2: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 16:59:58.43 ID:Ng9LzQ0P0
訓練兵の部屋

コンコン

クリスタ「はい」

キース「クリスタ・レンズ。教官室まで、今から私について来い」

クリスタ「は、はい!」

ユミル「お前、いい子ちゃんのくせになにかやらかしたのかよ? やるなぁオイ!」

クリスタ「そんなことしてないよ! ユミルのばかぁ!」

キース「早くしろ」

クリスタ「申し訳ありません!」

ガチャ バタン

引用元: クリスタ「リヴァイ兵長が私の兄?」 

 

3: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:01:29.53 ID:Ng9LzQ0P0
コツコツコツコツ

キース「貴様に会いたいという人物がいてな」

クリスタ「私にですか? いったい誰が」

クリスタ(まさか家の者が会いにくるわけもないし)

キース「会えばわかる。なぜその人物がお前に会いに来たのかは、私も詳しくは知らん」

教官室
コンコン ガチャ

4: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:03:21.41 ID:Ng9LzQ0P0
キース「リヴァイ兵長。クリスタ・レンズを連れて来た」

リヴァイ「ああ……。早かったな。わざわざすまなかった」

クリスタ(えっ!? リヴァイ兵長? もしかしなくても私に会いに来たのって、兵長なの?)

キース「いや。ではこれで失礼する」

ガチャ バタン

5: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:05:26.12 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「……」

クリスタ「……」

クリスタ(気まずい)

クリスタ(すごく私を睨んでいるような。顔が怖い)

リヴァイ「……クリスタ・レンズ。お前が突っ立ってちゃ話しにくい」

リヴァイ「とりあえず、そこにかけろ」

クリスタ「は、はい」

ガタン

6: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:09:13.38 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「単刀直入に聞くが」

リヴァイ「『クリスタ・レンズ』、これはお前の本当の名か?」

クリスタ「えっ……」

クリスタ(!? そんな、まさか、なんで)

クリスタ(あれ、でも、なんだろう。こんなやりとりを、私はどこかで知っているような)

クリスタ「仰っている意味が、わかりかねます」

リヴァイ「それならもっと直截的に聞こう」

リヴァイ「この部屋には誰もいないし、俺が帰るまでは人払いを命じている」

リヴァイ「『ヒストリア・レイス』、これがお前の本当の名じゃないのか」

7: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:12:01.02 ID:Ng9LzQ0P0
クリスタ(どういうこと!? 私の本当の名前を、兵長が知ってる!)

クリスタ(一見聞いている風だけど、もう確信している声色だ)

クリスタ(どうしよう。兵長はそれを私に確認して、何がしたいのかな?)

クリスタ「……」

リヴァイ「だんまりか? 沈黙は肯定と捉えるぞ」

クリスタ「……」

10: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:20:49.57 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「別に、それを確認したからといってお前をどうこうするわけじゃない」

リヴァイ「そしてこれを聞くのは俺の個人的な意思であって、兵団も他の何かも関係ない」

クリスタ「個人的な意思? それは、どういうことなのでしょうか」

リヴァイ「それを聞く前に俺の質問に答えろ」

クリスタ(ごまかせる雰囲気じゃないよ……)

クリスタ「……はい、兵長」

クリスタ「私の本当の名前は、ヒストリア。ヒストリア・レイスです」

11: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:23:44.82 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「……やはりか。答えづらい質問をしたな」

クリスタ「いえ……。でも、一体どうして、それをご存じなのですか?」

クリスタ「それと、先ほど仰っていた、個人的な意思とは……」

リヴァイ「……」

リヴァイ「お前は何も覚えてねぇんだな」

リヴァイ「無理もない、むしろ当たり前のことだが……」

リヴァイ「その問いには今から答える。少し長くなるが、まぁ……我慢しろ」

13: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:28:15.63 ID:Ng9LzQ0P0
回想
夜、とある貴族の屋敷

リヴァイ(クソ、まずったな)

