とある都市の生物災害 前編
 

473: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:32:40.60 ID:XQ6abiS10
「ええ、分かっているつもりです。けれど、泡浮さんを置いていくというのならばわたくしはここに残ります。何があっても、絶対に」

「―――行って、ください、湾内さん……」

その時、立ち上がることも出来ないといった様子で横たわっていた泡浮が弱弱しく口を開いた。
その声は小さく、掠れていて酷く衰弱していることが一目で分かった。
湾内がはっとしたように振り返り、タオルでその額に流れる汗を拭いてやる。

「わたくしには、構わず……逃げて、ください……」

「何を言ってるんです。そんなこと絶対に出来ません。わたくしは最後までずっと一緒ですわ」

「逃げ、て……お願い、ですから……」

「嫌です。わたくしはここから離れません」

「……っ、この、馬鹿……ッ!!」

湾内は泡浮の震える手をぎゅっ、と握り精一杯の笑顔を浮かべた。
笑いながら湾内はこう言った。

「えへへ……初めて、怒られちゃいましたね」

「――――――っ!!」

引用元: とある都市の生物災害 

 

474: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:36:18.14 ID:XQ6abiS10
泡浮はもう何も言わなかった。言えなかった。
ただ、ほとんど動かぬ腕で目を覆い、静かに震えていた。
湾内は泡浮に寄り添って、笑っていた。幸せそうに、笑っていた。
きっと彼女はこの選択を、最期の時まで誇りに思っているだろう。
その勇気を、自分で褒めながらその時を迎えるだろう。

「―――……『表』の人間ってのは、どいつもこいつも救いようのねえクソ馬鹿ばっかだ。本当にな。本当に―――クソッタレが」

「…………」

それを見ていた垣根と心理定規はもう何も言えなかった。
その選択を誤りであると断じることなど、出来はしなかった。
二人は湾内と泡浮に背中を向け、立ち去っていく。
もう一度最終確認をするなんて野暮なことはしない。
ただ、垣根は最後に一つだけ訊ねた、

「なあ。湾内と……泡浮っつってたか。お前ら、覚悟はできてんだろうな?」

垣根が呟くと、湾内と泡浮がこちらを振り向いた。

「自分が自分でないものに変わっていく恐怖。
そんな友人を見ていることしかできない無力感。
果たして一体それはどれほどのものになるのかしらね」

彼女たちの持つ想像力が彼女たちを追い詰める。
極端な話、泡浮がゾンビとならなくても二人の心は想像という化け物に食われて消滅してしまうかもしれないのだ。
二人はいつ訪れるかも分からぬ運命の刻を、ただ震えて待つことしかできない。
その時を、選ぶ自由と権利さえもない。

475: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:37:20.05 ID:XQ6abiS10
「Fear of death is worse than death itself」

「え……?」

心理定規が流暢な口調で警告するように告げる。
垣根は懐から一丁の拳銃を取り出し、二人の方へ蹴飛ばしてシャー、と床を滑らせた。
これはもともと持っていたものではなく、警備員の死体から得たものだった。

「弾は何発か入ってる。セーフティも外しておいた。
引き金を引くだけで撃てる状態ってわけだ。“使い方は、好きにしろ”」

湾内と泡浮はその拳銃と二人を交互に見て、最後に聞いた。
湾内絹保の顔からは、やはり後悔など欠片も読み取れなかった。

「お名前を、教えていただけませんか」

「垣根帝督、だ」

「心理定規って呼んでちょうだい」

「垣根様、心理定規様、……ありがとうございます。どうかお気をつけて」

言葉はそれきりだった。
垣根と心理定規はもう何も言わず、倉庫を後にした。
その空間に残ったのは湾内絹保と泡浮万彬の二人だけだった。

476: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:39:25.08 ID:XQ6abiS10


Files

File16.『関係者各位への連絡事項』

最近、事情は不明であるが下水道を始めとする水道関係に問題が生じたとのこと。
上水・下水共にこれまで以上に気を使わなければならない。
以前お客様からのお叱りを受けたことがあった。
お客様からの信用を失わぬためにも定期的に点検を行うこと。
また定刻の水質検査も更に入念に行うこと。

特に飲料水を製造・水を使用する際には二重三重の確認を怠ってはならない。
『食』という分野に携わる我々は、お客様の信頼にお応えしその品質を保つ責任があるのだから。




File17.『女子生徒の走り書き』

ごめんなさい


その下に、また違う筆跡で何かが書かれている。


ありがとう

477: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/20(月) 23:47:21.76 ID:XQ6abiS10
死の恐怖は死そのものよりも人を悩ます

というわけで投下終了
現時点での彼らの精神的ダメージをバイオハザード風に表すなら

上条さん Caution(orange)

美琴 Caution(yellow)

垣根 Caution(yellow)

浜面 Fine(green)

一方通行 Fine(green)

といったところでしょうか、まあFineと言っても割とギリギリの、ですけどね
次回は一方通行シナリオと美琴シナリオ、多分遅くなります

496: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:28:38.51 ID:4gmxybls0

一方通行 / Day1 / 10:36:45 / 第九学区 新聞社

第七学区とも隣接している第九学区は工芸や美術関連の学校が多く集まる学区である。
日本では珍しいことに年功序列制がなく、完全なる実力主義というある種厳しいともいえる制度を採用している。
一方通行と番外個体がそんなところにいるのは、当然そういった方面に目覚めたなんてわけではない。
そもそも今の学園都市でそんなことは不可能だが。

「やってるな。だがあれじゃすぐに押し切られンぞ」

「おーおー、まるで映画みたいなシチュエーション。で、どうするの?」

ある建物を中心にして、数えることを一瞬で諦めたくなる数のゾンビが集まっていた。
漂う濃密な死の臭い。死の集団はおぞましい光景を作り出していた。
そしてその亡者による包囲網の中心地点。そこにある新聞社を拠点に次々にアンデッド共が蹴散らされていく。
突如吹き荒れた不自然な烈風がゾンビを纏めて薙ぎ払う。風速にして三、四〇メートル程度だろうか。
そしてそのすぐ近くでは人工の電撃が。炎が。一見何を操っているのか分からない力までが。

風紀委員。彼らはそう呼ばれる治安維持組織の一員だった。
新聞社の中には生存者が幾人か避難しており、その人たちを守るべく生と死の狭間の者共相手に奮闘しているのだ。
見上げた精神じゃねェか、と一方通行は誰に言うでもなく呟く。
だがやはりじりじりと包囲網は狭められていく。如何せん数が多すぎるのだ。
このままでは確実に風紀委員たちは倒れ、中の人間諸共文字通り全て食い尽くされるだろう。

497: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:29:25.13 ID:4gmxybls0
見殺しにするのも寝覚めが悪いと一方通行は自身の能力を開放する。
学園都市第一位の能力、『一方通行』がその身に宿る。
その力はあらゆるベクトルを観測し、操ること。

「丸くなったねぇ第一位。本当、丸くなりやがった」

ニヤニヤと笑みを浮かべる番外個体を無視して一方通行はコマンドを実行。
轟!! と大気の戦乱が巻き起こる。
風紀委員の起こした烈風がままごとに思えるような、冗談のような破壊だった。
風速にして一二〇メートルにも達するそれはありとあらゆるものを片っ端から巻き上げ、粉砕していく。
見えざる巨人の手はあっという間に死者の軍勢を洗い流し、しかし中央に建つ新聞社だけは不自然に破壊を免れる。
その間僅か一〇秒足らず。一方通行は自身の生命線であるバッテリーを極限まで節約する術を身につけていた。

「ひゃっはー!! 汚物は洗濯だ!!」

莫大な気流の嵐に呑み込まれたゾンビ共は全身が押し潰されるようにひしゃげ、四肢が千切れ、天高くから地面へと容赦なく叩きつけられる。
その際に臓物などが撒き散らされ、食道が破れたからかそれこそ鼻がもげそうなほどの異臭が発生していた。
番外個体はそんな地獄のような光景でもいつもの調子を崩さない。この環境に適応してしまっているのだろう。
一方通行は番外個体にこんなものを見せたくなどなかったが、もはや今の学園都市ではそれは不可能だと割り切ることにした。
この街のどこにいても悪夢のような光景からは逃げられない。
それよりも重要なのは番外個体を守り抜くことだ。

これに驚いたのは奮闘していた数人の風紀委員たちだった。
彼らはカツ、カツ、と現代的なデザインの杖を突いて歩いてくる白髪の少年と顔つきの悪い少女を呆然と見つめていた。

498: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:36:57.41 ID:4gmxybls0
「あ、あなたたちは……?」

肩下まで伸びた薄らと赤みがかった茶髪の少女がぽかんとした表情のまま問うた。
先ほど烈風を巻き起こしていた少女だろう。
この少女も、他の風紀委員たちもこんな時だというのに律儀に全員風紀委員の腕章を付けていた。
市民を守るための盾。腕章に誇りを持った風紀委員なのだろう、本当に立派な志で、と一方通行は思った。
別に小馬鹿にしているのではない。内心素直に賞賛していた。

「何でもイイ」

「おおう、風紀委員ってヤツかい。ミサカこうしてお目にかかるのは初めてだよ」

一方通行はザッと目を走らせる。
風紀委員の人数は五人。その内二人が重傷を負っていることに気付き、一方通行はその紅い目をスッ、と細める。

「オイ、そこの連中は」

「大丈夫。噛まれたわけじゃない。奴らの能力にやられたんだ」

庇うように高校生程度の茶髪の少年が説明する。
どうやらやはり彼らも噛まれることの危険性くらいは理解できているらしい。
ともあれこの少年の話が本当なら一方通行の考えた可能性は杞憂ということになる。

「なあ、あんたは一体何者なんだ。さっきの力は並大抵の能力者じゃないぞ……?」

「けけ、この白髪野郎はこんなんでも“一応”第一ぁ痛てっ!!」

499: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:37:53.50 ID:4gmxybls0
必要のないことをべらべら話そうとする番外個体に手刀を食らわせ、一方通行は自身の攻撃で形が削られた周囲を見て、

「この建物の中には何人いる」

「見せたほうが早いね。着いてきてよ」

「こんなんすぐに食い破られそうなものだけどねぇ」

風紀委員に連れられて一方通行と番外個体は新聞社の中へと立ち入った。
その二階の、とある一室に生存者が集まっていた。
小さな子供から大人まで。一〇人はいるだろうか。
その誰もが小さく身を竦め、顔色は酷く悪かった。中には震えて涙を流す者すらいた。

しかし当然のことだ。一方通行や番外個体はまだいい方だ。
人間の死体など見慣れているし、殺す・殺されるという行為にも馴染みがある。
何しろそういう世界で生きてきたのだ。その分耐性があると言える。
だが本当の一般人である彼らにはこの惨状はあまりにも悪夢的だ。

「感染者は? もしいるのならすぐに隔離すべきだと思うけど」

そしてそれを理解した上で、番外個体はさらりと言う。
仕方ないのだ。この世界はもう、そういう場所なのだから。

「ゼロよ、今のトコね。……あれ、ちょっと待って。あなたどこかで見たことあるような……。たしか常盤台の……」

「オイ、ンなことはどォでもいいンだよ。ここの戦力はどれくらいだ?」

500: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:38:53.51 ID:4gmxybls0
「風紀委員が六人。それと銃器があるんだが……こっちだ」

今更番外個体について殊更隠す必要などないのかもしれない。
クローンであることが発覚したところで、この死んだ学園都市ではもはや何の問題も起こりはしない。
だがそれでも良い気はしなかったので一方通行は適当に誤魔化しておいた。

「とりあえず、あんたたちに礼をしておきたい。
あんたがいなかったら危ないところだった。ありがとう」

廊下を歩いている時に、ふと少年の風紀委員がそんなことを言い出した。
一方通行の独特すぎる風貌にも物怖じする様子は見られない。
それは風紀委員であるが故か。そもそも一方通行などよりもよほど恐ろしい化け物がうようよいるのだから当然かもしれないが。
素直な感謝の言葉に一方通行はどう反応するべきか判断しかね、顔を背けてチッ、と舌打ちした。

「この人の弱点は真っ直ぐな好意。つーかこのミサカ的にもそういうのは遠慮したいんだけど。もっとドロドロしていこうよ。
こう、生存者同士が食料や武器を巡って殺し合いみたいな?」

「なァンでオマエが偉そォにしてンだよ。あとこの状況だと割と笑えないからその冗談はやめろ」

「はは、変わった子だな」

そんなことを話しながら彼らは資料室のような一室へとやって来た。
その中央にある長机の上にはいくつかの重火器が無造作に置いてあった。
大型のグレネードランチャーやショットガン。どう見ても風紀委員の備品とは思えない物々しい装備だった。
一方通行はその内の黒光りするショットガンを手に取る。どうやらセミオート式のようだ。
一メートルほどの長さの銃身を持つその銃は、ストックが好みに合わせて伸縮できるようになっていた。

501: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:40:08.64 ID:4gmxybls0
「私たち風紀委員は銃器の扱いなんて学んでなくてね。そいつは警備員の領分だから、回収したはいいけど使い手がいない状態でさ」

一方通行は自身の杖をシュッと縮め、代わりにそのショットガンを杖にしてみる。
どうやらだいぶ丈夫な作りになっているらしく銃身が体重で曲がるようなことはなさそうだった。

「なら俺が貰っておく。構わねェな?」

「そりゃ問題ないが……大丈夫なのか? こう言っちゃ悪いが、重火器を扱えるような体つきには見えないが」

「本当だよ、無理すんなモヤシ。反動で死んじゃうかもしれないよ? 大丈夫? その銃持てるかにゃ?」

「ブッ飛ばすぞ?」

「ま、使い手を求めるならこのミサカ以上の適役はそういないと思うよ。
そうだねぇ、じゃあミサカはこのグレネードランチャーを頂戴しようかな。
他にも『演算銃器(スマートウェポン)』とかないのかよ?」

結局『演算銃器』なんて特別なものは見つからず、番外個体は大型のグレネードランチャーで妥協した。
普通の人間には扱いが困難であるが、番外個体は本人の言う通り特別なのだ。
御坂美琴の生体クローン、妹達の一人。軍用として、そして番外個体に限れば一方通行の殺害のために生み出された存在。
そのコンセプト故にあらゆる銃器の扱いや格闘能力、ヘリや船の操縦方法までもが『学習装置(テスタメント)』によってインストールされている。
もっとも、妹達の反乱を予防するための安全装置として作られた打ち止めのみは研究員でも制御できるようにと身体能力などが抑えられているのだが。

502: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:40:50.62 ID:4gmxybls0
「しまったな。あの時病院にいる妹達から『オモチャの兵隊』でも貰ってくりゃよかった」

番外個体がグレネードランチャーを点検しながらふと思い出したように呟いた。

「オマエに割く分はなかったかもな。あそこの守りは最優先事項だろォし」

そんなことを話しながら一方通行が最大まで弾丸が装填されていることを確認した時だった。
突然外から耳を劈くような絶叫が響き渡った。
バッと皆が一斉に窓の方を振り向く。一方通行は咄嗟に番外個体を守るように無言で前に出る。

「外には見張りの風紀委員しかいない!! きっと襲われたんだ!!」

「チッ!!」

舌打ちして、動いたのは一方通行ではなかった。
赤みがかった茶髪の少女。風を操る彼女が躊躇なく窓から飛び降りたのだ。
たしかに大した高さではないとはいえ、その行動力と決断力は並のものではない。
あるいは、それこそがこの地獄にあって尚彼女を今まで生き残らせてきたのか。

「おおっ、やるじゃん」

「番外個体、オマエはここに残れ。イイな、絶対に動くンじゃねェぞ!!」

一瞬だけ電極のスイッチを切り替え、同じように飛び降り、着地し、通常モードへと即座に戻す。
消費は最低限。一方通行が着地したアスファルトには僅かなヒビが入っていた。

「丁重にお断りするよ。ミサカは守って守ってなんてお姫様タイプじゃない。上位個体じゃねーんだっつの」

504: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:41:46.60 ID:4gmxybls0
続いて一方通行の言葉を完全に無視し、番外個体が飛び降りる。
スタッ、とつま先から着地し膝を折り曲げ三度に分けて衝撃を吸収。軍用らしい完璧な体捌きだった。
一方通行は思わずブチ切れそうになったが、どうせ何を言ってもこいつは引かないだろうと思い諦める。
目の届くところで管理できると発想を変えることにした。それに、番外個体の実力は十分頼りになる。

「辺りにゾンビの姿は見えないね。一体―――」

その瞬間。掛け値なしに一方通行の思考は僅かな間完全に停止した。

「――――――」

パパッ、と。一方通行の陶磁器のような皮膚にほのかに熱を持った液体がかかった。
その顔に、白い皮膚に、服に。鮮血が飛び散った。
すぐにそれは巨大な滝のような勢いへと変わり、比喩でも何でもなく本当に血の雨を降らせていく。

目の前の人間。風紀委員の少女。茶髪の少女。
その少女の首から上が、なかった。

瞬間で少女の首が、胴体から完全に切り離されていた。
一方通行のつま先に何かが当たる感触がした。
見てみれば、それは人間の生首。化粧がいらない程度には整っていた少女の顔が、頭部がごろごろと転がってきていた。

「は、」

「こりゃ……また、」

全身に指令を送る頭を失った体は電池が切れたようにばたりと倒れる。
その首からは蛇口を限界まで開いたようにひたすら、ひたすらに血液が破裂するように吹き乱れていた。
誰がどう考えても即死だった。首を飛ばされて生存できるわけがない。
これまで奮闘してきた風紀委員が。あまりにも呆気ない最期だった。

505: >>503 コミックス派の人のことを失念していました、もう解禁してるから大丈夫かと……申し訳ありません 2014/01/27(月) 23:43:42.39 ID:4gmxybls0
明らかに人間のものではない奇声が聞こえた。
そして一方通行はゾンビではない化け物を見た。
全身が鱗のような緑色の皮膚で覆われ、長く鋭い爪があった。
それが風紀委員の少女の命を易々と奪った凶器であることは考えるまでもなかった。
二本の手、二本の足。まるで人間と爬虫類の中間のようだ、と一方通行は思った。

その化け物。全く得体の知れない化け物に、血の雨を浴びながら一方通行は無言でショットガンを容赦なく撃ち放つ。
ガァン!! という銃声と共に強い反動が肩にかかるが、一方通行は的確にその衝撃を上手く逃がしていく。
だが。全く予想外なことに、その化け物は驚異的な俊敏性でその場を跳ね、銃弾の雨から逃れて見せた。
おそらく銃弾を見て回避したのではない。一方通行の動きに反応したのだろう。

「このクソ緑が、スクラップにしてやらァ!!」

一方通行が戦闘体制に入る。彼は一瞬上を見上げて叫んだ。

「降りてくるンじゃねェ!!」

見上げた先には一方通行や風を操る少女のように窓から飛び降りてこようとしている風紀委員の少年の姿があった。
一方通行の声を聞いた少年の体がぴたりと停止する。
隙の大きいショットガンではなく、細かい修正の利くハンドガンを抜いて弾丸をばら撒きながら指示を出す。

「オマエら風紀委員はそこにいる連中を連れてさっさとここから逃げろ!!
それと番外個体、オマエは引っ込ンでてもイイぞ」

506: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:44:50.32 ID:4gmxybls0
この新聞社の中には十数人の人間がいる。
こいつらの相手をしながら守りきるには厳しい数だった。
そして番外個体はと言えば彼女も当たり前のように化け物と交戦を開始していた。
ダンダン!! と番外個体の持つハンドガンが火を吹くが、やはり捉えるには至らない。

「冗談!! っつうか時間制限があって能力を満足に使えない上、能力なしじゃ杖つきのアンタよりミサカの方がよほど役に立つと思うんだけど?」

一方通行はチッ、と舌打ちする。
悔しいが番外個体の言葉は真実を突いている。
巻き込みたくないとか、荒事に関わらせたくないとか、そういった感情を一切抜きにして。
理屈だけで考えるならば、実際番外個体はおそらく一方通行よりも安定した戦力を発揮する。

「第七学区にあるでけェ総合病院に行け!!」

上階にいる風紀委員に指示を飛ばす。彼らの反応など一方通行はいちいち気にしなかった。というよりも、気にしていられなかった。
恐ろしく俊敏に動く化け物を一方通行の銃は捉えられずにいた。
化け物が大きく跳躍し、その長く鋭い爪を構えて飛びかかってくる。
あれを食らえば風紀委員の少女のようにあっさりと首を刈り取られてしまうだろう。

対する一方通行は杖にしたショットガンの先を左方向に大きく出し、アスファルトを突きながらさながら幅跳びのように跳ぶ。
緑の化け物の攻撃は空振り、一方通行に背中を見せる形で隙ができた。
そしてこれは決定的な隙。この好機を逃すほど第一位は甘くない。
すかさずショットガンを構えて対象を蜂の巣にしようとしたところで。

507: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:45:20.07 ID:4gmxybls0
ぐるん、と。緑の化け物がこちらを振り向いた。

「な、ン……ッ!?」

この化け物はそもそもの構造が人間と違った。
反応速度が違った。腕力が違った。瞬発力が違った。
だから、人間なら確実に動けない隙であっても、この化け物なら反応できても何ら不思議はない。
今度は一方通行に隙ができる。だが、

「足手纏いになってんのはテメェじゃねえかクソ野郎!! 手間かけさせないでよ第一位!!」

番外個体がその右手をブン、と振るう。
バヂッ、という紫電が弾ける音と共に二センチほどの鉄釘が撃ち出された。
美琴の超電磁砲とは違う、単純に電磁力で弾丸を射出する方式。
音速を超える程度の速度、威力は銃弾と大差はない。
しかし。慣れのおかげで拳銃よりも早く放てるという利点が番外個体にはあった。

「ギャシャァァァァアア!?」

番外個体の放った鉄釘は、グチュリと嫌な音をたてて緑の化け物の眼球に突き刺さった。
完全に目玉が潰れてしまっている。絶叫し、のたうつ化け物を見て、

「情けねェが、この体じゃやっぱり能力なしで正面きってやるのは厳しいか。礼は言っておく」

一方通行は完全な零距離でショットガンの引き金を引く。
散弾銃。この手の銃は派手に弾がばら撒かれるものだが、しかし今回は零距離だ。
弾丸が方々に散らばる前にその全てが面白いほど完璧に緑の化け物へと突き刺さった。
もともとが学園都市特製の独自規格。その威力も『外』のものより遥かに高い。
全身の至る箇所を内部から破壊された化け物はぼろ雑巾のように吹き飛び、動かなくなった。

508: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/27(月) 23:45:57.00 ID:4gmxybls0
「……何とかなったか」

一方通行は呟いて。そして、電極のスイッチを能力使用モードへと切り替えた。
近くにあった道路標識を力任せに引き抜いて、まるで槍投げのように背後へと投擲する。
ベクトル操作された道路標識は尋常ではない速度で空を切り突き進む。
そして勢いそのままに何十メートルも先の避難していた十数人の人間、彼らを守っていた風紀委員に襲いかかろうとしていた別個体の緑の化け物の頭部をあっさりと貫いた。

「わーお、お仲間さんのご到着だ」

「問題ねェよ。すぐに終わらせる」

カチャ、という手と同じく鋭く伸びた足の爪がアスファルトを叩く音。
一方通行の背後に、同じ緑の化け物が更に三体立っていた。

(逃げるための援護はしてやった。
あいつらが無事にあの病院まで辿り着けるかは風紀委員共の腕にかかってるだろォな)

そんなことを考えながら、一方通行は立つ。
その身に最強の能力を纏って。獲物を射抜く眼光を放って。

(本当なら能力は使いたくなかったが……流石にチカラァなしで三体を相手にすンのは厳しいな)

だからこその速攻。それが最適解だろう。
番外個体を戦力に数えても三体を相手にしてどうかと言われると推測しづらい。
一撃もらえば終わるかもしれないという制約も相当に難易度を引き上げていた。
それに先の戦いで一方通行は危ないところを番外個体に助けられている。
バッテリーは節約しなければならないが、あまり惜しみすぎても駄目だ。

「悪ィなァ。こォなっちまったらオマエらはもォ終わりだ」

ここは能力を解放すべき場面。一方通行がそう判断したということは。
ドン!! という轟音が遅れて響き。
先の戦闘が嘘のような一方的な暴力が一瞬展開され。
それで、勝敗は速やかに決した。

524: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:15:49.51 ID:BehmeC6L0

御坂美琴 / Day1 / 13:24:31 / 第六学区 路上

ホラーというものが好きではなかった。
ホラー映画とか、ホラーゲームとか、一部の人間には結構な需要があるらしいがてんで興味が湧かなかった。
映画はそんなに観る方ではなかったし、ゲームもゲームセンターを除けばほとんどやらない。

だから、これは想像でしかない。
観たこともやったこともないけれど、頭の中にある断片的な情報を繋ぎ合わせて浮かんだ曖昧なヴィジョン。
如何にもホラー映画なんかで出てきそうだ、という想像。
とはいえ、それは心霊映画の類の話ではない。
鏡を見たら長い髪の女が後ろに立っていたとか、寝ていると金縛りに遭うとかいうものではなかった。

もっと、得体の知れない化け物が出るような。適切な言葉が見つからないが一般にB級と呼ばれそうな、そんなホラー。
もっともホラーを観ないためにそれすらも曖昧な想像でしかないのだが。
何となくそう直感した。

ジャラジャラという鎖が擦れるような金属音。
真っ先に目を引くのはそこだ。
どう見てもそれは手錠だった。両手首を繋ぎ合わせ拘束する大きな手錠がはめられていた。
更にその両足首にも同様の拘束具が見て取れるが、それは二本の足を繋げてはいないため歩行に支障は出ていないようだ。
その両足首にはめられた二つの金属輪からそれぞれストラップのように鎖が伸びている。
千切れたその鎖をやはりジャラジャラと音をたてて引き摺りながら、ゆっくりと歩いてくる。

525: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:17:01.78 ID:BehmeC6L0
ところどころ大きく破れている、ボロボロの布切れを纏っている。
その頭部には……何だろうか、あれは。
皮のような布のような、ベージュに近い色をした何かが何重にも何重にも、たくさんベタベタと貼り付けられていた。
その肩の辺りにはどういうわけか大きな眼球があった。

ゾンビのように肉が腐り落ちているようなことはない。
けれど、その監獄から脱獄してきた囚人のようなそれは化け物だった。
本物の、化け物。ゾンビだとか緑色の鱗を纏った化け物とか脳を抉って食す化け物とか。
そんなものとは比較にならぬ圧倒的な異形であると、誰に解説されずともひしひしと感じる。

明らかにこの化け物はこちらに用があるようだ。
美琴はスッ、と目を細める。

「……お、姉ちゃん……」

「―――下がってて」

やはり何かを嫌でも感じるのだろう。
それこそ金縛りに遭ったように言葉も出せずに震えている硲舎佳茄を、美琴は片手で制す。
美琴の直感は正しかった。御坂美琴は、この学園都市を這いずる異形の中で最も恐ろしいものの一つと対峙しているのだ。

「キィヤァァァァァァ!!」

甲高い金切り声。もしかしたら生前は女性だったのかもしれない。
もっとも、もはやこれの性別など論じる意味は全くないのだろうが。
走り出した。鎖の化け物が走り出して、その拘束された両腕を振り上げて美琴の脳天に向けて振り下ろす。
金属製の拘束具による頭部への打撃。そしてどんな効果があるのかも分からない、謎の手を。

526: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:18:48.52 ID:BehmeC6L0
だがそれは美琴を捉えることはない。
素早くバックステップして距離を取り、お返しとばかりに高圧電流を叩き込む。
ズドン!! という炸裂音。最大出力から程遠いそれは、しかしそこいらの異形を消し炭にする破壊力を秘めている。
だが鎖の化け物は死なない。倒れさえしない。少し怯んだだけだった。
そして―――鎖の化け物の体から、何本ものうねうねと蠢く触手が突然生えた。

「な、っによ、こいつ……!?」

肩口から、背中から、腰から、腕から。不気味な触手が姿を見せる。
その異常な姿に美琴の動きが止まる。
ゾンビならば嫌というほど見てきたが、こんな化け物はお目にかかったことがない。
美琴は自身の感が正しかったことを確信する。

鎖の化け物が金切り声をあげる。それは思わず耳を塞ぎたくなる甲高い音域。
美琴はその通りに咄嗟に両手で耳を覆う。が、そこで美琴は見た。
その叫び声に呼応するように、この化け物から何かが放たれた。

放たれたそれは、バスケットボールほどの大きさの火球だった。
それは、学園都市製の能力だった。

「こいつ……、やっぱり……っ!?」

美琴は磁力の盾を展開しながら歯軋りする。能力を使ったこと自体は問題ではないのだ。
これまでも能力を使う死者を見ているから、特別驚愕することではない。
問題なのは。『これ』が人間だったこと。それも学生であったことが確定してしまったことだ。

527: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:20:48.18 ID:BehmeC6L0
結局、美琴はこれまで一度もゾンビすら殺せていない。決定的に『殺す』という行動が取れずにいる。
であれば、この鎖の化け物もまた同様に。

だがしかし、美琴はそこで信じられないものを目撃する。
絶対にあり得ないはずの現象を。あってはならないそれを。
鎖の化け物の周囲に赤い水が球体となって浮かんでいた。
それは人間の血。おそらく周囲の死体から持ってきたのだろう。

「―――できるはずない」

美琴は思わず呆然として呟いた。
それが水であるか血であるかなどどうでもいいのだ。
この化け物は先ほど火球を美琴に向けて放っている。
だが今こいつが操っているのは炎ではなく液体。『発火能力者(パイロキネシスト)』にできるものではない。
今のこれはどう考えても『水流操作(ハイドロハンド)』の領分だ。

