上条恭介「幻想御手?」 その1

213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 17:31:29.00 ID:VPNsCRPho
ほむら「(ハァ、ハァ…)だいじょうぶ…だいじょうぶだから……」ヨロ ヨロ

まどか「足止めないで、わたしにつかまりながら、ゆっくり、そのまま歩いて……」スタ スタ

杏子「何だ、あんたら? 昨日のヤツはどうした?」

まどか「説明するからちょっと待って」スタ スタ

ほむら「……」ハァ ハァ…

杏子「……」

引用元: 上条恭介「幻想御手?」 

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214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 17:35:29.50 ID:VPNsCRPho
――


ほむら「もう大丈夫だよ……、さあ、美樹さんが来る前に早く」

まどか「うん。わたしが戻るまでここで休んで待ってて」

ほむら「がんばって」

まどか(コク)スタ スタ…

杏子「……で? 結局マミに止められて顔合わせるにもばつが悪いからってんで、

   あんたがメッセンジャーとして来たのかい?」カリッ モグ…

まどか「ううん。さやかちゃんはもうすぐここに来るし、

    わたしがここに来ていることも知らない。わたしはあなたと話したくて来たの」

215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 17:40:40.64 ID:VPNsCRPho
杏子「(カプ)‥何だよ、話って」モグモグ

まどか「さやかちゃんとのケンカ、やめにできないかな」

杏子「…」ギョロ

まどか「あの子はね、思い込みが激しくて気が強くて、

    すぐ人とケンカを起こしたりもするけど、自分から仲直りできる勇気もあるの。
    
    それに、誰かのためと思ったら頑張りすぎちゃうくらい優しい子なの」

杏子「向こう見ずなのは昨日ので分かったよ。(サク)でも何の関係があんだよ」モグモグ

まどか「一人でいるよりも、仲間と一緒のほうがずっと安全に魔女と戦えるはずだよ。

    あなたは強い魔法少女らしいけど、マミさんだって危ないときがあったもの。

    みんなで……わたしも、わたし達で協力して魔女を倒せば、

    一人一人はそんなに魔力を消費しないで済むし、グリーフシードも分け合えるよ。

    使い魔は、その余ったぶんの魔力でそうしたい人が倒すとか……」

杏子「……なるほど。話は分かった。そっちが良ければあたしもそれでいい」

216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 17:44:54.10 ID:VPNsCRPho
まどか「……本当?」

杏子「ただし、あんたがあたしを止められたらの話だ」

まどか「――え?」

杏子「今のあんたの話は、ただのコトバだ。重みも何もない。

   ただの臆病者の言い逃れかどうか、

   昨日あんたに会ったばっかのあたしには分からないからね。

   互いに命を預けるってんなら当然だろ?」

まどか「……うん。わたしがあなたを止められればいいんだね」

ほむら「鹿目さん!」

まどか「ほむらちゃん、お願い。ここはわたしに任せて」

ほむら「うぅ~…」

217: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 17:51:54.99 ID:VPNsCRPho
杏子「(チョン モグ…)別にいいんだぜ。二人で掛かってきても」

まどか「ううん。これはわたしとあなたの問題だから」

杏子「(ゴクン)……いいだろう」フワァッ 


~~見滝原、駅への道~~

さやか「あ、いけね。バットをマミさんに直してもらわないと」

218: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 19:38:32.37 ID:VPNsCRPho
~~昨日の裏路地~~


杏子「……どうした? もう始まってんだぜ?」

まどか「…わたしはあなたとは戦わない」

杏子「…(ハァ~…ッ)ああ~~、なんかもう、うぜーなあ……」スタスタ

グサッ

まどか「ッッ!!」

ほむら「ああ!!」

杏子「そういうの勘弁してよ。

   武器持った相手に止めると言っといて戦わない、で済むか?」

まどか「くぅ~……ッ(ガクガク)」ポタ ポタ

219: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:01:51.70 ID:VPNsCRPho
杏子「どうした? 何か言えよ。別に逃げてもいいけど?

   そこのメガネの子か昨日のあいつに任せてさ」

まどか「っ…ませる」ブルブル…

杏子「あん?」

まどか「済ませ…なきゃ…っ。魔法少女どうしが戦うなんてことしないで……」

ズポッ 

まどか「あぅ…ッ!!」ボタボタ

ほむら「ッッ!! ……ッッ」ギュゥ…

杏子「戦わずに済ませるなら余計に抑える力ってもんが必要だろうが。

   それを変身すらしないだと?」

まどか「わたしも、あなたも……、

    こんなことのために魔法少女になったんじゃないはずだよ……」

220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:05:52.89 ID:VPNsCRPho
杏子「…クソッ……! もういいから帰れよ!

   昨日のやつのほうがまだ物分かりが良かったぜ」

まどか「わたしは帰らないよ。……あなたとさやかちゃんが戦うのを止めてくれるまで」ポタ ポタ

杏子「(グイッ)これでもか」ブン

ダンッ ドサッ

まどか「ッかはッ…あぐ……」モソ

ほむら「鹿目さんっ!!」

まどか「ほむら……ちゃん…」モゾ

ほむら「この子には何言っても通じないよ。早く帰ろう? そのケガ、手当てしないと……」

まどか「だめ……。(ノソ…)さやかちゃんが……。(ググッ)…ッッ!!……」フラ…

杏子「……」

221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:09:54.56 ID:VPNsCRPho
ほむら「ならわたしが、あなたに代わってこの子を止める」

杏子「あんたはちゃんとあたしの相手してくれるんだろうね?」チキッ…

ほむら「いいですとも!」サッ

まどか「やめて!! 魔法少女どうしが戦っちゃいけない!

    わたし達は友達になれるんだよ? そうしたいと思いあえば、そうできるんだよ!?」

ほむら「(ハッ)!?……」

杏子「ロクに戦いもできねえ奴が何様のつもりだ……。

   あんたは魔法少女を何だと思ってるんだ?」

まどか「マミさんみたいな人だよ! 知ってるでしょう?

    魔女から人々を守るために危険を冒して戦って、

    人々を絶望の代わりに希望で包んであげる。

    それができるのはわたし達だけなんだから……」

222: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:13:54.57 ID:VPNsCRPho
杏子「ああ、確かにマミは立派だとも。理想を掲げて、それを実行をしてる点でな。

   あいつやあいつに共感できる仲間だけでやってくれる分には構わない。

   でもあたしはあいつの理想が尊いもんだとはこれっぽっちも思わねえ。

   ただ、あいつの行動を支えるのに役立ってるのなら文句は言えねえってだけの話さ。

   勘違いするんじゃないよ。

   世の中の本当の姿ってのは、ただ強い奴が支配できて弱い奴は死ぬか虐げられるか、

   いずれにしてもただひたすら悲惨なだけだ。

   魔法少女だってそれは例外じゃない。現実ってもののルール内の存在さ。

   ただ普通の人間よりちょっと便利な力が使える。

   それならそいつを自分のためだけに役立てればいい」

まどか「どうしてそんなに一人で抱え込もうとするの……?」

杏子「…抱え込んでるだと……? あたしがか?」

223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:17:55.33 ID:VPNsCRPho
まどか「わたしには、あなたは一人で苦しんで、無理に一人で自分を納得させて、

    周りから自分を切り離しているように聞こえるよ。

    わたしだって同じ魔法少女のあなたに出会えたんだもの、友達になりたいよ」

ほむら「そ、そうよ……。敵は魔女だけで十分だわ。

    避けようとすれば避けられる争いをするなんて馬鹿げてる」

杏子「……」

まどか「ねえ…」

杏子「……あんたのお人好し加減はひとまずおくとして、

   魔法少女になるための祈りで自分の家族を壊しちまうような奴が、

   友達なんて作る資格あると思うか?」

まどか「え……?」

224: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:21:56.24 ID:VPNsCRPho
ほむら(……家族を……?)

杏子「(ニヤ)……何だ、マミから聞かなかったのかい?

   とにかく、あいつみたいなやつばかりじゃない、ってことだよ。魔法少女は。

   マミだって自分が生きるために魔法少女になった。そいつが一番正しい形さ。

   あんたは人を助けるのが正しいと考えてるみたいだけど、

   助けられる側の都合も考えずに魔女から守ってやるなんて、ただのエゴじゃないのか」

まどか「それは……」

ほむら「……助けるのがこちらのエゴであることくらい、分かってる。

    そのことで恨まれるかもしれなくても、でもそれでも生きて、

    最後に生きててよかった、って思えるような人生を送ってほしい。

    それがこちらの願いなんだから……それしかないんだから」

まどか「‥ほむらちゃん……?」

225: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:25:56.99 ID:VPNsCRPho
杏子「……そう思えるのなら、それはそれでいい。

   昨日のやつ……さやかってのも、それくらいはわきまえてるらしいね。

   全く、マミの周りには変なやつが集まってるんだな。

   ただし、感心はしないね。覚えてときな、希望の絶望のバランスは、差し引きゼロだ」

ほむら「……どういうこと?」

杏子「本来、魔女に食われて死ぬはずだった人間がいるとする。

   そこに介入して助けるという行為自体、自然の摂理に反してると思わないかい?」

ほむら「‥詭弁だわ」

杏子「そうか? 助けた人間が将来罪もない人を殺すとしたらどうだ?

   または自分が人助けしているその間に、自分の大切な人が殺されたとしたら?」

226: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:29:58.13 ID:VPNsCRPho
ほむら「……魔法少女に限った話じゃない。誰にでもその立場に立たされる可能性はあるわ」

杏子「ああ。でも魔法少女にしか起こせないことだってあるだろ?」

ほむら「……!」

杏子「通りすがりの人間に関わる、ってことですらそんな危険性があるんだ。

   奇跡なんていう、ドでかい規模の希望で人のためになんぞ祈った日にゃ、

   目も当てられないほどの絶望が撒き散らされるって結末しか待ってないのさ」

ほむら(わたしが鹿目さんを助けるほど……、鹿目さんは前はこんなケガをしなかったのに。

    わたしが……)

杏子「分かるだろ、人のためにという考えじゃ、結局誰もが不幸になるだけだって。

   この力は全て自分のためだけに、使い切らなきゃいけないんだよ」

227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:33:58.69 ID:VPNsCRPho
まどか「‥それでも、わたしは魔法少女だから。誰かが魔女に襲われてたなら助けなきゃ……」

杏子「あたし達もグリーフシードがなきゃ魔力を回復できない。

   せいぜい魔女を倒したとき、迷い込んだ奴も結果的に生き残ってたらいいんじゃないの」

まどか「そんな…」

杏子「(ギロ)大体ね、アンタ人の話聞いてた? 『魔法少女だから』なんて語るんだったら、

   言ってみろよ。あんたは何のために魔法少女をやってるのさ?」

まどか「え……」

スタスタスタ グイッ…

杏子「あんたからは、人がどうとか、魔法少女が何だとか、

   さっきからぐるりのことしか聞こえてこないんだよっ。

   あたしを止めたいって意志があるなら、お座り人形じゃないんなら、

   あたしの目を見て言ってみろ、立派なこと言うならあたしに教えてみろ、

   そもそもあんたは何で生きてるんだ!!」ギュウッ…

まどか「…………」

ほむら「ちょっ、ちょっと!」

228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:37:58.37 ID:VPNsCRPho
~~マミの部屋~~


ポウ……

マミ「はい、終わったわよ」

さやか「ありがとう。……ねえ、マミさん。まどか、何か言ってた?」

マミ「鹿目さんが?」

さやか「もう帰っちゃったんでしょ?

    いや、マミさんに話したのをあたしが聞くのはまずいか」

マミ「え? 今日は来てないわよ、鹿目さん」

さやか「…(ハッ)! まさかあの子!!」バッ ダダダッ

マミ「ちょっと、美樹さん!?」


マミ「……」

スッ

229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:41:58.33 ID:VPNsCRPho
~~昨日の裏路地~~


杏子「アンタが魔法少女になったのは、ただの気まぐれか!?

   だとしても、半端な覚悟じゃ済まされねえ場所に足を踏み入れちまってんだよテメェは!

   あたしはあんたの問いに答えられるだけ答えたんだ、ごまかさずに言え、

   あんたは何で魔法少女をやってる?

   さあ答えろ、あたしを納得させるだけの理由がなきゃ許さねえぞ!!」ググッ

まどか「…わたし……、わたしは……」

杏子「聞こえねえ!! もっとでかい声で言え!!」

まどか「わたしなんか役立たずなんだもん!! 何の取り柄もなくて誰の役にも立てない、

    いつもいつも、さやかちゃんにも迷惑ばっかり掛けてるもん!!

    魔法少女になっても、さやかちゃんやマミさんやほむらちゃんにばっかり戦わせて!」

230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:45:59.61 ID:VPNsCRPho
ほむら(……鹿目さん…)

ユル… ドサ

杏子「……だったらしゃしゃり出てくる前に、取り柄を作ればいいじゃねえか」

まどか「でもあなたは今からさやかちゃんとケンカするでしょう!?

    どっちかが死んじゃうかもしれないんでしょう!?」

杏子「さあな。武器を握った者同士が戦うんだ。そうなるかもしれない。でも……」

まどか「だったら、わたしなんか生きてても意味がないんだから、

    さやかちゃんにわたしはたくさん助けてもらったんだから……!」

杏子「……ここで死ぬってのか」

ほむら(……!!)

231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:51:11.19 ID:VPNsCRPho
杏子「ならあたしの腕一本取るくらいの根性見せろよ」

まどか「嫌だ!! そんなの嫌だ!!」

杏子「自分の価値をテメェで見捨ててる奴なんて殺す意味ないだろうが。

   もういい、さやかってのとはあんたのいない場所で仕切り直すから」スタ…

ガシッ…

杏子「‥離せ」

まどか「嫌だ!! あなたがさやかちゃんと戦わないって約束してくれるまで離さない!!」

クル…

杏子「……分かった。望み通り、あんたを殺してやる」

232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:55:12.41 ID:VPNsCRPho
ほむら「!!」

まどか「…!」

杏子「脅しじゃねえ。この槍で、今からあんたの心臓を貫く。

   でも言っとくよ、ただの犬死にだ。あのさやかってのもさぞかし迷惑だろうねえ、

   勝手にあんたの死の責任を押し付けられて。

   うっとうしさのあまりすぐにあんたのことを忘れるんじゃない」チキッ…

まどか「いいよ」ジッ

杏子「…!」

グッ

233: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 20:59:13.04 ID:VPNsCRPho
ほむら「やめなさい!!」フワァッ

杏子「(ピタ)…」チラ

ほむら「さもなくば穂先が届く前にわたしがあなたを殺す」ギラ

まどか(やめて…)

ほむら「……」

杏子(…なるほどね)ニッ

ほむら(!?)

グッ ブォッ

さやか(まどかが危ない!!)ダダダ

234: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/28(水) 21:03:13.53 ID:VPNsCRPho

カシン ピタ…

カチャッ パシッ

ほむら「…」スタスタ…

カチッ コト…

ギュッ…

まどか「(ハッ)……!! ほむらちゃん!?」

ほむら「もうそんなに長く時間を止められない。早くここから離れて」スタ…

まどか「だめだよ、魔法少女どうしが傷つけ合うなんて絶対おかしいよ!」

ほむら「‥鹿目さん、ひどいよ……。一番傷ついてるのは鹿目さんじゃない。

     わたし、あなたを死なせるためにここに運んだの!?」

まどか「(ハッ)!」

ほむら「……」

まどか「…」

グイッ

ほむら「!」ヨロ…

まどか「(パシッ)っっ」ポーン

ほむら「鹿目さ……あ」

まどか「さやかちゃん」

235: ◆Y4NjDgz4uE 2015/10/29(木) 14:20:43.27 ID:FE3xpsnXo

ドカーン!

さやか「うおお!?」

杏子「なっ……!?」

まどか「さやかちゃああん!!」パタパタ

さやか「……」プスプス…

まどか「嘘なんでこんなさやかちゃんさやかちゃん、さやかちゃんッッ!!」ペタペタサワサワ

杏子「……どういうことだ、おい? こいつ、死んでるじゃねーかよ!」

ほむら「いいえ、美樹さんは死にません!! 鹿目さんのためにも死んではいけないんです!

    さあ、目を覚まして!!」バシバシ

ムクッ…

さやか「……何? 何なの?」

236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 14:24:47.89 ID:FE3xpsnXo
ほむら「わたしのパイプ爆弾が美樹さんの目の前で炸裂したんです」

さやか「うむぁえか」ペタサワモミュモミュ

まどか「違わたわたわたしわたしわたしがわたしが(ギュッ…)」ガクガクガク ジワジワジワジワ

ほむら「か、鹿目さん……」

さやか「……」ユサユサユサ

まどか「ちゃ、かちゃ、かちゃ、か…、か、」ハァフゥハァフゥ…

さやか「ほむらー、袋ある? あんたの薬入れてるやつでいいからさ」

ほむら「あそこの鞄の中に(カチャッコロッ)。このグリーフシード鹿目さんに使って」スッ

タタタ…

さやか「まどかー、そんなに吸わなくていいぞー、普通でいいぞー」カチ フゥゥ…

まどか「ふはぁ、はぁ、はぁ、ふはぁ」

タタタ…

ほむら「紙ですけど」サッ

さやか「大丈夫、これでいい。まどかー、こん中で息しろー、大丈夫だぞー」ピト

まどか「……」スーハー、スーハー

237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 14:28:48.93 ID:FE3xpsnXo
――



杏子「なあおい」

さやか「ちょっと黙ってて。…約束は守るから」

杏子「……」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「まどか、無理しないで帰りなよ。ほむらに送ってもらいな」

まどか「ううん」

さやか「……」

まどか「…わたし、何やって……。さやかちゃんに今まで助けられて…、

    それを負い目にばっかり感じて、けっきょく自分だけが可愛くて……」

さやか「それでほむらに協力を頼んだの?」チラ

238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 14:32:49.96 ID:FE3xpsnXo
ほむら「……」

まどか「…うん」

さやか「なるほど。相っ変わらずまどかはややこしいなあ。変に気にしすぎだよー」ポリポリ

まどか「ち、違うの、さっきまでそのことにも気づいてなくて、それでほ…」

さやか「前後関係なんてどうでもいいよ。誰だって自分が可愛いのは当然だけど、

    自分だけが可愛いってのはそりゃ言いすぎでしょ。あんた自分に対しても失礼だよ?

    自分だけが可愛いならわざわざあたしの先回りしてここに来るはずないじゃない」

まどか「でも……」

さやか「まあまずね、あんたの隣のお下げの子に、

    無茶をやらかすのに巻き込んだことを気づかってくれると、

    あたしの嫁としては嬉しいかなー、なんて思ったり……」タハハ…

239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 14:36:51.72 ID:FE3xpsnXo
まどか「……」チラ

ほむら「……」

さやか「い、いや、二人して沈んだ顔されるとさやかちゃんも困っちゃうよ……」

ほむら「(ノサ…)お気づかいなく。

     ……わたしがセットした爆弾を人気がない場所にとっさに除けようとして、

     あなたの存在に気づかず鹿目さんはそれを投げたんです。

     冷静に考えればそもそも爆弾を使わずに切り抜けられた局面でした。すみません」

まどか「‥違う、ほむらちゃんのせいじゃない……」

さやか「二人とも、事情はだいたい分かってるよ。

    事故なんだし、あたしはピンピンしてんだからもう気にしないで」

240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 14:40:52.94 ID:FE3xpsnXo
まどか「さやかちゃん、本当に大丈夫なの……」

QB「彼女は鞘の力に守られてるからね。ダメージからの回復力は人一倍だ」

杏子「お前いつからいたんだ」

QB「たった今さ。マミにこの場所への案内を頼まれたんだ」

杏子「何? マミが……!?」ハッ

まど・ほむ・さや「え…?」

スタ スタ

マミ「……元気そうね。佐倉さん」

杏子「ああ。あんたもな」

スタ…

恭介「さやか……?」

さやか「(ハッ)恭介。あんた何でここに……」

241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 14:44:55.16 ID:FE3xpsnXo
恭介「帰り道に巴さんに頼まれて運ばれてきた。

   理由はこっちが聞きたいんだけど。ところで君、今日は休みって言ってなかった?」

さやか「そ、それは……」

マミ「理由は幾つかあるわ。まず、やはり一度は戦うのを止めておかなければと思って」

さやか「マミさん、それは昨日…」

マミ「あなたじゃない。佐倉さん、こちらの条件を呑んだほうが身のためよ」

杏子「へっ……。数に物を言わされちゃな……」

マミ「いいえ。わたしはあなたとの交渉は全て美樹さん一人に任せる。

   だいたい、あなたを倒すのにわたし達の助力はいらないのだし」

杏子「……どういう意味だ」

242: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 14:49:01.76 ID:FE3xpsnXo
マミ「言葉のとおりよ。こうしてあなたを目の前にして確信したわ。

   美樹さんとまともに戦えば、あなたは必ず命を落とす」

ほむら「……!?」

杏子「ハッタリを……」

マミ「昔のよしみで忠告してるのよ。美樹さんの魔法少女としての力はわたしを遥かに上回る」

さやか「ちょっ、ちょっと、マミさん……」

マミ「隠さなくていい。あなた自身が感じているはずよ。キュゥべえでさえ、

   あなたにそこまで素質があるとは思わなかったと言っていたけど……」

さやか「……」

杏子「面白れー。確かめてやろうじゃねえか……」

243: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 14:53:04.42 ID:FE3xpsnXo
マミ「……あなたは一年前よりずっと強くなってる。それを認めた上の話だと……」

杏子「くどいぜ、マミ」

マミ「(フゥ…)ここに来た理由の続きだけど。美樹さんに押っ取る刀を届けにね」ゴソ

さやか「あ、バット!」

マミ「あなた家に何しに来たの」

さやか「ごめん。うっかりしてた。でも…、せっかく届けにきてもらって悪いんだけど、

    今回はこの剣を使うわ」

マミ「…でも……」

244: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 14:57:06.87 ID:FE3xpsnXo
さやか「……この剣を貸してくれた人には乱暴に扱って申し訳ない。

    でもあんたと戦う事情が変わった。‥よっこいしょ」スタ… 

杏子「何だよ、事情って」

まどか「さやかちゃん……」

コツ

まどか「いた」

さやか「この子。…まどか、ごめん。あたし、こいつと戦うよ。こんなことしてる間にも、

    この街の人が魔女や使い魔に襲われてるかもしれないから、さっさと決着をつける」

まどか「……」

さやか「でも約束する。この風見野の子もあたしも命を落としたり、

    一生治らないようなケガをしたりさせたりはしないよ。

    まどかなら分かるでしょ?」チラ

恭介(何がどうなってるんだこれ……)

まどか「……」コク…

245: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 15:01:07.47 ID:FE3xpsnXo
杏子「ずいぶんと大風呂敷を広げてくれたじゃないか。……傷付かずに済ませるだと?

   ったくどいつもこいつも――」

さやか「…もう傷付いてるでしょ」ボソ

杏子「――え?」

さやか「ごめん、マミさんの言う通りだよ。正直、あたしが勝つ。

    マミさんにバットを直してもらったのは、あんたと全力で遊びたかっただけなんだよ。

    何も分かってなかった……!」

マミ「……」

246: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 15:06:50.95 ID:FE3xpsnXo
杏子「遊びだと……。人をナメるのも大概にしろ……!!」

さやか「ああ。だから、全力で手加減する」

杏子「……なあ、マミ…。もう始めちまってもいいんだろ……?」ワナワナ…

マミ「……ここに来た最後の理由はね」フワァッ 

スタスタ…

マミ「上条くん、左手を」

恭介「?」スッ

トン

恭介「あ、このグリーフシードには…」

ギュゴゴゴゴ…ッ

杏・さや・ほむ・まど「!?」

247: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 15:11:20.73 ID:FE3xpsnXo
~~魔女の結界~~


グルグル…

恭介「どわわっ、落ち…ないのか」フワフワ

さやか「こいつ、この前倒した…」

杏子「バ、バカな……っ。魔女の気配なんてこれっぽっちもなかったぞ!?

   マミ、お前いったい何を……」

マミ「暁美さん。あなた、そのソウルジェムはどうしたの。すごく濁ってるわよ」

ほむら「…」

マミ「グリーフシード持ってるでしょう?

   早く使えるときに使いなさい。あなたがここに何しに来たのか知らないけど、

   足元をおろそかにしてるようじゃ、ただの役立たずで終わるわよ」

248: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 15:49:36.05 ID:FE3xpsnXo
ほむら「……鹿目さんが苦しんでる傍らで自分だけソウルジェムの魔力を回復するなんて……」

マミ「そんなの何の言い訳にもならない。

   誰かを助けたいならそれだけの余裕を持ってからにしなさい」

ほむら「‥はい…(カチ フゥゥ…)。あの、鹿目さんの治療をお願いします」

マミ「……」スーーッ…

まどか「あ、あの、わたしなんかよりさやかちゃん達を…」

マミ「あなたも同じことを言わせたいの?」

まどか「…」シュン

マミ「……」ポゥ…

まどか「……ありがとうございます」

249: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:04:07.37 ID:FE3xpsnXo
杏子「おい、マミ! これはどういうつもりだ!?」

マミ「……あなた達が本気で戦うのなら、本来は人気のない山奥にでも場所を移すべきだわ。

   その手間を省いてあげただけ。魔女や使い魔はわたし達で抑えておくし、

   ――死体はちゃんとここに残していくから、心置きなく始めなさい」

まどか「――!!」

恭介(おいおい)

杏子「……ッ」

マミ「何か不満でも?

   あなたがそのつもりなら、今からでも美樹さんは話を聞いてくれると思うわよ。

   その可能性も考えてこの魔女を用意したんだから」

250: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:08:09.34 ID:FE3xpsnXo
杏子「なっ……。魔女を用意しただと……?」

マミ「ちょっと前に町工場で集団自殺を起こさせようとした魔女……。

   そこを舞っている片羽の使い魔に捕まってごらんなさい。不器用なあなたに代わって、

   見せたくない過去や心情を周りのモニターが雄弁に語ってくれるわよ。

   話の通じない人が分かり合うのにはちょうどいい材料じゃないかしら」

杏子「て、てめぇ……」

さやか「マミさん、こんなことに恭介を……」

マミ「一応、上条くんの許可は取ったわよ」

さやか「でも、あたしが起こした面倒に引っ張りまわすなんて…」

マミ「分かってないのね。あなたが起こした面倒を解決するためじゃなくて、

   わたしに思惑があって上条くんを利用する必要があったの」

251: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:12:10.40 ID:FE3xpsnXo
さやか「…! ひどい…、どんな思惑だよ……」

杏子「……」

恭介「いや別に僕は構わ」

さやか「あんたは黙ってて!!」

恭介「……」

さやか「……」

まどか「…マミさん、こんなやり方ないよ……、

    グリーフシードに眠ってた子を無理やり起こして、

    わたし達の都合で利用するなんて…」

マミ「あなたにそれを言う資格があるの? 鹿目さん」

252: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:16:12.07 ID:FE3xpsnXo
まどか「え…?」

マミ「あなたは最近、来るには来るけどわたし達にばかり戦わせてるわね。

   自分だけ魔力を消費したくないの? それとも魔女に怖気づいたの?」

まどか「……!」

さやか「マミさん、そんな……」

ほむら「か、鹿目さん。巴さんは…」

マミ(暁美さん、抑えて。反感を向ける相手を一人に絞らせたいの)

ほむら「…!」

まどか「ほむらちゃん…?」

ほむら「……」

パタパタ パタパタ…

まどか「ほ、ほむらちゃん、危な――」

パゥッ! パゥッ!

バラバラッ……

まどか「あ……」

マミ「……いつまでも戦えないようじゃ、困るわよ」スッ

パゥッ パゥッ…

まどか「……」

ほむら「……」

253: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:20:15.63 ID:FE3xpsnXo
恭介「走っても走っても前に進めない夢みたいな」バタバタ

杏子「……関係なさそうなやつがまた来てるな」

さやか「風見野の使い魔、あたしに狩らせてよ」

杏子「……いいとも、どうせならここでケリをつけようじゃないか。

   マミがせっかく用意してくれた場所を使わないのは勿体ないだろ?」

さやか「先輩想いじゃん」ニッ

杏子「(ニッ)…行くぜ」

さやか「おう」グッ

恭介「ちょっと待った! さやか、話がある。

   というか君が話してくれ、どうなってんだこれ?」

さやか「空気読めよ! 一から十まで話してる場合じゃないっての!」

恭介「知るか! 一から十まで話してくれ!」シャカシャカ

254: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:24:18.15 ID:FE3xpsnXo
さやか「……」チラ

杏子「傍でわめきながら空中水泳されても目障りだ」クィッ

さやか「(ペコ)」スーッ

……

恭介「何てことだ‥、僕は肝心な時に寝てたのか……!」ガーン

さやか「身もフタもないことを言いなさんな」

恭介「でもそういうことなら話は簡単だ。僕が――」

ボスッ

恭介「ぐぷ」ユラ

さやか「!」

マミ「(チャッ)魔女や使い魔からはわたしが守っておくから」グィッ スーーッ

恭介「……」フヨフヨ~

さやか「……(コク)」クルッ

255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:28:20.67 ID:FE3xpsnXo
杏子「…もういいのかい」

さやか「ああ」

チキッ…  …ス

杏子(鞘に触れな―?)

さやか「うおおー!」バシュッ

杏子「ッッ」バシュ

ドスッ

さやか「ガハッ」ボトボト

杏子「なっ!?」

まどか・ほむら「!!」

256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:32:35.55 ID:FE3xpsnXo
杏子「…どういうつもりだ」

さやか「‥これは…、まどか、の分だ……」ボソ

杏子「…まどか……? あいつか」チラ

まどか「ぁああ……」ブルブル…

さやか「ワガママやってるあたしを止めようとして……、勝手に一人で思い詰めて…、

    ほむらまで巻き込んであたしとあんたを戦わせないように、って‥、

    あたし…、あたしには、そんな馬鹿な子の涙を拭う資格なんてないんだ……!」ボソ

杏子「…揃いも揃って……!!」ズッ ドボボ…

ザクッ

さやか「ッッッ」ギリリ

まどか「…ぁ…ぁ…………」ガタガタ

257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:36:38.04 ID:FE3xpsnXo
ほむら「み、美樹さん…!」

杏子「アンタ達の友情劇の片棒を担がされるのはうんざりなんだけどな。

   それで気が済むってんなら付き合ってやるよ」ズッ ドス

ザクッ ドッ… ガッ…

さやか「…へ…っっ。へ…、悪いね…えっっ…」ボソ

杏子(こいつ……!)ガシュ 

まどか「やめて……!! おねがい……!」ブルブル…

ガシ

杏子「! …ギブか」

さやか「…ビジュアルの問題で」

杏子「知ったことかよ」グッ

ググ…

杏子(…!? こいつ、血まみれの…、しかも片手で!?)ゾク

258: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:40:39.04 ID:FE3xpsnXo
杏子「くっ」バッ スーーーッ

さやか「……」

杏子(もう傷口が塞がってやがる……)

さやか「…いざ尋常に」

杏子「…待ちくたびれたぜ」チキッ…

さやか「……大丈夫だと思うけど、いちおう言っておくよ。

    今からはゼッタイ本気出してね。頼むから」ス

杏子「へっ…、お前が言うな」

ヒュオ

ゴッ!!! 

ギャギャギャギャギャッッッ…!!!

杏子「…ッぐ」

ギッギキ

杏子「ぁ…あああああああっっ!?」バヒュンッッ クルルルルル

259: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:44:40.05 ID:FE3xpsnXo
まどか「!!」

ほむら「なっ…!?」

さやか「…………っ」

クルクルクル…ッ  バッッ

杏子「っはぁはぁ……」

さやか「……(ホッ)」

杏子(…何だ今のは!? あたしの相手は貨物船か? エア・プレーンか!?

   受け切らなくて正解だった…、体中の関節が悲鳴を上げてやがる!)チラ

…パゥ  パゥ

杏子「マミのやつ、すっとぼけやがって……!

  (あのまま路地で戦って、今吹っ飛ばされた先がビルの壁だったら終わってたな。

   何が山奥で、だ。こうなることを見越して浮遊空間の結界で戦わせたのか?)」

260: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:48:41.34 ID:FE3xpsnXo
さやか「……」ス

杏子(抜いてない…!?)

ヒュオ

杏子「!!」

バギンッ!!

杏子「ぐっ…!(重」ミシミシ
ュン
ガゴオッ

杏子(冗談じゃねえ……! 鞘ごと振り回すとかこいつ何考えてんだよ!?)ギシギシ

杏子「このっ!」ビュッ

さやか「っ」ツッ

杏子(紙一重で避けられた、来る!)

261: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:52:42.44 ID:FE3xpsnXo
さやか「はっ!!」バギィッ…

杏子「!?」

ピシ…

杏子「(ハッ)(槍が!)」バッ ヒューーッ

さやか「……」クル…

杏子「……」キィィン… シュゥゥ…

さやか「…」

杏子「…どういうつもりだ」シュゥゥ…

さやか「あんたに勝つつもり」

杏子「ならなぜ今攻撃しない?」ゥゥ…

さやか「……」

杏子「ふざけるなっ!」バシュッ

262: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 17:56:45.70 ID:FE3xpsnXo
さやか「…!」グッ

バララッ ブゥン

さやか(多節棍!?)グルグルッ 

さやか「くっ…」ビシ グッ グッ…

杏子「もらった!!」ジャララッ パシッ

まどか「さやかちゃん!」

パタパタ…

ほむら「まずいっ。両腕を封じられたわ!」カチャ パシ

杏子「終わりだよ!」ギュン

ガニッ…

杏子「なっ!?」

ほむら「足で白刃取り!? 何て身体能力なの!?」ポーン ドカーン

263: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:00:51.08 ID:FE3xpsnXo
さやか「すごいなーこれ、忍者の短刀みたいじゃん」

杏子「このっ。汚ねえ足であたしの槍に触るな!」ギリギリ…

さやか「ぬはは、このさやかちゃんの鉄の鋏…、おぬしに破れるかな?」

まどか「さやかちゃん」

さやか「くっ…! やばい…!?」ジリジリ…

杏子「負けを認めるなら今だぜ……!」グググッ…

さやか「(ニコッ)なーんてね」

杏子「!?」

グイッ ゴン!

ほむら「挟んだまま押し下げた!! その反動で頭突きを食らわせたわ!」

杏子「が…」フラッ…

さやか「この隙に体を回転させて鎖の束縛を解く!」ガッ

264: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:04:53.70 ID:FE3xpsnXo
杏子「さ、させるか…」グッ

さやか「うおりゃーーっ!」グルルーン

杏子「!?」グイッ

まどか「さやかちゃん、回る方向が逆だよ!?」

杏子「うぐ! うわああああっ!」ブンブン ピューン…

さやか「(ピタ)あれ、槍が元の形に戻ってる」パシ

ピュー  クル

杏子「くそっ……!」

さやか「ほい」ヒュン

杏子「…!」ルル パシッ

265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:08:56.03 ID:FE3xpsnXo
ほむら(え!?)

杏子「…なぜ返した」ユラ キュ…

さやか「えっ。………武器を持たない相手とは戦わない主義なんだよ」

ほむら(友達に忘れ物を投げ渡すみたいな気軽さだったけど)

杏子「(チッ)」バシュッ

ギィン

杏子「……何を考えてやがる」

さやか「……」

杏子「ハッ。いいさ。言わなきゃ確かめるまでのことだからね」

ガン ギン

さやか「たっ!」ブン

ドコオッ メキキッ…

266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:12:58.44 ID:FE3xpsnXo
杏子「ぐぎゃあああっ」

マミ・まどか・ほむら「!!」

さやか「そ、そんな……」

杏子「なんて面してんのさ」

さやか・ほむ・まど「え?」

マミ「!」

ガンッ

さやか「イテッ! 槍で叩くな!」

杏子「今、心臓刺せただろうが。これで借りは返したぜ」ニヤリ

さやか「ぬう。ほんとに忍者かよ。おっどろいたー」シャッ

杏子「あたしもな。けど忍術じゃねえ。幻惑の魔法とか言うらしいぜ」クルリ

さやか「どっちでも厄介なことには変わんないよ」ブン

ギィンッ

杏子「その心配はいらないよ。(ボソ)あたしだってあいつの見てる前ではもう使いたくねえ」

さやか「?」

267: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:16:59.44 ID:FE3xpsnXo
パウッ パウッ

恭介「……んへっ? (ハッ)さ、さやか…! イテテ…ッ」サスサス

マミ「上条くん。手荒な真似して悪かったけど、

   幻想御手によって使い魔からグリーフシードを得られることを、

   このタイミングで持ち出すと却ってややこしくなるの。あの二人に任せて」ジャキッ

恭介「幻想御手?」

マミ「(クル)ごめんなさい……、意識を失わせたのが悪かったのかしら……。

   あなたの左手に宿った力のことなんだけど……」

恭介「あ、はい、いや、大丈夫です。思い出しました。

   ……確かに不用意に出しゃばりすぎた。

   却ってグリーフシードに関する火種を増やしてしまって、

   巴さんの心配していたとおりになってしまったかもしれないな」

268: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:21:00.15 ID:FE3xpsnXo
マミ「……今回に限っては別の事情もある。

   わたしは、出来るなら風見野の佐倉さんに仲間に加わってほしい。

   美樹さんはその導入役ができると思って静観しているの」クルッパウッ

恭介「…! さやかを利用するつもりですか」

マミ「…ええ」

恭介「さやかにはそのことを……」

マミ「(クル…)はっきりとは伝えてない。

   でもあなたのことを利用するとは言ったわ」

恭介「分からないなあ…」カキカキ

マミ「それでもわたしには…」

恭介「いえ、そうじゃなくてですね……、

   それならそうとさやかに伝えれば済む話じゃないですか」

269: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:25:00.30 ID:FE3xpsnXo
マミ「え?」

パシン ギュオオ…

恭介「ととっ、(ヒョイ)地面の上じゃないとやりづらいな……。

   あ、あの子の前でやらないほうがいいんでしたっけ!」クルッ

ガィンッ ギィンッ…

恭介「…よかった、気づいてないみたいだ……。使ってください」ポーン

マミ「(パシ)…伝えて済む話じゃないでしょう」カチ フゥゥ…

恭介「…あいつならそれくらい、喜んで引き受けると思いますよ。

   まあよっぽど間違えた頼まれごとなら断るでしょうけど。

   それでも巴さんの役に立ちたいと思ってるはずです。

   知り合って日は浅いけどさやかは巴さんを好いてるから」

マミ「……」

270: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:29:06.49 ID:FE3xpsnXo
恭介「あ、でもあいつは、巴さんが佐倉さんって子に仲間になってほしいと思ってること、

   そのままに佐倉さんに伝えてしまうかもしれないな。
  
   ま、そこは言い含めておけばいいことですし……」

ジャキッ パウッ  バラバラ……

マミ「あなたに言われて、自分が間違えたってことに気付いたわ」

恭介「なら今からでもテレパシーで…」

マミ「わたしが間違えてたのは、美樹さんにあなたを利用したと伝えたこと。

   自分を悪く見せようとするあまり、

   徹頭徹尾かくしておくべきことを一端でも美樹さんに見せてしまった。

   これは自分を良く見せようとしてることの裏返しかもしれない。

   佐倉さんにも、あなたに何らかの力があると示唆したようなものだわ。

   これで使い魔からグリーフシードを得られると悟られることはないと思うけど、

   だとしてもうかつだった」

恭介「さやか以上に意固地な人を初めて見ましたよ。

   自分であいつを止められない僕が言うのも何なんですけどね……」

271: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:33:07.77 ID:FE3xpsnXo
マミ「わたしの事情についてはここまででいいかしら。

   あなたは美樹さんの事情に気づいてる?」

恭介「ほら、そこだ」

マミ「え?」

恭介「分かってます。

   さやかが、僕がヴァイオリンになるべく集中できるように気遣ってるってことは。

   でもさやかを利用しようというあなたにとっては、

   さやかが幻想御手のことを黙ってくれてるだけで十分なはずだ。

   わざわざ僕に代弁する必要はない事柄です」

272: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:37:08.57 ID:FE3xpsnXo
ジャジャキッ パパパウッッ!!

