1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/12/29(日) 23:06:56.87 ID:o+uUVPF20
・禁書とBIO HAZARDのクロスですが、禁書のキャラしか出ないのでバイオハザードを知らない人でも全く問題はありません

・内容が内容だけに死人が大量にでます。好きなキャラが死ぬ、もしくはそれ以上に酷いことになる可能性があります。

以上を二度読みしていただき、それでも一向に構わんという方のみお進みください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388326016

引用元: とある都市の生物災害 

 

とある魔術の禁書目録 インデックス (1/8スケールPVC塗装済み完成品)
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2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:08:49.33 ID:o+uUVPF20






それはありきたりの九月だった。
誰がそもそもの元凶だったのか……。

学園都市は『科学の発展』という題目の元、あらゆる非人道的な実験を行う実験場。
この街にそれを壊せる人間は存在しない。
統括理事会はそれを推し進め、警備員も、風紀委員もそれに感付いていながら放置している節さえある。
学生たちはこの街の『闇』に何も気付かずに、ただ科学という恩恵を享受し続けている。
それが破滅への選択なのに。

愚かさのつけを払うことになるだろう。
赦しを乞うには全てが遅すぎる。

運命が流れ始めた時、それを止めることは出来ないだろう。
誰にも―――……。

最後の九月が過ぎ去ろうとしている。
それを理解しているのは彼らだけだ……。







3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:10:05.50 ID:o+uUVPF20












               バイオハザード
―――とある都市の生物災害―――













4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:11:29.80 ID:o+uUVPF20


【biohazard】

生物災害を指す語。
人間や自然環境に対して脅威を与える生物学的状況や、生物学的危険を言う。



5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:12:23.92 ID:o+uUVPF20




このSSには暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています





6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:14:35.07 ID:o+uUVPF20
惨劇の序 Prologue / -Day1 / 17:06:23 / 第七学区 ファミリーレストラン『joseph's』

学園都市、第七学区。
高級感溢れる学舎の園から寂れた裏路地まで雑多な雰囲気を持つこの学区には、当然飲食店も数多く立ち並んでいる。
そんな店舗の中でもとりわけ高級というわけでもない、だがそれ故に中高生に愛用されるのがファミリーレストランである。
そして彼らは今日も今日とてとあるファミレスに集っていた。

「店員さん! このページ追加でお願いするんだよ!」

「馬鹿野郎!! 上条さんの財布のライフはとっくにゼロですのことよ!?
このままだとモヤシだらけの極貧生活が待ってるぞそれでいいのかインデックス!!」

「モヤシだってよ。お前のお仲間じゃねえか、挨拶しなくていいのか?」

「ブチ殺すぞクソメルヘン。にしても、あの無能力者(レベル0)は相変わらず貧乏生活送ってンのかよ」

「あんなトンデモ右手持ってんのにね。まあそれもアイツらしいって言うか」

一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶するイギリス清教のシスター、魔道書図書館インデックス。
異能の力なら何でも打ち消す右手を持つ無能力者、上条当麻。
学園都市第二位の超能力者(レベル5)、名称『未元物質(ダークマター)』を操る垣根帝督。
学園都市最強の超能力者である一方通行(アクセラレータ)。
学園都市第三位の超能力者、能力名『超電磁砲(レールガン)』を有する御坂美琴。

「お姉様……。またあんな類人猿などにうつつを抜かして、黒子は、黒子は悲しいですの!!」

「大将……。俺には分かるぜ、無能力者のその気持ち!!」

「大丈夫だよはまづら。どこまで行っても貧乏で三下なはまづらを私は応援してる」

「うーむ、あの人の浜面仕上評は間違っていなかったのかもってミサカはミサカは女の人に慰められてる情けない姿を見て考えてみたり」

「……逆に彼の浜面仕上に対する評価は過大評価なのかしら」

学園都市の治安を守る風紀委員、白井黒子。
ただのチンピラ程度でしかない浜面仕上。
『能力追跡(AIMストーカー)』という極めて希少な能力を持つ大能力者(レベル4)、滝壺理后。
御坂美琴の生体クローン、妹達(シスターズ)の司令塔である打ち止め(ラストオーダー)。
大能力者の精神系能力者、心理定規(メジャーハート)。

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:16:20.48 ID:o+uUVPF20
そうそうたる面々だった。
まず学園都市の誇る超能力者のトップスリーが集まっているというだけで異常だろう。
それに加えてこれだけの面子である。どこかに戦争でも仕掛ける気かと思われても仕方ないような光景だった。

だが当然ながら彼らにそんなつもりは毛頭ない。
ただ集まって盛り上がって駄弁って、という普通の学生らしいことをやっているだけなのだ。
過去には多くの問題があった彼らも、様々な困難を乗り越え今では以前からは想像もつかないほどの付き合いとなっていた。
一方通行も、垣根帝督も驚くほどに丸くなり、今の人間関係が実現しているのであった。

「浜面くゥゥゥン!? オマエ俺のピザを横取りするたァいい度胸じゃねェか!!」

「ははっ、楽勝だ、超能力者」

「情けねえなあ一方通行。浜面如きに遅れをとるとは……っ!?
……そうか、そうかそうか上条当麻。テメェそんなに愉快な死体になりてえか」

「へっ、いいぜ、垣根。テメェがピザを独占できると思ってんなら、まずはその幻想をぶち殺す!!」

超能力者二人と無能力者二人がピザを巡ってギャーギャー騒いでるのを脇に、御坂美琴と白井黒子はゆっくりと食事をとっていた。
彼女たちが今食べているのも同じくピザであるが、味は男連中のものとは違う、シンプルイズベストなマルゲリータだった。

「しかし黒子、アンタ本当によく肉食べるわね。どうしたのよ最近」

白井の目の前にはピザの他にハンバーグが置かれていた。
実は白井はその前にも肉料理を頼んでおり、これは普段ならまずあり得ないことだった。
淑女を自称する彼女は肉料理を決して嫌ってはいないが、そこまで好んでもいない。
それ以前に白井はそこまで大食漢ではない。体重計の上でため息をついている姿を美琴は幾度か目撃している。

「自分でもよく分かりませんが、猛烈に食べたい気分なんですの。
大覇星祭も終わって、溜まっていた疲れが出てきたのかもしれませんわね。
それに何故だか全身が痒くて痒くてたまりませんわ。お風呂には欠かさず入っているのですが」

「ふ-ん。疲れてるなら早めに寝なさいよ」

そう言って美琴は切り取ったピザの一カットに手を伸ばすが、それよりも早く何者かの手がそのピザをサッと持ち去ってしまった。
美琴が咄嗟に犯人を特定しようと顔をあげると、そこには勝ち誇ったような笑みを浮かべる垣根帝督の姿。

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:17:30.03 ID:o+uUVPF20
「ちょ、何すんのよ垣根さん! 返してってば私のピザぁ!!」

「文句なら上条に言え。恨むなら上条を恨め」

そう言って垣根は強奪したピザを一口で平らげてしまった。
もっともピザはまだ残っているし、なくなったところで彼らの財力ならばまた注文したところで痛くも痒くもないはずなのだが。
ピザの恨みぃ! と叫んでいる美琴や俺にそんな常識は通用しねえ! などと騒いでいる彼らを尻目に、滝壺と打ち止め、心理定規、インデックスは極めてまともに食事をとっていた。

もはや彼らにとっては日常化した光景。
これまでも何度も似たようなやり取りがあった。
そしてそれは明日以降もずっと続いていくはずだった。
それは上条の、インデックスの、美琴の、一方通行の、垣根の、心理定規の、浜面の、滝壺の、白井の、打ち止めの、この場にいない者も含め全員の願いだった。

だが結論から言って。
その願いが叶うことはなかった。


これより十数時間後、学園都市は地獄と化す。


変異した学園都市を舞台に、自身のために、守るべきもののために彼らは戦う。


血と肉と死に彩られた最低で最悪な物語が、幕を開ける。




―――Beginning of the End.





9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:19:11.81 ID:o+uUVPF20
御坂美琴 / Day1 / 07:05:12 / 第七学区 常盤台中学女子寮

枕元から少し離れた位置で鳴り響く目覚まし時計の音で、御坂美琴は目を覚ました。
もはや聞きなれた音。ゲコ太モデルの目覚まし時計で、ルームメイトである白井にはあれこれ言われているが美琴は愛用しているものである。
もう少しだけ、とこみ上げてくる抗いがたい二度寝の誘惑と戦いながら美琴は目元を手の甲で擦った。
鳴り響く耳障りな目覚まし音を半ば叩くようにして止める。
ふわぁ、と盛大にあくびをしてベッドから足を降ろす。
窓から差し込む太陽の光が眠気を幾分か飛ばしてくれた。

立ち上がり、スイッチを切り替える意味も兼ねて思い切り伸びをする。
伸びが朝の習慣のようになっているのは何故なのだろうなどと思いつつ、美琴は一つの異変に気付いた。
美琴のベッドの隣、ルームメイトの白井黒子のベッド。
そこにはあるはずの後輩の姿がなかったのだ。

「黒子?」

どこに行ったのだろうか。
既に学校に行ってしまったとは思えない。
そもそも学校は常盤台に限らず、多くのところが伝染病とやらのせいで学校閉鎖となっている。
ならば風紀委員の仕事だろうか。
それにしてもあの後輩が書置きもメールもなしに行くとは考えにくかったが、他に何も思いつかなかった。

どこか疑問を感じつつも着替えを済ませ、顔を洗い歯を磨いている時だった。
すぐ近くの風呂場から何か物音が聞こえた気がした。
歯磨きを一度中止し口を洗って、美琴は中にいるだろう人に呼びかけた。

「黒子? 朝からお風呂入ってんのアンタ?」

返事はない。
しかしよく耳を澄ませてみれば音がおかしい。
シャワーの音や水がタイルを叩く音が一切しない。
風呂やシャワーに入ればどんなに気をつけてもそういった音の発生は避けられないはずなのに。
だが音そのものがしないわけではない。
代わりに聞こえてくるのはねちゃりという粘着質な音と―――何かに苦しむような呻き声。

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:20:21.46 ID:o+uUVPF20
「ちょっと黒子どうしたの!? 苦しいの!?」

異常を察知した美琴が風呂へと続くドアを開けようとしたが、ドアノブが回らない。
ガチャガチャという音だけが響く。中から鍵がかけられているようだ。

「黒―――」

言葉が途切れた。一瞬心臓が縮み上がったかと思った。
突然白井と思われる人影がドアの向こうに現れたのだ。
当然風呂場のドアはすりガラスになっていて、内部を覗き見れないようになっている。
だがそれでもシルエット程度は見えるものだ。
今、白井は目の前のすりガラスに内部から音をたてて勢いよく張り付いていた。

「……な、何よ。どうしたのよ」

明らかに何かがおかしい。
白井はただドアを開けようとしているように見える。
しかし白井は呻き声を漏らしながらドアを叩いたり、ぶつかったりしているだけだった。
鍵は中からかかっているのだから、それを外してノブを回せば簡単に開くはずなのに。
まるでそんな思考すら出来ていないようだった。

白井が叩く度にドアがギシィ、という嫌な音をたてる。
少しずつ、ドアが破られているように見えた。
しかし、あくまで女子中学生である白井にそこまでの力があるだろうか。

「え、ちょっと、何、何なのよ。黒子、アンタ一体―――」

怯えるように、美琴は一歩二歩と後退する。
本能が激しく警告を発している。どう見たって普通ではない。
美琴の持つ全てがこれはかつてないほどの異常事態であると告げていた。
その時、バンッ!! という音と共に、浴室のドアが大きく開け放たれた。
ついに白井によって内から破られたのだ。
そして、自らを閉じ込めるものがなくなったことにより中から白井黒子―――白井黒子?―――が姿を現した。

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:21:52.62 ID:o+uUVPF20
しかし、それは。

「―――……あ、ああ、う、あ……っ」

あまりにもおぞましくて、醜くて。

「く、ろこ……くろ、こ……」

可愛らしかったかつての姿はどこにもなく。

「何、で……っ!! 何が、黒子、黒子ぉ……っ!!」

あるのはただ。

「―――……ぁああー……」

奇声をあげる、変わり果てた、後輩の姿。

「――――――ひ、っ」

掠れた声が漏れた。

白井の皮膚は、明らかに腐っていた。
全身に渡って鬱血を起こしており、首元や太ももの肉はぐずぐずになってごっそりと剥がれ落ち、内部の筋繊維や骨が露出していた。
それに伴って全身は溢れる赤黒い血に塗れ、傷口からは膿が吐き出されていてとてもではないが生きている人間とは思えない醜悪な姿だった。
腐っていない部分も病的なほど青白く、瞳孔は開ききっていて目は虚ろで、口の端からはだらしなくよだれを垂らしている。
白井が一歩歩く度に、ぬちゃりとした血と肉が足跡を残す。

その右足には白井が愛用していた金属矢が何故か突き刺さっている。
鬱血した皮膚は一部剥がれ落ち、赤い筋繊維が完全に露出していた。
凄まじい腐敗臭。途轍もない勢いで込み上げる吐き気に、美琴は思わず口元を手で押さえた。
ただしそれは臭いによるものだけではない。

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:22:55.17 ID:o+uUVPF20


    ――『お姉様?』――


可愛い可愛い後輩だった。変態なところもあったが、それでも美琴にとっては大切な存在だった。


    ――『お姉様はあくまでも一般人ですのよ。治安維持活動は風紀委員に任せていただきたいですの』――


頑張り屋で、尊敬できる自慢の後輩だった。誇りを持って治安維持に従事するその姿は、素直にかっこいいと思えた。

なのに、何で。
何で、こんなことになっているんだ。
白井黒子が一体何をしたと言うんだ。
何故、彼女がこんな目に遭わなければならないんだ。

「お” ね”ェ”サ”  ま”ー」

(――――――うそ)

これは、夢ではないか。
もしくは幻覚でも見ているのではないか。
目の前の現実が、受け入れられない。
なのに。鼻を抉るような激しい腐敗臭がどうしようもなく現実を突きつける。

近づいてくる。
ゾンビとしか表現しようのない異形と化した白井が、トレードマークであった赤く染まったツインテールを揺らしながら近づいてくる。
一歩進むごとに赤黒く生々しい腐肉を晒している、端整だったはずの白井の顔がはっきりと見えてくる。
どう見たってまともな人間の顔ではない。
生きている人間のものではない。
しかし白井はたしかに歩いている。

白井黒子は、既に死んでいる。
けれど同時に生きている。
生きているが死んでいる。
死んでいるが生きている。

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:24:50.00 ID:o+uUVPF20
(何よこれ何なの何なのよ何が起きたっていうの嘘でしょこんなの夢に決まってる意味が分からないほら目を閉じて開けば全部元通りふざけないでよ何なのよこれ)

御坂美琴は超能力者の第三位、超電磁砲だ。
たった一人で軍隊と戦えるだけの力を有している。
だが同時に美琴は一四歳の女子中学生だった。
そして少なくとも美琴は―――昨日まで笑い会っていた後輩が生ける屍となったことに耐えられるほど、気丈な人間ではなかった。

「う、あ、ああ……ああああぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

駆け出した。
今まであげたことのないほどに絶叫しながら、美琴は一目散にその場から逃げ出した。
転びそうになりながら、体勢も滅茶苦茶で、体力配分も考えず。ただひたすらに。
洗面所から飛び出し、部屋の外へと続く玄関のドアを体当たりするようにして開け放った。
追って来る。死体となった血塗れの白井が、自分を追ってきている。

「オォおおぉオォぉ……」

金属矢が刺さっている方の足を引き摺るようにして、不気味な足音を引き連れて。
酷く変質している白く淀んだ眼球をこちらへ向けて。
何かを掴もうとするように、肉が剥がれている両腕を伸ばして。

「―――――――――!!!!」

耐えられなかった。
美琴は白井に背を向けてひたすらに走る。
どこを目指しているのかも分からない。
ただひたすらに美琴は常盤台らしく豪華な装飾の為されている廊下を全力で駆け抜ける。

(意味が分からない意味が分からない意味が分からない意味が分からない!!
だって、こんな、そんなの、どうして!!)

あれはどう見ても普通ではない。
映画などでは比較的よく見る歩く死体、いわゆるゾンビというものにしか見えなかった。
美琴は頭の中にあるゾンビというものの情報をありったけ引き出した。
とはいってもそういった映画を見たことはないので、本当にイメージだけのものだが。

まず第一に、ゾンビは人を襲ってその肉を食らう。
そして第二に、ゾンビに噛まれた人間は同じくゾンビとなる。

知っているのはこれくらいだったがそれで十分だった。
だが少し待て。ということは、先ほどの白井黒子は自分を食らおうとしていたということか?
あの可愛らしく、強く、優しかった後輩が、食人という最大最悪の禁忌を犯そうとしていたと?

(黒子…………!!)

御坂美琴の二つの瞳からは、透明な雫が滝のように流れていた。
何も分からぬまま絶望のどん底に叩き落された理不尽さ。
やりようのない怒りとも悲しみともとれる沸々と湧き上がる感情。
何も分からない美琴は、ただ逃げることしかできなかった。

14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:25:53.59 ID:o+uUVPF20
上条当麻 / Day1 / 07:00:58 / 第七学区 学生寮

「……やっぱ、おかしいよな」

上条当麻は一人、久しぶりに使用したベッドの上で考え込んでいた。
現在上条を悩ませているのは同居人であるインデックスのことである。
昨日皆でファミレスで騒いだ後、インデックスは「こもえの家で焼肉をする」と言って上条と別れていた。
あれだけ食べた後に焼肉というあたり流石としか言いようがなかったが、重要なのはそこではない。

何が問題かというと、その担任の月詠小萌からの連絡がないのだ。
これまでもインデックスをあの子供みたいな担任教師に預けることや、泊まりに行くことはあった。
その時は必ず月詠小萌から連絡があったのだ。
今からシスターちゃんが帰る、とか今着いたところだ、とか。
だが昨日からそういった通達が全くない。

昨日は忘れてしまっているだけかと思っていた。
それにあの先生はあの見た目で酒飲みである。
酔っ払ってしまっている可能性もあった。
しかしこの時間になっても何も連絡なしというのはおかしい。
月詠小萌だって教師。生徒よりは早く学校に向かわなければならないはずだ。

いつも彼女が何時ごろに家を出ているかなど分かるはずもないが、今は七時。
もうそれほど時間に余裕があるとは思えない。
上条の学校は学校閉鎖になっているが、少なくとも小萌は会議ややらなければならない作業でもあるのか学校に行っていることを知っていた。
こちらから電話は勿論かけてみたが、一切電話に出なかったのも気になった。

「行ってみるか」

言って、上条は制服に着替えて自宅を出た。
もともとこういう時にじっとしていられないのが上条当麻である。
だが玄関を開けた途端―――上条は異常に気付いた。
誰かの悲鳴があがっていた。
そして、僅かに聞こえる銃声。

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:29:46.83 ID:o+uUVPF20
「警備員が、何かと戦っているのか!?」

真っ先に浮かんのだのは、自分もしくはインデックスを狙う魔術師である可能性。
だがだとしても、一般人が悲鳴をあげているということはよほど大規模な戦闘が行われているのだろうか。
それにそうだとしたら土御門元春から何の連絡がないとも思えない。
彼なら確実に何らかの連絡をよこすはずだ。

「クソッ!! 無事でいろよ、インデックス!!」

敵の正体は分からないが、やはり魔術師である可能性が一番高いように上条には思えた。
ならば一〇万三〇〇〇冊を記憶する魔道書図書館である彼女が狙われている可能性は高い。
そしてその際に月詠小萌も巻き込まれたのだとすれば。
何の連絡もなかったことに説明がついてしまうのではないか。
エレベーターのボタンを叩くようにして押し、一階まで降りた上条は黒の学ランを翻しながら担任の自宅へ向かって駆け出した。

どうやら事は想像以上に深刻らしい。
何が起きているのかあまり理解は出来ていないが、今やるべきことははっきりしている。
月詠小萌の自宅へと全速力で走っている、その時だった。

―――上条当麻は、この世の地獄を見た。

見知った制服姿が、二つあった。
それは上条の通う学校のもの。
男性用と、女性用。
男の方が地面に倒れこみ、女の方が四つんばいになりその男の腹に口をつけていた。

女の口元から聞こえるくちゃくちゃという何かを咀嚼するような音。
その男を中心に、吐き気を催させる鉄錆の臭いを放つ赤い液体が海のように広がっていた。
そしてその男の髪の毛は、赤い液体が付着しているものの青に染められていた。

見覚えがあった。
それはデルタフォースなどと呼ばれている三人の内の一人。
上条と同じクラスの、友達。
青髪ピアスだった。

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:30:39.69 ID:o+uUVPF20
「――――――ッ!?」

それだけではない。
青髪ピアスの腹に口をつけていた女が上条に気付いたのか、ゆっくりと立ち上がった。
女が動いたことによってその陰になっていて見えなかった部分、青髪ピアスの腹が見えるようになる。
そこは、


肉が食い千切られ、


内臓が露出していた。


女が振り返る。その口元は血と肉片に汚れていた。
だがそんなことより、重要なのはその顔。
一部肉が腐って崩れてはいるが、一目でそれが誰か上条には分かった。

「吹、寄……」

吹寄制理。
そう、彼女は紛れもなく吹寄制理だ。
全身血塗れで、肉は剥がれ落ち、口元を汚していても、吹寄であることに変わりはない。

(ま、さか……食った、って、言うのか?
吹寄が、青ピを……人を、食べた!?)

どこまでも嗅覚を刺激する、恐ろしいほどに強烈な臭い。
腹部が抉られ、生々しい肉とぶよぶよした内臓を曝け出して死んでいる友人。
その友人を食らい、ゾンビと化しているクラスメイト。
あまりにも信じ難いそれらを事実として正しく認識した途端、上条は吐瀉物を路上に撒き散らした。

「おぇあっ、うぐっ―――!!」

びちゃびちゃ、という粘着質な音。
酷く不快な感覚が上条を襲った。
しかし吹寄はそんなことなど委細気にしない。
ただ新たな獲物を求めて上条に腕を伸ばしているだけだ。

「アぁ” ぁアぁぁあ……」

何が、あった。
何故こんなことになっている。
何で、吹寄が、青ピが、こんな。

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:32:18.35 ID:o+uUVPF20


    ――『しっかりしなさい上条当麻!!』――


    ――『なぁ、カミやん』――


吹寄制理。
上条のクラスメイト。委員長気質で、いつだってだらけた上条に厳しくて、誰よりも真面目だった。

青髪ピアス。
上条、土御門と並ぶクラスの三馬鹿。デルタフォースの一人で、非日常にいることが多い上条が日常を感じさせてくれる人間だった。

その二人が、今。大覇星祭の時に見せていたあの活発な笑顔も、エセ関西弁も全てをなくして。
死んでいる。それとも、生きている?
歩く死者。死んでいる生者。動く亡骸。ゾンビ。リビングデッド。

(何だ、よ。これ……。何だ何だよ何なんだよ!! わけが分からないこんなことあってあまるか何がどうなって、何で、こんなこと―――ッ!!)

上条当麻は今この街がどんなことになっているのか。
人々は一体何から逃げ惑っているのか。
警備員は何と戦っているのか。
その全てを理解した。

そして、それらを理解した上で。
上条は他の皆と同じように、ただ背を向けて逃走することを躊躇なく選択した。

「あ、……うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

ダンッ!! と地面を蹴り、上条は逃げる。
その際、吹寄に食われ死んでいるはずの青髪ピアスの指が僅かに動いたことには気付かない振りをした。
走る。逃げる。走る。逃げる。
全力で上条は二人の友人から逃走する。
しかし一体誰がその行動を責められよう。

上条当麻はまともとは言えない多くの事件に首を突っ込み、解決してきた。
荒事にも不本意ながら慣れてしまってきている。
ただし、こんなのはあまりにも異常。
今まで経験してきたあらゆる騒動がちっぽけに見える。

上条がどんな経験をしてきていても、どんな右手を有していても。
彼はまだ一六歳の、正確には誕生日を迎えていないため一五歳だが、高校生でしかないのだ。
つまり、まだ子供なのだ。
そんな上条が、大人だろうと何であろうと発狂しかねないこの状況を前にしてまともでいられるはずがなかった。

故に上条当麻は逃げる。
それでもそんな状況でありながら、走りながらも美琴たち友人の心配を出来たのは―――彼が上条当麻たる所以なのかもしれない。

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:33:36.67 ID:o+uUVPF20


垣根帝督 / Day1 / 06:41:22 / 第五学区 路地裏

「クソが、何でコーヒーの一つもねえんだよ。ふざけんなっつーの」

第五学区。
大学生がメインの学区であり、全体的に落ち着いた大人びた雰囲気を持つ学区だ。
居酒屋なども多く、中高年をターゲットにしていない店も多い。
ある意味では学園都市の中でも若干浮いた学区であるとも言えるかもしれない。
そして同時にこの第五学区は、学園都市第二位の超能力者である垣根帝督の自宅がある学区でもある。

本来垣根がこんな朝早い時間に外を歩くなどまずあり得ない。
いつもなら惰眠を貪っている時間だ。
それがどういうわけか目が覚めてしまったのが運の尽き。
二度寝は中々出来ないわ仕方ないから起きようとしたらコーヒーも茶もないわで散々だった。

そういうわけで、垣根は早朝からコンビニまで散歩と洒落込んでいるのだ。
早朝の散歩というと何とも健康的な響きがある。
事実健康に良いのかもしれないが、垣根はそんなことを気にする人間ではなかった。

外を歩いている人間はほとんどいない。
学園都市は人口の八割が学生なので、『外』で見られるような通勤ラッシュというものもほとんどない。
そしてその学生たちがこの時間に外をうろついているわけもなく、結果として学園都市は静まりかえっているのである。

幸いコンビニはこの時間にも営業している。
一方通行ほどではないが、銘柄に多少なりともこだわる垣根は自販機を使うことがあまりない。
そして目的地まであとせいぜい二分、といったところで垣根がピタリと歩みを止める。

垣根が見つめているのは一本の路地裏。
そこから感じられる二つの“臭い”に垣根はスッと目を細めた。
一つは、誰もが嗅覚でキャッチできる臭い。
僅かに、すっかり嗅ぎ慣れた血の臭いが漂っているのを垣根は逃さなかった。
一つは、暗部だからこそ感じ取ることの出来た臭い。
頭のスイッチが切り替えられる。この路地裏の奥は“そういう世界”だ。

19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:34:26.33 ID:o+uUVPF20
「ったく。以前の俺ならこんなもん無視してるっつうのに……。
やれやれ、すっかり丸くなっちまったもんだ」

口ではそんなことを言いながら、垣根はフッと素直に笑った。
何だかんだで今の世界の居心地は、悪くない。

垣根は薄い笑みを浮かべたまま、躊躇うことなくその路地裏へと入っていった。
より強くなる、生理的嫌悪感を掻き立てる血の臭い。
垣根は大方チャチな殺しでもあったのだろう、と当たりをつけた。
暗部によるものならこんなお粗末なやり方はしない。
となるとスキルアウト同士の潰し合いでもあったのか。

いずれにせよ見てみないと分からないが、臭いから考えるに相当出血しているように思える。
既に手遅れ、つまり被害者は死んでいるかもしれないと考えた。
そしてその推測はある意味では当たっていて、ある意味では外れていた。

「―――何だ、よ。こりゃあ」

垣根帝督は暗部にいて長い。
一方通行よりも、麦野沈利よりも長く、そして深いところにいた。
自身の経験したものも含め数多くの悲劇を知っている。
だが、それでも。
今目の前に広がっている光景は、あまりにも異質で異常だった。

何かを咀嚼する音と呻き声。
その状況を端的に言えば、人が人を食べていた。
どこか見覚えのある男が。
同年代程度に見える男の首元にかじりついて。
その肉を、食い千切り、食している。

「…………ッ、ぐっ―――!!」

眩暈や酩酊にも似た感覚に垣根はゆらりと体を揺らし、しかし歯噛みしてそれを押し殺す。

狂ってる。
垣根帝督は素直にそう思った。
たくさんの悲劇を経験した。多くの死を見た。いくつもの死体を積み上げた。
学園都市のイカれた実験だってたくさん知っている。
それでも、これは飛びぬけて狂っている。

20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:37:20.69 ID:o+uUVPF20
男が、立ち上がってこちらを振り向いた。
その肉は腐り剥がれ、内部を晒している。
血塗れの顔。削げ落ちている顔。青白く変色している顔。
それでも垣根には分かる。
頭につけている何なのかよく分からない輪。
あれは、紛れもなく垣根の率いていた『スクール』の一員であるあの少年のものだ。

「―――オ”  ォ お”ォオォぉォ……」

名前は分からない。
心理定規という少女と同じく、彼は通称で呼ばれていた。
その呼び名は何の捻りもない、ゴーグルという名だ。
明るい少年だった。当時の垣根にとってはいくらでも代えの効くただの名もなき駒でしかなかった。

だが少なくとも今の垣根にとっては、友人と言ってもいい存在だった。
ついこの間も二人とも未成年だが飲みに行ったばかりだ。
下らない雑談で盛り上がり。中身のないやり取りをし。冗談を飛ばし合える関係。
それは紛れもなく、友達だった。

しかし今この瞬間。そいつは生きているのか死んでいるのかも分からない、ゾンビとでも言うべきものに変異していて。
十中八九、今度は垣根を食らおうとしている。

「……おいおい。おいおいおい、おいおいおいおい。
どうしたよお前。何ヤク決めたみてえにヨガッてんだ。
ざけんな、俺のチームじゃドラッグは禁止だと最初から伝えてあっただろうが」

瞬間。
腐肉を晒すゴーグルから視認不可能の力が放たれ垣根へと襲いかかった。
念動力(テレキネシス)。ゴーグルの有する能力だ。
こんな状態になってはいても、能力は行使出来るらしい。
レベルはたしか強能力者(レベル3)。中々の力だ。
不可視であることも含め、並の相手なら大抵は倒せるだろう。

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:39:10.29 ID:o+uUVPF20
だが。今ゴーグルが攻撃を仕掛けた相手は、残念ながらその「並の相手」にはカテゴライズされない。
垣根帝督。そのレベルは最高位である超能力者。
どうひっくり返ったところで強能力者ごときにどうにか出来る相手ではない。
そして案の定、垣根はその攻撃をまともに食らってなお無傷だった。

「いきなりご挨拶じゃねえかゴーグル。テメェ誰に何したか分かってんのか?」

「ぁああ” ぁあ ァ……」

ゴーグルは答えない。
言葉を返さず、動きを止めることもなく、ただ目の前のご馳走に食らいつくことだけを考えている。
猛烈な飢餓感に駆られ、新鮮な肉を求め、根源的な本能に従うことしか出来ないものがそこにいた。

「この……ッ!! ラリッてんじゃねえぞォォォおおおおおおおおおおッ!!」

右腕を振るう。ただそれだけだった。
それだけで視認不能、説明不能の非常識が巻き起こりたちまちゴーグルを吹き飛ばした。
猛烈な勢いで背中からコンクリートの壁に叩きつけられた。
何の抵抗もできずにそのままぐしゃりとゴーグルは崩れ落ちる。
普通ならそれだけで最低でも動けなくなるはずだ。

そう、普通なら。人間なら。
だがゴーグルは、既に、人間ではない。だから、普通の常識は当てはまらない。
人間なら動けなくなるダメージであっても。ゾンビなら―――生きた死体なら問題ない。
それを証明するようにゴーグルは平然と立ち上がる。ゆっくりと、立ち上がる。

「―――もうやめろ」

垣根が右手の親指と中指を使ってパチンと指を鳴らす。
途端、新たな非常識が発生。
ゴーグルは突然バランスを崩し、その場に無様に倒れ伏した。
何故倒れたのかと言えば簡単なことだ。
人間は二本の足で己の体を支えている。

22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:39:45.39 ID:o+uUVPF20
では、その片方がなくなればどうなるか?