「あり得るわけがない……。本当に、こいつは一体何なのよ……!?」

空中に浮かぶ赤い球体が自在にアメーバのようにぐねぐねと形を変える。
沸騰するようにごぼりと音をたて、地獄に咲き誇る彼岸花のように。

だがそれは『能力は一人につき一つ』という学園都市の根本的法則に抵触する。
『多重能力者(デュアルスキル)』は絶対にあり得ないのだ。
だというのに、こいつはどう見ても二つ以上の能力を行使している。
美琴はかつて木山春生という科学者と交戦したことがある。
木山は脳波のネットワークを使うことで『多才能力(マルチスキル)』となっていたが、これはそれとも違うようだった。

528: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:22:20.47 ID:BehmeC6L0
『多重能力者』。絶対にあり得ないはずのそれを、鎖の化け物は体現していた。
―――とはいえ。全てが狂ったこの街で、想像の及ばない異形の蠢くこの街で、この程度驚くことでもないのかもしれないが。
しかしそれでもこの鎖の化け物は間違いなくイレギュラー。二重の意味で常識の枠外の存在だった。

赤い球体が弾丸のように放たれる。ただの液体とはいえ、それはコンクリートにも穴を空けてしまいそうだった。
美琴は身構えるが、しかしそれは美琴とはまるで違う方向に飛んでいく。

(―――まさか)

一瞬事の意味を考え、最悪の想像を思い描き。
果たして、その通りだった。

「―――佳茄ちゃんっ!!」

鎖の化け物の放った弾丸は、美琴が下がらせ物陰に隠れていた佳茄へと突き進んでいた。
咄嗟に美琴は叫ぶが、佳茄は動かない。
いや、動けないのだろう。それは恐怖によるものとかそういう話ではない。
単純に小学一年生の子供では反応できない速度であっただけだ。

「くっ……!!」

美琴は即座に磁力を展開。道路わきにある看板を無理矢理に引き剥がす。
同時平行でマンホールを二、三枚操作して、それら全てを超スピードで佳茄の前に盾として多重展開。
血の弾丸から佳茄を守り、着弾点を大きくへこませそのまま地面へと落下した。

529: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:23:31.81 ID:BehmeC6L0
「お、お姉ちゃん……ごめ、あの、ありが―――」

何が起きたのか佳茄はよく理解できていないだろう。
それでも美琴に助けられたことは分かったらしい。
戸惑いながらも何事か話していたがそれを聞いている余裕はない。

「佳茄ちゃん、つかまって!!」

「え、ひゃあっ!?」

美琴は佳茄の手を取ると自身の背中におぶる。
もはや隠れさせておくよりこうした方が安全だと判断したためだ。
今回は何とかなったが、美琴が動けない時に佳茄を狙われてはたまらない。
お返しとばかりに更に出力を上げた雷撃の槍を放つも、やはり効果は薄い。
鎖の化け物の体が一部焼け焦げ、熱傷ができたもののそれは驚異的な再生能力でみるみると治癒されていく。

「キィアアァァァアアアアアアッ!!」

鎖の化け物が絶叫すると、『力』が美琴と佳茄を襲った。
それは炎であり氷であり電撃であり水であり念動力であり風であり。
多くの能力が組み合わさった得体の知れない莫大な力の奔流。
『多重能力者』だからこそ実現できた攻撃。

複数の能力が絡み合い、化学反応のように相互に反応し合い更に形を変えていく。
その本質すら分からなくなった、文字通り『力』としか表現できない未知の塊が二人を飲み込もうとしている。

530: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:25:02.13 ID:BehmeC6L0
「冗談じゃないわよ、こんな化け物とやってられるかっての!!」

美琴は磁力を使ってその場を飛び跳ねて回避し、ビルの壁面に垂直に着地する。
佳茄がパニックになりかけているが絶対に落ちないよう抱えているので大丈夫だろう。
鎖の化け物がこちらを見る。その顔には布のような皮のようなものが何重にも張り付いているため目も顔も見えないが、確かにに視線を感じた。

このままあの化け物とやり合っても、力負けするとは思わない。
けれどあの再生能力では一体どれほど叩けば行動を停止するか分かったものではないし、こちらには佳茄もいる。
また『多重能力者』という特性を考えれば全く想定外の攻撃を受ける可能性も高い。
『感染』の危険も考えると―――あの鎖の化け物も亡者共と同種なのかは分からないが―――あまり関わり合いになりたくはない。
そしてそもそもの話、美琴にはあの化け物と一戦交える理由が一切ない。
で、あれば、

(撤退あるのみ逃走一択!!)

美琴は佳茄の目を自分の手で塞ぎ、小さく告げる。

「佳茄ちゃん、目を瞑って。絶対に開いちゃ駄目よ、いい?」

「ふぇ……? う、うん……」

カァッ!! という閃光が突如迸った。
美琴の全身から激しい閃光が放たれたのだ。
それは煙幕のような目くらましとなり、鎖の化け物から一時的に隠れさせてくれる働きを持つ。
全てが白い輝きに包まれた中で、美琴は佳茄を抱えたまま次々に磁力線を繋げ、建物から建物へと飛び移り猛スピードでそこから離脱する。
あんなとんでもない化け物と無理に交戦する必要など全くないのだ。

531: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:27:22.74 ID:BehmeC6L0
どれくらい離れただろうか、鎖の化け物は追って来ていない。
逃げ切ったことを確信した美琴はようやく止まり、佳茄を降ろしてふぅ、と大きく息を吐いた。
ゾンビではない、別の化け物。今の学園都市の脅威を美琴は認識し直した。

「……ねぇお姉ちゃん……。さっきのお化け、何か言ってた……」

「え?」

「すごく小さい声で『ママ』って……。お母さん、どうしちゃったんだろう……?」

佳茄のその言葉に美琴の顔が固まる。
何も分からない。その言葉だけではあの鎖の化け物については何も分からない。
けれどそこにどうしようもなく恐ろしい何かを感じて、美琴は身震いした。
何の根拠もないのだけれど、そこにはやりきれない何かがあるように感じられた。

(『ママ』、か……)

悲しげにしている佳茄の頭を撫でてやりながら、美琴はその言葉を反復し。
考えても仕方がないと考えることをやめた。
そして、ふと疑問に思った。それはあの鎖でもなく『多重能力者』についてでもなく。

(あいつの顔に張り付いてた皮みたいなもの。あれはなんなんだろう……?)

532: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:28:14.50 ID:BehmeC6L0

Files


File18.『誰かが書き残した手記』

Sep.05,20XX

注射で頭がボーっとする。
お母さんに会えない。どこかに連れていかれた。
二人で脱出しようって決めたのに私だけ置いていくなんて……。

533: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:28:51.75 ID:BehmeC6L0

上条当麻 / Day1 / 13:59:36 / 第一五学区 食肉用冷凍倉庫

第一五学区は学園都市最大の繁華街がある学区であり、様々な流行発信地でもある。
その特性故にこの学区には住んでいる人よりも他学区からここを訪れる人の方が遥かに多い。
しかしそれらは全て過去形となる。そして人が多かったということは、それだけ歩く死者が多いということだ。

そんな第一五学区の外れ。食肉用の冷凍倉庫に上条当麻はいた。
その近くには巨大なステーションワゴンが停めてある。
上条はそれに背中を預けたまま座り込んでいた。

「……そろそろここを出た方がいい。長居しすぎだ」

上条は呟く。だがそれは相手のいない、精神的にまいってしまったための独り言などではない。
上条が言葉を発した以上、それを聞く相手がいるのだ。

「何を言っているんだ!? 正気なのか!?」

その相手は三〇代後半から四〇代前半の、小太りの男性だった。
黒のスーツに身を包み、サラリーマンのような風貌だったがその着こなしは乱れている。
特別暑くもないのにその額には汗が浮かんでいて、それは彼の心情を表すものであった。

534: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:30:11.71 ID:BehmeC6L0
「外の状況を分かっているのか!? わざわざ死にに行くようなものだ!!」

「ここにいたってそれは変わらない。奴らはすぐにもここを見つけるよ。
囲まれてから動いたって遅いんだ、一箇所に留まり続けるのは上策じゃない」

その状況判断能力は上条がこれまでに潜り続けた多くの死線で培われたものなのか。
だが上条の言葉に男は錯乱したようにヒステリックにわめき散らす。

「駄目だ!! 何を言っているんだ!!
俺は通りで娘を失ったんだ、もう一度そこへ出て行けっていうのか!?」

けれどそれも無理からぬことだ。
事実、上条も何度も全てを投げ出したくなったし、こうしている今だってそうだ。
吹寄を始めとする友人たちの死に、一体に何に憤ればいいのか。どう嘆けばいいのか。
ましてやこの男は娘を失ったという。
自分の家族を、子供を殺された気持ちなど高校生でしかない上条には想像することすら不可能だったし、想像できると思うことすら傲慢だろう。

「それは……気の毒に」

そんなクソみたいな言葉しか出て来なかった。
何がお気の毒にだ、と上条は思う。
所詮そんな程度の言葉しか思いつかない自分に失望しながらも、しかしこのままで良いはずもない。

535: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:32:30.17 ID:BehmeC6L0
「でも、ただ篭っていたって助けなんてこない。生き残るためには自分から動くしかないんだ!!」

「それでも、外に出るのだけは嫌だ!!
死体野郎に食われるくらいならここで飢え死にした方がマシだ!! 放っといてくれ!!」

男は叫ぶと、上条の制止を無視してステーションワゴンの後部扉を開け中に入ると、そちら側からロックをかけてしまった。
通常この手のものに中には鍵はないと思うのだが、とにかく何かしらの方法で扉を開けられなくしたのだろう。
そしてその方法などはこの際問題ではない。
上条は扉を開けることを諦めると、ドンドンと拳で叩いて呼びかける。

「おい、本当に良いのか!? こんなことしても助けはこないぞ!!」

「黙れ!! 俺は絶対にここから出るつもりはない!! さっさと失せろ!!」

男は頑なだった。頑としてそこから動く様子はない。
このままここに留まっていては数で圧殺される。
ならば自分が離れて一人にしてやれば、まだ見つかる可能性を減らせるかもしれない。
上条がここに留まり続ければそれだけ危険は高まっていく。

上条は説得を諦め、やがて冷凍倉庫から去っていった。
結局この男がその後どうしたのか、上条当麻は知らない。

536: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/29(水) 21:34:07.29 ID:BehmeC6L0

Files


File19.『ステーションワゴンに残された遺言』

クソったれ!! 誰かこれを読む者はおるのか。
わたしが死肉狂い共のエサになった後誰かが見つけて笑うのだろうか。
助けてくれ!! もう駄目なのか? 死にたくない!! まだわたしは生きていたい!!
妻も娘もお袋も、みんな殺された。しかしそんなことはもういい。遥かに重要なのはわたしの命だ。

こんな唐突に終わりが来るのなら、営業マンになんぞならなかった。
わたしは小説家になりたかったんだ。
「お前の人生は長いのだから」というお袋の戯言はクソ食らえだ!!
わたしは偉大な小説家として賞賛され……

562: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:31:55.69 ID:iKh0rnq60

浜面仕上 / Day1 / 15:00:02 / 第一八学区 霧ヶ丘女学院

浜面仕上と滝壺理后は第二三学区を目指していた。
そしてここは霧ヶ丘女学院。その敷地内だった。
常盤台中学とは対照的に、複雑怪奇なイレギュラーな能力開発を専売特許とするここを通ったのは単に近道だったからである。
それ以外には全く理由はなく、そしてそれはきっと間違いだった。

「待ってはまづら……、地震? いや、違う……これは」

「何だ……? ちくしょう、嫌な予感しかしやがらねぇぞ!!」

その広大な、とても高校のものとは思えぬほど広大なグラウンドの中心辺りで浜面と滝壺は足を止めた。
地響きが聞こえる。地面が地震に見舞われたかのように揺れ始めた。
まるで地震ではあるけれど、きっとこれは地震ではない。
二人ともそれが直感で分かっていた。

何せ朝からずっと異形の化け物を見続けてきたのだ。
その中にはゾンビではない、人型以外の化け物も多くいた。
だからこれもきっとそれだろうと思いつつも、しかしそれを認めたくはない。

(もしこれがまた違う化け物だったとして、だ……。
こんな風に大地を揺らすって一体どんなモンスターなんだよ……っ!?)

想像できなかった。想像したくなかった。
揺れる地面に足が縺れつつも、浜面は滝壺の手を取って走り出す。

563: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:32:25.89 ID:iKh0rnq60
「行くぞ滝壺!! 何だか知らねぇがさっさと逃げよう!!」

走る。だが大地はそんな彼らを阻むように鳴動し続ける。
地面が割れて砕けていくような錯覚さえ浜面は覚えた。
これが単なる地震なら、地震として対応すればいい。
しかし今回のこれはまるで得体が知れない。一体どう動くのが適切なのかが分からなかった。

浜面仕上も、滝壺理后も、知らなかった。
この辺りの地下をホームグラウンドにしている化け物の存在を。
自分たちが自らその領域に踏み入ってしまったことを。

「……!! 止まれ滝壺!!」

浜面が滝壺の手を強く引く。前に進もうとする力がかかっていた体が急激に後方へと引っ張られ、滝壺は大きく体勢を崩す。
それが救いとなった。浜面が手を引いていなければ、もしかしたら滝壺は死んでいたかもしれない。
二人の前方の地面を下から突き破り、何かが顔を出した。
あまりにも巨大なそれはずるずるといつまでもその体を地表へと出し続け、やがてある一点でようやく止まる。
だがそれでも体の全てを露出させてはいないのだから、その巨大さは並大抵のものではない。

「―――嘘だろおい」

巨大な塔のように聳えるその巨体は、まるでワームやミミズのようだった。
元は節足動物だったのだろう。その全長は地面に埋まっている部分を含めると一〇メートルは超えていた。
七メートルほどの高さから頭部に乗った土や泥をパラパラと地上に落としながらも、その化け物は眼下にいる浜面と滝壺をおそらくは捉えた。

564: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:32:59.44 ID:iKh0rnq60
おそらくは、という曖昧な表現になってしまうのは、この巨大ミミズのような化け物には眼球が確認できないからだ。
けれど明らかにこちらには気付いているようで、その大顎をこちらへ向けて大きく開く。
その顎がまた相当の巨大さだった。車程度なら丸飲みに出来るほどの顎。
大顎は四角形となっていて、その四つの角から一本ずつやはり巨大な牙が生えていた。
まるでブラックホールのようなその大顎の中にも小さい歯が円周状にびっしりと並んでいた。

「……こんなの、どうすればいいんだろうね」

思わず滝壺も呟く。その体は小さく震えていた。
あまりに反則的。首が痛くなるほどに見上げてようやくこの化け物の頭部が確認できる。
先ほどの地鳴りはこいつが地下を蠢いていたからだと思うとゾッとした。
浜面の武装はハンドガンタイプの拳銃が一丁、それだけだ。
人差し指一本で人を殺せる、極めて恐ろしいはずのこれももはやただの鉄屑にさえ思える。

だが巨大なミミズのような化け物は委細構わない。
浜面と滝壺の事情などこいつにとってはどうでもいいのだ。
化け物はその大顎を大きく開ける。それは人間二人を丸飲みにするにはあまりにも十分すぎる。
そして巨大な化け物はまるで塔が倒れるようにその巨体を大きく開いた顎から振り下ろす。
グァ!! と迫ってくる馬鹿でかい口。このままではこいつの栄養となってしまうのは明白だった。

「――――――!! よけろ滝壺ぉ!!」

浜面は叫び、咄嗟に滝壺に飛びかかる。まるでスローモーションだった。
飛びかかった浜面が滝壺の肩を掴み、そのまま押し倒される形となった滝壺の足が地面から離れ、二人の体がふわりと宙に浮く。
そして僅かな距離を飛行し、すぐに重力に引かれて落下を始める。
しかし浜面が滝壺の頭部の下に自身の右手を滑り込ませることでクッションの役割をさせ、衝撃から守る。
二人が地面に激突したのとほぼ同時。巨大な化け物が二人が数瞬前までいた場所を砕いた。

565: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:33:44.96 ID:iKh0rnq60
倒れている浜面の、そのつま先の、数センチ先。
そこが化け物によって開けられた穴の淵だった。
後少し。本当に後少しでも遅かったら浜面はエサにされていただろう。

「あ、ありがとうはまづら。大丈夫?」

「あ、ああ。それよりも早くここから離れねぇと……。立てるか?」

「立てなくても立つよ。行こう、はまづら」

だが油断はできない。狙いを外され地面を噛み砕いた化け物は、今も地中深くに潜伏しているはずだ。
自身の空けた穴にワームのようなその全身でアーチを描くようにしてそのまま身を潜り込ませていったからだ。
一刻も早くここを離れるべきだ。その判断は両者で一致していた。

走った。足はとっくに痛くなっているが、走らないわけにはいかない。
とりあえずはこのグラウンドを出る。目で確認すると滝壺もこれには賛成らしい。
大能力者のお墨付きだ、と浜面は笑みを浮かべて最短で駆ける。
ここはグラウンドだ。こうして思い切り走るのは正しい使い方なのかもしれない、なんて下らないことを考えていると、

「また、来るよ……っ!!」

再び地響き。あれが襲ってくる前兆だ。
しかしあの化け物は地中深くに身を潜め、地下から突き上げるように姿を現す。
事前にその出現箇所を予測するのは難しい。
だが、

566: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:34:17.73 ID:iKh0rnq60
(目印ならある)

そうでもない、と浜面は思った。

(そもそもあいつは俺たちを捕食しようとしてんだ。
どうやって地上にいる俺たちを捕捉してんだか知らねぇが、だったら俺たちがいる場所に姿を現すに決まってる)

結局は立ち止まらぬこと。
足が竦んで動けないなんてことになったら格好の的だ。
浜面と滝壺は急に立ち止まって方向転換をしたり、突如進行方向を変えたりと読まれないように動いた。
その甲斐あってか化け物は中々姿を現さない。おそらくは二人の位置を正確に特定できないがために。
まさかあんな化け物が獲物を前に舌なめずりなんてことはないだろうと浜面は口の端を僅かに吊り上げる。

やがて二人が辿り着いたのは二五メートルプールだった。
そのすぐ近くに学校の敷地とその外とを隔てるフェンスが設置されている。
あのフェンスを乗り越えてしまえば霧ヶ丘女学院の外に出ることができる。

「あと、ちょっとだ……っ!!」

自分に言い聞かせるように呟いて、浜面と滝壺はそのフェンスに足をかけてよじ登る。
だが、その瞬間。獲物を見逃すまいとしたのか、ついに巨大な節足動物の化け物が地下から飛び出した。
その衝撃や散弾のように飛び散った土や小石に背中を打たれ、二人は飛ばされるような形でフェンスの向こう側へと落下する。
また化け物のあまりに長大すぎる巨体はすぐ近くにあったプールをも完全に破壊し、そこにたっぷりと蓄えられていた水が怒涛の勢いで外へと流れ出る。

(滝、壺、どこだ……!?)

567: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:34:54.80 ID:iKh0rnq60
まるで小規模な津波だった。激しく背中を打たれた痛みで動けなくなっていた二人を、濁流のようにプールの水が飲み込んでいく。
咄嗟に伸ばした手は何も掴まず水を掻き、しかししっかりと掴まれた。
滝壺理后が差し伸べた浜面の手をしっかりと掴み、流されないように互いを固定する。
濁流はあっという間にその勢いを失った。全身隈なくびしょ濡れになりながらも、彼らは台風の直撃を受けたかのように水浸しとなってしまった道路に立つ。
直後に化け物の突撃。ぎりぎりで回避するも、予想を裏切って巨大な化け物はコンクリートの地面すら突き破って再び地下へと潜っていく。

「グラウンドだけが行動範囲ってわけじゃないんだ。でもこうなると、どこまで逃げても……」

「ちくしょう、アスファルトの下でも自由に動きまわんのかよ!? この下スカスカってことかよ、崩落すんじゃねぇか!?」

ともかくも、このままではあの化け物のエサになるのを待つばかりだ。
何か、何かないか。そう浜面は周囲を見回して、

(―――あった)

それを見つけて、浜面と滝壺は同時に動いた。
何も言葉にして言う必要はなかった。浜面の視線を追った滝壺もそれを見て同じ結論に至ったに違いない。
しばらくして、化け物が地下から勢いよく飛び出してきた。
先ほど溢れ出したプールの水のせいでその全身はぐっしょりと濡れ、その下の地面には水が溜まっている。
そしてそれを確認した浜面仕上と滝壺理后が、待ってましたとばかりに全力で体当たりした。

―――化け物によって根元から折れ、辛うじで街路樹に引っかかっていた、電柱に。

568: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:35:25.55 ID:iKh0rnq60
ただ引っかかっていただけの電柱はその程度の衝撃でも簡単に動いた。
拘束から開放された電柱はバランスを取れるはずもなく、ただ重力に引かれて轟音と共に地面へと勢いよく倒れた。
そう、プールの水によって水が溜まっている地面へと。

切断された電線がその水へと浸かり、水を導体に電気が流れ、そして。
巨大な化け物が感電した。
鳴き声のような嫌な声をたて、やはり塔が崩れるような形で巨大な化け物が電柱に次いで倒れ込む。
そのあまりの巨体にそれだけで地面が大きく揺れた。

「……何とかうまくいったか。ヒヤヒヤしたぜ」

「早く離れた方がいいと思う。これで死ぬかは分からないから」

「……ああ、そうだな」

実際、ここまで巨大なこの化け物がこれで死ぬかは疑問だった。
けれどそもそもこの化け物は本来自然界には間違っても存在しない生物であり、ならばその構造など分かるはずもない。
電気に対する耐性など分かろうはずもないのだ。もしかしたら特別電気に弱かったのかもしれないが、実際のところは不明だ。
しかし今、ミミズのような化け物が痙攣したかのように小さく震えているのもまた事実であり。

だからこそ浜面は滝壺と共に背中を向け、早足に立ち去っていった。

569: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:36:18.46 ID:iKh0rnq60

垣根帝督 / Day1 / 16:51:39 / 第四学区 精肉工場

食品関連の施設が多く立ち並ぶ第四学区では、当然肉を加工する精肉工場も存在する。
ここで豚や牛は処理され、くず肉などのより分けも行われていたようだ。
とはいえここは学園都市。この街でのくず肉とは『外』では並より少し上という贅沢な話なのだが。

「ここで豚とかが屠殺されてんのかと思うと、食欲も失せるな」

「……ごめん、肉の話はしないで。朝から『肉』ばっか見てるんだから吐きそうになる」

垣根はいつもと変わらぬ軽薄な調子で言うが、それは偽りの仮面だった。
無理してでもこうしていないと耐えられないのだ。
如何に暗部で長かろうと、如何に人を殺していようと、如何に血と臓器の作り上げる地獄に慣れていようと。
人間がゾンビになり、知り合いが屍となって襲ってくるなんてふざけた状況を経験しているはずがないのだから。
ゴーグルに、湾内絹保と泡浮万彬。彼らはぬるま湯に適応してしまった今の垣根を確実に削り取っていた。

心理定規は顔色を悪くすると、垣根の言葉を耳に入れまいと手で耳を塞ぐ。
やはり彼女も傍目にはいつも通りに見えても、実際にはだいぶまいっているようだ。
だからこそまともではいられない。狂気に耐えるには、自分から狂うしかない。

570: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:36:49.67 ID:iKh0rnq60
心理定規は銃を構え直して、

「……ん?」

何かに気付いた。目を凝らしてよく確認してみる。

「どうした?」

そして訝しんだ垣根が心理定規に隣に並び、

「―――ハッ。スゲェじゃねえか、おい」

「気持ち悪いって本当に……。何なのよもう……」

白い塔があった。ただ静かに聳えるそれは天井に頭がつくほどに高い。
その塔の表面がざわざわと蠢いていた。波打つように、一様でない不規則的な動きをしていた。
それはまるで無尽蔵の生き物が蠢いているようにも見えて。そしてそれは正しかった。

「アリ塚、か」

縦横無尽に白い塔の表面を動き回るそれの正体は白アリだ。
そしてその塔は白アリの作り上げた巨大なアリ塚。
不気味に脈動する塔を見るに、その白アリの数は千や万では利かない。
ざわざわざわざわと動くそれは非常に気味が悪く、垣根も流石にこれに手を出そうとは思わなかった。

571: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:37:52.76 ID:iKh0rnq60
「一発かましてみるか? そのグレネードガンで」

「ふざけないで。そんなことしたら中からうようよと数万数十万って数の白アリが襲ってくるのよ。ああ想像しただけでもう……」

ゾクッと背筋が冷たくなったのか、心理定規は自分で自分を抱きしめるようにして両腕をさする。
たしかにゾッとしない話だ、と垣根は薄く笑う。
実際の脅威がどうとかそういう以前に、生理的嫌悪感を掻きたて精神的疲弊効果が高い。
特に虫嫌いである心理定規には相当の効果があるようだ。

「……まるで生物兵器だな」

思わず垣根がぽつりと呟くと。

「半分正解ってとこ」

誰かが応答した。心理定規の声ではない。
だがここには間違いなく垣根と心理定規しかいないはずだ。
一体いつの間に入ってきたのか、どうやって潜んでいたのか。
そんな疑問が浮かんで消える前に。二人がその声に反応して声の主を振り返る前に。


ボッ!! と精肉工場が激しく燃え上がり、業火に呑まれて大爆発を起こした。



572: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:38:22.66 ID:iKh0rnq60
「―――何者だ、テメェ」

「……っけほ、けほ……っ。ちょっと、一体何なのよ……」

心理定規を抱えて即座に脱出していた垣根は、彼女を降ろして問う。
その視線の先は炎に包まれた精肉工場。その炎のカーテンの先を垣根は鋭く見据える。
ゆらゆらと揺れるその先に、明確な人影が一つあった。
あれだけの灼熱の牢獄にいながらも平然と立っている。当然だ。その人物こそこの業火を起こした張本人なのだから。

「……人間? いや、あなた……何者?」

その異常性に気付いた心理定規が鈍く光る銃口を突きつける。
そこに躊躇いはなかった。その返答のように、炎の海の中から女性の声が返ってきた。

「第二位、『未元物質』とはね。いきなり面白い相手とぶつかったものだわ」

やがて僅かに炎をたなびかせ、灼熱の地獄から悠然と一人の女性が歩いてきた。
そのリクルートスーツのようにも見える服には火が燃え移っており、激しく燃え盛っているがそれを気にする素振りはない。
だがそれ以上に、二人はこいつが人間の言葉を話したことに驚いていた。
これまで犬のゾンビや巨大化した蜘蛛などといったクリーチャーを見てきているが、人の言葉を話すものなど見たことがない。

「テメェは何者だ」

垣根は静かに繰り返す。
それを受けて女は妖艶に笑った。

573: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:39:04.95 ID:iKh0rnq60
「―――『木原』、と。そんな風に呼ばれていたこともあったわね。けれど、もう関係ない」

『木原』。その名前の意味は学園都市の暗部に身を窶す者なら理解できる。
触れてはならぬ禁忌の一族。一切の枷を振り切ってただ科学の発展のために邁進する者たち。
悪夢的なその名は口にすることさえ恐れる者もいるほどだ。

だが。だが、垣根と心理定規がその目を見開いたのは、その名前によるものではない。
もっと単純に視覚的な驚愕によるものだった。
即ち彼女の全身が激しく燃え上がり、殻を破るようにその炎から出て来た彼女の姿に、だ。

「―――化け物が」

「……ええ。化け物、ね」

一歩を踏み出した彼女は衣服の類を一切纏っていなかった。
そのつま先から顔までに至る全身は無機質で冷たい印象を与える灰色。
左足にはつま先から太ももの付け根までに触手のようにも見える、ツタのような緑色の何かが螺旋を描くようにびっしりと巻きついていた。
右腕にも同じものが巻きついており、それは左の乳房や肩、わき腹にまで達している。
そして何より目を引くのはその頭だ。まるで花が開くように、バナナの皮を剥いたように。
頭が内から外へと中心から開かれて、めくれたそれがまるで実った果実のようにだらりと頭部からぶら下がっている。
それは緑色をしていて、ところどころ黄色が混ざっておりやはり植物を連想させた。

574: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:40:09.85 ID:iKh0rnq60
二本の足、二本の腕。一応人型ではあった。
だがしかし明らかに異形。そのアスファルトのような冷たさを感じさせるくすんだ灰色の肌は明らかに人間のものではない。
その体に炎のドレスを纏い、『女王』は笑う。

   モ   ル   モ   ッ   ト
「脆き人の子から出られぬ者共よ」

女王は歌うような声で朗々と宣言する。

「―――さあ、実験を始めましょう」

「――――――ッ!!」

瞬間、垣根は即座に『未元物質』を発動。
その背に天使の如き純白の翼を左右三対生み出し、それを盾のように前方に展開した。
直後、白い翼に女王から放たれた炎が直撃するもそれは垣根によって力ずくで吹き消される。

「っらァ!!」

垣根が翼を薙いだことにより局地的な烈風が巻き起こる。
それにより女王が僅かに動きを止めたところへ、いつの間にか音もなく回り込んでいた心理定規が背後からグレネードガンを撃ち込んだ。
遠慮などなかった。放たれた榴弾は確実に女王の体に直撃し、爆発と共に鮮血が撒き散らされる。

その血が辺りに付着し、心理定規の左腕にも僅か付着し。
そして、直後にそれがひとりでに発火した。

「―――は、」

心理定規がそんな声をあげる。
女王の血が発火した。そして彼女の腕にも火がついて、そして。

575: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:41:19.90 ID:iKh0rnq60
「ッチィ!!」

思わずそんな声をあげて心理定規は慌てて鎮火する。
幸いにも付着した血液の量が大したことはなかったおかげで大事には至らなかった。
だが地面に撒き散らされた血液は悉く発火し、紅蓮の炎で周囲を包み始めていた。
次から次へと燃え移り、やがてその連鎖は山火事のような災害へと繋がっていくだろう。

心理定規は垣根の隣に並び立ち、火傷を負った左腕を右腕で庇いながら女王を睨む。
明らかにまともな現象ではなかった。

「発火能力、いや、そんな可愛らしいもんじゃないわね」

「だろうな。何がどうなってんのかさっぱり分かんねえ。黄リンや硝酸エステルでも生成してんのか」

迂闊には仕掛けられない。何が何だか分からない中でも、こいつの血液が空気中に触れると発火するということは分かった。
つまり中途半端に攻撃を仕掛ければ逆にこちらが窮地に追い込まれていくことになる。

「これならどうだよ……っ!!」

垣根が『未元物質』の翼をはためかせる。
恐ろしいほどの勢いで一閃された翼は空気中に真空の刃を作り出す。
かまいたちの如く射出された見えざる凶刃は的確に女王の首筋を切り裂いた。

「駄目よ、再生してる!!」

傷口から流れた血液が発火し、女王のテリトリーを広めると共に切断された首は落ちることがない。
それが当然と言わんばかりにすぐさま再生を始め、あっという間に一つになり元通りになってしまった。
垣根がその様子に舌打ちした時、ふとここに別の気配を感じた。
見てみれば、派手な爆発や炎に反応したのか大量のゾンビがわらわらと集まってきていた。

576: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:42:13.54 ID:iKh0rnq60
(クッソが、こんな時に来やがって……!!)

