1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/26(日) 17:08:29.76 ID:EiBkKRgM0

 夢の中。

 少女は泣いていた。
 泣きながら何度も何度も謝っていた。


まどか(どう、して……)


 少女は繰り返す。
 何度も何度も繰り返す。

 約束を果たすまでいつまでも終わらない運命の歯車を回す。


まどか(やめて……、もうやめてほむらちゃん)


 繰り返される時間の中で、多くの仲間が倒れ、そして死んでいく。
 少女は何度も全てを見捨て、次の世界へ命を賭す。


まどか(やめて、お願い……!)


 世界の砂時計を反す度、同じ時間を繰り返す度。
 少女の心は擦り切れ、疲弊しそして。

 壊れていった。


まどか「もうやめてぇえええええええええええ!!」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369555709

引用元: まどか「オーバーソウル!!」 

 

魔法少女まどか☆マギカ アルティメットまどか (1/8スケール PVC製塗装済み完成品)
グッドスマイルカンパニー (2012-12-27)
売り上げランキング: 5,635
2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/26(日) 17:09:06.94 ID:EiBkKRgM0

 白い獣が現れた。
 獣は夢の主に問う、曰く。


「彼女を救いたいかい、鹿目まどか」


 獣は続ける。


「君なら彼女の果て無い旅路を終わらせることができる、彼女の安住の地を作り出すことができる」

まどか「本当に、助けられるの?」

「それは君次第さ。でも、僕ならその力を貸してあげられる」

まどか「私でも、こんな結末を変えられるの?」

「君ほどの素質があれば不可能ではないだろう、だから僕と契約して」

「魔法少女になってよ!」

まどか「うん……、わかった。私はなる、魔法少女に!」

「契約は成立だ。君は選ばれた」

「受け取るといい、それが君と運命を共にする力だ」


 輝く宝石がまどかの手の中に納まった。


まどか「これが……私の――


3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/26(日) 17:10:17.73 ID:EiBkKRgM0

 ・
 ・
 ・

ジリリリリリリリッ

まどか「……ん、ぅう?」

まどか「……」

まどか「夢オチ?」


4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/26(日) 17:11:08.28 ID:EiBkKRgM0

 見滝原ビル屋上。
 そこに白い猫のような獣と黒い猫のような獣が、隣り合わせで座っていた。


キュゥべえ「これで全ての魔法少女が出揃ったね」

ジュゥべえ「ようやくか、ずいぶん待ったぜ」

キュゥべえ「君がもっと精力的に働いてくれれば、もう少し早く揃ったんだけどね」

ジュゥべえ「わーるかったよ! でもオイラだって頑張ったじゃねぇか! 3人も集めたんだから上出来だろ!?」

キュゥべえ「まぁいいよ」

キュゥべえ「さて。勝つのはヒュアデスか人間か、はたまた別の誰かか」

ジュゥべえ「誰が勝ってもこの世界は書き換えられる、ゾクゾクするぜ」

キュゥべえ「さぁ『サバト』の開宴だ……生と死を味わい尽くせ!」


5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/26(日) 17:11:56.50 ID:EiBkKRgM0

まどか「おっはよーう」

さやか「おはようまどか!」

仁美「おはようございます、まどかさん」

まどか「今日は走らずにすみそうだね」

仁美「さやかさんが珍しく寝坊せずに来たおかげですわ」

さやか「ええ!? 酷いなー、私だってたまには早起きするよ!」

まどか「あはははは」

仁美「まぁ! まどかさん、その指輪はどうしたんですか!?」

さやか「おお、ほんとだ! なんだまどか、とうとう色気づいてきたのかー?」

まどか「あっ、これ? 今日の朝からずっと付いてるんだけど外れなくて……」

さやか「とか言って外したくないだけじゃないのかー?」

まどか「ち、違うよぉー」

仁美「……」プルプル

さやか「ん、どったの? さっきからずっと震えてるけど」

仁美「まどかさん、それは……つまりそういうことなんですね!?」

まどか「うぇ?」

仁美「ああ、まどかさん。いつの間にかそんなに遠くに!!」

さやか「ひ、仁美……。落ち着きなよ」

仁美「まどかさん、あなたがたとえどうあろうと! 私達はずっとお友達ですから! お友達ですからーーー!!」

まどか「行っちゃった……」

さやか「どーしたんだろ?」


 まどかは左手の薬指に指輪をはめていた。


6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/26(日) 17:12:41.61 ID:EiBkKRgM0

 チャイムが鳴る。


和子「皆さんに聞きたいことがあります! 電池を買うのは電気屋さんですか! コンビニですか! はい、中沢くん!!」

中沢「ま、まとめ買いして家に置いておくなら電気屋さん、ちょっとなくなったならコンビニで……。まぁ正直」

中沢「どっちでもいいかな、と……」

和子「その通り、どっちでもよろしい! 皆さんはどっちで買うかで一々文句をつける大人にはならないように!」

和子「はい、それでは転校生を紹介します。暁美さん、いらっしゃい」

さやか「そっちが後回しかよ!」

ほむら「暁美ほむらです、よろしくお願いします」

まどか「!!」

さやか「……? まどか?」

まどか「ほむら、ちゃん……!」


11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/27(月) 22:50:31.38 ID:64KKQMKU0

 ホームルームが終わるとほむらの席には女子達が集まる。


「暁美さんって、前はどこの学校だったの?」

ほむら「東京のミッション系の学校よ」

「前は部活とかやってた? 運動系? 文化系?」

ほむら「特にやってなかったわ」

「すごい奇麗な髪だよねー。シャンプーは何使ってるの?」



さやか「はー、人気だねぇ転校生」

仁美「綺麗な方ですもの」

まどか「・・・」

さやか「そういえばまどか、さっきはどうして――

ほむら「少しいいかしら?」

さやか「おわっ!」

まどか「!」

ほむら「鹿目さん、あなたこのクラスの保健係よね。連れて行ってもらえる? 保健室」

まどか「う、あ……えっと」

ほむら「……」スタスタ

まどか「あ、ま……待って!」

さやか「あやー、行っちゃったよ」

仁美「ミステリアスな方ですわ」


12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/27(月) 22:51:00.71 ID:64KKQMKU0

まどか「あの、その……暁美、さん? どうして私が保険係だって」

ほむら「ほむらでいいわ。早乙女先生に聞いたのよ」

まどか「あ、そ……そうなんだ」

まどか「あの、保健室は」

ほむら「こっちよね」

まどか「あ、うん……。あの場所知ってるの?」

ほむら「……」

まどか「あの、暁美さん……じゃなくて、ほむら、ちゃん。あの変わった名前だよね」

まどか「あ、ううん。変な意味じゃなくてね、カッコいい名前だなぁって」

ほむら「鹿目まどか」

まどか「!」

ほむら「あなたは……その指輪!?」

まどか「えっ?」

ほむら「どうして……、どうして!?」

まどか「え、あ……その……」

ほむら「……」ギリッ

まどか「あ、あの、ほむらちゃん?」

ほむら「ついて来ないで!」

まどか「ひっ!」

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/27(月) 22:52:12.93 ID:64KKQMKU0

 放課後。
 とあるファーストフード店にて3人は集まる。


さやか「ええ!? 何それ?」

まどか「うん……」

さやか「文武両道で才色兼備かと思いきや実はサイコな電波さん。くー!どこまでキャラ立てすりゃあ気が済むんだ?あの転校生は!? 萌えか? そこが萌えなのかあ!?」

仁美「まどかさん、どうして暁美さんは突然怒ったのでしょうか?」

まどか「わかんない、この指輪を見たらいきなり……」

さやか「もしかして恋人がいると勘違いされたとかぁ? それで怒ったりしたんじゃないの?」

仁美「まぁ! もしかして前世から結ばれた縁の恋人同士ということですか!」

まどか「ち、違うよぉ……」

さやか「あははは、そうだよねー。だってまどかは私の嫁なんだから!」

まどか「私真剣に悩んでるのに……」

さやか「あー、そういえばまどか。聞きそびれたんだけどどうして転校生を見た時あんな反応したの?」

まどか「笑わない?」

さやか「うん、まぁ内容によるけど」

まどか「あのね……昨夜あの子と夢の中で会った、ような……」

14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/27(月) 22:52:41.25 ID:64KKQMKU0

さやか「あー、もう決まりだ」

仁美「決まりですわー」

まどか「えっ?」

さやか「ズバリ! まどかと転校生は!」

仁美「時空を超えて巡り合った運命の人なんですわ!」

まどか「もう! 私真剣に悩んでるのに!」

さやか「あははははー」

仁美「あら、もうこんな時間。ごめんなさい、お先に失礼しますわ」

さやか「今日はピアノ? 日本舞踊?」

仁美「お茶のお稽古ですの。もうすぐ受験だっていうのに、いつまで続けさせられるのか」

さやか「うわぁ、小市民に生まれて良かったわ」

まどか「私達もいこっか」

さやか「あ、まどか、帰りにCD屋に寄ってもいい?」

まどか「いいよ。また上条君の?」

さやか「へへ。まあね」

仁美「では、また」

さやか「じゃあね」

まどか「バイバーイ」


 そんな3人の様子を、離れて伺う者が一人。


「……ちっ、まだ人目があるね」

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/27(月) 22:53:26.73 ID:64KKQMKU0

 2人は歩く。
 斜陽が遠景の大規模な工事地を染める。


まどか「いいの見つかってよかったね」

さやか「へへへー、これで恭介はますますさやかちゃんに――」

キリカ「ねぇ、後輩!」


 2人に同じ制服を着た少女が声をかける。


まどか「えっ」

さやか「およっ、三年生? 一体なんですか?」

キリカ「あー、いやいや違うよあおいろさん。私はももいろさんに言ってるんだ」

まどか「私……ですか?」

キリカ「そう、ちょっと付き合ってもらえないかな?」

まどか「えっ……」

さやか「ヤバいよまどか、これ絡まれてるって!」ヒソヒソ

まどか「う、うん。でも先輩一人みたいだし」ヒソヒソ

さやか「うーん、よし」

さやか「私も一緒ならいいですよ! ね、まどか!」

まどか「う、うん。それなら」

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/27(月) 22:54:05.03 ID:64KKQMKU0

キリカ「くくく、そうかそうか」

キリカ「じゃあ遠慮なく!」

さやか「!?」


 キリカの身体を眩い光が包むと。
 キリカはまるでバトラーのような服装に変身する。

 どこからともなく黒い猫のような生き物が現れる。


ジュゥべえ「双方の同意を確認! 決闘を許可するぜ!」

さやか「えっ!? なになに? なんなの!?」

キリカ「さぁ、鹿目まどか! 大人しくソウルジェムを渡せ! もしくは……」


 キリカの袖からいきなり3本の黒い鉤爪が飛び出し。
 まどかの首を掻き切らんと振るわれる。


キリカ「死ね!!」

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/27(月) 22:54:47.81 ID:64KKQMKU0

 まるで異次元空間のような家に、ほむらは一人で座り込んでいた。
 そこに壁をすり抜けるように白い獣が現れる。


キュゥべえ「やぁ、暁美ほむら。まどかのことはいいのかい?」

ほむら「消えなさい。今はお前の顔なんて見たくもない」

キュゥべえ「そうもいかない。これから長い付き合いになるんだしね」

ほむら「……」

キュゥべえ「もう一度聞くよ。まどかのことはいいのかい?」

ほむら「……どこからそれを知ったのかは知らないけれど、それを知っているならわかるでしょう」

ほむら「あのまどかはもう救えない。私の戦場はここじゃない」

キュゥべえ「それは君次第だよ、暁美ほむら」

ほむら「白々しいことを……!」

キュゥべえ「それにさ、困るんだよね。あまりまどかに無関心じゃ」



キュゥべえ「この世界の君は魔女なんだから」


 

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:06:35.26 ID:rBujx1+Z0

 さやかはまどかを突き飛ばした。
 キリカの鉤爪は空を切る。


さやか「いきなり……なにすんだ!」

キリカ「はっ、邪魔するなよあおいろさん!」

さやか「このぉ!!」


 さやかはスクールバッグを振り回してキリカに殴りかかるが。
 キリカはそれを悠々と躱す。


キリカ「うん、まああれだ。勇敢なのは認めるけど」


 キリカはさやかの腹を蹴りつけふっ飛ばす。


さやか「が、ふっ……!」

まどか「さやかちゃん!!」

キリカ「魔法少女でもない一般人が私に敵うわけないだろ!」


 さやかは倒れると。
 未だ立ち上がれないまどかへキリカが迫る。


キリカ「さて、覚悟はいいか」

まどか「ひっ……!」

キリカ「ももいろさん!」

まどか「いや、助けて……」

22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:07:39.18 ID:rBujx1+Z0

ほむら「どういう、こと? 私は……!」

キュゥべえ「君の魔女についての認識は間違っていると言わざるを得ない」

キュゥべえ「この世界での魔女とは」



マミ「オーバーソウル、ゲルトルート!」


 赤い閃光が奔ったかと思うと。
 まどかへ振り降ろされた鉤爪が空中で止まる。
 突然現れた数多の荊がキリカの鉤爪を雁字搦めに縛りつける。


キリカ「ぐっ!?」

マミ「油断したわね、一般人相手だからって魔女のオーバーソウルもしないなんて」



キュゥべえ「魔法少女のパートナーであり、力の源でもあるのだから」

ほむら「!?」

23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:09:07.06 ID:rBujx1+Z0

マミ「危なかったわね、でももう大丈夫」


 まるで狩人の様でそれでいて優雅な衣装に身を包んだマミが、倒れるまどかにウインクした。


キリカ「おいくろまる! 反則じゃないのか!? これは乱入だ!!」

ジュゥべえ「いーや、まどかは直前に救援を求めたぜ」

マミ「そういうこと、悪いんだけどそれまで少し待たせてもらったわ」

キリカ「くっ……」

マミ「その制服、あなた達2年生よね? 自己紹介したい所だけど」

マミ「その前に一仕事させてもらうわね!」

キリカ「舐、め、る、なぁっ!チェーンファング!」


 キリカは鉤爪を鎖のように撓る刃へ変えると。
 縛りつけていた荊を切り裂く。


キリカ「ならこっちだって本気だ! オーバーソウル! シャルロッテ!」

マミ「……」


 キリカの背後にマントを羽織ったぬいぐるみのようなものが現れると。
 桃色の閃光と共に、キリカの腰辺りに吸い込まれていく。


キリカ「さあ行くよ、ヒーロー!」

マミ「くっ」

24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:10:10.41 ID:rBujx1+Z0

 キリカは鞭のように撓る鉤爪を振り回しながらマミに襲い掛かる。
 マミは荊を出して応戦するが、キリカの黒い鉤爪はそれを難なく切り裂いてしまう。

 それに心なしかマミの動きが悪い。
 完全に後手後手に回り、防戦一方だ。


キリカ「はっはっはっ、どうしたヒーロー!」

マミ「速い……!」


 マミは荊をバネのように使って跳躍し、舞うように戦うが。
 キリカはそれを上回る速度でマミにピッタリと張り付く。


マミ「反応が間に合わない、いや身体が思うように動かない……なるほどこれは」

マミ「速度低下、ね」

キリカ「その通り!!」

キリカ「シャルロッテ、その性質は執着! 能力は自分以外の速度低下だ!」

キリカ「さて追いかけっこはもう飽きた、さあ刻もう!!」


 キリカは両腕から5本ずつ、計10本の鉤爪を生やすと。
 マミへ向けて振りかざす。

25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:12:02.72 ID:rBujx1+Z0

 マミは何かを取り出して、キリカに付きつけた。
 それは薔薇の意匠が施された単発式のマスケット銃だった。


キリカ「2つ目の、武器だと……?」

マミ「いいえ」


 半ば不意打ちのように出されたそれに一瞬気を取られ動きが止まった瞬間。
 放たれた弾丸がキリカの腹を撃ち抜く。


キリカ「が……ふっ!」

マミ「荊の方が能力、私の武器は本来こっちよ」


 すぐさま背後から召喚した2丁のマスケット銃を両手に持ち、キリカに付きつける。


キリカ「ぐっ!」

マミ「勝負あったわね」

26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:12:56.70 ID:rBujx1+Z0

キリカ「まだだ……、来るとわかってたらそんなものいくらでも避けられ……っ!」


 キリカの足は荊が雁字搦めに絡みついていた。


キリカ「ちぃ!」

マミ「ごめんなさいね、痛い思いさせて。でも一方的に襲ったあなたが悪い。ソウルジェムは奪わせてもらうわよ」

キリカ「い、嫌だ! ふざけるな!」

マミ「……」

キリカ「ソウルジェムは渡さない! もし奪うんだったら私は今ここで舌を噛み切って死んでやる!!」


マミ「そう、困ったわね……」

マミ「でもやっぱり戦う力の無い相手に、いきなり襲い掛かるあなたは放っては置けない」

キリカ「近づくな!!」


 キリカは鉤爪を自分の喉元に付きつける。


キリカ「それ以上動いてみろ! 今ここで喉を掻き切って死ぬ!!」

マミ「往生際が悪いわよ」


 マミが引き金に指を掛ける。
 キリカが自分の喉を掻き切ろうとしたその時。

27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:13:38.63 ID:rBujx1+Z0

まどか「先輩! あ、あの……そこまですることないんじゃあ……」

マミ「そこまですることないって、あなたが狙われたのよ?」

まどか「はい、でも……」

マミ「それに今ここで倒しておかないと、またあなたが狙われるかもしれないのよ」

さやか「そ、そーだよまどか! なんだか知らないけど、ここでなんとかしておかないとヤバいって!」

まどか「そ、それでも! あのその人がここで死んじゃうのは……嫌、です」

マミ「……」


 マミはキリカから目を離さず聞いていたが。
 1つため息をついて、口を開く。


マミ「2、3個質問に答えてちょうだい。あなたはヒュアデス?」

キリカ「……そうだ」

マミ「あの子を襲ったのは誰かの指示?」

キリカ「……」

キリカ「いいや、私のスタンドプレーだ。魔力を感じるのに弱そうだから襲った」

マミ「そう」

マミ「ジュゥべえ、終了の宣言を。あなたもそれでいいわね?」

キリカ「……」コクッ

ジュゥべえ「よーし、それじゃあ今回は終了だ! お互いに変身を解きやがれ!」

28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:14:11.90 ID:rBujx1+Z0

 2人は光に包まれると、元の制服の姿に戻る。
 それと同時にマスケット銃も鉤爪も足を縛っていた荊も消え失せた。

 キリカの制服に血が滲む。


まどか「ひ、酷い怪我……すぐ救急車を……」

キリカ「結構だ! これくらい……!」

まどか「でも……」

キリカ「私に気安く触れるな!」


 キリカは腹部を抑えながら、立ち去って行った。

29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:14:50.12 ID:rBujx1+Z0

さやか「な、なんだったのさ一体……」

マミ「ごめんなさいね、巻き込んじゃって。それとあなた、どうやら魔法少女の新入りさんってところかしら?」

まどか「魔法、少女?」

さやか「さっきの奴も言ってたけど魔法少女っていったい?」

マミ「……自己紹介がまだだったわね、私は巴マミ」

さやか「私は美樹さやかです!」

まどか「鹿目まどかです。あの、さっきは助けてくれてありがとうございました」

マミ「そう、鹿目さんに美樹さんね。もしよかったら今から私の家に来ない? 色々説明するわ」

30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:15:49.17 ID:rBujx1+Z0

 マミの家。


さやか「うわぁ……」

まどか「素敵なお部屋」

マミ「一人暮らしだから遠慮しないでね、ろくにおもてなしの準備もできないけど」

まどか「マミさん、これすっごくおいしいです!」

さやか「んー、めちゃうまですよ!」

ジュゥべえ「さ、2人共。くつろぐのはそれくらいにして、説明に入らせてもらうぜ」

マミ「魔法少女と魔女について、ね」



キュゥべえ「この世界での魔法少女とは魔女と契約し、その力を使いこなす存在なんだ」

キュゥべえ「魔女とは一種の霊であり。魔法少女のパートナーであり力の源そのものだよ」

ほむら「にわかには信じられないわね、魔法少女と魔女がそんな関係だなんて。それに私が幽霊だとでも言うの?」

キュゥべえ「そのことについてはまどかと一緒のときにまた説明しよう。今日は魔法少女と魔女についてだ」



マミ「魔法少女は魔女の力を借りて変身したり固有の武器を生み出したりすることができる。これが魔法少女の力の第一段階ね」

さやか「第一段階?」

まどか「っていうことはまだ先があるんですか?」

マミ「ええ。衣装や作り出す武器の種類は、魔女の魔力を借りて自分で発動するから、自分のイメージや素質が大元になるんだけれど」

マミ「これだけじゃ、魔法少女としては半人前ね」

ジュゥべえ「魔法少女をさらに高みへ引き上げる能力、それがオーバーソウルだ」

31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:16:40.78 ID:rBujx1+Z0

キュゥべえ「魔力を借りて変身するだけなら、勝負は魔女の魔力の量と魔法少女の素質だけで決まってしまう。その差を覆すのが魔女と魔法少女が一体となって戦うオーバーソウルだ」

ほむら「まるで魔女と魔法少女がお互いにかけがえの無い存在みたいに言うのね」

キュゥべえ「事実そうだからね」

キュゥべえ「オーバーソウルは自分の魔女をソウルジェムに降ろし、魔法少女が魔女の持つ能力を使う事ができるようになるんだ。
       その力を何割か、もしくは100%以上引き出せるかどうかは、魔法少女の巫力という精神エネルギーの量に依存する」



マミ「魔女にも個性があるのよ、例えば私の魔女の名前はゲルトルート」


 マミの傍らに沢山の薔薇飾りをつけ、蝶のような羽を背中に付けたグロテスクな化け物が現れる。


さやか「うわぁ!」

まどか「ひぃ!」

マミ「気持ちはわかるけどあんまり驚かないであげてね」

マミ「この子の性質は不信、能力は自分以外を拒絶する荊の操作。私にも中々心を開いてくれなくて大変よ」

ジュゥべえ「そして魔女と魔法少女を結ぶものがソウルジェムだ。これは魔女と魔法少女の契約の証であり、
        魔力の触媒であり、オーバーソウルのときの魔女の媒体でもある。これを失うことは魔女を失い、魔法少女でなくなるという事に等しい」

