7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/09(日) 14:48:00.47 ID:CY9RELSC0

【口調に悩む沙紀と比奈】

今日は彼女たちの口調についての話をしたい。

荒木比奈と吉岡沙紀はとある話題について盛り上がっていた。
それはもちろん、女性では誰しも気にすることだ。
さて、今からぜひお聞きいただこう。

『アタシ、もうちょっと痩せた方がいいんスかねえ』

「いえいえ、そんなことないっすよ!」

お分かりいただけるだろうが、体重の話である。
彼女らは異なる身長に同一の体重である。
気にするのも無理は無いだろう。

『157cmしかないのに、沙紀ちゃんと同じっスよ』

「アタシっすか?ううん、ちょっと痩せすぎなのかも」

お気づきだろうが、彼女らの話し方には似た特徴がある。
そして、彼女らもそれに気付いたのか、話題を変え始める。
個性、という点に着目した俺は、耳を立てることにしていた。

「そういえば、アタシらの話し方って似てるっすよね」

『ああ、そっスね。変えたほうがいいっスか、プロデューサー』

唐突に話を振られて驚いた俺は、何も答えられなかった。
ううん。別に彼女らの個性であるし、特に言うべきことではない。
その考えに至った俺は、いや。とあくまでソフトにその問いを否定した。

『でも、被ったら沙紀ちゃんに申し訳ないっスよ』

「こちらこそ、比奈さんに悪いですよ」

何か思うことはないんすか、と両人に問われて、考えた。
思うこと。思うこと。俺は彼女らの意見を尊重したいと思っている。
だが、それゆえ彼女らは頑なに、考えを改めようとしていなかった。つまり―――。

「ああ、思うところ、か。あった」

固唾を飲んで見守るふたり。思うところならある。
彼女らの似た話し方。さらに、その彼女らの頑なさには舌を巻く。
だからこそ、俺は彼女らの目をみて…そっと、諭すように。ゆっくりと、告げた。

「聞き分けがないな、とか」

『………』

『………』

「………」



『上手くないっスよ!』

                    おわり


引用元: モバP「お題でSS」 

 

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10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/09(日) 15:01:37.66 ID:CY9RELSC0

【Pと142トリオで心霊スポットのロケ】

先に言っておくが俺は割と怖いもの、というのは苦手である。

さて、それなのになぜ東京都内の一角の心霊スポットに来ているのか。
それはもちろん、白坂小梅がそのようなものを好むからである。
輿水幸子、星輝子のふたりは非常に怖がっているようだ。

「ぼ、ボクはカワイイので付き合ってあげてもいいですよ!」

よくわからない理論だが自らを奮い立たせる材料としている輿水幸子。
白坂小梅はそれをみて本当に喜んでいるようだと笑っていた。
そこにいた俺はただじっと黙っているしかなかった。

「あ。キノコ生えてる…」

こんなときでもその場に点々と生えているキノコに目を奪われていた。
廃墟に近いこの建物を囲うかのように毒々しいのが多い。
さて、そろそろ中に入らなければな。

「や、やっぱり止めませんか?い、今なら間に合いますよ!」

「も、もう…ゆ、幽霊…そばに、いる、みたい」

「ふひ…ふひひ。こ、怖い」

三者三様に怖がっているようだが、俺は何も言えない。
今日は彼女らの後ろをついていくだけなのだ。
彼女らは懐中電灯を取り出していた。

「これがあれば…少しだけ、怖くなくなります」

「あ、あの、影…いる、みたい」

「トモダチ増えるかな…フフ」

廃墟の中へと入っていくと、どこも足場が脆いようだ。
俺はもちろん踏み外すことなどないが、心配だ。
怪我をするようなことがあってはと思う。

「そ、そう言えば…ここ、もう、幽霊…います、よ」

「どこにいるかは、わからないです…けど」

もう幽霊がこの辺を回っている、というのか。
幽霊は死んだことに気付かない、なんてよく言うが。
まったく迷惑な話で困ってしまう。さて、引き続き進もう。

「ほら、小梅。幸子、輝子。下には気をつけるんだぞ。足元危ないぞ」

プロデューサーが言った。

                     おわり

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/09(日) 15:19:21.11 ID:CY9RELSC0

【氏家むつみの冒険】

氏家むつみ。つまり、私が冒険をはじめられたのは、彼のおかげ。

Pさんと出会って、私の冒険は新たなはじまりを告げた。
今まで1人でみてきたモノクロの景色は色鮮やかに変化した。
どこをみても新鮮で、毎日が楽しくて仕方がない。そう思っている。

けれど…冒険も、ときどき中断してしまうことがある。

Pさんが頑張って私のために取ってきてくれた仕事。
社長さんだって、ちひろさんだって。私のために、って。
なのに、私はその期待に応えられなかった。どうして、だろう。

『むつみ。今日は、たまたま調子が悪かったんだ。次を頑張ろう』

彼はそう言って笑うと、私の手をぎゅっと握ってくれた。
私だけが怒られるなら、それで構わない。けれど、彼まで、なんて。
きっと彼は帰ってから怒られるのだろう。そう考えると、申し訳なくて、言った。

「Pさん。すみませんでした」

『いいんだ。俺だって、もっとできることがあっただろうに、さ』

大丈夫だから。気にしないでいい。そう言ってくれるたびに、涙が溢れて。
彼の気遣いが、私の右手のぬくもりが、どこか遠くに感じて。
でも、Pさんはそれを全て見抜いていて。

『これで、全部がダメになったわけじゃない』

『ええと、そうだな。一時中断、ってところかな』

『こんな日もある。これから、そういうことも増えてくる』

『でもさ』

『俺は、むつみのプロデューサーだからさ』

『いつまでも、どこでだって、俺はむつみの隣にいるから』

彼はそう言って、笑ってくれて。
さっきより、ずっと強く手を握ってくれて。
ああ。私は、何の勘違いを。私は恥ずかしくて、言った。

「はいっ…そう、でした」

「私には、Pさんがいるんですから」

『明日には、またいいことがあると思う。むつみが普段言ってるだろ?』

「ふふっ、ええ。でも、もう、今日はいいこと、ありましたよ」

その答えを、彼に伝えるのはまだ早い、そう思った。
けれど、今日。言ってくれたことへの感謝だけは、きちんと伝えたい。
そう思ったときには、彼の手のあたたかみをすり抜けて、前を歩いて、振り返って。

「Pさん、いつまでも、一緒に新しい世界に挑戦してくださいねっ」

私は笑った。

                     おわり

41: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 15:36:23.45 ID:CY9RELSC0

【鷹富士茄子、○×ゲームで全敗する】

本日は我がプロで○×ゲーム大会をしている。

事の発端は相変わらずちひろさんの企画である。
だが、ここ最近根を詰めすぎており、ちょうどいいだろう。
俺は社長と話し合った結果、全員参加を決め、それを快諾していた。

「勝者には豪華賞品を出しますよ!」

ここで考えていただきたい。千川ちひろが優しいのだ。
すみませんでした。彼女は常々優しいが、今日は特別に優しいのだ。
もちろん、その言葉の裏には大きなリスクがある。ハイリスクハイリターンだ。

「けれど、もちろん敗者には厳しい×ゲームが待っていますよ!」

とのことである。みな奮って参加していた。
俺ももちろんのこと、商品がいただけるなら欲しい。
そういうわけで、俺はマッチング通りに勝ち進んでいった。

『あ、あれ。どうして、でしょうか。まったく勝てません』

その言葉に会場が一斉に沈黙する。誰の言葉か?鷹富士茄子だ。
ありえない。そんなことがあってはならない。会場は一気に動揺する。
無理もない。誰もがみな、彼女が優勝すると信じて疑わなかったのだから。

