1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 10:50:38 ID:cBIJ/0mc

・他作品とのクロスSSではありません。今回登場するモノクマ、及びキャンディはただのぬいぐるみです
 通販サイト様の商品ページですがモノクマ参考:http://ebten.jp/p/4940261510282
 企業様の商品ページですがキャンディ参考:http://www.bandai.co.jp/catalog/item/4543112698056000.html

引用元: コニー「モノクマ、そしてキャンディ」 

 

2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 10:51:13 ID:cBIJ/0mc

―― 昼間の営庭

サシャ「やった、これで五十周です……」ゼエハア

コニー「つっ、疲れたぁ……」ゼエハア

サシャ「お腹空きましたぁ……」ヨロヨロ

コニー「元はと言えばお前のせいで走らされたんだろ芋女……」フラフラ

サシャ「コニーだってふざけてたじゃないですかぁ……ああ、もうダメぇ……」バタンキュー

コニー「おいサシャ、どこで倒れてんだよ……教官に見つかったら怒られるぞ」

3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 10:52:12 ID:cBIJ/0mc

サシャ「そんなこと言われたって、お腹が空いて力が出ません……」グー キュルルルルル

コニー「あーもうダメだ、俺も座るわ……休憩……」ドサッ

サシャ「……へへへ、少し休憩してから行きましょうー?」ゴロゴロ ムニュッ

サシャ「……? なんか頭の下に妙な感触が……」モゾモゾ

サシャ「えいっ!」グイッ





サシャ「……ぬいぐるみ?」キョトン

4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 10:53:08 ID:cBIJ/0mc

コニー「……なんだそのぬいぐるみ。クマか?」

サシャ「ですね。汚れててかわいそうです」ポフポフ

コニー「しかもところどころほつれてやがんじゃねえか……仕方ねえ、手入れしてやるか」

サシャ「できるんですか? コニー」

コニー「母ちゃんに代わって、何度か妹のぬいぐるみ直してやってたんだよ」

サシャ「へえ……意外ですね」

5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 10:53:54 ID:cBIJ/0mc

コニー「……なあサシャ。お前、このぬいぐるみほしいか? ほしいなら手入れした後やるけど」

サシャ「食べ物じゃないのでいりません」キッパリ

コニー「だよな。じゃあ俺がもらうわ」

サシャ「……少女趣味!?」

コニー「違ぇよ。今度実家に帰った時、妹にやるんだ」

サシャ「おおー……コニーは家族思いなんですね!」

コニー「褒めてもパンはやらねえぞ」

サシャ「……バレてましたか」エヘヘ

コニー「天才だからな俺は」フフン

6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 10:55:04 ID:cBIJ/0mc

サシャ「じゃあ、このクマさんはコニーに預けますね。どうぞ」スッ

コニー「おう、任せとけ。……あ、そうだサシャ。もし余ってたらでいいんだが、古いブラシ後でくれないか?」

サシャ「いいですけど……何に使うんですか?」

コニー「こいつ手入れするのに必要なんだよ」ポンポン

サシャ「わかりました。なら夕食の時に渡しますね。ついでにボロ布とかもあったら集めてきます!」

コニー「助かるぜ。ありがとなー」

サシャ「その代わり、綺麗になったら私にも見せてくださいね?」

コニー「おうっ! 待ってろよ、新品同然にしてやるぜ!」グッ

7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 10:55:58 ID:cBIJ/0mc

―― 夜の男子寮

コニー「♪~」シャッシャッ

コニー「♪~」ポンポンポン

コニー「♪~」ゴシゴシ





ジャン「……おい、何をおっぱじめたんだコニーの奴は」ヒソヒソ

アルミン「なんだろうね……見たままで合ってるなら、ぬいぐるみの手入れをしているようだけど」ヒソヒソ

ライナー「そもそもどっから持ってきたんだ? あのぬいぐるみ」ヒソヒソ

ジャン「アルミンお前聞いてこいよ」

アルミン「ええー……? まあいいけど」

31: >>8に差し替え 2013/08/28(水) 16:33:13 ID:lK005.S6

アルミン「えっと……コニー、何してるの?」

コニー「んー? ぬいぐるみの手入れだよ。汚れちまってるから綺麗にしてやろうと思ってさ」フキフキ

アルミン「買ってきた……わけじゃないよね。拾ったの?」

コニー「おう。営庭の隅っこに落ちてたから拾ってきたんだ。そのままにしておくとかわいそうだしなー」フキフキ

ライナー「そっちのブラシは借りてきたのか? というか何に使うんだ?」

32: >>9に差し替え 2013/08/28(水) 16:33:48 ID:lK005.S6

コニー「借りたんじゃなくてサシャに使ってないのもらったんだ。これでブラッシングした後に、きれいな布で叩くんだよ。こうすることで中の汚れが浮き出て取れる」ポンポン

ライナー「……お前女子力高いな」

コニー「これ、サニーにやったら喜ぶだろうなー。あいつクマ好きだし」タカイタカーイ

アルミン「そっか、コニーには妹さんがいるんだったね」

ジャン「……顔が凶悪すぎやしねえか? そいつ」

コニー「そうか? 愛嬌があっていいと思うけどな」ポチットナ



 モノクマ『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー』



アルミン・ライナー・ジャン「!?」ビクッ

コニー「ん? なんだ?」キョロキョロ

10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 10:59:52 ID:cBIJ/0mc

アルミン「え……? しゃ、喋った……!?」

ライナー「今のは……鳴き声、か……?」

ジャン「いいや、俺には唸ってるように聞こえたぞ……! なんだそいつは!?」

コニー「ただのぬいぐるみだろ?」ポフポフ ポチットナ



 モノクマ『ボクはモノクマ。狭い日本に収まりきるような器じゃないよ』



アルミン「!? また喋った……!!」

コニー「へー、こいつモノクマって言うのかー」タカイタカーイ

ライナー「ほう……この状況で自己紹介とは、なかなか余裕があるじゃないか……!」

ジャン「!? 待てよ……こいつ、俺たちの質問を『聞いて』『理解して』『答えた』ことになるぞ……!?」

アルミン「なんだって!? ……もしかして、そのぬいぐるみには知性があるのかもしれない……!」

コニー「楽しそうだなみんな」ポンポン

11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:00:28 ID:cBIJ/0mc

エレン「ただいまー……? 四人で集まって何してんだ?」ガチャッ

アルミン「おかえりエレン。今忙しいから後でね」

エレン「? コニー、それなんだ?」

コニー「ぬいぐるみだよ。モノクマって言うんだってさ」

エレン「へー……ちょっと見せてくれよ」

コニー「いいぞー。ほらよ」ヒョイッ

12: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:02:41 ID:cBIJ/0mc

エレン「……」ジーッ

アルミン「……? エレン、どうしたの? モノクマのことじっと見つめて――」

エレン「……」スッ





エレン「ハーイ、ボクハモノクマダヨー(裏声)」フリフリ





アルミン「」

ライナー「」

ジャン「」

13: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:04:28 ID:cBIJ/0mc

エレン「ははっ、なーんてな――」

アルミン「エッレエエエエエエエエエエエン!! 何ふざけてるんだよ君はぁっ!?」

エレン「えっ……な、なんだよアルミン、そんなに怒るなよ……」ビクビク

ライナー「いいや……今お前は叱られても仕方がないことをした!」

ジャン「謝れよエレン! アルミンはお前のことを思って言ってるんだぞ!?」

エレン「え? えっと……ご、ごめんな、アルミン。よくわかんねえけど」オドオド

アルミン「本当だよ! 全く、危ないことはしないでくれ!」プンスカ

エレン「……なあコニー、これどうなってんだ?」ヒソヒソ

コニー「俺が聞きてえよ。……おい、そこまで過剰反応することねえんじゃねえの? ぬいぐるみだぞこれ」

ライナー「コニー、むしろお前はなんで平気なんだ? ぬいぐるみが話すなんてどう考えても異常だぞ?」

コニー「いや、異常って言えばそうなんだが……そういうもんなんじゃねえのか? たぶん」

ジャン「ったく、これだから深く考えねえ馬鹿は困る」ケッ

エレン「今馬鹿に見えてるのはお前らのほうだと思うぞ」

14: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:05:41 ID:cBIJ/0mc

アルミン「! そうか、わかったぞ……!」

ジャン「何かわかったのか!? アルミン」

アルミン「東洋には『長年使った道具には魂が宿る』っていう古い言い伝えがあるんだ」

ライナー「なるほど、つまり……」

ジャン「そういうことか……」

アルミン「うん。……このぬいぐるみには魂が宿っている。間違いない」キリッ

エレン「考えすぎだろ」

コニー「もうわかったから静かにしようぜ。あまり騒いでると教官来るぞ?」ポンポン ポチットナ

15: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:08:49 ID:cBIJ/0mc



 モノクマ『好きに調べてちょうだいな。思う存分、謎を解いてちょうだいな』



ライナー「!? こ、こいつ……自分を好きに調べていいと言ったぞ……?」

ジャン「へえ、潔い奴だな……そういうところは好感が持てるぜ」

エレン「……今、腹から声が聞こえたような」ミミアテ

ジャン「おい馬鹿よせエレンやめろ!! 引っかかれたらどうするんだよ!!」

エレン「警戒しすぎだっての」

コニー「ふにふにしてるけどなー。指先」フニフニ

ライナー「第一、腹から声なんて出るわけないだろう!」

アルミン「いや、待ってくれ……確かに、声は腹から出せって言うよね……!? エレンの言い分も間違ってないと思う!」

エレン「そういうことじゃなくてマジで腹から声出てんだよこいつ」

16: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:09:48 ID:cBIJ/0mc

アルミン「ところでコニー、その……モノクマはどうするの?今晩」

コニー「え? 部屋に置いておくけど?」

アルミン「……」

ライナー「……」

ジャン「……」

エレン「おーい、どうした?」

アルミン「……僕、ここから出て行く」スクッ

エレン「はぁ? 何言ってんだ?」

ライナー「ああ……アルミンの言う通りだ。こんなところにいられるか! 俺は部屋を出る!」スクッ

ジャン「俺もだ! そんな得体の知れねえ奴と一晩一緒に寝られねえよ!」スクッ

17: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:10:55 ID:cBIJ/0mc



   ガチャッ...



キース「貴様ら、先程から随分騒がしいが……何の騒ぎだ……?」ギィッ...

アルミン「」

ライナー「」

ジャン「」

エレン「」

コニー「」

18: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:12:33 ID:cBIJ/0mc

キース「さて……アルレルト、説明してもらおうか」

アルミン「はっ! 男子寮にクマが侵入しました!」バッ!!

エレン「おっ、おいアルミン……!」アセアセ

キース「……」

キース「……ブラウン」

ライナー「はっ! 本当であります!」バッ!!

キース「……キルシュタイン」

ジャン「右に同じく!」バッ!!

キース「……」





キース「……寝ろ」バタンッ

19: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:13:04 ID:cBIJ/0mc

コニー「……聞かれなかったな、俺ら」

エレン「そうだな」

ライナー「……寝るか」

アルミン「待って、まだベルトルトが帰ってきてないよ」

20: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:14:17 ID:cBIJ/0mc

ベルトルト「ただいま。さっきそこで教官とすれ違ったけど、何かあったの?」ガチャッ バタンッ

ライナー「おお、ベルトルトか、聞いて、く、れ……?」

ジャン「……おい、手に持ってるそれはなんだ? ヒツジのぬいぐるみか?」

ベルトルト「これ? キャンディだよ」

アルミン「ごめん意味わかんないからもうちょっと詳しく」

ベルトルト「営庭の隅に落ちてたから拾ってきたんだ。名前は背中に書いてたよ。ほら」クルッ

アルミン「元の場所に戻してきなさい」

ライナー「ウチでは飼えません」

ジャン「餌代だって馬鹿になんねえんだぞ」

ベルトルト「これぬいぐるみなんだけど」

21: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:15:02 ID:cBIJ/0mc

エレン「あー……今はぬいぐるみの話はしないほうがいいぞ、ベルトルト」

コニー「そうそう」

ベルトルト「? ただのぬいぐるみなのに」ポチットナ



 キャンディ『お耳とかしてクル♪』



ベルトルト「……お耳?」キョトン

アルミン「」

ライナー「」

ジャン「」

エレン「お、喋った」

コニー「声かわいいな」

22: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:17:21 ID:cBIJ/0mc

ジャン「しゃっ、しゃべったああああああああああこいつもかぁっ!?」ガタガタッ

ライナー「耳を……耳を、溶かせ……だって……!?」

アルミン「待ってライナー! きっと、この『とかせ』はそういう意味じゃない……」

ライナー「どういうことだ、アルミン……!」

コニー「髪解かしてくれって意味じゃねえのー?」

アルミン「もしかしたら、この『とかせ』は『説かせ』……つまり、『できるものなら自分を説き伏せてみろ』という意味がこめられているのかもしれないっ!」

ジャン「さっすがアルミン、座学トップは伊達じゃねえな!!」

ベルトルト「……かわいいのに」

エレン「見ろよ、こいつ耳伸びるぞー」ビローン

アルミン「エッレエエエエエエエエエエエン!! 不用意なことはしないで!!」クワッ!!

23: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:18:34 ID:cBIJ/0mc

―― 深夜


キャンディ『あそんでクルクルあそんでクル~』


キャンディ『お話しするクル?』


キャンディ『おっさんっぽおっさんっぽいっきたいっクル~』


キャンディ『一緒にお出かけしようクル?』


キャンディ『ねーねークル』





ジャン「ああああああああああっ!! もうっ!! うるっせえよそいつ!!」ガバッ!!

24: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:19:25 ID:cBIJ/0mc

ライナー「ベルトルト……そいつを置いてやるのは構わないがな。いい加減黙らせろ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...

ベルトルト「黙らせろって言われても……」ペタペタ ポチットナ



キャンディ『きゃはー! ははははっ! きゃははっ!』



アルミン「ひぃっ!? 笑いはじめたよ!?」

ベルトルト「ど、どうしよう……静かにしてくれないかな、お願いだから」ギューッ ポチットナ

25: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/27(火) 11:20:51 ID:cBIJ/0mc



キャンディ『ふぁ~…zzz...zzz...』



ベルトルト「あ……静かになったみたい」ホッ

ジャン「……寝る」モソモソ

ライナー「……ああ」モソモソ

アルミン「……僕も」モソモソ

ベルトルト「ごめんねみんな……おやすみ」



エレン「zzz」スピー

コニー「zzz」グー

34: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 16:35:32 ID:lK005.S6

―― 翌日

コニー「あー……よく寝た」セノビー

コニー(モノクマは……元気だな、よしよし)ポンポン ポチットナ



 モノクマ『オマエラ、おはようございます。朝です、起床時間ですよ!』



アルミン「ひぃっ!?」ガバッ

ジャン「ああっ!?」ガバッ

ライナー「なんだなんだぁっ!?」ガバッ

エレン「んあー……? 朝か?」モゾモゾ

ベルトルト「ん……おはよう、みんな……」モゾモゾ

35: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 16:42:02 ID:lK005.S6

コニー「おー、みんな早いな! おはよー」

エレン「……? おいアルミン、目の下に隈できてるぞ」

アルミン「エレン……目の下にクマはいないよ……目の前にいるんだよ……?」プルプルプルプル

エレン「そっちのクマじゃねえってば」

ライナー「……一睡もできなかった」グラグラ

ジャン「部屋の中に得体の知れねえ何かがいるってだけで、眠れやしねえよ……」ガタガタガタガタ

コニー「繊細すぎるだろ」

ベルトルト「キャンディは静かだね。昨日の夜中は三時間くらいずっと喋ってたのに」ナデナデ

ライナー「おそらく夜行性なんだろうな」

ベルトルト「ライナー? これはぬいぐるみだよ?」

36: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 16:50:40 ID:lK005.S6

アルミン「僕、顔洗ってくる……」フラフラ ガチャッ

ジャン「俺も行ってくるわ……」フラフラ

ライナー「後でな、三人とも」フラフラ バタンッ

ベルトルト「……かわいいのになぁ、キャンディ」ナデナデ

エレン「モノクマだって負けてねえぞ! ……目と口元がちょっと怖いけど」

ベルトルト「ただのぬいぐるみなのになぁ……あ、ここ破けてる」ツンツン クイクイ

エレン「糸引っ張らないほうがいいんじゃねえ?」

コニー「なあベルトルト、よかったらそいつも手入れしてやろうか? モノクマの後になっちまうけど」

ベルトルト「じゃあお願いしようかな。このままだとかわいそうだしね」

コニー「おうっ! 任せろ!」

38: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 17:01:06 ID:lK005.S6

―― 朝の食堂

サシャ「コニー、おはようございます! パンは」

コニー「やらねえ」モグモグ

サシャ「……クマさん、どうなりました?」

コニー「まだ汚れ取ってるところだよ。ぼちぼち縫うところ」

サシャ「針と糸がご入り用なら言ってくださいね! パンと」

コニー「交換しねえよ。……あーでも縫い始める前に綿買ってこねえとなー、腹のとこヘタってるから」

39: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 17:05:21 ID:lK005.S6

ミカサ「……綿? 何に使うの?」キョトン

サシャ「ぬいぐるみですよ! コニーが今、クマさんのぬいぐるみを直してるんです!」

ミカサ「直せるの? 意外」

コニー「大抵の修理は一通りな。――それとサシャ、クマさんじゃなくてモノクマな」モグモグ

サシャ「名前付けてあげたんですか?」

コニー「違ぇよ、あいつが自分で名乗ったんだ」

サシャ「へえ……そうなんですか、すごいですね!」

ミカサ「……名乗った??」

40: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 17:13:38 ID:lK005.S6

クリスタ「えっ? コニー、ぬいぐるみの手入れできるの?」

ミーナ「すごーい! 私にも教えてほしいなー」

コニー「別にいいけどよ……お前らぬいぐるみなんか持ってんのか?」

クリスタ「……実は、小さいの一個だけ」エヘヘ

ミーナ「私も二、三個持ってたり……」エヘヘ

コニー「仕方ねえなあ……モノクマ直しながらでいいなら教えてやるよ」

クリスタ「いいの? やったー!」

ミーナ「お礼にパンあげようか?」

コニー「いらねえよ、サシャじゃあるまいし」

サシャ「まるで私が食いしん坊みたいな言い方はよしてください!」プンスカ

コニー「食いしん坊だろ」

サシャ「そうでした」エヘヘ

41: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 17:22:35 ID:lK005.S6

ミカサ「ねえコニー、毛糸のマフラーの手入れの仕方とかも知ってる?」

コニー「マフラーか? 編みぐるみならわかるけどなー、服は得意じゃねえなぁ」

ミカサ「編みぐるみの手入れでいいから教えてほしい。資料室の本には手芸の本がなかったから、参考にしたい」

コニー「えー? 参考になるのか?」

ミカサ「というか、同じ編み物だからあまり差がないはず。むしろ編みぐるみを直すほうが難しい、と思う」

コニー「んん……? そうなのか……??」

ミカサ「そう」コクコク

コニー「……まあいいや。じゃあ全員夕方になー! 俺がまとめて面倒見てやるぜ!」



アルミン「コニーが……」

ベルトルト「モテてる……」

ジャン(ミカサまで……)ズーン...

ライナー(クリスタまで……)ズーン...

エレン「すげーな、コニーの奴」モグモグ

42: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 17:30:01 ID:lK005.S6

―― 夜の男子寮

アルミン「……」グラグラ

ジャン「……」グラグラ

ライナー「……」グラグラ

ベルトルト「三人とも、今日は早く寝たほうがいいよ?」

アルミン「うん……できることなら、そうしたいね……」

ジャン「さっきさ……食堂でさ……ミカサの隣にさ……コニーがさ……座っててさ……」ブツブツブツブツ

ライナー「ぬいぐるみを手にしたクリスタは、かわいいなぁ……ははは……」ブツブツブツブツ

エレン「おーい、戻ってこーい」

ベルトルト「キャンディは昼間もいい子にしてたみたいだね。静かにできるなんてお利口さんだなぁ」ウフフ

エレン「だから、ぬいぐるみだからなそれ」



コニー「ただいまー」ガチャッ

43: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 17:37:58 ID:lK005.S6

エレン「よっ、おかえりコニー。モノクマ直ったか?」

コニー「そんなすぐに直らねえって。でも汚れはだいぶ落ちたぞ。ほら」ペカー

ベルトルト「……すごいや、真っ白だね」

エレン「な、なあ、それ触っちゃダメか? 手は洗ってきたほうがいいか?」ウズウズ

コニー「手は洗わなくてもいいって、シャツにでも拭いとけ」

エレン「拭いた!」フキフキフキフキフキフキフキフキ

コニー「ほらよ」ホイ

44: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/28(水) 17:41:02 ID:lK005.S6

エレン「うわっ、なんか心持ちふわふわしてんな……!」モフモフモフモフ

コニー「汚れ落とすだけでもかなり違ってくるからなー」

エレン「よかったなぁモノクマ、きれいにしてもらって!!」タカイタカーイ

コニー「腹のところ破けてるから気をつけろよー」

ベルトルト「……ねえコニー、キャンディもモノクマくらい白くなるかな?」モチアゲ

コニー「時間はかかるけどできると思うぞ? ただ、俺が手入れしてやるのはもう少し後になるかなー」

ベルトルト「……なら、僕がやってあげようかな。ずっと汚れたままだとかわいそうだし」

コニー「やるなら俺が教えてやるぞ? 意外と簡単だしな!」

ベルトルト「じゃあ、明日から僕も一緒にやることにするよ。よろしくねコニー」

コニー「おうっ! 任せとけ! それにキャンディもベルトルトにキレイにしてもらったほうが嬉しいだろうしなー?」ナデナデ ポチットナ

47: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/29(木) 15:42:04 ID:U1O2mQtY



キャンディ『元気いっぱいクル!』



アルミン「うわぁっ!?」ドサッ

ジャン「ぎゃあっ!?」ドサッ

ライナー「だああっ!?」ドサッ

ベルトルト「ちょっ、大丈夫三人とも!?」

エレン「……揃ってベッドから飛び落ちたな」

コニー「ビビりすぎだろ」

ライナー「くっ……やはり、そいつは夜行性だったか……!」ギリッ...

エレン「だからぬいぐるみだっての」

ベルトルト「おはようキャンディ。よく眠れた?」ナデナデ

48: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/29(木) 16:00:44 ID:U1O2mQtY



キャンディ『お耳とかしてクル♪』



ベルトルト「そっか、起きたばかりだもんね。……でも、どうしたらいいんだろ」

エレン「なんだよベルトルト、髪梳かしたことねえのか?」

ベルトルト「他人の髪はやったことないかなぁ」

アルミン「僕もないよ!」ピタッ

ライナー「俺もないぞ!」ピタッ

ジャン「そもそも普通の男子はそんな経験ねえよ!」ピタッ

コニー「壁に貼りつきながら言うなよお前ら」

エレン「よっしゃ、じゃあ俺がやってやるよ。ブラシ借りるぞコニー」ヒョイッ

ベルトルト「エレンはやったことあるの?」

エレン「おう。昔、ミカサの髪を何回か梳かしたことあるからな」

ジャン「」

49: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/29(木) 16:08:40 ID:U1O2mQtY



キャンディ『わーい! もっととかしてクル~』



エレン「この耳、頭の毛の代わりなのかなー」シャッシャッ

コニー「おいエレン、もうちょっと弱めにやったほうがいいぞ。あんまり強いと毛が抜ける」

エレン「了解。……こんなもんか?」シュッシュッ



キャンディ『ハッピーだクル~』



エレン「そっか、よかったなー」

エレン「……」ジッ...

ベルトルト「どうしたの? ……もしかして毛が抜けた!?」アセアセ

エレン「いや、ここをこうしてさ……」クルクルッ

50: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/29(木) 16:19:14 ID:U1O2mQtY

エレン「……うさみみおだんご」キュッ



キャンディ『わーい! わーい!』



アルミン「ちょっとエレン、不用意なことはしないでって昨日言ったじゃないか!」ズリズリ

ライナー「そうだ、噛みつかれたらどうするんだ!」ズリズリ

コニー「摺り足で移動中のお前らに言われてもなぁ」



キャンディ『元気いっぱいだクル!』



ジャン「そりゃお前はそうだろうよ! でも俺たちは眠いんだよちくしょう!」ズリズリ

51: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/29(木) 16:23:31 ID:U1O2mQtY

ベルトルト「……」ソワソワソワソワ

エレン「ほら、ベルトルトもやってみろよ」

ベルトルト「えっ、いいの!?」

エレン「いいのって……お前が拾ってきたんだろ、ちゃんと面倒見ろって。おだんごほどくから次はお前な」シュルッ

ベルトルト「う、うん……」ドキドキドキドキ

ライナー「噛まれるなよベルトルト!」

アルミン「襲われそうになったら死体のフリだ!」

ジャン「鈴つけて山に入れよ!」

コニー「何の注意してるんだよ」

52: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/29(木) 16:27:38 ID:U1O2mQtY

ベルトルト「こ、こんな感じかな?」ギクシャク


キャンディ『わーい! もっと、とかしてクル~』


コニー「おお、喜んでるなー。頑張れ頑張れ」

ベルトルト「うん……」シュッシュッ


キャンディ『ハッピーだクル~』


ベルトルト「そう、よかったね」シュッシュッ


キャンディ『クルクル♪ とても気持ちよかったクル~……』


ベルトルト「……」キュンッ...

ベルトルト「……かわいいね、キャンディ」ホンワカ

コニー「だよなぁ」ホンワカ

エレン「それに比べて……」チラッ

53: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/29(木) 16:28:54 ID:U1O2mQtY

アルミン「……」ギラギラギラギラ

ジャン「……」ギラギラギラギラ

ライナー「……」ギラギラギラギラ

コニー「寝不足と警戒心で目が怖ぇぞお前ら」

エレン「取り敢えずカーテンの陰から出てこいよ、三人とも」

ジャン「いいよなぁ、馬鹿は物事を深く考えねえからよ……」ケッ

ベルトルト「えっ、僕も馬鹿なの……?」シュン

エレン「おいジャン、ベルトルトに謝れよ傷ついちゃっただろ!」

コニー「そもそも俺らも馬鹿じゃねえからな!」

59: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/31(土) 14:04:51 ID:ZplMFRKg

アルミン「……」チラッチラッ

ライナー「アルミン、モノクマが気になるのか?」

アルミン「昨日はあんなに饒舌だったモノクマが、今日は何も話してないのが気になってね……」チラッチラッチラッチラッ

エレン「腹叩けば何か喋ったりしてなー」ポンポン ポチットナ



 モノクマ『やっちゃうよ? いいすか? やっちゃってもいいすか?』



アルミン「」ビクッ!!

ライナー「」ビクッ!!

ジャン「」ビクッ!!

エレン「おっ、喋った喋った」

60: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/31(土) 14:13:47 ID:ZplMFRKg

ライナー「エレン……! どういうことだ!?」

エレン「は? 何が?」

ライナー「なぜ今モノクマの腹を叩いた!? 危ないだろ!!」

エレン「危ねえって言われても……噛まれるわけじゃあるまいし」フニフニ

ジャン「答えろよエレン!! どういうつもりだ!!

エレン「いやどういうつもりだって言われても、なんか喋るかなーって思ったんだけど」

アルミン「いいや……エレンがどういうつもりだったのかは後で追求しよう。まずはモノクマが僕たちに……いや人類に敵意がないことを証明してくれ」

エレン「……敵意? 人類??」

アルミン「証明してくれ早く! モノクマには……その責任がある!」

コニー「証明なんかできるわけねーだろこれぬいぐるみだぞ」

61: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/31(土) 14:21:24 ID:ZplMFRKg

ジャン「おいモノクマぁっ! その腕をぴくりとでも動かしてみろ! その瞬間てめえの首が飛ぶ!! できるぜ! 俺は! 本当に!! 試してみるか!?」ジリジリ

エレン「ジャン、落ち着けって。あと枕じゃ首は飛ばねえから。飛ぶの埃だから」

ライナー「エレン! モノクマから離れろ! 近すぎる!」ジリジリ

コニー「そもそもお前らのほうがちょっとずつ近寄ってきてるんだろ、怖いってんならお前らが下がれよ」

アルミン「なんでだよ!?」ジリジリ

コニー「普通そうだろー?」

ジャン「どうしたモノクマ!! 何か喋れよ!」

エレン「だからこいつぬいぐるみだってば。……コニー、パス」ポイッ

コニー「はいよ」ポスッ

62: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/31(土) 14:23:23 ID:ZplMFRKg

ライナー「!? お前ら、妙な動きはするなぁっ!!」クワッ!!

アルミン「いいから早く証明してくれ!」クワッ!!

ジャン「聞いてんのかモノクマぁっ!!」クワッ!!

コニー「あぁもう……うるっせえな教官来ちまうだろ静かにしろよ!!」ポチットナ



 モノクマ『オマエラおしおきしちゃうよ? うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……』

63: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/31(土) 14:32:27 ID:ZplMFRKg

アルミン「ひぃっ!? お、おしおき……!?」ガクガクガクガク

ライナー「コニー離れろ! 離れるんだ!! 襲われるぞ!!」

コニー「こいつはそんなことしねえよ。なーモノクマー?」ポチットナ



 モノクマ『しょうがないなぁ。お願いされると弱いんだよね』



コニー「ほら、しねえってよ」

ジャン「コニーには懐いてるからだろ!」

コニー「わかったわかった、お前らが怖いのはもう充分わかったから離れろって!」ポチットナ

64: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/31(土) 14:41:37 ID:ZplMFRKg



 モノクマ『あー、あー。マイクテスッ、マイクテスッ。校内放送、校内放送』

 モノクマ『午後十時になりました。ただいまより夜時間になります』

 モノクマ『ではではいい夢を。おやすみなさい……』



ジャン「……!? おい、今何時だ!?」

アルミン「……十時だ。どうやら、モノクマには時間の概念まであるみたいだね」

ライナー「取り敢えず、こいつは眠ったらしいな……」

ジャン「ああ、今のうちに対策練ろうぜ」

65: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/31(土) 14:49:52 ID:ZplMFRKg

コニー「……あれ? そういやベルトルトはどうした?」キョロキョロ

エレン「そういやさっきから静かだな……ん?」



ベルトルト「……」ドヨーン...



エレン「……部屋の隅で膝抱えて座りながらキャンディ撫でてるな」

ベルトルト「馬鹿じゃないもん……」ナデナデ



キャンディ『きゃはー! ははははっ! きゃははっ!』



エレン「おーいベルトルト、帰ってこーい」

コニー「ダメだ、完全に拗ねてるぞあいつ」

66: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/08/31(土) 14:52:36 ID:ZplMFRKg

コニー「なあ、そんなに怖いなら夜の間だけでもサシャに預かってもらうか? キャンディと一緒に」

ベルトルト「キャンディはダメだよ!!」ギュッ

エレン「あ、反応した」

ジャン「へっ、ばーか……お前らが楽しそうにしてるのに、取り上げることなんかできっかよ……」

ライナー「ああ、俺たちのことは気にするな。なんならいないものとして扱ってくれ」キリッ

コニー「いないものとして扱えって……それが無理だから提案してんだけどなー」

ジャン「それに、女子にこんな危険な奴らを預けるわけにはいかねえだろ……!」

コニー「今目つきが危険なのはお前らだけどな。早く寝たほうがいいぞ?」

ライナー「コニーの言う通りだ。睡眠を充分に取れない今の状況はかなりまずい。……今日から交替で見張るか? 二時間交替でどうだ?」

アルミン「見張りもいいけど、襲われた時のために何か武器が欲しいところだよね……鉛筆削るための小さいナイフはあるけど、これじゃうなじを削ぐには心許ないし」ギラッ

コニー「削ぐなよ。直すの俺だぞ」

72: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 16:35:14 ID:SYX6uaUs

ベルトルト「……ねえ、そんなに怖いなら一緒に寝てみればいいんじゃない? 今晩」

ジャン「はぁっ!? なんでそんな話になんだよ!!」

アルミン「僕たちにそんなファンシーでメルヘンチックなことしろって言うの!?」

エレン「あれっ? でもアルミンって小さいころクマのぬいぐるみ抱いて寝てなかったか?」

アルミン「ちょっ……!? なんで言うんだよエレン、秘密にしてって約束したじゃないか!!///」カアアアアッ!!

エレン「たまにミカサに直してもらってたよなー。あいつ最初は縫うの下手くそで、腹と腕一緒に縫いつけちまった時なんかアルミン本気で怒って――」

アルミン「もおおおおおおおおおおっ!! やめてってばあああああああっ!!」バタバタバタバタ

コニー「おいアルミン暴れるなって、埃舞ってるぞ埃!」

ジャン(この反応はマジだったんだなー……)

ライナー「エレン、それくらいにしといてやれ。アルミンにも触れられたくない過去はあるだろう」

エレン「だってアルミンがぬいぐるみと寝たくないって言うからさ、忘れたのかと思って」

アルミン「忘れたい過去なんだよぉ……それに、あれは喋ったりしなかったじゃないかぁ……前提が違うんだってばぁ……」ブツブツ

73: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 16:44:07 ID:SYX6uaUs

コニー「それで、モノクマとは誰が一緒に寝るんだ?」

ジャン「おい、寝るのは決定なのかよ!? 襲われたらどうすんだ!!」

コニー「へいへい、襲われたら俺が助けてやっから安心しろ。ほら、消灯まで時間ねえから早く決めようぜ」

エレン「ここはビビリまくってるジャンでいいだろ。もしくはアルミン」

アルミン「やだよ! やだよ!!」ブンブン

ライナー「いや……仮にも相手はクマだからな。今晩は俺がモノクマを引き受けよう」

ジャン「……じゃあキャンディはアルミンな」

アルミン「ええっ!? なんで僕なのさ、嫌だって言ってるのに!」

ジャン「仮にライナーがモノクマに襲われた場合、お前じゃ助けに行けねえだろ」

アルミン「うっ……確かに、ライナーを襲えるような相手に僕が敵うとは思えないけど……でも、エレンやコニーを起こすことくらい僕にだってできるよ!」

エレン「起こすなよ」

74: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 16:59:03 ID:SYX6uaUs

コニー「よし、決まりだな。モノクマがライナーでキャンディがアルミン!」

アルミン「そ、そんなぁ……」ガクッ

エレン「心配すんなって。何かあったら俺がなんとかしてやっから」

コニー「じゃあまずはライナーにモノクマな」スッ

ライナー「おう。このノートの上に乗せてくれ」スッ

コニー「手で掴めよ」

ライナー「…………仕方がないか」

コニー「ほらよ、腹のところ避けてるから気をつけてな」ポスッ

ライナー「……ほう、クマの割に意外と軽いな」

コニー「綿しか入ってないからな。あと首根っこ掴むのやめてやれよ」

75: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 18:16:13 ID:SYX6uaUs

ベルトルト「はい、それじゃアルミンにはキャンディね。……いい子にしてるんだよ?」ナデナデ



キャンディ『きゃはー! ははははっ! きゃははっ!』



アルミン「ひぃっ……!? 笑い出した……!!」ガクガクガクガク

ベルトルト「アルミンと寝られて嬉しいんだよ。ねー?」ポンポン



キャンディ『嬉しいクル~!』



ベルトルト「ほら、嬉しいって」

アルミン「……からの?」

ベルトルト「そういうのはないよ、アルミン」

76: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 19:20:55 ID:SYX6uaUs

ジャン「よーし、そろそろ灯り消していいか?」

コニー「待った。寝る前にエレンはアルミンに謝っとけよ。さっきからキャンディ抱きかかえたまま膨れてるし」ユビサシ

アルミン「……エレンはいじわるだ」プクーッ

エレン「ごめん、悪かったって。アルミン」

アルミン「……もうしないでね」...ムスッ

エレン「しないって。――じゃあおやすみ、みんな」

コニー「おう、おやすみー」

ベルトルト「おやすみなさい。いい夢見れるといいね」

ライナー「……」ジーッ...

