄を踏んで悔しがった。


107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:52:51.62 ID:e++sKXBDO


インデックス「ね、ぐんは」

削板「ん?」

インデックス「ありがとう。助かったんだよ」

削板「……はっはっは! 気にするな! 困ってる人間は助けるのが道理だ!」

インデックス「あはは、神様の教えをこんな形で実践する人なんてはじめて見たかも」


と、場が和んだところで二人の腹部からなにやら音が鳴った。


削板「……」

インデックス「……ぁぅ、安心したらお腹空いちゃったかも」

削板「はっはっ、メシでも食いに行くか!」

インデックス「! うん! あ……でもこの人……」

削板「……救急車くらいは呼んでおいてやるか」


そして救急車を呼んだのち、二人はその場を後にした。

その晩、24時間営業のファミレスが在庫切れで閉店に追い込まれるというちょっとした珍事が起きた。




108: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:54:20.18 ID:e++sKXBDO




-30分後、学園都市某所



ステイル「う……」

???「気が付きましたか、ステイル」

ステイル「神裂……ああ、やられたのか、ボクは」

神裂「ええ。あなたともあろう者が不覚を取るとは珍しいですね」

ステイル「……学園都市はボク達が彼女を追うことを許可したんじゃなかったのかい?」

神裂「ええ。どうやらあなたの前に立ちはだかった彼は一学生として彼女を助けたようです」

ステイル「一学生、ね。あれだけの力を持った者がどこの組織にも所属していないと言い張るのかい?」

神裂「……その真偽も含め、調べてみる価値はあるでしょう。
    明日までには収集しておきます。あなたは体調を万全にしておいてください」

ステイル「そんなヒマはない、と言いたいが、このザマじゃ何も言えないね。分かったよ」

神裂「では」




109: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 21:57:01.61 ID:e++sKXBDO

-2時間後、第七学区大通り



削板「あ~食った食った。根性出した後のメシは格別だな!」

インデックス「ねえ、ぐんは……」

削板「ん?」

インデックス「今気付いたんだけど……その手」

削板「ああ、さっきの戦いであの十字架を思い切り掴んだからな。大したことない。気にするな」

インデックス「大したことないって! ぐるぐる巻きの包帯に血が滲んでるんだよ!」

削板「この程度で痛がるような腑抜けた根性はしとらん。心頭滅却すれば痛みもまた根性だ」

インデックス「……ごめんなさい。私にできることならなんでもするから」

削板「だから気にするな。それよりこれからどうするんだ? 今から教会に行ってもいいが神父様がいるかどうか……」

インデックス「あ、えっと、教会はもういいんだよ」

削板「む? なんでだ?」

インデックス「……どうもここの教会は連中と繋がってたみたい」

削板「なに!?」

インデックス「うん。私が教会に着いたら5分後には連中が来て……匿うつもりもなかったみたいだしね」

削板「なんてこった……」

インデックス「だから私はそろそろ行くね。アイツらが追ってくる前にここを去りたいから」



110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 22:07:01.98 ID:e++sKXBDO

削板「む? 何言ってんだ?」

インデックス「え?」

削板「まだなんにも解決してないのにこれで終わりなわけないだろう。解決するまで俺は協力するぞ」

インデックス「ええ!? だ、だめなんだよ! ここからは本当に危険で……」

削板「乗り掛かった船だ。それにさっきお前ななんでもするって言っただろ。なら、この問題が解決するまで俺と一緒に行動しろ」

インデックス「で、でも、これ以上ぐんはに迷惑をかけるわけには……」

削板「むしろこのまま去られた方が迷惑だ。こんな中途半端で放り投げては寝覚めが悪い」

インデックス「……」

削板「……地獄の底の辛さなら多少なり知っているつもりだ。それに立ち向かう覚悟と根性もある。
   この【ナンバーセブン】に遠慮はいらんぞ。お前はたった1人で1年間も頑張ってきたんだ。ここまで来たら救われて然るべきだろ」

インデックス「……本当に? 本当に私を助けてくれるの?」

削板「当然!」

インデックス「じゃあ…私は、もう逃げなくていいの?」

削板「おう! 逃げるんじゃなくて迎え撃つ! 魔法使いどもの根性を矯正して、って」

インデックス「……うぅ……う~……」

削板「お、おい! なんで泣いてんだ!? そんなに嫌だったか!?」

インデックス「ううん、グスッ、なんか安心したら、ヒグッ、涙が」

削板「インデックス……」

インデックス「ふふ、なんでぐんはも泣きそうなの?」

削板「え? あ、いや……」

インデックス「あはは……じゃあ、えと……」




インデックス「私と一緒に地獄の底までついて来てくれる?」

削板「……おう! 任せとけ!!」



128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:37:01.06 ID:mZM9W5RDO

「……………」


「やりましたよ所長! 見てください!」

「おぉ! いいぞいいぞ! 素晴らしく安定しているな!」


「……………」


「よーしよし。ようやくここまで来た。やはり、私のアプローチは間違っていなかった!」


「所長、次の被検体です」


「……しょ、ちょう?」



「ああ、よしよし。君の能力は…【水流操作】系統だったね」


「しょちょう……このお部屋、こわいよ……気味が悪い……」


「ははは、そんなことないさ。みんな君の友達じゃないか」


「とも、だち? みんなどこにいるの?」


「目の前にいるじゃないか。おかしな子だね。ほら、ぷかぷか浮かんでいる」


「え……? これ、が?」


「そうだとも。間違いない。ちゃんと能力もだせるぞ。ホラ」


「…………ひっ………」


「ははは、そうさ火だ。私の長年の研究の成果さ」


「しょちょう! ヤダ! 私帰る! みんなのとこに帰る!」


「駄目に決まっているだろう。【発火能力】【電撃使い】は成功した。次は【水流操作】の君だ」


「はなして! ヤダ! 誰か助けて!」



129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:37:48.33 ID:mZM9W5RDO

「所長……」


「な、軍覇!? なぜここに!?」


「! ぐんはくん! 助けて!」


「所長……今の話は本当か?」


「な、なんのことだ?」


「【発火能力】【電撃使い】……最近転園したヤツと一人立ちしたヤツの能力だ」


「……」


「それがあんたの正体か」


「……見られてしまったからには帰すわけにはいかん。取り押さえろ!」


「ふざけるな……ふざけるなああああああ!!!!」



130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:38:38.48 ID:mZM9W5RDO

-早朝、削板宅



削板「……む……」

インデックス「ぐんは……?」

削板「お……ああインデックス。おはよう」

インデックス「うん、おはよう。あの、大丈夫?」

削板「何がだ?」

インデックス「すっごくうなされてたみたいだけど……」

削板「……そうか?」

インデックス「うん」

削板「……気にするな。それより朝メシ食いに行かないか?」

インデックス「! うん!」




131: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:39:23.91 ID:mZM9W5RDO

-第七学区、ファーストフードチェーン店



インデックス「今日は、モグ、根性メシじゃないんだね」バクバクバクバクバクバク

削板「昨日は買い出しに行く、ムグ、暇がなかったからな」バクバクバクバクバクバクバクバク

インデックス「そっか………ごちそうさまでした!」

削板「ああ……ごちそうさん!」

インデックス「ふぅ……ここのご飯もおいしいけどまたぐんはの根性メシも食べたいんだよ」

削板「お、なら昼飯は俺が腕によりをかけて作ろう」

インデックス「ホント!?」

削板「おう!」

インデックス「楽しみなんだよ!」



132: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:40:38.58 ID:mZM9W5RDO

削板「さて、今日の予定だがな」

インデックス「?」

削板「まず仲間を集めようと思う」

インデックス「仲間?」

削板「ああ。魔法使いが何人いるか分からんしな。奴らのひん曲がった根性なら1対多数も平気でしてくるだろう」

インデックス「……」

削板「なんだ、不満か?」

インデックス「……あんまり多くの人をこんな危ないことに巻き込みたくないかも……」

削板「何言ってんだ。自分の力だけでなんでも解決しようとするヤツは根性があるんじゃなくて傲慢なだけだ。
   困った時は助けを求め、頼られた時は助けてやる。自分の力量を把握し、その上で筋と正義を通すのが本当の根性だ」

インデックス「……そうなの?」

削板「おう。だから、お前も俺や今から呼ぶ連中を頼れ。絶対力になる」

インデックス「……」

削板「心配するな。なんせそいつらは俺が認めた根性仲間だからな!」



133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:41:37.08 ID:mZM9W5RDO

-2時間後、削板宅



原谷「……は?」

横須賀「魔術師? 10万3000冊?」

削板「おう」

インデックス「そうなんだよ」

朝食を終え、削板は2人の男を自宅に呼び出した。

1人はどこにでもいそうなメガネをかけた平凡な学生、原谷矢文。

もう1人は筋骨隆々の軍人のような体型をしたイカつい男、【内臓潰し】横須賀である。

2人は削板とインデックスから魔術についての知識を一通り説明されたところだった。


原谷「……夏の暑さにやられて根性バカからただのバカになりました?」

削板「何言ってんだ! この程度の暑さで頭をやられるほどの俺の根性はヤワではないぞ!」

原谷「ホントだ。変わらず根性バカだ」

横須賀「……昨日言ってたヤツか。じゃあ魔法使ってみてくれ。アーリアルとかは大惨事になるから無難にライトニングあたりをだな…」

インデックス「わ、私は魔術は使えないんだよ。でも魔術は本当にあって…」

横須賀「……ああ、修道士じゃなくてシスターだったな。
    じゃあライブとかなら使えるか? ちょうど昨日指切っちまったからこいつを…」

インデックス「だから私に魔力はないから何もできないんだよ!」

横須賀「……魔力0で杖も使えないシスターか。使い物にならんな。マリナスと一緒に茶でもすすってろ。」ハッ

インデックス「な、なんか知らないけどスゴい馬鹿にされてる気がするんだよ」



134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:42:56.92 ID:mZM9W5RDO

インデックス「ねぇ、ぐんは。本当にこの人たち協力してくれるの?」

削板「当然だ! こいつらの根性はビシッとしてるからな!」

原谷「すいません、いつ確定したんですか?」

横須賀「お前この間も緊急事態だと言って集まってみたらホラ吹いたガキのケツ拭いただけだっただろうが。」

原谷「真の爆弾魔くんのヤツですか? あの子も完全に冗談で言ってたのに
   警備員に連絡して捜索しながら駆けつけたら収拾つかなくなって半泣きでしたよね」

横須賀「あの連続爆発事件は既にケリついてたからおかしいと思ったんだ。
    どうせ今回も同じパターンだろう。魔法を使えないヤツが魔法使いだと言い張っても説得力0だぞ。」



135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:44:57.71 ID:mZM9W5RDO

インデックス「うう……」

削板「お前ら、これを見ろ」シュル…

原谷「うわ、どうしたんですかそれ? 手ぇテカテカしてんじゃないですか」

横須賀「これは……火傷か?」

削板「ああ。昨日やられた」

原谷「削板さんが?」

横須賀「……むぅ、お前が負傷するレベルの実力者か。」

インデックス(負傷で済むような魔術じゃなかったはずだけど…)

削板「これがインデックスが魔術師に追われてるって証拠だ」

原谷「…いやいや、無理がありますよ。火傷なんて誰でもしますし」

インデックス「……そう、やっぱりこの街の人間は魔術なんて信じてくれないんだね」

削板「……」



136: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:45:34.42 ID:mZM9W5RDO

横須賀「……だが、何者かに追われているというのは事実のようだな。」

インデックス「え?」

削板「」ニヤリ

横須賀「そいつは熱したヤカンに触ったくらいで火傷するようなヤツではない。」

削板「当然だ!」

原谷「……そうですね。むしろヤカンが火傷します」

インデックス「意味が分からないんだよ」

横須賀「恐らく【発火能力】系統の高位能力者だろう。そうなってくると放っておくわけにはいかんな。」

原谷「ハァ、やっぱりそうなりますか」

インデックス「だから超能力じゃなくって魔術なんだよ!」

横須賀「分かった分かった。皆まで言うな。魔術だな。」

インデックス「絶対信じてないんだよ! 返事がなげやりすぎるかも!」

原谷「そりゃそうでしょ」

横須賀「ふっふっふ、面白い状況だな。対能力者戦闘のエキスパートの腕がなるというものだ。」

削板「ってことは協力してくれるんだな!?」

原谷「……追われてる理由は意味不明ですけど、
   それが協力しない理由にはなりませんよ。僕にできることなんてタカが知れてますけど」

横須賀「わざわざ魔法使いと言うくらいだ。相手は全員能力者だろう。
    我が物顔をしてふんぞり返っている連中に一泡吹かせてくれよう。」

削板「はっはっはっ! さすがはお前たちだな! どうだインデックス!」

インデックス「……協力してくれる嬉しいけど……」ブスー


137: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:49:25.81 ID:mZM9W5RDO


原谷「じゃ、改めて自己紹介しようか。僕は原谷矢文。高校1年だから削板さんと同い年」

横須賀「横須賀だ。」

削板「モツ鍋だろ?」

横須賀「違うわ。」

インデックス(ああ、この人が)

横須賀「高校は籍だけあるがほぼ通っておらん。年はこいつらよりは上だな。」

削板「モツはスキルアウトのリーダーだ。だが、そこらのエリートなんぞよりよっぽど根性が据わってるぞ」

横須賀「当たり前だ。温室では根性は育たん。」

原谷「2人ともただの根性バカでしょ。僕はケンカとかは向いてないから正直力になれるか分からないけど、よろしくね」

インデックス「うん、よろしくね、やぶみ」

横須賀「その点、俺はケンカが日常茶飯事だ。目一杯協力させてもらうぞ。」

インデックス「うん、よろしくね、なべ」

横須賀「は?」

インデックス「え?」

原谷「……なべ?」

インデックス「うん。だって 横須賀・モツ・鍋 でしょ?」

原谷「プッ!」

削板「ああ、そういうことか」

横須賀「」

インデックス「え? 違うの?」ポカン

原谷「っく、大丈夫、ハハハ、合ってるよ」プルプル

横須賀「合ってねぇだろ! 何適当吹いてんだコラァ!!」バァン!

削板「ええっ!?」

横須賀「ガチで驚いてんじゃねぇよ! ナメてんのかオラァ!」

インデックス「え? え? えっと、えっと、ケ、ケンカはダメなんだよ!」オロオロ

原谷「あー大丈夫大丈夫、いつものコトだから」

削板「モツお前今まで偽名使ってたのか!? 見損なったぞ! そんな根性のない真似をしていたとは!」バァン!

横須賀「使っとらんわぁ! 見損なったはこっちのセリフだボケェ!!」


ドガ! バキッ! ズドン!


インデックス「い、いつものこと!? あんな風に拳で語り合うのが!?」

原谷「ほら、コミュニケーションの8割は非言語って言うし」

インデックス「ボディランゲージはこんなバイオレンスな意味じゃないんだよ!!」

原谷「大丈夫だって。あ、ボクみんなの飲み物買ってきますね」

削板「おう!」

ベキィ!!