ゴーグルの右足は、垣根の『未元物質』によって潰されていた。

科学力が『外』より二、三〇年進んでいるこの学園都市では医療技術も桁違いだ。
少なくとも学園都市では手足の一本や二本弾いたところで治療は可能。
それをよく知っている垣根は、さほど躊躇うことなくその力を振るった。
手足を弾いて殺さずに済むなら垣根は迷わずそちらを選択する。

だが垣根には一つ誤算があった。
目の前の異形は、歩く亡者は、手足をもいだ程度では止まらない。

片足を失ったゴーグルは立ち上がれない。
だがそれでも地面を這い蹲って、腕を伸ばして地面を掻き、芋虫のように垣根に迫ってくる。
その姿を見て。ついこの間まで笑い合っていた、友人を見て。
垣根は胸に酷くドロドロした何かを感じた。
ただ、呻き声をあげながら迫ってくる腐った人間“だったもの”に、酷くいたたまれなくなって。

「……聞こえねえのか。やめろと、言っている」

ボンッ!! という音がした。
ゴーグルの左腕が根元から消失する。
それでも彼は止まらない。片手片足となりいよいよ芋虫のようになりながらも、止まらない。
少しずつ、少しずつ、近寄ってくる。その顔はまさにゾンビそのもので。

「言葉が理解できねえと見えるな。―――……是非もねえ」

垣根は一度目を閉じて、数瞬の後何か決意したように大きく目を見開いた。
すると、垣根の背に無機質な左右三対、計六枚の純白の翼が現れる。
『未元物質』。これが垣根帝督の有する、超能力者の一角に座す圧倒的な力。
美しさと、異世界から引き摺り出してきたかのような異質さを併せ持つその翼が無言のままに振るわれた。

垣根では、ゴーグルを、友人を救うことは出来ない。
ならば自分に出来るのは、この少年に安らかな眠りを与えてやることのみ。
こんな動く死体になってまで生を望んでいたとは思わない。
ゴーグルという人間を冒涜しているようにさえ思える。
だから、一度決意してしまえばもう躊躇いはなかった。

肉を切り裂く手応え。骨を砕く感触。筋繊維を断裂させる音。
垣根が翼を消失させた時、その場にあったのは肩のところから腰にかけて斜めに袈裟懸けに斬られ、血溜まりに沈むゴーグルの姿だった。
真っ二つ、ではない。だが僅かに繋がっているだけで、ほとんどそれに近い状態だ。
これには流石にゾンビも堪えたのか、呻き声を漏らしてようやく動かなくなる。

物を言わなくなったゴーグルを見て、垣根帝督は―――ほんの一瞬、刹那だけ顔を哀しげに歪ませた。
その表情は、どこか泣き出してしまいそうにも見えた。

23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:42:37.35 ID:o+uUVPF20

浜面仕上 / Day1 / 07:19:36 / 第七学区 『蜂の巣』

僅かに聞こえた人間の悲鳴、そして銃声。
それらを目覚まし時計代わりとして浜面は起床した。

「……何だ? 何が起きてんだ?」

ここは浜面の住んでいる自宅である。
ルームメイトも元々おらず、今この部屋には浜面一人しかいない。
アパートの中にいて、なお外の喧騒が僅かに聞こえてくる。
何が起きているのか具体的なことは分からない。
だがそれでも、まともな状況ではないことはすぐに分かった。

ただのチンピラ程度の浜面も、これまでそれなりの修羅場は潜ってきている。
その程度の状況判断は出来るつもりだ。
そして浜面の勘はこれは非常事態だと警告していた。
身を刺すようなおぞましい予感が浜面を襲っていた。

浜面はすぐに顔を洗って眠気を完全に飛ばし、着替えて家を出た。
何が起きているのかこの目で確認するためだ。
そして、浜面は自分の勘が正しかったことを知った。

浜面の部屋はアパートの二階。
下を見下ろすと、いつもならこんな時間でもまばらに人が見られるものだが今日は人っ子一人見当たらなかった。
一人二人の姿を見つけるも、明らかに様子がおかしい。
まるで何かに怯えているようで、後ろを振り向きながら全力で走っていた。いや、どう見ても何かから逃げていた。
更には耳を澄ませばかすかに聞こえる銃声。警備員のものなのだろうか。

「おいおい……。本当にこの街で何が起きてんだ!?」

浜面は事態を把握するために階下へと走った。
カンカンカン、と階段を駆け下り敷地を飛び出す。
このままでは気になって眠れもしない。
それに、もしかしたら浜面の大切な人たちも巻き込まれているかもしれないのだ。

24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:43:20.34 ID:o+uUVPF20
走る。逃げる人の流れに逆らって、上流を目指す。
そこに何かがあるはずだ。こうも人を怯えさせ警備員を出動させる何かが。
不自然なほど誰もいない道路を浜面はひたすらに駆ける。
そして遡り続けた先には、

「何もないな……」

誰も、何もないただの空間だった。
先ほどの人間はこの方向から逃げてきたのだから間違いなく何かがあるはずなのだが。
この辺りのはずだ、と浜面は周囲を調べようとして気付いた。
そういえばこのすぐ近くにはスキルアウト時代に使っていた溜まり場があったはずだ。
スキルアウトは彼らなりのネットワークを持っている。
何かこの事態について情報を持っているかもしれない。

そう考えた浜面は少し路地裏へと入り、そこへやって来た。
通称『蜂の巣』。管理が甘い建物が密集している地帯で、後ろ暗い連中にとって格好のアジトとなっている。
そんな『蜂の巣』の一室に浜面がいたスキルアウトのアジトはあった。

「何かちょっと懐かしいな」

スキルアウト時代は言うほど前でもないのだが、抜けてからあまりにも多くのことがあったせいかやけに昔のことのように感じる。
皆は元気だろうか。もともと悪い意味ではしゃいでるような連中だ、心配は無用だろうが。
泥を舐めてでも生き残るのが彼らの生き様だ。その頑丈さは折り紙つきである。
靴底で埃や捨てられた紙屑を踏みながら浜面は入り口であるドアの前へと辿り着く。
ノックはしない。彼らとはそんな間柄でもないからだ。

「おーい。誰かいるかー?」

ギィ、と古いドア特有の音をたててその部屋は浜面を迎え入れた。
鍵はかかっていなかった。
そして浜面はそこに足を、踏み入れた。
もはや異界と化したその空間に、立ち入ってしまった。

「うっ―――!!」

その瞬間、鼻を抉るような強烈な臭い。
下っ端とはいえ裏稼業に手を染めていた浜面にはすぐに分かった。
血だ。圧倒的なまでの、むせ返るような血の臭い。そしてそれに加えて何かが腐ったような臭い。
浜面仕上はそこで見た。見てしまった。

25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:44:40.83 ID:o+uUVPF20
それは地獄絵図だった。

今まで見てきたどんなものよりも、凄惨。
どんな死体よりも、無残。
ありとあらゆる地獄を集めたような光景が、その部屋には広がっていた。

部屋は血の海だった。壁も、天井にまで血が飛んでいる。
しかし一番に目を引くのはそんな瑣末事ではない。
人だ。人がいる。五人いる。
見覚えのある顔だった。五人ともスキルアウト時代の仲間に違いなかった。
だが、彼らは人としての形を留めていなかった。

肉が、剥がれ落ちている。骨が、露出している。
そして、人を、仲間を、その肉を食している。
むしゃむしゃと、当たり前のように食べている。
白く濁りきった虚ろな目で。青白く変色し、場所によっては腐っている肌で。だらだらと血とよだれを垂れ流す口で。
彼らが、人ではない何かに変容したことを示していた。

「―――ッ!? ――――――!!」

言葉が出なかった。
何を言えばいいのか、どんな顔をすればいいのか。
何も分からなかった。一体、何がどうなって。

「か―――は、っ」

後ずさる。
思考が追いつかない。
体が震えた。言葉もうまく紡げない。
ゾンビ。そう、ゾンビだ。
変わってしまった彼らを形容するのにこれ以上適切な言葉はない。

いつだっただろう、『アイテム』の仲間である絹旗最愛に連れられてこんな映画を見たことがある。
だがあれはあくまで映画、フィクションであって現実にこんな馬鹿なことが起きるわけがない。
しかし彼らはどう見たってゾンビそのもので。
映画で見たゾンビと、目の前の仲間が怖いほどに一致してしまう。

26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:45:13.42 ID:o+uUVPF20
その時。一番近くにいたゾンビが、動いた。
ゆっくりと振り返り、腐った腕を伸ばして浜面へと近づいてくる。
そのどろりと濁った白い眼窩のはめられた顔に、浜面は覚えがあった。
いや、もともとスキルアウトの仲間だったのだからここにいる五人全員の顔は知っている。
だが、今目の前にある顔はその中でもとりわけ親しくしていた人物だった。

「半、蔵?」

そう、半蔵だ。服部半蔵。
浜面仕上の良き友人であり、戦友とも言える存在。
半蔵に助けられたことも一度や二度ではない。
そんな彼はもはや昔の面影を残してはいない。
あるのはただ生ける屍の姿。

「……ウソ、だよな? なぁ、半蔵……!!」

「ウ ゥぅ うウ ゥ……」

濁りきった目でこちらを見つめる半蔵の姿に、浜面は咄嗟に、何度か失敗しながら銃を抜いた。
レディースの小型拳銃。家を出る際に念のため持ち出していたものだ。
その銃口を半蔵へと向ける。だがその銃口は、小刻みに震えていてまるで照準がつけられていなかった。
浜面はそこまで射撃に長けているわけではないが、それなりに銃には触れてきた。
少なくともこの距離で外すようなヘマはしない。だが、

「やめ、ろよ。何、なんだよ、半蔵ぉッ!!」

撃てない。当てられるとか、当てられないとか。
そういう問題ではない。だって、目の前にいるのは紛れもなく服部半蔵なのだ。
たとえその肉が腐っていても、剥がれ落ちていても、生きた死体になっていても、半蔵なのだ。
半蔵―――だったのだ。

だがそんな浜面の悲痛な声は決して届きはしない。
半蔵は浜面を食料としか考えていない。
近づいてくる。浜面仕上という友人を捕食するために。
ただ新鮮な肉を食らい、己の養分とするために。

27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:46:04.55 ID:o+uUVPF20
(どっ、どうする……!? 何がどうなってんだ何だよこれどうすりゃいいんだよッ!?)

原因など知らない。ただとにかく半蔵はアンデッドになっていて、自分を食らおうとしている。
このままでは殺される。そうだ、殺らなければ殺られる。
自分は下っ端とはいえ、そんな世界で過ごしてきたじゃないか。
撃て。撃て。殺される前に、息の根を止めろ。でないと死ぬのはこっちだ。
だから、浜面仕上は。

「――――――ッ!!」

ガァン!! という乾いた音。
撃った。引き金を引いた。鉛弾は確実に半蔵を貫いた。
そう、半蔵の、足を。
やはり半蔵を殺すなんて決断は出来なくて、咄嗟に銃口をずらしたのだ。
生温く甘いとしか言い様のない判断。だがそれでもそれが浜面の限界だった。

片足を撃ち抜かれた半蔵はバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。
だが止まらない。地面を這い蹲って浜面へと迫る。
奇声をあげながら、鬱血した生気のない青白い顔を浜面に向けて。
狂ったように腕を伸ばし、床を引っ掻き、迫ってくる。
それを見た浜面は、

「……っ、ぅ、うわああああぁぁぁあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

逃げた。これまでにないほど全力で。
目の前の異形から一センチでも離れるために。
どれほど走っただろうか。自分の現在地すら分からなくなっていた。
どこか目的地を決めていられるほど浜面は冷静ではなかった。

28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:46:44.47 ID:o+uUVPF20
朝起きた時から感じていた学園都市の異様な気配。
逃げ惑う人々。悲鳴。銃声。
全てが繋がってしまった。絶対に認めたくないことだが、この目で『アレ』を見てしまったのだから。
おそらく、現在学園都市中に亡者が溢れている。
その事実に浜面はどうしようもなく体が震えるのを感じた。
それは人間だけでなく全ての動物が有しているとされる根源的な感情―――恐怖。

(……そうだ。滝壺。滝壺は無事なのか!?)

滝壺理后。浜面仕上が守ると誓った一人の少女。
『アイテム』の仲間たちも気になるが一番は彼女だ。

人畜無害な少女に見えるがあれでも暗部だった人間。
間接的にではあるが人を殺した経験だって当然ある。
その能力は大能力者。無能力者である浜面とは圧倒的な戦力の差がある。
だが滝壺の能力は強大であっても、直接戦闘型ではない。
銃器の扱いに特段長けているわけでもないし、複数のゾンビに襲われたらそこで終わってしまうかもしれない。

「クソッ!!」

思わず吐き捨てて、浜面は携帯を取り出して滝壺へ電話をかけた。
トゥルルル、というコール音がこれまでの人生で一番長く感じられる。

(どうして……どうしてこんなことになっちまったんだよ……っ!!)

29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:48:26.29 ID:o+uUVPF20

一方通行 / Day1 / 07:01:22 / 第七学区 マンション『ファミリーサイド』

午前七時。まだ街も目覚めきっていない、朝早いと言える時間。
そんな時間に学園都市最強は起床していた。
いつもならあと五、六時間は惰眠を貪っているところだ。
にも関わらず一方通行が起きているのには理由がある。

どれくらい前だっただろうか。
眠っていたため正確な時間など覚えていないが、この家の家主である黄泉川愛穂が何らかの連絡を受け、慌しく家を出て行ったのだ。
その気配や音で一方通行は目を覚ましてしまっていた。
彼を取り巻く環境が環境なので、そういった気配には敏感なのだ。

警備員の仕事だろう、と思っていた。
朝早くからご苦労なことだ、程度にしか考えていなかった。
だが今一方通行は完全に目を覚まし、杖をとって黄泉川の後を追うように外出しようとしている。

理由は簡単だった。
学園都市の異様な気配を敏感に感じ取ったこと。
そして僅かに悲鳴と、それに混じって銃声が聞こえたような気がしたからだ。
何が起きているのかは分からない。
だがもし裏の連中が『表』の人間を巻き込んで何かをしているのなら、容赦はしない。

(クソガキはまだ寝てるか。芳川は……どォせ起きやしねェだろ。番外個体(ミサカワースト)だけには気を付けねェといけねェな)

電極がしっかり充電されていることを確認し、拳銃を一丁装備して一方通行はそっと家を出た。
異常にはすぐ気付いた。何かから逃げるように走っている人間が何人か確認できる。

(街の空気が澱ンでやがる。何か得体の知れないものが学園都市に……?)

違和感。決定的に何かが昨日までとは違っている。
それが何かまでは流石に分からないが、さてどうするべきか。
この学園都市で歓迎できない事態が発生していることは分かった。
その内容によっては一方通行の守るべきものも危険に晒されるかもしれない。
そんな可能性は、一パーセントでも潰しておくべきだ。

30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:49:11.13 ID:o+uUVPF20
朝に黄泉川愛穂が動いたのは十中八九これだろう。
とすれば黄泉川―――というより、警備員のいる場所まで行けば何か分かるに違いない。
銃声。聞こえる。もはや完全に聞きなれたその音を頼りに、一方通行はその座標を算出する。

少しばかり遠い。歩いていけない距離ではないが、時間がかかることは避けられない。
加えて一方通行は杖つきの身であり、更に時間がかかることは明白だった。
何が起きているにせよ、あまり時間をかけていい状態とも考えにくい。

「面倒くせェ」

呟いて、首元の電極を切り替える。
この瞬間、一方通行は名実共に学園都市最強の超能力者へと変貌する。
タンッ、と軽く床を蹴った。それだけの動作で一方通行の体はいとも簡単に宙を舞う。
ベクトル操作。それが彼の能力『一方通行』。
この程度彼にかかれば造作もない。

徒歩で向かうより遥かに短い時間で一方通行は目的地へと到着、するはずだった。
だが一方通行はまだ目的地へと着いていない。
道中で気になるものがあり、寄り道をしていたからだ。
そしてその寄り道先の光景を見た一方通行は言葉を失った。

死んでいる。人が、死んでいる。
一人や二人ではない。ざっと見たところ二〇人はいるだろうか。
その全員が全身から血を流して死んでいた。中には焼け爛れている者さえいる。
よく見てみればその人間たちは武装していた。
盾を持っているものもいれば、マシンガンを持っている者まで。

それらは全て審査をパスし公的に支給された、警備員の扱う正規の装備品だ。
血に染まって判断がつきにくいが、警備員特有の服装をしているようにも見える。
つまり、死体となって血の海に沈んでいる彼らは。

31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:50:05.99 ID:o+uUVPF20
「……警備員が、全滅だと?」

警備員は正規の訓練を受けた人間によって構成されている。
対能力者も受け持っているため、能力者との戦い方だって把握している。
そう簡単にやられるほどヤワではない。
だが現実として、彼らは皆殺しにされている。

(どォいうことだ。考えられるのは暗部だが、奴らがこンな虐殺をするはずがねェ。
裏でコソコソとするのが仕事だし、何より警備員を皆殺しなンてしたら嫌でも目立っちまう。
他に考えられンのは……外部からの侵入者くらいか?)

もっとも外部から入ってきた人間に警備員を皆殺しに出来る戦力があるとも考えにくいのだが。
見慣れた真紅の液体をほっそりとした白い指で触ってみる。
乾いていた。指先に赤い液体が付着することはなかった。
パキッ、と割れたそれを見て何事か考え込んでいる時だった。

一方通行は見た。
死んでいた警備員。そう、間違いなく死んでいた。それは間違いない。
なのに、その内の一人がゆっくりと立ち上がった。
ふらついているものの、二本の足で。

生存者か。一方通行はそう思った。
たしかに全滅していたはずだが、生きていたのだろうか。
もしかして自分の見立て違いで、死体に紛れて生存者がいたのかもしれない。
立っているということはそうなのだろう。

「オイ、オマエ。一体ここで何があった。オマエたちは何と戦っ―――ッ!?」

話を聞こうとした。だがその言葉は最後まで発せられていない。
見てしまったのだ。気付いてしまったのだ。
見知った顔だった。けれど違っていた。
知っている顔なのに明らかな異常がある。

「ア” ぁァ あァァ……」

呻き声をあげている、その人物。
肉が爛れて垂れ下がり、見るに耐えない状態になってはいるものの。

32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:50:31.76 ID:o+uUVPF20
「―――黄泉、川……!!」

朝に家を出て行った、黄泉川愛穂だった。
ただしその顔は酷く変異していて、一部が抉られてなくなっている。
更に腹部も噛み千切られたようにごっそりと肉がなくなっている。
喉元も同様。頚動脈が抉られて、肉が丸見えになっていた。
口からは血とよだれを垂れ流し、残された皮膚は青白く変色している。

ゾンビ。そんな下らない単語が一方通行の脳裏をよぎる。
馬鹿馬鹿しい。そんなものはC級映画の中だけの存在に過ぎない。
そんなものならば、まだ幽霊の方が信憑性があるくらいだ。
だがそれ以上に目の前の存在を言い表すのに適切な言葉はない。

黄泉川が動いたのを皮切りに、次々と死んでいたはずの警備員が起き上がる。
やはり全員がリビングデッドと化していた。
生きているのに死んでいる。
そんな矛盾した状態を体現しているのが目の前の存在だ。

(なンだ。何がどォなってやがる!? 死人が生き返るだと? そンな馬鹿げたことがあり得てたまるか……!!)

死んだものは生き返らない。
それがこの世を支配する絶対のルールだ。
魔術であれ科学であれ、それを覆すことは出来ない。
だというのに目の前で起きている現象は一体何なのだ。

いや、正確には生き返っているとは言えないだろう。
不完全な死者の蘇生。そんな表現がしっくり来る。

だがそんなことを考えるのは後だ。
生ける屍となった黄泉川愛穂が、その同僚であろう警備員が、生者の肉への渇望に駆られ歩み寄ってくる。
首元の電極を再度能力使用モードへと切り替え、内心の動揺を隠すようにわざとらしく口元を歪めた。

33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/29(日) 23:51:27.77 ID:o+uUVPF20
「―――オイオイ、なァにやってンですかァ黄泉川。炊飯器飯とかわけの分からねェモン食ったり朝まで酒飲ンでっからそォなるンだよ」

銃を使わずに能力の使用を選択したのは、その方が力加減が絶妙に調整できるからだ。
一方通行の力の正確性は拳銃の比ではない。
つまるところ一方通行はここまで変貌していても黄泉川を殺す、という決断が出来なかったのだ。
かつての第一位だったならば、一も二もなく殺していただろう。
だが。一方通行はもう、昔の一方通行ではないのだから。

脚にかかるベクトルを操作し、弾かれたように飛び出す。
文字通りあっという間に二〇人はいるゾンビを次から次へと打ち倒していく。
その間僅か数秒。そして最後の一人となった黄泉川に一瞬で肉薄し、五指を大きく開いた右手をその胸に突き立てる。
普通なら血や剥がれた肉が一方通行の手に付着するところだが、彼の展開する『反射』はそれさえも跳ね返す。

黄泉川の体がボロ切れのように吹き飛ばされ、その勢いのまま壁に叩きつけられる。
加減はした。命に支障はないように、それでいて決して立ち上がれぬように。
その直後、一方通行は再度飛び上がり高速でその場を離れた。
逃げた。学園都市最強は、たった一人の黄泉川愛穂という存在から逃げ出した。

自信がなかった。たしかに的確な力加減で黄泉川に攻撃を加えた。
だがアレに、あの異形にそんな常識が通じるのか分からなかった。
あくまで一方通行は生きている人間を基準に調整をしたのであって、あんなゾンビの力尽きる基準など知るわけもない。
だとしたら。黄泉川愛穂は、すぐにも再び起き上がってくるかもしれない。
起きて、あの腐った顔をこちらに向けて迫ってくるかもしれない。

(……どォしてだよ、黄泉川)

耐えられそうにない、と思った。
黄泉川は一方通行にとって守るべき人間であり、彼女に救われたことだって何度かある。
おそらくアレを殺すには今のような生半可な攻撃では駄目だ。
そして恩人にそこまで出来ない程度には、一方通行は角がとれてしまっていた。

だが黄泉川と遭遇したことにより、今学園都市で何が起きているのか把握することが出来た。
原因など知ったことではないが、どうやら学園都市は死者の徘徊する死の街と化しているらしい。
もはや安全な場所などないかもしれない。
故に一方通行は守るべき大切なものを全てから守るために駆ける。

(打ち止め……ッ!!)

49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:02:25.25 ID:RIuS28W60


They were parted by an unescapable destiny.
This is just the beginning of their worst nightmare.



50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:03:18.95 ID:RIuS28W60

Day1 / 07:20:00 / 第七学区 柵川中学校学生寮

思えば予兆はあった、と初春飾利は思う。
風紀委員として従事している初春は知っている。
いや、もはやそれは一般の生徒でさえ知っている。知らない人間などいない。

学園都市を襲っている、謎の奇病。
強い吐き気や発汗、強烈な痒みを併発する、正体不明の病。
学園都市中の多くの学校で学級閉鎖や学校閉鎖がなされていた。
マスクを着けている人がやたら増えていたのもそれだ。
感染拡大阻止のため、公的に注意を呼びかけられていたのだ。

だが未だその奇病の正体は明らかにされず、三日ほど前についにルームメイトである春上衿衣が感染してしまった。
病院はどこも超満員で、そもそも病原菌すら不明なため有効な治療薬は存在しない。
恐ろしい、と思っていた。音もなく忍び寄る病には警戒のしようがない。

だが同時に初春はこうも思っていた。
どうせ大した病気じゃない、と。二週間や三週間もすれば、すぐに特効薬が開発されるに決まってる、と。
ここは天下の学園都市。医療レベルだって『外』とは天と地の差だ。
事実、他の病だったならそうなっていたかもしれない。

しかし。初春飾利は今、その真の恐ろしさを身をもって体験していた。
正体不明の奇病。発汗や痒みを誘発する病。
そんな可愛らしいものではなかったのだ。あれは、ただの初期症状。
理屈や正体は分からないが、まさに悪魔の如き呪いだったのだと。

初春の頭にあるのは後悔か。絶望か。嘆きか。怒りか。
その顔を涙と鼻水でグシャグシャにして、ガタガタと全身を震わせる。

51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:04:49.70 ID:RIuS28W60
「……ぁ、っあ、うぅ……」

恐怖のあまり、まともに発声すらできない。
近づいてくる。ゆっくりと、ゆっくりと、おぞましい声をあげながら、自分を捕らえるために。
皮膚は病的なまでに青白く、瞳孔は開き切り、どこまでも白く濁った目で。
あちこちに鬱血を起こし、白く膨れた指を蠢かせて。

―――ルームメイトで、友人である春上衿衣が、近づいてくる。

もともとが学生寮。
小さい一室であるため、逃げ場はほとんどない。
それでも、今すぐ行動して出口に疾走すればあるいは間に合ったかもしれない。
だが初春は動けない。所詮、一三歳の中学生。一年前はランドセルを背負っていたような少女でしかない。
風紀委員として多少の荒事には慣れていても、死者が歩いてくるなんて状況に対応できるわけがない。

「ア” ゥ うぅ ぅ ウゥ……」

春上衿衣は死んでいる。
春上衿衣は生きている。
生と死が入り混じり、あるいは表裏一体。一体生きているのかどうかすら分からないメビウスの輪。

「―――ひっ、はっ、あぁ、ああ……」

初春は、ただその時を待つだけ。
もう逃げられない。よしんば逃げられるとしても、体が動かない。
もう戦えない。その覚悟など初春にありはしない。

その青白いほっそりとした腕が初春の肩を捕らえようかというその時。
突如バァン!! という音と共に、玄関のドアが思い切り開け放たれる。

「……え?」

そのドアから長く黒い髪を靡かせて、見知った少女が駆け込んでくる。
その手に持つのは、金属バット。
少女は部屋の中を一瞥するなり、息を呑んだ。
だがすぐに行動する。手に持った金属バットを振りかぶり、春上だったものの足を殴打した。
耳に届く嫌な音。春上だったものはバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。

52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:06:36.92 ID:RIuS28W60
「大丈夫、初春!?」

「……佐天さん!!」

少女―――佐天涙子はろくに言葉も交わさずに初春の手を取り、強引に起こさせる。

「早く、初春!! 逃げるよ!!」

「でも……っ!! 春上さんが……っ!!」

春上だったものはゆっくり起き上がろうとしていた。
常人ならばとても立ち上がれない。
だが人ならざるものに変異した春上衿衣は、立ち上がる。

この時。佐天が頭にでも金属バットを振り下ろしていれば、その動きを止めることも出来ただろう。
だが佐天はそれをしない。出来ない。
足を殴打するのだって、佐天はかなりの覚悟を決めていたのだ。
いくらゾンビと化しているとはいえ、友人を殺すことなど出来るわけもない。

「―――いいから!! このままじゃ初春も殺されちゃう!!
こんなとこで死ねないでしょ!! 白井さんとも、御坂さんとも合流しなくちゃ!!」

「……そんな……っ!!」

佐天に強引に腕を引っ張られ、初春は部屋を駆け出す。
その中に、春上だったものを残して。
初春が最後に見た、自室の光景は。
どうしようもなく変わりきった、血と涎を垂れ流す春上衿衣のいる光景だった。

そして二人の少女は街へと飛び出す。
死者の席巻する、死に溢れた学園都市へと。

53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:07:52.63 ID:RIuS28W60

Day1 / 06:03:03 / 第七学区 路上

「一体何なんじゃん、こいつら……っ!!」

黄泉川愛穂はかつてないほどに焦っていた。
呼び出しを受けてやって来たはいいものの、そこで待っていたのはどう見ても俗に言うゾンビだったからである。
警備員は今死者たちの鎮圧作業にあたっているところだった。

「黄泉川さん、このままでは押し切られます!」

ゾンビは大群だった。あまりの数の多さに警備員は苦戦を強いられていた。
しかも学園都市は人口の八割が学生であるため、ゾンビも学生がほとんど。
そのために能力も使用してくるのだ。
対能力者用の装備を十分に準備していなかったこともあり、苦境に立たされていた。

「実弾の使用許可を!」

「……っ、それは駄目じゃん!! あいつらはまだ子供だ、元に戻らないと決め付けるには早すぎる!!」

子供に銃は向けない。それが黄泉川の信念であり、たとえ彼らがゾンビ化していても曲げるつもりは毛頭なかった。
状況は劣勢だと理解している。だがそれでもだ。
それは黄泉川にとっては絶対に譲れない一線であり、誇りだった。

「それより鉄装は!?」

黄泉川の同僚である鉄装綴里はずっと吐き気や体の強い痒みを訴えていた。
本音を言えばこんな時に、と文句も言いたかったが無理に動かすわけにもいかず、車内で休息をとらせていた。
だが戦況を鑑みるに今は猫の手も借りたい状況。
一刻も早く復帰してもらいたかった。
子供たちを傷つけることは出来ない。だがだからといって、このまま押し切られて仲間たちを死なせていいとも思わない。

54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:10:15.78 ID:RIuS28W60
じりじりと距離を詰められていく中、突然黄泉川は肩を何者かに掴まれた。
当然の反応として黄泉川は振り返り、そしてそれを見た。
たった今話題にあげた鉄装だ。同僚である鉄装綴里。
ただその目は淀んでいてどこか虚ろで、酷い悪臭を放っていた。

鉄装綴里は今黄泉川たちが戦っている学生たちと同様に。
生きた屍と化してしまっていた。

「―――鉄、装」

掠れた声。だが鉄装は黄泉川の言葉には一切反応せず、そうすることが当たり前であるかのように。
ただ本能の赴くままに黄泉川愛穂の柔らかい首へと噛み付いた。
そして、容赦なくその肉を食い千切り咀嚼する。

「……っ、あ」

同僚たちが何か叫んでいるのが聞こえる。
けれどその中身は聞き取れない。
まるでテレビの中の声のように、どうしようもなくリアルさが欠けている。
フィルターがかかったように、ノイズが走るように、聞こえてくる叫び声や銃声が乱れていく。
自分でも意識が闇へ沈んでいくのが分かった。
鉄装に押し倒され地面に倒れ、視界が揺れた。

グチャ、グチャという音が自身の首元あたりから聞こえる。
黄泉川は首から噴水のように鮮血が噴出すのをどこか他人事のように見つめていた。
別の亡者が自分の腹に食いつき、腸を引きずり出し、頬張っている眼前の光景も別の世界の出来事のように感じられた。
薄れゆく混濁した意識の中で、黄泉川はふと思い出した。

(ああ、そういえば、まだあいつらの朝御飯を作っていないな)

それが、黄泉川愛穂の最後の思考だった。
そして黄泉川の意識は永遠に明けることのない、深い闇に飲まれた。
二度と覚めることのない、永久の眠りに―――。

55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:13:47.57 ID:RIuS28W60

Day1 / 09:24:11 / 第五学区 ショッピングセンター

「……大丈夫、きっと大丈夫ですわ」

「……そう、ですわよね、きっとすぐに助けが……」

湾内絹保と泡浮万彬。
彼女らは第五学区にある大きなショッピングセンターの倉庫にいた。
棚に並べる前の商品なのだろうか、多くの雑貨がダンボールに入れられて所狭しと並べられている。
そんなダンボールに三方を囲まれた小さなスペースで、二人は身を寄せ合っていた。

ここにやって来た経緯はもはやうろ覚えだ。
覚えているのは到底人間とは呼べない姿へと変貌してしまった人間たち。
自然の摂理に逆らった亡者の姿。

どうしてこんなことになったのか、彼女たちには分からない。
ただひたすらに逃げて、逃げて、逃げて、気がついたらここにいた。
能力をここまで使ったのは初めてだった。
ただ、生き残るために必死だった。

婚后光子はどうしているだろうか。御坂美琴は元気だろうか。
白井黒子は無事だろうか。佐天涙子は? 初春飾利はどうだ?
そもそも一体この学園都市で何が起きているのか。
あのゾンビは一体何なのだろう。本当に助けはやってくるのだろうか。

56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:14:49.69 ID:RIuS28W60
疑問は尽きない。
けれど彼女たちの精神力は尽きかけていた。
湾内絹保も泡浮万彬も、所詮は中学一年生の女の子だ。
加えていわゆるお嬢様である二人は常盤台中学に入学し、無菌培養に近い生活を送っている。

明確に悪意や殺意を向けられた経験なんてなかった。
誰かに手をあげた経験も一度しかなかった。
死体なんて見たこともなかった。

にも関わらず朝から見渡せば視界に入るのは死人ばかり。
彼女たちはまだ一人も自分たち以外に生存者を見ていない。

「わ、湾内さん……あの、もしかしたら、もしかしたらですが……もう……」

「そ、そんなはずないですわ!! きっとどこかにみんな……」

もしかしたら、もうこの街に生存者などいないのではないか。
そんな考えが嫌でも二人の脳裏をよぎる。
それでも二人でいられたのは非常に大きいだろう。
湾内も泡浮も、一人だったらこの状況に耐えられず心が折れていたに違いない。

二人は身を寄せ合って震える体を人肌で温める。
互いの体から感じる人間の温もり。
生者にしかないその感覚に、彼女たちは心の寄る辺を見出す。
互いが互いに依存し合っていた。
だがそれも無理からぬことだ。こんな極限の状況下で、まともでいられる方がおかしい。

二人にできることは来るかどうかも怪しい助けを信じて待つことのみだった。
頭の中ではなんとなく分かっている。そんなものは来ない、と。
しかし。もはやそれだけが希望だった。
無理にでも前向きに物事を考えようとしても、もはや不可能だった。

どうせ来ない、と思うものを一縷の望みに懸けて待つ。
彼女たちに許されるのはその程度だった。
それでもどうしても頭の中を駆け抜けるのは嫌な想像ばかり。
このままの状況が続けば、何もなくとも彼女たちの精神は想像という怪物に食われて消滅してしまうかもしれない。
そんな時だった。

ドアの向こうで物音がした。

57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:17:44.53 ID:RIuS28W60

Day1 / 08:21:48 / 第五学区 高級マンション前

これで二二人目。

全体的に落ち着いた雰囲気を持つ髪の長い女性―――学園都市第四位の超能力者、麦野沈利は舌打ちする。
いくら殺しても殺しても一向に数が減らない。
またもや出現したゾンビに流れ作業的に彼女の能力である『原子崩し(メルトダウナー)』を撃ち込むと、血と肉をスプリンクラーのように撒き散らして倒れこむ。
もう何度同じ作業を繰り返したことだろう。

「ちっ。しつけぇんだよクソ共がァ!! わらわらわらわら湧いてきやがってゴキブリかテメェらは!!」

『原子崩し』を発動。死体がもう一つ積み重なる。
横目で仲間の様子を確認すると、そちらは主に銃を使って戦っていた。
とはいえ仲間……絹旗最愛は無能力者ではない。
その力は大能力者の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』。
窒素を操り装甲とするその能力は攻守共に非常に強大だ。

しかしその特性上、どうしても戦闘は近距離の格闘戦に限られる。
ゾンビに触りたくない、という至極単純な理由から絹旗は銃を武器として選択していたのだった。
絹旗とて少女である。いや、男でも大人でも触りたくないと思うのは当然だろう。
結果、彼女の『窒素装甲』は攻撃には使用されず防御としてのみ機能していた。

だがいざとなればそんなことは言っていられない。
今繰り広げているのは文字通り生死をかけた戦いだ。
突然、音もなく絹旗の背後に人影―――ゾンビが出現する。

『空間移動(テレポート)』。学園都市に五八人しかいない、希少な能力者だ。
奇襲に長けたその能力が絹旗に襲い掛かる。
だが彼女は咄嗟にその気配を察知し、振り返る暇さえ惜しんで裏拳を食らわせる。

58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:18:43.36 ID:RIuS28W60
『窒素装甲』により超威力を得た絹旗の拳はゾンビの顔を押し潰す。
しばらく戦って分かったことだが、どうやらゾンビは筋力が上がっていて力が強くなっているらしい。
だがそれでいて体は脆く、簡単に弾けるというよく分からない状態になっているようだった。

絹旗はハンカチを取り出して拳に付着した血を必死で拭い始めた。

「うげぇ、超汚いです。超不潔です」

『原子崩し』でゾンビを射撃するようにして戦っている麦野を見て、絹旗はぽつりと呟く。

「何で私の能力は麦野みたいな超遠距離攻撃が出来るタイプのものじゃないんでしょうか……」

「何文句垂れてんの。それより撤退するよ。このまま戦ってたってキリがない」

「それには超同意ですが、一体どこへ?」

「決まってんでしょ」

言って、麦野は振り返り様に原子崩しを放つ。
こちらへ飛んできていた何らかの能力を消滅させ、そのままその能力を放ったゾンビを絶命させた。

「まずはとりあえずの安全地帯を探すの。そしたら浜面や滝壺をそこに呼びましょ。大丈夫、浜面がいりゃ滝壺も死にゃしないわよ」

59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:19:35.37 ID:RIuS28W60

Day1 / 06:03:49 / 第七学区 常盤台中学女子寮

「―――っく、うぇ、はぁ、はぁ……」

思えばこの三日間ほど、ずっと体調が悪かった。
常盤台中学に通う風紀委員、白井黒子はトイレに篭っていた。
原因不明の強烈な吐き気。考えてみれば兆候はあった。

ルームメイトであり敬愛する御坂美琴には肉をよく食べるようになったと言われた。
自覚はあった。たしかにこの数日で白井は好んで肉を食べていた。
白井は普段そこまで肉を好んではいない。
淑女を自称する彼女はどちらかと言えばベジタリアンに近い。
勿論それは強いて言うなら、であり肉だって人並みには食べる。

だがその量と頻度は明らかに以前と比べて増していた。
原因は白井本人にも不明。ただ食欲がやたらと強くなったのは自覚していた。
他にも体によく分からない腫れ物が出来たりもした。
そして一番の異常は全身を襲う痒み。
これも食欲の増大とほぼ同時期から見られた異常だ。

ただその痒みは尋常ではない。
どれだけ掻いても掻いても一向に収まらない。
虫刺されかと思った。だが違った。不潔になっているのかと思った。だが違った。
原因不明。あるのは結果のみ。
そしてここに来て、それらは我慢できないレベルに達していた。

(―――痒い)

吐き気を何とか堪えながら二の腕にある腫れ物を掻く。
僅かに爪が立って小さな痛みも覚えるが、それよりもこの痒みから開放されたいという気持ちが勝った。

60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:21:55.74 ID:RIuS28W60
(痒い痒い痒い)

ガリガリ、ガリガリ。
爪を思い切り立て、出血するのも厭わずに狂ったように掻き毟る。
壮絶な空腹感や吐き気によるストレスも相まってひたすらに掻き毟る。
その結果、

(……? 今、何か―――)

腕に違和感。そしてボトッ、という何かが落ちたような音。
確認する。確認して、喉が干上がった。
そのあまりにもおぞましい光景に言葉を失った。

掻いていた腕の肉が、腐り落ちている。

「―――ヒッ―――!!」

どこまでも非現実的。
目の前の光景がどういうことか理解できなかった。

「……一体―――わたくし、どうな、て」

視界がぼやける。
目に映る文字やイメージを脳が処理できていないのか、正しく読み取れない。
ああ、それにしても腹が減った。暑い。痒い。
意識が混濁し始めた白井の耳に、今いるトイレの外から寝言のような声が飛び込んできた。
御坂美琴。白井の愛するお姉様。生きた人間。
その肉は新鮮で、きっとどうしようもなく美味し

そこまで考えて、白井は自分の思考に愕然となった。
今、自分は何を考えた?
何よりも大切な美琴をどうしようとした?
人としての全てを捨てる、悪魔のような所業を思い浮かべなかったか?