リヴァイ(屋敷の構造はそれなりに把握しているはずだったんだが)

リヴァイ(右足が上手く動かねぇ。折れちゃいないだろうが、捻ったか)

警備兵「おい! 近くにいるはずだ、探せ!」

リヴァイ(今見つかったら面倒だ、適当な部屋にでも隠れられれば)

ガチャ バタン

14: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:31:46.21 ID:Ng9LzQ0P0
どこかの部屋

リヴァイ(鍵がかかっていなくて助かった)

リヴァイ(布か何かで足首を固定できればいいんだが……)

????「お兄ちゃん、だれ?」

リヴァイ「!」

15: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:36:15.60 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ(こんな屋敷の隅の部屋にガキがいたとはな……これは本格的にまずったか)

リヴァイ(大声で泣かれでもしたら)

????「お兄ちゃん、いたそうだよ……」

リヴァイ「あぁ?」

????「足のところがすごく赤いもん。そうだ! まってて」

パタパタパタ

16: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:39:47.23 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「オイ……」

リヴァイ(ん? 待て、この年頃で、この屋敷にいるガキってのはまさか……)

パタパタパタ

????「いいものもってきたよ!」

リヴァイ「いいもの?」

リヴァイ(大きな白いハンカチと、小さな青い水差し)

17: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:42:34.22 ID:Ng9LzQ0P0
????「こうやって、ハンカチにお水をかけてひやしてね」

ピチャピチャ

????「しぼってね」

ぎゅう

????「これをね、足にまくといいんだよ! だからわたしがまいてあげるね」

リヴァイ「……よく知ってるな、ガキ」

????「えへへ。わたしご本をよむのがすきだから、いろいろしってるんだよ」

リヴァイ「礼を言おう。だが巻くのは俺が自分でやる」

18: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:45:26.28 ID:Ng9LzQ0P0
????「ええー?」

リヴァイ「ガキの力じゃすぐ緩んじまうだろうが」

ぐるぐるぐる ぎゅっ

リヴァイ「よし」

????「だいじょうぶ? もういたくないの?」

リヴァイ「バカか。痛みが消えるわけじゃねぇよ」

リヴァイ「だが助かった、これで……」

コンコン

リヴァイ「!」

警備兵「お嬢さま、開けてもよろしいでしょうか?」

19: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:47:25.72 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ(まずい、こうなりゃ窓でもぶち破って)

????「きがえてるから、あけちゃだめ!」

リヴァイ「!」

????「ぜったいだめ!」

警備兵「は、はあ。申し訳ありません」

警備兵「ではお嬢さま、念のためお聞きしますが、この部屋に誰か知らない男の人が入っては来ませんでしたか?」

????「そんな人、こなかったよ」

警備兵「そうでしたか。そうですよね、失礼致しました」

コツコツコツコツ

20: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:53:24.77 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ(お嬢さま、か。やはりこいつは)

リヴァイ「おいガキ、なぜ俺を庇った」

????「だって男の人は、ケガをしてるところをあんまりだれかに見られたくないんだよね?」

リヴァイ「はぁ? なんだそりゃ」

????「このまえよんだご本に出てきたしゅじんこうがね、そう言ってたの」

????「お兄ちゃんも男の人だから、そうかなって思ったんだよ。ちがった?」

リヴァイ(よくわからん)

リヴァイ(だが、否定するのも面倒だ)

リヴァイ「……そんなところだ。ありがとな、ガキ」

????「えへへ。よかった! ねぇ、お兄ちゃんのなまえはなんていうの?」

リヴァイ「あぁ?」

21: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 17:56:47.97 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ(うかつに名乗って、後でこいつが俺の名を口走りでもしたら面倒だ)

リヴァイ「教えねぇよ」

????「なんで!」

リヴァイ「うるせぇ、喚くなクソガキ」

????「ガキじゃないよ! わたしには、なまえがあるもん!」

リヴァイ「なんて名前だ」

????「だめ、お兄ちゃんからさきに言ってほしいな」

リヴァイ「じゃあいい」

????「そんなぁ」

リヴァイ(まぁこいつの名前は多分……いやきっと)

????「じゃあ、わたしのなまえは、クリスタ!」

リヴァイ「……は?」

リヴァイ「もういっぺん言ってみろ」

クリスタ「わたしのなまえは、クリスタ!」

22: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:00:25.32 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ(クリスタだと?)