ジャン「座ったまま無言でモノクマと見つめ合うなよライナー。寝ろ」

アルミン「……おやすみなさい」モソモソ

77: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 19:37:36 ID:SYX6uaUs

―― 消灯後

ライナー「……」

ライナー(モノクマの奴、意外とおとなしいな……あれから何も話す気配がない……)

ライナー(それに比べて……)


キャンディ『お話しするクル?』


アルミン「こら、静かにしてってば……」ヒソヒソ


キャンディ『あそんでクルクルあそんでクル~』


アルミン「もう夜中だし、遊ばないよ……」ヒソヒソ

ライナー(……キャンディは落ち着きがないな)

ライナー「……」

ライナー(……寝るか。気を張ってても消耗するだけだしな)モソモソ



ライナー(……そういえば)

78: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 19:39:40 ID:SYX6uaUs


キャンディ『一緒にお出かけしようクル?』


アルミン「だから、しないってば……」ヒソヒソ


キャンディ『 おっさんっぽ おっさんっぽ いっきたいっクル~』


アルミン「我慢してったら……」ヒソヒソ

アルミン(うーん、モノクマと違って、キャンディはこっちの言うことがわかっていないように見えるなぁ……)

アルミン(……いや待てよ、ベルトルトとの会話はきちんと成立してたはずだ)

アルミン(ということは……まだ幼いから、言葉の意味を全部は理解できていないって考えるのが自然かな)

79: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 19:41:28 ID:SYX6uaUs


キャンディ『あそんでクルクルあそんでクル~』


アルミン(いい加減静かにしないとみんな起きちゃうな……)

アルミン(えーっと、昨日のベルトルトはどうやって寝かしつけてたっけ……確かこう……)ギューッ ポチットナ


キャンディ『ふぁ~…zzz...zzz...』


アルミン(やった! これで僕も眠れる……)モソモソ

アルミン「……」



アルミン(……えっと)

80: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 19:43:40 ID:SYX6uaUs

アルミン「……」ムクリ

ライナー「……」ムクリ

アルミン「ライナー、起きてる?」

ライナー「……アルミン、お前もか」

アルミン「うん。……さっきは興奮してて気づかなかったけど、これってかなり深刻な問題だよね」

ライナー「ああ。……じゃあ、行くぞ」

81: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 19:46:42 ID:SYX6uaUs

コニー「……zzz」

アルミン「ねえコニー、聞きたいことがあるんだけど」ユサユサ

ライナー「モノクマやキャンディはどこに寝かせればいいんだ?」ユサユサ

コニー「んあ? あー……、一緒に寝るんだから、同じ布団で寝ればいいだろ……」ムニャムニャ

アルミン「それだとうまく布団をかけられないんだよ。そもそもキャンディ拾ったままの姿だから結構汚れてるし、布団に入れるのはちょっと」

ライナー「アルミンはまだしも、俺の体は大きいしな……一緒に寝たら、最悪モノクマを押し潰してしまう」

コニー「じゃあ……頭の上で座らしとけばいいんじゃねえの……?」ムニャムニャ

82: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 19:48:05 ID:SYX6uaUs

アルミン「頭の上!? それだとキャンディが襲いかかってきた時に逃げられないじゃないか!」

ライナー「それに、布団もなしで寝かせるんじゃかわいそうだ」

コニー「……zzz」

アルミン「コニー起きて起きて起きて」ユサユサユサユサ

ライナー「まだ話は終わってないぞコニー」ユサユサユサユサ

コニー「あーもううるせえなあ……じゃあ、タオルかなんかでベッドでも作ってやりゃあいいだろ……」ムニャムニャ

アルミン「……」

ライナー「……」



アルミン・ライナー「「それだ!!」」



コニー「……zzz」

83: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/03(火) 19:50:38 ID:SYX6uaUs

―― 朝の男子寮

エレン「ふぁ……おージャンにベルトルト、おはよー。起きたのかー?」モソモソ

ベルトルト「おはようエレン。さっき起きたところだよ」

ジャン「エレン、見ろよこれ」

エレン「んー……? ………………ん??」

アルミン「……zzz」スヤスヤ

ライナー「……zzz」グーグー

ジャン「タオルとハンカチでぬいぐるみ用のベッド作ってるぞ、こいつら」

エレン「……屋根ついてる」ツンツン

ベルトルト「ほら、見てよここの装飾。ハンカチでお花なんてどうやって作るんだろうね……」ジーッ

87: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/06(金) 21:08:56 ID:YlBIEtV2

コニー「あーよく寝た! ……ん? お前ら集まって何してるんだ?」

エレン「……これ」ユビサシ

コニー「なんだよ、何が…………………………なんでこいつらベッド作ってるんだ?」

エレン「コニーが何か言ったわけじゃねえんだな?」

コニー「身に覚えがねえなぁ」ポリポリ

ジャン「何があったのかは直接本人たちに聞いたほうが早いだろ。とにかく二人を起こそうぜ」

エレン「そうだな、そうするか。――おーいアルミン、今起きないと間に合わなくなるぞー」ユサユサ

ベルトルト「ライナー、起きて。朝だよ」ユサユサ

アルミン「……ふぁ、おはよ、エレン……」 ボーッ...

ライナー「ん……、なんだ……? もうそんな時間か……?」ボーッ...

ジャン「こんな物までこしらえやがって……お前ら何時に寝たんだよ」

アルミン「えっと、確か……明け方近くだったかな……」ゴシゴシ

エレン「明け方ぁ!?」

88: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/06(金) 21:11:33 ID:YlBIEtV2

ライナー「最初はタオル二枚で済ませようとしたんだが、なんだか見ていて寒そうだったからな……二人で試行錯誤してたら夜が明けていた」

アルミン「それに、ベッドの寝心地がよかったらしばらく寝たままなんじゃないかって思ってね」フフフ

コニー「ここまでやっといてまだ疑えるなんてすげえよ、お前ら」

エレン「この屋根かっこいいよなー、どうやって作ったんだ?」ツンツン

ライナー「ちょいと寮を抜け出してその辺から枝を拾ってきたんだ。なかなか洒落てるだろ?」ニヤッ

ジャン「どんだけ本気で取り組んでんだよ……よく見回りにとっ捕まらなかったな」

ベルトルト「それじゃ、こっちのお花の装飾は誰がやったの?」

アルミン「あ、それは僕。タオルとハンカチで飾り付けても味気なかったからね、ちょっとしたワンポイントがあるだけでかなり見映えがよくなるよね!」エッヘン

89: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/06(金) 21:15:55 ID:YlBIEtV2

ジャン「……もう寝床の話はいいからそろそろ食堂に行こうぜ。時間がなくなる」

コニー「おっとそうだ、そういや他の奴とメシ食う約束してたんだった。――悪いお前ら、俺ちょっと先に行くな!」バタバタ

ジャン「約束だぁ? 誰とだよ?」

コニー「ミカサとクリスタ!」 ガチャッ バタンッ

ジャン「ちょっと待ったぁっ!!」クワッ!!

ライナー「ジャン、俺たちもとっとと準備して行くぞ!」バタバタ

アルミン「……zzz」

エレン「アルミン起きろ、二度寝すんな」ユサユサ

アルミン「あと五分だけだからぁ……」スピー



ベルトルト「キャンディ、いいもの作ってもらえてよかったねー」ナデナデ

90: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/06(金) 21:17:12 ID:YlBIEtV2

―― 朝の食堂

クリスタ「コニー、言われたとおり外出届出してきたよ!」

コニー「おう、そっちは何人だって?」

ミカサ「私とクリスタ、それとミーナの三人。他の子はお留守番。何件かおつかいも頼まれた。これがその一覧」

コニー「ふーん、結構いるな……金の管理は任せていいか? 俺、計算苦手だし」

ミカサ「そうするつもり。コニーはその辺は心配しなくていい」

コニー「助かるぜ、ありがとなー」

ミカサ「教えてもらうんだから、これくらい当然」

クリスタ「うん、私も色々手伝うからね! それでね、今日の夕方なんだけど――」



アルミン「コニー、いつの間にかデートの約束取り付けてたんだね……」

ベルトルト「しかも複数……」

ジャン(ミカサと……)ギリッ...

ライナー(クリスタと……)ギリッ...

エレン「コニー大人気だなー」モグモグ

91: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/06(金) 21:19:27 ID:YlBIEtV2

―― 訓練後 夕方の食堂

クリスタ「わぁ……!」キラキラキラキラ

ミーナ「ベルトルトが抱えてる子、すっごいかわいいね……!」キラキラキラキラ

ミカサ「その子の名前は? 名前は?」ソワソワ

ベルトルト「キャンディだよ。ほら、背中に書いてある」ユビサシ

ミーナ「ねえベルトルト、キャンディと握手していい? だめ?」

クリスタ「あっ、私も私も!」

ベルトルト「僕は構わないけど……結構汚れてるよ? いいの?」

ミーナ「いいのいいの! ……ふふっ、よろしくねキャンディ」ギュッ

クリスタ「次は私ね! ――キャンディ、仲良くしようね!」ギュッ

ミカサ「……」ソワソワソワソワソワソワソワソワ

92: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/06(金) 21:20:28 ID:YlBIEtV2

ベルトルト「……ミカサも握手したいの?」

ミカサ「……したい」

ベルトルト「はい、どうぞ」スッ

ミカサ「……」ギュッ

ベルトルト「どう?」

ミカサ「……///」ホンワカ

ベルトルト「よかったね、ミカサ」

ミカサ「……うん、ありがとうベルトルト。堪能した」ホクホク

コニー「おっしゃ、じゃあ全員揃ったところではじめるぞ。今日は俺、基本的にベルトルトについてるからわかんねえことがあったら聞きに来いよ」

98: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/12(木) 19:42:16 ID:RHa8pR2w

コニー「――とまあ、必要な道具はこんなもんだ。手順もわかったよな?」

ベルトルト「うん、大丈夫。全部覚えたよ」

コニー「……なんか変な感じだな。俺がベルトルトに教えるって」

ベルトルト「まあまあ、たまにはいいんじゃない? こういうのも」

コニー「んー……そうだな、たまにはいいよな! ――よし、いいかベルトルト。最後に一つ教えてやる」

コニー「ぬいぐるみの手入れで一番大切なことはな、ずばり“話しかけて褒めまくる”ことだ! 小手先の技術なんか二の次だ!」

ベルトルト「話しかけて……褒める?」

コニー「ああ。作物や家畜を育ててる奴にも、植物や動物を褒めて褒めて褒めまくる奴がいるだろ? 理屈はあれと同じだな。……まあ、ベルトルトは既にクリアしてるわけだから問題ねえよ」

ベルトルト「えーっと……、褒めることが最後の仕上がりにも関わってくるってことかな?」

コニー「そういうことだな! というわけでベルトルト、キャンディが世界一かわいいと思い込め。褒めろ」

99: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/12(木) 19:49:38 ID:RHa8pR2w

ベルトルト「世界一、かわいい……」ジッ...

コニー「ああ。お前が抱き上げているそいつは誰だ?」

ベルトルト「キャンディ……」ジーッ...

コニー「キャンディはお前にとってなんだ? ただのぬいぐるみか? ――違うだろ?」

ベルトルト「……うん、違う」

コニー「汚れちまってかわいそうだよな……なあベルトルト、お前のその大切なキャンディ、どうしてやるのが一番いいと思う?」

ベルトルト「綺麗にしてあげたいな……」

コニー「そうだよな、キャンディは女の子だもんな。綺麗な格好させてあげたいよな」

ベルトルト「……僕、やるよ。キャンディを世界一かわいい女の子にしてあげるんだ」キリッ

コニー「ああ、その調子だ! ――じゃあ俺ちょっと女子のほう見てくるから、何かわからないことがあったら呼べよなー」テクテク...

100: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/12(木) 19:54:38 ID:RHa8pR2w

コニー「おう! やってるかー?」スタスタ...

ミーナ「ねえねえコニー、モノクマのお腹の傷はどうやって直すの?」ユビサシ

コニー「これか? 俺も悩んでんだよなー……」

クリスタ「このまま普通に塞いでも、かなり傷痕目立っちゃうよね」

ミカサ「痛々しく見えるから、なんとかしてあげてほしい」

コニー「頭ならもうちょっとやりようがあったんだけどなー」ウーン...

ミカサ「……マフラーを巻いてあげたらどうだろうか。垂れ下がったマフラーで傷痕を隠せる」

ミーナ「おおっ、着せ替えだね! ……でもそれ根本的な解決になってなくない?」

クリスタ「それなら、マフラーを傷痕の上に縫い込んで……っていうのもダメかぁ、この傷の形じゃ、上から布をかぶせても不自然になっちゃう」

ミカサ「……やっぱり、ダメ?」シュン

コニー「いや、意外といい考えかもしれねえな。なあ、少しでいいから余った端切れ分けてくれるか?」

クリスタ「いいけど……何に使うの? モノクマの体と同じ色の布はないよ?」

101: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/12(木) 19:57:11 ID:RHa8pR2w

コニー「どうせ傷痕このまま塞いでも結局目立つからな。いっそ隠すのは止めにする。その代わり、手になんか持たせてやろうと思ってよ」

ミーナ「……そっか、他に注意を向けさせて、肝心の傷痕に目を行かないようにするんだね?」

コニー「そういうことだ。こいつはクマだから……ハチミツの瓶でも持たせとくかな。それとも魚のほうがいいのか?」ウーン...

クリスタ「コニー、小物も作れるの?」

コニー「野菜は一通り作れるかなー」

サシャ「食べられますか!?」ニュッ

コニー「うおっ!? サシャ、どっから湧いて出た!?」ビクッ!!

サシャ「その野菜は食べられますか!?」キラキラキラキラ

クリスタ「サシャ、布は食べられないよ?」

サシャ「そうですか……残念です……」シュン...

コニー「今度芋の人形でも作ってやるよ。適当に顔と手足つけりゃそれらしく見えるし」

サシャ「芋人形……」ジュルリ

コニー「食うなよ?」

102: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/12(木) 19:58:03 ID:RHa8pR2w

―― 同刻 教官室

キース「……」カリカリ...

キース(スプリンガーめ、これで何度目のミスだ……)イライラ

モブ教官「キース主任、お伝えしたいことが」

キース「なんだ」カリカリ

モブ教官「近頃、女子訓練兵が夕方に手芸教室を開いているとの噂がありまして……」

キース「それがどうした」

モブ教官「あの……どうやらですね、その中心となってるのが……その……俄には信じがたいのですが……」

キース「……早く言え。私は忙しい」イライラ

モブ教官「……コニー・スプリンガー、だそうです」

キース「……」

キース「……ふむ」

キース「……」

キース「気のせいだろう」カリカリ

教官「ですね」

105: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/13(金) 20:19:49 ID:1SaRN3Yo

―― 夜の男子寮

コニー「さて、今日は誰が一緒に寝る?」

ジャン「……今日もやるのかよ」ゲンナリ

ライナー「まあまあ、そう言うなジャン。モノクマは意外とおとなしかったぞ?」

アルミン「うん、キャンディもお利口さんだったよ?」

ベルトルト「当然だね」フフン

アルミン「僕、今日はモノクマと寝たいな。一緒に話してみたいんだよね」

エレン「じゃあ、今日はジャンとキャンディが寝るってことでいいか?」

ライナー「そうだな。明日は俺がキャンディと、ジャンがモノクマとでいいだろう」

ジャン「うげ、マジかよ」

ジャン(まあ、得体の知れねえクマをいきなり預けられるよりはマシか……)

ジャン「仕方ねえな……ほら、そいつ貸せよベルトルト。いつまで抱きしめてんだ」

ベルトルト「あっ、ごめんごめん」

106: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/13(金) 20:21:04 ID:1SaRN3Yo

ベルトルト「一晩だけだけど、僕の妹をよろしくね。ジャン」

ジャン「……いつ妹になったんだよ。ていうかこいつ女だったのか?」

ベルトルト「ちょっとジャン。人の妹に向かって『こいつ』はないんじゃないかな?」ズイッ

ジャン「あ? あー……うん、悪い」

ベルトルト「キャンディだよ」ズズイッ

ジャン「……」

ベルトルト「キャンディ」

ジャン(め、めんどくせえ……のめりこみすぎだろ、ベルトルトの奴……)

ベルトルト「キャンディ」

ジャン「あー……キャンディ、さんは、その……女の子なんですか?」

ベルトルト「そうだよ」

ジャン「……根拠は?」

ベルトルト「かわいいから」キリッ

ジャン「……あっそ」

107: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/13(金) 20:28:42 ID:1SaRN3Yo

―― 深夜の男子寮

ジャン(アルミンからベッド借りられたのはいいが、でかいな……しかも)



キャンディ『元気いっぱいクル!』



ジャン(うるっせえ……しかも全然寝る気配がねえし……)ゲンナリ

ジャン(そういやこいつ、なんでずっと目開いたままなんだ? まばたきとかしねえのか?)

ジャン(……かわいそうになってきたな。ハンカチかけてやるか)ファサッ

ジャン「……」

ジャン(うーん……なんか違うな……)

ジャン(いや待てよ、寝たら目も自然と閉じるのかもしれねえな。でもこういう時ってどうすりゃいいんだ? 子どもの寝かしつけ方なんて知らねえぞ?)ウーン...

ジャン(……適当でいいか)

108: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/13(金) 20:30:04 ID:1SaRN3Yo

ジャン「ゆーりかごーのーうーたをー♪」

コニー「……」ムクリ

ジャン「カーナリヤーがーうーたうよー♪」

ライナー「……」ムクリ

ジャン「ねーんねーこねーんねーこ♪」

ベルトルト「……」ムクリ

ジャン「ねーんねーこーよー♪」

エレン「……」ムクリ





ライナー「……」チラッ

ベルトルト「……」チラッ

コニー「……」チラッ

エレン「……俺が言ってくる」モソモソ

109: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/13(金) 20:31:41 ID:1SaRN3Yo

エレン「……おい、ジャン」ツンツン

ジャン「ゆーりかごーのーゆーめをー♪」

エレン「ジャンってば」ユサユサ

ジャン「きーねずみーがー……ん? なんだよエレン。今忙しいから後にしろ」

エレン「あのさ、ジャン。お前って本当にいい声してるよな」

ジャン「? ……それがなんだよ」

エレン「ああ、歌も上手いし、正直よく眠れそうだ……でもさ」



エレン「俺たち、野郎の子守唄で寝たくねえんだけど……」

ジャン「……」





キャンディ『わーい! わーい!』

110: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/13(金) 20:33:18 ID:1SaRN3Yo

ジャン「……」チラッ

ライナー「右に同じく」

コニー「俺も」



キャンディ『ハッピーだクル~』



ベルトルト「キャンディは喜んでるけど、僕もちょっと……それは……」

ジャン「……悪い」ショボン...

エレン「あっ……あのさ、ごめんな? ジャンが悪いわけじゃないんだ。それだけはわかってくれ」オロオロ

ベルトルト「うんうん、ジャンってさ、よく眠れそうないい声してるよね! ね!?」オロオロ

ライナー「そ、そうだぞ! 羨ましいなジャン、キャンディに好かれるような声で!」オロオロ

コニー「とにかくジャンは子守唄禁止な」

115: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/19(木) 16:11:16 ID:kqWwTdCs

ライナー「ところでアルミンはもう寝たのか? やけに静かだが」

アルミン「起きてるよー」ニョキッ

エレン「なんだよ、起きてるなら言え……って……」

コニー「アルミンはジャンの歌聞いて眠くならなかったのか? 二日続けてほぼ徹夜だろ?」

アルミン「うん。それどころじゃないからね」

ベルトルト「? どういう意味?」

エレン「……おいアルミン、何してるんだ?」

アルミン「見てわからない?」

エレン「わからないから聞いてんだよ」

アルミン「僕はね、モノクマと一体になってるんだ」

116: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/19(木) 16:12:38 ID:kqWwTdCs

エレン「……いや、腹に耳当ててるようにしか見えねえけど」

アルミン「さっき言ったでしょ? 僕はモノクマとお話ししたいんだ」

ライナー「そういやさっきそう言ってたな」

ベルトルト「お腹に耳を当ててることと何か関係あるの?」

アルミン「前にエレンが言ってたことを思いだしたんだ。モノクマはお腹で喋るんだよね? ということは、話を聞きたいならお腹に耳を傾けないと」

コニー「傾けないとっていうか枕にしてるけどな。腹破けてるから気をつけてくれよ?」

アルミン「うん、そこはちゃんと気をつけるよ。――ところでエレン、見てよ……モノクマのお腹の、このでっぷりとしたライン……」スススッ

エレン「指でなぞるなよ」

アルミン「……かわいくない?」

エレン「……確かにでべそはかわいいな」

アルミン「でしょ?」ウフフ

117: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/19(木) 19:13:16 ID:kqWwTdCs

―― 一時間後

アルミン「……」ピトッ

アルミン(全然喋ってくれないなぁ、モノクマ……)

アルミン(もしかして、二人っきりだから緊張してるのかな?)

アルミン「……」

アルミン(あ、ダメだ……この体勢だと…………ねむい………………)ウトウト

アルミン「……zzz」グニュッ ポチットナ



 モノクマ『明けない夜はないよ、真っ暗な朝だけどね』

 モノクマ『止まない雨はないよ、干ばつ状態になるけどね』

 モノクマ『そう、終わりがあるから新しいはじまりもあるのです』



アルミン「ふぁっ!?」パチッ

118: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/19(木) 19:14:05 ID:kqWwTdCs

アルミン(し、しまった……せっかくモノクマが喋ってくれたのに、聞き逃しちゃった……!)

アルミン(くそっ! どうして僕は肝心な時に寝ていたんだ……!)ギリッ

アルミン(いくら耳を傾けても、聞いてないんじゃ意味がない! ちくしょう!)ダンッ! ボフッ!

アルミン(……でも、聞き逃しちゃったのもしょうがないんじゃないか? モノクマのお腹はぽっこりして寝心地がいいし、耳もちょうど掴みやすい位置にある。これじゃあ話を聞くどころか寝てくれって言われてるようなものだ)

アルミン(…………いや待てよ。もしかしたら、モノクマにはこの僕の睡眠欲が見透かされてたのかもしれない)

アルミン(きっと無意識に考えちゃったんだ……モノクマを枕にしてぐっすり眠りたいっていう僕の願望が、モノクマにはバレバレだった……! 僕の覚悟は、足りなかった……!)

アルミン「……モノクマ、枕にしちゃってごめんよ」ムクリ

アルミン「君が喋るまで、僕はもう寝ない。こうして座って、君と正面から向きあおう……!」

アルミン「さあ、なんでも話してくれ、モノクマ……」ゴゴゴゴ...

121: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 00:07:57 ID:OGCRpmCM

―― 朝の男子寮

エレン「ふぁぁああ……あれ? アルミン早いな。おはよう」ゴシゴシ

アルミン「……おはようエレン。いい朝だね」

エレン「それで、モノクマと話はできたのか?」

アルミン「うん。僕たちは魂と魂で通じ合った」

エレン「そっか、よかっ…………なんつった?」

アルミン「モノクマの……いや、モノクマさんの言う通りだ。明けない夜も、止まない雨もないんだよ、エレン」ギンギンギンギン

エレン「……お、おいアルミン? 大丈夫か? お前もしかして寝てないのか? なあ」ユサユサ



アルミン「終わりがあるから、新しいはじまりもある……!」ギンギラギンギラ



エレン「」

エレン(な、何を言いたいのかさっぱりわかんねえ……アルミンが、寝不足でおかしくなっちまった……)

122: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 00:10:48 ID:OGCRpmCM

―― 夕方の食堂

ミカサ「……コニー、モノクマはどうしたの? キャンディはあそこでベルトルトと楽しそうにしてるけど」ユビサシ

コニー「今朝からアルミンが放してくれねえんだよ。だから今日は手入れは休み」チクチク

ミカサ「アルミンが……? 何故?」

コニー「さあな。本人に聞けよ。――よしできた。おらよサシャ、やる」ポイッ

サシャ「わっ……っとと」ガシッ

サシャ「……? なんですか? これ」ジーッ...

ミカサ「……芋のお人形」ジーッ...

クリスタ「わぁっ、かわいい! ちゃんと顔と手足がついてるー!」キラキラキラキラ

ミーナ「コニー、作るの早いね」

コニー「ああ。野菜作るの慣れてるからな」チクチク

サシャ「もらっていいんですか? これ」

コニー「話聞いてなかったのかよ。やるっつってんだろ」

サシャ「じゃあ……ありがたくいただきます。大切にしますね!」ニコッ

123: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 00:12:16 ID:OGCRpmCM

クリスタ「ねえねえサシャ、よかったら私たちにも見せてくれる?」

サシャ「いいですよー、どうぞ!」スッ

ミーナ「どれどれ? ――うーん、相変わらず手縫いとは思えない細かさだよね……」ジーッ

ミカサ「人は見かけによらない……」チラッ

コニー「ま、柄じゃねえのは自覚してるよ」チクチク

ミカサ「あっ……いえ、コニーのことをけなしたわけではなくて、その……」オロオロ

コニー「いいっていいって。男がこういうチマチマしたのやってる方が珍しいんだからよ」チクチク





クリスタ「――そうだ、この子に名前つけようよ!」

コニー「……」ピクッ

124: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 00:13:54 ID:OGCRpmCM

サシャ「そうですね……じゃあ、コニーが作った芋の人形だから……コイモ?」ウーン...

ミーナ「……見たまんまだね」

サシャ「捻りがないですかね? でも他に思いつかなくて……」ウーン...

ミカサ「こういうのはインスピレーションが大事。そのままで行こう」

クリスタ「待って、コイモは男の子なの? 女の子なの?」

コニー「……」ピタッ

サシャ「コニー、この子はどっちですか?

コニー「芋に男も女もねえよ。芋だ」チクチク

クリスタ「でも、コイモくんかコイモちゃんかわからないと呼び方に困るよ?」

サシャ「コニー、この子は一人なんですか?」

コニー「ああそうだよ。鍋でじっくりコトコト煮込まれるまで独り身だ」チクチク

サシャ「そんな……かわいそうですよ。せめてお友達を作ってあげましょうよ」

コニー「サシャ。――今からこの俺が、ありがたーい話をしてやろう」

125: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 00:15:14 ID:OGCRpmCM

コニー「俺、妹と弟がいるんだけどよ。……弟が生まれてすぐのころ、俺が妹の遊び相手になってやった時期があったんだ。三ヶ月くらい」

コニー「サニーは……妹は人形遊びが大好きでさ。母ちゃんが古くなった服の端切れで作ってくれる人形を、いつも楽しみにしてたんだよな」

コニー「でも、その時ばかりは弟の世話で忙しくて人形なんか作ってる暇なくてよ。……妹は楽しみにしてたもんだからすっかり拗ねちまって、俺や母ちゃんの言うこと全然聞かなくなっちまったんだ」

コニー「俺、洗濯は手伝えても料理とかはからっきしだし……これ以上母ちゃんに負担かけるわけにはいかねえから、代わりに見よう見まねで人形作ってやったんだよ」

コニー「手に針何回も刺しながらなんとか作ったんだけどよ。……当然だが、今とは比べものになんねえくらいヘッタクソでさ」

コニー「縫い目も粗いし、綿が飛び出ててかなり不格好だった。けど、妹はかなり喜んでくれてさ。その日は寝る時も握って放さなかったな」

クリスタ「コニー……」ジーン...

サシャ「いいお兄ちゃんだったんですね……」ジーン...

ミカサ「妹さんが、羨ましい……」ジーン...

ミーナ「嬉しかっただろうね、妹さん……」ジーン...

コニー「……おい勝手にいい話にすんな。ここからが本題だ」

126: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 00:16:02 ID:OGCRpmCM

コニー「一週間くらい経ったある日のことだ。俺の妹は、さっきのサシャと同じことを言った。『お兄ちゃん、この子にお友達を作ってあげて』ってな。その時の俺はかなり調子乗ってたから、特に何も考えずにそのお友達とやらを作ってやった」

サシャ「……いい話じゃないですか」

コニー「違ぇよ。それで、今度は一週間経たないうちに次のお願いがきた。『女の子二人だけじゃかわいそう。男の子が二人欲しい』ってな。俺はまた作った。これで人形は四体だ」

クリスタ「……うん」

コニー「その四体を作り終えて俺が一息ついてると、また妹が人形を持ってきて言うわけだ。『この子たちの家族はいないの?』――俺は兄弟姉妹を律儀に四人分作ってやった。これで二十体だな」

ミーナ「……そうだね」

コニー「兄弟姉妹を仕上げたその日の晩だったかな。狩りから帰ってきた父ちゃんの話を聞いてたら、妹がまた寄ってきた。『どうしてこの子たちにはお父さんとお母さんがいないの?』――俺は夜なべして父ちゃんと母ちゃんを作った。後から言われるのも目に見えてたからじいちゃんとばあちゃんも作ってやった。これで三十六体だな」

ミカサ「……あの」

コニー「隣の村から親戚のおばさんがやってきた時は、俺は三十二体の大家族を見せて粋がってたんだが、妹は違った。『この子たちに親戚はいないの?』なんて言い出しやがった。それぐらいの時期に、俺は人形の数を数えるのをやめた」

サシャ「……コニー? もういいですよ? ねえ」

127: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 00:17:51 ID:OGCRpmCM

コニー「それから毎日毎日毎日毎日、俺は妹に言われるがままに人形を次から次へと作ってやったわけだ。女の子にはリボン、父ちゃんには黒いヒゲ、じいちゃんには白いヒゲ、ばあちゃんには謎の小じわを足しながらな」

クリスタ「コニー? 聞いてる? ねえってば」ユサユサ

コニー「村長が来たら村長の家族を作り、駐屯兵が来たら駐屯兵の家族を作り、果てはその家族の友だち兄弟姉妹親とじいちゃんばあちゃん親戚を作らされ……こうしてスプリンガー家には、十二種百三十五体の野菜王国が誕生した」

ミーナ「……」

コニー「ちなみに妹はその三ヶ月で飽きた」

ミカサ「……」

コニー「わかるか? ……つまり、キリがねえんだよ」

サシャ「すみませんでした」

クリスタ「ごめんねコニー」

ミーナ「手は大丈夫?」

ミカサ「肩でも揉もうか?」バキッボキッ

コニー「握りつぶされたくないからいらねえ」

132: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 21:09:55 ID:OGCRpmCM

―― 夜の男子寮

エレン「……今日は、ジャンがモノクマと一緒に寝る日だったよな」チラッ

ジャン「まあ、そうだがよ……あれを取り上げるのは無理だろ……?」チラッ



アルミン「うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……」ニヤニヤ



コニー「訓練中以外はずっと抱いてるなー、アルミン」

エレン「俺、頬ずりしてたの見た」

ジャン「俺は高い高いしてるの見た」

エレン「……どうする?」

ジャン「どうもしねえよ。モノクマはアルミンの管轄でいいだろ、もう」

コニー「綿買ってきたら返してもらえっかなぁ、モノクマ」

133: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 21:11:09 ID:OGCRpmCM

エレン「それで、今日はライナーがキャンディと寝る番だけどよ……」チラッ

ジャン「……」チラッ



ライナー「……」ソワソワ



ジャン「なあ、ライナーの奴なんでソワソワしてんだ?」ヒソヒソ

エレン「俺にはわかる……昔、あれとそっくりな光景を見たことがある」

ジャン「へえ、話してみろよ」

エレン「あれは確か……開拓地にいたころだったかな。ミカサが俺の誕生日に小さな花束をくれたことがあってよ」

ジャン「……」

134: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 21:12:25 ID:OGCRpmCM

エレン「『アルミンにアドバイスしてもらいながら摘んできた。午前中に準備したから、少し萎れてしまったのだけれど……』」

ジャン「…………」

エレン「『エレンに、あげる……///』と頬を染めながら俺にささやかな花束を差し出してきた時のミカサに似てる」キリッ

ジャン「さりげなく自慢してんじゃねえよ死に急ぎ野郎が羨ましいんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」バンバンバンバン!!

エレン「なーに興奮してんだよジャン、馬みてえだぞ」ハハハ

ジャン「てめえ確信犯かこらぁっ!! あと微妙に声真似上手いのも腹立つ!!」

コニー「おいうるせーぞー、何騒いでんだー?」

135: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 21:14:13 ID:OGCRpmCM

ジャン「……」ゼエハア

エレン「落ち着いたかー?」

ジャン「……ミカサとライナーが似ているという、おぞましい事実は置いておく」

エレン「おう」

ジャン「それで……結局ライナーは何しようとしてるんだ? 花束なんかどこにもねえぞ?」

エレン「そんなのライナーに聞けよ。……お、どうやら動き出すみてえだぞ」ヒソヒソ

ジャン「? 胸ポケットから取り出したあれは……やけにちっせえが、紙袋か?」

エレン「そういやおつかいで立体機動装置の部品買ってきた時、あんな袋に入れてもらったなー」



ライナー「……」スタスタ... スッ



ジャン「……ベルトルトの前で跪いたな」

エレン「どっちかっていうとベルトルトの膝の上に座っているキャンディの前でじゃねえか?」

136: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 21:15:53 ID:OGCRpmCM

ライナー「その……こういうことははじめてだから、どうしていいかわからないんだが……」モジモジ

ライナー「……キャンディに、これをやろう」スッ

ベルトルト「……? 開けていいの?」

ライナー「ああ。いいぞ」

ベルトルト「どれどれ……? ――!! ライナー、これって……!」

ライナー「ああ……キャンディへの、プレゼントだ」

エレン「……おい、ライナー」

ジャン「なんだよその針金は」

ライナー「針金じゃない。廃材で作ったかんざしだ。技巧の時間に作った」ドヤァ

エレン「お前訓練中に何やってんだ」

ライナー「よかったら、今キャンディにつけてもらってほしいんだが……」ソワソワ

ジャン「おい。身体揺するな」

137: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 21:18:27 ID:OGCRpmCM

ベルトルト「待ってくれ、ライナー……ダメだよ、これは着けられない」

ライナー「……やはり好みに合わなかったか」ショボン...