61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:23:11.45 ID:RIuS28W60
(そんな―――。嘘、嘘ですわ、お姉様を、人間を、そんな―――!!)




食べたいだなんて。




そんな狂った蛮行など、自分が考えるわけがない。
白井黒子は一個の確立した人間だ。
最低限の教育は受けてきたし、むしろ今は世界でも最高峰の教育を受けている。
獣じゃあるまいし、人としての倫理、道徳も当然弁えている。
だから、あり得ない。人を食らおうなどあり得ない。そのはずなのに。

何故か、その欲望は肥大化していく一方だった。
まるで自分ではない何か取り憑かれたかのように。
白井黒子という人間の尊厳や意思が正体不明の存在に潰されていく。
このままでは、本当に美琴を―――してしまうかもしれない。

(遠くに、少しでも、遠くに、お姉様から離れないと……)

まだ自分が自分でいられるうちに。
自分の理性がちょっとでも残っている内に。
ここを離れる。そのためには空間移動が最適。
これを使えば最大時速二八八キロという馬鹿げた数値を叩きだせる。
美琴から離れる、というだけなら一、二回使えばそれだけで済む話だ。

だが、空間移動は使えなかった。
集中が乱れ、落ち着いて演算が組めない。
もともと他の能力と比べ遥かに演算の複雑な能力なのだ。
こんな肉体的・精神的状態で発動できるわけもなかった。
いや、おそらく使うだけなら可能ではある。
だが出現場所の座標指定を誤って『埋め込み』が起きてしまう可能性が非常に高かった。

62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:24:35.81 ID:RIuS28W60
もはや遠くへ行くことは不可能。
それを悟った白井は浴室へと全身に鞭打って向かい、その中へ入ると内側から鍵をかけた。
それだけでは不十分と判断した白井は、続けて愛用している金属矢を取り出した。

(お願いですから―――発動しなさいな、わたくしの最後の空間移動……!)

ありったけの精神力と集中力をつぎ込み、自身の能力、『空間移動』を発動。
浴室と外を繋ぐ唯一のドアと隣接する壁を繋ぐように、金属矢を一一次元を渡らせることで横にして埋め込んだ。
それはかんぬきのような役割を果たし、ドアを閉まったままに完全に固定する。

自らをこの浴室に閉じ込めるために。
間違っても美琴に手を出せないように。
この小さな部屋で、死を迎えるために。

自らの空間移動成功を確認した白井はその場に崩れ落ちた。
自分を飛ばすとなると演算の複雑さが跳ね上がるが、物を飛ばすのであれば『埋め込み』を気にしなくていい分難易度は幾分か下がる。
それでも成功するかどうかは賭けだったが、白井はその賭けに勝ったのだった。
これでこの浴室は完全に密室。
金属矢を埋め込んで固定した以上、これで自分が美琴を襲うようなことは起こり得ない。

「は、ぁっ、はぁ、はぁ、はぁ……」

壁に背中を預け、そのままずるずると座り込む。
太ももに痒みを覚え、朦朧とする意識の中で掻き毟った。
すると、あっさりと太ももの肉が削げ落ちる。
白井はふん、と自嘲するように小さく笑った。
それを見てももはや何も感じなくなっていた。

「ずいぶんと、脆くなった、ものですわね」

にも関わらず、美琴に対する野蛮な欲望は膨れ上がる一方だった。
もう自分の意思ではろくに体は動かせない。
なのに、気を抜くと自分ではない何かが自分の体を動かそうとする。
美琴を、食らうために。

63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:25:39.78 ID:RIuS28W60
「……ッ、目障り、なんですのッ!!」

白井は金属矢を右手に握り締め、それを刹那の躊躇いもなく自らの右足に突き刺した。
ズプ、と金属矢が肉に沈む。痛みは……ほとんどなかった。
何かが麻痺しているように、あるいは痛みを知らせる神経が死んでいるように。

白井は極めてあっさりと、一+一の解を導き出すような気楽さで自らの死を悟った。
不思議と恐怖はあまり感じない。
唇の端から血が一筋流れ落ちる。口内の柔肉が剥がれているのだ。
それを拭うこともなく、白井は見えない何かを掴むように腕を天へと伸ばした。
まるで決して掴めない月を掴もうとするように。まるで決して叶わない夢を掴もうとするように。

「お姉様―――。黒子は、ほんの一三年の人生でしたが、貴女に会えて幸せでした」

白井が初めて美琴と会ったのは小学六年生の時。
もっともその時はそれが美琴だとは認識していなかったため、実質的には美琴と共に過ごした時間は僅か数ヶ月でしかない。

「御坂美琴。貴女という人がいたから、わたくしはここまでやって来られたのです」

だがそれでも、美琴の隣に並んで過ごしたその数ヶ月は。
白井の人生の中で、最も眩しく光り輝いていた。
どこまでも充実していて、毎日が宝物だった。

「露払いは、もうお役御免ですわね。わたくしは、お先に袖へと下がらせていただきます」

もはや口を開くことすら億劫になって来た。
少しでも気を抜けば意識を手放してしまいそうだ。

「嗚呼―――貴女は、本当にお姉様とお呼びするに相応しい方でした。
いつだってわたくしは貴女の背中を追いかけていた。
貴女の歩くスピードについていけず、それでも必死に隣を歩こうとしてきました」

もう、限界だ。

64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:26:41.43 ID:RIuS28W60
「―――お姉様。何かが、変です。学園都市に、何かが起きている。
お姉様。生きてください。何があっても、どんな試練が立ちはだかっても。
お姉様。生きて、生きて、生き抜いてください。黒子の分も、生きてください。
お姉様。不出来な後輩をお許しください。
お姉様。わたくしは貴女を、心より敬愛しております」

その瞬間。白井の目には上へと伸ばした手の先に、白井の大好きな、太陽のような満面の笑顔を浮かべる御坂美琴が見えた気がした。
それだけで白井黒子は心の底から救われた。

「お姉様――――――」




どうか、お元気で。




それを言葉にする気力は、もうなかった。
まるで口パクのように唇を動かしただけ。
そして白井はフッ、といつものような不敵な笑みを浮かべ―――。

その伸ばされた右腕が、すとん、と落ちた。

いつも美琴のそばにいて、努力家で、正義感が強くて。
御坂美琴のかけがえの無いパートナーだった白井黒子は、自ら作り上げた小さな牢獄の中で、その短い人生の幕を閉じた。


白井黒子 行年 一三歳


―――およそ一時間後。白井黒子の肉体は起き上がる。
“白井黒子だったもの”は、『白井黒子』の最後の想いを嘲笑うかのように。
『白井黒子』が死力を尽くして作り上げた、自らを閉じ込める棺桶を破壊する。
そして、命に代えても守りたかった『お姉様』を絶望と悲しみのどん底へと叩き落すこととなる。

65: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:28:25.07 ID:RIuS28W60

??? / ??? / ???

いつとも知れぬ時、どことも知れぬ場所。
そこに『ソレ』はいた。
今学園都市に蔓延っているゾンビではない。
そんなちっぽけな存在ではない。もっと圧倒的な『ソレ』が。

「……ア”アァァァァアアアアアアアア!!」

絶叫。腹の底からあがるような、甲高く耳を劈く声。
特に理由などないのだろう。『ソレ』は何が目的なのか、そもそもどういう存在なのかすら分からない。
完全なるアンノウン。人智の及ばぬ存在。

この世界にいる全ての存在と比べても、もっと根本的に“違う”。
人間としての枠になど囚われない。『ソレ』はいくらでも、必要に応じて無限に進化する。
生物としての一つの完成形。生命体の行き着く究極の到達点。
人間程度の生き物ではその構造を、進化の先を想像することさえ不可能。
それほどに枠を外れた究極とも言える生命体。

『ソレ』は何かを求めて学園都市を徘徊する。
その大きくせり出した肩にある、充血した巨大な眼球がグチュ、という音と共に開いた。
その目玉が何かを探すように、粘着質な水音と共に上下左右に動き回り―――やがて眼球は再度閉じられた。

67: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:31:44.51 ID:RIuS28W60




―――惨劇は幕を開けた。
死者の街と化した学園都市には希望も許しもない。
そんな絶望の淵に立たされて、なおそれに抗うヒーローたちがいる。

上条当麻。御坂美琴。垣根帝督。浜面仕上。一方通行。

神の創った生命の系統樹から外れた異形の蠢く、血と肉と死に埋め尽くされた世界で。
五人の主人公はそれぞれの道を行き、この悪夢の終着点を目指して戦う。

果たして彼らの終着点は真実か虚偽か、勝利か敗北か、生か死か―――?





68: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:34:01.30 ID:RIuS28W60












               バイオハザード
―――とある都市の生物災害―――













69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:35:44.27 ID:RIuS28W60




サバイバルホラーについて思うことを答えてください

→1.登山のようなもので、困難の先にこそ達成感があるもの

2.ハイキングのようなもので、無理なく目的地に辿り着けるもの





70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:36:49.34 ID:RIuS28W60








汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate









71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/30(月) 22:38:31.26 ID:RIuS28W60








                        THE DEAD WALK!!










86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/31(火) 21:16:58.20 ID:h2OnMHIv0

Files


File01.『白井黒子の日記』

九月八日

九月に入ったというのに、中々暑い日々が続いてますの。
まあ仕方ないと言えば仕方ないのですが、それにしてもこう暑いと風紀委員の仕事すらやる気が失せますわね……。
それにしても初春。わたくしが楽しみに取っておいたプリンを勝手に食べた罪は重いですわよ。
次会ったらあの花を毟って空間移動してやりますわ。当然の報いですの。けけけ。

九月九日

最近原因不明の奇病のようなものが流行っていると聞きましたわ。
言われて見れば確かに学校の欠席者もかなり多く、あと僅かで学校閉鎖という段階ですの。
世界でもっとも科学の発展した学園都市で原因不明とは、中々に厄介なようですわね。
とにかくお姉様には手洗いうがいを徹底するよう注意しておかなくてはなりませんの。
お姉様はあれでどこか抜けているところもありますし……わたくしも勿論清潔でいなくては。お姉様にうつさないためにも、ですの。

九月一〇日

謎の猟奇殺人事件。そんな物騒な事件がこの学園都市で起こっているようですの。
詳細は一切不明。捜査権はすぐに警備員に移りましたし、聞いてもどんな事件か全く話そうとはしません。
まあ、わたくしたちは学生ですしそういう気遣いなのでしょうが……。
殺人、だなんて穏やかではありませんわね。お姉様や何かと巻き込まれやすい佐天さんにはきつく注意しておかなければ。
不用意な外出も出来るだけ控えたほうが良さそうですわね。
……しかし、全く関係はないのですが最近やたらと食欲が旺盛なのはどうしてでしょう。
お風呂も欠かさず入っているというのに体もやけに痒いですし……。こんな時はさっさと寝るに限りますの。

87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/31(火) 21:18:04.39 ID:h2OnMHIv0
九月一一日

何故か体の痒みは酷くなる一方……。虫さされでもないようですし。
思わず掻いてしまいますの。いけませんわね、お肌に傷がついてしまいますの。
そして同じく食欲もどういうわけか日増しに増えているような気がしますわ。
今日もいつもなら頼まないような肉料理を注文してしまいましたし。
ちょっと油断するとすぐに体重に跳ね返ってしまうというのに。
ああ、今ばかりは食べても何故か一向に太らないお姉様が妬ましいですの。

しかし……しばらく経っても治まらないようなら、お医者様にかかることも考えなければならないかもしれませんわね。
健康は全ての土台ですの。

九月一二日

今日は久しぶりに多くの人たちと会いましたの。
垣根さんや浜面さん、滝壺さん。知り合って数ヶ月経ちますが、皆根は良い人のようですわ。
お姉様も楽しんでいらしたようですし、わたくしも不覚にも気分が高揚してしまいましたの。
やはり友達とわいわいと騒ぐ、というのは良いものですわね。

けれど相変わらずの痒み。あまりにも痒くなってきて、もう我慢できませんの。
今日も肉料理を三品も食べてしまいましたし、これはもう許容できませんわ。
ついに常盤台も学校閉鎖になったことですし、病院へ行かなくては……。

九月一三日

かゆい、かゆい。
体が熱くてふらふらしますわ。はきけも。
今頃になってやっと、分かった、んですの。
わたくしのこれは、おそらく今流行っているという、謎の奇病。
ておくれだったよ、うですわね。

ああ、おねえさ

日記はここで途切れている……。

88: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/31(火) 21:21:10.95 ID:h2OnMHIv0

File02.『服部半蔵のメモ』

この間話にあがった能力者への反抗計画だが、あれは没になった。
もうそんな下らないことどうでもよくなってきちまったんだよな、みんな。
浜面を見てみろよ、浜面のくせに可愛い彼女連れてやたらすげぇ連中とつるみやがって。
俺だって本気を出せば彼女の一人くらい……。
まあとにかく、そういうわけで計画は中止。下手したら浜面関連で超能力者が四人ほどやって来かねないしな。
このメモを見た奴、他の連中にもそう伝えといてくれ。




File03.『黄泉川愛穂の日誌』

この学園都市で起きている猟奇殺人事件。
とてもじゃないけど正気の沙汰とは思えない。
捜査の権限はすぐに風紀委員から私ら警備員に移されたじゃん。
当然だな、あんなイカれた事件……人が人を食い殺すなんて子供に見せられるものじゃない。
私だって吐きそうになったもんだ。いくらなんだって馬鹿げてる。

しかし気になるのは警備員にもすぐ捜査を中止するよう上からの圧力がかかったことじゃん。
人間が同じ人に食い殺されてるんだぞ!? これを放っとけなんてどうかしてる!!
どうもこの事件はきな臭いじゃん。上は何かを隠したがってるように見える。

いずれにしろ、私はこのまま大人しく引き下がるつもりはない。
必ず事の真相を明らかにして解決しないと、子供たちも安心して日々を過ごせない。
子供たちが笑って暮らせる環境を作るのが大人の仕事ってもんじゃん。
月詠センセなんか生徒が心配だって泣きそうになってたからなぁ。本当子供想いの良い先生じゃんよ。

うちの白いのには念のため気付かれないようにした方がいいかもしれない。
打ち止めにも同じく危険性があると分かったら大人しくしてないかもしれないし。
第一位だろうがなんだろうが、子供には変わりないんだ。こんなことに関わらせるわけにはいかないじゃん。

手がかりはある。多分、最近急激に流行っている謎の奇病……それが関わっていると思う。
しかし……こんなこと日記に書いて大丈夫じゃんよ私?
まあ誰に見せるわけでもないから問題ないとは思うけど。

89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/31(火) 21:22:27.18 ID:h2OnMHIv0

File04.『新聞の切り抜き』

新聞のある記事だけが切り取られている。
見出しは『謎の奇病が蔓延か』
主な症状、感染の予防を徹底するよう書かれている。
その記事に何らかの写真が貼り付けられている。
ゾンビになりかけている男性の写真だ。

その下に直筆で、震える文字で何かが書かれている……

「噂は本当だった、もう終わりだ」






「理緒、君を愛していた」







90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/31(火) 21:23:18.41 ID:h2OnMHIv0

File05.『初春飾利のノート』

能力開発の授業中に初春のとったノート。
読みやすいとは言えないが、丸っこい女の子らしい字で以下のことが綴られている。
……英語のノートを忘れてしまったのだろうか。

能力者とはシュレディンガーの猫のような量子論に基づく存在。
ガンツフェルト実験などの能力開発によって本来の世界から切り離され、『自分だけの現実』を手に入れた人間。
九九パーセントの常識から外れた一パーセントを観測するもの。
元々ないものを観測することは出来ないし、だからこそ能力は完璧ではあり得ない。

学園都市の目的は能力開発、最高位である超能力者を超えたものである。
人間では神様の答えを知ることは出来ないなら、人間以上の存在になればいい。
それが絶対能力者(レベル6)、と。……どこか考えがオカルト染みてる気がするなぁ。

能力者の発現する能力の強度(レベル)はその能力者の有する演算能力と『自分だけの現実』に左右される。
どちらもが必要不可欠で、片方が強くても片方が弱いと能力の強度は上がらないそうな。
……私の場合、『自分だけの現実』があまりに脆弱だから駄目だそう。先生に言われた。
演算能力の方も情報処理だけで他には何故か適用出来ないから低能力者(レベル1)のままなんだろうなぁ。

たしかに御坂さんなんかは凄く頭も良いし、真っ直ぐで確固とした信念と強さを持ってる。
何年も努力してきたって言うし、ああいう人が超能力者になるのは必然だったのかもしれませんね。発現するべくして発現したっていうか。
……一緒に頑張りましょう、佐天さん!!

AIM拡散力場とは能力者が無自覚に発している見えない力のことで、それ自体には特に効力はなく機



morning morning morning morning morning

sister sister sister sister sister

already already already already already

scientist scientist scientist scientist scientist

dauter dauter dauter dauter dauter

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91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/12/31(火) 21:25:05.84 ID:h2OnMHIv0

File06.『湾内絹保と泡浮万彬の学生証』

高級感漂う鮮やかな紅のそれぞれの生徒手帳に、彼女たちの顔写真が貼り付けられている。
ところどころに金の刺繍が施されており、氏名と学籍番号の隣に校長の印が押されている。


『上記の者は本常盤台中学校の生徒であることを証明する』


手帳には常盤台中学校の校歌や学則が記されているが、血が付着していて読み取れない。

98: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:29:41.63 ID:e5DZmQQx0

上条当麻 / Day1 / 08:19:09 / 第七学区 月詠小萌宅

上条が目的地である月詠小萌の自宅に着いた時には、既に一時間ほどが経過していた。
既に上条の精神は相当に抉られボロボロだった。
こんなに時間がかかったのもそれが原因の一つだ。
友人である吹寄制理や青髪ピアスの変わり果てた姿が頭から離れない。

ゾンビとなったのは当然彼らだけではなく、学園都市の住人のほとんどは既に人間ではなくなっている。
あれだけ方々から聞こえていた悲鳴も、いつの間にかほとんどなくなっていた。
能力によって殺された人間もいるだろう。
数に飲み込まれて死んだ人間もいるだろう。
変異した友人によってまともに抵抗も出来ずに殺された人間もいるだろう。

だが全ての人間が死んでしまったわけではない。
多くはなくとも今も抗い続ける人間は必ずいる。
その中に多くの知人が含まれていることを上条は切望せずにはいられなかった。

歩く亡者たちの視界に捉えられぬよう、細心の注意を払いながらようやく小萌の住むボロアパートに辿り着いた。
生きている人間と会いたくて、あの子供にしか見えぬ教師の変わらぬ様を見て安心したくて、インデックスの無事を確認したくて。
自然と上条の足は駆け足になった。
カンカンカンカン、と階段を駆け上る音。
小萌の部屋は二階だ。階段を上る時間すら惜しく、一階に住んでろよと理不尽な悪態すらつかずにはいられなかった。

「……なんだよ、これ」

ようやく小萌の部屋の入り口までやって来た上条だったが、その光景に上擦った声が漏れた。
玄関のドアが完全に破壊されていた。
もともと月詠小萌は新聞売り対策として玄関のドアだけはやたらと頑強にしていた。
だがそんなことはものともせず、ドアは外から完膚なきまでに破られて中が見えていた。

99: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:31:53.12 ID:e5DZmQQx0
「インデックス、いるか!? 小萌先生!!」

慌てて土足のまま中に入る。
そんなことに気を使っている場合ではないし、そんな余裕もない。
今はとにかく二人の安否が気がかりだった。
だが上条が見たのは誰もいない小さめの部屋。
相変わらず色々なものが散らかっているが誰一人そこにはいなかった。

「おい、先生! インデックス!」

再度大声で呼びかけるが、返ってくるものは何もなかった。
焦りと苛立ちにらしくもなく目の前にあった空のダンボールを蹴り飛ばした。
落ち着け、と自分に言い聞かせ一つ深呼吸する。
焦ってばかりいても状況は好転しない。

(……血がないな。二人は逃げた後か?)

この部屋には血痕が見当たらなかった。
床に妙なシミこそあるものの、もし二人が侵入してきたゾンビたちに殺されてしまったのなら辺りは血の海になっていないとおかしい。
つまり二人は少なくともドアを破壊したモノからは逃げ切ったということだ。
その後どうなったかは分からないが、生きていることを願うしかない。

上条はすっかり存在を忘れていた携帯を取り出した。
インデックスに携帯は持たせていない。
だが月詠小萌ならば違う。希望を持って上条は担任の番号を表示させ通話ボタンを押した。
数拍の間を置いてトゥルルルル、というコール音が鳴り始める。
それとほぼ同時にこの部屋の中から可愛らしい音楽が鳴った。
まさか、と上条が音を頼りにその発信源を探し出すと、それはやはり月詠小萌の携帯電話だった。

「クソッ!!」

思わず上条は吐き捨てる。
今の小萌は携帯を持ち歩いていない。
破られたドアを見るに急なことで携帯を持つ時間すらなかったのだろうが、何にせよ上条には最悪でしかない。
これで二人を見つける術は失われた。

100: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:33:41.82 ID:e5DZmQQx0
月詠小萌とインデックスに関しては今はどうしようもない。
ならばと上条は美琴に電話をかけることにした。
理由は強いてあげるなら二つある。
同居人でずっと顔を合わせているインデックスを除けば、真っ先に顔が浮かんだ人物というのが一つ。
そして力は強くてもどこか弱さを持つ、放っておけない少女だということが一つ。

おそらくあの少女は死者とろくに戦えないでいるだろう。
元々は人間なのだ。上条自身だって吹寄たちを前に逃げることしか出来なかった。
超能力者としての圧倒的な力を発揮すれば蹴散らせるだろうが、十分に戦えているとは考えにくい。

コール音。四コール、五コール……留守番電話サービスへ。
出ない。御坂美琴のあの快活な声が返ってこない。
頭をガリガリと掻き毟って愚痴る。

「くっそ!! 何で出ないんだよ御坂!!」

焦りと苛立ちが戻ってくる。
美琴は生きている、はずだ。彼女は超能力者の第三位。
そう簡単にやられはしない。だがもし相手が知り合いだったら?
美琴は上条と同じく情に厚い人間。

(いや、逃げることくらいは出来てるはずだ)

それは希望的観測だった。希望などもはやこの世界に存在しないと分かっているはずなのに。
それでも美琴が死んでしまっているなんて想像もしたくなかった。
またいつものような笑顔を見せてくれるに決まっている。
だが一抹の不安はどうしても拭えない。
いてもたってもいられなくなった上条は頭の中で常盤台中学への道のりを描き出す。

この状況でまだ美琴がそんなところにいるとも思えないが、どうせ他に当てもない。
また道中にインデックスを探すことも出来る。
いずれにせよ何らかの目的が欲しい。
何もしないでいると精神が潰されそうになる。

102: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:38:05.40 ID:e5DZmQQx0
生きた死体となった吹寄と青髪ピアスの姿が脳内でフラッシュバックする。

上条は頭を振ってそのイメージを振り払い、駆け出そうとしたところで携帯が振動した。
その震えが上条の意識を戻させ、まさかと思い期待を胸に携帯を確認。
それは電話ではなくメールだった。


【From】一方通行
【Sub】無題
------------------------
水道の水は絶対に飲むな
奴らに傷を負わされるな


「一方通行……。良かった、生きてるのか!」

考えてみればあの超能力者がそう簡単に死ぬはずがない。
久しぶりの生者からの連絡に、上条は全身を包み込むような安堵感が湧き上がるのを感じた。
一人ではない。今も戦っている人間がいる。
ならば御坂美琴もインデックスも他の人間も生きているに違いない、と思えた。
緊張に凝り固まった顔の筋肉が弛緩する。
どうやらこのメールは一斉送信で数人に送られているらしかった。

「水は飲むな……? どういうことだ?」

思わず疑問が口を突いて出る。この異常事態とは無関係に思えた。
だがすぐにメールに続きがあることに気付く。
改行され、その下にもまだ何か書いてある。
スクロールさせて読もうとした瞬間―――上条は咄嗟に危機を察知し、右手を玄関の方へと突き出した。
バギン!! と幻想殺し(イマジンブレイカー)が何かを破壊する。

103: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:40:19.62 ID:e5DZmQQx0
続けて二撃目が飛んでくる。それは電撃だった。
上条は自身に許される唯一絶対の防御手段として再度幻想殺しを突き出す。
その際にバランスを崩し床に落とした携帯を踏み砕いてしまったが、そんなことに構っている場合ではない。
いつの間にか一体のゾンビが壊れたドアの向こうにいた。
思い出してみればずいぶん大声を出した気がする。
その時に気付かれたのかもしれない。

少年だった。おそらく上条と同年代くらいだろう少年。
見るも無残な姿になっていながら歩いている。
だが、

「……へっ。電撃使い(エレクトロマスター)か。
電撃ならもういい加減食らい慣れてるぜ」

ゾンビにもようやく少しだが慣れてきた。
そしてこの少年が知人ではないというのも大きかった。
一方通行からのメールで冷静さを多少なりとも取り戻した上条は考える。
どうして人間がこうなってしまったのか?
何もなければこんなことはあり得ない。
結果がある以上、必ずそれを生む原因がある。

(―――魔術)

魔術は能力と同じように様々な種類がある。
能力に発火能力(パイロキネシス)のようなポピュラーなものがある他、精神系やら空間移動と言った特殊系が存在するように。
魔術にも呪いをかけるようなものは多くある。
人をこんな亡者にしてしまう魔術なんてものがあるかは知らないが、上条はそう考えた。
インデックスならばそれがどんな魔術なのかまで見破れただろううが、上条に出来るのはただ一つ。

「この右手で……!!」

電撃を払うように無効化しながら上条は眼前の死人に駆け寄った。
懐に飛び込み、頭に一瞬右手で触れるとすぐさま足払いし玄関から出て距離をとる。
ゾンビは簡単に転倒したが、すぐに呻き声をあげながら起き上がった。

104: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:42:16.41 ID:e5DZmQQx0
「くそっ、駄目か……!!」

たしかに幻想殺しで頭部に触った。
それが魔術であれ能力であれ。触った時間が一瞬であれ。
それが異能であるならば全てを破壊する。
上条当麻の右手とはそういうものだ。

核が違う場所にあるのか、そもそも異能でないのか。
それは分からないが、とにかく上条の幻想殺しは歩く亡者には通用しない。
それだけ分かれば十分だった。
早足で迫ってくる血と膿に塗れた死体に上条は身構えたが、一方通行からのメールをふと思い出した。

『奴らに傷を負わされるな』

(待てよ……。よく映画なんかじゃ、ゾンビに噛まれた奴は同じくゾンビに……!!
ちくしょう、そういうことかよ!!)

推測だが、おそらく一方通行の言葉はそういう意味だろう。
もし目の前の異形に一度でも噛まれでもしたら、すぐに上条も生ける屍の仲間入りということだ。

「なら、逃げるのが利口だよな!!」

上条はすぐに背中を向けて逃走した。
時折背後から迫ってくる電撃をしっかりと防ぎながら確実に距離をとっていく。
元より無理に戦う必要などない。
しかも上条は接近戦しか出来ないため、思わぬ反撃を食らう可能性も高い。
上条の言う通り、逃げるのが最適解かもしれなかった。

死人の足はそれほど速くない。
完全に撒いたことを確認し、ほっと息をついたのも束の間。
数体のゾンビを前方に認めて上条は咄嗟に物陰に体を潜めた。
学園都市の人口はおよそ二三〇万人。
その大半がゾンビ化していると考えると非常に状況は悪い。

改めて自分の置かれている状況を理解した上条だが、その眼には光があった。
決して諦めず生き残ろうとする闘志があった。
故に上条当麻は走る。目指す先は、常盤台中学。

105: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:44:31.88 ID:e5DZmQQx0









「行きましたか……」

上条が小萌の家を離れて数分後、家主である月詠小萌は襖を開けて隠れ場所から這い出た。
小萌は実はこの家にいたのだが見つからないよう隠れていたのだった。
ふらふらと、今にも倒れそうな足取りで家を出る。
どこに行くかなど分からない。ただ夢遊病患者のように彷徨っていた。

「上条ちゃん……シスターちゃん……姫神ちゃん……結標ちゃん……」

その服には赤い液体が染み付いていて。
両目からは透明の雫が光っていた。
胸を抑えながら震える声で、月詠小萌は世界を呪う。
胸が、苦しい。

「どうして……こんなことになっちゃったんですか……?」

もはや自らの命はいらない。死ぬ覚悟はできている。
ただ。自分の命を捧げるから、ただ生徒たちだけは助かってほしい。助からなければならない。
彼らは子供だ。それぞれに明るい将来が待っているのだ。
なのに、なんで。小萌の守りたかった一八〇万もの学生のほとんどは死んでしまった。
いや、もしかしたら生きているのかもしれない。あれには生と死、どちらを当て嵌めればいいのだろうか。

106: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:45:55.14 ID:e5DZmQQx0
「みんな……何も悪いことなんてしてないのに……」

小萌はその場で泣き崩れた。
彼女は地獄を見ていた。この世のあらゆる悪意が凝縮されたようなソレを見ていた。
この世にもしも神とやらがいるのなら、自分は絶対にそいつを許さない。
こんな惨劇を、生徒たちの死を許したそいつを。

「どうして―――……っ」

胸が、苦しい。
立っていられない。やはり『アレ』のせいだろうか。
体内から外へ圧力がかかる。まるで体の中で風船が膨らんでいくような、そんな感覚。
体がはち切れそうになる。思わず両手で胸を抑えるが、痛みは酷くなる一方だった。

(ああ―――。私、死ぬんですね)

自然とそれを悟った。不思議と恐怖はない。
だが、お願いだから生徒たちだけは。
自分の命はいらないから、せめて子供たちは。

(死なないで。絶対に、死んじゃ駄目です―――!!)

