1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:33:54.53 ID:KQ2NLOjG0
比奈とPが翠に学ぶ弓道の体験記。

・短SSです。
・細かいことは気にしない。
・間違ってたらごめん。

よろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369481634

引用元: 翠「弓道、やってみませんか?」 

 

2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:34:46.19 ID:KQ2NLOjGo

 ――事務所・昼

翠「…それ、ちょっと変ではありませんか?」ノゾキ

比奈「うわっ……て、翠ちゃんでスか。お疲れ様」フリ

翠「すみません、いきなり。お疲れ様です」ペコリ

比奈「原稿進めてるだけなんで仕事じゃないんスけどね。…ところで、変って何がっスか?」

翠「あ、変っていうのは、その方の右手なんですが」ユビサシ

比奈「ん……このキャラの弓を引く手がッスか?」

翠「はい。高さはもう少し、こう……」ユミヲヒクポーズ

比奈「ありゃ、思ったより結構高いんスね」

翠「和弓の場合は矢が頬に付くぐらいが一番ですよ」

比奈「へー…。やっぱり経験者が居ると違いまスね。アタシも資料見直さないと」フム



3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:35:26.75 ID:KQ2NLOjGo


翠「資料、ですか?」

比奈「大体絵を描く人は知らない世界のことも描かなきゃいけない時もあるっスから、結構資料とか持ってるもんでスよ。アタシはインターネットっスけど」ハハ

翠「大変苦労しているんですね…すごいです」

比奈「いやいや、ただの趣味っスから。翠ちゃんこそ武道なんてカッコイイじゃないでスか」

翠「昔から続けてきた事ですから、これだけですよ。……あ、そうだ、比奈さん」ポン

比奈「んー、なんスか?」

翠「よかったら一度、やってみませんか?」

比奈「え?」ポリ

翠「弓道です!」グイッ

比奈「……え?」ポリ


4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:36:07.52 ID:KQ2NLOjGo


 ・ ・ ・


P「あっつあっつ、只今戻りました…って何やってんのお前ら」パタパタ

翠「あ、Pさん。お疲れ様です」

比奈「お疲れ様っス。いやね、翠ちゃんに弓道やってみないかって誘われちゃいまして」

翠「資料を見るより、やってみた方がわかると思いますよ!」

P「ふむ、比奈の弓道をする姿……イケるな」

比奈「何がイケるっスかぁ、そんな動きたくないでスよぉー…」

翠「大丈夫です。弓道はそこまで力は使いませんので比奈さんでも十分できますよ」ニコ

比奈「さり気なくアタシの非力を認めているような…いや事実っスけど」

P「はーなるほど、調べてみると東京にも道場があるんだな。使えないか電話してくる」ピポパ

翠「ありがとうございます、Pさん」

比奈「勝手に話が進んでないっスか!?」



5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:37:41.12 ID:KQ2NLOjGo


 ・ ・ ・


P「サインくれたら使っていいってさー」

比奈「仕事が早いっスね!? まだ五分も経ってないでスよ!?」

P「翠の事話したら歓迎されたよ。流石実力派弓道娘」

翠「光栄です。それでいつやるんですか?」

P「明日でしょ!」

比奈「ツッコむべきかしないべきか……って明日っスか」

翠「明日っす、です!」ビシッ

P「明日っす!」ドヤァ

比奈「真似しないでくださいよぉ!」



6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:38:27.65 ID:KQ2NLOjGo


 ――翌日


P「お、着替えてきたな」←ジャージ

比奈「うう、ジャージでも良かったじゃないでスか…」←借りた弓道着

翠「弓道着を着れば気が引き締まりますからね。それに似合ってますよ、比奈さん」←自前の弓道着

P「そうだぞ。弓道着×眼鏡っ娘は相性抜群だからな」

比奈「Pさんが変態でス…」

翠「ぽ、ポニーテールは駄目ですか!?」グイ

