1: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:14:43.53 ID:JjihbRFAO
「進撃の巨人 Before the fall」のネタバレを含みます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370268883

引用元: ゼノフォン「不粋な方ですね。」 

 

進撃の巨人 Before the fall(6) (シリウスKC)
士貴 智志
講談社 (2015-08-07)
売り上げランキング: 448
2: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:15:32.00 ID:JjihbRFAO
―850 夜 調査兵団宿舎の中庭―

ジャン「はぁ~・・・」

ジャン(あぁ、最悪だぁ。なんで調査兵団なんか選んだんだ俺は・・・)ドヨ~ン

ジャン(憲兵になって内地で悠々自適に過ごす人生プランが・・・)

ジャン(それもこれも、全部あの死に急ぎ野郎と・・・)



――僕はジャンの方が指揮役に向いてると思うな



ジャン(・・・お前のせいだぞ、マルコ)



――ジャンは・・・強い人ではないから弱い人の気持ちがよく理解できる

――それと同じ目線から放たれた指示ならどんなに困難であっても切実に届くと思うんだ




3: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:16:04.54 ID:JjihbRFAO
ジャン(無責任な過大評価してくれやがって・・・)

ジャン(下手すりゃ一ヶ月後の壁外遠征でお前んトコに行くかも知れねぇ。その時はお前、一発殴らせろよ。)

ジャン「はぁ~~~~~」ズ~ン



ザッ ザッ ザッ



???「んっ? 君は・・・」

ジャン「えっ?」

???「ジャン・キルシュタインだったかな?」

ジャン「え、エルヴィン団長!」ビシッ

エルヴィン「こんなところでどうしたんだ?」

ジャン「あっ、いえ、その。少々考え事を・・・」


4: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:16:34.42 ID:JjihbRFAO
エルヴィン「そうか。それは良いが、今夜は冷える。あまり没頭しすぎると風邪を引くぞ。」

ジャン「あ、はい! お気遣いありがとうございます!」ビシッ

エルヴィン「ところで・・・」

ジャン「???」

エルヴィン「その考え事というのは“自分はなぜ調査兵団なんかに入ってしまったんだ”という類いの物かな?」

ジャン「えっ!?」ギクッ

エルヴィン「はははははっ! 図星か?」

ジャン「いや・・・その・・・」

エルヴィン「隠さなくても良い。ほら、向こうのベンチを見てみなさい。」チョイチョイ


5: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:17:05.60 ID:JjihbRFAO
ジャン「向こうのベンチ?」







コニー「あぁ・・・ちくしょう・・・」ドヨ~ン



サシャ「うぅ・・・怖いぃ・・・」ガクガクガク







ジャン「・・・。」

エルヴィン「まぁ、新兵が入団するこの時期には毎年見られる、いわば風物詩だ。」

ジャン「・・・す、すみません。」オドオド

エルヴィン「謝らなくて良い。誰だって死ぬのは怖い。」

ジャン「・・・。」


6: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:17:39.82 ID:JjihbRFAO
エルヴィン「その恐怖に耐えて入団してくれる君たち新兵は本当に貴重な存在であり、我々も感謝している。こうして後悔して落ち込む権利ぐらいいくらでも認めよう。」

ジャン「・・・恐縮です。」

エルヴィン「キースさんから聞いたが、君は元々、憲兵団志望だったそうだな。」

ジャン「えぇ。」

エルヴィン「それがまたどうして調査兵団なんかに鞍替えを?」

ジャン「それは・・・」

エルヴィン「無理に聞く気はない。話したくないなら構わんよ。」

ジャン「・・・・・・一緒に憲兵を目指していた同期がいたんです。」


7: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:18:10.80 ID:JjihbRFAO
エルヴィン「ほぉ。」