まどか「それであの先輩、ソウルジェムを取られるのあんなに嫌がってたんだ……」


32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:17:30.27 ID:rBujx1+Z0

ほむら「本当にそれだけ?」

キュゥべえ「それだけとは心外だね」

ほむら「もっと他にないの? 例えば魔法少女の本体だとか、それが砕かれると魔法少女は絶命するとか」

キュゥべえ「そんなことはないよ。おかしなことを聞くんだね、君は」

ほむら「……」

ほむら「……もし、ソウルジェムを失ったらどうなるの?」

キュゥべえ「そうだね。例えどんなに素質のある子でも魔法少女と魔女の契約は一度きりだから、その子は二度と魔法少女には戻れない」

ほむら「本当にそれだけ?」

キュゥべえ「それだけとは心外だね」



さやか「んー、なんとなく魔法少女についてはわかったんですけど」

さやか「さっきの奴はなんでまどかに襲い掛かって来たんですか?」

まどか「そ、そうです。それにマミさんはどうして戦ったりしたんですか」

マミ「……今、この街で『あること』が行われているのよ」

ジュゥべえ「それはな、最強の魔女をパートナーにするための争い」

ジュゥべえ「サバト」

33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/28(火) 21:17:56.32 ID:rBujx1+Z0

キュゥべえ「ルールは至って単純だ、魔法少女同士の決闘は双方の同意の上であること。これは暗殺や不意打ちで勝負が決まるのを防ぐためだね」

キュゥべえ「そしてそれを確認するのが僕達インキュベーターの役割なのさ」

ほむら「なんのためにそんな争いを……」

キュゥべえ「争い、ソウルジェムを破壊し合い。最後に残った魔法少女が、最強の魔女をパートナーにする権利を得るんだ」

キュゥべえ「そして、その魔女の能力が」

キュゥべえ「世界を書き換えることができる」



ジュゥべえ「最強の魔女はこの星の全ての命の集合体の化身ともいわれている、どれだけ強大な存在か想像できるだろ?」

まどか「う、うーん」

さやか「あまりにスケールがでっかすぎて想像できないっていうか……」

マミ「そしてその魔女の力で人類絶滅を目論む魔法少女達が」

マミ「ヒュアデス」

40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/01(土) 00:58:37.88 ID:YW9jDyuR0

ほむら「ヒュア、デス……?」

キュゥべえ「つい先ほどまどかが襲われていたようだね」

ほむら「!?」

キュゥべえ「安心していいよ、ジュゥべえからの知らせだとマミが助けたようだから」

ほむら「そう……」



さやか「人類絶滅って、なんでそいつらはそんなことを!」

マミ「ごめんなさい、それは私にはわからないわ……。ジュゥべえなら知ってるんでしょうけど」

ジュゥべえ「悪いな、マミ。オイラからはそれは教えらんねぇ。オイラ達はあくまで中立だ」

マミ「私もヒュアデスについて随分前から色々調べてはいるんだけど、ほとんど何も知らないの。
    わかったのは、ヒュアデスは勝つために手段を択ばない魔法少女であること、人類絶滅を望むのは実質一人で、みんなそのリーダーに従っているだけということ」

マミ「そして、同じクラスの呉さんがヒュアデスの一員であるということのみ」

まどか「呉さんっていうんだ……」

マミ「サバトが開宴されたのはつい昨日。念のためマークしてたんだけど、まさかいきなり襲い掛かるなんてね」

さやか「いやー、本当に助かりました!」

まどか「ありがとうございます!」

マミ「いいのよ。それと、私からも1つ聞いていい?」

まどか「な、なんですか?」

マミ「鹿目さん、あなた魔法少女よね。魔女はどうしたの?」

まどか「ええっ、えっと……」

まどか「どういうこと、ですか?」

41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/01(土) 01:00:04.29 ID:YW9jDyuR0

マミ「どういうことって?」

まどか「えっと。私、魔法少女になった覚えなんか全然なくて。つい昨日まで……今もですけど、私変わったことなんか全然ない普通の中学生で……」

マミ「……」


 マミはしばし顎を摘まんで考えた後。
 ふと顔を上げる。


マミ「鹿目さん、手を見せてもらってもいいかしら」

まどか「は、はい……!」

マミ「左手のこれ、ソウルジェムよね……。魔力も感じるし。キュゥべえからは何も聞いていないの?」

まどか「あの、キュゥべえって……?」

マミ「まったくあの子ったら……。ジュゥべえ、鹿目さんは本当に魔法少女なの?」

ジュゥべえ「ああ、間違いなくまどかは魔法少女だぜ。まどかの魔女については、キュゥべえさんの管轄だからオイラにはわかんねぇけどな」

マミ「そう、本当に新人さんなの……大変ね」


 マミは真剣なまなざしでまどかを見つめる。


マミ「鹿目さん、あなたは大いなる戦いに巻き込まれた。もし怖かったりしたら逃げてもいいのよ?」

まどか「あ、の……えっと」

マミ「実感がわかないのも無理はないわ、今すぐ答えを聞こうとも思わない。ただし」

マミ「あなたのソウルジェム、私に預けてくれないかしら?」

42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/01(土) 01:01:00.74 ID:YW9jDyuR0

ほむら「つまり、まどかのソウルジェムを砕いてしまえば。まどかはもうこのふざけた戦いに関わることはないのね?」

キュゥべえ「僕としてはそんな自爆みたいな方法を取られることは好ましくないかな。魔法少女の数はただでさえ少ないんだから」

ほむら「関係ないわ、まどかがそれで救えるなら」

キュゥべえ「ヒュアデスはどうするんだい? 彼女達をなんとかしない限り、世界は終わってしまうんだよ?」

ほむら「まどかを戦わせなくても、私一人で倒す」

43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/01(土) 01:01:51.47 ID:YW9jDyuR0

まどか「預けるって……」

マミ「今のあなたがサバトに参戦するのは危険すぎる。ジュゥべえ、ソウルジェムを持っていないなら戦いを挑まれても自動で不戦になるわよね?」

ジュゥべえ「そうなるな。ただしまどかのソウルジェムの在り処は、他の魔法少女に聞かれたら答えさせてもらうぜ」

まどか「……お願いします!」

マミ「……」


 マミの目が、何かを責めるように鋭くなった。


マミ「鹿目さん。もし私が、ソウルジェムが欲しいだけの敵だったらどうしようとは思わないの?」

まどか「えっ。その……」

マミ「……」

まどか「……信じます、マミさんは悪い人じゃありません」

マミ「どうして? 呉さんが襲ったのも、あなたを助けたのも全部お芝居かもしれないのよ?」

まどか「そのときは仕方ありません。私何にも知らないけど、マミさんが悪い人じゃないって事だけはわかります。私は私を助けてくれたマミさんを信じてみたいです」

マミ「でも……!」

さやか「マミさん、あんまりまどかを虐めないであげてくださいよ」

マミ「美樹さん……だってあまりに不用心よ!」

さやか「こうなっちゃったまどかは何言っても聞きませんよ」

さやか「それにね、まどかは私が言うのもなんだけど。人を見る目があるんですよ、まどかが悪い人じゃないっていうんだったら悪い人じゃありません!」

マミ「美樹さん……」


 マミは頭を抱えるが。
 瞳を開けてまっすぐまどかに向き直る。


マミ「いいわ。ソウルジェムは責任を持って私が預かる。どっちみち鹿目さんに持たせるのは危険だもの」

まどか「はい、よろしくお願いします!」

マミ「ソウルジェムを外すには、念じてみて。自分と魔法の力を切り離すイメージを作るの」

まどか「……」


 まどかが瞳を閉じると。まどかの指輪が輝き。
 まどかの手に卵形の宝石が乗る。

44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/01(土) 01:02:52.89 ID:YW9jDyuR0

ほむら「さて、まだまだ聞きたいことがあるんだけど」

キュゥべえ「今日はここまでにして、次はまどかと一緒のときにしよう」

ほむら「どうしてそこまでまどかに参加させたがるの?」

キュゥべえ「まどかも魔法少女だからね。まどかこそこの戦いの主役だ。ほむら、君だけが乗り気でも困るんだよ」

ほむら「あくまでもまどかに戦わせる気ね」

キュゥべえ「それじゃあ僕はこれで」

ほむら「……」


 キュゥべえが壁をすり抜けると。
 部屋にはほむらが一人残された。


ほむら「終わらせられるかもしれない、今度こそ……!」

45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/01(土) 01:03:25.13 ID:YW9jDyuR0

さやか「それじゃあお邪魔しましたー!」

まどか「お邪魔しました」

マミ「ええ、鹿目さん。明日の夕方、返事を待ってるわ」

まどか「はい!」


 2人が玄関を出ると。
 マミが握りしめたソウルジェムを見て、ポツリと呟いた。


マミ「ごめんなさい、鹿目さん……。あなたが信用できなくて、ソウルジェムを預けてくれなんて言ったの」


46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/01(土) 01:04:05.83 ID:YW9jDyuR0

 キリカの自宅。
 キリカが胴に巻いていた包帯をほどきながら、携帯に話しかける。


キリカ「よし、魔力で傷も完治した」

キリカ「ごめんよ織莉子、失敗してしまった」

織莉子『ええ、残念ね。まさか既にあなたがマークされていたなんて。でも』

織莉子『無事でよかったわ、キリカ』

キリカ「織莉子ぉーーー!」

織莉子『既に別の作戦を用意している。早速で悪いけどあなたにも参加してもらうわよ』

キリカ「もちろんだ! 駄目だと言われても参加させてもらうぞ!」

織莉子『概要はメールで送るわ、それじゃあ』


 電話が切れると、キリカはベッドの上に立ち上がる。


キリカ「さぁーて! リベンジだ! 準備はいいね、シャルロッテ!!」


 キリカの隣にぬいぐるみのような魔女が現れる。


キリカ「見てろよ、ヒーロー。次こそは!!」

47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/01(土) 01:04:56.87 ID:YW9jDyuR0

 とある屋敷にて。
 織莉子は演劇のように立ち回り、大袈裟に身振りをする。


織莉子「さて、開宴直後に数を減らすのには失敗したけれど。誰も私へ至っていないのは幸いだった」

織莉子「ああ、見ていてくださいお父様。この織莉子がこの世の救世を成し遂げて見せます」

「……くだらねぇ」

織莉子「ふふふ、そうおっしゃらないで。次の作戦にはあなたにも参加してもらいますからね」



織莉子「佐倉さん」



杏子「……」

53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:11:06.80 ID:9K4WWuaH0

 朝の通学路にて。


さやか「おっはよーう!」

まどか「おはよう、さやかちゃん」

仁美「おはようございます」

キュゥべえ「やぁ、おはようまどか」

まどか「うわぁ!」

さやか「?」

仁美「?」

キュゥべえ「はじめまして、僕の名前はキュゥべえ! ああ、まどか。不思議がられるからあまり驚かないでくれ。僕の存在は魔法少女以外には認識できないんだ」

まどか「えっ、そ……そうなの?」

さやか「どったの、まどか?」

仁美「顔色が悪いですわ」

まどか「う、ううん! なんでもないよ!」

キュゥべえ『不便なようだからテレパシーで話すよ。心に念じてごらん』

まどか『えっ、こ、これでいいかな?』

キュゥべえ『うん、そういう感じだよ』

54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:12:51.13 ID:9K4WWuaH0

さやか「でさー」

仁美「まぁっ!」

まどか『えっと、もしかしてあなたはジュゥべえの知り合い?』

キュゥべえ『その通り。僕とジュゥべえはインキュベーターといってサバトの運営委員会のようなものなんだ』

まどか『そうなんだ……』

キュゥべえ『話は聞いたよ、まどか。答えは決まったかい?』

まどか『……まだ迷ってる』

キュゥべえ『どうしてだい?』

まどか『世界を救うって、とっても素敵なことで。そのために戦うマミさんは凄くかっこよくて、私もあんな風になれたらいいなって思ったんだ。けど』

キュゥべえ『けど?』

まどか『昨日、呉先輩に襲われたとき。凄く怖くて、なにもできなくて。もし私が魔法少女になんかなっても足を引っ張るだけなんじゃないかって思って……』

キュゥべえ『それはいらない心配だよ、まどか』

キュゥべえ『君の巫力の量は、僕が見てきたどの魔法少女よりも大きい。君のオーバーソウルはどんな魔法少女よりも強力なものになるだろう。素質があるんだよ、君は』

まどか『本当に? 私なんかに!?』

キュゥべえ『それに、今は忘れているようだけど。君は絶対に戦わざるを得ない理由があるんだ』

まどか『理由?』

キュゥべえ『それは……』

さやか「おーい、まどかー?」

仁美「まどかさん?」

まどか「え、ああ! ごめん! 考え事してた!」

まどか『キュゥべえ、理由って……』


 キュゥべえは既にそこには居なかった。

55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:13:57.99 ID:9K4WWuaH0

 学校にて。


まどか「私の巫力……」

さやか「まどか」

まどか「! さやかちゃん」

さやか「今朝の考え事って魔法少女についてでしょ?」

まどか「う……、うん」

さやか「あたしはやめといた方がいいと思う」

まどか「!!」

まどか「どう、して……」

さやか「ヒュアデスだか何だか知らないけどさ、まどかが戦う必要ないよ。あんなに危険な場所に自分から行くことない」

まどか「さやかちゃん……。で、でも!」

ほむら「意見が合ったわね、美樹さやか」

さやか「おわっ! 転校生!?」

まどか「ほむら、ちゃん……!」

ほむら「あなたが戦う必要なんて無い、ヒュアデスは私が倒す」

さやか「転校生!? あんた、なんでそのこと知って……!」

まどか「ほむらちゃんも、戦うの……? 呉先輩達と」

ほむら「ええ」

まどか「でも! 私だって力になりたいよ! ほむらちゃんやマミさんたちが戦っているのをただ見ているだけなんて――

ほむら「あなたに人が殺せるの? 鹿目まどか」

まどか「っ!?」

56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:15:08.18 ID:9K4WWuaH0

ほむら「魔法少女の相手は絶望を振り撒く怪物でも、世界の闇から生まれたモンスターでもない。
     魔法少女と魔法少女、人間と人間の戦いなのよ。一瞬でも躊躇えば自分が命を落とすことになる」

まどか「そ、んな……」

さやか「まるで自分が殺したことあるみたいな言い方じゃん」

ほむら「ええ、あるわ。私は今まで何人も殺してきた」

まどか「っ!!」

さやか「マジ、で……」

ほむら「だから、鹿目まどか。あなたまで汚れる必要はない。英雄になんかならなくても、あなたはあなたのままでいい」

まどか「……」

さやか「……」

ほむら「それだけ言いたかった、それじゃあ」

まどか「あのっ、ほむらちゃん!」

ほむら「……」

まどか「あの、3年生でマミさんって人が居て! その人もヒュアデスと戦ってる魔法少女なの! あの、えっと、一緒に戦って、ください……!」

ほむら「……」

ほむら「ええ、そうさせてもらうわ」

57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:16:11.49 ID:9K4WWuaH0

 昼休み。
 ほむらは3年生の教室へ向かって歩いていく。


ほむら(この世界の私はソウルジェムも無い。この世界の定義では違うけど、もう魔法少女ではないということ)

ほむら(魔女にもならない、呪われた運命も無い……震えるほどうれしい事実だけれど)

ほむら(それは奇跡の力にも頼れないということ)

ほむら(つまり私にはもう後がない)

ほむら(この世界で終わらせなければ、全て終わり)

ほむら(でも、正直頭が追い付かないけど。こんなに都合のいい世界は初めて)

ほむら(救えるかもしれない、今度こそ!)


 ほむらは3年生のクラスの扉を開ける。


ほむら「巴先輩は居るかしら」

マミ「……私が、そうだけど」

ほむら「お昼、ご一緒しない?」

マミ「……ええ、いいわよ」

58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:17:26.13 ID:9K4WWuaH0

 屋上にて、マミとほむらは弁当を広げる。
 マミは明らかにほむらを警戒している。


ほむら「昨日はまどかを助けてくれたそうね、お礼を言わせてもらうわ」

マミ「いいえ、当然のことをしたまでよ」

ほむら「まさかまどかを魔法少女に引き込もうだなんて考えていないでしょうね」

マミ「鹿目さんはもう魔法少女よ。でもこれからどうするかは彼女が決めることでしょう」

ほむら「そう、あなたから誘う気はないのね?」

マミ「ええ、危険な世界ですもの。いつ背後から刺されてもおかしくないくらい、ね」

ほむら「安心したわ」

マミ「……私からもいいかしら、ええと」

ほむら「ほむらよ、暁美ほむら」

マミ「暁美さん、率直に言うわ」

マミ「あなたは何者? 私はあなたがヒュアデスじゃないかと疑っているのだけど」

ほむら「……それは、こいつに聞けば分かることでしょう? 出てきなさいキュゥべえ」

キュゥべえ「呼んだかい?」ヒョコッ

マミ「キュゥべえ……」

59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:18:39.27 ID:9K4WWuaH0

マミ「キュゥべえ、暁美さんはヒュアデスの一員かしら?」

キュゥべえ「それは僕からは答えられないな」

ほむら「じゃあ質問を変えるわ、私はまどかの魔女よね」

マミ「!?」

キュゥべえ「……」

キュゥべえ「なるほど。考えたね、ほむら。そうだよ、暁美ほむらはまどかの魔女だ」

マミ「な……!?」

マミ「嘘! オーバーソウルもせずに実体を持った魔女だなんて! いえ、こんなに人間の姿を留めた魔女だなんて!!」

ほむら「これで信用して貰えたかしら?」

マミ「……まだよ、仮にあなたが鹿目さんの魔女だとしても! ヒュアデスではないとは、私を潰そうとしている策ではないとは限らない!」

ほむら「ずいぶん疑り深いのね。じゃあ証拠に、まどかのソウルジェムはずっとあなたが預かっていて」

マミ「!?」

ほむら「私にとってもその方が都合がいいもの」

マミ「……あなたは戦う気はないの?」

ほむら「いいえ、ヒュアデスは私が倒す」

マミ「魔法少女もソウルジェムも無しに戦う魔女なんて……!!」

ほむら「!」

マミ「!」

60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:19:21.63 ID:9K4WWuaH0

 2年教室。
 ガラス張りの教室を勢いよく開ける者が居る。


キリカ「ねぇ、後輩!」

さやか「あんたは……!」

まどか「呉、先輩……」

「だれだれ?」

「3年生?」

キリカ「ははっ! 雑魚に用は無いよ、広範囲オーバーソウル・結界!」


 キリカの指輪から桃色の閃光が煌めくと。
 まどかとキリカの姿が消える。


さやか「まどか!?」

61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:20:00.51 ID:9K4WWuaH0

 3年教室。
 スナック菓子を咥えた杏子が押し入る。


「誰……?」

「私服だ」

「他校の子?」

杏子「なんでこんなことしなきゃいけないんだか。広範囲オーバーソウル・結界」


 杏子の指輪から銀色の閃光が煌めくと、杏子の姿が消える。

62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:21:23.17 ID:9K4WWuaH0

マミ「この魔力……結界を発動したわね! しかも2つ!」

ほむら「結界?」

キュゥべえ「オーバーソウルの応用だ、魔法少女のみが入ることのできる異空間を作り出す!」

ほむら「魔法少女のみ……まどか! キュゥべえ! ソウルジェムを持たない魔法少女は戦闘を挑まれないんじゃなかったの!?」

キュゥべえ「魔法少女は戦闘力のある魔法少女以外を傷つけることはルール違反だ。でもペナルティはソウルジェムを没収される程度だね」

マミ「場所は3年生の教室と2年生の教室! 鹿目さんの居ない方は明らかに陽動なのでしょうけど……」

ほむら「まどか!!」

マミ「暁美さん、待って!!」


 ほむらは既に駆け出し、マミの声も届かない。
 マミは一人考え込む。


マミ(明らかに罠……。なんでしょうけど)

マミ(もし暁美さんや鹿目さんがヒュアデスだったら)

マミ(加勢に入った瞬間、挟み撃ち……!)