胸が、苦しい。
体内で何かが膨張し、肉体が押し出されていく感覚。
膨れ上がった何かが内から自分の肉体を引き裂く感覚。
それが極限に達した瞬間、

「あ、あ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!」

バンッ!! という何かが勢いよく弾ける音。
グチュ、という粘着質な挽き肉をかき混ぜたような音。
それらが同時に鳴り響いた。
そして血の詰まった風船を割ったように鮮血がスプリンクラーのごとく撒き散らされた。

107: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:50:41.68 ID:e5DZmQQx0
辺りが瞬間で真っ赤に染められた。赤、赤、赤。それ以外の色が見つからない。
比喩でも大げさでも何でもなく、血の海が出来上がっている。
床は勿論、四方の壁、天井にまでべったりと血が張り付いていた。
人間の体にたっぷりと詰められた血液の全てが辺りを赤色に染め上げる。
その中心に倒れ伏す、小学生程度の背丈しかない人間。

その人間は右肩から左の腰まで、袈裟懸けに体が弾け飛んでいた。
無くなっていた。ぐちゃぐちゃになっているとか、潰れているとか、そういうことではない。
本当に何も無いのだ。肉も、骨も、何もかもが。

腰の部分でかろうじで繋がっていて、ぎりぎり真っ二つにはなっていない。
とはいえ当然そうなった人間が生命活動を持続させられるはずがなく。

要するに、月詠小萌は死んでいた。
誰よりも子供を愛する彼女は一人として子供をこの地獄から救うことは叶わず、血溜まりに沈んでいた。
大人であるにも関わらず幼い顔も、いつも着ているピンク色の服も、同色の髪も、車のペダルすら踏めない短い足も、普段チョークを持っている手も。
その全てを鮮やかな紅に染めて。

あまりに巨大な傷口からは体内に収められているはずの臓器がこぼれ落ち、ピンクや白のぶよぶよしたものが綺麗に辺りを彩った。
赤単色だけではない。月詠小萌という人間の体内にあるもの全てが周囲を鮮やかにペイントする。

小萌の死体のすぐ近くに小さな虫のようなものがいた。
それこそが小萌を体内から侵食し、食い破り、彼女を死に至らしめたもの。
まるで古代の三葉虫のような姿をしたそれは地面を這って素早く移動し、その場を離れどこかへと消えていった。

後に残ったのは、月詠小萌と呼ばれていたものの残骸だけだった。

108: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:51:51.41 ID:e5DZmQQx0


Files

File07.『補習用のプリント』

月詠小萌が上条当麻の補習のために作成したもの。
数学と英語が特に重点が置かれていて、内容は基礎の基礎から。




File08.『結標淡希のメモ書き』

悪いんだけど適当に野菜と肉と買ってきてくれない?
私今日ちょっと出かけるけど、夜は野菜炒めを披露してあげるわよ。
大丈夫、これでも練習して普通に食べられる程度にはなったのよ?
小萌がぐちぐちうるさいから頑張ったんだから。

109: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:53:04.79 ID:e5DZmQQx0

御坂美琴 / Day1 / 07:39:43 / 第七学区 常盤台中学校

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

当てが外れた。

美琴は常盤台中学一階の女子トイレに身を潜めていた。
わざわざここに来た理由は単純で、婚后光子を初めとする学友たちの身が心配だったからだ。
だが、手遅れだった。
美琴がここに着いた時、既に名門お嬢様学校常盤台中学はゾンビの巣窟と化していたのだ。

目に映る人間は悉く歩く亡者。
自分の通っている学校ということで、見知った顔も多く美琴の精神はガリガリと削られていた。
だが、たったの一人でも。たとえ一人でも生存者がいるのなら。
そんな希望を美琴は捨てられなかった。
だが当てもなく連中の集まっている校内をうろつくのは自殺行為だ。

(ひとまず脱出すべきね)

やることを頭の中で一つずつリスト化していく。
とにかく目的。どんなに小さくとも目的が必要だ。
何もしないでいると心が壊れそうになる。
ちょっとでも気を抜けば絶望的な想像に食われそうになる。
脳内にフラッシュバックされるのは、ツインテールがトレードマークだったルームメイト。

今美琴がいるのは女子トイレの中でも入り口からもっとも遠い、最奥にある個室だ。
ドアを開けて出ようとしたところで、美琴の耳にのそり、のそり、という重苦しい足音が聞こえてきた。
美琴の体が硬直する。この緩慢な歩き方。何かを引き摺るような足音。
間違いなく、アンデッドだ。

110: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:54:06.46 ID:e5DZmQQx0
息を呑む。時が停止したように美琴は動かない。
嫌な汗をかいているのを感じる。バクバクと鳴っている心臓の音を聞きつけられないだろうか、と不安になる。
足音は近づいてくる。ゆっくり、ゆっくり。そして。

「―――っ!?」

ドン!! という音。美琴のいる個室のドアが、外から叩かれたのだ。
そいつはそこに美琴がいると分かっていたわけではないのかもしれない。
思わず美琴は僅かな声を漏らしてしまった。
咄嗟に口元を手で覆うが、もう遅い。
それに反応したゾンビの呻き声が大きくなる。

「ア アあ ァあぁァ……」

「―――!! こうなったら……っ!!」

美琴は覚悟を決め、トイレのドアをバン!! と勢いよく蹴り飛ばした。
外開きのドアは、大きく開け放たれた勢いのままゾンビの体を強かに打つ。
ゾンビがよろけている隙に美琴は個室から飛び出し、右手の方にある窓から身を躍らせた。
出来るだけ、生きた死体を見ないようにした。
単純に歩く死体を見たくないのと、それが“生前誰だったのか”を知りたくなかったからだ。

だが人間の視界というのは意外と広範囲をカバーしているものだ。
僅かだが、たしかにその爛れた顔が見えた。見えてしまった。
しかし、美琴は違う、と思う。

(違、う。あれは、違う。ただの見間違いに決まってる。
その人のことを考えていたからそう見えただけ。そう、そうよ)

111: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:55:13.08 ID:e5DZmQQx0
常盤台の学生など数百人といるのだ。
その内の、彼女が偶然あの場所にいたなど、あり得るわけがない。
あっては、ならない。


アレが、婚后光子などと―――そんなことが、あるはずがない。


それなのに、校舎から脱出した美琴は逃げるように走る。
体の震えが止まらない。ただの見間違いだというのに、一秒でも早く、一センチでも遠くここから離れたい。
足がもつれて転んでしまいそうになりながら、美琴は全力で走る。
ただの、見間違いだというのに。

その時、美琴が脱出したトイレが内から嵐のような烈風によって破壊され、砂煙が猛烈に舞い上がった。
だが美琴は振り向かない。あんな風に壁を破壊できる能力などいくらでもある。
だから、あれが大能力者の『空力使い(エアロハンド)』であるはずがないのだ。

なのに、何故だか涙が零れそうになる。
ただの、見間違いだというのに。

そして、しばらく走ったところで。
美琴は足を止める。止めざるを得なかった。
張り裂けそうなほどに心臓がうるさい。
先ほどは視界にかすかに映っただけなので言い訳ができた。
見間違いだと信じ込むことができた。
だが、これは、そうはいかない。

後姿。
常盤台の制服に身を包んだ、一人の少女。
こちらに背を向けているので顔は見ることができない。
だからそれが誰なのかは分からない。
後姿だけなのだから、それこそ見間違いかもしれない。
“普通なら”。

112: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 22:56:27.83 ID:e5DZmQQx0
だが美琴にとって、その後姿はあまりにも見慣れたものだった。
一〇〇パーセントの確信を持って断言できてしまうほどに身近なものだった。
それにそのゾンビは右足を引き摺っていて、特徴的なツインテールの髪を揺らしていて。
美琴を追ってきたのか、あてもなくうろついているだけなのか。

「――――――ぁ、あ」

美琴は今更ながらに理解する。
この地獄に生存者などいない。
少なくとも、この常盤台中学には。

そして、何より。この常盤台中学にやって来るということは。
多くの知り合いや友人がいる、この学び舎に来るということは。
あらゆる意味で、自殺行為だったのだと。

「…………っ!!」

美琴は弾かれたように再度走り出した。
これ以上、一秒だってこんなところにいたくない。
これ以上、変わりきった学友たちを見たくない。
これ以上は、自分が、耐えられない。

(もう嫌、嫌よ、嫌……ッ!!)

御坂美琴は、逃げる。
何もかもを度外視し、ただひたすらに逃げる。
一体いつまで逃げればいいのか、どこまで逃げればいいのか。
美琴には、分からない。

それでも美琴は、全てから逃げ続ける。

132: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:13:21.09 ID:QrW1GwTm0


At the same time,at the same place.
You have to survive this nightmare to know the true end.



133: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:14:32.35 ID:QrW1GwTm0

浜面仕上 / Day1 / 08:23:29 / 第七学区 柵川中学校

「はっ、はっ、はっ、はっ……!!」

どうしてこんなことになったのか、浜面仕上には分からない。
けれど理由は何であれ浜面は動かなければならない。
おとなしく死を待つことなど出来はしないのだ。
死者が徘徊するこの死の街と化した学園都市で、それでも守りたい少女がいるのだから。

滝壺理后。
それは特殊な力を何も持たず、どこまで行っても平凡でしかない浜面が命に換えても守ると誓った少女の名。
ただの無能力者であっても、滝壺理后のためならばヒーローになってやると決めたのだ。
彼女を抱えて生きる必要なんかない。放り出した方が身軽になるのも間違いない。
それが分かっていながら、どうしてだか絶対に捨てられないもの。

そして、浜面仕上は辿り着いた。
溢れかえる亡者共から身を隠し、時には陽動し、ついにここまで辿り着いた。

『柵川中学校』

そういう名前の学校らしい。
電話越しに滝壺はそう言っていた。「今柵川中学というところに逃げ込んでいる」と。
場所を調べ、ゾンビに気付かれぬように動いていたらおよそ一時間も経過してしまっている。
滝壺はまだ無事なのだろうか。携帯の電池は残り僅か。
充電し忘れた昨日の自分を殺してやりたかった。

134: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:21:04.88 ID:QrW1GwTm0
(滝壺は保健室に隠れてるっつってたな……どこだよ、クソ!!)

当然入ったことのない学校なので内部構造は全く分からない。
だからといって闇雲に動き回れば間違いなくゾンビに見つかるだろう。
校内にもどうせ連中はうようよしているだろうし、こちらの武器は拳銃一丁のみ。
まずどこから学校に侵入するかが重要になると浜面は思った。

(普通保険室ってのは一階にあるよな……なら窓から覗いていきゃ見つかるか)

壁沿いに身を屈め、一つ一つ窓をチェックしていく。
あまり時間をかければ外のゾンビに見つかるかもしれないし、逆に急ぎすぎれば窓を覗いた時に中のゾンビに見つかる恐れがある。
浜面は自分の心臓がバクバクとうるさいほど鳴っているのを感じた。
だがそれに安心感さえ覚えた。この心臓が鳴っているということは自分は生きているということ。『人間』であるということだから。
生きた死体の醜悪に過ぎる顔を思い出して、浜面は冷や汗を流す。

そしてついに浜面は保健室に辿り着いた。
息を殺して窓を覗くと、そこは明らかに保健室だった。
清潔そうな白のカーテンに囲まれたベッド、簡単な消毒薬の並べられたガラスケースが見える。
学校にはほとんど登校していない浜面だったが、やはりどこも保健室というのは大差ないらしい。

滝壺の姿は見えない。移動していなければまだここにいるはずだ。
大声を出すわけにもいかず、浜面は控えめに窓をコンコン、とノックする。
中に滝壺がいれば何かしら反応するはずだ。

ジッと息を殺して待っていると、僅かにくぐもった声が聞こえた。
何と言っているのかは分からなかったが、ともかく中に誰かがいることは間違いない。
ゾンビの声ではないと確信を得た浜面は意を決して呼びかける。

「……滝壺? 俺だ、浜面だ。いるのか?」

「……はまづら?」

その声は聞き間違えるはずもない、紛れもなく滝壺理后のものだった。
その事実に押し寄せるような安堵感が浜面の全身を包んだ。
今日という日を迎えて初めて聞く『人間』の声。そして愛する少女の声が。
だがしかしいつまでもこうしてはいられない。今この瞬間にも連中に見つかる可能性は無視できないのだ。

135: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:28:24.88 ID:QrW1GwTm0
「滝壺、悪いが窓を開けてくれないか?」

分かった、という滝壺の声、そしてすぐにクレセント錠が下ろされ窓の鍵が開けられる。
ガラリと窓を開けると浜面は最短の時間でその身を滑り込ませ、また即座に窓と鍵を閉める。
そこで浜面が見たのは滝壺理后の顔。
守ると決めた少女の顔は不安に溢れていて、けれど相変わらずピンクのジャージを着ているその体には傷一つ見られない。
その事実に浜面は感極まって、反射的に滝壺を強く抱きしめていた。

「……はまづら?」

「守るから」

それは誓いだった。

「絶対、絶対守ってやる。お前を傷つけようとする全てから、絵本のヒーローみてぇに。
俺、無能力者だけどさ。滝壺のためならヒーローになってやる」

自分に対しての、滝壺理后に対しての。
この狂った世界にあって、それでもたった一つを守ると決めた少年の決意。
その言葉を受けて、滝壺もそっと浜面の背中に両手を回す。
この時。滝壺理后もまた一つの誓いを立てた。

―――何かがあれば、自分がこの少年を守る盾となろう、と。

「ありがとう、はまづら。きっと大丈夫だよ」

そう言って口の端を僅かに吊り上げる滝壺に、浜面はそっと笑いかけてやる。
それはもうないかもしれない穏やかな時間。
だがそんな雰囲気は外から聞こえた重苦しい足音のような音を受けて一変する。
たちまち張り詰める緊張の糸。浜面と滝壺は息を殺し、ただ心臓だけがバクバクとうるさい。

のそり、のそり。そんな音はしばらくしてどこかへ離れていった。
完全に去ったのを確認すると、浜面と滝壺はふぅ、と大きく息をつく。
まるで長いこと息を止めていた直後のようだった。
本当に心臓に悪い。全く違う理由で死んでしまいそうだと浜面は苦笑した。

136: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:29:22.22 ID:QrW1GwTm0
「……やっぱりここもゾンビだらけなのか」

「ううん。違うと思う」

「へ?」

滝壺の言葉に浜面が疑問の声を出すと、逆に不思議そうな顔で見つめ返された。

「……はまづら、もしかして見てないの?」

「見てないって、何を?」

「今学園都市を徘徊してるのはゾンビだけじゃない。変異種とか、色々いる。
今はまだ数はかなり少ないみたいだけど、時間が経つにつれてどんどん増えていくと思う」

「は、はぁっ!?」

この溢れかえるゾンビだけで精一杯だというのに、更に未知なる化け物がうろついているというのか。
もしかしたら今の学園都市は自分の想像を遥かに超える地獄なのかもしれない、と浜面は思った。

「色々、って……たとえば、どんな?」

「私が見たのは二種類。片腕しかない完全な化け物と、あとは多分ゾンビになった犬かな。
前者はよく分からないけど、後者は気になるね。
人間だけじゃなくて他の動物まで変わってるってことは、もしかしたらこれは……」

滝壺の言葉はそこで途切れた。
言葉を探っているのではなく、何か思案しているのでもなく。
不自然すぎるほどにぴたりと止まったのだ。
しかもその普段は無表情でいることの多い顔は青ざめていて、明らかな異常を示している。
浜面は咄嗟に滝壺の目線の先を確認して、

「―――っ!?」

137: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:30:00.00 ID:QrW1GwTm0
思わず声が出そうになって、咄嗟に口を手で覆う。
しかしその行為にはもはや何の意味もない。
たとえ声を抑えたところで全く効果はないのだ。
―――既に、窓の外にいるゾンビの濁った瞳はこちらを完全に捉えているのだから。

「滝壺ッ!!」

弾かれたように浜面が動くのと死者が飢餓感に駆られ窓を割るのは、同時。
バリィン!! というガラスの砕ける音。
浜面は滝壺の手を取って迷いなく保健室の出口へと向かう。
普段は鈍そうにしている滝壺だが、あれでもこの街の暗部を『アイテム』として生き抜いてきた少女だ。
こういったいざという時の判断能力や動きは決して鈍くはない。

ゾンビは窓を破壊したものの、その枠を乗り越えることはできないらしい。
人間なら足をあげて跨げば済む話なのだが、ゾンビは違った。
中途半端に残ったガラスが腹に刺さることも厭わずに、ゾンビはその腹に枠を抱え込むようにして入ってくる。
芋虫のように這いずって、どさりと落ちて保健室へ侵入を果たす。

だがその時には既に浜面と滝壺の姿は消えている。
二人は廊下を駆けていた。時間はない。
あれが派手に窓を割ってくれた以上(そして浜面が叫んだ以上)、すぐにでもその音を聞きつけたクリーチャー共がやって来るだろう。

「……はまづら、どこかに隠れたほうが、いい!!
こんな風に姿を見せてドタドタ走ってるんじゃ、見つけてくれと言ってるようなものだよ!!」

「ああ、分かってるっ!! でも一体どこに……ッ!?」

やはり予想通り校内にはゾンビが徘徊していた。
だが幸いあの死者共はそれほど察知能力が高くはない。
浜面と滝壺は暗部時代の経験を生かし、見つからぬよう隠れる場所を探した。
時には物陰に身を潜め、時にはわざと見つかって連中を誘導し、そして二人が辿り着いたのは二階にある家庭科室だった。

138: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:31:28.93 ID:QrW1GwTm0
調理実習などで使うのか、ガスコンロのついたテーブルが等間隔にいくつも並べられている。
二人がいるのはその家庭科室の中にある、冷蔵庫や食器などがしまわれている小部屋だった。
そこに逃げ込んだ二人は服が汚れることにも厭わず、薄らと埃の散る床に力尽きたようにドサッ、と座り込む。
たったこれだけで、既に浜面も滝壺も疲れ果ててしまっていた。
死人から逃げ回った経験など、あるはずもない。

「ふぅ、ふぅ……。大丈夫か、滝壺?」

「うん……でもこれからどうしよう。ずっとここにいたってただ見つかるのを待つだけだよ」

滝壺の言う通りだった。状況は芳しくない。
もともとこの柵川中学に来たのは滝壺と合流するためだったのだから、もうここには用はない。
ならばさっさと立ち去ってしまうべきなのだが、校内を徘徊するリビングデッドがそれを許さない。
浜面の持っている武器は銃一丁。当然、弾数にも限りがある。
周囲のものを利用しても全てを殺し切れるとは思えないし、それだけ危険も高まる。
それだけでなく、滝壺の言っていた『変異種』というものも気になった。

窓から出ようにもここは二階。
飛び降りて無事で済むかは疑問が残る。
足に怪我でも負ってしまえば、これから生き残れる可能性は下がってしまう。
ロープなど見つからないし、その隙を突かれるようなことがあれば一発であの世行きだ。

「結局、他に道なんてねえのか……」

「はまづら?」

浜面は休憩もそこそこに立ち上がり、扉を開けて家庭科室へと出る。
油断なく銃を構えて、後ろ手に扉をパタンと閉じる。
そのドアの向こうから滝壺が動く音が僅かに聞こえた。
そして、浜面仕上はその瞬間、冗談抜きで心臓が止まったと思った。

「―――ッ!?」

浜面の目と鼻の先。ちょっとでも手を伸ばせばあっという間に埋まってしまうほどの近距離に、ゾンビの姿があった。
鼻がもげるかと思うほど強烈な腐敗臭。いつの間に家庭科室に侵入していたのか。
ゾンビが浜面を捕らえようと腕を伸ばす。
残された一秒程度の猶予の中で、驚愕による硬直から抜け出し体を動かせたのは奇跡と言っても良いかもしれない。
それとも、それは不本意ながらも『アイテム』として暗部で活動していたおかげなのか。

139: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:34:02.70 ID:QrW1GwTm0
咄嗟に体を右に思い切り半回転させ、ゾンビの腐った腕が空を切る。
その隙に浜面は迅速にその場を離脱、家庭科室の奥へと逃げ込んでいく。

「滝壺ぉッ!! そこから動くなッ!!」

叫びながら、浜面は走る。壁際に取り付けられている窓を片っ端から閉め切っていく。
続けてテーブルに備えられたガスコンロを全て空焚きさせる。
鼻を突くガスの臭いが、少しずつ室内に充満していく。

「俺に考えがある!! 指示するまで絶対に動くんじゃねぇぞ!!」

普通なら、こんな大声で呼びかければ付近にもう一人いることが即座に察知されてしまうだろう。
だが幸いこの死者共にそれほどの知能はないようで、浜面の呼びかけにも関わらずそれに反応する素振りは見せない。
滝壺が小部屋から飛び出してくる様子はない。その事実に浜面は心から安堵する。
あの少女はあれでいて無茶をすることがある。かつては単身で超能力者に立ち向かったこともあるほどだ。

けれど、今はそれははっきり言ってしまえば邪魔になる。
浜面の策が破綻しかねないし、何より滝壺の身を二重の意味で危険に晒すことになる。

勿論、滝壺とてじっとはしていられないはずだ。
浜面が一人戦っている、その事実に逸りそうになる身体を必死に抑えているのだろう。
おそらくそこで滝壺が踏みとどまれているのは、長きに渡る暗部での経験。
人より状況判断能力が優れているために、その場での最善の行動を弾き出せる。
皮肉にも、二人を散々苦しめた暗部での経験が彼らの生存率を大きく上げる結果となっていた。

浜面はそこではっきりと歩み寄ってくるゾンビを視界に捉える。
血と膿と肉で汚れ切っているが、どこかの学生服を身に纏っていた。
十中八九、ここの学生だろう。生前は男だったようだが、今のこの存在に性別という概念が存在するかは疑問だ。

浜面はサイレンサー付きの銃をゆっくりと構えて、ゾンビの左胸、即ち心臓に照準を合わせる。
しっかりとグリップを握り、そして冷静にトリガーを引き絞った。パシュッ、という軽い音。
放たれた弾丸は空を切り、冷酷に、無慈悲に容赦なく標的の心の臓に食らい付いた。
肉を抉り取り、超高速で回転する小さな金属の塊は抵抗を無視し、ひたすらに真っ赤な噴水を伴ってその体を奥へ奥へと埋め込んでいく。

141: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:41:48.48 ID:QrW1GwTm0
(悪いな。俺はもう腹ァ括ってんだ)

引き金を引くことに、浜面は抵抗を覚えなかった。
震える指では正確に狙いなどつけられない。
この全てがおかしくなってしまった世界で、浜面は既に覚悟を決めていたのだ。
滝壺理后を守り抜く。そのためならば再びその身を人殺しに貶めることだって厭わない。
もっとも、この死体を殺してそれが『殺人』になるのかは甚だ疑問だが。

「ァ あ”あぁ アぁァあ”あ ァ……」

しかし。ソンビは何ともおぞましい呻き声をあげ、歩いてくる。
銃撃を受けた瞬間、その身を後方へとよろめかせたものの、それだけ。
浜面の放った弾丸は、僅かによろめかせる程度のダメージしか与えてはいなかった。

「倒れ、ねぇ……っ!?」

確実に今の弾丸は心臓を撃ち抜いていたはずだ。
にも関わらずこいつは倒れない。既に一度死んでいるから、なのだろうか。
だとしたら。だとしたら、この亡者を『殺す』方法なんて、あるのだろうか?

(心臓を穿った程度じゃ“殺せない”!! こいつら、一体どういう……)

パタパタ、と床に血液が飛び散った。浜面はその血を見て驚愕する。
どういうわけか、その血は既に半ば凝固していたのだ。
ゼリー状、あるいはゲル状になりかけているその血はどう見てもたった今体外へ排出された血液とは到底思えない。
通常、温度によって異なるものの人間の血液が凝固、即ち流動性を失うまでには八分~一二分程度の時間を必要とする。
だがこれは違う。今、まさにこの瞬間に空気に触れたというのに既に固まりかけているのだ。
それはつまり、このゾンビの体内を流れる血液は“そういう状態”である、ということ。

(クソッ、どうなってんだよこいつらの体は!!)

ともあれ、今はそんなことを考えている場合ではない。
早足で近づいてくるゾンビから距離を取った浜面は、テーブルを挟むようにしてその距離を保つ。
やはり唯一の救いはこいつらの足はそう早くはないことだ。
たった一体だけならばどうとでも立ち回れる。

142: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:42:55.69 ID:QrW1GwTm0
それは事実であるが、同時に油断でもあった。
目の前のゾンビが僅かに上体を反らしたと思った瞬間、口から何かが飛び出してきた。

「ッ!?」

反射的に浜面は反応し、右に転がるようにしてそれが何かも確認しないまま回避する。
その判断は正しかった。ゾンビの吐き出した何かがかかったテーブルは、嫌な音をたてて一部溶けてしまっていた。
あれをまともに浴びていればそれだけで絶命も有り得たかもしれない。

吐寫物か、と浜面は適当に当たりをつける。
実際、それは的外れでもなかった。
ゾンビの吐き出した何かの正体は強酸性の胃液。
食べた物を迅速に消化し、エネルギーとするために発達したものだった。

床を転がり、この家庭科室の入り口の一直線上に出た浜面が器用に受身を取って体勢を整えると、その視界に恐ろしいものが映った。

「マジかよオイ……」

ゾンビが、更に一体。家庭科室に侵入してくる。
セーラー服を着用し、頭にはカチューシャを付けており前髪が全て後ろへと流されている。
その少女の胸には血と膿に汚れているが名札が付けられており、そこには『枝先』と名があった。
この家庭科室は決して広くはない。むしろ狭いと言えるだろう。
そんな空間に、合わせて計二体のアンデッド。

小部屋からまたもゴソゴソと何かが動く音が聞こえた。
浜面の答えは変わらない。もう一度、叫ぶ。

「動くな滝壺っ!!」

浜面が恐ろしい、と思ったのはこのゾンビではなかった。
ゾンビならば既に何体も目撃している、焦ることはあっても恐ろしいとは今更思わない。
問題なのは。その亡者の背後にいる化け物。

143: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:44:16.22 ID:QrW1GwTm0
まず最初に目に入ったのは、肥大化した巨大な右腕。
その代償のように左腕は存在していなかった。
全身は隙間なく、足の先から頭部に至るまで黄土色の皮膚で覆われ、その上から緑色の葉脈のようにも見える何かが全身を走っていた。
まるで膨張した血管のようにも見える緑のそれは、まさに血管の如く不規則に、迷路のように存在していて、顔や頭にまで広がっている。
もはや完全に人間の外観からかけ離れていた。

「……何だよ、あれ……。あれが、滝壺の言う『変異種』……? 完全な化け物じゃねぇかクソッ!!」

思わず吐き捨てる。
ゾンビのように、ある程度は人間の見た目だと思っていたのかもしれない。
それが蓋を開けてみればまさに文字通りの化け物。
けれど、こんなものより遥かに恐ろしい化け物がこの街にいることを浜面はまだ知らない。

隻腕の化け物が右腕を動かす。
それにハッとした浜面は咄嗟にその場を離れ、物陰に身を隠した。
どんな効果があるかも分からないその右腕。
だが次の瞬間、浜面は信じられない光景を目撃した。

(腕が……伸びる!? ちくしょう、何でもありか!!)

化け物の右腕がしなやかな鞭のように振るわれた。
その瞬間、まるでゴムのように右腕が何メートルも伸びたのだ。
そして壁を掴むと、今度は右腕を縮めて体ごと移動。
伸縮自在の右腕による瞬発移動。
どうやらこの隻腕の化け物は、ただの亡者とは全く異なる存在らしい。

続けて隻腕の化け物が右腕を薙ぎ払うように横一線に振るう。
当然、その際に腕が伸ばされ家庭科室を覆い尽くす。
浜面はテーブルの陰に隠れるようにしゃがんで姿勢を低くすることでそれを回避。
すぐ頭上を黄土色の、人間だったとは思えない不気味な腕が猛烈に通り過ぎていく。

144: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:45:11.62 ID:QrW1GwTm0
窓際や後方の棚の上に置かれていたアイロンなどの備品があっという間に薙ぎ払われ、ガシャァン!! と音をたてて床に散らばった。
更には最初に現れたゾンビが化け物の右腕による一撃を頭部に受け、あまりの衝撃にその首が捻じ切れた。
首からまさに噴水のように血を噴き上げる頭を失った体は、やがてバタンと倒れた。
ごろごろと捻じ切られた頭部が床を転がる。首から噴出した血液はべったりと天井を赤に染める。

(一発で首が……!?)

たったの一撃で首を飛ばす。
その程度の破壊力はあの右腕に込められているようだった。
それは左腕を失って肥大化した結果なのか。
ともあれ、もし一撃でもあれをまともに食らえば浜面はこの世に別れを告げることになるだろう。
浜面仕上は特別な力など一切持たない、ただの凡夫に過ぎない。
代えなどいくらでも効く、ただの登場人物A。けれど、それでも浜面はここで倒れるわけにはいかない理由がある。

浜面は焦っていた。だが、それは隻腕の化け物に対してではない。
勿論この化け物は恐ろしいし、今の一撃を見て背筋に冷たいものが流れたのも事実だ。
しかしそれ以上に今の攻撃でこの化け物が『引き金』を引いてしまったのではと、気が気でなかった。
だがそんな様子は見られなかった。そもそももし『引き金』が引かれていれば今こうして浜面が生きていることもなかっただろう。

そろそろ頃合いか。これ以上はこちらが持たない可能性が高い。
そんなことを考えていた浜面に、隻腕の化け物が容赦なく襲いかかった。
右腕をバネのようにして飛びかかってきた化け物が浜面を踏み潰そうとする。
弾かれたようにその場を離脱し、滑り込むように隣のテーブルの陰に移動する。
何とか回避した浜面だが、ダンッ!! という化け物の着地の衝撃一つとっても浜面は肝を冷やす。

(あっぶねぇ……!!)