ベルトルト「あっ……ううん、違うんだ。金属製のヘアーアクセサリーだと髪が傷んじゃうからダメなんだよ。キャンディ自身はすごく喜んでるよ? ね?」ナデナデ



キャンディ『わーい! わーい!』



ベルトルト「ほらね?」

ライナー「そ、そうか? そうか?」ソワソワ



キャンディ『ハッピークル!』



ライナー「喜んでくれたか、よかった……///」テレテレ

ベルトルト「キャンディもお年頃の女の子だからね……アクセサリーをもらったら喜ぶと思うから、また作ってあげてよ。ライナー」ニコッ

ライナー「……ああ、任せとけ!」ニカッ

138: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/21(土) 21:20:27 ID:OGCRpmCM

ベルトルト「じゃあこのかんざしは、キャンディが大きくなったらつけてあげようね」ニコニコ

エレン「ぬいぐるみは成長しねえぞ」

ベルトルト「それまではこのアクセサリーボックスにしまっておこう」ゴソゴソ

ジャン「……おいベルトルト、なんだその木箱」

ベルトルト「廃材で作ったんだよ。技巧の時間に」

ジャン「お前らマジで何やってんだよ」

ベルトルト「おっとジャン、驚くのはまだ早いよ!」フフン

ジャン「呆れてんだよ」

ベルトルト「これね、なんとツマミつきなんだ……! 蓋を開けるのもお茶の子さいさいさ……!」ヒョーイヒョーイ

ジャン「……凄さがわかんねえ」

143: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:19:16 ID:jtaQP5Jk

エレン「なあ……どうするよジャン。アルミンもベルトルトもライナーも壊れちまったぞ」ヒソヒソ

ジャン「ベルトルトは前々から兆候があったが……アルミンとライナーは完全に予想外だった」ヒソヒソ

エレン「残ったのは、俺たち二人だけ……」チラッ

ジャン「ああ……」チラッ

コニー「俺もいるけど」

エレン「……」

ジャン「……」

エレン「まさか、お前と協力する日が来るとはな」フッ

ジャン「背に腹は代えられねえだろ。――俺は一人になっても戦い続けるからな!」ガシッ

エレン「先に脱落するんじゃねえぞ、ジャン!」ガシッ

ジャン「おうよ!」

コニー「俺もいるぞー」ツンツン

144: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:22:16 ID:jtaQP5Jk

―― 次の日 対人格闘訓練

コニー「おーいたいた。――サシャ、誰もいないなら俺と組もうぜー」

サシャ「いいですよー」バイーン

コニー「……おいなんだその胸の膨らみは」

サシャ「これですか? 右胸にはコニーが作ってくれたコイモさんが入ってて、左胸には私の非常食のお芋さんが入ってます」

コニー「……」

サシャ「……あれ? 逆でしたっけ?」クビカシゲ

コニー「知らねえよ。……いいからやろうぜ」

サシャ「はーい、それじゃ行きますよ! ――あちょー!」ポロッ

コニー「……」

サシャ「あ、コイモちゃん落ちちゃいました。すみません」ヒョイッ

コニー「蓋閉まらねえの? それ」

サシャ「閉まりません」キリッ

コニー「それじゃ訓練にならねえだろ!? つーか部屋に置いてこいよ、持ってくるな!」ガミガミ

サシャ「えー……せっかくもらったのにー……」ムー...

145: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:29:07 ID:jtaQP5Jk

―― 夕方の食堂

ジャン(あそこにいるのは……コニーとベルトルトか。ミーナもいるな。サシャはなんで横で芋いじくってんだ?)

ジャン(まあいい。近くを通らないようにっと……)スタスタ...

ジャン(よし、さっさと部屋に戻るか)

クリスタ「ジャン、何してるの?」

ジャン「うわっとぉ!? ……なんだクリスタか。水飲みに来ただけだ」

クリスタ「ふぅん……ねえ、ジャンって本読むの得意?」

ジャン「あぁ? 本を読むのに得意も不得意もねえだろ」

146: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:30:29 ID:jtaQP5Jk

クリスタ「じゃなくって……ええっと、なんて言えばいいのかな。――そう、図解を読み解くの得意だよね? 技巧の成績いいし」

ジャン「まあ、それなりには得意だけどよ」

クリスタ「よかった! じゃあ手伝って!」グイッ

ジャン「は? あの中に混ざれってのか!? 冗談じゃねえ、コニーに聞けばいいだろ!?」

クリスタ「コニーにばっかり頼れないんだもん。お願い……」キュッ...

ジャン(どうすっかな……正直、関わり合いにはなりたくねえが、ここで見捨てるのは後味悪いし……)

ジャン「……仕方ねえな。今回だけだからな」

クリスタ「うん、ありがとう!」ニコッ

147: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:39:27 ID:jtaQP5Jk

ジャン「で? 何をどうしろって?」

クリスタ「ここの4番の図なんだけど……やってるうちによくわからなくなっちゃったの」ユビサシ

ジャン「どれどれ? ……おいちょっと待てクリスタ」

クリスタ「何? やっぱり無理そう?」

ジャン「違ぇよ。そもそもお前が作ったこの物体と、本に載ってる4番の形がかなり違うんだが」

クリスタ「ああ……うん、実はね、2番まではちゃんとできてたんだけど、3番からはちょっと自信がなくなっちゃったんだよね……それで、そのまま4番に進んだらもっとわからなくなっちゃって」

ジャン「そういうことは早く言えよ……なら2番まで戻らないとダメだろ」

クリスタ「ええっ!? そしたら全部ほどくことになっちゃうよ?」

ジャン「……面倒くせえな。1番から作り直すか。材料余ってるか?」

クリスタ「うん、あるよ。……えっと、これとこれ」

148: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:45:16 ID:jtaQP5Jk

ジャン「へいへい。んで、まずは1番は――」



 作り方 1 : この形からはじめます



ジャン「……この形ってどの形だ。なんでほとんどできあがってんだよ」

クリスタ「あ、それはこっちのページに書いてあるよ」パラパラ...

ジャン「なるほどな、基本の形があるのか……で、なんだって?」ペラッ



  基本 1 : 二枚の生地を重ね合わせて巻きがかりで縫います



ジャン「……巻きがかりってなんだ」

クリスタ「それは巻末に書いてあるよ」パラパラ...

ジャン「……」

クリスタ「じゃあ基本の1からやっていくね。その間にジャンは続きを読んでて」チクチク

149: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:46:45 ID:jtaQP5Jk

ジャン「……」ペラッ



  基本 2 : 生地を裏返し、本誌15ページで作ったリボンをつける



ジャン「……おいクリスタ」

クリスタ「何?」チクチク

ジャン「これ手芸書じゃなくてゲームブックじゃねえの?」

クリスタ「えっ、そんなに面白い? 興味持ってくれたの?」

ジャン「別の意味でな。というかむしろこの本の構成には興味じゃなくて悪意を感じる」

クリスタ「手芸書はだいたいどれもそんな感じだよ」チクチク

150: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:49:12 ID:jtaQP5Jk

ジャン「なあ、お前この本に騙されてるんじゃねえか?」

クリスタ「あははっ! 面白い冗談だね、ジャン」

ジャン「俺は割とマジで言ってるんだが……ったく、なんで見ず知らずの野郎の手のひらで踊らされなきゃなんねえんだ。で、続きは――」ペラッ



  基本 3 : 耳をつける



ジャン「なあクリスタ」

クリスタ「何?」チクチク

ジャン「耳は?」

クリスタ「35ページ」チクチク

ジャン「……なんでこいつたまに素に戻るんだ? 説明するのはいいが敬語で統一しろよ」

クリスタ「本に文句つけるなんて大人げないよ?」

151: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:50:36 ID:jtaQP5Jk

ジャン「文句付けるなって言ってもな……お、次で最後か」ペラッ



  基本 4 : 頭に耳をつけると図のようになります。応用編は53ページから



ジャン「その耳の付け方は説明しねえのかよ!!」バシーン!!

クリスタ「きゃっ!?」ビクッ

ジャン「途中の図も省略しすぎだろ!! ていうか全部同じページにまとめろっての!!」

クリスタ「じゃ、ジャン……? どうしたの、大きな声出して……」ビクビク

ジャン「悪いがここまでだクリスタ。こんなのにもう付き合ってられねえ」ガタッ

クリスタ「あ、うん……ごめんねジャン。私が無理に教えてくれなんて頼んだから、嫌な思いさせちゃった……」ショボン...



コニー「よーっすクリスタ! どこまで進んだ?」ヒョコッ

152: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:52:06 ID:jtaQP5Jk

ジャン「……コニーか」

クリスタ「あっ……あのね、途中までできてたんだけど、なんか間違っちゃってたみたいで」

コニー「どれどれ? ……あーそうだな、これは糸ほどくしかねえなぁ」

クリスタ「だよね。じゃあ、最初からやり直しかぁ……」ハァ

コニー「ん? やり直す必要はねえぞ? ちょっと待ってろ」チクチク

コニー「……ほら、これで三番まで戻れたろ?」

クリスタ「えっ? ――あっ、本当だ!」

コニー「こんがらがった時は落ち着いて確認な、クリスタ」

クリスタ「うん、ありがとうねコニー! それにしても、こんなに難しいのにコニーはすごいなぁ……」



コニー「んなことねえよ、こんなの簡単だって! 俺にでもできるんだからよ!」ニッシッシ



ジャン「……」イラッ

153: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 19:53:54 ID:jtaQP5Jk

コニー「つーわけで、次は4番だな。ここは――」

ジャン「待てよコニー。……先に頼まれたのは俺だぞ」

コニー「ん? そうなのか?」

クリスタ「でもジャン、もう嫌だって言ってなかった?」

ジャン「言ったけどよ、男が一度引き受けたんだから投げ出すわけにはいかねえだろ」

ジャン「というわけでクリスタ、よかったらその手芸書を今晩貸してくれ。明日までにはお前に教えられるようにしておくから」

クリスタ「……本当にいいの?」

ジャン「男に二言はねえよ」

クリスタ「ありがとう、すごく助かる!」ニコッ

コニー「おおっ、よかったなークリスタ! ジャンもよろしくな!」

ジャン「ああ、任せとけ」



ジャン(……あの馬鹿なコニーにできて、俺にできないはずがねえ。見てろよ……!)メラメラメラメラ...

158: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 21:26:26 ID:jtaQP5Jk

―― 夜の男子寮

コニー「……」チクチク

ベルトルト「……」シュッシュッ

ライナー「……」カチャカチャ

アルミン「うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……」ニヤニヤ

ジャン「……」ペラッ

エレン「……」

エレン(……なんだこれ)

エレン(コニーが野菜作り、ライナーがアクセサリー作り、ベルトルトはキャンディの手入れ、アルミンは……………………うん)

エレン(いや、それより……ジャンが勉強してるのはどういうわけだ? 黙ってここにいるのに耐えられなくなっちまったのか?)

エレン「……」

エレン(……全員作業してるし、邪魔しないように静かにしてるかな。筋トレでもするか)

159: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 21:27:19 ID:jtaQP5Jk

エレン(よし、じゃあまずは腹筋100回でも――)

ベルトルト「そういえばさー」シュッシュッ

ライナー「んー? どうしたー?」カチャカチャ

エレン(!? どういうことだ、急に会話が始まったぞ……?)

ベルトルト「対人格闘の時間にー、サシャが途中で抜けたでしょー? あれ何だったのー?」シュッシュッ

コニー「あーあれかー。あいつさー、俺がやった芋人形を胸ポケットに入れててなー、置いてこいって言ったからだなー。何かしようとするとポロッポロ落とすんだよなー。正直見てられねー」チクチク

ライナー「そんなことがあったのかー、気づかなかったなー」カチャカチャ

エレン(な、なんだ? このダラダラした会話は……俺も喋っていいのか? ていうかお前ら集中してるんじゃねえのかよ?)

160: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 21:28:21 ID:jtaQP5Jk

エレン(……! そうだ、ジャンは勉強してるのにうるさくしてたら迷惑じゃねえか? 注意したほうがいいよな)

エレン「あ、あのさ――」

ジャン「おいコニー」

エレン「」ビクッ

コニー「んー? なんだー?」チクチク

ジャン「なみ縫いとぐし縫いって何が違うんだ?」

コニー「幅」

ジャン「なるほどな」カキカキ...

エレン「……」

エレン(は? 何? なんだよ今の会話)

エレン「なあジャン、お前勉強してるんじゃないのか?」

ジャン「してるよ」

エレン「そ、そっか、そうだよな、じゃあ邪魔しないほうがいいよな、うん」

161: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 21:29:33 ID:jtaQP5Jk

エレン(まあ、会話してても別に誰も気になんねえみたいだし、俺も混ぜてもらうかな……)チラッ

ベルトルト「そういえばさー、僕まだ確かコニーに生地の代金払ってなかったよねー、いくらだっけー?」



 モノクマ『今回僕が用意したのは、これでーす! ひゃっくおっくえーん!』



アルミン「ひゃっくおっくえーん」

ベルトルト「そっかー、ひゃっくおっくえーんかー」



 モノクマ『もし、卒業生が出た場合のプレゼントにします!もう、ウッハウハでしょ?』



ライナー「だよなー、俺もそう思ってたー」

コニー「ウッハウハだよなー」

162: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 21:30:43 ID:jtaQP5Jk

ライナー「なーベルトルトー、キャンディにネックレスはどうだー?」

ベルトルト「あー、いーんじゃなーい? キャンディはどうかなー、ネックレスほしいー?」



キャンディ『お耳とかしてクル♪』



ベルトルト「ほしいってー」

ライナー「よーしはりきって作っちゃうぞー」

ジャン「コニー、ジャーマン・ノット・ステッチの糸は何本取りがいいんだ?」

コニー「あー、俺は六本で刺すかなー。用途によって使い分けるけどー」

エレン「……」

エレン(………………混ざりにくっ)

エレン(おいおい、なんでこんな中身がないようである会話してんだよ……? 集中しろよお前ら! それとも喋ってるほうが集中できるってのか!?)イライラ

エレン「……」

エレン(……筋トレしよ)

163: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 21:31:47 ID:jtaQP5Jk

―― 翌日 昼休み

ライナー「よおサシャ、ちょっといいか?」

サシャ「はい? なんですか?」バイーン

ライナー「ちょっとその胸ポケットに入ってる人形を貸してくれ」

サシャ「……あげませんよ? コニーにもらったんですから」ギュッ

ライナー「別に取って食うわけじゃない。持ち運びやすくしてやるだけだ。コニーにもいじくる許可を取ってきた」

サシャ「……わかりました。どうぞ」スッ

ライナー「よし、ちょっと待ってろよ」

サシャ「……」ジーッ...

ライナー「……」カチャカチャ

サシャ「……まだですかー?」クイクイ

ライナー「まだ一分も経ってないぞ。少し待て」

サシャ「……」ソワソワ

ライナー「……逆のポケットに入ってる芋でも食ってろ」

サシャ「はーい」モグモグ

164: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/09/27(金) 21:33:04 ID:jtaQP5Jk

ライナー「ほら、できたぞ。持っていけ」プラーン

サシャ「おお……コイモちゃんの頭から、鎖が……」ブーラブーラ

ライナー「金具で取り付けられるようにしておいた。どこに下げるかはお前の好きにしろ」

サシャ「……あの、お礼に私は何をしたらいいでしょうか。水汲みですか?」

ライナー「そんなのいらん。……コニーが訓練に集中できないって言ってたからやっただけだからな。もうポロポロ落とすんじゃないぞ」

サシャ「はーい、気をつけますね」ブーラブーラ

ライナー「おう。――さて、工具を返しに行くか……ん?」



ミーナ「……」ジーッ...



ライナー「……お前もか? ミーナ」

ミーナ「……お願いしてもいい?」エヘヘ

168: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:40:39 ID:15sGo8ZA

―― 夕方 食堂

ベルトルト「ふふっ……キャンディ、すごくかわいいよ……」ナデナデナデナデナデナデナデナデ

ミーナ「ライナー、手が大きいのに器用だよね。羨ましいなー」

ライナー「立体機動装置の整備よりは簡単だからな。ミーナもやろうと思えばすぐできるさ。なんなら教えてやろうか?」カチャカチャ

ミーナ「いいの? じゃあお願いしちゃおっかなー♪」



ジャン「ここをこうしてっと……ほら、できたぞ」

クリスタ「わぁっ、すごーい……すぐできちゃった! 本当に一晩で教えられるようになっちゃうなんて、ジャンって器用なんだね」

ジャン「ま、俺の手にかかればこんなもんだ」

クリスタ「よかったらまた教えてほしいな。教え方、とってもわかりやすかったから」

ジャン「……暇な時に、気が向いたらな。もう俺は行くぞ」ガタッ

ミカサ「あっ……あの、待ってジャン」

ジャン「……」ピクッ

ミカサ「あの……もしよかったら、こっちの本も教えてほしい。……だめ?」

ジャン「俺に任せろ」キリッ

169: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:41:57 ID:15sGo8ZA

―― 数日後 夜の男子寮

コニー「アルミンってば、モノクマ貸してくれよー。腹に綿詰めたいんだってー」

アルミン「いや」プイッ

コニー「な、いい子だから」

アルミン「だめ」ブンブン

コニー「仕方ねえな……よしアルミン、これと交換しよう。ミニサイズのモノクマ、略してミニクマだ。ライナーに金具を取り付けてもらったから訓練中も一緒にいられるぞ」

アルミン「……直したら返してね?」スッ

コニー「おう。任せとけ」



キャンディ『お耳とかしてクル♪』



ライナー「よしよし、じゃあこのリボンをつけてやろう」シュルッ

ジャン「おい、待てよライナー。――そのリボン、さてはお取り寄せしやがったな?」

170: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:42:45 ID:15sGo8ZA

ライナー「ほう……何故そう思う?」

ジャン「縁取りしてあるリボンなんて、トロスト区の手芸屋じゃあ滅多にお目にかかれねえからな。そう考えるのが普通だろ?」

ライナー「お前の言うとおり、これは内地で売られているものだ。――だがな、お取り寄せしたなら商品が手元に届くまで最低一週間はかかる。この意味がわかるな?」

ジャン「!! そうか……! こんな短期間で手に入るわけがねえ……っ!」

ライナー「読みが外れたな」ニヤッ

ジャン「――いや待てよ。そういや手芸屋に行ったあの日は、街に行商人が来てたはずだよな?」

ライナー「よく覚えていたな。――そうだ、これはあの時の行商人と交渉して手に入れたものだ」

ジャン「なるほどな……つまりそれはキャンディのために調達した、特別な品ってわけだ。――だが、それだけじゃあないだろ?」

ライナー「……やはり気づいたか」

ジャン「そのリボンの結び目に縫い付けてあるハートのモチーフはどこで手に入れた?」

ライナー「お前は本当に現状を認識する能力が高いな」フッ

ジャン「誤魔化すなよライナー! シルバーのハートのモチーフはなぁ、俺たちの給金じゃ到底届かない価格で売られていたはず――っ!! まさか!!」

ライナー「ああ、お前の考えている通りだ」

171: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:43:40 ID:15sGo8ZA

ジャン「まさか……廃材、だと……?」ガタガタガタガタ...

ライナー「なかなか味があっていいだろ? この形の欠片を探すのに二日かかったがな」

ジャン「二日……!? お前、ミーナにキーホルダーの作り方まで伝授してたじゃねえか……!!」

ライナー「愛の前では些末なことだ」

ジャン「愛……ね。なるほどな、それがお前の愛の形ってわけだ。でもよ、金をかけるだけが愛じゃないぜ、ライナー」

ライナー「なんだと……?」ピクッ

ジャン「今日のキャンディに似合うのは、ラメ入りスパンコール生地で作ったこのシュシュだろ? どう考えても」ファサッ

ライナー「!! これは、もしかして……お前のお手製か?」

ジャン「そうだ。生地選びからこだわった最高の一品だ。女って奴ぁピンクが大好きだからな……それでいて、キャンディの魅力を損なわずかつ引き出す一枚を選び出すのには苦労したぜ」

ライナー「……見せてもらってもいいか? そのシュシュを」

ジャン「お安いご用だ。存分に見るといい」スッ

172: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:44:38 ID:15sGo8ZA

ライナー「どれどれ……ふむ、ゴムを入れた後の縫い目が全くわからないな。生真面目なジャンらしい」

ジャン「せっかくオシャレしたのに、中のゴムが見えていたり縫い目が荒かったら台無しだからな。そこはこだわったぜ」

ライナー「それにしても、まるで機械で縫ったかのように丁寧だ……これを、本当にお前が……?」

ジャン「俺が心を込めて一針一針縫った。――夜なべしてな」

ライナー「……負けたよ、お前には。キャンディのことはジャンに任せよう」フッ

ジャン「ありがとよ、ライナー。お前の心意気、ちゃあんと受け取ったぜ? ――さあキャンディ、俺の真心がこもったプレゼント……受け取ってもらえるか?」



キャンディ『嬉しいクル~』



ジャン「そっか。……お前に喜んでもらえると、俺も嬉しいよ」ニッ

173: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:45:29 ID:15sGo8ZA

エレン「……」

ベルトルト「僕のキャンディ、取られちゃった……」グスグス

コニー「大丈夫だって、キャンディはそのうち戻ってくるって。――おいエレン、そっちに置いてあるハサミ取ってくれ」チクチク

エレン「……なにこれ」ボソッ

コニー「おいエレン? 聞いてるか? ハサミだよハサミ」チクチク

エレン「ジャンが行っちまった」

コニー「はぁ? 何言ってんだ、ジャンはそこにいるだろ。いいからハサミ」チクチク

ベルトルト「このままキャンディがお嫁に行っちゃったらどうしよう……」グスグス

コニー「お前らそろそろベルトルトにキャンディ返してやれよー? 泣いてんぞー?」ナデナデ

エレン「……俺、走ってくるわ」トボトボ...

コニー「おう、消灯前には帰って来いよー。――って行く前にハサミ取ってくれよハサミ!!」チクチク

174: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:47:06 ID:15sGo8ZA

―― 営庭

エレン(ジャンの奴、裏切りやがって……あーあ、結局俺一人になっちまった……)トボトボ...

ミカサ「――エレン?」

エレン「! ……ミカサ」

ミカサ「どうしたの? こんな時間にそんな格好をしていては風邪をひいてしまう。走るならまだしも、散歩ならば上着はもう一枚着てきたほうがいい」

エレン「……」ジッ...

ミカサ「……? エレン、どうしたの? もしかして、どこか具合が――」

エレン「……お前はいい子だなぁ」ナデナデ

ミカサ「!? ……え、エレン? エレン? どうしたの? 何があったの? どこか痛いの?」オロオロ

エレン「いや……なんか、寮に居場所がなくてさ」

ミカサ「誰かと喧嘩でもしたの? ……でも、エレンにはアルミンがいるはず。何かあったなら話を聞いてもらうといい」

エレン「そのアルミンがあの状態じゃ、な……」

175: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:48:14 ID:15sGo8ZA

ミカサ「もしかして、アルミンと喧嘩でもしたの? それはよくない。仲直りしに行こう。私も一緒に謝るから」

ミカサ「ちげーよ。お前早とちりするクセ直せよな。あとなんで俺が謝らないといけねえんだ」

ミカサ「二人が喧嘩する時は、だいたいエレンが悪い」

エレン「……」イラッ

ミカサ「悪いことをしたら謝らないとだめ。でも、一人じゃ素直になれない気持ちはわかる。ので、私がついていく」

エレン「……そうかよ」ムスッ...

ミカサ「……? エレン、どうしたの?」

エレン「知らねー」プイッ

ミカサ「ごめんなさい、エレン。怒らないで……」ショボーン...

176: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:49:53 ID:15sGo8ZA

エレン「……あのさ、アルミンってさ、一度気に入った本があるとずーっと持ち歩いて読んでるんだよな」

ミカサ「……? うん」

エレン「俺さ、昔一度だけそういうアルミンから本を取り上げようとしたことあるんだ。俺、ガキでバカだったから……本がなかったら、一緒に遊んでくれるんじゃないかって単純に思ってた」

ミカサ「……うん」

エレン「そしたら結果は逆で、本気で怒っちまって……一週間は口聞いてくれなくってさー。あれは堪えたなぁ」

ミカサ「今のアルミンはそういう状態なの?」

エレン「ああ。モノクマと遊んでる」

ミカサ「」

エレン「めっちゃ仲良しだ」

ミカサ「そ、そう……そうなの」

エレン「ああ」

ミカサ「……そう」

177: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:50:42 ID:15sGo8ZA

エレン「でもってさ、そうなっちまってるのがアルミンだけじゃねえんだよ。ライナーとベルトルトとジャンもなんだ」

ミカサ「他にもそんな面白いものが? ……あっ」

エレン「そうだよ。……キャンディだよ」

ミカサ「……なるほど」

エレン「なるほどって……お前、夕方あいつらと一緒に手芸教室やってんだろ」

ミカサ「まさか男子寮でもやってるとは思わなかった。てっきりあの場限りのものだと……」

エレン「ミーナやクリスタは? 女子寮で何してんだ?」

ミカサ「少なくとも裁縫はしていない」

エレン「……あいつら割りきってんなぁ」

178: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:52:20 ID:15sGo8ZA

ミカサ「……エレン、さみしくない?」

エレン「別に? 俺だってやることの一つや二つあるしな」

ミカサ「……」

エレン「そんな目で見るなよ。――いいんだよ。構ってもらえないからって邪魔するのはかっこ悪いし、それに……あいつらが楽しそうなの見ててわかるんだ」

エレン「本当は、喜ぶべきことなんだよな、アルミンだけじゃなくて、みんなが夢中になれるものを見つけたんだからさ」

エレン「実際いい息抜きになってると思うんだ。……だからいいんだ、これで」

ミカサ「……ねえエレン。さっき言ってたやることって何?」

エレン「……」

ミカサ「エレン?」

エレン「……えーっと」

179: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:54:26 ID:15sGo8ZA

ミカサ「まさか何もなかったり――」

エレン「あ、あるよ! あるに決まってんだろ!」アセアセ

ミカサ「なら、教えて」

エレン「……き、筋トレとかかな」

ミカサ「じゃあ、明日からここで筋トレをやろう。私と一緒に」

エレン「はぁ? ……あのな、俺のやることにお前までいちいち付き合わなくたっていいんだぞ?」

ミカサ「エレンに合わせてるわけではない。私は偶然この時間にここに来て、エレンは偶然この時間にここに来るだけ。その時ちょうど二人いるから一緒に手助けしあうだけのこと。何もおかしいことはない」

エレン「……勝手にしろよ」

ミカサ「うん。そうする」

180: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/06(日) 18:56:05 ID:15sGo8ZA

―― 同刻 教官室

キース「――ブラウンとキルシュタインが?」

モブ教官「アルレルトもです。フーバーも、様子がおかしいとの報告がありました」

キース「……ふむ」

モブ教官「いかがなさいますか?」

キース「……近いうち、私が部屋に直接出向いて話を聞いてこよう。報告感謝する」

モブ教官「いえ、主任の手を煩わせるわけには……」

キース「ブラウン、フーバーにキルシュタインは上位組だ。アルレルトは座学のトップ。私が出向かずどうする」





キース「それに、場合によっては――少し灸を据えねばならんかもしれんしな」

184: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/12(土) 22:24:31 ID:CgZ8ytUY

―― 更に数日後 夜の男子寮



キャンディ『あそんでクルクルあそんでクル~』



アルミン「ふんふんふーん♪」クルクルマキマキ

コニー「なあアルミン、その髪型なんだ?」チクチク

アルミン「昇天ペガサスMIX盛り」マキマキ

ベルトルト「アルミン耳が傷むからやめてあげて!」

アルミン「そう? ――じゃあはい、ベルトルトにキャンディは返すね」スッ

ベルトルト「えっ? ……ど、どうもありがとう」

アルミン「やっぱりキャンディはベルトルトと一緒にいたほうが生き生きしてるよね」

コニー「そうだなー、なんたってベルトルトが見つけてそこまでキレイにしてやったんだもんな」

ベルトルト「そ、そうかな……? そう言ってもらえると嬉しいな……///」テレテレ

ベルトルト「ねえ、キャンディもそう思ってくれてる? 僕と一緒にいるとどう?」ナデナデ

185: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/12(土) 22:25:40 ID:CgZ8ytUY



キャンディ『はぁ~…疲れたクル』



ベルトルト「」

アルミン「」

コニー「」

ベルトルト「……」

アルミン「あの……その……」チラッ

コニー「あー……」チラッ

ベルトルト「……」ジワッ...

コニー「!? ほらほら泣くなよーベルトルト! 今できたばかりのニンジンやるから元気出せ! なっ?」オロオロ

アルミン「そうだよ大丈夫だから! ね!? たまにはこういうこともあるって!!」アセアセ

186: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/12(土) 22:27:01 ID:CgZ8ytUY

エレン(……ったく、あいつらは何やってんだか)

エレン(おっと、そろそろミカサと約束した時間だな)

エレン「んじゃ、俺ちょっと出かけてくるから」スクッ

ライナー「おう。あまり遅くなるなよー」カチャカチャ

エレン「ああ。消灯前には帰ってくるよ」スタスタ...

ジャン「……ちょっと待てよ、エレン」

エレン「」ギクッ

エレン「……な、なんだよジャン。俺に何か用か?」ビクビク

ジャン「エレンって黒髪だよな」

エレン「あ? ……まあ、ミカサほどじゃねえけどな」

ジャン「そっか。そうだよな」ジリッ...

エレン「……おい、何するつもりだ」ササッ

187: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/12(土) 22:28:06 ID:CgZ8ytUY

ジャン「なあ……側頭部か後頭部だけでいいんだ、エレン」ジリジリ...

エレン「……近寄るんじゃねえよ、なんだよ目が怖いぞお前!!」

ジャン「ライナー」

ライナー「おう」ガシッ

エレン「ちょっ……!? おいライナー何してんだよ!!」ジタバタジタバタ

ライナー「すまんなエレン。……この後モノクマ用のシュシュを作ってくれると約束したんでな」

エレン「モノクマのどこにシュシュつけんだよ! 首か!?」

ライナー「はっはっは。最近は手首に巻くのも流行ってるんだぞ、エレン」

エレン「どこからその知識仕入れてきた!?」

アルミン「ねえジャーン、僕もモノクマとお揃いのがほしーい」

ジャン「おう、任せとけ。――そういうわけだ、おとなしくしろよ? 往生際が悪いぞエレン……」ジリジリ...

エレン「や、やめっ――!」

188: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/12(土) 22:29:30 ID:CgZ8ytUY





キース「――全員いるか?」ガチャッ...





エレン「」

アルミン「」

コニー「」

ジャン「」

ライナー「」

ベルトルト「」

192: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 22:53:15 ID:6UP70w4g

キース「……」

キース(……どうなっている)

キース(フーバーとスプリンガーが手にしているのは……人形か?)

キース(いや、それよりも……何故イェーガーはブラウンに押さえつけられている……?)

キース「……」

キース「――心臓を捧げよ!!」

一同「ハッ!!」バッ!!

キース(なるほど……かなり深刻な事態らしいな……)

193: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 22:55:17 ID:6UP70w4g

キース「まず……イェーガー、何故髪を結っている? それは……お下げか?」

アルミン「……」ピクッ

エレン(い゛っ!? 最初っから俺かよ!?)

エレン「こ、これはその……」チラッ

ジャン「……」ニッ

エレン(くそっ……あの「似合ってるぞ」って言わんばかりの顔がすっげえむかつく……!!)イライラ

アルミン「――教官殿、よろしいでしょうか」スッ

キース「なんだ、アルレルト」



アルミン「イェーガー訓練兵のこの髪型はお下げではありません。――これはツーサイドアップというものです!」



キース「」

エレン「」

194: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 22:57:58 ID:6UP70w4g

キース「つー……どあ……?」

ライナー「ツーサイドアップです! 耳の上で髪の一部を二つに結った、髪型の名称です!」

ジャン「ツインテールやお下げとは一線を画す、新時代のヘアスタイルです!」

キース「…………そ、そうか。……なるほど」

エレン(教官、反応に困ってるじゃねえか……)ハラハラ

キース「では……フーバー、スプリンガー」

ベルトルト「ハッ!」

コニー「なんでしょうか!」

エレン(あっ、矛先変えた)ホッ

キース「その右手に持っているものはなんだ? 貴様らは心臓の代わりに人形を捧げるつもりか?」

エレン(き、きた……! こりゃ、言い逃れがきかねえぞ……!)

エレン(さっきの調子じゃ、アルミンたちには期待できない……! あいつらがおかしい今、俺がなんとかしねえと――)

キース「どちらでもいい。答えてもらおうか」

195: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 22:59:44 ID:6UP70w4g

エレン「教官殿! そちらの人形は、とある人物から一時的に預かった物です!」

キース「ふむ……預かり物、か」

エレン「はい。人形の補修が終わり次第、返却する予定でした」

キース「補修だと? 誰が人形の補修などできる?」

コニー「じっ、自分です!」

キース「……スプリンガーが?」

コニー「ハッ!」

キース「……ふむ」

エレン(これは……いけるか?)