横須賀「ビブルチ!?」

インデックス「え!? ちょ、なべ! 首が、なべ、なべぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」




138: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:51:28.55 ID:mZM9W5RDO

-同時刻、第七学区某ビル屋上



ステイル「……」

神裂「ステイル……」

ステイル「ああ、神裂か」

神裂「複雑な気持ちですか? かつてあの場所にいたあなたとしては」

ステイル「……そうだね、キミの着替えを覗いたと言いがかりをつけられて首をへし折られたことを思い出した」

神裂「……その節は本当にすいませんでした」

ステイル「たしかに薄れゆく意識の中で彼女があんなリアクションをしているのを見た気がするよ」

神裂「……」

ステイル「神裂」

神裂「はい」

ステイル「ボクの首もあんなにエグい角度だったのかい?」

神裂「……いえ、あそこまでは……」

ステイル「……彼女に殺人現場なんて見させたくなかったんだけどね」

神裂「あ、でも彼自分で戻しましたよ」

ステイル「……やれやれ、やはり科学は分からないね」

神裂(アレは科学と関係あるのでしょうか……)



139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 22:55:10.38 ID:mZM9W5RDO

神裂「それで、昨日あなたが戦闘した人物についてですが」

ステイル「何か分かったのかい?」

神裂「ええ。まず、彼は学校以外の組織には入っていません。
   ですが、個人的にこの街の首脳陣の1人と深い繋がりがあるとのことです」

ステイル「つまり、そこから彼女を捕らえるように依頼された、と?」

神裂「なきにしもあらず、と言ったところでしょうか。
   彼女は魔術サイドの極秘事項のようなものです。科学サイドの人間がそこまで把握しているとは考えにくいかと」

ステイル「……たしかにね」

神裂「そして彼の能力ですが……詳細不明、とのことです」

ステイル「詳細不明?」

神裂「ええ。この街の科学者がこぞってその能力を研究したようですが、解明できなかった、と」

ステイル「自分たちで超能力者にしといて分からないだって? ずいぶん無責任な連中だね」

神裂「いえ、そうではなく……」

ステイル「うん?」

神裂「彼は【原石】のようです。それも世界最大級の」

ステイル「……なるほどね」

神裂「申し訳ありません。これといって有益な情報も得られず……」

ステイル「イヤ、むしろ納得がいったよ。ボクの【魔女狩りの王】を投げ飛ばしたんだ。それくらいでないと困る」

神裂「……タイムリミットが迫っています。長引かせるわけにはいきません。次は私が行きます」

ステイル「ああ、よろしく頼むよ」



150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:27:21.63 ID:sFZkUJNDO

-第七学区、削板宅



横須賀「あー、エライ目に遭った。」コキコキ

削板「はっはっはっ! すまんすまん! すっかり勘違いしていた!」 クルッ クルッ

横須賀「勘違いで明後日の方向に首をへし折られてたまるか。」

原谷「どの方向に折られたんですか、それ」

削板「悪かったな! 昼メシは俺が自ら振る舞おう! それで手打ちにしてくれ!」 クルッ クルッ クルッ

横須賀「ふん。」

インデックス「おおー……、コレがジャパニーズTAKOYAKI……美味しそうな匂いがぷんぷんするんだよ」ジュルリ

原谷「あれ? たこ焼きははじめて食べるの?」

インデックス「うん。今までそんな余裕なかったから」

削板「……」 クルッ クルッ クルッ クルッ


151: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:28:41.92 ID:sFZkUJNDO

横須賀「おい、紅ショウガないのか?」

インデックス「べにしょーが? 何? それ」

原谷「付け合わせだよ。さっき買ってきましたよ」

横須賀「足りんだろう、これだけでは」

原谷「十分ですって。それ以上使うとたこ焼きに紅ショウガじゃなくて紅ショウガのたこ焼きトッピングですよ」

インデックス「え? このべにしょーがはTAKOYAKIの主役の座を奪うほど美味しいの!?」

横須賀「そこまではいかん。だが、タメを張ると考えていい。ダブル主人公だ。」

インデックス「ほぇ~」キラキラ

原谷「騙されちゃダメだよ、インデックス。あーゆーコト言う人は大抵味覚がイカれてる人だから」

インデックス「え?」

横須賀「なんだと? 貴様は紅ショウガの偉大さが分からんのか?」

原谷「付け合わせというカテゴリでここまでの地位に伸し上がったから紅ショウガは偉大なんですよ。
   炭水化物でないものが食卓においてメインを張るなど不可能です。すべてのモノには向き不向きがあります」

横須賀「違うな。その常識を切り崩したモノが紅ショウガだ。
    付け合わせでありながらメインを抜くレベルにまで自己をアピールし、それでいてメインもしっかり引き立てる。
    それほどの器量がありながらほとんどの飲食店では無料で食べられる。こんな根性を持った食品は他に存在しない。」

原谷「それはあくまで一部に味音痴の暴論です。紅ショウガはあくまで付け合わせです」

横須賀「あ? まだ紅ショウガの可能性に気付かん愚か者が。」



152: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:29:42.14 ID:sFZkUJNDO

インデックス「ちょ、2人とも! せっかくのお昼ご飯にケンカはダメなんだよ!」オロオロ

削板「まったくだ! それにお前らの結論は1つだろうが!」 ヒョイヒョイヒョイヒョイ

原谷「もちろん」

横須賀「そうだな。」

インデックス「え?」

削板原谷横須賀「「「紅ショウガ万歳」」」キリッ

インデックス「」

削板「うし、できたぞ! あと5回は追加するからどんどん食え!」

原谷「お、旨そうですね!」

横須賀「む、また腕を上げたな。」

削板「はっはっはっ! 普段から根性入れて料理しているからな!」

インデックス「……心配して損したんだよ!!」

横須賀「ん? おいこれ青のり足りるか?」

インデックス「黙れ!」

横須賀「!?」




153: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:30:31.09 ID:sFZkUJNDO

-1時間半後



削板「ごちそうさまでした!」

インデックス「うぅ……まだ舌がいたい……」

横須賀「焼きたてのたこ焼きを3つもいっぺんに食べようとするからだ。ほら、麦茶。」

インデックス「ありがと、えと……」

横須賀「? ……ああ、なんでもかまわん。好きに呼べ。」

インデックス「じゃあ、ありがとう、よこすか。ジャパニーズTAKOYAKIは美味しいけど危険なんだね……」

原谷「その危険な食べ物いくつ食べたのさ。僕の3倍くらい食べなかった?」

インデックス「やぶみは小食かも」

原谷「イヤ、君がおかしい。たこ焼きは美味しいけど1プレート分以上食べるのはおかしい」

インデックス「? ぐんはもよこすかもそれくらい食べてたよ?」

削板「普通だろ?」

横須賀「普通だな。」

原谷「異常だよ」



154: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:32:09.40 ID:sFZkUJNDO

横須賀「さて、さっきはゴタゴタしてよく聞けなかったからな。もう一度状況を確認するぞ。」

削板「ん? なんのだ?」

横須賀「インデックスが追われている状況だ。俺たちはまだコイツが
    やたら本を覚えてることと一年間逃げ回ったこと、それ以前の記憶がないことくらいしか知らん。
    だから、今度は追っている連中の情報と状況を知りたい。どんな相手だとか何人いるだとかな。」

インデックス「……そうだね。協力してもらえるんだからちゃんと話すよ」

横須賀「よし。まず相手の特徴だ。」

インデックス「うんと、相手は男女の2人組で、男の方が誘い込んで自分のフィールドで戦うタイプ。
    女の方は接近戦で戦うタイプなんだよ。だいたい女に追われて男のフィールドに追い込まれるパターンが多かったかも」

原谷「」

横須賀「なるほど。じゃあ次は…」

原谷「イヤ、なるほどじゃないでしょ!」

削板「ん?」

インデックス「え?」

原谷「なんでこんな娘が冷静に戦闘パターンを分析してることをスルーしてるんですか! おかしいでしょ!?」

横須賀「ふむ、まあ食べっぷりからしてなかなかの根性をしていたからな。」

削板「インデックスはそこらの連中とは根性が違うんだ! 当然だろう!」

インデックス「な、なんか照れるかも……」テレテレ

原谷「理由になってないだろうが根性バカども!」



155: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:35:23.07 ID:sFZkUJNDO

横須賀「とにかく次は外見的な特徴を教えてくれ。」

原谷「スルーしやがったよチクショウ」

インデックス「うーんと、男の方は多分イギリス人で結構背丈があったかな。
     神父みたいな格好してるけど、髪は赤っぽいしタバコも吸ってるしいっぱい指輪もしてる」

削板「昨日の根性なしだな!」

横須賀「なるほど。そいつが高レベルの【発火能力】の能力者か。」

インデックス「だから魔術師だってば。女の方はスゴく髪が長い日本人。
     手に自分の背丈よりある刀を持ってる。服装は白いTシャツとジーパンだね」

削板「昨日インデックスを空中で後ろから斬り付けたヤツか! あいつも根性なしだな!」

原谷「すいません、空中で後ろから斬り付けたってどーゆー状況ですか?」

インデックス「こう……ビルの屋上から屋上に跳び移ろうとした時に……」

原谷「斬り付けられたの!? だからどんな状況だよ! なんでその歳でキルビルやってんだよ!!
   そもそもなんでビルに跳び移るなんて選択肢を選べるのさ!! どんな度胸してるんだよ!!」

削板「インデックスは根性が違うからな!」

横須賀「なるほど、これはたしかに大した根性だ。」

インデックス「エヘヘ……」テレテレ

原谷「うるせぇよバカども!」



156: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:36:37.40 ID:sFZkUJNDO

原谷「あのさぁ、インデックス。君ホントのこと言ってる?」

インデックス「え?」

原谷「あまりにも奇想天外で波乱万丈で荒唐無稽すぎるでしょ。もうツッコミ疲れたよ」

インデックス「全部本当なんだよ! シスターが嘘なんて吐くはずないかも!」

削板「そうだ! それに証人なら俺がいるぞ!」

原谷「じゃあなんで君は後ろから斬り付けられてピンピンしてるのさ」

インデックス「それはこれ!『歩く教会』を着ていたからなんだよ!」

原谷「へ?」

横須賀「その修道服か? 何か特殊なモノなのか?」

インデックス「これは『歩く教会』って言って、教会における必要最低限の機能を抽出した、服の形をした教会なんだよ!」

原谷「イヤ、だから何?」

インデックス「つまり! この修道服は物理的害悪も魔術的害悪も何から何までぜーんぶ受け流して吸収しちゃう霊装なんだよ!」

横須賀「……そんな反則的なもの、あり得るのか?」

インデックス「試してみる? ぐんははやらなかったけど、私としてはどんと来いなんだよ」

原谷「……うーん、試すって言ってもなあ」

横須賀「無抵抗の女に手を上げるのは気が引けるな……。」

インデックス「ふーん、やっぱり2人もそう思うだね。これは最強クラスの霊装だから問題ないのに」



158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:37:51.65 ID:sFZkUJNDO

原谷「はあ、もういいや。そもそも自分の背丈より長い刀なんて持ってたら一発で警備員にしょっぴかれるとか思ったけどもういいや」

横須賀「だからこそ問題ないのだろう。まさかそんな堂々と刀を持ち歩いているなど警備員も思わん。」

原谷「あーそーですねー」

削板「どうした? 原谷。元気がないぞ」

原谷「疲れたんですよ…」

横須賀「じゃあ次で一旦最後にするか。この状況のゴールについてだ。」

インデックス「ゴール?」

横須賀「そのお前を狙っている連中にヤキ入れるのは確定だとしてだ。
    その後お前をどうすればいい? 匿えばいいのか、どっかに送り届ければいいのか、それとも……」

インデックス「えっと、多分『イギリス清教』に連絡を取ってくれればそれでいいかも」

横須賀「ほう、イギリス出身だったのか?」

インデックス「うん。私は『イギリス清教』の『必要悪の教会』ってところに所属してるから」

原谷「それならさっさと連絡しちゃえばいいじゃん。ネットで探せば『イギリス清教』の窓口かなんかの番号くらい出てきますよね?」

削板「あ、その手があったか!」

インデックス「ネット? 網?」

原谷「イヤ、普通にインターネット」

インデックス「?」

横須賀「……知らないのか?」

インデックス「科学のことはよく分からないかも」

削板「……天然、か?」

原谷「天然記念物ですね。ちょっと待っててください。今探します」



159: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:38:49.64 ID:sFZkUJNDO


原谷「お、あったあった」

インデックス「本当!?」

原谷「うん。こっからはインデックスお願いね。もう電話かけたから」

インデックス「え? こ、これで話せるの?」

原谷「? そうだよ?」

インデックス「え? え? あ、he,hello?」


削板「なんだ、最後までやってやればいいだろう」

横須賀「ちょっと頼みこむだけだろう。」

原谷「生憎、僕にこんな状況を英語で説明できるほど頭良くないんで。お2人はできます?」

削板「……」

横須賀「……」

原谷「でしょ?」



160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:39:59.73 ID:sFZkUJNDO


インデックス「ねえ、やぶみ」

原谷「ん?」

インデックス「コレ、終わったらどうすればいいの?」

原谷「ああ、もう切れてるから大丈夫だよ。どうだった?」

インデックス「もうすぐ迎えに来てくれるって! これで一安心なんだよ!」

削板「お、本当か!?」

インデックス「うん! 本当によかった……これでようやく終わるんだね!」

原谷「……1年間ずっと逃げ続けてきたんだったっけ」

インデックス「うん……でも、ここで『イギリス清教』の誰かに迎えに来てもらえば大丈夫!
    やぶみとよこすかに迷惑をかけずに済みそうでよかったんだよ!」

横須賀「なんだ、拍子抜けだな。」

削板「まだ分からんぞ? インデックスを追っている連中が諦めたわけじゃねえんだ」

横須賀「……たしかにな。」


161: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/14(金) 18:41:33.49 ID:sFZkUJNDO

原谷「んじゃ、これからどうします? どうせすぐイギリスに帰っちゃうなら学園都市を観光していくのもアリだと思うけど」

インデックス「おおっ、面白そうかも!」

削板「連中が襲ってくる可能性もあるが……じっとしてるのも暇だしな!」

原谷「じゃあそうしますか。インデックス、それでいい?」

インデックス「うん!」

横須賀「スマンが俺は少し離れるぞ。」

削板「ん? なんかあるのか?」

横須賀「念のために戦闘の準備をしておきたい。お前が負傷するほどの手練れだ。丸腰ではいささか心許ない。」

原谷「怖い話しないでくださいよ」

インデックス「あぅ…それならやっぱりぐんはの家でおとなしくしてた方がいいかも」

横須賀「なに、お前らの行く場所は観光できるような場所だろう?
    白昼堂々人混みの中を狙ってくる可能性は低い。何より削板がいれば一瞬で拉致られる可能性は皆無だ。」