ジャン「そいつは、こないだのトロスト区の一件で死にました。」

エルヴィン「・・・。」

ジャン「そいつが生前、言ったんです。自分は指揮役に向いてて、いま何をすべきか察知する力を持ってるって。」

エルヴィン「同期の死を前にして、その力が君に『調査兵団を選ぶべきだ』と語りかけた?」

ジャン「・・・・・・分かりません。ただ、何となく憲兵団に行く気が萎えたと言うか・・・」

エルヴィン「そうか。」

ジャン「・・・。」

エルヴィン「・・・調査兵団は難儀な仕事だ。」

ジャン「えっ?」


8: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:18:46.19 ID:JjihbRFAO
エルヴィン「仲間と寝食を共にし、死線を潜り抜ける。そうする事で絆が芽生えるが、だからこそその仲間に先立たれた時の辛さは筆舌に尽くしがたい。」

エルヴィン「かと言って、その辛さから逃げる為に絆の構築を放棄してしまってはチームワークが乱れ、自分の命すら失いかねない。」

エルヴィン「とどのつまり、我々はいつ死ぬか分からない仲間との間に固い絆を築かなくてはならない集団なんだ。面倒くさいだろ?」

ジャン「・・・。」

エルヴィン「だからこそ、そうやって仲間を想いやれる君は調査兵団に向いていると思う。」


9: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:19:51.00 ID:JjihbRFAO
ジャン「いえっ! 自分はそんなんじゃ・・・」

エルヴィン「ふふっ。すまんすまん。いきなりこんな事を言われても、新兵にとってはプレッシャーにしかならんな。」

ジャン「・・・。」

エルヴィン「君の訓練兵時代の成績には目を通させてもらった。立体機動が得意だそうだな。」

ジャン「と、得意と言えるほどではありませんよ!」

エルヴィン「いや、十分得意と言って差し支えないレベルだろう。少なくとも立体機動においてはミカサ・アッカーマンに次ぐ第2の実力者だと。私は君の事をそう見ている。」


10: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:20:31.55 ID:JjihbRFAO
ジャン「きょ、恐縮です・・・」

エルヴィン「・・・・・・ところで、知っているかな?」

ジャン「何をですか?」

エルヴィン「立体機動装置が作り出されるまでの過程にも、これまた汗臭い友情やら絆といった物が絡んでいるんだ。」

ジャン「そうなんですか?」

エルヴィン「あぁ。もちろん私も先輩方から伝え聞いただけで、実際に当時の事を知っているワケではないがな。」

ジャン「はぁ・・・」












11: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:21:08.55 ID:JjihbRFAO
―7?? シガンシナ区のアパート―

コンコンッ



ゼノフォン「入りますよ。」

アンヘル「おぅ。」



ガチャッ



ゼノフォン「具合はいかがですか?」

アンヘル「まぁまぁ良くなってきた・・・かな?」

ゼノフォン「そうですか。」

アンヘル「少なくとも痛くない箇所が数えられる程度にはな。」

ゼノフォン「・・・。」

アンヘル「へへへっ。」

ゼノフォン「・・・・・・視力は相変わらずですか?」

アンヘル「そうだな。光を感じるぐらいはできるが、それだけだ。はっきり言ってお前の顔の輪郭すら分かりゃしない。医者の話じゃ、ここから少しは回復する可能性もあるみたいだけどな。」


12: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:26:00.53 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「そうですか。もし多少なりとも回復した時はご一報下さい。私が贔屓にしている眼鏡屋をご紹介しましょう。」

アンヘル「おぅ。頼むぜ。」

ゼノフォン「お任せあれ。さて、時候の挨拶はこのぐらいにして、本題に入りましょうか。」

アンヘル「〈装置〉の改良点か?」

ゼノフォン「えぇ。貴男(あなた)が非戦闘要員である点と〈装置〉が試作品だった点を鑑みても、一体の巨人を倒すのにこんな命辛々といった有り様では到底実用には向かないでしょう。かと言って、視力を患っている貴男一人で改良を施すのは現実的ではありません。私の協力が必要でしょう?」


13: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:26:34.56 ID:JjihbRFAO
アンヘル「まぁ、全くもってその通りだが・・・・・・良いのか?」

