1 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 22:21:43 ID:3675lTo.
勇者「なんだそれは?」
魔法使い「火属性の初期魔法ですぞ」
勇者「ああ、それなら…」
勇者が横に手を伸ばすとその先に
火の柱が激しく空に向かって燃えだした
魔法使い「!?」
勇者「これだろ?」
魔法使い「メ、メラゾーマ…」
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2 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 22:29:15 ID:3675lTo.
戦士「ではこれより剣の練習を始める」
勇者「剣って必要なくね?」
戦士「なっ…貴様なにを!?」
勇者「ちょっと来てよ」
戦士「ん?」
そう言うと、勇者は戦士と街の外に出て
野生モンスターが出現する場所に来た。
すると、そこにスライムが現れた!
戦士「ククク…武器無しでは1の
ダメージも通せまい」
勇者「ふんっ」
勇者が拳を突きだすとその風圧で
3匹いたスライムは遙か彼方に
飛んでいってしまった。
戦士「素手で…バシルーラ…」
勇者「ん?」
3 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 22:33:36 ID:3675lTo.
王様「なに、旅に出るじゃと!」
勇者「はい」
王様「ならばこの防具と武器を」
勇者「いりません」
王様「なぬ!?」
勇者「素手で十分ですから」
王様「な、仲間のために…」
勇者「お前は一人で十分だ!
…と連れて行こうとしたら
そういう風に言われました」
王様「そ、そうか…」
4 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 22:39:18 ID:3675lTo.
王様「むむ…ではせめてこの王の右腕…
側近を倒してからにしてみよ!」
王様(側近は高レベルの賢者。そう易々と…)
勇者「えっ」
王様「む?」
勇者「まぁいいや。お願いします」
王様「うむ」
王様の横にいた側近は、颯爽と前に出て
そして勇者の類稀な身体能力と魔法の
数々によって颯爽と負けてしまった。
王様「つ、強すぎる…?」
勇者「ん?」
5 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 22:44:23 ID:3675lTo.
勇者は、とても強かった。
人間としては言うまでもなく
誰よりも、何よりも強かった。
スライムなどでは相手になるはずもなく─
また、人間界にいた高レベルの魔物の
やまたのおろち、ボストロール、
表の支配者のバラモスでさえも
勇者の手にかかれば瞬殺であった。
勇者は本当に誰よりも強かったのだ。
─そう、魔王さえも例外ではなかった。
6 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 22:48:45 ID:3675lTo.
魔王「ぐっ…何故だ…なぜこんなにも…」
勇者「強いのかだって?」
魔王「そう…だ…」
勇者「答える必要はないね」
魔王「ぐ…だが、魔王は何度でも
復活する…何度でもな…!」
勇者「……」
勇者は静かに剣で魔王の首を切り払った。
勇者「…わかっているさ。そんなこと」
7 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 22:59:49 ID:3675lTo.
─それから勇者は、何度も復活する魔王を
復活の度に旅に出て、魔王城まで出向き
魔王を消滅させていた。
何年、何十年、何百年と─。
精霊の加護で勇者は半分、不死となって
いる。魔王を倒し続けるためだけに
与えられた能力。その驚異的な戦闘力を
買って、精霊の長が与えたものだ。
魔王が復活する毎に全盛期に
若返りするというものであった。
魔王が復活するまでに寿命が来たら
死ぬ、というものであった。
8 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 23:09:56 ID:3675lTo.
その長い時間の中で勇者が発狂しても
妖精きっとそれを助けようとしない
だろう。勇者はその事をよく理解している。
何故なら、妖精に心は無いから。
ただ、善と悪を分け、悪を滅ぼす
ためだけに存在する──正義の鉄槌。
悪を滅ぼすなら善の犠牲など気にもしない。
言葉は通じても、そこに心はない。
勇者はそれを理解しているからこそ
考える必要があった。
─あの日の、あの出来事を。
9 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 23:16:37 ID:3675lTo.
─勇者が初めて魔王を消滅させたその日。
─妖精は目の前に現れた。
魔王を倒した直後に現れたその妖精は
妖精のイメージとは少し異なる、白い髭を
生やした無表情のおじさんであった。
「少年よ、世界を救いたいか?」
勇者「うん、救いたい!」
「そうか。では、これから平和は
来ると思うかね?」
勇者「う~ん…魔王倒したから
来るんじゃないかな?」
10 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 23:25:31 ID:3675lTo.
「半分正解じゃ。しかし、勇者よ。
これだけは覚えておいて欲しい」
勇者「なぁに?」
「魔王は何度でも復活する」
勇者「え?うそ…」
「うそではない。魔王は勇者が存在
する限り、何度でも復活する」
勇者「なら、僕が何回でも倒すよ!」
「ふむ…しかし、魔王は何百年経っても
復活するぞ?それこそ1年に一回
なんてものではないぞ」
勇者「…それでも、僕が倒すよ」
「その決意、本物のようじゃな」
勇者「うん。だって僕は勇者だから!」
11 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 23:30:48 ID:3675lTo.