P「最高」グッ

翠「やった!」

比奈「翠ちゃんも何喜んでるんスか…まあアタシも悪い気はしませんけど」」


7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:39:03.71 ID:KQ2NLOjGo



翠「練習を始める前に、一番先に礼の練習だけしておきます」

P「おお、武道っぽいな」

翠「同じ弓道の仲間や弓道をさせてくれる道場に対してお礼をいうのがマナーです」

比奈「基本でスね、そういうの」

翠「座り方ですが、右足を左足の半分まで後ろに引きます」

P「できたぞ」

翠「そのまま膝を曲げて上体をそのままに腰を下げ、下まで行けば、前に滑るようにして膝を地面につけます」スッ

比奈「ちょっとキツいっス…」

翠「筋力不足かもしれませんね。右足を滑らせて座ったら、最後につま先を畳んで終わりです。ちなみに男女では座り方も若干違います」

P「どう違うんだ?」

翠「違いといっても少しだけで、男性は膝の隙間を握りこぶし一個分ほど開け、女性は閉じる、というだけです」

比奈「よかったっス。これからまた動かされるのかと思うと…」

翠「正座は人によって向き不向きがありますから、今回は少しだけにします。では次に立ち方です」



8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:40:15.45 ID:KQ2NLOjGo



P「座った時と同じように、ってのは難しそうだな」

翠「はい。立ち方は、正座の状態から膝立ちをします。その立つ間に片方の爪先を立てます」

比奈「もう片方はどうするんスか?」

翠「完全に膝立ちしてからもう片方も立てます。それから左足で地面に立って、そのまま立ち上がります。勿論上体はズレてはいけません」

P「なるほどなあ…」スクッ

翠「あと、立てる左足はつま先が右膝より前に出ない程度に抑えて下さい。出ていると不恰好なんです」

P「わかった。こうだな」スクッ

翠「はい。完璧です。ちなみに手は真っすぐ伸ばし、座った時では腰骨に当たる位に体に近づけて下さい。立ち座りの動きの中で自然に手も動かすのがポイントです」

比奈「立っている時は、気をつけでいいんスか?」

翠「ああ、そうでした。実は立ち方も男女で違いがありまして、男性は3cm程足を平行に開き、女性は足を閉じて立つことになっていますから注意して下さい」

P「よし、できた。これぐらいは簡単にできないとな」

比奈「アイドル的にもできなきゃっスね。レッスンしてますし」




9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:41:25.85 ID:KQ2NLOjGo



翠「ではいよいよ練習ということで、まずは構えの練習から始めましょうか」

比奈「あー、素振り的なアレでスか」

翠「似ていますが、弓道では、弓を実際に持つのはかなり後になりますね」

P「持っちゃ不味いのか?」

翠「弓道では矢をかけてから弓を射終わるまでの動き全部が重要になりますから、先に弓を持ってしまうと練習がしにくいですし、変な癖もついてしまいますから」

比奈「結構厳しいんスね」

翠「そのせいで続かない人が多いんですけどね…。それはともかく、早速始めて行きましょう。一番目は執弓の姿勢です。見てて下さい」


10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:41:55.50 ID:KQ2NLOjGo


 ・執弓(とりゆみ)

P「握った両手を腰に当てているだけだな」フム

翠「実際には弓と矢を持っているんですが、素手の練習…徒手練習なのでそういう形になりますね。じゃあやってみて下さい」

比奈「こうっスか?」グッ

翠「はい。肘は後ろにいかないように、体との平行を意識して下さいね」

P「これは簡単だな。初めから難しくても困るが」

翠「結構、基本動作は単純なんです。ただ細部をきちんとやると慣れが必要なだけで」

比奈「ちょっと二の腕が疲れて来たっス…」

翠「肩に力が入っている証拠です。人差し指の第二関節を腰骨の上に当てる感じで大丈夫です。では次は足踏みと胴造りです」


11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:42:41.45 ID:KQ2NLOjGo


 ・足踏み、胴造り(どうづくり)