マミ「…それをあなたに伝えることであなたの動きを封じられる」

恭介「悪意をもってすれば幾らでもそういう解釈はできます。

   でも、違いますね。あなたはさやかと僕が似ていることを知っている。

   さやかが、自分の願いを叶えた結果を僕に背負わせてしまおうというくらい、

   思い込みが激しくて向こう見ずなことも知っている。

   そんなあなたなら、さやかの気遣いを僕に伝えたところで、

   何のつっぱりにもならないことくらい分かってるはずでしょう」

マミ「あなたは、人の言動を極端に善意をもって解釈するきらいがあるわね。

   素直さは度を越すとただの愚に過ぎないわ」ジャキッ

恭介「一見、善人に見えた人が少し利己的に動いただけで、

   自分の第一印象を全否定するのも同じくらい愚かだと思いますけど」

マミ「……」

273: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:41:09.61 ID:FE3xpsnXo
恭介「…何だかんだ言いましたけど、結局さやかが好き勝手やってるだけなんですが。

   それも隣町の人たちが使い魔に食われるのを知っていて放っておけない、という理由で。

   それを見過ごすのは己の存在に関わるんだと思い込んでるみたいなんです。

   …当初はそれで自分が友達にも見捨てられて一人になっても、という覚悟でいた。

   けどそれは色んな意味で甘くて、間に入ろうとした鹿目さんが怪我をしてしまった。

   これはもう、さやかの正義観が崩れ去るような決定的な事態だったと思います。

   と同時にじゃあ自分の希望と鹿目さんの想いを両立することはできないか、

   という至極当たり前な考え方にさやかを引き戻した。

   それを探すことだけが救いというかそれしかないんでしょうね、今のあいつには」

マミ「…今はあなたが長々と話すのを聞いてる場合じゃない」パウッ

恭介「そうでしたね。…しゃべってないと辛いですよ、今何もできないから」

マミ「…誰でも、祈ることならできるわ。誰もが幸せであるようにと。

   それにあなたは、美樹さんを信じて見守ることも」ジャキッ

恭介「……」

274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:45:10.34 ID:FE3xpsnXo
ギィンッ ガァンッ

杏子(くっ…、握力が……)

さやか「はぁッ!」ブン

ツル

杏子「しまっ…」

さやか「!!」ググ゙ッ

マミ(止めるな!!)

さやか「え!?」

ドボォッ

杏子「ぐぅっ…ッ!」

275: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:49:12.85 ID:FE3xpsnXo
さやか「……っ」

まどか「…っ!」

クルッ

さやか「なんで、なんでマミさん……、」

シャッ

さやか「(ハッ)っっ」バッ

杏子「よそ見してんじゃねえ……! あんたの相手はアタシだろうが」ハァ ハァ

さやか「……。もうこんなのやめよう?」タラ… ポタ

杏子「(スゥ)…ッッ!!」

ブォン

さやか「っ」クル

シャシャシャ

さやか「……」サササ

ガシッ

ほむら(多段突きの最中に片手で掴まえた…)

杏子「……!」ググ…ッ

276: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:53:13.53 ID:FE3xpsnXo
さやか「ねえ、あんただって―」

杏子「…」パ 

さやか「!?」

バシュ ドカッ

さやか「ごぶっ…」

バキィッ

さやか「ぐ…」ユル…

杏子「…」パシッ グ

まどか「!!」

シャッ!!

ヒュッ――  ピタ

さやか「(ペッ)……なぜ戦うのをやめないの? 幾らあたしを叩いたってムダだよ?

    反対にあんたはすぐに回復しないし、フェアじゃないけど決まってるじゃん、もう…」

杏子「……あんたが、間違ってるからだ」

277: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 18:57:16.01 ID:FE3xpsnXo
さやか「は?」

杏子「マミの言ったとおり、あんたは確かに強い。

   だからこそ、大きな力で人々を助けるほどに、その分だけ誰かが不幸になる。

   そんな危うい奴を野放しにできるか……っ!」

さやか「…よく分かんないけど、そればっかりとは限らないんじゃない?

    この力は、使い方次第で、いくらでも―」

杏子「その結果を背負うことになるのはアンタ自身なんだぞ!?

   どんなに腕を振るっても、希望を祈っても、

   世の中はそれ自体が、バランスを保てるように、

   起こした変化を、形を変えてでも等分に揺り戻す力を持ってるんだ。

   あんたが人のためにとった行動も結局は絶望を撒き散らすことにしか繋がらない!」

278: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:01:59.23 ID:FE3xpsnXo
さやか「自分のことだけ考えて生きてるはずのあんたが、なんでそんな心配してんの」

杏子「あんたはかつてのあたしと同じ間違いをしてる。

   あたしみたいに積極的に正しいと思い込んでしてるわけでないにしても、

   たとえ自分のエゴで動いてるんだとわきまえ、

   その結果どんな目に遭っても自業自得だと覚悟していたとしても、

   人を救うための行動が逆に人を滅ぼしたとき、あんたはきっとあたしと同じ後悔をする。

   そうなると分かってて見過ごせないだろうが……!」

さやか「抽象的でよく分かんないよ。もっと具体的に話してくれる?」

杏子「長い話になる。今はそんな場合じゃねえだろ」

さやか「時間がもったいなくても周りをよく見て状況整理してから、て学んだばっかりでね。

    聞いたところであたしの考えが変わるとも思わないけど、

    片方が話があるってのに聞かずにしばき合うのもおかしいでしょ」

279: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:06:00.82 ID:FE3xpsnXo
杏子「……あたしも前は人助けに燃えてるときがあったんだよ。

   あたしの親父に習ってさ。…親父は、この風見野にある教会の牧師をしていた。

   正直すぎて、優しすぎる人だった。

   教義にないことまで説教するほどにな。

   新しい時代を救うには、新しい信仰が必要だって、それが親父の言い分だった。

   勿論、信者の足はぱったり途絶えたよ。本部からも破門された」

さやか「そりゃ当然だわ。はたから見れば胡散臭い新興宗教だもん」

杏子「…あんたの言うみたいに、誰も親父の話を聞こうとしなかった。

   どんなに正しいことを、当たり前のことを話そうとしても、

   世間じゃただの鼻つまみものさ。

   あたし達は一家揃って、食うモノにも事欠く有様だった」

280: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:10:05.68 ID:FE3xpsnXo
さやか「その新しい教えを広めようとしたのが間違いだった、て言うの?」

杏子「そんなわけがあるか! 親父は間違ったことなんて言ってなかった。

   ただ、人と違うことを話しただけだ」

さやか「……」

杏子「5分でいい、ちゃんと耳を傾けてくれれば、正しいことを言ってるって、

   誰にでも分かったはずなんだ。

   ……なのに誰も白い目で見るばかりで、真面目に取り合ってくれなかった。

   それが悔しくて、キュゥべえに頼んだんだよ。

   ……みんなが親父の話を、真面目に聞いてくれますように、って」

さやか「……それが、人のために祈ったことが、間違いだったと」

281: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:14:10.35 ID:FE3xpsnXo
杏子「ああ。願い叶って、翌朝から親父の話を聞かせてくれと人が押し掛けてさ。

   毎日おっかなくなるほどの勢いで信者は増えてった。

   お袋も、親父が人の幸せを願って教えを広め回ったのが通じたんだと喜んでたし、

   親父は、働きにでて家計を支えてたお袋に感謝してた。

   妹もあたしも腹いっぱい食えるようになった……」

マミ「…」パゥッ

さやか「全然いいじゃん。その代わりにあんたが魔女と戦わなきゃいけなくなったにしても」

杏子「むしろ、あたしはバカみたい意気込んでたさ。

   いくら親父の説教が正しくたって、それで魔女が退治できるわけじゃない。

   だからそこはあたしの出番だって。

   あたしと親父で、表と裏から、この世界を救うんだって……」

さやか「そういう考え方はキライじゃないけど、

    父親に、信者が説教を聞いてくれるようになったのは自分のおかげだって伝えたの?」

杏子「話す必要なんかないだろ!? そうしなくても、みんな幸せだったんだから……!」

さやか「そう。まあ、親子だから複雑なのかもね」

杏子「……伝えたところで結果は同じだったと思うしな」

さやか「…どういうこと?」

杏子「あるとき、カラクリが親父にばれた」

さやか「……」

杏子「大勢の信者が、ただ信仰のためじゃなく、魔法の力で集まってきたんだってことがね。

   親父はあたしが何をどれほど語りかけても、返事してくれなくなったよ。

   酒を浴びるように飲んで一人で思い詰めて母さんと妹を道連れに無理心中しちまった」

ほむ・まど「……!!」

さやか「……」

282: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:18:24.38 ID:FE3xpsnXo
杏子「あたしの祈りが、家族を―」

さやか「なんでそうなっちゃうのよ?

    そりゃ黙って勝手に魔法少女になったのは怒るだろうけど、

    それが思い詰める、ってのにどうやったら繋がんの?」

恭介(ハァ…)

杏子「あたしが、悪魔と契約しちまったんだと思い込んだんだよ。

   ま、こんな格好で槍を携えてるのを見たんだ。

   人々を教え導きたいと願っていたのに、自分は悪魔に踊らされていただけなんだ、てな。

   バレた時、おまえのせいでこんなに信者が集まったのか、人の心を惑わす魔女だ、

   って罵る位ブチ切れてたよ」フッ…

さやか「……よく分かった」

杏子「…なら、あんたも―」

さやか「分からない!!」

杏子「どっちだよ!?」

さやか「あんたがあたしに、同じ間違いをしないように言ってくれてんのは分かる。

    でも肝心のあんたの話が分からない。

    あたしの父さんは白髪も出てきたし、

    パンツは漂白して●●●の染みを取らないといけないときもしょっちゅうある。

    あたしの小さいころ会社の上司のやり方に反発して、

    辞表もっていってけんかしようとしたけど、

    母さんが3日口を聞かなかったからそうしないで、

    今でも黙々と同じ会社に勤めてる。自分一人なら転職してたかもしれない。

    でも母さんやあたしのために働いてるんだ。あんたはそれを間違いだと言うの?」

杏子「……」

283: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:22:25.17 ID:FE3xpsnXo
さやか「あんたのようにキュゥべえを介して起こした奇跡でなくても、

    あたしの父さんも口にしなくても絶望することもあったのかもね。

    えっと、でもあんたの言いたいのって、

    普通起こらないことをキュゥべえに叶えてもらうから、バランスが狂うって話だよね。

    でも会社とか国がやることって大体そうじゃない?

    ある立場の人にとっては役立つことでも、別の立場の人は苦しんだり、

    どっかでバランス狂って、それがニュースになって、問題だってなるじゃん」

杏子「……それでも、どんなに腐ってても、奇跡によるものでなければ、それは条理の内さ。

   どんな苦しみであっても、奇跡の招く災厄に比べればよほどマシだよ」

さやか「あたしが風見野の使い魔を狩るのは奇跡じゃない。

    魔女や使い魔も、人々も、あたしも条理のうちだ」

杏子「そんな単純なモンじゃないよ……」

さやか「百歩譲ってそれも間違いだとしても、

    使い魔をほっとけばあたしの周りの人間が犠牲になるかもしれないんだよ。

    それこそ見過ごせない。

    世の中の全てが間違いでないからと言って、

    どうしてあたしが全て正しくないといけない道理がある!

    あたしは何もかも許せないよ……、

    あんたの父親の教えが何だったのか分からない。

    色眼鏡なしに話を聞いてあたしが共感できるような信仰なのかは分からない。

    でも新聞の社会面を読めば苦しい、ひどい目にあってる人はたくさんいるって分かる。

    この世に生まれてきたこと以外に落ち度なんてない人だっているかもしれない。

    あんたの父親がそんな人々まで救われることを願って、

    世の中すべての人々の幸せを願って、教えを説いて回っていたんだとしたら、

    間違ってるのは、端っから胡散臭い目で見てるあたし達の側だ……!(ジワジワ…)

    あんたの家族を食うや食わずやの状態に置いた父親にも疑問をもつけど、

    それでも、弱く思いやりのある人間にばかりタダシイ道理を強いて、

    強く無神経な人間ばかりがのさばってる世間のほうがぶっち切りにおかしいよ」

ジワジワ ゴボ…

マミ(美樹さんのソウルジェムが……!?)

284: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:26:27.02 ID:FE3xpsnXo
さやか「あんたの父親だっておかしい。

    最初からあんたを魔女だと決めつけて、話を聞こうともしない。

    たとえあんたが勝手に自分の願いを叶えたのにしても、悪魔と契約したのだとしても、

    父親なら魔女になってしまった娘を救おうとするべきだ。

    なぜそんなことを娘がしたのか理解しようとするべきだ。

    まず娘を、自分の説く教えを信じるべきだ。

    それを事もあろうに全て投げ出した上、あんたの母親や妹まで巻き込んで死ぬなんて、

    最っ初から最後までただのダメ親父、いやダメ親父以下じゃないか!!」

杏子「親父のことを悪く言うなっ!! 親父はおかしくなってバカなことをしたけど――」

さやか「あんたもそうだ。これだけおかしい連中が周りにいるのにそれを責めもしない。

    ぜんぶ自分のせいでした、って勝手に背負って、

    自分の目指した理想だけはちゃっかり捨てちゃって正しい道理に従ってるだけじゃん。

    本当に救いたいと思う世の中なら、自分は破綻していてもやると決めたことを、

    ただ強くやり続ければいいじゃないか!

    正しいからやるんじゃない、正しいと信じたからやるんだ。

    今からでもそれを選べるんだよ? もう一度だけの奇跡を起こしてる、

    だから奇跡が起こす絶望だかバランスとかはもう心配しなくていいんだから!」ゴボ

恭介(言ってることがむちゃくちゃだ……)

杏子「どうしてそこまで意地を張んだよ!?」

さやか「意地を張ってんのはアンタの方だ! このいい子ちゃんのファザコン娘!!」ゴボゴボ

杏子「なに!? どっちが…」

さやか「もういい。(スッ…)この一撃であたしはあんたを押し退けて使い魔を狩りにいく。

    あたしの間違い、正せるものなら正してみろ!!」ゴボボ… ピキ  バシュッ

杏子「この分からず屋ーーッ!!」バシュッ

ズドオオオオンッ……!!

マミ・まど・ほむ・恭「………!!」

さやか「がふっ……っ」ボタボタ

恭介「……ッ」

杏子「ぐっ……」

シーン… フワ フワ…

まどか「さやかちゃん……?」

285: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:30:27.51 ID:FE3xpsnXo
パタパタ パタパタ…

ほむら「使い魔が!」

パゥパゥッ! バラバラ…

マミ「(グィッ)暁美さん、来て!」バシュッ

恭介「っと」ギュン

ほむら「は、はい! (バタバタ…)鹿目さん、わたし上手く動けないの!

    二人のとこまで連れてって!」

まどか「うん!」フワァッ パシ

スーーッ

マミ「……」ポゥ…

杏子「…うっ……」ピク

ほむら「二人の様子は?」

マミ「ケガの心配は二人ともいらない。それより美樹さんのソウルジェムを回復してあげて」

ほむら「はい」

パタパタ…

ジャキッ パゥッ バラバラ…

マミ「気を抜かないで。ここからよ」クル 

ほむら「……濁ってません」

マミ「…え?」

ほむら「美樹さんのソウルジェムは澄み切ってます。全然穢れが溜まってないわ。

    あれだけ激しく戦った後なのに……?」

マミ「見せて(パシ)……!?」

286: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:34:20.45 ID:FE3xpsnXo
パタパタ…

恭介「っ」パシ ギュオオ… ヒョイ

まどか「マミさん!」

マミ「なに?」

まどか「この子のソウルジェムも……。いいでしょう?」

マミ「……そうね。グリーフシード持ってる?」

ほむら「わたしがやります。……鹿目さん、いいの?」

まどか「ごめん、わたしグリーフシード持ってなくて……」

ほむら「上条くんが手に入れてくれたのは、みんなが持ち切れない分をわたしが預かって、

    みんなの必要に応じて分け合うって決めたんだから気にしなくていいよ。

    そういう意味じゃなくて、この子は鹿目さんにケガさせたんだよ?」

まどか「……ごめん。お願い……」

ほむら「……」カチ フゥゥ…

マミ(……佐倉さんはそうとう消耗してるわ。

   美樹さんも衝突する寸前、急激に黒く濁るのが見えた。

   二人は衝突と同時に意識を失って…、暁美さんが見るまで回復の機会はなかったはず。

   グリーフシードを使わずにソウルジェムを浄化する方法なんてあるの?

   いえ、まさか……。

   溜め込んだ穢れを、燃焼させて魔力へと変えた……? だとしたら、まるで……)

ほむら「完了しました」

マミ「…(コク)」

まどか「でも二人とも気を失ってるよ。早く出ないと……」

マミ「……鹿目さん。その前にやることがあるでしょう」

まどか「…」

287: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:38:22.93 ID:FE3xpsnXo
ほむら「……!」

マミ「あなたが魔女を倒して。

   自分だけ楽をしたいとか怖じ気づいたのでなければ証明しなさい」

まどか「……はい」スッ…

キリキリ…

まどか「…………」

マミ「どうしたの? 早く」

まどか「……っ」ピク ピク

ポーン ドカーン! 

まどか「…!」

ギュオオオ……


~~裏路地~~


カツン 

スタスタ… ソッ

ほむら「……」

マミ「……暁美さん」

ほむら「ちゃんと起動するかテストしたかったので」

マミ「場合を考えて」

ほむら「すみません」ペコ

マミ「……ここに二人を寝かせておくわけにもいかない。(スタスタ…)

   佐倉さんはわたしが部屋まで運ぶわ。あなたたちも美樹さんを連れてきてくれる?」

ほむら「わかりました」

マミ「(グッ ユサ)じゃあ、また後で」フゥ…

恭介「テレポーテーション!?」

マミ「まだいるわよ。空を飛んでいくのに姿が見えるとまずいでしょう?」

恭介「あ、確かに……。さっきも周りからは見えてなかったのか……」

マミ「さっきはわたしたちの周りをリボンで囲んで見えないようにしてたわ。

   町じゅうの人の姿が見えなくなったりしたら大変だから」

恭介「ああ、これか。自分で効果のコントロールができないものかなあ」

マミ「それはわたしからも望むわ。

   魔力であなたの体にまで浮力を伝えられたら、

   ひっつかむようなことをせずもっと丁重に運べたんだけど」

恭介「でも空から町を眺めるなんてなかなかできないからよかったです」

マミ「(クス)……上条くん。美樹さんをお願いね」

バッ ヒュオオ…

288: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:42:26.76 ID:FE3xpsnXo
恭介「……」

ほむら「あの、上条くん。これの強化をお願いできますか」

恭介「あ、うん」スッ

トン コオオ……

恭介「君たち、大変だね」コオオ…

ほむら「慣れてますから」

QB「もう取ったほうがいいよ」

ほむら「(スッ)…これが魔力だけで満たされたグリーフシード……、玲瓏というのかしら」ジッ

恭介「あと、(ゴソ)これ、さっきの使い魔の」スッ

ほむら「ありがとう。もらうね」ソッ

カチャ スッ…

ほむら(巴さん。わざとわたしに魔女を倒させたの……?)

まどか「ほむらちゃん。わたし……」

ほむら「……」

恭介「…先にさやかをおぶって、巴さんの家まで行ってるよ」スタスタ

ほむら「上条くん、巴さんに衝かれたところ大丈夫?」

恭介「ああ、平気平気。かえって目が覚めたよ。(グッ)よっこいしょ…(ユサ)」

ほむら「駅はこっちのほうだったよ」

恭介「そうか。うーん、線路沿いに歩いていくよ」スタ スタ

ほむら「そう」

スタ スタ…

まどか「ほむらちゃん…、ごめん…。わたし、自分のことしか見えてなくて、

    ほむらちゃんがお願いを聞いてくれてここまで運んでくれたのに、

    わたしが死んだらほむらちゃんが責任感じちゃうのに……」

ほむら「……」

まどか「でもわたし、最初から死のうなんて決めてたんじゃないの。

    どうしてもさやかちゃんとあの子を止めたくて必死で…、

    いや、これも言い訳だよね……、でもほむらちゃんを騙そうなんて、

    それだけは思ってなくて、これだけは本当なの。

    ……でも、ほむらちゃんにとっては同じだ―」

ほむら「鹿目さん、わたしね。騙したとか責任とかそんなことより、

    ただあなたに無事でいてほしいの、あなただけは……。

    鹿目さんはわたしが魔女に魅入られて死のうかと迷ったとき、

    巴さんと一緒に来てわたしを助けてくれたじゃない……!」

まどか「え……?」

289: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/29(木) 19:46:28.26 ID:FE3xpsnXo
ほむら「(ハッ)あっ、えっと…、ま、魔女に立ち向かうのに、鹿目さんや巴さんは、

    わたしにとっていつも支えになってくれてるの。いてくれるだけで勇気が出てくるの。

    人に迷惑を掛けて役に立てない辛さは、わたしもあるから分かるよ。

    でもあなたの笑顔を楽しみにしている人があなたの周りにはたくさんいるじゃない。

    鹿目さんが負い目に感じることさえ、いとわずに許してくれる人たちが。

    それだけあなたは大切な人なんだから。    

    あなたが生きて、周りの人たちと幸せになってくれることが、

    それ自体が意味があることなんだから……、だから、もう絶対、

    自分を粗末にするようなことはしないで」

まどか「う、うん…。分かったよ。あんな勝手なことはしないよ。ごめんなさい…」

ほむら「あ…、謝ることないよ。わたしが鹿目さんに無事でいてほしいのと、

    鹿目さんが美樹さんに無事でいてほしいのとたぶん同じで、

    責める資格なんてわたしにはない。ただ、さっきは言わずにいられなくて…」

まどか「でも謝らなきゃ。わたしはほむらちゃんに心配かけたんだもの」

ほむら「(ニコ)もう気にしないで。さあ、巴さんの所へ行こう」

まどか「(コク)うん。今度こそわたしがほむらちゃんを運ぶよ」スタスタ

ほむら「でも鹿目さん、ケガを…」スタスタ

まどか「(クルッ)マミさんに治してもらったから、ほら、制服まで元通りだよ!

     わたしが保健委員なんだから、ほんとはこうしなきゃ!」スタスタ ガチャッ…

ほむら「わたしも、そう心配するほどでもないよ」

まどか「いいのいいの。あ、そういえば上条くん、マミさんち知らないよね」

ほむら「そうですね。わたしと鹿目さんが自転車で来てるから帰り道で追いついてくれる、

     そう考えて先に行ったんでしょうね」

まどか「そうかあ。気を遣わせちゃったね。ほむらちゃん、乗って」

ほむら「はい。じゃあお願いします」カタ…

290: ◆Y4NjDgz4uE 2015/10/30(金) 13:43:56.06 ID:MP+sbPTio
――――
―――
――


~~マミの部屋~~


杏子「うーん……(ハッ)」ガバッ

まどか「気がついた。痛いところない?」

杏子「(ジッ…クル)……マミの部屋か。マミは? あんた達だけか」

ほむら「巴さんならいつもの見回りに出ています。あなた達をわたしと鹿目さんに任せて」

杏子「そうか」ギシ

ほむら「どちらへ? 鹿目さんをあんな目に遭わせておいて、

    ただで帰れると思ってるんですか?」

まどか「ほむらちゃん……」タハハ

杏子「逃げたりしねーよ。のどが渇いたから水を飲みにいこうとしただけさ」

まどか「あ、そうだ。(スクッ)

    マミさんからはあなたを引き留めておいてとは言われてないけど、

    あなたやさやかちゃんの目が覚めたらお茶とお菓子を振る舞うよう言い付かってるの」

杏子「さやかちゃん……?(クル)のわぁっ!?」ビクッ

ほむら「そんなのけぞってまで驚くこともないでしょうに」

さやか「…ん……んん……」モゾ…

まどか「てひひ」スタスタ…  カチャ …パタン

杏子「いや、いやいやなんでこいつとあたしと隣どうしで寝てたんだよ!?」

ほむら「そりゃあ、どちらが先に目覚めても、

    すぐにお茶をご馳走するのに都合がいいからじゃないですか。

    あ、あらかじめ言っておきますが、お茶を飲みお菓子を食べ元気が出たからって、

    とつぜん窓をぶち破って脱走したりしないで下さいね」

杏子「そんなことしたら後が怖ええよ。あたしが言いたいのは、

   さっきまで刃を交えていた者たちを同じベッドに並べて寝かせてる神経についてだよ」

291: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 13:48:00.72 ID:MP+sbPTio
ほむら「心配ないでしょう。巴さんは快く二人に貸してくれましたし、

    あなたは、もも~、とか言いながら美樹さんに抱きついたりしてるんだから」

杏子「(クル)なっ…! 美樹さんって、あたしがこいつにか!? くぅ~~っ!」ジタバタ

ほむら「ですから心配いりません。美樹さんも、

    鹿目さんの名前を呼びながらあなたを抱き返したので即座に引き離しましたから」

杏子「んおお~~…っ!」

カチャ…

まどか「(ヒソ)用意できたから、こっちに来れる?」

・・・
・・


まどか「マミさんほど美味しいお茶ではないと思うけど。(コポポ…)どうぞ」カチャ…

杏子「あんた達は? 食わねーのか」

まどか「わたし達はマミさんが戻るまで待ってる。気にしないで上がってて」ニコ

杏子「……」

ほむら「鹿目さんが口をつけた物でないと安心できませんか?」

杏子「(チラ)毒を盛るとか心配はしてないさ。でも、あたしはあんたを痛めつけて、

   あまっさえ殺そうとしたんだぞ? どうして笑顔でお茶をご馳走できるんだよ」

ほむら「……」

まどか「わたしはあなたとさやかちゃんのケンカに割って入ったんだもの。

    それにあなたもきっと、わたしのために間違えてくれたんだって思うから」

杏子「間違える? あたしはスジを通そうとしてただけだぞ。

   よしてくれ、なんか感謝したそうな顔されると気持ち悪いよ」

まどか「ううん。だってその気なら、言う前にわたしの命を奪えたでしょう?」

杏子「(チッ)……あんたは? なぜ気を失ってる間にあたしの息の根を止めなかった?」

ほむら「そう物騒なことばかり言わないで。

    あなたが目を覚まして、改めて害意があるかどうか確かめてからでも遅くはないわ」

杏子(こいつがあんた達の守りたいものか)

ほむら「‥どうなの? まだあなたは鹿目さんを傷つけるつもりがあるの?」

杏子「無い。勝負はついたさ。あのさやかってやつの勝ちだよ。

   今後、あんたたちが何をしようと、あたしは手出ししないしそいつを傷つけもしない」

292: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 13:52:00.85 ID:MP+sbPTio
ほむら「ならわたしがあなたに敵意を向ける理由もないわ。

    鹿目さんがあなたを悪く思ってないんですもの。今後もそうある限りは」ジッ

杏子「……。(チラ)…なんかさぁ、あんた達は……。(クス)まったく、マミの周りには……」

ほむら「あなたも人のことをとやかく言えるほど一貫した人間じゃないでしょう」

杏子「へぇ。例えば?」

ほむら「あれだけ節を曲げずに、というか持論を押し付ける執念を見せてくれた割に、

    あっさり負けを認めるのね」

杏子「……。今だって、人のためにこの力を使うのを認めてるわけじゃない。

   でも、あたしが力ずくでマミの元から…、いや、この言い方は卑怯だな。

   さやか‥、は、あいつは正々堂々としてたもんな。

   あたしがなに言おうが考えを変えるつもりもないらしいし。

   いや、違うな。単に、そう、ただ単に、あたしはあいつに負けたのさ」フン…

まどか「お話し中わるいんだけど……、冷めない内に上がってくれたら嬉しいなって」

杏子「ああ。すまないね」スッ ピタ カチャ ‥ペコ…… スッ

ほむら「……それでも、美樹さんも強かったけど、あなただっていい勝負してたじゃない」

杏子「(ズズッ…)」ギョロッ

カチャチャッ…ッ

杏子「ぶはっっ! ぶほっ! ぼほっ…」ケホッ

まどか「ご、ごめんっ! 熱いの苦手だった!?」

杏子「あ~~っ。いや、旨いよ。

   (クル)失礼ついでに、ティッシュはどこだ?

   いや、いい。座っててくれ。(スタスタ…)

   今のは、この優等生づらした方が意外にジョークのセンスがあるみたいで、(ボシュッ)

   不意打ちをくらったのさ」チーン

ほむら「どういうこと?」

杏子「ちょい待ち。(ポイ)その話の前に互いの名前くらい知っとかないとやりづらくない?

   マミから聞かされてるかもしれないけど、佐倉杏子だ」

まどか「あ、あたし、鹿目まどか」

ほむら「……」

杏子「あんただって、メガネだのお下げだの呼ばれ続けちゃ不愉快だろ?」ニヤリ

ほむら「……暁美ほむら。よろしく。佐倉さん」

杏子「うーん、名字だとマミとダブるんだよなあ。名前でいいよ。

   あたしもあんた達を呼ぶときはそうするし」

ほむら「じゃあ、杏子さん」

杏子「それじゃ小姑だ。呼び捨てでいいって」

293: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 13:56:01.51 ID:MP+sbPTio
ほむら「……杏子」

杏子「おう。まどかにほむら、でいいか?」

ほむら「……ご自由にどうぞ」

まどか「よろしくね、杏子ちゃん!」

杏子「杏子ちゃん、ね……」ポリポリ

ほむら「杏子、教えてちょうだい。わたしはジョークを言ったつもりはないんだけど」

杏子「……あんたにはあれが勝負に見えたのかい」スタスタ ストン…

ほむら「……!?」

杏子「マミの言うとおりだったさ。あいつから最初に食らった一撃で力の差は分かったよ。

   こいつは魔法少女…いや人間というより、大型の貨物船か旅客機か……、

   とにかくとんでもねえ馬力のカタマリだ、ていうのが正直な印象だった」

まどか「そ、そんな、人間ばなれしたみたいな言い方はちょっと……」ナハハ…

杏子「ああ。最初から最後まで敵意や殺意のたぐいは感じなかったよ。(カチヤ…)

   人間ばなれどころかじつに人道的な態度だったね。あんたの親友、は。

   そのくせ、さやかのほうは勝負になるよう、あれこれ勝手にハンデをつけてるようでさ。

   こっちのほうが内心わらっちまうくらいだったよ」パク

ほむら「……本当に? あなた、謙遜して言ってるんじゃないの?」

杏子「嘘は言ってねえ。純粋に勝負としちゃ、端っからあいつには敵わないよ。

   頼みもしないのにさやかが自分に縛りを設けたおかげで、

   あんたには形になってるように見えたらしいけどな」モグモグ

ほむら「縛り、って、例えばどんな?」

杏子「単純に力加減の問題でさ。相当セーブする努力をしてたはずだ。

   最初の一撃のあと、どんどん伝わってくる衝撃が小さくなっていったよ。

   そうじゃなきゃ、武器を打ち合わせるたんびにあたしは吹っ飛ばされてたさ」パクモグ

ほむら「……確かにそうだわ。

    あなたから負わされたケガも美樹さんは回復しきったはずなのに」

杏子「それからもう一つ。あたしを狙って攻撃してこなかった」パク

ほむ・まど「!?」

ほむら「何を言ってるの。あれだけ激しく戦っていたのに。

    あなただって今、打ち合った、と言ったじゃない」

杏子「(ズズ…)そうさ。おおかた、あたしの槍を壊すのが目的だったんだろうな」

ほむら「狙いが……、槍……!? でも、壊したところで」

杏子「魔力で修復できるよな」モグモグ…

ほむら「そうよ。効率が悪すぎる。いつまで経っても決着がつかないわ」

杏子「そうでもねえ。あたしが修復するくらいの魔力も尽きればそこであいつの勝ちさ」

294: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:00:02.24 ID:MP+sbPTio
ほむら「どうしてそんな回りくどい……」

まどか「……」

杏子「まどか。あんたとの約束を守ったうえで、

   隣町にまでお節介を焼きたいっていう自分の意志を通そうとした結果だろ。

   (ズズ… カチャ)……ごちそうさま」

まどか「……」

杏子「ま、そういう意味じゃあんたはあたしの命の恩人かもしれねーな」

まどか「そんなわけないよ。……(ボソ)さやかちゃん……」

ガチャ

まどか「さやかちゃん!」ガタッ…

さやか「あたしにもケーキくれーー!」

杏子「くたばってなかったか。最後に思い切り刺してやったんだけどな」

さやか「あー、悪いけどどこ刺されたのかも覚えてないくらいなんだわ」スタスタ

杏子「(チッ)」

ほむら「最初から殺す気もないくせに」

杏子「…なんだと」ギロ

ほむら「それとも杏子、あなたは自分の腕がよほど悪いって宣言したいのかしら」

グイッ

杏子「……何が言いたいんだ、てめえ……」

まどか「きょ、杏子ちゃん、ほむらちゃんも。仲直りしたそばから……」

ほむら「わたしは事実をもとに推測を述べたまでよ。

    美樹さんのソウルジェムを確かめたとき、

    あなたがつけた傷口が発光しながら塞がるのが見えたけど、それは脇腹にあった。

    真正面から向かってくる相手が、傷を自動的に回復できると知っていて、

    あえて急所を狙わない理由があるのだとしたら教えてほしいものだわ」

さやか「脇腹かー。(ベロン)あ、ぜんぜん傷跡もないわ。

    剣を貸してくれた王様に感謝だな……」

まどか「さやかちゃん…」

さやか「はいはい。(ゴソ)

   (ハッ)あ、あの剣の(フワァッ チキ…)……よかった……。

    あんだけ乱暴に扱ったのに、さすが、こっちも傷一つついてないや」

杏子「フン……。(ユル…)借り物なら気をつけるんだな。

   表面は傷が付いてなくても、鞘の内側は刃が当たって傷んでるかもしれねえ」

さやか「(フワァッ)うん。よほどのことがない限りマミさんのバットを使わせてもらうわ。

     ……ときにバットはどこだっけ」

295: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:04:03.45 ID:MP+sbPTio
まどか「マミさんがベッドのそばに包んで立て掛けてたような。

    えっと、確かさやかちゃんが寝てたクマさんのぬいぐるみがあるほうの……、

    わたし、取ってくる」スタスタ…

さやか「あ、悪い……」

ほむら「美樹さんも座ってて。お茶とケーキを用意するから」スク… スタスタ…

さやか「ありがとう、ほむら」

スタスタ ストン…

さやか「(フゥ…)」

杏子「何だい、急に憂鬱な顔をして」

さやか「……何か、マミさんがちょっと分からなくなっちゃってさ……」ヘタ…

杏子「ベッドを貸してもらい、人ん家の菓子をただ食いさせてもらいの身で言うセリフか?」

さやか「いや、だからだよ。とてもいい人なのに、恭介を利用したと言ったり、

    あたしがあんたをケガさせるのを勧めるようなこと言ったり……」ゴロ…

杏子「ちょっと詳しく教えろ。恭介ってのはあんたの連れの坊やだな?」

さやか「坊やって年でもないけどね」

杏子「その恭介をどうマミが利用するってんだ? 人質とかか?」

さやか「違う。もう話してもいいのかな……?

   (ゴロ…チラ)ねえ、ところでさ、結局あたしは風見野の使い魔を狩ってもいいの?」

杏子「……悪いことは言わねえ。やめとけよ」

さやか「(ムクッ)なんだよー。あたしの勝ちだって言ったじゃないかー」

杏子「てめえ! 盗み聞きしてやがったなっ」

さやか「は、は、は‥。いや~、出てくタイミング逃がしちゃってさー」

杏子「だいたいあんた、最後の一撃と宣言したくせに、

   体当たりしてわざわざ刺さりにきただけだろ」

さやか「あ、あれ? そうだったかなー?」カキカキ

杏子「マジで風見野に住んでる人間まで、魔女や使い魔から守りたいと思ってるのか」

さやか「…うん」コク

杏子「なら勝手にしろよ。でもあたしは魔女しか狩らねーぞ。(ゴテッ…)

   ああ~~、ただでさえ見滝原より魔女がすくないってのに」ボリボリ…

スタスタ…

ほむら「肘をどけて、杏子」

杏子「ん」ノソ

まどか「さやかちゃーん、バットあったよー」タタッ

ズベッ

まどか「きゃあっ( ゚д゚)っ」ピューン  

296: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:08:04.00 ID:MP+sbPTio
さや・杏「!!」

フワァッ カシン

ほむら「鹿目さん、大丈夫? くじいてない?」サス

まどか「う、うん」

ほむら「そう……。急に転びそうになったから」

さやか「…大丈夫だった!? 二人とも」

ほむら「ええ。美樹さん、足元にバット置いてる」フワァッ

さやか「おお。まどかもほむらもサンキュ」

ほむら「今、淹れますから」

さやか「あ、自分でやるよ。それより、本当にまどかの足大丈夫か、確かめて」コポポ

ほむら「鹿目さん。わたしにつかまって、‥立てる……?」ソロ…

まどか「(ソロ…)いまの……、

    ‥ほむらちゃんじゃなかったら……」

ほむら「こういうときのためにわたしの魔法はあるんだよ。

    わたしは鹿目さんの役に立ててよかったんだから、ね?」ニコ

まどか「……ありがとう、ほむらちゃん」ニコ

ほむら「さ、歩ける…?」ソロソロ…

まどか「うん。(ソロソロ…)あ、大丈夫みたい」

さやか「……いや~、よかったよかった。これにて一件落着…」ズズ…

杏子「ちょっと待て! 今、何が起こったんだ!?