エレン「……規則には、『男子寮に人形の類を持ち込んではいけない』という項目はなかったはずです。問題ないですよね?」

キース「確かに、そんな項目はないな。――だが」

196: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 23:01:25 ID:6UP70w4g

キース「数日前、ブラウン・フーバー・キルシュタイン・アルレルトの様子がおかしいとの報告があった」

エレン「アルミンたちが……?」

キース「ブラウンが夜な夜な技巧室を徘徊しているだとか、人形を抱きしめたフーバーが半笑いを浮かべながら兵舎の廊下を歩いているのを見ただとか」

エレン「……」

キース「キルシュタインが提出したレポートには見慣れぬ図形と呪文が並び、アルレルトに至っては資料室で不気味な笑い声を披露する始末」

エレン(わーお)

キース「その人形が秩序を乱している原因であるというのなら、話は別だ」

エレン「……」

エレン(お前ら、俺が見ていない裏で何やってんだよ……そりゃさすがに庇いきれねえぞ……)

197: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 23:02:52 ID:6UP70w4g

エレン(くそっ、どうする……? 俺じゃ教官の説得は無理だ。けど、今のアルミンじゃ――)

アルミン「……教官殿」

キース「なんだ? 何か申し開きがあるなら聞こう」

アルミン「――我々は全ての情報を開示する用意があります」

キース「この後に及んで言い逃れか? 言ってみろ」

エレン「アルミン……?」

アルミン「……エレン、みんな。ここは僕に任せて」

エレン「! あ、ああ……!」

エレン(アルミン、よかった……! 俺は戻ってくるって信じてたぜ!)

アルミン「――そもそも、彼と彼女を心臓の代わりに捧げるなどもってのほか。どちらも代わりになる存在などいません」

エレン(…………ん?)

アルミン「このモノクマ……いえ、モノクマさんは、我々にとって人生の先輩っ! そしてっ!」

ベルトルト「キャンディは――僕たちの妹です!!」



エレン「」

198: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 23:04:11 ID:6UP70w4g

キース「……」

エレン(ああ、終わった……何もかも……)

キース「……ブラウン、キルシュタイン。何か言い残すことはあるか?」

ライナー「ありません」

ジャン「右に同じく」

キース「……そうか。お前たちの言いたいことはよくわかった」

キース「つまり――この惨状は、スプリンガーが作り出したものということだな」

コニー「……へっ? 俺?」

キース「当然だろう? 補修できる者がいなければ、この部屋に人形が持ち込まれることはなかった」

キース「というわけでスプリンガー。明日の昼、私の部屋に来い。――話は以上だ」



     ―― バタンッ

199: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 23:05:35 ID:6UP70w4g

コニー「」

ライナー「おめでとうコニー」パチパチパチパチ

ジャン「直々に招待されてよかったな!」パチパチパチパチ

ベルトルト「僕、教官室なんて入ったことないや」パチパチパチパチ

アルミン「お部屋にお呼ばれされちゃったね♪」ウフフ

コニー「されちゃったね♪ じゃねーよ!! お前ら何やらかしてくれてんだよ!!」

アルミン「でも、肝心の人形は没収されなかったんだから大丈夫だよ。お説教くらいで済むんじゃないかなぁ?」

コニー「済むんじゃないかなぁ? じゃねえっての!!」



エレン「……た、助かったのか?」ホッ

ジャン「ああ、そうみたいだな。――んじゃっ、続きやろうぜ」

ライナー「そうだな」ガシッ

エレン「」

200: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 23:06:42 ID:6UP70w4g

―― 翌日 昼間 とある廊下

コニー「……」ズーン...

コニー(何言われるんだろうなぁ……ああ、嫌な予感しかしねえ……)

コニー(父ちゃん、母ちゃん、サニー、マーティン……兄ちゃんは、憲兵団に入れなかったよ……へへっ)トボトボ...

ミカサ「コニー? こんなところで何をしているの?」

コニー「……ミカサか。今教官室に行く途中だよ」

ミカサ「? コニー、何をやったの?」

コニー「モノクマとキャンディの件でちょっとなー……」

ミカサ「モノクマ……? ――もしかして、教官にバレたの?」

コニー「ああ、その通りだ。幸い没収はされなかったんだけどよ、これから説教かと思うと……うわあああ、行きたくねえ……」ズーン...

ミカサ「……さっき、女子寮に荷物が届いた。手芸屋さんから」

コニー「荷物……? ってことは、綿が届いたのか!?」

201: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/22(火) 23:08:25 ID:6UP70w4g

ミカサ「そう。――これで、コニーはモノクマを直せる」

コニー「おおっ、そうなるな! ……まあ、無事に帰ってこられるかどうかすら怪しいけどな」

ミカサ「……コニーじゃないとモノクマは直せない」

コニー「そうかぁ? 技術だけならベルトルトやジャンにだって――」

ミカサ「そうじゃない。あんなに汚れていたモノクマを、あそこまでふわふわでキレイにしてあげたのは……コニー、あなたでしょう?」

ミカサ「もちろん、モノクマをかわいがっていたアルミンの愛情を否定するわけではない。けれど、モノクマを世界一かわいいと褒めて、一から丁寧に手入れをしてあげたのは他ならぬあなた」

ミカサ「だから――無事に教官室から帰ってきて、モノクマのお腹に詰めてあげてほしい」

コニー「……そうだな、俺がベルトルトに言ったんだよな。――よーしミカサ、俺は決めたぜ!」



コニー「俺……教官室から無事に帰ってきたら、モノクマの腹に綿を詰めるんだ……!」グッ



ミカサ「うん。……ぜひ、そうしてあげてほしい」

ミカサ(……思いっきり不吉な言い回しなのは気になるけれど)

204: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 20:48:07 ID:uUGmT4Fs

―― 教官室

コニー(……)スーハー

コニー(……よし)

コニー「失礼します! キース主任教官殿はいらっしゃるでしょうか!」ガラッ

キース「……来たか、スプリンガー」

コニー「はっ! コニー・スプリンガー、ただいま参りました!」バッ!

キース「ちょうどいい。幸い他の者は席を外している」

コニー(うわっ……マジだ、誰もいねえや)チラッチラッ

キース「再度確認するが……昨日の人形は、スプリンガーが補修したというのは本当か?」

コニー「はっ! 事実であります」

キース「そうか。――ならば」ゴソゴソ

コニー(……なんだ? 机の上に……汚れた人形?)

キース「直せ」

コニー「はっ! ……はっ?」

205: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 20:49:25 ID:uUGmT4Fs

コニー「……今、何とおっしゃいました?」

キース「二度は言わん」

コニー「しっ、失礼しました!」

コニー(……俺の聞き間違いじゃなかったら、「直せ」って言ったよな?)

コニー「その人形は……その、教官殿の私物ですか?」

キース「余計な詮索は不要だ」

コニー「はっ! 申し訳ありません!」

キース「……それは、私の友人から預かったものだ」

コニー「教官殿のご友人……ですか?」

206: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 20:50:27 ID:uUGmT4Fs

キース「そうだ。――友人は、かつて調査兵団に所属していてな。そのお守りは、その友人の連れ合いが友人のためにと作ったものだ」

コニー「なるほど……お守りですか」

コニー(やけに汚れてると思ったら、そういうことか……)

キース「スプリンガー。その動物は何に見える?」

コニー「そうですね……クマか、ヒツジに見えます」

キース「それはウサギだ」

コニー「………………ウサギ、でありますか」

キース「そう、ウサギだ。ウサギは足が速いからな。いざという時に巨人から逃げられるよう、願をかけたのかもしれん」

207: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 20:52:09 ID:uUGmT4Fs

キース「スプリンガーよ。その人形は補修できそうか? 無理ならば今のうちに言え」

コニー「そうですね……見た限り、補修自体は難しくありません。――ですが、その」

キース「なんだ? はっきり言え」

コニー「いえ、あの……自分が手を加えていいものかと思いまして」

キース「私が許可する。やれ」

コニー「でも、この人形は教官殿のご友人の、思い出の品なんですよね? 自分が手を加えることで、状態が悪化する可能性もあります。元の形そのままに戻せる保証もありませんが」

キース「……それは元々、二対一組の人形でな。そいつの片割れは、友人の連れ合いが持っている」

コニー「連れ合い……奥さんですか」

208: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 20:53:23 ID:uUGmT4Fs

キース「そうだ。友人が現役の時は、願かけの意味も込めてお互いの人形は見せ合わないようにしていたのだがな。――先日、友人は連れ合いの持っている人形を見る機会があったらしい」

キース「流石に新品そのものとはいかなかったようだが……連れ合いが持っていた人形は、傷みや汚れが一切ない、手入れの行き届いた姿をしていた」

キース「『何故そんなに綺麗な姿を保っているのか』と友人が聞くと、『友人そのものだと思って大事にしていた』という答えが返ってきたらしい」

キース「片や友人の人形は、ろくに手入れもせずにそんな有様という体たらく」

キース「兵団勤めで壁外遠征ばかりだったとはいえ、連れ合いの人形を見て思うところがあったそうだ」

コニー「思うところ、と申しますと?」

キース「『自分はこれまで連れ合いを大切にしていなかったのではないか』、と途端に恥ずかしくなったらしい。たかが人形の状態の良し悪しにおかしい話だがな」

209: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 20:55:05 ID:uUGmT4Fs

コニー「……一つ、よろしいでしょうか」

キース「なんだ」

コニー「はっ。……差し出がましい意見だとは思いますが、自分ではなくそのご友人の方が自力で手入れをなさったほうがよろしいのではないでしょうか」

キース「……最近、近くのものが見えづらくてな」ボソッ

コニー「……? ご友人の方が、ですか?」

キース「……そうだ。私の友人がだ」

コニー「そうですか」

コニー(老眼か……ということは、友人ってのはキース教官の同期なのかもな)

キース「話を戻すぞ、スプリンガーよ。貴様は先程、『補修はできる』と簡単に言ったがな。門外漢の私にも、その人形がかなり手が込んでいるものだということくらいはわかる」

210: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 20:56:15 ID:uUGmT4Fs

キース「その上で聞こう。――これまで巨人殺しの技術しか磨いてこなかった中年の男が、付け焼き刃で得た知識と技術と衰えた眼で、その細工物をどうにかできると思うか?」

コニー「……できないと思います」

キース「ならば、貴様がやることはただ一つだ」

コニー「……もう一つ、よろしいですか?」

キース「なんだ」

コニー「この人形をこのまま見せても、奥さんは怒らないと自分は思いますが」

キース「……」

コニー「……」

キース「これはな、男の意地だ。スプリンガー」

コニー「……なるほど」

キース「他に質問は?」

211: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 20:58:52 ID:uUGmT4Fs

コニー「……何故、自分が指名されたのでしょうか。町の手芸屋には、有料ですが人形の補修を請け負っているところも何軒かあります。そちらに頼んだ方が、自分に頼むよりもよっぽど丁寧な仕事をしてくださると思うのですが」

キース「……手芸屋は、連れ合いが来るから使えんのだ」

コニー(ああ、なるほどなー……こういうの作るのが好きなら、手芸屋にもよく行ってるよな。よっぽど奥さんにバレたくないんだなー)

キース「それに、だ。――貴様が引き受ければ、昨日の男子寮で起こったこと全てを見逃してやると言うんだ。貴様にとっても悪い取引ではあるまい」

コニー「昨日のアレを見逃してくれるんですか!?」

キース「引き受ければな。――さて、どうする? スプリンガー」

コニー(そんなの考えるまでもねえ!)

コニー「是非やらせてください!」

キース「よし、ならばよろしく頼む。要り用なものがあればその都度私に言え」

コニー「必要なものですか……あっ」

キース「なんだ」

コニー「いえ、補修する代わりと言ってはなんですが、教官殿にお願いしたいことがありまして――」

212: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 21:00:48 ID:uUGmT4Fs

キース「――了解した。ならば、交換条件といこうか」

キース「そちらの要求は私のほうで手配しておく。日程の目処がついたらすぐに教えよう」

コニー「はい、ありがとうございます!」

キース「言うまでもないと思うが、今回の件は他言無用だ。内密に事を進めろ」

コニー「はっ! 承知いたしました!」

キース「この件は以上だ。帰ってよし」

コニー「はっ! それでは失礼します!」バッ!!

キース「……待て、スプリンガー」

コニー「はっ! なんでしょうか!」

213: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 21:01:51 ID:uUGmT4Fs

キース「“他言無用”の意味はわかるか?」

コニー「わかりません!!」キッパリ

キース「……誰にも話すんじゃない。これは私と貴様、二人だけの秘密だ」

コニー「ひみつ……でありますか」

キース「……貴様まさか秘密の意味も知らんのではあるまいな」

コニー「いえ! さすがにそれはわかります! ないしょ話という意味ですよね!?」ブンブン

キース「……まあそうだな。もう行け。私は忙しい」

コニー「はっ! それでは失礼いたします!」ガチャッ バタンッ



キース「……」





キース(……来週の休暇に特別講習でも組むか)ハァ

214: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 21:02:58 ID:uUGmT4Fs

―― 夕方 とある空き教室

コニー「――ということがあったわけよ」チクチク

エレン「ふーん……で、預かってきた人形ってそいつか?」

コニー「おう。モノクマの腹塞いだら、すぐにでも取りかかるつもりだ」

ミカサ「……かわいい。触ってもいい?」ジーッ...

コニー「いいぞ。……って、俺のじゃねえけどな」

ミカサ「ありがとう。じゃあ失礼する」スッ

ミカサ「……」ナデナデ サワサワ

ミカサ「……///」ホッコリ

215: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 21:04:08 ID:uUGmT4Fs

エレン「でもよコニー。本当にお前が手を加えちまってもいいのか? この前ベルトルトに言ってたことと違うんじゃねえの?」

コニー「そりゃあなぁ、人形を大切に思う気持ちに勝るもんはねえんだけどさ。そういう気持ちだけじゃどうにもならないことがあるからこそ、専門家がいるわけだろ? こういう手芸に限らずな」

コニー「畑の作物をいくら大事に育てても、猪や熊はいなくなったりしねえからな。まっ、つまりは適性判断ってもんよ」

ミカサ「……適材適所」

コニー「そうそう、それそれ。――そんで、今回はその役目が俺だったってだけだ」

エレン「うーん……そんなもんかぁ?」

コニー「そんなもんだよ」チクチク

216: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 21:05:23 ID:uUGmT4Fs

コニー「それにさ、奥さんに見栄を張りたいその人の気持ちもわかるからさ。俺にできることなら協力してやろうとも思ったんだよな。ついでに昨日のことをチャラにしてくれるなら二兎追う者は一兎も得ずだしよ」

ミカサ「……一石二鳥」

コニー「そうそう、それそれ」

ミカサ「そんな見栄なんか、張らなくてもいいのに」

エレン「そうか? 俺もちょっとわかる気がするけどな。教官の友だちの気持ち」

ミカサ「……男の人はよくわからない」

コニー「いわゆる男の美学ってヤツだからな。ミカサにはわかりにくいかもしんねえなぁ」ドヤァ

エレン「そうだそうだ。女のミカサにはわかんねえよ」ドヤァ

ミカサ「むっ……昨日は約束をすっぽかされたというのに、ひどい仕打ち」ムスッ...

エレン「だから悪かったって。さっき説明もしたし、ちゃんと謝ったろ?」

ミカサ「……私は、寒空の下で三時間待ったのに」ムー...

エレン「悪かったって。そろそろ機嫌直してくれよー、ミカサ」

ミカサ「……あと五分」

エレン「へいへい。肩もみ五分延長な」モミモミ

217: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 21:06:25 ID:uUGmT4Fs

ミカサ「でも、わざわざ綺麗にしなくても、この人形を見れば自分が大切にされてるって、奥さんはわかってくれるはず」サワサワ

エレン「そうか? やっぱり綺麗なほうが大切にされてるって思うんじゃねえの?」

ミカサ「綺麗に保つことだけが、大切にするということではない。ほんの僅かだけれど、触り癖がついてる。……うなじというのが、少しアレだけれど」

エレン「うなじ? ……ああ、なるほどな。巨人の急所か」

ミカサ「うん。たぶん無意識に触ってたんだと思う」ナデナデ

コニー「へー……よく気づいたな、ミカサ」

ミカサ「女の美学」ドヤァ

エレン「真似しなくてもいいって」モミモミ

218: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/28(月) 21:07:34 ID:uUGmT4Fs

ミカサ「……ところでコニー、聞きたいことがある」

コニー「ん? なんだ?」チクチク

ミカサ「今まで話してくれたことは、教官に秘密だと言われたんじゃないの?」

コニー「……」



コニー「……………………あっ。やっべ」



ミカサ「……やっぱり」

エレン「あーあ」モミモミ

222: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:05:18 ID:DRDOk.G6

コニー「ま、まあ喋っちまったもんはどうしようもねえしよ、気にしたら負けだよな、うん」アセアセ

コニー「こうして無事にモノクマの腹を縫ってやることができたんだから、俺はこれでいいんだ……ん?」ピタッ

エレン「どうした?」

コニー「いや……腹の中に何か、固いモンが……お?」ズルッ...

コニー「……? なんだこれ?」ヒョイ

ミカサ「……白い、箱?」

エレン「見たことない材質だな。木、じゃないよな……?」サワサワ ポチットナ



     『ボクはモノクマ。狭い日本に収まりきるような器じゃないよ』



エレン「……」

コニー「……」

ミカサ「……箱が名乗った」

223: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:07:51 ID:DRDOk.G6

コニー「すげえな……箱って自己紹介するんだな!」

ミカサ「コニー。箱は喋らない」

コニー「じゃあなんだよ、この箱はモノクマじゃないってことか? それともモノクマがこの箱だったのか? んん? どういうことだ??」

エレン「落ち着けって。箱と人形のどっちがモノクマとかじゃなくて、これはただ単に『押すと音が鳴る』っていう仕組みのオモチャなんだろ」ポチットナ



     『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー』



エレン「ほらな。――つまり、モノクマって人形に音が鳴るオモチャが仕込まれてたってだけだったんだ」

エレン「なんかおかしいと思ってたんだよな。口じゃなくて腹から声が聞こえるわ、ほとんど同じことしか口にしないわ……ぬいぐるみが話すわけねえってわかりきってたのにな、すっかり騙されたぜ」ツンツン サワサワ

ミカサ「人形が喋るなんて信じている人がいるの? 誰?」

エレン「アルミンとジャンとライナーとベルトルトだよ。前にも言ったろ?」

ミカサ「……夢中になっているとは聞いたけど、そんな事実を聞くのははじめて」

224: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:09:49 ID:DRDOk.G6

コニー「まあ、どっちがモノクマの本体でも、人形を直してやるのには変わりねえからいいんだけどよ。……この箱はどうする?」

ミカサ「? そのままお腹に戻さないの?」

コニー「だってさ、どう考えてもこの箱には俺たちの知らない技術が使われてるだろ? なら教官に報告したほうがよくねえか? ウォール・シーナの工場都市に届ければ――」

エレン「いや。仮にシーナの工場都市に送っても、ろくに調べられもせずに壊されて終わりだろうな」

エレン「このオモチャ、パッと見た感じだがかなり精密に作られてるぞ? このネジのサイズに合う工具なんか、壁内のどこにもないんじゃねえか?」ジッ...

ミカサ「なら、どうするの?」

エレン「どうするのって……決めるのはコニーだろ?」

コニー「いや、俺は馬鹿だからよ。『教官に知らせる』って以外の選択肢がとんと浮かばねえんだよな。エレンの意見を聞かせてくれ」

225: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:10:53 ID:DRDOk.G6

エレン「じゃあ、言うけどよ。――モノクマの腹に箱を戻して、穴を塞いでくれねえか?」

コニー「ん? 元に戻していいのか?」

エレン「今の壁内の技術じゃ、これを完全に解析するのは無理だろ。この箱の中身を無事に調べるには、もう少し時間が必要だ」

エレン「だったら俺は、今を生きてる知らない大人に預けるよりも、大人になった未来の誰か――そうだな、できればアルミンに託したい。あいつなら、きっとこの箱の中身をいつか解明してくれるって思うからさ」

エレン「だから、今はまだしまっておいてほしい。……っていうのが本音かな」

226: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:12:24 ID:DRDOk.G6

コニー「……そうか、そうだな。じゃあ、エレンの言う通りにする」

エレン「おい、いいのか? ほとんど俺のわがままみたいな提案だぞ?」

コニー「わがままなんかじゃねえって。俺もエレンと同じ気持ちだよ」

コニー「知らねえヤツに預けるよりも、知ってる奴に託すほうが断然いいに決まってるだろ?」

ミカサ「……うん。私もそう思う」

エレン「お前ら……まあ、実はもう一つ理由があるんだけどな」

コニー「もう一つ?」

ミカサ「そっちの理由も聞かせてほしい」

エレン「……あのな、モノクマと遊んでる時って、久しぶりにアルミンが生き生きしてたんだよな。アルミンだけじゃなくて、他の奴らもなんだけど」

エレン「きっとこの箱の存在を知ったら、あいつらは傷つくと思うんだ。『なんで教えてくれなかったんだ』『恥ずかしい思いをしたじゃないか』ってな」

エレン「オモチャはオモチャで、モノクマやキャンディなんてヤツはいないって、いつかは知らなくちゃいけないことなんだろうけどさ。でもそれは、アルミンたちが自分で気づくことだ。俺たちが無理に教えることじゃない」

エレン「そのせいで、傷ついて、嫌われて、怒られても……俺は、アルミンたちに自力で気づいてほしいって思うんだよ。こういう形で知らせるんじゃなくてな」

227: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:13:35 ID:DRDOk.G6

コニー「……」

ミカサ「……」

エレン「あー……なんだ。さっきのも今のも、結局俺のわがままなんだよな。全部」

コニー「……エレン」

エレン「なんだよ」

コニー「男だな!」ニカッ

エレン「……ああ、どうも」

ミカサ「でも、将来エレンが嫌な思いをするかもしれない」

エレン「いいって。それくらい覚悟してるよ」

コニー「いいんだよミカサ、兄貴ってのはそういうもんだ! なぁエレン!!」バシバシバシバシ

エレン「いってぇな、叩くなよ。コニー」

コニー「まあ、アレだよな。……これは、開けちゃいけないツンドラの箱だったんだよ」キリッ

エレン「ちげーよ、ツンデレだろ?」

ミカサ「どっちでもない。パンドラの箱」

228: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:14:50 ID:DRDOk.G6

コニー「よーっし、そうと決まればさっさとこの箱縫い込んじまうか!」

ミカサ「うん。お腹に綿を詰めて、モノクマを元通りにしてあげて」

エレン「俺は応援しかできねえけど、頑張れよ」

コニー「おうっ! じゃあまずはこの箱を――」スッ



ジャン「おっ、コニー! ここにいたのか。クリスタが探してたぜ」ガラッ



コニー「戻っしゃあっ!?」ビクッ!! ズボッ!!

エレン「ぎゃあっ!?」ビクッ!!

ミカサ「ひぇっ!?」ビクッ!!

229: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:15:49 ID:DRDOk.G6

ジャン「……? お前ら、三人揃って何してるんだ?」

エレン「い、いいやぁっ? なんでもねえよぉっ!?」アタフタアタフタ

ミカサ「そう、なんでもない、全然なんでもないなんでもない」ブンブンブンブン

コニー「じゃ……ジャン! いきなり何の用だ? 俺に用事か!?」

ジャン「だから、みんなお前のこと探してるんだって。なんで今日はこんな空き教室で作業してるんだよ」

コニー「教官に絞られた当日に、食堂で堂々とやる気にはならねえよ……」ゲンナリ

ジャン「そうだ、結局どうなったんだよ。教官に何言われた?」ドカッ

ミカサ(座ってしまった……)

コニー(居座る気満々じゃねえか……)

エレン(箱は……綿の隙間に隠してるから当面は大丈夫か? ジャンの手が近いのが気になるが……)ハラハラ

コニー「まあ、順を追って話してやるよ。まずはだな――」

230: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:17:02 ID:DRDOk.G6

ジャン「へえ……人形の補修ね。その桃色のがそうなのか?」ジッ...

コニー「おう。――それとさ、このことはみんなに秘密だからよ。これからもまたこういう空き教室でコソコソ作業することになるかもしんねえ。悪いな」

ジャン「そりゃいいけどよ……秘密なんだよな?」

コニー「おう」

ジャン「今俺に喋っちまったぞ」

コニー「……あっ! …………ああー、俺のばかー……」ガックリ

エレン(コニー……止めなかった俺も悪いが、お前はもうちょっと話す前に色々考えろよ……)

ミカサ(……コニーとないしょの話はあまりしないようにしよう)

ジャン「ところでよ。――その人形にキルシュタイン・カスタムは施さなくていいのか?」

ミカサ「きるしゅたいん」

エレン「かすたむ」

コニー「なんだそれ」

231: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:18:00 ID:DRDOk.G6

ジャン「シュシュ・カチューシャといった各種髪飾りのみならず、コサージュやラリエットみてえな布で作れるアクセサリー系の製作・補修・改造などなどなんでも引き受けるぜ!」キリッ

エレン「やだお前なんかこわい」

コニー「いらねえよ。思い出の品なんだから、あまり余計な手は加えたくないしな」

ジャン「そうか、残念だな。――おっとそうだ。ミカサ、ちょっといいか?」ゴソゴソ

ミカサ「えっ? わ、私? 私??」オロオロ

ジャン「ああ、お前に渡したいものが……おっ、あったあった」ソッ...

ミカサ「? それは……シュシュ?」

ジャン「おう。――少しの間だけだから、動かないでいてくれよ?」スッ

ミカサ「……」ピタッ

コニー(すげえ、瞬きすらしてねえや)

エレン(ミカサ、頑張れ……)ハラハラ

ジャン「うん、やっぱりな。……この赤は、お前の黒髪に似合うって確信してたんだ。店でこの布地を見つけた時は、運命の出会いだとすら思ったぜ」

ミカサ「……ど、どうも」ギクシャク

232: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/10/30(水) 23:19:58 ID:DRDOk.G6

ジャン「その……変な意味とか込めてるわけじゃねえんだが。――ミカサ、このシュシュもらってくれるか?」スッ

ミカサ(……どうしよう)

ミカサ「……」チラッ

エレン(そこでなんで俺を見る!? ――いいからもらっておけよ、ジャンが暴れ出したら困るだろ!)ミブリテブリ

ジャン「あー……やっぱり、エレンがいる前じゃもらいにくいよな。ごめんなミカサ、無理言って」スッ

ミカサ「待って。……くれるなら、もらっておく」ギュッ

ジャン「……いいのか?」

ミカサ「手が込んでるのは、一目見ればわかる。……月並みな言葉で悪いけれど、ありがとう。大切にする」

ジャン「どういたしまして。――こっちこそ、もらってくれてありがとな」ニッ

237: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 16:58:15 ID:jghMJU9o

ジャン「俺は正直、突っ返されると思って冷や冷やしてたんだが……本当にいいのか? もらってくれるのか? ミカサ」

ミカサ「誰かの思いやりの心を無碍にするほど、私は自分勝手じゃない」

ジャン「へへっ、そうか、どうもな……///」テレテレ

エレン(おおっ……! かつて俺に花束を渡してきたミカサと同じ顔をしてるぜ、ジャン……!)

コニー(今のお前、最高に輝いてるよ……! よかったな!)



ジャン「な、なんか照れるなぁこういうのはよ! なあモノクマ、お前もそう思うだろ?」ヒョイッ ダキッ



エレン・ミカサ・コニー「!?」

238: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 16:59:05 ID:jghMJU9o

ジャン「……あれっ? モノクマいつもより軽くねえ?」

エレン「じゃっ……ジャン! ジャン!!」オロオロ

ミカサ「ダイエット中。モノクマはダイエット中……ぽっこりしたお腹が気になると言っていた」アタフタアタフタ

コニー「そうだそうだ! 今ちょっと綿抜いてるしな、少し軽めに感じるんじゃねえの?」アセアセ

ジャン「ダイエットだとぉっ!?」クワッ!!

ミカサ「ひぇっ」ビクッ

239: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 17:00:16 ID:jghMJU9o

ジャン「モノクマのチャーミングポイントは、このぽっこり膨らんだお腹とちょこんと飛び出たでべそだろうが! ダイエットなんかしたら魅力が減っちまうじゃねえか!」サワサワ スリスリ ナデナデ

エレン「あのなぁジャン、モノクマだって思春期なんだぞ!? 体型の良し悪しだって気にするお年頃なんだ! そいつの自由にさせてやれよ!」

ジャン「!! ――そうか……そうだな、俺は自分の好みばかりモノクマに押しつけようとしてたんだな。俺はもう何も言わないぜ。モノクマの好きにするといいさ」フッ

コニー「えっ? そんな話だったか?」

ジャン「でもよ、急な減量はよくねえぜ? よかったら今度俺と一緒に運動しような?」ポンポン

エレン「よっ、よーし、よーしジャン! モノクマは一旦机に置こう、そんで落ち着こう、な? ほらいい子だから言うこと聞けよコラァッ!!」クワッ!!

ミカサ「エレン! あまり声を荒げては教育上よろしくない!」

エレン「俺は別にジャンを教育してるわけじゃねえよ!!」

240: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 17:01:07 ID:jghMJU9o

ジャン「……? なあコニー、ちょっといいか?」

コニー「おっ、おう、今度は俺か……なんだ? 何かあったか?」ドキドキ

ジャン「なんでさっきからモノクマは何も話してくれねえんだ?」

コニー「え? えーっと……」チラッ

エレン(それはさっき、お前がここに来た時にコニーが箱を綿の中に隠したからだよ……!)ソワソワ

ミカサ(あの位置では、例えコニーが手を伸ばして箱を取ったとしても不自然になってしまう……それに、モノクマはジャンが抱えているから、声とぬいぐるみの距離がありすぎてバレるかもしれない)ソワソワ

コニー「……お、お前が体型のこと口に出したから怒ってんじゃねえのー?」

ジャン「えっ……そうなのか? モノクマ」

241: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 17:02:30 ID:jghMJU9o



 モノクマ『……』



ジャン「……そうか。俺、モノクマに嫌われちゃったのか」ショボーン...

エレン(おいおいなんでだ、ジャンが一方的に暴走してるだけなのに罪悪感半端ねえぞこれ)ズキズキ

ミカサ(どう見てもジャンがおかしいのに、何故だか私たちのほうが悪いことをしているような気がしてくる……)ズキズキ

コニー(なんだよこれ、俺が悪いのか? でも他に言い様がなかったし……)ズキズキ

242: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 17:04:05 ID:jghMJU9o

コニー「仕方ねえな……エレン、アレをやってくれ」ボソッ

エレン「アレをか……え? アレをやるのか? 今ここで??」

ミカサ「アレ?」キョトン

コニー「ああ。アレだ」

エレン「けどさ、アレは一度ジャンの前でやってるし、箱を鳴らすよりもリスクが高いんじゃ――」

コニー「いや、モノクマに心酔している今のあいつなら充分に騙せる。俺を信じろ」

エレン「……で、でもよ、今アレをやるのは、少し恥ずかしいんだが」モジモジ

コニー「いいからやれ」キッパリ

エレン「ええー……。けど、今回はミカサもいるし、ちょっと……」チラッ

ミカサ「エレン。私はエレンがどんなことをしようと決して笑ったりしない。安心して」

エレン「いや、でも……」モジモジ

ミカサ「あのままだとジャンがかわいそう。なんとかできるならやってあげて、エレン」

エレン「――く、くそっ……! 後で五、六発殴らせろよな、ジャン……!」

243: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 17:05:21 ID:jghMJU9o

ジャン「そうだよな。俺がお前に取った最初の態度を考えれば、嫌われて当然なんだよな……」

ジャン「でも今は違う! お前のこと、本気で大切にしたいって思ってる!」

ジャン「さっきの体型の話だって、お前の体調を気遣ってのことなんだよ!」

ジャン「モノクマ、頼む……! あと一回だけでいいから、お前の声を聞かせてくれ!!」



エレン「わかった!! 今度二人で遊ぼうね!!(裏声)」



ジャン「……」

エレン(ほぉーらぁーやっぱり無理があったんだよ! ジャンの奴めちゃくちゃ怪しんでるじゃねえか!)

コニー(くっ、やっぱりダメか……!)

ジャン「……エレン、聞こえたか?」

エレン「なっ、何がだよ」ドキドキ

244: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 17:07:39 ID:jghMJU9o

ジャン「モノクマの、魂の叫びだよ……!」グスッ

エレン「えっ……ジャン、お前もしかして泣いてるのか? なんで? は?」オロオロ

ジャン「ばーか、泣いてねえよ……」ゴシゴシ

コニー(うっわぁ……マジ泣きしてるじゃねえか……)ドンビキ

ミカサ「……ジャン、ハンカチをどうぞ」スッ

ジャン「いいって。それ、ミカサのハンカチだろ? 俺の涙で汚れちまうよ」ズズッ

ミカサ「ハンカチは汚すためにあるものだから気にしなくていい。それに、兵士なんだから目は大事にしなくてはいけない」

ジャン「……じゃあ、少しだけ借りるぜ。これ、洗って返すな」フキフキ

ミカサ「うん。待ってる」




エレン(あのハンカチ、きっとキルシュタイン・カスタムされて返ってくるなー)

コニー(ジャンのことだから洗うついでにもう一枚新品買ってキルシュタイン・カスタムしてから渡すんだろうなー)

245: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 17:08:38 ID:jghMJU9o

ジャン「じゃあ俺、クリスタにコニーがここにいること伝えてくるわ。――また後でなモノクマ!」ガラッ タッタッタッ...