2位3位にも配られる粗品をみな、狙っていたのだから。

だが、この一言をきっかけに誰もが口元を釣り上げる。
勝てる。勝てるぞ。今回は私が優勝する。
そんな声が聞こえてくる。

『勝てません…』

結果、鷹富士茄子は○×ゲームにおいて全敗した。
それに反して、俺は見事優勝を勝ち取った。
それを見るや、ちひろさんは言った。

「さて、優勝者にはこちら!さらに、この抽選箱の中から1つプレゼント!」

スタミナドリンクとエナジードリンクを500本受け取った。
そしてその後、くじのようなものを引かされた。
中身は、最下位に命令できる権、だ。

『…私、勝てませんでした。なんだか、残念です』

「………」

『楽しみ、だったんですけど。仕方ないです…今日は、帰ります』

「…茄子」

「俺、急にお腹がすいちゃってさ。夜ご飯に行こう」

『…でも』

「ここで、命令権を使おうかな、と思ってさ」

「これ、絶対だってちひろさんが言ってたぞ」

「だからさ、ちょっとだけ」

『ふふっ…わかりました。仕方がない、ので』

「ああ、仕方ないからな」

なかなか値の張るレストランへ向かう途中、彼女は呟いた。
ゲームに勝てなかったのは、幸運だったから、と。
そう言ってくれるなら、俺も嬉しい。

誰にも見られないように、そっと手をつないで、俺たちは歩きはじめた。

                    おわり


45: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 15:50:45.72 ID:CY9RELSC0

【島村卯月にだって頑張れない事もある】

島村卯月はいつも頑張っている。

頑張りましょう、と励ましたり、頑張る、と明言した上で頑張ったり。
とにかく彼女は素晴らしく努力を重んじるタイプである。
俺もそれにならっているほどである。

さて、その上で思うこととして、彼女に頑張れない事があるのか、だ。

無論だが、彼女にだって苦手なことはある。
それを見つけさえすれば分かるような問いだと言える。
そこまで考えをまとめた俺は、彼女が出来ないことを探していた。

「卯月。卯月には、頑張れないこと…っていうのは、あるのか?」

『頑張れないこと、ですか?考えたこともないです』

「やっぱり、そうか。ごめんな、変なことを聞いて」

卯月に飲み物を買ってやり、彼女は先に事務所への階段を登った。
俺は130円の少し高級な缶コーヒーの香りを楽しんだ。
一息ついて、俺も続いて階段を登っていた。

「もう1回!」

うん?なにやら、トレーナーさんの声が聞こえるな。
レッスン中なのだろうか。なら、少し慎重に入らなければ。
音を立てないように。練習の邪魔になってはいけない。慎重に、と。

『いい加減にしてください!私はもううんざりなんです!』

彼女の涙のいりまじった絶叫が聞こえてくる。
これが演技?あまりにもリアリティがありすぎる。
嗚咽、呼吸、しゃっくりまで見事に再現しているのだ。

「あ、あのー…あ、練習中おじゃまします」

ああ、どうぞ。トレーナーさんは促していれてくれた。
卯月は俺には気付かないようで、練習に励む。
だがトレーナーさんの判断は厳しい。

『卯月ちゃん、これについてはなかなか頑張れないらしくて』

『ああ、卯月ちゃん。そろそろ、休憩入れましょう』

「お疲れ様、卯月」

「ああ、いきなり聞くのもあれだけど、あれは何の演技なんだ?」

『…え、えっと』

彼女は答えにくそうに上目遣いで俺をみる。
演技の延長なのか、その目元には涙がたまっていた。
泣かせてしまったかのような罪悪感と共に、彼女は言ってくれた。

『好きな人に愛想を尽かした、ってシーンの演技なんです』

『けれど…』

『そんなこと、ありえませんから…私には、頑張れなくて』

ああ、そうだったのか。頑張ってくれ、と伝えた。
卯月ははいと元気よく返事をして思いついたように笑った。
どうしてかにっこりと笑って、台本を取り出して、弾んだ声で言った。

『プロデューサーさん。私…あなたのこと、だーいきらいっ、ですっ』

                  おわり


48: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 16:02:16.15 ID:CY9RELSC0

【岡崎泰葉の希望】

幼い頃からずっと芸能界で生きてきた私。

岡崎泰葉さん。そう呼ばれる度に私は笑顔を浮かべた。
誰にも負けないような、誰からも愛されるような上辺の笑顔を。
笑顔を作って、自らを理想の姿に作り変え、私は私がわからなくなった。

ああ、私は、何が好きで、何が嫌いか。

どんな顔をして笑って、どんな顔をして泣いていたか。
気を抜いたときに出てきた些細な癖でさえ誰かの真似であるような。
一挙一動。何もかもが私自身のものであるという確かな証拠が得られなかった。

芸能界というのは、華やかなだけの世界であるということなど、十分承知している。

昨日まで同じ仕事をしていた彼女が、今日は敵になっている。
嫌がらせを受けたり、誹謗中傷を浴びるなど日常。
私はさらに強固に自らを作り替えた。

けれど、あるとき限界が訪れた。私もどうやら、立派な人間だったらしい。

今までの笑顔が崩壊するのと鬱憤を晴らそうとするのは同時だった。
私は積み上げてきた何もかもを捨て、芸能界から姿を消した。
そしてその頃、流行っていたアイドルに目を奪われた。

自らを貫き人を笑顔にして、その笑顔で自らも幸せを感じて。

ああ、私は上手く笑えているだろうか。自然な笑顔だろうか。
とてもそうは言えない。心から笑ったことなど、いつのことだったか。
アイドルになれば、私も自然に笑えるのだろうか。何も、私には分からなかった。

だからこそ、私の事を何も知らない誰かに、答えを委ねた。


55: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 16:08:38.56 ID:CY9RELSC0

シンデレラガールズ・プロダクション。

新設のプロダクション。職務経歴も白。何もかもがゼロだった。
私にはちょうどいいと思えた。そのときの私も、何も持っていなかったから。
面接を行っていた方には、私は何も作らず、心のままに話した。何1つ、偽らなかった。

ああ、言い方が正しくない。偽る余裕など、なかった。

芸能界で酸いも甘いも経験したこと。
おかげで、自らを忘れてしまった、ということ。
アイドルをしながら、自らを、そして人を笑顔にしたい、と。

「なら、まずはモデルの仕事から、やっていこう」

合格した私を待ち受けていたのは、以前と変わらない仕事だった。
ああ。アイドルになってまで、私はモデルをするのか。
思ってはいたけれど、そうではなかった。

「お疲れさま、泰葉。すごくよかった。問い合わせが多くて嬉しいよ」

まだ、彼に対して心を許していなかった私は、素っ気なく答えた。
けれど、内心安堵していた。ブランクはまだ、ない。
失敗した際も、彼は責めなかった。

「泰葉はきちんとやってくれてる。今回のは、俺の力不足だから」

「ごめん」

一回り近く違うような私に対して、どうしてそういう態度が取れるのか。
今までの芸能界ならば、マネージャーが私に怒りをぶつけた。
なのに…何なのか。この違いは、なんなのか。

私には、分からないことばかりだった。


56: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 16:16:31.33 ID:CY9RELSC0

「俺は、アイドルを輝かせたいな、って思ってるんだ」

ようやく、私は理解した。今までの違和感を。違いを。
マネージャーは私の仕事の管理をするだけだった。だが、彼は。
彼は、私と共に仕事をし、共に成長を分かち合い…そう、思っている、と。

それが分かった瞬間には、私は今までの非礼を詫びていた。

すみませんでした。今まで、失礼な態度をとっていました。
急に態度を入れ替えた私に、彼は困惑しているようだった。

「あ、ああ。気にしなくていいんだ。俺もわからないことだらけなんだ」

「そう。むしろ、さ。泰葉に教えてもらうほうが多いんだ」

「だから、これからもよろしくな、泰葉先生」

『…なんですか、それ。先生、だなんて』

「俺より芸能界、長いからさ。ずっとずっと、先輩だ」

「あ…でもさ。いつかは、頼ってもらえるようになろうと思ってる」

そう言って笑っていた彼の表情を、私は忘れないだろう。
まだまだ彼とはぎこちないところはある。けれど、もう不安はない。
不安や心配なんて、もう、心のどこにも存在していない。あるのは、希望だけ。

