1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:24:33.15 ID:EMBlCMu00
引用元: ・エレン「巨人のいない世界」
進撃の巨人 ARTFX J エレン・イェーガー (1/8スケール PVC塗装済み完成品)
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2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:25:54.23 ID:EMBlCMu00
『いつもで寝ているつもりなんだ。早く起きろ、アニ』
そう、耳に届いた。
酷く穏やかで、酷く無慈悲な声。
瞼を開けると、ひびの入った結晶越しに、私のかつての同僚の姿があった。
眠り始めてからそれなりに月日は過ぎているようで、その同僚も記憶にある姿より大人びている。
それでも、その者が何者か、一瞬で判断できた。
兵士であったアニ・レオンハートにとって、数少ない友人の一人だったのだから。
「よう、俺がわかるか?」
そう、耳に届いた。
酷く穏やかで、酷く無慈悲な声。
瞼を開けると、ひびの入った結晶越しに、私のかつての同僚の姿があった。
眠り始めてからそれなりに月日は過ぎているようで、その同僚も記憶にある姿より大人びている。
それでも、その者が何者か、一瞬で判断できた。
兵士であったアニ・レオンハートにとって、数少ない友人の一人だったのだから。
「よう、俺がわかるか?」
4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:31:13.37 ID:EMBlCMu00
「エレ……ン……」
エレン・イェーガーの名前を呟くだけで、私を守っていた結晶が砕けてしまった。
大した高さではないが、私は地面に落下する。
なんとかバランスを保って着地し、改めてエレンに視線を向けた。
少しずつ私の頭は覚醒し始めると、同時に強い危機感を覚えた。
どこだかわからないが、ろうそくの明かり一つしかない部屋。
窓は存在せず、ここまで薄暗い状態では、巨人化する事は困難だ。
仮になれたとしても、ここが深い地下ならば、身動きが取れなくなる。
今視界にいるのはエレンだけだが、どこに他の兵士が隠れているかわからない。
僅かでも油断できない状態だと私は判断し、気を引き締める。
だが、胡坐を掻いて座っているエレンは、落ち着いた様子で口を開いた。
「ここにいるのは俺だけだ」
エレン・イェーガーの名前を呟くだけで、私を守っていた結晶が砕けてしまった。
大した高さではないが、私は地面に落下する。
なんとかバランスを保って着地し、改めてエレンに視線を向けた。
少しずつ私の頭は覚醒し始めると、同時に強い危機感を覚えた。
どこだかわからないが、ろうそくの明かり一つしかない部屋。
窓は存在せず、ここまで薄暗い状態では、巨人化する事は困難だ。
仮になれたとしても、ここが深い地下ならば、身動きが取れなくなる。
今視界にいるのはエレンだけだが、どこに他の兵士が隠れているかわからない。
僅かでも油断できない状態だと私は判断し、気を引き締める。
だが、胡坐を掻いて座っているエレンは、落ち着いた様子で口を開いた。
「ここにいるのは俺だけだ」
5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:35:30.12 ID:EMBlCMu00
嘘か真か、今の私では判断は難しい。
最悪を想定しつつ、エレンに問う。
「仮に、あんた一人だったとして、なにが目的?」
笑うでも、怒るでもなく、エレンは無表情のまま重そうな腰をあげた。
「お前を俺の手で殺すためだ」
そうだろうね、と私を真っ直ぐ見据えるエレンに言った。
私も立ちあがり、ブレードの柄を握る。
使い物になるかどうかは不明だが、用心に越した事はない。
ここで死ぬわけにはいかないのだから。
どれだけ時間が経ったかわからないが、まだ任務を遂行しているはずのライナーやベルトルトのためにも。
なにより、お父さんの元に帰るためにも。
最悪を想定しつつ、エレンに問う。
「仮に、あんた一人だったとして、なにが目的?」
笑うでも、怒るでもなく、エレンは無表情のまま重そうな腰をあげた。