   まどかがじゅうたんの端につまずいて、持ってたバットが、

   両手ふさがってるほむらに飛んできたはずなんだけど!?」

さやか「ほむらが言ってたじゃん。時間止めるのがほむらの魔法なんだよ」

杏子「そ、そうなのか……」チラ

ほむら「ええ。でもそれだけ。……あなたのように武器を魔力で作り出せないの」

杏子「それだけ、って。こりゃ、えらい魔法だぜ。

   そういや……、恭介だ! マミが言ってたってのは、

   ひょっとしてあいつも何か力を持ってるのか?」

ほむら「……」

さやか「……あたしから話すよ。いずれ杏子も知るんだろうからさ」

――


杏子「……そうか。それであの時、何の気配もなかったのに、

    突然あいつの左手に載せられたグリーフシードから魔女が現れたのか」

さやか「……うん」パク…

297: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:12:04.75 ID:MP+sbPTio
杏子「ふぅん。さやか、あんたは風見野まで恭介を連れてくればいいわけだな。

   あいつがいれば使い魔から幾らでもグリーフシードが手に入るんだし」

さやか「いや。恭介は風見野まで連れていかない」

杏子「そうかい。ま、あんたの勝手だけどさ。

   風見野に二人の魔法少女を養うだけの魔女はいねーぞ」

まどか「ねえ、杏子ちゃんもこれからは見滝原に来るんでしょう? 皆で一緒に……」

杏子「すまねえな、まどか。やっぱり負けたあたしに決められることじゃないんだ。

   本来、あたしが風見野を追い出されてもおかしくない結果なんだよ、今回は。

   マミには前に後ろ足で砂をかけるような別れ方しちまったし、

   ぶっちゃけさやかの話ぬきで、マミの縄張りをぶん取ろうかって考えてたんだけど、

   まぁ、それを始める前から勝負がついちまった、ってわけ」

ほむら「鹿目さんも言ったでしょう。仲間が多いぶんのメリットも必ずあるの。

    巴さんもわたしもあなたにチームに加わってほしいと思ってる」

さやか「え…、マミさん、最初からそのつもりだったの……?」

ほむら「わたしもね」

さやか「ほむら……」

杏子「(チラ)マミがよくてもあたしのほうがダメなんだ。ひるがえしてごめん。

   マミが悪いんじゃない。悪いどころか、あいつは過ぎるくらいに良くしてくれた。

   まどかの厚意には感謝してる。

   でも、あたしのわがままでマミと一緒にはいられない。許してくれよ」

まどか「……そう……」

ほむら「……」

杏子「……さて、長居は無用ってとこだけど、

   お茶の礼を言わなきゃいけねえしあいつを待っとくか。そういえばさっき、

   マミのことが分からないだの利用しただの言ってたな、あんた」

さやか「ああ。……」

杏子「言いたいことがあるなら分かるように話せよ。たぶん全部あんたの思い違いだから」

さやか「思い違いって……、杏子を仲間に入れたいならマミさんも話してくれれば……」

杏子「バカたれ。あたしと主義が食い違って事を構えてるあんたに言えるか?

   話せない雰囲気を作ったのはあんたのほうだろーが」

さやか「むっ……、きょ、恭介まで連れてきてさ、利用したって……」

杏子「言葉通りの意味だろ。あたしに仲間になってほしいんなら死なれちゃ困るんだから。

   ……それ以前にさやかを人殺しにしたくないってのもあったはずだしさ」

298: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:16:05.62 ID:MP+sbPTio
さやか「あたしだって、あんたを殺してまで――」

杏子「そう、それも分かってる。あんたが自分の馬鹿力に慣れてないってこともな」

さやか「……」

杏子「(クックッ…)面白くねえだろ? マミって奴はさ、すかした顔して見抜いてやがる。

   あの結界の中でなかったら、あんたの初撃を喰らった時点であたしは終わってた」

さやか「でも、剣を『止めるな!』ってテレパシーで……」

杏子「『止めるな』? いつ?」

さやか「あんたが槍を手から滑らせて、あたしがちょうど剣を振ったタイミングで……」

杏子「あー、あれか。(ペシ)……マミには世話になりっぱなしだな……。

   そういや、急にマミのほうを向いてブツブツ文句言ってたっけな、あんた。

   ったく、これだからトーシローは……」

さやか「(ムッ)何さ。そりゃ、建前じゃあんたを倒して、だけど…」

杏子「ちがうよ」

さやか「違うって、何が」

杏子「あのタイミングで、あたしに当てずに剣を止められたか?」

さやか「…止められなかったかもしれないけど、少なくとも勢いは……」

杏子「そこが間違いだっつの。(スイ)当てようってときに急制動をかけてみろ、(ピタ)

   関節がロックされてより揺るぎのない一発が相手に決まっちまうんだよ」

さやか「そうなの…?」

まどか「??」

ほむら「それじゃ巴さんは…」

杏子「マミもとっさにテレパシー送んのがやっとだったはずさ。

   結果的に、『制動の制止』という命令がさやかの脳内に直接おくりこまれたせいで、

   混乱したこいつの剣の勢いもインパクトの瞬間は腑ぬけたもんになっちまったんだろ」

まどか「へ、へえー。さやかちゃん、マミさんも杏子ちゃんもさす…、

    ……さやかちゃん? …あの~…」

さやか「………まどか。あたしはいま、猛烈に反省している……ッ!!

    マミさん。あたしは何て……!」ジワ

杏子「誇っていいぞ。マミの賢さと優しさを分かってなかった時点であたしの上をいく馬鹿だ」

さやか「うぐ…、うあぁ…」ジワジワ

ほむら「ま、まあ、必死になってるときって視野が狭くなりがちだし……」

まどか「マミさんもわかってくれるよ。さやかちゃんのいつものことだもの」

カチャリッ… ガチャッ…

マミ「…ただいま」

まどか「あ! お帰りなさーい」パタパタ…

299: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:20:06.44 ID:MP+sbPTio
・・・・
・・・


~~マミの部屋 屋上~~


ヒュオオ…

マミ「話ってなに?」

杏子「まずは礼だ。命を助けてくれたこと。それから介抱してくれたこと。ありがとう」

マミ「そんなの、当たり前じゃない」

杏子「それから、一年前のこと。謝ってすむ話じゃねーけど謝る。あんな別れ方してごめん」

マミ「傷を負ってたのはあなたのほうなんだから。

   わたしは自分本位で、あなたが離れるのが怖くて無闇に引き止めようとしてた」

杏子「…あたしはさ、あんたにふさわしい仲間が見つかればいい、って思ってたんだ。

   今さらって話だしお前に言われたくねー、って思われるかもしんないけど、

   だから少しほっとしてんの」

マミ「……ありがとう。わたしもあなたと向き合わなきゃ、と思ってたけど、してなかった」

杏子「いや。思ってくれてるだけでじゅうぶんすぎるくらいさ。

   ……ずっと、どっかシンドい思いをさせちまって」

マミ「……(スゥー…ッ フゥーー……ッ)」フワァッ

杏子「…?」

シュルシュル……ッ  パシッ…

杏子「おいおい、向き合うってそう――…何だ、そんなもの銃に付けてたか?」

マミ「(スイッ…)……マシンガンほど構造が複雑な物は作り出せなかったけど、

   これは必要があったから……」スイ… ピタ

杏子「必要……? それにしてもマミはほんと器用だな。

   あたしはゼロから望遠鏡なんて作れねーし。

   ……まあ、元々ある物の倍率あげるくらいなら出来ねーことも……」

マミ「(ジッ)……あなたのお父さんの教会、たった一年で荒れ果ててしまったのね……」

杏子「何の冗談だよ。こっからだとあのビルの陰になって見えねえだろ」

…フワァッ

マミ「……ごめんなさい。わたし、あなたのご両親にお世話になっていながら……」

杏子「(チラ)気にすんなって。あんたを遠ざけたのはあたしだし、(クル…)

   実の娘すらたまにしか寄らねえんだからさ…」

マミ「……」

ヒュゥゥ…

杏子「……」

マミ「ねえ、よかったら…」

杏子「いや」

マミ「でも」

杏子「いいんだ。

   あんたが無事でここにいてくれるってだけでじゅうぶんだ、っていま思う。

  (クル…)それにあんたがたった一つだけ守りたいモノはあたしじゃないだろ?」ニヤリ

300: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:24:07.75 ID:MP+sbPTio
マミ「……」

杏子「あんたは変わった。前とは何かを守ろうとする覚悟が違うって伝わってくるよ。

   そうと決まったのなら迷っちゃダメじゃんか」

マミ「……そうね。もう引き返せないしそのつもりもないわ」

杏子「(ニッ)その顔な。まどか、か」

マミ「……」

杏子「変なヤツだ。殺そうとしたあたしを許すどころか、ハナっから敵意がないときてる。

   こっちもつられて、話そうと思ってないことまで口をすべらしちまったよ、さっき…」

マミ「あら、どんなこと?」

杏子「い、いや……。とにかく調子狂うよな。

   下手すると魔女にまで微笑みかけちまうんじゃないのか、あいつ」クック…

マミ「……」

杏子「……さて、と。マミ、もう一度、ここであんたの仲間になる、ってことはできないけど、

   風見野でさやかが魔女を狩るときは一緒にあたしも戦うってことでいいんだな?

   あ、使い魔のほうは手伝わねーぞ」

マミ「ええ、美樹さんに色々教えてあげてほしい。

   グリーフシードはさいわい十分な量があるんだから、あなたとこちらと共用で」

杏子「恩に着るよ。

   いや~、ぶっちゃけ、ここんとこ風見野の魔女がますます少なくなっててさー、

   いよいよあんたの縄張りを取りにいこうかと思ってたぐらいなんだ」

マミ「そうなの。遅かれ早かれこうなってたってことね」

杏子「……あんた、本当に変わったな」

マミ「だってわたしより先に、あなたの前に美樹さんが立ち塞がるに決まってるもの」

杏子「ああ~、確かにな……。余計なことに首を突っ込みそうだもんな、あいつ……」

マミ「見滝原は中心部の急速なビジネス街開発と、

   時代に取り残された周辺部の工業団地と、二極化が進んでるから。

   住む人も旧市街新市街で気質が違っていて、他の町よりもコントラストが効いてるわ。

   どの条件ひとつとっても魔女が好みそうなものだし、

   その全体のアンバランスさ自体にも惹きつける要因があるのかもね」

杏子「ま、難しい話は分かんねーし興味もねえ。

   見滝原はマミ達に守られて安泰だし、あたしも食いっぱぐれることはないし、

   めでたしめでたし、ってわけさね」

マミ「ええ、そう…ね」

301: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:28:08.29 ID:MP+sbPTio
杏子「えらくあいまいな返事だな」

マミ「……あなたに聞いておいてほしいことがあるんだけど」

杏子「何さ、とっとと話してくれよ」

マミ「…近いうちにここに『ワルプルギスの夜』が現れるかもしれない」

杏子「……きょう聞いた中でいちばん笑えねえ冗談だな。根拠は?」

マミ「暁美さん。と言っても本人がそう話したのじゃないけど。

   ただ、経験が浅いはずの彼女がなぜその名を知っていたのか分からない。

   わたしもキュゥべえも、暁美さんや鹿目さんの前で口にしたことはないはずなのに」

杏子「何だ、それだけかよ! 名前くらい、噂でどっからでも耳にするだろ。

   それか、気になるならその場で問い質せばいいじゃんか」

マミ「そう言われればね。わたしの思い過ごしかも。

   彼女も近いうちにかならず詳しいことを話すと言ってたし、他の街の子の話かもね」

杏子「……近いうちに、か。あたしはその言葉のほうが気になるな」

マミ「だから、ちょっと詰めた話をしてた最中だったから……」

杏子「なら一言いえば済む。いたずらに思わせぶりなことを口にするタイプじゃないぜ、あれ」

マミ「……」

杏子「ま、いずれにしても今日明日の話じゃねえんだろ?

   とりあえず、お互い心構えだけはしとこうぜ」

マミ「……そうね」


――



~~まどかの家 ダイニングキッチン~~


ほむら「……ご馳走様でした」フゥ…

知久「お粗末さまでした。口にあったかな?」

ほむら「はい。あまりに美味しくて……」

知久「それはよかった。でも、せっかく来てくれたのにあり合わせのもので申し訳ないね」

ほむら「とんでもないです。

    とても美味しかったですし、わたしのほうこそ急にお邪魔して何と言ったら…」

知久「まどかの友達ならいつでも歓迎さ。

   でも、もっときちんとおもてなしたいからね」

まどか「パパ、ごめんね。わたしの用事で、

    ほむらちゃんに遠くまで付き合ってもらっちゃったから、今日中にお礼がしたくて」

302: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:32:09.78 ID:MP+sbPTio
知久「そう。二人とも、危ないと感じる場所には無理に近づかないようにね」

まどか「ありがとう。気をつけるね。

    ねえ、ほむらちゃんに先にお風呂はいってもらっていいかな?」

知久「構わないよ。今日はずいぶん急いでるんだね」

まどか「うん! 早くほむらちゃんにお礼したいし、宿題もしなきゃいけないし……。

    ほむらちゃん、さ、どうぞ!」

ほむら「えっ、あの……、わたしは皆さんの後でいいですから……」

まどか「パパがいい、って言ってるから気にしないで。ママも今日は遅くなるらしいから。

    ね? あ、お皿はそのままで。あっち、タオルもわかるように置いてるからつかって」

ほむら「はいあの、お言葉に甘えて……、お先に借ります」ペコ…

知久「どうぞ。ごゆっくり」

スタ… 

ガタ トタトタ

まどか「あっ、タツヤ」

ほむら「…?」クル…

タツヤ「ほむほむとあそぶ」トタ

まどか「タツヤ、まだぜんぶ食べてないでしょ。ほむらちゃんはお風呂はいるの」

タツヤ「あそぶー」

ほむら「鹿目さん、わたし弟さん食べおわるまでここにいるよ?」

まどか「えっ、ほむらちゃん、気を遣わないでいいのに…」

ほむら「急に押しかけて悪いもの。このほうが楽だから、ね?」

まどか「う~ん…。じゃあ、ほら、タツヤ」

トテトテ…

・・・

タツヤ「(パチ)ごうそうした!」

知久「はい。よく食べたね、タツヤ」

まどか「(ワシワシカチャカチャ…)ほむらちゃん、ありがとう! お風呂どうぞ!」

ほむら「あ、それじゃ、失礼します」スタ…

タツヤ「ねーちゃ、ほむほむ、おふおどーじょ」トテトテ

ほむら「…?」クル…

まどか「(ワシワシ)あ、タツヤ」カチャカチャ

タツヤ「ほむほむとあそぶ!」

知久「ほむらちゃんはこれからお風呂はいるの。

   今日はまどかと忙しいみたいだからまたこんど遊んでもらおうね」

タツヤ「ほむほむとはいう」ニギッ トテ…

303: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:36:11.38 ID:MP+sbPTio
ほむら「あ…」トットッ…

知久「こら、タツヤ!」

タツヤ「うぅ……、うぇあ~~…っ! ……うぁああああ…っ!! うわああああ…!!」

ほむら「あの、よかったら、わたしタツヤくんと入ってきましょうか?」

知久「気を遣わないで、大丈夫だよ。気持ちだけで十分……」

タツヤ「うぇああ~~っ!! うわあああ~~っ!!」

知久「だめなものはだめ。ほむらちゃん、今日は忙しくて疲れてるの」

タツヤ「わああぁ~~っ! …けほっ、けほっ、……うえあわあ~~!!」ダンダンバタバタ

知久「困ったなあ。わがままばかりの子はパパ、嫌いだぞ。

   まどかもママも、ほむらちゃんも、タツヤを嫌いになっちゃうぞ」

ほむら「あの、すみません。えっと、もしかしたらたぶん、わたしがここに残ったから、

    タツヤくん食べ終わったら遊んでくれると思ってて、

    それでわたしが行こうとしたから怒ってるかもしれないんで。

    だからあの、責任というか、わたしからお願いしたいんです」

知久「でもそこまで……」

ほむら「あ、といっても大したことはできないと思うのでできたらか…鹿目さんと一緒に…」チラ

知久「(カキカキ)――ありがとう。すごく助かるよ。疲れてるところを悪いけど頼めるかい?

   まどか、後は僕が洗っておくから、

   先にほむらちゃんと一緒にタツヤをお風呂に入れてくれる?」

まどか「うん…、わかった。ほむらちゃん、ごめんね」

ほむら「ううん、こちらこそ。タツヤくん、みんなで一緒に入ろうね」ソッ ピト フキ

タツヤ「(ズズ…)」コク


~~さやかの家 食卓~~


杏子「なんであたしがあんたん家に泊まることになってんだよ!?」

さやか「別にあたし達の活動って夕方からだから無理ってわけでもないでしょ。

    まあ風見野にはちと遠いけどさ。

    杏子から色々アドバイス聞くには一緒に暮らした方が手っ取り早いし」パク

杏子「そこまでいらん! あんたは最っ初からじゅうぶん過ぎるくらい大丈夫だから!

   つか親に養われてる分際で一緒に暮らすとか決められねえだろ!?

   その前にあんたは学校行ってんだろ、力入れるとこが違うだろ!?

   なんであたしがそこまで突っ込まなきゃいけないんだ!?」

さやか母「この子はほんとに女の子なのに荒っぽいというか、頭のほうも良くないし、

     何の取り柄もなくて……、仲良くしてくれてありがとうね、杏子ちゃん」

杏子「え、えと、あの……」

さやか「……」ズズ… ハグハグ

304: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:40:12.47 ID:MP+sbPTio
さやか母「幼なじみの子がこの春に交通事故に遭って、

     ひどいケガでその子が得意にしてた楽器も弾けなくなってしまったのね。

     その子もさやかも辛かったの。でも最近になって、

     あなたやまどかちゃんや転校してきたほむらちゃんという子と一緒に、

     地域のボランティア活動を始めたんだって。

     忙しそうだけどやりがいを感じてるみたいで……」

さやか「(パクパク)母さん、勘違いしてない?

     まどかやマミさんたちがやってることにあたしも加えてもらったの。

     杏子は隣町で同じ活動やってる子で、昨日知り合ったばかりだよ。

     なんか、お父さんが教会やってたんだけど、

     一家が無理心中にあって一人ぼっちになっちゃったんだって」ハフハフ

さやか母「まあ……。若いのに大変なのね…」

杏子「……別に。もう慣れたし不自由はしてない。過ぎたことさ」

さやか「そういえばあんた、普段はどこに泊まってんの?」

杏子「ホテルだよ」

さやか「なっ、何!? それはもしかしてデラックスなほうか!」

杏子「どこだろうと構わねえだろ。

   あたしは自分の力で好き勝手に生きてんのさ。

   親元でぬくぬくと暮らしてるあんたに言えることはないはずだけど」

さやか「大いにあるとも! あんたの年でこうきゅうホテルというのはなあ、

    バット一本で地球を危機から救う主人公しか泊まってはいけないのだ!!」

杏子「隣町から地球の危機とは、これまたえらく出世したもんだねえ」

さやか「あたしの話じゃないっ!

    とにかく母さん、この子このとおり身寄りがないみたいだから、

    しばらく家で預かれないかなっ!?」

さやか母「家にいるのはいいけど、何もお構いできないわよ」

さやか「うん! あたしがちゃんと世話するから!」

杏子「いや、おい拾」

さやか母「いいかしら、お父さん」

さやか父「……うむ」

さやか「ありがとう、父さん! 良かったなァ、杏子!」ヒシ ナデナデ

杏子「あ、あのな~…」

さやか母「ほら、杏子ちゃん。そうと決まったんだから遠慮しないでお上がりなさいな」

杏子「あ、ありがとう……。いただきます」チャ…

さやか母「後で洗い物できる?」

杏子「え、あ、うん…」


305: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:44:13.10 ID:MP+sbPTio
~~まどかの部屋~~


「ほむらちゃん。ごめん、開けて」

ほむら「あ、はい」スッ

ガチャッ 

まどか「お待たせー。はい、どうぞ」

ほむら「あ、ありがとうございます」ソッ

・・・

まどか「ふぃーーっ。ほむらちゃん、ごめんね。あの子、わがまま聞いてくれると思って……」

ほむら「いえ、わたしこんな賑やかにお風呂入るなんて初めてだから、楽しかったです」

まどか「でもほむらちゃん、すごく気を遣わせちゃったね。

    タツヤが湯舟ではしゃぐもんだから」

ほむら「(クス)正直ひやひやしてました。毎日いつも目が離せないって大変ですね」

まどか「わたしは手伝えるとき、相手になれるときだけなのにくたびれちゃう。

    でもパパって笑顔を絶やさないで、

    タツヤやわたしと楽しく過ごせて幸せだって……」

ほむら「鹿目さんの小さかった頃から専業主夫をされてるんですか?」

まどか「うん。……わたしが物心ついたときから、気がついたらパパと一緒に遊んでて……、

    ここに引っ越してくる前のころのことだけど、毎日毎日いっしょに過ごしてて…、

    家に帰ったらいつもパパがいて……。

    タツヤも今の毎日をきっと思い出して、パパに大切にしてもらったんだな、

    て思うんだろうなあ」

ほむら(鹿目さんの小さいころも可愛かったんだろうなあ)ポー…

まどか「?」

ほむら「あっ、若々しいのにすごく落ち着いてて素敵ですよね」

まどか「へえ、ほむらちゃんがそう言ってたって伝えたらきっとすごく喜ぶよ、パパ。

    ああ見えてママよりけっこう年上なの」

ほむら「ええ!! 同じくらいだと思ってました!」

まどか「ママが大学生のときにわたしができて結婚したんだって」

ほむら「はじめて聞きました!」

まどか「う、うん。そうだね…?」

ほむら「でもそれじゃお母さん、大学は……?」

まどか「自分じゃやめるってパパとママのおじいちゃんとおばあちゃんに言ったんだけど、

    とりあえず卒業だけはしなさい、って言われて。

    もうほとんど卒業論文だけ書けばいい状態だったらしいから、

    ゼミの先生や学生さんたちと迷惑のかからないよう相談したって」

ほむら「ゼミに顔を出さないようにしたんですか?」

まどか「それがね、みんなから臨機応変でいいじゃん、って軽いのりで返されて……」

306: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:48:14.08 ID:MP+sbPTio
ほむら「へえ…」

まどか「うん。早くからゼミがあったから仲良かったのもあったみたい。

    …妊娠したのが分かったのが3年生の後半で、お腹が大きくなっても大学に来て、

    卒業論文の研究しながら会計士の資格を取って。

    わたしが生まれたあとゼミに顔を出せるようになったのは卒業論文の締切ちかくで、

    友達や先生から『子連れ狼』って呼ばれながら無事に卒業できたんだって」

ほむら「(クス)いい人たちですね。鹿目さんならきっと可愛かっただろうし」

まどか「(タハハ…)でもママもよく赤ちゃんを大学の研究室まで連れてくなんて迷惑なことを…」

ほむら「鹿目さんなら育てやすいから大丈夫ですよ」

まどか「(テヒヒ)え、なんで分かるの? ママもそう言ってるんだけど……」ポリポリ

ほむら「理由はありませんけど、鹿目さんならそうに違いないからです」ニコッ

まどか「ほ、ほめてくれてると思っていいのかな。

    わたしは全然覚えてないんだけど、ゼミの人たちも可愛がってくれたんだって。

    でもタツヤが赤ちゃんのころのパパとママを思い出すと、

    ●●●●やおしめの交換とかほんとに目が離せない状態だったよ。

    あたしだってきっと……」

ほむら「鹿目さんのお母さん、すごい人ですよね」

まどか「……うん。わたしを産んでくれて。パパも、おじいちゃんやおばあちゃんも…」

ほむら「周りのかたの理解や支えがあったにしても、お腹に赤ちゃんがいる、って、

    それだけで大変なことがいっぱいあるんじゃないでしょうか。

    なのに、大学を卒業するだけじゃなく資格試験もこなしたり……」

まどか「それがね。大学を卒業させてもらえる、ってことになったから、

    パパが将来もし働けなくなったときに備えておこうってくらいの気持ちだったけど、

    生活しはじめたらどう考えてもパパのほうが主夫に向いてるって気づいたみたい。

    働きながらでも家事の段取りが完璧だったからこれは真似できないな、って。

    それでママのほうから思い切って『自分がかせぐほうでいいか』って申し出たら、

    パパもママは仕事に専念するほうが向いてるだろう、って賛成して。

    わたしが産まれる前から今みたいな方向で生活設計を話し合って決めたんだって」

ほむら「なんだか素敵です……。ほんとうに信頼しあってないとできないことですよね」

まどか「ママもよくパパのことを言うの。

    よく海の山も知らないときの自分を信用してくれたなって」

ほむら「…? いまにしてみればお父さんの目に狂いはなかったんですね」

307: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:52:14.89 ID:MP+sbPTio
まどか「うんっ。……なんかわたしのほうの話ばかりしちゃったね」ティヒヒ

ほむら「あ、いえ。わたしが尋くから…」

まどか「わたしも聞いていい?」

ほむら「ええ、どうぞ」

まどか「あのね、ほむらちゃんのお母さんってどんな人?」

ほむら「どんな…、うーん……。わたしと似てますね。

    姿形だけでなく、性格的にも父より母のほうに似てる、って言われますから」

まどか「うわ、会ってみたい! だって大人になったほむらちゃんみたいなんでしょ?」

ほむら「で、でも鹿目さんのお母さんにくらべたら全然落ち着いてないんですよ。

    歳は同じくらいのはずなのに……」

まどか「えっ、だいぶ若いんだね」

ほむら「ええ。父のほうがかなり年上です」   

まどか「じゃあうちと同じなんだ」ニコ

ほむら「あ、そうですね…」ニコ…

まどか「会ってみたいな、ほむらちゃんのパパとママ」

ほむら「そ、そんな…。父はともかく母はお見せするような……」

まどか「ほむらちゃんと似てるんでしょ?」

ほむら「え、ええ…」

まどか「(ニコ)なら素敵なひとに決まってるもん」

ほむら「はあ……。…ありがとうございます」

まどか「(ニコ)あ、コップかして」スクッ…

ほむら「あっ、はい」ソッ

ほむら(もうタオル外そうかな)シシュ ハラ

まどか「(カタ)そうだ。早く宿題しなきゃ」パシ ヒョイ クルッ

ほむら「あ、そうですね。ええと…」ゴソゴソ

スタ…

まどか「ほむらちゃんの髪ってきれいだよね」ナデ

ほむら「きゃっ! い、いきなりどうしたんですか、鹿目さん」

まどか「ずっと思ってたんだ。長いし、きれいだし、うらやましいなあって……」

ほむら「そ、そうですか……? でも、でも、鹿目さんの髪型もかわいいですし、

    いつもしてるリボンも、似合ってると思います」

まどか「そうかな……? うぇひひひっ。ありがと。ほむらちゃんも同じ髪型にあうと思うよ。

    いつかお揃いでやってみようか?」

ほむら「…はいっ!」

まどか「(ニコッ)…あっ、宿題宿題!」ゴソゴソ

ほむら「あ、そうでしたね」ゴソゴソ

308: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 14:56:16.03 ID:MP+sbPTio
――



まどか「えーっと、あとは寝るだけだね。

    そうだ。パパがお布団一式取りにくるように言ってたけ」

ほむら「あ、どちらの部屋ですか?」

まどか「いいのいいの。ほむらちゃんが取りにいったら、またタツヤに見つかって、

    遊んでってせがまれるに決まってるもん」

ほむら「可愛いですね。わたしたちが歯を磨いてたら自分も、って……」

まどか「みんな洗面所に集まっちゃって、そこにママが帰ってきて、

    みんな歯ブラシを持って玄関まで行ったもんだからおかしかったね。

    わたしが後で取りにいくから、ほむらちゃん、そこに横になって」

ほむら「え!? でも、か、鹿目さんの……」

まどか「あ、嫌だったかな…」
ほむら「そんなわけないですっ。わたしこそいいんですか?」

まどか「ほむらちゃんなら嬉しいな。あ、あれ、わたし変なこと言ってるね」ティヒヒ…

ほむら「いえ。ありがとうございます」

まどか「さ、どうぞ」

ソロ……

ほむら「……」ポー

まどか「じゃ、足から始めるね」モミ モミ…

ほむら「あの、あとでわたしも……」

まどか「それじゃお礼にならないもの。

     揉んでほしいとことか、強くとか弱くとか遠慮しないで言ってね」モミ モミ

ほむら「……ありがとう、鹿目さん」


~~さやかの部屋~~


さやか「うーーんっ。そろそろ寝ようか」

杏子「……泊めてもらってる身で言うのは心苦しいんだけどさ、……あたしの布団は?」

さやか「あ。いや~~っ、ごめんごめん。

    まどかが家に泊まるときは一緒のベッドで寝るもんだから、

    あたしも母さんもつい忘れちゃって……。明日からちゃんと用意するから」

杏子「あ、そ……」

さやか「父さんも母さんももう寝ちゃったし、

    とりあえず今日は一緒にここで寝よ?」

杏子「……」スタスタ

ハシ…

杏子「このクッション借りるわ」スタスタ…

さやか「ええっ。それだけじゃ寝るに寝られないでしょ!?」

杏子「気をつかわせてわるかったな。でも、なけりゃないでこれでいい。おやすみ」トサ ゴロン…

さやか「……」

309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:00:17.34 ID:MP+sbPTio
~~マミの部屋~~


