1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 16:43:50.58 ID:m8c+m9h/0
──凛は自分の名字が嫌い。
だって、馬鹿にされるから。
だって、凛には似合わないから。
「星空凛って言います」
「体を動かすことが好きです」
「よろしくお願いします」ペコリ
「あの人の名字、星空って言うんだってー」ヒソヒソ
「へぇー」
「星空さーん」オーイ
「聞こえてないのかな」キャハハ
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 16:44:40.49 ID:m8c+m9h/0
──はぁ。
またこれだ。
理由は分かるにゃ。
星空なんて名字、日本中探しても滅多いない。
そんな面白い名字を持った人がいたら、凛もきっとどんな人なのか気になる。
いつも凛は嫌な思いをしてきたにゃ。
『おーい、星空』
『わっ、本当に星空なんだー』
『この星の名前はなんでしょう』
『ねえ、“星空さん”この問題、分かる?』フフッ
『星空凛って芸名みたいだよね』
『分かるー』
『ぶりっ子アイドルみたいなー?』アハハ
やめて
やめてよ
凛は、凛なの。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 16:45:21.86 ID:m8c+m9h/0
小学生の頃は事ある度にバカにされたんだ。
中学生からは裏でコソコソ言われる事が多くなってきた。
ははっ、あの顔で星空なのー?とか言われてたのかな。
そのたび、凛は笑って誤魔化してきたんだ。
「人から覚えられやすくて良いよね」
そう言う人もいるよ。でも……凛は……。
「いいなぁ、私も星空って名字が良かった」
「うーん、私は嫌かなぁ……」
後ろの席の方から、そんな話が聞こえる。
悪気が無いのは分かってる。
でも、凛はもうウンザリだにゃ。
「ねえ、あなたはどう思う」
「どうって……」
「まあ、素敵な名前なんじゃない」
「私、天体観測とか好きだし」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 16:45:56.97 ID:m8c+m9h/0
……出たよ、星好き。
この名字のせいで、例外無く話しかけられる。
別に星なんて、詳しくないのに。
横目でチラッと後ろを見ると、視界の端に赤い髪が映った。
……あの子には気をつけるにゃ。
後でかよちんに聞いたら、あの子は西木野さんって
言うらしい。
西木野総合病院。
凛もよく知ってる病院の一人娘。
あんなに可愛いくて、お嬢様なんて
花陽とは少し住む世界が違うよね。
そんな風にいうかよちんが、西木野さんに憧れていることはよく分かったにゃ。
ふーん、お嬢様か。
確かに凛とは全然違うね。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 16:46:33.18 ID:m8c+m9h/0
数日経つと、あまり名字でいじられることは減ってきた。
音ノ木は生徒数も少ないし、良かったにゃ。
それと、西木野さんについて、色々分かった。
どうやら彼女は勉強も凄くできるらしい。
そういえば、新入生代表の挨拶してたにゃ。
将来は医者になるんだろうなー。
それと今日、かよちんと学校探検してて気付いたこと。
廊下に響く綺麗なピアノの音色と歌声。
──その先には、西木野さんが居た。
西木野さんって本当に凄い……
そういったかよちんの目がすごくキラキラしてた。
凛もよく分かったよ。
同い年にこんなに凄い人が居るんだって思った。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 16:47:16.58 ID:m8c+m9h/0
西木野さんは凛に話しかけて来なかった。
まあ、別に名字が星空だからって凛に話しかけてくるとは限らないよね。
それに、凛になんて興味無いんだよ。
かわいくて、美人で、頭も良くて、
ピアノも弾けて、歌が上手で。
おまけに家柄も良くて、お金持ち。
凛には何があるんだろう。
何も無い凛に話しかけることはないよね。
西木野さんが星空って名字だったらどうだろう。
きっと、からかわれることもないよね。
だって、西木野さんは輝いてるから。
凛に持ってないものを全部もってるんだ。
あ、天体観測も好きだったにゃ。
余計にぴったりだよね。
凛は星空って名字だから、からかわれたって思ってた。
けど、違うみたいだにゃ。
星空って名字を持つのが凛だったから、なんだね。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 16:48:05.27 ID:m8c+m9h/0
──μ's
凛はスクールアイドルになったにゃ。
もちろん、かよちんも一緒に。
そして、真姫ちゃんも一緒に。
初めて、真姫ちゃんと話したにゃ。
真姫ちゃんは恥ずかしがりで、とにかく可愛くて。
その日から、凛たちは3人で一緒に居ることが多くなった。
真姫ちゃんは凛のイメージと少し違ったにゃ。
もっと、お嬢様特有の性格の悪さとかあるんじゃないかって思ってた。
真姫ちゃんと仲良くなれて良かった。
かよちんがそう言ってた。
……凛もそう思うにゃ。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 16:48:56.22 ID:m8c+m9h/0
ついにμ'sも9人になった。
あれから、にこちゃん、絵里ちゃん、希ちゃんが加わった。
ついでに、合宿もしたにゃ。
先輩禁止なんだって。
私たちは対等だからって。
凛は対等って言葉に違和感を感じるにゃ。
対等って、同じってこと?