垣根が心理定規と目を合わせ、二人同時に動こうとしたその時。
女王がゾンビの群れに向けてブン、と腕を振るう。
それに追従するように血液の塊が亡者共へと降り注ぎ、その腐った体を悉く燃やし尽くす。
呻き声をあげながらも尚倒れない死人の群れだったが、女王がその開いた右こぶしをぐっと握ると詳細不明の爆発が巻き起こり、たちまちにその腐った体を吹き飛ばした。

「ム、チャクチャねあいつ……ッ!!」

あっさりとゾンビの群れを退けた炎を纏う女王が右手を天へと高く掲げる。
そしてそれに呼応してぞわぞわぞわぞわと夥しい数の白アリが彼女の元へと集まり出した。
あまりの数にそれはもはや地面が流れているようにすら見えるほどだった。
数十万に達するであろう圧倒的物量の投入。しかもそこにはおそらくではあるが『感染』という名の見えぬ猛威が潜んでいるだろう。

「白アリ、あのアリ塚にいたヤツらか!!」

「アリを従えてる……? どうやって!?」

「兵隊アリが女王に従うのは当然でしょ?」

女王が呟くと、圧倒的な数の白アリがこちらへ突撃してきた。
羽を広げて飛んでいるものや地を這うものもいるが、それはもはや津波といって差し支えない勢いだった。
それを率いる女王は高らかに笑う。

「私の細胞の中で『ベロニカ』が暴れているのが分かる」

(―――『ベロニカ』、だと?)

聞き覚えのない単語に垣根は引っかかりを覚えるが、何より優先すべきなのは。

「逃げるぞ心理定規ォ!!」

「オッケー迷う理由なんて微塵も無し!!」

垣根帝督と心理定規。それを追う万を優に超えるアリの大群、それを率いる他にどんな力を隠しているかも分からぬ女王アリ。
命の懸かった鬼ごっこが幕を開けた。

577: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/08(土) 23:43:28.03 ID:iKh0rnq60


Files

File20.『女王蟻の研究レポート』

女王蟻の遺伝子に古代ウィルスの名残を発見して以来、蟻塚を作り蟻の研究に没頭している。
蟻の生態は、まさに理想的だ。
一つの蟻塚には一匹の女王蟻が君臨しており、兵隊蟻や働き蟻は女王蟻の奴隷だ。
自らの命を女王蟻に捧げている。女王蟻の死は、即ち蟻塚そのものの破滅を意味する。
兵隊蟻や働き蟻は女王蟻がいれば、いくらでも代わりが利くのだ。
まさに、私と他の愚民共との関係に相応しい。

              ク レ イ
木原乱数が発見した『始祖ウィルス』に女王蟻の遺伝子を移植し、理想的なウィルスの開発に成功した。
役立たずな父の体で実験をしてみたが、予想通りウィルスの影響による細胞の急激な変化に、肉体だけでなく脳細胞も破壊されてしまった。
また、体内に特殊な毒ガスが発生していることも確認した。

想像以上のポテンシャルを秘めたこのウィルスを、『T-Veronica』と名付けることにした。
この素晴らしいウィルスの力を我が物にする方法を見つけた時、私の偉大なる研究が完成するのだ。

                       アレクシア=木原=アシュフォード

590: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:12:48.26 ID:TlEr18gW0

一方通行 / Day1 / 12:21:34 / 第一七学区 操車場

『絶対能力進化計画』、という実験があった。
この学園都市に巣くう『闇』の一つであり、良くも悪くも今の一方通行を形成する重要な要素である。
二万人のクローンを、二万通りの方法で殺害することで一方通行をまだ見ぬ絶対能力者へ昇華させる。
とても正気の沙汰ではない狂った実験。
その二万回の内、一万三二回目の『実験』が行われた地。そしてひたすらに君臨していた一方通行が初の敗北を喫した地。
それがこの操車場であった。

その今となっては忌まわしき地で、一方通行は戦っていた。
けれど相手は美琴のクローンである『妹達』ではない。
物言わぬ死者でありながら、明確な欲望を持って歩き回る矛盾に満ちた存在。
相対するは餓鬼のようないくつもの死体の群れだった。

「ォ、ラァ!!」

電極のスイッチは切り替えられている。ランプもそれを示す赤色となっていた。
風のベクトルを掴んで暴風を人為的に巻き起こす。
静かに鳴いていた風が突如殺人兵器へと成り代わり、リビングデッド共を纏めて数十体薙ぎ払う。
だがそれは全体から見ればほんの一部でしかない。
一方通行と番外個体は数えることを投げ出したくなるほどの数の死者に囲まれていた。

591: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:13:18.72 ID:TlEr18gW0
「空いたよ!!」

「ッ、もォ一丁食らっとけコラァ!!」

一方通行が靴底で地面を踏みつけると、それだけで地雷が起爆したような爆発が起こる。
びっしりと敷き詰められた砂利や小石が散弾のように超速で撒き散らされ、次々にゾンビの全身を打ちのめす。
一方通行は焦っていた。番外個体は焦っていた。
一方通行は恐れていた。番外個体は恐れていた。

けれど、それは亡者に囲まれたこの絶望的な状況に、ではない。
これだけの死者を相手にしても一方通行は勝利できると本気で信じているし、番外個体もそう思っている。
彼らを焦燥させているのはただ一つ。
第七学区の病院に残してきた芳川桔梗、打ち止めとの連絡が途絶したことにある。

番外個体は少々特殊な仕様ではあるが打ち止めや他の妹達と同じく、美琴の体細胞クローンだ。
そして彼女らは互いの脳波を相互にリンクさせることで巨大なネットワークを築いている。
ミサカネットワークと呼ばれるそれを使って、彼女らはたとえ遠隔の地にいようとも互いに意思の疎通を取ることが可能となっている。
だから、番外個体には何があったのか分かっていた。

壊滅した。言葉にしてしまえば一言で済む、なんてことのない理由だった。

内から感染者が現れ、そのまま内から壊れていったらしい。
更に最悪のタイミングで化け物共の襲撃を受け、壊滅。
だからこそ。一方通行は心から焦っている。
完全に自分の読みが甘かった。事の大きさを読み違えた。

592: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:13:56.84 ID:TlEr18gW0
「飛ぶぞ!! 舌噛まねェよォしっかり掴まっとけ!!」

「冗談、って言いたいところだけど流石にそんなことも言ってられないねこれは!!」

死者の軍勢を退け、一方通行は飛び上がる。
その背中には四本の竜巻のようなものが接続されていた。
一息に舞い上がった一方通行は眼下に蠢く死体には目もくれない。
ドンッ!! という音と共にロケットのように一方通行の体がその場から消える、一秒前。

火山が噴火するように、ゾンビの大群が得体の知れない力により突如宙を舞った。
花びらが舞い散るようにグロテスクな死体が地面へと叩きつけられる。
そして、その謎の力は一方通行にも牙を剥いた。

だが、一方通行には『反射』という最強の防護壁がある。
『反射』でその力を押さえつけ、一方通行はギロリと射殺すようにその相手を睥睨する。
最初に目を引いたのは、ジャラジャラと音をたてる大きな手錠だった。
足首にも鉄の輪がそれぞれ嵌められていて、鎖を引き摺って歩いている。
その頭部には茶色にも見える何かが何重にも貼り付けられていた。

「何、あれ……? あの、鎖と顔に張り付いているのは―――」

「―――考える必要はねェ」

一方通行の動きも僅かに止まった。
これまでも見たことがない化け物だった。
直感で分かる。あれをゾンビなどと同列に見てはいけないと。
あれこそまさに『化け物』であると。

593: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:15:14.01 ID:TlEr18gW0
「そして、相手にする必要すらねェ」

だが。一方通行はそんなことには委細構わず化け物から目を背ける。
わざわざあんな未知の存在と戦う必要などないのだ。
今やるべきことはたった一つ。ならば他のことにかまけている暇などありはしない。

鎖の化け物を意図的に意識の外にやり、一方通行は番外個体を抱えたまま空を疾駆する。
そして、そんな二人の前にふっ、とアルミ缶のような形をした何かが虚空より現れ。

「え―――」

番外個体のそんな言葉を置き去りにして、大爆発を巻き起こした。
その力は『量子変速(シンクロトロン)』と呼ばれるもので、端的に言えばアルミを爆弾に変えることが出来る能力だ。
だがそれは『反射』される。その防壁の前では一方通行の許容するもの以外は全てが弾かれてしまうのだ。
その牙城を突き崩せぬ限り、一方通行は傷一つ負うことがない。
そう、“一方通行は”。

「……気に入らねェンだよ、やり方がよォ!!」

脳内で複雑に演算を組み、『反射』のパターンを変更。
同時に一方通行自身も動き、爆発の全てを打ち払う。
一方通行は『反射』に守られていようと、番外個体はそうは行かない。
どころか下手に『反射』してしまえばそれが番外個体に牙を剥くことすら十分にあり得た。
よってこの程度の攻撃であっても、普段であれば歯牙にもかけぬ程度の能力であっても、一方通行は立ち止まって対応せざるを得ない。
とはいえそれが間違いだとは思わない。そもそもの話、雪原の大地にて番外個体を丸ごと受け入れることを選んだのは他ならぬ自分自身なのだから。

594: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:18:09.56 ID:TlEr18gW0
「ちょっと、あの程度なら自分でも何とかできるっつの!! どうもあなたにはこのミサカを軽視してる節があるんだけど」

その時、炎とも水とも何とも判別のつかない何かの力が上空にいる一方通行と番外個体へと飛んできた。
まるで番外個体を狙うように放たれたそれを、番外個体の愚痴を無視した一方通行は唯一『反射』を適用させた右手を翳して代わりに受け止めながら思考する。

「これ、って……待て、これは……まさ、か、『多重能力者』? んな馬鹿な!?」

(コイツ……やっぱりどォ考えても複数の能力を使用してやがる!!
どこかのメルヘン野郎みてェにわけ分かンねェ能力によってまるで複数の能力を行使しているよォに見える事例もあるが……。
コイツのこれはそンなモンじゃねェ。明らかに、番外個体の言う通り存在しねェはずの『多重能力者』だ!!)

バチン!! と鎖の化け物の放った力をそのまま跳ね返す。
その力は化け物本人を呑み込んだものの、すぐさま再生を始めた。
何でもありか、と一方通行が思わず呟いた時、ボッ!! と全く違う方向から火炎弾が放たれた。

一方通行がそれに反応するより早く、番外個体は地上から磁力で砂鉄をかき集め、それを盾として展開し身を守っていた。
見てみれば、それは鎖の化け物ではなくうじゃうじゃと集まっていたゾンビから放たれたものだった。

「おねーたまへのリスペクトを込めて!!」

返す刀で番外個体は盾として展開させた砂鉄を鞭状に変形させ、それを伸縮させることで的確に地上にいるそのアンデッドの頭部を刺し貫く。
一方通行はそれを見ながら込み上げる焦燥と苛立ちに苛まれていた。

(ウッゼェ……!! 時間がねェってのに最悪のタイミングで出てきやがって……!!)

無視すれば、背後からの予期せぬ攻撃で番外個体がやられてしまうかもしれない。
一方通行は気付いていた。先ほど鎖の化け物が『空間移動』すらも使用したことに。
勿論番外個体の実力を鑑みれば並大抵の攻撃で死ぬようなことはないだろう。というよりも自分がそれを許さない。
だが鎖の化け物の特異性を考えると万一のことは十分に考えられた。
かといっていちいちこれだけの大軍と馬鹿正直に戦っていれば、完全に病院―――打ち止めは手遅れになってしまうだろう。
その板ばさみの状況の中で一方通行が下した結論は、

「……イイぜェ。上等じゃねェか、オマエらまとめて秒殺してやンよォォォおおおおおおッ!!!!」

直後、番外個体を抱えた一方通行の体が流星のように、隕石のように地面へと“墜落”した。

595: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:19:10.87 ID:TlEr18gW0


Files

File21.『ある家族の写真』

写真の裏に何かが書かれている。

『始祖ウィルス』変異体を投与(Sep.1,20XX)

・ジェシカ 『TYPE-A』投与
      細胞活性時に組織断裂化
      ウィルス定着化に失敗
      破棄処分

・リサ   『TYPE-B』投与
      細胞活性時に組織断裂化
      後にウィルス定着化成功
      器の改造に一定の成果
      保護観察継続

※ジョージ 抹消済み(Sep.9,20XX)

596: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:20:13.94 ID:TlEr18gW0

浜面仕上 / Day1 / 18:25:47 / 第一八学区 喫茶店『ポアロ』

「動くな!! 誰だアンタらは!!」

店内に入った浜面仕上と滝壺理后を出迎えたのは、大学生程度の年齢に見える男の構えたショットガンの銃口と、そんな言葉だった。
浜面はゾンビなどという得体の知れない未知と違って、その分かりやすい脅威にぎくりと身を固める。
だが滝壺は取り立てて慌てることもなく、冷静に対応した。

「撃たないで。大丈夫、私たちは人間だよ」

そう言うと、男は安心したように銃口を下げる。
浜面もまたほっとしながらも問いかけた。

「あんたは?」

「『雑貨稼業(デパート)』。まあ言っても分からんだろうが」

「……暗部の人間なんだね」

滝壺のその言葉に驚いたのは『雑貨稼業』だ。
普通に暮らしている一般人から暗部なんて言葉が出てくることはあり得ない。

「……お前らも暗部だったのか?」

「俺は下っ端だったけどな」

597: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:21:00.57 ID:TlEr18gW0
「私たちがいた組織は『アイテム』。あなたの立場なら名前ぐらいは聞いたことあるんじゃない?」

「―――『アイテム』とは、こりゃまた……。とんでもない大物じゃないか」

学園都市には幾つもの暗部組織が存在していた。
『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』や『迎電部隊(スパークシグナル)』のような部隊の他、少数精鋭で構成される『ブロック』に『メンバー』、『グループ』など。
その後者の枠の中でも『スクール』と『アイテム』は実績が頭二つ三つ抜けていた。
その正規構成員となるとそれは彼らのような者からすればかなりのVIPだった。

「今の状況じゃあそんな肩書きには何の意味もねぇがな。
に、しても……随分な品揃えだな」

カウンターの上にはずらりと様々な銃器が並べられていた。
おそらくはこの男が『雑貨稼業』として売っていた商品なのだろう。
それが今ではこの上なく頼もしい。

「これ、借りるぞ」

そう言って浜面が手を伸ばしたのは黒光りする大きめのショットガンだ。
その銃口付近にはスコープが取り付けられていて、だが覗いてみても倍率に変化はない。
どうやらダットサイトらしい。派手に弾をばら撒くショットガンにダットサイトって意味あんのか? と呟きながらも浜面はその銃を手放さない。
これに決めたらしかった。手早く装弾数を確認している浜面に、

「……おい、何してんだ?」

「奴らが来るよ。……ほら、もうすぐそこにいる」

598: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:22:37.16 ID:TlEr18gW0
滝壺が背後をぴっと指差した。
『雑貨稼業』はそっちに改めて視線をやり、思わず息を呑んだ。
そこには一面のガラス張り。店内から外を、外から店内を覗けるようになっていた。

白く膨れた指が、そこに蠢いていた。
外皮が爛れて垂れ下がり、その内側に赤黒く生々しい腐肉を覗かせた死者の指。
それが一瞬には数え切れぬほど、外界と店とを隔てる強化ガラスに押し付けられた。
生者の血肉への渇望に、白く濁った眼球を見開いた死者たちが青白く爛れた頬を押し付けてこちらを凝視している。

「―――な、んで」

『雑貨稼業』が呆然としたように呟く。
その只事ではない様子に、浜面はもしかしたらこのゾンビの群れの中に知り合いの姿でも見つけたのかもしれない、と思った。
まさかこの地獄の中で、こんな風に立て篭もっていながら今更生ける死者の姿に驚いたということもあるまい。
滝壺が咄嗟にカウンターの上に置かれていた自動小銃に手を伸ばす。
暗部にいた以上、特別秀でているわけでもないが銃器だって扱ったことはある。
小銃なんてものを使うのは初めてだったはずだが、そんなことも言ってられる状況でもないだろう。

そして滝壺の生を感じさせる白い指が小銃を掴むのと、死を感じさせる腐り白く爛れた指が強化ガラスを破壊したのはほぼ同時。
浜面仕上の構えたショットガンが爆発的な音をたてて火を吹いた。
その散弾が開戦の狼煙をあげた。
戒めから開放された鉛の弾は、歓喜に震えて世界に存在せぬ異形を容赦なく穿つ。
死者の軍勢の最前列が僅かに崩れる。

滝壺が扱ったこともない自動小銃の引き金を引く。
タタタタタタタッ!! と、思いの他軽快な音が間段なく響いた。
怒涛の勢いで吐き出された弾丸がゾンビ共の肉を抉り取っていく。

599: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:24:18.44 ID:TlEr18gW0
「使い方なんて、狙いをつけて撃つだけ」

学園都市の高度な科学力のおかげなのか、反動はほとんどなさそうだった。滝壺でも扱えている。
だが軽い。破壊力が決定的に欠けていた。
ゾンビの進行を押し返すことはできず、僅かにその進行を遅らせるに留まった。
遅れてハッと我にかえった『雑貨稼業』が慌てて愛用のショットガンを撃ち込む。
流石に威力の桁が違う。滝壺の小銃に倒れなかったアンデッドがショットシェルを受けてその頭部がスプラッタ映画さながらに吹き飛んだ。

びちゃびちゃ、と血とピンクの何か―――間違いなく脳髄だろう―――が撒き散らされる。
それが体に付着し、浜面と滝壺はぞわぞわと押し寄せる嫌悪感と吐き気に顔を分かりやすく歪ませる。
まるで蛆虫が集団で皮膚の上を這い回っているようなどうしようもない嫌悪感。
が、動きは止めない。止めるわけにはいかない。銃を握る二人の指はあまりに強く押し付けられているせいで白くなっていた。
まるでその不快感を吐き出すように弾丸を撒き散らしていると、突然目を焼くような閃光が瞬いた。

「―――ッ!!」

それは蛇のようにうねりながら飛んでくる。
稲光のような光を放つそれは電撃だった。
学園都市では割とポピュラーな発電系能力者によるもの。

浜面と滝壺、『雑貨稼業』は言葉も交わさずに一斉に動いた。
取った行動は同一。カウンターを飛び越えて向こう側に身を隠す。
直後、放たれた電撃がカウンターに直撃するもそれだけだった。
それ以上の破壊は起きず、カウンターが完全に破壊されることもなかった。
おそらく異能力者程度の能力者だったのだろう。

浜面も滝壺も、『電撃使い』というとある一人の少女を思い浮かべる。
それは最強にして最高の力を持つ発電系能力者。
『超電磁砲』、御坂美琴。
七人しかいない超能力者の一角に堂々と座す存在。

600: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:25:07.44 ID:TlEr18gW0
だが今の力はまるで美琴のものとは比べるべくもない。
見劣りする。霞んで見える。あれを知っている身とすればこの程度恐れる気にならない。そもそもこの程度の能力者ならばスキルアウトの時から何度も相手にしてきた。
今の一瞬で一気に距離を詰め、もう手を伸ばせば届きそうなほどの距離にいる亡者にショットシェルをお見舞いしてやる。
極近距離であるが故にその飛び散った血と肉は浜面に容赦なく降りかかるが、浜面は気力を振り絞ってその最悪の嫌悪感を強引に無視した。
電撃を放ったゾンビが弾け飛び、無様に床を転がった。

(……学園都市の学生の六割が無能力者ってのは、今となっちゃ本当にありがたいな)

皮肉な思考に浜面は薄く笑う。
それを見ていた『雑貨稼業』が叫んだ。

「違げぇよ、頭だ!! 頭をぶち抜け!! 頭ぁ吹き飛ばさない限りこいつらは“更に凶暴になって生き返る”ぞ!!」

「……生き、返る? 死なないんじゃなくて?」

適当に弾丸をばら撒きながら、滝壺が問う。
小銃を持つ彼女はやけに似合わなくて、まるで戦争中に無理矢理武器を持たされた子供のような印象さえ受けた。
……とはいえ、この状況にその表現はあながち間違いでもないのかもしれない。
もっと言えば暗部にいた時から、銃が能力と『体晶』に置き換わっていただけできっとそうだったのだろう。

「生き返るんだよ!! やけに凶暴性が増してな!! それを防ぐには頭を弾くか死体を完全に燃やし尽くすかしかねぇんだ!!」

「っ、んなこと、言ったって、なぁッ!!」

再度引き金を引く。肩を襲う衝撃を上手く逃がしながら、浜面は吐き捨てる。

「―――もう、何体も死んじまってるぞ!?」

601: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:26:40.99 ID:TlEr18gW0
店内の床の上にはいくつもの死体が転がっていた。
それは浜面や『雑貨稼業』が頭を飛ばしたものだけには限らない。
滝壺の小銃をその身に受け続けて倒れた者。浜面の放ったショットガンの散弾を受けて、巻き込まれる形で倒れた者。
頭部に損傷を負っていない死体が。

『雑貨稼業』からの返答はなかった。返答する必要がなかったし、それを待つ必要さえなかった。
むくりと。平然とした動作で、緩慢ではない、普通の人間のような仕草で。
転がっていた死体が起き上がった。

「……え?」

それはどちらが発した声だったのか。
立ち上がったそれの皮膚は赤く、血の色ではない赤に変色していて。
その目は光り、爪は長く鋭く伸びていた。
これまでのゾンビとは明らかにかけ離れたその化け物は、全く別の生命体となった化け物は。
その爪をブン、と振るい、辺りのゾンビをまとめて数体惨殺した。

「……同種を、殺した? もしかして無差別に―――」

滝壺の呟きは、赤い化け物がこちらへ走ってきたことで否定された。
その速度はのろまなゾンビなどとは比較にならない。
そしてその爪を振るう、直前に『雑貨稼業』の放った弾丸を受けてどうと背中から倒れ込む。

「ちが、う……っ、ただ見境なく障害になるヤツを殺してるだけだ!!」

602: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:27:37.34 ID:TlEr18gW0
非常に危険な存在だった。
高い俊敏性に殺傷能力、加えてこの凶暴性。
『雑貨稼業』の言っていた言葉にも思わず納得してしまう。
引き金を引いてその他のリビングデッドを押しのけながらも、浜面は散弾をその身に受けながらも再び立ち上がった赤い化け物を捉える。
俊敏性だけではない、攻撃性だけではない、凶暴性だけでない。耐久力もまた大幅に上がっていた。

だが事態は更に悪化する。
もう一体、倒れていた狭間の者がむくりと起き上がった。
その皮膚や目や爪にはやはり同様の変化が認められ、新たなる脅威が増えたことを証明していた。
しかもその化け物から何かが放たれ、

「クッソ!!」

隣にいた滝壺の手を引き、目の前のテーブルの淵に手をつけ全体重をかける。
するとシーソーのように重みに引き摺られて手をかけた側が沈み、反対側が天を突くように持ち上がる。
バランスを保てなくなったテーブルは浜面と滝壺のいる方へと倒れ込み、ゾンビ共に盾のように立ち塞がる形となった。
そしてそのテーブルが化け物が放った何かを防ぐ。

「あれも、能力者かよ……!!」

やはりレベルは高くないようだが、それでもかなりの脅威であることは間違いない。
まだまだ押し寄せている死人の軍勢に、異常な化け物が二体。しかも片方は能力者。時間が経てばその数は更に増えていくだろう。
それに加えて更なる別の化け物がここを嗅ぎ付けないとも限らない。
―――もう、限界だった。

「はまづら、もう持たないよ……!!」

そんな滝壺の、汗に髪が頬に張り付いている顔を見て。
自分と同じく血と肉に汚れながらもひたすらに慣れぬ銃を握る少女を見て。
自分たちの置かれている状況を冷静に見て。
浜面仕上は決断した。

603: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:29:10.35 ID:TlEr18gW0
浜面はザッと素早く目を流す。
目的のものはすぐに見つかったが、死者の軍勢によってそのままでは辿り着くことができない。
だから浜面は、そして同じことを考えていた滝壺は、待った。
そしてその時はすぐにやって来た。化け物が、ゾンビが『雑貨稼業』に襲いかかったその瞬間。
目的の方向にいる亡者が減り隙ができた瞬間。

ドン、と浜面は『雑貨稼業』の背中を押し、その体を永遠の空腹に苦しむ者共の眼前へと突き飛ばした。
同時にズガン!! とショットガンを発砲する。ダダダダダダ、と小銃のトリガーを引き絞る。
ただしその銃口は『雑貨稼業』の方には向いておらず。
大量の鉛球を食らった死者の群れが大きく怯んだその隙を見逃さず、二人は体当たりするようにして強引に進路を確保して。

真鍮のドアノブを掴み、素早く回し。
裏口から逃走した。

「ッ!? お、おい!!」

追いかけては来なかった。
あれだけの数がいたにも関わらず、ただの一体も追いかけては来なかった。
きっと、それはもっと手ごろで身近にまるまる太った獲物がいたからで。

「ま、待てよ、頼む、置いていくなっ!! たっ、助け、ひっ、死にたく―――ぎゃ、」

その哀れな犠牲者は誰なのだろうか。
そのとんでもない不幸者は誰なのだろうか。
浜面仕上と滝壺理后は走る。『雑貨稼業』の男を、残したまま。

604: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:34:24.86 ID:TlEr18gW0
絶叫が聞こえた。何かを咀嚼するような嫌な音も僅かに聞こえてくる。
おそらく死んだのだろう。浜面が殺したから。滝壺が切り捨てたから。
見殺しどころの話ではない。囮に使った。完全に、殺した。

台風や地震といった何か大きな天災があった後は、食料や水を狙って強盗などが頻発するらしい。
極限の状況に人間の醜い本性が露になるのだ。他者を蹴落としてでも自分が生き残りたいという、素直で残酷な欲望が。
で、あればそれがこんな地獄にあって適応されないわけがない。
自分たちが生き残るために他者を利用し、殺す。
どこかで一人の少女を切り捨てた垣根帝督のように。甘いことを言ってられる状況ではないのだ。

(―――どうしようもないクズ野郎だと笑えばいいさ)

それでも浜面は立ち止まらない。
滝壺は振り返らない。
『雑貨稼業』を殺すことで生き残った彼らは、それについて一切の後悔をしない。

「―――づらを守るためなら、私はどんな所業だって―――」

滝壺が小さく何事か呟いた。
何と言ったのかは聞き取れなかったが、そんなことはどうでもいい。
『雑貨稼業』を犠牲にした。その代わり、滝壺理后は五体満足で生きている。
それだけで十分だった。他のことなどそれに比すればこの上なくどうでもいい瑣末事でしかなかった。

これが許されざる行動だということぐらい、無能力者の浜面仕上にだって分かっている。
悪魔の如き所業。罪人の行い。恥ずべき無恥。きっと真実だろう。

(―――それが、どうした。大切な者を守るって言い訳が出来ればどんなに残酷なことだって出来る)

浜面仕上は正義のヒーローなどではない。
スキルアウトなんて掃き溜めにいたと思えば、次は学園都市の暗部にいたようなどうしようもない人間だ。
そんな典型的なヒーローのような役割はとある少年やとある少女にでも任せておけばいい。
何故なら浜面は、滝壺理后ひとりのためだけのヒーローなのだから。

今更そのために人ひとり切り捨てるくらい、何でもなかった。
そしてそれは滝壺もまた同じ。
もともと暗部にいた二人は、いざとなればそういうことが出来る人間だった。
浜面は死体をよく処理していたし、滝壺は絹旗や麦野が作り出した死体を見ても平然としていた。

人を騙し、裏切り、謀り、漬け込み、利用し、切り捨て、殺す。
それが学園都市の暗部で、それが彼らの過ごしてきた世界だった。
今でこそぬるま湯の日常にあれど、そういうヘドロのような世界でこれまで生きてきた事実に変わりはない。
だからこそ、彼らは―――。

605: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:35:00.38 ID:TlEr18gW0


Files

File22.『「雑貨稼業」の記録』

九月八日

客 五
商品 銃器に爆弾、隠れ家に逃走車

九月一一日

客 二
商品 女一人、隠れ家

九月一二日

客 七
商品 女三人、子供二人、両替に整形の紹介

売り上げは上々

606: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/11(火) 01:36:10.73 ID:TlEr18gW0

File23.『「V-ACT」について』

『T-ウィルス』の変種体が、ゲノムの器である肉体に変化をもたらすことが明らかになった。
このタイプは、宿主の意識がなくなり、肉体が休眠期に入ると体組織の再構築を行う。
その際に細胞を活性化させ、体組織自身の改造をも行うようだ(我々はこれを『V-ACT』と命名)。
特筆すべきは、その『筋力とスピードの大幅な上昇』にある。

一度この状態になった個体は、体組織の変化により、『より素早い』動きを有するようになっているのである。
そして何より、その性質は『凶暴』だ。
既に、これらにエサを与えている際に起きた事故で研究員四人が死亡した。
現場は、まさに一瞬にして血の海となってしまった(我々は、これをそのあまりの残虐性から『クリムゾン・ヘッド』と名付けた)。

一度殺しても、ゾンビは死なない。
むしろその活動を停止させると肉体が休眠期へと突入し、『V-ACT』が始まる。
それを阻止するには頭部を破壊するか、死体を完全に燃やし尽くすかの他にない。

629: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:00:39.09 ID:aINuhgPx0

The last breath of hope fades away.