削板「おう! 任せておけ!」

横須賀「狙ってくるならむしろ夜だ。それまでには合流する。」

原谷「……分かりました。じゃあ、とりあえず第三学区のあたりをぷらぷらしてるので準備ができたら連絡ください」

横須賀「分かった。」

削板「よし、行くか! あの辺は根性入ったもんがいっぱいあるからな! かなり面白いぞ!」

インデックス「ホント? 楽しみなんだよ!」



172: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:09:00.38 ID:cdiyMqZDO

-夕方、第四学区大通り



インデックスら一向は学園都市の観光を終え、夕飯を食べるべく第四学区に来ていた。

この第四学区では食品関連の施設が多く立ち並び、この学区だけで世界中の料理が味わえるほどである。

一向はその中でも食べ放題でバイキング形式の施設を予約し、インデックスのお別れ会をする予定である。

また、この学区で1人行動を別にしていた横須賀と合流した。

のだが、


インデックス「……」

原谷「あの……横須賀さん?」

横須賀「なんだ。」

削板「暑くないのか?」


横須賀の服装は異様だった。

紺色のタオルのようなものを頭に巻き、これから夜だというのに妙に顔にフィットしたサングラスをかけている。

上着はなぜか膝まである灰色の厚手のコート。下も同じような材質のものである。

そして、その身体には少し大きめのボディバッグが巻き付けられている。

履いている靴は登山でもするかのようなゴツゴツしたブーツであった。



173: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:12:30.16 ID:cdiyMqZDO

横須賀「クソ暑いに決まっているだろう。見ろ、この汗の量。制汗スプレー使ってもコレだ。」


そう言って横須賀は頭とは別に首にかけていたタオルで汗を軽く拭う。

7月下旬の熱帯夜で冬場の服装をしていれば暑いのは当然である。


原谷「……てっきりなんかしらの飛び道具でももってくると思ってたんですけど」

横須賀「いけすかんだろう、そんなもの。拳で挑んでこそ漢だ。」

インデックス「見てるこっちが暑いんだよ」

横須賀「お前も似たようなものだろう。」

インデックス「この服は主のご加護を視覚化したしたものであって、私は一度たりとも暑苦しいなんて思ったことはないんだよ!」

原谷「ちなみに今から行く食べ放題のお店で食べたいものは?」

インデックス「アイスクリーム!」

横須賀「やっぱり暑いんじゃねえか。」

インデックス「この時期にアイスクリームを食べたいと思うのは至極当然な考えかも!」

原谷「よく知らないけどシスターって修行してる身だから禁欲すべきなんじゃないの?」

インデックス「修行中の身だからこそ誤ってアイスクリームを食べてしまう可能性もなきにしもあらずなんだよ!」

横須賀「思い切り確信犯だな。」


174: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:13:45.51 ID:cdiyMqZDO

インデックス「とにかく! とっととお店に行こう! お店の料理が食べ放題なんて主の奇跡が具現化したに違いないかも!」

原谷「いくらなんでも大げさすぎるよ。具現化したのは学園都市産食物の安定供給の成功」

インデックス「なら、それが神の奇跡だね!」

横須賀「……あながち間違いとも言えん。それにとっとと行くのは俺も賛成だ。このままだと直に脱水症状と熱中症でくたばりかねん。」

インデックス「そのコートの下はあまり見たくないかも……」

原谷「シャツが汗だく地獄絵図……。それ脱いでもニオイとか大丈夫ですか?」

横須賀「……一応替えのシャツと予備のタオルは持ってきたが……さて、店内のどこで着替えるか。」



175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:15:08.24 ID:cdiyMqZDO

削板「……ハハ」


インデックスたちのやり取りを削板は少し離れて後ろから見ていた。

インデックスからは今朝まで時折見せていた思い詰めた表情も見えなくなっている。

なんとなく見ているこっちも微笑ましくなるというものだ。

横須賀と原谷を呼んだのはやはり正解だった。

結果としてインデックスは『イギリス清教』に帰れそうだし、あの2人ともすぐに馴染めた。

どんなに根性を入れても1人でできることは限られている、ということを再認識した。

俺の根性にあの2人の根性が加われば俺の3倍の根性どころか3乗以上の根性だな、と削板はうんうんとうなずいていた。

Level5であり、ずば抜けた能力を持っていて、180万人の頂点に立とうとも、できないことも気付かないこともたくさんあるのだ。

それはもはや人間としての優劣ではなく、個性の領域。

異なる立場で、異なる力量で、異なる人生で、見える世界はガラリと変わるのだから。



176: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:15:58.46 ID:cdiyMqZDO

削板「……」


そのことにもう少し早く気付いていれば。

凝り固まった考えをしなければ。

自分の力を過信しなければ。

地獄の底も少しはマシな世界に見えただろう。

現にインデックスは地獄の底にいるような顔をしていない。

あの時はそんな余裕はなかった。

間違った根性にこだわったせいで惨劇になった。

未だに夢に見るくらいだ。トラウマと言っても過言ではない。



177: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:18:45.70 ID:cdiyMqZDO





「なあおい、どうすんだよ」

「とにかく逃げる。大人はアテにならん」

「だからどこにだよ! なんのとっかかりもない!
 足がつくからまともな施設は使えない! 同じ理由でATMもだ! 計画性0だろうが!」

「じゃああそこで留まっていることが正解か!? 今まさに目の前で身体をぐっちゃぐちゃにされようと
 している現場を見て見ぬフリをして留まることが!? テメェはそんな腐った根性してやがんのか!?」

「俺に言わせればそれ自体が眉唾なんだよ! のんびりくつろいでいたらいきなりテメェが暴れだして!
 気付いたらテメェに引きずられて! 何が何だか分からない内にお訪ね者だ! テメェの勘違いなんじゃねえのか!?」

「そんなわけねぇだろ! そんなことも分からん根性なしなわけあるか!」

「じゃあなんでお訪ね者なんだ!? なんで俺たちが犯罪者扱いだ!?
 おかげでまともなメシもなきゃまともな屋根すらねぇ! この先の展望は真っ暗! いつまでこんな生活強いるんだ!」

「そのくらい根性で耐えろ!」

「根性根性うっせぇんだよ!! だれもがお前みてぇな常識はずれじゃねぇんだ!! 俺たちにそれを求めんな!!」



178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:23:56.19 ID:cdiyMqZDO


「いい加減にしろ」

「ああ!? テメェはなんの不満もねえのかよ!」

「年長者が真っ二つになってケンカしてるからチビたちが怯えているけど」

「……」

「……スマン」

「ちっ」

「それに削板が正しい。あそこは妙な点が山ほどあった。人体実験もあって然るべき。
 ちなみに私たちは保護対象として探されているんだ。警備員はまだしも、上の連中は『保護』なんてしないだろうけど」

「……」

「ともあれ、私もチビたちもいい加減限界だ。この状況じゃ今に体調を崩すヤツが出てきてもおかしくないけど」

「……そんなもん根性で」

「果たしてこの中の全員がその精神論についていける人間かね」

「……」

「行動を起こしたのはお前だ。私も出来る限りの助言はするが決定権はお前にあるけど」



179: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:25:25.91 ID:cdiyMqZDO




削板「む………?」


ふと気が付くと辺りから人影が消えていた。

いくら完全下校時刻があるとは言え、大通りに車の一台も通っていないというのは異常である。


削板「なんだ……? もしかして魔術か?」

???「ステイルが『人払い』のルーンを刻んでいるのですよ」

削板「!」


ふと女の声がした。

声の方を見ると、長身で長い髪を後ろで一まとめにした女性が一人。

白いシャツの裾を結び、片方が脚の付け根から切り詰められているジーンズを履き、ウエスタンベルトを巻いている。

それでいながら、手には2mはありそうな日本刀が握られている。


???「他の方に邪魔をされたくありませんのでここに来れないようにしました。危害を加えてはおりませんのでご安心ください」

削板「……お前も魔術師か?」

???「ええ。神裂火織と申します。もう1つの名は……名乗らせないでください」

削板「……削板軍覇だ。それで? お前もインデックスが狙いか?」

神裂「ええ。ですが、話し合いで解決したいと思ってます」

削板「……その前に1つ聞く。俺の記憶が正しければ……お前は逃げ回るインデックスをその刀で切り付けなかったか?」

神裂「………そうですよ」


180: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:27:14.31 ID:cdiyMqZDO

バグゴォ!! と轟音が響いた。

削板が地面を蹴って神裂に殴りかかった音。

そして神裂がその拳を鞘に入ったままの刀で受け止めた音だ。


神裂(速い……!)

削板「ならば話し合うことなど何一つない!! 貴様のような根性なしにインデックスを渡せるか!!」

神裂「……残念です」


バッ、と神裂は大きく後ろに跳び退く。

その跳躍力は常人のそれとは大きく異なっていた。


神裂「『七閃』」


神裂が刀に手をかける。それと同時にコンクリートが粉々に砕け、その亀裂が削板へと向かっていく。

危機を察知した削板はとっさに横へと跳んだ。


削板「うお!?」


だが、削板の身体には衝撃が走る。

明らかに何かが削板の身体を破壊しようとした。


神裂「……なんと、これで傷1つ負いませんか。まさか、あなたも【聖人】ですか?」


神裂の表情に少し驚きの色が入る。

それも当然。常人なら血まみれになるような技を使ったにもかかわらず目の前の白ランはピンピンしているのだから。


削板「……ワイヤーによる不意討ちか。根性なしの考えそうな技だな」

神裂「! 一回受けただけで見抜いたというのですか?」

削板「見抜いたんじゃなくて見たんだ。こんなもんちょっと眼に根性入れれば誰でも分かるぞ」


181: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:29:38.88 ID:cdiyMqZDO

???「ホラ見ろ。やっぱりドンパチしているだろう?」

神裂「!?」


今度は神裂の後ろから男の声がする。

振り向くとそこには真夏にもかかわらずコートに身を包んだ男。学生服に眼鏡の少年。

そして、白い修道服に身を包んだ銀髪のシスター。


インデックス「ぐ、ぐんは! 無事なの!?」

削板「おう!」

原谷「……まあ、そりゃそうでしょ」

神裂「馬鹿な……『人払い』の術式をどうやって突破したのですか!?」

横須賀「『人払い』? …………なるほど、コレが魔術か。」

インデックス「……うん。言われてみれば確かに魔力が流れてるんだよ」

原谷「……じゃあ今までの話は全部本当なんだね? 頭痛くなってきた……」

横須賀「どうやって、か。簡単な話だ。そいつのケータイのGPSを辿ってきただけのこと。」


そう言って横須賀はコートの内側から自身のケータイ電話を取り出す。


神裂「じーぴー……?」

横須賀「俺は最初から決めていた。常に固まって行動するとな。インデックスを狙うならまず周りの俺たちを引き離す。
    そこから各個撃破が定石。それを防ぐために何があろうと絶対に4人で固まって行動すると決めていただけのこと。」

神裂「まさか……それで無意識下に作用する『人払い』が効かないはずが……!」

横須賀「ああ、だから大変だったぞ? 引き返す道中で腹が減ったと駄々をこねたインデックスに噛み付かれ、財布を忘れたと原谷が帰ろうとし、
    噛み付いてきたインデックスにゴミを見るような眼で 『臭いんだよ』 と言われた時はさすがに心が折れて銭湯に行こうとしたな。」

インデックス「ゴ、ゴミを見るような眼なんてさすがにしてないかも!」

原谷「でも眼のハイライト全部消えてたよね」

インデックス「やぶみは黙ってて!」

横須賀「とにかくだ。意識のないケータイに魔術は通じなかったこと。そして俺の意志の強さ。
    つまり、初志貫徹を貫いた俺の根性がお前の誤算だ。さあ、どうする? 魔術師とやら。」

神裂「……」



182: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/17(月) 17:30:51.97 ID:cdiyMqZDO

削板「手ぇ出すなモツ。一対多数など根性のない真似するな」

横須賀「分かっている。俺が聞いているのはそっちの男だ。」


ギロリ、と横須賀は別の通りを睨み付けた。

スッ、と物陰からローブに身を包んだ大きな神父が現れる。


神裂「ステイル……」

ステイル「……やれやれ、『人払い』を刻んでいるにもかかわらずズンズン向かってくる集団が来たから何かと思えば……」

横須賀「原谷、インデックスを頼む。」


そう言って横須賀は身につけていたボディバッグを外して投げ捨てた。


原谷「頼むって……僕にどうしろって言うんですか?」

横須賀「見てろ。」

原谷「……分かりましたよ」

インデックス「よこすか、大丈夫なの?」

横須賀「ふん。この【内臓潰し】の横須賀、シスターを追い回すような根性なし相手にやられるつもりはない。」


コキリ、と首を鳴らし、大男は不良神父へと歩をすすめた。


ステイル「……ナメられたものだね、僕も」




193: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 20:40:59.20 ID:YqPO9gCDO

『言霊』というものがある。

古代より、ことばがもっていると信じられた神秘的な霊力のことを指す。

親が子に願いを籠めて名前を付けるのはそれに由来する。

例えば健康な人間になってほしいから健人、という具合に。

アレイスター=クロウリーは自身の『プラン』の要になる存在を見つけるために日本に学園都市を作った。

日本では同じ名で複数の意味を取れるものが他国に比べて多いからだ。

例えば健人は賢人とも取れ、健康でありながら賢いとも取れる。

その目論見通り、世界中の複数の候補の中から最高の人物が日本で産まれた。


上条当麻。つまり、神浄討魔。


その名の通りの能力を生まれながらに持つ【原石】をアレイスターは嬉々として学園都市に迎えた。

その【原石】を将来利用するにあたり、アレイスターは【原石】のサンプルを上条とは別に学園都市に呼ぶ。


それが後のLevel5第七位、【ナンバーセブン】削板軍覇。




194: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 20:42:47.70 ID:YqPO9gCDO

だが、ここでアレイスターのプランに早くも二度の想定外の事態が生じた。

1つは軍を破り軍を覇すこの【原石】の力があまりに強大で、あまりに繊細だったこと。

そのため科学者たちは彼のどこから手を着けていいのかまるで分からず、手をこまねいていた。

そうこうしている内に次の想定外が発生する。

削板がいた研究所のメイン研究。脳のみで能力を行使し、その脳を保存する研究。

通称『プロデュース』の人体実験の現場を削板が目撃してしまったのだ。

さらにその全貌を知った削板は自身も分からぬまま身体も能力も力の限り暴走させていた。

その結果、研究所は施設としても組織としても壊滅。

それに伴い【原石】の脳の保存を最終目的とした研究は能力の行使と脳の保存に成功した当時の段階で凍結。

そして、削板に残っていたほんのわずかな理性により生き残っていた脳は『学園都市統括理事会』の1人、薬味久子に回収された。

この時、削板軍覇はこの世界の闇と地獄を知った-




195: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 20:44:33.60 ID:YqPO9gCDO


神裂「……よいのですか? ステイルはルーンの天才。一般の魔術師とは比べものにならないのですが」

削板「こっちのセリフだ。あんな根性なしをモツにぶつけて無事で済むと思っているのか?」

神裂「根性なし……ですか。私は彼ほど根性のある人間を知りませんよ」


ヒュッ、と神裂がワイヤーを振るう。

だが、常人とはかけ離れた動体視力を持つ削板はワイヤーの動きをはっきり見切る。


削板(なんだ……? 模様?)