「おはようございます、今日もよろしくお願いします」

『ああ、泰葉。おはよう。今日も頑張ろうな』

過去に置き忘れてきた笑顔は、いつの間にか私の元へ戻ってきていた。
彼もそれに気付いたようだったけど、指摘はしてこなかった。
代わりに、私と同じくらいにっこりと笑ってみせた。

「行きましょう、プロデューサー。置いていきますよ」

『ああ、ごめん。すぐに行くよ』

「私にとっての幸せって、アイドルのお仕事を楽しめる今の環境なのかな、って」

自らを捨ててでも他人を重んじる彼だからこそ。
だからこそ…私は、新たな一歩を踏み出そうと思っている。
そう。こうやって、彼への想いを表情に出して、未来へと、歩を伸ばす。

「Pさんの、おかげです」

どこまでも自然な笑顔で、私は笑えた。

                      おわり


77: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 16:35:31.74 ID:CY9RELSC0

【Made in Fueifuei】

メイドインフェイフェイ。

要するにフェイフェイの手作りというものである。
かいがいしく彼女は俺の世話を焼いてくれたりするのだ。
しかも、かなりその用意してくれる弁当は美味であるのですごい。

「ああ、フェイフェイ。今日の弁当も、すごく美味しかった。ありがとう」

『よかったヨー!』

さて、そんなフェイフェイだが、かなり女の娘らしいのだ。
寒いな、と言うと手編みのお揃いのセーターやニットをくれるのだ。
なんだか恥ずかしいが、彼女の想いが詰まっているゆえ、とても嬉しいのだ。

翌日、食べたいものを彼女に伝えると、すぐに用意された。

非常にふわふわなたまごやき。
俺の好きなからあげまで入っているじゃないか。
ああ、これも、これも。あれも、それも。どれもすごく美味そうだ。

「フェイフェイって、尽くすタイプなんだな。お嫁さんにはピッタリだ」

『そう言ってくれるのは嬉しいネー』

さて、ここまでがプロデューサーさんの日記です。
楊菲菲ちゃんは、もうこの世のどこにも、居ないのです。
けれど、毎日、プロデューサーさんは笑って仕事をしています。

ああ、どうして、そんな顔ができるのでしょうか。

やはり―――。私には、思い当たる節があるのです。
彼の行動、言動。さらには、何日も前から計画していたことを。
私はフェイフェイちゃんのことを尋ねるべく、プロデューサーさんに言った。

「楊菲菲ちゃんは、もう、いないんですか」

『…ええ』

「それに…そちらの子供さんは」

『………』

『Made in Fueifueiです』





「結婚すれば名字も変わりますからねえ」

『ええ』


                 おわり

81: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 16:58:42.36 ID:CY9RELSC0

【紗南をゲームでコテンパンにしたら泣いた】

俺と三好紗南の間には子供ができた。

長い長い道程を経て、俺と彼女の間にも子供が。
ああ、ようやく、だ。だが、彼女は14歳なのだが。
別にそんなことはどうでもいい。今は、関係がないのだし。

「Pさん。これ、お金」

『ああ、ありがとう』

再び俺は歩を進めると、車に乗り込んでだいぶ先まで進んだ。
俺と紗南は目的地へと着くと、幸せを勝ち得た。
結婚式場である。ようやく、結婚だ。

「え、ええ。あたしたち、結婚するの?聞いてないよ」

『そうなるのが運命だったんだよ』

「…ていうか、さ。今更だけど、順番、おかしいよ」

『順番?』

「ほら。子供…が、できて。その次に、結婚、でしょ」

『…ああ。確かに、おかしいかもな』

俺は笑った。でも、彼女は笑っていなかった。
どこまでも深い悲しみに満ちている、そんな顔であった。
そしてあまりにも険しい顔つきで、俺に呟き始めて、続けていた。

「ねえ。あたし、お金ないんだよ。なのに、結婚?」

「わかってるでしょ。あたしがどんな状態なのかさ」

「ねえ。言ってよ。あたし、最低じゃん。無理ゲーすぎ」

彼女らしい言葉の1つ1つにも、あまりある重みがあった。
たまたま近くを通りかかったちひろさんは、言った。
にっこりと、言いたいことがありそうな顔で。





『人生ゲームですか』

                 おわり



114: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 20:53:04.23 ID:CY9RELSC0

【暴走する森久保】

森久保乃々ちゃんの鬱憤はそろそろ限界らしかったのです。

事務員である私は日々アイドルの様子を観察しています。
プロデューサーさんも頑張って説得していましたが、いまいち。
さて、そんなプロデューサーさんですが、今日はどうする予定なのか。

「乃々、今日も仕事あるから、準備してくれ。ええと、2時間後だな」

『え、ええ…仕事、本当に行きたくないんですけど…』

「これは乃々にしか出来ない仕事なんだ、頼むよ」

と、いつもの定型句で説得を続けていますが、どうにも。
しばらく見ていると、そろそろプロデューサーさんもぷっちんぷりん。
ああ、それは私のおやつでした。ぷっちんいきそう、という意味合いなのです。

「乃々も無理って言ってるけど、いつも付き合ってくれるじゃないか」

『そ、それは…その。無理だけど頑張る、っていうか』

「な。な。少しだけ。会場一歩入るだけだからさ」

何で微妙にアダルトビデオの男優さんのような口説き文句なのでしょうか。
そういう人に限って信頼が薄い理由がわかった気がします。
そんな私ですがこちらのガチャがどうの。

「乃々!もう決まっちゃったんだ、頼むよ!ちょっと会議室きてくれ」

さて、30分ほどしたら彼女も承諾したようで、しぶしぶ出て行きました。
そして数時間の収録を終えた後、彼は喜んで表情で説得に成功した、と告げました。
しかしその後、乃々ちゃんは想像以上に大変だったのか、逆にプロデューサーさんを呼んで。

「ああ、乃々ちゃん。おかえりなさい。プロデューサーさんは?」

「………」

「乃々ちゃん?」

『ああ、ええと』

なんだかもじもじしていましたが、いつも以上に嬉しそう。
なにやら、きっといい話しあいができたに違いありません。そして。
ふと事務所のホワイトボードをみると、プロデューサーさんが帰宅している?

よく分からなかった私は視線で答えを求めると、嬉しそうに言いました。





『説得に成功しました』

                 おわり


118: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 21:12:11.98 ID:CY9RELSC0

【杏と唯の飴論争】

双葉杏と大槻唯。

2人の共通点として、飴を好むという点である。
異なる点としては、その飴のサイズというところだろうか。
そんな2人だが、本日は飴についての大論争を繰り広げているのだ。

「あ、Pちゃん。キャンディ持ってる?」

大槻唯にスティック付きの飴を渡すと、美味しそうになめはじめる。
閃いた。そうじゃなかった。その様子を双葉杏はみていた。
そして少しだけ恨めしそうに、俺にこう告げた。

『ねえ、プロデューサー。杏も飴欲しいんだけど』

ほら、と言って杏にも飴を渡すと、ころころと口の中で転がしている。
それはとっても甘くて美味しいようで、顔をほころばせている。
そんな中、食べ終えた唯が、飴について問題提起した。

「ねえ、ねえ。飴だったら、どんな飴が1番好き?」

好奇心に駆られたかのようなその質問に、杏は目を光らせた。
飴だったらこの味でしょ。こういう大きさで、食べやすいサイズは。
最初は一致していた考えが、後々になってゆっくりと摩擦していった結果。