エレン「……」

コニー「……行ったか?」

ミカサ「たぶん」

エレン「あっ、危なかった……」ヘナヘナ

ミカサ「エレン、よく頑張った」ナデナデ

コニー「ああ。すげーよお前」

エレン「だってよ、ジャンが本当のこと知ったら、アルミンにも言っちゃうだろ……真剣にもなるって……」グッタリ

コニー「結局返事があれば都合よく解釈しちまうらしいな」

ミカサ「そうみたい。なんてお手軽」

246: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/04(月) 17:09:28 ID:jghMJU9o

コニー「そういやさ、さっきのジャンってモノクマに本気で告白してたよな……?」

エレン「ああ。『大切にしたいって思ってるんだ!』ってな。完全に自分の世界に入り込んでたぜ」

ミカサ「……びっくりした」

コニー「……」

エレン「……」

ミカサ「……」





コニー「こわい」ガタガタ

エレン「こわい」ガタガタ

ミカサ「こわい」ガタガタ

250: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/10(日) 23:19:18 ID:hmIA7IeA

ミカサ「エレン、私はアルミンに会うのが怖くなってきた……」

エレン「だっ、大丈夫だって! アルミンはオリジナルブランドを生み出してみんなに布教して回るほどアクティブじゃねえよ!」

ミカサ「……それはそれで心配」

コニー「なあミカサ、それよりそのシュシュどうすんだ?」

ミカサ「……エレン。ジャンからもらった」ヒョイ

エレン「いや、言わなくても見てたけどな俺。横で」

ミカサ「報告は大事」

エレン「別に俺はお前の保護者じゃねえんだから、報告なんていらねえよ」

ミカサ「……これ、どうしよう」

コニー「つければいいんじゃねえの? ジャンが喜ぶぞ?」

ミカサ「……エレン、つけてほしい」スッ

エレン「俺が? いや、いくらなんでもそりゃジャンに悪いって――」

ミカサ「……」

エレン「……あぁもう、わかったよ。そんな目で見るなってば。――後ろ向け、つけてやるから」

ミカサ「うん」クルッ

251: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/10(日) 23:20:39 ID:hmIA7IeA

ミカサ「……♪」ウキウキ

エレン「ミカサの奴、えらくご機嫌だな」

コニー「新しい髪飾りを手に入れた時の女のテンションってのは、総じて高いもんよ」フフン

エレン「……そういうもんなのか」

コニー「俺もサニーに髪飾りでも作って送ってやるかなー」

ミカサ「それよりも、早くモノクマのお腹に箱を入れてあげて」

コニー「おっと、そういやそうだな。じゃあ綿の中から出して……っと」ヒョイッ



ライナー「よおコニー! 探したぞ!」ガラッ



コニー「ったぁっ!?」ガタガタッ ボトッ

エレン「どわぁっ!?」ガタガタッ

ミカサ「きゃっ!?」ガタガタッ

252: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/10(日) 23:22:35 ID:hmIA7IeA

コニー「ら、ライナーじゃねえか……! なんだ、お前も俺に用事か?」ドキドキ

ライナー「ああ、教官の呼び出しの後にどうなったか気になってな。……ジャンから全部聞いた。昨日は悪かったな、コニー」シュン

コニー「お、おお……気にすんなよ。そこまで大したことなかったし……」チラッ

コニー(やっべぇ……箱が綿から出ちまった。しかもライナーがちょっと手を伸ばせば届く位置に……!)ダラダラダラダラ

エレン(見た目はただの箱だし、触らなきゃバレない……よな?)ドキドキドキドキ

ミカサ(ジャンは教官の人形の話もしてしまったのだろうか。もしそうだとしたら、104期中に教官の人形の噂が広まってしまうのも時間の問題かも)

253: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/10(日) 23:25:32 ID:hmIA7IeA

ライナー「おっ、珍しいなミカサ。髪を結っているのか?」

ミカサ「うん。ジャンにもらった」

ライナー「なかなか似合ってるぞ」ニカッ

ミカサ「……どうも」

ライナー「最近はシュシュをお守り代わりに持ち歩くのも流行ってるからな。専用の金具が欲しかったら言ってくれ」

ミカサ「専用の金具?」

ライナー「ああ。ブラウンメイドのキーチェーンだ」

ミカサ「ぶらうん」

コニー「めいど」

エレン「なんつった今」

254: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/10(日) 23:26:47 ID:hmIA7IeA

ライナー「人形やアクセサリーに関する金属加工・装飾を引き受けてるんだ。材料は技巧室で拾った廃材だから安価に済ませることができるしな。給金の少ない訓練兵の心強い味方だぞ!」

エレン「ライナー、お前もか……俺、頭痛くなってきたよ……」

ライナー「ちなみに今はアジャスターとマンテルの組み合わせが人気なんだ。どうだミカサ、試しに一つ作ってやろうか?」

ミカサ「……気が向いたら頼む」

ライナー「いつでも言ってくれよ? 待ってるからな?」

ミカサ「…………………………うん」

ライナー「コニーやエレンも何かあったら気軽に頼んでくれ。――なんならその教官から預かった人形にもつけてやろうか?」

コニー「いや、いいよ。この人形には細工しないって決めてるからさ。気持ちだけありがたくもらっとく」

ライナー「……そうか」ションボリ

255: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/10(日) 23:27:50 ID:hmIA7IeA

エレン「……」

ライナー「ん? どうしたエレン、何か作ってほしいものでもあるのか?」ソワソワ

エレン「いや……なんでもない……」

エレン(なあライナー……そういえば俺、お前みたいになりたいって思ってたっけ。でも今は――)チラッ

ライナー「今ちょうどミーナからの依頼が済んだところで暇なんだがな。本当に何もないのか?」ソワソワ

コニー「ねえよ」

ミカサ「ない」

ライナー「……そうか」ションボリ

エレン「……」

エレン(俺が憧れてた、かっこいいライナーはどこにいったんだろう……)

ライナー「なんでもいいんだけどな。例えばその白い箱なんか――」スッ

エレン「箱? ――あっ!」ガタッ

ミカサ「それはダメ!」ガタッ

256: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/10(日) 23:29:25 ID:hmIA7IeA

コニー「これは俺の! 俺のケースだから! 針がいっぱい入ってるから危ねえぞ!?」ササッ

ライナー「……いや、俺だって針どころか危ない工具はいくらでも触ってるんだが」

コニー「ええっと――そうだ! 俺以外の人間が触ると針が千本飛び出すんだよ! だから危ねえの!」

ライナー「なんでそんな危険物を持ち歩いてるんだ! 没収するぞ!」

コニー(ああああああああドツボにハマった!!)

エレン(馬鹿! コニーの馬鹿!! 俺も馬鹿だけど!)

ミカサ「……ライナー。コニーだって立派な兵士なんだから、この箱よりも危ない物を扱う時だってある。なんでもかんでも危険から遠ざけるのはあまり教育上よろしくない」

ライナー「針が千本飛び出すよりも危ない物ってなんだ?」

ミカサ「…………………………へ、壁上固定砲とか」

ライナー「ああ、確かにそりゃ危ないな」

257: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/10(日) 23:30:38 ID:hmIA7IeA

ライナー「……ちょっとモノクマ借りるな」ヒョイ

コニー「あっ、おい! 腹の傷気をつけろよ!?」

ライナー「わかってるさ。乱暴な真似はしない。少し……話を聞いてもらいたいだけだ」ギュッ...

コニー「なんで後ろから抱いてんだ」

ライナー「前から抱いたらモノクマが息苦しくなっちまうだろ?」

ミカサ「ライナー。モノクマはぬいぐるみだから呼吸しない」

ライナー「えっ? してるぞ?」

ミカサ「……………………」

コニー「ミカサ、考えるな」ヒソヒソ

ミカサ「……わかった。考えない。モノクマは呼吸している」

ライナー「おう。その通りだ」

258: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/10(日) 23:31:49 ID:hmIA7IeA

ミカサ(ライナーが抱きしめていると、モノクマがすごく小さく見える。握りつぶされなければいいけど……)ハラハラ

ミカサ(そもそも、どうしてジャンやライナーは頑なにモノクマとスキンシップしようとするんだろう。男子寮でもいつもこんな感じなのだろうか)

ライナー「俺は自分が情けねえよ、モノクマ……いつも兄貴面してるくせに、コニーのこと何もわかっちゃいなかったんだな」ブツブツ

ミカサ「……何故ライナーはモノクマに語りかけているの」

コニー「みんな大体こんな感じだぞ」

ミカサ「エレンやアルミンも?」

コニー「アルミンが一番重症だ」

ミカサ「…………」

ライナー「あーあ……いいとこねえなぁ、俺って」ションボリ ナデナデ

エレン「」

エレン(違う……! 俺の知ってるライナーはこんなにナヨナヨしてねえ、こんなメンタル弱い奴じゃねえよ!!)ブンブン

261: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/17(日) 21:40:44 ID:Kcv/9zVU

ライナー「……ん? なんだかモノクマの元気がないな」

エレン「ええっ!? ええええーっと、気のせいじゃねえのー?」

ライナー「……返事がない。まるでただの人形みたいだ」

ミカサ「ただの人形なのでは」

コニー「ミカサ」

ミカサ「……」

ライナー「身体もなんだか軽いし……まさかこいつ、風邪でもひいたんじゃないか?」

コニー「腹は裂けてるよな。ぱっくりと」

エレン「ある意味重傷ではあるな」

ライナー「……なあエレン、お前からも呼びかけてやってくれないか?」

エレン「はぁっ!? い、いや、何も俺じゃなくてもミカサやコニーに頼んだって――」

ライナー「お前じゃなきゃダメなんだ!! 頼む!!」

エレン「た、頼むって言われてもよ……」チラッ

262: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/17(日) 21:42:15 ID:Kcv/9zVU

エレン(俺がモノクマと会話したら、誰がモノクマの声を出すってんだ?)

ミカサ「……エレン。ライナーにはエレンの後ろに立ってもらって、エレンは屈んでモノクマと話せばいい。ライナーには背を向けているから、口の動きは見えない。きっと大丈夫」ヒソヒソ

コニー「いやダメだ。エレンがモノクマの声を出すために息継ぎすりゃバレるだろ。それにライナーがモノクマとエレンに同時に話しかけたら百貫落としだ」ヒソヒソ

ミカサ「……一巻の終わり」

コニー「おう、それそれ」

ライナー「おいお前ら、一体何を話してるんだ? それよりモノクマに話しかけてやってくれよ!」

ミカサ「ライナー、慌ててはいけない。お手伝いをしようとした矢先に『やれ』と誰かに言われたら途端にやる気がなくなってしまうでしょう? だから、もう少し待つべき」

ライナー「なるほど……それもそうだな。――よし、準備ができたら言ってくれ」

263: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/17(日) 21:43:37 ID:Kcv/9zVU

コニー「……おい膝抱えながら待ってんぞ、ライナー」ヒソヒソ

エレン「俺の中のライナー像が……音を立てて崩れていく……」ガクッ

ミカサ「エレン、しっかりして。……こうなったら、エレンが頑張るしかない」

エレン「どうやって」

ミカサ「アルミンに昔聞いたことがある。――遙か昔、北方のとある民族は『高さの異なる二つの音を同時に出す』という歌唱法を使っていたらしい。それを応用すればいい」

エレン「ミカサ、お前さぁ……そんなふわっふわした説明だけで、俺が今すぐできると思ってんのか?」

ミカサ「できる。エレンはやればできる子」グッ

エレン「無理に決まってんだろ!?」

コニー「そんなまどろっこしいことしなくてもよ、ミカサがモノクマの声出せばいいんじゃねえか?」

ミカサ「えっ」

264: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/17(日) 21:44:44 ID:Kcv/9zVU

ミカサ「待って。私は今日はじめてモノクマの声を聞いた。それにさっきのエレンのモノマネの声で記憶が上書きされてしまったから、その策はあまり現実的ではない。考え直そう」

エレン「もういいってミカサ、俺のモノマネでいいからやれよ」

ミカサ「……エレンのモノマネを私が?」

コニー「もうそれしかないだろうなー」

ミカサ「………………はっ、恥ずかしい。やりたくない」ブンブン

エレン「恥ずかしいとか言ってる場合じゃねえだろ! ライナーにバレたら金づる式にアルミンにもバレるんだぞ!? やるしかねえよ!」

ミカサ「……芋づる式」

エレン「ああ、だよな。なんかおかしいと思ってた」

265: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/17(日) 21:45:41 ID:Kcv/9zVU

ライナー「おーい、まだかー?」ワクワク

コニー「ほらミカサ見ろよ、あのライナー。まるで子どもみてえな綺麗な目してるだろ? あの目を裏切れるのか? お前は」

ミカサ「………………………………あの大きさであの目はちょっと」

エレン「大きさで差別するなよ。――ミカサ頼む! この通りだ!」

コニー「俺からも頼むよ! 頑張ってくれ!」

ミカサ「……努力はする。期待はしないでほしい」

コニー「よーし決まりだな!」

エレン「ライナー、待たせたな!」

266: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/17(日) 21:46:40 ID:Kcv/9zVU

ライナー「おう、遅かったな」モフモフモフモフ

コニー(……ライナーの奴、モノクマの耳をモフってやがる)ゾクッ

ミカサ(どんどん悪化している……というか、もう手遅れな気がする)

エレン「……あ、ああ。実は俺、モノクマとサシで話したことないんだよな。だから少し緊張してるっていうか……気持ちの整理がしたくてよ」

ライナー「なんだ、そんなことか。モノクマは見ての通り優しい奴だからな、そんなに緊張しなくてもいいんだぞ?」ハッハッハ

ミカサ「優しい?」

コニー「ミカサ」

ミカサ「……」

ライナー「ほら、モノクマがお待ちかねだ。最高に滾る言葉をかけてやってくれ」スッ

エレン「滾る言葉って意味がわかんねえんだけど」

ライナー「聞くだけで元気になれそうな言葉だ。なんでもいいぞ」

267: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/17(日) 21:47:45 ID:Kcv/9zVU

エレン「元気になれそうな言葉か……」

ミカサ「……」ドキドキ

ミカサ(私は、どのタイミングでモノクマの声を出せばいいのだろう)

エレン「えーっと…………うーん………………」

ミカサ(――とにかく、エレンの期待に応えなくては)グッ

エレン「……モノクマ」

ミカサ「……」ドキドキドキドキ



エレン「……今日はいい天気だな」



コニー「世間話かよ」

ライナー「よーしいいぞエレン。お互いの緊張を解くという意味では最適な話題だ!」グッ

268: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/17(日) 21:49:43 ID:Kcv/9zVU



 モノクマ『……』



ミカサ「……」モジモジ

ミカサ(……何を、どう答えたらいいのだろうか)

ミカサ(というか、エレンのモノマネをするということに、まだ踏ん切りが付かない……)モジモジ

ライナー「……モノクマからの返事がないな」

コニー「いや、それは………………たぶん、緊張してるんじゃね?」

ライナー「いいや、モノクマが緊張なんかするもんか。……待てよ。まさかモノクマの奴、死んでるんじゃ――」

ミカサ(!! ――もうライナーを誤魔化しきれない……覚悟を決めるしかない!)グッ



ミカサ「――わたし、ものくま!! じゅうごさい!!(※低音)」



エレン「うおっ!?」ビクッ

269: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/17(日) 21:51:44 ID:Kcv/9zVU
うがあああ進まない
中途半端ですけど今日はここまでですすみません

271: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 22:54:08 ID:4gbQcjGM

エレン(い、いきなりでかい声で答えるからびっくりした)ドキドキドキドキ

ミカサ(思ったより大きい声が出てしまった。……恥ずかしい)モジモジ

コニー(違う! ミカサ違う! モノクマの一人称は「ボク」だ!)ブンブン

ライナー「……今の言葉を聞いたか、コニー」

コニー「あ、ああ…………聞いてたようなー? 聞いてなかったようなー?」ピーヒョロロ

ライナー「モノクマは十五歳らしいぞ。結構俺たちと年が近いんだな!」

コニー(そっちかよ)

ライナー「後でアルミンに教えてやろう。きっとあいつ喜ぶぞ」ニヤニヤ

コニー「……そうだな」

ライナー「そういやモノクマの奴、声変わりしたのか?」

ミカサ「!! ……え、えっと、その」オロオロ

ライナー「だから反応が鈍かったんだな。――はっはっは。こいつぅ、声が変わったからって照れることないんだぞぅ」ツンツン

ミカサ「……」

ミカサ(……扱いさえ覚えれば簡単な気がしてきた)

272: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 22:55:16 ID:4gbQcjGM

ベルトルト「あっ、ライナー! こんなところにいたんだ?」ガラッ

ライナー「おう、ベルトルトか。どうした?」

ベルトルト「ミーナがチェーンの長さを再調整してほしいって、ライナーのこと探してたよ。それと、サシャがコイモちゃんの金具壊しちゃったんだって」

ライナー「またあいつか……ちょうどいい、新作ができたから試そう」ガサゴソガサゴソ

ベルトルト「そうやって細工物を渡すからサシャが壊すんじゃないの?」

ライナー「いいんだ。こういうのは使われてこそ価値があるんだからな」

コニー「……なあベルトルト」

ベルトルト「ん? 何? ――ああ、コニーたちここにいたんだね。ジャンやクリスタが探してたよ」

エレン「ジャンにはもう会ったからいいんだ。――あのな」

ミカサ「あなたが手に提げているその籠は、いったい何……?」

ベルトルト「キャンディバスケットだよ」

エレン「きゃんでぃ」

ミカサ「ばすけっと」

コニー「お前いつ作ったんだそんなモン」

273: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 22:56:41 ID:4gbQcjGM

ベルトルト「数日前から少しずつ編んでたんだ……座学と技巧の時間をフルに使って内職してたのさ」

エレン「訓練しろよ何やってんだ」

コニー「エレン、やめとけ」

エレン「……」イライラ

ベルトルト「キャンディをそのまま抱えていると何かと目立つからね。でもこれなら、傍目から見ただけじゃキャンディだってわからないだろ?」フフン

エレン「その側面にでっかく編み込んだ『キャンディ』って名前をどうにかしてからそういうこと言えよ」

ミカサ「エレン、抑えて」

エレン「……」イライライライラ

ベルトルト「中に布を敷いてあるから、夜はこのまま寝床にもなるんだ。お部屋遊びもお出かけもどちらもこなせる優れたアイテムさ。これで昼間のキャンディとのお散歩はもちろん、夜の添い寝だって楽勝だよ」フフン

エレン「…………」イライライライライライライライラ

コニー「エレン、どうどう」ポンポン

ミカサ「それは自作なの? あなたが作ったの?」

ベルトルト「装飾はライナーとジャンに手伝ってもらったよ。全体のバランスや細かいところはアルミンと一緒に考えたんだ」

ライナー「ここのリボンの形をした留め具はかわいらしいだろう? 俺の自信作だ」ドヤァ

ミカサ「そう、そうなの。そう…………なるほど……………………」

274: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 22:57:52 ID:4gbQcjGM

ライナー「さて。ミーナが待ってることだし、戻って仕事を片付けなくっちゃあな!」ゴキッ

ベルトルト「あはは、ライナーったら張り切っちゃってぇ」ウフフ

ライナー「コニー、何か入り用の物があったら気軽に声かけてくれ。――じゃあな」ガラッ スタスタ...



コニー「……」

エレン「……」

ミカサ「……」

コニー「ライナー、新しく作った金具を試したかったんだな」

エレン「あー、わかるわかるー。俺も新しい工具買ったらみんなに見せびらかしたくなるもーん」

ミカサ「エレン。無理にライナーと同じ目線に立とうとしなくていい」

エレン「……」

ミカサ「エレン」

エレン「くっそがぁっ!!」ドカッ!!

275: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 22:59:06 ID:4gbQcjGM

ミカサ「エレン!! 無理はしなくていいと言ったけれど暴れていいとは言ってない! 座って!!」グイグイ

エレン「女子か! 女子かあいつらはぁっ!! ああもう腹立つ!!」バシーンッ!!

コニー「エレンが壊れたな」

ミカサ「元々エレンはそんなに気が長くない。むしろこれはよく保ったほう」

エレン「……ライナー、疲れてんのかなぁ」ションボリ

ミカサ「そして一通り暴れた後は反動でしょんぼりする。これもいつものこと」ナデナデ

コニー「どんまいエレン」ナデナデ

エレン「……あいつらおかしい」グスッ

コニー「今にはじまったことじゃねえだろ。最初っからあいつらおかしかったよ。ぬいぐるみに怯えてたしな」ナデナデ

276: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 23:00:35 ID:4gbQcjGM

コニー「でも、馬鹿が頭なんか使うもんじゃねえなー。箱のこと突っ込まれた時は終わったと思ったぜ」ヒョイ

エレン「その前に、どう考えてもその箱に針は千本も入らねえだろ」

コニー「必死にない頭使って考えたんだよ、これでも」

ミカサ「コニーはとても頑張った。……いい子」ナデナデ ジョリジョリ

コニー「ミカサも頑張ってくれただろ? ありがとな、ミカサ!」

ミカサ「どういたしまして。――でも、おかげでわかったことがある」

エレン「なんだ、今更同期の異常性にでも気づいたのか?」

ミカサ「違う。私の弱点がわかった。……私は、口下手だ」ガクッ

エレン「いや、モノマネは口下手とは関係ないからな?」

277: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 23:01:39 ID:4gbQcjGM

エレン「コニー、お前もう便所の個室で縫ってこいよ。ジャンがクリスタも呼んでくるって言ってたし、こんなところにいたら危険だぞ」

コニー「そうだな、もう店じまいしちまおう」ゴソゴソ

ミカサ「えっ、トイレに人形を持って行くのは……ちょっと、汚いような」

エレン「選り好みしてらんねえだろ。今アルミンが来たらどうすんだ?」

ミカサ「……それはそうかも。確かに危険」

コニー「箱は取り敢えずポケットにしまえばいいよな。えーっと、これはそっちで――」ゴソゴソ



アルミン「コニー! モーノックマー♪ あーっそびーまっしょー♪」ガラッ



エレン「わああああああ」バタバタバタバタ

ミカサ「わああああああ」バタバタバタバタ

コニー「わああああああ」バタバタバタバタ

278: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 23:02:52 ID:4gbQcjGM

アルミン「やあモノクマ! 元気してた?」ハーイ

コニー「あっ、あっ、アルミン……、だよな……?」ドキドキドキドキ

アルミン「もちろんそうだよ! ――ジャンからここにモノクマがいるって聞いて、いてもたってもいられなくなっちゃってね!」ダキッ

エレン「!? おい待てアルミン、モノクマの腹は破れてんだぞ、抱き上げるのはやめとけ!」オロオロ

アルミン「やだなぁエレンったら、僕がモノクマのことを乱暴に扱うわけがないじゃないか! うぷぷぷぷ……うぷぷぷ……」スリスリスリスリ

ミカサ「……」

コニー「ああっ、頬ずりなんかしたら綿が出ちまうって……」ヒヤヒヤ

ミカサ「…………エレン、アルミンがおかしい」ヒソヒソ

エレン「言ったじゃん俺」

ミカサ「私の知ってるアルミンは、あんな笑い方をしない」

エレン「だから、言ったじゃん俺」

ミカサ「……」

エレン「言ったじゃん」

ミカサ「……ごめんなさい、信じてなかった」

エレン「マジかよ、傷つくわー」

279: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 23:03:47 ID:4gbQcjGM

アルミン「そうだ、ミカサにはまだ渡してなかったよね! ――はい、これどうぞ」スッ

ミカサ「冊子? ――これは何?」ペラッ

アルミン「モノクマ語録さ」

ミカサ「……ものくまごろく」

アルミン「これまでモノクマが話した言葉の全てを書き綴ってあるんだ。毎朝朝食の時間に中身を読み合わせするから、ミカサも時間ができたら一度一緒にやってみようね!」

ミカサ「……アルミン。これは冊子だけれど、文章は最初の一ページにしか書いてないみたい。乱丁?」パラパラ

アルミン「違う違う。今はまだ少ないけど、これからモノクマの話す言葉が増えることを見越してページは多めにしておいたんだ。新しい言葉が発見されたら追加していくよ」

ミカサ「百ページも埋まるとは思えない」

エレン「ミカサ」

ミカサ「……」

アルミン「うぷぷぷぷ、これでミカサもモノクマと一緒だよ、よかったね……うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ………………んん?」ピタッ

ミカサ「……? アルミン、どうしたの?」

アルミン「……モノクマが軽い気がする」ヒョイヒョイ

280: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 23:05:07 ID:4gbQcjGM

ミカサ「……モノクマはダイエット中」

アルミン「モノクマは僕に黙ってダイエットなんかしない」

エレン「身体の調子が悪いんじゃねえかな。腹も裂けてるし」

アルミン「モノクマは具合が悪かったら僕に一番に報告するはず」

コニー「なんだその自信」

アルミン「ねえコニー、いったいモノクマに何があったの?」ズイッ

コニー「うおっ!?」ヨロッ

ミカサ(!! コニー、あまり下がったら後ろの机にぶつかってしまう……!)ヒヤヒヤ

エレン「こらアルミン! コニーに詰め寄るのはやめろ!」グイッ

アルミン「やっちゃうよ? いいすか? やっちゃってもいいすか?」

エレン「ダメに決まってんだろ! っていうか何するつもりだ離れろ!」グイグイ

アルミン「だってコニーが好きに調べろって」

ミカサ「そんなこと一言も言ってない。アルミン、少し下がって」グイグイ

281: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 23:06:41 ID:4gbQcjGM

エレン「コニー! ここは俺とミカサで押さえておくからお前はとっとと店じまいしろ! さっさとどこか行け!」ガシッ

コニー「お、おうっ! 今すぐ片付ける、待ってろ!」ガサゴソガサゴソ

アルミン「大人はいつだってそうだ! どうして都合の悪いことばかり隠したがるんだ! エレンとミカサのいじわる!」ジタバタジタバタ

ミカサ「違う、これはアルミンのためを思ってやっている! いじわるなんかじゃない!」ガシッ

エレン「そうだぞアルミン、いつかお前もわかる日が来る!」

コニー「えーっと、これがそっちであれがここで――っと、糸が落ちちまった」ヒョイッ ポチットナ



     『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー』



エレン「」

ミカサ「」

コニー「」

282: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 23:07:45 ID:4gbQcjGM

コニー(……えっ? 今俺押してないよな? なんで鳴るんだ??)

エレン(そうか……! ――コニーが屈んだ時に、ポケットに入った箱が圧迫されて押されちまったんだ!)

ミカサ(なんてこと……ちょっとした衝撃でも音が出てしまうなんて……)

アルミン「……なんか今、コニーからモノクマの声が聞こえたような」ヒョコッ

ミカサ「!! ――アルミン! 行こう!!」ガシッ グイッ

アルミン「わわっ、どうしたんだよミカサ!」

ミカサ「えっと……私はその、すごくトイレに行きたい! とても行きたい!!」グイグイ

アルミン「行ってきなよ」

ミカサ「……」

アルミン「行ってきなよ」

283: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/23(土) 23:09:58 ID:4gbQcjGM

ミカサ「あの…………アルミンについてきてほしい。来てくれないと困る」グイグイ

アルミン「えっ? ――いくら幼なじみでも、一緒に行くのは、その……」モジモジ

ミカサ「ここから一番近いトイレに辿り着くまでには、大量の罠が仕掛けられているという噂がある。恐らくアルミンの頭脳がないと突破できない。――トイレの前まででいいからついてきてもらえないだろうか」

アルミン「……しょうがないなぁ、お願いされると弱いんだよね」

ミカサ「ありがとう、すごく助かる。とても助かる」コクコクコクコク

アルミン「いいよ、大丈夫。――その代わり、手前までだからね?」

ミカサ「ありがたい。――さあ行こう、さっさとここから離れよう」ガシッ

アルミン「あははミカサ引っ張らないで抜けちゃう抜けちゃう腕が割と本気で抜けちゃうからやめて痛い痛い痛い」ズルズルズルズル...



コニー「ああ、ミカサが、ミカサが……俺たちの犠牲になっちまった……」ホロリ

エレン「あいつら……大丈夫かな。いろんな意味で」

コニー「……さっき、アルミンの奴モノクマの言葉喋ってたよな」

エレン「今だけじゃねえ、ちょいちょい挟んでるよ。……コニー、ミカサの頑張りのためにも、さっさとその穴塞いでくれ」

コニー「おうよ、そうする」チクチクチクチク

287: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 15:12:29 ID:slr4yPic

―― その日 夜の男子寮

ベルトルト「うん……うん、そうなんだ……それは楽しかっただろうね……ふふふ、キャンディはいい子だから、みんなが優しくしてくれるんだよ……」ブツブツ

ジャン「ライナー、六つ目のポンポンできたぞ」スッ

ライナー「おう、任せろ。……おお、一色じゃないのか。すげえな」サワサワ フニフニ

ジャン「今回はキャンディをイメージしてピンクと白のストライプにしてみたんだ。かわいいだろ?」

ライナー「ああ、すごく素敵だ。……この辺だったな」ガチャコンガチャコンガチャコンガチャコン

アルミン「うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……おかえりぃー、モノクマぁー……うぷぷぷぷ……」ニヤニヤ

コニー「おいアルミン、足をバタバタさせんなよ。埃が立つだろ」ポンポン

エレン「……」

288: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 15:13:40 ID:slr4yPic


キャンディ『おっさんっぽ おっさんっぽ いっきたいっクル~』


ベルトルト「うん、僕もキャンディと一緒にお出かけするの楽しみだな……」ブツブツブツブツ

ライナー「籠は見映えがよくなってきたが、取っ手が剥き出しなのが気になるな……ジャン、ここにカバーをつけたらどうだ?」

ジャン「おしちょっと待ってろ今端切れで作るからよ」ジョキジョキ チクチク

アルミン「ねえねえモノクマ、今何時ー?」ポチットナ

289: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 15:14:32 ID:slr4yPic



 モノクマ『あー、あー。マイクテスッ、マイクテスッ。校内放送、校内放送』

 モノクマ『午後十時になりました。ただいまより夜時間になります』

 モノクマ『ではではいい夢を。おやすみなさい……』



ジャン「おやすみー」

ライナー「いい夢見ろよー」

ベルトルト「キャンディはもうちょっと待とうね、いい子だからできるよね?」



キャンディ『ふぁ~…zzz...zzz...』



アルミン「ダメだよキャンディったらぁ、ベッドで寝ないと風邪引いちゃうよっ?」ウフフ

エレン「…………」

290: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 15:15:23 ID:slr4yPic

エレン「……俺、外出てくるわ。筋トレしてくる」スクッ

コニー「おう、気をつけろよ。――エレン、すまねえな」

エレン「? 何がだよ」

コニー「だってよ、俺がモノクマ持って来なきゃ、こうやってお前が肩身狭い思いすることなかっただろ? ……悪かった」ショボン...

エレン「……いいってコニー、気にするなよ。昼間に話したとおり、これはこれでいいって俺も納得してるんだからさ。ただちょっと……いや、かなり危険な方向にあいつらが振り切れてるだけで」

コニー「もう少ししたらあいつらも落ち着くと思うからさ。あとちょっとだけ辛抱してくれ」

エレン「? なんだ、何かあるのか?」

コニー「実は――」

291: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 15:16:31 ID:slr4yPic

―― 数日後の夕方 教官室

キース「……」ジッ...

コニー「……」ビクビク

コニー(キース教官、人形持ったまま動かねえな……別に変なパーツとか取り付けてねえはずだけど……)

キース「……少し、色が薄いな」

コニー「はっ、はい! ――ええっと、その人形って、調査兵団所属の教官殿のご友人が持ち歩いていた物なんですよね?」

キース「ああ。そう言ったはずだが」

コニー「そのせいで、いくらか日焼けして退色してるみたいなんです。色が薄いのはそれが原因だと思います」

キース「日焼けによる退色というものは、街の手芸屋に持って行けばなんとかなるものなのか?」

292: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 15:17:09 ID:slr4yPic

コニー「いえ……こればっかりはいくら金を積んでも元には戻せません。その状態で精一杯だと思います」

キース「……そうか」

コニー「……」ビクビク

キース「ならばこれで充分だ。――よくやったな、スプリンガー」

コニー「――! はっ、はい! ありがとうございます!」バッ!!

キース「心臓は左だ」

コニー「うおっ!? ……し、失礼しました」ササッ

キース「例の件も手配をしておいた。一週間後にここに来い。――下がれ」

コニー「はっ! それでは失礼いたします!」ガチャッ バタンッ

293: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 15:18:29 ID:slr4yPic

―― 食堂

アルミン「うわあああんライナー! ミニクマの金具が取れちゃったぁっ!」ビエーン

ライナー「よしよしアルミン、ちょっと待ってろよ。今直してやるからな」

サシャ「ジャン、コイモちゃんにつけたリボン取ってくれませんか? 重いし大きくて、持ち歩くには不便すぎるんですが」ズシッ...

ジャン「じゃあこっちの鈴つけようぜ。クマよけだ」チリーン

クリスタ「ミーナ、糸なくなっちゃったから分けてくれるー?」

ミーナ「いいよー」



エレン「この光景にも違和感なくなってきたなー……」

ミカサ「……コニーは大丈夫だろうか。とても心配」ソワソワ

エレン「あれだけ丁寧に仕上げたんだから大丈夫だろ。むしろ敬礼間違えないかどうかのほうが俺は不安だな」

ミカサ「……確かに」クスッ

294: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 15:19:16 ID:slr4yPic

コニー「ただいまー。……あー疲れた」ガラッ

ミカサ「おかえり、コニー。……どうだった?」

コニー「なんとか受け取ってもらえたぞ。……ああー、緊張したぁー」グッタリ

ミーナ「お疲れさま、コニー」ポンポン

クリスタ「頑張ったもんね。――はい、お茶入れたからどうぞ?」スッ

コニー「おっ、ありがとな。気が利くなー」ズズッ

ジャン「キルシュタイン・カスタムなしでよく許してもらえたな」チクチク

ライナー「金具も新作を用意してたから取り付ければよかったのにな。今回からブラウンメイドの銘も入ってるぞ」キラーン

ベルトルト「キャンディを連れて行ったらイチコロだったと思うよ。もちろん僕は同伴ね」クンカクンカ

アルミン「モノクマの素晴らしさの前では教官も為す術がなかったろうに」フフン

エレン「主にお前らのせいだったんだがわかってんのか?」

コニー「エレン」

エレン「……」

295: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 15:19:58 ID:slr4yPic

コニー「ところでよ。アルミンとジャンとライナーとベルトルトって、今日は当番か何かあるか?」

アルミン「僕はミニクマと一緒に掃除当番だよ」

ジャン「当番はねえけど、クリスタからの依頼があるからそっちをやらねえと」

ライナー「俺は技巧室で廃材探しの仕事が残ってるな」

ベルトルト「僕はキャンディと一緒に水汲み当番だったかな」

コニー「よしわかった。女子で誰でもいいからアルミンとベルトルトの当番代わってくんねえか?」

ミカサ「わかった。私が代わろう」

サシャ「パンくれるならやってもいいですよ」

エレン「俺のパンやるから代わってやってくれ、サシャ」

サシャ「毎度あり!!」ワーイ!!

ジャン「……? なんだ、何かあるのかコニー」

コニー「ああ。――お前らに、ちょっと込み入った話があるんだ」

297: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 21:46:49 ID:slr4yPic

―― 夜の男子寮

ベルトルト「ごめん、遅くなったね。引き継ぎに時間がかかっちゃって……ってあれ? ライナーとエレンは?」ガチャッ

コニー「ライナーは技巧室だ。エレンが捕獲しに行ったから、そろそろ戻ってくると思うぞ」

ベルトルト「ああ、仕事だって言ってたもんね。じゃあ仕方ないか」

コニー「そもそも仕事じゃねえんだけどな」

アルミン「ひゃっくおっくえーん」

ジャン「なあベルトルト、お前鉄製じゃなくて木製のかぎ針持ってたよな? 貸してくんねえか?」

ベルトルト「いいよ。ちょっと待っててね」ゴソゴソ

298: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 21:47:30 ID:slr4yPic

エレン「……た、ただいま」ガチャッ ゼエハア

ライナー「おう、遅くなったな」ズルズル...

