2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/13(火) 18:32:09.70 ID:t+Nlsirn0
 バタリ と、扉が閉じて……
聞こえていた気がする歓声も、閉じた空間には……届かないね。
これで終わり――少し、物足りない気がするけど、私の舞台はこれで最後。

「……お疲れ様、小梅」
「あっ……プロデューサー、さん……」

 思い出すと……数年間だけど、一緒に長く歩いてくれた。
そして……助けてくれた、導いてくれた。
ま、まるでゾンビに囲まれた……危ないヒロインを、助けにきた主役みたい……

 だけど、それも……一旦は、終わり。
この日が、私の最後の日だから……

「良かった、かな……?」
「何言ってんだ! 最高で、素晴らしかったに決まってるだろ……!」

 プロデューサーが、私に見えないよう……背を向けながら、泣いてる。
こんな風に、表には出そうとしない、けれど……一緒に喜んでくれたり、
と、時には泣いてくれたり……そんなプロデューサーが、好き……だよ?

「……アイドルとしての、最後で最高の舞台に関われた事を誇りに思うよ」
「え、えへへ……で、でも、なんだか……まるでお別れみたいな、空気――」
「おいおいおい」

「俺達の繋がりは終わらないよ。ただ一つ、白坂小梅という人物に区切りがつくだけさ」

引用元: 白坂小梅「終末を迎える私」 

 

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/13(火) 18:32:51.07 ID:t+Nlsirn0
 日陰の住人……だった。
光を、見たことがなかったかもしれない私に……手を伸ばして、
私自身がこうやって……皆の、光や夢になれるまで、育ててくれて――
と、途中は悪夢だったかも、しれないけど……でも最後は、やっぱり……
私のために……集まってくれる人達も居るほど、う、嬉しい。

「う、うん……そう、だね……」
「アイドルほど華やかじゃないかもしれないけどな」
「他のお仕事……あ、アイドルの時にも、少し……やった」

 私は、ちょっと変わってる……かもしれないけど、
ホラー映画とか……そんなのに、興味……あった。
その趣味を……活かした、次のお仕事を……待ってる……

「今後は幸子みたいに女優やモデルでも、輝子みたいにライターなんかも出来るさ、一緒にな」

 色々な子と、一緒に舞台にあがったこともある……
その中でも、私は……一番、長くアイドルをしていた、うん……
私が……アイドルを続けた方がいい、って……お願いしたから……

「シンデレラとして登りつめた階段も豪華なら、去っていく降りる階段だって豪華にな? なんでも俺が用意するぞ」
「わ、私は……階段より、怪談の方が、好き……かな……」
「ははは、なるほどな!」

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/13(火) 18:33:34.23 ID:t+Nlsirn0
「まずは、何になりたい? 何を目指す?」

 最初の私だったら……そもそも、登る階段が無かった。
何かしたいことも、できることも……無かった。
アイドルの時の私でも……選べなかった、と思う……
いつでも、自分から動くことは……無かった、かも。

「プロデューサー……さん……あの、ね……」
「おう」

 でも……今は、やりたい事も……出来る事も、多かったはず。
自分で、決められるほどに……なった、でしょ? プロデューサーさん……

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/13(火) 18:34:27.25 ID:t+Nlsirn0
「じ、実は……決まってて……」
「そうなのか?」
「う、うん」
「なるほど。既に考えてるくらいなら、尚更急がなきゃな? 早くも次のプロデュースがスタートするぞ!」

 もう、早い……次の道に向けて、歩き出すって……良い事、だね。
でも……だからこそ……私が、ガチャリと扉を開けたら……私の役目は終わり。
だって、もう私に聞いてくる私は……い、居ないから……

「ほら行くぞ! 興奮冷めないライブの熱をバックに、な!」
「う、うん……!」

 私が、プロデューサーに続いて……部屋を出る。
や、やっぱり……わ、私は、誰かに導かれるのが、いいのかな?
似合ってる、ように見える……いや、プロデューサーさんとだから、かな……?

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/13(火) 18:35:24.04 ID:t+Nlsirn0
 こ、こうなるまで……長かった、ね……?
次のステップに、私は……いらない……
これでようやく、終わっちゃう……でも――

「…………あれ?」

 きょろきょろと辺りを見回してる。
何かを、探して……だけど……目的の子は、見つからないよ?

「居ない……?」

 そう、居ないよ。
もう十分……私は、私で歩いていけるところまで、一緒に隣で支えた……
次は……“私”が“私”になって、“私”を支えてね……?

「……どうした? 小梅、急に立ち止まって」
「い、いや…………なんでも、ない……?」

「……そうか? もし疲れてるなら遠慮せずに言うんだぞ?」
「それは、大丈夫……なんだか、不思議……元気……」
「へぇ、小梅の口からは珍しい言葉だな? ファンから貰ったパワーの賜物だ! ……と、いうのもあるだろうけど」

「……なんつーか、憑き物が取れたみたいな」
「それ……私だと……あんまり良くない、かな……?」
「い、いやいや、確かにそうだけどもうホラーなアイドル白坂小梅は完結したんだぞ?」

「どの路線に向かうにしても、気分改めてが大事だからな。その辺を無意識に出来てるあたり、さすが小梅だよ」
「ほ、褒めても……何も、出ない……」
「ははは、いい笑顔だ!」
「……ふふ……そ、そう、かな?」



おわり