マミ「……おやすみ、お父さん、お母さん」

QB「今日は慌ただしい一日だったね、マミ」

マミ「あら、キュゥべえ、まだいたの」

QB「僕がいると邪魔かい」

マミ「まさか。でもあなたって、さっきいたと思ったらふうっといなくなったり、

   それこそ魔法少女より慌ただしい毎日を送ってるみたいね」スタ スタ

QB「この町は不可解なことが多いからね」ピョコピョコ

マミ「‥あなた、何か聞きたいことがあるの?」スタ スタ クル スタ

QB「いいや。特にないよ。今のところは」ピョン

マミ「それはよかった。もう眠くてね」スタ スタ カチャリ スタ スタ パチ スタ スタ カチャ… 

QB「おつかれさま、マミ」

マミ「(…パタン スタ スタ)キュゥべえもおつかれさま」ポゥ… ジジジジ…

QB「(ピョン ポフ)おやすみ、マミ」

マミ「(カチ コトン)おやすみ………」ゴソ モゾ…

310: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:04:18.35 ID:MP+sbPTio
~~~~~


まどか「もういい……もういいんだよ。ほむらちゃん」

311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:05:19.27 ID:MP+sbPTio
プロミス

ClariS、作詞/作曲:渡辺 翔、編曲:湯浅 篤

312: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:09:20.18 ID:MP+sbPTio
   

ほむら「まどかッ、行かないでッ!  まどかぁぁッ!」

313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:10:20.74 ID:MP+sbPTio
~~まどかの部屋~~


ほむら「(ビクッ…)ぁぁ…っ」ハッ

……ムクッ…

ほむら(え…、ここ鹿目さんの部屋……。あ、そうか……)グスッ…

まどか「……」スーー… クーー… 

ほむら「……」

ほむら「って、(何でわたしが鹿目さんのベッドで鹿目さんが床に布団で……!?)

    あっ。(わたし鹿目さんにマッサージしてもらってそのまま寝てしまったんだ……、

    それで鹿目さん仕方なく……)」ガーン
     
カチッ コチッ カチッ コチッ…

ほむら(5時半か……)ショボ

トッ トッ テッ テッ… ガチャ ガチャ…

ほむら(…? この足音は……)

モゾ ソロ スタスタ…

カチャ…

タツヤ「…あしょぼ」

ほむら「まだ朝はやいよ。寝ないの?」ヒソヒソ

タツヤ「ううん。ねーちゃと、ほむほむと、あそぼ」

ほむら「(チラ)…お姉ちゃんまだ寝てるから、わたしと、…お庭であそぼっか?」

タツヤ「うん」コク

ほむら「すぐ行くからちょっと待って。

    (キョロ キョロ)(眼鏡……、あっ、机の上に置いててくれたんだ)」ソロソロ… チャッ

ほむら「じゃ、行こっか」ヒソヒソ スタ…

タツヤ「うん」トテ トタ

……パタン…


~~まどかの家の庭~~


ガチャッ…

ほむら(うゎ、ひんやりしてる……)スタ

トットッタッタッ…

ほむら(静かだなあ……)スタ スタ

タツヤ「ほむほむきてーーっ」

ほむら「あ、うん」

タッタ…

タツヤ「ぱーぱー、いつもとまとちゅくってるの」

ほむら「わあ、すごい。美味しそう」

314: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:14:22.10 ID:MP+sbPTio
タツヤ「それでねー、とまと、おはなしするんだ」

ほむら「パパがタツヤくんにトマトのお話するの?」

タツヤ「ううん。とまと」

ほむら「トマトとパパがお話するの?」

タツヤ「うん」

ほむら「そうなの。(鹿目さんのパパらしいな。

    家庭菜園で育ててる野菜にまで愛情を注いで……なんだか目に浮かびそう)」

タツヤ「ぶーーーんっ」シュタタッ

ほむら「あっ」タッタッ…

タツヤ「おいかけっこー!」トットッタッタッ…

タッタッタッタ…

・・・

タツヤ「きゃはっ。ぶぅぅーんっ」タッタッタ

ほむら「はぁっ、はぁっ……」ヨタ ヨタ

タツヤ「(クル)ほむほむーーっ」

ほむら「……ごめん、わたし疲れちゃった」ハァハァ…

タツヤ「えーーっ」タッタ…

ほむら「お庭から出ていかないでねー」

タツヤ「うん!」トットッ… キャハハッ マロカァーッ

ほむら「ふぅーー…(元気だなー。ずっと力いっぱい走りっぱなし……)」フキ…

…ボーゥボーゥ、ジィッヒーーッ …ボーゥボーゥ、ジィッヒーーッ ボゥ…

ソヨ…  ザサヮ…

ほむら(近くでキジバトが鳴いてる……。この辺りは自然が残ってるんだなぁ……。

    ここだけは平和で安らかに……。…安らか、か)

ほむら(さっきの夢……。

    鹿目さんと触れ合ってとっても幸せで、満ち足りているのに、

    なぜか胸が張りさけそうなくらい悲しくて……。

    鹿目さんが何か言って、

    独りでわたしの手が届かないところへ行ってしまうような……。

    ……駄目だ、もう断片的にしか思い出せない……)

ほむら(――ほんとに夢なの? 手のひらにまだ彼女のぬくもりが残っているよう……。

    ……それにしても鹿目さんと裸で抱き合う夢を見るなんて……、

    わたし●●●なんだろうか……)

315: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:15:45.96 ID:MP+sbPTio
また あした

鹿目 まどか[悠木 碧]、作詞/作曲:hanawaya、編曲:流歌、田口智則

316: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:19:48.02 ID:MP+sbPTio
~~数日後、教室~~


キーン コーン カーン…

日直「きり~つ。礼~」

和子「では皆さん、くれぐれも寄り道しないように。まっすぐ帰るんですよー」

ガヤガヤ…

さやか「あのさ、仁美…」

仁美「ごきげんよう」スタスタ

さやか「……」

和子「……?」

まどか「行っちゃった……」

ほむら「志筑さん、あれからずっと……」

さやか「……まどか、ほむら。あたしも先にあっちに行ってるわ。マミさん家でまた」

まどか「あ、うん。気をつけて」

さやか「あんた達もね。じゃ」ピ スタスタ


まどか「……」

ほむら「……」

まどか「ほむらちゃん、仁美ちゃんを追いかけよう!」

ほむら「あ、はいっ」


~~校内の廊下~~

トトト…

まどか「やっぱりこのままじゃよくないよ。

    仁美ちゃん、わたしたちに仲間外れにされたと思って……、

    ううん、実際そうしちゃってたんだ。

    とにかくわたし謝らなくちゃ……それで、それから……、

    ほむらちゃん、どうしたらいいんだろう?」トト

ほむら「やっぱりできるだけありのままを話すしかないんじゃないでしょうか」トト

まどか「そっか。そうだよね……。あっ! 仁美ちゃーんっ!」トタタ…



317: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:23:51.79 ID:MP+sbPTio
~~教室~~


和子「上条くん」ユサユサ…

恭介「んぐ…」ノソ…

和子「もしかして今日一日、ずーっと寝てたの?」

恭介「あ、いえ…」ゴシゴシ

和子「……大丈夫なの? 来月、さやかちゃんに付き添ってもらって、

   アメリカへお医者さんに診てもらいにいくんでしょう?」

恭介「はい…、担当医の先生の紹介状と検査結果とかを送ったら、(フワアァ…ガゥ‥)

   治る見込みがないとは言い切れないからこっちでも検査させてほしいって……」モシャモシャ

和子「そう……。大変だね。『ないとは言い切れない』だけでは……」

恭介「……いえ、可能性を示したくれただけありがたいと思わなきゃ……」ググイ ノビ

和子「そうか。うん前向きで何より!

   たまたま、志筑さんのお父さんの知り合いに凄いお医者さんがいてよかったね」

恭介「はい。志筑さんのおかげですよ……」

和子「……。ところで、また学校を休むことになるでしょう。

   今の授業にもついてかないとだめだよ」

恭介「うー、でも僕はどのみち音楽でやっていきますから……」

和子「ならこんなに勉強できるのは、長い人生でたった数年だけだよ。

   大人になるほど余計なことに時間を割かなきゃならなくなるんだから」

恭介「ああ、そうとも考えられるんですね…」

和子「ね、勉強のほうも適当に頑張りなさい。あなた、頭はいいんだから」クル…

恭介「…好きなことに取り組んでる瞬間は自分でも今すごく頭使ってるなあ、って、

   正直そう感じてました」   

和子「(ピタ)……?」

恭介「…学校の教科や音楽の文献の勉強や……、

   もう演奏以外のほうに力を入れたほうがいいのかもしれませんね」

和子「自分の心を偽って行動してもけっきょくそれは無意味だってことを学ぶだけだよ」

恭介「…いま勉強しろって言ったじゃないですかー」

和子「(ハァ…)相手に合わせて自分を良く見せようとするのはだめだと分かってるんだけど…」

恭介「先生の話じゃないですかー」

和子「あなたはそれでいいの?」

318: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:27:53.29 ID:MP+sbPTio
恭介「…不安なんですよ。治ったとしてもブランクがありすぎる。

   いまこの瞬間だって上手く弾けるやつは技術を吸収できる時期を決して逃がさない。

   着実にステップアップを重ねていく。無為にした時間は絶対に取り返せない」

和子「うん…」コク

恭介「しかも、それすら皮算用の話で……。

   今、親にねだって新しいヴァイオリンを買ってもらって、

   幼馴染に痛々しい思いをさせながらやってることだって、

   ただの無意味な悪あがきなんじゃないかって思えてきて……」ボー

和子「いま上条くんが何に取り組んでるのか分からないけど――」

恭介「ヴァイオリンです。左利き用のに替えて練習してるんです」

和子「それなら、お父さんという先生がそばで見ててくれるじゃない」

恭介「親父は…、黙って見てるだけです。

   まだけちょんけちょんに言ってくれたほうが……」

和子「ふぅん……、それはいま上条くんがやってることが正しいからじゃない?」

恭介「正しいわけないじゃないですか…。めちゃめちゃですよ。

   遅れてるうえさらに努力の方向性を間違ってるというか、

   無駄なことやってるイタい奴だと思ってるんじゃないかな」

和子「素人のわたしが聞いただけでも確かにそう思うわねえ」フム

恭介「それを言っちゃあおしまいでしょう……」ガク

和子「ただわたしの受ける印象はそうでも、知る人ぞ知る巨匠と言われてるお父さんが、

   少なくとも否定していない。

   それは今のあなたの演奏家としての姿勢がこの状況では最善だから。

   ふつうに考えたらそう結論づけられない?」

恭介「……そんな、言葉のうえだけでこじつけて慰めてくれなくても……」

和子「こじつけなんかじゃないよ。わたしは自分の経験から知ってるもの」

恭介「……?」

スタ… ストン…

和子「……わたしは高校のときに途中である期間、学校を怠けてたの。

   特に何かをするわけでもなくてね…、」

恭介「…いじめに遭われてた?」

和子「(フリフリ…)いいえ。ただ、勉強についていけなくなって。

   そんな自分を棚に上げて、クラスの成績優秀な人はどうして授業を黙々と受けるだけで、

   手を挙げてくれないんだろう。教師の説明の分かりにくいところを質問して、

   みんなにもその答えが共有できるように行動してくれないんだろう、とか、

   机の上でひがんだことばかり考えてたわ」

319: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:31:54.17 ID:MP+sbPTio
恭介「……成績優秀な人も授業を消化するだけで精一杯だったんじゃないですか。

   分からないなら自分で質問したら……」

和子「ええ…(コク)。入学して当初の授業では自分でそうしていたの。

   そうしていたら、クラスで目立ったのでしょうね。

   課外学年活動のクラス委員を割り当てられて、勉強どころではなくなって……」

恭介「……自分は学年活動よりも授業の質問に力を入れたいから、って断ればよかったのに」

和子「目立つことをする割に、気が弱くてだめだったのね」

恭介「そうですか……」

和子「頭でっかちに考えるばかりで、自分の勉強も疎かになるばかりで、

   学年活動の委員の役割もろくにこなせなくて、

   結局ほとんど他のクラスの委員さんに任せっきりで。

   そうこうしてる内に冬休みが来て年が明けて……、学校に行けなくなってしまったの」

恭介「なるほど……」

和子「(クス)なるほど?」

恭介「そのときのトラウマを中沢にあれこれ質問をぶつけることで解消してるのかなあ、と…」

和子「こら」ク

恭介「あ、いえ、英語の授業でもわりあい自ぎゃ…身近な話題におきかえて、

   人間味のある内容にしようとされてるなあ、と……」

和子「(ニコ)持ち上げても点数は加えないよ。中沢くんのほうが男らしいね」

恭介「(トホホ…)……しかし、今の話だとそれからしばらく学校に行かなかったわけですよね」

和子「ええ」

恭介「……その精神の内戦状態を抱えて復帰するのも大変だろうし……」

和子「わたしはね……、とても運が良かったの」

恭介「……?」

和子「振り返ってみたら、分厚い闇のただ中にとつぜん眩い光が射してきたようだった。

   わたしが築いていた壁を何の苦もなくのりこえてきて、何気なく手を差し伸べてくれた」

恭介「何の話ですか?」

和子「わたしが所属してた部活の、違うクラスの同級生の話。

   その時から今まで短所も長所もちっとも変わらない子の話」

恭介「はあ」コク

和子「入学したころに何となく入ってたものの、

   こんなざまだから途中からわたしはほとんど足を運んでなかったのね。

   それで部長さんに、このまま籍を置いておくか退部するか聞いてくるよう頼まれて、

   その子はクラスの生徒にわたしは学校に来てない、って知らされたんでしょう、

   わざわざ自宅まで訪ねてきてくれたの。

   そうね、学校を休みはじめて一週間もたたないタイミングだったな……」

恭介「……」コク

320: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:35:55.04 ID:MP+sbPTio
和子「どんな会話の流れでそうなったのかしら……、確か詢子が部屋の本棚を眺めてて、

   口だけはとりとめない話をしながら、脈絡なく『これ読んでいい?』って、

   何冊か手に取って、そう知り合ってもいないのに人のベッドに勝手に座って読みだして」

恭介「ずいぶん自由というかフランクな人ですね」

和子「ええ。人見知りなわたしには新鮮だったけどなんだか失礼な人だなあとも思ったの。

   そのくせ、自然に振る舞ってるのにとても姿勢が良くて、

   ページへ伏し目に走らせてる眼差しがとても真剣で……」

恭介「……」

和子「そのうち会話が途切れて。こちらからは声をかけづらくてただその子を眺めてたの。

   どれくらい経ったのか、静かに『なんで学校休んでるの』って」

恭介「……」

和子「あいかわらずページをめくりながら穏やかに話してたから。

   最初自分のことだって気づかないくらいの雰囲気で、

   そういえばどうしてだったかな、って。

   ゆっくり、こうして今あなたに話してるみたいに一年間の記憶を手繰り寄せながら、

   授業のやりかたに疑問を持ってることとか、

   クラスの子も授業ちゅう黙ってないで先生に質問してほしいと思ってることとか、

   学年活動の委員を任されて忙しくて勉強もどれも手がつかなくなったこととか、

   整理しながらぽつぽつと話していったの。

   気がついたらその子も本を閉じて、じっと聞いてくれていて」

恭介「……」コク

和子「わたしが話し終わってその子の反応を窺ってるとね、

   その子は一転して滔々と論じはじめたの。まず、

   『学年活動で勉強ができなくなったなんてただの言い訳だ』って」

恭介「ナッハッハ…」

和子「『授業中に質問したほうがいいというのはあんたの一つの意見であっても、

   それを他の生徒にまで押しつけるのはただのエゴだ、

   しかもその意見をクラスの連中に一度でも提示したことがあるのか』」

恭介「クックックッ…」

和子「『第一、授業を作るのは教師の仕事だろう。

   授業は教師と生徒が対等に教科の知識を示し合うくらいが理想だと?

   その仕事のために教師が準備してきたことをあんたは全部理解してるのか』」

恭介「……っ」コク コク

和子「『以上の理由からあんたの言ってることは間違いだ、

   今のあんたは挫折すらしていない、ただの逃げだ』」

恭介「……」

321: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:39:55.68 ID:MP+sbPTio
和子「途中から自分でも顔が熱くなるのが分かって、

   それと反対に握りこぶしが冷たく震えてるのを感じてた。

   それくらい恥ずかしくて悔しくて、何も言い返せなくて……。

   でも彼女は続けたの、『それでも納得できないってんなら、

   あたしがあんたのやろうとしてることを実行して、

   あんたが何から何まで間違ってるってことを証明してみせる』って」

恭介「……ふむ」

和子「おかしいでしょ、正論を堂々と述べて否定したわたしの考えを、

   その間違った考えをわざわざ行動に移すと言うんだから……」クス

恭介「それは本当に実行されたんですか?」

和子「ええ。各教科の内容を授業までに調べ上げて、

   教師の説明不足な点を突く質問をよく浴びせていたそうだわ。

   内容をきちんと理解しているからこそできるものから素朴な疑問までね」

恭介「授業の雰囲気的には……」

和子「反応は教師も生徒もそれぞれだったみたい。
  
   予想通り、授業の計画を乱された、妨害だと受け取る先生や生徒もいれば、

   即答したり、後日調べてくるなりという形で付き合ってくれる先生もいらっしゃった。

   詢子と同じ疑問を抱いてたり、質問に触発されたのかな、

   なかには詢子も改めて調べ直して職員室にうかがうとき、

   一緒についていくのを申し出る生徒もいたそうよ」

恭介「へえ……」

和子「わたしはというと、そうそうすぐには立ち直れなかったんだけど。

   詢子がほとんど毎日、家に訪ねてきては淡々と報告がてら、

   あれこれ持ち込んできた調べ物に勤しんでるのよね、目の前で」

恭介「自分の部屋でもないのに」

和子「そう。一度も学校へ来いとは言われなかったけど、

   こちらとしては行動のきっかけを与えてしまった責任を感じたというのかしら。

   こんなに一生懸命やってくれてるのに申し訳ないというか……。

   あの子、あとで知ったんだけどこの時に部活も辞めて、

   生徒会の役員も他の子に代わってもらってるのよね。

   わたしが学校に顔を出し始めたころにはもう済んじゃってて、本人はケロリとしてるし」

恭介「久しぶりの学校ってハードル高くなかったですか」

和子「そりゃあ、最初はね。でも家で、『わたしも学校いこうかなあ』って口にしたら、

   『ああその方が助かる。学校とウチと両方で話ができるから』って」

322: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:43:56.34 ID:MP+sbPTio
恭介「そういう認識ですか……」

和子「…まあ実際、父が心配して車で送っていかなきゃならなくなるくらい、

   夜遅くまでいることも間々あったから……」

恭介「その彼女さんのご家族は? 何も文句を言わなかった?」

和子「友達の家に勉強しにいくって出かけて、事実そのとおりだから。

   のめり込んでる対象が勉強に変わってくれてよかった、ってご両親に喜ばれたくらい。

   と言ってもわたしはしばらく遅れた授業内容に追いつくのに必死だったけど。

   いつでも分からないことを聞けば答えてくれる最良の先生がそばにいたから。

   だから安心して問題集にはほとんど自力で取り組めたのよね」

恭介「けっこう意地っ張りなんですね……」

和子「詢子のほうも聞かれれば答える、って程度で、

   自分は授業の範囲外のことにまで没頭してたし。

   でも教えようとしないでくれてほんとうによかった。

   いてくれるだけでじゅうぶんだったの」

恭介「(コク)」

和子「そのうちわたしもなんとか授業の流れについていけるようになってね。そうしたら、

   詢子に言われたように先生には授業計画があって、

   授業を集中して受けたいと思ってる生徒もいるからそれらを乱すのは申し訳ないな、

   って思うようになった。それである放課後に思い切って詢子にそう言ったの」

恭介「はい」

和子「で、詢子は、乱すのが悪いなら生徒にとって役に立つものならいいんじゃないか。

   授業中にこだわらず、ブログにまとめるって方法もあるよね、って提案してきて、

   あといちおう部活の子にも声を掛けるね、って言われて、

   わたしは定期テストのヤマを張る箇所をまとめるべく頑張ってた」

恭介「なるほど」

和子「それからしばらく姿を見ないな、と思ったころに急に詢子が戻ってきてね。

   『話がついた、ヤマ張り終わった? すぐアップできる?』って立て続けに聞かれて、

   何でそう急かすのかと思ったらあの子、化学部やら物理部やら地歴研究部、文芸部…、

   とにかく教科に関係ありそうな部活の知り合いに片っぱしから交渉して、

   ホームページにそのヤマ張り問題を載せるようにしてもらってたの」

恭介「え? その子というか先生も文系じゃないんですか?」

和子「詢子も文系よ。別に不思議じゃないでしょ。

   昔の国立大学はセンター試験が無い代わりに文系理系全教科が試験科目だったんだから、

   時代とともに入試制度が変わったからって学ぶ学ばないは個人の自由だもの」

恭介「ふえー……」

323: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:47:57.33 ID:MP+sbPTio
和子「それからてんやわんやだったけどけっこう当たっててね。

   と言っても詢子が作った問題ばかりだったけど……。

   わたしのクラスの放課後の教室がいろんな文化部の部員や、

   そのホームページを参考にして興味をもった子たちの交流場所になっていったわ。

   数は少なくても勉強はこなすんじゃなく深く取り組みたいって子もなかにはいるのよね。

   卒業するとき、今まで邪魔者のように詢子を見ていた先生も寂しがっていたし」

恭介「でももともとは先生のアイデアで……」

和子「詢子もそう言うのよね。

   新しく来た人がよくこんなことを思いついたね、って口にするたびに、

   いちいち『いや、これはもともと和子のアイデアなんだ』って訂正するの」

恭介「事実そのとおりですし」

和子「でもね、その集まりのなかでわたしなりに頑張ったつもりだけど、誰がどう見たって、

   詢子が一番よく働いてたのよ。

   この雰囲気でわざわざ会話の流れを切ってまで言うかなぁ、って思う。

   大人はそういう集団とか時の流れのなかでうまくやることを暗黙のうちに学ぶんだけど、

   ……って、詢子がいわゆる不器用な生き方をする人、ってわけじゃないのよ。

   本人は自分の領分のことなら人並み以上にうまく立ち回れるのに、

   逆に不器用な人を見つけると放っておけない、なんとかしよう、って、

   ときにこちらが不思議なくらい必死になるの。

   それはうまくいくときもあるしいかないときもあるけど……、

   それが今の彼女をつくってるのよね」

恭介「……」

和子「帰りに寄った喫茶店でこう言われたの。

   『ごめん。最初にわたしの話を聞いたとき自分はそれを否定したけど、

   ほんとはすっごく難しいことだけどこのアイデアを実現できたらすげえいいなあ、

   って惹かれてるところもあってさ』って」

恭介「知ってた」

和子「(コク)だって、発案者のわたしより楽しそうにしてたもの。

   『…でも啖呵を切った手前これまで言い出せなくて…、

   けっきょくあんたからおためごかしに横取りしてしまった』って」

恭介「……」

324: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:51:58.28 ID:MP+sbPTio
和子「…まず不登校だったわたしが立ち直れたのは間違いなく彼女の存在があってこそだった。

   それに、考えに共感するだけでなくともに実行してくれて心強かった。

   授業の内容を生徒同士で共有できるっていう目標が実現できれば、

   それがどんな経緯で誰の手によるものかなんてどうでもいいことでしょ?」

恭介「(‥コク)」

和子「だからありがとう、って。彼女も黙って聞いてた。

   なんだか今考えるとわたしたちおかしかったわ。

   お互い卒業して、違う大学に行くっていうのに、

   それからも淡々と話して、あっさり別れたの」

恭介「はあ」

和子「……何の話だったっけ」

恭介「ヴァイオリンについてしっちゃかめっちゃかな練習をしてるのは間違ってないっていう」

和子「そうね。教師になってみると、授業を黙々と受ける真面目な学校はごく少数で、

   まず生徒に授業を受けさせるところから始めなければならない。これが現実だったわ。

   振り返れば自分はとても恵まれた教育環境を享受してきたのだと思うし、

   だからその恩恵を一人でも多くの子に伝えていかなきゃいけない。

   あの頃、詢子たちと研究した各教科の先生方のエッセンスは、

   今の教師としてのわたしを支えてるわ。当時、作業をしているときは難しくて、

   『何でこんな無意味なことをやってるのだろう』と思うこともあったけど、

   頑張ったことは決して無駄にはならない。

   たとえその真っ只中にいるときは分からなくても。あなたにそう言いたかったの」

恭介「そうですか……」

和子「あとそれからね……、なんでクリスマスや初詣があるんだと思う?」

恭介「クリスマス、…と初詣??」ゴーーン… ……ゴーーン…

和子「冬至が12月22日ごろで、そのころって一年で一番夜が長い時期でしょう。

   寒いし、タイガが氷雪に覆われつくして地球上の酸素濃度も薄くなってる。

   自分の気分が落ち込んだのもそれらと関係があるんじゃないかと思ってるの。

   あなたがどんな宗教を信じてるか分からないけど、

   とにかくこのときの行事は何か参加しておいたほうがいいと思うわ。

   思い出してみたら、わたし高校1年の冬休みに初詣に行ってないのよ」

恭介「へぇー」

和子「……」

恭介「いやいや、それは初詣どころじゃなかったからじゃないですか!?」

325: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 15:55:58.92 ID:MP+sbPTio
和子「あなたより20年は余分に生きてる人間が言ってるの。

   話半分でいいから覚えときなさいな」

恭介「はい」

和子「高2のときは詢子たちとお参りにいったわ。

   そのとき引いたおみくじにね、『折れぬ木に深みはない。曲がらぬ木に味はない』、

   そういう意味のことが書かれていたの」

恭介「……」

和子「つまり、折れたり曲がったりしてしまうほどの困難や重圧を受けて、

   それでもそこから芽吹いて成長していくって凄いことなんだよ、って。

   そう受け取って、わたしはとても励まされた」

恭介「しかし、光に向かって枝を伸ばしながら成長していくこと自体、

   そもそもそれすら最初から何もかも無駄というか、意味があるのか……」

和子「病気やケガでもなくただ怠けていた時間は…、

   何の引き換えに得るものもなくただ遅れをとってしまったものとして、

   今でも難しいことがあって弱気なときとか、

   あれは何だったんだろうと考えることがあるよ。

   わたしは自分から逃げた。あなたは事故に遭ってケガを負った。

   まずその違いがあるわ。わたしの無為にした時間はほんとうにただの無駄だったけど―」

恭介「いえ。先生のこと、聞けてよかったです」

和子「――そう言ってくれる人が今いるなら、

   あのころ一人で悩んでたわたしも無意味じゃなかったのかもね」

恭介「………その彼女さんは今もお元気なんですか?」

和子「ええ、とっても。というより彼女のおかげでわたしもなんとか元気でいられる。

   わたしには分からないんだけど詢子もわたしの考えや見方が自分と全然ちがってて、

   おかげで違う意見の人の考えもすこしは想像できる、って。

   確かに彼女の人生の指針になるような考えとはかけ離れてると思うわ。

   (クス)結婚にしても彼女らしい極端さでパッパと決めてしまったし、

   それを受け止められる相手や家族……運というか資質というか、

   周囲に可愛がられて引き立てられるものをもってる人物なのね」

恭介「羨ましい…?」

和子「だから頑張れるの。それにあんな大恋愛は見てるだけでお腹一杯だよ」

326: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:00:00.23 ID:MP+sbPTio
恭介「大恋愛……?」

スッ

和子「(ニコ)じゃあ、勉強も、頑張ってね」スタ

恭介「そこに戻りますか。…一日が48時間、いやせめて36時間あればなあ」ファ~ッ

和子「(クスッ)時間は誰にだって平等なんだから。でも、今日くらいはがっつり寝たら?」

恭介「まあ治らなかった場合に備えなきゃ……」

和子「でも何にせよ、体こわしたら元も子もないよ」

恭介「そうですね……、ありがとうございます。先生、勉強って何のためにするんですかね」

和子「そりゃあやりたいこと、これで身を立てるってことが決まってるなら、

   その分野で知らなきゃいけないことは――」

恭介「そうじゃなくて学校の、数学やら国語やら理科やら、

   やりたいことがあってもなくても。高校入試で必要だから?

   将来いい仕事を選べるから?

   何やら言い訳してやらなかったことを後で後悔しないため?

   勉強に集中できる身分で『何でやらなきゃいけないの』ってひねくれるのはうざいから?

   言いかえると素直に前向きに頑張るのが人の道だからですか?」

和子「生物の寿命からくる定めとして、人の心は歳月を重ねるにつれて冷えて固まっていく」

恭介「……」

和子「でもサミュエル・ウルマンという詩人が言ってるの。

   『心に奮い立つものがある限り人は若い』って。わたしも同意するわ。

   だからあなたがたのような……、

   いま人生でいちばん輝くときを迎えようとしてる人たちだけでなく、

   わたし自身にまず言い聞かせたい」

恭介「……」

和子「何かに全力でぶつかって、壁にぶちあたってのびてたらいい」

恭介「のびるって…」

和子「絶望したらいい」

恭介「無責任じゃないですか。周りに――」

和子「それは体のいい言いわけね」

恭介「いや、現実問題、立場上周りに果たさなきゃいけないことは――」

和子「確かに他者がじぶんに求めることは結局『何ができるか』ってことよね。

   わたしは現実、いま言った言葉どおりにはいかない。

   社会的に年齢上、若いほど動きやすいのは確かよ。

   問題はあなたにとって何が大事なのか」

恭介「……」

和子「力を尽くして失敗したのなら、他にどうしようもないでしょう。

   どうこうできる余地があったのなら本気じゃなかったのだし。

   それでおしまい、人生の希望はゼロ」

327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:04:00.80 ID:MP+sbPTio
恭介「……」

和子「不思議なことにね…、人間は絶望しても、結果が出ても、――…生を肯定しようと……、

   寝っ転がってでもいれば、いつか起き上がって道を見つけようとする。

   見つけようと、あるいは見つけて歩き出すとき、ものを言うのが振幅の大きさなのよ。

   じっさい力を尽くしたつもりでもあとで甘かったと不足を感じたりね。

   逆に力を尽くしたがゆえに何かを…たとえば体をこわしたりもする」

恭介「元も子もないじゃないですか」

和子「そう。努力は往々にして人を裏切る。

   何かを犠牲にしてさえ望む結果を得られないことだってある。

   縦えそうなったとしてもそのひとの無形の財産になるのよ。

   努力の量、悔しさ。それは人物としての振幅の値に累積できる。

   ファッションやポーズなんてメッキは無意味だとその過程で気づくし」

恭介「振幅…」

和子「趣味でもスポーツでも、目指す道でも、学校の勉強でも。

   やりたいことでもやらなきゃいけないことでも好きなことでも苦手なことでも、

   何でも一つでもいい。自分がこうだと決めたことに力を尽くす。それが人の幅を広げる。

   どんな理想に従ったって、落としどころは今ここにいる自分をどうするかだから。

   行きたい大学への受験を例にするなら、行けなかったとして、

   あきらめるか、今もう一度トライするか、

   編入や院試などでスライドする目標を立てるか、

   就職してからお金を貯めながら勉強して受験するか、

   そもそも自分の望みはその大学に合格した達成感・有能感がほしいだけなのか…、

   色々と落としどころが考えられる。多くの人は妥協した不本意な大学に行くことを選ぶ。

   就職で見返そうと奮起して、資格の取得、今一度自分の資質や希望を見つめ直して、

   その分野の研究や企業・公務員になることなどマッチングをはかったりする。

   そのどの選択をするにしても、動き出すには振幅がものを言うの。

   行きたい大学に行けなかった自分の実力では行きたい企業や資格の取得なんてできない、

   ではなくて、行きたい企業への就職や取りたい資格の取得ができれば、

   行きたい大学にだって前よりは近づいたんじゃないかって考えられる、

   受験するしないは別としてよ。

   記憶力とか知識の吸収力とか体力や集中力の低下などは、生物上避けられない。

   生活習慣や運動であるていど遅らせることができてもね。

   それはどうしようもないことだから、

   自分が関与できる変数として、振幅の値を加算していくってことが挙げられるの。

   さっき言ったように、人生に無駄はない。

   その振幅はあなたが生きていくうえでのかけがえのない財産になるから」

328: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:08:01.61 ID:MP+sbPTio
恭介「加算…するもんなんですか」

和子「人間の下地として考えるなら、あなたくらい若いほどいい。それだけは言える。

   でも総合的に考えるならわたしだって、って考えなきゃ。‥負け惜しみかな」ボソ

恭介「僕が言うのも何なんですけど、先生だって若いですよ」

和子「…ありがとう。

   ああ、帰るときは気をつけてね。さいきん大人でも行方不明者が出てるから……。

   こうも続くと、何かに巻き込まれてる可能性が高いって」

恭介「……はい。先生もどうか、気をつけて」



~~屋上~~


仁美「……突然お呼び立てしてごめんなさい」

マミ「いえ、気にしないで。改めまして、巴マミと言います。

   ご存じのように、あの子たちとは学外活動の仲間といったところね」

仁美「……志筑仁美です。さやかさんや暁美さん、まどかさんの友達です」

マミ「鹿目さんからお噂はかねがね。一度、会ってみたいものだと思ってました」ニコ

仁美「(クル)……」チラ


~~屋上出入り口のドア~~


まどか「…! 仁美ちゃん、今こっち見たよ……。マミさんと何を話してるのかな……。

     マミさんもテレパシーで話してくれたらいいのに……」

ほむら「志筑さんが巴さんと二人で話したいと言ったから、控えてるんじゃないかな」

まどか「それはそうだけど……、心配だよ。魔法少女のことどうやって話すんだろう?」

ほむら「鹿目さん、二人ともいい人なんだからきっと分かりあえるよ」

まどか「うん……」


~~屋上~~


マミ「あ、もちろんいい噂よ」

仁美「(クル)分かってます。まどかさんは陰口を言う人じゃありません。

   失礼ですが、そんなまどかさん達があなたや、

   ひょっとするとあなた以外の人にだまされているんじゃないかと疑っているんです」

マミ「まず、鹿目さんたちは悪い大人が作った組織などには利用されていないわ。

   誰かにお金を巻き上げられてるとか、みだらな行為を強要されてるといったたぐいの」

仁美「では、あなたはまどかさん達をだましてはいないんですか」

マミ「……それはわたしからは何とも言えない。

   あの子たちがどう受け取っているかの問題だもの。

   例えばあなたが新しい習い事をはじめたときや、クラスの委員長を引き受けたとき、

   やってみて初めて思わぬ苦労をすることもあるでしょう。

   それに対してどう感じるかというのと似てると思う」

仁美「問題をすりかえないで下さい。

   あなた自身にだます意図があるかどうか聞いているんです」

329: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:12:02.19 ID:MP+sbPTio
マミ「暁美さん以外の子には話していないことだけど、正直わたしは鹿目さんが一番かわいい。

   鹿目さんが幸せであるように、その目的のためなら多少ほかの子を度外視してる。

   慕ってくれてる後輩たちに対して同じだけの心配りができていなかったり、

   暁美さん以外の子には鹿目さんも含めてそのことを黙っているという点では、

   あなたの言うとおりあの子たちをだましていると言えるかもね」

仁美「……そうですか。巴さんはあまり立派な先輩ではないんですね」

マミ「手厳しいなあ。その通りだけど」

仁美「……では、肝心のあなた方がされているボランティア活動の内容について、

   教えていただけますか」

マミ「……志筑さんは美樹さんからボランティア活動、と聞いたのよね」

仁美「はい」

マミ「正確にはボランティア活動とは違う。契約に基づいた義務を果たしてる」

仁美「契約……」

マミ「そう。みな別個にそれぞれの自由意志で結んだ契約。

   基本的にどのような義務を果たさなければならないか納得したうえで……」

仁美「契約と義務がからむからには大人が関与しているはずです。あなたはさっき……」

マミ「社会的な契約とは違う。

   法的根拠はないんだけど、そうね、個人間の約束といったほうがいいか」

仁美「誰と約束したんですか?」

マミ「スカウトマンと。自分の願いを何でも一つだけ叶えてもらう代わりに」

仁美「ですから大人が……」

マミ「大人ではないわ。

   正体はわたしにもわからない。でも声だけなら小学生の男の子みたい。

   ボイスチェンジャーを使ってるかもしれないけど」

仁美「そんな正体もわからない相手を信用するなんて……」

マミ「わたしの場合、信用するもしないもないわね。

   彼が目の前に現れなかったら死んでいたのだから」

仁美「え?」

マミ「何年か前になるけど、わたしは両親と車で出かけたときに車両の衝突事故に遭ったの。

   両親はその場で死んで、わたしも病院に運ばれるまでにもたないと自分で分かった。

   その時に彼が現れて、わたしは自分の命を救ってもらうことを願ったわ。

   お陰でいまあなたと話してるわたしがいる」

仁美「……」

マミ「ウソだと思うのなら、三年の誰にでも聞いてみて。

   だいたいの人はわたしが事故に遭ったことくらいは知ってるはずだし、

   あの多重事故に巻き込まれた者でただひとり、

   奇跡的に無傷で生還したんだとか話してくれる人もいるかもしれないわ」

330: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:16:19.67 ID:MP+sbPTio
仁美「いったい、その願いと引き換えにどんな義務を……、

   あなたやまどかさん達はわたしの知らないところで何をしているんですか?」

マミ「……先生方にさいきん不審な事件が多いから、

   登下校や外出のさいには気をつけるように言われてるでしょう。

   理由のはっきりしない自殺や殺人、それに失踪……」

仁美「……!」

マミ「わたしたちはそれがなぜ起きるのか知ってる。

   いいえ、それが起きるのを未然に防ぐべく命がけでたたかってる」

仁美「知ってるならなぜ警察に話さないんですか!? たかだか中学生にできることなど……」

マミ「なるほどね。でも恐らく自衛隊でもあれが相手だと……、分が悪いでしょうね。

   戦えないことはないにしてもきっと不要な犠牲が増えるだけだわ……」

仁美「ご自分が自衛隊員よりも強いと?」

マミ「そうじゃなくて、相性の問題だから。

   重火器がどれほどの威力を誇るのか、戦術がどんなに優れているのかわたしは知らない。

   でも少なくともあれと戦うことを想定したうえでつくられたシステムではないはずだし、

   全国の人が住むところにくまなく配備するなんて現実的でもない。

   ……爆薬が通用するみたいだし、協力して戦えるのなら確かに心強いわ。

   でもわたしたちは願いを叶えてもらう対価として戦っているのだから、

   それを期待するのは筋違いという心情もこちらにはあるの」

仁美「人命がかかっているときに心情がどうとか言ってる場合じゃないでしょう」

マミ「あなたが言っていることは正しい。でも考えてみて。

   いま言ったように、この脅威は全国の人が住むところ全てに存在するの。

   公にしてそれを取り去るために戦いを挑むには物々しいだけでは済まないわ。

   国や自治体がよほどうまく連携して事を進めないと、

   社会に不安や混乱が拡大するだけになってしまうんじゃないかしら」

仁美「……」

マミ「いろいろ考えるとね、やっぱりこれはわたしたちの役目なんだって……。

   あなたの言うとおり勝手な思い込みで間違ってるかもしれないけど、

   だいたい皆そこは納得してるし、自分たち以外の人に背負わせたくもない。

   まあ、色んな子がいて納得するための解釈はそれぞれだけどね」クス…

仁美「……その役目、願い事と引き換えに背負うことになったとおっしゃいましたよね。

   本当に何でも叶えられるものなんですか?」

マミ「ええ。彼いわく『叶えられないということは滅多に起きない』らしいわ」

仁美「なら上条くんは自分の左手を治すことを願ってこの役目に加わったんですか?

   ‥わたしがそこまで容態が重いのだと察するのが遅れたばかりに……」

マミ「上条くん?」キョトン

331: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:20:22.34 ID:MP+sbPTio
仁美「さやかさんの幼馴染みですわ。さやかさんは彼を巻き込んだと言っていましたが」

マミ「……その彼なら確かにこの役目に協力はしてくれてる。

   でも彼はわたし達と違って願い事をして加わったのではないし、

   美樹さんが巻き込んだのでもない。