ともあれ、最後の仕上げにかかることにした浜面は真っ直ぐに家庭科室の出口を目指して走り出す。
だが、逃がさないとばかりに隻腕の化け物は右腕を伸ばして浜面を狙う。
それを見越していた浜面は、背後を確認することもなくただ膝を折ってその場に沈み込む。
そうすることで、先の一撃のように化け物の攻撃をかわせるはずだったのだ。

145: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:47:53.49 ID:QrW1GwTm0
そう、“はずだった”。

「うおっ!?」

実際には、化け物の腕は浜面の動きを察知していたのか、足元をすくうように低く振るわれた。
その結果足払いを食らったような形となり、浜面はその場にバランスを崩して倒れ込む。
咄嗟に受身を取って頭を床に打ち付ける事態を回避したものの、一気に状況は劣勢となってしまった。
未だ立ち上がれない浜面に、化け物に気をとられて注意を疎かにしていたゾンビが近づいてくる。
隻腕の化け物も止めを刺すつもりなのか、ドスドスと重い足音を引き連れて歩いてくる。

浜面の前に立った化け物がその巨大な右腕で浜面の頭を掴んだ。
右腕が大きく肥大化しているせいで、人間の頭部などすっぽりと収まってしまう。
化け物は一切の容赦なく、万力のような力で浜面の頭部を締め上げる。

「が、ああああああああああああッ!?」

ミシミシと頭蓋骨が悲鳴をあげていた。
この隻腕の化け物の腕力、握力は尋常ではない。
少なくとも人間の頭をぐしゃりと握り潰せる程度には。
叫びながら足をばたつかせてもがく浜面に、更にゾンビが手をかける。
文字通りの絶体絶命。リビングデッドの餌になるのが先か、隻腕の化け物によって頭を潰され中身をぶちまけるのが先か。

当然、この化け物には人語を解する知性もなければ浜面の絶叫に慈悲をかけることもない。
むしろ更にその腕に込める力を強めていく。
もっとも。仮にこの化け物に言葉を理解できるだけの知性があったとしても、浜面を見逃すことはないのだろうが。

頭蓋骨が加減なく圧迫され、想像を遥かに絶する激痛に見舞われ死を覚悟した浜面は、せめて最後にと銃を握り『引き金』を引こうとした。
だが、その寸前。まさに浜面が最後の一手に打って出る直前だった。
バリン!! というガラスが砕けるような音が響いた。
そしてその直後、浜面の足をしっかりと掴んでいたはずの亡者がバタリと力尽きたように倒れ込んだ。

146: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:49:49.51 ID:QrW1GwTm0
何者かの気配に反応したのか、音に反応したのか、ゾンビが倒れたことに反応したのか。
隻腕の化け物は浜面にかける力を弱めて振り返る。
振り返ったその瞬間、その頭部にドスッ、っと包丁が半ばまで一切の躊躇なく突き立てられた。

「ゴァァァアアアアアアアアアアッ!!」

おぞましい悲鳴をあげる隻腕の化け物。
同時に右腕に込められていた力が抜け、浜面は化け物の束縛から解放される。

「っが、はぁ……っ!?」

「はまづら、早く!!」

片手で頭を押さえる浜面が目撃したのは滝壺理后の姿。
どうやら守るつもりだった彼女に助けられてしまったらしい。
けれど反省も後悔も全て後。今するべきは迅速な行動。

浜面はズキズキと痛む頭を無視して出口へと走る。
後ろからモゾモゾと物音が聞こえる。
滝壺に殴打されたアンデッドはやはり死んでいなかったらしく、緩慢な動作で起き上がっていた。
しかし問題なのは隻腕の化け物だ。
滝壺の一撃も仕留めるには至らず、むしろその怒りを買う結果となってしまったらしい。
右腕をこちらへ向けて伸ばそうとしているのが覗える。

だが、遅い。
その時には既に浜面と滝壺は家庭科室の外へと飛び出していた。

「着火を!!」

廊下の隅に備え付けられている非常ベルの下の開閉スペースを乱暴に開け、中から銀色のシートのようなものを強引に引き出す。
そんなことをしながら叫んだのは滝壺だ。普段はおとなしい彼女だが、状況が状況であるためか自然と声も荒くなっている。
その行動と言葉から察するに、どうやら滝壺は浜面が何をしようとしていたのか分かっていたらしい。

147: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:50:36.06 ID:QrW1GwTm0
浜面は滝壺の察しの良さ、理解の早さに感謝しながら銃口を家庭科室へと向ける。
そこに見えるのは右腕を使った移動を行おうとしている隻腕の化け物の姿。
だが、浜面が狙いを定めているのは決してその化け物ではなかった。

「……真っ赤に弾けろ」

トリガーが引き絞られる。軽微な音と共に放たれた弾丸は、狙い違わず壮絶な速度で突き進んでいく。
そしてその弾丸は隻腕の化け物を素通りし、その背後にある金属のテーブルに擦れるような形で着弾した。
その瞬間に金属同士が激しく擦れたことにより小さな火花が散った。それが、『引き金』だった。

そしてその火花は、密閉された室内に充満し切った浜面が全て空焚きさせたガスコンロから放たれたガスに着火させ。
結果として、大爆発を引き起こした。

「滝壺ぉッ!!」

浜面は滝壺と自分の全身を耐火用のシートのようなもので包み込み、少しでも距離を取るように滝壺を抱えて転がるように飛び出した。
ドッガァァァァン!! という耳を傷めるほどの轟音が鳴り響く。
次いで爆炎が吹き上がり、それは家庭科室の出口からも同様に。
滝壺がこの備品を咄嗟に取り出してくれていなければ、ここで二人は焼け死んでいたかもしれない。
次から次へと飛び交ってくる瓦礫に耐えながら、ひたすらに浜面は滝壺を庇った。

少しして、動きが収まってきたところで二人は体を起こした。
どうやら二人とも軽傷で済んでいるようで、深刻な怪我を負っている様子はない。
その事実に安堵した浜面は、全身の力が抜けるのを感じた。

「……大丈夫か、滝壺?」

「うん。……はまづらも、無事で良かった」

「ありがとな。お前がいなかったら、俺はあそこで死んでた」

「私はただ守られるだけのお姫様じゃないよ?」

そう言って、滝壺は笑った。今日初めて見る滝壺の笑顔だった。
それにつられて浜面もまた笑う。炎上する家庭科室を見て、笑う。

「丸焼き、一丁上がりだ」

「まずそうだね」

148: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:51:03.28 ID:QrW1GwTm0


Files

File09.『家庭科室を使用する際の注意事項』

火の取り扱いには十分に注意すること。
教員の指示には必ず従い、エプロンの着用を忘れてはいけない。
爪はあらかじめ短く切っておき、実習前には手を十分に洗うこと。
髪が長い場合はゴムなどで短くまとめ、三角巾等の中にしまうこと。

使用後の後片付けを怠らず、しっかりと掃除すること。
最近一部で虫がいるという報告がありました。
先生方も監督と確認をお願いします。

            柵川中学校




File10.『枝先絆理の走り書き』 

ノートの一ページを破り取ったような紙に、読みにくいほど震える字で何か書かれている。 

『だれかたすけて』 

149: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:53:08.32 ID:QrW1GwTm0

垣根帝督 / Day1 / 06:53:34 / 第五学区 路地裏

ゴーグルを殺害した垣根は、そこからある程度離れた場所で壁に背中を預け、寄りかかるようにしてボーッとしていた。
特に何をするでもなく、ただ佇んでいる。おそらくその目は何も見てはいない。
脳裏に蘇るのはつい先ほどこの手で仕留めたゴーグルのことだ。
変わりきった血塗れの顔で、呻き声をあげながらこちらへ腕を伸ばす光景が。

「……クソッ」

ぐしゃりと右手で髪を掻き毟る。
どうしてもあの姿が頭にこびりついて離れない。
以前の垣根ならば何とも思わなかっただろう。
だが、今の彼はそうはいかない。
友人をその手で殺した事実はそう軽いものではないのだ

ダンッ!! と左手を握り締めて自分が寄りかかっている壁に叩きつける。
そもそも一体何がどうなっているのか、何も分からないのだ。
混濁する思考を切り裂いたのは、小さな音楽だった。
発信源はポケットの中。そこから垣根の好きな洋楽が流れている。
着信だった。垣根はのろのろとした動きで携帯を取り出し、相手の確認もせずに通話に出る。

「……誰だ?」

『画面見なさいよ』

返ってきたのは凛とした涼しげな、大人びた声。
垣根はその声に覚えがあった。少なくとも、一声聞けばそれが誰か見抜ける程度には。

「―――心理定規」

『正解』

元『スクール』の構成員、かつての同僚。心理定規。
とはいえ現在ではゴーグルと似たようなもので、すっかりと友人のような関係になってしまってはいるが。

150: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:53:45.56 ID:QrW1GwTm0
『ねえ、今日の食事のことなんだけど―――』

心理定規がそんなことを言い出した。
そういえば今日はゴーグルや心理定規とすき焼きを食べに行く予定があったか、と垣根は回想する。
かつての『スクール』のメンバーにはもう一人、砂皿緻密という人物がいた。
いたのだが、砂皿は既に学園都市を去ってしまっていた。
もともと彼は傭兵であり、『スクール』との契約が終われば次へと流れるのは当然のことだった。

ともかく、すき焼きの約束。
この三人が一緒にそんな約束をしているという事実が、どれほど彼らの関係が以前と比べて変化したかを如実に物語っている。
だが今のこの状況ではどれほど場違いな話題であることか。

「随分と暢気なことだな。その暢気さがあれば世界大戦のど真ん中でも笑ってられる」

声に皮肉が混ざる。こんな時に何も知らないような話題を出す心理定規に苛立ったのだろうか。
自分はこんなに苦労しているのに、と。
だとしたらあまりにもガキっぽすぎる、と垣根は自嘲気味に笑った。

『何の話よ。何をそんなに苛立ってるの? っていうかあなた、様子が……』

心理定規は垣根の異変に気付いたようだった。
流石に暗部が長かっただけはある、と評すべきだろうか。
もしかしたら彼女が精神系能力者であることも関係あるのかもしれない。

「もしかして何も気付いてねえのか、このクソつまらねえ状況に」

『……何があったって言うの?』

心理定規の声のトーンが変わった。
どうやらふざけていられる状況ではないと悟ったらしい。

151: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:54:35.32 ID:QrW1GwTm0
「お前、今は家にいるな? 武器は何がある」

『待って。……レディース用のを合わせて拳銃三丁、四〇ミリの小型グレネード砲。
それと手榴弾がいくつかと、あと武器と言えるのはサバイバルナイフくらいね』

「全っ然足りねえよクソボケ。武器庫にでも引っ越せ」

『無理言わないでちょうだい。暗部が解散してからこっち血生臭いこととは無縁だったんだから。
「スクール」のアジトに置いてあった分もなくなったし、こんなもんよ』

もっとも、それでも手榴弾やらグレネード砲やらは持っているというのだから恐れ入る。
暗部出身であることと、精神系能力者である彼女本人は無力であるからなのだろうが。
だがその程度の武装で核戦争後より酷いかもしれないこの街を生き抜けるとは垣根は思わない。
垣根は既に見たのだ。変わり果てた人間の姿を。
一人二人ではない。ゴーグルのようになってしまった者が、学園都市にはうようよしているのだ。
朝、ゴーグルに会うまでに死者共と遭遇しなかったのは今考えてみると相当幸運だったと言える。

『ねえ、本当に何があったの?』

「むしろこの状況について説明できる奴がいるのか?
説明してもらいたいのは俺の方だっつの。とにかく、お前が考える一番ヤバいものの一〇倍はヤバい」

『……超能力者が七人揃って暴動を起こしたとか』

「そんな可愛いモンならどんだけ良かったかって話だな」

言って、垣根は笑った。
この状況についてはあまりに分からないことが多すぎるのだ。
説明したくても出来ない。あまりに人智を超えすぎている。
有史以来、一度としてこんな異常は起こらなかったはずだ。
それが何の間違いか今この街で起こってしまっている。

「仕方ねえ。俺が行ってやるから、お前はそこに閉じこもって一歩も出るな。死にたくなきゃあな。
んでその間に着替えて……っつかガキじゃねえんだ。やるべきことをやっとけよ」

垣根はそこで心理定規の返答を待つことなく通話を切断した。
心理定規の住所は把握してある。ここから少々離れているが、同じ第五学区内の高級マンションだ。
垣根はふと一旦帰宅して銃器を調達しようかと考えるが、すぐに却下する。
心理定規と同様銃器については心許ないし、何より無駄な行動を取ればそれだけリスクも高まる。
この場における最適解を弾き出し、垣根は誰に言うでもなく「行くか」と呟いた。

そうして第二位の超能力者、垣根帝督は踏み出した。
死に溢れた学園都市に。異形の這いずる無明の地獄に。

152: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:55:08.87 ID:QrW1GwTm0

垣根帝督 / Day1 / 08:40:02 / 第五学区 高級マンション

「俺だ、心理定規」

そう声をかけて、コンコンと軽く二回ノックする。
幸い付近にゾンビの姿は見られない。
それでもあまりこんなところに突っ立っているのは危険でしかないため、すぐにガチャリとドアが開いたのはありがたかった。

「遅かったわね」

中からひょっこりと顔を出したのは大人びた少女だった。
けれどあくまでも大人びている、というだけであり実際のところは一五歳程度に見える。
金色の髪はいつもと比べるとセットが行き届いていないように見えた。
そればかりではない。その光沢を放つ綺麗な爪にはマニキュアが塗られていないし、唇もあくまで肌本来の持つ紅さだった。
いつもは薄らとナチュラルメイクをしているのだが、それすらもされていない

今心理定規が言ったように、垣根はここに来るまでにたっぷり時間をかけている。
身支度をする時間ならば十分以上にあったはずだ。
であれば、こだわりを持つ心理定規がここまで乱れているのには他の理由があるのだろう。
そんなことに気が回らなくなるほどの何かが。

(たとえば、精神的な問題とかな)

垣根はそんなことを考えながら、つまらなそうに答えた。

「仕方ねえだろ。連中に見つからないように来るだけでえらく大変だったんだぜ。
戦闘は避けるに越したことはねえ、特にあんな得体の知れない奴らとはな」

「そう。とにかく早く入ってちょうだい、見つかったらどうするの」

心理定規は垣根の手首を掴むと半ば強引にぐい、と部屋へ引き入れる。
思わずバランスを崩した垣根が躓くような格好で玄関に入ると、心理定規は即座にドアを閉め鍵をかけ、チェーンロックまでしっかりとかけた。
垣根が心理定規の部屋に入るのはこれが初めてではない。
だからあちこちに物が散乱していることにすぐに気付くことができた。

153: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:55:46.83 ID:QrW1GwTm0
彼女は潔癖症、とまでは言わないまでも所謂綺麗好きである。
本棚を見ればジャンルやシリーズごとにはっきりと分けられているし、おまけに背の順でピシッ、と揃えられている。
台所などの水周りにも錆やカビは基本的に見られないし、身だしなみに費やす時間には糸目をつけないタイプだ。

要するに、あり得ないのだ。
床のあちこちに物が散乱していることが、棚の引き出しのほとんどが開きっぱなしになっていることが。
髪が多少なりとも乱れていることが、マニキュアや化粧をしていないことが。

だがそれも致し方ないことだ、と垣根は思う。
あんなのを見てしまえば、いくら暗部出身の人間であろうとまともな精神状況を保つのは困難だ。
ゾンビ。リビングデッド。歩く死者。生きながらにして死んでいる者。
心理定規はきっと見たのだ。あのおぞましい姿を。B級映画の中だけの存在であるはずのそれを。
「見つかるかもしれない」という彼女の言葉や厳重にロックをかけたこと、何より彼女本人やこの部屋の乱れがそれを証明していた。
垣根はソファにドカッと座り込んで、

「見たんだな」

「ええ。おかげさまで喉がカラカラに渇ききったわ」

窓もカーテンが完全に閉められており、外の状況は窺えない。けれどそれは逆もまた然り、だ。
心理定規が身に纏っている見慣れた真紅のドレスだけが普段通りであり、逆にそれが取ってつけたような、取り繕ったような感じがして一層異様さを醸し出している。
その腰にはホルダーに支えられたグレネードガンが下げられていた。
太ももにもホルスターがベルトで固定されており、そこには鈍く黒光りする銃身が二丁差してある。
反対の太ももにはサバイバルナイフも装備されていた。

「状況は分かってんだな?」

「ええ、今この瞬間に必要な範囲ではね」

言いながら、心理定規はベッドの隣にあるランプが置かれている小さな机を漁る。
その引き出しの中から出て来たのはやはり拳銃だった。
それを垣根に投げてよこし、垣根がそれをキャッチすると心理定規はベッドの淵に腰掛ける。
ギシッ、というベッドのスプリング音がやけに耳に障った。

154: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:56:38.09 ID:QrW1GwTm0
どうやら心理定規に渡されたその銃はレディース用ではないらしく、彼女では少々取り扱いに難があるのだろう。
垣根は何かを調べるようにその銃を目上の高さに掲げ、様々に角度を変えてみたり指先を銃身にツツー、と走らせたりした。

「上等とは言えねえが、困ったことに贅沢を言ってられる状況じゃねえ。貰っておく。
にしても枕元にこんな物騒なモン置いとくとはおっかねえ女だ」

「デフォルトでもっと物騒な力持ってるあなたに言われたくないし、枕元だからこそでしょ」

ごもっとも、と笑いながら垣根はトリガーの部分に人差し指を入れ、指を軸にして銃をくるくると駒のように回転させる。
確かに心理定規は何をすべきか分かっているようだ、と垣根は思った。
一体何が原因で、あの亡者共の正体は。この変異についての疑問は尽きない。
けれど今必要なことはそれらを知ることではないのだ。
今この瞬間に大切なのは、何より生き延びること。

「あとこれも持っておいて。一つしかなかったけど今はこんなものでも聖剣にすら見えるわね」

続いて心理定規が差し出したのは小型の手榴弾だった。
正直言って相当に心許ない装備ではある。けれど心理定規の言った通り、今ではとても頼れる武器に早変わりしている。
たった一つとはいえ、これがあるのとないのとではいざという時の選択肢が一つ増減することになる。
受け取った手榴弾と予備の弾丸をしまい込むと、心理定規が今後の動きについて訊ねてきた。

「……で、これからどうするの?」

「さてな。さっさとこの街から脱出しちまうのが利口なんだろうが」

「私も同感。だけどみんなを置いていきたくないわ。なにせ、人生で初めて出来た友達だもの」

「……お前のその台詞、以前なら天地がひっくり返ってもあり得ねえな」

「でしょうね。でもあなたもそうなんでしょ?」

垣根はチッ、と舌打ちした。事実、その通りだったのだ。
一秒でも早く学園都市から出るべきだという冷静で的確な考えの反面、脳裏に蘇るのは上条当麻や御坂美琴、浜面仕上らの顔。
驚くほど丸くなっちまったな、と思う一方で別にそれが悪いこととは思わない。
垣根帝督は今の自分の生き方に、在り様に、居場所に十分満足している。
そんなわけで、そういう方向に思考を展開することに躊躇いはなかった。

155: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:57:31.93 ID:QrW1GwTm0
「上条はあのクソシスターといるだろうな。御坂は多分あのパンダメントといるだろ」

この二組は住んでいる住居が同じだからむしろ一緒にいない方がおかしいだろ、と垣根は言う。

「一方通行のクソは……あの女連中とか。まあ第一位がついてりゃ問題ねえだろ、多分な」

「滝壺さんは彼と一緒なのかしら。『アイテム』といるなら飛躍的に生存率は跳ね上がるのだけれど」

滝壺理后については心理定規の言う通り、二つのパターンが考えられる。
後者ならば大能力者と超能力者がいるのですぐにやられるようなことはないだろう。
問題は前者の場合だ。

「浜面は大丈夫だろ。あいつはあれで麦野を倒したことがあるほどの野郎だ。
更に大能力者の滝壺がいりゃあばっちりだろと言いたいところだが、『能力追跡』は戦闘向きの力じゃねえときた」

「一方通行については心配無用かしら。同居人全員となると四人も守らなきゃいけないわけだし、バッテリーが持ちそうにないけど」

「それくらいあのキョンシー野郎だって考えてるだろ。充電を忘れるほどの馬鹿なら一度や二度死んだ方がいい」

冷たく突き放す垣根だが、現実そこは大丈夫だろうと考えていた。
三〇分という絶対的制限を与える電極の問題については一方通行自身が誰より把握しているはずだ。
バッテリーがネックになっているならどうにかして電力を確保したがるものだろうし、実際そうするだろう。
未だに一方通行だけは好きになれない垣根だが、一方通行の実力に関しては誰より理解し、また評価もしているつもりだった。

「御坂と白井に関しては、何と言うか難しいな。
戦力的には十分のはずなんだが、如何せんこの組み合わせは精神面の不安がデカい」

一方通行や垣根帝督は暗部として数え切れないほどの数の人間を過去に殺している。
『アイテム』も同様で、浜面仕上とて人を殺した経験はあった。
けれど御坂美琴は違う。美琴は上位の超能力者でありながら、真っ当に『表』を歩いてきた人間だ。
白井黒子も一般人として過ごし、風紀委員にも所属している。

156: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:58:18.24 ID:QrW1GwTm0
そんな彼女たちはいくら力があっても、この状況に心が折れてしまう可能性があった。
たとえ相手があの亡者共であろうと果たして彼女たちに殺せるのか?
そう問われれば垣根は答えに窮さざるを得ない。
更に言えば、もし知り合いがゾンビと化して襲ってきた場合抵抗すらできずに殺されてしまう危険性すら捨てきれない。
それは最悪のケースだった。

「つまり、最優先すべきは―――」

心理定規の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
原因は玄関。突然、割り込むようにドアがバキィ!! という大きな音をたてて破壊されたのだ。
当然ながら二人は何もしていない。ドアは外から破られていた。
細かな破片が激しく降り注ぐ中で、垣根は“嗅ぎつかれたか”、と目を細める。

玄関の入り口付近に人間ほどの大きさの影があった。
けれどその足元は不安定で、まるで泥酔しているようにふらふらと覚束ない。
それが何であるかなど今更論じるまでもなかった。
今の学園都市を見れば火を見るより明らかだ。

どうやら何らかの能力でドアを破壊したのだろうが、関係ない。
いちいち相手の能力を調べる必要などないのだ。
不明なら不明のまま終わらせてしまえばそれで済む。

垣根がやれ、と言おうとした瞬間だった。
いつの間にかグレネードガンを構えていた心理定規が、それより早く躊躇いなくその引き金を引いた。
比較的緩慢な速度で放たれた榴弾を受けたゾンビは大爆発を起こし、ビチャビチャ、とゲル化しかけている血液とよく捏ねたひき肉のような肉片を辺りに散弾のように撒き散らす。
床に、壁に、天井に。血と白いぶよぶよしたものと皮膚が付着したままの肉片がべったりとこびりつく。
おぞましいほどの臭いを放つそれらが赤を基調とした小奇麗な部屋を死の色に染めていく。
もうこの部屋は使えないだろうが問題はない。どうせ、ここに戻ってくることなどない。

これができるから、二人は暗部だった。
これができるから、二人は生き残ってこれた。

爆風と砕け散った破片が嵐のように吹き荒ぶ。
垣根は背を向けてそれを追い風にするようにして窓を『未元物質』で叩き割り、そのまま外へと身を躍らせる。その脇に心理定規を抱えたまま。
ここはマンション。落ちて助かる高さを優に超えていたが、その程度で死ぬほど第二位はヤワではない。
それを良く分かっている心理定規も、十数メートルの高さから落下していながら動揺はしていなかった。

「最優先は上条とクソシスター。理由はどっちも精神面で弱い上に、戦力も乏しいから。
上条なら大丈夫だと思うが幻想殺しがあの死者共に役立つとは思えねえ。次点で御坂か浜面のとこだ。反論は」

「ないわ」

「そりゃ結構」

157: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/04(土) 23:59:07.92 ID:QrW1GwTm0


Files

File11.『心理定規の手帳』

金の刺繍が施されている高級そうな手帳に、相当に綺麗な字で予定が綴られている。
九月一三日の予定だけピンクのペンで書かれ、花丸がつけられている。

9/4 洋服を買いに行く。妥協は許されぬ。

9/5 PSXが発売。しばらくは様子見。

9/8 麦野さんや絹旗さんたちと遊びに行く。クソ映画は勘弁。

9/9 例のCDが発売。即買い。

9/12 あの人や御坂さん、第一位に滝壺さん、シスターさんたち大勢で食事に。

9/13 あの人とすき焼き! ゴーグルもちゃんといる。

9/16 白井さんに頼まれ風紀委員の捜査協力。精神系能力者なんてたくさんいるだろうにどうして私?

9/18 滝壺さんと遊ぶ。遊びに誘われた。正直嬉しい。えへへ。

9/22 特に予定はないが、一応空けといてほしいとのこと。注意。

9/29 滝壺さんの彼がサプライズを行うらしい。でも滝壺さんはもうそれを知ってる。それってサプライズじゃねえ。

159: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/05(日) 00:01:41.32 ID:LePrNVaN0
あ、バンダースナッチは原作では量産型タイラントがコンセプトのBOWだけど
このSSではリッカーと同じゾンビからの突然変異種って設定です
どんな見た目かよく分からなかった人、「バイオハザード バンダースナッチ」でグーグルの画像検索を(自己責任)

172: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:18:00.54 ID:34xcOBJ80


The last breath of hope fades away.



173: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:18:44.58 ID:34xcOBJ80

一方通行 / Day1 / 07:11:50 / 第七学区 マンション『ファミリーサイド』

誰も起きていなかった。
芳川桔梗も、打ち止めも、番外個体も。
それが良いことなのか悪いことなのかは計りかねるが、とにかく一方通行は安堵する。
眠っている。生きている。その事実が一方通行から力を奪う。
が、それもひと時のこと。もはや暢気に寝ている時間など存在しないのだ。

一方通行は幸せそうに眠っている打ち止めを叩き起こし、番外個体を蹴りつけ、芳川の額を杖先でグリグリと抉った。
ちなみに段階的に方法が荒くなっているのは別に彼の中にカースト的なものがあるのではなく、単に彼女らの寝起きの悪さと起こし方が比例しているだけだ。
そして今、リビングに四人が勢揃いしていた。……最もここにいるべき家主である黄泉川愛穂だけは存在しないが。この世の、どこにも。
一方通行はソファに座ったまま、早速先ほど僅かに使った分のバッテリーを充電しながら話を切り出した。

「理解できてるか」

「何をさ。って言いたいとこだけど……何だこりゃ」

呟いたのは番外個体だった。
思い切り顔に皺が刻まれてしまいそうなほどに顔を顰め、その声には苦いものが含まれていた。

「……何だか大変なことになってるみたいってミサカはミサカは唸ってみたり」

そして直後に打ち止めまでもがそんなことを言い出した。
そんな彼女たちの様子に当たりをつけたのは芳川だった。
もしかしたら自身が携わっていたから、かもしれない。

「ミサカネットワーク、ね?」

「何を知らされた?」

174: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:19:58.31 ID:34xcOBJ80
「あの病院にいる妹達から。最近のあの奇病の感染者が次々と発狂してるってさ。
で、これは……ゾンビ、としか言い様がないね。妹達もそう表現してる。
とにかく街にそいつらが溢れてて、今あの病院は生存者の拠点みたくなってきてるらしいよ。
流石のミサカもちょっと理解が追いつかないんだけど」

「…………」

打ち止めはミサカネットワークを通じて送られてくるものに恐怖しているのか、すっかり黙ってしまっていた。
ただその小さな手が羽織っているシャツの裾をぐっと掴んでいる。
番外個体もやはりこんな状況にはすぐに対応できないようで、わざとらしく顔を歪めているもどこか強張っているのが分かる。

無理もない、と一方通行は思う。
何しろ一方通行自身でさえもあのゾンビとでも言うべきものには思考が停止したのだ。
あまりに非常識。あまりに非日常的。あまりに異常。
過去一万以上もの人間を殺してきた一方通行だが、その彼をしてこれは異常事態だと判断せざるを得ない。

「そォいうこった。原因なンか知らねェよ、何が起きてンのかもよく分かンねェよ。
だが今番外個体が言ったよォに、今この街にはゾンビとしか言い様がない亡者がウヨウヨしてやがる。
死にたくなければ動くしかねェンだ。とりあえず、あの医者のとこの病院に行くべきだと俺は思う」

その言葉には厳密に言えば嘘が含まれていた。
ゾンビが溢れているのは本当だし、動かなければならないのも事実。病院に行くべきだというのだってそうだ。
だが、あくまでも病院に行くべきなのは打ち止めと番外個体、芳川桔梗の三人。
そこに一方通行自身は含まれない。

「……ねぇ、そういえば愛穂はどこに行ったのかしら?」

芳川がふと思い出したようにそんなことを言った。
当然の疑問だ。けれど一方通行にとっては非常に対応に困る言葉でもある。
一方通行は知っている。黄泉川愛穂が今どうなっているかを。
虚ろな目でこちらを見つめ、頬の肉はぐずぐずになって剥がれ落ち、全身を鬱血させた姿を。

175: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:21:45.49 ID:34xcOBJ80
「……アイツなら朝早くに警備員の仕事で出て行った。
間違いなくゾンビ共の相手だろォな。だが心配はいらねェ、俺が後で助太刀に行くし警備員が簡単にやられるわけはねェ」

少し迷って、一方通行は黄泉川について黙っておくことを選択した。
いずれは知ることととはいえ、彼女たちは今この異常な状況を知ったばかり。
そこに重ねて黄泉川の死を告げるには、衝撃が大き過ぎると踏んだのだ。
また一方通行自身にも、まだどこかでそれを認めたくない気持ちがあったのかもしれない。
……そもそもの話、黄泉川愛穂が『死』んだのか『生』きているのかは分からないのだが。

結局、四人は第七学区のあの総合病院を目指すこととなった。
少なくともここにいるよりは遥かに安全な上、『冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)』ならば何か情報を持っているかもしれない。
そんなことを考えながら一方通行は準備を進める。
チョーカーの充電器、拳銃、弾丸。それらを手に取りながら、一方通行は静かに覚悟を決める。
戦う覚悟を。守る覚悟を。殺す覚悟を。

ぬるま湯の日常から悪夢の世界へ。
世界が変わった以上、こちらもそれに合わせてスイッチを切り替えなければなるまい。

リビングに戻ってみれば、既に三人の姿があった。
打ち止めは特に何も変わっておらず、戸惑ったような怯えたような表情を浮かべている。
芳川は護身用らしい小型の拳銃を持っていた。銃の扱いには不安があるが、ないよりは遥かにマシだと考え直す。
そして番外個体と言えば、動きやすさ重視らしい。今まで着ていたアオザイを脱ぎ、ロシアで着ていたバトルスーツのようなものに着替えていた。
手に持っている大型の拳銃を手で弄び、不具合の確認を行っていた。

「第一位にはこんな銃ろくに扱えないよねー。ぎゃは、情けないねぇ」

一方通行は細めの体な上、杖を突く関係上左手で撃つことになる。
対して番外個体は軍用のクローン。あらゆる武器の使い方は完全に頭に叩き込まれている。
そのため番外個体は一方通行にはまともに使用出来ないような強力な銃を扱うことが出来る。
事実、彼女の持っている銃は女性が扱うにはあまりに強力であり到底一方通行にも扱えぬものであった。
一方通行はフン、と鼻で笑って、

「せいぜい暴発しねェよォ念入りに手入れするこったな」

「打ち止め、私たちのそばから離れちゃ駄目よ。いいわね?」

「……うんってミサカはミサカは素直に従ってみる」

「そばから離れちゃいけないのはアンタもだよ。
それじゃ、行くかい第一位? B級映画の世界へさ。
戦闘は可能な限り避けるのが利口だよね、個人的にはドンパチしたいとこだけど」

「ハッ、少しは調子が戻ってきやがったか? ならさっさと行くぞ」

177: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:22:34.20 ID:34xcOBJ80

上条当麻 / Day1 / 09:14:00 / 第七学区 路地裏

「くそっ、おかしなところに入り込んじまった……」

上条は両手を膝につけ中腰になるような体勢で息を整える。
上条のいるここはどこかの路地裏だった。
もともと常盤台を目指していた上条だが、ゾンビの大群から隠れるような移動を行った結果、遠回りも余儀なくされていたのだ。
その結果こんなところにまで迷い込んでしまっていた。

両脇をビルに挟まれ、その壁にはエアコンの室外機がついている。
また排気ファンのようなものも一部で回っており、辺りはむわっとした熱さに包まれていた。
本来学園都市という街は非常に清潔なのだが、この騒ぎで機械が停止したのか何なのかは分からないが鼻を突く嫌な臭いがこの路地裏には漂っている。
どこか薄暗く、じめっとしたここは上条に明確な不快感を与えた。
実際、こんなところに好き好んで入り込むような奴はいないだろう。

(とにかく早くここから出ねぇと……こんな狭いところでゾンビに挟み撃ちにでもされたら終わりだぞ)

スキルアウトとの喧嘩経験の豊富な上条だから分かる。
場所というものは非常に重要なのだ。
もとより幻想殺しが効かないと分かった以上、あの死肉狂い共と戦うのは無謀でしかない。
自らの力量、それで出来る範囲を考えて上条は動く。

とにかく、上条の取るゾンビ対策はとにかく逃走の一手。
そのためにはこんな身動きのとりづらい場所は極めて都合が悪い。
逃げるにしても戦うにしても、戦場は常にこちらがコントロールしておきたい。
上条は逸る気持ちを抑えて静かに、ゆっくりと歩き出す。
大きな物音を立てたりして敵を呼び寄せては元も子もないのだ。

178: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:23:12.87 ID:34xcOBJ80
自分の心臓が早鐘のようにドクドクと拍動しているのを感じる。
額には冷や汗が一筋流れていた。
これまで数え切れないほどの戦いに身を投じ、時には死にかけたこともあった上条だが、これほどの緊張感を味わうのは初めてかもしれない。
今までとはまるで方向性の違う恐怖。右手がほとんど役に立たないという事実。
それらが確実に上条の精神力を削り取っていく。

(……落ち着け。何焦ってんだよ上条当麻。
今までだって大天使だの『聖人』だの超能力者だの『神の右席』だのって化け物たちと戦ってきたじゃねぇか。
焦りは何も生まない、こういう時だからこそ落ち着いて考え、動くべきなんだ)

上条はこれまでの死闘を思い出す。
それらに比べればこんなのは楽な方ではないかと自分に言い聞かせる。
神経を限界まで研ぎ澄ませ、上条はゆっくり、ゆっくりと歩いていく。
地面に落ちている紙屑やガラス片を靴底で踏み潰す音がする度に体がぴくりと震えた。

どこかでこれと似たような感覚を味わったことがあった。
第三次世界大戦。タイプは全く違うものの、あの時も経験した死の臭いだった。

「……ん?」

ふと上条は足を止める。
先ほど武器として拾った鉄パイプを汗ばむほどに握り締め、そちらに顔を向ける。
視線の先にコンビニが見えた。当然営業などしているはずもないが、それはそこが表通りであることを示している。
出口。この路地裏からの出口だ。
これでひとまずこの狭く重苦しい場所から抜け出せると、上条が安堵に全身の筋肉を緩めた、その時だった。

「きゃあああああああああああああああ!!!!!!」

「ッ!? 悲鳴!?」

女性の声。それもすぐ近くだった。
この路地裏の奥の方から聞こえてきた。
上条はそれを確認した途端、今まで考えていたこと、全身を縛る恐怖、慎重さなどを全て忘れて全速力で駆け出した。
広い表通りではなく、じめじめとした路地裏へ。深遠の地獄へ。
何がいるかも分からぬ無明の地獄の深奥へ。

179: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:23:53.60 ID:34xcOBJ80
走って、走って、上条はそこに辿り着いた。
路地裏の一角、まるで階段の踊り場のように広く空いている空間だった。
地面と壁に接するように設置された廃熱ファンか何かの陰に制服姿の少女が蹲っているのを上条は捉えた。

「いた……っ!!」

見たところまだ大した怪我もしていないようで、どうやら間に合ったみたいだ、と上条は安堵する。
だが、

(……落ち着け。落ち着いて、確認するんだ)

あれが果たして人間なのか死者なのか。
こんなイカれた状況ではまずそこから話を進めなくてはならない。
いくらお人好しと名高い上条といえどアンデッドを助けて、それに食い殺されるのはお断りだ。

「君? 大丈夫か?」

とりあえず適当に声をかけて様子を見ることにした。
その声に反応し、少女はゆっくりとした緩慢な動きで起き上がる。
見知らぬ顔だが、高校生程度の年齢に見える。上条より上の学年、二年か三年だろうか。
腕には風紀委員の腕章がつけられている。治安を維持するはずの風紀委員、しかしその組織もこの状況ではもはや無意味に等しい。
その端整と言える顔とかけられた眼鏡には乱れた黒の髪が張り付き、涙と鼻水で台無しになっていた。
しかし皮膚は鬱血していないし、目も濁り切ってはいない。肉が削げ落ちて内部が露出しているということもなかった。

上条は知る由もないが、その少女は白井黒子や初春飾利の先輩に当たる少女だった。

「……にんげん?」

少女が呟いた。
いかにも疲弊し切ったそれは、しかし間違いなく生きた人間の声で、上条は沸きあがるような安堵感に包まれる。
生きた死体ではなかったこと、ようやく生存者に会えたこと。
ずっと隠れていて今まで助かったのだろうが、これからも一箇所に留まり続けては数で押し切られる危険性が高い。

上条は少女に続けて声をかけようとした。
だがその前に。フッ、と少女の姿が視界から消えた。

180: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:25:22.80 ID:34xcOBJ80
「……は?」

上条がそんな間抜けな声を漏らす。
一瞬の出来事だった。何が起きたのか全く分からず呆然と立ち尽くす上条。
空間移動? そんなことすら考える上条だったが、その答えはすぐに示された。
少女がいた場所に、上からポタポタと赤い液体が降ってきた。
その赤の雫は地面に触れると同時に弾け、水風船が割れて水を撒き散らすように地面に赤い不規則的な模様を描いていく。

その赤い液体が何であるか。それを想像するのは全く難しくない。
先ほどの安堵したものとは一転、上条の表情は強張っていて引き攣ったものになっていた。
ギチギチと動かないものを無理に動かしたようなぎこちない動きで上条は首を上に向ける。
そこで上条が見たものは、

長く赤い爪が四本伸びた、化け物のような緑色の醜悪な腕。
そしてその爪の一本に首を貫かれて宙吊りにされている少女の姿。
まるで首を吊って自殺した死体のように、振り子のごとく鮮血を散らしながら揺れている少女の姿。

(―――何だ、これ)

その腕はすぐに引っ込んでしまい、その全貌を確認することは叶わなかった。
けれど、分かる。あれだけでも十分に分かる。
……あれは、化け物だ。ゾンビなどとは違う。あの腕だけでもどう見たって人間の外観ではない。
得体の知れない化け物が腕を引っ込ませると、当然その爪先に吊られている少女も一緒に消えていく。
雨のように鮮血を滴らせながら少女の姿は上条の視界から消えた。

(何だ、これ)

死んだ。あれは死んだ。
少女の首には大きな穴が空けられていた。
人間はあれほどの傷を負って尚生存出来るようにはできていない。

「――――――ッ!!」

上条は走り出した。何のため? どこを目指して?
分からない。ここから逃げるためなのか。あの少女が生きていると信じて探すためなのか。あの化け物を倒すためなのか。
分からないけれど、上条当麻は走った。どれくらいの時間が経ったのか。走って、走って、見つけた。
それを見つけた。見つけてしまった。

181: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:26:27.20 ID:34xcOBJ80
「―――う、あ……」

赤だった。赤い池がそこにあった。
人がその血溜まりの中心地点に倒れている。

(落ち着け)

赤以外の色が見つけられないほどの血の海のせいでその全身は血に塗れ、姿を確認しづらいもののすぐに分かった。
この死んでいる人間は、先ほど化け物に攫われた少女だと。
全身はべったりと見飽きた赤色の液体に塗りたくられていたが、間違いなく、その少女だった。

「ぁぁ、ぁああああ……っ!!」

その死体の胴体に損傷はない。
腹が食い破られているということもない。
両手両足もしっかり残っていて首より下には傷一つ存在しなかった。
ただ。頭蓋骨ごと頭部が破壊され、その中が見えるほどの傷が何より目を引いていた。

(落ち着くんだ)

そして。そして、その砕かれた頭蓋の中には、“何もなかった”。
頭の中に、人間の頭部の中に、頭蓋骨の中に。何も、なかった。

「ぅぅぅぅぅ、ぅあ、あ、ぁあああ……っ!!」

本来そこには臓器の一つが収められているはずだ。
人間にとって、数ある臓器の中でも最も重要な役割を担う器官が。
人間の全てを司る『脳』が。にも関わらず、少女のそこはがらんどうだった。
そこにあって然るべきものがない。少女の体はちぐはぐだった。

(落ち―――)

よく見てみれば、死体の周りとぶよぶよした何かが飛び散っていた。
まるで『食べカス』のように。ピンクがかった何かが。
更に頭蓋の裏にもぶよぶよした同じものがこびりついている。
それが何であるかを理解した途端、上条の胃から食道を通って全てが逆流した。

182: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:27:42.11 ID:34xcOBJ80
「ぐ、げぇ、ええぇぇぇえええええええっ!!」

体をくの字に折り曲げて、上条はただ吐寫物を撒き散らす。
吐き出されたそれはびちゃびちゃと極めて不快な音をたてて地面へ広がっていく。
その端が血と混ざり合い、奇妙で気持ち悪くなるようなマーブル模様を作り出していた。
ほんの僅かとはいえ、顔を知った女の子。
その脳髄が抉り出され、食い散らされ、それを見た自分は吐いている。
今日だけで二度目だった。友人の死を見た時と同様に、どうしても吐き気を抑えることが出来なかった。

意思の力でどうにかなるような衝撃ではない。
頭を切り開いた奥の奥にダイレクトに叩きつけられる暴力的なそれ。
確実に、彼の心は叩き折られかけていた。

上条は発狂するかと本気で思ったが、おかしくなる暇すら与えられなかった。
カチャ、という硬質なものをコンクリートにぶつけたような音。
そしてそれに混じってぬちゃ、という粘着質な嫌な音が上条の耳に届いた。

その音の主が何であるか上条には分かった。
分かっていたけれど、顔をあげてその姿を確認する以外の選択肢を上条は思いつかなかった。

まるでヤモリのようにそれは壁に張り付いていた。
足の数は五本。色は緑でそれぞれ四本ずつの爪は赤く、長く鋭く伸びている。
胴体部分はまるで二匹の黄土色のワームが絡み合ったような形になっており、それにより二つの頭部を有していた。
白く濁りきった昆虫のような目。頭が縦に割れ、そこから紫色の触手のような舌が三つ伸びている。もう一つの頭部からも、同様に。
また二体の生物が絡み合ったような胴体にも眼球に似たものが至るところに見られる。
全体としてはどこか爬虫類を思わせるフォルムだった。

(……お、落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け!! 落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け―――ッ!!)