ゼノフォン「何がです?」

アンヘル「いや、ほら。まだ調査兵団の解散や扉の封鎖が撤回されたワケじゃないだろ? もしかしたら俺に協力したところで、何の旨味もない徒労に終わるかも知れないってのに。」

ゼノフォン「あぁ、それに関して私はどちらの線もないと考えてますので。」

アンヘル「えっ?」

ゼノフォン「確かに今回の貴男たちの行動は前代未聞の暴挙ですが、巨人が殺せる存在だと証明したこと自体は大きな前進です。」


14: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:27:03.35 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「政府の革新派がこれを武器としないハズはありませんし、シガンシナ区においては先般の巨人の一件と相まってホルへを英雄視する向きも散見されます。」

アンヘル「保守派からすりゃ、やりづらい状況って事か?」

ゼノフォン「そうです。まぁ、ホルへが今の職に居続ける事は難しいかも知れませんが、おそらく調査兵団の解散は撤回され、当分の遠征凍結程度に留まるのではないかというのが私の所見です。」

アンヘル「なるほどな。で、扉の封鎖の件は?」


15: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:28:19.05 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「それはもっと簡単ですよ。人間が壁に手を加えるとなれば、黙ってない方々がいるでしょう?」

アンヘル「あ~、お壁様か。」

ゼノフォン「はい。これに関しては私、最初から絶対無理だろうと思ってます。」

アンヘル「確かに。」

ゼノフォン「ですので、貴男の〈装置〉改良に協力し、それが実用化された場合、私には十分旨味があります。それに・・・」

アンヘル「それに?」

ゼノフォン「せっかくの黒金竹と氷爆石を従来通りの大砲や銃に流用するのは、何の面白味もない不粋な宝の持ち腐れでしかありません。その点は貴男にも共感してもらえるでしょう?」


16: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:29:23.12 ID:JjihbRFAO
アンヘル「そりゃ確かにそうだ。」

ゼノフォン「貴男の〈装置〉に対抗する新技術の開発を行えれば願ったりですが、今の工房の懐具合から言って新たに予算を組むのは難しいですからね。」

アンヘル「そうだな。」

ゼノフォン「それで? 具体的にどのような改良を?」

アンヘル「あぁ。やっぱり一番の急務は操作装置と武器の一体化だな。」

ゼノフォン「と言いますと?」

アンヘル「巨人の弱点がうなじである以上、素早く背後へ回り込める機動力が必要だ。それに、空中で不測の事態に対応しなきゃならない場面だって出てくる。って事は、両手に操作装置を構えて横軸の動きができなきゃ意味がないって事だ。」


17: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:29:51.14 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「つまり、両手が操作装置で塞がってしまうワケですね?」

アンヘル「あぁ。だから操作装置と武器を一体化させる必要がある。」

ゼノフォン「武器を携えて空中を自在に飛び回る。さながら神話に出てくる戦乙女ですね。」

アンヘル「無謀だと思うか?」

ゼノフォン「えぇ。だからこそ、開発者魂が刺激されます。」ニヤリッ

アンヘル「お前ならそう言うと思ったよ。」

ゼノフォン「他には何かありますか?」

アンヘル「あとは武器の強度だな。さすがの黒金竹製の短刀も、巨人の骨を相手にしたら折れちまった。」


18: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:30:35.65 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「それは単に貴男に剣術の覚えがなくて、短刀を力任せに扱ったからでは?」

アンヘル「それも一理ある。けど、〈装置〉が本格的に導入されて戦術が確立されれば、ホルへみたいな達人レベルの奴は1日で巨人を何体もぶった斬る事になるだろ? そうなりゃ、もう剣の技術云々の話じゃなくなってくる。どんな名刀も繰り返し使えば刃こぼれしちまうんだから。」

ゼノフォン「なるほど。確かにそうですね。しかし、そうなると黒金竹の含有量を増やして強度を上げたりしても、もはやいたちごっこ。」


19: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:32:08.99 ID:JjihbRFAO
アンヘル「あぁ。それよりは予備の武器をいくつか持ち歩いた方が効率が良い。」