ワイヤーは削板に襲い掛からない。

ものすごい速さで空中を動きまわり、1つの模様を形成する。


神裂「言っておきますが、私も魔術師の端くれですので」


すると、ワイヤーの前にいくつもの氷塊が出現する。


削板「な!?」


1つ1つが1m大程もある氷塊は明らかに削板に向けられている。


神裂「空気中の水分を凝縮して凍らせました。あまりこの街を壊したくはありませんが……」


ボッ! と氷塊が散弾銃のように射出される。

その速さも銃弾のそれであり、もはや音速に匹敵する。


削板「くっ…!」


だが、あろうことか削板はそれを紙一重で躱そうとする。

わずかな間を縫い、それでも避けられないものは腕で受け流し、衝撃で跳ね上がるコンクリートを能力で押さえつける。

この一連の動作をすべて終えても、まだ一秒も経過していなかった。



196: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:01:12.47 ID:YqPO9gCDO

神裂「読んでますよ」

削板「!」


そして【聖人】神裂火織はそのスピードについていく。

氷に気を取られた一瞬の隙に神裂は自身の攻撃範囲内に削板を入れるまでに詰め寄っていた。


神裂「ふっ!」

削板「ガ!!」


音速を超える速さで振りぬかれた刀で、削板は切り付けられた。

その衝撃故か、削板は異様な速さで吹き飛ばされる。

グワッシャア!! という音と共に、窓ガラスを突き破りビルの中へとたたき込まれてしまった。


インデックス「! ぐ、ぐんは!」

神裂「………峰打ちです。常人ならともかく、彼なら死んではいないでしょう」


ザッ、ザッ、と背丈以上の大きさをもつ日本刀を鞘に収め、魔術師は白いシスターへと歩んでいく。


原谷「……う、わ…」

神裂「おとなしくインデックスを渡してください。そうすれば、あなたに危害は加えません」

原谷「………」

神裂「……渡さないのであれば、実力行使に移りますが……」

インデックス「待って! やぶみには手を出さないで!」


再び刀に手をかけた神裂を見て、原谷の後ろにいたインデックスが慌てて前に出ようとした。




197: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:02:23.41 ID:YqPO9gCDO

だが、それを震える腕を出して原谷が制す。


インデックス「! やぶみ……」

原谷「……」

神裂「……どういうつもりですか? 見たところあなたはただの学生。とても戦闘に慣れているとは思えませんが……」

原谷「……それ、でも、渡さない!」

インデックス「やぶみ! ダメなんだよ! ぐんはだけじゃなくてやぶみまでやられちゃったら……!!」

原谷「ゴメン、逃げて、インデックス。さすがに勝つのは無理だ」

神裂「……どうしてそこまでこの子を庇うのですか? 今日会ったばかりの貴方がどうしてそこまで……」

原谷「………あの人たちに、付き合ってれば、思考回路なんて嫌でも変わるさ。
   こんなか弱い子を犠牲に自分だけ逃げるなんて根性のない真似できるか!!」



198: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:03:23.75 ID:YqPO9gCDO

???「よく言った原谷ぃ!!」

神裂「!?」


ギュン!! と白い突風が吹く。

だが、それは風ではない。

Level5の第七位【ナンバーセブン】削板軍覇!


削板「フン!!」

神裂「ゴふ!?」


ズン! と削板の正拳突きが神裂の腹部に直撃する。

今度は神裂の方が吹き飛ばされ、ダゴン! と十数メートル離れたビルの壁に叩きつけられた。


インデックス「! ぐんは!」

原谷「……はは、そりゃそうだよ。この人がやられるはずないもの」


不死鳥のように舞い戻ってきた削板を見て、原谷は安堵したようにヘナヘナとコンクリートに座りこんだ。


削板「いい根性だったぞ原谷! さすがは俺が見込んだ漢だ!」

原谷「……まだまだ。緊張で喉カラカラだし、腰抜けて立てませんもん。まあ、追い付くつもりもないけど」

インデックス「……ありがとう、やぶみ! カッコよかったんだよ!」

原谷「あはは、どういたしまして」


199: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:04:24.01 ID:YqPO9gCDO

削板「さて、これでおあいこか?」


ザ、とビルの壁に叩きつけられたはずの神裂が再び立ちふさがる。

ただ、口の端からは赤い血が流れていた。


神裂「……」

削板「ゲホ、俺の内臓に最初に傷をつけるのはモツだと思っていたがな。実力だけは認めてやるぞ」


いかに削板とはいえ、音速の打撃をモロに食らったのだ。

当然、無事ではない。原谷とインデックスに危機にすぐに駆け付けなかったのは削板もダメージで動けなかったからだ。


インデックス「ぐ、ぐんは、口から血が……」

削板「かまわん。このくらいでくたばるようなヤワな根性はしとらん」

原谷「! 横須賀さん!」



200: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:06:02.65 ID:YqPO9gCDO

横須賀「だあー!!っちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ!!」


コンクリートの上をゴロゴロと転がり、炎の巨人から距離を取る筋骨隆々の大男が1人。

そして、大男はそのまま削板たちのそばまで転がっていった。


ステイル「……やれやれ、本っ当に腹が立つね、この街は」


同時に燻った煙を転がりながら消す大男を見て、くわえたタバコを苛立った様子でピコピコと上下させる不良神父が1人。

両者の戦闘はやや不良神父の方が優勢に展開していた。


横須賀「クソッ! 厄介な相手だな!」

ステイル「僕の【魔女狩りの王】に突っ込んで『熱い』で済んでもらっちゃあ困るんだよ。いったい何度あると思ってるんだい?」


転がった勢いそのままに立ち上がった横須賀に不良神父が問いかける。

燻った煙は既に消えていた。


201: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:07:23.64 ID:YqPO9gCDO

横須賀「対【発火能力】用のフル装備だ! 不燃繊維に加えて肌には耐火ジェルを塗りこんでいる。眼球はこのグラサンだ。」


事前に削板らから情報を得ていた横須賀は急襲に備えて常にこの装備をしていた。

もともとは火災現場で使われる一式であるが、一部のスキルアウトは対能力者用にこういったものを横流ししてもらっている。

当然裏ルートであり、欠陥品や試作品が出回っている場合も多々あるが。


横須賀「『発条包帯』と違ってこいつはバックドラフトにも耐えられる成功品なのだがな。魔術の炎は普通のそれとは違うのか?」

ステイル「さあね。教える義理もない」


こうしている今も横須賀からステイルの姿は見えない。

【魔女狩りの王】が常に横須賀とステイルの直線上に立ちふさがり、ステイルを庇うように動いている。

ステイルにとって、魔術師以外の敵は横須賀が初めてではない。

そのために知っている。このようなテロリストの武器は重火器。

その弱点は基本的に直線上でなければ当たらないこと。


202: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:09:25.83 ID:YqPO9gCDO

横須賀(デカいローブで隠してはいるが、アイツはヒョロヒョロだ。
    一発入れれば倒せる自信はあるが……そこまで楽な相手ではないな。)


仮にも【内臓潰し】を謳っている横須賀だ。銃よりも徒手空拳の方が得意である。

その気になれば拳銃の調達くらいなんとかなるが。

そして、先ほどから近づこうにも炎の巨人がそれを遮る。

爆風からも熱波からも身を守れる装備をしているから、とタカを括って突っ込んでもなぜか突破できない。

あろうことか質量のある炎ときた。おまけに熱も完全に遮断できていない。

装備がなければとうの昔に身体が蒸発していた。

しかし、その装備のせいでスピードが殺され、回りこむことができない。

魔術師の動きは大して速くはないが、炎の巨人の動きは横須賀の動きを上回る。


削板「どうしたモツ。あんな根性なしに遅れを取るな!」

横須賀「悪いが俺は対能力者戦闘のエキスパート。魔術師は専門外だ。それとアイツ結構な根性しているぞ。」

削板「お前の根性とは比べものにならんだろ! 根性でなんとかしろ!」

横須賀「……言うと思ったぞ、クソッタレ。」



203: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:20:37.37 ID:YqPO9gCDO


神裂「……フー……」

削板「どうした? なんならこのままタッグマッチでも構わんぞ」

ステイル「このっ…言わせておけば…!」


挑発的ともとれる言動にステイルが炎の巨人と共に逆上して前に出る。

ステイルにしてみればこんなところで戦闘を行う必要性など皆無である。

だと言うのに向こうはヤル気満々。おまけに見下してきた。イライラして仕方ががなかった。

あのナメきった連中を燃え散らさなければこのフラストレーションは解消できまい。


ステイル「神裂……?」

神裂「……あなた達は……私たちがインデックスを追い掛ける理由を知っていますか?」


ふいに長身の女魔術師が削板たちに問いかける。

その顔は真剣そのもの。口の端から流れ出た血液は既に拭われたあとだった。


横須賀「……あー、インデックスの……魔導書? とやらだろう?」

原谷「なんでちょっと自信なさげなんですか。ぶっちゃけ僕も半信半疑ですけど」

インデックス「こ、ここまで来てまだ疑うのかな!? いくらなんでもおかしいかも!」

削板「俺は話し合うことなど一切ないと言っただろ。来ないならこっちからいくぞ」

神裂「かまいませんよ。私が一方的に話します。それに私が話したいのはインデックスです」

インデックス「え?」

神裂「『完全記憶能力』……それがすべての原因です」


204: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:22:37.98 ID:YqPO9gCDO

ステイル「おい神裂!? 僕は反対だぞ! なぜその話を……それもこいつらの前でしなければならない!」


タバコをくわえた不良神父は、今度は女魔術師の方に逆上する。

彼の前にそびえ立つ炎の巨人すらその顔? を女魔術師の方に向けた。


神裂「この方たちももはや無関係の人間ではありません。
   それに、戦闘が長引いて万が一どちらかが重傷を負えば儀式に支障をきたします」

ステイル「……」


その言葉に思うところがあるのか、不良神父は押し黙る。


削板「何をグダグダしてんだ!」

横須賀「待て削板。」


語気を荒げる削板。彼も彼でイライラしている。

話し合う気などないのに向こうは向こうでもめているのだから。

そして、それを横須賀がなだめる。


削板「止めるなモツ! こんな根性なしの話など聞く価値もない!」

横須賀「お前は人の話も聞かずに殴りかかるような腐った根性をしてたのか?」

削板「ぐ……」


そう言われてしまったら削板は言い返せない。

根性を引き合いに出された上に立派に筋が通っているのは横須賀の方だ。

明らかにしぼんでいく闘志。そのやり取りを見て不良神父の方も炎の巨人を引っ込めた。


ステイル「いいだろう。ただし手短にしてくれ」


そう言って不良神父は携帯灰皿の中に短くなったタバコを押し付け、新たなタバコに火をつけた。



206: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:24:44.97 ID:YqPO9gCDO

神裂「……まずは私たちの立場を明らかにしましょう。私が所属している組織は……『必要悪の教会』」

インデックス「え?」

原谷「『必要悪の教会』って……確かインデックスの?」

神裂「ええ。私たちは貴女の同僚で……親友だったんですよ、インデックス」

インデックス「ど、どういうこと!?」

神裂「貴女は一年前からの記憶がない。それは当然です。私たちが………私たちが貴女の記憶を消したのですから」

インデックス「!?」

横須賀「……話が見えんな。ちゃんと順序立てて話せ。」

神裂「……私たちは好きでインデックスを追い回している訳ではありません。
   ですが、こうでもしなければ……インデックスは死んでしまうから……」

インデックス「え……?」

削板「なんだと!?」


207: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:28:22.03 ID:YqPO9gCDO

神裂「……『完全記憶能力』……先ほども申したように、それがすべての原因です」

削板「なんなんだ? それは」

神裂「彼女が持つ特異体質です。彼女は今まで見てきたものを何一つ忘れず、すべて覚えています。
   10万3000冊の魔導書を一字一句違わずに完全に記憶しているのもその体質を持っているからです」

原谷「ああ、そうだったの? インデックス」

インデックス「う、うん。でも、覚えてるのは記憶をなくしたあとのことだけだけど」

横須賀「ふむ、それがどうした?」

神裂「………、あなた達にはインデックスがどう見えますか?」

削板「根性あるシスター」

横須賀「ズバズバ言うシスター。」

原谷「大食いシスター」

インデックス「……ちょっと釈然としないんだよ」

神裂「……そんなシスターが私たちの追撃から一年も逃げ切れると思いますか? 『組織』に狙われたら私でも一月ももちませんよ?」

原谷「……普通に考えればムリですね」

削板「根性が違うんだろ、貴様と違ってな」

インデックス「それほどでもないんだよ」フフン

横須賀「なんで若干嬉しそうなんだ。」

神裂「……そんな才能を有していて、かつ、10万3000冊もの魔術書を
   保持している彼女を誰がまともに扱いますか? 彼女が怖いんですよ、教会は」

インデックス「……」

横須賀「……で? 親友だった貴様らはその実態を知っていながら、なんでこんなコトをしてる?」



208: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:31:21.85 ID:YqPO9gCDO

神裂「……彼女は一度見たものを忘れることができない……ラッシュアワーの1人1人の顔、街路樹の葉っぱの数まで。
   そのため、10万3000冊の魔導書に脳の85%を割かれた彼女の脳は一年毎に記憶を消去しなければパンクしてしまうのです」

削板「なに?」

インデックス「……そんな……」

原谷「はあ?」

横須賀「………事実か?」

神裂「……この目で何度も見てきました。忘れられない記憶に圧迫されて苦しむ彼女の姿を」

原谷「いやいや、は?」

ステイル「……これで分かっただろう? インデックスをこっちに渡せ。僕たちが記憶を消さなければ彼女は死んでしまうんだ」

神裂「私たちはインデックスにこれ以上危害を加えるつもりはありません。
   記憶の消去を行うのは3日後。きっかり一年周期で記憶を消さなければいけないのです」

ステイル「はっきり言っておこう。記憶を消去すれば、彼女は君たちのこともキレイさっぱり忘れている」

神裂「今の私たちが敵として映っていたように。あなた達も敵と思われる。彼女を庇ったところでなんの益にもなりませんよ」



209: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:32:20.53 ID:YqPO9gCDO


横須賀「……なるほどな。」

インデックス「……」

横須賀「原谷、削板。今なにを思っている?」

原谷「……そりゃまあ、この人なに言ってんのかな? と」

削板「まったくだ」

ステイル「!?」

神裂「な……!」

インデックス「……やぶみ…ぐんは……」

横須賀「同じくだ。悪かったな削板。お前の言う通り聞く価値もなかった。」


ザ、と二人の戦士が前に出る。

両者とも臨戦体勢をとり、消えていた闘志は再び膨れ上がる。


ステイル「……なるほど、君たちはインデックスを見殺しにしたいんだね?」


ボオッ、と再び炎の巨人が出現し、不良神父の姿が隠れる。


神裂「記憶を消さずにインデックスをこれ以上苦しめようというのですか……!」


ためらいながらも女魔術師も刀に手をかける。

話し合いの場は瞬時に戦場へと変貌した。



210: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:33:57.20 ID:YqPO9gCDO



削板「分かってねぇな」


神裂「!」



一瞬にして削板が自身の間合いに神裂を入れる。



横須賀「そんなこっちゃねぇんだ。」


ステイル「!」



横須賀が【魔女狩りの王】に向かって全力で突き進む。



原谷「逃げた方がいいよアンタら。学園都市で一番怒らせると怖い根性バカを怒らせたんだから」



211: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:35:27.96 ID:YqPO9gCDO

ステイル「…ふん、この単細胞が」


目の前の【魔女狩りの王】がテロリストを迎撃しようと両腕を広げる。

確かに熱は相手に効きにくいようだが、ダメージは与えられている。

相手もなかなか素早いが、敏捷性は【魔女狩りの王】の方が優れている。

【魔女狩りの王】だけでなく中距離魔術も併用すれば確実に勝てる相手だ。

そのためのルーンは配置してはいないが、だからといってまったく使えないというわけでもない。

ルーンしか使えない魔術師がインデックスの回収任務にあたれるはずがない。

然るべき魔術を使用すべく、ステイルは術式を組み立て始める。

だが、視界の端、【魔女狩りの王】の脇から敵の着ていたコートが見えた。


ステイル「そっちか」


その瞬間、ほぼ反射的に【魔女狩りの王】をその方向に動かす。

相手の動きに合わせて対処しても十分間に合う。

とにかく直線上に遮蔽物さえ置いておけば敵は無力だ。



212: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:37:14.07 ID:YqPO9gCDO

だが、


横須賀「ハズレだ。」

ステイル「なっ!?」


【魔女狩りの王】を動かしたそばから影になって見えなくなっていた横須賀がふいに現れた。

先ほど見えたコートを横須賀は着ておらず、タンクトップとコートと同じ材質のズボンのみだ。

視界の端に映ったコートは横須賀が放り投げたもの。

己の身体が蒸発してしまう可能性も厭わず、耐火装備を脱ぎ、横須賀は捨て身で突進していく。

そして、装備を取り払い、身軽になった横須賀は【魔女狩りの王】を抜き去る。

ステイルにしてみれば直線上に相手を置かないことを重視しすぎたことが仇となった。


横須賀「思った通り。あれほどの熱量がありながらコンクリートには焦げ跡のみ。
    熱の指向性も貴様の制御下。これしか離れていなくとも俺にはほとんど熱波はこない。」