…その後、妖精の力によって
勇者は今の不死身のような体を
手に入れた。幸か不幸か、魔王が復活する
のはいつも早く、勇者は百年経った
今でも死ぬことはなかった。
妖精から力を得たことを後悔した日も
あった。ただ、それでも勇者は自分の
正義を信じて生きてきた。
──ある一人の魔王に出会うまでは。
12 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 23:39:32 ID:3675lTo.
その魔王と出会ったのは、何年前に
なるだろうか。その時すでに
何度も魔王を倒し、消滅させることが
全てになっていた勇者に、時間を
覚えることなど必要でなかった。
その魔王は、とても優しかった。
魔物に人を襲わせないようにして
また、それらを徹底するために
魔界に魔物を全て引き連れて、
さらには魔界と人間界を結ぶ"軸の歪み"と
呼ばれるものは死にもの狂いで塞いだり
もした。とにかく優しかった。
魔物も、魔王の優しい魔力を何度も
注がれて、いつしかかつての荒い気性は
無くなっていた。
13 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 23:48:54 ID:3675lTo.
だけども人は愚かで、かつての
魔王の姿が忘れられず、報復を恐れて
魔王討伐のため、勇者を旅立たせた。
勇者も自分の正義を信じるが故に
魔王を討伐せんと、賛同して旅に出た。
魔王が塞いだ"軸の歪み"さえも
無理矢理こじあけて城に突撃して。
そうして、あっという間に魔王の玉座
まで着き、魔王を斬りにかかった。
心優しき魔王は抵抗もせず、
それどころか、斬りにかかる勇者に対して
微笑み続けたまま、斬られてしまった。
そのまま魔王は倒れ、涙をうっすらと
浮かべながら横たわっていた。
14 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/22(木) 23:58:21 ID:3675lTo.
倒された魔王はしばらくすると
頭の方からどんどんと空気に
とけ込むように消滅していった。
それと同時に、勇者の回りに魔王の
魔力が溢れて身体に流れていく。
勇者「これは…」
しかし、何も起こらない。
勇者「あたたかい…?」
そう、暖かかったのだ。身体ではなく
心がとても暖かくなった。
それは魔王の優しさや気持ちが
流れてくるようで、とても心に響く。
気がつけば、勇者の目から大量の涙が
溢れ出していた。それは魔王の優しさに
気づいた勇者の暖かさかもしれない。
勇者「なんだよ、これ…」
涙を拭っても拭ってもそれは溢れていく。
勇者「ああ、そっか…こんなにも
大切なことを忘れて…
…いや、知ろうともしなかったのか」
18 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 08:16:33 ID:9kWLuk4Y
─何百年経った今でも、勇者はその魔王の
ことを思い出す。思い出す、というよりは
忘れられないといったほうが
正しいのかもしれない。
今まで数え切れないほどの魔王を
倒してきて、優しい魔王に会った
のは、その一度きりだったから。
勇者は、その優しい魔王に再び
会おうとするために魔王を倒し続けている。
…優しい魔王が生まれる、奇跡を信じて。
19 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 08:28:18 ID:9kWLuk4Y
─魔王城。
勇者「…魔王」
魔王「…勇者か」
勇者「そうだ」
魔王「……戦うつもりか?」
勇者「?…もちろんだ」
魔王「…なら、その前に少し話を─」
しないか、と言い切る前に勇者の剣に
よって魔王の首は斬られてしまった。
首を斬られても、体の構造が違うのか
魔王は首より上だけの顔で喋り続けた。
20 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 08:44:38 ID:9kWLuk4Y
魔王「…や…はり…おま…え…の…ゆう…
しゃ…の…こころは…むし…ば…
…まれ…て…いる…よう…せい…の」
そう言って、その魔王は息絶えた。
そして、空気となって消滅した。
その時、不意に勇者の目に涙が流れる。
勇者「あ、あれ…おかしいな。悲しく
なんてないはずなのに─」
その涙とともに勇者はあの優しい魔王の
ことを思い出した。
何故か忘れていたそれを──。
勇者「…危ない。忘れるところだった」
しかし、何故忘れてしまいそうになって
いたのか?と勇者は考える。
21 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 08:52:15 ID:9kWLuk4Y
忘れるはずがないあの魔王のことなのに─
勇者「…心が蝕まれる…」
先ほどの魔王の言葉を思い出すように
その場で静かに呟く勇者。
勇者「…妖精…?」
妖精、といった言葉が妙に引っかかる。
勇者「─まさか!」
─もし、もしも妖精が心の中を
覗けることが出来るとするならば。
絶対的な悪の存在である魔王を
消滅させるためだけの存在ならば。
『ただ、善と悪を分け、悪を滅ぼす
ためだけに存在する──正義の鉄槌。』
─勇者の心は、不必要とされたのかも
しれない。そんな考えが巡った。
22 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 09:02:36 ID:9kWLuk4Y
妖精は、悪を滅ぼすために手段を
選ばない。だから、それを手伝おうと
する──主に勇者のような存在に力を貸す。
ただし、あくまで善の者に
力を貸すのではなく、悪を退治する者に