リヴァイ(まさか。こいつの名前は違うはずだろ、年齢的にもこのガキは……)

リヴァイ「『クリスタ』、これはお前の本当の名か?」

クリスタ「えっ。えっと……」

リヴァイ「『ヒストリア』、これがお前の本当の名じゃないのか」

クリスタ「え、な、なんで? なんでお兄ちゃんが、わたしのなまえをしってるの?」

リヴァイ「やはりな」

リヴァイ(やはり、こいつがヒストリア)

リヴァイ(こいつが、このガキが、俺の)

24: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:06:14.73 ID:Ng9LzQ0P0
ヒストリア「ねぇ、すごい! お兄ちゃん、どうしてわたしのなまえを」

リヴァイ「それより、クリスタってのはなんだ。どっから出てきたんだその名前は」

ヒストリア「えっと、えっと……」

パタパタパタ
パタパタパタ

ヒストリア「あのね、このご本にね、出てくるなまえなの。いまよんでるんだよ」

リヴァイ「何で嘘の名前なんか言うんだ、生意気なクソガキだな」

ヒストリア「だってお兄ちゃんがなまえをおしえてくれないからだよ!」

リヴァイ「どういう理屈だ」

リヴァイ(それにしても、また本の話か)

リヴァイ「お前、よっぽど本が好きみてぇだな」

ヒストリア「え?」

リヴァイ「さっきからどの本で読んだとか、そんなのばっかりじゃねぇか」

ヒストリア「うん、ご本をよむのはすきだよ。まだむずかしいご本はよめないけど、でもたくさんよんでるの」

25: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:09:19.30 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「そりゃお偉いことだな」

ヒストリア「それにね、それしかすることがないの」

リヴァイ「あぁ?」

ヒストリア「わたしにはお友だちもいないし、お外にもあんまり出してもらえないから」

ヒストリア「だいたいずっとね、このおへやにいなきゃいけないから」

ヒストリア「ご本をよんでるしかないの」

リヴァイ「……」

リヴァイ(そういえばこの部屋は、屋敷のずいぶん隅にあるんだった)

リヴァイ(あまり誰も来ねぇような、そんな位置だ)

ヒストリア「でもね、ご本をよむのはすき」

ヒストリア「いろいろなことが書いてあって、まるでわたしがお外をぼうけんしているみたい」

ヒストリア「それにね、ご本をよんでいたおかげで、さっきだってお兄ちゃんのやくに立てたよね?」

26: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:12:43.29 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「……ああ、あれは助かった」

ヒストリア「ご本をたくさんよんでいれば、そんなふうにだれかのやくに立てるんだね」

ヒストリア「だからとってもうれしかったの。ありがとう、お兄ちゃん」

リヴァイ「……」

わしわし がしがし

ヒストリア「わぁ!」

リヴァイ「生意気言うな、クソガキ」

ヒストリア「ちょっといたいよぅ」

リヴァイ「……」

なでなで さらさら

ヒストリア「……えへへ」

27: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:15:37.24 ID:Ng9LzQ0P0
ヒストリア「ねぇ、だから、お兄ちゃんのなまえは?」

リヴァイ「それは言わん」

ヒストリア「ずるい! わたしのなまえは、おしえたもん」

リヴァイ「お前が教えたんじゃなくて俺が当てたんだろうが。お前は嘘をついただけだろ」

ヒストリア「ずるい!」

リヴァイ「それよりも。……俺はそろそろここを出る」

ヒストリア「え! お兄ちゃん、どこかに行っちゃうの?」

リヴァイ「当たり前だろ」

リヴァイ「……俺はこの屋敷の住人じゃ、ない」

ヒストリア「もう行っちゃうの……」

リヴァイ「……だがその前にだ」

リヴァイ「おいガキ。何か俺にしてほしいことはあるか?」

ヒストリア「え?」

28: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:17:18.27 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「癪だがお前には借りができた」