ゼノフォン「そうなりますね。けれど、操作装置が武器を兼ねる以上、その予備という事は〈装置〉自体を複数持ち歩く事になってしまう。それは現実的ではありませんから・・・」

アンヘル「〈装置〉はそのままに武器だけを予備で持ち歩く。」

ゼノフォン「アタッチメント式の替え刃・・・ですか?」

アンヘル「さすが、よく分かってるな。そして、両手に操作装置を持つからには二刀流だ。」

ゼノフォン「・・・ふふふっ。少し原型が見えてきましたね。」ニヤリッ

アンヘル「だな。」


20: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:41:38.16 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「分かりました。では、今の話を参考に試作品の製作に入りましょう。1週間ほど猶予を下さい。」

アンヘル「助かる。」

ゼノフォン「いえいえ。では、今日はこれで失礼します・・・・・・っと、そうだ。」

アンヘル「ん?」

ゼノフォン「その〈装置〉、名前はどうするんですか? まさか〈装置〉が正式名称って訳ではないでしょう?」

アンヘル「あ~、ホルへにも同じ事訊かれたな。」

ゼノフォン「決まってるんですか?」

アンヘル「ん~、まぁな。立体的な動きを実現する装置だから〈立体機動装置〉じゃないかって。その場での思い付きだけどな。ホルへにはそう話した。」

ゼノフォン「〈立体機動装置〉ですか。ふむ。悪くないですが・・・」

アンヘル「何だよ?」

ゼノフォン「私が考えていた〈ワルキューレマシーン〉も捨てがた」

アンヘル「却下。〈立体機動装置〉。はい、決定。」








21: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:42:08.41 ID:JjihbRFAO
―10日後―

アンヘル「悪いなマリア。せっかくの休みの日に付き合ってもらっちまって。」

マリア「気にしないで。目の不自由なあなたがシガンシナ区を一人で出歩いてる場面なんて、想像しただけで胃が痛くなるわ。」

アンヘル「だな。俺としてもゾッとしないぜ。」

マリア「治ると良いわね。その目。」

アンヘル「まぁ、望み薄だろ。」

マリア「・・・・・・着いたわ。」

アンヘル「おぅ、助かった。」

マリア「本当に最後まで付き添わなくても良いの?」


22: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:42:34.48 ID:JjihbRFAO
アンヘル「大丈夫だ。帰りはゼノフォンか誰かが送ってくれるだろうからな。お前はもう帰ってゆっくり休め。腹の子の為にな。」

マリア「そう。分かったわ。それじゃ。」クルッ

アンヘル「おぅ。ありがとな。」



スタスタスタ



アンヘル「さてと。」ガチャッ

アンヘル「おぉぉい! オヤジぃ! いるかぁ!?」

カスパル「おぉっ、アンヘル! おめぇ、もう体は良いのか?」

アンヘル「あぁ。まだ少し痛みはあるが、出歩く分には問題ない。まぁ、視力だけは相変わらずだけどな。」

カスパル「そうか・・・勿体ねぇな。」


23: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:43:34.61 ID:JjihbRFAO
アンヘル「良いんだよ。俺は後悔してない。だからそんな面すんなよハゲオヤジ。」

カスパル「やかましいわ!」

アンヘル「へへへっ。ところで、ゼノフォンはいるか?」

カスパル「おう、いるぜ。というか、ついさっき帰ってきたばかりだ。」

アンヘル「どこか行ってたのか?」

カスパル「10日前から工場都市に出向いて何か作ってたらしい。」

アンヘル「工場都市?」







―工房内―

ゼノフォン「まぁ、お座りなさいな。」ズイッ

アンヘル「工場都市に行ってたんだって?」ヨッコイセ


24: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:44:40.87 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「えぇ。先般の調査兵団の一件があって、材料の流通が再開されたと聞きましてね。発注して納品を待つより、直接向こうに行った方が早いと思ったんです。それに向こうの方が開発の設備も整ってますから。」