妖精はその力、加護を与えるのだ。
そう、絶対的悪の象徴である魔王を
消滅させるためならば、例えどんな
心の持ち主でも加護を与える。
─それ以上の悪は存在しないから。
しかし、それでも勇者はなかなか
世界中を探しても現れない。
それは、魔王だけは加護を打ち破る
可能性を秘めているという事ともう一つ。
──魔王を倒す意志がなくなったと
判断された者は、加護が尽きて…死ぬ。
23 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 09:12:29 ID:9kWLuk4Y
それから勇者は、魔王を倒し続けた。
あの優しい魔王のことを忘れないように
心に深く刻みながら、何度も何度も─。
加護が消えて自分が死んで新たな勇者が
優しい魔王を消滅させないためにも
魔王を倒すという思いも刻みながら。
もちろん、勇者はこの世の誰よりも
何よりも強いので魔王に殺されるなんて
いうことはなかった。
24 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 09:23:22 ID:9kWLuk4Y
─それから、何年の月日が経っただろうか。
また、魔王が復活した。
しかし、勇者はそこに違和感を覚える。
──どこにも魔物が存在していない。
今まで魔王城まで進むには魔物がいた。
復活までに時間がかかるのと食料が
ないため、魔王城に住むことは
出来なかったため、いつも魔王城に
復活の度に進まなければならなかった。
さらに勇者はあることに気がついた。
魔界に住んでいて気がつかなかったが
"軸の歪み"がいつの間にか塞がれていた。
勇者「…もしかして」
25 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 09:32:19 ID:9kWLuk4Y
魔王は復活してからすぐのおよそ3日間は
魔力が弱っているため、復活してすぐには
勇者は魔王に気が付かない。
気付いたとしても、勇者の住む場所から
魔王城までは何日か必要とする。
移動魔法も勇者はなるべく使わない。
優しい魔王が現れた時、そう、例えば
あの時のように"軸の歪み"を塞ぐための
時間を少しでも魔王に与えるために。
勇者は確信していた。今回の"軸の歪み"を
塞いだのは魔王である、と。
勇者「…ここまで長かった」
そうして勇者は、ようやく辿り着いた
魔王の玉座への扉を開ける。
26 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 09:44:40 ID:9kWLuk4Y
魔王「…あなたが勇者ね」
勇者「ああ」
魔王「あなたは…私と戦うつもりかしら?」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「…そうだな。戦わなくちゃいけない」
──それがたとえ、あの時と変わらない
優しい魔王の姿をしていた相手でも。
魔王「私の…いえ私たちの罪は…
…数え切れないほどだものね」
勇者「…"軸の歪み"は…あなたが?」
魔王「…そうね。罪滅ぼしにはならない
だろうくど、完璧に塞いだつもりよ」
勇者「…それなら、安心かな」
27 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 09:54:28 ID:9kWLuk4Y
勇者は瞬く間に魔王に近づき、斬り払った。
その速さは、魔王ですらも捉えきれない
ほどで、本当に一瞬の出来事であった。
勇者「…ありがとう」
勇者の剣から黒い血が流れていく。
そこから暖かい魔力が溢れている
ようにも思えた。ただ、魔王が消滅
すると同時に消えていってしまった。
勇者「…ごめんな」
だけども、次の瞬間に勇者の剣には
赤い血が流れ続けていた。
それはしばらく辺り一面、床にしばらく
広がり続けた。赤い血は勇者の首のない
身体から流れていた。
29 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 10:08:41 ID:9kWLuk4Y
─勇者が生まれる時、魔王は復活する。
勇者という存在は、魔王がいる象徴。
だから、魔王は何度でも復活する。
だから、勇者は勇者がいなくなれば
いいと考えた。魔王の消滅と同時に。
妖精は死なない。触れることもできない。
声が聞こえるだけ。心のない声が。
そして、妖精が見えるのは勇者だけ。
勇者がいない今、また魔界と人間界を
繋ぐ"軸の歪み"がない今は、妖精を
除いて真実を知るものはいない。
30 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 10:20:22 ID:9kWLuk4Y
──真実なんて誰も知らなくていい。
優しい魔王がいたことも。
自分という勇者がいたことも。
ただ一つ、願うとすれば──
──あの優しい魔王に、一番
始めの頃に出会いたかった。
出会った時にはすでに狂っていた。
涙なんて、流れただけだった。
心に響いても、心の傷は癒えなかった。
──でも、もう一度会えた時、
本当に心から嬉しかったと思えたよ。
…ありがとう。そして、ごめん。
31 : ◆X9gBn93PwA:2012/03/23(金) 10:23:35 ID:9kWLuk4Y
少しアレな終わり方ですが、これにて
完結といたします(ノД`)
当初の予定では、勇者強すぎワロタww
といった展開を考えていましたが…
どうも苦手なみたいで…。
では、みなさん。
また出会える日まで、さようなら。
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