どっちが語る飴の方が好き?という典型的な板挟みの中心地にいる。

ああ、なんてことだ。グラウンド・ゼロって感じだぜ、ダッチ。
どうすればいい。どう切り抜ければ正解になる?
俺は必死に思考し、答えを導いた。

『それ以前に、だ。2人は、甘いんだよ。考えがさ』

ほう。双葉杏は感嘆したような声を出し、大槻唯はふうん、と鼻を鳴らす。
言ってくれるじゃん。そんな視線で俺に語りかけてくる。
だが、引かない。あとは引かせるのみ。

『どう転がしても、この話は程度が甘いまま終わるんだよ』

『…飴みたいに』

「………」

「………」

「あ、双葉さん。今日お疲れさまでした―!」

「お疲れー」

『………』

あめぇ考えだっただろうか。

                   おわり

--

>>+1 >>+2 >>+3


134: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 21:28:45.60 ID:CY9RELSC0

【あなたが落としたのはこのきれいな千川ちひろですか?】

俺と社長は千川ちひろの失踪に頭を悩ませていた。

ちょっと出かけてきます、と言ったきり戻ってこないのだ。
どうにも困ってしまう。こういうことはたまにある。
しかし、連絡もないのははじめてのケースだ。

社長と共に事務所の外に出ると、大きな水たまりができていた。

そこを踏むと、痛いという声が聞こえてから、フードの女性が出てきた。
なぜ水たまりから職業不明の女神が出てくるかは未だ不明だ。
しかし仕方がないので話を聞くことにしていた。

「あなたが落としたのはこのきれいな千川ちひろですか?」

どうだろう。本当に綺麗とは言いがたい。
社長も割と本気でうんうん唸りながら悩んでいた。
外見は確かに文句のつけどころがない。だが内面はどうか。

「ちょっとわからないのでもう少しヒントをいただけませんか」

社長は本気で迷っているようであり、真摯に考えていた。
聞くとフードの女性は眉をひくつかせて答えた。

「この美しくて清楚でプロデューサーさんたちに大人気の千川ちひろか」

「あまりにも天使すぎて天界を追放された堕天使の千川ちひろですか?」

ここまで来るとあまりにも露骨なプッシュすぎてステマを疑う。
ああ、これだともはやステルスしていないではないか。
さらに待っていると、2枚の写真を出した。

「こ!っ!ち!の!千川ちひろさんですか?」

「いいえ、もう少し性根が黒そうな千川ちひろでお願いします」

「彼の言うとおりだ。もう少し根性が曲がっている千川ちひろだ」

「………」

「わかりました」

そう俺たちに告げると女神様と思しき人は消えていった。
足元の水たまりもすっかり晴れている。社長と楽しく笑いあった。
今日は帰ろうか。今日は飲みに行こう。心躍る提案に胸が踊り、ときめいた。

「ああ、君。今日は私が奢ろう。気にしなくていい」

「はい!」

「いいんですか?ありがとうございます」





うん?

                     おわり


136: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 21:41:30.74 ID:CY9RELSC0

【肇ちゃんネットで釣りをしてみる】

最近は空いた時間をインターネットのチェックをすることに使っています。

今日は大天使の、この千川ちひろがお送りします。
事務所内に仕掛けたカメラでご覧頂きましょう。1カメさん。
ええと、見てください。藤原肇ちゃんです。ええと、2ちゃんねるです。

「あ、い、ど、る、だ、け、ど、し、つ、も、ん、あ、る…と」

不慣れな手付きでタイピングしている彼女は可愛らしいと思います。
しかしスレタイはあまりにも軽率な気もします。
私たちも見てみましょう。

みてみると、既に直球の誰?だとか、釣り乙、だとかのレスが載っています。
見事に特定されない範囲でのレスをしており、少し盛り上がっています。
肇ちゃんは見たこともないくらい純粋な暗黒微笑をしていますね。

「…ふふっ。ふふ…ふひひ」

なんでしょうか。今にもディソードとか出してしまいそうです。
ああ。そろそろ釣り宣言を出すみたいで、頑張っています。
彼女のレスで最後に速度が一気に上がってきています。

「welcome to underground…っと」

割と古いネタを知っている藤原肇ちゃんを許してあげてください。
やっとのことで釣り宣言が出され、もうお開きに。
プロデューサーさんが台パン。

『こら、肇。この釣りスレ立ててたの、肇だろう』

「え?ああ、私ですけど」

どうしてプロデューサーさんも勤務中に2ちゃんねるをしているのか。
それを問うにはまだレベルが足りない気がしたので放置。
ちょっと困るので、社長に報告を…と。

「失礼します、社長。あのう、プロデューサーさんが勤務中に…」





『釣りか…』

              おわり


140: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 21:56:26.75 ID:CY9RELSC0

【衝撃!真奈美VSきらりVSのあ】

そこには既に3人いた。

木場真奈美、諸星きらり、高峯のあの3人である。
彼女らを一同にジャンル分けするというのなら、どうなるのか。
さてそんなことはさておき、そこでは既にバトルが繰り広げられていた。

「ああ、2人とも。私と張り合うつもりなのか」

「負けるつもりは…ない」

「にょわー」

微妙に諸星きらりだけやる気がなさそうなのは気のせいなのだろうか。
それとも何かしら策があるという上での余裕なのだろうか。
考えている間にも真奈美VSのあが始まる。

足技と呼ぶべきカポエイラのような足技を繰り出す高峯のあ。
それを見切ったかのようにかわしていく木場真奈美。
もはやアイドルよりも戦闘員である。

「にょわー」

相変わらずきらりにはどこかやる気がなさそうだった。
引き続き俺の目の前では壮絶な殴り合いである。

「ふ…ふふ。君もなかなか、やるようだな」

「あなたこそ…いい、腕前」

やっと2人は諸星きらりの異変に気付いたのか、焦点を当てる。
戦いには積極的に参加したのに、物理的な攻撃はない。
どうなっている?思った時、電話が鳴った。

「ああ、もしもし。社長ですか」

『うん。今日は、どうしたのかと思って』

「どうした…とは、どういうことでしょうか?」

『…今日、事務所に来ていないだろう?風邪か何かかな、と思って』

俺は社長の言葉が終わるまでに携帯を切り、辺りを見渡した。
すぐに彼女らもこの部屋の異変に気付いたようだった。
俺たちは事務所で…そう思っていたはずなのに。

予感は的中した。薄く笑っていた諸星きらりは、言った。





「きらりんルームにいらしゃーい☆」

               おわり

149: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 22:12:58.72 ID:CY9RELSC0

【Pと未央の新婚旅行】

俺が本田未央と入籍してから、数週間が経った。

トップアイドル本田未央の電撃引退。誌面にはそう書かれていた。
まことしやかに囁かれた噂も、もう落ち着いている。
見計らったように、新婚旅行だ。

「プロデューサー。私、こんな幸せでいいのかな」

勝ち得た喜びが、全て崩れ落ちることを心配しているのだろうか。
薬指にはめられた指輪を愛おしむかのように撫でていた。
彼女の不安を払拭しようと、俺は言った。

『大丈夫だ。未央とはこれから、これからも、ずっと一緒だ』

「…うん。うん。そう、だよね。ごめん、何か変なこと言っちゃった」

いいんだ。そう言って、後ろから未央を抱きしめた。
俺はまだプロデューサー業を続けているゆえ、遠出はできない。
そう告げたときでさえ、彼女は怒ることもなく、ただ、喜びを露わにした。

「お仕事行こうか、なんて言ってた頃が、なんだか懐かしい」

『そうだな。あの頃のことだって、何1つ忘れてないよ』

「嬉しい、な。ありがとう」

『新婚旅行、か。やっぱり、感慨深いな』

「うん」

行き先など、決めていなかった。決めるつもりもなかった。
その理由など、決まっている。彼女となら、どこへでもいけるのだから。
彼女は俺の考えを汲み取ったかのように笑い、そして、俺の指に指を絡ませていた。