アンヘル「なるほどな。」

ゼノフォン「まぁ、しかし、そのせいで貴男との約束を3日も過ぎてしまいました。納期に遅れるなど開発者の名折れ。深くお詫びします。」

アンヘル「いや、良いって。納期も何も、知り合い同士の口約束だろ。そんな気にする事はねぇよ。」

ゼノフォン「お気遣い痛み入ります。」


25: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:45:36.66 ID:JjihbRFAO
アンヘル「それで? 進捗状況は?」

ゼノフォン「ふふふっ。」

アンヘル「・・・。」

ゼノフォン「ふっふっふっふっふっ。」

アンヘル「上手くいったんだな。」

ゼノフォン「はい。」

アンヘル「普通に言えよ。」

ゼノフォン「すみません、あまりの達成感に笑いが禁じ得ませんでした。」

アンヘル「へぇ~、そんなにか?」

ゼノフォン「10日前に二人で擦り合わせた原型にかなり近付けたと自負しています。いま持ってきますから少々お待ちを。」














ゼノフォン「操作装置です。どうぞ持ってみて下さい。」スッ

アンヘル「どれどれ?」ニギニギ


26: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:46:44.96 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「どうです? 分かりますか?」

アンヘル「あぁ。大体は分かる。サーベルの柄みたいな形になったんだな。」

ゼノフォン「そうです。従来の操作装置はアンカーを射出する事のみが目的でしたので、銃のような形をしていましたね。」

ゼノフォン「しかし、この改良型は武器としての使用を前提としてますので、握って振り回しやすいよう、そのようなフォルムに仕上げました。」

アンヘル「なるほど。そんで、その武器の部分は?」

ゼノフォン「はい。それはこちらです。」ゴソゴソ


27: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:48:04.83 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「どうぞ。切れ味が鋭いですから気をつけて持って下さい。」スッ

アンヘル「これは・・・・・・薄いな。それに、しなる。黒金竹をここまで加工したのか?」

ゼノフォン「いえ、それは超硬質スチールです。」

アンヘル「超硬質スチール。そうか。これを作る為に工場都市へ。」

ゼノフォン「えぇ。超硬質スチールは工場都市の高炉がないと作れませんから。」

アンヘル「なるほどな。けどこれ、黒金竹に比べると強度は落ちるんじゃ・・・」

ゼノフォン「えぇ、かなりね。でも、もうこの際落ちても良いかなぁと思いまして。」


28: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:49:01.41 ID:JjihbRFAO
アンヘル「えっ?」

ゼノフォン「壊れる事を前提に予備をいくつも持ち歩く。それは逆に言えば『壊れても良い』って事ですよね?」

アンヘル「まぁ、極論はな。」

ゼノフォン「だったら、もう強度の向上に頭を悩ませるよりは、軽量化を図ってたくさん持ち歩けるようにする事と、巨人を確実に葬れる切れ味。この2つを追求した方が建設的だと思ったんです。」

アンヘル「なるほど。その点に関しちゃ超硬質スチールは打ってつけだ。」

ゼノフォン「でしょう?」

アンヘル「あぁ。それで、その刃を操作装置に接続する訳か。」


29: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:49:54.39 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「そうです。刃を柄に差し込んで・・・」カチッ

ゼノフォン「この様になります。」スッ

アンヘル「どれどれ・・・・・・うぉっ、軽いな。」

ゼノフォン「その軽さなら、複数枚の替刃を持ち歩いても重量的な負担にはならないだろうと考えてます。」

アンヘル「確かに。これなら女の子でも扱えそうだ。」

ゼノフォン「あとは替刃をどうやって持ち歩くのか。それが課題ですね。これについてはもう少し時間が欲しいところです。」

アンヘル「さすがだなゼノフォン。たった10日でここまで進むとは。」


30: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:55:47.30 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「いえ、納期に遅れた上に完成さえ遅れたのは開発者の風上にも置け」