マミ「ごめんなさい、暁美さん。あなたはまだ信用できない……!」


 マミは3年生の教室へ駆け出した。


キュゥべえ「さて、僕はほむらの方を見てこようかな。ジュゥべえ」

ジュゥべえ「わかってるよ、オイラがマミの方を見てくりゃいいんだな」

63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:22:07.95 ID:9K4WWuaH0

 校舎を遠目に眺める者がいた。


織莉子「そう、お前達はまだ信用し合っていない。故にお互いに背中を預けて戦うという選択肢は無い」

織莉子「だからこそ、罠だとわかっていても戦力を分断せざるを得ない」

織莉子「巴マミ、判断を誤ったわね。暁美ほむらが戦っているという負い目からか、あなたまで戦う必要はないというのに」

織莉子「佐倉杏子の方は捨石、最悪負けてもいい。本命は莫大な巫力を持つ鹿目まどか。彼女さえいなければ、私に勝てる魔法少女は居ない」

織莉子「そして、キリカは万が一にも脱落させない!」


 織莉子は駆け出した。

64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:24:48.26 ID:9K4WWuaH0

 お菓子の大量にある結界。
 まどかと魔法少女姿のキリカは椅子に座ってテーブルを囲んでいた。

 キリカはドーナツを食べながら、まどかに語りかける。


キリカ「ほら、食べないのかい? ももいろさん」

まどか「あの、先輩……。私はあなたとは戦えません」

キリカ「知ってるよ、お前は暁美ほむらを誘い出すための囮だ」

まどか「ほむらちゃんが!? どうして!!」

キリカ「?」

キリカ「まさか知らないのかい?」

キリカ「暁美ほむらはお前の魔女だからだよ」

まどか「!!」

まどか「そ、ん……な」

キリカ「ソウルジェムを持たない手段も見え透いている。つまりこれから戦うのは、オーバーソウルも魔法少女化もできない裸の魔女ってわけだ!」

ほむら「嘗められたものね」

まどか「ほむらちゃん!!」

キリカ「おお、来た来た」


 結界に現れたほむらを認めると、キリカは椅子から飛び降りる。

65: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:26:03.20 ID:9K4WWuaH0

キリカ「さて、用件はわかるね」

ほむら「こんな姑息な手を使わなくても、直接戦いを挑めばいいじゃない」

キリカ「ふ、く、く。わかってないね、確実な手を取らせてもらうってわけさ」

ほむら「決闘には双方の同意が必要だったはずだけど?」

キリカ「お前が断った場合!」


 キリカの袖から杭のような物が飛び出し。
 まどかのすぐ隣の壁に突き刺さる。


まどか「ひっ!」

キリカ「鹿目まどかの命は無いっ!」

ほむら「反則のはずだけど? あなた失格になるわよ」

キリカ「それでも結構だ! 鹿目まどかは厄介な魔法少女! 私一人でそれが消せれば大いに結構!」

ほむら「そう」

キリカ「っ!?」


 ほむらの目つきが鋭くなる。
 その眼光にキリカは背筋を寒くした。


ほむら「呉キリカ、この世界でもあなたは……!」

キリカ「は、はは。さぁどうする! 選択肢は無いと思うけど!?」

ほむら「受けるわ、その戦い」

まどか「ほむらちゃん、やめて!!」

キュゥべえ「双方の同意を確認、決闘を許可するよ」


 キュゥべえがどこからともなく現れる。
 キリカは両袖から鉤爪を生やす。


キリカ「魔法少女の力も無い、ソウルジェムも無い生身の魔女が勝てるわけないだろ!」

ほむら「そうね。ついでに時を操る力も、重火器も無い生身の魔女ね」

ほむら「それでも」

ほむら「こんな絶望も呪いも無い世界の魔法少女に負ける道理はない」

キリカ「はっ、ただの強がりだ!! オーバーソウル! シャルロッテ!!」

66: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/02(日) 00:26:30.42 ID:9K4WWuaH0

 高速で移動するハイウェイの結界の中。
 マミは顔を青くしながら、走っていた。


マミ「はぁっ、はぁっ!」

杏子「どーした、悪い夢でも思い出したかよ?」

マミ「……やっぱり、あなただったのね」

マミ「佐倉さん!!」

杏子「ふん」

マミ「どうして、どうしてヒュアデスなんかに!?」

杏子「……あたしはな、どうしてもサバトを勝ち抜かなきゃならないんだよ」

杏子「あんたみたいなライバルの魔法少女を潰すのには、一番強い所に入るのが手っ取り早い。ライバルが減ったら、ヒュアデスもあたしが潰してやる」

マミ「でも! ヒュアデスは世界を――

杏子「家族もみんな死んじまったら、世界の終りと何が違うのさ?」

マミ「っ!!」

杏子「話は終わりだよ、あたしを連れ戻したきゃぶん殴って目を覚まさせな」

マミ「……っ、わかったわ」

ジュゥべえ「双方の同意を確認! 決闘を許可するぜ!」


 ジュゥべえがヒラリと現れた瞬間。
 マミはマスケット銃を、杏子は突撃槍を作り出す。


マミ「オーバーソウル! ゲルトルート!!」

杏子「オーバーソウル! ギーゼラ!!」

71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:20:33.12 ID:+q47ULb10

さやか「……」

 ・
 ・
 ・

 騒然とする教室へ、ほむらが飛び込んでくる。


ほむら「まどかっ!」

さやか「転校生! まどかが、まどかが昨日襲ってきた奴と消えちゃった!」

ほむら「昨日襲ってきた奴って……?」

さやか「キリカ! 呉キリカって奴だよ!」

ほむら「!?」

ほむら「結界は……なるほど、こうやって開くのね」


 ほむらが手をかざすと。
 奇怪な模様の結界が開かれる。


さやか「て、転校生! あたしも連れてって!」

ほむら「駄目よ、戦えないあなたが着いて来ても危険が増すだけ」

さやか「でも!」

ほむら「はっきり言うわ、邪魔なのよ」

さやか「っ!!」

ほむら「安心して、まどかは必ず私が連れて帰る」


 そう言うとほむらは結界の中へ入っていった。

 ・
 ・
 ・

さやか「くそっ……!」

72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:21:26.81 ID:+q47ULb10

 結界の中。
 キリカの容赦ない斬撃をほむらは紙一重でかわし続ける。


キリカ「ほらほらどうした!」

ほむら「……」

キリカ「まさか素手で私に勝とうなんて思ってないだろうね!」

ほむら「そうね」

ほむら(盾は無い、固有魔法も使えない、でも)

ほむら(キュゥべえは言っていた、魔法少女は『魔女の魔力を借りて』変身すると!!)

ほむら(つまり魔力はある、そして……!)


 ほむらの手にゴルフクラブが握られる。


ほむら(物質の創造や、身体の強化など基本的な魔法は使える!!)

キリカ「ゴルフクラブ……?」

ほむら「あなたにはこれで十分よ」

キリカ「……余裕こいたまま散れ! 速度低下!!」


 キリカのオーバーソウルが魔法陣を描き。
 キリカ以外のあらゆるものの速度が低下する。


ほむら「!」

キリカ「捕まえた!」


 キリカの鉤爪がほむらの腕を切り裂く。

73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:21:56.93 ID:+q47ULb10

まどか「ほむらちゃん!」


 椅子から飛び降りたまどかは声を張り上げる。
 キリカの猛攻にほむらが押されていく。

 鮮血が舞い、ほむらの動きが徐々に鈍くなっていく。


まどか「どうして、どうして私は……!」

キュゥべえ「仕方ないよ、巫力も与えられていない生身の魔女が勝てるわけがない」

まどか「キュゥべえ……、ほむらちゃんが負けたらどうなるの?」

キュゥべえ「殺されるだろうね」

まどか「!?」

キュゥべえ「彼女の目的は鹿目まどか、君の戦線離脱だ。その為には君のソウルジェムを破壊するか、魔女を殺す方法が確実だ」

まどか「そ、んな……」

まどか「キュゥべえ! 私にできることはないの! ほむらちゃんを助けることはできないの!?」

キュゥべえ「現状君にできることは無いね、ソウルジェムも無い魔法少女じゃ」

まどか「ソウルジェム……そうだ、マミさん!!」

キュゥべえ「まどか?」

74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:22:38.16 ID:+q47ULb10

キリカ「ほらほらほらほらぁ!」

ほむら「っ!」


 ほむらはキリカの鉤爪をゴルフクラブで防ぎ受け流すが。
 未だに防戦一方だ。


キリカ「……飽きた」

ほむら「!?」


 キリカは鉤爪をゴルフクラブへ引っ掛けると。
 それを奪い取って放り投げてしまう。


キリカ「避けられない、防げない、逃げられない。詰みってやつだ」

キリカ「さぁ散ね」


 キリカが鉤爪を交差すると。
 両断するようにほむらを刻んだ。


ほむら「か、はっ!」

キリカ「浅いね」

キリカ「それにしてもずいぶん静かだな。さっきまでうるさいくらい……まさか!!」


 キリカが慌てて後ろを振り向くと。
 そこにまどかの姿は無い。


キリカ(逃げられたのか、ソウルジェムを探しに行ったのか。ここは追いかけ……)

キリカ(いや)

キリカ(ここで魔女を殺しておけば確じ――

ほむら「……隙あり」


 一瞬キリカが目を離したすきに。
 全身が赤く染まったほむらがゴルフクラブを再び生成し、振り上げる。

 鈍器で頭蓋をかち割る音がした。

75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:23:31.55 ID:+q47ULb10

ほむら「キュゥべえ、まどかは!!」

キュゥべえ「マミのところへ行ったよ」

ほむら「マミは……」

キュゥべえ「ジュゥべえからの通信だと戦闘中のようだね」

ほむら(ルール上は向こうの敵もまどかに手出しできないはず)

ほむら(でも、もし向こうの敵も呉キリカのように反則覚悟でまどかを殺しに来たら……!)

ほむら「まどかぁ!!」

76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:24:19.40 ID:+q47ULb10

 ほむらが走り去っていった後。
 頭から血を流したキリカがよろよろと立ち上がる。


キリカ「痛たたた。死んだらどうするんだ。魔力で身体を強化してなきゃ殺されていたぞ」

キュゥべえ「行くのかい、キリカ」

キリカ「ああ、まだ終了の宣言はしてないだろ? 決闘はまだ有効だ」

キリカ(援軍を呼ばれるくらいならまだ手はあるけど、鹿目まどかがソウルジェムを手に入れて魔女と結託するという最悪の事態だけは避けなければいけない)

キリカ(何が何でも、ソウルジェムを返還される前に! 魔女か鹿目まどかのどちらかを潰す!)

77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:26:46.44 ID:+q47ULb10

 マミの魔弾の舞踏は絶え間なく杏子へ向けて銃撃を放つが。
 杏子の姿はエイムした瞬間にその場から消え失せる。


マミ(これが、佐倉さんの魔女、ギーゼラの能力……)


 杏子は背後から現れ、槍を突き立てるが。
 マミは荊の壁を発生させ、槍を受け止める。


杏子「ちぃ!」

マミ(性質は自由、能力はその場に縛られないショートワープ!)


 杏子は再びその場から消え失せる。
 今度はマミの真横に張り付くが、マミは荊をバネのように跳ねさせ回避する。


杏子「相変わらず捉え所がないね」

マミ(私の銃術とは相性が最悪なんでしょうけど)

杏子「今度はどうだ?」


 杏子は今度は真正面にワープすると突撃のように槍を突き立て、突撃する。
 が、その動きは途中で止まってしまう。


杏子「!?」

マミ「レガーレ」


 まるで罠でも張っていたかのように。
 ピンポイントで仕掛けられていた荊が杏子の足を絡め捕っていた。

 銃声が響く。

 一瞬の硬直を見逃さず。
 マミのマスケット銃は杏子の左手を撃ち抜く。


杏子「がっ!!」

マミ「せっかくのショートワープも、性格のよく知れた仲じゃ駄目ね」

杏子「ぐっ、まだだ!!」

78: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:29:16.47 ID:+q47ULb10

 杏子は再びショートワープでマミの真横に移動し、横薙ぎに槍を払うが。
 それはマミのマスケット銃に受け止められてしまう。


マミ「諦めて、佐倉さん。片手じゃまともに戦えないでしょう? 早く降参を」

杏子「うぜぇ……、いつまで先輩面してるつもりだアンタ……!」

杏子「あたしはな、もうアンタの仲間じゃない!!」

マミ「そう」

マミ「なら気が楽ね。オーバーソウル、ゲルトルートinマスケット銃」

杏子「!?」


 マミはマスケット銃に髪飾りとなっていたソウルジェムをはめ込むと。
 マスケット銃に薔薇の蔦が伸び、銃口に大輪の花を咲かせる。


杏子(まずい! これはマミの十八番の……)



 魔女をソウルジェムへ、ソウルジェムを新たな媒介への。

 2段媒介オーバーソウル!!



杏子(退避は……! 駄目だ、ショートワープじゃあの射程からは逃げられない!)

杏子(だったら、撃つ前に叩き落とすのが――

マミ「迷ったわね」


 マミはピタリと。
 銃口を杏子に押し付けた。


杏子「しまっ――

マミ「接射」


 目も眩むほどの強烈な閃光と共に。


マミ「ティロ・フィナーレ」


 戦車砲の口径にも迫る特大の魔法弾が杏子を撃ち抜いた。

79: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:29:50.63 ID:+q47ULb10

ジュゥべえ「佐倉杏子の意識喪失を確認! この戦いはマミの勝利だぜ!」


 徐々に薄れていく結界の中で。
 マミは意識を失った杏子の手にソウルジェムを翳す。


マミ「怪我も血の汚れもこれでよし」

ジュゥべえ「勝者のマミは杏子のソウルジェムを奪うことができるぜ」

マミ「ええ、でも……」


 マミは杏子をしばし眺めた後。
 ふい、と顔を振る。


マミ「やめておくわ」

ジュゥべえ「そうか」

80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:31:41.93 ID:+q47ULb10

 結界が晴れていく中で。
 マミと倒れた杏子が騒然とした教室の中に現れる。


「巴さん?」

「その子は……」

マミ「えっと、私の知り合いよ。倒れちゃったみたいなの」

杏子「ぅ……」

マミ「佐倉さん?」

杏子「なっ!」


 意識を失っていた杏子が飛び起きてマミから距離を取る。
 自分の手にソウルジェムがあるのを確認すると、歯を食いしばって眉を顰める。


杏子「なんのつもりだ……」

マミ「私はまだあなたを諦めていない、ってことかしらね」

杏子「……」ギリッ

杏子「絶対に後悔するぞ」

マミ「……でしょうね」


 杏子は教室から飛び出していった。
 入れ替わりのようにまどかが入ってくる。


まどか「マミさん!」

マミ「鹿目さん?」

まどか「ほむらちゃんが、ほむらちゃんが!」

マミ「……ピンチなのね」

まどか「お願いです、マミさん! ほむらちゃんを助けて!!」

マミ「……」

マミ(もし暁美さんがヒュアデスだったら、これは確実に罠)

マミ(だけど)

まどか「……っ」

マミ(こんな顔をした後輩を見捨てられないわよ、ね……)

マミ「わかった、急ぎましょう!」

まどか「はい!」


81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/04(火) 01:32:14.56 ID:+q47ULb10

 誰も居ない渡り廊下に金属同士がぶつかり合うような音が響く。
 ゴルフクラブを持ったほむらとキリカが交戦していた。


キリカ「あっはっはっ、どうしたどうした黒猫さん!」

ほむら「くっ……!」


 なんとかしのいではいるが、ほむらはその場から動けない。
 一方キリカも早く仕留めなければという焦りからか、攻撃が大振りになり今一歩ほむらを捉えられないでいた。


キリカ(ずいぶん特殊な魔女、と思っていたけど。身体能力も魔法少女以下、魔法もあのゴルフクラブを作ったり、簡単な防壁を発生させるだけ)

キリカ(いくら巫力が与えられていないからといっても、もしかすると)

キリカ(こいつ、そこまで強力な魔女じゃない?)

まどか「ほむらちゃん!」

マミ「暁美さん!」

ほむら「!」

キリカ「ちぇっ、もう来ちゃったか」

『退きなさい、キリカ』

キリカ(織莉子?)

織莉子『そろそろ人が集まってくる。巴マミまで乱入してきたら、私が入ってもどちらかが倒れる可能性がある』

織莉子『それに』

織莉子『観測したところ魔女・暁美ほむらの魔力はたったの700、巫力5万の鹿目まどかと合わせても警戒すべき相手ではなかった』

キリカ「!」

織莉子『暁美ほむらと鹿目まどかは本戦で落ちる』

キリカ「ははははは、そうかそうか」


 キリカはトントンと跳ねると。
 ほむらから距離を取る。


キリカ「やめだ、やめっ。私は降参する。異議は無いね、黒猫さん」

ほむら「……」

ほむら(ここで巴マミの助けを借りれば呉キリカを仕留めることはできるんでしょうけど)

ほむら「条件付きよ、今後はまどかを狙わないと約束して」

キリカ「いいだろう、”予選期間中“は戦いは挑まない」

ほむら(予選……?)

マミ「暁美さん、それなら大丈夫よ」

ほむら「……わかったわ」

キュゥべえ「それじゃあ交戦を終了する」


 どこからともなく現れたキュゥべえが終了を宣告した。

89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:43:51.61 ID:W1eTVRIc0

 その後、まどかとほむら、そしてマミとキリカはこの騒動について職員室で散々問いただされた。
 まどかはただ言葉を濁し、ほむらとマミは聞かれたことだけを当たり障りなく答え、キリカは何を聞かれても知らぬ存ぜぬを通した。

 結果、4人が解放されたのは夕方の6時を回る頃だった。


まどか「……」

マミ「……呉さん。襲うにしても今度から場所を選んで欲しいわね」

キリカ「ん、わかったわかった。次から気を付けるよ」

ほむら「……それじゃあ、まどか。この辺で」

まどか「あ、う、うん。あの、今日は本当にありがとうほむらちゃん」

ほむら「そう思うなら間違っても自分も戦おうなんて思わないでちょうだい」

まどか「……うん」

ほむら「これ」

まどか「……? メモ翌用紙?」

ほむら「私の電話番号、何かあったらすぐ連絡ちょうだい」

まどか「うん、ありがとう」

90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:44:43.50 ID:W1eTVRIc0

 一人校門を出ると。
 そこには一人待ちぼうけのさやかが居た。


さやか「よっ」

まどか「さやかちゃん」

さやか「こってり絞られたみたいだね」

まどか「あはは……」

さやか「帰ろ」

まどか「うん」

91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:45:10.45 ID:W1eTVRIc0

さやか「……大丈夫? まどか」

まどか「えっ、なにが?」

さやか「その、さ。命の危機だったじゃん」

まどか「……ほむらちゃんが戦ってくれたから。私は怖くなかったよ」

さやか「そっか」

まどか「ほむらちゃんはどうして、私なんかの為にあんなになるまで戦ってくれたんだろう……」

さやか「……なんかさ、実感湧かないんだよね」

まどか「さやかちゃん?」

さやか「人類絶滅なんかを企む悪の組織があって、3年生の先輩がその一員で、同じく3年生の先輩がその悪の組織と戦う正義の味方だなんてさ」

まどか「……うん、私も」

まどか「私は一生世界とか、そういう大きなものに関わらないで生きていくんだと思ってた。特別な人とかそういうのには絶対にならないと思ってた」

さやか「違ったね」

まどか「うん、違った」

92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:46:13.76 ID:W1eTVRIc0

 さやかはまるで寝起きのように大きく伸びをする。


さやか「あーあ! なーんでまどかだけなのかなー! 私も一緒に戦えればよかったのに!」

まどか「だ、駄目だよ! さやかちゃんが魔法少女になったらきっとすぐに死んじゃう!」

さやか「な、なんだとー!?」

まどか「あ、ううん! そういう意味じゃなくてね! さやかちゃんはきっと頑張り過ぎちゃうから……!」

さやか「あはははは……」

まどか「……」

さやか「ねぇ、まどか」

さやか「まだサバトとかいうのに参加するつもり?」

まどか「……」

まどか「まだ、わからない」

さやか「……」

まどか「世界とか、私にはわかんない。けど」

まどか「私が戦わないせいで、ほむらちゃんがたった一人で戦うのなんてそんなの嫌だよ」

まどか「変、かな。ほむらちゃんは私に絶対に戦うなって言ったのに……」

さやか「うん、いいんじゃないかな。まどかがそう思うんならさ」

まどか「さや、かちゃん……」

さやか「いったんみんなで話し合おうよ、転校生もマミさんも交えてみんなで一緒にさ」

まどか「うん!」

93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:47:00.82 ID:W1eTVRIc0

 ギシ、ギシと。
 ベッドを軋らせながら、2人の裸体が絡み合っていた。


キリカ「はぁ、あふ……」

織莉子「ふふ」

キリカ「んっ」


 唇を重ねあわせ、舌を絡ませ合う。
 長い長い接吻の後に、離した口からは銀の糸が引いた。


キリカ「……ねぇ、織莉子。本当にあいつ見逃してよかったのかい?」

織莉子「どうしてかしら?」

キリカ「だって巫力5万だろ? いくら魔女の方が弱くても、相当手強くなると思うんだけど」

織莉子「……」クスッ


 織莉子はキリカの頭を撫でる。
 キリカはくすぐったそうに目を瞑った。


織莉子「あのインキュベーター達が動くと厄介。どうしても鹿目まどかをサバトへ参加させたがっている。
     もし下手に暁美ほむらを倒しても、新しい魔女を宛がわれる可能性がある。そうなるともう手出しができないわ」

織莉子「大丈夫、抜かりない。次の狙いは鹿目まどかのソウルジェムを持つ巴マミ」

織莉子「また動いてもらうわよ、キリカ」

キリカ「うん」


 視線を交わした後。
 2人は再び体を重ねた。

94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:48:05.24 ID:W1eTVRIc0

 屋根の上。星空の下。
 杏子は座り、指輪状になったソウルジェムを眺めていた。


杏子「……」

杏子「ちくしょう!」

杏子「……今回ではっきりわかった。ヒュアデスはあたしを信用していない。というならもうヒュアデスに居る意味は無い、か」

杏子「ここからはあたし一人で動かなきゃいけないかな」

杏子「織莉子の弱点も探さなきゃいけないしね」

杏子「当面は、織莉子の調査ね」

95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:48:44.45 ID:W1eTVRIc0

 ほむらは自宅にて、ノートに様々なことをまとめていた。


ほむら「……」

ほむら(魔法少女、魔女、サバト、そしてヒュアデス)

ほむら(勇んではみたものの、私じゃ呉キリカすら相手にできなかった)

ほむら(無力……)


 ギリと奥歯を噛みしめる。


ほむら(私は何もできないの……? ただ見ていることしか……!)