P「足踏み…左足をすり足で開いて、一旦右足寄せて戻してからまた同じく右足をすり足で開くのか」

翠「二通りの方法がありますが、ここでは二足で行きます。結果的に仁王立ちのような格好になりますね」

比奈「ぐぬぬ…足が痛いッス」

P「おいおい、普段のトレーニングが足りてないぞ比奈ー?」

翠「少し開きすぎです。説明しておくと、足幅は矢束(やづか)を元に決まります」

P「矢束?」

翠「矢束は自分の喉から手の中指までの長さの事です。Pさん、一旦足を閉じて、手を広げてくれますか?」

P「ん、こうか?」バッ

翠「はい。少し失礼して矢を…と、矢の先端付近まで行きますね。これを地面において、また足踏みをしてみて下さい」コト

P「(近くていい匂いがした)お、さっきより楽になった」

比奈「(近いっスよ翠ちゃん!)そんなに開かなくていいんスね…」

翠「矢を射る下半身ですから、広げすぎると安定しませんしね」

比奈「というか、それを先に言って欲しかったっス」



12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:43:53.00 ID:KQ2NLOjGo



翠「足は体に対し60度に、左足をすり足で開き、右足を寄せて直立、次に矢束分まで右足を開く。これが足踏みです」

P「ここから射る訳か」

翠「はい。ちなみに、実際ではこの動作をする前には的を見る動作を先にやっておく必要があります」

比奈「どういうことでス?」

翠「まず執弓をしてから、首を左に回して的を見、それから視線と上半身を固定して足踏み、という手順です」

比奈「足元を見れないのは辛いっスね…」

P「それでやると結構両足でずれるな」ウワ

翠「特に右足が上下にずれることが多いですから、まずは見ながらでいいの矢束をきっちり開くことに慣れてください」

比奈「はいっス」

P「これを上半身を直立させながらやるのか…難しいな」

翠「それは練習して慣れて行きましょう。イメージとしては、徐々に足を沈ませていく感じですね。当然膝は曲げてはいけませんが」

※的を見る動作を物見(ものみ)という。



13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:44:40.60 ID:KQ2NLOjGo


 ・弓構え(ゆがまえ)


翠「足踏みが終わったら、顔を正面に戻し、弓構えをします。また弓構えをする前のこの状態を胴造りと言います」

P「どう作るんだ?」

比奈「楓さんじゃないんでスから…」

翠「では左手、右手の順に腰の前に拳を持っていって下さい」

比奈「持っていく…こうっスかね」クイ

翠「良い感じです。最終的に、両腕が大木を抱えるような形になるのが理想ですよ」

P「大木って…」

翠「よく言われる例えなんですよ、これ。執弓の状態の手をそのまま前にスライドさせると、そんな感じになります」

比奈「アタシなら大きいダンボールを持ち上げる感じって言いまスね」ハハ

P「あ、なんかわかるわそれ」



14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:45:35.87 ID:KQ2NLOjGo


翠「それと、少し難しいですが一応言っておくと、弓構えの前には、重心をやや前にして姿勢を維持して下さい」

比奈「前スか?」

翠「足の土踏まずと親指の付け根の間ぐらいが重心になるように、気持ち前に重心を移動します。やり過ぎると姿勢が崩れますから、今は覚えておくぐらいで構いません」

P「本当に小さな動作が集まってるんだなあ…見ただけじゃわからん」

翠「やってみて初めてわかる。いつもPさんがスカウトする時に言う事と同じですよ」

比奈「スケコマシでスからね、Pさんは」

P「評価が酷いな!」



15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:46:11.66 ID:KQ2NLOjGo


 ・打起し(うちおこし)


翠「再び物見して、次はその手を45度の高さまで上げます」スッ

P「実際は弓を持ってるから、いよいよ射る動作に入る訳だな」

翠「そうですね。徒手なのでしませんが、実際の動作では弓構えの中に取懸け(とりかけ)手の内(てのうち)もします」

比奈「とりかけ? てのうち?」

翠「簡単言えば、弓を持つだけの手から弓を引くための握りに変えるのが手の内、弦に手をかけるのが取懸けですね。それはまた後でします」

P「翠、こうか?」

翠「両腕を上げる時は、肘で上げるような感覚で、遠くの物をすくい上げるようにあげて下さい」

比奈「垂直にあげるのは駄目なんでスね」

翠「そうしてしまうと、肘が地面と平行の所まで来た時に肩が後ろに下がってしまいますからね。常に上体は真っ直ぐになっていることが前提です」



16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:47:04.89 ID:KQ2NLOjGo


 ・引分け、大三(だいさん)