リヴァイ「お前はクソガキだが、借りを返さずにいるのは気分が悪い」

リヴァイ「ただ後日礼の品を渡しに、なんてわけにはいかねぇからな」

リヴァイ「今この場で、俺にできることをしてやる」

リヴァイ「何かあれば、だが……」

ヒストリア「じゃあ、お兄ちゃんのなまえ」

リヴァイ「それは言わんと言っただろ。何度も言わせるな」

ヒストリア「ええー」

リヴァイ「物事には例外ってもんがある」

ヒストリア「大人ってずるい」

リヴァイ「そうだ。一つ賢くなっただろ」

ヒストリア「えーと……じゃあ」

29: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:19:51.63 ID:Ng9LzQ0P0
ヒストリア「このご本をよんでほしいな」

リヴァイ「本? また本か」

ヒストリア「うん。このご本、まだとちゅうなの」

リヴァイ(さっき持ってきた、クリスタとかいうのが出る本か)

パラパラ

リヴァイ(俺は簡単な文字しか読めねぇが、見た限りガキ向けで大丈夫そうだ)

リヴァイ「それでいいんだな?」

ヒストリア「よんでくれるの?」

リヴァイ「お前がそうしろと言ったんだろうが」

リヴァイ(そういや、もうずいぶん夜中だ)

リヴァイ「おいガキ、ベッドに入れ。その横で読んでやる」

ヒストリア「うん!」

パタパタパタ

30: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:25:14.53 ID:Ng9LzQ0P0
ヒストリア「ここまでじぶんでよんだよ」

リヴァイ「そうか、じゃあ続きから」

ヒストリア「ねぇお兄ちゃん」

リヴァイ「あぁ? 黙って聞いてろ」

ヒストリア「もうここにはこないの?」

リヴァイ「ああ、そうだ」

ヒストリア「……さみしいな」

ヒストリア「……またきてくれればいいのに」

リヴァイ「……」

ヒストリア「……わがまま言ってごめんなさい」

リヴァイ「……じゃあ、読むぞ」

ヒストリア「うん、うん……」

31: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:27:35.20 ID:Ng9LzQ0P0
すやすや

リヴァイ(読める程度の文字でよかった)

リヴァイ(ずいぶんすぐ寝た)

リヴァイ(まぁ、夜も遅いしな)

リヴァイ(この部屋が一階なのは好都合だ。窓もそれなりの大きさがある、開けて庭に出ればいい)

リヴァイ「……」

リヴァイ(全く似てねぇな。そりゃそうか)

リヴァイ(腹違いの上に、男女の兄妹ってのは同じ腹でさえ似づらいらしい)

リヴァイ(こいつの母親も、こいつも、いつかは……?)

リヴァイ(……どうなろうと俺には関係ない話だ)

リヴァイ(そろそろ本当にここを出るか)

リヴァイ「……じゃあな、ヒストリア」

リヴァイ(名前でしか知らなかった、俺の妹)

33: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:31:00.54 ID:Ng9LzQ0P0
回想終了
教官室

リヴァイ「……俺もほんの一時期、あの屋敷で暮らしていた」

リヴァイ「だから屋敷の構造も大体は把握していた」

リヴァイ「そこで盗みに入った。結局は下手を打ったが」

リヴァイ「お前のことは、名前でしか知らなかった」

リヴァイ「お前が生まれてすぐに俺の母親はくたばって、俺もすぐに追い出されたから、姿を見たことはなかった」

リヴァイ「あの時出会うまでは、存在すら忘れていた」

クリスタ「……」

クリスタ(この感情を、どう整理すればいいんだろう)

クリスタ(兵長の話は、きっと本当だ。この人がこんな嘘をつく意味がないもん)