3000℃という業火でありながら【魔女狩りの王】が与える周囲への被害が少なすぎる。

それほどの熱量ならとうの昔に辺りはドロドロになっていてもおかしくはないのだ。

もちろん、具体的な熱量の数値を測っていたわけではない。

だが、あれほどの炎の塊がコンクリートの上にあって焦げる程度で済むはずがないのだ。

そして、抜き去ってしまえば熱の指向は横須賀に向けられない。

一歩間違えればその灼熱はステイル自身を焼いてしまうからだ。



213: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:38:21.37 ID:YqPO9gCDO

ステイル「くっ……」

横須賀「まともにやり合えばお前が勝っていただろう。」


新たな術式を組もうとステイルが間合いを取り魔力を練り上げる。

だが、それよりも横須賀の動きの方が速い。

後ろにさがる人間と前に進む人間。どちらが速いかは明白である。


横須賀「今の話で気が乱れている。…後悔と迷いにまみれていては俺には勝てんよ。」

ステイル「!」


十二分に加速がついた状態で筋骨隆々の大男が思い切り拳を引く。


横須賀「ヌン!!!!!!」

ステイル「ぐぁ!?」


ズドン!!! と振りぬかれた拳がステイルの胴に突き刺さり、その身体を宙へ浮かせた。




214: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:39:42.79 ID:YqPO9gCDO


神裂「! ステイル!」

削板「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ根性なしが! インデックスが覚えていようがいまいが関係あるか!
   また仲間になればいい話だろうが! 記憶がねぇならまたダチになりゃいいだろうが! テメェらインデックスをなんだと思ってんだ!」

神裂「……うるっせんだよド素人が!」


ズバン!! と神裂の刀が鞘に入ったまま削板の顔面にたたきこまれた。


神裂「知ったような口を利くな!
   私たちが今までどんな気持ちで彼女の記憶を消してきたと思ってる! あなたなんかに一体なにが分かる!!
   ステイルがどんな気持ちであなた達とあの子を見てきたと思ってるんですか!!! ステイルがどれだけの決意の下に彼女の

215: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:41:10.27 ID:YqPO9gCDO

削板「知るかぁ!!」


パァン!! と神裂の鞘が弾かれる。


神裂「なっ!?」

削板「だったらなんだってんだこの根性なしがぁ!! インデックスに打ち明けてもいねぇくせに何を感傷に浸ってやがる!!」

神裂「っ! 私たちだって頑張った! 頑張ったんですよ! 春を過ごし夏を過ごし秋を過ごし冬を過ごし!
   思い出を作って忘れないように!! たった1つ約束をして日記や写真を胸に抱かせて!!」


ほとんど互いに叫ぶように拳を振るい、刀を振るう。

人間の限界など簡単に越える二人のぶつかり合いはみるみる内に道路を荒れ地に変えてゆく。


神裂「それでもダメだったんですよ!! あの子は申し訳なさそうにごめんなさいって言うんですよ!!
   何度思い出を作っても全部0に戻ってしまう! 私たちにはもう耐えられません!! あの子の笑顔をこれ以上見ることなんて

216: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:42:29.83 ID:YqPO9gCDO

削板「ふざけるなああああああああああああああ!!!!!」


バキィ!! と神裂の顔面に削板の拳がたたきこまれる。


神裂「ガっ…」

削板「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞテメェ!! そんなエゴでインデックスを追い掛け回したのか!!」


後ろにのけぞった神裂に削板がさらに襲い掛かる。


神裂「くっ、なんですか! じゃあ他にどうしろっていうんですか!」


そして神裂もそれに応戦する。だが、先ほどよりも明らかに動きが鈍っていた。


削板「知るか! だがな! テメェら自分がインデックスに何をしたか分かってんのか!?」

神裂「何を…!」

削板「インデックスが俺のメシ食った時なんて言ったかわかるか!? こんなに美味しいのは初めてだって言ったんだぞ!?」

神裂「っ」


神裂の動きがさらに鈍る。

自分から攻撃する余裕はなく、削板の攻撃を躱すことしかできなくなってくる。


削板「インデックスが初めて俺のメシを食い終わった時なんて言ったかわかるか!?
   お腹いっぱいなんて久しぶりだって言ったんだぞ!?」

神裂「……」


神裂の足が止まる。

もはや削板の攻撃を防御し、受け流すのが精一杯である。


217: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:43:56.32 ID:YqPO9gCDO

削板「インデックスが俺に別れを言った時なんて言ったかわかるか!?
   一緒に 地 獄 の 底 ま で ついてきてくれるかって言ったんだぞ!!!」

神裂「-っ!!」


ズゴム!! と削板のボディーブローがキレイに決った。

そこから先は見るも無惨な一方的な展開だった。


削板「テメェらはインデックスから記憶を奪い取った挙げ句に地獄の底まで見せたんだぞ!!!
   誰にも頼らず一年も地獄の底まで追いかけ回されたインデックスの気持ちがテメェらに分かるのか!!!」


拳が、蹴りが、肘が、膝が、神裂に嵐のように襲い掛かる。

神裂はもはや動けなかった。否、動かなかった。


削板「そこまでしてやっと報われたインデックスから記憶を奪い取り! 再び地獄の底へ追いやるのか!?
   自分が傷つきたくないからすべての痛みをインデックスに押し付けんのか!? それで自分は悲劇の主人公気取りか!?
   ふざけんのも大概にしろ!! だったら俺が今ここでテメェを地獄の底までたたき落としてやる!! 覚悟しろよこの大馬鹿野郎!!!!」



218: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:45:17.06 ID:YqPO9gCDO

ドン、と今までに比べて小さな音がした。


削板「な……?」


目の前に白い何かが立ちふさがっている。その後ろで長身の女魔術師が力なく倒れこんだ。

振り抜いたはずの拳は途中で止まっていた。遮られていた。

白いシスターの頭によって。


インデックス「い…ったあ~。……『歩く教会』の上からでもこれだけ衝撃がくるような力を人に向けて振るっちゃダメなんだよ」

削板「イン、デックス……?」


怯えと恐怖に顔を染めながらも、目だけはしっかり削板の目を捉えている。

白いシスターは神裂を庇うように両手を広げて削板の前に立ちふさがった。


インデックス「もういいよ、ぐんは。これ以上やったらこの人死んじゃうんだよ」

削板「どけインデックス! こいつがお前を地獄の底まで追いやったんだぞ!?」

インデックス「その私がもういいって言ってるんだよ。私はぐんはに過ちなんか犯してほしくないかも」

削板「だが……!」

横須賀「そこまでだ。」


ガシリ、と横須賀が削板の腕を掴んだ。


削板「モツ……」

横須賀「その女にもう戦意はない。無抵抗の女を殴るほどお前の根性は曲がってないはずだ。」



219: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:47:14.62 ID:YqPO9gCDO


神裂「…………ぃ……」


ふと、インデックスの足元から声がした。


インデックス「……?」



神裂「………ごめ…なさ…イン………ス、……ヒグッ………ご……な…ぃ…、………クス……ぁぁ……め……さ…ぃ」



蚊の鳴くような声で、かすれてほとんど聞こえない声で、その声の主はひたすら謝っていた。


インデックス「……」


腫れあがり、見るも無惨な顔の上にいくつもの涙の筋を流しながらうわごとのように謝り続ける魔術師。

自分を追いかけ回した敵の本心を、銀髪のシスターは困惑した表情で見下ろしていた。


横須賀「……もはや意識も定かではないだろう。これ以上やる必要はない。」

削板「……クソッ!」



220: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/18(火) 21:48:43.06 ID:YqPO9gCDO

そして、戦闘の終わりを告げるようにサイレンの音が遠くから聞こえてきた。


原谷「……警備員ですかね。そっちの男が気を失ったから魔術の効果も切れたのかな?」

インデックス「……うん。漂ってた魔力が全部消えてるんだよ」

横須賀「マズイな。逃げるぞ。」

削板「なんでだ!? 悪いことなどしとらんだろ!」

原谷「パッと見だと二人がリンチしたようにしか見えませんよ。
   加えて器物破損と建築物破壊容疑です。コンクリもビルもぐっちゃぐちゃじゃないですか」

横須賀「このまま拘留されてしまえばインデックスの身柄が危うい。
    下手すればイギリスに強制送還だ。逃げるしかないだろう。」

削板「……あああああ、ちくしょう!! 行くぞインデックス!」

インデックス「うん……」


そして、四人はサイレンの音とは反対方向に走りだし、その場を後にした。



230: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:34:06.40 ID:mDMDcm6DO

-翌朝、第七学区某ホテル



あの後、他の魔術師による更なる追撃を警戒した一向はホテルに宿泊した。

なんとかチェックイン時間に間に合ったので、横須賀を保護者だと誤魔化して泊まりこんだ。

代金は全部削板持ちで、宿泊セットはホテルで一式買った。

そして、全員で売店で買ってきた朝食を黙々と食べ、今に至る。


横須賀「さて……、とりあえず全員頭は起きたな?」


全員が集まり、部屋の真ん中に置かれた机を囲むように座っていた。


削板「おう」

原谷「ええ」

インデックス「バッチリなんだよ」

横須賀「なら……とにかく話し合うか。インデックスの頭について。」

インデックス「うん……」

削板「あの根性なしどもの話だとあと2日しか猶予はない。それまでになんとかせんとな……」



231: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:36:10.72 ID:mDMDcm6DO

インデックス「……」

原谷「それよりインデックス、ホントに一年前からの記憶がないの?」

インデックス「……うん……あの人たちのことも何も覚えてないんだよ……」

原谷「……うーん……」


腕を組み、納得がいかないとばかりに原谷が首を傾げる。


横須賀「あの魔術師どもが完全に消したというのは間違いなさそうだな。」

原谷「……それについてはホントに腹立ちましたよ。言うにこと欠いてあんなメチャクチャなコト言って!」

削板「まったくだ! 今でもイライラするぞ!」

原谷「なにが一年で脳ミソパンクするだよ! そんなコトあるわけないってのに!」


バン! と原谷が勢いよく机を叩いた。


横須賀「……ん?」

インデックス「え?」

削板「なに?」

原谷「……え?」


そして、全員が全員キョトン顔になった。




232: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:38:02.76 ID:mDMDcm6DO

削板「今……なんて言った?」

原谷「イヤ、だからインデックスの記憶を消す必要なんかまるでないって……」

インデックス「ど、どういうこと!?」

原谷「どうって……普通に考えてそんなはずないじゃんか。完全記憶能力者なんて過去に何人もいたんだし」

横須賀「……?」

削板「ぬ……?」

原谷「え……? 二人とも昨日何にキレてたんです?」

横須賀「何って……アイツらがインデックスの敵に回って追いかけ回すからだな……。」

削板「なんで側にいてやらないんだってコトで……」

原谷「……あー、なるほど」

インデックス「そ、それよりやぶみ! さっきの話を聞かせて!」

原谷「うん。えっと、まず脳ミソがパンクするなんてコトはあり得ないんだ。完全記憶能力を持っててもね」

横須賀「……そうなのか?」

原谷「ええ。そもそも考えてみてくださいよ。一年で脳ミソが15%も使われるなら完全記憶能力者の寿命は6年半から7年くらい。
   ですが、完全記憶能力者の成人も普通にいますよ。その能力でカジノで荒稼ぎして出禁になったって話も聞きますし」

削板「……言われてみれば……」

原谷「それにそんなヤバい天性的な病ならもっと知名度もあるでしょう?」


233: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:44:06.42 ID:mDMDcm6DO

インデックス「で、でも、10万3000冊も記憶してる人なんてそうそういないでしょ!?」

原谷「あのね、10万3000冊覚えようが覚えまいがキミは見たモノを全部記憶してるんだろう?
   だったら、起きている時間=記憶の量になるわけで、本の冊数は関係ないってことになるんじゃない?」

インデックス「あ……」

原谷「仮にそうならその日見た夢の内容だとか寝る時間だとかで若干前後するだろうからきっかり1年で15%なんてあり得ない。
   そもそも脳の構造上、知識と記憶は別のところに分類されるんだ。その記憶の分野もだいたい140年分くらいは詰め込める」

横須賀「……ということは?」


少しの間、原谷は押し黙る。

頭の中に散在している知識を整理し、状況と組み合わせ、自分の考えをまとめていく。


原谷「……僕は最初テキトーなこと言ってインデックスを拉致ろうとしてると思ったんですけど……
   あのリアクションだと本当のことを言ってるとしか思えません。
   でも科学じゃそんなのどう考えてもあり得ないから……やっぱり魔術? なんじゃないですか?」

削板「……アイツらは騙されていたってコトか?」

原谷「恐らくは。あの女のリアクションからして消したことも、本心ではしたくなかったってのも事実でしょう」

インデックス「……」

原谷「1年で85%の時点でおかしいですけどね。あの二人が絶望に追いやられてそれに気付かないのか……
   ……もしくはそのことに気付かないように、あの二人にもインデックスとは別に魔術がかけられてんのか」

横須賀「……魔術って言えばなんでもまかり通る気がしてきたな。」

原谷「なんでもアリですもんね。つーか僕はてっきり2人がそれに気付いててキレてんのかと……」

横須賀「……」

削板「……」

原谷「……気付けよ根性バカども……」


はぁー、と原谷は呆れたように深いため息を吐いた。


234: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:45:00.96 ID:mDMDcm6DO

インデックス「えっと、と、とにかく私は記憶をなくさなくてもいいの!?」

原谷「うん。普通に考えればね」

インデックス「……ふぇ……」


ジワッ、とインデックスの眼に涙が浮かんだ。


原谷「え?」

インデックス「うぅ……良かったんだよ……みんなのコト忘れたくなかったんだよ……」

削板「インデックス……」

インデックス「ヒック……昨日からずっと……不安で……不安でぇ……うわあああん!」


235: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:46:59.63 ID:mDMDcm6DO

横須賀「……インデックス、正直に答えろ」

インデックス「?」グスッ

横須賀「頭痛は……するのか?」

インデックス「………うん」

削板「!」

インデックス「で、でもたまになんだよ! 心配しなくても、もう記憶を消す必要なんてないって分かったから……」

横須賀「……イヤ、このままだとまた消すことになる。」

インデックス「え!?」

原谷「……」

横須賀「科学的に見て記憶を消す必要がないのは分かったが……何かが脳を蝕んでいるコト。
    そしてそれを解消するには記憶を消すしかないというコト。これらは事実だ。これを解決しないことには……」



236: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:49:00.89 ID:mDMDcm6DO

インデックス「……」

削板「……たしかにな。十中八九、魔術だとは思うが……」

原谷「それならちょうどここに10万3000冊も参考書があるじゃないですか。インデックス、そんな感じの魔導書ってないの?」

インデックス「…………ないんだよ……そんな魔導書、読んだことないかも」

横須賀「……まあ、当然だろう。わざわざそんなものを記憶させるメリットがない。」

原谷「……でも、10万3000冊ですよ? こう、記憶関連の魔術の知識を足せばそれっぽいのも出てくるんじゃ……」

インデックス「うん……やってみる…………っ…………ゥ……うあ……!」

削板「! やめろインデックス! 無茶するな!」

インデックス「………ハァ……ハァ………ダメ……かも。考えれば考えるほど……頭が……」

横須賀「……要するに『首輪』ということか。インデックスが逃げ出さないように徹底している。」

原谷「……インデックスが記憶している10万3000冊が流出しないように……
   あの魔術師たちにだけ延命法を教えて、依存せざるをえない状況を生み出していると……そういうことですか……!」