きっと、この幸せはいつまでも続いてゆくのだろう。そう直感していた。

いつかは、俺たちには新婚と呼ばれることのなくなるくらいの月日が訪れる。
けれど、彼女と誓った愛は、いつまでも褪せることのない輝きで。
いつまでも新婚のような、そんな未来が待っている。

『じゃあ、そろそろ、時間だな。この電車だと思う』

「あはは。思う、って。でも、間違えても、それはそれでいいのかも」

「行こっか」

ゆっくりと音を立てて、電車のドアが開かれる。
特別な電車でも何でもないが、行き先だけは幸せな未来だ。
そして、俺たちはそれに乗って、さらに多くの愛を紡ぐのだろう。

俺たちの日常は、いつまでも新婚旅行と言えるだろう。そう、思えた。

                 おわり


150: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 22:21:34.65 ID:CY9RELSC0

【ありす(もしかして私の名前ってかっこいい……?)】

「橘と呼んでください」

彼女は俺に出会って、開口一番にそう告げた。
自分の名前が、好きではないので。陰鬱な表情で教えてくれた。
と言っても、この頃はありすという名前をはじめて気にかけているようだった。

「…ええと、ありす。ありす…」

自前のタブレットを操作しながら自らの名前を調べているらしい。
いつかは名前の由来、だなんて宿題もあるのだから。
ちょうどいい機会なのだろう。

「…ふ、ふうん…か、かっこいい?」

どこかで落とし所を得た回答があったのか、感嘆していた。
ありす。ありす。彼女は呟き、目を輝かせていた。
そしてこちらを見て、歩みよってきた。

「そ…その。今日から、ありすと呼んでも構いませんよ」

『うん?気にしないでいいぞ橘。大丈夫だから』

「分かりました。言い換えます。ありすと呼んでください」

『わかった。ありす』

「はい!」

なんということでしょう。あまりにもかわいいじゃありませんか。
目のハイライトが今日は1.5倍ではありませんか。
ありすと呼べることに感謝すら覚える。

さて、そんな中、俺が気になったのは名前についてである。

ありすとつくもので思い浮かべる作品と言えば、あれしかない。
そう。不思議の国のアリス、である。名作だ。
他にもいくつか調べた。

そして社長に言伝を頼まれ、デスクに戻った矢先、ありすは言った。

「た、橘と呼んでください…」

どうしたのか。あまりにも早すぎるだろう。何があったのだ?
よくわからないまま視線で答えを問うと、俺のデスク。
デスク?デスクか。何が…うん?しまった!





バイオハザードだ。

              おわり


153: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 22:34:00.44 ID:CY9RELSC0

【ロリ達とPのツイスターゲーム】

今回は低年齢層とのツイスターゲームの話である。

決してイメージビデオの撮影ではない事だけわかっていただきたい。
そこには疚しい気持ちなんてどこにもないのだ。全く。
出演は古賀小春と前作から橘ありすだ。

「ええと、わたしがゲームマスターをやろう」

と言って申し出てくれたのは社長である。
その遊び心を忘れない姿勢がこのプロの発展の理由だろう。
感謝と敬服を忘れないように、彼女らにはじめるという合図を促していく。

「小春ぷるぷるします…青は、ええと…」

小春は見事にジョイトイさながらのM字開脚となっていた。
そして一方橘ありすはというと、うつ伏せさながら。

「こ…これは、ちょっとだけ耐性が辛いです…赤」

『お、俺の番か…ああ、ありす、上ごめんな、小春、腕通すから』

さてそんな会話を2,3週したころには早苗さんも顔真っ赤になる状態に。
低年齢層のアイドルたちとくんずほぐれつのハッピー☆マテリアル。
これにはカモ…ヒョウくんも顔を赤らめているのがわかる。

では、次に行くよ、との声から4週目がはじまった。

「ヒョウくん助けてぇ」

ヒョウくんはもう緑から赤に変わってしまっている。
あっ、こら小春をバター犬するんじゃありません。

「すみません、プロデューサー…左足を通します」

もう誰もがバランスを崩しそうなレベルの最終局面に。
ああ、そう言えば忘れているような気がする。
そして俺は最後に緑だった。

「緑、緑…どこだ。って、ないじゃないか…ああ、あった…緑」

ええと、先に言い訳だけさせていただきたい。
俺は心の底からやましい気持ちなどなかった。間違いない。
けれど俺は気になった膨らみを揉まずにはいられなかった。誰の胸?





千川ちひろは薄く笑った。

             おわり


167: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 22:53:15.93 ID:CY9RELSC0

【Pの呼び方を変えてみよう 薫編】

今日は龍崎薫についてだ。

龍崎薫は俺のことを教師にならいせんせぇと呼ぶ。
なんだか俺も誇らしげになってしまうが。
けれど、今日はそうではない。

「せんせぇ、かおる、今日は呼び方を変えてみようと思う!」

『ああ、薫。ええと、せんせぇから今度は何に変わるんだ?』

「え?えーとね!うーん、そう!あなた、とか!」

よし、止めよう。それは止めよう。俺は刑務所にぶち込まれる。
後ろで大人組の皆様が笑顔で俺の逮捕を待っているよ。
それだけはいけないよ。案を変えようか。

『それだと何かあれだから、もっと他のにしようか。うん。な?』

「えと、えと。なら…そうだ!Pせんせぇ!」

私を殺してみなさいとか言いかねない感じなのでこれも却下だ。
●●プレイは好きだが後々職種が選びづらくなってしまう。
クビだけは避けたいところなので変えよう。それより。

『ああ、それよりさ。なんで、薫は俺の呼び方を変えたいんだ?』

「…かおる、分からない」

「胸の、えっと。このあたりが、その」

考えをまとめることができないのか、もどかしそうにしている。
と、その瞬間、わかった!と声をあげ俺の胸に飛び込む。
いつものように、えへへ、と可愛らしく笑って。

「かおる、わかったけど、せんせぇには秘密」

『なんだ、やっぱりせんせぇに戻っちゃったか』

「ううん。かおる、やっぱり、やっぱり」

小さな子供ながら、めいいっぱい考えていることがわかった。
ころころと表情が変わる薫の表情は、いつしか年頃の少女の顔だった。
ああ。それを見て、気づいた。彼女も、人並み以上に感情が機敏であることに。

それを分かった上で、俺は慎重に言葉を吟味した。

じゃあ、俺のことを、何て呼ぶ?単純で、もっとも複雑な問い。
けれど、もうその答えは出ているようで、俺にも分かった。
なら、俺も一歩を踏み出そう。共に歩み寄ればいい。

「Pさんって、呼びたいの」

「だって、その方が…あっ、やっぱり、いい」

「…まだ、Pさんには、秘密だから!」

秘密は女を女にする、とはよく言ったものだ、と思った。
悩みに近しいその感情は、彼女を少しだけ大人にさせた。

そして、龍崎薫は俺の腕の中で、嬉しそうに、そっと呟いた。

「ありがとう、Pさんっ」

                 おわり


169: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 23:02:47.18 ID:CY9RELSC0

【輝子、実はたけのこの里派】

きのこの山とたけのこの里の争いについてはご存知だろうか。

へえ、きのこ派なの。ありえない。え?たけのこ?
そんな煽り合いが日々激化している中、星輝子はどちらなのか。
ああ、言うまでもないことだが、当然きのこだろう。そのはずだ。聞いた。

「輝子はもちろん、きのこ派なんだよな?」

『え。私は…たけのこ派ですけど…フフ』

なんだって?星輝子がたけのこ派?これはまた議論が起こるぞ。
彼女はきのこ派だろう。いいや、そうあるべきだ。反語。
あまりにもありえないことすぎて気になった。

「きのこ派じゃないのか」

『き、キノコは…その。食べると、共食いになります、から』

ふむ。なかなか合理的な考えだ。
ならばたけのこを食べようとする考えも頷ける。
共食いを避けたい、か。なんだか輝子らしくて微笑ましいな。

「そっか、なら、きのこ派にもたけのこ派にも支持されそうだな」

『そ、そうですか?よ、よかったー』

長いアホ毛をみょんみょんさせながら安堵している星輝子。
それなら俺がとやかく言うことはないのだが。
だが…理由は、それだけか?