クリスタ(でも、こんな話を急に聞かされて)

クリスタ(私は今、すごく混乱してるんだろうな)

クリスタ(よくわからないよ。変に冷静なのに、何にも考えがまとまらない)

クリスタ(何か、言わなきゃ……)

34: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:34:21.28 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「悪かった」

クリスタ「!」

リヴァイ「こんな話を聞かせて。混乱してるだろ」

クリスタ「正直に言えば、すごく……。申し訳ありません」

リヴァイ「当たり前だ。謝るな」

リヴァイ「それからずっと、だからといって何かをするわけでもなかった」

リヴァイ「その後すぐ、俺は調査兵団に入ったしな」

リヴァイ「だが、たまたま用向きがあってここを訪ねたときだ。お前たち訓練兵を見かけた」

リヴァイ「数人いた。誰かがクリスタ、と名前を呼んだのが聞こえた」

リヴァイ「クソほどいるってわけじゃないが、別に珍しいって程の名前でもない」

リヴァイ「だが、そこで急にあのガキのことを思い出した」

リヴァイ「生きてりゃこの訓練兵くらいの年齢になっているはずだと思って、そちらを向いた」

リヴァイ「何も確証はなかった。会ったのはガキの頃だ。目立つ痣や傷があるってわけでもない」

リヴァイ「そもそもクリスタってのはあのガキの本当の名前じゃない」

リヴァイ「だが、そのクリスタと呼ばれた女はあのときのガキだと、なぜかすぐにわかった」

リヴァイ「俺の、妹だと」

36: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:38:06.34 ID:Ng9LzQ0P0
クリスタ「……」

リヴァイ「まぁだからって、こうして会いにくる必要はなかった」

リヴァイ「何があったかは知らんが、お前はこうして名前を変えて生きているみてぇだしな……」

リヴァイ「本当のところを言っちまえば、俺もなぜ会いにきたかわからない……」

リヴァイ「……俺の話はここで終いだ」

リヴァイ「ずいぶん喋った。元々よく喋る方だが、さすがに疲れた……」

リヴァイ「……もう帰るか。俺がこのことを公にするとか、そういったことはないから安心していい」

リヴァイ「クソ長い、それも意味もねぇ無駄話に付き合わせて、そしてお前を混乱させた。悪かった」

37: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:40:59.88 ID:Ng9LzQ0P0
クリスタ「……無駄話じゃ、ないです」

リヴァイ「なんだと?」

クリスタ「無駄話なんかじゃ、なかったです」

クリスタ「まだ、私、混乱してますけど」

クリスタ「でも、聞いてよかった、そう思います」

クリスタ(そうだ。まだ私はすごく混乱してる)

クリスタ(でも、嬉しい。そう思い始めてるんだ)

クリスタ「私、兵長から聞いたこと、昔私たちが出会ったときのこと、覚えているわけではないです」

クリスタ「それが今、とっても悔しいです」

クリスタ「私が、兵長の、あなたの役に立てたんだってことを」

クリスタ「……私の、兄の役に立てたんだってことを、忘れてしまっているのが」

リヴァイ「!」

38: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:44:20.52 ID:Ng9LzQ0P0
クリスタ「でも、兵長が、兄が、それを私の代わりに覚えていてくれて」

クリスタ「会いに来てくれて、こうして話してくれて、とっても嬉しくもあるんです」

クリスタ「私があなたの役に立てて、そしてあなたが、なりゆきでも私に優しくしてくれた」

クリスタ「その事実の存在が、とても嬉しい」

クリスタ「……すみません、やっぱり混乱してて。上手く言えないんです」

クリスタ「とにかく、会いに来て下さって、話して下さって、ありがとうございます」

クリスタ「それを、伝えたいんです」

リヴァイ「……」

リヴァイ「……お前の言いたいことはよくわかった」

リヴァイ「ヒストリアよ。俺も、そうだな。……この話をして、よかった」

リヴァイ「お前が、妹が、そう言ってくれるのなら」

39: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:47:34.55 ID:Ng9LzQ0P0
クリスタ(この人が、私の兄)