「お前を俺の手で殺すためだ」
そうだろうね、と私を真っ直ぐ見据えるエレンに言った。
私も立ちあがり、ブレードの柄を握る。
使い物になるかどうかは不明だが、用心に越した事はない。
ここで死ぬわけにはいかないのだから。
どれだけ時間が経ったかわからないが、まだ任務を遂行しているはずのライナーやベルトルトのためにも。
なにより、お父さんの元に帰るためにも。
6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:37:53.32 ID:EMBlCMu00
しかし、無情な言葉をエレンは口にした。
「……ライナーは死んだ。ベルトルトもだ」
一瞬、言葉を失った。
二人は戦士として、私よりも優秀だった。
なにより、あの二人がいなければ、私は故郷に帰れない。
二人を見捨てられないのではなく、単純に自分の実力不足のため。
一人ではどうする事も出来ない。
絶望感が胸を満たしている私に、追い打ちをかけるようにエレンは続けた。
「俺が殺した。母さんや、数多くの仲間たちの仇だからな」
「……ライナーは死んだ。ベルトルトもだ」
一瞬、言葉を失った。
二人は戦士として、私よりも優秀だった。
なにより、あの二人がいなければ、私は故郷に帰れない。
二人を見捨てられないのではなく、単純に自分の実力不足のため。
一人ではどうする事も出来ない。
絶望感が胸を満たしている私に、追い打ちをかけるようにエレンは続けた。
「俺が殺した。母さんや、数多くの仲間たちの仇だからな」
7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:40:07.00 ID:EMBlCMu00
エレンはなにも間違った事をしていないだろう。
私は、私たちは、数えきれないほど、人間の命を奪ったのだから。
それが直接だろうと、間接的だろうと、関係はない。
そう、思ってしまった。
弱い人間の心の部分が。
と、不意にお父さんの顔が脳裏を過った。
遠く、もう触れる事も出来ない過去の記憶。
それだけで、私は生きたいと思った。
たった一人でも、なにをしてでも故郷に帰りたいと。
私は、私たちは、数えきれないほど、人間の命を奪ったのだから。
それが直接だろうと、間接的だろうと、関係はない。
そう、思ってしまった。
弱い人間の心の部分が。
と、不意にお父さんの顔が脳裏を過った。
遠く、もう触れる事も出来ない過去の記憶。
それだけで、私は生きたいと思った。
たった一人でも、なにをしてでも故郷に帰りたいと。
8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:42:29.24 ID:EMBlCMu00
「お前も、俺が憎む仇の一人だ」
言い終わるのが早いか、エレンは腰のブレードに手を伸ばさず、拳を構えた。
訓練兵時代に、幾度となく見た姿。
私自身、何度も教え、何度も拳を交えた事のある、対人格闘用の構えだ。
「それはなんのつもり?」
「これが一番効果的だろうからな」
お前を苦しませるには、とエレンは言い、なお続ける。
「親父さんがお前に教えた技術、お前自身、すべて否定してやる」
言い終わるのが早いか、エレンは腰のブレードに手を伸ばさず、拳を構えた。
訓練兵時代に、幾度となく見た姿。
私自身、何度も教え、何度も拳を交えた事のある、対人格闘用の構えだ。
「それはなんのつもり?」
「これが一番効果的だろうからな」
お前を苦しませるには、とエレンは言い、なお続ける。
「親父さんがお前に教えた技術、お前自身、すべて否定してやる」
9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:45:57.84 ID:EMBlCMu00
「そう。でも、私が格闘に付き合ってあげるなんて言った覚えはないけど――」
ブレードを抜こうとして、私はようやく気付いた。
鞘から抜けない事に。
鞘の中へ視線を向けて、理解した。
結晶ではないなにかが、中を満たしている。
思い出せば、目が覚めた時、既に結晶にはひびが入っていた。
恐らく、私が目覚める前に、結晶に穴を開けて、そこから凝固する何らかの液体を流し込んだのだろう。