翠「次は実際に弓を引く動作です。打起しで両手で弓を持った状態で、それを的の方向に押し出すように軽く腕を広げていきます」スッ

比奈「よくわかんないっスね…」

P「ああ、左手で弓を開いていくのか」

翠「そうですね。右肘を軸にして、左手を広げる力で弓を引いていきます。右手は額の斜め上、握りこぶし二個分位の位置まで持って行って、左手も同じ高さまで開いて下さい」

P「位置が難しいな…」

翠「これをする時、腰が左右にズレやすく体も反り易くなり、また肩も上がりやすいので、力を抜いて動かしてくださいね」

比奈「翠ちゃん、これはどうっスか?」

翠「右手の位置はそれで大丈夫です。ただ、左手は真横にまで開かないで下さい。必ず矢の線は体と平行になるように開かなければいけないんです」

P「両手とも、的に対して垂直になるようにするんだな」

翠「そうです。これが引分けの内の大三といい、ここで少し間を置いてから更に引いて、会(かい)にいきます」


※大三とは「押大目引三分一(おしだいもくひけさんぶんのいち)」の略。弓を押すには力を多くし、引くには三分の一の力を使えという意味。
 また様式によって引分は方法が変わる。



17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:48:13.17 ID:KQ2NLOjGo


 ・会(かい)


比奈「来ましたっスね、一番格好いい所!」

翠「私としては大三がしなやかで好きなんですが…まあそれはともかく、大体の人がイメージする部分ですね」

P「確かに俺もその印象が強いな。弓道といえばこれ、みたいな」

翠「やり方ですが、大三から、左手を地面と平行の位置まで広げ、右手は肘を折りたたむまで引きます」

比奈「引きまくった方がいっぱい飛ぶはず…」グググ

翠「引きすぎですよ。実際に弓でそれをやると、弦の力に負けて手が震えてしまいまともに打てないんです」

P「一番安定する位置がここなのか」

翠「そうですね。正確には頬付けと言って、両手を繋ぐ線、つまり矢が頬に当たる位置が最良です。打起しが弓が一番体から離れ、そこから順に体に近づけていきます」

比奈「でも、これって頬が切れたりしないんスか?」

翠「そう思いがちですが、矢が当たる位置ということは、矢の内側にある弦には絶対に当たらないということですから大丈夫ですよ。正しく引けていれば、の話ですが」

P「そうか、だから最初から弓を持つのは駄目なんだな」

翠「そういうことです。弦が戻る時の力は相当ですから、一歩間違えれば顔や胸部に大きな傷を負いかねません。一般的な決まりとして、矢を掛けないで弦を大きく引く事は禁止されていますね」



18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:49:48.80 ID:KQ2NLOjGo


 ・離れ、残身(残心、ざんしん)


比奈「的にヒットーやったぁ、って感じでスか」

翠「どちらかと言えばそれは禁忌です。剣道や空手にもあるように、動作の後に硬直時間が必要で、それが残身です」

P「聞いたことがあるな。心をそこに残すのが礼儀とかなんとか」

翠「矢を射て、その場を離れるまで気を抜かないこと、それが残す心と書いて残心で、それを形にしたのが、身を残すと書いて残身です」

比奈「同じ読み方なんでスね」

翠「口頭ではややこしいので、一緒くたにすることも少なくありませんけどね。とにかく、右手を離したら、解き放つ様にそのまま肘を広げて丁度体が大の字になるようにします」