クリスタ(そういえばこの人のこと、全然知らないんだな)

クリスタ(当たり前だけど。でも、そんなのさみしいな)

クリスタ「兵長」

リヴァイ「なんだ」

クリスタ「私は、兵長のこと、全然知りません」

リヴァイ「そりゃそうだろ。俺もお前のことはほとんど知らん」

クリスタ「だから、知りたいです。これから、知っていきたいです」

クリスタ「だって私たち、本当の、兄妹ですよね」

リヴァイ「ああ、そうだ。半分だが、そうだ」

クリスタ「だから……もっと」

クリスタ「仲良くなるべきだと思います!」

40: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:50:23.70 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「仲良く?」

クリスタ(あれ、だめなのかな)

クリスタ「だめ、でしたか……」

リヴァイ「……誰もそんなことは言ってない」

リヴァイ「全く俺には似てないと、そう思っただけだ」

リヴァイ「俺にはない語彙だ、仲良くなんてのは」

リヴァイ「だがまぁ、悪くない……」

クリスタ(悪くないっていうのは、いいってことかな?)

クリスタ「それは、いいってことですか?」

リヴァイ「だからそう言ってる。二度も言わせるな」

クリスタ(よかった)

クリスタ「じゃあ、一緒に、お出かけしませんか!」

41: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:54:58.31 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「お出かけ?」

クリスタ「だめ、でしたか……」

リヴァイ「だからそうは言ってない。いちいちしょげるな。なんでそうなるのか聞きたいだけだ」

クリスタ(この人、全体的に言葉が足りない気がする。逆に言えば、それだけで、そこまで怖くないのかなぁ)

クリスタ「理解を深め合うためには、それが一番いいと思ったんです」

クリスタ「手紙だと検閲されてしまいますよね」

リヴァイ「そうだな」

クリスタ「だから、一緒にお出かけを、と思いました」

リヴァイ「……」

42: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 18:57:27.20 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「わかった。お前の判断に任せよう」

クリスタ「!」

リヴァイ「次の休暇はいつだ」

クリスタ「ええと、カレンダーは……。あ、ここです」

リヴァイ「わかった。外出許可をもらっておけ。俺も合わせる」

クリスタ「は、はい!」

リヴァイ「ガキが喜びそうなところなんざ知らねぇから、行き先はお前に任せる。時間もそれほどとれねぇだろう」

リヴァイ「それでもいいか?」

クリスタ「はい! じゃあ、待ち合わせ場所と、時間はこれでいいですか?」

めもめも

リヴァイ「ああ」

43: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 19:00:13.44 ID:Ng9LzQ0P0
リヴァイ「俺はそろそろ帰る」

クリスタ「そうですか。わかりました、お見送りは……」

リヴァイ「いらん。そう言ってある。お前もさっさと部屋に帰ってクソして寝ろ、ヒストリア」

リヴァイ「……いや、クリスタ」

リヴァイ「お前がここでそう名乗る事情は聞かんが、そうしている以上、俺もその名前で呼んだ方がいいんだろ」

クリスタ「……はい。ありがとうございます」

リヴァイ「じゃあな」

クリスタ「兵長、お気をつけて」

リヴァイ「ああ。……またな」

クリスタ「! はい!」

ガチャ バタン

44: ◆Cazj.GzL1M 2013/06/24(月) 19:00:58.33 ID:Ng9LzQ0P0
クリスタ(またな、か……)

クリスタ(私の、兄)

クリスタ「お兄さま……なんてね」

クリスタ(でも、私と兵長って全然似てないなぁ)

クリスタ(あえて言えば小柄ってことくらいかな。これ言ったら怒られちゃいそう)

クリスタ「ふふ」

クリスタ「あ、ユミルにどうやって呼び出された言い訳しようかなぁ……」

終わり
ありがとうございました