コニー「!? お、おいエレン……お前ライナーを引き摺ってきたのかよ……?」

エレン「だって技巧室から動こうとしねえんだもんこいつ……あー疲れた、だれか水くれ……」ヘロヘロ

アルミン「はいエレン、お水だよ。大丈夫?」スッ

エレン「おお、アルミンありがとな……でもモノクマの手じゃなくてアルミンの手から直接受け取りたかったなー……」ゴクゴク

ジャン「ほら、俺のタオル貸してやるから使えよ。汗拭け汗」フキフキ ササッ

エレン「気持ちはありがてえんだけどよ、やけに豪華な刺繍してあって使いづれえよ……あと俺の髪にシュシュ当てるんじゃねえ」ペチン

ジャン「ちぇっ、いいだろこれくらい」ブーブー

299: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 21:49:23 ID:slr4yPic

ライナー「それでコニー、話ってなんだ? 当番を代わらせてまで全員集めたってことは、結構深刻な話なんだろ?」

コニー「ああ、全員揃ったしもういいよな。――みんな、聞いてくれ」

ベルトルト「よーしキャンディ、コニーの話を一緒に聞こうね?」ウフフ

アルミン「スプリンガー教官! ミニクマも一緒に聞いていいですか!」ハイッ

コニー「好きにしろ。――ちなみに今からする話だが、エレンはもう既に知ってる。何日か前に俺が話した」チラッ

エレン「……」

ジャン「エレンにか? なんでだ?」

コニー「俺が必要だと思ったからだ。本題に入るぞ? ――この前教官に呼び出された時、実は人形の補修と引き替えにある頼みごとをしてたんだ」

コニー「教官の知り合いを辿って、近々ラガコ村に立ち寄る予定がある商人がいないか探してもらった。――そんで、今日やっと見つかったんだ」

ベルトルト「? どういうこと?」





コニー「―― 一週間後、モノクマを俺の家まで届けてもらうことにした」

300: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/11/30(土) 21:50:46 ID:slr4yPic

アルミン「えっ……?」

コニー「モノクマは元々妹にやる予定だったんだよ。――本当は、今度実家に帰る時に渡そうと思ってたんだが……今回、みんなに迷惑かけちまったからな。さっさと実家に送っちまうことにしたんだ」

ベルトルト「そんな……! 迷惑だなんて思ってないよ!」



キャンディ『お話しするクル?』



アルミン「キャンディの言う通りだ……話してよコニー! 僕たちはまだ話し合うことができる!」

コニー「いや、教官から人形の補修の話を持ち出された時にもう決めてたんだ。調査兵団に友だちがいる教官なら、きっと商会の人間とも繋がりがあるんじゃねえかと思ってさ」

ライナー「……約束を取り消すことはできないんだよな?」

コニー「ああ。教官や届けてくれるっていう商会の人にも迷惑がかかるからな。今からやめるってのは無理だ」

ライナー「……そうか」

ジャン「……」

305: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:36:26 ID:VtGgz.42

ライナー「ベルトルト。……キャンディも、コニーの家に送ってもらおう」

ベルトルト「なっ……!? 何を言っているんだライナー! ――今までだってできたんだ、これからだって僕がお世話するよ! 訓練もキャンディのお世話も両立してみせる!」

エレン「お前両立できてなかったじゃねえか」

ライナー「……お前の覚悟の程はわかった。けどな、そうじゃないんだベルトルト」

コニー「まあ信用ないよなー。今までのベルトルト見てたら」

ベルトルト「だから大丈夫だって! キャンディのお世話をはじめてから、成績はそこまで極端には落ちてない! これからだってきっと――」

ライナー「……俺たちの故郷に、キャンディは連れて行けないだろ?」

ベルトルト「……あっ」

ライナー「いつかこういう日が来るはずだと……お前も内心わかっていたんじゃないか? ベルトルト」

ベルトルト「……そうだね。僕は、僕たちは……見たくない現実から、目を逸らしていただけだったんだね」

ライナー「ああ。――現状、お前が取れる選択肢は二つある。元々あった場所に返してくるか、コニーの家に託すか、だ」

エレン「いやペットじゃねえんだから元の場所に返してこなくても」

ベルトルト「キャンディはペットじゃない僕の妹だ!! 二度と間違えるな!!」ダンッ!!

エレン「ひっ!? ……わ、悪い」ビクビク

306: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:37:17 ID:VtGgz.42

コニー「なあライナー。細かいことは知らねえけど、キャンディくらいはいいんじゃねえの? ベルトルトもちゃんと世話するって言ってるしよ」

ベルトルト「いや、ダメだよ。……キャンディは、故郷に持っていけない」

エレン「まあ……でかい男がぬいぐるみ抱えて実家に帰るなんて、傍から見たらかなりキツイ光景だよな」

ベルトルト「それに……このままキャンディが僕たちのところにいたって、きっと幸せにはなれない……」

コニー「深刻に捉えすぎだろ」

ベルトルト「僕……僕は、将来大人になったキャンディが素敵な花嫁衣装を着て、世界で一番幸せになってくれることを願ってるから……」

コニー「花嫁衣装作るか? 三日あればできるぞ?」

エレン「コニー。お前の思いやりは伝わるが今は静かにしような」

コニー「えー」

アルミン「ちょっと待ってよ……! ライナーもベルトルトも何を言ってるんだ!」バンッ!!

エレン「その言葉には同意だぜアルミン。言葉だけな」

307: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:38:54 ID:VtGgz.42

アルミン「二人とも、あんなにモノクマやキャンディのことを大切にしてたじゃないか!」

アルミン「君たちと離ればなれになった時のふた…………二人……? いや、二匹……二体……………ええっと……………とにかく、彼らの気持ちになってみてよ!」

エレン「迷ったな」

アルミン「僕は迷わない! モノクマとずっと一緒にいる!」ギュッ ポチットナ



 モノクマ『オマエラおしおきしちゃうよ? うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……』



アルミン「ほら、モノクマだって怒ってるよ! おしおきされてもいいの!?」

エレン「……アルミン。わがまま言ってないで聞き入れろ」

アルミン「嫌だ」ギュウッ...

エレン「アルミン」

308: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:40:14 ID:VtGgz.42

アルミン「……友だちなんだ」

アルミン「辛い訓練も、モノクマやキャンディがいたから乗り越えられたんだ」

アルミン「寂しくなった時は、ひたすら抱きしめた」

アルミン「勉強する時は、モノクマの頭の上に顎を乗せたら妙にしっくりきた」

アルミン「どんなくだらない話だって、モノクマは嫌な顔一つせず真剣に聞いてくれた!」

アルミン「一緒の布団に入ると……寝る時は仰向けだったのに、僕が起きた時は必ずこっちを向いてるんだ」

アルミン「僕、嬉しかったんだ。……こんな風に僕と一緒に過ごしてくれるクマなんて、モノクマ以外にいなかったから」

アルミン「だから……離れたく、ないんだよ……」ジワッ...

ライナー「……アルミン」

ベルトルト「そんなに、モノクマのことを……」

ジャン「……」



コニー「クマの知り合いいたらそれはそれで怖ぇぞ」

エレン「コニー。わかったからちょっと黙れ。今いいところだから」

309: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:42:44 ID:VtGgz.42

エレン「アルミン。……だったら、尚更ちゃんとお別れしないとダメだ」

アルミン「エレンには……エレンにはわからないよ! 僕たちがどれだけモノクマやキャンディを大切にしてきたかなんて!!」

コニー「いいやアルミン、それは違うぞ。ちゃんとエレンはお前らのこと考えてる。――俺な、本当は村に送る日の前日に知らせようと思ってたんだ」

アルミン「えっ……?」

コニー「今みたいにお前らが動揺するのなんて目に見えてたからな。だったら、そういう間は与えないでとっとと送っちまったほうがいいって考えてたんだ」

ベルトルト「……そうだったんだ」

ライナー「なら、なんで今話すことにしたんだ?」

コニー「エレンが『そういうのはできるだけ早いほうがいい。日程が決まったらすぐにでも伝えるべきだ』って言ったんだよ」

アルミン「エレンが……?」

エレン「……正直、俺もここまで早いとは思ってなかったんだけどな。一ヶ月くらいは猶予があると踏んでたんだが、アテが外れちまった」

310: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:43:36 ID:VtGgz.42

エレン「ちゃんとお別れしないと、お前らきっと引き摺るだろ?」

エレン「あの時ああしておけばよかったとか、もっとできることがあったんじゃねえかとか……モノクマやキャンディにしてやりたいことが、まだまだたくさんあるんじゃねえのか?」

アルミン「……たくさんあるよ。数え切れないくらい」

ライナー「そういえば、かんざしを付けたキャンディの姿を見てないな。……一度くらいは見てみたいもんだ」

エレン「俺はな、お前らにそういう気持ちの整理をちゃんとしてから、そいつらとお別れしてほしいんだ。……俺にはそんな時間なかったからな」

ベルトルト「……」

コニー「……お前の、お袋さんのことか?」

エレン「ああ。……突然引き離されるよりは、こういう時間があったほうがずっといいだろ?」

アルミン「でも……でも僕……僕は……」ギュッ

311: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:45:05 ID:VtGgz.42

アルミン「……ねえ、黙ってないでジャンも何か言ってよ」

ジャン「え? ――ああ、悪い」

コニー「そういやジャン、ずっと黙ってたな。そんなにショックだったのか?」

ジャン「いや……俺、なんだか実感わかねえんだよ。すまねえな」ポリポリ

エレン「……? なんだそりゃ。実感ないってどういうことだよ」

ジャン「俺は、お前らみたいに故郷を離れたり家族と別れてここに来たわけじゃねえからよ。……よくわかんねえんだ、こういうの」

ジャン「なあコニー。何も今生の別れってわけじゃねえんだろ? ちゃんとお前の家に、モノクマやキャンディは置いてもらえるんだよな? 路頭に迷ったりしねえか? 食い扶持が増えたってんで売られたりしねえよな?」

コニー「怪我くらいはするかもしれねえけど、たぶんお前が言った通りのことは起こらねえと思うぞ。また腹が裂けたとしても母ちゃんが直してくれると思うし」

ジャン「だよな。……なら、心配なんかする必要ねえだろ。むしろこんなむさ苦しいところにいるより、よっぽど幸せな生活を送れるんじゃねえか?」

312: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:47:05 ID:VtGgz.42

ジャン「それに俺たちが狼狽えてたら、モノクマやキャンディが不安がっちまうよ。……ライナーもそれがわかってるから、辛いけど耐えてるんじゃねえのか?」

ライナー「……ジャンに見透かされちまったな。俺もまだ甘い」フッ

ベルトルト「ライナー……」

アルミン「そうだったんだ……」

エレン「だからぬいぐるみは不安がったりしねえって何度も」

コニー「エレン。耐えろ」

エレン「……」

ライナー「心なしか、モノクマが悲しそうな瞳をしている気がしてきたな……すまんな、情けない姿を見せて」シュン

ベルトルト「ああっ、キャンディ……そんな悲しそうな瞳をしないで……! 僕は大丈夫だから……!」オロオロ

アルミン「……そうか。辛いのは、僕だけじゃないんだよね。ここにいるみんなで……モノクマとキャンディをかわいがってたんだもんね。――もちろん、エレンも」

エレン「……ああ、そうだ」

313: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:49:12 ID:VtGgz.42

アルミン「いつかは、お別れしないといけなかったんだ。……わかってたんだけどさ。でも、でも……」

エレン「……」

アルミン「ねえモノクマ。……僕、君がいなくなっても訓練頑張るね」

アルミン「それでさ……卒業して、所属兵科が決まって、落ち着いたら……コニーに頼んで、君に会いに行くよ」

アルミン「その時は、また、僕と遊んでくれる……?」ギュウッ...



 モノクマ『しょうがないなぁ。お願いされると弱いんだよね』



アルミン「……!」

エレン「……よかったなアルミン。モノクマ、お前と遊んでくれるってよ」ポンポン

アルミン「うん……うん……!!」ポロポロ...

エレン「あーあ、泣くなよみっともねえ」ゴシゴシ

314: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:50:22 ID:VtGgz.42

ライナー「……さてと。今日から忙しくなるな」

ベルトルト「うん。モノクマとキャンディにしてあげたいこと、全部やらないとね」

ジャン「ああ、そうだな。――ところでコニー。その……サニーって言ったっけ? お前の妹」

コニー「ん? ……ああ、合ってるぞ」

ジャン「その子は……サニーちゃんは、モノクマやキャンディを大切にしてくれるのか?」

コニー「ちゃん付けかよ」

ジャン「……いや、違うな。サニーちゃんが思わずこいつらを大切にしたくなるように……俺たちは、真心こめて物作りするだけだ。そうだよな? みんな」ニッ

315: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/01(日) 22:52:05 ID:VtGgz.42

ライナー「そうだな。……サニーちゃんに気に入られるといいな」

ベルトルト「うん。キャンディは、サニーちゃんの一番の友だちになれるはずだよ」

アルミン「モノクマは頭がいいから、きっとサニーちゃんのいい話し相手になってくれるだろうなぁ」



ジャン「サニーちゃん……」キュン


ライナー「サニーちゃん……」キュン


ベルトルト「サニーちゃん……」キュン


アルミン「サニーちゃん……」キュン



エレン「お前ら目が虚ろだぞ……?」

コニー「さっ、サニーはお前らなんかにやらねえからな!?」ビクビク

319: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:42:24 ID:quIiaPQU

―― 六日後 食堂 箱詰め日

アルミン「……ベルトルト、定規貸して」カリカリカリカリ

ベルトルト「ん」スッ

アルミン「どうも」カリカリカリカリ



ライナー「…………」グラグラ

クリスタ「ライナー、大丈夫? 目が死んでるけど……」

ライナー「おっと……まずいまずい、時間がないんだったな」ブンブン

クリスタ「なんだか顔色も悪いし、目の下のクマも大変なことになってるよ?」

ライナー「いや、これは……寝れば治るから平気だ。最近ずっと徹夜だったからな……」

クリスタ「そう? じゃあ、今日の夜は温かい飲み物でも飲んで、早めに休んでね?」

ライナー「ああ、そうする。――心配してくれてありがとな、クリスタ」

クリスタ「ふふっ、どういたしまして」ニコッ



ライナー(……結婚しよ)キリッ

320: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:44:01 ID:quIiaPQU

ジャン(……眠てえ)ウツラウツラ...

ミカサ「ジャン。……これ、どうぞ」コトッ

ジャン「? なんだこれ?」

ミカサ「ホットミルク。この一週間、ろくに寝ていないとエレンに聞いた。ので、ちょっとリラックスしたほうがいい」

ジャン「こ、これ……これ! 俺にくれるのか? マジで!?」ガタッ

ミカサ「シュシュのお礼。それに、アルミンたちにも入れたからそのついで」

ジャン「あっ……あっ、ああっ、ありがとな! 大切に飲むから!!」

ミカサ「どういたしまして。……じゃあ、私はアルミンのところに行く」スタスタ...


ジャン「……」



ジャン「…………」





ジャン「……うへへ、へへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」ニヤニヤニヤニヤ

321: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:44:51 ID:quIiaPQU

サシャ「……」ポカーン

コニー「えっと、こっちがこうだから、ここはっと……」ゴソゴソ

サシャ「……コニー」ツンツン

コニー「んー? なんだー?」ゴソゴソ

サシャ「なんで皆さん満身創痍なんですか? 男子寮で一体何があったんです?」

コニー「まあ……色々あったんだよ。男にゃやらなきゃいけない時があるからな」キリッ

サシャ「はぁ、そんなもんですか。……もしかして、私が当番代わった一週間前に何かあったとか?」

コニー「いいや、あいつらがおかしいのはその前からだ。お前の芋がそんなに育つまで、結構時間かかったろ?」

サシャ「えっ? コイモちゃんが日に日にゴテゴテしてきてるのは、みなさんがおかしくなったのと関係があるんですか?」ズシッ

コニー「関係大ありだよ。――っていうかもう原型ねえなそれ。鈴なんか本体よりでかいじゃねえか」

サシャ「ですよね。これだとコイモちゃんじゃなくて何か別の名前を考えないといけませんよ」ゴテゴテ ガランゴロン

322: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:46:15 ID:quIiaPQU

コニー「ところでサシャ、お前なんでこんなところにいるんだよ。食べ物なんかここにねえぞ? なんか食いたいならどっか行けって」シッシッ

サシャ「むむっ、失礼ですね! その言い方だと私が四六時中食べ物を探して彷徨ってるみたいじゃないですか!」プンスカ

コニー「その通りだろ」

サシャ「……まあ、間違ってはないんですが」エヘヘ

コニー「ほらな」

サシャ「そんなこと言われてもですね、今回は私だって当事者なんですよ? 除け者にしないでくださいよ」ブーブー

コニー「はぁ? 当事者ぁ?」

サシャ「そうですよ! そもそもモノクマさんを拾ったのはこの私なんですからね? それに、あそこの四人の当番をこの一週間でどれだけ代わってあげたと思うんです? 聞いたら驚きますよ?」

コニー「でもきっちり対価は要求してんだろ?」

サシャ「しばらくパン二個の生活が続きそうです」ムフフ

323: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:47:09 ID:quIiaPQU

エレン「ただいまー。教官に頼んでもらってきたぞ、木箱」ドサッ

ミーナ「緩衝材になりそうなものも掻き集めてきたよー」ドサドサッ

コニー「おう、二人ともお疲れさん! 持ってくるの大変だったろ? ありがとなー」

エレン「いいってことよ。俺は物作りできねえしな、これくらいはお安いご用だぜ」

ミーナ「そうそう。コニーにはすっごくお世話になったからね。何かしらお返ししたいと思ってたからちょうどよかったよ」

コニー「よし、じゃあ……そろそろ箱に詰めるぞ。まずはモノクマとキャンディからだ」

アルミン「……!」

ベルトルト「そっか……モノクマとキャンディは体が大きいから、先に入れないとダメなんだね……」

コニー「そういうことだ。――そういうわけで、そいつら受け取ってもいいか?」

324: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:48:02 ID:quIiaPQU

エレン「……アルミン」

アルミン「…………ちょっと待って。すぐ、渡すから……自分の手で、コニーに渡すから……!」ギュウッ...

ライナー「ベルトルト。……わかってるよな。」

ベルトルト「うん、大丈夫。……はいコニー、キャンディだよ」スッ

コニー「……最後にもう一回だけ聞くけどよ、本当にいいんだな?」

ベルトルト「……いいよ。それよりも、箱の中で傷つかないように優しく包んであげてくれる? キャンディは、繊細な子だから……」

ライナー「コニー、俺からも頼む」

コニー「わかった。……じゃあ紙に包むぞ」ガサガサ





サシャ「……え? なんですかこの神妙な雰囲気は」オロオロ

ミカサ「サシャ、空気を読んで」

325: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:49:04 ID:quIiaPQU

ジャン「ちょっと待ってくれ! ――なあコニー、こいつも一緒に包んでくれないか?」スッ

コニー「……? なんだこいつ?」

ミーナ「わぁっ、かわいい……!」

クリスタ「猫……じゃないよね。耳が丸いし、しっぽが狐みたいだし」

ジャン「一昨日作業してたらふと思いついてな。……キャンディは泣き虫で寂しがり屋さんだから、俺たちの代わりになるお兄ちゃんが必要なんじゃないかと思ってよ。ベルトルトに協力してもらって、急いで作ったんだ」

サシャ「ねえミカサ、あのぬいぐるみ鳴くんですか?」ヒソヒソ

ミカサ「静かにして。サシャ」

ベルトルト「名前はアルミンが考えてくれたんだけどね、その子はポップって言うんだ。……ほら、首から提げてる認識票にそう書いてあるだろ?」

ライナー「その認識票は俺が作った」ドヤッ

326: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:49:59 ID:quIiaPQU

コニー「えーっと……つまり、キャンディがさびしくないようにポップも一緒の紙に包んでやればいいんだな?」

ライナー「ああ、そうしてやってくれ。これでキャンディも道中さびしくないだろう」

ジャン「ちなみにポップのオプション品もあるからな」

ベルトルト「あっ! そうだ、忘れるところだった! ――コニー、このキャンディバスケットもサニーちゃんに送ってくれる? 持ちやすいように持ち手は改良したからさ」スッ

コニー「持ち手はいいけどゴテゴテしてて重そうだな……あとちゃん付けするなよ。サニーはやらねえからな」





サシャ「……? ??」オロオロ

エレン「サシャ、気持ちはわかるが受け入れてくれ。余計なことは喋るなよ」

327: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:51:13 ID:quIiaPQU

コニー「お前ら、よくこんなことまでする時間あったよなぁ……この他にキャンディとモノクマへの贈り物も作ってたんだろ?」ゴソゴソ

ジャン「ああ、休みなしでずっとチクチクしてたぜ。そのせいなのか、昨日から腕の震えが止まらねえ」プルプルプルプル...

ベルトルト「それって愛じゃない?」

ジャン「ははは、かもなー」

サシャ「それって腱鞘炎」

ミカサ「サシャ。だめ」

サシャ「……」

コニー「けどよ、キャンディにはお兄ちゃん作ってやったのにモノクマには誰も作ってやらなかったのか?」

ライナー「馬鹿言え、そんなわけあるか! ――もちろんちゃんと作ってやったさ」スッ

328: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 21:52:16 ID:quIiaPQU

クリスタ「……ピンクのうさぎ?」

ミーナ「っていうか、おっ、おむつ……!? その子、おむつ履いてない!?」

ライナー「ああ。履いてる」キリッ

クリスタ「……へ、へえー、そうなんだ」

ミーナ「ま、まあ、色々あるよね、うん」

ライナー「キャンディとは違ってモノクマはしっかり者だからな。手のかかる妹がいれば張り合いが出ると思ったんだ」

コニー「ふーん、モノクマには妹作ってやったのか。名前は決めてあるのか?」

ライナー「もちろんだ。アルミンが命名してくれたんだが……モノミちゃんという。認識票もこの通りだ」ジャラッ

ベルトルト「オプション品もね」

ジャン「キルシュタイン・カスタムが火を噴くぜ」





サシャ「…………うわぁ」

ミカサ「サシャ。……理解しろとは言わないけど、水を差してはだめ」

サシャ「……はい、わかりました」

330: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/02(月) 22:16:08 ID:quIiaPQU
ちなみにキャンディのお兄ちゃん・ポップは企業サイト様ですみませんが画像の右下の子です:http://www.prizebp.jp/item/48134

331: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:48:28 ID:7fD0.h1A

サシャ「っていうかなんでミーナとクリスタは平然と見てるんですか。アレおかしいと思わないんですか?」

ミーナ「だって前からああいう感じだし」

クリスタ「キャンディもモノクマもすっごくかわいいもん。あんな風になっちゃうのも当然だよ」

サシャ「はぁ、そういうものですか」





アルミン「……コニー、いいよ」スッ

コニー「お別れは済んだのか? アルミン」

アルミン「これ以上一緒にいると、もっと離れにくくなっちゃうから」

コニー「そうか……じゃあ、モノミと一緒に紙に包むぞ? いいな?」ガサガサ

アルミン「うん、お願い」

サシャ「――あっ! コニー、ちょっと待ってください!」

332: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:49:22 ID:7fD0.h1A

ミカサ「サシャ、水を差してはだめと言った。聞き入れて」メリメリメリメリ

サシャ「いたたたたたたたたたいたいいたい! ちっ、違いますよミカサ、水を差したいんじゃないです! 私、結局お手入れが終わった後のモノクマさん見せてもらってないんですよ! 包む前に見せてください!」ジタバタジタバタ

ミカサ「そういうことは早く言う」パッ

サシャ「言う前にもう掴んでたじゃないですか……」サスサス

ミカサ「ごめんなさいサシャ。ついうっかり」

サシャ「うっかりで頭握りつぶされたんじゃ割に合いませんよ……」ブツブツ

コニー「まあまあ、ミカサも悪気があったわけじゃねえから許してやってくれよ。――ほい、モノクマだ」ポスッ

333: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:50:14 ID:7fD0.h1A

サシャ「……? これ、私が拾ったあの子ですか? 本当に?」ジーッ...

コニー「ああ、間違いねえよ」

サシャ「でも……前はもうちょっと、荒んだ目をしてたような気がするんですが」

コニー「拾った時は大分汚れて黒ずんでたからな。……ぬいぐるみって、汚れてると目付きが悪く見えてくるんだよな。たぶんそのせいじゃねえか?」

サシャ「そうなんですか……モノクマさん、すごくキレイでかわいくなりましたね。なんか、今は目がキラキラしてるように見えます」

クリスタ「うん、みんなにこんな大切にされたんだもの。モノクマもキャンディも幸せだったと思うよ。……ちょっと羨ましいな」

ミーナ「私も実家に帰ったら手入れしてあげないとなー。男子に負けてられないもんね」

334: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:51:02 ID:7fD0.h1A

コニー「バスケットとキャンディとモノクマを詰めてっと……よし、他に入れたいもんあったら出してくれ。部屋の隅で恥ずかしがってねえでこっち来いお前ら」チョイチョイ

ジャン「……べっ、別に恥ずかしがってねえけど?」テレテレ

ベルトルト「そうだよ、僕たちが優しいんじゃなくて、キャンディやモノクマが元からかわいすぎるだけだよ?」テレテレ

ライナー(クリスタも幸せにしてやりたい……)ドキドキ

アルミン「ええっと、じゃあまず僕からね。――モノクマとキャンディ、それぞれに似合う服のデザイン画をざっと百枚ほど書いたからまずこれを」ズシッ

コニー「おお、ありがとよ。でも気持ちが重すぎるからもう少し絞ってくれ」

ライナー「そのデザイン画を元に拵えた服がこっちだな」ズラッ

エレン「……何着あるんだそれ」

ベルトルト「二十着くらいだね。みんなで手分けして縫ったんだよ」

サシャ「何なんですかその熱意」

335: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:51:50 ID:7fD0.h1A

ジャン「それとこっちはサニーちゃん宛だな。シュシュやブローチを詰め込んだアクセサリーセットだ」

アルミン「ヘアアレンジの仕方とかアクセサリーの付け方も書いといたよ。これがそのメモね」バサッ

ミカサ「アルミン、いつの間にそんな知識を仕入れていたの……?」

サシャ「すごいですね、全部図解入ってますよ図解」

ベルトルト「ちなみにモノクマやキャンディとお揃いのデザインにしておいたよ。気に入ってくれるといいなぁ」

ライナー「それと確か、妹の他に弟もいるんだったよな? 流石にアクセサリーはつけないだろうから、代わりに認識票を作って入れておいたぞ。チェーンを豪華にすることで差別化もしておいた」

コニー「おお、いつの間にか俺の弟にまで……いつ調べたんだか知らねえけどありがとな。でも妹をちゃん付けするのはやめてくれ」

ジャン「気にすんな、いいってことよ」フフン

コニー「気になるっつの。お前らにサニーを取られるんじゃないかと思ってお兄ちゃんは気が気じゃねえよ」

336: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:52:35 ID:7fD0.h1A

コニー「よし、こんなもんか? もうぎっちぎちだが」ゴソゴソ

アルミン「……ねえコニー。ミニクマもコニーの家に送ってくれない?」スッ

コニー「ミニクマもか? でもそれは、俺がアルミンにあげたものなんだぞ?」

アルミン「そうなんだけど、このままじゃミニクマを見る度にモノクマを思い出してさ。……すごく辛くって」

ミカサ「アルミン……」

エレン「じゃあ、ミニクマは俺が預かっておくよ」ヒョイ

アルミン「……エレン、いいの?」

エレン「あんなに大切にしてたんだ。無理に忘れたり手放したりする必要はねえだろ。思い出したい時には遠慮しないで思い出せばいい。姿を見たい時はこいつを引っ張り出してくればいい」

アルミン「そういう、ものかな……」

エレン「そういうもんだよ。そうやって折り合いつけていかねえと、いつまで経っても苦しいままだぞ? ――取り敢えずこいつは、お前が訓練兵団を卒業するまで俺が持ってる。お前が見たくなったらすぐに渡す。それでどうだ?」

アルミン「……うん、それでいいよ。よろしくねエレン」

エレン「おう、任せとけ。辛くなったらいつでも言えよ?」

アルミン「わかってるよ、大丈夫」

337: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:53:22 ID:7fD0.h1A

エレン「……コニー。あの白い箱は結局どうすんだ? 中に縫い込んじまったままなんだろ?」ヒソヒソ

コニー「ああ、あれな……大丈夫だろ。たぶん」

エレン「おいおい、たぶんって……」

コニー「サニーは飽きっぽいけど、人形は大事にしてくれる奴だよ。――あいつ人形は三箱くらい持ってるけど、定期的に箱から出してちゃんと陰干ししてんだ。どれも例外なくな」

エレン「そうか。……それなら、あいつらも大切にしてもらえるよな」

コニー「ああ、その辺は心配ねえから安心してくれ。――いつか、お前とアルミンであの箱を取りに来いよ? ついでに母ちゃん手製のうまいメシも食わせてやるからさ」ニッ

エレン「……わかった。楽しみにしておくよ」

338: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:54:20 ID:7fD0.h1A

コニー「さてと……もういいか? 蓋を閉めるぞ?」

ライナー「ああ、そうだな。――じゃあな、モノクマ」

ジャン「……またな。元気でやれよ」

アルミン「いつの日か、君たちに会いに行くからね。それまで待っててね」

ベルトルト「僕、キャンディのこと忘れないから……だから……」ポロッ...

エレン「……おいおい、泣くなよお前ら」

ジャン「は? ……泣いてねえよ」ポロポロ

ライナー「この部屋暑いからな……汗が出るのは、仕方ないだろう」ポロポロ

アルミン「……ぅ、ぅうう、うううう」ポロポロ

エレン「ったく……お前ら、最後まで締まらねえなぁ。ちゃんとモノクマとキャンディのこと、笑顔で見送ってやれよ。俺みたいにさ」ニカッ

339: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:55:11 ID:7fD0.h1A

ミカサ「……エレン、どうして泣いてるの?」

エレン「は? 何言ってんだミカサ。泣いてねえよ」ゴシゴシ

クリスタ「どう見ても泣いているようにしか見えないけど……」

コニー「ミカサ、クリスタ。……みんな泣いてないって言ってんだから泣いてねえんだよ。この部屋暑いし、さっきまで頑張ってたからな。汗ぐらい出るだろ」

ミーナ「……でも」

コニー「いいんだって。……最後くらい、あいつらにかっこつけさせてやってくれよ」ヒソヒソ

サシャ「今更かっこつけなくたっていいのに……悲しいなら、素直に泣けばいいじゃないですか。あそこまで世話してあげたんですから、何も恥ずかしい事なんてありませんよ?」

コニー「そういうことじゃねえんだよなぁ……まあ、あいつらのためにも汗ってことで通してくれ。頼むよ」

ミーナ「気にしなくてもいいのにね。……変なの」

ミカサ「……男の人は、やっぱりよくわからない」

サシャ「私は最初っから全くわかりませんでしたが」

クリスタ「うーん、難しいね」

340: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:55:54 ID:7fD0.h1A

―― しばらく後 食堂

サシャ「しかし、随分と賑やかな荷造りでしたね。ぬいぐるみと小物を詰めただけなのに、あんなに盛り上がるとは思いませんでした」フキフキ

ミカサ「うん、私もこうなるとは思わなかった。……そのせいで私たちが食堂の後片付けをさせられてるわけだけど」フキフキ

ミーナ「あの状態の男子にやらせるのはいくらなんでもかわいそうだよ。――私、ライナーやベルトルトがふらついてるのはじめて見たな。相当ショックだったんだね」

クリスタ「でも……こんなこと言うと誤解されそうだけど、立ち会ってよかったよね」

ミーナ「そうだね。見てる私たちまで幸せな気持ちになったもの」

サシャ「コニーたちにかなり大切にしてもらったんですねー。あのぬいぐるみたち」

ミカサ「ぬいぐるみじゃない。モノクマとキャンディ」

クリスタ「そうそう、ちゃんと呼ばないと怒られちゃうよ?」クスクス

ミーナ「パンも没収されちゃうかもね」クスクス

サシャ「ええっ、それは困ります!」ガーン!!

341: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:56:42 ID:7fD0.h1A

―― 夜の男子寮

エレン「……」

アルミン「……」

ジャン「……」

ライナー「……」

ベルトルト「……」

コニー「……」

アルミン「……明日の朝だっけ、商会の人が来るの」

コニー「朝の四時だってさ」

ライナー「……起きられる気がしねえな」

エレン「別にいいだろ。お別れ会はさっきしたんだしよ」

ベルトルト「そうだね。……箱を見たら中身出したくなっちゃうかもしれないし」

ジャン「うわ、ベルトルトならやりかねねえな」ハハハ

342: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:57:26 ID:7fD0.h1A

アルミン「……静かだね」

ライナー「そうだな。……もっとうるさかった気がしたんだけどな、ここの部屋」

エレン「思えば初日からお前ら騒いでたよなぁ。本気でビビってたし」

ジャン「お前とコニーとベルトルトの適応力が高すぎるんだよ」

コニー「かわいいのになー」

ベルトルト「ねー」

ライナー「今となっちゃあその意見にも全面的に同意だな。モノクマもキャンディもかわいい。これは間違いない」

アルミン「世界の真理だよね」

ジャン「スケールでかいな」

ベルトルト「まあ実際かわいいし?」

コニー「だな」

エレン「連携するなよコニー、ベルトルト」

343: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:58:33 ID:7fD0.h1A

ジャン「しかし、よくベルトルトはキャンディを押し潰さなかったな。いつもあんなに寝相悪いのによ」

ライナー「ああ、あれには俺もびっくりした。何かコツでも掴んだのか?」

ベルトルト「コツっていうか……気の持ちようじゃないかな。隣にキャンディがいるって思うとなんだか背筋が伸びるんだよね」

エレン「間違ってお前が上に転がれば大惨事だしなー」

アルミン「つまり、無意識に緊張してたから寝相が乱れなかったってことかな。……あれ? これってもしかしてすごい発見じゃない?」

コニー「なら、今度からベルトルトを常に緊張させておけばいいんじゃねえか?」

ライナー「こらこら、やめとけやめとけ」

ジャン「んなことしたらいつ休むんだよベルトルトの奴」

アルミン「そもそも常に緊張させておくって難しいと思うよ?」

エレン「まあ、緊張云々は置いとこうぜ。――それでさベルトルト、今日はじっくり眠れそうなのか?」

ベルトルト「うーん、ちょっと難しいかな……ベッドの脇がぽっかり空いてるから、なんだか落ち着かないや」

コニー「あんなに豪華なバスケットがなくなったら気にもなるよなぁ」

344: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/03(火) 23:59:35 ID:7fD0.h1A



エレン「……」



アルミン「……」



ジャン「……」



ライナー「……」



ベルトルト「……」



コニー「……」

345: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/04(水) 00:00:44 ID:ctB.SJ7s

ライナー「……寝るか」

ベルトルト「そうだね。灯り消そうか」

アルミン「ジャン、子守唄歌ってもいいよ?」クスクス

ジャン「馬鹿言え。……あれはキャンディ専用だ。お前らにはもったいねえよ」

コニー「そういやエレン、今日は出かけなかったけどいいのか?」

エレン「ああ、もういいんだ。……ミカサにも事情は話してある」

ジャン「はぁっ!? エレンお前、ミカサと何の約束してたんだよ羨ましい!」

エレン「なんだっていいだろ? 寝る前に大声出すなようるせえなぁ……」モゾモゾ

ジャン「てめえ、明日の朝起きたら覚えてろよ!? ……今日は寝るけど」モゾモゾ

アルミン「ははっ、ジャンってばそこで寝ちゃうんだ?」

ライナー「寝たら忘れてたりしてな」

ベルトルト「あり得るね。……今日はいい夢見れそうだし」

コニー「お前らちゃんと自力で起きろよー? 明日は俺起こさねえからなー?」

346: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/04(水) 00:01:31 ID:ctB.SJ7s

―― 翌日早朝 訓練所正門前

コニー「キース教官殿、おはようございます!」バッ!!