P「弓を持ってないと何だか恥ずかしい格好だな」

翠「他人の視線に動じなくするのも自己鍛錬の一つですね。完全に究極の自分の世界を作り上げ、披露するのが弓道と言いましょうか」

比奈「その世界ならアタシの部屋にもありまスよ」

P「仕事以外でも少しは出ろ」

比奈「Pさんが手を引いてくれたら出まスよ…なんて、柄じゃないっスね」

P「おう、なら今度のオフに出かけるか」

比奈「ホ、ホントっスか!?」

P「予定が空いたらな。翠もいいよな?」

翠「やった、私も行きたいです!」

比奈「……むぅ」ボソ



19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:51:04.28 ID:KQ2NLOjGo


 ・ ・ ・


翠「――以上が弓を構えてから終わるまでの動き、射法八節(しゃほうはっせつ)の流れになります」

P「単純に見えて、やることは多いんだな。驚いたよ」

比奈「確かに画像を見るだけじゃわからない所もあったんで、聞いてみてよかったっス」

翠「結果的には、弓道とはこの流れの動作一つ一つをどれだけ細部にまで拘れるかに尽きます。他者と競うのではななく自分を高めていく、それが特徴なのかもしれませんね」

P「でも弓道にも大会があるんだろ?」

翠「勿論スポーツ的な側面を取り入れた競技としての弓道はありますが、そのものの根底は自己鍛錬があるんだということを忘れないで下さいね」

P「よくわかったよ」

比奈「わかったっス!」

翠「比奈さん、Pさん。今日は弓道を聞いてくださりありがとうございました。もっと教えることはありますが、少しでも知ってもらうことができて嬉しいです」

比奈「アタシも楽しかったっスよ。じゃあ帰りまスか」

P「いや待て。サインを描いていかないと怒られるぞ」

翠「そういえばそうでしたね…忘れてました。ではどこに…あ、弓に書きますか」

P「弓道人としてそれでいいのか翠!? ちゃんと色紙渡すから!」

比奈「あ、持ってきてくれてるんスね…」



20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:51:54.64 ID:KQ2NLOjGo



 ――数日後


P「企画で弓道をすることになったぞ」

比奈「何やってるんスかPさん…」

P「営業先で弓道教えてもらった話したらさ、それで一本企画やってみるかって話をくださって、それでホイホイついていってしまったのだ」

比奈「何言ってるんスかPさん…」

翠「というわけで、今日は前回の練習の続きをすることにしますね」

P「いえー」

比奈(あ、Pさん楽しんでら)



21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:52:36.96 ID:KQ2NLOjGo


 ――弓道場


比奈「で、今回も同じ格好なんスね」

P「でも比奈も嫌いじゃないだろ? この格好」

比奈「…まあ和服は嫌いじゃないでスけど」

翠「弓道では体格差や性別が関係ありませんから、競技人口も男女で1:1という珍しいスポーツなんですよ」

比奈「非力なアタシにもできるっスから、きっと由愛ちゃんにもできまスよ」

翠「すみません、残念ながら弓道では年齢の低い内からはあまりオススメできないのが事実ですね」

比奈「そうなんスか?」

翠「弓を持って怪我をする可能性も大人よりも高いですし、弓の強い力で場合によっては骨が歪む事もあるそうですから」

P「となると、できるのは中学生ぐらいか」

翠「大体の弓道場が開いている弓道教室では小学校三年生から始められるそうですけどね。正直、礼儀や作法が正しくできるかどうかは難しいところです」

P「…幸子には無理だな」

比奈「年齢的な問題じゃないでスね」



22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:53:18.69 ID:KQ2NLOjGo



翠「それではまず、前回やった八節をおさらいしましょう」

比奈「一応インターネットで復習してきたっスよー」

P「お、勉強熱心だな。まあ俺もなんだが」

翠「自己鍛錬の意識があることは素晴らしいことですね。すぐに上手くなりますよ」ニコ

P「…なんか翠にほめられると若返るな」ハハ

比奈「まだ十分若い癖に何言ってるんでスか…」

翠「私はもう少し早く生まれてきたかったな、って思います」

P「翠とクラスメイトだったら俺ももっと真面目に勉強してたかもな」

翠「テスト勉強を一緒にしたり…Pさんと出来たら、楽しかったかもしれませんね

比奈「あーあー止めです、止め。なんかその話はアタシ寂しいっス」




23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:53:59.53 ID:KQ2NLOjGo


 ・ ・ ・


P「さて、俺達は射法八節を前と同じようにやればいいんだな?」

翠「はい、では執弓からお願いします」

比奈「したっスよ」

翠「Pさんは大丈夫……。比奈さんも大丈夫ですね。良い感じです」

P「出来てなかったらどうしようかと思ってたぞ。よかったよかった」

翠「最初に教えた立ち方のまま拳を腰に持っていけば、執弓は完成です。…練習の時はPさんのようにジャージの方が足の位置や動きがわかるので指導しやすいんですよね」

比奈「Pさんの陰謀っすよ、これ…」←借りた弓道着

P「まあまあ。似合ってるからいいじゃん」



24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:54:28.86 ID:KQ2NLOjGo


翠「重心をしっかりと意識して物見をしてから、次に足踏みをします」

P「こうか?」

翠「…はい、足の位置も問題ありません」

比奈「Pさんやりまスねー…」

P「地味に練習してたからな」

翠「徒手練習は道具もスペースも入りませんので、狭い室内でも練習ができるのがメリットですね」

比奈「テレビでやるのはアタシらでスけどね」

翠「それと、動作はゆっくり動くのが基本です。ついついてきぱきとやりたくなりますが、自分で遅いと思うぐらいゆったりやるようにすると良いですよ」

比奈「なんかアタシでもそれっぽくできまス」

翠「比奈さんも飲み込みが早いですよ。さて足踏みですが、物見から左足を開いて、一旦右足を寄せて戻しますが、その時の直立姿勢は長い間を置く必要はありませんので気をつけて下さい」