237: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:51:06.40 ID:mDMDcm6DO

削板「……おい、インデックス」

インデックス「なに……?」

削板「イギリス清教ってのはイギリスに行けば分かるのか?」

インデックス「え? ……うん、たぶん……って、ぐんはどこ行くの!?」

削板「ちょっとイギリスに殴り込みに行ってくる」

横須賀「おい待て削板!」

削板「放せ! もう頭きた! なんなんだ教会っつーのは!! どいつもこいつもインデックスをなんだと思ってんだ!!
   変なもん覚えさせて化け物扱いして追いかけ回して挙げ句の果てには記憶を消さないと生きられないだと!!
   一体どんな根性してやがんだ!! 親玉一発ぶん殴って教会ごとブッ壊す!! 地獄の底まで見せてやらんと気がすまん!!」

原谷「ちょっと落ちついてくださいよ! 親玉がだれかも分からないでしょうが!」

削板「知るか! 教会ブッ壊せば親玉も出てくんだろ!」

横須賀「尻尾巻いて逃げるに決まっているだろうが!」

削板「じゃあどうすんだ!? このままインデックスを見殺しにすんのか!?
   今回だけじゃねぇ! これからもずっとインデックスにこんな人生を送らせるのか!?」

インデックス「ぐんは……」

横須賀「……分かっている。俺とて気持ちは同じだ。」

原谷「納得なんてできるはずないでしょう。目の前で女の子が涙流して生きたいって言ってるんだから」

インデックス「よこすか……やぶみ……」

削板「だったらもうやることは決まってるだろうが! アイツらの親玉ブチのめして全部吐かせるぞ!」



238: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:54:05.18 ID:mDMDcm6DO

横須賀「……そうだな。だが、時間がない。効率的に動くべきだ。」

削板「なに……?」

横須賀「俺たちがイギリスにカチ込んだところで右往左往するだけだ。勝手が分かる者が行くべきだろう。」

削板「だから教会ブッ壊せばそれで……!」

横須賀「上手くいくわけないだろう。ローマ教皇がバリバリの武闘派だったらビビるわ。」

原谷「ローマはイタリアですよ」

横須賀「ぬ? じゃあ……イギリス教皇か?」

インデックス「【最大主教】って言うんだよ」

削板「どうでもいい! とにかくお前はなにが言いたいんだモツ!!」

横須賀「その【最大主教】とやらに会える確率の高い者が行くべきだと言っている。」

原谷「……誰ですか? そんな人います?」

横須賀「あぁ。不本意だが……あいつらしかいないだろう。」



239: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:56:19.45 ID:mDMDcm6DO

-1時間後、第七学区とあるビル屋上



ステイル「……今のところ彼女に異常はない。取り巻きの方はイラついてるけど……」


とあるビルの屋上でタバコをくわえながら双眼鏡で遠くを見る不良神父が一人。


神裂「………そうですか……」


そして、その不良神父の隣で膝を抱えて神父とは反対の方向を向いて小さく座っている長身の女性が一人。


ステイル「……やれやれ、昨日のダメージがそんなに響いているのかい?」

神裂「……そう……ですね……」


昨晩は予想外の戦闘が起きた。そして予想外の敗北を喫した。

二人とも気を失っていたが、この街の治安機関に見つかる前に辛くも逃走に成功。

人目につかないところで互いに回復魔術を掛け合い、とりあえず普通の活動に支障が出ない程度には回復した。

回復魔術とはいえ、すべてを完全に回復することはできない。

それ以前に疲弊していてそれほどの魔力を練る体力もなかった。

残りは応急処置として湿布などで終わらせた。神裂の顔にも白い湿布が貼ってある。



240: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:58:14.47 ID:mDMDcm6DO

それでもその後すぐにインデックスの居場所を探知したあたり、二人の使命感と執念の強さが見受けられる。

昨晩の疲れと戦闘による負傷のせいで、神裂の方は居場所を発見してから身体を小さく丸めたままほとんど動いていなかったが。


ステイル「……【聖人】であるキミをそこまで打ちのめすとは……これは骨が折れるね」


フーッ、と紫煙を吐きながらステイルがぶっきらぼうにつぶやく。

【聖人】である神裂火織はステイルにとって、『イギリス清教』にとって、魔術界にとっても切り札である。

それが敗れたとなると単なる奪還任務の難易度が一国の軍隊を相手にするレベルの難易度に相当するということになる。

これ以上長引くようなら援軍の要請も考えた方がいい。



241: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 22:59:50.08 ID:mDMDcm6DO


神裂「……ステイル」


そんなことを考えていると、ふいに神裂が話しかけてきた。


ステイル「うん?」

神裂「私たちは……何をしているのでしょうか……」


相変わらず身体を小さく丸めたまま、ステイルの方を見ずに地面の一点を虚ろに見つめながら神裂は問いかける。


ステイル「……」

神裂「彼女を追いかけ回して……彼女に辛い思いをさせて……私たちのしていることは正しいのでしょうか……」


昨日の戦闘において神裂に最もダメージを与えていたのは、削板の拳でも蹴りでもなく言葉だった。

もっと正確に言えば削板の言葉によって叩きつけられた現実である。

今まで彼女を救うためだと自分に言い聞かせて彼女を追いかけ回してきた。

だが、その行動理念は単なる都合のいい幻想だった。

実際には彼女にこの世を地獄の底だと感じさせるほど追い詰めていた。

彼女を救うどころか生き地獄を味あわせていた。

もはや神裂には自分がどう行動すべきか分からなくなっていた。



242: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:01:32.76 ID:mDMDcm6DO

その神裂の問いかけに、ステイルはほんの一瞬、口元にタバコをもっていく時間だけ考える。

煙を肺にため込みながら考えをまとめ、そして吐き出してから問いかけに答える。


ステイル「……正しいはずないだろう。そのくらい理解している」

神裂「!」


思いがけない答えに、今までほとんど動かなかった神裂がステイルを見上げる。

その表情は驚きに満ち、目は見開かれていた。


ステイル「でもね、こうでもしなきゃ彼女は生きられないんだ。
     そして……記憶を消す時に、消した後に、彼女のあの顔をまた見るくらいなら僕は喜んで恨まれる」

神裂「……」

ステイル「……分かっているさ、エゴだってことくらい。それでも僕は彼女の敵になると決めたんだ。
   どうせ彼女に辛い思いをさせるなら……辛い思い出も楽しい思い出も全部消したこんな僕に対して
   心から申し訳ないと思わせるくらいなら、僕は心から恨まれて生きて死ぬ。……そう、決めたんだ」


これがステイルの信念だった。

自分の行動は間違っている。それは分かっている。

だが、記憶なくした彼女が記憶を消した自分に心から謝罪する。これはもっと間違っている。

誰がなんと言おうと間違っている。

何度記憶を消しても何度他の方法を考えても少女は申し訳なさそうに謝るだけだった。

誰よりもインデックスという少女を愛したステイルにとってそれは許せないことだった。

だからこそ彼は彼女に恨まれて、彼女のために生きて死ぬと決めたのだ。



243: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:02:51.79 ID:mDMDcm6DO

ステイル(ま、未だにどこかで踏ん切りがついていないのだろうけど)


だからこそ、捨て身で突っ込んできたあの男に無様に敗北したのだろう。

戦闘中の迷いは動きを鈍らせる。

自分たちの経緯を話した時、押し込めていた感情が揺れ動き、迷いに繋がり、敗北に繋がった。

だが、もう迷うわけにはいかない。タイムリミットが迫ってきている。

今度こそ彼女を奪還し、彼女を記憶を消し、生き永らえさせる。

そのためならなんだって消し炭にしてみせる。


神裂「……やっぱり……あなたは根性ありますね……」

ステイル「やめてくれ。虫酸が走る」



244: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:11:43.53 ID:mDMDcm6DO

ガチャリ、と屋上の扉が開いた。


横須賀「よう。」

原谷「……どうも」


そこから出てきたのは昨日のテロリスト面をした大男。

それにインデックスとともにいたメガネの少年。


ステイル「お前は……!」

神裂「……」

横須賀「インデックスだけに気を払いすぎだ。とはいえ、俺たち以外にビルの屋上に眼を向ける者などいないだろうがな。」


二人の姿を見た瞬間、ステイルは臨戦体勢をとる。

対して神裂の方は未だに膝を抱えて座りこんでいた。


245: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:13:01.16 ID:mDMDcm6DO

横須賀「待て待て。やり合うつもりはない。ちょっと話したいと思ってな。」

ステイル「昨日ボクたちは散々そう言った。聞く耳を持たずに一方的に殴りかかってきたのはどっちだい?」

原谷「……こっちですね、完全に」

横須賀「なら、昨晩のそっちの女と同じように俺が一方的に話そう。」

ステイル「勝手にしたまえ。僕はその内にキミの細胞を余すことなく灰にしてみせる」


ボゥ、とステイルの手に炎が生まれる。

迷いを取り払ったステイルに隙はない。

対して横須賀に至ってはなんの装備もない。ただのジャージである。

このままなら一瞬で勝負は決まる。




246: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:14:12.79 ID:mDMDcm6DO


横須賀「インデックスの記憶は消す必要がない。」


ピタリ、とステイルが動きを止めた。

次いで神裂が顔を上げる。


横須賀「……原谷、説明してやってくれ。」

原谷「ああ、そこは僕なんですね」

横須賀「聞いたばかりの知識をドヤ顔で説明するような根性はないのでな。」

ステイル「……いいから早く説明してくれないかい?」

神裂「今言ったことは……本当なのですか?」

原谷「本当ですよ。でもその前にお仲間全員呼んできてください」

ステイル「今インデックスを追っているのは僕たちだけだ。だから早くしてくれ」

原谷「あ、そうなんですか?」

横須賀「……ホテル代無駄だったな。」

原谷「じゃあ説明しましょうか。まずですね……」




247: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:16:15.19 ID:mDMDcm6DO



原谷「……と、まあこんなところです」

ステイル「……」

神裂「……」

原谷「つまり、科学的な見地から見ればあり得ないことがインデックスに起きてる。
   まさか魔術の世界で生きている人間には科学の法則が通じないなんて理屈はないでしょう?」

神裂「なら………私たちは………彼女を………無意味に………」

原谷「無意味……かは分かりませんけど。事実、インデックスに頭痛の兆候が出てきてる。
   たぶん、記憶を消さなかったらインデックスが死んでしまうのは事実なんでしょう」

ステイル「……どういうことだい? キミは今、インデックスの記憶を消す必要はないと言ったばかりだ」

原谷「科学的な見地から見れば、と言ったばかりのはずです」

神裂「……まさか」

ステイル「……インデックスに魔術がかけられている。そう言いたいのかい?」

原谷「恐らくは。それにアンタたち自身のことも考えてみてください。
   1年で15%なんて違和感に何年も気付かないなんておかしいでしょう? アンタたちがインデックスを救おうとしたってのは…
   …まあ信じますよ。そんなアンタたちが、ほんのちょっと頭を捻れば分かるようなことを何年間も見落とすなんてありえますか?」



248: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:18:43.12 ID:mDMDcm6DO

神裂「そんな……私たちにも魔術がかけられていると?」

原谷「たぶん、はい。じゃなかったらただのバカだ。
   だから今の話丸々メモっといてくださいよ。忘れられたらたまったもんじゃない」

神裂「忘れるなんて……」

横須賀「そんな魔術かもしれない、ということだ。」

神裂「……ス、ステイル、紙とペン!」

ステイル「あ、ああ。……っだが、僕と神裂にそんな真似ができる魔術師など……ましてインデックスの脳に魔術なんて……」

原谷「いるはずですよ。そしてそいつが黒幕、もしくはその一端を担ってる」



249: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:19:25.65 ID:mDMDcm6DO

神裂「………まさか、【最大主教】?」

ステイル「! そういうことかっ! あの女狐!!」

横須賀「……お前らのトップか。ホントに人を救済する気あんのか、お前らの宗教は。」

原谷「宗教なんてそんなモンですよ。世界史だって日本史だって現代だって宗教絡みの紛争戦争は日常茶飯事です」

横須賀「本末転倒にもほどがあるだろう。ともかく、ホレ。」

ステイル「……これは?」

横須賀「【超音速旅客機】のイギリス行きチケットだ。そいつなら片道2時間あればイギリスに行ける。帰りは自分たちで調達しろよ。」

神裂「……今からイギリスに行ってインデックスにかけられている術式を【最大主教】に吐かせてこい、と?」

横須賀「当然だ。よく分からんが気付かぬほど高度なものなのだろう?
    だが、このタイミングで気付けたのが不幸中の幸いだ。まだ可能性は0ではない。」

ステイル「……間に合うと思うかい? あの女狐相手に2日で全部吐かせることがどれだけ難しいか」

原谷「言うまでもないでしょう」

横須賀「根性でなんとかしろ。」

ステイル「……恩に着る! 行こう! 神裂!!」

神裂「ええ!!」



250: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:20:34.30 ID:mDMDcm6DO


横須賀「……行ったか。」

原谷「……上手くいくと思います?」

横須賀「……このタイミングにあのナリで戻るんだ。確実に何かあったと思うだろう。
    向こうのトップが慌てて話を聞きに出てくる可能性は高いが……果たして上手くいくかどうか……。」

原谷「……僕はそれ以前の問題だと思いますけど」

横須賀「? と言うと?」

原谷「冷静になったあいつらがわざと時間をおいてこっちに戻ってインデックスの記憶を消し、再びイギリスに行くパターンです」

横須賀「……?」

原谷「だって今の段階で記憶消去の阻止に成功したら、インデックスは永遠にあいつらに追いかけ回されたことを覚えてしまいます。
   対して、ここで一度記憶を消してしまえばあとでなんとでも言える。
   それに本当のことを言っても聞くと体験するじゃまるで違う。インデックスの二人に対する印象も変わってくる。
   だから安全策という名目でインデックスの記憶を消去し、その後焦る必要もなく一年かけて術式の解除法を探ればいい」

横須賀「……」

原谷「……考えたくないですけど……リミットがどんどん迫ってくればこの理論を肯定してしまう気がするんです」

横須賀「……たしかにな。だが、なにも俺たちも指をくわえて待っている必要もない。」

原谷「……? 何か策があるんですか?」

横須賀「……策とは呼べんが……悪あがき程度ならできる。」



251: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 23:22:01.07 ID:mDMDcm6DO


<バッハーノセンリツヲ ヨルニキイタセイデス♪


横須賀「……? お前のケータイか。」

原谷「ああ、はい。……削板さんからです。もしもし?」

削板『原谷か!? 今すぐモツ連れて戻ってこい!! インデックスが!!』

原谷「!」

横須賀「!」



263: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/20(木) 23:34:54.14 ID:3lA0f+2DO

-第七学区、某ホテル



原谷「インデックス!」

横須賀「無事か!?」

インデックス「…ハァ…ハァ…」

削板「……さっき急に頭痛がしたらしくてな……どうすればいい? どうすればいいんだ!」

横須賀「どうするったって…!」

インデックス「ハァ………ハァ……うぅ……」

原谷「……インデックス」

インデックス「……やぶみ……」

原谷「正直に答えて。さっきと……今、何考えてた?」


264: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/20(木) 23:36:04.37 ID:3lA0f+2DO