キース「……今日は間違っていないようだな」

コニー「……? 何がでしょうか?」キョトン

キース「敬礼だ。――昨日泣きながら教官室に木箱を届けに来た同室の奴らはどうした」

コニー「ああ、あいつらは……じゃなかった、ええっと」

キース「構わん。楽に話せ」

コニー「そ、そうですか? ――ええっと、あいつらは疲れてまだ寝てます。ここ一週間ほど徹夜続きだったので、疲れが溜まってたみたいです」

キース「そうか」

コニー「はい」

キース「……」

コニー「……」

コニー(うわぁ……かなり気まずいな。やっぱりエレンだけでも起こしてくるべきだったかなー……でも、あいつも気を張ってて疲れてたみたいだし)

347: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/04(水) 00:02:23 ID:ctB.SJ7s

キース「……馬車が見えた。先に私が話してくる。貴様はその木箱を見張っていろ」

コニー「はっ! 了解です!」バッ!!

キース「逆だ」

コニー「……」ササッ

キース「では行ってくる」スタスタ...

コニー(ついに、こいつらともお別れか……)チラッ

コニー(思えば色々あったよな……営庭でこいつら拾って、俺が直して、みんなで交替で寝たりして……)

コニー(……ああ、やっぱりあいつら起こしてくればよかったかな。これから起こしに行くのは――)

キース「スプリンガー! 木箱を持ってこっちへ来い!」

コニー「!! はっ、了解しました!」

コニー(――間に合わなかったか。……みんな、すまん)

348: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/04(水) 00:03:15 ID:ctB.SJ7s

商人「この木箱を、ラガコ村のスプリンガーさんに届ければいいんですね?」

コニー「はい。……それ、俺の同期の奴らが作ってくれた贈り物も入ってるんです」

コニー「俺の村まで、必ず届けてください。……お願いします」ペコッ

商人「ええ、わかりました。――商人は信用商売ですからね、必ず届けますよ」

キース「あとは私のほうで手続きをしておこう。――起床時間までまだ時間がある。戻って寝ろ、スプリンガー」

コニー「はっ! ――それでは失礼します!」バッ!!

キース「……」ジッ...

コニー「……」ドキドキ

キース「……行ってよし」

コニー「はっ!」クルッ タッタッタッ...

コニー(あっぶねえー……黙ったままだからまた敬礼間違ったかと思った……)ドキドキ

349: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/04(水) 00:04:06 ID:ctB.SJ7s

コニー(あの馬車、ただの商人にしては結構上等なモンだったな……ひょっとして、教官が気を利かせてくれたのか?)

コニー(……そんなわけないか。第一俺、教官には何もやってねえもんな。教官の友だちの人形を直してやっただけだし)

コニー(あっ! そういえばあの木箱、いつごろ村に届くんだ? ……聞いとけばよかった)

コニー(……んん? ちょっと待てよ? 今まで考えもしなかったが、もしかするとサニーとマーティンでモノクマとキャンディを取り合ったりすることもあるんじゃねえか?)

コニー(しまった、『喧嘩するなよ』って手紙でもつけてやればよかったかなー……でも俺馬鹿だしな。ちゃんとした手紙の書き方なんて知らねえし、あいつらも言うこと聞くかどうかわかんねえし、別にいいか)

コニー(……あいつらの姿を見れば、大切にしてたことわかってもらえるよな)

350: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/04(水) 00:05:17 ID:ctB.SJ7s

コニー(いつか……あの馬鹿五人と一緒に、あいつらの姿を見に行こう)

コニー(五人も連れて行ったら、母ちゃんびっくりするだろうな。……でもそこは我慢してもらうしかねえよな。みんながみんな同じくらい、あいつらを大事にしてたんだから)

コニー(そんでもって、久しぶりに会ったあいつらをみんなで手入れして、うまいメシでも食って……)

コニー(……ははっ、なんだか様子が目に見えるみてえだ)





コニー(……次に会える日が、楽しみだな)

コニー(モノクマ……そして、キャンディに)








おわり

361: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:33:50 ID:SKogFr7Q



番外編:アニ「シルバニアファミリー」マルコ「闇の葬儀屋さんと」ユミル「ピンクわたウサギの赤ちゃん」

※ 画像は「シルバニア ピンクわたウサギの赤ちゃん」でググってください

※ 本編直後のお話です

362: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:34:29 ID:SKogFr7Q

―― 早朝の営庭 焼却炉付近

ユミル「っあー、ねみぃー……焼却炉の当番なんか面倒くさい……」ウツラウツラ

アニ「目くらい開けなよ。そんな状態で歩いてると怪我するよ」スタスタ...

ユミル「んなこと言われたってさぁ、昨日遅くまでクリスタとサシャが騒いでて眠れなかったんだよ……」ゴシゴシ

アニ「こすらないほうがいいんじゃない? 視力落ちるよ」

ユミル「んぅー……、じゃあやめとくか…… ――んん? あそこ歩いてるのコニーじゃねえか?」ユビサシ

アニ「え? ――あ、本当だ。こんな朝早くに出歩いてるなんて珍しいね」

ユミル「何してるんだろうな。……そういや昨日、食堂で何かやってたみたいだが」

363: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:35:23 ID:SKogFr7Q

アニ「ああ、あれね。コニーがあそこで裁縫教室やってたんだよ」

ユミル「ほー……裁縫ねえ。また妙ちくりんなことを」フムフム

アニ「もしかすると、今日の早起きもその関係かもしれないね。……知らないけど」

ユミル「早起きして裁縫するってのも妙な話だけどな」ハハハ

アニ「……そういう反応するってことは、あんた裁縫教室やってるの知らなかったの? クリスタもいたのに?」

ユミル「ああ、全然。――それで、その裁縫教室とやらにはお前も参加してたのか? 何やら訳知り顔だが」

アニ「まさか。近寄ってすらいないよ。興味ないし」

ユミル「ふーん……」

アニ「……」

ユミル「……」







ユミル(まあ本当は知ってたんだけどな)モジモジ

アニ(実は興味あったんだけどね)ソワソワ

364: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:36:33 ID:SKogFr7Q

ユミル(クリスタには口止めしてあるが……)

アニ(あいつらには口止めしてあるけど……)

ユミル(……言えない。ボタンすら縫い付けられないとは絶対に言えない。この前クリスタにやってもらったからいいけど)

アニ(繕い物はこっそりライナーやベルトルトに頼んでるとは口が裂けても言えない……裁縫すると十中八九血染めのものができあがるなんて知られたら、何を言われるかわかったもんじゃない……!)

ユミル(クリスタと離れ離れで過ごすのはかなり辛かったが、あの場で自分の恥を晒すよりはマシだ。……男子より裁縫が下手くそなんて、笑い話にもなりやしねえ)

アニ(教えてもらえるなら、私も教えてもらいたかったんだけど……初心者教室っていうよりは中級者向けの会合みたいだったんだよね。私なんかが混ざったら完全に場違いになっちゃう。……そもそも混ざれないし)シュン







ユミル「……」

アニ「……」

ユミル「まあ……お互い、何かしらの事情はあるよな。追及しないけど」

アニ「だよね。あるよね。深くは聞かないけど」

365: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:37:51 ID:SKogFr7Q

―― しばらく後 焼却炉

ユミル「しっかしまあ、ここの訓練所は人がいるせいかゴミが多いよなぁ」バッサバッサ

アニ「ちょっと、ゴミ箱振り回さないでよ。……汚い」ササッ

ユミル「どうせこれから訓練で汚れるんだから関係ないだろー……もーえろーよーもーえーろー……」パチパチ ゴーッ...

アニ(うわ、なんか歌い始めた……ちょっと離れとこ)テクテク...

ユミル「ほらほらアニ、こっちにゴミもっと持ってこいよ。私がまとめて燃やしてやるぜ」ヘイヘーイ

アニ「あんた、朝っぱらからなんでそんなにテンション高いの……ああそっか、寝不足なんだっけ」

ユミル「眠気も燃やせればいいんだけどなー……ほら、足元に落ちてるその紙も寄越せよ」ユビサシ

アニ「紙? これのこと?」ヒョイ

ユミル「そうそう、さっさと全部燃やしてとっとと終わらせちまおうぜ。私は一刻も早くクリスタに会いたいんだよ」キリッ

アニ「まだ当番全員揃ってないでしょうが…………あれ? これ、ただの紙じゃないみたいだね」スッ

366: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:38:49 ID:SKogFr7Q

ユミル「なんだこりゃ、封筒か? ――お、手紙が入ってら」ゴソゴソ

アニ「それ、読むつもり? ……趣味悪いね」

ユミル「なんとでも言え。――ほら、封筒はお前にやるよ」ポイ

アニ「はいはい、わかったよ」

アニ(……? 中に何か入ってる)ゴソゴソ

アニ(ピンクのウサギの人形か……ぬいぐるみ、とはちょっと違うみたいだけど)ジーッ...

アニ(目も手もすごくちっちゃい……こんなに精巧な人形、どうやって作るんだろ)

アニ(ていうか、この子……よく見たら、かわいいかも)キュン

アニ(ちょっと汚れてるみたいだけど……これ、元は何色なのかな。ベージュ色? 服も破けてて、かわいそうだな……)

アニ「……」ジーッ...

アニ(……この子、ほしいな)

アニ(どうせだから、名前つけちゃおうかな……何にしよう……)ワクワク

367: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:39:28 ID:SKogFr7Q

ユミル(えーっと……『シルバニアファミリー 友の会入会特典、ピンクわたウサギの赤ちゃんをお送り致します』だぁ……?)

ユミル(ざっと目を通してみたが……壁外の文字で書いてあるじゃねえか、この手紙)ピラッ

ユミル(なんでこんなもんが、訓練所の焼却炉なんかに捨ててあるんだか……まあ何にせよ、アニに見られる前に燃やしちまったほうがいいな)ポイッ

ユミル「おいアニ、そっちの封筒も寄越せ。燃やすぞ」

アニ「」ギクッ

ユミル「アニ?」

アニ「……はい。どうぞ」スッ ササッ

ユミル「ちょっと待った。……今、何か後ろに隠しただろ」

アニ「隠してない。言いがかりつけるのやめてよね」プイ

368: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:40:07 ID:SKogFr7Q

ユミル「……」ササッ

アニ「……」サササッ

ユミル「渡せってこら」ヒョイ

アニ「しつこいね、何も隠してないって言ってるだろ」スッスッ

ユミル「封筒の中に何か入ってたんだろ? ちょいと私にも見せてみろって」

アニ「だから、入ってないよ。……ちなみに、仮に何か入ってたとしたらどうするの」

ユミル「燃やす」

アニ「却下」

ユミル「……」

アニ「……」

369: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:41:06 ID:SKogFr7Q

ユミル「隙ありぃっ!!」バシッ

アニ「あっ! ――ちょっと! 返しな!!」ピョンピョン

ユミル「やーっぱり何か隠し持ってやがったな! ……っと、なんだこりゃ? 人形か?」セノビー

アニ「返せ! 返してってば!!」ピョンピョン

ユミル「なるほどなるほど……つまりアニちゃんは、こういうのが好きだと」ニヤニヤ

アニ「……」ピタッ

ユミル「……」ニヤニヤ

アニ「……べ、別にそんなことないけど」プイッ

ユミル「じゃあ燃やそ」

アニ「!! だ、ダメだって!!」グイグイ

370: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:41:43 ID:SKogFr7Q

ユミル「しっかし、アニがお人形好きだったなんてたまげたな。意外とかわいらしいところもある――」ピタッ

ユミル「……」フニッ

アニ「……? ユミル? どうしたの?」

ユミル(なんか、妙な感触のする人形だな……こいつ……)

ユミル(固く……もないな。なんかふわふわしてやがる)フニフニ

ユミル「……」

ユミル(……楽しいなこれ)フニフニフニフニ

ユミル(ああー……何? なんだこの、なんとも言えない肌触りは……癒やされるわぁー……)ホッコリ

ユミル(……いいな、この人形)

371: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:42:26 ID:SKogFr7Q

ユミル「……わかったアニ。こいつを燃やすのはやめよう」スッ

アニ「あっ、そう? ――よかった、じゃあ早く返してよ」ホッ

ユミル「まあ待て。この人形は焼却炉……というか、訓練所の営庭に落ちてたもんだろ? だったら先に教官に報告すべきじゃねえか?」

アニ「それは……そうかもしれない、けど」

ユミル「というわけでだ。――これは私が持っとくわ」ゴソゴソ

アニ「ちょっと待った」ガシッ

ユミル「なんだよ」

アニ「あんた、そのまま持って帰る気じゃないだろうね」

ユミル「……」

アニ「ユミル?」

ユミル「……ま、まっさかぁ」ピーヒョロロ

372: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:43:35 ID:SKogFr7Q

アニ「そもそもあんたが預かるってのがおかしくない? ……班長でもないくせに」ジトッ...

ユミル「仕方がねえだろ班長様がまだいらっしゃらないんだからよ。だったら年功序列的に私が持っとくべきじゃないか? そうだろ?」

アニ「同期なんだから年功序列とか関係ないでしょ? こういう時だけ年上ぶるんじゃないよ」

ユミル「年上ぶるも何も年上だっての。……もういいだろ、誰が持ってても同じなんだから」

アニ「だったら私が持ってても問題ないよね。――はい、私にちょうだい」グイッ

ユミル「いいやダメだね。お前そのまま部屋に持って行こうとするだろうが」

アニ「そうするつもりだけど、何か問題でもある?」

ユミル「ありまくりだ。―― 第一、落ちていた封筒を見つけたのは私だぞ? ということは所有権は私にあるってことだろ?」

アニ「見つけたのはあんたかもしれないけど最初に手に取ったのは私だよね。それに、あんたはその子燃やそうって言ってたくらいだからいらないんでしょ? 私はいる。ほしい。だからちょうだい」

ユミル(うぐっ……こいつ、遂に開き直りやがった……!)グヌヌ

373: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:44:30 ID:SKogFr7Q

アニ「大体あんたに任せとくとその子が乱暴に扱われてかわいそうだよ。今だってそんな持ち方してるし」

ユミル「あぁ? この持ち方のどこが悪いんだよ」

アニ「どう見てもいいところなんかないでしょ? なんで耳摘んでるの? そんなに細いのに折れたらどうするわけ? その子が痛がるでしょ?」

ユミル「こ、これは耳周りの感触が特によくて――じゃなくてだな、いいだろ別に持ち方なんて!」

アニ「よくないよ……全ッ然よくないよ!! そもそも預かるにしてもさ、あんたその子綺麗にしてあげる気あるの!? そのままにしておく気!?」

ユミル「なっ……なんだよじゃあお前なら手入れできるってんのかよ!」

アニ「……………………………………できない、けど」

ユミル「だったら私と同じじゃねえか!」

アニ「もういいから私のうさたん返してよ!! 返して!!」ピョンピョン

ユミル「うさたんじゃねえよピンクわたウサギの赤ちゃんだ二度と間違えるな!! ……あっ」

アニ「……」ピタッ

374: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:45:08 ID:SKogFr7Q

アニ「……この子、名前あるの?」

ユミル「あー…………一応、あるみたいだな」

アニ「手紙に書いてあったんだね?」

ユミル「……うん、まあ、そんな感じ」

アニ「それ、私にも見せてよ。見たい」クイクイ

ユミル「もう燃えた。焼却炉の中だ」

アニ「……」

ユミル「……」

アニ「……」クルッ スタスタ...

ユミル「……? アニ? 何する気だ?」

アニ「決まってるでしょ? ――焼却炉の中から取り出すんだよ」

ユミル「……素手で?」

アニ「うん」

375: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:46:08 ID:SKogFr7Q

ユミル「ばっ……! おいアニよせって!! この中に手ぇ突っ込むなんざ正気の沙汰じゃねえぞ!?」ガシッ

アニ「だってあんたが私に一言の断りもなくうさたんの手紙燃やしちゃったのが悪いんでしょ!?」ジタバタジタバタ

ユミル「別にウサギ本人から手紙来てたわけじゃねえよ!! 『ウサギ入ってます』って報告だけだから!! 別に見る必要ないから!! なっ!?」グイグイ

アニ「あんたの言葉なんか信じられるわけないじゃない、さっきまで散々嘘ついてたくせに!!」

ユミル「今度は本当だって! 嘘じゃないから!!」

アニ「嘘じゃなくても見たいんだよ!! その『ピンクわたウサギの赤ちゃん』って字だけでも見たいの!!」

ユミル「お前のその情熱なんなの!?」

アニ「もう――いいでしょ、離してってば!!」バシッ

ユミル「あっ!」

アニ「え?」

376: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/27(金) 17:47:22 ID:SKogFr7Q

ユミル「やっべ、人形どこか飛んでった!」アタフタアタフタ

アニ「だからちゃんと持ってなって言ったじゃないか! 何してるのさ!!」

ユミル「お前が暴れたのが悪いんだろ! ったく、いったいどこ行った!?」キョロキョロ

アニ「待って、こっちに誰か来るみたい――」





    ―― ヒュルルルルルルル.... ポスッ





マルコ「おっと。……? 何これ、人形?」キョトン





ユミル「」

アニ「」

380: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 19:55:34 ID:YHu19eL.

マルコ「なんで空からこんなものが……?」キョロキョロ

アニ「……マルコ」

ユミル「お前、それ……」

マルコ「ああ、二人ともおはよう。班長なのに遅れてごめん」

ユミル「いや……別にいいけど……」

アニ「それさ、その人形……」

マルコ「これ? ――あっ、もしかしてアニのかな? それともユミルの?」

アニ「……どうしてそう思うの?」

マルコ「え? だってこれ、二人がいる方角から飛んできたからさ、てっきりそうだと――」

ユミル「……」

マルコ「思ったんだ……けど…………?」

ユミル「……」

アニ「……」

マルコ「……?」

381: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 19:56:37 ID:YHu19eL.

ユミル(人のいいマルコのことだ。私らが「人形のことは黙っておいてくれ」と頼んだら従ってくれるだろうが……確実とは言えない)

アニ(口止め……口止めしなきゃ……! 今すぐに……!)

マルコ(なんで二人とも僕のこと睨んでるんだろう……? そんなに待たせちゃったかな……うーん、もう一回謝っておいたほうがいいんだろうか)

マルコ「ええっと……過ぎたことだから謝ってもどうしようもないとは思ってるけど、本当にごめん。次からは気をつけるから許してくれないかな。――この通りだ!」ペコッ

アニ「……」

ユミル「……」

マルコ(ううっ、この二人が黙りこむとかなり怖いな……でも僕が遅刻したのが原因だし、ちゃんと謝っておかないと……)

アニ「……ユミル、どうする?」

ユミル「どうもこうも、答えはもう出てるだろ?」

アニ「それもそうだね。……顔を上げてよ、マルコ」

マルコ「!! よかった、許してくれるんだね?」ホッ

ユミル「いいや逆だ。――そいつのことを知られたからにゃ生かしちゃおけねえ」スラッ...

マルコ「えっ」

382: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 19:57:17 ID:YHu19eL.

マルコ「ちょっと待ってユミル、なんで火掻き棒を僕に向けてるんだ?」

ユミル「ははっ、火掻き棒でやることと言ったら一つしかねえだろ? 火の始末だよ」ニッコリ

マルコ「……焼却炉は君の後ろにあるんだけど」

ユミル「いいや、火の元は目の前にあるぞ……っとぉっ!」ビュンッ!!

マルコ「うわっ!?」サッ

ユミル「ちっ、流石は成績上位組か……不意をついたのにうまく避けやがる」

マルコ「えっ……えっ!? 何!? 何事!? なんで火掻き棒で突こうとしてきたの!?」ギュッ

アニ「ああーっ!?」

マルコ「ひぃっ!?」ビクッ!!

383: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 19:57:54 ID:YHu19eL.

アニ(あまりマルコを刺激すると、私のうさたんが握り潰される……!!)ギリッ...

アニ「マルコ……両手を開いて手を上にあげな……!」スッ...

マルコ「あ、アニまでなんで構えてるんだよ……!? 二人とも落ち着いて!!」

ユミル「なぁーに、いい子にしてりゃあ痛くはしねえよ……」ジリッ...

アニ「そうそう、私たちはこう見えて意外と優しいんだ……」ジリッ...

マルコ「そう言いながら真顔で詰め寄って来ないでくれ……!」ジリッ...

ユミル「なぁマルコ、お前は確か憲兵団志望だったよなぁー……? 五体満足キレイな体で内地に行きたいだろぉー……? ん?」ペチペチ

マルコ「ひっ、火掻き棒で頬を叩くのはよしてくれないか……まだほんのりと熱いし……」ビクビク

アニ「あんたが私たちにとってのいい人であることを期待してるよ、マルコ……」フミフミ

マルコ「わかった、わかったから……爪先を踏むのはやめてくれ、動けないじゃないか……」ビクビク

384: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 19:58:39 ID:YHu19eL.

マルコ(……待てよ? たかが当番に遅刻しただけでここまでするものか?)

マルコ(アニもユミルも、一時の感情に任せて動くような人間じゃない。二人がこうなっているのは、何か他に理由があるんじゃ……?)

マルコ「……ユミル、君はその火掻き棒で僕に何をするつもりなんだい?」

ユミル「ああ、これか? ――お前は口が固い方だとは思うが、万が一ということもあるからな。今後余計なことを口走らないように塞いどこうと思ってる」

マルコ「接着するの!? ……そっ、それでアニは? アニはどうするつもりなの?」

アニ「その人形のことを頭に浮かべる度に、私の蹴りを思い出すように教えこむ。物理的に」

マルコ「教えこむって……家畜の躾じゃないんだから……」

ユミル「そう怯えるなって。――はじめてだろうから優しくしてやるよ」ペチペチ

アニ「私は優しくしてやるのは無理そうかな。代わりに後で頭撫でであげるから許してね」フミフミ

385: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 19:59:20 ID:YHu19eL.

マルコ「まっ……待った! 待った!! ―― アニ、ユミル。暴力はよそう。話しあおうじゃないか!」

ユミル「話しあうだぁ? なーに生ぬるいこと言ってんだよマルコ」

アニ「そうだね。話すことなんて何もないよ」

マルコ「あるよ! ―― さっきから君たちが気にしてるのは、この人形のことだろう?」

アニ・ユミル「……」ピクッ

マルコ(やっぱり……! アニのあの言い方からして、この人形のことが気になってるんじゃないかと思ったけど、予想通りか……! よし、この調子で――)

マルコ「……君たちが知っての通り、僕は今日遅刻してきたんだ。だからこの人形の存在は知らないし、君たちから報告も受けてない。……それじゃ駄目なのか?」

アニ「……」チラッ

ユミル「……」チラッ

マルコ「……」ビクビク

386: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 20:00:11 ID:YHu19eL.

アニ「まあ、安易にこういうことしたら足がつくし目立つし……」スッ

ユミル「そうだな。やめとくか」ポイッ

マルコ「よかった……二人とも、僕の話を聞いてくれてありがとう。――それで、この人形は誰に返せばいいのかな?」

アニ・ユミル「えっ」

マルコ「?」

アニ(……どうしよう)

ユミル(そういや、まだ決着ついてないんだった……)

アニ(そもそもマルコに預けるって話だったのに、話の流れ的にマルコに渡せない雰囲気にしちゃった……)

ユミル(ここでマルコに預かっといてくれって言うのもなぁ……)

マルコ(また黙りこんじゃったな……ここは僕から助け舟を出したほうがいいのかな)

マルコ「えーっと、じゃあ……誰かからの預かり物とか? もしくは忘れ物?」

ユミル「ああいや、それはだな――」

アニ「……いや、違うよ。実はその人形、私のなんだ」

ユミル「!?」

391: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 22:58:28 ID:S8XlZ.uo

ユミル(あいつ……臆面もなく言ってのけやがった……!)



アニ(私が恥ずかしがって名乗りでないだろうと見積もったんだろうけどね。……甘い、甘いよユミル)フフン

アニ(あんたにかわいいもの好きだって知られた時点で、私は訓練兵団中に噂を広められる覚悟ができてるんだ。今更マルコに知られようがどうってことないよ)

アニ(その噂にしたって、うさたんがいなければ信憑性はないに等しいもんさ。……自分でそう思っちゃえる辺り虚しいけど)シュン

アニ(とにかく今、うさたんを知っているのはここにいる三人だけ。そしてマルコは、うさたんのことを黙っててくれると言った)

アニ(うさたんの存在が公にならない以上、私がかわいいもの好きだっていう噂はそんなに広まらないはず……! ――つまりマルコが黙っている限り、私が不安に思うことは何もない!)

アニ(さてと、早速来週の休みの日にうさたん入れるポーチ買ってきちゃおうっと……!)ウフフ



ユミル(……って顔してやがるなちくしょう)グヌヌ

ユミル(プライドも何もかも捨てた特攻か……やるじゃないかアニ)

ユミル(だがな、ここで引き下がるほど私は甘くねえんだよ……!)ギリッ...

392: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 22:59:49 ID:S8XlZ.uo

マルコ「へえ……アニってこういうのが好きなの?」

アニ「……まあね。柄じゃないのは自覚してるよ」フイ

マルコ「そんなことないと思うよ。じゃあ、これはアニに――」スッ

ユミル「あー違う違う。……実はそれな、アニのじゃなくてクリスタのなんだよ。この前落としたらしいんだ」

アニ「なっ……!?」

アニ(落とし物……だって……!?)

アニ(自分の評価を汚すことなく、目的のものを手に入れられるスマートな解答……っ! やっぱりユミルは侮れない……!)

ユミル(ふはははは、プライドまで捨てさせておいて悪いなアニ!)

ユミル(だがな、私とお前とじゃ生きてきた年数もくぐり抜けてきた修羅場の数も違うんだよ! ――さあ、おいでらっしゃい私のふにふにライフ……!!)ムフフ

393: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 23:00:49 ID:S8XlZ.uo

マルコ「クリスタの落とし物がアニのものなの? ――ごめん、ちょっと意味がわからないんだけど……」

アニ「だから、その人形は私のだって言ってるだろ? ユミルは嘘を吐いてるんだよ」

ユミル「違う違う。嘘吐いてるのはアニだっての。見つけてくれたまではよかったんだけどよ、アニってかわいいものが大大だーい好きだからな。欲しい欲しいって言って聞かねえんだ」

アニ「……私はそんなにわがままじゃないよ。勝手なこと言わないで」

ユミル「勝手な言い分で最初に所有権を主張したのは誰だっけ?」

アニ「……」

ユミル「……」

アニ「……」スッ...

ユミル「……」スラリッ...

マルコ「はいはいそこまで。二人とも物理的に話し合おうとするのはやめてくれよ」グイグイ

394: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 23:01:45 ID:S8XlZ.uo

アニ「止めないでマルコ。私たちはこれで話し合うのが一番なんだ」

ユミル「白黒はっきり付けられるし、何より手っ取り早いからな」

マルコ「だから駄目だってば……朝っぱらから女の子同士が殴りあってるのなんか見たくないよ。ちゃんと二人で話し合わないか? 僕が間に立つからさ」グイグイ

アニ「ユミルと話し合うことなんてないよ。そのうさたんは私のだからね」

ユミル「うさたんじゃねえって言ってるだろうが。話聞けよ」

アニ「だってピンクわたウサギの赤ちゃんなんて名前、どう考えても長すぎるじゃないか。呼びにくいよ」

ユミル「んじゃ新しい名前でも考えたらいいだろ? ……じゃなくて、そのウサギはクリスタのだから名前なんか考えなくていいんだよ。というわけでマルコ、早くその人形を私に渡せ」

アニ「マルコ、渡すんじゃないよ。ユミルが言ってるのは嘘だから」

ユミル「嘘吐いてるのはアニだろうが」

アニ「……」

ユミル「……」

アニ「……」スッ...

ユミル「……」スラリッ...

マルコ「だーかーらー!!」グイグイ

395: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 23:02:38 ID:S8XlZ.uo

アニ「……埒が明かないね」

ユミル「そうだな。堂々巡りだ」

マルコ「わかってるなら自重してくれよ……」ハァ

アニ「……ねえマルコ。ところであんたはどっちの言葉を信じるの?」

マルコ「えっ? 僕?」

ユミル「そうだな、ぜひとも班長さんの意見を伺いたいところだ」

マルコ「……うーん、僕の意見か」

マルコ(油断してたら矛先がこっちに向いちゃったか……まあ、でも)チラッ

アニ「……」ジーッ...

ユミル「……」ジーッ...

マルコ(二人がこのまま殴りあうよりかはよっぽどマシだよな……よし。ここは僕が体を張ってでも止めないと)

マルコ「……二人には悪いけど、僕はどっちの味方にもつかないよ。お互い嘘を言ってるようにしか聞こえないからね」

396: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 23:03:41 ID:S8XlZ.uo

アニ「へえ……あんたは、私たちが嘘つきだって言うんだ?」

マルコ「ああ。少なくとも今の僕には、二人とも嘘つきに見える。そんな人たちにこのウサギは――」

アニ「うさたん」

ユミル「ピンクわたウサギの赤ちゃんだ」

マルコ「……この人形は、渡せないな」

ユミル「ほーう……理由を聞こうか、マルコ。お前のことだから考えなしで喋ってるわけじゃないだろ?」

マルコ「そうだね……きちんと考えた上で、僕は二人を疑ってるよ。――でも僕が理由を話したところで、君たちはちゃんと聞いてくれるのかな?」

ユミル「安心しろ、ちゃんと聞くさ。少なくとも私はそこまでこらえ性のない人間じゃねえからな」

アニ「ユミルにできて私にできないってことはないよ。――話して、マルコ」

マルコ「……わかった、話すよ。それに僕の話を二人に聞いてもらえるなら、これほどありがたいこともないからね」

397: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 23:04:29 ID:S8XlZ.uo

マルコ「まず……本当に人形がアニのものだったら、ユミルがここまで食い下がるわけないよね? 力尽くで手にいれた人形をもらってもクリスタは喜ばないだろうし、その損得勘定ができないほどユミルは子どもじゃないだろ?」

ユミル「確かに無理やり奪ったもんを渡しても、クリスタは喜ばないだろうな」

マルコ「かといって、アニがクリスタのものを取ろうとしてるようにも思えない。僕にはアニがそんなに悪い人には見えないからね。もちろん、ユミルもだけど」

ユミル「……付け足すように言わなくてもいいっての」ムスッ...

マルコ「いやいや、本当にそう思ってるよ?」

アニ「……あのさ、自分で言うのもなんだけど、私たちのことを買いかぶりすぎじゃない? ユミルも私も、別にあんたみたいないい子じゃないよ」

マルコ「そうかな? ――例えばさ、さっきアニは『この人形は自分のものだ』って堂々と言ったよね? 僕はね、その言葉自体はちっとも嘘に聞こえなかったんだ」

マルコ「だってもし、その人形が本当はクリスタのものだったとしたら、言葉の端々に後ろめたさみたいなものが混じるだろ? そういうのは、アニの言葉からは少しも感じられなかったんだよね」

398: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 23:05:31 ID:S8XlZ.uo

ユミル「マルコ、お前……いい子ちゃんにも程があるな。将来騙されるぞ?」

アニ「そうだね、そこはユミルに同意かな。――嘘を隠すのが上手な人間なんか、この世にいくらでもいるよ」

マルコ「はは……そうだね。それでも僕は、自分の目と直感を信じることにするよ。だって君たちが本当に悪い人なら、今みたいな忠告はしないだろ?」

ユミル「……だから、その考えが甘いんだっての」

アニ「そうだよ。……あんた、お人好しすぎ」

マルコ「まあ、僕がお人好しなのは置いといて。――二人とも、ちゃんと他人のことやお互いのことを考えられる人たちだって僕は知ってるよ」

マルコ「だから、そんな優しい君たちに僕からお願いがあるんだけど……正直に、この人形が何なのかを話してくれないかな? もちろん僕は遅れてきたわけだから、教官にこのことは報告しないよ」

マルコ「そして話を聞いた後も、特別どっちかを贔屓したりもしない。僕は僕で、ちゃんと考えて結論を出すからさ」

アニ「……」

ユミル「……」

マルコ「何があったのか……僕に、教えてくれないかな?」

401: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/08(水) 19:16:55 ID:c8MPZ0H2

ユミル「……拾ったんだよ。さっき、ここで」

アニ「二人ともほぼ同時に見つけたようなもんだから、どっちのものか決めようがなくて……」

マルコ「話し合ってるうちに、お互い引っ込みがつかなくなっちゃった、と」

アニ「そうだよ。……ごめん、ここまでこじらせて」

ユミル「私も悪かったよ、大人げなかった。――だけどさ、マルコはずるいよな。こういうことを私らに喋らせるんだからよ」ブーブー

マルコ「それでも、二人で殴りあうよりかはよっぽど平和的な解決方法だったと思うよ? アニもユミルも、お互いの話を聞かないほど子どもじゃないことはわかっていたからね」

ユミル「……まっ、少なくともお前さんの親友よりは大人だからな。私たちは」

アニ「どこかの死に急ぎ野郎とかよりも、ね」クスッ

マルコ「こらこら、そういうことは言わないでおこうよ」

402: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/08(水) 19:17:47 ID:c8MPZ0H2

マルコ(さて、どうしようかな……本来なら、この人形は落とし物として教官に届けるところなんだろうけど)ウーン...