630: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:04:20.84 ID:aINuhgPx0

上条当麻 / Day1 / 17:23:41 / 第一三学区 『博覧百科』

テレビのCMでも頻繁に放送されていた。
図書館や美術館、水族館、プラネタリウムなどを一箇所にまとめてテーマパーク化した場所。
それは『博覧百科(ラーニングコア)』と呼ばれている。
そしてその『博覧百科』は大きく屋外、地下、『避雷針』と呼ばれる高層複合ビルに分けられている。
上条当麻はその『避雷針』の三階を走っていた。

「はっ、はっ、はっ、はっ……!! クソ、冗談じゃねえぞ!!」

美術館や博物館といった高価なものが並ぶこの『避雷針』の中の、博物館エリアを上条は駆ける。
博物館エリアは五階分もの高さがあるのだが、その全体が大きな吹き抜けになっており、巨大な肉食恐竜の骨格標本が上下に貫いていた。
高度な知識を平和利用すれば災害さえ克服できる、という意味を込めて名付けられた『避雷針』。
美術品や骨董品を扱う以上、そのセキュリティはやはり並大抵ではなかったがこの状況ではもはや意味を持っていなかった。

「あいつは、どこに……」

上条は張り裂けそうな呼吸を落ち着けて、しかし一切気を抜くことはしない。
そんなことをすればそれが即座に死に直結すると分かっているのだ。
限界まで張り詰める緊張の糸は、ともすれば簡単に切れてしまいそうで。

「―――ッ!!」

631: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:05:09.43 ID:aINuhgPx0
だがそれよりも早く、『それ』が姿を現した。
展示室へと続くドアを内からいとも簡単に粉砕し、粉塵を突き破ってその姿を見せる。
三メートル程度はあるだろう高い身長だった。
肌は病的なまでに白く、つま先から頭の頂点までが白かった。
心臓の辺りは赤く隆起した血管のような肉の塊のようなものが不自然に浮き出ており、それが顔にまで届いている。
右の太ももは熟れ過ぎた果実のように爛れて見え、何よりその左手は異常発達を遂げており、その五指から伸びる爪が一メートルはあろうかという長さにまで伸びていた。
太さも明らかに普通ではなく、コンクリートや人体などいとも容易くズタズタにしてしまうだろう。

顔もはっきりと目、鼻、口が見て取れるわけでもなく、まるで皮膚の凹凸で形づくられているようにさえ見える。
そんな化け物に上条は追われていた。
化け物は上条の姿を確認するなり獲物を追う獣のように走り出す。
対して上条は逃げる。いいや、その表現は正確ではない。逃げることしかできないのだ。

まず大前提として、上条当麻は無能力者だ。
だから方向性を自在に操作することや世界の法則を覆したり、四つの基本法則の一つを自在に操ったりすることはできない。
加えて、上条はあくまで一般人だ。この場合の一般人とは暗部の人間ではない、という意味だ。
つまり上条は銃器を扱ったことがない。
唯一の特別が『幻想殺し』だが、これもこの化け物にはまるで意味を成さない。

故に逃げることしかできなかった。
捕まれば間違いなく逃れようのない死が待っている。
そしてそうなれば、いつか命のない上条の肉体はひとりでに起き上がり、飢えた亡者として街を徘徊し、今も尚抗う誰かを食い殺すのだろう。
それだけは絶対に嫌だし、それだけは絶対に駄目だ。

「ちっくしょう、どこまで着いてくる気だよあの木偶野郎……っ!!」

体力には自信があった。だがそれもつきかけている。
対してあの化け物は底なしだ。いつまで経っても速度の衰えは見られない。
上条に残された時間は多くない。その間に何か策を考えなければ……。

632: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:05:54.52 ID:aINuhgPx0
とりあえず上条は粉々に割れたガラス窓を跨いで隣の部屋へと移動する。
そこにはやはり大きな恐竜の標本が展示されていた。
それが何という恐竜なのかは上条でも分かった。有名な恐竜だったのだ。

四本の足に三本の長い角。形状としてはサイによく似ていた。
トリケラトプス。白亜紀の北米に生息していたとされる体長およそ一〇メートル、体重約一〇トンの大型草食恐竜だ。
この骨格の全てが発掘された本物なのであれば、その価値は相当のものだろう。
だがそんな骨格標本が長身の化け物によって粉々に砕け散る。
壁も展示品も容赦なく粉砕し、粉塵を巻き上げながら化け物は足裏でブレーキをかけて減速し、やがて止まる。

あのトリケラトプスの骨格にどれほどの価値があったのか、正確なことは上条には分からない。
上条では一生かかっても弁償はできないだろうし、そもそも考古学的な価値で考えれば値段を付けられる類のものではないのかもしれない。
いずれにせよこんな状況ではどうしようもない、と上条は場違いな感想を抱いた。

もう後がなかった。部屋の出口に行くにはこの化け物の真横を通過しなければならないが、これがそれを許すとは到底思えない。
上条はゆっくり近づいてくる化け物に対してじりじりと背後に下がるも、後方へと動かした靴底は何も掴まず空を掻いた。
ここは吹き抜けに接している一室だ。上条のすぐ背後は最上階まで突き抜けている吹き抜け。
もう一歩だって下がることはできない。そんなことをすれば一階まで真っ逆さまだ。
三階もの高さから落下すれば、死を免れたとしても完全に行動不能には陥ってしまうだろう。そうなれば結局は死を待つのみだ。

上条は薄く笑っていた。その額には冷や汗が流れている。
完全に追い詰められたこの状況で、だ。人は恐怖を感じると笑うことがあると言うが。

「―――どうしたよ? 俺はここだぞ。捕まえてみろよ」

挑発するような言葉を放つ。
その言葉をこの化け物が理解できているはずもないだろうが、まるで分かっているように化け物が走り出す。

633: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:06:47.95 ID:aINuhgPx0
「ほら、早くしろよ。俺を殺してみろよ……っ!!」

化け物が相応の速度で上条へとその長い爪を振りかぶって襲い来る。
やはり上条の顔には笑み。だがそれは“恐怖によるものではない”。
いや、恐怖といえば恐怖ではあるのだが、それはこの化け物に殺されるという恐怖ではない。

(……さぁて、果たして上手くいくか)

化け物が容赦なく突進してくる。
そして、絶妙なタイミングで。

上条当麻は前を見据えたまま背後へと飛んだ。

飛ぶ方向に背を向けての三階からのジャンプだ。
相当の恐怖が付きまとったが、このままではどちらにしろ殺されるという事実が上条を奮わせた。
上条を捕らえるはずだった巨大な化け物は見事なまでに空振り。
車が急には止まれないように、慣性を殺しきれずに上条と同じくその巨体が空中へと投げ出された。

足場を失った化け物は為す術なく“墜落”していく。
だが上条はこのまま落ちるわけにはいかない。
一階下の階層、二階の吹き抜けに接しているフェンスを上条は重力に引かれて自由落下しながらも両腕でしっかりと掴んだ。
ガクン、とフェンスを掴む両腕の二点のみで全体重を支え、ぶら下がる形となりギチィ!! と両腕が激しく悲鳴をあげる。

「が、あ、ぁぁああああああ!!」

何せ上条の体重に落下エネルギー、それらの負荷が一気に両腕にかかったのだ。
このまま筋肉が断裂してしまいそうな衝撃に上条は全力で歯を食いしばって耐える。
幸いにも腕の腱が切れるとか筋肉が断裂するという事態は避けられたようだ。
足を上げてフェンスに引っ掛け、必死に這い上がった上条が見たものは。

634: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:07:52.02 ID:aINuhgPx0
「……マジかよおい」

見事なまでに“着地”し、こちらを見上げている長身の化け物の姿。
別に上条とてあれでこの化け物が死ぬとは思っていなかった。
ただある程度の間動きを封じることができれば、その隙に逃げることができる。
それくらいのダメージは与えられると踏んでいたのだが、どうやら認識が甘かったらしい。

ふと我に返った上条は弾かれたように走り出す。
ズキズキと半端ではない痛みを訴える腕は振る度に上条の動きを阻害する。
痛みは伝播し関係ない部位にまで影響を及ぼした。
それでも上条は止まらない。止まるわけにはいかない。

そして、僅か一分ほどが経過した時。
上条当麻は動力室のようなある一室に追い詰められていた。
この部屋に出入り口はたった一つしかなく、そしてその出入り口の前には長大な爪を遊ぶ白い化け物の姿。

(―――どうする)

上条は猛烈に思考を回す。
その大したことのない演算能力をありったけつぎ込んで打開策を模索する。
だが化け物にはそんな上条が答えを導くまで待つ道理はない。
容赦なく上条を突き殺さんと、その爪を掲げた。

(どうする、どうする、どうする……っ!?)

化け物が走り出す。
猶予はあと二秒程度。
絶望的な制限の中、

635: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:09:00.25 ID:aINuhgPx0
「――――――、」

それを見つけた。
だからこそ、上条は何もせずに化け物が突っ込んでくるのを待ち。
そして化け物が爪を突き出したその瞬間。
入れ替わるように、半ば飛び込み前転をするような形で化け物の横をすり抜ける。

「う、ォォおおおおおおおおッ!!」

上条は自身を奮い立たせるように叫んで、無理矢理に体を動かす。
床を転がった直後の無理な体勢から、強引に動かしたせいで足首に負担がかかりながらも。
そして上条を貫くはずだった化け物の爪が火花を散らしながらその後ろにあったものを貫いた。
即ち、『DANGER』『火気厳禁』と注意書きのされた真っ赤なボンベを。

上条がダイブするように出入り口に向けて大きく跳躍したのと、ボンベが爆発を起こしたのはほぼ同時だった。

「―――、つ、ぅ、が、ハァ……!!」

激しい爆風と熱に煽られ、それをその背中で受け止めた上条の体がノーバウンドで紙屑のように吹き飛んだ。
それでも直前に大きく飛んだのが効いたのだろう、ふらふらで今にも倒れそうではあるが何とか立ち上がることが出来た。
壁に手をついて、肩で息をして、背中を叩かれ一時呼吸が止まって、腕はぎしぎしと悲鳴をあげて。
けれど、そこまでした成果は確かにあったようだった。

零距離であの爆発と熱風を受けた化け物の姿は炎と黒煙に遮られて見えない。
見えないということは追ってこないということに他ならない。
熱に歪む向こう側の、その生死を確認する余裕は上条にはなかったし、また必要もなかった。

「……早く、ここから、離れねぇと……」

掠れた声で呟いて、壁に手をつきながら上条は歩く。
『避雷針』の外へと、『博覧百科』の外へと。

636: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:11:13.99 ID:aINuhgPx0


Files

File24.『「B.O.W.」に関するレポート』

これまでの研究で、『始祖ウィルス』を生物に直接投与しても、急激な細胞変化は元の組織を破壊するだけでなく兵器としてのコントロール面においても最適でないことが判明した。
やはり細胞レベルでの融合を行い、その上で生物として成長させる必要がある。
私は成果を見るためにいくつかの実験を行った。これはそのレポートである。


『虫』

この太古から生き続けている生命体は半ば進化の袋小路に達しているのか。
『始祖ウィルス』を投与しても莫大なエネルギーによる巨大化や攻撃性の向上といった変化しか確認できない。
現状、これらを『B.O.W.』として実用化することは非常に難しい。

『両生類』

カエルに『始祖ウィルス』を投与した結果、ジャンプ力と舌が異様に発達した。
しかし、知性という面では全く変化が見られない。
というより、捕食性が強すぎるのか、動くものは何でも食おうとしてしまう。
『B.O.W.』としての限界が見られる。

『哺乳類』

サルの細胞に『始祖ウィルス』を組み込み、その遺伝子をサルの受精卵に加えた。
結果、生まれた個体は攻撃性の向上とある程度の知能の発達が見られるようになった(副作用のせいか、視力の低下とそれを補う聴力の発達も見られた)。

だが、兵器としてはまだ不十分である。
やはり人間をベースとしなければ、これ以上の発展は望めないだろう。

そして『T-ウィルス』投与による『タイラント』経過報告について……(以下判読不能)

637: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:14:16.79 ID:aINuhgPx0

一方通行 / Day1 / 13:04:29 / 第七学区 総合病院

燦々たる有様とはこのことだと一方通行は思った。
まるで廃墟だった。多くの利用者で溢れていたあの病院が、今や見る影もない。
建物のあちこちは崩れ落ち、どう見てもそれは機能していない。
そしてそれはそのまま―――。

「―――クソッタレ」

一方通行は吐き捨て、能力を行使して病院の入り口前に降り立った。
その自動ドアは故障しており、ガラスは容赦なく砕けていた。
靴底でジャリジャリとガラス片を踏みしめて一方通行と番外個体は中へと入る。

「…………」

番外個体は一言も言葉を発さなかった。
その表情から感情は読み取れなかった。
きっと、分かっているのだ。地獄の底で待っているであろう最悪を。
彼女は誰よりもそれを感じ取ることができるから。

一方通行は言葉を発さなかった。
その表情からは何も読み取れなかった。
きっと、認めたくないのだ。地獄の底で待っているであろう最悪を。

二人は無言のまま並び立ち、ロビーへと踏み込んだ。
やはり中も強盗に遭ったかのような、いや、それ以上の有様だった。
天井は一部崩落し、観葉植物は倒れ、ガラスは全て割れ、書類が散乱している。
清潔だった以前からは想像もつかぬ様子に、しかし一方通行は顔色を変えることはない。

638: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:16:26.92 ID:aINuhgPx0
そんなロビーに人影が三つあった。
どれも見知った顔だった。皮膚は爛れて青白く変色し、その目は濁り涎を垂れ流していたが、見知った顔だった。
三人。どれもが数時間前、あの新聞社で見た顔だ。
風紀委員の少年。避難していた一般人。
どうやら彼らは無事にこの病院に辿り着けていたらしい。
無事に辿り着き、そしてここで死んだのだろう。

けれど、死んではいない。
事実こうして一方通行の前に彼らは立っているのだ。
そのどうしようもない矛盾に一方通行は気付きつつも。
ここはもう地獄の底なのだから仕方ない、と納得した。

だからこそ迷いはなかった。
腰につけたホルスターから黒光りする拳銃を引き抜く。
幸い、ゾンビは未だこちらには気付いていない。
動きは迅速で鮮やかだった。パンパンパン!! と意外に軽い音が三連続する。
発砲した反動で上がる銃口の動きさえ利用して素早く次のターゲットへ。
悲しいほどに呆気なく三体のゾンビは見事に頭部に風穴を空けられてその場に沈んだ。

「…………」

一方通行は何か言葉を紡ごうとして、やめる。
今更かける言葉に意味などないと思ったのだ。
何故なら、ここは既に地獄の底で。だからこそ希望など存在しない。
貼り付けたような、異常なまでの無表情さを保つ一方通行。
そこには人間である以上必ず排除できない感情が見えず、まるで機械だった。

639: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:17:51.26 ID:aINuhgPx0
番外個体は何も言わない。
何も言わず、ただ静かに銃を構える。
その顔に表情はない。いつものような悪意すら感じられない。
無言のままに、無感情のままに彼女は一方通行の顔にちらりと視線をやった。

歩く。


―――かつん、


……ジャリッ、


―――かつん、


……ジャリッ、


靴底がリノリウムの床を叩き、遅れて砕けて飛び散ったガラス片を踏み抜くもう一つの足音が響く。
そのすぐ後ろに、一方通行を見守るかのように番外個体の姿があった。

歩く。

640: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:19:05.85 ID:aINuhgPx0




―――かつん、かつん、




―――かつん、かつん、






――――――こつ、






辺りに反響していた小気味のいい足音がぴたりと止まる。
一方通行の赤い眼がまどろみに沈むように細められる。
すぐ後ろで息を呑んだようなため息をついたような、よく分からない音がしたが一方通行はそれに構わない。
見えないところで、彼の心の内で、どす黒く巨大な蛇がのたうつように何かが暴れていた。

その視線の先には、二つの人影があった。
幽鬼のようにゆらりと揺れ、ともすればそれは実体を伴わない陽炎にも見え、しかしどうしようもない現実で。
指先で触れればするりとすり抜けてしまいそうなそれは、悪夢そのもので。

641: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:22:18.07 ID:aINuhgPx0
肩にかかる程度の亜麻色の髪、

整っていたであろう顔つき、

スカートにブレザー、

常盤台中学の制服、

水色のキャミソール、

その上から羽織っているサイズの合わないワイシャツ、

白く濁った虚ろな瞳、

爛れてずらりと並んだ歯が露出している顎、

青白く変色し鬱血している皮膚、

肉が腐り落ちて筋繊維や骨が外気に晒されている太もも、

白く膨れた指先、

死んでいて、

生きていて、

死んでいて、

生きていて、

642: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:25:10.18 ID:aINuhgPx0
ただ、どうしようもなく変わり果てた異形がそこにいた。
生ける亡者と成り果てた妹達と、打ち止めがゆらりと揺れながらも立っていた。

こちらに気付いた彼女たちがゆっくりと動き出す。
言葉にならない呻き声をあげながら、極限の飢えに駆られて、ただ生者の新鮮な肉を求めて、欲望のままに。
酩酊したように足取りは不確かで覚束なく、ただ落ちた武者のように。
そこには人間としての尊厳はなく、あるのはただ、バケモノの姿だけだった。

「――――――くは、」

ドロドロしたタールのような粘着質な静謐に、哄笑が弾けた。
今の今までずっと無表情だった一方通行が、ずっと無言だった一方通行が、その感情が、爆発した。

「くは、はははは。あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

壊れたように嗤った。口は裂けたように三日月に広がり、頬の筋肉は吊り上がる。
目はおそらくは何も見ておらず、心は既に空っぽになりかけていた。

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

「―――――――――…………」

番外個体は何も語らない。
どんな顔をしているのかも分からない。
そんなことを確認する余裕も気にする余裕も一方通行には欠片もなかった。
決定的な、彼のこれまでの生き様を全て根本から粉々に破砕する悪夢的な光景を前に。
第一位の超能力者はたった二つの屍に、その全てを叩き折られていた。

これが垣根帝督だったなら、割り切れていたかもしれない。
これが浜面仕上だったなら、心が砕けるまではいかなかったかもしれない。
これが上条当麻だったなら、これほどの絶望ではなかったかもしれない。

だが一方通行だった。垣根でもなく浜面でもなく上条でもなく、一方通行だった。
『絶対能力者進化計画』。そこから始まる物語に縛られる少年だった。
もはや一方通行の身体と精神は機能を停止しかけ、絶望と恐怖とに全てを蝕まれた少年は、だからこそ。
命に代えても妹達を守り抜くと、かつて『お姉様』に誓った一方通行は、だからこそ、『守る』ために。
またも命を弄ばれているこの顔をした少女を、『守る』ために。

643: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:28:19.32 ID:aINuhgPx0






1.打ち止めと妹達から逃走する
2.打ち止めと妹達を殺害する







647: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:36:55.81 ID:wVUVxO700
2

653: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:50:22.01 ID:aINuhgPx0
一方通行の姿が唐突に掻き消えた。
否、消えたのではない。目視できぬあまりの速度にそう錯覚しただけだ。
脚力のベクトルを操作した一方通行の体が猛烈に加速し、瞬間で距離を零にまで詰める。
音が遅れて聞こえた。そうして、腐肉を晒す打ち止めと妹達の眼前に辿り着き。

腕を、振るった。

二人の体がまとめて薙ぎ払われる。吹き飛んだその体が壁に叩きつけられ、ずるずると二つの体が折り重なるように崩れ落ちた。
一方通行はそれに馬乗りになる。そして、容赦なくその腐った体を打ちつけた。

元々、一方通行は学園都市に七人しかいない超能力者の一角に座す人間だ。
そんな彼と他では圧倒的な力の差があった。
それは軍用として作られた彼女たちと比べても例外ではない。
まして、リビングデッドと成り果て知能や身体機能が著しく低下した状態では尚更だった。

故に彼女たちは抵抗することができない。
故に一方通行の暴虐は止まらない。

「――――――ギャハ、ガハッ!? ガッ、ハハハハッ!? ぎぃはぁはははははははははははは!!!!!!」

ぐちゃ、ぐちゃ、ねちゃ、ねちゃ。
焼く前のハンバーグをこねくり回すような粘着質な音。
もはや水分の多い何かを叩くような音に変わっていた。
一方通行の拳が振り下ろされる度に地が揺れ、『彼女たち』の足が震え、そのつま先がビクッ、と震えるように持ち上がる。
背後からは馬乗りになっている一方通行の背中に隠れ、二人の上半身は見えない。
ただその下半身のみが不気味に振動していた。

654: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:52:45.02 ID:aINuhgPx0
「ぐ、ハァ!? ハ、ごば、はははッ!! はははははははははははははははは!!!!!!」

全てが崩れ、何もかもが終わっていくのを一方通行は感じた。
自分自身のアイデンティティ、尊厳、矜持、夢、『自分だけの現実』。
そういったものが跡形もなく崩れ、ゼロ以下の最悪になっていくのが分かる。
理由もなく力を振るい、理由もなく人を惨殺し、理由もなく世界を食らい尽くす。
そんな最悪の怪物に、いやそれ以下の何かになっていく感触が確かにあった。

一方通行は以前、これと似たような感覚を味わったことがある。
第三次世界大戦。あの雪原の大地で、番外個体という少女を相手に。
だがその時と今とでは状況は似ているようで決定的に違った。
既に彼女は死んでいるのだ。それこそ、一方通行が手を下す前から。

打ち止め。一方通行の希望。彼の全て。唯一無二の最上。
彼を地獄から引き摺り上げ、繋ぎとめてきた楔。一筋の光。
命よりも大切。世界よりも重要。七〇億の人間よりも優越する。
打ち止め。打ち止め。打ち止め。打ち止め。打ち止め。打ち止め。打ち止め。打ち止め。打ち止め。打ち止め。

「ギャァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!
ゲェ、が、ぼっ!? カ、けひ、ぐぅ、ェああ!! あ、ひゃ、がァあああああああああああああアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。なのに生きている。生きている!!

655: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/13(木) 23:55:48.76 ID:aINuhgPx0
その天真爛漫な笑顔で常に彩られていた可愛らしい顔立ちは、生々しく晒されている腐肉と血と膿とに取って代わられていた。
溌剌とした光が灯っていた眼は白濁としてどろり濁りきっており、虚ろで何も捉えてはいなかった。
そのマシュマロのようにふわりと柔らかかった頬は、肉が腐り落ちていて頬骨や赤々とした筋繊維が露出していて、所々鬱血を起こしていた。
彼女に似合う明るい色の服は、やはり血と膿と肉片に染め直されていた。
張りのあった腹は食い千切られ叩き潰され、腸や膵臓といった様々な臓器が一部粘り気を伴って床にこびりつきながらも顔を覗かせていた。
薄い胸板は完全に陥没し、肋骨や胸骨も粉々になり心の臓は辺りにバケツをひっくり返したように散らばっている肉片に混じり所在が分からなくなっていた。

一〇〇三一の死体を積み上げ、一〇〇三一の罪を犯し、一〇〇三一回この顔をした少女を終わらせた。
それは既に確定してしまった過去であり、どれだけ悔いようと変わろうと変えることのできない不変の事実だ。
しかしこれから先は違う。過去は変えられずとも、未来と現在は意思次第で変えることができる。
だから一方通行は決意したのだ。もう一度だってこの少女たちに手をあげることはしない。
命に代えても守り抜くのだと、場違いだろうと滑稽だろうとそう決めたのだと。

にも関わらず。にも関わらず、今一方通行の殺した少女たちの数は増えてしまった。
あってはならないことであり、あり得るはずのないことだった。
だがたしかに今の彼の罪は一〇〇三三だった。もっとも、既に『死んでいた』それを『殺した』のか、というと疑問を差し挟む余地がありそうではあるが。
その罪の証が。まるで染みのように歪な模様を描いて広がっていく。
赤と黒、ピンクの入り混じった奇怪なペイントが。

もう、何も分からなかった。
殺した。潰した? むしろ解放した。それで? 何が。壊す? ニンゲン、バケモノ? 壊す。
わけの分からない無茶苦茶な思考とも呼べないそれが頭を駆け巡る。
一方通行という人間の全てが床の染みと消えていく。
他でもない、自分の手によって打ち止めがカタチを失っていく。
はみ出した内臓が破れ、潰れ、撒き散らされ、顔がなくなり、頭蓋が砕かれ、その脳髄がパンパンに膨らませた水風船を叩き割ったような勢いで四散し、壁や天井にべっとりとこびりついていく。

656: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/14(金) 00:01:38.14 ID:Ls0P6s/B0
いつの間にか、二人の少女だったものは床と同じ高さになっていた。
床に横になってみれば明らかであるが、絶対に自分の体の幅の分だけ床の高さとは差が出る。
自分の体の分だけ隆起したように床から盛り上がる形となる。
だが彼女たちは、床に倒れているにも関わらずその体の高さが床と限りなく等しかった。

まるで伸ばし棒を幾度も転がして、ピザの生地を薄く引き伸ばしたように。
粘土の塊を上から広げた掌で押し潰したように。
極限まで薄く、薄く。
グロテスクな色彩をしたヒトノカケラと赤いナニカだけが辺りに飛び散り、けれど白い少年にはただの一つもそれらは付着しない。
『反射』。悪意も善意も全てを拒絶する盾によって彼は守られ、ただ打ち付ける。

とっくに彼女たちの生命活動は停止している。
屍となった二人は完全なる死を迎えている。
分かっていた。けれど一方通行は止められなかった。
少女だったものの、不自然なほど残っている下半身だけが拳が振り下ろされる度に振動する。
だがそれとは対照的に、腰から上の上半身は見事なまでになかった。

全てが瓦解する。何もかもが失われていく。
何も残らない。何も残らない。何一つ残りはしない。
冷たい部屋の隅で足を抱えて震えていることしか出来なかった自分に、暖炉の暖かさを教えてくれた小さな少女。
何かを守りたいだとか大切だとか、そんな当たり前の感情を教えてくれた少女。

打ち止めだけではない。彼女以外の妹達とてまた一方通行にとって大事な存在だ。
だがもうその妹達は原形すら残ってはいない。他の誰でもない、一方通行が破壊したから。
結局、何も変わってなんかいない。変われてなどいない。

657: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/14(金) 00:04:07.48 ID:Ls0P6s/B0
死んでいた。生きていた。不気味に白く膨れた指を伸ばし、ただ幽鬼のように餓鬼のように、猛烈な飢餓に駆られて動く亡者として。
一方通行が何もしていなくても死んでいた。初めから全て終わっていた。
だからこれは救済ともいえる。彼女を死して尚縛り付ける呪われた忌まわしき鎖を断ち切ってやった、と考えることもできるかもしれない。
この期に及んで尚命を弄ばれ、死ぬことも出来ない苦痛の螺旋に出口を示してやったのだ。
そのために打ち止めの可愛らしい顔を文字通り潰し、胸を、腹を、全てを壊し殺した。
二度と起き上がらぬよう、打ち止めの眼球を押し潰し頭蓋を砕き脳髄を圧縮し骨を粉砕し皮膚を破り肉を千切り繊維を断裂させ血管を引き裂き臓器を叩き固体を液体へ変えた。

当然一方通行はこれが救いの行為だなんて考えてはいないけれど。
これが破壊だろうが救いだろうが、もう起こってしまったことは何も変わらない。

「ぎ、げはッ!? ぐ、げ、バッ!?」

何か不快なものがこみ上げたと思った瞬間、一方通行は口から黄色い吐寫物を撒き散らした。
びちゃびちゃと床を叩く生理的嫌悪感を掻き立てるような音。
血と肉片と臓器と骨のプールにブレンドされ、更に醜悪な光景を作り出す。
打ち止めの体にかかるかと思われたが、そうはならなかった。
何故なら打ち止めは、もう『ない』のだから。

激しく咳き込みながら蹲った一方通行の背中から、見ただけで心の奥の奥の奥の奥の奥の奥の奥の底から破滅するような、世界で最もグロテスクで醜悪なものが噴出す。
だが、まるでそれを止めるように背中に何かが触れた。
当然それは『反射』され、しかし停止したはずの一方通行の心がふと動いた。

