1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:29:43.78 ID:F/aq6q5k0


「先輩、お疲れ様です」

「おぉお疲れ。久しぶりだな」

「ですね。そろそろ会うかなとは思ってましたが」

「お前煙草なんて始めたのか」

「……えぇ、最近ですが」

「良いことないぞ」

「じゃあ、先輩はどうして吸ってるんですか」

「そりゃお前、良いこと無いからだよ」

「何すかそれ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1437827373

引用元: 佐久間まゆ「……やっぱり、苦い」 

 

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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:32:16.82 ID:F/aq6q5k0



「あららぁ手つきが素人だ」

「そ、そりゃ最近吸い始めたからですよ」

「火が近いぞ」

「すみません…………あぁ、苦い」

「そう思うだろ。驚くことにな、その内何も感じなくなる」

「この苦さに慣れてくんですか」

「慣れて慣れて本数も増える。加えて煙草の値上がりだ。本当に良いことなんて無い」

「でも、止められない」

「止めれないんだよな」

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:33:04.73 ID:F/aq6q5k0



「俺に言えるのは、苦いと感じる内に止めとけって事だけだな」

「それは……無理な相談ですね」

「おいおい、昔は素直に二つ返事だったのによぉ」

「研修中は取り敢えずハイって言えばいいと思ってたんです」

「聞きたくなかったなぁ」

「冗談ですよ。まぁでも……あの頃思ってた事と、現実は違いますね」

「現実はどうだ?」

「それなりです」

「それなりか」

「はい」

「でも煙草は吸う」

「毎日吸いますね」

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:34:02.00 ID:F/aq6q5k0



「お前の担当、ええと……」

「佐久間まゆ、ですね」

「そう、まゆちゃん。最近調子良いみたいだな」

「ですね」

「どうした、あんま嬉しそうじゃないな」

「まさか。嬉しいですよ、仕事は山ほどありますが」

「売れっ子の担当はそうだよなぁ……俺も昔は仕事に潰されると思ったよ」

「今はもうプロデューサーしてないんですよね」

「まあな。楽でもないが、そこまで苦でもない」

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:34:47.32 ID:F/aq6q5k0



「……最近は、声や歌の仕事が増えました」

「ほう」

「まゆ自身も得意らしくて、実力もまだまだ伸びそうです」

「いい事だ。仕事と共に成長するのは、理想の形だ」

「ですね……その分、ダンスの方も伸びて欲しいと思うんですがね」

「先ずは得意を伸ばす事だ。一つ身に付けば、苦手な所への意識も変わる」

「その教えを、まゆにも伝えてますよ」

「善き哉善き哉」

「今でも、先輩に指導してもらえてよかったと思ってます」

「そうかそうか。ほれ、火をどうぞ」

「あ、すみません」

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:35:40.06 ID:F/aq6q5k0



「…………あの」

「ん? どした」

「……いや、やっぱいいっす」

「思わせ振りだな」

「はい、いや…………ですね」

「お前は最初からだんまり決めるタイプだよなぁ」

「結局治らなかったですね」

「その辺俺を見習って欲しかったな」

「先輩は何でも大っぴらに言い過ぎだと思います」

「それくらいの方がこの業界楽だよ。口が軽いと思われてりゃ、秘密を打ち明ける奴は減る」

「それで……味方が減ってもですか?」

「端から仲間が少ないんだよ。社外の人間とは、会話だけでも取引だ」

「初めて聞きました」

「俺も最近分かったからだよ」

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:36:25.25 ID:F/aq6q5k0



「マ、どうあれ機会があったら逃さないこった。例えば今とかな」

「です、か」

「どうせこの時間帯に煙草吹かすのは俺くらいなもんだ」

「…………じゃあ、先輩が煙草吸ってる間だけ、いいっすか」

「あぁ。この1本を味わっとくから、好きに話してくれ」

「ありがとうございます」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:37:03.51 ID:F/aq6q5k0



「それじゃあ……どこから話せばいいか、分からないんすけど」

「先ずは最近の事を」

「知っての通り、今俺は佐久間まゆのプロデューサーです」

「もう直ぐで1年になる位です」

「仕事のメインは雑誌モデルで、声や歌の仕事が次に伸びてます」

「アイドルとしてのステージは、まだ大舞台にも慣れていない感じはしますが」

「プロデュース方針としては、概ね順調です」

「このペースを維持すれば、アイドルとして問題は全く無いです」

「このままなら……」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:37:56.59 ID:F/aq6q5k0



「まゆは、いい子です」

「礼儀正しくて、レッスンも真面目」

「歌の事となると一生懸命、先生に指導を仰いだり」

「そういう様子で、周りからも一目置かれています」

「元々読者モデルな事もあって、知名度も中々です」

「そこに慢心しない、というかあんまり本人は意識してないみたいですが」

「とにかく、アイドルとしては申し分ない実力があると思います」

「あの子のプロデュースが出来る事で、毎日忙しいですが」

「それでも、充実していると思います」

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:38:44.19 ID:F/aq6q5k0



「……ここからは、個人的な思いです」

「思い過ごしかもしれません。そう思ってもらって構いません」

「まゆをプロデュースしている間は、充実してます」

「でも…………怖い」

「俺は、まゆが怖いんです」

「アイドルとしての佐久間まゆではなく、ずっと側に居る、佐久間まゆが」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:39:21.57 ID:F/aq6q5k0