あまりに、異形。あまりに、化け物。
あまりにも人間から、いや、あらゆる生物からかけ離れた姿だった。
グロテスクの頂点。生理的嫌悪感を極限まで掻き立てるその容貌。
右側に三本、左側に二本の数の不揃いの足を動かし、昆虫のような動きで近づいてくる。
白濁した眼球が上条を捉え、触手のような紫の舌を三本、蛇のように踊らせる。

183: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:29:51.36 ID:34xcOBJ80
全身に点在する眼のようなものと、二つの頭部、目、舌。
この化け物の全てが上条を『恐怖』という原初の感情で縛り上げる。
あらゆる生物は人間のような豊かな感情を持っていなくとも、『恐怖』だけは持っているという。

で、あれば。この化け物は。目の前の異形は、手を下さずに生き物を殺せるだろう。
ただそこに『いる』だけで。その姿を晒すだけで。こんなにも上条の心臓は破裂しそうなのだから。

落ち着け、と上条は狂ったように自分に言い聞かせるが、それはもはや逆にパニックを後押ししているようなものだった。
だがそんなことに気付く余裕すらない上条はひたすらに繰り返す。
今までだって恐ろしい力を持った怪物たちと戦ってきた。
右方のフィアンマと比べれば、こんなのは全然大したことないはずだ―――。

「キシャァァアアアアアア!!」

何かを擦り合わせたような、酷く昆虫を思わせる声だった。
まるで黒板を爪で引っ掻く嫌な音を何倍にも増幅し凝縮したような。
通常の頭と、人間で言えば肩の辺りにもう一つの頭を持った双頭の化け物が上条目掛けて飛びかかった。
舌なめずりするように計六つの舌を遊ばせ、獲物を捕らえるように鋭い爪を振り上げる。

上条は、あの少女の死体を思い出す。
頭部を破壊され脳髄を抉り出されていた、あの無残極まる死体を。
もしこの化け物に捕まれば、自分も同じようにあの爪で頭蓋を砕かれ、あの舌で脳髄を……。

「う、うわぁぁあああああああああああああああっ!!!!!!」

上条は錯乱したように手に持った鉄パイプを振り回した。
まるで子供のような動き。狙いも何もあったものではない。
この二つの頭を持った昆虫のような化け物は、今の学園都市の状況は、今までのどんなものよりも『死』を色濃く上条にイメージさせた。
右腕を切り落とされた時よりも。学園都市第一位によって瀕死に陥った時よりも。
海底に沈んだ時よりも。『神の右席』と対峙した時よりも。大天使と交戦した時よりも。

単純な戦闘能力で言えば、学園都市の超能力者や後方のアックア、カーテナを持ったキャーリサ、そして右方のフィアンマといった怪物たちに遥かに劣るだろう。
けれど上条は遥かに彼らよりこの化け物に恐怖し、遥かにこの化け物の方が恐ろしいと感じ、今すぐ逃げ出したいと本気で思っていた。
目の前の異形に立ち向かうか、フィアンマや大天使ともう一度正面から戦うかと聞かれれば後者を選んでしまうほどに。

184: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:30:45.30 ID:34xcOBJ80
(し、死ぬ、殺される、ほ、本当に、死んじまうッ!! 本当に、この化け物に―――っ!!)

化け物染みた力を持っているのではない、真の意味での化け物。
幻想殺しが全く役に立たない存在。
脳髄を抉り出して食するという常軌を逸した行動。
姿を見ただけで吐き出してしまうようなグロテスクを極めた姿。
それらが上条をかつてないほどのパニック状態に陥らせていた。

だが運が良かったのか、上条が適当に振り回した鉄パイプが飛びかかってきた化け物を偶然薙ぎ払った。
激しく殴打された化け物は地面を転がり、しかしすぐに立ち上がる。
大したダメージはない。もしかしたらダメージなど皆無かもしれない。
だがそれでも、それを見た上条の中で何かが変わった。

(こいつ……いや、間違いない。何だかんだでこの化け物もやっぱり生物なのか……!!)

あまりにも恐ろしい姿に、どこか必要以上に恐れすぎていたのかもしれない、と上条は思った。
全く理解の及ばない存在が、誰でも理解できるような行動を取った。
なんてことはない。こんな化け物でも、鉄パイプで殴られるだけで吹き飛ぶのだ。
なら勝てない相手ではない、と思う。恐怖さえ克服することが出来れば。
いや、そもそもこいつを倒す必要などない。逃げるための時間さえ稼げればそれで良い。普通に逃げても背後からやられるだけだろう。

やるべきことは明確に定まった。敵の見極めも終わった。
ならば上条当麻は戦える。たとえ右手が何の役にも立たずとも、上条にはここで死ねない理由があるのだから。

「お、おォォォおおおおおおおおおッ!!」

自身を奮い立たせるように吠えながら、上条はきつく鉄パイプの真中を握って化け物に突撃する。
震える体を強引に捻じ伏せ、頭をもたげる恐怖を噛み殺す。
二つの頭を持つ爬虫類のような化け物がその長い爪を振りかざし、上条へと突き立てる。
食らえば死。だが上条はそれを鉄パイプを握っている手の位置から見て上半分で“受け流した”。
まともに受け止めるより効率的に衝撃を流せる方法だった。

185: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:32:40.71 ID:34xcOBJ80
そして勢いそのままに手首を返し、鉄パイプの下半分で化け物の頭部を下から突き上げるように殴打する。
化け物が僅かに怯む。その隙を上条は絶対に見逃さない。
鉄パイプを両手で持ち直し、今度こそ満身の力を込めて人間ならば首があるはずの部位にそれを突き立てた。

「キァァァシャァァアアアアアア!!」

想定していたより体が柔らかいのか、刃物でもないのにずぶりと鉄パイプは肉に沈み込んだ。
傷口から溢れる“緑色”の血液。手に伝わる生々しい触感。上条の顔が嫌悪感に歪む。
だがおぞましい悲鳴をあげ、滅茶苦茶に振り回される爪を瞬時にバックステップして回避。
爪のリーチの外に出た上条は安堵するが、直後に双頭の化け物が口から何かを吐き出した。

「おわっ!?」

咄嗟に身を捻ってそれを避けた上条が見たのは、ジュウ、という音をたてて変質したアスファルトだった。
どうやらあの化け物は毒か何かを吐き出して攻撃することも出来るらしい。
化け物は必死に体を動かそうとするが、杭のように打ち込まれた鉄パイプが動きを抑える楔となり、ろくに身動きが出来ていない。
これを好機と見た上条は脇目も振らずに一目散に逃げ出した。
もとより上条の目的はこの化け物を仕留めることではないのだ。

どちらにせよ、上条はきっと逃げていただろう。
あの化け物が生き物であろうと何であろうと、何よりも死を連想させる恐怖の対象であることに何ら変わりはないのだ。
今すぐ逃げ出したい。もっと離れたい。何なら地球の裏側までだって逃げたい。
だがどれだけの距離をとったところで既に上条の奥底まで刷り込まれた根源的恐怖は上条を絡みとって離さない。

(――――――怖い)

もしかしたら。もしかしたら、上条が敵に対してその感情を抱いたのは初めてかもしれなかった。

しかし逃げている最中、この路地裏を作っているビルの一つ、その屋上から。
もう一体、全く同じ化け物が姿を現した。即ち二つの頭、三本の紫の舌、赤い爪を持った酷く昆虫的なものが。
その五本の足を動かして壁に張り付き、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。
体力の配分など考えている余裕はなかった。上条は自分の出し得る最高速度で走る。

186: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:35:21.53 ID:34xcOBJ80
「ハァ、ハァ、ハァ……っ!!」

全く配分を考えない走りは上条の体力を激しく削った。
わき腹が痛むのを堪え、それでも上条は走った。後ろは振り返らない。振り返れない。
ようやく路地裏の出口を見つけ、そこから飛び出した。
これであの地獄から抜け出した。僅かに気が緩んだ上条が見たのは、顔の肉が剥がれ落ち、濁った眼球がこぼれているものの姿。
上条の姿を確認した無数の死人がその鬱血した腕を伸ばして迫ってくる。

(……ッ、そうだよ、何気を緩めてんだ俺は!! 地獄から抜け出した? 何言ってんだ、今じゃこの街全体が地獄じゃねぇか!!)

自分の間抜けな思考をすぐさま切り替え、再度緊張の糸を張り詰める。
とにかくゾンビに囲まれれば上条に打つ手はない。
ゾンビが距離を詰めてしまう前に上条は再度走り、ひたすらに逃げ出した。

以前は多くの人間で賑わっていた通りに死体が転がっている。
地面や建物に血がべったりとこびりついている。
地面には他にもゴミやガラス片が散乱している。
この騒ぎで事故でもあったのか、火の手も上がっている。
そしてそんな街中を死者だけが徘徊している。

燦々たる光景だった。
地獄絵図。そんな表現がこれほど似合うものもないだろう。
そんな中を上条当麻は走る。ただ友人たちの生存と、彼らと共にこの街を脱出することだけを願って。
生きているかも分からない知り合いたち。
その生存を願うのは単なる願望か、そうとでも思わなければ上条の精神が持たないからか。

それは、もう上条当麻自身にも分からない。

187: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:37:36.87 ID:34xcOBJ80


Files

File12.『亀山琉太の記録』

何がなんだかさっぱりだ。こんなことってあり得るのか!?
別にあのゾンビ共がって話じゃない。そんなつまらないことじゃないんだ、クソ!!
いい加減にしてくれ、何なんだよあれは!?
最初に見たのは犬だった。人間と同じくゾンビになったとしか思えない犬。
その程度ならまだ良かった。だが二メートルはある昆虫やノミが巨大化したような化け物、鼠を食い殺す馬鹿でかいゴキブリも見た。
だがその程度ならまだ良かったんだよ、ちくしょう!!

俺は見たんだ、本物の化け物を。
燃える女とデカい目玉の化け物を。
何とか気付かれずに済んだから助かったようなものの、あんなのは反則だ。
しかもどれだけ銃弾をぶち込んでも倒れすらしねぇ化け物までいやがる。
信じられるか、ここは科学の街だぞ。そこで作られたモンを食らわせてるっていうのに!!

仲間にゃまだ生存を諦めず、必死に策を練ってる奴や生き残りの民間人を助けようとしてる奴がいる。
そりゃ俺だって死にたくねぇし、一応これでも警備員、つまりは教師だ。
あくまで必要なステップとして取った教員免許とはいえ子供たちや一般人を進んで見殺しにしようとは思わない。
でも分かる。他の連中がそんな希望を持てるのは、本物の化け物ってヤツを見てないからだ。

こんなことになるんならさっさとあいつに告白しとくんだった。
一度でもアレと出くわせば、嫌でも思い知るだろうさ。
この街から生きて出るなんて、夢物語に過ぎないってことに……。

188: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:39:11.82 ID:34xcOBJ80

御坂美琴 / Day1 / 10:01:14 / 第七学区 木の葉通り

そこは一部の人間の間では喧嘩通り、と呼ばれている場所だった。
基本的には賑やかなのだがちょっと外れるとすぐにおかしなところへ入り込んでしまうという、表と裏の接点が多い場所でもある。
その特性故引き摺り込まれる人間も多いのだが、ある意味では御坂美琴も似たような状況にいるのかもしれない。

「ぁ、あ……ぁ、ぅ……」

美琴の口から漏れているのはそんな言葉だけだった。
ただ目の前の光景に打ちのめされ、掠れた声で喘ぐことしか出来なかった。
それは美琴から言語を奪うにはあまりにも十分過ぎたのだ。

ゾンビがいた。二つの生きた死体が美琴の視線の先にいた。
一方は地面に倒れ傷口から無限とも思えるほどの血液を流して赤い湖を作り、もう一方がその腹に口をつけその肉を食い千切り、咀嚼し、嚥下している。
異常なことではあるが、もはや今の学園都市では大して珍しくもない光景だった。
現に美琴もここまで来るまでに幾度か同じような光景を目にしている。
だが、これは明らかに違ったのだ。それらと目の前のこれを同じ括りで考えることなど到底不可能だ。

親友である佐天涙子が初春飾利の肉を貪り食っているのを見れば、美琴が言葉を失うのも無理からぬことであろう。

かつて佐天だったものが美琴に気付き、ゆっくりと初春の腹から口を離して立ち上がる。
幽鬼のようにふらふらとこちらへ近づいてくる。
その可愛らしくも活発な顔立ちはもはや見る影もない。綺麗なロングの黒髪やヘアピンもすっかり血に塗れてしまっている。
酷く濁り、虚ろな目が美琴を捉える。水色を基調とした服はゲル状の血液と膿に汚れ、伸ばされた腕は中の筋繊維や骨が露出していた。
顎も一部腐り落ち、ずらりと並んだ歯も露出している。その歯は血と肉で赤の一色に染まっていた。

189: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:41:36.20 ID:34xcOBJ80
「は、ぁ、ぅぅぅぅぅ……っ!!」

佐天涙子は、既に死んでいた。
死にながらにして生きていた。
初春飾利も、やがて起き上がる。
そして他の亡者共と同じく、人肉を求めて街を徘徊するリビングデッドとなる。
生と死の狭間に囚われ続け、逃れられぬ呪縛をかけられたまま永遠に満たされぬ飢餓感を満たそうと人間を食らい続ける。

分かって、いた。
もう、この世界は全てが狂ってしまったのだから。
曖昧な希望など入り込む余地はどこにもない。
だから。だから、彼女らが死んでいる(あるいは生きている)ことなど、殊更に驚くことではないのだろう。

世界は美しくない。優しくなんてない。
祈れば救ってくれる都合の良い救世主も、神様も存在しない。
これが、現実だ。残酷で冷血で凄惨で地獄のような現実。

「……ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、うわぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

美琴は。そんな現実に耐えられない。
佐天はもう笑わない。あの見ているだけで幸せになるような笑顔を向けてくることは、決してない。
初春はもう喋れない。あの甘ったるい声も、時々そこに含まれる毒も、あの情報処理能力を生かして自分のサポートをしてくれることも、二度とない。
親友が、数日前にはファミレスで笑顔で談笑していた親友が。
肉を腐らせて、死体になって迫ってくる。

美琴は迷わず走った。背中を向けて、全力で走った。
逃げていた。御坂美琴が、学園都市第三位を誇る超電磁砲という絶対的な実力者が。
ただただ逃げるためだけに、何度も倒れそうになりながら必死に走っていた。
本気でその気になれば軍隊すら一蹴できる戦力を有する最強の個でありながら、無様に逃亡することしかできなかった。

190: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:44:23.07 ID:34xcOBJ80
―――仕方ないじゃないか。
美琴の中でそんな言い訳が生まれる。
今自分の行っている許されざる非道への、誰に向けるでもない自分自身への言い訳が。

だって、仕方ないじゃないか。
他にどうしろって、何が出来たって言うんだ。
こうやって変わり果てた親友を捨て、逃げることの何が悪いんだ。
そうだ、もしかしたら変わってしまった人たちだってもしかしたら元に戻せるかもしれない。
助けられるかもしれない。だからこの選択は間違ってない。だから自分は悪くない。

……本当は、薄々分かっているのだ。
変わってしまった人間、ゾンビになってしまった人間はもう二度と元には戻れない。
仮にこの変異が何らかの異能や薬品の類によるものだったとして。それを取り除いたところで壊れた肉体は二度と戻りはしない。
一度こうなってしまえば、どんなことをしても、もう二度と、元には戻れない。
もう白井黒子も、初春飾利も、佐天涙子も、終わったのだ。
けれどそんなことは認められないから。戻せるかもしれない、ということにした方が先延ばしに出来るから。自分の行いを正当化出来るから。

御坂美琴は逃げる。佐天涙子と呼ばれていたものから、かつて初春飾利だったものから、亡者共から、罪の意識から、自分自身から、現実から、世界から、逃げる。
情けない言い訳と自己正当化を繰り返しながら、どこまでもいつまでも逃げ続ける。
この世界に、希望は見えない。
この惨劇に、終わりは見えない。

191: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/08(水) 01:47:09.22 ID:34xcOBJ80


Files

File13.『警備員のメモ』

どうにかなりそうだ。こんなことになっちまうなんて。何が暴走した学生の鎮圧だ、ふざけやがって!!
前回の戦いでまた人が死んだ。射撃が得意だった才郷良太だ。
俺がゾンビ共の侵入に慌てて逃げ遅れそうになった時、奴は俺を助けようとして応戦したんだ。
そんな奴を俺は置いて逃げた。奴が俺の名を呼ぶ、そして背後から聞こえてくる絶叫。
俺は恐ろしかった。怖かったんだ!!

そして今回。バリケードを薙ぎ倒したゾンビ共を大量に片付けた。
仕事熱心な一部の連中は子供に実弾なんて使うわけにはいかない、なんて抜かしてやがるが知ったことじゃない。
この状況でそんな綺麗事をほざけるなんて、大概異常だ。
俺は景気づけにウィスキーをやりながらアホ面共にショットガンをぶっ放す。
これなら一気に数匹のミンチができる。

すると俺に仲間が掴みかかった。
よく見るとゾンビ共と一緒に警備員が数人巻き添えを食らって転がっている。

いいじゃねぇか、今更。どうせ死ぬ前のパーティなんだ。

俺が楽にしてやった仲間は三人だ。今までゾンビに殺られた奴らを含めると一二、三人はおっ死んでる。
ずいぶんとまあ、頭数が減ったもんだ。
三時間後には会議室で下らないことを検討し合う。全く無駄だ。

俺はこの酒がなくなったら楽に死ぬつもりだ。
その時が待ち遠しいね。

254: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 21:55:28.63 ID:oEFGsnGX0

一方通行 / Day1 / 08:07:28 / 第七学区 総合病院

人混みは好きではないが致し方ない、と一方通行は思う。
打ち止めたちがしっかりと無傷でいるのを改めて確認し、安堵のため息をつく。
第七学区にあるこの病院の中はかつてないほど騒がしかった。
ロビーには人が溢れ、看護師たちはマラソンのように人々の間を器用に縫って駆け回っている。

しかし、ゾンビは一体もいない。
ここにいるのは紛れもなく生存者たちだ。
一応の安全圏。そこに打ち止めや番外個体、芳川桔梗を連れて来れたのだ。

「うわっ、すげぇ熱気。ミサカこういう場所は好きじゃないなー」

「そんなこと言ってられる状況でもないでしょう」

「やっぱり凄い騒ぎになってるねってミサカはミサカは呟いてみたり……」

すし詰め状態と言っても間違いではなかった。
老若男女問わず様々な人間がいるここでは思わず耳を塞ぎたくなるほどのざわめきが絶えない。
外の状況を考えれば当然のことではあるが、一方通行は不快そうに顔を歪める。その眉には皺が寄っていた。

「いつまでもこンな所にいられるか。オラ、行くぞ」

「あっ、待ってってミサカはミサカは慌てて追跡開始!!」

255: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 21:56:39.20 ID:oEFGsnGX0
一方通行の動きに看護師たちのような器用さは全くない。
ただズカズカと進み、邪魔になる人間を無理に押し出していく。
まるで何キロも続く渋滞に嵌ったような錯覚に陥り、危うく能力を使って一掃しそうになるところを何とか止めた。
高まっていくストレスに比例して一方通行の動きもより乱暴になっていく。
ドン、と一方通行の体が体当たり気味に目前の男にぶつかった。

「いてっ、おいアンタ!! 一体どこに目ぇくっつけてんだ!!」

「文句があるか?」

食ってかかってきた男も、一方通行がその紅い瞳で一睨みするとすぐに萎縮してしまう。
まるで蛇に睨まれた蛙だった。一瞬で人を黙らせる眼力が一方通行にはあった。
だが一方で一方通行には余裕がない。この異常事態だ。
だからこそ冷静な、落ち着いた行動を取れない。そういう意味では一方通行もここにいる人々と何も変わりない。
打ち止めは一方通行が通ったことで獣道のように割れた人の間をちょこちょこ着いていく。
番外個体と芳川はその更に後ろを普通に歩いていたのだが、

「ぎゃっ!? ちくしょう、誰かミサカのお尻触りやがった!! どこのどいつだコラ殺すぞ!!」

「ケツくらいでギャーギャー騒ぐなメスガキ。触った奴これが沈静化したら探し出して八つ裂きにして街中に全裸で吊るすからな」

「……保護者ね」

256: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 21:57:11.49 ID:oEFGsnGX0









「酷ェ状況だな」

「全くだ。流石の僕もこんなことは初めてだよ」

三人を別室にやった一方通行は、疲弊した顔をしている冥土帰しといた。
この異常事態だ。冥土帰しに休んでいる時間など全くないだろう。
当然こんな風に一方通行と話している暇すらないはずだ。
それは一方通行もよく分かっていたことではある。

だが冥土帰しは時間をこちらに割いてくれた。
おそらく知らせるべき情報、あるいは一方通行から何らかの情報が得られるかもしれないと思ってのことだろう。
もっとも、残念なことに一方通行はほとんど情報など持ってはいないのだが。
一方通行は雑談もそこそこに早速本題に入った。

「原因は?」

「未知のウィルスであることは何とか突き止めた」

この場合においての「原因」とは、言うまでもなく学園都市を死に追いやったもの、即ちゾンビ化の原因である。
即答した冥土帰しの言葉に一方通行はやっぱりな、と小さく呟いた。
実は一方通行は自分なりにこの状況に対する考察、推論を立てていたのだ。
彼が考えた可能性は大別して三つ。

一つ、未知の病原菌または薬品の流出。
一つ、何らかの能力。
一つ、オカルト。

257: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:00:44.71 ID:oEFGsnGX0
オカルトなど馬鹿馬鹿しいの極みなのだが、こんな事態では頭をよぎりはする。
だがやはり下らないものは下らない。
一方通行はこれを頭の片隅に僅かに留めつつも、可能性としてのリストの最底辺に配置した。

その次に考えたのが能力だ。
これはオカルトと比べれば遥かに可能性があった。
学園都市の能力者は腐るほど存在し、その能力の種類も無数に存在する。
ならばこの事態も能力で説明できるかと思ったのだが、一方通行はこれもまずあり得ないと結論した。

まず第一に、一体どんな能力なのかの説明がつかないからだ。
たとえば第二位の『未元物質』のような不可思議な能力もたしかにあるのだが、それにしてもこれは特殊すぎる。
人間を生きた死体にする能力か、あるいは死人を生き返らせる能力か、死体を操作する能力か。
少なくとも一方通行はそんな能力は聞いたことがないし、もし存在するなら学園都市が放ってはおかないだろう。

だが何よりも大きいのはその効果範囲の広さにあった。
学園都市全域を覆いつくすことなど第五位の超能力者であっても不可能だろう。
加えてその維持時間の長さ。更に言えばこんなことをするメリットが見えなかった。
この街に対するテロ行為にしてももう少し良いやり方がありそうなものだ。
よって一方通行は能力であるという可能性を切り捨てた。

そして第一位が一番可能性ありと見たのがウィルスや薬品。
どうやら見事これがビンゴだったらしい。
冥土帰しの説明を受けながら一方通行は早速電極の充電を始める。
ここに来るまでに消費した僅かな分だが、一秒分でも回復させておくべきだ。
その一秒が明暗を分け得ることを一方通行は知っていた。

「人間をゾンビにするウィルスなンて聞いたことがねェ。
というか、存在するわけがねェ。学園都市が作ったものが流出したか」

「だろうね。ただまだよく分かっていないんだが、どうやらこのウィルスは人間をゾンビにするためだけのものではないようだ。
皮膚の壊死や鬱血を初期症状に持ち、意識混濁を定期的に起こし、ついには人間としての理性を失う。
そうなると回復は絶望的で安楽死すら通用しない。当然だ、それはもう医学的には死んでいる状態なのだから」

258: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:01:49.14 ID:oEFGsnGX0
「だろォな。それが何かは知らねェが、おそらくゾンビ化は本来の目的の副次的なモンだと俺は考える。
少なくともウィルスを開発した奴だって街の全住民がゾンビになる、なンてことは望ンでなかったはずだ」

まァそれはこの際どォでもイイ、と一方通行は切り捨てる。
ウィルスの効果や作った人間の目的など、少なくとも今はどうでもいいのだ。
今この時に必要なことは、

「ワクチンや特効薬は作れるか。最近流行ってた奇病ってのはこれだろ。
その時から研究してたンじゃねェのか」

「簡単に言ってくれるね。完全に未知のウィルスのワクチンを作るがどれだけ難しいか知ってるのかい?
しかもこれは自然のものではなく人の手で『作られた』ものだ。
そのデータや成分表も何もないところから始めなければならないんだ」

「出来るか?」

「やろう」

即答で冥土帰しは切り返す。
その困難さを誰より正確に理解した上で、彼はそう言った。
患者に必要なものは全て揃える。そのためなら何だってする。
それが医者の道を選んだ彼の生き方だった。

「だが時間がいる。どんなに急いだってこればかりはどうしようもない」

「構わねェ。可能な限りオマエはそっちに専念しろ。それこそがこの状況を打開する近道のはずだ」

「分かっているとも。最初からそのつもりだよ」

「それともォ一つ聞きてェ。感染経路についてだ」

259: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:05:42.53 ID:oEFGsnGX0
一方通行はこれがウィルスやそれに類するものである、と結論してから一つの不安要素を感じていた。
それは打ち止めや番外個体といった者たちがそれに侵される可能性だ。
既にこれだけの規模なのだ。彼女たちがそれに感染したとしてもおかしくはない。
それを防ぐためには感染経路をはっきりさせる必要があった。
それが分からなければ対策も立てようがない。

「空気感染じゃあない。まずそこは安心していい。もっと直接的なものだ」

その言葉に一方通行は安堵する。
病原菌の感染経路は飛沫感染、直接感染などいくつかあるが、空気感染はその中でももっとも厄介なものだ。
文字通り空気を媒介として病原体が移動するため、爆発的に感染者が増えるケースが多い。

「水からだよ」

「……下水?」

「上水もだ」

どうやらまず水がウィルスに汚染され、それを摂取した人間が感染ということらしい。
だがそれだけではないはずだ、と一方通行は考える。
実際に一方通行は見ているのだ。死んでいるはずの警備員が起き上がった姿を。
B級映画でのお決まりのように、ゾンビに噛まれるなどすると傷口から感染するのだろう。
だとするならば、避けるべきは水道水の摂取とアンデッドとの接近ということになる。

「事情は分かった。ここの戦力はどれくらいだ?」

「〇九三〇事件の時に君に言った時と大差ないよ、ある程度は仕入れたけどね。
量産軍用クローン妹達が約十人。対戦車ライフルメタルイーターMXとF2000R『オモチャの兵隊(トイソルジャー)』が人数分+α。
小銃に拳銃に指向性地雷にセンサーに手榴弾に通常のスナイパーライフルに……。まあ細かいのを入れればそんなもんだ」

260: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:06:48.55 ID:oEFGsnGX0
一方通行はしばし考え込んだ。
思ったより装備が充実している。果たしてこれで乗り切れるか。
そして一方通行の出した結論は、

「保障なンざ出来ねェが十分だ。それだけあれば、当分はおそらくな。
俺の見たところ、連中は一体一体はそれほどの脅威じゃねェ。
奴らの恐ろしさはとにかく数だ。圧倒的なまでの数の暴力だ。
ンで次々にお仲間を作っていきやがるから手に負えねェンだよ。
能力者も混ざってやがるが、使う前に遠距離から撃ち抜いちまえばイイ。
いずれにしろそこらの能力者なンざ妹達の敵じゃねェだろ、知能の低下に伴って使い方も荒いしな」

妹達のスペックは意外と高い。もとより軍用のクローンである。
能力こそ異能力者(レベル2)、高くても強能力者程度でオリジナルの一パーセントにも満たないが、それを補うだけのスキルを有している。
それは銃器の扱いであり、身体能力であり、知識であり、経験。
彼女たちには『学習装置(テスタメント)』によってインストールされた知識がある。
軍用としての身体能力の高さがある。一万回以上もの超能力者との戦闘経験もある。

少なくとも亡者に劣るスペックではないはずだ。
とはいえあの数で来られたら押し切られてしまうだろうが、この周囲にいるゾンビの数は限られている。
そしてその限られた死人の中で、相手にすべきものは更に限定される。
勿論いつまでも持つわけはないが、当分は大丈夫だろうと判断した。

「あのガキ共はここに置いていく。一応俺も手は回しといてやる」

「君はどうするんだい?」

「決まってンだろ」

一方通行はほぼ終わった充電を切り上げて充電器を乱暴にポケットに突っ込む。
携帯を取り出して今伝え聞いた情報の大筋を適当にメール送信する。
現代的なデザインの杖を突いて一方通行は冥土帰しの横を通り、ドアを開けた。
冥土帰しはそんな一方通行の背中に向かって、

「一方通行」

「何だ」

冥土帰しの呼びかけに対し、一方通行は振り返らないまま答える。

「無茶はするなよ」

「俺は生まれてこの方無茶なンてしたことねェよ」

261: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:08:45.80 ID:oEFGsnGX0









「……っつゥわけだ。オマエらはここに残れ」

冥土帰しと話し終えた一方通行は別室に待たせていた打ち止め、番外個体、芳川と合流していた。
大方の情報を話し、そう告げると最初に反応したのは芳川だった。
打ち止めや番外個体の手前、そして黄泉川がいない以上唯一の大人として振舞わなければならない。
おそらくはそう考えていつも通りに動いていた芳川だが、一方通行はその表情が固くなっていることに気付いていた。

「待ちなさい。あなたはどうするつもりなの?」

「いつまでもここに立て篭もってたって埒が明かねェ。
この状況をコッチから打開する必要がある。たとえば脱出方法とかな。
ついでにどォせ生き残ってンだろォ連中も拾ってやるよ」

今の一方通行は以前とは違う。
平和な生活に身を置いている内に、守りたいものが増えすぎたのだ。
あっさりとそれを切り捨てることは出来なかった。

「あなた一人でなんて危ないよってミサカミサカは猛反対!!
ここだってずっと安全とは限らないんだしミサカも着いていくよ!!」

「そうだねぇ、ミサカもずっと安全圏で閉じ篭ってるってのは性に合わない。
大体あなた一人じゃ電池切れになったら詰むよ? ゾンビさんの仲間入りしたいなら話は別だけど」

262: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:09:27.21 ID:oEFGsnGX0
打ち止めと番外個体に反発され、しかし一方通行は考える。
ここでいいからおとなしくしてろ、と切り返すのは簡単だ。
だが果たしてそれが最適解なのだろうか。

打ち止めの言った通り、ここもいつまで安全か分からないのだ。
危なくなる前に移動すれば済む話だが、勿論それは困難を極める。
もし自分が離れている間にここの守りが崩れるようなことがあれば。
亡者共がこの病院内を闊歩するようなことになれば。

(打ち止めたちを置いていくのは早計か……?)