マルコ「……ん? ちょっと待った、ここに落ちてたってことは、訓練兵の誰かが落としたものなんじゃないか? それこそクリスタとかの持ち物だって可能性は?」

ユミル「いや、そりゃないだろうな。そこまで品質のいい人形は、訓練兵の給金じゃ到底買えねえよ」

アニ「教官の落とし物ってこともあるんじゃない? ……ないか」

ユミル「ないな。そもそも焼却炉に捨ててあったも同然だから、持ち主に取っちゃいらないもんなんだろ。――つまり、このまま黙って頂いても何ら問題はない」キリッ

アニ「その通り」キリリッ

マルコ「……まあ、そういうことにしておこうか。これ以上こじれるのは面倒だし」

ユミル「おっとマルコ、いい子ちゃんは卒業したのか?」ニヤニヤ

アニ「私とユミルで悪い影響与えちゃったね。将来騙される可能性は減ったかもしれないけど」

マルコ「お気遣いどうも。……それは置いといてさ、僕から提案なんだけど」

403: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/08(水) 19:18:45 ID:c8MPZ0H2

マルコ「いっそのこと、二人のものにしちゃうってのはどうかな? 一週間か一ヶ月か期限を決めて、交替で持つんだ。これならどっちのものか決めなくて済むだろ?」

ユミル「おいおい、交替で持つって……係か何かじゃねえんだからよ」

マルコ「そう? 結構いい案だと思うんだけどな」

アニ「……じゃあ、マルコも入れて三人のものにしない? それならいいよ」

マルコ「えっ」

ユミル「そうだな、そうするか。二人でやっちゃまたこじれるかもしれないし」

マルコ「いや、流石に男の僕が人形を持つってのは……」

アニ「じゃあ仕方ないね」スッ...

ユミル「さっきの続きするか」スラリッ...

マルコ「はいわかりましたひとまず僕が最初に預かります」ヘコヘコ

アニ「わかればいいんだよ、わかれば」ポンポン

ユミル「よろしく頼むな」ニッコリ

404: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/08(水) 19:19:55 ID:c8MPZ0H2

―― 昼間の男子寮 とある廊下

マルコ「……」コソコソ

マルコ「……よし、誰もいないな」キョロキョロ

マルコ(成り行きとはいえ、とんでもないものを預かっちゃった気がするなぁ……)

マルコ(かわいい人形ではあるんだけど、こんなものを持ってるってジャンたちに知られたらなんて言われるか……)モヤモヤ





ジャン『マルコ、お前……見損なったぜ! なんだよその人形は!!』

マルコ『い、いやジャン! これは違うんだ! この人形は預かり物で……!』

ジャン『預かり物だぁ……? よくもまぁ、親友の俺にそんな嘘が吐けたもんだな!!』

マルコ『嘘じゃないんだよ、僕の話を聞いてくれ!』

アルミン『うわぁ……そんな年にもなって人形遊びだなんて、ちょっとねぇ』ドンビキ-

ライナー『訓練を投げ出して、そんな浮ついたものに現を抜かすとはな。兵士の風上にもおけん奴だ』

エレン『駆逐してやる……! 人形は、一体残らず!!』

405: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/08(水) 19:21:45 ID:c8MPZ0H2

マルコ『違うんだよみんな! 誤解なんだ!』

コニー『おいおい、その辺にしとけって。マルコの趣味に口出しする権利は俺らにはねえだろ?』

マルコ『ちょっ……!? 趣味じゃない、別に僕の趣味じゃないよ!?』

ベルトルト『ねえマルコ、何か悩みがあるんなら言ってくれよ? その人形の代わりに僕達が話し相手になるからさ』

マルコ『ベルトルトまで……!? ていうか別に人形が話し相手になってるわけじゃ……やっ、やめろ、その可哀想な奴を見るような目はやめてくれー!! 僕は正常なんだー!!』





マルコ「……」ダラダラ

マルコ(……絶対に、ジャンたちにはバレないようにしよう)グッ

マルコ(みんなと部屋が分かれたのは、確か先月の頭くらいだったっけ……当番や班長の仕事が重なって、しばらく会えてないのが逆に怖いな。どんな反応をするのか想像もつかない)

マルコ(でも、このまま持ち歩いてたらいつ見られるかわかったもんじゃないよなぁ……大きさが親指くらいだから、ひとまずは胸ポケットに入れて持ち歩いてるけど)ゴソゴソ

マルコ(立体機動の訓練の時に落とすかもしれないし……せめて、何かこの人形を入れる袋がほしいなぁ)ウーン...

409: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/14(火) 19:31:21 ID:8JU9gYSs

マルコ(部屋に戻れば何かしらあると思うけど、あまり大きすぎてもかさばるからなぁ。かといって、ちょうどいい大きさのなんてそう簡単に調達できないし――)スタスタ...

コニー「あれ? ―― おーい、マルコ! なんで廊下でウロウロしてんだー?」ブンブン

マルコ「ああコニー、久しぶりだね。元気だった?」

コニー「おう! 俺もみんなも気持ち悪いくらい元気だぜ!」

マルコ「気持ち悪いっていうのが気になるけど……まあいいや。ジャンはエレンと喧嘩してないかい? 君たちがいるから大丈夫だとは思うんだけど、心配で心配で」

コニー「喧嘩はしてねえぞ」

マルコ「そうなんだ、よかった」ホッ

コニー「部屋が分かれてから会う機会ぐんと減っちまったよなぁ。……ていうかマルコが俺らの部屋に遊びに来てくれりゃいいのに、全然寄り付かねえし」ブーブー

マルコ「ははは……班長の仕事が忙しくてさ、そのうち行くよ。――ところでコニー、君が抱えてるその大きな箱はなんだい?」

コニー「これか? ただの端切れを詰め込んだだけの箱だよ。今からクリスタに届けに行くんだ」

マルコ「端切れ……?」

410: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/14(火) 19:32:40 ID:8JU9gYSs

コニー「端切れって言っても、もうほぼ残骸みてえなもんだけどな。なんでもミカサたちと一緒にパッチワークのぬいぐるみ作るってんで、部屋の連中からかき集めたんだ。――見ろよほら、これなんかもう紐くらいにしか使えねえよ」ビローン

マルコ「紐……それを、どうやって紐にするんだ?」

コニー「これか? これはな、まずは生地を裏返しに折るだろ? そんで上の長い辺を縫ってくんだ」

マルコ「ふむふむ、それでそれで?」

コニー「端から端まで縫ったら糸を止めて、生地を裏返すんだよ。……ええっと、こんな感じだな。裏返す作業が地味に面倒なんだよなーこれ」クルンッ

マルコ「この……布の耳みたいなのは? わざと残してるの?」

コニー「耳って縫い代のことか? 端切れはただでさえほつれやすいからな、縫ってるうちに織り糸が解けちまうことがあるんだよ。だからこういう部分が必要になるんだ」

マルコ「……」

コニー「マルコ? どうしたんだよ、難しい顔して」

マルコ(……どうして早く、この考えに至らなかったんだろう)





マルコ(――袋がないなら作ればいいんだよな、うん)


.

411: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/14(火) 19:33:31 ID:8JU9gYSs

マルコ「ねえコニー。よかったらその端切れ、僕にも少し分けてもらえないかな」

コニー「別に構わねえけど……本当に小さいのばっかりだぞ? いいのか?」

マルコ「いいんだよ……むしろそれがいいんだ」

コニー「? ……まあいいや。じゃあ好きなの選んで持ってっていいぞ」ドサッ

マルコ「ありがとうコニー、助かるよ。……それにしても、結構いろんな柄があるなぁ。高そうなのまで……」ゴソゴソ

コニー「あいつら散財してたからなー」

マルコ「あいつら? ……ああ、この色とかならいいかもしれないな」ゴソゴソ

412: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/14(火) 19:34:30 ID:8JU9gYSs

マルコ(……そうだ。どうせだからあの二人の分も用意しよう)

マルコ(袋でやりとりすれば、中身がバレる危険性もグッと減るからね……ふふふ、我ながらいい考えだ)ニヤニヤ

コニー(おお、すっげえ笑ってる……マルコも手芸好きだったんだな、知らなかった)

マルコ(女の子だから……赤とか黄色とか、明るい色のほうがいいのかな。でも、あまり目立つ色は避けたほうがいいかもしれない)

マルコ(あの二人の趣味がわからないから難しいな……。ピンク、は露骨すぎるか)

マルコ(ここは無難に、青と緑辺りにしておこうかな。これなら人形が入ってるなんて思わないだろうし)

413: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/14(火) 19:35:18 ID:8JU9gYSs

マルコ(失敗することも考えて、少し多めにもらってっと……)ゴソゴソ

マルコ「これくらいでいいかな。……結構もらっちゃったけど大丈夫?」ドッサリ

コニー「……多いな」

マルコ「やっぱり多すぎるか……ごめん、少し返すよ」

コニー「いやいやいいって! ちょっと驚いただけだから気にしないでくれ。クリスタもそんなでけえぬいぐるみ作るわけじゃないと思うし、それくらいなら大丈夫だ!」ブンブン

マルコ「そう? じゃあ、このままもらうね」

マルコ(やっぱりこの色おかしいのかなぁ……二人に渡す時は、僕用に選んだ紺色の袋も持って行ったほうがいいかもしれないな)ウーン...

コニー(マルコの奴、意外とごっそり持ってくな……何作る気なんだ? マルコもパッチワークとかするのか?)

コニー(ライナーやジャンの例があるからなぁ……聞きたいような、聞きたくないような……)ウーン...

コニー(……まあ、いいか。気にしなくても)

414: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/14(火) 19:36:04 ID:8JU9gYSs

コニー「生地とか糸が足りなくなったらいつでも言ってくれよ? 俺、最近食堂で手芸教室やってるからさ。少しなら融通してやるよ」

マルコ「手芸教室?」

コニー「おう、女子の奴らと一緒にな。他にもぬいぐるみの手直しとか、簡単な改造も引き受けてるぞ。やってるのは俺じゃなくて他の奴だけど」

マルコ「へえ……もしよかったら、今度お邪魔させてもらってもいいかな? それとも男の僕が混ざったらまずい?」

コニー「そんなことねえって。俺の他にやってる奴なんかいっぱいいるからな。今日からアルミンも参加するみたいだし」

マルコ「アルミンも?」

コニー「ああ、さっき参加するって言われて――っと、悪い。俺、そろそろ行くな。時間なくなっちまうから」

マルコ「そっか、もうそんな時間か。引き止めて悪いね。――それじゃあ今度、部屋にジャンの様子見に行くから。またその時にでも」

コニー「そうだなー……久々にあいつ見たら、きっと驚くと思うぜ」

マルコ「へえ、何か変化でもあったんだ? 楽しみにしておくよ」

コニー「びっくりしすぎて魂抜けるかもしんねえけどな!」ハハハ

マルコ「あはは、大袈裟だなぁコニーは」アハハ

420: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:07:43 ID:wPmia5jw

―― 夕方 資料室

エレン(やっべえ、あいつらの相手してたせいですっかりレポート忘れてた……)

エレン(資料室ってあまり来ねえから、本の位置がいまいちわかんないんだよな。アルミンも誘えばよかったか)ウーン...

エレン(おっ、窓際の席にマルコがいる。……本の位置、聞いてみるか)スタスタ...



マルコ「……」チクチクチクチク

マルコ(……縫い目がまっすぐにならない)ウーン...

マルコ(普段ボタン付けくらいしかしないからなぁ……これはコニーに習いに行ったほうが早いかもしれない)

マルコ(それにしても、細かい作業って疲れるな。少し休憩するか)ハァ

エレン「よおマルコ。資料室で何やってんだ?」ヒソヒソ

マルコ「やあエレン。……ちょっとね、縫い物」ヒソヒソ

エレン「……縫い物?」ピクッ

マルコ「エレンはどうしたの? 資料室に来るなんて珍しいじゃないか」

421: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:08:45 ID:wPmia5jw

エレン「あ、ああ……この前、壁上固定砲の講義があっただろ?」

マルコ「うん? ……なるほど、レポートに使う資料を探してるのか」

エレン「そうそう、えーっと……撃った後に散らばる」

マルコ「ぶどう弾ね」

エレン「それだ!」ポンッ

マルコ「エレン、静かに」シーッ

エレン「……悪い。それで、そのぶどう弾について詳しく書かれてる資料を探してんだけどさ、心当たりねえか?」ヒソヒソ

マルコ「それなら、レポート書く時に僕が参考にした本をいくつか持って来ようか? 本の位置は覚えてるし」ガタッ

エレン「いや、そこまでしてもらっちゃ悪ぃよ。題名さえ教えてくれたら自分で取ってくるぞ?」

マルコ「いいんだ、ちょうど体を動かしたかったところだから。ここで座って待っててくれ」スタスタ...

エレン「ちょっと待てって、俺が……駄目だ、行っちまった」

エレン(……まあいいや、任せるか。それにしても、マルコは頼りになるな。アルミンと話が合うのも納得だ)

エレン(……問題は)チラッ

422: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:09:47 ID:wPmia5jw

エレン(問題は……この机の上に置いてある、縫いかけの端切れだ)チラチラッ

エレン(俺が知らないだけで、実は男子の間で縫い物が流行ってたのか? ……んなわけねえよな、あれは俺たちの部屋だけでの話だったはずだし)

エレン(小さい袋が三つ、だから……お守り袋や匂い袋って線が濃厚だが、なんで3つも縫ってるのかがわかんねえ)

エレン(……もしやマルコに彼女が)

マルコ「おまたせエレン。この辺りでどうかな? ちょっと確認してみてくれる?」ドサッ

エレン「……」

マルコ「……? エレン、どうしたんだ? 何かおかしなことでもあった?」

エレン「なあマルコ」

エレン(「彼女できたのか?」って直接聞くのはなぁ……別に根掘り葉掘り聞きたいわけでもないし、ここは――)

エレン「……お前、裁縫が好きなのか?」

423: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:12:26 ID:wPmia5jw

マルコ「裁縫? 別に好きってわけじゃないよ。嗜む程度だ」

エレン「やっぱり裁縫は男子の嗜みなのか……」

マルコ「やっぱり……って、エレンも裁縫やるの?」

エレン「いや、俺は周りの連中のを見てるだけで、自分じゃさっぱりだ。……ところでその袋なんだが」

マルコ「えっ、これ?」ギクッ

エレン「ああ。――何を入れるかは知らねえが、もうちょっと縫う間隔狭くしないと中身が落ちちまうぞ」

マルコ「そうなの? ありがとう、じゃあ糸はほどいてっと……」ブチブチッ シュルッ...

エレン「……」

エレン(ちょっと動揺してた……! あのマルコがちょっと動揺してたぞ! なんだよその袋やっぱりやましいものなのか!? 彼女へのプレゼントか!?)

マルコ(エレンに見られたのはまずかったかな……アニとユミルに渡すものだから、もしエレンが後で見かけたらきっと怪しむはずだ。かといって正直に話すわけにはいかないし)ウーン...

424: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:13:16 ID:wPmia5jw

エレン(あれだけ小さいんだ、ベルトルトが作ったキャンディ・バスケットみたいに人形入れるわけじゃねえだろうし……いや、そもそもあんな袋に入る大きさの人形なんて俺は見たことねえな)モンモン

エレン(それともなんだ? 袋だけは自分で作って、完成品をジャンにキルシュタイン・カスタムしてもらった後ライナーにブラウンメイドのキーチェーンをもらってアルミンにモノクマ語録のありがた~い言葉を小さな紙にしたためてもらうのか!? そんなてんこ盛りのお守りを彼女に渡すつもりか!? マルコそうなのか!?)モンモンモンモン

マルコ(エレンがすごい形相で袋見てる……色と大きさを覚えられたら困るな。ごめんエレン、君は悪くないんだけどちょっと袋隠すよ)ササッ

エレン(!? 隠したああああああああっ!? マルコの奴、袋を手で隠しやがったぞ! やっぱりやましいものか!)ガタッ

マルコ「うわっ!? ―― エレン、どうしたんだ? 突然立ち上がって」ビクッ

エレン「あ、ああ……悪い。ちょっと興奮してよ」ストンッ

マルコ「興奮……?」

エレン(いかんいかん、あんな小さな袋ごときでなんでこんな変な妄想してんだ、俺……考えすぎだよな。変な奴に囲まれたせいで、ちょっと疲れてるのかもしんねえ)ブンブン

マルコ(エレンはいったいどうしたんだろう……? うーん、このまま話が進んで袋のことを詳しく聞かれたら困るな。話題を変えようか)

マルコ(……そうだ、どうせならエレンに聞いてみよう。きっと正直に答えてくれるはずだ)

425: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:14:00 ID:wPmia5jw

マルコ「ところでさ、エレン。……いい年して、人形を持ち歩いてる男ってどう思う?」

エレン「……人形?」ピクッ

マルコ「そう、人形」

エレン「いい年してって、そりゃあ……教官くらいの年の人のことか? そういう人が持ってるってのは、趣味じゃなくて何か特別な理由が――」

マルコ「ああいや、そうじゃなくてさ。僕たちくらいの男子が、人形を持ち歩いてたらどう思う? ってことなんだけど」

エレン「……」

エレン(もしかして、ベルトルトのことか……? あのド派手なバスケットでも見ちまったのか……!?)

エレン(ありうる……! ってかあんな目立つもん見てないほうがおかしい! むしろあいつ、バスケットできる前はキャンディそのまま持ち歩いてたじゃねえか!)

エレン(……もしかして、マルコはキャンディを隠すために袋を作ってるのか? ベルトルトの噂が広まらないようにって考えて? でもあれじゃ手や足の先くらいしか入らねえし、そもそも今朝コニーの村に送っちまったし……いや待てよ、手の先?)ハッ

エレン(そうか、マルコ……お前手袋と靴下作ってんのか……!? だがちょっと待て、キャンディの手足は合わせて4つだ! 3つじゃ足りねえ!)

エレン(あああああもう訳わかんねえよ!! お前いつの間にキャンディのために手袋作ってやるようになったんだよ!?)モンモンモンモン

426: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:14:44 ID:wPmia5jw

マルコ「エレン、どうしたんだい? 顔色悪いみたいだけど……」

エレン「ああ、いや……ちょっと考えすぎてな」ブンブン

エレン(落ち着け、エレン・イェーガー……一方的に決め付けるな、それじゃああいつらと同じだぞ。先に袋のことを確かめてからでも遅くはないはずだ)スーハースーハー

エレン「……あのさ、マルコ。その質問に答える前に、どうしても聞きたいことがあるんだが」

マルコ「何?」

エレン「その袋は……お前のために作ってるもんか? それとも他人のために作ってやってるもんか?」

マルコ「……両方、かな。でもどちらかと言ったら、他人のためのほうが大きいかも」

エレン「そうか……」

エレン(やっぱりキャンディのためか……!)ギリッ...

マルコ「エレン、ところで質問の答えは……?」

エレン「……『人形持ってる男のことをどう思う』、だったか」

マルコ「うん。エレンの率直な意見を教えて欲しいんだ」

エレン「俺の意見か……」

エレン(つまり、俺がベルトルトを見て思ったことを言えばいいんだよな。……よし)

427: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:15:30 ID:wPmia5jw

エレン「俺らみたいな年頃の男が、人形を持って歩いてるって言うのは……まあ、いい印象はないよな」

マルコ「そうだね、もう人形遊びするような年でもないし」

エレン「でも、その人形がそいつにとっての友だち……いや、かけがえのない家族だとしたら、無理やり引き離そうとするのは違うって思うんだ」

マルコ「……はい? 家族?」

エレン「だから、そういう奴を見かけたら……最初に言ったとおり、いい印象はすぐには持てねえと思う。でも俺は、そういう奴を頭から否定しないで、受け入れてやるような……そういうでかい器を持った人間になりたい!」キリッ

マルコ「……なるほど。それがエレンの答えなんだね」

エレン「ああ……お前の参考になればいいんだが」

マルコ「……」

エレン「……」



マルコ(どうしよう……意見じゃなくて何故か決意表明が返ってきた。しかも言ってることがよくわからない……)

エレン(やっべ、緊張してなんか変なこと言っちまった)ドキドキ

428: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:16:46 ID:wPmia5jw

エレン「そっ、そう言えばさ、マルコは最近ジャンと話したのか? 俺とはしばらくぶりになるけどよ」アセアセ

マルコ「ああ……実は全然話してないんだよ。近頃忙しくてさ、あいつの姿すら見かけてないんだ」

エレン「そっか、じゃあジャンが今どうなってるのかは知らねえのか……」ブツブツ...

エレン(ベルトルトはともかく、ジャンのことを知らないのは幸運だったな。モノクマやキャンディと離れて傷心中のあいつが、もしマルコにまで捨てられたら……)モヤモヤ



ジャン『モノクマもいねえし、キャンディもいねえ……マルコにも見捨てられちまった……』ズーン...

ジャン『俺はもう、生きていけねえよ……兵士辞めて、手芸屋になるわ……』グスッ...



エレン(……あれ? ジャンってこんなナヨナヨしてたっけか? ……まあいいか)

エレン(とにかく、モノクマとキャンディはもういないんだ。きっとあと数週間もあればあいつらの症状も治まる……それまで俺がなんとか誤魔化さねえとな)

429: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:18:35 ID:wPmia5jw

マルコ(エレンからジャンの名前が出るなんて珍しいな。僕がいなくなってから喧嘩ばかりしてるのかと思ってたけど、そうでもないみたいだ。よかったよかった)ホッ

マルコ「コニーにも誘われたんだけどさ、今度君たちの部屋に行ってもいいかな? 久々にアルミンとチェスでも指したいし、コニーにも裁縫で聞きたいことが――」

エレン「いや、部屋は駄目だマルコ」

マルコ「え? ……ああ、もしかしてまだ部屋の中が片付いてないとか? 僕は別に気にしないよ?」

エレン「お前が気にしなくても俺が気にするんだよ。あと悪いことは言わねえから、その縫い物のことは大っぴらに言って回らねえほうがいいぞ。命が惜しかったらな」

マルコ「へっ? 命?」

エレン(部屋の中、まだ端切れの山でぐちゃぐちゃだからな……マルコに見せるわけにはいかねえ。それにマルコが裁縫やってるって知られたら、あいつらが嬉々として仲間に引き入れるに決まってる……!)ギリッ...

エレン(マルコ……お前のことは俺が守ってやるからな)ジッ...

マルコ(なんだかよくわからないけどエレンから熱い視線を感じる……うーん、エレンがいるんじゃ作業できないし、そろそろ行こうかな)

マルコ「えっと……エレン、ありがとう。色々参考になったよ。僕、やらなきゃいけないことがあるからそろそろ行くね。レポート頑張って」

エレン「ああ。それと徘徊する大男には気をつけろよ。油断してるとデコレーションされるぞ」

マルコ「……うん、気をつける」

430: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:19:25 ID:wPmia5jw

―― しばらく後 兵舎裏

マルコ「……」チクチク

マルコ(兵舎裏なんかで何やってるんだろう、僕……)チクチク

マルコ(エレンの言うことを鵜呑みにするわけじゃないけど、確かに大っぴらにやるわけにはいかない、いかないんだけど……)

マルコ(食堂はコニーがいるから駄目、資料室や部屋だとひと目がある、空き教室はいつ人が来るかわからない。便所の個室は……ひと目にはつかないけど暗すぎる。それになんか嫌だ)

マルコ(消去法でここまで来たけど……こまめに移動しないと駄目だろうな。位置を固定してたらいつか誰かに気づかれる)

マルコ(それにしても、ひと目がないところって意外と少ないんだなぁ……当たり前か、ここには二百人以上も訓練兵がいるんだ。誰も見ないところなんてあるわけがない)

マルコ(早くこれ、仕上げないとな……)

マルコ「……うーん、まだ縫い目が曲がってるなぁ」ジーッ...

マルコ(裁縫は別に得意ってわけじゃなかったけど、まさか真っ直ぐ縫うことさえできないなんてな……ちょっと自分が情けないや)ブチッ シュルシュル...

マルコ(……待てよ? 僕が縫うより、あの二人に生地だけ渡して自分で作ってもらえばよかったんじゃ)

マルコ「……」

マルコ(今からでも……いいや、それは無責任だ。ここまでやったんだから最後まで頑張ろう)チクチク

431: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:20:12 ID:wPmia5jw

―― 数日後の早朝 焼却炉付近

ユミル「朝っぱらからこんなところに呼び出して何の用だよ。当番でもねえのに……」ゴシゴシ

アニ「もしかして……うさたんに何かあったの?」ギロッ...

マルコ「違うよ、人形は無事だ。……はい、ユミル。アニ」スッ

ユミル「……ん? なんだこれ、ちっちゃい巾着袋?」プラーン...

マルコ「そうだよ。君たちはともかく、僕は人形をそのまま持って歩くってのはやっぱり抵抗があったからさ。急いで袋を用意したんだ。ついでに君たちの分もね」

アニ「へえ……気が利くじゃないか。でもこんなちょうどいい袋、いったいどこから――」

マルコ「僕が作ったんだ」

ユミル「」

アニ「」

マルコ「不格好でごめんね。……こういうのは慣れてなくてさ」アハハ

ユミル「……」

アニ「……」

マルコ「今日はこれを渡したくて二人を呼び出したんだよ。色は三色あるから、好きなのを選んでくれ。僕は余ったのでいい」

432: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:21:04 ID:wPmia5jw

マルコ「……」

ユミル「……」

アニ「……」

マルコ「あー……ごめん、やっぱり男の手作りじゃ抵抗あるかな」

ユミル「いや……」

アニ「そうじゃなくてさ……」

ユミル「マルコ、お前……ボタン付けとかできるのか?」

マルコ「え? できるよ?」

アニ「服が血で染まったりしない?」

マルコ「しないよ?」

ユミル・アニ「…………」



ユミル・アニ(負けた……!! マルコに負けた……!!)ガーン

433: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:22:29 ID:wPmia5jw

ユミル「……手作りってのは置いといて、だ。なんで袋が三つあるんだ? 人形を回すだけなら一つありゃ充分だろ?」

マルコ「いや、三人で回すから三つ必要だよ。同じ袋を持っているのを見られたら他の人に気づかれる確率が高くなるからね。……人形が好きだってことは、なるべく誰にも知られたくないんだろ?」

アニ・ユミル「……」

アニ(マルコ……なんて気遣いのできる男……!)ジーン...

ユミル(クリスタ……婿にするならこういう奴にするんだぞ……!)グッ

アニ「私、あんたのこと誤解してたかも……」ジーン...

ユミル「いい奴だよなぁ、お前……」ジーン...

マルコ「あはは、どうも……それで、どれにする? 青と緑と紺があるけど」ピラッ

アニ「……じゃあ、私は青」スッ

ユミル「私は緑にしておくかな」スッ

マルコ「じゃあ僕が紺色だね。――改めて整理するよ。これからはこの時間に、この場所で人形の入れ替えをすること。お互いのためにも、人形は基本的にこの袋に入れて持ち歩くこと。無闇やたらと袋から人形を取り出さない。……これでいい?」

アニ「いいよ、わかった」

ユミル「こんなもんもらっといて文句つけたらバチが当たっちまうよ」

434: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:23:40 ID:wPmia5jw

ユミル「それにしても、よくできてるなこの袋……紐は布でできてるのか? 凝ってるな」ビヨーンビヨーン

マルコ「ああ、うまい具合に細い端切れをもらったからね。僕が作った」

ユミル「……左様でございますか」チッ

マルコ「?」

アニ「……」グイグイ

アニ(いいな……私も、こういうのが作れたらよかったのに。……あっ)プツッ...

アニ「……マルコ」ツンツン

マルコ「ん? なんだい?」

アニ「ごめん。……糸、ほどけちゃった」シュル...

マルコ「ああ、糸がちゃんと結べてなかったのかな。悪いんだけど補強しておいてくれる?」

アニ「……できない」

マルコ「……? もしかして針と糸がないとか? でも僕も、糸はボタン付けに使うものくらいしか残ってなくて――」

アニ「違う。……私、裁縫できない」

435: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:24:40 ID:wPmia5jw

マルコ「……」

ユミル「……」

アニ「……」モジモジ

マルコ「できないって……ちっとも?」

アニ「……うん」コクン

マルコ「そうか……できないものは仕方がないな。悪いけど、ユミルが直してあげてくれないか? 僕がやるとまた――」

ユミル「無理」

マルコ「……」

ユミル「絶対無理。やだ」ブンブン

マルコ「……ユミルもできないの?」

ユミル「……」コクコク

マルコ「…………もしかして、二人とも?

アニ「うん」

ユミル「全然」

436: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/30(木) 21:25:36 ID:wPmia5jw

マルコ「僕が直してあげるのはいいんだけど……あのさ、野戦治療実習ってあるだろ? 先週やったの覚えてる?」

ユミル「ああ、あれか。前回はクリスタが止血に失敗して三人くらい殺してたな」

アニ「それがどうしたの?」

マルコ「どうしたのっていうか……再来週の実習で、針と糸を扱うはずだよ」

ユミル「……は?」

アニ「な、なんで? なんでそんなもの使うの? 服でも作るの?」オロオロ

マルコ「傷口の縫合をするんだ。……まあ、使うのは実習用の模型だけどね」

ユミル「身体に直接針と糸を……?」ガタガタガタガタ...

アニ「なんて恐ろしい……!」ガタガタガタガタ...

マルコ「二人とも、裁縫はできないんだよね? どうするつもりだったんだ?」

ユミル「……」チラッ

アニ「……」チラッ

ユミル「さてと。……野戦治療演習の担当教官は誰だったかなぁっと」スタスタ...

アニ「やるなら人が少ない夕方のほうがいいね」スタスタ...

マルコ「堂々と闇討ちの相談しないでくれよ」ガシッ

442: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/18(火) 22:03:37 ID:wVPYmXvg

ユミル「ええい離せマルコ! 私たちのためを思うなら行かせろぉ!!」ジタバタジタバタ

マルコ「うわっ……!? 暴れないでよ、危ないだろ!」ササッ

アニ「あんたにはわからないだろうさ……! 裁縫ができない女の子の気持ちなんて……!」ギリッ...

マルコ「君たちの気持ちはわからなくても、教官の闇討ちが駄目ってことくらいは僕にもわかるよ! 一旦落ち着こう!」

アニ「正々堂々襲ったら顔が見られちゃうでしょ!?」

マルコ「そういう話をしてるんじゃないっ!!」

ユミル「……なるほど。いきなり教官ってのが駄目だったんだな」ポン

アニ「……! そうか、だったら私は女子寮に行ってくるよ」ダッ

ユミル「よしマルコは男子寮を頼む」ダッ

マルコ「待った待った待った待った!! さらっと共犯にしないでくれ!! どうして君たちはそう短絡的な発想しか出ないんだ!?」

ユミル「うるせえこっちゃ切羽詰まってんだよ!!」

アニ「痛い目にあいたくなかったらとっととそこどきな!!」

マルコ「だから待ってくれって!」

443: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/18(火) 22:04:35 ID:wVPYmXvg

マルコ(普段は落ち着いてる二人がここまで興奮するなんて……裁縫できないのがよっぽどコンプレックスなんだろうな)

マルコ(……よし)

マルコ「二人の言い分はわかった。……つまり、再来週の野戦治療実習までに裁縫ができるようになればいいんだろ?」

ユミル「だから、それができれば苦労しねえって」

アニ「それともマルコがなんとかしてくれるの?」

マルコ「そうだよ。僕が君たちに教える」

ユミル「……え」

アニ「……」キョトン

マルコ「まだ実習まで十日以上あるんだ。付きっきりで教えたらなんとかなる……はずだ」

ユミル「お前……私らなんかのために付きっきりで教えてくれるのか……?」

アニ「どうしてそこまで……」

マルコ「誰かさんたちによると、どうやら僕はいい子ちゃんでお人好しらしいからね。今回もいい子ちゃんでお人好しなことをしたいだけだよ」

ユミル「うっ……すまん」シュン

アニ「ごめん、私たちはけなすつもりで言ったわけじゃ……」

マルコ「大丈夫、それくらいはわかってるからさ。――とにかく訓練が終わったら、裁縫道具を持って兵舎裏に来てくれ。約束だよ?」

444: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/18(火) 22:05:43 ID:wVPYmXvg

―― 女子寮 廊下

ユミル「マルコ、いい男だったな……」スタスタ...

アニ「……そうだね」スタスタ...

ユミル「ちっちゃいおこさまならともかく同期の女だぞ? 普通付きっきりで裁縫の面倒なんか見てくれねえだろ……」

アニ「……うん、すごいね」

ユミル「……」チラッ

アニ「……」ドヨーン...

ユミル「……なんだなんだ、元気がないな。闇討ちできなくて気を落としたのか?」

アニ「そうじゃないよ。……さっきマルコが最後に言ったこと、覚えてる?」

ユミル「最後? 兵舎裏に来いってアレか?」

アニ「その前にさ、『裁縫道具を持って』って言ったでしょ?」

ユミル「ああ……そういや言ってたな。それがどうかしたか?」

アニ「……私、針も糸も持ってない。裁縫しないから……そういう道具、一つもない」

445: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/18(火) 22:06:20 ID:wVPYmXvg

ユミル「なーんだ、そんなことか。安心しろって、私も持ってねえからさ」ハハハ

アニ「あんたはいいよね。……クリスタから借りればいいから」

ユミル「まあなー。そういうお前はアテはないのか? 一人くらいいるだろ?」

アニ「……いるって言えばいるけど」

アニ(ライナーやベルトルトに『裁縫道具貸して』って言うの、恥ずかしいな……今パーカーの穴縫ってもらってるのに)モジモジ

ユミル「仕方ねえなぁ……そう悲観するなって。私がクリスタから少し余分に借りてきてやるからさ」ポンポン

アニ「……迷惑かけるね」

ユミル「何言ってんだ、お互い裁縫ができないって知れた時点で私たちは仲間だろ? 気にするなよ」

アニ「ユミル……!」ジーン...

ユミル「一つツケな」ニヤリ

アニ「……」イラッ

ユミル「まあ、私たちの運命はマルコとクリスタにかかってるんだが…………ん? なんだ、あっちが騒がしいな」

アニ「私らの部屋からだね。……行ってみる?」

ユミル「だな。急ごう」タタッ


次回 コニー「モノクマ、そしてキャンディ」 後編