凛はみんなと同じなの?
かよちん、
穂乃果ちゃん、
ことりちゃん、
海未ちゃん、
にこちゃん、
希ちゃん、
絵里ちゃん、
そして、真姫ちゃん。
同じなの?
μ'sの人気も大きくなってきて、
凛は考えるんだ。
凛が居なくても、μ'sはやっていけたんじゃないか、って。
もしもあの時、真姫ちゃんとかよちんを引っ張って
穂乃果ちゃん達のところにいかなかったら
きっと、今の凛の場所には誰か他の人が居たんじゃないかなって。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 16:49:46.92 ID:m8c+m9h/0
凛には何もないから。
μ'sに入らなかったら、こんな人たちと友達になんてなれなかったんだろうな。
みんなと仲良くなって、みんなのことをたくさん知ることができた。
みんなを知って、凛はどんどん小さくなって行く気がした。
大きく強く輝く星たちの近くじゃ、凛みたいなちっぽけな星はないのも同然だね。
みんなと仲良くなれて、うれしい
って、素直に言えるかな……
最近は、星を見ることが多くなった。
星を見ながら、色んな事を考えるんだ。
星を見ているときは凛は凛じゃない。
いつも元気に振舞う凛じゃない。
星空凛っていうちっぽけな存在。
──星空の中に凛は居ない。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 23:45:26.22 ID:m8c+m9h/0
「凛、そこ間違ってるわよ」
定期テスト。
この世の中で必要のないものの一つに数えられるにゃ。
英語は特に苦手。もう訳わかんないにゃ。
「時制に気をつけないと」
今日は真姫ちゃんが凛に勉強を教えてくれるんだって。
かよちんは自分もやんないといけないからって、帰っちゃった。
真姫ちゃんは余裕があるから、つきっきりで誰も教えてくれてる。
放課後の教室。
凛と真姫ちゃんだけの空間。
「ここもほら」
真姫ちゃんは優しい。
だからね、凛はごめんね、ごめんねって
心の中で何度も何度も呟くんだ。
こんな凛に迷惑かけさせてごめんね、って。
「ごめんね」
「いいのよ、もう一回教えるわね」
どうして、凛はこうなんだろう。
「ごめん……ごめんねっ」グシャ
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 23:50:10.66 ID:m8c+m9h/0
「凛、あなた泣いてるの?」
……駄目だ、凛はもう。
「どうして、真姫ちゃんは……」
「凛に……優しくしてくれるの?」
「凛のことなんて、放っておいて良かったのに」
もう、凛は凛を演じるのは疲れた。
「……そんなこと」
「ねえ、何か悩みがあるなら……」
「真姫ちゃんは、」
「真姫ちゃんはいいよね」
「凛には、凛にはないものを全部もってるんだ」
みんなと一緒に居るのが辛い。
みんなと一緒に居るのが苦しい。
みんなは何も言わないから、
凛がいても何も言わないから。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 23:51:04.72 ID:m8c+m9h/0
「可愛くて、頭も良くて、お金持ちのお嬢様で」
「なにも苦労なく生きてきたんだよね」
「ち、違っ……」
「違わないよ」
「ねえ、本当は凛のことどう思ってるの?」
だから、否定してよ。真姫ちゃん。
凛を否定して。
凛は要らないって言ってよ。
みんなが優しいから凛は辛いの。
「凛なんてμ'sに、真姫ちゃんにとって」
「必要ないんでしょ!!」
──ぱちん
「……っ」
凛は驚いた。
頬を打たれた、からじゃない。
「うぐっ、ううううぇっ……」
真姫ちゃんが泣いてたから。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 23:52:00.70 ID:m8c+m9h/0