―――待て。

今、背中に何かが触れている。今この瞬間も触れている。
だがそれは『反射』したはずで、

658: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/14(金) 00:06:31.19 ID:Ls0P6s/B0
「バッ……!!」

一方通行は瞬時に『反射』をオフにした。
振り返る。そこにあったのは、崩れて壊れてゼロ以下になる彼の心を繋ぎとめる楔。
番外個体という少女が、少年を抱きしめていた。
『反射』されても尚、その腕を懸命に離すまいと。

彼女の両腕は悲鳴をあげながら、しかしそれでも番外個体は動かなかった。
もし一方通行が『反射』を切るのがもう少し遅れていたら本当にその腕は弾け飛んでいたはずだ。
そしてそんなことは彼女だって分かっていただろう。
第一位の能力がいかなるものか、彼女が把握していないはずがないのだ。
それでも番外個体がそう行動したのはきっと、単純にそれ以上に優先するべきことがあったからで。

「―――こうでもしないと、あなた気付かないでしょ」

ぽつりと呟く。その顔に何か雫が零れたような跡がはっきり残っているように見えるのはきっと気のせいではない。
その声があり得ないほどに震えているのも、きっと気のせいではない。
一方通行を半ば強引に振り向かせ、ほっそりとした指をその白い頬にかける。
その指が震えているのも、やはり気のせいではない。

「……このミサカにしなよ。そうでなきゃあなたはここで終わる。何の比喩でもなく、文字通りね。
だから、ミサカが理由になってあげる。このミサカを守って。そのために、それまで生きて。
ここであなたに死なれるのは―――困る。ミサカも、悪いけど―――余裕を取り戻してたつもりだったけど……一人じゃ、この世界に食い尽くされる。やっぱり、耐えられない」

659: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/14(金) 00:10:56.96 ID:Ls0P6s/B0
(――――――あァ)

一方通行は気付く。
たしかにこの世界はどうしようもなく狂ってしまったけれど。
それでも、まだこの少女がいる。
同居していた本物の姉妹のようであった打ち止めが歩く亡者となり。
自身の一部とも言える妹達がアンデッドとなり。
それが目の前で肉片となり、血と肉と腐敗臭が支配するこの凄惨極まる地獄にいて、尚生きている少女が。

だから、ここで壊れるわけにはいかないのだ。
この救いようのないイカれた世界から番外個体を解放するまでは。
狂気の渦から彼女の身と心を守り抜くまでは、絶対に。

「―――あァ――大丈、夫だ―――」

何も大丈夫なことなどないけれど。
確かに頬から伝わるのだ。命の拍動が。生の喜びが。生者の温かさが。
何も、大丈夫なことなどないのだけれど。
一方通行はそう告げて振り向き、躊躇しながらもそのほっそりとした白い指を伸ばしてその細い体を抱きしめた。

一方通行には、もう死しかない。独り惨めに、打ち止めを殺した一方通行はもう死ぬしかない。
あの少女を喪ったその瞬間、彼の死は決定された。この惨劇がどういう結末を辿ろうと、きっとそこは変わらない。
だがそれはこの少女を完全に守りきってからの話。

体から未だ溢れ続ける絶望と怒りと嘆きと破壊衝動を確かに感じながらも。
この時だけは、ただ静かに希望を抱擁した。
番外個体は抵抗しなかった。今この時ばかりは、何も言わなかった。

少女はそれ以上一言も発さず、無言を貫いた。
そんな番外個体に縋りつくように一方通行は抱きしめる。
その紅い眼から何かが零れたような、気がした。
結局それが錯覚だったかどうかは分からなかったけれど。

少年と少女は、最も大切だった者の亡骸の上でいつまでも抱き合っていた。

685: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:33:16.08 ID:fIn3YiIE0

垣根帝督 / Day1 / 17:25:37 / 第六学区 動物園

「―――逃げ切ったか」

「……やばかった。今のはやばかったわ」

炎を纏う女王アリ―――アレクシアと彼女率いる白アリの軍勢から逃げ続けていた垣根帝督と心理定規。
ようやく追跡を振り切ったことを確認した二人は、力尽きたようにその場に座り込んだ。
万を超えるアリの大群が、まるで大地が波打つように追ってくる光景は恐怖以外の何物でもない。

「……にしても、ここは一体どこなんだ。適当に逃げてきたから第何学区にいるのかも分かんねえぞ」

「……本気で言ってる?」

辺りを見回す垣根に、心理定規は緊張した面持ちで問う。
垣根の背後を指差し、その声は僅かに震えていた。
何か恐ろしいものを見たような、そんな声。
もっともずっとそんなものを見てきたのだが、ともかく垣根は心理定規の指差す方を振り返り。

「……冗談じゃねえぞ」

そこにいたのは、猿だった。
やはり鋭い爪が伸び、ところどころ体毛と皮膚が剥がれて中の筋肉が露出しているものの、明らかにそれは猿だった。
だが重要なのはそこではない。垣根が焦っているのは猿そのものにではない。
目の前には化け物と化した猿。そこから導ける一つの事実。
垣根と心理定規が注目しているのはそれだ。

686: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:34:12.60 ID:fIn3YiIE0
常識的に考えて―――常識などもはやこの街には存在しないのだが―――猿が街中を闊歩しているなど、あり得るだろうか?
人間、犬、蜘蛛、蟻。これらはいいだろう。二人が見てきた化け物の元は、たしかにそこいらにいるものだ。
だが猿は違う。ここは田舎の山中ではない。少し前まで繁栄を極める科学の世界なのだ。
そんなところに猿などがうろついているはずがない。

しかし。たった一つ、それがあり得る場所がある。
科学の中心であっても、科学の中心だからこそあるその場所が。

「―――動、物園……ッ!!」

果たしてそれが何を意味するのか。
生前の猿と変わらぬ叫び声をあげ、猿がその爪を掲げて飛びかかってきた。

「チッ!!」

やはり元が大型真猿類の猿。ゾンビ犬と同じくその動きは俊敏で、どころか生前より向上さえしていた。
それを支えているのは膨れ上がった筋肉組織。
一見ゾンビと同じく皮膚が剥がれ落ちて筋肉が露出しているように見えるが、実のところそれは全く違った。
増強された筋肉組織が肥大化し、外皮を突き破るまでになっていたのだ。

だが所詮猿は猿。いくらその能力が向上していようと限界は見えている。
少なくとも。超能力者『未元物質』の脅威になるほどのものではないことは明白だった。
それを証明するように垣根が素早く猿に向けて右手を翳す。五指を広げたその掌で猿を包み込むように。
そして垣根がぐっ、と握り潰すかのようにその手を拳を作るように握り締めた。

687: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:35:13.91 ID:fIn3YiIE0
「弾けて混ざれッ!!」

その瞬間。何らかの圧を外部から受けた猿が、全方位から均等に押し潰されたようにぐちゃぐちゃに圧縮された。
血を派手に撒き散らしながら猿は落下し、どしゃりと地面に叩きつけられ血溜まりを作り出す。

「……汚え花火だ」

「本当にね」

だがそんなことは垣根も心理定規も気にもかけない。
問題なのは、

「しかし動物園だと。いつの間にそんなとこに入り込んでたんだ!?」

「知るわけないでしょそんなの!! それより早く脱出しないとまずいわよ!!」

動物園には数多の動物がいる。至極当然のことだ。
だが普段なら見る者を癒してくれる愛らしい動物たちも、今この場ではその限りではない。
それはそのまま彼らを脅かす脅威そのものなのだ。
動物園にいる動物は猿だけではない。それらが群れを成して襲ってきたらどうだろうか。

そう思った矢先のこと、小型の蛇が集団で現れた。
うねうねと体をくねらせながら、長い舌をシューシューと遊ばせながら。
心理定規が走りながら適当に発砲して威嚇しながら怒鳴った。

「飛びなさいよ!! あなたのそのメルヘンな翼は飾りじゃないでしょ!!」

心理定規のもっともな言葉に、垣根は小さく肩を竦めた。

688: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:36:54.30 ID:fIn3YiIE0
「俺だってそうしてえよ。だがな、あれを見てみろ。
空には死肉狂いになった烏が大量に飛んでる上に、それぞれが縄張りを作ってやがる。
その領域に少しでも入ったら最後、連中は群れで攻撃を仕掛けてきやがる」

曇天の空を飛び交う黒い影を指差して、垣根は言う。
もともと烏は縄張り意識は強く、それが変化の影響で更に刺激されていた。
また例に漏れず攻撃性も大幅に上昇しており、人間を襲うことに躊躇を全く見せない。
集団で襲われれば人ひとりなどあっという間に肉を啄ばまれ、標本さながら骨だけにされてしまうだろう。

それでも、垣根ならばその程度一蹴できる。
所詮は雑魚の集まりに過ぎない弱小集団など相手ではないのだ。本来ならば。
だがそこには二つの制限が課せられる。

一つには心理定規の存在。彼女は大能力者という高位の実力者だが、その力は人外との直接戦闘には意味を成さない。
必然、彼女を守るために垣根は常に気を使う必要が出てくる。
一つには『感染』の危険性。烏の攻撃そのものは大したことはない。
だが代わりに一度でも、少しでも食らえばそれが垣根であれ心理定規であれ『感染』してしまう恐れがある。
その恐怖が動きを鈍らせ、生まなくてもいいはずの焦燥と隙を生み出し得る。

「……しょうがないわね。チッ、使えねえなこいつ」

「全裸で吊るして置いてくぞコラ」

「冗談だってば。にしても……ん? ―――いやいやいやいや。待ってよ嘘でしょねえ」

突然心理定規の顔がみるみると青ざめた。
今度は何かと垣根が確認してみると、

「あん? ……ハッ、こりゃあまた随分と……」

よく気を張ってみれば、僅かに足元に振動を感じた。
ずしん、ずしん。まるで巨人の足踏みのような揺れ。
その地鳴りの発生源を見てみれば、そこには地上の王者がいた。
体長四メートルほど、体重およそ一〇トン。地上最大の動物の姿がそこにある。
そして当然、それも他と同じく感染していて、ずしんずしんと地を鳴らしながら走ってきた。

「逃げる、ぞ……!!」

「当然!! あんなの相手にしてられるかっての!!」

689: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:37:55.99 ID:fIn3YiIE0


Files

File26.『係員の日記』

九月九日

最近、やはりここの動物たちの様子が変だ。
異様に食欲が増大しているように見えるのは気のせいじゃないだろう。
そして何より明らかに凶暴化している。俺にはあんなに懐いていた奴らもやけに食いかかってくる。
まさか流行している奇病とやらに動物たちも感染してしまったのか……?
だとしたら早急に手を打たなければならない。
打たなければならないのだが、生憎と研究やワクチンの開発は俺たちの仕事じゃない。
一日も早く治療薬ができあがることを祈るばかりだ。

九月一〇日

ついに起きてしまった。嫌な予感はしていたんだ。
今日、動物にエサを与えようとした飼育員が一人殺された。
動物たちが原因不明の凶暴化を起こして以来、直接入ってのエサやりは禁止されてたっていうのに。
あいつときたら、こんな時にまで動物好きを発揮しやがって。それで死んじまっちゃ世話ないぜ、クソ!!
もうこうなってしまったら異常以外の何物でもない。
パニックを防ぐためにしばらくは情報規制が敷かれるようだ。

九月一一日

今日は同僚の一人とチェスをやった。
あんなことがあって、みんな他のことで無理やりに気を紛らわせたかったんだ。
そいつとは同僚ではあるもののほとんど喋ったこともなかったが、チェスが強いという話は聞いていた。
いやはやいざやってみたらこれが予想以上の腕前だった。俺もチェスは強い方だと自負していたが、それは思いあがりだと思い知らされた。
しかし、随分と食欲旺盛な奴だ。あんなに肉ばかり食って大丈夫なのか。
風呂に入り忘れでもしたのか、やけに体を掻いていたのも気になった。
もしかして……。

そういえば俺も今日は調子が悪い。

690: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:39:11.38 ID:fIn3YiIE0

御坂美琴 / Day1 / 18:39:57 / 第一二学区 スーパーマーケット

調達しなければならないものが多い。
美琴と佳茄は比較的大きめのスーパーマーケットに立ち寄っていた。

「……酷い有様ね」

「…………っ」

かつてはセールの時など特に人で溢れかえっていたであろうそこは、もはやその見る影もなかった。
棚はそのほとんどが倒れ、商品は滅茶苦茶に散らかっている。
落ちた野菜などが踏み潰され、カラフルな汚れを床に刻んでいた。
ハリケーンの直撃でも受けたかのような荒れ果てた店内を二人は歩き回る。

ゾンビの姿はところどころに見られた。
ゆっくりと徘徊している者や一箇所に立ち尽くしている者、中には倒れている亡者を食らっている者もいた。
床に倒れているゾンビの腹に口をつけ、貪っている。
こちらに背中を向けているためその様子はよく分からないが、それでも食らっていることは嫌でも分かった。
肉を咀嚼する気持ちの悪い音が耳を叩き、その周囲にみるみると血溜まりが広がっていく。

691: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:42:54.13 ID:fIn3YiIE0
「ひっ―――」

美琴のスカートの裾をしっかりと掴み、その背中に隠れて佳茄は掠れた声を絞り出す。
その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていて、可愛らしい活発な顔が台無しになっていた。
小さな体が小刻みに震えているのが生者の温かさと共に伝わる。
当然だろう、と美琴は思う。こんな悪夢的な世界にたった七歳の少女に耐えられるわけがない。
……もっとも、一四歳の少女にもあまりにも酷ではあるのだが。

「……見ないでいいの」

美琴はそっと目隠しするように自分の左手で佳茄の目元を覆う。
こんな幼い少女に見せていいものではないし、自分だって見たくはない。

「お、姉ちゃん……こわい……」

ぎゅっと抱きついてくる佳茄に対し、美琴は目を塞いだままその頭を反対の手で撫でてやる。
甘えたい盛りなのか、こうしてやると佳茄は安心した顔になることを美琴は知っていた。
実際頭を撫でられるというのは安心感を感じることができる行為である。
とにかくこの場を離れよう、と美琴が佳茄に告げようとしたその瞬間。

突然、視線の先にある窓の向こう側を赤い何かが素早く横切った。

当然窓は地面に対して垂直に張られているので、今の何かは壁に張り付いて移動していたということになる。
まだ見ぬ未知の化け物。一瞬見えた真っ赤な体。
美琴は佳茄の目を塞いでいて良かったと心から思わざるを得なかった。
それに何か―――言葉では表せない、言い知れぬ何かを美琴はあれに感じる。
あれが何なのかなど分からないのに、どうしようもない恐れと絶望が体中に広がっていくのを理解する。

(何よ……この感じ。この粘つくような嫌な感覚は……)

692: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:45:10.28 ID:fIn3YiIE0
「佳茄ちゃん、こっちよ。ついてきて」

小声で囁き、とことこと歩く佳茄の手をしっかりと握り美琴はそそくさとその場を離れる。
屋外ならまだしも、こういった範囲が限定された空間であればレーダーを使うことでアンデッドと鉢合わせしない立ち回りが可能となる。
美琴は頭の中で電磁波から受信した情報を元に空間把握を行い、鮮明に電子の地図を描き出す。

そしてやってきたのは事務室だった。
そう広くはない部屋で物も散乱しているが構わない。
美琴が今この部屋に求めているのはそういうものではないのだ。

「佳茄ちゃんはここで待ってて。大丈夫、すぐに戻ってくるわ」

「え……?」

そう言うと佳茄は呆然としたような表情を浮かべた。
どうしてもあの化け物が気になった。
あれを放っておいてはならない。絶対に何とかしなければならない。
そんな予感というにはあまりにも確信染みたそれをどうしても捨て置けない。

「このボタンを押してからこのマイクに向けて喋ると館内放送になって、私に声が届くようになるから。
何かあったらそれで知らせて。勿論、私自身も注意するから安心して」

安心などできようはずもない。そんなことは分かっていて、美琴はその言葉を言う。
他に何も言葉が見つからない自分に嫌気が差しながらも仕方がない。
結局それしか美琴にはないのだから。

693: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:46:37.00 ID:fIn3YiIE0
「あ、……お姉ちゃん……」

震える少女の声に、美琴はそれは恐怖や不安からくるものだと思っていた。

「一人でお外に出るなんて、危ないよ……」

だが。少女から飛び出したのはそんな言葉だった。
怯えでもなければ恐れでもない。
つい先ほどは「怖い」と素直に恐怖の感情を吐き出していたというのに。
―――今は、たった七つのくせに一丁前に他人の心配をしているではないか。

美琴は膝を折ってしゃがみ込み、佳茄と目線の高さを合わせる。
今は亡き親友から教えてもらった、子供との話し方。
出来る限りの笑顔を浮かべて安心感を与えようとする。

「心配しないで。私、こう見えても凄く強いのよ?
なんたって学園都市の頂点、超能力者なんだからね。
私より強いヤツなんてどこにも、一人もいないんだから。だから私が負けるなんて絶対にあり得ないわよ」

「本当に……? 本当に帰って来てくれる……?」

「ええ」

「いなくなっちゃ駄目だよ?」

「ええ」

「怪我しちゃやだよ」

「ええ。あ、そうだ―――約束。約束しましょ」

694: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:47:34.67 ID:fIn3YiIE0
美琴は小指をピンと立てて佳茄の眼前に差し出す。
佳茄にもすぐにその意図が伝わったのか、同じように小さな小指を差し出した。
美琴の小指をサイズの違う小さな佳茄の小指と絡め、口ずさむリズムに合わせて小さく手を揺らした。

「ゆーびきーりげんまん、」

「うーそついたーら針せんぼーんのーます」

「「ゆーびきった!」」

美琴が笑うと、佳茄も笑った。それで十分だった。

「それじゃ、ちょっと行ってくるわ。
……いい、佳茄ちゃん。絶対にここから出ちゃ駄目よ。
何があっても、どんなことがあっても、ここに連中が入ってきた時以外は私が迎えに来るまで待ってるの。できる?」

「うん、分かった。大丈夫だもん。私、お留守番できるよ!! えらい?」

「うん、えらいえらい」

佳茄の頭を最後に優しく撫で、美琴はすくりと立ち上がる。
佳茄を一人残して事務室を出て、後ろでにぱたん、とドアを閉める。
その瞬間。スイッチが入ったように美琴の目つきが、眼光が明らかに変わった。

全方位に極限まで気を使いながら一歩一歩確実に床を踏みしめる。
佳茄のいる事務室へ続く扉は一つだけ。そしてそこへ行くには今美琴が歩いている細い通路を通るしかない。
つまりこの通路にさえ気をつけていれば亡者共があそこへ辿り着くことはない。

695: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:48:57.48 ID:fIn3YiIE0
だが、そんな美琴の考えは無意味なものとなる。
最初に感じた異変は、臭いだった。

(この吐き気を催させる嫌な臭い……血の臭い―――死臭)

最初にここを通った時にも血の臭いは感じた。
ハラワタを食らっている死者が血溜まりを作っていたし、亡者そのものからも腐敗臭と共に臭ってくる。
というよりも、おそらく今の学園都市ではどこにいたって死の臭いが鼻腔をくすぐるだろう。
しかしそれにしても臭いが強烈すぎた。つい先ほどまではこれほどではなかったというのに。
しばらく歩いて、そして気付く。

「死んでる……?」

先ほどまでこの辺りを徘徊していたゾンビが死んでいた。
一体も残さず全員悉くが平等に血の海に沈められている。
見てみれば中には首が捻じ切られ、頭部が存在しないものまであった。
当然ながらやったのは美琴ではない。美琴はこれまでただの一体も殺していない。
腐肉を晒す死者の軍勢を相手に、美琴は『殺す』という行為をどこまでも拒絶し続けた。

では一体何者の仕業なのだろうか。
そもそも美琴がここを離れていた時間、つまり佳茄と事務室にいた時間は長くない。
一時間二時間もいたわけではないのだ。せいぜい数分、その短時間の間にこれほどの虐殺を行ったもの。
それができるだけの恐ろしさを持った化け物。

696: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:50:36.98 ID:fIn3YiIE0
……ふと、レーダーに反応があることに気が付いた。
遅れて目視で気が付いた。

―――ぽたり、ぽたり。
血の雫が落ちてきて、それが床にぶつかって弾け小さな赤い水溜りを作っていた。
新たな一滴が落ちる度に赤い水面に僅かな波が刻まれていく。

そう、血は落ちて、垂れてきているのだ。
ということはその発生源は上、即ち天井ということであり。
その場所はレーダーが示す場所と全く同一であった。

だからこそ美琴は立ち止まり、頭上を見上げた。
そこには果たしてレーダーが捉えたものがいて。この惨劇を作り上げたものがいて。




そして、果たして最低最悪の狂気と悪夢の結晶がそこにいた。




人の体表を全て溶かし、骨までも取り除いて生まれたような異形だった。
肥大化した脳が露出し、外部からその最も重要な器官が丸見えとなっていた。
それ自体が別の生き物の如くくねる長い舌。痕跡すら残さず退化し存在しなくなった眼。
全身の皮膚はほとんど残さず剥離し、新たに形成されたピンクがかった赤の筋組織が全身で露出している。そのためその化け物は真っ赤だった。

697: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:51:53.54 ID:fIn3YiIE0
「――――――うそ、あ、あ……うぁ、あああぁぁぁぁああ……」

骨格が根本から変形したことにより四足歩行を基本としており、それは両生類のように天井に張り付きそのまま全身をくねらせながら近づいてくる。
その両手はやはり肥大化し、巨大な爪が五つずつ伸びている。
その長大な舌を遊ばせ、透明な唾液をも糸を引かせて垂れ流しながら―――そのゾンビなどとは比較にならぬ剣呑な化け物は美琴を捉えた。
眼が完全になくなっているために“見られた”というのは錯覚でしかないのだが、確実に捉えた。

「―――はは、は、っ、はははは……」

けれど。御坂美琴が見ているのはそんなところではない。
露出した気持ちの悪い脳でも、長い舌でも、鋭い爪でも、赤い体表でもない。
美琴の意識を縛り付けて悲鳴をあげるほどに締め上げているのは。
美琴を絶望の奈落に容赦なく突き落としているのは。

その赤く変わりきった体表に少しばかり張り付いた衣服。
肥大化し露出した脳の、僅かにまだ残っている頭皮から伸びる髪。

もう少し詳しく述べるなら。
本来ならば煌びやかな気品を放ち、人の目を引き付ける常盤台中学の制服と。
長い髪を二つに括ったツインテールの片側と言うべきか。

その完全な化け物に僅かに残っている髪はあまりにも不恰好で、不似合いで、抽象芸術と言われても納得できないような圧倒的な違和感を醸し出している。
けれど、片方だけになっているとはいえ、赤に染められているとはいえ、それは酷く見覚えのあるものだった。
断片的に張り付いた制服も自分が今来ているものと同じであり、強烈な既視感を覚える。
おそらく今の形態に変異して間もないのだろう。だからこそ人間だった時の名残が僅かだが見て取れる。

それは、最悪でしかなかった。

698: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:52:55.30 ID:fIn3YiIE0




「――――――黒子――――――」





699: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:53:48.62 ID:fIn3YiIE0
黒子。そう、白井黒子だ。
彼女のトレードマークだったツインテール。ずっと一緒にいたのだ、一目見れば分かる。分かってしまう。
ああ、せめて―――完全に化け物になってしまっていてくれたら良かったのに。
原型など欠片も残さず、生前の面影など全く読み取れなくなっていてくれればまだ良かったのに。
中途半端に人間の名頃が残っているから、分かってしまう。

その化け物が、かつて白井だった化け物が、天井から剥がれるように落ちて来る。
血と涎を垂れ流しながら、美琴の頭部に狙いを定めて。
そして、それを引き攣った顔で見ていることしか出来ない美琴の眼前で。
ふっ、と。突然空気に溶けるように化け物の姿が虚空へ掻き消えた。

「っ!?」

反射的に横へ大きく飛ぶ。
その直後、つい寸前まで美琴がいた場所を化け物の槍のように硬化した長い舌が抉り取った。

「ハァアアアァァァァ……」

『空間移動』。美琴はそれを知っていた。よく知っていた。
自慢の後輩の有する能力で、何度も何度もそれを見ている。
だから出現するタイミングも、どの位置に現れるかも手に取るように分かる。
生前と同じ行動パターンを取るとは限らなかったが、いずれにせよレーダーがあるので問題はない。

「黒子―――……」

問題はそんなことではない。
問題と言うのならそれは目の前の異形そのものだ。

700: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:55:18.09 ID:fIn3YiIE0
この化け物は、確実に美琴を殺すつもりで攻撃している。

それが嫌でも分かる。加減も容赦も躊躇もない。
そこに生前の名残はない。ただ肉を食らおうとする捕食者でしかなかった。
矜持も。尊厳も。信念も。記憶も。感情も。
何もかもを捨て去り、化け物へと変貌し、もっとも大切だったはずの人物へ牙を剥く。

こちらに向けて舌を出し入れしていた化け物の姿が再度消える。
美琴は同じように横へ飛びながら、背後に向けて素早く電撃を放った。
やはり背後に現れた化け物の爪は虚しく空を掻き、入れ替わりのように美琴の電撃が直撃して僅かに吹き飛び、倒れ伏した。
が、やはり耐久力も跳ね上がっているようですぐに起き上がる。

「黒子―――」

この化け物の動きが予測できる。
元々は白井黒子だったのだから、当然だ。
けれどその事実が尚一層に目の前の化け物=白井という事実を際立たせる。
体の震えが止まらない。顔は死人のように真っ青になっていた。茶色の瞳からは透明の雫が止まることなく流れ続けていた。
どこかから聞こえるがちがちという音がやけにうるさかった。

辺りに散らばっているいくつもの無残な死体。
頭蓋が砕かれているもの、上半身と下半身で真っ二つになっているもの、首から上がなくなっているもの。
そのどれもが凄惨極まる殺し方をされ、スプラッタ映画さながらの地獄を演出していた。
鼻腔を刺激する鉄錆の臭いはきつく、むせ返るほどの死の臭いが体内に充満する。

701: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:56:48.14 ID:fIn3YiIE0
この筆舌に尽くしがたい光景を作り上げたのは、この化け物だ。
こいつは人を殺す。人でなくても殺す。
全てを殺し、殺し、殺し尽くすだろう。
何もかもを血と肉で赤一色に染め上げて咆哮するだろう。

白井黒子は人を殺さない。風紀委員の誇りにかけて、人としての尊厳にかけて。
それが白井という人間であり、それが彼女の正義だった。
そう、白井は人を殺さない。間違っても殺さない。

けれど。今のこれはもう、白井黒子ではないのだから。
白井の信念、正義、生き様。そんなものには構わずに人を殺す。
目につく生き物全てを殺し、逃げ惑い抗う人間を殺すだろう。


ここで止めなければ―――『彼女』はいつまでも人を殺し続ける。




だから。だから。だから。だから。だから。だから。だから。だから。




御坂美琴はここでありとあらゆる全てを賭して―――白井黒子を止めなければならない。





702: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:57:54.12 ID:fIn3YiIE0
何かが鳴動し、僅かに床が揺れた。
その衝撃に反応して化け物が空間移動でもしようとしたのか身じろぎするが、圧倒的に遅すぎる。
ゾン!! と突然床を砕き、地下から飛び出した黒い槍のようなものが、あっさりと化け物の腹部を貫いた。

ジジジ……と誘蛾灯の虫を焼く高圧電流のような音をたて、表面が細かに微振動を繰り返している。
まるでチェーンソーのようになっているそれは、砂鉄だ。
美琴が磁力で地下から強引に召喚した砂鉄の槍が、まるで地面から生えるように飛び出して化け物を容赦なく刺し貫いたのだ。

化け物は甲高い奇声をあげながら暴れるも、砂鉄の槍によって中空に縫い止められ全く抜け出すことはできなかった。
演算が行えず空間移動を使うこともできないのだろう。
そんな化け物の、砂鉄の槍の周囲の床が円形にくり貫かれそこからドバァ!! と黒い奔流が吹き乱れた。

その正体はやはり砂鉄だ。御坂美琴の命を受けた軍勢が大軍で飛び出したのだ。
凄まじい勢いで巻き上がった砂鉄は瞬時に竜巻を形成し、完全に化け物を全方位から取り囲む。
その勢いで店の天井は完全に破壊され、辺りの物は全てシュレッダーにかけられたように粉々になっていく。
その破片や瓦礫さえも粉々に分解され、砂鉄の嵐は尚一層勢いを増していった。

「――――――黒子ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!」

喉が裂けるほどに叫び。腹の底から叫び。
尋常でない速度で渦巻く砂鉄の嵐が一気に狭まり、渦の中心に縫い止められている化け物を全方位からすり潰す。
グチャチャチャ!! ブシュッ、ザァアアア!! という音が響く。

703: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/28(金) 23:59:27.71 ID:fIn3YiIE0
それは、黒の嵐が白井黒子だったものの皮膚を剥ぎ取る音。
それは、黒の嵐が白井黒子だったものの肉を削ぎ落とす音。
それは、黒の嵐が白井黒子だったものをズタズタに引き裂く音。

「キィヤァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

化け物の、白井の名残を色濃く残す耳を劈くような悲鳴が上がる。だがそれもすぐに砂鉄が荒れ狂う音と筋組織を断裂する音に呑み込まれる。
白井だったものの四肢が切断され、骨が簡単に砕け、そのカタチを失っていく。

「が、ああァァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

両手で自身の両肩を抱きしめて美琴は獣のように吼える。白井の悲鳴を掻き消すように。
体をくの字に折り曲げて、がちがちとうるさい歯を食いしばりながら、けれど力を止めはしない。
かつて白井黒子と呼ばれていたものは完全にすり潰され、大根おろしのように原形を失っていた。