P「まだ動作の途中だから…ってことだな」

翠「はい。また、この胴造りでは、膝の裏を張るように立つのが良いとされています」

比奈(筋肉痛にならないか心配っス…)ググ



25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:55:09.00 ID:KQ2NLOjGo



比奈「次は顔を正面に向けて打起しっスね」スッ

P「何か気合いが入るよな、この動き」

翠「いよいよ弓を引き始めます、という動作ですからね。私も気持ちが一層入ります」

比奈「変なところはありまス?」

翠「そうですね…腕を上げる時は肘以外はなるべく力を入れないように、でしょうか。比奈さんはまだ少し肩が上がっています」

比奈「ああ、何故か上がっちゃうんスよね」

P「力を抜く加減が難しい所だな」フム

翠「力を入れる部分というのがはっきりしていますから、そこを体が覚えればすぐにできますよ」



26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:56:20.54 ID:KQ2NLOjGo


P「45度まであげたら次は引分けか。大三までしたみたが…どうだ?」

翠「右手下過ぎです。額よりも上、握りこぶし二個分を意識して下さい」

比奈「これはどうでス?」

翠「腰が後ろにズレています。引分の時、弓を前に動かそうとしてつられて腰が後ろに行きがちですから、しっかりと真っ直ぐになるように固定して下さいね」

P「確かに腰が曲がるな」

翠「力を入れる方向とは逆方向に体が曲がるのは自然なことなので仕方のないんですけどね。それでも弓道では、必ず体は直立しなければなりません」

比奈「世知辛い世の中っスね」

P「それは違うと思うぞ…」



27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:56:52.55 ID:KQ2NLOjGo


比奈「大三で一度間を置いて、引き絞って会まで行くんでスね」

翠「はい。弓を持った時、一番力の必要な部分になりますから、最も形が崩れやすい節になります」

P「ここで覚えるのが大事、ということだな…っと」ググ

翠「少し体が反っていますよ。弦を弓から離そうと腕広げるのではなく、固定された体を軸に肘を折り畳むように引くといいと思います」

比奈「で、両手の高さは頬の位置、と」ググ

翠「その通りです。皆さん綺麗に出来てますよ。…体がずれるのは、必要以上に力を入れてしまっているのが大体の原因です。極力弓の引く部分だけに力をいれるように意識して下さいね」



28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:57:47.58 ID:KQ2NLOjGo



比奈「次は離れっスね」

翠「その前に、その会のまま一番長い間を置く必要があります」

P「…実際弓を持っていたら、引いたままってことだよな?」

翠「そうなんです。私の時は、およそ7秒程度と習いましたね」

比奈「キツくないっスかねえ、これ」

翠「一番力のいる場所、と言っても過言ではありません。また、この間が長すぎても短すぎても良くないとされます」

P「厳密には決まってないのか?」

翠「そういうことになります。間の長短を早気・遅気(はやけ・もたれ)と言いますが、それになってしまうと美しくないと言われてしまいます」

比奈「原因とかはあるんでスか?」

翠「遅気になる人はそこまで多くは無いのですが、右手を離すタイミングを失ってしまうのが原因で、また早気になる原因としては、『自分の体に合わない強い弓を引いている』とか、『自分の的に当てるタイミングで離してしまう』とかがあります」