また、単純に打ち止めが死んでしまうと代理演算に影響が出る恐れもあった。
そうなれば一方通行の能力は使用不能になり、結果生存は絶望的となる。
だが打ち止めはミサカネットワークの管制塔であるが、その中心として存在しているわけではない。
あくまでコンソールに近い存在であるために、もしかしたら彼女が失われても代理演算には影響はないかもしれない。
しかしその可能性があるなら無視は出来ない。また当然、代理演算などとは無関係に一方通行は打ち止めを守りたい。

ならば打ち止めを連れて行けばいいのかというと、そう簡単な問題でもない。
彼女と行動を共にするとなると当然一方通行は打ち止めを常に意識する必要がある。
打ち止めは強能力者であるが戦闘などしたことがなく、またそういう人間性でもない。
言葉を選ばずに言ってしまえば足手纏いなのだ。
攻撃も防御も回避も移動も、全ての行動に打ち止めという枷がかかることになる。

もっとも一方通行本人はそんなことを思ってはいないし、また彼ならばその条件下でも十分に力を発揮してみせるだろう。
だがもし咄嗟に攻撃を『反射』して、それが打ち止めに当たったら。
もし一方通行の派手な攻撃に打ち止めが巻き込まれてしまったら。
可能性はいくらでも考えられる。また番外個体の言葉も一方通行を考えさせた。

263: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:10:21.92 ID:oEFGsnGX0
これからの戦い、いつまで続くのかも読めない戦い。
嫌でもバッテリーの消費は避けられないだろう。
そしていざ電池が切れた時。もし一方通行一人なら、一方通行が死ぬだけで住む。
だが打ち止めがその場にいたらどうだろうか。おそらく打ち止めは一方通行を捨てて逃げることも出来ず、同様に殺されていくだろう。
自分のせいで打ち止めが死ぬ。それだけは絶対に避けなければならないことだった。

とはいえこの場に打ち止めを置いてしまえば、何かあった時に必ず遅れが生じる。
それが致命的なラグとなり得ることは想像できた。
同時に自分自身の力は自身が一番よく分かっている。共に行動しても打ち止め一人守れないとは考えない。

(さァ、どォする)

何より優先すべきは彼女らの命。
どちらを選んでもメリットとデメリットが両存する。
どれだけ考えたところでそれだけは変わらない。
あらゆる可能性を頭の中で並び立て、比較し。


そして一方通行が選んだ選択は―――。



264: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:12:28.71 ID:oEFGsnGX0






1.打ち止めをここに待機させる
2.打ち止めを連れて行き、行動を共にする







266: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:16:09.34 ID:yM2FsWsuo
1.

271: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:29:40.67 ID:oEFGsnGX0
「駄目だ。打ち止め、オマエはここに残れ」

一方通行の出した結論。それは打ち止めを待機させておくことだった。
やはり自分のせいで彼女が死ぬという可能性は、他の何よりも許容できないものだ。
だが当然、そう言われて打ち止めがはいそうですかと納得するわけはない。

「どうして!? ってミサカはミサカは反発してみる!! ミサカだって―――」

「クソガキ、万が一オマエが死ぬようなことがあれば代理演算に影響が出る恐れがある。
そォでなくてもオマエをあンな危険な場所に連れては行けねェよ」

「でも……っ!!」

「俺はオマエに、生きててほしい」

「……え?」

「大丈夫だ。必ず生きて帰ってくる」

打ち止めの体がぴたりと止まった。
一方通行がこんなにも自分の気持ちを正直に吐き出したのはいつ以来だろうか。
そのまま白い手を伸ばし、打ち止めの頭を乱暴にわしわしと撫でてやる。
「ちょ、やめてってミサカはミサカは」と口では言っている打ち止めも、その顔は綻んでいた。

「聞き分けなさい、打ち止め」

芳川が母親のように優しげな表情で言う。
一方通行があなたとの約束を破ったことがあったか、と。

272: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:30:23.04 ID:oEFGsnGX0
「……分かったってミサカはミサカは納得してみる。
でも絶対に、絶対に、絶対に帰って来てねってミサカはミサカは念押しを忘れない!!」

「あァ。それと番外個体」

「何さ」

退屈そうにあくびさえしている番外個体に一方通行が声をかける。
こんな状況であくびが出来るとは心底大した奴だ、などと考えながらも、

「オマエは俺と来い。単純にデカイ戦力になるしミサカネットを通してここの状況が分かる。
それにさっきオマエが言った俺のバッテリーが切れた場合。オマエなら的確に行動できそォだ。
もっとも、嫌なら断ってくれて全く構わねェぞ。むしろそォした方が良いくらいだ」

一方通行がそう言うと、いかにも退屈ですといった風だった番外個体の表情が一変する。
口の端を裂けそうなほどに吊り上げる。そこにあるのは紛れもなく悪意。
最初は流石に緊張しているようにも見えたが、もう慣れてしまったのだろうか。

「オーケーオーケー。色々と言いたいことはあるけど今はいいや。
とにかく祭りに参加できるってんならその他は置いとこうか」

「オマエの神経の太さには頭が下がるわ。それと芳川、オマエは出来得る限り冥土帰しに協力しろ」

「分かったわ。一方通行。その子のこと、しっかり守ってあげなさいよ」

273: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:32:41.56 ID:oEFGsnGX0
「……分かってる」

芳川の言葉に一方通行はしっかりと答えた。
打ち止めを残して番外個体を連れて行くのは、別に優先順位の話ではない。
様々な要素を考慮した上での結論であるが、番外個体を連れて行くのは打ち止めほどではないにしろ似たようなリスクを伴う。
今更芳川に言われるまでもなかった。彼女もまた守らなければならない人間、守りたい人間なのだから。

「クソガキ、それと芳川。二人とも一時間に一回、絶対にメールか電話を入れろ。
忘れるンじゃねェぞ、一時間に一回だ。もし連絡がないまま一分でも時間を過ぎれば、俺は緊急事態だと判断する」

しっかりとそれを念押しし、約束させる。
ミサカネットワークがあるとはいえ二重三重の確認が望ましいし、芳川に関してはネットワークを使用できない。
もし時間を過ぎても連絡がなければ一方通行は即座にこの病院に戻ってくるつもりだった。

「準備はイイか、番外個体」

「そっちこそどうなのさ。小便チビんないでよ第一位?」

「……口の減らねェ女だ」

275: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:36:21.18 ID:oEFGsnGX0
現在までの死亡キャラ

白井黒子
吹寄制理
青髪ピアス
ゴーグル
服部半蔵
黄泉川愛穂
鉄装綴里
春上衿衣
月詠小萌
婚后光子
枝先絆理
固法美偉
亀山琉太
佐天涙子
初春飾利
才郷良太

本編外で死亡が名言

結標淡希
削板軍覇

見落としがなければとりあえずこんなところのはず

276: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:37:45.53 ID:oEFGsnGX0
キャラクター別シナリオ時系列表


垣根帝督シナリオ

――――――Day1――――――

06:41:22 垣根帝督 第五学区 路地裏
ゾンビ化したゴーグルと遭遇、殺害

06:53:34 垣根帝督 第五学区 路地裏
心理定規から電話、迎えに行くことに

08:40:02 垣根帝督 第五学区 高級マンション
心理定規と合流、行動を開始




上条当麻シナリオ

――――――Day1――――――

07:00:58 上条当麻 第七学区 学生寮
ゾンビ化した吹寄制理と青髪ピアスに遭遇、逃走

08:19:09 上条当麻 第七学区 月詠小萌宅
月詠小萌宅到着、常盤台中学へと出発

09:14:00 上条当麻 第七学区 路地裏
ブレインサッカーと遭遇、交戦

277: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:39:49.40 ID:oEFGsnGX0
御坂美琴シナリオ

――――――Day1――――――

07:05:12 御坂美琴 第七学区 常盤台中学女子寮
ゾンビ化した白井黒子と遭遇、逃走

07:39:43 御坂美琴 第七学区 常盤台中学校
ゾンビ化した婚后光子、白井黒子と遭遇、逃走

10:01:14 御坂美琴 第七学区 木の葉通り
ゾンビ化した佐天涙子、初春飾利と遭遇、逃走




一方通行シナリオ

――――――Day1――――――

07:01:22 一方通行 第七学区 マンション『ファミリーサイド』
ゾンビ化した黄泉川愛穂と遭遇、逃走

07:11:50 一方通行 第七学区 マンション『ファミリーサイド』
芳川桔梗、打ち止め、番外個体に事態を説明、病院へ

08:07:28 一方通行 第七学区 総合病院
第七学区の病院にて冥土帰しと接触、二人を待機させる
ライブセレクション
1.打ち止めをここに待機させる
2.打ち止めを連れて行き、行動を共にする
―――→???に影響




浜面仕上シナリオ

――――――Day1――――――

07:19:36 浜面仕上 第七学区 『蜂の巣』
ゾンビ化した服部半蔵と遭遇、逃走

08:23:29 浜面仕上 第七学区 柵川中学校
柵川中学校にて滝壺理后と合流、バンダースナッチと交戦

278: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:41:53.86 ID:oEFGsnGX0
        全シナリオ総合時系列表
The Chronological Order of All Scenarioes

Imagine Breaker,Railgun,Dark Matter,Irregular,Accelerater……

前日 Prologue 惨劇の序




――――――Day1――――――

06:03:03 第七学区 路上
警備員が大量のゾンビと交戦、黄泉川愛穂、ゾンビ化した鉄装綴里に殺害される
File03.『黄泉川愛穂の日誌』

06:03:49 第七学区 常盤台中学女子寮
白井黒子、死亡及びゾンビ化
File01.『白井黒子の日記』

06:41:22 垣根帝督 第五学区 路地裏
ゾンビ化したゴーグルと遭遇、殺害

06:53:34 垣根帝督 第五学区 路地裏
心理定規から電話、迎えに行くことに

07:00:58 上条当麻 第七学区 学生寮
ゾンビ化した吹寄制理と青髪ピアスに遭遇、逃走
File04.『新聞の切り抜き』

07:01:22 一方通行 第七学区 マンション『ファミリーサイド』
ゾンビ化した黄泉川愛穂と遭遇、逃走

279: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:43:06.91 ID:oEFGsnGX0
07:05:12 御坂美琴 第七学区 常盤台中学女子寮
ゾンビ化した白井黒子と遭遇、逃走

07:11:50 一方通行 第七学区 マンション『ファミリーサイド』
芳川桔梗、打ち止め、番外個体に事態を説明、病院へ

07:19:36 浜面仕上 第七学区 『蜂の巣』
ゾンビ化した服部半蔵と遭遇、逃走
File02.『服部半蔵のメモ』

07:20 第七学区 柵川中学校学生寮
ゾンビ化した春上衿衣から佐天涙子が初春飾利を救出
File05.『初春飾利のノート』

07:39:43 御坂美琴 第七学区 常盤台中学校
ゾンビ化した婚后光子及び白井黒子と遭遇、逃走

08:07:28 一方通行 第七学区 総合病院
第七学区の病院にて冥土帰しと接触、二人を待機させる
ライブセレクション
1.打ち止めをここに待機させる
2.打ち止めを連れて行き、行動を共にする
File14.『看護師の日記』

08:19:09 上条当麻 第七学区 月詠小萌宅
月詠小萌宅到着、常盤台中学へと出発
File07.『補習用のプリント』
File08.『結標淡希のメモ書き』

08:21:48 第五学区 高級マンション前
麦野沈利と絹旗最愛、ゾンビと交戦

08:23:29 浜面仕上 第七学区 柵川中学校
柵川中学校にて滝壺理后と合流、バンダースナッチと遭遇、交戦
File09.『家庭科室を使用する際の注意事項』
File10.『枝先絆理の走り書き』

280: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:45:04.97 ID:oEFGsnGX0
08:40:02 垣根帝督 第五学区 高級マンション
心理定規と合流、行動を開始
File11.『心理定規の手帳』




09:14:00 上条当麻 第七学区 路地裏
ブレインサッカーと遭遇、交戦
File12.『亀山琉太の記録』

09:24:11 第五学区 ショッピングセンター
湾内絹保と泡浮万彬、倉庫に身を隠す
File06.『湾内絹保と泡浮万彬の学生証』

10:01:14 御坂美琴 第七学区 木の葉通り
ゾンビ化した佐天涙子、初春飾利と遭遇、逃走
File13.『警備員のメモ』

281: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/17(金) 22:47:17.12 ID:oEFGsnGX0
取得済みファイル一覧


File01.『白井黒子の日記』

File02.『服部半蔵のメモ』

File03.『黄泉川愛穂の日誌』

File04.『新聞の切り抜き』

File05.『初春飾利のノート』

File06.『湾内絹保と泡浮万彬の学生証』

File07.『補習用のプリント』

File08.『結標淡希のメモ書き』

File09.『家庭科室を使用する際の注意事項』

File10.『枝先絆理の走り書き』

File11.『心理定規の手帳』

File12.『亀山琉太の記録』

File13.『警備員のメモ』

File14.『看護師の日記』

422: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:28:47.37 ID:5VNQVDfp0

御坂美琴 / Day1 / 10:34:58 / 第七学区 公園

足が震えていた。当てもなく逃げ回るというのは存外体力を消費する。
美琴はあるマンションの屋上に逃げ込んでいた。
落下防止用のフェンスに背中を預けて座り込み、はぁ、はぁ、と荒く息を吐く。
その体が小刻みに震えているのは単なる疲労だけではない。
明らかに精神的な消耗がそこにあった。

今の学園都市は、美琴にはあまりに耐えられない。
佐天涙子や白井黒子、婚后光子に初春飾利。変わり果ててしまった親友を美琴はその目で見ている。
それだけではない。多くの人間が生ける屍へと変貌している中で、一体どれほどの人間が『人間』でいるのだろうか。

(妹達、垣根さん、浜面さん、インデックス、滝壺さん、絹旗さん、麦野さん、心理定規さん、湾内さん、泡浮さん……)

そして、上条当麻。考えればきりがなかった。
その他にもクラスメイトだとか寮監だとか気になる人たちは腐るほどいる。
だが美琴は彼らへの連絡手段を持っていないし、彼らと会うのが怖いとどこかで思っているのも事実だった。

彼らが生き残っているのなら良い。
だが上条や垣根、滝壺、湾内といった知り合いに遭遇した時。
もしその相手が濁った虚ろな目でこちらを見てきたら?
鬱血した青白い腕を伸ばし、呻き声をあげながら近づいてきたら?
その首や腹の肉が千切れ、内部組織が露出していたら?

……一概に、あり得ないとは言い切れないのだ。
現に学園都市はもう機能していない。住民の大半が死んでしまっている。
知り合いがアンデッドと化しているのも、既に目撃している。
その他の知り合いたちが無事である保障などどこにもない。

423: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:29:26.94 ID:5VNQVDfp0
(それどころか、もしかしたらもう私しか―――)

間違いなくまだこの街には生存者が多数いるだろう。
生き残るために死者の軍勢と戦う者たちが、必ず。
だがその枠の中に美琴の知る友人たちは含まれているのだろうか。
もしかしたら知り合いたちは皆倒れ、自分一人しか残っていないのではないか。
そんな疑念がぞわぞわと音もなく、死神のように忍び寄ってくる。美琴にそれを完全否定する術はなかった。

中には大能力者どころか超能力者すらいるのだから大丈夫、だと思う。
けれどその可能性に気付いた瞬間、美琴をある感情が襲った。
絶望。恐怖。不安。疲労。それらではない、もう一つの負の感情が。

「……私しか、いない……? みんな……」

孤独。それは人を狂わせる感情だった。
美琴は膝を両手で抱えてぎゅっと丸くなった。所謂体育座りだ。
自分で自分を温め、自分で自分を抱きしめる形。

もとより御坂美琴という女の子は、有り体に言って寂しがり屋なところがある。
美琴という人間についてよく知らない者はそう聞いて驚くかもしれない。
いつだって中心に立って、他の皆を率いるリーダー。
他人に慕われ、尊敬され、信奉者さえ現れ、その一言が周囲に力を与えるヒーロー。
おそらく常盤台、いや学舎の園の人間などは過言ではなくそう思っているだろう。

「だれか……」

そしてそれは決して間違いではない。
彼女は上条当麻と同質のヒーロー性を有しているだろう。
だが、それは美琴の数多ある内の一側面でしかないのだ。
元々人間はサイコロのように複数の側面を持っていて、一面しか持たぬ人間などあり得ない。
それと同じ。単純に御坂美琴は多面体なのだ。

424: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:29:57.05 ID:5VNQVDfp0
だからこそ普段見せている面が全てではない。
この状況でサイコロが転がり、顔を見せた面が今だ。
美琴は孤独だった。超能力者になってからというもの、ずっと孤独だった。
何もそれは美琴に限った話ではなく一方通行も垣根も同様に。
超能力者という世界はあまりにも凡人には遠すぎたのだ。

白井黒子が現れ、佐天涙子が現れ、初春飾利が現れ、そして上条当麻が現れ。
ずっと多くの友人が出来た今でも、潜在的に美琴は独りになることを恐れている。
もし皆が自分から離れてしまったら、と。そんな美琴の弱さはこういう時に如実に表れてしまう。
佐天と初春を見捨てた罪悪感も手伝って、美琴の思考は泥沼に沈みかけていた。

そんな時、美琴が展開している電磁波のレーダーが複数の反応を近距離に捉えた。
この独特の反応。間違いなく亡者だった。
ゾンビが六体。階段を登ってここに向かっている。いや、ここに来た。
美琴が両膝に埋めた顔を上げると、視界に映ったのは肉が落ちて内部を晒している死人の姿。

……ふと、美琴はここで抵抗しなかったらどうなるのだろうと考える。
そうすれば全部終わるのだろうか。この孤独と恐怖から解放されるのだろうか。
そんな馬鹿げた思いが脳裏をよぎる。
白井黒子が、生前の『白井黒子』が死の間際に美琴に何を願ったか。寮の浴室ですぐに訪れる己の死を差し置いて何を望んだか。
それを御坂美琴は知らないし、永遠に知ることもない。

美琴はゆっくりと立ち上がる。
それでもやっぱり死肉狂いに食い散らされて死ぬのは嫌だ。
これでも年頃の女子だ、死ぬにしてももう少しマシな死に方を選びたい。

425: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:30:35.38 ID:5VNQVDfp0
諦めたようにも見える薄い笑いを浮かべて、次いで放つのは紫電の槍。
たちまちに距離をゼロに縮めた美琴の一撃は、狙い違わず一体のゾンビの胸に突き刺さる。
ズドン!! と突き立った槍から流れる高圧電流の奔流は刹那の内に機能を停止した全身を駆け回る。
その衝撃で後方へ吹き飛び、痙攣したように全身が震えているがまだ死んではいない。

「寝てなさい」

今撃った電撃は並の威力ではない。少なくとも人間に撃っていいラインは超えていた。
だが美琴はあの程度ではリビングデッドは死なないことを、経験で知っていた。
ここまで逃げて、倒して、逃げて、倒して。そんなことを繰り返してきたから。
そして同時に死なないまでもこの程度の電流を流し込んでやれば筋肉が硬直するのか何なのか、しばらくの間なら動きを止められることも知っていた。

バチッ、と頭に軽い違和感を覚える。
覚えのある感覚だった。それは美琴の電磁バリアが第五位の『心理掌握』を防いだ時と同種のもの。
勿論それと比べると格段に弱いが、間違いなく同じ種類の感覚だ。

「精神系能力者か。でもその程度じゃあ意識を逸らすことも出来ないわよ!!」

おそらくは異能力者。美琴からすれば歯牙にもかける必要はない。
他のゾンビが放った小規模な突風を、床の下にある鉄筋と自身を磁力線で繋げ、反発させることで跳躍して回避。
踊るように空中で一回転した美琴は屋上の隅に着地する。
自然、生きた死者は美琴の後を追うように移動する。この時、五体のゾンビは整列でもするように一直線上に並んでいた。

意図的にこの状態を作り出した美琴は、待ってましたと言わんばかりにズバヂィ!! と雷撃の槍を叩き込む。
ズ┣¨┣¨┣¨┣¨ッ!! と雷撃の槍は貫通し、一列に並んだ五体のゾンビを一撃で貫いていく。
もとより動きの単調な死人だ。動きを誘導するのはそう難しいことでもなかった。

426: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:31:38.42 ID:5VNQVDfp0
「……ふぅ」

美琴は一息つくと、すぐにどうすべきか思考を巡らせる。
このゾンビ共は死んでいない。少しすればまた起き上がるだろう。
それは単に美琴が手加減を加えたからだ。その気になっていれば今の一撃で五つの死体は消し炭になっていただろう。
結局、美琴には死人であろうと『殺す』という行動が取れなかったのだ。

とにかくもうこの場所にはいられない。
そう思っていると、すぐ近くから子供の悲鳴が聞こえてきた。

「ッ、悲鳴!?」

生きた人間の声。
美琴は一瞬で反応し、能力の網を巡らせていくと同時に鉄柵から身を乗り出して目視でも確認を行っていく。
幸い、それはすぐに見つかった。このマンションの目の前にある公園。
そこに人影が三つ確認出来た。二つの陰がもう一つへと迫っている。
間違いなく悲鳴の主だろう。

状況を理解した美琴の行動は迅速だった。
つい先ほどまで沈んでいた暗い思考など忘れ去り、美琴は躊躇いもせずに地上一〇メートル以上の高度から身を躍らせる。
磁力線を公園に立っている街灯へと繋ぎ、滑り台のように、弾丸のような速度で自身を斜め下方へと突撃させていく。
距離を詰めていくに従って徐々に状況を視認できるようになる。

カバンを持った幼い女の子が二体のゾンビに襲われている。
女の子は恐怖で動けないのだろう、もうあと数秒で鬱血した腕が届いてしまう距離だった。
美琴はチッ、と舌打ちし少女には及ばないよう調整した電撃を目下の異形に向けて撃つ。
光速の電撃は禍々しき異物に少女にそれ以上接近することを許さず、二体に連続で天罰を与えていく。

突然上から青白い閃光に射抜かれたゾンビは無様に吹き飛び、動かなくなる。
突然の事態に少女は何が起きたのか理解出来ないのだろう、口を開けたまま呆然としている。
とにかく助かったことだけは分かったのか。何でもいい、と美琴は思う。
ある程度まで下降した美琴は磁力線を切り、スタッ、と少女のすぐ近くに着地した。
周囲に連中の姿は認められない。ほっとした美琴が少女の方へ振り向く。

427: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:32:09.80 ID:5VNQVDfp0
「ねえ―――」

「やぁぁああああああっ!!」

美琴が声をかける直前、少女は悲鳴をあげて走り出した。
どうやらパニックに陥っているようだ。無理もないと美琴は思う。
だがここで少女を行かせれば確実に死ぬ。今の学園都市はそういう世界だ。
自分の横を走り抜けようとした少女の腕を美琴はしっかりと掴んだ。

「やだぁっ!! 離してよぉっ!!」

半ば錯乱気味に少女は頭をぶんぶんと振る。
美琴は腕を決して離さぬようにしながら、

「落ち着いて!! ほら、分かるでしょう? 私は人間よ!!」

美琴が必死に呼びかけると少女の動きが止まった。

「私の手、温かいでしょ?」

そう言って無理に笑顔を作り、笑いかけてやる。
すると少女がこちらを振り返り、ぴたりと互いの目が会った。
すぐに少女の目に透明の液体が溜まる。そしてそれはすぐに決壊したように流れ出した。
滝のように涙を流しながら、少女は美琴の懐に飛び込み、抱きついてきた。

「―――美琴お姉ちゃぁぁああああん!!!!!」

美琴の腰に両手を回してさめざめと泣く少女を、美琴もしっかりと抱きしめてやる。
その頭を優しく撫でてやると少女は更にしっかりと美琴に回した手を固定する。
意地でも離れないと言っているようだった。

428: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:32:58.17 ID:5VNQVDfp0
「……佳茄ちゃん。良く無事だったわね。もう、大丈夫よ」

出来るだけ佳茄が安心できるように、美琴は昔の母に受けたそれを佳茄に返す。
ぎゅっと抱きしめて体温と心臓の鼓動を感じさせ、頭をゆっくり撫でてやる。
少しの間それを続けていると、徐々に佳茄は落ち着きを取り戻し話を聞くことが出来た。

硲舎佳茄という名のこの少女と御坂美琴には幾度かの縁があった。
最初の邂逅は夏。美琴がトラブルで一日風紀委員を務めた時だった。
爆弾が入っていると勘違いしてを美琴が必至で奪還したバッグの持ち主が佳茄だったのだ。

二度目の遭遇はそのすぐ後のこと。
『幻想御手(レベルアッパー)』事件の始まりとも言える、連続虚空爆破(グラビトン)事件。
介旅初矢による犯行が行われたセブンスミストにて、美琴は上条と共にいた佳茄と会っている。

そして三度目は『空き地のカミキリムシ』の時だ。
髪をカミキリムシに切られた佳茄が友人たちと『ヒミツカイギ』をしている際、それを美琴らが発見。
カミキリムシを捕まえるまで、美琴は佳茄と行動を共にしたりもした。

また大覇星祭では佳茄が応援してくれたりと、何かと関わってきた少女なのだった。
『空き地のカミキリムシ』の際にはアドレスの交換も行っており―――もっともそれはカミキリムシ対策だったのだが―――定期的にメールのやり取りも行っていた。
佳茄が送ってきたメールに美琴が返すといった形だったが、間違いなく二人は親交を結んでいた。
だからこそ、佳茄はそんな美琴を見て安心しきってしまったのだろう。
溜まったものをポロポロと流しながら、それでも少し落ち着いた佳茄は鼻声で説明を始めた。

429: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:33:27.90 ID:5VNQVDfp0
「あのね、なんかみんなが、変に、なってて、私、怖くて、それで」

「うん、うん」

「ずっと、隠れてて、よく、ここら辺で、かくれんぼ、してたから、でも、見つかっちゃって、そしたら、」

「大丈夫よ、佳茄ちゃん。無理しなくて良いから。私がついてるから」

大体を把握した美琴は佳茄の話を中断させる。
これ以上話させるのは良くないと判断したためだ。
それにしても本当に良く無事だったものだ。
下手に動かずじっと隠れていたのが良かったのだろうが、いずれにせよ隠れているだけではこの状況は打破出来ない。

……もう大丈夫だ。もう独りじゃない。自分がついてる。守ってあげる。安心して。
そんな立派な言葉を並び立て、まるで強い人間のように佳茄を安心させている一方で。
聞き耳の良い言葉を隠れ蓑にして、佳茄を使って自身の孤独を紛らわせ、この少女を守るという佳茄を利用する形で自分を奮い立たせる。
そんな風に佳茄を言い訳にして、逆に依存して。御坂美琴はそんな醜い自分自身に気付き、心底軽蔑した。

430: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:34:10.91 ID:5VNQVDfp0

浜面仕上 / Day1 / 12:49:37 / 第一八学区 スーパーマーケット

「いた!! やっぱりだ!!」

「……むぎのと、きぬはたのAIM拡散力場。無事だったんだ、良かった」

浜面と滝壺は遠目に見えるスーパーマーケットを見上げていた。
そのスーパーは蜂の巣のように穴だらけになっており、その穴から人影が次から次へと吐き出されていく。
しかしそれは体の中心に巨大な穴が空いていたり、四肢が欠損していたり、頭蓋骨が陥没して頭部が潰れていたりと無事なものは一つとしてない。
そしてゾンビを殺害し、壁をマシンガンでも連射したように穿ち続けているのは不健康な青白い光の奔流だった。

その絶大な破壊力を秘める絶対の閃光に、浜面と滝壺は見覚えがあった。
電子を粒子でも波形でもない曖昧な状態に固定する能力。
『曖昧なまま固定された電子』は『粒子』にも『波形』にもなれないため、外部からの反応で動くことが無い「留まる」性質を持つようになる。
この「留まる」性質により擬似的な「壁」となった『曖昧なまま固定された電子』を強制的に動かし、対象を貫く特殊な電子線を高速で叩きつけることで、絶大な破壊力を生み出す。

それこそが『原子崩し』。『粒機波形高速砲』。
学園都市に七人しかいない超能力者、第四位の誇る絶大な力。
麦野沈利の有する能力だった。

麦野の能力は轟音をたてて形を失っていくスーパーを見れば分かることだが、非常に派手だ。
それを目印にしたのはゾンビ共も同様らしい。
もうちょっと出力を抑えて撃てないのだろうか。

「……しっかし、これじゃー際限なくゾンビを集めるだけだぞ」

「そんなことより早く二人に合流しよう。穴あきにされないよう気を付けて近づかないとね?」

「……あ」

431: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:34:54.05 ID:5VNQVDfp0









「オラオラオラオラァッ!! 何だテメェらはただの肉の的かぁ!?
狩人を楽しませるならせめて狐になれよ。食われるための豚で止まってんじゃねぇぞ死肉狂いが!!」

麦野沈利。学園都市第四位の超能力者。
その美しい顔立ちは獰猛に歪み、長いカールがかった茶髪を揺らしながら怪物は荒れ狂う。
彼女の周囲の空間には青白い、ぼんやりとした球状の光が複数浮かんでいた。
ふわふわと頼りなく揺れるそれは、しかしそのイメージとは対照的にひたすら破壊をもたらす滅びの象徴でしかない。

球体から明確な指向性を持った光の束が放たれる。
それは瞬き以下の内に主に仇なす標的に食らいつき、たちまちにその肢体を削っていく。
始めにごっそりと下顎が骨もろとも消失した。ずらりと並んだ赤黒い歯も文字通り消えてなくなる。
続けて胸、腹。面白いほど簡単に人体が彫刻されていく。
彫刻刀が触れた箇所は塵も残さずこの世から消え、世に存在せぬ異形は辺りに腐肉と凝固しかけた血をスプリンクラーのように撒き散らしながら倒れた。

「ちったぁ楽しませてみろってんだ!! 延々と雑魚の相手ばかりじゃいい加減飽きんだよ!!
みっともなく中身ぃ垂れ流しやがって。そんなんじゃ百倍足りねぇぞコラァ!!」

『原子崩し』の光が絶え間なく瞬く。
彼女を中心としてあらゆる全方位へと浄化の輝きが発せられ、不浄の者共を片っ端から洗い流していく。
アンデッドの数は初め一〇〇近くはいた。が、現在残りは僅かに一〇体ほど。
もはや戦いではなかった。完全なる蹂躙、ワンサイドゲーム。
第四位は自然の摂理に反した異形を前に、鮮烈に君臨していた。

432: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:35:26.28 ID:5VNQVDfp0
ゾンビは元はこの街の学生だったため、当然能力者である。
中には能力を用いて攻撃してくるものもいたが、そのほとんどは能力を使う間すらなく光に焼かれていった。
放たれた能力は悉く『原子崩し』に掻き消され、吹き散らされる。
稀に高レベルの能力が放たれた時のみ、麦野は初めて違う動きを見せる。

「全滅しちまうぞオラ!! 最後くらい気合入れて化け物らしく何かしてみろや!!」

「……私の出番が超ありませんね。別に良いんですが」

麦野のすぐ近くに佇む絹旗最愛は小さくため息をついた。
彼女はこの軍勢とは違い生者らしい温かな体温を持っている、紛れもない地獄の生存者だ。
絹旗は周囲を見回して顔を不快げに歪める。

元はここはスーパーマーケットだったのだが、もはやその面影はどこにもなかった。
ありとあらゆる物が薙ぎ倒され、消し飛ばされ、そもそも建物の形自体が変形させられていた。
そしてそれを彩るように赤々とした肉片、白いぶよぶよとした何かが所構わず散乱している。
更に床や壁、天井などにはべっとりと血液が付着していた。
『原子崩し』が屍を貫く度に重ね塗りするようにパパッ、と血が飛び、あるいは太筆で払ったようにべったりと赤がしつこくペイントされる。

絹旗はC級映画を好んで観るという変わった趣味の持ち主である。
だが、絹旗はスプラッタ映画は好きではなかった。
暗部時代の仕事でだってここまで凄惨な光景を見たことは一度としてなかった。

血液の赤血球には多分に鉄分が含まれており、これは胃酸によってイオン化する。
イオン化鉄は胃粘膜刺激作用を持つために、血液は強い催吐性を有している。
絹旗は鼻を抉るような臭いにたまらず手で鼻をつまんだ。
如何せん撒き散らされた血の量が多すぎる。

433: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:36:20.52 ID:5VNQVDfp0
ついにゾンビを殲滅してしまった麦野はクールダウンしたのか、ガリガリと頭を掻き毟った。