「理由は、それだけなのか?」

『…他にも、あります…けど』

『………』

『えっと…怒らない、ですか』

「ああ。もちろん」

『………』

『プロデューサーに、そっくり…だから』

「………」

そっくり?そっくり。どういうことなのだろうか。
キノコという意味では髪型でも下ネタでも通ずる余地がある。
しかしたけのこではまるで昇天ペガサスミックス盛りではないだろうか。

たけのこのような髪型ではない。ならば下ネタだろうか?
たけのこ。下ネタ。ううん、思いつかない。
キノコ。たけのこ。下…あっ。





翌日、俺は1つ上の男になった。

                     おわり


173: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 23:15:26.82 ID:CY9RELSC0

【仁奈ちゃんのパパになったP】

プロデューサーさんが市原仁奈ちゃんのパパになりました。

ああ、と言っても、彼が実の父親ではありません。
あくまで、仁奈ちゃんが形式上の父として申し出たのです。
そんなわけで、彼と彼女は日々、親子のように過ごしているのです。

「ああ、仁奈。今日のきぐるみも違うんだな」

『そうでやがりますよ!色々な気持ちを知るですよ!』

「そっか」

プロダクションでもとても微笑ましい一面を見せてくれます。
それだけで、事務所の雰囲気は和らぎます。
ああ、とてもいい雰囲気。

さて、そんな生活を続けていて、私は気になったことがあります。

最初は気にしてはいなかったのですが、きぐるみが異臭を放つこと。
作り物のはずなのに、あまりにも動物のような香りがして。
お洗濯、たまっているのかしら。そう思いました。

「プロデューサーさん。家事とか、大丈夫ですか?」

『ああ、ちひろさん。大丈夫ですよ。どれもきちんとこなしています』

彼はどうにも嘘をついているわけではなさそうでした。
なら…どうして。仁奈ちゃんは、どうしてあの香りを纏っているの?
そう思いましたが、その答えを知ったのは、仁奈ちゃんが居なくなった日でした。

『仁奈、パパの気持ちがわからねーですよ』

私が事務用品の買い出しから帰ってきて、事務所に私と彼と仁奈ちゃんだけの日。
あれ?家庭では、上手くいっていないのでしょうか。気になりました。
息を殺して話を聞いていると、そういうわけでもない。

「そっか。なら、俺はどうしたらいいかな?仁奈に、何ができるかな」

『………』

『何でも…してくれやがる、ですか?』

「うん」

『本当に本当でやがりますか』

「本当だ」

『なら…目を、閉じやがってください』

これはまさか、もしかして?さすがに、止めるべきかと思いました。
けれど、その雰囲気は事務所中に満ちていて、もう。
そして、彼女は嬉しそうに言いました。

『いただきます』

翌日から、市原仁奈ちゃんの事は、誰も覚えてない、と語るのです。
社長。そして、アイドル達も。居なくなったプロデューサーも。
そして社長が、新たなプロデューサーを連れて来ました。

どうみても、あのプロデューサーさん。どうして?
考えをまとめてもまとまらず、その間に、彼は大きな声で言いました。





「今日から、よろしくしやがって欲しいですよ」

                        おわり


187: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 23:31:10.43 ID:CY9RELSC0

【ナンジョルノ「覚悟とは!!」】

覚悟はあるか。モダンタイムスのようだ。

俺が覚悟をする時とはどのようなときだろうか。
人生には大きな岐路がいくつもある。
そしてそのまま帰路につく。

そのまま、自ら望んだ夢へ。未来へ。

そんなことを子供のように、南条光と語り合っていた。
もちろん、正義を掲げるときだ。彼女は笑った。
正義。正義か。久しく忘れていたな。

「アイドルになって、さ。決断だとか、覚悟するときってのは、なんだろうな」

俺は小さな溜息と共に、その質問を吐き出した。
言ったあと、後悔した。彼女には難しい質問だっただろうか。
しかし、南条光は懸命にその答えを模索しているように見えた。していた、か。

『………』

『アタシには、まだ…それが、分からないんだ』

『でも、やる前のことなら、はっきり分かるんだ。覚悟もしたし、決断もしたんだ』

憂いを帯びた瞳は静かに揺れていた。
何かを思い出そうとするかのように。巡るように。
ああ、俺も光をスカウトしたときには、色々な覚悟をしたな。

『でも』

『でも、何1つ後悔はしてないんだ!』

『正義の味方になりたかったけど、こうやって、アイドルになって』

『覚悟した先で、また、見つけたんだ』

『アイドルは、人を笑顔にして、元気づけて、勇気づけて』

『アンタのおかげで、アタシは本物のヒーローになれたんだ!』

へへっ。そう言って、少年のような笑顔を俺に向けてくれた。
ああ、この純粋さがあってこそ、南条光だと思った。
なら、俺も決断しよう。覚悟をしよう。

「俺は、光を必ずトップアイドルにするから」

『………』

『そんなこと言わなくても、アタシはアンタを信じてるぞ!』

「…ありがとう」

『ほ、ほら。今から、仕事だぜっ!今日も頑張ろーっ!』

ああ、彼女の中では、決して揺らがぬ答えが既にそこにあったのか。
それを見て、俺はその覚悟をさらに強固なものにした。
すぐに行く。そう伝えて、俺も走りだした。

南条光の目標、最高のアイドルで、最高のヒーロー。

それはもう既に、目前まで迫っている。素直に、そう思えた。

                         おわり


198: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/09(日) 23:48:15.87 ID:CY9RELSC0

【由愛が描く夢】

成宮由愛は、どのような夢を描いたのだろうか。

ママが勝手に応募して。そう呟いた。
彼女はアイドル活動に乗り気ではなかったらしい。
けれど、俺は彼女がいいと思えたから、彼女を採用していた。

初めての面接の上で、知らない人に会うのは無理である。そう言っていた。

その態度の裏には、自らの変化を望んでいるように見えた。
俺の勝手な妄想にすぎないかもしれない。それでもそう思っていた。
当然、最初は知名度を広げるための営業にも苦労をせざるを得なかったのだ。

しかし、俺はそれに関して辛いなどとは思ったことがなかった。

ごめんなさい。すみません。彼女は謝りつつも、懸命に努力していた。
俺も所属当初であったゆえ、右も左も全くもってわからない。
ゆえに、互いで互いを励まし合ってここまできた。

『おはよう…ございます』

今では、彼女から俺に挨拶をしてくれるまでになっている。
嬉しい変化と言える。だが、彼女自身は、それをどう思っているのか。
俺が無理矢理変化せざるを得ない状況に追い込んだ、という側面的見方もある。

『ぷ、プロデューサーさん…何を、考えているんですか』

ああ。そう言って、デスクから顔を上げる。
成宮由愛の心配そうな顔が俺をのぞきこんでいた。
俺は正直に告げることにした。彼女への反省と感謝の2つを。

『………』

『私は、よかった…と、思っています』

『人と話すのも、会うのも…苦手だった、私…です、けど』

『もう、今は…ファンの方とも、楽しく、話せていますし』

『それに…これは、1つの夢でも、あったんです』

『変わりたい。そう、思っていたこともあったので…だから、感謝しています』

そう、なのか。ああ、由愛の描く夢の一端は、叶えられたのか。
しかし、そうなると。夢が叶ってしまった由愛は―――。
そう思ったときには、彼女が口を開いていた。

『あと、1つ。夢が、あるんです』

『これは…プロデューサーさんに出会って、できた夢、です』

『必ず、トップアイドルにする…そう、言ってくれました』

『だから…これは、私の。成宮由愛だけの、夢じゃなくて』

『私とプロデューサーさんの、2人の夢です、から』

『一緒に、これからも…よろしく、お願いします』

初めて彼女の想い…彼女が描く夢を知った。
出会った日に誓ったことを、覚えていてくれたのか。
なら、きっと。いいや、絶対に。俺は、それを叶えてみせる。

当初のような、少々ぎこちなかった笑みは、そこにはなかった。
もう、心から人を笑顔にさせる笑顔が、そこにあった。
それに釣られて、俺も笑って、彼女は言う。

『ずっと、ずっと―――。パートナーで、いてくださいね』

                      おわり


201: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/10(月) 00:04:44.24 ID:Yeh/2aCV0