P「弓にも問題があることもあるんだな」

翠「とりわけ的中し始めて弓に慣れてきた頃に出る、弓道における病気とも言われていますね」



29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:58:52.24 ID:KQ2NLOjGo



P「それで矢を放ったら、離れをして、執弓の姿勢に戻る、と」

翠「はい。それで一つの流れになります。今までは動きを教えてきましたが、全体に関わる大事な言葉として、五重十文字、という言葉があります」

比奈「何か炎が出そうな技っスね」

翠「これは会の時に用いる言葉で、弓と矢、両肩の線と背骨など、5つの線が上から見て重なっているのが理想の状態とされます」

P「それができて、きっちりした姿勢ってことになるんだな」

翠「またそれとは別に三重十文字があり、これは両足、両方の腰骨、両肩の線が全部平行でかつ体の中心線と直角であることを表します」

比奈「むむ、何だか難しいっスね…」

翠「今までやってきたことが正しければ自然になる形ですよ。言葉にすると少し難しくなっただけです」

P「そんな言葉が昔からあるんだもんなあ」

比奈「昔の人は凄かったんスねえ」



30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 20:59:36.50 ID:KQ2NLOjGo


翠「とまあ、これの反復練習が大事なのですが、ずっと同じようにやり続けるのは退屈ではありませんか?」

P「そりゃあなあ…。ボールを追いかけるのとは違うわけだしな」

比奈「飽きるのも無理はないっスね」

翠「なので、弓道場の方からこれをお借りして来ました」スッ

P「なんだこれ…パチンコ?」

比奈「とりあえず手当たり次第にタネ打ちまくりまスよね、あれ」

P「3Dだもんな、やるよな」

翠「これはゴム弓と言って、安全に弓を引く練習をすることができる道具です。はい、どうぞ」

比奈「おー、伸びるっス」

P「短い棒の両端がゴムで結ばれていて、これが弓と弦にあたるのか。…それと、棒の真ん中とゴムの真ん中に細いゴムが結ばれているんだが、これはなんなんだ?」

翠「それは矢を表しています。右手で弦を引いた時、矢が地面と平行になっているかどうかと頬付けができているかどうかを確かめることができますよ」

比奈「なるほどー。次はこれで練習すればいいんでスね」

翠「はい。基本的に、徒手練習から始まってゴム弓に移り、次に巻藁、最後に的前と変わっていきます」



31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 21:00:44.68 ID:KQ2NLOjGo



P「的前は実際に的に矢を射るってわかるんだが……巻藁ってなんだ?」

翠「ああ、それは、あちらを見れば判ります」ユビサシ

比奈「翠ちゃんの指の方向には…何か米俵みたいなものがありまス」

P「それが大太鼓の載せるような土台の上に乗っているな」

翠「近づいてみるとわかりますが、あれは藁を束ねて縛ったものなんです」

P「だから巻藁なのか。それで、あれをどう練習に使うんだ?」

比奈「あ、わかったっス。あれに目がけて打つんじゃないっスか?」

翠「正解です。近距離から巻藁目がけて打つと、矢は藁の隙間に入りますので、遠くに飛ばすことなく矢を射る練習が出来るんです」

P「よくこんな道具を思いついたもんだ…」

比奈「くり返し使えるからお得でスしね」

翠「それはさておき、ゴム弓で実際に練習を始めてみましょうか」



32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 21:02:02.42 ID:KQ2NLOjGo


 ・ ・ ・

翠「軽く引いてみてどうでしたか?」

P「やっぱり実際に持つと違うな」

比奈「弓を引いてる! って感じがしまスね」

翠「私もそんな感じでしたね…懐かしいです。それでは、離れまで行きましたのでここで手の内の練習もします」

P「そういえばそんなことも言ってたっけ。弓を持つ手だったな」

翠「はい。ですが、これは口で言うよりも実際に手を見て覚えた方が早いし正確なので、今から魔法を唱えます」

比奈「魔法っスか?」

翠「はい、では……『弓道 手の内で画像検索して下さい』」

比奈「現代魔法っスね…」

P「確かに効率的なんだがそれでいいのか」

翠「お二人には弓道教室で使っている写真をお貸ししますので、それで確認して下さい。私は少し席を外しますね」



33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 21:02:44.16 ID:KQ2NLOjGo


 ――数分後


比奈「ああ、翠ちゃん。微妙に握り辛いっス!」