ほむら「いいえ」

ほむら「敵はアイツのように強大でもない、ただの人間……」

ほむら「なら、できることがある」


 ほむらは製造したパイプ爆弾を手に取った。


ほむら「暗殺……」

96: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:49:22.96 ID:W1eTVRIc0

 自宅にて、マミはまどかのソウルジェムを見ていた。


マミ「……佐倉さん」

マミ「鹿目さんは、一緒に戦ってくれるかしら?」

マミ「でも」


 マミは目を閉じる。
 思い浮かべるのは、杏子の裏切ったあの日のこと。


マミ「最強の魔女をパートナーにできるのは一人だけ」

マミ「鹿目さんも、いつそれに目が眩むかわからない」

マミ「……やっぱり他の人は信用できない」

マミ「私が救わなきゃ、私がヒュアデスを止めなきゃ……!」

97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:49:57.31 ID:W1eTVRIc0

 高層ビルの屋上。
 一人佇む少女が居た。


「暁美ほむら、ね」

「いいね、彼女こそヒュアデスにふさわしい」

「さぁ行こう、ほむら。New worldへ!」

98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:51:00.29 ID:W1eTVRIc0

 その夜、まどかは夢を見た。
 それはこの星の命そのものともいうべき、巨大な奔流の中だった。


まどか「ここは……」

キュゥべえ「やぁ、まどか」

ジュゥべえ「よお」

まどか「キュゥべえ、ジュゥべえ……」

キュゥべえ「何度目かな? ここに来るのは」

まどか「わからない、でもあなた達が居るってことは」

まどか「これはただの夢じゃなかったんだね」

ジュゥべえ「中々いねぇぞ、意識だけでここに入れる人間ってのは」

まどか「そうなんだ」

キュゥべえ「さて、まどか。この場所はなんだかわかるかな?」

まどか「この場所……」

キュゥべえ「この場所の名はグレートスピリッツ、全ての命の源であり命の帰る場所。輪廻の果て、はたまた彼岸とでも言おうかな」

ジュゥべえ「遍くすべての命はこのグレートスピリッツに繋がっている、この星の命そのものなんだぜ」

まどか「ここが……」

99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:52:53.28 ID:W1eTVRIc0

キュゥべえ「話をしよう、君には途方もない話かもしれないが、全ては君に起因する話だ」

まどか「?」

キュゥべえ「この世界は数年前ある瞬間から書き換えられた、この世界には元々魔女や魔法少女などという概念は無かった」

ジュゥべえ「オイラ達はその原因を探った。そしてその書き換えの爆心地はここ、見滝原であることがわかったんだ」

キュゥべえ「原因はすぐにわかったよ。暁美ほむら、彼女だ」

まどか「!?」

キュゥべえ「まどか、平行世界という物は知っているかい? 世界はあらゆるIfによって複数存在するというものだ。例えば魔法少女が存在しない世界、魔女が存在しない世界、そして君が居ない世界。あらゆる世界の可能性が存在する」

ジュゥべえ「ほむらは複数の世界の因果を束ね、因果の収束点を作り出した。その結果、この世界はその因果に引き寄せられたんだ」

キュゥべえ「暁美ほむらの居た世界はきっと、魔女や魔法少女という概念があったのだろうね。そして因果もきっとその魔法少女や魔女に起因するものだったのだろう」

ジュゥべえ「結果、因果に引き寄せられたこの世界のズレを補うために、グレートスピリッツは魔女と魔法少女という概念を吐き出し、爆心地である見滝原にばら撒いた」

キュゥべえ「そして、その極致にして最大の修正はこの世界を滅ぼすことのできる魔女だった。ほむらはきっと」



キュゥべえ「何度か世界を滅ぼしている」



まどか「!?」

まどか「……わからないよ、あなた達の言ってること全然理解できない」

キュゥべえ「この世界のことがわからないなら、せめて暁美ほむら一人のことだけでもわかってくれ」

ジュゥべえ「あいつの目的はな、まどかだぜ」

100: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:54:27.11 ID:W1eTVRIc0

まどか「私……?」

キュゥべえ「僕達はその原因を探るために、まどかにとある魔女を付けて、その原因となった別世界の暁美ほむらを召喚した」

ジュゥべえ「その記憶を読み取って全てが解けた。あいつはな、まどか、お前のために幾度となく平行世界を巡った。そしてこの世界を巻き込むほどに因果を集約させたんだ」

キュゥべえ「暁美ほむらは、平行世界を渡り歩いてまで、君を救いたかったんだ」

まどか「そんな……」

まどか「どうして、どうしてほむらちゃんは私なんかのために!!」

キュゥべえ「その質問には答えられない、僕達はあくまで中立だ」

まどか「……それじゃあ、あなた達はどうしてサバトなんかを作ったの? どうしてみんなを戦わせようとするの!?」

ジュゥべえ「言っただろ、この世界の修正だよ」

キュゥべえ「最強の魔女をこの世界に適用すると、こういう形になったんだ。強大な概念はえてして環境そのものを変える。僕達はそのルールに従うだけさ」

まどか「やっぱり、あなた達の言うことは全然わからない……。それじゃああなた達は何者なの?」

キュゥべえ「僕達は魔女や魔法少女と同様に、吐き出された概念の1つ」

ジュゥべえ「そしてオイラ達はグレートスピリッツの一部、グレートスピリッツの意思に従い、サバトを実行する」

101: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:55:29.63 ID:W1eTVRIc0

 まどかが居なくなった後。
 キュゥべえとジュゥべえは巨大な魂の奔流を眺めながらポツリと呟いた。


キュゥべえ「暁美ほむらがまどかのパートナーになったのは全くの偶然だった。鹿目まどかの強大な巫力を利用しただけなのに、まさか因果の原因はまどかだったとはね」

ジュゥべえ「これも運命ってやつなのか、それとも因果の原因だからこそまどかの巫力が高かったのか」

キュゥべえ「案外僕達はその因果に動かされていただけかもしれないね」

キュゥべえ「サバトに優勝するのは誰だと思う?」

ジュゥべえ「話の流れならまどかじゃねーか? だが……」

キュゥべえ「この世界が暁美ほむらの巡った世界と同じになるとは限らない」

ジュゥべえ「それにほむらは幾度となく失敗してまどかを死なせてるんだぜ、そのすらも因果によって決められているとするならば」



「「暁美ほむらは敗退し、鹿目まどかは死ぬ」」


102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/06(木) 20:56:01.31 ID:W1eTVRIc0

 朝。
 まどかはベッドから起きた。


まどか「ぅん……」

まどか「夢じゃない、よね……」


 まどかはさっぱり頭の整理がつかなかった。
 ただ理解できたのは、ほむらが幾つもの世界を巡ってなお、自分を救おうとしていることだけ。


まどか「わからない、わからないよ」

まどか「ほむらちゃん、どうして……!」

107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:18:01.04 ID:ui1KRsf00

まどか「今日は学校はおやすみ……」

まどか「マミさんの所に行こう」

まどか「ほむらちゃんも、さやかちゃんも誘って」

まどか「そして、全部……」

108: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:18:50.98 ID:ui1KRsf00

まどか「おはよう、パパ」

知久「おはよう、まどか」

タツヤ「おあよー、まろかー」

知久「浮かない顔だね、どうしたんだい?」

まどか「えっ! あ、ううん、なんでもない! ……なんでもない、から」

知久「……そうかい」

まどか「……あのね、パパ」

知久「ん?」

まどか「もし、もしもだよ? 友達が危ない目にあってたらどうしたらいいと思う?」

知久「そりゃあ助けるべきだろう」

まどか「で、でも! 友達が絶対に自分を助けるなって言ってたら、助けたら自分まで危ない目に合うってわかってたら、どうしたらいいと思う……?」

知久「んー、それは難しい問題だね」

知久「そうだね、親としては絶対に関わるなと言いたいところだけど」

まどか「そ、そう、だよね……」

知久「でも僕の意見としては、絶対にその子を見捨てちゃ駄目だ。絶対にその子をひとりぼっちにさせちゃ駄目だ」

まどか「!」

知久「何もできなくてもいい、何もしなくていい。でもその子の傍には居てあげなさい。その子がどうしようもなくなったとき、助けてあげられるように」

まどか「……うん!」

知久「何かあったらすぐに大人に頼るんだよ、僕達はまどかよりも少しだけできることが多いんだから」

知久「ところでまどか、タツヤ。オムレツと目玉焼きどっちがいい?」

まどか「オムレツ!」

タツヤ「あうれつー!」

109: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:19:20.96 ID:ui1KRsf00

 少し離れた場所にて、その様子を伺う者があった。


杏子「あれがまどかの家、ね……」

「優しそうなお父さんだねぇー」

杏子「!?」

「羨ましいよね、妬ましいよね。私達にとってはさぁー」

杏子「アンタ、なんで……」

「ね。杏子お姉ちゃん♪」



杏子「なんでこんなところに居るのさ! あすみ!!」

あすみ「ふふっ」



あすみ「そんなの決まってるでしょ、織莉子さんの指示だよ」

杏子「とうとうアンタまで動くことになったっていうのか……」

あすみ「次の標的はマミだってさ、まどかのソウルジェムと一緒にね」

杏子「!!」

あすみ「準備と作戦は私がやるよ。杏子お姉ちゃんはそのまままどかの尾行を続けてね」

杏子「ちっ、わかったよ」

あすみ「楽しみだなぁ」

杏子「……」

あすみ「あの幸せを壊されたらどんな顔をするんだろう?」

110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:20:14.34 ID:ui1KRsf00

 昼、まどか達はマミの家に集まっていた。
 その中にはほむらやさやかも居た。

 4人はティーセットの置かれたテーブルを囲んでいる。


マミ「それで、鹿目さん。答えを聞かせてくれるかしら」

ほむら「……」

さやか「……」

まどか「はい、私は」



まどか「サバトでは戦いません」



マミ「そう……」

さやか「そっか」

ほむら「……」

111: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:20:45.27 ID:ui1KRsf00

 鹿目家に呼び鈴が鳴り響く。


知久「はーい、どちら様でしょう?」

あすみ「あ、こんにちわー」

知久「おや? どちら様でしょうか?」

あすみ「はい! まどかお姉ちゃんの友達です! まどかお姉ちゃんにはよく遊んでもらっていて、今度家に遊びに来てもいいって!」

知久「ああ、そうでしたか。申し訳ない、まどかは今外出中でして」

あすみ「ええー、そんなぁー」

知久「よかったら家の中でお待ちになられますか?」

あすみ「はい!」


 知久が家へ案内しようと後ろを向いた瞬間。
 瞬時に変身したあすみが、鉄球を鎖で繋げたフレイルを振りかざし。
 知久の頭へと叩き落とした。


あすみ「あはぁ♪」

112: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:21:29.60 ID:ui1KRsf00

まどか「それじゃあさようなら」

さやか「さようならー!」

ほむら「……」

マミ「ええ、それじゃあ」

マミ「……ふぅ、あれでよかったのかしら?」


キリカ「ほむらとまどかが巴マミから離れた」

織莉子「もしもし、あすみちゃん。作戦開始よ」

あすみ『はーい♪』

113: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:23:19.07 ID:ui1KRsf00

ほむら「……」

ほむら(呉キリカが居たということは、ヒュアデスの首謀者は十中八九美国織莉子!)

ほむら(こうなった以上、事態は一刻を争う)

ほむら(なんとしても美国織莉子と呉キリカに勝負を挑まなければ)


 ほむらは美国邸の前に足を止める。
 美国邸はあちこちに暴言の落書きが書かれていた。窓ガラスは石でも投げつけられたのであろう、至るところが割れていた。

 ほむらは爆弾の大量に入ったバッグを背負い直した。


ほむら「作戦は簡単。ここに潜入し爆弾を仕掛け、そして勝負を挑み、発破する」

ほむら「たとえ刺し違えることになったとしても……!」

114: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:24:25.00 ID:ui1KRsf00

まどか「本当に、あれでよかったのかな……」

さやか「よかったんだよ、まどかの決めたことなんだから」

まどか「……あ、電話。パパからだ」


 まどかは携帯を取り出すと、耳に当てて通話する。


まどか「もしもし、パパ? どうし――

あすみ『あ、もしもしー♪』

まどか「!? だ、誰……?」

あすみ『はじめまして、まどかお姉ちゃん。ヒュアデスでーす』

まどか「!!」

あすみ『あなたの弟は預かった、返して欲しかったら見滝原センタービルの屋上に来てね』

まどか「そんな! だって!」

あすみ『知ってた? 魔法少女以外を同意なしで襲うのはルール違反じゃないんだよ?』

まどか「!?」

あすみ『それじゃあ、弟の画像はメールで送るねー!』


 まどかが呆然と立ち尽くすと、すぐにメールが来た。
 そこには眠っているタツヤの写真が添付されていた。


さやか「まどか、どうしたの!?」

まどか「どうしよう、さやかちゃん……」

まどか「タツヤが、ヒュアデスに攫われちゃった……!」

さやか「!?」

115: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:25:06.58 ID:ui1KRsf00

さやか「ヤバいってそれ! 警察に、いやマミさん……両方に!」

まどか「う、うん……!」

杏子「おっと、させないよ」

さやか「!?」


 携帯を取ろうとするさやかの背後から槍が突きだされた。


さやか「だ、誰!?」

杏子「アタシもヒュアデスだ、他と連絡取ろうとしてみな。こいつを刺し殺す」

まどか「……っ!!」

さやか「あんた……!!」

杏子「わかったら、さっさと歩きな」

まどか「……わかった」

116: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:26:50.18 ID:ui1KRsf00

 マミの自宅にて、二人が立ちはだかる。


キリカ「やぁやぁ、ヒーロー。また会ったね」

マミ「……またあなたね。隣の方ははじめましてだけれど」

織莉子「ふふふ、そうですね。はじめまして巴マミ」

織莉子「私の名は美国織莉子、ヒュアデスのリーダーです」

マミ「!?」

マミ「その……、リーダーが私に何の用かしら?」

織莉子「魔法少女が向かい合ったらやることは決まっているでしょう? 交戦です」

マミ「生憎ね、2対1なんて受ける気はないわ」

織莉子「ふふふ、そうでしょうね。でも、これならどうかしら?」


 織莉子は携帯電話を見せる。
 そこにはビルの屋上で、槍を突きつけられたさやかとまどかが写っていた。


マミ「鹿目さん!? 美樹さん!? それに佐倉さん……!!」

織莉子「受けなければどうなるかわかっていますわよね?」

マミ(くっ……、想像していた中で最悪の手を使われた!)

マミ(もしこの決闘を受けたら。交戦したら間違いなく私は……)

マミ(いっそ、見捨てるという手も……)

マミ(私は、生き残らなくちゃいけない。ここで倒れるわけにはいかない……!)

マミ(私が倒れたら、誰がヒュアデスを止めるの?)

マミ(鹿目さんや暁美さんに任せっきりなんて、そんなことはできない!!)

マミ(私だけは、私だけは!!)

織莉子「どうしました、顔色が優れませんけど?」

キリカ「早く決めてくれないか?」

マミ「1つ、条件があるわ」

マミ「私が勝っても負けても、鹿目さんと美樹さんは解放して」

織莉子「ええ、いいですよ」

織莉子「その代り、私達が勝ったらあなたの持つ全てのソウルジェムをいただきます」

マミ「……いいわ」

織莉子(これで万が一、暁美ほむらが乱入してきても)

織莉子(鹿目まどかに執着するほむらは、間違いなくこの戦いは見捨てる!)

キュゥべえ「双方の同意を確認、交戦を許可するよ」

キリカ「広範囲オーバーソウル! 結界!!」

117: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:27:59.39 ID:ui1KRsf00

 美国邸を探し回るほむらは、ふと考える。


ほむら(……おかしい)

ほむら(この家のどこにも美国織莉子がいない)

ほむら(まあ、それなら好都合。早く爆弾を……)

「Stop、やめておきなよ」

ほむら「!?」

「君も魔女ならそんな無粋なことせずに、マギカファイトで決着をつけよう」

ほむら「誰かしら?」


 ほむらの背後に立っていた少女はニィと笑った。


カンナ「カンナ、聖カンナ。ヒュアデスさ」

118: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:28:24.69 ID:ui1KRsf00

ほむら「ヒュアデス……、なるほど。美国織莉子の指示かしら?」

カンナ「Non、あんな奴仲間じゃないよ」

ほむら「何を……」

カンナ「それよりいいのかな? 愛しのまどかがピンチだけど?」

ほむら「まどか!?」

ほむら「どこ!? 場所は!!」

カンナ「さぁ? 私は織莉子に信用されていないからね、作戦の概要は知らされてないんだ」

ほむら「そう……。あなたに聞いても無駄なのね」


 ほむらは美国邸を飛び出す。
 それを目で追っているカンナは目を細めた。


カンナ「本当はまどかなんて邪魔者だけど、脱落されるのは困る」

カンナ「そーだほむら、尽くせ尽くせ。それだけお前の味わう絶望は大きなものになる」

119: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/07(金) 21:28:58.32 ID:ui1KRsf00

 ビルの屋上にて。
 槍を突きつけられたさやかとまどか。
 そして奥にはあすみと、魔法で眠らされているタツヤがいた。


まどか「タツヤを返して!」

あすみ「んー、まだ駄・目♪ 織莉子さんとキリカお姉ちゃんの戦いが終わるまでね」

さやか「織莉子……は、わからないけどキリカってまさか!!」

あすみ「そう! あはっ、ごしゅーしょうさま! この戦いでマミは脱落する!!」

122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:13:05.66 ID:FcDnEO9W0

 街中を走るほむらがふと立ち止まる。


ほむら(この魔翌力……、結界!?)

ほむら(場所は……)


 ほむらは携帯電波を使って地図を出すと。
 方角を照らし合わせて確認する。


ほむら「巴マミの家の方向……、まさかまどかと一緒に!?」

ほむら(いやその可能性は低い。巴マミと一緒でピンチというのは考えにくいし、なにせまどかは……)

ほむら(分断策の可能性の方が高い)

ほむら(ごめんなさい、巴マミ。あなたを見捨てさせてもらう)

123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:14:39.89 ID:FcDnEO9W0

 無数のお菓子が漂う結界の中。
 なにもせずただ立つ魔法少女二人に対して、マミは肩を上下させながら声を上げる。


 パロットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ
マミ「  無 限 の 魔 弾  !!」


 翼のように広がった数多のマスケット銃が一斉に撃鉄を降ろす。
 山吹色のマズルファイアと共に、放たれた魔法弾が織莉子とキリカへ向けて猛進するが。


織莉子「無駄よ……」


 無数の魔法弾が着弾し砂煙を上げる。

 しかし。

 砂煙が晴れたとき。
 傷一つない織莉子とキリカは変わらずそこに佇んでいた。


マミ(また……!)

マミ(狙いを外しているわけじゃない、防壁を張られているわけでもない!)

マミ(まるで……、銃弾が勝手に逸れていったような……!!)

織莉子「もう満足でしょう。キリカ、行きなさい」

キリカ「OKぃ!! オーバーソウル、シャルロッテ!!」


 キリカがそう叫ぶと、ぬいぐるみのような魔女がキリカの腰辺りに収束すると。
 キリカと織莉子以外の全ての速度が低下する。

124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:15:50.94 ID:FcDnEO9W0

マミ「くっ!」

キリカ「遅い遅い! ヒーローはカタツムリに転職したのかい!?」


 マミがマスケット銃で狙いを定めた瞬間、キリカは射線から外れる。
 そうした瞬間にキリカは眼前まで接近し、袖から出した黒い鉤爪をマミに振り降ろした。

 マミはどうにかマスケット銃で受け止めるが、今度は逆の手の鉤爪がマミに振るわれる。


マミ「あぁっ!」

キリカ「ほらほら、次々ぃ!」


 マミの肩から鮮血が舞う。
 キリカは次から次へと鉤爪を振う。


マミ「くっ、レガーレ・ヴァスタリア!!」

キリカ「!!」


 マミの周囲から、荊が噴き出す。
 慌てて飛び退いたキリカを追跡するように荊が追いかけ、
 キリカの足を絡め取った。


マミ「はぁ、はぁ……! 捕まえた」

キリカ「……」ニィ


 マミは間髪入れず両手のマスケット銃を撃つが。


マミ「!?」

織莉子「ふふふ」


 またもや魔法弾はキリカには当たらない。

125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:16:49.79 ID:FcDnEO9W0

キリカ「エクスプロード・クレセント!!」

マミ「!?」


 キリカの全身から黒い三日月の刃が噴き出す。
 キリカは荊を切り裂くと、悠々と脱出する。


キリカ「さて、ヒーロー。他に言い残すことはないかな?」

マミ「……そうね」

マミ「オーバーソウル、ゲルトルートinマスケット銃!」

キリカ「2段階オーバーソウルだと!?」

織莉子「ふむ……」


 マミはマスケット銃に薔薇の髪飾りになった自分のソウルジェムをはめ込むと。
 マスケット銃に蔦が伸び、銃口に大輪の薔薇を咲かせる。


マミ「これが私の最高の技よ」

キリカ「ふむ、くくく……面白い!」

キリカ「やってみせろ!!」


 キリカは両手の鉤爪を5本に増やす。
 計十本の鉤爪を研ぎながらニヤリと笑う。


キリカ「それを外したときがお前の最後だ!!」

マミ「ティロ」

マミ「フィナーレ!!」

 戦車砲の口径にも迫る特大の魔法弾がキリカへ放たれた。

126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:17:50.66 ID:FcDnEO9W0

キリカ「ほい、はずれ」


 速度低下のなされた魔法弾をキリカは悠々と避ける。


キリカ「よくできました! 面白い物を見せてもら――

織莉子「くぅっ!!」

キリカ「織莉子!?」

マミ「!!」


 キリカへ向けて放たれた魔法弾は後ろの織莉子へ向かっていた。
 魔法弾は織莉子の直前で逸れ、はるか後方にて轟音と共に炸裂する。
 織莉子は息を切らせながら、しかしやはり無傷で言い放つ。


織莉子「やってくれましたね、巴マミ……!」

マミ(間違いない! さっき魔法弾は直前で、曲がるようにではなくズレるように弾道を変えた!!)

マミ(つまり、美国さんの能力は……認識しないと発動しない! そして跳ね返すわけでも、力の方向を変えてるわけでもない!)