アンヘル「もう納期の話は良いって! ホント、変なトコは真面目だな!」

ゼノフォン「失礼な。全面的に真面目なつもりですが?」

アンヘル「よく言うぜ・・・・・・なぁ。」

ゼノフォン「はい?」

アンヘル「1つ訊いても良いか?」

ゼノフォン「何でしょう?」

アンヘル「何でお前、俺に協力したんだ?」

ゼノフォン「へっ? 先日お話ししたでしょう? 貴男に協力しても十分旨味はあるし、今の工房の経営状況では」


31: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:56:18.92 ID:JjihbRFAO
アンヘル「違う。それよりもっと前の段階で、だよ。」

ゼノフォン「・・・っ」

アンヘル「もともと黒金竹と氷爆石を使った新しい武器の開発を命じられた時点じゃ、俺とお前は別々で動いてたハズだ。だけど、途中からお前は俺の〈装置〉の改良に積極的に協力しだした。」

ゼノフォン「そうでしょうか?」

アンヘル「俺の記憶が確かなら、それはシガンシナ区に巨人が侵入した後からだったと思う。」

ゼノフォン「・・・。」

アンヘル「俺に協力する旨味が云々とか、本当にそんな打算的な理由だけなのか?」


32: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:58:07.64 ID:JjihbRFAO
ゼノフォン「・・・。」

アンヘル「・・・。」

ゼノフォン「・・・。」

アンヘル「・・・。」

ゼノフォン「・・・・・・やれやれ。不粋な方ですね。」

アンヘル「えっ?」

ゼノフォン「そういう貴男はどうなんですか?」

アンヘル「何が?」

ゼノフォン「初めはお互い、いつも通り調査兵団からの依頼を受けて開発に乗り出した。つまり、ただの仕事という認識だったハズです。」

アンヘル「そうだな。」

ゼノフォン「けれど、あの日を境に貴男の中で、それは単なる仕事以上の意味を成すようになったのではないですか?」


33: ◆51UnYd7yHM 2013/06/03(月) 23:58:59.08 ID:JjihbRFAO
アンヘル「・・・そうだな。」

ゼノフォン「コリーナと・・・」

アンヘル「・・・ソルムの敵討ちだ。」

ゼノフォン「でしょう?」

アンヘル「お前もか?」

ゼノフォン「愚問ですね。」

アンヘル「・・・そうか。」

ゼノフォン「まぁ、私はソルムとはそこまで深い付き合いではありませんでしたので、貴男とまったく同じ心中とは言い難いでしょう。」

ゼノフォン「ですが、私がコリーナに対して仲間意識を持っていなかったとでもお考えですか? 仲間が目の前で原型も留めないほど変わり果てたのを見て、何も感じなかったと?」


34: ◆51UnYd7yHM 2013/06/04(火) 00:00:01.55 ID:LdHmvj4AO
アンヘル「・・・。」

ゼノフォン「自他共に認める変人の私ではありますが、中身は人間なんですよ。」

アンヘル「・・・。」

ゼノフォン「・・・・・・こんなみっともない事、一回しか言わないからよく聞いて下さいよ。そして聞いた後は即刻忘れて下さい。」







ゼノフォン「私はね、大切な仲間を奪った巨人の糞野郎をぶち殺してやりたいんですよ。」







アンヘル「・・・・・・だよな。」


35: ◆51UnYd7yHM 2013/06/04(火) 00:01:05.91 ID:LdHmvj4AO
ゼノフォン「その上で貴男の〈装置〉・・・いや、〈立体機動装置〉はもっとも有効だと、私の開発者としての経験が訴えかけたんです。」