千切れた四肢も、脳も、内臓も、肉も、骨も。
全てが悉く黒い竜巻に巻き上げられ粉々になり、その生きていた証さえも夢幻のように消え去っていく。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

切り裂いて、断ち切って、砕いて、圧縮して、すり潰して、ズタズタにして。
白井黒子というものを跡形もなく削り取っていく。
黒の嵐は無感情に食らいつき、一切の容赦なく加減なく獲物を食い散らす。

704: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/29(土) 00:01:07.56 ID:y1h3tmao0
どれほどの時間が経ったのだろうか。
ふと気付いた時には黒嵐の暴風は収まっていて、美琴はその場に両膝をつき、手で頭を抱えていた。
砂鉄に混じって赤い、赤い液体が海のようにどこまでも広がっている。
その催吐性を持つ赤の鉄錆の臭いが美琴の鼻から体内に吸収され、肺を満たす。白井の死が、体内を満たす。

周囲には細切れになったぶよぶよしたものが滅茶苦茶に飛び散っていた。
まるで挽き肉のようなそれは―――正しく挽き肉だった。
白井だったものの、美琴によってグチャグチャにされてバラバラになった肉。
自分の意思で、白井黒子をズタズタに引き裂いてミキサーのように粉砕し、粉々にした。

奇妙なぬめりを持つその肉片は紛れもなく白井黒子の一部分で、辺りを真っ赤に染める血は間違いなく白井のものだった。
殺した。原形など全くない。そういうレベルで全てを削り取った。
一度振るえば全てを天災のように破壊し、軍隊すら叩き潰し、全てに君臨する超能力者。超電磁砲の力を、白井を殺すために使用した。

「……あ、ああ……ああああああ……」

お姉様、と。そう少女は呼んでくれていた。
実際には姉妹などではないのだからよく分からない呼び方ではあるけれど、最初こそ戸惑ったけれど。
「御坂様」と呼ばれるよりは遥かに嬉しかった。

こんな自分を慕ってくれた。短気で、意地っ張りで、子供趣味で、何かあるとすぐに力を振るってしまうこんな欠点だらけの自分を。
いつだって白井は美琴を信頼し、慕い、支え、助け、叱り、傍にいてくれた。
それがどうしようもなく嬉しかったのだと、美琴は思った。

705: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/29(土) 00:02:05.92 ID:y1h3tmao0
思えば美琴を孤独から救ってくれたのは白井だった。
超能力者。その絶対の称号を得てから美琴を取り巻く環境は明らかに変わった。
皆が一歩引いて美琴を見、皆が美琴を尊敬し、皆が美琴を雲の上の人間のように考えた。
自分は何も変わっていない、超能力者になったからって自分は自分だ。
美琴はそう思っていても、他の人間はそうは行かなかった。

美琴は優秀すぎるが故に孤独だった。
対等に接することのできる人間がいなかった。欲しかったのだ、以前の自分にはいた対等の友人が。
そこに現れたのが白井黒子。滅茶苦茶なやり方で強引にルームメイトになり、過度のスキンシップを求めてくる少女。
だが彼女がいたからこそ美琴は独りではなくなったのだ。

行き過ぎる自分を、暴走しがちな自分をいつだって冷静に戒めてくれた。
頼れる唯一無二のパートナーだった。
誇りを持って風紀委員に取り組む白井は自慢の後輩だった。
そして言葉にして言いはせずとも―――美琴はそんな白井が、大好きだった。いつだって感謝していた。

しかし、今。美琴は大好きな白井黒子をその手で肉片へと変えた。
その事実と、止め処なく広がる血の海から漂う鉄錆の臭いと、散らばった肉片と。

「う―――ぐ、げ、ぇえええええええ……っ!!」

体をくの字に折り曲げて、胃から逆流したそれを床に思い切りぶち撒ける。
びちゃびちゃと嫌な水音が響き、黄色いマーブル模様が広がっていく。
胃の中のものを全てひっくり返したように吐き出して美琴はその場に蹲る。

706: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/29(土) 00:03:00.57 ID:y1h3tmao0
この狂った世界に希望など存在しない。
初めからバッドエンドしかあり得ない、そんな世界。
世界は優しくなんてない。美しくなんてない。
何故ならここは死の世界。死体の蠢く地獄なのだから。

「……げぇ、え……うっ、」

足に、手に、全身に力が入らない。
まるで羽をもがれた蝶のように美琴はずるずると床を這う。
限りない絶望と失意の底で、美琴はタールのような酷くドロドロしたものに全てを絡め取られていた。
けれど美琴は這う。無様に、滑稽に、蛆虫のように。
白井黒子だったものの残骸から目を背け、粘つく死神の冷たい手に足首を掴まれながらも引き込まれはしない。

何故なら御坂美琴は強いのだから。
美琴より強い者など世界のどこにも存在せず、だから絶対に負けることはあり得ない。

強くなくてはならない。絶対に負けてはならない。
この絶望と苦痛に屈してはならないのだ。
そうでなくては守れないのだ。

708: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/29(土) 00:05:53.10 ID:y1h3tmao0




「――――――……ゆーびきーりげんまん……」




だからここで折れることは許されない。
ヒーローに敗北は許されない。約束を破ることも許されない。
美琴は必死に動かない腕を動かし、全く力の入らない足を引き摺って無様に這う。
そこには超能力者の威厳など欠片も存在せず、けれど美琴は意思を持って動く。
何故なら御坂美琴は強いのだから。世界で一番強いのだから。




「――――――うーそついたーら針せんぼーんのーます―――……」




ずるずる、ずるずると。
体を捩じらせて向かう先は、事務室。
そこに美琴の希望がある。それがなければここで美琴は肉体的にも精神的にもきっと死んでいた。
だがもう大丈夫だ。美琴は誰より強いのだから。美琴より強い者など、世界のどこにも存在しないのだから―――。

709: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/29(土) 00:07:45.02 ID:y1h3tmao0






―――初めての殺人の味は、最悪だった――――――。







710: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/29(土) 00:10:05.47 ID:y1h3tmao0




トロフィーを取得しました

『地獄への道は善意で舗装されている』
そこから最も縁遠いはずの第三位の少女が蜘蛛の糸に絡め取られた証。人を殺すということは自身をも殺すということ





725: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:29:08.11 ID:0sZFx01d0




今まさに実体を急激に交換しつつあるが如く
二つの本質が相対しながらの変容と形成は
かつて語られたことがないのだから





726: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:30:15.14 ID:0sZFx01d0

浜面仕上 / Day1 / 20:36:51 / 第二三学区 戦闘機テスト試験場

ようやく、ここまで辿り着いた。
恐怖に震えながら走り続け、心臓の鼓動さえ押し殺しながら息を潜め、容赦なく脳天に弾丸を撃ち込み、他人を踏み潰して。
やっと浜面仕上と滝壺理后は第二三学区までやってきた。

この学区は航空・宇宙開発を専門としている一般学生立ち入り禁止エリアだ。
民間機・戦闘機・無人ヘリの他、超音速旅客機などもここには置いてある。
浜面の狙いはそれだ。

このイカれた学園都市からおさらばするための手段。
それを求めて二人はここにいる。

「……やっと、終わるな」

「あとはむぎのときぬはたがみんなを見つけて、連れてきてくれれば……」

ようやくこの悪夢の終着点を見た浜面は感慨深げに呟く。
二人の体は頭の天辺から足先までぐっしょりと濡れていた。
その服は濡れてぴったりと体に張り付き、ぽたぽたと全身から水を滴らせている。
足元には小さな水溜りができあがっていた。

何故二人が濡れ鼠になっているかというと、突然雨が降り始めたからだ。
ざあざあと激しい雨は横殴りの形で二人を遠慮なくびしょ濡れにしてしまった。
考えてみれば今日は朝からまるで夜のように暗かったな、と浜面は思い出す。
やけに黒い雲は分厚く、ほとんど太陽の光が差し込まない状態だった。
いつ雨が降り始めてもおかしくはなかったのかもしれない。

727: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:31:22.19 ID:0sZFx01d0
「流石に、ちょっと寒いね」

「ああ。……ほら、これ羽織っとけ。ちょっとはマシだろ」

浜面は自分が着ていたブラウンのジャンパーを手早く脱ぎ、そっと滝壺の肩にかける。
大雨により体温は奪われ、これまでの疲労も相まって体力はかなり奪われていた。
滝壺の美しい黒髪を伝って雫が落ち、その白い肌も心なしか若干色が良くない。
その柔らかな頬や鼻の頭にも玉のような雫が浮かんでいた。

「……ありがと。でもこれも濡れてるから冷たいよ」

「そりゃあ忘れてたな。じゃあ返してくれ」

「だーめ。やだよ」

そう言って、二人はくすくすと笑う。
その余裕はおそらく終わりが見えたことによるものなのだろう。
ここの旅客機か何かに皆を乗せ、大空に飛び立ってしまえばそれで終わる。
その後一体どこへ行けばいいのかなど考えていないし分からないが、まあそこはどうにでもなるだろう。
そんな楽観的な考えに浜面は苦笑し、すくりと立ち上がった。まだ終わってはいないのだ。

「立てるか、滝壺」

「大丈夫。行こう、はまづら」

二人がいるのは壁から壁へと渡された空中通路の一つだ。
両脇についている転落防止用の金属製の手すりから下を覗き見てみれば、ここが何メートルも高い場所であることが分かる。
あまりここに長居することはできない。
ここが空中通路であるということは一本道であるということだ。
そしてそれはそのまま逃げ場がないということを意味する。

728: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:32:01.03 ID:0sZFx01d0
もし今この瞬間、前後から挟み撃ちにされれば二人に成す術はない。
浜面は油断なく拳銃を構え、足音を出来るだけ消しながら歩く。
そう、油断。それは命取りだ。
スキルアウトとして、いくらでもいる無能力者として多くの能力者と戦ってきた浜面だから分かる。
いつだって能力者最大の弱点は、自身の力を過信することによる驕りだったのだから。

そこを突いて生き残ってきた浜面だからこそ、油断の恐ろしさを知っている。
故にこの最終局面で気を抜くようなことは絶対にしない。
もしこんなゴール目前の所で殺されては死んでも死に切れまい。

(ああ、いや―――本当に死に切れないんだっけか)

笑えない冗談だ、と内心で苦笑する。
嫌というほど見てきたリビングデッド。ああなるのだけは絶対に勘弁してほしい。
勿論―――、浜面はちらりと横目で周囲に最大に気を張っている滝壺を流し見る。
滝壺がゾンビとなることを許すなんて論外だ。

見苦しく、汚く、醜い生き方だと浜面は思う。
滝壺を守るためというお題目の元、浜面はこれまでもこれからもどんな所業だって正当化してしまう。
物を盗んだ。彼女のためだから仕方ない。誰かを裏切った。彼女のためだから仕方ない。人を殺した。彼女のためだから仕方ない。
免罪符の如く滝壺理后という名を身勝手に振りかざし、全てをその名の下位に位置づけることで殺人や略奪といったあらゆる行いを良しとする。

そんなふざけた奴はヒーローでも善人でもない。ただのクソッタレだ。
もしそのためにどうしても必要であるのなら―――浜面はきっと世界を滅ぼすような行動だって厭わないだろう。
愛は麻薬だ。もう抜けられない。愛とは醜くドロドロしたものがその本質なのか、浜面のそれが特別薄汚れているだけなのか、そもそもこれは愛などと呼ぶにはおこがましい歪んだ感情なのか。
それは分からないけれど、その罪深さを知っていながらそれでも尚、少女の名を胸に抱くだけで浜面はどんなことだってできてしまう。

729: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:33:16.59 ID:0sZFx01d0
(……とんだクズ野郎だな)

そう自嘲しながらも変える気はないのだからいよいよ救えない。
彼ら―――そう、浜面は知らぬことだが滝壺も、もうどうにも救いようのないところまで来てしまっているのだろう。
もう引き返せぬ深さまで互いが互いを愛してしまっている。
愛―――などと言うと聞こえは良いが、彼ら二人だけの間にあるものは世界を食らい尽くすことすら躊躇わない禍々しい狂気だ。
それは時に人を怪物に変える。感情を持たぬ機械のような冷徹さを人にもたらす。

だから滝壺のためなら浜面は、浜面のためなら滝壺は、どんなことでもする。なんだってやる。
たとえそれが自分たちと同じようなものを持った誰かを破滅させるとしても、きっと彼らは止まらないだろう。
実際、彼らは自分たちと同じく生き延びるために戦っていた男を、自分たちが助かるために死肉狂い共のエサにした。
それはある種究極のエゴイズムであり、悪と断じられるものだ。

もしかしたら自分は死ぬかもしれない。そんなこと何度も思ってきたし、思わざるを得ない環境にいた。
その度に浜面は地面を這い泥に塗れながらも生き残ってきた。
しかし自身の死すらも、滝壺のためであればきっと浜面は肯定するのだろう。

とはいえどうせ死ぬのなら何十年も先、滝壺と共に幸せに逝くか。
もしくは滝壺を守って名誉の戦死、というのも悪くないかもしれない。
勿論そんな綺麗な死に方を信じてもいない神様が許すのなら、の話だが。

全く、そんなヒーローなんて柄じゃない。
そうは思うのだが、意外と悪くないと思っているのも事実だった。
もっともそう思うのは浜面だけで、残される滝壺からすればたまったものではないだろうが。
しかしそれでも、滝壺に看取られながら死ぬのならやっぱり悪くないかも。
結局、そんな自己中心的なことを考えるのだった。

730: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:34:28.05 ID:0sZFx01d0
そんなことを頭の片隅で考えていると、二人は最下層まで降りていた。
かなり広大な空間だった。幅だけで一〇〇メートル以上、長さの方はキロ単位はあるだろう。
視線の先には複数の小型の戦闘機が並べられていた。ざっと見ても二〇機以上はある。
この広さ、ただの整備場とは思えなかった。おそらく新型機のテストを行うための試験場なのだろう。

「あそこまで辿り着けば……」

終わる。そう思うと浜面も滝壺も、自然と早足になった。
歩きが段々と早足になり、ついには走り出す。
どうやらこの巨大な空間にゾンビはいないらしい。
先ほどからずっと警戒していたが、その気配を全く感じなかった。

走り、航空機が止めてあるエリアに辿り着き―――浜面と滝壺は心臓が止まるかと本気で思った。

数十とある航空機、その全てに真っ赤な三葉虫のようなものがべたべたと大量に張り付いている。
まるで腐った食べ物に蛆が湧いているような、そんな光景だった。
わざわざ確認などせずとももはやそのどれもが飛び立てないことなど明白だった。

「……クソ、クソクソクソクソ!! なんでだ、なんでなんだ!! やっと終わりだと思ったのに!!」

希望から一転、今度は地獄に突き落とされたような気分だった。
やっと掴んだ蜘蛛の糸を断ち切られたような感覚。
そもそも一体この気持ち悪い生き物は何だと言うのだ。
浜面が隠し切れぬ焦りと苛立ちに叫ぶと、それとは対照的に滝壺の声は震えていた。

731: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:35:11.61 ID:0sZFx01d0
「―――はま、づら……。あれ……」

その滝壺の声に浜面は振り返り、思わず息を呑んだ。
その先にいたのは、まさしく化け物だった。

体の大きさが酷くアンバランスだった。足は細く、上半身は異様に太い。
両腕は肥大化しており、長くはないが鋭い爪が伸び、指と指の間には河童の如き水かきのようなものがあった。
肩と両腕は病的な白さだが明確に浮き出た赤い血管が葉脈のように走っており、体は筋繊維なのか何なのか分からないもので真っ赤だった。
尻尾のようなものまであり、その背中にはどういうわけか大きな『眼球』があった。
首はろくろっくびのように長く、その大きな口からは何かが吐き出されていた。
まるで何かを産んでいるようだと浜面は思ったが、それは当たっていた。

(こいつが吐き出してるあの三葉虫みてぇなのは……これに張り付いてるやつじゃねぇか!!)

浜面仕上も、滝壺理后も、そして誰も知る由もないが。
この異様な化け物は、月詠小萌という教師の体内で育ったものだった。
母体であるその小さな体を内から引き裂き、成長したのがこの異形なのだ。

その異形がかすかに身じろぎした。
その動きに意味などなかったのかもしれない。
攻撃する意図など全くなかったのかもしれない。
だが浜面は反応した。相手が何かするよりも早く拳銃の引き金を引く。

パン!! という軽い音が響き、撃ち出された鉛玉は硝煙の臭いと共に、回転しながら化け物の体に食らいつく。
しかし化け物は怯みもしない。ほとんど効いていないようだ。
とはいえそれは想定の範囲内。これだけの化け物をあれだけで殺せるとは最初から思っていない。
ギロリ、と化け物の昏い瞳がこちらを捉える。

732: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:36:27.20 ID:0sZFx01d0
そして、次の瞬間。
目玉の化け物はその明らかに不可能だと思われる体のバランスを無視し、大きく跳躍して飛びかかってきた。

「ッ!?」

想定外の動き、想定外のスピード。
二人は反応が遅れ、そんな彼らに嬉々として化け物は襲いかかった。
それでも浜面は咄嗟に大きく身を投げ出し、全身に痛みを覚えながらも転がって回避する。
だが滝壺はそうは行かなかった。思うように体を動かせなかった滝壺は化け物の手に捕らわれてしまった。
ズシン、と目玉の化け物の巨体が着地した衝撃で足元が僅かにぐらつく。

「っ、滝壺!!」

その巨大な手で滝壺の体を握り潰すように鷲掴みにする。
滝壺も必死に拘束から逃れようとするが、如何せん力の差がありすぎる。
万力のような怪力を生み出せるその手から、少女に過ぎない滝壺が抜け出せる道理はなかった。

「お、ォォおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

具体的な策などなかった。
それでも浜面は化け物に向かって特攻する。
滝壺が殺される。その可能性を前に細かい勝算など度外視されるのは当然だった。
だがそれでも根本的に無能力者の浜面では無理がある。
化け物が反対側の腕を横薙ぎに振るうと、その直撃を受けた浜面の体がいともあっさりと吹き飛んだ。

おそらく目玉の化け物にとっては軽い一撃だっただろう。
もしかしたらちょっと叩いた程度のつもりなのかもしれない。
だが何の力も持たない浜面からすれば一大事だ。ノーバウンドで五メートル以上も宙を舞う。

733: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:37:03.45 ID:0sZFx01d0
「ぐっ、げぁ!! ごぼ……ッ!?」

全身が激しくシェイクされ、自身の臓器が体内で滅茶苦茶にシャッフルされた錯覚さえ覚える。
平衡感覚が弱くなり、まともに立つことすら満足には行かない。
だが浜面は、ともすれば今すぐにでも崩れそうになる足元を強引に支え立ち上がる。
幸いなことに目玉の化け物は何を考えているのか、すぐに滝壺を殺そうとはしなかった。
まるで獲物を前に舌なめずりするように滝壺を拘束したままアクションを起こさない。

このアンバランスな体といいこの行動といい、どこか『未完成』、『欠陥』のような印象を受ける。
しかし浜面にとっては幸運以外の何物でもない。
もしこの化け物が最短最速で最適の行動を取っていれば、滝壺は殺されていただろうから。
そもそも彼女をそんな窮地に追いやった自分を呪いながらも、浜面は今はそれどころではないと近くに置いておいたショットガンを掴む。

(……あの背中にある目玉。何だか知らねぇが弱点であってくれ!!)

化け物との距離はおよそ三メートル。
零距離まで縮めるのが理想だが、その時間すら惜しい。
滝壺の命はこの化け物の気まぐれ一つで決まってしまうのだ。
この位置関係なら跳弾したところで滝壺に当たることはない。
そう確信して浜面はショットガンの引き金を引いた。

放たれた散弾は、その一部が真っ赤に充血している背中の眼球に直撃した。
浜面の願い通りそこが弱点だったのか、化け物は絶叫して思わず滝壺を取り落として悶えた。
ボロボロの体で上手くショットガンの反動を逃がせなかった浜面の肩はズキズキと痛んだが、それを意思の力で捻じ伏せ滝壺の元へ駆け寄る。
それができたのは高火力低反動を実現させた学園都市の科学力のおかげでもあるだろう。

734: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:37:50.70 ID:0sZFx01d0
「大丈夫か、滝壺!? 立てるか!?」

「何とか……。ごめんね、はまづら」

化け物は未だに悶えている。
浜面は短い猶予の中でこの状況を切り抜ける方法を必死に考えた。

(どうする、何か、何かないか!?
ダメージはあったようだが全然殺すには足りてねえ。
そもそももう一回目玉に一撃食らわす前にこっちがやられる可能性の方が高い!!)

お世辞にも褒められた出来ではない頭をフル回転させ、そして浜面は気付いた。

(あの部屋……?)

おかしな空間だった。一〇〇メートル四方の部屋だったが、壁から均等に突起物が飛び出している。
更に突起物の向こうには、エアコンの送風口のようなものが一面埋め尽くしているのが見えた。
一方だけが強化ガラスで覆われ、その先に何らかの操作室のようなものが見える。

ここは戦闘機の試験場だ。
となると、

(空気摩擦用の耐久試験室か……?)

浜面は軋む体を強引に動かして、

「あの装置を動かせれば―――」

735: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:38:24.66 ID:0sZFx01d0
だがその前に回復した化け物がその異様に大きな腕を振り回してきた。
浜面は滝壺の手を引いて咄嗟に飛び退くも、今度は振り回された尾の一撃を食らって派手に吹き飛んだ。
三葉虫のような幼体が無数に張り付いている戦闘機の一つに背中から叩きつけられ、肺の中の空気が全て吐き出される。
冗談ではなく浜面の呼吸が止まった。

「―――っ、が、ぁ……っ」

追撃をかけようと近寄ってくる化け物に対し、浜面は無理な体勢でショットガンをぶち込んだ。
化け物は怯んだが、浜面はそれ以上だ。少ない方とはいえ確かな衝撃が全力で肩を外しにかかる。
何とか外れてはいないようだが、もうしばらくはショットガンなど撃てはしないだろう。
対して化け物はすぐに体制を立て直し、その腕をこちらへ伸ばしてくる。
そんな絶望的な状況。すぐ目の前に死が迫った状況で、

『大丈夫だよ、はまづら』

浜面は愛しい少女の声を聞く。

『私ははまづらの彼女だから』

浜面は自分の持てる何もかもを注ぎ込み、限界を超えた限界まで精神力と意思を振り絞り。
激痛と疲労をこの時ばかりは歯を食いしばって押さえ込み、走った。
この後力尽きて倒れて動けなくなってもいい。今だけは動かなければならない。

三メートル程度のカプセル状の模型。
すぐ近くにある戦闘機のコクピットの原寸大の模型の風防が、外部からの操作を受け開いた。
模型と言っても強化ガラスの風防はきちんと上下するし、素材も本物の戦闘機と同じ複合素材でできている。
やはり化け物の吐き出した幼体が張り付いていたが、幸いコクピットの中にはその姿は確認できない。

736: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:41:56.52 ID:0sZFx01d0
しかしその風防はロックされていて、開かないはずだった。
おそらく……いや、間違いなく滝壺があの部屋からロックを解除してくれたのだろう。
今から行う行為から浜面を守るために用意したシェルター。浜面は何とかそこに乗り込んだ。

『大切なはまづらを、きっと守ってみせる』

動けない浜面の代わりに、そこまで辿り着けない浜面の代わりに。
滝壺があの一室に辿り着き、巨大な『装置』を作動させるための赤いボタンを白い指で強く押し込んだ。

ゴウン、という鈍い音が響き渡った。

計器が全て取り外された模型の中、たった一つだけ残っていたボタンを浜面が押すと半開きだったガラスの風防が閉まり、コックピットが密閉される。
化け物にはそれを察する知性はないのか、あるいは悟った上での行動か。
模型に篭った浜面にずるずると巨体を引き摺って迫る。
だがもはや関係ない。直後、コックピットの外がオレンジ色の爆風で埋め尽くされた。

彼らがいた部屋は空気摩擦用の耐久試験室だ
戦闘機が超音速で飛行した際に受ける数百度の空気摩擦。
それに耐えられるかどうかを試すのがここだ。
大量の砂鉄を使ってヤスリのように摩擦を増幅させた、特殊な烈風を人工的に生み出す部屋だったのだ。

737: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:42:29.94 ID:0sZFx01d0
浜面仕上はコックピットの模型によって守られていた。
滝壺理后は専用の強化ガラスによって守られていた。
目玉の化け物は、無防備だった。

ゴバッ!! という凄まじい音が炸裂した。
この空間そのものが数百度の摩擦を生み出す爆風空間へと変じてしまったのだ。
目の前のガラス越しの光景が一色の輝きに埋め尽くされる。
何も見えなかった。ひたすらに網膜が焼かれそうな光景から目を瞑り、ただじっと待つ。

しばらくして、現象は止まった。
完全に停止したことを確認し、外に出た浜面と滝壺が見たものは、無残な化け物の死体だった。

彼らは生き残った。最近の温かな平穏の中で育まれたものが失われ、その眼がかつてよりも冷たい光を湛えていることに自覚はなかった。
これからも幾つもの死体を積み上げて踏みつけにして、その先で互いが無事でよかったと笑うのだろう。

738: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:43:21.14 ID:0sZFx01d0


Files

File27.『血塗れの手帳』

こんな化け物がこの世界に存在するのか!?
ゾンビなんてちっぽけなもんじゃない。“あれ”はまるで違う。
あの異常に肥大化した右肩にある、ギョロリとした巨大な眼球。
目の前であの化け物に工山が捕まった。

何が起きてんのかなんて分かんねえよ!!
でも、俺は確かに見たんだ。化け物の手から何かが伸びて、それが工山の口から体内に入っていくところを。
ここで終わりだって嫌でも悟らされたよ。ちくしょう、俺の人生大したことな


以降にも文章が続いているようだが、血がべったりと付着していて読み取れない。

739: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:44:26.86 ID:0sZFx01d0

御坂美琴 / Day1 / 21:04:17 / 第一二学区 高崎大学構内

美琴と佳茄は身を寄せ合っていた。
二人がいるのは高崎大学という大学の一室だ。
周囲に死人の姿はない。少なくとも今は安全に休める場所だった。
外から窓を勢いよく叩く雨粒の音以外は物音一つしない静かな空間だ。

「ほーら、動かないで」

「わふぅ~……」

美琴は店から拝借してきたタオルでびしょ濡れになってしまった佳茄の頭をごしごしと拭いてやる。
佳茄はまるで飼い主に撫でられた犬のような声をあげ、頬を緩ませる。
まだ弱く繊細な頭皮と髪だ。丁寧に拭き取って、美琴は最後にぽんとタオルを佳茄の頭に被せる。

「はい、綺麗になった」

「む~。えい!」

佳茄は自分の頭に被せられたタオルを剥ぎ取り、逆に美琴の頭に被せる。
そしてごしごしと美琴がやったように頭を拭き始めた。

「うわっ、佳茄、私はもう拭いたから大丈夫よ?」

「知らないもん。じっとしててー」

740: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:44:58.04 ID:0sZFx01d0
美琴は素直に言われた通りにし、やがて満足した佳茄はタオルを取る。
ありがとう、と美琴が笑顔で言うと、佳茄も嬉しそうな表情を浮かべて笑うのだった。
その笑顔を見る度に美琴は力をもらえる。戦う意思をもらえる。
守らなくては、と。それがあるからこそ完全に壊れなくて済む。

「そのカバンも濡れちゃったわね」

「へーきだよ。また乾かして使うもん」

佳茄が肩から提げているピンクのカバンも突然振り出した雨に濡れてぐっしょりと濡れてしまっていた。
美琴はかつて風紀委員と間違われ、爆弾だと思い込んでこのカバンを必死になって探し回ったことがある。
今佳茄が持っているものはそれと同じだった。
温もりを求めているのか、佳茄は美琴の手を握ったまま話す。

「大切なものなんだ」

「パパとママがね、私の誕生日にくれたの」

(パパとママ、か……)

御坂旅掛と御坂美鈴。美琴の両親。
最後に二人に会ったのはいつのことだっただろうか。
美鈴とならば大覇星祭で顔を合わせているものの、父とは長らく会っていない。
親子三人揃ったのは随分と前になるはずだ。

741: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:46:08.56 ID:0sZFx01d0
美琴は父である旅掛がどんな仕事をしているのか、正確には分かっていない。
『世界に足りないものを示す』とか何とか言っていたことは覚えているのだが。
旅掛は今どこで何をしているのだろうか。
一度気にしてしまうと中々止まらない。何だか無性に両親に会いたくなってしまう。

この悪夢から抜け出したら会いに行こうか。
そんなことを考えていると、

「お姉ちゃん? どうしたの?」

「……あ、ううん。何でもない」

少しボーッとしてしまっていたようだ。
どうも親の、特に父について思いを馳せるとこうなってしまいがちだ。
少し顔を曇らせて訊ねてくる佳茄に慌てて笑顔を作る。
今、佳茄が頼れるのは美琴だけだ。その自分が佳茄を不安にさせてどうするのだ。
小学一年生の女の子。まだまだ周囲の人間の庇護が必要だ。

「お姉ちゃんのパパとママはどんな人なの?」

「んー……そうねぇ。パパはあんまり会う機会がないんだけど、子供みたいな人って感じね。
私やママもよくパパの行動に呆れたりしてたっけ。まあ、でも本当はしっかりしてる人だし仕事してるとこ見たらまた印象は変わると思うけど」

「ねぇねぇ、じゃあママは? 私のママはすごく優しいの。よくグラタン作ってくれたんだ!」

742: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:49:13.57 ID:0sZFx01d0
「へえ。佳茄、グラタン好きなんだ?」