マミ「そして余所見は禁物よ」


 マミは再び薔薇の生えたマスケット銃をキリカへ向けて放つが。
 やはり魔法弾は直前で逸れてしまう。


マミ(くっ、やはり……)

キリカ「こ、の……よくも織莉子に!!」

マミ「ああっ!」


 キリカは爪を力任せに薙ぎ払って、マミのマスケット銃を弾き飛ばす。
 ソウルジェムを失ったことでマミの変身は解けてしまう。

 マミは慌ててソウルジェムを取りに走るが。

 キリカがソウルジェムを踏みつけて、マミを見下ろす。

127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:18:52.26 ID:FcDnEO9W0

マミ「くっ……!」

キリカ「さてこれで嬲りたい放題だね!」

織莉子「やめなさいキリカ」

キリカ「?」

織莉子「もう彼女に戦う力は残ってはいない、これ以上の戦いは無意味よ」

キリカ「ちぇっ」


 キリカはマミのソウルジェムを後ろに蹴飛ばすと。
 織莉子はそれを片手でキャッチする。


織莉子「さて、巴マミ。私は降参を提案するけどどうかしら?」

マミ「……ええ」

キュゥべえ「降参の受諾を確認、交戦を終了する」

128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:19:40.23 ID:FcDnEO9W0

 結界が解ける。
 風景はマミのマンションへと戻っていった。


織莉子「さて、余計なことを考えられる前に」


 織莉子が魔力を注ぐと。
 マミのソウルジェムは砕け散った。


マミ「っ!!」

織莉子「これで貴女は抵抗の手段も失った」

キュゥべえ「……ソウルジェムの破壊を確認」

キュゥべえ「マミ、君は脱落だ。長い付き合いだったね、さようなら」

マミ「ま、待ってキュゥべえ! 待って!!」


 さながら死刑宣告の如く、そう告げると。
 キュゥべえはマミに見えなくなっていった。

 マミはキュゥべえの居た場所に縋りつくが、マミにはキュゥべえの存在は認識できなくなっていた。


マミ「う、う……ぅあ」

マミ「ああああああああああああああああああああ!!」

織莉子「憐れな子。魔女とインキュベーター、同時に2人の友人を失うなんて。いえジュゥべえも入れると3人かしら?」

マミ「う、ううっ……」

織莉子「これでヒュアデスに逆らう魔法少女は鹿目まどかだけ」

マミ「!? う、嘘よ!! もっとたくさん居るはずよ! だって、世界の破滅なんて……」

129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:20:26.22 ID:FcDnEO9W0

 マミは顔を上げるが。
 織莉子は口元に手を当てて冷笑する。


織莉子「魔女と契約できるのは、絶望に飲まれた者だけ」

織莉子「気付かなかったかしら? 魔女を持った者は人類の破滅を願うような者ばかりだったことに」

織莉子「おかしいと思わなかったかしら? 今までヒュアデスを追ってきて、誰一人味方と巡り合えなかったことに」

マミ「う、嘘よ……そんな……!」

織莉子「今まで世界を守る正義の味方であることで理性を保っていたのでしょうけど」



織莉子「貴方ははじめからひとりぼっちだったのよ」



マミ「嘘よぉ!!」

130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:21:06.54 ID:FcDnEO9W0

マミ「ぅ、う……」

織莉子「そしてその残った希望もここで終わる」

織莉子「鹿目まどかのソウルジェムを出しなさい、そういう盟約だったはずよ」

キリカ「ま、拒んだとしてももう受けるべきペナルティは無い。なんだったらここで殺して死体をまさぐってもいいんだけど?」

マミ「……持っていないわ」

キリカ「なに!?」

織莉子「……」

マミ「私の『持っている』ソウルジェムを渡す、そういう条件だった」

マミ「残念ね、私は持っていない」

キリカ「まさか!!」

キリカ「キュゥべえ! 鹿目まどかのソウルジェムはどこにある!?」

キュゥべえ「ほむらかまどかのどちらかだよ、これ以上は答えられない。ソウルジェムを魔女の方に持たせるのはルール違反じゃないからね」

キリカ「チィ!!」

マミ「ああ、キュゥべえ。そこに居るのね……」

織莉子「……」


 織莉子は携帯電話を取ると、電話する。


織莉子「もしもし、あすみちゃん……」

131: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:22:02.08 ID:FcDnEO9W0

 見滝原センタービル屋上。
 そこではあすみが杏子に拘束されたさやかとまどかに向き合っていた。
 あすみの傍らには魔法で眠らされたタツヤが居る。

 あすみは携帯電話を取りニコニコしながら通話している。


あすみ「はーい、了解でーす♪」


 あすみは通話を切ると、ニタリと笑ってまどかに向き直る。


あすみ「織莉子さん達はソウルジェムを持ってるかもしれないほむらを探してるから、あんた達は監視しとけってさ」

ジュゥべえ「おっと、そうはいかねぇな!」


 ジュゥべえが壁の柵に飛びあがり、あすみを指さす。

132: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:22:39.02 ID:FcDnEO9W0

ジュゥべえ「交戦の条件として、まどか達を開放するようにあったんだ。まどかとさやかは解放してもらうぜ!」

まどか「!! じゃあマミさんは勝ったんだね!」

あすみ「負けたよ」

まどか「!?」
さやか「!?」
杏子「……っ!!」

あすみ「バーッカじゃないの? 織莉子さんとキリカお姉ちゃんの2人掛かりで戦われて勝てるわけないじゃん!」

さやか「嘘だ! マミさんがあんた達なんかに負けるもんか!!」

ジュゥべえ「あすみの言ってることは本当だぜ。マミの交戦の条件は勝っても負けてもお前等を開放するように、だったからな」

まどか「そ、んな……」

さやか「……どーせ汚い手でも使ったんだろ!」

ジュゥべえ「さぁ、あすみ、杏子。2人を解放するんだ」

杏子「……わかったよ」

あすみ「うん! いいよ、2人は解放する! ……でも」

あすみ「こいつは解放するとは言ってない!!」


 あすみは変身すると、武器のモーニングスターを眠っているタツヤへ向ける。

133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 19:23:31.08 ID:FcDnEO9W0

まどか「なっ! タツヤ!!」

杏子「おい! あすみ!!」

あすみ「さぁ、まどか! ソウルジェムを持ってるならあすみと交戦しろ! さもないとこいつは叩き潰す!」

ジュゥべえ「……反則ギリギリだぜ?」

あすみ「あはっ! じゃあ反則じゃないんだね♪」

さやか「どこまで卑怯なのアンタは!!」

まどか「タツヤ、タツヤぁ!!」

あすみ「さぁどうするまどか! 別に戦わなくてもいいけど弟は返さないよぉ?」

まどか「わ、わかった……」


 まどかは震える手でソウルジェムを取り出す。


まどか「ソウルジェムは私が持ってる、だから私が戦ったらタツヤを返して……!」

あすみ「うん! いいよ!」

杏子「……あたしは手伝わねーぞ」

あすみ「あはっ、いいよ! 魔女のいない魔法少女なんてあすみ一人でも余裕!」

ジュゥべえ「……双方の合意を確認、交戦を許可するぜ」

138: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/09(日) 00:07:20.30 ID:FV7S/b+M0

 マミは呆然と座り込んでいた。
 もう魔法少女ではない、まるで自分が抜け殻になったような気分だった。


マミ(私、魔法少女ってこと以外は、なにも無かったんだなぁ……)

マミ「あぁ、そうだ。暁美さんに知らせなきゃ……」


 よろよろとした動きで携帯電話を取る。
 操作して、少ないアドレス帳を登録順に検索する。

 まどかとさやかの上の一番新しいアドレスに、マミは電話を掛けた。


マミ「もしもし、暁美さん」

ほむら『……なにかしら、今忙し――

マミ「鹿目さんは今ビルの上に居るわ」

ほむら『!? どこのビル?』

マミ「ごめんなさい、そこまではわからないわ……。ただ風景から察するに、中心街の東の方よ」

ほむら『わかったわ、ありがとう』


 通話が切れて、マミはふぅとため息をつく。

139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/09(日) 00:08:32.23 ID:FV7S/b+M0

マミ「ねぇ、キュゥべえ」

キュゥべえ「なんだい? マミ」

マミ「ふふふっ、そこに居るのかしら?」

キュゥべえ「僕はちゃんとここに居るよ」

マミ「……ねえ、キュゥべえ。今までずっと言いそびれていたんだけど」

マミ「あの日、事故で一人ぼっちになっていた私を救ってくれてありがとう」

キュゥべえ「僕は素質のある君の絶望に付け込んだだけだよ」

マミ「キュゥべえもジュゥべえもゲルトルートも、今まで一緒に居てくれてありがとう」

キュゥべえ「サバトのために君を誘導していただけだよ」

マミ「お父さんが死んで、お母さんが死んで、親戚の人とも上手く行かなくても、おかげで全然さびしくなかったわ」

マミ「いつだったか、私の作ったご飯、おいしいって言ってくれたわよね。普段は『必要が無いから』って言って食べようとしないのに、私が無理に食べさせて」

キュゥべえ「……」

マミ「楽しかったなぁ。ヒュアデスとの戦いや情報戦は怖かったけど、あなた達が居たから全然辛くなかったのよ?」

マミ「だから、ありがとう。私を魔法少女にしてくれて」

マミ「さようなら、キュゥべえ」

キュゥべえ「さようなら、マミ」

146: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:17:46.64 ID:DpCJmnPw0

あすみ「ほらぁ!」


 あすみはモーニングスターを振う。
 遠心力によって加速した棘付きの鈍器が、突然のことにあっけにとられたまどかの腕に直撃した。

 ボキリ、と。何かが砕ける音がした。


まどか「いっ……ぁあああああああああああああああああああっ!!」

さやか「まどかぁ!!」

あすみ「あっはっはっ、いい悲鳴♪」


 血の滲む腕を抑えてまどかが座り込む。
 しかしあすみはまどかの顔面を蹴りつける。


まどか「……ぁ!!」

あすみ「でもうるさい、人が来たらどうするの?」


 ニィと冷たい笑みを浮かべたあすみは今度はまどかの背中へ向けてモーニングスターを振う。
 先ほどよりも手加減しているようだが、今までおよそ暴力とは無縁の人生を送ってきたまどかを悶絶させるには十分すぎる威力だった。

 まどかは倒れこむ。

147: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:19:09.26 ID:DpCJmnPw0

まどか「ぁっ! ぁああああああっ!!」

あすみ「あー、気分いいー♪」

さやか「お前、お前ぇえええええええええ!!」

杏子「おい、あすみ!! やり過ぎだろうが、ソウルジェム奪えば済む話だろ!!」

あすみ「なに言ってるの、杏子お姉ちゃん?」


 あすみは倒れて小刻みに震えるまどかの腹を蹴り飛ばす。


あすみ「ムカつくじゃない? こいつみたいに、家族にいっぱい愛されて、今まで不幸と無縁で生きてきて、一度も絶望したことが無くて、
     何一つ不自由のない暮らしで、仲のいい友達も沢山居て、人を疑うことを知らなくて、幸せそうで幸せそうで幸せそうで幸せそうで!!」


 あすみは怒りに歪んだ表情で何度も何度もまどかの腹を蹴り飛ばす。


あすみ「あああああああああああああああ!! ムカつく! イラつく! 妬ましい! 羨ましい!」

杏子「おい、あすみ! やめろ!!」


 あすみは今度はまどかの頭を何度も踏みつける。
 まどかの頭が切れてコンクリートに血が滲み始めた。


あすみ「死ね死ね死ね死ね!! 私より幸せな奴は全員死ね!!」

148: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:20:04.18 ID:DpCJmnPw0

 多節棍の槍に絡め取られたさやかが足掻く。
 しかし鎖がガチャガチャと鳴るだけで一向にほどけない。
 さらに足まで絡まっているせいで盛大に転び、芋虫のようにもがくだけだった。


さやか「くそっ! くそぉ!!」

さやか(なんでなんだよ! なんでいつも見てることしかできないんだよ!!)

さやか(なんで! 私は……邪魔になるだけなんだよ! 足手纏いにしかならないんだよ!!)

さやか(今回も、私が居なければ……)

さやか「ちくしょう、ちくしょおおおおおおおおお!!」

さやか「ほどけ、ほどけぇええええええええええええ!!」

149: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:21:52.93 ID:DpCJmnPw0

 繰り返される理不尽な暴力の中で、まどかは思う。


まどか(もう嫌だよ……。痛いよ、怖いよ……!)

まどか(どうして、どうして私はこんな目に合ってるの……?)

まどか(なんでなのかな、あの夢を見た日から……私が契約してから嫌なことばっかりだ)

まどか(なんで私なんだろう、なんで契約なんかさせられたんだろう?)

まどか(もう嫌だ、ソウルジェムも渡しちゃおう。そうすれば私はもう関係ない)


 まどかが震える手でソウルジェムを差し出そうとしたそのときだった。

150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:22:56.05 ID:DpCJmnPw0

ほむら「まどかぁ!!」


 ほむらが飛び込んできた。
 肩で息をし、その惨状を見て目を見開く。


あすみ「いっけない、もう来ちゃったか!」

ほむら「……」


 ふつふつと、ほむらの底で何かが煮えたぎる。
 誰の目に見ても、怒りに震え、完全にブチ切れていることがわかる。


あすみ「ぅ……」

ほむら「インキュベーター」

ジュゥべえ「お、おう……。なんだ?」

ほむら「パートナーの魔女が乱入するのはルール違反じゃないわよね?」

ジュゥべえ「そ、そうだな。元々魔女と魔法少女はセットだし……」

ほむら「それと、まどかを踏んでるあなた」

あすみ「な、なによぅ!」

ほむら「結界を張りなさい」

あすみ「へっ……?」

ほむら「人が来たら不都合でしょう、私から隠れる意味ももうないはずよ?」

あすみ「は、はっ! いいよ、結界の中で決着をつけてあげる!」

あすみ「広範囲オーバーソウル! 結界!!」


 その場からさやかとタツヤを除いて全員が消失した。


さやか「ちく、しょう……!」

151: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:23:50.81 ID:DpCJmnPw0

 丸テーブルのような足場が宙に浮かぶ、サイケデリックな結界の中。
 ほむらとまどかを踏みつけるあすみは向かい合って立ち、杏子はそれを遠巻きに見ていた。


あすみ「まどかはもう戦えない! 魔女だけじゃ魔法少女に勝てないのは証明済みだもんね!」

あすみ「オーバーソウル! ロベルタ!!」


 巨大な鳥かごの中に入った女性の足のような魔女が顕現し、
 あすみの後ろの首の付け根に収束する。


あすみ「ロベルタの性質は憤怒! 能力はあすみの感情に比例して魔力を増幅させる!!」

ほむら「そう」

あすみ「感情全開だ! 憎い、妬ましい、あんたみたいにピンチのときに駆けつけてくれる友達がねぇっ!!」


 あすみは魔力で身体能力を格段に強化しているのだろう。
 跳躍し一気にほむらとの距離を詰める。
 振りかざしたモーニングスターでほむらを捉えんとするが。


あすみ「へっ?」

ほむら「……」


 ほむらの反応は早かった。大きく空振りをしたあすみはよろめくが。
 ほむらが隣の足場に跳躍した後に、パイプ爆弾が残される。

 爆音と共に炎が噴き出し、あすみを巻き込む。

152: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:25:25.22 ID:DpCJmnPw0

あすみ「がはっ、げほっ! ごほっ! 爆弾なんか使いやがって……」

あすみ「あはっ、でも残念! 魔力で強化したあすみの身体にはこの程度の爆弾なんて」

あすみ「効かないんだよねぇ!!」

ほむら「……そうね」


 あすみはモーニングスターを振い、ほむらを捉えようとするが。
 ほむらは紙一重でかわし続け、次々と別の足場へ跳び移っていく。


あすみ「くっ、このっ! ムカつく! とっとと潰れろ!!」

ほむら「今の私じゃ、基本的な魔法しか使えない」

ほむら「たとえば物質の生成や」

ほむら「機械操作」

あすみ「!?」


 まどかの足場から十分離れたほむらが、あすみにリュックを投げつける。
 リュックサックの内側から無数の赤い光の点滅し、幾重にも重なった電子音が聞こえた。


あすみ「なっ」


 バッグが先ほどの数倍の大爆発をおこし、ほむらもろともあすみを飲み込んで炎上した。
 あすみとほむららしき影が足場から吹き飛ばされ、結界の底の方へ落下する。

153: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:26:11.59 ID:DpCJmnPw0

あすみ「が、は……! ごほっ!」

ほむら「流石に堅いわね」

あすみ「がっ!」


 よろよろと立ち上がろうとしたあすみを、ほむらが踏んで地面に押さえつける。
 2人共酷い火傷だが、ほむらのほうが明らかにあすみよりも重症だ。


あすみ「くっ、こ……の」

ほむら「……」

あすみ「痛ぁっ!」


 ほむらを跳ね除けようとしたあすみの頭部を、ほむらが生成したゴルフクラブで殴打する。
 魔力で強化しているのか、傷は僅かに頭を切った程度だ。

154: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:26:53.19 ID:DpCJmnPw0

あすみ「この、よく……ぎっ!」

ほむら「……」

あすみ「ちょ……ま、ぎゃっ!」

あすみ「や、やめっ、あがっ!」


 何度も何度も、あすみが抵抗しようとする度に、ほむらはゴルフクラブであすみの頭部を殴打する。
 あすみの感情が弱まってきたのか、殴られるごとに徐々にダメージが大きくなっていき。
 やがてゴルフクラブが鮮血に染まる。


あすみ「痛い、痛いよ……、もうやめ……がぁ!!」

ほむら「……」

あすみ「痛いよ、怖いよ、ぎゃん!」

あすみ「助けて、おかあさん……!」

杏子「……っ! オーバーソウル!!」

155: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:27:47.45 ID:DpCJmnPw0

 頭を抱えて泣き出すあすみに、更にゴルフクラブを振り降ろしたその瞬間。
 ショートワープで割って入った杏子の槍が、ほむらのゴルフクラブを受け止めた。


ほむら「なんの真似かしら?」

杏子「もういいだろうが! あすみの負けだ!!」

ほむら「そうね、じゃあ命かソウルジェムを奪わせてもらう」

杏子「テメェ、命って……正気か!?」

ほむら「本気よ、そうでもしなければあなた達はまたまどかを襲うでしょう? 命が駄目ならせめてソウルジェムは奪わせてもらう」

杏子「……」

杏子(あすみ……)

杏子「駄目だ、これ以上何もせずに今すぐ終わらせろ! さもないとお前の魔法少女をぶっ殺す!」

ほむら「……」

杏子「あたしは本気だぞ! さっきも見ただろ、あたしの能力はショートワープだ! お前よりも早くまどかの所に行くのなんて簡単なんだからな!」

ほむら「……わかったわ。降伏、受けましょう」

ジュゥべえ「あすみもそれでいいな?」


 あすみは震えながらコクリと頷いた。


ジュゥべえ「そ、それじゃあ終了だ。オイラが結界を解くぞ」

156: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:28:32.51 ID:DpCJmnPw0

 結界が晴れる。
 タツヤを抱きかかえたさやかが心配そうに見ていると。
 まどかを背負ったほむらと、あすみを抱きかかえた杏子が睨みあってらわれた。


さやか「転校生、まどかぁ!」

杏子「ちっ」

ほむら「……」


 杏子はあすみを抱えたまま、ショートワープでどこかへ飛び去っていった。


ほむら「私の家へ行きましょう」

さやか「あ、あぁ……」

ほむら「この格好だと目立つわね。インキュベーター、目立たなくなる魔法は使える?」

ジュゥべえ「ああ、それくらいなら造作も無いぜ……」

157: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:29:01.57 ID:DpCJmnPw0

 ・
 ・
 ・

まどか「ん、ぅ……」

まどか「ここは……?」

さやか「ほむらの家だよ」

まどか「!! さやかちゃ……ほむらちゃん!?」


 ほむらは横になるまどかの腹に、覆いかぶさるようにして眠っていた。
 まどかは跳び起きる。


まどか「どうして……」

さやか「ほむらがね、一晩中まどかに魔力を与え続けて傷を癒してたんだよ」

まどか「そんな、って一晩中!? さやかちゃん、今何時!? タツヤは!?」

さやか「朝の5時半、タッくんならマミさんが寝かせてる。大変だったんだよ、買ってきたご飯食べさせるの」

まどか「どうしよう、パパとママ心配してる……」

さやか「うん、ゴメン。でもどうしても血だらけのまどかを、まどかのお父さんやお母さんに見せたくなくてさ」

まどか「そうだ、パパは!? 確か携帯盗まれて……!」

さやか「キュゥべえっていうのが言ってたよ、軽傷だってさ。ほむらからの又聞きだけどね」

まどか「よかった……!」

まどか「ほむらちゃん、ありがとう。それとさやかちゃんとマミさんも……」

さやか「いいよ、今回もあたし……なにもできなかったし」

まどか「私だってそうだよ……」

158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:30:38.08 ID:DpCJmnPw0

 まどかは俯いて、ポロポロと涙を流す。


まどか「もう嫌だよ、こんなのってないよ……。もう魔法少女なんて」

さやか「……」

まどか「……ごめんね、さやかちゃん。今の忘れて」

さやか「ん、わかってる」

マミ「鹿目さん、気持ちはよく分るわ」

まどか「マミさん!」


 向こうの部屋から少し目の腫れたマミが現れる。


マミ「私の場合はなるべくして魔法少女になった、魔法少女にならなかったら絶望に潰されていた。でもあなたは違うわ」

まどか「……」

マミ「あなたはなし崩しに、全く魔法少女になる必要なんて無かったのに魔法少女になってしまった。この戦いの運命に、何も知らされずに投げ込まれてしまった」

まどか「……」

マミ「逃げてもいいのよ? 世界の運命なんて背負う必要はない。ヒュアデスに関しても私が佐倉さんを説得してみるから」

まどか「……はい、でも」

まどか「私があのとき言ったことを、嘘にしたくないんです」

マミ「自分の家族と暁美さんを天秤にかけて、暁美さんを取るのね?」

まどか「違います! どっちも大切で、どっちも守りたいから……そんなの選べないんです。ほむらちゃんに居なくなってほしくないんです!」

マミ「そう……」

159: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:32:52.10 ID:DpCJmnPw0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 昨日の昼。
 マミの家。


まどか「私はサバトでは戦いません」

マミ「そう……」

さやか「そっか」

ほむら「……」

まどか「でも、おかしいのかもしれないけど。ソウルジェムは捨てません」

マミ「えっ!?」

さやか「どういうこと!?」

まどか「キュゥべえが言ってたんです。私が魔法少女じゃなくなったら、魔女であるほむらちゃんは消えちゃうって」

まどか「だから私はサバトでは戦わないけど、魔法少女であることはやめません」

ほむら「大きなお世話よ!!」

160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:33:47.61 ID:DpCJmnPw0

 ほむらがガタリと立ち上がる。


ほむら「私は消えることは怖くない。あなたがそれで戦いから遠ざかってくれるなら構わない! 私のために魔法少女をやめないというのなら、今すぐにソウルジェムを捨てて!」

まどか「ほむら、ちゃん……」

マミ「残念だけど、鹿目さん。私も暁美さんと同じ意見よ……」

マミ「あなたが魔法少女であることをやめない限り、ヒュアデスは否応なくあなたを襲ってくる。あなただけでなくあなたの周りの人も危険にさら晒されるかもしれない」

マミ「中途半端な気持ちでは、全てを失うことになるのよ?」

まどか「中途半端なんかじゃありません!」

161: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:34:34.65 ID:DpCJmnPw0

ほむら「あなたは優しすぎる……。一応言っておくわ、仮に私が消えても暁美ほむらが死ぬことは無い」

まどか「!?」

ほむら「私が魔女なのに実体を持っているのは、私の意識がこの時間軸の暁美ほむらを乗っ取っているからよ。
     仮に私が消えても暁美ほむらはこの世に残り続ける、むしろそれがあるべき姿。罪悪感なんて感じる必要はない」

さやか「んなっ……!」

マミ「暁美さん、あなたは一体何者なの?」

まどか「でも、それなら今この場所で話してるほむらちゃんはどうなるの……?」

ほむら「……」

まどか「私、嫌だよ! 何も知らずにずっと守られ続けるなんて! ほむらちゃんずっと一人ぼっちで戦ってきたんでしょ? 色んな世界で、昨日みたいに傷だらけになって!」

ほむら「……っ!」

さやか「まどか……、一体何の話をしてるの?」

まどか「危険な目にあってもいい、ずっと戦ってくれたほむらちゃんの旅を終わらせられるなら!」

ほむら「……」

ほむら(今この場所でソウルジェムを破壊するのは簡単だけど、それじゃあヒュアデスは……)


 ほむらは席を立って背を向ける。


マミ「……暁美さん?」

ほむら「まどか、あなたは本当に愚かね」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「時間の無駄だったわ、私にはこんなことしている暇はない」

ほむら(一刻も早く、一秒でも早くヒュアデスを倒す!)