【聖と夏の太陽】

望月聖と出会ったのは、冬の寒い夜の事だった。

彼女はどこまでも神秘的な存在として、俺の瞳に飛び込んだ。
ああ、彼女を。彼女を、アイドルとして、輝かせたい。
そう思ったからこそ、彼女をスカウトした。

季節も巡り巡って、夏の太陽が煌めく季節がやってきた。

真逆の季節になった今も、彼女の神秘さは変わらない。
夏に降る雪。例えるなら、そう言えるだろう。
幻のよう、とも言い換えられる。

「今年の夏は、今までよりずっと暑いらしい」

『…そう、ですか』

仕事が終わった後、俺は聖と共に夕陽が海に反射する海岸を歩いていた。
遠くには賑わう人々の声。それもだんだん少なくなっていく。
俺は太陽に向かって、しんみりと嘆いていた。

「ああ、太陽も、少しは活動を休めてくれてもいいんだけどな」

「でもさ。そんな太陽みたいな存在になってもらいたいな」

『私は、月のままで、別に構いません。太陽も、いいとは思いますが』

月。深夜に人々を仄かに照らす、月か。聖のイメージには合う。
けれどどうして、月なのだろうか。何か、思うところが?
そう思った所で、疑問を喉から声にして問うた。

「どうして、月なんだ?太陽のほうが、ずっとずっと、輝いてる」

『…私は、プロデューサーさんと一緒で居たいから』

「………」

『月は…1人では、輝けないんです』

『太陽に月が照らされて、ようやく輝けるんです』

『太陽が、プロデューサーさん。そして、月が私』

『いい関係…だとは、思いませんか』

彼女の言葉を燻らせたような呟きに、想いを馳せた。
自らだけが輝くのではなく、共に輝こう、と。
彼女は俺に対してそう言ったのだ。

「そっか」

「なら、聖は月。俺は太陽で、ずっとずっと、互いを追いかける」

『はい』

夏の夕陽も、そろそろ仕事は終わりのようで、地平線を沈んでいく。
そしてまた、ゆっくりとあたりは暗くなり、星がきらめく。
そこに輝いている月は、太陽が照らしている。

『いつまでも、私は…歌を歌うつもりです』

『だから…私のこと、よろしくお願いします』

答えを省く代わりに、俺は聖の手を握った。
ちらりとみた彼女の横顔は、微笑を浮かべていて。
遥かに登る黄金の月が、俺と彼女の未来を、照らしていた。

また、あの日のような、夜が来る。

それを感じて、少しだけ、彼女と繋ぐ手の力を強めた。

そしてまた、俺たちはゆっくりと歩き出す。この、世界のどこまでも。

                      おわり


217: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/10(月) 10:46:52.72 ID:Yeh/2aCV0

【森久保NONO&森久保GOGO】

我がプロダクションには同一の名字の異なるアイドルがいる。

それが森久保NONOと森久保GOGOである。本名かは定かではない。
NONOは消極的で、GOGOは積極的と言った感じなのだ。
というわけで、今日は彼女らのことだ。

「仕事行きたくないんですけど…」

「仕事行きたいんですけど…」

どうしてこうも意見が割れてしまうのかは悩ましい限りである。
よし行こうとGOGOには言えるがNONOには言えない。
今日もNONOの説得から日ははじまる。

『GOGO、NONOを説得するから準備しておいてくれ』

「わかりました、急いでほしいんですけど…」

あまりのやる気に感嘆してしまう。
NONOもあのように頑張って欲しいのだが。
というわけで、NONOを呼び出し説得にかかっていた。

『NONO、頼むよ。GOGOがすごくやる気なんだ。一緒に行こう』

「えぇ…GOGOだけ連れて行けばいいじゃないですか…」

『そんなわけに行かないじゃないか。たった2人の姉妹だろ?』

「え?」

「違いますけど…本当に仕事行きたくないんです」

『そんなこと言わずにさ…頼む』

と、この瞬間どうしてか腹痛が発生してしまう。
エナジードリンクの飲み過ぎだろうか。
まずい。トイレに行こう。

『NONO、GOGOを待たせてるから準備しておいてくれ』

『俺はトイレに行ってからすぐ戻るから、よろしく』

後ろからえぇ、と悲しそうな溜息が聞こえるがこの場は聞こえないふり。
どうにか連れて行くことが先決だからだ。ああ、便意が、まずい。
俺が急いで事務所の共用トイレのドアを開いた瞬間だ。

「………」

『………』

「ご、ごめん!え、ええと…NONOか?GOGOか?」

『………』





『TOTOです』

トイレかよ。

                     おわり



231: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/10(月) 11:21:21.75 ID:Yeh/2aCV0

【早苗さん、夏に向けてダイエット】

片桐早苗はここ数ヶ月で一気に風船のように膨らんだ。

残念ながら胸の話ではない。体型の話だ。非常に残念である。
帰宅後TSUTAYAのDVDからの深夜の暴飲暴食が祟った。
これはもう由々しき事態である。もう夏だ。

夏ということは、アイドルたちのスリムな体型が披露される。

そんな中、片桐早苗は見事に冷や汗をかくはめになったというわけだ。
さて、話題の片桐早苗はダイエットをする、と俺たちに誓った。
目標体重を決め、今の体重は、ええと、紙がない…

「ああ、みな。古い知人から、お菓子を貰ったのだが。みなで食べてくれ」

「わたしも、貰っちゃいました。エナドリとあわせてどうぞ」

そんな社長とちひろさんの美味しいお菓子のフルコンボだドン。
早苗さんはよだれを抑えつつそっぽを向いていた。
太鼓の達人ダイエットをしていた。

「これ、結構いいかも。お姉さん、楽に痩せれそう」

『そうですか!すごい二の腕ぷるぷるしてますが』

今度は俺の頭がフルコンボだドン。止めて欲しいドン。
さて、そんな彼女は着々とダイエットを進め、目標体重へ。
本格的な夏の1週間前には目標体重すら下回っているくらいだ。

「お姉さん頑張った!これで、セクシーな水着も着られるかも」

うきうきとした表情で俺に喜びを告げていた。
そして、社長とちひろさんが前回と同様にお菓子を持ってきた。
早苗さんは今までの鬱憤を晴らすかのように、しかし慎重にそれを食べ進めていた。

翌週。

お姉さん、もう死んじゃいたい。片桐早苗はそう語った。
見事にリバウンドである。二の腕もリバウンドしてぷるっている。
また太鼓の達人ダイエットであろうか。そのとき、Wiiの表示画面から声が。





「もう1回遊べるドン!」

                        おわり


234: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/10(月) 11:31:34.91 ID:Yeh/2aCV0

【ナターリア、寿司修行する】

「ナターリア、寿司修行することになったんダ」

そんな一言で日本文化の一端を寿司のように握ろうとするナターリア。
いきなりどうしてなのだろうか。ヒカリモノが好きなのか?
カラスかよ。貴金属はみな大好きなのだが。

「スシ食べられるかナ?」

なかなか高校生のバイト君みたいな発想だが、誰しもが思うことだ。
寿司屋に勤めれば寿司が食べられる。多分そんなことはない。
実費負担がせいぜいいいところだろうと思うが。