   むしろ彼が加わることには美樹さんは消極的よ。

   彼にヴァイオリンに集中してほしくて。

   でも、美樹さんが危険な目に遭ってるのを放っておけないからと、

   彼のほうから協力したいと言ってきてその意志は固かった。

   今でも美樹さんもわたしも彼がヴァイオリンに集中したいと言うのなら、

   それに応じるわ。彼に限っては後戻りが可能だから」

仁美「(フゥ…)そうでしたか、やはり……」

マミ「……もうだいたいのことは話したと思うんだけど、失礼していいかしら。

   今日はわたしもシフトに入ってるから」スタ…

スタスタ…

まどか(マミさんが戻ってくるよ!)

ほむら(無事に説明できたのかしら)

仁美「待ってください!」

マミ「(ピタ)まだ何か?」チラ

仁美「わたしも…、わたしもあなたがたの役目に参加させてもらえませんか!?」

マミ「駄目よ。あなたの前にスカウトマンが現れたわけじゃないでしょう。

   あなたが希望しようと彼のほうから持ちかけない限り無理だし、わたしも推薦できない」

仁美「でも上条くんは自分から希望して……」

マミ「彼の場合は特殊なの。わたし達と違いはするけど、戦う力を持ってる」

仁美「わたしには無理だとおっしゃるんですか?」

マミ「(クル…)志筑さん。わたしが思うに、あなたは強い人だわ。わたし達よりよほど……」

仁美「……?」

マミ「ほんとうはきっと、願い事なんて誰かに叶えてもらうものじゃない。

   人事を尽くして得られるものも、そうでないものもある。

   あなたはきっとその意味を最大限において分かってる人だという感じがするから」

仁美「……勝手に決めつけないでください。わたしは完璧な人間じゃありませんから」

マミ「そうね、ごめんなさい。よく知りもしないのにおしきせるのは失礼よね。

   本物のお嬢様って会うのは初めてだから変な先入観があったようだわ。

   でもあなたは本気で誰かに自分の願いを叶えてほしいって思う?」

仁美「……失礼ですが、それは危険であるという印象を受けますわ。

   自分の力だけで及ばないことなら人に相談するなり助けを求めはします。

   しかしそうするにしても自分が目的のためにどこまでやったのか、

   どういう戦略のもとに相手の力をどれくらい借りたいのか説明した上での話です。

   ましてや、頼みもしないのに都合よく他人が助けにきてくれるとは考えにくいし、

   そういう場合、相手に何らかの騙す意図があってのことと捉えるのが自然なはずです」

332: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:24:22.99 ID:MP+sbPTio
マミ「ええ。そんなあなただからこそ。

   自覚していようといまいと、その強さを築く努力を人知れず重ねてきたはずよ。

   もしあなたがこの役目に加わるために何らかの願い事をするなら、

   自分のこれまでを否定することになるわ」

仁美「……願い事をせず、見学という形であなたがたの戦いを……」

マミ「駄目。無関係なあなたをこれいじょう危険に巻き込むことはできない」

仁美「それではあなたの話を信じることができません」

マミ「わたし達は日々あそこで自分の存在をかけて戦っている。

   そのことをあなたに弁明する必要はないわ」

仁美「……。困りましたわ。いったいわたしはどうすればいいんですの?」

マミ「……そうね。うーん、わたしがあなたの立場なら、

   つかみ所のない話をする得体のしれない先輩のことを担任の先生にまず相談するわね」

仁美「……!」

マミ「だって、事が事でしょう。大切な友達が騙されてるかもしれないのに、

   あなた一人の力だけで解決しようとするのは間違ってる。

   ……早乙女先生はわたしから見ても面倒見がいい先生よ」

仁美「どうして早乙女先生を……」

マミ「あ、先生はグルじゃないわよ。

   事故に遭ったばかりの頃から今まで、学年が違うのにそれとなく気にかけて下さったわ。

   わたしが信頼できる、数少ない大人の一人ね」

仁美「……」

マミ「(ニコ)鹿目さんたちがちょっと羨ましいな。

   わたしはあなたのように真剣に心配してくれる友達がクラスにいないから……。

   それじゃあね」クル


~~屋上出入り口のドア~~


スタスタ…

まどか「マ、マミさん!」

ほむら「どうでした? 志筑さん、わかってくれましたか?」

マミ「話せるだけのことは話したわ。後は志筑さん次第ね……。

   とりあえずこのことには触れないであげて。

   あなた達を心配したり、わたしの話が信用できるか考えたりで大変で、

   どうするべきか迷ってるみたいだから。志筑さんが整理して答えを出すまで……。

   鹿目さんも。いい?」

まどか「は、はい……」

333: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:28:25.33 ID:MP+sbPTio
マミ「それから志筑さんはちゃんと耳を傾けてくれる人だったからいいけど、

   今回みたいに不用意なかたちで伝わると友人関係、親子関係にヒビが入りかねないわね。

   むやみに秘密にすべきじゃないのかもしれない」

ほむら「それってつまり、……」

マミ「難しいわね。魔法の存在が友達や大人に信じてもらえるか、どこまで話すか。

   それと危険なことに従事していることは間違いなく心配をかけるだろうし。

   でも打ち明けにくい相手ほど、何か察知はしていると思う。

   待ってくれているのにこちらがひたすら背負いこんで内緒にするのは……」

まどか「……パパやママにも打ち明けたほうがいいんでしょうか」

マミ「わたしが参考にならないで申し訳ないけど……、何がいいとはわたしは強制できない。

   特に大切な家族だからこそ、時間のあるうちに考えておいたほうがいいと思うの」

まどか「……はい」

ほむら「……」

マミ「ちょっと押しちゃったわね。暁美さん、今日はこのまま行ける?」

ほむら「はい」

マミ「鹿目さん、それじゃ」スタ…

まどか「あ、マミさん、気をつけて」

ほむら「鹿目さん、じゃ……。またあした」スタ

まどか「うん。ほむらちゃん、またあした」

仁美「……」スタ…

まどか「仁美ちゃん」

仁美「……まどかさんは、今日……?」

まどか「あ、うん。わたしお休みなの。仁美ちゃんは……?」

仁美「(クス)もうお稽古には間に合いませんわ」

まどか「ご、ごめん……」

仁美「いえ。今日は羽を伸ばしたい気分ですの。先生には休む連絡をしますわ。

   まどかさんも一緒にいかが?」

まどか「うん、仁美ちゃんの好きなところでいいよ! 行こう!」

仁美「はい。……わたし、一人ですねててごめんなさい」スタ…

まどか「ううん、わたしこそ……」スタ…


~~魔女の結界~~


QB「使い魔たちに気づかれたようだ。もう走って結界の最深部を目指したほうがいいよ」トト

さやか「了解っ」タッ

杏子「おーし、このほうが楽だわ」タタッ

さやか「杏子~~、ところでここ見滝原だよー?

    縄張りにうるさいあんたがいいの?」タッタッ

杏子「(ニヤリ)しょうがねえよ。マミたちの前にあたしたちが見つけたんだから。

   あんただって逃がしちまうよりいいだろ?」タタタ

334: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:32:29.14 ID:MP+sbPTio
さやか「まーね」ブンッ ドカッ

使い魔「ギギィッ」シュウウ…

杏子「そいっ」ザシュッ ザシュッ

使い魔「ギギィッ」シュゥゥ…

使い魔「ギギィッ」シュゥウ…

さやか「……いいな、杏子は。槍が使えて……」タッタッ

杏子「あんたもその剣を使えばいいじゃないか」タタ

さやか「だから抜けないんだって。それにしても使い魔は相手にしないんじゃなかった?」タッ

杏子「時と場合によるさ。魔女にたどり着くまでに邪魔するヤツは最低限たおさないとな」タタ

QB「どうやら魔女はこの奥だ。二人とも、準備はいいかい?」トト

杏子「おう」タタッ

さやか「ああ」タッタッ


~~見滝原、路上~~


マミ「……あ、佐倉さんと美樹さん……」スタ スタ

ほむら「どうかしたんですか?」スタ スタ

マミ「ちょっと離れたところだけど、おそらく魔女の結界で戦ってるわ」

ほむら「ええっ。ここ見滝原なのに……」

マミ「風見野をまわってるときに見つけて追ってきたのかもしれない。

   まあ何よりわたしのほうが今日は巡回に遅れたんだし、よく逃がさないでくれたわ。

   あの子たちなら任せて大丈夫ね。暁美さん、わたしたちはここを回りましょう」スタ…

ほむら「はい」スタ…


~~魔女の結界~~

バシュン

杏子「ほれっ、いっちょー上がり!」スタッ

さやか「すげーな……。くそ、あたしももっと倒せたら……。

    あんたに比べて手こずって……」ブンッ ドカッ

杏子「まあ、さやかは相性の悪い使い魔にまで突撃していくからな」タッタッ

さやか「おお……、どうすりゃいいのさ……」タ…

杏子「経験で相手の弱点を見抜いて攻撃するとか、

   魔法や武器を持ち替えることで相性の悪さを変えるとか」タ…

さやか「そのどちらも無理ですよ、ってときは?」

杏子「そうだな、まあ……。他のやつに任せるとか?」

335: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:36:30.11 ID:MP+sbPTio
さやか「あ、なるほど! 杏子、頼んだよ!」

杏子「お、おう……。え?」

さやか「よし! じゃあ次いきますか!」

杏子「待て。(ジッ)さっきこいつに言われたようにその奥に魔女がいる。

   心づもりはしといたほうがいいぞ」

さやか「え? ひょっとしてそんなにはっきり感覚で分かるの?」

杏子「これだけ近づけばな。あんたもそのうち分かるようになるさ。準備はいいか?」チキッ

さやか「ああ」ギュ…ッ

スタ…


~~魔女の結界、最深部~~


男性「誰か、助けてくれ……!」

男「ウヒャアァァ」

さや・杏「!!」

さやか「二人…、魔女…に捕まってる!?」ダッ

杏子「(ハッ)待て! まず相手の攻撃を見極め――」

ゴッ

さやか「ぐっ」ザクザシュッ

杏子「さやか!」

さやか「(フラ…)ご‥らああああああッッ!!」バシュッ

ザンッ ドシュッ

さやか「ごぷ…、ぉ……、の……っ!」ユラ…

ザキィンッ スタッ

ヒューー トサッ

さやか「がはっ……、悪い」フラ

杏子「今のが参考までに、手本な」

さやか「突っ込むなって教えてくれたのに、あたし……」

杏子「あんたが人のハナシ聞かないのは今に始まったことじゃねーけど、

   その状態で立って話してるほうに驚いてるよ。まだいけるか?」チラ

さやか「当た」

男性「助けてくれ……」

男「ヒイィィッ」

さやか「ッッ!!」バッ

杏子「待てって。さっきの二の舞だぞ」ガシッ

さやか「だから今度は! 見極めて、避けて――」

杏子「その必要はねえ。いいか、何でわざわざ相手の土俵で戦おうとする?」

336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:40:30.25 ID:MP+sbPTio
さやか「!? 土俵って……」

杏子「別にセオリー通りあたしが道開いてあんたが後からついてくる、って方法もあるけどな。

   人質を無事に助けながらって条件がつくと時間的にもハードル高くなるんだよ。

   で、結局あんたのミラクルパワー先行のほうが最短で救出できるわけ。わかる?」

さやか「いや、だから…」

杏子「はんぶんだ」チョイ

さやか「?」

杏子「あたしに最初にぶつかってきたときの半分の速さでいい。

   状況も距離も無視して本丸をいきなり叩く、あんたはそれだけでいい」

さやか「……」

杏子「勝手にあせって、相手に呑まれてんじゃねーよ。

   呼吸を遅く、姿勢を低くしろ。

   自分を信じろ、なんて当たり前のことは言わねー。その前にあんたは勝つさ。

   ぶっとばすと決めたものをぶっとばす、あんたにゃそれができるんだから」

さやか「(スゥ…)ありがと」ジャリ…

杏子「よーい」

さやか「…」グ

杏子「どん」
ヒュオ


ドォン!

杏子「おいおい、半分、つったろ」

バタンバタンッ

男「ヒャアアァッ」ダッ

杏子「おいっ! あたし達から離れるな…」ハッ

フゥゥ…

杏子「(姿が消え――くたばってねえのか! あいつ、人質に遠慮して魔女の急所を外したな)

   逃がすか!」バシュッ

さやか「しっかりしろ!!」バッ

男性「……」

さやか「おいっ、おい!! 杏子、助けて!!」

杏子「(ピタッッ)!?」クルッ

337: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:44:31.23 ID:MP+sbPTio
ゥゥ… 

杏子「っっ」

さやか「杏子おっ。この人体じゅうケガしてる! 息が、心臓が……」ペタ ピト

杏子「(タッ)落ち着け。あんたの剣の鞘はケガやら病気やら治すんじゃなかったか?」スタスタ

さやか「(ハッ)(ゴソ…)…………だめだ、どうして…傷が塞がらない…!」

杏子「……遅かった」

さやか「なっ…! そんな……!」

杏子「あんたもあたしも今できることは尽くした。でも間に合わなかったんだ。

   ……それより、結界が消えかけてる。

   はやくその男から離れないと元の世界に遺体を連れ帰ることになるぞ」

さやか「遺体なんて! さっきまで生きてたんだよ!? いや、今だってもしかして……」ギュッ

杏子「バカヤロウ! 早く置いて――」


サアアァァ…


~~見滝原、路地裏~~


杏子「……!!」

男「ひいい…っ」ヨタヨタ フラフラ ヨタヨタ…

杏子「――っ。(フン…)」

さやか「おいしっかり! 息をしろ!!」パシ ダプッ…

杏子「‥さやか、もうそいつは……」

さやか「(グッ ハム フウゥ…)」

杏子「!……」

さやか「戻れ…もどれよ!!」ベコベコベコ

QB「杏子の言うとおりだ。幸いここはいま人通りはない。

   傷口を見るにそれは魔女にやられたものじゃなく、刃物によるものだ。

   凶器を持った男も逃げ去ってしまったけど、捕まえるなら――」

杏子「あのおっさん魔女の口づけついてたのか?」

QB「いや。この男性にもその刻印はなかったね。

   凶行に及んでいたところを魔女に捕まった、というところだろう」

杏子「‥ならいいや。魔女の居所の手がかりにもならねーんじゃな」

QB「では君たちはすみやかにこの場から――」

ガッ ググッ

杏子「お、おい。何する気だよ?」

さやか「今すぐ病院に。魔力じゃ無理でも医者なら」グッ

338: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:48:31.90 ID:MP+sbPTio
杏子「ん、んな……っ。待」

バシュッッ

杏子「……ッ。(ハッ)あのバカ! 姿を消してねえ!!」

QB「まただよ。目立ったことをして都合が悪くなるのは自分なのに」

杏子「また……って、お前あいつに姿を消す方法教えてなかったのか!?」

QB「彼女が結界の外で魔力による飛行をするのはこれで二度目だ。

   前回も話を聞こうとしなかったからね」

杏子「だからって……。クソッ!!」


―――
――


~~まどかの部屋~~


prrrr

まどか(あ、マミさん)

ピッ

まどか「はい、もしもし」

マミ『夜遅くにごめんなさい。今、いいかしら?』

まどか「大丈夫です。どうしました?」

マミ『……きょう見滝原で、魔女の結界に巻き込まれた人が一人亡くなったわ』

まどか「…ッッ」

マミ『佐倉さんと美樹さんが辿り着いたとき、

   同じく結界に囚われた男から、その人は刃物で刺されていた。

   助けを求めていたけど、美樹さんたちは魔女に阻まれて間に合わなかったそうよ』

まどか「そう…ですか」

マミ『…美樹さんから鹿目さんに連絡はあった?』

まどか「……いいえ、まだ……」

マミ『無理もないわ。職務質問から解放されたのがつい何時間まえだから』

まどか「え……」

339: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:52:32.96 ID:MP+sbPTio
マミ『彼女はその人を助けたくて、市立病院まで直接連れていったの。

   ……美樹さんが結界から連れ出さなければ、

   その方はずっと行方不明者のままになってたでしょう。

   でも女子中学生が大人の男性を自分で担ぎ上げて数百メートル飛んできた、

   という点が病院の関係者には不自然に映るのね』

まどか「……」

マミ『わたしや親御さんが口を出すまでもなく、

   美樹さんは自分で切り抜けた、とりあえずはね。

   飛んできた、というのを警察の方が走ってきたという意味に取ってくれたし、

   その場ですぐ質問に応じて力持ちなところを彼女は証明してみせたし、

   何よりわたし達がやっていること、

   自分が目撃したことを嘘にならない範囲で的確に答えていたから。

   でも、佐倉さんの証言だけではふたり…主に美樹さんの潔白を証明できていない状況ね。

   ……疑おうと思えば返り血にも見えるから』
   
まどか「わたし……」

マミ『こういう場合のこと、あなたとはまだ話してなかったわね。

   ……今日はもう遅いし切るわ。悪いけど暁美さんにも連絡しておいてくれる』

まどか「はい。あの、さやかちゃんは……」

マミ『…平静を装ってはいたけど、ショックを隠し切れてなかった。

   それから、無事に抜け出せたほうの犯人は逃げてしまって、現場の目撃者もいない』

まどか「あの、わたし――」

マミ『無理はよしなさい。

   美樹さんも疲れてるようだったからたぶんもう休んでるわ』

まどか「……はい」

マミ『暁美さんへの電話よろしくね。それじゃ』

ツーツーツー

340: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 16:56:33.51 ID:MP+sbPTio
~~マミの部屋~~

ゴソ

マミ「行くわよ、キュゥべえ」スタ スタ パチ

QB「僕はいつでも構わないよ。

   しかし、どうして帰宅してすぐまどかに電話しなかったんだい」

マミ「見失った直後ならともかく、だいぶ時間が経ったから遠くに逃げられたかもしれない。

   わたしたちが慌てて探しても見つかるものでもないし、長丁場になると判断したから。

   あなたのお仲間も女の子以外はあまり関心がないみたいだし」スタスタ

QB「僕らは君に頼まれてからあの犯人の男を捜索しているよ。

   魔法少女になってくれる子を探すついでではあるけど」

マミ「ええ。

   あなたが契約対象を探すのをやめられないように、

   わたしもこの街の見回りも、生徒の本業も放り出せはしないの。

   せめて似顔絵じゃなくこの目で犯人を見ていればね……。

   とりあえず模試の準備は切り上げて、現場に行ってみましょう。

   あなたはわたしが受験生だってことをぜんぜん考慮に入れてくれないんだから」スタ

QB「僕はあくまで君たちが――」

カチャリ ガチャッ

杏子「(クル)え」

QB「やあ、杏子」

マミ「あら、待ち伏せ?」

杏子「ち、違えってっ! たまたま――、……キュゥべえに聞きたいことがあってさ、

   あんたのとこじゃないかって……」

マミ「…上がって」


~~次の日、教室~~


キーンコーン

恭介「鹿目さん、暁美さん」

まどか「あ…」

ほむら「上条くん」

恭介「中沢から聞いたんだけどさやかが道に倒れてた人を病院まで運んで、

   それがニュースになったんだって?」

ほむら「ええ…、テレビでは、通りがかった中学生が運んだとしか言ってませんでしたけど。

   (杏子と魔女の結界に侵入した際のことだそうです)」

まどか「上条くん…、さやかちゃんからは……?(その人、魔女に……)」

341: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:00:34.86 ID:MP+sbPTio
恭介「なにも(そう)」

ほむら「美樹さん、上条くんに気をつかったからじゃ……」

恭介「いや……。余裕なかったと思うよ、分からないけど…。

   それより、別のクラスの子がさやかがその男性を担いで空を飛んでるのを見たんだって」

まどか「うん……。学校に来てみたら、そんな話が飛び交ってて……」

恭介「すごいな、あいつ……」

ほむら「感心してる場合じゃ……」

ヒソヒソ…

恭介「…」チラ

男子生徒「なあ上条、美樹のアレ結局ホントのとこはどーなのよ?」

恭介「アレって?」

男子生徒「ほら、噂じゃ美樹があの――」

まど・ほむ「…!」

恭介「噂がなんだって?」

男子生徒「ちょっ…」

仁美「ちょっとあなたがた。

   クラスメートの、しかも女の子の陰口を言い合うなんて趣味が悪いですわね」

まどか「仁美ちゃん」

男子生徒「し…志筑さんだって美樹となんかケンカしてたじゃんかよ」

仁美「わたしたちのことは後で行き違いだとわかりましたしもう仲直りしましたわ。

   わたしとさやかさんは友達ですしそういうことも時にはあります」

ユウカ「さやかも鹿目さんや暁美さんも、人助けの活動やってるんでしょ?

    それも人気のない場所で危ない目にあってる人がいないか見て回るっていう」

ほむら「は、はい……」

まどか「…うん…」

ユウカ「ごめんだけどビックリしたわー。さやかは元々ああだけどさ、

     正直鹿目さんも暁美さんも大人しいばっかりの子だと思ってたもん。

     …なのにひどいよね、あのニュースの言い方だとまるでさやかが犯人みたいじゃん」

342: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:04:36.52 ID:MP+sbPTio
男子生徒「え…?」

ユウカ「え、じゃないよ!

    さやかが見回りやってる最中にあの男の人見つけたに決まってるでしょ!?

    可哀想だよ、せっかく助けようとしたのに目の前で亡くなったんだからさ。

    ちょっと想像できないわ」

男子生徒「そうだったのか……。俺てっきりさ…、最近変な事件多いし、

     噂じゃ美樹と鹿目さんと暁美さんが三年の人と、

     何か変な力使ってやってんじゃないかって。

     美樹が昨日人を担いで空飛んでるの見たやついるっていうし……」

ユウカ「マジ信じられない。色々おかしすぎるでしょ。ちゃんと他の子にも訂正しといてよ」
 
男子生徒「ああ…、上条もごめんな……」スゴスゴ
     
恭介「……」

キーンコーン


~~放課後~~


キーンコーン

まどか「仁美ちゃん」

仁美「まどかさん、暁美さん。……前の休み時間のことごめんなさい。

   予想以上にさやかさんのことで騒ぎが大きくなっていたので、

   あなたがたが人助けの活動をしてると学内に噂を流したんです」

ほむら「いいえ。志筑さん、おかげで助かりました。

    変な誤解が広まってもわたし達からは積極的に弁明しない、

    へたに動いてこじらせないようにしよう、って話し合っていたので……」

仁美「それは巴さんと…?」

まどか「うん。こういうときはがまんが大事だ、って……。

    でも仁美ちゃんの話だからみんな聞いてくれたんだよ」

仁美「完全には……。テレビやインターネットにまで広がっていますから。

   お二人は今日も見回りに?」

ほむら「はい」

仁美「確かにこういうときだからこそ淡々としていることも大事なのでしょうね。

   ……わたしもお稽古に行かないと。ご武運を」

まどか「仁美ちゃん、ありがとう」

仁美「またあした、ですわ」ニコ

まどか「うん、またあしたね!」

スタスタ…

343: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:08:37.17 ID:MP+sbPTio
~~廊下~~


恭介「志筑さん!」タッタッ…

仁美「…」クル…

恭介「さっきはさやかのこと、ありがとう」

仁美「…本当なら昨夜のうちに早乙女先生に事情を伝えるべきでした。   

   午前中に早乙女先生に巴さんからうかがったそのままの内容で説明したこと、

   それからお昼に2年の各学級委員の方々に、

   あなたがたが戦っているという事実を省いて説明したことと、

   わたしの周りのかたがたにに誤った情報を鵜呑みにしないよう伝えたこと、

   今日できたことはこのくらいです。

   先生がたがHRで取り上げてくださるのは明日以降になるでしょうから……」

恭介「十分すぎるくらいだよ。

   だって昨夜の時点ではさやかのことだって知らなかったんだろ?」

仁美「――いえ。

   あんなことをできるのはさやかさんくらいだと、確信に近いものはありましたわ。

   でも昨夜は自分の心情に従うと決めていましたの。

   他にやるべきことがあるでしょうに、

   熱意を傾ける先を間違えるからしっぺ返しを喰らうんだと、

   正直ざまあみろと思いましたもの」

恭介「‥君とさやかの間にも色々あるんだね」

仁美「ええ。

   ……ところで、さやかさん達が何と戦っているのか上条くんは知ってるんでしょう?」

恭介「…うん」

仁美「……」

恭介「…ごめん。さやか達が話してないのなら僕からは話さない」

仁美「……そうですか」

恭介「でも、そうだな……。志筑さんはサイボーグ009って知ってる? 石ノ森章太郎の…」

仁美「いえ。わたし、あまり漫画は詳しくなくて……」

恭介「僕も病院の本棚で読んだばっかりなんだけどさ。

   なんというかいま正にあの状況なんだよ、誰がためにっていう……。

   鹿目さんも暁美さんも、先輩の巴さんたちも、さやかも。

   守ろうとしてる世の中の人に怪しい物を見るような目を向けられるのは……」

344: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:12:37.67 ID:MP+sbPTio
仁美「……わかりました。図書館ででも探して読みますわ」

恭介「ありがとう」

仁美「では失礼します」スッ

恭介「うん。それじゃ」タッ

仁美「――上条くん」クルッ

恭介「?」ピタ

仁美「…」

恭介「何?」

仁美「……忘れていましたわ。

   前の休み時間にもうさやかさんとは仲直りしたと言ってしまいましたから。

   さやかさんに伝えてくれませんか、『うじうじしてないで早く学校に来い』って」

恭介「わかった。ありがとう、志筑さん」

仁美「(ニコ)」クル…


~~教室内~~


まどか「上条くん」

恭介「(ゴソ)あれ、ふたりとも待っててくれたの?」

まどか「これからさやかちゃん家に課題とか届けにいくんでしょ?

     わたしたち昨日からまださやかちゃんに会ってないから……」

恭介「そういえば僕もだな。みんなで行く?」

ほむら「ええ。行きましょう」


―――
――


~~さやかの家のアパートの前~~


和子「あら」

まどか「センセー?」

和子「みんなでさやかちゃんのお見舞い?」

ゾロ…

まどか「はい。センセーも?」

和子「うん。いま、ご両親とさやかちゃんと4人でお話してたところ。

   …さやかちゃんのこと、みんな知ってるかな」

まどか「(チラ チラ)」

ほむら「(コク)」

恭介「(コク)」

まどか「はい。わたしたち、さやかちゃんと一緒に町を見回ってたから。

     昨日はいっしょじゃなかったけど」

345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:16:38.87 ID:MP+sbPTio
和子「…立ち話で悪いけど、すこしそのことわたしに聞かせてくれるかな」

まどか「うん」

和子「あのね、魔法少女――」

ウィィ…ン スタ スタ スタ

住人「(チラ)……?」スタ

スタ スタ スタ…

和子「(フウ…)……やっぱり、せっかくお見舞いに来てくれたところを引きとめちゃ悪いな。

   こんど、改めて……」

ほむら「いえ。お時間は取らせませんから」フワァッ

カシン―

パシ

和子「(ハッ)…っ」キョロ

ほむら「先生、手を離さないでください。そうすると先生の時間も止まってしまいますから」

和子「そ、そう……。…いま歩いていった人がすごく辛そうな姿勢で止まってるけど……」

ほむら「一時的に時間の流れを止めてるだけです。

    解除すれば何事もなかったようにまた世界が動き出しますよ。

    だから、あの人も大丈夫です」

和子「うん、それは分かったけど…、暁美さん。

   転校初日に鹿目さんに言ってたこと、本当だったのね」

ほむら「あ…、はい」カァ…

和子「ということはまどかちゃん、あなたも……」

まどか「うん。わたしもほむらちゃんも、さやかちゃんも魔法少女だよ」

和子「……そうなのね…」

恭介「さっき、さやかから……?」

和子「ええ。ご両親の前でさやかちゃんから聞いたわ」

恭介「おじさんとおばさんは……、先生は、そのとき信じてくれました?」

和子「お父さんがね、肩書きがどうかより、

   さやかちゃんが人を助けようとしたことが大事だって。それから、

   娘はばかだけれど人の道に外れたことだけは決してしない子だから信じてやってほしい、

   そうおっしゃって……」

346: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:20:39.48 ID:MP+sbPTio
まどか「センセー……」

和子「さやかちゃん、すこし泣いてたわ。

   わたしは、担任になって見てきた時間は短いけれど、

   さやかちゃんはまっすぐでとても女の子らしい女の子だってことは知っている。

   だからきっと大人の男性を運べたのは、

   さやかちゃんの言うとおり魔法の力があったからなのだと思います。そう答えたの」

恭介「…ありがとうございます。信じてくれて」

和子「……でもね、本当のことだからと言って誰にでもしゃべっては駄目よ。

   わたしは三十年以上生きてきたけど、今まで魔法なんて見たことがなかったし、

   こうして実際に目にしている今でも受け入れがたいものを感じて、ちょっと怖いの。

   分かってくれるかな?」

まどか「うん…」

恭介「…気をつけます」

和子「ところで暁美さん、あなたのご両親には自分のことをもう伝えたの?」

ほむら「…いいえ」

和子「危険がともなうことなら、相談しないとだめだよ。

   あなたが突然ケガなどしたら……」

ほむら「でも相談して、逆に危険だからと止められると困るんです」

和子「それも含めて、どの程度の行動までならとか話し合ったほうがいいんじゃない?」

ほむら「……」

和子「わたしも知った以上、ご両親に連絡しなくては……」

ほむら「やめてください!! それだけは……ッ!」

恭介「!?」

まどか「ほむらちゃん……?」

和子「……」

ほむら「…せめて、あとひと月。ひと月だけ待ってください……!」

和子「…なにかやりたいことがあるの?」

ほむら「‥はい」コク

和子「それはどんなこと?」

ほむら「……」

和子「……あなたたちの命がかかってるから。

   わたしは今週末にほむらちゃんのご両親に伝えます」

347: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:24:40.40 ID:MP+sbPTio
ほむら「……わかりました」カシン

和子「! ……いま、魔法を解いたの?」

ほむら「はい」

和子「こんな閑静な住宅街でもけっこう色々な音が聞こえてるものなのね」キョロ キョロ

まどか「そうだね。ほむらちゃんが時間を止めると、わたし達の話し声しか聞こえないもんね」

和子「…まどかちゃん」

まどか「え?」

和子「あなたもお父さんお母さんとちゃんとお話ししないとね」

まどか「あ…、はい」

和子「それじゃ、わたしはこれから他の先生がたに伝えにいくから。

   さやかちゃん、元気づけてあげてね」スタ

恭介「はい。あの……」

和子「(パチ)だいじょうぶ。職員会議ではうまく話すから」スタ スタ

恭介「ありがとうございます」ペコ

まどか「センセー、さよーならーっ」フリフリ

和子「みんな、気をつけてねー」フリフリ

ほむら「…」ペコ…


ゾロ…

恭介「……」

まどか「どうしたの?」

恭介「ちょっとさやかに電話する」ゴソ ピッピッ

『……お掛けにな』ピッ

恭介「……」ピッピッ…

恭介「……恭介です。‥うん、……うん、こっちは大丈夫。さやかはどうしてる?

   ……うん、……うん。…………うん、お願い」

恭介「……」ジッ…

まど・ほむ「……」チラ

恭介「……」

恭介「――いま大丈夫? …いま鹿目さんと暁美さんといるんだけど。

   ‥これからきょう授業で出た課題とかノートとか持って一緒にいく。

   ………‥わかった。

   ‥ああ、そうだ。志筑さんから伝言。『うじうじしてないで早く学校に来い』ってさ。

   ……あとそれから……、CD落としたやつ、聴いてる?

   ……そう。ありがとう。じゃ。…」ピッ





~~さやかの部屋~~


ゴロ…

さやか「バカ。……バカ」

348: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:28:50.43 ID:MP+sbPTio
~~さやかの家のアパートの前~~


まどか「さやかちゃん……どうだった?」

恭介「ちょっと元気なかったな。(ガサ)鹿目さん、悪いけどこれ渡しといてくれる?

   僕は来なくていい、って言ってたから」スッ

まどか「タハハ…」ソッ

恭介「じゃ、二人とも、また後で」スタ スタ

ほむら「ええ」

まどか「じゃあね」

――


ガチャッ

さやか母「いらっしゃい、まどかちゃん」

まどか「こんにちは」

さやか母「それから――」チラ

まどか「この子はほむらちゃん。わたしの友達で、さやかちゃんともクラスメイトで――」

さやか母「ああ、あなたがほむらちゃん!」

ほむら「? は、はじめまして……」

さやか母「さやかがここのところずっとあなた達の話ばかりしてて。お世話になってます。

     あんな子だから転校してきたばかりなのに振り回されたりしてない?」

ほむら「あ、いえ。そんな……」

さやか母「来てくれてありがとう。どうぞ」スッ

まど・ほむ「お邪魔します」スタ

さやか母「後でお茶を持っていくから」トット…

まどか「ありがとう、おばさん」

ゴソゴソ ツ ツ

トタトタトタ…

まどか「さやかちゃん」コンコン

さやか『んあ』

まどか「入ってもいい?」

さやか『うん』

カチャ…

349: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:32:52.53 ID:MP+sbPTio
~~さやかの部屋~~


まどか「……寝てたの?」

さやか「ううん。ちょっと元気でなくてさ」

まどか「そっか」

さやか「……悪いね、二人とも…。

     あたしのせいであんた達まで悪い噂が立っちゃってるみたいでさ……。

     マミさん大事なときなのに迷惑かけて合わせる顔ないよ…」

まどか「ううん、だいじょうぶ。

    マミさんも『こんなことで離れるような友達はわたしはいないもの』って、

    胸をはってたよ」フン!

ほむら「変な噂は立ちましたが先生や志筑さんやクラスメイトの人達も…、

    逆に理解してくれる人も増えましたし」

さやか「……優しいね、あんたたち」

ほむら「…、‥」

まどか「上条くんから渡された宿題、机の上に置いとくね?」スタ…

さやか「まどか」

まどか「うん?」トサ

さやか「ちょっとここに来てくれない」ポフポフ

まどか「なに?」スタ スタ ポフ…

さやか「‥――ねる」

まどか「あ、じゃ…」ソ

ハシ

さやか「…いて」

まどか「……(ポフ)」チラ

ほむら「……」コク…


――


パタン…

さやか母「あら…」

まどか「さやかちゃん、寝ちゃったの」

さやか母「わざわざ来てくれたのにあの子ったら……」

ほむら「…たぶん、昨晩から眠れてないんだと思う……」

さやか母「昨日の今日じゃね…。まどかちゃん、ほむらちゃん。ありがとうね」

まど・ほむ「……」

さやか母「よかったら向こうの部屋でおやつ食べていかない?」


350: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:36:52.37 ID:MP+sbPTio
~~さやかの家の居間~~


まどか「そういえば杏子ちゃんは?」

さやか母「何か急用ができてちょっと遠くまで出かけてるみたいよ。

     えっと、明日‥には帰るってさやかは言ってたけど。

     そういえばあの子、お金だいじょうぶなのかしら……」

さやか父「…さやかが小遣いの中から渡したらしい」

さやか母「それだけじゃこころ許ないでしょうに……」

まどか「杏子ちゃんならきっと大丈夫だよ」

ほむら「ええ。あの子はまあ……」

さやか母「でもね、心配なものは心配なのよ。まどかちゃん、ほむらちゃん。

     あなたたちの活動ってあなたたちが絶対にやらなきゃいけないものなの?

     大人に任せられないものなの?」

さやか父「母さん」

さやか母「……」

まどか「……わたしたちが……」

ほむら「協力を得られるなら…、それはそのほうがいいでしょう」

さやか母「ならほ――」

ほむら「でも完全に人任せにして、それで取り返しのつかないことになりでもしたら。

    よしんばそれで上手くいったとしても、

    わたしは鹿…、自分とこれから向き合うことができなくなる。

    ここで譲ってしまったらわたしの生きてる意味なんて……ッ」

さやか母「……」

ほむら「…わたしは石にかじりついてでもやらなきゃならないことがあるんです」

まどか「ほむら…ちゃん」

さやか母「……まどかちゃん、ほむらちゃん。さやかをよろしくお願いね」

まど・ほむ「‥はいっ」

さやか母「それから助けてほしいことがあったら、わたし達にいつでも言ってね。

     決して無理だけはよしなさいね」

まどか「ありがとう、おばさん」

ほむら「ありがとうございます」

さやか母「約束よ。

     ほむらちゃん、親はいつもあなたの幸せを望んでる、ってこと忘れないでね」

ほむら「……っ」コク

351: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:40:53.65 ID:MP+sbPTio
~~同日、夕刻、まどかの家~~


まどか「ただいまー、あれ……?」

ゴソ ツ

トコトコ ガチャッ

まどか「ただいま」

詢子「おかえり」

知久「おかえり、まどか」

タツヤ「ねーちゃ、おかえりー」

まどか「ママ、今日は早いね」

詢子「ああ。まどか、すこし話せるか」

まどか「……うん。着替えてくるね」


――



詢子「この前あんたが言ってた大変なことになってる友だちって、

   さやかちゃんのことだったのか」

まどか「うん。でもさやかちゃん、もうケンカしてた子とも仲直りして、

     その子と街を見回ってたからいま起こってることとは違うの」

詢子「(チラ)」

知久「(コク)」

詢子「(フゥ…)…そうか。と言っても今のほうがよっぽどタフな状況だな」

まどか「…うん……」

タツヤ「ぱーぱー、おやつーーっ」

知久「タツヤ、いま食べたらご飯が食べられなくなるぞ。

   …ママ、まどか。もう夕飯にするかい?」

詢子「賛成っ」

まどか「うん」



まどか「(スタ…)ママ、タツヤ。出来たよー」カタ

詢子「(クル)おお! タツヤ、行くぞ、美味しそうだーっ」

タツヤ「おいそうだーっ」トテトテ

――


ケタケタ… ガタ キュゥ ゴト タツヤ、ホラ~ バシャーン ザバン…

詢子「……あんなにはしゃいじゃ滑って頭をぶつけかねないなぁ」カラン…

まどか「(フキフキ)うん。おもちゃで遊ぶだけじゃ物足りないみたいで、潜水したりして」フゥ

詢子「ああ、こないだそれやられたわ」ハハッ

まどか「(フキフキ)ただの浴槽なのに探検気分なんだよね。

     もう目が離せないからあたしは先にタツヤを洗って湯舟に浸からせたら、

     あとはパパを呼んでタツヤだけ上がらせちゃうよ。

     パパだとお風呂に入るときから上がるまで一緒なんだけど」

352: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:44:55.07 ID:MP+sbPTio
詢子「それだけでもパパはずいぶん助かってるはずだよ。

   こないだ言ってたぞ、中学入って何かと忙しいときでも家事を手伝ってくれてたって…」

まどか「ええ~、それだいぶ前のことだよー。いつもの、当たり前のことだし……」フキフキッ

詢子「だからさ。いつもありがとう。あとそれからな、髪はタオルでこすらないほうがいいぞ。

   水気を吸わせたら遠くからドライヤーを当てるんだ」

まどか「(ピタ)そうなの!? (カチャ…)遠くって、これくらい?」ツイ

ガタ… スタ スタ パシ… スイ

詢子「これくらい」カチ

ブオーーッ

ウォン ウォン… ワサワサ カチ オオーン…

詢子「…まどか。急にいなくなったりするなよ」ブオーー

まどか「え、なに?」

詢子「(カチ)……はい」ゴト スタ スタ スト…

まどか「ありがとう、ママ。(ナデ…)おお…」

詢子「(ニコ)……さて、たまには早めに寝る準備をするかなー」カラ…

まどか「‥あのね、ママ」

詢子「うん」コト…

まどか「聞いて‥ほしいことがあるの」

詢子「…(コク)」

353: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:48:55.55 ID:MP+sbPTio
――


知久「……」

詢子「……」

まどか「……」

詢子「………その魔法少女をやるってのはつまり、偶然危険な状況に出くわしたんじゃなくて、

   自分のほうからヤバいところに突っ込んでいくことになるんだな?」

まどか「うん」

詢子「さやかちゃんがああいうことになったのも必然の結果なんだな?」

まどか「さやかちゃんはあの亡くなった人を助けようとしたんだよ。

    でも間に合わなくて……。あんなことにならないようにわたし達は…、」

詢子「まどかやさやかちゃんやほむらちゃんがそのつもりでも、これからも起こりうるんだろ。

   それより、あんたたち自身が命がけの目に毎日遭ってるんだろ…!?」ブルブル…ッ

まどか「わたしたちがやらなきゃ、街のみんなが――」

詢子「ッッ」ガタッ ブン―― グッ

知久「ママ」

詢子「知、放せ!! こいつは周りがどんなに――」ググッ

知久「僕から聞かせる」

詢子「……」スト

知久「まどか。僕たちは親として、

   娘がケガをしたり命を落とすかもしれない仕事をするのを簡単に認めることはできない」

まどか「パパ……」

知久「まず君はまだ中学2年生だ。

   人生の方向性に関わるようなことは、他の人の意見を幅広く聴くことも大事だけど、

   行動を起こす前に僕やママにも相談してほしかった」

まどか「……」

知久「街の人が何者かの手によって行方不明になったり犠牲になる可能性があるなら、

   それは確かに防がなきゃいけないことだよ。

   君が街に住む一人として危機意識を持つのは正しい。

   実際に防ぐため活動に従事してきたのも立派なことだ。誰にでもできることじゃない」

まどか「……」

知久「でも君が話したように街の安全を脅かす存在があるなら、

   それは街全体、国全体で対策を講じるべき問題だ。

   君が願いごとを叶えたというその契約の責任を果たすこと、

   それと街の人々を守ることとは分けて考えないとね」