横須賀「?」

インデックス「……それは……」

削板「む?」

原谷「インデックス」

インデックス「…………10万3000冊の魔道書の知識を用いた、脳に作用する術式の理論上の構築……」

横須賀「!」

削板「な……じゃあ頭痛の原因は……」

原谷「おかしいと思ったんですよ。いくらなんでも早すぎる。きっかり一年で消さなきゃいけないなら
   タイミングは絞られるはずなんだ。必要以上に早く衰弱させれば外部に拉致られる可能性が高まる」

インデックス「……」

原谷「なんでこんなになるまで考えこんだの? こうなることは分かってたのに」

インデックス「………だって………だって……忘れたくないんだもん……」

横須賀「……」

インデックス「…やぶみの、ことも……ぅぅ……よこすかのこと、も……ヒグッ……ぐんはの、こと、も……グズッ……忘れたく、ない……」

原谷「……」

インデックス「あの人たちだって…悪い人たちじゃないって、ようやく分かったのに…
     ……本当は……みんな友達なのに………ぅぁぁ………ヤダよ……忘れたくないんだよ……」




266: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/20(木) 23:37:10.65 ID:3lA0f+2DO

削板「……ちくしょう!! なんとかなんないのか!! 俺は、俺たちはなんにもできんのか!!
   あの根性なしどもが帰ってくんのを待つだけなどできん!! なにか……なにかないのか!!」

横須賀「……あるにはあるが……」

削板「! 本当か!?」

インデックス「よこすか……」

原谷「そういえばさっきも言ってましたね。一体なんなんです?」

横須賀「……魔術でダメなら……科学しかないだろう。それだけの話だ。」



267: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/20(木) 23:46:32.65 ID:3lA0f+2DO

-第七学区、とある病院



横須賀の提案により、一向はホテルをチェックアウトして病院に向かった。

この病院は横須賀の行き付けの病院であり、学園都市で最も優秀な医師【冥土返し】のいる病院である。

この病院を選んだ理由は少々後ろ暗い理由を持っていても拒まずに治療を施してもらえるからである。

もちろん、横須賀の行き付けであることと【冥土返し】の優秀な腕を頼ってのことでもあるが。

その【冥土返し】に魔術のことは伏せ、『頭痛』の原因を探ってもらうことにした。


横須賀「スマンな先生。ムリを言って。」

冥土返し「キミには借りがある。散り散りになっていた
     昏睡状態の子どもたちを集めるのにかなり尽力してもらった。気にすることなどないね?」

原谷「……なるほど、科学で症状を診るならこれほどの適任はいませんね」

削板「先生! インデックスを治せるのか!?」

冥土返し「診てみないことにはなんとも言えないね?」

インデックス「……」

横須賀「安心しろ。俺が何度ボコられてもお前に挑めるのは先生のおかげでもある。」

原谷「そりゃ名医だ」

冥土返し「横須賀くんの担当になれば誰でも名医になれると思うけどね?」


268: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/20(木) 23:49:44.15 ID:3lA0f+2DO

原谷「……ん? でも、そしたら先生は……外科医?」

冥土返し「脳外科も担当だし内科の心得もある。僕は患者を救うためならどんな知識でも吸収するね?」

横須賀「……俺が思っている以上に名医だったか。」

冥土返し「光栄だね?」

削板「……そういえばインデックス、医者にかかったことはあるか?」

インデックス「……記憶にある限りではないかも」

冥土返し「……分かった。じゃあ、とりあえず診てみようか」

横須賀「ああ、頼む。」

冥土返し「うん」

原谷「……」

削板「……」

インデックス「……」

横須賀「……」

冥土返し「……?」

削板「……どうした? 先生。早くインデックスを診てやってくれ!」

冥土返し「……あー、キミたちがいるとやりづらいんだけどね?」

削板「?」

インデックス「私はみんなにいてほしいかも……」

冥土返し「キミがいいならいいけど……心音聞いたりするからね?」

原谷「あ、そっか」

横須賀「…フ、噛み付かれてはたまらんな。インデックス、俺たちは部屋の前で待ってるから先生の言うことちゃんときけよ」

インデックス「? 分かったんだよ」

削板「む? 俺は一緒にいちゃいかんのか?」

原谷「そりゃそうでしょ」

削板「むう……先生、インデックスをお願いします」

冥土返し「分かった。責任持って診させてもらうね?」



269: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/20(木) 23:51:10.45 ID:3lA0f+2DO

<バタン……


冥土返し「さて……頭痛がひどいんだったね?」

インデックス「うん」

冥土返し「どんな風に痛いんだい?」

インデックス「こう……考えこむと頭にモヤがかかって……そのあとズキズキするんだよ」

冥土返し「なるほど……まずは喉を見せてもらっていいかい?」

インデックス「? こう?」クイッ

冥土返し「ううん。外側じゃなくて内側の方だ」

インデックス「?」

冥土返し「……えーと、大きく口を開けて?」

インデックス「ふぁい」アーン

冥土返し「ありがとう。ちょっと失礼」

インデックス「ふぁ」

冥土返し「どれどれ、扁桃腺は……」

インデックス「……?」

冥土返し「」

インデックス「………?」

冥土返し「」

インデックス「…………?」

冥土返し「……あ、ああ、もういいよ」

インデックス「ん。今ので何か分かったの?」

冥土返し「……十中八九分かったね?」

インデックス「! 本当!?」

冥土返し「ああ。でも、念のため精密検査だね?」



270: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/20(木) 23:53:23.84 ID:3lA0f+2DO

-数時間後



削板「先生! 何か分かったのか!?」

冥土返し「ああ、大体ね」

原谷「本当ですか?」

冥土返し「……魔術、だね? それもとびきり高度な」

横須賀「!」

原谷「!」

削板「!」

インデックス「あなた……魔術を知ってるの?」

冥土返し「僕は医者だね? 患者を救うためならどんな知識も吸収する」

横須賀「はは……さすがは先生。」

冥土返し「……その口振りだと君たちは魔術がかけられているってことは知ってたみたいだね?
     まったく人が悪い。それならそうと先に教えてほしかったよ」

原谷「すいません。いきなり魔術がどうこう言っても受け入れてもらえないと思ったんで……」

冥土返し「それでも、医者としてはどんな些細なことでも教えてもらいたいね。突拍子もないことが原因となる病はいくらでもある」

削板「……スマン、先生。なら、俺たちの知ってることを全部話そう」



271: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 00:01:06.05 ID:tMvs6FNDO



冥土返し「……ふーむ……」

削板「……治せそうか? 先生」

冥土返し「……僕は医者だ。できない、とは言えないね?」

インデックス「本当に……?」

冥土返し「ああ。…まずは治療内容の説明をしようか」


そう言って【冥土返し】はいくつかのレントゲン写真を机に置いてあったディスプレイに映した。

それは主にインデックスの喉の映像。

しかし、そこには常人にはないものが映されていた。


272: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 00:02:04.16 ID:tMvs6FNDO

冥土返し「一応精密検査してみたけど、ルーンが刻まれてるのはこの喉の部分だけだ。だから…この部分を切除してしまえばいい」

横須賀「え?」

インデックス「わ、私の喉にルーンが!?」

原谷「その……ルーンってなんです?」

冥土返し「うーん、設置型魔術を発動させるためのマーク、で合ってる?」

インデックス「うん、機能に関してだけ簡単に言えばそんな感じかも」

削板「そういえばアイツらもルーンがどうこう言ってたな……」

冥土返し「で、そいつを切除してしまえばいいと思うんだけど……」

横須賀「……けど? なんだ?」

冥土返し「話を聞くとどうにも厄介なものらしいね? 正当な解除法以外で無理矢理取ろうとした場合、何が起こるか分からない」

原谷「なるほど……」

インデックス「……」



273: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 00:04:18.37 ID:tMvs6FNDO

削板「でも先生! このままじゃインデックスが!」

冥土返し「分かってる……期限は二日後の深夜。そうだね?」

横須賀「ああ。」

冥土返し「……分かった。なら、二日後の日没後に執刀する」

削板「今じゃないのか?」

冥土返し「僕にも少し時間がほしい。僕の理論に対する裏付けと
     万が一に備えて被害が出ない場所の確保。そして、そこへの機材の搬入……やることがたくさんあるね?」

原谷「被害が出ない場所の確保って……そんなヤバい事態になる可能性があるんですか?」

冥土返し「……あくまでも万が一、だけどね?
     こんな非人道的なことをしてまで保持しているんだ。その守りを崩そうとすればどうなるか分からない」

横須賀「……呆れたな。そんなモン生身の人間にブチ込む時点でイカれてやがる。神の教えも何もあったもんじゃないな。」

インデックス「ぅ……」

削板「おい」

横須賀「あ、イヤ……」

インデックス「……分かってるんだよ」



274: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 00:05:52.81 ID:tMvs6FNDO

冥土返し「……それじゃあ、君たちにも動いてもらうよ? できれば明日中に場所を確保してもらいたい。
     条件としては……そうだね、なるべく広くて人がほとんどいないところ。最悪屋外でもかまわない」

削板「むう……なかなか難しいな」

横須賀「見つからなければ俺たちのシマを使えばいい。」

原谷「僕も学校のグラウンドか体育館を使えるか聞いてみます。事態が事態ですし」

削板「む、それなら俺の学校も聞いた方がいいな!」

横須賀「部活とかあるんじゃないのか?」

原谷「そっか、搬入の時間とか考えると何時間もかかかりますよね」

削板「うーむ、その辺は聞いてみんと分からないな……」

インデックス「……」

冥土返し「いいお友達だね? 君のためにこんなに真剣になってる」

インデックス「うん。本当に感謝しかないかも。それに、あなたにも」

冥土返し「僕はこれが仕事だからね。……さて、今日のところは解散してもらっていいかな?
     この後も回診が控えてる。できることなら明日の夕方までに連絡してもらえると助かるね?」

原谷「あ、すいません。分かりました」

横須賀「無茶言ってすまなかったな、先生。」

削板「さっきまでの絶望的な状況とは大違いだ! 本当にありがとうな! 先生!!」

冥土返し「お礼を言うのはまだ早いね? 彼女の治療が完璧に終われば、その時受け取るよ」

インデックス「それでもやっぱり言いたいんだよ。ありがとう」




275: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 00:08:15.16 ID:tMvs6FNDO

-数分後、病院施設脇スポーツ公園



横須賀「さて、一旦解散でいいだろう。インデックスは削板の家に泊まるな?」

インデックス「うん!」

原谷「……削板さんなら過ちを犯す可能性皆無ですしね」

削板「何言ってんだ。過ちを犯さない人間などいないだろ」

原谷「そーゆーんじゃなくて……まあいいや」

削板「?」

横須賀「俺は明日の午前中は仲間のところに顔を出してくる。最悪の場合、俺たちのアジトを使うからな。」

原谷「僕も午前中の内に学校に聞きに行ってきます。午後から合流しましょう」

削板「わかった。俺もインデックスを連れていろいろ回ってみる」

インデックス「……みんな本当にありがとうね。いきなり押し掛けた私にこんなに協力してくれて……」

原谷「気にすることないよ。巻き込まれるのは慣れてるし」

横須賀「この【内臓潰し】の横須賀、困っている少女を見捨てるような真似はせん。」

削板「ハッハッハ! どうだインデックス! 俺もこいつらもそんじょそこらの連中とは根性が違うだろ!」

インデックス「うん! とっても頼もしいんだよ!」

原谷「…はは、ちょっとこそばゆいな」

横須賀「同じくだ。さて、そろそろ最終下校時刻だ。警備員に目をつけられると厄介だぞ。」

削板「む、まずいな! 帰るぞインデックス!」

インデックス「わ、待ってよぐんは! バイバイ、やぶみ! よこすか!」



276: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 00:09:45.36 ID:tMvs6FNDO

-英国、ヒースロー空港



神裂「ええ、分かっています。自分がどれほど身勝手なことを言っているのか」

神裂「かつて人の上に立った者の行為でも言葉でもありません。
   こんなことをしても、あなた達が被害を回避できるか分からない」

神裂「……後生の頼みです。どうかなにも言わずに引き受けください、建宮」

神裂「……ありがとうございます。皆にはあなたから伝えてください」

神裂「これっきりです。……ええ、あなたにも神のご加護があらんことを」




277: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 00:11:12.50 ID:tMvs6FNDO



ステイル「大丈夫だったかい?」


広い空港ロビーとは切り離されて作られた喫煙スペースで、ローブに身を包んだ男がその日何本目かのタバコをくわえていた。

長い間待たせていたせいもあり、喫煙スペースでは換気が追い付かずに煙が少し籠もっている。


神裂「ええ。これより私は一介の魔術師です。天草式へは建宮を通して伝えました。万が一に備える時間はあるでしょう」


その魔術師の正面に長身の女性が一人。明らかに人の目を引くファッションで神妙な面持ちをしている。

ちなみに、彼女の愛刀は確実に空港関係者の目に止まってしまうため、然るべき魔術師用のルートで運ばれてくる。

学園都市の統括理事長が少しでも魔術に理解のある人間であったことが彼女たちにとっての僥光だった。

まさか、科学の総本山たる学園都市に魔術師用のルートが他国と同じように設置されていようとは。



278: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 00:14:16.70 ID:tMvs6FNDO