翠「手を左右に横切る天紋筋にかまぼこ状の弓の角を当てて人差し指以外で握ります。この時中指の側面以外が親指の付け根に当たってしまうのはいけません」ススス

P「指がつりそうになるな…」

翠「初めは慣れないのでよくそうなりますね。これを正しく出来ないと上手く弓に力が伝わりませんから、がんばって下さいね」

P「ところで、翠はどこに行ってたんだ?」

翠「はい、このゴム弓をお二人に貸し出し出来ないかお願いをして参りました」

P「おいおい、そんなの俺が比奈の分も買ってやるぞ」

比奈「Pさん太っ腹ぁっス」

翠「ちなみにゴム弓は比較的安く、2000円以内で買うことができますので、自宅でも練習がしたい方は是非購入をご検討下さい」

P「誰に言ってるんだ、誰に」

比奈「視聴者じゃないでスか? 本番用に」



34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 21:03:18.84 ID:KQ2NLOjGo



翠「管理者の方は私達を気に入ってくれているそうで、返却の際にはサインを頼まれてしまいました」

P「このゴム弓にか…どれだけ好きなんだサイン」

比奈「よく野球選手のサイン入りバットとか人気あるじゃないでスか。それと同じものかと」

P「比奈のだけ新品っぽいのはそのせいか! 別に悔しくないけどな!」

翠「弓道は他のスポーツや武道に比べ体験するのに敷居が高く思われがちなので、こういった側面から突破していこうという考えなのかもしれませんね」

比奈「まあ、大概の学校じゃ弓道部なんてないっスからねえ」

P「そうだ、翠。俺達はゴム弓を練習するが、もう弓を引けたりするのか?」

翠「申し訳ありません。残念ながら初心者の人がいきなり弓を持つのはよくないので、実際に弓を引く、というのはできません」

比奈「まあ、仕方ないッスよねえ」

翠「その代わり、弓を触るだけなら大丈夫ですので、この弓道場の備品の弓をお借りして触ってみましょう」

P「そういうのも本来は俺がするべき話なんだろうけどな…」

比奈「餅は餅屋っスよ、Pさん」



35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 21:04:11.32 ID:KQ2NLOjGo


P「うお、でかいな」グラッ

翠「7尺3寸、221cmが基準で、それは基準通りの弓です。Pさんは身長が高いので、こちらの少し長い弓の方がいいかもしれません」

比奈「これを支えるのは難しそうっスよ…」

翠「ですから、きちんと形を身につけて正しく引くことが大事なんです。…まあ、それが難しいのですが」

P「確かになあ。上の部分の方が長いから左右にグラつきそうで怖いわ」

比奈「弓って上下で半々のようなイメージがありまスけど、実際は上のほうが長いんでスね」

翠「長い弓だと衝撃も強いため、重くすることで安定性を高める、また反発力の差により矢が少し上向きになり飛距離が稼げる、などといった理由があるそうです。逆にアーチェリーでは弓が短く、握りは弓の真ん中なんですよ」

P「そういえば、確かにアーチェリーって結構短い弓持ってたなあ」

比奈「アタシ的にはあんな機械チックみたいなの好きでスけどね。格好いいし」

翠「アーチェリーの方が競技的な側面が強いですから、競う楽しみとしてはあちらのほうが上だと思います。あくまでこちらは武道の一種ですからね」



36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 21:05:19.68 ID:KQ2NLOjGo


 ――幾許か練習した後


翠「それではゴム弓で練習してきたところで、そろそろ終了です。何回かに分けて練習して来ましたが如何でしたか?」

P「高校生の頃を思いだしたな。スポーツしてたからな」

比奈「楽しかったッスよ? アタシでも結構できてるみたいでスし」

P「そこまで考えてなかったが、本格的にこっちの方面に翠を出してみるか…?」

比奈「Pさん、今の時間まで仕事の事考えなくてもいいんスよ」

翠「もしこういったお仕事ももっと頂けるなら精一杯がんばりますね、Pさん」

P「わかった。また企画練ってみるわ」




37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 21:05:51.91 ID:KQ2NLOjGo



比奈「じゃあ着替えまスか」

P「そうだな。…よし、せっかくだから、帰りにご飯でも食べに行くか?」

翠「わぁ、いいですね。是非お供します」

比奈「疲れた体に甘いデザートって感じっスね。行きましょう!」

P「うし、じゃあ帰り道にでもスイーツが食べられる所によってくか」

翠「はいっ!」

比奈「ハイっス!」



 おわり