「事務所に居ると、ずっと視線を感じます」

「最初は気のせいだって思ったんです」

「俺が信頼出来なくて、不安だからこそ見ているんだって」

「でも、段々と打ち解けてからも、変わらない」

「日に日に距離は近づいてます」

「二人きりになると、怖くて仕方がない」

「あの子がじっと俺を見るんです」

「そして笑うんです」

「俺とは真逆で、あの子は楽しくて嬉しくて、堪らないみたいです」

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:40:24.95 ID:F/aq6q5k0



「どうしてまゆがそんな顔を見せるのか、俺には分かりません」

「佐久間まゆのプロデュースなら、自信があるのに」

「いざまゆ本人の事になると、俺は何一つ分からない」

「まゆが何を思って俺を見ているか、笑っているか」

「聞いても、答えてはくれません」

「でも、そんな事が何度も続いて、続いて……」

「これが自惚れで、まゆが冗談なら全然いいんです」

「でも、そうじゃない」

「あの目を見たら、とてもそんな風には思えない」

「俺は何時か、まゆに…………まゆから、逃げ出してしまう」

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:41:24.52 ID:F/aq6q5k0



「先輩」

「あぁ」

「そんな短い煙草、吸うんですか……」

「お前こそ早く次の煙草出せ。ほれ、火だ」

「……ありがとうございます」

「取り敢えず今は吸っとけ。頭がぼやけて、楽になる」

「…………ですね。息を吐く度、意識がぼんやりとして……」

「そして引き戻される。それでも、少しの間だけでも……」

「……難儀ですね」

「あぁ、人生は難儀だ」

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:42:17.35 ID:F/aq6q5k0



「雨……」

「あららぁこいつも難儀だ」

「先輩、傘は」

「忘れたよ」

「俺もです」

「梅雨明けたって言ってたろ」

「ですね」

「マ、止むだろ」

「止みますかね」

「あぁ。続くが、何時かは終わる」

「だといいんですが」

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:43:27.17 ID:F/aq6q5k0



「さて、俺は戻る。これ以上はお小言が飛んでくる」

「俺も遅くなるとちひろさんが休憩待ちしてるんで」

「そうか」

「先輩。今日の話は、聞かなかったことにして下さい」

「……あぁ、そうするよ」

「ありがとうございます」

「何もしてねーよ。只一緒に煙草吸っただけだ」

「それだけでも十分ですよ。一人で吸ってるのは楽しくなくて」

「そうか。……マ、また何かあったら此処に来い」

「そうします」

「それじゃあな」


16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:44:33.81 ID:F/aq6q5k0



「戻りました」

「プロデューサーさん遅いです。じゃあ私休憩取りますから、その間ここよろしくお願いします」

「はーい」

「ちゃんと時間計ってましたから、私も同じだけ休みますからね」

「はいはい」

「……この後、ミーティングですよね?」

「そうですが」

「出来れば、着替えた方がいいと思いますよ」

「善処します」

「そうして下さい、それじゃ」

「……着替えなんて、持ってないですよ」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:45:21.94 ID:F/aq6q5k0



「さて。そろそろか……」

「お疲れ様です、プロデューサーさん」

「……お疲れ様。雨、大丈夫だった?」

「ちょっと濡れちゃいました」

「タオルとか持ってないなら探してくるけど」

「お願いします……あ、プロデューサーさん、煙草、吸いましたか?」

「あぁ……ほら、だから離れて」

「いいんです。お疲れなんですね」

「そうでもないさ」

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:45:57.59 ID:F/aq6q5k0



「タオル、ありがとうございます」

「いいよ。しかし雨が続くなら、帰りは送った方がいいかな」

「そうですねぇ。雨、止みそうにないです」

「止まないかな」

「プロデューサーさん」

「何だ」

「今なら、誰も居ません」

「うん」

「いい……ですよね?」

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:46:34.38 ID:F/aq6q5k0



「まゆ、近いぞ」

「近いから、いいんです」

「誰か来るぞ」

「誰も来ません」

「やめてくれ」

「どうして?」

「……煙草、吸いたてだから」

「それでも、いいんです」

「やめてくれ」

「だいじょうぶです……」

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:47:25.10 ID:F/aq6q5k0





「……やっぱり、苦い」





21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/25(土) 21:56:24.17 ID:F/aq6q5k0


 以上になります。


 佐久間まゆのプロデューサーへの思いは各カードで語られていますが、
 果たしてプロデューサー自身はまゆの事をどう思っているのか。それが話の骨子です。
 改めてプロデュース――一人のアイドルと常に向き合うことの難しさを感じます。

 それでは、佐久間まゆが運命の相手と幸せになる日を願って。