まどか「……ごめんなさい」

354: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:52:56.66 ID:MP+sbPTio
知久「いや、話してくれてありがとう。

   しばらく魔法少女、でよかったかな。その活動を控えてくれるね」

まどか「……うん」

知久「…それじゃ、今日はここまでにしよう。あたたかくしておやすみ」

まどか「(ガタ…)うん。おやすみ、パパ、ママ」スタ

詢子「……」

まどか「…」スタ スタ

……


詢子「知。あいつ、ほむらちゃんのこと……」

知久「うん。おそらく、あの子もまどかと同じ活動をしているんだろうね」

詢子「なんで話さなかったんだ?」

知久「ほむらちゃんをかばったからじゃないかな」

詢子「はやく親にも知らせねえと……」

知久「ほむらちゃんがまだ知らせてないならね。

   でもまずまどかにそれを勧めさせたほうがいいと思う」

詢子「そんな悠長な……」

知久「とりあえず今夜は分かっていることを整理するのを優先しよう。

   巴さんという子が活動の先輩にあたるみたいだし、話を聞く必要があるね」

詢子「‥ああ。きっと何かに踊らされてるはずだ」

ピラリラ~

詢子「ごめん」スタスタ ゴソ

ピッ

詢子「もしもし」

和子『夜分にごめんなさい。いま話せる? まどかちゃんのことで……』

詢子「ちょうどよかった。ついさっきあいつから聞かされたばかりなんだ。

   魔法少女やら何やらって話をな」

和子『なら話が早いわ。詢子たちはどう答えたの?』

詢子「どうもこうもないよ。その活動を禁止したさ。

   信じられるか、中学生にもなって――」

和子『まず言っておくけど、まどかちゃんたちが魔法少女だというのは本当よ』

詢子「なっ――……」クルッ

知久「……」

和子『わたしはきょう、さやかちゃんの家の前で偶然まどかちゃんたちと会ったの。

   そのとき、ほむらちゃんが見せてくれたわ、時間を止める魔法を。

   手品でも何でもなかった。空を飛ぶ鳥も、街を歩く人もそのまま止まってたわ』

詢子「そんな……」フラ スタ…

和子『……』

355: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 17:56:57.14 ID:MP+sbPTio
詢子「(ピタ キッ)だとしたら、あの話が本当なら、ますます危険だってことじゃないか。

   ほむらちゃんの両親にも早く知らせないとな…」

和子『待って。まどかちゃんはほむらちゃんも魔法少女だってことをあなたたちに話したの?』

詢子「いいや。この期におよんで、あいつまだあたしたちに隠し事を……ッ」

和子『それはわたしが親御さんに伝えるとほむらちゃんに話したとき、

   とても嫌がったのを見ていたからじゃないかしら』

詢子「……!?」

和子『ほむらちゃんから口止めされてるのか、それとも自発的に触れなかったのか、

   それはわからないけど、まどかちゃんが彼女をかばってのことだと思う』

詢子「…和子はもうほむらちゃんの両親には話したのか」

和子『いいえ、まだ。今週末にお伝えするつもり』

詢子「今すぐに連絡しないと! 何かあってからじゃ遅いんだぞ!?」

和子『できないわ。わたしはほむらちゃんにそう言ってあるもの』

詢子「何を優先すべきか考えろよ! 和子は子供がいないから――…、」

和子『…生徒一人一人が大事なお子さんであることはじゅうじゅう承知してる。

   保護者が校長や教頭と同じようにすぐ結果を迫るのも分かるわ。

   でもそれと同時にあの子たちは一人の人間でもあるの。

   今、わたしたち以上に不安と混乱の中にいるわ。

   さやかちゃんやまどかちゃん、それにほむらちゃん、彼女たちが抱えてる問題を、

   いまわたしやあなたを信用して、こちらに打ち明けてくれたところよ。

   同じ人間として約束したことは守る。頼られた側の大人もどっしり構える。

   これはきれいごとなんかじゃない……、

   わたしはいま何か起きたら説明責任を果たせないことをしてるわ。

   それでも教師として、あの子たちが整理して足並みを揃えるまで待たなきゃいけない!』

詢子「……職員会議でずいぶん追及されたんじゃないのか。

   何かあったらクビじゃすまねえぞ……」

和子
『これくらいじゃなきゃ詢子と張り合えないもの』

詢子「バカが……。どっしりと……、か』

和子『……まどかちゃんから活動の先輩のことは聞いてる?』

詢子「巴マミって子のことか」

和子『ええ。わたしも早くあの子から詳しいことを――』

詢子「あたしが今から聞いてくるよ」

和子『え?』

356: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:00:58.88 ID:MP+sbPTio
詢子「まどかならその子の家を知ってる。教えてもらうよう頼んでみるよ」

和子『…分かったわ。わたしも一緒に――』

詢子「教師が押しかける時間じゃないだろ」

和子『あの子は悪意を持つような子じゃないけど、万が一……』

詢子「まどかが心から信頼した先輩なら、あたしもさしで話してみたいしさ」

和子『…………気をつけて』

詢子「和子も無理するな。じゃ」

…ピッ

詢子「……和子がちょっと危ない橋を渡ってるらしいんだ。

   知、まどかの先輩の家まで送ってくれる?」

知久「わかった。準備してるよ」スタ


~~まどかの部屋~~

…コンコン

まどか「はい」

詢子『まどか、起きてるか』

まどか「うん」

詢子『さっきのことで教えてほしいことがあるんだ。入っていいか?』

まどか「いいよ」

カチャ… スタ…

詢子「……ほむらちゃんに、

   あの子が魔法少女だってことをあたしたちに教えないように言われたのか」

まどか「……」フリフリ

詢子「そうか……。あのな、まどか。

   さっきパパが言ったように、

   いまあんたに魔法少女として危険を冒すってことはあたしたちは認められない」

まどか「(コク)……」

詢子「でもあんたの先輩なら魔法少女についてもっと詳しいことを知ってるようだから、

   話を聞きたい。

   ウチだけじゃなく、ほむらちゃんやさやかちゃんの家の人のためにも。

   ――正直、話を聞いただけじゃ信じられないとは思うけど、

   さっきみたいにアタマから否定するつもりはないよ。

   ただ、できるだけ多くの事実を知りたいんだ。分かるか?」

まどか「うん。…あのね、ママ。

    ほむらちゃんはお父さんやお母さんに教えたくないみたいなの」

詢子「ああ…。本人にしか分からないことなんだろうけど、

   あまり親に心配かけたくないって思ってるのかもな。…あんたみたいに」

357: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:05:01.06 ID:MP+sbPTio
まどか「……」

詢子「さっきは怒鳴って悪かったな。話してくれたのにな」

まどか「わたしこそごめんなさい。いままで黙ってて……」

詢子「あー、いやまぁ、これでおあいこだ。(カリカリ…)

   家族なんだからさ、怒鳴りあおうがなんだろうがおたがい話せばいいんだよな。

   その、あたしも話すぞ。和子のことだ」ストン…

まどか「センセーが?」キョトン

詢子「あんたがほむらちゃんを心配してるようにな、あたしもあいつが心配なんだ。

   さっき電話くれたんだよ。本人は気丈にふるまってたけど、

   学校の先生がたにあんたたちの本当の活動のこと、きっと話さないでいるんだ。

   でも和子だってたぶん今すぐにでも、

   ほむらちゃんやあたしたちやさやかちゃん家の家族を集めて、

   話し合って、今後どうすべきかみんなで考えたいと思ってるに違いない。

   そうじゃなきゃかばうにもかばいようがないからな……」

まどか「どうしてそうしないの……?」   

詢子「さやかちゃんが大変なことになって、あんたたちが不安を抱えてる。

   そんななかで自分に秘密を打ち明けてくれたこと。

   その信頼をほむらちゃんとの約束を破ってこわしたくないって言ってたけどな。

   ほんとはそれ以上に、

   ほむらちゃんが自分から勇気を出して親に話すっていうことを踏まえたうえで、

   みんなで考えるってことに参加してほしいって狙ってると思うんだ。

   週末になるまでに……。マスコミが騒ぎ立てて、

   ただでさえきっと校長や教頭やらが、和子一人に責任を押しつけたがってるときにさ」

まどか「……」

詢子「……あたしからはほむらちゃんのご両親に連絡はしないよ。

   ただ、まどかに頼みたいんだ。ほむらちゃんも家族と話し合うよう言ってほしい」

まどか「うん。今夜じゅうにほむらちゃんに話すよ」

詢子「ありがとう。それから、巴さんにいまあたしが訪ねていいか聞いてくれるか?」

まどか「わかった」ゴソ ピッ…

……


マミ『――では、お待ちしてます』

詢子「ありがとう、よろしく」

ピッ

358: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:09:01.86 ID:MP+sbPTio
~~玄関~~


知久「ママを送ったらいったん戻ってくるから。タツヤが起きてきたら頼むね」

まどか「うん、わかった」

詢子「行ってくる」

まどか「うん、あたしもほむらちゃんに電話してるね」

詢子「うん。じゃ」

…ガチャ …… …トシン カチャリ

まどか「(スゥーーッ)」クル スタ…


~~まどかの部屋~~

ピッピ…

まどか「……あれ……?」


~~魔女の結界~~


ほむら「はぁ、はぁっ……」ズッ ズッ…

女性「ウーン……」ズリ ズリ…

使い魔「ブブブーン、ウヒャヒャヒャッ!!」ブロロンッ

ほむら「(ハッ)」カシン ピタ

ほむら「はぁはぁ、はぁはぁ」ズッズッズッ…

ズリズリ…  キョロ 

ほむら「よっこい…」ググ

ほむら「しょ…」ドサ…

女性「ウッ……」ゴロ…

ほむら「(ハァハァ…)」カチャッ コロ カチ フゥゥ… カチャ

カシン

ブブブーン……

ほむら「……」ハァ ハァ…

359: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:13:02.74 ID:MP+sbPTio
~~マミの部屋があるマンション前~~


ナビ「目的地周辺です。運転お疲れ様でした」

――キキィ…

詢子「あの子か」

マミ「……」ペコ…

知久「そのようだね」

詢子「じゃあ、二時間以内に戻るから」カチ シュルッ

知久「いってらっしゃい、詢子」

詢子「いってくる」ガチャ

バタン ジリ オオオオ……ッ

スタスタ

詢子「鹿目詢子だ。遅いのに悪いな」スタスタ

マミ「いいえ。巴マミと申します。どうぞ」

――


~~マミの部屋~~


マミ「ほんとうはこちらからご説明にうかがわなければいけないのに」スタ

詢子「いや、事情が事情だから話しにくかったんだろう? こっちに来てくれ」

マミ「…?」クル…

詢子「すぐあんたと話をしたい。いままで話せなかったぶんまで」

マミ「わかりました」スタ スタ  スト…

詢子
「まどかが魔法少女になったのはあんたが誘ったのが原因か」

マミ「いいえ。わたしが出会ったとき、娘さんはすでに契約をしていました」

詢子「何を願って?」

マミ「どんな願いごとをしたのかはわかりません」

詢子「キュゥべえ、ってのといますぐ連絡はつくか」

マミ「‥さっきからそこにいます」‥チラ

詢子「(ジッ)……(フゥー…)」

マミ「……」ギュッ…

360: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:17:04.24 ID:MP+sbPTio
詢子「魔女ならあたしでも視えるのか?」

マミ「いえ、わたしらや一般の人の場合を問わず、結界の外からはそのすがたは――」

詢子「結界の中にはいっちまえば見えるんだろ? いまから連れてってくれ」スクッ

マミ「それはできません」

詢子「なら勝手に探すまでだ」クル

マミ「待ってください!」ガタッ

詢子「あいにくこちとら押し問答する時間もねえんだ。邪魔したな」スタスタ…

フワァッ

詢子「(ピタ)……」クル…

マミ「魔女の危険性について恐らくまどかさんからお聞きおよびでない点があります。

   そこを踏まえたうえでどうしてもとおっしゃるならご案内いたします」

詢子「(ニヤリ)説明を聞いてけ、ってか。いいだろう」スタ スタ

マミ「感謝します」スト…

詢子「ところでいまの早着替えはアイドルでもやってるの?」ストン

マミ「説明をはじめてよろしいですか」

詢子「はいどうぞ」サ

――



~~まどかの部屋~~


まどか「おかしいなあ。ほむらちゃん、いつもは電源切ってるなんて――」

ドキ

タタ ガラッ

まどか「……」

ザサッー…  ザワ ザサ…

まどか(でもタツヤが……)

ブロロ…

まどか「!」ガララ…  


~~まどかの家の玄関前~~


まどか「パパ」

知久「ただいま。ありがとう、タツヤは寝てるかい」スタ

まどか「うん、ぐっすり。

    あのね、ほむらちゃんと電話がつながらないの。気になるから行ってくるね!」タタ

知久「え、いまからか?」

フワァッ

まどか「センセーのこと伝えたらすぐ帰るから!(フゥゥ…)」バシュッ

ヒュオーーーン……   

ザサ… ザワ…


知久「…………」パチクリ

361: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:21:06.52 ID:MP+sbPTio
~~魔女の結界入口付近~~

ズッ ズッ…

ほむら「(ハァハァ…)(やっと、来られた……)」

ズリズリ…

ほむら(結界の外に出るまで、もう身をかくす場所がない。

    このまま一気にいくしか……)ハァハァ

ズッ ズッ

ほむら(お願いっ…)ズッズッ…

カシン

女性「ン……、え、なにこれ」

ほむら「!!」

――ミイツケタ

使い魔「ブブブゥ、ブブ、ブブブゥーンッ!!」パシッ

女性「ちょっと、え?」ググッ

ほむら「離さないで……!!」ギリュ…ッ

バッ

使い魔「ウヒャヒャヒャッ」ブブブンッ

女性「キャアアア」ジタバタ

ギューン

ほむら「くっ!」カシン ピタ タッ

タタッ

カシン

使い魔「イヒヒヒヒッ、ウヒヒーーーーッ!!」ブブブーン…

女性「アアアアッッ」ギューン

ほむら「くっ!!」カシン ピタ

タタッ




362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:25:19.56 ID:MP+sbPTio
未来

Kalafina、作詞・作曲・編曲:梶浦由記

363: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:26:56.64 ID:MP+sbPTio
~~魔女の結界~~


ビュン ギュン

詢子「どわああああっ!!」バッ

マミ「(スィッ)鹿目さま、順路はこちらでございます」パゥッ  ボーン

詢子「お、おう‥ゎあああ!」タタッ

マミ「(ニコ)使い魔の頭突きにご注意ください」ポイ チャッ

詢子「へ?」

ギュンッ 

詢子「うひぇっ!」ガバッ

パゥッ バラッ…

マミ「わたしから離れないようお願いします」スタ…

詢子「(ヨロ…)ん」コク

タッタッタ…

……


スタスタ

マミ「(クル…)――ご気分はいかがですか」スタスタ

詢子「超恐い」ムス スタスタ

マミ「正常な反応でよかったです」スタスタ

QB「マミ、結界の最深部だ」ピョコピョコ…

マミ「(コク)うん」スタスタ…

詢子「(ジッ)――さっきからずっと一緒にいるのか。その、キュゥべえ」スタスタ

マミ「ええ」スタ ピタ…

詢子「ほんとうにいたんだな、魔女も…」スタ ピタ

マミ「(クル)魔女ならこれからご覧にいれます」

ガチャ  

詢子「――ッ」

マミ「(サ)正面奥に見えますのがこの結界のあるじになります」ニコ

グロロ…

詢子「たいそうお怒りの様子に見えるんだが……」

マミ「彼女にしてみれば、わたしは庭園を荒らす侵入者ですから」スッ

ブゥン…

詢子「たたかうのか」

マミ「(スタ…)はい。こちらでお待ちください」ヒュッ


スタッ…

グロロ……ッ

ジャキッ

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:30:58.40 ID:MP+sbPTio
~~魔女の結界最深部~~


ほむら「(ハァハァ…ッ)またここまで戻ってくるなんて……」タッタッタ

使い魔「ギャハハハッギャハッギャハハッ」

コッチダヨ…

女性「キャアアアッ!!」バタバタ

ほむら(魔女に渡される!!)カシン ピタ

タッタッタッ  ピョン パシッ…

使い魔「ウヒャッ…?」

ほむら「その人を(グイッ)放せ!」ガツッ…

使い魔「ビイィッ!」パ…

ほむら(今だ!)スタッ カシン

女性「――アァッ……えっ?」グラッ

ほむら「!」バッ

女性「――っ」ヒュゥッ

ドササッ…

女性「…イツツ……ッ」ノソッ… ハッ

ほむら「ぅ……」

女性「あなた、ちょっと……」ユサッ…

ほむら「‥にげて…まじょ…‥」

ユラリ グイッ…

ほむら「ぅぐっ……!」ギチギチッ…

女性「ひっ…!」ビクッ…

ほむら「‥はヤク……」ググッ…

使い魔「ブブブーン!」

使い魔「ウヒャヒャヒャッ」ブルルッ

使い魔「アヒャヒャヒャヒャッッ」ワラワラ

使い魔「ブウウウウウンッ!」バララ…

女性「あ…あ…」

ほむら(……こんなところで……ッッ!)ギチチ…ッ

バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ!

365: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:35:03.52 ID:MP+sbPTio
使い魔「ギィッ!!」「ギャッ!」「ギイイッッ」「ビャアアッ」

魔女「グオッ…」ヨロッ…

ほむら(鹿目さん…っ)

スタ スタ スタ

魔女「……」ユラ…

まどか「……」スッ  キリリ…‥

魔女「アソボ……」ユラ

バシュッ

ほむら「っ」ヒュッ ヴォシュッ!!!

ギャアアアアアアアアアアア…

グラッ

ほむら「――……っ」―ヒュルル

まどか「ッッ」タタッ バッ  トサッッ…       

ギュオオオ…


~~マミの部屋~~


カチャリ ガチャ スタスタ… パチ

マミ「紅茶、いかがですか」スタスタ

詢子「たのむ」ノロ…

マミ「どうぞ掛けて」ソ

詢子「ああ。(ドサッッ)ハァーーッ……」

マミ「おまたせしました」カチャ…

詢子「(ガバッ)早っっ。いったい……?」

マミ「魔法です」ニコ

詢子「(アハハ…)サンキュ」カチャッ… 

366: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:39:04.55 ID:MP+sbPTio
マミ「ブランデー、入れます?」スタ

詢子「ああ、頼むよ」

スタスタ ガラ… ソッ ガラ スタスタ 

詢子(持ち手もソーサーも温かい……)ズス…

ゴト ピリ… キュイ ボロッ 

マミ(コルクが崩れるわ。瓶の中に落ちても困るし、しょうがないわね)ポゥ… シュルシュル

キュポッ ソッ トク…  ゴト キュ

マミ「失礼します」ソ

詢子「ありがとう」カタ…

マミ「…」スイ ピチャ…

詢子「……ってこれ年代物のコニャックじゃねーか!?」ハッ

マミ「そうなんですか。味だいじょうぶかしら」

詢子「そういうのじゃなくてだな。このために開封するなんて申し訳ねえよ……」

マミ「気になさらないでください。

   今まで眠ってたものですし、わたしが嗜むものでもありませんから」

詢子「……いただくよ」カチャ スス…

――


詢子「その棚の……、お父さんの趣味なの?」

マミ「はい。開けたのだと中身が悪くなってるかもと思って。

   …変な味しませんでした?」

詢子「生涯いちの紅茶だよ。ごちそうさま」

マミ「よかった」ホッ

詢子「それからな巴ちゃん」

マミ「はい?」

詢子「そのグラス、取ってくれるか」

マミ「…? どうぞ(ソッ)」コト

詢子「うん」チョイ カチャリ…

マミ「あ、注ぎますから」スッ―

詢子「(ジッ)…」サ ピタ

マミ「…?」

詢子「……」キュイ トク… 

ゴト キュイ

詢子「さ、やりな」コト

マミ「えっ。あの、でも」

詢子「あたしが許す。飲め」

マミ「は、はい…」タハハ…

367: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:43:05.69 ID:MP+sbPTio
~~路上~~


――カツン

ほむら「……鹿目さん…!」ギュッ…

まどか「(ニコ)だいじょうぶ、ほむらちゃん?」ジワジワ

ほむら「うん…うん! 大丈夫よ。もう立てる…」フラ

まどか「(サ…)無理しないで」

ほむら「ありがとう。わたしよりあの人は…」キョロ

女性「あなたたち……」ヘタリ

まどか「無事みたい。ほむらちゃんのおかげだね」

――


女性「ここでいいよ。……ねえ、あなたたちはだいじょうぶなの?」

まどか「……」

ほむら「だいじょうぶです。お姉さんも悪い夢を見ただけですよ」

女性「はは、甥っ子がいるからおばさんでいいよ。あたしも悪い夢だと思いたいけど」

ほむら「道を歩くときも心に隙を作らないこと。

    あとはご自分が生まれた場所とこの街のそれぞれ、

    地域をあげておまつりされている神社にきちんとお参りしてください」

女性「……せっかくあなたたちに助けられたんだもんね。わかった、行くよ」

ほむら「そうなさってくれたらこちらも安心です」

女性「なんだかなあ……、あなたたち、見たとこ中学生でしょ」

ほむら「(チラ)……」

まどか「(チラ)……」

女性「いやいや、命の恩人を学校に通報したりしないよ。

   そのさ、あんな化け物からむしろ大人があなたたちを守らないといけないのに……」

まどか「化け物じゃ…ないです」

女性「…?」

ほむら「…お姉さんたちが働いて、わたしたちは守られてます。

    わたしたちはわたしたちの役目でお姉さんたちを守ります」

女性「そっか。

   変だな、あんな怖いことがあったのにあなたたちのおかげで元気が出てきたよ。

   ありがとう」

まどか「(チラ)…」ニコ

ほむら「(チラ)…」ニコ

女性「これ以上足止めしちゃ悪いね。(スタ)ふたりとも、どうか元気で。

   あたしアケミっていうんだ。忘れないで!」スタスタ フリフリ…

まどか「はい! お元気で、アケミさん!」フリフリ

ほむら「(ペコ…)さようなら。忘れませんよ」

368: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:47:06.71 ID:MP+sbPTio


トボトボ

まどか「(フゥ…)間に合ってよかった……」

ほむら「(ボソ)まただ…」ギュウッ…

まどか「え?」

ほむら「いえ。ごめん、鹿目さん。……勝手に独りで突っ込んでしまって」

まどか「(ニコ)わたし、これから魔女を見つけたときはほむらちゃんたちに頼るから、

     ほむらちゃんも無理しないでわたしを呼んでね。

     友達が危険な目に遭ってるときなら、

     パパもママも後で話せば分かってくれるはずだから……」

ほむら「……?」

まどか「あのね、――」


~~夜の公園、ベンチ~~


ほむら「そうだったんですか……」

まどか「……こんなときにわたしだけ戦いから逃げ出すなんて……」

ほむら「逃げ出す、なんて言わないで。

    鹿目さんが怖じ気づくような人じゃないくらいみんな知ってるよ。

    それに、ご家族に打ち明けたことを後悔してほしくないと、思います。

    お父さんやお母さんがおっしゃってることも正しいと思うし、

    わたし達がやってることだって間違ってないもの」

まどか「…………うん」

ほむら「(アセッ)そ、そうだ! せっかく魔法少女をお休みするんですし、

    この際ご家族で旅行に行ってはどうでしょう、今月末とか!?」

まどか「…?」

ほむら「ほら、魔法少女として戦っていると心の休まるヒマなんかないじゃないですか!?

    だから思い切っていい機会だからリフレッシュも兼ねて、

    今から計画を立てたらちょうど月末あたりになるでしょう!

    そのあいだにグリーフシードもわたしから上条くんに協力を頼んで増産しますしっ」

まどか「(クスクス…ッ)……なんだかほむらちゃん、おかしいよ?

     あんまり上条くんに無理言ったらわたしがさやかちゃんに怒られちゃう」

ほむら「う…っ」

‥コテッ…

ほむら「!」

まどか「(ポソ)…すこしこうしててもいい?」

369: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:51:23.99 ID:MP+sbPTio
ほむら「はい…」

まどか「……そういえばおじいちゃんとおばあちゃんに会いたいなあ」

ほむら「あ、だったら」

まどか「(フリフリ…)ううん、いいの…」ニコ…

ほむら「……」

まどか「…でもありがとう。ほむらちゃんのおかげですこしホッとできたから」

ほむら「そ、そうですか……」

まどか「静かだね…」

ほむら「ええ‥」

まどか「‥不思議だな。こうしてるとなんだかなつかしくて。

    夜なのに、優しさに包まれてるような気持ち」

ほむら「優しい風ですね…。…………」

まどか「うん。そうだね。星もきれい。…………」

ほむら「…あの、笑われちゃうかもしれないんですけど」

まどか「なに?」

ほむら「わたしちいさいころ、雲の上に天国があるって聞かされて。

    それで夜、明かりがないのに大丈夫なのかなって考えたりしてたんです。

    実際は水の粒が集まってできただけなのに」クスクス…

まどか「(フリ…)笑うなんてできないよ。わたしは考えたこともなかった」

ほむら「‥そうですか……」

まどか「きっといまみたいに夜空を見上げながら考えたんだね……」

ほむら「(クルッ)そう! そ―」

まど・ほむ「‥」

まどか「(ニコ)……」

ほむら「(クル…)そう、なんです…。

     ときには、同じ夜風をどこかとおいおとぎの国のお姫さまも感じてるのかな、

     会って友達になりたいな、なんて空想にもふけったり……。

     いつの間にかやめちゃいましたけど」

まどか「……」

ほむら「へ、変ですよね。子どものころの考えとはいえ……」

まどか「ううん、そう感じられるってことは、

    もしかしたらほんとうにそうなのかもしれないよ? 魔法だってあったんだから。

    いまのお空にもわたしたちには見えない明かりがあるかも」

ほむら「…そうですね……。見えない、明かり……」

まどか「わたしはいまほむらちゃんとこうしていられてよかったな。

    子どものころのほむらちゃんには会えなかったし、わたしはただの中学生だけど、

    これからはずっと一緒にいたいと思う。ならんで同じ景色を見ていたいなって」

ほむら「うん。わたしも」

370: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:55:28.76 ID:MP+sbPTio
QB「やあ、君たち」ピョコ

まどか「あ、キュゥべえ。どうしたの?」

QB「マミに来客中でね。一時退散してきたのさ」

まどか「ママ、マミさんとちゃんとお話できてるのかな…」タハハ…

ほむら「こういうときこそちゃんと姿を現して説明してくれたらいいのに」

QB「すまないがそれは受け入れられない。

   大人の前に僕が姿を現してろくな目にあったことがないから。

   鹿目詢子ならマミとともに無事、魔女結界から帰還してきた。

   彼女はまず魔女と魔法少女の存在については信じざるをえないだろうね。

   目下のところ会談は続行中だ」

まどか「(パシッ)えっ。ママ、結界まで行っちゃったの!?」ギョッ

QB「鹿目詢子から魔女を見てみたいという申し出があってね」

まどか「(ギュウギュウ)もう、ママ……。マミさんを困らせて……!」

QB「(スリスリ)まどか、僕を枕代わりにしないでくれないか」

まどか「‥ごめん…」ソッ

トン

QB「(フルンッ)まずマミは断ったんだが、

   放っておくと自分から魔女を探しかねない勢いだったんだよ」

まどか「そうだなぁ…」ガク

ほむら「魔女という概念を理解したうえで確認するための探索……」

QB「そう。通常の生活下よりも遭遇する危険性が増加するかもしれない状態でね」

まどか「え…?」

ほむら「(チラ)…。(チラ)ねえ、キュウべえ。

    巴さんは後遺的なリスクについても事前に鹿目さんのお母さんに説明したのね」

QB「ああ、もちろん。

   鹿目詢子という人物は安心と安全なら安全を取るタイプだとマミは判断したんだろう。

   そのうえでさらに能うかぎりの安全策をとりながら彼女に結界内を案内した」

まどか「ねえ、ちょっとごめん。…こういてきなリスクってなに?」


上条恭介「幻想御手?」 中編 


371: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 18:59:29.97 ID:MP+sbPTio
ほむら「巴さんも、最近になって感じ始めたことなんだって。確証はないんだけど……。

    いちど魔女に遭遇した者は助かったとしても、

    また魔女に狙われる可能性が高くなるんじゃないかって」

まどか「マミさんが助けた、同じ人が……?」

ほむら「刻印――、魔女の口づけを受けて結界にまで呼ばれたことのある人を、

    後日また別の魔女結界で見つけることがたびたびあったみたいなの」

QB「犠牲者本人の心の持ちようが変わらないからまたつけ込まれる、

   と結論づければそれまでだけどね」

ほむら「刻印を受けていないにも拘らず、つまり偶発的に魔女結界に迷い込んでしまった人。

    そんな人のなかにもまた魔女に捕らわれる人がいた、って」

QB「最初に結界に迷い込んだとき、正気をたもったままだから記憶も残ってしまう。

   魔女の存在を知り、その恐怖ゆえに魔女を引きつけてしまうのではないかと考えられる。

   突き詰めれば魔女という概念を強く意識すること自体に、

   魔女を誘引する可能性があるのではないかとマミは推測しているわけだ」

まどか「キュゥべえには分からないの……?」

QB「役に立てなくて悪いね。

   まずデータが少ない。しかも犠牲者のケアは僕の専門から外れている。

   これに関してはマミの勤勉さに俟つところが大きいんじゃないかな」

まどか「……」

ほむら「だいじょうぶです。

    巴さんがそこまで分かってて何の策も取らずに結界まで案内するはずないですから」 

      

~~マミの部屋~~


詢子「……これ、何の変哲もないリボンに見えるけど」マジマジ

マミ「わたしの魔力を編み込んであります。鹿目さんなら大丈夫だと思いますが万が一、

   危険な目に遭ったときは迷わず結び目を解いてください。すぐに駆けつけますから」

詢子「発信機みたいなもん?」

マミ「わたしが分かるのはあくまで結び目を解いたリボンの場所だけです。

   結界の内外を問わず特定が可能ですが、

   持ってるだけでは意味がないので気をつけてくださいね」

詢子「わかった、ありがとう。

   これくらいの大きさならポケットに入るしお守りがあると思えば心強いよ」

マミ「(コク)はい。必ずお護りします」

372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:03:30.33 ID:MP+sbPTio
~~夜の公園、ベンチ~~


まどか「……せっかく助けた人が、また魔女に襲われるなんて……それじゃ……」

ほむら「すべての人に対して保護の目を光らせるのは実質むりだから……、

    もう神頼みしかないんじゃないかって」

まどか「それでほむらちゃん、さっきのアケミさんに神社にお参りするよう勧めたんだね……」

ほむら「ええ。巴さんでも、それしか……。あとは少しでも魔女探索に力を入れて……」

まどか「ごめんね。こんなときに……っ」

ほむら「それは言いっこなしだよ。

    それに、お父さんもお母さんも意見が変わることだってあるかもしれない」

まどか「うん……」

ほむら「わたしも……家に帰ったらすぐ両親に電話します」

まどか「うん。わかった」

QB「ときにまどか。ずいぶんソウルジェムが濁ってるようだけど」

ほむら「あ、いま浄化します」フワァッ カチャッコロッ

まどか「でもわたし……」

ほむら「遠慮しないで。鹿目さんが魔女を倒してくれたんじゃない」カチ フゥゥ…

まどか「……」


~~マミの部屋~~


マミ「姉貴分、ですか……」

詢子「ああ、あいつはすこしいい子に育ちすぎたんだ。……あたしのせいなんだがな」

マミ「とおっしゃいますと?」

詢子「あたしがあのくらいの時分にはさ、母親の情けないところも目につきはじめて、

   なにかと歯向かってたんだよ、てめえの狭い料簡を棚にあげといてな。

   でも母親としてのあたしは……、

   午前様ばっかりで歯向かうにも相手が目のまえにいないんじゃな」

マミ「歯向かう気持ちなんて彼女にはきっとありません。

   ご両親が愛情をしっかり注いであげてるからこそまどかさんはあんなに素直で……」

詢子「もちろん、愛情は注げるかぎりは注いだ。間違ってることは間違ってるともしつけたし、

   あいつも曲がらずにいい子に育ってくれた。大きい声じゃあ言えないが自慢の娘だ。

   さやかちゃん…。あの子の存在も大きいんだと思うけど」

マミ「……」コク…

373: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:07:31.26 ID:MP+sbPTio
詢子「下の子が生まれてかかりっきりになったときもまどかは弟をいじめたりしなかった」

マミ「きっとそれまでに父親も母親も自分を大切にしていてくれる、

   と一身に愛情を受けていたからですよね」

詢子「そうと分かったってまだ子ども……、子どもだったのに物わかりがよすぎたんだ。

   いや、物わかりの良し悪しいじょうに、あいつはちんまいころから優しかった。

   教えてもいねえのに、なんつーか、目のまえにいるやつの心に対する想像力というか、

   共感する神経ってのが親バカじゃなく飛びぬけてた」

マミ「……」コク

詢子「‥相手が人間じゃなくてもな」

マミ「いまもそうですよね」

詢子「あいつの長所はそこだ。でも決して人に損はさせないが自分は傷つく、

   それも磨けば磨くほど、伸ばせば伸ばすほど。そういうシロモノだ」

マミ「これだけは言えます。彼女がいなければわたしたち……暁美さんや美樹さんも、

   風見野の後輩も、ばらばらになっていました。

   謙遜ではなくわたしではとてもまとめられなかった。

   皆が彼女のためになろう、そう思えるまどかさんがいたからこそここまでこれたんです」

詢子「そう心から思ってくれる友達に出会えて、あいつはほんとにしあわせだな。

   とても運がいい」

マミ「わたしのほうこそそう思います、まどかさんと出会えて」

詢子「…ありがとう。

   ……ともかくさ、こういう言い方はなんだけど、

   まどかとはどうも表面的なやりとりになっちまうんだよ。

   もちろん知とだってよっぽど間違ってるとき以外は口を出さないように決めてるけど、

   なんつーのかな、こう親として贅沢いうと、

   もっと欲を出していろいろ葛藤を味わってもいいんじゃねーかな、と思うんだ。

   あんたは大人とぶつかったりしないかい?」

マミ「いいえ。ぶつかるほど近くに大人がいないというか。

   でも、感謝してます。

   私欲をもたずに財産を管理してくれて、わたしの意思を尊重してくれる。

   そんな人が親戚にいたから」

374: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:11:31.84 ID:MP+sbPTio
詢子「そうか…。

   そいつはよっぽど、あんたの父さんと母さんがいい人たちだからかもな」

マミ「(ペコ…)…それはそうと、でも、鹿目さんのおっしゃること、分かるような気がします。

   今の彼女のままでいてほしい。それと同時に、

   わたしもまどかさんにはいい意味でたくましくなってほしいとも思います」

詢子「(クス)…いやあ、変な話しちまったかもしれないな。

   魔法少女の活動に関してはあいつをすぐ認めてやれねえけど、それ以外はさ、

   気にしないであんたの思うように接してやってくんなよ」カキカキ

マミ「はい。ときに壁になったりするかもしれませんが」

詢子「ああ、頼む」



~~ほむらの部屋の近所~~


QB「――きゅっぷい。そろそろマミの部屋にもどるよ。

   じゃあね、二人ともおつかれさま」ピョコピョコ

まどか「おやすみ、キュゥべえ」

ほむら「気をつけて。またね」

まどか「…だいぶ遅くなっちゃったね。帰ったらすぐ宿題しなきゃ。

    ほむらちゃんはもうやった?」

ほむら「ううん、わたしもこれから」

まどか「…ねえ、ほんとうに大丈夫? お電話、明日にしたら?

    さっきの戦いでほむらちゃん…」

ほむら「(ニコッ)平気だよ。――わたしもま…法少女だもの」

まどか「おお~~」ニカ

ほむら「…うん。‥早乙女先生がわたしのためを思ってくれてるのなら、早くしなきゃ」

まどか「(コク)…わたし、たぶん起きてるから。

    もしなにかあってわたしでよかったら、いつでも電話して」

ほむら「ありがとう。鹿目さんもあまり無理しないで、休んでね」

まどか「うん、ありがと。それじゃ、とりあえずおやすみなさい!」フワァッ フゥゥ…

バシュッ

ほむら「(フリフリ…)……。そうよ、わたしが鹿目さんを守らなきゃ」スッ

スタスタ…


QB「……魔女一体倒すのに消費した魔力が、その魔女のグリーフシード1個分か」

クル… ピョコピョコ

375: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:12:13.67 ID:MP+sbPTio

お姫様と道化師

霜月はるか、作詞:日山尚、作曲:霜月はるか、編曲:弘田佳孝

376: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:16:58.34 ID:MP+sbPTio




~~週末、まどかの家~~


知久「あらためまして、暁美さん、本日は忙しいなかお越しいただきありがとうございます。

   美樹さんは今後について、我々がここで話し合った方針に沿いたいとのことです。

   難しいこととなりますが、子どもたちの将来にとって何が良いか、

   担任の早乙女先生と我々親同士で考え決めていきたいと考えております。

   どうぞよろしくお願いします」

ほむら父「こちらこそ、日ごろ娘が大変お世話になっております。

     早乙女先生、鹿目さん。

     今日はひとつお互い遠慮なく話し合っていきましょう。

     よろしくお願いいたします」ペコ…

知久・詢子・和子「……」ペコ…

ほむら母「……」

まどか(この人が……、ほむらちゃんのママ……)ポー…

ほむら(……)

マミ(鹿目さん。気を引き締めて)

まどか(は、はい……)

知久「ではさっそく。早乙女先生、お願いします」チラ

和子「はい。まずさやかちゃん、ほむらちゃん、まどかちゃん、そして巴さん。

   子どもさんとご家族がいわれのない噂に悩まされているという現状を、

   担任教師として陳謝いたします。

   日頃、生徒とよく接する立場でありながら大事に至るまで看過しましたこと、

   誠に申し訳ございません」

スッ ペコ…

377: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:21:00.02 ID:MP+sbPTio
ほむら父「先生、お座りください、どうか。

     見過ごした責任についてなら我々も問える立場ではありませんから。

     一人暮らしを始めれば人様にも迷惑をかけることを覚悟して娘を送り出しました。

     先生にも大変なご心労をお掛けしてすみませんが、

     どうか最後まで娘達を見捨てないで下さい」ペコ…

和子「(ストン…)皆さまの元通りの日常が回復されるよう尽力させていただきます」

詢子「元通りは難しいんじゃないかな。あたしは巴ちゃんに頼んで、魔女をこの目で見てきた。

   あの恐ろしいのと渡り合う力と役目を負ったこの子たちと、あたしたち親と。

   巴ちゃん、キュゥべえと交わした魔法少女の契約ってのは解消できるのか?」

マミ「いま確かめます。(チラ)………。……すみません。できないそうです」ギュッ…

詢子「あんたが謝ることじゃないよ。

   バックレるような子には最初から声を掛けないんだろう、(チラ)そいつは」ニヤリ…

マミ「……」

和子「辞めることはできなくても、魔法少女をお休みする、ってことはできる?」

マミ「それはできます。わたしが皆の魔力を回復できるよう、

   グリーフシードを確保しますので」

和子「周りの子がどう思うかしら」チラ

まどか「そんなのダメです、マミさん」フリフリ

ほむら「賛成できません」

マミ「できなくても、わかってもらうほかありません」

まど・ほむ「…っっ」

ほむら父「巴さん。

     何もあなたがた魔法少女‥だけが全てを背負う必要はないんじゃないでしょうか」

マミ「とおっしゃいますと……」

ほむら父「娘の話を聞く限り、これは社会全体で対策を取るべき問題です。それに、

     まず親の立場からすると、子どもが危険なことをしているのはとても心配ですよ。

     辛いことを言いますが、

     ご両親だってせっかく助かった命を無駄にしてほしくはないでしょう」

マミ「事故に遭ったとき、自分だけが助かるよう願った娘でもですか?」

ほむら父「そうです。あなたが大切に育てられてきたのはさっきから話していて分かる。

     自分の娘が幸せな人生を歩めるよう、

     できるだけのことをしてやりたいという意味で生きていたかったとは思いますが」

詢子・知久・和子「……」

378: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:25:01.22 ID:MP+sbPTio
マミ「……。たとえ父や母がそう思ってくれていたとしても、

   放り出したくないのです。

   最初はキュゥべえに言われて義務で始めた部分もありましたが、

   今はわたし自身の意志で最後までこの務めを果たしたいと考えています」

ほむら父「生き残った負い目を感じているのではないですか」

マミ「もちろん感じていますし、そうでなかったらわたしではないとも思います。

   だからといって自分の人生を粗末にしているつもりはありません」

ほむら父「わかりました。

     ただ、全部をあなたがた以外の人々に一任する、というのではなく、

     市や消防や警察に事情を説明して地域として対策をとる。

     魔法少女はそちらに協力する、といった形ではどうですか」

マミ「それは……」

知久「そうですね。魔女の発見や対処の仕方を一番分かっているのは巴さんたちです。

   対策をとるには魔法少女のノウハウが必要になりますからね」

まど・ほむ「……」コク

ほむら母「…ちょっといいですか」

マミ「はい」

ほむら母「わたしは魔法少女だとか魔女だとかキュゥべえとか、

     正直あなたたちの話している言葉についていけないんですが」

マミ「……」