「っあぁー……。やりすぎたかね。酷ぇことになってるわ」

「流石の私もこれには頭が超下がりますよ。……とにかく移動しましょう、麦野。
これだけ派手に超暴れれば連中がまたわんさか集まってきますし、ぶっちゃけ吐きそうです」

「私のせいだと言いたげだね。まぁ否定出来ないけど。
んじゃ行こっか。能力は出来る限り節約したいしね。……出来そうにないけど」

そして死屍累々たる有様をそのままに、二人はその場を後にする。
すぐに敵に気付けるようにと一階へと移動したところで、麦野が唐突に背後に向けて『原子崩し』を放った。
絹旗も感じていた。二人の背後に確かな気配があった。
振り向きもせずに撃ち出された青白い不気味な輝きは対象を―――

「っうおぉおお!?」

―――射抜くことはなく、まさに間一髪。浜面仕上の鼻先を駆け抜けた。
そのまま麦野の力は一階を蹂躙し、反対側の壁をぶち抜いて彼方へと消えていく。
滝壺理后はあと一歩踏み出していたら間違いなく浜面は死んでいたにも関わらず、そのことに構いはしなかった。
ただ二人の前に姿を表して再開を喜ぶ。

「むぎの、きぬはた。大丈夫、私たちだよ」

「滝壺さんじゃないですか!!」

「はーまづらぁ。やっぱ生きてたか。まあお前が滝壺残してくたばるわけないもんね」

434: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:37:17.19 ID:5VNQVDfp0
「危うく俺が死ぬところだったことに対して謝罪がないわけですが」

「甘ぇこと言ってんな。この状況じゃ動くものは全て敵、違う?」

「……まあ、な」

麦野沈利、滝壺理后、絹旗最愛、浜面仕上。
『アイテム』の構成員全員がついに一同に会した瞬間だった。
だが状況は良くない。四人に再会を喜ぶ時間はなかった。
それを分かっている彼らは労いもそこそこに、これからの方針やこの事態について意見を交し合う。

「……さて。三人はこの事態をどう見ます?」

問題提起したのは絹旗だ。
そもそもの疑問。一体今何が起きているのか、という点。

「まあ、十中八九―――」

「「何らかのウィルスか薬品の類、だろうね」」

麦野と滝壺が声を揃える。絹旗も同感なのか、特に言葉を挟むことはしなかった。
一方の浜面も大方同じ意見だった。

「お前らも見たのか?」

浜面が問うと、

「ゾンビに混じってね。複眼をした明らかな昆虫がいた。
でもその大きさは二メートル以上。どう考えたって普通じゃない。化け物だよ」

「それと、蜘蛛の化け物も超確認しました。やはり巨大化していました」

「俺と滝壺は烏だ。……濁った目で、人間の死体を啄ばんでやがった」

435: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:37:53.10 ID:5VNQVDfp0
昆虫に蜘蛛、烏。そしてゾンビ。
今学園都市を這いずっている異形の化け物。

「おかしくなってるのは人間だけじゃないんだよ。
もし能力とか、オカルトとかならあんな虫にまで影響が及ぶとは思えない」

「ならばウィルスや薬品という結論を導くのは超当然の帰結です。
それなら人間以外が感染するのも超納得できますし」

「で、あれば」

滝壺と絹旗の言を麦野が引き継ぐ。
彼女は言う。

「水道水の摂取は厳禁ってわけだ。
疫病や細菌ってのは水を介することが多いからね。
っつか第一位からそういうメールが来たし」

「……あくせられーたから?」

「……見てないんですか? 超一斉送信されてたはずですが」

「俺の携帯は電池が切れちまったからなぁ。
そういや何かメールが来てた気がするが、滝壺と合流する前だったからそれどころじゃなかったし」

「携帯落としちゃった」

436: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:38:43.95 ID:5VNQVDfp0
そう、たしかにメールが来ていたと浜面は回想する。
けれど今言ったようにその時は滝壺と合流しようと必死になっていた時だった。
柵川中学校目指してゾンビの目を盗みながら行動。
滝壺のことばかり考えていて結局メールには一度も目を通していない。

そして滝壺はここに来る最中に携帯を紛失してしまっていた。
この状況の中で連絡手段を失うのは非常に痛い。
それは浜面も滝壺も分かっていたのだが、携帯を拾うリスクとそれを探してゾンビの群れに飛び込むデメリット。
双方を天秤にかけ、そして後者を選んでいたのだった。
絹旗ははぁ、とため息をついて、

「浜面は超そんなもんでしょうが、滝壺さん……しっかりしてくださいよ?」

「おい」

唐突に、麦野が背後を振り返ってその左手を返して水平にし、横一線に薙いだ。
その先にいたのはゾンビとは異なる化け物だった。
それは犬の形をしていた。だが、その目はやはり例に違わず白く濁りきっていた。
また全身のあちこちの皮が剥がれ落ち、赤い筋肉組織が剥き出しになっていて、腹の辺りは肋骨までが外気に晒されていた。
異常発達を遂げた歯の隙間から涎を垂れ流し、犬らしく吠えながら化け物と化した犬が走ってきていた。

筋肉の劣化は少ないのだろう、生前と同等かそれ以上の速度で大口を開けて四人に食いかかる。
が、真っ先に反応した麦野の左手の軌跡をなぞるように、薄く引き伸ばしたような『原子崩し』が放たれる。
それはさながら断頭台の刃のようにあっさりと、ゾンビ犬の体を上顎と下顎を切り分けるように口のところで真っ二つに引き裂いてしまう。
飛び掛った状態で『原子崩し』の餌食となったゾンビ犬は、そのまま空中で絶命し寸断された頭部と血を散らしながらどさりと床に倒れ込んだ。
絹旗はそれを無感情に見つめ、提案した。

437: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:39:44.97 ID:5VNQVDfp0
「二手に超分かれましょう。一方は脱出手段を。一方は避難所を探すんです。
こんな状況ですが、必ずまだ生存者は超います。そんな人たちが集まる場所があるはず」

「そういう所に他のみんながいるかもしれないってことだね」

「つまりそれなりの人数を運び出せる方法が必要になるな。第一位は?」

「誰があんなクソ野郎の心配なんてするか。当然放っとく」

全員の思考は何も言わずとも一致していた。
互いにとって『アイテム』は大事な仲間だが、仲間は『アイテム』だけではない。
ぬるま湯のような世界で出来た大切な者たち。それを見捨てるという選択肢は頭になかった。

「戦力的に考えて、浜面と絹旗、滝壺と私の組み分けがベストだと思う。
浜面は無能力者だけど戦えないわけじゃないからね。滝壺は……残念だけど、あいつらには無力だし」

滝壺理后の『能力追跡』はただのサーチ能力ではない。
そこには学園都市の全機能を一人で補えるほどの可能性が眠っており、開花すれば『学園個人』とさえ言われるほどの力。
しかしそれも正常な能力者が相手でなければ何ら意味はなく、したがって滝壺は誰かの庇護下に置く必要がある。

「……私だって、やれるよ。重荷にだけはなりたくない」

浜面は思う。たしかにそれは事実だろう。
だが滝壺本人は今のように必ずその扱いを嫌がる。
実際のところ、滝壺のその言葉は口だけのものではなかった。
柵川中学校で隻腕の化け物と戦った際には滝壺がいなければ浜面は間違いなくあそこで死んでいただろう。
既に一度、滝壺に命を救われているのだ。


438: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:40:24.81 ID:5VNQVDfp0
しかし同時にやはり滝壺は非戦闘タイプという事実も変わらない。
本音を言えば浜面は自分自身の手で滝壺を守ってやりたかった。
とはいえこの状況でそんな我が侭を押し通すべきなのか。
浜面と麦野、どちらが護衛についた方がより滝壺の生存率が高いか。
そんなことは無能力者でも、無能力者だからこそよく分かった。

「……そうだな。滝壺、お前はお荷物なんかじゃない。
でもこんな時だ。何があるか全く分からない。でも、麦野と一緒なら大丈夫だ」

おそらく滝壺も浜面とほとんど同じ思考ルートを辿ったのだろう。
やがてこくりと小さく頷いた。麦野も、絹旗も、二人は信用している。

「超決まりですね。―――と、なれば話は超簡単だったんですが」

「早速今決めたことはなかったことになるみたいだね。ってなわけで忘れていいよ」

浜面も滝壺もすぐに気付いた。気配。臭い。声。
このスーパーマーケットを取り囲むように、夥しい数の亡者が集まっていた。
何重にも重なった死者の呻き声が聞こえてきた。近づいてくる。じりじりと、数えることも困難な圧倒的な軍勢が。

「むぎのが派手に暴れたから……」

「反省はしてるわ」

439: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:40:51.04 ID:5VNQVDfp0
突撃してきたもう一体のゾンビ犬に絹旗が軽い調子で裏拳を食らわす。
『窒素装甲』の恩恵を受けた彼女の拳は本来ならあり得ない威力でゾンビ犬の頭部を変形させた。
勢いそのままにゾンビ犬は床にその体をめり込ませてしまう。
今ここに集まっている数百の群れの中には、ゾンビ以外の化け物も混ざっていることが証明された。

「で、どうすんだよ? やるしかねえ、か?」

「いいや。こうなったら私と絹旗がこいつらとじゃれるから、アンタと滝壺は脱出手段を探して。
綺麗になったらさっき話したように私らも動くからさ」

「お二人に私の携帯を渡しておきます。目的を達したら麦野の携帯に超連絡してください」

まだ何事か言う浜面を適当に説き伏せ、麦野沈利と絹旗最愛は二人を強引に送り出す。
二人は渋々といった様子でようやく引き下がり、気をつけるようにと念押しし去っていくその背中を守るように超能力者と大能力者は立つ。
もう姿は見えていた。フロアを埋め尽くさんばかりの生きた死体が真っ直ぐにこちらへ向かってくる。
やはりその中には人間だったもの以外のものもちらほらと散見された。
浜面と滝壺を援護するように『原子崩し』を放つ麦野を見て、絹旗はまたもため息をつく。

「仕方ないですね。ま、昔の『仕事』だと思ってやりましょう」

「さあ、カーニバルの時間だ。面倒くせぇが相手してやるよ」

超能力者と大能力者。他を寄せ付けぬ圧倒的な力。
それが一度振るわれた瞬間、ごっそりと死人の軍勢の一角が壊滅した。

440: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:45:58.36 ID:5VNQVDfp0
投下終了

というわけで本作ヒロインは硲舎佳茄ちゃん
PSP超電磁砲以外にも原作超電磁砲7巻で描いていた絵に名前があったのですが、名前の初出はゲームかな?
七歳という禁書界では最強のロリとして君臨していたが、ある日フェブリにその座を奪われる
しかしそのフェブリもフレイヤという絶対王者に蹴落とされる
フレイヤを超えるキャラは流石に今後も出てこないでしょう……出ないよね?

次回は上条シナリオと垣根シナリオ
前回の一方通行シナリオで張り忘れていたファイル14をここで一緒に

441: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:46:48.97 ID:5VNQVDfp0
Files

File14.『看護師の日記』

九月一〇日

今日もまた例の病気の患者がやって来た。
一体何なのこれは。本当に何が起きてるっていうの?
こうも短期間のうちに爆発的に……。
どうやらこの奇病は老若男女問わないらしい。
とりあえず予防行動をしっかりするよう通達があった。
言われなくてもって感じではあるけど、これは本格的にやらないとまずいかもね。

九月一一日

一向に勢いが収まる気配が見られない。
うちの病院には一人、『冥土帰し』とまで呼ばれる凄腕の医者がいる。
でもあの人でさえ苦戦しているらしい。普通じゃない。
ようやく分かった気がする。何かが変。決定的におかしい。
そもそもの話、この清潔な学園都市で突然新種の奇病なんて生まれるわけがない。

冥土帰しと呼ばれるあの先生でも分からないなんてあり得ない。
だったら考えられる可能性は自ずと限られてくるはず。
私たちは前提から取り違えているのかもしれない。
……これは病気なんかじゃない。学園都市で作られた人工の細菌か何か。
それなら誰にも分からなかった説明もつくと思って先生に確認した。

案の定だ。先生も私と同じ考えだった。
つまりやっぱりこれは生物災害。バイオハザードってことなんだ。

九月一二日

体が震えるのを止められない。こんなものがこの世に存在したなんて!!
あれはただの病気やウィルスなんかじゃない。
紛れもない悪魔の産物。核兵器なんかが小さく見えるほどおぞましい。

……だって、どう見たって死んでいた。死んでいたのに!!
生きている、あれは生きていた!! 動いてた!!
ああいうのをゾンビって言うんだろう。映画でしか見たことがない想像上の存在が、今現実にいる。
もしかしたら、いやきっとあの奇病の感染者は皆こうなるんだ。
数え切れないほどに溢れた感染者たちが全員、虚ろな目で起き上がるのなら。

この街はもうじき、死ぬかもしれない。

442: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:47:25.20 ID:5VNQVDfp0
File15.『一方通行からのメール』

水道の水は絶対に飲むな
奴らに傷を負わされるな

大体分かってると思うが、この異常事態はやはり新種のウィルスによるものらしい
あの冥土帰しの出した答えだ、間違っちゃいないはずだ
俺も同感だしオマエらも同じ結論に至っていると俺は考える

何人にこのメールが届いているか、何人がこれを読めているかは大いに疑問だが
生き残る気がある奴は第七学区の総合病院に来ることを勧める
現状、あそこは生存者の避難所になってるからな……いつまで続くかはともかく

458: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 22:57:00.33 ID:XQ6abiS10


Fighting foes is not the only way to survive this horror.



459: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:03:22.27 ID:XQ6abiS10

上条当麻 / Day1 / 10:02:00 / 第七学区 『オリャ・ポドリーダ』

精神的にもそうだが、当然肉体的にも消費していた。
上条当麻は適当に見つけたファミレスの厨房に身を潜め、体力の回復に努めていた。
ここなら位置的に外からは見えない。静かにじっとしていればまず見つかることはない。
震える体を自身の両腕で抑え、漏れそうになる掠れ声を押し殺し、しかし。

(隠れて、体力を回復して。そして、そしたら、どうするんだ?)

その先に続くものが何も見えなかった。
インデックスは見つからないし、常盤台中学にも辿り着けていない。
他の知り合いたちも全く見かけていない。そればかりか彼は変異してしまったクラスメイトを二人も目撃してしまっている。
頭をよぎる最悪の想像。しかし上条はそれを馬鹿らしいと一蹴する術を持っていない。

(どうするんだよ? 何ができるんだ? そんなもの、あるのか?)

信じたい。だがそれは所詮願望であり、明確な根拠に裏づけされたものではないが故に不安は拭いきれなかった。
ゾンビだけではない。上条は先刻ゾンビとは比較にならないほどの異形と遭遇している。
二つの頭を持ち、脳を抉り出して貪る悪夢の具現化を。
あの少女の頭蓋を砕き、中身を啜った異形を。

あんなものが学園都市を徘徊しているのなら。
そして上条はあれを見て、亡者以外の化け物があれだけだと思えるほど楽観主義者ではなかった。
改めて思う。で、あれば。一体この街は今、どうなっている?

460: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:08:15.08 ID:XQ6abiS10
(……駄目だ。じっとしているとやっぱり心が潰れそうになっちまう)

いずれにせよ、ここで死んでしまえばそれで全てが終わりだ。
生き延びて、助けを求めている人がいるとしても何も出来なくなってしまう。
とりあえずは生き残ることだけを考えることにする。
そのためには警戒を怠るわけにはいかなかった。

だから、上条は顔を上げる。
厨房にある銀色のステンレスが鏡のように働き、反対側を映していた。
反対側、つまり客席。そこからは窓ガラス一枚挟んで木の葉通りと呼ばれる道が見える。
上条はこれを使って度々様子を確認していたのだが、今度ばかりは無視出来なかった。

そこに歪んでいるが映っているものを見て、上条は思わず立ち上がっていた。
それに付随するリスクなど考える余裕はなかった。ほとんど反射と言ってもいい。
上条は鏡越しではなく肉眼でそれを確認して、間違いないと確信して、湧き上がるような歓喜と安堵の渦に飲み込まれるのを感じた。

「御坂!!」

常盤台中学の制服。肩までかかる程度の茶髪。
それは第三位の超能力者にして上条が探そうとしていた御坂美琴だった。
走っていた。生きていた。
心の底から安堵すると共に上条は希望をも手にする。
美琴が生きていたのだから、きっと他の知り合いだって無事にきまっている、と。

すぐに駆け寄りたい。隣に立って、名前を呼んで、何なら抱きしめてキスでもしてやりたい気分だった。
そんなことをしたら即刻殺されるだろうな、などと下らないことを考える余裕が戻っていることを上条は自覚する。
堂々と表通りに出るのは上策ではないだろうと判断した上条は厨房の隣から行ける裏口へと走った。
そこから外に出て、美琴と合流して、そしたら。

461: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:11:34.75 ID:XQ6abiS10
しかし。上条のそんな余裕と思考は、すぐに粉々に砕け散ることになる。

「……血の臭い、」

入る時は表から入ってきたから、裏口を通るのはこれが初めてだった。
その独特で強烈な臭いにはすぐに気付いた。
誰かが、死んでいるのか。あるいは大怪我をして動けないでいるのか。
後者であればゆっくりしている時間はない。上条は走って、

「―――ぅ、ぁ」

心の底から後悔した。この裏口を通ってしまった自分の行動を呪った。
美琴を見つけた喜びが絶望に塗り替えられていく。
上条当麻の心が砕かれていく。
それほどの力を目の前の光景は持っていた。

狭い通路に、血の池が出来ていた。
異常なことに今日だけで何度も目撃してしまっている光景だった。
その中央に人間が倒れている。この血の持ち主だった。
だがそれは。上条当麻にとってただの死体で済む話ではなかったのだ。

上条と同じ高校の制服を着用していた。同じ学校だ。
下半身にはスカート。女性だ。
美しい黒のロングヘアが振り乱され、自身の血液によって真っ赤に染められていた。
そしてその首元にはやはり血で赤くなっているものの、十字のネックレスのようなものがかけられていた。
それはその少女の能力を封じるため、イギリス清教から渡されたものだった。
その顔は上条の見慣れたものだった。
その少女は、姫神秋沙だった。

462: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:16:05.34 ID:XQ6abiS10
ふらりとバランスを崩す。壁によりかかり、ずるずるとその場に崩れ落ちる。
クラスメイトだった。吹寄制理たや青髪ピアスと同様に。
上条はかつてこの少女のために戦い、その手で命を救ったことがある。
そんな姫神が、今目の前で死んでいた。

かつてのような作られた虚構の死ではない。
上条の幻想殺し程度ではどう足掻いても打ち消せない、本物の『死』が。
そこにある。既に確定した、変えようのない現実として。

「……何なんだよ」

ぼそりと呟く。

「―――何ッなんだよこれはッ!! ふっざけんじゃねぇぞォォおおおおおおお!!!!
姫神が何をしたんだよ何で吹寄や青ピが死ななきゃいけないんだどうして御坂が逃げまわらなきゃいけねえんだよォォおおおおおおおお!!
こいつらが何したってんだ言ってみろよ死ななきゃならねえようなことなんて何もしてねぇだろうがよぉぉおおおおおおおお!!
返せよ!! ちくしょう、返せよ!! あいつらの命も笑顔も全部、テメェが奪ったもん全部返せよッ!!
こんなっ、こんな風に、こんなに簡単に奪われていいほど軽いもんなわけねぇだろうが!!!!!!」

咆哮する。
上条当麻が如何なる死線を潜ってきた人間であるにしても、本質的にはまだ高校生の少年でしかない。
この短時間で相次ぐ友人の死。歩く屍。本物の化け物。
そんな環境に放り込まれれば発狂してしまいそうになるのも道理だった。
誰に対して憤っているのかなんて分からなかった。きっと、この惨劇を許した世界の全てにだろう。

頭を掻き毟る。今ほどこの右手の、自身の無力さを恨んだことはなかった。
幻想を砕く右手も現実に対してはこんなにも無力だ。
姫神秋沙が死んだ。吹寄制理が死んだ。青髪ピアスが死んだ。
彼らは死んだのだ。ちょっと前までは笑顔で話していた友人が、だ。

463: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:17:31.68 ID:XQ6abiS10
こんなにも、呆気なく。こんなにも、理不尽に。こんなにも、凄惨に。
見てみると、姫神の首が食い破られていた。おそらくこれが致命傷となったのだろう。
人間の体内にはこんなに大量の血液が詰まっているのかと思わずにはいられないほどの血が、そこから蛇口を捻ったように溢れたのだろう。
姫神秋沙も、吹寄制理も、その他多くの死んでしまった人間たち。
人間である以上死はいつか必ずやってくる。
だからって、死んでしまうとしても、何もこんなに惨い死に方ではなくても良かったはずなのに。

だが上条に絶望する時間はそう長くは与えられなかった。
ぴくり、と。死んでいる姫神の指が動いた。

「―――は、」

それを見て、上条はようやくそれはそうだと思い出す。
今この街を席巻しているのは何だ? 姫神は一体何に殺された? 自分はさっきから一体何から逃げている?
ようやくそこに壊れかけた思考が至った時には既に手遅れで。
しかも事態は上条の想像より深刻だった。

むくりと姫神は起き上がる。
死んだはずの姫神が、活動を停止したはずの体が、再度活動を始める。
ゾンビ化。死者に無残に食い殺された彼女が、同じく歩く死者と化して動き出す。
そのはずだった。

「……何だ、これ」

464: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:19:02.39 ID:XQ6abiS10
その上条の言葉は姫神が死んだという事実に対するものでもなければ、彼女がゾンビになったことに対するものでもない。
単純に目の前のものの理解が出来なかったのだ。
起き上がった姫神の全身は赤みを帯びていた。ただし、それは血が付着したことによるものではない。
姫神の皮膚が赤く変色しているのだ。勿論それは血による赤でも筋肉繊維の赤でもない。
そしてもう一つ。いつの間にか、本当にいつの間にか姫神の左右の手、一〇指の爪が獰猛な獣のように鋭く伸びていた。

「ハァアアアアア……」

化け物となって起き上がった姫神はその死んだ魚のような目で上条を捉えた。
僅かな間があった。獲物を見定めるような間が。思考が停止したことによる間が。
そして、

「っ!!」

突然にゾンビ(おそらくではあるだろう)へと変貌した姫神が長く伸びた獣のような爪を振るう。
咄嗟に身をかがめてそれを回避できたのは奇跡……というほどではないだろう。
思考がほとんど止まっている状態で反応できたのは上条にしては珍しく幸運だったと言えるだろう。
しかしそれは、一部の人間から『前兆の感知』と呼ばれるスキルだった。
特殊な予知能力の類ではない。あくまで洞察・観察力の延長線上にあるもので、英国第二王女なども同じような技術を持っている。
とはいえそれはやはり普通には得られない能力だった。

(ッぶねぇ……!!)

爪が鋭く空気を裂くブン、という棒を思い切り振ったような音が上条の耳を叩く。
本当に危ないところだった。少しでも掠れば、傷を負わされれば。
上条も同じく生きた亡者となってしまうのだから。

465: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:19:38.46 ID:XQ6abiS10
(こいつ……どういう理屈かなんて知らねぇが運動性能が桁違いだぞ!!)

この死人の軍勢は圧倒的な数とその感染力が脅威なのであって、単体で見ればそれほどの脅威ではなかった。
その動きは緩慢で、容易に振り切れるものだからだ。
しかしかつて姫神秋沙だったこいつは違う。のろまなゾンビとは比較にならぬ俊敏な動きで攻撃を仕掛けてきた。

「クソッ!!」

もともと上条当麻の戦闘能力は高くない。
無能力者である上条は何ら能力を有していない上、こんな存在に対してはジョーカーである右手も全く役に立ちはしない。
加えて相手がゾンビではない恐ろしい化け物であるならば、逃走を躊躇う理由など欠片もなかった。
ましてや。目の前の化け物は、姫神秋沙―――だったのだ。

走る。逃げる。
迷わず背中を見せて上条は全力で駆けた。
背後を振り返る必要などなかった。
わざわざ目で確認するまでもなく赤い化け物が追ってきているのを嫌でも感じる。
やはり死体とは明らかに違う。かなりの速度で走って追いかけてきている。

死を呼ぶ追跡者の重圧を背後に感じながら、上条は必死に恐怖を押さえ込んだ。
目の前のドアをバン、と開け放ち先ほど身を潜めていた厨房の辺りへ戻ってくる。
即座にドアを閉めて鍵をかけ、近くのロッカーにあったモップを引っ掛けてつっかえ棒のようにして侵入を防ぐ。
が、それも長くは持たないだろう。事実、今もドン、ドン!! とドアを激しく叩く音が向こう側から聞こえてくるし、その度にドアが激しく揺さぶられている。

466: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:22:38.39 ID:XQ6abiS10
かつては黒いロングヘアの似合う美少女だった。
上条は、もう考えることをやめた。心を無にしようと努めた。
これ以上姫神のことを考えればきっと動けなくなる。
そして今すぐここを離れなければ間違いなく殺される。

逃げるかしかない。どこかへ。
リスクなど無視して上条は表通りへと出る。
あの裏口は一本道で、そこにあの化け物がいる以上もはやあそこは使えない。
幸い、その道には今はゾンビの姿が見られなかった。
ただ道の脇にあるゴミ捨て場でやはりゾンビ化した猫がゴミを漁っているだけだった。

「早く、どこかに行かねぇと……。美琴はどこに行っちまったんだ……。
俺の知り合いはどこにいるんだよ……っ!! ちくしょうぉ……」

ゴミを漁る猫など無視して、気付かれないうちに上条は離れる。
どこを目指せばいいのかなど分からないが、とにかく動く。
もう、目的などなくなりかけていた。自分が何のために走っているのかさえ分からなくなりそうだった。
一体あと幾つの死をこの目で見なければならないのだろうか。

上条がそこを去ったおよそ一〇分後。先ほどまでゴミを漁っていた猫は、道端に転がる少女の死体の肉を食い漁っていた。
やはり濁った目で肉を引き千切り、咀嚼していた。
その三毛猫は、かつてツンツン頭の少年や白い修道服を纏う少女からスフィンクスと呼ばれていた。

467: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:23:47.27 ID:XQ6abiS10

垣根帝督 / Day1 / 10:19:46 / 第五学区 ショッピングセンター

「ここ、ほとんどゾンビがいないわね。どうしてかしら?」

「たまたまだろ。とはいえいつまでそれが続くか、って話だが。
閉じこもっても何も解決はしねえ」

商品が棚から崩れ落ち、様々なものが乱雑に散らかっていた。
それらを気にすることなく靴底で踏みつけながら垣根はつまらなそうに言う。
前を行く垣根が踏みつけにした容器から洗剤が捻り出され、心理定規はそれを慌てて回避する。
酷く荒れ果てた様子のショッピングセンターに二人はいた。

「つーかよ、上条や浜面を探すっつってもどうやってって問題があるよな」

「携帯は二人揃って私の部屋に忘れるっていう間抜けっぷりだしね。
まあ、すぐに通話なんて出来なくなるでしょうけど」

選別した物資を適当に頂戴しながら二人は店内を物色する。
当然会計など行わない。行う意味もないし、第一やりたくても出来ない。
こうなってしまえば札束などただの紙屑でしかなかった。

「適当に彷徨ってドンピシャであいつらに出会う確率ってどれくらいだろうな」

「あなたの能力で確率でも歪めてみたら?」

468: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:24:53.92 ID:XQ6abiS10
バーカ、と垣根は手をひらひらと振りながら返した。
そんなやり取りをしながら、しかし彼らは決して気を緩めてなどいなかった。
こうしている今も全方位に気を使い、気配を感じ取り、即座に反応・迎撃できるようにしている。
長い間暗部で勝ち残り、そのトップを張っていたのだ。
今はもう暗部ではないとはいえ、長年の癖のように骨の髄まで染み付いている。
そのおかげで、二人はすぐにその気配にも気付くことができた。

「……一体確認、だ」

垣根の視線の先には静かに佇む一体のゾンビ。
学園都市では少数派である大人であり、黒のスーツを身に纏っていた。
しかしその高価そうなスーツも今や血に汚れてしまっているが。

「うぇ……やっぱまだ慣れないわ。気持ち悪い。なんで臓器が腹からはみ出してんのよ……」

「……まあ俺らが散々経験してきたものとはまた別種の嫌悪感ではあるな」

言いながら垣根は銃口を動かぬ亡者へと向ける。
相手はこちらに全く気付いていない。なので垣根は遠慮なく鉛弾をぶち込むことにした。
バァン!! という銃声。放たれた弾丸は正確にその頭に風穴を空けた。
まるで糸の切れた操り人形のようにゾンビはばたりとその場に倒れ込む。
やがてゆっくりとその死体を基点に赤い池が静かに広がっていった。

「……頭を弾けばこいつらを殺せる。大事な情報よね」

「胴体にいくら撃ち込んでも全然死にゃしねえからな、こいつらは。
それより、今の声聞こえたか?」

469: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:26:29.54 ID:XQ6abiS10
「ええ、おそらく女の子の声ね」

垣根が発砲した直後、女性の声が聞こえた。
心理定規も聞いた以上気のせいなどではないのだろう。
人間の声。生存者の声だ。この近くにまだ生きている人間がいる。

垣根と心理定規は声が聞こえた方へと慎重に歩みを進める。
辿り着いた先は関係者以外立ち入り禁止の札が下がった倉庫だった。
二人は無言のまま一瞬目を合わせ、ドアを挟むように左右に分かれて立つ。
銃を構え、一息ついてから垣根はバン!! と一気にドアを開け放つ。
それを合図に二人は黒光りする銃口を即座に中へと向けた。

「ひっ……!!」

その音に驚いたのか、積み重なったダンボールの陰から怯えたような声が聞こえた。
やはり生存者が隠れていたらしい。
垣根と心理定規は油断なく室内に目を走らせ、化け物がいないことを確認してから銃を下ろした。
後ろ手に扉を閉め、外から見つからぬようにする。

「安心して。私たちは人間よ。……でも、これは……」

見てみると、そこには二人の少女がいた。
どちらもが名門中の名門、常盤台中学の制服に身を包んでいる。
一人はカールがかった茶髪の少女。一人は黒のロングヘアの少女。
だが黒い髪の少女の腕にはぐるぐると包帯が巻かれており、白いそれが真っ赤に染まっていた。
その近くには開け放たれたダンボール、辺りには散乱した物。
もう一人の少女が懸命に手当てしたのだろう。

470: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:27:10.39 ID:XQ6abiS10
「……やられたのか、そいつ」

垣根が腕から出血している少女、泡浮万彬を一瞥して呟いた。
現在のこの街の状況を考慮すれば、その怪我がどんなものかなど馬鹿でも分かる。
茶髪の少女、湾内絹保はそんな泡浮をずっと介抱しているようでその顔色は相当悪い。
おそらくそれは単に友人が傷ついたから、ではない。
湾内とて、きっと気付いているのだ。アンデッドに噛まれた泡浮が、どうなるかを。

「あ、あなたたちは……?」

湾内が怯えながら、だが確かに泡浮を腕を伸ばして庇いながら問うてくる。
おどおどしているようで意外に芯は強いのかもしれない。
その怯えながらも退くこともない眼に、垣根は内心感心する。

「俺は第二位だ」

垣根はただそれだけ告げた。
それを聞いた湾内は分かりやすくその表情を驚愕に染める。
当然である。超能力者など七人しか存在しないのだ。
しかもその第二位、同じ常盤台のエースである御坂美琴よりも序列が上となれば誰でも驚く。

「だ、第二位……!?」

「そう、ちなみに私は大能力者。……ねえ、あなた。
ずっと隠れていたって状況は何も好転しない。分かるでしょう?」

471: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:29:53.05 ID:XQ6abiS10
心理定規もレベルだけを告げる。
その能力が今のこの街では何の役にも立たないことは伏せて。

「第二位と大能力者。私たちと一緒なら生存率は飛躍的に跳ね上がるとは思わない?」

死にたくなければ一緒に来い。
垣根と心理定規はそう言っていた。
湾内と泡浮からすればそれはまさに垂らされた一本の蜘蛛の糸。
絶望に差し込んだ一筋の光。最後の希望だった。
しかし、

「泡浮さんは……」

湾内は即答しなかった。
ちらりと背後で横になっている泡浮に目をやる。
泡浮は意識を失っているのか眠っているのか何も言葉を発さない。
誰が見ても今の泡浮を連れて歩くことなど不可能だった。
そしてそれを湾内も理解しているからこその問い。

「それは……」

僅かに答えに詰まり、言いにくそうにした心理定規の様子を察した垣根は引き継ぐように宣告する。

「残念だが、そいつは置いていく」

無慈悲に、冷酷に、そう言い放った。
垣根はすっ、と湾内の背後にいる泡浮を指差し、

472: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:31:52.04 ID:XQ6abiS10
「その女は十中八九『感染』している。身内から生きた死体が出るのは避けたいんでな」

「……いつ『発症』するかも分からないし、ね……」

垣根と心理定規もこの事態が何らかの薬品や細菌の類によるものだという推論は立てていた。
そして傷を負わされた者が同じくゾンビと化すことも、知っていた。
ならば感染者である泡浮を置いていこうとするのも、当然と言えば当然だった。
ここで泡浮を連れて行った場合、突然背後から泡浮に首を噛み千切られる可能性すら否定できないのだ。
これがたとえば上条当麻だったなら、また対応は違っただろう。
しかし二人は“切り捨てる”ことができる人間だった。だからこそ最適解を選ぶことができる。選べてしまえる。

「お気持ちは大変嬉しいのですが」

湾内は毅然とした態度で、しっかりと二人を見つめて言う。
やはりその眼には明らかな意思があった。

「泡浮さんを連れて行けないというのであれば、わたくしはここを動くわけにはまいりません」

「残ってどうする。隠れていれば助かると思うほど馬鹿じゃねえだろ、常盤台のお嬢様よ」

「これはきっと最後のチャンスよ。あなたが生き残るための、ね」

湾内はあろうことか自分から希望を捨てた。
彼女とてここを逃せば生存の確率は絶望的と理解しているはずなのに。
生き残るために泡浮を切り捨てることを、湾内は良しとしなかった。
目の前の生よりも、友人と死を選んだ。それがどういうことを意味するのか、きっと正しく理解した上で。


次回 とある都市の生物災害 後編