162: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:35:47.52 ID:DpCJmnPw0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ほむらの家。
 マミはふぅ、とため息をつく。


マミ「もう魔法少女じゃなくなった私には、それを止める権利なんてないわね」

まどか「!? マミさん、ソウルジェムを……」

マミ「いいのよ、覚悟してたことだから。それにあの戦いで命があるだけでも幸運よ」

まどか「……マミさんでも、負けちゃうんですね」

マミ「そうね。ヒュアデスのリーダー、美国織莉子は強いわ。私じゃあ手も足も出なかった」

まどか「マミさん」


 まどかはマミの方をまっすぐ見据える。


まどか「私を強くしてください」

まどか「わかったんです、戦いから逃げるだけじゃ駄目だって。私は弱いです。今回だって、ほむらちゃんが来るのが少し遅かったらソウルジェムを渡してました」

まどか「強くならないと、私の大切な物を全部守るために」

マミ「……いい意気込みね、でもあなただけがやる気じゃ駄目よ。ねぇ、暁美さん?」

ほむら「……」

まどか「ほむらちゃん……」

マミ「鹿目さんはこう言ってるけど、あなたはまだ鹿目さんが戦うことに反対かしら?」

ほむら「当然よ」

マミ「そうね、でもわかるでしょう? 何人いるかわからないヒュアデスと一人一人戦っていたんじゃキリがないって。いえ、それ以前に貴方は次の戦いであっさり死んでしまうかもしれない。それでもいいの?」

ほむら「私は構わない」

まどか「ほむらちゃん!!」


 まどかはほむらに怒鳴りつける。

163: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:36:46.16 ID:DpCJmnPw0

まどか「駄目だよ、ほむらちゃん……。そんなこと言わないで、私のためなら死んでもいいなんて言わないで……」

ほむら「私はね……一度死んでるのよ」

まどか「!?」

さやか「!?」

マミ「!?」

ほむら「前の時間軸では、私がこの世界に来る前の世界では。巴マミを見殺しにして、美樹さやかを殺して、
     佐倉杏子を殺して、あなたを何度も泣かせて、たった一人で敵に挑み、絶望に飲まれて死んでいったわ」

マミ「なっ……!」

さやか「あ、あたしも!? ていうか杏子って誰さ!!」

ほむら「わかったでしょ? 私はそんな風に同情されるような人間、いえ人間ですらない。ただ呪いを振り撒き、人を絶望させる魔女よ」

ほむら「わかったらもう私を――

まどか「違うよ」

ほむら「!?」

まどか「違うよほむらちゃん。どうしてそんな風に言うの……?」

まどか「私、知ってるよ。ほむらちゃんは泣いてた。何度も何度も謝りながら、ずっと後悔しながらたった一人で繰り返してたんだよね」

ほむら「……っ!」

まどか「もういいよ、一人ぼっちはここで終わりにしよう。私も一緒に戦わせてよ」

ほむら「あなたになにが……!!」

マミ「いい加減にしなさい、暁美さん!!」

164: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:37:15.11 ID:DpCJmnPw0

マミ「あなた達の間になにがあったかはわからないけれど……。暁美さん、あなたが意地を張っただけ鹿目さんが危険な目にあっているのがわからないの!?」

さやか「……そーだよ、ほむら」

さやか「あんたが何を背負ってるのかあたしにもわからないけどさ。今回だってあんたがまどかに付いてて、魔法少女に変身できたら少しマシになってたんじゃないの!?」

ほむら「……っ!」

まどか「ほむらちゃん、私は約束する」

まどか「私は絶対に死んだりしない、もう絶対に魔法少女になったことを後悔したりしない」

まどか「だから、私も一緒に戦わせて」

ほむら「……」


 長い長い沈黙の後。
 ほむらは1つため息をついて、口を開いた。


ほむら「わかったわ。約束よ、まどか。破ったりしたら絶対にあなたを許さない」

まどか「うん!!」

165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:37:53.97 ID:DpCJmnPw0

 ・
 ・
 ・

 まどかの自宅。
 多くの警官と共に、頭に包帯を巻いた知久とスーツ姿のままの詢子が居た。
 2人共一睡もしていない様子だった。

 まどかはタツヤを抱いて帰宅する。


詢子「まどかっ!?」

知久「まどか、タツヤ!! 無事だったんだね!!」


 知久はタツヤを、詢子はまどかをきつく抱き寄せる。


詢子「馬鹿、連絡くらい入れろよ……心配させやがって!」

知久「タツヤ、よかった……!」

まどか「うん、ゴメンね」

タツヤ「うー!」


 警官がにわかにざわめき、まどかに詰め寄る。


警官「あの、申し訳ありません。何があったか教えていただけませんか」

まどか「えっと……」


 その警官を詢子が押しのける。

166: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:41:11.89 ID:DpCJmnPw0

詢子「待ちな、あたしが聞く」

警官「いえ、あの……」

詢子「まどか、教えてくれ。いきなり家に強盗が入って、タツヤが攫われて、まどかが居なくなって、警察もほとんど証拠もほとんど証拠も掴めない。
    次の日になったら、まどかがひょっこり攫われたタツヤを連れて帰ってきた。一体何が起こってるんだ? 一体まどかは何に巻き込まれてるんだよ!?」

まどか「……」

知久「まどか、それはもしかして昨日話した友達に関わることなのかい?」

まどか「うん」

詢子「その友達がこの事件を引き起こしたっていうのか?」

まどか「違うよ、そうじゃない」


 突如、まどかにテレパシーで声が届く。


キュゥべえ『まどか、聞こえるかい』

まどか『キュゥべえ?』

キュゥべえ『僕は捜査の攪乱や、証拠の隠滅をさせてもらうよ。サバトのことは大勢の人に知られちゃいけない。わかってるね?』

まどか『うん、わかってる。私もパパやママをこんなことに巻き込みたくない』

詢子「おい、まどか!!」

まどか「ゴメンね、ママ。言えない」

詢子「言えないって……!」

知久「まどか。その友達に利用されていたり、脅されているってことは無いのかい?」

まどか「ううん、違う。これからは私の決めたことだから」

まどか「大丈夫、もうパパやママやタツヤをこんなことに巻き込んだりしない」

詢子「……警察やあたし達には任せられないのか?」

まどか「うん」

知久「僕達には詳しく教えられないのかい?」

まどか「うん、今は駄目。でも」

まどか「全部終わった時には話すよ」

詢子「……そうかい」

167: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:41:41.32 ID:DpCJmnPw0

 まどかはニッコリと笑うと、玄関へ駆けていく。


まどか「じゃあちょっと出かけてくるね、夕方までには帰るから」

警官「あ、ちょっと!」

詢子「待ちな、夕方には戻るって言ってるんだからその時でいいだろ」

知久「……大きくなったね、いつの間にか僕達の手の届かない位に」

詢子「ああ。ったく、そんな顔で言われたら引き留められねぇよ」

168: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/10(月) 22:42:15.81 ID:DpCJmnPw0

 鹿目邸からしばし離れた場所にて携帯電話を掛ける。


まどか「もしもし、ほむらちゃん」

ほむら『まどか? いったいどうしたの』

まどか「うん、場所を教えて欲しいの。ほむらちゃんなら知ってると思って」

ほむら『……いったいどこかしら?』

まどか「うん」



まどか「美国織莉子さんの家」



175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:00:53.30 ID:RA71sKPC0

 薔薇の咲き誇る庭園。
 そこには4人掛けのテーブルと4つの椅子があった。


織莉子「ようこそ、今紅茶を入れますね」

キリカ「……」

織莉子「まさかあなたからいらっしゃるなんて思いもしませんでしたよ」

織莉子「ねぇ」

織莉子「鹿目まどかさん?」

まどか「……」

ほむら「……」


 まどかとほむらが椅子に座っていた。
 キリカが向かい合って立ち、警戒するようにまどかとほむらを見ている。

176: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:02:07.90 ID:RA71sKPC0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 まどかが家を出た後。
 まどかとほむらが通話する。


ほむら『な、何を考えているの!? わざわざ敵の本陣に飛び込むなんて!!』

まどか「うん、それなんだけど」

まどか「マミさんの家がバレてた、私の家もバレてた。この様子だときっとほむらちゃんの家も知られてるんだと思う。だったら、どこに逃げても一緒だよ」

ほむら『それなら! 違う街にでも逃げて――

キュゥべえ『それは不可能だよ、ほむら、まどか』


 突如、2人の通話にテレパシーが割り込む。


ほむら『!?』

まどか「キュゥべえ……」

キュゥべえ『サバトの会場はここ、見滝原だ。開催期間中はここから出ることは許されない。
        そして僕達は交戦を推奨する側だからね。君達が隠れようものなら、その居場所を君達と交戦したい相手に密告させてもらうよ』

ほむら『インキュベーター……っ!』

まどか「ほむらちゃん、それにね。無茶だよ。この街には、私の家族やさやかちゃんやクラスのみんながいるんだよ?
     人質にされそうな人達を、全員連れて逃げるなんて無理に決まってるよ」

ほむら『……』

まどか「私、織莉子さんっていう人と話し合ってみる。これ以上ヒュアデスがみんなを危険な目に合わせないように」

ほむら『……私にいくつか考えがあるわ』

177: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:03:48.27 ID:RA71sKPC0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 織莉子がティーセットをお盆に乗せて持ってくる。
 湯気の立つ透き通った紅茶が4つのカップに注がれた。


織莉子「どうぞ、お口に合うといいのですけど」


 ほむらはなにも入れずすぐにソーサーを持ち上げて、カップを傾ける。
 まどかは砂糖を1つ入れてティースプーンでかき混ぜた。


ほむら「いい食器ね」

織莉子「あら、ありがとう。お茶の心得があるのかしら?」

ほむら「先輩がね、好きなのよ。まどかや美樹さやかも交えて、よく一緒にお茶会をしたものよ」

まどか「……っ!」

織莉子「羨ましいわね、そんな相手が居るなんて。私のお茶の相手なんてキリカしか居ないもの」

キリカ「私じゃ不足なのかい!?」

織莉子「いいえ、言葉のあやよ。私にはキリカさえ居ればいいわ」


 織莉子はキリカの方に目をやる。


織莉子「ほら、キリカも座りなさい。お客様の前でいつまでも立ってちゃ失礼よ」

キリカ「ふん」


 キリカは乱暴に腰を掛けると。
 紅茶に砂糖をボトボトと入れ、ついでにジャムもカップの縁に塗る。

 織莉子は張り付いたような微笑を崩さない。


ほむら「さて、文字通りの茶番はこれくらいにして、本題に入ってもいいかしら? 私達は敵陣のど真ん中でお茶を飲みに来たわけじゃないわ」

織莉子「あら、そうなの? せっかく久しぶりのお客様だったのに」

まどか「はい、お願いがあってきました」

まどか「もう、魔法少女以外の人を巻き込むのはやめてください」

178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:04:50.19 ID:RA71sKPC0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ほむらがまどかに考えを授ける。


ほむら『まず、私が同行するわ。ソウルジェムは私に預けてちょうだい』

まどか「……うん、わかった」

ほむら『これなら万が一戦いになっても交戦権は私にある』

まどか「ほむらちゃん、また一人で戦う気なの……?」

ほむら『あなたの言いたいことはよく分る。でもまだオーバーソウルも覚えていないまどかを魔法少女にしても、結果はたかが知れているわ』

まどか「……」

ほむら『……今は、の話よ。まどかが強くなったら、その時はお願いするわ』

まどか「……うん」

ほむら『それと、準備があるから少し待ってちょうだい。私の家で合流しましょう。その時に交渉の手順を教えるわ』

まどか「わかった」

179: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:05:35.50 ID:RA71sKPC0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 突然の申し出に織莉子はクスリと口元に手を当てる。


織莉子「そうね、私達もできるならそうしたいわ」

まどか「ならっ――

織莉子「でもそうでもしないとあなた達は戦っていただけないでしょう? 世界の所有権を決める聖戦であるのにあなた達は逃げてばかり」

まどか「……」

ほむら「……」

ほむら(よし、ここまでは読み通り)


 まどかは震える手でメモ用紙を差し出した。


まどか「これ……」

織莉子「?」

まどか「私とほむらちゃんの携帯電話の番号です。戦いたくなったらいつでも連絡してください、私達は必ず受けます」

まどか「だから」

まどか「ヒュアデスはもう人質を取ったり、魔法少女以外の人を傷つけるようなことはしないでください」

織莉子「……」

180: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:07:16.14 ID:RA71sKPC0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ほむらの家の前。
 リュックサックを背負ったほむらがまどかに話しかけていた。


ほむら「――と、いう風に交渉する」

まどか「そんなの受けてくれるかな……?」

ほむら「受けるわ、必ず」

ほむら「巴マミの話だと、ヒュアデスに対抗する魔法少女は私達で最後」

ほむら「その私達といつでも戦える状況になるのなら、ヒュアデスは……少なくとも美国織莉子は強硬策を使う必要が無くなる」

ほむら「それにいくらインキュベーター達の工作があるといっても、向こうも世間を騒がせるような真似は控えたいはず」

まどか「でも、そんなことしたら、ヒュアデス全員から一斉に襲われるんじゃない?」

ほむら「大丈夫よ、前回の件でわかった。美国織莉子が信用している魔法少女は呉キリカとあすみのみ。
     呉キリカは誓約で私たちを襲えない。つまり最善戦力でまどかと戦おうとした場合、美国織莉子とあすみの2人で来ることになる。
     佐倉杏子は巴マミの話だと、他の魔法少女を蹴落とすためにヒュアデスに身を置いているらしいわ。
     しかしもうヒュアデスに逆らう魔法少女はまどかだけ。
     挑まれる前に佐倉杏子をヒュアデスを倒すチャンスだと揺さぶることができれば、
     美国織莉子とあすみ 対 まどかと佐倉杏子の2対2に持ち込むことができる」

まどか「そんなに上手く行くかな……」

ほむら「いろいろ考えてみたけど、これ以外に手は無いわ」

ほむら「大事な物、全部守るんでしょう? しっかりしなさい」

まどか「うん」

181: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:08:08.58 ID:RA71sKPC0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 差し出されたメモ用紙を前に、織莉子はしばしあっけにとられた後。
 クスリと笑い、肩を震わせ、やがて微笑は口元を吊り上げた高笑いに変わった。


織莉子「ふふふ、はははははは! 考えましたね、鹿目まどか! いえこれは貴女の、暁美ほむらの入れ知恵かしら?」

まどか「……」

ほむら「……」

織莉子「いいでしょう。その条件、飲みましょう。しかしもしも……」


 織莉子はメモ用紙を受け取ると。
 挑発的な表情で、語りかける。


織莉子「今この場で貴女達を襲いたい、と言ったらどうしますか?」

まどか「っ!?」

182: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:09:08.28 ID:RA71sKPC0

ほむら(かかった!!)

ほむら(このための準備、美国織莉子が交戦を宣言した瞬間)

ほむら(まどかを後ろへ下がらせ、持ってきた爆弾を起爆し、その一瞬の隙に)


 ほむらは懐に入れたナイフの重さを確認し、心の中でほくそ笑む。


ほむら(仕留める!!)

ほむら(巴マミの話だと美国織莉子の能力は認識しないと発動しない! 爆弾で生まれた一瞬の隙を取れば、いえ、そもそもオーバーソウルする前に刺せば!!)

織莉子「まぁ、今はやめておきましょう」

まどか「!!」
ほむら「!?」

織莉子「ずいぶん物騒な物を持ったお客様も居ることですしね」

ほむら(バレていた!?)

織莉子「ところで鹿目まどか……いえまどかさん、私からも1つ提案なんですけど」



織莉子「停戦、しませんか?」



まどか「!?」
ほむら「!?」
キリカ「!?」

183: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:10:07.06 ID:RA71sKPC0

織莉子「私は本戦まで貴女達に手出しをしませんので、貴女達も本戦まで私に戦いを挑むことは無いことを願いしたいのです」

ほむら「なっ……!」

まどか「それって……」

キリカ「ちょ、ちょっと待ってくれ織莉子! 私は誓約でこいつ等には挑めないけど、織莉子なら一人でもこいつ等くらい倒せるだろ!?」


 織莉子は片手を上げてキリカを制する。
 驚く3人をよそに、織莉子は上機嫌に語りかける。


織莉子「私は今まで偉大なる魔女による人類の救済を第一に考えて行動してきました。
     それを阻む者はいかなる手段を以てしても消そうと考えていましたし、現に巴マミを考えうる最善の手段を以て脱落させました」

織莉子「しかし貴女は違う、人類の命運をかけた最後の敵に相応しい」

織莉子「貴女とは本戦で戦いたくなったのですよ」

まどか「……!」

ほむら「……」

ほむら(正直、予想外の展開ね……。良い方にだけれど)

ほむら(美国織莉子が動かないなら、実質ヒュアデスの脅威は半分、いえそれ以下になる)

ほむら「言質、取ったわよ。インキュベーター」


 ほむらが呼び寄せると、ジュゥべえがテーブルに手を掛けて、ひょっこりと顔を出す。

184: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:10:44.33 ID:RA71sKPC0

ジュゥべえ「はいよ」

ほむら「今の美国織莉子の言葉、誓約にできるわよね?」

ジュゥべえ「それは一応魔法少女同士の同意を確認してからだな、織莉子もまどかもいいか?」

織莉子「結構よ」

まどか「お、お願いします!」

ジュゥべえ「OK、じゃあ本戦までお互いに交戦は認めねぇぜ」

織莉子「それと、暁美ほむら?」

ほむら「なにかしら?」

織莉子「私のことを苗字付きで呼ぶのはやめてくださらない?」

ほむら「わかったわ、あなたこそ私のことを名前付きで呼ぶのはやめて」

織莉子「ふふふ、わかったわ。暁美さん♪」

ほむら「織莉子さん、これでいいかしら」

キリカ「……」

ジュゥべえ「じゃあオイラはこの辺で!」

185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:12:21.68 ID:RA71sKPC0

まどか「あの、ちょっといいですか?」


 ジュゥべえが去った後。
 まどかが遠慮がちに口を開いた。


織莉子「?」

まどか「あの、今更こんなこと聞くのもなんですけど……」

まどか「織莉子さんはどうして、人類の滅亡なんて望んだんですか?」

織莉子「滅亡ではありません、救済よ」

まどか「……救済なんて望んだんですか?」

織莉子「ふふふ、長い話になるわよ?」


 織莉子は椅子から立ち上がると、演劇の立ち回りのように歩き出す。


織莉子「私はかつて誰からも羨まれる人間だった。人望、容姿、教養、才能、財産、家柄、品格、誇り、希望、夢、私には全て揃っていた」

織莉子「そして私にはお父様が居た、人を導く政治家の仕事だった」

織莉子「素晴らしい人だったわ、私も娘として恥じぬよう努力し続けた」

織莉子「でも」


 織莉子の表情が急変した。


織莉子「お父様は汚職議員と呼ばれるようになった」

織莉子「汚職が真実だったかは、今となってはわからない」

織莉子「しかし、お父様はその非難を苦に自ら命を絶ち、私も汚職議員の娘としてまるで疫病神のように蔑まれるようになった」

186: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:13:37.69 ID:RA71sKPC0

 織莉子はクツクツクツと肩を震わせ笑いながら、
 頭をガリガリと掻き、呪詛のように言葉を連ねる。


織莉子「私の輝かしい名声は、今までの人生は何だったのでしょうね?」

織莉子「賛美も! 賞賛も! 羨望も! 親愛も! 評価も! 友情も世間体も評判も人望も!!
     全っ部!! 『美国議員の娘』のものでしか! お父様の一部としてのものでしかなかった!!」

織莉子「それじゃあ私は一体何なの!? なぜお父様は死んだのに私は生きているの!?
     これからどうやって生きればいいの!? どうしてなぜどうやってなにがぁああああああ!!」

キリカ「織莉子!!」


 頭を掻き毟りながら金切声なりかけた声を上げる織莉子に、キリカが抱き着いた。
 キリカが抱き着いて、しばし織莉子は肩を上下させてから落ち着きを取り戻す。

 織莉子はキリカを抱き寄せながら、歪んだ笑みで話を続ける。


織莉子「そんな私の前にインキュベーター、キュゥべえがやってきた」

織莉子「キュゥべえは言った、『自分の生きる意味』を知りたくはないかと」

織莉子「そして私は魔女を受け入れ、魔法少女になった。そして私に天啓が舞い降りた!」


 織莉子は手を広げ、演説でもするように声を張り上げる。


織莉子「私は人間は皆! 不確かな幻想に捕らわれた迷える仔羊であることを知り!
     そして永遠にして絶対の安らかな夢という方法で人類を救済できる偉大なる魔女を知った!!」

織莉子「私は思った! これこそが私の役目であると! 残酷な現実に晒され、それでも生きよう足掻く人類全てを救済することが私に与えられた使命だと!」

織莉子「そして私はヒュアデスを組織した。絶望より生まれた魔法少女による救済のための組織。絶望を希望へ転ずるこの祈りの団体を!!」


 織莉子はそこまで言うと、1つ息を付き、倒れそうになるがキリカがそれを支えた。

187: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:14:22.44 ID:RA71sKPC0

まどか「織莉子さ――

ほむら『まどか』


 震える声で語りかけようとしたまどかを、ほむらはテレパシーで制した。


まどか『ほむらちゃん……?』

ほむら『余計な気を起こさないで、今日は目的は達成した。予想以上の収穫もあった。それで終わりよ』

まどか『……』

ほむら「それでは織莉子さん。頂き立ちで悪いけど、そろそろおいとまさせてもらうわね」

まどか「う、うん。ご馳走様でした」

織莉子「あら、残念ね。もう帰ってしまわれるのかしら」


 ほむらがリュックを取って、背を向けたとき。
 まどかが織莉子の方へ振り返って言った。


まどか「あの、織莉子さん!」

織莉子「なにかしら?」

まどか「戦うときになったら、そのときは負けませんから」

織莉子「……いいわね、望むところよ」


 それだけ会話を交わし、まどかはほむらの背中を追いかけて行った。

188: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/12(水) 23:15:10.73 ID:RA71sKPC0

 まどかとほむらが去った後。
 薔薇の咲く庭園にフラリと誰かが現れた。


織莉子「……今日はお客様が多いわね」

キリカ「……っ!」

カンナ「つれないこと言うなよ、私達はチームメイトだろ?」

織莉子「そうね、でも私とあなたは全く別の志を持つ者よ。過程が一致しているから協力し合っているに過ぎない」

カンナ「HAHAHA、これは手厳しい」

織莉子「まぁいいでしょう、一杯いかが?」

カンナ「うん、いただくよ」


 織莉子は紅茶を新しいカップへ注ぐと。
 ふっと軽く笑う。


織莉子「私は全ての人間を救済する、その後なら新人類による創世でもなんでもすればいいわ」

203: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:08:28.11 ID:IDSyeqTL0

 美国邸を出たまどかとほむら。


まどか「さて、これからの予定なんだけれど……」

ほむら「巴マミのところへ修業しに行きましょう」

まどか「だ、駄目だよほむらちゃん! ほむらちゃん、昨日から寝てないんでしょ?」

ほむら「私は一向に構わないわ」

まどか「それでも駄目! マミさんのところへは私一人で行く、ほむらちゃんは休んでて! せっかく織莉子さんと停戦になって安全になったんだから!」

ほむら「でも」

まどか「ほむらちゃんが行くなら私はいかない!!」

ほむら「はぁ……。それじゃあお言葉に甘えて休ませてもらうわ」

204: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:09:30.50 ID:IDSyeqTL0

 美樹邸。
 さやかはベッドに腰掛け一人思う。


さやか(今頃まどか達はマミさんのところで修行してるんだろうなー)