「うん、大好きだよ!」

グラタンとはまた手のかかるものを、と美琴は苦笑する。
ホワイトソースを作るのが面倒なのだ、佳茄の母親には頑張ってもらいたい。
美琴も常盤台生の当然の嗜みとして、高い料理スキルを持っている。
持っているのだが常盤台の授業で習うのはもっと高級な料理ばかり。
故にグラタンなど作ったことがない美琴だが、作り方自体は知識として知っている。

「よかったら今度私がグラタン作ろうか? 美味しいわよ~。佳茄のママのよりもね」

「ほんと? やったぁ! ……でも、ママのには勝てないもん。ママのグラタンは世界で一番美味しいんだもん!」

「ありゃ。負けちゃったか」

「だからお姉ちゃんのは二番目だよ~」

子供は正直だ、と美琴は再び苦笑する。
まだ食べてもいないのに負けるというのは些か納得がいかないところだが、仕方ない。
子供にとって母親は絶対であり、母親の料理は最強無敵なのだ。
パパ、頑張れ。

「それで、お姉ちゃんのママはどんな人なの?」

「そういえばその話だったわね。私のママはパパよりもっと子供っぽくて、面倒くさくて、酒乱で……。
すぐに私をからかってくるし色々とアレだけど、でも―――、一番尊敬してる人、かな」

「お姉ちゃんのママに会ってみたいなぁ。久しぶりにママのグラタンも食べたい」

743: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:50:49.39 ID:0sZFx01d0
そう言う佳茄の表情に何かを感じ、佳茄の頭をできるだけ優しく撫でる。
こうして佳茄に触れることには抵抗があった。壊してしまわないか、繊細なものを触るように。この少女に血をつけてしまわないように。

力とはそれ自体に善悪はなく、使う側次第でどちらにもなるというのが美琴の持論だった。
いや、それは美琴に限らず多くの人間が同じ考えを持っていることだろう。
美琴は基本的に自身の基準に従い、その力を振るってきたつもりだ。
だが、彼女は違う使い方を覚えた。覚えてしまった。

人間など、簡単に死ぬ。簡単に殺せる。
ちょっとその気になれば瞬時に死体にしてやれる。
超能力者の巨大な力はそういうものだと、『実感』した。
目の前で無邪気に笑っている少女だって今すぐにでも殺してやれる。いや、殺してしまうかもしれない。


「――――――……パパとママに会えなくて寂しい?」


佳茄もそれを知っている。深く考えてはいなくとも、美琴に自身を害せる力があることくらいは承知している。
それでも佳茄は美琴に対して笑いかけてくれる。触れてきてくれる。信頼してくれている。
だったらそれに応えなくてはならないだろう、と言い訳して美琴は佳茄に触れるのだった。

「ううん。パパとママには会いたいけど、今はお姉ちゃんがいるから寂しくないよ!」

美琴はフッ、と一瞬儚げな薄い笑顔を浮かべ、佳茄を抱きしめた。
佳茄は抵抗などせず、おとなしく美琴に身を預けた。
どくどくと伝わる心臓の鼓動、血の流れ、生の感触、命の歓喜。
美琴はただ一言。ありがとう、と呟いた。

744: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:53:49.80 ID:0sZFx01d0




数時間が経っていた。時計がないので正確な時間は分からないが、間違いなく日付は変わっているだろう。
佳茄はとっくに寝てしまっていた。寝ないようにと少女も頑張っていたのだが、やはりすぐに限界を迎えてしまっていた。
無理からぬことであろう。元々が僅か七歳の幼い体であり、加えてこの異常な世界における肉体的・精神的疲労。
相当疲れが溜まっていたのだろう、死んだように眠る佳茄を起こさぬよう美琴は静かに座っていた。

(……ただこうしてるのも、流石にキツいわね)

寝てはいない。絶対に眠るわけにはいかない。
寝てしまえば言うまでもなく隙だらけになる。そこを突かれては二人揃ってアウトだ。
だから美琴は込み上げる睡魔を強引に捻じ伏せる。
ほんの少しでも気を抜けば瞼は下がり、頭はがくんと落ちてしまう。

極々浅い眠りを数分、そしてすぐにハッとして起きる。そんなことを繰り返していた。
しかしこんな短い眠りでもあるのとないのとでは後々違ってくるだろう。

疲れているのは美琴も同じなのだ。
朝からずっと街中を走り回り、生ける屍と対峙し続けて。

「…………」

かつて少女だった異形の断末魔は、未だに耳から離れない。

まるで雪山で遭難した登山者の心境だった。
寝たら死ぬ。その一身で三大欲求の一つに徹底して抗う。
その時だった。伏せられかけていた美琴の瞼が覚醒したように上がる。
まどろみに沈みかけていた眼に意思が宿り、目つきが鋭くなった。
このキャンパスの周囲に撒いた砂鉄に反応。何かが能力のセンサーに引っかかった。

745: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 00:54:18.69 ID:0sZFx01d0
「―――行きますか」

小さく呟いて、美琴は眠っている佳茄の頬にそっと指を添える。
すぐに戻ってくる。そんな思いを込めて。
佳茄はどんな夢を見ているだろうか。悪夢に魘されたりはしないだろうか。
難しいと分かっていても、せめて夢の中でぐらいは幸せを。そう思わずにはいられない。

佳茄が寝返りをうった際にずれたそれを美琴はゆっくりかけ直す。

(風邪を引いたら困るしね)

それは常盤台中学の制服。冬服の高級感の溢れるブレザーだった。
当然それを佳茄にかけたのは美琴だ。
拭きはしたものの雨に濡れたのだ。これでも足りないだろうが、何もないよりは幾分かマシだろう。
そして美琴はすくりと立ち上がる。

体を動かすと散々美琴を悩ませていた眠気が消え、意識が覚醒していく。
物音を立てないようにそっと忍び足で部屋を出てる。
向かう先は一つ。生と死の狭間に閉じ込められた異形の元へ。
美琴の眼は、以前は絶対にできない類のものだった。

760: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/29(火) 22:08:05.13 ID:TavgEqmy0




黙れ 呪われし狼め!
お前は自らの中に巣食う憤怒を喰らうがよい
この暗きところを行くのは理由があるのだ





761: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/29(火) 22:09:33.82 ID:TavgEqmy0

一方通行 / Day1 / 17:52:14 / 第一学区 路上

まるで戦争の跡地のようだ。そんな感想を持つ者もいるだろう。
空爆を受けた直後。そんな言い方も間違いではない。
それほどに辺りは抉られ、破壊され尽くしていた。

「――――――――――――!!」

アンデッドの群れが数十とまとめて薙ぎ払われる。
まともな戦いではなかった。そもそも戦いではなかった。
そこにあるのは絶対的な強者による圧倒的な虐殺。
学園都市第一位の超能力者、一方通行によるワンサイドゲームだった。

あらゆるベクトルを統べる最強によって引き起こされた暴風。
その暴虐の化身は見えざる巨人の手となって何もかもを叩き潰していく。
死者の軍勢は数百体はいるだろう。想像を絶するような数。ひたすらに押し込む数の暴力。
だが数による力押しがまかり通るのは一定のレベルまでの話。
相手が超能力者ともなれば、そんな有象無象の集まりなど砂塵のように吹き散らされてしまう。

「――――――――――――!!!!」

一部のアンデッドの放つ能力はそのほとんどが届く前に吹き消され、届いてもそれは彼の白い肌に触れた瞬間に正確に逆再生を始める。
『反射』。数百の軍勢でいながら、何人たりとも一方通行に傷をつけることはできなかった。
単純な大気の戦乱の他に竜巻すら発生する。一方通行が蹴り飛ばした瓦礫の破片は恐ろしい威力となって亡者共をまとめて叩き潰す。
地面は彼の足踏みによって地盤から捲れ上がり、荒れ狂う烈風の槍によって形の残っている建造物など存在しなかった。

762: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/29(火) 22:13:04.58 ID:TavgEqmy0
「――――――――――――――――――!!!!!!」

声にならない叫びをあげながら一方通行は死者を殺す。
だが、一方通行本人はただの人間だ。むしろその能力の弊害で一般よりもか弱い体をしている。
彼が最強でいられるのは、彼を特別にしているのは紛れもなくその能力だ。
そしてその能力『一方通行』には、とある一件により明確な制限が課せられている。

三〇分。それが絶対の制限であり、一方通行が特別でいられる期限だ。
だから、無闇な交戦は避けるべきだ。出来る限り節約しなければならないのだ。
―――そんなことは一方通行だって分かっている。
他の誰よりも分かっている。今、自分のしていることの愚かさも。
だが、止められない。

「――――――――――――――――――――――――!!!!!!」

打ち止めの無残な姿を、妹達の爛れた姿を。
強引に掻き消すように一方通行は荒れ狂う。
番外個体は何も言えない。彼女とて一方通行を止めるべきだということは分かっているだろう。
ただでさえたった三〇分しか持たない蝋燭を更に短くしていくなど自殺行為でしかない。
けれど、無性に込み上げる熱いものに身を任せて暴れたいのは番外個体も同じだったから。

一方通行は止まらない。止められない。
それが自らの首を絞めることになると自覚していながらも。
何のプラスももたらさないと理解していながらも。
怒りと嘆きと絶望と悲哀と恐怖と後悔と。ここにいる歩く死者の軍勢を薙ぎ払うまでは、そして最後に自身を破壊するまではもう、止まらない。

763: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/29(火) 22:14:01.16 ID:TavgEqmy0

垣根帝督 / Day1 / 19:54:13 / 第四学区 路上

垣根と心理定規は今日、数え切れぬほどの亡者を見てきた。
多くのゾンビと戦い、そして殺してきた。
だから知っていた。こいつらは頭を撃ち抜かないと死なないこと。
そしてそうしない限り、一度殺しても凶暴化して蘇ることも。

「―――ハッ」

だが、最初から知っていたわけではない。
この地獄で戦っている内に気付いたのであって、即ちそれ以前はそんなことは知らなかったということだ。
なればこそ、その前に殺した亡者については―――。

「―――……あなた、」

その双眸が赤々と光っていた。
全身の皮膚も同様に赤く変色し、爪は鋭く尖っている。
だがその特徴的な部分、頭にはめた土星の輪のようなものは変わっていなかった。

「ゴーグル……」

垣根が小さく呟く。
それは垣根がこの歯車の狂った世界で、一番最初に遭遇した死者。
そして一番最初にその手にかけた異形。
元『スクール』の構成員にして今では垣根や心理定規の友達と言える存在だった。

764: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/29(火) 22:14:45.40 ID:TavgEqmy0
『未元物質』によってほぼ真っ二つ状態にされたはずの彼の体にその傷は見当たらない。
『V-ACT』活動により『クリムゾン・ヘッド』と化した彼に、もはや人間としての知性は見られない。
垣根も心理定規もこの『クリムゾン・ヘッド』にとっては何の特別性もない人間なのだ。

「な、んで……」

「…………」

心理定規が呆然とした様子で呟いた。
彼女の体は金縛りにあったように静止していて、それが彼女の受けた衝撃を物語っている。
本来、彼らは仲間の死に悲しむような人間ではなかった。
いや、そもそも仲間意識などという上等なものも持ち合わせてはいなかった。
所詮はいくらでも代えの利く有象無象の雑兵。
死んだのならば次を宛がえばそれで済む、そう考えていた。

だがそれらは今や過去形となる。
二人とも、今目の前に立ち塞がっている化け物を―――友人だと、きっとそう思っていた。
三人で騒いだこともあるし、他の友人だちと混ざって遊んだこともある。
未成年であるにも関わらずそれを無視して飲み会をしたことだって一度や二度ではない。
かつてのリーダーとその部下というような従属関係は対等な関係へと変わっていたのだ。

だが死んでいる。この手で殺した。
その友人が、死んでいた。死んでいたのに生きていた。
だから殺した。間違いなく殺したはずだった。
だというのに、どういうわけかゴーグルはまたも垣根の前に立ちはだかった。

765: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/29(火) 22:15:37.01 ID:TavgEqmy0
(―――また、殺すのか)

既に垣根は彼を一度殺している。
友人を二度殺す。そんな耐え難いほどのおぞましい行為を今求められている。
人を殺せば殺人者だ。死体まで傷つければ異常者。
では生きた死体を二度殺す垣根帝督は一体何になるのだろう?

(……俺はまた、こいつを殺さなきゃならねえのか)

吐き気を覚えた。子供のように泣き喚きたい衝動に駆られた。
もう、いっそ全てを投げ出して終わりにしてしまいたかった。
もう、殺すことに疲れていた。
もう、友人に刃を向けたくなんかなかった。

(―――……嫌だな)

だがそんなことは無視して『クリムゾン・ヘッド』が走り出す。
心理定規が慌てて銃を構え―――グレネードガンとハンドガンとで一瞬迷い、前者では間に合わないと踏んで後者を選択した―――発砲する。
しかし当たらない。時間がなく狙いがろくにつけられていない。
そもそも『クリムゾン・ヘッド』の動きは俊敏だ。その脅威の度合いはやはりゾンビとは一線を画す。

「がっ……!?」

肩を掴まれ、その腐敗臭を漂わせる口を大きく開けて心理定規の柔らかな喉元に食らいつかんとする『クリムゾン・ヘッド』。
幸い肩を掴まれたといってもその爪は彼女の体を傷つけてはおらず、しかし喉に噛み付かれれば間違いなく心理定規は死ぬ。
『クリムゾン・ヘッド』が噛み付くより早く、迅速に。
心理定規は素早く自身の太ももから大きなサバイバルナイフを逆手で抜き取り、その顔面に満身の力を込めて突き立てた。
肉を抉り、断ち切る生々しい感触。みちみちと押し割り強引に刃の進路を確保する。

766: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/29(火) 22:16:30.65 ID:TavgEqmy0
「―――ッ!!」

ともすれば泣き出しそうにも見える表情で、心理定規は絶叫する『クリムゾン・ヘッド』を見ていた。
かつて血と硝煙の臭いしかしない地獄の住人だったからこそ、そこから抜け出して得た友人というものは大きい。
それにナイフを突き立てるという行為は、以前とは違う今の彼女に何を思わせているのか。

だが仕留めるには至らない。
血塗れの顔で叫ぶ『クリムゾン・ヘッド』から見えぬ何かが放たれた。
念動力。ゴーグルの有する強能力の能力だ。
対する心理定規は更に格上の大能力者。だが彼女の能力は物理的には無力だ。
心理定規が念動力に気付いて回避しようとした時にはもう遅い。
既にその不可視の力は彼女を確実に捉えていた。

「ま、ず―――!!」

上擦った声があがる。
しかし結論から言って、心理定規の細身の体が異能により吹き飛ばされることはなかった。
どころか派手に吹き飛んだのは『クリムゾン・ヘッド』の方だった。
その不可解な現象を起こしたのは、金に近い茶髪にブランド物の衣服を纏う青年だった。

「……遅いのよ、馬鹿」

「悪ぃな」

767: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/29(火) 22:17:50.14 ID:TavgEqmy0
一言だけ告げて。垣根は平然とむくりと起き上がったゴーグルに向かい合う。
常人ならあれだけ派手に吹き飛ばされれば立てなくなるはずだが、それをこの異形共に当てはめるのは今更だ。
垣根はゆったりとした動作でポケットに入れていた両手を抜き。
そしてそれを合図に彼の背中に純白の翼が六枚展開された。

「―――まだ、死に切れねえか。ゴーグル」

問う。当然返答はない。元より答えを期待してのものではない。
しかしゴーグルは鋭利な爪を掲げて突進してくるという形で反応を示した。
ゾンビなどとはまるで違う走力。凶暴性。能力。感染の危険性。

それらを前にして、尚垣根帝督は揺らがない。慌てて動くのでもなく、咄嗟に迎撃するでもなく。
ただ、静かに語る。

「……安心しろ。俺がオマエを確実に、丁寧に、殺してやる。
二度はねえ。今度こそその呪われた螺旋から解放してやる。だから―――オマエは何も心配しなくていいんだ」

事は一瞬だった。
眩い純白の輝きが一閃、刹那の間全てが白に塗りつぶされる。
僅かの間を置いて世界が元の色を取り戻した時には、全てはつつがなく終わっていた。

776: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:13:31.08 ID:4Rynl3kU0
「オティヌスがやられたようだな……」

「くくく……奴は我らの中でも最弱……」

「魔神の恥さらしよ……」

マジでこれを思い出した最後の魔神軍団、まさかの展開でしたね
ようやく動き出したアレイスターに大喜びですが、さて勝敗はどうなったことやら

美琴はほんとかっこよかったです、ロベルトさんもイケメンだった
でもシルビアさんちょっと怖いです
フィアンマが行方不明になる事案が発生

オティヌちゅの無事(スフィンクス的な意味で)を祈って投下します
最後の挿絵最高でした

777: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:16:18.53 ID:4Rynl3kU0




雨に打たれて亡者どもは 犬のように喚き叫び 背を向けて腹をかばい 腹を向けて背をかばう
このみじめな冒涜者たちは ぐるぐるとのたうちまわる





778: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:18:00.92 ID:4Rynl3kU0

御坂美琴 / Day2 / 02:16:42 / 第一二学区 高崎大学敷地内

眠っている佳茄を残し、美琴は能力のセンサーに反応があったところへと向かった。
キャンパスの外に出る。外は大雨だ。ざあざあと音を立てて降り注ぐ水滴の弾丸は痛いほどに肌を叩く。
空を見上げてみればそこに広がるのは漆黒。
ともすれば吸い込まれそうなほどの、まるで心の闇を鏡写しにしたような黒だった。

太陽は完全に姿を消し、切れ切れの雲の隙間から差し込む僅かな光もない。
それが希望のない狂ったこの世界を表しているような気がして、一体どこの詩人だと美琴は一人笑う。
殴りつけるような大雨にたちまち再びぐっしょりと全身濡れてしまうが、そんなことを気にする様子もなく美琴は歩く。
対象の位置は常に捉えている。足に張り付くスカートの、不快な感触だけが少し気になった。

夜の闇に雨。ホラーの舞台としてはばっちりだろう。
ぐちゃ、ぐちゃ。ローファーが雨にぬかるんだ土を踏み、特有の粘着質な音が響く。
けれどその音さえも全てを覆い隠すように降り注ぐ激しい雨音に掻き消され、どうせならこの苦しみも掻き消してくれればいいのにと思う。

ぐちゃ、ぐちゃ―――、泥を踏みしめるその聞こえぬ音が止まる。
……もしかしたら、美琴の考えは間違いではなかったのかもしれない。
この黒天は心の闇を映し、希望のない狂った世界を映している。
あるいは、その逆。

そうでなければ、一体どうしてこんな仕打ちがあり得ようか。

779: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:19:21.58 ID:4Rynl3kU0
「―――あはっ」

おかしくておかしくて、美琴は思わずそんな笑い声をあげてしまう。
そうでもしないとやってられないのだ。
こんな馬鹿げた光景にまともに付き合っていたらこっちが持たない。
目前の悪夢に反応する心さえ麻痺しかけていた。

「……そりゃあそうか。逃げられるわけないもんね。でも……それでも、」

そこにいたのは二体の亡者。
けれどそれだけでは美琴の心を砕くには足りない。
それほどの衝撃を与えているのは死者が歩いていることそのものではなく―――勿論、その人物だ。

夜の闇に加え豪雨による視界不良。
そんな中でもたしかにそれは見て取れた。
一人はヘアピンをつけた、黒い長髪が特徴的な女子生徒。水色を基調とした明るい色の服を纏っている。
一人はカチューシャのような花の髪飾りが酷く印象的な女子生徒。どこにでもあるような、ありふれたセーラー服を着用している。

しかしその服は血と膿と肉片に汚れ、それが大雨によって部分的に洗い流されて奇妙で悪趣味な模様を描いていた。
活発だったはずの双眸には光はなく、ただ白濁としたどろりとしたものがあるだけ。
長いスカートから伸びる足には張りがなく、代わりに肉が熟れ過ぎた果実のようにぐずぐずになっている。
顎は一部腐り落ち歯が露出していて、こちらに伸ばされた指先は水ぶくれか何かのように白く膨らんでいる。
腕もやはり骨や筋繊維が丸見えになってしまっていた。

「アァ ぁ あゥ う ぅゥ……」

「私が逃げたから―――……その罰、なのかな」

780: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:20:41.12 ID:4Rynl3kU0
呟いた小さな声は、地面を激しく叩く雨音に遮られて自身にさえよく聞こえない。
佐天涙子と初春飾利。彼女たちはかつてそういう名で呼ばれていた。
そして美琴が彼女たちと相対するのはこれが二度目。

朝に一度、美琴は二人に遭遇している。
よりにもよって佐天が初春のハラワタを引き摺り出して貪っているという最悪の光景に。
そして、御坂美琴は逃げた。餓鬼のように彷徨う二人から、選択することから。
みっともなく自分に言い訳して、ただ目を背けて逃げていた。
だが世界はそれを許さなかった。既に逃げていた美琴に、もう一度選択を突きつけてきた。
逃がさない、と。世界が笑っているような気がした。

「―――ははっ。あははははははは」

乾いた声で笑う。二人は覚束ない足取りで一歩一歩近づいてくる。
そこにかつての佐天や初春から向けられた親しみは欠片もない。
今の彼女たちが美琴に向けているものはただ一つ、食欲のみ。
佐天も、初春も、美琴をただの新鮮な肉の詰まった容れ物としか思っていない。
自分の飢餓感を満たすための手段としか見ていない。

当然だ。何故なら彼女たちはもう、人ではないのだから。

たったそれだけの単純な事実が。どうにも悲しくて、虚しくて、泣きたくて、おかしくて。

どうしようもなく変わりきった死体となった佐天と初春を、自分に食欲を向ける二人をこれ以上見ていることなんて、もうできなかった。

781: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:22:14.99 ID:4Rynl3kU0
ぞわり、と地面が不気味に蠢く。
まるで生きているかのように波打ち、やがてドバァ!! と黒い何かが明らかな意思を持って飛び出した。
砂鉄。美琴の能力に支配されたそれは女王の思うままにうねり、形を変え、展開していく。
佐天と初春だったものを足元から包み込むように砂鉄の渦が巻き起こる。
その黒い竜巻の中心に二人を閉じ込める。ルームメイトの少女だったものに行ったことと全く同じ。

そしてこれからの展開もまた全く同じ。電子に愛されし申し子の命令に従い、黒の暴虐は戦乱を巻き起こす。
渦は徐々に閉じていき、その内に抱き込んだ二人の肢体をガリガリと削り、ズタズタに引き裂いていく。
響き渡る絶叫。スプリンクラーのように飛び散る血液と肉片。
佐天涙子だったものの四肢がもがれ、初春飾利と呼ばれていたものの臓器がずるりとはみ出す。
しかしそれさえも直後に黒い嵐に攫われ、超高速でヤスリをかけたように消失していった。

「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

痛いほどに体を叩きうるさいほどに鼓膜を響かせる雨音も、彼女たちの断末魔を掻き消すには足りなかった。
耳を打つ最期の叫びはわんわんと響き、どうしようもなくこの現実を思い知らされる。
そして何より一番おぞましいのは―――その断末魔が、紛れもなく『佐天涙子』と『初春飾利』の声だったことで。
あるいはそこに幻聴もあったかもしれない。美琴がありもせぬ声の幻を作っていたかもしれない。
しかし、実際問題として美琴は確かにそれを『感じて』いるのだ。

「がっ、げ、ぇぇええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!」

生前の彼女たちを否応なく思い出させるその絶叫に、美琴は思わず嘔吐した。
既に全部吐き出してしまったものと思っていたが、彼女たちの声はそれを覆すにはあまりにも十分すぎた。
その断末魔を掻き消すように叫びながら、能力の行使を続けたまま、胃の中のものを地面にぶち撒ける。
言葉にしがたい不快感が口内にこびりつくがそんなことに構う余裕はない。

782: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:23:51.51 ID:4Rynl3kU0
おかしくなりそうだった。とっくにおかしくなっていた。
ズザザザザザザザ!! と途轍もない勢いで渦巻く砂鉄は確実に彼女たちを削り取り、その命を散らしている。
だが……それでも佐天の、初春の声は未だ聞こえていた。

体の芯から搾り出したような、助けを求めるような、泣いているような、震えているような、そんな断末魔を。
彼女たちをこんな風に泣かせているのは自分であり―――その事実が、その声が、美琴の精神をズタズタに引き裂いた。
頭の中でサイレンのように鳴り響き、ひたすらに響き渡る。

「――――――やめろォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」

獣のように吼えた。
砂鉄の竜巻を完全に閉じる。
密着させ、圧縮し、そんな声など出せないように、瞬間で殺すために。

「げぇ、ごっ、ぇええええッ!! あああああ、ぶ、はっ―――!!」

全身を豪雨に打たれ雨粒を滴らせながら口から吐寫物を撒き散らし続け、蛇口を捻ったように、壊れたように嘔吐しながら二人を削り殺す。
一秒でも早く死んでほしい。ただそれだけを願い、美琴は親友に刃を向け続ける。
そのこの上ない最高に最低な考えが尚更に吐き気を加速させる。

やがて黒い竜巻が収束していった。
その暴虐の戦乱が完全に収まった時、そこに残っていたのは散乱した肉片や臓器の欠片が少々、そして夥しい血痕。
佐天涙子と初春飾利が完全に挽き肉となっていた。

783: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:26:02.44 ID:4Rynl3kU0
「がはっ……!! ごっ、うぇえええええ……!!」

相変わらずごうごうと音を鳴らす大雨が吐寫物と肉片と血を洗い流していく。
そんな救いも希望も赦しも何もない無明の世界で、美琴は神に祈りを捧げる修道女のように天を仰いだ。
滝に打たれたように濡れきっている髪が一部額や頬に張り付いた。

黒天から降り注ぐのは雨。それが血の雨でないことが不思議なくらいだった。
空にはどれだけ探しても漆黒しかなく、星の輝き一つ見つけることはできず。
冷たい雫だけが天を見上げる美琴の顔を叩き、けれど彼女の内にこびりついたタールのようなものは決して流れない。
佐天と初春の残骸を雨が攫っていくのを見て、美琴は何も思えなかった。

静かだった。あるのは静謐。
ざあざあ、ごうごうという雨音以外には怖いほどに音がしない。
何も変わらない。美琴の親友。心の支え。佐天涙子、初春飾利。
彼女らが死のうがバラバラになろうが、この雨だけは何も変わらない。

美琴、白井、佐天、初春。
嬉しいことに友人は多くいるが、その中でもやはりこの三人は特別だったように思う。
白井と同様に二人も美琴を孤独から救ってくれた大切な存在だったのだ。
けれど、全滅した。これで全員が死亡した。最悪の結末。

殺したのだ。美琴が、何よりも大切だった三人の親友を殺し尽くした。
結局、最期はそんなものだった。

784: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:27:28.65 ID:4Rynl3kU0


「――――――――――――、」


何もかもを覆い尽くし、何もかもを洗い流すように降り注ぐ雨。
だが死体すら消し去るその雨も、洗い流せぬものがあった。
宗教画や天使の前に頭を垂れる崇拝者のように、美琴はひたすらに黒天を仰ぎ続ける。
そこには何も見えず、何もない。あるのは美琴の全身を打つ雨だけ。

何を憎めばいいのだろう。何が間違ってこうなってしまったのだろう。
全てが少しずつ狂ってしまったのだろうか。それとも一つの異物が歯車全体を狂わせたのだろうか。
何も分からない。何も分からなかったから。
美琴はこの残酷な世界と、自分を憎むことしかできなかった。

雨に顔を叩かれているせいか、御坂美琴は今自分が泣いているのかどうか、分からなかった。
まだ人のように涙を流すことができているのか、できるのか、分からなかった。

785: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:30:12.61 ID:4Rynl3kU0

上条当麻 / Day1 / 20:46:18 / 第二一学区 貯水ダム『ゼノビア』

――――――『……、じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?』

そんな言葉を得体の知れない銀髪シスターに言われた。
上条当麻はその言葉に答えることができなかった。
偽善使いを自称していた上条は、会ったばかりの少女と一緒に地獄の底まで落ちていくなんて選べなかったのだ。

その少女は、自分は魔術と呼ばれる世界の人間であると語った。
科学の対となるもう一つの法則。現実に対する幻想。
急にそんなオカルトの話をされたところで普通の人間が信じられるわけがない。
精々カルト宗教かとでも思うのがオチだ。
そして上条もまた例外ではなく、少女が異能の力に関わっているということを右手で証明してからもどこか信じられずにいた。

だがそんな上条の前に、二人の魔術師が現れた。
ステイル=マグヌス、神裂火織。二人はそれぞれそう名乗った。
魔術という異能の力、本物の魔術師。それらを前に上条は魔術の存在を知ると同時に、少女を縛る因縁についても知ることとなる。

突きつけられるどうしようもない現実、そこに提示された大人の都合。
それをどうしても認められない上条は、その右手を振るって少女を救うことに成功した。
ただしその代償として自らの記憶を捧げる形で。

786: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:32:39.82 ID:4Rynl3kU0
―――それが、物語の起こり。
この時から全てが始まり、二人の出会いが巨大な歯車を回転させた。
その出会いは果たして奇跡のような偶然だったのか、それとも男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』が仕組んだ必然だったのか。
ともあれその時から科学と魔術が交差し、物語が始まったのだが。

それらを“今の”上条当麻は何も知らない。
自分があの少女とどんな風に知り合い、何を思い、何のために戦い、何を守り、何を失ったのか。
想像することはできてもそれを思い出すことは絶対にできない。

けれど。何も思い出せずとも。上条当麻は少女を守るべき大切な人間だと思っている。
少女もまた、『世界を救う力』を内包した『救世主』が浮かべた『ベツレヘムの星』にて少年の真実を知った。

それは互いに恋愛感情などには安易に置き換えられないものだろう。
少女などは自分の気持ちを正しく理解できず混同しているかもしれない。
だがきっと、その感情はそんな一言で表せるほど単純なものではない。
上条は何も覚えていなくとも、そこには絶対的な信頼があり親しみがある。

で、あれば。もしもそんな少女が上条の前に立ちはだかったとすれば。
それは、史上最悪とも言える敵ではないだろうか。

「―――……イン、デックス……」

それは、徘徊する死者の一人のように見えた。
血塗れの修道服を身に纏い、青白く血の気のない顔には何の表情も浮かべてはいない。
一歩一歩足を引き摺るような、緩慢な動きで緊急放水用であろう巨大な縦穴に渡された空中通路を進むその姿は、ここ学園都市を席巻するゾンビの一体としか見えなかった。

787: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:39:05.42 ID:4Rynl3kU0
しかし、違う―――。

生ける死者たちの、虚ろな眼窩にはまった白目の代わりに、その双眸には鮮血を思わせる赤い光が爛々と灯っていた。
それの右腕は体皮を全て剥ぎ取ったように赤黒い筋繊維が露になり、そして左腕とは不釣合いな、奇妙に歪んだ形状をしていた。
いや、それどころではない。あまりにも巨大化した右腕は肩からあり得ないほどに隆起し、完全に体のバランスを崩している。

しっかり固定された空中通路に刻まれる足音も、標準的な体格から考えれば異常であった。
三〇〇キロ近い巨漢の歩みのように、一歩ごとにずしりと重々しい足音が響き渡る。
あたかも、この死者の中に高密度の何かが充満しているかの如く―――。

それは朝から上条が探していた少女だった。
経緯も分からぬまま、気付いたら同居していた少女だった。
守りたい、とずっと思っていた少女だった。
何に代えても守り抜くと、そう誓った少女だった。

インデックス。禁書目録。Index-Librorum-Prohibitorum。

そんな名前で呼ばれていた、銀髪のシスターだった。

それは、この上ないほどの最上の絶望と悪夢の権化だった。

788: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:41:17.43 ID:4Rynl3kU0




「―――ああァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」





吼える。叫ぶ。嘆く。
“上条当麻”が守ったはずの、『上条当麻』が守って来たはずの少女が。
どうしようもないほどの化け物になって、そこにいた。

異常なほどに肥大化し大きくせり出した右肩、右腕以外は原形をとどめていた。
その可愛らしい顔立ちも、目が赤く光り青白くなっている以外は以前とあまり変わっていない。
流れるような長く美しい銀髪も、一部血に汚れているだけで何も変わってはいない。
一部金の刺繍が施された純白の修道服も、肥大化し筋繊維が剥き出しになっている右肩部分のみ千切れ飛んでいるが他はそのままだった。

それは青髪ピアスよりも、吹寄制理よりも、姫神秋沙よりも、上条の心を折り砕く。
ゼロから始まった今の上条当麻の、始まりとなったインデックス。
ある意味で彼の根幹を絶対的に支えていた少女はもはやどこにもいない。
究極の異形と成り果てて、そこにいる。

このまま意識が闇に呑まれて消えてしまいそうな錯覚さえあった。
もうこの場で全てを投げ出してしまいたいほどの衝撃。
それほどのものをインデックスという少女は持っていた。

しかし突然、上条の叫びを掻き消すほどの音が響き渡る。
一瞬、あまりに恐ろしいそれにそれが声だとすら気付かなかった。
上条の絶叫を圧して、魔人(あるいは魔神)の咆哮が空気をびりびりと震わせる。
それに呼応して上条の体までもが僅かに震えた。

789: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:42:58.59 ID:4Rynl3kU0
(な、んだ、これ……音圧!? 叫び声だけでこんな……っ!!)