ゼノフォン「まぁ、そういう意味では打算ですね。コリーナの敵討ちという私の願望を叶えるために、貴男に協力した次第です。」

アンヘル「そうか。」

ゼノフォン「まったく。このシャイな男を捕まえてこんな台詞を言わせるなんて、貴男はつくづく不粋な方だ。」

アンヘル「悪かった。」

ゼノフォン「良いですよ。その変わり、いま申し上げた台詞は絶対に忘れる事。良いですね?」


36: ◆51UnYd7yHM 2013/06/04(火) 00:02:07.68 ID:LdHmvj4AO
アンヘル「・・・分かった。」

ゼノフォン「では、替刃運搬の件を詰めなければいけませんので、私はこれで失礼します。帰りは誰か手の空いてる者に送らせますよ。」スクッ

アンヘル「悪いな。頼むぜ。」

ゼノフォン「はい。それでは。」

アンヘル「・・・ゼノフォン。」

ゼノフォン「はい?」

アンヘル「・・・絶対に、巨人をぶっ殺そうな。」

ゼノフォン「当たり前です。開発者を怒らせたらどうなるか、巨人たちに思い知っていただかなくては。」







―850 調査兵団の宿舎―

エルヴィン「その後、アンヘルとゼノフォンの共同開発によって立体機動装置は完成をみた。ただし、現在のような体系立った立体機動訓練も確立されていない時代だった為、その扱いは困難を極めた。結果、兵士の正規装備として採用されるまでに15年の歳月を要したらしい。」


37: ◆51UnYd7yHM 2013/06/04(火) 00:05:22.11 ID:LdHmvj4AO
ジャン「そんな経緯が・・・」

エルヴィン「まぁ、これは巨人との戦闘に役立つ知識ではないからな。座学では習わなかっただろう。」

ジャン「はい。」

エルヴィン「それはそれで別に構わないと思うが、さっきも話した通り、調査兵団は絆やチームワークが不可欠な兵科だ。ならば、立体機動装置にまつわるこの逸話も知っておいて損はないだろうと思ってな。私は毎年こうして、機会があれば新兵にこの話を聞かせているんだ。」

ジャン「そうなんですか。」

エルヴィン「せっかく考え事をしていたのに無駄話に付き合わせて、すまなかったな。」


38: ◆51UnYd7yHM 2013/06/04(火) 00:06:16.95 ID:LdHmvj4AO
ジャン「い、いえ! とんでもない! 興味深いお話でした。ありがとうございます。」

エルヴィン「ふふふっ。まぁ、兎にも角にも、立体機動装置にはそういった先人達の魂が込められているんだ。我々は彼らの魂や絆を背負って巨人と戦っている。」

エルヴィン「その立体機動装置をこうも上手く扱える君は、やはり色んな意味では調査兵団に向いていると私は思っているんだよ。」

ジャン「はぁ・・・」

エルヴィン「おっと。すまんすまん。また余計なプレッシャーを与えてしまったな。はははははっ。」


39: ◆51UnYd7yHM 2013/06/04(火) 00:07:35.41 ID:LdHmvj4AO
エルヴィン「おっと、そんな話をしている内に、もうすっかり良い時間になってしまったな。」

ジャン「えっ? あ、本当ですね。」

エルヴィン「さぁ、今日はこの辺でお開きにしよう。私は部屋に戻る。君も風邪を引かないうちに戻りなさい。」

ジャン「分かりました。」

エルヴィン「では、お先に失礼するよ。」スクッ

ジャン「あ、はい!お話ありがとうございました!」ビシッ



スタスタスタ



ジャン「・・・・・・。」



――今、何をすべきかが明確にわかるだろ?




40: ◆51UnYd7yHM 2013/06/04(火) 00:08:48.96 ID:LdHmvj4AO
ジャン(“誰々の死を無駄にしない”なんて、生き残った奴の不幸自慢だとばかり思ってたぜ。)

ジャン(でも、ようやく分かった。マルコ。俺はお前みたいな人間をこれ以上増やしたくないらしい。)

ジャン(この目に映る人を、もう誰も死なせなくないって。そして、俺にはその力があるって、お前が無責任に言いやがったばっかりにな。)

ジャン(まったく。お前は俺の人生のターニングポイントなのか、それとも単なる疫病神なのか、一体どっちだ?)



ジャン「はぁ~~~~~」









ジャン「俺もとんだ死に急ぎ野郎だな。」



おしまい