さやか「なんなんだろう、あたし。しょせん部外者なのに……」

さやか「眠ろう、あたしも寝てないし」


 そう思った時、さやかの携帯が鳴った。


さやか「仁美……?」

205: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:10:09.96 ID:IDSyeqTL0

 マミの家。
 まどかはテーブルに座っている。


マミ「それじゃあ、暁美さんも居ないし今日は座学にしましょうか」

まどか「はい……、でも大丈夫なんですか? マミさんもあんまり寝てないんじゃあ……」

マミ「大丈夫よ、暁美さんほどじゃないわ。それよりもビシバシ行くから覚悟しなさい!」

まどか「はい!」

マミ「まず魔法少女には……」

206: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:11:58.47 ID:IDSyeqTL0

 ファーストフード店。
 さやかと仁美は向かい合って座っていた。


さやか「どうしたのさ、改まって」

仁美「実はとある少女についてです、さやかさんならどうしますか?」

さやか「へっ? な、なに急に?」

仁美「その少女には仲のいい友人が居ました、少女はその友人のことが大好きです」

さやか「……?」

仁美「友人にはとても仲のいい男の子が居ました。男の子の傍にはいつもその友人が居ました」

さやか「……」

仁美「しかし少女はある日、その男の子を好きになってしまいました。横恋慕であることを知りながら、少女はどうしても気持ちが抑えられなくなってしまったのです」

仁美「でも少女はとてもわがままです。隠しきれない恋慕を持ちながら、友人も失いたくないのです」

さやか「……」

仁美「さやかさんが少女なら一体どうしますか?」

さやか「……そっか」

さやか「あはは、その男の子は幸せ者だ。そんなに誰かに想われてるんだから」

さやか「私だったらその少女にこう声をかけるよ。
    『いいじゃない、好きならとことん突っ走っちゃえよ。その友人はそんなことで友達じゃなくなったりしないから』って」

仁美「……」

さやか「いいねえ、青春だよ。あはは……」

仁美「さやかさん……」

207: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:13:40.92 ID:IDSyeqTL0

 仁美はガタリと立ち上がる。


仁美「いい加減にしてください! 私の知るさやかさんはそんな人ではありません!!」

仁美「私が、私がさやかさんの気持ちに気付いていないと思いますか!? どうしてそんなことを言うんです!!」

さやか「仁美……」

仁美「まどかさんのことですね?」

さやか「……」

仁美「あの騒ぎでなにも感づかないほど私は愚かではありません! 今日のニュースだって見ました!
    いったいなにが……いったいなにがまどかさんの周りで起こっているのです!? あなたはなにを知っているのですか!!」

さやか「……」

さやか「ごめんね、仁美。言えない」

仁美「ふっ……くっくっくっくっ……」

仁美「いつも、いつもそう。3人の中でいつも私だけ蚊帳の外」

仁美「私だって! 私だってまどかさんの友人なのに!! お二人の間には入る隙なんて無くて!!」

さやか「……」

仁美「もういいです、私は今日上条君に告白します。私が失うのを怖れる友情なんて初めからなかったのですから」

さやか「あー、わかったわかった! 話すよ、話すから!」


 さやかはパンッと仁美に手を合わせる。


さやか「恭介に告白するの待った! いや待ってください! そうだ停戦! 停戦しよう!!」

仁美「……ふふふ」


 仁美が笑みをこぼす。


仁美「やっといつものさやかさんに戻りましたわ」

208: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:14:45.69 ID:IDSyeqTL0

 さやかが頭を掻きながら話す。


さやか「と言っても、実は私も知ってはいるけど蚊帳の外だからさー」

仁美「それでもご存じなのですね?」

さやか「うん、先に言っとくけど……」

さやか「これ知ったら仁美も危険になるかもしれないよ?」

仁美「覚悟の上ですわ」

さやか「どんなぶっ飛んでることでも笑わない?」

仁美「ええ」

さやか「うん、じゃあ話すけど……」

さやか「人類滅亡を企む悪の組織からまどかが狙われてるんだ」

仁美「はい?」

209: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:15:35.25 ID:IDSyeqTL0

仁美「つまり人類滅亡を企む組織があって、まどかさんがそれに対抗できる唯一の希望であると……」

さやか「うん……、信じられないよね。未だに私も実感湧かないし」

仁美「……いえ、信じますわ。それならさやかさんの反応も昨日の事件も納得です」

さやか「そっか、物わかりのいい奴だ」

仁美「はぁー、なんだか恋愛なんかで悩んでた自分が馬鹿らしくなりましたわ」

仁美「……私になにかお手伝いできることはありませんか?」

さやか「たぶん無いだろうね、私もまどかに付いてたら人質にされちゃったし」

仁美「そうですか……」

さやか「はぁー、辛いね。見てることしかできないのは」

仁美「……そうですわね」

210: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:16:39.45 ID:IDSyeqTL0

 織莉子邸の屋根の上。
 杏子が座って風に吹かれていた。


杏子「……」

あすみ「杏子おねーちゃん!」

杏子「……あすみか、もう大丈夫なのか?」


 頭に包帯を巻いたあすみがひょっこりと顔を出した。


あすみ「大丈夫だよ、杏子お姉ちゃんが魔力分けてくれたからね!」

あすみ「それと聞いた? 織莉子さんがまどかと誓約を結んだって」

杏子「ああ、ヒュアデスは人質も脅迫も禁止、織莉子は本戦まで動かない。代わりにヒュアデスの挑戦はいつでも受ける、と」

あすみ「それなら実質、あすみ達が動くしかないよねー?」

杏子「そうなるね」

あすみ「じゃああすみがパパッと行ってまどかをぶっ潰しちゃおう!」

杏子「また返り討ちになるぞ、それに織莉子はなんにも言ってこないの?」

あすみ「織莉子さんは『好きにしなさい』だってさ! 大丈夫だよ、今回は杏子お姉ちゃんに手伝ってもらうもん」


 あすみは杏子にすり寄る。


あすみ「大丈夫だよね、私達は幸せな奴なんかに負けたりしないよね……?」

杏子「……そうだな」

211: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:18:51.11 ID:IDSyeqTL0

 夕方、鹿目邸。
 警察に散々しつもんされたまどかがようやく解放された。


まどか「ふぇー、ただいまー」

詢子「おーっす、お疲れまどか」

知久「晩御飯出来てるよ」

詢子「二人共、ちょっといいか?」

まどか「うん?」

知久「なんだい?」

詢子「実はな、こんなときでなんだけど大事な話があるんだ」

詢子「ウチの子が、一人増える」

212: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:19:40.52 ID:IDSyeqTL0

まどか「へっ?」

知久「……本当かい?」

詢子「別に妊娠したわけじゃないぞ。遠縁の子でな、身寄りがないらしくて施設に入ることも拒否してる。
    自分以外誰も居ない家に住んでるから、法的代理人がかなり強引に養子縁組を組んだんだ」

詢子「その子が、明日ウチに顔を見せに来る。まどかと同い年の女の子だ」

まどか「そ、そっかぁ……」

知久「大丈夫かな、僕嫌われないだろうか……」

まどか(魔法少女で色々あって鈍感になってるけど、これってかなり大事件だよね?)

詢子「明日の9時だから、学校にはあたしが連絡入れておく」

まどか「う、うん……。わかった」

213: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/13(木) 22:20:30.76 ID:IDSyeqTL0

 次の日の朝。
 鹿目邸。


まどか「……」


 まどかは唖然としていた。


詢子「佐倉杏子ちゃんだ」

杏子「よ、よろしく……」

知久「はじめまして、綺麗な子だねー」

杏子「……」

まどか「……」


 杏子はダッシュでその場から逃げ出した。


詢子「逃げた!?」

まどか「ま、待って!」


 まどかも杏子を追いかける。


詢子「あ、おい! まどかぁーーー!!」

221: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:39:05.66 ID:E8lC6QYE0

――連れられて来て家を見たときは笑っちまったよ

――つい一昨日、襲撃するために見張ってた場所だったんだから

――最初は断るつもりだった、養子の件も、施設も

――今回だって見てからすぐに断るつもりだった


――でも


――あの時、あの光景を見た時に

――いいなぁって、私にもこんな父親が居たらなぁって

――思っちまった

222: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:40:45.30 ID:E8lC6QYE0

杏子「はぁっ! はぁっ! 馬鹿かあたしは! よく考えたら、オーバーソウルして逃げればいいだけじゃねえか!!」


 杏子は魔法少女の姿に変身する。


杏子「オーバーソウル! ギーゼラ!!」

杏子「あとは……」


――逃げてどうする?


杏子「っ!?」

杏子「決まってる……。今回の件もバックレて、織莉子の家へ行って、そして――


――偉大なる魔女を使って家族をやり直す? また壊れるのを知っていながら?


杏子「……」

杏子「駄目かどうかなんて、やってみなくちゃわからねぇだろ……!」

杏子(どこで狂った、なにを間違えた? あたしがやってきたことって一体……)

まどか「ま、待って! 佐倉さん!!」

杏子「ちっ、もう追いついてきやがったか」

まどか「待って、消える前に聞かせて!! 佐倉さんはどうしてヒュアデスに、
     ううんそうじゃなくて。偉大な魔女に何を願うつもりだったの?」

杏子「……あんたさぁ、もしかしてあたしを引き込もうなんて思ってないでしょうね?」

まどか「違うよ!!」

まどか「マミさんが言ってた。魔法少女は、絶望に捕らわれた時に魔女と契約して生まれるって! 佐倉さんの絶望は何? どうして戦うの?」

まどか「私はそれを聞けない限り絶対に負けられないから」

杏子「……」

まどか「……」

杏子「はぁー、厄介な奴だ。やっぱり最初に潰しておけばよかった」

杏子「いいよ、聞かせてやる。あたしが絶対に勝ち抜かなきゃならない理由ってやつをね」

223: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:42:00.47 ID:E8lC6QYE0

 河川敷にて。
 杏子はまどかに向き直り語りかける。


杏子「あたしの親父は神父だった、正直過ぎて、優し過ぎる人だった。毎朝新聞を読む度に涙を浮かべて、真剣に悩んでるような人でさ」

杏子「『新しい時代を救うには、新しい信仰が必要だ』って、それが親父の言い分だった」

杏子「だからある時、教義にないことまで信者に説教するようになった。
    もちろん、信者の足はパッタリ途絶えたよ。本部からも破門された。誰も親父の話を聞こうとしなかった」

杏子「当然だよね。傍から見れば胡散臭い新興宗教さ。どんなに正しいこと、当たり前のことを話そうとしても、世間じゃただの鼻つまみ者さ」

杏子「アタシたちは一家揃って、食う物にも事欠く有様だった」

杏子「納得できなかったよ。親父は間違ったことなんて言ってなかった。ただ、人と違うことを話しただけだ」

杏子「5分でいい、ちゃんと耳を傾けてくれれば、正しいこと言ってるって誰にでもわかったはずなんだ」

杏子「なのに、誰も相手をしてくれなかった。悔しかった、許せなかった。誰もあの人のことわかってくれないのが、あたしには我慢できなかった」

杏子「そんな時だったよ。奴が、キュゥべえが現れた。奴は言ったよ、『人々に父親の言葉を届ける力は欲しくないか』ってね。今思えば悪魔の囁きだった」

杏子「私は魔女と契約して魔法少女になった、そして毎晩魔女の力を使って親父の言葉を人々に届けた」

杏子「少しずつ、教会に人が増えていったよ。あたしと妹でリンゴ一個だったのが、翌月にはアップルパイに、また翌月にはミートパイになっていった」

杏子「幸せだったよ。やっとみんなに親父のことをわかってもらえたんだって、私と親父が世界を救うんだって意気込んでた」

224: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:43:13.13 ID:E8lC6QYE0

 杏子は1つ深呼吸して。
 まどかの目をまっすぐ見据えた。


杏子「……でもね、ある時カラクリが親父にバレた。大勢の信者がただ信仰のためじゃなく、魔法の力で集まってきたんだと知った時、親父はブチ切れたよ」

杏子「娘のアタシを、人の心を惑わす魔女だって罵った。笑っちゃうよね。魔法少女のことなんか知ってるはずもないのに、その通りなんだからさ」

杏子「それで親父は壊れちまった。大勢の人を巻き込んだ罪悪感と疑心暗鬼でね。もう自分の教えも家族も、何も信じられなくなっちまった」

杏子「それで親父は廃人になった。あたしも勘当され、妹はお袋が引き取って実家に帰ったよ」

杏子「離散の時、みんながあたしを見た目は忘れられない。まるで怪物か化け物を見るような目だったよ」

まどか「佐倉……さん」

杏子「だから、あたしは偉大な魔女の力で世界を書き換える。まだ家族が家族だった時間を取り戻す」

杏子「これが、あたしが勝ち抜かなきゃならない理由だ」

まどか「……うん、ありがとう佐倉さん」


 まどかはニッコリと笑って、杏子の方をまっすぐ見据えた。


まどか「私、あなたとなら全力で戦える」

225: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:44:06.57 ID:E8lC6QYE0

杏子「へえ、同情して白旗上げてくれるかと思ったんだけどね。そういえばあんたこそ何のために戦う? マミみたいに世界のためか?」

まどか「ううん、私はね」

まどか「ほむらちゃんのためだよ」

杏子「……は?」

まどか「世界を、いつまでも魔女が生きていける世界にする。幾つもの世界を巡って戦ってくれたほむらちゃんの旅を、ここで終わらせる」

まどか「これが私の戦う理由、私の願い事」

杏子「自分の魔女のために世界を書き換えるってのか……!?」

まどか「うん」

杏子「……ありえねぇ」


 杏子は歯を食いしばり、ギロリとまどかを睨みつける。


杏子「決めたよ、あんただけは真っ先にぶっ潰す」

杏子「今日の夕方、またここに来い。交戦の申し出だ、当然受けるよな?」

まどか「うん、わかった」

226: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:45:02.68 ID:E8lC6QYE0

 その後、まどかと杏子は鹿目邸へと戻った。
 杏子は終始ぶっきらぼうに質問に答え、まどかとは一言も言葉を交わすことは無かった。

227: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:47:49.30 ID:E8lC6QYE0

 まどかは学校へと登校し、休み時間になる。


さやか「よーっす、まどかー。今日遅かったけどどったのー?」

まどか「ヒュアデスの人がね、家に来たの。養子になるかもしれないからって」

さやか「へっ……? そ、それって!!」

まどか「ううん。多分、陰謀とかそういうのじゃないと思う」

さやか「……そ、そっか。凄い偶然もあったもんだね」

ほむら「驚くべきことね」

さやか「うわっ! ほ、ほむら!!」

ほむら「ちなみにその子の名前は?」

まどか「佐倉杏子っていう人、さやかちゃんを押さえてた赤い魔法少女だよ」

さやか「げっ、あいつか……」

ほむら「……なるほど」

ほむら「まどか、例の作戦だけれど。味方には引き込めそうかしら?」

まどか「ううん、難しいと思う。佐倉さんには佐倉さんの、絶対に叶えなきゃいけない願いがあるから」

ほむら「そう……」

まどか「それと、交戦を申し込まれたよ」

ほむら「!?」

さやか「なっ! 交戦って……この前みたいな殺し合い!?」

まどか「うん」

さやか「ヤバいって! 学校なんか来てる場合じゃないよ! 逃げなきゃ!!」

ほむら「それはできないわね」

さやか「な、なんでさ!?」

ほむら「ヒュアデスと誓約を結んだのよ。人質などを使わったり、無関係な人間を傷つけないない代わりに、いつでも私達は交戦を受けるって」

さやか「んなっ……!」

ほむら「昼休み、2人で巴さんのところへ行きましょう」

さやか「ほ、ほむら! なんであんたはそんなに落ち着いてるのさ!?」

ほむら「昨日キュゥべえに聞いてね、いくつか秘策があるのよ」

228: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:48:28.58 ID:E8lC6QYE0

 昼休み。
 風の吹き抜ける屋上。
 まどかとほむら、そしてマミの3人が集まっていた。


マミ「話は暁美さんから聞いたわ、全く頭が痛い……」

まどか「す、すいません! 私がもっとうまくやってれば……」

ほむら「遅かれ早かれ、こうなることはわかっていたことよ」

マミ「それでどうするの? 付け焼刃にしても、昼休みの間に教えられることなんてたかが知れてるわよ?」

ほむら「教えて欲しいことは2つ、まず1つは魔法少女への変身の方法」

マミ「まぁそれくらいなら……」

ほむら「そしてもう1つは――

229: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:48:59.22 ID:E8lC6QYE0

 夕方、河川敷。
 まどかとほむらとさやかとマミの4人と、杏子が向き合っていた。


杏子「はっ、一般人を3人も引っ連れて何がしたいんだか」

まどか「……」

マミ「佐倉さん、もう戻れないの……? 私達は敵じゃないのに!」

杏子「味方でもねぇよ。巫力5万の鹿目まどかは必ず優勝候補に食い込む、潰さない手は無いね」

ほむら「そう、それならもう交わす言葉は無いわ」

杏子「ああ、いくぞ!」


 杏子は変身する。
 ほむらはさやかに囁いた。


ほむら「私は魔女形態になると、精神が分離して身体が動かなくなる。身体の方は任せたわよ」

さやか「お、おう」

杏子「広範囲オーバーソウル! 結界!!」

ほむら「……」


 銀色の閃光が杏子のソウルジェムから奔り、まどかと杏子は消えた。
 ほむらがそれと同時に気を失ったように脱力し、さやかに身体を預けた。

230: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:49:58.66 ID:E8lC6QYE0

 深夜のハイウェイのような結界の中で、杏子とまどかは向き合う。
 どこからともなく現れたジュゥべえが高らかに宣言した。


ジュゥべえ「交戦を許可するぜ」

杏子「ほー、それがあんたの魔女の本当の姿か」

まどか「うん、そうだよ」


 まどかの背後には黒いマントのような翼を広げた魔女が居た。
 三角帽子の唾はレコードのようになり、折れた先端が針のように唾に接している。

 魔女から紫色の光が発せられ、ヴェールのようにまどかを覆うと。
 まどかは桃色を基調とした魔法少女の姿に変身していた。
 手には植物が螺旋状に絡まった杖を持ち、先端の蕾が花開く。


まどか「ホムリリィ、性質は背徳。ほむらちゃんの無念の証」

杏子「はっ、いいじゃん。面白い! この短期間にオーバーソウルを覚えられたか!?」

まどか「ううん、オーバーソウルは無理だったけど」

まどか「その1つ下なら覚えられたよ」

杏子「? まぁいいや、オーバーソウル! ギーゼラ!!」


 錆だらけのロボットのような魔女が現れ、杏子の胸のソウルジェムに収束する。
 まどかは大きく深呼吸すると、高らかに宣言する。


まどか「憑依合体!!」


231: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:50:26.81 ID:E8lC6QYE0

 ホムリリィは陽炎のように揺れ、まどかの中へと入っていった。


杏子「憑依合体だと!?」

まどか「うん、オーバーソウルの1つ下」

まどか『魔女を自分自身の中に入れることで、魔女と精神を同期させ、魔女に自分の身体を委ねる』

まどか『魔女の自我の薄い普通の魔法少女じゃあ、考えられない戦法ね』

杏子「はっ、それでも私達ならできますってか? 特別な巫力を持ってる奴は魔女まで特別かよ!!」

杏子「チョームカつく! 出来るだけ怪我しないように戦ってやろうかと思ったけどやめだ!」


 杏子はショートワープでまどか背後に回り、作り出した槍で一突きにしようとする。


杏子「ちょっと痛い目見てもらうよ!」

232: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:51:05.25 ID:E8lC6QYE0

 しかし杏子の槍はまどかを捉えることは無く。
 杖によって受け止められた。


杏子「!?」

まどか『巴さんの言っていた通りね』

まどか『初手のショートワープは必ず背後に回る』

杏子「くっ! それがどうした!!」


 杏子は再び姿を消し、まどかの真横に張り付き。
 槍を振うがそれも受け止められてしまう。


杏子「!?」

まどか《そして、同じ方向への連続したショートワープを無意識のうちに避ける》


 まどかの杖に弦が張る。
 弓をクルリと反すと、光り輝く矢が当てがわれ。

 杏子へ向けて放たれる。


杏子「っ!!」

233: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:52:42.99 ID:E8lC6QYE0

 至近距離で放たれた光の矢は杏子の頬を掠めるが。
 杏子の目が怒りに燃えた色から、冷静な冷たい色へと変わっていった。


杏子「へぇ、なるほどね。あたしの手はもう完全に読まれてる、と」

まどか『……』

杏子「だけどね、知ってた? オーバーソウルにはこういう使い方もあるんだよ!」


 杏子が胸元のソウルジェムを外すと。それを宙に投げる。
 唸りを上げる銀色のバイクがその場に現れた。


まどか『!?』

杏子「なにも魔女の力を使うだけがオーバーソウルじゃねー!
    魔女を分離させて波状攻撃を仕掛けることだってできるんだよっ!」


 杏子とバイクが同時にまどかへ突っ込む。
 まどかは弓に矢を番え、杏子へと放つが。
 赤い幻影は放たれた矢をあっさりと躱してしまう。


杏子「ほらよ!」

まどか『っ!』


 杏子の槍を弓で受け止めた直後。
 唸るバイクがまどかに迫る。

 加速した金属の質量体が、まどかの脇腹に直撃した。


まどか『か、はっ!』

杏子「ウスノロ、次だよ!」

234: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:53:57.00 ID:E8lC6QYE0

 杏子が槍を振い、柄でまどかを薙ぎ払わんとする。
 まどかは飛び退いて躱すが、背後から再び唸りを上げたバイクが迫る。

 まどかは跳躍して避ける。飛行に近いような高跳びで、上空から杏子を狙い打たんとするが。

 ニィ、と笑った杏子が、自分に迫るバイクを足場に跳躍すると、まどかの上を取る。


杏子「終わりだ」

まどか『くぅ……!』


 振り抜かれた槍がまどかを打ちのめし。
 遥か下へとまどかを叩き落とした。


まどか『が、ぁ……!』

杏子「意外とどうってことなかったね」


 ストン、と着地した杏子がバイクに手を翳すと。
 バイクは収束しソウルジェムの形に収まる。


 杏子はソウルジェムを胸に着け直すと、槍を振って歩み寄る。


杏子「さーて、宣言通りソウルジェムを――」

杏子「!」


 一瞬の油断、ソウルジェムを付ける一瞬の隙を付き、飛び起きたまどかが矢を穿つ。
 杏子は慌てて身体を逸らし、矢を避ける。

 桃色の軌跡が、杏子の頬に傷をつけた。

235: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:55:30.27 ID:E8lC6QYE0

まどか『……』

杏子「は、はははっ! 面白れぇ! まだやるかい!?」

まどか『ええ』

まどか『もう、分析は完了したわ』

杏子「でもあたしのショートワープにどう対応」

まどか《幾重もの時間遡行の中で、私はただひたすらあいつに勝つためだけにトライ&エラー&アナライズを繰り返してきた》

杏子「するってんだ!?」

ほむら《この程度のトリックなど造作も無い!》


 杏子がショートワープでまどかの横に付く。
 その瞬間まどかの回し蹴りが杏子を捉えた。


杏子「かっ……!」

まどか『あなたは私に手の内を見せすぎた、もう十分に対応できるわ』

まどか『ショートワープの出現はノータイムじゃない。気配で出現しようといている場所を察知できる!!』

杏子「くっ、が……はっ!」


 杏子は跳ね飛ばされた勢いで後ろへ飛び退き、槍を杖のように付いて一息つく。


杏子「へっ、なるほどね……。流石は"特別な魔女"」

杏子「ならこいつはどうだい!?」


 杏子は再びソウルジェムを投げ、銀色に輝くバイクを召喚する。
 バイクが唸りを上げ旋回し、杏子が槍を突き出して突撃する。

236: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:56:21.99 ID:E8lC6QYE0

杏子「おらぁ!!」

まどか『ふっ!』


 槍を最小限の動きで躱すほむら。
 直後に真横からバイクが迫る。


まどか『……』

杏子「なっ!」

まどか『呉キリカのような対応のしようがない魔法ならともかく、あなたのバイクなら音と風で容易に位置が察知できる!』


 まどかはバイクに飛び乗ると、さらに跳躍し杏子の頭上へ現れた。
 弓が杏子の頭へ振り降ろされるが、杏子が槍でそれを受け止める。

 直後、まどかの膝が杏子の顔面を捉えた。


杏子「が、はっ! ……ぐっ、ちくしょう!」

まどか『……』

杏子「やってくれたね、暁美ほむら! たかが憑依合体と嘗めてたよ」

杏子「だが、まぁ。ショートワープも波状攻撃もタネが割れたんなら仕方ねぇか」


 杏子は槍にソウルジェムをはめ込むと。
 銀と紅の炎が螺旋状に絡み合う。


杏子「いくぜ、マミ仕込みの2段階オーバーソウルだ」


 杏子が不敵に笑う。
 まどかはそれを眺め、瞳を閉じた。

237: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:57:16.83 ID:E8lC6QYE0

まどか(ほむらちゃん)