さて、そう語っていたナターリアだが、なかなかきちんとこなしている。

ちょっとやってみル!と言いつつ、事務所で修行の成果を見せてくれている。
誰もが美味しい、美味しい。すごい。修行の成果、出てるじゃない。
そんなふうに誰もが彼女を誉めそやしていたのだが。

ここで暴露しておきたいのは、俺と彼女が恋人の関係であるということだ。

馴れ初めは…と、ここで語るのも野暮であろう。
それを前提としてさらに読み進めていただきたいと思う。
その後も着々と修行を進め、やっと数日の休暇がとれたそうだった。

『ああ、ナターリア。今日は久しぶりに一緒にいられそうだな』

「ウン!」

「プロデューサー、今日の夜は、スシだヨー」

ほう。というわけで、俺もあまり食べていなかった彼女の寿司を口にする。
ふむ。形は上手いし味も美味い。その姿は本格職人のそれである。
口にし終わった後、俺たちは愛を紡ぐ為にベッドへ。

「きょ、今日は、ナターリアが主導権を握るカラ」

寿司だけにか?そう言いたいのか。俺はこの場では萎えないぞ。
彼女は誰よりも美しいのだ。それだけで十分なのだ。
だが、どうにも、彼女は満足していない。

『…ナターリア。今日は、あんまり、気分じゃないのか』

「………」

「そんなコト、ない、ケド…」

今度は俺は上になり、彼女に向かって愛を囁いていく。
だが、先ほどと同様、やはり反応は良くない。
するとそのとき、彼女は言った。

「こうしてると、おスシみたいだネー」

『………』

「………」

『お寿司?』

「………」





「マグロ」

                   おわり


242: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/10(月) 11:47:40.97 ID:Yeh/2aCV0

【モバP、アイドルたちに如月千早のファンだとバレる】

俺はシンデレラガールズ・プロダクション所属のプロデューサーである。

だがしかし、友好関係にある765プロダクションのファンでもある。
あちらに所属するプロデューサーも、こちらのファンだと言ってくれていた。
さて、今日はそんな俺が如月千早ファンである、ということがバレたときの話であるが。

「プロデューサーさん、電話鳴ってますよ。ええと、これは…蒼い鳥?」

と、その一言でアイドルたちが俺にジト目のような視線を送ってくる。
へえ、ふうん。如月千早。ファンなんだ。私たちがいるのに。
彼女らの目はそう語っていた。でもちかたないね。

俺はあの儚げな姿に目を奪われたのだ。72言ってるんだろう俺。

と、結果的にバレてしまった俺で、事務所で肩身が狭くなってきている。
ちょっとミスで割と怒られてしまうことが多いのである。
でも仲間だもんげ。大丈夫だもんげ。

だが…俺は、彼女らのプロデューサーなのだ。そういう気持ちも、折り合いをつけねば。

家にある如月千早の胸マウスパッドを普通のマウスパッドに交換した。
だがイマイチ変化は感じられなかった。くっ。すみません。
ポスターも、我がプロのアイドルで塗り替えた。

それを証明する為に、アイドルたちに自宅の写真を公開までしたのだ。後悔した。

わかった。でも、趣味は趣味だもん。こっちこそ、ごめん。
アイドルたちからそう謝罪され、俺たちはきちんと和解することができた。
よかった。俺も事務所公認で如月千早のファンができる。だが、折り合いはつけている。

「ありがとう。みな。でも、俺はやっぱりみんなのファンなんだ」

「だから、さ。もうあんなことはしない。誓うから」

「俺はこれからも、みんなを―――」

うん、うん。みな、一様に頷いて、理解を示してくれた。
すまない、すまない。俺も真摯に謝罪をした。
そのとき、携帯電話が鳴っていた。





「インフェルノー!」

…数秒後、文字通り事務所が地獄と化したのは言うまでもない。

                      おわり


243: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/10(月) 11:59:25.27 ID:Yeh/2aCV0

【大西由里子、百合趣味に目覚める】

大西由里子は薄い本に興味関心を示している。

それを咎める必要はないと思うのだけれど、今日はその話を。
各個人の趣味をとやかくいうのは筋違いだろう。
というわけで、大西由里子だ。

「生モノは苦手なのよー」

そう語っていた彼女だが、最近は手広く色々な趣味を発掘しているようだ。
自らも身の危険を感じていた。感じざるを得なかった。
まだ2次元で補完しておいて欲しい。

そんな中、某●●●●好きアイドルのせいで、彼女の趣味は加速している。

えへへ。うへへ。だんだんと笑い声が不信感を帯びている。
アイドルになってよかった。彼女はそう言った。
●魔神と何ら相違点がわからない。

「プロデューサーもこの趣味わかってくれればいいのに…」

ううん。きっとわからないだろう。わかれない。
難しい。百合。百合?確かに身近な話題ではあると思う。
アイドルプロダクションでもあるのだから。そういう人もいるだろう。

「ねえ。ほら、見て。腐ってるのもいいけど、こっちもー!」

そう言って薄い本をちらりと覗かせる彼女。
こらこら。事務所でそんなもの出してはいけません。
へえ。すごい。一応そう頷いて理解を示しているように見せた。

「え。分かる?ああ、嬉しい。なら…」

えっ。どうしてこちらに近づいてくるのか。
違うでしょ。アイドルにその視線を向けるべきでしょ。
うへへ。ああよだれが。拭いてください。ああ、もう後ろは壁だ。

「もう、逃げられないよ。覚悟して」





「ちひろさん」

                       おわり


248: ◆IpxC/P/Kzg 2013/06/10(月) 12:12:02.62 ID:Yeh/2aCV0

【新エリア「ウサミン星」開放】

最近仕事を進めていると、リストの下に新たなエリアが追加されていた。

その名もウサミン星。なるほど。安部菜々の現住所だった。
東京から一時間の落花生の連なるあの県…星である。
アイドルを引き連れ、その住所を目指した。

「ここ、か…ええと、鍵空いてる?エリア開放されてるな」

おじゃまします。エリア開放でおじゃましますとは何だろう。
入って小さな靴箱が。いつのかも分からない運動靴。
傘立ての横にはランドセル。5年2組。

何なんだこの違和感は。拭えない違和感は何なのか。

よく見ると、奥のリビングに続くまでに服が落ちている。
最初は靴下。次に上着。脱ぎ捨ててあるのか?
アイドルは躊躇わず進んでいく。

エリアCまで来た。リビングである。

テーブルの上には大五郎。彼女は何をしているのか。
ちなみにカメラは回っています。料理酒だよ。
そこにはスカートが捨てられていた。

冷蔵庫探索。アサヒスーパードライ。おやつカルパス。
炙り銀杏。スルメ。何なんだこれは。
おっさんではないか。

地図を見るとエリアDが寝室になっているらしい。
うん?寝室の襖に何か…ウサミミではないか。
おい。やめろ。カメラ止めろ。まずい。

俺が先に見てきます。そう伝え、中を覗いた。

俺はここを覗いたことを一生後悔するだろう。アイドルとは偶像。
脱ぎ捨てられた靴下、ゴミ袋、発泡酒の缶…そして下着。
真ん中に敷かれた布団に包まっている安部菜々。

『…どうして、ここに居るんですか…』

起きていた。起きていた?俺たちは息を殺して入ってきたはずだ。
まずい。地図を見る。現在地はエリアE?そんなものはない。
表示はいつまでも変わらない。E。何なんだこれは。

玄関のドアは固く閉じられていた。開かない。なら、窓だ。

窓も開かない。外の景色?なんだ、これ。入ってきた時と異なる。
外を見ると明らかに宇宙と思しき中に地球がそこにあった。
嘘だ。E。ああ、分かった。その時、彼女は言った。





『Endless』

…もう、ここからは、出られない。

                  おわり