どうやって結晶を砕く方法を得たのか、全く把握出来ていないが、したところで無意味だ。
なんにしても、私がブレードを使えないという現実は変わらないのだから。
とすれば、否応なく格闘戦になる。
しかし、ブレードを得る事は、不可能ではない。
目の前のエレンが持っているのだから、奪えばいいだけの話だ。
ゴロツキ役からナイフを奪う、対人格闘訓練の時のように。
ブレードを抜こうとして、私はようやく気付いた。
鞘から抜けない事に。
鞘の中へ視線を向けて、理解した。
結晶ではないなにかが、中を満たしている。
思い出せば、目が覚めた時、既に結晶にはひびが入っていた。
恐らく、私が目覚める前に、結晶に穴を開けて、そこから凝固する何らかの液体を流し込んだのだろう。
どうやって結晶を砕く方法を得たのか、全く把握出来ていないが、したところで無意味だ。
なんにしても、私がブレードを使えないという現実は変わらないのだから。
とすれば、否応なく格闘戦になる。
しかし、ブレードを得る事は、不可能ではない。
目の前のエレンが持っているのだから、奪えばいいだけの話だ。
ゴロツキ役からナイフを奪う、対人格闘訓練の時のように。
10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:48:34.63 ID:EMBlCMu00
「どうしたんだ? 抜きたきゃ、抜けよ」
「どの口がそんな事を言えるの?」
私も構えた。
ブレードを握っているよりも、ずっと馴染む構え方で。
「……私は死なない。死ぬわけにはいかない。だから、力尽くで逃がして貰うよ」
「出来るもんならな」
タイミングを計る。
幸い、エレンから仕掛ける様子はない。
こちらの出方を窺っているのだろう。
その間に、最善の瞬間を見極める。
「どの口がそんな事を言えるの?」
私も構えた。
ブレードを握っているよりも、ずっと馴染む構え方で。
「……私は死なない。死ぬわけにはいかない。だから、力尽くで逃がして貰うよ」
「出来るもんならな」
タイミングを計る。
幸い、エレンから仕掛ける様子はない。
こちらの出方を窺っているのだろう。
その間に、最善の瞬間を見極める。
11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:53:40.85 ID:EMBlCMu00
………………今!
私は姿勢を低くして駆け出し、一気にエレンとの距離を詰める。
そして、側頭部に向けて、加速の勢いを殺さずに右足を振るう。
刹那の間、エレンがガードをあげた所を見逃さず、私は足の軌道を変えた。
フェイントだ。
馬鹿正直に一撃目に本命を叩き込むわけがない。
ガードの空いた脇。
そこが狙いだった。
手加減は欠片もしない。
するわけがない。
私がここから逃げ延びるために。
――が、次に気付いた時、私は地面に頬を擦りつけていた。
私は姿勢を低くして駆け出し、一気にエレンとの距離を詰める。
そして、側頭部に向けて、加速の勢いを殺さずに右足を振るう。
刹那の間、エレンがガードをあげた所を見逃さず、私は足の軌道を変えた。
フェイントだ。
馬鹿正直に一撃目に本命を叩き込むわけがない。
ガードの空いた脇。
そこが狙いだった。
手加減は欠片もしない。
するわけがない。
私がここから逃げ延びるために。
――が、次に気付いた時、私は地面に頬を擦りつけていた。
12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:55:18.70 ID:EMBlCMu00
なにが起こったのか、理解出来なかった。
ただわかる事は、私がエレンに負けたという事。
そして、エレンの宣言通り、お父さんから教えられた技術が、私がした全てが、無意味だと思い知らされたという事。
首の後ろに触れている、鋭い鉄の感触。
もう、逃げられないと悟った私は、目を瞑る事しか出来なかった。
死にたくない。
そう思う心から溢れる、涙と嗚咽に耐えながら。
ただわかる事は、私がエレンに負けたという事。
そして、エレンの宣言通り、お父さんから教えられた技術が、私がした全てが、無意味だと思い知らされたという事。
首の後ろに触れている、鋭い鉄の感触。
もう、逃げられないと悟った私は、目を瞑る事しか出来なかった。