「必要ないっ、なん、て、言わないで」
「あなたは、わ、私の……」
「親友、なんだからっ……」
真姫ちゃんはそれから泣きながらこう続けた。
凛たちに出会うまで、まともに友達が出来なかったこと。
μ'sに入って、凛たちと友達になって、
本当に嬉しかったってこと。
こうして、凛に勉強を教えることが
真姫ちゃんにとっては、楽しくて、楽しくて。
気付いたら、凛も泣いてた。
ごめんね、真姫ちゃん
凛も真姫ちゃんと友達になれて良かったよって。
それから、2人でわんわん泣いて
凛は凛の話をした。
凛の悩みを真姫ちゃんに打ち明けた。
そんなことないよって
真姫ちゃんは言ってくれた。
凛を見てると元気がもらえるって。
凛に助けられたことがたくさんあるのよって。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 23:52:58.69 ID:m8c+m9h/0
真姫ちゃんも自分の話をしてくれた。
昔から、病院の一人娘だっていうことで
周りから少し距離を置かれていたということ。
私の周りには、友達なんて集まらなかった
嫉妬されて、時には嫌がらせもされたことがあった。って
本当は入学してすぐに、凛に話しかけたかったけど、
怖くて出来なかったって。
真姫ちゃんも凛と同じだったんだね。
凛は何も知らないで、自分のことを棚に上げて、
真姫ちゃんのことを偏見してた。
気付いてたはずなのに。
真姫ちゃんはそんな人じゃないって。
凛と真姫ちゃんは、お互いの話をしてた。
とにかく泣いてばかりで、お互い伝わったのか
分かんないけど。
テストのことも忘れて、2人でずっと話をした。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 23:53:48.03 ID:m8c+m9h/0
次の日。
かよちんにあったらびっくりされた。
真っ赤に腫れた凛の目を見て。
凛は真姫ちゃんと、少し目があって、
互いの目をみて笑いあった。
昨日のことは内緒にゃ。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 23:54:36.12 ID:m8c+m9h/0
「ねえ、あの星はなんていうの?」
「あれは……」
今日は真姫ちゃんと星を見ていた。
星のこと、知りたくなったんだ。
あれから、星を見る気持ちも変わった。
どんなに小さな星だって、輝いているんだって
そこに存在してるんだって
そう気付くことができたから。
それから、もう一つ。
凛は自分の気持ちに気付いたにゃ。
それは凛が悩んでて、苦しんで、心が埋もれてしまっていても
いつの日からか凛の中に存在し続けてたもの。
凛は真姫ちゃんのことが───
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 23:55:45.20 ID:m8c+m9h/0
──凛は自分の名字が好き。
星空が好き。
──だって、
「ねえ、本当に良かったの?」
「何よ、いまさら」
「だって、西木野病院は……」
「いいのよ、それに何年も先の話でしょ?」
「私が院長になってから、なんだから」
「うん」
「それに、私は素敵だと思うわ」
「星空病院って、響きが明るいじゃない」
──だって、凛にとって大事な人の名字でもあるから。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/06(日) 23:56:57.48 ID:m8c+m9h/0
短いですけど、これで終わりです
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