ステイル「そうか。これでもう後戻りはできないよ?」


言い終わると同時にステイルは肺に煙を溜め、神裂を見据える。


神裂「もとよりするつもりもありません。あなたもでしょう?」

ステイル「当然」


溜めこんだ煙と同時に決意を吐き出す。

今や2人に学園都市にいたころの迷いは微塵も存在しなかった。


神裂「……今から刀を受け取り、その後【最大主教】との面会の手続きを行い……
   移動時間や帰りの便の本数を考えるとあまり時間はありませんね。お身体は?」

ステイル「もう大丈夫だ。どうせ帰りもアレだからね。まったく、これだから科学は……」


そう言ってステイルは短くなったタバコを自らの炎で焼き消した。

学園都市から英国。短時間で北半球を半周するための代償は身体への負担。

【聖人】である神裂はなんの問題もなかったが、ステイルにはかなりの苦痛だった。


神裂「……では、参りましょう。『ランベスの宮』……【最大主教】のもとへ」



285: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:05:39.33 ID:tMvs6FNDO

-学園都市、削板宅



削イン「「ごちそうさまでした」」

削板「うむ、根性ある晩飯だった!」

インデックス「朝もお昼もあまり食べてなかったからお腹ペコペコだったんだよ! とっても美味しかったかも!」

削板「ハッハッハ! なんせ俺が作った根性メシだからな! 売店のものとは訳が違う!」

インデックス「ぐんはの根性めしは世界一かも!」

削板「なんの! 俺の根性メシなどまだまだだ!」

インデックス「ぐんは以上の根性めしを作る人がいるの?」

削板「当然だ! 世界は広いからな!」

インデックス「いつか食べてみたいんだよ!」




286: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:06:28.71 ID:tMvs6FNDO



削板「うし、風呂も入ったし歯も磨いたし、そろそろ寝るか」

インデックス「そうだね。いろいろあって疲れたかも」

削板「じゃあインデックスはベッド使ってくれ。俺は布団を持ってくる」

インデックス「いいの?」

削板「俺はどっちで寝ようが変わらんからな。なんならお前が布団で寝るか?」

インデックス「んー、じゃあお言葉に甘えてベッドで寝るね」

削板「そうか。じゃ、電気消すぞ」

インデックス「うん。おやすみ、ぐんは」




287: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:07:37.12 ID:tMvs6FNDO



インデックス「……」

削板「……」

インデックス「……」

削板「……」

インデックス「……ぐんは」

削板「ん?」

インデックス「起きてる?」

削板「おう」

インデックス「……あのさ」

削板「うん?」

インデックス「仲直りって、できるかな?」

削板「……あいつらと、か?」

インデックス「うん」

削板「あんな目に遭ってきたのにあいつらを許すのか?」

インデックス「……それでも、私のことを親友って言ってくれた。ごめんなさいって言って泣いてくれた」

削板「……」

インデックス「それなのに、私はあの人たちのことを全部忘れちゃったから……きっとおあいこなんだよ」

削板「……」

インデックス「少なくとも私はそう思う……実際にはどっちかに天秤が傾いてるかもしれないけど」



288: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:09:29.18 ID:tMvs6FNDO

削板「……やっぱりお前は根性あるな。きっと俺よりもある」

インデックス「……ぐんはには勝てないかも」

削板「いや、ある。少なくとも俺がお前ならあいつらは許せない」

インデックス「……」

削板「自分やその周りを地獄の底に落としておいて何言ってやがるってのがあいつらへの本音だ」

インデックス「……そっか」

削板「……明日原谷やモツにも聞いてみろ。俺とは違う答えが返ってくるかもしれん」

インデックス「うん」

削板「じゃ、今度こそ寝るぞ。おやすみ、インデックス」

インデックス「……おやすみ、ぐんは」




289: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:11:43.34 ID:tMvs6FNDO

-英国、『ランベスの宮』内部



神裂とステイルの2人は『ランベスの宮』内部に来ていた。

普段一般公開されている間からさらに奥の間。【最大主教】の官邸である。

広さは縦横15m以上あるその荘厳な空間の玉座のような椅子に座しているのは【最大主教】ローラ=スチュアート。

見た目こそ18歳くらいのかわいらしい金髪の少女に見えるが『必要悪の教会』のトップでもあり、その実力は計り知れない。

ベージュ色の修道服に身を包んだ【最大主教】は纏めている長い金髪が地面すれすれになっているのもかまわず、神妙な面持ちをしていた。


ローラ「一体どうしたりけるの? 神裂、ステイル」

神裂「申し訳ありません【最大主教】」

ローラ「【禁書目録】は? まさか、学園都市に奪われたりや?」

ステイル「……我々はインデックスを匿った学園都市の連中と戦闘を行い、敗北を喫した」

ローラ「……協定違反よ! これは明らかに科学サイドの介入なり! 今すぐにでも学園都市に抗議を」



290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:13:26.96 ID:tMvs6FNDO

ステイル「その後、我々はインデックスをその連中に託した」

ローラ「……なに?」

神裂「……【最大主教】、貴女はインデックスに何をしました?」

ローラ「…………なに、とは?」

ステイル「もっと言おうか。ボクと神裂とインデックス。この3人にどんな魔術をかけた?」

ローラ「……」

神裂「『完全記憶能力』をもっていようと、記憶を消す必要はない。……我々が学園都市で得た真実です」

ローラ『……何を言っている? 人間の脳は忘れるようにできている。そなたらとて一週間前の晩御飯の献立も覚えておるまい?』

ステイル「……」

ローラ『彼女はその脳の85%を魔導書に割きにけり。早く記憶を消さねば脳が破裂してしまう』

神裂「……」

ローラ「……これにて分かりにけりや? さ、早く【禁書目録】を……」




291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:14:25.71 ID:tMvs6FNDO

ステイル「……なるほど、『呪言』の一種か」

ローラ「!」

神裂「言の葉一つ一つに呪を乗せて……そうだと分かっていなければ気付かぬうちに洗脳される」

ローラ「……」

ステイル「生憎、僕らにそれはもう通じない。ここに来るまでに頭の中で矛盾点を徹底的に糾弾してきた」

神裂「……時間がないのはあなたも承知でしょう。早く吐いてください。インデックスにかけた術式、その解除法を」

ローラ「……はて、二人とも何を」



292: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:15:26.22 ID:tMvs6FNDO

ジャキリ、とローラ・スチュアートの首に日本刀と炎剣が突き付けられる。


ローラ「!」

神裂「これ以上シラを切るな」

ステイル「吐かされたいならそれでもかまわない。ボクは貴様を燃え散らしたくてしょうがないんだ」

ローラ「……なぜそんなに焦りにけりや? 時間がないなら【禁書目録】の記憶を先に消せばよかろう」

神裂「……」

ローラ「それからゆっくり調べればよいものを……。アレに残っているそなたらの記憶はろくなものではなかろうに」

ステイル「……」

ローラ「ならば忌々しき記憶は消すが上策。違いにけりや?」



293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:16:22.36 ID:tMvs6FNDO

神裂「……るっせぇんだよこのド素人が!!」

ローラ「な!?」

ステイル「なんにも分かってないね。僕たちは彼女に恨まれていたいんだよ」

ローラ「なんと……?」

神裂「私たちの犯した罪は決してうやむやにしていいものではない!」

ステイル「あんなことをしてきて、彼女の隣に立とうなんて図太い神経は持ち合わせていないんだよ」

神裂「そして彼女には今! 立派な仲間がいる!」

ステイル「その仲間との記憶を消してなるものか! 悲劇はもう起こさせない! それが今まで彼女の記憶を消してきたボクらのけじめだ!」



294: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/21(金) 21:17:41.73 ID:tMvs6FNDO

ローラ「……そう。もはや私が吐くまでここを離れるつもりはない、と?」

神裂「ええ」

ローラ「私に刃を向けること。それが何を意味するか分こうているのかしら?」

ステイル「組織に追われようがかまわない。今さら保身なんか気にするとでも思っているのか?」

ローラ「組織に追われる? それ以前の問題なりし」


ブアッ!! とローラの身体から見えない何かが生じた。

その衝撃により神裂とステイルは吹き飛ばされる。


神裂「くっ!」

ステイル「チッ……」

ローラ「この私を力でどうこうできると思うているの?」




305: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 21:56:48.23 ID:GuFbb15DO



「……」

「おや、こっちもか。意気消沈なんてお前には似合わないけど」

「……妹はどうした?」

「大絶賛引きこもり中だ。あの歳であんな地獄を経験すればそうなってもおかしくはないけど。
 おまけに学校から来ている『落第防止』の名前が『木原』ときた。あいつもなかなかに神様に嫌われている」

「……あいつらは?」

「……他の理事会メンバーに『保護』されたようだ。私たちと同じ待遇をされていると願うしかない」

「……俺の、せいだ」

「お前の『おかげで』逃げ出したメンバーの8割が人並みの生活を手に入れた。違うか?」

「地獄の底に置いてきたヤツらがいるってのが問題だろうが。俺の根性が足りなかったせいだ」

「釈迦やキリストでもすべてを余すことなく救うことはできなかった。
 たかだか学園都市のイレギュラーごときがすべてを救おうというのがおこがましいけど」

「……それでも、あいつらを引きずってでも連れていく根性があれば……」




306: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 21:59:10.38 ID:GuFbb15DO

「面白いことを言うな、君は」

「! 貝積のおっさん……」

「私に言わせれば君にもここにいない者にも根性があった。ただ、根性と言ってもいろいろある」

「……?」

「『悪を滅ぼす』根性があれば『平和を生み出す』根性があり、『突破する』根性があれば『耐えぬく』根性がある」

「……」

「様々な根性があるが……後悔にまみれて動かないのは根性なしだと思うぞ?」

「!」

「……君の根性はすでに1級品だ。だが、見方が単一だ。君以外の根性を根性と認めていない」

「俺以外の……」

「人間の精神はすべて異なる。同じように根性も人それぞれ。
 状況に向き不向きがあるし、だからと言ってそれは優劣にはならない」

「……」



307: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 22:00:33.69 ID:GuFbb15DO

「だから君はこんなところでくすぶってちゃいけない。根性ある仲間を救わねば。そうだろう?」

「……ハハ」

「相手は私と同じ立場。だからこそ、私ならある程度気を逸らすことができる。その他諸々のバックアップも任せなさい」

「はて、それだとあなたにはリスクしか残らないと思うけど」

「気にするな。前からいけすかなかったんだ、ヤツは。
 挑発して扇動して揺さ振った後は何食わぬ顔して我関せずを振る舞ってみせるさ」

「ハッハッハ! いいのか貝積のおっさん! それなら俺は力の限り暴れるぞ!」

「かまわん! なくした根性を取り戻せ!」

「ふっ、面白い。私も1枚噛ませろ」

「おっ! お前もくるか!?」

「馬鹿言え。私はお前と違う根性を披露する。たった今根性は1つでないと言われたはずだけど。
 ……どのみち、ここで泣き寝入りするようなら私も根性なしの仲間入りだ。私とてやられっぱなしは性に合わん」

「上等! 俺も負けてられんな! とびきりの根性を見せてやる!」




308: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 22:02:45.86 ID:GuFbb15DO

-翌朝、削板宅



削板「…489、490…」

インデックス「……ぐんは?」

削板「499、500! ふぅ。お、おはようインデックス!」

インデックス「うん、おはよう。何してるの?」

削板「見ての通り腕立てだ! 寝覚めがよかったからな!」

インデックス「ふぅん」

削板「今朝メシ作るからな! ちょっと待ってろ!」

インデックス「分かった。……あれ?」

削板「ん?」

インデックス「こんなにいっぱい野菜やお魚あったっけ?」

削板「おう。朝起きて安く仕入れてきた」

インデックス「? 日本のお店はそんなに朝早くからやってたっけ?」

削板「店っていうか市場だな! セリの残りを安く買い叩いてきた!」

インデックス「?」

削板「あそこはいいぞ! 活気があるし根性ある漢がたくさんいる!
   箱単位で売ってくれるから帰りは荷物背負って帰れてトレーニングにもなるしな!」

インデックス「走って行ったの?」

削板「おう! いくつか学区を跨いだところにあるからな」

インデックス「……ぐんは今日何時に起きたの?」

削板「4時半だな! そっからトレーニングして市場行ってまたトレーニングだ!」

インデックス「」




309: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 22:04:17.17 ID:GuFbb15DO

-数時間後、第七学区某高校教務室



削板とインデックスは削板の通っている学校に訪れていた。

別段有名校というわけでもなく、普通の学校である。

Level5ともなれば進学先は引く手あまただったが、削板はそんなものに興味はなかった。

むしろ、

エリート校など肌に合わん!

と、特待生枠をすべて蹴って一般入試で今の高校に入学した。

削板を呼ぼうとしていた学校側も

Level5は欲しいが研究対象としてどうしようもないものに労力を割いても仕方がない

と、しつこく勧誘する真似はしなかった。

そして、削板は自身の担任に明日の体育館かグラウンドの使用許可を得るべく直談判をしていた。


削板「ダメか? 先生」

教師「んーむ、ちょっと厳しいな」

インデックス「そこをなんとかお願いしたいんだよ」

教師「もうちょい前もって言ってくれればなんとかなったんだがなぁ……というかキミ誰?」

インデックス「私の名前はインデックスって言うんだよ!」

教師「……? まあいいか」



310: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 22:05:32.11 ID:GuFbb15DO

削板「どうしてもムリか?」

教師「めったにない軍覇の頼みだ。なんとか聞いてやりたいが……
   どっちも部活動で使用してるんだ。どこもかしこも新人戦に向けて猛練習してるから多分ムリだぞ」

削板「そうか……」

教師「にしたって一体何をするんだ? 体育館やグラウンドを貸し切りたいなんて」

削板「手術だ」

教師「……相変わらずまあ、なんというか……」

削板「?」

教師「とりあえずちゃんと最初から話せ」



311: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 22:06:40.33 ID:GuFbb15DO

教師「……要するに、明日の夕方に病院じゃできない手術をするからスペースを確保したい、と」

削板「そうだ」

インデックス「お願いします」

教師「……病院でやれない手術ってなんなんだ、と言いたいところだが」

削板「だが?」

教師「またそれも人助けの一貫なんだろ?」

削板「ああ。なんせ患者はこいつだからな」

インデックス「そうなんだよ」

教師「……よっしゃ、やるだけやってみっか」

削板「!」

インデックス「本当!?」

教師「ああ、だが上手くいくか分からんぞ?」

削板「掛け合ってくれるだけで十分だ、先生!」

教師「そうか。なら、すべての顧問の先生に聞いたらお前に報告しよう」

削板「分かった! ありがとうな、先生!」

インデックス「私からも! ありがとうなんだよ!」




312: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 22:08:33.25 ID:GuFbb15DO

-昼過ぎ、第七学区駅前



原谷「すいません、お待たせしました」

横須賀「来たか。」

インデックス「遅いんだよ!」

削板「どうだった?」

原谷「ダメですね。危うく精神病棟に連れていかれるところでした」

横須賀「……お前魔術のことそのまま言ったのか?」

原谷「だって理由誤魔化そうとしてもちゃんと言えってしつこいんですもん」

インデックス「まったく! この街はおかしいんだよ! 超能力は信じて魔術は信じないなんて!」

原谷「科学的に証明できるものならなんでも信じるんだけどね」

削板「おい、俺はどうなる」

原谷「信じられない存在ですかね、いろんなニュアンスで」



313: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 22:09:41.60 ID:GuFbb15DO

横須賀「俺の方はなんとかいけそうだ。だが、できることならあまり使いたくない。」

原谷「どうしてです?」

横須賀「新たにアジトを構えるとなると他のスキルアウトどもとの兼ね合いが面倒でな。
    シマ争いに発展する可能性もある。何より衛生面では決してキレイとは言えないところだ。」

インデックス「……それならよこすかのところは考えない方がいいかも。
     私のせいで縄張り争いが起きるんでしょ? これ以上迷惑かけられないんだよ」

横須賀「それなら保険だと思えばいい。最悪の可能性がなくなっただけマシだろう。」

削板「もしそうなったら俺を呼べ! 借りは返すぞ!」

横須賀「パワーバランスが崩れそうだが……最悪頼むかもしれん。」



314: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 22:10:37.95 ID:GuFbb15DO

削板「俺の学校は俺の担任の先生が今交渉中だ! その結果次第だな!」

原谷「じゃあ1番期待できそうなのはそこですかね」

削板「そうなるな!」

インデックス「あの先生とってもいい先生だったんだよ! きっと相当根性あるかも!」

削板「当然だ! 俺の担任だからな!」

横須賀「ほう。今どき珍しいな。」

削板「何言ってんだ! 警備員にも根性ある教師はたくさんいるだろう!」

横須賀「……手塩とか黄泉川とかな。あのあたりは本気でシャレにならん。」



315: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/23(日) 22:11:49.56 ID:GuFbb15DO

原谷「さて、お互い報告も終わったことだしどっかメシ行きますか。皆さんもう食べました?」

削板「イヤ、まだだ!」

横須賀「同じく。」

インデックス「お腹ペコペコなんだよ!」

原谷「じゃあ、ラーメンでも行きますか。ちょうどお誂え向きのチラシもらったんですよ」

削板「お誂え向き?」

横須賀「……これか。『富士山盛りドデカラーメン! 20分で食べられたらなんと無料!』」

インデックス「無料で食べさせてくれるの!? 気前のいいお店だね!」

原谷「……そうだね。あ、ボクは普通サイズ食べるんで。皆さんで、どうぞ」