死にたくない。
そう思う心から溢れる、涙と嗚咽に耐えながら。
13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 06:57:39.86 ID:EMBlCMu00
「……お前らの事情は全部知った」
私の腕を完全に固めつつ、エレンは静かに言う。
「正直、同情したい気持ちがないわけじゃねぇ。お前たちは仲間だったからな。けど、それでもやっぱり許せねぇ」
そうだろうね。
私たちは許されていい生き物じゃないからね。
でもね、やっぱり嫌なんだ。
死にたくないんだ。
お父さんに、会いたいんだ……。
私の腕を完全に固めつつ、エレンは静かに言う。
「正直、同情したい気持ちがないわけじゃねぇ。お前たちは仲間だったからな。けど、それでもやっぱり許せねぇ」
そうだろうね。
私たちは許されていい生き物じゃないからね。
でもね、やっぱり嫌なんだ。
死にたくないんだ。
お父さんに、会いたいんだ……。
14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 07:00:04.83 ID:EMBlCMu00
「……泣くな、アニ。泣くんじゃねぇ」
わかってる。
わかってるよ。
私にそんな資格がない事は。
けど、止まらないんだ……。
「安心させるわけじゃねぇ。けど、一つ言っておきたい事がある」
「な、に……?」
「向こうじゃ、本当の友達になってくれよな」
わかってる。
わかってるよ。
私にそんな資格がない事は。
けど、止まらないんだ……。
「安心させるわけじゃねぇ。けど、一つ言っておきたい事がある」
「な、に……?」
「向こうじゃ、本当の友達になってくれよな」
15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 07:02:27.83 ID:EMBlCMu00
それはどういう事?
そう尋ねる前に、私の体は言う事を聞かなくなった。
音が消え、光も失った。
痛みはほとんどない。
エレンの最後の慈悲だったのかもしれない。
けれど、やっぱり言っておきたい事がある。
口が動かせなくとも、心の中だけでも。
ごめん、なさい、みん、な……
そう尋ねる前に、私の体は言う事を聞かなくなった。
音が消え、光も失った。
痛みはほとんどない。
エレンの最後の慈悲だったのかもしれない。
けれど、やっぱり言っておきたい事がある。
口が動かせなくとも、心の中だけでも。
ごめん、なさい、みん、な……
16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 07:04:58.98 ID:EMBlCMu00
「エレン!」
アニの命を奪った後、ミカサが部屋に飛び込んで来た。
余程慌てているようで、ミカサにしては珍しく、息を切らしている。
「兵士たちがここに集まって来てる! アルミンがルートを確保している内に、早くここから逃げないと!」
傍に駆け寄ったミカサは、俺の腕を引っ張り、ここを離れようとする。
けど、俺はここを動く気はなかった。
アニの亡骸を見つめ、ただ小さく口を動かす。
「この世界に、もう巨人は必要ないんだよ」
アニの命を奪った後、ミカサが部屋に飛び込んで来た。
余程慌てているようで、ミカサにしては珍しく、息を切らしている。
「兵士たちがここに集まって来てる! アルミンがルートを確保している内に、早くここから逃げないと!」
傍に駆け寄ったミカサは、俺の腕を引っ張り、ここを離れようとする。
けど、俺はここを動く気はなかった。
アニの亡骸を見つめ、ただ小さく口を動かす。
「この世界に、もう巨人は必要ないんだよ」
17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/08(土) 07:06:41.23 ID:EMBlCMu00
終わり
なんでこんなのを書いたか、正直自分でもよくわからない
きっと疲れてたんだな
お疲れさまでした
なんでこんなのを書いたか、正直自分でもよくわからない
きっと疲れてたんだな
お疲れさまでした
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