まどか《まどか……?》

まどか(代わって)

まどか《でも……》

まどか(どうしても佐倉さんに聞かなきゃいけないことがあるから)

まどか《……わかったわ》


 まどかは一呼吸置くと、杏子をまっすぐ見て問いかける。


まどか「ねぇ、佐倉さん。ちょっといいかな?」

杏子「あんだよ? 今話してるのは鹿目まどかの方か?」

まどか「どうして、どうして佐倉さんは……そんなに酷い目に合ったのに、家族のためにそんな風に戦えるの?」

杏子「……」

まどか「私だったらきっと耐えられない、きっとなにもかも投げ出して嫌になっちゃうと思う。なのにどうして佐倉さんは戦い続けることができるの?」

杏子「さぁ、ねえ。そんなのあたしが聞きたいっつうの」

まどか「……」

杏子「ただ、まぁ。強いて言うなら」

杏子「贖罪だよ」

238: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:58:14.23 ID:E8lC6QYE0

 杏子は1つ自嘲的に笑うと、言葉を続けた。


杏子「あたしが勝手なことを願ったせいで、誰も彼もが不幸になった。大勢の人の都合も考えず、勝手なことをしたせいでその報いを受けた」

杏子「わかってるんだよ。結局また魔女の力を借りて今の不幸を乗り切ろうと、きっとまたデカいしっぺ返しが来るだけだって」

杏子「それでも、もしかしたらさ……全て塗り替えてハッピーエンドになるかもしれない。今までの不幸なんて全部なかったことになるかもしれない」

杏子「魔法ってさ、そういうもんじゃん?」


 杏子が虚ろな目で、乾いた笑いを浮かべる。
 どこか、諦めたような雰囲気で。

239: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 13:59:26.55 ID:E8lC6QYE0

まどか「ねぇ、佐倉さ……ううん、杏子ちゃん」



まどか「あなたは悪くないよ」



杏子「っ!?」

まどか「あなたは悪くない」

杏子「……」

まどか「杏子ちゃんじゃなくて、きっと運とか、タイミングとか……色んなものが悪かっただけなんだと思う」

まどか「杏子ちゃんは家族が、お父さんが大好きだったんだよね。本当にただお父さんの話を聞いて欲しかっただけなんだよね?」

まどか「杏子ちゃんは魔女なんかじゃないよ、お父さんのために祈った魔法少女なんだよ」

まどか「だから、贖罪なんて言わないで。そんな悲しい理由で戦わないで」

杏子「……あたしの願いを否定するってのか?」

まどか「ううん、違うよ」

240: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 14:00:24.47 ID:E8lC6QYE0

 まどかは柔らかい笑顔で、杏子に笑い返した。


まどか「罪滅ぼしのためなんかじゃなくて、幸せの為に願おうよ。もう一度杏子ちゃんの家族みんなで笑いあうために祈ろうよ。その方がきっと素敵だから」

杏子「……また失敗するかもしれねぇんだぞ」

まどか「ううん、きっと失敗しない。不安だったらみんなで一緒に考えよう? マミさんやさやかちゃんも、私のパパやママも交えてみんなで一緒に」

杏子「それに、魔法の力になんか頼ったらまた親父に怒られるかも」

まどか「そのときは私も一緒に謝るよ」

杏子「大丈夫かな」

まどか「大丈夫だよ」

杏子「ははっ、それだったら……。絶対に負けられないね」

まどか「うん、そうだね!」


 杏子は燃え上がる槍をついて、肩を揺らしてクククと笑うと。

 顔を上げてまどかに向き直る。


杏子「そうだ、せっかくだからあんたもオーバーソウルしてみな」

241: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 14:01:38.88 ID:E8lC6QYE0

まどか「えっ! う、うん! でもどうやったらいいか……」

杏子「簡単さ、まず魔女の姿を強くイメージするんだ」

まどか(ほむらちゃん……、いやホムリリィ!!)


 まどかの背後に黒衣の魔女が顕現した。


杏子「そして自分自身と魔女を重ねあわせてイメージする。魔女の力は自分の力、自分の身体は魔女の身体ってね」

まどか(ほむらちゃんと、私を一体に……!)


 魔女はまどかの胸のソウルジェムへ収束する。


杏子「そして……魔女の性質と強く共振する!!」

まどか(ほむ、らちゃん……!)


 まどかの中にほむらの感情が流れ込んでくる。

 それは背徳。
 業を背負い、罪を抱き込み、終わることの無い絶望の螺旋を回り続ける少女の物語。
 時には世界を滅ぼした、時には仲間に手を掛けた、そして時には……自分の全てだった恩人を殺めた。
 交わされた約束を道標に、少女はたった一人で無限の世界線の迷宮を彷徨い続けた。

 そしてその終わりは。
 神すら彼女を見捨てたかのような凄惨な最期。
 彼女のしてきた全ては無駄だったと、全ては恩人に枷を背負わせるだけだったと。
 非情な現実を突きつけられ、彼女は一人絶望に飲まれ異形と化した。


まどか「あっ……」


 気が付くとまどかは泣いていた。

 杏子の方へ向き直ると、ゴシゴシと目を拭う。

242: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 14:02:39.85 ID:E8lC6QYE0

杏子「そこまでできたなら使えるはずだ、その魔女の能力がね」

まどか「うん……。この魔女の能力は」

まどか「条理を、不可能を、絶望を破壊する光」


 まどかの周囲に紫の閃光が奔り、収束し、紫色の矢が弓に番えられる。
 まどかが弓を引き絞り、杏子に照準を合わせる。

243: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 14:03:51.38 ID:E8lC6QYE0

杏子「はっ、いいねぇ。カッコいいじゃん」

杏子「じゃ、あたしも行くか」


 杏子は持っている槍を突き立てると、巨大な槍を召喚する。
 その槍は多節棍のように曲がりくねり、杏子を乗せた穂先が大蛇のように鎌首をもたげる。
 さながら攻城兵器のように巨大なこれは、弓を弾くまどかに狙いを定めた。


杏子「ああ、そうだ。1つ確認しておきたいんだけどさ」

まどか「?」

杏子「あたしが勝ったらあんたのソウルジェムは奪うとして、あんたが勝ったらどうする?」

まどか「そうだね……」

まどか「一緒に戦ってもらう!」

杏子「そうかい……!」

杏子「じゃあ、いくよ!!」

まどか「うん!」


 銀と紅の炎を上げ、砲撃のように放たれた巨大な穂先が。
 まどかの放った黒い矢と激突した。

244: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 14:04:27.09 ID:E8lC6QYE0

 結界が晴れていく。
 そこには大の字に倒れて荒い息をする、2人の魔法少女が居た。


さやか「まどか!」

マミ「鹿目さん!」


 まどかの方に駆け寄る2人。
 そして目を覚ましたほむらがふぅと大きくため息をついた。


ほむら「とりあえず……初勝利おめでとう、まどか」

245: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 14:05:18.58 ID:E8lC6QYE0

杏子「てて、あー……負けちまったか」

杏子(少なくともあれはあたしの中では最強のオーバーソウルだった、それが破られたっていうなら)

杏子「まぁ、しゃーないね」


 杏子がよろよろと起き上ると。
 まどかも起き上る。


まどか「うん、それじゃあ。これからよろしくね、きょ……佐倉さん」

杏子「杏子でいいよ、今更佐倉さんなんて余所余所しい」

まどか「あはは、そうだったね。杏子ちゃん」

マミ「えっ!?」

さやか「どういうこと!?」


 まどかと杏子は瞳を交わし笑いあった。


杏子「それじゃあ早速で悪いけど現実的な話なんだけどさ」

まどか「うん?」

杏子「実はさ、今までずっと織莉子の家に厄介になってたから、あんたの方に付くと宿無しになるんだよね」

杏子「だから」

杏子「養子の話……受けさせてくれない?」

246: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/16(日) 14:06:28.63 ID:E8lC6QYE0

 そのやり取りを、遠目に眺めている2人が居た。
 

織莉子(魔法少女の戦いは、単純に魔法少女の巫力と魔女の魔力だけで決まるわけじゃない)

織莉子(段階の高い戦いに行けば行くほど)

織莉子(心の強さ、信念の強さなど精神的要素が重要になってくる)

織莉子「佐倉さんの信念は、鹿目さんに負けた、ということですか……!」

織莉子「ふふふ、面白い。この短期間で巫術だけでなく精神も成長していっているようですね」

織莉子「それでこそ、我が大願に相対する宿敵に相応しい」


 川辺での5人の様子を。
 あすみは目を見開いてただ眺めていた。


あすみ「嘘でしょう、杏子お姉ちゃん……?」


 織莉子は1つ冷笑すると。
 あすみに囁きかける。


織莉子「養子の話、受けるみたいですね」

織莉子「ふふふ、いいじゃないですか。あんなに優しそうな家族なんだから」

織莉子「きっと、佐倉さんは幸せになれますよ?」

あすみ「嘘だ!!」

あすみ「杏子お姉ちゃんはきっとすぐに戻ってくる! 養子なんて上手くいかないに決まってる!!」

織莉子「そうですね」

織莉子(運命の車輪は回り始めた、さて世界を導くのは闇か光か。見物ですね……!)

251: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 07:57:50.71 ID:ecyXlm1f0

 数日後。
 あれ以来、特にヒュアデスは襲ってくることは無く。
 杏子はお互いにたどたどしいながらも、温かく鹿目家へ迎えられる。

 そしてこの日。

 杏子は見滝原中学に通うことになった。

252: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 07:58:20.26 ID:ecyXlm1f0

 ファーストフード店にて。
 4人は集まっていた。


まどか「流石に同じクラスにはなれなかったね」

杏子「同じ住所の奴がクラスに2人もいたら怪しまれるって、学校の配慮ってやつだよ」

仁美「杏子さんは何も注文なさいませんの?」

杏子「流石に居候してる身だからね……、貰ったお小遣いを気軽に使うのも気が引けて」

さやか「しょーがない、今日はこのさやかちゃんが奢ってあげよう!」

杏子「マジかい、サンキュ! じゃあこれとこれとこれと……」

さやか「ちょ、ちょい待ち! 2つまで2つまで!!」

253: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 07:58:51.32 ID:ecyXlm1f0

 席に着いた4人は談笑に花を咲かせていた。


杏子「でさー、その男子がやたらしつこく聞いてきて――

仁美「まぁ! きっとその方は杏子さんに想いを寄せているのですわ!」

杏子「ちょ、ちょっと勘弁してよ! あたしまだそういうのガラじゃないし」

まどか「あはは」

さやか「うんうん、恭介もそれくらい積極的ならよかったのにねぇ。なーんで美少女2人からこんなに尽くされてるのに気付かないんだか……って」

さやか「じゃなぁーーーーーーーい!!」

まどか「うわっ!」

仁美「どうされましたのさやかさん!?」

さやか「なんであたし達はヒュアデスと一緒に登下校して、帰りにファーストフード店で仲良く恋バナやってるんだぁああああああ!!」

杏子「……もうあたしはヒュアデスをやめてこっちに付いたって言ってるじゃん」

まどか「そ、そうだよ! 杏子ちゃんはもう味方だよ!」

さやか「そんなの信じられるかぁ! まどか、ついこの間あんたはこいつに殺されかけたんだよ! 2回も!」

まどか「そ、そうだけど……」

仁美「そうですわね、私も少し警戒が足りないと思ってましたが」

さやか「どーせこいつはスパイかなにかに決まってるよ! こっちの内情を覗いて寝首掻こうとしてるに決まってる!!」

杏子「……別にあんたにそう思ってもらっても構わないよ」

さやか「なにぃ!!」

杏子「所詮、部外者だろ?」

さやか「っ!!」

仁美「さやかさん!!」


 さやかは突然駆け出して、ファーストフード店から出て行った。

254: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 07:59:29.10 ID:ecyXlm1f0

まどか「ご、ごめんね杏子ちゃん。さやかちゃんは悪い子じゃないの。私の心配をしてるだけで……」

杏子「別に気にしちゃいないよ。それよりもあいつこんなに残していきやがって」


 杏子はさやかの食べかけのハンバーガーを頬張る。


仁美「確かに少し妙ですわね、普段はあんなに突っかかる方じゃありませんのに……」

杏子「……」

まどか「あ、あの! そういえば仁美ちゃん。そろそろ時間大丈夫?」

仁美「え? ああそうですわね。そろそろお稽古の時間ですし失礼させていただきます」

まどか「じゃあ、杏子ちゃん。私達も行こう?」

杏子「ああ、ほむらとマミはもう呼んでるのか?」

まどか「うん、今から行ってちょっと早く着くくらい」

255: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 08:00:13.60 ID:ecyXlm1f0

 夕方、河川敷。
 さやかは制服のまま一人、トボトボと歩いていた。


さやか「はぁー、家に居ても落ち着かないよ……」

さやか「なんであたしツンケンしちゃってるんだろ」

さやか「……」

さやか(なんなんだろう、あの杏子って奴)

さやか(後から現れたくせに、敵のくせに……いつの間にかあたしよりもずっとまどかに近い所に居る)

さやか「ん、あれは……」


ほむら「準備OKよ、まどか」

まどか「よし、オーバーソウル!」

マミ「ここまでは安定してできるようになってきたわね」

杏子「おーし、今日は模擬戦でもやってみるかい?」

まどか「う、うん!」

杏子「ちょっと派手に暴れるから、結界も張るぞ」

マミ「それじゃあ私はお留守番かしら?」


さやか「……なんで隠れてるんだろ、あたし」

さやか「……」

さやか「帰ろう」

256: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 08:01:00.62 ID:ecyXlm1f0

 夜、まどかの部屋。
 とりあえず相部屋ということで、杏子とまどかは同じ部屋に寝ていた。


杏子(あすみ……)

まどか「ねぇ杏子ちゃん、まだ起きてる?」

杏子「ん、なにさ?」

まどか「あすみちゃんっていう子について教えて欲しいなって」

杏子「……」

まどか「あの、ね。この前戦った……っても言えないんだけど。その時にすっごく私を見て怒ってたから、何かあったのかなって……」

杏子「怒ってたんじゃないよ、あれは逆恨みだ」

まどか「逆恨み?」

杏子「あすみは、あいつはあたしよりずっと酷い目に合ってるんだ」

258: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 08:02:08.44 ID:ecyXlm1f0

杏子「あすみは元々普通の女の子だった、親父とお袋さんと一人娘の普通の家庭でさ」

杏子「でもある日親父の浮気が原因で離婚したんだそうだ、その時お袋さんの方に引き取られたらしい」

杏子「お袋さんと二人暮らしになったけど、それでも幸せだったんだそうだ」

まどか「……」

杏子「でも、ある時お袋さんが倒れた。過労が原因でね。子育てと仕事の二足草鞋が負担になってたらしい」

杏子「死んじまったんだって」

まどか「っ!!」

杏子「それで親戚に引き取られたらしいんだけど、この親戚がとんでもないロクデナシでね。
    毎日毎日あすみを虐待していたんだ。その内容はあたしも耳を覆いたくなるほどだった」

まどか「……っ!」

杏子「新しい学校でも上手くいかなかったらしくてね。虐められてたらしい」

杏子「どこにも逃げ場が無くなって、心も体もボロボロになったあすみは、最後の助けを求めて親父の所へ行ったんだそうだ」

杏子「でも」

杏子「その親父は、既に浮気相手と幸せな家庭を築いていた。あすみが行っても邪魔者にしか見られなかったんだそうだ」

杏子「とっくに見捨ててたんだよ、親父はあすみを」

杏子「その親父はあすみになんて言ったんだと思う? 『俺のところに来るなよ迷惑だ』『お前はもう俺とは関係ない』だってよ」

杏子「全てに絶望したあすみは、自分以外の人間の幸せというものを無差別に憎み始めた。ただひたすらに他人の不幸を求め始めた」

杏子「そんな時に、ジュゥべえが現れたんだそうだ。そしてあすみは契約した」

杏子「自分以外の人間を不幸にさせる力が欲しいってね」

260: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 08:02:46.11 ID:ecyXlm1f0

杏子「そうして手に入れた魔女の力で、あすみは自分を虐待していた親戚の奴等、そして親父に復讐した。全員を病院送りにして、中には完治しない障害を負わせてやった奴もいたらしい」

杏子「そんなあいつがヒュアデスに行く理由なんて考えるまでもねー」

杏子「これが、あたしの知ってるあすみの顛末だ」

まどか「……ぅ、うう」

杏子「って、おい。あんた泣いてるの?」

まどか「酷いよ、そんなのってないよ……。あんまりだよ……」

杏子「……」

まどか「どうにかできないの? なんとかしてあげられないの……?」

杏子「さーね、だけどさ。これだけは言っておく」

杏子「今度あいつに会った時は、容赦するな。あいつは本気で人類の破滅を望んでる」

まどか「!!」

杏子「あいつを助ける助けない以前にさ、負けたら世界が終わっちまうんだよ。それだけは忘れんな」

まどか「……」

杏子「わかったらもう寝ようぜ」

まどか「うん……」

262: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 08:03:29.23 ID:ecyXlm1f0

 まどかも杏子も眠れずにいた。
 暗い天井を眺めながら杏子は思う。


杏子(あたしは今まで、離れて行った妹とあすみを重ねてきた)

杏子(あたしは初めからヒュアデスを裏切る腹積もりだったのに、あいつと仲良くなって中途半端に希望を持たせた)

杏子(そして、今のあたしの状況は)

杏子(あすみの反転そのものだ)

杏子(引き取られた親戚の家ではそこそこ良くしてもらって、学校にも仲間が居て、離散はしたがまだ家族にも希望は残ってる)

杏子(今のあたしをあすみが見たらどう思うんだろうか?)

杏子「……」

杏子(駄目だな、悪い方にしか考えが浮かばないわ)

杏子(寝よう)

264: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 08:03:57.62 ID:ecyXlm1f0

 美国邸にて。
 あすみは窓際であすみは物思いに更けっていた。
 欠けた月の光が幼い横顔を照らす。


あすみ「……」

織莉子「いい子は寝る時間よ?」

あすみ「あすみにそれ言いますか?」

織莉子「ふふふ、そうね。いい子にはもったいない夜ね。はい、ココアでよかったかしら?」

あすみ「どうも」

織莉子「お月様と何をお話ししていたのかしら?」

あすみ「……契約したときのことを」

267: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 08:04:41.86 ID:ecyXlm1f0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 夕焼けに染まる電柱の上。
 キュゥべえとジュゥべえが会話をしていた。


キュゥべえ「やれやれ、ジュゥべえ。君はまだ魔法少女の候補を見つけていないのかい?」

ジュゥべえ「い、いやいやキュゥべえさん! オイラだって、その……」

キュゥべえ「……」

ジュゥべえ「すいません」

キュゥべえ「仕方ないね、ほら。そこへ行ってごらん。そこに神名あすみという子がいる。彼女は現在絶望している、魔女と契約するなら今だ」

ジュゥべえ「あ、ありがとうございます! では行ってきます!」

キュゥべえ「今情報を……ってもう居ないや」

269: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/19(水) 08:05:15.03 ID:ecyXlm1f0

 夕方。
 学校から一人帰路につくあすみが居た。


あすみ(嫌だ帰りたくない、あの家はもう嫌だ)

あすみ(嫌だ、汚い、どいつもこいつも汚い、死ねばいいのに、死ねばいいのに)


 あすみの目の前を楽しげに会話して歩く同級生が通る。


あすみ(死ね)

あすみ(どうして私はこんなに辛いのに、あいつ等はあんなに楽しそうなんだ)

あすみ(あいつ等だけじゃない、お父さん……いや。あの男も)

あすみ(あの男は私が殴られている間も、私が汚されている間も、ずっと幸せに暮らしてたんだ)



あすみ(憎い憎い憎い憎い憎い妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい)



ジュゥべえ「よう、はじめましてあすみ! オイラの名はジュゥべえ!」

あすみ「!」

ジュゥべえ「オイラと契約して魔法少女になってくれ!」

あすみ(幻覚?)