インデックスの肥大化した赤黒い二の腕がぱっくりと割れ、そこからのぞいた巨大な眼球が上条を凝視する。

「――――――っ!?」

心臓が止まるかと、洒落や冗談ではなく本気で思った。
腕に、眼があった。赤く充血した巨大な眼球は既に視力を有しているのだろう、上条を捉えて離さない。
まるで見えぬ死神の手に心臓を鷲掴みにされたような、骨の髄からゾクッと冷たい何かが走った。
冷水を浴びせられたような、なんてものではない。
ともすればこのまま見つめ殺されるのでは、と本気で思わざるを得ないような何かがあった。
あたかもこのまま魂を抜き取られるようにさえ感じた。

巨大な右腕で空中通路の両脇に取り付けられた鉄柵を掴むと、まるで飴細工のようにぐにゃりと鉄が曲がってしまった。
相当の強度を誇っていたはずの柵はあっさりと白旗を上げ、インデックスはそれをそのまま引き千切る。
この『化け物』に本当にそんなものが必要なのか、引き千切った鉄パイプを上条に向けて思い切り横薙ぎに払った。

「ッ!?」

咄嗟に膝を折ってその場に沈み込み、頭部を下げてその一撃を避ける。
直後、ブン!! という音と共に上条の頭上を鉄パイプが通りすぎる。
慌てて一歩二歩と下がった上条に、インデックスは信じられないものを披露する。

790: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:43:40.10 ID:4Rynl3kU0
ゴァ!! と赤い光のようなものが突然放たれた。
鉄パイプなどという酷く単純な物理攻撃を行ったと思ったら、今度は全く違う何か。
上条は反射的に自身の右手を受け止めるように突き出す。
瞬間、バキン!! という何かを砕くような音をたてて赤い光が消滅した。

「―――え?」

これに驚いたのは上条本人だ。
上条当麻の右手には『幻想殺し』というあらゆる力を無に帰す浄化能力が備わっている。
しかしそれはそう便利なものではなく、あくまでこれが働くのは異能の力に対してのみで。
つまりそれは、幻想殺しが発動したということは、今の赤い光は異能の力によるものだったということで。

―――ちょっと、待て。

それはおかしくないだろうか。
異能は主に二つ。能力か、魔術か。
目の前にいる異形はインデックスだったものだ。
今はどうであれ、元々はインデックス本人だったのだ。
つまりあの赤い光は能力ではあり得ない。彼女は能力開発など受けてはいないのだ。

だとするならば。必然的に答えは一つに絞られる。
能力ではないのなら、それは魔術。
しかし。インデックスは魔術を使うことができないはずなのだ。
だがそれは能力などというよりもよほど可能性は高いと言える。
その頭にある一〇万三〇〇〇の汚濁。

791: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:44:55.16 ID:4Rynl3kU0
もしも。

もしも。

インデックスという少女がこの異形へと変異したことで。
何らかの、世界の誰も想像すらつかない変化がインデックスの中に起き。
魔術が使えないという制約が―――消え去ったのだとしたら。
この現象に説明がついてしまうのではないか―――?

思考は続かない。
インデックスの腕にある巨大な眼球が再度上条を見たと思ったら、突然白い輝きに視界を奪われた。
莫大な閃光。だが上条は直感的に反応する。
上条はずっと死線を潜り抜けてきた。ましてや相手が魔術なら、その経験は最大に生かされる。

右手が白い爆発を押さえ込む。
が、打ち消しきれない。あまりに莫大な力に、幻想殺しの処理能力が追いつかない。
これまでもこんなことは幾度かあった。
だから上条は特別慌てることもなく、最適と思われる選択肢を選ぶ。

「ォ、ォォおおおおおおおおッ!!」

不可解な現象が起きた。
インデックスにも何が起きたか理解できていないはずだ。
放たれた白い爆発は上条を薙ぎ払うでもなく、打ち消されるでもなく。
何故か二人のいる大きな空中通路に直撃し、橋を完全に破壊した。

792: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:45:59.11 ID:4Rynl3kU0
簡単な理屈だった。力とは流れやすい方へと流れるものだ。
火は酸素のある方へと流れるように。指向性地雷などはそういった性質を利用したものだ。
要するに上条当麻は右手の五指を自在に動かし、狙った方向へ力を流すためのガイドレールを作り上げたのだ。
とはいえ完璧とはいかない。このやり方で確実に狙った場所へ攻撃を流せるかと言われれば答えは間違いなくNOだろう。

だが、上条が狙ったのは空中通路。
的は非常に広く難易度は低いと言えた。
狙いは一つ。空中通路という足場を失わせることによる、戦闘の中止。
目の前の存在を右手一つで殺せるとは思えない。また、その選択はできるできない以前の問題として選べない。
だって、この化け物は―――インデックス、だったのだから。

圧倒的な力を受けた空中通路は一瞬で崩落を始めた。
上条は即座に後ろを向いて走り出す。
この破壊を起こしたのは自分だ。それが分かっていたから反応と行動には刹那の遅れもなかった。
走って、走って、走って、思い切り飛び込む。
崩落する空中通路に追われながら間一髪のところで建物内へと駆け込んだ上条だが、インデックスはそうは行かない。

突然足場を失ったインデックスは何もできず、ただ、落ちていった。
その巨体は自身の重さのせいで急激に加速し、あっという間に闇の中へと姿を消した。

「……インデックス」

底の深さは分からないが、どれだけ少なく見積もっても一〇メートルはあるだろう。
普通ならば落ちて助かる高さを優に超えている。
が、死んでいない。上条にはその確信があった。
曖昧な願望などではない。これまでの戦闘と経験による判断。
あれほどの存在がこの程度で死ぬはずがない、と。

793: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:48:01.72 ID:4Rynl3kU0
……やはりインデックスは知性が著しく低下していたのだろう。
一〇万三〇〇〇冊を自在に行使できたのならもっと効率の良い、確実なやり方があっただろうし今の落下だって防げたはずだ。
かつて天空の城塞にてもう一つの右手を持った男が見せたような戦い方だってできたはずだ。
『魔神』。そこだけは上条にとって救いだったのかもしれない。
あのインデックスに、そこまでの知性が存在しなかったことが。

「イン、デックス―――……」

そして、おそらくは。これから時間が経つごとに、加速度的にインデックスの知性は更に失われていくだろう。
一〇万三〇〇〇冊の叡智を駆使することは既に不可能だ。
どんどんとあれの取り得る選択肢は減っていき、同時にあれの脅威もそれだけ小さくなっていくだろう。

……だが。この時上条当麻は、決定的な思い違いをしていた。
今のインデックスについて、見誤っていた。
たしかに今のインデックスに一〇万三〇〇〇冊を自在に操り、完全な『魔神』としての力を振るうだけの知性はない。

しかし、そんなことはあれにとって『些細な問題』に過ぎない。
あれは、今のインデックスは、あの『新生物』の恐ろしさは違うところにある。
魔神とは違う。今のインデックスだからこそのその本質と脅威は全く別のものなのだ。
それに上条当麻は気付けない。気付けるはずもない。

「インデックス――――――ッ!!」

そして上条当麻は、そこで初めて頬を伝い落ちる雫を自覚した。
インデックスが死んでしまっているのなら、まだマシだっただろう。

794: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:52:18.75 ID:4Rynl3kU0
だが違うのだ。彼女はきっと生きている。生きていながらにしてインデックスをインデックスたらしめるものが悉く破壊されている。
何も残らない。インデックスがインデックスであった証も。理性も。想いも。

それがどれほど残酷なことか。それがどれほど絶望的なことか。
上条当麻の終着点にして出発点であった少女。
その痕跡は、もう何もない。二人の間にあったものも、全てが。
初めて。上条は初めて、『忘れられる』ことの恐怖と絶望を知る。

……残酷なようだが、これが他の人間だったら上条を襲っているものもこれほどではなかっただろう。
しかし違うのだ。インデックス。インデックス。インデックス。
彼女は紛れもなく今の上条当麻の始まりであり、特別なのだ。
言葉では言い表せない『何か』が、二人の間には間違いなくあった。

それが。
それが。
それが。

上条は単なる叫び声とは違う、聞く者の精神を圧迫するような形容し難い声を張り上げ。
崩れるように蹲り、ひたすらにその頭を両手でガリガリと狂ったように掻き毟った。
今ほどに、この右手の無力さを恨んだことはなかった。
あれには何の異能もない。誰かを倒せばいいとか、誰かに頼めばいいとか、何をすればいいとか。そういう話ではないのだ。

インデックスは、何をどうしてももう二度と元には戻らない。
結局は、たったそれだけのお話だった。

795: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:58:15.01 ID:4Rynl3kU0




そうして、惨劇の夜は明ける。

一方通行は20:00:00、第一六学区のガソリンスタンドにて休息を取った。
感情に任せて暴れ、消費したバッテリーを回復しようと充電を行うも、ここの電力系統がやられたのか短時間しか充電できなかった。
やはり一方通行の行いは自らの首を絞めた。だがそれは分かっていたこと。
守るべき少女を傍に置き、次なる戦いに備えるために彼は強引に眠りについた。

浜面仕上は22:31:12、第二三学区の航空宇宙工学研究所付属衛星管制センターにて就寝した。
体はボロボロになっていてろくに動けなかった。
休憩中、滝壺理后と共に絹旗最愛から渡された携帯で絹旗最愛と麦野沈利に連絡するも通話は繋がらず、メールの返信もなかった。
今のこの状況でその嫌な予感を拭えるはずもないが、どちらにせよ今は動きたくても動けない。
滝壺に冷静に諭され、二人は仲間を信じて体を休めた。

垣根帝督は22:32:11、第三学区の植物性エタノール工場にて体を休めた。
心理定規と共にここに駆け込み、中にいた僅かばかりの異形を殺害して。
誰よりも余裕があるように見える垣根の顔には、極度の精疲労の色が浮かんでいた。
壊れていく。蝕まれていく。ゆっくりと、確実に。

御坂美琴は第一二学区の高崎大学にて身を潜めていた。
彼女をぎりぎりのところで支えている柱を傍らに、美琴は耐えていた。
常に気を配りながらひたすらに闇と同化するように。

上条当麻は23:23:56、第八学区の教会にて眠りについた。
ひたすらに死者の街を駆け回り辿り着いた教会。
そこには一切の化け物の姿はなく、とりあえずの安全地帯だった。
それに緊張の糸が切れた上条は立てなくなるほどの疲労に襲われ、全く動けなくなった。

796: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 02:59:35.38 ID:4Rynl3kU0
けれど、彼らの物語は終わらない。
死者の街と化した学園都市には希望も許しもない。
そんな絶望の淵に立たされて、なおそれに抗う者たちがいる。

最悪の絶望に潰されながらも、尚諦めることのできぬ上条当麻。
たった一つの小さな光を守るために、全てを捨てた御坂美琴。
ヘドロのような泥沼の底から掴んだ温かいものを、次々と失っていく垣根帝督。
一人の少女のために、人としての倫理や尊厳を放棄した浜面仕上。
世界にすら優越する、自身の全てをその手で壊した一方通行。

神の創った生命の系統樹から外れた異形の蠢く、血と肉と死に埋め尽くされた世界で。
五人の主人公はそれぞれの道を行き、この悪夢の終着点を目指して戦う。

果たして彼らの終着点は真実か虚偽か、勝利か敗北か、生か死か―――?

797: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 03:01:47.59 ID:4Rynl3kU0




トロフィーを取得しました

『魔人咆哮』
究極の生命体と化した禁書目録と対峙した証。かつての上条当麻は彼女を地獄から救ったが、今の上条当麻は救えない


『どう足掻いても絶望』
Day2を迎えた証。気付けば彼らのその手は血に塗れている

798: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 03:04:27.17 ID:4Rynl3kU0




悲しみよ、我に来れ
悲しみは我が友
絶望を歓びとして美しき死を讃えよう





799: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 03:05:12.01 ID:4Rynl3kU0




――――――Welcome to next nightmare.





810: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:13:25.91 ID:pQHz2AHI0

取得済みファイル一覧


File01.『白井黒子の日記』

File02.『服部半蔵のメモ』

File03.『黄泉川愛穂の日誌』

File04.『新聞の切り抜き』

File05.『初春飾利のノート』

File06.『湾内絹保と泡浮万彬の学生証』

File07.『補習用のプリント』

File08.『結標淡希のメモ書き』

File09.『家庭科室を使用する際の注意事項』

File10.『枝先絆理の走り書き』

File11.『心理定規の手帳』

811: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:14:31.68 ID:pQHz2AHI0
File12.『亀山琉太の記録』

File13.『警備員のメモ』

File14.『看護師の日記』

File15.『一方通行からのメール』

File16.『関係者各位への連絡事項』

File17.『女子生徒の走り書き』

File18.『誰かが書き残した手記』

File19.『ステーションワゴンに残された遺言』

File20.『女王蟻の研究レポート』

File21.『ある家族の写真』

File22.『「雑貨稼業」の記録』

File23.『「V-ACT」について』

File24.『「B.O.W.」に関するレポート』



File26.『係員の日記』

File27.『血塗れの手帳』

812: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:20:00.72 ID:pQHz2AHI0


     全シナリオ総合時系列表
The Chronological Order of All Scenarioes

Imagine Breaker,Railgun,Dark Matter,Irregular,Accelerater……

前日 Prologue 惨劇の序




――――――Day1――――――

06:03:03 第七学区 路上
警備員が大量のゾンビと交戦、黄泉川愛穂、ゾンビ化した鉄装綴里に殺害される
File03.『黄泉川愛穂の日誌』

06:03:49 第七学区 常盤台中学女子寮
白井黒子、死亡及びゾンビ化
File01.『白井黒子の日記』

06:41:22 垣根帝督 第五学区 路地裏
ゾンビ化したゴーグルと遭遇、殺害

06:53:34 垣根帝督 第五学区 路地裏
心理定規から電話、迎えに行くことに

07:00:58 上条当麻 第七学区 学生寮
ゾンビ化した吹寄制理と青髪ピアスに遭遇、逃走
File04.『新聞の切り抜き』

813: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:22:02.14 ID:pQHz2AHI0
07:01:22 一方通行 第七学区 マンション『ファミリーサイド』
ゾンビ化した黄泉川愛穂と遭遇、逃走

07:05:12 御坂美琴 第七学区 常盤台中学女子寮
ゾンビ化した白井黒子と遭遇、逃走

07:11:50 一方通行 第七学区 マンション『ファミリーサイド』
芳川桔梗、打ち止め、番外個体に事態を説明、病院へ

07:19:36 浜面仕上 第七学区 『蜂の巣』
ゾンビ化した服部半蔵と遭遇、逃走
File02.『服部半蔵のメモ』

07:20 第七学区 柵川中学校学生寮
ゾンビ化した春上衿衣から佐天涙子が初春飾利を救出
File05.『初春飾利のノート』

07:39:43 御坂美琴 第七学区 常盤台中学校
ゾンビ化した婚后光子及び白井黒子と遭遇、逃走

08:07:28 一方通行 第七学区 総合病院
第七学区の病院にて冥土帰しと接触、二人を待機させる
ライブセレクション
1.打ち止めをここに待機させる
2.打ち止めを連れて行き、行動を共にする
File14.『看護師の日記』

08:19:09 上条当麻 第七学区 月詠小萌宅
月詠小萌宅到着、常盤台中学へと出発
File07.『補習用のプリント』
File08.『結標淡希のメモ書き』

08:21:48 第五学区 高級マンション前
麦野沈利と絹旗最愛、ゾンビと交戦

814: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:24:00.35 ID:pQHz2AHI0
08:23:29 浜面仕上 第七学区 柵川中学校
滝壺理后と合流、バンダースナッチと遭遇、交戦
File09.『家庭科室を使用する際の注意事項』
File10.『枝先絆理の走り書き』

08:40:02 垣根帝督 第五学区 高級マンション
心理定規と合流、行動を開始
File11.『心理定規の手帳』




09:14:00 上条当麻 第七学区 路地裏
ブレインサッカーと遭遇、交戦
File12.『亀山琉太の記録』

09:24:11 第五学区 ショッピングセンター
湾内絹保と泡浮万彬、倉庫に身を隠す
File06.『湾内絹保と泡浮万彬の学生証』

10:01:14 御坂美琴 第七学区 木の葉通り
ゾンビ化した佐天涙子、初春飾利と遭遇、逃走
File13.『警備員のメモ』

10:02:00 上条当麻 第七学区 『オリャ・ポドリーダ』
御坂美琴を目撃、『クリムゾン・ヘッド』化した姫神秋沙と遭遇、逃走

10:19:46 垣根帝督 第五学区 ショッピングセンター
湾内絹保、泡浮万彬と遭遇
File16.『関係者各位への連絡事項』
File17.『女子生徒の走り書き』
トロフィー『生きるか死ぬか、それが問題だ』

10:34:58 御坂美琴 第七学区 公園
ゾンビに襲われている硲舎佳茄と遭遇、救出

815: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:26:55.85 ID:pQHz2AHI0
10:36:45 一方通行 第九学区 新聞社
民間人や風紀委員と遭遇、ハンターと交戦

12:21:34 一方通行 第一七学区 操車場
病院残留組との連絡途絶、リサ=トレヴァーの襲撃を受け、交戦
File21.『ある家族の写真』

12:49:37 浜面仕上 第一八学区 スーパーマーケット
『アイテム』合流、麦野沈利と絹旗最愛を残し第二三学区へ
File15.『一方通行からのメール』

13:04:29 一方通行 第七学区 総合病院
ゾンビ化した妹達、打ち止めと遭遇
ライブセレクション
1.打ち止めと妹達を殺害する
2.打ち止めと妹達から逃走する
トロフィー『陽が沈む時』

13:24:31 御坂美琴 第六学区 路上
リサ=トレヴァーと遭遇、交戦
File18.『誰かが書き残した手記』

13:59:36 上条当麻 第一五学区 食肉用冷凍倉庫
生き残りの一般人と遭遇、説得するも聞き入られず
File19.『ステーションワゴンに残された遺言』

15:00:02 浜面仕上 第一八学区 霧ヶ丘女学院
グレイブディガーと遭遇、交戦

16:51:39 垣根帝督 第四学区 精肉工場
アレクシア=木原=アシュフォードと遭遇、逃走
File20.『女王蟻の研究レポート』

17:23:41 上条当麻 第一三学区 『博覧百科』
タイラントと遭遇、交戦
File24.『「B.O.W.」に関するレポート』

816: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:29:31.14 ID:pQHz2AHI0
17:25:37 垣根帝督 第六学区 動物園
数多の感染生物と交戦
File26.『係員の日記』

17:52:14 一方通行 第一学区 路上
怒りと悲しみに任せてゾンビを蹴散らす

18:25:47 浜面仕上 第一八学区 喫茶店『ポアロ』
立て篭もっている『雑貨稼業』と遭遇、篭城戦
File22.『「雑貨稼業」の記録』
File23.『「V-ACT」について』

18:39:57 御坂美琴 第一二学区 スーパーマーケット
リッカーと化した白井黒子と遭遇、これを殺害
トロフィー『地獄への道は善意で舗装されている』

19:54:13 垣根帝督 第四学区 路上
『クリムゾン・ヘッド』化したゴーグルと遭遇、殺害

20:00:00 一方通行 第一六学区 ガソリンスタンド
番外個体と交代で休息を取る

20:36:51 浜面仕上 第二三学区 戦闘機テスト試験場
『G成体』と遭遇、交戦
File27.『血塗れの手帳』

20:46:18 上条当麻 第二一学区 貯水ダム
『G』と遭遇、交戦

21:04:17 御坂美琴 第一二学区 高崎大学構内
硲舎佳茄と避難、束の間の休息

22:31:12 浜面仕上 第二三学区 航空宇宙工学研究所付属衛星管制センター
滝壺と交代で休息、麦野たちに連絡つかず

22:32:11 垣根帝督 第三学区 植物性エタノール工場
心理定規と交代で休息

23:23:56 上条当麻 第八学区 教会
力尽きるように休息

817: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:30:22.82 ID:pQHz2AHI0

――――――Day2――――――

02:16:42 御坂美琴 第一二学区 高崎大学敷地内
ゾンビ化した佐天涙子と初春飾利と遭遇、殺害

818: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:32:04.26 ID:pQHz2AHI0


キャラクター別シナリオ時系列表

垣根帝督シナリオ

――――――Day1――――――

06:41:22 垣根帝督 第五学区 路地裏
ゾンビ化したゴーグルと遭遇、殺害

06:53:34 垣根帝督 第五学区 路地裏
心理定規から電話、迎えに行くことに

08:40:02 垣根帝督 第五学区 高級マンション
心理定規と合流、行動を開始

10:19:46 垣根帝督 第五学区 ショッピングセンター
湾内絹保、泡浮万彬と遭遇

16:51:39 垣根帝督 第四学区 精肉工場
アレクシアと遭遇、交戦

17:25:37 垣根帝督 第六学区 動物園
数多の感染生物と交戦

19:54:13 垣根帝督 第四学区 路上
『クリムゾン・ヘッド』化したゴーグルと遭遇、殺害

22:32:11 垣根帝督 第三学区 植物性エタノール工場
心理定規と交代で休息

819: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:34:35.48 ID:pQHz2AHI0

上条当麻シナリオ

――――――Day1――――――

07:00:58 上条当麻 第七学区 学生寮
ゾンビ化した吹寄制理と青髪ピアスに遭遇、逃走

08:19:09 上条当麻 第七学区 月詠小萌宅
月詠小萌宅到着、常盤台中学へと出発

09:14:00 上条当麻 第七学区 路地裏
ブレインサッカーと遭遇、交戦

10:02:00 上条当麻 第七学区 『オリャ・ポドリーダ』
御坂美琴を目撃するも、クリムゾンヘッド化した姫神秋沙と遭遇、逃走

13:59:36 上条当麻 第一五学区 食肉用冷凍倉庫
生き残りの一般人と遭遇、説得するも聞き入られず

17:23:41 上条当麻 第一三学区 『博覧百科』
タイラントと遭遇、交戦

20:46:18 上条当麻 第二一学区 貯水ダム『ゼノビア』 
『G』と化したインデックスと遭遇、交戦 
トロフィー『魔人咆哮』  

23:23:56 上条当麻 第八学区 教会
力尽きるように休息

820: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:36:12.24 ID:pQHz2AHI0

御坂美琴シナリオ

――――――Day1――――――

07:05:12 御坂美琴 第七学区 常盤台中学女子寮
ゾンビ化した白井黒子と遭遇、逃走

07:39:43 御坂美琴 第七学区 常盤台中学校
ゾンビ化した婚后光子、白井黒子と遭遇、逃走

10:01:14 御坂美琴 第七学区 木の葉通り
ゾンビ化した佐天涙子、初春飾利と遭遇、逃走

10:34:58 御坂美琴 第七学区 公園
ゾンビに襲われている硲舎佳茄と遭遇、救出

13:24:31 御坂美琴 第六学区 路上
リサ=トレヴァーと遭遇、交戦

18:39:57 御坂美琴 第一二学区 スーパーマーケット
リッカーと化した白井黒子と遭遇、これを殺害

21:04:17 御坂美琴 第一二学区 高崎大学構内
硲舎佳茄と避難、束の間の休息




――――――Day2――――――

02:16:42 御坂美琴 Day2 第一二学区 高崎大学敷地内
佐天涙子と初春飾利と遭遇、殺害

822: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:37:59.12 ID:pQHz2AHI0

一方通行シナリオ

――――――Day1――――――

07:01:22 一方通行 第七学区 マンション『ファミリーサイド』
ゾンビ化した黄泉川愛穂と遭遇、逃走

07:11:50 一方通行 第七学区 マンション『ファミリーサイド』
芳川桔梗、打ち止め、番外個体に事態を説明、病院へ

08:07:28 一方通行 第七学区 総合病院
第七学区の病院にて冥土帰しと接触、二人を待機させる
ライブセレクション
1.打ち止めをここに待機させる
2.打ち止めを連れて行き、行動を共にする
―――→以降全ての一方通行シナリオに影響

10:36:45 一方通行 第九学区 新聞社
避難している民間人とそれを守っている風紀委員と遭遇するもハンターの襲撃を受け、交戦

12:21:34 一方通行 第一七学区 操車場
病院残留組との連絡途絶、引き返そうとするもリサ=トレヴァーの襲撃を受け、交戦

13:04:29 一方通行 第七学区 総合病院
ゾンビ化した妹達、番外個体or打ち止めと遭遇
ライブセレクション
1.打ち止めと妹達を殺害する
2.打ち止めと妹達から逃走する
―――→??? に影響

17:52:14 一方通行 第一学区 路上
怒りと悲しみに任せてゾンビを蹴散らす

20:00:00 一方通行 第一六学区 ガソリンスタンド
番外個体と交代で休息を取る

823: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:39:17.09 ID:pQHz2AHI0

浜面仕上シナリオ

――――――Day1――――――

07:19:36 浜面仕上 第七学区 『蜂の巣』
ゾンビ化した服部半蔵と遭遇、逃走

08:23:29 浜面仕上 第七学区 柵川中学校
滝壺理后と合流、バンダースナッチと交戦

12:49:37 浜面仕上 第一八学区 スーパーマーケット
『アイテム』合流、麦野沈利と絹旗最愛を残し第二三学区へ

15:00:02 浜面仕上 第一八学区 霧ヶ丘女学院
グレイブディガーと遭遇、交戦

18:25:47 浜面仕上 第一八学区 喫茶店『ポアロ』
立て篭もっている『雑貨稼業』と遭遇、篭城戦

20:36:51 浜面仕上 第二三学区 戦闘機テスト試験場
『G成体』と遭遇、交戦

22:31:12 浜面仕上 第二三学区 航空宇宙工学研究所付属衛星管制センター
滝壺と交代で休息、麦野沈利らに連絡つかず

825: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/18(日) 01:52:20.94 ID:pQHz2AHI0




Farewell to my life.
Farewell to my home.



次回 とある都市の生物災害 Day2 前編