ほむら「ママ、どうして信じてくれないの?」

ほむら母「だったらママの前で変身してみせなさいよ!」

ほむら「……っ」

マミ「…暁美さん」

ほむら「できません…っ。そんな理由で……!」

マミ「……」

和子「……ほ」

詢子「暁美さん。さっきも言いましたがあたしはここにいる巴ちゃんが魔法少女に変身して、

   魔女と戦っているのを見てきました。

   にわかには信じがたいかもしれないが、事実です」

ほむら母「キュゥべえというものも存在すると?」

詢子「あたしには見えません。

   でも巴ちゃんやほむらちゃん、まどかには見えている」

379: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:28:58.40 ID:MP+sbPTio
ほむら母「その話を警察に話して信じると思いますか?

     ただでさえわたし達が怪しく見られているこの状況で」

詢子「確かにそこがネックなんだよなあ……」

和子「状況を変えるためにもまずさやかちゃんの疑いが晴れなければ……。

   巴さん、それまで魔女と戦わずにやり過ごすということは可能?」

マミ「その間、わたし達自身の魔力が尽きれば、

   二度と魔女に対抗することができなくなる恐れがあります。手持ちのぶんが尽きたら、

   落ちているグリーフシードを探して回復する以外に手段がなくなりますし、

   たやすく見つけられるものではありませんから」

詢子「上条くんの力を使うってわけにもな……」ウーン…

マミ「……」チラ

まどか「あ…、話しちゃいました、ぜんぶ……」

マミ「いえ……、そのほうがいいわ」

詢子「そういえば知、上条くんのご両親は……」

知久「一応電話してみたんだけど、こちらが名乗るなりお母さん、

   『うちの息子がとんだ迷惑を…』とか、なぜか一方的に謝られてしまってね。

   とりあえず魔法少女のことについて、一通り説明を聞いてもらって誘ったんだけど、

   『周りのことを考えない無神経な男ですから、

    みなさんも遠慮せず何にでも使ってやってください』って」

詢子「なんでそうなるんだ……。まどか、何かされたのか?」

まどか「謝らなきゃいけないようなこと上条くんはわたしにしてないよ?

    逆にわたしたちが助けてもらってるのに…ね?」

ほむら「うん」

ほむら父「助けてもらっている……?」

マミ「ええ。彼自身、危険を冒してわたしたちの魔力の回復に貢献してくれているのですが。

   いったいどうして……?」

ピンポーン

380: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:33:00.66 ID:MP+sbPTio
知久「すみません。(スタスタ ピッ)はい。――あ、これはどうも…」ピッ

知久「(クル…)…上条さん」

詢子・和子「!」スッ

―――


ドウモコノタビハホントニー ホラアナタモアヤマリナサイ …スミマセン

イエソンナコトハ… コノコハムカシッカラ… ハァ…

―――
――


知久「(ストン…)失礼しました」

詢子・和子「(ストン…)……」フゥ…

ほむら父「いえ。それで誤解は解けたんですか?」

知久「ええ、なんとか。

   さやかちゃんは彼の幼馴染なんですが、

   小さい頃から彼女を守ろうとよく周りの子と衝突することがあったようで。

   我々に対してそういった問題は一切起こされていないということは、

   お母さんに分かっていただけたんですが」

まどか「あ、そういえば。

    上級生の子とけんかしたことがあるってさやかちゃん、言ってたことあった」

詢子「いつ?」

まどか「四年生のときかな。

    たまたま六年生の階を通りかかったさやかちゃんが、教室の中で、

    一人の子が周りの男の子たちから蹴られたりしてるのを見て止めに入ったんだって。

    そしたら逆にさやかちゃんが叩かれて…。後で上条くんに問いつめられて話したら、

    次の日その教室に一人で乗り込んでいってリーダーの子を泣かせたって……」

ほむら父「ほう」

詢子「やるな」

知久「ママ…」ハハ…

ほむら母「……たびたびそういうことを起こしたのね」

和子「過去はどうあれ少なくとも鹿目さんたちに暴力を振るったりするなど、

   上条くんに限って絶対にない。とても大人しい賢い子なんです」

知久「先生からもそうとりなしていただいて、上がってくださるようお願いしたんですが。

   息子が自分の責任で行動していることなのでそちらで決められたことに私達は従う、

   なんだったらここに上条くんだけ置いてあとで報告させるの一点張りで」ウーン…

詢子「それなら息子さんもいま手術を控えて大事にしなければならない身でしょうから、

   話し合いの内容はこちらから電話でお伝えしますって帰ってもらいました」

ほむら父「そうですか……」

――トッテッタ… ガチャ…

タツヤ「……」ゴシゴシ

381: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:37:01.08 ID:MP+sbPTio
知久「タツヤ。もう起きたのか」

タツヤ「…おじいちゃん、だーれ?」

知・詢「っっ」

ほむら父「おじいちゃんはねえ、ほむほむのパパなんだよ。タツヤくん」

タツヤ「ふーん。パパ、それおやつ?」

知久「いや、これは……」

ほむら父「ちょうど時間もいいですし、

     せっかくの上条さんのお心遣いですからいかがでしょう」

知久「(コク)ではみなさんで……。タツヤ、1個だけだぞ」

タツヤ「うん。ママ、これは?」ガサ

詢子「ほむらちゃんのパパとママがくれたの。あとで大事に食べような」

タツヤ「えー」

ほむら父「タツヤくん。そのお菓子いっこ食べて、

     いまがまんしたら晩ごはんがおいしくおいしくなるだろ。

     それでおじいちゃんのお菓子をまたあした楽しみにできる。どうだい?」

タツヤ「うーーん…………がまんする!」コク

ほむら父「おお、そうか。鹿目さん、賢い子ですねえ」

知久「どうも…」ペコ

詢子「タツヤ。ほむらちゃんのパパとママになんて言うんだ?」

タツヤ「ありがと、ほむらちゃんのパパとママ!」

ほむら父・母「どういたしまして」ニコ

マミ「……」ニコニコ

タツヤ「おねーちゃんは?」

まどか「わたしの先輩の巴マミさん。えーと、すっごいんだよ!」

マミ「すっごいって……」タハハ

まどか「あ、なんていうか一言じゃいえなくてえーと……」

マミ「巴マミです。お姉ちゃんと仲良くさせてもらってます。よろしくね」

まどか「はぅ…」

タツヤ「これなに?」グイ

QB「!?」

ほむら母「……!」

タツヤ「うごいたー」ミョーンミョン

QB「マミ、助けてくれ」

382: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:41:01.95 ID:MP+sbPTio
マミ「その子はキュゥべえ。わたしの大切な友達なの。

   キュゥべえ、ちょうどよかったわ。タツヤくんの相手をしていてくれないかしら」

タツヤ「あはは、くーべえ、くーべえ!」クルルーン

まどか「タツヤ、乱暴しないの!」

QB「マミ、助けて」

マミ「悪いけどあなたにしか頼めないの。わたしのぶんのお菓子あげるからお願いね」

QB「助けて……」

まどか「わたしタツヤがやり過ぎないように見てます。

    みなさんの話が聞こえるところにいますから」スッ

マミ「うん。…ところであの犯人……、美樹さんの潔白の証人ですが、

   げんざい風見野の子が探索しています」

詢子「佐倉杏子ちゃんだな」

マミ「はい。連絡がないのでどうなっているのかは分かりませんが、

   彼女ならきっと連れてきてくれます」

詢子「なら、さやかちゃんの疑いが晴れたあとどうするか、そこに焦点を絞りましょう」

ほむら母「――どうするも何もありません。

     娘たちがこんないつ死ぬとも知れないことを続けるなんて絶対に認めないわ」

詢子「……確かに」

知久「しかし逆に、さっき巴さんがおっしゃったように魔女退治をいっさいしなくなると、

   ゆくゆくはこの子たちが魔女と戦う力がなくなってしまう」

ほむら父「国や自治体が魔法少女の存在を認知してくれないかぎりは……、」

マミ「……」

ほむら父「我々は戦うべきか逃げ続けるべきか、

     2つに1つを選択しなければなりませんな。それも悠長にはしていられない」

ほむら「――にげる?」ピク

ほむら母「ほむら…?」

スクッ…

ほむら「ええ。逃げましょう、みんな。いますぐ…ここから……っ!」ブルッ…

まどか「ほむらちゃん……?」

383: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:45:02.95 ID:MP+sbPTio
ほむら「(チラ)……そうよ。悠長になんてしていられない……、

    ――ワルプルギスの夜がもうすぐこの街に来るんだから!!」

まどか「……夜って……?」

マミ「ワルプルギスの夜。わたしたちにとって最悪の相手と言える、最大最強の魔女。

   いえ、彼女は魔法少女を敵とすら認識していないかもしれないわ。

   結界に隠れたりせず、ランダムに時と場所を選んで出現するそうだから」

まどか「魔女…、結界がないんですか……?」

マミ「(コク)具現した場所が彼女好みの庭と化す、と言えるかもしれない。

   彼女は人間が紡いできた歴史、築いてきた文明、それらすべてを否定し滅ぼす。

   相変わらず普通の人には姿が見えないから、

   被害は地震や竜巻といった大災害として誤解されるけど」

詢子「そいつは今まで――現れたことがないのか?

   魔法少女が敵にもならないほど強いやつなら今頃この世界は――」

マミ「あります、世界中で幾度も。

   わたしはキュゥべえから聞いただけでじっさいに遭遇してません。

   しかし書籍の中には彼女の姿が描かれたものも存在します。

   …彼の話にしても文章にしても、語られる情報が真実ではないと思いたいのですが」

詢子「魔女が? その本は魔法少女にしか読めないって類のもんか?」

マミ「いえ、ネットや図書館のレファレンスサービスを利用すれば閲覧できるものばかりです。

   中世から各地の都市部で時代を変え場所を変え……。

   魔法少女でなくても見えないものを見る人はいますから。

   なぜ人の世が滅び尽くされていないのか、ですが、

   魔女はいま申し上げたような目的を果たそうとするのではなく、

   絶望のままに漂って、ただその性質に従うだけの存在なんです。

   恐らくワルプルギスにとっては戯れているだけにすぎない。

   気まぐれに現れ気ままに去る、といったところでしょう」

詢子「例えば見滝原にワルプルギスが現れた場合、被害はどうなる?」

マミ「…犠牲者は‥少なくとも何千人となる。

   建造物は彼女の通り道に位置している場合、耐震強度に関係なく全て倒壊します。

   ――暁美さんの言ったとおり、来るとしたら」チラ

タツヤ「あははは、あはははっ」グニーッ

QB「まどかぁ…」

まどか「(ハッ)あわわっ、タツヤ! だめ、キュゥべえが痛がってるってば!」グッ

ほむら「…巴さんも……鹿目さんも……死にました…っ」ギュッ…

ほむら母「ちょっと…、ほむら」

タツヤ「くーべえいたいっていってないよぉ」グイグイ

マミ「……どういうこと?」

ほむら「わたしは‥未来から来たんです」

384: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:49:46.03 ID:MP+sbPTio
―――
――


ほむら「(ペコッ)ごめんなさい。いままで黙ってて。

    もしかしたらわたしの杞憂で今度はワルプルギスは来ないかもしれない。

    前と違うことだって起こっているし。

    逆に全く同じことも起こっているから、来るとしたら……あんな……」

まどか「(フリフリ)わたしも自分だったら話しづらいと思う。

     ほむらちゃん、それで色々抱えてたんだね」

マミ「(フゥ)…………これでなぜあなたが知らないはずのことを知ってるのか合点がいったわ」

ほむら母「あなたは……それで何もかも一人で解決しようなんて……親を騙してたのね!?」

タツヤ「?」クル

ほむら「っ、騙すなんて…」

ほむら母「だってそうでしょう!

     わたし達がどんな思いで一人暮らしを認めたか分かってるの!」

ほむら「だって…、ほんとのこと話したら頭おかしいって思うでしょ!?」

ほむら母「思うわよ! 同級生のことがなかったらずっと黙ってるつもりだったの!?

     せっかく分かってたって意味がないじゃない!!

     命が危ないのに何をのんびりしてるのよ!!」

ほむら父「ママ」

タツヤ「……」

ほむら母「……」

まどか「あ、あの! ほむらちゃんは、えと、一人暮らししたのは、

    お父さんとお母さんを巻き込みたくなかったからだと思うんです」

ほむら母「わかってるわ。そんなことは……」

まどか「……」

マミ「…すみません。以前に、暁美さんがワルプルギスの存在を知っているらしいこと。

   あらかじめ魔女がいつどこに現れるか分かっていることを聞かされました。

   そのときに理由を尋ねていればもっと早く……」

知久「どうかな。僕たちがいま巴さんやほむらちゃんの話を信じられるのは、

   一連の過程があってのことだからね。

   それにまず第一に、君たちは皆のためを思って行動してくれている。

   僕らが感謝こそすれ、それこそ君たちが謝ることなんてない」

マミ「……」ペコ…

詢子「うん。ほむらちゃん、話してくれてありがとうな」

ほむら「すみません……」

385: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:53:48.31 ID:MP+sbPTio
詢子「(スッ)ほらほら、くよくよしないっ。(ポンポン)」

ほむら「……」コク…

詢子「(トサ)……それで、辛いことを聞いてすまないが、……」

ほむら「……」

詢子「この月末にくるワルプルギスで……、まどかと巴ちゃん以外には、

   ……誰が亡くなったか、正直に教えてほしいんだ」

ほむら「………………みんな、です」

詢子「‥お父さんとお母さんも?」

ほむら「(フリフリ…)…避難先が違ったから。

    体育館のほうへ、鹿目さんが守ろうと向かっていって。なのに。……ッ」

詢子「わかった。ごめんな」

ほむら「……ッ」

マミ「わたし達はどこまで戦えてた?」

ほむら「…あれは……、戦いと言えるようなものじゃなかった。全く……」

マミ「…そう。そうでしょうね」コク

ほむら「だから…、だからみんなで逃げなきゃ……!」

和子「ほむらちゃん。それを実現するのはとても難しい」

ほむら「先生……!」

ほむら父「先生のおっしゃるとおりだ。今、我々の話を誰かに信じてもらえる可能性は低い。

     ましてや、見滝原の市民全員となると、だ」

知久「僕は僕の家族を守りたい。

   それからこの話を信じられる人達だけ早急に避難の準備をすべきだと思います。まどか」

まどか「え」

知久「君の友達でこの話を信じてくれそうな人はいるかい」

まどか「…友達……」

知久「巴さんはどうですか?」

マミ「クラスに限って言えば、親しい友人はいないのでわかりません。

   変人扱いされるのを覚悟のうえで演説するというのなら話は別ですが」

詢子「ああ…、それは控えといたほうがいいかもな」

マミ「はい。それにわたしはこの街を離れる気はありません」

詢子「(ジッ)死ぬ気か?」

マミ「(ジッ)自分だけ生き残るのが嫌なんです。わたしはこの街で生まれ育ちました」

詢子「……」

マミ「……」

詢子「……そこまで言われるとなあ……」

386: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 19:57:49.22 ID:MP+sbPTio
知久「こまったな…」

詢子「たとえばウチのまどかの首に縄かけて引きずっていってもだ。

   当日の朝、布団がもぬけの空で書き置きだけピラッと認めてあったりな。

   そうしようと思ってるんじゃないか?」チラ

まどか「あっうっ…」カァ…

詢子「(ハァ…)くそっ……、ヴェスヴィオ山の噴火を目にするポンペイ市民の気分だな」

ほむら父「(クス)正確には彼らに該当するのは我々ではなく見滝原市民ですが、しかし……」

ほむら母「しかしも何もないわ。

     そのナントカが来ようが来まいが最悪を想定して行動すれば済む話でしょう。

     早乙女先生、わたしたちは子どもたちとこの街から避難します。

     話が信じられる人だけそうするべきよ。

     警告を無視した人がどうなろうと自己責任でしょう。

     学校の生徒さんたちには先生からそれとなく伝えてくれますか?」

和子「はい。わたしも巴さんやまどかちゃん、ほむらちゃんやさやかちゃん、

   それから風見野の…」

マミ「佐倉杏子です」

和子「佐倉杏子ちゃん。その皆が避難すべきだと思います。

   他の生徒さんたちにも責任をもって対処させていただきます」

ほむら母「お願いします。ねえ、あなた達もそれでいいでしょう?

     ほむらが言ったことを信じてくれるなら、前もって避難できるチャンスじゃない」

マミ「おっしゃるとおりです。皆が避難してくれるなら」

ほむら母「だから、あなたがそんなかっこつけた風な口を利くからほむら達が真似するのよ!」

マミ「申し訳ありません。

   わたしは失うものがないので軽はずみにみんなを――」

ほむら父「巴さん、そんなことはない。断じてない…ッ!

     ほむらもまどかさんもあなたも無限の可能性に満ちた存在だ。

     あなたは既にうちの娘の人生に関わっている、

     それもただの学友以上の存在なんだ。

     お互いこれから人生を切り拓いていこうというのにそれは物凄く悲しい言葉です。

     あなた自身の人生を愚弄していますよ……!」

マミ「……」グッ…

詢子「…………」

387: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:02:04.18 ID:MP+sbPTio
ほむら母「まどかちゃん、あなたも。死ぬと分かっててバカなことはしないでちょうだい」

まどか「わたし、は…」

ほむら母「聞き分けてくれるわね?」

まどか「わたしは、だから…、一人でも街から離れない人がいるならその人達を守ります!!」

ほむら母「なっ…」

詢子・知久「…ッ」

タツヤ「…ねーちゃ?」

まどか「マミさんがそうするからじゃない。ほむらちゃんのパパが言ったみたいに、

    みんな大事で、絶対に死んじゃいけないから。その人達を守るために戦います!!」

ほむら父「娘の話では君には全く歯が立たない相手だ。

     市民の身代わりにすらならずに倒れて、

     君を助けようとした仲間も巻き添えで死ぬ。

     君が守ろうとした市民も当然亡くなる。それでも残ると言うのかね?」

まどか「それは…」

ほむら「わたしも残る。鹿目さんが死なないようにわたしが守るわ!!」

ほむら母「ダメよ! そんなの許さない。あなただけは…、私達と東京に帰りなさいッ!!」バッ

バタ ガシッ

ほむら「放して!!」ブン

ほむら母「離さないわ! あなたはまだ子どもよ、親の言うことを聞くの!!」ギュウッ

ブンッッ バッ フワアッ

ほむら「鹿目さんを残していくくらいなら…、

    この街中に爆弾を仕掛けてみんな滅茶苦茶にしてやるッッ!!」

ほむら母「っっ」

ほむら「……ッッ」カシ…

バチイインッッ

ほむら「っ」ユラ…      カチャンッ…

マミ「……っっ」

ほむら「……」

マミ「あなたなんか死んでしまえばいい!!」

ほむら「――――」

マミ「こんなに心配してくれるお父さんお母さんをもって……、

   その気持ちをないがしろにして……、すこしは考えて!!」

ほむら「‥なによ…、なによ……っ!!

    いつも自分だけ悪者になろうとして…、わたしは赤鬼の役はまっぴらよ!!

    そんなに独りになるのが怖いのッ!?」

マミ「……っ」

タツヤ「うぁ…うあぁーーーん…」

ほむら「……っ」ダッ バタバタッ…

ほむら父・母「ほむら!!」

詢子・和子・知久「ほむらちゃん!」

388: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:06:09.69 ID:MP+sbPTio
~~まどかの家の前、路上~~


タタタッ… 

ほむら(どうして…、どうして……!)タタ…

まどか「ホムラチャン!!!!!」

ほむら「(ハッ)っ」クル…

ガバッッ

ほむら「!?」

マミ「(ギュウッッ…)――認め、ない、わよ――」

ほむら「――」

マミ「…あなたがどこへ去ろうと知らない……! 爆弾を仕掛けるのを止めるだけだから…、

   互いを利用するだけなんだから……っ」ギュウウ…ッ

ほむら「(ガシッ)バカにしないで……、あなたは…っ」フリフリッッ…

――タタッ ガバァッ

まどか「わたし…ほむらちゃんが、悪い人になるなんて嫌だよ……ッッ!!」ギュウウッ…

ほむら「……ごめん…っ…なさい……。でもわたしは、必要ならする……!」

まどか「だめだよ……! やめるって言うまで放さないもん…!!……っっ」ギュウウ…ッ

ほむら「…っ。(クル…)そう、ね…、マミ……! わたしもあなたの元を離れないわ……!」

マミ「……!?」ユル…

ほむら「わたしがあなたと決めたことをやめる……!

    たとえ1番じゃなくたって、あなたはわたしの友達よ……!

    憎みあったり嫉みあったりしてもそこで終わるわけがない。

    あなたも変わりなさい、マミ……!」

マミ「変える必要なんてない。あなたが変わろうとどう見られようと、

   それがわたしの信じた正しさだから。それがわたしだからよ」

ほむら「ならわたしもあなたを認めないわ。認めないし、離れない」

マミ「……」ジッ…

まどか「……っ、…っ」

ほむら「(ジッ)…。(チラ)……」ナデ…



~~まどかの家の前~~


ほむら母「…ほむらぁ……」ヘタリ

ほむら父「(ギュッ…)先生。鹿目さん。……もう一度、娘と話し合います」

和子「……」ペコ…

知久「…はい。僕らもそうします」

389: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:10:14.02 ID:MP+sbPTio
~~まどかの家~~


詢子「よしよ~~し、キュゥべえどこかなあ~~?」ユーラユーラ

タツヤ「(ユーラユーラ)こえ…」ムンズ

詢子「お、いたのかあ。かくれんぼお上手だなー」

タツヤ「くーべえ、いるもん…」ムギユ

QB「ちょっと……」ギュゥ

タツヤ「……。あう? (チラ)まろか?……(コク)うん、だいじするーー」ユル…

QB「(ナデナデ…)ふはあ…」

タツヤ「ママー、ほむほむのめがねだいじして、て」ズズ…

詢子「お、おおそうだな……?」スタ…  ス… チャッ…


390: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:14:16.19 ID:MP+sbPTio
~~さやかの家、玄関~~


ピンポーン

ガチャ

恭介「よう」

さやか「よう」

スタ… ゴソ バタン カチャリ…

恭介「おばさんは?」スタスタ

さやか「そろそろ帰ってくると思う」

恭介「…元気?」

さやか「…に見える?」

恭介「…ぜんぜん」

さやか「……」

恭介「……」

さやか「悪い。このとーり、もてなしなんかできそうにないんだわ」ハハ…

恭介「そんなのいらん。さやかは何がしたい、今」

さやか「‥寝たい、かな」

恭介「じゃ、付き合うよ」

さやか「いや、でもさ」

恭介「いないほうがいいか?」

さやか「別に」


~~さやかの部屋~~


ガチャ  スタスタ  ガラガラピシャッ

恭介「…」バタン…  スタスタ ストン…

さやか「(ギシッ)毎日、学校の宿題とか届けに来てくれてありがとね」

恭介「おたがいさまだからな」

さやか「――家んなかまでくるのは初めてだね」

恭介「ほんとうは今日は来るつもりじゃなかった。今しがたおふくろに尻を叩かれたんでね」

さやか「……ドアホ」

恭介「まあ、失礼なことしてるよな」

さやか「何で来てくれなかったの、あんただけ……」

391: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:18:17.02 ID:MP+sbPTio
恭介「……それ、分かってて訊いてる?」

さやか「確認したい」

恭介「君が助けるべき人を君は助けられなかった。

   僕が自分から部屋に入ってまで引きこもってる君に会おうとするのは慰めることになる」

さやか「……」

恭介「ママの言いつけとなりゃ従わざるを得ないからな」

さやか「マザコン」

恭介「すまんな。………」

さやか「……弱ってる幼馴染にかける言葉ってなかなか見つからないもんでしょ」

恭介「ははは」

さやか「あたしはね、あんたに言わなきゃならないことがある……」

恭介
「何?」

さやか「あの男の人を助けようとしたときにね、……人工呼吸と心臓マッサージして……」

恭介「やるじゃん」

さやか「だから、…あたし達ってまだキスしたことないでしょ」

恭介「そうだな」

さやか「その…だから…」

恭介「……君にとって大事なことかもしれない。

   だから、話さなきゃ気が済まないってのなら聞くけど、

   僕に話す義務があることとは思わない」

さやか「そうだよね……。こんなことあんたに話すなんて……」

恭介「違うよ。僕らはまだキスしたことがないって言ったよな」

さやか「うん」

恭介「つまり君と僕とのファーストキスはまだだってことだ」

さやか「……」

恭介「いつになるやら分からないけど思い出に残るようなですね」

さやか「口に出していうことかなあ。その前に別れてるかもしれないでしょ」

恭介「(ニコ)たとえ振られたって君をどこまでも追いかけるさ」

さやか「あんた絶対ストーカーの素質あるわ」

恭介「いまごろ気づいたか」

さやか「でもどうだか。あんた優しいもん」

恭介「ストーカーの優しさほど怖いものはないんだぜ?」

さやか「…まぁあんたはあたし以外に満足できる女なんていないもんね」

恭介「自分でいってりゃ世話ない」

さやか「おい」バシ

恭介「……」

さやか「あ、痛かった?」

392: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:22:18.76 ID:MP+sbPTio
恭介「いや。……いまのはさ、あくまで僕本位の側の話であって、

   それこそ話さなくてもいいことであって、君にとっては、その……」

さやか「(ギュッ…)…ありがと」ニコ

恭介「(ソ)……。さて、目玉焼きでもつくるか」スッ

さやか「うぇっ!?」

恭介「ろくに食べてないんだろ。あの映画みたいにトーストの上にのせたやつで」スタ

さやか「あ、いや、でもさ」ギシ

恭介「けが人はおとなしく寝てる」ピッ

さやか「アメリカで手術控えてるやつが言うか」

恭介「大丈夫だ、問題ない。譜面読みながら夜食つくるくらい前からやってたさ」スタ

さやか「卵半熟ね」

恭介「食ってるそばから黄身がこぼれるだろ」ガチャ

さやか「あの映画みたいにひとくちで食べるから問題ない」キリッ

杏子「帰ったぞ、さやか」ガララ

さや・恭「おかえり」

杏子「……」ガララ ピシャッ

さやか「杏子、めしだぞー!」

杏子「おお! 腹ペコだわ!!」ガララ ピョンッ ガララピシャッ

恭介「味の保証はしないけど」スタスタ

杏子「食えるもんなら文句は言わねー」スタスタ クル…

杏子「…さやか、元気か?」

さやか「あんたの顔見てすこし元気が出たよ」ニコ

杏子「…」クル バタン


~~さやかの家の居間~~


さやか母「ただいま。あら、おかえりなさい!!」

杏子「あ、おかえりなさい…、(ボソ)ただいま」

恭介「お邪魔してます。ちょっと台所借りるよ」

さやか母「どうぞ。腕、大丈夫?」

恭介「ええ、これくらいなら」スタスタ…

さやか母「なに作るの? 冷蔵庫のでなかったら…」

恭介「(ガチャ…)卵とパンと…、ハムもあるか。これだけ使うねー?」カチャカチャ

さやか母「はーい。杏子ちゃん、どこ行ってたの? 無事だった?」

杏子「ちょっと青春18きっぷみたいな旅を満喫してきたところ。

   さやかにかかってる疑いも夜までには晴れるだろ」パン、パン!

さやか母「?」

393: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:26:20.80 ID:MP+sbPTio
恭介「……」ジッ…

杏子「(チラ)何だよ」

恭介「…いいのか?」

杏子「法を犯すようなことはしてねーぞ、今回は」

恭介「そうじゃなくてさ。君が神棚を拝むって……」

杏子「世話になってる家の神に礼儀を尽くすのは当たり前のことだろ」

恭介「君がいいんならいいけど」

杏子「なら突っ立ってないで早くめし作ってくれよ」

恭介「はいはい」クル スタスタ…

杏子「(クス)礼儀、か。まったくどの口が言ってんだって話だよな」ボソ

さやか母「疲れてるでしょ。お風呂沸かそうか?」

杏子「いいよ。おじさんが帰ってくるまで」

さやか母「でも…」

杏子「あたしがそうしたいんだからさ。

   (ニコ)なんかこうまどろっこしくなくスパスパといこうよ」

さやか母「(クス)そう。じゃ、お茶淹れるから座ってて」

杏子「ああ。(スタスタ…)正直、けっこう疲れた……」ギ ドカッ…



さやか母「杏子ちゃん、お茶よ…」

杏子「(ハッ)ね、寝てたか!」ガバッ

さやか母「寝るならちゃんとふとん敷かないと」スタ…

杏子「(ギッ)いいよおばさん! 起きた、もう起きた!」

恭介「なら冷めないうちにこちらもどうぞ」

杏子「(ギ ストン…)サンキュ。……さやかのは?」

恭介「もう持ってった」ズズ…

杏子「そうか…」

さやか母「ふふ…」ストン…

杏子「…何だよ」ハグ アムアム…

394: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:30:22.01 ID:MP+sbPTio
さやか母「何だかんだでさやかのこと心配してくれてるなあ、て…」

杏子「(ズズ…)……こいつほどじゃねーよ」

恭介「比べるもんでもないだろ」

杏子「まあ、な。でもお前ら、本当に仲良いのな」モグモグ…

恭介「そりゃ母親どうしがそうならそうなるさ」

杏子「昔っからか?」ズズ…

さやか母「そうねえ…」

恭介「互いの家が羽伸ばしたいときに預けたり預けられたりするほどにはな」

さやか母「それで子どもも伸び伸び育ちすぎちゃったのよねえ」

恭介「どっちの話?」

さやか母「どっちもよ」

杏子「違いねー」ニヤリ

恭介「……」


~~週明けのまどかのクラス、帰りのHR~~


和子「あと他に委員さんから連絡は――」

まどか「(バッ)あの、先生! あのっ」

和子「……はい。鹿目さん」

まどか「(スク…)わたし、みんなに知らせたいことがあって」

ほむら(鹿目さん……)

恭介「zzz...」

まどか「……今月のおわりに、とても大きな…台風か、竜巻か‥がこの街に来て、」

仁美「!……」

まどか「どんなおっきなビルでも吹き飛ばしちゃうくらいすごくて……だから、」

ザワ… ヒソ…

まどか「ものすごく危ないから、みんなそれが来るまえに街から避難してほしいんです!」

395: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:34:25.95 ID:MP+sbPTio
シーーン…

まどか「う…」

和子「……」

ヒソヒソ ザワ

ほむら「……。――!?」キョロ

チカチカ……ッ

まどか「(ハッ)――!?」

恭介「……?」ムク…

ほむら「(バッ)す、すみません先生! 気分が悪いので先に保健室に行かせてくださいっ」

和子「(コク)それじゃ鹿目さん、話の途中で悪いけど付き添っていってくれるかな」

まどか「あ、はいっ」スタ


~~渡り廊下~~

タッタッタッ…

ほむら「(ハァハァ…)鹿目さん、急だったね……」

まどか「うん……みんな何言ってるのって顔してたね……ダメだったかな」

ほむら「(フリ…)ううん。わたしが伝えなきゃいけなかったんだ、クラスの子にも……。

    鹿目さんは間違ってなんかない」

まどか「(ニコ)――それはそうと……ほむらちゃん」

ほむら「うん。たぶん学校に魔女が来てる。巴さんにも――」

まどか「(キョロ)魔女――、なのかな。なんか、変な感じが……」キョロ

ほむら「え……?」

まどか「(チラ)――!? (スッ)ほむらちゃん、あっち!」タタッ

ほむら「(チラ)なっ!?――」

396: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:38:26.87 ID:MP+sbPTio
~~マミのクラス~~


担任「受験なんて長い一生のうちの一年か二年だけです。それくらいなんだから――」

コンコン スーッ

教師「先生、巴マミさんにお電話が」

担任「はい。巴さん」スタ

マミ「……はい」スッ


~~廊下~~


スタスタ…

マミ「……変装までできるようになったのね。あなたの魔法」

教師「そう見えてるだけだぜ。まあ職員室にいた奴を見本にしてな。

   つかあんたの担任ハナシなげーな…」

マミ「今回は助かったわ。早いところ抜け出さないとって思ってたの。

   よりによってここに魔女が……」

フゥ…

杏子「ほんとうに魔女なのか、これは……」チカチカ

マミ「え…」

杏子「(チラ)魔力の気配がどうもな。今までと…」

マミ「確かに。でも……」

まどか(マミさん、マミさん。大変です…!)

マミ(ええ。手分けして早く結界を見つけないと)

ほむら(違うんです! 校庭を見てください!)

マミ「……!?」


魔獣「ォオオ…」

生徒達「……」フラフラ

体育教師「うう……」バタ


マミ「何あれ……!?」

杏子「眺めてる場合じゃねえ。(キッ)あたし達の真下にもいるぜ……!」ヂカヂカ

マミ(鹿目さん、ほむら! 校舎内のをお願い。警戒して…、これは魔女じゃない!)ガラッ

まど・ほむ(はい!)

マミ(それからなるべく変身している姿を他の生徒に見られないように注意して)

まどか(はい、姿を消してます!)

ほむら(大丈夫よ、時間停止をうまく使いながらいくから!)

マミ(任せたわ。でもまずこちらの力が通用するかしら……!?)フワァッ フゥゥ…

QB(僕も初めて見る。何なのだろう。

   単体での観測による情報だから正確性は保証できないが、恐らく呪いが発現したものだ。

   君たちの魔法が通じる可能性は高いよ。相手の攻撃に気をつけて戦って!)

397: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:42:47.53 ID:MP+sbPTio
まどか(わかった! ありがとう、キュゥべえ!)

杏子「何者か知らねえが…(トッ)。

   ほっとくと人を喰う奴っぽいなっっ!」バシュ

マミ「(ハッ)結界を使わず校内に直接現れるなんてワルプルギスの……!?」バッ バシュ

QB「(ピョン)いや、君がさきほど言ったように彼女やその使い魔ではない

   君だってワルプルギスやその使い魔のおおよその姿形は把握してるだろう」

マミ「魔女じゃないとしたら、いったい――」ヒュオオ…

魔獣「オオオン……!!」

ピピ――ッガシャガシャアアアンッッッ

キャアアアッ!

マミ「(レーザー!?)ッッ」クル

杏子「マミ、あいつらに任せろ!!」

マミ「……ええ。(タッ)まず自分の持ち場を守らないとねッッ!」ジャキッッパウッッ


~~廊下~~


カシン バババシュウウッッ…

まどか「よし、倒した!」

ほむら「(ハッ)鹿目さん、また湧いてる!」チカチカ

まどか「あっちだね!」タタッ

ガシャガシャアアアンッッッ

ほむら「この学校ガラスが多すぎる!」タタッ


~~まどかのクラス~~


ザワザワ…

中沢「うわ、あっち全部割れてるよ…」

和子「様子を見てきます。みんなは外に出ないでね」スタ…

魔獣「ヌオオ…」ユラ…

恭介「(ハッ)先生、戻って!!」ダッ

和子「え?――」クラ

恭介「っっ」バッ

ドサッ…

ザワッ…

中沢「お、おい。どうしたんだよ…」ス…

398: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:46:49.50 ID:MP+sbPTio
恭介「来るな中沢!!」ガバッ

中沢「!?」

魔獣「……」ヌウウ…

恭介「(バッ)……ッッ」

仁美「上条くん!」

ドンッ…

恭介「志筑さん!?」ノサ…

仁美「うぐ…っ」ド…ッ

魔獣「オオ……」ヌッ…

恭介「くっ……!」ハッ

バシュバシュバシュッッ……

――


ピーポーピーポー…

マミ「鹿目さん」

まどか「マミさん。仁美ちゃんと和子センセーが……」

マミ「(フリ…)よく守ったわ。…キュゥべえ。被害者の容態、あなたの見立てはどう?」

QB「驚きだ。彼ら……暫定的に『魔獣』と呼称するけど、

   魔獣と接触した人間の感情値の急激な低下が見られる。

   どうやら生命力スペクトルの選択的成分吸収に特化した能力を持っているようだね」

恭介「生命力スペクトルの……何だ?」

399: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:50:59.05 ID:MP+sbPTio
QB「僕らが感情エネルギーと呼ぶものだ。

   しかし魔獣たちはこれを媒体から直接取り込んでる。

   ましてや無差別に相手を狙うとなると厄介だね。

   ――それはそうと杏子、魔獣たちを倒したさい、何か拾わなかったかい」

杏子「(ゴソ)ああ、サイコロキャラメルみたいなの落としたから拾っといたぜ」ピッ

QB「(コロッ クリッ…)これは……、やはり呪いの結晶だ。

   形状や大きさは違うがグリーフシードと思ってもらって構わない。

   だが、できたら僕に預からせてくれないか。

   恐らく扱いもそう異なるものではないはずだけど念のためにね」

杏子「ああ。もともとそのつもりで集めたんだよ。

   得体のしれないもんほったからすのも不気味だからな」ゴソゴソ… バラッッ

まどか「そんなことよりキュゥべえ……」

QB「……っぷい。安心して。生命力を吸われたり外傷を負ったりした人が出ているが、

   君たちの対応が早かったおかげだ。

   なかには一時的に入院が必要な人もいるだろうが見たところ重症者はいない」

まどか「でも……」

マミ「あなた達はよくやってくれたわ。犠牲者が出なかったし被害は最小限だったといえる」

恭介「……」

マミ「あなたもね。幻想御手が相手を強化する恐れがある以上、

   言い方は悪いけど何もしてくれなくて、よかった」

恭介「……ッ」

マミ「……今日のこと、美樹さんに伝えておいてくれる」

恭介「……はい」

400: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:55:00.25 ID:MP+sbPTio
―――
――

~~仁美の病室~~


さやか「仁美!!」ガラッ

仁美「……ノックぐらいなさってくださいな、さやかさん」クス

さやか「…仁美」ガララ …パタン

仁美「なんだか本当に久しぶりに顔を見た気がしますわ…、痩せましたね」

さやか「……」

恭介「(コンコン)志筑さん、上条です」

仁美「どうぞ」

ガラ… ペコ スタ…

恭介「調子はどう?」

仁美「大丈夫です。さっきに比べたら元気になっているのを感じていますから。

   ……鹿目さんたちから聞きましたけど早乙女先生はまだ意識が戻ってないんですね」

恭介「…うん」

401: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 20:59:01.20 ID:MP+sbPTio
さやか「…あたしがいれば」

仁美「まったくですわ。さやかさんにはちゃんといてもらわないと困ります。

   雌伏はあっても一時ですわよ、正義のヒーローは」

さやか「……」

恭介「志筑さん、助けてくれてありがとう。

   …あそこで志筑さんがやつとの間に入ってくれなかったら、

   もっと大変なことになってたかもしれないんだ。僕のせいで……」

仁美「……わたしには何も見えませんでしたけど。

   上条くんはその手の向こうに視えていたんですか、あの時……」

恭介「(コク)それに鹿目さんたちに見えていたってことは、

   あいつらは鹿目さんたちが倒すべき存在なんだ」

仁美「あなたも見えるということは…、上条くんはさやかさんの側の人間なのですね」

恭介「うん。そうなんだと思うし、そうありたい」

仁美「――上条くん。さやかさんをお願いしますね」

恭介「(コク)任せてくれ」

仁美「(コク)さやかさんも。

   わたしじゃ上条くんのお役に立てそうにありませんし、身がもちませんわ」ニコ

さやか「仁美」

仁美「好きで横から入ったことです。好きに退かせていただきますわ。

   一般人として及ぶかぎり力になりますけど。

   …そうやって自分を責めてばかりの似たもの夫婦にはのんきな友人も必要でしょうから」

さやか・仁美「……」コク

仁美「ではそろそろ…」

恭介「……すこしでも元気になってよかったよ。じゃ」スタ…

仁美「上条くん、ありがとうございました。

   わたし達は久しぶりですしもう少し…」チラ

さやか「うん」

仁美「では下でコーヒーを買ってきてくださいます? さやかさんのおごりで」ニコ

さやか「は? 仁美、コーヒーなんか飲んで大丈夫なの?」

仁美「はい。積もる話もあるでしょうからぜひっ」

さやか「てゆーかなんであたしのおごりなのよ」

仁美「それは今までのぶんですわっ」

さやか「へぇ、わかりましたよ」

   

402: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:03:01.91 ID:MP+sbPTio
~~次の日、体育館、全校集会~~


校長『――くれぐれも下校時は寄り道しないように』

スタスタスタ…

生徒会『では、次に……?』

スタスタスタ…

恭介「ん……?」パチ…

さやか「え、…先生、まだ入院してたはずじゃ」

…スタ 

まどか「セ、センセ…っ」

ほむ・マミ「――!」

和子『皆さんに大事なお話があります。落ち着いてよく聞いてください。―――』


―――
――




~~下校時、校門前~~


スタスタ…

まど・ほむ「……」

さやか「(ピタ)――ごめん。ちょっとあたし先帰るわ」タタッ…

まどか「さやかちゃん…!」

さやか「(クル)大丈夫、見回りさぼったりしないってーー!(ニコ)」タタ…

QB「ちょっとさやかの様子を見てくるよ」トコトコ…

まど・ほむ・仁美「……」



~~校長室~~


ドンドン!

恭介「すみません!」

スー…ッ

校長「……何かね」

恭介「早乙女先生はどうされてますか?」

校長「これからのクラスのことなら心配しなくていいから君は早く下校しなさい」

和子「上条くん、おっしゃる通りよ。気をつけて」

恭介「先生! なんであんな……!」

和子「驚かせてごめんなさい。

   しばらくクラスのみんなに会えないかもしれないからよろしくね」ニコ…

校長「さ、早く帰りなさい」

スーッ

恭介「……」


403: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:07:13.90 ID:MP+sbPTio
~~路上~~


さやか「(トボ トボ…)……」ジワジワ

杏子「おーい」

さやか「(ハッ)杏子!」クルッ…

杏子「しけた面してんなあ。

   あんたが犯人じゃないってはっきりしたんだから、

   見返すくらいのドヤ顔しててもいいんじゃねーか?」

さやか「あ、うん」トボ…

杏子「なんだよ、学校でまだいちゃもんつけてくるやついるのか」スタ…

さやか「いや、いないよ。そんな子」スタ

杏子「だったらさー、いつもみたいに能天気にしてろよ。

   んで、魔女を見つけたら切り替える! 今までサボってたぶん稼いでもらわないとな」

さやか「ホントそうだね。あたし自分が約束したこと何も守れてない。

    肝心なときに、いなきゃいけないときにいつもいない……ッ!」スタ

杏子「……」スタ

さやか「ゴメン。ちゃんとしなきゃね」スタ

杏子「……グリーフシード使うか?」スタ

さやか「え?」スタ

杏子「それ。けっこう濁ってんじゃん。

   戦ってる最中にガス欠されたらおっかねえし」ゴソ…

さやか「あ……いいよ。自分で手柄たてたわけでもないのに使えない。

    まだ大丈夫だよ」スタ

杏子「そっか。んー、ゲーセンでも行くか?」ピタ

さやか「は? この流れでなんでそうなんのよ」ピタ

杏子「風見野への道すがらにさ。ゲーセンに魔女や使い魔が出るかもしんないだろ。

   他にどっか見回りたいところあるか?」ニヤリ

さやか「……教会」

杏子「……」

さやか「あんたのお父さんの、教会に行ってみたい。ダメ?」

杏子「……いいさ。そうだな、たまには寄ってもいいか」クル スタ…

QB「さやか。本当にソウルジェムを浄化しなくていいのかい?」トコトコ

さやか「……次、魔女を倒せたらね」スタ…

杏子「ほっとけよ。こいつがこうなったら聞かねえから」

QB「……」トコトコ



   


404: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:11:14.96 ID:MP+sbPTio
~~ショッピングモール内のファーストフード店~~


仁美「……先生、学校に連絡せずに来て登壇されたみたいですわね……。

   昨日のことで心の調子を崩されたのでは……」

まどか「たぶんそれは違うと思う。

    あの後、ちょっとお話ししたけど大丈夫みたいだったから」

ほむら「……」コク

仁美「え? まどかさん達はそんな機会があったんですか?」

まどか「うん。(こんなふうに)」

仁美「え……?」ギョッ…

まどか「仁美ちゃん。黙っててごめん」

仁美「……戦いに必要な能力なのでしょうから必要最低限での使用は当然です。

   ところで早乙女先生のおっしゃったこと、本当ですの?」

まどか「(コク…)……うん」

ほむら「実はわたしは一度見たことがあるんです、この街があの通りになったことを。

    それで、この間わたし達の親とも集まって先生に伝えました」

仁美「それはつまり……未来をですか?」

ほむら「(コク)はい」

仁美「暁美さん。(チラ)まどかさん。いったい……いえ。

   先生は……本当に勇気のある方です」

ほむら「……わたしはどこか前のとおりにならなければいいなとも思っていました。

    その、今月末に……」

まどか「わたしもほむらちゃんを疑ってなんかないけど、

    もしかしたらワルプルギスが来ない未来になったり、とかちょっと考えてた……」

ほむら「うん。でも実際その日に何事もなければ、これじゃ早乙女先生が……」

まどか「わたしがクラスのみんなに伝えたこと、先生はかばってくれたんだ」

仁美「……」フリ…

マミ「なに揃ってだんまりしてるの? 冷めちゃうわよ」

ほむら「あ…」

仁美「巴さん」

まどか「マミさん!」

マミ「志筑さん、隣いいかしら」

仁美「どうぞ」スッ

マミ「ありがとう。(カタン)

  (スト…)……と、言ってもわたしも一息つきたいと思って来たんだけどね」ニコ

ほむら「……」

405: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:15:18.75 ID:MP+sbPTio
マミ「志筑さんはどうするの? 先生の話を信じるとしたら街から避難する?」スス…

仁美「それは家の方針しだいですわ。

   もっとも、家の者が…早乙女先生のおっしゃったことを信じるとは思えませんから。

   学校にこれまでどおり通うことになるだろうと思います」

マミ「(コト…)そう……。……わたしの勘だけど、ワルプルギスは間違いなく来るわ。

   暁美さんから話は聞いたのよね?」

仁美「はい、ついさっき」

マミ「今のうちに入れる保険に入って動かせる財産は街の外で保管しといたほうがいいわよ。

   家の人には万が一のためにとでも言って。親が死んでもお金があればなんとかなるから」

仁美「わかりました。伝えておきます」

ほむら「……先生の行動を無駄にしちゃいけないわね」

マミ「それはそうだけど……、どうしたの急に?」

ほむら「だって、先生をこんな風に追い込んだのはわたしだから……」

マミ「ねえ、暁美さん。頑張るのはいいことだけどそう思い詰めなくてもいい。
   
   自分が何のために戦うのか分からなくなるよ」

ほむら「わたしには、責任が…」

マミ「巻き込んだって自覚があるなら、

   むしろ先生が背中を押してくれたんだと考えるべきじゃない。

   戦いに迷いがあれば間違いなくわたしたちが全滅する相手が来ようってんだから。

   わたし達は人々の想いを全て背負うヒーローじゃない。自分の祈りの為に戦うのよ」

ほむら「しかし、来なければ」

マミ「先生も来ないほうがいいって、そう願ってるんじゃないかな。

   あまり答えてくれなかったけど少なくとも先生の話しぶりからはそう感じたわ」

406: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:19:19.36 ID:MP+sbPTio
ほむら「……」

マミ「この際、来るもんだって決めようよ。

   後になって笑われるとしても先生独りじゃないわ。

   わたし達だってその勢いで行かなきゃ」

ほむら「……そうね。巴さんの言うとおりだわ」

まどか「うん……、そうだね」

仁美「よかった……。あなた達はそうであってくれなければ」

まどか「仁美ちゃん、わたし達がきっと街のみんなを守るよ」

マミ「安請け合いしないの。暁美さんの話から推測すると、そんなに簡単な相手じゃないわ。

   仮に倒せたとしても建造物の被害はまず免れないだろうから」

まどか「ううっ……」

仁美「いえ。まどかさん、その意気ですわよ。ファイト!」グッ

まどか「は、はい……!」

ほむら「もう一人、活を入れなきゃいけないわね……」フム

仁美「(ニコ…)そちらのほうはみなさんでお願いします。

   わたしはこんな時にお茶のお稽古に行ってまいりますから」チラ

マミ「(スッ)え、見てみたい。興味があったんだけど縁がなくて」

仁美「(ペコ)……では、来月あたり家にいらしてはいかかでしょう?

   お粗末な点前でよければ…」スタ…

マミ「楽しみにしてる。(パシゴクゴク…トンッ)

   さあ、鹿目さん暁美さん。美樹さん家に行くわよ!」

まど・ほむ「はい!」

407: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:23:19.89 ID:MP+sbPTio
~~さやかの家のアパートの前~~


まどか「上条くん」ゾロ…

恭介「あ……さやか知らない?」

まどか「学校の前で別れたんだけど。まだ帰ってきてないの?」

恭介「うん」

まどか「帰るって聞いてたんだけど。どこ行ったんだろ……。

    さやかちゃん、和子センセーのこと自分のせいだって一人で思い込んでたりしたら」

恭介「(コク)あいつならありうるんだよ」チッ…

ほむら「(クル…)杏子もこの辺りにいないみたいね」

まどか「あっ! 風見野! 見回りには行くって言ってた。

    でも帰るって言ったのに帰ってないし……」

マミ「風見野へ行きましょう」

まどか「え? はい」

ほむら「(ジッ…)心当たりがあるの?」

マミ「彼女、ああ見えて心配性なのよ。他人のことに関しては」クル… スタ



~~路上~~


杏子「(スタスタ)食うかい?」ポン

さやか「(パシッ)……この林檎はどうやって手に入れたの?」スタスタ

杏子「お前からもらった金で買ったけど?」スタスタ

さやか「(パシッ)帰ってきたんなら返せよ! いただきます!」ガブ スタスタ

杏子「(ゴソ)固いこと言うなって。

   お前のバットだってどうせ体育倉庫からガメてきたとかだろ?」チャリン スタスタ

さやか「(ゴソ チャリ ゴソ)か、借りてるだけだもん。ちゃんと返しますよ。

    剣が抜けるようになったら」シャリッ スタスタ

杏子「なあ、お前って何を願って魔法少女になったんだ?」スタスタ

さやか「……まどかや恭介たちが魔女の結界で危ない状況だったんだ。

    それで助かるようにって……」スタ スタ

杏子「かーー、やっぱり! 人のために願うなんてバカなことしやがって!」クルッ 

さやか「あんただってそうじゃん!?」

408: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:27:21.28 ID:MP+sbPTio
杏子「そう。だから言うのさ」…スタスタ

さやか「それにその……ニュースで見たけどあの逃げた男を出頭させたのって杏子でしょ?

    ――ありがとう」スタスタ

杏子「礼なんか言われる筋合いはねえよ。奴を見つけたのはキュゥべえだし、

   ……そもそもあそこで見逃したあたしの不始末だ」スタスタ

さやか「でも、それがもともとのあんたの主義でしょ。なのに……」スタスタ

杏子「だから、その結果世話になってる家の娘がいわれのない疑いかけられただろ!

   とりあえず居候する先は居心地がいいにこしたことねえってだけだよ!」スタスタ

さやか「そんなこと気にするタマかなー……」スタスタ

杏子「もういいだろ? とにかくあんたが気にすることじゃねえ。(ピッ)いいな!」スタスタ

さやか「そっか。じゃあそういうことにしとく。ありがと」スタスタ

杏子「(ギロッ)」スタスタ

さやか「(ニコ)」スタスタ

杏子「チッ…」スタスタ


~~杏子の父親の教会~~


ドゴッ…

杏子「チッ……また来てるな」スタ…

さやか「来てる、って誰が?」

杏子「不良どもだよ。たまり場にしてやがる」

さやか「人の家を勝手に……」

杏子「それにここは祈りの家だ」

さやか「……」

杏子「(フッ…)出来そこないの娘が言う言葉じゃねえか」

さやか「そんなことないよ。出来そこないなんかじゃない」

杏子「……で? ご覧のとおりの廃墟だけど満足かい?」

さやか「すこし歩いて回ってもいいかな」スタ…

杏子「いいよ。ごゆっくり」ガブッ シャリ…

スタ スタ    スタ スタ…

さやか「……それにしてもよく残ってたね、ここ」スタ…

杏子「行政も法律も人の心を惑わせちまえばどうとでもなるさ」シャリ

409: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:31:21.66 ID:MP+sbPTio
さやか「(チラ)そっか。役に立ってるんだ」ニコ…

杏子「……?」

さやか「……ごめんね。あんたのこと、悪く言って」スタ…

杏子「なんだよ、改まって」

さやか「『あんたは周りや父親に怒ろうともしない』って。

    怒ってなかったんじゃない。あんたは怒りすぎて怒る気力もなくなって、

    それでも後悔したくないから全部諦めてたんだね」クル…

杏子「……」

さやか「やりきれなかったに違いないのに、あたし勝手に決めつけてた」

杏子「あえて言うならさ……決めつけられるような生きかたしてるからな。(ポリポリ)

   とにかくもう、気にすんな。お前がそうだとやりづらくて敵わねえ。

   ついでだけど昨日の魔獣の件も『自分がいなかったから~~』とか言うなよ。

   あたしの技量をバカにしてんだとみなすからな」

さやか「……目の前にいた人を助けられなかったのは言い逃れできないよ」

杏子「結界でのことか」

さやか「(コク)調べたんだ。あの人のこと……。

    見滝原の出身で音楽プロデューサーをやってて。

    あの日、自分が手がけた歌手のライブが街で開かれてた。

    応援に駆けつける途中で……」

杏子「そこはニュースで聞いたよ。

   刺した男はお決まりの『死刑になりたくてやった。誰でもよかった』ってヤツさ。

   自分から肩ぶつけに行って因縁つける相手を探して、

   当たったのがあの人だった、ってだけでな。

   事件前から当たる相手探してフラフラほっつき歩いてたんだとよ」

さやか「……目撃者を探してくれたのって杏子?」

410: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:35:22.17 ID:MP+sbPTio
杏子「そんだけ挙動不審なら、

   おっさん連れてこの顔にピンと来ないかって現場周辺で聞き込みゃ、て思ってな。

   んなことより自分で放った凶器の在りかを思い出させんのに苦労したよ」

さやか「あんたのおかげだね。……あの人のことについて何か話してた?」

杏子「ニュースで言ってた以上のことはあたしも知らない。第一、周りの人間が悪い、

   自分の不運をどうしてくれんだ、ってことしか考えてなさそうだし」

さやか「そう。……あたしはね、あの人は肩がぶつかったんじゃないのかもって思うんだ」

杏子「いや、そうじゃなきゃなんで口論になるんだよ。

   あの人だってそのライブに急いでたんだしぶつかってもおかしくないんじゃないか」

さやか「そうかもしれないんだけど……なんとなくそんな気がするの」

杏子「……」

さやか「人を肩書きとか経歴で判断しない人なんだって。

    自分の故郷ですさんだ目をしてフラついてる人を見て、

    ほっとけなかったんじゃないかなって……」

杏子「自分が時間に追われてる時に、わざわざ声をかけたってのか?

   そんな奇特なことしそうな奴なんてそうそう――」

さやか「……」

杏子「――ここにいるな。つまり分け隔てなく親切に声をかけたのが災いした……か」

さやか「あの人――自分の人生を全て否定されたような目をしてた。

    あたしがそんなことはない、あんたの生き様は正しかったって、

    今伝えたくたって……もう……」

杏子「……」

さやか「ねえ、杏子。あの人は死んだのになんであたしは生きてるの?」

杏子「あのな。イエスだって今日会ったばかりの奴が目の前で死んだからって、

   自分も死んだりしねえよ」

さやか「……」

杏子「……あんたはやれるだけのことはやったよ。

   周りから疑いの目で見られても弁解がましい態度は取らなかったしな。

   もしやり直せるとしたら目の前で死んだ人を病院に運ぶのをあんたはやめるか?」

さやか「同じことをする」

杏子「だろ? 縦え分かってたとしてもあんたは同じことをする。それが信念ってやつなんだ。

   だから後悔なんてあるわけないのさ」

さやか「そう……でも」

恭介「さやか!」スタ

杏子「(チラ)ん」

さやか「恭介……」

まどか「あ、ほんとにいた!」スタ

ほむら「お邪魔します」スタ

杏子「なんだなんだ、今日はやけに来客が多いな」

さやか「あんた達……何で」

411: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:39:22.97 ID:MP+sbPTio
まどか「さやかちゃんが心配で。あのね、もしかしたら和子センセーのこと――」

――チカ チカ…

マミ「話は後にしましょう。招かれざる客まで来たみたいよ」

杏子「(ニヤリ)しかもこないだ取り逃がしたヤツときてる。また自分ちで魔女退治とはねえ。

   お出迎えしようぜ――さやか、いけるか?」スタ…

シュッ  スタ…

まどか「さやかちゃん……?」

さやか「(フワァッ…)あたしがもしやり直せるとしたら――」

ジリ…

さやか「――結界に入る時からにしたいよ」

ヒュ ドオオッッ!!!

まどか「きゃっ!」

ほむら「なっ……!」

マミ「こ、これは……!?」

ガン ドォン‥ ゴオッ……

恭介「い、いったいあいつ何を……?」

杏子「信じられねえ……。

   結界の順路を無視して魔女までの最短距離を突っ切ってやがる……!」

恭介「そんなことできるのか?」

マミ「階層を壊せるだけの力とスピードと……いずれにしても莫大な魔力を消費するはずよ」

ズゥン… 

まどか「あ――」

杏子「た、倒した――」

フゥゥ… カツ…

さやか「……」トッ…

412: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:43:26.58 ID:MP+sbPTio
まどか「さやかちゃん」

さやか「(チラ)最初からこうしてれば、間に合ったんだ」ニコ

マミ「――こんな無茶な戦いかた、いくらあなたが強いからって続けちゃいけないわ」

杏子「(ハァー…)その戦いかたが出来ちまうってのが羨ましいけどな。

   にしてもいい加減ソウルジェムを浄化しといたほうがいいんじゃねーか。

   もう真っ黒になってんぜ?」

マミ「そうよ。魔力を余裕をもって使えるコンディションに保つのは――」

さやか「――……っ」ピクン

まどか「さやか…ちゃん?」

フラ… ガクッ…

杏子「おい、さやか?どうした!?」

恭介「!?」

さやか「う…ぐぐ……ぁ…っっ」ピシ…ッ

ほむら「……!?」

まどか「(サッ)さやかちゃん、どうしたの!?」ハシッ…

マミ「暁美さん、美樹さんにグリーフシードを!!」

ほむら「は、はいっ!」カチャッ コロ コロロンッ コロロ… ヒョイッ

カチチッ…

さやか「あぐっ!! あぐうぅううッッ!!」ピシッ ピシシッ…

ほむら「そんな……! 浄化できない……!?」ワナワナ

トコトコ…

QB「意外と早かったね」

マミ「キュゥべえ、これは何なの!? どうすれば浄化できるのか教えて!!」

QB「(フリフリ…)この脈動……もう手遅れだよ。

   こうなってしまってはもはや君たちにさやかのソウルジェムを浄化するすべはない。

   彼女のソウルジェムは穢れを溜め込みすぎて生じた呪いで満たされてしまった。

   グリーフシードを近づけたところで、その呪いには取り去れる穢れなんてないんだよ」

まどか「キュゥべえ、わからないことを言わないでさやかちゃんを助けてよ!!」

QB「だから無理なんだって。いまだかつてこの状態から帰還した魔法少女はいない。

   魔女が落とした未使用のグリーフシードでさえ、内部に僅かに残った呪いではせいぜい、

   ソウルジェム内で凝縮されて呪いになる以前の穢れを吸い取る用しかなさないんだから。

   まだこの一歩手前の段階ならそれでなんとかなったかもしれないんだけどね。

   呪いは穢れよりも相対的に安定した状態にあるんだ。

   したがって呪いどうしよりも呪いが穢れを引き寄せる力のほうが抵抗がすくなく働く。

   せめてソウルジェムから穢れだけでも分離できる段階であれば、

   その余地に輝く祈りの浄化作用に期待できたのにね。

   君たちがいつもその魔力で魔女の呪いを打ち消すがごとくさ」

413: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:47:27.94 ID:MP+sbPTio
杏子「グリーフシードが使えねえ、って……、

   穢れがないとか……ソウルジェムに呪いとか……何なんだよッッ!?」

QB「さやかのそれは特殊な状況だ。

   そもそも、魔女がその魔力を効率的に運用する目的上、

   呪いはグリーフシード内に集積するようグリーフシードは構成されている。

   つまり呪いはグリーフシード内において最も安定した状態にあると言える」

さやか「…ッッ!! …ぐぐぅッッ……ッッ!!!」バタッ バタンッ

まどか「(ユッサ)さやかちゃん、嫌だよ……! (ユッサ)死なないで……っ!!」ギュウ…

マミ「何か……何か助ける方法はないの……!」

恭介「…呪い…穢れ…凝縮…」ブツブツ

QB「僕もそんな方法があったら聞きたいものだ。ねえ、さやか」

杏子「まどか、お前のソウルジェムをさやかに近づけろ!」

QB「君はいぜん、杏子との戦いのさなかにそのソウルジェムに発生した穢れを燃焼させ、

   自らの魔力へと変えた」

まどか「(ヒュオッ)う、うん!」カチッ

QB「『絶望の爆発』、とでも言うべきかな。感情の二重の相転移により、

   君は魔法少女としての姿を保ったまま、

   通常の2乗に値する感情エネルギーを僕に回収させてくれたんだよ」

まどか「杏子ちゃん、駄目……! 何も起こらないよぉっ!」カチッ カチッ…

QB「あれをもう一度やってくれないか。どうしたんだい?

   君もまだ終わりたくないだろう?」

杏子「(ヒュオッ)くッッ」カチッ カチッ

QB「……残念だよ。

   ちょっとした心の向きの変え方しだいで君には永久機関たりうる可能性があるのに。

   絶望に身をゆだねようというのなら止めはすまい。

   呪いに満たされたソウルジェムはそれにふさわしい形態へと変化するまでさ。

   君はじつに興味深い観測対象だったよ。さようなら、もう一人のイレギュラー」

さやか「グ…ガアアアアアアッッ!!」ビキキッ…

ほむら「み‥美樹さ…、お願いっ頑張って!!!」ギュッッ…

杏子「おいキュゥべえ、何でだ!!

   ソウルジェムの祈りは魔女の呪いを打ち消すんじゃねえのかッッ!?」

QB「(フリフリ…)無駄だよ。互いに殻を隔てて、呪いと祈りが影響することなどない。

   グリーフシードどうしですら密接した状態で放置しても何も反応は起こらないのだから。

   君が今するべきは別れの言葉を考えることじゃないのかい、杏子」

414: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:51:28.79 ID:MP+sbPTio
杏子「ッッ。さやかあ…ッッ!!」グッ…

恭介「…呪いどうし…引き寄せる…、呪いと祈り、グリーフシードどうし、無駄…」ブツブツ

マミ・恭介(ハッ)

恭介「強化グリーフシード!!」

マミ「その中から探して!!」

ほむら「え?」

マミ「(バッ)幻想御手が強化した、魔女が落としたのを!

   絶対に間違えないで!!」パシ ポイ

杏子「ッッ」ヒョイ ポイ ヒョイ ポイ

ほむら「(ベタンッッ)…………ッッ」キョロキョロキョロキョロキョロキョロ

さやか「あグ…アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」ビキィッッ バタンッ

まどか「(ドサッ ドンッ…)あぐっ…」バタンバタンッッ

恭介「(バッ ガシィッッ)…ッッ」バッタ バッタ…

ほむら「(パシッ)これ!!」

カチッッ キュルオォォォ…  コオオオオ…

さやか「(ユル…)う……っ」

ほむら「…………」

トサン…

まどか「ハァッ、ハァッ……」ギュッ… 

恭介「…………」ギュッ… 

QB「これは……なるほど。通常存在しないはずの呪いで満たしたグリーフシード。

   その強大な呪いの吸着力と、

   ソウルジェム本来がもっている呪いの自浄あるいは反発性……、

   これらの相乗効果でソウルジェム内の呪いをグリーフシードに吸収させたというわけか。

   強化グリーフシードの側は……。ふむ、殻の許容量ギリギリいっぱいというところだ。

   よかったね、爆発を起こさなくて」

杏子「さやかは……助かったのか……」

さやか「……」パチ…

まどか「…っ(クルッ)」コクッ

杏子「……っ」ドカッ…

スタスタ… ガバッ

マミ「よく……よくふんばってくれたわ……っ!」ギュッ…

さやか「(ハァ ハァ…)……みんなの、声がきこえてた‥から…」

杏子「何なんだいったい……こんな危ない状態になるなんて。テンパったぜ……」ハァーッ

QB「君たちにとっても危ないところだったよ。

   今のさやかでさえ魔女になれば君たちなんてひとたまりもないからね」

415: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:55:29.17 ID:MP+sbPTio
杏子「まったくだ。魔女呼ばわりされんのはあたし一人で……え?」

マミ「美樹さんが、魔女に? どういう意味?」

QB「言葉通りの意味だよ。

   ソウルジェムに穢れを溜め込みすぎて生じた呪いで満たされた時、

   それはグリーフシードに変化する。新たな魔女の誕生だ」

ほむら「あら」

マミ「まあ…」

杏子「マジか」

さやか「聞いてないよー」

まどか「……」

シーン……

恭介「ッそんなバカな!! なぜそんな……」

QB「恭介。君はエントロピーという――」

まどか「キュゥべえ、上条くん。わたしたち大事なお話があるから、

    悪いけど先に帰っててくれるかな」

恭介「あ、うん……。いこう」クル…

トコトコ… スタスタ… 

杏子「――で、さっきの話だけどさ。とりあえずいつもはどのグリーフシードでも使えるけど、

   魔女になっちまうってときは強化グリーフシードしか使えねえってことだな?」

マミ「そうね。端的に言うとそうなるはずよ。呪いと呪いにも引き合う力はあるけど、

   通常存在するグリーフシードは僅かな呪いしか残っていないか、

   あるいは僅かな呪いと穢れが混じっているか……。

   使い魔由来のグリーフシードもほとんど穢れで満たされているから、

   ソウルジェム内の呪いを吸収するほどの力はない。

   さらに、魔女由来の強化グリーフシードでも、

   魔女化を止めるために使用する場合は可能な限り未使用なものにしないと、

   吸収する呪いの量に耐えきれず起爆してしまう恐れがある、ってことね」

ほむら「キュゥべえはソウルジェム内に溜まった穢れは呪いへと変化するとは言ったけど、

    グリーフシードに溜まった穢れは呪いへと変化しないのかしら?」

416: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 21:59:29.90 ID:MP+sbPTio
マミ「いえ、理論通りならその穢れもいずれは呪いに変わるはずよ。ただ目にした限りでは、

   穢れを限界以上に吸い込んだグリーフシードからはたちどころに魔女が孵化する。

   前にキュゥべえが言ったように、

   グリーフシードに吸収される穢れに起因して魔女は孵化するから」

ほむら「でもマミ、ソウルジェムには『呪い』が満ちると魔女が誕生するのよ?

    グリーフシードに呪いが満ちても魔女は孵化しない、つまり安定しているのに」

マミ「ソウルジェムとグリーフシードでは、

   呪いや穢れにとって環境条件が異なると考えるべきじゃないかしら。

   穢れは凝縮すると呪いになる。

   ソウルジェムは呪いを浄化する力はもっているが穢れを自身では浄化できない。

   ソウルジェム内の呪いは穢れの層に包まれていて『祈り』での浄化が届かず、

   どんなグリーフシードを使ってもいいから穢れを取り去らないといけない。

   穢れさえ取りきれば、残った呪いは自動的に『祈り』によって浄化される。

   それから、『呪い』で『ソウルジェム』が満たされ、

   ――この2者は決して相容れないから――、

   グリーフシードに変化すると言ってもいい瞬間、

   殻が砕けて内部の呪いが放出される。恐らく凄まじいエネルギーの解放とともにね。

   収まるべき殻を失い放出された魔力――そしてその呪いを生み出し続ける存在が魔女。

   霊体としての成熟にともない、

   やがてその魔力の集積、制御機構であるグリーフシードを宿すようになる。

   まとめるとこんなところかしらね……」

杏子「あんまり難しい理屈はお前らに任せるわ」

マミ「……それにしても困ったことになった。

   ソウルジェムが魔女を産むなら――わたし達は――、

   (ハッ)――そういえば鹿目さん。大事な話があるって言ってたわね」チラ

まどか「……はい。あの、うまく考えを話せるか分からないんですけど」

マミ「大丈夫。もともと美樹さんとゆっくり話をしよう、ってここに来たんですもの。

   みんな耳を傾けるくらいの時間はあるわよね?」クル…

さやか「(ナハハ…)そうだったんすか。ありがとう。まどか。

    まずあんたの考えを聞きたい」ニコ

まどか「……」チラ

ほむら「(ニコッ)」グッ…

杏子「ああ、聞くぞ。お前はマミとほむらみたいに小難しい話をしたりしないだろ」ノビッ…

417: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 22:03:31.33 ID:MP+sbPTio
まどか「ありがと。まず、みんなに謝りたくて。マミさんにも言われましたけど、

    わたし、最近魔女を倒すのをみんなに任せっきりにしてて。ごめんなさい」ペコ…

マミ「何か理由があったの?」

まどか「(コク)はい。

    前にキュゥべえが『魔女は絶望しながらずっとさまよってる』って言ったのを聞いて、

    魔女は人間じゃないし倒さなきゃいけないってわかってても、

    それでもやっぱりかわいそうで……」

まどか「……でも、魔法少女がいつかなる姿が魔女なんだとしたら、わたしほっとして。

    きっとそんな姿になりたくなかったのに魔女になったんだから。

    わたしたちが、魔法少女が魔女を倒したら、

    その子が絶望を撒き散らしながらさまようのを止められるから。

    分裂した子まで止めたい。キュゥべえにみんな回収してもらうまで。

    それが役目なんだって……つごうのいい考えですけど。

    代わりにいつかわたしが魔女になったとき、誰か他の魔法少女が止めてくれるから。

    それまで頑張ろうって思うんです。できるなら今いる魔女がすべていなくなるまで」

マミ「(コク)――そう。(コク)そう……それがあなたの答えね」コク

さやか「よし、乗った! まどか」

スタ スタ

ガバッ ギュウッ……

まどか「さ、さやかちゃん?」

さやか「――あたしこそ都合いいけどさ。あんたのそのキモチで戦ってもいいかな。

    みんな希望を願って魔法少女になるんだ。

    呪いを生んで魔女になるなんてこんな苦しいことないよ」ギュ…

まどか「(フリフリ…)ううん、都合よくなんかない。

    今までの、街の人のために戦うことだって絶対に間違ってない。

    さやかちゃんが今までがんばってきたってこと、わたしもみんなも知ってるよ。

    だからその気持ちだって……」ソ…

418: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 22:07:32.13 ID:MP+sbPTio
さやか「(ソ…)うん。捨てたりしない。捨てちゃいけないんだ。

    あんたが魔女を倒すことで苦しんでたのも知らないでごめん。

    今さらだけどその答えを出したあんたのことも、そのキモチも守りたいんだ。

    これからのあたしのために」ジッ…

まどか「うん。ありがとう。さやかちゃんが賛成してくれるのとっても嬉しい」ニカッ

杏子「(ポリポリ…)まあワルプルギスが来るっていうし、

   そしたらこんなボロボロの教会なんて一発だしな。あたしもまどかに協力する。

   まどからしいつーかお花畑だけどさ。

   でも正直言ってあんたの考えはあたしも気に入ったよ」

マミ「あら、佐倉さんがついに陥落したわね」

さやか「じゃあ使い魔も狩ってくれる?」

杏子「たまたま出くわしたんならな。あたしは魔女しか探すつもりねえけど、

   目の前にいるのが自分の成れの果てだと思えばほっとくのも寝覚めが悪そうだしさ。

   あとマミ、風見野だけじゃなく見滝原の魔女も狩らせろ」

マミ「別にいいわよ。あなたが勝手に仲間になれないとか言ってただけじゃない」

杏子「うっ……」

さやか「やっぱり素直が一番ですなあ」

杏子「バ、バカ! そういう話じゃねえっつの」

ほむら「……。(なぜ……? 鹿目さんの言葉がこんなに苦しいのは……)」サス…

まどか「ほむらちゃん、だいじょうぶ……?」

ほむら「(ハッ)あっ、うん。大丈夫……うん。身体のほうじゃないから」コク

さやか「無理するなよ。座ったら?」

ほむら「そうね、ありがとう。そうするわ」トサ…

まどか「マミさん。わたしたちが魔女になるってこと……家族に話すべきなんでしょうか」

419: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 22:11:33.40 ID:MP+sbPTio
杏子「(フゥ…)……」

マミ「……。最終的な判断はあなたたちに任せる。

   ただ、魔法少女の仲間としてではなく一人の人間として言うわ。

   このことは絶対にご両親に話してはいけない。

   魔女になってしまうこともきっと受け止めてくれるでしょう。

   でも親だって一人の人間だからそのことまで考えて……。

   わたしが思うに、告げるにはあまりに重すぎる。酷すぎる真実よ。

   ……飽くまで他人の意見として聞いて。すぐに答えが出てももう一度考えて。

   出なくても心に留めておいて」

さや・まど・ほむ「……」

マミ「そうね……一度わたしたちを元に戻せないかキュゥべえに掛け合ってみるわ」

杏子「あいつは取り合わねえだろ」

マミ「(コク)ええ、無理ね。みんな、その覚悟はしておいて」

さや・まど・ほむ「はい」

さやか「んじゃまあ早速みんなで見回りに繰り出そうか。ほむら、も少し休む?」

ほむら「いえ、もういけるわ。(グッ)……あなたこそ大丈夫なの?」

さやか「うん。もう立ち止まったりしない。落ち込んでる場合じゃないもん」スタ

ほむら「そう……。みんな揃って魔女退治なんて初めてかも」

杏子「先に行っててくれ。ちょっと野暮用を済ませてから追いつくから」

マミ「気にしないで。ゆっくりでいいから」

まどか「そうだよ。みんな一緒がいいもん」

マミ「外で待ってるわ」スタ…

杏子「ああ。ごめん、すぐ行く」

ゾロ…

420: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 22:15:35.34 ID:MP+sbPTio
杏子(……親父の言ってたことが的中だな。行く末は魔女か)クル…

杏子(だからって騒ぐ気にもなれないもんだね。ここまで日頃の行いが悪いと)クス

タン ニギッ…

杏子(なあ神様。今さらあたしも天国に入れてくれなんて贅沢は言わねえ。

   母さんやモモは巻き込まれただけだろ? 最期まで信仰をもってた……、

   まさかそんな人まで拒むほどあんたは狭量じゃないよな?)

杏子(親父が最後まであんたを信じていたかどうかあたしには分からない……、

   もうただ逃げてるようにしか見えなかったしさ。

   でもあんたを信じようと苦しんだ結果なんだ……あたしの知る他のどんな人よりも)

杏子(もしそれでもダメだってんならあたしが死ぬなり、

   魔女になって魔法少女に殺されるなりしたときに、

   せめて親父と同じ場所へ送ってくれ。あの人を独りにしたくない)

杏子(父さん。あんたを独りにはしない。

   日がな一日布教に歩き回ったときみたいに、どこだろうとまた一緒に歩いてやるさ。

   それまでは待っててよ)

杏子(母さん。モモ。ずっと幸せにいてくれ。

   あたしはこれからも元同胞とドンパチ繰り広げるつもりだからさ、

   とてもそっちには行けそうにねえな。

   ――ここも、前からだってそうだけど、やっぱりあたしの来ていい場所じゃないね。

   もう来ないよ。さよなら)

さやか「おーい、杏子! おそーい!」

杏子「ほーい、今いくよー」ジャリッ…

スタ…

421: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 22:19:35.83 ID:MP+sbPTio
~~路上~~


恭介「……宇宙のエネルギー問題を解決するために、

   魔法少女が魔女にならなきゃいけないってことか」

QB「端的に言えばそうなるね」

恭介「彼女達を元の、魔法少女じゃない普通の少女に戻せないか?」

QB「今さら言われてもできるわけないだろう」

恭介「それならせめて、

   契約前にいずれ魔女化して人間としての命が終わってしまうと教えるべきじゃないか」

QB「自分の命が宇宙より大事なら、あるいは今の姿のままの命を望むのなら、

   契約内容にそれを脅かす項目がないか自分で確認をとるべきだろう」

恭介「……っ」

QB「そもそも君は、僕らが少女一人と契約するのにどれだけの労を払っているかわかるかい。

   あまりに小さい子どもでは感情の相転移など日常茶飯事だし、

   願いの内容も幼稚すぎ、魔女化のさい回収できるエネルギーなんて知れたものだ。

   杏子の話じゃないけどヒヨコを相手になどそうそうできない。

   例外的に大病の患者のなかには、

   幼児であっても比較的高い精神性を有した子が存在するけどね。

   かといって分別がつきすぎる……、

   高校生くらいにもなると素質を持った子の割合が低下するし、

   ヘタに勧誘などしようものなら、

   その情報伝播力で僕らの戦略そのものが危機にさらされかねない。

   ドロップアウトした子を狙うのが関の山だよ」

恭介「もとから君たちも不利な状況にあると?」

QB「その通りさ。契約が成立するのは、

   適度に分別があり、祈りをもてる子をなんとかタイミングを見計らって勧誘してやっと、

   というとても困難なプロセスを経たうえでのことなんだよ。

   君や僕ら生命体は種の存続を含めた生命の継続が究極の目的だろう。

   そのために宇宙全体のエネルギーを、

   僕らの生命の維持や文明の発展に利用できる状態で確保し、
 
   目減りを緩和しエントロピーの凌駕を目指す。

   君たちの抗議を受けようがインキュベーターの戦略は変えられないよ」

恭介「……」

422: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 22:23:36.23 ID:MP+sbPTio
~~次の日、まどかの家の洗面所~~


バシャバシャ… 

まどか「和子先生だいじょうぶかな……」ワサワサ

詢子「ああ、そのことだけど。

   学校行ってから知らされるより驚きが少ないだろうから今言っとくよ」トス…

まどか「?」フキ

詢子「和子から電話があったけど、

   今日からしばらく休職するからまどか達によろしくって」サッサッサッ

まどか「ええ!? 何で……」

詢子「心身ともに問題は無いんだけどさ。(スッスッ)校長からの強い勧めがあったんだと。

   聞いたぞ。ワルプルギスがきて見滝原が終わるとか、

   全校集会でぶちまけたそうじゃん」クスクス

まどか「……っ」

詢子「大人が考えてやったことだから気にするな。

  『だからワルプルギスを迎え撃つ義務がある』とか勝手に背負うなよ?」サッサッ

まどか「……」

詢子「……それよりまだあたしたちに隠してることはないか?」

まどか「(クル)‥ないよ。隠してることなんて」ジッ…

詢子「――そう。ならいい」サッサッ

まどか「ママの会社の人はだいじょうぶ?」

詢子「――市内から通勤してる人向けにそれとなく社内掲示板やらで伝えた、ってところだな。

   でもあまり気に留めてる人はいないよ。

   まあ、話を聞いた限り事前に避難を呼びかけられるそうだし、

   荒れてきそうな時間に大勢が詰め込んでるってことはないだろう。

   うちのオフィスが入ってるビルが倒れても、

   普段から重要なデータは離れたとこにバックアップされてるから、

   会社がそれで立ち行かなくなるってことはないけど」サッサッ

まどか「……」

423: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 22:27:39.16 ID:MP+sbPTio
詢子「見滝原に新築したばっかっていう若いのがいんだけどさ……。

   しつこめに備えろと言うにも限度があるからね。

   和子は偉いよ。あたしにはあんな真似とてもできない。

   ウソをつくのが下手なぶん、本当のことだっていう真剣味は伝わったろうな」サッサッ

まどか「そうだよ。騒いでる子もいたけど先生の話を信じてる子もいたもん」

詢子「でもそんな子もいざ家族で街を出るかとなると親の常識の前には説得力に欠ける。

   けっきょく避難行動に結びつくことはないだろうな」

まどか「そんな、それじゃ……」

詢子「無駄だと分かっててもひたすら丁寧に人を導こうとする。

   それはあいつの資質のひとつだ。

   教育現場から失われてはいけない人材なのは間違いないさ」

まどか「うん。センセーは絶対戻ってきてほしい」

詢子「(ニコ)こんど会ったときに伝えとくよ。

   (パタン…)よし、完成! まどかも早くしろよー」スタスタ

まどか「……うん」

424: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/30(金) 22:31:43.06 ID:MP+sbPTio
―――
――

~~マミの部屋~~


マミ「――前にも聞いたけどけどワルプルギスが最初に現れたのはこのポイントね?」テン

ほむら「ええ。それから……(パサッ テン ツーーッ……)この辺をなぎ倒しながら……、

    巴さんのマンションもその時……後はどうだったか思い出せない」

マミ「事前に知らせてくれただけ助かったわ。

   それよりビルをなぎ倒しながらってどんな感じに?」

ほむら「感じ……そうね……」

まどか「みんな、お茶です」トコトコ カタン…

さやか「お菓子でーす」スタスタ カタ…

マミ「ありがとう」スス…

ほむら「ごめんなさい、任せちゃって。いただきます」スス…

恭介「いただきます……手伝わなくて悪いね」スス…

まどか「(ニコッ)いいのいいの。上条くんも忙しいのに来てくれてるんだから」

杏子「こうも集まると狭いもんだな」

さやか「いやあんたは手伝えって」カタ…

杏子「いま重要なとこなんだよ。あんた達はもう大体知ってるんだろ」チョイッ パクッ…

さやか「どーも真剣に聞いてるように見えないんだけどな……」

まどか「(タハハ…)さやかちゃん、そんなことないよ。ねえ杏子ちゃん?」

杏子「そうだとも。(モグモグ…)……いま何の話だったっけ?」

ほむら「なぎ倒す……いえ、訂正するわ。

    あれはビルのほうが勝手に倒れたり宙に浮かび上がるような感じだった」

マミ「彼女が起こす暴風に巻き上げられた、のではない?」

ほむら「そうだったかもしれない……いやでも……それにしてはゆっくりと……。

    ごめんなさい、はっきりとは分からないわ」

マミ「いえ、ありがとう。……物理的におかしな運動に見えたのなら、

   魔力の影響がおよんでいたのかもしれない。

   となると上条くんはワルプルギスから離れていなければいけないわね」

恭介「……でもその場で使い魔たちを」

マミ「(フリフリ)ワルプルギスの使い魔には触れないで。戦闘の混乱のさなか、

   万が一グリーフシードを回収し忘れるとあとで大変なことになるから。

   仮にワルプルギスが魔力で浮力を発生させることはなくても、

   これまで以上に激しく厳しい戦いになるのは間違いない。

   わたし達は魔力を使ってすばしこく動いたり身を守れたりするけど、

   あなたはそうじゃないでしょう。

   万全を期するなら、あなたは街の外にいなくちゃいけない」

恭介「……わかりました。でも街には留まります」



次回 上条恭介「幻想御手?」 その3